伴走者
- 1 名前:電 投稿日:2012/04/14(土) 10:55
- 初めまして。電と申します。
まだまだ新参者ですが、いしよし2人があまりにも素敵すぎて
妄想を形にして書き起こしたくなってしまいました。
定期的な更新は難しいかもしれませんが、精進しますので
どうぞ宜しくお願いいたしますm(__)m
- 2 名前:伴走者 投稿日:2012/04/14(土) 10:57
- 『伴走者』
- 3 名前:伴走者 投稿日:2012/04/14(土) 10:57
- 分かってたことじゃん。
いま梨華ちゃんは大事な舞台の途中で、
たぶんいつもの如く全力でそっちに集中してて、
アタシの誕生日なんか特に関係なく
毎日の舞台を最高に演じ切るために、早い時間に寝ちゃうんだなんて。
ヘタしたら、誕生日ってことすら忘れられてるかも。
あーぁ。あり得るよなー。あの梨華ちゃんのことだかんなー。
それなのになんでアタシ、ケータイと睨めっこなんかしてるわけ?
しかもけっこう何時間も。
収録の休憩中。移動の時間。打ち合わせと打ち合わせのちょっとした合間。
ちらちらバッグの中を見て。
ランプが光るたびにちょっと期待をして、
先輩や友達や後輩からの、かわいいデコメを開いて。
嬉しいのに、申し訳ないことにちょっとガッカリしちゃったりしてさ。
バッカみたい。
- 4 名前:伴走者 投稿日:2012/04/14(土) 10:58
- この頃ほんとにどうかしてる。
たった何日か、顔を見ていないだけなのに。
こんなの、数年前だったら当たり前だった。
アタシはもともとベタベタするのあんまり得意じゃないし、
梨華ちゃんは梨華ちゃんでお仕事大好きな人だから。
アイツが友達超少ないせいで、たまに時間が合うと
どうでもいいような愚痴を長々と聞かされて、
そのあいだアタシは『ふーん』とか『そうなんだー』とか
テキトーな相槌を打ちながら、
プリプリしながら頬を膨らませたりする梨華ちゃんを
『ってかリアクション古くね?』とからかったりして、
じゃあねバイバイってあっさり解散して、それぐらいだったんだ。
だからアタシがこんなになっちゃったのは、
たぶん全部、梨華ちゃんが悪い。
……あー、違う。
どうしてこういう言い方しか出来ないかな。
頭をガシガシ掻いていると、ケータイが鳴った。
慌てて通話ボタンを押すまできっと音速レベルだったはず。
どんだけだよ、アタシ。
- 5 名前:伴走者 投稿日:2012/04/14(土) 10:59
- 『あー、もしもーし、よっすぃ〜?』
梨華ちゃんの第一声は、びっくりするくらいいつもの梨華ちゃんだった。
久し振りなのに。
だからついつい、アタシも意地を張ってしまう。
「あんだよー。」
『えへへ。遅くなっちゃってゴメンねぇ〜。』
「ホントにおっせーよ。しかもなんで電話なんだよー。」
『今ねぇ、新幹線待ってるんだぁ。でねぇ、新幹線の中でメール打とうと思ったんだけどぉ、
行きの新幹線もそう思ってて寝ちゃったからさ〜。だったらいま電話しちゃおうっと思って。』
耳元で聞こえる、少し眠そうな可愛い声に、つい頬が緩みそうになる。
「アタシがメールのほうが好きなの、知ってるくせに。」
『だからぁ〜、寝なかったら、ちゃんとあとで送るもんっ!』
「寝なかったらって……、そう言ってる時点で寝る気マンマンじゃん。」
あぁ、疲れてんだろうなぁ。
舞台、大変なのかな。
きっと毎日、すごく緊張してるんだ。
大丈夫かな。体調、崩してないかな。
- 6 名前:伴走者 投稿日:2012/04/14(土) 11:00
- 『ね、よっすぃ〜。』
「うん?」
『私、よっすぃ〜の声が、ずっと聞きたかったんだぁ。』
甘えた口調で、甘い声で、さらりとそんなことを言ってのける。
あぁ、もう……。たったそれだけでアタシは今、間違いなく耳まで赤くなってしまってるんだ。
『おめでとうって、ほんとは直接言いたかったな。』
「うん。」
『寂しいな、よっすぃ〜に逢えなくって。』
「……うん。」
『ちょっと〜! そこはさぁ、『アタシも寂しいよ〜ハニ〜』とか返してくれるトコじゃないの〜?』
『フハッ、何だよハニーって。さむっ!』
『も〜、よっすぃ〜!』
良かった。アタシのよく知ってる梨華ちゃんだ。
少し……ううん、すごく心配だったんだ。
アタシの隣に居ない間に、どんどん大きくなってしまう梨華ちゃん。
おいていかないで。
そう言ってしまうのが怖いんだ。
だってさ、かっこわりーのは、やっぱりイヤだもん。
どーせなら『よっすぃ〜カッコイイ!』って、言われたいじゃん。
- 7 名前:伴走者 投稿日:2012/04/14(土) 11:01
- 『お誕生日おめでとう、よっすぃ〜。』
『おー、ありがと、梨華ちゃん。』
改めてそう受け答えして、今更ちょっと恥ずかしくなって、お互い笑った。
『あ、もう新幹線来ちゃう。ごめんね、慌ただしくって。』
「ううん、わざわざサンキューね。
メールは期待しないでおくからさ。ゆっくり休みなよ。」
『も〜、よっすぃ〜ったらひど〜いっ。』
ふふふ、と口に手を当てて笑う姿を思い浮かべる。
「あ、あのさ、梨華ちゃん。」
『んー、どしたぁ?』
「あのさ……ア、アタシも、寂すいよ。」
肝心なところで噛んだ。
それでも言えただけまだマシになったほうだろうか?
……さすがにハニーはちょっとキツいので、勘弁してもらおう。
- 8 名前:伴走者 投稿日:2012/04/14(土) 11:02
- 『うんっ!』
ぱぁっと華が咲いたように、分かりやすく嬉しそうな声が上がる。
やっぱり無理してでも、言ってよかった。
……お陰で心臓のほうはだいぶバクバクいってるけど。
『でもぉ、私のほうが絶対に寂しいんだからねっ!』
「なにそれ、張り合うとこじゃないでしょ。」
『いいの〜っ! あっ、もう行くって呼ばれちゃった。じゃあねっ。』
そう言って、ほんの数分のコールをあっさり終える。
いや、そりゃあ新幹線が来ちゃったら急ぐのも分かるんだけどさ、
もうちょいこう、名残惜しいな〜っていう雰囲気を愉しみたいっていうか。
……いいんだけどさぁ。
「ちぇっ。」
- 9 名前:伴走者 投稿日:2012/04/14(土) 11:02
- まぁ、いっか。
ふと窓の外を見ると、満開になった桜がふわりと夜を彩っている。
名古屋の桜も、きっと綺麗なんだろうね。
もっとも梨華ちゃんは、それをゆっくりと眺める余裕なんてないのかもしれないけど。
アタシ、寂しいよ。
梨華ちゃんが隣に居ないと、何だか物足りないんだ。
でも、梨華ちゃんも寂しいって、言ってくれた。
たったそれだけだけど、同じ気持ちで居るんだっていうだけで、すげー嬉しいんだ。
いつでも全力のアイツには、これ以上頑張れだなんて言えない。
だからアタシも、もっともっと頑張ろう。
負けず嫌いのアイツのヤル気を、せいぜい煽ってやれるぐらいに。
- 10 名前:電 投稿日:2012/04/14(土) 11:05
- おそまつさまでした。
万が一、ご意見、ご感想、ご指摘など頂ける場合は
恐れ入りますがsageでお願いいたします。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/14(土) 15:06
- 旬なネタで面白かったです。
これからも楽しみにしています。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/14(土) 21:32
- 面白かった!期待してます。
- 13 名前:電 投稿日:2012/04/18(水) 02:24
-
>11様
有難うございますm(__)m
不定期更新になりそうですが、今後も宜しくお願いいたします。
>12様
有難うございますm(__)m
ご期待に添えるよう、頑張ります!
って、先日の更新分、分かりづらくてスミマセンでした……。
『伴走者』は、前回アップ分で終了です。
以後、終わりの際はそれと分かるよう表記いたします。
それでは、本日更新分に参ります。
- 14 名前:かしまし、かしまし。 投稿日:2012/04/18(水) 02:25
- 「みんな〜ジョッキ行きよったかーっ!?
ハイッ、いくでー! ちょっと遅くなりましたが、武道館お疲れ様でしたーーー!
色々ありましたが、何とか無事に第一幕を終えられましてー……」
「ゆうこーーー早く飲ませろーーーーーっ!!」
「そーだそーだーー!」
「話が長いぞーこの幸せボケーーー!」
「何じゃとコラァ! ……ま、長い話は置いといて、それではみなさんッ」
「「「カンパーーーーーイッ!!」」」
貸し切りにしたレストランのあちこちで、グラスを合わせる音がカツンと響く。
打ち上げの席は無礼講。
みんな楽しそうに酒を煽り、話を弾ませている。
なかでも先日結婚を発表したばかりの中澤の周りには自然と人が集まり、
中澤も幸せそうに一人ひとりに丁寧に頭を下げている。
- 15 名前:かしまし、かしまし。 投稿日:2012/04/18(水) 02:27
- 「いやー、こうして見てるとさぁ、ホントに裕ちゃんお嫁に行ったんだねぇ〜。」
一通り冷やかし終えたのか、グラスごと移動してきた矢口を
お酒よりもケーキを食べることに夢中だった小川が迎える。
「姐さんがあんなに嬉しそうだと、私達も嬉しくなりますよねっ!」
「そーだなぁ。これでまた丸くなってくれると、ウチらも助かるね。」
「親分、そりゃちょっと言い過ぎですよ〜。」
吉澤も普段よりはだいぶセーブして飲んでいるのか、
いつもの酒の席のようなハイテンションではなく、落ち着いた声色だ。
サプライズで用意されていたバースデーケーキを、自ら小川に切り分けている。
「よっすぃ、全然飲んでないじゃーん。明日早いの?」
「あぁ、それもあるんすけど。」
矢口が小川のほうをちらっと見やると、小川は途端に眉を寄せる。
次の冷やかしターゲットを見つけたのが大層嬉しいのか、
オホンを咳払いをしてから吉澤の隣に座る。
- 16 名前:かしまし、かしまし。 投稿日:2012/04/18(水) 02:28
- 「ま、今日は潰れちゃったら困るもんね〜。
何せ、吉澤さんちの奥様がいらっしゃいませんものね〜。」
「べっつに、そんなんじゃないっすよ?」
「あの、ほら! りっちゃんの舞台、すっごく好評みたいですよっ!
私も着物姿の写メ送ってもらったんですけど、めっちゃキレーですもんね〜!」
面倒な事態をなるべく回避したい小川、
面倒になればなるほど面白がる矢口。
それを察知しつつ、もはや考えるのが面倒になってきた吉澤は
ぐっとジョッキを空けてしまう。
「おっ、さすが男前! いい飲みっぷりですな〜。」
「親分、明日早いんだったら、もう止めといたほうが……。」
「あんだよー。こんくらい大丈夫だよー。」
はぁあ、と小川の口から深い溜め息が漏れる。
「真琴?」
「ハイ、親分!」
「写メって何?」
「へっ? いやだから、舞台の衣装で写ってる写メですよ?」
キョトン、とした顔で吉澤を覗くと、アルコールで赤くなった顔の大きな瞳が
不穏な色になっている。
「ふ〜〜〜〜〜ん。」
(え……ま、まさかっ!?)
焦る小川をよそに、矢口がずばり聞いてしまう。
「ダンナのとこには届いてないの?」
「いや、来ましたけど。」
おそらく2人の心の中では、同じタイミングで
『来てんのかよ!』というツッコミが入ったであろう。
- 17 名前:かしまし、かしまし。 投稿日:2012/04/18(水) 02:30
- 「あ、そーだそーだっ!
せっかくだからさ、2人とも写メ撮りたいんだよね〜っ。ブログに載せるからさ!」
何故かニヤニヤしている矢口に一抹の不安を感じつつ、
小川も自分の携帯を近くに居たスタッフへと一緒になって渡す。
「ほらほら、よっすぃも!」
カメラを向けられれば、当然のように笑顔になる。
それはプロとして当たり前なのだが。
(あ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!
や……矢口…さんっ、なんてことをーーーーーーーーーーッ!!)
小川の心の叫びが届くはずは全く無く、
そのままシャッターが切られる。
「やぁやぁ、どーもどーもっ!
って、アハハハハハハハ! 2人ともすっげーカオだけどーっ!」
(矢口さんに比べれば、私の変顔なんてちっとも大した問題じゃないですよ〜っ!)
「え、アタシの顔けっこーイケてません? 最近コレ気に入ってるんですよー。」
「わざとかよ! さすがよっすぃ! じゃ、ブログにこのまま載っけちゃっていい?」
「いいっすよ〜。」
「真琴もいいよね?」
「あ、ハ、ハイ……!」
(親分がいいっつってんのに、私が断れるわけないじゃんよーーー!!)
かくして、小川の心の叫びは悲しいほどに雲散霧消してしまったのであった。
- 18 名前:電 投稿日:2012/04/18(水) 02:32
- 本日分は以上です。
ついカッとなって、またしても旬すぎるネタになってしまい……
着地点を決めないままアップしてしまいました(w
近日中に続きを書き終えたいと思います。
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/18(水) 05:53
- ネタが早すぎるw
- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/18(水) 07:29
- 素晴らしい!w
ネタの早さに読みながらニヤつきました。
- 21 名前:電 投稿日:2012/04/20(金) 22:02
- >19様
有難うございますm(__)m
鮮度が落ちないうちにお届け出来て嬉しいですw
>20様
有難うございますm(__)m
ニヤニヤして頂けたのでしたら本望です。
投下されたネタにすぐさま食いつくのも我ながらどうかと思うのですが(w
妄想の一片を皆様と共有させて頂ければなと思います。
それでは、本日更新分に参ります。
- 22 名前:かしまし、かしまし。 投稿日:2012/04/20(金) 22:03
- 心の中では大絶叫している小川だったが、それを表に出すことは憚られる。
何とか冷静を装って、スタッフへと渡しシャッターを押してもらった自分の携帯を確認した。
(横目で見ていたよりもばっちり写っちゃってるし……!!)
矢口が吉澤の頬に唇を寄せている画が激写されている。
娘。での現役時代、そしてドリムス。として活動している現在でも
こういった事はスキンシップの一環として
メンバー間で行われていることではある。
(でも……でも、親分とりっちゃんは話が別だって、矢口さんも十分解ってるじゃないですかー!)
例え携帯のカバーだのミサンガだのド派手なパーカーだのをお揃いにしていようと、
バレンタインバージョンのクマをプレゼントしていようと、
目に見えるスキンシップは滅多に行わないのが、吉澤と石川なのだ(少なくてもメンバーやスタッフの前では)。
そのくせ、吉澤と他のメンバーがこうしていると、石川の機嫌はそこはかとなく悪くなる。
「あっ、そーだ!」
小川の気分とは裏腹に、妙にハイな矢口がまたしても含み笑いをしながら隣にやってきた。
「な……なんでしょう?」
「ここは一つ、吉澤さんちの奥様にも了承を得とかないといけませんわよねぇ〜。」
「なッ!? ……あーっ、矢口さんいつの間に私のケータイをッ!」
「いやだってほら、ここはダンナのお弟子さんからの報告が一番でしょ〜。」
抵抗するも聞き入れられず、小川の携帯から先程の画像が添付されたメールが送信されてしまう。
- 23 名前:かしまし、かしまし。 投稿日:2012/04/20(金) 22:04
- (矢口さんのオニ! アクマ!)
泣きたい気分で吉澤のほうを振り返ると、吉澤はトロンとした表情で自分の携帯を眺めていた。
(だから飲むなって言ったんだよぉ〜!)
しかし連日の舞台のため、夜は早くに就寝すると言っていた石川は既に寝てしまっているかもしれない。
そう思い直して、必死に言い訳を考え始めたのもつかの間。
思いのほか早く石川からの返信が来てしまう。
「おっ、さすが奥様、返信がお早いわぁ〜。」
と言いながら矢口がディスプレイを覗き込むので、渋々メールを開く。
『Title:いいな〜(>_<)
まこと〜写メありがとっvV
いいなぁ〜楽しそう! 私も行きたかったよぉ〜〜〜(>_<)
私の分までまことが楽しんできてね!
みんなにもよろしく〜\(^▽^)/
ではでは、もう寝るね〜おやすみっ(^_-)-☆ 』
…………。
二人は黙って顔を見合わせた。
(ひぃい〜〜〜っ、一言も触れていないのが怖い……ッ!)
