DOUBLE VOW
- 1 名前:ぱせり 投稿日:2006/10/19(木) 22:31
-
DOUBLE VOW
- 2 名前:DOUBLE VOW 投稿日:2006/10/19(木) 22:41
-
第一章
- 3 名前:PROLORGUE 投稿日:2006/10/19(木) 22:43
- とある もりの なかに 1ぽんの おおきな おおきな きが ありました。
その きには ちいさな あなが ひとつ ありました。
その あなでは とっても あたまのいい リスさん
げんきいっぱいの アライグマさん
しっかりものの ビーバーさん
とってもかわいい ことりさん
そして ちっちゃな ちっちゃな ハリネズミさんが なかよくくらしていました。
ハリネズミさんは みんなのことが だいすきでした。
ちっちゃいころから いっしょだった リスさんも
おいしい このみを わけてくれる アライグマさんも
いつも たのしい おしゃべりをしてくれる ビーバーさんも
おうたが じょうずな ことりさんも
みんな みんな だいすきでした。
でも ちかごろ ハリネズミさんは みんなと あそぶことをやめました。
それは―――
- 4 名前:1−1 Side A 投稿日:2006/10/19(木) 22:45
- 「ごきげんよう、あいぼん」
「あ、あさ美ちゃんごきげんよう」
うちは書きかけの絵本から顔を上げると、笑顔を作って、挨拶を返し、
またすぐ絵本に視線を落とす。
「あいぼんごきげんよう」
「ごきげんよう」
うちの班の子達、愛ちゃん、がきさん、まこっちゃんが次々に挨拶をしてくれる。
うちはその全てに、笑顔を作ってただ返事を返す。
そう、ただそれだけ。
うちは絵本に視線を落として思う。
うちのこんな態度を見て、あさ美ちゃんはまた哀しそうな顔してへんやろうか?
うちは中等部のころからずっと一緒の、親友の繭尻を下げた哀しそうな顔を思い出す。
ううん、駄目。
うちと親しくしてる方があさ美ちゃんには、みんなには迷惑になってしまう。
みんなもうちと同じように好機の視線にさらされてしまう。
- 5 名前:1−1 Side A 投稿日:2006/10/19(木) 22:47
-
「ねーねー、あさ美ちゃん、今日、転校生来るってほんと?」
「え?ほんと?私も聞いてないよ。
でも珍しいよね、2学期の頭から転校生って」
気付くと愛ちゃん達が前の席から振り返り、うちの一戸おいて隣の席の
あさ美ちゃんに話しかけている。
「そうだね、でもさ、転校生来るならきっとこの班だよね?」
「うん、ここだけ5人だしね」
その言葉にうちははっとして顔を上げ、隣の席を見た。
もともとうちが座ってた席。
少しでもあさ美ちゃんから距離を置かなくてはと思い、
『外が見える席の方がいいから』
なんて口実を言って窓際の席に移る前まで座ってた席。
そんなことを思い出していると、SHRの始まりを告げるベルが鳴った。
そのベルがうちを変える出来事の始まりを告げるベルになるとは、
その時のうちは思いもしなかった。
- 6 名前:1−1 Side N 投稿日:2006/10/19(木) 22:48
- 私辻希美。
あだ名はのん。
のんは、お父さんのお仕事の都合で、今日からこの聖・アイウィッシュ女子学園に
編入することになったんだ。
今は担任の先生に連れられ、教室に向かってるところ。
なんでわざわざ私立のこの学園選んだかって言うとぉ……
征服がかわいいのと、今編入しておけば上の大学に上がる時楽できるかなぁって思って。
そんなこと思ってると教室に着いちゃった。
2年C組かぁ。
どんな子がいるんだろ?
のんちょっと緊張して来ちゃったよ。
- 7 名前:1−1 Side N 投稿日:2006/10/19(木) 22:51
-
「…………」
(な、なんだ?この学園の入試に”容姿”って項目あったっけか?)
のんは教団に立ち、生徒を見渡して驚いた。
なんてったって35人もいる女の子みんな、おっそろしく可愛いんだもん。
(ううむ、これはみんなのアイドルのんちゃんの座が危ない……)
「さん!……辻さん!」
(今までずっと学校中のアイドルのんちゃんだったのに……ううむ……どうすれば……)
「つじさんっ!……つーじーさん!!!」
「は、はひ」
ああ、考え事してたら先生に怒られちゃったよ。
声裏返るし、みんなにくすくす笑われちゃうし……もー!。
- 8 名前:1−1 Side N 投稿日:2006/10/19(木) 22:52
-
「辻さん、早く自己紹介を」
「あ、はい、辻希美っていいます。
特技はヘンガオ、趣味はスカートめくりでーsっす」
のんは昨夜から考えてきた自己紹介を言い切った……んだけど……
(なにこれ?ドンビキってやつですか……)
教室を見渡してみると、先生はこめかみを引く着かせているし、
生徒も困ったような顔して固まってたり、
呆れたような顔してたり……
(あれ?あの子?)
窓際の少女、ふわふわの髪と白い肌、
みんな半袖の夏服の中、なぜか一人だけ長袖の征服を着た少女、
その少女の黒目がちな瞳と視線が合った時、
彼女はふんわりと微笑んでくれていた。
「…………」
そのこの笑顔はなんだか優しくって、あどけなくって
でもその子の瞳はなぜかとても哀しい色をしていて―――
のんはその瞳から視線を外せなくなっていた。
- 9 名前:1−1 Side N 投稿日:2006/10/19(木) 22:55
-
「そ、それでは辻さん」
やっと気を取り直した先生が口を開いた。
「では、あそこの席へ……
紺野さんと加護さんの間の席へ」
「はいっ!」
のんはちょっと嬉しくなった。
だって、さっきの子の隣だし、反対隣の子も優しそうな子だったから。
「それでは紺野さん、辻さんのこと、くーれーぐーれーも、よろしくおねがいしますね」
先生の言い回しが微妙に気になったりもしたけど、
とりあえずのんは自分の席に向かった。
- 10 名前:1−1 Side N 投稿日:2006/10/19(木) 22:56
-
「辻希美です。よろしくねぇ」
「紺野あさ美と申します。
これからよろしくおねがいいたしますね」
立ち上がり両手を前似そろえ、深々と頭を下げる紺野さんに驚いた。
(うわっ、お嬢様学校とは知ってたけど、想像以上だ!
のん、ひょっとして場違いなところにきちゃった?
そりゃぁあんな自己紹介引かれるよねえ……)
「あのー……辻さん?」
「……あ、ごめん」
いっけない、また考え事しちゃってたよ。
「では紺野さん、学園での作法、
クラスのこと、藩のこと、追々教えてあげてくださいね」
「はい、完璧です」
そんな感じでのんの新しい学園生活が始まったんだ。
- 11 名前:1−1 Side N 投稿日:2006/10/19(木) 23:00
-
「それにしても辻さん、すごいよね〜」
SHRが終わり、先生が出て行くと、前の席のちょっと顎な子が振り返って
声をかけてきた。
「???」
突然のことにのんが困っていると
紺野さんの前の席の、おでこ出眉毛な子が助け舟を出してくれた。
ってさっきからのん、失礼かな?
だって、まだ名前分んないんだもん、しかたないよね。
- 12 名前:1−1 Side N 投稿日:2006/10/19(木) 23:02
-
「もう、まこっちゃん、自己紹介もしないでぇ。
辻さん困ってるでしょ?
私、新垣里沙って言います。
みんなからは里沙ちゃんとか、がきさんとかって呼ばれてます」
「えへー、辻さんごめんねぇ。
私、小川麻琴って言います。
麻琴って呼んでね〜」
「あ、あぁしは高橋愛っていいます。
愛でええです。」
のんの前の席の子達が次々に自己紹介してくれる。
そして最後に
「……加護亜依です。
よろしくおねがいします」
左隣の少女、さっき微笑んでくれた少女が自己紹介してくれた。
- 13 名前:1−1 Side N 投稿日:2006/10/19(木) 23:04
-
「あ、加護さんもあいって言うんだ?
加護さんの子とは何て呼べばいいの?」
「…………」
なぜか黙ってしまう加護さん。
「私達はあいぼんって呼んでるの」
そして、その沈黙を救ってくれたのは紺野さんだった。
「あいぼんかぁ、かわいいあだ名だね」
「…………」
でものんがそう言うと、なぜか加護さんは俯いてしまった。
「で、辻さんは前の学校ではなんて呼ばれてたの?」
「のん?のんはのんだよ」
「のんちゃんかぁ……のんちゃんってあだ名も可愛いね」
「えへへー、愛ちゃんありがとう」
「この6人で3班だから、よろしくね」
「うん……あさ美ちゃん……でいい?」
「うん」
- 14 名前:1−1 Side N 投稿日:2006/10/19(木) 23:05
- 「そうそう、のんちゃんすごいよねえ」
思い出したように麻琴ちゃんが続ける。
「なにが?」
「だってさぁ、ケメ子の前であんな自己紹介すんだもん」
「け?ケメ子???」
「そうだよねぇ、ケメ子ったら、こめかみひくつかせちゃってさぁ、
あの顔、超面白かったよねぇ」
「えっ、えーーー!!!」
「のんちゃんどうしたん?突然そんな大声出して」
どうしたのって愛ちゃん、そりゃぁ驚くよ。
だってあんなに上品出、真面目そうだったあさ美ちゃんが、
普通の子みたいな話し方して、先生を分け分んないあだ名で呼んでんだもん。
「あ、あさ美ちゃん……」
「えっ?なにのんちゃん?」
「いや、だって……その……言葉遣い……」
のんがそう言うとあさ美ちゃんは、思い当たったというように微笑み、答えてくれた。
- 15 名前:1−1 Side N 投稿日:2006/10/19(木) 23:07
- ―――
この学園では挨拶は、朝も帰りも”ごきげんよう”であること。
同級生でも名前を呼ぶ時は苗字にさん付けで呼ぶこと。
中のいい友達の間では、フランクに話してもある程度なら許されると言うこと。
でもケメ子と言うあだ名の先生はそのあたりが厳しくって、
ケメ子の前ではみんな丁寧な言葉遣いをするってこと。
- 16 名前:1−1 Side N 投稿日:2006/10/19(木) 23:07
-
「なぁんだぁ、のん、場違いなとこにきちゃったかとおもって、
すっごく心配だったんだぁ」
「いやいやいやのんちゃん、今時そんな子いるわけないから」
大げさなリアクションのがきさんに突っ込まれて頭を掻いてるのんを見て、
みんなくすくす笑ってる。
でもみんな何気に手で口元 隠してたりするんだよね―――
やっぱりのん、場違いだったかも?
- 17 名前:1−1 Side A 投稿日:2006/10/19(木) 23:10
-
みんなの噂通り、今日転校生が来た。
きょろきょろして、落ち着かない子だなっておもってたら、案の定先生に怒られていた。
その子は健康的な肌にキラキラ輝く瞳、印象的な笑顔を持った子やった。
(……でもうちには関係あれへん)
うちは俯き、胸元のロザリオを強く握った。
「……はい、辻希美っていいます。
特技はヘンガオ、趣味はスカートめくりでーsっす」
(!!!)
うちは思わず顔を上げた。
だってこの学園にくる子で、こんなこと言う子、珍しかったから。
彼女は困ったような顔で、視線を泳がせている。
そんな彼女を見ていると、なんだかほほえましい気持ちになって、
知らないうちに微笑んでいた。
そしてその時
- 18 名前:1−1 Side A 投稿日:2006/10/19(木) 23:11
-
(あっ)
目を泳がせていた彼女と目が会った。
(…………)
ちょっと引きつった彼女の笑顔。
でもそんな時でも彼女の瞳はキラキラ輝いていて―――
うちはその瞳から視線を外せなくなっていた。
- 19 名前:1−1 Side A 投稿日:2006/10/19(木) 23:13
- SHRが終わり、保田先生が出て行くと、みんなが彼女を囲んで話し始めた。
みんなが次々に自己紹介していく。
彼女と親しくなれないにしても、うちも同じ藩ではあるし、
自己紹介ぐらいはしなければならないだろうと思い、口を開いた。
「……加護亜依です。よろしくおねがいします」
「あ、加護さんもあいって言うんだ?
加護さんの子とは何て呼べばいいの?」
「…………」
うちは何も言えなくなった。
彼女の純粋な瞳に見つめられるととても怖くなる。
自分が彼女を巻き込んでしまうのではないか、
そうして、この純粋な光を奪ってしまうのではないか。
みんなみたいに傷つけてしまうのではないか。
うちは強く願った。
お願い、うちにかまわないで―――
うちに興味持たないで―――
うちは人と深く関わってはいけないの―――
- 20 名前:1−1 Side A 投稿日:2006/10/19(木) 23:15
-
「私達はあいぼんって呼んでるの」
うちが黙っていると、その沈黙を救ってくれたのはあさ美ちゃんだった。
「あいぼんかぁ、かわいいあだ名だね」
「…………」
うちは耐え切れなくなり俯いてしまった。
お願いだからうちにかまわないで―――
うちはもう誰も巻き込みたくないの―――
貴方のようにキラキラした瞳を持っている人を―――
うちは一人で―――
それがうちの―――
うちはまた強くロザリオを握り締めた。
- 21 名前:1−1 Side A 投稿日:2006/10/19(木) 23:16
-
それからまこっちゃんが彼女に話をふってくれたから、
始業までそれ以上うちがみんなの会話に加わることはなかった。
「ケメ子ってね〜、ここのセイとだったころ、
学園祭の劇で小学生の役、したことあるらしいよ?」
「え〜ほんと?」
「なんか怖〜い」
「でも見て見たいよね?」
「う〜ん」
「そう言えばのんの前の学校でも寝〜」
―――
みんなの楽しそうな笑い声が流れてくる。
遠くから。
隣で笑う彼女の声もまるで違う世界の出来事のように遠くから。
(これでいいんですよね……これで……マリア様)
うちはロザリオを握り、マリア様に祈った。
- 22 名前:ぱせり 投稿日:2006/10/19(木) 23:17
- 更新終了です。
- 23 名前:ぱせり 投稿日:2006/10/19(木) 23:19
- こんな感じで進めて行きます。
よろしければお付き合い下さい。
- 24 名前:ぱせり 投稿日:2006/10/19(木) 23:20
- ストックがあるうちは週1更新でいきます。
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/22(日) 01:09
- なんだか先が気になる設定ですね。
次週も更新があるようなので楽しみにしてます。
- 26 名前:1−2 Side N 投稿日:2006/10/26(木) 22:44
-
「で、ここが保健室ね」
「うゎ〜結構広いね〜」
放課後。
のんは、あさ美ちゃんに学園内を案内してもらっていた。
あれから授業中やお昼の時間をフルに使って、のんはみんなとすっかり仲良くなった。
気配り上手だけどテンパりやすいがきさん、
きっしょいけどいやし系の麻琴、
可愛いけどなまってて何言ってるか分んない愛ちゃん、
成績優秀だけどどこか抜けてるあさみちゃん、
みんないい子ばかりで本当によかった。
最初のあさ美ちゃんの挨拶でどうなるかと思ってたのんの学園生活は、
どうやら楽しい物になりそうだった。
でも一つ気になるのは―――
あいぼん、のんが話しかけてもあんまりお話してくれなかったんだよねぇ。
のんのこと嫌いなのかなぁ……
ちょっと怖がってるような感じはするけど、
のんが話しかけても嫌な顔するわけじゃないんだよね〜……
人見知りするタイプなんかなぁ?
それだけがちょっと気になっていた。
だってのん、あいぼんと仲良く鳴りたいんだもん。
- 27 名前:1−2 Side N 投稿日:2006/10/26(木) 22:46
-
「じゃあ、次礼拝堂ね」
「うん」
あさ美ちゃんと並んで渡り廊下を歩く。
窓の外に目をやると、テニス部が練習しているのが見えた。
「そう言えばあさ美ちゃん、部活と買っていいの?」
「私?今日はちょっとさぼっちゃった」
「え?のんのために?……ごめんね」
「ううん、いいのいいの、たまには体も休めないと寝」
そう言ってあさ美ちゃんは優しく笑ってくれた。
「え?体休めるってなに部なの?」
「私?私は陸上部なんだけど」
「へぇ、あさ美ちゃんが陸上部ってなんだか以外
……てっきり文化部だと思ってたよ」
「ひっどーい!のんちゃん足遅そうとかって思ってるんでしょ?
これでも1500、県大会で優勝したこともあるんだからね」
あさ美ちゃんがちょっと不満そうに答えた。
- 28 名前:1−2 Side N 投稿日:2006/10/26(木) 22:50
-
「ははは、ごめんね〜」
だからのんは素直に謝った。
「いつものことだから別に気にしてないけどね。
で?のんちゃんは?今までnani部だったの?」
「のんはバレー部。」
「バレー部?」
「ああっ、あさ美ちゃんちっちゃいくせにって思ったんでしょう?」
「え、えぇっとー……」
「えへへ、これでおあいこだね」
のんが笑うとあさ美ちゃんも笑ってくれた。
「そう言えば、みんなはどんな部活してるの?」
「えっとねぇ、愛ちゃんは演劇部、里沙ちゃんはエコクラブ、まこっちゃんはすき焼き部」
「え?え?なに?エコクラブって?それよりすき焼きぶって何???」
のんは聞きなれないクラブ名にうろたえて尋ねた。
- 29 名前:1−2 Side N 投稿日:2006/10/26(木) 22:55
-
「エコクラブはね、園内を見回って無駄な電気を使ってないかチェックしたり、
エコを広めるためにショーをしたりするの」
「ふぉえ〜……そんなクラブあるんだね〜……じゃあすき焼き部は?」
「すき焼き部は……和服着てすき焼き作って食べるクラブ……かな?」
「なにそれ〜?」
「いやね、なんか元々は大和撫子を目指すとか花嫁修業するとか、
なんかいろいろ目標はあったみたいなんだけど……
今はただ和服着てすき焼き作って食べるクラブになっちゃってるみたい」
- 30 名前:1−2 Side N 投稿日:2006/10/26(木) 22:56
-
「へ〜そうなんだぁ……
あっ、そう言えばあいぼんは?」
「え?」
「あいぼんはnani部なの?」
「あいぼんは……美術部……だったの」
「だったって……やめちゃったの?」
「……うん」
「なんで?」
「…………」
あさ美ちゃんは目を伏せ、黙ってしまった。
なんだろうこの感じ……
別にあさ美ちゃん、あいぼんのこと嫌いじゃないっぽいのに、
どこかよそよそしい感じがする。
いや、あさ美ちゃんだけじゃない。麻琴も愛ちゃんもがきさんも。
今日一日のこと思い出して見ると、みんなあいぼんのこと嫌いじゃないっぽいのに、
どこか一線を引いているような気がした。
そんなこと考えながら歩い手いると、いつの間にかのんたちは礼拝堂の前についていた。
- 31 名前:1−2 Side N 投稿日:2006/10/26(木) 22:57
-
「のんちゃん、ここが礼拝……堂……」
あさ美ちゃんは礼拝堂に入ったとたん、動きを止めた。
「どうしたのあさ美ちゃん?」
のんがあさ美ちゃんの視線を追って見ると、そこには
ステンドグラスから差し込む夕日を受けて、一心不乱に何かを祈り続ける、
あいぼんの後ろ姿があった。
「……あいぼん……」
あさ美ちゃんの消え入りそうな声が、礼拝堂に大きく響いた。
- 32 名前:1−2 Side A 投稿日:2006/10/26(木) 22:59
- うちは授業が終わるとすぐに、部活に向かう子らにまぎれて、そっと教室を抜け出した。
彼女に気づかれないように。
うちはいつもより早く礼拝堂につくとマリア様の前に跪いた。
「マリア様、あの人をお許し下さい。
どうかあの人をお救い下さい」
うちは一生懸命祈る。
「あの人は悪くはないのです。
あの人に罪を犯させてしまう私がいけないのです。
私はどのような罰もお受けいたします。
ですから、あの人だけは、お許し下さい。
お救い下さい」
どれくらいそうしてただろう。
しばらく祈り続けているとうちの耳に聞きなれた声が届いた。
中学のころからずっと一緒だったあの子の声。
細く優しいあの子の声。
「……あいぼん……」
うちはゆっくり振り返る。
そこには、瞳を潤ませたあさ美ちゃんと彼女がいた。
- 33 名前:1−2 Side A 投稿日:2006/10/26(木) 23:01
-
「……あいぼん……またあの人のために祈ってるの?
……あいぼんが変わったのって……やっぱりあの人の」
「あさ美ちゃん、辻さん案内してあげてんの?
お疲れ様ぁ。うちもう帰るから……
また明日ねぇ」
あさ美ちゃんの声にかぶせてうちは言う。
一度は詰まったけど、何とか元気よく言えた。
笑顔は……うまく作れたやろうか?
「……あいぼん……」
あさ美ちゃんの細い声。
弱々しくか細い声なのに、なんでうちの胸をこんなに締め付けるの?
でも―――
ごめんねあさ美ちゃん。
うちにもうかまわないで。
そうじゃないとあさ美ちゃんもつらい目に会っちゃうから。
そんなんうち……嫌やから。
うちはあさ美ちゃんの方を見ないようにして礼拝堂を出ようとした。
- 34 名前:1−2 Side A 投稿日:2006/10/26(木) 23:03
-
「待ってあいぼん」
うちはその優しい音に足を止められた。
「あいぼん、あさ美ちゃん泣いてるよ……
のん来たばっかりで何も分んないんだけど、あさ美ちゃんが泣いてるの……
きっとあいぼんのためなんだよね?
少しでいいからお話聞いてあげて?」
彼女はうちを攻めるでもなく、穏やかなトーンで語りかける。
うちは思わず顔を上げる。
彼女と目が合った瞬間、うちはとてつもない恐怖に襲われた。
なぜならその瞳はこの上なく純粋だったから―――
とても優しい色をしてたから―――
何よりも暖かだったから―――
そんな瞳でうちをみつめるから
「うちには関係ない!!!」
叫び、礼拝堂を飛び出した。
- 35 名前:1−2 Side A 投稿日:2006/10/26(木) 23:04
-
ごめんね、あさ美ちゃん―――
うち、あさ美ちゃんに心配かけないようにするから―――
うち強くなるから―――
『少しでいいからお話聞いてあげて?』
突然よみがえる彼女の声。
うちはぶんぶんと首を振り、その声を振り払うと、暮れかかった街をひたすら走り続けた。
彼女の瞳を思い出さないように。
あの瞳はうちの心を折ってしまうかも知れない。
うちの決意を―――
うちの誓いを―――
うちはあの人のマンションの下まで来ると部屋を見上げる。
「よかった、まだ帰ってないみたい。
早く夕飯の準備、しなくちゃ」
うちは呟くと急いで階段を書け上がった。
- 36 名前:1−2 Side N 投稿日:2006/10/26(木) 23:09
-
「あさ美ちゃんだいじょうぶ?」
あいぼんが礼拝堂を飛び出したあと、のんは、あいぼんの去った方を
呆然と見詰めているあさ美ちゃんに声をかけた。
「……ごめんね、のんちゃん。
ビックリさせちゃって」
「ううん、そんなこといいけど
……よかったらのんに話してくれない?」
「……ごめん、……今はちょっと」
「あ、ごめん、そうだよね、のん来たばっかりだし」
「ううん、そうじゃなくて!」
あさ美ちゃんは勢いよく顔を上げて、
「……ちょっと気持ちの生理が着かないから……」
思わず大声を出したのが気まずかったのか、最後は消え入りそうな声になった。
「うん、のんこそごめんね……
でものんにできることあったら何でも言ってね」
「うん、ありがとう、のんちゃん」
あさ美ちゃんはまだ瞳を潤ませていたけど、のんに微笑み返してくれた。
- 37 名前:1−2 Side N 投稿日:2006/10/26(木) 23:13
-
その後すぐ、夕暮れの中、あさ美ちゃんと一緒に学園を出た。
イチョウが植えられたレンガの道を二人並んで駅まで歩く。
ぽつぽつと会話を繋いでいるけど、あさ美ちゃんはやっぱり元気がない。
ねえあさ美ちゃん、なにがあるのか分んないけど、のんは笑ってた方がいいと思うよ。
ほら、笑う門には福来るって言うじゃん?
なんて思っても、さすがののんでもやっぱりまだ遠慮みたいなものがあって、
そんなこと言えなくって……
うん、そうなるとここはやっぱりあれの出版だよね。
「あさ美ちゃん」
のんはこちらに顔を上げたあさ美ちゃんに向かって、唐突にのんの必殺技をお見舞いした。
「…………」
のんは目を見開いたまま固まってるあさ美ちゃんにぬぅっと顔を近づける。
「……っぷ、きゃははは」
へへぇ、大成功!
あさ美ちゃん、体をくの字に曲げて苦しそうに笑ってる。
- 38 名前:1−2 Side N 投稿日:2006/10/26(木) 23:15
-
「も〜、のんちゃん」
あさ美ちゃんは涙をぬぐいながら、苦しそうに抗議する。
「どう、のんの特技?」
「これが自己紹介の時言ってたヘンガオ?」
「うん♪」
のんは胸を張って答えた。
「ありがとう」
またすぐに、シリアスになりそうなあさ美ちゃんの気配を感じて、
のんはわざとちゃかして答える。
「笑ってるほうがかわいいよ。フグみたいで」
「のんちゃん!」
「あ、ごめん、タヌキだった」
「のんちゃんひっどーい!」
「へへへ、じょうだん」
「も〜!」
あさ美ちゃんはちょっとすねた振りして笑顔で再び歩き出す。
うん、よかった、あさ美ちゃん元気になってくれて。
それから、くだらない話をしながら、二人並んで駅まで歩いた。
今度は笑顔で。
- 39 名前:1−2 Side N 投稿日:2006/10/26(木) 23:16
-
「のんちゃん、今日ありがとうね」
「うん、のんこそ」
「また明日ね」
「うん」
「じゃぁ、ごきげんよう、のんちゃん」
「あ、そっか、ごきげんよう、あさ美ちゃん」
駅に着くと、反対方向だというあさ美ちゃんと笑顔のまま別れた。
- 40 名前:1−2 Side N 投稿日:2006/10/26(木) 23:16
-
- 41 名前:1−2 Side N 投稿日:2006/10/26(木) 23:18
-
「それで?希美はお友だちできたの?」
夕食の席、お母さんがカレーを注ぎながら尋ねてくる。
「うん、あさ美ちゃんとね、愛ちゃんとね、がきさんと麻琴にあいぼん」
「あらそう?沢山お友だちできたのね?
よかったわ。お父さんも自分のせいで
希美を寂しがらせちゃかわいそうだって心配してたから」
「だいじょうぶだよお母さん、希美の場合、珍しい人種だぁって
みんなが寄ってくるから心配ないんだって」
「真希姉それどういう意味ー!」
「んあ、そのまんまのいみだよ〜だ」
「なにを?」
「これ、ご飯の時に騒がないの!」
「「ふぇ〜い」」
「まったく真希も希美も何時までたってもこどもなんだから」
いつものにぎやかな食卓。
これだけは家が変わっても変わんない。
- 42 名前:1−2 Side N 投稿日:2006/10/26(木) 23:19
-
「ところでそのお父さんは?」
「もうすぐ帰って来るでしょ?」
「最近遅いね」
「まだこっちに来たばかりでどたばたしてるんでしょ」?」
「そっかぁ、お父さんもたいへんなんだね」
「そうよ、だからあんたたちもしっかりしなさい」
「なぁんでそんな風に話し展開するかなぁ?」
真希姉がサラダを突っつきながら不満そうに言う。
「あなたたちが何時までも手がかかるからでしょ?」
「なんでさ、のん、お母さんの手、わずらわせてないじゃん」
「あらぁ?高校生にもなって毎朝起こしてもらってるのはだれかしら?」
「うっ、それはだって、のんは、のんだって一人で起きれるもん」
のんは痛い所をつかれて必死の抵抗。
「じゃぁ、明日からお母さん起こしてあげませんからね」
「あは、がんばれ希美!
お母さん、私は起こしてね〜。
お母さんの手、わずらわせてるの私は重々承知してますから」
「あ、真希姉ずるい!」
「もう、二人ともさっさと食べて勉強でもしなさい!」
「「ふぇ〜い」」
なんて返事しておきながら、その後もいつものようににぎやかな食事が続いた。
- 43 名前:1−2 Side N 投稿日:2006/10/26(木) 23:21
-
「ふ〜」
のんはご飯を食べて、お風呂から上がると、勢いよくベットにダイブした。
転校初日。
今日はいろいろあった。
まあ当然なんだけどさ。
目を閉じて友達になったばかりの子達の顔を思い浮かべる。
あさ美ちゃん、麻琴、愛ちゃん、がきさんそして―――
あいぼん。
別れ際の今にも泣き出しそうな、苦しそうな顔。
それを思い出すと旨が少し苦しくなった。
だから今度は笑顔を思い出して見る。
最初に見せてくれた、あの優しくあどけない笑顔。
あの後も時々笑顔見せてくれたけど、なんかその笑顔はひどく無機質な感じで、
あの哀しげな瞳と相俟って、とても寂しく思えた。
のんは、あいぼんがキラキラした瞳で笑っているのを創造してみる。
へへっ、かわいい。
うん、そうだよ。
きっと、もっとかわいいよ。
そんなこと思ってると、なんだかちょっと嬉しくなった。
「あいぼんにもっと笑って欲しいなぁ。
こんどヘンガオ見せてみようかな?
