生田のモテキ
- 1 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 16:33
-
生田主役です
内容は題名そのまんま、CPはぽんぽんコンビです
一応9、10期総出演してます
あと生田がエセ博多弁を喋ってますが、その辺はあまり気にしないで
読んでもらえれるとありがたいです
- 2 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 16:34
- 放課後の生徒会室。本来生徒会に属している人じゃないと立ち寄れない場所。
というのは建前で、結構関係ない人も出入りしている。
私もそんな生徒会に関係ない人間のうちの1人で、うちの学校の生徒会長である聖と
話すためだけにいつも遊びに来ていた。
でもさすがに会議をしているときとか、真面目な仕事しているときは入ったりはしない。
そこまで私は人に言われるほどKYじゃないと思う、多分。
まぁそんなこんなで私は今生徒会室にいるわけだけど、ちなみに今日は他の役員の人達はいない。
つまり夕暮れの部屋に聖と2人っきりという、告白するには最高の条件が揃っていた。
聖の今日のお仕事は生徒会の会報を書くだけらしい。だから2人きりなんだけど。
でも聖が全然相手してくれないからつまらなかった。
本当は楽しくお喋りしたいのに、聖はさっきからずっと目の前にある紙とにらめっこで、
こっちに顔を向けてさえくれない。
- 3 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 16:35
- 最初は携帯で暇を潰していたけどそれにも飽きて、私は机に頬杖をつきながら聖を観察することにした。
聖は時々うーんとか言いながら悩んでいた。でも不意に人差し指を唇に当てると、軽く小首を傾げる。
きっと無意識なんだろうけどそのポーズが可愛すぎだった。
私は心の中で思いきり悶えながらも顔には一切出さず、わざとつまらなそうに口突き出してみる。
すると聖はようやく私の方に顔を向けてくれた。それからごめんねと苦笑しながら謝ってくれた。
私はにっこりと笑うと全然大丈夫だよと答える。
良い物見せてもらったしと内心思っていると、聖はペンを一旦机の上に置いてから手を組むと大きく伸びをする。
「なんかいい言葉が浮かばないから家でやる」
「えっ?いいの?」
「うん。元々期限は3日後だから余裕あるし。ゆっくり考えるよ」
「っていうことは・・・・・・今から2人のラブラブタイムってことでよかと?」
それは半分ふざけて言った冗談だった。でももう半分は本気だった。
入学式のとき体育館の壇上で挨拶をする聖に一目惚れをして以来、ずっと好きだった。
1つ年上なのに勝手に聖って呼び捨てにして、暇さえあれば生徒会室に入り浸って、
お昼はいつも聖を誘いに3年の教室に迎えに行っていた。
- 4 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 16:37
- ずっとそんな感じでさり気なくアピールしてきた。
でも聖はいつも笑って曖昧な態度を取るか、適当なことを言って誤魔化そうとする。
だけど今日は違った。聖は何も言わずに小さく頷いてくれた。
聖の顔はいつの間にか真っ赤になっていて、恥ずかしいのか少しだけ俯き気味だった。
私は予想外の展開に思わず生唾を飲み込む。
そのあと軽く息を吐き出すと静かに椅子から立ち上がる。そして聖の隣まで行くと、
腰を曲げてその顔を覗き込んだ。
すると聖は蚊の泣くような声で「恥ずかしいよ」と呟いた。
あまりの可愛さに私はまた心の中で悶え苦しんだけど、なるべく顔には出さないようにして
緩みそうになる口元を引き締める。
それから小さく息を吐き出すと思い切って聖の手を握ってみた。
少しだけ聖の肩が揺れたけど、手を振り払われたりすることはなかった。
「・・・聖」
「・・・えり、ぽん」
「できれば、その・・・衣梨奈って呼んでほしい」
「・・・・・・衣梨奈」
言い慣れないからか聖はぎこちなく私の名前を呼んだ。
それでも愛称ではなく名前を呼ばれたことが嬉しくて、私が自然と微笑むと釣られたように
聖も少しだけ笑ってくれた。
聖の微笑みは綺麗だけどどことなく色気があって、でもとても可愛らしい微笑みだった。
- 5 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 16:38
- ふと聖と目が合う。でも何だか照れくさくて互いにすぐ目を逸らした。
そのときよく分からないけど聖のことがすごく好きだと思った。
すると手を繋いでいない反対の手が無意識のうちに聖の肩を抱いていた。
それからもう一度目が合って、私はゆっくりと聖の唇に顔を近づける。
でも唇が触れる前に聖の平手が私の頬を叩く。
パン!と乾いた音が静かな生徒会室にやけに大きく響いていた。
私は最初何が起きたのか分からなかったけど、少し経ってから頬に鈍い痛みかあることに気づき、ようやく自分が叩かれたんだと自覚した。
「いきなり叩いてごめん。それは聖が悪かったと思う」
「えっ?いや、えぇぇぇぇ!あの、えっと、な、なんで?どうしたと?」
「・・・・・・えりぽん、なんか手慣れすぎだよ。そんな風に今まで色んな人を口説いてきたの?」
口説いたことなんてないし、というか聖が初恋なんですけど。
なんて弁解する暇もなく、そもそもそんな言葉が咄嗟に口から出るほど、私は器用な人間じゃない。
聖は勢い良く椅子から立ち上がると泣きそうな顔で私のことを見つめる。
でもすぐに顔を横に向けると、逃げるように生徒会室から出て行ってしまった。
- 6 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 16:39
- 夕暮れの生徒会室に残されたのは私と私の鞄と、そして聖の鞄だけだった。
とりあえずここに居ても仕方ないので、私は2人分の鞄を持って生徒会室を出た。
それから律儀にもちゃんと生徒会室の鍵を閉めると、その鍵を生徒会の顧問の先生に渡した。
なんでお前が鍵を返しにくるんだ、と当然のように聞かれたけれど、その辺は適当なことを言って
誤魔化しておいた。
それから両手に鞄を持ちながら、私はとぼとぼと下駄箱がある1階に向かって歩いている。
すると後ろから突然「衣梨奈ちゃん」と名前を呼ばれた。
その声に首だけ後ろに振り返ると、1つ年下だけど幼馴染みの里保が小走りでこちらへやってくる。
里保は私の目の前で止まると、余程急いできたのか肩を揺らして荒い息を吐き出していた。
「・・・っ・・・はぁ・・・え、衣梨奈ちゃん・・・今帰り?」
「ま、まぁね。そういう里保はもう部活終わったと?」
「・・・う、うん。今日はいつもより早めに終わったんだ。そういえば聖ちゃんは?今日生徒会室に行ってくる、って言ってなかったっけ?」
里保は私が聖に淡い想いを抱いていることを知っている。
だから色々と相談に乗ってもらうことが多くて、でも年下ながら冷静な里保の答えには
いつもおーっと思わされる。
- 7 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 16:40
- ただ今日は事が事なだけに少しだけ言うか迷った。
それでもやっぱり里保の意見が聞きたかったので、私はさっき生徒会室で起こったことを簡単に話した。
すると里保の第一声はため息と共に吐き出された、「最低」という言葉だった。
「いや、それについてはちゃんと反省しとーよ」
「反省とかそういう問題じゃないから。そりゃ聖ちゃんだって疑うよ、いきなり肩に手を回してキスしようとしてきたら」
「でもそれは聖が可愛いすぎるからで・・・・・・」
「もうっ、言い訳しないの!とにかく聖ちゃんの鞄は私が届けるよ、家なら分かるし」
実は里保も生徒会役員だったりするので生徒会長の聖とは面識がある。
というか2人は結構仲が良かったりする。
聖は可愛い子が好きなので、よく里保ちゃんが可愛いなんて話をされるくらいだ。
そんなとき実は内心ちょっと嫉妬しているんだけど、聖は絶対気づいていないと思う。
それはともかくさすがの私も今日顔を合わすのは気まずかったので、里保に聖の鞄を託すことにした。
でも改めて里保に怒られてみて、確かにさっきのはちょっとひどかったかもしれないと思った。
だけどキスしたらちゃんと告白するつもりだった。
そう言ったら、普通は順番逆だからと里保に冷静な口調でツッこまれた。
- 8 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 16:42
- そして私の代わりに鞄を届けるため里保とは途中の道で別れた。
去って行く里保の背中を見つめていると、無意識のうちに私の口から溜め息が漏れた。
寂しいような悲しいような、とにかくモヤモヤっとした嫌な気持ちが胸の中に渦巻いている。
そんなとき里保が突然立ち止まると勢い良く後ろに振り返った。
「あ、あのさ!もしこのまま・・・・・・ダメだったら・・・私が・・・あげてもいいよ」
少し距離があったからか里保の言葉は途切れ途切れで、その内容はいまいちよく分からなかった。
だから私は大声で叫んで聞き返す。
「えっ?何?里保、もっと大きい声で言って!」
「・・・何でもない!」
「えぇぇぇぇ!そういうのめっちゃ気になるっちゃん!ちゃんと言ってよ!」
「2度は言いません!もうっ、衣梨奈ちゃんのバカ!」
里保はなぜだかちょっと怒っていた。
私は訳が分からなくて、体を反転させて少し早足で歩いていってしまう里保を、
ただ呆然と見つめることしかできなかった。
- 9 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 16:43
- でもすぐにさっきの里保の言葉はまた会ったときにでも聞こうと思い直した。
それから私も自分の家に向かって歩き出す。
本当は住宅街を通っていく方が近いんだけど、今日は何となく騒がしいところに行きたくて、
少し遠回りして商店街の方から帰ることにした。
家の近くにある商店街はすごく栄えているわけじゃないけど、買い物するには不便がない。
コンビニで甘いものでも買うか、それとも夕食前だけど焼き鳥屋さんでぼんちりを買うか、
だけどみたらし団子も捨てがたい。
恋と空腹は別腹なのか、私は色んなものに目移りしながら商店街を歩いていた。
すると「よっ!そこの可愛い中学生のお嬢ちゃん!」と、聞き慣れた声が横から聞こえてきた。
私は反射的に顔をそちらに向ける。
そこには薄汚れた前掛けをして、頭に捻じったタオルを巻いた香音ちゃんが、相変わらず人懐っこそうな
笑顔を浮かべて立っていた。
- 10 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 16:45
- 「香音ちゃんは今日も店番?」
「うん。父さんがタバコ吸いたいからちょっと代われって。でも30分経っても戻ってこないんだけど・・・」
「ははっ、おじさんらしいっちゃん。でも香音ちゃんが店番してる時のほうが売れるんやろ?そういう噂を聞いたんやけど」
「らしいね。だからなのかなぁ、最近めっちゃ店番やらされるんだよね」
香音ちゃんも里保と同じく、年は1つ下だけど私の幼馴染みだった。
明るくて人懐っこくて里保とは対照的な子だけど、意外と2人は気が合うらしく、私と一緒にいるときよりも
楽しそうだった。
正直それがいつもちょっと寂しい。
そんな私の心情と交友関係はさせておき、香音ちゃんも私と聖の事情を知っているので、意見が聞きたくて先程の生徒会室での一件を話してみた。
「えっと・・・最低なんだろうね」と、返ってきた第一声は里保と同じだった。
やっぱり私が聖にした行為は最低らしい。
ということは聖も私のことを最低だと思っているんだろうか。
でも頬を叩くくらいなんだからそう思っていても不思議じゃない。そういう風に思うと、急に胸が締め付けられて
苦しくなる。
聖を好きだって思う気持ちは神様に誓って嘘じゃないのに、それがちゃんと伝わらないことが悲しかった。
- 11 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 16:47
- 「はい。これあげるよ」
「えっ?梨?・・・でもこれ売り物じゃん」
「だって衣梨奈ちゃん、今にも泣きそうな顔してるんだもん。だから特別にあげるよ」
香音ちゃんは店頭に置いてあるカゴに入った梨を私に押し付ける。
こんなに貰っちゃっていいのかなと思ったけど、とりあえずくれると言うのでありがたく頂くことにした。
「こういうことするのはさ・・・・・・衣梨奈ちゃん、だからだよ?」
「へっ?あぁ、うん。ありがと!」
「えっ?あー・・・・・・衣梨奈ちゃんだもんね。そうだよね」
私はちゃんとお礼を言ったのに、香音ちゃんはなぜかちょっと不満そうだった。
だからなんでだろうと思って軽く首を傾げる。
すると香音ちゃんはすごく疲れたような溜め息を吐き出す。それから「みんなで食べてよ」と
少しだけ苦笑しながら言うと、軽くポンと肩を叩かれた。
- 12 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 16:48
- 香音ちゃんとはそれで別れて、私は梨の入ったかごを抱きながら帰り道を歩いていた。
でもその途中にある家の近くの公園に差しかかったとき、公園の真ん中で小学生くらいの女の子が1人
泣いているのが視界に入った。
最初は無視しようと思った。別に知り合いでも何でもないし。
だけど結局私は無視することができなくて、その泣いている女の子のところに向かった。
「君、大丈夫?」
私は満面の笑みを浮かべなるべく優しい感じで話しかけたつもりだった。
でも女の子は泣くのを一旦止めて私の顔を見るなり、すごい驚いた顔をして10mくらい逃げた。
地味にショックだった。
元から子どもに好かれる性質ではないとは思っていたけど、ここまで嫌われたこともなかった。
私はどうしようかと少し悩んでから、ふと腕に抱えていた梨のことを思い出し、
とりあえず食べ物で釣ってみることにした。
- 13 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 16:51
- まるで動物の餌付けのように、梨を前に出して「おいで。別に取って食ったりせんから」と
柔らかい声で言ってみる。
すると女の子は最初ちょっと警戒していたけれど、梨に釣られたのか少しずつ私のところにやってきた。
そして私から梨を受け取ると嬉しそうにはにかむ。どうやら梨>私らしい。
梨に負けたんだと思うと虚しいけれど、女の子が嬉しそうだから今回は良しとすることにした。
「えっと・・・とりあえずは君が泣き止んで良かったとよ」
「うん。お姉ちゃん、梨ありがとう!」
「まぁ貰い物やけどね。それより、君はどうして泣いてたと?」
「・・・・・・遥ちゃんが見つからないの」
女の子は少しだけ悲しそうに顔を俯ける。
もしかして誘拐?それとも神隠しか、などと思っているとどこからか「優樹から離れろ!この変態!」と
勇ましい叫び声が聞こえてきた。
- 14 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 16:54
- その声に辺りを見回すと、少し離れたところから1人の男の子のこちらに向かってイノシシのように
突っ込んでくる。
そしてその子は私と女の子の間に割って入ると、庇うように大きく手を広げた。
「お前、最近この辺によく出る不審者のじっちゃんだろ!」
突然現れた男の子、もとい近くで見たら女の子だったけど、その子はなぜか私を睨む。
いやどう見ても普通の美少女中学生ですけど、何か?と言おうとしたら、私に喋る前に女の子がいきなり
裏拳を腹に叩き込んできた。
「げほっ!」
お腹が痛とうございます。というわけで、あまりの痛さに私は膝から崩れ落ちる。
でも梨が地面に落ちないように超頑張ってカゴを死守した。
するとさっきまで泣いていた女の子が私のところに駆け寄ってきて、
心配そうに顔を覗き込んでくる。
- 15 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 16:55
- 「お姉ちゃん、大丈夫?・・・遥ちゃん、この人をイジメないで!まーちゃん、
この人から梨もらっただけだよ」
「えっ?そうなの?なんだ、意外と良い奴じゃん。いや申し訳ない!」
私を殴った女の子は悪びれた様子もなく、普通にあははと笑っていた。
人を殴っておいてそれだけかよ!と怒鳴ってやりたかったけど、相手はまだ子どもだし、
根は悪い子じゃなさそうだからすぐ許した。
「でも遥ちゃんが見つかって良かったー」
「あっ、そういえばかくれんぼしてたんだったな。でもかくれんぼで見つけられないくらいで
泣くなよ、優樹」
「・・・ごめんなさい」
「まぁいいよ。それよりかくれんぼはつまんないからさ、明日はなんか違う遊びしない?」
「うん。確かにかくれんぼはいまいちだったね」
私の存在を完全に無視して、2人は仲が良いのか悪いのか分からないけれど、
一緒に公園を出て行ってしまう。
そして公園には梨の入ったカゴを抱えてしゃがんでいる私だけが残された。
このままだと本当に不審者として通報されそうなので、まだ少しお腹が痛かったけれど、
どうにか立ち上がって家に帰ることにした。
- 16 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 16:57
- そんなことがあった翌日。
いつものように普通に学校に登校したら、正門のところに立っていた先輩に突然声をかけられた。
先輩だと分かったのは単にうちの高等部の制服を着ていたからで、制服を着ていなかったら高校生だと思えない、
というくらい童顔な先輩だった。
「あのぉ・・・突然で申し訳ないんですけど、昨日公園で小学生の女の子を助けませんでした?」
「あっ、はい。助けましたけど」
「えっ!そ、それじゃその後で生意気そうというか、何か偉そうな感じの女の子に殴られませんでした?」
「あー、はい。殴られました・・・裏拳で」
「それじゃあなたなんですね!35人目にしてようやく出会えました!」
元々高めな声がさらに甲高くなって童顔な先輩は喜んでいた。
そして私の手をいきなりガシッと握ってくると、すっごく嬉しそうな顔をして見つめてくる。
背もそれなりに高くて顔も小顔だし、お嬢様風に軽く巻いた髪型もよく似合っていて、
綺麗な人だなぁって改めて思った。
- 17 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 16:58
- でも私と先輩は今日が初対面だった。いや私が忘れていなければの話だが。
とにかくそんな人に手を握られて互いに見つめ合っているのも変な話だった。
それに普通に登校してくる他の生徒にめっちゃ見られている気がするので、
私はこの状況をどうにかしたくて口を開いた。
「あ、あのぉ・・・もしかして先輩ってあの子のお姉さんですか?」
「はい、そうです。妹がお世話になったようなので一言お礼が言いたくて」
「いや私はただ梨をあげただけなんで。でも妹さんはともかく、あの裏拳で殴ってきた
クソガキ!本当にどういう教育してるんだか。全く、親の顔が見てみたいですよ」
「えっと・・・・・・私はその・・・あなたを裏拳で殴っていう、クソガキの方の姉なんですけど」
