mini
1 名前:名無し 投稿日:2009/01/11(日) 01:42

ちょう短編書いていきたいと思います。
べりきゅうちゃん中心です。
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/11(日) 01:43



3 名前:1.うそ 投稿日:2009/01/11(日) 01:43


ひとつめはりしゃみや
4 名前:1.うそ 投稿日:2009/01/11(日) 01:44


大好きな人といると、たまに小さな嘘をついてしまう。
理由は、照れ屋でやさしいあの人と、なるべくくっついていたいから。

5 名前:1.うそ 投稿日:2009/01/11(日) 01:48

一歩ペタリ、と踏み出した。途端に足の裏からフローリングの氷の
ような冷たさが背中まで伝わってくる。
「つめ、た、い。」
つま先立ちでぴょんぴょんとベッドに向かい、うつ伏せで肘を付い
て雑誌を読んでるその背中に飛び付く。ドス、と鈍い音がした。

「おーもーいー。」
そこまで感情が入っていない抗議の声が下から挙がる。雑誌に夢中
って感じの生返事。体重がかからないように、みやの体を挟む形で
両足を下ろす。上半身ではぎゅっと抱きついて、みやの体温を少し
分けてもらう。本とはくっつきたいだけってばれないように、さむ
いようと小声で呟いてみた。
顎をみやの肩に乗せたら、首の後ろ辺りからふわっと花のような香
りがした。いつもみたいにだらしなく口許が緩もうとするのを必死
で堪える。だって今笑っちゃうとほっぺが首にあたってみやにばれ
ちゃう。
6 名前:1.うそ 投稿日:2009/01/11(日) 01:48

「なあに読んでるのー。」
聞きながら雑誌を覗き込んだ。
派手な化粧をしたお姉さんたちが、冬物を着込んでポーズをとって
いる。左側5センチの距離にある横顔を伺うと、真剣な瞳がそこに
視線を落としている。これはかまってもらえないな。そう判断をし
て、みやの右側に体をどかした。
ここでみやみや呼び続けたらうざいって怒らせちゃうもん。大人し
くしてよう。
軽く回りを見渡したら、今みやがみてる雑誌の前月のものが落ちて
いた。あれ読みながら待つか、と手を伸ばして、隣で読む人とおん
なじ姿勢になってページをめくった。
適当にペラペラめくっていく。けれども、自分の買うような服の系
統ではないのであまり興味がわかなかった。
しかし隣からはあたしが五ページくらい進むとやっと一ページめく
る音がする。
7 名前:1.うそ 投稿日:2009/01/11(日) 01:49

後ろの通販のページも一応開いてみた。もう終わってしまう。読む
為に捲るというよりは手を動かして一枚一枚捲っている、というよ
うな行為。
ぺらぺらと滞りなく、ついに最後まで進んでしまう。裏表紙を閉じた。
ちら、と隣の様子を探る。相変わらず真剣な眼差しで雑誌と向き合っ
ている。……うん、やっぱり邪魔できそうにない。
しょうがないからも一度読もう。今度は細かい字も全部読んでやろう、
意気込んで雑誌をひっくり返して表紙に向き直した。

「あはははは!」
瞬間、左耳から大笑い。びっくりして体ごと跳ねる。
「りさこ飽きてんでしょ、いいよ二回も読まなくて。」
振り向いたらみやがこっちを指差して笑っていた。うわ、はずかしい。
「ごめんね相手してなくて。おいで。」
ん、と肘の間にあった雑誌をよけて、みやはこっちに向かって腕を広げた。
8 名前:1.うそ 投稿日:2009/01/11(日) 01:49


気づいてくれてたのが嬉しくて、あたしそんな構って欲しそうだったかな、
と思うと恥ずかしくて、なんだか変な表情になってしまう。隠すためにさっ
とみやの首筋あたりに額を押し付ける。香水の匂いがさっきよりたくさん薫
って、あたしの胸に届く。

みやの腰に抱きついたら、まださむいかな、そんな声が上から降ってきて回さ
れた腕に力が篭る。
こっくり首を上下させたけどもう体は十分すぎるほど暖まってた。
9 名前:1.うそ 投稿日:2009/01/11(日) 01:50

おしまい。
10 名前:2.あなたは生きている 投稿日:2009/01/11(日) 01:51

11 名前:2.あなたは生きている 投稿日:2009/01/11(日) 01:51


つぎはうめくまで・・。
12 名前:2.あなたは生きている 投稿日:2009/01/11(日) 02:00


むき出しの肩口に唇を付けると、喉の奥のほうから出たような
声が上がる。
ちょっと舌を出して舐めるとんっ、てまた詰まったような声。
そのまま鎖骨をなぞって中心あたりまで行く。おでこのあたりに
熱い息がかかる。
顔を上げたらちょっと赤くなった頬と、うっすら汗ばんでいる額、
眉間によった皺が見えた。その下にある瞳はかたく閉じられている。
13 名前:2.あなたは生きている 投稿日:2009/01/11(日) 02:01


きれいだ。

どの部分も綺麗。こんな行為をしていても、熊井ちゃんは綺麗。
とっても綺麗。
左手で頬をそっと撫でると、目が開いた。ばっちりと目が合う。
熊井ちゃんは少し微笑んで、うちの首を掴んでキスをした。
ちゅっ、と触れるだけのキスで離れる。目を合わせて、もう一度
口付ける。離れて、今度は舌を深くまで入れるために角度を調整
して口付ける。
くすぐるみたいに熊井ちゃんの舌を舐める。控えめにだけど熊井
ちゃんはおんなじ動きをしてくれる。それに夢中になっている彼女に
ばれないように左手を下ろしていって、胸の膨らみを捕らえた。あっ、
と声がでて、唇が離された。口の中にどっちの唾液かわからないものが
溜まってきたので、飲み込む。それからすばやく頭を下げると、空いて
いる右側の胸の先端を舐め上げる。
14 名前:2.あなたは生きている 投稿日:2009/01/11(日) 02:01

「ああっ。」
その声に勢いが増す。舌先で転がしているうちに徐々に硬くなってきた。
円を描くように周辺を舐めてから、中心を軽く甘噛み。
熊井ちゃんは腰からびくんと跳ね上がった。するりと手を下ろしてその腰を
抑える。

「熊井ちゃん……。」
呼び声に反応して、瞼を上げてくれた。
とろんとした瞳で上目遣いをする彼女は、こういうときしか見られない。
少し荒くなった息に胸が上下していた。
15 名前:2.あなたは生きている 投稿日:2009/01/11(日) 02:02

その存在すべてが、どこを切り取っても、どの瞬間でも美しい。爪先から
頭のてっぺんまで目で辿って、脳に焼き付けたくなる。美術の彫刻を思い
出させる圧倒的な造形美。
思わず溜め息をつく。
「あんまり、見ないで。恥ずかしいよ。」
熊井ちゃんはそっぽをむいて言った。
「だって綺麗なんだもん。」
耳元に口を寄せてささやく。
「そんなことないし。えりかちゃんのが、きれ」
これはお互いの決まり文句。でも今日は熊井ちゃんの台詞を途切れさせて
しまった。
言い切るまで我慢できなくてうちが首筋に噛み付いたから。
右手はするする体を辿って降りていって、彼女の体の中心へ。さらりと一度
四本の指で撫で上げる。ぬるりとした感触。
16 名前:2.あなたは生きている 投稿日:2009/01/11(日) 02:02

うん、十分。
一番長い指で濡れているとこを優しく撫でて、押す。
甘い声が耳元でして、脳内に響く。胸が切なくなって、お腹の辺りが熱くなる。
「熊井ちゃん、大好き。」
言葉と同時に、彼女に進入した。
「ん、えりかちゃ、大好きだよ。」
途切れ途切れのお返事が届いた。嬉しくて頭がかき乱される。お返しにと中指を
ぐるりと掻き回す。
甘い声。甘い声。甘い声。胸が痛い。
彼女の表情。苦しそう。ねえでもやっぱり、綺麗。こんなに綺麗なひとは
どこにもいない。
指が熱くなってきて、それと同時に熊井ちゃんの呼吸のペースはどんどん
速くなる。
17 名前:2.あなたは生きている 投稿日:2009/01/11(日) 02:04
指先に力を込めて、また少しスピードを上げる。
ねえ熊井ちゃん、なんでだろう。最近のうち、おかしいんだ。いつも
この瞬間、あなたを壊したくなるんだ。
頭の中に浮かぶのは、この目の前の細い首を掴んで思い切り力を込める自分。
笑いながら泣いている自分。冷たくなっていく腕の中の体。
そこまで妄想すると
「あっ、えりかちゃ、も、だめ。」
そんな声が聞こえて、現実に引き戻される。ぎゅっと指を締め付ける感覚。
熊井ちゃんから体の力が抜けて、滑り落ちていった。ゆっくりと指先を
抜くと、とろとろしたものが指先まとわり付いてきた。
さっきとは逆に熊井ちゃんの呼吸のペースが徐々に落ち着いていく。
18 名前:2.あなたは生きている 投稿日:2009/01/11(日) 02:04


うちは狂っているのかな。さらさらの髪に指を通しながら考える。
こんなことを思っているなんて言ったら泣いてしまうだろうな。
ひいてしまうだろうか。笑い飛ばしてくれる?

「何で笑ってんのー。」
もう、という声と同時に頬をゆるくつねられた。
「あいたっ。」

いや、どっちでもないな。きっと。

「いや、可愛いなーと思って。」
この子は怒る。本気で。

「なにいってんのさ!」
こんな風に可愛くね。

熊井ちゃんは彫刻でも石膏でもなくて、生身の人間。
こんな当たり前のこと。忘れさせるぐらい綺麗なだけ。
19 名前:2.あなたは生きている 投稿日:2009/01/11(日) 02:04


「熊井ちゃん、美しさは罪だねえ。」
余計に怒らせるのをわかっていたけど暢気に呟いて、
にっこり笑っておいた。
案の定大きな平手が降って来た。
20 名前:2. 投稿日:2009/01/11(日) 02:05

おしまい
21 名前:2. 投稿日:2009/01/11(日) 02:05
いちおう隠し
22 名前:2. 投稿日:2009/01/11(日) 02:05


えんじょい!
23 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/11(日) 20:11
りしゃみや萌え
24 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/11(日) 21:06
いい雰囲気
25 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/12(月) 01:50
ベリキューのキレイどころのうめくま最高でした(>_<)
26 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/12(月) 13:14
定番のりしゃみや、マイナーなうめくま最高です。 次の更新も楽しみです
27 名前:名無し 投稿日:2009/01/13(火) 10:11
急に学園もの。
続きそうです。

とりあえず雅と桃子。
28 名前:school ◆tsGpSwX8mo 投稿日:2009/01/13(火) 10:16
時計の針がぴたり午後四時半を指し、きーんこーんかーんと
チャイムが鳴ったと同時に、誰よりも先に席を立つ。

「みや早いよ!」
「や、嫌な予感がして。」

隣の席の千奈美が笑ながら突っ込んできたけど、この
予感は当たる。
てゆうか、なんか遠いところから声が聞こえたような
気がする。
でも敵は一つ下の階で同じように授業を受けていたんだ。
こんなに早く突撃してくるはずはないから幻聴だ。
そう幻聴幻聴。納得したら早く逃げなきゃ。幻聴が現実になる前に。
29 名前:school ◆Mjk4PcAe16 投稿日:2009/01/13(火) 10:17


「……ゃーん。みーやーーん!」
「うわ来た!」
あの特徴ある声。高くて甘い声。明らかブってる声。
お財布とメイク道具と携帯くらいしか入ってない薄っぺらい
鞄をひっつかんで走り出す。