- 24 名前:かしまし、かしまし。 投稿日:2012/04/20(金) 22:05
- 「梨華ちゃん、今は舞台のことで頭いっぱいっすよ。」
ふいに吉澤がつぶやく。
「今はこんぐらいのこと、どうってことないんすよ。
……わき目も振らず、全力投球中ですから。」
思いがけず低いトーンに、小川も驚いてしまう。
「よっちゃ〜ん、なーに暗いカオしてんのよ〜?」
あちこちのテーブルを酌をしながら渡り歩いていた保田が、ここぞというタイミングでやってくる。
「やーぐちー、さてはアンタまたよっちゃんと梨華ちゃんのことイジめてたんでしょ〜?」
「圭ちゃん、いきなり来ていきなりツッコミってひどくね!?」
「あら図星? ったく、後の処理する私と小川の身にもなってよ。
アンタ荒らすだけ荒らして、面白がって終わりなんだからー!」
「へいへい、私が悪うございました〜っ。」
矢口の頭を軽く小突きながら、保田が二人の間にぐいぐいと割り込む。
一瞬のうちに小川にも目配せをして、ウィンク(らしきもの)を投げる。
「や、保田大明神さま〜〜〜! ハハァ〜〜〜ッ!」
「おぉ、小川は可愛いねぇ〜。 よしよし、可哀相にね〜。
親分がヘタレだと子分も大変ねぇ〜。」
ひれ伏す小川の頭を撫でてから、保田は吉澤に向き直る。
- 25 名前:かしまし、かしまし。 投稿日:2012/04/20(金) 22:05
- 「梨華ちゃんが今すごく頑張ってるのは、よっちゃんが一番知ってるでしょ。
そういう言い方しないの。」
「……ケメコに説教されちゃった。ちぇーっ。」
そう悪態を吐く吉澤はもういつもの吉澤の顔で、小川は心底ほっとする。
「で、爆弾処理班としては、成り行きを聞いておきたいんだけど。」
そう言って保田は小川から携帯を借りて、先程のメールと画像を確認する。
「ってかさ、これいくら梨華ちゃんがニブくっても、小川が書いたメールじゃないって気付くわよ。」
「「「えっ?」」」
けろりとそう言う保田に驚いて、小川は慌てて送信されたメールを確認する。
『Title:打ち上げ
りかちゃん舞台がんばってる〜!?
こっちは今打ち上げの真っ最中だよー(>▽<)
よっすぃも矢口もほろ酔いイイ気分〜♪♪
(画像添付あり:2012041644.jpg)』
「……確かに!」
「ちくしょー! バレてたってわけかー!!」
「お酒飲んで酔っぱらってるクセに面白半分であんなことするからですよっ!」
「ま、そういうコトね。」
やれやれといった表情で、保田が三人の肩を抱く。
- 26 名前:かしまし、かしまし。 投稿日:2012/04/20(金) 22:06
- 「これにて、一件落着ッ!
名探偵ケメコに何でもおまかせよ!」
バッチーンとウィンク(らしきもの)を決める保田に、三人で笑い転げながらお決まりのリアクションを返す。
「「「オェ〜〜〜〜〜〜ッ!!」」」
「ちょっと〜、私をオチに使うなっていつも言ってんでしょ〜!?」
四人でくっついて笑いながら、小川はふと吉澤を覗き込む。
するとすぐにそれに気付いた吉澤が照れたように笑って、小川の頭をクシャッと撫でた。
『あ・り・が・と』
口の動きだけでそう言ってくる。
小川はそれが嬉しくて、ちょっと寂しくもあって、また笑った。
「今度は梨華ちゃんも入れてさ、裕ちゃんのお祝い会をやろうか!」
「おっ、圭ちゃんいいこと言うじゃーん!」
「美貴ちゃんにもサプライズしたいですよね!」
「そーだそーだ! ってかみんなでベビティ見に押しかけてやろうぜー!」
「それもいいねー!」
これは終わりじゃない。
きっとまだまだ続くであろう道の、ちょっとした休憩のはずだから。
- 27 名前:かしまし、かしまし。 投稿日:2012/04/20(金) 22:08
- 「あ〜ぁ、いしかーさんの話したら、会いたくなっちゃったなー。今度いつ会えるのかなー。」
「あぁ、アタシ明後日逢うよ?」
「え。」
「一緒の撮影あるからさぁ。」
「…………。」
「どうかした?」
首を傾げる吉澤に、小川はほんの少しだけ意地悪をすることにした。
「親分……なるべく早く、メールか電話でフォローしといたほうがいいんじゃないですか?」
「え、何を?」
「だってさっきの写メ、矢口さんが親分にチューしたのは事実じゃないですかっ。
膝枕しただけでヤキモチ焼いちゃう人が、怒らないわけないと思いますけど。」
「え!? あ、そっかな!?」
そう言いつつも途端にニヤニヤし始める吉澤。
「やだなー、めんどくせーなー。電話したらしたで『私怒ってないもん』とか言うんだぜー。」
(嬉しいくせに。思い切り顔に出ていますよ。)
そう思っても、小川は口には出さないでおく。
こういう二人のほうが、見ていて安心出来るのだ。
明日からまたメンバーそれぞれが違う道を歩いていても、
隣同士で進化し続けている二人を見るだけで、自分達の帰る場所をも確認出来るような気がするから。
END
- 28 名前:電 投稿日:2012/04/20(金) 22:16
- おそまつさまでした。
まったりした文章も書いてみたいなと思いつつ
新鮮なネタが来たら来たで食いついてしまいそうな気がちらほら…(w
次回更新は未定ですが、まとまり次第また書きに来ます。
- 29 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/21(土) 03:04
- すごく素敵なラストです!また読みたいと思ってしまいます。たぶん近いうちに新ネタが来るような予感が.......
- 30 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/21(土) 06:21
- 良い話でした。
これから何かあったらここを覗いてしまいそうですw
- 31 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/21(土) 07:41
- 読みながら気持ちがあったかくなって心地いいです。
二人はもちろんドリムスのメンバーも大好きなので
また素敵な作品を楽しみに待たせてください。
- 32 名前:電 投稿日:2012/04/27(金) 01:42
- こないだの更新日に放送された某ラジオに
ド肝を抜かれてしまいました作者です(w
妄想を軽く追い越すご本人達の酷さに目眩がしますね、もっとやって下さい(www
>29様
有難うございますm(__)m
ネタが来すぎてもはや妄想が追いつかない今日この頃です(w
>30様
有難うございますm(__)m
気まぐれ更新になりそうなので申し訳ないんですけれども
出来るだけ楽しんで頂けるよう精進します^^
>31様
有難うございますm(__)m
私もドリムスのメンバー大好きです!
ドリムスとしての活動は暫くなさそうで寂しいですが
せめて文字の中だけでも書いていければいいなぁ、と思っていたりいなかったり。
……と言っておきながら、今回はお二方だけの登場となります。
それでは、本日更新分に参ります。
- 33 名前: ロゼ・シャンパンは甘口で 投稿日:2012/04/27(金) 01:42
- あぁ、やっぱり落ち着くなぁ。
撮影があったから久し振りに会うわけじゃないんだけど、
こうして2人きりで逢えるのは……ホントのホントに久し振り。
アナタの腕の中が、一番落ち着くの。
「千穐楽、おめでとう。」
耳元で聞こえる優しい声が、くすぐったい。
電波越しじゃない、大好きなアルトボイス。
「ありがとう、よっすぃ〜。」
そう返すと、腕を緩めたアナタの大きな瞳が私を覗く。
少し不満そうに、鼻を鳴らす。
ふふふ。かーわいい。
「ちゃんとイイコにしてた? ひとみちゃん?」
打ち上げのあった日のメールと、矢口さんのブログと、
それに続くように押し寄せた
真琴がこっそり送ってくれた弁解も、
圭ちゃんがさり気なく送ってくれた他の写メも。
ちょっと離れたところに独りで居た私にとっては、
ぜーんぶが頑張るためのエネルギーになったんだよ。
慌てるように、でもどこか浮ついた声で電話をくれたアナタには
怒ったフリしちゃったけど……、
こうしてわざわざ迎えに来てくれたから、もういいよね。
ううん、怒ってるフリなんか出来ないくらい浮かれてるんだ、私。
「今日はちょっとフンパツしてさ、シャンパンを買ってきたんだよ。」
並んで腰かけたソファから長い腕を伸ばして、豪華な箱を取り出す。
こっちが照れるくらい、名残惜しそうに見つめられてから席を立って、
グラスをテーブルへ並べて、勢い良く栓を抜く。
- 34 名前: ロゼ・シャンパンは甘口で 投稿日:2012/04/27(金) 01:43
- 「わーっ、キレーイ!」
「喜んでいただけましたか、お姫様?」
なんておどけた口調とは裏腹に、眩しいくらいかっこいい横顔。
ピンクのロゼシャンパンが注がれたグラスを、2人で手に取る。
「「カンパイ!」」
カチンと軽くグラスを合わせてから、シャンパンで喉を潤す。
「おいしいねー!」
「良かった。冷やす時間なかったからさ、ちょっと心配だったの。」
「ううん、これくらいでちょうどいいよ。」
私がそう言うと、満足そうに笑う。
きっとまた色々と考えてくれてたんだろうなぁ。マメだなぁ。
「あっ、そうだ! ねぇねぇ、ひとみちゃん?」
「ん? どうしたの?」
私は指に人差し指を当ててから、
もう一度グラスにシャンパンを注ぎなおした。
「お誕生日、おめでとう。」
そう言って私がグラスを傾けると、嬉しそうにもう一度グラスを合わせてくれた。
「ありがと、梨華ちゃん。」
さすがにちょっと照れ臭くなって、目を合わせて笑う。
- 35 名前: ロゼ・シャンパンは甘口で 投稿日:2012/04/27(金) 01:43
- 「おつまみ、何か軽いものだけでも作ろっか?」
「んー、今日はいいよ。」
「でもさ、ひとみちゃんもお酒ガマンしてくれてたんでしょ?」
「へっ?」
「ふふふっ。聞いちゃったもんねー。
私が居なかったから、お酒の量セーブしてたんでしょ?」
そしたら途端に耳まで赤くなって、
「何でそーゆーこと本人に言うかな……。」
とか何とか、ゴニョゴニョしてる。
「いいじゃーん。ひとみちゃん、お酒飲んで酔っ払っちゃうと手に負えないもんね〜。
やっぱり私が居ないとダメね〜。」
「うるせー。梨華ちゃんだって人のこと言えないじゃんかよー。」
「私はいいのーっ。ひとみちゃんみたいに、人のこと蹴ったりしないもんっ。」
「ダメだっつったらダメなんだよ。」
「え〜?」
「梨華ちゃん酔うと、すぐ人に寄りかかるじゃん。色目遣うし。」
そう言ってまた距離を縮めてくる。
1ヶ月ぶりに口にしたアルコールのせいかな、何だかすぐにカラダが熱くなった。
「色目なんか遣わないよ。」
「遣ってなくても、そう見えんだよ。背ちっこいから自然と上目遣いになるし、
華奢だからすぐ肩とか抱え込まれて、支えられてんだろ。」
最近こういうことを口にも態度にも出してくれちゃうから、
私はどうしていいのか分からなくなる。
- 36 名前: ロゼ・シャンパンは甘口で 投稿日:2012/04/27(金) 01:45
- 「ね、梨華ちゃん、ちょっと痩せたでしょ?」
彼女の手が、私の腰に回る。
薄手のキャミソール越しに触れる、長くて綺麗な指にぞくぞくする。
「ん、舞台中は朝も早起きだったし、夜は早くに寝てたから。
お酒も全然飲んでないし、きっちりしてたからかな?」
「それだけじゃないよ。舞台、頑張ったからだね。すごいね。」
アナタはどうして、私を一番満たす言葉を知っているのかな。
綺麗な顔が近付いてきて、額に薄い唇が降る。
チュッという小さな音が私を煽る。
「プレゼント……。」
「え?」
「誕生日のプレゼント、まだもらってないからさ。」
「う、うん。」
「ベタかもしんないけど、言ってもいい?」
そういうひとみちゃんはもう既に真っ赤っかで、私は思わず吹き出してしまった。
「笑うなよぉ。」
拗ねたように唇を尖らせて、私をソファへ押し倒す。
私はもう一度だけ笑ってから、かわいいアナタに口づける。
「いいよ。イイコにしてたから、ごほうびあげる。」
END
- 37 名前:電 投稿日:2012/04/27(金) 01:46
- 短いですが、本日分は以上です。
何とか今日中にアップできてよかったです……w
おっと、テレ東テレ東っ!!
- 38 名前:電 投稿日:2012/04/27(金) 02:17
- 急いで更新し過ぎて誤字発見……orz
34 : 指に人差し指を当ててから
→ 唇に人差し指を当ててから
お目汚し、大変失礼いたしました。以後気をつけます。
- 39 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/27(金) 05:55
- ふぅぅぅぅあまーーーーーい
いいっす好きっす
- 40 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/27(金) 08:07
- 出勤前に我慢できずに読んでしまいました。
あぁ、甘すぎて今日は仕事中、にやけてしまうの
確実です。
- 41 名前:電 投稿日:2012/04/28(土) 10:47
-
>39様
有難うございますm(__)m
甘いいしよしはお好きですか? 私は大好きです(w
>40様
有難うございますm(__)m
こちらにも甘党の方が(w
お仕事の妨げになっていなければ良かったのですが……心配です(ww
先日の更新が短めだったので、蛇足かもですがもう1本。
前回の駄文と併せて楽しんで頂ければと思います。
それでは、本日更新分に参ります。
- 42 名前:いつまでも変わらぬ愛を 投稿日:2012/04/28(土) 10:48
- 目覚めた朝は、あいにく小雨が降っていた。少し肌寒い。
ベビーピンクのカーテンから覗く、グレーの重たい空を眺めた。
隣ではまだ、梨華ちゃんがぐっすりと眠っている。
今日はゆっくり寝かせてあげたいから、
アタシは出来る限りそうっと寝がえりを打った。
頭にバカがつくぐらい真面目な梨華ちゃんは、きっと1ヶ月の間
誰に言われるまでもなくきっちりと決まった時間に起き、支度をして、
気持ちを盛り上げながら劇場へ向かい、壇上へ臨んでいたのだろう。
もっと気楽に構えたり、少し手を抜いたり、
そつなく器用にやればいいのに、なんて言われることもある。
アタシも出逢った頃はそう思っていた。
でも梨華ちゃんはそれが出来ないし、そうしたいとは微塵も考えない。
いつでも本気だし、いつでもありったけのフルパワーで突進していく。
華奢で細っこいカラダのどこにそんなパワーがあるのかなって思う。
- 43 名前:いつまでも変わらぬ愛を 投稿日:2012/04/28(土) 10:49
- ……胸は大きいけどね。
パジャマからセクシーな胸元が見えていて、つい無意識に見つめてしまっているのに気付く。
見慣れているのに、何度見てもニヤつくアタシってどうかしているのかも。
は〜、ゆうべの梨華ちゃんもかぁいかったなぁ……。
普段よりももっと甘くって高い声がアタシを呼ぶ瞬間や
小麦色の肌がほんのりと赤くなっていく過程で
艶っぽく潤んだ半月の瞳を向けられると、アタシは今でも気が狂いそうになる。
- 44 名前:いつまでも変わらぬ愛を 投稿日:2012/04/28(土) 10:49
- アタシはオンモードの完璧に可愛い梨華ちゃんも好きだし、
サイコーに色っぽくってキレイでオトナな梨華ちゃんももちろん大好きだ。
そんで一緒に毛布にくるまって眠りに就いて、まだ眠る彼女の隣でこっそりと先に目を覚まして、
寝ている梨華ちゃんを静かに眺めている今みたいな時間が、一番幸せだ。
メイクをしているときとか澄ましているときはつり眉っぽく見えるけど、
今はすっぴんだから、眉毛なんか半分くらいしかない。
スゥスゥという呼吸音とセットで規則正しく上下する胸元なんか隙だらけだし
(また見ちゃったよ……見えてるからいけないんだ。布団かけ直しといてあげよう、よいしょっと)
今日みたいに疲れているときはクマがくっきり浮かんじゃっている。
……あ、ちょっとヨダレ垂れてる。
いっつもアタシのこと可愛いとか言ってからかってお姉ちゃんぶるくせに、
寝ている梨華ちゃんは、ほんと子供みたいでかーわいーんだよね〜。
こういうところも、昔から変わっていない。
可愛いのに時々妙にかっこよくって、女の子らしいのに男勝り。
小さな女の子みたいにしょうもない駄々をこねたかと思ったら、
狂おしいほどの情熱を煽る眼差しを向けられる。
- 45 名前:いつまでも変わらぬ愛を 投稿日:2012/04/28(土) 10:50
- だから、さ。
だからきっと離れらんないんだ。
こんな無防備な姿、アタシ以外の誰にも見せないで欲しい。
半分しかないハの字眉毛も、
ちょっとヨダレが垂れてる唇も、全部アタシだけのモノであって。
「んぅ……。」
やべ。起こしちゃったかな。ガン見しすぎたかも。
「…………。」
小さな手で毛布を掴んで、アタシのほうに向いて寝がえりを打った。
どうやらまだ夢の中みたいだ。
くふふふ。かぁわいいなー。
桜の季節は、残念ながら終わっちゃったけど。
新緑の中を散歩ってのも、爽やかでいいと思う。
一緒に走ってって言ったら、また却下されてしまうだろうか?
