冬短編
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/22(火) 23:07
- 色んな世代を出したいです。
とりあえずもうすぐクリスマスなんだから、
わけもなくうきうきしてもいいと思う。
- 2 名前:1 室内だけど井戸端会議 投稿日:2009/12/22(火) 23:07
- 外が寒いと、家に入った時の幸福感は倍。
逆に、外に出る時の絶望感も倍。
どちらも忘れることは出来ないわけで、それはほぼ大体の事象に当てはまるとも思う。
表裏一体、ってやつだろうか。
- 3 名前:1 室内だけど井戸端会議 投稿日:2009/12/22(火) 23:08
-
『Buono! X’mas Spesial Live!!!』
ピンクのポスターカラーをきゅきゅきゅと鳴らす音が、雅はどうにも気になって仕方がない。
無心。
気にしない。気にしない。
とにかくメロディーを考えなきゃ。
あー。
きゅきゅ。
きゅ、きゅきゅー。
頭の中で何度かなぞってみる。
指でギターをいじっている。
かたかたかた。
かっぽん。
最近思い浮かぶメロディーがどれもどこかで聞いたことがあるような気がして納得いかないのだ。
- 4 名前:1 室内だけど井戸端会議 投稿日:2009/12/22(火) 23:08
-
もっと、こう。
きゅきゅきゅ。
独創的かつ最先端な。
きゅきゅ。
きゅ、きゅきゅー。
キャッチーかつ斬新な。
きゅきゅきゅきゅ。
- 5 名前:1 室内だけど井戸端会議 投稿日:2009/12/22(火) 23:08
- 「あああああ桃!うるさい!」
「なぁにぃー。いきなりおっきな声出さないで」
黒目がちの目をまん丸にして、桃子は肩をすくめている。
いかにもぶりっこな仕草だが、今は突っ込むべきはそこではない。
「ポスター書くの後にしてくんない?マジックの音うるさい!
てゆーか、歌う歌なきゃライブの宣伝意味ないでしょうが!
その目ー痛いポスターの前にまず曲作ってくんない!?」
「違うよ!お客さんがいなきゃライブが成立しないでしょ?
桃のモチベーションの問題もあるの!これは大事だよ!」
顔をずい、と寄せた桃子に体をのけ反らせ、見下ろしながら睨みつける雅。
「だ、か、ら。その客いっぱいモチベーション最高潮のところで
歌う曲がゼロだったらどうなるんだよって言ってんの!」
「桃のトークショー&握手会?絶対お客さんいっぱい来るよっ」
桃子は両頬に人差し指を当てて首をかしげる。
「じゃあもうお前クビ!アキバでやってろ!!!」
「MBC48にスカウト…やー嘘だよぉ!ごめんなさいー!助けて愛理!」
- 6 名前:1 室内だけど井戸端会議 投稿日:2009/12/22(火) 23:09
- 襟首を掴まれてドアまで引きずられていく小柄の桃子が、雅とは違うもう一つの姿に助けを求めた。
喧騒も気にも留めず、ただひたすらパソコンを見つめては
何かをノートに書き連ねていた愛理はやっと顔を上げた。
「愛理、あんたからもこいつに言ってやってよ、現実を見ろと」
「んー。そうだねぇ、確かに桃は現実的ではないね」
「でしょ?とにかく曲を…」
「でもみやのほうがうるさいかな」
愛理は有無を言わせない独特ののぺっとした笑顔で笑った。
一気に空気が落ち着いていく。
「あのね」
「うん」
「はい」
元の位置に戻り、雅と桃子は愛理の話に全身を傾ける。
- 7 名前:1 室内だけど井戸端会議 投稿日:2009/12/22(火) 23:09
- 「んとね、わたしは、全部オリジナルってのはやっぱり無理があると思うんだよね。
ある程度はカバーでやるしかないって思うんだ。
だから、うちらでも歌えそうで短期間でコピー出来そうな
易しめの曲をいくつかリストアップしておいたんだけど。
曲は大体iPodに入れておいたよー。今見つけたやつもいくつかダウンロードしてみた」
と言って、愛理はノートを見せて得意げな顔をした。
「さ…」
「さ」
「「さっすが愛理!」」
桃子は愛理に抱きつき、雅は見上げるように拍手を送った。
「頼りになる!」
「頭いい!」
「愛理愛してる!」
「あいりん天才!」
ボキャブラリーの少ない褒め言葉にも、愛理は
「んふー」
と鼻から抜ける笑い声を出した。
- 8 名前:1 室内だけど井戸端会議 投稿日:2009/12/22(火) 23:09
-
「でも一つくらいはオリジナル曲作りたいよねー」
「ねー」
「うん」
「どんな?」
「やっぱ歌詞にはボーノ!って入れたいかなぁー」
「えー…意味はおいしい、でしょ?どのタイミングで?」
「普通にケーキ食べたらボーノだもん、大好きなあなたとデートでケーキ食べてボーノ!みたいな」
「彼氏と一緒でケーキメインかよ」
「大好きな人と一緒にいるといつもよりおいしいってこと!みーやんわかってないなぁー」
「うん、わかりたくもない」
「まあ、ボーノの意味がどれだけ浸透してるかって言う問題もあるよね」
「んー、それはさぁ、最初のあいさつで説明しようよ」
「でも最初には自分らで作った曲歌いたい」
「いや、最初はみんな知ってる歌の方が良くない?」
「んー…てかもうオリジナルって言ってもメロディーがさぁ全然決まらないんだよね」
「みやはさぁ、変わったメロディーがいいって言うけど、
いざ考えたらちぐはぐになっちゃうと思うんだよね。
そこを味に変えるほどスキルやキャリアがあるわけでもないし。
やっぱりよくある感じのメロディーでも仕方ないと思うんだ。まずは曲を作ることだよ」
- 9 名前:1 室内だけど井戸端会議 投稿日:2009/12/22(火) 23:10
- 「うーん…」
「んー…」
「っていうか、歌詞も考えてないもんね。メロディーが出来ないことにはだけど」
「歌詞から作るパターンってのもあるけど」
「どっちがいいんだろう?」
「作る人によって違うと思うよ」
「んー…みーやんは歌詞があった方がいいと思う?」
「…わかんない…」
「あとその前にカバーする曲も決めないとね」
「んー…」
「そうだ」
「てかさぁ、その前にボーカル決めない?」
「…」
「…」
- 10 名前:1 室内だけど井戸端会議 投稿日:2009/12/22(火) 23:10
- 「……それはさぁ、…あたしじゃない?このバンド立ち上げたのも一応あたしだし」
「みーやんドラム上手いじゃん、桃がやる!桃リーダーだし!」
「リーダーとボーカルは関係ないよ。むしろバンドはリーダーがボーカルのパターンは少ないと思う。
あと桃はさ、ちょっと声が独特だからオールマイティーなみやかわたしがいいと思うよ。
で、わたしドラム下手だし…ベースかギターなら弾きながら歌えるかなって。
実はちょっと練習もしてるし」
「ずるいー」
「だって二人とも忙しそうだったし」
「でもぉ、ドラムセットこの家にしか置けないじゃん、
曲簡単ならいっぱい練習すればあいりんすぐ出来るようになるよぉ」
「桃はこっから家近いじゃん」
「みーやんだってそんなに変わらないでしょー」
「5分あれば高級なカップ麺が出来上がるよ。5分なめるな」
「もうさ、三人ともボーカルで良くない?」
「あ、ツインボーカルっ?」
「それじゃ二人だよ……スリーボーカル?」
「トリオボーカルかな」
- 11 名前:1 室内だけど井戸端会議 投稿日:2009/12/22(火) 23:10
- 「……」
「……」
「……」
「どうでもいいね………」
長く実のない話の後に、重い沈黙が走る。
何故か一番虚しくなる瞬間である。
時間は刻まれている。
時間はないというのに、何故こんなに何も決まらないのか。
- 12 名前:1 室内だけど井戸端会議 投稿日:2009/12/22(火) 23:10
- 決まっているといえば、友人のコネで押さえてもらった古くて狭いライブ会場だけだ。
もちろんそれはそれでとてもいいことなのだが、
今は、プレゼントを入れる箱だけ持っていて、
何をプレゼントするか決まっていないような気持ちだった。
「あーん、なんっにも決まってないじゃーん!どーすんの?桃チラシいっぱい作っちゃったよ!」
きん、と桃子の高い声。
そのまま羽毛布団が丁寧に敷いてある愛理のベッドに倒れ込んだ。
ごろごろと転がっていると羽毛布団の気持ち良さに一瞬はっとした。
「てか思ったんだけど、ポスターって一枚書いてコピーでよくない?」
「それじゃ桃の愛情が伝わらないでしょお」
「愛を今は他の方向に回してほしいかな」
「はぁい」
- 13 名前:1 室内だけど井戸端会議 投稿日:2009/12/22(火) 23:11
- ふー。
溜息がどこからともなく、誰からともなく広い部屋を重くする。
パソコンから流れる候補楽曲も頭に入らない。
聞いたことあるメロディを鼻歌が追うだけで時間は過ぎる。
気がつけばすっかり日は落ちていた。
時間としてはまだ早い。
でも夜が来るともう一日が終わる気がして、焦る。
冬の一日が早く思えるのはたぶんこのせいだ。
本番のイブは近いのに。
新米ガールズバンドの前途は恐ろしく多難である。
「とりあえず今確実なのはクリスマスにデートもしない17歳3人ってことだよね…」
雅の呟き。
最近振られてバンドを発起した彼女の自虐も含まれていた。
- 14 名前:1 室内だけど井戸端会議 投稿日:2009/12/22(火) 23:11
- 「寂しきみーやんよ、その気持ちを歌詞にぶつけてみようか!」
「うっさい。桃も同じでしょ」
「桃はみんなの桃なの」
「うんそっか。…でも、歌詞とかメロディーちゃんと各自書いてこようか」
「あ、いいね、じゃあ期限は明日で」
「明日!?無理だよー!あいりん鬼!」
「明日までに書いてこれなかったら本番マイクなしってことで」
「いや、一番いいの作ってきた人がボーカルってことで」
「さっきボーカルは三人って決めたじゃーん!」
「これから競争厳しい世界に出るんだよ、蹴落とし合いだよ」
「やだぁー桃そんなこと出来ないー」
「桃がめっちゃ張り切ってくるに一票」
「あー、わたしもー」
「それじゃ賭けにならないじゃん」
- 15 名前:1 室内だけど井戸端会議 投稿日:2009/12/22(火) 23:11
- 取り留めない話。
まとまりないうちら。
愛理の広い部屋。
桃子の高い声。
到底友達にもならなそうなバラバラの性格の三人。
価値観も違う。
好みも違う。
正直桃子と愛理の服のセンスは信じられない。
でもふとした瞬間に今が心地良くて、雅は好きだった。
桃の歌が好き。
愛理の歌が好き。
三人で歌った時の響きが好き。
- 16 名前:1 室内だけど井戸端会議 投稿日:2009/12/22(火) 23:11
- 「がんばろう」
「ん?」
「絶対悔いのないように成功させようね」
決意に満ちた雅の目を見て、桃子と愛理は笑う。
「うんっ」
「うん!」
そこで愛理が意味なくべべん、とベースを弾くと、ふいに顔を上げる。
- 17 名前:1 室内だけど井戸端会議 投稿日:2009/12/22(火) 23:12
-
「あ、うちらがフリーだということ以外にもう一つ確実なことがあるよ」
「何?」
このバンドがあること。
とか。
うちらが出会えたこと。
とか。
派手な見かけによらずロマンチストな雅は一瞬の間で色々なことを思い浮かべる。
そんな雅を見つめ、愛理はのぺっと笑った。
そしていまだ羽毛の心地よさに魅了されている桃子を振り返った。
- 18 名前:1 室内だけど井戸端会議 投稿日:2009/12/22(火) 23:12
- 「桃ー」
「んー?桃かわいい?」
「スペシャルのスペル間違ってるよ、今まで書いたやつ全部」
「……」
桃子はゆっくりと数十枚のピンクに彩られた紙の束を見て、
ゆっくりと机の上の書きかけポスターを見た。
「ま、気にしない気にしないっ」
「直せ全部直せ5分で直せ」
「明日までに直せなかったら桃はマイクなしだねぇ」
「決定だね」
- 19 名前:1 室内だけど井戸端会議 投稿日:2009/12/22(火) 23:12
- おわり
- 20 名前:2 雪が降る意味 投稿日:2009/12/22(火) 23:12
- 北海道には初めて来たけれど、雪って本当にこんなに積もるんだ。
すっげーなぁ。
ああ、北の国からなわけで。
一面銀世界なわけで。
白いのに、銀。
メロンが入ってないのに、メロンパン。
苺メロンパン。いやいやどっちなんだよ。
そもそもメロンってなんで赤肉と緑のがあるんだろう。
それに赤肉って、あれオレンジだよな。
青信号に通じる理不尽さがあるな。
ていうか赤肉は赤肉で、緑の方は何て言うんだろう?青肉?緑肉?
