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1 名前:藤井 莉娜 投稿日:2010/11/18(木) 16:01
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2 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 19:32
ochi
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/04/21(木) 00:55
リサイクルさせてください。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/04/21(木) 00:56
娘。やらOGやら短編
リハビリでガキカメから
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/04/21(木) 00:57


「ガキさんおいでー」

「もー。なによぅ」


 ゆっくりと会うのは久しぶりだった。
 元気でいることは知っている。カメが変わらずカメであることも
 だけど実際、こんなにもまったりと時を過ごすのは久しぶりだ。

 せっかく覚えたはずの甘え方を、あたしは忘れていた。

6 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/04/21(木) 00:58



             ・        充電       ・





 里沙の部屋にある、絵里のお気に入りのソファに身を沈め両手を広げている。
 来い、というわけか。
 里沙は持っていた紙パックのジュースをガラステーブルに置いて、正面から絵里を見つめた。

「がーきーさーんーはーやーくー」

 毎日のように会っていた頃は、なんの躊躇いもなくあの腕の中に
 文句のひとつでも言いながら飛び込んでいけたのに。妙に恥ずかしさが表立つ。
 里沙は立ち尽くしたまま動かない。そんな姿に絵里は唇を尖らせる。

「こっちから行きますからねっ」

 言い終わるのが早かったか、抱きしめられたのが早かったか。
 少し拗ねた語尾を耳元で聞いた。
 柔らかな感触と甘い匂い。あの日からあまり長さが変わっていない絵里の髪が頬に当たってくすぐったい。
 
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/04/21(木) 01:00

 じんわりと、解れ満たされていくのを感じた。
 里沙はようやく絵里の首に腕を回す。そしてそっと首筋に鼻先を押し当てた。

「思い出しました?甘え方」

 ばれてた。カメのクセに

「ばーか」

 照れ隠しに出たのはやっぱり可愛い言葉じゃなかったけど。絵里はそれでも嬉しそうに笑った。
 里沙の耳の辺りに頬を擦りつけ、それから顔を離した。それに習い里沙も顔を上げる。
 ほんの少しの身長差。息のかかる距離で見つめ合い、額をぶつける。

「そろそろ忘れてる頃かと思って。絵里ちゃんが甘やかしにきましたよ」

「なによそれ。出来れば忘れる前に来て欲しかったんだけど」

 見つめあい、笑い合い、小さなキスを落とす。
 それからこれ以上近づけないほどしっかりと抱きしめ合った。

8 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/04/21(木) 01:00

「じゅーでん」

「ん?」

「ガキさんの頑張るパワー、充電中」

「カメが充電器?」

「うん」

「じゃぁ―――…」

 




 明日までずっとこうしててよ、カメ。
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/04/21(木) 01:03
>>5-8『充電』
ガキカメ復活記念!!

10 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/05/13(金) 01:23



その発表をした後すぐ、思い浮かべたのはやっぱりあの人の顔で
自惚れてるって言われるかもしれないけど、間違いなくかかってくる電話を愛佳は待っていた。


11 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/05/13(金) 01:25


 ・   説教ディナー   ・



「も――――――っ!!!!!バカみっつぃ―――――――――!!!!」

 思わず携帯を耳から離す。
 いつもよりトーンが高いことは覚悟していたが、さすがにこんなに叫ばれるとは予想外だった。
 
「久住さん、そんな叫ばんでも聞えてますって…」

「ど―――っせ我慢してたんでしょ!?も―――っ!!!!」

「そんなもーもーゆうてたら牛になりますよ」
 
 未だ携帯は耳から離れている。キンキン声が頭に響く。大丈夫、骨には響いてへん。

「そーやって話を逸らさないで!」

「別に、逸らしてませんやん…」

「とりあえず、今日みっつぃーん家行くからっ!カルシウムもって行くからねっ!!」

「―――仕事あるんでしょ?ツアー中やし、無理せんでください」

「またそうやって人の心配ばっかりしてっ!小春は超元気なんだからっ
 まだもうちょっとお仕事だけど、終わったらすぐ行くからねっ!わかった!?」

12 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/05/13(金) 01:26


 ありがたいことに明日は夕方からの仕事だ。小春の仕事が長引いたとしても、待っていられる。
 口から出る言葉と反対に、心の中ではものすごく楽しみにしている自分が居た。
 
「…あ、呼ばれた。ごめんねみっつぃー小春撮影みたいだから」

「うん、あの。」


 だから、こんな時くらいは


「電話してきてくれて、嬉しかった」

「…ばか。みっつぃーが素直だと小春の調子が狂うじゃん」

「…うん」

 
 素直に甘えてみてもいいのかな、って思った。


「無理しちゃだめだからね。ちゃんとお家で待っててね」

「うん」

「じゃぁ、ね」

「行ってらっしゃい」


13 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/05/13(金) 01:28


 小さな電子音の後、通話が切れる。
 愛佳は携帯を握り締めてベッドに寝転んだ。
 小春がくるのは、もう少し先だ。きっと『カルシウム』も探しに行くだろう
 そうなると小春が愛佳の家に着くのは少し、ともう少し、先になる。
 なにかおいしいものでも作って待っていようか。
 『無理しちゃダメだって言ったでしょ!?』そうやって怒られるだろうか。

 愛佳はベッドから起き上がりひょこひょこと左足を庇いながらキッチンへ向かった。
 冷蔵庫の中身を確認する。


「――― じゅうぶん」


 説教をされながら食事するのも悪くないかもしれない。
 早速まな板と包丁を取り出しながら、愛佳は笑った。


14 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/05/13(金) 01:30
>>5-8『充電』 ガキカメ
>>10-13『説教ディナー』 こはみつ

光井さんの怪我が少しでも早く良くなりますように。
小春がカルシウムのあるモノをやいやい言わせながら食べさせてたら可愛いと思う。
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/10(土) 15:43
今頃発見した
気が向いたらまた書いてくださtれ
16 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2011/09/11(日) 19:27
なにはともあれブクマ
17 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/12(月) 14:21
とりあえず落とす
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/17(土) 15:22
同じく今頃ハケーン
読みやすいです
これからも期待して待ってます
19 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/09/18(日) 23:32
>>15-18
まとめてしまってすみません。
見つけてくださってレス下さってありがとうございます!
期待に添えるかどうか分かりませんがこれからもたまに覗いていただければ嬉しいです。
20 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/09/18(日) 23:36
久々に更新です
こはみつ。微エロ。怪我ネタのためあげないでくださいね
苦手な方は回避回避
21 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/09/18(日) 23:39


 小春たちもまぁ、テレビから離れると一般的な女子なわけで。
 他の人より少し遅れてやってきた思春期を謳歌しない訳はない

 少女漫画でよく見る男子高校生みたいに、ごく稀に性欲を抑えられない夜だってくる。
 でもその原因を作ったのは間違いなくみっつぃなんだから、そんな恨めしい目で見上げないでほしい。



「だってそんな服着てるのが悪いんじゃん」


 小春はみっつぃの太ももに跨ったまま抗議する。
 ショートパンツにタンクトップ
 いくら残暑が厳しいからといってそんな格好で出迎えるみっつぃが悪い
 少なくとも小春は一週間以上も前からみっつぃの家に行く約束を取り付けていた。
 突然予告もなしにきた訳じゃない。そんな格好でいられると誘われているようにしか思えない
22 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/09/18(日) 23:41

「だって長ズボンはけへんのですもん」

 みっつぃは悪びれた様子もなくしれっとそんな事をいう。たしかに今のみっつぃにとってそれは仕方のない事だった。
 左足に巻きついた真っ白なギプス
 一時期細い物に変わっていたが、加療が必要とされた今、また太く頑丈なものに戻されてしまった。
 これでジーンズを履くのはきっと至難の技だし、こんな暑い季節にましてや家の中で長ズボンを履かなければいけない理由はない。

「だから絶対左足動かさないでね」

 しかし珍しくもないみっつぃのラフな恰好にむらむらしてしまった小春も悪い
 でもむらむらさせる原因を作ったのはそっちだ

 恨めしい目で見上げるみっつぃの視線を無視して小春はタンクトップの裾から手を差し込んで素肌を撫でた。

「ちょっと久住さん!」

 
 悪いけどねみっつぃ、小春もう止まんないから

23 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/09/18(日) 23:47

 脇腹を撫でる
 肋骨をいっぽん一本数えるように指先でなぞる
 みっつぃがくすぐったそうに体を捩った
 何か言われる前に薄い唇を自分のそれで塞ぐ
 相変わらず薄いけどやわっこくて小さな唇は小春の脳みそを刺激した
 下唇に吸い付く。態とらしく音を立てて離れる
 そしてまたすぐに吸い付く。舐め上げる
 呼吸する暇を与えない
 この関西人は隙があると何か喋ろうとする。しかもそれが90%の確率で文句だから小春は少しの隙間も与えずに口付けた


 少し強引に唇の間を舌で割る
 予想外にみっつぃはすぐに応えて舌を差し出した
 だから遠慮なく小春はその舌を絡め取った

「んっ…」

 みっつぃの口から苦しそうな息が漏れる
 軽く肩を押され、小春はみっつぃの舌先を軽く吸いあげて口を離した。

 重力に逆らう事のできない小春の唾液がみっつぃの口端に透明な引いて落ちる
 誘われるようにそれを舐め上げ、リップ音を残した
24 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/09/18(日) 23:49


「殺す気か…」

 薄い唇を半開きにして浅い呼吸を繰り返しながら
 赤い舌を覗かせ上擦った声で言われても迫力なんてこれっぽっちもない。

「みっつぃが死んだら小春もあと追うよ」

 乱れてしまったみっつぃの前髪を整えてやる

「あほ。優しくしろっちゅーねん」

 みっつぃの手が自分に伸びて来て頭でも叩かれるのかと覚悟していたら
 それは予想に反して首の後ろに周り、強い力で引き寄せられた

「…何?」

 意図がつかめず小春はみっつぃの顔の横に両手をついて口のそばに耳を近づけ言葉を待つ

「動かれへんし逃げもできひんから」

 みっつぃの頬が熱を持ったのが分かった

「やから…。」
「…うん」

 みっつぃの言いたいことがなんとなく予想できて。
 突然、どうしようもない愛おしさが込み上げて来て、小春はみっつぃの頬に自分の耳を押し当てた

25 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/09/18(日) 23:51

「やから優しくして…」
「うん」

 すぐそばにある真っ赤になったみっつぃの耳を口に含んだ
 トクン、とみっつぃの身体が揺れる

 反対側の耳は指で輪郭を確かめるよう緩やかになぞった
 もう片方の手は細い腰を撫でる
 
 さっきと同じように脇腹、浮き出た肋骨、そして柔らかく盛り上がった胸
 ブラの上から優しく揉み上げた。
 その指先に硬いものがあたって小春はそれを確かめる


「ね、みっつぃもしかしてさ」

 それが何か解った拍子に一つの疑問が浮かび上がる
 もしかして小春は。


「誘った?」

 初めからそのつもりだった?


 ぱちんと片手でフロントにあったホックを外す
 窮屈に抑えられていた胸がタンクトップの下で解放される

 こうやって身体を重ねるのは初めてではない。正確には覚えていないが、もう両手の指の数は軽く超えている
 でもみっつぃのブラのホックがフロントだったことなんてこれまで一度もなかった
 これが偶然だとは、思えない。

 今度はみっつぃが小春に頬を摺り寄せた
 拗ねたように尖った唇が頬に押し当てられる

「だって怪我してるからって我慢できひんねんもん」

26 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/09/18(日) 23:53


 その言葉を聞き終わるのが早かったか
 みっつぃのタンクトップをめくりあげ解き放たれたふくよかな胸の頂きに唇を寄せたのが早かったか

「はぁっ…!」

 固く尖ったそれを少し強い力で吸い上げた時、みっつぃの足が藻掻く様に揺れる気配を感じて
 小春はハメられたお返しと言わんばかりに態とらしく左足の太ももを撫でた。

「絶対に左足動かしちゃダメだからね」


『くそ』が付くほど真面目なみっつぃだから、きっと言われた約束は守るだろう。
 1ミリも動かすことなく、苦悶の表情を浮かべながら小春の手に溺れればいいと思う。
 
「そ、なん言うんやったら…触らんで、よぉ」


27 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/09/18(日) 23:55


 小春たちもまぁ、テレビから離れると一般的な女子なわけで。
 他の人より少し遅れてやってきた思春期を謳歌しない訳はない

 少女漫画でよく見る男子高校生みたいに、ごく稀に性欲を抑えられない夜だってくる。
 でもその原因を作ったのは間違いなくみっつぃなんだから、そんな恨めしい目で見上げないでほしい。




「やだ。みっつぃの我慢してる顔、小春ゾクゾクしちゃうから」


 悪戯に笑って深く深く口付けた。
28 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/09/18(日) 23:56
 
29 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/09/18(日) 23:57
 
30 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/09/19(月) 00:01
以上『18歳の事情』


勢いで書いてしまった。でも後悔はしていない!!
愛佳の足が一日も早く治りますように
武道館は、来るのかなぁ…来てほしいな


>>5-8『充電』 ガキカメ
>>10-13『説教ディナー』 こはみつ
>>21-27『18歳の事情』こはみつ
31 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/19(月) 11:34
何気に文章巧いですな
ご馳走さまでした
32 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/19(月) 21:18
愛佳がかわいい
愛佳がかわいい

大事なことなので二回言いました

作者様とても可愛いこはみつをありがとうございます
33 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 00:44
>>31さん
ありがとうございます!その言葉に心、躍りました

>>32さん
大事です。2度も3度も言いたくなるくらい大事な真実。
これからも可愛い光井さんを目指します。

34 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 00:46

更新します。
ちぐはぐな二人、そういう雰囲気

35 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 00:46
 
36 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 00:47


 小春はよく不可解な行動をとる。
 よくよく観察していると意図が見えてくることもあるし
 いつまで経っても分からない時もある。
 
 今だって。

 フローリングの床に座って雑誌を捲る愛佳を膝の間に入れた。
 なんやろ、と思って首を捻って小春を見上げたが
 スマートフォンをいじっているだけで愛佳の視線に気付いていなかった。

