OVER THE RAINBOW
- 1 名前:you 投稿日:2010/04/08(木) 01:31
- アンリアルのりしゃみやあいりの話。
年齢設定など実際と違います。
マイペースに更新させていただきます。
- 2 名前:M side 投稿日:2010/04/08(木) 01:32
-
毎日続く退屈な時間。
同じ服を着て、同じ鞄を持って、同じ靴を履いて、同じ場所へ向かう。
何が楽しいかなんてわからないけど、うちはそれに従うしかなかった。
でも、従っているからといってうちはそんな良い子でもない。
わかりやすくグレて荒れているわけではないが、
退屈な授業に耳を傾けることが苦痛で仕方ないときは
教師の言葉と黒板一杯に書かれた文字を目を閉じることでシャットアウトし、心地良い夢の世界にいったり
たまにはその退屈がつまっている四角い箱から逃走することもある。
そう、今みたいに。
うちの学校の裏側に張り巡らされているフェンスを越えて、自分の背に迫る草を掻き分け少し歩くと、開けた空き地のような場所に出る。
真ん中に大きな木があるだけの空き地。
そこの木の下が、いつものうちの場所。
他にもうちみたいにサボる生徒はいるけど、みんな群れて屋上に溜まるか、空いている教室に潜り込むか、保健室か…
こんな風にわざわざフェンスを越えて、草を掻き分けてまで、ここに来る生徒は、うちくらいだ。
おかげで誰かと鉢合わせしたことも、先生に見つかったこともない。
今日は天気が良いから、家を出てから学校に着くまでの間にこの場所へ来ることが決定していた。
ただ、1限には英語、2限には数学の小テストがあったので、昼休みを迎えるまでは我慢の時だった。
一応テストなどは受けるようにしている。
点数も毎回そこそこはとる。
やることをやっていればそれほど文句は言わないのが、大人たちだ。
2時間続けての小テストというけだるさを纏った教室を昼休みのうちに抜け出し、やっとここに座って落ち着くことが出来た。
鞄の中からiPodをとりだし、イヤホンをつけてお気に入りの曲をかける。
『雨上がりの空を〜♪』
いつもの彼女の声。
うちを落ち着かせる、優しい声。
目を閉じると優しい春風が頬をくすぐった。
彼女は元気にやっているのだろうか。
身体を包む心地良い温度と、頭の中に満ちてくる彼女の歌声で、うちはゆっくりと夢の中へ向かう。
このまま寝たら、夢で逢えるかな…
自然と左に身体が傾いてしまう。
ここで寝るときの癖だ。
いつもうちの左隣りには彼女が居た。
だから、ここでうとうとすると、どうしても左に身体が傾いてしまう。
もう、彼女は此処に居ないのに。
違う世界にいってしまったのに。
それなのに、この癖だけは、どうにも出来ない。
あー倒れちゃう
薄れていく意識の中でそう思っていたら、懐かしい香りがふわっとうちの嗅覚に届いた。
それと同時にうちの身体は何かに支えられた。
左側にぬくもりがある。懐かしいぬくもりが。
愛理の香水…
夢かな…
夢でもいい…
おかえり、愛理…
うちはぬくもりに身体を預けて、夢の中へ入っていった。
- 3 名前:R side 投稿日:2010/04/08(木) 01:35
- あ、みやだ!
声に出さず、心の中でつぶやく。
実際、夏焼先輩のことを『みや』なんて呼んだこともないし。
っていうか、ろくにしゃべったこともないし。
いつも、ただ見てるだけ。遠くから。
あれは私が入学して1週間ほどたった時だった。
校舎の匂いや、クラスのざわめきに少し慣れてきた頃。
休み時間にトイレに行って帰って来てみると教室には誰もいなくて。
パッと黒板の横に貼られた時間割を見ると次の授業は『音楽』。
『次音楽室だからね、早く戻っといでよー』
トイレに行くときに友達にかけられた言葉を思い出す。
しまった!!
私は慌てて音楽の教科書達を持ち、教室を出た。
ちょっとくらい待っててくれてもいいじゃんっ!!
置いて行った友達たちへの文句をブツブツと言いながらも、急いで音楽室へ向かおうとした…んだけど…
音楽室って…ドコ…?
えっと…えっと…
中高一貫校のこの学校は本当に広い。
中学からの子達は庭のようなものだけど、私みたいに高校から入った身からすれば、まるで迷路である。
一週間前に受けたオリエンテーションの道順を思い出してみる。
ヤバイ…覚えてない…
一人、廊下で泣きそう。
どうしよう…
その時だった。
『ねぇ』
急に声をかけられて、不自然なくらいびっくりしてしまった。
おまけに、勢いよく声の方に振り返ったものだから腕の中にあった教科書やペンケースを落としてしまった。
ガシャーン!
ペンケースの中身が散らばる。
私は一人オロオロ、あわあわ…
『あーぁ、そんなにビックリしなくても。』
落ち着き払った声の主がゆっくりペン達をケースに戻していく。
『すっすみませんっ!』
私も慌てて落としたものを拾う。
『はい。』
元通りになったペンケースを渡される。
『ありがとうございます!』
この時、初めてその人の顔を見た。
きれー…
すっと通った鼻に、少し切れ長な目、薄い唇。
それに明らかに校則違反な茶色い髪の毛。だけど、この人は黒髪より断然こっちの方がいい。
一目見ただけだけど、そう思った。
『新入生?』
『…』
黒く澄んだ瞳に私は吸い込まれていて、その問いかけが脳内に届くまでいつもの倍以上の時間がかかった。
返答がないので少し困ったような笑顔を見せて、その人は首を傾げた。
『…あっはいっ!』
『音楽室、行きたいの?』
顎で私の手元の教科書を指した。
『は…い、あの…場所…わかん…なくて…』
緊張すると、もごもご喋ってしまうのは小さい頃からの癖だった。
『1こ下の階の、渡り廊下渡って、中等部の校舎入ったら、そこの廊下の、1番、奥。』
一言一言をゆっくりと話してくれた。
私はその一言一言にうなづく。
『わかった?』
『は…はい。…あっありがとうございます!』
勢いよくペコッと頭を下げた。
『この香水…』
そう言われた気がする。
あまりにも小さく、本人の意識もないまま出てきてしまった言葉のようだった。
『え?』
『あ、いや。なんでもない。早く行かなきゃ、もう授業始まってるよ?』
『そうだった!』
私はもう一度その人に頭を下げて、言われた道順を反復しながら音楽室へ向かった。
その間も、頭の中は今目の前にいた、綺麗な人のことで一杯だった。
- 4 名前:R side 投稿日:2010/04/08(木) 01:36
- 先輩、だよね。何年生かな?
