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夢の原則
- 1 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)04時54分22秒
- 気泡のような疑念。悪戯な好奇心。どうでもいいこと。
それが意外と大事だったり、私を占めたりする。
パッケージの剥がされた、ペットボトルを眺めて思う。
軽く振ると、空気がスーッと浮かんで弾け、立ち消えていく。
意識を頭に残ったイメージにスライドさせる。
ボトルの底から気泡がまっすぐ昇り始め、小さな球の浮かびは、
やがて大きなそれに変わっていく。
ぼこぼこと強くなっていき、割れ続ける水面からは蒸気がたゆたう。
勢いは恐ろしい速度で膨れ上がり、ボトルが激しく揺れ、キャップは軋む。
やがて蒸気は螺旋を捻じ切り、キャップを飛ばす。
逃げ場を抉じ開けた水は、一気に上昇して宙に吸い込まれていく。
微かに感じるかどうか程だけど、私の周りが温く肌に張り付いた気がする。
そんな瞬間も、誰かが開けたドアの、下から撫でるような風に吹かれて消えた。
うっすら定まらない視線の先には、ごっちん。
その背中には何も残さない。
- 2 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)04時56分09秒
- 「よっすぃ、どうしたの?みんな帰ったよ。」
机に突っ伏した私の横から、梨華ちゃんが覗き込んでいる。
夢心地のように醒めないまま、のんびり焦点を探す。
朝起きたばかりの、夢と現実の境界を手繰る時のような感覚。
まごついていると、梨華ちゃんの手が頬に伸びてきた。
触れるか触れないかの柔らかさで手を乗せたと思ったら、急につねられる。
「大丈夫なの?ペットボトル振ってニタニタしてると思ったら、今度は急に伏せてカタカタ動いたり。」
思いもよらない刺激に、輪郭のなかった視界がくっきりと像を結ぶ。
そこには、眉が八の字になる寸前の梨華ちゃんの顔。
- 3 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)04時58分07秒
- 「何でもないよ。」
机に突っ伏したまま、視線だけが絡みついたまま。
「そう?最近変だよ、特に。ごっちんともあんまり話してないし。」
「本当に何でもないから。」
「何か私にできることがあったら言ってよ?もう何日もないんだから。」
彼女なりの優しさから逃れようとも、子供染みた言い訳しか思い浮かばない。
それに、本当に何でもないんだ。
正直、今のごっちんと話すのは、少し気が引けるけど。
私が勝手に寂しいだけで、ごっちんを正面から見られないだけ。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、ごっちんも話しかけては来ない。
私は次の言葉を探せぬまま、梨華ちゃんの瞳を見つめている。
- 4 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)05時00分05秒
- 耳元で着信音が鳴る。
「あ、メール。」
声にすることで、梨華ちゃんから視線を外す。
律儀な梨華ちゃんは、自然な動作で顔を逸らす。
メールはごっちんからだった。
『今から家に来て』
「誰から?」
「・・・ん?お母さん。早く帰れ、って。」
携帯を閉じると、重い体を起こして、鞄を抱える。
「じゃ、帰るね。」
「お疲れ。」
「うん、お疲れ。」
「あ、ありがとう。本当に大丈夫だから。」
梨華ちゃんは少し微笑んだ後、悲しい顔をした。
- 5 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)05時02分08秒
タクシーの運転手に行き先を告げ、堅いシートに身を沈める。
大きく息を吐くと、一緒に涙も零れてきた。
自分でも何が何だかさっぱりで、気持ちだけが昂ぶっていく。
大丈夫じゃない、かも・・・
呼吸する度に胸が震え、喉が締まり、頭が痛くなる。
運転手に気付かれぬよう、どうにか気持ちを落ち着かせると、
もう一度大きく息を吐いた。
今度は大丈夫だった。
- 6 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)05時03分41秒
「では・・・」
厳かな雰囲気を出したいらしいごっちんの小鼻はヒクヒクしてる。
年頃の女の子の部屋には似つかわしくない、透明な薄緑の焼酎のボトル。
それと、緑茶と麦茶に烏龍茶。
おつまみにナッツとチョコとせんべい、そして何故かカボチャの煮付け。
間違っていないような気もするけど、微妙にミスマッチ。
全部、確実に家にあったもの。
ごっちんらしい、素っ頓狂なチョイスだと思った。
ごっちんの家に着き、飲むから、と言われた時、イチゴやアンズやスイカのお酒を連想した私には、この状況はどこか付いていけない。
「では・・・、なに?」
私は耐え切れずに吹き出してしまう。
「もういいっ。せっかく感じ出したかったのに・・・乾杯っ!」
彼女は半ば投げやりに私のグラスにグラスを合わせた。
- 7 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)05時04分42秒
- マズイ。こんなの、絶対飲めない。