あ、夕張メロン食いてー。
思考の中とはいえ、相当意味のわからないことをひとみは考えていた。
もちろん、完全に思考に支配などされずに。
- 21 名前:2 雪が降る意味 投稿日:2009/12/22(火) 23:13
-
「よしざわさぁーん!寒いですねー!」
ひとみの二歩ほど先、ベージュのAラインコートを揺らして歩く。
ロシア帽子が良く似合う少女だった。
いや、もう立派な大人の女性だろうか。
「そうだなー冬の北海道だもんなー鼻毛凍るらしいよ」
「うへへへ、気をつけます」
絵里が赤みを帯びた鼻をつまんで見せる。
可愛らしい仕草にひとみは笑った。
やっぱり、まだまだ子供にしておきたい。
北海道の中心地とはいえ、少し住宅街に向かえば空地などに雪が山積みにしてあった。
そんなに方向音痴ではないひとみは、絵里の気の赴くまま歩いては、目印を探した。
何もない。
雪はある。
東京とそんなにびっくりするほどは変わらない。
でも、雪がある。
ふらふらと当てもなく歩く。
道が滑って転んで、二人で笑ったり。
冷たい手を強く繋いで歩いたり。
- 22 名前:2 雪が降る意味 投稿日:2009/12/22(火) 23:13
- 夜には、質素なホテルで眠る。
部屋全体に染みついた匂いがあり少し寒いが、悪くはない。
今日は寿司を食べた。酒も少し飲んだ。
明日にはラーメンを食べに行きたいと絵里が言うので、
ラーメンはあまり好きではないが、ひとみは笑って頷いた。
「雪が降ってる所、見られますかね」
「天気予報では明後日くらいに降りそうだよ」
「見たいなぁ」
「見られるよ」
「見られるまでこっちにいられないですかね」
「どうだろ」
「お金ならどうにでもなります」
「簡単に言うなよ」
「へへぇ」
「まあ、金はあるけどさ」
「どうにでもならないことの方が多いですよね」
「そうだね」
- 23 名前:2 雪が降る意味 投稿日:2009/12/22(火) 23:13
-
せっかくの旅行だというのに、ツインで別々のベッドに眠る。
ひとみはいつまでもどこか気になって、眠りにつけなかった。
だからと言って一緒に寝ようなんて、そんな事を言い出せるほど素直な性格でもなかった。
いつの間にか眠れると、知っている。
今は、まだ。
そしてやがて目覚めると、知っている。
…今は、まだ。
- 24 名前:2 雪が降る意味 投稿日:2009/12/22(火) 23:13
-
***
- 25 名前:2 雪が降る意味 投稿日:2009/12/22(火) 23:14
- ひとみが部屋の明るさに気がついた時、
早くに眠りについたはずの絵里がまだすやすやと夢の中だった。
化粧をしていない寝顔はあどけなくて、嬉しいのか悲しいのかなどわかりようもない。
そっと、絵里の手首に指を添えた。
二、三度往復させて、自分のそれにも指を添えて動かしてみた。
爪を立てて、線を引くように。当たり前に少し痛い。
ねえ。
それは痛い…よな、やっぱ。
…。
あ、寒い。
シャワーを浴びるにも、シャワー室が冷たい。
音が響いて起きてしまうかもしれないけれど、もう起きてもいい時間だ。
どうやら絵里は朝に弱いらしい。
着替えを持って、ドアを開けた。
- 26 名前:2 雪が降る意味 投稿日:2009/12/22(火) 23:14
-
***
- 27 名前:2 雪が降る意味 投稿日:2009/12/22(火) 23:14
- ラーメンも美味しかった。
お菓子もたくさん食べた。
時計台は意外に小さかった。
大通はイルミネーションでにぎわっていた。
二日や三日で、特にしたいこともなくなった。
まあ、もともとすごくしたくて堪らなかったわけでもなくて。
楽しかった、けど。
あとは。
- 28 名前:2 雪が降る意味 投稿日:2009/12/22(火) 23:14
-
すると。
そんな二人の気持ちに呼応するように、日の落ちかけた空から雪が降り始めた。
「あ」
「雪!」
「降ったな」
「降りましたねぇ」
絵里が笑う。
手のひらを空に向けて、雪が手のひらに落ちる。
しゅう、と一瞬で水に戻る。
- 29 名前:2 雪が降る意味 投稿日:2009/12/22(火) 23:15
- 「今日」
決意めいたひとみの言葉に、絵里がぼんやりとしたまま視線を向ける。
その目にも、決意が宿る。
「…」
「融けない雪はないんですよねぇ」
「うん」
ただひたすら雪をかぶりながらホテルまで歩いていると、雪はかなり積もった。
二人とも雪まみれで、汗をかいたように髪が濡れて雫が落ちた。
指先が赤い。痛さも通り過ぎるほどの冷え方だった。
はぁー、と息を吹きかけると世界が一瞬白に包まれた。
幾分温まる指はまたすぐに冷えた。
ホテルの前には、降ったばかりのふわふわとした雪が
かなり積もって、まだ除雪もされていなかった。
それは美しく。
- 30 名前:2 雪が降る意味 投稿日:2009/12/22(火) 23:15
- 「よしざわさぁん」
「ん?」
絵里は、ひとみを後ろから抱きすくめる。
「えいっ」
「わ」
そのまま、絵里はひとみごと誰にも侵されていない雪に突っ込んだ。
雪の中の何かと、自分の中の何かが破壊される。
それは今までの破壊衝動とも違う。
自分の手首に包丁を突き立てたより、
それしか知らないように髪の毛を抜き続けたり、
家にある割れ物を片っ端から床に叩き付けたり。
それとは違う。
どう違うかはわからないが。
- 31 名前:2 雪が降る意味 投稿日:2009/12/22(火) 23:15
- 「うへへへへへへへへへへ」
「おめー何すんだよー」
「やってみたかったんです、降りたての雪にダイブ」
「あーそうかい」
雪をベッドにして見る世界は意外に快適だ。
「あとは、かき氷にして食べてみたい」
「…すれば?」
「でもしないんです」
「え?」
「……お腹こわしちゃうから」
「まあ、最期は元気でいたいよね、変な話」
「ん…」
倒れたまま話をしていると、しんしんと顔にすら雪が積もる。
冷たいはずなのに、雪に包まれていると不思議な温かさがあった。
- 32 名前:2 雪が降る意味 投稿日:2009/12/22(火) 23:15
-
「このまま埋まれないかな」
「埋まれるかもですね」
声が響くような、届かないような、変な感じ。
雪が落ちる音が良く聞こえる。
「…」
「今は、やさしいですね、雪」
「そうだね」
「でも氷くらいカチカチにもなるじゃないですか」
「…うん」
「だから、もうしばらくしたら絵里たちは寒くてたまらなくなって、
あったかいってのを求めるんです。体が勝手に」
「うん」
「そんでぇ、もし全部あったかくなったら、やさしかったり厳しかったりした雪は水になって融けて」
「うん」
「癒すことも、助けることも殺すことも出来て、また生きるためのものに還る」
- 33 名前:2 雪が降る意味 投稿日:2009/12/22(火) 23:16
- 彼女の口から、哲学的なことを聞いたのは初めてだった。
とは言っても、絵里の顔を見るのはつい数日前が初めてだったし、
文面では何度も読んだ。感銘も受けたし、たまに泣いた。
ただそれらはほぼすべて後ろ向きで悲しみと怒り憎しみに溢れ、
今のように優しくなく、光のような温かみも帯びていなかった。
ひとみと絵里とを繋ぐのは、それぞれの外の世界への嫌悪。憎しみ。諦め。
内の世界への嫌悪。憎しみ。諦め。
それだけだと思っていた。
- 34 名前:2 雪が降る意味 投稿日:2009/12/22(火) 23:16
- 「雪は吉澤さんみたいですね」
「わかんね、何それ」
「絵里もきっとそうですよ」
「……」
「みんな、そうですよ」
「…え」
絵里の言葉が雪に混ざっている。
こもっていて、暖かくふわふわしていた。
「絵里も今までたくさんの人を憎んできたけど、
それでもきっとその人たちも、絵里の知らない誰かには癒しになっていたのかもしれない」
「…」
「そんなのどうでもいいけど。だから許すとかないし」
「…ん」
「いつかみんな死んじゃう」
「うん」
- 35 名前:2 雪が降る意味 投稿日:2009/12/22(火) 23:16
- 「ただ、不思議なくらい今は死ぬ時じゃないってわかるんです」
「……ああ。わかる」
ひとみもそうだった。
言い出すのは恥ずかしかったけれど。
だから、ずっと最初出会った時の目的の方向で話していたけれど。
絵里にそんなハッタリは通じない。
生きようと思い直すことが恥ずかしいことだなんて。
諦めることがカッコいいと思っていた自分が恥ずかしくなる。
- 36 名前:2 雪が降る意味 投稿日:2009/12/22(火) 23:16
- 「見てください」
「ん?」
ひとみは、絵里に促されるがままに空を見上げる。
「なんか、空に昇ってる感じがしません?」
「……」
言われて、ただじっと雪に降られた。
しん、しん。
本当に静かだった。
ただ空から地上に積もる雪を視界におさめているうち、
確かに少しずつ、自分が昇っているような気分になってくる。
雪に囲まれて、ふわり、ふわり。
セピア色に染まる幻想的な空。
違う世界のようだ。
ふわりと頬をかすめる牡丹雪はくすぐったい。羽根のよう。
でも、頬で溶ける。ひんやりとする。
- 37 名前:2 雪が降る意味 投稿日:2009/12/22(火) 23:17
-
昇っているようだ。
でも、昇っていない。
そしてこのままじゃ昇れない。
- 38 名前:2 雪が降る意味 投稿日:2009/12/22(火) 23:17
- 雪の美しさに、ただひたすら魅了されて。
ひとみの目から大粒の涙が後から後からこぼれていく。
暖かい涙だった。
世界はいつも優しいわけではないけれど。
世界はたまに泣けるほどに美しい。
「もうクリスマスなんですもん、絵里はめそめそしませんよ」
「クリスマス関係ないじゃん」
「クリスマスはハッピーなイベントです、笑ってたいじゃないですかぁ」
「…ん、ー。確かに、ん…」
「笑ってる子に、サンタさんは来てくれます」
「…あたしにも、来てくれるかな」
「笑ってればきっと、来ますよ…うん、絶対来ます」
「その根拠のない自信はなんだよ」
「そうでも言わないとって時があるんですよぉ」
「……わかる。だからあんたとここに来たんだよ」
「あんたじゃないです」
「…ぴー」
「そっちでもないです」
- 39 名前:2 雪が降る意味 投稿日:2009/12/22(火) 23:17
- 「…絵里」
「はい」
もう一度、手を握って相手がそこにいることを確認する。
同じ気持ちを共有している人間が今隣にいることが、二人には必要だった。
二人を祝福するような雪が降る。
涙が溢れて止まらないような雪が降る。
「帰りましょうか」
「うん」
- 40 名前:2 雪が降る意味 投稿日:2009/12/22(火) 23:17
-
***
- 41 名前:2 雪が降る意味 投稿日:2009/12/22(火) 23:18
- 次の朝、すっきりと目覚めた二人は荷物をまとめてチェックアウトした。
ホテルの外は除雪が施されて、倒れ込んだ二人の跡はなくなっていた。
外は寒いが雪は降っていなかった。
二人は、往復で取っていなかった航空券を片道で購入した。割高だった。
お土産を買って、飛行機で寄り添って眠れば、地元にはすぐに着いた。
お土産を持って地元のコンクリートを踏み締めているだけで不思議な感じがした。
荷物は重かったが、どこかすっきりと軽くなっていた。
しっかりと一歩一歩地面を踏んだ。
自分の足がこんな風に見えていることすら忘れていた。
空港から駅に着いて、別れ道で向かい合った。
絵里が笑っている。
初めて出会った時の印象を忘れるほどに素敵な笑顔だとひとみは思った。
自分の顔はどうだろう。
その答えは、絵里の笑顔にあるのかもしれない。
- 42 名前:2 雪が降る意味 投稿日:2009/12/22(火) 23:18
- 「『PPP』さん、またいつか会えたら」
「はい、『ジャクソン』さんも」
「その時は違うサイトのオフ会だといいね」
「むしろ同窓会とかどうですか」
「は、はっ。無理あるわ、成立しねーだろ」
「うへへへ、確かに。本来は成立しちゃいけないですよね」
二人は迷いなく別れた。
もしかしたらもう二度と会わないかもしれない。
けれど。それでも、互いに生きているだろうことは自信があった。
別れを惜しむ理由などない。
大丈夫。
もう、死のうなんて思わないよ。
その数日後、一つのwebサイトが閉鎖した。
- 43 名前:2 雪が降る意味 投稿日:2009/12/22(火) 23:18
- おわり
- 44 名前:3 満ちた悪意に憧れて 投稿日:2009/12/22(火) 23:18
- 「小春ー、新垣さんのことなんかすごいなーと思います」
「何さ急に」
大きなたれ目に見つめられて、里沙は困惑した。
背が高い小春は作業中で里沙を見上げている。不敵な笑み。
小春にだけは自分をすごいとか言われるとは思っていなかった。
そして、恐らく純粋に褒めてるわけでもないだろう予感がする。
- 45 名前:3 満ちた悪意に憧れて 投稿日:2009/12/22(火) 23:19
- 「だってぇ」
屈託のない悪意を感じる笑顔。
矛盾しているようだが、そういう風にしか説明できない笑顔。
「クリスマスイブにもクリスマスにもシフト入ってる。
ほらー、普通年頃の女の子なんて例え予定がなくたって
見栄張ってシフト組まないじゃないですかー。
そこを私しかいないみたいな感じでシフト組んでる新垣さんは、ある意味すごいですよねー。
知ってますよ。ビンボークジっていうんですよね!」
…。
ほら、全然褒めてないでしょうそれ。
『ある意味』とつくだけで、『すごい』は一気に嫌味になる。
しかし小春の場合嫌味ではないのだ。
ただの感想だ。他意はない。だからたまにとても傷つく。
悪気はない。故に、改善などされるはずがない。
- 46 名前:3 満ちた悪意に憧れて 投稿日:2009/12/22(火) 23:19
- 里沙は深いため息をついた。
「どうしたんですか新垣さーん、やっぱり働きすぎじゃないですか?」
「いや…大丈夫」
「そうですかー」
深追いもしない。
同じように深追いもさせない。
小春とはそれでいい。
バイト先でしか会わない、何考えてるかわからない失礼な後輩。
黙っていれば結構美人なのに。
動き出した途端にトラブルを引き起こす不思議な存在だ。
そして迷惑をかけることに関しての負い目を感じない強靭な精神力。
里沙にはうらやましい才能だった。
「なぁーんでこはるはぁー!!!」
という甲高い声を後目に、里沙はいわゆる『ビンボークジ』のトイレ掃除に向かった。
何と言われようと、仕事はきっちりとした。
惚れ惚れするほどに綺麗にしたばかりのトイレを一番に使ったのは小春だった。
- 47 名前:3 満ちた悪意に憧れて 投稿日:2009/12/22(火) 23:19
-
***
- 48 名前:3 満ちた悪意に憧れて 投稿日:2009/12/22(火) 23:19
- 「マジだりー」
「年末混みすぎでしょ」
「うぜー人うぜー」
「うえ、マジ足くせぇんだけど」
「ぎゃはは、向けんじゃねえよ」
奥からグラスを補充しようと走った里沙の耳に話し声が入ってきた。
休憩中の後輩で、顔は見えないが声で何となく誰かわかった。
今話す彼女らは要領のいいタイプで、
何気なく楽な仕事しかしていないことを里沙は知っていた。
けれどそれをどうこう言うわけでもなかった。
どうせ誰かはやらなければならない雑用を押し付け合うのは面倒だし、
自分がやれば全て丸く収まる。
仕事で楽したいと思っている人達には任せられない。
グラスをトレイに並べていく。
- 49 名前:3 満ちた悪意に憧れて 投稿日:2009/12/22(火) 23:19
- 「わー、これ見て」
「何?」
「里沙さん24、25って普通にシフト入ってるよー」
「マジで!うけるー」
「里沙さんって彼氏いないんだねー」
「あれはいないでしょ、あの性格は男引くって」
「逆にイブとか空けられても見栄張ってるようにしか見えないしね」
「でも張る見栄もないとか終わってるでしょー。オバサンかよ」
「あー!なんかお母さんっぽくね?」
「いちいちうるさいよねー」
「自分は真面目にやってます、仕事出来てますー、みたいな。
まあしょうがないか、結婚無理めなら仕事頑張るしかないもんね」
「かわいそー」
言葉一つ一つが刺さって、消化しきれない感情が沸き起こる。
- 50 名前:3 満ちた悪意に憧れて 投稿日:2009/12/22(火) 23:20
- …かわいそうって何?
