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勝ち組
- 1 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)22時43分40秒
うっ……うっ……
バタン
「ん〜?」
楽屋に戻ってきた矢口は後輩がひとり残っていることに驚いた。
本当であればとっくに誰も居なくなっているはずの時間。
自分が戻って来たのもスタッフとの打ち合わせが長引き、いざ帰ろうと思った時忘れ物に気がついたからだった。
急に現れた先輩に驚く彼女の頭をポンポンっと軽く叩く。
「あれっ?まだ迎えがこないの?」
「あっ、はい、道が混んでいるみたいで…」
真っ赤な目をしながらもにっこり笑って返事が返ってきた。
気丈な子だと改めて思い知らされる。
「そっか……」
少し迷った。
が、結局いまの場面は見なかったことにする。その方がいい。
にやりと笑うと、今度はペチッとおでこをはたく。
「あたっ!」
「一緒にやれると良いね」
おでこをさすりながら不思議そうな顔をしている彼女に言葉をかける。
「娘。以外でも…できればユニットでさ」
一瞬驚いた顔をした彼女だったが、すぐにさきほどとは違う心からの笑顔で、
「はい!」
その顔を見て安心した矢口は軽く「気をつけてな」と声をかけ楽屋を後にする。
それは彼女が五期メンとして加入してすぐの出来事…
- 2 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)22時46分23秒
- ふぁ〜
大きな欠伸が楽屋の空気を揺らす。
「先輩達遅いね」
私の呟きに言葉は返ってこない。
愛ちゃんはブツブッと呟いて…いや音程があるから歌を口ずさんでいるみたい。
私が聴いたこともない歌。
いつも思うんだけどなんであんなに古い歌を知っているんだろう。
大欠伸をしたマコッちゃんは。今はもう机に顎を乗せて半分目をとじている。
男っぽくていつも元気な人。
彼女は同期で一番の常識人。あまりに普通で目立たないのが悩み。
で……
- 3 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)22時48分11秒
- 一番の変わり者が隣に座っている人。
パクパクパクパク……
暇があるといつもやってる…癖なのかな?
入ったときには、やってなかったと思うけど…
ぱくぱくぱくぱく……
なんだか今日は無性に気になる。
重苦しい空気を耐えきれずに聞いてみる。
「ねえ、あさ美ちゃん…」
「はい?」
大きな目を見開いて真っ直ぐに見つめてくる。
(いつまでたっても慣れないなぁ)
ドキドキしながら言葉を続ける。
「それ、なあに?」
「?」
ちょっと首を傾けて不思議そうな顔になる。
(かわいい…)
「これ…」
彼女を真似て口をパクパクさせてみる。
「????……?!……!!……あ、あっ!」
パンッと胸の前で手を叩いてニッコリ笑う。
(遅い…遅すぎるよ)
「これは、保田さんに教えてもらったんです」
「保田さん?」
「はい、小顔になる体操だそうです。えーと顎の筋肉を引き締めるとか…」
そう説明するとまたパクパク始める。
- 4 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)22時49分27秒
- 「がはははは」
マコッちゃんの笑い声が楽屋に響く。
「…」
「あさ美ちゃんそれ信じてるの〜?」
「はい」
「保田さんだよ〜?」
「はい?」
「結果が出てないじゃん」
(あ〜それは、ちょっと言い過ぎかも…)
「でも…」
「なに?」
「加護さんが言ってました」
「…?」
「初めて会ったとき保田さんの顔。縦横1メートルくらいあったそうです」
一瞬呆気にとられた顔になったマコッちゃんだったが、次の瞬間にはもう吹き出していた。
「それ怖すぎ〜そんなわけないじゃん。あさ美ちゃん何でも信じすぎ〜」
ひとしきり笑うとは急に興味をなくしたように手元にあった雑誌を読み始める。
(保田さんか…そういえば最近会ってないなぁ)
後藤さんが卒業してから個人の仕事が多くなった保田さんとは、最近すれ違うことが多くなっている。
今日は後藤さんが卒業してから初めて行われるハロプロコンサートのリハーサル。保田さんも来るはず。
なんだかすごく緊張してきた。
同じタンポポに入ったあさ美ちゃんはどうなんだろう?
