全力で、逆走2
- 1 名前:510-16 投稿日:2008/09/19(金) 10:13
- 前スレ ttp://m-seek.net/test/read.cgi/grass/1205495080/
こんにちは。
容量がいっぱいになったので新スレ立てさせていただきました。
ベリキューの短編です。
やじうめ、あいかん、りしゃみや中心になると予想されますが、それ以外のカプも書きます。
駄文ですが、初めましての方もそうでない方もよろしければお付き合いください。
- 2 名前:510-16 投稿日:2008/09/19(金) 10:13
- まずは前スレの続きです。
- 3 名前:片手つないでツナワタリ 投稿日:2008/09/19(金) 10:14
- 「あ、えりかちゃんたちじゃん。」
桃子は先ほどまで佐紀が見ていた二人に気づいたようだ。
もうちょっと近かったらおそらく声をかけに行ったのだろうが、追いつける距離でもないのでそのままのペースで二人で歩く。
「すっかり仲良しさんだよね、あの二人。」
桃子もまったく同じ感想を持っているらしい。
佐紀は桃子と並び、遠くにある背中を見つめた。
「でも、うちらが最強だよね!ね、佐紀ちゃん、ももたち、ずっとずっと友達でいようね。佐紀ちゃんはももにとって大事な人なんだから。」
立ち止まり、ぐっと前のめりになる桃子を見て、佐紀は思う。
桃子は、まっすぐ。
あたしなら言えそうにない、照れくさい台詞だって平気で言える。
桃子の言葉が嬉しかった佐紀は、「そうだね!」と笑顔で答えた。
- 4 名前:片手つないでツナワタリ 投稿日:2008/09/19(金) 10:15
- 二人は、また歩き出した。
先を歩いていたえりかと舞美は、もう視界にはいなかった。
しかし、佐紀の脳裏にはえりかと舞美の姿がいつまでもいつづけた。
『ずっとずっと友達でいようね』
―友達、か。
ももとあたしは、ずっと一緒にいた。
これからも、変わらないだろう。
これからも、ずっと「友達」―
ももはあたしのこと、どう思っているのだろう。
えりかたちの関係が変化したと意識し始めてから、佐紀の頭の中には同じ疑問が繰り返し浮かんでは消えた。
- 5 名前:片手つないでツナワタリ 投稿日:2008/09/19(金) 10:15
- 自分の気持ちに正直で、表情も豊かな桃子だが、だからこそ佐紀には桃子が何を考えているか見えなかった。
桃子には、自分が必要だ。
佐紀はそう自負していた。
自惚れているとは思わなかった。
佐紀だって同じように、桃子なしの生活なんて考えられないからだ。
だから、きっとあたしたちは、何年たっても、何十年たっても、このまま。
今までと同じように、あたしたちのリズムで。
真顔で自分の気持ちを話したら、どうなるだろう。
いろいろなパターンを想定してみるけれど、どれも現実味はなかった。
- 6 名前:片手つないでツナワタリ 投稿日:2008/09/19(金) 10:15
- あ。
佐紀は再び桃子と手をつないでいることに気がついた。
無意識のうちにやっていたのかもしれない。どちらからともなく。
「佐紀ちゃんのももなんだから、ちゃんと握っててよね。」
つないだ手を見ている佐紀に向かって、桃子が冗談ぽく言った。
ももは、たまにドキっとすることを言う。
ポーカーフェイスは得意だと思っていた佐紀だが、桃子に自分の気持ちが見透かされているような焦燥感を感じていた。
- 7 名前:片手つないでツナワタリ 投稿日:2008/09/19(金) 10:16
- 無意識に手を離したり、繋いだり。
今はまだ、それでいいのかもしれない。
この手を意識して繋ぎとめなければいけなくなるとき。
ももが「手を握ってほしい」とせがまなくなるとき。
いつかは、そんなときが来るのかもしれない。
そのとき、もしかしたらあたしたちのバランスは崩れるかもしれない。
あたしが何か行動を起す場合も、それは同じことで。
つまり、関係を変えようとするってことは、今までのあたしたちじゃいられなくなるってことで。
先に待つものが、一歩進んだ関係だとしたら。
桃子手を握る相手が、望みどおり自分でも、それ以外の誰かでも。
変わってしまうことには変わりないのだ。
佐紀はまだそれが怖かった。
- 8 名前:片手つないでツナワタリ 投稿日:2008/09/19(金) 10:16
- 二人の関係を意識し始めてから、「友達」という響きに、満足できていないところもある。
桃子は自分のことをどう思っているのか、気にならないといったら嘘になる。
しかし、自分たちのバランスを壊してもいいと思えるほどの気持ちを、佐紀はまだ見つけていない。
あたしたちは、あたしたちのリズムを保ったまま、歩いている。
ももは変わらずまっすぐで、ぶりっこで、あたしに甘えてくる。
だけど
『握っててよね』
反面、変わるはずのない桃子が、どんどん魅力的な女性になっているのもまた事実だった。
そして、彼女に対する自分の気持ちもまた僅かながら、しかし確実に強くなっている。
先の見えない綱渡り。
いつ落ちてもおかしくない。
一生綱の上を渡り続けるのかもしれない。そして案外それは楽しいのかもしれない。
しかしそれでも見えていないその先の何かにも期待しずにはいられないのだ。
- 9 名前:片手つないでツナワタリ 投稿日:2008/09/19(金) 10:16
- 「佐紀ちゃんってば、また離してるぅ」
「だってさ、暑くない?てか、離したのももじゃないの?」
「ち、違うもん!」
焦っている桃子を見て、佐紀は自分の頬がゆるんでいることに気づいた。
いつもの道を、二人で歩く。
再びその手が繋がれていることには、佐紀も桃子も気づいていなかった。
- 10 名前:片手つないでツナワタリ 投稿日:2008/09/19(金) 10:16
-
- 11 名前:片手つないでツナワタリ 投稿日:2008/09/19(金) 10:18
-
- 12 名前:片手つないでツナワタリ 投稿日:2008/09/19(金) 10:18
- 『片手つないでツナワタリ』―完
从 ’w’)<おしまいは
- 13 名前:510-16 投稿日:2008/09/19(金) 10:28
- 『全力で逆走』のしみもも番外編でした。
前スレのレスです。
>>274 名無しさん
最後までお付き合いいただいて本当にありがとうございました。
稚拙な文章で申し訳ないです。
でも、あの2行はあたしも気に入っています、とか言ってw
やじうめがめちゃくちゃ好きになっただなんて!
一番のほめ言葉です。
リl|*´∀`l|人从・ゥ・*从<これからもやじうめをよろしくね!
>>275 ななしいくさん
レスありがとうございます!
やっと完結しました・・・本当に遅くなってしまい申し訳ないです。
ラストですが、実はすごく迷いました。(構成自体は最初に全部考えていたのですが・・・)
そういっていただけると、本当に嬉しいです。
今後もよろしければ覗いてみてくださいね。
- 14 名前:名無しあ 投稿日:2008/09/21(日) 00:35
- やじうめに続いてしみももハマりそうです
2人の姿が想像できて、ニヤニヤしましたw
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/22(月) 00:37
- 草板は次スレを立ててはいけないのでは?
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/30(火) 19:57
- 一応前スレの表題作は完結しているようですが…
わざわざ短編を書いて容量を越えるなら、夢幻か森あたりに移転申請をするべきだったと思います。
1スレ完結を前提として短編用の板(森・草)があるので、スレの無駄使いは自重しましょう。
でもまぁ立てちゃったもんはしょうがないので頑張ってください。
楽しみにしてます。
- 17 名前:名無しさん 投稿日:2008/11/02(日) 11:23
- やじうめ最高!!
また期待してます!
- 18 名前:510-16 投稿日:2009/01/31(土) 21:31
- まずはお詫びを。
短編用の草板に次スレを立ててしまい、申し訳ありませんでした。
作者様読者様ならびに管理人さんには深くお詫び申し上げます。
ご迷惑おかけいたしました。
コメレスです
>>14 名無しあさん
ありがとうございます。
しみももちゃいこーですwもっとニヤニヤしてくださいw
>>15 名無飼育さん
安易にスレ立てしてしまい、すみませんでした。
ご指摘感謝します!
>>16 名無飼育さん
本当におっしゃるとおりです。
結果的にスレの無駄遣いになり、多くの方に迷惑をかけてしまったことを反省してます。
スレタイに関してですが、短編集全般のタイトルとしているつもりです。
フォローも、重ね重ねありがとうございます。
>>17 名無しさん
読んでいただいてありがとうございます。
前述のとおり、草板ですが、続き物になってしまいました。
読みにくかったら申し訳ないです。
暖かいコメント、本当にありがたいです。
よろしければ今後もよろしくおねがいします。
- 19 名前:510-16 投稿日:2009/01/31(土) 21:37
- お久しぶりです、510-16です。
あいかん書きます。あんまり明るい話にはならないと思われます。
※若干ですが、性描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。
- 20 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/01/31(土) 21:37
- 眼が覚めて、身体を起こした瞬間、頭の奥に鈍い痛みを感じた。
ただでさえ低血圧なのに、その上頭痛か。
あたしは憂鬱になりながら窓に近づき、灰色のカーテンを開けてみた。
ちょうど日が暮れるころだった。
空には雲がうっすらとかかっていたが、あたしはなんとなく、雨が降るような気がした。
頭痛がするときは、決まって雨が降るからだ。
- 21 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/01/31(土) 21:38
- 雨はあたしに嫌な記憶を思い出させる。
ザーザーザーザー
どしゃぶりの雨
せわしなく動くワイパー
近づいてくるトラックの大きなライト
キキーッ!!!!!!!
吹き飛ばされるような衝撃
ガシャンと窓の割れる音
人々の悲鳴
それから救急車のサイレン
ザーザーザーザー
それから
静かな霊安室
横たわる二つの身体
- 22 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/01/31(土) 21:38
- そろそろ、行くか。
夏も終わり、すっかり日が短くなったこの季節。
普通なら太陽が完全に沈んだのを確認してから外に出かけるところだが、あたしは再びカーテンを閉めると、玄関に向かった。
いつまでも一人で夕焼けを見ている自信がなかったからかもしれない。
あたしは、自分の頭に思い出したくない記憶とかすかな痛みを感じ、立て掛けてあったビニール傘を持って、家を後にした。
- 23 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/01/31(土) 21:39
- 背の高いビル、大きなスクリーン、スクランブル交差点
今日も煌びやかな都会には大勢の人でいっぱいだった。
しかし、普通に歩いていたら気づかないような細く暗い路地を1本抜けると、そこには賑やかな繁華街とは正反対の世界が存在する。
浮浪者、柄の悪いチンピラの集団、売春婦―
世間の異端者が集うこの通りこそ、あたしの「仕事場」だ。
カンナ
おそらく、この通りであたしの名前を知らない人は、いない。
日が暮れるとふらっと現れるその人は、誰もが虜になってしまうような妖艶な何かを持っている。
彼女が与える快感は、人々を魅了し狂わせ溺れさせる。
それはどんな媚薬も敵わないほど、刺激的。
そして世界が変わってしまうほど、気持ちいい。
その快楽を得るため、今日も誰かが、汚いお金を彼女に差し出す。
- 24 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/01/31(土) 21:39
- 「ちょっと早かったかな」
あたしが出向いた先は、廃墟に挟まれた小さな空き地。
その昔は公園だったようだ。
すっかりペンキがはげてしまった滑り台や腐りかけの板が揺れるだけのブランコが、その名残だ。
どこかに行くあてもない。
しかし、あたしは自分自身が動かなくても、「お客」は自然にやってくるということを知っていた。
ベンチにはぐしゃぐしゃになったスポーツ紙が落ちていた。
- 25 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/01/31(土) 21:39
- ん?
