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09 この思い、届いて!
- 1 名前:09 この思い、届いて! 投稿日:2003年09月14日(日)01時48分33秒
- 09 この思い、届いて!
- 2 名前:09 この思い、届いて! 投稿日:2003年09月14日(日)01時49分07秒
- 「じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ」
- 3 名前:09この思い、届いて! 投稿日:2003年09月14日(日)01時49分49秒
- たったそれだけの手紙。
部屋の前で立ち尽くす私。
もう一度文面をよーく見てみる。
「じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ」
見直しても変わらない文面。
「じゃあ」
接続詞。前の事柄を受け、後の事柄が生ずることを示すもの。
「夜が来たら」
現在21時。一般に言うところの夜。もちろん今夜のことだろう。
「紺野を」
他でも無い私の名前。
「攫いに行くよ」
奪い去るに来るらしい。
つまり、何が「じゃあ」なのかわからないけど、私を攫いに来るって予告のようだ。
じっくり考察を終えた結論はそれだった。
- 4 名前:09この思い、届いて! 投稿日:2003年09月14日(日)01時50分39秒
- 私はきょろきょろと廊下を見回し、誰もいないことを確認すると急いで部屋に入った。
私達は今、ハワイに来ている。
TV収録と写真集撮影のついでにファンの方と触れ合うために。
もしここで私が攫われたりしたら、一大事になるに違いない。
それに……こんなことマネージャーさんにいって余計な心配かけたくないし……
なにより、夜という漠然とした予告ではどうにも対処が難しい。
明日には日本に帰るので、今日の夜ということだけは間違いないんだけど……
そもそも犯人は誰なんだろう?
このホテルは私達だけの貸切のはず。
もちろんセキュリティは完璧です。
部外者が入ってくる可能性は限りなく0に近い。
それに、ここが誰がどこの部屋ということはホテルの人も知らないだろう。
私達はここにきてからジャンケンでそれぞれ決めたんだから。
となれば、メンバーのいたずらっていう線が一番高いかもしれない。
だったらそれほど心配すること無いのかもしれないっていう結論に達しちゃったんだけど。
それならそれで、やっぱりまんまと攫われるのは嫌だし。
- 5 名前:09この思い、届いて! 投稿日:2003年09月14日(日)01時51分25秒
- もう一度じっくり考えて見よう。
この手紙が挟まっていたのはドアの隙間。
私が朝、ここを出た後に入れたということになる。
なぜなら、私は解散後すぐにここに帰ってきたから。
今日の集合は8時半。
私が部屋を出たのは、少し寝坊して8時15分。
それ以前にホテルを出て行った人には不可能。
私の後に来た人で無いと無理だ。
つまり、私の後に来た安倍さん、吉澤さん、6期メンバー3人。
本命は吉澤さんか……
その結論を出すとともに、ベッドにごろんと寝転がった。
吉澤さんなら攫われてもいいかもなんて思いが頭によぎった。
- 6 名前:09この思い、届いて! 投稿日:2003年09月14日(日)01時52分09秒
- コンコン
部屋のドアをノックする音が聞こえたのはそのときだった。
思わずビクッと起き上がる。
「紺野、なっちだべさ」
緊張感の全く無い声だったが、私の警戒心は強まった。
私を攫いにきたんだ……
ゆっくりドアに近づき、音を立てないようにそっと鍵を開けた。
そして、3歩離れて声をかけた。
「開きましたよ。どうぞ」
ゆっくりドアが開く。
私は両手を上げ、身構えていた。
「何してるべさ」
大きな箱を抱え、安倍さんは私をじっと見た。
- 7 名前:09この思い、届いて! 投稿日:2003年09月14日(日)01時53分02秒
- 「安倍さんこそ、何持ってるんですか?」
構えを解くも、警戒心はそのままに尋ねた。
「マカダミアナッツだべさ。食うべさ食うべさ」
バリバリと袋を破り、ベッドの上に広げた。
大きな箱の中にはびっしりとチョコレートが並んでいた。
思わずゴクンと唾を飲む。
おみあげ用には買ったものの、自分はまだ食べてないことを思い出した。
でも、この中に催眠薬が入ってて、眠らされて攫われるんじゃ……
そもそも何で安倍さんは私に言ってくるんだろう?