ランニングコースの並木道、キレイなんだけどなぁ。
- 46 名前:いつまでも変わらぬ愛を 投稿日:2012/04/28(土) 10:51
- 考え出したら何だかガマン出来なくなって、
まだ眠っている梨華ちゃんの柔らかい頬にそっとキスをした。
キスをしたら起きるかと思ったら全然気付いてくれない。
起こしたくなかったからそれでいいはずだったんだけど、
ちょっと寂しくなって、腕を回して抱きしめる。
「んー……?」
「起こしちゃってゴメンね。」
「うーん……?」
「おはよ、梨華ちゃん。」
長い睫毛がゆっくりと開いて、アタシを見つける。
途端に華が咲くように優しい笑みがこぼれて、目を細める。
何年だってずっと、アタシを捉えて離さないでいて。
アタシに魔法をかけ続けて。
いつまでも変わらずに、一緒に朝を迎えようよ。
END
- 47 名前:電 投稿日:2012/04/28(土) 10:54
- 本日分は以上です。
明日のガッタスイベント……仕事のため、お留守番組です(涙)
行かれる方々は、どうぞ楽しんできて下さいませ(^^)v
- 48 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/28(土) 11:40
- ムフフフフフな気持ちになってしまいました。
- 49 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/28(土) 16:11
- うわー…脳ミソ溶ける…
視点がよっすぃにシンクロして顔が緩みっぱなしでしたw
更新ありがとうございました。
- 50 名前:電 投稿日:2012/05/08(火) 00:13
-
>48様
有難うございますm(__)m
楽しんでいただけたようで、何よりです。ムフフフフ…(w
>49様
こちらこそ、有難うございますm(__)m
ココのお2人は、基本的に脳味噌溶けっぱなしな駄々甘テンションで貫く所存です(w
吉澤さんにシンクロってことは、きっとお口がオメガになってしまったのですね…(w
本当は昨晩中にアップしたかったのですが、どうしても纏まらずズレ込みました…orz
それでは、本日の更新分に参ります。
- 51 名前:スプリング・デイ 投稿日:2012/05/08(火) 00:15
- 昨夜は比較的早めに就寝したとはいえ、
吉澤がベッド脇の時計を見やると、まだ6時を指していた。
隣に眠る石川はまだ夢の中であり、いつものようにその寝顔をぼんやりと眺める。
(アタシももうちょっと寝ようかなぁ……。)
そう思ったものの、カーテンから差し込む光が眩しくて
眠るには惜しいような気持ちになってしまう。
上半身を起こして窓を開けると、
新緑の香り漂う朝の風が、部屋に一陣流れ込んでくる。
「梨華ちゃん、梨華ちゃん。起きてよ、梨華ちゃん。」
細い肩を揺らして、愛しい人を起こしにかかる。
「ん〜〜〜……なぁによぅ……。」
少し掠れた声を上げながら、いかにも気怠いといった風にもぞもぞと動く。
「ねぇねぇ、チョーいい天気だよ。ほら、見て?」
「んー、そだね……。」
明らかにまだ眠たそうにしている石川は、毛布を引っ張りあげる。
本当は『一緒にランニングに行かない?』と誘いたいところだが、
それはおそらく無理だろう。
寧ろ今それを言い出すと、機嫌を損ねかねないと吉澤は承知している。
だから今日のところの狙いはそこではない。
- 52 名前:スプリング・デイ 投稿日:2012/05/08(火) 00:16
- 「ねー、梨華ちゃん。キモチイイ朝だよ?」
「ん〜。」
「こういう朝はさぁ、走るともっとキモチイイんだよ〜。」
「い・や・だ。私まだ眠い。」
予想的中。
口を尖らせて毛布に潜ろうとする石川を
慌ててなだめる振りをして、吉澤は寝ぼけ眼の瞼にキスを降らせた。
唇で瞼をつまみ、ふぅっと僅かに息をかける。
「もーう、くすぐったいよぉ。」
なんて言いながら、石川はふわりと笑った。
うずうずするような嬉しい気分で、吉澤はそれだけで満足しかけてしまう。
「ランニングは諦めるけどさ。アタシ、お腹空いちゃった。」
「はいはい。朝ゴハン、なにか作ろっか。」
可愛らしく首を傾げる石川を抱えるように起こしてから、
今日の本題に取りかかる。
- 53 名前:スプリング・デイ 投稿日:2012/05/08(火) 00:18
- 「ね、梨華ちゃん。駅のほうにあるスーパーって、確か24時間営業だったよね?」
「え? うーん、確かそうだったと思うけど。」
「今日はさ、一緒にお買い物しに行こうよ。」
「今から!?」
「うん。今からちょっとだけ、デート行こ?」
「スーパーに?」
「うん。朝ゴハン買いに。」
呆れたといった表情の石川。
いつもは上目遣いだが、今は吉澤の膝の上に乗っているので、珍しく上から覗き込む姿勢だ。
嬉しそうにニコニコする吉澤を石川はしばし見つめてから、ふっとその表情を崩す。
「言い出したら聞かないからなー、ひとみちゃんは。」
そう言いながら目を細めて、額から首筋へ向かって金髪を梳く。
小さな手が繰り返すその仕草に、吉澤も心地よさそうに目を閉じ、大人しく待った。
- 54 名前:スプリング・デイ 投稿日:2012/05/08(火) 00:18
- 「せめて眉毛書いて、ファンデは塗ってから行くからね?」
「よっし、決まりっ!」
石川の肩をぽんっと叩いて、勢いをつけて起き上がる。
しなやかに筋肉の付いた吉澤の白く長い腕が、石川を引っ張る。
石川も吉澤のテンションにつられて、何だかちょっと楽しくなってくる。
浮き立つ気持ちを分かち合って、五月晴れの空の下に飛び出す。
連休が終わった街は忙しそうに動き出していて、2人を置き去りにして走り出そうとしている。
「みんなは今日からお仕事なんだねぇ。」
「そうだね。眠そうな人、多いね。」
「私だってひとみちゃんに無理やり起こされたから眠いんだからねー?」
「スゲーいい天気だったから、何となくもったいなかったんだよ。」
足早に通り過ぎていく通勤・通学の群れと、はぐれるようなゆるいペースで並んで歩く。
まだ少しだけ肌寒くて、触れた指をそっと繋ぐ。
視線が合って、はにかむ。
都会の忙しない朝は、2人が顔の知れた芸能人だということを忘れさせてくれる。
- 55 名前:スプリング・デイ 投稿日:2012/05/08(火) 00:19
- 「あっ、これこないだCMで見たやつだっ。」
「ちょっとぉひとみちゃーん。勝手にカゴの中にお菓子入れるなんて、子供みた〜いっ!」
「だって美味しそうだよー? 母ちゃんこれ買ってよー。」
「も〜っ! ベーグルだってこんなに買うんだから、お菓子はどれか1つにしなさいっ。」
「トメ子、止めるな!」
「いいえ、トメ子止めますっ!」
人の少ないスーパーでじゃれ合いながら買い物をして、来た道を戻る。
しばらくはユニットでの活動が増えるから、一緒に居る時間も多くなるだろう。
それでもこうして、何気ない日常の1コマを共にするのが
どれだけ幸福なことかを、2人は知っている。
再び絡んだ指先が繋がれて、同じリズムで歩き出す。
「たまには早起きして、こういうのもイイっしょ?」
「まぁね〜。」
「次はランニングにも付き合ってもらうからね?」
「それはまぁ、気が向いたらかな〜。」
「いつかぜってーリベンジすっから。覚えろよー。」
「はいはい。」
澄んだ空が温かな光で街を包んでいく。
例えばこんなコンビニデートを、触れ合いながら過ごすささやかな喜び。
- 56 名前:スプリング・デイ 投稿日:2012/05/08(火) 00:21
-
END
- 57 名前:電 投稿日:2012/05/08(火) 00:26
- 本日分は以上です。おそまつさまでした。
そう言えば燃料絡みでない更新は初めましてかも…?
今月はどうも忙しくなりそうですが、
たまにはユルい日常ものも書けたらいいなぁと思います。
- 58 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/08(火) 00:53
- 甘いですねぇいいですねぇ。この世界に浸っていたいと思いました。
- 59 名前:電 投稿日:2012/05/18(金) 03:42
-
>58様
有難うございますm(__)m
自分が読む分には、痛いのも切ないのももちろん大好きなんですけど
やっぱりいしよしは甘いのが一番好きです…w
世界に浸っていたいとまで言っていただけると、書き手冥利に尽きますm(__)m
それでは、本日更新分に参ります。
- 60 名前:Close To Your Heart 投稿日:2012/05/18(金) 03:44
- 持て余すほどの感情が、ぐるぐると胸の中を支配していく。
最後の雑誌撮影を終えて時計を見やると、まだ宵の口。
石川が嬉しそうに寄ってきて、吉澤の腕に自身のそれを絡める。
甘くてセクシーな、オンナノコの香り。
今日最初の仕事であんなことを言われてしまったから、
否が応でも意識してしまう。
- 61 名前:Close To Your Heart 投稿日:2012/05/18(金) 03:45
- 「ねぇよっすぃ〜。まだ時間早いから、どっか飲みに行こうよぉ。」
腕に触れる柔らかい感触が、くすぶる炎を一層狂わせる。
「梨華ちゃんち、行きたいな。」
「えぇ? 今日はお店に行って、おいしいゴハン食べようよぉ〜。」
「うーん、アタシ何かちょっと疲れちゃったからさ、ゆっくりしたい気分なんだよね。」
石川は少し渋ったが、吉澤がすまなそうに眉を下げてみせると
「も〜、しょうがないなぁ〜。」
と言って、すぐに折れた。
どこか上から目線でいて、でもとても嬉しそうな石川は、上機嫌である証拠だ。
タクシーの中でも絡めた腕を離さないまま、ずっと何かを喋っていたが
吉澤は翳った夜空を窓越しにぼんやりと見つめていた。
ここ何日か暖かい日が続いていたせいか、やけに寒く感じる。
- 62 名前:Close To Your Heart 投稿日:2012/05/18(金) 03:46
- グレーの陰に包まれた都会の一角のマンションに、2人で滑り込む。
重いドアを後ろ手で閉めて、ブーツを脱いで揃えるのももどかしい。
「何か作る? 久し振りにピザでも頼もっか?」
振り返った石川を、吉澤が抱きすくめる。
「なんもいらない。ベッドいこ。」
ストレートにそう告げた。
「えー、私お腹減ったよぅ。」
笑いながら返してきた石川が振り返りざまに、唇を奪う。
雰囲気を作っている余裕などはなく、舌を絡ませる。
混ざりきらなかったどちらかの唾液が、石川のワンピースへ零れた。
「も、ガマンできね。」
もつれるように寝室に転がり込み、押し倒す。
吉澤は石川の大きい胸に頭ごと埋めて、香りを胸一杯に吸い込んだ。
気が触れそうな欲情が、血潮にのって駆け巡る。
「ちょっと…どしたの、よっすぃ〜?」
そう言う上目遣いが、またそれを煽っていく。
「あんなコト言われて、へらへら笑ってんなよ。」
- 63 名前:Close To Your Heart 投稿日:2012/05/18(金) 03:47
- こんな言い方したくないのに、と吉澤は頭の端で思う。
でも吹き荒れる竜巻が、その優しさを許さない。
「ねぇひとみちゃん、なんのこと? ほんとにどうしたの…?」
「これ全部、アタシのモンなんだから。
他の奴に気安く触らせてんじゃねーよ。」
不安そうに寄せられた八の字眉に、ちくりと心が痛む。
見ないふりをする。
首筋に舌を這わせて、耳朶を強く噛む。
ピアスごと口に含んだら、金属がひやりと心地よかった。
「それともさ、ホントに男誘ってんの?」
「もしかして、香水の話のこと? あれ買ったとき、ひとみちゃんもいたじゃない。
梨華ちゃんらしくていいんじゃないって、言ってくれたから……んっ!」
互いの高い高い吐息が漏れ始める。
白く長い指が熱を帯びて、褐色の肌を縦横無尽に動き回る。
小さな手が背中に伸びて、まだ身に着けていた衣服を剥ぐ。
- 64 名前:Close To Your Heart 投稿日:2012/05/18(金) 03:48
- 「ね……アタシ、おかしくなりそうだった。ちゃんと…っ、笑え、なかった。
心配、なんだよ……ただでさえ……可愛いのに。」
「ン……うぅん。私……嬉しかったよ。」
「梨華ちゃん、全部……全部、アタシの中に閉じ込めておけたらいいのに……ッ。」
「ふぅっ……。」
「ね、こんなん、アタシじゃないみたいでしょ……。」
「…ぁ、……ひとみちゃん……。」
ぐずっていた空から、雨が落ちているようだ。遠くで水の跳ねる音がする。
爆ぜる想いが、掻き回す仕草を速めていく。
ダイニングから漏れる明かりが、情に染まった赤い肌を映す。
息も切れ切れになりながら、初めて視線を合わせると、
石川は快楽に眉を顰めながらも嬉しそうに笑った。
- 65 名前:Close To Your Heart 投稿日:2012/05/18(金) 03:49
- 「ひとみちゃんがヤキモチ焼いてくれるなんて、うっれしいな〜。」
「そんなに何回も言わなくたって、もー分かったっつーの。」
呆れるほど繰り返したその言葉に、
吉澤はいたたまれないといった風に口を尖らせた。
「だってさぁ、私ばっかりいつも怒ってるんだもん。
ひとみちゃんあんまり、そういうの言ってくれないしィ。」
「アタシはそういうキャラじゃねーし。」
「ほらぁ、またそんな風に言ってさぁ。」
今度は石川が口を尖らせる。
汗がひいた額をくっつけて、密かに笑い合う。
「あ〜ぁ。ひとみちゃんのせいで、お腹ぺっこぺこだよ〜。」
「はいはい。お詫びに何か買ってきましょうか?」
「とーぜん!」
「その代わりさ、次はあの香水もっかいつけてみてよ?
梨華ちゃんのフェロモン、もっと堪能しないとね。」
「……バカ! ヘンタイ!」
♪ひねくれて 支離滅裂だっていいんだ
抱きしめるよ 痛みだって全部
2人で歌う新曲のメロディーを、石川が口ずさむ。
シャツを引っかけた白い肩が揺れて近づき、どちらともなく目を閉じた。
END
- 66 名前:電 投稿日:2012/05/18(金) 03:52
- 本日分は以上です。
あぁ、気が付いたらもうこんな時間ですか……(w
有難くも朝方にこの更新を見つけて下さった方、
出勤前の閲覧はあんまりオススメ出来ない…かも、しれないです(w
- 67 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/18(金) 06:46
- 出勤前に読んでしまいました
鼻血でそうです
- 68 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/18(金) 08:19
- あぁ、私も同じく出勤前に読んでしまった...
またもや一日中にやけが抑え切れそうにありません。
- 69 名前:電 投稿日:2012/05/25(金) 01:48
- >67様
有難うございますm(__)m
朝に読むには、少々糖度が高すぎたかなと…鼻血大丈夫でしたか?(w
>68様
有難うございますm(__)m
おっ、もしかして以前にもレスを下さった方でしょうか?
またしてもお仕事の妨げになってしまって、どーもスミマセン(w
それでは、本日の更新分に参ります。
- 70 名前:LA・LA・LA LOVE SONG 投稿日:2012/05/25(金) 01:50
- たくさんの笑顔と幸せに溢れた披露宴が終わり、一夜明けたばかり。
おすそ分けをしてもらった幸福はまだ胸を満たしていて、心がフワフワしている。
今日も、新曲のプロモーションで一緒の仕事だ。
いっそう浮つく気持ち。
「おはようございまーす。」
決して聞き間違えることのない声が、扉を開けて入ってくる。
12年間を共に駆けてきた、かけがえのない存在。
「おはよう、よっすぃ〜。」
石川が雑誌から目を上げて声をかけると、綺麗な顔をくしゃっと崩して笑う。
それこそ飽きるほどに見つめ続けているのに、その笑顔に石川は弱い。
きっと吉澤も石川のそんな気持ちをずっとずっと前から分かっていて、
照れ臭いのを今は必死に隠しているのだろう。
「今日も何だかお天気悪いねぇ。」
「ほんとウチらって雨女だよねぇ。」
「2人揃うと晴れたりもするんだけどねぇ。」
控室の窓から曇り空を眺めて、他愛もない会話を交わす。
話が尽きるわけではないけれど、沈黙も嫌じゃない。
携帯をいじくってみたり、先程のように何となく雑誌を広げたりもするし
隣り合わせでメイクをしながら、ずっと喋っていたりもする。
- 71 名前:LA・LA・LA LOVE SONG 投稿日:2012/05/25(金) 01:51
- 「結婚、かぁ〜。」
ぼそりとつぶやいた石川の声。
焼きたての甘いスフレのようだった気持ちが、小さくしぼんでゆく。
立て続けのメンバーの結婚や、出産。
それは2人にとって、心から嬉しいことだ。
芸能界という特殊な環境において、巡り合った運命の絆。
ときにはいがみ合ったり、衝突したりしなかったわけではないけれど
今もこうして、とても近いところで切磋琢磨しあえる盟友たち。
でも。
私達は?
