ゴミ小説
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:08
- 道重さんが落とし穴に落ちました。
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:09
- 穴の深さは肩くらいまでのようです。綺麗な円形をした穴の直径は2メートルほどでしょうか。季節は夏。地平線の彼方まで目立った木など一本もないのになぜか蝉の鳴き声が聞こえてきます。
「はうう」
道重さんは穴から這い上がろうとしますが体は抜けません。穴の中にはほどよい粘り気を保った泥がたっぷりと入っていました。
腕を抜くのも一苦労ですが道重さんはがんばって両腕を引き上げて穴の縁にのしかかります。でも抜けません。「はうううう」なんとか胸のところまで穴から這い出てきたのですが、穴の縁にはつるつる滑る草が生えています。つかみどころはありません。再び道重さんはずるずると泥の中に滑り落ちていきます。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:09
- 「がんばってるね、さゆ」
道重さんに道重さんが話しかけてきました。いつからそこにいたのでしょうか。道重さんは道重さんとまつ毛とまつ毛が触れあいそうなほどの距離にいました。スカートを太腿と脹脛の間に挟み込み道重さんは体育座りのような姿勢で道重さんに話しかけてきます。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:10
- 「あのね、この落とし穴を掘ったのはね」
中腰の不安定な姿勢で道重さんに語りかけてきた道重さんを、その後ろで見ていた道重さんがどんと両手で押しました。とても人が殺せるような強さではありません。足りない。明らかに殺意が足りない押し方でした。なぜでしょう。非力が理由とならないことは人類の歴史が証明しています。とにかく道重さんは命拾いをしました。
道重さんは穴の中の道重さんと折り重なるようにして泥の中へ頭から突っ込みました。勿論命に別条はありません。命以外の部分にも別状はありません。ただ穴の中に落ちただけです。道重さんの中に加わったのは「穴に落ちた」という記憶だけでした。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:10
- 道重さんは肉食獣の気配を察した女鹿のように鋭く周囲に視線を這わせます。油断はできません。いつなんどき道重さんが現れて道重さんのことを突き飛ばさないとも限りません。穴が肩までの深さとも限りません。穴の中に入っているのが泥だとも限りません。そしてそこに殺意がないなんて、誰も保障してくれないのです。
それでも道重さんは道重さんを突き飛ばすときに殺意は込めませんでした。「おはよう」朝の挨拶に殺意を込める人がいないように。シャボン玉を膨らませるときに殺意を込める人がいないように。稲佐山公園に遊びに行くときに殺意を込める人がいないように。
道重さんは殺意に関しては常識的な人間だったのです。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:10
- 「でも、あたしは油断なんてしないからね」
殺すことと殺されることは別です。穴の中では道重さんと道重さんがもつれ合いながらもがき苦しんでいます。死にはしないでしょう。いずれ道重さんも道重さんも泥の中から這い出てくるはずです。季節は夏。道重さんはお父さんが捕ってきてくれたカブトムシの幼虫の成長を見守るときのような目で道重さんと道重さんのことを見つめます。うふふ。サナギになるのはいつかしら。
道重さん中空に振り回される道重さんの腕に巻き込まれないように落とし穴から距離をとります。道重さんと道重さんから目を離さないように。ずるすると後ずさりして。どぽん。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:10
- 道重さんは落とし穴に落ちました。深さは肩まで。中には泥。そして季節は夏。落とし穴の季節です。その道重さんの耳元でそっとつぶやく道重さん。でも落とし穴に落ちて我を失っている道重さんには道重さんの声はもう聞こえません。出るの。穴から出るの。いやん。出るの。すぐに出るの。さゆは、さゆは、さゆはね。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:10
- 「はうううううう」
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:11
- ゴミA 終
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:19
- 「どうして究極の愛ってないんだろう」
絵里はいつも以上に真剣な口調でつぶやいたのに、反応してくれる人は誰もいませんでした。みんな冷たいです。死ねばいいのに。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:19
- 絵里はいつも愛情に飢えているの。普通の愛じゃなくて特別な愛に飢えているの。
家族愛とか友情とかそういうのじゃない、もっと唯一絶対で絵里のためだけにあるっていう我儘な愛に。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:19
- それなのにみんな絵里の話を全然聞こうとしてくれない。そこに愛はありません。
ねえ、聞いてる? 絵里の言葉はみんなに届いていますか? あたしのことを愛してくれていますか? たとえ絵里が愛していなかったとしても、愛してくれますか?
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:20
- 絵里は机に突っ伏して寝ている愛ちゃんに後ろから抱きつきます。愛ちゃんの体は柔らかくて温かい。軽くもみもみします。「うへ」下品に笑う愛ちゃん。でもきっとこんなのは愛情じゃないと思うの。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:20
- 絵里が欲しいのは究極の愛。絵里はこんなにも愛ちゃんのことを愛しているのに、どうしてそれは究極の愛情にはならないんだろう。どうすれば究極の愛になるんだろう。もっともっともっともっともっともっともっと深く強く熱く揺るぎなく永遠に愛したいのに。でも何をどうやっても絵里の愛情は究極の愛情とはなってくれないのです。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:20
- 愛したいの。愛しているっていう実感がほしいの。愛情ってどうして形にできないんだろう。大きさを推し量れないんだろう。永遠に続かないんだろう。永遠に残せないんだろう。愛情の強さってどうやって証明すればいいんだろう。何をやれば愛ちゃんへの愛を証明できるの?
もみもみ。「ふへへ」だからだからだから! これじゃないよね?
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:20
- ふう。どうして人はキスとかセックスでしか愛情を表現できないんだろう。セックスする以上に愛する方法ってないの? こんなにも愛したいのに、この気持ちを受け入れてくれる場所が見当たらないの。あたしの愛を満たすべき器はどこにあるの? この気持ちをどこに持っていけばいいの? 愛ちゃんに見せるためにはどうすればいいの?
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:20
- あたしが愛ちゃんのために死ねばいいの?「あたしが死ねば愛ちゃんは助かる」そこで死ぬことが究極の愛なの? でもそんな状況なんて起こりっこない。万が一起こったって絵里は死なない。だって死んだら愛ちゃんのことを愛せなくなるもん。
触れることも感じることもできなくなったら、絵里はどうやって愛ちゃんのことを愛せばいいの? どうやって愛情を証明できるっていうの?
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:21
- ねえ。ねえ。ねえ。
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:21
- どうすれば絵里は、もっと愛ちゃんのことを愛せるの?
- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:21
- ゴミB 終
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:30
- 「ガキさんってれいなのこと苦手なの?」
愛ちゃんはいつも的外れなことを言う。ごくたまに的を射た意見も言う。別にどっちの意見でも構わないんだけどコンサートの最中にステージ上で言うことじゃないと思う。愛ちゃんのこういうところが一番嫌い。
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:31
- 「ねえ、真野ちゃんのCDって全然売れてないってホント?」
だから話しかけてくるなっつーの。今は歌ってる最中でしょうが。自分のパートじゃないからって気を抜いたりしないでよ。最近の愛ちゃん、コンサートで自由に振舞い過ぎだと思うよ。
- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:31
- 「あはははは。見て見てガキさん。さゆがへばってる。声出てないし」
だからこの振り付けのときに話しかけてこないでよ。こっちだって結構きついんだから。はあ。あ、やっと終わりだ。ほら愛ちゃん、最後はちゃんと格好良く締めてよ。
- 24 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:31
- 「あー、あー、ぱっれー かい、てん、ずしー」
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:31
- ふぉー
- 26 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/08(月) 07:31
- ゴミC 終
- 27 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/11(木) 07:09
- 亀井絵里はずっと夢を見ていました。それは7年以上にも及ぶ長い長い夢でした。誰もが一度は見てみたいと思うような素敵な夢でした。その夢の中では絵里は自分のやりたいことが自由にできました。どんなことだってできました。なりたい自分になれました。叶わない願いはありませんでした。いいえ。願うことすらありませんでした。何かを願うことを忘れるくらい、自分では想像もつかないくらい素敵なものを一方的に与えられ続け、心満たされ続けていた幸福な時間でした。絵里はこの時間が永遠に続かないことは知っていましたが、それでも彼女は悲しい気持ちになることはありませんでした。ただ目の前の幸せを味わうことだけに一生懸命でした。その夢の中で夢を追いかけ、追いつかず、それでも精一杯に生きました。
- 28 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/11(木) 07:09
- 夢から覚めると絵里はダンゴムシになっていました。神様はくるりと丸まった絵里をつまみあげ、紙でできたお家の中に入れます。神様の指は優しく絵里の背中を撫でます。絵里は丸くなったり平たく伸びたりしてしばしの間じたばたとします。どうやらまだこの体の動かし方に慣れていないみたいです。それでも絵里は懸命に体を起こし、なんとか起き上がることができました。紙で折られた家は四方を低い壁で取り囲まれていました。絵里は壁にぶつかってはよじ登ろうして落ち、そしてじたばたと体を丸めたり伸ばしたりしてはまた起き上がることを繰り返しました。
- 29 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/11(木) 07:09
- 神様はそんな絵里を再びひょいとつまみ上げて今度は紙でできた滑り台の上に乗せます。絵里はわけもわからず、ぐいと足を踏ん張って滑り台から落ちないようにとしがみつきます。そんな絵里の脇腹を神様はすっと優しくそして意地悪く撫でるのです。たまらず絵里は体を丸め、滑り台をころころと滑り落ちます。絵里には傷みも苦しみもありません。ただ神様の指に操られるままにコロコロと転がり続けるのです。そうやって遊んだり寝たり食べたりしながら絵里は神様に深く愛されてその一生を終えたのでした。
- 30 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/11(木) 07:10
- ゴミD 終
- 31 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/11(木) 07:10
- 空は青く澄み渡っていた。
雲の上に一本の細く長い道があった。
恐ろしく細い道だった。
道というよりは平均台のように見えた。
長い道だった。
気違いじみた長さをもった平均台だった。
だが道幅は狭かった。
20cmほどしかなかった。
道の外側には何もなかった。
一度その道を踏み外せば真っ逆さまに落ちるしかなかった。
- 32 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/11(木) 07:10
- 試しに夏焼雅は持っていた小銭を落としてみた。
どれだけ待っても小銭が何かにぶつかるような音は聞こえなかった。
墜落が死に直結すると想像することすら忘れてしまうような非現実的な高さだった。
細く長い道の先には巨大な門があった。
巨大な門の前には巨大な門番が立っていた。
身の丈が軽く2mを超えるような巨大な少女だった。
門の上にはひどく下手くそな文字で「天国」と書いてあった。
てんごく
ご丁寧にルビまで振ってあった。
夏焼雅がそこから連想したのは小学生のお誕生会の飾り付けだった。
失笑が漏れた。
- 33 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/11(木) 07:10
- 「熊井ちゃんじゃん」
「私は熊井ちゃんではありません」
「は? なにしてんの?」
「私は聖なる門番です」
「何言ってるか全然わかんないんだけど」
「あなたはこの門をくぐる前に三つの質問に答えなければなりません」
「質問? 熊井ちゃんが質問するの?」
「熊井ちゃんではありません」
「熊井ちゃんじゃん」
「聖なる門番なのです」
「いいから熊井ちゃんちょっとそこどいてよ。その門、通りたいんだけど」
「人の話聞いてます?」
- 34 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/11(木) 07:11
- 空は青く澄み渡っていた。
雲の上に一本の細く長い道があった。
恐ろしく細い道だった。
嗣永桃子は平均台のような道を陽気に歩いていた。
リズミカルな口笛の音が止まる。
数メートル先に不思議なものが見えた。
巨大な門。門の前に立つ巨大な黒髪の少女。
そして巨大な少女の前には、それ以上に巨大な茶髪の少女がよろめいていた。
5、6メートルは超えるかという巨大な少女は滑稽なほど両手をばたばたとさせていた。