っていうか、鞄持ってた…今学校きたとか?それとも早退?
まぁ髪の毛もろ校則違反だったし、遅刻も早退もしてそうだよね…
こんなに他人に興味を持つことが初めてで、むしろ、こんな風に頭の中で想像というか妄想というか、そんなことをしている自分が可笑しくもあって、すこし恥ずかしくもあった。
音楽室にゆっくりと入ると授業の流れ等を説明している先生と目があった。
私が遅れた謝罪の意味も込めて一礼すると、話しながら会釈で返してくれた。
黒板には“松浦亜弥”と書いてある。可愛らしいが、どこか凜としている先生だ。
授業終了のチャイムが鳴り、号令がかかる。
『ちぃ〜!!なんでおいてったの!?』
『梨沙子が遅いからだよー。』
同じクラスの徳永千奈美は私の幼なじみ。
私とは違って中学からこの学校に通ってる。
ちぃがいるから、この学校にきたっていってもいいかもしれない。
いつも元気で明るくて、太陽みたい。
私がそういうとちぃは決まって『じゃあ梨沙子は月だ。白く透き通って、ほわほわしててやわらかい感じ。』と返してくれる。
太陽と月。
真逆のような私たちだから、ここまで仲良くなれたのかも。
『ちょっとくらい待ってくれてもいいじゃん!』
『だって遅刻したくないも〜ん』
『私迷ったんだからー!すっごい心細かったんだよ?』
『はぁ?迷うってアンタ、先週ちゃんとオリテで回ったじゃん』
『忘れちゃったの!』
『物覚えワルッ』
『たまたまだもん!いつもはちぃのが悪いじゃん!』
こんな言い合いもしょっちゅう。
『うるさいなー。でもよくちゃんと辿り着けたね。よかったじゃん』
そう言われて、あの人のことを思い出した。
あんなに綺麗なら、学校でも有名に違いない。中学からいるちぃなら知ってるかも。
『親切な先輩が場所教えてくれたの。すっごく綺麗な人』
『綺麗な人?』
『うん。多分先輩。茶髪でボブくらいの。』
『もしかして、夏焼先輩かな?』
『なつやき?』
『うん、夏焼雅さん』
なつやきみやび
声にしないで心で呟く。
なつやきみやび
あの人の名前。
『クールビューティな感じでしょ?』
『そう!』
思わず声が大きくなってしまって、自分で恥ずかしくなってしまった。
『なに、その反応』
『いや…ごめん…』
『1つ上の先輩だよ。あの人も付属中学からきてる。あのルックスだからね、付属組で知らない人はいないよ』
やっぱり。
私はちぃの言葉に納得していた。
『っていうか、しゃべったの?』
『しゃべった…っていうのかな?でも優しかったよ。丁寧にここまでの道教えてくれた』
『そうなんだ、意外』
『なんで?怖い人なの?』
『いや、怖いってわけじゃないんだけどね。ほら、鈴木愛理ちゃんがうちの学校にいた話したでしょ?』
鈴木愛理…
- 5 名前:R side 投稿日:2010/04/08(木) 01:37
- 私はテレビの中で微笑むその娘を思い出した。ふにゃっと屈託のない笑顔。無邪気にもほどがあるくらいの、笑顔。
彼女は中学の途中までをこの学校で過ごしていたらしい。何度かちぃの口から彼女の名前を聞いたことがある。
確か中学3年になる時にこの学校を辞め、歌手としてデビューしたんだっけ。
私もテレビや街から流れる彼女の歌を聴いたことがある。
透明感のある、真っすぐな歌声。
芯のある強いイメージを持たせるのに、温かい包み込むような雰囲気もある。
同い年だけど、私なんかとは全然違う、しっかりとした、人間が出来ている。そんな感じの娘。
『あの歌手になった娘だよね?』
『そうそう。夏焼先輩と愛理ちゃんはニコイチだったんだよ。』
『ニコイチ?』
『二人で一つ、みたいな。あの二人も幼なじみで、学年違ってもずっと一緒にいたの。その頃は夏焼先輩ももっと社交的っていうか、周りと絡んでたんだけど、でも愛理ちゃんが学校辞めてから雰囲気変わっちゃってさ。なんか一匹狼みたいになっちゃったの。』
『へぇー』
『きっと愛理ちゃんが夏焼先輩の安定剤だったんだよ、うん。』
安定剤か…
確かにあの、愛理という娘の雰囲気は人を和ませるには十分な気がした。
あんな娘がずっと傍にいたなら、いなくなった時の喪失感は大変なものになる気がする。
ナツヤキミヤビに纏っていたあの雰囲気は、その喪失感から生まれた気がした。
『それから、夏焼先輩はずっと一人なの?』
『いや、ハブられてるとかじゃないから、本当に一人ってわけじゃないよ?あんまり人と関わらないようになったみたい。』
『そうなんだ』
彼女と一緒にいる夏焼先輩はどんな顔をしているのだろう。
きっと、皆が見とれてしまう笑顔なんだろうな…
『っていうか珍しいね』
『え?』
『梨沙子がそんな風に誰かに興味持つの。初めて見たかも』
ちぃの言葉に何故かドキッとした。だから慌てて
『そっそうかな?そんなことないよ!!』
って変に否定してしまった。明らかに不自然。
そんな私を見てちぃは
『まぁあんな美人さんなら梨沙子も興味持つか〜』
とハハッと笑った。
- 6 名前:R side 投稿日:2010/04/08(木) 01:39
- これが私と夏焼先輩の出会い。
あれから私は学校で夏焼先輩を探すようになった。
登下校中、教室移動のとき、先輩たちが体育のとき、昼休みの食堂…
とにかく、少しでも夏焼先輩を感じたくて探した。
そんな中で、『みや』という愛称を知って、私は心の中でそう呼ぶようになっていた。
触れたいけど、触れられない。
みやは私にとってそんな存在。
これは恋なのかな?
