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9/23 解体
- 1 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月23日(月)23時25分12秒
- ちょっとだけ太陽が出ていた。
- 2 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月23日(月)23時26分59秒
- 休憩時間は外に出ないと、あたしらはいい加減もやしっ子になる。
そんな誰かの画期的な提言で、メンバーの有志でお散歩をすることになった。
あたしも気分転換に、日なたの部分を適当にぶらぶら歩いていた。
冗談みたいにベタな青いベンチが目に入って、あたしの睡眠欲がぴくりと目を覚ます。
――ねっころがったら気持ちいいだろうなぁ……。
と、急に腕を掴まれよろける。
「ああっ!もう三時間と十九分ではじまっちゃうよぉ!どぉするよぉ」
やぐっつあんは、へへへと笑いながら言う。太陽みたいに元気だ。
「やだなぁ。そんな……」
- 3 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月23日(月)23時27分57秒
- 今日は、9月23日は、あたしの誕生日であり、
『わたし、後藤真希は、……』
モーニングを卒業する日でもある。
- 4 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月23日(月)23時28分34秒
- 「そんな、いつも通りやろうよぉ。わざわざ時間はかんなくても……」
とは言えあたしも、時間が気にならない訳がない。
なにしろ、卒業してしまうのはあたしなのだ。
「おぉし!がんばろぉね!最後までかっこよくっ!」
「はいなぁ」
湿っぽいのはちょっと好きじゃない。
だから、ちょっとおどけて言ってみた。
- 5 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月23日(月)23時29分16秒
- すると。
「…っく…」
「ええっ!?」
泣かないでよ。というか泣くなよ。
「ああっ!なになになにさイキナリ?」
「あらっ?…やぐっつぁんイマ泣いてなかった?」
「はぁ?しゃっくりしただけだよ、もう!ビックリするじゃんかぁ!」
ビックリしたのはこっちだよ。
やぐっつぁん最近すごい涙もろいからなぁ。
- 6 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月23日(月)23時30分12秒
- 二人でしばらくぶらぶら歩く。
いろんことを話す。
これまでのモーニングのこと。これからのモーニングのこと。
辻ちゃんの食欲と腕力のこと。
ライブ後の紺野の前髪のこと。
こないだの梨華ちゃんのテンションのこと。
やぐっつぁんがタンポポのことを熱く話しているときなんて、
ホンキで切なくなってしまった。
- 7 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月23日(月)23時30分48秒
- 話のタネは尽きることがなかったが、時間はそんなこと感知しない。
そろそろ休憩時間が終わるというときになって。
「・・・ごっつあんは・・・ツヨイなぁ」
「ん?」
しっかり聞こえたけど、聞こえなかったふりをした。
あたしは強くなんかないからだ。
- 8 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月23日(月)23時31分27秒
- 「いや、なんでもない。ああっ!しまった!あと三時間二分だぁ!」
「はは。まだそんなことやってんの?」
「ヤグチ帰るね。エネルギー切れちゃったからなんか買わなきゃ。ごっつあんはどーする?」
「ん〜。もうちょっとぶらぶらしてく」
「じゃあ、あとでね」
「うん、あとで」
やぐっつぁんの笑顔は、どこかいつもより雲がかかっているように見えた。
- 9 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月23日(月)23時32分10秒
- 何となくさっきのベンチのところに戻って座る。
地面に落ちたぼんやりとした影が目に入り、
太陽が出ていたことに気付く。
――ごっつぁんは強い、か。
今日のいまいち煮えきらずに照る日の光は、
なんだかイマのあたしみたいでちょっと笑えた。
- 10 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月23日(月)23時33分16秒
- ――すっごく嬉しくても、すっごく悲しくても、イマイチ伝わんないみたい。
- 11 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月23日(月)23時36分00秒
- いち―ちゃんの時の悲しみを隠そうとつけられた仮面は、やっぱり仮面で、
必要以上に他の感情も隠してしまった。
つまり、あんまり笑わなくなった。
あんまり怒らなくなった。
あんまり泣かなくなった。
それがサマになりすぎて、ホントの顔を忘れた。
これがある意味では、オトナになるということかもしれない。
- 12 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月23日(月)23時36分34秒
- いやだ。
そんなのは悲しい。
でも涙は出ない。
それがまた悲しい。
- 13 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月23日(月)23時37分26秒
- ダメだ。
そろそろみんなの所に戻ろう。
このままでは内側からオーバーヒートしてしまう。
そう思って、あたしは曖昧な日の光の中緩慢に立ち上がった。
- 14 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月23日(月)23時38分00秒
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- 15 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月23日(月)23時38分40秒
- 時が来て、事は順調に進んだ。
熱狂と感動のライブが終わって、あたしはとある個室の台の上に寝かされた。
あたしの解体作業には、みんな立ち会った。
下半身の感覚がなくなり、そっちのほうでバチバチ音が鳴っているとき、
やぐっつぁんと目が合った。
やぐっつぁんは、泣いていた。
- 16 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月23日(月)23時39分14秒
- やめてよ。貴女は太陽なんだから。
太陽に雨降っててどうすんのさ。
- 17 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月23日(月)23時40分00秒
- 変に声を出されては困るということで、発声器官は早くから取り外されていた。
だからあたしは、
――それが例え仮面越しだったとしても
――それが例え煮え切らない半端な光だったとしても
精一杯の力でえへへと笑った。
- 18 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月23日(月)23時40分35秒
――あーあ。号泣だよ。
- 19 名前:名無しさん 投稿日:2002年09月23日(月)23時41分22秒
- そしてあたしは、いちーちゃんと同じように、みんなのパーツのひとつとなった。
新しいこれからのモーニングのために。
おわり
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