何がかわいそうなの?
私は自分が出来ることを出来るだけ頑張ってるだけなのに。
わからないことがある人に教えてるだけなのに。
そうやって、真面目にやることがかわいそうなの?
彼氏がいない人が一生懸命働くことはかわいそうなの?
…だめだ。
急ぎのグラス。
慌てて考えるのをやめて里沙はグラスをのせたトレイを持ち早足になった。
- 51 名前:3 満ちた悪意に憧れて 投稿日:2009/12/22(火) 23:20
- 「新垣、遅い。早く4番オーダーとってきて」
「すみません」
「その後はホール出てて」
「はいっ」
忙しい。
何も考えなくて済むから、忙しいことはうれしかった。
忙しいと、頼られていることが嬉しかった。
それがなくなったら自分の足元が崩れて立っていられなくなりそうだ。
せめて仕事では。
ここで失敗したら泣いてしまいそうだった。
自分を構成するものが何もなくなってしまいそうだった。
張りつめた糸はそんなに強くないと知っている。
張りつめようと思っているわけでもないのに、いつも切れそうなまでになっている。
- 52 名前:3 満ちた悪意に憧れて 投稿日:2009/12/22(火) 23:20
-
***
- 53 名前:3 満ちた悪意に憧れて 投稿日:2009/12/22(火) 23:20
- 「ありがとうございましたー」
「ありがとうございましたー」
最後の客が帰った時に、閉店の準備を始めながら里沙はこっそり息を吐いた。
今日はいつもより忙しいのに、いつもより長かった。
モップをかけながら、いつもよりもきびきびと仕事を終えた。
どんなに綺麗に業務記録にホチキスを留められても計算が早くても心は晴れない。
里沙にとって今必要なのは仕事以外の何かだ。
けれど、必要なものほど自分からは一番遠い。
着替え終わり、事務室で従業員が集まって談笑している間も頭に入らなかった。
先ほど会話をしていた二人がまだ楽しそうに笑っている。
- 54 名前:3 満ちた悪意に憧れて 投稿日:2009/12/22(火) 23:20
- 里沙は俯いていた。
早く帰りたい。ここにいたくない。
それを言い出すことができなかった。
情けない。
組織の一つであることがそんなに重要なのか。
腹が立つことを言われてもなお何も言わず我慢して、
このバイト一つに何を捧げているのだろう。
でも。
ここでも拒否されてしまったら。
私には何もない。
本当にかわいそうになっちゃう、そう思ってしまう。
きついなあ。
嫌われても構わないと思ってたけど。
やっぱり、きついなあ。
- 55 名前:3 満ちた悪意に憧れて 投稿日:2009/12/22(火) 23:21
-
「あのー!」
里沙の思考を吹き飛ばすような高い声が部屋の空気を支配した。
「次のシフトなんですけど!
新垣さんは、小春とデートするのでイブは入れなくなりました!
代わりに誰か入ってくれませんか?」
「はぁ…うぇえええ!?」
声のする方を振り向いて。
名指しされた本人が一番驚いてしまった。
- 56 名前:3 満ちた悪意に憧れて 投稿日:2009/12/22(火) 23:22
- 里沙が混乱している間に話は進む。
「おねがいしまーす!!!」
「あ、じゃあ俺出るよ。うち彼女も夜遅くなりそうみたいだし」
「え!?いや、あのわた…」
「ほんとですかっ!?ありがとーございますー!
じゃあこれからうちら遊びに行くんでお先に失礼します!おつかれさまでしたぁー!」
「ちょちょちょ、ちょっとこはっ、小春!!!」
里沙が言葉を発する間もなく、小春にぐいぐいと強く腕を引っ張られ店を後にする。
引っ張り方も下手くそだけど、嫌ではなかった。
- 57 名前:3 満ちた悪意に憧れて 投稿日:2009/12/22(火) 23:22
- ぐいぐい。
ぐいぐい。
店から離れてもなお小春は里沙を引っ張り続ける。
「ちょ、ちょっと小春、もうよくない?」
「……え?あ、すみません。忘れてた」
「はぁ?」
店からずいぶん離れてきてからふと我に返り、小春は里沙の腕を離した。
「…」
「…」
「さーむいですねー」
「だね」
里沙に小春を理解するのは不可能だった。
真剣に見える横顔で、すごく下らないことを考えていても不思議ではないから。
逆も然り。
- 58 名前:3 満ちた悪意に憧れて 投稿日:2009/12/22(火) 23:22
- 「っていうか、イブって何さ?そんな約束してないよね?」
「えー、あー…」
小春が言いにくそうにしている時に、里沙は思い当たる。
もしかしてあの時、あの二人以外に休憩所には小春がいたのかもしれない。
何かのきっかけで里沙がそれを聞いたことを知ったのかもしれない。
だとしたら。
今の小春の行動は里沙に対する同情以外の何物でもない。
それこそ、とてもみじめだ。
本当にかわいそうみたいじゃないか。
やりきれない。
「……そういう余計なことしないで」
「え?」
大きな目は本当に読めなくて、聞き返されることがとぼけているのかどうかもわかりかねて。
- 59 名前:3 満ちた悪意に憧れて 投稿日:2009/12/22(火) 23:23
- 「あんただって私のこと仕事しかない小言うるさいとか思ってるくせに。
そんなこと別にいちいち気にしないよ。嫌われ役はどこにだって必要だから」
「何のことですか?」
「だから、今日私が陰口叩かれたのを知ってて庇ったんなら余計なお世話だって」
さらに、小春に助けられるなんて余計みじめだった。
里沙は小春を本当にどうしようもないと思っていた。
特別真面目なわけでもなく、特別仕事が出来るわけでもないのに
わけもなく先輩に可愛がられる小春に、
かわいそうに思われているなんて耐えられなかった。
里沙は小春をかわいそうだと思っていたかった。
いずれは不必要になる中身のない人間だと、憐れんでいたかった。
心のバランスを保つのに必要だった。
自分の存在意義のために心の中で貶めた。
そんな小春にだけは、かわいそうなんて思われたくない。
幸せしか知らないような顔で、何も考えてない顔で、余計なことしないでほしい。
- 60 名前:3 満ちた悪意に憧れて 投稿日:2009/12/22(火) 23:23
- 潰れそうなほど傷ついた里沙に、小春の間延びした声が上から落ちてきた。
「あのぉ、なんで小春が新垣さん庇わなきゃならないんですか」
「…は?」
そんなとぼけ方したって、と言おうと顔を上げた時、
小春の目を見ると本気で何を言っているかわからないようなぽかんとした顔をしていた。
「新垣さんは小春に助けてもらう覚えあります?」
「……ないよ、どうせ。怒ってばかりだし」
「ですよね、ってわけで庇ってません」
「じゃあ何さ、今のはっ」
感情的になるのも悔しい。
小春はまだ子供なのに。
私がこんな風に取り乱すなんて、みっともない。
私がしっかりしなきゃ。
私が。
- 61 名前:3 満ちた悪意に憧れて 投稿日:2009/12/22(火) 23:23
-
「振られちゃったんです」
言う小春の目が鈍くて、はっとした。
里沙のわかりやすい表情に、小春は冷たく笑う。
「まあー、あっちも本命に片想いで、小春が代わりでもいいかなーとか言うから、
つきあってるっぽい感じなことしてたんですけど。
昨日いきなりやっぱりクリスマスを過ごしたいのはお前じゃないとか」
いきなり話が変わったが、そんなこと、と言う前に。
「そんなのひどい!」
と、里沙の口からは率直な感想が出ていた。
- 62 名前:3 満ちた悪意に憧れて 投稿日:2009/12/22(火) 23:23
- 「ですよね!じゃあ最初から誘惑に負けるなよって感じですよ。
ちゃっかり本命と上手くいったらしいし。ほんとムカつきました」
「うそー!ひどい、ひどいよ!最低!そんな奴クリスマス一緒にいなくて正解だよ!」
「ですよねー!小春にはもっともっといい男出来ますよね!」
里沙の怒りはいつしか顔も知らない男へと向けられていた。
ちょっとふざけた話し方をしているが、小春が全くダメージがないはずがないことはわかった。
甲高い声で文句を言い続けていた小春がふいに遠くを見てふうと息を吐いた。
静かになる。
夜のせいか、妙に愁いを帯びて見える横顔。
「……小春」
「大丈夫ですよ、多分、わかってたし」
「……」
- 63 名前:3 満ちた悪意に憧れて 投稿日:2009/12/22(火) 23:24
- 恋愛なんて全然よくわからないし、正直なんて言ってやれば小春が嬉しいのかなんてわからない。
言葉を探せど、探すほど言葉は離れていく。
そんな里沙の戸惑いを見透かしたように小春は笑った。
「バカですよね、小春」
「…あんまりわからない、ごめん」
「あはは」
「だから、こういう時何て言えばいいかわからない」
「いいんですよ」
「え?」
「だから新垣さんには言うんです」
「?」
首をかしげる里沙の表情が幼くて、さらに小春の笑顔は柔らかくなる。
- 64 名前:3 満ちた悪意に憧れて 投稿日:2009/12/22(火) 23:24
- 「新垣さんは、こんな恥ずかしいこと言ったって、
絶対笑ったり誰かに噂したりしないと思って。
小春のことちょっとバカにしたりするけど、絶対人の不幸とか喜んだりしないから」
必要としていたもの。
絶対に手に入らないと思っていたもの。
それらとは対極の位置に存在すると思っていた目の前の人物。
「正直小言多いし、説教下手だし、ムカつくことも多いし、
ぶっちゃけ新垣さんのこと好きかって聞かれたらすごい微妙なんですけど、
でも新垣さんはいつも絶対真面目で一生懸命だから、そこはすごいと思うんです。
ある意味とかじゃなくて、本当に新垣さんはすごい」
だから新垣さんに言うんです。
一緒に怒ってくれて嬉しかったです。
新垣さんは、きっと思ってもないことは言わない。新垣さんだし。
- 65 名前:3 満ちた悪意に憧れて 投稿日:2009/12/22(火) 23:24
- 何かを頑張ることはきっと、全てとは言わなくても、報われることもあるのかな。
まさかこんな問題だらけの美味しいとこ取りに言われるなんて思ってなかったけど。
私だって、あんたのことは別に好きじゃないけど。
でも、すごいと思う。
「だから、新垣さんも小春のことちょっとは信用して下さいよぉー」
「ごめんそれは無理」
「なぁーんで!」
「とりあえずオーダー間違えすぎ備品壊しすぎ」
「んふふふー。とか言って新垣さん小春のこと嫌いじゃないくせにー」
好きではない。
でも嫌いでもない。
きっと事実だけど絶対に認めない。
顔でばれてたって、口には絶対出さない。
いつだって憧れている。
そして、憧れの人にすごいと言われる自分をちょっとだけ好きになれそう。
- 66 名前:3 満ちた悪意に憧れて 投稿日:2009/12/22(火) 23:24
- 「イブのデートどうしますー?」
「はぁ?ホントに出かけるの?」
「だって小春クリスマスの予定なくなっちゃったんですもん!バイトとか絶対やだし!」
「だからって…」
「やっぱガキコハコンビで路上ライブするために今日は徹夜でネタ考えましょう!」
「やんないからぁー!」
- 67 名前:3 満ちた悪意に憧れて 投稿日:2009/12/22(火) 23:25
- おわり
- 68 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/22(火) 23:26
- こんな感じです。
- 69 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/23(水) 01:36
- ガキコハが秀逸!すてきすてき
- 70 名前:4 ガーディアンカーディガン 投稿日:2009/12/23(水) 22:27
-
最近、なかさきちゃんこと中島早貴はずっと何かを編んでいる。
友理奈は隣の隣のD組に放課後いつも遊びに行く。
そこで仲良しの友人と放課後に会話をして一緒に下校するのが習慣なのだ。
自分達以外にもそういった生徒はたまにいる。
まばらな人の中には、早貴が行動を共にしているグループも残っておしゃべりをしていることがあった。
最近はいつも一緒に帰らず早貴だけ残り、黙々と編み物をしているのだ。
友理奈と早貴とはとりわけ親しいわけでもないが、同じ中学であり会話も交わす。
友理奈は委員会が長引く友人を待ちながら、何気なく早貴の隣に座った。
- 71 名前:4 ガーディアンカーディガン 投稿日:2009/12/23(水) 22:27
- 「なかさきちゃん、何編んでるの?」
「ん?…あ、えっと!か、カーディガンだよ…」
いきなり声をかけた友理奈に驚いたのか、早貴はメガネがかかっている丸い頬を染めている。
ぽってりした唇がきつく結ばれた。
「カーディガン?どうして?」
「え、…えっと、あったかいから…?」
「そうだねー、冬だもんね」
「うん…」
グレーのカーディガンは小柄な早貴の体には合わなさそうなほど大きくて、
色の趣味としても、自分用ではなさそうだ。
早貴がブレザーの中に着こんでいるニットはブラウンに近いベージュだった。
「それって、なかさきちゃんが着るやつじゃないよね?」
「う、うん、違うよ」
「大きいもんね」
