裏十舞美
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/05(月) 23:02
- モーニング娘。の現メンに関するショートショートを書いていこうかと思います(注001)。
最新アルバムを聴いていて浮かんだことを書くつもりです。
あまりややこしいことは考えずにダラダラとつらつらと。
ちなみに私は矢口のことが嫌いです(注002)。
注001:この物語に矢島舞美さんは登場しません。断じてしません。
注002:矢口はやっぱ辞め方と辞めたあとのこと。
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/05(月) 23:03
- ★
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/05(月) 23:03
- 01.Moonlight eight 〜月夜の8人だよ〜
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/05(月) 23:03
-
━━━━━━━━━━
l> PLAY
━━━━━━━━━━
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/05(月) 23:03
- それは2010年の春ツアーも本格的に始まっていた四月のこと(注003)。
「よーし。みんな集まって」
モーニング娘。のスーパーエースである田中れいなが号令をかけると、全てのメンバーが集合した。
集まった七人の僕は、熱い尊敬のまなざしでリーダーである田中のことを見つめる。
田中れいなはモーニング娘。のエースでありリーダーであり、日本で一番有名な芸能人だ。
メンバーの誰もがみんな、田中れいなのようになりたいと憧れていたのである(注004)。
いや、憧れと言うよりもそれはもはや「愛」だった。
CPで言うなら、れいなは総受け状態であり、総攻め状態でもあった(注005)。
「いよいよ決戦のときが来たけん、気合入れていくよ」
れいなは握り拳を固めて天に突き立てた。空には白い満月が煌々と輝いている。
もはやとっくに終電は過ぎ、TVも放送を終えようとする時間帯。
高橋愛。新垣里沙。亀井絵里。道重さゆみ。田中れいな。光井愛佳。ジュンジュン。リンリン。
八人の選ばれし戦士(注006)はUFA本社のビルの前にいた。
モーニング娘。の不倶戴天の敵はここにいる。
やつを倒す。れいなの頭にはそれしかなかった。
注003:このスレの物語は一応全てリアル設定です。
注004:この物語は夢オチです。最後に夢が覚めます。
注005:作者はCPに関する知識に疎いので、テキトーに書いています。
注006:あくまでも「選ばれし戦士」です。決して「卒業し損なったメンバー」では・・・・
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/05(月) 23:03
- 「変身! 月光戦士モーニングエイト!!」
れいなが叫ぶと、八人の戦士は宙に舞い上がり、縦に三回転、横に四回転した。
高橋は光の力を持つ黄色い戦士に変身した。
新垣は木の力を持つ緑色の戦士に変身した。
亀井は何の力も持たないオレンジの戦士に変身した。
道重は炎の力を持つ桃色の戦士に変身した。
田中は水の力を持つ水色の戦士に変身した。
光井は毒の力を持つ紫色の戦士に変身した。
ジュンジュンとかリンリンはもう考えるのが面倒になったので空手家にした。
「よーし! みんな行くぞお! 敵はこの中だあ!」
れいなが凛々しい目つきで命令すると、道重が桃色の炎を吐きだした。
ビルのシャッターが瞬く間に溶け出していく。ビルの中は真っ暗だ。
今度は高橋がまばゆい光の力でビルの内部を照らし出す。
「バッチリでーす!」
何もしていないリンリンが、アメリカ人のような笑顔(注007)で親指を突き立てた。
八人の戦士はビルの中へと向かって駆け出す。
最上階には、悪の組織のボス・つんくPがいるはずであった。
注7:在りし日のミカの笑顔を想像してもらいたい。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/05(月) 23:04
- れいなは先頭に立って戦場を駆け抜ける(注008)。
恐怖などなかった。なぜなられいなはスーパースターだからだ(注009)。
だがビル内部の階段を駆け上がるれいなの前にはおそるべき罠が仕掛けられていた!
「あぶない! れいな!」
オレンジの戦士がれいなに覆いかぶさる。
その上から無数の包丁がぶすぶすと突き刺さった。血がどくどくと流れる。
「絵里!!」
「れ・・・れいな・・・あたしに構わず先に進んで・・・・」
「なんで、なんでよ、絵里!」
「れいな・・・・あたしのために・・・・・勝って・・・」
「絵里! しっかり! 意識をしっかりもって!」
「ヒャークマーミーピートゥーパァー♪」
「絵里ーーーーーーーーー!」
こうして亀井は死んだ。
許さん。許さんぞつんく。
れいなにブログをやらせないだけではなく、絵里のことまで殺すとは。
特にブログのことは許せない(注010)。
れいなはつんくに対する怒りを新たにした。
注008:危険を冒してでも自ら先陣を切る大将といえば、田中れいなと武田勝頼くらいしか思い当らない。
注009:もう一度言うがこの話は夢オチです。事実に反する部分は本人の願望だと思ってください。
注010:高橋もブログはやっていないのだから、これは高橋システムではなく田中本人の問題なのだろう。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/05(月) 23:04
- れいなは涙を拭きながら階段を駆け上がる。
絵里は死んだ。もう後ろは振り返らない。つんくをぶっ倒す。それしか考えていなかった。
「れいなあぶない!」
今度は道重の声だった。道重が身を呈してれいなをかばう。これが同期の絆なのか!(注011)
道重の体に木の枝がぶすぶすと突き刺さる。地味に痛そうだ。これが噂の地味重か(注012)。
木の枝は緑の戦士から伸びてきていた。バカな! 新垣は味方のはずだ!
「田中っち。悪いけどつんくさんのところには行かせない。ここで死んでもらうよ」
そうか。新垣は裏切ったのか。この人はいつもつんくさんの味方だ。
裏金でももらったのか。それとも他の何かで釣られたのか(注013)。
干されているくせに事務所べったりなのはそういう理由があったに違いない。
注011:これはあくまでも夢の中の話です。事実というより本人の願望です。
注012:違うと思います。
注013:やはり安倍なつみグッズとかだろう。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/05(月) 23:05
- 「れいなはあたしが守る!」
道重が最後の力を振り絞ってピンクの炎を吐きだした。木は炎に弱い。
新垣はめらめらと燃えて燃えて燃え尽きた。
まるで卒コンが終わったあとの安倍ヲタのようだった(注014)。
こうして新垣は死んだ(注015)。
だが新垣の攻撃もまた道重の心臓を貫いていた。道重も死んだ。
ちなみにジュンジュンとリンリンは出番はないが生きていた。無駄に元気だった。
「バッチリでーす!」
いやいやいや。バッチリじゃねーだろ。光井は心の中で突っ込んだ(注016)。
注014:いいこと! これはいいこと!
注015:新垣は死んだが、安倍ヲタはまだ完全には死滅していないようだ。
注016:関西人がなんでもかんでも「なんでやねーん」と突っ込むと思ったら大間違いである。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/05(月) 23:05
- 田中。高橋。光井。ジュンジュン。リンリン。
五人に減った月光の戦士はついに屋上にたどりついた。
空には煌々と光る満月。まるで何かを暗示しているかのような光だった(注017)。
そこには黒いマントを羽織った四十過ぎのおっさんが立っていた。
「ふ・・・・・来たか月光の戦士たちよ」
「つんくぅ!」
「待ってれいな。ここはあたしに任せて」
そう言って高橋がれいなの前に一歩出た。
よく考えればこの女が一番つんくとの付き合いが長い。思うところもあるだろう。
「なんでや? なんで俺に逆らう? 黙って言うこと聞いてたら良い思いできるやろ?」
「うるさい! あたしたちはあんたを倒す!」
「だからなんでや? 理由はなんやねん、高橋」
「あんたのせいで・・・UFAのせいであたしたちに良い仕事が回ってこないからだぁ!」
お前が言うな。光井は心の中で高橋に突っ込んだ(注018)。
注017:ごめんなさい。何も暗示していません。
注018:これは突っ込むだろう。あの亀井ですら突っ込むかもしれない。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/05(月) 23:05
- 「いや、少なくとも高橋にはそれなりの仕事を・・・・・・」
「うるさあああああい!」
高橋はグーパンチでつんくを殴った(注019)。奥歯が折れる音がした。
光井はほんの少しだけつんくに同情した。
だがれいなは同情などしなかった。
「今がチャーンス! ジュンジュン! リンリン! いけえ!」
「ラジャー!」「ラジャー!」(注020)
高橋とジュンジュンとリンリンは泣き叫ぶ四十過ぎのおっさんをボコボコにした。
容赦なく殴り、体重を乗せて踏みつける。まさにフルボッコ。
とにかく三人は鬼の形相でつんくのことを殴り続けていた(注021)。
注019:光の力は使わないのだろうか。
注020:ジュンリンが常に二人ワンセットで扱われるのは、辻加護とは全く違う理由によるものだと思われる。
注021:きっと「笑っていいとも!」出演時のストレスがここで爆発してのだろう。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/05(月) 23:06
- 「よーし! そこまでそこまで! もうその辺でよかろ!」
れいなが命令すると、三人はピタリと動きを止めた。
誰もれいなに逆らうことはできない。れいなこそがグループのリーダーなのだ。
「つんく! わかったか! もううちらの邪魔はせんな!」
「は・・・はい。ごめんなさい。もうしません。許してください田中さん」
「よし! じゃあ絵里とさゆのことも生き返らせろ!(注022)」
「はい。仰せのままに」
つんくの持つ悪の力は凄まじいものがあった。
死んだ人間を生き返らせるなどお茶の子さいさいだった。
れいなの右側と左側できらきらと星屑のような光がまたたいた。
光の中から亀井と道重が現れる。三人は笑顔で抱き合った。
「やったね! れいな!」「れいなすごーい!」
これでれいなも明日からブログもできる。
仕事も増えるし、CDだってきっと売れるはず(注023)。
れいなの生活がハッピーなものになること。それがただただ嬉しかったが―――
そこで目が覚めた(注024)。
注022:新垣のことは忘れているようだ。
注023:それは悪の力をもってしても無理だと思われるが。
注024:くどいようだがこのお話は夢オチです。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/05(月) 23:06
- 「あ・・・・・・・・・夢・・・・・・・」
なんという夢だ。我ながら呆れる。
右手で瞼をぬぐうと、涙まで流れているのがわかった。
「どうしたの? 変な夢でも見た?」
移動中の新幹線。隣の席には高橋愛が座っていた。
変な夢か。確かに変な夢だった。夢の内容をそのまま話すと、新垣は爆笑した。
「なにそれー! あんたの願望そのまんまじゃん!」
「ええ! 願望!?」
「願望っていうか、現状に対するあんたのイメージ?」
「いくらなんでもそんな幼稚なイメージは・・・・・」
「はいはい。あんたも好きだねえ」
「違うー!」
確かに自分には自分の望むモーニング娘。像があるが、
それは決してあんな幼稚なものではない―――
ないと思いたかったが、自分でもそんなはっきりとした自信はなかった。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/05(月) 23:06
- 新幹線が目的の駅で止まる。
新垣里沙は荷物に手をやり、席を立った。
「ほら、行くよ。あんたもつまんない夢とか見てないでさ」
「好きで見たわけじゃ・・・・」
「とにかく行くよ。仕事仕事。頼むよホントに」
「頼む?」
「しっかりしてよ。あんただって八人の戦士のうちの一人なんだからさ」
「はーい」
気の抜けた返事をして、光井愛佳は緑の戦士の背中を追って駆け出した。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/05(月) 23:06
-
━━━━━━━━━━
□ STOP
━━━━━━━━━━
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/08(木) 23:06
- ★
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/08(木) 23:06
- 02.気後れプリンセス
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/08(木) 23:06
-
━━━━━━━━━━
l> PLAY
━━━━━━━━━━
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/08(木) 23:07
- コンサートが終わってまだ着替えもせず、汗も引き切らないそんな時。
「ガキさん、ちょっとお願いがあるんですけど」
腰の高さくらいから声がしたので振り返ってみればそこには亀井絵里がいた。
なぜしゃがんでいるのか。なぜうんこ座りなのか。なぜ下から目線なのか。
そういったことに特に意味はない(注025)。
だが新垣は強烈に嫌な予感がした。特にヤバイのは亀井の顔だ。真顔だ(注026)。
「お願いってさあ。改めてそんなこと言わなくてもいいじゃん」
「えー。なんでー」
「いや、あんたいつも『他人にお願いしてる状態』で生きてるじゃん」
「あっ。それ傷つくー」
「なにい! でゅううぇぇえい!」
「あーれー」
新垣が足の裏で軽く蹴ると、うんこ座り状態だった亀井絵里は後ろにごろりとひっくり返った(注027)。
もしもここが富士山頂だったら一合目まで転がっていっただろう(注028)。
別に本気で怒ったわけではない。新垣のヤクザキック(注029)にもさして意味はない。
亀井と遊んでいるとなぜか意味のないことばかりをやってしまうのだ。
なぜだろう。バカは空気感染するのだろうか。
注025:亀井の行動全般にはおよそ「意味」というものが存在しない。
注026:亀井の場合は、真顔だからといって真面目とか真剣であるとは限らないのが怖い。
注027:勿論パンツは丸見えである。見せパンであることが惜しまれる。心の底から惜しまれる。
注028:いや、そんなことはないだろう。
注029:個人的には蝶野正洋のヤクザキックがいかにもヤクザらしくて素晴らしいと思う。
- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/08(木) 23:07
- 新垣は転がる亀井を無視してドレッシングルームへと向かった。
転がる石には苔はむさない。ライクアローリングストーン(注030)。
亀井はこうやって新垣に転がされることによって女を磨いてきたのだ(注031)。
だからこそ亀井の立ち直りは速い。すぐさま起き上って新垣の腰に抱きつく。
まさにハードタックラーの本領発揮という感じである(注032)。
がっしりつかんだまま、亀井はすりすりと頬ずりをした。
「だからー、お願いがあるのー」
「あー。もー。うるさいなー。暑苦しいなー」
「ガキさあん」
「はあい」
「絵里のこと好き?」
「安倍さんと愛ちゃんの次くらいに好き(注033)」
「絵里もさゆとれいなの次くらいにガキさんが好きだよ(注034)」
「何の話だ」
「じゃあ、絵里の言うこと聞いてくださいよ!」
「なんで?」
亀井絵里には話の流れなど全く関係ない。自分の言いたいことだけを言うのだ。
注030:常に転がり続ける(変化を続ける)ことによって新鮮さを保つという意味。
注031:嘘です。
注032:興味のある人は「ハードタックラーえりりん」でググってみてください。
注033:まさかのマジレス。
注034:田中が好きというのは口から出まかせだろう。
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/08(木) 23:07
- 「あのね、絵里ね」
「彼氏と結婚でもしたいの?」(注035)
「いや、その話はまた別の機会に」
「したいのかよ」
「ウエヘヘヘヘ」
「下品」(注036)
「絵里ね。天才だと思うの。フリートークの天才」
いつのまにか亀井は新垣の腰から手を離していた。
新垣もリアクションがオーバーであると言われることが多いが、亀井もすごいと思う。
目の前にいる亀井は、両手を広げて掌を上にし、
「種も仕掛けもありませんよ」と言っているマジシャンのような仕草で喋っている。
お前はアメリカ人か(注037)。新垣は心の中で突っ込んだ。
注035:この話は「気後れプリンセス」である。「行き後れプリンセス」ではない。
注036:げっひーん。個人的にはガキさんの方が潔癖すぎるのではないかと思う。
注037:「全てのアメリカ人がオーバーリアクションではない」とは言い切れないと思う。
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/08(木) 23:07