やがて大きくバランスを崩し、平均台の上から真っ逆さまに落ちていった。
門の前には巨大な黒髪の少女だけが残った。
他に行く道もない。
嗣永桃子は巨大な門の前まで歩いていった。
- 35 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/11(木) 07:11
- 「熊井ちょーじゃん」
「私は熊井ちょーではありません」
「え? なになに? どういうこと?」
「私は聖なる門番です」
「今さっき落ちていったの、なにあれ?」
「あなたはこの門をくぐる前に三つの質問に答えなければなりません」
「人の話聞いてる?」
「質問に嘘で答えてはいけません」
「うっそー」
「嘘をつくたびにあなたの体は大きくなっていきます」
「うわ。熊井ちょーの呪いだ」
「呪いじゃないです」
「睨まないでよ。やっぱり熊井ちょーじゃん」
「違います。私は聖なる門番です」
「はー、なるほど。そういう役なんだ」
「役とか言ってはいけません」
- 36 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/11(木) 07:11
- 「体が大きくなったらどうなるの?」
「悪いことではありません。180を超えたからといってアイドルとして難しくなることは」
「違う違う。熊井ちょーのことを訊いてるんじゃなくて」
「大きいことは悪いことではありません」
「嘘ついたら体が大きくなるんでしょ? そんでどうなるの?」
「この天国への門をくぐることはできません」
「くぐれなくなって? どうなるの?」
「地獄に落ちます」
「あっそう。オーケー。じゃあ、聖なる門番さん、質問カモーン」
「三つの質問に正直に答えたなら、天国への門は開かれるでしょう」
「だからさっさと質問カモーン」
「他に質問はありませんか?」
「人の話聞いてる?」
「質問はないのですね」
「じゃあ、さっき落ちてった嘘つきは誰?」
「みや」
「ああ」
- 37 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/11(木) 07:11
- 「では質問です」
「みやと同じ質問するの?」
「同じ質問はしません」
「じゃあ、教えてよ。みやには何て訊いたの?」
「教えるわけにはいきません」
「別にいいじゃーん。あたしとは違う質問だったんでしょ?」
「はい。夏焼さんにはあなたとは違う質問をわたしはしました」
「じゃあ教えてくれてもいいじゃん」
「教えることは許されないルールなのです」
「ルールってさあ、誰が作ったの? 熊井ちょー? それとも神様?」
「私は熊井ちょーではありません」
「違うんだ。もういいや。質問カモーン」
「では一つ目の質問です」
「ちょ・・・・ちょっと待って」
「あなたは本当の自分を偽り、可愛い女の子を演じていますね?」
「そ、そんなこと、な・・・・・へっくちゅん!」
嗣永桃子の体が2mほどの大きさに巨大化した。
- 38 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/11(木) 07:12
- 「ちょっと待ってよ! なにこれ、ひどーい!」
「あなたは今、『熊井ちょーみたいな体になって嫌だな』と思いましたね?」
「え。思ってない思ってない!」
嗣永桃子の体が4mほどの大きさに巨大化した。
- 39 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/11(木) 07:12
- 「ちょっ落ちるっ! ゴメンゴメンゴメンなさぁい! もぉなんとかしてよぉー」
「最後の質問です」
「早く訊いてぇ」
「あなたは、本当はBerryz工房ではなくモーニング娘。に入りたいと思っていますね?」
「思うわけないでしょぉぉぉぉお! あんな、グループに、誰が!」
嗣永桃子の体はそれ以上巨大化することはなかった。
- 40 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/11(木) 07:12
- 「ふぅ、ふぅ、はぁ。本当のことを答えたってことだよね?」
「はい。あなたは最後に本当のことを言いました」
「やったあ。じゃあこれで戻るんだ」
「戻る?」
「元の体に」
「戻りません」
「なんでよ!」
「あなたは二つも嘘をつきました」
「ちょっ、と、熊井ちょー!!」
- 41 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/11(木) 07:12
- 大きくバランスを崩した嗣永桃子は罵詈雑言を撒き散らしながら奈落の底へと落ちていった。
聖なる門番は落ちていく巨大な少女を悲しげな眼で見つめていた。落ちていったのは嗣永と夏焼だけではない。須藤。徳永。清水。二人に先だって既に三人の少女が人間の醜い部分を晒しながら落ちていった。もはやこの世界には心の清らかな人間など存在しないのだろうか。
だがその時、全てに絶望しようとしていた聖なる門番の目に、遠く一人の可憐な少女が立っている姿が映った。
- 42 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/11(木) 07:13
- 「梨沙子!」
思わず役目を忘れて漏らしてしまった聖なる門番の絶叫に、可憐な少女が反応した。
「熊井ちゃーん!」
弾けるような笑顔を見せながら少女は駆け出す。
一分の迷いも見せることなくひらひらと手を振りながら、少女は門番に向かって一直線に駆け寄る。
20cmほどの幅しかない道を全力で駆けた少女は豪快に足を踏み外して奈落の底へと落ちていった。
- 43 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/11(木) 07:13
- ゴミE 終
- 44 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/15(月) 07:07
- 後藤真希はまるで息を吸うように簡単に物を盗む。
ただ手を触れるだけでよかった。触れなくともよかったかもしれない。手を伸ばすだけで、ありとあらゆる物が、彼女の中心部分へと吸い込まれていった。
- 45 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/15(月) 07:07
- 誰もが皆、瞬時に盗まれたことに気付いた。
盗まれて困るものもあれば困らないものもあったが、それが盗まれたのだとういうことや、盗んだのが後藤真希であるということに気付かない人間は一人もいなかった。
気付いたときにはもう、後藤真希はそこにはいない。彼女は盗んだものを無造作にポケットに突っ込んで、軽く口笛を吹くでもなく深くため息を突くでもなく、ただ二本の足を交互に踏み出して歩きゆくだけだった。そういった時の後藤真希は、無表情でもなくかといって無駄に感情を高ぶらせるでもなく、あくまでも自然で最も後藤真希らしい表情をしているのだった。
- 46 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/15(月) 07:08
- 彼女のポケットにはいつも、ただすれ違っただけの人から盗んだものが乱雑に詰め込まれていた。
財布。時計。指輪。携帯電話。口紅。ガム。名刺。サングラス。怠惰。鎮痛剤。経験。傘。羽根。キーホルダー。猫。ハサミ。ボーダーライン。文庫本。ミネラルウォーター。向上心。デジカメ。切符。庇護。バネ。週末。空気清浄機。靴。羞恥心。ボール。敗北。写真。行間。灰皿。担保。テトラポット。茶葉。アドバイス。押し花。銃声。版画。山吹色。手帳。ハンカチ。自嘲。チョコレート。ゼナ。告げ口。石鹸。レンチ。薬指。詩集。カテゴライズ。化石。絵馬。ファンサイト。注射器。商機。ペットボトル。視線。地図。投票用紙。王位。妊娠検査薬。メガネ。2008年。リッツ。レンガ。夜景。虫ピン。音楽。秘話。プロポーズ。ストロー。綿棒。剃刀。蜥蜴。助っ人。トンネル。鋼。結び目。値札。習慣。スリッパ。種。アロンアルファ。説得力。靴下。招待状。ボードゲーム。失言。コイン。箸。扇子。ハーモニカ。蠅。三角定規。ぬいぐるみ。栞。インプラント。秒針。タグ。イヤホン。脱獄。唾。コンセント。錠前。アポイントメント。小鉢。風見鶏。栄養素。配当。袋。水。手拍子。鳴りやまない手拍子。いつまでも終わらない手拍子。永遠。結末。
- 47 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/15(月) 07:08
- 「ごっちん、そんなものが欲しかったんだ」
「別に」
彼女はまるで息を吐くかのように簡単に物を捨てる。
- 48 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/15(月) 07:08
- ゴミF 終
- 49 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/15(月) 07:08
- 「あたし、蕁麻疹が出たから帰っていいかな」
ボリボリと腕を掻きながら紺ちゃんが言う。蕁麻疹らしきものはちっとも見当たらないけど嘘とも演技とも思えない。紺ちゃんは血が出るほど腕を掻きむしっていた。
「アホか。お前みたいなのんでもおらんかったら『5期バスツアー』にならんやろ」
「ちょっと愛ちゃんよしなよ」
あたしが止めようとした横からガキさんがつぶやく。
「あたしも帰りたい」
- 50 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/15(月) 07:08
- 「ガキさんも蕁麻疹?」紺ちゃんは目を丸くして掻くのを止めた。
「うん。もう限界。1メートル以内に入ったらダメみたい」
そう言うガキさんのお肌はつるつるで、ちっとも痒そうじゃなかった。
「アホか。握手とかしてるやろ。なんでバスツアーくらいで」
必死に止めてる愛ちゃんが一番痒そうだった。苛々しながら背中を掻きむしっている。
- 51 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/15(月) 07:09
- 「ファンとのこの身近な感じがダメ。もう嫌。帰る」
「じゃあ一緒に帰ろうよ」
「アホか! お前らより先にあたしが帰りたいわ!」
それは困る。
「その前にあたしが帰っていい?」
「マコも?」
「うん」
- 52 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/15(月) 07:09
- 「じゃあ順番決めよう! 歌パートが多い人から順に帰るってことで!」
「なんでよ。逆でしょ。少ない順だよ」
「いやいやいや。海外留学の経験が豊富な順に」
「うーん。背が低い順で!」
「年齢順で!」
「年収順で!」
「小顔の順で!」
「頭脳明晰で学歴が一番高くてデビューから一番早い時期にミュージカルの主演に抜擢されて運動神経抜群で一番巨乳だけどくびれててスタイル抜群で写真集も一番売れててファンからの人気抜群だけどファンにも事務所にも言いなりにならずに自分なりに将来のビジョンをしっかりと持っている順に帰る!」
そんな話で盛り上がっている間もずっと、会場の方からはアンコールの声が聞こえてきていた。
- 53 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/15(月) 07:09
- ゴミG 終
- 54 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/18(木) 07:16
- 「最後の横浜アリーナで壮大な企画を立てたいんです」
亀井は拳を握りしめて熱弁している。口を開けて天を仰いだかと思うと勢いよく両手でバッシーンと机を叩いた。
「ファンの人が! 一生忘れないような! 素敵な企画を!」
リンリンははらはらと大粒の涙を流している。
- 55 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/18(木) 07:16
- 「やろうよ絵里。やってやろうよ。6期最後のステージ。燃え尽きようよ!」
道重は立ちあがると亀井の右肩に抱きついた。当然のように田中は左の肩に抱きついている。亀井は二人を優しく抱き寄せると「ありがとう」「ありがとう」と涙声で何度も繰り返し言った。道重と田中の涙で亀井の肩はぐしょ濡れになっていた。
「ちょっと待ってよ、さゆ」新垣も黙ってはいない。
「6期最後じゃない。モーニング娘。としての最後なんだよ」
「そうだよ。あたしらやミッツィーも入れて全員でやるんだよ」
高橋の言葉に新垣と光井が無言で頷いた。
- 56 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/18(木) 07:17
- 「つまり横アリの主役は亀井さんってことね」
すねたような口調で言ったジュンジュンの頬を、田中の平手が張り飛ばした。
「バカ! ジュンジュンのバカ!!」
張り飛ばされたジュンジュンよりも痛そうな顔をして田中は絶叫した。
「なんでそんな悲しいことを言うと! お前は娘。のことをなーんもわかっとらん! みんなの気持ちを何一つ理解しとらん! 理解しようとしとらん!」
「そうです、ジュンジュン。そんなことを言っちゃダメです」
頬を押さえて泣きじゃくっているジュンジュンを、リンリンは優しく抱きあげた。
「みんなの気持ち、リンリンはわかります。ジュンジュンもきっとわかるよね?」
リンリンの言葉にジュンジュンは頷く。
- 57 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/18(木) 07:17
- 田中の言葉が続く。
「卒コンは戦場。最後の戦場なんよ。妬むやつ、恨むやつ、泣き言いうやつはいらん」
「ごめんなさい。ジュンジュン、もう二度とそんなこと言わない」
リーダーの高橋が場をまとめようとする。
「ジュンジュン。誰が主役とか、そういうこと、もう説明する必要はないよね?」
「はい。今回の横アリでのコンサート、もちろん主役は・・・・」
鋭くジュンジュンの言葉を遮って、田中が全モーニング娘。ファンを代表して言った。
- 58 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/18(木) 07:17
- 「絵里に決まっとうやろ!」
- 59 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/18(木) 07:17
- こうして横浜アリーナで行われた、メンバー主催による亀井絵里卒業特別企画はファンの大喝采を浴びて大成功のうちに幕を下ろしたという。
- 60 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/18(木) 07:17
- ゴミH 終
- 61 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/18(木) 07:17
- ののたんは長い髪を頭頂部でまとめてその結び目にバカみたいな大きな大きなリボンをつけています。
あいぼんは指を差してヘラヘラと笑いました。「なにそのでかいリボン」
なっちも腹をかかえてグヘグヘと笑いました。「全然可愛くないし」
やぐちも声を裏返してキャハハと笑いました。「頭悪いなお前」
