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イノセントワールド
- 1 名前:第九回短編集 投稿日:2002年09月20日(金)12時47分59秒
- 「ふあぁあ。裕ちゃん綺麗だなぁ。なんか遠くに行ちゃったって感じだよ。」
矢口が座席に座り込みながら呟いた。
「矢口。あんまり目立つなよ。今日は裕ちゃんのソロコンサートなんだから、裕ちゃんが主役でしょ。」
「分かってるって。圭織。」
「心配だなぁ。もう。」
ステージでは裕ちゃんが衣装を替えて、ミニの青いドレスで登場だ。
あれほど言ったのに、矢口がまた立ち上がって2階席の鉄柵から身を乗り出して
「裕子。裕子。裕子。」
って連呼し始めた。
もうこの頃になると会場のファンも矢口がいることに気付いてザワザワしはじめて、裕ちゃんコールの代わりに後ろを見て矢口の名前を叫び出すヲタまで出てきた。
- 2 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月20日(金)12時49分11秒
- 「矢口。矢口。矢口。」
会場の声は大きくなってくる。
「ちょっと静かにしてやぁ。後ろじゃなくて前を見てよ。次の歌はメチャ心に沁みる、いい歌なんやで。」
裕ちゃんが必死で訴える。そして次の曲のイントロが流れ始めた。
その瞬間、わたしの周りの空間がなんか歪んだように感じた。気持ちが悪いよ。
「矢口・・・。」
隣を見ると誰もいない。
(あれ、矢口は?)
自分の記憶すらあいまいになっていく。
(矢口はどこに行ったの?でも矢口は本当に今日来てたっんだっけ?)
何か大事な事を忘れているような気がした。
でも思い出せない。もどかしい思いがつのる。
- 3 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月20日(金)12時50分43秒
- 「矢口。矢口。矢口。」
会場の声が大きくなっていく。
7月28日。
ハロープロジェクトライブの直後に私たちは一室に集められてハロプロ再編成について告げられた。それは一方的で、既に決定した事項としての有無も言わせぬ最終通牒といってもいいものだった。
“ごっちんと圭ちゃんがモーニング娘。を卒業する。”
“わたしと矢口はタンポポを卒業する”
“矢口は自分が企画して育て上げたミニモニも卒業する”
“矢口は来年、キッズと一緒に新しいユニットを結成する”
“タンポポ、プッチモニ、ミニモニには5期メンとハロプロの押しメンが入って大幅に再編成される”
わたしは、つんく♂さんの口から発せられる言葉を、単なる音の流れとして聞いていた。余りに突然すぎて、しかも内容が突飛すぎて現実感を持てなかったからだ。
- 4 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月20日(金)12時52分05秒
- 周りを見ているとメンバーによって悲喜こもごもの顔をしていた。新しくユニット参加が決まった5期の子達は、正直うれしさと戸惑いの混じった顔をしているし、ごっちんや圭ちゃんは予め今日の内容を知らされていたのか平静な感じだった。卒業する2人を慕っていた4期の子達はもう涙ぐんでる。特にごっちんの隣に座っていた加護が目を赤く腫らして、ごっちんの手をテーブルの下でぎゅうと握り、
「どうして。どうして。」
って小声で何度も何度もごっちんに語りかけているのが聞こえてくる姿はわたしの胸にぐっと来た。
わたしは明日香や彩っぺ、紗耶香、裕ちゃんと4人も見送ってきたから慣れたと言えば言葉は悪いが、ごっちんも圭ちゃんもいずれは娘。を卒業していく人だろうなと思っていたし、その方が2人のこれからの歌手人生の上でも有益だろうなと思う。少なくとも、未来に可能性は残されている。
- 5 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月20日(金)12時54分31秒
- (そろそろ、わたしも辞め時かなぁ。ユニットのくびきからも外れたし。娘。本体でも4期5期が優遇されてるしなぁ。紗耶香みたいに好きな歌を小さい会場やライブハウスを回って歌ってみるのもいいかもなぁ。)
そんなことを思ったりもした。
矢口の方を見ると呆然とした表情をしている。
わたしはとりあえずはタンポポだけだけど、矢口はタンポポ、ミニモニを取り上げられて、唯一残った同期の圭ちゃんも卒業する。それなのに、また一から新ユニットを立ち上げて使い物にしなければいけないという仕事を事務所から押しつけられている。まだまだ“卒業”は許されないという訳だ。