横を見るとあいかわらず平和そうにパクパクやってる。
(はぁ〜)
- 5 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)22時50分30秒
- 『矢口さんが一緒だったらよかったのに…』
タンポポに入ることが決まったとき最初に思ったこと。
別に石川さんに不満があるわけじゃない。一生懸命がんばってる。
ただ目の下にクマを作って、いっぱいいっぱいの彼女には相談をする事が出来ないだけ。
柴田さんは、まだよくわからないから少し怖い。
それにいつも石川さんを励ましているみたい。とても私の相談に乗ってくれる余裕なんか無さそう。
でも……いや、いけない。私なんかより矢口さんはもっと大変なんだ。
小さい子を大勢引き連れて、それでもがんばってるんだ。
私もがんばらなきゃ。
(ん?)
妙な動きが視界に入る。
雑誌が揺れてる。
(マコッちゃんてば…)
あさ美ちゃんの口の動きと、マコッちゃんの顔を隠す雑誌の動き。緩やかなリズムを刻む。
パクパクパクパク……
フラフラフラフラ……
(クスッ)
楽屋の時間が静かにゆったりと流れる。
- 6 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)22時51分26秒
- ガタン
椅子を引く音とそれに続く大きな声。
「そおぉだぁ」
突然のその声に規則正しく続いていた二人の動きが同時に止まる。
パッカリ空いた二つの口と私を含めた三人の視線が一斉に一人へと向かう。
そこには少女漫画のヒロインのようにキラキラと目を輝かせた愛ちゃんが仁王立ちしていた。
「な〜に、どうしたの?」
面倒くさそうにマコッちゃんが声をかける。
「チャンスよぉこれはぁ」
「なにが?」
「モーニングのぉ主権をぉ取るんだぁ」
「主権?」
「そうだぁ松浦さんとかぁいくらぁ頑張ってもぉやっぱりぃモーニングがぁ一番ですよぉ」
(なにを言い出すんだろう)
愛ちゃんは時々突拍子もないことを言い出す。マコッちゃんもまた始まったかとうんざりした顔をしてる。
「それで?」
「そうだぁ今日からぁ始まるぅハロープロジェクトでぇハッキリぃさせるんだぁわたしらぁ五期メンがぁモーニングのぉ顔だとぉ」
(なにを言ってるんだろう?私たちは一番後輩だし、それが突然顔だなんて…)
マコッちゃんも眉間にシワを寄せてジッと睨んでる。
- 7 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)22時52分44秒
- 「何で突然そんなこと思ったの?」
「私らぁ同期は4人だしぃ4期メンもぉ4人。他はもっと少ないでぇ人数からいってもぉ勝算はあるでぇ、それにぃ…」
「それに?」
「勝ち組にならねばぁ、どんなに頑張ってもぉ閑職に回されるだぁ。矢口さんみたいにぃ」
(閑職って愛ちゃんひどい)
「愛ちゃん!」
マコッちゃんは突然立ち上がるとつかつかと愛ちゃんに歩み寄る。
上目遣いで睨みつけるその顔は普段にも増して怖い。
「リーダーは誰にする!」
(はぁ?)
「わたすがぁやってもいいけどぉ?」
「愛ちゃん?…はっ、笑っちゃうね」
「それはぁどういう意味だやぁ」
「通訳がいるようなリーダーは一人で十分ってことよ!」
(一触即発。二人の間に火花が!って違うよぉ〜)
「…あさ美ちゃん」
となりに座っているあさ美ちゃんを肘でつつく。
彼女は真剣な顔でうなずくと、二人に
「…喧嘩はいけません」
(そうそう)
「勝負なら正々堂々とやりましょう」
(えっ…)
「えーと、私たちは歌手なんですから歌で勝負がいいですね。審判はリサちゃんと私……」
(……)
- 8 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)22時53分34秒
- 頭を抱えている私を無視して話が進んでいく。
多少不満げであった二人も淡々と話を進めるあさ美ちゃんに乗せられてその気になったらしい。
「じゃあぁ先攻でいくがねぇ」
「いいよ」
「ではぁ、お手を拝借ぅ」
パン・パン、パン・パン……
手拍子にあわせて歌い始める。
「アルプス一万尺〜♪小槍の上で〜♪」
きれいな歌声が楽屋に響く。
「アルペン踊りをさあ踊りましょ〜♪」
ランラランラ〜ランランランラ〜♪ランラランラ〜ランランラン♪
オリジナルのフリもつけてノリノリだ。
「お花畑で〜♪昼寝をす〜れば♪蝶々が飛んできてキスをする〜♪」
ランラランラ〜♪
気持ちよさそうに歌っている愛ちゃん。聞いている私たちまで楽しくなってくる。
- 9 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)22時56分15秒
- 「一万尺にテントを張れば〜♪」
ふとマコッちゃんの反応を見ると。
(あれ?)
