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エルタンポポパサー

1 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)23時55分27秒
「発表されたね」
「そうだね」

八月一日、ハロープロジェクト大改革がニュースで流れ始めたその日の朝。
私は都内の某ホテルで、カオリとともにテレビを見ていた。
2 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)23時56分11秒
「…そしてタンポポは、飯田圭織さん、矢口真里さん、加護亜依さんの三名が卒業し…」

アナウンサーが手渡された原稿を淡々と読み進める。
その口調は別段、特別な事が起きたようには感じさせない力があって、何か納得がいかなかった。

「…テレビ消していい?」

カオリが言った。
私は何も言わずに頷く。
カオリはホンの少し笑顔を携えながらテレビのスイッチを切り、腰を下ろしていたベッドに、後ろ向きに倒れた。

「終わっちゃったね」

そういいながら、カオリが寝返りを打った。
陽の光がまぶしいことに気が付いて、私は肩にかかっているレースのカーテンを引く。
光が柔らかく遮断されて、再びカオリが寝返りを打ち、ばっちりと目が合った。

「私達のタンポポが、ね」

唇を吊り上げながら言うと、カオリはなんともいえない笑みを返してきた。
3 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)23時57分04秒
「どうするカオリ?する?」

カオリはホテルに備え付けてある寝巻きを身に着けている。
そこからは白くほっそりとした足が覗いていて、その足が私の言葉でぴくりと揺れた。

「ん、ううん、キスして欲しいな」

一度首を縦に振りかけながら、それでも思い直したように、カオリはそっと両腕を広げた。
私も笑みを返して、ゆっくりとカオリの腕に包まれていく。

「最後になるかな」
「そうかも。
 嬉しいのか悲しいのか、いいのか悪いのかわかんないけど」

カオリがそっと目を閉じる。
私は一度、柔らかく口付けした後、胸にこみ上げてきた何かを振り払うように激しくカオリの唇を貪った。
ベッドのスプリングが軋んで、二人の身体が沈み込んだ。
4 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)23時57分45秒

初めてカオリとキスをしたのは、彩っぺが卒業した日の夜だった。
あの日のことは、今でもすぐに思い浮かべる事が出来る。

「矢口…」

彩っぺが卒業したあの日、私とカオリはホテルが同室だった。
そこでカオリは、何もためらうことなく泣き続けた。

「タンポポが壊れちゃうよ…」
「なんで彩っぺは卒業なんていうのさ…」

それしか言葉を知らないオウムのように、何度も何度も繰り返すカオリの姿はあまりに痛々しくて直視できなかった。

「…少し落ち着きなよ」

それに対して私は、一滴も涙が流れなかった。
まるで親戚の死の様に悲しい、まるで片腕をもぎ取られたかのように辛い。
痛いのに、苦しいのに、私の視界は歪みもせず、ただカオリを捕らえていた。
5 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)23時58分24秒
「泣いてもしょうがないよカオリ、もう決まった事なんだから…」
「なに言ってんのよ矢口!アンタそれでいいの?」

それでいいわけない、と言うことが出来なかった。
なにせ、涙が流れないのだから。
涙を流す事だけが悲しむ事ではないけれど、自分でも自分が信じられなくなるほどだった。

「…ノド渇くでしょ、何か買ってくるね」
「矢口!」

カオリの腕を振り解いて、カオリの罵声を背中に浴びて、私は部屋を出た。
もしこのとき涙が流れていたら、それはどんな涙だったのか、それが今でも分からない。
6 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)23時59分03秒
もう夜は大分更けていて、煌々と明かりの点った廊下に組み込まれている窓から望む夜景は美しい。
確か部屋にも窓があったはずなのに今更夜景が気にかかるのは、少し不思議だった。
カオリの事で余裕がなかったのか、それとも案外、自分自身がすでに余裕がなかったのか。
確かめる術はないけれど、今一人で居る瞬間には夜景が目に付いているわけで、それが寂しかった。