 せっけんの甘い匂いがする。
 お風呂から上がったばかりの小春はいつもより柔らかく温かい。
 
「…髪乾かさんと、風邪引きますよ」

 濡れた髪が頬を撫でる。
 愛佳は乱れた鼓動を隠すように、その髪先を軽く引っ張った。

「うん。これ打ち終わってから」

 ブログだろうか。
 ディスプレイの上で人差し指がスライドする。
 愛佳は構わず、雑誌に視線を戻した。

37 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 00:49


 黙ってたら美人やのにな。過ぎてしまっていたページをパラパラと戻す。
 雑誌の中の小春はいつもより少し濃い目のメイクで、すました顔で笑っている。
 OL風のパンツスーツスタイルも、大人っぽいドレスも
 雑誌の中で笑う彼女によく似合っていた。

 それやのに

「あーーーー!でっきたー!送信かんりょーーー!みっつぃ小春のブログチェックしてね」

 
 スマートフォンを放り出して、ぬいぐるみに抱きつくかのごとく
 無駄にぎゅうっと力を込め愛佳を抱きしめるこの人は、本当に雑誌の中で笑う彼女と同一人物なんだろうか。


「こーしんしゅーーりょーーー!!」


 愛佳はぬいぐるみちゃうぞ。
 強い力で抱きしめられたまま、左右に揺さぶられておもちゃのように扱われる。
 されるがままに揺れ、手元の雑誌もばさばさと音を立てる。





 それやのに。その腕を振りほどけへんのは、なんでなんやろ。


38 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 00:51


「あ、小春じゃん」

 ひとしきり揺らしたあと、ピタ、とその動きを止め愛佳の手元を覗き込んだ。
 肩に腕を乗せ、三角座りしている愛佳の膝の上に掌を置いた。
 そこに力が込められるわけではない。
 未だ完治していない愛佳の足を労わるように、ふわり、と乗せられ包まれている。
 痛くないはずのそこが熱を持つ。
 彼女の匂いが濃くなった。頬に、小春の耳が押し付けられている。


「いやーこの時は緊張したなー」


 跳ねる鼓動に気付かないフリをしてページを捲った。
 お洒落なカフェで窓の外を眺める、涼しげな顔。
 
「同い年に見えませんわ」

 平然を装いぼそり、とそう告げると小春は自慢げに鼻をならした。

「えっへっへ。どんなもんだ」

 近すぎて見えないが、きっと今勝ち誇ったような最上級のドヤ顔をかましているんだろう。
 愛佳は半ば呆れながら更にページを捲った。
 その時降ってきた声。小春の体重が少し後へ移動する。頬と頬が、重なった。


39 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 00:52


「でもさー他のモデルさん見てたら、やっぱり小春ってまだまだなんだよね」

 うーん、と唸りながら頬を擦り付けられる。
 再び跳ねる鼓動。この行動が意味するものは…

「んーみっつぃのほっぺスベスベ」


 ただ、体温を感じていたいだけなのか。  
 傍に居たい、だけなのか。

 いつか小春が、今日のように愛佳の頬に自分の頬を押し付けながら 
 いつものアホっぽい調子で言っていた事を思い出す。

 お風呂上りのみっつぃってなんかずっと触ってたくなるんだよねー

 なんでやねん!その時はそう一括して小春を跳ね飛ばした。
 小春は締りのない顔でにへら、と笑い、だってやわっこいくって甘い匂いするんだもーん。
 そういって強引に愛佳の腕を引き、腕の中へ納めた。


 
 それと、同じだ。
 


40 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 00:53


 愛佳は何故か悔しくなって、小春の頬を引き離した。
 お、と少々驚いたのか、いつもより丸く大きくなった小春の目と視線がぶつかる。


「そんなんしゃーないですやん。モデル、なったばかりなんですから。
 愛佳はじゅうぶん凄いと思いますけど。こんなん、愛佳はよぅ出来ん」

 しかし、それは失敗と思い知る。
 ほんのりピンク色に染まった頬。生乾きで無造作に垂れる髪の毛。
 愛佳の跳ねた心を更に揺さぶるのには十分すぎる材料だった。

 言葉を失う。視線を外せない。しまった、と思ったがそれを口に出すことさえ出来ない。
 小春は首をかしげた。気付かないでくれ、と心の中で強く願った。

41 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 00:54


「何?どうしたの?」
 
 それなのに。
 いつも鈍感なくせに。
 こういうときに限って。 


「みっつぃ、したくなった?」


 超どストレートど真ん中。オマエにはデリカシーっちゅうもんがないんか!ムードっちゅうもんがないんか!
 昂っていた感情が落ち着いていくのが分かった。
 それと同時に溜息がこぼれる。

 アホちゃいます?

 そう言ってやろうと口を開いた瞬間。

42 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 00:55


 

「――― してよ」


 
 あまりに切なく、そして甘い声が響いた。
 落ち着いたはずの熱が一気に温度を上げた。

 どこでスイッチが入ったのか分からない。
 全然その気なんてなかったくせに。いつものふざけた調子で聞いたくせに。

 愛佳の頬に触れる指先が妙に熱い


「しよ」


 あぁ。
 愛佳はいつでもこの人に翻弄されて、結局は堕ちていくんだ。
 彼女を全然理解できないまま、それでももっと好きになるんだ。

 彼女の行動に振り回され勝手に欲情し、
 デリカシーのない言葉に冷めて、ストレートな囁きに堕ちる。
 

「お風呂入った意味ないやん」





 素直じゃない愛佳は形ばかりの文句をたれて小春の首筋に鼻先をすり寄せた。



43 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 00:56
 
44 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 00:56
 
45 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/10/18(火) 00:59
以上『19歳の不可解な行動』

誘ったり誘われたりするこはみつ。



>>5-8『充電』 ガキカメ
>>10-13『説教ディナー』 こはみつ
>>21-27『18歳の事情』こはみつ
>>36-42『19歳の不可解な行動』こはみつ
46 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/23(日) 20:24
小春と愛佳の雰囲気って可愛いのに妖しくて堪りませんね
素晴らしいです
47 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/02(水) 21:31
誘い小春ちょっと珍しいかも
48 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/19(土) 01:40
>>46さん
幼そうに見えて実は…な感じの二人の空気大好きですw
ありがとうございます!

>>47さん
ちょいちょいこんな小春を登場させたいと思いますw
49 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/19(土) 01:42
 
50 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/19(土) 01:42
更新します。
少しだけ注意。二人がこんなだったら心底萌える
51 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/19(土) 01:45


「ほら田中っち早くシャツ脱ぐー」

「…ほ、ホンマにすると?」

「すると。」

「明日じゃアカンと?」

「アカンと。ってか明日あんた別の仕事で地方でしょーが」

「…う」

「はい、ばんざーい」


 れいなは観念して両手を挙げた。
 里沙は嬉しそうに上げられた腕からシャツを抜く。
 真っ白な肌が暗闇に浮かび上がり、里沙は思わず頬を緩ませた。

 れいなの顔が紅に染まるが
 それでも里沙は構わずにその細い身体をぎゅうっと抱きしめた。

52 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/19(土) 01:46


「田中っちどきどきしてる」

「…言わんでよかと」

「ごめん。なんか嬉しくて」

「ばか、恥ずかしか。てかガキさんも脱ぎーよ。れーなばっかりやん」

「…いいよ。脱がして」

「は!?れなが」

「他に誰がいるのよ」

 
 れいなの真っ直ぐな髪の毛を撫でながら里沙は体を離す。
 れいなは俯いたまま顔を上げてくれない。
 里沙は促すようにれいなの手を取り自分の首元へと導いた。
 指をボタンに掛けさせる。

「早く」

 覚束ない手つきで小さなボタンを一つ一つ外していく。
 指先が震えているのが見て分かる。
 七つほどしかないボタンを外すのに酷く時間がかかった。
 それでも里沙は何も言わずにれいなが成し終えるのを待ち、その指先が素肌に触れるのを待った。

53 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/19(土) 01:47


「…ちゃんと食べとぉ?」

 健康的な褐色の肌が覗く。
 れいなはシャツを里沙の腕から抜きながら肩を撫でた。
 もう少し肉付きがよかったはずのその身体は
 偏食のれいなと変わらないほどに細くなっていた。

「食べてるけど、動く量の方が多いのかな。だってほら今回の舞台、殺陣、あるしさ」
 
 里沙は誤魔化すように手首の辺りで絡まっていたシャツを脱ぎ捨てベッドの下に放り投げた。
 ひとつ、身体が動くたびにあばら骨が浮き出る。
 れいなは思わずそこに手を伸ばし撫でた。

「ガキさん、痩せすぎ」

「…田中っちに言われたくないよ」

 苦笑いを浮かべながられいなの背中に手を回し、ブラのホックを外した。
 里沙の身体に気をとられ、羞恥心はすっかり抜けてしまったようだ。
 れいなは素直に腕からそれを抜き取りベッドの下へ落とす。
 そして里沙にならい、煩わしい布を抜き取った。

 素肌で抱きしめあう。
 温かくて柔らかくて心地いい。
 互いの心臓の鼓動がじかに聞えていやに安心した。

 れいなの掌が里沙の背中を撫でる。


 
54 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/19(土) 01:51


「やっぱり痩せすぎやって」

 浮き出た肩甲骨と薄くなりすぎた肩。
 壊れ物を抱くように、れいなはそっとそれでも力が伝わるようにぎゅっと細すぎる背中を抱きしめる。

 重心が傾くのが分かる。
 ゆっくりと身体がベッドへ沈んでいく。
 れいなは里沙の背中を抱きしめたまま、その力に身を任せた。
 
 背中がひんやりとしたシーツに包まれる。
 れいなは抱きしめた腕の力を抜いて自分の顔の横に腕を付く里沙を見上げた。
 

 シャツを脱げと自分に迫っていた余裕の里沙はどこにもいなかった。
 泣きそうな顔で、れいなを見下ろしている。
 
「ガキさん…」


 れいなは思わずその頬を両手で包み、そして自分のもとへ引き寄せた。
 
 里沙の顔が首筋に押し当てられる。
 自分に覆いかぶさるその身体はちっとも重くなんてなく、その軽さに切なくなった。

55 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/19(土) 01:53


「…不安なの。これからのこと」

 耳元で聞えるくぐもった声。
 それがとても震えていて、れいなの胸が締め付けられる。

「一人で出る舞台も、ライブがない期間も、新体制の娘。も、新しいシングルもお正月のコンサートも…全部全部不安だよ」

 もっと早く気付いてあげればよかった。
 吐き出された思いにれいなは顔を顰めた。
 

「あたしは愛ちゃんみたいにはなれない。あんなモーニングは作れない。」


 こんなに強引に自分を誘うことなどこれまでなかったのに
 どうしてそんな小さな変化に気付いてあげられなかったんだろう。

 細すぎる背中を抱きしめる。
 そして強引に体勢を入れ替えた。
 今度はれいなが見下ろす番だ。

 頬を包み、泣きそうな里沙の顔を真っ直ぐ見据えた。

56 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/19(土) 01:55



「リーダーがしゃんとしとらんと困るっちゃん」



 涙を堪えるように顰められた眉間に口付けを落とし
 いつもみたいに少し尖った八重歯を覗かせながら笑った。

「ガキさんはいっつも考えすぎったい。心配しすぎったい。
 絶対大丈夫やけん。これからの娘。もこれからのことも全部」

 根拠があるわけではない。それでも大丈夫、だと
 それだけが伝わるようにれいなは真っ直ぐに里沙を見つめた。

「れーなもさゆも愛佳もおると。9期も成長してきとーし
 ガキさんは自信持ってガキさんらしい娘。にしたらよかとやろ?
 リーダー変わってもおんなじ娘。とかつまらんっちゃん」

 透明の雫が目じりから流れ落ちた。
 吸い寄せられるようにれいなは唇でその跡を追う。

57 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/19(土) 01:59

「ガキさんならだいじょーぶ」


 里沙の頬が緩んだ。ふっと口元から笑みが漏れる。

 
「ガキさんの作る娘。をれーなは守るけん」


 ガキさんを、守るけん。


 ありがとう。
 その言葉を聞いた後、れいなはもう一度尖った八重歯を見せて笑い、
 そして優しく深く口付けた。   
 

58 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/19(土) 02:00
 
59 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/19(土) 02:00
 
60 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/19(土) 02:05
以上『Only you』
ただひたすらいちゃいちゃさせようと思ったけど上手くいかなかった
最近この二人熱いです
ユーストお姉さんトーク面白かった!!!
ガキリーダーの娘。早く始動してほしいな


>>5-8『充電』 ガキカメ
>>10-13『説教ディナー』 こはみつ
>>21-27『18歳の事情』こはみつ
>>36-42『19歳の不可解な行動』こはみつ
>>51-57『Only you』ガキれな
61 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/20(日) 01:38
ガキれなで萌えてしまった…
可愛いですねぇ
ちょっと純情チックなれいながとてもいい感じです
リーダーガキさん頑張って欲しいですね
62 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/24(木) 00:53
>>61さん
ありがとうございます
ガキれなすごく好きです!実は萌え要素いっぱいあると思いますw
リーダーガキさん今日のよみランで頑張ってたみたいでなによりです!