いつもはののにべったりなのに。
勧められるままに一つを手にとったものの、それを口には運べなかった。
「あれ?嫌いだべか?ならなっちが食うべさ」
ボリボリとチョコを消費していく安倍さん。
その様子をじっと見て、私は安全であることを確信した。
思い切って口に運ぶ。
チョコの甘い香りとナッツの歯ざわりが口の中に広がる。
「おいしい!」
私は声を上げ、次のチョコを手に取った。
- 8 名前:09この思い、届いて! 投稿日:2003年09月14日(日)01時53分34秒
- そうして30分後、空箱と破り散らされた包装紙を残すのみとなった。
「あーお腹いっぱいだべさ」
「そうですね……」
「でも、紺野の方がなっちよりも3個多かったべ」
その言葉とごみを残して安倍さんは去っていった。
一体何だったんだろう?
状況をつかめないまま、シーツの上に散らばるチョコのかけらを拾い、ごみを処分した。
- 9 名前:09この思い、届いて! 投稿日:2003年09月14日(日)01時54分18秒
- コンコン
次にドアがノックされたのは、それからしばらくして。
再び警戒心が私の中で強くなる。
「紺野ー開けてー」
能天気なその声が、私を一層敏感にさせた。
さっきと同じく、音を立てないように鍵を開け、今度は5歩下がってから声をかけた。
「あ、開いてます」
バンッという大きな音と共に、吉澤さんは入ってきた。
「会いたかったよハニー」
いつも以上に高いテンションでつかつかと近づいてきた。
私は距離を保とうと、後ろに下がっていくが、とうとう壁にぶち当たった。
- 10 名前:09この思い、届いて! 投稿日:2003年09月14日(日)01時55分18秒
- 「どうして逃げるのさ?」
「あ、あの、石川さんは……」
「梨華ちゃんはミキティの所」
「飯田さんは……」
「ののとあいぼんと一緒」
私の問いかけは全て即答された。
「それで……私なんですか?」
吉澤さんはニコッと笑って、構えている私の手を取った。
「駄目?」
柔らかい吉澤さんの手の感触と、少し切なそうな瞳。
私の思考回路はストップした。
「そんなことないです……」
両手から力を抜いて、私は弱々しく言った。
ああ、このまま攫われちゃうんだ……でも、それも良いかも……
- 11 名前:09この思い、届いて! 投稿日:2003年09月14日(日)01時56分03秒
- 「吉澤さん、さゆが呼んでますよ」
そのムードを壊したのは、いつの間にか戸口に立っていた田中ちゃんだった。
「え?そんな約束してたっけ?」
「してたじゃないですか。今晩はさゆにするって」
吉澤さん、夜這い掛けまくりじゃないですか……
「ほら、さゆが待ってますよ」
吉澤さんを急かすように田中ちゃんは続ける。
吉澤さんは必死に思い出そうとしているが思い出せないようで。
それでも、首をかしげながらも部屋から出て行ってしまった。
- 12 名前:09この思い、届いて! 投稿日:2003年09月14日(日)01時56分50秒
- 「大丈夫でしたか?」
水を1杯、そっと差し出してくれた。
「うん。ありがとう」
ちょっと惜しかったかなと思う一方、やっぱりホッとしていた。
ゴクッと一気に飲み干した。
冷たいその水は渇いた喉を通り抜け、体中から熱を一気に奪った気がした。
同時にパニックだった頭も冷静さを取り戻し、ふと一つの疑問が浮かんだ。
わざわざ手紙を書いたのに、どうして他の人と約束するんだろう?
口元に手を当てて考え込む私を、じっと見ている視線に気づいた。
「あ、わざわざごめんね。もう大丈夫…」
私の顔をじっと覗く田中ちゃんに声をかけた。
- 13 名前:09この思い、届いて! 投稿日:2003年09月14日(日)01時58分04秒
- その時、急に私の足元がふらついた。
倒れこむようにベッドにもたれかかる。
それと共に世界がグルッと一回転。
「紺野さん、呼び捨てにしてすいませんでした」
狭まる視界の向こうから声が聞こえた。
呼び捨てって……何のこと……
考えが上手くまとまらない。
強烈な眠気が波のように襲ってきた。
「じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ」
かろうじて開いているだけの目に、その文章が見えた。
じゃあ……この手紙を出したのは……
- 14 名前:09この思い、届いて! 投稿日:2003年09月14日(日)01時59分06秒
- 私の意識はそこで途絶えた。
- 15 名前:09この思い、届いて! 投稿日:2003年09月14日(日)02時00分09秒
- END
- 16 名前:09この思い、届いて! 投稿日:2003年09月14日(日)02時00分41秒
- な
- 17 名前:09この思い、届いて! 投稿日:2003年09月14日(日)02時01分12秒
- が
- 18 名前:09この思い、届いて! 投稿日:2003年09月14日(日)02時01分47秒
- し
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