「じゃねっちい!」
挨拶はクラスの後ろの引き戸を開け放ってから叫んだ。

「あっみーやん!」
「げっ近い!」
30 名前:school 投稿日:2009/01/13(火) 10:18

なんと既に敵は隣のクラスの前まで接近していた。
危ない危ない。

「おはようこんにちは今日も好きだよ!一緒にかえろう!」
「やだ!」

1日分の挨拶をすべて言い告白とかさりげに混ぜつつ、
誘いながら走り寄ってくる敵をまずは一言でばさりと切る。

「もぉ、可愛いカフェ見つけたんだぁ〜。みーやんと行きたい。」
余裕綽々と言った感じで無視され交わされ、更に投げてくる。
首の角度ときもい笑顔も今日もばっちり決めながら。
31 名前:school 投稿日:2009/01/13(火) 10:19


この自分のことを「もぉ」とか抜かすのは嗣永桃子。
同じ高校の一つ上の先輩。
いっつも小指が立っててぶりっこでキモくて……
…うちのことを気に入ってるみたいでこんな風に
度々追い回してくる。
本人曰く、一目惚れ、だそうだ。

「桜の花びらが舞う中を、白馬に乗った王子さまが現れたの…!」
いや白馬じゃなくて白い自転車だからね。ついでにうちは女。
そんなメルヘン世界を開くとこから始まる全く意味を
成さない発言は置いといてうちが説明すると。
32 名前:school 投稿日:2009/01/13(火) 10:19

入学式の次の次の日あたりかなぁ。寝坊して自転車で爆走してたんだ。
さすがに入ってすぐ遅刻とかしちゃやばいからね。
こうみえてもうち真面目だしさ。
正門とかもドリフトして滑り込みセーフで、よっしゃー!って思って。
自転車置き場にルンルンで愛車止めて、さあ教室行こう
ってとこで人にぶつかったの。
そしたら相手が持ってた手提げ袋の中身が散乱しちゃってさ。
中身つっても全部漫画だったけど。
ごきげんだったから相手がしゃがむまえにぱぱって
拾って、はいって笑顔で渡した。

33 名前:school 投稿日:2009/01/13(火) 10:20

んで、その相手っていうのが桃だったらしくて。

「あの笑顔で一撃だったの。」
言いながらキャッ言っちゃったとか照れる桃子。

いや、あり得ない。
あり得ないよ。さっきも言ったけどうちどうみても女だし。
それどころか可愛い女の子だし。近所じゃ有名な美人さんだし!

「まぁ、女子校だからね〜。わりとある話なんだよ。」
なんて、佐紀ちゃんが言ってたけど。

34 名前:school 投稿日:2009/01/13(火) 10:21

佐紀ちゃんは、学年は一つ上なんだけど、
小学校からずっと一緒にバスケやってた幼馴染み。
ついでにこの、桃とも仲がいいらしい。佐紀ちゃん、どうして……。
「結構いい奴だよ、桃。」
そんな風にも言ってたけど。言ってたけどさあ。

「可愛いカフェか、そりゃよかったね。じゃあバイバイ!」


無理。


35 名前:scool 投稿日:2009/01/13(火) 10:25

百歩譲って女の子と付き合うはアリだとしても。こいつは無理。
「あ!」
右手の人さし指で桃の注意を引いてる隙に逆側を抜ける。
「え!ちょっとー。」
不満を背中で聞きながら猛ダッシュで階段を駆け降りる。
よし、今日もなんとか勝利だ。

この距離ならもう追ってこないだろう、判断してスピードを落とした。
自転車のカゴに鞄をいれると思わずため息が出る。
疲れた〜。
高校はちょっとした闘技場なんて、入るまで知らなかったよ。
結局部活がない日もこんな風に疲れてご帰宅になる。
36 名前:school 投稿日:2009/01/13(火) 10:30


「みーやーん!みつけたぁ!」
「やばっ。」

黄昏てたら追い付かれた。
即、白馬……じゃなくて白い自転車に跨がって全力で
ペダルを漕ぎ始める。

「ばいばーい!」
「もー!明日は逃がさないからねー!」

――よし、明日はチャイムなる前に逃げよう。
決意を固めてさらに勢いをつけてペダルを漕ぎ出した。
37 名前:変わらない変われない 投稿日:2009/01/24(土) 10:11


「梨ー沙子ー。」
柔らかい笑顔と柔らかい声。伸ばされてくる手。
その指先の美しさに見とれている間に手首が捕まれる。
引き寄せられて体制を崩したら、雅の両腕に包まれた。
と、思ったら梨沙子の世界は反転して、真っ白な天井と向かい合う。
後頭部を支えられてゆっくりと並んで座っていたソファーの上に寝かされた。
38 名前:変わらない変われない 投稿日:2009/01/24(土) 10:13
自由な方の手は梨沙子の顔の真横に立てられソファーに沈んでいる。


「んっ。」
首の後ろ辺りに唇が落とされて、思わず梨沙子は声を出した。
そのまま顎まで唇で辿られて、梨沙子のものと重なる。
上唇と下唇の間を舐められて、口の中に侵入された。
忙しなく動く舌に翻弄されていたら、冷たい手がお腹の辺りに触れた。
気づかない間に後頭部から抜き取られていたその手は、脇腹を這い上がって、胸で止まる。
優しく胸を揉んだかと思うとブラを少し捲られて、器用な指が突起を転がす。
39 名前:変わらない変われない 投稿日:2009/01/24(土) 10:14


「あ……んっ。」
敏感な部分を弄られ梨沙子は高い声で鳴いた。

「みや…。」
首の横にあったと雅の頭は今度は梨沙子の真下にあった。最近は雅のスピードに着いていけない。

「ちょっと背中浮かして。」
くぐもった声が素っ気なく投げられる。ほとんど合わない目線は
意識しての物だろうか。

疑問を感じながらもその声に行動で答えるとすぐにブラのホックがはずされる。
今度は手のひら全体で愛撫されて、頭の中はすぐに真っ白になってしまった。

時がたつごとに雅の動きはスムーズになり、梨沙子の身体を熟知していった。
初めてのたどたどしい、恐れているような触れ方をする雅はもう居ない。
梨沙子の体を流れるように滑っていき、簡単に梨沙子を乱していく。

そして雅に抱かれるごとに梨沙子も声を艶やかにしていったし、
快感を大きく感じられるようになった。

40 名前:変わらない変われない 投稿日:2009/01/24(土) 10:14


変わらないのは、合わない視線と冷たい手。

「ん、あ、みや!あぁ……んっ!」

梨沙子の中心を長い指が掻き乱す。
靄がかかった視界の中、必死に梨沙子は雅の顔を見る。
ようやく捉えた雅の瞳は梨沙子を見ていなかった。
その位置にはガラス玉が二個埋まっているだけだ。

いつも、そうだった。
凍りついた表情のわけは、手が冷たい理由は、決して今が冬だからだけではない。
もうこの行為を初めてしたときから季節は一回りしたが、
梨沙子のことを雅が本当に見たことはない。雅の手が温かく感じたことはない。
41 名前:変わらない変われない 投稿日:2009/01/24(土) 10:15


梨沙子に脈絡なく優しくして触れるのは。
自分の思考を止めたいとき。何も考えなくていい時間を欲しているときだ。


初めて身体を許した時から、梨沙子は気付いていた。
雅は自分を見ていない。自分を抱くのは愛情ゆえではないと。

受け入れたのはどうでも良かったからではない。むしろ、逆だ。
どんな形でも側に居たい。こんな風にでも願いが叶ったんだから、梨沙子は幸せだった。
たとえ重ねた体に温度がなくても、心がなくても。
現実から逃げているだけでも、自分も連れて行ってくれるなら
何処だってそれは梨沙子にとって天国に違いなかった。
42 名前:変わらない変われない 投稿日:2009/01/24(土) 10:16


「かわいい……梨沙子、好きだよ。」

目を見ない愛の告白。
雅はきっと自分の本当に欲しいものが分かっていない。
だから、目が合わないことさえ気づいていないだろう。
梨沙子は手を伸ばし、雅の頬に落ちる茶色い髪を撫でる。すると雅は指の動きを止めて
優しく微笑む。

それから髪をに触れていた手を握って、繋いだ。
ぎゅっと力が繋いだ手に籠った瞬間、もう片方が梨沙子の中で再び暴れ始める。

「やっ……あ!あっも…ん、みや、だめ!」
その言葉は逆方向に働き、梨沙子に限界を迎えさせた。

43 名前:変わらない変われない 投稿日:2009/01/24(土) 10:16



――――
――


「ん。」


気だるそうに雅は今まで中にあった二本の指を梨沙子の口元に差し出す。
餌を与えられる雛鳥のように素直にぱかりと口を開けて受け入れる。
透明な液体は少し甘いような苦いような味をしている。
いつものように梨沙子がきちんと指の間まで舐めたのを確認してから、
逆の手でよしよしと頭を撫でて雅は指を抜き取った。
44 名前:変わらない変われない 投稿日:2009/01/24(土) 10:21


「ありがと。」

それからどさりと乱暴に梨沙子の隣に仰向けになって体を下ろす。
さっきまで部屋を埋めていた衣擦れと荒い息遣い、軋むベッドの音たちが去って
シンと静かになった部屋には古めの暖房器具から排出される音だけが響いていた。

しかし、梨沙子が衣服を整えているともうひとつスー、スーという音が加わる。
口許を緩ませながら振り返ると少し口を開けた無邪気な寝顔。これも慣れたものだ。
雅は行為を終えると毎回すぐ寝てしまう。
寂しいなどと思っていたのはもう昔のことで、
雅の無防備な素顔を独占していると気づいてからは、行為をする以上に
好きな時間に変わっていた。
45 名前:変わらない変われない 投稿日:2009/01/24(土) 10:24


そっと仰向けになって肘を付いて雅を見つめる。
頬をつついたりするちょっかいをかけることもなく、ひたすら見つめている。
すると胸の奥からじわじわ込み上げてくる熱いものがあった。
説明がつかないほど沢山の思いと一緒に、それは喉まで上がっていく。

抑えきれなくて開いた口から出てくるのはいつも同じ言葉だ。
変わらなくて、変われない気持ち。変わりたくもなかった。



「だいすき。」



46 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/25(日) 09:12
続き期待
47 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/25(日) 19:39
切ない微エロが良いですね
48 名前:冬の青空 投稿日:2009/01/26(月) 19:59


水溜まりを切って走る車の音が遠くで聞こえた。昨日の大雨で
アスファルトは蟻のプール状態。
そんな水を敷かれた道路に空の青が映っていた。

雲ひとつない晴れた空。雨上がりのうえに冬は空気が澄んでいるから、
今日は青空がとても透き通っている。
寒さは苦手だから、それが冬の唯一好きなところだった。
今日は月や星もくっきり見えるだろうな。
顔を真上に上げて空を見る。眩しさに少しだけ目を細めた。
49 名前:冬の青空 投稿日:2009/01/26(月) 19:59

やがて視線を正面に戻すと、ご機嫌な足取りで少し先を歩く背中。
いつもはぴっちり閉めているダウンの前を開けていて、マフラーもしていない。
そのせいで閉じ込められていた長い黒髪が、雨上がりのおかげで冬にしては
暖かい風に乗ってそよいでいた。
そしてちらちらと見える爽やかな笑みが浮かんでいる横顔。
可愛らしくてこっちまで頬が緩む。