両手を握りしめて睨み付けている。顔は青ざめその口元は「へ」の字を描いて…
(げげっ、あれは危険信号)
「昨日見た夢〜♪でっかいちいさい夢だよ〜♪」
「まことがリュックしょって富士登山〜♪」
「いや〜〜〜〜」
マコッちゃんは悲鳴をあげるとそのまま座り込んでしまった。
愛ちゃんは気にせずフルコーラス歌いきり深々とお辞儀をする。再び起きあがったその顔には勝利の確信に満ちた微笑みが…
(鬼だ…)
マコッちゃんは何も言わずに手で顔を覆って首を左右に振るだけ。
かがみ込んで何事か話しかけていたあさ美ちゃんは立ち上がると愛ちゃんの手を取り。
「TKO」
その手を高々と差し上げる。
顔をクシャクシャにして喜ぶ愛ちゃん。
(ひどい……)
私は忍び足で背中側を回って出口へと向かう。
- 10 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)22時57分36秒
- 「痛っ!」
ノブに手が届くと思ったその瞬間、髪の毛がグイッと引っ張られた。
痛さに振り返ると器用に後ろ手で私の結わえ髪一房を握りしめている愛ちゃんがいた。
くるっと顔だけがこちらを向く。
「どこにぃ行くつもりぃ?」
唇は微笑んだ形になっているけど目が怖い。
「放して、痛い」
「……反抗的な目だなぁ教育が必要なんかぁ」
「いや〜」
「…愛ちゃん暴力はいけません」
今まで黙っていたあさ美ちゃんが堅い口調で口を挟んできた。
「暴力なんてぇ……」
「…聞き分けのない子は怒りますよ」
思わず髪を握っていた手を放す愛ちゃん。
私はあさ美ちゃんの後ろへと隠れる。
「べ〜だ、あさ美ちゃんは空手の有段者なんだぞ」
「あっ、やっぱりぃ生意気な口を利くんだなぁマメのくせにぃ」
手を振り上げる愛ちゃん。
「…茶帯なんですけど…とりあえず…怒りました」
怒りのオーラがあさ美ちゃんの体から溢れる。思わず目をつぶる愛ちゃん。
- 11 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)22時59分30秒
- (…………あれっ?)
直立不動の体勢で動かないあさ美ちゃん。恐る恐る愛ちゃんが訊ねる。
「怒ってるぅ?」
「はい。怒ってます」
「ねえぇリサちゃん…どう思うぅ?」
私が見たところいつもよりホッペタが膨らんでいるぐらいかも…
あさ美ちゃんは黙って楽屋の隅へスタスタ。そのまま自分の鞄の中をゴソゴソやりはじめる。
「あさ美ちゃん凶器はぁ卑怯だがなぁ」
不安げに声をかける愛ちゃん。
こちらを振り向いたあさ美ちゃんは――パンをくわえていた――
「……怒るとお腹が減るじゃないですか」
そのまま片手にパンの袋をぶる下げ隅で小さくなっているマコッちゃんの所へ。
「…泣いたらお腹がへったでしょ?」
ペコリとうなずいたマコッちゃんと二人並んで体育座り。そのままパンを囓り始める。
……
「じゃあ、そういうことで〜」
引きつった笑いでその場を誤魔化して部屋を立ち去ろうとする。
が、グイッっと引き戻された。
(やっぱり…)
「教育がぁ残ってるんだぁ」
目だけが笑っていない笑顔で迎えられる。
「…暴力はダメですよ」
パンを頬張りながらあさ美ちゃんが声をかける。
「大丈夫だぁ、そんな下品なぁことしないだぁ」
- 12 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)23時00分24秒
- 「何をするつもり…」
「ホッピーデホップ!」
「へ?」
「繰り返すだぁ!ホッピーデホップ!」
「ほっぴーでほっぷ…」
「声が小せいぃ!ホッピーデホップ!ホッピーデホップ!」
「ほっぴーでほっぷ!ほっぴーでほっぷ!」
「ひらがなでねぇカタカナ!ホッピーデホップ!ホッピーデホップ!ホッピーデホップ!」
「ホッピーでホップ!ホッピーでホップ!ホッピーでホップ!」
「『で』もぉカタカナだがなぁ!ホッピーデホップ!ホッピーデホップ!ホッピーデホップ!ホッピーデホップ!」
「ホッピーデホップ!ホッピーデホップ!ホッピーデホップ!ホッピーデホップ!」
「「ホッピーデホップホッピーデホップホッピーデホップホッピーデホップホッピーデホップホッピーデホップ……」」
愛ちゃんの大きく拡げられた口に飲み込まれそうだ。のどち○こがビリビリと激しく震えてるのが見える。
その上方でキラキラ輝いている大きな目。その黒い瞳が頭の中いっぱいに広がる。
『ホッピーデホップ』
(あっ〜〜〜落ちていく…)
ブラックアウト…
- 13 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)23時01分06秒
- 「……ということです。正々堂々と戦いましょう」
(ふぁ〜……ん?)