ようやく日も暮れかけ、そろそろ動き出せると思っていたあたしの目に飛び込んできたのは、高校生くらいの女の子。
彼女はおろおろしながらこの広場に入ってきた。
あたしには到底似合いそうにもない、黒と白のチェックのワンピース。
高い位置で美しく結ばれたツインテール。
普段から周りのことにはとことん無関心なあたしでも気づくほど、「それ」はこの空間からどう見たって浮いていた。
いやらしいサラリーマンたちからお小遣いを稼ごうとする女子高生はたまに見かけるが、彼女はとてもそういう風には見えなかった。
そう、穢れを知らない、純真で無垢な―
・・・・・バカみたい
あたしは思い直す。
人間ほどわずらわしい生き物なんていない。
彼らと関わりを持ってよかった例なんて、あっただろうか。
そこまで考えて、あたしはそれ以前に自分が他人と関わろうとしていないということに気づいた。
だから、よかった例も知らないが、悪かった例も実際数えるほどしかないのかもしれない。
だけど、結果は目に見えてる。
いいことなんて、ないに決まってる。
あたしは自分の考えに自信があった。
- 26 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/01/31(土) 21:40
- 少女はいつの間にかいなくなっていた。
今日はどんな人を相手にするのか。
いたずらに想像してみる。
経験豊富な年上のお姉さんだろうか。
それとも、好奇心旺盛なおてんばなお譲ちゃんだろうか。
しかし、想像はしてみるものの、何かわくわくするような期待感を味わえるわけでもなかった。
- 27 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/01/31(土) 21:40
- 一般的なイメージとは違うとだろうが、あたしの相手は、基本的に女性だ。
『もしもやるなら、男とはしないって約束して。いざというときに力で勝てないし、あんたの商売道具である身体に乱暴されたら元も子もないでしょ?あんたは、女として、女で勝負しなさい。絶対成功するから。そういうオーラを感じるのよ、あたし。』
それが、ここにやってきた頃、まだ中学を卒業したばかりだったあたしがもらった、ある人からのアドバイスだった。
理由はよくわからない。
しかし、あたしは、その人だけは信じられた。
だからこれまで一度も男を相手したことはない。
あたしは「する」側であって、「される」側ではないのだ。
- 28 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/01/31(土) 21:41
- まただ。
さっきから、何度も広場を横切っているのは、あのツインテール少女。
不安げな表情で足早に歩いては、立ち止まってきょろきょろと顔を動かし、また歩き出す。
そんな動きを繰り返していた。
『それから、もうひとつ。絶対に相手に恋愛感情を持たないこと。というか、特定の人に特別な感情を抱かないこと。複数の人を相手にする仕事だからね。』
あたしの頭に浮かんできたのは、あの人の台詞。
言われなくても、あたしは自分でそのルールを作っていただろうと思う。
人間とのかかわりほど面倒で厄介なものはない。
いや、むしろそんなルールなんて必要ないのかもしれない。
もともと無感情な体質であるあたしに、恋愛なんてできるはずもないし、そもそも人間嫌いなのに恋愛なんてするはずがないのだ。
- 29 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/01/31(土) 21:41
- 鬱陶しい。
消えたと思ったら、現われ、視界をうろちょろと横切っていく少女を、あたしは睨み付けた。
多分、あの子はここの通りに望んできたわけではなく、単に迷い込んできてしまったのだろう。
あたしは不安に揺れる彼女の瞳を見ながらそう結論付けた。
しかし、だからどうだというのだ。
そんなのあたしには関係ない。
- 30 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/01/31(土) 21:41
- あたしが相手した中でも、何人かにそういう関係を求められたことはある。
恋人、愛人、いろいろな表現はあるが、つまりは仕事上の付き合いとは一歩進んだ関係のことだ。
しかしあたしは頑なにそれを拒否し続けていた。
「仕事を続けるため」、という妙なプロ意識もあるだろうが、それ以前にあたしがそうしたいと思わないからだ。
お客はただのお客であって、それ以上でもなければ、それ以下でもない。
関係があるとしたら、それは行為の最中だけの、汚い欲望でつながれた関係のみ。
お金という、極めてわかりやすい単位に変換される彼らは、あたしにとってそれだけの存在で、相手の顔や名前などは関係ない。
あたしはお金に対してそれほど執着心があるわけではないが、結局のところ彼女らに対峙されるのはいくらという値段だけだった。
- 31 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/01/31(土) 21:43
- 「あ。」
消えたと思ったら、あんなところにいた。
例のツインテール少女は、広場の自販機の隅に立っていた。
諦めたのだろうか、それとも、単に動き回るのに疲れただけなのか。
もしかしたら、誰かに道を尋ねるつもりなのかもしれない。
しかし、あいにく周りにはボロボロのダンボールの上に座っている不潔な浮浪者、すべり台のてっぺんで騒ぐ頭の悪そうなチンピラ風の男たちと、あたしだけだった。
ま、どうでもいいか。
空はすっかり日が暮れていた。
そろそろ、誰かくるかもしれない。なにせ「カンナさん」は売れっ子だから。
あたしは左手に持った傘で、地面に意味のない線を描いた。
そのとき、少女の周りを二人の男が囲んでいることに気がついた。
すべり台の上にいたチンピラだった。
なにやら少女に馴れ馴れしく話しかけている。
知り合いとは到底思えない。
その証拠に彼女の困り顔が離れたここからも確認できた。
なんていっているかは聞き取れないが、大体は想像がついた。
見ていて気持ちのいい光景ではなかったが、助けに行く気などさらさらない。
やるなら他所でやってほしい。その程度だ。
あたしは、誰でもいいから早くここに来てほしいと思った。
今夜の相手が来れば、この場に留まっている必要などなくなる。
- 32 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/01/31(土) 21:43
- 「っテメー!」
ひときわ大きい声がして、それまで見てみぬふりをしていたあたしも思わずそちらのほうを振り返る。
彼らの誘いになかなかのらない少女に痺れを切らしたのだろう。
どうやら脅して力ずくでお持ち帰りするつもりらしい。
「ちょっとかわいいからって調子のってんじゃねーぞ!」
背の高いほうの男が、そう言って彼女の手首を引っつかみ、片方の手で握りこぶしをつくってみせた。
- 33 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/01/31(土) 21:43
- 「あたしのお客に汚い手で触らないでくれる?」
そう言い放った自分の声を聞いて初めて、あたしは「その子」と指さした少女の瞳に、自分の姿が映っていることに気づいた。
- 34 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/01/31(土) 21:44
- 突然割り込んできたあたしを、彼らは嘗め回すように見ながら言った。
「は?お客?お前何様だ?」
「あたし?あたしはカンナ様」
あたしの名前に聞き覚えがあったのだろう。彼らはぴくっと反応した。
しかし、あたしは別に喧嘩が強いことで有名なのではない。
ただの女だ。
当然彼らはそれだけで引き下がるようなヤツらでもなかった。
「お前が噂のカンナさんか。でもな、こいつはオレらが先に見つけたんだぜ?ここでは基本的に早い者勝ちってこと、お前なら当然知ってるだろ?『カンナさま』よ。」
「まあね。でも、この子はあたしのお客だって言ってるでしょ?」
「だから、言ってる意味がわかんねーっつーの。」
あたしはこれみよがしに「やれやれ」とため息をついた。
「この子はあんたたちにお金もらってご奉仕するためにここに来たんじゃないって言ってるの。いい?この子はあたしのお客さん。つまり、払うほうよ。こんな見るからにお金持ちのお嬢さん、あんたたちがいくら値段つりあげても頷くわけないと思うけど?」
「うっ・・・・・」
よくもまあしゃあしゃあと言い訳ができるものだ、とあたしは自分に感心した。
「今度は力ずくでも奪ってやるからな」
男たちはそういってあたしたちを睨むと、どこかへ去っていった。
- 35 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/01/31(土) 21:44
- 「あの!ありがとうございます!」
男たちの後姿が見えなくなったのを確認して、彼女は深々と頭を下げた。
こんなこと、するつもりはなかった。
正義の見方気取りをするのもイヤで、あたしは彼女の言葉を無視した。
代わりに「こっち」と告げ、踵をかえした。
さっさとこの子をここから立ち去らせよう。
そして、さっきのことをなかったことにしたい。
あたしは早歩きで数時間前に通った道を逆にたどり始めた。
黙っていたが、少女は自分の後ろをはぐれないようについてきている。
正直なところ、あいつらがいなくなったらそれでよかったのだ。
彼女を送り届けようなんて考えなど、なかった。
でも、またちょろちょろされたら鬱陶しいし。
あたしは自分にそう言い聞かせた。
- 36 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/01/31(土) 21:44
- いつも通ってくる細い路地の前であたしは止まり、振り返った。
一瞬少女はびくっとした。
びゅうと風が吹いて、ツインテールが、ゆれた。
「もう、絶対こないで。ここはあんたが来るような世界じゃない。」
あたしはわざと冷たく言い放った。
本当は睨み付けたかったが、なぜか目を見ることができなかった。
「あの、本当にありが―」
「わかったなら、さっさと行って。そこ抜けたら、繁華街にでるから」
一刻も早く少女と別れたかったあたしは、必要最低限の言葉だけ述べてまた来た道を戻り始めた。
背中越しに、「ありがとうございました!」という少女の声が聞こえたが、振り返らずに歩いた。
- 37 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/01/31(土) 21:44
- ポツ―
少女と別れてすぐに、水が頬に落ちてきた。
ポツポツポツ―
しだいに水があたる率が増え、ついにザーザーと本格的に降り始めてきた。
そうだ、この雨のせいだ。
本来なら来るはずのない少女が、何かの間違いでここに迷い込んできたのも、あたしが柄にでもないことをついしてしまったのも、全部、雨のせいだ。
あたしは持っていたビニール傘を開き、自分がいるべき場所へと戻っていった。
- 38 名前:510-16 投稿日:2009/01/31(土) 21:59
- 本日の更新は以上です。
申し訳ないですが、しばし続きます。
- 39 名前:名無し飼育さん 投稿日:2009/02/03(火) 23:24
- 愛栞o(^-^)oワクワク
- 40 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/09(月) 19:44
- 気になる展開!
続き楽しみにしてます!
