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08 凸凹な責任者達

1 名前:08 凸凹な責任者達 投稿日:2003年09月14日(日)00時50分44秒
08 凸凹な責任者達
2 名前:08 凸凹な責任者達 投稿日:2003年09月14日(日)00時52分02秒

「ねぇ、なんか紺野最近なんか元気なくない?」

そう言ったのは現リーダー、飯田。
いつもみんなの様子を気にしなければならない立場上、気付くのが早かった。
……はずだった。
娘。で最大の飯田が見下ろす先には、同グループで最小の矢口。
その眼は驚きにより見開かれている。

「え、カオリ、今ごろ気付いたの……? みんなとっくに気付いてるよ。
 でもなんだか声掛けられる雰囲気でもなくて」

最近の紺野は溜息ばかりついている。いちいち気にしてなくても誰の目にも明らかだった。
有名無実の代名詞ともいえる肩書き、サブリーダーという役職の矢口も目聡い方だ。
その矢口が紺野の表情に愁いという感情を初めて見つけたのは、もう2週間も前になる。
そういうことに鈍そうな吉澤も、只ならぬ気配を感じてか、1週間も前からろくに紺野と話していない。
……だというのに、このリーダーときたら。
3 名前:08 凸凹な責任者達 投稿日:2003年09月14日(日)00時53分30秒

「カオリ〜、もっとしっかりしてよね。一応リーダーなんだからさぁ」

はぁ、と大袈裟に溜息をつきながら、矢口は言った。

「う……、ご、ごめん。今度からは誰よりも早く気付いて相談にのってやれるようにする……」

「い、いや、そこまでは言わないから、せめてみんなが気付く頃には、ね」

飯田が心底申し訳無さそうに言うので、何だか矢口の方が悪い事をしたみたいな気にさせられてしまう。
そもそも、飯田にそこまでの鋭さを期待しているわけでもない。
なかなかしっかりしてはいるのだが、鈍い。微妙な心境をすぐに見抜け、という方が無理な話なのだ。

「矢口もそれとなく紺野と話してみたんだけど、『大丈夫です』とか『なんでも無いですから』
 とか言うだけで、なんにも理由教えてくれないんだよね」

「わかった。カオリがなんとかしてみる」
4 名前:08 凸凹な責任者達 投稿日:2003年09月14日(日)00時55分29秒

自分の思った通りに行動する飯田の単純さに、少なからず不安を覚えないでもない。
それでも矢口は、紺野の方に向かって行く飯田を生温かく見守った。

「ねぇ紺野。何か心配事でもあるの?」

飯田はこんな話でもいきなり核心を突く。そこがまた、良くも悪くも飯田らしい。
辛うじて聞こえてきた飯田の声に、矢口はそんな感想を持った。
自分の内に閉じこもって、歳の近い小川や辻たちとも必要最低限の会話しかしていない。
悪いとは思ったが、飯田にはあまり期待していない矢口だった。

しばらくすると談笑する矢口たちのもとへ、飯田が戻ってきた。
ずっと意識の端で捕らえていたので矢口はすぐに気付く。
話の長さから言えば紺野の口から何か聞けたのかもしれない。だが、飯田の顔は余り冴えない。

「どうだった?」

そう尋ねるも、矢口には結果は分かっている。
飯田の顔を見れば一目瞭然といっていい。
5 名前:08 凸凹な責任者達 投稿日:2003年09月14日(日)00時58分05秒

「うん……、あんまり話してくれなかったな」

飯田の落胆振りは、まるで自分の限界を感じたアスリートのようでもあり、
保護者にその無力を非難された教師のようでもあった。
ミイラ取りがミイラになるとはこの事だ。紺野ばかりか、飯田にまで落ち込まれてはかなわない。
矢口は務めて明るく言う。