- キラキラとした瞳で語りかけてくる亀井に、新垣はやや気押される。
アメリカ人は苦手だ。なぜなら日本語が通じないから。
「はあ、天才ね。で? お願いってなに?」
「今日のコンサートのMC聞いてた? すっごい受けてたよね?」
「ああ、まあ、よかったね。で、お願いってなに?」
「会場のみんなが絵里の言葉で大爆笑してたじゃん。それで絵里気付いたの」
「自分がトークの天才ってことに?」(注038)
「うん」
「なるほど。で、お願いってなに?」
「でもね、こないだの『笑っていいとも』とかではダメだったじゃん」
「うーん。ダメねえ。まあねえ。あれは仕方ないねえ・・・・・」
「でも、絵里が天才であればどっかんどっかん受けると思うのよ! でしょ?」
「はあ。で、お願いってなに?」
「ガキさん」
「なに?」
「絵里の話を聞いて」
「だからああああああああ! 聞いてるだろうがあああああ! お願いってなによおおおおお!」
新垣は意外と気が短い。これはある意味驚異的なことだった。
これだけ気が短い性格をしていながら、高橋や亀井と普通に会話できる(注039)のは、
この世界でおそらく新垣一人だけだろう。これは誇っていいことだと思う。
注038:残念ながら亀井は天才と紙一重ではあるが完全なバカサイドの人間だろう。
注039:普通の人が見たら会話が成立しているようには見えないかもしれないが。
- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/08(木) 23:08
- 「ぐ・・・・ぐるじい」
「言えええ! 願いはなんだ!」
新垣は亀井の襟元をつかんでねじり上げた。ガキさんも怒らせると結構怖い。
ベリキューメンから怖がられるのも当然だろう(注040)。
その横を田中と光井が通り過ぎていった。
絵里とガキさんはいっつも仲がいいっちゃねえ。とか言いながら。
スタッフも笑いながら通り過ぎていく。この会場内でただ一人亀井だけが苦しんでいた。
「言うう! 言うがら! だから手を離してええええ」
「離して? なーんだ。お願いってそれか」(注041)
新垣は手を離す。亀井は荒い息を整える。
どうやら新垣は結構本気で締めていたようだ。だが亀井は特に怒らない(注042)。
涙目で再び新垣の腰にすがりつく。
「だからね、絵里ね」
「はい」
「もっと積極的な性格になりたいの」
「えええええー」
注040:本当に怖いのは「新垣さん怖い」ということを皆が公表して差し障りがないという事実である。
注041:違うと思う。
注042:なぜなら亀井絵里だから。
- 24 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/08(木) 23:08
- 新垣は驚いた。
確かに亀井はあまり積極的な性格ではない。
こういったコンサートの場では面白おかしいことも言えるのだが、
TVの番組などに出演すると、途端に借りてきた猫のように大人しくなってしまう。
身内ネタでしか盛り上がれない性格なのだ(注043)。
だが新垣はそれが亀井という人間の性格であり、変えることなど無理だと思っていた。
「そんないきなり無理だよー」
「絵里ね。『笑っていいとも』とかでも笑いが取れるようになりたいの」
「ハードル高えよ」
「さゆみたいに余所の番組でも前へ出る性格になりたいの」
「あー、なるほどね。うーん。でもさゆとカメじゃ全然性格違うからなあ」
「だからガキさんにお願いしたいの」
「なにを?」
「絵里の性格を変えてほしいの」
「あたしには無理だよ」
「絵里もそう思う」
「コラ」
「だからあの人に変えてもらおうと思うの」
「あの人?」
「安倍さん」(注044)
「うおい!」
注043:これは亀井だけに限らない。娘。OGのほぼ全員がそうであろう。
注044:モーニング娘。卒業生の安倍なつみさんのことです。皆さん覚えていますか?
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/08(木) 23:09
- 「安倍さんだったらどんな番組でも気後れしないと思うの」(注045)
「まあね。あの人は神様だからね」(注046)
「だから絵里、安倍さんみたいになりたくて」
「で?」
「安倍さんの家に侵入しようと思うの」
「なんで?」
「安倍さんグッズで身を固めれば、気後れしなくなると思うの!」(注047)
「わかる」(注048)
新垣はその瞬間、亀井の心中を全て察した。
安倍さんに言えば一つや二つはお守り代わりの何かをもらえるだろう。
だが真のなちヲタたるもの、そんなもので満足するわけにはいかない。
服から下着から靴から鞄からアクセサリーから化粧から、全て揃えたいのだ。
侵入するのも止むを得ないだろう(注049)。
「手伝ってもらうとしたら、ガキさんしかないかなって」(注050)
「カメ。わかってるじゃんか」
「ウエヘヘヘヘ」
注045:むしろもう少し気後れした方がいいと思う。
注046:むしろ悪魔だと思う。
注047:要するに不法侵入して安倍の家財を盗みたいということらしい。
注048:わかるのかよ。
注049:止むを得ないことはない。立派な犯罪です。良い子は真似しないように。
注050:これに関しては異論はない。犯罪だけどね。
- 26 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/08(木) 23:09
- こうして新垣と亀井は安倍なつみ宅に侵入した。
事務所を通じて安倍のスケジュールは押さえていたので侵入は容易だった。
新垣は何度か安倍の家に行ったことがある。
そのときにこっそりと合鍵を作っていたのだ(注051)。
まさかその合鍵がこんなところで役に立つとは!(注052)。
新垣と亀井はありとあらゆる安倍なつみグッズを漁った。
もはや当初の目的は完全に忘れていた。
なぜか亀井は、箪笥の中身をひっくり返して、中にあった現金までとった。
これを財布に入れておけばきっと気後れしないだろうと思った(注055)。
新垣はなぜかトイレと台所をひっかきまわしていた。
冷蔵庫の中には何も入っていなかった。新垣はそれを見て少し泣いた。
安倍なつみがジャスコの駐車場でのイベント(注056)から帰宅するまでに、
二人は、嵐が過ぎ去った後のような安倍の部屋を去った。
注053:新垣だったらそれくらいはやりかねない。
注054:ていうかこういうときのために合鍵を作ったのではないかと言いたい。
注055:ていうか盗むという行為に対して気後れしろよ。
注056:どうやら石川梨華の仕事を横からかっさらったらしい。
- 27 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/08(木) 23:09
- 「これで完璧だね!」
「明日から二人とも第二の安倍なつみだね!」
「これで全国ネットだろうが、ゴールデンだろうが!」
「絶対に気後れしないよね!」
二人は持ちきれないほどの戦利品を背負って、朗らかに笑いながら帰宅の途についた。
なお、それ以降、モーニング娘。が全国ネットのTVに出演した記録は残っていない。
- 28 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/08(木) 23:09
- 一方、安倍なつみは―――
可愛い侵入者が部屋を荒らしたことにも全く気付かず、
そのまま毎日の生活を続けていたという。
- 29 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/08(木) 23:09
-
━━━━━━━━━━
□ STOP
━━━━━━━━━━
- 30 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/12(月) 22:35
- ★
- 31 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/12(月) 22:36
-
━━━━━━━━━━
l> PLAY
━━━━━━━━━━
- 32 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/12(月) 22:36
- 03.現金ピカッピカッ!
- 33 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/12(月) 22:36
- 全国ツアーという名のドサ回り(注057)はまったりとした雰囲気で続いていた。
ある時は新幹線で、そしてバスで。地方目指してモーニング娘。の面々は進む。
移動中に何をして暇を潰すかということはなかなか深刻な問題である(注058)が、
一番やってはいけなことが「寝ている人を起こすこと」であることは間違いないだろう。
「なあ、リンリン」
「・・・・・・・」
「なあ、リンリン、起きてって」(注059)
「はい? もう着いたんですか?」
着いていない。右の車窓から見える景色は前から後ろへとするすると流れていく。
左を見れば、頼もしくないことで有名(注:060)な高橋が真剣な表情をしていた。
何か突発的な事故でも発生したのだろうか?
「もしかして軍事革命が?」とリンリンは思ったが、よく考えればここは日本である(注060)。
窓の外の景色はいつもと何ら変わらぬ平和な日本の表情だった。
注057:紺野の周りをグルグルと回る行為のことではない。
注058:今のモーニング娘。には他にもっと深刻な問題があると思うが。
注059:このセリフの主が誰であるか、一発でわかる人は少なくないと思う。
注060:日本でなければ十分あり得ることだと思っているらしい。
- 34 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/12(月) 22:36
- 「なあ、リンリン、暇してるやろ?」
「えっ? なんて?」
「暇やろ? 退屈してるやろ?」
「はあ?」
寝ている人間を起こして言う言葉ではないだろう。
リンリンは高橋の言っていることが全然理解できなかった。
もう三年以上の付き合いになるのだが、この人の言っていることはいまいちよくわからない(注062)。
そしてリンリンは、比較的思ったことをすぐ口にする性格だった。
「タカハシさーん。意味わかんないですよー」
「えー、だって暇やもん」
「タカハシさんが?」
「うん」
通訳が欲しい(注063)。リンリンは心の底からそう思った。
注062:九年近く付き合ってる新垣にも理解できないのだから無理もない。
注063:「殴りたい」ではなく「通訳が欲しい」というところがリンリンの優しさだろう。
- 35 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/12(月) 22:37
- 「じゃあ、ゲームでもしますか?」
「リンリンって日本語上手くなったなあ」
「あ・・・ありがとございます」
「でも、まだまだやな」
高橋は偉そうなことを言うときも、ちっとも偉そうに見えない(注064)。
なぜか見ているこちらが微笑ましい気持ちになってしまう。
高橋のそういうところがリンリンは好きだった。
とにかく目は覚めた。相手するしかないだろう。
「日本語難しいねー」
「そやろ? 英語とかより全然難しいと思うんよ!」
「はあ。高橋さん、英語勉強してるんですか」
「まあね。Sometime.....I'll be a Popstar sometime!、なーんてね」
今はポップスターじゃないのかよ(注065)。リンリンは心の中で突っ込んだ。
注064:貫禄がないとも言う。
注065:頂点はないと思うんやよ。
- 36 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/12(月) 22:37
- 「英会話学校とかにも安くない月謝を払ってるわけ」
「はあ、偉いですねえ」
「自分に対する投資? 将来に向けての投資ってやつ?」
「とうし・・・投資・・・・・はいわかります」
「リンリンもどう?」
「え? 英語を習うんですか?」
一緒に英語を習う。
こんな建設的な誘いを受けたのは初めてのことではないだろうか。
リンリンは軽く感動した。
山口県出身の某メンバーなどは自動販売機の荒らし方を教えてきたり(注066)、
先輩のくせにやけに高いご飯をおごらせたり(注067)と、ろくなことをしてこないのだ。
さすがにリーダーは一味違うなと思った。
いつもとは違う意味でそう思った(注068)。
注066:このエピソードはフィクションです。
注067:このエピソードはフィクションであるとは限りません。
注068:いつもはただの変人だと思っているのだろう。
- 37 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/12(月) 22:37
- 「いやいやいや。あたしは教えられるほど英語上手くないし」
「え? 高橋さんが教えるの?」
「そう。日本語を」
「えー、なんで?」
「月十万円でええよ」
高橋が言うと冗談に聞こえなかった。
でもリンリンはめげない。そして粘り強い
粘り強いということに関しては、どのメンバーにも負けなかった。
「おー、十万は高いね。一万でどうですか?」
「一万? 安すぎるよー」
「じゃ、五千円」
「さらに安くなってるじゃん!!」
「じゃ、年間一万円で」
「年間?」
「長期契約ということで。お互いお得でしょ?」(注069)
「まあええか」(注070)
注069:「長期契約」なんて言葉を知っているなら、もう日本語を習う必要はないのでは。
注070:高橋さんは粘り弱いということに関してはどのメンバーにも負けなかった。
- 38 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/12(月) 22:37
- 「じゃ、さっそく教えてください」
「一万円払ってから」
「契約が終わったら払いますから」
「えー」
「まあまあ。ボチボチいきましょう」(注071)
もちろん、一年後に一万円が支払われなかったことは言うまでもない。
金銭感覚のシビアさで中国人に勝てる日本人などいない。
話のネタになるようなものであればいくら払っても惜しくはないが、
見返りが期待できないものにお金を注ぐほどリンリンはバカではなかった。
なにはともあれ、日本語を教えてもらえるなら損にはならない。
来日から数年が経過しても、いまだによくわからない日本語は多かった。
「じゃ、リンリンの興味ある言葉からいこう」
「興味のある言葉?」
「なんでもいいよ。教えてあげるから。言ってみてよ」
「ネズミ講」(注072)
注071:「ボチボチ」なんて言葉を知っているなら、もう日本語を習う必要はないのでは。
注072:犯罪です。決して真似しないように。
- 39 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/12(月) 22:38
- 「興味あるの?」
高橋の目がキラキラと輝きだした。
間違いなく、シンデレラのミュージカルをやっていたときよりも輝いている(注073)。
「はい」
なんとなく金の臭いのする言葉だとずっと思っていたのだが、
それゆえに面と向かって誰かに説明を求めることは憚られる言葉であった。
高橋は過去の判例集などを交えつつ、ネズミ講に関する詳細な説明を展開していく(注074)。
「すばらしい。日本人もなかなかやりますね」
「中国にはこういうのないんだ」
「共産主義的な思想からはちょっと遠いですね」
二人の会話は異様な熱気に包まれていく。
もはや「日本語を習う」という当初の目的からは大きくはずれた会話となっていた(注075)。
注073:ネズミ講ほどは儲からない仕事だったのだろう。
注074:空気は読めなくても判例集は読めるらしい。。
注075:高橋の会話にはよくあること。
- 40 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/12(月) 22:38
- 「高橋さん。これは使えますね」
「使える?」
「もちろん、モーニング娘。の活動にです」
ネズミ講的な手法でヲタから金をまきあげる。なんという悪魔的な手法だろうか(注076)。
「あたしもそれは考えたことあるんだよね」(注077)
なにせハロプロメンの名前がついていれば、500mLの水でも500円を出すのがヲタである(注078)。
上手くやれば今の収入の数倍を稼ぐことだって不可能ではないだろう。
「でもそれって犯罪行為になるし・・・・」
「高橋さん! そんなこと気にちゃ駄目ですよ! 小さい小さい!」(注079)
注076:実際のUFA商法はネズミ講よりタチが悪いと思うのは、筆者だけだろうか。
注077:あるのかよ。
注078:嘘だと思う人は「ゴマキ水」で検索してみよう。
注079:『太陽からみればほんの一瞬の出来事』ってつんくさんも言ってた。(リンリン談)
- 41 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/12(月) 22:38
- 「それに事務所に隠れてやらなきゃいけないし・・・・・難しいよ」
「高橋さん。弱気はダメです。やるなら徹底的にやりましょう」
「マジで?」
「お金ほしくないですか?」
「ほしい」
「それが全てです」
「リンリンって強いね」
押しに回ったときの中国人は強い。意志の堅さが半端ではない。
こうなったら自分も一つ、リンリンの計画にのって、
徹底的に金の亡者になりきってやろうかと高橋は思った(注080)。
だが年の功よりカメの甲
(注081)。意外なところから声がした。
「あー、それ全然ダメだよー」
注080:貫け信念!