「今日さぁー。」
「んー?」
「久々に10度越えるらしいよ、気温。」
お天気おねーさんがいってた、と付け加える。

「そうなんだ!あったかいなあと思ったら。
なんか春の匂いするしね!」

舞美が笑顔で振り返る。
50 名前:冬の青空 投稿日:2009/01/26(月) 20:00

春の匂い、か。
大きく息を吸ってみる。胸一杯っていうか肺一杯というか、とにかく
限界まで吸い込む。一瞬止めてからゆっくり息を吐いていく。


「……分かるかも。これ、春の匂いだ。」
「だよね!」

何がそんなに嬉しいのか笑顔を弾けさせて、うちの腕に飛び付いてきて
五メートルほどあった二人の距離をゼロにした。
そのまま手を繋いで並んで歩く。

「あー嬉しくなってきたー。春はやくこないかなぁ。」

ニコニコニコ。空を見て、街路樹を見て、こちらを見る。
51 名前:冬の青空 投稿日:2009/01/26(月) 20:01

「だといいよねえ。もう寒いのやだー冬嫌いー。」

拗ねたような表情と声を出して、繋がれた手を子供みたいに上下に振ってみた。
舞美はぎゅっと手を握り直してくれた。

「たしかに!えり寒がりだもんねぇ。良かったね、今日。あったかくて。」

また笑った。

舞美の表情の八割くらいは笑顔なんじゃないか。
オフの日は特にそう感じる。
楽しいことばっかりじゃないはずなのに、大体の時舞美は笑っている。
何も考えていないのかなと思うほどからっとした笑顔。
今日の天気によく似ている。
52 名前:冬の青空 投稿日:2009/01/26(月) 20:01

青空と舞美、うちの大好きなものが視界を占領していることに気づいたら、急に、
すごく幸せな時間だなという実感が満ちてきた。

左腕に力を込めて、繋がってる右腕を引っ張った。
体ごと舞美がよろけて近づいてくる。不思議そうに眉を上げた顔にキスをした。

まず舞美とうちの前髪の先が少し重なった。
それから唇が柔らかく触れて、離れる。

「わっ。え、え?」

首を左右に振ったり顔を真っ赤にしたりして、紡げていない言葉の代わりに
びっくりしたことを伝えられる。

「いえーい!」

全力の笑顔でダブルピースを突きつけた。
目が点になっている舞美を置いて地面を強く蹴って、駆け出す。

「え、えり!」
数秒後に背中から聞こえる声。すぐ追い付かれてしまうって
分かってたけど、走り続けた。
53 名前:冬の青空 投稿日:2009/01/26(月) 20:01

近づいてくる足音。
見上げれば青空。
そこに輝く太陽。
大好きな人と過ごす大好きな時間。

すべてが輝いて見えた。


54 名前:名無し 投稿日:2009/01/26(月) 20:03
やじうめらしからぬ爽やかな感じにしてしまった。
りしゃみや需要あって嬉しいです。
55 名前:名無し飼育さん 投稿日:2009/01/27(火) 22:07
やじうめは爽やかな雰囲気似合うと思いますよ!
というか私にとってはやじうめ=爽やかですね


…逆に作者さんのやじうめ観が気になりました
56 名前:作者 投稿日:2009/03/21(土) 10:14
>>55
まじですか。自分の中ではやじうめはエロです。とか言って。

次は梅愛理です。初try。
57 名前:chain of love 投稿日:2009/03/21(土) 10:15

58 名前:chain of love 投稿日:2009/03/21(土) 10:15
二人で迎える朝は、いつも私が先に目覚める。
隣で安らかな寝息を立てる君を起こさないように、そっと
毛布をすり抜けてフローリングに降り立って、乾いた喉を
潤すために机の上のペットボトルを
掴むとごくごくと一気に中の水を飲み干した。
59 名前:chain of love 投稿日:2009/03/21(土) 10:15



chain of love



60 名前:chain of love 投稿日:2009/03/21(土) 10:16


ちら、とベッドの上のえりかちゃんの様子を伺う。
完全に熟睡中と見える。
私がちょっかいをかけたりしない限り、一時間は後にならないと
起きないことは分かっていた。
どうしようかな、考えながら視線を上に移す。壁を伝って天井へ。
遮光カーテンで覆われた電気を点けていない室内は、
ほとんど真っ暗だ。
この環境ではテレビをつけることはもちろん、携帯の小さな画面の灯りでさえ
目立つ。
本を読もうにも文字が追いにくい。
起こしてしまわないように時間を潰す方法は、かなり制限されているのだ。

61 名前:chain of love 投稿日:2009/03/21(土) 10:16

ソファに深く凭れて一つため息をついた。
手の中でペットボトルを転がす。ぽちゃんぽちゃんと、
水が揺れて音を立てる。
くるくると回転を掛けて軽く上に投げてキャッチした。
水は激しく暴れたけど、暫くすると重力に従い静まった。
蓋はきちんと閉めているので、どんなに振り回しても
水がこぼれてしまうことは無い。
私が蓋を開けない限り、絶対に飛び出ることは無い。
ペットボトルの中を動き続けるだけだ。
じっとその様子を見ていると、閉じ込められている気分になって
胸が苦しくなった。

62 名前:chain of love 投稿日:2009/03/21(土) 10:16


きっかけはえりかちゃんの言葉だった。

『うちらが慰めあえばいいんじゃん?』

少し俯いて笑った横顔を今でも覚えている。

叶わない恋を同じ相手にしていることが分かっていた私たち。
同じ対象を目で追っていれば、必然的に視線がぶつかった。
えりかちゃんが舞美ちゃんを見ているのにはすぐに気付いた。きっと、
えりかちゃんも私がおんなじだと早い段階で気付いたんだろう。
目が合うとお互いばつが悪そうな笑顔を交し合った。
63 名前:chain of love 投稿日:2009/03/21(土) 10:16

寂しさを埋めるために抱きしめあう。お互いにとっていい話だ。
ただひとつ間違っていたのは、えりかちゃんがその提案をした時には
私はもう諦めかけていた。
届かない想いはもう葬ってしまおう。もう舞美ちゃんを見ない。
そう決めて忘れようと努力をしていた。
なるべく二人きりにならないようにしたり、楽屋では他の子と過ごすように
して、うまく避けていた。そうすることで、少しずつ自分の中の
恋愛を終わらせようとしていた。
それはなかなかうまくいっていて、舞美ちゃんを恋愛対象から
他のメンバーと同じように仲間という視点で見られるようになって来ていた。
なのでえりかちゃんとも視線は合わなくなっていた。

だからえりかちゃんの言葉に頷いて受け入れたのは、えりかちゃんのような
慰めあうっていう発想じゃなくて、単純にえりかちゃんに興味があったからだった。
64 名前:chain of love 投稿日:2009/03/21(土) 10:17

『諦めるって、どうしたらいいんだろうね。こんなに傍にいたら、
忘れようにも忘れられないよ。』

苦しそうにそう言ったえりかちゃんは、綺麗だった。
その美しさを知っているのは私だけだ。

でもそれを引き出しているのは舞美ちゃんで。
そう、えりかちゃんの全ての鍵を無意識に握っているのは舞美ちゃん。
そういう前提で始まった関係だった、はずなのに
いつの間にか舞美ちゃんに嫉妬をするようになっていた。

『うち、ばかだよね。いつまで片思いしてるんだか。』

一番馬鹿なのは私だ。片想いに片思いを重ねて、一方通行の
矢印を増やしている。永久に双方向には向かない不毛な恋の連鎖。

65 名前:chain of love 投稿日:2009/03/21(土) 10:17



ぼんやりと考えながらペットボトルを弄っていると、それは手からするりと
抜け出して派手な音を立てて床に落ちた。
うわっ、起こしたかな。
バッとベッドの方を振り返る。えりかちゃんの安らかな寝顔は崩れていない。
ほっとしてペットボトルを拾うためにソファから床に下りた。

「寝れないの?」

えりかちゃんが眠たそうに口元をふにゃふにゃ動かしながらそう言った。
おいでおいでと手を動かして呼ばれる。
拾ったばかりのペットボトルを置いて近付くと、えりかちゃんは白い肩を
むき出しにしてばさりと毛布を持ち上げた。
66 名前:chain of love 投稿日:2009/03/21(土) 10:18

「おいでー。」
目を閉じたままえりかちゃんは笑った。
私が先に起きて抜け出していると気付いたときには、そうやって
呼んでくれるのもいつものことで。
優しいなあと思う。だけど。

素直に従っておじゃまします、とその隙間に潜り込む。
すると、ぎゅっと胸の中に閉じ込められた。
「おやすみ、愛理。」
ふふふ、と頭の上から笑い声が聞こえる。
えりかちゃんの匂いが胸いっぱいに広がる。
体中でえりかちゃんを感じられて嬉しくなる。
嬉しさの影に少しだけ切なさがこみ上げてきて、
掻き消すように腕を彼女の背中に回して、すこし力を込めた。
67 名前:chain of love 投稿日:2009/03/21(土) 10:18



「……おやすみ。」

ぴたりと耳を心臓の辺りに当てると、規則的な心音が鳴っているのが聞こえてきた。
慰めあうどころか、傷ついてどうするんだ。ほんとうに、一番馬鹿なのは私だ。
何度目かのため息が喉元まで込み上げて来て、必死に飲み込んだ。
この気持ちだけは気付かれてはいけない。
連鎖を断ち切るのが私の役目だから。
大丈夫、舞美ちゃんの時にできたんだから、今度だって、きっと。
この想いが早く消えますように。強く瞳を閉じて、願った。



68 名前:chain of love 投稿日:2009/03/21(土) 10:18


69 名前:作者 投稿日:2009/03/27(金) 22:52

上のつづき梅愛理。梅さん編
70 名前:maze of love 投稿日:2009/03/27(金) 22:52

71 名前:maze of love 投稿日:2009/03/27(金) 22:53

無機質な白い廊下を渡って、グループ名が貼られた楽屋の前の扉に立つ。
軽くノックをすると中からはい、と落ち着いた声がひとつ。
ドアノブを回しておはようございます、と、一歩踏み入れると同時に挨拶をした。
72 名前:maze of love 投稿日:2009/03/27(金) 22:54



maze of love


73 名前:maze of love 投稿日:2009/03/27(金) 22:54



「おはよう、えりかちゃん。」
「愛理。」
「今日早いね。」
「なんか目覚めちゃって。」

中には愛理だけだった。

いつもうちが到着するのは最後かその前辺りで、
メンバーはだいたい揃っていて、楽屋の前に立てば賑やかな話し声が
聞こえてきていた。
二人しかいない朝の楽屋は随分広く感じられて、少し殺風景だった。
74 名前:maze of love 投稿日:2009/03/27(金) 22:55


楽屋の真ん中に位置する大きな机の上に鞄を置くと、イヤホンを外した。
すると愛理が読んでいた本を閉じて隣のパイプ椅子を引いてくれたので、
そこに腰を下ろす。

目が合うとにっこりと愛理は笑った。

「愛理はいつもこのくらいに来るの?」
「うん、大体一番かなぁ。でも今日はちょっと早めかも。
暫く誰も来ないから寂しいなって思ってたから、
えりかちゃん来てくれて良かった。」
「そっか、じゃあうちもよかった。朝から愛理に会えて。」
75 名前:maze of love 投稿日:2009/03/27(金) 22:56


なんて甘い会話。二人でふわふわと笑う。
愛理といるとなんだか柔らかい空気が漂う。それは結構気に入っていた。
純粋にメンバーとして居たときは。

今は。
ドキドキしてしょうがない。


右肩五センチのところに愛理の頭がある。
少し動いたら簡単に触れることができる。
それに気付くと右肩にだけ神経が集まってしまって口がうまく回らない。
うちは今、ちゃんと会話を成立させられているのだろうか。

