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16 セブンスター
- 1 名前:16 セブンスター 投稿日:2003年09月15日(月)09時37分58秒
- 16 セブンスター
- 2 名前:16 セブンスター 投稿日:2003年09月15日(月)09時39分26秒
- 「じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ」
- 3 名前:16 セブンスター 投稿日:2003年09月15日(月)09時41分07秒
後藤さんはにっこりと微笑みながら、私に云いました。
- 4 名前:16 セブンスター 投稿日:2003年09月15日(月)09時42分36秒
- 駅前の通りで、久しぶりに会った後藤さんの髪は真っ黒でした。
中学の頃は金髪だったり茶髪だったりで、どんなに先生に注意されても頑なに色を落とそうとしなかったのに。
「ま、後藤も大人になったってことですかねぇ」
自分で言って、自分で笑ってました。
私は表情を少しも変えませんでした。
「紺野は…今、春休み?」
春休み、といえるのかは分かりません。
私は昨日、中学の卒業式を終えて、4月からは高校に通うことになっています。
春休みだとしたらどっちの休み?中学の?高校の?
…どっちでもいいか。
- 5 名前:16 セブンスター 投稿日:2003年09月15日(月)09時44分18秒
- 「高校、どこ行くの?」
私は近くの公立の進学校の名前を挙げました。
「おー、すごい!さすが紺野。優秀、優秀」
ちなみに後藤さんは中学卒業後、高校へは行きませんでした。
何故かは知りません。
後藤さんに訊いたら、逆に、何で高校行くの?、と訊き返されそうです。
何で高校行くの?
…何でだろう。
- 6 名前:16 セブンスター 投稿日:2003年09月15日(月)09時46分04秒
- 「…ちょっと元気なくない?」
私に元気がある姿を後藤さんは見たことがあるのでしょうか。
というか、私自身、私が元気な姿をここ何年も見ていません。
後藤さんに初めて会った、中学の委員会の下らない集会でもこんなテンションでしたよ、私。
「いーや。元気ない。元気ないよ」
そこまで断定されると、ちょっとその気になってきます。
原因は?というと、やはりこの微妙な時期が関係しているのでしょう。
私はもう中学生ではありません。そしてまだ高校生でもありません。
私は何者でもありません。
私って何?
後藤さんはそんな私をみて、にやにやしていました。
「じゃあ―――――――――
- 7 名前:16 セブンスター 投稿日:2003年09月15日(月)09時50分08秒
- ◇
こんな田舎のろくでもない地方都市でも、駅前はまだかろうじて街灯が夜を照らしています。
私は道路と歩道との境目の段になっているアスファルトに腰を掛けていました。
危なくなんかありません。
車は私が来てから1台、それもおじいちゃんが運転しているのかやたらとスピードが遅いのしか通っていません。
そんなこと云っている間に、2台目の灯りが向こうに見えました。
今度はバイクみたい。
いや、スクーター?それとも原チャリとかいうやつ?
あまり詳しくないのでその区別はつきませんが、エンジンがついてる二輪車ですからバイクと呼んで差し支えないでしょう。
なんか今度はやたらと速くて、あっという間に私の目の前にきて、キキーッ!と急ブレーキの音と共に停まりました。
「攫いにきたよ」
後藤さんでした。
私にヘルメットを渡すと、後ろに乗るようにと手で合図します。
後藤さんのヘルメットは…?
「私はいいの。紺野はかぶりな」
その前に、これは2人乗りしていいものなのでしょうか?