注081:念のために書いておきますが、正しくは『亀の甲より年の功』です。
- 42 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/12(月) 22:39
- 高橋とリンリンは物凄い勢いで後ろを振り返った。
そこにはまだ眠そうな顔をしている亀井がいた。
「絵里、それやったことあるよ」
「あるのかよ」
「亀井さんって一番そういう知能犯罪しそうにないのにー」
まさに『テレビドラマなんかより事実は奇なり』である(注081)。
「うん。あたしは友達たくさんいるし。一回お金を回してみた」(注082)
「で? で? どうなったんですか?」
「ダメなものはダメ」
「いやそれはきっと亀井さんの戦略が悪いから。もっと巧妙なやり方でいけば」
「ダメ」
リンリンの食いつきも半端ない。まるで人生がかかっているかのようだ。
だがリンリンの熱弁を遮って、亀井はバッサリとこの会話を終わらせた。
「だってヲタって友達いないんだもん」(注084)
注082:今更ですがこの物語はフィクションです。
注083:どうやらヲタ奴隷のことを言っているらしい。
注084:私もリアル友達はいません。
- 43 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/12(月) 22:39
-
━━━━━━━━━━
□ STOP
━━━━━━━━━━
- 44 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/15(木) 20:35
- ★
- 45 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/15(木) 20:36
- 04.阿弥陀ッチ
- 46 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/15(木) 20:36
-
━━━━━━━━━━
l> PLAY
━━━━━━━━━━
- 47 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/15(木) 20:36
-
「あふぇる かんじょじょ おさえてならぬひゃー!」
- 48 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/15(木) 20:36
- コンサートが終わったというのに、客席ではまだ歓声が鳴りやまない。
どうやら今回のコンサートも大成功で終わったようだ(注085)。
メンバー達も控室まで聞こえてくる歓声を、嬉しそうに聞いている(注086)。
自然とその顔もにやけるというものだろう(注087)。
だがそんなメンバー達の中で、全く違う意味でにやけている女が一人いた。
「新垣さーん」
「あん?」
「また噛んでましたねー、最後のセリフのところ」
「えー!? またそれー? 噛んでないよー!」
必要以上に濃い関西風味のイントネーションで話しかけてきたのは光井だった。
今回のツアーでは、コンサートが終わるたびに新垣は光井にからまれていた。
新垣にはそれが言い掛かりのように感じられてならない。
注085:空席の多さと歓声の大きさは、意外と比例しない。
注086:「いつまでも騒いでないでさっさと帰れよ」と思っているのはコンサートスタッフくらいだろう。
注087:亀井は生まれつきニヤニヤしてる顔なのだが。
- 49 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/15(木) 20:36
- 「あひゅれる かんじゅじょう おさえへひゃらるれらああ!!」
「そんな言い方してなーい!!」
今回のコンサートのラストナンバーのことだった。
最後の曲である『涙ッチ』には新垣がセリフをシャウトする部分がある。
どうも光井は、そこで新垣が噛んでいるように感じられるらしい。
「似てる似てる」。こういうときだけ亀井の反応は素早い。
「似とー似とー」。とりあえず田中は亀井の意見に相乗りする。
「そんな感じそんな感じ」。高橋が新垣の味方をすることはない。
「似てると思いまーす!」。どさくさに紛れてなぜか小春もそこにいた(注088)。
「そっくりねー」。ジュンジュンは小春がそこにいることはスルーした。
「バッチリでーす!」何がどうバッチリなのかはリンリンにもわからない。
「・・・・・・・・」道重は無言でブログを更新していた(注089)。
光井は新垣のアクションまでも真似してみせた。
思いっきり胸を反って天井を見上げた光井は、仰向けに床に倒れる。
その上に新垣がのしかかってきた。
まるでテリーマンにマウンテンドロップをしかけるザ・魔雲天のようだった(注090)。
光井がくしゃっと潰れる。
注088:2010年の娘。コンには小春は参加していません。
注089:むしろこっちが本業である。
注090:コンサート中に光井の靴紐が切れたりしていたのだろうか。
- 50 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/15(木) 20:37
- 「そんな変な動きしてなーい!」
「ぐ・・・ぐるじいです・・・・・」
「してないしてないしてなーい!」
「重いですって! ちょっと!」
いきなり話が変わるが、最近の新垣さんは太ったと思う。
辻や吉澤なんかは腹から太るタイプだが、新垣は顔から太るタイプだ(注091)。
しかも今は髪がショートだから顔がむくむと悪目立ちしやすい(注092)。
なんとか節制してもらいたいものである。
「あたしは噛んだりしませんから。愛ちゃんじゃあるまいし」
「いや、今は高橋さんは関係ないですやん」
ようやく新垣は光井の体を解放した。だがまだ納得はしていなかった。
元々『涙ッチ』のあのセリフの部分はやや噛み気味で歌うところなのだ。
CDにもそんな感じで歌が入っている。文句はつんくさんに言って欲しかった(注093)。
注091:同じタイプに安倍なつみがいる。そこまでリスペクトしなくても・・・・
注092:隣に紺野がいれば、まだ誤魔化しが利くのだが。
注093:私もつんく氏に文句を言いたい。いい加減9期メンバーを入れんかい。
- 51 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/15(木) 20:37
- 「いやいやいや。私も嫌がらせで言っているわけではないのです!」
「ホントに?」
「新垣さんだって、もうちょっとくらいはスラスラ言えるようになりたいでしょ?」
「まあ、思わなくはないけど」
「良い方法があるんですけど?」
「え? マジで?」
高橋ほどではないが、新垣も結構セリフを噛むほうだ。
コンサートで噛むことはないが、普通のトークではたまに言い淀むときがある。
TV番組などでのトークは一度の言い損ないが致命傷となる(注094)。
「良いお守りがあるんですよ」
「お守り?」
光井はときどき変なお守りを持ってくる。
やけに具体的でマイナーな願いに対して効果的であるお守りが多かった。
ちなみにつんくさんは「好きなアイドルを一組だけブレイクさせるお守り」をもらったらしい。
つんくさんが言うには「非常に効果があった」らしい(注095)。
注094:本当の意味で『致命傷』になるなら、高橋など15回は死んでいるだろう。
注095:『政権交代』したかどうかはともかく、AKB48がブレイクしたことは間違いないだろう。
- 52 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/15(木) 20:37
- 「じゃんじゃかじゃーん!」
まるでドラえもんのように(注096)、光井は腹ポケットから短冊のような紙を取り出した。
色あせた短冊には、墨で書いたような草書がしたためられている。かなり年代物のようだ。
「それがお守り?」
「そうです。これを使えば全く噛まなくなるんでーす」
「うっそー」
「ホントですよ。神官が祝詞を唱えるときに失敗しないようにと使ったという、
およそ二百年以上前から光井家に伝わる由緒正しきお札なのでーす!」
そう説明されると、新垣も不思議と効果があるように思えてきた。
マジでいけるんじゃない?
それともこれがブラボー効果ってやつ?(注097)
いやでも一度試しに愛ちゃんを実験台にして使ってみようか?
危なくなくて上手くいくならあたしも使おうかな?
新垣は結構失礼なことを考えていた。
注096:本人はさほどドラえもんには似ていないが、AAはかなり似てると思う。
注097:どうやらプラシーボ効果のことを言っているらしい。
- 53 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/15(木) 20:37
- 「新垣さん今、『愛ちゃんで試してみようかな』とか思ったでしょ?」
「おおおおおおおお思ってないよー」
新垣のリアクションは世界で一番わかりやすい(注098)。
思ったことが体全体に滲み出ていた。
だがお守りは一つしかなかった。二度使うことはできない。光井はそう説明した。
「いやでも愛ちゃんが使った方が娘。全体のためになるんじゃない?」
「意味ないですよ」
「なんで?」
「高橋さんは噛まなくなっても高橋さんですから」
「それもそうか」
新垣は光井の言わんとすることを0.1秒で理解した。そして納得した(注099)。
他のメンバーは二人のことを遠巻きにして見ている。
高橋を含む全メンバーは、明らかに「関わりたくない」というオーラを出していた。
もちろん二人はそんなオーラなどおかまいなしである。
注098:もはや石川のリアクション芸をも超えただろう。
注099:だがその理屈でいけば、新垣だって噛まなくなっても新垣だろう。
- 54 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/15(木) 20:37
- 「じゃあ、このお札を口でくわえて」
「え?」
「しっかりと歯で噛む!」
「はひ」
「動かない! そのままの体勢で」
「たいせいで」(注100)
「『阿弥陀ッチ』と108回言ってください!」
「いえるかあ!」
そう言いながらも言ってしまうのが新垣である。
基本的にこういったバカバカしいことが好きなのだ。
いや、好きではないかもしれないが、少なくとも「絶対嫌だ!」というほど嫌いでもない。
新垣はよだれをダラダラと垂れ流しながら見事に108回、叫びきった(注101)。
「阿弥陀ッチ、阿弥陀ッチ、阿弥陀ッチ!!!!」
「108回言いましたね?」
「108回いった!」(注102)
注100:シャ乱Qのメンバーというよりも『市井紗耶香 in CUBIC-CROSS』のメンバーとして有名。
注101:親が見たら泣いただろう。
注102:「108回エクスタシーに達した」という意味ではない。
- 55 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/15(木) 20:38
- 光井は新垣の肩にポンと手を乗せ、唇をひん曲げてニヒルに言った。
「阿弥陀ッチになれそうかい?」
「意味わかんない」(注103)
既に半切れ状態の新垣に対して、光井はあくまでもクールに言った。
「阿弥陀ッチになればいい」
「いや、だから意味わかんないって」(注104)
二人の後ろでは、他のメンバーが懸命に笑いをこらえていた。
光井も笑いをこらえていた。唇がますますひん曲がる。
新垣だけがまだ、本気でこのお守りの効用を信じていた。
「僕らはみんな、いつか輝く仏陀」
「意味わかんない」(注105)
注103:『涙ッチになれそうかい』という歌詞も同じくらい意味がわからない。
注104:『涙ッチになればいい』という歌詞も同じくらい意味がわからない。
注105:すみません。書いている作者にもよくわかりません。
- 56 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/15(木) 20:38
- 「まさか・・・・・・嘘ってことはないよね?」
光井は笑って答えない。それが答になっていた。
唖然とする新垣の後ろで、高橋がぼそりとつぶやいた。
「それ、あたしもひっかかったんよね」
「はあ? 愛ちゃんが?」
「いや、噛まなくなるって言われたからつい信じて108回」
「そんなバカなことを信じるやつがいるかあ!!」
既に光井は部屋の外に向かって駆け出していた。
それを追って新垣も、ガキの頃みたく泣いて笑いながら駆け出した。
- 57 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/15(木) 20:38
-
━━━━━━━━━━
□ STOP
━━━━━━━━━━
- 58 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/19(月) 22:16
- ★
- 59 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/19(月) 22:16
- 05.女がねだって なぜイケナイ
- 60 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/19(月) 22:17
-
━━━━━━━━━━
l> PLAY
━━━━━━━━━━
- 61 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/19(月) 22:17
- 2010年ももう4月。早いもので2010年も四分の一が終わったわけである(注106)。
そして道重さゆみが公式ブログ(注107)を始めてから二ヶ月が経過しようとしていた。
ブログのアクセス数もGREEブログ内ではトップクラスと絶好調。
なんとあの朝比奈ゆうひ(注108)や小森純(注109)よりもランキングが上なのである。
よくわからないがこれはきっともの凄いことに違いない(注110)。
道重を見るメンバーの目も、以前とはやや違ったものになっていた。
一般人には信じがたいことかもしれないが、ハロプロメンバーにとっては、
もはや道重は里田と同格のタレントであった。矢口や辻に迫る勢いかもしれない。
迫らないでほしいと願うのはごく一部の熱心なモーヲタだけだった。
道重のようにバラエティ番組で大活躍できるようになりたい。
そう願うメンバーは少なくなかった。
注106:君の学校や職場にも、こういうことを言う人が一人はいるはずだ。
注107:すみません。この小説を書くまで一回も見たことありませんでした。
注108:芸能人らしいんですがWikipediaには載ってませんでした・・・・・
注109:ファッションモデル。Wikipediaには載っているので、朝比奈ゆうひよりは有名人と思われる。
注110:皮肉です。
- 62 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/19(月) 22:17
- 「ジュンジュンもロンハー(注111)出たい」
「え?」
お弁当を食べる道重の眼前にジュンジュンがグイッと迫る。
ジュンジュンのお弁当は既に空になっていた。
その隣にいたれいなのお弁当も空だった。部屋の隅でれいなが涙目になっていた(注112)。
「カクヅケしたい」
「えー、あたしに言われてもー」
そう言いつつも道重もまんざらではない表情だった。
こうやってソロでの出演番組のことをズバリと言ってくるメンバーは意外と少ない。
ジェラシーね。きっとジェラシーだわ。
道重はそう感じていたが、そういったジェラシーに包まれるのも悪くなかった。
嫉妬するのが仕事ではない。嫉妬されるのがアイドルの仕事なのだ。
注111:すみません。この番組も一回も見たことないです。
注112:ジュンジュンにお弁当を食べられたらしい。
- 63 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/19(月) 22:17
- 「でもああいう番組って向こうから呼んでもらうものだから」
「なんで道重さんは呼ばれたのか?」
「なんでって・・・・・」
「ハロプロの枠がある。違うの?」
「やあねえ」
ジュンジュンもすっかり日本の芸能界になじんでしまったようだ(注113)。
バラエティ番組におけるゲストの調整に関してもそれなりのことは聞いているらしい。
そして確かに道重はそういった枠からバラエティ番組に進出したのだった(注114)。
「でもそこで面白いことを言ったから残れたのよ」
「ジュンジュンも面白いこといっぱい言えるよ」
「でも」
「今までもいっぱい言ってきたよ」