「あはは、もーえりかちゃーん!」

その笑い声にはっとする。
なんか面白いこと言ってたらしい自分。
とりあえず、一緒に笑っておく。
76 名前:maze of love 投稿日:2009/03/27(金) 22:56


「あははは〜。」

笑顔を浮かべつつ愛理の方を見たら、同じく笑ってて細くなっていた目と
目があった。

ゆっくり笑いが止んでいき、目が元の大きさに。顔が真顔に。

腕を軽く捕まれ、自然に顔が寄ってきた。
キスされる。

瞬間、自分でも頬がひきつるのがわかった。
そして小さな電流が腰から背筋をさあっと通る。

スイッチが入った。

77 名前:maze of love 投稿日:2009/03/27(金) 22:58



細い腰を引き寄せて、こちらから唇を奪いにいく。
軽く触れて、一瞬離れて顔を深く口付けられる位置に傾かせた。
舌で唇の間をなぞる。
愛理は何時ものように簡単に口を開いてくれた。


78 名前:maze of love 投稿日:2009/03/27(金) 22:59



『うちらが慰め合えばいいんじゃん?』

確か仕事終わりの楽屋で、不意に二人になったときだった。
冬になる手前でとっくに陽は落ちていて、窓は
深い群青に塗りつぶされていた。

仕事で疲れていたのかもしれない。
叶わない相手を想い続けるのに疲れていたのかもしれない。
もしくはその両方だろう。
79 名前:maze of love 投稿日:2009/03/27(金) 22:59


―とにかく、疲れていたんだ。それで判断力が鈍ってしまっていた。
なんにせよ言い訳を作らなければ、同じ迷路に迷い込んだ
仲間で、しかも年下の愛理に、より迷路を複雑化させて、出口を遠退かせる
提案をする自分を肯定出来ない。

しかしそんな風に始まった関係は密やかに、だけど確実に進展していった。
仕事の空き時間。二人の楽屋。仕事上がりにお互いの家で。隙さえあれば
寄り添い合った。今では誰の肌よりも愛理の肌を知っている自信がある。

二人が体温を分け合う理由に、恋愛感情は無かった。
80 名前:maze of love 投稿日:2009/03/27(金) 23:00

はずだった。

だってうちらはおんなじ相手に恋をしていて、むしろライバルだったんだ。
二人の性格上競り合うとか敵視するとかは無かったから、
ライバルいうより、お互いに憐れみ合っている同志のような関係だったけれど。
だから、あんなことを言えた。

それがまさか、触れ合う内に好きになってしまうだなんて。

いつからだろうか。
一番最初に目に入るのが舞美ではなく愛理になっていたのは。
愛理のことばかり目で追うようになっていたのは。
離れるのを寂しいと感じるようになったのは。

それは典型的な恋のサイン。
恋に落ちていると、自覚できるサイン。



81 名前:maze of love 投稿日:2009/03/27(金) 23:01



深いキスを繰り返していると、どんどん体が熱くなってきた。
もっと奥に触れたい。
しかし、ちらと愛理の後ろの壁に貼り付いている時計を見ると、なかなか時間が
経っていて、メンバーが揃い始めてもおかしくない時刻になっていた。

息継ぎの合間に唇を離すと、愛理の肩を押し戻した。
不思議そうに見上げてくる愛理に微笑んで、時計を指す。

「時間、そろそろやばいかなーって。」

時計の方に体を向けた愛理は、そのままこちらに振り返らず答えた。

「あ、そうだね、なっきぃ辺りもう来そう。」

「いちお、離れとこ。」

何だかよく分からない『一応』だけど、そうした方がいい気がして、腰を上げた。
82 名前:maze of love 投稿日:2009/03/27(金) 23:01


「おはようございます!あ、えりかちゃん愛理おはよう!」

素晴らしいタイミング。なっきぃがいつもの高い声で元気な挨拶を楽屋に響かせた。

「おはようなっきぃ。」
「おはよーう。」


さっと愛理は立ち上がるとうちの横を抜けてなっきぃの前に立つ。
今日の髪型可愛いね、なんて言って細い指で髪に触れた。
なっきぃは嬉しそうに笑っている。
83 名前:maze of love 投稿日:2009/03/27(金) 23:02


それは、一分前のことなんてまるで無かったような振る舞い。
さっきまで慣れた動作で舌を絡めていたなんて嘘のような清楚な佇まい。
うちのことなんて一つも気にしていない、そう言われるより分かりやすい態度だ。

目の前に大きな壁が、見えた。
こちらは行き止まりですよ、この恋は叶いませんよ、そう忠告する
大きくて、厚い壁。


84 名前:maze of love 投稿日:2009/03/27(金) 23:03

「ちょっとトイレ〜。」

精一杯明るい声を出して、笑顔を作った。
素早くドアの隙間に潜り込んで外に出る。

鼻の頭がじーんとする。泣きそうだ。堪えながら宛てもないけれど歩き出す。
とにかくあの場所にはいられなかった。高い壁の前からげ出したかった。

恋をしていると気付いた時にはもう失恋していた。そんなことは分かっていた。
それでもこんなに辛いのは、知ってしまったから。
彼女の温度を。彼女の味を。彼女のすべてを。

また一歩、出口から遠ざかった。ほんの少しだけ射していたはずの光は
消え失せて、真っ暗な闇に向かって、一人きりで進んでいる自分が感じられた。
85 名前:maze of love 投稿日:2009/03/27(金) 23:04


86 名前:名無し読者 投稿日:2009/03/28(土) 00:32
続きキテター
まさかこの二人でもだえる日がくるとは思いませんでした……
87 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/28(土) 03:45
更に続きが読みたいです。
88 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/28(土) 21:45
前のももみや学園物も気になりますが・・・
今回に二人も気になります!
続きを楽しみに待ってます。
89 名前:名無し 投稿日:2009/03/29(日) 01:24
このCP、今の自分の旬なので、すごく嬉しいです。
文も好みだし、続きが気になる、今一番楽しみな小説です。
90 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/29(日) 16:46
続きキテタ―
これからどうなるのか…
又々続き待ちます
91 名前:distance 投稿日:2009/05/01(金) 00:38



言わないだけでいつだって思っていたことだ。
その優しい目をこちらにも向けてほしい。
その白くて細い指で髪に触れてほしいと。


92 名前:distance 投稿日:2009/05/01(金) 00:39



distance



93 名前:distance 投稿日:2009/05/01(金) 00:39


雅が動けないのは腕を捕まれているからではなかった。愛理の目が、そして
なによりもその声があまりにも強くて、迫力に気圧されていたのだ。

「私じゃだめですか?」

普段使わない敬語で愛理は一番言ってみたかったことを口にした。

「や、ていうか、ちょっと待ってよ。愛理、落ち着こう。」

言葉とは裏腹に愛理よりもずっと雅は動揺していた。忙しなく瞬きを繰り返す。
94 名前:distance 投稿日:2009/05/01(金) 00:40


「だめですか、っていうか……だってそんな、梨沙子そんな風に別に特別扱いとか、してないよ。」

視線をあちこちに移しながら言葉を紡ぐ。愛理はそんな雅とは逆に、目の前の
雅から全く目を逸らすことが無かった。

「ベリーズで昔から一緒に居る時間長いから、妹みたいな。それにあの子は愛理みたいに
しっかりしてないからさ。まあ最近少しはましになったけど。」

「それ。」

言葉を遮るのと同時にぎゅ、と雅の腕を掴んでいる愛理の手に力が入る。そんなに強く握られたわけでは
無かったけれど、雅は驚いて小さくうわ、と声を上げる。
95 名前:distance 投稿日:2009/05/01(金) 00:40


「それが、羨ましいの。」
愛理の目が雅の視線を捕まえた。

「いつもりーちゃんはみやに一番気に掛けてもらってる。私と話してても、
誰と話しててもみやの頭のどっかには、ちゃんとりーちゃんの
場所があるの。そんな風に思ってもらえるりーちゃんが」

ガチャリと音がして、愛理はそこで話を止めた。視線が雅を
すり抜けてその後ろに逸らされる。
一瞬遅れて雅もそちらに振りかえる。

「やっと終わったよー。疲れたー。」
96 名前:distance 投稿日:2009/05/01(金) 00:43


撮影順が最後だった桃子が返ってきたのだった。肩をぐるぐると回しながら
疲れた、と繰り返す。

「お疲れ、桃。遅かったね。」

さっきの調子とは全く違ういつものふわふわとした愛理の声のトーン。
雅の腕から手が離れそのまま愛理は桃子の方へ向かう。一気に張り詰めていた空気が和らいだ。

「やー最後の最後でセット崩れちゃって大変だったよ。」
「あ、確かにさっきと髪型ちょっと変わってる。」
「これPV見るファンの人たち気づくかなぁ。」
97 名前:distance 投稿日:2009/05/01(金) 00:44


何事もなかったように桃子と会話をして居る愛理の背中を呆然と雅は見つめていた。
完全に混乱していた。
愛理の言葉が頭の中をぐるぐると回る。自分が梨沙子を特別に見ていること、
愛理が自分を好きだということ、
初めて知るその二つの事実はどちらも雅を動揺させるには十分過ぎるものだった。
更には今の愛理の態度の豹変振りも雅の混乱に拍車をかける。何故そんなに切り替えが
上手くできるんだ。

「みや、何固まってんの。」

自分より背の高い愛理の肩からひょいと桃子が顔を出して雅に声を掛けた。

「え、あ、別に固まってないよ。」

「いまめっちゃ挙動不審だったから!」

笑いながら桃子は雅の方へ歩き寄っていく。その後ろに愛理も続いた。
98 名前:distance 投稿日:2009/05/01(金) 00:45


雅を頂点とした二等辺三角形のような立ち位置になる。

「うん、挙動不審、挙動不審。」

愛理がふにゃりと笑う。雅は戸惑った。愛理が全く解らなくなる。

「そんなことないって。」
「やー怪しかったよ。あ、お菓子はっけーん。いただき!」

奥の机に乗っていたクッキーを目敏く発見した桃子はさっさと雅の横を
通り抜けてそちらに向かった。
99 名前:distance 投稿日:2009/05/01(金) 00:52

「続きは今度ね。」

そこまで雅の耳元で小さく言うとももーあたしも!と愛理も楽屋の奥の机に向かっていった。

「みやも食べるー?」
「美味しいよこれ。」

さくさく音を立てながらどんどんクッキーを胃に収めていく二人。
いつもは負けじとその輪にはいって取り合うところだが、
愛理が雅にもたらした大嵐のような混乱は、最早雅の頭の許容量を
完全に越えていて、クッキーが入り込む余地はなかった。

「あー、うちは、いい。」

そう言うと雅はパイプ椅子に崩れ落ちるように腰を下ろした。
100 名前:作者 投稿日:2009/05/01(金) 00:53

続く。かも。

しかしえーとその前の梅愛理は続かないかもしれませんすいません。
101 名前:名無飼育 投稿日:2009/05/02(土) 00:42
続いて欲しい。かも。
いや、かも、じゃなくて、続いて欲しい。

前のはまた、気が向いた時にでも。
102 名前:distance 投稿日:2009/05/04(月) 09:30


白を基調として、ポイントに女の子らしくピンクや薄いベージュを取り入れた
可愛らしい部屋。
ドアのすぐ隣にソファー、その横にはベッドが並ぶ。向かいに大きなクローゼッ
ト、
それから中央にはガラスのローテーブルが置かれている。
他にも様々なものが点在しているが、十畳ほど有りそうな広い空間だからか、
窮屈な印象は全く受けない。