よく解んない。
でも、みやを見つけるだけで、その日一日はHAPPYになるし。
見つけられなかった日は、家に帰っても溜め息をつくくらいモヤモヤする。
そんな私を見て、ちぃは
『初恋にどっぷりですな〜梨沙子さんっ』
なんてからかってくる。
でも、みやは女だし。
もちろん、私も女だし。
だから、恋じゃないよ。
そう思ってたんだけどな…
- 7 名前:R side 投稿日:2010/04/08(木) 01:40
- みやとの出会いから、1年。
解ったことは
本当に誰ともつるんでないってこと
でも浮いてるっていうより、皆が認めた上で一人でいる感じってこと
かなりモテるってこと
生徒会長の清水左紀先輩と仲が良いってこと
たまに学校を抜け出してどこかに行っているってこと
そのくらい。
あの日以来、言葉を交わすこともない。
たまに廊下ですれ違うけど、目を合わすことも出来なくて、挨拶も出来ない。
もっとみやのことを知りたい
そんなことを思うけど。
思うだけ。
- 8 名前:R side 投稿日:2010/04/08(木) 01:40
- 昼休み。
ちぃは先生に呼び出されて、私は一人ぼっち。
ぼーっと窓の外を眺めていると、私の視線は一際目立つあの人を捕らえた。
あ、みやだ!
声に出さず、心の中でつぶやく。
帰るのかな?
でもみやは校門ではなく、校舎の裏に続く道を歩いて行った。
どこ行くんだろう…
たまにフッといなくなるけど…
腕時計に目を落とすと、まだ昼休みが終わるまで30分以上ある。
校門は1つだけ。
裏に行ったということはみやは学校のどこかに身を潜めに行くってことだよね。
ちょっとした好奇心。
私は急いで教室を出た。
校舎裏の道。
私は足音を立てないように、静かに、でもみやに追い付くために出来るだけ早く足を進めた。
すると、少し前の方にあの茶色い髪の後ろ姿を見付けた。
気付かれないように、慎重に後を付ける。
するとみやは急に立ち止まって、キョロキョロ周りを確認しだした。
私は慌てて木陰に隠れる。
2、3度左右を確認すると、みやは肩掛けの鞄をリュックの様にしょい直した。
ガシャンッ
みやはなれたようにフェンスに足をかけ、軽々とフェンスを越えて、その奥へと行ってしまった。
どうしよう…
こんなところ越えらんないよぉ…
私はとりあえず周りを見渡してみる。
運よくフェンスに穴とか…ないよね。
『あ!』
穴のかわりに私の目に飛び込んできたのは、無造作に積まれた古い型の机。
『よし!』
ここまできたら、絶対行き先を突き止めてやろうと決心し、私は机の上に上った。
腕に力を入れて、フェンスの上に身体を持っていく。
頂上を跨いで、恐る恐る下を見る。
みやは軽々とフェンスを越えて、ストンッと華麗に着地してたけど…
『…高い…』
私は意を決して、目をつぶりフェンスから飛び降りた。
ダンッ
みやのときには聞こえなかった鈍い音がして、両足が痺れた。
『いったー…』
でも越えられた。
越えられたもん。
『よし!』
もう一度決心して、私はみやが進んで行った方に歩き出した。
- 9 名前:R side 投稿日:2010/04/08(木) 01:41
- 草を掻き分けて、前に進む。
みやの姿は見えない。ちょっと不安になってきた。
けど、引き返したくはない。
突き止めるって決めたから。
こういうところ、私は頑固で負けず嫌いだと自分でも思う。
5分くらい歩いただろうか。
急に私の目の前には広い空間が広がった。
『出れた…』
すっぽりと切りとたれたみたいな空き地。
中心にある大きな木が目にとまった。
その根元に、みやがいる。
私はまた、気配を消して少しずつ近付く。
みやは私に気付く様子がない。
5mほど近くにきて、みやが寝ているのが解った。
耳からはイヤホンのコードが垂れてる。
曲を聴きながら寝ているのなら少しの音には気付かないよね…
私はみやのすぐ目の前まで来た。
太陽の陽が葉っぱの間を抜けてみやを輝かせてる。
すごく綺麗…
私がしばらく見とれていると、みやの身体はどんどん左に傾いていった。
『倒れちゃうっ』
私は咄嗟にみやの左側に滑り込むように座った。
一瞬ピクッと動いたが、みやはゆっくりと私の肩にもたれてくる。
自分で座っといてなんだけど、すっごいドキドキする。
心臓が破裂するんじゃないかってスピードで動いてる。
みやが付けてるイヤホンから音が漏れている。
この曲、どっかで聴いたことある…
『おかえり』
『え?』
『…あいり』
- 10 名前:R side 投稿日:2010/04/08(木) 01:42
- 寝言であの娘の名前を呼ばれた。
もしかして…
そう思って耳を澄ます。
『虹の向こう〜まだ見たことのない世界〜君と行く〜愛ある場所へ〜♪』
やっぱり、あの娘の歌だった。
遠くでチャイムが鳴ってる。
私はみやを起こさないように、細心の注意を払いながらブレザーのポケットから携帯を取り出した。
『ごめん、まだ教室もどれないホ
適当に先生ごまかしといてっ(>_<)』
ちぃ宛にメールを打った。
空が青くて
春風は心地よくて
隣から聞こえる寝息が愛おしくて
漏れてくる微かな歌声と
さっき聞いたあの子を呼ぶ声が
私の心をギューッと締め付ける。
あぁ、私みやに恋してるのかも。
自分の胸に手を当てて、鼓動の早さを確認しながら、そう思った。
- 11 名前:you 投稿日:2010/04/08(木) 01:54
-
初回はこんな感じで・・・
まだ鈴木さんは出てきません・・・;
マイペースになると思いますが、よろしくです。
- 12 名前:名無し飼育 投稿日:2010/04/08(木) 20:22
- 同じタイトルのスレが夢にあるけど
別の人、だよね?
- 13 名前:you 投稿日:2010/04/10(土) 02:05
- 別人です。
同じタイトルが夢にあるのは知っていたのですが、どうしてもこの曲に合う話を書きたくて立ててしまいました…
紛らわしくて申し訳ないですm(_ _)m
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/10(土) 12:06
- あまりにも好きな展開過ぎて・・・
楽しみです!!
- 15 名前:sage 投稿日:2010/04/12(月) 18:19
- うおおお!
楽しみだ!