「うーん」
道重は言葉に詰まった。
確かにジュンジュンのトークは面白い。れいなの500倍は面白いだろう(注115)。
彼女がロンハーに出れば、かなり良い線をいくのではないだろうか(注116)。
注113:三年もいれば馴染む。いつまでも馴染まなかった五期や六期の方が稀なケースである。
注114:この小説はフィクションです。実在の人物や組織には一切関係ありません。多分。
注115:れいなのつまらなさは熊井ちゃんに通じるものがあるだろう。熊井ちゃんの方が上だが。
注116:個人的にはJJはロンハーには向いてないと思う。いやその番組一回も見たことないんですけど。
- 64 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/19(月) 22:17
- 「あたしもジュンジュンは面白いと思うけどー」
「でしょ? でしょ?」
「さすがにあたしでも番組にプッシュするのは無理なの」
「ケチ」
ジュンジュンはそう言いながら道重の玉子焼きに箸を伸ばす。
道重が慌ててブロックした隙をついて、ジュンジュンは唐揚げをゲットした。
「道重さん、唐揚げ食べないの?」
「ちょっとぉ! 返してよ!」
「ロンハー出たいなあー、出たいなー」
なにその駆け引き。
ロンハー出演は唐揚げ程度の価値しかないのかよ。道重は心の中で突っ込んだ。
そんな道重の気持ちを思いやることもなく、ジュンジュンは唐揚げをほおばった。
- 65 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/19(月) 22:18
- 「道重さん」
「なによ」
「玉子焼きいらないの? 食べないの?」
「いるわよ! 食べるから!」
道重はお弁当に覆いかぶさるようにしてブロックした。
勿論ジュンジュンが本気になればそんなブロックに意味はない(注117)。
だがジュンジュンは冷静にじっと道重のことを見ていた。
どうやら冗談ではないようだ(注118)。本気でねだっているらしい。
「あのね。ホントにね。あたしにできることならしてあげたいけど」
「してあげたい? ホントに?」
「うん。そりゃあジュンジュンのためならしてあげたいけど」
「じゃあ、やって」
「あたしにもできることとできないことがあるわけよ」
「できることならやってくれる?」
「もちろん!」(注119)
「ジュンジュンに協力してくれる?」
「はいはい。するする。なんでもやるから」(注120)
ジュンジュンの目がキラリと光を放った。
注117:れいなの全身ブロックは吹っ飛ばされました。
注118:れいなは冗談で吹っ飛ばされ、冗談でお弁当を強奪されました。
注119:勿論言葉の綾である。やるわけがない。
注120:もう既に面倒臭くなったらしい。それより落ち着いて弁当が食べたいらしい。
- 66 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/19(月) 22:18
- 「じゃあ、ロンハーは諦める」
「え? 諦めるの?」
「だって道重さんには無理なんでしょ」
「そうだけどさ。そこはもっと粘り強くいかなきゃこの世界では・・・・・・・」(注121)
道重の言葉を無視して、ジュンジュンは机の下にかがみこんだ。
そしておもむろにノートパソコンを取り出す。画面にはインターネットのブラウザが開いていた。
それを見てなぜか亀井の体がビクッと震えた(注122)。
ジュンジュンはニコニコと笑いながら、道重の公式ブログにアクセスする。
その画面を道重に見せながらジュンジュンは言った。
「じゃあ道重さん、このブログください」
「えええー!!!」
注121:ちょっとした成功をした人間というのは、すぐに説教したがるものである。
注122:また何かスキャンダラスな画像をネット上にうpされるとでも思ったのだろうか。
- 67 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/19(月) 22:18
- ジュンジュンの厚顔なおねだりに唖然となった道重だったが、立ち直りは速かった。
「ブログが欲しいんなら、れいなのをもらいなさい」(注123)
「なんで」
「れいなのはまだ始まったばっかりだから、今でも間に合うんじゃない」(注124)
「田中さんのいらない。だって道重さんのブログの方が人気ある」
「えー、そんなことないよー、れいなのブログの方がー、たぶん人気あるしー、
きっとアクセス数もー、さゆのブログなんかよりー、ものすごいんじゃなーい」
れいなが泣きながら部屋の外へを駆け出していった。
パソコンに続いて、今度はジュンジュンはポケットから携帯電話を取り出した。
それを見て、タチの悪い姑のような表情をしていた道重の顔が一変した。
「ちょっとそれ! あたしの携帯じゃん!」
注123:事務所にねだっても無駄だということは骨身にしみてよくわかっているようだ。
注124:何に間に合うというのだろうか。
- 68 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/19(月) 22:18
- 「そう。道重さんの携帯電話でーす」
「ちょっと返してよ!」
「道重さん、いつもこれでブログの更新してるね」
そう言いながらジュンジュンは片手でカチャカチャと道重の携帯をいじる。
前もって調べていたのだろうか。
どうやらあっという間にブログ更新画面にたどり着いたらしい。
「道重さん、これでいいの? この画面から更新するの?」(注125)
「ちょっとなにやってんのよ! 勝手に更新しないでよ!」
いつの間にか高橋と亀井が道重のことを羽交い絞めにしていた。
光井とリンリンはジュンジュンの後ろから熱心に携帯の画面を見つめている。
娘。の最後の良心であるガキさんはお昼寝の最中だった(注126)。
ジェラシーね。ジェラシーだわ。
道重の体はメンバーの嫉妬心によってかんじがらめに縛られた。
注125:筆者はGREEの利用者ではありません。この辺りは想像で書いてます。ていうか全部想像です。
注126:ちなみに田中さんもその時、泣き疲れて眠ってしまっていたが、本編とは関係ないので省略する。
- 69 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/19(月) 22:18
- 「なんですかそのタイトルは?」とリンリンが訊いた。
「『このブログはジュンジュンが乗っ取ったぞ!』ってタイトルやね」と光井が読み上げる。
「この日本語、昨日田中さんに教えてもらった」
知っていたのか田中。あの裏切り者めが・・・・・(注127)
道重は心の中でそう呻いた。
「じゃ、証拠写真撮ろう、証拠写真」
「なにそれ」
「道重さんが降伏した証拠になる写真」
道重をねっとりと見つめながらジュンジュンはそう言った。
右手で道重の携帯を持ちつつ、左手で自分の携帯を取り出す。
慣れた手つきで自分の携帯のカメラを開くと、道重の正面で構えた。
「さ、道重さん、降伏のうさちゃんピースやってください」(注128)
注127:別に裏切ってないと思う。元々味方でもないし。
注128:どんなポーズやねん。
- 70 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/19(月) 22:18
- その後ジュンジュンが飽きてブログを道重に返すまでの三日間、
道重さゆみ公式ブログのアクセス数とコメント数は、特に変化はなかったという。
- 71 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/19(月) 22:18
-
━━━━━━━━━━
□ STOP
━━━━━━━━━━
- 72 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/22(木) 22:29
- ★
- 73 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/22(木) 22:30
- 06.OK! Hit me!
- 74 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/22(木) 22:30
-
━━━━━━━━━━
l> PLAY
━━━━━━━━━━
- 75 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/22(木) 22:30
- 静かなること林のごとし(注129)。
田中は自宅で泥のように眠っていた(注130)。
なぜかその右隣には道重がいる。なぜかその左隣には亀井がいる。
まさに両手に花の状態だ。
これでもし田中が高橋だったら「花*花」状態となるところだ(注131)。
田中は比較的寝相が良い方だが、亀井は違う。
ベットの真ん中にいたはずの田中を蹴飛ばし、掛け布団を強引にもぎ取る。
その乱れっぷりたるや相当なものだった(注132)。
「んが」
右に押しやられた田中は道重の肘鉄を鼻にくらって悶絶する。
亀井の寝相とは違って、道重の寝相はすこぶる良い。全く乱れない。
れいながどれだけ端に押しやろうとしても微動だにしなかった。
動かざること山のごとしだった。
注129:武田信玄の軍旗の言葉として有名だが、元ネタは中国の孫子である。
注130:田中の存在が泥のようなのではない。眠っている状態が泥のようなのである。
注131:田中の笑顔は肛門のようではないと思う。
注132:例の寝起きドッキリのことを思い出してもらいたい。
- 76 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/22(木) 22:30
- 「もーう、なんね! ここはれいなのベッドー!」
今更お泊り会をするような生ぬるい関係でもない三人(注133)がれいなの家に集まった理由は一つ。
今日の仕事の解散場所がれいなの家から徒歩3分のところだったからである。
ツアーで地方を回っていると、とにかく無駄に疲れるのだ。
一秒でも早くベッドに入りたい二人は、何も言わずにれいなの家に突入してきた。
速きこと風のごとし。
部屋に入るやいなや、勝手知ったる我が家のごとく道重と亀井はベッドに直行する。
そのまま倒れるようにして眠りこけてしまったのは、まだほんの一時間ほど前のことだった。
れいなだって疲れている。すぐさま眠りに落ちた。
だが眠れない。ベッドは狭いのだ。二人はひっつきすぎなのだ。
寝相うんぬんを言う前に、とにかく暑くて暑くて仕方なかった。
注133:この物語はフィクションです。本物の三人は新婚夫婦のようにもっと仲良しです。
- 77 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/22(木) 22:30
- もう許さん。
侵略すること火のごとし。
れいなはまず道重に向かって、烈火(注134)のごとく襲いかかった。
さゆは体は無駄にでかいが、運動神経はゼロだ。しかも今は寝ている。無防備だ。
勝てる。今なら勝てる。今限定なら勝てるはずだ。
残虐非道なれいなはさゆの右手をとり、中指と人差し指の関節を極めた(注135)。
「いったーい!」(注136)
さゆはベッドの上でエビ反りになり、ものすごい力でれいなの手を振り払おうとした。
れいなはその動きにつられてベッドから落ちる。
さゆも一緒に落ちた。
れいな―――さゆと一緒ならどこまででも堕ちていける気がするっちゃ―――
れいなはそんな腐れCP小説(注137)のようなセリフを心の中でつぶやいた。
落ちたのはベッドの下だった。落差は30センチほどだった。
注134:ちなみに作者は「烈火」という言葉はあまり使わない。「劣化」ならかなりの頻度で使うのだが。
注135:良い子は絶対真似しないように。指関節はどんな格闘技でも禁じ手とされている危険な技です。
注136:そりゃ痛いわな。ていうか田中さんはそんなことやってたらファンが減ると思う。
注137:腐っているのは悪いことではないと思います。気持ち悪いけど。
- 78 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/22(木) 22:30
- 「ちょっとなにすんのよアンタ!」
「ちょい! タンマタンマ!(注138) ちがうちがう!」
「なにがちがうの!! 説明してよ! 今すぐ! ほらすぐ!」
さゆもまた目を三角にして烈火のごとく怒った。
まさかれいなにやられるとは。飼い犬に手を噛まれるとはこのことか(注139)。
だがれいなの機転はいつになく素早かった(注140)。
「絵里がやったと!」
「はあ?」
そのとき、タイミング良く亀井の足が豪快に宙を舞った。
まるで往年のピーター・アーツのハイキックのようだった(注141)。
それでも亀井はすーすーと眠っている。
どんな寝相やねん。さゆとれいなは同時に心の中で突っ込んだ(注142)。
注138:最近の若い子は「タンマ」とは言わないか。「ちょっと待って」くらいの意味です。
注139:まさにその通りだと思います。
注140:生命の危機を感じると火事場のクソ力的なものが出るのだろう。
注141:同じピーターでも池畑慎之介とは大違いである。
注142:さゆとれいなの心はいつだって通じあっています。辻と加護のように。
- 79 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/22(木) 22:31
- 「ちょっとぉ。ひどいんじゃない、この子?」
「れいなも絵里に蹴られたと!」
いや、ちっとも蹴られていないのだが。
口から出まかせなのだったのが、そう言っているうちに、
なんだかれいなは本当に絵里に蹴られたような気がしてきた(注143)。
「よし。さゆとれいなでこのアザラシを片付けると」
「片付ける?」
「あっちのソファへ動かすっちゃ」
「えー、二人で持てる?」(注144)
「片付けんとゆっくり寝れん!」
「まあねえ」
れいなは寝ている絵里の両脇に手を差し入れた。
両手を絵里の胸の前でがっちりと握る。
だがさゆは絵里の足を持とうとはしなかった。
注143:嘘つきによくある心理状態である。
注144:地味に失礼なことを言う子である。
- 80 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/22(木) 22:31
- 「さゆー! 早く持って!」
「えー。さゆ、お箸より重いもの持ったことなーい」(注145)
「アホなこと言うとらんと早くしてええええ」
そのとき亀井の口からかなりはっきりとした声が漏れた。
「オーケー、オーケー。ユー、セイ! ボーイ・・・・・」(注146)
目が覚めたのか?と思ったれいなの動きが一瞬止まる。さゆの動きも止まった。
だが絵里はぐっすりと寝たままだ。どうやら寝言だったらしい。
「オーケー! ヒット ミー! ボーイ!」
絵里はむにゃむにゃと唇を歪ませながら、訳のわからない英語を連呼した。
「ヒット、ミー! カモーン!!」
さゆとれいなは目を丸くして見つめあった。
「なんねこの寝言・・・・・」
「どんな夢を見てるのよ・・・・・」(注147)
注145:マイクは箸より軽いらしい。
注146:流星ボーイの言い間違えではありません。
注147:モデルのような白人美少年とSMプレイをしている夢です。
- 81 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/22(木) 22:31
- 「なに言ってるのこの子?」
「わけわからんっちゃ」
「ヒッ、ミー、ヒッ、ミー」
「うわー、なんかすっごい巻き舌じゃない?」
「なんで外人さんみたいなんやろ」(注148)
「ヒッ、ミー、クモーン」
さゆはきょろきょろと部屋を見回した。
れいなの部屋はわけのわからない小物で溢れかえっている。
だがその中に、生活感溢れる一品を見つけて、サユはそれをつかみあげた。
「あ、さゆ。それ」
「うん。ヒットミーって言ってるから」
さゆが手にとったのは布団叩きだった。
注148:モデルのような白人美少年とSMプレイをしている夢だからです。
- 82 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/22(木) 22:31
- 「れいな、絵里を裏返して」
「え? 裏返すってこういうこと?」
「違う違う。それはまんぐり返し」
「じゃあ、こう?」
「違うって。広げるんじゃなくて裏返すの」
「裏返す?」
「お尻の方をこっちに向けるの」
「こう?」
「あんたのお尻じゃないわよ」
そう言いながらもさゆは、れいなのお尻を思いっきり叩いた。
パシーン!