手に持っていた肩掛け鞄をとす、と落とし愛理は部屋の主らしく
慣れた動作でソファーに腰を下ろす。部屋をキョロキョロと見渡していた雅も
それに習い、愛理の横に、しかし少し隙間を開けて座った。
103 名前:distance 投稿日:2009/05/04(月) 09:30

104 名前:distance 投稿日:2009/05/04(月) 09:30



依然として呆けたままの雅はふらりとした足取りで
楽屋を後にして帰路についた。
建物を出て右に曲がる間際、背中に声がぶつかる。

「みや、待って!」

のろのろと雅が振り返る頃には、走って来た愛理はもう目の前に立っていた。
少し警戒したように雅は一歩後ろに引く。
夕日を背にして居る雅を少し眩しげに目を細めた愛理が見つめた。
目線を足元に落としていた雅が顔を上げると、二人の視線が絡む。

「さっきは本当に、ごめん。」

判然とした口調と共に、愛理は頭を下げた。ほぼ綺麗に九十度体を曲げている。
ゆっくりと顔を上げて、続けた。

「びっくりさせたよね。」

「……当たり前じゃん。」
「ごめんなさい。」
105 名前:distance 投稿日:2009/05/04(月) 09:30


もう一度愛理は頭を下げる。一度目と変わらずひどく丁寧なお辞儀だった。
その誠実な態度が雅の警戒心を和らげる。さっき引いた一歩を戻し、
二人の距離が近くなる。


「梨沙子の話とか、私じゃだめですか、とか、もうわけわかんないよ。」

雅は少し拗ねた声を出した。

「そうだよね。説明不足だったし、驚かせた上に混乱しちゃってるよね。」

「さっきの続き聞きたい。納得させてよ。」

「うん、もちろん。」

然しここでは目立つだろう、と場所を移動することになった。
他人に聞かれない場所で一番気楽なのが、お互いの家だろうということで
二人は連れたって愛理の家に向かうことになったのだ。


106 名前:distance 投稿日:2009/05/04(月) 09:31



雅が隣に腰を下ろしたのを合図に、愛理は口を開く。

「さっきもいったけど。みやにとって、りーちゃんは特別なんだよ。
周りから見たらすぐわかる。態度も、目の色も、すごく大事にしてるって、
すごく好きなんだって、言ってる。ずっと前からそうだったよ。
みんなでいるときはそんなに解らないけど、みやとりーちゃんが二人で居て
話してるときとか、みや、他の人と二人の時と全然違うんだよ。」


愛理は雅の方を向いて話している。しかし雅は愛理の顔を見ることはなかった。
愛理の視界には雅のすこし眉を寄せた綺麗な横顔が映っていた。


「あたしは、みやが好きだから、みやのこといつも見てたから、違いがよく分か
るんだ。
すごくりーちゃんがうらやましかった。りーちゃんだけが貰えるみやのものが
羨ましくてしかたなかったんだ。あんな風に優しい目であたしを見てくれたら。
優しい手で触れてくれたらって思ってた。」

少し赤くなった頬で雅は愛理に顔を向ける。少し口をもごもごと
してから、話を始める。
107 名前:distance 投稿日:2009/05/04(月) 09:31

「うち、本当に梨沙子のことそんな風に思ってないよ。」

眉毛を下げて呆れた顔で愛理は雅を見つめる。

「みや、鈍感すぎ。自分の気持ちにも気づいてないなんて、ほんとに鈍感すぎる
よ。」

「だって本当に態度変えてるつもり無いもん。」

「それはもう染み付いちゃってるからじゃないかな。
りーちゃんが特別なのが当たり前になってるんだよ。…ていうか、さ。
自分の好きな人にこんなこと説明するの、結構惨めだね。」

「え、あ、なんかごめん。」

肩を落とした愛理に、慌てて雅は謝る。

「みやは優しいよね。あたしが勝手に好きになったんだから、謝ることないんだ
よ。
それに、あたしはみやを好きになる前から、みやが
りーちゃんのこと好きなのなんとなく気づいてた。
むしろ、りーちゃんと居るみやが一番好き。一番みやがキラキラしてるから。」
108 名前:distance 投稿日:2009/05/04(月) 09:32

愛理は健気に笑った。
それから、長く喋ったことに疲れたらしく、
ふうとひとつ溜め息をついた。

「みやを好きなのと同じくらい、二人を見てるのが好きだった。」

109 名前:作者 投稿日:2009/05/04(月) 09:33


まだかんけつしましぇん。

>>101

ありがとうございます。いずれ梅愛理かけたらいいと思います。
110 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/04(月) 21:02
みや愛理って新鮮で良いですね。
このまま続けっ!・・・ばと願います。
しかし、雅… 鈍感。 愛理切ないな〜。
111 名前:distance 投稿日:2009/05/15(金) 11:44



雅は単純だった。
愛理の気持ちに少しの後ろめたさを感じたが、自身の気持ちへの関心の方が勝る。
愛理に言われた言葉は、その日からすぐに雅の行動を、思考を、全てを蝕んで、縛り付けた。
112 名前:distance 投稿日:2009/05/15(金) 11:45

近くて、近すぎて、もう体の一部みたいだから。
それは一番近くて一番遠い感情だと思っていた。
だが今は、側に居るときはもちろん、居ないときでさえ、不意に梨沙子が頭を過る。
ざわざわと心と意識をすべて持っていってしまう。


それでもまだ、この感情を恋だとは認めたくなかった。
姉妹のようにお互いを扱っていた、その暖かい関係を崩したくはなかったし、
なにより梨沙子に恋心を抱いているなんていう自分は自分で信じられなかった。
113 名前:distance 投稿日:2009/05/15(金) 11:46



114 名前:distance 投稿日:2009/05/15(金) 11:47


撮影の待ち時間での楽屋。ふと、梨沙子と二人きりになる。
鏡台の前に座って雑誌をぺらりぺらりと捲る。神経が背中に居る梨沙子に向かっている所為で、
内容は全く入ってきていなかった。
目をあげて鏡を覗きこめば、きっと梨沙子が映るだろう。しかしそれすら
躊躇われた。自分が照れて何かおかしなことをするのが雅は想像できたからだ。
115 名前:distance 投稿日:2009/05/15(金) 11:47

数週間前までの、なんの気負いも無く、触れたり顔を近づけたりなんていう日常のことが、
別世界の出来事ようだった。キスだってしたことは、あった。少し過度なスキンシップのひとつとしてだけれども。
突然変わった雅に対して、梨沙子は不思議な顔で首をかしげて、最初のうちは
普段のように接していたのだが、最近では自分が何かしたのではないか
と思い始め、少し怯えたような目を雅に向けて、あまり近寄らなくなった。

目に見える二人の変化には周りも気づいていた。
大方ちょっとした喧嘩だろうと推測して、メンバーは大して気にしていなかった。
佐紀も雅に早く仲直りしなよ、と軽く肩を叩いて告げるだけに留まっていた。

116 名前:distance 投稿日:2009/05/15(金) 11:48


いつもの楽屋の様子とは正反対の静かな空間。
雑誌を一ページ捲るその紙の音すら部屋に響くほどだ。
そんな中、すっと梨沙子が立ち上がり、雅の背後に立つ。

「みや。」
「ん、なに?」

あくまで平常心を保つ。雅は雑誌に目線を落としたまま、生返事に聞こえるように
計算した声のトーンで発した。

「なんか最近、みや冷たくない?」
「そんなことないでしょ。」
「冷たいよ。だってさ、いまだってこっち見てくれない。」
117 名前:distance 投稿日:2009/05/15(金) 11:49



梨沙子は雅の座っている椅子をくるりと回して、目線を合わせようとした。
真正面、二人の距離は15センチ。

「ねぇ、あたしなんかしたかなあ?」

不安げに眉を寄せて、雅の袖を掴んだ。

「なにもしてないよ。」

目線を逸らしながらさらりと言った。素っ気ない声。

「うそ。なんかへんだよ、最近全然みやとしゃべってないもん。
話しかけてもすぐどっか行っちゃうし。なんかしたなら、
謝るから。おしえて?」
118 名前:distance 投稿日:2009/05/15(金) 11:50


一生懸命に梨沙子は言葉を紡いでいる。瞳が弱々しく震えた。

はっとした。


「……ごめん。」

自分は何をしているんだろう。梨沙子を困らせてどうするんだ。
申し訳ない気持ちと後悔が込み上げてくる。
ゆっくり腕を持ち上げると梨沙子の頭をそっと撫でた。
それは出会った頃から変わらない、優しい手。

「ごめんね。」
「……うん。わかった。」
119 名前:distance 投稿日:2009/05/15(金) 11:54


なにも説明しなくても。その手が全てを理解させてくれて、梨沙子を安心させていた。
その感触に梨沙子は頬を緩めて、頭を雅の方に預ける。
何度となく、こんな風に雅は梨沙子の頭を撫でてきた。
梨沙子にとって何より大切な、何より信じられる暖かさ。
いつだって絶対的に自分を落ち着かせて、守ってくれる温もり。

久しぶりに感じるそれに、緩む頬は抑えられそうになかった。

120 名前:distance 投稿日:2009/05/15(金) 11:54


梨沙子は雅に腕を回して、より近くにそれを感じようとした。
綺麗な鎖骨の辺りにこてんと頭を載せる。

「みや、大好き。」

誰よりも大好きな人。幾度となく伝えている言葉。
いつもならうちも、とかはいはい、という軽い答えが返ってきて、
その真意が解っていないと思われる感じに少し失望したりもするのだが、
今日は違った。
頭上で動いていた手がピタリと止まる。腕の中の体が固くなる。
ん?と顔をあげて雅を覗き込むと、真っ赤になって口を押さえていた。
121 名前:distance 投稿日:2009/05/15(金) 11:55


「みや?」
「や、あはは!そろそろみんな帰ってくるかな!」

なぜか元気に立ち上がって離れてしまった。
はじめてのリアクションだ。梨沙子はまた、首をかしげる。
やっぱり雅は少しおかしい。何かが以前とはちがう。
嫌われているわけではないなら、どういうことだろう。
122 名前:distance 投稿日:2009/05/15(金) 11:56

考えているうちに、撮影を終えた佐紀が帰ってきて、雅が入れ違いに出ていき、
会話をする機会が失われた。

――まあ、嫌われてないんならいっか。

五年以上も片想いをしていれば、少しのことではへこんだりしないのだ。
考え込むのを一先ずやめて、そろそろ準備をしようと
梨沙子は鞄をつかんで鏡台の前に座った。
123 名前:ななしいくさん。 投稿日:2009/05/30(土) 02:36
いい雰囲気!
124 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/06/10(水) 22:49
続き期待!
この感じ好きです。
125 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/15(水) 03:51
甘酸っぱい!大好物発見!!
126 名前:distance 投稿日:2010/01/24(日) 23:42


騒がしい年頃の女の子が集まると、三メートル先の会話なんて全く耳に入らない。
誰がどこにいようと、ずっと側にいるか、よほど注意して見つめているかしないと
すぐに分からなくなってしまう。

つまり、大人数が集まるシーンでは二人きりになるのは逆に簡単なのだ。
127 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/01/24(日) 23:44


毎年恒例のハロー全体でのコンサートの為のリハーサル。久しぶりに再会した親友。
毎年恒例で梨沙子と愛理は、¨二人きり¨だった。

様々なグループが出入りしてそこかしこで好きなことをしている楽屋で、
出番までの間二人は部屋の隅の壁際に凭れかかって、喧騒を
なんとなく眺めている――ふりをして、
お互いしっかりと、その中の一人だけに意識を集中させていた。
128 名前:distance 投稿日:2010/01/24(日) 23:45