涙を流して怒りました。ののたんの涙が一粒流れる度にリボンは大きくなっていきます。ののたんは怒りました。ののたんの血管が一つ切れる度にリボンは大きくなっていきます。ののたんの顔ほどの大きさに。そしてののたんの体ほどの大きさに。際限なくリボンはどんどん大きくなっていきます。
あいぼんは大きなリボンに吹き飛ばされて姿が見えなくなりました。
なっちは大きなリボンに轢かれてくぐもったうめき声をもらしました。
やぐちは大きなリボンに殴られて頭がおかしくなりました。
三人が大人しくなると、ようやくののたんは笑顔を見せます。リボンは変わらず大きなままです。大きなリボンを頭につけたまま、ののたんは大好きな人と結婚して可愛らしい子供をたくさん産んで食べたいものを食べて遊びたいときに遊び、いつまでもいつまでも幸せに暮らしました。
- 62 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/18(木) 07:18
- 真野ちゃんは髪をポニーテールにしてその結び目にバカみたいな大きなリボンをつけています。
- 63 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/18(木) 07:18
- ゴミI 終
- 64 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/21(日) 09:01
- 小さな冊子を手にして、石川は真剣な表情で何かを読んでいる。吉澤は腰で冷蔵庫を勢いよく閉めると、冷えたコーラの入ったコップを石川の頭の上に乗せた。コップを乗せられても微動だにしない石川を、カーペットに寝そべった藤本は不機嫌そうな顔で見上げる。
「ちょぉ。カーペットにこぼさないでよ、絶対」
「これ。手ぇ放したら落ちるよ。多分」
「じゃあ放すなよ」
「こえーよミキティ」
「買ったばっかなんだよ」
吉澤と藤本が淡々と会話している間も石川は無言だった。
- 65 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/21(日) 09:01
- 体育座りの姿勢で一心不乱に読みふける石川の背後に回り、吉澤はすっと密着した。
カラカラと乾いた音がする。石川の首筋と服の隙間から銀のネックレスが見えた。ネックレスの先には銀の銃弾が二つ付けられていた。
「何読んでんの梨華ちゃん」
「取説」
「え? 何の?」
「安倍さんの取説」
吉澤は石川の肩に顎を乗せたまま、しばしの間無言で藤本と向き合った。
- 66 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/21(日) 09:01
- 「よっちゃん」
「安倍さんのトリセツ?」
「コーラこぼさないでよ」
「興味そっちかよ」
吉澤は石川の顔越しにコップを回してコーラを飲む。飲み干せずに半分ほど中身が残る。吉澤は藤本が潜りこんでいる炬燵の上にコップを置いた。
「誰にもらったの?」
「相手すんなよ。そんなの嘘に決まってんだろ」
「その1.安倍なつみを自由に動かすには三万円以上の時給が必要です」
- 67 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/21(日) 09:01
- 取説を棒読みする石川。
リアクションに困っている吉澤をよそに、藤本美貴は音を立てずに笑った。
「そりゃあいい。もっと読んでよ」
「ていうか時給三万って安くね? それで自由にできるの? なんでもあり?」
「あ、よっちゃん今すげえいやらしいこと想像してない?」
「その48.電気マッサージ器よりも大型のバイブレーターを好みます」
吉澤と藤本は声を立てずに笑い、ごろごろと床を転がりながら派手に悶えた。
- 68 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/21(日) 09:02
- ニヤけた顔で藤本が言う。
「バカ、飛ばすなよ。順番に行こうぜ」
「ていうか梨華ちゃん。何で今頃そんなもん持ってるの?」
「あたし明日、テレ東で安倍さんと一緒の仕事があるんだ」
藤本と吉澤の顔は一瞬で真顔に戻る。
「それは災難」
「それで取説見てんだ」
「あたし真剣なの」
「だろうね」
「娘。時代に読みたかったなそれ」
- 69 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/21(日) 09:02
- 取説を取り上げようとする吉澤の手をかわし、石川は再び真面目な表情で読み始める。
「その2.安倍なつみは批判や誹謗中傷には強いですが、甘い誘惑には弱いです」
「弱いのかよ」
「見りゃわかんだろ」
「その3.安倍なつみが不機嫌になったときは、大型のカメラを向けてください」
「カメラには笑うってか」
「あ、それちょっと羨ましい機能かも」
「その4.安倍なつみの機能が低下したときは、大型の弁当を与えてください」
「どんだけ大型好きなんだよ」
「でも弁当で機能が上がるなら安いもんじゃん」
- 70 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/21(日) 09:02
- 取説を読みながら、石川はごそごそと鞄の中身を確認している。少し時計を気にする様子もあった。もうすぐ夜が明ける時間だ。安倍との仕事まであまり時間がないようだ。
「なになに。梨華ちゃんこっから直で仕事に行くの?」
「そんなんで仕事大丈夫なのかよお前―」
石川の声のトーンが上がる。
「その5.安倍なつみを一瞬でも黙らせたいときは、懐から鳩を取り出してください」
「あー、それ梨華ちゃんには無理だね」
「そういや鳥とか苦手だったっけ」
石川の表情はなぜか暗い。死人のように顔に血の気が全く感じられなかった。
「その6.安倍なつみの・・・・・・あ、しまった!」
「なんだよ急に」
「やばい。今日は時間よりちょっと早めに入らないとダメだったんだ・・・・・」
立ち上がった石川は取説を片手に持ったまま、鞄を乱暴に持ちあげる。
- 71 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/21(日) 09:02
- 「なんだよ、いいとこなのにー」
「ダメ。もう行かなきゃ」
「じゃあ、あと一個だけ読んでよ。一個だけ」
「ダメだって! 急ぐの!」
右手に取説を持ち、左手に鞄を持ったまま、石川は強引にコートを羽織ろうとした。鞄が空中でくるりと一回転する。
- 72 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/21(日) 09:02
- 「あ!」
「おい!」
石川のカバンからは剥き身の一万円札が何枚も落ちてきた。その上に大きなカメラが転がる。さらにそのカメラよりも大きなお弁当がひっくり返って中身をぶちまけた。おまけに鞄の脇からは鳩が飛び出てきて部屋の中でバタバタと羽ばたく。そこでようやく体勢を立て直した石川は、こぼれたものを掻き集めて鞄に押し込み、玄関まで走っていった。
「待てよおい! 鳩! 鳩! 鳩!」
「大丈夫。まだこの中に何匹か入ってるから」
「大丈夫じゃねえだろうがよ!」
「大丈夫。この日のために頑張って訓練したから。慣れたよもう」
「お前の心配してんじゃねえよ!」
鳩はくるっくーと鳴きながら藤本の部屋を自由に飛びまわる。
- 73 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/21(日) 09:02
- 激怒する藤本を前にしても、何か重大な決意を秘めているかのような石川の思いつめた表情は揺るがない。
扉から出ていく前に、石川は一丁の拳銃を取り出して藤本と吉澤に向けた。
息を飲む二人に向けて、石川は取説の最後の文章を諳んじてみせた。
「その99.銀の銃弾で心臓を二度撃ち抜くと、安倍なつみは死ぬ」
言い終わると同時に石川は扉の向こうに消えた。
- 74 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/21(日) 09:03
- その日の生中継の様子を藤本と吉澤は一生忘れないだろう。
ドッキリの仕掛け人になっていた安倍なつみは、椅子に縛られた石川の目の前で、石川のカバンの中身を一つ一つ取り出してはカメラの前に晒していた。
「さあー、皆さん、石川さんは何を持ち歩いてるのかなー、お弁当。でかいねー。カメラ。本格的なカメラだねー。わ! え!? 鳩? なんで? わ! これも面白―い。見て見て! おもちゃの拳銃? うーん。隠し芸?みたいな? 手品かなんかの練習道具なのかなー? そしてこれ! 見てくださいみんな! え? あれ? あれれれれ? これってもしかして・・・・・」
吉澤と藤本は声を立てずに笑い、ごろごろと床を転がりながら派手に悶えた。
- 75 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/21(日) 09:03
- ゴミJ 終
- 76 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/24(水) 07:05
- 保田は中澤の背中に鍵を差し込む。
鍵を四分の一周ほど回すとロックが外れる手応えがあった。
「痛」
「だいぶ錆びてるし」
飯田は中澤の首筋に鍵を差し込む。
同じように鍵を回すと二つ目のロックも外れた。
- 77 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/24(水) 07:06
- 「痛いって」
「我慢しなよ。すぐ済むから」
鍵を外すと中澤の背中にあった大きな扉が開いた。
保田と飯田はその中に亀井絵里を放りこんだ。
「終わったよ」
「一瞬やな」
保田は扉を閉じて念入りに鍵をかける。
- 78 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/24(水) 07:06
- 同じように今度は中澤と飯田が保田の背中にある扉を開く。
保田は中澤と同じように小さな呻きを漏らす。
「痛」
「だから言うたやん」
中澤と飯田はその中にジュンジュンを放りこむ。
そして同じように扉を閉じて厳重に鍵をかけた。
少し離れたところで、矢口は三人のやり取りを黙って見つめている。
- 79 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/24(水) 07:06
- 今度は中澤と保田が飯田の背中にある鍵穴に鍵を差し込む。
飯田は酷く表情を歪めたものの「痛い」とは言わなかった。
差し込まれた鍵は、鈍い手応えを残して根元からポッキリと折れた。
状況が飲み込めない飯田の様子を見て矢口がゲラゲラと笑う。
「カオリ、お疲れ」
「やだ。なに言ってんの」
「終わりだよ、終わり。ゲーム・オーバー」
「ちょっと」
- 80 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/24(水) 07:06
- わあわあと泣き喚く飯田を適当にあしらい、中澤と保田は矢口の背後に回る。
矢口は鍵を突っ込まれても表情一つ変えなかった。
オイルでも塗っているかのように鍵は滑らかにロックを外した。
「これで最後やな」
「今回はね」
中澤と保田はポッカリと開いた矢口の背中にリンリンを放りこむ。
「お疲れ」
「毎度」
- 81 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/24(水) 07:06
- 三人は足早にその場を去り、床に倒れ伏した飯田だけが残される。
「カオリ」
跪き泣きじゃくる飯田の肩に優しい手が触れる。
「卒業おめでとう」
素っ気なく祝いの言葉を述べる後藤の首には朽ち果てて折れた一本の鍵が刺さっている。
- 82 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/24(水) 07:06
- ゴミL 終
- 83 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/24(水) 07:07
- 「おう、ジュンジュン。ちょっとええか。例の件やけど」
「ダメ。今忙しい」
「なんでやねん。何もしてへんやん。ええやろちょっと。なあ」
「邪魔だから。つんくさんあっち行って」
「ちょっとでええねん。例のアレについてちょっと話させてや。なっ、なっ。」
「うるさいよ。高橋さんなら事務所に」
「いや、あいつはアカン。あいつにはもう」
「新垣さんも一緒」
「だから断られてんて」
「あっそう。じゃあ、これあげるから。あっち行って」
「なんやねんこれ」
「田中さんの番号」
「えっ」
「もう。道重さんの番号も光井ちゃんのも書いてるから。勝手にかけて」
「お前ら番号なんか教え合ってんのか。友達なんか」
「とにかく他あたって。あたし知らないから」
「他は全員当たったっちゅーねん。もうお前だけが」
「あのね。馴れ馴れしいよあなた。私もうモーニング娘。じゃないし」
「えっ。卒コンは来週やろ?」
「昨日終わったよ」
- 84 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/24(水) 07:07
- ゴミM 終
- 85 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/24(水) 07:07
- 「それでは℃-uteの第231回定例会議を始めます」
4年半前からちっとも変わっていない口調で舞美ちゃんが会の始まりを告げた。ちょっと緊張した表情。ちょっと舞い上がったような雰囲気。ちょっと照れくさそうな笑顔。そしてふわふたした落ち着かない物腰。4年半も同じメンバーと付き合っているのにいまだにリーダーっていう役割に慣れていない、なんてこと普通はあり得ないと思うんだけど、残念ながら舞美ちゃんは普通の人間じゃないんだな。上方面が下方面かわかんないけど、とにかく突き抜けてる人だから舞美ちゃんは。それにしてももう231回ですか。見ていて飽きないからいいんだけど、ホントこれっていつまで飽きないんだろう、飽きなくていいのかなとかちょっと思う。なんてったってもう231回だからね。
- 86 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/24(水) 07:07
- 「℃-uteを取り巻く状況は思った以上に深刻です」
舞美ちゃんが話を切り出すと千聖が素早く応える。
「深刻なんだ」
「深刻なんです」
「どっち方面で深刻なの?」
「全方位的です」
「えー。包囲されてるんだ」
千聖がやけに積極的に舞美ちゃんに話しかける。確かに会議で全然発言しなかっためぐや栞菜やえりかちゃんは順番にこの会議から消えていったけど、多分それは全然関係のないことだと思う。でも最近の千聖は妙に発言が多い気がする。なっきぃも。まいちゃんも。みんなやけに積極的。それとも人数が減ったからそう思うだけなのかな。
どっちにしても状況が深刻ということは確かにそうだし、もっと頑張っていくために積極的になることは悪いことじゃないよね。そのための会議なわけだし。
- 87 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/24(水) 07:07
- 「私達はもうデビューしてから5年になります」
そうだね。会議が始まったのは4年半前だけど、デビューからは5年半近くになるんだね。
「いまだに私達はBerryzのようにブレイクを果たせていません」
えっ。ベリはブレイクしたの? いつ? どこで? えっ? えっ?