63 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/24(木) 00:54
  
64 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/24(木) 00:55

更新します
微エロ。苦手な方は注意注意


65 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/24(木) 00:55
 
66 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/24(木) 00:56



「タバコやめてくださいって言ってるじゃないっすかー」

 

 れいなは火がつけられたばかりのタバコを真希の口から奪い取り、そして灰皿でもみ消した。
 真希はベッドに腰掛けて脚を組んだまま、ぽかんと口を開けている。

「ちょー無意識だった」

「身体に悪いんですから」

「ハイハイわかりましたって。れいな水ちょうだい」

「はぁい」

 真希はあしらう様に返事し、タバコとライターをガラステーブルに置いた。
 ここ最近、タバコを咥えた瞬間にれいなに奪い取られるため、
 1週間前に買った箱の中はまだ半分以上も残っている。
 
67 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/24(木) 00:57


「はい、ごとーさん」

 差し出されるミネラルウォーターのペットボトル
 真希はその細い腕ごと掴みベッドへ押し付けた。スプリングが音を立てる。
 れいなはさして驚いた様子もなく、真希の目を見つめる。

「れーなが最近辞めろって言うから、外で吸う量も減っちゃってさ。
 タバコ吸わなくなったの?ってこの前言われちゃった。友達に辞めろって言われたの?だって」

 最高の獲物を見つけた猫のような、そんな顔をして笑う。
 そして、れいなの細い肩に突っかかっているだけのような、薄いキャミソールをたくし上げ、素肌に触れる。
 
 れいなの喉が微かに動いた。

「水、飲まないんですか?」

 覆いかぶさる真希の背中に、ボトルをコツンとぶつける。
 真希はれいなの素肌を触りながら空いているほうの手でボトルを掴んだ。

「飲む。あけて」

 再びボトルはれいなの手に。目の前に押し付けられるように出され、フタを開けてやる。
 
「はい」

68 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/24(木) 00:58


 ごくごくと、美味しそうに水を飲む。喉が気持ちよさそうに波打ち、それから首筋に雫が伝う。
 真希はその雫を拭おうともせず、ボトルを開けたままベッドボードへ置き、
 濡れた口でれいなの首筋に口付けを落とす。

「んっ…」

 一瞬、腰が浮いた。真希はそれを見逃さなかった。

「れいな、タフだねぇ」

「ごとーさんこそ」

「あたしはイカせる側だから大丈夫なの」


 真希はニヤリと笑い、キャミソールを首元までたくし上げた。
 その下には何もなく、形のよい控えめな胸とツンと上を向いた頂が現われる。  
 真希は躊躇いもなくその赤く上を向いたそれを口に含む。

「あっ」

 冷め切らない熱が、再び上昇を始める。 
 れいなは細い腕を真希の首に巻きつけた。 

69 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/24(木) 01:00



 浅い呼吸を繰り返しながら、小さな背中が上下している。恥ずかしげもなくベッドに放りだされた裸体には
 赤紫の斑点が痛々しく身体のいたるところに撒き散らされており、異様な模様を作り上げていた。
 何度目かの絶頂。うつ伏せで真希の指に翻弄され頭の中で何かが弾けた。長い余韻が下腹部を襲う。
 れいなはベッドにうつ伏せたまま、その余韻に耐えていた。

「れーな、お風呂いっしょにはいろー」

 それなのに、れいなの身体を翻弄した張本人は涼しげな顔をして風呂の準備をしていた。
 バスタブにお湯を張っている。シャワーで済ますつもりはないらしい。

「今は入れん」

 違和感の残る下腹部を労わる。呼吸は落ち着いたものの、動ける気がしない。
 くしゃくしゃになったシーツには所々に染みが出来ていた。行為の激しさを物語っている。
 
「なに?ごとーやりすぎちゃった感じ?」

「…自覚あるんならやめてください」


 ニシシ、とでも笑い声が聞えてきそうな声色だ。
 れいなは顔だけを動かし、真希を見た。予想通りにニヤついている。
 ベッドに頬を押し付けたまま睨んでやった。

「だってれーなの身体…」

70 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/24(木) 01:01


 
 超気持ちーんだもん




 人間関係にも相性があるように、身体にも相性があることを知ったのは真希と出会ってからだった。
 人並みに恋をした。そして身体も重ねた。だけど、真希ほどもっと欲しく、知りたくなる身体は初めてだった。
 何度落とされてもれいなの身体は熱を持った。何度絶頂を迎えても再び真希を受け入れた。
 
 れいなの身体がビクンビクンと静かに波打つ。
 最後の余韻だったのか、ゆっくりと身体を仰向け、そして足元でくしゃくしゃになっていたタオルケットを身体に巻きつけた。


「れーな、ちょっと寝る」

「お風呂沸いたら起こすね」

「うん」

71 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/24(木) 01:01


 
れいなと真希の関係を表すのは困難だ。
 もちろん友達ではない。だが恋人というには他に邪魔するものがあり、
 セフレと言うには何かが多すぎた。


72 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/24(木) 01:02


「れーな起きて」
 
 真希が眠っているれいなの頬を撫でる。
 れいなは吸い寄せられるよう、その手に頬を摺り寄せ浅い眠りから覚醒した。

「お風呂沸いたよ。はいろー」

 むずがるように、首を振り真希の掌を掴む。そのまま自分の顔に押し付け、頬や額を擦らせた。

 れいなは真希の掌が好きだった。
 女性にしては少し大きく骨ばっている。それなのに長く綺麗でしなやかで。
 いつも少しひんやりとしている癖に、とても優しい。

「起きて。いくよ」

 子どもをあやすような、そんな手つきで頬や髪を撫でられれいなはゆっくりと瞼を開けた。
 優しすぎる眼差しを向けられ、真希の首に腕を巻きつける。

「なに?どした?」

「…なんでもないと」

「ふふっ」

 真希は柔らかく笑い、れいなの細い背中を抱きしめた。
 ぽんぽん、と背中を一定のリズムで叩く。
 れいなは真希の首筋に鼻先をすり寄せた。

73 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/24(木) 01:03




 どこにもいんとって



 
 そう言えたらどんなに楽だろう。
 恋人と言えない関係に野良猫のような真希を引き止める術をれいなは持ち合わせていない。
 ふらりとどこかへ行き、知らない匂いを纏って帰ってくる彼女を問い詰める理由もない。


 どこへ行って、何をしているのか
 どんな人と会って、どんな生活を送ってここに来るのか
 れいなはなにも知らなかった。真希のことは何も、知らなかった。


「何時に出ると?」

「…出て行かないよ」


 ウソツキ。れいなは真希の言葉に笑い、唇に噛み付いた。
 

「それまではれいなだけのもんやけんね」

 
 

 情熱のキスをひとつ、れいなを真希のココロに落とす。


    
74 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/24(木) 01:05
 
75 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/24(木) 01:05
 
76 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/24(木) 01:08
以上『情熱のキスを一つ』ごまれな
これもマイナー?ですが好きなカプ
どっちも猫っぽいけどごっちんの方が野良っぽい
そんな雰囲気が凄く好きです

もうちょっと歌詞に忠実にしようと思ったけど無理だった…



>>5-8『充電』 ガキカメ
>>10-13『説教ディナー』 こはみつ
>>21-27『18歳の事情』こはみつ
>>36-42『19歳の不可解な行動』こはみつ
>>51-57『Only you』ガキれな
>>66-73『情熱のキスを一つ』ごまれな
77 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/24(木) 01:25

しまった
>>73の1行
どこにもいんとって←×
どこにもいかんとって←○

でした。脳内変換お願いします
78 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/24(木) 08:47
マイナーカプktkr
いつまでもごまヲタのれいなっていう関係がなんか良いですよね!
猫っぽい2人イイ!!
79 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/25(金) 22:34
初めてきました
ごまれなも久々ですが個人的にガキれなにやられました
もっと増えても良いのにっ…
80 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/04/09(月) 00:16
>>78さん
ごまれな大好物です!ドリムス。武道館のリハ話とかも最近聞けて
ごまれなほくほく!猫同士だからまたいいですよね
ありがとうございます。


>>79さん
ありがとうございます!
ガキれな話つくり途中なので、気長に待ってていただければうれしいです!
ちょくちょく覗いてやってください。
81 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/04/09(月) 00:17
 
82 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/04/09(月) 00:17
お久しぶりです。更新します。
2ヶ月前くらいにタイムスリップしていただけると嬉しいです
83 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/04/09(月) 00:18
 
84 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/04/09(月) 00:21



 さすがに国境越えはきついなぁ。



 それでもほんの少しでも距離が近付くように、愛佳はベランダに出て空を見上げた。
 いつもよりも時間をかけて作ったデコレーションメール。
 彼女の好きだといったキャラクターがあちらこちらで動いている。
 
 お誕生日おめでとう

 あえて日本語を使ったのは、こちらでのことを忘れてほしくないという願望なのか。
 愛佳は嫌味なほどにややこしい言葉をふんだんに使ったメールを中国へ飛ばした。
 
 レギュラーでバラエティ番組に出演しているらしい。
 主演映画ももうすぐ公開らしい。
 日本ではあまり出来なかった写真撮影もたくさんしているらしい。


 どんどん、距離が離れて行くようで怖かった。
 中国で上手くいかず、こっちへ戻ってくればいい、と何度も思った。
 
 電車でいける距離ならば。
 パスポートなんて必要ない場所ならば。

85 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/04/09(月) 00:22


「いくら空が繋がってるとはゆうてもさ…」


 
 すごく、寂しくなる。
 一人日本に残された自分。中国で羽ばたいていく彼女達。
 いくらお隣の国とはいえ


「さすがに国境越えはきついやろ」


 会えない寂しさに慣れてしまった。
 傍にいないことが当たり前になって、声を聞けなくても平気になって。
 『会いたい』なんてもうきっと口に出したりしなくなって。
 
 大人になったのかな。

 こんな一言で、溢れ出しそうな感情を抑えることができる。


86 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/04/09(月) 00:23

 今日は東京では珍しい程に星が輝いて見える。
 澄み切った夜空を見上げながら携帯をポケットにしまった。
 
 その時だった。



「――――――――………っ」

『みっつぃさーん、メール届いただよーありがとゴザイマス』

「…なんで?」

『寂しがってると思ってデスね、ジュンジュン電話かけちゃった』

「あほ、国際電話の通話料高いやんけ」

『ダイジョブですよージュンジュン、ちゃんと頑張ってますダカラ』


 無理なことを言って嫌われるのが怖かった。
 連絡が取れなくなることが一番、怖かった。

 だけど、久しぶりに聞く彼女の声は


「…知ってる。映画、おめでとう」

『ありがと。ジュンジュン主役よ』

「調子のんな」


 
 大人になったはずの心を溶かしていく

87 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/04/09(月) 00:24

『ふふ。みっつぃさんちゃんと見てくれてるだから、ジュンジュン嬉しいヨ』

「ちゃんとブログ更新せぇ」

『あ、みっつぃさんのブログはちゃんと毎日見てるダヨ?』

「話聞いてんのかアホ」

『みっつぃさん可愛くなったね。なんか大きくなったダネ』

「大きくなったってどぉゆーことや」

『辛かったデショ?でも、頑張っただね』



 あの頃と何も変わっていない彼女の声が、言葉が。
 


『傍にいてあげられなくてごめんネ。支えてあげられなくてごめんネ。』



 馬鹿みたいに大きな心と暑苦しいほどの愛情が。


『でもジュンジュン、いっつも願ってるだから。みっつぃさんの怪我が早く治りますよーに
 みっつぃさんがいっつも笑顔でいられますよーに、って思ってるだからね。だから…』

「ジュンジュン、会いたい。」

88 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/04/09(月) 00:24





 からっぽだった心が満たされる。
 抑えつけた感情が、爆発する。



89 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/04/09(月) 00:25

「あんたに会いたい。今すぐ会いたい」

『会いましょう、ゼッタイ。ジュンジュン、みっつぃさん会うため日本行きますから』

「いつやねん。嘘ばっかゆうな」

『嘘じゃナイ。ジュンジュンみっつぃさんに嘘ついたことない』

「…うそつけ」

『ジュンジュン、会いに行くデスよ。だからみっつぃさん』



 約束して。


 彼女は静かな声でそういった。


『寂しいときに我慢しないで。会いたいって言うの、我慢しないで』

「…なんでなん?」

『ナンデナン?』

「なんで、そんなこと言うん?」

『ジュンジュン分かってるよ。みっつぃさんがいっぱい我慢してるの、いっぱい寂しいって思ってるの
 だってジュンジュンみっつぃさんの傍にいたもん。一緒にモーニング娘。だったもん』

90 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/04/09(月) 00:28



 一緒の8期メンバーでしょ?