矢口にとっては、ユニットが無くなるのと同期が一人もいなくなるのはどっちが辛いだろう。同期メンバー同士はどの期を見ても、やはり先輩後輩の関係とは違った、年をも超越したような心のつながりを感じさせる。わたしには、まだなっちがいる。でも矢口にはもういない。
- 6 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月20日(金)12時56分16秒
- 2期メンは一番苦労した期だろうと思う。オリメンのメジャーデビューからたった3ヶ月で追加されて、ファンの反感を買ったり、もちろん私たちオリメンからも長いこと認められなかったし、前にも出してもらえなかった。そのくせ背負った苦労はオリメンと同じだったし、娘。を支え、ユニットを支え、オリメンと下メンとの間で苦労しっぱなしだったね。
全ての連絡が終わり、解散ということになっても矢口はイスに座ったまま立ち上がろうとしなかった。
「矢口。大丈夫?」
「ああ。うん。いやびっくりしちゃってさ。突然に誰かの卒業とかユニット参加とか決まるのは慣れていたけども、いっぺんに2つユニットを失って、同期の圭ちゃんまでっていうのはね。」
矢口は、時々見せる口だけ笑った形にして目が全然笑っていない作り笑いをした。その笑いを見ると私はなんか切なくなる。
- 7 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月20日(金)12時57分41秒
- 思ったことをすぐに口に出しちゃったり、いつも脳天気に笑っているからあまり物を考えないし、まったく悩みがないなんて思われがちで誤解を受けやすいけど、矢口は人一倍繊細でちょっとした事にも時には考えすぎて傷つきやすい女の子だ。作り笑いの仮面の下で、今日もどんなに傷ついたんだろうか。うつろな目をしている。
わたしはしばらく矢口のそんな姿を見ていたけども、思い切って言ってみた。
「矢口。今度、どっか行こうか?」
「えっ。どこに?」
夢から覚めたように矢口の目に光が宿った。
「そうだな〜。8月は忙しいからなかなか時間が取れないけど、裕ちゃんの初じめてのソロコンサートに行って、それから美味しいものでも食べようよ。まだまだ先の話だけどさ。」
「まじ!!行く行く。すごい楽しみにしてるよ。まじで約束だよ。」
矢口は、わたしの方がびっくりする位に乗り気で、“指切りげんまん”まで求めてきた。そんな事が矢口の気持ちを少しでも和らげてくれるならお安い御用だよ。
- 8 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月20日(金)12時59分31秒
- 8月1日
前日の深夜に翌日の新聞朝刊に間に合うようにマスコミ各社に、後藤保田卒業。ハロプロ再編成に関しての情報を載せたファックスが送信されていた。スポーツ新聞各紙や朝のワイドショーは、その話題で持ち切りだった。
今日は午前中に冬に公開されるキッズの子達も出る映画の制作記者会見が予定されている。たぶん事務所としても、これを見越した上でのスケジュールなんだろう。
前半はキッズの子達の紹介や映画の話がメインだったが、後半はやはり卒業記者会見みたいになってしまった。ごっちんや圭ちゃんは案外さばさばとこれからの抱負みたいな事を語っていた。
矢口も本当は自分がユニットを失った事の方が重いだろうに、
「ごっちんが卒業して本当はさびしいけど、9月23日までは娘。であり続けるので、ごっちんを見守って下さい。」
とごっちんのエールを送っていた。
- 9 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月20日(金)13時00分42秒
(気丈だなぁ。)
矢口の小さな背中を見ながら、そう思った。
それにしても矢口は最近やせたな。それも、いいやせかたじゃなくて骨格が浮き出してくるような悪いやせかただ。今回の事に限らず、いろいろ心配事もあるだろうし、コンサートや新曲のレコーディングや仕事もタイトだし。これから野外のコンサートツアーが続くから、無理して倒れなきゃいいなと余計な心配までしてしまった。
今日は木曜日で矢口はオールナイトニッポンの日だ。娘。ファン向けの今回の卒業・再編成の“説明”を矢口がやる(やらされる?)ことになった。事務所はとことん、そこまで考えて日程を組んだみたいだ。