- 88 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/24(水) 07:08
- 「あんなのスペジェネだけじゃん」
えっと、あの。舞ちゃん的にはあの曲がブレイク? えっ? ホントに?
「舞ちゃん。そういうけどさ。あれって越えなきゃいけない大きな壁だよ」
ごめん千里。あたしその話についていけてないんだけど。えっと、壁ってつまり・・・・
「とにかく我々はBerryz工房に追いつき追い越さなければいけません」
えーっ、今更? これって231回目の会議だよね? ちょっとハードル低くないですか? 短期目標? それにしてもちょっと・・・・・
- 89 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/24(水) 07:08
- 「私達はデビューして5年!」
なっきぃ。すんごいポーズで格好つけて言ってるけど、それさっき舞美ちゃんが言ったことだから。
「それなのにベリはデビューして6年になるのです!」
正確には6年8ヶ月ね。うちらは5年5ヶ月。これくらいになったらもうキャリアの差とかあんまり変わらないと思うんだけどなあ。
「この一年という年数の差を早く縮めないと・・・・」
いやいやいや。年数の差は永遠に縮まらないから。ねえなっきぃ、言いたいことはわかるけど、あの
- 90 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/24(水) 07:08
- 「メンバーのキャラが薄いからだと思う」
うわあ。
「そうそう。キャラがないから一般層に覚えてもらえないんだよ」
うわあ。
「キャラだよね。TV向けのキャラを確立しないと」
うわあ。
「キャラさえ固まっちゃえばフリートークも楽だよね」
うわあ。
- 91 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/24(水) 07:08
- 「うん。各メンバーのキャラをもう一度決め直してみようよ」
それって落ち目になりかけてた時代のモーニング娘。さんがよくやってたことじゃ・・・・・。
「他にアイデアある?」
「キャラを決める舞台裏を見せるとか」
それだけはやっちゃいけない気がする。
「とにかくみんなのキャラを考えてみようよ」
えー、今更? それって第4回とかそのへんでやっておくことじゃないでしょうか。
- 92 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/24(水) 07:08
- 「食いしん坊キャラとかどう?」
それ紺野さんが失敗したんじゃなかったっけ。
「あと保田さんみたいないじられキャラとか」
それは小川さんがやり損なってた気がするなあ。
「毒舌キャラは?」
やめようよぉ。精神的にきつそうだよぉ。考えただけでお肌が荒れそう・・・。
「それよりももっと派手にさあ、不老不死キャラとか!」
アハハハハハ。もうなんでもいいけどさあ。たとえ不老不死だったとしても、彼氏とデートしてるとこ撮られたら引退させられるんだろうなあ。
- 93 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/24(水) 07:09
- 「あと℃-uteには方言キャラがいないし」
「それはいらない」
それはいらないんだ。断言だね。即断だね。なんでちょっと怒ってるの?
「絶対嫌だよ。下手したら大怪我するって」
「うんうん。失敗したら目も当てられないよね」
「そうそう。最初はちょっとしたインパクトがあって美味しいんだけどさ」
「調子に乗って連発したら放送事故だよね」
えっと。あの。みんな。それって高橋さんのことを言ってるんでしょうか?
- 94 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/24(水) 07:09
- 「無口なキャラ」
「あ! それ意外! いい!」
「全然喋らないキャラね」
「そういえばそういうキャラって芸能界にいないかも」
喋らない人はいっぱいいるじゃん・・・・・。モーニング娘。さんとかも全体的に・・・・・。ていうか面白いこと言わないとTV的には全然喋ってないことにされちゃうよね。カットとかされて。
「誰に何を質問されても絶対応えないの」
「格好良い!」
「クールじゃん!」
「絶対受けるよそれ!」
その前に誰も質問してくれないよ。誰も興味持ってくれないからこそ全方位的に深刻なんだからさ。
- 95 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/24(水) 07:09
- 「じゃあ、今日からあたし、無口なキャラで行くから」
えー、舞美ちゃんが? そんなことしたら舞美ちゃんの魅力が台無しじゃん。
「なんで? 考えたのあたしじゃん。あたしがやる! 明日丁度あの仕事があるし」
あのね千聖。ユーストでそれやったらそれこそ放送事故だから。
「ダメダメ! あたしがやるの! 今度こそ上手くいくから!」
サングラスで懲りてないんだ・・・・・。
「あたしがやる! あたしにだってちゃんとしたキャラさえあればあんな屈辱は」
屈辱ってどのときのやつ? いっぱいあってよくわかんないや。
- 96 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/24(水) 07:09
- 「とにかく無口なキャラが一人くらい欲しいよね」
「みんなで話が盛り上がってるときもさあ」
「その子は一切からんでこないでクールに見つめてるだけなの」
「絶対人気出るよ」
盛り上がってるなあ。みんな本当にこういう話題が好きなんだなあ。もう一時間以上経ったけど全然終わりそうにないよ。それにしても
- 97 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/24(水) 07:09
- みんなよく喋るなあ。
- 98 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/24(水) 07:09
- ゴミN 終
- 99 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/26(金) 07:08
- 満面の笑みを浮かべながら久住小春は二台の機械を向かい合わせに並べる。
「加湿器対除湿機だ!!」
両手の人差し指を左右に伸ばして同時にスイッチを押す。
「バトル開始!」
加湿器から排出された蒸気が除湿機へと吸い込まれていく。
- 100 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/26(金) 07:08
- 満面の笑みを浮かべながら久住小春は二棟の建物を向かい合わせに建築する。
「産婦人科対葬儀場だ!!」
両手の人差し指を左右に伸ばして同時に扉を開く。
「バトル開始!」
産婦人科で生まれた赤子が葬儀場へと運ばれる。
- 101 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/26(金) 07:08
- 満面の笑みを浮かべながら久住小春は一枚のDVDをプレイヤーに入れる。
「アイドル対視聴者だ!!」
右手の人差し指を一直線に伸ばして再生ボタンを押す。
「バトル開始!」
OPのイントロが流れると同時に久住小春はDVDの中へと吸い込まれていく。
- 102 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/26(金) 07:09
- ゴミO 終
- 103 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:10
- 田中 みっつぃー、台本読むの付き合ってほしいっちゃ。
光井 はあ、ええですけど。何の台本ですか?
田中 コントよ、コントやるけん。
光井 コント? どこでやりはるんですか?
田中 モーニング娘。
光井 ・・・・・・・・いや、だからどこで
田中 モーニング娘。でやるコントやけん。
光井 ・・・・・まぁ、ええか。
田中 なにが?
光井 いや別に。
田中 なんね。難しい顔してからに。
光井 ほな、始めましょ。
- 104 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:11
- 田中 そこで田中は本を片手に舞台の下手に移動する。
光井 田中さん、ト書きも読むんですか?
田中 お前、何年芸能界にいるっちゃ。
光井 30年ですけど。
田中 うん、30年っておい! そんなわけないやろうが!
光井 田中さん、ノリ突っ込みはもうちょい引っ張った方が。
田中 はあ? れいな7年も芸能人やっとうけど?
光井 ゴーイングマイウェイですね。
田中 そこ、突っ込むとこ?
光井 は?
田中 英語はようわからんけん。
光井 私も田中さんのことはようわからんけん。
田中 真似すんなアホ。
光井 真似すんなアホ。
田中 なんかむかつく。
- 105 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:11
- 光井 光井はうつむきながら田中の前の椅子に座る。
田中 ちょっとちょっと。ト書きは読まなくていいっちゃ。
光井 なんでやねん。どっちやねん。
田中 タメ口?
光井 田中さん、そういうとこ細かいですよね。
田中 先輩やけん。そこはちゃんとせんといかん。
光井 コントの間だけはそういうの、なしにしません?
田中 なんでよ。
光井 敬語やったら余所余所しいやないですか。コントなんですから。
田中 うーん。まあ、いいっちゃ。
光井 ほな再開するで、田中。
田中 なんかむかつく。
光井 細かいことは気にしないっちゃ。
田中 そないなこと言わはったらごっつい気分が悪いですねん。
光井 なんかむかつく。
- 106 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:11
- 田中 田中は光井を見下ろして指差しながら説教を始める。
光井 結局読むんや。
田中 「おい光井! 先輩にタメ口とはどういうことっちゃ!」
光井 あれ? そんな台詞あったっけ?
田中 おまへん。
光井 真面目にやるっちゃ。
田中 そっちが真面目にやるなら、れいなも真面目にやりまんねん。
光井 ヤリマン?
田中 そうそう。そりゃもうれいなのあそこはガバガバよ・・・・・っておい!
光井 うん悪くない。それくらいの間合いやね。
田中 光井先生、合格でありますか。
光井 及第点やね。
田中 先生! 自分は先生のノリ突っ込みの見本が見たいであります!
光井 わかったわかった。いつでもええから適当な時にネタ振りしてや。
- 107 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:11
- 田中 田中は持っていた本を丸めて光井を殴る!
光井 なにするねん。危ないなあ。そんなん台本にないやん。
田中 避けんなよ! そこは殴られてノリ突っ込みやろ!
光井 え、ネタ振りやったん?
田中 ネタ振りしろって言うたのはお前やろ!
光井 ゴメンゴメン。素で気付かなかったっちゃ。
田中 うわ。ごっつ感じ悪いですわ先生。
光井 ていうかさー、うちらさっきからト書きしか読んでなくない?
田中 ホンマそうですね。
光井 そろそろコントに入っていくっちゃ。台詞も読むけん。
田中 先生
光井 なんね
田中 博多弁下手くそですわ。
光井 田中君
田中 なんすか
光井 敬語下手くそやね。
田中 ごっつむかつく。
- 108 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:11
- 光井 「お前ら! いつまでも調子に乗ってたら痛い目にあうっちゃよ!」
田中 「ちょっとちょっとちょっと。それあたしの台詞っちゃ」
光井 「福岡の黒い稲妻と呼ばれたあたしが」
田中 「だからそれってあたしのこと!」
光井 ぷぷぷぷ。黒い稲妻やって。なんねこれ? いつの時代の話?