「うん」
「誰かにあげるの?」
「…そう、だね」
- 72 名前:4 ガーディアンカーディガン 投稿日:2009/12/23(水) 22:27
- 早貴の髪が重なっているグレーの編み物は、もう完成が近いように見える。
「誰?クリスマスプレゼントでお父さんに、とか?」
「あー、えっと、お父さんじゃないよ」
「じゃあ誰?」
「…それは、まだ秘密だよ」
「そっかー。まだってことは、いつかは教えてもらえるの?」
「うん…そう、だね。多分」
「多分かぁー」
残念さを隠さずに友理奈はそれきりカーディガンについては触れず、
その後すぐに教室へ戻ってきた友人と下校した。
- 73 名前:4 ガーディアンカーディガン 投稿日:2009/12/23(水) 22:28
-
***
- 74 名前:4 ガーディアンカーディガン 投稿日:2009/12/23(水) 22:28
- 早貴は、内心心臓が破裂するかと思った。
友理奈はとても同い年には見えないほどに背が高く手足がすらっと長くて、
長い髪を下ろした中心に位置された端正な顔立ちは人の目を引いていた。
もっともっと目立つタイプだと思っていたが、友理奈は大勢の人間を取り仕切ることはあまりしなかった。
いくつか会話をやり取りした時に何となくその理由がわかったのだが。
正直、会話が面倒な人でもある。
見た目よりも冗談が苦手で、早貴でさえも真面目すぎると感じるほどであった。
良くも悪くも見た目と中身にギャップがある、高校生らしくない、というか。
しかし、はきはきと嘘がない話し方は嫌いではなかった。
通る声に憧れた。
背の高さに憧れた。
その分、隣に並ぶと恥ずかしかった。
でも、つい目がいく。
遠くから見ても友理奈のことを見間違うことなどなかった。
- 75 名前:4 ガーディアンカーディガン 投稿日:2009/12/23(水) 22:28
-
「肩と丈に合わせると袖の長さが合わないんだぁー。
でも袖に合わせるとぶかぶかだし」
よりクールに見せる深めのグレーのカーディガンを着る友理奈の困った横顔。
それを聞いた帰りには、毛糸を買いに行っていた。
特に手先が器用なわけでもないくせに。
何か急かされるように編んだ。
私に言ったわけじゃないのに。
いきなり、こんな下手なの。
気持ち悪いかな。
でも。
編むだけでも。
そんな中、
「なかさきちゃん、何編んでるの?」
- 76 名前:4 ガーディアンカーディガン 投稿日:2009/12/23(水) 22:28
- 早貴は夢かとも思った。
けれど、熱くなる耳も、うるさいくらいの心臓も、
視線をそっと上げた時の友理奈の真剣なまなざしも、ちゃんとここにあった。
友理奈が去った後、ゆっくりと心臓を押さえた。
友理奈から声をかけられることは珍しい事ではなかったけれど、
きっと、渡せと神様が言っているのだと思った。
その日の帰りに、家で丁寧に編み上げた。
持ち上げてじっと眺める。
表、裏と確認し、袖の長さもじっくり確認した。
メンズのサイズを参考にして作ったそれは自分が着るには大きすぎる。
父に来てもらうには肩幅を詰めすぎている。袖は余ってしまうだろう。
これは、友理奈だけを思って編んだのだから。
世界で着られるのは友理奈だけなのだ。
きっと喜んでくれるよね?
冷静に見られてる自信などなかったけれど、自分にしては良くできたと思う。
何度も何度も袋から出したり、また丁寧に畳んで入れたり。
変なところがないか。
丁寧に丁寧に。
何度も。
- 77 名前:4 ガーディアンカーディガン 投稿日:2009/12/23(水) 22:29
-
***
- 78 名前:4 ガーディアンカーディガン 投稿日:2009/12/23(水) 22:29
- クリスマスだとバタバタした流れにきっとタイミングを逃しそうな気がした。
出来あがった翌日はクリスマスイブイブイブ、くらいだったけれど。
早貴は、ふう、と大きく息をついて、静かすぎる教室の前で一人落ち着かなかった。
カーディガンを入れた袋を抱きしめる。
友理奈とは中学生の時に一年だけ同じクラスになったことがある。
その時、いつでも友理奈は早貴より早く登校してくることに気がついた。
多分、今も。
人がまばらなうちに、勇気が消えないうちに、早く渡そう。
窓の外を見ていると、とりわけ見つけやすい長身。
近眼の早貴の遠目にもすぐにわかった。
間違いない。
- 79 名前:4 ガーディアンカーディガン 投稿日:2009/12/23(水) 22:29
- いつも行動を共にしている友人と二人で友理奈が階段を上がってくる。
目がしっかりと合った瞬間に頭が真っ白になった。
「あれー、なかさきちゃん早いね、おはよー」
「中島さん、おはようー」
「あ…っ、!おはよ…っ!」
二人っきりっていうのも、変だよね。
別に、告白ってわけじゃないし。ただのプレゼントだから。
渡すなら今。
今。
今。
「あのねっ、友理奈ちゃん…!」
「どうしたの?」
声が上ずって、顔が熱くなる。
恥ずかしい。上手く声が出ない。
ピンクの袋を友理奈に差し出す。
早貴には友理奈の第三ボタンが見えている。表情は見えない。
- 80 名前:4 ガーディアンカーディガン 投稿日:2009/12/23(水) 22:29
- 「これ、友理奈ちゃんに」
「…え?」
「友理奈ちゃん、自分の体に合うカーディガンが売ってないって言ってたでしょ?
だから、寸法合ってるかわからないけど…あの…ごめんなさい…いきなり」
「どうして謝るの?ありがとう!」
「あ…」
「これ、なかさきちゃんが編んでたやつだよね?わー、私にだったんだ!
ちょっとびっくりしたけど、嬉しいよ!ありがとう」
友理奈は受け取った袋からカーディガンを取り出して、屈託ない笑顔で早貴に礼を言った。
すごい、上手!と隣の友人に見せる。
隣の友人も感心したように眺めていた。
「着てみてもいい?」
「うんっ…!」
「わー、ちょっと待ってね……あ、こっちは」
「わたし持つよ」
「あ、ごめん、ありがとう…よいしょっ…うわー静電気すごいーすごくない?」
「あはは」
友人が脱いだ友理奈のカーディガンを腕にかけ、
友理奈が袖を通したらしいことをちらちらと覗き見して確認した。
- 81 名前:4 ガーディアンカーディガン 投稿日:2009/12/23(水) 22:29
- 「わーすごい!なかさきちゃん、ぴったりだよ!似合う?」
「あ…」
「ほんとにすごい!ありがとう!」
「う、ううん…」
やっと首を目いっぱい上に向けると、夢のような光景がある。
何度も描いた図がそこに現実として存在していたのだ。
友理奈が早貴の作ったカーディガンを着て笑っていた。
嬉しくて、頬が熱くなった。
友理奈に見えている自分はどんな姿だろう?
- 82 名前:4 ガーディアンカーディガン 投稿日:2009/12/23(水) 22:30
-
「あー…あれ?」
急に友理奈の声がひっくり返った。
「え?ど、どうしたの?何か変だった?」
見上げた早貴の視線を受け、友理奈は困ったように裾あたりをつまんで見つめた。
- 83 名前:4 ガーディアンカーディガン 投稿日:2009/12/23(水) 22:30
-
「いや、なかさきちゃん、これボタンが男性用だよ。女の子のはボタンが左についてるんだよ。
校則違反になっちゃうから着られないよ、ごめんね」
「えっ?」
「ほら、ボタン」
「あ……」
友理奈は右半分についたボタンの列を見せた。
- 84 名前:4 ガーディアンカーディガン 投稿日:2009/12/23(水) 22:30
- 「………」
「あ、大丈夫、家とかでは着るから」
「あ…え、あ、そう、なんだ…」
「見つかって怒られちゃったらねー、
カーディガンは今でも禁止になりそうなギリギリなところらしいし」
「あ、えっと…直せるなら直すよ?ちょっと直せるかわからないけど…」
「ううん大丈夫だよ、今来てるこのカーディガン
ちょっと袖合わないけど、そんなに気にしてないから」
「あ、そっかぁ…ごめんね…」
「なんでなかさきちゃんが謝るのー?でもすごいよーこれ!
仕方ないじゃん、間違っちゃう時もあるって!人間だもん。
それもすっごく上手だと思うよ!学校に着てこられないの残念だよー」
- 85 名前:4 ガーディアンカーディガン 投稿日:2009/12/23(水) 22:31
-
「あは…そうだね…」
自己の詰めの甘さを呪うべきだろう。
しかし、友理奈の細かすぎる性格を呪いそうになり、早貴は振り切って笑った。
その日の夜。
早貴は編み針を箸代わりに使ってやったが、
思いのほか使いにくかったうえに母にこっぴどく叱られた。
目下編み針の他の使い道を探し中である。
- 86 名前:4 ガーディアンカーディガン 投稿日:2009/12/23(水) 22:31
- おわり
- 87 名前:5 まだ遥か彼方の星 投稿日:2009/12/23(水) 22:31
- 「きっかでぇーす」
「さぁやでーす!」
「「ミルキィ☆ツインクルですっ」」
「今日は、皆さん、私たちのクリスマスデートに来て下さってありがとですぅー!」
「今年はうちらがみんなのサンタだぜ!」
「「「「「うおぉおおおぉぉぉおぉぉぉお!!!!」」」」」
クリスマスイブはまさに地獄絵図。
- 88 名前:5 まだ遥か彼方の星 投稿日:2009/12/23(水) 22:32
- 膝上15センチのキャミソールワンピースの形をしたサンタコスチュームに身を包み、
地下ドル『ミルキィ☆ツインクル』のきっかこと吉川友とさぁやこと北原沙弥香は
ものすごい至近距離で『ファン』の進化形を目の当たりにし、
汗の…汗?のような匂いに支配された空気で心の中でため息をついた。
小一時間全く意味のわからない歌を歌ったあと、サンタのコスチュームと水着姿の撮影会、
その後絶対数は少ない分密度の濃い握手会。
「きっか、こ、今度の新曲100枚買います!」
「はい〜。この間は50枚でしたよね?いつもありがとうございますですぅ〜」
「おおおお覚えててくれたんですか!?」
「はい〜。だってこれはデートですぅ〜。恋人の顔を忘れちゃう彼女なんていないですぅ〜」
「ありがたき幸せ!」
「あはははは、面白いですぅ〜。メリークリスマスですぅ〜」
「メリークリスマス!」
「さ、さぁや様!さぁや様とクリスマス過ごせるなんて本当に幸せです!」
「おー、あたしもだよー。来年も一緒に過ごそうな」
「これ、俺からのクリスマスプレゼントです!」
「ありがとー!いつもこの包装だからすぐに君だってわかるんだよ、いつもありがとうな」
「あの…名前、呼んでいただけますか…?」
「んだよ、図々しい奴!」
「あ、す、すみません…じゃあ……」
「…ミツオ!メリークリスマス!」
「あ…あ…はいっ!!!ありがとうございます!!!」
- 89 名前:5 まだ遥か彼方の星 投稿日:2009/12/23(水) 22:32
-
***
- 90 名前:5 まだ遥か彼方の星 投稿日:2009/12/23(水) 22:32
- 「うっ、生臭っ」
「ベタベタするー」
二人並んで手をじっくりと洗う。
着替えより何より先にまず手洗い。
「何が分泌されてんだろ」
「知らない」
「「………」」
「クリスマスにヲタと握手か」
「うん」
数十分洗面台と闘うと、冷水で手が冷え切った。
今は感覚がないくらいがありがたくもあったが。
- 91 名前:5 まだ遥か彼方の星 投稿日:2009/12/23(水) 22:32
- 芸能人、アイドルというのもピンキリだ。
テレビで歌い踊り特集をされ、雑誌の表紙を飾って騒がれるアイドルもいれば、
スカウト、ユニット結成、インディーズCDデビュー、写真集発売。
メジャーデビューを夢見ながら都内僻地でイベントを繰り返しているアイドルもいる。
二人は後者である。
夢見ていたものよりもずっと厳しい世界だった。
ちなみに二人は天の川の星屑の生まれ変わり。という設定らしい。
- 92 名前:5 まだ遥か彼方の星 投稿日:2009/12/23(水) 22:33
- 沙弥香はさっぱりした見かけでボーイッシュなキャラクターとは裏腹に、
実際には気弱な部分があった。
色白で目が大きく、全体的に丸みを帯びた女の子らしい友の方が芯が強い。
「…あのさ、うちらいつまでここでこんなことやってるんだろ」
「え?」
沙弥香の素の声は意外にも可愛らしい。
着替えながらしゅんとうつむいている。
「うちらもう高校卒業じゃん。…親にも、地に足付けて進学しろって言われてて」
「……」
「正直、夢見てる世界とは違って、それでも頑張ってきたつもりだけど…
年齢的にも、潮時かなって思ってる」
「ミルキィ辞めたいってこと?」
「…」
パーカーのファスナーを上げて、沙弥香は小さく頷いた。
- 93 名前:5 まだ遥か彼方の星 投稿日:2009/12/23(水) 22:33
- 「…そっか」
「友は、どうするの?」
「私はやるよ」
「新しいユニット組むの?」
「さぁ。…でももし組むなら、次は沙弥香みたいな腰抜けじゃない方がいいな」
「!」
友の冷たい横顔に沙弥香はちくりと胸が痛むのを自覚した。
「友だって、こんなはずじゃなかったって思ってるでしょ?