- 41 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/02/16(月) 03:17
- タイミング悪くてすみません。。。
『全力で、逆走』をガーッと読みました。
梅さんの初々しい感じから、自分の気持ちに気付いて、独占欲が膨らみすぎて破裂してしまう感じが良かったです☆
- 42 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/03/01(日) 13:58
- 「あっ・・・・・あぁっ・・・・!!」
あたしの指に翻弄されている女を、あたしは冷静に見下ろしていた。
「・・・・・・あっ・・・・カ・・・ンナさ・・・んんっ・・・」
ギシギシとベッドが軋む音とその声だけが真っ暗な部屋に響く。
そこにある女の上半身は、すでにあたしが丹念に舐めまわしていた。
あたしは右手を動かしながら、空いてる方の手で机の上にあったイヤホンを取り、片手で量耳につっこんだ。
ジャカジャカというリズムに合わせて、指を動かす。
その動きとシンクロするように、身体の下にいる女性の息遣いは荒くなってゆく。
- 43 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/03/01(日) 13:58
- 「・・・・あっ・・・きもち・・・い・・・」
イヤホン越しに聞こえてくる声。
そろそろかな、と思い、あたしは自分の指を、そこへぐっと突っ込んだ。
「あああっ!!!・・・・」
さっきとは明らかに違う、想像以上の大きな声に、あたしは満足げににやりと笑う。
あたしは自分に酔いしれていた。
指を動かすスピードをさらに速める。
いたずらに近づけてみた顔に、はぁはぁと濡れた吐息がかかる。
いつの間にか音楽を聴くことを忘れたあたしの頭には、彼女を絶頂に導くことしかなかった。
「イきなよ。」
わざと低い声で、その耳元に、ささやく。
すると、それが合図かのように、彼女の身体が大きく弓なりになり、そのまま、果てた。
- 44 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/03/01(日) 13:58
-
- 45 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/03/01(日) 13:59
- ピッとウォークマンのスイッチを切って、ジーンズのポケットにつっこむ。
裸のまま仰向けになっていた女は、布団をかぶって寝る体勢になっていた。
「・・・じゃ」
呼吸が整ったことを確認すると、あたしはベッドにいるその人にそれだけ告げて、その場から立ち去った。
- 46 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/03/01(日) 13:59
- 「さむっ・・・」
雨上がりの夜道は、思った以上に冷えていて、あたしは薄手のカーディガンの上から腕をさすった。
今日も、上出来だった。
思い出したくて思い出したわけではないが、あたしの頭は今日の仕事を反省していた。
行為自体は、別に気持ちよくもなんともないのだが、あたしは案外楽しんでやっているのかもしれない。
こんな人間のクズみたいな自分の指に夢中になっていく彼女たちを見ていると、あたしの自尊心が満足する。
もっと狂わせてやろう。
もっともっと快感を味あわせてあげよう。
彼女たちが快感を感じることを望んでいるのではない。
行為の最中に感じていく、あの陶酔感があたしを次の人へ次の人へと駆り立てるのである。
- 47 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/03/01(日) 13:59
- 今日はウォークマンを聴きながらだったけど、あれはあれでよかった。
小さな音だったけど、ズンズンとなる低音に合わせて指を動かすのもなかなか愉快だ。
議題は、気まぐれにしてみたBGMを鳴らしてみるという試みへと移る。
声を聞くのがいやだから、というわけでもない。
本当に、なんとなくやってみたことだ。
今日は、相手が目を瞑っていたから、そうしたけど、例えばやさしくされるのが好きそうな、寂しがりやっぽい人だったらしてなかったと思う。
あたしだって、それなりに気遣いだとか、「優しさ」っていうもんをみせたりするのだ。
しかし、それを実践してみたとしても、コトの最中限定。
誰であろうが、終わったらすぐにバイバイする。
ひどく眠くても、自分の家で寝るようにしているのだ。
ガチャと玄関のドアを開けて、そのまま布団へもぐりこんだ。
シャワーは、明日の朝浴びればいい。
- 48 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/03/01(日) 13:59
-
- 49 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/03/01(日) 14:00
- 夜寝ていないせいなのか、次の日もあたしの頭には痛みがじわっと広がっていた。
「二日連続かよ・・・・」
あたしは、ちっと舌打ちをして、煙草を探した。
たしか、まだあったはず。
鞄の中をごそごそとやったら、くしゃくしゃになったパックに、湿ったタバコが3本見つかった。
「最悪。」
遮光カーテンの隙間から、日が差している。
こんな時間帯に外に出る気にはならない。
今は、カンナさんの生活時間ではないのだ。
だけど、夕方まで待つのもめんどくさい。
「しゃーないか。」
あたしはしぶしぶ外へ出た。
- 50 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/03/01(日) 14:00
- 傘を持ってくるべきだったのか、と思い直したのは、マンションを出て繁華街へ向かう途中だった。
起きた直後よりはマシだけれど、まだ頭の痛みは完全には消え去っていない。
降る、かもしれない。
だけどなぁ。
快晴。
むしろこの太陽の眩しさで頭痛になりそうなくらい、外はいい天気だった。
万が一、今日降るとしても、今は大丈夫。
久しぶりに見る自分の影は、すうっと遠くまで伸びていた。
- 51 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/03/01(日) 14:00
- 「ありがとうございましたー。」
レジのお姉さんは、愛想がよく、あたしに無邪気な笑顔を振りまいてくる。
それがなんだか妙に恥ずかしくて、居心地が悪くなったあたしはいそいそとコンビニを後にした。
オモテの世界に出て、思う。
あたしは、みんなと同じ普通のハタチに見えるのかな、って。
もし両親が生きていたら、あたしも今頃短大に通ったりして、友達とたまにお茶したり、もしかしたら恋人だって・・・
バカみたい。
頭の中に思い描いたキャンパスライフを、あたしは自分で真っ黒に塗りつぶした。
オモテの世界に順応できなかったから、こうして生きているのに、もう一回あんなところに戻れるわけがない。
真っ青な空を見て思う。
あたしにはこんな場所に合わない。
だって眩しすぎる。
雨も嫌いだけど、晴れの日も嫌いだ。
イライラしながら急ぎ足で家路を急いでいると
- 52 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/03/01(日) 14:00
- 「げっ」
「あっ!」
目の前には、あのツインテール少女。
彼女を認識した瞬間、今まで忘れていた昨晩の光景が一気にフラッシュバックする。
考えてみれば、お昼の繁華街。
あの子とここでばったり会ったって、全然不思議じゃない。
見渡せば、周りは若者でにぎわっていた。
・・・・・・無視だ、無視。
あたしは急いでたのをさらにスピードアップした。
もうあの子とはあのときバイバイして、今はなんの関わりもないのだ。
なのに
「ちょっと、待ってください!」
彼女はあたしに声をかけてくる。
だけど、無視を決めたあたしは、無言で家を目指す。
しかし、彼女もしつこくついてきて、いつのまにかあたしの横にぴったりくっついてきていた。
- 53 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/03/01(日) 14:01
- 「昨日はありがとうございました!」
息を上げながら、あたしに向かってお礼を言う。
当然、あたしは知らないふりをする。
並んだら、彼女はあたしよりも身長が高くて、なんか悔しかった。
「お礼がしたいな、って思っていたんですけど」
「お礼なんかいらないから、ついてこないで」
このまま家までついてこられそうな気がして、あたしはイライラを全面的に押し出して答える。
「そうだ、コーヒーでもどうですか?」
さっきのあたしの言葉を無視して、あの子が「グッドアイディア!」みたいなノリで提案してくる。
あたしの話なんか聞いちゃいない。
一人で、妙に楽しそうに喋って。
むかつく。
「あのさぁ・・・・」
「そうそう!シフォンケーキがおいしいお店が・・・」
「ついてこないで!!!」
イライラが最高潮になったあたしは、ついに大声を出した。
遮断された言葉と同じように、彼女の足もピタッと止まった。
- 54 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/03/01(日) 14:02
- しまった!と思ったときにはもう遅かった。
あたしたちを取り巻いていた雰囲気は、一転して居心地の悪い空気に飲み込まれた。
「―えっ・・と・・・」
彼女を振り切ることだけを考えて、早足で家に向かっていたからだろうか。
あたしたちは、いつのまにか繁華街の雑踏を抜け出ていて、周りのガヤガヤも消えていた。
一喝されたからか、それとも単にあたしの大声に驚いただけなのか、彼女は黙ったまま、動かない。
どうしよう。
うつむき加減の彼女に、あたしは当惑していた。
彼女のことなんか放って置いて、家に帰ればいい。
だけど、今日のあたしはそれができない。
自分より年下に見えるこの子に対して、そのような態度をとることは、あまりに大人気ない。
だからといって『ごめん、シフォンケーキはニガテなんだ。』なんて冗談を交えながらやんわりと断れる雰囲気でもない。
第一あたしにそんな芸当ができるのかどうかもわからなかった。
あたしたちの状況を暗示しているかのように、分厚い雲が空一面を覆い始めてきた。
- 55 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/03/01(日) 14:03
- 「「・・・・・」」
気まずい沈黙。
何かいえば、この中途半端な空気は壊れてくれるだろうが、どういった方向に転ぶのかがわからず、ただ黙って相手の様子を伺うしかできなかった。
頼むから、誰かなんとかしてくれ。
あたしは神様にそう問いかけてみたが、そもそもあたしは神様なんて信じていないのだから無意味だろう。
- 56 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/03/01(日) 14:03
- 「ごめんなさー」
少女がそういいかけたとき
ポツポツポツ―
「あっ」と言うまもなく、それはザアアアという音に変わる
こんなところでふたりいつまでも居るわけには行かない。
雨宿りができる場所に避難するべきだ。
しかし、もう街は遠い。
目の前には、どうしたらいいのかおろおろする少女。
やばい、このままじゃ本当に風邪引いちゃう。
「えっ?」
気づけばあたしは彼女の手をとり、駆け出していた。
- 57 名前:510-16 投稿日:2009/03/01(日) 14:04
- 本日の更新はここまでです。
- 58 名前:510-16 投稿日:2009/03/01(日) 14:09
- >>39名無し飼育さん
ありがとうございます。
相変わらずあいかんは人気ですねー
ご期待に添えられるようがんばります!
>>40 名無飼育さん
ありがとうございます。
いろいろ焦らしますので、焦らされながらお楽しみいただけたら嬉しいですw
>>41名無飼育さん
ありがとうございます!
タイミングとか気にしないでください。
レスいただけただけでかなーり嬉しいです!w
『全力で、逆走』の梅さんはちょっとネクラな感じですが、自分ではとっても気に入っています。とか言ってw
- 59 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/04(水) 22:30
- 更新お疲れ様です
す、寸止めですか!!!
焦らされつつ、続き楽しみに待ってます!
- 60 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/03/27(金) 20:45
- 「座れば?」
さっきから突っ立っている少女に、あたしは告げた。
ここは、あたしの部屋。
「座れば?」といっても、部屋にあるのは、シングルベッドと、ローテーブル、それから本棚に冷蔵庫。
あたしは彼女をひとつしかない座布団に座らせ、自分はベッドの上に腰掛けた。
たしかに、状況は変わった。
あのいやな空気からも解放されたかもしれない。
しかし、だ。
今度はまた別の気まずさがある。
とりあえず、真っ白なタオルをぶっきらぼうに投げつけた。
意外にも、彼女はそれを上手にキャッチした。
「え、でも・・・」
「うちが濡れると困るのはあたしなの。」
そう言って、あたしは背を向けた。
「ありがとうございます」という言葉が耳に入ってきた。
- 61 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/03/27(金) 20:45
- 冷蔵庫にはミネラルウォーターしか入っていなかった。
しかし、何もないよりはマシだ。
コップが2つあっただけでもラッキーだと思わなければならない。
この小さなマンションを借りたとき、あたし以外の誰かがここに来るなんて思ってもみなかったのだから。
「・・・・・・」
無言。
あたしは手持ち無沙汰になって、とりあえずコップに口をつける。
雨に濡れまいと必死で走ったから、思っていた以上にのどが渇いていたらしく、グビグビと水を一気に飲んだ。
自分で作った状況とはいえ、あたしはどこを見ていいのかわからず、雨がざあざあと打ちつける窓をぼーっと見ていた。
「雨、止みませんね。」
コップを机の上において、ツインテール少女がそういった。
あたしに話しかけているのだろうか?
「帰りたい?」
「いえ、そういう意味じゃ・・・」
なんでこんな言い方しかできないのだろうか。
天気の話なんていう当たり障りのない会話にも、あたしは皮肉をこめた返答しかできない。
愛想笑いなんかするくらいなら、しないほうがマシ。
「つきあい」というわけのわからないことを理由に、他人に合わせたりするのなんてゴメンだ。
だから、あたしは今までずっと一人でいた。
自ら好んで、だ。
- 62 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/03/27(金) 20:46
- だけど、ぼそっと「ごめんなさい」と言ってうつむいた彼女を見て、少し反省した。
そもそものきっかけは、彼女が話しかけてきたことかもしれないけど、でも彼女を引っ張ってきたのはあたしだ。
「にわか雨っぽかったから、すぐ止む、と思ったんだけど」
「きっと、もう少し立てば雨も上がりますよ。根拠はないですけどね。」
彼女の声が、さっきよりも弾んでいるような気がするのは気のせいだろうか。
「あたし、毎日天気予報チェックしてるんですよ。でも、今日に限って忘れちゃって。あ、あたし、雨の日って、癖毛になるんですよね。だから、翌日の天気をあらかじめ確認しておかないと眠れないんです。」
「癖毛?きれいなストレートじゃん。」
「それが雨の日だと大変なことになるんです。見た目はいつもどおりでも、セットにかなり時間が・・・」
じゃあなんだ、次の日が雨だったら、目覚ましを早めにセットするとか?