あさ美ちゃんみたいに笑ってくれるかもしんないし」
のんはぼんやり呟き、一つあくびをすると瞳を閉じた。
その時ののんは、あいぼんがどんな思いを抱えているかも知らず、
そんな風に軽く考えていたんだ。
- 44 名前:1−2 Side A 投稿日:2006/10/26(木) 23:23
-
「…………」
うちは家に着くとすぐベットに身を投げた。
今日はだいじょうぶだった。
起こられずにすんだ。
あの人はずっと笑っていてくれた。
いつもこうだといいのにな。
そんなことを思っていると、突然静かな空気を振るわせて、家の電話のベルが鳴った。
「はい」
『あいぼん?』
「あ、なっち姉ちゃん」
電話に出て見るとそれは、お仕事で長い間フランスへ言っている
お姉ちゃんからの国際電話だった。
- 45 名前:1−2 Side A 投稿日:2006/10/26(木) 23:26
-
『そっちは変わりない?』
「うん、だいじょうぶ。なっち姉ちゃんこそお仕事だいじょうぶなん?
時差とかあるのに電話してて寝れへんのちゃう?」
『なぁにいってるのぉ?こっちはまだお昼の3時だよぉ』
「あはは、そっか、忘れてた」
『あははは、まったくあいぼんはぁ。
それより最近あいぼん、この時間にいないことあるけどどうしたの?』
「……勉強」
うちは嘘をついた。
お姉ちゃんに無駄な心配かけたくなかったから。
- 46 名前:1−2 Side A 投稿日:2006/10/26(木) 23:27
-
『勉強?』
「……うん、あさ美ちゃん達と、勉強」
『そっかぁ、無理しちゃだめだよ』
「なっち姉ちゃんこそ」
『なっちは無理はしないさぁ』
「そうだよね、遅刻ばっかりするマイペースさんやもんね」
『ははは、それは言わない約束っしょ?』
「へへへ、そうやね。
で、お姉ちゃん、そっちで恋人とかできた?」
『なぁに言ってるの?』
「ジュッテ〜ムとか言ってあっつ〜いヴェーゼとかしてるんちゃうの?」
『いやぁだよ、この子はぁ、どこでそんなこと覚えてくるんだい?」
「へへへぇ」
タアイモナイおねえちゃんとの会話。
こんな風に人と緒話しするなんてどれくらいぶりのことだろう?
- 47 名前:1−2 Side A 投稿日:2006/10/26(木) 23:28
-
『じゃぁ、そろそろ切るね』
「えぇ、もぉー?」
『なんだい、寂しいのかい?
「……ううん」
『近いうちに一度帰るからさ。がまんしてね』
「うん、だいじょうぶ、心配せんといて」
『そう?でもほんとに近いうちに帰るからね。
なっちだってあいぼんに会えないのは寂しいんだよ』
「うん、待ってる」
『うん、じゃぁまたね」
「うん、バイバイ」
- 48 名前:1−2 Side A 投稿日:2006/10/26(木) 23:29
- なっち姉ちゃん。
両親がなくなってから、一人でうちを一生懸命育ててくれた、大切なお姉ちゃん。
うちが13歳の時、事故で両親を一度に失った。
お仕事で帰りが遅くなったお父さんをお母さんが迎えに行った帰り、
飲酒運転の車が対向車線から突っ込んできたらしい。
その時、お姉ちゃんも成人したばかりで、まだ子供と言ってもいい歳だった。
それなのに、毎日泣いてばかりのうちを励まし、一生懸命働いてうちを育ててくれた。
そんな大切なお姉ちゃんに、うちはまた嘘をついてしまった。
「ううん、無駄な心配はさせたくないもん」
うちは呟くとベットに腰を下ろし、窓から空を見上げる。
『あいぼんかぁ、かわいいあだ名だね』
星空を見上げているとなぜか浮かぶ彼女のキラキラした笑顔。
「のん……ちゃん」
呼んだ事のない、呼ぶことの無いだろう名前で彼女を呼んで見る。
「駄目」
うちはロザリオを強く握る。
うちは強くならなければ。
あの人のために―――
みんなのために―――
- 49 名前:ぱせり 投稿日:2006/10/26(木) 23:30
- 更新終了です。
- 50 名前:ぱせり 投稿日:2006/10/26(木) 23:34
- レスのお礼です。
>>25さん、初レス、ありがとうございます。
こんな作品ですがどうぞお付き合い下さい。
- 51 名前:ぱせり 投稿日:2006/10/26(木) 23:35
- それでは、また次週
- 52 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/27(金) 20:17
- あいのの発見(*´Д`)
- 53 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/31(火) 22:13
- ここから二人がどう仲良くなってくのか…期待してます。
- 54 名前:1−3 Side A 投稿日:2006/11/01(水) 22:29
- 「ごきげんよう」
「あ、ごきげんよう」
朝、みんなが次々に登校してくる。
「あいぼん、ごきげんよう」
うちがいつものように、書きかけの絵本を広げ、続きを書いていると、
あさ美ちゃんが声をかけてきた。
「……あさ美ちゃん、ごきげんよう」
うちは昨日のことであさ美ちゃんを傷つけたのではないかと心配していたけど、どうやら元気そうで安心した。
- 55 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/01(水) 22:31
-
「ごきげんよう!あれ?のんちゃんまだだね〜」
比較的ぎりぎりに来るまこっちゃんが、不思議そうに尋ねる。
「あ、そうだね」
「寝坊でもしたんかな?」
「いやいやいや、愛ちゃんじゃあるまいし」
「あぁしは寝ぼうなんかしたことあらせん」
「まぁまぁ、二人とも」
- 56 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/01(水) 22:33
- うちはその会話をききながら、少し安心していた。
彼女が会話の中心になることによってみんなの注意がうちからそれるから。
そうして、うちの存在を忘れれば、みんな幸せになれる。そう思うから。
そして、それからしばらく立ち、彼女の来ないまま
SHRの始まりを告げるベルが鳴った。
そしてその直後、遠くからこの学園では聞きなれない、バタバタと言う
けたたましい音が近づいて来た。
- 57 名前:1−3 Side N 投稿日:2006/11/01(水) 22:36
- やばいよ、やばいよ!!!
のん、今全力疾走中!!!
かわいい征服もなにもあったもんじゃない!
スカートひるがえして駅から学校まで猛ダッシュ!
すれ違ったおばさんがあぜんとしてたけど、そんなのも無視!
そりゃぁうちの学園の子が、こんなスカートひるがえして街ん中走ってるのは
珍しいんかも知れないけどさ、
そんなこと言ってられないんだよ!
だって、だって、お母さんほんとに起こしてくれないんだよ!?
信じられないでしょ!?
そりゃぁ目覚まし止めちゃったのんも悪いけどー!
あぁー!転校して次の日に遅刻なんてありえないよ!!!
校門を抜け、昇降口へ駆け込む。
靴を履き買え廊下を駆け抜ける。
階段を掛け上り、教室のある3階についた時、SHRの始まりを告げるベルが鳴った。
のんは一気にラストすパート!
「間に合ったーーー!!!」
勢いよく教室に飛び込んだんだけど……
「つーじーさんっ!」
後ろからのケメ子の声に、今まで走ってきてほてった体は
冷水を浴びせられたように一気に冷えた。
- 58 名前:1−3 Side N 投稿日:2006/11/01(水) 22:38
- ―――
「のんちゃんだいじょうぶ?」
「あさみちゃぁぁ〜ん」
のんは情けない声であさ美ちゃんにすがりつく。
のんはSHRの時間中、ずうっと教壇でお説教。
恥ずかしいは情けないはったらもう。
「で、のんちゃん、1時間目の数学の宿題はやってきたよね?」
不安げに尋ねてくるあさ美ちゃんの言葉に、のんは固まった。
「……ははは」
「はぁ……早く写して」
「かたじけないっす」
のんは、呆れながらもノートを差し出してくれるあさ美ちゃんにぺこっと頭を下げた。
- 59 名前:1−3 Side N 投稿日:2006/11/01(水) 22:38
-
- 60 名前:1−3 Side N 投稿日:2006/11/01(水) 22:40
- ―――
そんなこんなでやっとお昼。
待ちに待ったお弁当の時間。
もう、のん、腹ペコで腹ペコで―――
だって、今日朝ご飯も食べれなかったし、
しかも学校まで全力疾走して来たんだもん。
残念ながら報われなかったけど。
さってと今日のお弁当はなんかなぁ?
のんはうきうきしながらお弁当を取り出そうとした。
「あー!!!!!」
ちょっと、ない!ないよ!!ないよ、のんのお弁当!
「「「のんちゃんどうしたの?」」」
のんが慌てふためいて、カバンをひっくり返したり、机の下のぞいたり、
スカートをパタパタ叩いたりして探していると、みんなが心配そうに聞いてくれる。
「お、おべん」
「「「おべん?」」」
「お弁当、忘れた〜」
のんは自分の席に崩れ落ちる。
- 61 名前:1−3 Side N 投稿日:2006/11/01(水) 22:42
-
「「「きゃはは」」」
みんなはそんなのんを見て大笑いし出した。
もう、人のことだと思って〜。
のんにとってのお弁当がどれだけ大事か知らないんでしょ?
「あ〜、のんちゃん、私達の分けてあげるから」
「ありがとう、がきさぁん!!」
と言うことでみんなから少しずつ分けてもらったんだけど〜―――
自他共に認める大食らいののんにそんなんで足りるわけもなく―――
購買でなにか買おうにも、学園の方針とかで購買ないし。
- 62 名前:1−3 Side N 投稿日:2006/11/01(水) 22:43
-
「はあ〜、せめて購買でもあればなぁ。
今時購買もないなんて信じらんないよ」
いまだにへこんでぶつぶつ言っていると、隣からすっとお弁当箱が差し出された。
「え?」
「食べて」
「あいぼん?あいぼんは?」
「うち、食欲ないから」
あの優しくあどけない笑顔を浮かべてそう言うと、
あいぼんは席を立って、教室を出て行ってしまった。
- 63 名前:1−3 Side A 投稿日:2006/11/01(水) 22:44
- うち、どうしたんやろ?
なんであんなことしてしまったんやろ?
うちは人と関わってはいけないのに。
うちは一人礼拝堂へ向かいながら思う。
お弁当に一喜一憂している彼女を見ていたら、なんだか懐かしいような、
優しいような気持ちになってしまい、あんなことをしてしまった。
うちも彼女が喜んでくれたのは嬉しい。
でもクラスのみんなに、うちが彼女にあんなことをしたのを見られてしまった。
教室を出る時、うちを見ながらこそこそ話しをする声が聞こえていたから
間違いないと思う。
それはうちにとってはいつものこと。
だけど、これからはこれをきっかけに―――
これをきっかけに彼女も面白おかしく話題にされてしまう。
無意味に傷つけられてしまう。
うちは人と関わってはいけなかったのに。
うちは自分の軽率さを悔やみ涙がこぼれそうになった。
- 64 名前:1−3 Side A 投稿日:2006/11/01(水) 22:45
-
うちは両脇に植えられた花が、鮮やかな色と、柔らかな芳香を放つ礼拝堂までの
石畳の道を一人歩く。
いつもは孤独を忘れさせてくれるそのやさしい風景も、今日はとても色あせて見えた。
うちは重い扉を開いて礼拝堂に入ると、マリア様の前に跪き祈った。
「マリア様、罪深き私をお許し下さい。
そして、彼女が傷つけられることがありませんよう。
彼女が苦しむことがありませんよう、よろしくお願いします」
この時のうちは気づいてはいなかった。
初めて、あの人以外のために祈っていたことに。
- 65 名前:1−3 Side N 投稿日:2006/11/01(水) 22:48
-
「うぅ〜〜〜ん!おいしぃ〜〜〜!」
のんは、あいぼんからもらったお弁当食べながら叫ぶ。
ちょうどテレビで見る、レポーターのおじさんみたいにくるくる顔回して。
そしたら今までなぜかビックリしたような表情でのんを見詰めていた
みんなが笑ってくれた。
「ん?みんなどうしたの?」
「「「ううん、なんでもないよ」」」
みんな優しい笑顔で、そう言ってくれた。
あいぼんのお弁当は栄養のバランスも考えられていて、彩りも綺麗で、
なによりも美味しかった。
「あいぼんのお母さん、お料理上手なんだね〜いいなぁ」
のんは、そかっとカツを食べながら呟く。
「ううん、のんちゃん、それはあいぼんが作ったんだよ」
あさ美ちゃんが教えてくれる。
「え?そうなの?」
「うん、あいぼん、ご両親なくなってるから」
「……そうなんだ」
- 66 名前:1−3 Side N 投稿日:2006/11/01(水) 22:50
- のんはあいぼんの哀しそうな瞳を思い出す。
そうか、お父さんもお母さんもいないんじゃ寂しいよね。
のんが元気分けて上げたいな。
「あ、だいじょうぶ。もうずいぶん前のことであいぼんももうとっくに立ち直ってるから、
そんな顔しないで」
「そうなの?」
「うん」
そうなんだ、じゃあなんであいぼんはいつも哀しそうなんだろう?
今度は大根の煮物を口に放り込む。
ううん、おいしい。
まったりはんなり昆布だし♪
「あ、じゃぁ、あいぼん、誰と暮らしてんの?」
のんはに物を味わいながら尋ねる。
「一人暮らし。お姉さんいるんだけど、
お仕事の都合で長いこと海外に行ってるから」
「そっかぁ」
それじゃぁやっぱり寂しいよね。今度遊びに行ってみようかなぁ?
あいぼん、よろこんでくれるかな?
のんは、今度は綺麗に焼き上がっている玉子焼きを口に入れる。
ふんわりやわらかく焼かれた玉子焼きは、ほんのり甘くってとても優しい味がした。
なんだかそれはあいぼんの優しさに触れたみたいで少し嬉しく感じた。
- 67 名前:1−3 Side N 投稿日:2006/11/01(水) 22:50
-
「ごっちそうさまぁ!」
「のんちゃん、ご飯食べてる時ほんと幸せそうだね」
のんが食べ終わると愛ちゃんが笑いながら言う。
「だって、あいぼんのお弁当、おいしかったんだもん!」
のんは元気よく答えた。
そんなのんにみんなは、懐かしむようなとっても暖かい笑顔で微笑みかけてくれていた。
その時ののんには、その微笑のほんとの意味を知ることはできなかった。
- 68 名前:1−3 Side A 投稿日:2006/11/01(水) 22:53
- 「のんちゃん、今日はどうする?」
「あ、のん、今日バレー部見学に行こうかなって」
「そっかぁ、がんばってね」
「うん」
放課後。
彼女とあさ美ちゃんのそんな会話が聞こえてきた。
うちは少し安心した。
彼女とあさ美ちゃんがそれぞれ部活に行くのであれば、昨日みたいなことは
もう起こらないと思ったから。
- 69 名前:1−3 Side A 投稿日:2006/11/01(水) 22:56
-
「あ、あの、あいぼん、お弁当ありがとうね」
うちが帰る準備をしていると、不意に彼女に声を掛けられた。
「すっごくおいしかったよ。あれあいぼんが作ったんだよね?
あいぼんお料理上手なんだね?今度教えてよ。
って言うかまた食べさせてくれるほうが嬉しかったりして?
「…………」
楽しげに話してくれる彼女。
でも駄目。
うちは決めたんやから。
「のんさぁ、ほんとにお腹空いてて死にそうだったんだぁ。
あ、でもほんとにあいぼんはだいじょうぶ?
ほとんど手つけてなかったみたいだけど、お腹空いてたりしない?」
「だいじょうぶ」
うちは彼女と目を合わさないように手元に視線を落とし、そっけなく返した。
- 70 名前:1−3 Side A 投稿日:2006/11/01(水) 22:57
-
「そう?それならいいけど」
彼女はちょっと困ったように答える。
うちはそんな彼女を気にしないように努めて、なるべく冷淡に話しかける。
「お弁当箱」
「え?」
「お弁当箱、返して?」
「あぁ、洗って返すよ」
「それしかないからいいよ」
うちは事務的に会話をして彼女からお弁当箱を返してもらった。
これで―――
これで最後。
彼女と関わるのは。
これで最後。
うちは強く自分に言い聞かせた。
何度も―――
何度も―――
- 71 名前:1−3 Side N 投稿日:2006/11/01(水) 23:00
- どうしたんだろ?のん、あいぼんのことなにか怒らせちゃったのかな?
お昼休みはあいぼんが教室に戻ってくるのぎりぎりだったし、6時間目は体育で、
着替えとかあったから、ろくにお話できなくって……今お礼言ったんだけど……
すぐにお礼言わなかったから怒っちゃったのかなぁ?
そんなことで怒るような子じゃないよねぇ?
のんは助けを求めるように周りを見渡した。
でも前の3人はさっき部活に行ったから、もういなくって。
あさ美ちゃんに視線を向けると、あさ美ちゃんは机に視線を落として哀しそうにしていた。
あさ美ちゃんもさっきまで笑ってくれてたのに。
「あさ美ちゃん?」
「どうしたの?のんちゃん」
声をかけると、あさ美ちゃんは微笑み返してくれた。
「だいじょうぶ?」
「え?何が?」
きょとんとして問い返してくるあさ美ちゃん。
だけど―――ー
やっぱりどこか哀しそうで。
あさ美ちゃんが哀しそうなのはやっぱりあいぼんが原因なの?
あいぼんがいつも哀しそうなのにはなにかあるの?
ねえ、二人は何を隠してるの?
そう思ってものんは、聞くこともできなくって。
だって、昨日あさ美ちゃんがそのうち話してくれるって言ったから。
だからのんから催促してはいけないと思ったんだ。
でもその日、その答えの一端を、のんは意外なところから知ることになった。
- 72 名前:1−3 Side N 投稿日:2006/11/01(水) 23:02
-
- 73 名前:1−3 Side N 投稿日:2006/11/01(水) 23:03
- 「……バレー部……どうしよっかなぁ」
のんは家に帰ってくると、クッションを抱きかかえてベットに持たれ、床に座りこんだ。
今日、バレー部の見学をして来た。
今までの学校みたいに熱心な練習ではなかったけど、楽しそうではあった。
でも―――
でものんは入部を迷っていた。
だって、だってみんなあいぼんのことあんな風に言うんだもん。
- 74 名前:1−3 Side N 投稿日:2006/11/01(水) 23:06
- ―――
「辻さん、加護さんと同じクラスなんですよね?」
見学終えた後、言われた言葉。
最初はバレーの話とか、前の学校の話しとか、好きな食べ物の話とかしてたんだけど、
話がクラスのことになると、そんなことを聞かれたんだ。
「うん、席、隣だよ」
「まあ〜、それは災難ですね?」
その子は大げさに肩をすくめて言う。
なんでってのんが問い返すと
「加護さんって素行悪いんです」
「加護さんっていろんな男性とつきあってるらしいですよ」
「朝帰りもしょっちゅうですって」
「あぁ、私も朝、加護さんの家とは反対の駅から電車に乗ってくるの見ました」
「それに援助交際もしてるんですって」
「時々何日か学校休むことあるんですけど、子供下ろすためらしいですわ」
「いつも長袖なのは、注射の跡、隠すためらしいですよ?」
「えぇ?なんですかぁそれ、私初耳ですぅ」
「知らないんですか!?薬やってるって有名ですよ!」
- 75 名前:1−3 Side N 投稿日:2006/11/01(水) 23:06
- 堰を切ったように話し始めたバレー部のみんな。
でもみんななんだか楽しそうで、そしてその笑顔はなんだか安っぽくって、
のんは苛立ちを覚えた。
「ねっ、辻さん、ですから加護さんとは関わらないほうがいいですよ」
「……うん」
だからもう最後の方は適当に聞き流し、投げやりに返事をしていた。
- 76 名前:1−3 Side N 投稿日:2006/11/01(水) 23:08
- ―――
「……あいぼん」
のんは一人、あいぼんの笑顔を思い出す。
優しくあどけない笑顔。
だけど哀しい色した瞳。
ねぇあいぼん、あいぼんはみんなが言うような子なの?
のんにはどうしてもそうは思えないよ。
のんは胸の中のクッションを強く抱きしめた。
- 77 名前:ぱせり 投稿日:2006/11/01(水) 23:10
- 明日は所用で更新できないので一日早く更新しました。
- 78 名前:ぱせり 投稿日:2006/11/01(水) 23:12
- >>55-56のタイトル覧は「1−3 Side A」でした。
- 79 名前:ぱせり 投稿日:2006/11/01(水) 23:16
- レスのお礼です。
>>52さん、発見してくださってありがとうございます。
よろしければ最後までお付き合い下さい。
>>53さん、仲良くなれるのでしょうか・・・
期待に答えられるか分りませんががんばって書いて行きますので、応援してやってください。
次週、彼女の秘密が明らかに(早)
- 80 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/03(金) 17:56
- あいぼんさん。・゚・(ノД`)・゚・。
- 81 名前:1−4 Side N 投稿日:2006/11/09(木) 22:33
- あれから十日余り。
なんだかのんは、あいぼんに話し掛けられずにいた。
別に噂を信じたわけじゃないよ。
でもね、でも―――
なんだかあいぼん、のんが話しかけるの嫌みたいだし、それにやっぱりどんなこと言ったら
いいのか分らなくって。
でも今日はあいぼんのことが気になってしょうがない。
いつもおとなしいけど、今日はいつも以上におとなしい。
って言うかふさぎ込んでる感じもする。
ひょっとしたら体調が悪いのかも?
少し顔色も悪いような気がするし、時々辛そうな表情をしてる。
のんはそんなあいぼんのこと気にかけながらも、みんなとおしゃべりしながら
お弁当を食べていた。
- 82 名前:1−4 Side N 投稿日:2006/11/09(木) 22:37
-
「あいぼん、どうしたの?」
突然、あいぼんが開いたばかりのお弁当をしまって教室を出て行こうとする。
「…………」
でもあいぼんは、のんの言葉を無視して教室を出て行こうとする。
「ねぇ、あいぼん、どうしたの?今日辺じゃない?」
「……そんなことない。だいじょうぶやから心配せんといて」
あいぼんは振り返ることもなく、冷たく言うとそのまま教室を出て行こうとする。
「ねぇ、あいぼん」
「っ!」
駆け寄ってあいぼんの腕を掴むと、あいぼんの表情が苦痛に歪んだ。
「ごめん、痛かった?
のん、バカ力だから」
「ううん、だいじょうぶ」
「ほんとに?」
のんが心配してそう問いかけると、あいぼんはなぜだか酷く哀しそうな顔をした。
- 83 名前:1−4 Side N 投稿日:2006/11/09(木) 22:38
-
「あいぼ」
「辻さん!」
のんはその強い口調にはっとする。
「……みんな見てるよ」
そして最後の言葉をのんにだけ聞こえるぐらいの小さな声で言った。
とても哀しそうに。
のんが教室を見渡して見ると、クラスメイト達がこちらにちらちらと視線を送りながら
なにかこそこそ話し合っていた。
「……あいぼん」
そしてのんがそれに気を取られている間に、あいぼんは静かに教室を出て行ってしまって
いた。
あいぼん、あいぼんがお話してくれないのって、もしかしてのんのためなの?
のんは既にドアの向こうに消えた小さな背中に問いかけた。
- 84 名前:1−4 Side A 投稿日:2006/11/09(木) 22:40
- あれから十日、彼女はうちに声をかけてこなくなった。
もちろん、どうしても用事がある時は声をかけてくるけど、その時は困ったような笑顔を浮かべなんだかぎこちない。
きっとうちの噂を耳にしたんだと思う。
そんな彼女の顔を見ていると少し胸が痛んだけど、それで言いと思った。
だってうちに関わらなければ、もうこれ以上彼女が傷つけられることは無くなるから。
- 85 名前:1−4 Side A 投稿日:2006/11/09(木) 22:41
-
辻さん。
彼女が転校して来てくれてほんとに良かった。
彼女が転校して来て以来、班の中でも彼女を中心に笑いが絶えなくなっていた。
あさ美ちゃんもまだ時々哀しそうな顔するけど、みんなも寂しそうにすることあるけど、
彼女がいてくれれば、いつかみんなうちのこと忘れてくれる。
そう思って安心していた。
なのに―――
- 86 名前:1−4 Side A 投稿日:2006/11/09(木) 22:46
-
「あいぼん、どうしたの?」
うちは体の痛みに絶えかねて、食事を諦め、一旦開いたお弁当をしまい、席を立つと
彼女が声を掛けてきた。
「…………」
どうして?どうして貴方は―――
うちは聞こえない振りをして出て行こうとする。
「ねぇ、あいぼん、どうしたの?今日辺じゃない?」
でも彼女は、そんなうちに優しい言葉を掛けてくれる。
「……そんなことない。だいじょうぶやから心配せんといて」
うちはなるべく冷淡に返すけど、彼女は諦めてくれない。
「ねぇ、あいぼん」
「っ!」
腕を掴まれ、激痛がはしる。
「ごめん、痛かった?
のん、バカ力だから」
「ううん、だいじょうぶ」
うちは思わず答える。
- 87 名前:1−4 Side A 投稿日:2006/11/09(木) 22:49
-
「ほんとに?」
止めて、そんな顔で見ないで。
そんな顔で見られるとうち―――ー
ねぇ辻さん、貴方もうちの噂聞いたんでしょ?
じゃあうちと関わってるとどうなるか分るでしょ?
ううん、彼女はきっと気づいていないんだ。
「あいぼ」
「辻さん!」
彼女が驚いたように顔を上げる。
「……みんな見てるよ」
だから彼女に教えてあげた。
今の状況を。
うちに関わってるとどうなるかを。
- 88 名前:1−4 Side A 投稿日:2006/11/09(木) 22:49
- やっぱりだ。
彼女はあたりを見渡して初めて気づいたみたい。
とても寂しそうな顔をしている。
ね、辻さん、これで分ったでしょ?
貴方はうちに関わらないほうがいいの。
「……あいぼん」
うちは寂しそうな彼女の声を背中に聞きながら教室を後にした。
これでいいの。これで―――
彼女にはずっと笑顔でいて欲しいから。
うちのせいでこれ以上哀しい思い、させたくないから。
- 89 名前:1−4 Side N 投稿日:2006/11/09(木) 22:53
- 「のん、だいじょうぶ?」
のんが席に戻ると、麻琴が心配そうに声を掛けてくれる。
「うん、だいじょうぶ」
「ねえ、のんちゃん、もしかしてのんちゃんもあいぼんのうわ」
「愛ちゃん!」
哀しそうに問いかける愛ちゃんをがきさんが咎める。
「うん、聞いた」
のんが答えるとみんな寂しそうに俯く。
「でも、嘘だよね?」
「「「え」」」
みんなのんの言葉に驚いたようにパット顔を上げる。
- 90 名前:1−4 Side N 投稿日:2006/11/09(木) 22:53
-
「だってあれ嘘なんでしょ?」
「「「うん」」」
のんが答えると、みんな戸惑いながらも頷いてくれた。
「でも、なんでのんはそう思うの?」
それでも麻琴は少し不安そうに節目がちに尋ねてくる。
「ううん、あいぼん見てて、
あいぼんの笑顔見てそう思った」
「「「うん」」」
今度ののんの答えには、みんなほんとに嬉しそうに頷いてくれた。
その笑顔を見てのんも確信で来た。
やっぱり噂は噂なんだってことを。
あの笑顔のあいぼんが本当のあいぼんだってことを。
きっとさっきのんが感じたことも間違いじゃないってことを。
- 91 名前:1−4 Side A 投稿日:2006/11/09(木) 22:55
- うちは礼拝堂に着くと、痛む体でマリア様の前に跪いた。
「マリア様、あの人をお許し下さい。
私が全て悪いのです。
あの人に罪を犯させてしまう、私がいけないのです」
うちは昨夜のことを思い出しながら、マリア様に祈った。
- 92 名前:1−4 Side A 投稿日:2006/11/09(木) 22:57
- ―――
昨夜、いつもの通りうちはあの人の部屋で、あの人のために夕飯の準備をしていた。
「ただいま」
「あ、おかえりなさい、ご飯の準備もう少しでできるから」
「ううん、お風呂に入る」
「え?お風呂、ご飯の後じゃ?」
「お風呂準備してないの?」
うちは低いトーンに替わった声に俯いた。
「……だっていつもご飯の後やから」
そう言い終わらないうちにふいに胸倉を掴まれた。
「はあ?ご飯食べなきゃお風呂入っちゃいけないわけ!?」
「……いや、あの」
「今日暑かったじゃん!」
「……うん」
「じゃあ、ご飯の前に汗流したいと思ってもおかしくないでしょ!?」
「……そんな」
「なに?口答えするんだ?」
うちは突然床に投げ出された。
倒れる時に肩がテーブルにぶつかり、ガシャンと耳障りな音を立てた。
- 93 名前:1−4 Side A 投稿日:2006/11/09(木) 22:58
-
「ごめんなさい!」
「なんだよ!?美貴の気持ち考えないあいぼんが悪いんだろ!」
そう言いながらあの人―――
美貴ちゃんはうちのおなかを蹴り上げた。
「ごめんなさい!」
うちは丸まってただ誤り続ける。
「なんであいぼんは美貴の気持ち分んないんだよ!
恋人なんだろ!?愛してるんだろ!?
もっと美貴のこと考えてよ!