- 8 名前:16 セブンスター 投稿日:2003年09月15日(月)09時52分12秒
- 周りは田んぼだらけの道を私たちのバイクが走っていきます。
他の車の影はほとんど見当たらず、時折思い出したようにすれ違うだけです。
やっぱりこの乗り物は2人乗りするようにできていないらしく、私は座席とも荷台とも思える場所にかろうじて腰を下ろしています。
足をかける場所も無いから、後藤さんの背中にしがみつくような格好になってしまいます。
「2人乗りだとスピード出ないんだよね…」
後藤さんはそう云いますが、体が外にさらされている所為か、体感速度はかなり速く感じました。
流れる田園風景は月の光に照らされていて、風が私たちの体に強く吹き付けて……って、だからどうってことでもないんですよ。
それでも、久しぶりに私の口元が吊り上って、頬の筋肉が持ち上げられた気がします。
…少しだけですよ。
- 9 名前:16 セブンスター 投稿日:2003年09月15日(月)09時55分44秒
- しばらく走って、やがてそのスピードが緩められていきました。
ここは確か町の野球場です。
おおよそ私の人生には関係のなさそうな場所です。
照明なんか当然点いてるわけもなく、隅っこにぽつんとある街灯だけがぼんやりと薄白く光ります。
そのおかげで、空には星がたくさん煌いていて、月もくっきりとみえていて……って、さっきからちょっと変です、私。
目を手の甲でごしごしとこすりました。
この町の自然に心を動かされることなんて、今までなかったのに。
後藤さんはハンドルにかけていたビニール袋を手に下げて、そのまますたすたと歩き出したので、私も黙ってついていくことにしました。
背の低い金網のフェンスのすぐ側まできて、後藤さんはそれに寄っ掛かって腰を地面に下ろしました。
私はなんとなく地面に座ることはせず、その隣に並ぶようにしゃがみこみました。
- 10 名前:16 セブンスター 投稿日:2003年09月15日(月)09時57分14秒
- 「キリンさんとお星さん、どっちがいい?」
分けがわからず、私はなんとなくお星さんを選びました。
「ほい」
手渡された缶には、なるほど星の形のラベル。
じゃあキリンさんってそのままじゃないですか。
- 11 名前:16 セブンスター 投稿日:2003年09月15日(月)09時58分40秒
- プシュッとプルタブの引かれる音がするや否や、後藤さんはごくごくとキリンさんを飲み干していきます。
私もゆっくりと缶を開けて、おそるおそる口に近づけていきました。
少し温めの液体が口内を駆け抜けて、なんだ、たいしたことないじゃん、と思った瞬間に苦味が一気に口の中に拡がって、私は思わず眉間に皺を寄せてしまいました。
後藤さんはそんな私の様子をみてケタケタと笑っています。
なんだかムカッときて、私は缶を口につけて一気に傾けました。
口の中一杯に苦味が残ります。
こんなもんのどこが美味しくて飲んでるの?
「おぉー、いけるねぇー。もう一缶いく?」
私は慌てて首を横に振りました。
- 12 名前:16 セブンスター 投稿日:2003年09月15日(月)09時59分52秒
- 「紺野はさぁ、何してる時、一番楽しい?」
後藤さんが3つ目のキリンさんを空けた時、そんなことを訊いてきました。
楽しいって?
テレビをぼんやりとみていることは楽しいこと?
嫌われないようにとクラスメイトとなんとなく一緒にいるのは楽しいこと?
楽しいって何だっけ?
質問に答えられないでいると後藤さんはまた訊いてきました。
「じゃ、何があったら、悲しい?」
これも難しい質問でした。
悲しいってのはどういうことだったでしょうか。
卒業式だって特に何も感じることなく終わっていきました。
ひょっとして誰かが死んだら、それは悲しいことなのかもしれません。
でもそれは実際に起こってみないと分かりません。
- 13 名前:16 セブンスター 投稿日:2003年09月15日(月)10時01分18秒
- 何も云わずに黙り込んでしまった私を尻目に、後藤さんはポケットから白っぽい箱とライターを取り出すと、箱から一本だけ抜いて口に咥えました。
火が灯ると、白い煙がゆらゆらと夜風にのって流れていきます。
「これはダメだよ。大人になってから」
後藤さんだってまだ大人ではないじゃないですか。
それにお酒はよくて、どうしてタバコはダメなんですか。
その基準がよく分かりません。
まぁ、吸いたいとも思いませんけど。
- 14 名前:16 セブンスター 投稿日:2003年09月15日(月)10時02分51秒
- 「で、さっきの話。じゃあさ、今日はどうだった、楽しかった?」