ふと思い浮かんだことを口に出してみると、彼女は「1時間早く起きます」と大真面目に答えた。
まさか本当にそんなことをしているとは思っても見なかったから、あたしは不覚にも「あはは」と笑ってしまった。
それに気づいた瞬間、急に恥ずかしさがこみあげてきて、慌てて平常心を取り戻そうとしたが、目の前の少女も、同じように笑っているのを見て、「あぁ、笑っていいんだな」と思った。
- 63 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/03/27(金) 20:46
- ザーザー
あたしたちの言葉とは裏腹に、雨は止むどころか勢いを増しているようにも思えた。
これじゃあ今日中に止むかどうかも怪しい。
視線を、ゆっくり少女に移す。
緊張しているのだろうか、落ち着かない様子で、目をあてもなく泳がせていた。
「高校生?」
「はい!3年生です。」
ああ、よかった。
顔立ちが大人びているから、年上だったらどうしようかと思ったけど、彼女は年下だった。
仕事上、年上年下はあまり気にしないのだけど、この子はフツーの子だから。
「あの・・・」
「ん?」
遠慮がちに、あたしを見つめながら、彼女は「・・・何歳、ですか?」と聞いてきた。
あたしだけ年齢を言わないのもへんだし、気にする歳でもないから、素直に「ハタチ。」と答えた。
しばらく人と会話することを避けていたあたし。
こういった会話のキャッチボールの手法が新鮮に思えた。
「いくつに見えた?」
「・・・・・・・えっと・・・・」
「怒らない、って」
躊躇しているようだったから、そう言ったのに、彼女はうーんと考えていた。
「年齢とか考えたことなかったです。同じくらいにも見えたけど、でもおとなっぽいな、って印象も受けたし。不思議な人だなー・・・・・・あ、あのごめんなさい!失礼なこと言って。」
ころころと表情が変わるツインテール少女。
あたしは、「別に・・・」と短く告げた。
- 64 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/03/27(金) 20:46
- 「あの・・・」
また遠慮しがちにこちらを伺う彼女に、いらいらしながらも「何?」と内容を聞いてみることにした。すると
「お名前は・・・あの、カンナさん、っていうんですよね?」
「そうだけど?」
カンナさん。
彼女にそういわれたとき、嫌な気分になった。
だって、それはあたしの仕事用の名前。
本名だけれど、でも、あの人たちがあたしを呼ぶのと同じように、汚らわしい響きを含んでいる。
「あ、あたし、愛理っていいます。鈴木、愛理です。」
不快さに表情をゆがめたあたしを見て、彼女は慌てて頼んでもないのに自己紹介をした。
あたしの耳は彼女の声をキャッチし、脳はそれをインプットする。
自分で望んだことではないけれど、あたしの身体は勝手に彼女の情報を記憶した。
「有原栞菜。」
「・・・へ?」
「あたしの名前。有原栞菜。」
カンナさん、じゃない。有原栞菜。
誰にも絶対教えなかった、あたしの本名。
「有原、栞菜さんですね」
覚えようとしているのだろう、ツインテール少女―じゃない、「鈴木愛理」は、「有原栞菜さん、有原栞菜さん・・・」と繰り返しあたしの名前が呼んだ。
なんだか照れくさいような妙な気分になった。
- 65 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/03/27(金) 20:47
- テレビもない、ラジオもない、パソコンもないこの部屋で、あたしたちに残された唯一の暇つぶしは、会話をすることだった。
もちろん、あたしから積極的に話すことはない。
しかし、愛理は会話を途切れさせないように、一生懸命喋っていた。
オモテの世界に興味もないあたしは、「ふーん」とか「ごめん、わかんない」という、気の利かない相槌しか打てなかったが、できのいい愛理はそれで憤慨したりはしなかった。
たった1,2時間の間でも、あたしの中にはすでに愛理の情報がいくつもインプットされていた。
高校のこと、家族のこと、好きな食べ物などなど。
一通り聞いて、わかったこと、それは、愛理は典型的なオモテの人間、それも、とってもできのいいお嬢さんである、ということだ。
お金持ちだとか、そういう意味ではない。(とはいえ、それなりに裕福に見えるが)。
両親に愛されて、まっすぐ育ってきた。愛想がいいから、きっと友達もたくさんいる。
そういうタイプの子なのだ。
だからだろう、時間がたつにつれて、あたしの口から出る単語は、知らないうちに、増えていた。
- 66 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/03/27(金) 20:47
-
- 67 名前:510-16 投稿日:2009/03/27(金) 20:47
- 本日の更新はここまでです
- 68 名前:510-16 投稿日:2009/03/27(金) 20:50
- >>59 名無し飼育さん
ありがとうございます!
じらしてすみませんw
・・・・といいつつ今回は少なめでさらにすみませんw
次回はちょっと進展があるようですのでお楽しみに・・・・
- 69 名前:名無し飼育さん 投稿日:2009/03/27(金) 21:54
- うわっ!!めっちゃ続き楽しみすぎる^^
頑張って下さい!!
- 70 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/04/05(日) 11:00
- だからといってなぁ・・・・
グツグツ・・・という音を聞きながら、今日は想定外が多すぎる、とあたしは思っていた。
1,2時間どころか、すっかり日は落ち、その間に雨は止んでいた。
じゃあ、どうして、あたしの視界には、ツインテールがあるのだろうか。
これには込み入った事情が・・・・というわけでは全然なく。
おいしいコーヒーもシフォンケーキもなかったけれど、愛理と喋っているのは、それなりに楽しかった。
だけど、あまり遅くなると、この子の親も心配するだろうし、だいたいよく考えてみたらここにいる理由もよくわからない。
幸い雨も弱くなってきたので、明るいうちに帰そう、そう思って「そのへんまで送ってく」と、愛理に提案したのに、
「じゃ、スーパー行きましょう!」
と意味不明な返事が返ってきた。
彼女が主張するところによると、「この前も助けてもらって、今日雨宿りまでさせていただいて、このまま帰るわけには行きません!」ということらしい。
スッカラカンのあたしの冷蔵庫を不憫に思ったのか、「晩御飯、何食べたいですか?」とあたしに尋ねてきた。
いつものあたしなら、「迷惑だから」と言って帰すことができるのだろうけど、数時間喋った直後だったから、あまり強く言うこともできず「いいよいいよ」と遠慮してみた。
だけど、妙に頑固な愛理は、全然引き下がってくれない。
結局、愛理に押し切られたあたしは、雨上がりの道を彼女と歩くことになったのだ。
- 71 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/04/05(日) 11:00
- 「できました。でも、まだ熱いのでちょっと時間置きましょう。」
コンロの火を止め、愛理が言った。
「何が食べたいですか?」と愛理に聞かれ、「和食」と答えたあたし。
あたしの好き嫌いを聞いて、最終的に、肉じゃがに味噌汁、という家庭料理の定番をご馳走になることになった。
スーパーでは、愛理が真剣に野菜を選んだり、特売品に飛びついたりする姿が観察できて、意外と面白かった。
調味料も満足に揃っていないから、酒やみりんなどを買い揃えてみたら、結構な量になった。
お金を払おうとするあたしに、愛理は頑なに「あたしが出します!」と言っていたが、割り勘というところで落ち着いた。
本当は、年下にお金を出してもらうのは気が引けたし、あたしは仕事をしているのだから、全額払うべきなんだろうけれど、あのままこう着状態だったらレジが完全にストップしてしまいそうだったから、不本意ながら半額でOKしたのだ。
トイレに行くふりをしてキッチンをチラとのぞくと、一人用の片手鍋から湯気とともに味噌の懐かしい香りがした。
- 72 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/04/05(日) 11:00
-
- 73 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/04/05(日) 11:01
- お世辞抜きに、愛理のつくってくれたご飯はおいしかった。
お米どころか炊飯器もなかったけど、サトウのご飯を買ってよかった。
これで白米がなかったら、むしろ拷問、と思えるほど、味噌汁も肉じゃがもご飯によく合う。
無言で箸を動かし続けていたあたしは、愛理がこちらをじっと見ていることにやっと気づいた。
「そんなに見られたら食べられない」
「ごめんなさい、でも、気になって。あの、味大丈夫ですか?」
「うん、おいしい。愛理料理上手だと思う。」
愛理は「よかったあ」とほっとしたようで、食事を再開した。
よくよく見てみると、あたしに感想を聞くまでほとんど食べていなかったようだ。
そんなに気になるものだろうか。
「うまいうまい」と独り言を言いながら食べるあたしに、愛理は「お世辞でもなんでも、嬉しいです。」と笑った。
「いや、でもマジでこの甘辛さが絶妙なの!」
ムキになってお世辞じゃないことをアピールするあたしを見て、愛理は「わかりました、わかりました」と言い、恥ずかしさと力んだせいで赤くなっているあたしに、「おかわりします?」と申し出たのだった。
- 74 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/04/05(日) 11:01
- もう何年も食べていない家庭の味が嬉しくて、つい食べ過ぎたあたしは「苦しい・・・」とベッドに寝転んだ。
「あたし、さっきご飯作ってて思ったんですけど、一人暮らしって、すごいですよね。」
「なんで?」
「だって、掃除とか、洗濯とかも自分でしなきゃいけないでしょう?あと、買い物も。それから、ゴミ出しの日とかチェックしなきゃいけないし、新聞とかセールスとかも一人で断らなきゃいけないし。」
あたしにいわせれば、彼女の心配の種は、たいしたことなさそうだった。
使ったことのない台所でも、2つのコンロを同時進行で使ったり、手際よく料理を進めていたりしたところから考えて、この子なら十分生活できる気がした。
あたしの場合、そもそも寝るだけの部屋だから、基本的に家事をする必要などないのだ。
「でも、あたしには向いてないと思います。」
向いてない、だって?