一瞬時が止まった気がした。でもできることならば動き出さないでほしかった。
とりあえず私はすぐに「失礼しました!」と言って深々と頭を下げた。
すると童顔な先輩は意外と良い人で、笑いながら「こちらこそ、妹が殴っちゃってごめんなさい」
と逆に謝られてしまった。
- 18 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 16:59
- 「あの、それでお礼がしたいんですけど暇な日ってありますか?」
「ふぇっ?」
「あっ、いや、急なお話だとは思うんですけど・・・もし迷惑でなければ、
お礼にお茶でも一緒にどうかなぁと思いまして」
それは全く予想もしていなかった突然のお誘いだった。
でも童顔だけど綺麗な先輩のお誘いに悪い気はしなくて、いつ暇だったかなぁなんて頭の中でスケジュールを確認していたら、
突然先輩があっ!と声を上げた。
「ごめんなさい!今日は日直なので早く行かないといけないんでした。なのでまた今度、
お返事聞かせて頂けますか?」
「えっ?あっ、はい」
私は勢いに任せてとりあえず頷いた。
すると童顔な先輩は口端を軽く上げてお上品に微笑む。やっぱり綺麗な人だなぁって思った。
最後に先輩は手を重ねてお腹の前に置くと、一流のホテルマンみたいに丁寧にお辞儀をする。
それから高等部がある校舎の方へ小走りで行ってしまった。
- 19 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 17:01
- 私はそんな先輩の後姿をぼーっと見つめていた。するといきなり後ろから背中を叩かれる。
誰だよと思って勢い良く後ろに振り向くと、そこには何だか不機嫌そうな顔をした聖が立っていた。
気のせいじゃなければ聖はちょっと怒っているように見える。
「なんで・・・えりぽんが飯窪先輩と話してんの?」
「へっ?飯窪先輩って今のあの先輩のこと?」
「えっ?えりぽん、飯窪先輩のこと知らないの?」
「っていうか、逆に聖はその飯窪先輩って人のこと知っとーと?」
聖が言うには今私が話していた飯窪先輩は結構有名人らしい。
何でも結構名の知れた雑誌のモデルを現役でしているみたいで、その話は中等部でも普通に
みんな知っているとのことだった。
やけに綺麗な人だと思ったけど、モデルだと聞いてそういう系かと私は納得した。
- 20 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 17:02
- 「それで、えりぽんは飯窪先輩と、その・・・ど、どういう関係なの?」
「いや、昨日公園で小学生くらいの女の子が泣いてたから声かけたんよ。そしたらすんごい怯えられて、
でも梨で餌付けしたらちょっと懐いて。あぁ、良かったと思っとったらいきなりクソガキに変態扱いされて、
裏拳でお腹を殴られたっちゃん。で、そのクソガキのお姉ちゃんらしいんよ・・・その、今の飯窪先輩って人が」
「・・・それで?」
「えっ?いやそれで、お礼がしたいから今度お茶でもしない?って言われた」
「何それ。意味分かんないんですけど」
理由は何だか分からないけれど、やっぱり聖は少しだけ怒っている。
でも聖とずっとこんな状態のままなのは嫌なので、私は機嫌を取るように聖に軽く寄り添うと
「今日一緒にお昼食べよ。いつものとこで」と笑顔で誘ってみた。
けれど「イヤ」と素っ気無く2文字で返された。
「えっと・・・あっ、そうだ!それなら一緒に帰ろ!」
「今日は、そのぉ・・・あの・・・生徒会の集まりがあるから無理」
「だったら待っとるよ、生徒会終わるまで」
「別にいいよ、そういうの・・・・・・や、やめてくれないかな?迷惑なんだよね」
聖は一瞬だけ私の方を見たけれどすぐに視線を逸らした。
それから私に背を向けると、足早に下駄箱の方に向かって歩いて行ってしまった。
断られたのはショックだった。でもどうせ断るならもっとちゃんと断ってほしかった。
切なそうな顔しておどおどした感じで言われると逆効果で、私は今日意地でも聖と一緒に帰りたくなった
- 21 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 17:04
- だから放課後になったらダッシュで生徒会室に向かった。
本当は掃除があったんだけどそれはパスして、行く途中に里保に声をかけられたけど無視した、
あと担任の先生にも声をかけられたけどそれも無視した。
何だか色んなものを失った気がするけど、でも今の私の頭の中には聖しかなかった。
聖と一緒に帰りたい一心で、というかただ会いたくて、話したくて、とにかく聖のことしか
考えていなかった。
そして生徒会室に着く頃には私は肩で息をしていた。
このままでは話せないので、私は軽く深呼吸とかして息を整える。それからとりあえず生徒会室のドアを
軽くノックしてみた。
けれども中からは何の返答も反応も返ってこない。
もしかして聖はまだ怒ってるのかなと思って、「生田衣梨奈ですけど、入ってもよろしいでございましょうか?」と
下手に出て様子を窺うことにした。
それでも何の反応も返ってこない。
私は何だか悲しくなってきて、深い溜め息を吐き出すとその場にしゃがみ込んだ。
聖が何に怒っているのかは分からない。
でももしも怒っているのならいくらでも謝るし、許してくれるなら土下座だってする。
聖に嫌われない為なら私は何だってするし、できる。
- 22 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 17:06
- 生徒会室に聖がいるのならいずれ出てくるだろうと思って、私は生徒会室の前に座り込んでドアが開くのを
じっと待つことにした。
そうして座り込みを始めてから10分、早くも私は飽きていた。
そんなとき不意に「そんなところで何してるんですか?」と声をかけられた。
声のした方に顔を向けると、不思議そうにこちらを見つめる1人の女の子がいた。
確かこの間互いに自己紹介をして、石田亜佑美とかいう名前だった気がするなぁ、
などと思っていると再び女の子が口を開いた。
「生田さんですよね。覚えてませんか?この前生徒会室で会ったんですけど」
「えっと・・・・・・確か亜佑美だよね?」
「えっ?いきなり呼び捨て?!」
「ダメやった?」
「いやダメじゃですないけど・・・予想外にフレンドリーだなぁっと思って」
やや苦笑気味な笑みを浮かべながら私のことを見つめてくる亜佑美。
ちょうど今から一週前だったか、いつものように生徒会室に入り浸っているときに
亜佑美と知り合った。
でも知り合ったと言っても自己紹介した程度で殆ど話していない。
彼女は私の隣の隣のクラスの子の学級委員長で、ただプリントを届けに来ただけってこともあり、
その日はすぐに帰ってしまった。
- 23 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 17:08
- 「それより亜佑美はどうしたと?またプリント届けに来たん?」
「いや、私はその・・・生田さんが生徒会室の前に座り込んでるから、どうしたのかなぁと思って
様子を見に来ただけです」
「いや、こ、これは別に変なことしてるわけじゃなかとよ?生徒会が終わるまで聖を待ってるだけっちゃん」
「えっ?今日って確か、生徒会の集まりってなかった気がするんですけど・・・」
亜佑美はまた苦笑気味な笑みを浮かべる。
私はその言葉が信じられなくて、勢い良く立ち上がると生徒会室のドアを少し乱暴に叩いてみた。
やっぱり中かからは何の反応も返ってこない。ちょっと凹んだ。
無駄な時間を過ごしたとか、座り込みしてバカみたいだったとか、そんなことは
別にどうでもいい。
私は単純に聖に嘘をつかれたことに凹んでいた。
「あー・・・なんかすごい落ち込んでますけど、大丈夫ですか?」
いつの間にか亜佑美は私のすぐ傍にいて、心配そうに顔を覗き込んでくる。
多分角度的な問題だとは思うけど、亜佑美が一瞬私の激単推しアイドルであるゆうかりんに見えた。
だからちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、胸がキュンとしてしまった。
でも聖以外にときめくなんて生田衣梨奈、一生の不覚。
- 24 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 17:10
- 「もし良かったら、この後ちょっと遊びに行きませんか?」
「へっ?」
「生田さんに時間があればですけど、駅前のマックとかミスド辺りでお茶とかどうですか?」
「いや、あの・・・悪いけど聖一筋やから!だから他の若い子に流れるわけには・・・・・・」
まさかの亜佑美から突然お茶のお誘い。
そういえば最近色んな子に出会って話をすることが多い。
そのうち1人には殴られたけど、もしかしてこれが俗に言うモテキってやつかもしれない。
そう思うとちょっとだけテンションが上がった。
とはいえ私の聖が好きだという思いは絶対に揺るがない。
そう固く胸に誓っていると「愚痴でも聞きましょうか?ってつもりで言ったんですけど」と、
亜佑美は苦笑気味な笑みを浮かべて補足した。
「あっ・・・あー、そっちか。いや、うん。そっちだって思っとったよ、本当は」
「でも別にいいんですよ?生田さんにその気があるなら」
「へっ?」
「このまま私と放課後デートしちゃいますか?」
目を細めて笑う亜佑美。そして手を取られたと思ったら軽く指を絡めてくる。
私はあまりにも唐突な展開に言葉が出なかった。
気がつくと周りの音が掻き消されたかのように静かになっていて、だからか吐息のように吐き出された
「えりぽん」という聖の声が、すごく大きくはっきりと聞こえた。
- 25 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 17:11
- 私はゆっくりと声のした方に顔を向ける。
するとそこには生徒会室に来るはずのない聖が、呆然とした様子でその場に立ちつくしていた。
思わず聖と目が合った。
でも私は何も言えなくて、何か言いたかったけど、何も言えなかった。
聖は今にも泣きそうな顔をする。でもその顔を見られたくなかったのか、すぐに顔を俯けた。
けれどもその顔はすぐに上がって、潤んだ瞳で私のことを睨むと「えりぽんのバカ!」
と叫んでから自分の鞄を私に投げつけてきた。
でも鞄の中身が結構入っていたか、私にぶつかる全然手前のところ床にで落ちる。
一瞬の沈黙。
聖は「えりぽんのバカ」と今度は独り言のように呟くと、私に背を向けて
どこかへ走って行ってしまう。
「・・・み、聖?!」
金縛りが解けたようにようやく私の口から声が出た。
でも聖は止まることなくそのまま走り続け、その姿はどんどん小さくなっていく。
私は追いかけなきゃと思ったけどすぐに前につんのめった。なぜかというと亜佑美が未だに
私の手を握っていたから。
そういえば亜祐美の存在をすっかり忘れていた。
- 26 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 17:13
- でもということはそういうことになんだと思う。
結局私には聖しかいなくて、聖以外の人のことを考えられるほど、要領も容量も良くないらしい。
私は亜佑美の方に振り返ると「ごめん」と謝った。そしてその後なぜか笑った。
普通笑って謝ったら怒りそうなものなのに、亜佑美は全然怒っていなかった。
逆に笑いながら私の手を離すと軽くだけど背中を押してくれた。
そして亜祐美に「いってらっしゃい」と言われたので、「行ってきます」と返した。
それから私は廊下の真ん中に落ちている聖の鞄を拾うと、慌ててその小さな後姿を
追いかけた。
かなり距離が開いているので少しでも目を離したら見逃してしまいそうだった。
だから私はまっすぐ聖だけを見て走り続けた。
廊下を走り抜け、下駄箱を抜けて、正門を通り越し、学校から出ても
私達の追いかけっこは続いた。
制服姿のまま全力で走って追いかけっこしている私達の姿は、傍から見たら
相当不思議なものだと思う。
正直人の目が気にならなかったわけじゃない。本当はかなり恥ずかしかった。
でも聖が止まるまでは止まれないし、聖を捕まえるまでは止まれなかった。
- 27 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 17:15
- 「聖!」
正直鞄を持って走っているだけでも辛かったけど、私は頑張って声を絞り出して叫んだ。
けれど聖は止まってくれない。
相変わらず聖との距離は結構開いていて全然埋まらない。
その距離が2人の関係を表しているみたいで、だから悔しくて切なくて何か嫌だって思って、
私はもう後のことは考えずに気合で走るスピードを上げた。
すると手を伸ばせば届きそうなところまで距離を縮めることができた。
でも鞄を抱えて走っているから手を伸ばすことはできなくて、だから私はありったけの想いを込めて
その背中にぶつけることにした。
「みず、き・・・聖!・・・聖のことが好きじゃぁぁぁぁぁぁ!!」
それはかなり大きい声だったけど、変なところで裏返っていたりして、
あまり格好良くはなかった。
それでも想いは届いたのか聖の走るスピードがちょっとずつ緩まる。
そしてその後少しだけ走ってからようやく止まってくれた。
- 28 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 17:16
- 聖、と荒い息を吐き出しながら名前を呼ぶとゆっくりと私の方に振り向く。
でも私が一歩足を踏み出したら聖に一歩後退りされて、右足を出せば左足が下がり、
左足を出せば右足が下がる。
まるで何かの踊りみたいに息が合った動きで私達は数メートルほど進んだ。
このままだといつまでたっても2人の距離は縮まらない。
逃げるなら逃げたっていい。だけどせめて私の話を聞いてからにしてほしかった。
ちゃんとこの好きだって想いを聖に届けたかった。
それからなら逃げても隠れても構わない、本当はそんなの嫌だけど、
その方がまだ諦めがつく。
「聖!」
思い切りその名を叫ぶと聖は足を後ろに下げなかった。
私はようやく一歩前に出て聖の前に立つ。それから片手で鞄を抱くと、もう一方の手で
聖の腕を掴んだ。
すると少しだけ聖の体が強張ったような感じがした。
- 29 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 17:17
- 「・・・・・・聖のこと、ずっと好きやった」
「えっ?過去形なの?」
「ち、違う!過去形じゃなかとよ!聖のこと現在進行形で好きっちゃん!」
「・・・本当、だよね?嘘じゃないよね?」
聖は少し不安そうな顔つきで私のことを見つめてくる。
こんなにも好きなのに伝わらせないことがもどかして、聖の腕を掴んでいる手に
思わず力が入る。
すると「痛っ」と言って聖が顔を軽く歪めたので、私は慌てて手を離した。
「・・・ごめん」
「あっ、いや・・・全然大丈夫だから」
それから何となく会話が止まった。少し気まずかった。
でも前も一緒にいて会話が止まることはあった、だけどこんな気まずいと思うことはなかった。
私はもうどうしていいか分からなくて、突然その場にしゃがみ込んだ。
- 30 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 17:19
- 「どうしたら聖に伝わると?こんなにも聖のこと好とーのに全然伝わらん。
好きなのは聖だけっちゃん!手を握りたいのも、抱きしめたいのも、キスしたいのも
・・・それ以上のことしたいって思うのも、聖だけやなのに!」
私は自分の想いを包み隠さず思うままにそのまま吐き出した。
それでも聖は何も答えてはくれなかった。
もうこれ以上どうすることもできなくて、私は顔を俯けて黙り込んでいると、
突然ふわっと良い薫りが鼻を掠める。
それと同時に温かくて柔らかな感触を腕に感じて、私はゆっくりと顔を上げた。
すると信じられないことに聖が私のことを抱きしめていた。
ショックすぎてとうとう幻影でも見たのかと思ったけど、それは紛れもなく現実に
起こっていることだった。
- 31 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 17:21
- 「・・・み、聖?!」
「えりぽんのこと信じてあげられなくてごめんね?」
「へっ?」
「でも怖かったの。だってえりぽんって誰にでも優しいんだもん。それに髪切ったらすごくカッコ良くなっちゃって、
おまけに最近背も伸びてきて・・・だから、その・・・私のことが好きっていうのが信じられないっていうか
・・・・・・信じるのが怖かった」
聖は少しだけ寂しそうに笑う。でもすぐに柔らかい微笑みを浮かべた。
それから私の髪を撫でてたから、その延長で頬も軽く撫でる。
その仕草がすごく色っぽくて私の一気に心拍数が上がった。
胸がドキドキするから聖のことを見たくないって思うのに、聖から目が離せなかった。
「だけど、私はやっぱりえりぽんのことが・・・うんん、衣梨奈ちゃんのことが好き」
「・・・・・・へっ?いや、あの、それ本当だよね?嘘じゃなかと?」
「ふふっ、さっきと逆だね。そのセリフ」
「あー、そういえばそうっちゃね」
あははと笑っていると、聖が突然私の手をギュっと握ってきた。
それから顔を軽く俯けると、「好きだよ、衣梨奈ちゃんのこと」とか細い声だったけど
そうはっきりと言ってくれた。
私はその手を握り返すと、聖が好きだ!ってカッコ良く決めたかったのに、噛んでしまい
「みじゅきが好きだ」になってしまった。
- 32 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 17:24
- それでも聖は嬉しそうに笑ってくれて、その顔を見たら私まで嬉しくなった。
私達は顔を見合わせて笑いながらゆっくりと立ち上がる。
それからしっかりと手を繋ぐと聖の家に向かって歩き出した。
「あっ、ごめん!学校に鞄忘れてとったから取りに行かんと」
不意に自分の鞄を学校に置き去りにしたままなのを思い出して、私は急に立ち止まるとやんわりと
繋がった手を離した。
でも聖は「なら一緒に行くよ」と言って私の手を再び取るとにっこりと笑う。
「いや、それじゃ聖に悪いっちゃん。何ならダッシュで学校まで行ってきてもくるけん、
聖はここで待っててもええんよ?」
「何それ。一緒に行ったらいけないの?」
「いや、そういう意味じゃなかとよ!ただ聖に悪いかなと思って」
「そんなこと気にしなくていいよ。それに学校まで行った方が・・・その・・・
え、衣梨奈と少しでも長く一緒に居れるし」
自分で言っておきながら顔を真っ赤にする聖がもう可愛いすぎだった。
そして聖のことが改めてすごく好きだって思った。
私は今すぐにでも抱きしめてキスしたい衝動に駆られたけど、そんなことをして嫌われたくないので、
とりあえず聖の手をギュっと握り返した。
- 33 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 17:25
- 以上です
ぽんぽん好きの方に喜んでもらえれば、感無量です
- 34 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/19(月) 19:00
- これはイイ!!