 泣くことを躊躇わなかった。
 我慢することも、甘える事も、精一杯の愛情をぶつける事も


『モーニング娘。の8期メンバーは世界でたった3人だけダヨ。いつまでも離れてもずっと、同期だよ』

「…ジュンジュン、お誕生日おめでとぉ」



 彼女の前だからできるんだ。 



『ありがと、みっつぃさん。 ダイスキだよ』





 彼女の声は寒い夜空によく響いた。
 
91 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/04/09(月) 00:33
以上『東京の空から』光純でした。

8期が8期らしく3人での活動って殆どなかったけど
でも同期は同期としてちゃんと繋がってればいいな。と
ジュンジュンの誕生日に全く間に合わなかったのが申し訳ない。
光純好きなカプですw

>>5-8『充電』 ガキカメ
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>>84-90『東京の空から』光純
92 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/10(火) 00:46
更新待ってました!!
夜中に泣かせるなんて罪な作者様・・・
93 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/11(水) 11:14
光純はなんとも言えない距離感があったり、同期の絆があったり、見ていて微笑ましく面白い関係でした。
読了後に爽やかな気持ちになりました。
これからも楽しみにしてます。
94 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/11(水) 17:15
。・゚・(ノД`)・゚・。
95 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/04/25(水) 00:18
>>92さん
わぁー!待っててくださってありがとうございます!
罪だなんてうふふw
現役時代の光ジュンの関係が凄く好きでした

>>93さん
ありがとうございます!
『微妙』な距離感がある8期の関係性が凄く好きでした
でもジュンジュンの隣にいるときしかしない顔とかあって勝手にキュンキュンでしたw
また覗いてください!頑張ります

>>94さん
光ジュンふぉーえばー!
96 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/04/25(水) 00:19
 
97 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/04/25(水) 00:28

昨日発売の某ファッション誌のネタバレ?含むので注意


98 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/04/25(水) 00:30



「ちょっと久住さん、これどーなってるんですか?」

「なによ!どーなってるってどーいうことよぉ!」

「ちょっと愛佳、見たことないボリュームに動揺してます」

「見たことなくない!紛れもなく小春の!」

「うそぉ」

「うそじゃないもん!」


 と言いながら胸を張る小春のそこは、やはり写真ほどのボリュームを感じることができず
 愛佳はその姿に笑いを抑えることができなかった。

「ホンマにどぉなってるんですか、実際」


 雑誌のそのページを色んな角度から見たところで仕組みが分かるはずもないのは承知だが
 そんな行動をせずにはいられない。
 雑誌を目の高さに、水平にして見てみたがそこを覗くことは当然できない。
 
99 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/04/25(水) 00:30



「本物だってば」

「じゃ触っていいです?」


 思わず小春のそこに手を伸ばす。
 小春は両腕を守るように胸の前でクロスさせそれを阻止する。

「そんなエロオヤジみたいなこと言わないでよ」

「大きくしたげまっせ」

「ばか」


 流石に言い過ぎたか、むすっと口角を下げてしまった。
 愛佳の手から雑誌を取り上げ閉じてしまう。
 
 もうちょっと豊満な小春のそこを眺めていたかったがさすがにそれが出来るような空気じゃない。

「みっつぃのばか」


 距離をとられた。
 わざとらしく部屋の隅っこに行き三角座りしている姿が妙に愛らしい。
 
 だが流石にまずい。
 小春が拗ねると厄介だ。


100 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/04/25(水) 00:31


「どーせみっつぃはおっきいもんね。」

「そんなんゆうてませんやん」

「やっぱり誰でも大きい方がいいんだよね。ごめんね小春はちっちゃくて」

「誰も久住さんがちっちゃいとか、おっきいほうがいいとかゆうてませんって」

「でもみっつぃーずっと見てたじゃん」

「いや、それはなんか…衝撃的で」



 本格的に拗ね始めた。大きな体を丸めていじけている。
 いつも自信満々で天真爛漫でポジティブシンキングな彼女からは想像がつかないほどのマイナスオーラが出ている。

 その姿が愛おしくてたまらなくなった。
 愛佳は思わず緩んでしまう唇を引き結び、四つん這いで小春に近付いた。

 気にしなくていい、と言っても、どうせ、と反論されることは目に見えている。
 つん、と指で肩を突いて小春の隣に同じように座った。

101 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/04/25(水) 00:32


「愛佳は久住さんが好きです。」

「…なによ、その告白」

「そのままの久住さんが好きです」

「ばぁか」


 こつん、と肩で小突かれる。
 膝に埋めていた顔を上げたがその顔はまだぶすくれている。


「ばかみっつぃ。騙されないもんね」

「なにを騙すんですか」

「おっきいほうがよかったくせに」

「愛佳は久住さんがいいんです」

「……」

「そのままの久住さんがいいんです。」


 いつもなら言えない言葉がするすると出てくる自分がおかしい。
 唇を尖らせながら上目で愛佳を見つめる小春が愛おしい。
 
102 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/04/25(水) 00:33


「…おっきくなくても?」

「もしいきなりそうなったらびっくりしますわ」

「じゃぁみっつぃがしてくれる?」

「愛佳が?」


 突然ひょろ長い腕が伸びてきて身体を掴まれる。
 膝の間に閉じ込められてぎゅうぎゅうと抱きしめられた。


「みっつぃがしてよ」

「そんな自信ないけど」

「…自信あっても困るよ」

 捕まえられたその先にあった首筋に柔らかく噛み付いた。
 細い顎が上がる。
 
103 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/04/25(水) 00:34


「でも、そんなに気にしてはったんですか?」

 首筋を唇で辿りながらゆっくりと小春の身体を押し倒す。
 ラグマットに身体が沈んでいく。


「…小春だって女の子だもん」


 自信なさげに揺れる瞳に愛佳の心がぎゅっとする。
 思わずその頬に手を添えて、ばらばらになった前髪を整えてやった。


 
「好きですよ、久住さん」

  

 ばぁか。そう言って目を瞑った小春の唇に愛佳は自分のそれを押し付けた。 
 
104 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/04/25(水) 00:34
  
105 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/04/25(水) 00:34
  
106 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/04/25(水) 00:43
以上『だって。』こはみつでした。

昨日発売の某雑誌を見て勢いで書きました。
たまには小春が愛佳に嫉妬すれば可愛いのに!


そんな雰囲気じゃない流れからそこに行ちゃうのこそこはみつのいいところ!(妄想)


あの小春の謎については追求しませんw
どうであれ、小春は小春です!!




>>5-8『充電』 ガキカメ
>>10-13『説教ディナー』 こはみつ
>>21-27『18歳の事情』こはみつ
>>36-42『19歳の不可解な行動』こはみつ
>>51-57『Only you』ガキれな
>>66-73『情熱のキスを一つ』ごまれな
>>84-90『東京の空から』光純
>>98-103『だって』こはみつ
107 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/27(金) 00:17
妄想万歳。
エロくても可愛い雰囲気が消えない感じ。
キュンとしちゃいます。
108 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/29(火) 19:42
1レスごとに噴き出しつつ、最終的にはなんとも可愛くて(*´ω`)
また二人の共演が見たいですねぇ…
109 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/11(月) 00:34
110 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/11(月) 00:41
>>107さん
妄想万歳!!!!
エロ可愛いでこはみつは居てほしいですね!
ありがとうございます


>>108さん
愛佳がわーわー言って小春がぶすくれるのは可愛いと思いますw
また見たいですね、共演。あの頃のMC楽しかったなぁ…
ありがとうございます!
111 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/11(月) 00:44
  
112 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/11(月) 00:45
きっと一ヶ月とちょっと前、の話。
113 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/11(月) 00:45
  
114 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/11(月) 00:45

 光井さんの突然の卒業発表を聞いたあと香音ちゃんは誰にも何も言わず会議室から出て行った。
 壊れそうな心をたくさんの鋭い棘で隠し、膝を抱える姿はまるでハリネズミみたいだった。

 
 あまり利用されない階段の真ん中で膝を抱える香音ちゃんになんと声をかけていいか分からず
 あたしは黙ったまま、その姿を見下ろした。

 香音ちゃんが悲しい、寂しいって大きな声で言ってくれたら
 あたしは迷いなくぎゅっと抱きしめてあげることができるのに
 本当に言いたいことは心の奥に仕舞って鍵をかけてしまう。
 あたしはたくさん助けられているのに、香音ちゃんの事を助けることが出来ない。
 こんなに一緒に居るのにかけてあげる言葉一つ浮かばない。


 あたしはここにいるよ、いつだって香音ちゃんの傍にいるよ
 そんな風にいえたらどんなに楽だろう。
 

 だけど現実は拳を握って背中を見つめることが精一杯だ。

115 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/11(月) 00:47

 黙ったまま戻ろうかと葛藤しているとき、ぽんと誰かに肩を叩かれ心臓が跳ねた。
 
「…!」

 光井さんだった。
 背中を二つ、撫でられる。
 
 困ったように唇を引く。綺麗にそろった歯が覗き、それから頷いた。
 任せて、でも、ごめんね、でもないそんな表情がいかにも光井さんらしくて
 あたしは声にならない言葉に頷いた。

「鈴木」

 静かな空間に光井さんの声だけが優しく響く。
 
 この後、光井さんはなんと言葉を続けるのだろう
 そして香音ちゃんはなんと言い返すのだろう

 
 あたしには出来ない何かが光井さんにはある。

 
 そう思うと、光井さんの事が羨ましくて、そしてなんだか悔しくて
 あたしは無意識に唇を引き結んでいた。

116 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/11(月) 00:48


「香音ちゃん」


 諭すような声色。
 光井さんの手が香音ちゃんの肩にかけられる
 そしてそのまま、あまりに自然な流れで香音ちゃんの体を包み込んだ。


「愛佳はこれからも鈴木がめちゃめちゃいい笑顔で歌って踊ってるとこが見たい」


 香音ちゃんってこんなに小さかったっけ。
 光井さんってこんなに大きかったっけ。

 
 あたしにはない『何か』を、確かに光井さんに感じた。


 いくら同期でも一緒に居る時間が長くとも、敵わないものがあるんだと
 まざまざと見せ付けられたような気がして胸が痛んだ。

117 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/11(月) 00:49

 2人に悟られないよう静かに踵を返す。
 よく分からない感情が渦巻く。

 あたしも光井さんが言ったように、香音ちゃんには笑顔で居てほしい。
 だけど、それくらいあたしにだって言える。
 なのにどうしてあたしはその一言が言ってあげられないんだろう。


「行こ、鈴木。りほちゃんがあんたのことずっと心配してるで」


 あたしの気持ちを知ってか知らずかそんな事を言う光井さんはやっぱりいつもの光井さんで
 不意に名前を出され振り返ってしまった瞬間に視線がかち合ってしまった。
 

 どうして全てを自分のものにしてしまわないのだろう。
 惜しみもなく周りに与えられるんだろう。
 自分のことを犠牲にしてまで、こんなにも優しく包み込めるんだろう。


 今のあたしには分からない。だからきっと光井さんには敵わない。
118 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/11(月) 00:50



「なんであたしの居る場所、光井さんにも里保ちゃんにも分かっちゃうんでしょうねぇ」


 ふにゃり、と表情を崩して膝から顔を上げる香音ちゃん。
 態と明るく振舞っているのくらい分かっている。きっと光井さんも気付いているだろう。
 だけどあえて触れることなく、光井さんは香音ちゃんのポニーテールを指でくるくる遊びながら笑った。


「里保ちゃんは流石やな。鈴木のいる場所、すぐ分かるんやもんな。
 愛佳は里保ちゃんが鈴木のこと追いかけるの見えて、その後こっそりついて来ただけ。いいなぁ、同期愛」


 大切にしぃや。


 香音ちゃんの髪の毛から光井さんの指がするりと抜ける。
 あたしの肩に指先が触れる。優しい香りが通り過ぎた。


「愛佳、今から会う人おるし先行くな」

 
 怪我をした左足を庇いながら階段を上る姿があぶなっかしい。
 
 光井さんがどんな気持ちで卒業を決意したのか
 そんなのあたし達が到底わかりっこないけど、
 勝手に想像するその感情を微塵も見せることなく


「はよ行きや。聖ちゃんもえりぽんも待ってたで」


 いつもの光井さんの、少し幼い笑顔を残して去っていった。
119 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/11(月) 00:51

「…強いね、光井さん。あたしがこんなんじゃダメだって分かってたんだけどね」


 あーぁ、と大げさなくらい溜息を吐いて膝をぽん、と叩き立ち上がる。
 香音ちゃんは妙にすっきりとした顔をしてる。
 
「分かってたんだけど、無理だったぁー」

 うわーとかあーとか叫びながら何にもない天井に向かって伸びる。
 その姿は少なくとも、ハリネズミではない。
 だけどやっぱり、あたしは上手く香音ちゃんに声をかけることが出来ず
 下手糞な笑顔を貼り付けて香音ちゃんを見下ろした。
 
「なんちゅー顔してんのよ、戻ろ里保ちゃん」

 その表情に苦笑いしてあたしのほっぺを指先で突く。
 そだね、突かれたほっぺを業とらしく痛がりながら階段を上った。
 
 静かな廊下に足音だけが響いた。
 浮かんでは消える、香音ちゃんへ向けた言葉はあまりにありきたりで
 それを彼女に伝えることが出来ず、2人の間に会話はない。
 それでも何故か気まずい空気にはなっていないのは、きっと光井さんが香音ちゃんの棘を外してくれたからだろう。

 香音ちゃんの横顔を盗み見る。
 口を一文字に結んで、真っ直ぐ前を見据えていた。

「…あ」

「え?」

 不意に破られる沈黙。
 香音ちゃんはぎゅっと結んでいたはずの口をぽかんとあけた。
 視線の先を追う。見慣れた後姿とその前にある…
120 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/11(月) 00:53


「あれって、久住さん?」


 ショートカットの背の高い女性。
 
「でも久住さんってショートだっけ?」

 なにか喋っているようだ。光井さんは後を向いている所為でなにを言っているか分からないが
 久住さんと思われる女性が余りに真剣な表情をしているので、明るい話題でないことは確かだ。

「久住さんだよ、絶対」

 香音ちゃんがそう言った、その瞬間。
 吸い込まれるよう光井さんの体が久住さんの腕の中に納まった。
 背の高い久住さんに縋りつくように光井さんが腕を回す。
 壊れ物を抱くかのように優しく優しく久住さんが抱きしめる。

 全てがスローモーションに見えた。
 聞こえない言葉も、感じるはずのない匂いも体温も、全部全部伝わってくるかのようだった。

 
 同期愛、大切にしぃや。


 不意に光井さんの言葉が頭の中でリフレインする。
 それと同時に右手に感じる温かさ。

「…ありがとね、里保ちゃん。あたしは里保ちゃんが居てくれてよかった」

 香音ちゃんの視線は吹き抜けを挟んで斜め向かい側の廊下に向けられたまま動かない。
 あたしはその横顔を見つめた。綺麗な綺麗な横顔だった。

「光井さんに久住さんがいるみたいに、あたしには里保ちゃんがいる。聖ちゃんも、えりぽんも」
121 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/11(月) 00:55


 光井さんだって決して強いわけではないんだ。
 後輩を不安にさせないよう、強くあろうとしているんだ。
 それは間違いなく、久住さんの支えによって。
 香音ちゃんの棘を光井さんが溶かすように、
 光井さんの不安や悔しさを久住さんが包むんだ。