- 16 名前:M side 投稿日:2010/04/25(日) 10:54
-
携帯がブレザーのポケットの中で鳴ってる。
ゆっくりと起き上がってまだ眠たい目を擦りながら携帯を取り出す。
佐紀からだ。
見なくてもわかる。
どうせいつものサボったことに対するお叱りメール。
すごく良い夢だった気がする。
前みたいに愛理の肩で寝てた。
すごいリアルだった。
だって今も感触と愛理の香りが…ん?
香り?
ふと横を見ると知らない子が気持ち良さそうにスヤスヤ寝てる。
『え!?』
うちがあげた声にその子はビクッとした。
けど、小さく『う〜ん』と唸っただけで、起きない。
とりあえず、付けていたイヤホンを外し、iPodを止める。
お人形さんみたいな子。
白い肌に、柔らかそうな髪の毛。
無邪気な寝顔。
無防備な雰囲気は少し愛理に似てるかも。
あれ?この子どっかで…
- 17 名前:M side 投稿日:2010/04/25(日) 10:56
- 『あっ…』
思い出した。
音楽室教えた子だ。
愛理と同じ香水の…
うちが彼女の存在を理解したとき、『んーっ』と伸びをしながら彼女が目を覚ました。
『ふー』
ぽわんとした表情でうちの方へ顔を向ける。
目が合った。
お互い何も言わず3秒ほどフリーズ。
すると彼女の目がみるみる大きく見開いて、顔がどんどん赤くなる。
バッと彼女が後ろに身を引いた。
『ご、ご、ご、ごめんなさいっ』
すごい勢いで頭を下げられる。
『どうしよう』とか『あー』とか『ごめんなさい』とか
ずっとアタフタしている姿はまるで仔犬みたいで、ちょっと笑ってしまった。
起きたら隣にいて、ビックリしたし、ちょっと怖かったし、愛理と二人だけの場所に第三者が入ったことが嫌だったけど…
なんか、怒る気になれない。
『本当にごめんなさい』
『うん、びっくりしたけど。
あーごめん、名前知らないや。でも初めましてじゃないよね?』
『え?』
『あれ?違う?前音楽室探してた子だよね?』
『は、はい!そうです!』
『良かったー間違ったかと思った』
うちが笑顔でいると、彼女は不思議そうな顔をして、目をぱちくりさせた。
『あのー』
『ん?』
『怒らない…んですか?』
『え?あー…うん』
うちがうなづくと、また目をぱちくり。
ちょっと面白い。
『どうして…怒らないんですか?私、勝手に…ついて来たんですよ…?』
この子は何でこんなにも自信なさ気に話すのだろう?
『そういえば、なんでこんなところまでついて来たの?』
『えっ…』
彼女は少し考えているようだった。
それから、慎重に言葉を選びながら答えた。
『教室の窓から、外を見てたんです。
そうしたら、先輩が校舎裏に行くのが見えて。
どこ行くのかなーと思って。正直、興味本位です。ごめんなさい。』
- 18 名前:M side 投稿日:2010/04/25(日) 10:56
- 興味本位って…
『それでこんなとこまでついて来たの?』
『…はい』
『で、うちにつられて寝ちゃったわけだ』
『そう…です』
バツが悪そうに俯く彼女。
『まぁ、いいよ。おかげで良い夢見れたし』
『…あいり』
『え?』
不意に愛理の名前を呼ばれてドキッとした。
『寝言で言ってました。おかえり、あいりって。』
『そっか…』
うちはどう反応したら良いのか解らなくて、とりあえず曖昧に笑ってみた。
『私、菅谷梨沙子です』
よろしくお願いします、とペこりと頭を下げられた。
『菅谷さんね。うちは―』
『夏焼雅先輩』
名乗るより先に名前を呼ばれ驚いた。
彼女―菅谷さんはとても柔らかい表情をしていた。
- 19 名前:M side 投稿日:2010/04/25(日) 10:58
- なんでうちの名前知ってんの?』
『知ってますよ!先輩有名ですもんっ』
有名なのは愛理が原因だろう。
なんていったって、愛理はいまや正真正銘の”有名人”なのだから。
こんなところまで、愛理が付き纏うのかと思い、苦笑いが出てきた。
『そっか、有名なんだうち』
『はい!私の友達、中学からこの学校なんですけど。
あの日、先輩に音楽室教えてもらった日、友達に話したらすぐ解りました。』
ニコニコと嬉しそうに話し続ける菅谷さん。
素直に可愛いな、と思う。
誰にでも愛させそうな子だな、と。
やっぱり、少し愛理とダブってしまう。
『友達も言ってました。
夏焼先輩は美人だから、付属組で知らない人はいないって』
『え?』
私が驚くと、菅谷さんは首を傾げた。
- 20 名前:M side 投稿日:2010/04/25(日) 10:59
- 『うちが有名なのって…その…愛理と一緒に居たからじゃないの?』
『違いますよ。確かに私も愛理ちゃんと幼なじみだって話は聞きましたけど、先輩が有名なのは先輩が美人だからです!』
何故か菅谷さんは胸を張って答えた。
うちがキョトンっとしていると、菅谷さんは満面の笑みでこう続けた。
『愛理ちゃんと幼なじみなのは関係ないですよ。
先輩は先輩ですから。』
うちはうち。
そっか。
愛理は愛理。
もう別々の道。
うちは視線を菅谷さんから目の前に広がる空に移した。
別の道を歩くことを受け入れたはずなのに
いつかまた同じ道に戻れることを期待してる。
まったく
ダメだなーうち。
- 21 名前:M side 投稿日:2010/04/25(日) 10:59
- 『先輩』
横から投げられた声に反応し、そっちを向く。
『私も、たまにここに来ていいですか?』
菅谷さんの目はまっすぐうちを見てる。
綺麗な目だなーなんて思いながら『うん、いいよ』と答え、視線を空に戻す。
なんか泣きたくなったけど、深呼吸で押し殺した。
鼻がつんっと痛くなった。
- 22 名前:you 投稿日:2010/04/25(日) 11:06
-
少しですが、更新です。
梨紗子の健気さを引き出せるのは、雅ちゃんだけです(笑)
- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/10(月) 00:23
- 私もそう思います!!