PONPONだけどそれだけじゃない。生田スキーなんで嬉しいです。
他の関係性も嵌ってる。
萌えました((( ⊂⌒~⊃。Д。)⊃
- 35 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/22(木) 12:56
- ポンポンコンビ好きです
えりぽんモテモテですね
- 36 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/12/26(月) 15:34
- これだけで終わるのも何なので短編を載せます
でも今回は生田の話じゃなくて、鞘師と工藤のお話です
その2人でもいいよて方は、どうぞ
- 37 名前:まぁ基本スカスカ 投稿日:2011/12/26(月) 15:37
- 新曲のダンスの出来がいまいち納得がいかなかったので、自主練がしたくて事務所のレッスン室を
訪れると先客がいた。
それは同期でも先輩でもなく、ついこの間入ったばかりの工藤遥ちゃんだった。
聖ちゃんと同じエッグ出身だからそれなりにダンススキルはあるのに、こうやってちゃんと
自主練するところは本当に真面目だし偉いなぁと思う。
私より年下なのに本当にしっかりしていて、たまに聖ちゃんや衣梨奈ちゃんより
年上に見えるときがある。
それに喋ると顔に似合わないハスキー声で、行動や言い方がサバサバしているのもあって、
ちょっと男の子ぽっい感じがする。
でも黙っていれば普通に可愛くて、顔だけならハローの中でもかなり上位に入るんじゃないか、
と個人的にだけどそう思っている。
そんな遥ちゃんはさっきから同じところを繰り返し踊っていた。
どうやらその部分ができなくて苦戦しているらしい。
確かにあそこは私も手こずったなぁ、などと思いながらその様子をドアのころから
覗き見ていた。
とはいえこのままずっと見つめていたらわざわざ来た意味がないので、
私は静かにドアを開けると中に入った。
- 38 名前:まぁ基本スカスカ 投稿日:2011/12/26(月) 15:39
- でも完全に集中している遥ちゃんは私が入って来たことに全く気づかない。
そのことが何だか面白くて、私は壁際に腰を下ろすと気づかれるまでじっと待つことにした。
すると5分くらいして遥ちゃんはようやく私に気づき、お化けでも見たような勢いで驚いていた。
「うおぉぉぉぉっ!な、なんだ里保か。いるなら声かけてよ」
「ふふっ、だって遥ちゃん全然気がついてくれないんだもん。だから逆にいつになったら気づくのかなぁーと思って」
「くっだらないことするなぁ。このヒマ人!」
「暇人じゃないよ。これでもちゃんと自主練しようと思って来たんだけど」
私は自分の横に置いてあったバッグからレッスン用のジャージを取り出すと、その場で服を脱いで
着替えることにした。
とりあえず上着とインナーを脱ぎ捨て、履いているスカートを脱いでキャミソールと下着姿になる。
するとなぜか遥ちゃんがすごく驚いた顔をして慌てて私のところまでやってくる。
- 39 名前:まぁ基本スカスカ 投稿日:2011/12/26(月) 15:41
-
「バカ!こんなとこで着替えるなって!着替えるならもうちょっと隅の方でしなよ」
「えっ?別に男のスタッフさんとかいるわけじゃないし、ダメかな?」
「いや普通にダメでしょ!だっていつ誰が入ってくるか分かんないじゃん」
「あー、確かに」
「はぁ・・・・・・里保って本当に変なところで抜けてるよね。まぁでもいいや、とにかく着替えるなら早く着替えた方がいいと思うよ」
遥ちゃんは何だか気まずそうに頬を掻いてから顔を真横に向ける。
最初はどうしたんだろうと思ったけど、すぐに私が下着姿だから照れてるのかなって思った。
とはいえこんな格好をしているのは急に遥ちゃんが駆け寄ってきたからで、別に好きでしているわけじゃない。
でも本来は早く着替えるべきなんだけど、こちらを全く見ようとしない遥ちゃんが何だが可愛くて、
ちょっとからかいたくなった。
私はふふっと小さく笑うと、そのまま着替えずに逸らしている遥ちゃんの顔の正面に回り込む。
それから少しかがんで下からその顔を見上げてみた。
「ちょ、ちょ、ちょっと!あんた、何してんの?!」
「ん?遥ちゃんをからかっとる」
「うえぇぇぇぇ!えっと、あの・・・・・・もうっ!バカなことすんな!!」
「ごめんごめん。でも遥ちゃんの顔すっごい赤いけど、ひょっとして照れてる?」
「べ、別に照れてなんかないし!っうか、里保みたいなペッタンコな胸見て照れるなんて、ただのロリコンじゃん」
それはきっと悔し紛れに言った一言だとは思うけど、ちょっと聞き捨てならない一言だったので、私は「遥ちゃんよりはあるよ!」と
強い口調で言い返した。
すると遥ちゃんがさらに言い返してきたから、人に言うほどあるのかよと思って、私は遥ちゃんのTシャツを捲くろうと手を伸ばす。
- 40 名前:まぁ基本スカスカ 投稿日:2011/12/26(月) 15:43
-
「ちょ、ちょっと里保!やめろって!」
「人にペッタンコって言うくらいじゃけぇ、遥ちゃんはそりゃすごいんじゃろーな」
「さっきは言いすぎたよ、ごめん!だから人のTシャツを捲んな!!」
下着姿で人のTシャツを捲くるなんて変態みたいだけど、そのときはTシャツを捲ることにしか
頭になかった。
そしてそのくだらない攻防はしばらく続いたけれど、ふとした瞬間に足がもつれて
私達は床に倒れこんでしまった。
でも咄嗟に遥ちゃんが私の体を庇ってくれて怪我とかはしなかった。
遥ちゃんは「痛ったいな、もうっ」と顔を顰めて言っていたものの、どうやら
打ったのは背中みたいだったのでちょっと安心した。
それにさっきまで言い合いしていたのに、私のことをちゃんと庇ってくれたことを
嬉しく思うのと同時に、なぜだか胸の鼓動が段々と早まっていく。
- 41 名前:まぁ基本スカスカ 投稿日:2011/12/26(月) 15:45
- そんなとき突然レッスン室のドアが開く音がした。
私達は反射的に素早くドアの方に顔を向けると、ドアの前で口を大きく開けている
6人の女の子の姿があった。
呆然とこちらを見つめているのは、私達を除いた9期と10期のみんなだった。
私は下着姿だし、おまけに遥ちゃんの上に馬乗りになってるし、ちょっとだけ遥ちゃんのTシャツが捲れているし、
誤解されるには十分な光景だと自分でも思う。
だから弁解するなり何か言えば良かったんだろうけど、私も遥ちゃんも完全に思考停止していて、
すぐに言葉が出てこなかった。
するとある意味空気を読んだ香音ちゃんが、気まずそうな顔をして軽く頭を下げると、
静かにレッスン室のドアを閉める。
「今・・・完全に誤解されたな」
「でもこの光景を見たら誰だって誤解すると思うよ」
「だよね。と、とりあえずさ、里保は服着なよ。そのまんまじゃ風邪引くって」
「う、うん。そうだね」
私は遥ちゃんの上から退くととりあえずレッスン着に着替えることにした。
そのときこのまま2人の関係が誤解されてもいいかなって、ちょっとだけ思った。
でも遥ちゃんは頭を乱暴に掻いたり、くそーとか言いながらため息なんか吐いていて、
そう思っているのが自分だけなんだと分かると少しだけ胸が苦しくなる。
- 42 名前:まぁ基本スカスカ 投稿日:2011/12/26(月) 15:47
-
「あ、あのさ・・・・・・遥ちゃんは私と噂になったら嫌?」
「へっ?」
「だってさっきからぶつぶつ文句言ってるから。わ、私は別にええんよ?このまま遥ちゃんと誤解されても」
「バ、バカ!・・・・・・はるだって、その・・・誤解されていいと、思ってるよ」
どういう意味なんだろうと思っていると、遥ちゃんがこっちにやってきて何の前置きもなしにいきなり
私のことを抱きしめる。
あまりに予想外のことに戸惑っていると、「里保のことは嫌いじゃないし」と少しぶっきらぼうな口調で言われた。
「でもさ、その・・・後であいつらにからかわれるのがイヤなんだよ!」
「何?そんなこと?はぁー、良かった」
「それで、まぁ、なんだ・・・里保はその・・・はるのことどう思ってんの?」
「ふふっ、好きだよ。多分そうだと思う」
「ちょ!多分って何だよ、多分って!はるのことちゃんと好きじゃないの?」
遥ちゃんは少し不安そうに顔をしてこっちを見つめてくる。
咄嗟に私を庇ってくれたり、自分から告白してくれたり、言葉遣いが少し乱暴で男の子ぽっいのに、
こういうところはすごく女の子らしいなって思った。
そんな遥ちゃんがすごく可愛らしく見えた。
だからもう居ても立ってもいられなくて私は「大好き!」って言うと、お気に入りのぬいぐるみを抱きしめるみたいに、
その小さくて細い体をギュと抱きしめる。
すると遥ちゃんは対抗するようにさらに強く私のことを抱きしめてくれた。
- 43 名前:名無し 投稿日:2011/12/26(月) 15:53
- 以上です
ぽんぽんコンビも好きですが、この2人も好きです
>>34
自分も生田好きですよ
というか9、10期みんな好きです
だからこそこの話が書けたんだと思います
>>35
自分も好きなので、もっとぽんぽんの話を書く人が現れてほしいです
実際の生田はモテなさそうな気がします
- 44 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/07(土) 14:19
- 作者さんのレスにも笑ってしまったw
鞘ハルもっと読みたいですお
- 45 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/10(火) 17:51
- 今回は何となく話が浮かんだので、世にも珍しい生田と光井さんの
話を書いてみました
でも意外といける気がしてます
- 46 名前:愛されるKY 投稿日:2012/01/10(火) 17:56
- 今モーニング娘は春コンに向けてリハーサルを繰り替えしていた。
そして私は休み時間も惜しんで鏡の前でひたすら練習している。
足の怪我だから仕方ないとはいえ、ブランクがある分どうしたって
誰よりも練習しないといけない。
だから自然と練習にも熱が入る。
でも悔しいことに体がついていけなくて、体力がまだ完全に戻っていない私は
踊っている途中で態勢を崩す。
このまま前のめりに倒れると思った、けれど後ろから誰かが体を抱きしめて支えてくれたため、
倒れ込むことはなかった。
私は絶対先輩の誰かが助けてくれたんだと思った。
でも鏡に映っているのは後輩の生田で、私は信じられなくてわざわざ後ろに振り返る。
すると当然だけど後ろに生田がいた。
「大丈夫ですか?」
「えっ?あぁ・・・うん。って大丈夫に決まっとるやろ!ちょっとよろけただけなんやから」
「なら良かったです。でもあんまり無理しないでくださいね?」
「そんなん生田に言われんでも分かっとるわ」
本当はありがとうって言うべきなのに、後輩だし生田だからか素直に言えなかった。
でも生田は特に気を悪くした様子もなく普通に笑っている。
けれど不意に何を思ったのか、生田は突然私の頭を軽く撫でてきた。
- 47 名前:愛されるKY 投稿日:2012/01/10(火) 18:01
- 予想外すぎる出来事に言葉が詰まる。
大きく目を見開いて金魚のように口を開閉させていると、生田はそんな私を見て軽く微笑む、
その微笑みが不意にあの人に重なって見えた、途端に胸が思いきり締め付けられる。
前からどことなく似ているなとは思っていた。
空気を全然読まないところとか、いきなり訳の分からないことを言い出すところとか、
何だかんだ言われながらも先輩に可愛がられるところとか。
そしてあの人ほどじゃないけど背が高いところや、軽く微笑むとすごく綺麗なところ、
あとはしゃぐと声が異様に高くなるところも似ていると思う。
生田は棒立ちの私が珍しかったのか、不思議そうに小首を傾げながら顔を近づけてくる。
そういえばあの人も話すときいつも顔が近かったな、なんて思って私は苦笑した。
身勝手で我がままで自己中で、そして何より私の心を奪ったまま、
あの人はあっさりと娘を去った。
「・・・先輩に何しとんねん、生田!」
頭を撫でる手を乱暴に振り払ってそう叫ぶと、呆気に取られた様子でこちらを
見つめる生田を睨む。
最低なことに私はあの人への苛立ちを生田にぶつけてしまった。
異様な雰囲気を感じ取ったのか、リハーサル室が一瞬で静まり返る。
そしてみんなの視線がこっちに集中しているのが嫌でも分かった。
あー、またひどい奴だと思われたかな、なんて自分で自分を卑下すると
軽く溜め息を吐き出す。
- 48 名前:愛されるKY 投稿日:2012/01/10(火) 18:07
- 私は「お騒がせしてすいません。少し頭冷やしてします」と極めて冷静な口調で言うと、
リハーサル室の出入り口に向かう。
それから部屋を出るととりあえず当てもなく歩きに出した。
適当に角を曲がって少しいった廊下の中程で立ち止まる。
一応辺りを見回してみるも誰もいなかったので、体を反転させて壁に寄りかかった。
そして壁を擦るように少しずつ下に向かって背中を滑らせると、そのまま床に座り込む。
全然あの人の忘れられてないじゃん、と自分にツッコミを入れると、私は両手で顔を覆ってから
声を押し殺して泣いた。
もうすっかり忘れたつもりだった、いやきっと私は忘れていた。
でもその忘れていた記憶を生田が無理矢理引き上げたのだ。
それならやっぱり生田が悪いなと思って、私は泣きながらははっと笑い声を漏らす。
するとどこからかこちらに向かって走ってくる音が聞こえてきた。
そしてその足音は私の目の前でぴたりと止まる。
一拍置いてから、「大丈夫ですか?光井さん」と上から心配そうな生田の声が
上から降ってきた。
「あんなぁ・・・普通こういうときは1人にしとくもんちゃうん?」
「いや、まぁ、そうかもしれないですけど・・・でもなんか、
1人にさせちゃダメかって思って」
「全く。本当にKYやな、生田は」
「はい!私、ものすっごいKYなんですよ!」
「自慢するみたいに言うなや、アホ」
結構きつい口調で言っているにも関わらず、生田はやっぱりあははと笑っている。
でもそうやって能天気に笑っているところが、またあの人と重なって見えそうで
怖かったから視線を俯けた。
すると嫌がらせなのか、生田はしゃがみ込んでまで私と視線を合わせてくる。
- 49 名前:愛されるKY 投稿日:2012/01/10(火) 18:11
- こういう無神経なところもあの人みたいだった。
人の心にずかずか土足で上がりこんでくるのに、こっちがどんなに手を伸ばしても
届かない。
だからあの人のことは好きだったけど、でも大嫌いだった。
「そろそろ戻りましょうか?きっとみんなすごい心配してると思いますよ、あの光井さんが
いきなり出て行っちゃったんですから」
「あのってなんやねん、あのって。どうせ悪い意味なんやろ?」
「えっ?いや、それはその・・・まぁそれなりに良い意味で、ですよ」
「あんなぁ、それ全然フォローになっとらんし。でもまぁウチ1人のために貴重なリハーサル時間を
削るなんて申し訳ないし、そろそろ戻るわ」
これ以上生田と話していると無駄に疲れそうなので、私は小さく溜め息を吐き出すと
立ち上がるために足に力を入れる。
すると先に立ち上がった生田が手を差し伸べてくれた。
最初は余計なお世話だし、後輩に手を借りるのは格好悪いから、突っ返そうかなと思った。
でもさすがに2回も手を振り払うのは悪い気がして、仕方なく生田の手を掴んだ。
そうして立ち上がったまでは良かったんだけど、その後なぜか生田は私の手を離そうとしない。
ましてやそのままリハーサル室に向かって歩いて行こうとする。
だから私はその手を無理矢理離そうとしたら、拒否するみたいにかなり強い力で
指を握り締められた。
私はそこまでするとは思わなくて、少し驚いて生田の方に顔を向ける。
すると生田は私の視線に気がついたのか顔をこちらに向けると、猫みたいに思いきり
目を細めて笑う。
その顔はあの人に全然似てなくて、私は今日初めて生田の顔をちゃんと見たんだなと思った。
- 50 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/01/10(火) 18:15
- 以上です
思っていたよりも良かった、とでも思って頂ければそれだけで十分です
>>44
若干バカにしたようなレスですが、ちゃんと生田のことは好きですよ
鞘ハルは自分ももっと詠みたいです
- 51 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/10(火) 20:15
- 本当に世にも珍しい物を見せてもらいました
できればもっとやってほしいですw
- 52 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/13(金) 01:46
- 確かに世にも珍しいけど、イイ!
オチがまたいいなあ
- 53 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/01/18(水) 20:35
- 今回は初心に戻ってぽんぽんコンビのお話です
お好きな方はどうぞ
- 54 名前:好きだよ、君が 投稿日:2012/01/18(水) 20:38
- 最近なぜだかえりぽんに避けられている気がする。
何かしたかなぁと記憶を遡ってみたけれど、その原因になりそうなことは特に思い浮かばない。
でもえりぽんは私と目が合うとすごく嬉しそうに笑う、それからに犬みたいに駆け寄ってきてくれたり、
すぐに腕を絡めて抱きついてきたり、今までそれが普通だった。
だけど最近そういうことが全部なくなってしまった。
されると少し煩わしかったのに、されないと何だか変な感じがするというか、
物足りないって思ってしまう。
でもそう思ってしまう時点で、私は相当えりぽんにハマっているみたいだ。
だからえりぽんに避けられている理由が知りたかった、理由を知ってちゃんと話し合って、
いつものえりぽんに戻ってほしかった。
そういうことがあって最近はいつもと逆で、私の方から積極的にえりぽんに話しかけるように
している。
でもえりぽんは私と目が合うだけで逃げてしまう。
それは自分が思っていたよりもずっとショックで、結構キツいことだった。
そして里保ちゃんや香音ちゃんとかと仲良く話している姿を見ると、胸がギューって
直接掴まれたみたいに痛む。
今日だってえりぽんは石田ちゃんと楽しそうに話している。
- 55 名前:好きだよ、君が 投稿日:2012/01/18(水) 20:40
- いつだってえりぽんの隣は私だったのに、そう思うと自然と涙がこぼれて頬を伝う。
それは全然止まらなくて次から次へと目から溢れてくる。
突然泣き出した私に他のメンバーは当然驚いていて、でも余計な心配はかけたくなかったから、
私は口元を押さえながら楽屋を飛び出した。
そしてどこに行こうか迷った末に、私は楽屋から少し歩くけれど自販機などが置いてある
休憩所みたいなところに向かった。
ちょうどそこには誰もいなくて、私は小さく溜め息を吐き出すとベンチに腰を下ろす。
それから何となく自分の胸に手を当ててみる、やっぱりまだ少しだけ胸が痛い。
えりぽんに嫌われることがこんなに辛いとは思わなかった
えりぽんに嫌われただけでこんなに落ち込むとは思わなかった
えりぽんをこんなにも好きなるなんて思ってもみなかった
- 56 名前:好きだよ、君が 投稿日:2012/01/18(水) 20:44
-
「聖」
それは今1番聞きたい声だったけど、でも1番聞きたくない声でもあった。
だけど私の心臓は素直でえりぽんの声を聞いただけで鼓動が早まる。
私は軽く溜め息を吐き出してからゆっくりと後ろに振り向くと、なぜかひどく泣きそうな
顔をしたえりぽんがいた。
泣きたいのはこっちの方なのに、そう思って私は少しだけ苦笑した。
えりぽんはゆっくりとした足取りで目の前まで来る、でも何を思ったのかいきなり私のことを
抱きしめてきた。
それから耳元で「泣かせてごめん。聖が泣いたのは衣梨のせいやろ?」と囁いてくる。
その声はいつもより低くて私の鼓動がさらに早まらせた。
私が黙り込んでいるとえりぽんが突然顔を上げる。
その顔はすごく不安そうで既に瞳が少しだけ潤んでいた。
でもそんなえりぽんがすごく可愛くて思えて、私は小さく笑うとどうにか片手だけ腕から抜け出して、
その頭をポンポンと軽く撫でてあげる。
- 57 名前:好きだよ、君が 投稿日:2012/01/18(水) 20:47
-
「ねぇ・・・・・・聖は辞めんよね?」
「えっ?な、何を?」
「・・・・・・モーニング娘。」
「辞めないよ!だってようやく9期も1周年迎えたねって、ついこの間お祝いしたばっかりだよ?
それなのに辞めるはずないじゃん」
最近はちゃんと会話が噛み合ってきたように思っていたけれど、どうやらまだまだらしい。
はぁーと呆れたような溜め息を吐き出すと、えりぽんは少しだけ顔を俯けてから私の服の袖を
引っ張るみたいに掴んでくる。
「でも・・・衣梨は怖かったっちゃん。聖が辞めちゃうって思うと、上手く話せんくて」
「えっと・・・・・・どういう意味か説明してもらってもいいかな?」
「だから、その・・・衣梨が好きになった人は前田さんとか新垣さんとか、みんな辞めてくけん・・・
でも聖が辞めるのだけは絶対イヤやったと!」
えりぽんは分かりやすく解説してくれると、しがみつくように更に強く私のことを抱きしめてくる。
だけど私はいまいち言葉が理解できなかったので、もう一度頭の中で整理することにした。
つまりえりぽんは自分が好きになった人が辞めてしまうと思っていて、そのジンクスに従って
私も辞めるんじゃないかと、なぜだかそう考えたらしい。
その言い方だと私のことを好きだ、と言っているようなものだった。
でも私と思っている好きとえりぽんの好きはきっと違う。
それはちょっと悲しいことだけど、嫌われてないことだけは間違いないようなので、
私はちょっと安心して深い溜め息を吐き出した。
- 58 名前:好きだよ、君が 投稿日:2012/01/18(水) 20:50
-
「・・・・・・良かった」
「えっ?」
「えりぽんに嫌われたってずっと思ってたんだよ?でも嫌われてないって分かったから、それだけで
良かったなぁって思ってさ」
私があははと笑うと、えりぽんはなぜか少し怒ったような顔つきでこちらを見つめてくる。
どうしたんだろうと思っていると、えりぽんがいやに真剣な顔をして「聖が1番好きに決まってるやろ」
って言ってきた。
絶対えりぽんは私の思っているような意味で言ったんじゃない。
それでもその言葉が嬉しすぎて、私は今までのお返しと言わんばかりにその細い腰に手を回すと、
しっかりと抱きしめる。
「私、辞めないから」
「・・・うん」
「だってどんなに辛いことがあったって、えりぽんが隣にいてくれるなら乗り越えられると思うから」
「それは衣梨奈も同じっちゃん。聖が隣にいてくれるなら、宇宙だって行けそうな気がすると」
「ふふっ、そっか・・・なら、宇宙まで行っちゃおっか?」
「うん。2人で宇宙1のアイドルになるとよ!」
えりぽんは私と目が合うと顔全体で笑う。
前は飽きるほどその笑顔を見ていたはずなのに、何だかすごく久しぶりな気がした。
そしてあぁ、やっぱりえりぽんの笑った顔が好きだなって思った。
- 59 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/01/18(水) 21:01
- 以上です
ぽんぽんはイチャイチャしてるのが似合うと思います
>>51さん 世の中にこの2人を書いた人は多分3人くらいしかいないと思います
ただこの2人は嫌いじゃないので、話が浮かんだらまた書くつもりです
>>52さん 気に入ってもらえたようで良かったです
オチの台詞は非ハロの好きなアーティストの方から、ちょっとだけ
引用させてもらいました
- 60 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/25(水) 02:59
- これはとても良いイチャイチャ
- 61 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/01/26(木) 20:21
- 今回はそれなりに好評だった鞘工です
前回より落ち着いている感じてはありますが、それなりにイチャついてます
気になる方はどうぞ
- 62 名前:熱 投稿日:2012/01/26(木) 20:24
-
床に腰を下ろすと思わず深い溜め息が漏れる。
そしてその吐息はいつもより少し熱を持っている気がした。
遥は背中を壁に預けてると何気なく天井を見上げる、それから何となく首筋に手を当てると
予想していたより手のひらが熱かった。
これはやっぱりヤバイかもしれないなと思って1人苦笑する。
今日は朝から熱ぽっい感覚があった。
でもあまり気にしなかった、というか気にしている場合じゃなかった。
遥がモーニング娘になって初のハロコンが、もうすぐそこまで迫ってきているからだ。
覚えることもやることもエッグの頃に比べて倍くらいあるし、当然のようにより高い
レベルを要求される。
だからいつもよりも頑張らないといけない。
なのに体が思うように動いてくれない、歌もちゃんと音程が取れない。
そんな状態ではレッスンにならないと判断されたのか、今は遥抜きの3人で踊るように
との指示が出て、遥は少し離れたところで休んでいる。
人のレッスンを眺めるのは嫌いじゃない。
自分と相手を客観的に比べられるから勉強になる、でも今は見つめることしかできないことが
悔しいし、それ以上に自分が情けない。
遥は今日何度目か分からない溜め息を吐き出す。
すると喉に何か詰まったような感じがして、ごほごほと咳が出たので慌てて口元を手で押さえた。
- 63 名前:熱 投稿日:2012/01/26(木) 20:25
-
「遥ちゃん、大丈夫?」
咳き込んでいると突然目の前から声がして、遥が口元を押さえながら顔を上げると
心配そうにこちらを見つめる里保がいた。
「・・・なんだ、里保か」
「何それ。私じゃ不満?優樹ちゃんとかはるなんが良かったの?」
「そんなんじゃないって。っていうかだーいし抜かすなよ」
「えっ、石田ちゃんが良かったの?」
「違うって!あー、もうっ!思いっきり話逸れてんじゃん」
興奮して少し大きな声を出したからか、遥は再び咳き込んで口元を押さえる。
すると里保は平然と遥の横に腰を下ろすし背中を撫でてくれた。
呼吸は楽になったけれど、遥は里保に風邪をうつすわけにはいかないと思い、軽く肩を押して
自分から遠ざける。
でも里保はそんな遥の手首を掴むと自分の方へ引き寄せる。
予想もしていなかったことなのと、体が弱っていたせいか抵抗することもできず、
遥はまるで抱きつくように里保の腕の中に収まった。
- 64 名前:熱 投稿日:2012/01/26(木) 20:27
-
「風邪、後でうつっても知んないかんね?」
「いいよ。遥ちゃんの風邪なら」
「はぁ?何だよ、それ」
「・・・・・・もうっ、そんぐらい分かってよ」
里保は少し拗ねたような顔をしながらも、掴んでいた手首を少し下にずらすと、
遥の手を指ごと握ってきた。
でも里保は遥の方を見ようとせず、そのまま顔を正面に向けると顔を俯ける。
心配だから近くにいたい、という里保の気持ちを遥も分かっていた。
だけどそれで里保までもが具合を悪くしては意味がない。
「じゃぁ・・・あと3分だけ、このままでもいいよ」
「えっ?」
「3分経ったら離れなよ?本当に風邪うつったら嫌だし」
「・・・うん」
里保は少し不満そうだったけれど最後に小さく頷いた。
本来ならばすぐにでも里保と距離をおくべきなのに、どうしてもできなかった。
それは単純に傍にいてほしいと思ったから。
こういうところが子どもなんだろうなと思って遥は苦笑する、でも仮に自分が20歳でも同じことを
しただろうなと思い直して軽く笑った。
すると里保が突然手を離した、でも手の向きを変えただけでまたすぐに手は繋がる。
ただ今度は指と指が絡んで手のひらがくっつくという繋ぎ方で、それはドラマとかマンガでしか
見たことがない繋ぎ方だった。
多分世間で言うところの恋人繋ぎってやつだな、なんて熱に浮かされながらいやに冷静な頭で
遥は思う。
きっと正常な状態なら色々騒いでいたと自分でも思うが、今はそんな元気も体力ない。
でもそのとき不意に里保は平気なのかなと思って、横目でその様子を伺うとやっぱり恥ずかしいのか
また顔を俯けていた。
恥ずかしがるならやるなよと思ったけれど、触れ合った手のひらが異様に熱くて遥は何も言えなかった。
そして熱いのは風邪で熱があるからってことにしよう、顔を少しだけ横に逸らしながらそう思った。
- 65 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/01/26(木) 20:31
- 以上です
でも最近は鞘工よりも、佐藤と工藤コンビが気になってきました
>>60さん まぁぽんぽんはイチャイチャさせてナンボですから
- 66 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/31(火) 06:27
- 鞘ハルキテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
工藤はお姉さま方に甘えさせちゃっていいと思います><
同級生コンビも早く読みたいですよ?