私達2人は、どうなるんだろう。
必然的にどこへ行っても聞かれるようになった
『石川さん、吉澤さんの予定は?』
という何気ない質問が、胸に刺さる。
それは雨に濡れて光る薔薇のように
見た目はとてもはなやかで、人を楽しませる。
その実、しっとりと冷たく心に絡んで、しくしくと小さな棘を刺す。
こうして隣に居られるのは嬉しいし、居心地がいいんだけれど
きっと自分がが隣に居たら、相手のためにはならないんだろうな。
お互いが、何度も何度も考えてきたであろうこと。
そして今また考えているだろうこと。
「石川さーん、吉澤さーん、スタンバイお願いしまーっす!」
ノックとともに呼ばれる声がして、いつの間にかそんな時間だったと気付く。
それぞれ返事をしてから、仕事モードへと切り替える。
- 72 名前:LA・LA・LA LOVE SONG 投稿日:2012/05/25(金) 01:52
- 「愛ちゃん、相変わらずだったねぇ〜。」
「でもあれでも頑張ったほうなんじゃない?」
夜の街を、タクシーが抜けてゆく。
伸びるヘッドライトをぼんやり眺めている。
とぎれとぎれに肌がオレンジに染まり、黄昏時のようだった。
「あのさ、よっすぃ〜?」
「うん?」
いつもなら目線を合わせて話すのに、こういうとき石川は、どうしても顔を上げられない。
過去に振り払ったはずの臆病がわき出てくる。
「私のことが重くなったらさ、置いて先に行っていいんだからね。」
繊細でナイーブで、人に気を遣いすぎる人だから。
そう言って突き放してあげないと、きっといつまでも隣に居てくれる。
自分だって自分のことが面倒になるくらいだからと、石川は本気でそう思う。
「梨華ちゃんこそ、アタシのこと置いてったっていいんだよ。」
呆れるほどに生真面目で、不器用で、仕事熱心。
気分屋だけど意外と人のことを見ていたりもするし、うざったいくらいに面倒見が良くて。
ほうっておけないっていうのはきっと、都合のいい言い訳なんだと吉澤は思う。
夜の空は相変わらず曇っていた。
「あ、ここで降ろして下さい。ありがとうございました。」
このまま夜を越えるのが、少し怖い。
視線を合わせないまま、開いたドアを降りる。
- 73 名前:LA・LA・LA LOVE SONG 投稿日:2012/05/25(金) 01:55
- 「あのさ。」
「あのね。」
声が重なってしまって、久し振りに笑う。
「なんかさ、めでたい話なのにフシギだよね。」
「そうだねぇ。何で私達、こんな気持ちになってんだろ。」
見つめ合ってクスリと笑う。
いくら考えたって、結論は大して変わらない。
「私は、もうよっすぃ〜以上の人じゃないと結婚できないって諦めてるもん。」
「アタシ以上の男なんて、そうそういねーじゃん。」
「やだもー、こういうときだけ自信過剰なんだからぁ。」
とめどなく楽しくて、やるせないほど切なくて。
星空は見えなくても、目の前に一番大事なモノが見えているから、かまわない。
動き出した鼓動のメロディーが止まらないように、目と手で捉える。
明かりの少ない夜は闇がいっそう多く、
長く重なり合ったままの人影も、すぐさまネイビーに溶け込む。
「フフッ、なんかドラマみた〜い。やっぱりロマンチストだねぇ、ひとみちゃんは。」
「ってか梨華ちゃんがムードなさすぎ。そういうコトは思っても言わないっしょ。」
「お顔を真っ赤にしたひとみちゃんもか〜わいーいっ。」
「そういう梨華ちゃんだって、じゅうぶん顔赤いよ。」
名残惜しくって、何度も触れ合わせる。
「こういうときは女の子同士だと便利よねぇ。」
「えっ?」
「もしも撮られちゃってもさ、いくらだってゴマカシがきくじゃない?」
「……梨華ちゃんはホント、現実的だね。」
「別にごまかさなくってもいいけどね?」
「まぁね。」
片眉を上げた吉澤と、目を細めて微笑んだ石川。
言葉よりも知り尽くした温度で、本音が伝わる。
涙をも変えてきた、無二の巡り合わせは奇跡でしかない。
END
- 74 名前:電 投稿日:2012/05/25(金) 02:01
- 本日の更新分は以上です。おそまつさまでした。
このスレの殆どの文章のタイトルは
私の好きな楽曲から拝借することが多かったのですが、
今回は某番組きっかけでこの曲からお話を創作しました。
お2人のリアクションがツボすぎた…!
- 75 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/25(金) 07:10
- あの番組ですね。あれはよかった。
そこからはじまるこのお話も良いかんじです。
- 76 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/25(金) 21:10
- どの作品も二人への愛が溢れていて
本当に大好きです。
お互いの気持ちを描く文章が
私のツボを押しまくりで
すっかり作者様に夢中なんです。
仕事の妨げどころか
むしろ活力になってますよ。
また素敵な作品を待ってますね。
- 77 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/26(土) 02:05
- たしかに作者様の作品は私の元気のミナモトです!
次の更新を楽しみに待ってます。
- 78 名前:電 投稿日:2012/06/01(金) 02:44
- >75様
有難うございますm(__)m
あれ良かったですよねぇ〜。
クネクネする石川さん、それにニヤニヤとツッコむ吉澤さんっていう構図が大好きですw
>76様
身に余るお言葉、本当に有難うございますm(__)m
お2人がお互いのことを大切に思いあっているのがすごく好きで
(妄想を抜きにしても、最強コンビだと思います)
暖かく優しい雰囲気を念頭において書いているつもりなので、
そのように言って頂けると、とても嬉しいです。
まだまだ未熟者ですが、今後も楽しんで頂けるよう精進いたしますゆえ
気が向いたときにでも見に来てやって下さいませ。
>77様
有難うございますm(__)m
しがない一端の文書きの気まぐれ不定期更新ですが、
少しでも活力にして頂ければ、何よりです(^^)
それでは、本日の更新に参ります。
- 79 名前:Beauty & Stupid 投稿日:2012/06/01(金) 02:45
- 梨華ちゃんが犬を飼い始めた。
飼い始めたその日のうちに、さっそく写メを送ってきてくれた。
もこもこした毛並みの、可愛いトイプードル。
ありがちな表現だけど、まさにぬいぐるみみたいだ。
名前は『ひめ』ちゃんと名付けたらしい。
梨華ちゃんちのソファにちょこんと座って、首を傾げている。
うん、可愛いじゃん。
そう返信したら、目が可愛いだとか鳴き声も可愛いだとか、
珍しく長い文章のメールを返してきた。
そんだけ色々言うんだったら、もう『全部可愛い』でいいんじゃないか?
でも、ホントに嬉しいんだろうな。
前から犬飼いたがってたもんね。
- 80 名前:Beauty & Stupid 投稿日:2012/06/01(金) 02:45
- アタシも動物はまぁ割と好きなほうだけどさ。
梨華ちゃんのことだって好きだけどさ。
でも毎日のように一緒に居て、会うたびに
「ひめがねぇ……」
「ひめがさぁ……」
って聞かされるんじゃ、さすがにちょっと飽きてくる。
梨華ちゃんの話にオチがないのは、まぁいつものことなんだけだけど。
子犬と遊んだって話なんて、そうそう何パターンもあるわけじゃないしね。
もちろん、梨華ちゃんにとっては違うんだろうけどさ。
ま、とにかくちょっとしんどいわけ。
「よっすぃ〜もひめのこと見たら、絶対メロメロだよ〜。」
なんて言って、アタシの肩に凭れかかる。
はいはい。分かった分かった。
「ねぇよっすぃ〜、聞いてるぅ?」
聞いてるよ。……半分くらいは。
もともとおうち大好きな梨華ちゃんだけど、
ここんとこは仕事が終わってからアタシが飲みに誘っても、全然乗ってこない。
「よっすぃ〜も早くひめのこと見においでよぉ。かぁわいいんだよぉ〜。」
いつもよりも高い声で、とびきりの笑顔でアタシにそう繰り返す。
アタシはそんなテンションの梨華ちゃんに何となくついていけなくって
のらりくらりとかわしていたんだけど、
梨華ちゃんがあんまりしつっこいから、今日はついに負けてしまった。
アタシは結局、梨華ちゃんに甘い。
- 81 名前:Beauty & Stupid 投稿日:2012/06/01(金) 02:47
- 「ひめ〜〜〜ただいまぁ〜〜〜〜〜!」
ドアを開くなりそう言って、ミュールを脱ぎ捨てるようにして部屋に飛び込む。
あーあーもう。
アタシは自分のスニーカーを脱いでから、それも一緒に玄関へ並べた。
アタシがリビングへ入ると、すでに梨華ちゃんは床に這うようにして、犬とじゃれていた。
短いスカートはいてんだから、ちったぁ気をつけろっつーの。
いくら自分ちだからって、アタシも一応お客サマだよ?
それにアタシはいいけど、もし他の人の前でもうっかりそんなカッコしちゃったら困るでしょ?
なんて思っている間に、梨華ちゃんは犬を抱きかかえるようにして半身を起こした。
もこもこの犬の頭が、梨華ちゃんのおっきな胸の谷間に少し挟まっている。
おいおい、ちょっと待て犬。
それはアタシのマイプリンだぞ。
お前が来るずっと前から、それはアタシのモンなのよ。
「ほらぁひめ〜、これがひとみちゃんだよぉ〜。」
でれでれと目尻を下げた梨華ちゃんが、犬にそう呼びかける。
これって何だ、これって。
「いっつもひめに、ひとみちゃんのこと話してるんだぁ。
ひめ、ひとみちゃんにコンニチハしなさいっ。」
一体犬にアタシの何を話しているんだろ……。
アタシが覗き込むと、犬はあからさまにビクリとしながらキャンキャン吠えた。
ちょ…っ、いいから胸から離れろ! その前足をどかせ!
「ん〜、ちゃんとコンニチハ出来たね〜。ひめはおりこうさんだね〜。」
いやいや、今のは明らかに威嚇してたでしょ。
アタシは寝そべっている梨華ちゃんの視線に合わせるように、あぐらをかいて座った。
くしゃくしゃになってる髪の毛を直してあげたくて手を伸ばしたら、
犬はアタシに向かってまた吠えた。
「ひめ〜、ひとみちゃんから私を守ってくれるの〜?」
「ちがっ、そんなんじゃねぇーし!」
「ひめはイイコだねぇ〜。おいでおいで〜。」
仰向けになって手を広げた梨華ちゃんに、犬は思い切りダイブした。
顔じゅうをペロペロとなめられて、差し出した小さい手を噛まれている。
ダメじゃん、また噛まれてんじゃん。
小さくそう呟いてみたけど、梨華ちゃんには全然聞こえていない。
犬は犬で、梨華ちゃんの取り出したウサギのぬいぐるみにじゃれつき始めて、
梨華ちゃんから少し離れた。
アタシは安心して、梨華ちゃんの髪に触れる。
「ったく、どんだけ甘やかしてんだよ。」
「だって可愛いんだもぉんっ。」
「へーへー。分かった分かった。」
「ひとみちゃん妬いてるの?」
「ばーか、誰が犬にヤキモチ妬くかっつーの。」
梨華ちゃんはニヤニヤしながら、アタシの太腿に頭を乗せてきた。
- 82 名前:Beauty & Stupid 投稿日:2012/06/01(金) 02:48
- 「せっかく髪元通りにしたのに、またぐしゃぐしゃになるじゃん。」
「えへへ。いいの〜。膝枕されたい気分なのっ。」
犬はまだ、ウサギに夢中みたいだ。
さすがは梨華ちゃんの犬。ペットは飼い主に似るっていうもんな。
ウサギもよく見ると、梨華ちゃんが描くあのヘンテコなキャラクターに似ていなくもない。
そう思ったら、この犬やっぱり梨華ちゃんに似てるもんなぁ。
やったらカン高い声でキャンキャンわめくし、
知らない人にはビクビクしてるくせに
自分が好きな相手には全力で尻尾振ってじゃれついてくんだ。
それならまぁ、うん。
仲良くしていける……かもしれない。
多分うざったいんだろうけど、きっと懐かれるんだろうし。
そんな風に考えながら梨華ちゃんを覗いたら、
梨華ちゃんはアタシのことを見上げながら、まだニヤニヤしていた。
「なに?」
「フフッ。あのねぇ、こんなコト言ったらひとみちゃん怒るかもだけどぉ。」
くすくす笑いながら、梨華ちゃんは手をめいっぱい伸ばして、アタシのほっぺたを両手で包んだ。
- 83 名前:Beauty & Stupid 投稿日:2012/06/01(金) 02:48
- 「ひめ、ひとみちゃんにそっくりなの。」
「はぁあッ!?」
アタシはとんでもなく素っ頓狂な声を上げてしまった。
いやだって、どう考えてもおかしいっしょ。
「おっきなお目々がキラキラしてて、じぃ〜って私のこと見てくるの。
そんでさぁ、私が抱きしめると、もっともっとって尻尾振って甘えてきてさぁ。」
「バッ……アタシそんなじゃねーしっ!」
「意外と独占欲が強いトコも似てるしぃ。
あっ、あとすっごくマイペースなんだよね〜、ひめもっ!」
「ってかアタシよか飼い主にソックリじゃん!
さっきアタシのことめっちゃ威嚇してたよね? すっげー嫉妬されてたよあれ!?
キャンキャンかん高い声で鳴くし、小さいクセに負けん気強そうだしッ。」
アタシがそう言うと、梨華ちゃんは目を丸くした。
「えぇ〜っ!? 違うよぉ、ひめはひとみちゃんに似てるんだってば。」
「いやいや、どっから見ても梨華ちゃんにソックリだから!」
言い合ってると、いつの間にか犬は梨華ちゃんの足元でぐぅぐぅと眠っていた。
「ほらぁ、ひめ寝ちゃったじゃんっ。ほんとマイペースなんだから。」
「なんでアタシに似てるのか全ッ然イミ分かんねーし。」
アタシがそう言ったら、梨華ちゃんはまたフフフと笑った。
- 84 名前:Beauty & Stupid 投稿日:2012/06/01(金) 02:49
- 「だってひめは私の娘だもん。
ってことはぁ、ひめのパパはひとみちゃんってことになるじゃん?」
アタシは驚きすぎてむせた。
「り、梨華ちゃん、その発想はどうかな……。」
「あれ〜? だってぇ、私ひとみちゃん以外に心当たりないもん。」
心当たりって……ってかアタシだってそんな心当たりないんですケド。
でもきっと、何を言っても無駄なんだろうな。
どうせアタシの顔は真っ赤になってしまってる。
「かーわいい。」
梨華ちゃんはおかしそうに、アタシの鼻の頭を人差し指で撫でた。
アタシは何だか無性に恥ずかしくって、ちょっと乱暴に膝枕を外してから
梨華ちゃんにかぶさるようにして、細いカラダを抱きしめた。
「こういうトコが、どうしようもなく……ほうっておけないの。」
満足そうにそう言って、梨華ちゃんはアタシの髪を梳く。
梨華ちゃんいわくアタシにソックリな犬は、すやすや寝息を立て始めている。
アタシに似てるっていう犬を、梨華ちゃんが甘やかしてるのなら。
そんなに気分は悪くないかも、ね。
END
- 85 名前:電 投稿日:2012/06/01(金) 02:54
- 本日分は以上です。
ペットを飼っていると、どうしても親バカになりますよね。
でもそれ以上にお互いにバカであってほしいと願ったりしてみる(w
- 86 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/02(土) 01:00
- 甘くて優しくて本当にとろけそうです。素敵ないしよしひめをありがとう!