田中 台本で笑ったらアカンやん。
光井 ごめんごめん。なんかチョーうける。
田中 先生。これ一応コントの台本なんで。
光井 ハロモニのコントとかと全然レベルが違うんやねー。
田中 先生は毒舌でありますね。
光井 いやいやいや田中君のブログには負けるっちゃ。
田中 え?
光井 え?
田中 は?
光井 は?
- 109 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:12
- 光井 そろそろ真面目に練習するっちゃ。
田中 今までは真面目やなかったんやね。
光井 お前のせいやろ
田中 先生はまたそうやってすぐに他人のせいにする。
光井 なんね
田中 ダメですよ。もうちょい自覚してもらわんと。
光井 ちゃんとやってるっちゃ。
田中 そんなんやから同期からもそれとなく避けられるんですわ。
光井 そんなことないもんねー。同期三人はみんな仲良しやもんねー
田中 そんなこと思ってるの先生だけやないですか。
光井 そっちこそ「同期が卒業してせいせいするわ」とか思ってるんじゃなかと?
田中 なんでやねん。
光井 いやいやいや。すっごい思ってそうっちゃ。
田中 思うてないですよ。みんな仲間やないですか。
光井 うわー、格好つけてるー。感じ悪いっちゃ。
田中 なんで格好つけるのが悪いねん。本音やっちゅーねん。
- 110 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:12
- 光井 ていうかさー、下の人間って本音で話さないよねー、先輩に対して。
田中 そら無理ですわ。
光井 無理なんかよ!
田中 含むところもありますしなあ。
光井 そうそう言葉にできないドロドロとした思いを・・・・・っておい!
田中 ホンマ自分成長したなあ。完璧やでそのノリ突っ込み。
光井 誉められても嬉しくないっちゃ。
田中 なんでやねん。
光井 あたしはね、もっとメンバーと本音で語りあいたいっちゃ。
田中 あーそら無理ですわ。できひんできひん。
光井 なんね。あんたがそう思っとうだけやろ。
田中 先輩との間には壁があるんですわ。
光井 ブレイークスルー♪
田中 自分をぶち破れ・・・・・・・・・・・オイ!
光井 ホンマ自分めっちゃ腕上げたな。
田中 先生の指導のたまものっちゃ。
- 111 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:12
- そして幕。
- 112 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:12
- ゴミP 終
- 113 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:13
- 「邪魔してるよ」
深夜3時に帰宅したら、あたしの部屋には圭ちゃんが勝手に上がり込んでいた。リビングのテーブルの上には既に空になったらしい瓶が4、5本横倒しになってた。ハナから缶じゃなくて瓶なんだ。圭ちゃんってここ数年、少しずつ中澤さんに似てきているんじゃないかとあたしは思った。
あたしは荷物を置くと着替えもせずに冷蔵庫を開ける。買い置きしていたはずの缶ビールは全部なくなっていた。梨華ちゃんがこんなに飲むわけない。どうせ圭ちゃんが全部飲んだんだろう。
「なによよっすぃー。なんか言いたそうだけど」
「いや別に」
「石川に合いカギ借りたから」
「はいはい」
- 114 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:13
- あたしは机の上にあった空のビール瓶を手に取り、思いっ切り圭ちゃんの頭を殴りつけた。「ビール瓶で頭を殴った時のような」としか形容できないような鈍い音がする。重い手応えがして指がちょっと痺れたけど、瓶は割れなかった。TVみたいに綺麗に粉々にはならないんだね。まあいいや。やるべきことはやったし、とりあえずあたしは圭ちゃんに謝る。
「いやあ。ごめんね圭ちゃん」
圭ちゃんは軽いパニックになっているみたいだった。臨機応変な対応ができない人だね。思い出してみれば、このリアクションもそっくり。中澤さんを殴ったときとほとんど同じリアクションだ。似てるなあ。年を取るってそういうことなのかな。
「あたしもちょっと酔ってるからさ。痛かった、頭?」
「あああ、あ」
「そっか。よかったよかった」
圭ちゃんは自分の頭をさすり、確認するように掌をじっと見る。血は全然流れていないみたいだ。こういうところもTVみたいに綺麗にはいかないんだね。
- 115 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:13
- 「吉澤も飲む?」
「うん」
圭ちゃんはあたしの返事を聞く前に真後ろに倒れた。座敷で飲むときはスカートじゃない方がいいね。ひっくり返って失神した圭ちゃんの股間はだらしなく開いていた。あたしはそっとスカートの裾を整えてあげる。ひどく酒臭い臭いがしたけど、さすがにこれって股間から臭ってるわけじゃないよね?
唐突に圭ちゃんはもの凄いいびきをかき始めた。救急車を呼ぼうと携帯電話を取り出したところで、あたしは梨華ちゃんから着信があったことに気付いた。自然とため息が漏れる。とりあえず救急車を呼ぶのは後回しになりそうだ。間に合えばいいけど。
圭ちゃんが愚痴る。梨華ちゃんが泣きつく。あたしが慰める。あたしが圭ちゃんを殴ったことを除けば何も変わらない。来年は誰が誰を殴るのだろうと思いながら、あたしは梨華ちゃんの番号を押した。
- 116 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:14
- ゴミQ 終
- 117 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:14
- 「愛ちゃんおはよう! 今日もお仕事がんばろうね!」
加護亜依は天真爛漫な笑顔を見せながら高橋愛に挨拶をした。
高橋は軽く頷くと、足早にその場を去ろうとする。
だがその後ろから加護はニコニコと笑いながらつきまとい、昨晩の高橋のラジオでの仕事ぶりがいかに素晴らしかったかを大げさな言葉で誉めたたえる。
高橋はそれには応えず、待たせていたタクシーに飛び乗った。
- 118 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:14
- タクシーの中で一息ついた高橋は、おもむろに携帯電話を開く。例のブログは数ヶ月前からブックマークしていた。案の定、そのブログは異常な速さで更新されていた。
『今日もモーニング娘。の高橋愛ちゃんと朝から仕事の流儀について語り合っちゃいました。本当に愛ちゃんは頼もしい後輩で』
高橋はそこまで読んで携帯を閉じる。
- 119 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:14
- コンサートでも加護亜依は最前席に陣取って大きな声援を送る。加護の席の両側はなぜか右も左も2席分空いていた。ぽっかりと空いたスペースの真ん中で激しく踊る加護の姿は嫌でも目立つ。会場はコンサートの最中もずっと微妙なざわつきが収まらなかった。
「おいあれ加護だよな?」
「あいつ今日も昼夜来てるんだ」
「うわ、すっげー目立つな」
「両側の席は買い占めてんのか?」
それでも加護は、コンサートスタッフに締め出されない程度に最低限のマナーはきちんと守り、礼儀正しくコンサートを楽しむ。
- 120 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:14
- コンサートが終わると誰もがぐったりと疲れて無口になる。
それでもリンリンはそれが自分の仕事の一つであるかのように、携帯を開いて例のブログの様子を確認する。一言「もうアップされてます」と告げると、それだけでメンバーには意味が通じた。
「無駄に速いね」道重の言葉が静まり返った部屋の中に虚しく響く。
- 121 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:15
- スタッフに呼び出されていた高橋が部屋に戻ってくる。手にはスポーツ新聞らしきものが握り締められていた。
「みんなこれ見て」
ドアの近くにいた光井だけが軽く首の角度を変える。他のメンバーは見向きもしない。
「例の件だよ! 見てったら!」
全員が電光石火の速さで動き、高橋を中心に車座を作る。
- 122 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:15
- スポーツ新聞の芸能面には三段ぶち抜きで大きな見出しが躍っていた。
『加護亜依 9期オーディション落選!!!!!!!』
横の写真には号泣している加護の姿があった。
「落選するに決まってるじゃん!」
「どっちに転んでもネタにする気やったんよ」
「最初からそのつもりで」
高橋と新垣は鬼の形相でぎゃあぎゃあとわめきたてる。二人とも声が完全に裏返っていて何を言っているのかよく聞き取れないほどだった。
- 123 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:15
- 不合格通知をもらった受験生のような表情で亀井がつぶやく。
「あたし達、明日からバスツアーがあるんだけど」
全員が息を呑む。
- 124 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:15
- 「大丈夫」
急に正気を取り戻した高橋が亀井をなぐさめる。
「それだけは絶対ダメってスタッフに言ってあるから」
「でもこれまでだって何度も」
「大丈夫。参加者全員の身元は確認してるし、当日も身分証の提示は義務付けるから」
「ホントに?」
「本人以外が来た場合は絶対に参加させないって」
- 125 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:15
- そしてバスツアーの当日。
不安を隠せない亀井をよそに、参加者はどんどんバスに乗り込んでいく。
亀井もジュンジュンとリンリンと一緒に参加者のチェックに加わった。
どうやら亀井の不安は杞憂に終わったようだった。身分証提示で引っ掛かった参加者は一人もいなかった。
亀井は気を取り直して、高らかにバスツアーの出発を告げる。
「それでは出発でーす。運転手さんお願いします!!」
- 126 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:15
- 「はい、モーニング娘。さん」
運転手は振りかえって、天真爛漫な笑顔を見せながら馬鹿丁寧な挨拶をした。
「今日は一日、最後までお付き合いをよろしくお願いします」
- 127 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/11/29(月) 07:15
- ゴミR 終
- 128 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/02(木) 07:14
- 「あー、痒い痒い」
Berryz工房は脇腹をボリボリと掻きながら床に胡坐をかいた。
だらしなくもたれかかってくるBerryz工房の背中をモーニング娘。が面倒臭そうに押し返す。
「こっち来んなよ」
モーニング娘。はぐいぐいとBerryz工房を壁に押し付ける。面倒臭そうな割には強い力だった。
「はあ? 別にいいじゃないですか」
それでもBerryz工房は動じない。言葉は丁寧だったが態度は横柄だった。
モーニング娘。はBerryz工房の鼻をぎゅっとつまむ。鼻で引っ張り上げられたBerryz工房は、金魚のように口をパクつかせる。
「むあむあ」
「そんなに痒いんならあたしが掻いてあげようか?」
モーニング娘。はBerryz工房の脇腹に強烈な右フックを見舞う。
Berryz工房の胃液が四方に飛び散り、部屋の隅にうずくまっていた℃-uteの頭にも振りかかった。
- 129 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/02(木) 07:15
- 「ちょっと。こんな狭い場所で喧嘩しないでくださいよ」
℃-uteは慌てて二人の間に割って入り、仲裁を試みる。顔色がひどくすぐれない。
「なによ。あんた関係ないじゃん」
モーニング娘。のひじ打ちが℃-uteの頬を直撃する。
「そうよそうよ。良い子ぶってんじゃないよこのハゲ」
うずくまる℃-uteの鼻っ柱にBerryz工房のひざ蹴りが入る。
℃-uteの口から悲鳴が漏れたその時、もつれあう三人の女の背後から甲高い叫び声がした。
「待ちなさい! 弱いものいじめはそこまでよ!」
- 130 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/02(木) 07:15
- 「誰よあんた」
「何の用?」
「弱いものいじめ?」
颯爽と登場した女は三人に向かって得意気に名乗った。
「私の名前はSmileage!! 私が来たからにはもう」
三人の女は一致団結してSlileageを袋叩きにした。
- 131 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/02(木) 07:15
- ゴミS 終
- 132 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:10
- 中澤裕子と飯田圭織と安倍なつみがステージに登場すると、客席から暖かい拍手が自然と沸き起こった矢口氏ね。
「今日はみんなありがとう矢口氏ね」
「オリメンだけのイベントに集まってくれてありがとう矢口氏ね」
「今日は最後まで楽しんでいってくださいね矢口氏ね」
三人は誰に気を遣うでもなく非常にリラックスした表情をしていた矢口氏ね。