同じ相手を追っている。それが分かっているのは愛理だけだった。

はしゃいだ笑顔と輝く瞳を悪戯に振り撒いているその人物の周りには、相変わらず沢山の人。


「最近さ……なんかみや、おかしいんだよね」

前をみたまま梨沙子が零す。
愛理も振り向くことなく聞いていた。

梨沙子はそっと心の雫を落とす。昔から一番大切なことは愛理にだけ零される。

「なんか、ぎこちないっていうか。あんまり側に来てくれないし」

初めのうちはそんな日もあるだろう、と気にしていなかったのだが
長引くと不審に感じる。
自分がなにか気に障る事をしてしまったのだろうかと、不安になってくる。
129 名前:distance 投稿日:2010/01/24(日) 23:46



「いつ頃から?」
「えっと、二ヶ月くらい前かな。大体」

愛理は確認の為に聞いた。自分の仕掛けた策略が上手く働いているかを確信する為に尋ねた。

梨沙子の言葉に、心の中で会心の笑みが漏れる。
上手くいっている――。思った通りだ。


「でもあたし、なんかしたかなって考えたんだけど、思い当たる事無くて。
こんなふうに……避けられてる、て言うのかな、みたいなの初めてで」

重いため息とともに梨沙子が吐き出す。
長い睫毛を伏せられて微かに震える。


逆に愛理は顔を上げ天井に視線を移した。
130 名前:distance 投稿日:2010/01/24(日) 23:46



「気にしない方がいいよ。みやは多分、避けてるとかじゃないよ」

「……そうかなあ」

「みやがりーちゃんにそんなことしないでしょ。優しいもん、いつも」

「みやは、みんなに優しいよ」
「りーちゃんには特に優しい」

それは事実だった。
紛れも無くそれは、事実だった。
二人には目に見えない糸が、愛理は見えていた。
一番二人の側に居た愛理だけ、細い糸が結ばれているという事を知っていた。
131 名前:distance 投稿日:2010/01/24(日) 23:48


だから愛理には、簡単な言葉ひとつで出来る。



「りーちゃんはなにもしないでへいきだよ」

笑顔とともに親友にアドバイスを送る。

「て、ゆうか――
気付かない感じにしといたほうがいいかもね。ほら、みや、意地っ張りだから
余計離れちゃうかも」


「……そっか、たしかに。ありがと。愛理に相談してよかったあー」


感謝の気持ちを全面に出した柔らかい表情で笑う梨沙子。
それを見て愛理もふわりと笑った。
132 名前:distance 投稿日:2010/01/24(日) 23:53

目の前でゆらゆら揺れる頼りない糸を裁つことは、
その存在を知る愛理だけが出来る事だった。



自分でも不思議なくらい、みやが欲しい。
いつのまにか思ってたよりずっとずっと好きになってたみたいだ。

胸にいつしか宿った小さな火は消えることなく、勢いを増すばかりだった。
思いを伝えることに失敗して行き場を無くしたことで、
むしろ火は燃え盛った気もする。



本当に欲しいものは譲らない。努力して手に入らなければズルしてでも手に入れてきた。
私は何を使っても、心の底から欲しいものはすべて掴んできた。


だから――

ごめんね、りーちゃん。
やっぱり私、みやが欲しい。
133 名前:名無し飼育 投稿日:2010/01/25(月) 02:18
なんか……最後の愛理にどきどきした
134 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/01/25(月) 05:41
続き、待ってました!
せつね〜って思ってたのに、そう来たかって感じですね。
今度も楽しみにしてます。
135 名前:distance 投稿日:2010/02/02(火) 19:11




三人という人数も二人きりになりやすい。一人欠けたらもう¨二人¨になるのだから。
136 名前:distance 投稿日:2010/02/02(火) 19:12

二人が並んで座るソファーの前にある机に置かれた小さなポータブルプレイヤーが、
一年前のボーノのライブ映像を映し出していた。
雅が画面の中でアップになったところで愛理は隣にいる本人に感想を告げる。

「ここのみやかっこいー」
137 名前:distance 投稿日:2010/02/02(火) 19:13



桃子が撮影に向かうと、プレイヤーを持ってとことこ雅の前に歩いてきて、一緒に見よう、と首を傾けた愛理。
断る理由はなかったので、雅は眺めていた雑誌を閉じて、横に座らせた。



「あのさ」
「うん」

すぐ隣に並んでいる膝にこつりと雅は自分の膝を軽くぶつける。

三人は余裕で座ることの出来るソファー。愛理の反対側は広々と空いていた。
138 名前:distance 投稿日:2010/02/02(火) 19:14


「近いんですけど」
「近くが良いんです」

悠然と笑う愛理に
雅はいつもの如く強く出られない。出る気もなかった。
軽くひとつため息をつくと画面へと視線を戻して
引き離そうとはしなかった。

雅は愛理に弱い。
昔から譲ってしまうところがあった。
いまでは無意識にそれは行われる。
愛理の前を歩いたり、優しく髪を撫でたりすることは、雅にとって瞬きをするほどに自然な動作だ。
139 名前:distance 投稿日:2010/02/02(火) 19:15

小さな頃から自分の名前を嬉しそうに呼び慕ってくる愛理は、守ってあげたいという
気持ちにさせられるのに充分だった。
だから梨沙子と同じく妹のように可愛がってきたし、気にかけてきた。
二人とも守りたくて甘やかしておきたい存在だ。
そう、雅はどちらも同じように大切にしてきた、積りでいた。


それでも――
全てのものには優先順位があるのだ。
同時に二つは選べない。
大事なものほどきっと、一つを選択しなければならないようになっている。
そして、どんな理由があろうとどんな言葉を並べようと、途中経過は関係ない。
最後に残るものだけが答えだ。結果がすべて。
順位がすべてを語るのだ。
140 名前:distance 投稿日:2010/02/02(火) 19:16


梨沙子の最優先は雅。
答えは揺るいだことがなかった。誰しもが分かるくらいに雅は梨沙子の一番だ。
いつどんなときも変わることなく、心の真ん中には雅が居る。
嬉しいときや楽しいときはもちろん、辛いときも悲しいときも
その名を一番に呼びたくなる。梨沙子にとって雅はそんな存在だ。

そして雅が最初に手を伸ばすのも梨沙子だった。
誰より先に梨沙子を助ける。誰より優しくその名を呼ぶ。
表し方は全く違うが二人が相手を見つめる眼差しの色だけは同じだった。
141 名前:distance 投稿日:2010/02/02(火) 19:16


お互いがお互いを一番にする相手とはきっと
見えない糸に導かれて惹かれ合うのだ。
それは誰もがたった一本だけ持つことの許される絆の糸だ。
その絆の糸には、運命と言う名前が付けられることもある。
二人が糸の先に居る相手に気付いた時に、見えない糸は姿を現して、
生まれる前から決まっていたかのように二人は結ばれる。
142 名前:distance 投稿日:2010/02/02(火) 19:17



愛理が動くたびに、ぴったりとくっついて離れないせいで
さらさら揺れる髪が雅の頬を掠める。

「くすぐったい。」

言いながらそっと髪を掴むと、
ぐるりと愛理が体ごと雅に向いた。


「ねえみや」
「ん?」

ぐっと顔が近付く。





「キスしよっか」
143 名前:distance 投稿日:2010/02/02(火) 19:17

「は、え?」

唐突。
その言葉はあまりにも唐突だった
ので、距離を取ろうとしたが端に座っているため動けない。
代わりに雅は眉を潜めて愛理を軽く睨む。

「なんで」
「したいから」
「したいからってなに言ってんの突然すぎだし!」
「みやがすき。だからキスしたい」


言い返せず代わりに驚きと呆れとが半々に混じったため息が出る。

いちたすいちはにです、と言うように抑揚なく愛理は言葉を紡ぐ。
144 名前:distance 投稿日:2010/02/02(火) 19:18



すき。
その二文字が雅の頭に、突然の告白を聞いた日の事を思い出させた。
急に目の前の妹だった愛理が、色付いた。
同時にここにはいない梨沙子の存在が強く脳内に描き出される。


「愛理、うちが好きなのは梨沙子だって言ってたじゃん」

そのせいで、変に意識しちゃって散々だ、なんてかっこわるくて言えなかった。


「うん。あたしはみやが好きなんだけど。」


「二人を見てるのが好きだって」
「みやがすき」
145 名前:distance 投稿日:2010/02/02(火) 19:19


確かに二人は運命だ。確実に結ばれた二人だ。
だけど糸は見えていない。見えているのは、私だけだ。
だったら切ってしまえばいい。それから結んでしまえばいい。
見えている私にはそれができる。
運命は変えることが出来る。
きっと私にだけ見える理由はその権利の証明だ。
146 名前:distance 投稿日:2010/02/02(火) 19:20



DVDプレイヤーから流れている音だけが部屋に響いていた。

ここまで押しが強い愛理は初めてだった。まともに会話が成立していないことより
それに圧倒され、雅は黙り込む。

その間にも距離は縮まっていた。
さっきまで愛理の髪に触れていた手がいつのまにか握られている。

逃げられない――


「みやがすき」


前髪が触れそうな近さで囁く声で呟かれたその言葉を合図に
何かを堪える強さで雅はぎゅっと瞳を閉じた。
147 名前:distance 投稿日:2010/02/02(火) 19:21


「終わったー!」

勢いよくドアが開かれた。
同時に弾けるように雅と愛理は離れる。腰をずらした雅はドスンと鈍い音と共にソファーから落ちた。



「どしたの」


完全に状況がわかってない桃子の声で、転落した雅に手を貸している愛理は盛大にため息をついた。


「もも、二回目」
148 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/07(日) 16:29
ドキドキしたわー。
ももちはいいとこで来るなw
149 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/17(水) 01:54
最高です!!
こんなりしゃみやあいり読みたかった。
150 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/18(木) 08:22
愛理に頑張ってほしい!
いつも悲恋が多いから・・・
151 名前:distance 投稿日:2010/02/24(水) 01:38

堰が切れて溢れ出した愛理の想いは、その大きさの分強い力を持っていた。
抑えられていた時間の分、一度開いたら滝の如く勢いをつけて雅に向かっていっ
た。
152 名前:distance 投稿日:2010/02/24(水) 01:39

楽屋ではもちろん、仕事への移動の車内でも、帰り道でも、短い休憩時間に自動
販売機へ向かう時さえも。
仕事以外の時間はすべてといっていいほど、
愛理は雅に付いて回った。
そしてどんな時でも二人きりになる隙を見つけて、雅に触れたがった。
じゃれあいのそれではなく、触れた所から伝わる熱が言葉より強い想いを乗せて
いる、
確実に今までのラインを飛び越えるような、触れ方。
153 名前:distance 投稿日:2010/02/24(水) 01:39