またまたご冗談を。
寝転んだまま、何が問題なのか、というあたしに、愛理はこう答えた。
「だって、あたしきっとホームシックになると思うから。想像できないんです、家族と離れて暮らすことが。そりゃあ家族とは四六時中一緒にいるわけじゃないし、あたしだって一人暮らしに憧れたりしますけど、でもやっぱりムリみたいです。」
愛理は首をすくめて笑った。
そして、「栞菜さんは、寂しくないんですか?」と聞いてきた。
- 75 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/04/05(日) 11:01
- 「あたしはー」
ベッドから起き上がる。
愛理が、いる。
「あたし、家族いないから。」
「え?」と目を真ん丸にしている愛理。
あたしはココロの奥底にしまいこんだ記憶を、ぽつぽつと語った。
- 76 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/04/05(日) 11:01
- 今ではこんな風になってしまったが、あたしも普通の女の子だった。
両親は小さな不動産会社を経営していて、超お金持ちとはいえない家庭だったけど、ものすごく貧乏でもなく、特に不自由もなく暮らしていた。
あたしはそんな家庭の一人娘で、休みの日には3人でドライブをしたり、たまに外食をしたり、と平凡ながら幸せな日々を送っていたと思う。
父親が自分用にと新しく買った革張りのイスがお気に入りだったあたしは、事務所をうろちょろしては母に注意されたりした。
語っているうちに、次々と記憶の断片があたしの瞼に蘇ってくる。
テストで100点をとってほめられたこと、運動会で最後の最後に転んで泣いたこと、あたしの大好物のメロンを切り分ける母の後姿・・・
ああ、そういえばこんなこともあったな、と、ふと思った。
- 77 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/04/05(日) 11:02
- ザァー
思い出のスイッチをカチャカチャ回していたあたしの目の前に、突然砂嵐がかかった。
ザーザー
しかし、一見砂嵐に見えるそれは、雨だった。
雨―か。
これが、あたしの人生を狂わせた元凶なのかもしれない。
- 78 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/04/05(日) 11:02
- 小学校5年生の秋に、交通事故で両親を亡くした。
日帰りで、地元のテーマパークに出かけたときだったと思う。
その帰り道、突如として大雨が降ってきたのだ。
はしゃぎすぎて疲れていたけれど、それでも楽しかったのか、あたしはずっとおしゃべりをやめなかったと思う。
「昼間は晴れててよかったね」なんて、言っていたのもつかの間、あたしたち家族を乗せた車は、交差点でトラックとぶつかって、粉々になったのだ。
あたしは、奇跡的に助かったけれど、大きなトラックになすすべもなく、両親はそのまま帰らぬ人となった。
雨で視界が悪かった上に、濡れた道路ではブレーキがかかりにくい。
どちらが悪いというわけでもなかった。
相手の人は、精一杯謝ってくれたし、あたしは彼を恨む気にもなれなかった。
ただ、運が悪かっただけ。
雨が降らなかったら、ぶつかった車がトラックじゃなかったら、なんて、いくつ仮定を並べたところで、両親が死んだのは事実で変えようがないことなのだ。
あたしはそのときから、すでに諦めることを覚えていたのかもしれない。
- 79 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/04/05(日) 11:02
- あたしは最初おばあちゃんのところにいたけど、そのおばあちゃんも翌年病気で死んだ。
それから親戚の家にひきとられた。
身近な人を次々と亡くしたショックで、あたしはタバコを覚え、人と関わることを避けるようになった。
それから追い討ちをかけるように、父が保有していた土地と株の大暴落。
1年足らずで授業もろくに出ない厄介者となったあたし。
そんなあたしが無一文になってしまえば、あたしの価値なんてゼロどころかマイナスだった。
あたしは、自分の立場をちゃんと理解していた。
だから、親戚たちがあたしを無視するように生活していても、彼らを心の中で責めたりするようなことはなかった。
やっつけの進路相談で、あたしの高校の授業料なんて払う余裕はない、とはっきり言われた。
もともと期待していなかったし、後で返すにしても、授業料を借りるほど情けないことはない。
だから、あたしは卒業証書をもらったその日に、家をでた。
- 80 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/04/05(日) 11:03
- それからのことは、話す必要もないだろう。
無一文で危ない路地裏をふらふらしていたあたし。
そこをある人に保護されたことから、あたしはあの世界の住人になった。
あの人の読みの通り、あたしはみるみるうちに成功を収め、自分で家を借りることができるくらいになった。
気がついたら、「カンナさん」という名前は、こっちの世界では誰もが知ることとなるくらい、あたしは有名になっていた。
- 81 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/04/05(日) 11:03
- 「だから、あたしは、寂しくなんて―」
あたしはそこまで話して、はっと我に返った。
しまった!
何余計なことまで、喋ってるんだろう、あたし・・・
愛理は、あたしの話を黙って聞いていた。
あたしの目を見ないでいる彼女は、言葉を捜しているかのように思えた。
「ごめんなさー」
「やめて。あたし別に悲劇のヒロイン演じるつもりなんてないから。」
同情されるのはごめんだった。
あたしは、誰も責めないし、誰からの同情も受けない。
その代わり、誰とも関わらない。
これが両親の死から学んだことだ。
人と関わらなければ、愛理のいう「寂しい」なんて厄介な感情も持たずにすむ。
同情とか、共感とか、そんなのばかみたい。
友情とか、愛情とか、実態なんかあるわけもないのに。
そんなものに意味を無理矢理見出して、喜んだり、泣いたり、一喜一憂している人間は、あたしが一番軽蔑する種類の人たちだ。
- 82 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/04/05(日) 11:03
- これ以上喋る気もないし、そろそろ帰らせたほうがいいと判断したあたしは、愛理に「今何時?」と聞いた。
あたしの部屋には時計がない。
生きるうえで必要ないと判断した結果だった。
時間なんていうのは、人間が便宜上決めたものだ。
そんなものに縛られてたまるか。
何より、規則的に進むというその性質が嫌い。
あたしは好きで生きているわけじゃないのに、時間は淡々と進んでいく。
あたしがどう足掻こうが、それは一秒ずつ、しかし確実に前進していく。
すべてが気に食わなかった。
「あー!もう8時半だ!帰らないと。」
- 83 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/04/05(日) 11:03
- 暗いから送っていく、という申し出を、愛理は素直に受けた。
「夜はなにかと物騒だから」というあたしの言葉が聞いたのかもしれない。
愛理は、それをよくわかっているはずだった。
だって、それがあたしたちを出会わせたきっかけだったのだから。
夜道を愛理と並んで歩く。
客ではない人が隣にいるのはなんだか不思議だった。
数時間前に来た道を逆戻りする。
あたしは、愛理の声をぼーっと聞きながら、果たして、このツインテール少女の隣にいるのは本当に、あの「カンナさん」なのか、と、半ば自分が信じられないでいた。
もし、ここがウラの世界だったら。
あたしといることによって、愛理は自動的に客だと思われるだろう。
見慣れたあの景色を思い出すことはたやすかったけど、廃墟ビルはあまりにもこの少女には似合わず、イメージするのに苦労した。
- 84 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/04/05(日) 11:04
- 愛理と別れてから、家までの道のりが遠く感じた。
夜道を歩きながら、タバコに火をつける。
口の中に広がった苦味は、思い出しかけた母の味を覆い隠していく。
『それじゃあ、また』
別れるとき、愛理はそう言った。
あたしは、反射的に『じゃあ、また』と返したけれど、今考えてみれば、おかしな話だ。
だって、「また」なんてあるはずがない。
紆余曲折を経たものの、愛理はお礼をすませた。
借りを返し終わった彼女とあたしを結ぶものなど、もうない。
もう彼女とはこのまま関わることもないだろう。
- 85 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/04/05(日) 11:05
- おかしな話といえば、あたしはどうして彼女にあんな話をしたんだろう。
誰にも喋ったことがなかったのに。
いや、そもそもどうして彼女を家になんか連れてきたんだろう。
「そんなの、もうどうだっていいか。」
無意味な問いに、あたしは見切りをつけた。
考えるだけ、時間の無駄だ。
仮に答えが見つかったとしても、それがなんだっていうのだろう?
あたしはタバコの吸殻を踏み潰し、部屋に入った。
『栞菜さんは、寂しくないんですか?』
誰もいない部屋で、ふとそんな言葉が反響した。
- 86 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/04/05(日) 11:06
-
- 87 名前:510-16 投稿日:2009/04/05(日) 11:06
- 本日の更新は、ここまでです。
次回予告:ついにあの人が登場します
- 88 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/05(日) 16:21
- 更新お疲れ様です
栞菜の心理を読むのが切ないけど楽しい
あの人の登場も楽しみに待っています!
- 89 名前:名無し飼育さん 投稿日:2009/04/06(月) 19:22
- 更新お疲れ様です!
栞菜も少しずつ心の変化がでてきてるのでしょうか
あの人・・・気になりますね!
続きを楽しみにしています!
- 90 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/02(土) 14:22
- やっぱり、栞ちゃんには愛理だo(^-^)o
あの人っていうのも気になるし。
どうなっていくのか楽しみ(≧∇≦)
- 91 名前:510-16 投稿日:2009/06/03(水) 21:21
- 愛理には、余計なことを喋ってしまったけれど、翌日からはまた変わらない日々があたしを待ち受けていた。
あのときのことは、もはやあたしのなかでなかったことになっている。
あの妙な1日を、あたしの記憶から抜き取って、前後を貼り付けてみたところ、それらはいとも簡単に、そして違和感なく、つながった。
変わらない日々、それはおもしろいものでもない。
誰だって、つまらないことは、好きじゃない。
だけど、おもしろそうだから、と他人と関係を持つことよりは、ずっといい。
あたしはあたしが一番大事。
ほかの人だってそうに決まってる。
そんな否定の使用もない事実と、それから人への「情」ってやつに板ばさみにされて葛藤したりするのは無駄なエネルギー消費。
他人のことなんて、わかんない。
わかるはずもないことを、わかりたいといくら願っても、それはストレス以外の何物にもならない。
あたしだって、両親をなくしてすぐは、愛情ってやつを求めていた。
しかし、それはもう随分昔の話だ。
それに、あたしはそのことからちゃんと学習して、今の人生論を持つに至ったのだ。
強がりでもなんでもなく、あたしは今の自分のスタンスに確固たる自信を持っていた。
- 92 名前:510-16 投稿日:2009/06/03(水) 21:22
- 朝眠りにつき、夕方起きる。
あたしはある意味規則正しい生活を送っている。
空を分厚い雲が覆っていたけれど、あたしの頭痛天気予報によると、雨は降らないようだった。
雨の日も、晴れの日も、あたしは好きになれなかったが、だからといって曇りの日が好きかというと、そうでもない。
そのまま公園に行く気もせず、あたしは寄り道を決めた
気分が乗らないときに、無理に仕事をする必要もない。
言葉通り、「やる気」が大事な仕事なのだ。
いつもは通り過ぎる角を曲がり、てくてくと歩く。
「スナック 舞」という看板の前で止まり、地下への階段を降りた。
- 93 名前:510-16 投稿日:2009/06/03(水) 21:22
- カランカラン
closedプレートを無視して、ドアを開ける。
玄関には立派なユリが新しく生けてあった。
お客さんからいただいたのだろう。
「ごめんなさい、まだ準備中で・・・」
店の奥から、鼻にかかったあの人独特の声がした。
まだ営業時間じゃないってことはわかってるから、あたしはそのまま店に入る。
「おす」
「あ、栞菜じゃん!」
- 94 名前:510-16 投稿日:2009/06/03(水) 21:22
- 着席したカウンターから出てきたのは、この店のママ、舞ちゃん。
「おなかすいた」
「いきなりそれ?」
なんていいながら、「何がいい?」と聞いてくれるから、この人は好きだ。
「とりあえず、いつものあれ。」
カウンターとテーブルがひとつという、とても小さなこのお店を、舞ちゃんは一人でやっている。
「舞ちゃん」といっても、実はこの人はあたしの大先輩。
この界隈のことならなんでも知っている、影の実力者なのだ。
- 95 名前:510-16 投稿日:2009/06/03(水) 21:23
- 中学を出て、初めてここに来た時、偶然入った店がここだった。
本当によかった、と思う。
行くあてがなかったあたしを、強引に引き取り、この世界でやっていくためのノウハウをすべて教えてくれたのはほかでもない、この人だ。
人嫌いで反抗的なあたしを理解して、上手に接してくれたんだろうな、と今さら思う。
あたしにこの仕事を紹介したのも舞ちゃんだった。
『アンタなら、絶対成功するよ』
舞ちゃんだから、あたしはこの言葉を信じた。
そして、彼女の予想どおり、あたしはみるみるうちにあの業界でトップに躍り出たのだ。
ちなみに、この人は年齢不詳。
会ったばかりの頃、「ママ」と呼んでいたら、「お客でもないし、そんな年齢でもないからやめて」と言われ、「じゃあいくつなの?」と聞いたらレディーに年齢のことは聞くな、とはぐらかされたのだ。
- 96 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/06/03(水) 21:23
- 「アンタ、最近見なかったけど、食べてた?痩せたんじゃない?」
裏メニュー「いんげんと豚肉の辛子醤油和え」を無言でむさぼるあたしに舞ちゃんは心配そうに声をかけてくれた。
えっと、最後に食べたご飯なんだっけ?