もっと美貴のこと分かってよ!」
うちは美貴ちゃんの悲痛な叫びを聞きながら、ただ美貴ちゃんの怒りが静まるまで、
体中に加えられる痛みに耐えていた。
- 94 名前:1−4 Side A 投稿日:2006/11/09(木) 22:59
- ―――
うちは荒々しくドアを閉める音で気がついた。
どうやら少しの間気を失っていたらしい。
うちは顔を上げて部屋の中を見渡した。
並べていた食器が散らばり砕けている。
また新しい物を買ってこなければ不便を来たすほどの量。
料理を運んできてなかったのがまだ救いかも知れない。
「っ!」
うちは片付けようと思い、身を起こそうとして、再び蹲った。
そして知らず知らずのうちに涙が滲んできた。
『なんであいぼんは美貴の気持ち分んないんだよ!
恋人なんだろ!?愛してるんだろ!?
もっと美貴のこと考えてよ!
もっと美貴のこと分かってよ!』
美貴ちゃんの言葉を思い出し、胸が締め付けられる。
ほんとに自分が情けなかった。
大切な人を傷つけてしまって。
ここまで追い込んでしまって。
うちはしばらくの間、ただ蹲って涙を流し続けていた。
- 95 名前:1−4 Side A 投稿日:2006/11/09(木) 23:00
- ―――
「マリア様、全て私が悪いのです。
あの人の気持ちを推察してあげられない私が、
あの人を傷つけてしまう私が、
いたらない私が悪いのです。
どうか、あの人をお許し下さい。
お救い下さい」
『美貴の気持ち考えないあいぼんが悪いんだろ!』
そう、全てうちが―――
- 96 名前:1−4 Side N 投稿日:2006/11/09(木) 23:02
- のんは部活を終え、一人、駅から家までの道をとぼとぼと歩いていた。
『辻さん、この前加護さんとなにか言い争ってたそうですね?』
『だいじょうぶですか?加護さんにひどいこと言われたって聞きましたけど?』
『気をつけてくださいね?どんな手使って嫌がらせしてくるか分らないんですから』
今日部活に行くと、バレー部のみんなは心配そうに、
ううん、なんだか嬉しそうに話しかけてきた。
それがとても悔しかった。
みんなろくにあいぼんと話したことない子ばかりなのに、
なんでそんなこと言えるの?って。
お話したことなくても、あのあいぼんの笑顔見たらそんな子じゃないって分るのにって。
のんは唇を噛み締、ぼんやり滲んだローファーの先を見詰めた。
- 97 名前:1−4 Side N 投稿日:2006/11/09(木) 23:04
-
「のーん、どうしたんだー!」
その時、バーンと言う派手な音と共に、背中に強烈な痛みがはしった。
「どうした?しけた面してぇ?
似合わねーぞぉー」
「よっちゃん」
のんが顔を上げると、お隣さんのよっちゃんが、にこにこ人懐っこい笑顔を浮かべ、
立っていた。
よっちゃんは気さくなお姉ちゃんで、引越しの挨拶をしにいったその日に、
真希姉と共にすぐ仲良くなった。
- 98 名前:1−4 Side N 投稿日:2006/11/09(木) 23:05
-
「よしっ、うちがなんかおごってやる、付き合え!」
「でも、もうご飯だし……」
「なぁに言ってんだ?のんならいくらでも食えんだろ?
なんでもおごってやるから付き合え!」
「うん」
のんは頷く。
「よし、なににする?サーモンベーグルサンドか?
ローストチキンベーグル三度か?ベーコンレタスベーグル三度か?」
ベーグルばっかりじゃん!ってのんが突っ込むと、
いいからいいからって笑いながら、のんを引きずって、近くのファーストフード店へ
入って行った。
- 99 名前:1−4 Side N 投稿日:2006/11/09(木) 23:07
-
「で、なぁに悩んでんだよ」
「……うん」
「なんだ?いじめられでもしたんか?」
真面目な顔になって心配そうに聞いてくれるよっちゃんに、のんはゆっくりと話し始めた。
―――
「で?」
話を聞き終わったよっちゃんは、のんの目をしっかり見詰め、短く問いかけた。
「え?」
「え?じゃないよ。
のんはそんな噂信じてないんだろ?」
「……うん」
「じゃぁそれでいいじゃん?」
「でも!」
「のん、聞くけど、のんは一番になにがしたいの?」
「なにがしたいって……」
のんは質問の意図が掴めずに、口篭ってしまった。
「ううん、じゃあどうなって欲しい?」
「あいぼんに笑顔になって欲しい」
今度は即答した。
うん、あいぼんに笑顔になって欲しい。
あんな、哀しい瞳の笑顔じゃなくって、ほんとの笑顔に。
そしたらみんなもきっと笑顔になれる。
そう思うし。
- 100 名前:1−4 Side N 投稿日:2006/11/09(木) 23:09
-
「ならいいじゃん」
「え?」
「のんはその子の友だちなんだろ?」
「……たぶん」
「たぶんってなんだよ?」
「だってあいぼん、話しかけるの嫌そうにしてることあるし」
「それはのんのためなんだろ?」
「それだって、のんがかってにそう思ってるだけだし」
「ヴァーカ、嫌いなやつに弁当くれねーって」
「……そう……だよね?」
のんはお弁当くれた時の、あいぼんの笑顔を思い出す。
うん、あれは確かに本物の笑顔だった。
あの、最初に目があった時と同じ本物の笑顔。
- 101 名前:1−4 Side N 投稿日:2006/11/09(木) 23:09
-
「で、話し戻すけど、その子を笑顔にしたいだけなら、
のんがその子の友だちでいるだけでいいんじゃん?」
「どういうこと?」
「だいたい噂なんてもんは、一人の力じゃどうにもなんねえし、
消せたにしてもそうとう時間がかかる」
「……うん」
「それに噂を消せたにしても、それでその子が笑顔になれるの?」
どうだろう?そう言われて見ればそんなこと考えてもみなかった。
のんは、トレイの上の飲みかけのコーヒーに、視線を落とし考える。
あいぼんがいつも哀しそうなのは噂のせい?
……たぶんそう。
じゃあ、やっぱり噂が消えれば笑顔になれるんかな?
……なんだかそんな気はしない。
なんでだろう?
この時ののんはそれ以上考えつかなくって。
だから、今思ったことだけを、なにも言わずに優しい目で答えを待ってくれている
よっちゃんに伝えた。
- 102 名前:1−4 Side N 投稿日:2006/11/09(木) 23:11
-
「ううん、違うと思う」
「だろ?だからのんはその子を信じて友だちでい続ければいいんだよ。
のんらしくバカなこと言ってさ、笑わせてあげるだけでいいんだって。
いつもそばにいてあげるだけでいいんだって」
「……そうだね」
「辛い時に傍にいてあげるのが友だちってもんだろ?」
「うん!」
そうか。そうだね。
のん、なんか大切なこと忘れてたみたい。
「な、単純だろ?」
「うん」
「のんみたいなバカは、考えすぎちゃいけないんだよ」
とたんにいつものふざけた様な口調でよっちゃんは話しだす。
だからのんもその優しさに答える。
「よっちゃんにはいわれたくないもん」
よっちゃんはひでーなーって言って、へらへら笑いながらベーグルにかぶりついてる。
- 103 名前:1−4 Side N 投稿日:2006/11/09(木) 23:12
-
よっちゃん、ありがとうね。
ほんとにほんとにありがとう。
のん、決めたよ。
のんはあいぼんに笑顔を取り戻すって。
必ず笑顔にしてみせるって。
この時、のんはそう誓ったんだ。
- 104 名前:1−4 Side A 投稿日:2006/11/09(木) 23:16
-
「あいぼん!」
うちが合鍵出部屋に入ると、美貴ちゃんが飛び出してきた。
うちは一瞬身を難くしたけど、すぐに安心した。
美貴ちゃんの声がとても優しかったから。
この三日感、うちは美貴ちゃんと顔をあわせるのが怖くって、美貴ちゃんが帰る前に
食事やお風呂の準備をすませ、帰っていた。
ほんとうならこの時間は、美貴ちゃんが帰ってるような時間ではないんだけど、きっと
顔をあわせないうちのことを心配して、早く帰ってきてくれたんだと思う。
- 105 名前:1−4 Side A 投稿日:2006/11/09(木) 23:17
-
「あいぼん、あいぼんごめんね」
そう、涙ぐみながら美貴ちゃんが抱きしめてくれる。
「ごめんね、この前痛かったよね?」
「ううん、だいじょうぶ」
「美貴のこと怒ってる?嫌いになった?」
「ううん、そんなことないよ」
うん、嫌いになるわけないよ。
だって美貴ちゃんがほんとは優しいこと、うちは知ってるから。
「ほんとに?ほんとに美貴のこと許してくれる?」
「うん、美貴ちゃんの気持ち、分ってあげられなかったうちが悪いんやから」
「ありがとう、あいぼん」
そのまましばらくの間、美貴ちゃんは優しくうちを抱きしめてくれていた。
そしてじゃあ、ご飯の準備するからってうちが言うと、今日はピザでも取ろうって
言ってくれた。
いつも準備させてごめんねって。
いつもありがとうねって言ってくれて。
- 106 名前:1−4 Side A 投稿日:2006/11/09(木) 23:18
-
「ねぇ、あいぼん、ピザ何にする?」
「美貴ちゃんの好きなのでえぇよ」
「ううん、今日はあいぼんの好きなの」
笑いながら肩を抱いてメニューを見せてくれる。
「じゃぁ、これ」
「なんだ、いつもといっしょじゃぁん」
「だって、うちもこれ、好きなんやもん」
そう、美貴ちゃんの好きなのは、うちも好きやもん。
それから二人でご飯を食べて、帰ろうとすると、美貴ちゃんに引きとめられた。
「今日は傍にいて。
じゃないと、あいぼんがどっか言っちゃいそうで不安なんだ」
って。
うちがためらっていると、美貴ちゃんが甘えるように言う。
「ね、あいぼんの嫌がるようなことしないから」
とても寂しそうな眼差しで。
だからうちは小さく頷いた。
- 107 名前:1−4 Side A 投稿日:2006/11/09(木) 23:19
- ―――
美貴ちゃんは約束どおり、ベットに入っても何もしなかった。
ただうちを抱きしめて安心したように眠っている。
(こんな日が続けばいいのに)
うちは美貴ちゃんの寝顔を見ながら思った。
ううん、きっと続く。
だってさっき約束してくれたもん。
もう暴力は振るわないって。
うちが嫌がることもしないって。
ね、美貴ちゃん、うちもがんばるから、美貴ちゃんに怒られないようにするから、
二人で幸せになろうね。
うちは改めて美貴ちゃんの支えになるって、
美貴ちゃんのために生きるって。
この時うちは、そう誓った。
- 108 名前:ぱせり 投稿日:2006/11/09(木) 23:21
- 台一章終了です(早)
- 109 名前:ぱせり 投稿日:2006/11/09(木) 23:25
- 区切りがいい所と言うことで、一周お休みさせていただきます。
すみません。
- 110 名前:ぱせり 投稿日:2006/11/09(木) 23:27
- レスのお礼です。
>>80さん、あいぼんさん、こんな感じでした。
これからどうなって行くか見守ってやってください。
- 111 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/10(金) 23:18
- 毎週読んでました。お疲れ様でした。
意外な人が出てきましたね…主人公達には幸せになって欲しいです。
- 112 名前:DOUBLE VOW 投稿日:2006/11/23(木) 23:27
-
第二章
- 113 名前:PROLORGUE 投稿日:2006/11/23(木) 23:30
- ハリネズミさんは みんなのことが だいすきでした。
ちっちゃいころから いっしょだった リスさんも
おいしい このみを わけてくれる アライグマさんも
いつも たのしい おしゃべりをしてくれる ビーバーさんも
おうたが じょうずな ことりさんも
みんな みんな だいすきでした。
でも ちかごろ ハリネズミさんは みんなと あそぶことを やめました。
それは ハリネズミさんが おおきくなるとともに
いままで やわらかかった ハリが
かたく するどくなってきたからです。
ハリネズミさんが みんなに ちかづけば
みんなを きずつけてしまうからです。
そんな あるひ。
きの あなの なかまが ふえました。
ノネズミさんです。
ノネズミさんは とっても やさしく げんきなこで
みんなと すぐに うちとけて なかよしに なりました。
ハリネズミさんは これで じぶんが みんなと おわかれしても
みんなが さみしいい おもいを することはないと
とても あんしんしていました。―――
- 114 名前:PROLORGUE 投稿日:2006/11/23(木) 23:32
- 「だぁっれだっ♪」
朝。
うちがいつものように教室で絵本を書いていると、楽しげな声と共に、突然
視界がふさがれた。
「辻さん、ごきげんよう」
「も〜、あいぼん、のんって呼んでっていってんじゃん」
彼女は後ろからのぞきこませた顔を、わざとらしく膨らませる。
「ごめんね、のんちゃん」
うちはそんな彼女をあしらうように、軽く謝る。
「もうだめ、許してやんない。
あいぼんには罰ゲーム!」
「え?」
「あいぼんはのんって呼ぶこと!
辻さんとか、のんちゃんとか、のんさんとか、
はたまたのんたんとかは許しません!」
「ちょっと」
「決まり!
他の呼び方したらずぇ〜ったい返事しないかんね」
戸惑ううちの抗議を全て無視してそう言うと、彼女はどかっと自分の席に腰を下ろす。
大またを開いて。
- 115 名前:2−1 Side A 投稿日:2006/11/23(木) 23:34
-
「……はぁ」
うちは小さくため息を吐くと、再び絵本に向かった。
「もう、返事はぁ?」
すると彼女がうちの手からさっとペンを抜き取ってしまう。
「辻さん、返して」
「…………」
彼女はうちを無視してペンをくるくる回して遊んでいる。
「辻さん」
「辻さんってだぁれぇ?のん知らなぁい」
どうやら彼女は本気らしく、のんと呼ばなければ返してくれないようだった。
「のん、返して」
「しゃぁないなぁ」
彼女は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、そっとペンを返してくれた。
- 116 名前:2−1 Side A 投稿日:2006/11/23(木) 23:38
-
彼女はここ一週間、こうして早く登校して来てはうちの邪魔をする。
最初はうちも取合わなかったのだけれど、それでもしつこく話しかけたり、
いたずらをしかけてくる彼女に折れた。
誰もいない時間なら、うちと話をしていても、彼女が悪く言われる心配はないと
思ったから。
でもそれはただの口実で、知らず知らずのうちに、うちが彼女に、
のんに甘えていたのかもしれない。
あれから美貴ちゃんに怒られることもなく、幸せに過ごせていたのも
その甘えを助長させてしまう要因だったとも思う。
「あいぼん、あいぼんってさぁ、マシュマロみたいだよね」
こっちをじっと見詰めていたかと思うと、彼女が突然そんなことを言う。
「なにそれ?」
「ほっぺとか白くって、ふわふわしてて、かわいいなぁって」
「な」
「あぁ、真っ赤になったぁ、かわいい」
「なってへん」
うちは熱を覚えた頬を隠すために、絵本に顔を近づけた。
「ね〜」
「なに?」
うちは恥ずかしくって少し無愛想に返す。
でもそんなうちを気にも止めることもなく、彼女は楽しげに続ける。
- 117 名前:2−1 Side A 投稿日:2006/11/23(木) 23:39
-
「まだ絵本できないの〜」
「誰かさんが邪魔ばっかりするからね」
うちはペンを走らせながら返す。
「えぇ、早く見たいのにぃ」
「誰も見せるなんて言ってへんやん」
「やだ、ぜったい見るもん」
彼女は足をドンと鳴らして宣言する。
うちはその子供のような発言と行動に、窓から差し込んでくる初秋の日差しと同じような暖かさを胸に感じ、口元が緩むのを押え切れなかった。
- 118 名前:2−1 Side N 投稿日:2006/11/23(木) 23:41
- 今朝ものんは教室であいぼんとおしゃべり。
のんは、よっちゃんにアドバイスをもらったあの日から、あいぼんといっぱい
お話しようと思って、早速行動に移したんだ。
でね、きっとあいぼん、みんながいるとお話してくれないと思ったから、のんは
早く登校するようになったんだ。
あいぼんが早く来て、教室で絵本掻いてるって、あさ美ちゃんに一度
聞いたことがあったから。
最初のころはね、やっぱりつれなかったよ。
目を合わせてくれなかったし、返事もほとんど相槌だけだったりさ。
でもね、のんが毎日ちょっかい出してると、少しずつ
笑顔、見せてくれるようになったんだ。
あのね、のん、気づいたんだぁ。
あいぼん、のんと一緒でほんとはいたずらとか、面白いこととか
きっと大好きなんだよ。
だってね、のんがいたずらするとちょっと嬉しそうってか、なんだか楽しそうなんだもん。
- 119 名前:2−1 Side N 投稿日:2006/11/23(木) 23:43
-
のんは、絵本に向かいペンを動かし続けるあいぼんの横顔をぼんやりと見詰める。
朝のさわやかな日差しを受けながら、あいぼんはやさしく微笑んでいた。
瞳の色はまだ少し哀しかったけど、クラスのみんなが来ると消えちゃうけど、
この朝の二人っきりの時間には、初めて目があった時の酔うな、優しくって
あどけない笑顔を見せてくれるようになっていた。
ねぇ、あいぼん、気づいてる?
今のあいぼん、すっごくいい顔してるよ。
のんがじっと見詰めていると、それに気づいたのかあいぼんが顔を上げた。
のんが微笑みかけると、戸惑いながらも少し微笑み返してくれる。
きっともうすぐだね。
あいぼんがほんとうの笑顔取り戻すの。
のんはその時、そう思っていた。
もしかしたら少し、有頂天になっていたのかもしれない。
この時のあいぼんの笑顔が、のんだけの力で生まれた物だって思ってたから。
この時、のんが正しく判断できていれば―――
この先、あいぼんの変化を正しく把握していれば―――
あいぼんをあんな目にあわせずにすんだのかも知れない。
- 120 名前:2−1 Side A 投稿日:2006/11/23(木) 23:46
- 「加護さん」
「はい」
お昼休み。
礼拝堂から教室に戻る途中、うちは老化で保田先生に声を掛けられた。
「加護さん、良い所で会いました。
すみませんが、これを辻さんに渡していただけますか?」
「あ、はい」
うちは差し出された書類を受け取る。
「加護さん、お祈りしていたのですか?」
保田先生はうちが来た方角を見て尋ねて来る。
うちが来た方角には、礼拝堂ぐらいしかせいとが利用する施設はなかったから。
- 121 名前:2−1 Side A 投稿日:2006/11/23(木) 23:48
-
「あ、はい、いえ……その」
うちが返答に困っていると、保田先生は優しく微笑んで言って下さった。
「それは大変良い事です。信じていれば、マリア様はお力を貸して下さいますよ」
「はい」
なんだか、その優しい言葉がこれからの幸せを約束してくれたような気がして
嬉しくなったうちは、先生から預かった書類を胸に抱きしめると、いつになく大きな声で
返事をした。
- 122 名前:2−1 Side A 投稿日:2006/11/23(木) 23:49
- ―――
「辻さん、これ保田先生から」
うちは教室に戻ると、人目に着かないように小声で、みんなと話しをしている彼女に
声を掛ける。
「…………」
「辻さん?」
「…………」
聞こえなかったのかと思い、もう一度声を掛けると、彼女はこっちを見てにやっと笑い、
視線をそらした。
どうやら、まだ今朝のあの罰ゲームは続いていたらしい。
「……のん、これ保田先生から」
「あ、ありがとうあいぼん♪」
彼女は白々しく笑顔で受け取る。
そして楽しげにパチっとウィンクをくれた。
うちはなんだか胸が熱くなって、視線をそらしてしまった。
『信じていれば、マリア様はお力を貸して下さいますよ』
(マリア様、ありがとうございます)
そしてうちは無意識のうちに、胸元のロザリオを握り締め、マリア様にそう祈っていた。
- 123 名前:2−1 Side A 投稿日:2006/11/23(木) 23:55
- 「辻さん、これ保田先生から」
お昼休みももう終わりに近づいたころ、
のんがみんなとおしゃべりしながら、午後の授業の準備をしていると、いつの間にか
教室に戻ってきていたあいぼんから声を掛けられた。
「…………」
でものんはそんなあいぼんを無視。
だって朝、のんて呼ばなきゃ返事しないって言ったのに、のんって
呼んでくれないんだもん。
「辻さん?」
「…………」
だけど、あいぼんはそれを忘れてるのか、まだ辻さんとかって言ってる。
うん?ひょっとして聞こえてないとかって思ってんのかな?
そう思ったのんは、一度あいぼんに視線を送ってからすぐそらした。
それで気がついたらしいあいぼんは、小さくため息をつくと、ためらいがちに口を開いた。
「……のん、これ保田先生から」
「あ、ありがとうあいぼん♪」
そのあいぼんの言葉に満足したのんは、書類を受け取ると、良くできましたって
あいぼんにのんのキュートなウィンクをしてあげた。
- 124 名前:2−1 Side N 投稿日:2006/11/23(木) 23:56
-
「…………」
あれ?失敗だった?
なんだかあいぼんは俯いちゃった。
どうしたんかな?のんがいじわるしたからすねちゃったんかな?
でもしばらくあいぼんのこと観察してても、べつに怒ったような感じもなかったから、
のんは安心して、午後の授業の準備に戻った。
そして、机の横に欠けてあるカバンから荷物を取ろうとした時、
(え?あさ美ちゃん?)
こっちを見詰めていたあさ美ちゃんと目が合い、すぐそらされた。
それは一瞬のことではっきりは分からなかったけど、その表情は怒ってるようにも、
泣いてるようにも見えた。
「あさ美ちゃん?」
「…………」
のん、なんだか気になって、それから何回か声掛けてみたんだけど、あさ美ちゃんは
俯いたまま、その日の授業が終わるまで、のんの言葉に顔を上げてくれることはなかった。
- 125 名前:ぱせり 投稿日:2006/11/23(木) 23:58
- 更新終了です。
- 126 名前:ぱせり 投稿日:2006/11/23(木) 23:59
- 名前覧ぼろぼろ・・・
>>114は2−1 Side A
>>123は 2−1 Side Nでした。
- 127 名前:ぱせり 投稿日:2006/11/24(金) 00:08
- レスのお礼です。
>>111さん、あいぼんサイドの『あの人』のことですよね?
作者は彼女も好きなんですが、この役には彼女しか思い浮かばなかったんですよね。
レスをいただけると本当に励みになります。
また、第二章からもお付き合いいただけると嬉しいです。
- 128 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/25(土) 22:34
- 更新乙です。
ぼんさんののさんが仲良くしてるだけでほろりときますね。
- 129 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/29(水) 01:17
- のんさんは天然ジゴロですな
- 130 名前:2−2 Side N 投稿日:2006/12/01(金) 00:01
- 「あさ美ちゃん立ち、遅いね〜」
その日の放課後。
のんに麻琴、愛ちゃんは門の所であさ美ちゃんとがきさんを待っていた。
のん達5人は部活の後、こうして待ち合わせて一緒に帰るようになっていた。
だって、クラブの子達と帰ると、時々、あいぼんの抽象を聞かされることになるから。
それが嫌なみんなは、以前からこうして自然に一緒に帰るようになっていたんだって。
そして、結局バレー部に入ったのんも、当然のようにそこに加わっていた。
「それにしても遅ない?」
愛ちゃんが携帯で時間を見ながら言う。
「じゃぁ、ちょっとのん、見てくるよ」
そう言い残し、のんは校舎へ向かった。
あさ美ちゃん、午後、ずっと元気なかったのも心配だったのもあったから。
- 131 名前:2−2 Side N 投稿日:2006/12/01(金) 00:02
-
「……ってるの、……のんちゃん
……でもね……ぱり……」
のんが教室まで戻ってくると誰かの話し声が聞こえる。
涙の混じった哀しい声。
これは……あさ美ちゃん?
何で泣いてるの?のん?
のんのせい?
はっきりとは聞こえなかったけど、あさ美ちゃんはのんのことを話してるようだった。
じゃあ、午後元気なかったのってのんのせいだったの?
「ね、そんなことないから」
励ましているのはがきさんの声?
そっとのぞいて見ると、泣いているあさ美ちゃんとそれを励ましているがきさんがいた。
どうしよう?のん、知らないうちにあさ美ちゃんなにか傷つけるようなこと
しちゃったの?
のんが呆然としていると
「の〜ん、そんなところでなぁに突っ立ってるのぉ」
その間延びした声に、その場の時が止まった。
- 132 名前:2−2 Side N 投稿日:2006/12/01(金) 00:03
- ―――
「……あさ美ちゃん、ごめんね
……なんかのん、悪いことしてたみたいで」
重い沈黙を破ってのんが口を開く。
教室の中には、あれからのんを追いかけてきた、麻琴と愛ちゃんを加えたいつもの5人が向かい合っていた。
「違うの!」
のんの言葉にあさ美ちゃんは顔を上げる。
「違うの……べつにのんちゃんが悪いわけじゃないの」
「え?でも」
「のんちゃん、話聞いてたわけじゃないんでしょ?」
「うん」
のんはがきさんに頷く。
「じゃぁ、あさ美ちゃんチャンと話しなよ。
誤解したままじゃわだかまり残っちゃうし」
「……うん」
がきさんの言葉に、あさ美ちゃんは頷くとゆっくり話し始めた。
- 133 名前:2−2 Side N 投稿日:2006/12/01(金) 00:05
-
「私、ただ自分が情けなかっただけなの。
今までずっと自分があいぼんの一番の友だちだと思ってたのに。
あいぼんはね、私にとってこの学園で初めてできた友達だったの。
私、中等部から入ってきたんだけど、この学園って初等部からのグループとか
あって、なかなかクラスになじめずにいて、少しいじめみたくなってたの。
そんな時、あいぼんが声を掛けてくれて……
それから、ずっといっしょだったの……
あいぼんのご両親がなくなった時も、私がまたいじめられそうになった時も、
二人で乗り越えてきたの……
そして、高等部になって、愛ちゃん達が入ってきて……
みんな仲良くなったけど、それでもやっぱり、あいぼんの一番のお友だちは私だって……
だから、去年あいぼんが変わっちゃった時、みんなから距離を置くようになって
悪い噂が立ち始めた時、私が何とかしなくちゃって思って……
だけど、私には何もできなかったの……
あいぼん、私には笑顔を作って、へいきだよって……」
あさ美ちゃんはそこまで言うと、言葉を詰まらせちゃって―――
みるみるうちに目には涙が滲んできて―――
- 134 名前:2−2 Side N 投稿日:2006/12/01(金) 00:06
-
「私……ずっとあいぼんと一緒だったのに……
私は今まであいぼんを助けてあげられなかった……
なのに、来て1ヶ月もたたないのんちゃんが、
あっさりとあいぼんの心、開いちゃったから……
だから……自分が情けなくって……」
あさ美ちゃんは振り絞るように言うと、嗚咽し始めた。
「あさ美ちゃん、そんなことないよ」
「ううん、だってこれは事実だ物」
「ううん、違うんだよ。
みんな役割は違うんだよ」
のんは思いもしないところで、あさ美ちゃんを傷つけていたと言うことになんだか
あせっちゃって、必死に言葉を繋ぐ。
「……役割?」
「うん、のんとあさ美ちゃんの役割は違うんだよ。
きっとのんの役割はきっかけを作ることなんだよ。
そう言うのは繊細なあさ美ちゃんより、大雑把なのんの方が向いてるってだけなんだよ。
だからね、だから一緒にがんばろ?
あいぼんの笑顔一緒に取り戻そ?」
のんはあさ美ちゃんの手を両手で力強く握って、微笑みかけた。
「うん」
そしてあさ美ちゃんは左手で涙を拭うと、のんに微笑み返してくれた。
そのとき、
- 135 名前:2−2 Side N 投稿日:2006/12/01(金) 00:08
- バシッ!
のんは強い衝撃を頭に受け蹲る。
「なぁにあぁしら無視して二人で盛り上がっとるんや」
振り返ると、カバンを抱えて、仁王立ちしている愛ちゃんの姿があった。
「ちょっと、なにすんのぉ?痛すぎるってぇ愛ちゃん」
のんは涙目で頭をさすりながら抗議。
「自業自得!愛ちゃん、よくやった!」
がきさんにほめられ、愛ちゃんはご満悦。
「そぉだよぉ、私達も仲間に入れておくれよぉ」
「麻琴は却下!」
「なんでさぁ愛ちゃん」
「まこっちゃんはきしょいから」
「そんなぁ、里沙ちゃんまでぇ」
そうきしょいりアクションで落ち込む麻琴を見て、教室十二笑いが広がった。
その空間はとても暖かくって、優しくって。
のんにとって、とても居心地のいい場所だった。
そして、のんはこの時、あいぼんにこの中にいて欲しいと心から思っていた。
- 136 名前:2−2 Side N 投稿日:2006/12/01(金) 00:11
- ―――
「でもさぁ、ここ一週間ぐらいでのんちゃんとあいぼん、
急に仲良くならなかった?」
駅までの帰り道、5人並んで歩いていると、急にガキさんが言った。
「うん、あぁしもそう思った。
今日だって、あいぼん、のんとか呼んでるし」
「あぁ、それはねぇ」
のんはここ1週間、朝早く来て話していること。
今朝決めた罰ゲーム?のことを話した。
「そうなんだ?じゃぁ、みんなのいないとこだったら私達とも話してくれるのかな?」
「うん、きっとそうだよ」
のんは嬉しそうなあさ美ちゃんに答える。
- 137 名前:2−2 Side N 投稿日:2006/12/01(金) 00:12
-
「でも、みんな朝早く来るなんて無理だよね?」
「うん、あぁしは朝練あるし」
「私も……」
残念そうな、あさ美ちゃんと愛ちゃん。
「じゃぁさぁ、こんなのはどう?」
麻琴がみんなに耳打ちする。
「いいかも?」
「うん」
「麻琴ってきっしょいだけやないんやな」
「まこっちゃんにしては上出来!」
「なんだよぉそのいい方ぁ、納得いかなぁい」
そしてのん達は不満げな麻琴を軽く放置して、それを実行するための作戦を練りながら
帰った。
みんな笑顔で。
期待を胸いっぱいにして。
- 138 名前:2−2 Side N 投稿日:2006/12/01(金) 00:17
-
(あれ?どうしたんやろ?)
