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サンクチュアリ
- 1 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)19時54分08秒
- 保田さんと後藤さんがモーニング娘。を辞めるという話を聞いたときに思わず、涙が出てきちゃった。後で、記者会見のビデオを見返してみたら、わたしはすごいブスな顔で映っていた。
ずっと前からプッチモニに入りたいと言ってきたから、自分がプッチモニの新メンバーに選ばれてことは嬉しいけれども、あくまで保田さんや後藤さんのいるプッチが良かった。保田さんや後藤さんがいてのプッチだ。
でも、7月8月はものすごい早さで過ぎていく。中学生義務教育メンバーも夏休みということで、毎日、朝から晩までこき使われる。夏の野外コンサート。24時間テレビ。NHK BSのまるごとモーニング娘。特集。合間を見てのダンスレッスンや新曲の音入れもある。いつしか、保田さん後藤さんの卒業の悲しみも心の片隅に追いやられて、とりあえずは目の前の課題を片づけることで精一杯になっていった。
そんな、8月も終わりのある日だった。その日は、メンバー13人が揃っての、9月の後藤さん卒業コンサートの舞台での動きをチェックするための合同練習の日だった。
- 2 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)20時04分15秒
「うあ〜。上手く動けないよ〜」
控え室に戻り、わたしはあさ美ちゃんに愚痴をこぼした。
「難しいよねぇ。舞台の大きさに合わせて、ダンスを微妙に変えていかないといけないからね〜。」
あさ美ちゃんがのんびりとした口調で答える。
「んでもさ、あさ美と里沙は、このコンサートで“タンポポ3”をお披露目すんだろぅに〜。楽しみにしてるんでないの?」
今は、5期メンバーしか控え室にいないので、愛ちゃんがちょっときわどい話をする。
「うん。まだ、詳しくは言えないんだけども、タンポポ3はラップなんかも取り入れて、よりCuty&Popさを押し出したコンセプトだよ。ハッピー7路線に近いかな。私のセクシーな所を見せられたらいいな。」
里沙ちゃんが無邪気に答える。
「そうなんだ。ハッピー7みたいな歌なんだぁ。」
わたしは口ではそう言ったものの、どうしてもプッチの事を考えてしまう。
- 3 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)20時07分23秒
- プッチの場合は、保田さん後藤さんが卒業するということで、新しいメンバー2人を有無も言わせずに補充せざる得ないというのは事実だが、実際はどう思われているんだろうか。プッチは保田ム後藤ム吉澤(市井)の正三角形を構成していただけに、私が入ったことでバランスが崩れたとか、ダメになったとか言われないだろうか。
卒業記者会見から、頭の隅に沸き上がり、忙しいときには封印してきた想いがまた、心の中を占めてきた。別に、プッチについては避けられている話題という感じではないのだが、改まって保田さん後藤さんから話は、今まで無かった。
コンコン。
控え室の扉を叩く音がしてから、保田さんが扉から半身を出し、
「おお。小川、ここにいたか。ちょっと顔かしてもらっていいかな。」
と言った。
(今の話聞かれちゃった?)
里沙ちゃんが目で語りかける。
他の3人の心配そうな目に見送られて、わたしは保田さんの後についていく。
保田さんはわたしを廊下の突き当たりにある喫煙コーナーのソファーまで連れて行くと
「なあ、今週末にオフが2日あるだろ。なんか先約が入ってる?もし、なかったら、そのオフに予約入れさせてくれない?」
と訊いてきた。
- 4 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)20時17分34秒
- 「いえ、ないです。」
本当は5期メンで渋谷辺りに遊びに行く約束をしていたのだが、保田さんがそんなことを言うのは、とても珍しいことなので嘘をついた。
「O.K.。泊まりがけで海に連れってやるよ。よっすぃーも来るから。あのさ、このことは誰にも言わないでくれ。特に5期メンとかにはな。」
保田さんは片目をつむって、なにか秘密めかしてウインクをした。
(海?なんで海に保田さんが連れて行ってくれるの?)