記憶を必死に辿るけれど、どう考えても愛理につくってもらった晩御飯が記憶の中では一番新しいものだった。
「そんなんじゃカラダ持たないわよ」
「だからこうして食べに来てるんじゃん」
自炊は苦手だ。
そんなのしなくたって、生きていけるから、いい。
- 97 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/06/03(水) 21:24
- 「ジャックダニエルちょうだい」
「相変わらず趣味がオヤジだね」
「うるさいなぁー」
「ジャックダニエルにキャスターマイルド。完全にオヤジじゃん」
笑いながら舞ちゃんはあたし専用になっているウイスキーの瓶を手に取った。
あたしは内心どきりとしていた。
ジャックダニエルも、キャスターマイルドも、お父さんが好きだったお酒とタバコ。
物心ついたときに、ふざけて好みのお酒とたばこの銘柄を教えるお父さんに、お母さんは本気で怒っていたっけ。
両親が死んでから、自暴自棄になっていたあたしがまず始めたのが、喫煙。
期待どおりなのかはわからないけど、こうして父親と同じものを口にしている。
- 98 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/06/03(水) 21:34
- 「ねえ、大丈夫?ちょっと早くない?」
いつのまにかあたしの隣に座った舞ちゃんが、あたしのボトルを指差して言う。
何かあったんじゃないか、ってそんな顔で。
「だって、おいしいじゃん」
あたしはそういってロックグラスを覗き込む。
舞ちゃんは「オヤジ」と一言いっただけで、それ以上追求してこなかった。
なんでだろう。
あたしは、『どうしたの?』と聞かれるのが、こわかった。
何も、ないじゃないか。
何も、何もない。
いつもどおり、つまらない、非生産的な、そんな毎日を送っているだけだ。
あたしは一瞬思い出しかけた女の子の後姿をふりきるかのように、グラスに残っているジャックダニエルを飲み干した。
- 99 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/06/03(水) 21:45
- 『大丈夫』
口ではそういってみたものの、実際あたしは頭にずんと重みを感じていた。
飲み始めたときは、久しぶりの味が嬉しくて、舞ちゃんが食事を出してくれたころには、すでに3杯ほど飲んでいた。
酔うより先に次へ次へと飲むものだから、実際に酔ってると自覚するのは、ある程度飲んでからで。
しかも、すきっ腹だったので、酔いが回るのが早かった。
だから、あたしは、うっかり舞ちゃんの前で「鈴木愛理」という名前を出してしまった。
毎回お決まりのように「最近、どう?」と質問されるのだが、あたしはいつも「別に」と言っていた。
喋るのが面倒だから、というわけではなく、本当になにもないのだ。
しかし、最近顔を出してなかったからか、今日はしつこく「なんかないの?」と聞いてきたので、「たいしたことじゃないんだけど・・・・」と話し始めたのだが、それが運のツキだった。
さすがスナックのママをやっているだけあって、相当聞き上手の舞ちゃん。
ウイスキーに飲まれて饒舌になっているあたしは、知らないうちに一連のできごとを説明していた。
- 100 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/06/03(水) 22:00
- 「ねえ、栞菜さ」
結局根掘り葉掘り話したあたしに、「ふーん」と舞ちゃんは意味ありげに笑った。
そして目の前にあったビンをひょいととりあげて、こう言った。
「恋人とか、つくったら?」
「は!?」
もしあたしが今ウイスキーを飲んでいる最中だったら、間違いなく噴出していただろう。
幸い頭がぼーっとしていて、一旦ジャックダニエルを休憩していたので、そのような惨事は免れたが、いきなり、何を言い出すのだ、この人は。
「そんな気毛頭ないし。てか、恋人をつくらないって約束させたの、舞ちゃんでしょ?」
- 101 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/06/03(水) 22:07
- 『特定の恋人は、作っちゃダメ。』
5年前の言葉は、昨日のことのように、耳にはっきりと残っていた。
言われなくても、つくらなかっただろうが、ともかくそういったのは自分じゃないか。
「栞菜って、いくつだっけ?まだハタチとかでしょ?」
「そうだけど?だったら何?」
カッとなって反抗的な態度にでたあたしとは対象的に、舞ちゃんは静かに口を開いた。
- 102 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/06/03(水) 22:07
- 「あたし、栞菜にこの仕事紹介したこと、たまに後悔するときがあるの。確かに、栞菜にはポテンシャルを感じたし、実際あたしの期待以上に成功してる。でも、いつまでこうしてるつもり?」
「そんなの、知らない。考える気もないけど」
お説教は御免だ。
無視するように、グラスに手を伸ばす。
しかし、もう氷すら残っていなかったので、しかたなく手を引っ込めた。
- 103 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/06/03(水) 22:16
- 「あの時は無一文だったから、あれしか選択肢はなかった。でも、今は違う。もうハタチになったし、結構稼ぎあるんでしょ?まだ遅くないから、新しい人生歩んでみたら?」
「・・・・・・・」
お説教はごめんだ。
何も言わないあたしに、舞ちゃんは続ける。
「あたしは、今の栞菜の仕事に対して、偏見なんて持ってない。たださ、あたしが言いたいのはね、栞菜に幸せになって欲しい、それだけ。」
それを聞いたとき、あたしはなんて返事をすればいいのか、迷った。
「うん、でも、あたし、今のままでいいって思ってるから。あたしがいいって思うってことは、それでいい、ってことだよ。」
あたしはそう答えて、「この話はおしまい」といわんばかりに、テレビのスイッチをつけた。
「ならいいけど・・・・」という舞ちゃんのつぶやきが耳に届いたが、聞こえないふりをした。
- 104 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/06/03(水) 22:32
- 舞ちゃんの気持ちは、理解できたし、ありがたいと思った。
あたしを心配してくれてるんだ、ってことは重々承知だった。
だけど、今更どうしろというのだろう?
オモテの世界に出て、適当にバイトでもして、そこで知り合った人と恋でもするとでもいうのだろうか。
そんなよくありそうな話も、あたしにとっては非現実。
「また来るね。」
あたしはそれだけ言って、席を立った。
そう、これがあたしの「現実」なのだ。
心配されると困るから、ご飯くらいは食べようかな。
店をでたとき、ふとそんなことを思った。
- 105 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/06/03(水) 22:32
-
- 106 名前:510-16 投稿日:2009/06/03(水) 22:33
- 本日の更新は以上です。
- 107 名前:510-16 投稿日:2009/06/03(水) 22:46
- まず一言。
非常にお待たせして申し訳ございませんでした!
>>88 名無飼育さん
ありがとうございます。
予告しといたくせに遅れてしまってすみません。
栞菜の考えていることは、彼女の特殊な境遇からくるのではなく、案外普遍的なものだったりするんですよね。
うちの栞菜、しんどそうですが、これからも見守っててあげてください!
89>>名無し飼育さん
あの人、こんな感じの登場でしたが、いかがでしたか?
そうですね、少しずつですが、変化しています。
個人的には、カプ的な要素よりも、彼女の心情を描くのが楽しいですね。
ひきつづきよろしくお願いします!
90>>名無飼育さん
なんだかんだで、お似合いな二人です。
リアルとはかなり違った感じの彼女たちの関係ですが、これはこれでありかなあと思ってます。
マイペース更新で申し訳ないですが、今後もこのスピードが予想されますw
- 108 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/11(土) 01:37
- マイペースでも待ってます。
- 109 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/07/12(日) 13:13
- 栞菜にはこの中では最後までメンバーでいて欲しいです。
- 110 名前:名無し 投稿日:2009/09/20(日) 10:41
-
また書いてくださることを
楽しみに待っています
- 111 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/10/25(日) 22:05
- 生きていたって、むなしいことばかりだ。
両親の死から、学んだことといえば、世の中の理不尽さだけだった。
「ご両親の分まで、生きるのよ」
中学のとき、喫煙で呼び出された際担任の女教師に言われた言葉。
入学したときからすでに両親がいない、「ワケアリ」なあたしは、やっぱりマークされていたらしい。
金パチ先生にでもなったつもりなのだろうか、彼女は涙ぐんだ様子で、あたしの肩をぐっとつかんだっけ。
あたしは、「はい」と返事をしたけど、そんな借り物みたいな言葉、信じちゃいなかった。
どうせ、あとで化粧室へ行き、その美しい涙をハンカチで拭いて、メイクを直したらおしまい。
彼女はその後何事もなかったかのように急ぎ足でデートにでも出掛けるのだろう。
30近くの独身教諭だったから、そんなところだろう。
実際にその現場を見たわけでもないが、想像したらあまりにリアルだった。
- 112 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/10/25(日) 22:06
- 思えば、中学にあがったときには、あたしの人生の方向性は、決定的なものとなった。
もちろん、悪い意味で。
叔父の家で暮らすために転校し、仲のよかった子とも離れ離れになり、あたしは完全に孤独だった。
新しい友達づくりなどというものは、あたしにとっては面倒以外の何ものでもない。
話しかけられないようにすることが、あたしにできる精一杯のことだった。
例の女教師も、あたしの素行の悪さに、だんだんと本性を出してきたようで、もう両親の涙ぐましい話はしなくなった。
教師というだけあって、それなりの正義感を持ち合わせているようだけれど、あたしにとってはとにかく鬱陶しいだけだ。
素行が悪い、といっても、あたしは特に何か悪いことをしたわけではなかった。
ただ、よく授業をサボって屋上でひっそりタバコを吸う。それだけだ。
授業中に私語をしたり、教室中に手紙を回しまくる女子のほうがよっぽどたちが悪い。
あたしは誰にも迷惑をかけていない。
あたしは、ひとりで生きていこうと決めた。
- 113 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/10/25(日) 22:06
- ま、実際には、そんなカッコよく天涯孤独を名乗れるわけもないんだけどね。
家を飛び出したのはいいけど、行くあてなんてなくって。
舞ちゃんがいなかったら、飢え死にするところだった。
それから一人暮らしができるくらいにはなったけど、それだって「お客さん」あってのこと。
だけど、あたしは彼女たちにに寄生しているとしても、そこに特別なつながりなんて見出さない。
家族だっていない。
必要ないのだ。
- 114 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/10/25(日) 22:07
-
- 115 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/10/25(日) 22:07
- 「あの、鈴木愛理さん?」
「はい?」
ぴょこんとツインテールが揺れて、目の前の少女が振り返る。
返事ついでにコーヒーを渡される。
反射的に受け取ってしまう自分が憎い。
「おとといは、餃子作りに来て、昨日もパスタ作りにきて、で、今日はー」
「チキンカレーです!」
「いやいや、そうじゃなくて。」
あたしは、「どうして3日連続で、あたしの家にくるのか?」ということを聞きたかったのに。
油断すると、この子のペースに巻き込まれてしまいそうだ。
- 116 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/10/25(日) 22:08
- そう、愛理はあれ以来うちを訪ねてくるようになった。
何が気に入ったのかはわからないが、今日で3日目である。
早々「餃子、好きですか?」と尋ねてきた彼女を突き返すわけにもいかずに、部屋に入れたのがきっかけで、次の日も現れ、そして今日に至るというわけだ。
あたしは、もう会うこともないと思っていたし、会うつもりなんてさらさらなかったけど、彼女はどうも違ったらしい。
正直なところ、あたしは自分の生活を乱されるのをひどく嫌うタイプだったのだが、あたしの帰りを待っていた様子だった高校生をつき返すほど、あたしは子供じゃないのだ。
しかし、今思うと、あのときもうこないように釘をささなかったのは痛いミスである。
賢い愛理は、あたしの性格をそれなりにわかっているようで、あまり長居はしない。
むしろ、あたしの分の食事の用意をして、自分はさっさと帰る。
- 117 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/10/25(日) 22:08
- 確かに、それはありがたいんだけど。
どうも腑に落ちない。
なんのために、放課後他人の家に寄って、家事をし、そのまま去っていくのだろう。
何のメリットもないじゃないか。
愛理の行動はあたしの理解の範囲を超えていた。
軽快なペースで野菜を炒める愛理。
鼻歌なんて歌っちゃって、楽しそうだ。
反して、あたしの気分はすぐれない。
そろそろ、やめてもらわないといけない。
助かるといえば助かるけど、放っていただけるのが一番なのだ。
このままでは、いずれあたしの生活に支障が出てくる。
そういえば、ここ最近仕事にずっと行けていない。
愛理が来る時間は、おおよそあたしの出勤時間だから。
- 118 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/10/25(日) 22:09
- 「あ、ごめん、あたしそろそろいかないと。」
このままじゃずるずると彼女のペースに巻き込まれてしまう。
あたしは半ば強引に愛理を帰らせる方向に持っていった。
「あの、お出かけですか?」
「そ、仕事。」
「ああ、そ、そうですか・・・。」
バツの悪そうな顔をした愛理。
その表情からして、この子はあたしの「仕事」がどんなものか理解しているようだった。
具体的な話はしていないけど、賢い愛理なら察しがついているだろう。
もしかしたら、すでに「カンナさん」の噂を聞いているのかもしれない。
「あの、いつまで続けるんですか?お仕事。」
「そんなのあんたに関係ないでしょ?」
「おせっかい」は、あたしにとって、されて一番嫌な好意だ。
それを、数えるほどしか会ったことのない年下の少女にされるなんて。
あたしは、自分がイラつき始めているのを感じていた。
「そうです・・・けど。でも身体壊します。」
「それならそれでいい。」
「そんな!だって、そんなの寂しすぎます。人は一人じゃ生きられない。そうでしょ?」
他人事のように返事をしたあたしに、愛理がくらいついてきた。
- 119 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/10/25(日) 22:09
- 「だとしても、精神的な依存はあたしには必要ないし、邪魔なだけ。今の生活は感情なんていう厄介なものとは無縁なの。自由なの。他人の目とか世間とか、そんなのにも縛られない。」
そう、『人は一人じゃ生きられない。』これは弱者の哲学だ。
孤独に耐えて生きていくほうがよっぽど立派なはず。
「・・・・でも!確かにいろいろあるかもしれないけど、ヤなことばっかりじゃない、いいことだってある。今あなたが送っている生活は、幸せだといえるんですか?」
「そうね、『他人からの干渉』っていう厄介なものさえなかったら、幸せなんじゃない?」
まったく食い下がる気配のない愛理に、あたしはこれ見よがしに皮肉をいってやった。
大人気ないかもしれないが、あたしの人生観を否定されたのだ。ほうってはおけない。
「ていうか、なんであたしに関わるわけ?頼んでもないのにお世話してくれちゃって。いったいあんたになんのメリットがあんの?それとも、何?惨めなあたしに同情してるわけ?」
言葉とは裏腹に、あたしは愛理の行為が純粋な「優しさ」からくることを頭ではなんとなく理解していた。
だからこそ、あの子の優しさは、あたしにはもったいなさすぎる。
生きる世界が違うのだ。
- 120 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/10/25(日) 22:11
- 「パトロンになりたいなら、他を当たってよ。」
そう、誰からも愛されないし、誰も愛さない、かわいそうなみなしごのカンナさんに差し伸べられるべきもの。
それは無防備なまでに美しい少女の手ではなく、欲望にまみれた名前のない不特定多数の手。
「それとも」
バン!
