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30 交換日記
- 1 名前:交換日記 投稿日:2003年09月16日(火)21時35分47秒
- 30 交換日記
- 2 名前:交換日記 投稿日:2003年09月16日(火)21時37分01秒
- ――十年前
「ねぇねぇ紺ちゃん。明日遠足のおやつ買いに行かない? 美貴ちゃんとかと一緒に」
「あ、行く行く」
赤く大きなランドセルを背負った小さな影が二つ、黄昏時の道を並んで歩いていた。
スーパーの袋をかごに入れたおばさんの自転車が横を通り過ぎて行く。
「じゃあどこ行こうか。紺ちゃんは行きたいお店ある?」
「そーだなぁ。亜弥ちゃんちの近くの駄菓子屋は?」
「あ、いいね。じゃあそこにしよう」
実際には二人の家は歩いて一分とかからない距離なのだが、
その駄菓子屋は変にカッコつけた英語の名前だったので、二人の間ではいつもこの形容で呼ばれていた。
しかしこの約束は果たされることはなかった。
あさ美はこの日、亜弥と別れた直後、車に轢かれて死んだ。
- 3 名前:交換日記 投稿日:2003年09月16日(火)21時37分52秒
- ――現在
『旭ヶ丘西小がついに廃校になります。三月いっぱいでその役目を終え、四月には取り壊される予定です。
そこで、この機会に同窓会を……』
美貴の元にそんなメールが届いたのは、三月がもうすぐ終わる頃だった。
何人かの同級生にメールを転送し、ベッドに身を投げる。
さらさら行く気もしないし、今さら顔を見たい人物もいない。
小学校時代の美貴は、感情をあまり見せない子供だった。
きっかけは仲のよかった一人の少女の死だった。
少女は美貴の目の前で死んだ。
道路の反対側で美貴を見つけて、車道に飛び出し、軽自動車に轢かれた。
当時は家族も先生も友達も、そのことには触れずそっとしておいてくれて、
美貴はずるずるとそれに甘え、殻に閉じこもっていった。
- 4 名前:交換日記 投稿日:2003年09月16日(火)21時38分46秒
- やがて三月も終わり、校舎の取り壊しの日の前日、その小学校の卒業生の同窓会が行われた。
その日は新しい卒業生で、もっと前にはさらに昔の卒業生の会もあったらしい。
美貴はその日、家でぼんやりと過ごしていた。
ちょうど、昼過ぎのクイズ番組で正解が発表される直前、
ポケットに入れていた携帯が着信を告げた。
「もしもし美貴ちゃん?」
「亜弥? どうしたの?」
「なんで来ないの? 同窓会」
「いや、別に理由は無いけど面倒臭いし……」
「そっか。でさ、あの……」
「どうした?」
「あの、紺野あさ美って覚えてる?」
「……」
- 5 名前:交換日記 投稿日:2003年09月16日(火)21時39分58秒
- 「同窓会で校舎の中入ったんだけどさ、一個思い出したの。
昔、プールの建物の奥で、秘密基地とかやってたじゃん。
で交換日記なんかもやってたでしょ?
あれ確かさ、紺野ちゃんの番で終わってるはずなんだよね……」
しばらく亜弥が間を置く間に美貴は必死に記憶を探った。
しかし上澄み液ばかりが思い出されて、一番肝心な部分がまったく浮かんでこない。
亜弥はそんな美貴の姿を何処かで見ているように言った。
「ほら、普通のノートにピンクででっかく交換日記って書いてあって、
その下に黒のマジックで三人の名前書いてあったの」
そういえばそんなのもあった。いや、確かにそのノートは存在した。
その日の出来事なんかを書いて、雨風の入らないコンクリートの隙間に入れて交換していた。
しかし紺野の番で終わっているかどうかまでは記憶に無かった。
彼女で終わっているのなら、その場所にまだノートがあるはずだ。
- 6 名前:交換日記 投稿日:2003年09月16日(火)21時40分42秒
- 「美貴ちゃんちにはないよね?」
なかった。
紺野との思い出のものはまとめて仕舞ってあるが、そこにあのノートは入っていなかった。
美貴と亜弥の性格からして、捨ててしまうことはありえない。
つまり二人の家にないということは……。
「亜弥ちゃんちにもないんだよね?」
「うん。あったら電話なんかしない。
でもどうしよう。私たちが出てから学校立ち入り禁止になっちゃったよ」
「……、よし」
美貴は二回細い呼吸をしてから、言った。
- 7 名前:交換日記 投稿日:2003年09月16日(火)21時42分17秒
「じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ」
- 8 名前:交換日記 投稿日:2003年09月16日(火)21時42分58秒
- オ
- 9 名前:交換日記 投稿日:2003年09月16日(火)21時43分36秒
- ワ
- 10 名前:交換日記 投稿日:2003年09月16日(火)21時44分40秒
- リ
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