気が付くと楽屋にはみんなが集まっていた。でも様子がおかしい…
大きなテーブルを全員で囲んでいる。
みんなの視線はテーブルの中央へ、そこにはお菓子が山のように積まれていた。
誰も手を出さずにジッと見つめている。
普段なら真っ先に手を出すであろう辻さんもただ睨み付けているだけ、いや唇の端から透明な液体が…
「ねえ、どうなっているの?」
小声で隣にいるあさ美ちゃんに声をかける。
「…あ〜、気が付きました?」
「うん」
「……ホッピーデホップ」
「ホッピーデホップ…じゃなくて、この状況を説明して」
「あ〜それは…」
- 14 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)23時02分37秒
- あさ美ちゃんの話を要約すると…
挑戦状を叩きつけた愛ちゃんに先輩たちが乗ってきた。
普段なら笑って相手にするはずのない話だった、しかし今回の人事でみんなに危機感があったのだろう。
売り言葉に買い言葉、エスカレートした口論はバトルで決着という形に収まったらしい。
5期メンvs4期メンvs年長組(保田さんを含む)
それにしても、こんなことで大事なことを決めるなんて…
「…あさ美ちゃんでしょ」
「?」
「お菓子争奪戦でバトルなんて提案したの」
「…あ〜、はい、暴力は嫌いですから」
(やっぱり…でも…)
「知ってる?」
「?」
食い入るようにお菓子に釘付けになっている辻さんを横目で見ながら。
「食べ物の恨みは恐ろしい。って昔から言うよ」
「…………あっ、なるほど」
(感心したってもう遅いよ〜)
- 15 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)23時03分37秒
- あれっ?
気が付いた。
「ねえ、矢口さんが居ないけど…」
「…お話を聞いたあと怖い顔をしてどこかへ…まだ帰ってきませんね。このままでは年長組は3人で不利です…」
(矢口さん…)
「…出て行く時、リサちゃんに話しかけていましたけど?」
「えっ、なんて?」
「さあ?」
「あたしの返事は……」
「歌ってましたね…ホッピーデホップ」
「ホッピーデホップ……」
(え〜ん、愛ちゃんのバカ〜)
- 16 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)23時04分53秒
- 飯田さんの長々とした説明も終わりいよいよバトル開始。
「さっきも言ったように、恨みっこなしだから。のんちゃん泣いちゃだめだよ」
「へい」
(あ〜、これで良いのでしょうか…矢口さーん)
「では、よ〜い……………ド」
バタン!
「ちょ〜っと、待ちな!」
「矢口さん!」
明け放れた入り口には颯爽と立つ矢口さんの姿!
やはり娘。の事を考えて戻ってきてくれたんだ。
こんな不毛な戦いやるなんて間違ってますよね!
