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青薔薇コメディ「芝居」

1 名前:ををを 投稿日:2002年08月02日(金)11時22分31秒
「君、いま話題の悲劇を知っているかね?」
「なんだいそりゃ。」
「そりゃあ、もう、涙なくしては語れないぜ。この記事を読んでみろよ。」
「ほぉ、どれどれ。」
「この記事を編集長がいたくお気に入りでね。だいぶ誉められたんだよ。」
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「ハハハ。なんだ、これは。悲劇どころか、とんだお笑い話じゃないか。よくも、まぁこんな悲劇調に文章が書けるものだ。君の技術には脱帽だな。」
「ハァ?お前、コメディの書きすぎで頭がいかれているんじゃないか?どこをどうとったら、これが笑い話になるんだよ。」
「どこが、って君ぃ。今時、吉本の新喜劇だってこんな馬鹿げた芝居をやったりはしないよ。ハハハ、ハハハハハハ。こりゃあ、さっそく来月の『月刊コメディと私』に使おうじゃないか。いいネタを提供してくれてどうもありがとう。まあ、楽しみにしてくれたまえよ。」
2 名前:青薔薇コメディ「芝居」 投稿日:2002年08月02日(金)11時23分17秒
 と、まあ、そんな理由で、この喜劇を取り上げることになった。皆さんも、モーニング娘。というのはよくご存知だと思う。そう、一世を風靡したアイドルグループのモー娘。である。その中に、なっちと、カオリ(ともに仮名)という二人の初期メンバーがいた(まあ、別に仮名にもなってないが)。「どういうわけか、あの別嬪さんをテレビで見かけなくなったな」、と思っていたら、そのうちのなっちの方が最近の健康診断の結果、即入院を命じられ、まあ、そうそう先は長くないということになっていたのだそうだ。そこで喜劇は始まるのである。

 カオリの方はそれを聞いて、「さっそくお見舞いに行こう、早くいって暇乞いをしよう。」とさすがに初めは思ったらしいのだが、そこはアイドルの手前、手ぶらでは行けまいと思った。それに、ほかでもないなっちのためである。事前にリサーチして、最高のお見舞いを持って行こうと考えた。そこで、弟子に先に御機嫌伺いをさせることにした。
3 名前:青薔薇コメディ「芝居」 投稿日:2002年08月02日(金)11時23分53秒

 「あべしゃんはあおいばらがたべたいのだといってました。てへてへ。」
と、弟子は言った。(また、仮名の意味がなくなってしまったわけだが。まあ、これは喜劇ではよくあることである。)
「青い薔薇?間違いないの?」
 「そうなのれす。てへてへ。」

 果たしてカオリは青い薔薇さがしに奔走した。ところが、皆さんご承知の通り、そんなもの世の中には存在しないのである。そうと、分かるとカオリはせっせと絵を書き始めた。せめてきれいな絵だけでも見せてあげたいと考えたからである。そう、ほかでもないなっちのために。だから弟子が、
「あべしゃんはいいらさんのことをくびをながくしてまっているのれす。はやくいってあげてくらさい。」
と、説得してもとりあわず、
「カオリ、なっちに最高の贈り物をしたいの。黙ってて。」
と、答えた。
4 名前:青薔薇コメディ「芝居」 投稿日:2002年08月02日(金)11時24分49秒
 かくして、薔薇の絵を書き上げたのはその3日後であった。それはもう奇跡的なほどすばらしい出来であった。キャンパスを布でくるむと、とるものもとりあえず、病院に向かった。すると、もう病室の手前というところでなっちの声が聞こえた。瀕死の状態とは思えないほど大きな声でさけんでいたのである。

「薔薇!!なっちの青い薔薇!!早く!早く見せて!」

 まさにその瞬間のことである。(これがあまりにも馬鹿馬鹿しい喜劇の絶頂なのであるが)、カオリはふと嫉妬した。
「なっちはカオリよりも青い薔薇が大事なの?そんなに、青い薔薇が見たいの?なんで?薔薇なんてただの花じゃん。それどころか、これなんかただの絵だよ。なにいってるの、なっち?」
そう、思ったのである。
5 名前:青薔薇コメディ「芝居」 投稿日:2002年08月02日(金)11時25分41秒
いつまで交信していたのだろう、弟子の声で気づいた。

「い!いいらしゃん!!なにやってるんれすか!!!早く、早くきてくらしゃい。あべしゃんが!あべしゃんが!!」

 カオリは我にかえった。そうだ、「ほかならぬ」なっちのためである。どんなにただの絵であっても、どんなに馬鹿げた思い付きであっても、「ほかならぬ」なっちが見たいと言っているのだ。早く、早く、青い薔薇を届けてやらなくては。病室に向かって再び走り出す。ところが、ところがである。最高のエンターテイナーであるところの天にましますわれらが神は、なっちを、

「早く来て!!私の青い薔薇.....カオリ!!!」

そう最後の声を振り絞って叫んだなっちを、あまりにも無情にもその瞬間にお召しになってしまったのである。
6 名前:青薔薇コメディ「芝居」 投稿日:2002年08月02日(金)11時26分19秒
 嗚呼!そして神はあまりにも、あまりにもコメディがお好きであった。人生とはそんなに単純で美しいものでは無いにもかかわらず、神はそれがお好きであった。そして、カオリは十分に単純であった!

全てを悟ったカオリはキャンバスを放り投げたと同時に、泣き、わめきながら言ったのである。

「なっち!わたしのなっち!いま、青い薔薇を届けてあげるから!」

すると、彼女は高い高い病棟の窓を一直線に彼女に向かって飛んだ。
7 名前:青薔薇コメディ「芝居」 投稿日:2002年08月02日(金)11時27分06秒


 話は、ざっとこんなところである。まさに、希代の馬鹿馬鹿しさ、事実は小説よりも奇なり。シェークスピアも、「物事は芝居だ。」とはよく言ったものである。ところで、冒頭の氏が、この件に関して一切の喜劇性を感じないとはいったいどういうことなんだろうか?
8 名前:青薔薇コメディ「芝居」 投稿日:2002年08月02日(金)13時07分56秒

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