「トロイんだよ!」とハロモニ終わりの楽屋で、
安倍が高橋に平手打ちを食わせた時のような音がした(注149)。
「いたーい! なにすんのお!」
「こういうことされて興奮するっていう人もいるんだよ」
「どこに」
「ここに」
さゆは布団叩きの先で亀井を指した。
注149:過去に本当にそういうことがあったかどうかは知りません。
- 83 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/22(木) 22:31
- とろけるような悪魔の笑顔。
さゆは「It's You」を歌うときのように、ささやくように絵里に言った。
「あー、ゆー、おーけー?」
すやすやと眠っている絵里もまた、とろけるような笑顔。
れいなだけは戸惑った表情をしていたが、
それでもいそいそと亀井のパンツをずり下ろしていた(注150)。
亀井はごつごつとしたお尻をむきだしながら、むにゃむにゃと言った。
「おーけー! ひっと、みー!」
パシーンと乾いた音が響く。
なんだか無性に楽しくなってきたれいなは、乾いた笑い声をあげた。
こんなことをされても全然起きない絵里が面白かった。
と思っていたら、叩かれた亀井は即座に目をさました。
注150:なぜならさゆの命令だから。れいなはさゆの飼い犬だから。
- 84 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/22(木) 22:32
- 「いったーい!」
「うわ! 起きた! 絵里がおきたと!」
「なによこれ・・・・・うん?」
亀井ポリポリとお尻をかく。そこでお尻が丸出しになっていることに気付く。
すぐ下には布団叩きが落ちていた。妙に痛むお尻。もしかして。
「ちょっとなにすんのよれいなあああああ! しゃれになってなーい!」(注151)
「え、ちがうちがう。さゆが」
もうそこには道重の姿は影も形もなかった。
怒りに我を忘れた亀井が、れいなの腰をぐいとつかんだ。
問答無用でれいなの体を押さえつけてのしかかる。
ちがうちがう。絵里ちがうと。それは裏返しじゃなくてまんぐり返しって言うと。
れいなは覚えたばかりの言葉を叫びながら、いつまでも亀井の下でジタバタしていた。
注151:シャレになっていないのはお前の寝言だ。
- 85 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/22(木) 22:32
-
━━━━━━━━━━
□ STOP
━━━━━━━━━━
- 86 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/26(月) 21:01
- ★
- 87 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/26(月) 21:02
- 07.あの日に戻りたくない
- 88 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/26(月) 21:02
-
━━━━━━━━━━
l> PLAY
━━━━━━━━━━
- 89 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/26(月) 21:02
- 「おはよーございまーす」
「ガキさん、おぁよー」
「アイちゃん」(注152)
「なに?」
「略し過ぎ。『おはようございます』、でしょ」
「おぁよー」
「ちょっとだらしない」
「おぁよー」
「ほらほら。赤ちゃんじゃないんだから」(注153)
「おぁよー」
「溶けるな!」
注152:天才チンパンジーのことではない。モーニング娘。のリーダーのことである。
注153:新垣も保母さんではないのだからもっとビシッと言うべきだと思う。
- 90 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/26(月) 21:03
- 「ガキさんは相変わらず後輩に厳しいねえ」
「あんたは同期でしょ」(注154)
「身内の挨拶なんてこんなんでいいじゃん」
「よくなーい!」
「あたしとガキさんの仲だよ?」
「どんな仲だよ」(注155)
「ラブラブ?」
「そんな下品な顔で言わないの」(注156)
「あ、さゆだ。おぁよー」
「だからぁ!」
注154:加えて言うなら二つ年上である。
注155:どんなネタ振りだよ
注156:生まれつきこういう顔なのだから仕方ない。
- 91 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/26(月) 21:03
- 「あんだよー、さゆも笑ってるじゃん」(注157)
「挨拶は大事よ。ちゃんとやりましょう」
「そんなこと言うけどさー、ガキさん」
「なによ」
「それ、同じこと先輩にも言える?」
「え? なに急に」
「いやー、最近はあんまり先輩と仕事してないなー、と思って」
「確かに。上の人とあんまり仕事で会わないよね」
「なんでやろ?」
「上の人は上の人で忙しいからかな?」(注158)
「うちらもうちらで忙しいしね」(注159)
注157:苦笑いです。
注158:絶対違うと思う。
注159:二年前より明らかに暇だと思うが。
- 92 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/26(月) 21:03
- 「でも上の人がいないとさあ、やっぱりちょっとだらけちゃうよねー」
「え? 愛ちゃんにも自覚があるの?」(注160)
「あるさ!」
「てっきり今の自分に満足してるんだと・・・・・」
「あたしの辞書には『満足』という文字はないんよ」(注161)
「ふーん。じゃあたまには先輩にビシッと言ってもらいたいんだ」
「えー、それは嫌」(注162)
「なんでー! 入った頃みたいにほら、周りみんなが先輩で」
「あー、あたしそういうの絶対嫌」
「絶対っていうな」
「じゃ、ガキさん、あの頃に戻りたい?」
「絶対嫌」
注160:一応高橋愛はモーニング娘。のリーダーです。
注161:『紺野あさ美』とか『小川麻琴』という文字もなかったりして。
注162:先輩の方だって高橋にかまうのは嫌だろう。
- 93 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/26(月) 21:03
- 「ほら、ガキさんだって先輩のこと嫌ってるじゃーん」
「嫌ってないよ! ただ昔に戻るのが嫌で」
「先輩がいるからでしょ?」
「いや、先輩がどうとかじゃなくて」
「じゃあ、藤本?」(注163)
「話題を変えよう」(注164)
「昔に戻るのは嫌だよね?」
「うん。だってあたしらだってやっとここまで来たんだから」
「積み重ねたものがあるってこと?」
「いやー、そこまでは言わないけどね、でも過去があってこそ今があって」
「いや、そういう難しい話やなくて」
注163:年上の後輩です。
注164:このスレの趣旨は藤本のことについて語ることではありません。
- 94 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/26(月) 21:04
- 「もっと軽い話題として聞いてほしいんやけど」
「軽くない話題だけどねー」
「究極の選択クイズ? みたいな?」
「ふるっ! 今更そんなんに夢中になる子とかいるの?」
「おつかれいなの子とか」(注165)
「あー、うん」
「でさ、昔みたいにゴールデンのTV出演ありまくりだけどその他大勢の扱いってのと」
「・・・・・・・」
「今みたいに仕事は限られてるけどメインの扱いってのと、どっちが良い?」
「いや、それはこれからあたしたちが頑張って仕事をもっと」
「だから! 究極の選択なんだって! 良いとこ取りはなし」
注165:バッチリンリンの子とかも喜んでやるだろう。
- 95 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/26(月) 21:04
- 「・・・・・・愛ちゃんはどっちがいいのよ」
「今」(注166)
「あの日に戻りたいとかは思わないんだ」
「あの日ってどの日よ?」(注167)
「合格した日。まだ芸能人として真っ白だったとき」
「なんで戻るんよ」
「だってその瞬間は可能性が無限にあるんだよ?」
「ないよ」
「ないって」
「あの日に戻ったって、新垣里紗は変われない」
「そうかな?」
注166:即答するに決まっている。
注167:うたばんに初出演したときではないことは確かだろう。
- 96 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/26(月) 21:04
- 「うん。浜崎あゆみにはなれないし宇多田ヒカルにもなれないし安倍なつみにもなれない」(注168)
「わかってるよ。そうじゃなくて」
「その時点でもう可能性は無限じゃないじゃん」
「屁理屈言うねえ」
「だから遊びなんだって。究極の選択ゲーム」
「そういやそうだった」
「あ、でもガキさんも今の加護ちゃんみたいになら、なれるかも」
「それシャレになってないから」(注169)
「じゃあ今の辻ちゃんとか」
「半笑いで言うな」
注168:安倍なつみにはならなくてもいいと思う。
注169:まさか本当にシャレにならなくなるとは思わなかったが。
- 97 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/26(月) 21:04
- 「でさあ、愛ちゃんの言う究極の選択だけど」
「うん」
「今と昔の境界線ってどこ?」
「知らんよ」
「ちょっとは考えてよ!」
「先輩と後輩の境界線ならわかるけど」
「聞いてねえよ!」
「うるさいなあ。だからそういう言葉、先輩にも言えるわけ?」
「今はもう先輩はいないの! だから今はこれでいいの!」
「あー、あの日に戻りたいなー」
「うぉい!」
- 98 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/26(月) 21:04
- 「冗談じゃん。戻りたいわけないじゃん」
「しっかりしてよ。あんたが言わなきゃいけないことじゃん」
「え?」
「え?じゃないよ。あんたが後輩に言わなきゃいけないの」
「そういうときだけ『あの日に戻りたい』って思うわけよ」
「良いとこ取りはなし!」
「あ、みっつぃーが来たよ」
「みっつぃー、おはよー」
「おぁよー」
「うぉい!」
- 99 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/26(月) 21:04
-
━━━━━━━━━━
□ STOP
━━━━━━━━━━
- 100 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/29(木) 20:20
- ★
- 101 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/29(木) 20:20
- 08.なんちゃって疑似恋愛
- 102 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/29(木) 20:20
-
━━━━━━━━━━
l> PLAY
━━━━━━━━━━
- 103 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/29(木) 20:20
- 「ふわぁーあ」
あくびが一つ出ちゃうほどつまらない午後だった。
そう広くもない部屋には四人の女がたむろしている。
そう。まさに「たむろしている」という表現がピタリとくるような怠惰な雰囲気だった。
「暇だねえ。極楽だわ。こういう時間がずっと続いたらなあ」(注170)
「でもこう暇だと話のネタにもならないよ。こっそり外に出る?」(注171)
「いや、無理だから。外出とか絶対ダメ」(注172)
「うちらが行ったらパニックになっちゃうよって?」(注173)
福岡でのコンサートを控えて、メンバーたちは前日から福岡入りしていた。
だが前日にやるべき仕事は一通り終わった。
もうやることはない。あとはただコンサートが始まるのを待つだけだった。
注170:もちろん、この発言の主は亀井絵里。
注171:もちろん、この発言の主は道重さゆみ。
注172:もちろん、この発言の主は新垣里沙。
注173:もちろん、この発言の主は高橋愛。全部当たったあなたは人格に問題があります。
- 104 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/29(木) 20:21
- 高橋は別に抜けだしたくはないようだった。
新垣とはまた違った理由で道重の行動と止めにかかる。
「外に行ったって別にやることないじゃん」
「なによ愛ちゃーん。そんなことないでしょー」
「外で遊ぶなら東京の方が面白いしー」(注174)
「そんな身も蓋もないことを」
高橋はTシャツにハーフパンツというラフな部屋着だった。
同じように緑のジャージの上下というラフな格好をした新垣に抱きつく。
二人はベッドの上でごろりと半回転した。
「でも中で遊ぶなら東京と同じくらい面白いかもよ?」
注174:ここで言う『遊び』とはドッジボールや鬼ごっこのことではありません。
- 105 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/29(木) 20:21
- 「ねー、ガキさん」
「なにそれ。暑苦しいから」
「ぐへへへへ。遊ぼうぜお嬢さん」(注175)
「ナンパとか、しーないでくれるかな、しらけちゃーーう」
「それあたしのパートだから」
「じゃあ、『あーいーがーたーりない』」
「よしよし」
なにそれ。バカみたい。
道重はベタベタと絡み合っている高橋と新垣を冷ややかな目で見つめた。
道重の機嫌はあまり良くない。福岡に入ってからずっとぶすっとしたままだった。
そんな道重の首を、亀井が後ろからすっと撫でる。
「ちょっと! いきなりなにすんのよ!」
「えー、あっちが遊んでるんだからこっちも遊ぼうよー」
「どんな理屈よ」
「亀井絵里に理屈など通用しない!」(注176)
亀井はそのまま道重の体を後ろから抱きとめて押し倒した。
注175:「お嬢さん」というのは彼氏が十分でいっちゃうことを悩んでいる人のことです。
注176:理屈だけではなく常識も通用しません。
- 106 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/29(木) 20:21
- 「もーう。ガキさんと愛ちゃんが変なことするからー」
「変なこと?」「変なこととはなんだ!」
「絵里に変態がうつっちゃったじゃなーい」
「グエヘヘヘヘヘ」
「元からでしょ」「元から元から」
「・・・・・・・・・」(注177)
道重の不満そうな視線などおかまいなしに、高橋と新垣は派手にお互いの体をまさぐりあった。
愛撫もくそもない。ただの乱暴なじゃれあいだった。
「愛ちゃん・・・・あたしもう・・・・もうダメ」
「ガキさん・・・・・あっしも・・・・・あっしももう濡れ濡れやよー」
「『濡れ濡れやよー』とかwwwwwww」
「だってガキさんのことが好きなんやもーん」
「もーんとかwwwww」
「なんちゃってwwwwwww」
「なんちゃってwwwwwwwww」
二人はそんなくだらない会話を繰り返す。
気持ちが異様に高ぶっているようだった(注178)。
注177:正論なので何も言い返せなかったようだ。
注178:そんな気持ち、誰にでもわかっちゃうでしょ? 女の子なら。
- 107 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/29(木) 20:21
- 「また始まったよ・・・・・・あの二人」
「えー、いいじゃん。面白いじゃん。さゆもやろうよー」
「え? 絵里もやるの?」
「うん」
キラキラとした瞳で亀井は道重の顔を見上げる。
道重にはそれが、餌をねだるひよこのように見えてならなかった。
仕方なく道重はすっと亀井の前髪を優しく撫で上げる。
『カチリ』という亀井の心にスイッチが入った音が、はっきりと聞こえたような気がした。
道重はゆっくりと口を開いた(注179)。
「もーう。絵里は甘えん坊なんだから、まったく」
「だってぇー、だってぇー」
「しょうがないなあ。じゃあキスだけだよ」
「えー、キスだけ? なんでぇ?」
「だってそれ以上先に進んだら・・・・・・・」
「すすんだら?」
「もう戻れなくなるから。なんちゃってwwwwwwwwwwww」
「ちょwwwwww」
注179:上の口です。
- 108 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/29(木) 20:21
- そんな会話をしている道重と亀井の間に、高橋が割り込んできた。
「ダメ! 絵里はあたしのものだから」
「え?」
「さゆには渡さない。さゆには絵里を愛する資格なんてないのよ」
「どうしてよ!」
道重は本気で怒ったわけではない。
だがこういうパターンは初めてだった。何か面白くなりそうな予感がした。
だからあえて本気で怒っているような演技をしてみた。
後ろで新垣がクスクス笑っていた(注180)。
「だってさゆはまだ付け爪外してないから」
「え?」
「それじゃ絵里が危なくって危なくって。なんちゃってwwwwwwwww」(注181)
「ちょwwwwwww」
「なんちゃって指恋愛wwwwwwww」
「さゆはネコだからいいの! なんちゃってwwwwwwwwww」
注180:道重さんの絵に書いたような棒読みがツボに入ったらしい。
注181:下の口のことらしい。
- 109 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/29(木) 20:21
- ゲラゲラと笑っていた新垣も、高橋と同じように割り込んでくる。
「ダメー! カメはあたしのもの! あたしのポケポケプゥだから!」
「やめて・・・喧嘩を止めて」(注182)
「カメ。止めないで。あたしは戦うよ」
「ガキさん・・・・・」
「あたし、やっと気付いたんだ。好きな人に好きっていうために・・・・」
「ために・・・・・」