- 87 名前:電 投稿日:2012/06/23(土) 02:39
- ちょっぴりお久し振りになってしまいました…;;
>86様
有難うございますm(__)m
石川さんのひめちゃん溺愛ぶりは、見ていて微笑ましいですよね。
それでは、本日更新分に参ります。
- 88 名前:今日はゆっくり話そう 投稿日:2012/06/23(土) 02:41
- 都会の街は、今日もネオンで彩られている。
声をかけるには少し遅い時間だろうか。
頭の中のスケジュール帳をめくって、石川の予定を思い出してみる。
まだ平気かな。もう家に着いちゃっているかな。
今は強力なライバルがいるから、ちょっと早めに声をかけたかったんだけど。
そわそわしながら、メールを作成する。
教えてもらった居酒屋に、美味しいお酒が置いてあったんだ。
あの味はぜってー、梨華ちゃんの好みだから。
料理もけっこうイケてたし、個室もあったし。
- 89 名前:今日はゆっくり話そう 投稿日:2012/06/23(土) 02:42
- 一緒に行きたいな、と思う場所がたくさんある。
それは海の中だったり富士山頂だったりして、
ディズニーリゾートの期間限定イベントだったりもする。
でも、当然全部が叶えられるわけではない。
まして気まぐれで飽きっぽい石川のこと。
そしてお互い、有難いことに多忙な日々を送っていること。
ほんの少しの躊躇のあと、メールを送信する。
今日がダメでも、また誘えばいいや。そう言い聞かせる。
以前はもっともっと迷いが大きかった。
断られて落ち込むのが怖かった。
こうして気持ちに確固たる自信が持てるようになったのは、
間違いなく、まっすぐな石川のお陰だと思う。
- 90 名前:今日はゆっくり話そう 投稿日:2012/06/23(土) 02:43
- アイフォンの表示を見ると、それは吉澤からのメールだった。
ユニットとしての活動が一段落して、幾日か別の仕事が続いていた。
そろそろ声が聞きたいな、会いたいな、と思うタイミングでメールをくれる。
相変わらず絶妙だ。
マメで優しくてかっこよくってかわいくて、誰よりも素を見せられる相手。
本当にあの人は、どうして私の恋人になってくれたのかな。
そりゃまぁ、確かに自分だってこういう仕事をしているわけだから
見た目には人一倍気を遣っているし、多少の自信はあるけれど。
それでも彼女とて、ぴったり同じだけの芸歴を持っている。
見た目が良い人間など、自分と同じ程度には見慣れているはずだ。
彼女にとっての自分は、同性ということを差し引いても
決して好みの相手ではないだろう。
- 91 名前:今日はゆっくり話そう 投稿日:2012/06/23(土) 02:44
- 石川にとっての吉澤は、いつでも一番の相手だった。
おそらく一目惚れに近いものだったのだと、振り返るたびしみじみ思う。
気がついたときにはもう吉澤のことを追いかけていた。
他の人へと目を向けなければと、躍起になったこともある。
しかし、そういうタイミングのときに限って何故か、まるで石川の心を弄ぶかのように
一緒の仕事が続いたり、ふいに声を掛けられてオフを共に過ごしてしまって、
やっぱり隣に居ると心地が良くて、離れがたくなってしまうのだった。
まれに上手くいって男の人と出かけてみても、無意識に比べてしまう。
『彼女ならもっと私の話を聞いてくれるのに。』
『彼女ならきちんと私の好みを分かってくれるのに。』
そんな風に考えてしまう自分が嫌で、相手にも申し訳なくって、結局やめてしまった。
幾晩のあいだ独りで涙を流したか、数えたことすらない。
仕事場から直接、タクシーで向かった繁華街。
電話をかけると、優しい声が聞こえてほっとする。
「今どのへん? そっから何見える?」
「んっとねー、けっこーおっきな交差点のとこだよ。向こう側にカラオケ屋とミスドが見える。」
「オッケー。今行くから、そっから動かないで。」
- 92 名前:今日はゆっくり話そう 投稿日:2012/06/23(土) 02:46
- 手短に言って、電話を切る。
そんなに離れていないから受話器越しにナビゲート出来なくもないが、出向いた方が手っ取り早そうだ。
何よりも、やっぱり早く顔が見たい。
大きな交差点の向こう側に、きょろきょろと辺りを見渡す小さな影を見つける。
吉澤が手を上げると、ダテメガネの奥の大きな瞳が三日月を描く。
世界でも有数の都会の人混みでも、真っ先に視線を合わすことが出来る。
赤信号がもどかしい。緩む口元をきゅっと結び直す。
待ち合わせなんて、今まで何回繰り返してきただろうか。
近づいてくる石川が、間違いなく自分にしか向けない笑顔になる瞬間が、吉澤はとても好きだ。
ヒールの高いサンダルを履いているくせに、かなりのスピードで走って駆け寄ってくる。
なまじ体育会系育ちなので、その姿は何だか格好良く見えてくる。
勢いを保ったまま、まるでタックルするかのように、吉澤の腕にしがみつく。
- 93 名前:今日はゆっくり話そう 投稿日:2012/06/23(土) 02:47
- 「お待たせ、よっすぃ〜!」
「おー、早かったじゃん。」
「うんっ。ちょうど帰ろっかなってときにメールがきたからね、タクシーで直接来ちゃった。」
「そっか。じゃ、行こっか。」
「うん!」
息を切らせながらもにこにこと笑う石川が可愛いなと、吉澤は思う。
それはするりと口からこぼれ出て、途端に石川は照れたように腕をはたく。
思いのほかチカラが籠っていて、わざとらしく顔をしかめて見せると
今度は拗ねたように口を尖らせる。
くるくる巡る表情を眺めているのは、本当に飽きない。
すれ違う恋人同士のように、大っぴらに手を繋いだり出来ない。
万人に祝福される関係じゃないことぐらい、とうに解っている。
それでも、きっと。
ハンサムな彼女が決して吉澤には見せなかった涙の数に比べれば、ほんの僅かな棘に過ぎない。
- 94 名前:今日はゆっくり話そう 投稿日:2012/06/23(土) 02:48
- 「よっすぃ〜、聞いてるぅ?」
「うん、梨華ちゃんは今日も可愛いよ。」
「やだ、もう。そんなコトばっか言って。」
言葉と裏腹に満更でもないといった表情で、石川がもう一度腕をはたいた。
「待たせてごめんね。」
ぽつりと一言だけつぶやく。
「え? なにがぁ?」
夜風になびいた髪を耳にかきあげて、石川が小首を傾げた。
「ううん、べっつに。なんでもね。」
「そう?」
「ん。」
大丈夫、もう迷わない。
流れる喧騒に紛れても、一発で探し出してみせると胸を張れる。
まずは一緒に乾杯をして、それからゆっくり話そう。
いくらでも尽きない話を肴に、隣で笑い合おう。
美味しいお酒があって、美味しいご飯があれば、この上ないよね。
ささやかな、でも一番大切なこと。
グラスを重ねる音に、小さな願いを込めて。
- 95 名前:電 投稿日:2012/06/23(土) 02:49
-
END
- 96 名前:電 投稿日:2012/06/23(土) 02:53
- 本日分は以上です。おそまつさまでした。
何年か前に、日本酒のCMで流れていた曲のタイトルです。
久し振りにCMを見たら、こんな文章が浮かびました。
- 97 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/24(日) 00:44
- いつまでも初々しい!こんな二人の関係が大好きです!
- 98 名前:電 投稿日:2012/06/25(月) 03:36
- >97様
有難うございますm(__)m
熟年夫婦なのに初々しい。そして永遠のバカップル。
これぞいしよしの醍醐味ですよねっ(w
それでは、本日の更新に参ります。
- 99 名前:しるし 投稿日:2012/06/25(月) 03:40
- 例え仕事だとしても。
いや、寧ろ仕事だったからこそかもしれない。
山奥の、ひっそりとした温泉旅館。
オフシーズンで、しかも平日。
自分達を含む撮影クルーを除くと、宿泊客はまばらだ。
豪華な夕食に加えて美味しい地酒を振る舞ってもらい、
カメラが回っていない所でもたくさん食べて、たらふく飲んだ。
終始上機嫌だった石川が、うつらうつらと舟を漕ぎ始めたので
スタッフに頭を下げて、自分達の寝室へと撤退する。
浴衣の胸元が少しはだけて、アルコールで色づいた肌が見え隠れする。
大抵の人間は、この抜群のプロポーションを誇る魅力的なカラダに、視線が行ってしまうわけで。
それは仕方がないとは言えど、独り占めしたいというのが本音であって。
「梨華ちゃん、寝るならお布団で寝よう?」
「まぁだだいじょぶだよぉ〜。」
「そんなコト言ったって、梨華ちゃんもう眠いんでしょ?」
「やぁだぁ〜。まだひとみちゃんとお喋りするの〜。」
とろけた視線、ふわりと香る石鹸の香り、甘い声、至近距離。
いつものあだ名ではなく、自然とこぼれた2人きりのときの愛称。
これでどうにかならないほうが、どうかしている。
火が付いてしまった衝動から全力で目を背けて、吉澤が大袈裟に溜め息をつく。
- 100 名前:しるし 投稿日:2012/06/25(月) 03:41
- 「明日も撮影あるしさ、けっこーキツイっぽいしさ。
だから今日は早めに寝とかないと、明日しんどくなっちゃうよ。」
「ひとみちゃんは、私とお喋りするの嫌なの……?」
「嫌じゃないよ。でも」
「あ、そ〜だ、ひとみちゃん!」
「へっ?」
「ここねぇ、お部屋にも小さな露天風呂がついてるんだってぇ。
さっきスタッフさんに教えてもらったんだぁ〜。」
知ってます。そんなコトは荷物を置きに来たときにチェック済みでございます。
……なんてことは口に出せないまま、吉澤は唾を飲み込んだ。
「うん、そうみたいね。」
「酔い醒ましにさ〜、今からもっかいお風呂入ろうよぉ。」
(梨華ちゃん、なんつうカオでなんつうコトを……!!
これはもう誘ってるんだよね!? そう思っていいんだよね!?)
鼓動の早鐘は自制が効かなくなり始めている。
吉澤の酔いなんて、もうとっくのとうに醒めてしまっていた。
代わりに別のスイッチが入ってしまっているのだが。
- 101 名前:しるし 投稿日:2012/06/25(月) 03:42
- それを知ってか知らずか、石川は返事を待たずに
ぽんぽんと着衣を脱ぎ捨てていく。
酔っ払い特有のハイテンションな甲高い笑い声を上げながら、
子供みたいな仕草で、つま先で湯を跳ね上げた。
あぁ、もうダメだ。
吉澤はするすると浴衣を解きながら、箍(たが)を外した。
「ひとみちゃん、おそ〜いっ!」
何がそんなにおかしいのか、石川は相変わらず上機嫌で笑い声を上げている。
「あぁ、うん。おまたせ。」
透明な湯船から、見慣れたはずのボディーラインが目に飛び込んでくる。
惑わされ過ぎて、頭がくらくらしてくる。
「梨華ちゃん。覚悟してね?」
「な〜にがぁ?」
火照る前の体を、ギュッと抱きしめる。
「久々に本気で飢えてんだ。今。」
すっと鼻筋の通った綺麗な顔立ちが、悪戯に微笑む。
- 102 名前:しるし 投稿日:2012/06/25(月) 03:43
- 長い長いキスのあと、夢中で互いの体に触れ合う。
呼吸が荒くなり始めると、吉澤がクックッと低く笑いながら、石川の赤く染まった耳元で囁く。
「ダメでしょ、梨華ちゃん……。まだ隣の部屋、スタッフさん達飲んでるよ……?」
「で、でもぉ……。」
「梨華ちゃんの声エッチだから、聞かれたらナニしてるのかすぐバレちゃうよ?」
「ぁ……、ンッ。」
柔らかい胸に唇を埋めて、細い腰のラインを手のひらで辿ると
負けず嫌いな石川らしく、引き締まった腹部を撫で上げられた。
もう一度キスがしたくて、体をこすりつけるようにして這い上がる。
明らかにアルコールの酔いとは違った、朱色に染まる頬が愛しくてたまらない。
ツンと主張をし始めた胸の頂きがちょうど重なって、体を震わせながら舌を合わせた。
「明日の衣装、長袖長ズボンだしさ……。痕、つけてもいいっしょ……?」
「え、だ、ダメだよ……。もし次の日まで残っちゃったら……ンぅッ!」
石川の衣装は、肌を露出させるものが圧倒的に多い。
ましてこれからの薄着の時期などは尚のことだ。
甘い空気の中でも暗黙のルールとして、互いが我慢していた行為だった。
言い訳に耳を貸さず、左胸にくっきりと残した唇の痕を2人で眺める。
「ね、梨華ちゃんも付けてよ……。」
「ひとみちゃん……。」
「アタシが梨華ちゃんのモンだって、印つけてよ……。」
痺れるような囁きに、石川がますます煽られていく。
白いうなじに絡まった褐色の小さな手が、僅かに下へと下ろされる。
ゆるやかに膨らんだカーブへと着地して、そこへ顔ごと寄せた。
「ひとみちゃん、大好き……。」
「アタシも好きだよ、梨華ちゃん。」
ぽつりと浮かぶ声が、可愛くて可愛くて。
荒くなる呼吸と、忙しなく動く腕や指や舌と、くぐもった声。
額を寄せ合って視線を絡めて、追いつめられてゆく。
時折ぱしゃりと跳ねる水音、立ち込める温泉の香り。
どちらともなく視界がぼやけて、高く白く上り詰める。
- 103 名前:しるし 投稿日:2012/06/25(月) 03:44
- 「も〜、すっかりのぼせちゃった。クラクラしちゃう。」
「アハハハ。でもヨカッタでしょ?」
「バカ。エッチ。スケベ。」
「エッチなのは梨華ちゃんのほうじゃーん。」
脱ぎ捨てられた浴衣を再び身にまとって、同じ布団に潜り込む。
「そういえばさ、海外とかホテルとかはけっこうお泊まりしてるけど、
こうやってお布団で並んで寝るのって、すごく久し振りだねっ。」
「あぁ、そだね。ツアーとかでも大抵洋室でベッドだもんね。」
「えへへ。何か新鮮でいいね、こういうのも。」
「うん。」
「もっとお話ししてたいけど、さすがにもう寝ないとだよね……。」
石川はそう言いながら、とろりと落ちそうな瞼をこする。
「そだね。もう寝よっか。疲れさせちゃったしさっ。」
「ふふふ。自覚あるなら手加減してよ。」
「それはムリ。」
微かに聞こえる、酒宴の声を遠くに感じる。
すぐ隣で眠る愛しい人の体温と、自分のそれが混ざり合う。
ささめく声が夢へと誘う。
「おやすみ。」
- 104 名前:しるし 投稿日:2012/06/25(月) 03:45
-
END
- 105 名前:電 投稿日:2012/06/25(月) 03:47
- 本日分は以上です。おそまつさまでした。
七夕が楽しみすぎて、ついうっかりこんなことに(w
ついカッとなってやりました。反省はしていません!
日本旅館っていいですよね。
浴衣でお布団で、っていうシチュエーションも大変捨て難かったです(w
- 106 名前:電 投稿日:2012/06/25(月) 04:01
- 追記:
投下ミスをやらかしてしまいました……
上段スレ作者の方、申し訳ありませんでしたorz
次回よりミス防止も兼ねて、更新時はageるように致します……。
- 107 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/25(月) 06:11
- えーろーいー
そしてまたまたネタがはやい
すばらしい
- 108 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/25(月) 07:20
- 削除依頼出したまえよ汚したままじゃいかんよ
- 109 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/25(月) 11:23
- こんなことがあったのですね。放送が楽しみです!
- 110 名前:電 投稿日:2012/07/07(土) 02:04
- >107様
有難うございますm(__)m
えろい……ですかね? それは良かった(w
自分で書いているとどうも、あんまり良く分からなくって。
>108様
ご指摘、有難うございましたm(__)m
お陰さまで迅速に依頼提出することが出来ました。
以後気をつけたいと思います。
>109様
いよいよ今日放送ですね……どきどき(w
それでは、本日の更新に参ります。
- 111 名前:横浜たそがれ(前編) 投稿日:2012/07/07(土) 02:06
- 久し振りのメンバーとのお仕事は、やっぱりすっごく楽しみ。
ご懐妊の姐さんに、やっと直接『おめでとう』って伝えられたし!
やっぱりこういうおめでたいコトは、ちゃんと言いたいもんだよね〜。
姐さんとこうしてご一緒出来る機会も、大事にしていきたいなぁ。
美貴ちゃんもそうだけどさ、やっぱり暫くは子供優先になっちゃうもんね……。
「ちょっと、よっすぃ〜! 今撮った写真消してってば〜っ!」
「や〜だね〜っ。もう保存しちゃったも〜ん。」
……人がちょっぴし真面目に考えていたのに。
この2人の先輩ときたら、さっきからうるさいのなんのって。
「真琴も何か言ってよぉ! よっすぃ〜ったら、また私の変顔を隠し撮りしてたのよッ!」
「別に変じゃないよ。ちょっと目が半開きになってただけだってば。」
「そういうのを変顔って言うの〜っ!」
あぁ〜もう〜。またですか。いちいち私を巻き込まないで下さいよ。
- 112 名前:横浜たそがれ(前編) 投稿日:2012/07/07(土) 02:08
- 「よしざーさん、消してあげたらいいじゃないっすか。」
どーせ1枚や2枚消したって、そのスマホの中には同じような写真がわんさかあるんでしょ?