- 133 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:11
- イベントはまず「モーニングコーヒー」の熱唱から始まる矢口氏ね。
サビへと向かうBメロの部分でのファンの盛り上がりは尋常ではない矢口氏ね。
「しかられたって かまわない 矢口氏ね」
「あなたについてゆくと きめた 矢口氏ね」
「なのに 急じゃ 矢口氏ね」
「こわい 矢口氏ね」
- 134 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:11
- 「さあ、まずはデビュー曲から聴いていただきました矢口氏ね」
歌い終わると、まったりとした雰囲気で安倍がトークを始める矢口氏ね。
いつものように彼女の言葉はナチュラルに攻撃的だった矢口氏ね。
「裕ちゃんもカオリも、なかなか声出てたよね。合格点だよ矢口氏ね」
- 135 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:11
- 飯田も中澤もそれをわかりつつ丁寧に安倍の相手をする矢口氏ね。
「なんで上から目線やねん。あんたこそ全然声出てなかったやん矢口氏ね」
「そうよそうよ。なっちってばいつもコンサの出だしは声出ないんだから矢口氏ね」
「ひっどーい。どうしてそんなひどいこと言うの矢口氏ね?」
会場に陣取ったファンからは、気安い合いの手の言葉が飛ぶ矢口氏ね。
「なっちひどいよ矢口氏ね!」
「いいぞカオリ、言い返せ矢口氏ね!」
古くからのファンの声に対して、安倍はおどけた表情を見せる矢口氏ね。
- 136 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:11
- オリメンイベントということもあり、トークは自然とデビュー前のオーディションのことへと流れていく矢口氏ね。
「なっち達も最初はモーニング娘。とかじゃなかったもんね矢口氏ね」
「もう結成前のこととかあんま覚えてへんなあ矢口氏ね」
「うっそー! ちょっと裕ちゃん、このイベントの趣旨わかってる矢口氏ね?」
「いや、マジで昔のことは忘れたわ矢口氏ね」
中澤の冗談めかした口調にまたも会場から笑いが漏れる矢口氏ね。
- 137 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:11
- 飯田は何の計算もしていないくせに、安倍と中澤に向かって絶妙の質問を振る矢口氏ね。
「じゃあ、どこくらいから覚えてるのよ矢口氏ね」
「ごっちんのこととか矢口氏ね」
「あたしはあいぼんのところとか矢口氏ね」
飯田は露骨に顔をしかめる矢口氏ね。
「それ、事務所的にNGワードじゃないの矢口氏ね」
「ほな怒られへんうちに次の曲いこか矢口氏ね」
また会場がどっと湧く矢口氏ね。
- 138 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:11
- 三人はモーニングコーヒー以上に思い入れのある「愛の種」を熱唱する矢口氏ね。
中澤の脳裏には手売りする5人の姿が鮮やかに蘇る矢口氏ね。
飯田の脳裏にはナゴヤ球場の光景がはっきりと思い出される矢口氏ね。
安倍の両腕には5万枚達成後に抱き合ったときの腕の感触が蘇る矢口氏ね。
万感の思いを胸に歌う三人矢口氏ね。
会場の盛り上がりは最高潮に達する矢口氏ね。
- 139 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:11
- 「みなさん、今日は本当にありがとうございました矢口氏ね」
「ここに明日香と彩っぺがいたらと思うんやけど矢口氏ね」
「でもあたし達5人がオリメンであることは変わらないから矢口氏ね」
「そうやな。2人がここにいなくても同じことやな矢口氏ね」
「うん! モーニング娘。の歴史はここから始まったんだよ矢口氏ね」
「みんな、これからもモーニング娘。をよろしくお願いします矢口氏ね」
「後輩のことも応援よろしくお願いします矢口氏ね」
「今日は本当に矢口氏ね」
「どうも矢口氏ね」
「ありがとうございました矢口氏ね」
- 140 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:12
- ゴミT 終
- 141 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:12
- 「中島、お前の卒業決まったから。来年1月な」とマネージャーが言った。話はそれで終わった。あたしの質問には何一つ答えてくれなかった。
あたしは一目散に帰宅すると、すぐに舞ちゃんに電話する。
「どうしよう。どうしよう。あたし」
「あっそう。まぁ・・・大丈夫だよなっきぃ」
「そんなぁ」
「それってドッキリカメラだよ」
「えっ」
「明日はちゃんとリアクションしなよ」
舞ちゃんはそれから新しく見つけたケーキ屋さんについて30分ほど喋って電話を切った。
- 142 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:12
- 次の日。
あたしがリアクションの準備をする間もなくマネージャーが言った。
「ソロ活動第一弾はお前の主演映画だから」
「はぃ?」
「中島早貴主演映画。製作費は20億を超えるからそのつもりでちゃんとやるように」
あたしは黙ってじっと待った。優に三十分は待った。でも誰もドッキリだとは言ってくれなかった。なぜか死ぬほど恥ずかしかった。あたしは帰宅するや否や舞ちゃんに電話する。
「舞ちゃん話違う。なっきぃソロ。ドッキリ違うよ」
「は? あぁ・・・・大丈夫大丈夫。それもドッキリだから」
「でも」
「明日こそちゃんとリアクションしなよ」
舞ちゃんはそれから今はまってるゲームの話を30分ほど喋って電話を切った。
- 143 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:12
- 次の日。
あたしは周囲を注意深く見渡しながら事務所の会議室に入った。隠しカメラがあるようには見えない。でもやっぱりソロとかありえない。はやく嘘って言ってほしい。
「中島、お前の主演映画の件、なくなったから」
「ええええええええええええええええええええええええええ!」
あたしは両手を万歳させて椅子から転げ落ちた。
「というのは嘘で」
「へ?」
「相手役は福山雅治に決まったから。濡れ場もあるからちゃんと準備するように」
あたしは床に大の字になってしばらくの間じたばたした。でもやっぱり誰もドッキリとは言ってくれなかった。あたしは這いずりまわりながら廊下に出るとすかさず舞ちゃんに電話する。
「舞ちゃん、ドッキリまだ? まだなの?」
「あ? またその話? 明日明日。明日はちゃんとリアクションしなよ」
舞ちゃんはそれから男と女の間で友情は成立するかという話を30分ほど喋って電話を切った。
- 144 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:13
- 次の日
あたしが事務所に行ったらUFAが倒産していた。
舞ちゃんの電話はあれ以来まったくつながらない。
- 145 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:13
- ゴミU 終
- 146 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:13
- ジュンジュンが楽屋で漫画を読んでいた。あたしが貸した漫画に最近ずっぽりとはまってるらしい。いいことだよね。読んでる間は静かだから誰も文句は言わないし。楽屋が静かなのはいいことだよ。ね、さゆに亀。もうちょっと静かにしてくれないかな?
「やだー、ガキさんが妬いてるー。」
コラさゆ。そういうことをさらっと言わないの。もう。この子たちには「ガラスの仮面」でも貸そうかな。そうすればきっと静かになると思うんだけど。
- 147 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:13
- 「ニイガキさん」
「わ!」
いきなり背後に来ないでよ! 近いよジュンジュン。心臓に悪いなあ。
「どうすれば依頼できるか?」
「なにが?」
「どうやって連絡をとればいいの?」
「連絡? だから誰と?」
「このおじさんと」
ジュンジュンの手にはゴルゴ13の103巻が握り締められていた。
- 148 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:13
- 「いや、ジュンジュン、それ漫画だから」
「あたし、20万ドルまでなら用意できる」
楽屋にいた全メンバーがバッと音を立てて振り返った。みんなお金の話には異常に敏感だから。そして誰よりも敏感な愛ちゃんがまず寄ってきた。
「どうしたん、ジュンジュン。何を依頼するん?」
コラ愛ちゃん。そんなこと言わないの! あんたはもう、他人を煽ることばっかり言うんだから。リーダーなのに無責任すぎるよぉ。
- 149 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:13
- 「それは高橋さんにも言えない」
「なんで」
「彼は依頼内容の漏洩を望まない」
「ほう。わかってるやん」
いや、確かにジュンジュンの前に愛ちゃんにあの漫画を貸したのはあたしだけどさ。貸したあたしが悪かったのかなあ。まさか本当にアクセスしようと思うなんて予想できなかったよ。これ結構まずい事態じゃないの?
「ほな讃美歌13番を流すか」
流すんだ。本気で連絡取るんだね。
「わかりました。FIVE STARで流しましょう」
コラ亀! 勝手なこと言うんじゃなーい!
- 150 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:14
- 「ニイガキさん、お願いします」
「はあ。別にいいけどさ。一度始めたら後戻りはできないよ?」
「漫画で読んでそれはわかりました」
本当にわかったのかなあ? あの人、仕事に関してはすっごい厳しいよ? つんくさんの比じゃないよ? ホント大丈夫? 失敗したら命取られるよ? ホント、何度接触してもすっごい緊張するんだからあたしも。
「ガキさんは心配性だなあ」
「愛ちゃんは会ったことないからそんなこと言えるんだよ」
「あっしはガキさんみたいにお金持ちやないからねぇ」
「もう。バカ」
どうなっても知らない。
- 151 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:14
- 翌日のラジオであたしは本当に讃美歌13番を流した。これでジュンジュンの下に連絡がいくことになるはず。ここから先はあたしもタッチできない。だってそんなことしたら彼に撃たれちゃうからね。ホント仕事には厳しいんんだから彼は。
「ありがとうニイガキさん」
「うん、まあ、彼によろしく」
「ニイガキさんの名前、出してもいいのか?」
「訊かれたら答えていいよ。モーニング娘。の新垣に連絡方法教えてもらったって」
それくらいなら大丈夫だろう。依頼内容さえ漏れていなければ大丈夫のはず。あたしは知らない。ジュンジュンの依頼内容なんて全然知らない。それさえ守っていれば何の問題もないはずだから。だからあたしはジュンジュンには何も訊かない。
- 152 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:14
- それから数日が経った。
ジュンジュンが彼と上手く接触できたかどうか、契約が成立したかどうか、それを確認することはできない。もしジュンジュンが答えたなら、その瞬間にあたしとジュンジュンの命がなくなるからね。仕方ないことなんだけど、そこが一番のネックなんだよなあ。あたしはいまだに吉澤さんや松浦さんが彼にどういった依頼をしたか知らない。もっとも先輩たちもあたしがどんな依頼をしたか知らないから、これはお互い様か。確かに依頼内容は知られたくないなあ。こういうルールがあって助かっているのは、彼だけじゃなくてあたし達も同様なのかもね。
- 153 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:14
- さらに数日後。
「はい、ニイガキさん、これアリガトね」
「うわあ。もう全巻読んじゃったんだ」
これって155巻まで出てるからね。全部一気読みするって結構すごいことだよ。れいななんて2巻くらい読んだだけで「暗い! つまらん!」とか言って投げだしちゃったもんね。彼が聞いたら怒るよ。いや、彼はそんなことでは怒らないか。まあ、合う合わないはあるよね。彼とれいななんて絶対合わないし、れいなだったら会って2秒くらいで彼との約束破りそうだからね。怖い怖い。
それを思うと、よっぽど気が合ったんだなぁジュンジュンは。あたしはジュンジュンは合わないんじゃないかと思ったんだけど、こういうのって実際に読んでみないとわかんないもんだね。
- 154 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:14
- 「日本の漫画って面白いでしょ?」
「うん。めーちゃくちゃ面白かった」
「また何か貸そうか?」
「おお! ニイガキさんお願い!」
「うん。じゃあ、てきとうに選んで持ってくるね」
あたしたちはあえて彼との接触については話題に出さなかった。ジュンジュンもちゃんとわかってるんだなあとあたしは少し感心した。こういった線引きができる人間とできない人間がいるからね。そして勿論、彼は前者の人間とのみ接触する。あたしはジュンジュンを紹介したことが間違いじゃなかったことを確認できて、ちょっとホッとした。
- 155 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:14
