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18 Play kidnapping

1 名前:18 Play kidnapping 投稿日:2003年09月15日(月)15時12分06秒
18 Play kidnapping
2 名前:18 Play kidnapping 投稿日:2003年09月15日(月)15時12分54秒


「じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ」

3 名前:18 Play kidnapping 投稿日:2003年09月15日(月)15時15分05秒
「紺野って、あのお嬢様ですか」
スパスパと面白そうに煙をドーナツ型にして飛ばす先輩は、
机の上に置いてあったファイルごとあたしの方に差し出してきた。
中には綿密に練られた計画書が綴じられている。一枚一枚確認しながら、
風下になってしまったこちら側に漂ってくるタバコの匂いに咳き込んだ。

どうやら内容は特に捻りもない身代金目当ての誘拐計画のようだった。
紺野というのはここら辺じゃ有名な、大きいお屋敷に住んでいる一家のこと。
確かにこれならお金も手に入る。しかし同時に身の危険が及ぶ諸刃の剣。
本当にそんな犯罪に手を染めるのかという意味も込めて先輩の方を見上げると、
彼女は吸っていたタバコを地面に捨て、サンダルの厚底で火をもみ消していた。

「嫌ならさ、断ってもいいんだよ」
「…えぇぇ…」
そう言うのなら最初からこんなファイルを手渡さないで欲しい。
すでに計画を知ってしまった以上、あたしは無関係ではなくなってしまった。
4 名前:18 Play kidnapping 投稿日:2003年09月15日(月)15時15分38秒
「そしたら美貴が無理やりにでも連れて行くんだし」
「どっちにしろ、あたしは巻き込まれるってことですか…」
「ま、そーゆーこと」

クールな顔を崩した先輩が心底楽しそうに、意地悪そうに笑っている。
彼女はわかっているんだ。あたしがその計画に協力してしまうことを。
昔からの付き合いである相手に対しての義理人情に、薄い人間ではないことを。

「…わかりましたぁ」
「よろしい。そんじゃ、あそこのファミレスで詳しい話をしよっか」
「今日こそは藤本先輩が払ってくれるんですよね」
「仕方ないな、頼んで良いのは水だけだからね」
「………」

近くにあった手ごろなお店に入って延々と水だけをおかわりし続け、
あたしと先輩は店員の厳しい視線の中、より詳しい計画と決行日時を決めた。

「あんたのクラスメイトに道重って居るでしょ?ボーっとしてそうな」
「? あぁ…なんか、音痴な人」
「ぶはっ…音痴って…ごめん、なんかツボ入った」
「はぁ…」
5 名前:18 Play kidnapping 投稿日:2003年09月15日(月)15時16分12秒
噴出した水を紙ナプキンで吹きながら先輩は説明を続ける。
あたしのクラスメイトの道重さゆみが、紺野家の子になるらしい。
つまり親の再婚。人様の家庭に首を突っ込むつもりはないけれど、
彼女に父親が居ないと言う噂を確かに前聞いたことがあるのを思い出す。

「へぇ、再婚するんですか…」
「そ。でさ、この子使って紺野を誘き出しちゃおう、と」
「…でもそれじゃいざと言うとき足がつきません?」
「元々面識がない美貴たちが本人を呼び出す方が不自然だって。
 それよりか田中が道重を、道重を餌に紺野をって呼び出す方が良くない?」
「あたしだって別にこの道重さんって人と仲が良いわけじゃ…」

それなのに先輩はもう決めたことだからと言ってさっさと話を続けた。
さっぱりとした性格と同様、さっぱりで行き当たりばったりな進め方だ。
綿密に立てられているとばかり思っていた計画の中で穴を見つけるたびに、
あたしの中の不安はどんどんと募る一方だった。

「いいからほら、早く呼び出して」
「ほ…本当に今日やるんですか?」
「思いついたが吉日ってよく言うじゃん」
「今日思いついたんですか!?」
6 名前:18 Play kidnapping 投稿日:2003年09月15日(月)15時16分44秒
先輩に言われるがまま、しぶしぶ取り出した携帯で友達に電話をかけた。
偶然にも道重の携帯番号を知っている相手に行き着いてすぐに連絡がつく。

何回かのコールの後に聞こえてきたのは少しだけ可愛らしい女の子の声だった。
道重さゆみは何故あたしが自分の番号を知っているのか不思議にも思わない様子で、
ちょっと話がしたいから今すぐ会えないかと切り出すと、いとも簡単にOKをくれる。