「だから、大丈夫だからね」

 ぎゅっと右手に力が込められる。
 香音ちゃんと視線がかち合った。
 あたしは強く、大きく頷いた。

「あたしはいつでも香音ちゃんの傍にいるからね、笑顔で頑張ろうね」


 ありきたりで、幼い約束に香音ちゃんが笑顔で答えた。
 それはあたしの知ってる大好きな弾けるような笑顔だった。


   
 進め。迷わず、真っ直ぐに。
 心配いりませんよ、任せてください。
 胸を張ってそう言えるように。
 支え支えられ、いつでも強く笑顔で在れるように。


122 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/11(月) 00:55
   
123 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/11(月) 00:55
  
124 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/11(月) 01:00
以上『わたしがいて、きみがいる。』

愛佳の卒業発表があったとき
もし、りほかのがこんなんだって、髪の毛切ったばかりの小春が丁度会社にいて。
…みたいなそんな妄想。


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>>114-121『わたしがいて、きみがいる。』
125 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/14(木) 08:44
作者さんの描く光井さんは頼もしくもあり、可愛らしくもあり、とても好きです。
126 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/29(金) 00:27
>>125さん
そうあってほしい、という自分の願望が出ているのだと思います。
素敵なお言葉をありがとうございます!!
127 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/29(金) 00:27
 
128 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/29(金) 00:29
更新します。
先日大成功に終わった910期れいなの舞台を元ネタに最年少2人で。
苦手な人、舞台のネタバレが困る方は回避回避。

129 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/29(金) 00:29
 
130 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/29(金) 00:30
 
131 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/29(金) 00:31


 よく分からない奴だと前々から思っていたけど、舞台本番終了後の楽屋で
 『くどぅの再殺の権利をまーちゃんにちょうだい』と
 結構真面目な顔して言われた時には流石に面食らった。
 マジで頭が狂ってしまったんじゃないかと思い、遥も結構真面目な顔で
 優樹に詰め寄り真っ直ぐにそろった前髪を上げて額に手を押し当てた。

「ね、まーちゃん大丈夫?役に入り込むのは良いけどさすがに怖いよ」

 優樹は先ほどと打って変わって、今で言う『多幸感に溢れた』表情で首を傾げている。
 その表情に遥の背筋が凍った。それと同時に変な感覚に囚われる。
 優樹は本当にその状態で、遥達は『屍少女』になってしまう運命にあるのではないか、と。
 きっと今にも『再殺部隊』がやってきてあっという間にぐちゃぐちゃにされてしまうんだ。

132 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/29(金) 00:31


 自分はまだ13だ。そして優樹は数ヶ月ではあるが年下だ。
 可能性としては遥の方が早く屍になってしまう。
 そうなると自分を再殺するのは優樹であってもおかしくはない。
 
 優樹は、んふふ、と。その状様特有の笑い方をしている。何が、おかしいのだろう。 
 
「ね、まーちゃんはなんで笑ってるの?」

 額に当てていた手を下ろし、優樹の肩を掴んだ。
 馬鹿な質問をしていることは分かっていた。分かっていたがその笑顔が怖かった。

「わかんない。わかんないけど笑ってるよ」

「じゃぁハルも笑わなきゃいけない?」

 優樹はまたニコリと笑った。多幸感に溢れている。

「好きにしたらいいよ。だけど今くどぅは怖い顔してる。
 んふふ、笑ってよくどぅ。まーちゃん、くどぅの再殺の権利がほしいんだ」

133 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/29(金) 00:32


 『多幸感に溢れた』笑顔を浮かべる少女は時に、訳のわからないことを口にする。
 あぁ。いよいよおかしくなってしまったな、と優樹の表情を見て思った。 
 だがそれを上回ったのは『再殺』されるという恐怖心だった。

「なんで、なんでハルの再殺の権利がほしいの!?」

 またニコリ、『多幸感に溢れた』笑顔。
 優樹の言わんとすることが分からない。

「だってくどぅはまーちゃんのものだから。まーちゃんのものにしたいから」

「ハルはまーちゃんのものなんかじゃないよ!誰のものでもない!」

 肩を強く掴んだまま叫んでいた。

「ハルはまだ死んだりしないもん!再殺なんてされないよっ!」

 彼女はこんな恐怖と戦っていたのか。
 遥はフリルの付いた白い服を着て乱暴な口調で喚く誰かを思い出していた。 
 
134 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/29(金) 00:33


 いつ一度目の死が訪れるか分からない。
 いつ『屍少女』として再びゆらゆらするか分からない。
 いつ、『再殺』されるか分からない。


 息苦しい。 
 本当に一度目のお別れをしなくてはいけないのかもしれない。
 遥は喉を鳴らし、そして尖った八重歯を見せたまま浅い呼吸を繰り返した。
 
 優樹の肩を掴んだ手がぶるぶると震える。
 上手く呼吸ができない。ひゅう、と喉が鳴った。
 遥に残された時間は思っているよりもどうやら短いようだ。

「…いいよ。あげるよ。ハルの再殺の権利、まーちゃんにあげる。
 ハルはどんな運命も受け入れなくちゃいけないから」

 白い服の少女が言っていた。
 あるがままに、運命を受け入れなければいけない。それは仕方のないこと

135 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/29(金) 00:34


 ペタン、と床に座った。
 落ちそうな指先を優樹が掴む。やはりその表情は幸せに満ち溢れていて
 遥は何故か穏やかな気持ちになった。

「ありがと、くどぅ。だーいすきっ!!!!」

「…ばーか」

 
 悪夢は終わりだ。 
 あとは優樹に任せればいい。
 遥はゆっくりと目を閉じた。

136 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/29(金) 00:35




 目を閉じた、つもりだった。



「―――…」

 目を開けたそのすぐ傍には安いパイプ椅子に座り机に突っ伏して、腕を枕に目を閉じる優樹が居た。
 遥は戸惑う。これは夢?現実?彼女は…生きている?

 頭が重い。耳鳴りが酷い。思うように身体を動かせない。
 
 遥は優樹と同じように枕にしていた腕を抜き彼女の身体に触れた。
 だが指の感覚が麻痺しているのか、そこから温かさを感じることが出来なかった。
 言いようのない不安に襲われ触れた肩を掴み左右に揺すった。
 
「まーちゃん」

 綺麗に揃えられた毛先が、伏せられた長い睫毛が揺れる。

「…くどぅ?」

 眠たげに持ち上げられた優樹の瞳に自分が映っている事を確認してから
 遥は机に突っ伏したまま、優樹に問いかけた。

137 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/29(金) 00:36


「ね、まーちゃん。ハルの再殺の権利、もらってくれる?」



 同じく優樹も机に突っ伏したまま答える。
 ニコリ。
 眠たげな瞳が三日月に形を変える。
 んふ、と抜けるような吐息。唇の端が優しく持ち上げられた。
 ニコリ、ニコリ。


「うん。くどぅの再殺の権利をまーちゃんにちょうだい。」


 くどぅはまーちゃんのものだから。


 夢でも聞いた言葉に遥は今度こそ頷いた。
 ニコリ、ニコリ、ニコリ。
 

 こういう時はなんて言うんだっけ。


 優樹の『多幸感に溢れた』笑顔を存分に眺めてから



 そうだ、思い出した。



 遥はゆっくりと目を閉じた。


138 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/29(金) 00:36
   
139 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/29(金) 00:36
 
140 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/29(金) 00:41
以上『だから気まぐれな神様は』

夢の中で夢を見ることってありません?
勢いだけで書いたのでゆるーい感じで読んでいただければ嬉しいです。
早くDVDが発売されてほしいものです!原作もオススメです。

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>>131-138『だから気まぐれな神様は』どぅまぁ
141 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/07/01(日) 08:59
素直な工藤のしおらしさは異常。
面白かったです。
142 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/07/17(火) 00:04
>>141さん
素直な工藤さん可愛くて仕方ありません。
ありがとうございます!
143 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/07/17(火) 00:06
>>131-138『だから気まぐれな神様は』どぅまぁ
訂正。工藤の方が年下でしたね
だからステーシー化するのはまぁちゃんの方が早い…
書いた後で気がつきました。すみません、最年少優樹の設定で読んでくださいq


更新します。マイナー中のマイナーカプ?

144 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/07/17(火) 00:07
  
145 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/07/17(火) 00:07
  
146 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/07/17(火) 00:08


 『ゆう』優しい響きの名前が心地いい。
 無意識のうちに愛佳は友の名前を何度も呼んでいた。
 
 そんなに呼ばなくても聞こえてるよぅ
 
 わざとらしく唇を尖らせて振り返る。
 彼女に言われてようやく自分が何度も名前を呼んでいたことに気付き、恥ずかしくなって笑った。

「あんたの名前が好きみたいや」

「もーなにそれ」

 白い歯を見せて笑う。
 
 初めて出会ったのは6年位前か
 同じ世界で進んだ道は違ったが、今でもこうやって一緒に仕事を出来ていることが嬉しい。
 
 友は会うたびに女性らしく大人っぽくなっている。
 どちらかと言うと年齢より若く見られる愛佳にとって、友の容姿は羨ましかった。
 しかしその中に嫉妬などの感情が含まれているわけではない。
 ただ単純に綺麗だ、と見とれてしまう。

147 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/07/17(火) 00:12

「写真撮って。せっかくCDもらったしブログに載せていー?」

「えー顔出しNGなんですけどー」

「なんでやねん」
 
 白く綺麗に並んだ歯を見せながら目を三日月にしてケタケタと笑いあう。
 容姿の割に中身は幼い。友のそんなところが愛佳は気に入っていた。
 
 iPhoneのカメラをフロントに設定して腕を伸ばす。

「ホンマ大人っぽいよな友」

 画面の中にいる愛佳と友。
 ベビーフェイスだといわれる自分と並ぶとその差が歴然とする。
 友の方が先に生まれているとはいえ同じ学年。そうとは見えない何かがある。

「そーでもないけど。愛佳が幼い方だからじゃない?」

 アングルを気にしながら腕を縮めたり伸ばしたり。
 友とぴったりくっついた。
 
「撮るで」

「いいよー」

「もー友なんでいっつも顔隠すねん」

 シャッター音。
 
「だから顔出しNGだって」

「意味分からん。もう一枚」

 iPhoneを構える。
 友が顔を隠したまま愛佳の首筋に額をくっつける。
 ふわりと香る甘い匂い。
 ざわりと胸が騒いだ。くすぐったさに首をすくめる。
148 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/07/17(火) 00:13

「友、こそばい」

 シャッター音

 くすぐったいからか面白いからか、全快の笑顔で写る愛佳と
 顔を覆った手の下でケタケタ笑う友
 
「あたしは愛佳の声がくすぐったい」

「なにーよ、それ」

 撮った写真を確認しながら問う。
 友は未だ顔を手で覆ったまま、愛佳の首筋に額を押し付けて笑っている。

「だって友ゆうって、いっぱい名前呼ぶんだもん」

「そんな呼んでる自覚ないねんけどなぁ」

「それ、余計に悪いよね」

 ようやく顔から手をどける。
 押し付けられて額が首筋から離れ、次は肩に顎が乗せられ先ほど撮った写真を覗き込んでいる。

「友って名前が好き過ぎるんかなぁー」

 キシシ、と笑って視線だけを肩に乗る友に向けた。
 
「名前だけ?」

 近すぎる大きな瞳と視線がかち合う。
 悪戯に口角が上がっていた。

「ん?」


「好きなのは友の名前だけ?」

149 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/07/17(火) 00:15

 ふっと友が視界から消えた。刹那、頬に感じる柔らかい感触。
 驚きのあまり声も出ず、ものすごい速さで彼女を見た。

 唇を結んで、まっすぐに愛佳を見つめる眼差しにドキリと心が跳ねる。
 その表情はとても同い年とは思えないほど大人びていて、綺麗で、それでいて何故か切なかった。

「愛佳は友の名前だけが好き?」

 ケタケタと笑いあっていた空気はもうどこにもない。
 完全に空間を友が支配していた。愛佳は呆気なく飲み込まれていく。 

「友、愛佳のこと好きだよ。ホントはずっと好きだった」

 友の腕が伸びる。
 瞬く間に身体を包まれて、引き寄せられた。

 友の、甘い匂い。

「どこにいても、どこで会っても愛佳のことばっかり見ちゃう。
 最初は羨ましいだけだと思ってたけど、そうじゃないっぽんだよね」

 友の喉がコクリと動いた。
 今度は愛佳の額が友の首筋に触れている。
 そこは妙に熱かった。

「友って呼ばれるたびに、もっと呼んでほしいって思うんだよね」
150 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/07/17(火) 00:16

 自分の鼓動が早くなっているのがよく分かった。
 どきどきしすぎて彼女の声を聞き漏らしそうだ。
 だから愛佳は少しだけ腕に力を込めて隙間を空けた。
 その隙間に友はハッとしたように、腕を解いた。

「…ごめっ、愛佳の気持ちも聞かないでべらべらこんなこと」

「違う。愛佳は、愛佳もっ…」

 上手く言葉が出てこない。どきどきが邪魔をする。
  
「あんたの名前呼びたいのは、友に愛佳のこと見てて欲しいから…やと思う。やからっ…」

 この隙間に誤解をしないで欲しい。
 今度は愛佳が友を引き寄せる番だ。
 
 会うたび大人びていく友をただ羨ましく見ていただけではない。
 引き寄せられる何かがあった。離れていってほしくなかった。
 道は違えどあの時の苦労を共にした仲間、それだけで終わりたくなかった。

 本当はずっと前から気付いていたのに

「やから友」

 名前を呼ぶことで誤魔化していたんだ。


「…好きやで」

151 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/07/17(火) 00:17

 恥ずかしくて恥ずかしくてどうしようもなくて、友を強い力で抱きしめた。
 すぐに聞えてくる友のくぐもった声。あー、とかうー、とか意味のない言葉を発している

「ずるいって、その関西弁」

「やって関西人やもん」

「…あたしでいいの?」

「友がいいの。」

「こんな私でよかったら」

「…何上手いことゆーて」

 どちらともなく隙間を空けた。
 不意に視線がかち合い恥ずかしくなって俯き額同士をぶつけ合い笑う。

「もっと名前呼んで」


 『ゆう』優しい響きの名前が心地いい。
 呼ぶ度くすぐったそうにはにかむ友が愛おしい。

 

 不意に気付いた気持ち。
 あたしたち今日、始まりました。


152 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/07/17(火) 00:20
 
153 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/07/17(火) 00:20
 
154 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/07/17(火) 00:27
以上『今日、始めました』愛佳きっか

同じ8期オーデ受けて、歩いた道は違えどなんか仲良しで
6年越し?に一緒にラジオ出れたりして…勝手に胸熱カプですw
勢いだけで書いたのでテンション定まらず、
きっかのキャラ上手くつかめずしかもベタすぎてスミマセン

※2012.7.4 愛佳ブログ参照



155 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/07/17(火) 00:28

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>>146-151『今日、始めました』光友
156 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/07/19(木) 17:05
これはマイナーな組み合わせ…
そういえば、きっかメルマガでも光井さんに会ったことに触れてました。一言報告程度でしたが。
素直な光井さんかわいい。
157 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/02(日) 02:29

>>156さん
ありがとうございます
最近更に仲良くなったマイナーカプですw
素直な光井さん大好きです。
次投下するものも素直光井さんですのでよかったら是非!