「あたしは生まれてきたんだ!・・・なんちゃってwwwwwwww」
「なんちゃってwwwwwwwww」
新垣の参戦によって、亀井をめぐる三つ巴の戦いが形成された。
愛絵里。ガキ亀。さゆえり。亀井絵里はまさに疑似恋愛の女王だった(注183)。
形勢不利な道重は新垣と高橋を突き飛ばす。
「なによ! 愛ちゃんとガキさんは脇役同士でくっついていればいいの!」
「脇役だとう!」「ガキさんはともかくあたしは」「うおぉい!」「だって」(注184)
「ほらほら。喧嘩するほど仲が良いじゃないですか。絵里はこっちね」
「はーい」
「はーいじゃなーい!!」
注182:二人を止めて。私のために争わないでもうこれ以上。
注183:飼育Wikiで調べてもこの三つは熱い。三つ巴が成立する現メンは亀井以外にはいないだろう。
注184:今のモーニング娘。は全員が脇役だと思われる。
- 110 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/29(木) 20:22
- そのときバタンと勢いよくドアが開いた。
四人は一斉にドアの方を振り返る。
「やっほー、みんなー、おつかれいなー」
私生活でもステージ上とテンションが変わらない唯一のメンバーがそこにいた(注185)。
繁華街をうろつく女子中学生のような派手はファッションに身を包んでいる。
地味な部屋着を着込んだ四人とはあまりにも対照的な格好だった。
「なんね! 四人で何して遊んでると? れいなはね! 福岡の友達と会ってきた!」
そう言いながら田中はお土産として買ってきた鯛焼きを机の上に置いた。
福岡なのになぜ鯛焼きなのか。その答えは田中れいなにしかわからないだろう(注186)。
注185:他のメンバーは、普段あんなテンションで喋っているところは想像できない。
注186:もしかしたら本人にもよくわかっていないかもしれない。
- 111 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/29(木) 20:22
- 「へー、そう。久しぶりに会ったんだ」
「うん!」
「明日のコンサの主役はれいなだろうね」
「にひひひひ」
四人は特に文句を言うでもなく、代わる代わる鯛焼きに手を伸ばした。
鯛焼きの数はなぜか7個だった。
なぜ七個なのか。その理由は田中れいなにしかわからないだろう(注187)。
田中は鯛焼きを二つつかみ、「二個食い!」とか言いながら二つ同時に頬張る。
その様子を四人はじーっと見つめていた。
「もうね、れいなね、MCのネタなら二十個くらいはあるから!」
「すごーい」「そうなんだー」「地元ネタ?」
「地元ネタも地元ネタ、選りすぐりの地元ネタを揃えましたから! いえい!」(注188)
テンションが高いのはいつもと一緒だが、やはり地元でのコンサートということもあってか、
田中の気合いの乗りは、いつもの五倍くらいはあるように感じられた。
気合いだけではなく、その他の要素(注189)も五倍くらいになっているようだ。
注187:もしかしたら本人にもよくわかっていないかもしれない。
注188:お前は寺田か。
注189:「滑ってる感」とか。「空回りしてる感」とか。「空気読めてない感」とか。
- 112 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/29(木) 20:22
- 「だから明日はねー、もう困ったら全部れいなに任せてくれたらええから!」
「はあ」「困ったらねえ」「まあ困ったら任せようか」「それがいいかもね」
れいなは最後に一つ残っていた鯛焼きに手を伸ばす。
「お茶ない? れいなちょっとお茶飲みたーい」
だが机の上には飲み物は置かれていなかった。
冷蔵庫にはペットボトルのお茶があったが、誰も持ってこようとはしなかった。
返事がないと知ると、れいなは少しムッとしながらも最後の鯛焼きを口に入れた。
「とにかく明日はれいなが主役やけん!」
「わかってるわかってる」「福岡ではれいなが主役だから」
「れいなほど福岡で愛されてる人はいないからねえ」
「ていうか娘。の中でもれいなほど愛されてるメンバーはいないから」
「そうそう。絶対に彼女にしたいメンバーナンバー1だから」
「愛したいねえ」「恋人にしたいねえ」「やだみんなもそうだったの?」
「ホント? ホント? マジで? マジでみんなれいなのことが好きと?」
れいなの質問に四人は無言で頷き、心の中で声を揃えた。
(なんちゃってwwwwwwwwwwwwww)
- 113 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/29(木) 20:22
-
━━━━━━━━━━
□ STOP
━━━━━━━━━━
- 114 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/03(月) 20:35
- ★
- 115 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/03(月) 20:35
- 09.大阪 不味いねん
- 116 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/03(月) 20:36
-
━━━━━━━━━━
l> PLAY
━━━━━━━━━━
- 117 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/03(月) 20:36
- 五月の大型連休を迎え、モーニング娘。の春ツアーもいよいよ終盤戦に突入しようとしていた。
舞台は神戸。毎度おなじみの大阪厚生年金会館は今回のツアーには入っていなかった(注190)。
とはいえ神戸も大阪も同じ関西。やることはいつもと同じ。
夜も更ける頃には腹を空かせた小狼どもが、美味いもんを求めて街に繰り出すわけであった。
「光井サン、JR乗らないの?」
「アホかリンリン。JRは高い。これ基本」(注191)
「じゃあ、あっちに乗るの?」
「いや、ジュンジュンこっちやこっち。阪神より阪急のほうが速い」(注192)
「光井サン、詳しいねー」
「こんなん関西人の基本やで」
「ネットで調べたら誰でもわかるけどネ」
「滋賀って関西ナノ?」(注193)
「あー! もー! 二人ともうるさい! はよ行くで!」
ぎゃあぎゃあとわめきながらも、三人は転がるように阪急神戸線の特急に転がりこむ。
いくつかの停車駅を経て(注194)、30分後にはグルメの街大阪に到着する三人。
注190:今は建て替え工事中で、2011年秋あたりに再オープンするとかいう噂である。
注191:加えて言うなら東海道本線ではダイヤがよく乱れる。福知山線の事故以来特に。
注192:加えて言うなら阪神電車の停車駅のわかりにくさは異常。
注193:群馬が関東に入るなら、滋賀も関西に入ると思われる。
注194:特急は夙川に止まる必要ないと思う。岡本にすら止まらなかった頃が懐かしい。
- 118 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/03(月) 20:36
- とりあえずたこ焼きを買ってブラブラする三人。
だがジュンジュンもリンリンも過去のツアーで大阪には何度も来ている。
既に大阪名物は一通り食べつくしている三人であった。
「うーん。どこ行く? 二人ともどこ行きたい?」
「とりあえずビール!」
「それ使い方間違ってるから」
「えー、いいじゃーん」(注195)
「よくなーい!」
「じゃあ、とりあえず道頓堀!」
「まあ、無難なとこやな」(注196)
大阪の大動脈とでも言うべき大阪市営地下鉄御堂筋線に乗り込む三人。
ちなみに北へ上がれば江坂、南に下れば難波での降車客が多い(注197)。
どっと降りる大人数と押し合いへし合いしながら(注198)難波で降りる三人。
そこからほんの少し北上すればあっという間に道頓堀である。
注195:ジュンジュンさんは二十歳を超えています。麻薬はNGですが酒とタバコと男は合法です。
注196:決して無難な場所ではないと思います。
注197:作者は決して鉄ヲタではありませんので念のため。
注198:「押し合い」はわかるけど「へし合い」ってなんだろう?
- 119 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/03(月) 20:36
- 「なあ、姉ちゃん。茶ぁ飲めへん?」(注199)
などという古典的なナンパ男を交わしながら道を行く三人。
そうだ。うちらはマジ忙しいのだ(注200)。
今は色気より食い気。
それに食べる方ならいくら食べてもスキャンダルにはなるまい。
そうだ。アイドルにスキャンダルはご法度(注201)。
写真週刊誌のカメラマンが尾行していないか(注202)、慎重に探りながら歩く三人であった。
「で、光井さん。今日はどこ行くの?」
「そうやなー、二人とも普通の店は一通り行ったからなー」
「新しいお店がいいデス!」
「やろな」
「じゃあ、開拓しましょう」
「開拓? そんな日本語も知ってるんや」
「はーい! リンリンは新規開拓が大好きでーす」(注203)
「どこで覚えたんやろ・・・・・」
「ジュンジュンは新装開店が大好きでーす」(注204)
「え?」
「行くぞ!」
「おー!」
注199:嘘みたいな話ですが、今でも大阪ではこんなことを言う人が少なくありません。
注200:仕事が忙しいという意味ではない。
注201:具体例を列挙することは避ける。
注202:ないない。
注203:新規のファン層も開拓してもらいたいものである。
注204:ジュンジュンさんは二十歳を超えているので問題ないと思われます。
- 120 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/03(月) 20:36
- 「新規開拓っていってもなあ。具体的にどうするんよ?」(注205)
辺りには無数の飲食店が立ち並んでいた。
大通りに面したところはもちろん、「ここ通れるの?」と思うような
狭い中通りの両側にもびっしりと飲食店が入りこんでいる。
いざ知らないところに入ろうと思ってもなかなか選ぶのは難しいと思われた。
光井が迷っていると、リンリンが唐突にバッと道の先を指差した。
「じゃあ、ここから三本目の筋を右にまがってー」
「え?」
「その右側にある五番目の店に入りましょう!」
「なるほどー。もう運に任せるわけやな」
「そうそう! 人事を尽くして天命を待つ!」(注206)
「どこで覚えてんそんな言葉」
「つんくさんがよく言ってマス」
さすがの光井も「尽くしてない尽くしてない」とは言い返せなかった(注207)。
注205:ブログをやったりツイッターをやったりしてもダメだと思う。
注206:尽くしてない尽くしてない。
注207:天に唾すれば己に降りかかってくるわけで。
- 121 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/03(月) 20:36
- 右に曲がって五番目の店。
それは藤本の実家を三年ほど雨ざらしにした感じの建物だった(注208)。
押せば倒れそうな木造建築である。光井は澄ました顔で隣の店に入ろうとした。
「ちょっとちょっと光井さん! 五番目の店はこっちデス!」
「いや、それ店ちゃうやろ」
「入ってみないとわかりませーん」
「え? マジで入るの? 絶対に店ちゃうやろ。倒れそうやん」
「これくらいのお店だったらよくあるじゃないですか」
「ないない。こんな潰れかけの店がどこにあるねん」
「中国」(注209)
光井は両手をジュンジュンとリンリンにつかまれ、引きずられるようにして店の中に入った。
入った店(?)の真ん中にはテーブルが一つだけ置いてある。
確かに食べ物屋のように見えなくもないが、メニューらしきものは見当たらなかった。
注208:つまり桃子の実家を二年ほど放置しておいた感じの建物。
注209:この回答には光井も沈黙せざるをえないだろう。
- 122 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/03(月) 20:37
- 「なんやお前ら。何しに来てん」
店の奥から出てきたのはまるで化け物、髪を金髪に染めた厚化粧の老婆だった(注210)。
光井はすぐさま回れ右をして外に出たくなったが、ジュンジュンは動じなかった。
「食べに来ましたー。メニュー見せてくださーい」
「メニュー? そんなもんないわ」
「えー? ここって食べ物屋さんじゃないんですか?」
「不味いもんやったらある」
ジュンジュンは眉をひそめて光井の方へと振り返った。
意味がわからないということらしい。勿論光井にも老婆の言っていることがわからなかった。
だが、ここまできたらもう覚悟を決めるしかない。毒を食らわば皿まで(注211)。
光井は思い切って老婆に尋ねてみた
「えっと、あの。なんでもいいんで、とりあえず何か食べさせてほしいんですけど」
「不味いで。間違いなく不味いで。それでもええんやったらそこ座り」
注210:中澤裕子のことではない。
注211:こういう考えでアイドルヲタを止められない人は多いだろう。
- 123 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/03(月) 20:37
- 三人は催眠術をかけられたかのように席についた。
「なにが食べたいんや」
「あのー、大阪名物的なものがあれば」
「不味いで」
「えー、それって冗談ですよね? なんていうか客引き的な」
「アホか。ホンマ不味いで。中島らも御用達や」(注212)
老婆はそれだけ言うと奥に引っ込んだ。
そして三人がひそひそ話(注213)を始める暇もなく、あっという間に戻ってきた。
テーブルの上に三つの皿と三つのお椀を並べる。
ニヤリと笑って老婆は言った。
「大阪名物がええんやろ? 鯖寿司と粕汁や。味わって食べぇや」
注212:中島らもが認めたということは真の意味で不味いということである。
注213:なぜか「ヒ素ヒ素話」と変換されてしまった。無実だ。
- 124 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/03(月) 20:37
- 箸をつけるまでもなく、濃厚な匂いが漂ってきた。
臭い。かなり臭い。まるでコンサート会場のような臭いだ(注214)。
光井は唇をひん曲げた。
「あー、あたし粕汁はアカンねん。全然食べられへんねん。あげるわジュンジュン」
「カスジル? なんですそれは?」
「酒粕や。お酒を作ったあとの残りカスで作った味噌汁」
「味噌汁なら大好きでーす」
ジュンジュンは光井の分のお椀を引き寄せる。
その一方でリンリンは鯖寿司とずっとにらめっこをしていた。
「光井さん。これはなんですか? お寿司?」
「うん。お寿司の一種。でもなあ。なんかこれごっつ臭うで。腐ってるんとちゃう?」
「光井さん、食べないの?」
「あー、うん。微妙やけど・・・・・まあ、勿体ないし、せっかくやから食べよかな・・・」
「じゃあ、いっせーのーで、食べましょう!」(注215)
光井とリンリンは鯖寿司を持ち、ジュンジュンは粕汁の入ったお椀を持った。
注214:この物語はフィクションです。コンサート会場はライムのような香りがします。
注215:もうこの時点で罰ゲームのようになっているのでは。
- 125 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/03(月) 20:37
- 「せーの!」
その場の勢いというものだろうか。
ジュンジュンは粕汁を一気飲みした。
光井とリンリンは持っていた鯖寿司を一口で食べた。
独特の発酵した臭いが口の中に広がる。三人の胃はその臭いを全力で拒否した。
「げー!!!」
「ぐは!!」
「ぐえっ! ぐえっ!」
TVでは見られないお宝ショットとはこういうのを言うのだろうか(注216)。
三人は涎を垂らし、息を荒げながら老婆に猛抗議した。
「不味いわ!」
「いや、だから最初に不味いって言うてたやん」
「不味いにもほどがあるやろ!」
「こんなの食べられないでーす!!」
「そう? ほな他にもっと別の料理があるけど・・・・そっち食うか?」
「いらない!!」
「いりませーん!!」
「ていうかもう料理はいらんわ! 水持ってきて! 水!」(注217)
注216:違うと思う。
注217:今の三人ならゴマキ水(250mL・500円)とかでも喜んで買いそうである。
- 126 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/03(月) 20:37
- 三人の猛抗議にも、老婆はさして気を悪くする様子はなかった。
ただ黙って金色のヤカンを持ってくると、三人の前にグラスを三つおいて水を注いだ。
ジュンジュンがそれをみて低い声で吠える。
「これ、カスジルとかじゃないでしょうネ!」
「何言うねん。どう見てもただの水やろ」
「ホントに、ホントに、ただの水?」
「アンタも疑り深い子やなあ。透明やんか。なんもしてない、ただの水や」
三人はグラスの水を一気飲みする。
老婆はそれを見て、ニヤニヤと笑いながらつぶやいた。
「ホンマに、ただの大阪の水道水やがな」
三人は、飲んだ水を噴水のごとく盛大に吐き出した。
- 127 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/03(月) 20:37
-
━━━━━━━━━━
□ STOP
━━━━━━━━━━
- 128 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/06(木) 22:28
- ★
- 129 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/06(木) 22:29
- 10.Robbing you forever
- 130 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/06(木) 22:29
-
━━━━━━━━━━
l> PLAY
━━━━━━━━━━