わたしは混乱したまま5期メンのみんながいる控え室に戻った。
心配そうな視線がわたしを見ていた。
「麻琴。なんだったの。」
愛ちゃんが口を切った。
「いやぁ、心配しないで。ちょっとした仕事の打ち合わせだったから。別に説教とかじゃないし。さっき、みんなと話していたことは全然関係なかったよ。」
とだけ答えた。
約束の日になった。うちの近所の銀行で拾ってもらう。
二人に「おはようございます。」とあいさつしてから、トランクを開けてもらって、わたしのバックを置いた。なぜか、トランクは段ボール箱やら雑多な荷物で一杯で、バックを置くためのスペースを作らなければいけないほどだった。
- 5 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)20時23分12秒
- 運転席に保田さん。助手席に吉澤さん。後ろがわたしだ。後ろの座席半分を21インチテレビデオと書かれた箱が占有している。
「これ、なんですか?」
保田さんはシートベルトをはめながら、こちらをちらっと見て、
「後のお楽しみ。狭いけど我慢してくれよな。」とだけ言った。
その言葉を聞いて、吉澤さんがギャハハと笑う。
「はあ。」
なんか、不安になって来ちゃったな。ひょとしたら、わたし何かだまされているのかな。
「保田さんが運転するんですか?」
不安を振り払うように言ってみる。
「そう。免許をとってからあまり長距離を運転したことがないけど、今回は初挑戦かな。」
「ええええ。」
別の不安が湧いてきた。
しかし車は順調に首都高、東関東自動車道、館山自動車道を経由して、一応は海に近付いていった。
「この辺は保田さんがうまれた所なんですよね。」
- 6 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)20時25分04秒
- いつの間にか車は高速道路を降りて、一般道を走っている。
東京湾か太平洋かは分からないけれども、青い海が窓の外にキラキラ光っている。
「見てくださいよ。道路標識に保田って書いてますよ。保田さんと関係あるんですかぁ。」
「“ほた”って読むんだよ。」
「圭ちゃんは、お嬢様だもんね。保田家の。」
「言うなよ。そんなこと。」
運転席の保田さんがちょっと動揺してる。
「なんですか。なんですか。教えてくださいよう。」
わたしは前の座席の乗り出して言う。
「圭ちゃんのうちは、この辺の土地を結構もっているらしいだよね。」
「うちは、別に普通の家だよ。」
とはいったものの、保田さんのおうちは、やっぱり資産家みたいだ。
着いたよ。っていわれた所は、保田さんの実家が所有している別荘だったのだ。
「わぁー。いいところですね。」
保田さんの家の別荘は木造に淡いクリーム色のペンキに塗られた2階建てで、コロニアル形式というんだろうか、入り口の前にバルコニーがあって、アメリカの南部を思わせる家だ。
コンクリートに囲われた駐車スペースに既に軽の可愛いタイプの車が一台停まっていた。
- 7 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)20時26分15秒
- 「おう、もう来てるな。」
保田さんが言い。クラクションを大きく鳴らした。
その音で、家の中から
「圭ちゃーん。結構、早く着いたね。」
と聞き慣れた声がして、後藤さんが出てきた。
続いて、もう一人。
私たちは車の外の出て、彼女たちを迎える。
「小川。この人は知っているよね。」
保田さんが、後藤さんの後ろにいる髪をちょっと短くした女の人を紹介する。
わたしはその人と真っ正面で向き合った。
「あのぅ。市井・・・紗耶香さんですよね。」
いくら鈍いわたしでも、このシチュエーションにはピンとくるものがある。
「プッチの穴へようこそぉ〜。」
吉澤さんがオーバーリアクションで言う。
(ぐはぁ。プッチOGのしごき合宿かぁ。だまされたよう。)
後悔先に立たずだ。
「よっすぃー!!小川だけじゃなくて、あんたもしごき直しだよ。最近、ぶくぶく太りやがって、シロクマみたいじゃん。」