──自販機は確かエレベーターの隣だったな。
部屋に行くときに見つけていた自販機の場所を思い出しながら、エレベーターのある踊り場風の場所へ向かう。
静かな廊下に自分の足音がペタンペタンと響くのは決して心地のいいものではないため、自然と早足になる。
と、向こうからも足音が聞こえてくるのが分かった。
嫌な感じだが、まさか顔を見ただけで何かをされるようなこともないだろうと思いそのまま歩みを進める。
しばらく歩いていると向こうの足音が止み、どうやらあちら側の人も自販機が目当てらしいという事が分かり、少しほっとしながら踊り場についてみると、

「あれ?矢口じゃん、どうした?」

何のことはない、彩っぺが壁にもたれかかりながらコーヒーを飲んでいた。
7 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)23時59分49秒
「ん、ちょっと飲み物をね」

こんな時間に自販機のある場所に来ているのだから、飲み物を買いに来ている事など明白だったが、そう答えた。
なんとなく、カオリと言う名前を出すのがためらわれた。

「そりゃあそうだわな」

彩っぺはそう言うと、笑いながら自分の小銭入れを取り出した。

「いいよ、おごってやるわ」

まったく、最後まで遠慮のない奴、と言う呟きが聞こえて、自分の言った言葉がそういう意味に取られたことを知った。
慌てて小銭入れを出そうとしたが、もう彩っぺは小銭を入れ終わっており、私はゴメン、と小さく謝った。

「いいって、ついでにちょっと頼みたい事もあるし」

私がりんごジュースのボタンを押している背後で彩っぺがそう言った。
ガタン、と落ちてきたジュースを手に取りながら、私はその言葉を聞いて思ったことをすぐ口に出してみた。

「…カオリの事?」

案の定、彩っぺは表情を暗くした。
そしてその表情から、聞いてはいけない話のような雰囲気を感じ取って、少し後悔した。
8 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月19日(木)00時01分11秒
「アイツ、泣いてなかった?」

私の少し不用意な発言から続いていた静寂を、彩っぺが破った。
それにつられるように、私の指がプルタブを引き上げ、ぷしゅっと言う瑞々しい音が響く。
一口ジュースを飲んでから、私は答えた。

「泣いてたよ、すごい取り乱しながら」

私は泣いてない、取り乱してもないよ。
言葉の裏に、そんな嫌な感情が渦巻いている事に気が付いて少し俯いた。
彩っぺは、どうやらその感情には気づかなかったようで、やっぱりね、と言いながらコーヒーを飲み干した。

「お前は泣いてないみたいだけど、ね」

コーヒー缶をゴミ箱にロングシュートして、彩っぺは私の方を見た。
気づいてたらしい。
私も彩っぺを真似て缶を放り投げてから、少し間を空けて答えた。
9 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月19日(木)00時01分50秒
「ゴメン、何でか全然泣けてこないの」

遠くでふたつ、カシャンと言う音が聞こえた。
その音は何か、聞いたことのない、見たことのある音のような気がした。
彩っぺは冗談みたく、少しは泣けよー、と言いながら私の頭にぐりぐりと拳をうずめてきた。
そんな彩っぺの態度は、決して私を責めているようには見えず、嬉しいような申し訳ないような気分になった。

「でさ、カオリの事なんだけど…」

彩っぺの表情が、さっきまでとは比べ物にならないほど落ち込んだ。
カオリの事を案じてだという事はすぐに分かったけれど、私は、すぐにそれを認めようとすることが出来なかった。
確かに、カオリも彩っぺもモーニング娘。の初期メンバーだ。
だけどタンポポに限れば、私だって初期メンバーだ。
娘。本体の事ならともかく、タンポポとして三人でやってきたのに、自分だけが知らない事実を他の二人が共有している。
それは、ただ単に悲しいという言葉で済むものではなかった。
強烈な疎外感、ひしひしと感じる冷たい視線、お前は不必要だと貼られたレッテル。
後輩まで出来て、しかも大事な仲間の一人が離れていってしまう時なのに、まだ私は、妙な劣等感を持っていた。
10 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月19日(木)00時02分30秒
けれど、彩っぺの言葉は、私の感じていたものが見当違いだということを示してくれた。