- それからまた数週間。
亀とジュンジュンとリンリンが卒業してしまって、5人だけとなった楽屋はちょっとさびしい。れいなとミッツィーがぎゃあぎゃあとじゃれ合ってるけど、不思議と「うるさいなあ」とは思わなかった。これはこれで賑やかでいいのかもね。
メンバーに漫画を貸すのは、当分の間控えようかなとあたしは思った。
- 156 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/06(月) 07:15
- ゴミV 終
- 157 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/10(金) 07:10
- 「はい松浦」
「久しぶり」
「どうしたの急に?」
「あ、鼻で笑った」
「笑ったよ。だってごっちんが急に」
「今大丈夫? 電話して悪かった?」
「別に」
「また鼻で笑った」
「要件は?」
「そんな余所余所しい訊きかたしないで」
「恋人みたいなこと言うね」
「恋人じゃないけど、やっぱり迷惑?」
「んーん。暇だし別に迷惑じゃないよ」
「暇じゃなかったら迷惑なんだ」
「そういうのって可愛い子が言ったら様になる台詞だけどさ」
「言われる方が可愛い子だったらもっと様になるよ」
「あたしもごっちんも昔は可愛かった」
「3年前なら様になってたかな?」
「10年前の間違いじゃないの?」
「3年も10年もあっという間だよ」
「玉手箱を開けたら一瞬だね。開ける方がバカなんだけど」
「たまてばこ?」
「うん。竜宮城にいた時間はほんの一瞬」
「まっつーだったら開けない?」
「次は開けない」
「あたしはまた開けちゃうんだろうなあ」
「どっちにしても時間なんてあっという間。今だってそうじゃん」
「あ、もうこんな時間だ」
「ふ。あたしたちってば、何分くらい話してたのかな」
「ちょうど1時間ほど」
「大して喋ってないのにね」
「でもあたしの要件は済んだよ」
「なんの用事だったのよ」
「いいじゃん」
「そっか」
「ありがとね、まっつー」
「うん、おやすみ」
「おやすみなさい」
- 158 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/10(金) 07:10
- ゴミW 終
- 159 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/10(金) 07:11
- 「ボーリングがしたい」
うちのメンバーはみんな梨沙子に甘い。きつい仕事が終わったところで体はくたくたに疲れていたけど、誰も梨沙子の言葉に反論することはなく、7人全員で街に出ることになった。桃とか露骨に帰りたそうな顔してる。でも梨沙子は気付かない。気付かないことを知っているからこそ桃はそういう顔を隠さないんだろう。まあいいけどね。
「キャプテン、店に予約入れてよ!」
梨沙子に甘いのは私も例外ではない。やれやれとため息をつきつつも、何かを梨沙子に頼まれるということが素直に嬉しい。梨沙子に優しくするのは疲れる。でも梨沙子に優しくするのは楽しい。幸せな気持ちになれる。きっとこれは病気なんだ。きっと重い伝染病なんだよ。
- 160 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/10(金) 07:11
- 「焼き肉が食べたい」
ボーリング場で山ほどポテトを食べた後に梨沙子がさらっとそう言う。すかさず茉麻が「あたし丁度最近美味しい焼き肉屋を見つけてね」とか言いながら携帯を取り出す。
梨沙子が言ってから0.5秒くらいしか経ってない。なんだか電話をかけながら梨沙子の首に紙エプロンを巻きそうな勢いだった。茉麻だったらそれくらいやりかねない。実際には絶対やらないんだろうけど、でもきっと茉麻は心の中にいつでも梨沙子のための紙エプロンを準備してるんだと思う。
「ファインプレイだね!」とちぃが笑いながら茉麻とハイタッチする。まあいいや。焼き肉が嫌いなメンバーはいないし。それにお腹いっぱい食べる梨沙子を見るのも悪くない。見ているだけで幸せな気持ちになれるから。ホント可愛いんだこれがまた。
- 161 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/10(金) 07:11
- 「カラオケに行きたい」
黒く炭になった肉片を箸でつつきながら梨沙子が言った。今度はみやが「スチャッ」と小気味よい音を立てながら携帯電話をスライドさせる。
「まかしといて。7人でもすぐに入れる店、押さえてるから」
もうそろそろ終電も出ようかという週末の夜。この時間にこの街で7人がすっと入れる店を知ってたらそれは本当にすごい。でもみやの持っているネットワークは並じゃないから。みやはそういったネットワークを駆使して、梨沙子のリクエストならたいていのことにはサクッと応える。
「カラオケ」の一言を聞いて、気のせいか疲れ切っていたメンバーの目に生気が戻ったように感じる。やっぱりさ、みんな歌うの好きだから。今日は長い一日になりそうな予感がする。
- 162 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/10(金) 07:11
- 「ラーメンが食べたい」
始発が出るまでにはまだもう少しありそうな時間。梨沙子がそう言うだろうな、というのは誰もが予想してたことだと思う。今度はちぃが携帯のディスプレイをひらひらと振る。素早くアクセスしたサイトを梨沙子に見せびらかせながらちぃが言う。
「じゃあ梨沙子。味噌とトンコツ、どっちがいい?」
光り輝く画面がキラキラと夜道を照らす。梨沙子は光に魅かれる蛾のようにちぃの携帯画面に吸い寄せられる。表情は真剣この上ない。
「うーん・・・・・じゃあ、先にトンコツ!」
その一言であたしは胸やけがした。でも熊井ちゃんは温泉から上がったような表情で「いいねー」とつぶやく。桃はちょっと眠そうだ。ラーメン屋で寝るかもしれない。それでも熊井ちゃんも桃も、今日は最後までとことん付き合う気だな、というのが雰囲気でわかった。
- 163 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/10(金) 07:12
- 「東京ドームでコンサートがしたい」
始発が始まる時間帯まであたしたちはラーメンを食べていた。桃は一周回って目が冴えてきたみたいだ。梨沙子のリクエストに対して目を輝かせながら応えた。
「平日の午前中なら40万円もしないで借りれるよ。一人あたり6万円集めようか」
それなら手頃な料金かな。でもあたしは一つ気になることがあったので梨沙子に訊いた。
「衣装はどうする? 今すぐやるっていうなら私服でもいい?」
梨沙子は口をへの字に曲げる。「私服は嫌。ちゃんとしたコンサートがいい」
ちぃがニヤリと笑いながら梨沙子に向かって敬礼する。「了解であります。モーニング娘。さんの倉庫の鍵を押さえているであります」
へえ。あたしはまだ処分してない去年の衣装を持ってこようと思ってたんだけど。そうくるでありますか千奈美さん。確かにそっちの衣装の方が着たことないから新鮮でいいであります。
- 164 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/10(金) 07:12
- 茉麻と熊井ちゃんが大急ぎで照明やセットの話を詰めている間にも、桃は携帯で電話してドームの予約を押さえていた。
「ありがとうございます。急な予約で申し訳ありませんが、それではよろしくお願いいたします」
こうやって横で聞いていると桃の敬語は本当に綺麗で心地よい。自分に向かって使われたらら、なぜかちょっとイラっとするんだけどね。
みやがセットリストを決めている間に小型トラックの助手席に座ってちぃが帰ってきた。満面の笑みに指を丸めたオーケーサイン。衣装はなんとか間に合ったみたいだ。マイクや音響関係の資材やスタッフもみやが押さえたようだ。やっぱりみやが持っているネットワークはすごい。
気がつくともうお昼が近い。時間的にはギリギリだ。あたしたちは雪崩をうってドームへと飛び込む。
- 165 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/10(金) 07:12
- ほんの1時間ほどだったけどネットで宣伝もした。20人くらいのファンが集まってくれたみたいだ。外で桃がチケットを売っているらしい。いったいいくらで売るつもりなんだろう?
他のみんなは衣装に着替えている。先に着替えていたあたしとちぃは、即席のケータリングに出前で頼んだ食事を並べる。ポテトチップに伸ばしてきた梨沙子の手を、あたしはピシャリと叩く。
「ダメ! 今から歌うんだから、これはコンサートが終わってから」
「えー、ちょっとだけ。ちょっとだけだから、ね」
「・・・・・・じゃあちょっとだけよ」
「やったあ! ありがと! キャプテン大好き!」
ふう。やっぱりこの子に優しくするのはちょっと疲れる。
- 166 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/10(金) 07:12
- ゴミX 終
- 167 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 07:10
- 「今日はカリスマ主婦の辻希美さんのご自宅にお邪魔しています」
女性レポーターはマイクを手に部屋の中へと乗り込んだ。
「ちょっとちょっと! 靴はそこで脱いでくださいよ!」
辻がTV向けの大げさな身振りでレポーターを玄関まで押し返す。台本にはなかったからレポーターの単なる勘違いだろう。でもこれで番組のつかみが一つできたかもしれない。これはこれで面白いからいいや。辻は穏やかな表情に戻って、靴を脱いだレポーターを改めて自宅に招き入れた。
- 168 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 07:10
- 「まずは冷蔵庫の中身をチェックでーす」
「え?」
そんなの聞いてないよ。それとも台本にあったの見逃したのかな?
実は台本などろくに見ていなかった辻は素早く頭を切り替える。見られて困るものはなかったはず。これはこれでいいか。料理しろって言われたら、してみせればいいだけの話だ。毎日やってることだし特に問題はない。冷蔵庫だって開けたければ・・・
女性レポーターは信じられないくらいの勢いで冷蔵庫を開けた。100kgはあるんじゃないかという大型冷蔵庫が斜めになって倒れた。中身が全部床の上にぶちまけられた。
- 169 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 07:11
- 「いやー、とんだハプニングでしたね」
「あとで弁償してもらうからね!」
それでも辻は、あくまでもTV向けの表情でぷりぷりと怒ってみせた。どうせ全額TV局から出るだろう。新しいのに買い換えてもらったと思えばそう腹も立たない。TV的にこういう演出も必要なのだろう。それよりもキッチンの床についた大きな傷の方が気になった。あれもちゃんと弁償してもらえるのだろうか。
「今度はお風呂の方を見せてもらいましょう」
「えー、クローゼット見るんじゃなかったっけ?」
これも台本になかったような気がする。もっとちゃんと台本を読んでおけばよかった。今更ながら辻は少し後悔する。
「ほほー、これが特別な蛇口なんですね!」
「え? 普通の蛇口だけど」
- 170 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 07:11
- 「いやー、とんだハプニングでしたね」
「だから! ちゃんと弁償してよ! 絶対だからね!」
バスルームだけではなく手前の部屋も廊下も水浸しになっていた。どんな力でひねれば蛇口がもげるんだ。ハプニングはこれくらいでいいから、いい加減ちゃんと番組進めてほしい。辻は痛切にそう願った。それでもレポーターはマイペースを崩さず部屋の中をうろつく。
「わぁ、すごい数!これは辻さんのアイドル時代のCDですか?」
「ていうか今もアイドルなんだけど」
「この頃は可愛かったですねえ」
「いや、今も可愛いから。クールビューティでナイスバディだから」
「ではこれ踊ってもらいましょうか」
レポーターがじゃんけんぴょんのCDを片手に辻にリクエストした。勿論辻は速攻で却下する。なんだこいつ。こういう失礼キャラの人なのか。天然なのか計算なのかいまいちよくわからない。さすがに辻もレポーターの傍若無人ぶりに腹が立ってきた。
- 171 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 07:11
- 「では最後にお子さんにインタビューでーす」
「え? ダメダメ! それだけは絶対ダメって言ったじゃん!!」
辻は慌ててレポーターを止めようとする。だがレポーターは制止を振り切ってマイクを差し出す。鈍い音がした。差し出すというよりも、それは誰がどう見ても幼児をマイクで思いっ切り殴っているようにしか見えなかった。
辻の怒りが頂点に達する。今年入社したばかりだというTV東京の新米女性アナウンサーに向かって辻は罵声を浴びせた。
「ちょっとあんた!! あたしに何か恨みでもあるの!?」
- 172 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 07:11
- ゴミY 終
- 173 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 07:11
- 「道重さん、道重さん、起きてください」
目が覚めるとそこは青い空に碧い海。
気が付いたらあたしとリンリンは無人島に漂着していた。
「どうしてあたしたちは・・・・・・」
「名古屋から東京に帰るときに津波に巻き込まれたんですよ」
どんだけでかい津波だよ。ていうか日本列島は無事なの?