- 67 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/02/03(金) 21:14
- 今回は一部の方に好評だった生田と光井さんのお話です
別に前回の話と繋がってたりはしてません
- 68 名前:KYとクソガキの間で 投稿日:2012/02/03(金) 21:17
-
人が踊っているのを見ていたら何だか踊りたくなった。
今、鏡の前では一心不乱に9期と10期が踊っている。
でも自分は踊れずに壁に寄りかかってその様子を見ていることしかできない。
お医者さんはもうすぐ踊れるようになると言ってくれた。
でもそのもうすぐがまだ明確に分からなくて、だから余計に胸の中がモヤモヤする。
一体いつになったら踊れるようになのか、明日か、明後日か、1週間後か。
それとも気休めで言ってくれているだけで、実は数ヶ月かかるのかもしれない。
私はもう待ちきれなかった。
ファンの方以上に自分が待ちきれなくて、家でこっそり踊ってみることもしばしばだった。
ただそうすれば余計に完治が遅くなるのは分かっている。
それでも後輩が頑張っているのにジッとなんていられなかった。
というのは建前で、本当は後輩に置いていかれるのが怖かった。
日に日に上手くっていく後輩達。
先輩達とやってきたこの5年間の差はそう簡単には埋まらないとは思う、
それでも時々激しい不安と悔しさに襲われて眠れないときがある。
今だってこうやって普通に見ているけれど、マイナスな感情に押し潰されそうになるのを
必死に堪えていた。
早くみんなに上手くなってほしいと願う一方で、これ以上上手くならないでくれと
願ってしまう悪魔な自分もいる。
そしてそんな最低な自分に呆れて自己嫌悪に陥る。
歌って踊れさえすればこんなに悩むこともないのに、そう思って私は顔を俯けると
自分の足を睨んだ。
- 69 名前:KYとクソガキの間で 投稿日:2012/02/03(金) 21:17
- 少しして溜め息を吐き出すと同時に顔を上げると、後輩達は相変わらず汗を流して
鏡の前で踊っている。
やっぱり見ていたら踊りたくなった。
だからもう後のことなんて考えるのは一切やめて、私は壁際から離れると数歩前に出る。
それから軽く深呼吸すると耳を澄ましてカウントを取り始める。
5、6、7、8と数えて、次の1と頭の中で数えたと同時に手を真上に振り上げた。
足を蹴り上げると素早くターン、体を前後にくねらせると腕を前に突き出す。
想像していたよりも遥かに体が動いて、そのことに少し感動した。
でも鏡に映る後輩達は皆、一様に驚いた顔つきで振り返ってこちらを見つめてくる。
それでも私は踊ることをやめなかった。
せめてこの曲が終わるまでと思っていたけれど、それは体が許してくれなかった。
ちょうど2番のAメロが終わるか終わらないかのところで、足の先端に強い痛みが走り
私はその場に蹲る。
すぐさま「光井さん!」と後輩達が口々に叫ぶ声が聞こえてきたけど、そんな中
気のせいかもしれないけどあいつの声が1番大きく聞こえた。
それから数人の足音がこちらに近づいたかと思うと、もう一度「光井さん」と呼ばれた。
それは間違いなくあいつの声だった。
抱きかかえられるように背中に手を回されて、すぐ横に人の気配を感じる。
私がゆっくりと顔を上げると、なぜか今にも泣きそうな顔をした生田がこちらを
見つめていた。
- 70 名前:KYとクソガキの間で 投稿日:2012/02/03(金) 21:19
-
「なんで生田が泣きそうな顔してるん?」
「だ、だって・・・あ、あの・・・光井さんが・・・・・・」
「ホンマに泣き虫やなぁ、生田は」
私は笑いながら生田の頭を軽くぽんぽんと撫でてやる。
すると生田は安心したのか、いつものように目を細めてにへらっと笑う。
そのとき濡れた瞳のまま笑う生田がすごく可愛く見えたけど、本人に言うと調子に
乗りそうなので絶対言いたくなかった。
そんなことはともかくとして、生田に腰を抱かれている状態なことに今更気づいた私は
恥ずかしくなってその細い肩を軽く叩く。
それでも生田は私から離れようともしなければ、腰から手を離そうもしない。
「って、いつまで抱きしめとんの?いい加減体離してほしいんやけど」
「ダ、ダメです!」
「はぁ?なんで?っていうかそもそも生田にそんな権限ないやろ」
「そりゃないですけど・・・でもダメなんです。だって光井さん、また無茶しそうだから」
どうやら生田なりに私のことを心配してくれているらしい。
とはいえこんな状態でもう一度踊ろうと思うほど私はアホじゃないし、これ以上怪我を
悪化させてまたコンサートに出れない、なんてことには絶対になりたくない。
ただ今日踊ったことで多少完治する期間が延びてしまったかもしれないけど、でも悔いは
全くなかった。
あの瞬間、私は踊りたくて踊りたくてしかたがなかった。
というか頭の中でカウントを数えた瞬間に体が勝手に動いていて、止めることなんて
できなかった。
こういうのも職業病っていうかな、なんて思って1人で笑っていると突然思い出したように
生田が足は大丈夫なんですか?って聞いてきた。
- 71 名前:KYとクソガキの間で 投稿日:2012/02/03(金) 21:22
-
「もしかしてまだ痛いですか?立てますか?歩くことできますか?死にますか?死にませんよね?」
「死ぬか、アホ!」
心配してくれるのは分かるけど、言っていることがあまりにもバカみたいだったので、
思わずツッコミを入れながら頭を叩く。
こういうとき自分はつくづく関西人だなぁって思う。
それはともかく生田は叩かれというのに馬鹿みたいにへらへら笑っている。、
でも不意に私と目が合うと少しだけ口元を引き締めて、大人の女性みたいな艶のある
微笑みを浮かべる。
予想外の微笑みに少しだけ胸が高鳴る。
そのときの生田はすごく綺麗なお姉さんに見えた、だけど本人言うと調子に乗りそうだし、
なんか悔しいから死んでも言いたくなかった。
「って、もうそろそろ体離してくれてもええやろ?」
「・・・ダメです」
「はぁ?何でなん?」
「えっと、それはその・・・個人的になんですけど、光井さんともう少しこのままでいたいんで」
自分で言いながら顔を赤くする生田。
その顔を見たら何だかこっちまで恥ずかしくなってきて、私は慌てて顔を横に逸らす。
するとある意味空気を読んだ他の9期と10期のメンバー達は、一様に顔を俯けるか背けるかして
私達の方を見ないようにしてくれていた。
ただ最年少の工藤と佐藤はちゃんと顔を逸らしてくれているものの、耳たぶの辺りが少しだけ
赤くなっている。
その様子に私はこのマセガキがと思いながら苦笑した。
でもせっかくマセガキ達が空気を読んでくれているので、しゃーないなぁ、少しだけやで?と
ぶっきらぼうな口調で言うと、生田の細い首筋に両手を回した。
- 72 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/02/03(金) 21:29
- 前回より少しだけイチャつかせてみました
次回は生ガキか、新生か、飯工か、大穴で石飯を載せようと思ってます
>>66さん 自分も子どもらしく甘えるくどぅが見てみたいです
期待されると本気で書いちゃうますよ?
- 73 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/04(土) 03:17
- そんな人前でムハー
素直って強いですね
>>69のみっつぃーが(だめな行為なんだけど)なんかかっこ良かったです
- 74 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/06(月) 21:21
- 一部の方の一人のヲレが通りますよ
作者さんの生田さんと他の人物の絡ませ方いいですな
- 75 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/02/10(金) 17:35
- 前回言ってた中から今回は生ガキにしました
内容はなんかありきたりな感じになんですけど、一応シリアスな雰囲気を
目指して書きました
生ガキ好きの方のお口に合えば幸いです
- 76 名前:あまりに君がうるさいから・・・ 投稿日:2012/02/10(金) 17:38
- 偶然なのか図られたのかは分からないけれど、気がつくと楽屋で生田と2人きりになっていた。
嫌な予感がした。
だから私は適当な事を言って席を立った。
でもドアに向かって歩いて行きドアノブを掴んで回そうとした瞬間、予想はしていたけれど
後ろから手首を掴まれた。
「・・・離して」
「イヤです」
即答だった。
私は軽く溜め息を吐いてから首だけ後ろに向ける。
すると今にも泣きそうな顔をしている生田と目が合った。
見ていられなくて少しだけ顔を俯けると、新垣さんと泣きそうな声で生田が私の名を呼ぶ。
顔を上げたくなかった。
上げたらいけないって頭の中で警鐘が鳴っている。
すると新垣さんと、さっきとは打って変わって生田が真剣な声で私を呼ぶ、
その声に引き寄せられるように私は顔を上げた、そしてすぐに後悔した。
生田は熱ぽっい瞳で射抜くように真っ直ぐ私の事を見つめていた。
その瞳に心まで射抜かれてしまいそうだった。
「何か用?」
「・・・・・・好きです」
「そう」
「衣梨は本気ですから」
目を見ればそんなことは言われなくても分かる。
生田の目はいつだって好きだと私に告げていた、でも私はそれに応えなかった。
もう誰も好きにならないと決めたから。
だから生田の気持ちはとても嬉しいけれど、決意を覆すことはできない。
- 77 名前:あまりに君がうるさいから・・・ 投稿日:2012/02/10(金) 17:43
-
「手、離してくれない?」
「イヤです」
即答だった。
呆れたような溜め息を漏らすと、生田は悲しそうに瞳は伏せる。
そのとき少しだけ手首を掴む力が緩んだので、私は手を振り払うと顔をドアの方に向ける。
でも私はドアノブを回すことができなかった。
背中に生田の温もりを感じると同時に、石造のように体が固まって動けなかった。
「衣梨は・・・衣梨は新垣さんがいるなら何もいらん!」
「いや何もいらないってさ、あんた娘は?」
「えっ?」
「娘もいらないの?」
長い沈黙。
私はきっと生田は何も答えられないと思った。
けれどそんな私の予想をあっさりと裏切って生田は浅く息を吐き出した後、はいと一言だけ言った。
その瞬間、正直ちょっと頭にきた。
殴ってやろうかと思った。
私はとりあえず怒りに任せて勢い良く生田の方に振り返る。
目が合う。
一切迷いのない瞳だった。
その目が何も言わなくても私のことを好きだと言っていた。
それから生田は新垣さんが好きですと言ってきた。
私は何も言えなくて顔を逸らす、すると生田が追ってきて顔を覗き込んでくる。
すぐさま反対方向に顔を逸らす。
生田はめげずにさらにまた追ってくる。
それを何度も繰り返す。
逃げ続ける私に痺れを切らしたのか、生田が少し強い口調で新垣さんと叫ぶ。
つい反射的に生田の方を見ると目が合った。
まるでそれが合図だったかのようにに生田が顔を近づけてくる、私は拒んで顔を深く俯ける。
でも生田はそれを許してはくれなかった。
両手で私の頬を挟むと強引に顔を上に持ち上げられる。
それからもう一度目が合って、2人の唇が重なった。
- 78 名前:あまりに君がうるさいから・・・ 投稿日:2012/02/10(金) 17:47
- 抵抗して顔を左右に動かす。
それでも生田は離してくれなかった。
強引な口付けはそのまま続き、歯にでも当たったのか唇の端が切れて少しだけ血の味がした。
私は両手を使って生田の肩を押し返そうとする。
すると手を掴まれて、指を絡み取られて、そのまま壁に強く押し付けられた。
そのままいつまでも続くように思われた口づけは、息が続かなくなった生田がゆっくり顔を離して
突然終わった。
私は我に返ると生田の手を振り払う、そして唇を手の甲で拭った。
少しだけ血がついていた。
それから全力疾走した後のように酸素不足なので、二人して荒い息を吐き出し続けていた。
でも不意に生田は息切れしながら好きですと呟いた。
壊れた玩具みたいに何度も何度も好きですと呟いた。
私は大きく息を吐き出すと生田のことを抱きしめた。
自分でもなぜそうしたかは分からない。
単純に生田の声がうるさかっただけなのかもしれない。
私が抱きしめたら生田の声が止まった。
そのまましばらく沈黙が続いた、けれど突然生田が少し震えた声で新垣さんと私を名を呼ぶ。
「ん?何?」
「・・・・・・好き、です」
「そう」
「はい。好きなんです、誰よりも」
生田は私の腰に手を回すとしがみつくように抱きついてくる。
それから顔を上げると私のことを真っ直ぐ見つめてくる。
目が合う。心臓が跳ねる。
生田は目を細めると嬉しそうに笑う、それに釣られて私の頬も軽く緩む。
ふとこれじゃ何も言わなくても好きって言ってるようなものだなと思って、一人苦笑した。
- 79 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/02/10(金) 17:57
- 以上です
個人的に生ガキは生田が報われないほうが好きです
>>73さん 素直っていうか、要は若さなんだと思います。若さって怖いですね
自分のイメージする光井さんはあんな感じです
>>74さん 一部の方にちゃんと読んでもらえて良かったです
生田に関してはそれらしく書いているつもりですが、まだまだ掴めきれていないので
未だ勉強中です
- 80 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/14(火) 00:44
- この感じ久しぶりに読みました
一途っていいですね><
- 81 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/14(火) 19:11
- 現実のアピールも凄まじいので脳内での想像も容易でした
報われないけどいい感じです
- 82 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/02/21(火) 21:22
- 今回は佐藤と工藤のお話です
本当は飯窪と工藤のお話しようと思いましたが、何となくやめました
とりあえず次回に回そうと思います
気になる方はどうぞ
- 83 名前:すっぴんスマイル 投稿日:2012/02/21(火) 21:25
- お手洗いに行くために少しだけ楽屋を離れた。
そして戻ってきたらちょっとすごいことになっていた、何がってまーちゃんが。
でも楽屋を離れる前から隅の方でまーちゃんが先輩方に囲まれて、ちょっと騒いでいたから
何かをされているのは分かっていた。
とはいえ楽屋のドアを開けてすぐにてメイクをばっちりしたまーちゃんが現れたときは、思わず
うおっ!と声が出るほど驚いた。
「えへへ、メイクしてもらっちゃった」
「さっきから何かされてるとは思ってたけど、それか」
「うん、これ。それで、どう?」
「いや、どうって言われても・・・・・・」
まつげは不自然なくらい上げられ、マスカラもラメ付きのものがしっかりとつけられていた。
薄茶色のアイラインは結構はっきりと引かれていて、目尻にはラメ入れのシャードーがつけられている。
頬にはオレンジ色のチーク、唇紅はちょっと濃いめのショッキングピンクみたいな色で、
その上にラメ入りのグロスを塗られている。
とりあえずそんなにラメいらねぇよって思った。
でも本来小学生がここまでしっかりメイクすると不自然に見えそうなものだけど、まーちゃんは
元々顔つきが大人ぽっいからか、そこまで不自然な感じはしなかった。
きっと悪ふざけでやったのに予想外に似合ってしまったんだろうなと、後ろの方で
苦笑している先輩達の顔を見て思う。
それにしてもまーちゃんは喋らなければ同じ年には見えないなぁ、なんて思いながらまじまじと
その顔を見つめていると、恥ずかしくなったのかまーちゃんは突然私から顔を逸らす。
- 84 名前:すっぴんスマイル 投稿日:2012/02/21(火) 21:30
-
「ん?どうした?まーちゃん?」
「ねぇ、くどぅ・・・・・・まーちゃん、キレイになったかな?」
まーちゃんは少しだけ目を細めると横目でこっちを見てくる。
それはたまたまなのか分からないけれど、その表情をしているまーちゃんが12×2倍くらいの
年の人に見えて、一瞬心臓が止まりそうになった。
それから言葉に詰まってしばらく何も言えなかった。
するとまーちゃんは露骨に不満そうに頬を膨らませると、もういいよ!って勝手に怒り出して
軽くだけど私の肩にグーパンチしてくる。
「ちょ、ちょっと!?何勝手に怒ってんの?意味分かんないんですけど」
「くどぅとはもう口利かない!」
「はぁ?いや、とりあえずなんで怒ってるのかちゃんと説明してよ」
「それは、その・・・くどぅが全部悪いの!」
本当は普通に口利いてるじゃんって思ったけど、そんな揚げ足を取るようなことをしたらますます
まーちゃんを怒らせそうだったので言わなかった。
それはともかくなんでまーちゃんが怒っているのか全く分からなくて首を捻る。
ただそれを聞こうにもまーちゃんは完全に拗ねてしまっていて、腕を組んで頬を膨らしながら
少しだけ睨んでくる。
どうしたのもんかなぁと軽く溜め息吐き出すだと、突然後ろから肩を叩かれた。
私は首だけ後ろに向けると、最近すっかり身長を追い抜いてしまった亜祐美がいた。
亜祐美は少しだけ困ったように笑うと私の耳元に顔を寄せて、まーちゃんはくどぅに綺麗だねって
言ってほしかったんだよ、って小さな声で囁くように言ってきた。
- 85 名前:すっぴんスマイル 投稿日:2012/02/21(火) 21:33
-
「何それ」
「いやそのまんまの意味だけど?」
「はぁ?意味分かんないし。っていうかさ、それならはっきりそう言えばいいじゃん」
「もうっ、分かってないなぁ。自分から言うんじゃなくて、相手に気づいてもらうのがいいんだよ。
なんて言うの?健気な乙女心ってやつ?」
「何それ。わけ分かんないんですけど」
私は亜祐美が何を言いたいのか分からなかった。
でもとりあえずまーちゃんが私に綺麗だねって言ってほしかった、ってことだけは分かったので
言えば少しは機嫌が直るかなぁと思って、軽く頭を掻いてからまーちゃんに近づいた。
すると最初はこちらを睨んでいたのに自分の方に近づいてくることが分かると、まーちゃんは慌てて
私に背を向ける。
全く、本当にガキだなぁと思って密かに溜め息を吐き出した。
そして本当ならこんなこと言いたくもないけど、機嫌が悪いままだと色々と面倒そうなので
私はあー、あー、と少しだけ発声練習する。
喉の調子はそんなに悪くなかったので、私は大きく息を吐き出してから口を開いた。
「まーちゃん、こっち向いてよ」
「・・・イヤだ」
「っていうか今日はもう私と口利かないんじゃなかったの?」
「あっ!」
「まぁそんなことはどうでもいいからさ、とりあえずこっち向いてよ」
そう言いながらまーちゃんの答えを聞く前にその肩を掴むと強引に自分の方に向かせる。
向かい合うとまーちゃんはダンスの先生や先輩から怒られる直前みたいに、少し怯えたような顔つきで
上目遣いをして見つめてくる。
でも今日はメイクしているからか、見慣れたはずの顔なのにすごく綺麗に見えて、なぜだか私は
真っ直ぐまーちゃんのことを見れなかった。
するとくどぅ?ってどこか不安そうな声で名前を呼ばれた。
- 86 名前:すっぴんスマイル 投稿日:2012/02/21(火) 21:37
-
「あっ、いや、その・・・まぁ悪くはないんじゃない?」
「えっ?」
「そのメイクだけどさ、まぁまぁ似合ってると思うよ」
「ほ、本当?!本当にそう思ってる?」
「うん、思ってるよ。でもさ・・・・・・」
私は不敵に笑うとまーちゃんの顔に手を伸ばす。
それから全く躊躇することなく、マスカラとかしてある目の辺りを指でごしごしと拭った。
すると当然だけどメイクが変な風に広がって、まーちゃんの目はあっという間にパンダみたいに
真っ黒になる。
くどぅ!と多分亜祐美だと思うけど、後ろから少し怒ったような声が聞こえてくる。
それでも私は手を止めることなく頬のチークも口紅も手でぐちゃぐちゃにした。
まーちゃんの顔は子どもの落書きみたいに面白い顔になったけど、こっちの方がメイクしている
まーちゃんより好きだった。
「そんなにメイクする必要ないよ。まーちゃんはそのままで十分可愛いんだから」
「か、かわ、いい?まーちゃん・・・可愛いの?」
「うん。可愛いよ。少なくともここにいる約1名はそう思ってますけど?」
私は自分を指差してから軽く笑うと、耳の横につきそうな勢いでまっすぐ手を上げる。
でもすぐにかなり恥ずかしいことをしていることに気がついて、すぐさま手を下げると誤魔化すように
顔を少しだけ逸らして咳払いをした。
けれどまーちゃん的には大満足だったらしく、くどぅ大好き!って叫び声が聞こえてきたかと思うと
勢い良く抱きつかれた。
- 87 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/02/21(火) 21:43
- 以上です