もっといい歌歌ってテレビに出て、女の子のファンもいっぱいで…」
「そうだね。現実は甘くない」
「いつも同じ人ばっかりでファンも全然増えないし、最近は減ってる気もする」
「…それでも、来てくれてる人がいるんだよ。
私達に会うことを楽しみにしてくれてる人がいるんだよ」
「でもオジサンばっかりじゃん」
「オジサンだって、誰にも見向きもされないよりずっとずっとすごいと思う。
…覚えてないの?最初にファンレターが来た時」
- 94 名前:5 まだ遥か彼方の星 投稿日:2009/12/23(水) 22:33
- 一枚目CDの売り上げ枚数より、二枚目CDの売り上げの枚数が多かった時。
イベントで、足を止めて見てくれた時。
友の大きな目は、見つめられれば、見つめれば、
共有した思い出を口よりも雄弁に語る。
寒い日も暑い日も、泣いた日も笑った日も。
「…うん。覚えてる。すっごく嬉しかった。うちらに一枚ずつ、
ちゃんと色違いでお揃いの封筒で、今でも定期的に手紙くれるんだよね」
「そうそう、あとデビューしたての屋外のイベント。
あんな寒いのに、5人くらいだけど、最初から最後まで見ててくれて。
まだ全然歌もダンスも喋りも出来なかった私達に拍手してくれた」
「だんだん増えてきたんだよね」
「3枚目のCD発売で初めて握手会に10人以上来てくれて、色んなこと一生懸命話してくれて」
「まだ…初めての握手会に来てくれた3人の人達は覚えてるなぁ。
今はあんまり来てくれなくなったけど」
「ちょっとトークで今ゆるキャラにはまってるって言っただけで、プレゼントいっぱいくれたり」
「うんうん!」
「そうだったねぇ」
- 95 名前:5 まだ遥か彼方の星 投稿日:2009/12/23(水) 22:33
- 過去の話をすれば、苦労と共によみがえる喜び。
きっと、一晩中語っても語りきれない。
友と沙弥香とは、そんな笑えるような笑えないような思い出でこの5年程を過ごしてきたのだ。
「熱いよね」
「そうだね」
「キモいんだけどね」
「うん、キモいんだけどね」
「…でも、嬉しかった」
「……」
ふふ。
どちらかともなく笑いがこみ上げる。
二人で顔を見合せて笑っていた。
どれくらいそうしていただろう。
- 96 名前:5 まだ遥か彼方の星 投稿日:2009/12/23(水) 22:34
- ふいに、友が真剣な顔つきになり、きっぱりと宣言した。
「私はやるよ」
そうだった。
最初も、不安だらけだった沙弥香にきっぱりと宣言したのは友だった。
意志が強くて、負けず嫌いで。
そんな友とだからやれる気がした。
友と一緒だからやってきたんだ。
「友は、きっと出来るよ。根性あるし、美人だし。
ソロで女優にもなれるんじゃないかな」
「……でも、私は沙弥香に出会えて、ユニット組んだのが沙弥香で良かったと思ってるんだよ」
「え」
沙弥香はずっと思っていたこと。
でもあえて口にも出しもしなかったこと。
同じように思ってもらってる自信がなかったから。
- 97 名前:5 まだ遥か彼方の星 投稿日:2009/12/23(水) 22:34
- 「私、沙弥香の声が好き。優しいとこも尊敬してる。私のわがままにも付き合ってくれた。
ほんとに少ないけど、女の子のファンもいるし。
まっすぐでバカ正直だから、だから…本当はいっぱい助けられた」
友はいつも優柔不断で弱気な沙弥香を叱咤してきた。
何やってんの、と強く沙弥香の手を引いて前を歩いてきた。
沙弥香はいつもまっすぐな友に憧れて、友のようになりたかった。
友の口から沙弥香を褒めることなどなかった。
言ったところで素直に受け取れないコンプレックスの塊だとも理解されているように思った。
そして友にも言えない。
気恥ずかしくて、改めて言うなんてしないと思っていた。
全部わかってる。
わかりすぎてて普段は何も言わない。
でも言う時には目一杯の感謝をこめて。
「あたしも…友の歌が好きだよ。いつもしっかり目標を持ってて、ぶれなくて。
友とのユニゾンが気持ちいい。友と、ユニットでよかった、あたしも」
だからうちらはユニットだ。
- 98 名前:5 まだ遥か彼方の星 投稿日:2009/12/23(水) 22:34
- 「来年も、沙弥香とだったらクリスマス過ごしてもいいよ」
「……何その告白。照れるんだけど」
「はいはい」
「流した」
「正直、彼氏と過ごすクリスマスよりも、
売れないアイドルやってるクリスマスの方が楽しいなんてやばいかも」
そう言いながら、友は自虐を含みながらも嬉しそうに笑った。
「じゃあ、あたしもやばいかも」
どんなに小さくたって。
ステージに上がって歓声を浴びる気持ち良さ。
どんなに売れなくたって。
CDに自分の声が乗っている感動。
あ、きっかとさぁや。
ごく僅かな確率でも、見つけてもらえる感動。
キスやセックスじゃ味わえない満足感もある。
と言っても、キスくらいしかしたことないんだけれど。
処女はイケメン売れっ子俳優に。
若い時にはそんな二人のえげつない合言葉もあった。
今はそんなのどうでもいい。
- 99 名前:5 まだ遥か彼方の星 投稿日:2009/12/23(水) 22:34
- 「…もう少しやってみるか」
「うん」
「いつかもっと売れてやる」
「うん。今日わざわざMBCに乗り換えたとか言いにきたあのハゲ見返してやる」
「もっともっともっと、出来ると思うんだ。友となら」
「私だって、沙弥香とだったら出来ると思う」
「…うちら何恥ずかしいこと言ってんの」
「冷静に確認するのやめようよ」
「そもそも、沙弥香が辞めたいとか言い出すからでしょ」
「あたしのせい!?」
「そーだよっ」
「いったい!」
思ったよりも力強く腕を叩かれて、沙弥香はよろめいた。
「こんだけ清く正しくいい子にしてればさ、きっとサンタもプレゼントくれるでしょ」
「え、今さっきジャイアンだったよね」
「何言ってんの!あのキャラを貫き通す私の頑張り!」
「あぁ〜ほんとにすごいですぅ〜」
「バカにしてんなよー。さぁや様のツンデレとかいって」
「ツンデレは難しいんだぞ」
- 100 名前:5 まだ遥か彼方の星 投稿日:2009/12/23(水) 22:34
-
***
- 101 名前:5 まだ遥か彼方の星 投稿日:2009/12/23(水) 22:35
- 外のイルミネーションやBGMも他人事。
勉強も芸能活動もまだまだやらねばならないこと、為したいことが山ほどある。
「私は進学だって、バイトだって、ミルキィ続けながらやるつもりだよ」
友が力強く沙弥香に宣言した。
ああ。
だから、うちらはユニットなんだ。
友がやると言ったことはやる人だと十分に理解していた。
だから、大丈夫なんだ。
「じゃああたしもやる」
「頼りないなぁ」
「でも、きっと一人より二人の方がいいよ」
「…知ってる」
- 102 名前:5 まだ遥か彼方の星 投稿日:2009/12/23(水) 22:35
-
沙弥香の家で、母が買っておいてくれた人気店のベリータルトを二人で平らげた。
話し込んだ後、新曲の練習をして。勉強して。また話し込んで。
やがて気づかない間に24日が過ぎていく。
夜が更けてゆく。
二人は同じ部屋で同じ夢を見る。
- 103 名前:5 まだ遥か彼方の星 投稿日:2009/12/23(水) 22:35
- おわり
- 104 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/23(水) 22:37
- 全然出てきてませんけど亀井さんお誕生日おめでとうございます。
>>69
ありがとうございます。
- 105 名前:6 マイルスマイル 投稿日:2009/12/24(木) 20:20
- この先、夢が叶うことなどあるのだろうか。
実力と運と色々な要素。
あの一握りに手は届くのだろうか。
何度想像してもリアリティのない成功の風景。
土壌のない世界だし。
こうやって活動できる場所にまで出てきて進学して来たけれど。
- 106 名前:6 マイルスマイル 投稿日:2009/12/24(木) 20:20
- 「恵里菜!」
「ディフェンス!」
芝生を走るライン。
恵里菜にのみ見えるラインが相手チームに邪魔されず、パスしたい相手に繋がる。
ここだ。
思い切りボールを蹴ってゴール前に走り込む。
あ、と思った瞬間。
ピピー。
ホイッスルが流れていた空気を止める。
思いのほか早い球足で、パス相手が到達する前に目的地を通り過ぎ、
ボールは盛大にコートのラインをはみ出して停止した。
- 107 名前:6 マイルスマイル 投稿日:2009/12/24(木) 20:20
- 「ちょっと休憩取ろうか」
「うぁー」
…だめだ、やっぱ床は苦手。
恵里菜は冬でもサッカーが出来るこの整った設備の中、もどかしさを隠せなかった。
早く春にならないかな。
反面、もう少しゆっくりと自分を磨きたい。
来年には進路を決めなければならない。
結果が欲しい。そのためには時間がいくらあっても足りない。
休憩にゆるんだ空気の中に、懐かしい雰囲気が混ざり込む。
「みんな、久しぶりー」
聞き覚えのある声に顔を上げると、丸い顔は良く知っている先輩だった。
- 108 名前:6 マイルスマイル 投稿日:2009/12/24(木) 20:21
- 「あさ美先輩だ!」
「お久しぶりです」
「こんにちはー!」
あさ美は後輩たちにふんわり笑いかける。
「はーいこれ、クリスマスプレゼントー」
「わー!やったー!」
あさ美が持参した半透明の袋から透けている箱に、部員たちは中身を一様に察する。
皆、厳しい部活をしている以上、進路で選んだ以上、
クリスマスにロマンチックな夜を過ごせるなどとは思っていなかった。
唯一の楽しみといえばやっぱり、くたくたで帰宅した時のフライドチキンとケーキくらいだった。
「ここのタルト美味しいですよね!すごーい!」
「ごちそうさまです!」
「ありがとうございますー」
「ありがとうございます、ごちそうさまです!」
「後で皆で食べてね」
- 109 名前:6 マイルスマイル 投稿日:2009/12/24(木) 20:21
- 恵里菜は周囲に合わせて笑いながら、微かな光に反応した。
優しく微笑むあさ美の左手薬指には半年前くらいからずっと同じ指輪があった。
いくら厳しい部活とはいえ、さすがに卒業生の恋愛にまでは干渉しないのだ。
あさ美はすっかりお洒落になって。髪も染めて、巻いて。
充実してますと、幸せそうに笑って。
恵里菜は二つにくくった自分の髪の毛先を見つめた。
ぱさぱさで、枝毛もすぐに見つかる。
あさ美はおっとりとした物腰とは裏腹に運動神経が良く人一倍努力家であったが、
プロで通用するかというと、難しい話であった。
彼女はそこで悩まずに、3年の春にいち早く部活を辞め、薬科大学を受けて合格した。
あさ美は成績もおおむね優秀だった。一年足らずの勉強で、狭き門をくぐった。
- 110 名前:6 マイルスマイル 投稿日:2009/12/24(木) 20:21
- それなりにマジになりながらも楽しく部活やって。
プロは無理そうだったら頭がいいから薬剤師になって。
大学で彼氏作って。
薬剤師になれば将来も安泰。
彼女は一般的に言えば勝ち組なのかもしれない。
恵里菜はぼんやりとあさ美を見ていた。
けれど納得はいかなかった。
恵里菜は、あさ美の一生懸命な姿をずっと見てきた。才能に溺れない努力の人だった。
そんなに簡単に諦められるものだったなんて思えなかったほど。
あさ美の姿に憧れて、ひたすら努力をし続けた自分が馬鹿らしかった。
- 111 名前:6 マイルスマイル 投稿日:2009/12/24(木) 20:22
- ふと、あさ美と目が合った。
幸せそうな笑顔は変わらない。
前会った時より少し化粧が濃くなったけれど。
「真野ちゃん、久しぶり」
「…お久しぶりです…」
真野ちゃんと呼ばれるとくすぐったくて、昔を思い出して嫌だった。
恵里菜はどこかあさ美に裏切られたような勝手な感情を抱いていた。
上手く目が合わせられずに俯く。
「相変わらず頑張ってるんだよね?北澤先生言ってたよ」
「…でも、やっぱり…プロは難しいと思います」
「そうかな、真野ちゃんずっと頑張ってるじゃん、実力も付いてきて、ムードメーカーだって」
「万が一、万が一プロになれても…日本の女子プロサッカーは弱いし、
中学男子サッカーにも馬鹿にされるような…そこでさらに向上を目指すのも、難しくて」
嫌な感情が恵里菜を支配する。
一度唇を噛んで、でも止められない。
- 112 名前:6 マイルスマイル 投稿日:2009/12/24(木) 20:22
-
「私もあさ美先輩みたいに、サッカー関係ない大学に進学しようかなって。
そこで、もっと安定した仕事に就くために勉強しようかなって。
……クリスマスも、女の子らしく過ごしたり」
すごい嫌味。
恵里菜は口にしてから苦いものを飲み込んだ。
この先の進路への不安も。
あっさりとサッカーの道を捨てたあさ美も。
理由があっても、あさ美に八つ当たりしていいはずがないのに。
- 113 名前:6 マイルスマイル 投稿日:2009/12/24(木) 20:22
- 「あのね、私」
優しい。
あさ美の声がする。
悔しくて泣いた時に、部の空気が悪くなった時に聞いた声。
「いまだに思うよ。やるだけやってみればよかった、って」
いつの間にかあさ美がボールを抱いている。
優しく包み込むように。
キーパーのあさ美が持つボールはいつも不思議と優しく見えた。
自分が抱きしめられているような感覚がある。
「私が、もともと失敗を恐れて本気でやらない人間だったから。
どれも中途半端で、それなりに出来て。ある程度いけば満足した気になって。
だって、入れ込んで入れ込んで失敗したら恥ずかしいし、怖いじゃん」
「……」
あさ美はめったに取り乱さなかった。
泣くことはたまにあったが、怒るところは見たことがなかった。
いつでも努めて冷静であろうとした。
全てさらけ出すようなことはしたがらなかったように見えた。
- 114 名前:6 マイルスマイル 投稿日:2009/12/24(木) 20:23
-
「でもやっぱり、一生懸命なりふり構わず頑張りたかった。
やりたいと思う一方で、でも、やらなかった」
苦く笑って、少しだけ強くボールを抱きしめる。
恵里菜は知っている。
あさ美がどれだけサッカーを好きだったか。
泣かなくても怒らなくても本当はすごく悔しかったのだということ。
誰よりも練習したのを知っている。
だから部活を辞めた時にあんなに悲しかった。
- 115 名前:6 マイルスマイル 投稿日:2009/12/24(木) 20:23
- 「本当の本当に何になりたかったかって、
それはやっぱり、スポーツの第一線で活躍することだったよ。
でも…無理だって、自分で見切りつけちゃったんだよね」
伊達に濃い時間を過ごしたわけでもないようで、