- 174 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 07:12
- その日からあたしとリンリンの無人島生活が始まった。二人とも携帯も鞄も流されちゃっていて本当に着の身着のままという感じ。早く救助にきてくれないと飢え死にしちゃいそう。ねえ、リンリン、これからどうしよう?
「なんとか二人でやってみましょう」
リンリンは器用に木に上って果物を取ったり棒きれで竿を作って魚を釣ったりしている。この子ってばすっごいお金持ちの家の子って聞いてたんだけど、なんでこんなに野性的なのかしら? たくましいなあ。今まで全然気付かなかったなあこういう部分。
- 175 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 07:12
- 無人島には本当に何もなかったんだけど、リンリンは岩の欠片を斧やナイフの代わりにして木を切り倒し、なんとか二人が寝泊まりできるくらいの小屋を作った。
「リンリンすごーい! これなら雨が降っても大丈夫だよ!」
「使う前にちょっとこの草で燻しますね」
「なにこれ。変な臭い。わ。超煙たいんだけど」
「こうやって一度燻せば虫が寄ってこないんです」
「へーえ。すごーい」
リンリンはその間にも小屋の裏に穴を掘って近くの渓流から水を引き、簡易水洗トイレを作る。あたしはリンリンの教えを受けて木で食器を作ることにした。
- 176 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 07:12
- 焼き魚は塩味が利いていてびっくりするくらい美味しかった。一日二日くらいならなんとか我慢できそうかも。でもこれが何日も続いたら、あたしちょっと耐えられない。無人島で生活なんて無理。だってここにはなんにもないんだもん。
「そういえば日本の人って、たまにこういう言葉遊びしますよね」
「え? どんな遊び?」
「『無人島に一つだけ持っていくとしたら何を持っていく?』ってやつです」
「服! 下着! 今すぐ着替えたい!」
びしょ濡れになった洋服はとっくに乾いていたけど、海水に浸った服はどこかじめじめして気持ち悪い。本当に今すぐ清潔な服に着替えたかった。今はそれしか思いつかないよ。人間って結構単純にできてるもんだね。
- 177 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 07:12
- 「でも洋服がなくても死ぬことはないよ」
「それはそうだけどさー」
あたしとリンリンはピタリとくっついて暖をとる。もうとっぷりと日は暮れていた。夜になっても島は不思議と暖かかったけど、それでもあたし達二人はくっつかずにはいられなかった。
「もっと欲しいものはないですか?」
「携帯電話! すぐに救助呼べるじゃん」
「でもこの辺りは圏外かもね」
リンリンってば意外に冷静で現実的。でも現実的だからこそ、こんな小屋を作ったり魚を獲って飢えを凌いだりできるのかな。あたしももうちょっと真面目に考えてみよう。
「じゃあ、リンリンは何を持っていくの?」
「最初の頃は仲間が欲しかったです」
「最初の頃?」
「今は道重さんがいるから心強いね」
- 178 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 07:12
- 「あたしは最初っからいるじゃん」
「アハハハハ」
「あたしは既にいるっていう設定で、次に何がほしいの?」
リンリンは手にした棒で焚き火の奥をつんつんと突っついた。
火の粉がばっと舞い上がって真っ暗な夜闇を照らす。
「ねえ、なにがほしい? 電気? ガス? 食料品? お薬? 救助信号みたいなの?」
「ずーっと帰れないっていう設定ですよね?」
「え? うん、まあ、当分帰れない・・・っていうか一生帰れないっていう設定だね。そうじゃないとこの質問の意味がないし。あ、そっか。それだったら救助信号とか携帯電話とか船とかそういうのはなしだよね」
「なしですね。そういうのは使えませーん。フフフ」
よくわからないところでリンリンが笑う。なにか思い出し笑いをしているような感じがした。何を思い出してるんだろう?
- 179 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 07:12
- 必死で考えたけど、あたしには現実的な答しか浮かばなかった。
「あたしはやっぱり食料品かなあ。これがないと生きていけないし」
「でもそれはここでも自分達で獲れますよ。水もありますし」
「じゃあ、お薬」
「まだ二人とも健康です。健康に注意すれば多少のことは大丈夫」
うん。リンリンはこの環境でもたくましく生きていけそうだ。でもあたしはどうかなあ。ここって全然衛生的じゃないし、ちょっとしたストレスとかで病気になっちゃいそう。無人島って怖いじゃん。ホント、何にもないし。ただ単に暗いっていうだけであたしもうダメ。
「うーん。電気はほしいかも」
「何に使うの?」
「えっと、明かりを点けたり、TV見たり、PCでブログ書いたり」
「暗ければ火を起こせばいいよ。TVもブログもなくても死なないよ」
「うーん。なくても死なないかあ。そう考えると意外と難しい」
今のこの生活に決定的に欠けてるものってなんだろう。都会での暮らしと違うものってなんだろう。「失ってみて初めてよくわかるもの」とかよく言うけど、あたしにはちっともわかんない。
- 180 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 07:13
- 「ずーっと帰れないと仮定するなら、都会も無人島もそう変わらないかもね」
リンリンはてきぱきと食器を片づけると、地面に穴を掘って残った魚の内臓を捨てて埋めた。そうすると虫がわかないんだって。よく知ってるよねホント。もしかして、一度どこかで無人島生活したことあるんじゃないの?
「一緒じゃないよぉ。コンビニもないし、お仕事もできないし、何もできないじゃん」
「そうね、お仕事は欲しいですね」
「えー、なにそれ。リンリンが無人島に持っていきたいのって仕事なわけ?」
「電気やガスよりは歌の方が気が利いてるかもねー」
誰も見てる人がいないのに仕事してどうするんだろう。あたし達の仕事って他の人に評価してもらってナンボなのよ。誰かの心を豊かにしなくちゃ意味がない仕事なのよ。ここじゃ歌っても踊っても誰も拍手してくれないよ。虚しいだけじゃん。
- 181 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 07:13
- 「じゃあ、道重さん、一緒に歌いましょう」
「え? マジで言ってる?」
「歌えばちょっとは元気出てきますよ」
「やだよ。逆に寂しくなるだけだって」
リンリンは焚き火を消した。あれ? 種火は貴重って言ってなかったっけ? 消しちゃっていいの? ここは星明かりさえ届かない森の中。周囲は本当に真っ暗になっちゃった。こんなところで歌ったら本当に泣いちゃうかも。でもリンリンは全然平気みたいだった。
「はい、歌いましょう」
「じゃあ、リンリン一人でどうぞ」
「道重さんも一緒です。道重さんは既にここにいるっていう設定ですから」
「なにそれ」
「はいはい、文句言わないの」
それからあたしたちは一緒になって『雨の降らない星では愛せないだろう』を歌った。リンリンの歌声があまりにも穏やかだったので、あたしの中の不安はいつしか綺麗に消えていった。ぷかぷか浮かぶ無人島の上でゆらゆらと揺られながら、あたしはそっと眠りについた。
- 182 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 07:13
- ゴミZ 終
- 183 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 07:13
- あたしが控室に入ったら田中さんとジュンジュンが取っ組み合いの喧嘩をしてた。これが最後のステージやっちゅうのにやっとることはいつもと同じ。じゃれ合う子猫同士のように見ていてうんざりするほど仲が良い。すぐ横にいるリンリンも、全然止めようとしないで涼しい顔。でもリーダーは違った。
「オルァ! 田中! いつまで遊んでんだ!」
「だって美貴姐、ジュンジュンが」
「だってもヘチマもねえ。最後くらい大人しくできねえのかよ」
「れいな最後やないもん」
「ジュンジュンが最後なんだよ」
「絵里とリンリンも最後やけん」
「口応えしてんじゃねーよ」
藤本さんは平手で田中さんの頭を叩いた。リーダーの叩きはいつもスパーンと綺麗な音がする。うむ。あの切れ味はあたしも見習いたいわ。もっとも、気軽に叩けるような後輩が入ってくるまではまだもう少し待たなアカンけど。
- 184 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 07:13
- あたしの心を見透かすようにリーダーが言う。
「おいミッツィー。お前も黙って見てないで注意しろよ」
「注意? あたしが田中さんに? そんなん新垣さんとか道重さんに」
「バーカ。来年には9期も入ってくんだろ。今から説教の練習くらいしとけよ」
「わかりました。田中さんに説教ですね」
「ジュンジュンも練習したい」
「リンリンもー」
「なんでれいながお前らに! お前ら今日で卒業するんやろうが!」
ぎゃあぎゃあとわめく田中さんを三人がかりで押さえて、あたしたちはにわか仕込みの説教を始める。うーん、楽しい。クセになるかも。田中さんは三人が相手では勝てないとみるや、黙って口をとがらせて、ずっと明後日の方向を見ていた。
- 185 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 07:14
- 道重さんが亀井さんに言う。
「絵里も最後なんだしれいなにきっちり説教しとけば?」
「えー、でもれいな可哀相だよー」
むしろ亀井さんは田中さんの頭を撫で撫でしたいんじゃないかとあたしは思う。でもこれで最後だからと何か特別なことをするような亀井さんではないやろな。この人の明日はきっと今日とつながってる。そして明日は明後日につながってる。太陽がぐるぐると回るようにこの人は何も変わらへんのやと思う。
- 186 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 07:14
- 「お前はそんな甘いこと言ってるから芸能界でのし上がっていけねーんだよ」
これが最後の機会と説教をしようとしているのは亀井さんではなく藤本さんの方だった。「おら、正座だ正座」と冗談交じりに亀井さんをこづく。「うっうっう。すみませぇぇん」と泣き真似をしながら亀井さんは床に正座する。なにこの安っぽいコントのようなノリの良さ。今TVカメラ回ってないですよね?
「うっひょー、正真正銘これが最後の説教だよ」
テンションの上がった新垣さんが亀井さんの正座姿を携帯のカメラに収める。リーダーはそれを注意するどころかもっともカメラの映りの良いポジションにすっと移動する。なにこのナイスコンビネーション。あっ。いつの間にか道重さんも良いポジションを確保してる。おお、これが伝説の藤垣さゆみトライアングル?
- 187 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 07:14
- 「やめて! 絵里をいじめないで!」
「おらおら。邪魔してんじゃねーよ道重」
「ダメよさゆ。悪いのは絵里なの」
「さゆ、もうちょっとしゃがんで。絵里の顔がカメラに入らないから」
あー、くそ。これ美味しいショットやな。あたしも入りたい。でも入る隙がないわ。
なーんて思ってたあたしが甘かった。ジュンジュンとリンリンは隙間があるとかないとか関係なしに強引に三人の間に割って入る。あれ? 田中さんも。いつの間に。ちくしょう出遅れてもうた!
- 188 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 07:14
- たぶんこの後のステージには最高の瞬間が待ってる。人生でたった一度しかないかもしれない奇跡的な瞬間が待ってる。それに比べれば今のアホみたいな会話は他愛もなく記憶の海に消えていく些細な出来事の一つなのかもしれない。
でも弛緩しきった亀井さんの笑顔を見ているとそんなこともどうでもよくなってくるし、理屈抜きで自分の好きなものに突進していくジュンジュンを見ていると負けてられへんなって思う。そしてどんな時でも打算のない愛情をぶつけてくるリンリンを見ていると、自分もそれに全力で応えたいって、心からそう思う。
最高とか最低とかどうでもええやん。あたしはあたしの好きなものに飛び込む。床に倒れた八人の体が乱雑に折り重なったところで、なぜか一番下になっていた田中さんがいつもと変わらぬ甲高い悲鳴をあげた。
- 189 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/14(火) 07:14
- ゴミ小説 完
- 190 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/18(土) 12:46
- 作者様のハロプロメンバー、OGメンバーの考察恐れ入りました
愛を感じました
素晴らしいです
- 191 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/12/19(日) 22:21
- とても面白かったです。
軽い気持ちで読めるものから深い推敲が重ねられた作品まで
作者さんの筆力がうかがい知れる小説でした。
どれも好きな作品ですが一作だけあげるとするならば Z の雰囲気が好きです。
ありがとうございました。
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