- 24 名前:R side 投稿日:2010/09/12(日) 14:05
-
結局、私が教室に戻ったのは、帰りのHRが終わって掃除が始まる頃だった。
『おそいっ!』
教室に入るなり、ちぃからのチョップが降ってきた。
『いたぁーい』
『いたぁーい、じゃない!もーどこ行ってたの?』
『うん・・・ちょっと・・・』
『ちょっとってなに!?あたしがどんだけかばったと思ってんの!?』
本気で激怒ってわけじゃないけど
私がサボったことに、ちぃは怒っていた。
『ごめん。・・・ちぃ!!』
私はちぃの両肩を掴んで揺すった。
この気持ちを誰かに伝えたくて。
『な、なに?』
『ねぇ!ちぃ!!』
『だから、どしたの?』
「私・・・私ね・・・』
下を向いて、ひと呼吸おいて、それから、自分自身で確かめる様に口にする。
『・・・恋してたみたい』
- 25 名前:R side 投稿日:2010/09/12(日) 14:14
-
一瞬空気が止まって、次に聞こえてきたのはちぃの気の抜けた声だった。
『はぁ?』
『だーかーら、恋!恋だよ、ちぃ!!』
『いや、唐突すぎて話が読めないんですけど。』
『だからね、私ね、恋、してたみたい!』
『わかった、梨沙子が恋したのはわかったよ。』
『ちがう!”した”んじゃなくて”してた”の!
私恋してたんだよーちぃー!』
未だに状況が読めないちぃに、私はことの経緯を説明した。
そして、気付いた自分の気持ちを話した。
その気持ちは、きっとみやに出会ったときから持っていたもので、
だから、今恋を”した”わけではなく、もう一年前から自分はみやに恋を”してた”のだ、と。
『だからね、私、恋してたの。』
- 26 名前:R side 投稿日:2010/09/12(日) 14:28
- 最後にもう一度、この会話で何度出てきたかわからない言葉を言った。
すると、それまで黙って聞いたくれていたちぃが、呆れた様にため息をついた。
『ってゆーかさー、そんなの今更じゃん。』
『へ?』
『あーもー、何事かと思ったじゃん。真面目に聞いて損した。』
世紀の大発見でもした気分になっていた私は、ちぃの反応にあっけにとられてしまった。
『なんで?驚かないの?』
『・・・あのさ、本当に今まで自覚なかったわけ?
あたしにしたら、そっちの方がおどろきなんですけど。』
『自覚っていうか、だって・・・』
『てっきり夏焼先輩以外に好きな人出来たのかと思ったじゃん。
あーまじ、聞いて損した。』
そんな風に言わなくったっていいのに・・・
っていうか、私がみやに対して恋してる自覚が無かったのは・・・
『だって・・・みやも私も・・・女の子・・・じゃん・・・』
だから、恋してるなんて・・・
『そんなこと気にしてんの?』
『そんなことって・・・やっぱり、普通じゃないじゃん。』
そう。だって普通は“男の子”と“女の子”でしょ・・・?
- 27 名前:R side 投稿日:2010/09/12(日) 14:41
-
『はぁ〜〜〜〜〜〜』
私のその言葉に、ちぃは盛大にため息をついた。
『梨沙子、考え古いっ』
『なっ』
『好きなら好きでいいんじゃない?』
なんか、いつものちぃと違った気がする。
とても優しくて、大人びた雰囲気で、ちぃはそう言った。
『相手が男でも、女でも、どんだけ歳が離れてても、例えば宇宙人だったとしてもさ。』
『宇宙人って』
最後の例えが、なんかちぃっぽくって笑ってしまった。
『まぁ、頑張りたまえ、梨沙子くん。』
ちぃは私の頭を軽くポンポンと叩いた。
ちぃの太陽みたいな笑顔を見てると、少しの不安さえ無くなる。
そんな気がする。
『私、みやが好き』
『良かったね、気付けて』
『うん!』
あぁ、私、いま幸せ満開。
『っていうか、気付くの遅すぎ。毎日あんな乙女な顔して。』
『乙女な顔なんてしてたかな?』
『まぁ、梨沙子は昔からニブいからねー』
ちぃは『スキあり!』とか言って私のほっぺを両手でブニッと挟み、
『ヘンがおー!きゃははー』と走って逃げていった。
『もぉ!ちぃ!!』
私も慌ててちぃの後を追った。
- 28 名前:you 投稿日:2010/09/12(日) 14:48
- 今回も少しだけですが、更新です。
放置しすぎですね・・・;
- 29 名前:名無しの読み手 投稿日:2010/09/30(木) 16:26
- さっき一気によんじゃいました。
りしゃみや大好き!
マイペース更新お待ちしてます^^
- 30 名前:M side 投稿日:2010/10/02(土) 13:52
- 『私そろそろ行きますね。教室にカバンとりにいかなくちゃ。』
そう言って菅谷さんは立ち上がった。
『先輩も、あんまり長居しちゃダメですよ。』
『うん。』
『それじゃあ、失礼します。』
ペコリとお辞儀をして、菅谷さんは歩いていった。
不思議な子だなーと思う。
本当に、無邪気で、無防備。
小さくなっていく彼女の背中を見送りながら、ずっと思っていたことを呟いた。
『愛理みたい。』
- 31 名前:M side 投稿日:2010/10/02(土) 14:05
-
彼女が残していった香りのせいだろうか。
ものすごく愛理が恋しくなってしまった。
携帯を取り出し、目当ての人物の名前を呼び出す。
鈴木愛理
もちろん、電話など出来ない。
メールを送るのもダメ。
そんなことをしたら、今までの我慢が無駄になる。
それどころか、感情が溢れ出してしまうだろう。
『あいりー、あいたいなー・・・』
膝を抱えて丸まってみる。
菅谷さんに寄りかかって寝ていたからだろう。
自分の左側に少し、あの香水の香りがうつっている。
油断したら泣いてしまいそうだ。
ダメ、ダメ。
うちは頭をふって気を取り直す。
一回、深呼吸をして、頭の中から愛理を追い出す。
- 32 名前:M side 投稿日:2010/10/02(土) 14:14
-
『あ、そうだ。』
佐紀からメールが来ていたのを思い出す。
もう一度携帯に視線を落とし、今度はメールボックスを呼び出す。
受信ボックスの一番上には『清水佐紀』の文字。
案の定、お叱りメールだった。
メールの最後は『帰りに生徒会室に寄るように!』の一文で締めくくられている。
このまま帰るつもりだったけど、
いまは誰かに会いたい気がした。
うちはカバンを持って立ち上がった。
- 33 名前:you 投稿日:2010/10/02(土) 14:20
-
少しだけ更新。
ゲキハロで雅ちゃんにきゅんきゅんしました。
はぁ。。。笑
- 34 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/10/07(木) 00:23
- やったあ!更新されてたあ!