恵里菜はわずかながらあさ美の表情の奥がわかるようになっていた。
彼女の横顔からは悔しさがにじみ出ていた。
相反するように、ボールへの優しさがあふれていた。
「私が選んだこの道も、倍率の高い、一握りを選ぶ世界なのかもしれない。
わかっていても、自分の本当の夢に見切りをつけたことはずっと引っ掛かると思うな」
でも、笑うんだ。
あさ美は笑う。
彼女のプライドなのかもしれない。
- 116 名前:6 マイルスマイル 投稿日:2009/12/24(木) 20:23
- 「真野ちゃんは?」
「え?」
「迷ってるでしょ」
「……はい」
本当にこの人は。
何もわかってないような表情で鋭いところは変わっていない。
「…迷ってますよ。迷うに決まってます」
「そうだね」
「もしかしたらどんな道を選んでも後悔するのかもしれません。
私もそういうところあります」
「ふふ、そうだね」
「でも自分の人生ですから、誰かのせいにはしたくないですね」
「…うん!」
- 117 名前:6 マイルスマイル 投稿日:2009/12/24(木) 20:23
- ボールをパスされて、つい足でトラップした。
満足そうに笑っているあさ美。
恵里菜も目一杯笑って見せる。
「ん、真野ちゃんの笑顔大好き」
照れもせずいきなり褒められるから、恵里菜の頬が一気に赤くなる。
やはり変な所でマイペース。
「あさ美先輩!ケーキ持って帰って下さい。ちょっと余ったので」
「え、ほんと?いいの?」
ケーキ一つで信じられないほど嬉しそうに笑う。
やっぱりあさ美先輩は変わってない。
…呆れるほど。
それがたまらなく嬉しい。
恵里菜はこっそりと笑った。
- 118 名前:6 マイルスマイル 投稿日:2009/12/24(木) 20:23
- おわり
- 119 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:24
-
***
- 120 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:24
- 『もしもし。ごっちん。あたし、です。電話出ろよー。
あのタイムカプセル、開けるって圭ちゃんがききません。たすけて。
でも、ごっちんが来なきゃうちら開けないから。
あと変えたアドレス圭ちゃんに教えてあげて』
思いついたように喋っているけれど、何度か考えたような内容だった。
簡潔で無駄がない。
真希の知っている喋りはもう少し衣が多くて中身が不明確だ。
短い中で何をどう伝えるかを考えた喋りに聞こえた。
そんなの。
よっすぃーが気にすることじゃないのに。
電話に出ないあたしが悪いのに。
変わってないね、そういうとこ。
「…タイムカプセルって、今冬じゃん」
思い付きばっかりで、ちょっと抜けてるとこ。
- 121 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:24
-
***
- 122 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:25
- 「Buono!クリスマスライブ来てください!よろしくおねがいしまぁーす!」
「Buono!でぇーす!」
「よろしくお願いしまーす」
アマチュアバンドのライブのチラシだった。
ひとみはおろか圭ですら、ものすごいがっつきっぷりで渡されたので思わず受け取った。
握らされる勢いっていうのを持っている若者も珍しい。
あの一番小さい子は実は一番年上ぽいとぼんやり思った。
「…これ、手書きだ」
「しかもスペル間違ってる」
「うわ、やんなきゃわかんねーのに」
「それはよっしーだけだよ」
「えー」
sに思い切りバツをつけて上にcと修正されている手書きのチラシは、若さに溢れていた。
間違ったっていい。
やり直せばいい。
そのあとの直し方が乱暴でも、直ってればいい。
- 123 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:25
- 「こんな寒い中頑張ってるなぁ、若いねぇー」
「よっしーもまだまだ十分若いよ」
「んー、でももう24だよ」
「喧嘩売ってんの?こらー」
「うぁー」
首を絞められる振りも、何だか年季が入った。
そうだよ。出会った時には14だか15。もう10年経ったんだ。
10年あれば迷ったりぶつかったり失ったりもしたけれど。
掛け替えのない、と言えるものも手に入れた。
真希とひとみは中学から知り合った仲の良い友達だった。
真希の実家が経営する店にバイトとして入った圭。
三人は不思議なほどに打ち解けた。
真希とひとみは圭を姉のように慕った。
圭は二人を妹のように可愛がり、間違ったことはちゃんと叱った。
不器用だけれど心優しいという点で、三人はとても似ていた。
本当に、家族のようだったと思う。
- 124 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:25
-
***
- 125 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:25
- タイムカプセルは圭の住んでいるアパートの隣の公園に8年前に埋めた。
あの時に公園にあった遊具は、2年前に遊んでいた幼児が指を切断する事故を起こし、撤去された。
真希とひとみが夜乱暴に乗ってはしゃぎ圭にこっぴどく叱られたあの遊具はもうない。
もしかしたらタイムカプセルだって見つからないかもしれないし。
直接触れると冷たいので、コート越しに鎖を握り締め、ブランコをこぎ出す。
しかしすぐに浮遊感に三半規管が悲鳴を上げる。
「うえ、やっぱブランコきもちわりー」
「昔は平気だったのに、ある時から急に乗れなくなったよね」
「そうなの。昔は地面と平行になってても平気だったのにな」
「想像つくなー、よっしーのそういうの」
「でしょっ、へへ」
圭はひとみの笑顔を見るとほっとした。
髪形や体型が変わっても、ふとした時の笑顔は変わらない。
…あいつも、そうだと思うんだ。
「ごっちん来るかな?」
- 126 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:26
- 進路が変わり、真希は東京へひとり上京した。
生活の変化に伴い、連絡を取る回数も減った。
3人はそれぞれ日々忙しくなり、疎遠となっていた。
ひとみが独り暮らしを始めた時、たまたま圭のアパートの近くを借りた。
久しぶりに連絡を取り、成人したひとみは圭と頻繁に連絡を取り、飲みに行くようになった。
圭を通じてひとみに新しい知り合いが増えたり、逆もあった。
けれど、思いついた時に真希に連絡を取ってすぐに来られる距離でもなかった。
圭と真希とひとみと、3人がスケジュールを完全に合わせることはとても難しかった。
- 127 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:26
-
また3人で会おうね。
そう言って4年経過した。
次には3人だといいね。
そう言い続けながらまた4年経過した。
いつになったら3人で会えるだろうか。
会えば話したいことがたくさんある。
真希はそうではない?
「アドレス変更のメール来た?」
「あ、うん。ありがとう」
「ううん」
それでも繋がる。
電話には出ないくせに。
だから諦められない。
- 128 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:27
-
***
- 129 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:27
- 情けない話だけれど、自分が人の気持ちに鈍感だと気がついたのは本当にごく最近だ。
19くらいになった頃、ひとみが東京へ来た時。
ひとみは真希が知らない『親友』の話をした。
とても嬉しそうに。いとおしそうに。
環境の変化で、人当たりのいいひとみが新しい関係を築くのは何も不思議ではなかった。
真希の見ている限り本当に誰とでもうまくやれる人だった。
誰といても楽しそうだった。
それでも真希は自分がひとみの中でいつまでも一番特別だと思っていた。
けれど、驚くほど痩せて綺麗になったひとみと再会した時に、
そう思っていたのは自分だけだったのかもしれないと思った。
- 130 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:27
- 正直、疑問だらけだった。
自分に非があるなんて発想がなかった。
真希はひとみに全部話したし、全部飾らず見せた。
それ以上ない精一杯の友情表現だと思った。
後藤は元が優しいけど、相手を思いやることを知らないね。
言われて、ふいに歯車がかみ合ったように色々な事を思い出した。
ひとみはいつでも自分の意見の前に真希の意見を聞いた。
真希のやりたいようにやらせてくれた。
嫌な思いをさせないように頑張っていたのかもしれない。
真希が嫌な思いをしないことが当たり前になっていたかもしれない。
あたしは、よっすぃーが嫌な思いしてないかな、って考えたことあるかな?
圭ちゃんに甘えすぎてるな、って考えたことあるかな?
何も言わないことは、何も不満がないことなの?
それは違うみたい。
- 131 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:27
- 気がついた時、急に会うのが怖くなった。
本当はずっと自分といることが苦痛であったのではないかと思うと、人と関わることが怖くなった。
結果、自分から距離を置くことを覚えた。
言い訳だ。
傷つきながら人と人とはわかり合っていくのに、それから逃げだした。
会社の外を見下ろすと、皆一様にマフラーを巻いて肩をすくめて歩く。
…寒いな。
- 132 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:28
-
***
- 133 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:28
-
「あたし一時期ごっちんが許せなかった」
冷えた指を支え合うように重ねて握り締めながら、ひとみが呟いた。
「なんか、あたし自身がすごく弱ってた時だったし、ごっちんの素直さにイライラした。
何にも知らないでヘラヘラしてって」
「うん」
ひとみが素直に言葉を話す時、圭は不用意な言葉を発せなかった。
何か自分が触れればすぐに引っ込めてしまいそうなデリケートな部分を見せてくれている。
あまりに弱く折れそうに見えて、相槌を打つのすら少しためらった。
ひとみは困ったように笑う。
- 134 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:28
- 「その後にすぐ自分だけで決めて東京行っちゃって、それもやだった。
だからって避けていい理由になんかならないのに。
ごっちんのこと傷つけちゃった。ごっちんは何にも悪くないのに」
正しいことなどわからない。
おそらく真希も同じように考えているのではないかと圭は思う。
圭は、二人が上手く噛み合わないのを傍で見てきた。
気を遣いすぎるが故にすれ違っているのはもどかしかった。
口出しして、仲を取り持つのは簡単だった。
言いたいことは言えと、強制するだけで『取り持つ』ことは成立する。
しかし二人は向き合うと言葉を失くして立ち尽くすばかりだった。
圭は見ていて、誰かが口出ししてどうにかなる溝ではないことを感じ取った。
不器用だと知っていた。知りすぎていたほど。
自分が何も出来ないのは歯がゆいけれど、見ていようと決めた。
本人の口から出てくるまで傍で待とうと思った。
そして、互いの言葉が通い合った時に、たくさん祝福しようと。
- 135 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:29
- 「ごっちんが大切なことはあんま人に言えないって知ってたのに。
辛い時の方が平気っぽい顔になることも、わかってたのに。
あたしは自分でいっぱいいっぱいで」
誰も相手を責めた自分を責める。
繰り返すうちに正解できるのではないか。
ひとみは乗り越え大人になったようにも思う。
「ちゃんと謝ったことないんだ。ほんとに、最近になって、謝らなきゃって…遅いかな。もう」
「…遅いなんてことない」
何か言わねばならない。何を言えばいいかわからない。
内なる葛藤が、圭の顔には全部出ていたと思う。
ひとみがわかってる、と言いたげに笑った。
- 136 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:29
- 「でも、あたしが会いに行くだけじゃダメなんだなって思った。
会いに行った時に、ごっちんにも、なんか…何て言うんだろ?」
「…うん」
「ごっちんに、怒って欲しいの。あたしのこと、何なの?って、
本音…じゃないけど、あたしが避けるから何となく離れるじゃなくて、
あたしが避けることをやだって、言って欲しい」
「うん」
言葉をこぼすことが苦しい作業であるようだ。
苦味に顔をしかめたようなひとみの横顔に、圭の心もちくりと痛む。
「わかってるけど。すごく勝手だって、でも」
「そうかもね…」
「あたしもいっぱい逃げるし。けど、やっぱ…ごっちんとは、逃げたくないんだ」
同じ気持ち。
真希にも変化が必要だと、圭も思っていた。
手を差し伸べてあげるばかりでは気がつかない、同じことを繰り返す。
好きだからこそ、ここで待つ。
- 137 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:29
-
「…やっぱり…ごっちんのことが、大好きだ」
「わたしもごっつぁんが大好き」
好き、という言葉が響く。
嬉しくなる。
温かい気持ちがあふれて、笑顔になる。
「サンタさんサンタさん、クリスマスプレゼントにごっちんをください」
「とかいって25日の朝にごっつぁんが横で寝てたらどうするのよ」
「んー、着衣の乱れを確認する?」
「…笑いにくい冗談だね…」
今日は曇っていた。
雲の上でサンタがせっせとプレゼントの準備をしているのだろう。
真希が眠っている間にこの町まで飛ばしてくれればいいのに。
お願いします、サンタのおじさん。
- 138 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:29
-
「…サンタさぁーん!!!」
静かな夜に木霊する、酒が入った独身24歳の心からの声。
- 139 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:30