158 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/02(日) 02:30
159 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/02(日) 02:30
更新します。
二十歳になった小春と十九歳の愛佳のお話

160 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/02(日) 02:32
  
161 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/02(日) 02:32

 電話口の声からして酒に酔っていることが分かった
 それなのに、会いたいと言われると
 風呂上りの髪の毛を乾かす間も惜しんでタクシーに飛び乗ってしまう。
 
 バカだとは思うが彼女からその言葉を聞くと平常心ではいられなくなる。


 エントランスで着いた事を知らせるメールを送り
 セキュリティロックを解除する。
 初めの頃はスマートフォンにメモ登録した暗証番号を見ながらボタンを押していたが
 今では携帯の番号よりも明確に記憶されている。
 
 ピ、という機械音の後、自動ドアが開く。
 彼女からの返事はない。眠ってしまったのだろうか。
 合鍵を出しながらだらしなくソファに寝そべる彼女の姿を想像した。

162 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/02(日) 02:34

「入りますよー…」

 可哀想なのでミュールを揃えてから足を踏み入れる。
 電気が煌々とついている部屋は予想外に小奇麗だった。
 所謂『宅飲み』ではなかったらしい。
 キッチンにそれらしき空き缶やつまみ類のゴミは見当たらない。

「その割にめっちゃくさい?」

 どんどん足を進める。
 リビングにある大きめのソファ
 足の先が見えている、予想は当たっていた。
 呼びつけたくせに彼女は眠っているようだ。

「ホンマ酒くさい」

 それにしても酷い匂いだ。
 家族にあまりお酒を飲む人が居ない所為かアルコールの匂いに慣れていない。
 たった一人からこのんなにもきつい匂いが発せられているかと思うと怖くなった。
 どれ程の量を飲んだらこうなるのか。

 同い年と言えど早生まれの愛佳はまだ未成年だ。
 お酒の味を怖さを知らない。

163 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/02(日) 02:34

「…みっつぃー?」

 先月二十歳の誕生日を迎えた小春はやっと解禁と言わんばかりによく酒を飲む。
 仕事上の付き合いが大半を占めてたがまだ二十歳になって2ヶ月ほどしか経っていないというのに
 浴びるほど酒を飲み、酔いつぶれ、記憶をなくすことがしばしばあった。

 そして酔いつぶれたその日には必ずといっていいほど愛佳を呼びつける。
 酔っ払いの世話などしたことない愛佳は初めの方こそ心配したが、…慣れというのは怖いものだ。


「いっつも思うけど、飲みすぎちゃいます?」

 酒臭いそれがぐしゃぐしゃと頭を掻き寝転がったまま伸びをする。
 マスカラが付いた睫毛が揺れる。まだ目は閉じたままだ
 どうせ開ける気などないんだろう。

「…飲みすぎなんかじゃないよぅ。小春ちゃんと自分で家帰ってきたもん」

 むにゃむにゃと唇を動かしながら寝言の様に言う小春を見下ろす。
 化粧を落としていない顔を手のひらで何度も撫でている
 グロスがマスカラがあらぬところへ付いてしまった。

「送ってもらったんやないんですか?」

 左の頬がてらてらと光る。

「送ってもらってないよ。ちゃんとタクシー呼んで一人で帰ってきた。
 だって家知られたらめんどくさいっしょ?」

「なんで?みんな仲良しなんでしょ?」

 もう一度自分の顔を撫で繰り回してようやく目を開けた。
 マスカラがすっかり剥げて目の淵を汚した。まるでパンダだ。

「仲良しなのはメイクさんとモデル仲間。後の人は別…。今何時?」

 短い毛先が色んな方向に跳ねている。
 ゆるくカールされていたのだろうが、今はまるで鳥の巣だ。

「12時過たトコです」
 
164 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/02(日) 02:36


 なんでこんなのんだくれのためにココにいるんだろ。


 鳥の巣頭の小春を見下ろしながら愛佳はふと冷静になる。
 そんな思いを知ってか知らずか、小春は睡魔に負けそうになる瞳で懸命に愛佳を捉え
 そしてふにゃり、と笑った。心底幸せそうに。そして嬉しそうに。

「夜中なのに、来てくれてアリガト」

 長い腕が伸びる。 
 愛佳は金縛りに遭ったかのように動けなくなる。
 
 酔っ払いの割りに強い力で引っ張られ、愛佳の身体は呆気なくソファに沈んだ。
 二人で選んだ大きめのソファは大人と子どもが寝転がっても十分な大きさだった。

「早くハタチになりなよぅ…」

 長い腕が身体に絡みつく。
 アルコールの匂いを傍で感じるのは正直いただけなかったが
 彼女に抱きしめられるのはやはり心地いい。

 愛佳は鳥の巣頭を梳いて毛先を整えてやった。

「早くみっつぃがハタチになってくれないと小春困るんだよー
 小春ばっかり酔っ払ってなんかいっつも電話しちゃって
 でもさ、みっつぃはちゃんとしてるから酔っ払ったりしなくって
 だから小春のことダメだよってきっと止めてくれると思うんだよね
 そうじゃないと小春ダメになっちゃうよ。なんかダメなの、こうなっちゃう」

165 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/02(日) 02:37


 これだから断れないんだ。


 夜中に陽気な声で電話をされても、懲りずにタクシーを飛ばしてしまう。
 小春は必ず愛佳を腕の中に閉じ込めて、一人で反省会を開きそれから近い未来を饒舌に語る。
 ただの酔っ払いの戯言だけど、愛佳はこれを聞くのが好きだった。
 酔っ払った小春、だからこそ何故か素直に聞けた。

「だってね、みんな友達とか呼んで楽しそうなんだもん
 小春もみんなと仲良いけど、愛佳のこと呼べないじゃん。
 あいかー飲みに来ない?って電話できないじゃん。…だから早くハタチになりなよぅ
 酔っ払いながら一緒に帰ってこよーよ、そんでまた家で飲みなおすの
 でね、このソファでこーやってお喋りしよ。いつの間にか朝になってたりして
 それで酔いが醒めてさ、正気になってバカみたいに笑いたい。よくない?小春の計画ね」

 愛佳は小春の髪の毛を良いように弄りながら近い未来の話を頷きながら聞いた。
 小春は目を閉じたまま、腕枕をしながら、反対の腕で愛佳の身体を抱きしめながら夢を語った。
 
「愛佳はさ、お酒強いのかな。小春はね、結構いけるんだよ。
 だけどやっぱり最初は怖いから甘いやつの方がいいと思うんだよね
 愛佳梅好きじゃん?梅酒のソーダ割りとかベタだけどオススメだよ。
 あ、今日行ったお店にはね黒酢の梅酒とかあってさ…絶対愛佳好きだろうなって思ったんだー
 お酢ハマってなかったっけ?一口だけもらったけど……なかなか美味しかったな…
 …今日のお店ちゃんと覚えてるから、愛佳がハタチになったら一緒に行こ…ね……
 それとね……あ、今日………愛佳が……………――――――――――――」
166 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/02(日) 02:38


 すぅ、と見事なまでの寝息を吐きながら小春は愛佳を抱きしめたまま夢の世界へ落ちていった。
 愛佳は髪の毛を指に絡めたままで寝顔を眺める。
 それはもう美人が台無しだ、と思うような気の抜けた寝顔だったが
 自分だけしか見る事ができないんだと思うと嬉しかった。
 
 大げさなまでに自分が想われている。

 愛佳の知らない世界で、ハタチになった小春がどんな事をしているか
 それは想像でしか知り得る事はできないけれど、確かなものがここにある。

 酔っ払いの戯言を聞くのも悪くない。
 温かすぎる腕の中で一緒に目を閉じるのも悪くない。
 普段呼ばれない呼び名で何度も何度も名前を聞くのも悪くない。

 だから愛佳はきっとこれからも
 電話がかかればいつでもこののんだくれの元へ急ぐだろう。

 そしてハタチになったとき、彼女の夢が叶うよう
 密かに努力をするだろう。

 まだ十九歳の愛佳は二十歳の小春の寝顔をたっぷり見つめてから目を閉じた。

167 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/02(日) 02:46
168 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/02(日) 02:46
169 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/02(日) 02:48

以上『ハタチの計画』
小春は飲めるクチの人、らしい。
愛佳はどっちなんでしょーね

170 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/02(日) 02:49

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>>161-166『ハタチの計画』こはみつ
171 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/09/04(火) 08:48
こはみつキタ━━━━━ノリo´ゥ`リ川=´┴`)━━━━━!!!!!
か、可愛い…
172 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/18(火) 00:05
>>171さん
ありがとうございます!
自分にとって可愛い、って言ってもらえるのが最高の褒め言葉です!!
173 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/18(火) 00:07
更新します。
リーダーと最年少の二人
174 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/18(火) 00:08
  
175 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/18(火) 00:13


「みちしげさーんっ!!!」


 甲高い声に小さく息を吐いて顔を上げた。
 おかっぱ頭を揺らしながら走ってくる佐藤優樹。

 この場所なら静かに一人で休憩できると思ったんだけどな、
 そんな思いは呆気なく打ち砕かれる。
 
 ここ最近のハードスケジュールと秋ツアーのリハーサルで正直心も身体も疲れ果てていた。

 9期も10期も可愛いし時に元気をくれる存在、とは言うものの
 今はそのタイミングではない。
 
 自分勝手な感情なのは分かっていたが、優樹を思いやってやる余裕がなかった。

 さゆみは疲れた顔を隠さないまま軽く手を上げて優樹に合図した。 
 嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる自分よりいくらか小さく華奢な身体。
 
「みちしげさんっ!」

 語尾まで跳ねている。

 自販機前の2人がけの小さな椅子に座るさゆみの隣へ
 遠慮なく身体を滑り込ませて身を寄せた。
176 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/18(火) 00:14
 

「どーしたの?」

 深く腰をかけて足をゆらゆらさせている。
 自分と10も年が離れているのだ。
 子どもだな、と改めて思い知らされる。

「みちしげさん居なかったから、まーちゃん探しに来たんです」

 んふふ、と得意気に笑う。
 
「何か用だったの?」

「いいえ。別に用事はありませーん」

 能天気に、屈託のない笑顔で。
 この人懐っこい笑顔に幾度となく救われていることは確かだが、
 今はどうしても、…煩わしさを感じてしまう。

 きっと優樹と上手く接することが出来ない。
 彼女を傷つけてしまうかもしれない。

 気付かれないように細く息を吐き出し、心を落ち着けた

「あのね、まーちゃん」

 適当に理由をつけてここから離れてもらおうと思った矢先
177 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/18(火) 00:30


「まーちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」


 ぱたぱたとリノリウムの廊下を走る足音と怪獣のような唸り声。
 工藤遥だ。

 流石に頭を抱えたくなった。
 限られた休憩時間はきっともうすぐ終わる。
 体力と気力を回復するのは難しそうだ。

「道重さん、すみません」

 そう思ったが工藤から出てきたのは思いがけない謝罪の言葉で

「まーちゃんダメって言ったでしょ!探しちゃだめ!!」

 そして優樹が叱られていて呆気に取られる。
 状況を上手く理解できない。

「すみません道重さん。道重さんが出て行った後すぐまーちゃんが追っかけようとしたんですけど
 田中さんが一人にしてやり、って止めたんです。
 それなのに!まーちゃん!!!!なんで約束やぶんの!?田中さんに言うからねっ!!!」

178 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/18(火) 00:31

 田中さんに言うからねっ!
 その言葉に思わず笑みが零れる。
 もし遥が告げ口したら、れいなは叱るだろうか。
 しゅん、とさゆみの隣で肩を落とす優樹にきつい言葉をかけるだろうか。
 
「だってまーちゃん…」

「だってじゃないのっ!」

 遥がれいなに報告している姿がリアルに想像できて可笑しかった。

「だってどうしたの?」

「いいです道重さん、聞かなくて」


 れいなの気遣いが、遥の正義が、優樹の行動が


「何も理由なく約束破ったりしないよね」

 さゆみは優樹に今にも噛み付きそうな遥の手を取った。
 その手の意味を察して遥は口を噤んだ。

「みちしげさん疲れてたから、一人じゃさみしいと思って…」

 
 隣で息を吸い込む気配がして遥の手を強く握った。
 何か言いたげに遥の瞳はさゆみに向けられていたが、言葉を発することはなかった。

 優樹の言い訳は無茶苦茶だ。
 だが、言わんとすることは手に取るように分かる。
179 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/18(火) 00:32