(警戒心ってもんがないのかこいつは…)
もしここで道重自身の反応が微妙だったら引き返すことが出来ただろうに。
先輩は呼び出しに成功したことで自分の計画に余計自信をつけたらしく、
ポケットからタバコを取り出し、その一本を口にくわえて嬉しそうに火をつけていた。
7 名前:18 Play kidnapping 投稿日:2003年09月15日(月)15時17分28秒

−−−

8 名前:18 Play kidnapping 投稿日:2003年09月15日(月)15時17分59秒
呼び出し場所に選んだのはファミレスから少し離れた位置にある寂れた公園。
ここなら目撃される確立も減る。いざとなれば始末する人間は道重だけで済むのだ。
そこまで考えて、自分は本当に犯罪に手を染めようとしているんだと実感する。
しかしあんな先輩の計画に乗って大丈夫なんだろうか。不安は相変わらず消えない。

「…あの」
不意にかけられた声に振り向くとそこには道重さゆみが立っていた。

道重さゆみは制服姿だった。多分学校帰りにそのまま着てくれたんだろう。
テニス部に所属している彼女は部活を早退してまでここにやって来てくれた。
感謝と同時に圧し掛かる罪悪感。しかしファミレスで待機している先輩のため、
あたしは心ごと犯罪に染める覚悟で、用意していた台詞で話を切り出した。

「いきなり呼び出したりしてごめんね、道重さん」
「別に大丈夫です…覚悟はきちんとしてきましたから」
「そっか、それなら話が早い、実はちょっと頼みごとが…え?」
9 名前:18 Play kidnapping 投稿日:2003年09月15日(月)15時18分32秒
彼女の口から出てきた覚悟の一文字に反応してしまったことを後悔した。
これからあたしが道重を餌として紺野財閥のお嬢様を誘拐するつもりだなんて、
普通の人なら考え付かないし、気づくわけもないだろう。
だけど覚悟ってなんだ。まさかカツアゲされるとか思ってるんじゃなかろうか。
怒っているとみられがちな目をさり気なく押さえながら、台詞を続けようとした。

「あのさ、えっと…噂で聞いたんだけど、道重さんの親が再婚するんだよね?
 それであたし、道重さんの義理のお姉さんになる紺野先輩を紹介してもらいたくて」
「私の方が可愛い」
「実は前からファン……え?」
「私の方が可愛い」
「…はい?」
「私の方が可愛いよね?」
「そ…そう……そう、ですね…」
10 名前:18 Play kidnapping 投稿日:2003年09月15日(月)15時19分05秒
無理やり頷かされる形であたしは顔を縦に振ってみせる。
ここで機嫌を損ねたりしたら計画に支障が出る可能性だってある。
できるだけ相手に合わせないとダメだ。わかっているけどその質問は何だろう。
道重さゆみは満足そうな表情で、一歩、こちら側へと近づいてきた。

「最初はいきなり電話がかかってきて、こんな所に呼び出されて、
 少しびっくりしたけど……でもれいなが告白してくれるなんて私嬉しい」
「…は?えっ、てかなんでいきなり呼び捨て?」
「私が可愛いからいけないんだよね。うん、わかっちょるよ」
「ち、違う!告白じゃなくて!ちょっと頼みがあるんだってば!!」
「付き合って欲しいなら欲しいと早く言ってくれれば」
「それじゃなくて!なに勝手に勘違いしてんのあんた!?」
11 名前:18 Play kidnapping 投稿日:2003年09月15日(月)15時19分45秒
今まで言葉を交わしたことはなかったけれど、ここまで妄想家だったなんて初耳だ。
心なしかじりじりとこちらへ迫ってくる道重さゆみから逃げようとした瞬間、
頭の中でフラッシュバックした、生まれつき怖いあの先輩の凄んだ顔。
冗談だったとはいえ、失敗したらシメるぞの台詞には本気でビビった。