案の上、ごっちんも顔をしかめて舌を宙に泳がせている。
「もっと薄めればいいんじゃない?お茶はまだまだあるし。」
そう私は申し訳程度の酎ハイに、緑茶をなみなみと注ぎ足す。
「ほんとだ。これならまだおいしく飲めるね。」
チビチビとグラスの端を舐めながら、ごっちんは満足げに頷く。
「でも、これなら普通にお茶を飲んだほうがいい。」
私はおかしな味の緑茶を一気に飲み干し、空にしたグラスにお茶だけ注ぐ。
それは違うから、とごっちんはむくれてしまう。
「そう?まだ先でいいよ、きっと。」
まだ先であって欲しい。
酔いに任せて、何かを紛らわそうとするのは。
- 8 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)05時07分12秒
- どうしても納得できないごっちんは、ちょっとした隙に私のグラスに焼酎を足した。
彼女の切迫した眼差しに、私は抗う気を失くしてしまう。
そして、訳のわからないまま、二人は杯を傾けていく。
いろいろと話したいことがあるときに限って、何も出てこない。
途切れがちな会話が、少しずつ。
私も彼女も、思い思いに視線を落として、何かを巡らせている。
静まり、張り詰める室内。
私のペースとごっちんのペース、妙なところで一致する。
私が黙れば彼女も黙り、彼女が話せば私も話す。
最初の頃は遠慮がありながらも、密かにそれが不愉快だったり。
自分のペースは、誰とも交わらない唯一なものだと思ってた。
ごっちんはごっちん、私は私。
重なる部分が人より少し多いだけと、ごっちんを受け入れられるようになったのは、加入して半年も経った頃だった。
知らぬ間に、彼女の存在が私に入り込んでいた。
とても気持ちのいい、安らげるものとして。
今になって理由を探しても見つからないし、そんな必要もない。
そんな関係。
そんな関係?
- 9 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)05時09分16秒
「わたし、さっき泣いたんだよね。タクシーの中で。」
何となく無言が息苦しい私の、苦し紛れの言葉。
「なんで?」
「わかんない。遠いところまで来ちゃったからかなぁ。」
笑い飛ばすつもりが、急に険しくなるごっちんの表情に、私も止まってしまう。
「梨華ちゃんもさ、呼べばよかったね。」
「・・・そうだね。けど・・・、ね?」
「うん。」
二人がよかった、って言えよ。
言葉にさせたい私の、情けなくなる誘導尋問。
「あ。そう言えば、よっすぃ、明日学校は?」
「学校?意味ないし、もうずっと行ってない。」
「まあ、わたしの言う台詞じゃないけどね。」
「いいんじゃない?少なくとも、今の私達には必要ないよ。」
そうなんだけど、ね?
何気ない言葉が、痛みを伴い心に焼き付く。
私は何をしてるんだろう。
- 10 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)05時13分40秒
- 「ねえ、私たち、何で飲んでるの?」
今度は、ごっちんのその場凌ぎ。
こんなはずじゃないのに。
「なんでだろう。こんなマズイの、別に飲みたくないんだけどね。」
そうは言うものの、ほとんどお茶だけの酎ハイを黙々と飲み続ける。
互いのペースに引きずられるように、舌に馴染まない味を流し込む。
気が付けば頭が浮き上がるようで、奥の方では鈍く痺れている。
酔い始めているのか。
はっきりとは認識できない。
経験不足故か、自分を追い詰めたがる私のせいか。
身の置き場のない緊張感だけが、はっきりと感じられる。
- 11 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)05時15分33秒
- 「私たちってさぁ・・・」
口から出た言葉に後悔したのか、たっぷり間を置いて、ごっちんは私を窺う。
「娘。に入ってなかったら、どんなだったろうね。」
こんなこと考えても仕方ないけどさ、とわざとらしく口元を歪める彼女は、
私に体を預け、力一杯指を絡めてくる。
それがとても切なくて悲しくて、その手を強く強く握り締める。
「普通に高校生してたんじゃない?たぶん。」
逃げでもなく、本心でもなく。
不満を感じながらも、当たり前に幸せな青春を浪費してることだろう。
未来もきっと華々しい。
今みたく、生々しい未来予想図は浮かんでこないはず。
「いや、そうだけどさ、そういうことじゃないでしょ。」
「何が?」
「だから、娘。に入るとか、入らないとか。」
「うん。」
「え?うん、って?」
「なに?」
「もういいよ・・・」
結論、出させないでよ。
今日は、いつもとは離れた所にいる二人でいたい。
- 12 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)05時21分31秒
- 今日は不意の沈黙がやけに重い。
これまでの時間とと残された時間が、一気に圧し掛かる。
お互いのハイペースな思いが、二人を置き去りにする。
「大体、卒業、卒業ってさ、騒ぎすぎなんだよ。」
ポツポツと、誰に向けるでもなく、ごっちんが呟く。
「小学校なら6年、中高なら3年。決まってる事じゃん。
娘。だって似たようなもんだよ。こんな繰り返してることなんだから。
私が入る前のメンバー、もう半分いないんだよ。
これはサヨナラなんかじゃないよ、なんて言えっていうの?言う?言ってみる?