何だかんだ言っても仲が良い2人が好きです
>>90さん たまにはこういう話もいいかなと思って書いてみました
でもあまりにも一途に思いすぎて、傍から見ると完全に暴走している生田が好きです
>>91さん いや、現実の生田さんには到底敵いません
- 88 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/23(木) 04:29
- この2人は可愛くて素直で癒されますね
- 89 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/05/18(金) 15:53
- お久しぶりです
色々あって更新止めてました、もし楽しみに待ってた方がいたら
ごめんなさい
今回は光井さんが卒業するということで、急遽書いた生田と光井さんの
お話です
内容的には暗くて切ないです
それでも全然いいよって方は、どうぞ
>>88さん くどまぁーはマイナスイオンなんて足元にも及ばないほどの、
癒しだと思います
- 90 名前:まだ2人の間には 投稿日:2012/05/18(金) 15:54
-
「っ・・・ぁ・・・・・・うあぁぁぁぁぁぁ!」
人はこんな風に泣けるんだなと思った。
私は砂浜に倒れ込むと砂を握り締めながら嗚咽を漏らす。
顔を上げられなかった。
走り去っていく生田を見たくなかった。遠ざかって、見えなくなって、もう二度と
会って話すことがない、という現実から目を背けたかった。
でもいずれはこの現実と向き合わないといけないのも分かっている。
ただ今だけは現実から逃げることを、目を背けことを、許してほしかった。
思わず砂を力一杯掴んだけれど、手の隙間から流れ落ちていくばかりで、手の中に残るのは
僅かな砂だけだった。
涙が枯れ果てたら顔を上げよう。
一人で立ち上がって、一人で駅まで向かおう。ちゃんと一人で歩いていこう。
私の隣にはもう誰もいないのだから。
- 91 名前:まだ2人の間には 投稿日:2012/05/18(金) 15:55
- 道に飛び出した子猫を身を挺して助けた。
それは美談であり、賞賛を浴びるべきことなのだろうけど、でもそれによって足に怪我を負い
車椅子生活を余儀なくされた。
私は人々の賞賛など生きる上で何の役にも立たないことを知った。
そして辛いリハビリを毎日続け、半年かけて杖があれば一人で歩けるまでになった。
ただこれ以上の回復は見込めないらしい。
つまり私は一生杖をついて生活しないといけない。
走ったりすることはおろか、普通に歩いて移動することすら大変だった。
そんなある日、リハビリを終えて一人休憩室で寛いでると、突然横から声を掛けられた。
毎日リハビリ偉いですね、その言葉に顔を向けるとバカそうな笑みを浮かべている
高校生くらいの少女がいた。
それが生田だった。
初対なのに笑顔で話しかけられたのに驚き、若干上から目線の言い方にも苛ついた。
そのときの私はどんな顔をしていたのだろう。
ただ少女がぷっと吹き出したから、面白い顔をしていたのは間違いなかった。
笑うなや!と結構きつい口調で言い返したにも関わらず、少女は面食らった様子もなく、
笑いながら関西の方なんですかー?なんて間の抜けた声で質問してくる。
だから逆に私の方が笑ってしまった。
「あんた、名前は?」
そう言ってから少し慌てた。
すぐに口を塞いだけれど、言葉は既に少女に届いている。
私は小さく舌打ちをすると顔を俯けた。
こんな言う気はなかった。
言ったら人と関わってしまう。
もう人と関わるのはよそう、と私はずっと前から思っていた。
「えっ?あぁ、生田です。生田衣梨奈」
「・・・ふーん。まぁまぁええ名前やん」
生田はですよねーと言って嬉しいそうに笑うと、聞いてもいないのに自分の名前の
由来について勝手に喋り出す。
それを適当に聞き流しながら、私はテーブルに頬杖をつきながら生田を観察することにした。
最初は高校生かと思ったけど、話すと子ども丸出しだったので多分中学生だろうなと
思い直した。
生田は喜怒哀楽がはっきりした子で、表情が色々変わるので見ていて飽きない。
少し馬鹿そうだけど、面白い子だなというのが第一印象だった。
- 92 名前:まだ2人の間には 投稿日:2012/05/18(金) 15:56
- 生田は人懐っこい性格なのか、初対面の私に対して喋り倒す勢いで話してきて、
その後一時間くらいずっと聞き役に徹していた。
面会時間の終わりを告げる放送が流れなければ、生田は永遠に話続けていた気がする。
私はようやく開放されることに少しだけ安堵した。
放送が終わると、話の途中だったが生田は名残惜しそうに席を立つ。
でも突然テーブルに手をついて私の方に思いきり身を乗り出してくると、嬉しそうに
目を細めて笑う。
「また話しかけてもいいですか?」
返答に困った。
適当に嘘を並べてダメだと言おうかと思った。
でもそうしなかった。
「・・・あー、別にええけど」
「なら水曜日以外はここに来てるんで、そのときまたお話しましょ」
「う、うん」
なぜ頷いてしまったのかは自分でも分からない。
勢いに負けてというか、生田があまりに嬉しそうな顔をして言ってくるから乗せられたのか、
ともかく早まったことをしたとすぐに後悔した。
これからもあんな風に喋り倒されるのかと思うと、あまり気が進まない。
それにもう人とは関わりたくない。
上辺だけの友情も、取り繕うような家族愛も、仮面のように張り付いた笑顔なんて
見たくなかった。
でも一度頷いてしまったものは仕方がない。
満面の笑みで大きく手を振ってくる生田に対して、仕方なく軽く手を振り返しながら、
私は密かに溜め息を吐き出した。
- 93 名前:まだ2人の間には 投稿日:2012/05/18(金) 15:57
- リハビリを終えて休憩室で寛いでいると、どこからともなく生田は現れる。
そして向かいの席に座るといきなり話し出す。
まさにマシンガントークというやつで、それだけ話題が尽きないことには感心する。
私は頬杖をつきながら、たまに相槌を打ったりして適当に話を聞き流していた。
そうして会って話をしていると、いつしか生田とこの休憩室で話すのが日課のように
なっていた。
それが何だか癪だったけれど、週六会って話していればそう思うのも無理はなかった。
生田は今日も楽しそうに一人で喋っている。
私はいつものように生田を観察する。
肌は綺麗な色白で瞳はやや切れ長、意外と睫毛が長くふとしたときに目を細めると、
実年齢よりも随分と上に見える。
整った顔立ちをしているなと改めて思った。
ふと視線が重なり合う。
「どうかしました?」
生田は軽く小首を傾げると、不思議そうな顔をしてこちらを見つめる。
まさかあんたを見てた、なんて言えるはずもない。
私は上手く誤魔化すことにした。
「いや、あの・・・前髪変やなぁと思って」
「えぇ!?変ですか?めっちゃヘアーアイロンとかして頑張ったのにぃ。ちょっと聞いて下さいよ――」
生田は勝手に盛り上がって喋り続ける。
でもその話は殆ど私の耳に入ってこなかった。
それより自分の胸の鼓動が大きく聞こえたことに驚き、私は胸に手を置くと少しだけ顔を
横に逸らした。
- 94 名前:まだ2人の間には 投稿日:2012/05/18(金) 15:57
- 信じられないことに私は生田に恋をした。
好きなのだと自覚したのは、出会ってから二ヶ月くらい経った頃だった。
別に何かキッカケががあったわけじゃない。
多分そうなんだろうなとふとした瞬間に気づいた、だけど色んな意味でそれを
認めたくなかった。
でも目が合うと心臓が跳ねて、まともに顔が見れなくて、なのに時折無性に会いたくなって、
その声が聞きたくなって、あの猫みたいな笑顔が見たいって思うときがある。
どう考えても恋だった。
その日も無性に生田に会いたくなって、休憩室で待っているのがもどかしくなり、
病院内を探索して迎えに行くことにした。
ただ足が悪い私にとって歩き回ることは重労働で、それでも生田に会いたかった。
とりあえず屋上から順に下がっていくことにした。
生田とは水曜日以外この病院で会っているけれど、なぜこの病院いるのか、何しに来ているのか、
私は知らない。
それに関しては生田に他意があるのかもしれない。
私も疑問に思うことはあったが、特に自分から聞いたりはしなかった。
というよりも口を挟む隙間がないので、聞けなかったというのが正しいのかもしれない。
ともかく生田がこの病院にいる理由を知らない。
生田のことなんて殆ど知らない。
でも少し前までは知りたいなんて思わなかった。
なのに今は知りたい。好きな人だから、些細なことでも知りたい。
私は松葉杖をつきながら必死で歩き回った。
そして無駄に広いこの病院を恨んだ。
このまま当てもなく探していては日が暮れてしまう、とはいえ生田の情報は殆どないので
どこを探していいかも分からない。
途方に暮れたのと休憩も兼ねて、私は近くの窓辺まで歩いていくと壁に寄りかかる。
それからふと窓の外を見ると、中庭に生田を発見した。
生田はベンチに座っていた。
だが一人ではなく、その横には長い黒髪が美しい綺麗な女の人がいた。
- 95 名前:まだ2人の間には 投稿日:2012/05/18(金) 15:58
- 女の人はぼんやりと中庭にある花壇を見つめている。
生田はその女の人に優しい眼差しを向けている。
2人はしっかりと手を繋ぎ、生田は空いている手で時々前髪を梳くように撫でていた。
特別な関係なのだとすぐに分かった。
でもそれが分かった途端、私の胸が軋んで締めつけられて苦しくなって、それから針で突き刺された
ような痛みを感じた。
こんな風になるのは初めてだった。
こんなにも人を好きになるのも初めてだった。
私はしばらく2人を見つめていた。
すると生田が突然顔の向きを変え、こちらを見た気がした。
私がいるのは三階だし少し距離があるので、実際こちらを見たのかは分からない。
だけど生田が私の方を見た瞬間、嬉しいと思った。
生田はすぐに女の人の方に向き直る。
そして壊れやすいものにでも触るような手つきで女の人の頬に触れる。
やっぱり生田の眼差しは優しい。また胸に痛みが走る。
それから何を思ったのか生田が軽く腰を浮かす。二人の距離が近くなる。
私はこれ以上見ていられなくて、後退りしてその場から離れた。
でも慌てていたせいか松葉杖が手から滑り落ちる、それは床に倒れたと同時に甲高い音が
人気のない廊下に響き渡る。
私は体勢を崩して尻餅をつく形で床に座り込んだ。
痛かった。何よりも胸が痛かった。
私は胸元を乱暴に掴むと、それを強く握り締めながら唇を噛み締める。
胸の痛みがさっきよりもひどくなる。
なのにさっきから生田の顔ばかりが頭に過ぎる。
頭を左右に振っても消えなくて、今も私の中にいる生田の笑顔が眩しかった。
- 96 名前:まだ2人の間には 投稿日:2012/05/18(金) 15:59
- どれくらいそうしていたのだろうか。
ふと足音が聞こえてきて何となく顔を向けると、生田がこちらに向かって走って
くるところのが見えた。
生田は私の目の前まで来ると、その場にしゃがむと心配そうに顔を覗き込んでくる。
「光井さん!?大丈夫ですか?」
私に触れようと生田が手を伸ばす。
その手を乱暴に振り払う。
偽善的な優しさなんてほしくなかった。
「触んな!死ね!」
そう言うと生田は今にも泣きそうな顔になる。
胸が軋む。
心は正直で、私はやっぱり生田が好きだった。
「なんで怒ってるんですか?衣梨奈、何かしました?それとも・・・・・・妬いてるんですか?」
「なっ!」
図星なので言葉が詰まる。
「それなら嬉しいんですけどねぇ、計画通りなので」
生田の様子が一変し、口元を緩めたかと思うと明らかに私の反応を楽しんでいる。
頬と耳たぶが熱を持つ。
恥ずかしくて顔を逸らそうとすると、視界の端で生田がこちらに手を伸ばすのを捕らえた。
その手は私の腕を掴むと軽く引っ張る。
体が傾いて前につんのめりそうになった。
でも生田がしっかりと体を抱きしめたので、床と衝突することはなかった。
- 97 名前:まだ2人の間には 投稿日:2012/05/18(金) 15:59
-
「ちょ!あ、あの・・・ど、どういう意味で言っとるん、自分」
鼓動が自然と早くなる。
声も上擦っていたし、依然として生田の顔が見れなかったので横に逸らしていた。
すると上から楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「だから、光井さんにヤキモチ妬いてほしかったんですよ。衣梨奈は」
「な、なんで?」
私は様子を伺うように少しだけ顔を上げる。
生田はどこか呆れたように笑っていた。
それは小馬鹿にされたみたいで、ちょっと腹が立った。
「ここまでされても分からないんですかぁ?」
「・・・その言い方めっちゃムカつくわ」
小さな溜め息を吐き出してから、私はしっかりと顔を上げる。
でもすぐに後悔した。
生田は真剣な顔をして真っ直ぐこちらを見つめていた。
初めて見る顔だった。
でもその顔はすごく格好良すぎて、目が合った瞬間胸の鼓動が一段と大きくなる。
私はまたすぐに顔を俯けた。
早まった鼓動はしばらく治まりそうになかった。
「好きです。ずっと前から好きだったんです、光井さんのこと」
生田が私を抱き手に力を込める。
心臓は今にも壊れそうなほど早く脈打ち、頭はひどく混乱していて、しばらく言葉を返すことが
できなかった。
すると痺れを切らした生田が私の顔を覗き込んでくる。
そして衣梨奈じゃダメですか?と、不安そうに瞳を揺らしながら聞かれた。
私は慌てて首を左右に振った。
それから深く息を吐き出すと私もずっと好きやった、とそう一言を言うのが精一杯だった。
- 98 名前:まだ2人の間には 投稿日:2012/05/18(金) 16:00
- 何にしても付き合えたことが嬉しくて、私達は少し遠くから誰かの足音が聞こえてくるまで、
ずっと抱きしめ合っていた。
でもふと冷静になって、私は生田にあの女の人のことについて聞いた。
二股をかけられるのはごめんだし、略奪愛は好みじゃない。
すると生田は少しだけ悲しそうに笑ってから、場所を移動しませんか?と提案してきた。
その提案を断る理由がなかったので、私達は休憩室に移動した。
いつものように向かい合って座ると、生田は小さく溜め息を吐いてから静かに口を開いた。
あの女の人は生田のお姉さんで、さっきは私を嫉妬させる為に悪いけど利用させて
もらったらしい。
そのお姉さんは交通事故の後遺症で若年性認知症になってしまい、一年前からこの病院に
入院しているとのことだった。
結構重度らしく、身の回りの世話をしてあげたり、常に誰かがついていないと勝手に徘徊して
しまうらしい。
そして入院費を稼いでいる両親の代わりに、妹の生田が殆ど毎日のようにお見舞いに来ている
のだと教えてくれた。
「・・・本当はただ怖いだけなのかもしれません」
「怖い?」
「毎日顔を見せとかないと、お姉ちゃんは衣梨奈のこと忘れちゃう気がして」
生田は寂しそうに瞼を伏せる。
言葉にはしないだけで、きっと生田は今も色々悩んでいるのだと思う。
その気持ちを軽くしてあげたい。私はそっと生田の手に自分のものを重ねる。
勢い良く生田の顔が上がって、目を大きく見開いて驚いていた。
その顔が面白くて私は小さく笑う。
何ができるわけじゃない、それでもできる限りのことはしてあげたいと思った。
「愚痴でも何でも聞いたるから、辛くなったら私に話しや」
生田の手を強く握り締める。
すると生田は嬉しそうに歯を見せて笑う。
でもその瞳にはうっすら涙が溜まっていて、その後生田は笑いながら泣いた。
- 99 名前:まだ2人の間には 投稿日:2012/05/18(金) 16:00
- 私と生田は付き合うことになった。
とはいえあまり行動に変化はなく、休憩室で話しているのが殆どだった。
変わったことといえば、今まで向き合って座っていたのが隣合わせで座るようになり、
生田が喋っているとき私の手を握るようになったことくらいだ。
あと移動するときも常に手を繋いでいたし、人気のないところでは抱き合ったり、キスしたり、
それ以上の病院内でするには不埒すぎることもした。
そして生田は私によく好きだと言ってくれた。
私は恥ずかしくて滅多に言わなかったけど、二十回言われたら一回くらいは私も好きだよ
と返してあげていた。
思えばその頃が一番幸せだった。
でも幸せの日々というのは長く続かないのが世の常らしく、私達の恋は三ヶ月程で
あっけなく終わりを迎えた。
あれはリハビリも進んでようやく退院の日取りが決まり、少し浮かれていたときの
ことだった。
生田に退院の報告をすると勿論喜んでくれた。
でもそれから三日後、突然別れてほしいと言われた。
最初は意味が分からなかった。
その後で生田が泣きそうな顔をして理由を説明してくれた。
退院したら病院以外の場所で会わないといけなくなる、だけど自分はお姉ちゃんの面倒を
看ないといけない。私にこの病院まで来さすのも申し訳ない。
理由を説明し終えると、生田は子どもみたいに声を上げて泣いた。
何も言い返せなかった。言い返せるはずがなかった。
私は松葉杖をその場に投げ捨てすると、両手で生田の体をしっかりと抱きしめた。
生田の泣き声が一層大きくなる。
私はその細い体を抱きしめるその手に力を込めた。
- 100 名前:まだ2人の間には 投稿日:2012/05/18(金) 16:01
- 退院して数日後、最後に私の我が侭でデートしてもらうことにした。
母親が自分の代わりに病院来てくれる、生田の唯一の休みである水曜日に、2人で電車に
乗って海を見に行った。
駅を出るとすぐに磯の香りと潮風が髪を撫でる。
砂浜までは杖をついて一人で歩き、砂浜に降りてからは足が取られやすいので、
生田に肩を貸してもらって歩いた。
春を少し過ぎた海辺にはサーフィンを楽しむ人がちらほらいるだけで、基本閑散としていた。
私達はしばらく黙って海を眺めていた。
好きな人ができたら海を見に行きたい。柄じゃないと言われそうだけど、小さい頃からそう
思っていた。
「・・・今日はホンマにありがとな。私の我が侭に付き合ってくれて」
「いえ。これくらい全然いいですよ」
不自然な沈黙。
海は太陽の光を浴びて宝石のように輝いているのに、それを見ても私と生田の心は
全く晴れない。
きっと二人の心は今、土砂降りの雨が降っている。
「・・・ごめんなさい」
悲痛な声に胸が軋む。
もう生田の方を見たくなかった。
それでも私はちゃんと生田の方に体を向けた。
「なんで謝るん?」
「だって、だって衣梨奈は自分の都合で光井さんを・・・・・・」
生田は唇を噛み締めると、拳を作って強く握り締める。
すぐさま生田を抱きしめたかった。
だけど生田の事を思えばこそ、それはできなかった。
- 101 名前:まだ2人の間には 投稿日:2012/05/18(金) 16:01
- 「全然自分の都合じゃないやん。私や周りのことも色々考えて、たっくさん悩んだ末に
決めた答えなんやろ?なら仕方ないやんか」
生田の瞳が潤みだす。
それから一瞬今にも泣きそうなそう顔をする。
でも生田は泣かなかった。
また沈黙が訪れる。
波が引く音と遠くで海鳥が鳴く声が聞こえた。
別れる前にここに来れていたら、どんなに幸せだったろうと思った。
「光井さん・・・本当は、本当は衣梨奈は――」
「それ以上言わといて。聞いたら、絶対生田のこと離したくなくなる」
それを聞いたら、私は絶対生田を抱きしめてしまう。
もっと好きになってしまう。
だから今は何も言わないでほしかった。
「さてと、もう生田は帰ってええよ。後は一人で大丈夫やから」
「何言ってんですか!無茶ですよ、そんなの!」
生田は怒っているのか、私の腕を少し乱暴に掴む。
本当に優しい子だなと思った。
いつもちょっと体勢を崩しただけですごい心配してくれて、顔色が少しでも悪いと体調を
気遣ってくれた。
最初は能天気な馬鹿だと思ったけど、それは相も変わらずそうなのだけど、でも優しくて
意外としっかりしているのを付き合ってから知った。
だからもっと好きになった。
- 102 名前:まだ2人の間には 投稿日:2012/05/18(金) 16:02
- 私は深い溜め息を吐くと、生田の手をやんわりと振り払う。
それが生田にとっては衝撃的だったらしく、しばらくの間呆然としていたが、
やがて我に返ると辛そうに顔を歪める。
「・・・む、無茶でもしょうがないやろ。これからは一人なんやから」
胸の痛みを堪えながら無理矢理笑顔を作ると、そう言うのが精一杯だった。
生田は一旦顔を横に逸らすと、静かに息を吐き出す。
それから再び私の方に顔を向けると、立ち直ったのかいつもの生田だった。
「そうですよね。光井さんなら地球に隕石がぶつかっても生き残りそうですもんね」
「ちょ!生田ー!」
「あはは、冗談ですよ」
「冗談じゃなきゃ困るわ・・・とにかくもう行きい。後は一人で大丈夫やから」
生田はしばらく迷っていたが、やがて決心したのかその場を一歩後ずさる。
それを見たとき胸に痛みが走った。
でも顔には出さないようにして、私は黙って生田を見つめていた。
「・・・それじゃ体には気をつけて。あと無理はしないでくださいね、光井さんは
辛くても無理して頑張っちゃう人だから」
生田の言葉が胸に突き刺さる。
ちゃんと私のことを見ててくれたことが嬉しくて、思わず泣きそうになった。