でも道重さゆみの餌食にだってなりたくない。
そうだ、このまま尻尾を巻いて先輩の元へと逃げ帰るよりか、
全てを話して彼女に協力してもらうということはできないだろうか。
手に入れたお金は3等分でもいい。1万を3人で分ければ3千円は入るのだ。
先輩はそれで生活費を足しに出来るし、あたしは遊ぶお金が出来るというわけで、
共犯者になれば道重の口封じもできて一石二鳥。早速説明することにした。
12 名前:18 投稿日:2003年09月15日(月)15時20分24秒
「…というわけでね、あたしたちは本気で紺野のお嬢様を誘拐するわけで…」
「………」
「もしよかったらほら道重さんに協力してもらえると嬉しいな、と、そういう話で…」
「………」
「…あ、やっぱりダメだよね。そうですね。あはは、誘拐なんて」
「誘拐するなら私を誘拐しちょ」
「そうだよごめん今のは冗談だから聞かなかったことに…は?」

道重さゆみはあたしの方を真顔でしっかりと見つめていた。
冗談を言ってる雰囲気じゃない。本気だ。この子は本気で…、


「誘拐するなら私を誘拐しちょー!!」


13 名前:18 Play kidnapping 投稿日:2003年09月15日(月)15時21分02秒


−−−


14 名前:18 Play kidnapping 投稿日:2003年09月15日(月)15時21分35秒
「あ、おかえり。どう?道重を丸め込むことはでき…た…」
振り返った先輩はタバコのフィルターを地面へと落としてしまった。
ぽかんと口を大きく開けて呆然としているその間抜け顔は始めて見る。
でも今のあたしは、それを笑う余裕なんてまったくなかった。

「えっと…田中」
「…はい」
「それは例の音痴な人じゃないの?」
「そうです…」
「なんでここに居るの?」
「…なんか、自分を誘拐して欲しいって…」
「………」

先輩は急に顔を俯かせて肩を震わし始めた。
怒るのも当然だ。適当とは言え多分一生懸命考えた計画とか、
そういうのをあたしはまったく無視してきてしまったんだ。シメられる。
尋常じゃない震え方に危機感を覚えて逃げ出そうとするあたしの右腕を、
しっかりと掴んで離さなかった道重さゆみが、のんきに口を開く。
15 名前:18 Play kidnapping 投稿日:2003年09月15日(月)15時22分16秒
「私の方が紺野さんより可愛いから大丈夫です。成功します」
「ぶっ…く、くくく…」
「身代金なんて山ほど手に入りますから、人質役は任せてください!」
「あーっはっはっはっははっはっげほげほげほっ!!」
「だ、大丈夫ですか先輩!」
「ダメ、死ぬ!ひー、苦しー!やばい、この子面白いね。マジ気に入った!」
「えぇっ!!」

咳き込んでまでお腹を抱えて爆笑し始める先輩の背中を撫でてやりながら、
あたしはこれからどうすればいいのかと頭をフル回転させていた。
道重さゆみを仲間するのは計画になかったけれどこれは好都合のはずだ。
そんなことを真面目に考えるあたしの手を借りながら先輩は立ち上がった。

「あー、面白い。あんた、美貴の舎弟その2にしてあげる」
「しゃてい?」
「可愛い子だけがなれる特別な役のことだよ」
「じゃあなります」
「なるなよ!!」
16 名前:18 Play kidnapping 投稿日:2003年09月15日(月)15時23分03秒
あたしのツッコミも空しく、二人は満足そうに意気投合していた。
何故か話が弾んでいる様子の和やかな雰囲気をぶち壊すように間へ入る。

「…せ、先輩!それよりどうするんですか、誘拐計画!」
「あーあれ?なんかさー、今日はやる気しないからまた今度にしようよ。
 それよりせっかく道重が仲間になったんだし、これからパーっと焼肉食べに行こ!」
「なっ…やる気しないって…」
「さっきは美貴が払ったから、今度は田中のおごりね」
「払ったって水しか飲んでないじゃないですか!!」
「私が可愛いからって、2人で奪い合いの喧嘩なんてしないでー」
「そがんことしとらん!!」

豪快に笑い声をあげる先輩とどこか勘違いをしているクラスメイト。
あたしは、実はまだ顔も知らなかった紺野あさ美に心の中でお詫びしながら、
今日もやっぱりこのパターンで先輩に遊ばれただけなのかと一人ため息をついた。
17 名前:18 Play kidnapping 投稿日:2003年09月15日(月)15時23分44秒
18 名前:18 Play kidnapping 投稿日:2003年09月15日(月)15時24分14秒
19 名前:18 Play kidnapping 投稿日:2003年09月15日(月)15時25分02秒

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