お昼休み。
うちはお弁当の準備をしながら思った。
いつもなら机を向かい合わせにして一緒に食べるのに、前の愛ちゃん、まこっちゃん、
がきさんはお弁当を持って席を立っていた。
「もーらいっ!」
「あっ」
そんな3人に気を取られていると、隣からさっと手が伸びてきて、うちのお弁当を
浚って行った。
「ぬはははは、大切なお弁当を返して欲しければ
身一つで屋上まで来な」
彼女は子供向けアニメの悪役のような大げさな口調で言うと、教室を飛び出していく。
「あいぼん、いこ?」
うちがその背中を呆然と見送っていると、あさ美ちゃんがうちに手を差し出しながら
優しい微笑みをくれた。
「え?」
「私達、これから屋上でお弁当食べることにしたの」
「でもうちは……」
「いこ?」
あさ美ちゃんがうちの左手を握る。
どくんと一つ、うちの心臓が大きくリズムを乱した。
そしてあさ美ちゃんは、うちの手を引いてゆっくりと歩き出す。
うちもそれにつられてゆっくり足を前に進める。
教室のみんながこそこそと何か話し出すのが聞こえ、うちが手を離そうとすると、
あさ美ちゃんはだいじょうぶというようにやんわり手を握りなおしてくれる。
- 139 名前:2−2 Side A 投稿日:2006/12/01(金) 00:18
-
(あかんよ、あさ美ちゃん。
だってみんな見てるから。
あさ美ちゃんも悪く言われちゃうんよ。
うちと同じで汚らわしい人間やって。
酷い人間やって)
でもそんなうちの思いと裏腹に、あさ美ちゃんは優しく握った手を離そうとはしない。
うちは教室を出ると少し気が抜けて、膝の力が抜けるような感覚がした。
そしてその時、やっとあさ美ちゃんの手のぬくもりを感じるようになった。
あさ美ちゃんの手。
暖かくって柔らかい手。
たった1年ぐらいのはずなのに、もう何年も触れていない気がする。
そっと、手に力を込めてみる。
あさ美ちゃんがなぁに?って言うように握り返してくれる。
なんだかそれだけで、胸がいっぱいになって、うちはあさ美ちゃんの顔を見ることが
できなくなった。
うちは俯いて、あさ美ちゃんに手を引かれるまま、リノリウムの床に行儀よく並んだ、
四角い秋の光を数えながら屋上まで歩き続けた。
- 140 名前:2−2 Side A 投稿日:2006/12/01(金) 00:21
- ―――
屋上の重厚な鉄の扉の前まで来ると、うちは急に怖くなった。
この先に進んではいけないのではないか。ここから先は、
うちに入る資格がない領域なのではないかって。
けれどあさ美ちゃんは、鉄の扉を押し開けると、躊躇うことなく、屋上へと
足を踏み出した。
うちの手をしっかり繋いだまま。
「二人ともおそーい!」
「ごめんごめん」
彼女の抗議に、あさ美ちゃんは笑って答える。
「もー、のん、お腹と背中、くっ付くところだったじゃん!」
「そんなことありえへんやざ」
「いやいやいや、愛ちゃん、そこ突っ込むところでもないからね」
澄んだ空の下、みんなの笑い声が広がる。
その光景はうちに、昔にタイムスリップしたような錯覚を覚えさせた。
新しく彼女が加わってはいたけれど。
でもそれもまるで昔からそこにあったかのように、彼女の笑顔は違和感無く、
そこに溶け込んでいた。
- 141 名前:2−2 Side N 投稿日:2006/12/01(金) 00:22
-
屋上のドアが開いて、あさ美ちゃんとあいぼんが姿を現した時、
ほんとに嬉しかった。
みんなもあいぼんがほんとに来てくれるか、少し不安そうにしてたし。
「はい、あいぼん」
のんはあいぼんのお弁当を手渡す。
「ありがとう」
「いや、のんが人質にしただけだし」
「そうやね」
あいぼんもぎこちないけど、少し笑ってくれた。
「あぁ、あいぼん玉子焼き入ってるー!
あいぼんの玉子焼きもーらいっ!」
「あっ」
のんはあいぼんのお弁当から玉子焼きをつまみあげると、すかさず口に放り込む。
ううん、やっぱりおいしい。
- 142 名前:2−2 Side N 投稿日:2006/12/01(金) 00:23
-
「こら、のんちゃん、お行儀が悪いやざ!」
「だぁってぇ、あいぼんの玉子焼きずっと食べたかったんだもん」
って言ってもう一つ。
「こら、そんなに取っちゃあいぼんの分がなくなるがし」
「あっそっかぁ、じゃぁ、のんのもあげるね」
そう言ってのんは、自分のお弁当箱からニンジンのグラッセをつまみあげる。
「これ、のんが作ったんだぁ、自信作なんだよねぇ」
「……あの、うちいいから」
「なんで?おいしいよ」
のんはそれを、あいぼんの鼻先まで持っていく。
「あ、うち、ほんとにいいか」
「あのね、のんちゃん、あいぼんはニンジン」
のんは、あさ美ちゃんの言葉が終わらないうちにしゃべってるあいぼんの口に
そのオレンジ色の塊を放り込んだ。
- 143 名前:2−2 Side N 投稿日:2006/12/01(金) 00:26
-
「嫌いなの」
「え?」
「だから、あいぼん、ニンジン嫌いなの?」
のんがあいぼんを見て見ると、目を白黒させている。
そして、口の中の物を飲み込むと、
「おいしない」
ぼそっと呟いた。
「「「きゃはははは」」」
そのあいぼんの複雑そうな表情と口調にみんなが大爆笑した。
- 144 名前:2−2 Side N 投稿日:2006/12/01(金) 00:27
-
「そっかぁ、のん、料理下手なんだぁ」
「麻琴!嫌いな物だったからでしょ?」
「いやぁ、どうだか?」
麻琴はのんの抗議を無視してにやにや。
なんだよもー!麻琴のくせに生意気だぞ!
「じゃぁ、あいぼん、こっち食べて。
カボチャのグラッセ。こっちも自信作なんだから」
のんはちょっとむきになって、またあいぼんの口元に箸を持っていく。
そしてためらいがちに口を開いたあいぼんの口にそれを入れた。
「どう?」
期待を込めて見詰めるのんに、
「……うん、おいしい♪」
あいぼんは笑顔で答えてくれた。
- 145 名前:2−2 Side N 投稿日:2006/12/01(金) 00:28
-
「ほら見ろ!」
のんは麻琴に向かって無い胸を張る。
「あぁ、いいなぁ、私、カボチャ大好きなんだよねぇ」
「なんだよいまさらー!
麻琴にはやんない」
「そんなぁ」
「あ、あの、のんちゃん私もカボチャ好きなんだけど」
「あ、ほんと?じゃぁ、あさ美ちゃん、はい、どうぞ♪」
のんはあさ美ちゃんのお弁当箱にカボチャを入れてあげる。
「うん、ありがとう♪」
「いいんだ、いいんだ、
どうせ私なんて」
「しゃぁねぇなぁ、ほれぇ」
のんは、いじけてる麻琴のお弁当箱にもカボチャを放り込んであげた。
ふとあいぼんを見て見ると、のん立ちのやり取りを見ながら、
今までで一番の笑顔を見せてくれていた。
うんあいぼん、やっぱりあいぼんの笑顔かわいいよ。
のん、あいぼんにずっと笑顔でいて欲しい矢。
- 146 名前:2−2 Side A 投稿日:2006/12/01(金) 00:32
-
「ごちそうさま」
うちはお弁当を食べ終えると、席を立った。
「あれ?あいぼん、どこか行くの?」
「うん……ちょっと」
「え〜、あいぶぉ〜んまだいいじゃんよ〜」
ごめんね、まこっちゃん、うちもまだみんなといたいけど、やっぱり。
「まぁまぁ、用事があるんだから引き止めちゃいけないよ」
うちがお昼、どうしてるか気づいているであろう、あさ美ちゃんがホローしてくれる。
「そう言えばあいぼん、いつもどこいってるん?」
「……それは」
「そんなんうんこに決まってんじゃん。
女の子にそんなこと聞くなんて愛ちゃんだめだなぁ」
「誰がうん!……」
うちは顔を真っ赤にして彼女に抗議する。
- 147 名前:2−2 Side A 投稿日:2006/12/01(金) 00:32
-
「いいからいいから、早く行って来ないと漏れちゃうよ。
あ、ちゃんと手を洗ってこなきゃエンガチョだかんね」
「…………」
のん、もしかして貴方も気づいて?
うちがどこに行ってるのか、それをあまり言いたくないってことにも気づいててわざと
そんな風に言ってくれてるの?
うちが彼女を見詰めていると、小さく微笑んで頷いてくれた。
ありがとう、のん。
うちは彼女に心の中で感謝の言葉を送ると、いつものように、マリア様に
お祈りをするために、礼拝堂に向かった。
みんなの笑い声に少し後ろ髪を引かれながら。
- 148 名前:2−2 Side N 投稿日:2006/12/01(金) 00:35
-
「あ〜あぁ、せっかく久しぶりだったのに、もっとお話した買ったなぁ」
麻琴が背伸びをしながらぼやく。
「あせんなくてもいいじゃん。これから毎日ゆっくり話しできるんだからさ」
「雨が降らなきゃだけどね」
「がき!そんな突っ込みはいいから」
「ふぇ〜い」
「でも、あいぼん、ほんとにどこ行ってるんやろ?
のんちゃんやあさ美ちゃんは知ってるみたいやけど」
「ううん、のんは知らないよ。
かってに思ってるだけだけど」
「私も……」
「へ〜、どこなの?」
のんはあさ美ちゃんと顔を見合す。
「多分……礼拝堂」
「のんもそう思う」
のんも、呟くように言うあさ美ちゃんに続ける。
- 149 名前:2−2 Side N 投稿日:2006/12/01(金) 00:38
-
「でもさぁ、なんで礼拝堂なら私達に隠す必要あるんだろうねぇ」
「ううん、のんにも分んないけど、誰にでも秘密にしたいことってあるじゃん。
それにいつか話してくれるよ、きっと」
のんは同意を求めるようにあさ美ちゃんを見ると、あさ美ちゃんは口元に手を当て、
何か考えていた。
「あさ美ちゃん?」
「あ、うん、私もそう思う」
あわてたようにあさ美ちゃんが頷いてくれた。
あさ美ちゃん、あさ美ちゃんはまだ何か知ってるの?
でものんは、その時それ以上問いただすことをしなかった。
この時聞いていれば、あの時のんも、もう少し冷静に
判断できていたかも知れないのに―――
そしてその後、あんなことまで起こらなかったのかもしれないのに―――
- 150 名前:ぱせり 投稿日:2006/12/01(金) 00:38
- 更新終了です。
- 151 名前:ぱせり 投稿日:2006/12/01(金) 00:40
- またやってしまいました。
>>138は Side Aです。
- 152 名前:ぱせり 投稿日:2006/12/01(金) 00:47
- レスのお礼です。
>>128さん、やっぱり二人が仲良くしてるのはいいですね。
このままうまく行ってくれるといいのですが。
>>129さん、はい、のんさんはいろいろな意味で天然なのです。
それではまた次週もお付き合い下さい。
- 153 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/02(土) 09:21
- お弁当ほのぼの(*´Д`)
でも何か事件が起こりそう…
- 154 名前:2−3 Side A 投稿日:2006/12/07(木) 22:58
- 「この『こころ』と言う作品は夏目漱石が1914年、大正3年に……」
うちは板書していた手を止め、黒板の横にかけられている時計に目を止めると、
ちょうど長針と短針が水平になったところだった。
もうすぐ……あと10分もすれば授業が終わる。
そうしたら、また昨日のようにみんなと屋上でお昼を食べるんだろうか?
そう思うと、うちの旨の中からは喜びと不安が交互に顔を出し、鬩ぎ合い、酷く
落ち着かない気持ちにさせる。
ふと隣を見て見ると彼女は机に突っ伏し、こちらに顔を向けて熟睡していた。
しかも涎までたらして。
- 155 名前:2−3 Side A 投稿日:2006/12/07(木) 22:59
-
……なんだか不思議。
彼女のそんな無防備な寝顔を見詰めているとさっきまでの不安な気持ちがすっと消えて
行った。
「はい、それでは今日はここまで」
「起立、礼」
先生の言葉に続き日直の号令がかかると、さっきまで熟睡していた彼女は
ぴょこっと跳ね起き、きちんと挨拶をする。
その動きは、なんだか機械仕掛けの人形のようで、とても可笑しかった。
「さぁ、おっべんと、おっべんと♪」
そして彼女は上機嫌で歌いながら準備していたかと思うと、
「あいぼん、いこ」
振り返ってうちに声を掛けてきた。
- 156 名前:2−3 Side A 投稿日:2006/12/07(木) 23:06
-
「…………」
もう、限界だった。
うちは彼女に背を向け、窓外に視線を移す。
そして、口元を押え、必死にこみ上げてくるものをこらえた。
「あいぼんどうしたの?」
だけど彼女は何か勘違いしているらしく、心配そうに顔をのぞきこんでくる。
「……きゃはははは」
うちはとうとう、しゃがみ込んで声を出して笑い出してしまった。
だって、彼女は寝ぼけ眼でノートの跡をほっぺにびっしりつけていて、それがとても
かわいかったから。
- 157 名前:2−3 Side A 投稿日:2006/12/07(木) 23:07
-
「ふぇ?な、なに?
のんの顔、なんかついてるの?」
彼女はあわてて手鏡を取り出すと、
「あー!」
教室十二響き渡らんばかりの声で叫んだ。
「あいぼん、ひどいよ〜、教えてくれればいいのに、
一人で笑ってるんだもん」
彼女は唇を尖らせる。
「ごめんね……だって……」
うちは笑いをこらえて謝る。
「もういいよ、いこ?」
彼女が笑って左手を差し出す。
「うん」
うちも自然にその手をとって、教室を出た。
なぜかその日は、クラスメイト達の囁き声が、気になることはなかった。
- 158 名前:2−3 Side N 投稿日:2006/12/07(木) 23:08
- も〜、あいぼんったら〜。
ほんとにひどいよね?
背中向けて肩震わせてるから泣いてるのかと思って、のん心配してたのにさ。
でもさ、あいぼんがあんなに楽しそうに笑ってくれて、そして、普通に誘っただけで一緒に
来てくれてさ、のん、すっごく嬉しいんだぁ♪
これで一歩前進って思っていいよね?
- 159 名前:2−3 Side N 投稿日:2006/12/07(木) 23:09
-
「二人とも待ってよ」
教室を出ると、あさ美ちゃんものん達を追いかけてきて並んで歩く。
「のんちゃん、さっきの授業、ずっと寝てたでしょ?」
「へへへ、いやぁ、それであいぼんに笑われちゃって」
ほれぇってあさ美ちゃんにほっぺ見せたらあさ美ちゃんまで大爆笑で……
なんだよもー!
「ごめんあっさぁっせぇ」
「お先に失礼しますわ〜」
愛ちゃんとがきさんが、へんなお嬢様言葉を使って、風のようにのん達の横を
駆け抜けて行く。
「こらぁ、待て〜」
かと思うと麻琴がドタドタと二人を追いかけていく。
「あれ〜……なんだろうね?」
「「さぁ?」」
のん達は顔を見合わせて少し笑うと、ゆっくり3人の後を追いかけて行った。
- 160 名前:2−3 Side N 投稿日:2006/12/07(木) 23:11
- 「さっきのなんだったの?」
のんは屋上に着くと、先に来てなにかじゃれあってる3人に尋ねる。
「のんちゃん、これこれ」
がきさんが駆け寄ってきて、なにか大きな箱を手渡された。
「もう、返してってばー!」
そして、途端に麻琴に掻っ攫われた。
「麻琴、それなんなの?」
「んなんお弁当に決まってんじゃん」
「「「えー!?」」」
麻琴の答えにのんとあいぼん、あさ美ちゃんの声がハモる。
「お弁当って、まこっちゃん、多すぎない?」
「お腹壊すんとちゃうん?」
「一人で食べるわけじゃないよ」
心配そうに尋ねるあさ美ちゃんとあいぼんに答えると
「いやぁ、いいお嫁さんを目指すすき焼き部員としてはさ、
あいぼんやのんちゃんに負けてられなくってさ〜」
っていいながら麻琴は嬉しそうにお弁当を広げる。
- 161 名前:2−3 Side N 投稿日:2006/12/07(木) 23:12
-
「「「うぉ〜」」」
麻琴がお弁当箱の蓋を取った瞬間、興味しんしんでのぞきこんでいたみんなの歓声が
あがる。
お弁当箱の中にはかわいらしくデコレーションされたお弁当が、ぎっしりと詰まっていた。
「うわ〜、ウインナータコさんだし」
「リンゴもうさちゃんやざ」
「ニンジンまでお花のカット……」
「それよりおにぎりに顔、ついてるよ」
「よく気がついてくれました」
のんの言葉を聞くと麻琴は嬉しそうにおにぎりの一つを取り出した。
「これ、みんななんだよ?」
「「「え?」」」
のん達がそのおにぎりを観察していると……
「それ、がきさん?」
あいぼんがそっと尋ねた。
- 162 名前:2−3 Side N 投稿日:2006/12/07(木) 23:14
- 「そー!に照るでしょ?」
確かにそう言われて見ると、ノリで作った前髪や眉毛、グリンピースで作った目や
練り梅で書かれた唇のバランスなんかはがきさんに似ていた。
「「「すごいね〜」」」
「へへへ、みんなのもあるよ」
麻琴は得意気にみんなの分を取り出して見せてくれる。
「うわ〜、みんな結構似てるね〜」
「でしょでしょ?見直した?
ね〜ね〜見直した?見直したでしょ?」
「でもさぁ……」
得意気な麻琴にがきさんがためらいがちに口を開いた。
「なに?」
「なんかまこっちゃんのだけ微妙に似てないんだよね〜……」
「そう言えば……そうかも?」
「うん、でも……どこだろうね〜」
「え〜?そう?」
みんなが口々に言うと、麻琴は不満そう。
- 163 名前:2−3 Side N 投稿日:2006/12/07(木) 23:16
-
「ぁっ」
「ん?どうしたの、あいぼん」
「ちょっとそれ貸して?」
あいぼんは麻琴からおにぎりを受け取ると、練り梅の真ん中に箸をつきたてた。
そして、慎重にその穴を広げていく。
「これでどうかな?」
あいぼんが掲げたおにぎりを見ると
「「「ぉ〜」」」
みんなの感嘆の声が漏れた。
だって、そのおにぎりの麻琴はぽかんと口を開けてて、それを見詰めている麻琴に
瓜二つだったから。
「いやぁ、さすがもと美術部やね、あぁしらとは観察力が違うわ」
「愛ちゃん!」
「あっ、ごめん」
がきさんに怒られて愛ちゃんはさっと謝る。
でものんがあいぼんを見てみると、一瞬寂しそうにはしたけどすぐに笑顔を
取り戻していた。
- 164 名前:2−3 Side N 投稿日:2006/12/07(木) 23:18
-
「さぁさぁ、おにぎり食べてみてよ」
「「「うん」」」
麻琴の明るい声にみんなも気を取り直しておにぎりに手を伸ばす。
「ねぇ、誰か私の食べてよ」
「……いやぁ、それはちょっと」
「あぁしは自分の似しとくがし」
「のんも」
「あの〜、自分のを食べるのがいいかなって私も思う」
「じゃぁ……うちも」
「ちぇぇ」
麻琴は唇を尖らすと、勢いよく自分の顔にかぶりついて
「ぶふぉっ!けほっけほ」
喉に詰まらせた。
「ちょっと麻琴だいじょうぶ?」
「はいはい、まこっちゃんお茶お茶」
そんな感じでにぎやかなお昼の時間は、今日も瞬く間に過ぎて行った。
- 165 名前:2−3 投稿日:2006/12/07(木) 23:19
-
- 166 名前:2−3 Side A 投稿日:2006/12/07(木) 23:21
-
「♪Do It! Now 私の持ってる未来行きのキップ
貴方と二人できっと叶えたい I Love You♪」
夕方。
うちは美貴ちゃんのマンションで鼻歌を歌いながら今日もお料理をしている。
「ただいま」
「あ、おかえりなさい。もう少しで
ご飯できるから待っててね」
「やだ」
「え?」
「待てない」
そう言うと美貴ちゃんはうちを後ろから強く抱きしめた。
- 167 名前:2−3 Side A 投稿日:2006/12/07(木) 23:22
-
「え?美貴ちゃんどうしたの?」
「あいぼん、いいでしょ?」耳元で囁かれる。
「え?なに?」
「ね?いいでしょ?」
その美貴ちゃんの熱のこもった囁きにうちは混乱した。
いいでしょってなにを?
え?違うよね?
だってこの前うちが嫌がることしないって約束してくれたんやもん。
「美貴ちゃん?」
不安げに問いかけるうちを無視して、美貴ちゃんは征服の裾から手を侵入させようとする。
「いや、美貴ちゃん止めて」
「なんで?」
「いやなの」
「なんで?」
「うち、クリスチャンやから」
そう、うちはクリスチャン。
だから、そう言うことは禁じられている。
女の子同士で愛し合うことも禁じられてはいるけれども、恋してしまったのは
止められなくって。
でもそう言う事は自分の意思で止められるものだから、だからしたくはなかった。
うちはこれ以上罪を犯したくはなかった。
- 168 名前:2−3 Side A 投稿日:2006/12/07(木) 23:24
-
「はあ!?なに言ってるんだよ!」
美貴ちゃんの声のトーンが変わった。
「美貴とカミサマ、どっちが大事なんだよ?」
「そんな」
「だいたい初めてでもないくせに」
「あれは美貴ちゃんが無理やり」
「無理やりってなんだよ?恋人同士だろ!?」
美貴ちゃんはそう言いながら手の動きを止めてはくれない。
「いや!止めて!」
うちが美貴ちゃんの手を振り払おうと抵抗すると、無理やり押し倒され、難い
フローリングで腰を強打した。
- 169 名前:2−3 Side A 投稿日:2006/12/07(木) 23:25
-
「愛してるんだろ?美貴の愛に答えてよ」
美貴ちゃんはうちの征服を引き裂かんばかりの勢いで脱がせようとする。
「美貴ちゃん、いやがることしないって約束してくれたやん」
うちは抵抗しながらも必死に訴える。
「恋人に愛されるのが何でいやなんだよ!
あいしてるんだろ!?な、あいしてるんだろ!?
愛してるって言えよ!」
美貴ちゃんはうちのお腹を繰り返し殴りながら尋ねる。
「愛・して・ま・す」
うちは涙を流しながら答える。
愛してるのはほんと。
美貴ちゃんのことうち、愛してる。
でも、うちは―――
- 170 名前:2−3 Side A 投稿日:2006/12/07(木) 23:26
-
「ならいいじゃん」
美貴ちゃんはうちの思いも知らずに、そう言うとうちの拭くに再び手をかけた。
うちは痛みと絶望で、呆然としてしまった。
どうしてこうなるの?
うち、いやがってるのに。
「いや!」
うちは下着に手をかけられはっとして、再び抵抗し始めた。
「なんでだよ!」
「いや、やめて!お願い!」?
うちは必死で抵抗していると
「いやあーーー!」
無言のまま美貴ちゃんはうちの下着を引きちぎった。
- 171 名前:2−3 Side A 投稿日:2006/12/07(木) 23:27
-
「なんで下着ぐらいで泣いてんだよ。抵抗するあいぼんが悪いんだろ?
美貴の愛に素直に応えてくれないあいぼんが悪いんだろ?」
そうか、そうなんや。
やっぱりうちが悪いんや……
いつもみたくうちが悪いんや……
うち、また美貴ちゃんを怒らせてしまったんや……
またうちは美貴ちゃんを傷つけてしまった……
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ぼめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
苦痛に絶えながらうちは心の中で繰り返していた。
「あいぼん、愛してるよ」
耳元で囁く美貴ちゃんの声を聞きながら。
- 172 名前:2−3 Side N 投稿日:2006/12/07(木) 23:29
- 「よっしゃ〜、準備オッケー!」
夕飯を食べ終えると、のんはエプロンを着けて気合十分でキッチンに立っていた。
明日、のんもまた美味しいお弁当作ってくんだもんね〜。
そして、またみんなに食べてもらうんだぁ。
「希美、なにやってるの?」
突然お母さんがキッチンに顔を出す。
「明日のお弁当作ってんじゃん」
「あら?珍しい」
「いいでしょ、べつに」
「えぇ、いいけどね、ちゃんと後片付けはするのよ。
この前みたいに使いっぱなしにしたら金輪際お台所使わせませんからね」
「分ってますよ〜っだ」
のんは、キッチンを出て行くお母さんの背中に思いっきり舌を出す。
なんだよもー!
せっかく気分よくお料理しようとしてんのにさ。
でも、あいぼん、のんのお弁当また美味しいって言ってくれるかな?
喜んでくれるといいな。
のんは、笑顔でのんが作ったお弁当を頬張るあいぼんを想像しながら、
お弁当作りにとりかかった。
- 173 名前:ぱせり 投稿日:2006/12/07(木) 23:30
- 更新終了です。
- 174 名前:ぱせり 投稿日:2006/12/07(木) 23:33
- レスのお礼です。
>>153さん、そう言っていただけると嬉しいです。
お弁当の時間は自分も書いてて楽しいです。
- 175 名前:ぱせり 投稿日:2006/12/07(木) 23:34
- ではまた次週
- 176 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/08(金) 02:12
- 更新乙です。
おもしろいですね展開が。
続きが楽しみです。
- 177 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/12(火) 01:06
- アイヴォォォォォォン。・゚・(ノД`)・゚・。
- 178 名前:2−4 Side A 投稿日:2006/12/14(木) 23:41
-
目を覚ますと、うちはベットの中で美貴ちゃんに抱かれていた。
一子纏わぬ姿で。
それを確認すると、再び涙があふれた。
あれは夢じゃなかったんだって。
現実だったんだって。
うちは身を起こすと、服を探した。
下着は引き裂かれて無残な有様だったけれど、征服は少し皺が寄っているものの、
敗れたりはしていないようで安心した。
時間を確認してみると午前6時半だった。
どうやら家に戻ってシャワーを浴びて、着替えても何とか始業に間に合う時間だった。
うちは征服を着て、部屋を後にしようとして立ち止まった。
美貴ちゃんを起こさなければいけない時間だ。
でも、顔をあわせるのが怖い。
うちはしばし考えると、15分後に鳴るように目覚ましをセットして部屋を出た。
- 179 名前:2−4 Side A 投稿日:2006/12/14(木) 23:42
-
一人、家に帰るため電車に乗る。
この時間でも通勤客はまばらだけれど乗っている。
今のうちは周りからどんな風に映るんだろう?
はっとして、あたりを見渡す。
よかった。うちの学園の制服はないみたい。
窓外に目を移す。
線路と併走している川面似、朝日が反射して、キラキラ輝いていた。
その輝きはうちに彼女の瞳を連想させた。
「のん……」
呟きと共に、視界がじんわり歪んだ。
「のん、のん、のん、のん……」
うちはロザリオを強く握りながら繰り返した。
唇からこぼれ出す言葉は、瞳から溢れ出す思いと共に、止まる事を知らなかった。
- 180 名前:2−4 Side N 投稿日:2006/12/14(木) 23:44
- 「う〜ん、最高!」
のんは教室の窓を開けると、背伸びをしながら叫ぶ。
お天気はいいし、風も気持ちい。
だけど、
「あいぼん、遅いなぁ」
のんは一人呟く。
あいぼん、いつもはのんが来るころには一生懸命絵本描いてるのに、今日は
まだ来てないんだもん。
「あいぼんいないと退屈だよ〜」
まぁ、そりゃそうだよね。
だってのんはあいぼんとお話しするためだけに早く来てんだもん。
それにしてもあいぼん、早く来ないかなぁ。
今朝登校して来る時も、面白いこといぃっぱいあったから聞いて欲しいのに。
でものんのそんな思いもむなしく、始業ぎりぎりになるまであいぼんが
登校してくることはなかった。
- 181 名前:2−4 Side N 投稿日:2006/12/14(木) 23:46
- ―――
「起立、礼」
よっしゃぁ!四時間目終了!
やっとお昼だ!