でも泣きもせず、そして私は笑いもしなかった。
生田は最後に深々と頭を下げる。
そして顔を上げると同時に私に背を向けると、砂を巻き上げて勢いよく走り出す。
それを見てようやく私は自分の感情を開放した。
力が抜けたように四つんばいに倒れ込むと、人目も憚らず声を上げて泣いた。
私達は逃げた。
生田は私を支えて生きていくことから逃げ、私は生田の重みになることから逃げた。
逃げることしか2人は選択肢を見出せなかった。
それは若さ故か、または私の足のせいか、それとも生田の家庭環境のせいか。
そういうことだと思いたい。
なぜなら、2人の間には今もまだ愛があるから。
- 103 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/05/18(金) 16:07
-
以上です
光井さんの設定で不愉快な思いをした方がいたら、すいませんでした
ちなみに最初相手を誰にするか迷って、れいな、小春か、ガキさんかと
色々考えましたが、最終的に生田にしたことを後悔はしていません
- 104 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/19(土) 18:13
- 悲しい。
でもとても面白かったです。
- 105 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/05/20(日) 02:43
- このみっつぃの感じ好きです(*´∀`)
- 106 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/01(金) 23:46
- 最近ハマってる鞘師と石田コンビのお話です
思うままに好き勝手書いたのであまり萌え系ではないですが、それでもいい
って思う方は、どうぞ
>>104 そう言ってもらえるだけで、書いた甲斐があったなって思いました
>>105 ちょっとキツくなりすぎてる気もしますが、話の中ではこれぐらいが
ちょうどいい気がしてます
- 107 名前:変態ポジティブS 投稿日:2012/06/01(金) 23:47
- 今はダンスの休憩中。私は床に座りながら、でも視線はペットボトルの水を飲んでいる
だーいしをしっかりと捕らえていた。
やっぱり自然と唇に目がいく。
でもその柔らかそうなピンク色の唇につい心奪われてしまうだけで、別にキスしたいとか、
触れてみたいとか思っているわけじゃない。
だからセーフ。多分、セーフ。私は変態ではない。
私がぼーっと唇を見つめていると、視線に気づいたのかだーいしが突然こちらに振り向く。
突然のことに驚いて慌てて顔を横に逸らす。ちょっと首を捻った。
でもこれじゃずっと見てましたって自分で白状しているようなものだな、とすぐに気づき
1人苦笑しているとだーいしが私の名を呼んだ。
予想外の展開に再び驚き、今度は肩が思いきり上がった。
きっと怒られるか呆れられるかだろうと思ったので、私は聞こえなかったふりをして
無視することにした。
するとだーいしはまた私の名を呼ぶ。
2回も呼ばれて無視はできない。これで無視したら好感度が下がる。
いや元から大した好感度は高くないとは思うが、だからこそ下げるわけはいかないのだ。
某6期の先輩みたいにはぶられたくない。
- 108 名前:変態ポジティブS 投稿日:2012/06/01(金) 23:50
- 私がゆっくりと顔を正面に戻すと、だーいしは口元に片手を当てて、すみません!分からない
振りがあるで教えてくださいと言ってきた。
あー、なんだ。1人で勝手に早とちり。そういうことなら手取り腰取り教えちゃうよ、
なんて思って、すぐさま首を左右に激しく振るう。
やっぱり自分は変態になりつつあるのかもしれない。
これも全て某6期の変態リーダーのせいだ。
それに私はまだ変態じゃない。誰がなんて言おうと私が認めない限りは変態じゃない、
はず。
そんなこんなでとりあえずだーいしの元に向かう。
でも目の前まできたら急に足がもつれて、その場で体勢を崩しコケてしまった。
そいやれだけならまだ良かった。
運が良いのか悪いのか、私はだーいしを巻き込んで床に倒れ込んだ。
別にわざとじゃないよ、てへぺろ。って何かあったときはこう言えば大抵のことは何とかなる、
って生田さんがドヤ顔で前に言っていた。
ただあくまで生田さんの発言なので、あまり信憑性がある話ではない。
痛たたたた。という声に私は我に返る。
声のした方に顔を向けると、当然だけどだーいしがいた。
黒く長い髪は床に広がり、少し戸惑ったような瞳で私を見つめるだーいし。
当たり前だけど女の子なんだなって思った。
小さくて体の線も細くて、肌も色白だしその黒目がちの大きな瞳や小高い鼻も可愛らしいけれど、
それに何よりそのプルルンとした瑞々しい唇に目がいく。
それから不意に視線を下の方に向けたみた。
広大な平野だった。仙台平野?まぁそんな感じで山など見当たらない。
何だか悲しい気持ちになったので、やっぱり顔を見ることにした。
するとどうしても唇に心奪われてしまう。
- 109 名前:変態ポジティブS 投稿日:2012/06/01(金) 23:52
- 「あ、あの、鞘師さん・・・そろそろ退いてもらえますか?」
「・・・・・・悪いけど、退けんのぉ」
「うえっ!?」
素っ頓狂な声を上げるだーいし。
そして何言ってんのこいつ、みたいな目で私のことを見つめる。
まぁそうだよね。普通は思うよね。と共感してうんうんと1人頷いていると、少し苛立ったような
口調でもう一度、退いてくれませんか?って言われた。
「だから、悪いけどそれはできん・・・退いたら、だーいしはどっかに行ってしまうんじゃろ?
それがたまらなくイヤなんじゃ。今はだーいしを独り占めしたい気分やけぇ」
私のキャラじゃない台詞だった。
でも嘘じゃない。その場の勢いで言った台詞だけど、言ってることは結構本音に近かった。
それでもだーいしは馬鹿にするか呆れるかドン引き、のどれかだと思っていたのだけれど、
予想に反して顔を真っ赤にして動揺していた。
そんな顔するなんてズルイ。可愛すぎる。
目なんてめっちゃ潤んでるし、唇はめっちゃブルルンとしてるし、こんなのキスせずにはいられない。
っていうかキスしたい。その可憐な唇を奪ってしまいたい。
私は自分の欲望に全く逆らわずに少しずつだーいしに顔を近づける。
だーいしは一瞬目を大きくして驚いていたけれど、それ同時に恥ずかしくなったのか、
私から少しだけ視線を逸らす。
その仕草に胸がキュンとなる。私はますます唇を奪いたくなって顔を近づけると、
突然横から牛のようなものに体当たりされた。
- 110 名前:変態ポジティブS 投稿日:2012/06/01(金) 23:53
- 思いきり吹っ飛ばされて数メートルほど地面を転がる。
広島の喧嘩いうたら、トルかトラれるかの二つしかありゃぁせんので。となぜか菅原文太さんの声が
頭の中に響いた
それはともかくとして痛みを堪えて起き上がると、香音ちゃんが口元に手を当てながら、
里保、恐ろしい子!そんな子に育てた覚えはないわ!と言って豪快に嘘泣きしていた。
いや、私も香音ちゃんに育てられた覚えはないんだけど。と内心ツッコミを入れながら、
嘘泣きを見てクォリティーがまだまだだ低いね。と鼻で笑った。
その後ろではくどぅがぽかーんと口を開けていて、まーちゃんは相変わらず事を理解していなくて、
飯窪ちゃんは顔を手で覆いながら、いやーん、のび太さんのエッチ!状態だった。
そして同期の生田さんはなぜかフクちゃんの肩を抱きドヤ顔で、いいだろ、聖。みたいな感じで
今にもキスしようとしていて、フクちゃんはやめて、宅配屋さん!と真昼の団地妻だった。
我らが新リーダーは携帯を構えてハァハァしてるし、もう1人は遠目から指をくわえて
仲間になりたそうにこちらを見つめている。
そうだね、はぶられいなだね。
それ以来、だーいしの半径3メートル以内に近づけなくなった。
というか近づくとシャーってだーいしに威嚇されるし、基本10期がボディーガードとして
傍にいる為近寄れないし、最も厄介なのは香音ちゃんが鉄壁のゴールキーパーとして私の前に
立ち塞がっていることだ。
その厚い壁は容易に破れるものではなかった。
ともかく私は皆から変態扱いされ、道重さんの後継者に任命され、そして何の因果もないと思うが
新曲でセンターになった。
てへぺろ
- 111 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/01(金) 23:55
- 以上です
最初はこんな話にする予定じゃなかったのに、気がついたらこうなってました
- 112 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/02(土) 11:35
- ちょwwww
まさかこのスレでこんな突き抜けた話が読めるとはw
あと、だーいしもれいなに負けず劣らず子猫ちゃんっぽいですよね。威嚇されたい
- 113 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/22(金) 14:56
- 今回は今更かよって感じですが、ステーシーズ設定で飯工を書いたので
それを載せようと思います
書くとき再殺部隊を聞きながら書いたんですが、そのせいか結構歌詞そのまんまな
お話になってます
内容は暗いですが気になる方は、どうぞ
>>112 書いていて気が楽なので、こういう話のほうが好きです
だーいしはれいなと同じくネコ科だと思います
- 114 名前:チョコレートケーキ 投稿日:2012/06/22(金) 14:57
-
神様はひどく気まぐれで、そしてひどく残酷だ
うら若き乙女達を生きる屍に変えるにしても、なぜ年齢を限定したのだろう
それも14才から16才などに
突然全世界で巻き起こった少女達のステーシー化、つまり生きるゾンビと化す現象が起こったとき
私は17歳だった
- 115 名前:チョコレートケーキ 投稿日:2012/06/22(金) 14:58
-
「・・・ちょう・・・隊長?どうかされましたか?」
突然後ろから声をかけられ、いやきっと前から声をかけていたのだろう、振り返ると私より頭一つ
大きくがたいの良い男が心配そうな顔でこちらを見つめていた。
彼はこの部隊のNO2で私の補佐を色々としてくれる人だ。元自衛隊隊員というだけあって、体術や
銃の腕に優れていて実践でも常に冷静に行動してくれる人だ。
「あっ、すいません、少し考え事をしてました。えっと・・・とりあえずこちらは殲滅完了しましたが、
そちらの状況はどうですか?負傷者または死者はいますか?」
「あっ、いや、こちらは負傷者も死者もおりません。殲滅完了してます」
「そうですか。では帰りましょう、任務完了ですから」
銃を背負い歩き出そうとすると、後ろからあの!と引き止められた。
立ち止まって顔だけ後ろに向けると、彼は私を一瞥したあとさり気なく視線を逸らし、
タオルでもお持ちしましょうか?と問いかけられた。
無骨な見た目からは想像がつかないくらい彼は紳士的で優しかった。
その優しさや気遣いをいつも嬉しく思うけれど、私は厚意を受けたことは一度もなかった。
彼と年の差が10才以上あるからとか、軍部で恋愛禁止令があるからとか、隊長という責務を果たす
ため、というわけでは全くない。
単に私が誰に対しても恋愛感情が持てないのと、彼に余計な期待をさせたくないからだ。
私は軽く微笑んでありがとうございますとお礼を言ったが、その後で帰ってシャワーを浴びるので
大丈夫ですと言葉を付け加えた。
彼はどこか残念そうな顔つきでそうですかと言った。
それに仮にタオルを貰ったとしても私の体は全身血まみれで、そんなものじゃ拭えやしなかった。
私の仕事は生きる屍になった、もといステーシーになった少女達を165分割して跡形もなく
粉々にすることだ
- 116 名前:チョコレートケーキ 投稿日:2012/06/22(金) 14:58
- 妹をこの手で再殺したあとロメロ再殺部隊に志願した。
でも銃なんて当然持ったこともない、ただの17歳の少女だった私は最初の頃なんて完全に場違いで
役立たずで、それはもう言葉に表せない程ひどいものだった。
だが日ごと無心にステーシーを刻み続けていたら、いつの間にか隊の隊長になっていた。
女性の、しかも入隊してからたった1年半という期間で隊長になったのは者は未だいないらしい。
私の再殺したステーシーの数は多分1000をゆうに超えている。
そして全く躊躇せず殺すのと見た目からか、血まみれの聖母とか戦場の阿修羅姫などと、
あまり嬉しくない二つ名をいくつか持っている。
そのせいか初対面の人は大概緊張した面持ちで私を見つめてくることが多い。
だが男達は知らないのだ、宿舎の自室に戻ると私がいつもシャワーを浴びながら泣いていることを。
洗っても洗っても血が落ちてない気がして、何度も何度も髪や体を洗うことを。
男達は何も知らない。でも知らなくていいし、知られたくもなかった。
- 117 名前:チョコレートケーキ 投稿日:2012/06/22(金) 14:59
- 妹がステーシーになったのは14才の誕生日を迎えた次の日だった。
当日家族が全員揃うことができなかったため、翌日に持ち越しになった誕生日会の準備を
妹と二人で一緒にやっていた。
けれど途中私は母親に頼まれて、駅前のケーキ屋さんでホールのチョコレートケーキを買いに
行くにことになった。
戻ってくると、妹は血まみれで母親の頭にかぶりついていた。
その横には父親であったであろう無残な亡骸があった。
綺麗に飾り付けたをしたリビングは悲惨な光景に変わり果てていて、私はその場で吐いた。
それからケーキを切るために用意していたであろう包丁で妹を165分割した。
妹は小生意気で口が達者な子だった。
でも容姿はとても良く、少し垂れ目の瞳で見つめられたらどんなお願いも断れなくて、
姉だというのに私はよくパシリに使われていた。
年の割にはしゃがれた声でよく喋り、そしてよく笑い、笑うときに微かに覗く八重歯が好きだった。
何だかかんだ言っても結局は私を頼りにしてくれて、たまにだが思い出したように甘えてくるときは
本当に可愛くて、私は妹が大好きだった。
- 118 名前:チョコレートケーキ 投稿日:2012/06/22(金) 14:59
- 妹を再殺したとき、私の大事な何かが壊れてしまったんだと思う。
それは人としてとても大事な何かで、それじゃ私は一体何なのだろうと時々考える。
人でもなければ、ステーシーでもない。でもだからこそ私は無慈悲にステーシーを殺せるのだろう。
それにステーシーには意思もなければ言葉もない。
生きる屍の名の通りだった。
でもその方が私達ロメロ再殺部隊には都合が良かった。
ステーシーは家畜と同じ、いやそれ以下だ。だから殺すのに躊躇はいらない、同情もいらない、
自己嫌悪することも自責の念に囚われることもない。
何も考えずに歩き回る少女達をただの肉塊に変えてやればいい。そうして生き続けていけばいい。
けれども最近ロメロ部隊の中ではとある噂が実しやかに囁かれている。
それは意思を持ち、人間と変わらずに喋るステーシーがいる、というにわかには信じられない話だった。
いや私達は信じたくなかったんだと思う。
認めてしまえば私達は肉の解体屋から人殺しになってしまう、だからその話を誰も信じなかった。
- 119 名前:チョコレートケーキ 投稿日:2012/06/22(金) 15:00
- その日、私の部隊はいつものようにステーシーの殲滅を言い渡された。
上から指示された見取らぬ町に軍用車で向かい、見知らぬ少女達を再殺する。
たたそれだけのこと。
でもその日はいつもと違かった。
ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる屍の中に、私は見知った者の姿を見つける。
「・・・遥ちゃん」
ニアデスハピネスの少女は妹の遥とうり二つだった。
まるで時間が逆に回り、あの頃に戻ったときのような感覚に襲われる。
ただいまと言って、すっかり色とりどりに飾り付けされたリビングに戻ってくると、遅せぇよと
ケーキを待ち兼ねていた妹がふざけて私を責め立てる。
私も嘘泣きをすると、妹はあははと大きく口を開け腹を抱えて笑う。
テーブルの上には既に豪華な料理が並んでいる。
父は席に座っていてグラスにワインを注ぎ、母はまだキッチンにいて料理を作っている。
妹は冷蔵庫に小走りで向かい、冷やしてあった子ども用のシャンパンを持ってくる。
子どもだねとぇとからかうと、姉ちゃんだってまだ酒飲めないじゃんとすぐさま反論される。
お父さんが飲んでいいっていうなら飲むけど?と冷静に返すと、妹は顔を顰めながら法律違反だろと
言って鼻を鳴らす。
そんな生意的なところが可愛くて妹の頭を撫でてやると、八重歯を見せながら照れくさそうに笑う。
「さぁ、遥ちゃん。ケーキ食べようか。遥ちゃんが好きなチョコレートケーキ買ってきたんだよ」
私はステーシーの少女に向かって手を伸ばす。
そのとき実は神様の優しいのかもしれない、という思いがふと頭に過ぎった。
死を迎え本来ならば二度と立ち上がることがない少女達に、神様はもう一度だけ会わせてくれる
チャンスをくれたのだ。
そしてもしかしたらスステーシーが歩き回るのは、大切な人を探しているからなのかもしれない。
- 120 名前:チョコレートケーキ 投稿日:2012/06/22(金) 15:00
- 「私ごと少女を撃ってください!」
ステーシーの少女をしっかりと抱きしめると、顔を後ろに向けながら叫ぶ。
「どうしたんですか、隊長!」
それは当然の質問だった。
だがステーシーの少女も答えさせる気がないらしく、私の首筋に顔を埋めると擦る牙を立てて肉を抉る。
私はただ彼に向かって笑いかけた。
気が触れたとでも思ってくれればいい。
そして殺してくれればいい。私はもうどのみち助からない。
首筋に立てられた歯は動脈まで達していいるのが、噴水のように空に向かって噴き出した血の量を
見れば一目瞭然だった。
彼が雄たけびを上げる。それはとても悲しそうな叫び声だった。
そして泣きながら銃を構える。
それを見た私は安心して再びステーシーの方に顔を戻す。
少女は本当に妹によく似ていた。
既に意識が朦朧としていたが、最後の力を振り絞り少女の細い体を強く抱きしめる。
骨が軋むほど強く強く抱きしめる。
このままこの子を逃がしたあげたい、という気持ちがないわけじゃない。
でも今逃げたところでいずれは部隊の人間に再殺される。
他の誰かに再殺されるのならば、傲慢な考えた方と言われるかもしれないが、私の腕の中で
死んでほしかった。
それにきっとこれが本来の姿なんだと思う。私もステーシーになり、銃や鈍器で165分割される
べきだったのだ。
- 121 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/22(金) 15:01
- 以上です
暗い話ですみません
- 122 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/23(土) 15:50
- 哀しいよぅ…
- 123 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/24(日) 19:54
- しかしとても面白い。
雰囲気が良い。好きです。
- 124 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/07/10(火) 22:09
- 久しぶりに更新します
今回は初心に返ってモテ生田を書いてみました
>>122 哀しい話で本当にすみません
>>123 そう言ってもらえる嬉しいです
あの作品の独特な空気感を出すのにちょっと苦労しました
- 125 名前:モテキ到来? 投稿日:2012/07/10(火) 22:10
-
「最近のえりぽん、なんか・・・変じゃない?」
変なのは前からなのに聖ちゃんは今更何を言うんだと思って、私と里保ちゃんは不思議そうに
顔を見合わせる。
するとその表情だけで事を悟ったのか、少し慌てた様子で聖ちゃんがフォローを入れる。
KYってことじゃなくてさ、と言うから今度はそういうことじゃなかったの?と、また2人して
顔を見合わせる。
生田=KYがもう当たり前のことすぎて、てっきりそういうことかと思っていたら
どうやら違うらしい。
それじゃどういうことなんだろう?と思っていると、聖ちゃんはなぜか恥ずかしそうに顔を俯ける。
心なしか頬と耳たぶが少しだけ赤い気がする。
「いやKYはKYなんだけど、その、なんていうかさ、えりぽん・・・最近少し落ち着いてきたと
思わない?それにどこか余裕があるというか、大人ぽっくなったっていうか・・・とにかく
前より格好良くなった気がしない?」
聖ちゃんは言い終わると、キャーって叫んで1人で照れていた。
何だよ、それ。って言葉が喉元まで出かかったけど、空気を読んで何も言わなかった。
ただその意見にもあまり共感できない。
衣梨ちゃんは相変わらずKYだし、感情の起伏はものすごく激しいし、確かに前より少しだけ
感情をコントロールできるようになった気はするけど、それにしたって十分ひとい。