保田さんが釘を刺して、吉澤さんが首をすくめた。
- 8 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)20時30分43秒
- 別荘には、20畳ほどの板張りのスタジオが併設されていた。保田さんの御先祖さまの人が絵を描くためのアトリエとして使っていたらしい。それにしては、保田さんの絵の才能は・・・。
やっと、車の後ろに積まれていたテレビデオの意味がわかった。たぶんダンスレッスンに活用するのだろう。
ダンスのできる格好になれということで、とりあえずは与えらた部屋に荷物を置いて、Tシャツとスェットパンツに着替えてスタジオに集合した。
保田さんを中心として、市井、保田、後藤の初代プッチモニの人達が並ぶ。それに向き合うようにわたしと吉澤さんだ。
「えっと、これから一泊二日のミニ合宿だけれども、プッチの魂を吉澤と小川に注入していきたいと思うんで、みんな頑張って欲しいと思う。」
保田さんがあいさつする。後ろで、後藤さんと市井さんがにやにや笑って、
「圭ちゃん、意味不明」などと言っていたが、和やかな雰囲気もここまでだった。
「じゃあ、“ちょこっとLoveモからいこうか。紗耶香とごっつあん、いける?」
「もち」「うん」
CDラジカセのスイッチが入れられ、カラオケが流れる。
- 9 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)20時35分55秒
- 「他人事みたいに、言うなよ。このレベルまでいってもらうぞ。じゃあ、最初は振りをあまり気にしないで、一回やってみるか。小川はわたしのパートをやれ。よっすぃーはそのままで。ごっつあんに入ってもらう。」
保田さんがてきぱきとパート割りをする。
「音楽開始するよ。」
その瞬間、保田さんが鬼になった。
腕を組んですごい目で見ている。
プッチの後藤さんや吉澤さん、そして4期メンを震え上がらせた保田睨みだ。
そういえば、24時間テレビで愛ちゃんと車椅子の人達がダンスレッスンしていた時も睨んでたな。
プッチ加入が決まって、プッチの持ち歌に関してのダンスレッスンは受けていた。でも、実際に3人でやってみると大違いだ。どうしても遅れてしまう。ダンスに気持ちが行くと、こんどは歌の方がおろそかになる。一年前に、娘。加入直後の本隊とは別に5期メンだけで歌とダンス特訓をやっていた頃を思い出してしまった。あの時は、あまりのレベルの違いにわたしは自信をなくして泣くしかなかった。
(あの頃とは、歌もダンスのスキルも格段に違うはずだよ。自分を信じてやろう。)
少しは自分の中に芽生えてきたプロ意識だけが支えだ
- 10 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)20時38分07秒
- やっと、曲が終わった。
が、「小川。駄目。」
あっさり、いわれてしまった。
「紗耶香。ちょっと小川にダンスの個人レッスンしてくれない。よっすぃーはうちらとおさらいだね。全くどいつもこいつも太りやがって、体の切れがないじゃん。プロなら自己管理しろよ。」
保田さん、性格が変わっている・・・。
「小川。こっちおいで。」
紗耶香さんに呼ばれて部屋の隅に行く。
「まあさ、圭ちゃんは歌のことになると人が変わるから気にすんな。まずは、ダンスビデオを見て勉強だな。」
いつ撮ったのだろう。今より若い初代プッチの3人が“ちょこLoveモのダンスをどこかのスタジオで踊っているビデオだ。
「なつかしいねぇ。うちらも昔、プッチができた頃に合宿したんだよね。そのとき教材に使ったビデオだ。これを見て反省会したりしてね。」
ニコニコ笑いながら言う。
(いい人だな。)
いや、娘。に基本的に仕事に関しては甘い人は存在しないのだ。
現実を思い知らされた。紗耶香さんの指導もきつい物だった。
- 11 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)20時39分21秒
