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19 with you
- 1 名前:19 with you 投稿日:2003年09月15日(月)15時47分22秒
with you 〜全てはあなたと共に〜
- 2 名前:19 with you 投稿日:2003年09月15日(月)15時48分18秒
- 「じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ」
誰もいないはずの楽屋にその声が響いた。
思わず後を振り返ったが、やはりそこには誰もいなかった。
まさか、考えすぎだよね・・・
小川麻琴はそのまま携帯電話に目を落とした。
すると、携帯のディスプレーには、赤い文字で
「それがお前の本心なのだろう?」
と表示されていた。
思わずひっと小さく叫んで携帯を投げ捨てた。
- 3 名前:19 投稿日:2003年09月15日(月)15時48分57秒
- そこへ、つい先ほどまで一緒にハロプロワイドの収録をしていた紺野あさ美が
一足遅れで楽屋へと入ってきた。
楽屋の真ん中で小さくなって青ざめている麻琴を見つけ、
大丈夫?と優しく声をかけるが反応がない。
もう一度、今度はちょっと強く、まこっちゃん大丈夫?と聞くと、
麻琴は驚いた表情であさ美の顔を見つめ、大丈夫と小さく呟くと楽屋を出て行った。
◇
楽屋から出た真琴はトイレにまるで何かから逃げるように駆け込み、
急いでカギを閉めるとドアにもたれかけた。
自分の荒い息だけがその場を支配していた。
- 4 名前:19 with you 投稿日:2003年09月15日(月)15時49分53秒
- 話は数日前に遡る。
ほとんど無いオフを利用して珍しく実家に帰った麻琴は
久しく自分の部屋を掃除していたのだが、
その時ふと本棚に見知らぬ本が入っているのに気が付いた。
母親に聞いてみたがそんな本は知らないと言われ、
不思議に思いつつもパラパラとその本をめくってみた。
陽に焼けて黄味がかったその本を読み進めていく内に、
それが古い呪術を集めた本である事が分かった。
元々占いや風水が好きな麻琴はそのまま本を読みすすめていった。
しばらくして、何気なくページをめくっていた手が止まった。
そこには「自分のライバルを蹴落とす呪術」が書かれていた。
- 5 名前:19 with you 投稿日:2003年09月15日(月)15時50分28秒
- こんな呪術なんてどうせ嘘っぱちだ、心の中ではそう思いながらも
麻琴は自分のライバル、紺野あさ美を蹴落とす呪術を実行していた。
始まりはささいな事すぎて麻琴自身も覚えていない。
ただ、いつからか心のどこかであさ美を良く思ってない自分がいる事に気が付いた。
モーニング娘。に入るためのオーディションでは自分は間違いなく他の候補生に勝っていた。
それに比べあさ美は「赤点」とまで言われる存在だった。
しかし、最近はどうか。あさ美はしっかりと自分の色を出して輝いている。
負けたくないというライバル心は、いつしか心の奥のトゲになり、
あさ美さえいなくなれば、という気持ちへと変化していった。
もちろん本当に消えて欲しいと思っていたわけでは無い。
ちょっと痛い目に遭えばいいくらいの軽い気持ちだった。
- 6 名前:19 with you 投稿日:2003年09月15日(月)15時50分58秒
- それがまさか、こんな事になるなんて・・・
トイレの中で自分のした事の重大さにようやく気付いた。
「えー紺野最近オバケにとりつかれてるの?
オイラそーゆー話マジで怖いからやめてくれよぉ」
その時、トイレに声が響いた。声から察するに矢口真里のようだ。
一緒にあさ美もついてきてるようで、その後すぐにあさ美の声も聞こえた。
「いや、そんな大げさなものじゃないですよ。
ただ最近自分の周りで変なことがよく起こるってだけで」
「やー、もうヤダ。オイラそういう話無理、何でオイラに言うのさ。
あんた小川と仲いいんだから小川に相談しなよ」
- 7 名前:19 with you 投稿日:2003年09月15日(月)15時51分35秒
- 「ダメですよ、何かさっきまこっちゃんものすごく顔色悪かったし、
最近元気ないんで、こんな事で心配させたくないんです」
「何だよ、それじゃオイラがまるで悩みなんて一つも無いみたいな言い方じゃないか」
「とにかく、絶対内緒にしといてくださいね。
まこっちゃんには早く元気になって欲しいですから」
「わーかったからもうその話はやめてくれよぉ、今夜寝れないじゃんか」
立ち去る二人の声を、麻琴は息を潜めて聞いていた。
もう、既にあさ美の周りで異変が起こっている。
このままだと、本当に今晩あさ美が消えてしまう!