なんてことを思っていると、横にいた里保ちゃんが落ち着き払った声で、それ分かるかも
と聖ちゃんの意見に同意した。
それに対してえぇぇぇぇ!と私は驚きの声を上げる。
まさか里保ちゃんがそんなこと言うとは思ってもみなかった。
- 126 名前:モテキ到来? 投稿日:2012/07/10(火) 22:10
- 「そんなに驚かなくても・・・」
「いや、里保ちゃんが言うのが意外だったんだよ。だってここだけの話さ、里保ちゃんって
衣梨ちゃんのことちょっと小馬鹿にしてるとこあるじゃん?」
「そ、そんなことないよ!というか、そういう全く気はないから・・・本当に」
少しだけ顔を赤くして必死に否定する里保ちゃん。
その様子もまた予想外で私は驚いた。
もしかしてこれはそういうことなのかな、なんて頭の中で1人勝手な妄想をしていると、
噂の張本人が楽屋に戻ってきた。
聖ちゃんは衣梨ちゃんのことを一瞬チラ見すると、顔を赤く染めて思いきり顔を逸らす。
里保ちゃんもどことなく視線を逸らしている。
そんな2人を見て苦笑していると、いきなり衣梨ちゃんが私の顔を覗き込んできたから、
うわぁ!と仰け反るほど驚いてしまった。
「・・・あっ、ごめん。いきなりじゃ驚くっちゃね」
衣梨ちゃんはすぐに顔を離すと、軽く歯を覗かせてどこか困ったように笑う。
それから幼い子にするみたいに私の頭を軽く撫でた。
その大人びた笑みと人を子ども扱いする仕草になぜか胸が高鳴って、それと同時に
なぜか顔が火照ってきて、衣梨ちゃんの顔が見れなくなって顔を俯ける。
私は今になってさっき聖ちゃんが言っていた言葉の意味が分かった。
- 127 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/07/10(火) 22:12
- 生田と鈴木コンビが結構好きです
- 128 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/07/11(水) 01:10
- One・Two・Three のMVで抜かれる生田さんは一々カッコいいのでくやしいです><
- 129 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/07/11(水) 19:48
- 鈴木さんの「えりちゃん」呼びいいですよね。
モテ生田嬉しいです。
- 130 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/07/12(木) 03:18
- 普段面倒くさいと思っていても
生田が後輩に軽くぞんざいな扱いを受けるような時にはやんわりフォロー
そんなQ期であってほしい
- 131 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/05(水) 21:20
- 今回は久しぶりにぽんぽんを書いてみました
興味のある方はどうぞ
>>128 あのMVの生田は本当にイケメンだと思います
でも自分はいつも王様のブラ○チの人のMCに見えて仕方ありません
>>129 鈴木さんだけですからね、衣梨ちやんって呼ぶの
自分もそこに萌えを感じます
>>130 Q期は何だかんだ言って生田に優しいですよね
雑誌とかでは意外と褒めたりしますから、3人とも
まぁそれと同じくらいKY扱いされていますが、それが生田だと思います
- 132 名前:101回目の告白 投稿日:2012/09/05(水) 21:21
-
「聖、ずっと好きやったと!衣梨奈と付き合ってください!」
「・・・ごめんなさい。えりぽんとは・・・その・・・えっと、付き合えない」
せっかく勇気を出して告白したというのに、私はあっさりと聖に振られた。
理由は私が新垣さんを好きすぎるから。
そう言われると何も言い返せないのが悔しいような、悲しいような、ちょっと嬉しいような
複雑な気分だった。
ともかく私が新垣さんを好き好き言うから、告白されてもいまいち信じられないし、
付き合うのが不安という話だった。
だから私は聖に誠意を見せる為に2つの約束をした。
1つは新垣さんへの愛を少しだけ控えること。
無理かもしれないけどできるだけ頑張ってみようと思う。
そして2つ目は、これから聖に会ったときは絶対に好きだよなどと愛を囁く。
本当は毎日と言いたいところだけど、毎日会えるわけではないので顔を合わせる日は必ず口説く。
それを100回続け、ちゃんと達成できたら私はまた聖に告白して、そのときまた答えを
聞かせてほしいという案を出した。
断られるかなとも思ったが、飽きやすい私そこまで続けられるはずがないと聖は思ったのか、
あっさりとOKしてくれた。
心の中でガッツポーズすると、早速次の日から挨拶のついでに聖、好きっちゃん!と言った。
聖を含めたメンバーの殆どが驚いていたけれど、それは本当に最初の数回だけで20回目くらい
になると周りも聖もすっかり慣れてしまった。
- 133 名前:101回目の告白 投稿日:2012/09/05(水) 21:21
-
逆にくどぅや道重さんとかから、今日言わないんですか?みたいに囃し立てられることすらある。
そういうときは逆にすごく恥ずかしくなった。
でもここで諦めるわけにはいかないので、ちゃんと聖に好きだと伝えるけれども反応は薄い。
このままではいけないと1人作戦会議をすることにした。
その結果安易ではあるけど、まずはバリエーションを増やしてみることにした。
今までは単に聖、好きっちゃんと言っていたところを、今度は日によって大好き!とか好きだよ
などとちょっと言い方を変えてみた。
でもいきなり笑顔で大好き!って言ったときなんて、聖は驚きながらも顔を真っ赤にしていた。
それなりに効果があったと思うが、やはり数をこなしていくとやはり慣れられてしまう。
というか40回目付近になるとバリエーションの方が底をついた。
なのでここで次の作戦に出ることにした。
次は聖の黒髪好きだなぁとか、聖の切れ長の目が好きだよとか、色んな場所を褒めてみる
作戦に出た。
なんだかんだ言って、女の子はやっぱり褒められるの好きなので結構効果があった。
この前なんて軽く手を握りながら、聖の髪ってめっちゃ綺麗やん、だから前から好いとったと。
なんて言ったらすぐさま頬が赤く染まって、私から顔を逸らして照れていた。
この作戦は結構効果あるかもと思ったが、70回目くらいになると段々言うことがなくなってきて、
言うことがかぶったりしてくると当然効果は薄くなった。
なのでさらに作戦を変えて、今度は言い方そのものを変えてみることにした。
今までは無邪気な感じで好きということが多かったので、ツンデレ風とか俺様風とかちょいエロく
など色々とキャラを変えて言ってみた。
その中でも1番効果があったのは俺様系だった。
突然乱暴に聖の腕を掴み、いい加減衣梨のこと好きになりなよ!とドヤ顔しながら言うと、
聖は顔を真っ赤にしてえりぽんのバカ!と言うと、逃げるようにその場からいなくなってしまった。
でもこの作戦もキャラに限りがあるので、かなり頑張ったが90回目でネタが尽きた。
- 134 名前:101回目の告白 投稿日:2012/09/05(水) 21:22
-
「・・・里保じゃないけどサイダー飲もうかな」
私は1人で軽く笑いながら自販機のボタンを押す。
すぐに缶が落ちてきて、それを取ると私は休憩所のプラスチックのベンチに腰を下ろした。
今は1人で周りには誰もいない。
早いものであと10回しかない。
それで何とか聖を私のほうに振り向かせないといけない、とはいえそんなこと本当にできるのかと
最近不安に思うことが多かった。
聖に告白しても気持ちが届いている気がしない。
でもこのまま100回言ってまた告白して、それで聖に振られたら私は一体どうするんだろうか。
今度は1000回に挑戦するのかなぁ、なんて思って1人笑っていたが不意に空しくなって
笑うのを止めた。
多分これがダメなら聖のことは諦めた方がいい。
何回やったってきっと結果は変わらない気がする、だからこそ私はあと10回を有効に使いたかった。
私は聖と付き合いたい、そして楽しくやりたい、何より聖には笑っていてほしい。
「楽屋に戻らないの?」
「・・・道重さん」
聞き慣れた声がして顔を向けると、そこにいたのはリーダーの道重さんだった。
隣いい?と断って、私が頷くと道重さんは隣に腰を下ろす。
けれど特に会話はなく、互いにだんまりを続けていると突然道重さんが口を開いた。
- 135 名前:101回目の告白 投稿日:2012/09/05(水) 21:22
-
「・・・フクちゃんはあげないよ」
「えっ?いやあげるも何も聖は道重さんの物じゃないですから」
「でもあげない。小手先だけでどうにかしようとしている生田には、絶対フクちゃんはあげない」
「そんな小手先だけじゃないですよ!聖への想いは本物です!」
「そうなの?ならそれをもっと出しなよ。正直今までの生田の告白聞いてたけど、本気な感じがしたこと
一度もなかったんですけど」
言い返す言葉がなかった。
別に今までふざけて言っていたわけじゃない、でも本気で言っていたわけでもなかった。
聖の反応ばかり気にして、自分の想いをちゃんと言葉に込めていなかったような気がする。
これじゃきっと何回言ったって意味がない。
ふと聖も道重さんと同じように、今までの私の告白を本気にしてないのかなと思った。
そう思うと突然胸が締めつけられて思い切り掻き毟りたくなる。
そしてもうどうしていいか分からなくなって私は頭を抱えた。
「生田が本当にフクちゃんを好きなら、その想いをちゃんと伝えればいいんだよ」
「・・・道重さん」
「相手の目を見て、上手い言葉じゃなくて良いから、自分の言葉で真っ直ぐに想いを伝えなよ。
まぁそれでフラれても責任は取れないけど」
道重さんは軽く毒を吐くと可愛らしく笑う。
釣られたように私も小さく笑う。
それから握り拳を作ると痛いくらい強く握る。
あと10回しかチャンスはないけれど、今はそれに賭けよう。
少しでも、掠る程度でもいいから、この胸にある熱い想いを聖に届けたい。
だから10回はただ真っ直ぐにぶつけるだけにした。
- 136 名前:101回目の告白 投稿日:2012/09/05(水) 21:22
-
次の日、どうにか聖と二人きりになるとちゃんと向き合って目を見て想いを込めて、
聖のことが好きっちゃんと告げた。
真剣な顔をして想いを告げると、聖は目を大きく見開いて驚いた顔をする。
でも聖は何も言い返してこなかった。
そのことが少し不安でもあったけど、特にバリエーションも変えずに残り10回は
全く同じ告白の仕方をした。
そうしてあっという間に100回目が終わると、私は仕事終わりに聖を人気のない
廊下に呼び出した。
もう一度告白してダメだったら諦める。
でもできることなら諦めたくない、できることならば聖と付き合いたい。
緊張から早る胸を押さえながら私は深く息を吐き出す。
そしてゆっくりと顔を上げると、心なしか聖も緊張した顔つきでこちらを見つめていた。
「み、聖。ずっと好きやったと!だって衣梨奈の1番はずっと聖で、だから、あの、ずっと好きで
・・・聖が好きで・・・だから付き合ってください!」
最後に悔いは残したくないので、ありったけの想いを込めて告白した。
声は裏返るし少し早口だし、多分日本語がちょっとおかしかったかもしれないけれど、
でもこれが生田衣梨奈なのだと思う。
けれど聖はこの告白を聞いても何も言わなかった。
やっぱりダメだったのかなぁと落ち込んでいるいると、段々と聖の目が潤みだす。
そのことに驚いていると突然抱きつかれた。
私はもう訳が分からなかったけど、とりあえずぎこちない手つきで聖の背中に手を回す。
すると聖も私の背中に手を回してしがみつくように服を掴んでくる。
これはOKってことでいいのかなぁなんて都合の良い風に考えながら、少しだけ強く聖の体を
抱きしめた。
- 137 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/05(水) 21:24
- 以上です
一途なのに新垣さんが好きすぎて信用がない生田が好きです
- 138 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/09/06(木) 01:19
- モテキさんのぽんぽん最高すぎて辛いっす><
- 139 名前:名無し飼育さん 投稿日:2013/01/10(木) 21:40
- お久しぶりです
放置しまくってしまってすみません
いや正直自分のブログと狼で鞘石とぽんぽん、飼育まで手回らんわ!って感じで
全く更新できませんでしたw
でも今回今更ですが9期が三年目突入を祝って、生田×他の三人の話を
書いたので載せたいと思います
>>138さん そう言ってくれる方がいるから書いていけます、というか書こうとも
思いますしね
これからもぽんぽんには力を注いでいくつもりです
- 140 名前:名無し飼育さん 投稿日:2013/01/10(木) 21:43
- まずは生田×香音です
何となくネタを思いついて勢いだけで書きました
内容は香音ちゃんが生田を生田呼ばわりしてて、そんなに生田本人は気にしていないんだけど
たまに甘えた声で衣梨ちゃん、って呼ぶほうが個人的には嬉しいよって突然生田が言ってくるものだから、
そんな恥ずかしいこと思春期の女子がみんなの前で言えるわけねぇだろうが、バカ生田!って話です
まぁちょっと違うかもしれないですが大体そんな感じですw
気になる方は、どうぞ
- 141 名前:君の名前 投稿日:2013/01/10(木) 21:45
-
「香音ちゃんってさ、みんなのいる前ではあんまり衣梨ちゃんって呼んでくれんよね」
なんて普通に世間話でも言うような口調で呟く衣梨ちゃん、もとい生田
私はその質問に何も言葉を返せなかった
まず一つにそれが事実であることと、次にその件について喋ると変なボロを出してしまいそうで
怖かったから
私はあまり生田のことを衣梨ちゃんとは呼ばない
それはなぜか、単純に恥ずかしいからという一言に尽きる
だから名前で呼ぶのは二人きりのときか、すごく私の機嫌が良いときか、もしくは私が甘えたくなったときだけだった
そして今さっき衣梨ちゃんって言いながら私が抱きついたら、ちゃんと腰に手を回して抱きかえしてくれたもの、
生田は不思議そうな顔をして冒頭の台詞を言った
私は未だに黙ったまま一言も発していない
「香音ちゃん?」
「・・・な、何?」
「衣梨、なんか変なこと言った?いやさ、香音ちゃんの衣梨ちゃんって呼び方好いとるんよ。その呼び方する子、誰もおらんから」
本当に嬉しそうに目を細めて笑う生田
すましてるときの顔は大人ぽっいのに、笑うと年相応というか少し子どもぽっくて私は密かに好きだった
もちろんそんなことは絶対に生田本人は言えない
- 142 名前:君の名前 投稿日:2013/01/10(木) 21:46
-
「そ、そうなんだ・・・」
「だから最近、衣梨も呼び方変えようと思うんやけど、どうしたらいい?」
「へっ?呼び方って誰の?」
「そんなの香音ちゃんに決まっとるやろ。だから何がいい?」
生田は勝手に盛り上がっていて、すーずきさん、ズッキ、かにょん、かーのん、すずにゃん、香音太郎、
などなど色んな呼び名を一人で呟いている
私はそんな生田を少し冷めた目で見つめていた
でもこういうバカというかノリが良いところは、実はそんなに嫌いじゃない
そんなとき不意に生田が私のことを、香音と呼び捨てにする
その瞬間、胸が大きく高鳴った
慌てて生田の方を見ると、いつものようにヘラヘラ笑っている
けれど私の胸の高鳴りはまだ治まらない
「里保と聖は呼び捨てやし、いっそのこと香音って呼び捨てにすんのもよくない?」
「却下!」
「早っ!そんな即行で否定しなくてもよかろ?」
「・・・い、生田から呼び捨てされたくないから却下!」
強めに言い切ると生田は少し不満そうだったが、それ以上何か言ってくることはなかった
そのことに安堵しながら、ふと興味がわいて小さな声で衣梨奈と呟いてみた
そうしたら一気に耳たぶの辺りが熱くなって、やっぱり生田は生田か衣梨ちゃんにしようって固く心に決めた
- 143 名前:名無し飼育さん 投稿日:2013/01/10(木) 21:52
- って感じの話です
なんか照れる香音ちゃんが書きたかっただけなので、この話に関しては生田はどうでもいいですw
お次は巷で噂の生田×鞘師です
もう少し時間があれば狼さんにも書きたいところですが、如何せん3つはきついので
多分書かないと思います
内容はちょっと前に生鞘スレで生田は実は鞘師の妄想説、っていうのが流行っていたので
それに便乗して書きました
とりあえず本当に好き勝手に書いてますw
あと先に言っておきますが、譜久村さんに関する描写に悪意は一切ありません
それを承知の上で気になる方は、どうぞ
- 144 名前:黄緑の人 投稿日:2013/01/10(木) 21:54
-
「・・・やっぱりえりぽんは存在するんだね」
搾り出すようにそう呟くと、フクちゃんは一瞬顔を顰めたけれどその後静かに頷いた。
えりぽんが実際に存在する。ずっとそうであってほしいと願っていたばすなのに、
いざそれが現実になると私は動揺が隠せなかった。
余程私が戸惑っている様子だったのか、フクちゃんは安心させるように優しく微笑むと
今まで黙っていてごめんね、と言った。
その言葉に首を左右に振るう。
言ってくれて良かった、そう言葉には出せなかったが目が合っただけで悟ったのか、
フクちゃんは少しだけ悲しそうに笑った。
一体何が原因だったのかは今も定かではないのだが、私は9期の同期である生田衣梨奈の存在を忘れていた。
そしてメンバーは私に気を遣ったのか、それとも他に何か理由があるのか、えりぽんの存在をないものとして今まで活動してきた。
けれど不意に微かな面影を思い出すことがあって、ずっとその謎の女の子の存在が気になっていた。
だから同期であるフクちゃんと香音ちゃんに、その女の子のことを話してみたけれど
知らないし、会ったこともないと言われていた。
でもそれは全て嘘だった。
どういう理由で嘘をついたのか分からないが、これでずっと引っかかっている『えりぽん』の全容が分かるのなら水に流そうと思う。
私がたまに夢の中で会う知らない女の子。
それが多分えりぽんだった。
明るくてKYでちょっとだけイケメンな博多弁で話す女の子。
傍に居たと言われれば居たような気がするし、居なかったと言われればそんな気もする、それはとても希薄な存在だった。
記憶はおぼろげで顔を思い出そうとしても、霧がかかっているかのようにはっきりとは思い出せない。
でも唯一覚えていることがある。
それは私のことを里保と呼ぶあの声、なぜかそれだけはしっかりと覚えている。
けれどえりぽんの声で自分の名を呟かせてみると、なぜかたまらなく胸が苦しくなって切ない気持ちになる。
- 145 名前:黄緑の人 投稿日:2013/01/10(木) 21:56
-
「・・・ちゃん・・・里保ちゃん?」
「えっ?あっ、あー、ごめん。ちょっとボーっとしてた」
「里保ちゃん、一週間後にハロプロホール、いや旧中野サンプラザにきてくれる?」
「どうして?」
「そこにくれば・・・多分里保ちゃんの知りたい全てが分かるはずだから」
フクちゃんは決して瞳をそらすことなく、貫くような真っ直ぐな視線を私に向ける。
目が合う。やはり瞳はそらされない。
フクちゃんの決意は固いことが言わなくても分かった。
その目を見て嘘を言っていないと悟ると、静かに息を吐き出してから私はしっかりと頷く。
そして言われた通り、一週間後に私はハロプロホールにきていた。
ハロプロホール、旧中野サンプラザにくるのは今年の夏以来だった。
どうして中野サンプラザがハロプロホール、などという糞ダサい名前に変わったかというと、とある事故で一年半前に
ホールの一部分が崩壊してしまい、まぁ原因はヲタの皆さんのジャンプ力の賜物らしいが、それはともかく崩壊したのを機に
アップフロントエージェンシー様が買い取ったからだった。
ということで、中野サンプラザは本当にハロヲタ達の聖地になってしまった。
「里保ちゃん、お待たせ」
いつの間にか私は舞台の上に立っていた。
そして声がした方に顔を向けると、フクちゃんともう一人その横に見慣れた人が立っていた。
黄緑の人!と私は思わず叫ぶ。
黄緑の人とはちょうど一年半くらい前から、ハロ紺やモーニング娘のコンサートの全ツアーに来る人だった。
いつも一番後ろの席にいて大概黄緑のポロシャツかパーカーを着ている、それでも目立つのだがその人はせなぜかオペラ座の怪人のように
鼻から上を覆った白い仮面をつけている、という最高に怪しい人物だった。
私も含めてメンバーも皆、黄緑の人と呼んでいた。
私はいつ出禁になるか、または通報されるのではないかと気が気でなかったが、その人はこの間の
夏のハロ紺にも普通にきていた。
ちなみにこの間の夏のハロ紺で日替わりゲストで新垣さんがきたとき急に推しジャンしだして、それを見たとき驚きと共に
何ともいえない寂しさを感じた。
- 146 名前:黄緑の人 投稿日:2013/01/10(木) 21:57
-
「ど、どうして黄緑の人とフクちゃんが一緒にいるの?えっ?もしかしてヲタ奴隷?