- 131 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/06(木) 22:29
- 「田中さん、いらないならシャケちょうだい」
「ちょっとジュンジュン! 箸をつけるなあ!」
「いいじゃーん。どうせそれ、残すんでしょ?」
「ちがーう。最後の楽しみに取ってるの!」
「田中さん、楽しみは最後に残すタイプ?」
「うん。れいなは楽しみを最後に残すタイプなんよ」(注218)
「じゃあ、そのピンクの漬物が一番好きなの?」
「これは嫌い」
「いつも最後に残してるじゃーん!」
「嫌いなものは最後に残すタイプなの!」(注219)
注218:こうやって他人の言ったことを繰り返す人は、フリートーク特性が低い傾向が強い。
注219:これくらいでイラっとしていては田中さんの友達役は務まらないだろう。
- 132 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/06(木) 22:29
- 「田中さん」
「・・・・・・・・・」
「田中さん」
「・・・・・・・・・」
「田中さん」
「・・・・・・・・・」
「シャケ食べたこと、まだ怒ってるの?」
「怒っとらん」
「じゃあ、どうして涙目?」
「泣いとらん!」
- 133 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/06(木) 22:29
- 「田中さん、何聴いてるの?」
「おんがく」
「いや、だから何の音楽を聴いてるの?」
「シャケを食べたことはもう怒っとらんよ」
「いや、だから何の音楽を」(注220)
「れいなはね、幅広い音楽を聴いてるんよ」
「幅広い? どんな感じのを聴くの?」
「安室奈美恵サンザゥ"ィ-ナス上戸彩サン上原あずみサン宇多田ヒカルサンダ-マウス荻野目洋子サン加藤ミリヤ×清水翔太サン工藤静香サン黒木メイササン小泉今日子サン後藤真希サン清水翔太×加藤ミリヤサンタンポポ田中れいな超新星東方神起中山美穂サン西野カナサン浜崎あゆみサン飛輪海ポルノグラフィティー松浦亜弥サンゆずBIG BANGBoAサンB'zcascadeDA PUMPEXILEGIRL NEXT DOORGReeeeNG-DragonHysteric BlueジュジュサンPenicillinSadsSiam ShadeSoulJaサンss510Super juniorSweetSTWO-MIXT.M.Revolutionレイニ-ヤン遊助サンとか聴いとう」(注221)
「ふーん。いつもウォークマンで聴くの? ちょっと見せてくだサイ」
「うん! これこれ。れいなねー、これでいつも聴いとー」
注220:これくらいでイラっとしていては田中さんの友達役は務まらないだろう。
注221:田中さんのうざったさを句読点なしおよび改行なしで表現してみた。
- 134 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/06(木) 22:30
- 「田中さん」
「・・・・・・・・・」
「田中さん」
「・・・・・・・・・」
「田中さん」
「・・・・・・・・・」
「ウォークマンは来週に修理して返しますカラ」
「・・・・・・・・・」
「怒ってます?」
「怒っとらん」
- 135 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/06(木) 22:30
- 「話は変わりますけど、田中さんの私服って可愛いですね」
「ていうかー、ジュンジュンの私服の方が普通にダサくない?」(注222)
「あー、ひどーい」
「にひひひひひ」
「田中さん、いつもどんな服着てるの?」
「いや、だからこんな服」
「もっとよく見せてくださーい」
「その前にジュンジュン」
「はい?」
「その手に持ってるフランクフルトを食べてからにせん?」(注223)
注222:これに関しては田中さんの方に一理あると思われる。
注223:ケチャップとマスタードがたっぷりとついていると思われる。
- 136 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/06(木) 22:30
- 「田中さん」
「・・・・・・・・・」
「田中さん」
「・・・・・・・・・」
「田中さん」
「・・・・・・・・・」
「洋服は来週クリーニングして返しますカラ」
「・・・・・・・・・」
「怒ってます?」
「怒っとらん」
- 137 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/06(木) 22:30
- 「田中さん」
「なんね。もうジュンジュンには何も貸さん。何も見せん」
「意地悪」
「れいな意地悪じゃなか。ジュンジュンが悪か」
「ねえ田中さん」
「なんね」
「亀井さんと道重さん、どっちが好き?」
「はあ!?」
「『どっちも好き』はダメですよ」
「なんそれ! 答えられるわけないじゃん!!」(注224)
注224:多分どっちもそんなに好きじゃないと思う。
- 138 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/06(木) 22:30
- 「教えてください。田中さんが一番好きな人」
「なんで」
「いいじゃないですか」
「言わない」
「どうして?」
「言ったら絶対ジュンジュンに取られるもん」
「まっさかー」
「じゃあシャケ返してよ。ウォークマンと洋服と財布返してよ」(注225)
「嫌でーす。もらったものは返しませーん」
「ちょっと!!!」
注225:いつの間にか財布も取られていたらしい。
- 139 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/06(木) 22:30
- 「わかってたもん。ジュンジュンはそういう子。返さない子」
「田中さん、よくわかってますね。本当によくわかっています」
「なにが」
「あたしは、田中さんが好きなものが好き」
「なんね、それ」
「田中さんが好きなものが欲しい。全部欲しい。独り占めしたいの」
「アホか」
「だからこれもちょうだい」
「これって?・・・・・・ちょ・・・・・・・ちょ!!」
「田中さんは道重さんでも亀井さんでもなく、自分が一番好き。違いますか?」
- 140 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/06(木) 22:31
- 「田中さん」
「・・・・・・・・・」
「田中さん」
「・・・・・・・・・」
「田中さん」
「・・・・・・・・・」
「田中さんが好きじゃないなら返しますけど」
「・・・・・・・・・」
「怒ってます?」
「怒っとらん」
- 141 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/06(木) 22:31
-
━━━━━━━━━━
□ STOP
━━━━━━━━━━
- 142 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/10(月) 20:54
- ★
- 143 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/10(月) 20:55
- 11.しょうがない 白昼夢追い人
- 144 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/10(月) 20:55
-
━━━━━━━━━━
l> PLAY
━━━━━━━━━━
- 145 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/10(月) 20:55
- 2010年の春ツアーも無事終了した(注226)、とある日の午後。
モーニング娘。の面々は既に次の仕事に向けてテンションを高めつつあった。
主な仕事は、6月に発売予定のシングル「青春コレクション」(注227)のプロモーション活動である。
国民的アイドルの活動は忙しい。忙しいといっても嘘にはならない(注228)。
ミュージックステーションにHEY!HEY!HEY!にうたばんにCDTVに出演しなければならないのだ(注229)。
神戸国際会館の三階席のようにぎっしりと詰まったスケジュールをこなしていくメンバー達。
疲れはピークに達しようとしていた。控室にも気だるい雰囲気が満ちる。
「うわー、だるー」
「次の予定なに?」
「まだ二時間くらいあるよ」
「なんでそんなに空くんですか?」
「テレビってそういうもんじゃん」
注226:三階席から落ちた人間も、脱糞した人間もいなかったようである。
注227:Berryz工房のシングルの曲名ではない。
注228:「忙しい」という言葉の定義によるだろう。
注229:おそらくどの番組にも出演できないことが予想されるが。
- 146 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/10(月) 20:55
- 暇を持て余した面々はそれぞれ思い思いの方法で時間を潰す。
携帯でブログを書く道重。
柔軟体操をする光井。
ブログ用の画像を撮るリンリン。
母親に電話している新垣。
リンリンがブログを更新する様子をじっと見ているジュンジュン。
じっと手鏡に映る自分の顔を見ている田中。
イヤホンを耳に突っ込んで音楽を聴いている高橋。
そして亀井はふらふらと夢遊病者のように部屋から出ていった。(注230)
「あれ? 亀井さーん。どこ行くんですかー」
光井の問い掛けにも何も答えない亀井。
その姿を追って光井も部屋の外に飛び出した。
注230:ちなみにこの一連の並びは、作者が「頼り甲斐のある人物」と思っている順である。
- 147 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/10(月) 20:55
- 「ねえ、亀井さん」
「うふふふふん」
「え? あのお」
「やだあ。もう」
亀井はステージ上にいるときと全く変わらないような笑顔を見せていた。
誰のために何のために笑顔を見せているのか光井には全く理解できない。
そもそも光井にとって亀井とは、よく理解できない部分が多い人間であった。
道重や田中の考えていることならなんとなくわかる。
二人はブログもやっているし、そういうのを見れば生活の一端もわかる。
だが亀井はブログをやっていない(注231)。
光井にとって亀井は、相変わらず謎の多い女であった(注232)。
注231:別に光井は事務所を批判しているわけではない。亀井の無能を非難しているわけでもないので念のため。
注232:謎が多いというより欠点が多いのでは。
- 148 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/10(月) 20:56
- 「時間が過ぎたこと」
「は?」
「あなたわかってるーのー」
「ああ、はいはい」
亀井は鼻歌を歌いながら廊下をふらふらと歩いていく。
というか鼻歌というよりは完全に普通に歌っていた。
廊下を行き交うTV局の社員たちが、胡散臭そうな目で亀井と光井を見る。
幸か不幸か光井と亀井は歌衣装のままだった。
光井はあたかも何かの番組の収録中なんですよー、といった顔で(注233)その場を誤魔化した。
「ちょ、ちょ、ちょ、亀井さん」
「はひ?」
「なにやってんですか」
「歌のれんしゅう」(注234)
注233:どんな顔だよ。
注234:新曲の練習しろよ。
- 149 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/10(月) 20:56
- 光井は一つのことを思い出した。
そういえば以前、同じ曲を歌うことになったとき(注235)、亀井と一緒に練習したことがあった。
亀井は歌を歌うときに極端に歌世界にのめり込むタイプだった。
それはもう、危ないくらいに(注236)。
「でもなんで、『夢追い人』なんですか?」
「えー、わかんなーい」
「好きだからとか?」
「うん。絵里もね、夢を追ってる人が好きなの」
「へえ」
亀井に恋人がいるという噂は光井も聞いたことがある。
さすがに先輩に向かって「恋人いるんですか?」とは訊けなかったのだが、
もしかしたら今がそのチャンスなのかもしれない。
さり気なく、遠まわしに聞けば、亀井も答えてくれるかもしれない。
光井はピタリと亀井に寄り添った。
注235:「春 ビューティフル エブリデイ」のことと思われる。
注236:「UFO」を歌っていたときは宇宙人と付き合っていたという噂も。
- 150 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/10(月) 20:56
- 「亀井さん、『夢追い人』歌うときってどんな人を想像してるんですか?」
「え? だから夢を追ってる格好良い人」
「いや、もう少し具体的に」
「まるで少年みたいにキラキラしてる人」
「は?」
「したいことばかりしてる人なの」(注237)
おいおい歌詞そのまんまやんけ。光井は思わず突っ込みそうになった。
そんな会話をしながらも、亀井は鼻で歌いながら軽くステップを踏む。
廊下に置いてあったごみ箱に膝をぶつける。ゴミ箱が倒れる。
だが亀井は全く意に介さずに踊りながら廊下をずんずんと進んでいった。
「ちょっと! 待ってくださいよ!」
光井は先輩の散らかしたゴミを片付ける(注238)。
素早くゴミ箱を元に戻すと亀井を追う。
注237:寺田氏もそこに含まれるのだろうか。
注238:別に何かの隠喩になっているわけではありません。
- 151 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/10(月) 20:56
- 知りたい。亀井の恋愛事情を知りたい。
恋人そのもののことを知ることは無理だろうが、どんな恋愛をしてるかくらいは知りたい。
光井は大阪のおばちゃん並のバイタリティを発揮して亀井に迫った(注239)。
「亀井さんも恋人を想定して歌うわけでしょ?」
「うん? もちろん。世界一格好良い人」
「だからどんな恋人を想定して・・・・」
「あなたわかるでしょ現実、という大きな壁があるこ、とー」(注240)
「は?」
「気付かないフリしてる、だけでーしょ」
再び亀井は歌世界の中に入り込んでしまった。
目が完全に飛んでいる。
会話するときの目ではない。コンサートで歌っている時の目だ。
知らない人とがっつんがっつんぶつかりまくっている。
危ない危ない(注241)。
光井は慌てて亀井を抱きかかえた。
注239:本物の大阪のおばちゃんなら「彼氏おるん? もう深い仲なん?」くらいは訊く。
注240:亀井絵里本人が「現実という大きな壁」があることをわかっているかは甚だ疑問である。
注241:いろんな意味で危ない。
- 152 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/10(月) 20:57
- 「ねえ、亀井さん」
「んー」
「もし事務所がー、その恋人と別れろっていったらどうします?」
「なんどもあきらめた」
「え?」
「あなたとすすむのーをー」
どういう意味だろうか?(注242)
ただの歌詞かもしれないが、光井には何か意味深な言葉のように思えてならなかった。
光井はもう一度角度を変えて質問した。
「もし別れないなら、娘。を辞めさせるって言われたらどうします?」
「あー、どうしても、踏ん切りつかないー」(注243)
「迷うんかい・・・・・・」
今度は光井も突っ込まずにはいられなかった。
それでも亀井は相変わらず歌世界の中にどっぷりだ。
言っていることが本当なのか妄想なのか、光井にはまだ判断がつかなかった。
注242:過去に何度も別れさせられたということだろう。
注243:そういう意味では藤本美貴などは「しょうがない夢追い人実践タレント」と言えるだろう。
- 153 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/10(月) 20:57
- ともかく、歌世界とリンクしているかどうかはともかく、
過去に亀井に恋人がいたことはまず間違いないだろう。
亀井がどんな恋愛をしているか知りたいという思いは、光井の中でますます高まっていく。
「逆に向こうの方が浮気とかしてたらどうします? 泣きます? 怒ります?」
「何もー、知らない」
「(知らない? 浮気のことを?)」
「あなたの、寝顔をぉ」
「(知らない振りするってことかな?)」
「にアイロン」
「危ない危ない!!」
そんなとりとめのないやり取りをしているうちに二人は控室に戻ってきた。
部屋の中では相変わらずメンバー達がぐだぐだと時間を潰している。
さっきまで光井がしていたのと同じ柔軟体操をしているのは高橋だ。
後ろから新垣が、抱きつくような姿勢で背中を押している。
亀井は二人の後ろにするすると近づいた。
- 154 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/10(月) 20:57
- 「あー、また二人でいちゃいちゃしてるー」
「ちょっとカメ! 何言いだすのよ!」
「ガキさんが愛ちゃんを誘ってるー」
「誘ってない誘ってない。バカ言わないの」
高橋も顔を赤くして否定する。
「いちゃついてないってば。勘違いしないの」
亀井は高橋の横にしゃがみこむと、高橋の耳をぎゅっとつまんだ。
「もーう! 愛ちゃんてば、いつもしたいことばかりしてるんだからー」
その時、光井の目には見えたような気がした。
亀井がつまんだ高橋の耳に―――
赤く腫れた火傷の跡のようなものがあることが―――
- 155 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/10(月) 20:57
-
━━━━━━━━━━
□ STOP
━━━━━━━━━━
- 156 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/13(木) 21:40
- ★
- 157 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/13(木) 21:40
- 12.雨の降らない星では喉が渇くだろう?