「カオリをさ、慰めてやってよ」
「は?」
「いや、アイツさ、弱いところあるじゃん、何かあると妙に気負ったりするって言うか」
「ああ…」

カオリが妙に気負ったりする事は、タンポポだけの話ではない。
そういうことはやはり、初めからずっと一緒に居た彩っぺにかなうわけがない。
そう思うと、途端に気持ちが軽くなった。

「でも、慰めるってなにすんの?
 頭撫でたりすればいいの?」

私は特に深くも考えず聞いた。
「慰める」とは何かが分かっていなかったのだ。
彩っぺは怪訝そうな顔で私を見て、それから一つ息をついた。
11 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月19日(木)00時03分07秒
「子供だったわね、アンタ…」
「え?なになに?どういう事?」
「慰めるって…セックスとか、おまけしてもキスよ」
「はぁ?何でヤグチがカオリとキスすんの?」
「バカッ、声がでかい!」

ここがエレベーターの目の前だという事も忘れて、私は素っ頓狂な大声を出していた。
しかし、彩っぺの言う事がサッパリ分からなかったのも事実だ。
カオリが悲しんでいる、それはわかる。
だからカオリとセックスをしろ、それがわからない。

「…うーん、確かに初めてがカオリってのは寂しいかねぇ」
「ちょっと、なに言ってんの!」

思わずムキになって反論した。
話の論点がずれている。

「ん?もう済ませてた?悪い悪い…」
「ちげーよ!何でカオリを、その、慰めるんだって事!」
12 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月19日(木)00時03分46秒
彩っぺは楽しんでいる。
それを咎められない自分が情けない。
と、突然彩っぺの顔が引き締まった。
さっきまでとはまるで別人になったような彩っぺに、思わず私の動きも止まる。

「カオリのそばに居てやってよ」
「え?」
「カオリが辛そうにしてたらさ、話聞いてやってよ。
 それで矢口に出来る事がもしあったら、出来るだけカオリの希望通りにして欲しい」

突然、私と彩っぺの周りから音が消えた気がした。
明らかに、二人の存在が異質になっている。

「もしかしたら、カオリが身体をねだってくる事があるかもしれないけど、無理だったら断ればいいから。
 アタシも、キスはしたけどセックスはしてないからね」

彩っぺの言葉が明確に浮き彫りにされる。
浮き彫りにされたその言葉も、明らかに常軌を逸している。
それでも、この異質な空間では、それほど不自然な色ではなかった。
13 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月19日(木)00時04分47秒
「ま、子供のアンタに任せるのは不安だけどね、この際しょうがない」

そういうと、彩っぺはニヤリと笑った。
その瞬間、二人の周りの風景がまるで積み木のように組み上げられて行くのを感じた。

「子供とかカンケーないよ。
 ヤグチだってタンポポなんだもん。
 カオリを悲しませないようにするくらい出来るよ」

少し強がった私の言葉はまだ、さっきまでの異質な空間を引きずっているような色合いだったかもしれない。
それでも、彩っぺは笑って返してくれた。

「それじゃあ頼むよ矢口。
 明日からアンタ達二人なんだからね」
「わかってるって、任せときなよ」

嘘はつき通せば嘘ではない。
どれだけか時間が経って、彩っぺがもう一度二人きりのタンポポを見た時。
その時に、私がカオリをしっかりと支えている事が出来ていればいいのだ。
14 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月19日(木)00時05分18秒
「長話しちゃったね、それじゃあ寝るよ」
「ああ、うん、おやすみ」

彩っぺが立ち上がる。
私もそれに続いて立ち上がり、彩っぺの背中に声をかけた。

「今までお疲れ様」
「お疲れ」

後ろを向いたままピッと右手を上げて、彩っぺは颯爽と帰っていった。
私はカオリの分のジュースを買おうと自販機にコインを押し込みながら、ようやく瞳が湿ってきた事を感じた。
それが何だか妙に嬉しくて、声を出さずに笑った。
15 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月19日(木)00時06分17秒
部屋に戻ってもまだ、カオリは泣いていた。
ただ、さっきまでのワンワン泣きとは違う、しくしくとすすり泣くような感じだけれども。
カオリは私の姿を認めると、少し顔に力を入れ、目を吊り上げた。
やはり怒っているらしい。