-
***
- 140 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:30
- 「後藤」
「はい」
「悪いけど、これ第二支社にすぐ運んでくれない?」
「あ、はい構いませんけど……第二支社って」
「後藤の地元でしょ?明日休みだし、これ渡してもらえればゆっくりしてきていいから」
「………うそ」
「ん?どうした、都合悪い?」
「……いえ…行きます!!!ありがとうございます!」
「?うん、いや…いつもお疲れ」
「お疲れ様ですっ」
真希は慌てて交通費と資料を用意し、コートを抱えて走り出す。
- 141 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:30
- 外はやはり寒い。
寒いけれど、コートを羽織る時間すら惜しい。
それまで迷っていたことが吹き飛んで、思い出が溢れ出す。
イルミネーションの電飾の一粒一粒に収めても
収まりきらないくらいの思い出が止まらない。
目の前がキラキラしている。
なんかすっごいプレゼントをありがとう、サンタさん。
- 142 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:31
-
「サンタさぁああぁーん!!!」
曇りの空の上でせっせと働いているであろうサンタに真希は感謝を込めて叫んだ。
泣きそうだけれど、最高な笑顔で叫んだ。
- 143 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:31
-
***
- 144 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:31
-
かじかむ手で開いたタイムカプセルには、
- 145 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:31
-
***
- 146 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:31
-
**
- 147 名前:7 頭の中、いろいろ 投稿日:2009/12/24(木) 20:32
- おわり
- 148 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/24(木) 20:34
- メリークリスマス。
とりあえずクリスマスまでに更新したい内容は全て掲載し終えました。
おつき合い頂きありがとうございました。
冬はまだまだ続きます。
- 149 名前:名無し読者 投稿日:2009/12/24(木) 23:02
- 久しぶりにこの3人が揃ってる動画見たくなりました
- 150 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/25(金) 04:02
- 6の意外な組み合わせが気になってた時期があるのでなんか読めてうれしかった
- 151 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/01/05(火) 18:55
- ほのぼの笑える話から少しビターな話まであって読んでいて楽しかったです
- 152 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/01/11(月) 01:36
- エッグの子は正直、分かんないんですが、どれも素敵な話でした!中でもかめよし・がきこは・まのこん・プッチは素晴らしかったです
- 153 名前:8 世界に一つのチョコレート 投稿日:2010/02/14(日) 01:37
- 現代。
日本のとある場所。
とある中学校での小さくて大きな出来事。
今年もバレンタインデーのシーズンがやってきました。
デパートでは様々なチョコレートが並び、
バレンタインの気持ちを高めるBGMが絶えず流れていました。
女の子が皆様々な表情を浮かべ、チョコレートを選びます。
色々な事情と気持ちを抱え、チョコレートに気持ちを託すのです。
その媒体を選ぶのもセンス。悩みどころではあるのです。
とくに、本命チョコが初めてな女の子は。
- 154 名前:8 世界に一つのチョコレート 投稿日:2010/02/14(日) 01:37
- 色々なパターンがありますが、
下調べから入念に行うべく本屋でレシピ本を探す子もいます。
ある本屋。
料理本コーナーに辿り着いた時、二人の女の子が鉢合わせました。
偶然にも、お互い良く見知った顔です。
「「……あ」」
出会ったのは、愛理ちゃんと千聖ちゃんでした。
- 155 名前:8 世界に一つのチョコレート 投稿日:2010/02/14(日) 01:37
- 「…何、邪魔しに来たの?」
「そんなんじゃないんだけど。いちいち突っかかってこないでよ」
「突っかかってるのはどっちよ」
「そっちでしょ?ていうか邪魔だから違う本屋に行ってよ」
「嫌よ。千聖が違う本屋に行って」
「まーいいよ。愛理には出来ないだろうから、あたしが譲る!」
髪を下ろした部活ジャージ姿の千聖ちゃんが、
三つ編み制服姿の愛理ちゃんに背中を向けました。
二人は同じ中学、同じ学年。
そして同じ人を好きになってしまったのです。
- 156 名前:8 世界に一つのチョコレート 投稿日:2010/02/14(日) 01:38
- 二人はふくれっ面で帰路につきました。
愛理ちゃんは運転手つきメルセデスで。千聖ちゃんは徒歩で。
ずっと帰路の間、もやもやとした気持ちとレシピブックを抱えていました。
他の人よりも、あいつにだけは言われたくない。
互いに、何故かとても相手が気に入らなくて仕方がないのです。
愛理ちゃんは、千聖ちゃんにだけは負けたくありませんでした。
千聖ちゃんは貧乏だし、男の子みたいにうるさくてがさつだし、
女子として負けている要素があると思ったことはありませんでした。
それなのに、千聖ちゃんは友達がたくさんいて、
いつもみんなの中心で楽しそうに笑っていました。
負けたくない。
私の方があの人を好きだから。
千聖には他にもたくさん友達がいるじゃない。
一緒に遊んでる男子で、千聖を好きな子がいるって聞いたし。
千聖よりもずっと、私の方がお似合いだもん。
「じいや!今すぐフランスのショコラティエを呼んで!」
- 157 名前:8 世界に一つのチョコレート 投稿日:2010/02/14(日) 01:38
- 千聖ちゃんもまた、愛理ちゃんにだけは負けたくなかったのです。
愛理ちゃんはお金持ちなのを鼻にかけてるし、
受けを狙った行動が寒すぎるし、雰囲気美少女なのは薄々感じています。
それなのに、頭がいいし、ひとつひとつの動きが上品で
本当に女の子っぽいと憧れてしまう気持ちがあるのは事実でした。
千聖ちゃんが前に好きだった男の子は、愛理ちゃんにメロメロでした。
負けたくない。
今度こそ、愛理には負けたくない。
あたしなんて、結婚だって考えてるんだから。
どうせお金持ちと結婚する愛理とは覚悟が違う。
愛理よりもずっと、あたしの方が頑張ってるもん。
「おばちゃん!あたしにお菓子作り教えて下さい!」
二人は考えました。
自分にしか作れないチョコレート。
あいつには絶対作れないチョコレート。
- 158 名前:8 世界に一つのチョコレート 投稿日:2010/02/14(日) 01:38
-
***
- 159 名前:8 世界に一つのチョコレート 投稿日:2010/02/14(日) 01:39
- 愛理ちゃんはフランスの有名なショコラティエと一緒に色々なものを試しました。
チョコレートとはとても繊細で、思春期の女の子のようだと言われました。
さまざまな個性がある。
同じ方法で接することは出来ない。
甘やかすだけでは良さを引き出せないし、
だからといって少しでも手を抜けば一気にそっぽをむいてしまう。
だからこそ魅力的だし、素晴らしいお菓子なんだと。
『アイリもチョコレートだよ』
『……私も…?』
『そうさ。とっても魅力的なチョコレートだよ。
そして、君のお友達にも色々なチョコレートがいるだろう。
ほろ苦くて大人っぽいビター、甘くて優しいホワイト、
チョコレートの中にシャンパンソースを閉じ込めた不思議な魅力のボンボン』
フランス語の聞き取りなど朝飯前の(朝にはライ麦パンと決めているけれど)
愛理ちゃんは、ショコラティエの優しい笑顔と共に、学校の友達を思い浮かべました。
- 160 名前:8 世界に一つのチョコレート 投稿日:2010/02/14(日) 01:39
- 見かけは大人っぽいのに子供みたいなところがあるえりかちゃん。
見かけは幼いのに大人っぽいところもある舞ちゃん。
厳しいところもあるけど、ちょっと間抜けなところもある愛ちゃん。
爽やかで真っすぐで天然で裏表がない舞美ちゃん。
真面目だけど不思議な魅力があって、女の子らしい早貴ちゃん。
元気いっぱいだけど時々すごく大人っぽくて綺麗な栞菜ちゃん。
『君が苦手だと思うチョコレートがあるように、
苦手な友達もチョコレートだと思うと、少しは優しく出来そうじゃないかい?』
苦手な人。
苦手なもの。
…。
千聖も、チョコレート。
千聖を例えるならば、クランチをたくさん入れたチョコレート。
弾けるような明るさと、優しさを持っている。
…困る。
クランチチョコレートは大好きだから。
- 161 名前:8 世界に一つのチョコレート 投稿日:2010/02/14(日) 01:39
-
***
- 162 名前:8 世界に一つのチョコレート 投稿日:2010/02/14(日) 01:39
- 千聖ちゃんは近所のケーキ屋さんにお菓子作りを教わることにしました。
おばさんの作るケーキは優しい味がして、
クリスマスや誕生日にはいつもここのケーキを食べることが楽しみでした。
「チョコレートってさ、湯せんで溶かして型に入れれば何とかなると思ってない?」
「へ?うん」
「でもさ、その単純な作業も基礎からしっかりやってあげないと、
仕上がりが全然変わってくるんだよ」
「そうなの?」
「気持ちがこもっていれば味なんてとか言うけどさ、
相手に一番美味しいものを食べてもらいたいって思うのも気持ちだと思うんだよね、私は」
おばさんが優しく笑うので、ここのケーキがなぜ美味しいのかがよくわかりました。
ケーキ一つ一つに、おばさんの思いやりが詰まっているから。
- 163 名前:8 世界に一つのチョコレート 投稿日:2010/02/14(日) 01:40
- 「だからこそ、基礎からみっちりやれば、きっと初心者でも
すごく美味しいチョコレートが作れると思うんだよね」
「…うんっ」
「で?その愛理ちゃんだっけ?お金持ちの子」
「愛理が何?」
「その子、チョコ作るんだ」
「多分、本を買いに来てたから」
「偉いねー、ちゃんと作ろうって思ったんだ。ただのお金持ちじゃないね」
「?」
「いい材料は、いい料理の手伝いでしかないからね」
千聖ちゃんには、少し難しい含みでした。
「言っておくけど、チョコ作りはすっごく大変だよ?頑張れる?」
「…が、頑張れるよ!よろしくお願いします!」
千聖ちゃんは思ったよりも奥の深いチョコレートに向かいながら、
先ほどのおばさんの言葉を思い出していました。
愛理ちゃんはただのお金持ちではない。
そうかもしれない。
なんかよく男の子同士で恋愛してる変な漫画を読んでるし、
河童がどうたら言ってるし、カラオケで何か変な歌が大好きだし、
こんなあたしをちゃんとライバルだって思ってくれているらしい。
- 164 名前:8 世界に一つのチョコレート 投稿日:2010/02/14(日) 01:40
-
そして、いよいよバレンタイン当日。
- 165 名前:8 世界に一つのチョコレート 投稿日:2010/02/14(日) 01:41
- 「…おはよ」
「おはよ…」
愛理ちゃんも千聖ちゃんも寝不足でした。
今まで、思っていたよりもずっと奥深いチョコレートにかかりっきりだったせいです。
正直もうチョコレートはしばらく見たくないですが、
前よりもチョコレートは好きになったような気がします。
ふと千聖ちゃんの視界に白いものが目に入りました。
愛理ちゃんの指から手首にかけてがっちり包帯が巻かれていました。
「愛理、怪我したの?」
「怪我っていうか、火傷。じいやが大げさなのよ」
そう言って、愛理ちゃんは鬱陶しそうに包帯を外しました。
いつも汚れや怪我を気にしている愛理ちゃんとは思えない発言でした。
いや、もしかしたらじいやが心配するから
怪我などしないようにしていたのかもしれません。
「これ」
「え?」
「千聖の怪我の方が深いじゃん。不器用だよね本当に」
「う、るっさいな」
愛理ちゃんは、千聖ちゃんの怪我をした手に絆創膏を貼り、
自分に巻かれていた包帯を千聖ちゃんに綺麗に巻き直しました。
- 166 名前:8 世界に一つのチョコレート 投稿日:2010/02/14(日) 01:41
-
「……ありがとう」
お互い大変だったからこそ、互いの苦労がわかりました。
「うらみっこなしね」
「それには賛成だけどさ、不公平だと思う」
「は?なんでさ」
「もしふられても、千聖ならきっと明日には忘れてそうだし」
「バカって言いたいの?」
「でも、それっていいところだと思うよ。いつまでも悲しい気持ちでいるより」
いきなり愛理ちゃんに褒められたのかよくわからないことを言われ、千聖ちゃんは焦りました。
「…愛理だって、手先器用じゃん…」
「……手先が器用でも、友達は出来ないよ」
「…愛理のこと好きな男子とか、いっぱいいるよ」
「友達じゃないもん…」
- 167 名前:8 世界に一つのチョコレート 投稿日:2010/02/14(日) 01:41
-
何となくわかっていたけれど。
きっと自分はこの人がうらやましいんだと、悔しいけれど素直に認めることにしました。
そして新しく思ったこと。
もしかしたら、相手にとって、自分はうらやましいのかもしれない。
誰かにはこのどうしようもない自分にもよく見える部分があるのかもしれない。
そう思うと、自分のことも好きになれそうでした。
- 168 名前:8 世界に一つのチョコレート 投稿日:2010/02/14(日) 01:42
-
***
- 169 名前:8 世界に一つのチョコレート 投稿日:2010/02/14(日) 01:42
- 二人がそれぞれ渡したチョコは、偶然か必然かとてもよく似たものでした。
シンプルだけれど、その味は格別。
そっくりだけれど、世界にたった一つのチョコレート。
勿論、それを二人が知る由もありません。
バレンタインが終わった後すぐに、愛理ちゃんでもない千聖ちゃんでもない
可愛らしい彼女がチョコを渡した彼に出来たことはちょっと寂しかったのですが、