雅の目の前の見慣れているはずの女の子が差し出すものは、全く見覚えのないも
のだった。

それは不安と同時に不思議な感覚を雅に与えた。

知らないもの、分からないもの、少し怖くて、だけどなぜか惹かれる――新しい
もの。

雅はいつだって新しいことに気をとられてしまう。
新商品や新学期、新しい流行。真新しいものはなんだって雅の目に輝いて映るか
ら、つい心を、奪われる。

154 名前:distance 投稿日:2010/02/24(水) 01:40


今日も当たり前のように膝の上に座われた。首に回された腕と太股の重みが思考
を鈍らせる。


白い肌にくっきりと浮かび上がる鎖骨の形が綺麗だと思った。
その上を流れる黒髪が綺麗だと思った。
水分が多そうな瞳が綺麗だと思った。

初めて気付いた美しさは雅を魅きつけるのに充分だった。

155 名前:distance 投稿日:2010/02/24(水) 01:40


「みや」

囁かれて、ついに手を伸ばす。

愛理結構白いよね。
梨沙子とどっちが白いだろう。
白さの質が違う気がする。
梨沙子はマシュマロみたいな、甘いお菓子を連想させる感じ。


梨沙子――。

何気なく浮かんだ単語に手が止まる。
156 名前:distance 投稿日:2010/02/24(水) 01:41



157 名前:distance 投稿日:2010/02/24(水) 01:41


なくしてもいいと思っていた。
雅が手に入るなら、無くしたって傷付いたって、構わない。

梨沙子を見て叶わないと分かっていたから、誰にも秘密で、こっそり、ずっと好
きだった。
諦めかけて、気持ちを決めたのに、どうしても恋を手放せなかった。
棄てられないと分かったら覚悟を決めた。
恋だって勝負だ。勝ち目が無くても賭けざるを得ない勝負だ。
ずっと守っていた線を飛び越えて、ズルまでした。
独占できるように。もっと側に居られるように。誰よりも側に、居られるように


思いを込めて、好きな人の名前を呼ぶ。




「みや」
158 名前:作者 投稿日:2010/02/24(水) 01:44
レスありがとうございます。
短いのぽつぽつ書きたかったのに気づいたら長いものになってしまう。
お付き合いいただけたら幸いです。
159 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/25(木) 02:47
愛理ちゃん優勢ですが梨沙子の反撃はあるのでしょうか?
雅ちゃんは押しに弱そうだからな〜。
160 名前:作者 投稿日:2010/03/07(日) 23:14
なかなか続きが書けない!ので、えー、本編とはまったく関係がない昔書いたうめすずが発掘されたのでちょっとのせてみます。、、、供養させてください。
161 名前:next step 投稿日:2010/03/07(日) 23:15



next step
162 名前:next step 投稿日:2010/03/07(日) 23:16

時計の秒針が動く音が気になるくらい、静まり返っている、真っ暗な空間。

目を閉じても眠れる気がしなくて、
隣で寝ているえりかちゃんのほうに顔を向けてみる。
起きているかどうか、真っ暗だからよく分からないけど、
なんとなく眠ってしまっただろうなと思う。
同じベッドで眠っても、いつだって指一本触れてくれない人だから。
163 名前:next step 投稿日:2010/03/07(日) 23:17


えりかちゃんはいつも優しい。
寂しい時とか辛い時、自然と傍に居てくれる。
些細な変化に気づいてくれて、大事にされてるって日々感じてる。

でもあたしは、もう出会った頃みたいな子供じゃない。
それだけじゃ、足りないんだ。
恋には足りないよ。



最近少しだけ不安。
余裕の笑顔で佇んでいる彼女を見ていると、全部自分の独りよがりなんじゃないか、って思うときがある。
あたしだけが、えりかちゃんにもっと近付きたいって思ってるのかな、って。

本当にそうだったら、、、。考えるだけで苦しくて聞くことが出来ない、臆病者。
それなら。
言葉以外の方法で、えりかちゃんを知りたい。
あたしを知ってほしい。
164 名前:next step 投稿日:2010/03/07(日) 23:18


暗闇の中そっと左手の先を動かして、隣の右腕に触れてみる。


「……んー?」

間延びした声がすぐ近くから届いた。
起きてたんだ、という事実に驚いて、嬉しくなる。


「えりかちゃーん」
「ん?」
「寝れないよう」
「珍しいねえ」

少し、触れている手に力を込める。


「へへ」

笑ってぴたりと体をくっつけた。あったかい。
165 名前:next step 投稿日:2010/03/07(日) 23:21
「……甘えん坊ー」

長い腕があたしをまるごと包んだ。
少し笑ったえりかちゃんの顔が目の前に来る。
長い睫毛に縁取られている瞳は、すごく綺麗だ。
視線を下ろしていくと形の良い唇が目に入って、
引き寄せられるみたいに口づけた。

柔らかい感触。

「ふふ」

笑い声と共に、気持ち良さに浸る前に唇は離された。
それから素早く頬にキスが落とされる。

「ねんねしましょうねー」

ふざけた声と言葉であしらわれる。

瞬間。

ぷちん、と何かキレる音がした。

子供じゃない、って言ってるじゃん――
166 名前:next step 投稿日:2010/03/07(日) 23:21



頭に血が上る。衝動が身体を動かす。華奢な肩を強く掴むと、驚いて揺れるえりかちゃんの瞳を睨みつけて、

強引に唇をえりかちゃんのものに押し付ける。
少し離して、唇を舐める。隙間から舌を侵入させる。


「んっ」


掴んでいた右腕が逃れようと暴れたので、掌を滑らせて括れた腰に降ろした。
そのまま引き寄せて身体を密着させる。

身体の攻防戦とは反対に、舌をゆっくりと動かす。
柔らかさを味わうように口内をくるりと一周する。
舌と舌が触れ合った瞬間、えりかちゃんの腰がびくりと跳ねた。

お、反応した!
なんて思っていたら顔を離される。
167 名前:next step 投稿日:2010/03/07(日) 23:23



「あいり!」
「なあに」
「なにじゃないっしょ、ちょっと」


困ってる顔。

それ、恋人にこういうことされて、する表情じゃないよ。
気が落ちる。
怒りは徐々に悲しみへと変化していく。


「なんでえりかちゃんはなにもしてくれないの」
「……え?」
「全然触ってくれない。もっとあたしは近付きたいのに全然、えりかちゃん、」

鼻がつん、と痛くなる。口がうまく回らなくなる。
あ、やばい泣くかも。
一人で怒って泣いて困らせて、なにやっているんだろう。
ほんとにあたしの、独りよがりだったんだ――
168 名前:next step 投稿日:2010/03/07(日) 23:24


そう実感するといよいよ涙が零れてきそうだった。
堪えなきゃ、と目と口を引き結ぼうとする。
その上に、ついさっきまで感じていた感触が覆った。
目を開けると、キスをするときの距離のえりかちゃん。


「ごめん」

言葉と一緒に、また口づけられる。


「なんか、ちょっと触ると」

額に、頬に、耳に。キスが降って来る。
あったかい気持ちが篭められてるのがわかる優しいキス。


「止まんなくなっちゃいそうで」

最後に唇に。
それはさっきみたいなキスじゃなくて。
169 名前:next step 投稿日:2010/03/07(日) 23:24



「……はぁっ」

呼吸まで奪われるみたいなキス。
簡単にこじ開けられて、捕らえる。
動きに全然着いていけなくて、追いかけるのがやっと。

「……触れなかった」

えりかちゃんがあたしの上に居るのに気付いたのは、解放された時だった。
えりかちゃんの長い髪が頬を掠めて、華やかな香りが少し遅れて降りてきた。


「……愛理を傷付けたくない」

小さな声は可哀相なくらい自信なさ気に響いた。
自分のほうがよっぽど傷付いた顔をしていること、知らないんだろうな。
悲しげな目をしているえりかちゃんを見て分かった。
170 名前:next step 投稿日:2010/03/07(日) 23:31

あたしだけじゃない。えりかちゃんも怖かったんだ。
二人の関係を壊してしまうことに怯えていたんだ。


確信して決心した。そっとあたしの上から退こうとして動きかけた腕を掴む。
離す気なんてなかった。

「あたしはえりかちゃんにもっと近付きたいよ」


少し顔を浮かせて頬にキスをした。

「傷付かないから」


傷付くわけがない。痛みだって涙だって、えりかちゃんのくれるものなら全部愛しい。

だから……

「……して?」

壊れるのは、失うことは、同時に新しいものが生まれることなんだから。
一緒に作ればいいんだよ。えりかちゃんとなら、できる。
二人なら怖くないよ。


えりかちゃんの頬をさらりと撫でる。

ゆっくりと頷いたえりかちゃんの瞳は、さっきとは全く違う、強い光を抱いていた。



近付く唇に閉じた瞼が、次の場所へと行く二人の合図。
171 名前:作者 投稿日:2010/03/07(日) 23:33

おわりです。ありがとうございました。distance頑張りますので、暫しお待ちを。
172 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/08(月) 16:58
またまたうめすずが読めて嬉しいです。
distanceもお待ちしています。
ぼちぼち書いてくださいね。
173 名前:distance 投稿日:2010/03/11(木) 23:04





あれ、
なんか
おかしいな
174 名前:distance 投稿日:2010/03/11(木) 23:05


季節が変わっていくほどの些細な変化率だった。


ほんの少しづつ
だけど確実に以前とは違う雅を梨沙子は見つめていた。
物に触れる仕草、考え事をしているときの仕草、人に話し掛けるときの仕草。
一瞬に、何か引っ掛かる。

「梨沙子つぎー」
「あ今行く」


ピンクの迷彩衣装を着込んで腕組をして難しい顔で突っ立っていたのはさぞ滑稽だっただろう。
千奈美がからかいたそうな顔をして呼んでいる。
175 名前:distance 投稿日:2010/03/11(木) 23:06

次のカットはバストアップショットだっけ。
グリーンの背景へ小走りで向かう。
近づいていくと扉の近くに居る雅と佐紀に気付いた。

――ああ、やっぱり、なんか。


胸のはしっこにもやもやが掛かりはじめる。
見ないほうがいい、今は考えるな。振り切るように頭の中で唱えてカメラの前に立った。
仕事となるとスイッチが自動的に切り替わるようになったのは
いつだったか。覚えていないほどだ。
それはメンバーの全員に言えることだった。カメラの前に立つ時はプロ。幼い頃から埋め込まれた潜在意識。

すれ違い様千奈美に脇腹を突かれたのも上手く頭を切り替えるきっかけになって、どうにか一発OKを貰った。
176 名前:distance 投稿日:2010/03/11(木) 23:07


個人の撮りが終わり、短い休憩を挟んだ後は、全員での撮影だ。
ダンスは二、三日前に完成したばかりだったが、
今回は特に難しい振りも無かったので、誰もミスを出さずに終盤にかかった。
友里奈が衣装のグローブを着け忘れていた事以外は何事も無く順調に撮影は終わる。


「OK!」
「ありがとうございました!」
「ありがとうございましたー!」

声と同時に空気が一気に弛緩する。

現場のスタッフに頭を下げながらメンバーの後に従い梨沙子は背景の外に出ていく。


「ありがとうございましたー」
177 名前:distance 投稿日:2010/03/11(木) 23:07


耳慣れた一番好きな声が飛び込んだ。

「梨沙子おつかれー」


機嫌の良いときの声だ。
笑おう、そう思って振り返った。
頭をポン、と触れる感触。こちらを見る眼差し。
確信する。

やっぱり――違う。

雅はそのまま梨沙子を追い越し、前を行くメンバーに紛れて行った。

傍目から見たら何の差も感じられないだろう。メンバーですら見えない領域が梨沙子には見えていた。
雅の事は誰よりも敏感に耳を澄ませてきたからこそ分かる。

違和感の正体。上手くは言葉にすることが出来ないけど、
距離が開いた気がした。
長い間動くことが無かった距離が、見えない何かに遮られた感覚。
178 名前:distance 投稿日:2010/03/11(木) 23:08



知りたいような、知りたくないような気がした。
あまり良い予感ではなかった。
だけど今知らなければ、もっと距離が開いてしまう予感がしていた。
昔から自分の直感には自信があった。
あたしには、なんとなく、が一番信頼できるんだ。
179 名前:distance 投稿日:2010/03/11(木) 23:09


メンバーの誰より先に楽屋に入った雅は私服に着替えると、鞄から携帯を取り出す。
ロッカーに寄り掛かりメールをチェックしている内に
着替えの終わったメンバーが「お疲れ」と一声残して続々と去っていった。