あたしは彼女を壁に押し付けた。
「あたしとイイことする?子猫ちゃん。」
- 121 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/10/25(日) 22:11
- 「ふざけないで!」
キッ!
あたしを睨みつける、鋭い視線。
思わず肩を掴んでいた手の力が緩む。
「縛られてるのは、本当はあなたのほうじゃないんですか?現状を、不満だと思いながらも変えようとせず、ただ肯定して、『運命』という名の下に従順になっているだけだと思います!」
「なっ・・・!」
愛理はするりとあたしの手を押しのけて、正面からあたしを見据えた。
悔しくて、なにか言い返してやろうと思ったけれど、言葉が出てこない。
- 122 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/10/25(日) 22:11
- 「本当は栞菜さんのほうが、彼女たちを必要としているんじゃないですか?あなたを、欲してくれる誰かを。あなたは、求められて、支配できるその環境に依存してる。だからやめられないんじゃないんですか?」
くるりとツインテールが宙を舞い、ドアがパタンと音をたてた。
- 123 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2009/10/25(日) 22:12
-
- 124 名前:510-16 投稿日:2009/10/25(日) 22:35
- 今回の更新はここまでです。
次回(もしくは次々回)で完結する可能性が高いです。
>>108 名無飼育さん
ありがとうございます。
マイペースというよりは、もう放置のレベルですみません。
>>109 :名無飼育さん
レスありがとうございます。
あたしの中では栞菜は一生℃メンです。
このシリーズではひねくれてますが、よかったら見守ってあげてくださいね。
>>110 :名無し
ありがとうございます!
楽しみに待ってくださっているのに、なかなか書けなくてすみませんでした。
遅れてしまっているのに、皆さん本当にレスありがとうございます!
私生活のほうが忙しいので、次の更新ははやくて年末になります。
あらかじめお詫び申し上げます。
- 125 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/10/29(木) 12:10
- うああああ
更新お疲れ様です。
正直、もう更新はないんじゃ(ry
本当に続きが楽しみです!
いつまでも待ちます(^p^)
- 126 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/10/30(金) 07:01
- 更新キタ→!!
少し諦めかけてたので非常に興奮しました。
愛理はスゴいです。栞ちゃんがどう動くのか期待して待ってます!
年末が楽しみです!!
- 127 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/01/03(日) 13:02
- あけおめです。
今年も読みに来ちゃいますのでよろしくお願いします。
- 128 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 17:27
- その夜、あたしは夢を見た。
あたしは昔住んでいた家にいた。
そこではどうやらホームパーティーが開催されているようで、お父さんとお母さん、それからおばあちゃん、親戚のおばさん…よく遊んでくれた近所のお姉さんも、仲のよかった友達も、小学校の先生までいた。
お父さんは昼間からビールを開けながら、くだらない親父ギャグをお客様に披露していた。
お母さんは、冷蔵庫から切っておいたメロンを取りだし、「お父さんのぶんまで食べちゃいましょ」とあたしに渡した。
キンキンに冷えたガラスのお皿が、太陽の光に反射して、キラキラ光っている。
- 129 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 17:28
- ザアアア
突然雨が降ってきて、それまで明るかった部屋が、闇に包まれる。
急に不安になってきて、思わず両親のところに駆け寄ろうとしたそのとき、二人はあたしの目の前から突如、消えた。
「そんな!」
必死で周りを見渡すけれど、彼らの姿はどこにもなかった。
それはまるで、打ちつける雨に消されたようであった。
家族だけじゃない。
それまで周りにいた人々もまた、あたしの目の前から遠ざかりはじめたのである。
「やめて!行かないで!」
どんなに叫んでも、誰一人こちらを振り向いてはくれず、彼らの背中はどんどん小さくなっていった。
一人、また一人。
止むことのない雨が、遠ざかる彼らの背中をあたしの視界から消していき、ついにあたしはひとりになった。
- 130 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 17:29
- 「なんであたしだけ残るの?いっそのこと、消してくれたらよかったのに…!」
ぺたり、と地面に両手をついたあたしに、雨は容赦なく降り注ぐ。
目じりから熱いものが溢れ、雨水に混じって頬を伝っていった。
「栞菜さん」
声と同時に、冷え切った肩に、温かみを感じた。
そこには、見覚えのあるツインテール少女が、あたしを見下ろしていた。
―あれは・・・・?
あたしが立ち上がろうとした瞬間
- 131 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 17:29
-
ザアアアア
少女もまた、消えた。
- 132 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 17:30
- ザアアアア
窓を打ち付ける雨で目覚めた。
鉛でも入っているのかと思うほど、後頭部が重い。
仰向けになった状態ですら、苦痛だ。
こめかみに血管がどくんどくん脈打つのを感じる。
・・・最悪。
もともと健康状態には自信があるほうではなかったけれど、2日前にきたブルーデーと相俟って体力的にも精神的にもかなりキていた。
- 133 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 17:30
- 昨日のアレは・・・・さすがにムリしすぎたかも。
なんだかいらいらしたあたしは、手当たり次第女の子を誘い、狂ったように抱いた。
どんな子をどんな風にしたのかはよく覚えていない。
来るもの拒まず、去るもの追わず、相手が望んだとおりのことをするだけだ。
お客さんの一人が、『今日のカンナさんは、その・・・すごかったです・・・』と頬を赤らめながら言っていたので、どうやら『すごかった』のだろう。
それにしても、イヤな夢だった。
現実の事故の記憶よりもタチがわるい。
- 134 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 17:30
- 家を出る頃には、雨は上がっていたが、相変わらず不安定な天気らしく、今にも降ってきそうなくらい分厚い雲があたしの頭の上に広がっていた。
体調を考えると、今日は家にじっとしていたほうがいいのかもしれない。
昨日あれだけやったのだ。
最近の臨時休暇分は取り戻せたから、無理して稼ぐ必要もない。
でも、仕事を休めば、自分の生き方を否定しているような気がしたから。
こうなったら、とことん汚れて生きていく。
黒に黒を混ぜたって、黒のままなのだ。
「お!ねーちゃん、べっぴんさんだねえ。一杯つきあってくれよ、奢るからさ。」
プン、と、鼻を突く臭いがして振り向いてみると、案の定カップ酒を持った老人が、よぼよぼとした足取りで隣にくっついてきた。
何日もお風呂にはいっていないに違いない。
あたしはすぐさま歩くペースをはやめた。
- 135 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 17:31
- 灰色の街を歩いていると、「ああ、あたしにはここが一番似会うな」とつくづく思う。
自分の居場所、なんていう、そんなロマンティシズムにひたっているわけではない。
あたしはここでしか生きられない。それだけだ。
仮に進化論が正しいとしたら、人間は、高等動物の、最終形態。
だけど、あたしの論はその真逆。
ヒトなんて動物界のヒエラルキーでもっとも下層に位置するべき、愚かなイキモノだ。
権威や、名誉なんていう中身のない上っ面だけをおいかけて、そら高級車だの海外だのエステだのミシュランだの、ばっかみたい。
お金の価値だって、幻想にすぎない。
有名なヒトの肖像画がついてるってだけで、あとはコンビニのレシートと変わらない、ただの紙切れ。
なのに、ときに、それを手に入れるためだけに、人を殺めたりする人もいるなんて、まったくもってバカげている。
反対に、そんなに苦労して手に入れたお金を、尽きない欲望のために手放す人を、あたしは何人も知っている。
ま、あたし自身がそんなバカみたいな人間に「生かされている」んだけど。
- 136 名前:秋雨の彼方へ 投稿日:2010/01/06(水) 17:32
- あたしは商売道具である右手の中指を、左手でなぞった。
なんでもないことのはずなのに、その手つきをみて、自分で「いやらしいな」と思った。
もう何人相手してきただろう。
あたしの頭に浮かんだのは、顔のない無数の影。
何回か寝たことのある人もいるはずだけど、特定の人間は誰一人としてあたしの記憶に葉残っていない。
「1回で複数人相手したら、ギネスも夢じゃなかったりして。」
生憎、そういうのは趣味じゃないんだけどさ。
なぜだかおかしくなってきて、「ククク・・・・」と笑いが漏れる。
しかし、笑ってみたものの、気分は優れなかった。
モヤモヤ
あたしの心は、まるで今日の空模様。
重たい雲の圧迫感が、なんとも息苦しかった。
- 137 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 17:34
- このままでいると、今朝のイヤな夢を思い出してしまう。
そんな思いから、あたしは舞ちゃんのお店を覗きに行った。
舞ちゃんの顔を見たら、少しは気がまぎれるかもしれない。
カランカラン
カウンターから、小さなママの姿がでてきた。
「まだ準備中なんですけど、カンナさん?」
「だから来るんでしょ。」
あたしはいつもの席に腰掛けると、机に突っ伏した。
なんだか精神的に疲れているのかも。
「開店準備って、休憩時間じゃないんだからね?わかってんの?もう。」
そんな風にいいつつ、ジャックダニエルを出してくれるから舞ちゃんは好きだ。
- 138 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 17:36
-
- 139 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 17:36
- ウイスキーグラスをくるくる回し、ロックアイスを溶かしていく。
片肘を突いて、重たい頭を支えた。
「何があったのかは知らないけど、アンタもそろそろ大人になりなよ。」
あまり喋らず、ただただグラスを回すあたしに、舞ちゃんは言った。
「あたしはもう大人だよ。自分ひとりでちゃんと稼げるし。」
むっとして反論するあたしに、舞ちゃんは「わかってないなぁ」と首を振る。
「そういうことじゃなくてね、大人になるために必要な過程がアンタには抜けてるの。」
「何よ、それ。」
「『人と、本気で向き合うこと』よ。」
「意味わかんないし。」
「それが子供だ、っていってんの。」
最近同じような「お説教」を聞いた気がして、あたしのイライラは募っていく。
カチカチとライターを鳴らしてもガス切れで、余計に腹が立った。
- 140 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 17:36
- 「ごめん、そろそろ店開けないと。」
「えー」
駄々をこねる子供を無視するように、舞ちゃんはきびきびと開店準備を始める。