……っていう言葉は言わないでおく。
「ダメダメ! これはほら、今日の記念だからね。」
キャラに似合わずキラッキラにデコられたケースを付けたスマホを
大事そうに握りながら、よしざーさんはかぶりを振った。
何それ、変顔が記念っておかしくないですか?
「今日の変顔は今日しか撮れないじゃん?」
真剣な顔でそういうよしざーさん。
って、まさかその中の莫大な枚数のいしかーさんの写真……
どれがいつの写真だか整理してあったりするんですか……?
いくら親びんでも、それは引きますよ……。
「いっつもそうやって撮って、コソコソ見ながら笑ってるの知ってるんだからね〜!」
いしかーさんいしかーさん、怒ってる割に、すんごい笑顔になっちゃってますから。
- 113 名前:横浜たそがれ(前編) 投稿日:2012/07/07(土) 02:09
- あー、めんどくさい……。
かと言って姐さんは先に帰っちゃったし。
こんなにうさい人達、まともに相手できる人間、そうそういないわけですし。
「いいもーん。じゃあ私、真琴に可愛い写真撮ってもらうもんっ!」
そう言っていしかーさんは、ニコニコしながら私のほうへずんずんと近づいてくる。
「まことぉ、可愛く撮ってねっ。」
なんだかすごいプレッシャー……。
と、ニコニコしながらピースサインを作るいしかーさんの後ろには
ニヤニヤしながらうろちょろしている親びんが映っている。
全く、どんだけ構ってちゃんなんですか。
終いには、人差し指をいしかーさんの頭の上から出るようにして『鬼』にしたてて
『こ・じゅ・う・と!』と唇の動きだけでサインを送ってくる。
小学生じゃないんだから……。
と思いつつ、そんな親びんが面白くて、私もつい笑ってしまいそうになる。
いしかーさんが不思議そうにしていたので、慌ててシャッターを切る。
「なにこれ、ちょっとぉ〜〜〜!」
いしかーさん、もう怒ってるっていうより思い切り喜んでるじゃないですか。
はぁ〜〜〜〜〜、めんどく(略)。
- 114 名前:電 投稿日:2012/07/07(土) 02:11
- 短くて申し訳ありません……(汗)
どうしても今日中に上げたかったんですが、さすがに眠気が限界です…orz
オチは固まっているので、明日、明後日には後編もアップします。
- 115 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/07/07(土) 07:06
- またもやネタが早くてニヤニヤします
- 116 名前:電 投稿日:2012/07/09(月) 00:13
- >115様
こちらこそ、早速のレス有難うございますm(__)m
文章力はイマイチなので(汗)、せめて食いつきのスピードは頑張りたいところなのです。
それでは、後編アップしたいと思います。
- 117 名前:横浜たそがれ(後編) 投稿日:2012/07/09(月) 00:15
-
いしかーさんは頬を膨らませて、ちょっと時代遅れのマンガみたいなリアクションをしてる。
その横でよしざーさんはおかしそうに、でもすっごく優しい目でいしかーさんを見ているんだ。
なんだかなー。当てられちゃうっていうか。
打ち合わせがあるとかで、よしざーさんも先に部屋を出ていくと、
いしかーさんはフフフと笑った。
「よっすぃ〜、テンション高かったねぇ。何かイイコトあったのかな?」
その笑顔は何百回と見てきた私ですら、『やっぱり可愛いな〜』なんて思っちゃう。
「あっ、そうだ! さっき真琴もよっすぃ〜の写真撮ってたでしょ? 見せて見せてー!」
「いいっすよ。」
さっきイベントが始まる前に撮った、乙女なよしざーさんを見せると
いしかーさんは頬に手を当ててクネクネしながら
「やだも〜っ、かわいい〜!」
なんて言っている。
う〜ん、さすがというか何というか、裏切らないリアクションだ。
- 118 名前:横浜たそがれ(後編) 投稿日:2012/07/09(月) 00:17
- 「私にはこういう写真、絶対撮らせてくれないくせに〜。ずるいよ〜〜〜。
ね〜まことぉ、私にもこれ転送して〜!」
「はいはい。」
写真なんかなくたって、私よりも一緒に居る時間が長いはずなんじゃないか?
でも……この人達には何を言ってもきっと無駄なんだろな。
本人達が自覚していないだけで、お2人から出ている幸せそうなオーラは尋常じゃない。
「本文なしで、今送っちゃいますね。」
「うんっ、ありがと! 真琴だーい好きっ!」
無事に届いたらしいメールをさっそく開いて、
いしかーさんは愛おしそうに目を細めた。
「男の子みたいなカッコしてあんな喋り方するくせに、
ホントは私なんかよりもずぅ〜っと女の子らしいのよ。あのひと。」
「いしかーさんだって十分可愛いじゃないですかぁ。」
「そう?フフフッ。」
あ、やっぱり否定はしないんですね……。分かってましたけど。
ちょっとだけ悔しいな。
写真では捉えられないようなよしざーさんの意外な一面。
リーダーとして引っ張ってくれていた頃の、カッコイイ親びんの弱さや辛さとか。
先輩達の前で見せる、ふにゃっとしたカワイイところだって。
いつでも隣で見てきたんだもんなぁ。
- 119 名前:横浜たそがれ(後編) 投稿日:2012/07/09(月) 00:19
- 長くてふんわりパーマのかかった髪。
見慣れた仲間ですら惚れ惚れするような、とびっきりの笑顔。
男女問わず憧れる、抜群のプロポーション。
そんでそんな甘さと裏腹に、びっくりするぐらいの努力家で、意外と男前な性格だったりもして。
でも、きっと誰よりも一途でまっすぐ。
いしかーさんも羨ましいけど、よしざーさんのことも羨ましいよ。
こんだけ可愛い人に、こんだけ好かれてるって、相当ゼータクだと思う。
「さーて、私達もそろそろあがろっか?」
「そーですね。」
にこにこしながら、いしかーさんは席を立つ。
めんどくさくてうざったいけど、やっぱり私の大好きな先輩たち。
「今日は早く帰らなきゃいけないから、またゆっくりゴハン行こうねっ。」
「ぜひぜひー!」
そうして別のタクシーに乗って、家路につく。
と、メールの着信がある。
開いてみると……あれ、よしざーさんからだ。
『さっきの梨華ちゃんのワンショット、持ってたらこっちにも転送してくんない?』
…………。
ほんっと、似た者同士というか、何ていうか。
呆れちゃうけど、まぁいいや。
楽しそうなお2人を特等席で眺めてるのも、けっこう楽しいし、ねっ!
END
- 120 名前:電 投稿日:2012/07/09(月) 00:25
- 本日の更新、および『横浜たそがれ』はこれで終了です。
思わぬタイミングで久し振りにドリムス。なお2人を見られて眼福。
しかしあれですね、やっぱり日光のアレはプライベートだったんですね。
ますます妄想が止まらないです(w
- 121 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/07/09(月) 23:55
- 脱稿お疲れ様です。
しいて言うなら麻琴でございます
- 122 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/07/10(火) 00:12
- 堪能させていただきました!次は日光のアレでよろしくお願いします!
- 123 名前:電 投稿日:2012/07/26(木) 10:20
- お久し振り?でございます。
>121様
ご指摘ありがとうございますm(__)m
あぁあああ……やっちまった!!orz
幾らネタへのスピード重視といってもコレはマズいですね……うぅ。
ごめんよ、まこちゃん……。
修行の旅に出ようかとも思ったのですが
このスレを使いきってからでも遅くないと信じたい…。暫くお付き合い下さい。
>122様
有難うございますm(__)m
おぉう、日光のアレですね。了解しました。
露天風呂編とはまた違うパターンで何かしら書き次第、持ち込みますっ。
それでは、本日の更新に参ります。
- 124 名前:「さよなら、よっすぃ〜。」 投稿日:2012/07/26(木) 10:21
- アタシと梨華ちゃんで、新しくユニットをやることになった。
娘。の頃は同じユニットで活動したことってあまりなかったけど、
今は音楽ガッタスで一緒に活動してるし、
コンサートなんかでも同じステージに上がる機会はけっこうある。
でも、2人きりのユニットとなるとまた違うだろう。どうなるのかが楽しみだ。
しかも今回は、今までと全然違う方向性でやるみたい。
何回か打ち合わせにも参加させてもらってるんだけど
アイドルっていうよりは、ビジュアル系みたいな感じなのかな。
こないだ聞いたばかりの仮歌もロックな曲で、すっげーカッコよかった。
これをアタシ達2人で歌えるんだと思ったら、期待でゾクゾクした。
何でも、アタシと梨華ちゃんが組んでこういうのをやったら面白いんじゃないかって言われて選ばれたらしい。
そうやって気にかけてもらえたのは、嬉しい半面ちょっとくすぐったい。
お互いキャラは全然違うけど、一番付き合いの長い間柄の梨華ちゃん。
何だかんだ言って気の置けない人でもあるし、仕事の面でも一番信頼できる人。
いちいちウルセーし喜怒哀楽が激しくてメンドクセーし、
ベラベラ喋る割には人の話聞かねーし、前のめりに突っ走りがちだけど
空回りしがちでオモシロイ梨華ちゃんを隣で見ているのは楽しいなぁ、と思う。
いつも2人で一緒の現場にいるわけじゃない。
でもふとしたときに思い出して、用事がなくてもメールをしてみたり
時間があれば2人で遊んだり、飲みに行ったりするようになった。
- 125 名前:「さよなら、よっすぃ〜。」 投稿日:2012/07/26(木) 10:22
- そんな梨華ちゃんだけど、最近どうも様子がおかしい。
どこがって聞かれると困るんだけど、何となくおかしい。
なんだろな。今更アタシには言えないことなんて、そうそうないと思うんだけど。
梨華ちゃんってすぐ何でも人に相談するタイプだし。
そりゃまぁ、圭ちゃんみたく何でもズバズバ相談に乗ってあげてアドバイスしたり
悩みを聞いてあげたりとかって、アタシには向いてないのかもしんないけどさ。
でもなんつーか、ね。
ちょっとは頼りにしてほしいっつーかさ。
昔みたいにピーピー泣きながらアタシんとこに寄ってくるなんて、
今の梨華ちゃんからじゃ想像も出来ないけど。
「梨華ちゃん、何かあったの?」
「え、なぁに、突然?」
「いや、何か最近たまにボーッとしてる時あんじゃん。」
新ユニットの打ち合わせが終わって、今日の仕事はもう終わり。
2人きりになったタイミングを狙って、ちょっとだけ聞いてみる。
「あぁ、うん。別に何でもないよぉ。」
目を逸らしながら、梨華ちゃんはそう言った。
分かりやすいんだから。
「ま、言いにくいんだったら、無理して言わなくてもいいけどさ。」
「……うん。」
「何かあんだったら、話ぐれー聞いてやってもいいよ、っていうか。」
「うん、ありがとう、よっすぃ〜。」
梨華ちゃんはちょっとだけ眉を寄せて、でも笑って言った。
こりゃあ言わねーな。この人意外と頑固だからな。
「じゃ、ね。」
「……うん。ありがとね。」
「……べっつに、そんな大したこと言ってねーし。」
「ううん。そんなことないよ。……私このあと約束あるから、もう行くね。」
「おう。」
梨華ちゃんはようやくニッコリと笑うと、アタシの横をすり抜けていった。
まぁ、本人があの調子じゃあアタシに出来ることはないだろう。
ああなったらテコでも動かないのが梨華ちゃんだ。
- 126 名前:「さよなら、よっすぃ〜。」 投稿日:2012/07/26(木) 10:23
- どうすっかなー、誰か誘って飲みにでも行くかなー……と
携帯を手にしたところで、圭ちゃんからの着信がきた。
どんだけタイミングいいんだよ圭ちゃん。怖いくらいだったよ。
『もしもし、よっちゃん? 仕事もう終わってるでしょ〜?』
「そうだけど……なに?」
『なぁによその言い方! 可愛くないわね〜〜〜。』
「圭ちゃんに可愛いなんて思われたくないもーん。」
『ったく、たまには私のほうから誘ってあげようと思ったのに!
どうせアンタ達まだ一緒にいるんでしょ? 私も今日は時間あるからさっ。』
「梨華ちゃんならさっき帰っちゃいましたけどー。」
『あら、そうなの? どおりで携帯繋がらないと思った。じゃあまぁ、よっちゃんだけでもいいよー。』
「あんだよその言い方〜。」
『あったりまえでしょー。よっちゃんだけじゃ華が足りないじゃないっ。』
「うわ〜〜〜圭ちゃんにだけは言われたくね〜〜〜!」
圭ちゃんのこと、どうして怖いだなんて思ってたのかなー、昔。
まぁ確かに眼力とかオバちゃんっぽい言動とかがたまーにアレだけど、
喋ってみるとおもしれーんだよね。
ああだこうだ言いながら、結局珍しくサシで飲みに行くことになった。
- 127 名前:「さよなら、よっすぃ〜。」 投稿日:2012/07/26(木) 10:24
- …‥それにしても。
圭ちゃんってホント、人脈とか行動範囲が謎なんだよね。
何でこんな高そうなバーに顔パスで入れんだろ……。
タクシーで拾われてついてきてみたら、天井は高いのに、照明がやたらムーディーで。
通されたカウンターの奥では、口ひげをたくわえたダンディーな人がシェイカーを振っていた。
フツーにその辺の居酒屋に行く気だったアタシは、何だかオドオドしてしまう。
「で、あんた達最近どうなのよ?」
出た〜〜〜。伝家の宝刀!
「いや別に、どうって。何もないよ。」
「まぁいいけどさー。よっちゃんがそう言うならさ〜。」
飴色の液体を揺らしながら(それがまた妙にサマになっているんだけど、ちょっと笑えたのは内緒)
圭ちゃんはアタシを覗き込んだ。
「あっ、そういやー最近、梨華ちゃん様子がおかしいときあるんだよね。」
「あー、色々大変みたいだもんねー。」
「え、何が?」
アタシが聞き返すと、圭ちゃんもアタシに聞き返してくる。
「って、よっちゃん何も聞いてないの?」
「何もって……何を?」
圭ちゃんは視線を外すと、大袈裟なほどに首を振った。
「梨華ちゃんが何も言ってないなら、私からは言えないわよ。」
「なにその言い方、すっげー引っかかんだけど。何かあんの?」
「ないない。例えあっても絶対言わないわよ。私こう見えて口堅いんだからねっ。」
梨華ちゃん、アタシには言えないのに、圭ちゃんには相談してるんだ……。
そりゃあ何でもかんでも共有してるわけじゃないけどさ。
でも、自分でもびっくりするほどにショックが大きい。
梨華ちゃんが一番頼りにしてるのは、アタシだって思ってたから。
「梨華ちゃんもさ、色々思うところがあるわけよ。察してやんなさいよ。」
そう言ってアタシの肩をぽんぽんと叩く。
「アタシもそれとなく聞いてみたんだけどさ、ごまかされちゃって。」
「……じゃあよっちゃんには言いたくないんだよ。」
「でも」
「でもじゃないの。あの子がそう決めたんだから、そうなんだよ。」
最近は柔らかくなってきた、でもいざとなると光を宿す強い眼力でそう言った。
圭ちゃんにとっての梨華ちゃんは、きっと今でも一番可愛い後輩なんだろう。
「私はさ。梨華ちゃんの気持ちも、よっちゃんの気持ちも何となーく分かるんだよ。
でもいま私がよっちゃんに橋渡しをするのは、違うと思う。
だってよっちゃん、何も言わないじゃない。
いつも相手の出方次第で、どうにでも動ける姿勢でしか待たないでしょ?」
アタシと視線を合わせたまま、はっきりとそう言った。
「よっちゃんのそういう性格、長所でもあるんだよ。
優しくて、でもクールで、いつでも客観的に、俯瞰で物事を見られるでしょ。
そうやって私達が卒業しちゃってからの娘。を引っ張ってくれた、立派なリーダーだったもの。」
圭ちゃんは強いお酒のせいか、いつもよりも饒舌だ。
「梨華ちゃんはさ。あの通りじゃない?
あんなに可愛くてスタイルも良いのにさ、そこまでやるかっていうぐらい
全力で突っ込んでって、案の定空回りしては落ち込んで。
あの子のああいう性格もさ、長所であって短所なんだよね。」
「……そうだね。アタシもそう思うよ。」
アタシが相槌を打つと、圭ちゃんはふいに寂しそうな顔をした。
「ねぇ、そこまで分かってて、どうして気付けないの?