 ――― 愛おしい。


「ありがとね、まーちゃん。さゆみを心配して来てくれたんだよね。
 それからくどぅーも。守ってくれてありがと」


 純粋で真っ直ぐな瞳がさゆみを射抜く。
 どうしようもないくらいにこの子達が愛おしい。
 先ほどまでの煩わしさは嘘のように消えていた。

「おいで、くどぅ」

 ちいさな2人がけの椅子にぎゅうぎゅう詰めで遥を座らせる。
 自分より温かな体温が心地いい。
 それは二人が10も年下の子どもだからか、ただレッスン中で身体が火照っているだけなのか分からなかったが
 傍で感じる体温に疲れていたはずのさゆみの心が解けていった。

「なんかやっぱり二人と居るとさゆみ元気になる。不思議だね
 さっきまでまーちゃんどっか行ってくれないかなーって思ってたのに」

 毒を吐く、元気も出てきた。
 だが優樹は想像以上に落ち込んでいるらしく、おかっぱ頭を垂らしたままだ。

180 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/18(火) 00:34
 
「ちょっとまーちゃん、落ち込まないの」

 綺麗に切りそろえられた髪を梳いてやる。
 つるりと指通りがよく、母が買ってくれる、といういい値段のシャンプーの甘い香りがした。

「よかったね、まーちゃん。田中さんに怒られなくてすむね」

 悪戯っ子のように尖った八重歯を覗かせて遥が笑う。
 目が合うと遥は口を紡いで頷いた。
 
 全部知ってるような顔をする。
 子どもみたいで、それでもなぜか大人びて見えることもあったりして
 さゆみも頷いて短く切ったばかりの髪を撫でてやった。
 
「さ、戻ろっか。もうすぐ休憩おわりでしょ?れいなに怒られちゃう」

 二人の手を引いて立ち上がった。
 あれだけ重たかったはずの身体が今では嘘のように軽い。
 今感じるのは両手にある小さな手の平の温もりだけ。

「いそげーくどぅー!」

 ぱっと優樹が手を離し、廊下を跳ねた。

「あー!まーちゃんズルい!落ち込んでたんじゃなかったのーっ!?」

 その刹那、遥も走り出す。 
 小さな手の平が離れる。 

「みちしげさーん!先に行っちゃいますよーっ」

 遥が手を振った。

181 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/18(火) 00:35
 
 小さな手の平は離れたが、確かな温もりはここにある。
 まだ温かさが残る自分の手の平を握ってさゆみは歩き出した。


「さゆみ走れなーい。お先にどーぞ」

 
 きゃっきゃと笑いあう声が廊下に響く。
 自然と笑みがこぼれる。
 ありがとう、小さな声で呟いた。


 そしてもう一人、ありがとうを伝えるためにさゆみは二人の後を追った。

   
182 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/18(火) 00:36
  
183 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/18(火) 00:36
  
184 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/18(火) 00:38

以上『ありがとね、』

不完全燃焼ですが考えてたら時期を外してしまいそうなので…
なんかこんな感じだったらいいな、なんて。
秋ツアー参戦するのが楽しみです。
185 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/09/18(火) 00:40
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186 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/09/19(水) 02:10
和みました( *´Д`)
登場する4人が皆それぞれにらしくて、可愛くて
ごちそうさまです
187 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/11/04(日) 01:03
>>186さん
ごちそうさまだなんてw
ありがとうございます!!
ちっちゃい二人もおねーさんな二人も大好きです


188 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/11/04(日) 01:03
  

189 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/11/04(日) 01:05

更新します。
お姉さんチームがタイやらバンコクやら行ってた時のお話。
お留守番チームがUstしてたときのお話。



190 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/11/04(日) 01:07

 
191 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/11/04(日) 01:08

 電波が悪い。
 その所為で携帯の向こう側で何を言っているかよく聞き取れなかったが
 自分の名前を彼女が『特別』な響きで呼んでいる事ははっきりと分かった。

 たなさたーん

 幼い声が何度も聞こえて、れいなの顔は自然と綻ぶ。

 
「なん、めっちゃ可愛いっちゃけど」

 
 スピーカーモードにしてある携帯に
 一緒に耳を近づけていたさゆみに視線を送った。

「たなさたーん、たなさたーんっ…!会いたいですぅーたなさたーんっ」

 何かの呪文のように繰り返されるその名前
 すぐには会えない距離に心がぎゅっとした。

「たなさたぁん!たなさたぁんっ!」

 近くにいれば、すぐにでも会える距離ならば
 真っ直ぐに揃った前髪をくしゃくしゃにして、うるさい、なんてからかってやることもできるのに
 れいなは今、新曲のキャンペーンで日本を離れている。
 『たなさたん』とれいなの名を呼ぶ優樹は生放送の真っ最中らしい。

192 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/11/04(日) 01:09


「こっちは頑張ってるよーそっちもがんばれー」


 れいなも会いたいよ、だなんて自分らしくない言葉を飲み込み
 かわりに当たり障りのない言葉を送った。

「あーっ!たなさたぁんっ!」

 れいなの声が聞こえたのか、電話の向こうできっと優樹が跳ねた。
 …さゆみに笑われている。
 だめだ、れいなは緩んだ口元を押さえた。

 進行役をしているのだろうか、里保に促されるまま
 生放送を見ている人たちへのメッセージを伝え電話を切った。

 最後に優樹の声が聞こえなかったのは残念だ、
 ふとそんな事を思っている自分に気がつき、急に恥ずかしくなってわざとらしく笑って見せた。

「なんあの子、めっちゃ可愛いっちゃけど。
 てかあれで放送成立しとーと?たなさたーん言うてただけっちゃろ?」

「れーななんかすっごい楽しそうよ」

「あれはウケるやろ」

「なんかれーな、ほんと変わったね」


 それなのにさゆみは落ち着いており、優しい顔で笑っている。
 さゆこそ変わったやん、そう言ってやろうかと思ったが
 なんだかそれこそ子どもっぽいような気がして
 れいなは素直に自分の気持ちを認めた。
193 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/11/04(日) 01:11

「あーぁ。なんか会いたくなったなぁ」


 心の中で暴れていた何かがストン、と落ちる。
 れいなはわざとらしく溜息を吐き
 それから八重歯を覗かせて少し照れくさそうに笑った。

「可愛いっちゃね、あの子」

「ね、ほんと。色々大変だけど、可愛い」

 
 衣装を崩さないように用意されていたパイプ椅子に腰掛ける。
 もうすぐ本番だ。
 
「あー、なんやろ。めっちゃ疲れとったけどまーちゃんのおかげで元気でた」

 タイトなスケジュールでたくさんの取材を受け、たくさんの人に会った。
 言語も文化も違う国で自分たちが受入れられていることは嬉しかったが
 目に見えるもの全てが慣れず、少し気が滅入っていたところだった。
 

「後でメール送ってやらんとやね」

 伸びをしながらさゆみが言った。
 少し前なら二人して、この過密すぎるスケジュールに文句の一つでも言っている頃だったが
 …いつの間にか大人になっていたようだ。

 
「そやね、」

 黒目がなくなってしまうほど目を細めて笑う優樹の顔が浮かぶ。
 たなさたん、嬉しそうに『特別』な響きで名を呼ぶ優樹の顔が浮かぶ。
 
「送ってやらなね」

 10年一緒にやっているがれいながこんなにも穏やかな表情をするようになったのはここ最近だ。
 さゆみはそんな事を思いながられいなの横顔を見た。
 国境を越え遠く、日本にいる優樹を見つめているようだった。

194 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/11/04(日) 01:11


「スタンバイお願いしまーす」

 スタッフの声が聞こえ周りがざわめきだす。
 待っているであろう観客の声援が大きくなる。

「さて、」

 れいなが『ここ』に戻り、さゆみと視線が絡む。
 二人同時ににこり、と笑いあった。
 



「頑張りますか!」




 佐藤も胸張って、頑張れ。
 
 れいなはそっと呟き、眩しいステージへと駆け出した。

 
 
195 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/11/04(日) 01:13

196 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/11/04(日) 01:13

197 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/11/04(日) 01:20

以上『たなさたん。』

あの時のまーちゃんはとんでもなく可愛かったです。
電話の向こうでたなさたんがにこにこしてたら最高だな。


容量がいっぱいになりそうです。
次スレ立てたらお知らせします。


>>191-194
198 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/11/04(日) 01:22

>>10-13『説教ディナー』 こはみつ
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>>36-42『19歳の不可解な行動』こはみつ
>>51-57『Only you』ガキれな

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>>84-90『東京の空から』光純
>>98-103『だって』こはみつ
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>>131-138『だから気まぐれな神様は』どぅまぁ
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>>175-181『ありがとね、』さゆまーどぅ
>>191-194 『たなさたん。』
199 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/11/30(金) 12:21
こはみつにはまりました。
やられた。
どれもとても素敵なお話でした。ありがとうございます。
200 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/13(木) 01:20
>>199さん
ありがとうございます!
今更こはみつ…と思いながら投下していただけに凄く嬉しいです!
まだまだ書くつもりでいるので宜しくお願いします!
201 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/13(木) 01:20
202 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/13(木) 01:21
まだいけそうなので短いの更新


203 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/13(木) 01:21
  
204 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/13(木) 01:21
  
205 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/13(木) 01:23


 ね、どうしようどうしたらいい?
 うち変態かも。いや、絶対そんな事ないと思うんだけどさ
 でもこんなこと思うなんて変だよね。
 確かについつい目が行っちゃうとは言ったことあったけどさ
 さすがに食べたいって思うとかほんとうち頭おかしくなったのかな

 だってねだってね、うち唇薄いじゃん?
 だからか知らないけどすっごい目行っちゃうって言ってたでしょ
 でさ、普通にしてるときは普通なわけ
 だけどねライブとかすると汗かいて火照るじゃん
 そうなるとなんかね、唇まで火照ってるっていうか
 いつもよりももっと赤くて、ぽてっとしてて…
 ぽてっと!なにこの表現の時点で美味しそう…じゃなくって!!!!
 でさ、とりあえずなんかね唇まで火照るのか厚みが増すわけ
 
206 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/13(木) 01:23


 そうなるとさ、もう目が行くとかそのレベルじゃないんだよね
 釘付けになっちゃうんだよ!分かるこの気持ち?
 もうね、なんていうか、触ってみたいとかじゃなくて
 食べてみたい、になっちゃうの!
 でもさ、よくよく考えてもさ、食べるって、ね、唇を食べるって
 どーゆーことかって。それはさ、やっぱりなんていうか
 そう簡単に出来る行為じゃないでしょ?
 それは分かってんの、すっごい分かってんだけど
 もう、こう、ぐわーって感情が抑えられないんだよね
 食べたい食べたい食べたい!って思っちゃうの、あーやばいって分かってるよ、分かってるけど
 この高まったこの気持ちをそろそろ抑えられないわけ
 だからさ、言っちゃっていいかな?さすがにダメ?
 じゃぁ食べないから、ほっぺに、とかそれもダメ?
 ていうかさ、ほっぺならいいじゃん!うん!思い出した、ほっぺならいいんだよ!
 いひひひひ!だってさ、ほっぺにちゅーとかうち、聖ちゃんに普通にしちゃってるし
 えりぽんだってしてるでしょ?まぁ香音ちゃんはそういうの好きじゃないからしないけど
 道重さんだって、その前の先輩達だってほっぺくらいはスキンシップでしてるじゃん!
 うひひ、ほっぺで我慢しよう、そうしよう…ならいいよね、変態じゃないよね
 
207 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/13(木) 01:24

 でもどうやってそれを言うかが問題なんだよ!
 黙ってキスでもしろ!って?うひひひひひひっ!それさすがに、ねぇ
 メロディーに乗せて言うならまだしも、そのまま言ったらめっちゃハズくない?
 歌えばいい?鼻歌みたいにさりげなく歌えばいいのか?

 あ、そうだ。ちょっと落ち込んだふりすればいいじゃん!
 あゆみちゃん優しいしさ、よくも悪くも大げさでしょ?
 それで黙って安心させろ!黙って抱きしめてみろ!黙ってキスでもしろ!
 それから黙って全部許せ!なにこれ、完璧じゃない?
 ひゃっっほーい!今すぐ実行ー!!!
 


 ねーあゆみちゃーん!あゆみーん!!!!どこ行ったのー!!
 
208 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/13(木) 01:25
 
209 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/13(木) 01:25
 
210 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/13(木) 01:26

『さやしりほのたくらみ』



もうだめだ!