別に卒業だろうが脱退だろうが、娘。はなくならないし、私もいなくならない。
歌も唄うし、踊りもするし、テレビにも出る。大きくは何も変わらない。
なによぅ、もう・・・」
これが溢れる存在を抑えきれない後藤真希なのだろうか。
俯いた彼女の瞳は虚ろで、力の篭った腕が震えている。
私の大事な部分が抜け落ちたようで寂しくて、余った手でごっちんの肩を抱いた。
「後藤さん・・・」
あまりに真剣な私に怯んだ彼女に、ゆっくり顔を側付ける──
- 13 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)05時22分31秒
- 口元に吐息を感じた瞬間、信じられないくらいたくさんのことが駆け巡った。
一瞬、踏み止まる。
あれこれ考えているうちに、私の唇はごっちんの口と頬の間に納まっていた。
「もう、するなら、ちゃんとしてよ。」
不意に唇を奪われそうになったごっちんは、頬を膨らませて微笑んでいる。
私はその膨らんだ頬を突付くと、ぷっと楽しそうに吹き出した。
同時に、私の中で張り詰めていたものが、しゅるしゅると萎んでいく気がした。
「楽に行こうぜ、親友。」
ごっちんは豪快に私の肩を叩き、口付ける。
「うっさい、このミス・ノーデリカシー。」
そのまま彼女の肩に顔を乗せると、目を閉じた。
彼女の隣は心地いい。
- 14 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)05時23分19秒
- 気が付くと、私はだらしなくごっちんの膝の上で寝ていた。
「どれくらい寝てた?」
「一時間も寝てないよ。」
「ごめん、っていうか・・・ その、ありがとう。」
「何さ、今更。そんなのいいよぉ。」
「なんかそれ、安倍さんっぽい。」
「マジで?うつされたかもしんない。」
- 15 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)05時24分27秒
- 「・・・よっすぃ。」
「ん?」
「ロックって何?」
「知らない。」
「そう。」
「なんか言われた?」
「言われた、つんくさんに。」
「そうなんだ。」
「うん。」
乾いた笑いが隙間を縫う。
「・・・ごっちん?」
「んぁ?」
「ロックって何?」
「わかんない。」
「そう。」
「なんか言われた?」
「言われた、ごっちんに。」
「そうなんだ。」
「うん。」
これで十分。
- 16 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)05時27分00秒
- 「よっすぃだから言うけどね。本当は嫌なんだ。卒業、っていうか脱退。」
「うん。」
「もっとみんなといたい。」
「うん。なんで一人でやろうとしたの?」
あえて、決めた、とは使わない。
「結構、言いにくいんだよね。」
落ち着かない表情で、窓の向こうを見ている。
暗く沈んだり、かと思えば、笑いを噛み殺したり。
彼女の視線の先にある、淡い水色のカーテンの隙間には、何もない。
ガラスに映る間抜けな私たちと、その向こうには真っ暗闇。
「実はさ、わたし、ずっと冗談だと思ってたんだよね、ソロの話。」
「はい?」
「ほら、娘。やりながらでも一人で歌ってたでしょ?で、二曲目のレコーディングの
とき、つんくさんが、いっそのこと、完全に一人立ちしてみたらどうや、って笑いな
がら聞くの。で、私が、いいですねぇ、なんて。だってさ、娘。辞めて一人でやるな
んて笑い話でしょ?そんな事なんてすっかり忘れてて、気が付いたら、具体的に話が
決まってて、いろいろと動き出してて。で、今。」
- 17 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)05時30分33秒
- この娘さんは・・・
あまりの馬鹿馬鹿しさに、一気に脱力する。
「もっと面白い話があるんだけど、聞きたい?」
「・・・この際だから。」
「本当は春に卒業予定だったんだ、わたし。」
楽しそうに笑みを顔一杯に湛えて、悪戯っ子のように私の反応を待つ。
とりあえず、なんかウンザリの私は、ぶっきらぼうに視線を受け流して次を促す。
「最初の段階では春に卒業して、17の誕生日にソロコンサート初日のはずだったんだって。」
さも嬉しそうに身を乗り出して、私の瞳を覗き込む。
その奥で、弱気な表情がチラチラ揺れている。
そんな気がした。
- 18 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)05時35分28秒
- 「・・・もういい。」
「でもね、わたしの抜けた後のパート割が大変だったの。できるだけ私の希望も聞いてくれるみたいで。でも、面倒だったんだよね。そういうの考えるの。結局、伸びに伸びちゃって今になったの。」
「まあ、ネタなんだけどね。ソロになってから、使えるかなぁ?」
ニコニコ顔のまま、私の制止も聞かずに捲くし立てる。
「もう、いいから。ゴメン、変なこと・・・」
「でね、わたしと一緒にあいぼんとののも・・・」