- 8 名前:19 with you 投稿日:2003年09月15日(月)15時52分16秒
- あれほど自分の事を心配してくれているあさ美を疎ましく思っていたなんて
自分は何とバカな事を考えていたんだろう。
麻琴は急いで楽屋へと戻り、自分のバッグの中から一枚の呪布を取り出すと
誰にも悟られぬように再びトイレへと駆け込んだ。
急いでマッチに火をつけ、その呪布を燃やす。
呪布はどす黒い暗黒の炎をあげながら灰となって消えた。
ゴメン、ゴメンねあさ美ちゃん・・・
麻琴は声にならない声を嗚咽の中から搾り出した。
しかし麻琴は気づいていなかった。
灰となった呪布から漆黒の煙が立ち昇っていることに・・・
- 9 名前:19 with you 投稿日:2003年09月15日(月)15時53分01秒
- その後もモーニング娘。全体の収録があったのだが
別段変った事は無く、順調に収録が進められた。
そして収録後、麻琴はあさ美に呼び止められた。
「まこっちゃん、大丈夫?何かさっき気分悪そうだったけど」
「うん、大丈夫。ゴメンねあさ美ちゃん」
あさ美はワケが分からない、何で私に謝るの?といった表情で麻琴を見つめた。
麻琴は自分がしたことを今ここで打ち明けようと思った。
あさ美が麻琴を許す許さないは別にして、
そうすることが自分にとって一番だと考えた。
- 10 名前:19 with you 投稿日:2003年09月15日(月)15時53分32秒
- 「あのねあさ美ちゃん・・・」
しかし、麻琴が切り出した直後、二人の所に高橋愛と新垣里沙が近寄ってきた。
「ねーねー、今からご飯食べに行くんだけど二人も行かない?」
食事の誘いを無碍にするわけにもいかず、
麻琴は結局何も言えないまま食事へ行く事になった。
普段はこういう時タクシーを使うのだが、
今日食事をする場所がそれほど離れていないため、徒歩で移動することになった。
人通りもそれほど無いので気づかれることも無いだろうが、
一応用心して四人はちょっと急ぎ目に街中を歩く。
- 11 名前:19 with you 投稿日:2003年09月15日(月)15時54分08秒
- そして四人が車の通りが激しい交差点に差し掛かったときに麻琴の携帯電話が鳴った。
見てみると、携帯のディスプレーにはさっきと同じ、赤い文字で
「約束どおり、紺野を攫いに来たよ」
と書いてあった。
そしてその直後、立ち止まる麻琴の背後から勢い良く黒い霧のようなものが通り抜けた。
その黒い霧は、あさ美の周りを取り囲むと、
あさ美の体を少しずつ、少しずつ車が通っている車道へと引きずり込んでいく。
あさ美は最初何が起こったのかわからない様子だったが、
しばらくして異変に気づき、黒い霧から逃れるようにして体を動かす。
愛と里沙は、黒い霧が見えていないのか、不思議そうにあさ美を見ている。
- 12 名前:19 with you 投稿日:2003年09月15日(月)15時54分41秒
- 麻琴は自分とあさ美しか黒い霧が見えていない事に気づき、
弾かれたようにあさ美のもとへと駆け寄る。
どうして?もう全部終わったんじゃなかったの?
疑問が後から後から浮かんできたが、今はそんなことを考えている場合ではない。
とにかくあさ美をいち早くこの状況から救い出すことが先決だ。
しかし、あさ美が伸ばす手まであとわずかとなった時、
麻琴の体を黒い霧が包み込み、あさ美との距離を広げようとする。
「やめて!あさ美ちゃんを連れて行かないで!!」
麻琴は精一杯叫んだつもりだったが、黒い霧のせいかそれは声にならなかった。
- 13 名前:19 with you 投稿日:2003年09月15日(月)15時55分13秒
- そして、頭の上のほうから、低くおぞましい声が聞こえた。
「なぜ止めようとする。この女の不幸、それがお前の望みだろう」
「違う!そうじゃない!あさ美ちゃんは私の親友なの、だからお願い、やめて!」
「もう遅い、今の私はお前だけでなくこの世界の邪念の集合体
動き出したらもはや止まらん、邪魔をするな」
その声が聞こえたと同時、引き剥がす力が更に強くなる。
懸命にあさ美に手を差し伸べるがその手は空を切った。
そしてその直後、あさ美が道路に引きずり込まれ、地面へと倒れこんだ。
あさ美の眼前にはクラクションをけたたましく鳴らすトラックが猛スピードで突っ込んできていた。
- 14 名前:19 with you 投稿日:2003年09月15日(月)15時55分46秒
- 麻琴は黒い霧に立ち向かいながら、
その光景をまるでスローモーションで映画を見ているような感覚に陥った。
トラックはもうあさ美の数メートル手前まできていた。
「イヤ!あさ美ちゃんを助けて!
悪いのは全部私なの、あさ美ちゃんが助かるのなら私はどうなってもいいから!」
思わず目をつぶり、心の中で祈りを込めた。
その瞬間、黒い霧が霧がはれ、白く眩い光が辺りを包み込んだ。
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- 15 名前:19 with you 投稿日:2003年09月15日(月)15時56分17秒
- 麻琴が恐る恐る目を開けると、差し出した手の中にあさ美の手があった。
二人は歩道の脇で抱き合う形で座り込んでいた。
「うぇ、良かった・・・無事・・・で」
あさ美は大きな目にいっぱいの涙をためながら麻琴に抱きついた。
麻琴はあさ美が無事なのを実感するようにあさ美の背中をポンポンと叩いてから、
「ゴメン、ゴメンねあさ美ちゃん。全部、全部私が悪かったの・・・」
麻琴の言葉も涙交じりなのだが、あさ美も麻琴の言いたいことを理解したようで、
「いいの、最後のまこっちゃんの言葉、嬉しかったよ」
優しい微笑で麻琴に笑いかける。
その言葉を聞いた所で麻琴の思考はストップした。
- 16 名前:19 with you 投稿日:2003年09月15日(月)15時56分53秒
- 麻琴はわんわんと泣き出した、まるで子供のように。
もう、何も考えられない
もう、何も見えない
涙が、溢れ出る涙が
全ての思いと、視界を洗い流していく
そこに言葉は必要なかった。
お互いが、お互いの気持ちを痛いほど理解していた。
そして最後に二人は抱き合いながらささやき合った。
これからどんなことがあっても友達でいようね、と・・・
Fin
- 17 名前:19 with you 投稿日:2003年09月15日(月)15時57分46秒
- 企画初投稿
- 18 名前:19 with you 投稿日:2003年09月15日(月)15時58分38秒
- 企画初投稿
- 19 名前:19 with you 投稿日:2003年09月15日(月)15時59分13秒
- 企画初投稿
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