普段なら喋ったりふざけあったりしてダラダラと楽屋に残っているのだが、
撮影開始が遅かったせいで外はすっかり真っ暗になっていたので、今日は支度が済むと皆すぐに帰っていく。

返信を一通り終えてパチンと携帯を閉じて顔を上げる頃には
部屋には雅と梨沙子の二人だけになっていた。

コートを羽織ってマフラーまで締めて、完全に外に出ることができる格好の梨沙子に雅は首を傾げる。
180 名前:distance 投稿日:2010/03/11(木) 23:09

「あれ梨沙子、帰んないの?」

「みや待ってた。一緒に帰ろう?」


黒いレザーのバックを両手に抱えながら梨沙子は雅に微笑みかけた。
二人の家はダンススタジオを挟んで反対方向なので、『一緒に帰る』と言っても駅までの短い道程だけだ。
夜一人で歩いても特に危険はないだろうほどの距離、
わざわざ自分を待つ必要はあるのだろうか――雅は不思議に思いながらも、
深く考えずに笑顔で頷き、揃って部屋を後にした。
181 名前:distance 投稿日:2010/03/11(木) 23:10

建物を一歩出た瞬間に真冬の空気が全身を包む。
夜になって一層張り詰めたような冷たさは、運動で暖まっていた身体に容赦無く襲い掛かる。
雪が降ってもおかしくない寒さだ。


「さむっ!」
反射的に雅は首を竦めてマフラーに顔を埋めた。


「寒い寒い寒い」

機械的に早口で繰り返す梨沙子を見ると、解けかけているマフラーが風に靡いている。

雅は少し笑って梨沙子の首に手を伸ばして、長く垂れた白いマフラーの端を掴んだ。
立ち止まった梨沙子の正面に立つ。一度くるりと首周りに回して、綺麗に巻き直す。
あまり強く締め付けないよう配慮しながら形を整えてやると、軽くマフラーをぽん、と叩いた。


「できた」


マフラーから顔を上げると、至近距離で目が合う。
暗闇でも解るくらい梨沙子は悲しい顔をしていて、
驚きから白いマフラーを掴んだまま雅の動きが止まった。
182 名前:distance 投稿日:2010/03/11(木) 23:15



わかった。
違和感の正体。

二人を繋いでいたはずの"何か"が切れた。

どんなに気づかれなくても、こちらを向いてくれなくても、それだけを信じて思い続けてきた、唯一の光だった。
不確かで見えなくて頼りないけど、同時に世界で二人だけを結んでいた特別の証だった。
絶対的な絆だった。

それが切れたことが確かに分かった。
雅の笑い方も温度も、それが裁ち切られたことを伝えていた。


運命だって、思っていた。
確かに手の中にあったはずのものを無くした衝撃と圧倒的な喪失感が体中を蝕む。
それでも泣き出しそうな気持ちを必死に抑えた。雅に迷惑はかけたくなかった。
それでも梨沙子は雅が好きだった。


ぎゅっと手を閉じて堪える。
梨沙子が顔をあげると硬い表情の雅と視線が交じる。

梨沙子の瞳が切なげにゆっくりと細められた。

「ありがとう」
183 名前:distance 投稿日:2010/03/11(木) 23:17


昔から梨沙子は雅に何か世話をされると眩しいくらいの笑顔を見せていた。
飼い主が家に帰ってきた時の子犬のような、嬉しくてたまらないというのが滲み出ている笑顔。
どれだけ月日が経っても変わらないそれに慣れていた雅は、梨沙子の初めての反応に唐突に突き放された気がした。
胸の中心がザクリと切られたように痛んで、何かを言う前に
梨沙子を捕まえた。思い切り、抱きしめる。
自分が辛いと感じたことも切ないと感じた理由も、何に対してのありがとうかも
全く分からないまま梨沙子を抱きしめた。
縋る気持ちで抱きしめた。


梨沙子の限界はそこまでだった。
酸素を求めて陸を跳ねる魚ほど胸が苦しかった。
184 名前:distance 投稿日:2010/03/11(木) 23:19


雅がきつく閉じ込めたはずの腕を静かに離し、梨沙子は何も言わずに
背を向けて歩きはじめる。
足音とともに影はどんどん小さくなっていく。

その後ろ姿を見ながら雅はまだ立ち尽くしていた。
夜の闇の黒に決して溶け込まない白が眩しいな、とただぼんやり眺めながら思った。

動けずにいる雅と振り返らない梨沙子との距離がどんどん開いていく。

雅が歩き出す頃には、とっくに闇の中の白は消えた後だった。


それぞれ胸に同じ暖かさと痛みを抱えて、別々で歩いて行った。
185 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/13(土) 06:47
これは…彼女の頑張りが実ったと思っていいのでしょうか…?
186 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/16(火) 00:28
なんか・・・

なんか辛いよお!
187 名前:SAGE 投稿日:2010/04/04(日) 22:01
こうきたか…
続き楽しみに待ってます。
188 名前:disance 投稿日:2011/11/25(金) 07:53
***

息を吐き出すと白くなって、すっと空気に溶けて消える。
それが面白くて、雅は何度も繰り返していた。そして一通り楽しむと振り向いて
、少し離れた場所に立つ愛理に笑いかけた。

「愛理もやろうよー」


透き通る冬の青空の下、輝く太陽。反射する雪。雅の笑顔。その眩しさのどれも
にに、愛理は目を細めながら頷いた。
支給された白いベンチコートをシャカシャカと鳴らしながら駆け寄って隣に並ぶ


不意に手の甲同士が触れる。
すると、どちらともなく二つの手は繋がれた。
それが嬉しくて、愛理はこっそり微笑んだ。

雅がしていたように、はー、と愛理も大きく息を吐く。それはやはり即座に白く
染まった。

「おぉー」

目を輝かせながら同じ事を繰り返す。数分前の雅と同じ表情で愛理は寒さと戯れ
る。

「冬ってかんじー」
「だねえ」

雅が繋がった手にキュッと力を込める。愛理はさっきより堂々と笑った。それを
見た雅も笑顔になる。


「ねえ桃はー!」



189 名前:disance 投稿日:2011/11/25(金) 07:53
Buono!での久しぶりの仕事だった。
冬の曲なので、と安易に雪景色の地を選んでMV撮影。
年末に向けてスケジュールが詰まるなかでの、
泊まり掛けの仕事は、三人にとってはちょっとした息抜きにもなっていた。
都会で細長いビルを行き来する生活からの解放感で、三人とも活き活きとした笑
顔を見せていた。
そのせいか、予定していた時間よりも随分と早い上がりが告げられた。


「八時上がりとか、久々じゃない?」
「やばい、嬉しすぎる。何しよー!」
「課題できる…!!」

仕事が終わり家についたら、大体夜も更けきっていて。
次の日も早い時間から仕事が入っているので、シャワーだけ浴びて即就寝、が続
いた毎日を送っていた三人。
かなりテンションが上がる状況だ。

「やっぱまずはゆっくりお風呂でー、ペディキュア直して……あーしたいこと多
すぎる!楽しみー!!ね、愛理」

嬉しさを満面に出しながら雅は愛理を振り返った。

もちろん愛理も、時間がなくて最近後回しにしがちだった事をいくつも頭に思い
浮かべていた。
トリートメントに、久しぶりの長めのボディケア、友達にメールの返信……。

――だけど。


「愛理?」

雅の顔を見て、最優先に気付いた。

「……うん、楽しみ」

訝しげな雅に笑顔を返して、部屋へ促すように背中にれた。
ともすれば力が籠りそうな指先を押さえながら、あくまでもそっと。







.
190 名前:disance 投稿日:2011/11/25(金) 07:54
左足の小指の爪を丁寧に撫で下ろす筆先を見ていた。ベ
ッドにうつ伏せて、肘だけついた体制で暫く愛理は雅を見詰めていた。
見詰めて、焦れていた。
隙間なく作業をしている雅に、焦れていた。

足をパタと鳴らしてみる。
無反応。
いや、無反応どころか、気付いてすらいないだろう。
それどころか、もしかしたら。
私がいることすら忘れているかもしれない。

考えが頭に過ると、一気に不安が押し寄せる。
お出かけの途中でお母さんをふと見失った小さな子供みたいだ。
私は確実に裁ち切ったはずだ。
だから結んだ。
はにかんで頷いた顔が焼き付いている。
みやは私のもの。
私のなんだ。
私のだよね?



「みやっ」

声が切迫した色で音になった。
191 名前:disance 投稿日:2011/11/25(金) 07:54
「どした?」

その音に反応して雅は顔を上げる。
少し驚いた丸い瞳が愛理を捉えた。


――この瞳を。
私は手に入れたはずだ。


愛理は立ち上がると、徐に雅に近付き、隣に座った。
確認して、確信したかった。
雅の心も。私の行動も。
間違ってなんかいないと、認めて欲しかった。


「愛理」

愛理に首だけ向けている雅は、尚も先ほどと同じ瞳でその動きを追っていた。

192 名前:disance 投稿日:2011/11/25(金) 07:55
軽く俯いていた愛理はゆっくりと顔を上げ、再び目を合わせる。
それから緊張気味に腕を伸ばし、指先だけで雅の頬に触れた。
自分以外の温度に反応して、雅の気が全て愛理に集中する。
二人の纏う空気がしんと鎮まった。


「みやは……」

一言でいい。


「私・・・」

193 名前:sage 投稿日:2011/11/27(日) 21:37
待ちわびて、諦めていた続編がきて呆然としてます。
まだ続きを書いてくれるのかという驚嘆と、好きでいた物の懐かしさで複雑な思いですが、とにかく嬉しいです。
194 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/11(水) 11:04
ここの鈴木さんが好きです。
これからも期待して待ってます。
195 名前:distance 投稿日:2012/12/12(水) 22:18
――訊いたところで。

頭に浮かんだ自分の声が愛理の言葉を奪った。
訊いたところで、本当の答えが返ってくることはない。
本当の答えを、みやは知らないんだから。

「愛理?」

雅の訝しがる瞳が何よりも真実を語っていた。


私はこの先ずっと、それを隠さなきゃいけない。
本当の答えを、本来あるべき姿を奪ったのは私だ。


「遊んでー」
196 名前:distance 投稿日:2012/12/12(水) 22:18
「わ、って危ない!ペディキュアぬってんの!」

愛理はゆるい声を出しながら雅に全身でもたれ掛かった。
反射の速度で愛理を受け止めながら、慌てて雅はマニキュアの小瓶を片手で避ける。

「もーちょっとで終わるから」

ぽんぽん、と愛理の頭を優しい手が促す。
その暖かさが愛理を溶かして、涙がじわりと込み上げてきた。
まぶたの縁に滲んだ事に気がついてすぐに拭ったけれど、
それが雅の優しさからなのか罪の意識からだったのかは、自分でも分からなかった。



197 名前:名無し 投稿日:2012/12/12(水) 22:22
ヘドが出る更新ペースですいません。。
完結までこぎ着ける気持ちはあります。

ついでに、ほかのSSもぺいっと投下することもあるかと思います。
雑なスレで本当にご迷惑おかけしますが、もしまだ読んでくださっている方が居ましたら、何卒よろしくです。
198 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/12/14(金) 08:28
これからもこの物語を読むことができて、嬉しいです。
どんな形になるのか楽しみです。
ほかの物語も読んでみたいので、楽しみにしてます。
199 名前:名無し飼育さん 投稿日:2013/01/05(土) 22:02
続きキテター!
嬉しいですっ
何度でも読み返しながら更新を待ってます

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