「さっきの話の続き、聞かせて。娘。でいたい、っていうやつ。」
- 19 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)05時41分10秒
- 「ああ、その話ね。」
一つ区切り、乱暴にボトルの烏龍茶を流し込むと、話し始める。
とても静かな、よく通る声。
「一人になって、これまでできなかったことができるかもしれない。
でも、それだけなんだよね、たぶん。」
「他にもなんかあるんじゃない?」
「よっすぃは最近、楽しい?」
「どうだろうねぇ。キツイ事のほうが多いかも。」
「そういうことだよ。大前提を忘れてるの。」
ごっちんは真っ直ぐに私を見つめながら、淡々と話していく。
「私、昔に夢見た今じゃないんだ。現時点でこうありたいと思う歌い手も遠い。歌
手だということには変わりないんだけど、どっか違う。それが無性に歯痒くて、やるせなくて。
でも、みんなとならそれもいいと思って、実際やってけた。楽しいし、笑えてるし。
それはみんながいたからの話で、一人じゃきっと無理なんだよね。だから、ソロに
なったら辛いことだけ残るんじゃないか、って。市井ちゃんもそんなようなこと言う
し。もちろん、得るものもいっぱいだって言ってけど、私にはそれがいいとは思えない。」
やっぱ、楽しくなきゃ・・・
- 20 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)05時41分57秒
- 「久々にたくさん話して、疲れちゃったよ。」
私の答えを待つように、それきり彼女は何も言わなくなった。
答えられることは何もない。
それきり、緩やかな沈黙が二人を包む。
- 21 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)05時44分35秒
- ただの閃きだった。
ごっちんにじゃなきゃ、絶対に言えない。
「ごっちん、行こう。」
「ふぇ?」
「行こう。」
私はもう一度、しっかり彼女の目を見据えて繰り返す。
「コンビニ?」
「違う。どっか遠く。」
「なんで?」
「わかんない。でも、どっか行く。」
「仕事は?」
「しない。たぶん、ここで逃げたら後悔する。もちろん、続けても。でも、後悔するならごっちんとがいい。」
- 22 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)05時46分38秒
- 自分で何を言っているかわかっているつもり。
思いつきに彼女を道連れにしようとしている。
でも、強迫的な衝動が抑えきれず、私の意思とは別のところで自分自身が動いてた。
私は限界だった。きっとごっちんも。
現実を遠いところに押しやりたいだけかもしれない。
どうせなら、何にも拘らず、楽しくいきたい。
- 23 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)05時48分24秒
- 「歌ならどこでも歌える。聴かせたいなら私がいる。私はごっちんと離れたくない。」
「それだけ?」
「それだけ。」
「よくわかんない。」
「私も今の自分は望む姿じゃないし。きっとこれ以上は何も進まない。ごっちんも同じ。そうでしょ?」
「え?うん、まあ、そうっちゃそうだねぇ。」
私の迫力に気圧されたのか、曖昧に頷く。
「でね、このままいっても忙しくて、訳わかんないまま進むだけだし、きっと何も考
えない、生み出さない。もしかしたら、このままが正解で、いつか道は開けていくの
かも。けど、ここで全部やめて、たっぷりの時間の中でこれからを考える。そういう
のもありだと思う。」
「そう・・・、か?埋めきれない穴開けるだけの気も・・・」
「夢は持っていられるはず。」
- 24 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)05時51分50秒
- それ以上、私には何も言うことがなくなった。
ごっちんも何も言わない。
ふたり、押し黙ったまま。
知らぬ間に射し始めた朝日がゆっくりと部屋をオレンジ色に染めていく。
「・・・よっすぃの言うこと、全然わかんない。でも、一緒に行く。」
「やめた方がいいよ。何となく言ってみただけだし。」
「行くって決めたんだから、絶対に行く。」
「辛いだけだよ?」
「楽しいよ、きっと。後からみんなも呼んでさ。」
「やめときなって。退屈して行き詰るだけだよ。」
「でも、私も後悔するならよっすぃとがいい。」
- 25 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月23日(月)05時53分41秒
- 夏の色が完全に消えた、秋の朝。
人も街も鳥も、まだ動かない。
冷え始めた季節を吸い込み、手を取り合ってゆっくり歩き出す。
薄く残る闇の中、空を焦がす赤が綺麗だった。
おわり
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