今朝はあいぼんとお話できなかったから、のん、お昼が待ち遠しかったんだよね。
そりゃぁね、席が隣だから放課とかお話はするんだけどさ、やっぱりあいぼんはみんなの
目が気になるらしく、あんまりお話してくれなくってさ。
「あいぼん、いこっ?」
のんは待ってましたとばかりにあいぼんを屋上へ誘う。
「ううん、うち、いい」
「えぇ、なんでぇ?」
「ごめん、うち、今日、お弁当忘れてきてん」
「嘘?珍しいね!?」
のんが驚くと、あいぼんはふっと小さく笑う。
「いいよ、のんの分けてあげるから」
「ううん、いい」
「なぁに言ってんのぉ?いこ?」
のんはそんな風に遠慮するあいぼんの手を取ると、無理やり引っ張って屋上に向かった。
- 182 名前:2−4 Side N 投稿日:2006/12/14(木) 23:49
-
「ねぇ、あいぼん、今日遅かったね」
屋上に向かう老化で、のんは話しかける。
「……うん」
「のん、待ってたのにぃ」
「え?うちを?」
「うん、一人で退屈だったんだからぁ」
不思議そうに尋ねるあいぼんに、のんは応える。
「……ごめん、寝坊してん」
「そっかぁ、だからお弁当も作れなかったんだぁ」
「……うん」
あいぼんは俯きながら答える。
「恥ずかしがることないよぉ、遅刻したわけじゃないんだし」
「うん、そうやね」
あいぼんは顔を上げるとふんわり笑ってくれた。
「そうだよぉ」
のんはそれが嬉しくって繋いだ手をぶんぶん振った。
その時のあいぼんの瞳が、昨日よりも哀しみの色を濃くしていたのに気づかずに。
- 183 名前:2−4 Side A 投稿日:2006/12/14(木) 23:51
-
「あいぼん、いこっ?」
お昼。
彼女がうちを誘ってくれる。
でも
「ううん、うち、いい」
「えぇ、なんでぇ!?」
「ごめん、うち、今日、お弁当忘れてきてん」
「嘘?珍しいね!?」
彼女が目を見開いて驚いている。
そんな彼女の活き活きとした表情を見ていると、なぜだか安心した。
「いいよ、のんの分けてあげるから」
「ううん、いい」
ありがとうね、でものん、貴方に迷惑は掛けれないよ。
「なぁに言ってんのぉ?いこ?」
でもそんなうちの思いを他所に、彼女はそう言うと、うちの手を引いて教室を出た。
- 184 名前:2−4 Side A 投稿日:2006/12/14(木) 23:53
-
「ねぇ、あいぼん、今日遅かったね」
屋上に向かう途中、彼女が話しかけてくる。
「……うん」
「のん、待ってたのにぃ」
「え?うちを?」
「うん、一人で退屈だったんだからぁ」
うちを待っててくれた?
のんが?
そう思うと少し胸が苦しくなった。
「……ごめん、寝坊してん」
「そっかぁ、だからお弁当も作れなかったんだぁ」
「……うん」
うちはこんなに気に掛けてくれる彼女に嘘をついてしまい、罪悪感で俯いてしまった。
- 185 名前:2−4 Side A 投稿日:2006/12/14(木) 23:53
-
「恥ずかしがることないよぉ、遅刻したわけじゃないんだし」
「うん、そうやね」
でもそんなうちの嘘を彼女は、疑いもせずに明るく励ましてくれる。
そんな思いに答えたくって、うちはせいいっぱい彼女に微笑み返した。
「そうだよぉ」
すると彼女は嬉しそうに繋いだ手をぶんぶん振る。
ねぇのん、貴方はうちがあんなことしたと知っても、友達でいてくれる?
こうして手を繋いでいてくれる?
でもそんなこと怖くてとても聞けない。
だって、うちは今この手を離すのがほんとに怖いんだもの。
少し前までは一人で平気だったのに。
貴方の優しさに甘えてしまってからうちはそれを失うのが怖くなってしまったの。
貴方に迷惑掛けるって分ってるのに、この手を自分から離すことができないの。
ごめんなさい。
ほんとにごめんなさい。
うちはすぐ、離れていくから。
少しだけ、もう少しだけ甘えさせて。
うちは屋上につくまでの間、そう心の中で繰り返し彼女に謝り続けていた。
- 186 名前:2−4 Side A 投稿日:2006/12/14(木) 23:55
- ―――
「おい〜っす」
屋上の扉を押し開けて、彼女がみんなに挨拶をする。
「「「いらっしゃぁい」」」
先に来ていたみんなの明るい声が、うちらを出迎えてくれる。
「あれ?あいぼん、お弁当は?」
「今日、忘れちゃったんだって」
「そっかぁ、じゃぁ、うちらの分けてあげよう」
「「「うん」」」
みんなも、こんなうちに優しくしてくれる。
だから今この瞬間だけは、みんなとのこの空間の中だけでは、せいいっぱい明るく
努めようと思った。
- 187 名前:2−4 Side A 投稿日:2006/12/14(木) 23:56
- そうすることでしか、みんなの優しさに答えることが出来ないと思ったから。
「のん、ニンジンはいらんよ」
「うぁ〜、あいぼん、ずいぶん昔のこと根に持つね」
「いやいやいやのんちゃん、一昨日のことだからね」
みんなの笑い声が秋の高い空へ吸い込まれていく。
「はい、あいぼん」
彼女が、みんなが分けてくれたおかずが乗った、お弁当箱の蓋を手渡してくれる。
そこには一目で誰がくれたものか分るおかずが並んでいた。
みんな、自分が一番好きなものを分けてくれたんだ。
そんなさり気ない優しさもうちの胸を締め付けた。
「あいぼん、おいしい?」
「うん、あさ美ちゃんおいしいよ」
うちはあさ美ちゃんのダイガクイモを頬張り応える。
ほんとに、おいしい。
久しぶりに食べるみんなの味は、心まで満たしてくれる。
でもうちは―――
うちは、一人一人が分けてくれたお弁当の味と優しさを心に刻み付けた。
決して忘れることのないように。
その時がいつ来てもいいように。
- 188 名前:2−4 Side N 投稿日:2006/12/14(木) 23:58
-
(あ〜あ、降ってきちゃった)
授業中、のんは窓の外を見ながら思った。
今日は朝から曇ってはいたけど、とうとう降りだした。
あれから数日。
のん達6人は、毎日屋上でお昼を食べていた。
(ちぇっ、お昼、屋上無理じゃん」
ふと隣のあいぼんを見ると、あいぼんも哀しそうに空を見上げていた。
(やっぱりあいぼんも楽しみにしてくれてるんだ?)
のんは嬉しくなった。
だって、あいぼんはのん達の気持ち、分ってくれたと思ってたから。
その時、あいぼんが何を思ってたのかも知らずに、のんは一人、そんな風に
喜んでいたんだ。
- 189 名前:2−4 Side A 投稿日:2006/12/14(木) 23:59
-
(あっ)
うちは窓外の空を見上げる。
朝から泣き出しそうだった空は、とうとうその涙腺を緩めてしまった。
とうとうその日が来てしまったのだ。
うちはあの日決めていた。
みんなに甘えるのは次に雨が降った時までにしようと。
そんな風なくだらない決め事でもしなければ、弱いうちはいつまでもみんなに
甘えてしまうから。
みんなに迷惑を掛続けてしまうから。
この数日、ほんとに楽しかった。
でもみんなには申し訳ないと思っている。
あさ美ちゃん、愛ちゃん、まこっちゃん、がきさん、
そして―――のん。
今までごめんなさい。
こんなうちのために、みんなに気を使わせてしまって。
本当にごめんなさい。
うちはロザリオを握り締め、みんなにそう謝っていた。
- 190 名前:2−4 Side A 投稿日:2006/12/15(金) 00:02
-
「最近、あいぼんどうしちゃったんだろ?」
数日後のお昼。
麻琴がお弁当箱を下ろして呟く。
もう、お昼休みが始まってずいぶん立つのに、その中身は
あまり減っていないみたいだった。
「うん、雨の日ぐらいからだよね?」
そう続ける愛ちゃんも元気がない。
二人だけじゃなく、がきさんもあさ美ちゃんも、そしてのんも。
その理由はみんな同じ。
それはこの屋上にいるべき子がいないから。
愛ちゃんが言う通り、雨の日ぐらいからあいぼんは変わってしまった。
ううん、変わってしまったと言うより、前みたく、のん立ちから距離を
置くようになったんだ。
誰が話し掛けても目を合わせてくれないし、お昼には気づくと、教室から姿を消して
しまっていた。
そして
「のんちゃんは何か知らないの?」
「ううん、最近朝も来てくれないんだ……」
「そう……」
そう、朝もあいぼんが早く来ることはなくなっていた。
- 191 名前:2−4 Side N 投稿日:2006/12/15(金) 00:03
- ねぇどうしちゃったのあいぼん。
なにがあったの?
のん、あいぼんに嫌われるようなことした?
ううん、違う。
きっとまたあいぼんは、のん達に変な気を使ってるんだ。
切っ掛けは分んないけど、またかってに。
そう思うとのんは少し腹が立ってきた。
だってのん達がこんなに心配し照るのに、のん達の気持ち、分ってくれたと
思ってたのにって。
「のんちゃん?どうしたの?」
「のん、ちょっと行って来る!」
「え?どこへ?」
のんは乱暴に立ち上がると、戸惑うみんなの声を背に、あいぼんがいるであろう場所へと
向かった。
- 192 名前:ぱせり 投稿日:2006/12/15(金) 00:04
- 更新終了です。
- 193 名前:ぱせり 投稿日:2006/12/15(金) 00:05
- 例によってまたやってしまいました。
190はSide Nです。
- 194 名前:ぱせり 投稿日:2006/12/15(金) 00:10
- レスのお礼です。
>>176さん、そう言っていただけると安心します。
どうぞこれからも付き合ってやってください。
>>177さん、あいぼんは辛いですが、応援してやってください。
- 195 名前:2−5 Side A 投稿日:2006/12/21(木) 23:26
-
「マリア様、罪深き私をどうぞお許し下さい。
そして、愛する友人達が、幸福でありますよう、よろしくお願いいたします」
うちは礼拝堂で一人祈っていた。
あの雨が降った日の翌日から、うちはお昼になるとすぐ、礼拝堂へ来ていた。
もう、みんなに迷惑、掛けれないから。
みんなに甘えることは許されないから。
だから、朝も早く来ることを止めた。
そうしなければ、うちはまた彼女に甘えてしまう。
彼女の優しさに。
彼女の強さに。
だからうちは―――
「あいぼん!」
その時、礼拝堂に彼女の声が響いた。
それは、うちが今まで聞いたことのない種類の彼女の声だった。
- 196 名前:2−5 Side N 投稿日:2006/12/21(木) 23:30
-
のんが重い礼拝堂の扉を開けると、やっぱりそこにあいぼんは居た。
あいぼんは、のんが始めてこの学園に来た日と同じように、一心不乱にマリア様に
なにかを祈っていた。
「あいぼん!」
のんはその後姿を見つけると、ここに居てくれて安心したのと、のん達に心配をかける
あいぼんへの苛立ちで、思わず叫んでいた。
- 197 名前:2−5 Side N 投稿日:2006/12/21(木) 23:31
-
「のん?」
あいぼんが驚いたように振り替える。
その瞳には脅えのような物が満ちていて、それがのんの苛立ちを増幅させた。
「あいぼん!なんで屋上来ないの!?みんな待ってるのに!」
「…………」
「ねえ、なんとか言ってよ!」
のんは黙ったままのあいぼんに詰め寄る。
「……さい」
「なに?」
「ごめんなさい」
「なにがごめんなさいなの!
そんなんじゃ分んないよ!?」
のんは、ずんずんあいぼんの前に近づいていく。
「ねえ!」
のんが、しゃがみこむあいぼんの手を取り、立ち上がらせようとした瞬間
- 198 名前:2−5 Side N 投稿日:2006/12/21(木) 23:31
-
「ごめんなさい!うちが悪いの!
もうおこられないようにするから!ゆるして!
ごめんなさい!ごめんなさい!」
あいぼんは突然叫び、頭を抱え込んで蹲ってしまった。
- 199 名前:2−5 Side A 投稿日:2006/12/21(木) 23:32
-
「あいぼん!」
その声に振り返ると打ちは固まってしまった。
そこに立っていた彼女の瞳を見てしまったから。
そこにはうちが愛し、恐れたキラキラした瞳はなくて、
強い怒りの感情だけが感じられた。
それはうちにあの人を連想させたから。
- 200 名前:2−5 Side A 投稿日:2006/12/21(木) 23:34
-
「あいぼん!なんで屋上来ないの!?みんな待ってるのに!」
「…………」
いつもと違う彼女の様子に、うちは萎縮し、何も言えなくなってしまった。
「ねえ、なんとか言ってよ!」
「……さい」
彼女が怒っている。
うちに。
「なに?」
「ごめんなさい」
だからそれしか言うことが出来なかった。
またうちは大切な人を怒らせてしまった。
大切な人を。
大切なのんを。
「なにがごめんなさいなの!
そんなんじゃ分んないよ!?」
彼女がどんどん近づいてくる。
鋭い瞳でうちをしっかり見据えて。
また、うちは殴られるんだ。
のんもうちを殴るんだ。
うちが悪いから。
あんなに優しいのんを怒らせてしまったのだから。
だからしかたがないの。
怒らせてしまったのだから、当然の報いなの。
でも、やっぱり―――
怖い。
「ねえ!」
彼女の手がうちに向かって伸びて来る。
彼女が、のんがうちを―――
- 201 名前:2−5 Side A 投稿日:2006/12/21(木) 23:35
- いや、いや、いやあー!!!
「ごめんなさい!うちがわるいの!
もうおこられないようにするから!ゆるして!
ごめんなさい!ごめんなさい!」
うちはいつものように、頭を抱え込み、身を守るため蹲った。
- 202 名前:2−5 Side N 投稿日:2006/12/21(木) 23:38
-
のんは困惑していた。
あいぼんは振るえ、蹲り、泣きながらただ謝り続けている。
「あいぼん?」
「ごめんなさい、おねがい、ゆるして」
「あいぼん、しっかりして、あいぼん」
「ごめんなさい、うちがわるいの」
のんは怒りも忘れ、あいぼんに声を掛ける。
でもあいぼんには、のんの言葉も届いていないようだった。
そして、その謝罪の言葉も、のんへと言うより違う誰かへの、
ううん、見えないなにか別のものへの謝罪に聞こえた。
ごめんなさい、ゆるしてとただ繰り返し、子供のように脅え、泣きじゃくるあいぼんは、とても痛々しくって、注視できるものではなかった。
「あいぼん」
のんは思わずあいぼんを抱きしめる。
あいぼん、あいぼんはなにに苦しんでるの?
なににそんなに脅えてるの?
「ごめんなさい」
「だいじょうぶ、あいぼんは悪くないよ」
「ごめんなさい、うちが」
「だいじょうぶ、悪くないから、あいぼんは悪いことなんかしてないから」
「うちは、うちは……」
「だいじょうぶだよ、あいぼん」
「でもうちがわるいから、おこられるようなことしたから」
「だいじょうぶ、もう誰も怒ってないよ」
のんは優しく話しかける。
すると、その言葉が届いたのか、あいぼんは少しずつ落ち着きを取り戻し始めた。
- 203 名前:2−5 Side N 投稿日:2006/12/21(木) 23:39
-
「あいぼんは悪くないから」
のんは背中をさすりながら続ける。
「……うちは……わるくない?」
「うん、悪くないよ」
「……怒ってない?」
「うん、誰も怒ってないよ」
甘えたような幼い口調の問いかけに答えると、腕に加わる重みが急に増したような
気がした。
あいぼんはどうやら泣き疲れてそのまま眠ってしまったらしい。
20分近くも、パニック状態で泣きじゃくれば無理もないことだと思う。
のんが眠るあいぼんを抱えなおし、近くの長いすに腰を下ろすと、ちょうどその時、
5時間目の始まるベルが響いた。
のんはあいぼんの寝顔をのぞいてみる。
その寝顔は、母親の胸で眠る幼女のように、幼く安心しきった物だった。
- 204 名前:2−5 Side A 投稿日:2006/12/21(木) 23:42
-
気がつくとうちは彼女の腕の中にいた。
「……のん?」
「おはよう、あ?こう言う時もごきげんようって言うんだっけ?」
彼女は小さく笑う。
「ううん」
うちは彼女の腕に抱かれていると言う、今の状況が、それより、体のどこにも
痛みのないことが夢のようで、信じられ泣くって、夢見心地のまま返す。
「あいぼん」
顔を上げると、彼女がうちのことを見詰めていた。
あのキラキラした瞳で。
それを見てうちは安心した。
もうのんは怒ってないんだって。
- 205 名前:2−5 Side A 投稿日:2006/12/21(木) 23:43
-
「あいぼん、さっきごめんね」
「ううん、うちが悪いんやから」
「あいぼん、あいぼんは悪くないんだよ」
「ううん、だってのんのこと怒らせちゃったから」
「それはあいぼんが、のんを避けるから、寂しかっただけだよ」
「だってそれは」
「みんなに悪く言われるより、あいぼんに避けられる方が
のんにとっては哀しいことなんだよ?」
「のん?」
うちは驚いた。
のん、貴方は全部気づいていたの?
うちがみんなを避けてた理由を。
そして、それを分かっていながらもうちといてくれるの?
「それはあさ美ちゃん達もそう思ってるの」
「そんな」
そんなことってあるの?
みんな嫌な思いするだけなのに。
哀しい思い、するだけなのに。
- 206 名前:2−5 Side A 投稿日:2006/12/21(木) 23:44
-
「あいぼん、もっと信じてよ。
みんなあいぼんのこと大好きなんだよ」
「……のん」
「辛い時は甘えてよ。今みたいに」
うちはそう言われて、のんに抱きしめられたままなのに気づいた。
「ごめんなさい」
「だからさ、お姉さんに甘えなさいって」
のんはそう言うと、はっとして離れようとするうちをしっかりと抱きしめた。
「……うん」
うちはおとなしく彼女に身を預けた。
のんの腕の中はとても優しくって、暖かくって、それがゆっくりうちを
包んでいってくれるような気がした。
- 207 名前:2−5 Side N 投稿日:2006/12/21(木) 23:46
-
あいぼんは目覚めた後も、のんの腕の中で、まるでさっきのことが嘘のように
穏やかな顔をしている。
「ねぇあいぼん」
「なに?」
その安心しきった無防備な顔を見ると、喉まで出掛かった質問はできなくなってしまった。
さっきのあいぼん、尋常じゃなかった。
なにかに脅え、ひたすら自分を責め、謝り続ける。
その原因を知りたかった。
でもこうして、のんの胸に頭を持たれ掛けさせ、穏やかな表情を浮かべているあいぼんを、
今はそっとしてあげたいと思った。
だからのん、今は一番伝えたいことだけを伝えることにしたんだ。
「のんは、なにがあってもあいぼんの見方だよ」
って。
ねぇあいぼん、だから、だからね、
話したくなったらいつでも話してね。
のん、待ってるから。
「ありがとう」
あいぼんは呟くように言うとのんをぎゅってする。
なんだかのん、そんなあいぼんがとても愛しく感じちゃって、思わず、
思いっきりぎゅってして、あいぼんのふわふわの髪に唇を落としたんだ。
- 208 名前:2−5 Side A 投稿日:2006/12/21(木) 23:50
-
こんなにあったかい気持ちになれたのはいつ以来だろう?
うちは、のんの腕の中で思っていた。
そう、両親がなくなった直後、毎晩泣いていたうちを、なっち姉ちゃんが
抱きしめていてくれた時以来のように思う。
「ねぇあいぼん」
「なに?」
うちは穏やかな気持ちでのんに応える。
すると一呼吸置いてのんは言ってくれた。
「のんは、なにがあってもあいぼんの見方だよ」
って。
その言葉はうちの胸の深い所まで下りてきて、ゆっくり広がると、その優しさでうちの
胸の中をいっぱいにした。
「ありがとう」
うちは感極まってのんに抱きついた。
するとのんも、それに答えるようにうちの体を強く抱きしめてくれた。
うちは髪になにかが触れた気がして顔を上げると、
のんのキラキラした瞳と目が合い、心を奪われた。
初めてのんと目が合った時のように。
そしてその時、ベルが響き渡り、うちははっとした。
- 209 名前:2−5 Side A 投稿日:2006/12/21(木) 23:50
-
「今のってなんのベル?」
「6時間目終わるベル」
「うち、そんなに寝てたん?」
「うん」
「ごめんなさい」
「ううん、いいよ」
のんは優しく笑ってくれた。
「じゃぁ、そろそろ教室戻る?」
「でも……」
「なに?まだ気にしてんの?」
「ううん、だって二人揃って2時間もさぼって、
一緒に教室戻るのもへんやない?」
「それはそっかぁ」
のんはいつもみたいに無邪気に笑う。
それを見てうちも安心して少し笑った。
そして、うちはのんからゆっくり体を離した。
その時、うちはなぜか少しだけ寂しさに似た思いを感じた。
- 210 名前:2−5 Side N 投稿日:2006/12/21(木) 23:52
-
あの後のん達は、少しおしゃべりして、みんなが帰ったころを見計らって礼拝堂を出た。
そして結局のんは部活もさぼって、あいぼんと一緒に下校した。
「……あいぼん」
のんは一人部屋で呟く。
まだはっきり覚えている、あいぼんのぬくもりと髪の香り。
そして、あの無防備な笑顔。
それを思い出すと、優しいような苦しいような気持ちになって
なんだか胸が熱くなった。
『のんは、なにがあってもあいぼんの見方だよ』
のんが伝えた言葉。
うん、のん、絶対あいぼんの見方だからね。
絶対あいぼんのこと守って見せるから。
のんはこの時、改めてそう誓った。
- 211 名前:2−5 Side A 投稿日:2006/12/21(木) 23:53
-
今日、はじめてのんと下校した。
いつも一人で帰るイチョウの道を、今日はのんと二人で。
それだけで、いつも寂しく感じる夕日の赤が、とても暖かい物に感じられた。
「あいぼん」
うちが帰宅し、鍵を開けようとしていると、布衣に声を掛けられた。
うちはその声の主を認識すると、体が小刻みに震えだすのを感じた。
「美・貴・ちゃん?」
「ごめん、美貴、あいぼんに謝りにきたの」
「…………」
「ほんとに、この前はごめん!
美貴どうかしてたんだ。
仕事で嫌なことあって……
で、あいぼんに八つ当たりみたいなこと……」
「美貴ちゃん待って」
うちは玄関先で土下座しようとする美貴ちゃんを制して、あわてて部屋に上げた。
- 212 名前:2−5 Side A 投稿日:2006/12/21(木) 23:54
-
「あいぼん、ごめん!」
美貴ちゃんは部屋に上がると、再び土下座する。
「美貴ちゃんよして」
「美貴、自分が許せないんだ。
いつもあいぼんに酷い事しちゃって。
ごめん、ほんとにごめん」
美貴ちゃんは涙を流し、うちに向かってなんどもなんども土下座をする。
「うん、もういいから、うち、もう怒ってないから」
「じゃあ、また、美貴ん家来てくれる?」
「…………」
うちはそれには即答出来なかった。
- 213 名前:2−5 Side A 投稿日:2006/12/21(木) 23:55
-
「あいぼん……美貴……
心入れ替えるから……優しい彼女になるから……」
そう言う美貴ちゃんにうちは、しばらく考えさせてと言い、今日の所は帰ってもらった。
美貴ちゃん。
うちの恩人でもある美貴ちゃん。
いつもは優しい美貴ちゃん。
だけど時々うちに暴力を振るい、強引に体を奪う。
でも、普段は優しい。
そんな美貴ちゃんをうちは愛している。
でも、やっぱり―――
怖い。
- 214 名前:2−5 Side A 投稿日:2006/12/21(木) 23:56
-
『美貴、自分が許せないんだ。
いつもあいぼんに酷い事しちゃって。
ごめん、ほんとにごめん』
『あいぼん……美貴……
心入れ替えるから……優しい彼女になるから……』
美貴ちゃんの言葉を思い出す。
ねぇのん、うち、美貴ちゃんのこと、もう一度信じていいと思う?
『あいぼん、もっと信じてよ。
みんなあいぼんのこと大好きなんだよ』
蘇るのんの優しい声。
うん、分った。
うち、もう一度美貴ちゃんのこと信じてみるね。
うち、もう一度美貴ちゃんのために生きてみるね。
うちはこの時、改めてそう誓った。
- 215 名前:ぱせり 投稿日:2006/12/21(木) 23:57
- 更新終了です。
- 216 名前:ぱせり 投稿日:2006/12/22(金) 00:01
- これで第二章は終わりです。
ストックもほとんどなくなりましたので、
切のいい所というところもあり、すみませんがまたお休みさせていただきます。
次回更新は1月11日を予定しております。
- 217 名前:ぱせり 投稿日:2006/12/22(金) 00:01
- では少し早いですが、良いお年を。
- 218 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/22(金) 09:06
- 更新お疲れ様です。
毎回楽しく読んでます。
良いお年を。
気になったのが「見方」=「味方」ですよね。
- 219 名前:DOUBLEVOW 投稿日:2007/01/11(木) 23:53
-
第三章
- 220 名前:PROLORGUE 投稿日:2007/01/11(木) 23:55
-
それは ハリネズミさんが おおきくなるとともに
いままで やわらかかった ハリが
かたく するどくなってきたからです。
ハリネズミさんが みんなに ちかづけば
みんなを きずつけてしまうからです。
そんな あるひ。
きの あなの なかまが ふえました。
ノネズミさんです。
ノネズミさんは とっても やさしく げんきなこで
みんなと すぐに うちとけて なかよしに なりました。
ハリネズミさんは これで じぶんが みんなと おわかれしても
みんなが さみしいい おもいを することはないと
とても あんしんしていました。
ハリネズミさんは きのあなを でていくことにきめました。
ハリネズミさんは そとの せかいに いる おなじ ハリネズミさんの ところへ
いくことにしたのです。
- 221 名前:3−1 Side A 投稿日:2007/01/11(木) 23:56
- ―――
「わっ!!!」
「のん、ごきげんよう」
久しぶりの朝の教室でうちは絵本から顔を上げのんに挨拶をする。
「なんでおどろかないのぉ?」
のんはそんなうちに不満気に唇を尖らせる。
「だって、のんの硬水の香りしたから」
「あちゃー」
うちが笑って応えると、のんはおどけて照れ笑いを浮かべる。
のんのくるくる変わる表情を見ているとうちの口元も自然に緩んでしまうのが不思議。
「それよりさ、今日からのんも冬服なんだよ」
のんは嬉しそうに言うと、モデルのようにポーズをとって、くるっと一回りする。
「うん、似合ってるよ」
うちが言うと、のんは本当に嬉しそうに笑い、一人でくるくる踊り続ける。
「ほんと?のん、この学園の冬服、憧れだったんだよねぇ)
やわらかい朝の日差しの中、微笑を浮かべ、スカートを揺らしながら踊る彼女は
うちの目に天使のように映った。
- 222 名前:3−1 Side N 投稿日:2007/01/11(木) 23:58
- 朝、教室であいぼんの姿を見つけた時、ほんとに嬉しかったんだぁ。
そう言えば、朝来るって昨日は言ってなかったから。
のんは、喜びを押えてそっとあいぼんに近づく。
ドアもなるべく音をたてないように開けて、しのび足でそっと。
「わっ!!!」
「のん、ごきげんよう」
あれ?なんだよ?
のん、脅かそうとしたのに普通に返されちゃったよ。
「なんでおどろかないのぉ?」
のんは唇を尖らせる。
「だって、のんの硬水の香りしたから」
「あちゃぁ」
ちぇっ、そんなんでばれるとは。意外な盲点だったよ。
でもあいぼん、のんの香水なんて覚えててくれてるんだ?
ってちょっと嬉しいかも?
でもなんだか照れ臭いから、のんは話を反らした。
「それよりさ、今日からのんも冬服なんだよ」
のんは1回転して、全身をあいぼんに見せる。
「うん、似合ってるよ」
するとあいぼんはくすっと笑って言ってくれた。
「ほんと?のん、この学園の冬服、憧れだったんだよねぇ)
その笑顔と、久しぶりの二人っきりの教室が嬉しくって、のんは無意味にそのまま
くるくる踊った。
「はぁ、でもさ、冬服かわいいけどまだ暑いね」
「それはのんが踊ってたからやない?」
あいぼんはくすくす笑ってる。
ま、そうかもしんないけどさ。
でもそんなに笑わなくてもいいじゃん。
「あいぼんはずっと冬服だったけど夏とか暑くなかった?」
「うん、もう慣れてるから」
「そっかぁ、そう言えばあいぼんってなんでずっと冬服なの?」
- 223 名前:3−1 Side A 投稿日:2007/01/12(金) 00:00
- 「え?」
「なぁにぃ、聞いてなかったのぉ?」
のんは少しからかうように尋ね返す。
「あ、うぅん、あの……日焼けできないから……」
うちは答えて胸元のロザリオを強く握った。
今までなんどと無く繰り返してきた言い訳。
もうとっくに慣れているはずなのに、なんでこんなに胸が痛むんだろう?
「そっかぁ、あいぼん、肌白いもんね?
あいぼん白くてうらやましいなぁとかって思ってたけど、白いのもたいへんなんだね?