「カオリ、そう落ち込むなって。カオリは良くやってるって」

「そうかな……、カオリってリーダーに向いて――」

そんな飯田の言葉を遮り、矢口は続ける。ここは何としても立ち直ってもらわなければ。

「やっぱリーダーはカオリしか居ないよね。最近、紺野が悲しそうにしている理由
 聞いてみてるんだけど、あんなに長くは話できないよ。みんな」

飯田がまた、そうかな、と呟く。先程とは違っていくらか眼に力があるように思える。
6 名前:08 凸凹な責任者達 投稿日:2003年09月14日(日)00時59分10秒

「やっぱり、仲間の事を大事にしてるって事が伝わるんじゃない?
 だから、紺野も少しは心を開いた。歳の近いメンバーじゃなく、リーダーのカオリに」

「そっか。そうだよね。うん、カオリだから。やっぱりリーダーはカオリじゃないと」

「うん、そうそう。ところで、紺野何て言ってた?」

長い付き合いの矢口は、飯田のメカニズムを心得ていた。
立ち直らせるのは、そう難しい事ではない。
それよりも、紺野だ。飯田がその原因を知るために、何かしら役に立つ事を聞いていないか気になる。

「役に立ちそうな事は、あんまり、かなぁ……」

「そう……。じゃあ何でもいいよ」
7 名前:08 凸凹な責任者達 投稿日:2003年09月14日(日)01時00分42秒

飯田は重要に思わなくても、何か自分の知ってることと違う事を聞いてるかもしれない。
そう思い、矢口は飯田のあまりまとめられてない話を聞いた。
そのとても分かりにくい話を要約すると、紺野が猫が死んでいるのを見た、これだけだ。
だが、それでも原因らしい物は分かった。
勝手に紺野が誰かに恋しているだの思っていた頃に比べれば前に進んだと言えるだろう。
その想像を否定する理由も無かったが。
猫の事でずっと沈んでいるというのもいまいち説得力が無い。
普通なら猫の死骸を見ても、せいぜい1日くらいブルーになる程度だろう。
それに、自分なら殆ど気にも留めない。矢口はそう思う。


「どうして、紺野はあんなに落ち込んでるんだろ」

飯田も同じ感想らしく、それだけでは説明が付かないと思っているようだった。
8 名前:08 凸凹な責任者達 投稿日:2003年09月14日(日)01時01分44秒

「わかんない。死んだ猫は、実は紺野がこっそり飼ってた……とか?」

「ありそうな気もするけど、やっぱり分からないね」

「本人に聞くしかない、か」

それは、最初から分かりきっている。そうしなければ、恋愛説も、飼い猫説もただの想像に過ぎない。
だが、それが出来ないから、困っているのだ。
紺野の心を開くだけの時間が無いし、飯田以外では時間を掛けても話を聞けるかどうか怪しい。

「やっぱそうだよね。……矢口、明日午前中空いてるよね?」

そう聞かれて、明日の予定を思い出した。
確かに午前中だけとはいえ、時間があった。だが、紺野は空いてないはずだ。
そんな矢口の心中を見透かすように、飯田。
9 名前:08 凸凹な責任者達 投稿日:2003年09月14日(日)01時02分32秒

「大丈夫。夜だよ、夜」

「へ?」

「どうせあんな状態じゃ、ろくに仕事できないって。だから寝不足でも問題無し」

自身満々にそう言い放つ飯田。
今まで紺野が仕事はそつなくこなしてきた事を思うと、少しおかしな理論だったが、
どの道このまま放っておく事などできやしない。
だから、矢口は頷いた。
賛同を得たためか、飯田の口調も少し強気な物になった。
10 名前:08 凸凹な責任者達 投稿日:2003年09月14日(日)01時03分10秒


「じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ」

11 名前:08 凸凹な責任者達 投稿日:2003年09月14日(日)01時04分35秒
12 名前:08 凸凹な責任者達 投稿日:2003年09月14日(日)01時05分12秒
13 名前:08 凸凹な責任者達 投稿日:2003年09月14日(日)01時05分49秒

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