みやキャプも最近・・・来てます。
・・・アピールですw
- 35 名前:M side 投稿日:2010/10/13(水) 10:22
-
『よっす。』
『おそい!!』
生徒会室に入ると佐紀の他に、同級生の嗣永桃子がいた。
『あれ?なんでもも?』
生徒会長の佐紀はともかく、生徒会でもないももが何故いるのか。
『なんかみーやんひどくない?もも、みーやん待ってたのに。』
『うち?』
『そう!』
なんかニヤニヤしながら近づいてくるもも。
キモイ・・・じゃなくって
『え?なに?』
『まぁまぁ、座んなよ。』
佐紀に促されて、側のイスに座る。
『ももが、どうしてもみやに見せたいんだってさ。』
『?』
『じゃーん!!』
ももは首を傾げているうちの前に、雑誌を広げた。
そこには、うちと一緒にいた頃よりも、はるかに大人っぽくなった愛理がいた。
まるで、別人みたいだ。
- 36 名前:M side 投稿日:2010/10/13(水) 10:37
-
『あいりんすごいね!特集で4ページも載ってるよ!!』
『・・・』
何も言えない。
“すごいね”“愛理も頑張ってるね〜”“なんか綺麗になってる”
キラキラ輝きはじめた幼なじみに対する感想なんて、いくらでもあるはずなのに。
本当に、どんどん、どんどん、遠くに行ってしまう愛理に、うちは、何も言えないんだ。
『みや?』
佐紀の気遣わしげな声に呼ばれて、ハッと我にかえる。
『うん、すごいね。本当、別人みたい。』
精一杯、笑顔にしたつもりだったけど、
ももは苦笑いだし、佐紀なんか何故か泣きそうな顔してるし、相当ぎこちなかったんだろうな。
『幼なじみがこんなに活躍しちゃって、うちも鼻が高いよ!うん。』
それは、自分に向けた言葉。
ちゃんと応援しなくちゃ。そう決めたんだ。
『みーやん、いつか一緒にあいりんの歌聴きにいこう?』
『うん。』
ももの提案にうなづいてみたけど、そんな日が、うちにくるのかな。
『あー、うち、そろそろ帰るね。今日ママに早く帰ってこいって言われてるから。』
そんなの嘘だけど、これ以上ここにいたくなかった。
それに、2人に気を遣わせたくない。
『そっか、ごめんね、なんか。』
『ううん、大丈夫。また、明日ね。』
『ばいばい。』
佐紀とももに手を振りながら、ゆっくり扉を閉める。
- 37 名前:M side 投稿日:2010/10/13(水) 10:41
-
扉を閉めるまでは、どうにか平静を保つ。
閉めたら、出来るだけ早く、廊下を抜ける。
下駄箱から乱暴にローファーを出し、上履きを投げるように入れる。
早く、一刻も早く、ここから、学校から出たかった。
だって、ここには、愛理が染み込みすぎている。
- 38 名前:M side 投稿日:2010/10/13(水) 11:02
-
校門を抜けて、やっと歩くペースを落とす。
頭の中にあるものを忘れるために、カバンからiPodを取り出した。
何も考えたくないときは、無意味な音楽で頭の中を満たすにかぎる。
一つため息をして
イヤホンをつけようとしたときだった。
『みや!』
後ろから呼ばれ、びくっと振り返る。
そこには、さっき別れたばかりの佐紀がいた。
『佐紀?』
『やっと追いついた、まじ、歩くの早すぎ。』
きっと、走って追いかけてきたのだろう。
少し息が上がっている。
『ごめん、ごめん。え?どうしたの?』
『・・・一緒に帰ろうよ、久しぶりに。』
少し驚いているうちに、佐紀は優しい笑顔でそう言った。
『急にどうしたの?』
『だって、本当に久しぶりじゃん?
いつの間にかサボり魔になってしまったからね、みやは。
ふらーっといなくなるから、一緒に帰れないんだもん。』
少しすねたように言う佐紀に、どう反応したらいいかわからなかった。
『ちがうっしょ!一緒に帰れないのは、佐紀が生徒会で忙しいからで、うちがサボり魔なのは、
関係ないでしょ。』
『あ、サボり魔だって自分で認めた。』
ニカッと笑う佐紀。なんか、調子、くるう。
『っていうか、生徒会無いときなら、一緒に帰ってくれるの?』
『帰ってくれるとか、意味わかんない。うちが佐紀と帰るの嫌がってるみたいじゃん。』
『嫌じゃないの?』
『嫌なわけ無いじゃん。』
『本当に!?じゃあ、たまには一緒に帰ろうよ、昔みたいに。』
昔みたいに
そう言えば、中学に入りたての頃は、いつも佐紀と帰ってた。
愛理が下の学年に入ってからは、もっぱら愛理と帰ってたけど、
愛理の部活が忙しいときや、時間が合わないときは、佐紀と一緒だった。
いつ以来だろう、佐紀とこうやって帰るの。
- 39 名前:M side 投稿日:2010/10/13(水) 11:20
-
歩き出した佐紀の横に並ぶ。
『別に、今更そんな約束しなくたって。誘ってくれればいいじゃん。』
『うん、誘う!』
何をこんなに無邪気に喜んでいるんだろう、この親友は。
『そんなに嬉しいの?』
『嬉しいよー。何か最近、みやが遠くにいるような感じがしてさ。』
これには何も言い返せない。
愛理を失ってからというもの、人との関わりをさけている。
よく、世界が色あせて見える、なんて言うけど、本当にそんな感じで、
色んなことがあまりにも無意味に見えた。
全てが面倒に思えて、仕方なかった。
もともと群がるのが苦手だったし、1人で居たがるうちを周りも認めてくれている。
そんな中、変わらずうちに接してくるのは、唯一の親友の佐紀だけだった。
その佐紀と仲がいいももは、高校から入学組だから全然関わりがなかったのだけど、
佐紀を介して話したときに、『意外と話しやすいんだね!』となんだか気に入られてしまい、
今となっては佐紀の次に親友と呼べるかもしれない友達になったいる。
『ごめんね。』
素直な言葉だった。
こんな風になったうちを、見守ってくれて、変わらず傍に居てくれてるのに、
そんな風に思わせて、ごめん。
- 40 名前:M side 投稿日:2010/10/13(水) 11:37
-
『え?あ、そんなつもりで言ったんじゃなくて、謝らないでよ。』
慌てる佐紀がなんだかおかしくて、微笑んでしまう。
『いつも気にしてくれてる唯一の親友にまで、そんな思いさせてるんだね、うち。』