- この人はひょっとしたらSが入っているんじゃないだろうか。
「だめじゃん。」「さっき言ったろ。」「くそぼけぇ。」
などと罵倒されて、時には肉体的なスキンシップ(こづかれたり etc)も混じえつつ、小一時間指導が続いた。
「じゃあ、もう一度3人で合わせてみようか。」
と保田さんに言われて集合する。
クーラーが一応入っているが、そんなものじゃ追いつかないほど暑い。
5人ともTシャツが汗でぐっしょりとなり、髪の毛が額に張り付いている。
音楽が始まる。
一時間前の自分とは別人の様に体が動く。ぴたっぴたっと全ての動作が決まる。他の二人の動きを見ながら、自分のダンスをできる余裕すら生まれた。
(すごい。すごいよ。動けるよ。)
ダンスのすき間を盗んで、紗耶香さんの方を見ると満足そうに笑ってくれていた。
(いいよ。)って目で合図をくれる。
「小川。やるじゃん。完璧だね。」
保田さんに、おほめの言葉をいただいて午前の練習は上がりとなった。
- 12 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)20時49分21秒
- 午後のレッスンが始まる。
「うっしゃ。午後練は“ちょこLoveモを担当パートを変えてやるぞ。小川はわたしと“青春時代”のダンスの振りの予習。よっしぃーはごっつあんに付いてもらって、ごっつあんのパートを教えてもらえ。」
保田さんの指示が飛ぶ。
「うえぇ。パートをチェンジするんですか?」
吉澤さんが、慌てたように言う。
「よっすぃー。プッチ3はあんたがリーダーでセンターなんだよ。今までごっつあんがやってたパートがあんたに行くに決まってるじゃん。まだつんく♂さんからは、はっきりと指示はないけども、たぶん小川がわたしのパート。アヤカがよっすぃーパートを受け継ぐんじゃないかな。文句を言わずやるんだよ。」
「こわいこわい。おばちゃんはこわいな。」
「んなにを〜。おばちゃんじゃないっていってるだろう。この白熊女!」
紗耶香さんのスパルタ教育のおかげで、プッチモニのダンスの基本的な約束みたいなものが分かってきた。コツさえつかめれば、案外覚えやすい。保田さんにお手本を見せてもらって、自分で数回その動作をやってみると体に何となく入ってくる気がする。
- 13 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)20時52分09秒
- パートチェンジした“ちょこLoveモの全体合わせ。“Baby 恋にKnock out”“青春時代1,2,3”の基礎練習。果てしなく練習は続く。板張りの床が汗で滑るようになり何度と無く練習を中断して雑巾掛けをする必要があったくらいだ。
Tシャツもぐしゃぐしゃになり、保田さんが事務所から大量にかっぱらってきた、娘。のノベルティーTシャツにメンバーみんなが次々と着替えたために、部屋の隅にみんなが脱ぎ捨てたTシャツが山積みになった。しまいにはブラジャーも脱いでメンバー全員がノーブラ状態だ。こんな状態はファンにはとてもみせられないねって、誰も笑っていた。
「上がるか。もう5時だよ、いつの間にか。」
果てしなく続くかと思われた練習も保田さんの神の声で終わりとなった。でも、自分の中では、今まで経験したことの無いほどの充実感で一杯だった。もう限界だと思っても、まだ疲労のピークまで行くと、その先に新しい体力が隠れているという感じだ。とことんまで、自分を追いつめないと見えてこない新らしい世界があることが分かった。
- 14 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)20時55分23秒
- 夕ご飯は庭でバーベキューを、みんなでやった。
それから海岸に降りて大花火大会だ。
「うしゃ〜。小川点火してこいや。」
保田さんの命令が下る。
「えええ。わたしですかぁ〜」
「下っ端は文句を言わずやる。」
これと言われて、着火マンを渡された。わたしは、へっぴり腰になって海岸の砂浜に突き刺した打ち上げ花火の導火線に火を付けようとした。湿気たのか、なかなか火がつかない。何度もカチカチやってみる。