「彩っぺと話してきた」

私は前触れなく言った。
唐突に言った方が効果があると思ったからで、予想通り、カオリはキョトンと目を丸ませた。

「何を?」
「キスとかの事」

私はカオリ用に買ったポカリを手渡す。
カオリはまだ、何が何だか分からないといった顔をしている。

「オイラの知らないところでそんなことしてたんだね」

ベッドに腰掛けながら、少し寂しそうに見えるように言った。
それは、半分「フリ」で、半分「本音」。
今はもう、そのことについて疎外感や劣等感を感じてはいないつもりだ。
けれど、それでもまだ、自分は…自分もタンポポの初期メンバーだという思いを消し去る事が出来ない。
16 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月19日(木)00時07分01秒
「うん…」

カオリはポカリを口に含みながら頷いた。
ほっぺたをぷくりと膨らませ、その中でポカリが蠢いているのが分かる。
申し訳ないと思っているのだろう、視線を合わせてくれない。

「それをさ、彩っぺに頼まれた」
「え?」

私の言葉に、カオリがポカリを飲み込んですぐに反応した。
予想外の言葉だったらしく、目を白黒させながら。

「何を頼まれたって?」
「だからぁ、カオリを慰めろって」
「ハァ?」

そういうと、まるで時間が来たかのように突然カオリが笑い出した。
今度は私が目を白黒させる番だった。
17 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月19日(木)00時07分42秒
「いやぁマジで?もう最高ー。
 彩っぺも笑わせてくれるなぁもう、やんなっちゃう」
「なんだよ、何で笑うんだよぉ」

いきなり笑い出したカオリに食って掛かる。
なんだかとても失礼な事を言われている気がした。

「矢口に慰められてるようじゃ、アタシももう終わりだなってこと」

さっきまでの不機嫌そうなカオリはどこへやら、今のカオリは、なっちと二人で裕ちゃんや彩っぺをからかっている時の様に楽しそうな笑顔をしている。
しかし私はまったくもって不愉快だ。
明らかにカオリが私を子ども扱いしている事が分かる。
口を尖らせながら言った。

「言ったなぁテメェ、彩っぺがいなくなっちゃうよぉなんて泣き叫んでたくせに」
「ほーらほら真里ちゃん、怒っちゃ駄目でちゅよー。
 まったく真里ちゃんはすーぐ怒るからいけない子でちゅねー」

二人の年齢差は二歳で、二人の身長差は二十センチちょっとだ。
カオリには私がどのように見えていたのだろう。
ともかく、カオリのあんまりな態度に私も我慢の限界が訪れた。
18 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月19日(木)00時09分47秒
「むがぁっ!」

小さな身体を闇雲に振り回して、大きなカオリに突撃する。
その勢いに押されカオリはベッドに倒れこみ、私はここぞとばかりカオリに続いてベッドに飛び込んだ。
そして、寝転がっているカオリの上半身を羽交い絞めにする。

「あ、何すんだよ矢口!わかった、わかったから降りろ」
「うるせぇ、テメェこの野郎」

強烈な言葉を口にして、私は身動きの取れないカオリに強引に口付けた。
いきなりの事で驚いたのか顔を左右に振りに逃れようとするカオリ。
けれど私はぴったりと唇を重ねたまま、十秒ほど持ちこたえた。
視線も十秒間、ばっちりとあっていた。
19 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月19日(木)00時10分21秒
「オイラだってこれくらい出来るんだからな」

突然のキスのすぐ後、まだ息も絶え絶えな状態でカオリに言う。
自分だってタンポポなら初期メンバーなんだ、そう誇示しているかのように、語気を少し強めて。
初めて上から見るカオリは、ヤバイ位に女性でびっくりした。

「…ばか」
「うるさい」

目を潤ませながら言うカオリの言葉に力はなかった。
そしてその力ない声で、私に降りるよう命じる。
素直に従ってカオリの隣に座ると、ゆっくりと頭を起こしながら言った。

