A.B.R −ALL FOR ONE−
1 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/30(月) 22:35


「今から皆さんに殺し合いをしてもらいます」




【残り7人】


2 名前:  投稿日:2008/06/30(月) 22:48
共和国戦闘実験第六十八プログラム

実施日 9月10日
開催地 ○○県内の廃校となった校舎内。

<主なルール>
・メンバーは14時間、閉鎖された校舎内で戦闘を行う。戦いの方法に反則はない。

・メンバーの首には爆弾付きの首輪を装着する。爆弾は以下の条件下に於いて爆発する。
  1、2時間の間、死者が出なかった場合。
  2、禁止エリアに立ち入った場合。
  3、首輪を外す・学校の敷地外に出るなど違反を犯した場合。

・2時間の間、1人の死者も出なかった場合、闘う意志のないものと見なし、全員の首輪を爆破、勝者はなしとする。

・メンバーの移動を促すため、2時間毎に禁止エリアを設ける。禁止エリアとなった箇所にはそれ以降、立ち入ることが出来ない。

・メンバーは互いに殺し合いをしていき、最後の1人となった時点でプログラムは終了。生き残っているメンバーを優勝者とする。

・優勝者にはソロデビューが約束される。
3 名前:  投稿日:2008/06/30(月) 22:49
最初の一言が衝撃的すぎたため
それ以降のルール説明はほとんど聞いていなかった。
もっとも、悪名高いプログラムのルールなら
さんざん聞かされてきたので概ねえりかも把握している。
ただ気になったのは「闘う意志のないものと」見なすまでの時間が
24時間以内ではなく、2時間以内となっていることだ。
短い。

「さくさくっ、と進めてください。7人しかいませんからね」

さっきから説明の口調が軽すぎたため、今でも実感が湧いてこない。

「では五十音順に、武器の入ったデイパックを持って出ていってください」

そう言われたときも、自分は2番目か、と思った以外は何も浮かばなかった。
あるいは、恐怖のため思考が麻痺していたのかも知れない。

栞菜が名を呼ばれ、荷物を受け取って部屋を出て行く。
その、思い詰めたような、絶望したような顔が、嫌に鮮明にえりかの頭に残った。

5分の間をおいて、今度は自分の名前が呼ばれた。
荷物を取って、教室の外に出る。
4 名前:  投稿日:2008/06/30(月) 22:49

―――どうしよう……

闘えと言われても、どうすればいいかわからない。

―――栞菜と早く合流しなきゃ

えりかは何の疑いもなくそう思った。
栞菜がこの時、必死に頭を働かせて身の振り方を考えていることなど
えりかには思いも寄らなかった。

―――どこ行ったのかな?

校舎の外に出てしまうと、首輪が爆発して殺されてしまう。
だから建物の中にいるはずだ。片っ端から教室をあたっていくしかなさそうだ。
えりかは、とりあえず4階まで上がり、端から教室の扉を開けていった。

1つ目、2つ目の教室には誰もいなかった。
教室は埃っぽく、机がないためがらんとしている。

3つ目の教室の前に立つ。中から人の気配がした。

「栞菜ー!?ここー?」

えりかは何の警戒もなく、扉を開けた。そのとき

「バイバイ、えりかちゃん」

栞菜の悲しそうな笑顔が、目に飛び込んできた。
5 名前:  投稿日:2008/06/30(月) 22:50

「きゃあああああああああ」

えりかの悲鳴は1階に残されていた舞美の耳にもはっきりと聞こえた。

―――!

メンバーがみな、不安げに目線を泳がせる。

「な、何が……」

舞が言いかけたが、私語をするなと言われて黙った。
舞美の心が急激にざわつき始める。
今の悲鳴は何だ?えりかが、誰かに襲われたのか?

誰かに……

そんなの、わかりきっている。今、校舎に放たれているのは栞菜とえりかだけなのだ。

―――まさか……

舞美は強く目を閉じた。祈る気持ちだった。
まだえりかが出て行ってから3分と経っていないのに
もう殺し合いが始まってしまったのか。
あんなに仲の良かったメンバーが、こんな一瞬で……

生きて出られるのは1人だけだ。殺さないと、殺される。
その極限状況は、メンバーの絆をあっという間に瓦解させてしまう。

―――でも……だけど……

舞美は信じられなかった。自分たちが作ってきたものが
つまらないプログラムによって簡単に蹂躙されてしまうなんて。

【残り6人】
6 名前:  投稿日:2008/07/04(金) 20:42
次々とメンバーは呼ばれていく。早貴が呼ばれたとき、今度は愛理の悲鳴が聞こえた。
舞と舞美が顔を見合わせる。

―――今のは……

舞美は脳内に愛理の絶叫を再生した。えりかの悲鳴とは違う。
えりかの発した、驚愕に満ちた悲鳴とは異なり今の愛理の叫びは

―――もっと、悲しそうな……

事態を把握し、哀しみ、絶望の淵から発せられた声……。

―――上で、何が起こってるの?

