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アローン・アゲイン

1 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月22日(日)14時59分09秒
2 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月22日(日)15時00分17秒
「ねえ、なんかカウンターしか空いてないって」
「別にいいよカオリ、それで。圭ちゃんもいいよね、カウンターで」
「あ、うん」

「じゃあどうしよ、矢口は未成年だからお酒はダメでしょ?」
「えー、いいじゃんべつに今日ぐらいー」
「だーめ、カオリ、あたしワインね。赤で」
「オッケイ」

「もう、じゃあコーラでいいや。コーラコーラ」
「あたしは、どうしよっかなぁ……。圭ちゃんと一緒のでいいや、赤ワイン」
「それじゃ注文するね」

「あ、うん、おねがい」
3 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月22日(日)15時00分53秒
「はーい、じゃあ、カンパーイ」
「おつかれー」
「はいはい、おつかれさーん」

「あー、けっこう美味しい、これ」
「え、どんな味? ねえカオリ、ちょっとぐらい飲ませてよー」
「だーめ」

「む、じゃあ圭ちゃん、ちょっとだけ……」
「だめだめ、矢口ちょっと落ち着きなよ。なんかソワソワしてるよ」

「そぉかなぁ……」
「そうそう落ち着いて、はい甘ぁいコーラ。こぼさず飲むんでチュよ」
「なんだよカオリ、くそう……」
4 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月22日(日)15時01分23秒
「でもなんか、やっと一区切りついた感じだよね」
「なにあらたまって、めずらしいじゃん、カオリにしては」
「はい真里ちゃん、甘ぁいコーラ、こぼさ――」
「あー、もう、わかったから。ごめん。で、なにがよ、一区切りって」

「なにってほら、後藤が卒業してさ。一区切り、ついた、かな? みたいな」
「いや、"かな?"ってきかれても」
「タンポポもさ、あとプッチも、ねえ圭ちゃん、ついたよね? 一区切り」

「あたしは、まだあんまり実感ないなぁ……。プッチはほら、まだ曲だしてないし」
「ゴッツァンは?」
「後藤は……、そうだね、いなくなっちゃった、とは思うかな。でもまだ実感ないよ。ピンとこない」

「そういう矢口はどうなのよ?」
5 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月22日(日)15時01分59秒
「あたし? あたしは、そうだなぁ……」
「なに?」
「あたしの青春をかえせー、みたいな」

「なにそれ?」
「え? だって、あの、タンポポはあたしの青春でした、って感じで」
「えー、それは嘘っぽいよ。カオリ聞いてたんだから。矢口と加護、タンポポのときいっつもミニモニの方がいいよねーって言ってたじゃん」

「あれは、ああ言わないと加護がいうこときかないからだよ。あたしは、タンポポの方が大切でしたー」
「なーんか、嘘っぽいんだよねぇ」
「は? カオリだってひとりで絵描いてる方が落ち着くって言ってたじゃん。人のこと言えないよ」

「なんで? 落ち着くって言っただけでしょ。タンポポが嫌いなんて言ってないじゃん」
「あたしだって嫌いなんて言ってないよ、ひと言も」
6 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月22日(日)15時02分32秒
「……なによ、圭ちゃん、笑って」
「え? ああ、なぁんか、仲良いなぁって思ってさ」
「は?」

「なんか"戦友"って感じじゃない?」
「センユーって難しいこと言い出すね。なにそれ、センユーって」
「あの、昨日"プライベート・ライアン"って映画見てさ、戦争もの。ほら、同じ戦場で友達になるってこと」
「戦争……、戦場ねぇ……」

「そ・れ・で、矢口さんの青春は、もう終わっちゃったの?」
「あたしの青春は……」
「真里ちゃんはキッズのおこちゃまたちと一緒でチュよねー」
「あー、もうやめてよ、その話し。あたしの青春は、"モーニング娘。"にささげるわよ」

「そーだねぇ、カオリもそうしようかなぁ……」
7 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月22日(日)15時03分02秒
「圭ちゃんは?」
「あたしは……、ぜんぜん未定なんだよね。いくつか話しは来てるみたいなんだけど」
「他人事みたいに言うね」

「なんかね、やめるのだけが先に決まっちゃったから。その先どうするっていうのは、ほんと、ぜんぜんわからないんだ」
「そーなの?」
「いろいろやってくれてるみたいなんだけど、あたし個人でどうこうする、っていうのは、ぜんぜん……」

「たいへんだね」
「そ、たいへんだよ」

「その点、ゴッツァンはいいよねぇ。さっそくドラマ出るんでしょ? 収録してるって言ってた」
「まあねー、でも、あの子はあの子でたいへんなんだと思うよ」
8 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月22日(日)15時03分36秒
「あたしなんかより、ずっと背負わされてるものが大きいから」
「背負わされてる、ねぇ……」
「矢口だって背負ってるじゃない、ちびっ子たちをたくさん」

「あー、もうそれは、ほんっとにやだ、話したくない」
「なんでよ、かわいいじゃない?」

「なんかさー、辻加護とぜんぜん違うんだとね。"矢口さん、おはようござーまーす"、みたいな」
「いいじゃない、礼儀正しくて」
「なーんかねぇ……。違うなぁっていう感じがする……」