わたしも娘。のリーダーとしてコメントをテープに録って矢口のANNの時間内に放送することになった。
わたしは、なんか開き直った気持ちで、今の自分が思っていることを言った。負け惜しみとかじゃなくて、変わるなら変われって気分だった。特に泣くこともなく収録は終わった。
- 10 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月20日(金)13時02分11秒
- 控え室で矢口と2人切りになった時に訊いてみた
「矢口。今日の放送、大丈夫?」
矢口は菓子をつまみながら漫画を読んでいたが
「んん?大丈夫だよ。なにが?」
と顔をあげた。いつもの矢口だ。
「事務所のスタッフさんから、何か言われた?こういう風に言えとか。」
矢口はちょっと微笑んだようだった。
「まー、それはねー。やっぱりNGワードはあるわな。」
「やっぱり、そうなんだ。」
「でも、別に台本があってそれを丸読みって訳じゃないし、自分の言葉でしゃべらしてもらうけどね。まあ、大人は辛いよな。言いたくないことも言わなきゃならない時もあるしさぁ。辻みたいに無邪気でイノセントな時代が懐かしいよ。」
矢口は、また漫画に目を戻した。
「あのさ、今日さ、矢口の番組を見学してもいい?」
矢口は少し呆れたような顔をした。
「ええぇ。どうしたの〜。今までそんなこと一度も言ったことないじゃん。別にいいけど、どんな風の吹き回し?」
「いいから。いいから。じゃ、約束したよ。放送の邪魔はしないからさ。」
- 11 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月20日(金)13時04分12秒
- そんな日に限って、野球中継が長引く。しかも天気が荒れ気味で落雷注意報が東京都内に発令されていた。何か前途に不安を感じさせる。矢口は、すごくリラックスしていた。放送作家さんやディレクターさんと笑いながら打ち合わせをしている。
「10時10分前です。野球が延長してニッポン放送は10時30分開始が確定しました。一部ネット地域では10時開始です。」
ADさんが告げる。
わたしはコントロールブースから、ガラスの向こうの放送室で矢口がマイクの前に座って進行表を確認したり、喉を「んんっ」てやって声出しをしているのを見ていた。やはり、いざとなると緊張してきたみたいだ。
「10時5分前。」
ADさんの声。
矢口がわたしの方を見て、笑いながらVサインをする。
わたしも手を振り返す。
- 12 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月20日(金)13時05分08秒
- 「10時10秒前。9,8,7,6,5,4,4,2,1スタート。」
矢口のインカムにディレクターさんの指示が飛び、オープニングのテーマソングが流れる。
「矢口真理のオールナイトニッポンスーパー。提供は・・・」
矢口の第一声。良かった。平常心だ。
放送は淡々と進む。
「えっとね。野球の方が長引いてまして、もうちょっと待って下さいね。後で、ちゃんと今回の事についてお話しますからね。えっと、じゃあ先にTシャツ先生のコーナーと。」
10時30分開始の地域の為に矢口が時間稼ぎをする。ずっと時間稼ぎならいいのに。そうすれば矢口は言いたくないことを言わなくても済む。
でも、やはり時間はやってくる。
矢口は静かに卒業とユニット再編成に関する今回の出来事のあらましについて語った。感情を過剰に入れることもなく、かと言って、やけくそじみた言い方をするでもなく語っていた。途中でやはり少し感情が高ぶったのか涙声になる場面もあったが
「すいませんねぇ。年を取ったのか、最近涙もろくてねぇ。」
と笑いで誤魔化していた。
- 13 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月20日(金)13時05分51秒
- (よくやったよ。矢口。頑張ったね。)
コントロールブースのわたしも少しだけ泣いてしまった。
曲紹介の時間になり、音楽が流れ始め矢口が放送室から出てきた。
「矢口。よかったよ。」
矢口の目が赤い。
「へへへ。泣いちゃったけど、こんなもんでしょう。便所いってくらぁ。」
「5分で戻れ。」
ディレクターさんの声が飛ぶ。
藤本美貴ちゃんのコーナー。わたしのコメントテープ。飯田圭織の今夜も更新中。放送は終わりに近づいていく。