一番難しい質問でした。
今日は少しおかしな日で、口が変な風に動いたり、目に何かがこみ上げてきたりで。
それは別にお酒を飲んだからではないと思います。
それをどう表現すればいいのか、私は忘れてしまったみたいでした。
私が答えられずに困っていると、後藤さんは静かに微笑みながら話し始めました。
「後藤もさ、中学校の時、いろいろあって先生とかとぶつかってばっかだったけど、今思えば、毎日なんか楽しかったよ。
毎日下らないことに笑ってみたり、泣いてみたり、怒ってみたり。
後藤も表情に出にくいからさ、いろいろ誤解されるとこはあったんだけど、ほんと楽しかったんだぁ」
後藤さんはそういってへらっと笑いました。
そして空き缶に吸殻を入れて、また一本、新しいのに手を伸ばします。
- 15 名前:16 セブンスター 投稿日:2003年09月15日(月)10時04分45秒
- 「別にさ、お酒とかタバコとかがいいっていってるんじゃないよ。
でも、こういうのもたまには楽しいんじゃないかなって。
夜の街って昼のときとは全然違うじゃん。人とか全然いなくて。
なんか一番自分に素直になれるっていうのかな」
ふーっと後藤さんの口から噴き出された煙が夜の空気に溶けていきます。
私はその消え行く様子を黙って見つめていました。
「紺野も、もうちょっと笑ったり、泣いたりしたほうが人生楽しいよ。
せめてさ、悲しいときは思い切り泣いてよ。もう涙枯れるほど。
そしたら人生ちょっとは変わってくるって」
最後の方は照れたようにちょっとおどけて云いました。
私はその言葉に静かにゆっくりと頷きます。
- 16 名前:16 セブンスター 投稿日:2003年09月15日(月)10時05分51秒
- 「うん、がんばれ」
後藤さんはぽんぽんと私の頭を軽くはたきました。
そして、あー、えへんえへん、とわざとらしく声を出してから後藤さんは云いました。
「攫われた気分はいかがでしたか、お姫様?」
あーゆうのは攫ったというんでしょうか。
場所、時間指定。
あれは待ち合わせというんじゃないですか。
「じゃあ、これからはもっと演出に凝るとしましょう。
窓をバリーンって突き破って、ガバッて抱き寄せて、そのままヘリコプターでおさらば…とか?」
- 17 名前:16 セブンスター 投稿日:2003年09月15日(月)10時07分32秒
- それは迷惑ですからやめて下さい。
そう云おうとしてふっと横を見ると――――――――そこには誰もいませんでした。
ただ在るのは、転がったキリンさんの空き缶3個とタバコの箱とライターだけ。
箱のパッケージには点々の星模様に浮かび上がる「7」の数字。
私はそこから一本取り出して、たどたどしい手つきで口に咥えてみました。
ライターは一回でつけることができなくて何度かカチカチっと音が鳴りました。
先端にぼぅっと火が灯って、それを思い切り吸い込むと、肺の隅々に気体が行き届きました。
一瞬、頭がくらっとなって、次の瞬間、思いっきり咳き込みました。
ケホンケホン。
目に涙が滲んで、それはやがて零れ落ちていきます。
とめどなく溢れて溢れて、仕方在りませんでした。
滲んだ景色の向こうに、星のパッケージが揺れていました。
- 18 名前:16 セブンスター 投稿日:2003年09月15日(月)10時09分39秒
昨日、卒業式の日の朝、私が読んだ新聞の地方欄の片隅。
『15日午前0時半ごろ、S市の市道で、大型トラックとバイクが正面衝突。バイクを運転していた同市在住の無職女性(17)が死亡。
県警はトラック側のハンドル操作に誤りがあったとして捜査を進めている』
- 19 名前:16 セブンスター 投稿日:2003年09月15日(月)10時12分49秒
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桜の季節が訪れ、太陽の光も日に日にその暖かさを増していきます。
私は真新しい地味な制服に袖を通して鏡の前に立ちました。
その姿はあまりにも初々しくて不似合いで――――自分のことながら思わず吹き出してしまいました。
―start
- 20 名前:16 セブンスター 投稿日:2003年09月15日(月)10時14分39秒
- ネ
- 21 名前:16 セブンスター 投稿日:2003年09月15日(月)10時15分29秒
- ド
- 22 名前:16 セブンスター 投稿日:2003年09月15日(月)10時16分08秒
- ヴェド
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