重い空気にしたくなくて、おおげさに落ち込んでみせると、佐紀も笑ってくれた。
『そんな風に思ってるなら、“ごめんね”じゃなくて“ありがとう”って言ってよ。』
『え?』
『みやさー、私に気を遣わせたくないとか、思ってない?』
『!?』
ずばり言われて、驚いてしまった。
『やっぱりね。』
『いや、そんなこと思ってないし。』
『また嘘つく。言っとくけど、みや嘘つくの下手なんだから、やめたほうがいいよ?』
『なにそれ。』
『だって、ママに早く帰ってこいって言われてるなんて、嘘でしょ?』
『なんで!?』
『ほら〜。』
またニカッと笑う佐紀。ほんと、調子くるうな〜。
『だから、バレる嘘つくくらいなら、もっと甘えてよ。少しくらいなら、支えれるからさ。』
『・・・』
『それで、ありがとうって言ってくれれば、それだけでいいんだから。私はその方が嬉しいな。』
佐紀の笑顔は、本当に優しかった。
さっきまでどん底にあった気持ちが、少し浮いてきた気がする。
いつか、こんなうちにも、佐紀やももに恩返しが出来る日が来るのかな。
それまで、この言葉を伝えることだけは、忘れないようにしようと思う。
『佐紀、ありがとう。』
- 41 名前:you 投稿日:2010/10/13(水) 11:41
-
>34 名無し飼育さん
やっぱりきてますよね!笑
元々考えていた展開なのですが、タイミングが合ってビックリです。笑
調子のって、番外編作りましたので、どうぞ。
- 42 名前:another side 投稿日:2010/10/13(水) 11:52
-
-生徒会室-
『いいの?』
『え?』
『みーやん追いかけなくて。』
桃子の言葉に驚く佐紀。
そんな佐紀に、桃子は苦笑する。
『まったく。もうそろそろ大丈夫かと思ったのになー。』
桃子は頬杖をつきながら、雑誌の中の愛理を見ている。
年下のはずなのに、明らかに自分よりも大人っぽいと思う。
雅の心から消えない愛理。
そして、佐紀の心から消えない・・・
『あの様子じゃ、まだしばらくかかると思うけど。
佐紀ちゃんが支えたいって思うなら、みーやんの傍に居てあげたら?』
『もも・・・』
『あれ、すっごい無理してた。
早く帰ってこいって言われたのも嘘だよ、絶対。バレバレ。』
最上級の桃子スマイルを佐紀に向ける。
作り笑いって言うのは、こうやるんだよ、みーやん。
『いってきなよ。』
- 43 名前:another 投稿日:2010/10/13(水) 11:59
-
『・・・うん。』
少し考えてから、佐紀はうなづき、教室を飛び出していった。
一人、取り残された桃子は、窓へ歩み寄る。
そこから校庭を見ていると、佐紀が走っていくのが見えた。
『みんな手が焼けるよねー。』
窓ガラスに手を当てると、少しひんやりしていて気持ちがよかった。
『にしても、なんでこう、矢印が全部一方通行なんだろう。』
桃子が開いた携帯の待ち受けには、佐紀と撮ったプリクラの画像が映し出されてる。
『どんかん。』
画像の佐紀に、コツンっとでこぴんをしてみたが、画面の中の佐紀は可愛い笑顔のまま動かない。
ため息とともにもれた、本日三回目の苦笑いは、桃子自身に対するものだった。
- 44 名前:you 投稿日:2010/10/13(水) 12:02
-
めっちゃ短い!笑
さて、本編も頑張ります。
- 45 名前:名無し飼育さん 投稿日:2010/10/24(日) 02:06
- お待ちしています
- 46 名前:M side 投稿日:2011/02/23(水) 23:48
-
先生が念仏のように朗読する古文。
退屈。それ以外の言葉が見つからない。
ふと、外を見ると、2年生が体育をしていた。
整列している中には、菅谷さんもいる。
後ろに並んでいる色黒で、スラッとした子にちょっかいを出されて、それに応戦している。
なんか、じゃれあってるネコみたい。
- 47 名前:M side 投稿日:2011/02/23(水) 23:57
-
ぼーっと見ていると、不意に菅谷さんと目が合った。
彼女は、顔を真っ赤にしながら、慌てて頭を下げる。
うちは軽く手を振って応える。
したら、何故か菅谷さんは固まってしまって、
後ろの子が肩を叩いたり、名前を呼んだりしてるみたいだけど、ピクリともしない。
そんな彼女のもとに、ついに先生がやってきて・・・
頭にパシッと一発お見舞いされた。
あーぁ、怒られちゃった。
菅谷さんは、さらに顔を真っ赤にしながら、整列の体制に戻った。
- 48 名前:M side 投稿日:2011/02/24(木) 00:03
-
見てて飽きないなー。
愛理との思い出の場所で菅谷さんに会ってから、うちは学校でよく菅谷さんを見つけるようになった。
今まで、全然気にならなかったのに。
学校で彼女を見つけると、何故かホッとする。
学校が退屈な場所ということには、変わりないんだけど。
彼女を見つけると、心が和らぐ気がした。
やっぱり、愛理に似てるからかな。
- 49 名前:M side 投稿日:2011/02/24(木) 00:10
-
-昼休み-
佐紀と並んで、購買に向かう。
『みや、さっき何見てたの?』
『え?』
『なんか、面白そうに外見てたじゃん』
『あー・・・可愛いネコがいてさ。』
『ネコ?』
『そう、見てて飽きないネコさん』
そんな会話をしていたら、パンを物色していると、後ろから騒がしい声が聞こえてきた。
- 50 名前:M side 投稿日:2011/02/24(木) 00:17
-
『ぜーったい!ちぃのせい!!』
『なんで私のせいになるわけ!?』
『だって、先にちょっかい出してきたのちぃじゃん!!』
『でも、怒られたのは、自分のせいでしょうが!!』
声の方を見ると、菅谷さんとあの色黒の子が
ギャーギャー言いながら購買に入って来るところだった。
『やっぱ、じゃれあってるネコにしか見えない』
『え?』
『佐紀に紹介するよ』
不思議そうにしている佐紀を連れて、菅谷さんの前に立った。
- 51 名前:M side 投稿日:2011/02/24(木) 00:30
-
『菅谷さん』