「違う感じ?」
「ゲーノーカイ慣れしてるっていうかさ、へんに大人びてて。なんか、違うんだよねぇ」
「ふーん……」
9 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月22日(日)15時04分09秒
「ねえカオリ、ちょっと、かなり飲んでないそれ。ボトル、半分も残ってないよ」
「え? あ、ぜんぜん大丈夫、いつもこんな感じ、れす」
「れす?」

「ねえ矢口ぃ〜」
「うわっ、お酒くさっ」
「タンポポってあんなのでいいと思う〜?」

「あんなの、って、石川がんばってんじゃん」
「だって、最初のメンバーが誰もいないんだよ? カオリも矢口も彩っぺも、誰もいないんだよ? そんなのタンポポっていうの?」
「……だって、しょうがないじゃん。そう決まったんだから」
「そーだよねぇ、しょーがないよねぇ……。カオリじゃどうしようもないよねぇ……」

「だからもう、もたれかかんないでよカオリ!」
10 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月22日(日)15時04分44秒
「しょうがない、かぁ……」
「ちょっと、圭ちゃんもタソガレてないで、カオリなんとかしてよ。あー、もう、お酒くさっ」
「あー、うん、ごめん。でもさ、あたしたちって、なんなんだろうね」

「は? なに? "モーニング娘。"に決まってんじゃん」
「そうじゃなくってさ、なんて言うんだろ……。あー、なんか涙出てきた……」
「は?」

「どれだけ唄っても、どんだけ頑張ってもさ、プッチもタンポポも、あんなふうになっちゃって……」
「圭ちゃん酔っぱらってるでしょ」
「なにやったってさ、あたしたちじゃなにもかえられないんだよ」

「なんでワイン一杯で酔っぱらうかなぁ」
「酔っぱらってません、ぜんぜん酔っぱらってないもん」
11 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月22日(日)15時05分15秒
「あたしたちは物じゃないんだよ? 唄うことに誇り持ってるし、ダンスだってそう。それを物みたいにさ、ユニットやめろとか、"娘。"やめろとか。そんなのひどいよ……」

「そう、今日の圭ちゃんいいこと言う。カオリもね、そう言いたかったのー。なんでカオリがタンポポやめなきゃいけないの? カオリがんばったのに、がんばってたのに」

「うるさいんだよ、酔っぱらいは……。言いたいこと言ってさ」
「なーに? 矢口も酔っぱらってきたー? 目、赤いよ」
「あたしだってね、タンポポやめたくないし、ミニモニだってやめたくないんだよ。それだってしょうがないって納得してたのに、なんでそんなこと言うんだよ!」

「矢口、泣いてるのー?」
「泣いてなんかないわよ、この酔っぱらい!」
「もう、真里ちゃんはお子ちゃまなんだからー」


「あの〜、お客さん、いい加減、静かにしていただけませんかね〜?」
12 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月22日(日)15時05分59秒
13 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月22日(日)15時06分42秒
奇妙な静寂が4人を包んだ。しめし合わせたような空白の数瞬だった。
「はいオッケイでーす! チェック入りますんで、しばらくそのままでお願いしまーす!」
ADのいきおいの良いかけ声がそれをやぶった。
4人の間に安堵の息がもれる。

「ヤグっちゃんすごいね、ほとんど台本通りいってたじゃん」
バーテンに扮したキャイーン天野が、媚び入るように、正面に座っている矢口に言う。
矢口は肩をすくめると、「そっかなぁ〜」と、恥ずかしそうに笑ってこたえた。

「カオリンも圭ちゃんもサスガだね、ほんとに泣いてるかと思ったよ。いや、すごい!」
目元にハンカチを当てている二人も、矢口と同じように微笑んだ。
14 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月22日(日)15時07分13秒
「いやでもさ、こんなことまでやっちゃうんだから、なんか違うよな"モー娘。"って」
「そうですか?」
「普通やんないぜ? アイドルが自分んとこの事務所批判なんて」

天野がアゴを引いて、メガネとひたいのすき間から盗み見るように3人を見た。
「でもなんか、こういうのやっとかないと納得してくれないファンの人とかがいるらしいんですよね」
矢口はケロリとして言う。
「なんて言うんですかね、こういうの……。そう、ファンサービス? みたいな」
「さすが、違うわ"モー娘。"は」

感心したようにセットの向こうに消えていく天野をしばらく見つめていた。
15 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月22日(日)15時07分51秒
飯田はカウンターにつっぷしてうとうととしている。グラスのワインはどうやら本物を入れていたらしい。
保田も同様にぼんやりとして、180度イスを回転させて、カウンターに背をあずけていた。

「あたしたち、何やってんだろうね……」
矢口がつぶやくように言う。
「さあ? 仕事じゃない?」
こたえは期待していなかったのだが、隣りの保田がそう言った。

なんとなくそれに納得して、矢口もイスを回転させる。
目の前ではあわただしくスタッフたちが駆け回っていた。


終わり
16 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月22日(日)15時08分25秒
17 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月22日(日)15時08分55秒
18 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月22日(日)15時09分28秒

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