二人はなんだか少しだけ大人になれたような気がしました。
- 170 名前:8 世界に一つのチョコレート 投稿日:2010/02/14(日) 01:42
- おわり
- 171 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/14(日) 01:45
- ハッピーバレンタイン。
>>149
>>150
>>151
>>152
ありがとうございます。
- 172 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/18(金) 17:13
- 鈴木さんも岡井さんも可愛い
どのお話も好きです
ゆっくり待っています
- 173 名前:9 きっと言語の代替品 投稿日:2011/12/06(火) 14:46
- 「……んー…ねぇ、みやぁー」
「ん?」
「眠い。寝る」
「え」
「おやすみー」
「ええー?…ちぃ、ちーぃー」
「………」
「………まじで?」
お喋りもいつもよりスローテンポで、ちょっと眠いのかもなんて思ってたら。
ちぃはガールズトークの真っただ中に急に目を閉じて寝息を立て始めた。
うそでしょ、と思ったけどもうこれ起きないな、と思った。
全く、さっきのお弁当絶対食べすぎだったもん。
「…はぁ」
とはいえ眠ってしまっては仕方ない。
さっき思い出した昨日の話も、眠い人を起こして話すほどの内容ではない。
自分の膝にかけていたブランケットをそっとちぃの肩からかけて、そっとその場を立ち去る。
あたしも眠ってしまおうかと思っても、今は別に眠いわけでもないし。
ブーツをコツコツ鳴らしながらあてもなく、何となく向かった先。
ついたての向こうにいる熊井ちゃんの頭がはみ出てる。楽しそうな話し声が聞こえる。
視線を右へ動かすと、少し先のソファに一つの人影。
- 174 名前:9 きっと言語の代替品 投稿日:2011/12/06(火) 14:46
- 遠目にもわかる。
…あれは、桃だ。
ベリーズは比較的全員が固まったり、
あるいはかっちりと行動するメンバーが分かれたりはしないので、
一人で過ごす子も多い。
その中でも特に桃は、常に誰かとつるんでいたいあたしとは違うんだと思う。
ゆっくりと近づいて行っても、気づかれる様子がない。
更に歩み寄って。
「桃ー、…あれ」
なんとこっちまで眠っていた。
うとうとって感じでもなさそうだ。うつむいて音もなく眠っている。
大きな声を出そうとして、やめた。
最近は特に、桃の眠っている姿をよく見るような気がする。
前にもそんなことがあった。
あれは、桃が大学に進学することを決めた時。
撮影やイベントの合間にうとうととしているのを見て、
忙しいんだな、と思いながらも、あたしは気の利いた言葉なんて何も言えなかった。
どこかで、桃がそんな大切なことをあたしにも言わず一人で決めたことに腹を立てていて、
なんだか気に食わなかったっていうのもある。
桃の人生なんだから、桃がどうしようと自由だと頭ではわかっているつもりなんだけど。
- 175 名前:9 きっと言語の代替品 投稿日:2011/12/06(火) 14:46
- そして最近は、桃一人での仕事が増えた。
桃は弱音を吐かないし、疲れた様子なんて全然見せないで頑張るから。
ふと忘れてしまいそうになる。
ベリーズの活動をして、一人でテレビの収録をして、アンケートや写真の書きものをして、
それから大学の勉強をする。
そんな大変なことをしているなんて見せないから。
でも、やっぱ、絶対、大変だよね。
…弱音を吐いて、なんて、そんなのなんか、言えないし。
でもやっぱ無理はしないで欲しい。
羽織ったスタッフジャンパーの足もとがはだけてて、見ているだけでなんだか寒そう。
傍にあった誰かのスタッフジャンパーをゆっくりと足元にかける。
寝起きも良くって、少しの音でも起きやすい桃だから
かなり慎重に行動してもすぐに気付かれることが多いんだけど、
膝の上にジャンパーをかけ終わっても桃はぴくりともしなかった。
かなり熟睡みたい。
- 176 名前:9 きっと言語の代替品 投稿日:2011/12/06(火) 14:47
- ぴたりと閉じられたアヒルの赤ちゃんみたいな唇からは
いつものやかましい声は聞こえない。
薄い化粧で、眠っていると一層生気がなく見える。
寝顔は普段からは想像もつかないほどに実は少しシャープで辛口なつくり。
その寝顔に外側に毛先がはねたツインテールが妙な違和感。
変な髪型。
若づくりしちゃって。
化粧、もっとしなよ。
なんて、心だけで思ってみる。
桃子には、肝心なことは何一つ言えないくせにキツいことばっかり言うけど、
いつも何を言ったって桃は笑ってる。
どんな風に扱われたって、桃は泣かないし、折れない。
そのはずなのに、なんだかたまに不安を感じたりする。
いつも笑っていつもウザくていつもぶりっこ。
でもいつも誰よりストイックでいつも自分に対して厳しくて。
いつもファンには優しくて。
そんな当たり前にあるはずの桃が、壊れてしまいそうな不安。
なんの根拠もないただの思い込み。
たまにあたしの中をいっぱいに埋め尽くすわけのわからない恐怖。
- 177 名前:9 きっと言語の代替品 投稿日:2011/12/06(火) 14:47
- じっと真面目にリハーサルを行う桃子の横顔。
何かを考えて、そっと目を伏せる無表情。
体調が悪かった時にふと舞台裏で見せる悔しそうな後ろ姿。
その全部を包み込んで笑うステージでの一瞬一瞬に懸けている姿。
ある日突然気がついてしまった瞬間から、
桃を目で追っていたことに気がついたのはいつだっけ。
悔しいくらい、桃はいつの間にかあたしを惹きつけていた。
照れくさくてどうしても言葉になんかならないけど。
眠る桃の隣に腰掛けてただじっと寝顔を見つめているだけで、
すごい勢いで忙しくパンクしそうなほど色々考えてしまう、
こんな気持ちを存在する単語に当て嵌めたところで現状が変わりはしない。
もどかしくて、…いとおしいんだ。
自覚したって言葉には出来ない。
もも、と唇と心だけで呼んだ。
桃は動かない。
ふと、色のない頬はもしかして陶器みたいに冷たいんじゃないか。
このまま桃は二度と動かないんじゃないか。
やっぱりわけのわからない不安感。
なんでだろう?
なんでこんなに怖くなっちゃうのかわからない。
- 178 名前:9 きっと言語の代替品 投稿日:2011/12/06(火) 14:47
- 急に手からこぼれおちそうになった桃の存在を確認したくて、思わず伸ばした手が直前でためらう。
桃は、桃でしょ?
そうだよね?
いつだって、あたしの近くにいるでしょ?
ずっとくっついてなくても、あたしの認識できる範囲にいるよね?
よくわかんないけど、たまに不安になるよ。
言わないけど。
言えないから。
叫びたいような泣きたいような気持ちは、臆病と気にしいが押さえつける。
限りなく触れそうで触れない距離にある指先から、ほんのりと桃をまとう空気にある温度を感じる。
触れたい。
優しく。
触れさせて欲しい。
…ああ、ダメだ。
もうわけわかんない。
起こしてしまわないようにここを離れよう。
誰かと話していればきっと気も紛れるはず。
さっと立って背を向けると、くい、と羽織っている上着の裾をつかまれた。
- 179 名前:9 きっと言語の代替品 投稿日:2011/12/06(火) 14:47
- 「!!」
驚いて振り返る。
まだうとうととしたまま、桃がしっかりとあたしをつかまえていた。
「…桃っ」
「……どこいくの、みーやん…」
かすれた声と無表情。
どこまでも深く黒い瞳があたしをまっすぐとらえる。
ただの一人の人間でしかない桃はいつもとのギャップのせいか、
危なっかしいほどに無防備に見える。
「ごめん、起こしちゃった?」
横に座り直して顔を覗き込む。
すると桃は少し眠気を振り払うように、否定も込めて首を振った。
「んーん、みーやんの夢見て」
「え?」
「みーやんが桃から離れて行っちゃう夢、それで、目が覚めた」
じっと見つめて、なんか、顔の形は笑ってる、っていうものだけど。
ねえ桃。
どうして、その笑顔は下手なの。
温度の低い表情で見つめられると、胸の奥がじくじくじわじわ、何だか変な感じになる。
- 180 名前:9 きっと言語の代替品 投稿日:2011/12/06(火) 14:48
- 「そっか」
そっけない返事。全然ダメ。
どう言えば桃が笑ってくれるのかわからなくて悔しい。
笑ってるようなそうでもないような顔のままで、軽くうつむいた横顔の桃が言葉を続けた。
「怖かったけどねぇ、なんか」
「ん?」
「みーやんは離れていってるのに、『これは夢だよ』ってみーやんが近くで言ってくれてるの」
「なにそれ、あたし二人いるの?」
「そう、桃が見てる夢の中のみーやんと、夢を見てる現実の桃の傍にいる、このみーやんは違うでしょ?」
「うん」
「最初は怖かったけど、少しずつ自分で、これは夢だって思い始めてね」
なんとなくわかるようなわからないような感覚。
夢の中で夢だとわかる感覚。
低いままのトーンの声を聞いていると、ゆっくりと顔が上がって目がしっかりと合う。
「そしたらだんだん夢の中なのにみーやんのにおいがして…
あれみーやんだぁーって。そこで起きたら、ほんとにいたから。
なんかすごいうれしかった」
桃の目がゆっくりと細められて。
欲しかった笑顔がまっすぐに注がれて。
- 181 名前:9 きっと言語の代替品 投稿日:2011/12/06(火) 14:48
- 「…っ」
こんなの慣れっこなはずなのに、いちいち恥ずかしくてたまらない自分が情けない。
「みーやん、耳赤いよー?あっもしかして桃の可愛さに照れちゃったー?」
「ばっ、そんなわけないでしょっ」
そう言いながら、自分の耳や頬が熱くなっているのはわかった。
悔しい。
桃の前じゃ、結局強がりも何もかもばれてるみたい。
でも例え全部バレてたって、やっぱり言えないんだけど。
「さくらんぼみたいだよ、耳たぶ」
そう言って素早く伸びてきた桃の手があたしの左の耳たぶに触れる。
手つきがなんだかやさしくて、なんだかやらしくて、余計に熱が生まれてくる。
くすぐったい。
なのにゾクゾクして気持ちいい。
恥ずかしい。
- 182 名前:9 きっと言語の代替品 投稿日:2011/12/06(火) 14:48
- 「ふふ、みーやんかわいいね」
「何言って…っ」
ゆっくりと伸びてきた腕が首に回って、桃の顔が近づいてくる。
思わずすくませた肩だってきっとばれてる。
桃に包まれると、当然桃のにおいがする。ほんのり甘くて安心するにおい。
ふんわりとした感覚を感じていると、唐突に、耳たぶが温かいなにかに挟まれる。
「!」
びくっ、としたあたしにもお構いなしに、続けざまにざらっとした湿ったものになぞられる。
「やだ…!」
「だって、みーやんの耳たぶおいしそうなんだもん」
熱い息が耳の奥まで入ってきてそのまま脳みそを溶かしていきそう。
ぞわぞわ。どきどき。くらくら。ふわふわ。じわじわ。ずきずき。
ああ、このままきっと食べられてしまう。
そんなわけのわからない感覚に身体の力が入らなくなる。
怖い。
でもやめないで。
- 183 名前:9 きっと言語の代替品 投稿日:2011/12/06(火) 14:48
- ぼんやりと目を開けると、どこまでも青白い首筋が目の前にある。
誘われるように鼻先でそっと触れると、桃の体温がじわりと伝わった。
熱くて、さっきより桃のにおいを強く感じる。
桃はここにいる。
確かめるように小さな身体を抱きしめる。
けれど頼りないあたしはどこかすがりつくような抱擁。
桃の心音が響いているのしか聞こえない。
自分の心音だって同じくらいなはずなのに、変なの。
抱き合って、沈黙。
その間ずっとずっと、色んなことが止まらずに次々と生まれては消えてまた生まれて。
同じことがさっき生まれてた気がするけどよくわからないまま素早く次の言葉が浮かんできて。
ずっと桃のことが、桃とあたしのことが頭の中で巡ってる。
それなのにやっぱり何も言葉にならない。
何も言葉にしてない。
どうしたらいいのかわからない。
だけど自分の気持ちははっきりしてる。
ごめんねも大好きも。
- 184 名前:9 きっと言語の代替品 投稿日:2011/12/06(火) 14:49
-
きっと言葉の代わりに、桃は優しくキスをくれる。
きっと言葉の代わりに、あたしもキスを返す。
きっと言葉の代わりに、見て、触れて、感じて。
それで、あたしは泣きそうなほど満たされてしまうから。
それで、桃の頬がチークをさしたように染まるから。
それで、きっとあたしたちはつながってるから。
- 185 名前:9 きっと言語の代替品 投稿日:2011/12/06(火) 14:49
-
互いを縛る約束や関係の言葉はなく。
やがて撮影が再開されれば、何もなかったかのようにして。
桃はいつもの桃で。
あたしもいつものあたしで。
途中少し目が合って、何もなかったように目線を外して。
撮影が終わればあたしは元気になったちぃと笑って。
桃は梨沙子と話してて。
必要ならば会話はするけれど、大切なことはきっと言わないまま。
それで、今日もきっと言葉の代わりに桃と抱き合って眠る。
- 186 名前:9 きっと言語の代替品 投稿日:2011/12/06(火) 14:49
- おわり
- 187 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/06(火) 14:52
- お久しぶりです。
今回は諸事情によりみやももです。
こういうなんかベタベタした感じのを久々に書いたため
今までどういう風に書いていたのか忘れてます。
とはいえベリは全然書いてないのでベリヲタさんには違和感があるかもしれません。
わたしの思ったみやももはこんな感じということで許してください。
最近はフリースレで「おい しい も の」というのを書きました。
9期10期これから期待してます。
保田さんおたおめ&中澤さん結婚おめでとうございます。
>>172
こんな沈黙のスレに久々に来たらレスが!
驚きましたと同時にとてもうれしいです、ありがとうございます。
長々と言いわけを残し、ではまたいつか。
- 188 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/06(火) 19:25
- なんと、フリースレで「お、いいな」と思った作品の作者さんでありましたか
フレッシュでキャラも個性的でほのぼのしてて可愛いですよね
みーやんという呼び名が懐かしいです
でも、これはこれで全然ありだと思います
ももみやご馳走様でした
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