矢口さんは私の思っていた通りの人だっ……
「オイラ抜きで始めようなんて100万年早いんだよ!」
(ヘッ?…………エ、エッ〜〜〜〜〜)
「野郎ども。かかれ〜」
(うあ〜〜〜)
矢口さんの後ろから次々と溢れてくる、ちっこいモノたち。
楽屋内を駆け回り、机の上からお菓子を強奪していく悪魔の軍団。
呆気にとられているメンバー。私も例外でなく固まっていた。
- 17 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)23時05分42秒
- 不意に手を引かれ机の下に引きずり込まれる。
「はい。これ」
ポテトチップの袋を手渡される。
「あさ美ちゃん…」
黙々とおせんべいを頬張っている。
(いつのまに……)
どうやら他にも確保しているらしく上着が異様に膨らんでいる。
私は今起こった出来事についていけずボ〜っとしながらポテチを一枚口に運んだ。
楽屋内ではまだ嬌声が溢れている。時折混じる叫声。
(辻さんが泣いてる…)
- 18 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)23時06分31秒
- 「……あっ」
突然声をあげるあさ美ちゃん。
「なに?どうかした?」
「……テレビで見たことがあります」
「?」
「……え〜と……イナゴの大発生」
「……」
- 19 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)23時07分17秒
- 「……あっ」
「今度は何?」
無言で後ろを指さすあさ美ちゃん。
振り返ると…イナゴが一匹、こちらを覗いていた。
「隊長見つけました!」
イナゴが消えたとたん入れ替わりに…
(矢口さん!)
「なんだ、こんな所にいたのか」
ニッコリ笑ったその顔はいつものやさしい矢口さんだった。
「さあ、行くぞ!」
「行くってどこへ?」
黙って手を出された。
おもわず手を重ねた。
しっかりと握りしめられ、机の下から引き出される。
振り返ると、口一杯にまんじゅうを詰め込んだあさ美ちゃんが手を振っていた。
「引き上げるぞ〜」
- 20 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)23時08分09秒
- 矢口さんに引きずられながら、私は何から聞いたらいいか迷っていた。
後ろからはお菓子を頬張りながらゾロゾロとキッズがついて来ている。
「え〜と、いったい何を…」
「ん?ああ、まだ言ってなかったっけ…今日はこのままハロプロを制覇する!」
「え、ええっ!」
「なんてっったってオイラは勝ち組だからな〜、遅れずに付いて来いよ!」
「……」
「今日中にハロプロを制覇。そして将来的には世界を手に入れる!キャハハハ」
「……」
- 21 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)23時09分22秒
- 「あっ、そうだ。これ被っておけ」
「なんですか?これ」
手に乗せられた布。
広げてみると、派手な緑色。そして中央に金色の刺繍で文字が…
『マメ』
「ほれ、早く!」
無理矢理頭に被せられた。
「お〜なかなか似合ってるじゃん」
キッズ達の声が耳に入る。
「まめだ」「豆だ」「そら豆だ〜」「え〜グリンピースだよ〜」……
(シクシク)
「新垣はまだ正式なキッズメンバーじゃないからな…いろいろ法的にマズイこともあるし」
「法的ってなんです。違法活動も予定してるんですか!」
「まあ、トップに立つには多少の…心配するな!なんてったって勝ち組だから」
「……」
「今日からはオイラのチームで活動するときにはコードネームで呼ぶ」
「……」
「マスク・ド・ビーンズ!新垣仮面だ!」
(え〜ん)
- 22 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)23時10分33秒
- 「隊長到着しました!」
「ご苦労!じゃあ新垣仮面。きみの副隊長としての初仕事ね」
(いつの間にか副隊長にされてるし……)
「メロンの楽屋ですべてのお菓子を確保すること。よろしこ」
バタン!
ドアが開け放たれ矢口さんが宣言する。
「矢口真里とキッズ軍団参上!」
中で目を丸くしている人が見えた。
「かかれ〜」
ワ〜っという歓声と共に雪崩のように部屋内に流れ込む軍団。
訳がわからずに呆然とするメロンの人たち。
「リサちゃん何で?」
混乱の中私を見つけた柴田さんが驚いたように声をかけてきた。
(あ〜ん、やっぱりバレバレ)
返事も出来ずにお菓子を確保する私の後ろで矢口さんの笑い声がリフレインする。
「キャハハ勝ち組。キャハハハハ勝ち組……」
- 23 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)23時11分09秒
―そして伝説が始まる―
- 24 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)23時12分08秒
- ……
- 25 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月21日(土)23時12分49秒
- ……
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