「矢口もタンポポを卒業する事になりましたが、ここで一曲、思い出の曲をかけたいと思います。ちょっと恥ずかしいんだけどね。オイラのソロ曲。Tanpopo1から“センチメンタル南向き”を聞いて下さい。」
- 14 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月20日(金)13時06分32秒
- 恋が始まる ずっと描いていた
自転車二人乗り あなたの背中
離さない 離さない Ummm
風はセンチメンタル南向き
テレビドラマみたい 案外好きだわ
恋人が笑えば わたしも笑おう
恋人が泣いたら わたしも泣いちゃう 好きだから
どこまでもついてく わたしがいるから
いつまでもあなたの味方の わたしがいるから
決めたんだから
「うわぁ。懐かしい〜。ひさぶりに聴いたね、この曲。といえば、ここ何日かの出来事も、なんかテレビドラマみたいだねぇ。展開が速すぎてね。また泣いちゃいそうだなぁ。ごめんね。涙腺ゆるみぱなしだよ。」
矢口はそっと目頭をぬぐっていた。
- 15 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月20日(金)13時07分25秒
- 「そろそろお別れの時間がきちゃったよ。」
イノセントワールド
無垢で純粋な世界。誰も泣いたり悲しんだりしない世界。正義が正義のまま通用する世界。大人の都合なんて言葉がない世界。明日も目が覚めて新しい一日を迎えるのが楽しくて待ち遠しい世界。願いがそのまま叶う世界。
「つんくさんを責めないで下さい。つんくさんが悪い訳じゃないんです。」
- 16 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月20日(金)13時09分10秒
- イノセントワールドorリアルワールド イノセントワールドorリアルワールド イノセントワールドorリアルワールド イノセントワールドorリアルワールド イノセントワールドorリアルワールド イノセントワールドorリアルワールド
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「ファンのみんなゴメン。やっぱり矢口は大人になれないよ。」
悲鳴。
ダメ。ヤグチ、ソレヲ イッテハダメダヨ。
- 17 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月20日(金)13時10分23秒
- ラジオのスタッフが放送室の扉に体当たりする。鍵を内側から掛けていて開かない。防音仕様の扉は大の男が体当たりしても突破できない。
「矢口開けろ。」どんどんと扉を連打する音が響き渡る。
「コマーシャルか、音楽に切り替えろ。」
「駄目です。どうしても、今放送している音声に介入できません。主電源を切って放送停止にするしかありません。」
用意周到に計画されたことらしい。たぶん技術スタッフさんも巻き込んでの、全てを失う覚悟でやったことなんだろう。
(矢口・・・。)
わたしはその場でへたりこんでいるしかなかった。
- 18 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月20日(金)13時10分54秒
- 「ゴメン。何度もためらったけど、でも一言いいたいよ。どうしてこんなことになっちゃたの?オイラ達がなんかした?初代タンポポはオイラと圭織と彩っぺが睡眠時間も削って作ってきたんだよ。アダルト&ビューティーでハーモニーの美しさを誇っていたアーティスト志向の強い、いいユニットだったのに。それは、一般的な娘。ファンには余り受けなかったけど、見てくれる人は見てくれていた。商売にならないってほどでもなかったしょ・・・。」
「彩っぺが辞めた時点でもうタンポポは終わってたんだよ。それでも加護や石川が入った二代目タンポポも頑張って盛り立ててきたよ。石川や加護じゃあ彩っぺの代わりは勤まらないよって正直思ったけど、二人が使い物になるまで圭織と二人で育て上げてきたんだよ。二代目タンポポはオリコン初登場1位もとったじゃん。プッチに負けないくらいセールスもそこそこ上げたじゃん。それもこれも、オイラと圭織がいる限りはどんなに形が変わってもタンポポだって信じていたから頑張れたのに・・・」
- 19 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月20日(金)13時13分24秒
