インデックス / 過去ログ倉庫
28 有 名
- 1 名前:28 有 名 投稿日:2003年09月16日(火)03時47分30秒
28 有 名
- 2 名前:28 有 名 投稿日:2003年09月16日(火)03時48分13秒
- 「じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ」
- 3 名前:28 有 名 投稿日:2003年09月16日(火)03時48分43秒
- □
そう残してプツリと切れた携帯を手に、紺野は眉間にほんのり皺を寄せた。
表示は非通知。
いやがらせか、と紺野はため息をついた。
呼び出し音に反応してついうっかり出てしまった。
もう一度深くため息をつき、視線を上げる。
ブラインドの隙間から太陽はもう見えなかったが、
その名残がかろうじて控え室を明るくしている。
高橋は隅っこにある一人掛けのソファで黙々と本を読んでいて、
そばでは雑誌をめくっていた小川が紺野の顔を覗いていた。
首をかしげた小川を見返し、なんか悪戯みたい、と肩をすくめて少し微笑んだ。
「気をつけなよ。最近皆にかかってきてるみたいだから。非通知のでしょ?」
小川が鹿爪らしい顔で尋ねてくる。
紺野はそう、と言いながら、小川につられ真面目な顔を作った。
「皆怖いから出てないって言ってたけど。―――ねえ、愛ちゃん」
高橋は無言でこくりと頷いた。
- 4 名前:28 有 名 投稿日:2003年09月16日(火)03時49分19秒
- 今日は午後から雑誌の撮影。その後、生放送の収録。
そのリハーサルが近づいているというのに、新垣の撮影がまだ終わっていない。
控え室には新垣を除いた5期の3人だけで、先に撮影を終えた6期も、
別の日に撮影済みの先輩メンバーもとっくにテレビ局に入っていた。
撮影中、マネージャーが焦っているのがありありと見て取れた。
皆疲れているのか控え室は妙に静かで、かすかな秒針の音と
時折思い出したようにページをめくる音が聞こえるだけ。
そこに突然、ゴトン、と大きな音が響いた。
小川と高橋がビクッと身体を強張らせ、音の方向に目を遣ると、
椅子から腰を上げた紺野が2人の視線に縮こまっていた。
立ち上がった拍子に、膝に乗せていた携帯が床に転げ落ちている。
紺野はごめん、と呟くと、慌てて携帯を拾った。
- 5 名前:28 有 名 投稿日:2003年09月16日(火)03時50分31秒
- 「ちょっと、トイレ」
そう告げ、控え室の出入り口へ向かう。
小川が振り向いて、急ぎなよ、と忠告した。
廊下には誰もいなかった。
トイレは向こうだったっけ、と廊下の奥を見つめた途端、
視界がぐらりと揺れた気がして、思わず壁に片手をついた。
―――やっぱり疲れてる。
紺野は目頭をぎゅっと押した。
- 6 名前:28 有 名 投稿日:2003年09月16日(火)03時51分34秒
- ◇
「あれっ?」
再び控え室のドアを開けると、紺野は素っ頓狂な声を上げた。
部屋の中が真っ暗で、人の気配がない。
思いがけない事態に紺野は慌てて電気を点けてみるが、
テーブルの上に積まれていた4人分の荷物もきれいさっぱりなくなっていた。
そんなに遅かっただろうか、と時計を見る。大して時間は経っていなかった。
大体居場所がわかってるんだから、一声かけてくれればいいのに。
紺野は頬を膨らませながら、廊下を駈けた。
スタジオのあるビルを出てみるが、移動用の車もマネージャーの姿もない。
置いて行かれた? ―――まさか。
不安にかられて夕闇の濃くなった景色を再度見渡しても、やはり誰の姿もない。
紺野は携帯を開くと、マネージャーの番号を呼び出した。
- 7 名前:28 有 名 投稿日:2003年09月16日(火)03時52分20秒
- すぐに繋がった。
「はい?」
「あの、紺野です。私―――」
「はあ?」
声が冷たい。紺野は胃が痛くなるのを感じた。
「私、まだ撮影スタジオにいるんですけど」
マネージャーのため息が紺野の胃をいよいよ痛ませる。
ごめんなさい、と言おうとしたところで、鋭い声がそれを遮った。
「悪戯はやめて下さい。通報しますよ」
- 8 名前:28 有 名 投稿日:2003年09月16日(火)03時53分02秒
- 唐突に切られた携帯を見つめ、彼女は呆然と立ち尽くした。
ふと子犬のように首を振り、我に返る。
何かがおかしい。
何度か電話をかけ直したが、二度とマネージャーに繋がることはなかった。
- 9 名前:28 有 名 投稿日:2003年09月16日(火)03時53分52秒
- 彼女がテレビ局を目指し賑やかな通りに入った頃には、
もう生放送は終わりに近づいている時間だった。
それなのに携帯はうんともすんとも言わない。
グルグル思考を巡らせて足早に歩いていると、
コンビニのポスターが目に入った。
新曲のポスター。今日の生放送で歌うはずの。
―――私、いないのに。
彼女は半ば泣きそうになりながら大判のポスターを見つめた。
- 10 名前:28 有 名 投稿日:2003年09月16日(火)03時54分38秒
- そして。
持っていた携帯を落としそうになった。
向かって左、最上段。そこにあるはずの彼女の姿はなく、
見たこともない少女が、メンバーに混じってポーズをとっている。
他のメンバーの顔を順に確認するが、自分の姿はどこにもない。
混乱する頭を抱えて、コンビニに走りこんだ。
TV誌の連載記事を開くと、紺野あさ美の文字が躍る。
しかしそこに並ぶスナップに写るのは、
彼女が知っている紺野あさ美ではなかった。
あのポスターの少女が、小川と楽しげに笑っている。
自分がいない娘。自分じゃない紺野あさ美。
非通知の電話の言葉が頭をよぎる。
彼女は携帯を握り締めると店を飛び出し、夜の街を走り出した。
- 11 名前:28 有 名 投稿日:2003年09月16日(火)03時55分15秒
- ■
受話器を乱暴に置く音が部屋に響いた。
紺野が何事かと振り向くと、母親が不快な顔をしているのが目に入った。
「どうしたの?」
「電話でね、『お母さん、あさ美だよ』って言うのよ。気味が悪い」
「悪戯だよぉ」
「あんた、気をつけなさいよ。有名人なんだから」
「うん」
母親は、ああ怖いと大袈裟に震えながら、隣の部屋へ消えた。
- 12 名前:28 有 名 投稿日:2003年09月16日(火)03時56分00秒
- 紺野はその後ろ姿を見届けると、カーテンの隙間から窓の外を一瞥する。
携帯を手に、息を切らせてこちらを見上げる少女の姿が
常夜灯に照らし出された。
「お風呂沸いたわよ」
母親が呼ぶ。
「はあい」
紺野はもう一度窓の外を見下ろし、そしてニヤリと笑った。
- 13 名前:28 有 名 投稿日:2003年09月16日(火)03時56分55秒
- 川o・-・)
- 14 名前:28 有 名 投稿日:2003年09月16日(火)03時57分28秒
- 川o・-・)
- 15 名前:28 有 名 投稿日:2003年09月16日(火)03時58分13秒
- 川o・∀・)
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