もしかしてよっちゃん、私が思ってるよりも本気でバカなの?」
今なにげにサラッと酷いこと言われたよね、アタシ。
ツッコミを入れたいけど、それは言えなかった。
奢ってもらったブランデーはさすがに高いだけあって、するすると喉元を通り過ぎていく。
今まであまり口にする機会がなかった味は、やけに頭をぼうっとさせる。
舌にじんわりと、ほろ苦い余韻を残す。
圭ちゃんはそれ以上、梨華ちゃんについても、アタシについても何も言わなかった。
- 128 名前:「さよなら、よっすぃ〜。」 投稿日:2012/07/26(木) 10:25
- う〜〜〜ん。
二日酔いではないんだけど、いまいちスッキリしない。
モヤモヤと霧がかかったままの視界が晴れない。
この状態で打ち合わせなんかやって大丈夫かな、アタシ。
「はよーございまーす。」
いつものドアを開けると、梨華ちゃんがソファの端っこに座っていた。
規則正しい呼吸だけが聞こえる。どうやら居眠りしているようだった。
メイクはしているものの、完全に夢の中にいる梨華ちゃんの横顔を眺める。
(寝顔だけなら、今でも子供みたいなのになぁ。)
幸か不幸か、会議やら何やらが押しているみたいで打ち合わせは少し遅れるようだ。
アタシは梨華ちゃんの隣に腰掛けて、携帯をいじり始めた。
「……よっすぃ〜……。」
小さな小さな声で呼ばれる。
返事をしようと振り返って、梨華ちゃんがまだ眠っているのだと気付いた。
「あんだよ、寝言かよ。」
アタシの夢でも見てんのかな。名前を呼んだってことは、きっとそうだよな。
どんな夢見てんだろ。楽しい夢だといいな。
「…………ごめんね、よっすぃ〜……。」
それはまるで出逢った頃のような、大人しい声色で、彼女はそう呟いた。
「ごめんね、さよなら……。」
…………んん?
『さよなら』?
どうも雲行きが怪しいような気がするのは、多分気のせいじゃない。
- 129 名前:「さよなら、よっすぃ〜。」 投稿日:2012/07/26(木) 10:26
- もしかして、もしかして。
アタシが居るこのポジションに、誰かアタシの知らないヤツが立候補していたりするのだろうか。
今までも、そういう事が全くなかったワケじゃないし。
梨華ちゃんは否定するけど、それでもやっぱりこの人はモテるのだ。
閃いてしまうと、ピースがぱちぱちと嵌められていく。
時折、誘いに乗らずに先約があると困り顔で俯いた梨華ちゃん。
メール不精のくせに、ちらちら気にしていた着信ランプ。
何てこった。ちょ、ちょっと待ってよ。
いつもだったら、アタシにだって何かしら言ってくるよね。
『カッコイイ人に誘われちゃったんだぁ、どうしよ〜』なんて、お酒飲みながらクネクネしながら。
どうもこうもしないくせにメンドクセーことばっか言って堂々巡りでさぁ。
アタシは別にそういうの聞くのもまぁイヤじゃないから、テキトーに聞き流していたけど。
もしかすると、今回ちょっと本気でなびきそうだったりするワケ?
突然の結論に、自分でも驚くほどにおろおろしてしまう。
「さよなら、よっすぃ〜。」
柔らかそうな頬に一筋、涙が伝った。
あぁ。
梨華ちゃんがこんなにも強くしなやかに、眩しいぐらいにキレイになったのは。
単純にたくさん季節が過ぎたというだけではなかったんだね。
『ごめんね』なんて言わせちゃって、ごめん。
これ、アタシのセリフだよね。
ずっとアタシのことを好きでいてくれてるって、分かってたんだよ。
いつもアタシのことを一番に見てくれてたって、ちゃんと気付いてたよ。
素直に言えなくて、ごめん。
からかったりして、ごめん。
寂しい思いさせて、ごめん。
疲れさせちゃって、ごめん。
気付かないフリしていて、ごめん。
- 130 名前:「さよなら、よっすぃ〜。」 投稿日:2012/07/26(木) 10:27
- 長い睫毛に溜まっていた雫を、そっと指の腹ですくう。
頬は想像していた通り、とても柔らかくてさらさらしていた。
「梨華ちゃん、起きて。」
「……ふぇ? ……あれぇ、よっすぃ〜来てたんだ?」
「うん。」
「えへへ。今朝は早くて眠かったから、ちょっと寝てたんだぁ。」
「アタシが出てくる夢、見てたの?」
「えっ? ……うーん、どうだったかな。忘れちゃったっ。」
そう言って梨華ちゃんは、八の字眉を作って笑った。
自分の気持ちをまっすぐ見てもらえないのって、こんなに苦しかったんだね。
長い間、ほんとうに長い間。こんなに辛い想いをさせてたんだね。
たくさん伝えたいことがあるのに、アタシはやっぱり恥ずかしくて、
こんなときですら言葉を喉に押し込んでしまいそうになる。
アタシは意気地無しだ。
でもきっと、今言わなかったら梨華ちゃんの隣は誰かの指定席になってしまう。
それだけは……譲れない。譲れるわけがない。
「梨華ちゃん、泣いてたんだよ。」
「え、そっかなぁ。気のせいだよ〜。」
負けず嫌いでもいい。
「そうだよ、あと寝言でアタシのこと呼んでたから、夢に出てきてたんでしょ。」
「覚えてないよぉ。」
嘘をつくと目がキョロキョロしちゃうんだよね。
「『さよなら』なんて言わないでよ。」
「言ってないってばぁ。」
「すげー寂しいじゃん。どうしてくれんの。」
「だから覚えてないんだって。」
ずいぶん回り道しちゃった気がするけど、間に合ったかな。
「ずっと待っててくれて、ごめんね。ありがとね。」
「へっ?」
「梨華ちゃんのことが好きです。アタシと付き合って下さい。」
- 131 名前:「さよなら、よっすぃ〜。」 投稿日:2012/07/26(木) 10:29
- 梨華ちゃんはぽかーんと口を開けたまま、しばらく固まっていた。
アタシはあまりにも恥ずかしくてどこかに隠れてしまいたかったけど、
梨華ちゃんが微動だにしなさすぎるので、仕方なく声をかけた。
「あの〜、梨華ちゃん? 聞こえてるよね?」
「よ……よっすぃ〜のばかぁ〜〜〜〜〜!」
途端に顔をくしゃっとさせて、梨華ちゃんが泣き始めた。
「なっ、バカってあんだよ、バカって。」
「私……私、待ってなんか、いなかったんだからぁ〜〜〜。」
「あ〜もう、それ以上泣くと化粧落ちちゃうでしょ。」
「お化粧なんかいいんだもん〜〜〜。よっすぃ〜のバカァ〜〜〜。」
「バカって言うほうがバカなんだよ、梨華ちゃん。」
「そうよぉ。こんなバカのことずっと好きだったんだからバカに決まってるじゃないよぉ〜〜〜。」
「……うん。ありがと。」
「しかもこんな、会社のくたびれたソファの上でなんてヒドい〜〜〜。」
「し、仕方ねーじゃん。アタシだってテンパってたんだよ。そんなん考えてる余裕なかったし。」
アタシがそう言うと、梨華ちゃんはやっと笑った。
「は〜。言いたいこと言ったら、何かすっきりしちゃったっ。」
「そ?」
「うん。久し振りに泣いたかも。」
「目、腫れちゃうと困るよね。ハンカチ濡らしてくるよ。」
「うん。ありがと、よっすぃ〜。」
「おう。」
尋常じゃない恥ずかしさに言い訳をして、部屋を飛び出した。
気味が悪いくらい、心臓がバクバクいってる。
笑った梨華ちゃんがあまりにも可愛くて、どうにかなるかと思った。
蛇口から流れる水の冷たさが、火照ったアタシの体温も冷やしていく。
梨華ちゃんの顔も真っ赤だったけど、ヘタすりゃそれ以上にアタシも真っ赤なんだろう。
梨華ちゃんの寝顔を見るたびに、アタシはきっと今日のことを思い出す。
ずっとアタシに縛り付けてしまった梨華ちゃんへの、懺悔にも似た気持ちと。
それを軽々と上回る感謝の気持ちと、カラダじゅうを駆け巡るような喜びの感情を。
梨華ちゃん、梨華ちゃん。
可愛い可愛い、アタシの梨華ちゃん。
泣いてる梨華ちゃんだって可愛かったけど、やっぱ笑ってる梨華ちゃんが一番可愛いな。
だからこれからは、寝顔に涙が浮かぶようなときは、
アタシが気付かないうちに拭ってあげる。
まだ恥ずかしくて口には出せないかもしんないけどさ。
にやけてしまいそうになる頬に冷たい掌を当ててから、アタシは梨華ちゃんの元へと戻る。
これからも隣で歩いてく、心強い相方のもとへ。
- 132 名前:「さよなら、よっすぃ〜。」 投稿日:2012/07/26(木) 10:30
-
E N D
- 133 名前:電 投稿日:2012/07/26(木) 10:34
- 本日の更新は以上です。
思いついたタイトルをどうしても使ってみたかったのと、
石川さんの涙を書いてみたかったので、今更ながらこんな内容に。
ド新参なので、当時はヲタではなかったんですが……違和感とかあったらご教授いただけると幸いです。
それにしても本スレの過去ログは何という時間泥棒なんでしょう(w
- 134 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/07/27(金) 01:16
- うん!素直がいちばん!
過去ログはまさに迷宮です。よーくわかります!
- 135 名前:電 投稿日:2012/08/26(日) 04:17
- 気が付いたら一ヶ月も更新していなかったのですね……スミマセン。
ぽつぽつとマイペースに次のモノを書いていたのですが
例の巨大な爆弾にまんまと釣られて、のこのこやってきました(w
>134様
有難うございますm(__)m
過去ログの迷宮も去ることながら、現実が妄想を追い越し始めましたね(w
それでは、本日の更新に参ります。
- 136 名前:限界破裂 投稿日:2012/08/26(日) 04:18
- さすがに「おかえり」とは言ってくれないけれど
私がドアを開けると、一目散に駆け寄ってきてくれる。
私の可愛い可愛い娘ちゃん。
「ひめ〜、ただいまっ。今日もイイコにしてた?」
私がそう言いながら抱きかかえてキスをすると、嬉しそうに顔を舐めてくれる。
「そっかぁ。ひめはおりこうさんだもんねぇ〜。」
あぁ、ウチの子ってば何でこんなに可愛いのかなっ。
カラダはぐんぐん大きくなって、実は抱えるのもけっこう大変になってきたんだけど
まだまだ甘えんぼさんで、帰宅してから暫くは私から離れてくれないんだ。
「あの〜、もしもーし、石川さーん? アタシの存在を忘れないで欲しいんですけどー?」
っと、いっけない。
「忘れてなんかないってばぁ〜。っていうか、勝手に上がっちゃっていいよぉ。」
「……いやもう上がってるけどさ。うん。」
ちょっぴりふてくされたように頬を膨らませて、ひとみちゃんはソファに腰掛けた。
私はひめを下ろしてあげてから、その背中に抱きついた。
- 137 名前:限界破裂 投稿日:2012/08/26(日) 04:18
- 「お酒、飲み直す? それとも他のものが良い?」
さらさらした髪が気持ちよくって、鼻をくぐらせたら
「くすぐってー。」
と苦笑いされた。だって気持ちいいんだもん。
「梨華ちゃんまだ飲みたい?」
「んー、どっちでもいいよ。飲むなら付き合うし。」
「じゃ、あったかいコーヒーにしよっかなぁ。」
「オッケー。」
ひめが私の足元をくるくる回りながらついてくる。かーわいいなぁ。
でも、キッチンに居るときはやっぱりちょっと危ないんだよね。
今日は料理するわけじゃないけど、万が一お湯がかかっちゃったりしたら困るしさ。
「ひめ、イイコだからひとみちゃんと一緒に待っててね。」
「ひめ、こっちおいで。」
ひとみちゃんがソファからひめを呼ぶ。
最近お気に入りのおもちゃを持って、優しい声で手招きしたら
ひめは嬉しそうに駆け寄って、ひとみちゃんの膝に飛び乗った。
「アハハ。素直だねーひめは。」
「何よー、その言い方ァ。」
「かーわいいー。ほらほら、アタシが遊んであげる。」
ケトルにお湯を入れて、火にかける。
買い置きのコーヒーまだあったかなぁ。だいぶ少なくなってたっけ。
棚を探ってみたら、何とか足りそうでほっとする。
- 138 名前:限界破裂 投稿日:2012/08/26(日) 04:19
- 「おー、重たくなったなーひめ。」
ひとみちゃんの声に振り返ると、ひめがひとみちゃんに抱えられてシッポを振っていた。
なによぅ、嬉しそうにしちゃって。
ひとみちゃんはひとみちゃんでデレデレしちゃってさ。
……でもこれって、すっごくシアワセな眺めかも。
私はダイニングテーブルに置き去りになっていたバッグからアイフォンを取り出すと、
大好きな2人のツーショットにカメラを向けて、シャッターを切った。
「なーに撮ってんの?」
「だって可愛いんだもん。」
「ってかどんだけ写真撮ってんのよ。ほんっと梨華ちゃん親バカだよね。」
「ひめも可愛いけど、ひとみちゃんも可愛いっ。」
私がニヤッとしながらそう言ったら、ひとみちゃんはブツブツと小さな声で
「バーカ。」
なんて呟いた。フフフ。照れちゃってさー。
ひめはひとみちゃんのことがだいぶ好きみたいで、
膝に乗ったりオモチャを転がしてもらったり、細くて綺麗な指を舐めてみたりしている。
ひとみちゃんは目を細めて、頭をや背中撫でてあげたり、大人しく手を差し出してあげている。
私は、そんな2人の光景を何ショットかカメラに収めた。
「梨華ちゃん?」
「えっ?」
「ヤカン、お湯沸いたっぽいけど?」
「あぁ、うんうんっ。ちょっとボーッとしちゃった。」
「あーもしかしてー。」
「な、なによ。」
「アタシとひめが仲良しになっちゃったから、妬いてたんでしょ?」
ひとみちゃんてば意地悪そうにニヤニヤしながら、そう言った。
うっ。そんなに分かりやすかったかな。
だってさぁ、ひめったら私がママなのに、ひとみちゃんにあんなに尻尾振っちゃってさっ。
ひとみちゃんもひとみちゃんよ。
可愛がってくれるのは嬉しいけどさ、あんな風に好きにさせて、ちょっと甘すぎじゃない?