「それじゃあ、これからは矢口の世話になろうかな」

私はニヤリとした。
予想通りの言葉だったからだ。
当の本人は恥ずかしいのか、髪の毛をいじくったりしている。
私が目を合わせようと顔を覗きこんでも、すぐに顔をそらしてしまう。
驚くくらいの色気を見せていたカオリが幻のように消えてしまい、私はからかうように言った。

「バーカ」
「うるさいっ!」
20 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月19日(木)00時10分59秒

唇を離すと、少しばかり悩ましげなカオリの瞳が目に入った。
けれどそれは、ファーストキスのときとは比べ物にならないほど力強さに満ちている。

結局あれ以降、私とカオリが口付けを交わしたのは、新タンポポとして石川と加護の加入が決まったときの一度きりだった。
それも、あの時のような大立ち回りを演じる事もなく、静かにカオリの部屋で交わしたものだ。
彩っぺの脱退で、カオリは強くなったのかもしれない。

「タンポポ、生え変わりだね」

窓の外に目をやりながら、カオリらしい表現でポツリと呟いた。

「そうだね」

私もそれに同調したように頷く。
けれど、私にはカオリの心の中が手に取るように分かった。
言いようのない寂しさ、悔しさが、カオリの内面から溢れている気がした。
21 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月19日(木)00時11分32秒
「タンポポはこれからもっと大きくなるんだね」

第二次タンポポとしてスタートするとき、カオリはこう言っていた。
手渡された一つの種。
成長すればタンポポという植物に育つその種を、最初は三人で懸命に育てた。
育てて、育てて、やっと一人前になろうかと言うときの彩っぺの脱退、石川と加護の加入。
けれどそれは、私やカオリにとっては、言ってしまえば育て人が変わっただけと言うこと。
四人になってからも、最初に手渡された種から育てたタンポポを大事に大事に育て上げ、ついには一人前の姿、これ以上ないタンポポを作り上げる事が出来た。
五人が手がけたタンポポが、ちょこっと季節外れの冬に完成した。

今回は違う。
元になるタンポポを手がけた人は、もういなくなってしまう。
それはつまり、タンポポの生まれ変わり。
私達が育て上げたタンポポはわたげに変わり、そのわたげが、新しいタンポポを作り出す。
それも不恰好な種からではない、スマートな、元のタンポポの遺伝子を引き継いだほぼ完成形からのスタート。
そういうことだ。
22 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月19日(木)00時13分18秒
「さーて、カオリには何もなくなったー」

寂しさを紛らわすかのように、カオリが大声で言った。
その顔は、辛い人生を悲観せず生きてきた聖人の様に綺麗だった。

「オイラはまだあるからね。
 今度はキッズを育てなくちゃいけないから」

私は、キッズとのユニットが決まっている。
初期メンバーとして、誇れるものを作り上げなければならない。
そしてそれにあわせて、前々から密かに思ったことをカオリに提案してみた。

「今暇人はカオリとなっちか。
 つんくさんに頼んでユニット組ませてもらったら?」
「あー、いいねぇ、なっちと二人ユニット。
 今度聞いてみようかなぁ?」
「いいじゃん、それで…ドサモニとか。
 いや、ダベモニかな、うーん、モニっしょ?とかもいいなぁ…」
「何だよそれー。
 何で疑問系なの?矢口センスなさすぎ」
23 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月19日(木)00時14分17秒
なっちとカオリは、モーニング娘。自体をも作り上げてきた二人だ。
この二人なら、きっと凄いものが作れるんじゃないかと言う気がする。
しかしそれはまた、もう少し後の話だ。

「っていうかそろそろ着替えないとまずいぞ。
 もう七時になる」
「えー?たく、矢口がバカな事ばっかり言うから」
「オイラの所為かよ!」

あと二ヶ月弱、私たちオリジナルタンポポの二人にも仕事がある。
九月二十三日に最後のわたげが飛び立った時に、三人で作り出したタンポポはその仕事を終える。
そのときは久しぶりに、彩っぺの家にでも押しかけようか。
朝ご飯の時にカオリに相談してみようと、ふとそう思った。
24 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月19日(木)00時14分31秒
おしまい
25 名前:川o・-・)ダメです… 投稿日:川o・-・)ダメです…
川o・-・)ダメです…

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