「小川。あぶないよ。もう火がついてるんじゃないのぉ?」
後藤さんの声だろうか、気付くと導火線が半分くらい燃えている。
「うあわ。」
後ずさりして逃げる。砂浜に足を取られそうになる。
ひゅうーという鋭い音がして夕闇の空に花火が広がった。みんなの笑い声がする。わたしは砂浜に膝をついたまま振り返るようにして、その花火を見ていた。
「小川。だいぶびびってたな。」
保田さんの声。
「はあ。びっくりしました〜。」
打ち上げ花火。ロケット花火。手持ちの花火。線香花火。
みんな楽しそうに笑っていた。
- 15 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)21時05分21秒
- 後藤さんと市井さんが海に足首まで浸して鬼ごっこをしている。
吉澤さんはいっぺんに10本くらいの花火に火を付けて振り回しながら奇声をを発している。
保田さんはそんな風景を砂浜に腰をおろして缶ビールを飲みながらニコニコしていた。
保田さん。市井さん。後藤さん。吉澤さん。そしてわたしが同じ空間にいるこの時間をできることなら網膜に焼き付けておきたいと願った。
合宿所に戻り“ミーティングルーム”で今日の“反省会”になった。最初は穏やかに進んでいたのだが、そのうちに妙な風向きになってきた。
保田さんの苦労話が始まる。ここだけの話と念を押した上でオリメンのバックコーラス扱いでなかなか前に出られなかった加入からの1年ほどを語り、二期メンから一人だけ加入ということで臨んだタンポポ加入オーディションも矢口さんに、そのポジションを奪われた悔しさを語り始めた。
「圭ちゃん。ちょっと飲み過ぎと違うの?」
紗耶香さんが保田さんを少し牽制する。
- 16 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)21時13分05秒
- 「もう、いいじゃん。うちらは十分やったよ。入ったばかりのまだ頼りない13歳の後藤と、いまいち、娘。の中でもくすぶっていたうちらの3人で船出してここまで来たんじゃん。わたしが出た後も吉澤は良くやってくれたよ。ぶちゃけプッチはミリオンも出して、持ち歌全部がオリコン初登場一位なんだし。あのキャンディーズも出来なかったことだよ。大きな声じゃ言えないけどさ、すくなくともタンポポには“勝った”と思うよ。」
「そういうことじゃなくて心構えをね、言ってるわけよ。よっすぃーとか小川は、ラブマで大ヒットを飛ばした後の、ある意味一期から三期が作り上げた“完成された”娘。に入ってきた訳じゃん。二人とも努力はしているよ、すごく頑張ってる。でも“悔しい思い”をしたことがないと思うわけよ。」
「今時、そんな根性論?は流行らないよ。不安に思う気持ちは分かるけど、任せてみようよ。後藤も最初は気を抜いて手抜きしている部分があるとわたしは思っていて、そう口に出して言ったこともあったけど、ずっとプッチを支えてきてくれたじゃん。」
わたしと吉澤さん、後藤さんは2人の会話を聞いているだけだった。
- 17 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)21時13分50秒
- 保田さんは少し虚を突かれたように黙り込んでから
「そうだよな。ごめん。何かちょっと感情的になっちゃったな。」
と言い、残ったビールを飲み干してちょっとさびしそうに笑った。
布団の中に入ってもなかなか寝付かれなかった。保田さんの言うことは正しい。同室の吉澤さんを起こさないようにそっと抜け出してレッスンルームに向かった。
音を消してダンスビデオを再生してみる。それに合わせてダンスの練習。少しでも体を動かしていることで不安が紛れていくような気になれる。
ふと人の気配を感じて後ろを振り向くと吉澤さんが部屋の入り口に立っていた。
「小川も眠れなかったのか?」
「はい・・・」