ダメだよ、フクちゃんそんなことしちゃ。特定の人に私言したりツーショット写真撮るときに贔屓してると叩かれるよ。
いや胸当てるくらいは自分のヲタにできるしギリセーフだとは思うけさ。ってもう普通に叩かれてたっけ?いやそれにしたってさ、
ヲタの人と付き合うと後で文春だが新潮だかにフライデー辺りに売られると思うからやめたほうがいいよ・・・って、なんでフクちゃん
肩が震えてるの?寒いの?それとも具合が悪いの?」
闘牛のように物凄い勢いで私の方に向かってこようとするフクちゃん。
そしてそれを後ろから羽交い絞めにして止める黄緑の人、という何も言えない光景が目の前に広がっている。
でもあんなに気安く触れるんだからやっぱりヲタ奴隷だったんじゃん、と思っていると黄緑の人が
不意にフクちゃんの名前を呼んだ。
聖、と。呼び方はともかく、その声に私は言葉を失った。
黄緑の人の声は私が唯一覚えている『えりぽん』の声そのものだった。
「えり、ぽん?」
「里保・・・ちゃんと覚えてくれとったんやね、衣梨の声」
仮面で覆われていない口元が嬉しそうに歪む。
それから黄緑の人はフクちゃんから離れると、ゆっくりとした動作で仮面を取る。
でも仮面を取ったはいいが、えりぽんは右目の周辺を黒い眼帯で覆っていて、まるでマトリョシカみたいな気分だった。
そんな私の思いを全く気にする様子もなく、えりぽんは一拍置いてから眼帯を静かに外す。
眼帯が床に落ちてその顔がはっきりと見えたとき、私は思わずあっ。と声を上げた。
それは時折夢に出てくるKY少女そのままだったこともあるが、それよりもえりぽんの右目は閉ざされていて、
10cmくらいの痛々しい傷が額から目の下の涙袋辺りまで伸びている。
それを見たとき、私の頭の中を目まぐるしく色んな映像が早送りのように猛スピードで再生される。
忘れていた記憶が全て蘇り、私はあのとのきのことを全てを思い出した。
- 147 名前:黄緑の人 投稿日:2013/01/10(木) 21:59
-
1年半前の夏。
その日、この中野サンプラザではいつものように夏のハロ紺のリハーサルが行われていた。
そしてたまたまモーニング娘がリハーサルをしているときに一階席の最前列の辺りと舞台の前方が崩れ、たまたま前方にいた
私の体勢も崩れ地面に落下した。
だが私は無傷だった。えりぽんが咄嗟に私を抱きしめて庇ってくれたためだった。
けれどそのときに何かの破片が顔に当たったのか、えりぽんは目を負傷して血を流していた。
私は全てを思い出した。
えりぽんは存在し、私を庇って怪我をし、多分そのショックからえりぽんに関する記憶を全て消し去っていた。
そしてメンバーは皆事実を知りながら私のことを思ってか、えりぽんのことを思い出させないように
してくれたのだと思う。
私はゆっくりと足取りでえりぽんに近づくと、手を伸ばして恐る恐る目の辺りに触れる。
「これ・・・あのときの傷なんじゃろ?」
「あぁ、そうったい」
えりぽんが笑う。何ともないように、いつものように明るく笑みだった。
私の胸が締めつけられるようにひどく痛んだ。
自然と視界がぼやけてきて、私は泣くのを堪えて下唇を噛む。
そしてこれから怒涛の涙と感動のシリアス展開にいくのかと思いきや、でもそうはならなかった。
えりぽんはそれはもうあっさりと私を許した。
「もう過ぎたことやし、別によかよ。それより里保聞いて!衣梨、今度ソロデビューが決まったと!」
「へっ?」
「いやぁ、何か最近歴史上の人物が女子に受けとるらしいっちゃん。そんで衣梨、結構イケメンやろ?
で、たまたま眼帯してたこともあって、伊達政宗って芸名でデビューしないかって、この間他の事務所から引き抜きがあったと!」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
訳が分からない急展開に私は思わず大声で叫んだ。
えりぽんは嬉しそうに笑っていて、その横にいるフクちゃんは何だか複雑そうな顔をしている。
そういう顔をしたくなる気持ちは分かる。というか私もきっと同じような顔をしているはずだ。
それからどう反応していいか困っていると、何を思ったのかえりぽんは勝手に今までの身の上を語り出した。
- 148 名前:黄緑の人 投稿日:2013/01/10(木) 22:05
-
「まぁ衣梨にも色々あったっちゃん。まず目を怪我してからとりあえず眼帯アイドルやって、その次に二代目真野恵里菜として
デビューして、それでようやく伊達政宗の話がきたと。努力が報われるってこのことやね!」
「いや、それはそれで良い話なんだけどさ。それよりも眼帯アイドルと二代目真野恵里菜っていうのがすんごい気になるんじゃけど」
「・・・それは衣梨の黒歴史やけん、あんまり触れんといて」
「あー、うん。分かったよ」
「とにかく里保、これからはアイドル同士ライバルとしてよろしく!衣梨はまだ世界一のアイドルの夢、諦めてないけんね」
「う、うん・・・」
歯を見せて爽やかに笑いながら親指を立てるえりぽん。
相変わらず複雑そうなフクちゃん。
私はというと、 未だ事態をちゃんと理解していなかったが流れに合わせて愛想笑いしていた。
これがずっと知りたかった真実だったのか、と思うと何ともやりきれない気持ちでいっぱいで自然と口からため息が漏れる。
でもえりぽんがちゃんとこの世に存在していて、能天気に笑っている。それはとても良いことなのかもしれないなと思い直した。
ちなみに伊達政宗としてデビューしたえりぽんはというと、眼帯はしているけれど普通に博多弁で喋る、というキャラを無視した
素晴らしいKYぶりだった。
でもそれが逆に好評となり、今やテレビで見ない日はないというくらい売れっ子になった。
にも関わらずこの間の娘の秋紺に普通に来ていて、正体がバレたにも関わらず黄緑のパーカと仮面をつけるというKYぶりで、
メンバー全員呆れていた。
そして1つ変わったことがあって、えりぽんは今回から両手に赤いサイリュームを4本ずつ持つようになった。
私はいつか出禁になるだろうな、あの迷惑ヲタ。などと思いながら最後列の席で飛び跳ねているえりぽんを見て苦笑した。
- 149 名前:名無し飼育さん 投稿日:2013/01/10(木) 22:08
- 自分的にはちょっと不完全燃焼なところがあるんですが、あんまり長くしても何かなぁと
思って今回はこの長さでまとめました
まぁ笑ってもらえればそれでいいですw
そして最後はぽんぽんです
本当はもっとイチャイチャする予定でしたが、なんか微妙な感じになりました
そんなの気にしないよって方は、どうぞ
- 150 名前:ウサギ少女 投稿日:2013/01/10(木) 22:09
-
私をこのまま1人ぼっちにしておくわけ?
あまりにも寂しい思いをさせ続けるのなら
私はどこか遠くに翔んでいってしまうよ
聖が笑う。
とても優しくて穏やかで、でもどこか悲しそうで、寂しそうな笑みにも見えた。
それから聖は衣梨奈に背を向けると、少しずつ遠ざかっていく。
「聖!」
勢い良く目を開けると聖が顔を覗き込んでいた。
衣梨奈がいきなり目を覚ましたからか聖は少し驚いていて、でも衣梨奈がその手を引っ張って抱き寄せるとさらに驚いた顔になる。
「え、えりぽん?!ちょ、ちょっとどうしたの?」
「へっ?」
「・・・ここ、楽屋だから」
「あっ、あー、ごめん!」
顔を少し横にずらすと、他のメンバーはみなニヤニヤしていたり顔を赤くしていたり、とその反応は様々だったけれど
この状態を見られたことだけは確かだった。
衣梨奈はようやく現状に気づいて慌てて聖から離れた。
それから上体を起こしてソファーに座り直すと、聖は小さく笑ってから衣梨奈の隣に腰を下ろす。
さっきまで衣梨奈は楽屋に置いてあるこのソファーで仮眠をとっていた。
ちょうど新曲のHelpmeを聞きながら寝ていたからか、あんな夢を見たのかもしれない。
- 151 名前:ウサギ少女 投稿日:2013/01/10(木) 22:10
-
聖が自分の元から去っていく夢。
でも元々二人がずっとモーニング娘として一緒にいれないのは分かっている。
いずれは聖だって自分だって卒業するのだろうけれど、それはずっとずっと先の話で今はまだ全く実感がない。
なのにさっきの夢はいやにリアルで、本当に聖がいなくなってしまう気がして怖くなった。
「・・・聖」
「うん?何?」
「衣梨奈の前から黙っていなくならんといてね」
衣梨奈はちゃんと顔を向けて真剣に言ったつもりだったが、聖はうーん、どうしようかなぁ。なんて言って小首を傾げながら笑う。
こっちは本気なのに、と衣梨奈は唇を軽く尖らせてむくれる。
すると聖は嘘だよと言って優しく微笑むと、そっと衣梨奈の手に自分の手を重ねる。
「じゃぁいなくなるときはえりぽんに1番に言うよ。約束ね」
「う、うん。っていうか、できればいなくならんでほしいんっちゃけど」
「それはえりぽん次第かなぁ」
「えぇぇぇぇ!!」
「・・・でも」
「でも?」
「私を寂しくさせたら、黙ってどっかに翔んでいっちゃうかもよ?」
聖が笑う。
少し妖艶で意地悪そうな、だけどちょっとだけ寂しそうな笑みだった。
寂しくなんて絶対させんし、そう言って衣梨奈は手を返しにして聖の手をしっかり握る。
何も言わなかったが聖もしっかりと握り返してくれて、衣梨奈は今のところそれだけで満足だった。
- 152 名前:名無し飼育さん 投稿日:2013/01/10(木) 22:13
- ぽんぽん短くてごめんなさい
とりあえず9期が無事に三年目に突入できて本当に良かったです
こっちはなるべく月1で更新していきたいとは思っているんですが、ちょっと厳しそうなので
あまり期待しないでくださいw
次の更新はいつになるか分かりませんが、今年も宜しくお願いします
- 153 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/10(日) 00:27
- モテキさんのぽんぽん好きです!
聖が妖艶で思わずにやけてしまった、、、
更新楽しみにしてます!
- 154 名前:桃色サングラス 投稿日:2013/03/04(月) 20:15
- 事務所からそう離れていない雑居ビルの一角。
れいなは身を隠すように曲がり角のすぐ横に立ち、たまに壁から顔を出して待ち人が来たかどうか確認する。
とりあえず今のところその姿は見えない。
携帯で時間を確認すると、事務所を出てから既に20分経っている。
そろそろこっちに向かっていてもおかしくない時間。
というか、れいなを待たすなんて良い根性しとーちゃん、あいつ。なんて思いながら
苦笑すると、やってきたら絶対に文句を言ってやろうと心に決めた。
でもこんな風に誰かが来るのを待つことは、れいなにとって初めてに近いことだった。
友達でもメンバーとかでも自分が来るの待たせるタイプだった、ということあるけれど、
誰かが来るのを楽しみに待つこと自体が初めてだった。
あと絶対に来ると分かってるのにちょっと不安になったり、悔しいけれどあいつに
早く会いたいと思ってる自分もいる。
あいつに対してこんな風に思う自分がちょっと嫌だけど、事実なので否定できなかった。
ついさっきまで一緒に居たのに、それでもやっぱり生田に会いたい。
「あー、クソっ!早く来いよ、バカ生田」
何だかじれったくなってぼやくように呟きながら、れいなはもう一度携帯を見る。
さっき見たときからまだ2分しか経っていない。
でも念のために壁から顔を出してみると、少し遠くにそれらしい人の姿を発見した。
最初は似てる人かなとも思ったけど、れいなと目が合うと嬉しそうにその場で飛び跳ねていたので、
間違いなく生田だと確信を持った。
激しく他人のふりをしたいと思ったが、生田の突拍子もない行動には何だかんだ慣れている。
れいなは小さな溜め息を吐いてから軽く手を振ってあげた。
- 155 名前:桃色サングラス 投稿日:2013/03/04(月) 20:16
-
すると生田は飼い犬のように走ってれいなの元にやってくる。
目の前までやってくるとものすごく嬉しそうに笑うので、仕方なく頭を撫でてあげると
生田は目を細めて少しだけ照れくさそうに笑った。
その笑みに少しだけ心拍数が上がったが、それが何だか悔しくてわざと悪態を吐いた。
「生田、遅い!何分待たせると?」
「えっ!これでもめっちゃ急いだんですけど」
「そんなん知らん」
「えぇぇぇぇ!」
れいなの冷たい態度に生田は唇を尖らせて不満そうな顔をしたが、それは最初だけで
すぐにだらしなく口元を緩める。
それかられいなの顔を覗き込むと、今日はどこに行くんですか?なんて言って無邪気に笑う。
そうやって笑われるとれいなはいつも何も言えなくなる。
「・・・い、生田の行きたい所でよかよ」
「んー、それじゃカラオケで!」
「いや普通そこは遠慮するところやろうが!」
「だって生田の行きたいところで良いって言ったじゃないですか」
「そういう問題やなくて・・・はぁ、もうええっちゃん。でもカラオケってこの間行ったばかりやんか」
「今日は田中さんの歌が聞きたい気分なんです」
いきなり真剣な顔になる生田。
なんてそこで真顔になるのかれいなには意味が分からなかったが、ともかく真剣な顔をして
生田に見つめられると更に心拍数が上がる。
れいなは少しだけ顔を逸らすと、そこまで言うならええよ、とぶっきらぼうに呟いた。
- 156 名前:桃色サングラス 投稿日:2013/03/04(月) 20:18
-
「なら早速行きましょう!」
生田は張り切った様子でれいなより先に歩き出した。
でも1歩進んだところで足を止めて体を反転させると、本当に自然にれいなの手を取る。
そして手を握ったまま体を前に向けると再び歩き出す。
心拍数が跳ね上がり、心なしか頬の辺りが仄かに熱を持っている気がする。
でも生田は背を向けているのでそんなれいなの様子に気づいていない。
気づかれて何か言われたくないので、れいなは空いている手でポケットからサングラスを
取り出してかける。
生田が後ろに振り向いたのと、サングラスをかけたのはほぼ同時だった。
「田中さん・・・なんでサングラスかけてるんですか?」
「えっ!?それはその・・・れ、れいなは一応芸能人なんやから当然やろ?」
「でもこの辺あんまり人いないですよ?」
「うっさい!かけるもかけないもれいなの勝手やろうが」
生田はどこか納得していないようだったが、それ以上そのことについて追求しなかった。
KYKYと言われる生田だけど、こういうところはちゃんと空気読んでくれる。
そういうところに惹かれたんかいなー、なんて内心思っていると、生田が突然ボソッと
田中さんの顔が見たいのになぁと呟いた。
きっと生田本人は無意識で、でもだからこそ余計にタチが悪かった。
今度は確実に頬の辺りが熱を持っている。
おまけに耳たぶまで熱くなってきて、さすがにサングラスしていてもバレそうだったので、
れいなはさり気なく顔を俯けた。
- 157 名前:名無し飼育さん 投稿日:2013/03/04(月) 20:24
- 以上です
巷では生さゆの人気が上がってしますが、あまのじゃくなのであえての
田中さんで書いてみました
まぁ個人的に生れなが好きだというのもありますが・・・
>>153 自分もぽんぽんが好きです。かなり好きです
まぁフクちゃんは自分が意図しなくても妖艶になってしまう方ですからね
あとできるだけ月1更新するようにします
- 158 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/04/06(土) 19:02
- 衝撃の変化球w
でも確かに、二人の関係は良いものですね
- 159 名前:とある楽屋での日常 投稿日:2013/05/09(木) 18:09
-
モーニング娘の楽屋は騒がしい。
まーちゃんが無邪気に騒いでいるとくどぅが呆れながら叱って、でも結局2人で子どもみたいに騒ぎだして、それをあゆみんがお母さんみたいにお説教して、いつもは大体私がそこでまぁまぁと宥めるのだけれどそこは今回譜久村さんがやっていて、そんな様子を少し遠くから見ている鞘師さんの目は優しくて、隣にいる鈴木さんは苦笑しているけれどやっぱり優しい目をしていて、小田ちゃんはどこか不安そう顔つきで状況を見守っていて、そしてようやく事態が治まりかけたところで生田さんが良さ気なことを言ったけど思い切り滑って、それに対して道重さんが呆れた顔をしながら毒を吐いて、田中さんもそれに便乗しながら楽しそうに笑っていて、とても楽しそうに幸せそうに笑っているものだから胸が熱くなって泣きそうになった。
不意に涙がこぼれそうになって私は咄嗟に口元を押さえる。
するとさっきまで騒いでいたまーちゃんが野生の勘、というやつなのか泣きそうな私に気づいてうえぇぇぇぇ!と大声で叫ぶ。
それから慌てて目の前までやってくると心配そうな顔つきで見上げてくる。
「はるなん、どうしたの?どうして泣いてるの?どこか痛いの?」
まーちゃんは少しだけ背伸びして私の頭を撫でてくれる。
そのうちにくどぅとあゆみんも私のところけにやってきて、どうかしたの?と何も言わなくてもその目が語っていた。
それから9期の4人も6期のお2人も私のところにやってくる。
みんなして心配そうな顔をしていて、私の為にそんな顔をしてくれることが嬉しくて幸せで、
でもその幸せの時間はきっと私の長い人生の中では僅かな瞬間に過ぎなくて、
そう思うとまた熱いものが込み上げてきて泣きそうになる。
それを何とか堪えると、私は大きく手を伸ばして1番近くにいた10期の3人をまとめて抱きしめる。
いつかこの3人とも別々の道を歩く日が来る。
順調に行けば年齢からいって1番最初に別れを迎えるのは私で、だからこそこの些細な日常がたまらなく愛おしい。
「・・・時間が止まればいいのにな、って思って」
呟くようにそう言うと、道重さんだか誰かがキモーイ!と素直な感想を言った。
その言葉を合図に腕の中にいる同期3人からもう抗議を受ける。
私は苦笑しながらそれを受け止めると、彼女達を窮屈な腕の中から解放する。
くどぅとあゆみんが離れていく中、まーちゃんは未だ私の目の前に立ち尽くしている。
それから不意にまさは嫌だなぁと呟いてから軽く顔を顰める。
意外な言葉に私は驚いた。
「ど、どうして?時が止まったらいいのにって、まーちゃんは思ったことないの?」
「うん。だってこれからもっと楽しいこととか面白いことがあるかもしれないのに、
時が止まったらそういうの感じられなくなっちゃうもん」
まーちゃんは私の顔を見上げながら歯を見せて笑う。
言葉に詰まった。
でも子どもそのものの純粋で無邪気な笑顔は、私が見失っていた何かを思い起こさせる。
「・・・はるも時が止まったら嫌かな」
「えっ?」
「っうか早く大人になりたいし。大人になったら色々と楽しそうじゃん?」
「まぁ・・・うん。私も2人と大体同意見かな」
八重歯を覗かせて笑うくどぅ、それとは対照的に多分何も考えていなかっただろう
石田さんの顔つきは微妙だった。
私は小さく笑いながらすごく10期らしいなと思った。
くどぅもまーちゃんも最初に比べて随分と大人になったし、あゆみんもそれなりに
大人になったような気がする。
それは当たり前だけど時が止まらずに動いていたからだった。
そんなときふと肩に手を置かれた。
見るといつの間にか道重さんが横に立っていて、女神のようにそれはそれは美しく優しく微笑むので、
それに釣られて私も微笑み返す。
「1本取られたね」
「・・・ですね」
「さゆみも前はよく思ってたよ、飯窪と同じこと」
「時が止まればいいのにってですか?」
「うん・・・まぁ正直今でもたまに思うよ。でもさ、止められないじゃん。当たり前だけど。
ならその限られた時間を精一杯楽しむしかなくない?」
道重さんは私の顔を覗き込みながら歯を見せて笑う。
その顔はまーちゃんと同じくらい純粋で無邪気な笑顔だった。
でもそうやって笑えるのは道重さんが心から今を楽しんでいるからで、私もそんな風に笑いたいと
心の底から思える笑顔だった。
- 160 名前:名無し飼育さん 投稿日:2013/05/09(木) 18:15
- 以上です
娘のDマガ48の最後に全員集合するところで、幸せすぎて泣いちゃう飯窪さんを見て
二十歳くらいの頃は自分もよく分からない多幸感で泣きそうになったなぁ、
などと思いながら懐かしくなって書いてみました
>>158 まぁ確かにかなりの変化球ですが、最近意外と絡みがあるのでウハウハしてます
れいなって意外と生田のこと高く評価してるんですよね、不思議なことにw
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