って、私これじゃどっちに妬いてんのか分からないな……。
- 139 名前:限界破裂 投稿日:2012/08/26(日) 04:21
- 「梨華ちゃんにソックリだもんねぇ、ひめは。」
「違うってば。」
「まだ言うかー。こんなに似てんのに。ねぇ、ひめ?」
「もー。」
マグカップを手にリビングへ戻ったら、ひとみちゃんがまだニヤニヤしている。
恥ずかしくって、手渡しせずにテーブルへとマグを置いて、フローリングへ座った。
「可愛いなー。」
ひとみちゃんはそう言うと、ふいに私にキスをした。
「やっぱ梨華ちゃんは可愛いなー。」
……はぁ。どうして一言だけで、こんなに操られちゃうんだろ。
悔しいけど、これはきっと先に好きになった私の弱みなんだ。
ひとみちゃんの膝へ頬を乗せたら、ひめが私を覗き込んで首を傾げる。
そんなしぐさが可愛くって、私はすぐに機嫌が直っちゃうんだ。
「梨華ちゃんの髪、つやつやで気持ちいいなぁ。」
ひとみちゃんはそう言って、私の頭をふわっと抱え込んだ。
ちょっとだけ残るお酒の香り、嗅ぎなれた彼女の匂い、私の淹れたコーヒーもそれに混ざる。
蛍光灯の光が遮られて、今度は唇を重ねる。
触れるだけでカラダが浮つくぐらい、好きなキモチが駆け巡る。
ひめが一声、キャンと鳴く。
「ひめには悪いけど。」
口元をゆるゆるにしたひとみちゃんが、私の頬をその手で包む。
「ひめのママは、アタシのお姫様だからね。」
「……やだ、ちょっと。」
いつもはそんなコト言ってくれないから、急に言われると私のほうがどうしていいか分かんないじゃない。
口をパクパクさせてたら、ひとみちゃんが顔よりもちょっと下のほうに目線を落としてて。
あぁ、なるほどね。
「んー、イイ眺め。」
今日は私、緩めのカットソーだから、多分ひとみちゃんの位置からだと……。
ほんっと何て言うか……何このだらしない顔。
- 140 名前:限界破裂 投稿日:2012/08/26(日) 04:21
- それでもやっぱり、この人が私の好きな人。
オジサンみたいなトコもあるけれど、うっとりするくらい綺麗な、私だけのお姫様。
その指を口に含んで、チュッと音を立てる。
ほんの少しだけ歯を立ててみたら、ひとみちゃんはおかしそうにクックッと喉を鳴らした。
「やっぱソックリじゃん。」
湧き上がってくる感情に従って、もう一度キスを重ねる。
ひめが不思議そうに、私とひとみちゃんをキョロキョロと交互に見ている。
だんだんと深くなるキスに、スイッチが切り替わる。
ソファの上に引っ張り上げられて、私はひとみちゃんの膝に乗る。
すぐにひめが構ってほしそうに間に割り込んでくる。
「……ひめも混ざりたいの?」
「あのねぇ。」
「ってかジャマさせねーけどね?」
腰を抱き寄せられたら、ひめが窮屈そうに弾かれる。
抱っこしてキスをしてから、ひめのおうちでもあるゲージに移動させる。
「ごめんね、ひめ。おやすみ。」
私もひとみちゃんも、限界みたいなの。
END
- 141 名前:電 投稿日:2012/08/26(日) 04:26
- 本日の更新は以上です。おそまつさまでした。
久し振りに釣られて気付けば夜明け間近ですが、後悔は微塵もございません(w
余談ですが、当スレのひめちゃん初登場の回は
>>79->>84
となっております。
併せてご覧いただければ、嬉しく思います。
- 142 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/08/27(月) 01:13
- あのブログの裏話をありがとうございます。おそらく真実です(断定)。
いつかひめちゃん視点のお話しが読みたいです。でもひめちゃんはまだまだ子供だからなぁ…
- 143 名前:電 投稿日:2012/09/07(金) 03:04
- >142様
有難うございますm(__)m
事実かどうかはさて置き(w
ごくごくフツーのありふれた、仲良しさんな3人の日常があればいいなと思います。
ひめちゃん視点、面白そうですね〜。私も読みたい…(w
現実が妄想を越え過ぎて、書きたい書きたいとうずうずしつつも
ひどすぎる事態にキャパシティーが追いつきません…(w
でも、せっかくなので夏っぽい雰囲気のモノを仕上げてみました。
それでは、本日の更新に参ります。
- 144 名前:遠い星を数えて 投稿日:2012/09/07(金) 03:05
- 「……どしたの、そのカッコ。」
吹き抜ける風すらも生ぬるい真夏の宵口を辿って石川の家を訪ねたら、
何故か浴衣姿で出迎えられた吉澤が、開口一番突っ込んだ。
肩から下げたトートバッグが、心なしかずれ落ちた。
「こないだ仕事で使ったの、もらってきたんだぁ〜。どう? かわいい?」
上機嫌の石川は、くるっと回ってポーズを取る。
「あー、はいはい。かわいいかわいい。」
勝手知ったる家に上がり、冷蔵庫からミネラルウォーターを拝借して、火照った体に流し込む。
「なによぅ、もうちょっと感情込めて言ってよ〜。」
「いつも言ってんじゃん。」
「そうだけどぉ、ほら、ね、浴衣だよ?」
淡い桃色に藍色で朝顔が描かれたそれは、確かに石川によく似合っている。
地黒に加えて日に焼けたトースト色の肌と、アップに纏めた長い髪に、鼓動が僅かに高なった。
「……自分で着付けしたの?」
面と向かって褒めることも、だいぶ慣れてきたけれど。
2人きりの空間で、しかも素面で言うのは照れ臭い。
きらきらした瞳でそれを期待されてしまうと尚更である。
ついごまかしてしまうのは、吉澤の悪い癖だ。
- 145 名前:遠い星を数えて 投稿日:2012/09/07(金) 03:06
- 「うん! それでさ、よっすぃ〜?」
嫌な予感がして、吉澤は振り返るのをためらう。
ごそごそと音がして、吉澤の予感は当たりそうな気配がした。
「じゃーーーんっ! よっすぃ〜の分もあるんだよっ!」
「は〜、やっぱり。」
溜め息をついて、首を振った。
「言っとくけど、アタシは着付けなんて出来ねーよ。」
「私がやったげるから〜。ねっ?」
「はぁっ? ってか何で浴衣なんて着てんの? 意味わかんねーし!」
「たまにはいいじゃーん。夏だしぃ、日本人だしぃ。」
「梨華ちゃん仕事で着たんなら、それでいいじゃん。」
「だってー、よっすぃ〜の浴衣姿も見たいんだもーんっ。」
「り、梨華ちゃんが着付けって言ったって、そんなのおかしいっしょ!?」
「やだ、なに照れてんの、よっすぃ〜?」
「べっつに照れてなんかねーっしっ!」
押し問答をすること数分。
結局は石川に負けて、しぶしぶ付き合うことになった吉澤なのだった。
「ほ、ホントに着るの?」
「諦め悪いよ〜? ほらぁ、早く脱がないと、私が脱がすよ?」
「ンなっ!?」
ニヤニヤと吉澤を覗き込む石川は、何だか楽しんでいるようだ。
半ばやけになって、カットソーとスキニージーンズを一気に脱いだ。
互いの下着姿なんか見慣れてるわけだしね、などと心中で言い訳をするのも忘れない。
「よっすぃ〜は色白だから、きっとこういうのが似合うなぁって思ってね。
ちゃあんと選んできたんだよ?」
「そこに気を遣うなら、もっと他んトコに気ぃ遣ってよ……。」
吉澤の肌を、紺地の浴衣が滑ってゆく。
前を合わせて、手際良く帯を付けていく。
からかってくるかと思いきや、石川の顔は真剣そのものだった。
- 146 名前:遠い星を数えて 投稿日:2012/09/07(金) 03:08
- 「うん。やっぱり私の見立ては間違ってなかったねぇ。」
そう言って帯をパンッと叩くと、石川は再び弾けるような笑顔を向けた。
頬を染めた白い肌と対照的な濃紺の浴衣は、まるで吉澤にあつらえたようだった。
芥子色の髪が、薄紫の菖蒲柄にこぼれ落ちる。
石川はほうっと溜め息をつくと、吉澤のうなじに手を回す。
「やっぱりよっすぃ〜はキレイだなぁ。」
「それはどうも。」
「も〜っ。そういう言い方しないの。」
「…………梨華ちゃんのが、可愛いよ。」
吉澤がぼそぼそと歯切れ悪く反論すると、目を細めた石川に唇を奪われた。
「キレイだけど可愛いよね。ひとみちゃんは。」
「しつこいなぁ。」
「褒めてるんじゃない。」
蕩けるような石川の視線にどきどきしながら
それに全力で目を背けながら、なんでもない声色を装って尋ねる。
「そーいや、ひめは?」
「さっきもうおねんねしちゃった。やっぱりまだまだ子供ねぇ。」
「そっか。」
「ねぇねぇ、ひとみちゃん?」
「ん?」
「このままコンビニ行ってさぁ、花火でも買ってこよっか?」
「……やだよ、恥ずかしいじゃん。」
キレイなのになァ〜、とブツブツ言いながら、ソファに腰掛ける石川は
やはり普段と違う装いのせいか、少し大人びて見える。
「夜になったら、ちょっとだけ涼しくなったね。」
窓から見える東京の夜景は、まだ夏色だけれど。
石川の隣に腰掛けて、その視線の先を共に眺めた。
- 147 名前:遠い星を数えて 投稿日:2012/09/07(金) 03:11
- 「来年の夏は、これ着て一緒に花火見に行きたいねぇ。」
「おー。そだね。」
「ひとみちゃん、汗かいてた? ……もしかして早くお風呂入りたい?」
「ん? どして?」
「だってもうちょっと見てたいんだもん。」
どうしてこんなに真っ直ぐに、こういう言葉を言えるのだろう。
吉澤は再び自分の顔に血が集まるのを感じながら、頭を掻いた。
「……せっかく着付けてもらったから、もちょっと着てよっかな。」
「うんっ。」
肩にかかる重みが心地よくて、吉澤はそのまま目を瞑る。
「缶チューハイなら冷蔵庫にあったかも。飲む?」
「おー、いいね。」
薄く色の付いた発泡酒が、僅かに甘く香る。
ガラスのコップがカチンと小気味よい音を鳴らした。
「横須賀の海で上がる花火はね、水面にも一面に映ってキレイなんだよぉ。」
「そうなんだ。」
「うん。」
「……一緒に行けるといいね。」
「うん!」
きっと来年も、こうして隣に居られる。
共に歩み、時には猛スピードで駆け抜け、どちらかが止まればそれを補う。
ソファの上でそっと手を繋ぐ。
暖かくて小さな手、サラリとした大きな手。
この手とならば未来も伴に走っていけると、遠い星を数えながらぼんやり考えた。
END
- 148 名前:電 投稿日:2012/09/07(金) 03:15
- 本日の更新分は以上です。
新鮮なネタで書けなくて、自分で自分にガッカリですorz
スレの残りが少なくなってきているので、締めの一本のつもりだったのですが
まだ若干余裕がありそうなので、もう少しココを遣わせていただく所存ですm(__)m
- 149 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/09/08(土) 01:42
- きっとこの二人の夏の思い出はたくさんあるんだろうなあ。
続きは遊園地かなあ〜(期待)
- 150 名前:電 投稿日:2012/09/21(金) 21:58
- >149様
有難うございますm(__)m
多感な12年を一緒に過ごしてきた2人だから、思い出もきっと多いんでしょうね。
個人的に晩夏の雰囲気が好きなので、このテの話が書けて良かったです。
遊園地は……ほかの作者様が書かれていらっしゃったのを拝見して
けっこー満足しちゃいました。
やっぱり書き手である前に読者なので(w
それでは、本日の更新に参ります。
- 151 名前:今すぐ kiss me 投稿日:2012/09/21(金) 21:59
- 休憩の合図を受けて、石川はパイプ椅子に腰掛けた。
アイフォンを手に取ると、メールが届いている。
撮影続きで凝った首を左右に捻りながら、メールを開く。
(やだ何これ……かぁっこいい〜〜〜ッ!!)
吉澤から送られてきたメールには、
イベント用に撮り下ろしたらしいショットが添付されていた。
『どれにしようか迷ってるんだけど、梨華ちゃんならどれがいい?』
(そ、そんなコト言われたって選べないよ……!)
きりっとした涼やかなショットは格好よくて捨てがたい。
それをクシャッと崩して、歯を見せて笑う笑顔も可愛くて捨てがたい。
白い肌と対照的な黒い革ジャンに指を引っ掛けて撮られたショットの数々が、
どんなモデルよりも石川の胸を釘付けにする。
- 152 名前:今すぐ kiss me 投稿日:2012/09/21(金) 22:00
- (いいなぁ、こういうカッコが似合って。カッコイイなぁ……。)
この世界に身を置いて、そこそこ長い年月を過ごしているから、
自分に似合う服装や、自分に求められているものを多少は解っているつもりだ。
それは石川にとって自信が持てる部分でもある。
でも吉澤は、きっとどんなものを与えられても着こなして、魅せる。
私服はパンツスタイルばかりで、マニッシュな服装が多い。
それこそ革ジャンやスタッズのついたジャケットといったメンズアイテムも着る。
いっぽうでアイドルとして活動するときは、フリルがついていたり、肩や背中が出ていたりするような
“いかにもアイドル”な衣装だって、当然ながら似合うのだ。
……本人はだいぶ違和感があると言っているが。
(はぁ。やっぱり私、ひとみちゃんには弱いわ。)
こんな写真を見ただけでも腰が砕けそうになる。
随分と一緒に居るのに、動悸がおさまらないほど胸が高鳴る。
いい加減、自分に呆れてしまう。
男前だけど女の子らしくて、繊細で、でも大雑把なところもある。
いろんな顔を持った人だから、ドキドキが止められない。
- 153 名前:今すぐ kiss me 投稿日:2012/09/21(金) 22:00
- 「おー、お疲れ。」
「ごめーん、待った?」
「んーん。そうでもない。」
カラオケボックスで落ち合うと、吉澤が顔を上げた。
「飲みもの何頼む?」
「えっ……あ、じゃあミルクティー。」
「オッケー。」
手際よく電話を取って注文を済ませ、再び長い足を組む。
「ひとみちゃん。」
「んー?」
「大好き。」
「はっ?」
突然の言葉に、吉澤はぽかんと口を開けた。
「だってさ〜、あの写真。」
「あー、あれどうだった? どれがいいかなって言ってんのに、返事くれないんだもんよ。」
「……分かってて言ってるでしょ。」
「フハハハ。」
肩を揺らして笑うと、吉澤は石川の肩をぽんぽんと叩く。
「梨華ちゃんがそう言ってくれるなら、ファンのみんなも喜んでくれるね。」
「もー。」
数日前に会った時よりも少し短くカットされた、明るい色の髪がサラリと流れた。
- 154 名前:今すぐ kiss me 投稿日:2012/09/21(金) 22:01
- 「今回アタシ、仕事入っちゃってるんだよね。」
「うん。」
「ごめん。」
「謝ることじゃないじゃん。」
「そーだけど、さ。」
無造作にソファに投げ出された白い手に、石川の指が触れて、愛おしそうに辿る。
「店員さん来るから。」
「分かってるよ〜。」
吉澤は照れたようにパッと手を離すと、そのままパラパラと歌本をめくり始める。
こういうシャイなところも、石川は嫌いじゃない。
ダテメガネをテーブルの上に置くと、石川は何気ないふりをしてそのページを覗く。
「私もよっすぃ〜の東京の日、スケジュールがビミョーなんだよねぇ。」
「あー、ドラマの撮影入ったんだっけ。」
「うん。」
「そっかー。」
「よっすぃ〜が歌ってるところ見るの、好きなのになぁ。」
そう言って今度は吉澤の目を覗くと、視線を彷徨わせてから、片眉を上げてからふぅっと息を漏らした。
タイミングよくドアが開き、淡々と飲みものを置いていく。
すると吉澤は石川に向き直り、にやりとしながら言った。
「ね、梨華ちゃん。せっかくだから今日も歌ってよ。」
「えー、練習付き合ってくれたときあんなに聞いたのに?」
「いーからいーから。」
「私リハーサルでも歌ってるんだけどなー。」
「お願いしますよ〜石川さーん。」
例えふざけた口調でも、手を合わせてお願いされると悪い気はしない。
しょうがないなーなどと言いながら、石川はコードを入力した。
- 155 名前:今すぐ kiss me 投稿日:2012/09/21(金) 22:02
- ギターとドラムが鳴る、心地よいテンポの前奏。
吉澤が大袈裟に拍手を送ると、石川は笑顔でマイクを握り歌い始める。
♪歩道橋の上から 見かけた革ジャンに 息切らし駆け寄った 人混みの中……♪
嬉しそうに聴き入っている吉澤を時折見やりながら、石川は丁寧に歌いこなした。
「やっぱこの曲、梨華ちゃんにすげー合ってるね。」
「そ、そうかな?」
吉澤がストレートな賛辞を口にするので、石川は思わず顔が緩んでしまう。
「意外とこういうロックな曲、似合うんだよね。梨華ちゃんって。」
「ロックって言ったら、よっすぃ〜のほうがこういうイメージなんじゃない?」
「んー、でも何つーか、歌詞も梨華ちゃんっぽいしさ。」
そこまで言うと、ふと言葉を切らして石川から目を逸らした。
「何つーか、梨華ちゃんっぽいんだよ。」
「よっすぃ〜?」
「わっかんないかなー。」
「なにが?」
長い指で頬を掻く吉澤は、何故か赤く染まっている。
きょとんとした石川に急に向き直り、その頬に素早くキスをした。
「…………。」
「…………。」
「やだっ、よっすぃ〜ってば超キザ!」
「ンだよ、おめーそういうコト言うなっつーの!」
お互い顔を真っ赤にしながら言い合う。
ドキドキが止められないのは、どうやら一人ではないようだ。
- 156 名前:電 投稿日:2012/09/21(金) 22:08
- 本日の更新は以上です。
そして、このスレでの文章アップはラストになりました。
駄文にレスを下さった方々、本当に有難うございましたm(__)m
いつも本当に励みになりましたし、読んで下さっている方が居ると思うと
『また書きに来よう』という原動力になりました!
只今、駄文の修正版を掲載できるようなウェブサイトを製作中です。
準備が整い次第、こちらにてお知らせしたいと思います。
(って、準備期間に爆弾が来たら先に新スレ作っちゃうかもですがw)
- 157 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/09/22(土) 00:47
- タイトルを見て興奮。読了後は幸せな気持ちでいっぱいです!
作者様のウェブサイト!!!
首を長くして待っております!
- 158 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/09/23(日) 22:40
- ウェブサイト&新スレ楽しみにしてます!
- 159 名前:電 投稿日:2012/09/25(火) 00:53
- えー、せっかくなので開設はこの日にしたくてw
ということで、突貫工事ですが開設しました。
サイトといってもこちらのスレの駄文をまとめてある倉庫のようなところなので、
特に新しいものはございません……何だか期待させてしまってスミマセン。
『となりで晩ごはん』
ttp://tonaridebangohan.xxxxxxxx.jp/
>157様
有難うございますm(__)m
あの生写真を見てこういう風景が浮かんでしまってですね。
ついカッとなって書きました。反省はしていません(w
お待たせした割に大層なものではなく申し訳ない限りです。
>158様
有難うございますm(__)m
ウェブサイト、誤字脱字を修正してあったりと
駄文倉庫としては見やすい…はずですので、
気が向いたら足を運んでやって下さいませ。
次スレも草板でお世話になる所存です。
いつになるかは未定なのですが、またよろしくお願いいたします。
- 160 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/09/25(火) 23:15
- 乙です
ブックマークしました
- 161 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/09/26(水) 01:44
- 私もブックマークしました!本当にありがとうございます!
次回作も楽しみにお待ちしております。
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