テーブルを拭いたり、グラスを並べたりと、忙しそうな彼女の後姿は、あたしがいかに邪魔者なのかを無言で語っていた。
当然のようにここを貸切にしてくれると思っていたのに。
舞ちゃんは、何があってもあたしの味方でいてくれる。
あたしは心のどこかでそんな風に思っていた。
世の中の大人は誰一人信頼できないけど、舞ちゃんだけはあたしの気持ちをわかってくれると思っていた。
だけど、それはつまり、あたしがそれだけ彼女に甘えているということなのだ。
それに、舞ちゃんは、あたしのよき理解者だけど、同時にスナック舞のママでもある。
あの人は、あたしとは違って、ちゃんと社会生活を送っている。
常連さんに、初めて来るお客さん。
舞ちゃんはどんな人とも気軽におしゃべりをし、ときに相談にのったりもしている。
プライベートで付き合う友人も、昔の同級生も、家族だっているはずだ。
- 141 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 17:37
- あたしだって、わかってる。
ひとりじゃ生きてけないってこと。
だけど、もう遅い。
だってあたしは現実から目をそらして生きてきたから。
世間からしたら、人と交わることなんて「当たり前のこと」だろうけど、あたしにとってはそうじゃないんだ。
今朝見た夢みたいに、みんな、あたしから離れていく。
あたしは、独りなんだ。
それに、もしも誰かの好意に甘えて無防備になってしまったら最期、あたしは誰かに依存して生きていく心地よさみたいなものを思い出してしまうだろう。
だけど、そうしたら、またあたしは苦しまなければならない。
大切な人を失うのは、もうイヤだった。
本当は、怖いんだ。
人とつながりをもつことが。
- 142 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 17:44
- 舞ちゃんのお店を追い出されたあたしは、とりあえず仕事に行くことにした。
今日もまた昨日のように、がむしゃらにヤるんだろう。
あたしはあたしの生きかたを貫き通すことでしか生きていけない。
狂ったようにあたしの指に溺れる女たちを、冷静な目で見つめる。
それはそれでそれなりに愉快なのだ。
そうやって、半分自棄な気持ちを持ちつつ、公園の入り口まで歩いてきたのだが、あたしはそこで思わず足を止めた。
だって、そこにいたのは、あのツインテール少女なのだ。
突っ立っていたら気づかれてしまう。
あたしはとっさに近くの木の陰に隠れた。
- 143 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 17:44
- あんな別れ方をしたから、だと思う。
どんな顔をしたらよいのかわからないのだ。
妙な話だ。
だって、すでに彼女との関係なんてどこにもないんだから。
理由はともかく、あたしはひっそりと身を潜め、彼女が公園から立ち去るのをじっと待つことにした。
- 144 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 17:45
-
- 145 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 17:45
- 待つ、と決めたはいいものの、彼女は一向に動かなかった。
時計を持っていないため、生憎何分たったのかよくわからなかったが、陽はとうの昔に暮れている。
待ち人がなかなか来ないのだろうか、彼女は辛抱強く、「誰か」を待っているような気がした。
今日はあきらめようか、それとも、知らないふりをして出ていこうか。
あたしがそんなことを考えていたそのとき。
- 146 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 17:46
- 「あいつら・・・!」
見覚えのあるチンピラ2人組が愛理に近づいてきたのが見えた。
こんなところでは、あの子みたいな「普通の子」が目立つ。
案の定、彼らは愛理に目をつけ、なれなれしく近づいてきた。
「何やってるんだよ!早く逃げないと・・・」
あたしの祈りも空しく、愛理はつかまってしまった。
ひょろっとした金髪が、愛理の肩に手を乗せるのを見て、あたしはどうしようもない不快感に襲われた。
- 147 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 17:47
- 『あれ、この前の子じゃん。』
『どうしたの?お小遣い、欲しくなった?』
『あ、あの・・・・』
声は確認できなかったが、愛理の困った表情からして、こんなような会話をしているに違いない。
愛理はあたふたするものの、ここではこんな光景は日常茶飯。
だから、助けようなんていうお人よしはいるわけがなかった。
だけど、あたしは、次第に眉毛が下がっていく愛理を見ているのがつらくなってきた。
だったら、立ち去ればいいんだけど、でもそれもできなかった。
- 148 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 17:48
- 『見ちゃいられない?だったら助けに行けばいいじゃない。』
『いや、そんな即席の「正義」をかざすなんて、バカみたい』
知らぬふりして立ち去ることも、正義の味方のふりをするのも、どちらもできず、ただ立ち尽くしているあたし。
そんな自分の目には、愛理が言葉で必死に抵抗している姿が映る。
一生懸命、彼らに話をしているようだが、聞いてもらえるはずもない。
『とにかく、どこか行こうよ』
そんな風に、小柄な男が愛理の肩を抱いたとき、あたしのなかで、何かが切れた。
- 149 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 17:55
- 「ちょっと、あんたたち」
「栞菜さん!」
いち早くあたしに気づいた愛理が、目を真ん丸にしてこちらを見た。
つられて二人組もあたしに気づき、振り返った。
「おっと、これはこれは、カンナさん。こんなところで奇遇ですねえ。お仕事ですか?」
小さいほうが、愛理の肩を抱いたまま、わざと丁寧に言った。
思わず手を出したくなったけど、相手は男。
ここでキレてはいけない。
愛理まで危険な目にあわせてしまったら本末転倒だし。
「いや、この子を引き取りに来た。」
その手をにらみつけながら答えると、長身がすかさず口を挟む。
「ちょっと、この子はダメだよ?だってオレらが先なんだから。前に約束したの、忘れたわけじゃないだろ?」
- 150 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 17:56
- まったく、面倒だな。
今回は、最初と同じ手は使えない。
まあ向こうの言っていることが正しいわけだから、少しくらい面倒なのは仕方ないか。
「この子、あたしのなの。」
「はぁ!?だから意味わかんねーんだよ!」
どこかで見たことのある光景だ、と思いながら、あたしは再び「やれやれ」と、これ見よがしに肩を落とす。
- 151 名前:& ◆C.oimsnoCo 投稿日:2010/01/06(水) 18:01
- 「その子、あたしの『お客』じゃないの。『あたしの愛理』なの。意味、わかる?」
状況が飲み込めていないチンピラ共の隙をついて、あたしは愛理の腕をぐっと引き寄せた。
「ちょっと理解力不足みたいだから、ちゃんと教えてあげる。あのね、カンナさんはね、お仕事をやめたの。ついでに、この子はあたしのものね。」
「ちょっと待てよ、それって・・・」
「だから、この子に手を出していいのはあたしだけ、ってこと。皆まで言わせないでくれる?お兄さん。」
あたしと愛理を交互に見つめる男二人。
そしてあたしを驚きの表情で見つめるツインテール。
「わかったならもういいでしょ。愛理、行こう。」
「問答無用」をアピールするように、あたしはそのまま踵を返して歩き出す。
愛理は、彼らと同じくらいポカンとしていたが、あたしが手を引くと、慌ててついて来た。
- 152 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 18:05
- もう用のなくなった公園を出て、灰色の道を進む。
彼らは追いかけてはこなかった。
「『カンナさん』の引退宣言。これ、最新ニュースなんだからね。」
あたしは前を向いたまま言った。
どこまでがでまかせで、どこまでが本気なのか。
自分でもよくわからなかった。
「はい!」
愛理は、何も聞かずに、ただ元気よく返事した。
その声が、なんだかくすぐったかった。
- 153 名前:秋雨の彼方へ 投稿日:2010/01/06(水) 18:07
- ポツポツポツ
不意に、鼻の頭に水滴が落ちてきた。
「「あ、雨ー」」
同時に呟いて思わず顔を見合わせる。
目が合った瞬間、愛理が笑った。
ポツポツポツ
チラリとみえた、愛理の八重歯。
なんだか背中がむず痒い。
- 154 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 18:08
- 「うちまで走れる?」
「はい!あっ、でもその前にスーパーに寄りましょう!」
この状況でスーパーって・・・・
「本降りになるよ?」
「飢え死にしてもいいんですか?」
あたしの返事を待たずに、愛理は以前二人で行ったスーパーマーケットの方向へと走り出した。
- 155 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 18:08
- 「ちょっと!待って、ってば!」
秋の夜風を肌に感じる。
だけど、愛理といると不思議と寒くない。
あたしはまだまだ雨は苦手だ。
だけど、もう頭は痛くない。
- 156 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 18:09
-
秋雨の彼方に、あたしは小さな光を見つけた。
鈴木愛理という、小さなの光を―
- 157 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 18:09
-
- 158 名前:秋雨の彼方で 投稿日:2010/01/06(水) 18:10
-
『秋雨の彼方で』
从 ’w’)<おしまいは
- 159 名前:510-16 投稿日:2010/01/06(水) 18:19
- お待たせしました!やっと、、、やっと完結です!
レスです
>>125 名無飼育さん
いつまでも待たせてすみませんでした。
作者はとっても元気に生活していましたがw
また「更新はもう(ry」と思わせてしまうことがあるでしょうが、読者様に支えられ(&甘えて)執筆できて幸せです。
完結編、楽しんでいただけたら幸いです。
>>126 名無飼育さん
ありがとうございます。
年末、と言っていたのに、年が明けてしまいました。すみません・・・
本当に、愛理はすごいですよ!というか、うちの栞菜が頑固すぎるんですよね。
こんな感じに終わりましたが、いかがでしたか?
実は短編のつもりでしたが、だらだらと続いてしまった結果が、コレです。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
>>127 :名無飼育さん
あけましておめでとうございます!
そして完結おめでとうって感じですよねw
去年はいろいろ『革命元年』でしたが、作者は今年も変わらずカプヲタですのでよろしくおねがいします。
- 160 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/01/11(月) 10:05
- 完結おめでとうございます!正直、もう更(ry
嘘です待ってました(^p^)
スーパーに走って終わる感じが何故かとてもお気に入りですw
これから栞菜と愛理はどうなっていくんでしょうか。
ちょいちょい出て来る舞ちゃんも素敵でしたw
完結、本当にお疲れ様でした。
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