- 158 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/13(木) 21:41
-
━━━━━━━━━━
l> PLAY
━━━━━━━━━━
- 159 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/13(木) 21:41
- 今のモーニング娘。がアットホームな雰囲気である、というのは嘘ではない(注244)。
全員が全員と仲が良い、というのもまあ、全くの嘘というわけではない(注245)。
それでも「二人きりになるとなかなか喋りにくいメンバー」というものはいる。
道重さゆみにとってはリンリンがまさにそんな存在であった(注246)。
そんなリンリンと街中でばったりと出会ってしまう。
おお、なんと間の悪いことだろうか(注247)。
無視することもできない(注248)。
道重さゆみは会心の笑顔を向けてリンリンに手を振る。
リンリンも太陽のように朗らかな笑いを道重に向ける。
作り笑顔の自然さなら誰にも負けない自信のある道重だったが、リンリンには勝てないかもしれない。
いまだに道重は、リンリンの笑顔が本物かどうか見分けがつかなかった。
注244:今のメンバーは加護ほど嘘が上手くはないだろう。
注245:険悪な雰囲気になるほど突っ込んだ会話が行われているとはとても思えない。
注246:加えて言うなら、新垣・紺野・小川・田中・藤本・小春・光井・ジュンジュンとも微妙だった。
注247:私のPCだと「真野悪い」と変換されてしまうのはなぜだろう。
注248:田中れいななら無視するかもしれない。走って逃げるかもしれない。
- 160 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/13(木) 21:42
- 「おー、偶然ですねー、道重さん」
「リンリンじゃーん」
「ダイエット中ですか?」(注249)
「いや、ただの散歩だから」
道重はこの付近に来たのは初めてのことだった。
仕事帰りに一駅分ほど歩こうとしたのだが、なんとも寂れた商店街だった。
リンリンは小ざっぱりとした服装で、右手にはコンビニ袋をぶらさげている。
「リンリンはこんなとこで何してるの?」
「買い物でーす。漫画買いました!」
袋の中には少年誌らしい漫画雑誌が入っていた。
そういえばリンリンは海賊漫画(注250)が好きだとかMCで言ってた。
それにしてもわざわざこんなところまで雑誌を買いにきたのだろうか?
注249:サンドウィッチマンのネタとして有名。
注250:著作権を無視した非合法的模造品のことではない。
- 161 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/13(木) 21:42
- 「わたしの家、この近くなんですよ」
「え? ホントに?」
「はい。最近こっちに引っ越しました」
「へえええええ」
道重は周囲を見回した。
昔ながらの木造住宅がひしめき合っているような古い住宅街だ。
確かリンリンの実家はものすごいお金持ちだったはず(注251)。
こんなところに住んでいるとは意外だった。
「立ち話もなんですから・・・・・・」
リンリンがそこまで言ったところで、空から雨粒が降ってきた。
夏を先取りしたかのような夕立は、瞬く間に激しさを増していく。
「道重さん、こっちこっち!」
濡れたくない。その一心だった。
リンリンの後を追って、道重は駆け出した。
注251:この物語はフィクションです。本当かどうかは保証の限りではありません。
- 162 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/13(木) 21:42
- 誘われるがままにたどり着いたリンリンの家は、古いマンションだった。
さすがに木造ではないようだが、オートロックなどの設備もない。
管理人が常駐してるかどうかすら怪しいように見えた。
とてもうら若き女性アイドルが住むようなマンションではない。
「あらら。雨は止んだみたいですね」
二人が部屋に上がり、リンリンが窓を開け放したところ、既に雨雲は去っていた。
西の果てに沈もうとする太陽の明かりが、眩しいくらいに部屋に差し込んでくる。
リンリンはくすんだ薄紫色のカーテンをすっと引いた。
「道重さん、何か飲みます?」
「え? なんでもいいよ。お茶でいい」
「はい。わかりました。お茶お茶お茶〜っと」
- 163 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/13(木) 21:42
- リンリンの部屋はいたって普通の部屋だった。
毛沢東の肖像画もないし、胡錦濤の写真もなかった(注252)。
道重の部屋と何ら変わらないような、可愛らしい女の子の部屋という感じだった(注253)。
ただ机の上には、モーニング娘。が九人揃った写真が置かれていた。
まだ小春がいた頃の写真だ。
つい最近のことなのに、道重にはその写真が遥か昔のもののように思われてならなかった。
複雑な感情に駆られた道重は、ちょっぴり意地悪な口調で言った。
「リンリンってこの頃の娘。が一番好きなんだ」
「えー、まあ、そうですね。久住さんがいた方が楽しい」
お盆に二つのグラスを乗せて戻ってきたリンリンは無邪気にそう言った。
そうやってあっさりと「今より昔が楽しかった」と言えるリンリンが少し羨ましかった。
注252:そういう写真がある方が普通じゃないと思われる。
注253:道重の部屋にも麻生太郎や鳩山由紀夫の肖像画は置いてないだろう。
- 164 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/13(木) 21:42
- 「残酷なことをさらっと言うなあ」
「え? なにがですか?」
リンリンは道重の前に座ると、お茶の入ったグラスを置いた。
道重はそれをごくごくと飲み干す。暑いわけでもないのに、妙に喉がカラカラだった。
「そっか。リンリンって吉澤さんとかともかぶってないんだ」
「はい。藤本さんともね」
「その上の先輩とかとなると」
「ほとんど話したこともないですね」
そうか。リンリンは娘。がもっと賑やかだった頃を知らないのか。
それが不幸なことなのか、それとも幸せなことなのか、道重にはよくわからなかった。
何とも言えない気持ちになった道重をよそに、リンリンはさらに無邪気な声で言った。
「昔のモーニング娘。は楽しかったですか?」
- 165 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/13(木) 21:43
- 「うん、まあ、楽しかったよ。今よりもっと大変だったけど」
「大変? なにが?」
「それは・・・・その・・・・・」
道重は言葉に詰まる。
なぜだかその「大変だった理由」を語ることは、今の自分を否定するように思われた。
今のモーニング娘。は大変ではないのだろうか? それは良いことなのだろうか?
「タバコ吸ったメンバーとかがいたから?」(注254)
「違う違う! そうじゃないって!」
「あー、盗作騒動とかあったから?」(注255)
「それも違う!」
「男と相合傘とか」
「それはキュートの子」(注256)
「そうか。相合傘じゃなくて岩盤浴」(注257)
「だから! そういうことじゃないの!」
注254:それは卒業した後だったから娘。とはさほど関係ないと思われる。
注255:それも卒業した後だったからさほど関係ないだろう。
注256:なぜお前が知っている。
注257:こういうネタの時にも「シンガーソングライター」が出てこなくなったことに時代を感じる。
- 166 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/13(木) 21:43
- 「リンリンねー、実はすっごいお金持ちです」
「いきなり何を言いだすの?」
「だから家賃が百万とかいうマンションにだって住もうと思えば住めます」
「・・・・・・お金が大事だから? 無駄遣いしないってこと?」
「その通りです」
リンリンはあっさりとした口調でそう言うと、美味しそうにお茶を飲んだ。
そして空になった道重のグラスに、ポットからお茶を注ぐ。
道重は再びグラスに口をつける。リンリンの口調と同じようなあっさりとした味だった。
リンリンは再び道重に尋ねる。あっさりとした口調で。
「道重さんはいつのモーニング娘。が一番好きなんですか?」
「え?」
「今じゃなくてもいいじゃないですか」
「そんな後ろ向きな」
「好き嫌いに前向きも後ろ向きもないですよ」
- 167 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/13(木) 21:43
- 「でもさあ『2006年のモーニング娘。が一番好き』とか言ったらリンリンは悲しくない?」
「悲しいねー」
「ちょっと!」
「悲しいけど、嘘で『今が一番好き』とか言われるよりはいいですね」
「嘘じゃないって」
「まあ、嘘だとは思わないですけど」
「ちょっと! からかってるの?」
「また降ってきたみたいですね」
開け放った窓からひんやりとした空気が流れ込んでくる。
陽はすっかり沈んでいた。暗い闇の向こうからパラパラという雨音だけが聞こえてくる。
道重は再びグラスに入っていたお茶を飲み干した。
少しの間を空けて、リンリンがそのグラスにお茶を注ぎ足す。
「わたしは道重さんほどモーニング娘。のことはよく知らないですけど」
「いや、メチャクチャ知ってると思うよ」(注258)
「別に今より楽しい時代があったとしても、いいじゃないですか」
「でもあたしらはファンじゃなくて当事者なんだから」
「当事者だからですよ。当事者なんだから客観的になることはないです」
「じゃあリンリンは今の娘。が楽しくないって言うの?」
さすがに道重は、リンリンの言っていることを素直に受け入れることはできなかった。
注258:きっと「飯田圭織負のオーラ」や「りかみき不仲暴露MC」なども知っているのだろう。
- 168 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/13(木) 21:43
- 「いいえ。今のモーニング娘。すっごい楽しいです」
「ごめん。リンリンの言ってること全然わかんない。矛盾してるじゃん」
「大金を出して良い部屋に住んだって、その価値を理解できなければ意味ないです」
「それはわかるけど」
「喉が渇いていれば、この一杯のお茶だって千金の価値があります」
「うん」
「わたしの言う『楽しい』とはそういうことです」
道重はすくっと立ち上がった。
そこに笑顔はなく、その表情はかなり険しい。
だが怒っているわけではなかった。それはリンリンも理解していた。
「お茶ありがと。あたしもう帰るね」
「道重さん」
「はい」
「ありがとうございます。お話できてとても楽しかったです」
「あたしも楽しかったよ。嘘じゃないから」
傘を持っていきますか?
というリンリンの申し出を丁寧に断り、道重はリンリンの家を後にした。
駅に向かい歩き出す道重の背中を追いかけるように再び雨が降り出そうとしていた。
- 169 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/13(木) 21:44
-
━━━━━━━━━━
□ STOP
━━━━━━━━━━
- 170 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/13(木) 21:44
- ★
- 171 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/13(木) 21:44
- special thanks to
奇跡の詩吟
- 172 名前:誉ヲタ ◆buK1GCRkrc 投稿日:2010/05/13(木) 21:44
- このスレはこれにてお終いです。
ご愛読ありがとうございました。
- 173 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/05/14(金) 05:32
- 面白かったです
毎回更新が来るのをワクワクしながら待ってました
ログ一覧へ
Converted by dat2html.pl v0.2