『なっ夏焼先輩!?』
菅谷さんは、また顔を赤くしながら“コンニチハ”と頭を下げた。
隣の子も彼女と一緒にペコリとお辞儀をする。
『怒られてたね、さっき』
『え!?あ、見られてましたよね、やっぱり』
『先輩聞いてくださいよ!!この子私のせいにするんです!!自分が先輩に見とれ●×※▽・・・』
『あ゛ーーー!!バカちぃ!!』
隣の子の口を慌てて押さえる菅谷さん。
『あ!やっぱろり、ちぃちゃんだ!』
佐紀が色黒の子を指差した。
『え?なに?佐紀知り合いなの?』
『うん。中学のとき一緒に体育祭の実行委員したよね?』
『よかったー、覚えててくれたんですね』
ようやく菅谷さんの手から逃れた彼女がニコッと笑った。
- 52 名前:M side 投稿日:2011/02/24(木) 01:04
-
『そうだよなーって思いながら、でも雰囲気全然違うから』
『髪きったし、身長のびましたからねー!夏焼先輩は初めましてですよね』
ニコニコしながら彼女は言った。
『ちぃこと、徳永千奈美です。いつも、りさこがお世話になってます』
ちぃちゃんは菅谷さんの頭をポンポンとしている。
『ちょっと、ちぃ!!』
『あははは、ちぃちゃんね。よろしく。
で、佐紀、この子、菅谷梨沙子ちゃん。うちの親友の佐紀ね』
それぞれを紹介すると、2人とも“よろしく”“よろしくお願いします”と挨拶を交わした。
『あー、確かにネコっぽい』
『でしょ?』
『ネコ?』
『あ、こっちの話』
『それより、早く買わないと時間無くなっちゃうね。呼び止めてごめんね。またね』
- 53 名前:M side 投稿日:2011/02/24(木) 01:20
-
バイバイ、と手を振り、レジに並ぼうとしたら『あの!』とちぃちゃんに呼び止められた。
『アドレス交換しませんか?』
『え!?ちょっ!ちぃ?』
『だって、久しぶりに清水先輩と話せて、夏焼先輩とも知り合えたんだよ?
仲良くして欲しいなーって。りさこも思うでしょ?』
『え!?あ、あたしも!?』
『お願いします』
『そんなかしこまらなくても、全然いいよ。ね、みや』
『うん』
『やったー!』
3人で携帯を取り出し、赤外線を準備する。
しかし、菅谷さんはもじもじしていて中々携帯を出さない。
- 54 名前:M side 投稿日:2011/02/24(木) 01:24
-
『ほら、りさこ!』
『で、でも・・・』
どうしたんだろう。
『りさこちゃん、はい!』
佐紀に携帯を向けられて、恥ずかしそうにやっと携帯を出した。
『じゃあ、次はうちね』
『あ、ありがとうございます・・・』
ずっと恥ずかしそうに下を向いてる菅谷さん。
なんか、可愛いなーって、思ったり。
でも、このときはまだ、あんな風になるなんて思ってなかった。
- 55 名前:you 投稿日:2011/02/24(木) 01:29
-
久々に更新しました。
もっと、コンスタントに更新したいものです・・・
- 56 名前:R side 投稿日:2012/01/19(木) 12:01
- アドレス・・・交換しちゃった・・・
私は手の中にある携帯の画面をじっと見つめた。
そこには確かに「夏焼雅」の文字とアドレス、番号が表示されている。
『ねー、いい加減メール送ったら?』
『メールなんて出来ないよ!』
『どんだけ奥手なわけ?さっきからずーっと携帯見て。
せっかくきっかけ作ったんだから、ちゃんと活かしてよね?』
ちぃの言うことはわかる。私だって、メールしたい。
でも、いざみやにメールを打つと思うと、なんて送ればいいかわからなくて。
まったく文章が浮かばない。
- 57 名前:R side 投稿日:2012/01/19(木) 12:18
-
ーーー♪ーーー
ちぃの携帯が鳴って、それを確認したちぃが意地悪そうな顔で笑いかけてきた。
『なに?』
『梨沙子がいつまでもうじうじしてるから。ほら!』
そこのは “From 夏焼雅” の文字と、カラフルにデコレーションされたメール。
『いつのまにメールしたの!?』
『さっき。アドレス教えてもらったんだから、お礼メールくらい普通でしょ?
ってか、うちら後輩だし。お礼メールしない方が失礼だって。』
『それも、そうだね・・・』
『私はちゃーんと清水先輩にも送って、返信もらったもんねー。
梨沙子も早く送んなよ!』
『う、うん・・・』
そう言われても・・・みやに送るって思っただけで、緊張しちゃう・・・
画面を見つめ固まってる私を見て、ちぃは大きなため息をついた。
『はぁ。あんたって子は。
なにをそんなに考えてるわけ?』
『だって!・・・みやに送ると思うと緊張しちゃうんだもん。』
『あのねー、別に今告るんじゃないんだから。
アドレスありがとうございます、これから仲良くしてください、とかでいいんだよ。』
『そっか・・・』
ちぃの言葉を受けて、私はやっと親指を動かした。
- 58 名前:R side 投稿日:2012/01/19(木) 12:33
-
さっきはありがとうございました。
仲良くしてもらえたら、嬉しいです。
やっとの思いで、たった二行の文を打った。
『打てた?』
『うん・・・』
『じゃあ、早く送って。』
『うぅ・・・』
『なに?まだうじうじしてんの?もー。えいっ!』
『あっ!』
次の瞬間、私の携帯はちぃの手に移っていた。
ポチッとボタンを押されて数秒。
満面の笑みでちぃが見せてきた画面には“送信完了”の四文字が表示されていた。
『送っちゃった・・・』
『早く返信くるといいねー。』
『なんか、ちぃ楽しそう。』
『なに言ってんの。親友の恋を後押ししてるだけじゃん。』
『なんかなー。』
『なに?何か文句あんの?誰のおかげでアドレスゲット出来たの?ん?』
『むぅ・・・それは・・・』
『この千奈美様のおかげでしょ?ちゃんと感謝しなさい!』
『・・・ありがとう。』
『うん、よろしい!』
ちぃは満足そうにうなづきながら、私の頭をぽんっとたたいた。
ちょうどその時、チャイムと同時に先生が入ってきて、私たちは慌ただしく席についた。
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