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卒業の意味

1 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月17日(火)00時07分14秒
さてどうしたものか。
私は生まれて十七年の中で、もっとも頭を使っていた。

「よしこー、これカワイイよー」
「そうだね」
「…むぅ、まじめに聞いてないだろー」

今私は一人だ。
楽屋には私の姿しかない。
しかしなぜか、ごっちんの声が聞こえる。

「聞いてんのかよー」
「聞いてるよ」

また聞こえる。
そして私はその声と喋っている。
どちらかの一方的なものではない、ちゃんとした会話が成立している。

どうやら、透明のごっちんがいるらしい。
2 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月17日(火)00時08分34秒
なぜごっちんは透明になっているのだろう。
いや、その前に本当にごっちんはいるのだろうか。
しかしこれは、間違いなくいる。
受け答えはしっかりしたもので、テープレコーダーなどでないことは明白だし、見えないものがないとは限らないからだ。
ということは、私の隣にはやはり、透明、或いはカメレオンのように部屋の色と同化したごっちんがいることになる。
ごっちんなら出来るのでは、と言う気がしないでもないが、本家のカメレオンでさえ完全に周りの色に溶け込む事は出来ないのだから、つまりはごっちんが透明だという事だ。

ここで、何でごっちんは透明なの?と聞ければ話は簡単だ。
何も難しいことを考える必要は無い。
しかし問題は、本人が自分が透明である事を分かっていない可能性がある、と言うことだ。
分かっているならいいが、分かっていないとすれば問題だ。
聞いた途端、ごっちんがパニックになってしまうことは考えられる。
なるべく、事を穏やかに進めたい。

ごっちんの声は聞こえなくなっている。
私が上の空だから、雑誌に集中しているのだろう。
雑誌がふよふよと宙に浮いている。

しかし何故、今日楽屋にいるのだろう。
3 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月17日(火)00時08分58秒
今日は九月二十四日だ。
ごっちんは昨日、モーニング娘。を卒業している。

「後藤はモーニング娘。を卒業します。
 けれど、正直言えばやめたくありません」

昨日のラストライブ。
この一言で、必死に耐えていた私も泣いてしまい、ステージも観客席も一体になったのだ。
やめたくないならやめなければいいのに、と思った。

と、そこで私の頭にある考えが浮かんだ。
筋は通っている。
しかし信じられない話だ。
ごっちんに尋ねるのも相当に勇気が要る。
それでも、私の口は言葉を発した。
4 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月17日(火)00時09分19秒
「ねぇごっちん」
「ん?」
「何で今日、楽屋にいるの?」
「ふぇ?今日ってオフだった?」
「いや、ていうかさ、ごっちん昨日卒業したじゃん?」
「ふ?何言ってんのよしこ?」
5 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月17日(火)00時09分54秒
この短い会話で、私は賭けに勝った事を確信した。
ごっちんは少し鈍い。
けれど、卒業した事を忘れて仕事に来るほどひどくは無い。
ごっちんはモーニング娘。としての仕事があると思い楽屋に来ている。
つまり、ごっちんは卒業していないのだ。

しかし、昨日横浜アリーナで最後の挨拶をしたのもごっちんだ。
つまり、ごっちんは卒業した。

ところがここで重要なのは、ごっちんは本当は卒業したくないと言った点だ。
今回の卒業は、いわゆる「ハロプロ大改革」にかこつけたごっちんのソロ売出しへの序章である。
つまり、事務所の方針、中身の伴わない卒業だった。
6 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月17日(火)00時10分19秒
「ごめんごっちん、勘違いしてた」

相変わらず姿の見えないごっちんに私は謝った。
しかし、何を謝ったのだろう。
ごっちんの話をないがしろにしたことだろうか。
それとも、ごっちんの気持ちに気づけなかったことだろうか。

「おとぼけよしこだねー」

ごっちんは嬉しいのか眠いのかよく分からない声を出した。
その声を聞き、なぜか私の鼻の奥がつーんと痛んだ。
7 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月17日(火)00時10分42秒
ごっちんは卒業した。
しかしそれは、事務所の欲しがっていた外側のごっちんだ。
卒業したくない、モーニング娘。でありたいと願っていた内側のごっちんは今、この場にいる。
外側を失って、姿は見えないけれど、今隣で雑誌を読んでいるのだ。
8 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月17日(火)00時11分15秒
「あれ?どうしたのよしこ?」

顔の見えないごっちんが心配そうな声を出した。
どうやら私は泣いているらしい。
さて、いったいどんな涙なのだろう。
嬉し涙だろうか、悲し涙だろうか、悔し涙だろうか。
しかし、そんなことは問題ではない。
私はごっちんが隣にいることに関して涙を流している。
それで十分だ。

「なんでもない」

そっと人差し指で涙をぬぐった。
メンバーはどんな反応をするだろう。
驚くかもしれない、けれど皆受け入れるに決まっている。
ごっちんは大切な仲間だ。
どうあろうと、それは変わらないのだから。
9 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月17日(火)00時11分27秒
終わり
10 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月17日(火)00時11分36秒
11 名前:第九回短編バトル 投稿日:2002年09月17日(火)00時11分51秒

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