のんなんか海行こうが、山行こうがへっちゃらだよ……」
のんが笑って話し続けている。
うちの嘘を信じて。
ごめんなさい。
いつか本当のことお話するから。
腕に残る痣が全て消えた時、こんなことがあったんだよって、
でももう心配ないんだよって、笑って話すから。
本当にごめんなさい。
でもきっと近いうちにその日は来るから。
だって、美貴ちゃん、もう酷いことしないって約束してくれたから。
だから、その日まで……
「あいぼん、聞いてる?」
「ぁっ、うん、ごめんなさい、ちょっとぼうっとしてた」
「だからね……」
だからその日まで、うちが嘘つくこと許して。
- 224 名前:3−1 Side N 投稿日:2007/01/12(金) 00:02
- ―――
「「「いっただきまぁーっす」」」
お昼。
久しぶりに6人揃って屋上でお弁当。
みんなも本当はここ数日のこと、いろいろ聞きたい事もあるんだろうけど、
あえて掘り返したりせず、普通にあいぼんを迎えてくれていて、のんも安心した。
「ねぇねぇ、のんちゃんはなにがえぇ?」
「え?なに愛ちゃん」
「やから、文化祭の模擬店」
「あぁ、SHRでケメ子が言ってたやつね」
のん達の2年C組みは文化祭で模擬店をやるらしく、やりたい物を各自、
考えておくようにって今朝、ケメ子に言われたんだ。
「ううん、そうだなぁ、焼き蕎麦もいいし、クレープもいいし、
でもお好み焼きもいいよなぁ」
「ははは、さすが、くいしんぼうののんちゃんだね」
「あさ美ちゃんが言う?」
「きゃははは」
「で?あさ美ちゃんはなにがいいのさ?」
「えぇっとね、石焼芋……かな?」
「うぁ、微妙」
「じゃぁ、そう言う里沙ちゃんは?」
あさ美ちゃんはちょっと不満そうに問いかける。
「んなん、金魚すくいに決まってんじゃん」
「え〜、金魚の扱いとか大変じゃない?」
「そう?」
「あ、あいぼんはなにがいい?」
のんは微笑んで入るけど、あんまり会話に入ってこないあいぼんに振ってみる。
「……たこ焼き……かな?」
「たこ焼きか〜!たこ焼きもいいよねぇ!」
「もう!のんちゃんは食べ物なら何でもいいんでしょ?」
「げ?ばれた?」
「じゃぁさじゃぁさ、メイド喫茶なんてどう?」
麻琴がくねくねしながら提案。
「「「はぁ!」」」
「誰がウェイトレスすんのさ?」
「私私」
「「「却下!!!」」」
「なんでさぁ!」
「誰もきてくれへんやざ」
「なんでさ?私が出迎えるんだよ?
かわいいメイド服着てさ、
『おかえりなさいませっ♪ごしゅじんさまっ♪』って」
「まこっちゃん!食欲なくすから止めて!」
「ちぇぇっ」
「「「きゃははは」」」
真剣にがきさんに嫌がられてへこむ麻琴を見てみんな大爆笑だった。
うん、みんなの笑顔を見ながらのご飯はほんとに美味しい。
やっぱりこうでなくっちゃね。
- 225 名前:3−1 Side A 投稿日:2007/01/12(金) 00:05
-
「ねぇねぇ、帰りにみんなでカラオケいかない?」
文化祭の話が一段落すると、ふいにのんがそんなことを言い出した。
「おっ、いいねぇ」
「そう言えばカラオケとか久しぶりやざ」
「いこーいこー!」
がきさんや愛ちゃん、まこっちゃんも嬉しそうに、のんの提案に頷く。
「のんちゃんだめだよ、帰りにそんなとこ寄っちゃぁ」
「やっぱりあさ美ちゃんって真面目なんだねぇ」
あさ美ちゃんがあわてて止めると、のんは少し冷やかすように言う。
「ちゃうんよ、うちの学園のOGっていろんなとこにいて、そんなところに寄ってるの
見つかるとすぐ報告されて、みんな停学になっちゃうんよ」
「「「え!?本当!?」」」
うちが説明すると4人は驚いている。
「のんちゃんはともかく、なんで3人は知らないのよぉ」
「だってそんな話し、聞いたことないがし」
「「そうそう」」
「いや、有名すぎて誰もそんなことしないから」
「へ〜、さすがお嬢様学校だねぇ」
「そうですのよ、ですから辻さん、お上品になさってくださいませねぇ」
「それは小川さんには言われたくはございませんわ」
そんなこと言いながらのんとまこっちゃんは肘で突っつき合っている。
「じゃぁさ、今度の土曜とかはどう?」
「オッケー」
「うん、いいよ」
「私も」
「あぁしも」
「ねぇ、あいぼんは?」
聞かれて打ちは困った。
みんなと遊びには行きたいけれど、土曜日は美貴ちゃんのために溜まっているお洗濯や、お掃除をしたりしなければならない。
「うち……」
「予定でもあるの?」
「……夕方までなら」
寂しそうに尋ねるのんに、うちはそう応えていた。
- 226 名前:3−1 Side N 投稿日:2007/01/12(金) 00:07
- ―――
「♪カッラオケー、カッラオケー、みんなで一緒にカッラオケー
あーいぼんと一緒にカッラオケー!♪」
夜、のんは自分の部屋ででたらめな鼻歌を歌いながらネットしている。
「んぁ、希美ご機嫌だね〜」
「ちょっと真希姉〜!ノックぐらいしてよね!?」
「んぁ、いいじゃん、兄弟なんだし」
「よくない!」
「分った分った、今度からは気をつけるからさ」
もー!どうせ口だけなんだから!
「で?何しに来たの?」
「あっそうそう、忘れるところだった」
のんが尋ねると、真希姉はいやらしくにやりって笑って
「私の部屋から突然消えた服や漫画、希美……知らない?」
「えっと……それはね〜……」
「借りる時は言ってけ」
「……ごめん」
頭を軽く殴られた。
「まぁいいさ、これからは気をつけてくれたまえ」
うぅん、さっきえらそうにしてたのに、なんだかのん、形無しじゃん。
「それで?希美はネットでなに見てたのさ?
お姉ちゃんが入ってきてあわててたところみるとぉ……いけないサイト」
「んな分けないじゃん!カラオケ、いいとこないかなって探してただけだもん!」
「カラオケ?」
「土曜にみんなで行くの!」
「みんなって学校の子?」
「そうだよ」
「はぁ〜」
真希姉があきれたようにため息を吐く。
「なんだよ?」
「なんで学校の子に聞かないのさ?この辺のことならネットなんかでしらべなくっても
学校のこにきけばいいんじゃん」
「あ〜!!!!」
「希美……あんたバカでしょ?」
「うっさい!今から聞こうって思ってたの!!!」
あ〜、ほんと、なんてのん、バカだったんだろ?
じゃぁ、とりあえずこういうのに詳しそうなのは麻琴?
のんはケイタイを手にとって
「あーーー!!!」
「な、なによ希美、突然大声出して!」
「……みんなのメルアド……知らない。
ケイタイ番号も……」
「……希美、あんたやっぱりバカでしょ?」
真希姉のあきれ声も、ケイタイを開いたまま放心状態ののんには届いてはいなかった。
- 227 名前:3−1 Side A 投稿日:2007/01/12(金) 00:09
-
「みんなとカラオケ……
のんと……」
うちは一人の部屋で呟く。
うちはあれから、午後の授業中も、美貴ちゃんの家でもずっとそのことばかりを
考えていた。
あさ美ちゃん、愛ちゃん、まこっちゃん、がきさん。
久しぶりにみんなと遊びに行ける。
そしてのんと初めて……。
でもおやすみの日にうちがみんなといるところを学園の子に見られたら、みんなが
うちのせいで悪く言われるかもしれない。そう思うとうちは……。
お昼は行くと答えたけれどやっぱりうちは行かないほうがいいのかもしれない。
『みんなに悪く言われるより、あいぼんに避けられる方が
のんにとっては哀しいことなんだよ?』
『それはあさ美ちゃん達もそう思ってるの』
『あいぼん、もっと信じてよ。
みんなあいぼんのこと大好きなんだよ』
うん、ごめんのん。
そうやったね。でも……
でもみんなと遊びに行くことを美貴ちゃんに話したら怒られるかもしれない。
美貴ちゃんは自分以外の人とうちが関わるのを極端に嫌がるから。
「うち、どうすれば……」
『♪♪♪』
そう思っている時ケイタイが鳴った。
久しぶりに聞く着信音。
この着信音は……
『あいぼん』
「……あさ美ちゃん」
『……いま、いい?』
「……うん」
『あのぉ・さぁ』
「……うん」
あさ美ちゃんはおずおずと話しだす。
(ケイタイ越しのあさ美ちゃんの声、こんな感じやったんやなぁ)
うちは少し懐かしさを覚えた。
『カラオケ、一緒に行くの久しぶりだね』
「……うん」
『あのね、あいぼん、私ね』
「うん」
『あいぼんとカラオケ行くの楽しみなの。
だからね、だから……』
「うん」
うん、うちもあさ美ちゃんとカラオケ行くの楽しみだよ。でもうち……
『一緒に行こうね』
不器用だけれど真っ直ぐな、あさ美ちゃんのその言葉は、うちが本当にどうしたいのか教えてくれた。
「うん」
『うんっ♪』
うちが応えるとあさ美ちゃんは嬉しそうに頷いてくれた。
- 228 名前:3−1 Side A 投稿日:2007/01/12(金) 00:10
- ―――
「そうそう、あの時はあさ美ちゃんったらテーブルに乗りきらんぐらい頼んで」
『料金も部屋の3倍だったんだよね』
「うん、あの時二人合わせてもお金ぎりぎりでさぁ、
あせったよね?」
あれからうちらは、いつの間にか昔のように、取りと目の無いおしゃべりをしていた。
『あっ、もうこんな時間』
「あっ、ごめん」
『うぅん、また……電話して言い?』
「うん、うちも電話する」
うちの中で少しずつなにかが変わり始めているのを感じた。
- 229 名前:ぱせり 投稿日:2007/01/12(金) 00:11
- 更新終了です。
- 230 名前:ぱせり 投稿日:2007/01/12(金) 00:12
- みなさん、遅くなりましたがあけましておめでとうございます。
今年もがんばって書いていきますのでよろしくお願いします。
- 231 名前:ぱせり 投稿日:2007/01/12(金) 00:15
- レスのお礼です。
>>218さん、お恥ずかしいかぎりです。
UPする前にチェックはしているのですが、後で読み直すとなんでこんなの見落としているんだ?と思うような間違いが多々あります。
気をつけて行きたいと思っています。
また気になることとかありましたらぜひご指摘下さい。
こんな作者ではありますが、今年もどうぞお付き合い下さい。
- 232 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/12(金) 22:16
- 更新お疲れ様です
今年も更新期待してますよ〜
- 233 名前:3−2 Side A 投稿日:2007/01/18(木) 23:34
- 土曜日の朝、目覚まし時計の音にうちはゆっくり身を起こすと、窓辺に行き、
部屋に風を入れる。
晴れ渡った初秋の涼やかな風は、睡眠不足の頬に心地いい。
うちは昨夜、今日のことを思うと、ドキドキしてゆっくり眠ることができなかった。
(うちって子供みたい)
そう自嘲気味に笑い、ベットに腰を下ろすとケイタイを開く。
そこには昨夜届いたのんからのメール。
うちはそのメールを見てあの日のことを思い出し、少し笑った。
- 234 名前:3−2 Side A 投稿日:2007/01/18(木) 23:36
- ―――
「あいぼんあいぼん!!!」
カラオケに行くことを決めた次の日の朝。
のんが叫びながら教室に飛び込んできた。
「どうしたん?そんなにあわてて」
「はぁ、はぁ、あの……ね、あいぼん」
のんは机に両手を付き、苦しそうな息の下、それでもなにか言葉を繋ごうとしている。
「なにかあったん?だいじょうぶ?」
うちはその尋常じゃない様子にあわてて尋ねる。
「あのね……あいぼん」
「うん」
「あいぼんの……メルアド、教えて」
「え?」
「だから……メルアド……あいぼんの、教えて」
「…………」
「…………」
「……メルアド?」
「うん、メルアド」
「…………」
「…………」
「……きゃはは」
「……あいぼん、なんで笑うの?」
「ごめん、だってそんなにあわててたから、なにかあったかと思ったんやもん」
「だってさぁ」
のんは少し頬を膨らませると、説明をし始めた。
「だってさぁ、昨夜、みんなのメルアドも番号も知らないのに気付いたんだもん、
来て1ヶ月もたつのにさ」
「そっかぁ、そう言えばうちら、あまりメールとかしないから」
「そうなの?」
「うん」
「ねぇ、それよりさ、あいぼん教えてよ?」
「え?うちの?」
「のんに教えるのぃゃ?」
のんは寂しそうに問い返す。
「うぅん、ちょっと待って」
うちはカバンからケイタイを取り出すと、のんにアドレスを伝えた。
「よしっ、これでオッケー」
のんは嬉しそうに言うとケイタイをパタンと閉じる。
『♪♪♪』
その直後、うちのケイタイが振るえた。
『あいぼん、これがのんのアドレスね。
へへっ、この学園で始めてアドレス交換したのあいぼんでなんか嬉しいよ♪』
『♪♪♪』
メールを見て、ケイタイを閉じようとすると今度は電話がかかってくる。
『そしてこれが番号ね』
「うん」
『ちゃんと登録しといてよ?』
「うん、わかった」
『でねあいぼん、今日来る時さぁ』
「のん?もうケイタイ切っていいと思うんやけど?」
『はははそっかぁ』
のんはそう言うと、笑いながらケイタイを閉じた。
その後ものんは、みんなが登校して来るたびにアドレスを聞いて回り、楽しそうに
やり取りをしていた。
- 235 名前:3−2 Side A 投稿日:2007/01/18(木) 23:38
- ―――
『♪♪♪』
ケイタイが振るえ、開いてみるとのんからのメールだった。
『あいぼん、もう起きてる?』
「うん」
うちが短い返事を送ると、またすぐにのんからメールが帰ってくる。
あの日からうちは、のんを始め、みんなと頻繁にメールするようになっていた。
それはうちだけに限ったことではなく、みんな、お互いにメールのやり取りが
増えたようだった。
『のんももう起きちゃった。
いつもお休みはお昼まで寝てるのにさ』
「そうなん?」
『うん、なんだかカラオケ楽しみでさ、早く目、覚めちゃった』
「うちも」
『ほんと!?なんだかのん達子供みたいだね』
「うん、うちもそう思ってた」
『あいぼんも?のん達気が合うねぇ』
「うん」
『あ、そろそろ準備とかしないといけないね?』
「そうやね、うちも準備し始めないと」
『うん、じゃぁ、また後でね』
「うん、遅刻せんようにね」
『オッケー』
チャットのようなメール交換を終え、うちはケイタイを閉じると、出かける準備を
するために立ち上がる。
「うぅんと、どうしよう」
うちはクローゼットの前で服を選びながら、久しぶりの感覚に心を弾ませていた。
美貴ちゃんはあまり出かけるのが好きではないらしく、美貴ちゃんと
付き合い始めてからのこの一念弱、お休みの日は、いつも美貴ちゃんの家で過ごすだけで、
おしゃれして出かけることなんてほとんど無かったから。
「これにしようかな?」
うちはブラウスとスカートを選ぶと着替え、姿見の前に立ち、制服より幾分短い
スカートの丈をチェックする。
うん、だいじょうぶ。
腿にいくつか残っている痣や傷はきちんと隠れている。
うちはそのことを確認すると、はやる気持ちを押え、家を後にした。
- 236 名前:3−2 Side N 投稿日:2007/01/18(木) 23:39
- 「よぉいぃっしょっと」
のんはあいぼんとのメールを終えると、勢い良くベットから跳ね起きる。
「♪なんでしょなんでしょなんでしょねぇ
私はなにを着るのでしょ〜♪」
のんはがさがさとお洋服をあさって
「よしっ」
とって置きのデニムとシャツを選んだ。
ふふん、みんなにクールなのんちゃん、見せてあげんだかんね♪
そんなこと考えながら着替えを終えると、のんは家を飛び出した。
- 237 名前:3−2 Side N 投稿日:2007/01/18(木) 23:40
- ―――
「う〜っす!」
「あ、のんちゃん」
「「「ごきげんよ〜」」」
のんが待ち合わせ場所の駅に着くと、もうみんな揃っていて、のんが一番最後だった。
「あっ、ごきげんよ〜て外でもその挨拶なの?」
「うぅん、なんかもう口癖みたくなってるから」
「そうなんだ?」
「それよりのんちゃん」
愛ちゃんはのんの頭からつま先まで嘗め回すように見ている。
へへへ、どう?のん、かっこいいでしょ?
のんに彫れたら火傷するぜ?
「なぁのんちゃん」
「なぁに愛ちゃん」
「あぁし、ソーイングセット持ってるから縫ってあげようか?」
「え?」
「だってのんちゃん、服、ぼろぼろやざ」
「…………」
「そうだよ、縫ってもらいなよ」
「うん、それがいいよ」
え?え?え〜!?
いや、これはね、ぼろぼろとかそう言うんじゃなくって、ユーズド加工って言って、
そう言うね、あの、なんでそうなるの?
「いやいやいや、愛ちゃんもあさ美ちゃんもまこっちゃんも間違ってるから」
「え?なにが?」
「あの、これはユーズド加工やと思うよ」
放心状態ののんに変わってがきさんとあいぼんが説明してくれたけど……
愛ちゃん達にとってはのんはただのみっともない恰好なんかな?
そう言えばみんな高そうな服着てるし、お嬢様系だし、
分ってもらえないんだろうなぁ、きっと。
クールなのんちゃんで決めるはずだったのに……とほほ。
「のんっておしゃれさんなんやね」
「え?」
のんがへこみながら歩いていると、隣からあいぼんが声を掛けてくれる。
「かっこえぇよ」
「ほんと?」
「うん♪ように合ってる」
「ありがとー♪」
のんは嬉しくなって、あいぼんの手をとると、元気良くみんなの後をついて行った。
- 238 名前:3−2 Side N 投稿日:2007/01/18(木) 23:42
- ―――
「♪日本の未来は WOW WOW WOW WOW
世界が羨む YEAH YEAH YEAH YEAH♪」
「いやぁ、なんかがきさんノリノリだねぇ」
「里沙ちゃん、モー娘。の大ファンなのよ」
「へ〜、っつうかフリとか完璧だよね」
「うん」
のんは感心してるんだけど、なんだかみんなはちょっとひいてる感じ。
なんでかって言うのはその後、延々と続くモー娘。のメドレーによって
のんも思い知らされることになるんだけど。
「ねぇ、あいぼんも歌おうよ?」
「うん、でもうち、あんまり最近のとか知らないから」
「んなん気にすることないじゃん。
がきさんのだって大概古いよ」
「古いって言うなー!!!」
「あ、ごめん」
ってがきさん、マイクで叫ばなくても。
「ね?じゃぁさ、のんとなんか歌おうよ」
のんは歌本を広げると、あいぼんにも見えるように肩を寄せる。
「ねぇねぇ、どれにする?」
のんがぱらぱらページをめくっていると
「じゃぁこれ、のん知ってる?」
あいぼんが指差したのは確か20年ぐらい前に流行ったって言う、女性デュオの曲だった。
「うん、じゃぁこれ行こう♪」
のんはリモコンを手にとって番号を入力する。
- 239 名前:3−2 Side N 投稿日:2007/01/18(木) 23:43
-
「♪待つわ♪」
「♪待つわ♪」
「「♪いつまでも待つわ 他の誰かに貴方がふられる日まで♪」」
「「「いえー」」」
「二人とも息ぴったりだね」
「二人ひょっとして練習とかしてたん?」
「うぅん、そんなことしてないよ」
「すっごいね〜」
歌い終わるとみんなが口々に褒めてくれる。
へへへ、なんか嬉しいよ。
「ねえあいぼん、次なに歌う?」
のんはまた、あいぼんに肩をを寄せ、歌本を広げた。
- 240 名前:3−2 Side N 投稿日:2007/01/18(木) 23:44
- ―――
「いやぁ、楽しかったね〜」
「うん」
「また来るがし」
「こんどは違うとこでもいいよねぇ?」
のん達はカラオケを出ると口々に話しながら歩く。
「それにしてもあいぼんのモノマネ、すごいよね〜」
「あいぼん、あややとか完璧でしょ?」
「うん、そっくりだった」
のんとなん曲か歌った後、あいぼんはあさ美ちゃん達にせがまれてあややの
モノマネをした。
最初はね、久しぶりだからすごく恥ずかしいって嫌がってたんだけど、
みんなと一緒にのんもお願いしてたらやってくれてさ。
そのうち、あいぼんも自分からいろいろやってくれてさ。
のん、あいぼんがこんなに楽しそうにしてるの見るの初めてでとっても嬉しかったんだ。
- 241 名前:3−2 Side A 投稿日:2007/01/18(木) 23:55
-
「ねぇ、まだ早いし、どっか行かない?」
「うん、まだなんか遊び足りないよね」
のんの提案にみんなは頷く。
でもうちは……
「ごめんなさい、うち、もう帰らないと」
「え〜」
「あのぉ……ごめんなさい」
「あ、うぅん、用事あるって言ってたもんね」
「……うん、ごめんなさい」
「うぅん、のんこそごめんね」
うちは少し寂しそうなのんに頷くと、美貴ちゃんの家に向かうため、みんなと分れる。
振り返ると、夕日の中みんな、ずっとうちを見送ってくれていた。
うちはそんなみんなを見ていると、一人帰るのがなんだか寂しくって、夕日の赤が
少し滲んだ。
うちはその思いを振りきるように、みんなに向かって手を振った。
なんども―――
なんども―――
- 242 名前:3−2 Side A 投稿日:2007/01/19(金) 00:03
- ―――
「あいぼん、今日遅かったね」
「ごめんなさい」
うちが美貴ちゃんの家に着くと、既に美貴ちゃんは帰宅していた。
「あいぼん、今日珍しいかっこしてない?」
「え?」
「いや、ミニスカートとか久しぶりにみるからさ」
美貴ちゃんはうちの姿をまじまじと見詰めながら言う。
「……へん……かな?」
「うぅん、かわいいよ」
そう言うと美貴ちゃんは抱きしめ優しくキスしてくれた。
「ありがとう、じゃぁ、うち、ご飯の準備するね」
「うん、いつもありがとう」
「うん♪」
美貴ちゃんが笑顔で応えてくれる。
みんなとずっと一緒にいれないのはとても寂しいことだけれど、それでも美貴ちゃんが
笑顔でいてくれるだけで、それだけで幸せだと、この時うちは心からそう思っていた。
- 243 名前:3−2 Side N 投稿日:2007/01/19(金) 00:08
-
「う〜ん」
夜遅く、のんはバフッとベットに身を投げ出すと、ケイタイを開く。
『のん、今日楽しかったね。』
そこにはついさっき届いたばかりのあいぼんからのメール。
「うん、のんも楽しかった」
『またいこうね』
「うん、あいぼんは来週は暇?」
『えっ?来週?』
「だめ?」
『うぅん、夕方までなら』
「ほんと!?じゃぁみんなにもメールしてみるね」
『うん』
「じゃぁ今日は遅いからこのへんで」
『うん、おやすみなさい』
「おやすみ」
のんはパタンとケイタイを閉じると、天井を見上げる。
2週続けてとかみんなだいじょうぶかな?
なんだかのん、今日が楽しすぎて来週もあいぼん誘っちゃったけど……。
だってあいぼんのモノマネとか、ノリノリのがきさんとか、
行き成りカラオケでカンツォーネ歌いだす愛ちゃんとか、みんな楽しすぎなんだもん。
のんはもう一度ケイタイを開くと、みんなに来週の予定を尋ねるメールを送る。
するとすぐに立て続けに着信音が鳴り、開いてみるとみんなオッケーの返事だった。
「ゃった、来週もおでかけだー」
のんは呟くと瞳を閉じ、私服姿のあいぼんの笑顔を思い出しながら眠りについた。
まさかこのことが切っ掛けであんなことが起きるなんて思いもしないで。
- 244 名前:ぱせり 投稿日:2007/01/19(金) 00:09
- 更新終了です。
- 245 名前:ぱせり 投稿日:2007/01/19(金) 00:10
- レスのお礼です。
>>232さん、ご期待に応えられるか分りませんが、今年も一生懸命書いて行きますのでよろしくお願いします。
- 246 名前:ぱせり 投稿日:2007/01/19(金) 00:11
- それではまた次週。
- 247 名前:777 投稿日:2007/01/19(金) 01:44
- 更新乙です。
気になりますねこの後が!
また次週待ってます^^
- 248 名前:3−3 Side N 投稿日:2007/01/26(金) 00:13
-
「うぁ〜、結構人いるもんだね〜」
「まぁ、ちょっとしたブームだしね」
次の土曜日、のん達は学園近くのスケートリンクに来ていた。
「さぁ、早速滑りましょうか?」
「え?あさ美ちゃん、行き成り?」
「行き成りってのんちゃん……他になにするやざ?」
「いやぁ、心の順びっつうかぁ……」
「もしかして、のんちゃんスケート初めてなの?」
「みんなは違うの?」
「「「うん」」」」
のんが逆に問い返すと、みんなが頷く。
え?そうなの?
初心者のんだけ?
のん、余計不安になってきたんだけど?
「なぁにぃ、のん怖いのぉ〜?」
「麻琴、なに言ってんだよ!
そんな訳ないじゃん!!!」
のんは麻琴にからかわれて思わずむきになっちゃって。
「じゃぁいこうか?」
「あ、あぁ」
「だいじょうぶ、うちがちゃんと教えてあげるから」
のんが不安そうにしていると、あいぼんが声をかけてくれた。
「あいぼんも滑れるの?」
「うん、前はよく来てたから」
そう言って微笑むあいぼんに、のんは安心して
「じゃぁ、お願いしまぁっす」
「うん♪」
満面の笑顔で言うと、あいぼんもそれに負けないぐらいの笑顔で応えてくれた。
- 249 名前:3−3 Side N 投稿日:2007/01/26(金) 00:15
- ―――
「うわ、みんなすげぇ」
のんはリンクに出て見て驚いた。
だってみんなすいすい滑ってるんだもん。
それに加え愛ちゃんは簡単なジャンプとかしてるし、麻琴はイナバウアーとか言って
真似してるし。
ふ〜んだっ、上半身反るのがイナバウアーじゃないんだぞ!足の形なんだぞ!
とか思ってもただの負け惜しみみたいで。
だからのんは、おとなしくあいぼんと、まずは氷の上に立つ練習から始めた。
「そうそう、のんすごぉい」
「へへ、そうかな?」
でものんは、あいぼんの教え方がいいのか、5分もすると、少しは滑れるように
なっていた。
「やぁのん、元気〜」
「いて!」
突然麻琴がのんの頭をはたいて通り過ぎてく。
「、麻琴なにすんだよ!」
「へへえん、悔しかったらここまでおいで〜」
もー!麻琴め!
のんはあわてて追いかけようとして、
「うわ、あわわわわ」
「ちょちょっとのんあぶな」
「「きゃぁ」」
バランスを崩して、支えようとしてくれたあいぼんと共にリンクに転がった。
「いたたたたぁ、あいぼんごめんねぇ?
あいぼん、怪我ない?だいじょうぶ?」
「うん、のんは」
「のんもだいじょうぶ……ってあいぼん!パンツ!」
「え?」
「パンツ見えてる!」
「え?ぇ?いや!」
あいぼんはあわてて立ち上がってスカートを直したんだけど、その時、のんはあいぼんの
脚に痣のようなものがあるのを見つけた。
「ねぇあいぼん、今腿んとこ痣になってなかった?」
「え?う、うぅん、だいじょうぶ」
のんは驚いて立ち上がってあいぼんに尋ねたんだけど、あいぼんはなんだか
ごまかすようなぎこちない感じで応える。
「え?ほんとに?」
「うん、だいじょうぶ」
「ほんと?無理してない?ちょっと見せて?」
「なに言ってるの!こんなところで見せれるわけないでしょ!」
のんがしつこく尋ねていると、あいぼんは急に怒り出しちゃって
「あいぼんちょっと待って!」
あわてるのんを置いて、一人どこかへ滑って行ってしまった。
- 250 名前:3−3 Side N 投稿日:2007/01/26(金) 00:17
-
「のん、あいぼんどうしたのさ?」
のんが呆然としていると、麻琴が滑り寄ってくる。
「あのね……」
―――
「はぁ?」
麻琴が呆れたようにため息をつく。
「そりゃぁ怒るでしょ?普通。
こんなとこででっかい声でパンツ見えてるとか、スカートめくって脚見せろとか言えば」
「いやそこまで言ってないって」
「同じことでしょが?」
「……そうかもしんないけどさ?」
「そうかもしんないじゃないよ。
のんだったら恥ずかしくないの?」
そっか、そうだよね?恥ずかしいよね?