211 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/13(木) 01:28

>>10-13『説教ディナー』 こはみつ
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>>146-151『今日、始めました』光友
>>161-166『ハタチの計画』こはみつ
>>175-181『ありがとね、』さゆまーどぅ
>>191-194『たなさたん。』 れなまー
>>205-207『さやしりほのたくらみ』鞘師


やばい楽しかったw
212 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/12/14(金) 02:20
りほりほいつか実現させてくれ!鞘石ヲタ代表としてお頼み申すw
つーことで鞘石サイコー!!藤井さんサイコー!!!(*´д`*)
213 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/24(月) 02:04
>>212さん
鞘石ヲタ代表さんありがとうございますw
きっと…実現させてくれるでしょう!!!
藤井さんって誰や!と思ったら私だったんですねw
リサイクルスレを見てくださりありがとうです!
よかったら次のお話も覗いてください
214 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/24(月) 02:05
まだ大丈夫そうなので更新します。
上のお話とはテンションが違うので切り離して読んでくださいw


215 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/24(月) 02:05


216 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/24(月) 02:06


 高校生になりもうすぐ一年。
 中学よりも少し自由で、そして少し背伸びして見る大人の世界はちょっぴり刺激的で
 あたしは無邪気な視線に、言葉に、困惑することとなる。


「あゆみちゃんの唇って絶対柔らかいよね。いいなーちゅーしたら気持ちいいだろーなー」


 クラスメイトのその光景を目にした時、あたしの脳裏には年下の先輩が無邪気に笑う姿が映った。
 彼女はどういう気持ちでこんな事を言うんだろう。言葉には出来ない感情がぐるぐると渦巻く。

217 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/24(月) 02:07



「ちょっと、教室でやめてよねー」

 うざったそうに、それでもちょっと嬉しそうに友達が指摘する。
 最近付き合い始めたという同じクラスのカップルは悪びれた様子もなく、顔を見合わせ肩をすくめた。

「マジ見てらんないって。そういうのは外でお願いしまーす」

 クラス中に笑いが起こる。
 『外で』それがどういう意味を含んでいるのか、それくらいは十分理解しているつもりだ。
 あたし達は今、思春期といわれる年頃で『そういう』事にびっくりするくらい興味がある時期で。

「じゃ、次の授業サボって行ってくるわ」

 彼氏が見せ付けるように、彼女の顎を持ちその唇に口付けた。
 ひゅー、と周りが囃し立て、げらげらと笑う。


 あたしも人並みに、そういう事に興味があり、マンガや所謂ガールズトークで知りえた知識がある。


「あーぁ。彼氏欲しい」

 あたしの隣でその光景を見ていた友達が溜息を吐いた。
 そういう時期なのだ。みんな。
 恋人が欲しい、デートがしたい。キスをしたい。イチャイチャしたい、それから…


「私達のファーストキスいつになるんだろーね。」

218 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/24(月) 02:08



 不意に先日教室で見た景色を、クラスメイトの言葉を思い出し
 あたしの心臓はドクリと一つ強く鼓動を打った。

 
「触りたーい。ねーあゆみちゃーん、触らせてよぅ」


 取材と撮影の間、ぽっかりと空いてしまった時間。
 ご飯を食べるには中途半端で、どこか出かけるほど余裕はなくて。
 事務所の一室で鞘師さんと二人で書き物をしていた所だった。

 書き物に飽きてきた年下の先輩は唐突に笑い出し、
 お気に入り、とされるあたしの唇を見ながらそんな事を言い出す。
 
 今に始まったことではないので、軽く流すことはできる。
 いっつもそればっかり。そろそろ変態って呼びますよ、なんて
 軽口だって叩けるはずなのに。

 つい先日そんな事があったもんだから、あたしは言葉を返せずにいた。

「さわりたーい。絶対柔らかいもん。いいないいなー」

 
 鞘師さん、どんな気持ちで言ってるんですか。
 もしそれが叶ったとき、あなたはあたしを嫌いになりませんか。


「あーゆーみーちゃーん」

219 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/24(月) 02:09

 あぁ、もう。
 イライラとは違う、モヤモヤ、でもない。
 言葉では言い表せない感情が渦巻く。
 どうしようもない歳相応の欲望と興味が、あたしの体を支配する。 
 
「鞘師さん、年上を甘く見ちゃだめですよ」


 あなたの無邪気さは危険です。
 あなたの言葉はあたしを掻き乱すんです。


「別にあゆみちゃんのことそんな風に見てないよ?て言うか何、いきなり?」

 きょとん、とする年下の先輩。
 
「そんな事ばっかり言ってると、本当にしちゃいますよ」

 彼女の気持ちなんて考えている余裕はない。
 
「しちゃうって?何?」

「高校生は、鞘師さんが思ってるより大人なんです。
 それにあたしだって、人並みに高校生なんですよ」

「え、え?なに?どーゆーこと?」


 きっかけを作ったのはあなたです。
 

220 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/24(月) 02:10


 向いに座っていた鞘師さんの顎を掴んだ。
 状況が読めていない。明らかに『恐怖』の色が顔に浮かぶ。

 どうにでもなれ。
 あたしは机に手を突き、体を乗り出して
 彼女の唇に自分のそれを押し当てた。

 鞘師さんの体が緊張で固くなる。
 可哀想に思ったが、それ以上に初めてのキスが柔らかで温かで心地よく
 唇を離すことが出来なかった。

 角度を変えて何度か、鞘師さんの薄い唇に口付ける。
 ただ、押し付けるだけの幼いキス。
 それでも初めての感触があたしを夢中にさせ、それから欲望を満たした。

「んーっ!」

 鞘師さんの顎を掴んだ腕を叩かれ、あたしはようやく唇を離した。
 ずっと呼吸を止めていたのか、頬を紅く染め肩で息をしている。

「…苦しかったですか?」

 恐怖の色は消えていた。
 唇をきゅっと結び、黒目勝ちの瞳はあたしをまっすぐに見据えている。
 感情が読めない。

221 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/24(月) 02:11


 意地悪の一つでも言ってからかってやろうかと思った。
 どうせ嫌われるのならそれくらいしたってきっと問題ないはずだ。

 顎を掴んでいた手を離し、紅くなった頬に添える。
 しかし不意にその手を掴まれあたしは言葉を飲み込んだ。


「中学生だって、あゆみちゃんが思ってるほど子どもじゃないよ。そうだったでしょ?」


 鞘師さんはそう言って不敵な笑みを浮かべた。
 頬に添えた手に鞘師さんの手が重なる。
 指の間をぎゅっと掴まれ心が跳ねる。
 
「ま、ちょっとドキドキしたけどね」

 そのまま指に力を込められ、引き寄せられる。
 鞘師さんは椅子から腰を浮かし、あたしと同じように机に手を突き体を乗り出す。
 
 全てがスローモーションだった。
 彼女の顔が近付き、首が傾き、瞼がゆっくりと閉じられ、そして。

 
 きっかけを作ったのは鞘師さんだったんですね。


 あたしは口の端だけで笑って彼女からの初めての口付けを受入れた。
 

222 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/24(月) 02:12


  
223 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/24(月) 02:12


  
224 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/24(月) 02:16

以上『どうしようもない興味と欲望』さやしだ

鞘師の言葉に困惑しつつも私の方がちょっと大人だぞ、って余裕ぶる石田と
でも実は上手だった鞘師。
この先どうなるかは分かりませんw

以前も良く似た話書いてますね…精進します。

225 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/12/24(月) 02:19

>>10-13『説教ディナー』 こはみつ
>>21-27『18歳の事情』こはみつ
>>36-42『19歳の不可解な行動』こはみつ
>>51-57『Only you』ガキれな

>>66-73『情熱のキスを一つ』ごまれな
>>84-90『東京の空から』光純
>>98-103『だって』こはみつ
>>114-121『わたしがいて、きみがいる。』 りほかのこはみつ

>>131-138『だから気まぐれな神様は』どぅまぁ
>>146-151『今日、始めました』光友
>>161-166『ハタチの計画』こはみつ
>>175-181『ありがとね、』さゆまーどぅ
>>191-194『たなさたん。』 れなまー

>>205-207『さやしりほのたくらみ』鞘師
>>216-221『どうしようもない興味と欲望』さやしだ
226 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/12/25(火) 15:56
鞘石って受け攻めの固定イメージがないので、
作者によって読んでみるまで分からなくて少しドキドキしますw
ここの鞘石はどっちが主導権を握るのかまだ測り兼ねてるので楽しみです。
続きも期待しています。
227 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/12/26(水) 21:44
うはー!!ものすごいドキドキしました。
この思春期特有の雰囲気がとてもよかったです。
できたら続きも読んでみたいです。
228 名前:名無し飼育さん 投稿日:2013/01/02(水) 13:32
>>226さん
ありがとうございます。
自分の中で受け攻めの希望はあるのですが暫くはこのまま
ちょっとふわふわした感じで行こうと思いますw
暫く鞘石ブーム続きますのでよかったらまた覗いてください。


>>227さん
ありがとうございます!どきどきしてくださって!
910期は思春期だらけなので楽しいですよねw
続きは今のところ考えられていないのですが、
鞘石は書くつもりでいるのでまた見てやってください
229 名前:名無し飼育さん 投稿日:2013/01/02(水) 13:34
このスレでは最後の更新になりそうです。
すっかりハマってしまいました。
3、4日ほど時間を巻き戻して読んでください。

230 名前:名無し飼育さん 投稿日:2013/01/02(水) 13:34

 
231 名前:名無し飼育さん 投稿日:2013/01/02(水) 13:34

 
232 名前:名無し飼育さん 投稿日:2013/01/02(水) 13:35


「あれ、手袋片方どうしたんですか?」


 待ち合わせ時間に15分以上遅れたというのに、亜佑美ちゃんはうちを責めもせず
 綺麗に並んだ白い歯を見せながら笑って迎えてくれた。
 そして言い訳するよりも早く、手袋のない右手を指差しながらそう聞いた。


 あんなにも自分の部屋の汚さを呪ったことはない。
 亜佑美ちゃんは真面目できっちりした性格だから
 待ち合わせ時間より早く来ることは予想できていた。
 だからうちもそれに合わせて少し早く、待ち合わせ場所に行く予定をしていたのに
 出る直前になって手袋が片方ないことに気がついたんだ。

 脱ぎっぱなしのTシャツやショートパンツ、レッスン着やパーカーを掻き分ける。
 どこを掘っても右手袋は見当たらず、ぐちゃぐちゃの部屋をさらにぐちゃぐちゃにし大急ぎで出た。
 でもその後、家の鍵も行方不明であることに気付き再び部屋へ戻り昨日使っていたカバンやの中を荒らす事となる。

 予定は大幅に狂ってしまった。
 手袋の嵌っていない右手で鍵をかけて大急ぎで駅まで向かい電車に飛び乗ったが
 それは亜佑美ちゃんと待ち合わせをしている時間ぴったりに出発で
 どうしようもなくべっこりヘコんだ気持ちで電車に揺られた。

233 名前:名無し飼育さん 投稿日:2013/01/02(水) 13:36

「行方不明です」

 わざとらしいくらい頭を垂れながら答える。
 亜佑美ちゃんはその姿にあははっ、と笑った。
 
「またー部屋の中ぐちゃぐちゃなんですか?」

 もう言い返す言葉がない。
 そうなんです、小さな声で呟く。

「今度あたしが鞘師さんの部屋、掃除しにいきましょーか?」

 額をつつかれうちは弾かれたように頭を上げる。
 それはまずい。
 あんなにぐちゃぐちゃの部屋を見られたら絶対引かれる。
 亜佑美ちゃんはうちにいい印象を持っててくれてるのに、できればそのままでいたい。
 いや、もう少しずつバレてきてはいるんだけれど。


「それはだめ!散らかりすぎてる!」


 笑いのツボの浅い亜佑美ちゃんは体を折ってまで笑った。
 茶色く染めたまっすぐな髪の毛が冷たい風に舞う。
 なにもはめていない右手が、痛い。
 亜佑美ちゃんはこんな寒い中で、ずっと待っていてくれたんだ。
 
234 名前:名無し飼育さん 投稿日:2013/01/02(水) 13:37

 会ってすぐ言わなければいけなかった言葉、
 まだ伝えていなかったことを思い出す。

「あゆみちゃんっ!」

「行きましょ、寒かったでしょ?」

「えっ?」

 それなのに亜佑美ちゃんはまたうちが話すよりも早く行動を起こす。
 きっちりと両方揃っている手袋を片方外した。
 亜佑美ちゃんの左手が冷たい風に曝される。

「今年最後のデート、楽しみにしてたんですから」

 手袋を外した左手がうちの右手を掴む。
 ぎゅっと握られ心が跳ねた。

「んふふっ、これで鞘師さんの手もあったかい」

 うちの好きな唇が綺麗な孤を描く。
 それからにひっ、と白い歯を見せて笑った。

235 名前:名無し飼育さん 投稿日:2013/01/02(水) 13:38

「そんなん言われたらうち、もう手袋探せん」

 繋いだ手を揺らす。
 亜佑美ちゃんと繋がった手の平は温かくてあたたかくて、温かい。
 心も体もじわじわと満たされていく。
 
「え?」

「亜佑美ちゃんずるい。こんなことしてくれるならうち一生手袋はめん」
 
「いいですよ、いつでもあたしが繋いであげます」

 悪戯な笑み。
 色素の薄い茶色の瞳がうちを見上げる。
 
「行きましょ、年末はどこも混みますよ」


 
 結局言えなかったごめんねを飲み込んで繋がった右手に力を込めた。
 亜佑美ちゃんをたくさん楽しませよう。
 それから冷たい風が吹いたらぎゅってしよう。
 

「うん!」



 失くした右手袋はしばらく探さないことに決めた。


236 名前:名無し飼育さん 投稿日:2013/01/02(水) 13:39

237 名前:名無し飼育さん 投稿日:2013/01/02(水) 13:48
以上『片方なくした手袋の行方』さやしだ

だーさん幼く見えるけどやっぱり高校生だな、と思うことも多かったり
そういう歳の差凄く好き。


上の更新をもってこのスレでの投稿をおしまいにします。
書きたいCPやネタはあるので形に出来たらまた投稿したいと思います。
ありがとうございましたーっ!
238 名前:名無し飼育さん 投稿日:2013/01/02(水) 13:50

>>10-13『説教ディナー』 こはみつ
>>21-27『18歳の事情』こはみつ
>>36-42『19歳の不可解な行動』こはみつ
>>51-57『Only you』ガキれな

>>66-73『情熱のキスを一つ』ごまれな
>>84-90『東京の空から』光純
>>98-103『だって』こはみつ
>>114-121『わたしがいて、きみがいる。』 りほかのこはみつ

>>131-138『だから気まぐれな神様は』どぅまぁ
>>146-151『今日、始めました』光友
>>161-166『ハタチの計画』こはみつ
>>175-181『ありがとね、』さゆまーどぅ

>>191-194『たなさたん。』 れなまー
>>205-207『さやしりほのたくらみ』鞘師
>>216-221『どうしようもない興味と欲望』さやしだ
>>232-235『片方なくした手袋の行方』さやしだ
239 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/01/03(木) 02:16
楽しかったです!ありがとうございました。
次スレも期待しています。頑張って下さい!
240 名前:名無し飼育さん 投稿日:2013/01/11(金) 02:15
>>239さん
レスありがとうございます!!
頑張っちゃいました



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だから、そういうこと
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