インデックス / 過去ログ倉庫 / 掲示板

なみだ

1 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)23時10分21秒

後藤と圭ちゃんがモーニング娘。からいなくなってしまう。
もう何度目になるんだろう、こうしてメンバーがいなくなるのは。
これだけは、何度経験しても慣れる事はできない。
まして、私がリーダーになってから初めての脱退…。

やっぱり悲しいけど、二人の新しい旅立ちだもん。
愛する仲間の為に、笑顔で見送ってあげようと思った。
でも、更に大きな衝撃が私を待っていた…。

私は愛する「タンポポ」さえも失ってしまった。
2 名前:: 第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)23時11分25秒

8月からは、忙しい日々が続いた。
映画の発表と後藤の卒業会見。
特番の撮影やコメント録り。
その度にメンバーや後藤は涙を流した。

でも、私は泣かなかった。
オリジナルメンバーとして、リーダーとして、
皆を引っ張っていくには、泣いてるばかりじゃダメなんだ。
それはなっちも同じ気持ちだった。
私達が泣いてしまうと、皆が頼る場所がなくなってしまうから…
悲しいけれど、張り裂けそうなくらい悲しいけれど、
私は泣かなかった。
3 名前:.. 第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)23時12分08秒

「ありがとうございましたー」
私がタンポポとしての最後のスタジオ収録が終わった。
矢口達は、やっぱり涙を零してたけれど、私はぐっと堪えた。
涙を堪えてタンポポの愛しい歌たちを唄った。
私の大好きな歌を、心を込めて。

もうタンポポとして唄うのはコンサートだけだ。
後藤の卒業へのカウントダウンは
私達がタンポポから卒業するまでのカウントダウンでもある。
4 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)23時12分50秒

後藤の、そして私達のタンポポからの卒業まで残り一週間を切った。
みんな普段と変わりないくらい明るかったけれど
やっぱりどこかに隠し切れない緊張感が漂っていた。

私がただ何となくそんなメンバーを眺めていると
石川が話しかけてきた。

「あの、飯田さん…」
「ん?どうしたの、石川」
「飯田さん…無理してませんか?」
「え?どうしたのよ、急に」
「…だって、飯田さん全然悲しそうじゃないもん。
ごっちんの卒業も、タンポポ辞めちゃう事も、悲しくないわけないのに
飯田さん、無理して笑ってるもん」
「石川…」
石川は今にも泣きそうな顔をしていた。
5 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)23時13分40秒
「そんな笑顔、飯田さんには似合わないよ」
「……何言ってんのよ、私は大丈夫。
あんたは自分の事だけ心配してなさい」
私は立ちあがってそう言った。
「でも…」
「ちょっとトイレ行ってくる」
「あっ、飯田さん」
なんだか痛いところを突かれたみたいで、
私は石川に背を向けて、そのまま足早にトイレに向かった。
6 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)23時14分15秒
私、無理して笑ってるのかな…
悲しくないフリしてるだけなのかな…
石川…心配そうな顔してたな。
心配かけまいとして心配かけちゃうなんてかっこ悪いなぁ。
こんなんじゃリーダー失格だよ。

「カオリ」
私がそんな事を考えながら歩いていると、突然うしろから呼びとめられた。
振り返ると、目の前に後藤が立っていた。
「携帯落としたよ。」
「ああ、ありがと」
私は後藤の差し出した携帯を受け取った。

その瞬間、思った。
もし後藤が卒業していたら、この携帯はどうなっていただろう。
誰か他のメンバーが拾ってくれていただろうか。
それとも自分で気付いて拾いに行っただろうか。
いずれにしろ、今この瞬間はなかった。
そう思うと、今が物凄く愛しいモノに思えた。

7 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)23時14分46秒
どうしたの?」
後藤が、またぼーっと考え事をしてしまった私の顔を覗き込んだ。
私は我に帰って「ううん、何でもないよ。ありがと」と笑って言って
携帯をポケットにしまって、トイレに向かった。

「カオリ」
私はまた後藤に呼び止められて振り返った。
「何?」
私が聞くと、後藤は少し悲しそうな顔をして言った。
「笑いなよ」
「え?」
「もっとちゃんと笑いなよ、そんな無理した笑顔じゃなくて
もっと楽しそうに笑ってよ」
「…………」
「ちゃんと笑えないなら、泣きなよ。
我慢してないで泣いて、泣いて、それからちゃんと笑ってよ。」
「後藤……」


8 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)23時15分27秒
「あたしがこんな事言える立場じゃないけどさ、
悲しいなら悲しいって言って、寂しいなら寂しいって言ってよ。
そんなんじゃあたし、安心して卒業できないよ」
「…………」
「たとえどんなに泣いても、たとえどんなに弱くても
カオリは私たちのリーダーだよ。
みんな、そう思ってるよ」
「……うん、分かった。ありがと…」
後藤の口からこんな言葉を聞くなんてびっくりしたけど、嬉しかった。
後藤もいつのまにかこんな立派な大人になってたんだ。
そして何より、私を思ってくれてるその心が嬉しかった。
石川もそう思ってくれていたんだろう。

9 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)23時16分01秒
ありがとう、後藤」
私は、かわいい後輩に心からお礼を言った。
「うん、頑張りすぎないでね、カオリ」
そう言って、後藤は歩き出した。

「後藤」
私は思わず後藤を呼び止めて、言った。
「頑張れよ」
たった一言だけ、そう言った。
「おう!」
後藤はガッツポーズを決めながらそう答えた。
満面の笑みで。
その笑顔は、とても綺麗だった。
私は、この笑顔が大好きだと思った。


10 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)23時16分32秒
それから、私はトイレに行って鏡を見つめた。
そこには情けない顔の飯田圭織がいた。
あ〜あ、こんな顔じゃみんなが心配するわけだよ。

そう思った瞬間、悲しみが涙と共に込み上げてきた。
一瞬堪えて、後藤の言葉を思い出す。

“我慢してないで泣いて”
“たとえどんなに弱くても、カオリは私たちのリーダーだよ。”

そうだよね、泣いてもいいんだよね…。

11 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)23時17分13秒
この悲しみを涙に変えて流すとしたら
きっと、生涯枯れる事はないんだろうね。
だから…本当のお別れの日まで涙は流さない事にしたけど、
やっぱり無理みたい。

だから、今だけは、今の間だけは
ほんのちょっとだけ泣かせてね。
パンクしちゃわない様に悲しみを吐き出させてね。
そしたらまた明日からちゃんと笑えるからさ。

私はこの悲しみを涙に変えて、ポロポロと涙を零した。

その涙は、キラキラと光を反射して輝きながら落ちて
すぐに排水溝に消えていった。



12 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)23時17分48秒



おわり。




Converted by dat2html.pl 1.0