のん、あいぼんに酷いことしちゃったよ。
「ほらぁ、へこんでないで謝りに行くよ?」
「うん」
のんは麻琴に手を引かれ、あいぼんを探しに行った。
- 251 名前:3−3 Side A 投稿日:2007/01/26(金) 00:18
-
(どうしよう、のんに見られちゃった)
うちは動揺し、のんから逃げ出した。
もちろん恥ずかしい姿を見られたのは嫌だったけれど、今のうちにはそれは
ほんの些細なことでしかなかった。
(もしかしたらのんに気付かれてしまったかもしれない。
うぅん、落ち着いて、きっとだいじょうぶ)
うちはリンクの外周を滑りながら、大きく深呼吸する。
(そう、落ち着いて、だいじょうぶ。
確かに痣を見られてしまったけれど、のんは今できた物だと勘違いしてたから。
それに一瞬のことだったし、うちが否定し続ければ見間違いで済むかも知れない。
まこっちゃんもこっちを見ていたけれど、遠くからだったからそこまで分らないはず)
うちはそこまで考えると、少し冷静さを取り戻した。
そうして冷静さを取り戻してみると、一人残してきたのんが気になった。
いくら動揺してたにしてもスケート初心者ののんを一人置いてくるなんて危ないことを
してしまうだなんて。
「あいぼ〜ん」
うちがあわててのんの所へ戻ろうとすると、まこっちゃんの声がした。
振り返ってみると、まこっちゃんに手を引かれたのんがこちらへ滑って来ている
ところだった。
「ほらぁ、のん」
うちの目の前まで来ると、まこっちゃんに背中を押され、のんがおぼつかない足取りで
前に出てくる。
「あいぼん……ごめんね?
のん……あいぼん怪我したんじゃないかと思って……心配だったんだ」
そう寂しそうに言うのんは、まるでしかられた子犬の様な目をしていた。
うちは自分の嘘のせいでのんにそんな寂しい思いをさせてしまったのかと思うと、
のんに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「うぅん、うちこそごめんなさい。
うちちょっと恥ずかしかったから」
「許してくれるの?」
「許すだなんてそんな。
うちの方こそごめんなさい。
のんのこと置いてっちゃって」
「のんは全然平気だよ」
うちがそう言うと、のんは途端に笑顔を見せてくれた。
「じゃぁ仲直りもしたことだし、のんよろしくね」
「って言うか、麻琴がそもそもの原因じゃんか」
「のんがへたっぴの癖に無理するからでしょ?」
「なんだと!」
そしてのんは、さっきまでのことが嘘だったかのように、まこっちゃんといつものようなじゃれあいを始めた。
「じゃぁあいぼん、のんのことよろしくねぇ」
うちはしばらくの間、そんな二人を好ましい気持ちで見ていたけれど、まこっちゃんは
突然そう言うと、のんを置いてあさ美ちゃん達の方へ滑って行ってしまった。
「じゃぁ滑ろっか?」
「うん♪」
うちが手を差し出すと、のんは嬉しそうな笑顔でうちの手をとった。
- 252 名前:3−3 Side N 投稿日:2007/01/26(金) 00:20
-
よかったぁ、のんが謝ると、あいぼんはすぐ許してくれたんだ。
って言うか、あいぼんまでのんに謝ってくれた。
あいぼんは悪いことなんてしてないのに。
「準備いい?」
「うん」
のんが頷くと、あいぼんはゆっくり滑りだした。
「あいぼん、スケートって結構簡単だね〜!」
のんは、あいぼんに手を引かれ、滑っているうちに、だんだんなれてきて楽しくなって
きて、あいぼんに笑顔で話しかける。
「そう、じゃぁ、もう手離す?」
のんがそう言うと、あいぼんはいじわるく笑って言う。
「いや、それはまだちょっと」
「じゃぁスピードあげよっか?」
「え?ちょっと待って」
「いくよぉ♪」
「ちょっとあいぼん、早すぎるってぇー!」
のんの叫び声と、あいぼんの笑い声が重なった。
- 253 名前:3−3 Side N 投稿日:2007/01/26(金) 00:21
- ―――
「いやぁ、スケートって楽しいね〜」
のんは手にしたスケートシューズを大きく振りながら言う。
「のんちゃん上達早いよねぇ」
「うん、あいぼんがスパルタだから」
「えぇ?うちってスパルタかなぁ?」
「うん、だってのんが怖がってるのにどんどんスピードあげるんだもん」
のんが技とらしく頬を膨らますと、あいぼんはそっかとか言ってくすくす笑う。
「でものんちゃん、すぐあいぼんぐらい追い越しそうだよね?」
「え?そっかなぁ?」
「うん、そうやね、あいぼん、運動音痴やから」
「そうなの?」
「うん、スケートだって滑れるようになるまでどれだけ転んだことか?」
「ちょっと、あさ美ちゃん!」
「へ〜そんなに転んだんだ?」
のんはあわてるあいぼんがおかしくって、あさ美ちゃんに尋ねる。
「うん、あいぼんのお尻で氷に罅が入ったくらい」
「あさ美ちゃん!そんなことある分けないやん!」
「「「きゃははは」」」
真っ赤になって恥ずかしそうに叫ぶあいぼんを見てみんなが笑う。
「あっ」
のん達がシューズを返し、出口に向かっって歩き始めると、のんの視界の端にあるものが
飛び込んできた。
「ねぇねぇみんな、プリクラ撮ろうよ」
「え?プリクラ?」
「ほらあそこ」
「へ〜、こんなとこにあるの知らなかったやざ」
「うん、結構来てるけど気付かなかったよね?」
のんが、出入り口付近にぽつんと置かれたそれを指差すとみんなちょっと驚いていた。
「ねぇみんなで撮ろう?」
「え?みんなで?」
「うん、みんなで」
「「「うん」」」
のんの提案にみんなも笑顔で頷いてくれた。
「だけどみんなでって全員では撮れないやざ」
「3人ずつぐらいで撮ればいいんじゃない?」
「えぇっと3人ずつだと……どう撮ってったらうまく回るんかな?」
「3人だとねぇ」
「めんどいから二人ずつ出いこう!」
「「「オッケー」」」
がきさんの問いかけに、あさ美ちゃんが説明してくれようとしたけど、のんは押し切った。
だって、遊びに来た時ぐらい頭なんか使いたくないもん。
なんて言ってのん、教室でもあまり使ってないかも知んないけどさ。
「もうのんちゃんったらぁ……」
(ごめんね、あさ美ちゃん)
呆れたようなあさ美ちゃんの呟きに、のんは心の中で謝っておいた。
- 254 名前:3−3 Side A 投稿日:2007/01/26(金) 00:24
-
「おう〜なかなかみんなかわいく撮れてるじゃん」
「なぁにいってるの?」
のんの言葉にがきさんが不満そうな声をあげる。
「そうだよ、のんと撮ったのにんなひどい顔じゃん」
「麻琴はどれもひどい顔なんじゃない?」
「なんだとぉ!?」
「まぁまぁ、のんちゃんも麻琴もよすがし」
うちはそんな賑やかな会話を聞きながら、今分けてもらったプリクラに視線を落とす。
確かにのんと撮った顔はひどい顔。
のんったらすごい変な顔して撮るから、うちも笑いをこらえられなくって、笑顔とは
いえないほどのくしゃくしゃな笑い顔で、とてもひどい顔になってしまった。
それにしても、こうして見てみるとみんな個性が出ているんだなあと思う。
はにかんだように微笑むあさ美ちゃん、ほがらかに笑うまこっちゃん、
どことなく生真面目そうながきさん、やさしく微笑む愛ちゃん。
うちはそれらを眺め、口元を緩めると、そっとみんなの笑顔をカバンにしまった。
- 255 名前:3−3 Side A 投稿日:2007/01/26(金) 00:25
-
「うあー、長いこといたんだねぇ」
がきさんが驚いたように大声をあげる。
リンクを出てみると、あたりは一面すっかり暗くなっていた。
うちはあわててケイタイを取り出し、時間を確認する。
どうしよう、もう6時半を過ぎている。
みんなと過ごす時間がとても楽しくて、つい時間が過ぎるのを忘れてしまった。
こんなに遅くなって、美貴ちゃんはなんて言うだろう?
「ごめんなさい!うち、もう行かないと!」
「え〜、あいぼんもう帰っちゃうのぉ?」
うちがあわてて言うと、まこっちゃんがつまらなさそうに問い返してくれる。
「ごめんなさい」
「予定があるんだもんね?
ごめんね、のん立ちも気付かなくって」
「うぅん」
「じゃぁまた月曜にね」
「うん、じゃぁ、ごきげんよー!」
「「「ごきげんよう」」」
「気をつけてねぇ」
うちはみんなとの挨拶もそこそこにかけだした。
(どうしよう)
不安と焦燥と共に―――
- 256 名前:3−3 Side N 投稿日:2007/01/26(金) 00:28
-
「あいぼん、なんかすごくあわててたね?」
「うん、のん、予定あるの聞いてたのに……
時間気にしててあげればよかったよ」
「それにしてもあいぼん、なんなんだろうね?」
「がきさん、いややわぁ、週末の夜やで?
恋人の所に決まってるがし」
「「えー!ほんと!?」」
麻琴とがきさんは興味津々と言った感じで愛ちゃんを見詰める。
「え?愛ちゃん、誰から聞いたの?」
その言葉に、今度はみんなの視線があさ美ちゃんに移る。
「あさ美ちゃん、ほんまなん!?」
「え?愛ちゃん知ってるんじゃ……ぁっ」
あさ美ちゃんはあわてて手で口を塞ぐと、跋が悪そうに目を伏せた。
「あぁしはただそうかなぁって思っただけなんやけど」
「それよりあさ美ちゃん!ほんとなの!?」
「……ぅん」
がきさんの問いかけにあさ美ちゃんはためらいがちに頷く。
「……ほんと……なんだ?」
のん、あさ美ちゃんに問い返したんだけど、なんだかかすれたような声しか出なかった。
のん、なぜか喉が急にカラカラになっちゃって、そんな声しか出なかったんだ。
それはなんだか自分の物じゃないみたいで……
「のん・ちゃん?」
あさ美ちゃんは不安げに問い返すけど、のんにはそんな言葉、届いていなくって。
「……あいぼん、恋人……いるんだ?」
「……ぅん」
沈んだあさ美ちゃんのその言葉も、はしゃいでしゃべり続けている愛ちゃん達の声も
どこか遠くから聞こえて来るように感じていた。
- 257 名前:3−3 Side A 投稿日:2007/01/26(金) 00:31
-
「遅くなってごめんなさい!」
うちはあわてて美貴ちゃんの部屋に駆け込む。
「あいぼん、お帰り」
だけど、うちの心配を他所に美貴ちゃんは笑顔で出迎えてくれた。
「遅くなってごめんなさい。
すぐ、ご飯の準備するから」
「うん、美貴、もうお腹ペコペコだよ」
うちはそんな美貴ちゃんの笑顔と優しい言葉に少し安心すると、急いでエプロンを着け、
キッチンへ向かった。
- 258 名前:3−3 Side A 投稿日:2007/01/26(金) 00:33
- ―――
「美貴ちゃんお待たせ」
うちがお料理を運んで来ると、美貴ちゃんはうちのケイタイを開いてなにかをしていた。
「……美貴ちゃん?なにしてるの!?」
「なにじゃないよ」
「美貴ちゃん?」
うちはその低いトーンの声に二の句を告げなくなった。
「最近おかしいと思ってたんだよね?」
「…………」
「おしゃれしたり、美貴といてもなんだか上の空だったりさ」
「…………」
うちは美貴ちゃんが怒っているのは分かっていたけれど、その理由が思い当たらず、
返答に窮していた。
「まさか浮気してるなんて思わなかったよ」
「美貴ちゃん!なんでそんなこと!?」
「なんでだって?じゃあこの『のん』っての誰だよ!?」
美貴ちゃんは今見ていたらしいのんからのメールを打ちに見せ、怒鳴りつける。
「それはクラスに最近転校してきたお友だちで」
「それで言い寄られてその気になったって分け?」
「そんな」
「じゃあなんだよこの『今日楽しかったね』とか、『また遊ぼうね」とかは!!!?」
そう言われてなぜ美貴ちゃんがそんな途方もないことを言い出したのか、
やっと理解することができた。
のんとうちのメールのやり取りの一部だけを見て、勘違いしてしまったのだと。
「それはのんとだけじゃなくみんなで」
「今日も合ってたんだろ!?」
うちは分ってもらおうと説明しようとするけれど、美貴ちゃんは聞く耳を持ってくれない。
「…………」
「どうなんだよ!!!?」
「…………」
そしてそんな美貴ちゃんにうちはなんて説明すればいいのか、どういえば
分かってもらえるのか分らなくなり口篭ってしまった。
「答えろ!!!?」
美貴ちゃんはそんなうちに苛立ち、さらに声を荒げ、テーブルを叩き詰問する。
「……はい、でも」
「やっぱりそうか!」
口惜しげににそう言うと、美貴ちゃんは立ち上がり、うちのケイタイを床に叩きつけ、
踏みつける。
- 259 名前:3−3 Side A 投稿日:2007/01/26(金) 00:35
-
「美貴ちゃん止めて!」
うちがあわてて止めに入ると
「うるさい!!!」
美貴ちゃんに振り払われ、床に投げ出される。
「そんなにそいつとのメールがたいせつなのかよ!?
連絡できないのが困るのかよ!?」
美貴ちゃんはうちの胸倉を掴み、乱暴に振り立てる。
「そんな、キャッ」
うちの言葉をさえぎるように、美貴ちゃんの平手が顔に飛ぶ。
「お願い!美貴ちゃん止めて!」
「なにが止めてだよ!?美貴のこと裏切っておいて」
「そんなうちは美貴ちゃんのこと裏切ってなんて、うっ」
「信じられるかよ!?」
美貴ちゃんはうちに馬乗りになり、容赦なく殴りつける。
「お願い美貴ちゃん!信じて打ち、浮気なんて」
「じゃあ証拠見せてみろよ!」
美貴ちゃんはそう言うと、うちの服に手をかける。
「美貴のこと愛してるなら、いいだろ!」
「いや、止めて!」
「なんで嫌なんだよ!」
「だからうちはクリスチャ」
「そんなこと言って、そいつにはやらせてるんだろ!?」
「そんな」
「鈍臭い役立たずの癖に美貴のこと裏切りやがって!
柔順なだけが取柄だと思ってたのに!」
その時、その言葉を聞いた時うちは、うちの中で今まで支えていたなにかが崩れていく
音を聞いたような気がした。
- 260 名前:ぱせり 投稿日:2007/01/26(金) 00:36
- 更新終了です。
- 261 名前:ぱせり 投稿日:2007/01/26(金) 00:40
- レスのお礼です。
>>247 777さん、とりあえず今日のところはこうなってしまいました。
この先は・・・あいぼんものんもついでにぱせりもちょっと大変かも知れません。
- 262 名前:ぱせり 投稿日:2007/01/26(金) 00:41
- それではまた次週。
- 263 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/29(月) 00:39
- アイヴォォォォォォォォン。・゚・(ノД`)・゚・。
- 264 名前:3−4 Side N 投稿日:2007/02/08(木) 23:39
-
(のん、なんでこんな嫌な気持ちになるんだろう?)
夜、のんは部屋で電気もつけず、ベットで仰向けになり自分の気持ちを持て余していた。
(あいぼんにただ付き合ってる人がいるって聞いただけじゃんか)
(だからってなんなんだよ?)
(のんとあいぼんは友だちじゃんか)
苛立たしげにケイタイを開いて見る。
あいぼんからのメールは……来てない。
(やっぱり恋人と過ごしているから?)
そこに思い至ると、嫌な想像が脳裏を過ぎった。
のんは頭をぶんぶんふってその想像を追い払う。
(そうだよ、先週はこのぐらいの時間にメールくれたじゃんか)
のんはそう思いなおして、再びケイタイを手に取ると、あいぼんに短いメールを送る。
(そう、こうしてメールすればきっと先週みたいにすぐ返事帰ってくるんだよ)
でものんがいくら待ってもあいぼんからの返事はなくって。
そしてそうなってしまうとさっき振り払ったはずの幻影が蘇る。
(なんでなんだよ)
のんはそんな想像をしてしまう自分が、そしてそれに動揺してしまう自分が嫌だった。
そしてなんで自分がこんなに苛立ってるのか分らなかった。
いや、分からないふりをしていたんだ。
「なんでなんだよ」
今度は口に出して言うと、のんは掛け布団を引っ掴んで勢い良く頭までかぶって
無理やり眠ろうとした。
- 265 名前:3−4 Side N 投稿日:2007/02/08(木) 23:41
- ―――
「もー!うっさい!」
朝、のんは階下からのチャイムの音で目を覚ました。
のんは、昨夜なかなか眠ることができなかった。
少し眠れたとしても、あいぼんが夢に出てきてのんの眠りを妨げた。
うぅん、あいぼんの夢ってだけなら問題はないんだ。
だけど、今日の夢は、あいぼんが知らない誰かと微笑み会っていたり、キスしていたり、
それから……
そんな悪夢ばかりでほとんど眠ることができず、やっと明け方になってほんの少しだけ
眠ることができたんだ。
「しつこい!」
どうやら誰かが訪ねてきたらしいけど、うちにはのん一人らしく、誰も出る気配がない。
「もう、分ったってー」
のんは鳴り止まないチャイムに苛立ち、ぼさぼさの紙もそのままに玄関へ向かった。
「よう、やっぱりいるんじゃん」
「よっちゃん」
のんが玄関を開けてみると、そこにはいつもの人懐っこい笑顔を浮かべたよっちゃんが
立って居た。
「なんだよ、まだ寝てたのか?」
「真希姉ならいないよ」
のんはよっちゃんの問いかけを無視してドアを閉めようとする。
「おい、待てって」
「なに?なにかよう?」
「のん、暇なら付き合ってよ」
「やだ」
のんは再びドアを閉めようとする。
「だから待てって」
「もう、なんだよ!?」
「いい若いもんが日曜の朝っぱらから家ん中に引きこもってるなんて不健全だって」
「よっちゃんには関係ないでしょ!」
「なぁのん、お願い!ひーちゃんに付き会って!
ひーちゃん一人で寂しいのよ。な?ドライヴでもいこ?」
よっちゃんは手を合わせてのんにお願いする。
「もう、分ったよ、じゃあちょっと待ってて」
「やったー」
のんは諦め、いったんよっちゃんを家に入れ、準備ができるまで待ってもらうことにした。
- 266 名前:3−4 Side N 投稿日:2007/02/08(木) 23:43
- ―――
「じゃぁ、いくか」
のんはあれから適当に髪をとかし、着替えを済ませてよっちゃんと一緒に家を出た。
「で?どこいくの?」
のんはよっちゃんの車の助手席に座ると、無愛想に尋ねる。
「そうだなぁ、のんはどこに行きたい?」
「決め手ないのかよ?」
「あ〜」
苛立ってるのんとは裏腹に、よっちゃんはいつものようにのんびり応える。
「で、のんはどこ行きたい?」
「どこでもいいよ」
「よしっ」
よっちゃんは楽しそうに言うと、鼻歌を歌いながら車を走らせた。
- 267 名前:3−4 Side N 投稿日:2007/02/08(木) 23:44
- ―――
「ここ?」
「あ〜」
のんが連れてこられたのはうちから一駅離れた所にある、大きな公園だった。
「こんなとこでなにすんのさ?」
「なにするってこんなもん持ってきてんだぞ?
フットサルに決まってんじゃん」
そう言うとよっちゃんは一人でリフティングを始める。
「フットサルってなんだよ?
それ、サッカーボールじゃん」
「まぁサッカーみたいなもんだよ」
「で、二人でどうやるのさ?」
「簡単だよ、このひーちゃん様からボール取ってみな」
よっちゃんはそう言うと行き成りのんのおなかにボールをぶつけ、ドリブルをし始めた。
「待て!」
のん、別に乗り気ではなかったんだけど、いらいらしているところに突然ボール
ぶつけられて、むかついちゃって、本気でよっちゃんに突っかかって行った。
- 268 名前:3−4 Side N 投稿日:2007/02/08(木) 23:45
- ―――
「あー、さすがに疲れたな」
「よっちゃんはもう年なんだよ」
「うっせー」
しばらくボールを追いかけ回した後、のん達は自半期でスポーツドリンクを買うと、
笑いながら木陰のベンチに腰を下ろす。
「どうだ?少しは気分晴れた?」
「よっちゃん?」
のんは驚いてよっちゃんの顔を見る。
よっちゃんはそんなのんを気にも止めず、美味しそうにスポーツドリンクをゴクゴク
喉を鳴らし飲んでいる。
「よっちゃん……さっきごめんね」
「ん?どうした?」
「さっき、のん、よっちゃんにひどい態度だった」
「あぁそんなことか?」
よっちゃんはそう言って楽しそうに笑う。
「よっちゃん、のんのために誘ってくれたんだね?」
「のん、なんか死にそうなひでぇかおしてたからな」
「……ありがとう」
のんがお礼を言うと、よっちゃんは気にすんなって言って、のんの頭をぽんぽん叩く。
- 269 名前:3−4 Side N 投稿日:2007/02/08(木) 23:48
-
「で?なにがあった?
うちに言えることなら言ってみ?」
よっちゃんは今度は優しい声で続ける。
そんなよっちゃんに、のんは全てを聞いてもらうことにした。
―――
「のん、のんはどうしたいんだ?」
「どうしたいって……」
なんて応えたらいいのか分からなくって口篭るのんに、よっちゃんは続ける。
「なぁのん、前、のんはどうしたい?って聞いたことあったよな?」
「うん」
「その時、のんはその子を笑顔にしたいって言ってたよな?」
「…………」
そう、前よっちゃんに聞かれた時、のんはそう応えた。
だけど……
「なんだよその顔は?
恋人がいるなら自分が笑顔にしなくてもとかって思ってるのか?」
「……だって、、だってそうじゃん」
のんは唇を噛んで俯いた。
だってそうじゃん、その人はのんなんかより、ずっとあいぼんに笑顔、あげてるんだもん。
- 270 名前:3−4 Side N 投稿日:2007/02/08(木) 23:48
-
「なぁのん、笑顔ってさ、どれだけあってもいいもんじゃね?」
よっちゃんは、そんなのんに優しく諭すように話してくれる。
「…………」
「うちだって恋人以外にもいっぱい笑顔もらってるよ。
のんにも真希にも」
「……うん」
「だからのんがその子を笑顔にしたいと思うならそうしたらいい」
「……うん」
「もし、それが辛かったら止めればいい」
「止める?」
「そう、別にのんが辛いなら止めたってかまわないんだよ。
隣の席でも必要最低限の会話しかしないやつらだって沢山いるんだし」
「…………」
のんがあいぼんと必要最低限の会話しかしない……
そんなこと思いもしなかった。
のんは少し想像してみる。
「よっちゃん、のん、そんなのやだよ」
「うん、だからのんがしたいようにすればいいさ」
よっちゃんは優しく微笑みながら言ってくれる。
『のんがしたいようにすればいい』
よっちゃんのその言葉に、のんは少し気持ちが軽くなるのを感じた。
- 271 名前:3−4 Side N 投稿日:2007/02/08(木) 23:50
-
「ねぇ、よっちゃん、のん、あいぼんのこと……」
のんは昨夜から気付き始めていた思い、
そして認めようとしなかった思いを確かめてみようと、よっちゃんに聞いてみる。
「……さぁ、どうだろうな、のんぐらいの年の女のこって、独占欲強くて
友達でも独り占めしたいって子は結構いるからな」
「……のん、どっちなんだろう?」
「どこまでが友情で、どこからが愛情かって境目も難しいよな。
どっちも相手のことが好きで大切にしたいって思ってる点では一緒なんだし」
「……じゃぁのんは」
そう言った時、のんのポケットの中でケイタイが振るえた。
- 272 名前:3−4 Side N 投稿日:2007/02/08(木) 23:52
-
「あ、ちょっとごめん」
のんはよっちゃんに断って、ケイタイを開き、メールを確認する。
『ごめんなさい、昨夜メールくれてたんやね?
昨日なんや疲れちゃって、昨夜は早く寝ちゃったから気付かなくって。
うちも昨日楽しかったよ。のんが怖がってるのとか(^o^v)』
それはあいぼんからのメールで。
そのあいぼんからのメールを読んでいるだけで、なんだか少し落ち着いた。
「あ、そうなんだ?どうしたんかなぁって心配してたんだぁ。
って言うか怖がってるの楽しむなんて、あいぼんひどくない?」
のんは返事を打つとケイタイを閉じる。
『♪♪♪』
そして間を置かず、再び振るえたケイタイを開く。
『心配させてごめんなさい。
のん、今お話できる?』
「ごめん、今外なんだ。
帰ってから電話していい?」
『あ、ごめんなさい。
うん、じゃぁ待ってる』
「うん、じゃぁまた後でね』
- 273 名前:3−4 Side N 投稿日:2007/02/08(木) 23:55
-
「ごめんね、よっちゃん」
のんがメールのやり取りを終え、ケイタイを閉じて顔を上げると、よっちゃんが微笑を
浮かべて、のんのことを見ていた。
「なに?」
「いや……それよりいいの?
その子からだったんだろ?」
「なんで分かるの?」
「まぁ……な。
感みたいなもんだよ」
「なんだよそれ?」
「さぁってと、そろそろ飯でも食って帰るか?」
よっちゃんは、のんの問いかけを無視して笑いながら言う。
「よっちゃんの奢り?」
「なんでだよ?」
「だってのん、お財布持って来てないよ」
「はぁ!?お前ってそう言うタイプだったの?」
「違うもん!」
のんは頬を膨らまして抗議する。
「よっちゃんがドライヴって言うから財布いらないって思ったんだもん!」
「分かった分かった。
奢ってやるから怒んなよ」
よっちゃんは笑いながらボールを抱えて立ち上がった。
「じゃぁなに食う?」
「焼肉!」
「昼間っからか?」
「だってお腹空いたんだもん」
「しゃぁねぇなぁ」
のんはすっかり元気を取り戻して、よっちゃんと笑顔で公園を後にした。
- 274 名前:ぱせり 投稿日:2007/02/08(木) 23:58
- 更新終了です。
先週は体調を崩し、更新お休みしてしまいました。
すみませんでした。
- 275 名前:ぱせり 投稿日:2007/02/09(金) 00:02
- レスのお礼です。
>>263さん、あいぼん、これからどうなるか見守ってあげてください。
- 276 名前:ぱせり 投稿日:2007/02/09(金) 00:02
- それではまた
- 277 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/09(金) 00:21
- 更新乙です。
のんつあん、あいぼん・・・気になりますね。
- 278 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/10(土) 10:08
- 更新お疲れ様です。
毎週楽しみにしていますが無理なさらないようお大事に。
- 279 名前:3−5 Side A 投稿日:2007/02/22(木) 22:58
-
うちは部屋に帰ってくると、力が抜けたように床に座りこんだ。
そして、今朝のことを思い出し、涙が溢れ出した。
- 280 名前:3−5 Side A 投稿日:2007/02/22(木) 22:59
- ―――
今朝、うちは美貴ちゃんの家のリビングで目を覚ました。
美貴ちゃんは寝室に行ったのか、それとも家を出て行ったのか、見渡してみても姿は
なかった。
うちは自分の姿を見て絶望に近い気持ちを覚えた。
今までの美貴ちゃんなら、例えひどいことをしたとしても、うちをベットに連れていって
抱きしめてくれていた。
けれども、今日は全裸のまま、硬いフローリングに放置されていた。
うちは体を走る痛みをこらえながら起き上がり、服を拾い集め身に着ける。
そして最後に、二つに折れもう電源も入らなくなってしまったケイタイを拾い上げると、
美貴ちゃんの家を後にした。
- 281 名前:3−5 Side A 投稿日:2007/02/22(木) 23:01
- ―――
うちはぼんやりと立ち上がり、クローゼットへ向かう。
部屋着に着替えようと服を脱ぎ掛けて、違和感を感じポケットに手を差し込むと
小さなキャンディーが出てきた。
「玲夢ちゃん……」
うちはその小さな包みを見詰め呟いた。
- 282 名前:3−5 Side A 投稿日:2007/02/22(木) 23:03
- ―――
美貴ちゃんの家からの帰り道、体を走る痛みに歩くのが辛くなった内は、通り道にあった
小さな公園に入り、ベンチに腰掛けた。
『鈍臭い役立たずの癖に美貴のこと裏切りやがって!
柔順なだけが取柄だと思ってたのに!』
美貴ちゃんに昨夜言われた言葉が蘇る。
そう、そうなんだ。
美貴ちゃんはうちのことをそんな風に思っていたんだ。
そう思うと、再び涙が溢れ出した。
「おねえちゃん、どうしたの?」
うちがその舌足らずな幼い声に顔を上げると、ベンチに腰掛けたうちと、同じ視線の
高さに、心配そうな少女の瞳があった。
「おねえちゃん、おかおどうしたの!?」
少女はうちの腫れ上がった顔を見て、驚いて尋ねる。
うちは、無意識とは言え、ここに来てしまったことに後悔した。
公園に来た時は気付かなかったけれど、見渡してみると公園には、幼い子供達が穏やかな
日差しの中を無邪気に駆け回っていて、今のうちには到底似つかわしい場所とは
思えなかった。
「うぅん、だいじょうぶよ」
うちは見ず知らずの少女に心配を掛けてしまったことが申し訳なくって、
せいいいっぱいの笑顔を返す。
「ほんと?」
「うん、ほんとうにおねえちゃん、だいじょうぶだから」
「よかったぁ」
少女はそう言うと、うちの膝に向かい合わせに飛び乗り、抱きついてきた。
「っ!」
その衝撃にうちの全身を激痛が走る。
「おねえちゃん?」
「うぅん、なんでもないよ?」
うちは少女の突然の行動に驚いたけれど、少女が落ちないようにそっと抱き寄せた。
「へへへぇ」
すると、少女は額と額をくっつけ、うちの瞳をのぞきこんで来る。
その瞳は無邪気で、真っ直ぐで、そして、キラキラと輝いていた。
(…………)
その瞳はまるで彼女のようで……。
うちの頬を自然と涙が伝った。
- 283 名前:3−5 Side A 投稿日:2007/02/22(木) 23:04
-
「おねえちゃん?」
「うぅん、ごめんなさい」
「やっぱりおかおいたいの?