- 「ほんとにオイラ達が何かした?教えてよ。どうしてオイラ達からタンポポを取り上げるの?タンポポはオイラにとっても圭織にとっても、自分に帰れる場所なんだよ。新メンのプッシュだったら新しいユニットを作ればいいじゃん。何もオイラ達のタンポポやミニモニを取り上げて、新メンにあげることはないじゃん。そうでしょう?」
「ミニモニだってそうだよ。始まりは、4期メンで一人だけユニットに参加できなかった辻と、やんちゃな加護とオイラの3人で始めた小さな小さな手作りユニットでしょ。 色んな番組のワンコーナーで3人で楽しくやれればいいやと思っていたのに・・・。いつの間にかココナッツのミカが入るってことになっちゃってた。ミカが嫌だって意味じゃないよ。でもいつしかオイラの考えていたミニモニが違ってきちゃったよ。たくさんのグッズが作られて、アニメができてキャラクター商品化されて、ハム太郎とか志村さんとか子供受けするような人達と組まされて歌を歌うことになっていた。それは事務所だって商売しなきゃいけないってのは分かるよ。でもね、オイラが企画してミニモニを作ったんだよ。」
- 20 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月20日(金)13時14分16秒
- 「どうして馘を切られないといかないの?どうしてキッズの子守をしなきゃならないの?オイラの今まで苦労はどうやって報われるの?キッズユニットのリーダーが苦労の報酬なの?」
「圭ちゃんのことだっておかしいよ。2期メンをモーニングの最初の頃のハーモニーを重視する時期にはバックコーラスとして散々使っておきながら、ラブマがヒットして路線変更したら娘。本体では放置しちゃったじゃないですか。ソロ活動とかって言っても、圭ちゃんはごっちんとか裕ちゃんと違ってほとんどソロの場所で活動させてもらっていないでしょう。いきなり、放り出しちゃうんですか?痛い思いをしながら試行錯誤しながら覚えろっていうんですか?
そんな酷いよ。」
「オイラ達はミカンやリンゴとは違うんです。生身の人間なんです。鮮度が落ちたって言われて、新鮮味を保つって言われて、店先の果物皿から降ろされて裏のゴミ箱に捨てられて、皿には新しいミカンやリンゴを盛って、さあ新鮮な果物をどうぞみたいな真似をされたら傷つくし、血も流れるんです。」
- 21 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月20日(金)13時15分12秒
- そこまで矢口が言い切った時に、ついに駆けつけた警備員が持ってきた特殊工具で防音扉が開けられた。矢口は観念したようにされるがままに、屈強な警備員に両脇を抱えられて放送室から連行されていった。
矢口がすごく小さく見える。
わたしとすれ違う時に矢口は
(カオリ。ゴメン。)
と他の人には聞こえないような、ほとんど口の動きだけで言った。
わたしはただ首を振って、気にしてないよって意志を伝えるだけで精一杯だった。
- 22 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月20日(金)13時15分59秒
- 世の中はいつも 変わっているから
頑固者だけが 悲しい思いをする
変わらないものを 何かにたとえて
その度崩れちゃ そいつのせいにする
シュプレヒコールの波 通り過ぎてゆく
変わらない夢を流れに求めて
時の流れを止めて 変わらない夢を
見たがる者たちと 戦うため
世の中は とても 臆病な猫だから
他愛のない嘘を いつもついている
包帯のような嘘を 見破ることで
学者は世間を 見たような気になる
シュプレヒコールの波 通り過ぎてゆく
変わらない夢を流れに求めて
時の流れを止めて 変わらない夢を
見たがる者たちと 戦うため
シュプレヒコールの波 通り過ぎてゆく
変わらない夢を流れに求めて
時の流れを止めて 変わらない夢を
見たがる者たちと 戦うため
シュプレヒコールの波 通り過ぎてゆく
変わらない夢を流れに求めて
時の流れを止めて 変わらない夢を
見たがる者たちと 戦うため
- 23 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月20日(金)13時17分28秒
- 裕ちゃんの声が会場に流れる。
「矢口。矢口。矢口。」
というシュプレヒコールの波が満ちてくる。
矢口はどこ?
矢口はちょっと席を外しただけだよね。
戻ってくるよね。ねえ、矢口。
《終わり》
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