「自主練してるのか。一緒にやろうよ。やっぱ、不安だよな。これからプッチを支えて行かなきゃならないのは。渡された荷物が重ければ重いほど、その重さに押しつぶされていくって感じだな。」
ふだんの吉澤さんの様子に似合わず文学的な表現をした。
吉澤さんの指導で、わたしは何度もフォーメーションの確認やダンスの確認をする。吉澤さんは時には自分がお手本を見せてくれてたりして、いつもと違う厳しく真剣な顔をしている。保田さんの魂が乗り移ったみたいだ。
- 18 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)21時14分42秒
- 「歴史は繰り返すものだねぇ。」
感心したように圭ちゃんが言った。
「ごっちんと紗耶香も、ふたりでこっそりと練習してたもんな。あの時も。」
(そうだったね。)
わたしといちーちゃんは目を見合わせて笑った。
レッスンルームで物音がするという圭ちゃんの言葉で3人揃っておそるおそる見に来てみれば新プッチの二人が、なんと自主練をしていた。“青春時代”の時に練習にあまり身が入らなくて圭ちゃんをぶち切れさせた、あのよっすぃーが先輩面しているよぉ。
「心配して全くの取り越し苦労だったなぁ。」
練習している2人に気付かれないように足音をひそませて、うちら3人の寝室に戻ってから圭ちゃんがしみじみと言う。
「もう、プッチは大丈夫だよ。さあ、寝よう。明かり消すよ。」
電気が消えた。
- 19 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)21時22分37秒
- 二日目は時間の都合であまり身の入った練習はできなかってけど保田さんは何故か満足げに
「よっすぃーも小川も一日でだいぶ成長したなぁ。合格。」と言ってくれた。
保田さんは無理に明るく振る舞っているように感じた。わたしも、ちょっと感傷的な気分になってしまった。
「圭ちゃん。一言何か言ってよ。締めの言葉って奴をさぁ。」
後藤さんの言葉にせかされるように保田さんが前に出る。他の4人は何となく保田さんと向き合う。
保田さんはしばらく下を向いて言うことをまとめていた。そして正面を向くと決心したかのように
「二日間、ごくろうさまでした。花が咲き実がなり花が枯れても落ちた種がまた芽生えるようにプッチも変わっていきます。わたしとごっちんはプッチも娘。も卒業しちゃうけど、新しくプッチには小川と、今日はいないけどココナッツのアヤカが入って新プッチとなります。これからは吉澤小川アヤカがいなくては駄目なプッチにして下さい。」
感情がこみ上げてきたのか、保田さんは上を少しだけ向いた。目が赤い。わたしも泣きそうだ。
- 20 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月18日(水)21時24分22秒
- 「でも、心配はしてないよ。この合宿でわかったから。よっしぃー。小川。ちょっと前に出てきてくれないかな。」
いつの間にか保田さんの横には後藤さんと紗耶香さんが並んでいる。プッチOGと新プッチが対面している構図になっていた。
「よっすぃー。小川。プッチモニをお願いします。」
「たのむよ。」紗耶香さんの声。
「まかしたよ。」後藤さんの声。
3人とも深々と腰を折ってあいさつしていた。はっきり言ってこの展開は予想外だった。感情が一気にこみ上げてきた。頭の中が短かったけど充実していた二日間の色々な思い出でいっぱいになる。
わたしは涙でもう何も言えない。ただ、頭を下げて
「頑張ります。絶対に・・・。」
としか言えなかった。ちらっと見えた吉澤さんも、顔をくしゃくしゃにして泣いていた。
(プッチモニのオリメンの人達は卒業しても、プッチ魂はこうして受け継がれていくんだ。いつか自分もプッチを卒業する日が来るだろうけど、3人からもらった、このバトンを私も次の子達に受け渡たそう。それまではプッチを支えていこう。)
こうして、わたしの第二回プッチモニ ミニ合宿は終わった。
「
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