じゃぁ、おまじないしたげる」
少女はそう言うと、膝から飛び降り、
「いたいのいたいの、とおくのおやまへとんでけ〜」
幼い体をめいいっぱい延ばして、一生懸命おまじないをしてくれる。
「ありがとう、ありがとうね」
うちはその優しさが嬉しくって、涙を浮かべたまま、少女の頭をなでる。
「もういたくなくなった?」
「うん、ありがとうね」
うちが笑顔を返すと、少女は再び、うちの膝に飛び乗った。
「だって、玲夢とおねえちゃん、もうおともだちだもん♪」
「お友だち?」
「うん」
少女は嬉しそうにそう言うと、ポケットから小さなキャンディーを取り出し、
「おねえちゃんにあげる」
差し出した。
「いいの?」
「うん、これね、おちゅうしゃのときとかね、
いたいことがまんするときにたべるとね、いたくなくなるんだよ」
少女は自慢げにそう言いながらうちの手にそれを握らせる。
「ありがとう」
うちは受け取り、ポケットにそれをしまおうとすると、指先に硬いものが触れた。
うちはそれを取り出し見詰める。
- 284 名前:3−5 Side A 投稿日:2007/02/22(木) 23:07
-
「おねえちゃん、おでんわこわれちゃったの?」
「うん、」
「じゃぁこまっちゃうね?」
「え?」
「おでんわないとね、まいごになったときとかね、こわいひとにあったときとかね、
パパとかママとかにたすけてっておでんわできないんだよ?」
「うん、でも、おねえちゃんにはもういらないかな?」
自棄になってしまっているうちは、なにも知らない少女に対して、そんなことを
言ってしまった。
「どうして!?パパもママもおともだちもしんぱいするんだよ」
そんなうちに少女は怒ったように話しかける。
(心配してくれる友だち……)
うちの脳裏を、のんやあさ美ちゃん、愛ちゃん達の笑顔が翳める。
「みんなにしんぱいかけちゃだめなんだよ」
「ごめんなさい、おねえちゃんが間違ってたね。
新しいの買わなきゃね」
「うん♪」
うちがそう言うと、少女は嬉しそうに声を上げて笑う。
「あ、そうだ、これ、玲夢ちゃんにあげるね」
うちは壊れたケイタイのストラップから子ネコのキャラクターを外すと、その小さな手に握らせる。
「うゎぁキティーちゃんだっ!
おねえちゃんいいのっ!?」
「うん、キャンディーのお礼」
「ありがとー、おねえちゃん」
「うん、玲夢ちゃんもこれからあいぼんって呼んでな?」
「あいぼん?」
「うん、お友だちにはそう呼ばれてるから」
「うん♪」
うちが訝しげに問い返す少女に応えると、嬉しそうに頷いてくれた。
その少女の弾ける様な笑顔に、うちは気持ちが少し軽くなるのを感じた。
- 285 名前:3−5 Side A 投稿日:2007/02/22(木) 23:08
-
「玲夢〜」
しばらくそうしてお話をしていると、少女を呼ぶ女性の声が聞こえる。
「あっ、ママだぁ」
少女は膝から飛びおり、声のした方に掛けていく。
そして、お母さんらしい人と2、3言言葉を交わすと、再び掛け戻ってきた。
「あいぼんおねえちゃん」
「玲夢ちゃん、お母さん?」
「うん、もうごはんなんだって」
「そう」
「あいぼんおねえちゃん、またあそぼうね」
「うん、また遊ぼうな」
「やくそく」
そう言うと少女は小指を差し出した。
うちはその小さな子指に、自分の小指を絡める。
「「ゆびきりげんまん、うそついたら針千本飲ぉます」」
「じゃぁ、あいぼんおねえちゃんげんきでね〜」
少女は大きく手を振りながら、待っているお母さんの下へかけて行った。
- 286 名前:3−5 Side A 投稿日:2007/02/22(木) 23:10
- ―――
「そうやったね、ごめんね、
おねえちゃん、また泣いちゃって」
うちは手のひらのキャンディーに話しかけると、そっとそれを机の上に置いた。
けれど、いくら元気を出そうと思っても、一人部屋にいると、どうしても咲く屋のことを
思い出してしまう。
昨夜の美貴ちゃんの言葉、
『鈍臭い役立たずの癖に美貴のこと裏切りやがって!
柔順なだけが取柄だと思ってたのに!』
その後も、美貴ちゃんはうちを罵り、口にするのを躊躇われるほどの罵声を浴びせた。
うちは涙を拭ってカバンを引き寄せ、中から新しいケイタイを取り出す。
うちはこんなに腫れ上がり、痣にまでなっている顔で人に対するのに躊躇いが
あったけれど、少女の言葉とみんなの笑顔を思い出すと、いてもたってもいられなくなり、
駅前のケイタイショップに寄って買ってきたのだった。
- 287 名前:3−5 Side A 投稿日:2007/02/22(木) 23:11
-
新しいケイタイ。
前の物が壊れてメモリーを映すことができなかったから、誰のメモリーも入っていない
まっさらなケイタイ。
うちは何気なく開いてメールをチェックしてみた。
『♪♪♪』
すると思いもよらず、メールが入っていた。
けれど、メモリーが入っていないために誰からのメール化分からない。
「誰からだろう?」
『あいぼん、今日楽しかったね。
ねぇ、あいぼんは今どうしてる?
のんは、さっきお風呂から上がったとこだよ』
メールを開いてみるとそれは、のんからのメールだった。
「のん、メールくれてたんや」
うちはのんに返事を贈ろうとメールを打ち始めるけれど、なかなかうまくいかない。
普段ならなにも考えずに打てるメールだけれど、今のうちはその文面からのんに悲しみを、
寂しさを悟られるのではないかと思い、なんども書いては消すのを繰り返した。
- 288 名前:3−5 Side A 投稿日:2007/02/22(木) 23:12
-
『ごめんなさい、昨夜メールくれてたんやね?
昨日なんや疲れちゃって、昨夜は早く寝ちゃったから気付かなくって。
うちも昨日楽しかったよ。のんが怖がってるのとか(^o^v)』
うちはそんなことをしばらく繰り返し、やっとメールを送る。
すると、すぐに返事が帰ってきた。
『あ、そうなんだ?どうしたんかなぁって心配してたんだぁ。
って言うか怖がってるの楽しむなんて、あいぼんひどくない?』
(のん、心配してくれてたんや)
『おともだちもしんぱいするんだよ』
少女の声が蘇る。
(玲夢ちゃんすごいね、本当だね)
うちはそう思い、涙を滲ませながら返事を打った。
「心配させてごめんなさい。
のん、今お話できる?」
うちはのんの声が聞きたくなり、そんなメールを打っていた。
(ごめん、今外なんだ。
帰ってから電話していい?』
「あ、ごめんなさい。
うん、じゃぁ待ってる」
『うん、じゃぁまた後でね』
うちは短いやり取りを終え、ケイタイを閉じる。
すると、またすぐに咲く屋の記憶が、美貴ちゃんの言葉が蘇って来る。
(のん、お願い、早く声を聞かせて)
うちはその記憶から逃れるように、蹲り、ケイタイを胸に抱きしめた。
- 289 名前:ぱせり 投稿日:2007/02/22(木) 23:16
- 更新終了です。
また一週間飛ばしてしまいました。
週1更新がささやかな目標だったのですが・・・。
でもこの先ちょっと慎重に書いて行きたいので、少し更新が開いてしまうかもしれません。
それでも2週間に1度は更新できるようにがんばりたいと思っています。
- 290 名前:ぱせり 投稿日:2007/02/22(木) 23:20
- レスのお礼です。
>>277さん、とりあえずあいぼんはこんな感じでした。
>>278さん、お気使いありがとうございます。
上でも書きましたが、なるべく更新間隔を開けずに、無理せずがんばっていきます。
また読んでいただけると嬉しいです。
- 291 名前:ぱせり 投稿日:2007/02/22(木) 23:21
- それではまた。
- 292 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/23(金) 02:31
- 更新乙です。
この作品好きです。
マイペースで作者さまの世界観を出していってください。
またの更新楽しみに待ってます^^
- 293 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/02/24(土) 00:55
- 作者さんFRIDAYみましたか?あいぼん痩せてめちゃめちゃ大人っぽくなってましたよ。誕生日にはのんちゃんからケーキもらったらしいです。なんか復帰に前向きで嬉しいですね!リアルも小説も二人でしあわせになってほしいですね!
- 294 名前:3−6 Side A 投稿日:2007/03/15(木) 23:45
- 次の日の朝、部屋でぼんやりとDVDを見ていたうちは、窓外が
明るくなり始めているのに気が付き顔を上げる。
「……はあ」
うちはやっと朝が訪れたことに安堵し、そっとため息をつきDVDを止めた。
これでみんなと会える。そう思って。
うちは昨夜、眠ることができなかった。
静かな部屋に一人でいると、美貴ちゃんのあの言葉が思い出されて、悲しみに
押しつぶされそうで。
夕方のんに電話をもらって、ずっとお話をしている間はよかったけれど、電話を切って
一人になってしまうと、すぐにあの言葉が、美貴ちゃんに言われたあの言葉が
蘇って来てしまって。
そして、それを思い出してしまう恐怖に耐えられなくなったうちは、食事だからと一旦
のんが切った電話を、1時間も立たない間に掛けなおしてしまった。
のんは、そんなうちに少し驚いていたけれど、それでもうちのわがままを聞いて、
夜遅くまでお話をしてくれた。
けれど、電話を切ってしまうとやはり恐怖が襲ってきて。
だからうちは一睡もせず、ずっとお気に入りのアニメのDVDをリピートさせて、ただ
ぼんやりと見続けていた。
うちは立ち上がり、洗面所へ向かう。
普段なら食事の準備をする時間なのだけれど、今日はとてもそんな気分じゃない。
「あっ」
うちは洗面所の鏡の前に立って、小さく叫んだ。
どうして気付かなかったのだろう。
顔の腫れはほとんどひいてはいるけれど、眼元の痣はくっきりと残っている。
うちはあわてて部屋に戻ると、メイク道具を取り出し鏡の前に座る。
「…………」
うちは鏡に向かって何十分も格闘していたけれど、コンシーラーで隠してみても、
遠目では分からないぐらいにはなっても、のんやあさ美ちゃんの目をごまかせるには
程遠かった。
「……はぁ」
うちはため息をついて、鏡から離れる。
この分だとまた1週間近く、お休みしなければならないかも知れない。
その間、こんな思いを抱えたまま、じっと一人で孤独に耐えなければならないのかと
思うと、それだけで怖かった。
「のん……あさ美ちゃん……愛ちゃん、まこっちゃん、がきさん」
うちは大好きなみんなのことを思いながら、強く胸元のロザリオを握り締めた。
その時、それに応えるように、机の上のケイタイが振るえた。
- 295 名前:3−6 Side N 投稿日:2007/03/15(木) 23:46
-
「ごっきげんよ……ってあれ?」
のんは朝、勢い良く教室に飛び込んだんだけど、いつもならのんより早く来て、
絵本書いてるはずのあいぼんの姿はなかった。
「おっかしいなぁ、寝坊でもしたんかな?昨日おそかったからなぁ」
のんは、昨夜のことを思い出しながら席に着く。
昨夜はちょっと驚いた。
だってあいぼんに夕方電話を掛けて、2、3時間、おはなしして、夕飯だからって一旦
電話切ったんだけど、のんが夕飯を食べ、お風呂から上がって部屋に帰ってくると、
またすぐにあいぼんから電話が掛かってきたんだもん。
でもね、のん、すっごく嬉しかったんだぁ。
だってあいぼん、そんなにのんとお話ししたいって思ってくれてるって思うとさ。
それでのんは朝の憂鬱な気持ちなんか完全にどっかいっちゃって、いっぱいお話しして、
気が付くと夜中の1時を過ぎちゃっていた。
「それにしてもオッそいなぁ」
のんは背伸びをしながら呟く。
(あいぼん、ほんとに寝坊かな?
それならもう起こしてあげないと遅刻しちゃうよね?)
そう思ったのんは、あいぼんに電話を掛けて見ることにしたんだ。
- 296 名前:3−6 Side A 投稿日:2007/03/15(木) 23:48
-
机の上のケイタイを手にとって見てみると、ディスプレイには『のん』と言う文字が
並んでいた。
いけない、お休みするのであれば、のんに早く連絡しておくべきだったかもしれない。
うちはあわてて電話に出る。
「のん?」
『あ、あいぼん、起きてた?』
「あ、うん、あの……」
うちは出てみたものの、なにを言えばいいのか分からなくなり、口篭ってしまった。
『今どこ?』
「……あの……うち、風邪ひいちゃって」
『え?だいじょうぶ?熱は?』
心配そうなのんの声。
「うぅん、だいじょうぶ。熱はないけど、ちょっとだるくって……」
だけど、そんな風に心配してくれるのんに、うちはまた嘘をついてしまう。
『え?ほんとにだいじょうぶ?』
「うん、だけど今日、お休みしようかと思って」
口を開くたび胸が痛む。
『ほんと?昨日、のんが遅くまで電話してたせいかもしんないね。
ごめんね』
「うぅん、のんのせいやないの!」
うちは思わず大声を出してしまった。
だって、のんはどこまでも優しいから。
嘘ばかりついているこんなうちのことを、信じてくれているから。
そして思いやってくれているから。
そんなのんに対する罪悪感でいっぱいになり、思わず叫んでしまっていた。
『あいぼん?』
のんは、そんなうちに驚いて、不安そうに問い返す。
「あ、ごめんなさい。ほんまにのんのせいやないの……」
『あいぼん、どうした?』
消え入りそうなうちの声に、のんは優しく尋ねてくれる。
「うぅん……ごめんなさい。
ちょっと気分が優れなくって」
『そっかぁ、じゃぁ、ゆっくり休んでね』
「うん、ありがとう」
『おやすみ』
「おやすみ」
うちは電話を切ると、ベットに飛び込み、まくらに顔を埋める。
どうしてこうなってしまったのだろう?
うちは美貴ちゃんを幸せにしたかった。
あさ美ちゃんや愛ちゃんに迷惑を掛けたくなかった。
だから今まで嘘を重ねてきた。
それでみんなが幸せになれると思っていたから。
けれど、のんが現れ、それが間違いだったと教えてくれた。
うちが今まで、心配を掛けないように、迷惑を掛けないようにと重ねてきた嘘で、返って
あさ美ちゃん達を傷つけてしまっていたことを、のんが気付かせてくれた。
だけど、それに気付いても、うちはどうしたらいいのか分からなくなっていた。
このまま嘘を重ねても、真実を打ち明けたとしてもきっとみんなを傷つけてしまうから。
しかもみんなに嘘をついてまで守ろうとしていた美貴ちゃん。
それほど思っていた美貴ちゃんにうちは愛されていなかったのだから。
「どうしたらいいのですか?
……マリア様、うちはどうしたらいいのですか?」
うちはロザリオを握り締め、ただ繰り返していた。
- 297 名前:3−6 Side N 投稿日:2007/03/15(木) 23:51
- ―――
「あ〜あ、あいぼんおやすみかぁ」
SHRの後、麻琴がつまらなさそうにぼやく。
「風邪だって?」
「うん」
のんががきさんの問いかけにに頷くと、愛ちゃんは心配そうに呟いた。
「あいぼん、だいじょうぶやろか?」
「え?なんで?」
「あいぼん、一回風邪ひくと結構長いんやよ」
「そうなんだ……」
「それにあいぼん、一人暮らしだから少し心配なの」
あさ美ちゃんも心配そうにしている。
「じゃぁさ、メールでも送ろうよ」
「麻琴なんでそうなるがし」
「だってさぁ病気の時ってさぁ、一人でベットで寝てるのって寂しいじゃん」
「そっかぁ、そうだね、」
「メールなら寝てても起きた時に見れるしね」
「うん、じゃぁメールするがし」
「そんな事言って愛ちゃん、絵文字一つとかはだめだからね」
「え?なんでがきさん分かるん?」
「いや誰でも分かるから」
のんはそんな風に、楽しそうに話してるみんなの事をシャメにして、あいぼんに
送った。
あいぼん、これ見て少しでも元気になるといいなぁ。
そんな風に思いながら。
- 298 名前:3−6 Side A 投稿日:2007/03/15(木) 23:52
- ―――
『♪♪♪』
「…………」
うちは手の中のケイタイの振動で目を覚ました。
どうやら昨夜、一睡もしていなかったうちは、泣きつかれて眠ってしまっていたらしい。
「このアドレスは……」
うちがケイタイを開いてみると、メールが立て続けにいくつか入っていた。
「みんな……」
それは全て見覚えのあるアドレスからのメールだった。
時間を確認してみると、ちょうど今はSHRが終わったばかりの時間だった。
「みんな……ありがとう」
そのメール全てがとても優しくって、あったかくって……
うちは滲んだ視界の中、一通一通返事を送った。
感謝の気持ちを込めて。
- 299 名前:3−6 Side N 投稿日:2007/03/15(木) 23:53
-
―――
「じゃぁ、みっなっさぁん、ごっきげんよ〜」
放課後、のんは授業が終わると、すぐに教室を飛び出した。
へへへ、今日は部活さぼっちゃうんだぁ。
だって今日はさぁ。
「あ、もしもしあいぼん?」
『のん、もう授業終わったん?』
「うん、でさぁ、今からあいぼんち行っていい?」
そう、あいぼんのお見舞い行こうかと思ってさ。
『え?』
「あいぼん、一人暮らしなんでしょ?」
『……うん』
「のんがご飯とか作ってあげるよ」
- 300 名前:3−6 Side A 投稿日:2007/03/15(木) 23:54
-
「え?」
『体大変でしょ?』
のんの楽しそうな声。
できればうちものんに会いたい。
会って、のんの笑顔を見たい。
メールや電話じゃなくって直接お話したい。
元気を分けて欲しい。
だけどこの顔では……。
『あいぼんち、確かのんちの一つむこうの駅って言ってたよね?』
「のん、ありがとう。
でも、うちだいじょうぶだから」
だからうちは、のんの申し出を断るしかなかった。
『え?』
「あの……今、部屋の中、汚いから」
朝と同じ胸の痛みを覚えながら、うちは言い訳を口にする。
『そんなんいいよ。ついでに片付けてあげるし』
「うぅん、ほんとにいいの」
それでも優しい言葉をくれるのんに、うちは断り続けることしかできなかった。
- 301 名前:3−6 Side N 投稿日:2007/03/15(木) 23:55
- 『うぅん、ほんとにいいの』
頑なに断り続けるあいぼんの言葉に、のんの心に忘れていた思いが蘇ってくる。
「あいぼん……のんが行くの……迷惑?」
『え?』
「のんがあいぼんち行くの、迷惑なんだ」
『そんなんじゃ』
あいぼんはあわてて否定しようとするけど、そうなんだ。
恋人がいるんだもん。
きっとその人が看病しに来てくれるんだよ。
だからあいぼんは……のんが行くの迷惑なんだ。
のんなんかが行ったら迷惑なんだ。
なんてのん、バカだったんだろ?
恋人いるの知ってるくせにさ、ちょっといっぱいお話したぐらいで
舞い上がっちゃってさ……。
そう思うと、のんの胸の中に冷たい物が広がって行った。
「いいよ、じゃーね」
のんはそう言って終話ボタンに指を掛ける。
『のん、ごめんなさい!
お願い!怒らないで!』
「え?」
そのあいぼんの必死な叫び声に、のんは思わず終話ボタンに掛けていた指を離していた。
『お願い、許して……』
「え?あいぼん、泣いてるの?」
『嫌いに……ならんといて……』
「あいぼん?」
『嫌いに……』
その哀しみに満ちた弱々しい声は、のんにあの礼拝堂でのあいぼんの姿を呼び起こさせた。
「あいぼん、のんこそごめん。
ほんとにごめんね」
のんはあわてて謝った。
どうしたのか分からないけど、あいぼんはあの時みたいに取り乱しそうになっているから。
『のん、ごめんなさい、うちが悪いの』
「うぅん、のんこそ……
のん、あいぼんに会いたかったからつい……」
のんは必死に説明するけど、あいぼん、取り乱してるみたいで聞いてくれなくって。
『「ごめんなさい』
「あいぼん、もう泣かないで」
それでものんは、あいぼんに声を掛け続けた。
『のん……』
「のん、怒ってないから……ね、だいじょうぶだから」
『のん……ごめんなさい』
そうしてしばらくの間、のんが声を掛け続けていると、あいぼんは少し落ち着きを
取り戻してくれた。
「あいぼん、もうだいじょうぶ?」
『……うん、ごめんなさい』
「謝んないでいいよ」
『……うん』
「それよりさ、帰ったら電話していい?」
『いいの?』
のんが尋ねると、あいぼんは少し驚いたように尋ね返す。
「のんが訊いてるんだけど?」
『……うん、待ってる』
のんが笑って言うと、あいぼんも少し笑って応えてくれた。
- 302 名前:3−6 Side A 投稿日:2007/03/15(木) 23:57
-
『いいよ、じゃーね』
のんのその冷たい声を聞いた時、目の前が真っ暗になった。
のんを怒らせてしまった。
のんもうちから離れて行ってしまう。
うちがのんの思いを踏みにじってしまったから。
だけど……
「のん、ごめんなさい!
お願い!怒らないで!」
うちは思わず叫んでいた。
『え?』
「お願い、許して……」
段々視界が狭まって行く。
『え?あいぼん、泣いてるの?』
そして途惑うのんの声も段々遠くなって行く。
「嫌いに……ならんといて……」
のん、お願い!見捨てないで!
『あいぼん?』
「嫌いに……」
意識が恐怖に飲み込まれて行く。
『あいぼん、のんこそごめん。
ほんとにごめんね』
のんは優しく声を掛けてくれるけれど、恐怖で錯乱しているうちには届いていなくって。
「のん、ごめんなさい、うちが悪いの」
『うぅん、のんこそ……
のん、あいぼんに会いたかったからつい……』
のんはそれでも言葉を掛け続けてくれる。
「ごめんなさい」
『あいぼん、もう泣かないで』
「のん……」
『のん、怒ってないから……ね、だいじょうぶだから』
「のん……ごめんなさい」
語り続けてくれるのんの優しい声音が、ゆっくりとうちを包み込み、うちの世界は徐々に
色を取り戻し始めた。
『あいぼん、もうだいじょうぶ?』
「……うん、ごめんなさい」
『謝んないでいいよ』
「……うん」
『それよりさ、後で電話していい?』
「いいの?」
思いも寄らない言葉にうちは問い返した。
だって、うちはのんの優しさを拒んでしまったのに。
『のんが訊いてるんだけど?』
のんは少しいたずらっぽく尋ねる。
「……うん、待ってる」
そんなのんの無邪気な声に、うちも少し口元をほころばせた。
- 303 名前:3−6 Side N 投稿日:2007/03/15(木) 23:59
-
(あいぼん、どうしたんだろう?)
のんは電話を切ると、ケイタイを手にしたまま、ぼんやりと夕日を見詰めながら
考えていた。
今日の事、礼拝堂での事、あいぼんはなにに脅えているんだろう?
のんが怖いのかな?
うぅん、それは違う気がする。
人に嫌われるのが怖いのかな?
そうかも知んない。
でもなんでそこまで脅えるんだろう?
のんはいろいろ考えてみるけど、答えには辿りつけなくって。
「うん、いつかきっとお話してくれるよ」
のんはケイタイをポケットにしまい、駅に向かって歩き始めた。
早く帰ってあいぼんとお話しよう。
そしていっぱい楽しいお話してあげるんだ。
あいぼんが早く元気になれるように。
寂しい思いなんかしなくていいように。
- 304 名前:ぱせり 投稿日:2007/03/16(金) 00:00
- 更新終了です。
ずいぶん開けてしまいました。すみません。
- 305 名前:ぱせり 投稿日:2007/03/16(金) 00:14
- レスのお礼です。
>>292さん、重い話&力量不足なので読んでいて面白いのか心配していたので、
この話を好きと言ってくださって嬉しいです。
更新スピードは落ちると思いますが、これからもお付き合いいただければ嬉しいです。
>>293 名無し飼育さん、実は見ていないんです。
子供のころからあの手の雑誌が嫌いだったのと、後、なんだか大人っぽくなっていたとか噂に聞いて怖くなったと言いますか。
常々大人っぽくなって欲しいとは思ってたのですが、このタイミングで急に大人っぽくなられていると、なんとなく複雑で。
ヘタレですみません。
でも彼女が帰ってきたら、そんな不安は拭き飛んじゃうんですけどね。
その日が待ち遠しいです。
- 306 名前:ぱせり 投稿日:2007/03/16(金) 00:14
- それではまた。
- 307 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/16(金) 00:51
- 更新乙でした!
辻ちゃん加護ちゃん大好きです。
次回楽しみにしてます♪
- 308 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/19(月) 23:33
- 更新乙です。いつも楽しみにしてますので作者さんのペースでがんばって下さい。
例のあいぼんさんですが、微笑んだ柔らかい表情や唇をとがらせて話す仕草はそのまんまあいぼんでしたよ(*´д`*)
- 309 名前:ぱせり 投稿日:2007/03/26(月) 20:01
- >>307さん、>>308さん、レスありがとうございました。
- 310 名前:ぱせり 投稿日:2007/03/26(月) 20:15
- みなさんこんばんわ、作者です。
この二日感、事態の推移を見守ってまいりましたが、
オフィシャルにて残念なコメントが発表になりました。
私も今はまだ実感も沸かず、困惑するばかりで、何も考えられませずにいます。
この作品に関しましては、彼女への最後の思いとして完結させたいと言う気持ちと、
かけるだろうか?また、読んでくださる方はいるのだろうか?と言う思いがあり、まだ
判断しかねています。
今の所は
1. 何とか完結させる。
2. 今後の粗筋だけを載せる。
3. このまま筆を置かせていただく。
の、いずれかになると思います。
また自分の中で結論がでましたら、どのような結果になるにしろ、
ご挨拶にうかがわせていただきます。
乱文にて申し訳ありませんが、失礼させていただきます。
ぱせり
- 311 名前:sage 投稿日:2007/03/27(火) 03:36
- あわてて、オフィシャルサイトに行ってきました…
あいぼんのことはなんとも…
この作品はスゴく好きなのでラストまで書いていただけるとすごくうれしいです。
更新は気持ちが落ち着いてからでも全然まってます(^-^)/
辻ちゃん、これからもガンバレo(^-^)o
- 312 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/27(火) 21:13
- 加護さんのことは残念ですが、
自分本位な一読者としてはぜひ完結していただきたいです。
無論、いつまでも待ちます。
- 313 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/29(木) 18:26
- 加護ちゃんに対してと同じように
作者さんに対しても、ご自分が一番納得できるようにしてもらえばいいと思ってます
もし気が向かれたら、書いてくれたら嬉しいなと
- 314 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/31(土) 00:46
- 私は作者さんのこの物語を最後まで読みたいです。
作者さんのペースで、作者さんの想いのままに。
- 315 名前:ぱせり 投稿日:2007/05/11(金) 22:59
- みなさん、ご無沙汰しております。作者です。
みなさん、沢山のレス、ありがとうございました。
この作品が好きだと言ってくださる方、最後まで読みたいと言ってくださる方がいてとても嬉しかったです。
とりあえずこの作品についてなのですが、ぜひ続けさせていただこうと思います。
辻さんまでこの状況で、読者の方が残っていて下さるか不安ですが、
二人への思いの集大成として、ぜひ完結させたいと思っています。
よろしければ最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
- 316 名前:ぱせり 投稿日:2007/05/11(金) 23:02
-
辻希美に着いて
実は七日の時点でご挨拶にうかがおうと思っていたのですが、体調不良でこれず、
次の朝目覚めてみるとあの報道。
本当に驚きました。
この三日感ですが、最初は驚きと共におめでとーと言う感想でした。
時間が立つに連れ、本当に辻さんを愛しているのなら、七つも年長者、しかも同業者が、
結婚を決めているとは言え、見青年のアイドルを無計画に妊娠させることで、どれだけ迷惑が掛かるかと言うことに
思いが至らないのだろうか、そんな人が本当に辻さんを幸せにして揚げられるのだろうかと思い、不安になり、
結婚にいたるまでの時系列を聞き、加護さんとの事も踏まえ、すごく複雑な思いに捕われていました。
ですが、会見での辻さんの笑顔を見て、そんなネガティヴな思いもほとんど晴れました。
今は純粋に心から、辻さんには幸せになって欲しいと思っています。
そしてママになってぜひ帰ってきて欲しいと思います。
- 317 名前:ぱせり 投稿日:2007/05/11(金) 23:04
- 余計なことまで書いてすみません。
それではなるべく早いうちに更新させていただきたいと思って下りますので、その時はよろしくお願いします。
- 318 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/12(土) 18:49
- むしろぱせりさんの>>316でちょっと気持ちが落ち着きましたよ
のんびりお待ちしてます
- 319 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/13(日) 21:50
- 作者さんおかえりなさい
続きを書いてくださるということで本当に楽しみです
- 320 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/14(月) 03:08
- おかえりなさい^^
色んなことがここ最近の間にありましたが
作者さまがまた書こうと思ってくださりとても嬉しいです
マイペースで無理せずがんばってください
- 321 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/18(水) 23:33
- 待ってますよの保
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