みんなの置かれている状況が全くわからない。舞美は混乱した。
どう闘うか、どうやって危険を避けるか……そんなことにまで頭が回らない。
いったいみんな、どうしてしまったのか。
心が不安に支配されて、考えが一歩も進まなかった。

舞が呼ばれ、舞美1人が残された。

【残り6人】
7 名前:  投稿日:2008/07/04(金) 20:43
教室を出る。廊下は暗かった。
すでに両足が震えて、壁に手をついていないと歩くこともできなかった。
それでも、なるべく物音を立てないように、気配を察せられないように注意深く歩いた。
1階の端まで行ったが誰もいない。
引き返そうかと思ったが、本部周辺は舞美が外に出た時点で禁止エリアとなっている。
舞美は階段を上って、今度は2階を端から歩いていく。

途中、武器を持った方がいいことに気づき、デイパックを開けた。
中から出てきた黒い鉈を握り、ゆっくりと歩いていく。廊下は静まりかえっていた。
聞こえてくるのは自分の足音と、息づかいのみ。
どこかで戦闘が行われている気配もない。

3階でも同じように端から端まで歩いてみたが、誰もいなかった。

―――残るは、4階。

みんなは4階にいるのだ。
1つの階に部屋数が5つしかない中、全員が4階にいる。
何人生きているかもわからない。
舞美は全身を緊張させて階段の下から、上の様子をうかがう。
しかし、何もわからない。

―――どうしよう。

迷った。全員が上にいるというのに、自分が飛び込んでいくのは危険ではないか。
しばらく3階のどこかに隠れて、誰かが降りてくるのを待つべきか。
しかし、自分は教室内に目を走らせたが、どこかに誰かが隠れていないという保証はない。
3階にいても安心はできない。

―――行こう

舞美は鉈を強く握り直して、そろり、そろりと階段を上がっていった。
8 名前:  投稿日:2008/07/04(金) 20:43
4階に上がると、音が聞こえた。
ぐす……ぐす……、と。

―――泣いてる……

1人ではない。何人かの泣いている声がした。
メンバーが苦しんでいる。
それがわかると、舞美の心から警戒心がすっ、と消えてしまった。

教室内にいたのは5人だった。
全員が窓辺にしゃがみこんでいる。

「みんな……どうしたの?」

舞美の声に、全員がこちらを向いた。みんな、泣いていた。

「な、何があったの?」

舞美の問いかけにえりかが答える。

「栞菜が……栞菜が飛び降りちゃった……」

舞美はデイパックと鉈を廊下に放って、室内に入った。
窓際まで行くと、みんなが場所をあけた。窓から下を覗きこむ。

―――……ああ

舞美はその場に崩れるようにしゃがんだ。
9 名前:  投稿日:2008/07/04(金) 20:43
「どうして?……」

舞美は独り言のようにつぶやいた。
それを聞いたのか、早貴が一枚の紙を差し出してきた。

「これは?」
「遺書」

もう、みんな順番に読んだのだろう。舞美は紙を受け取って、中身を見た。

 私は殺し合いなんてやらない。
 みんなを殺すくらいなら自分で死ぬ。
 誰が生き残るかわからないけど、その人にお願いがあります。

 ℃‐uteの曲を、みんなの分も歌って

 私たちが死んでも、私たちの歌を歌い続けてください。
 それだけが遺言です。

それを見た舞美の手が震える。
栞菜の気持ちを思う。
舞美の胸が乱れた。単なる哀しみとも怒りとも違う。
正体のわからない想いが心で暴れ回っている。
そのわけのわからない力に引き裂かれるように舞美は震えていた。
栞菜が……大切な仲間が、奪われてしまった。
こんな、くだらないゲームのために。

―――私たちを……殺したくなかったから?

舞美は今にも叫びそうだった。それを押さえてくれたのは肩に置かれた早貴の手だった。

「舞美ちゃんが来るまで、みんなで話し合ったの」
10 名前:  投稿日:2008/07/04(金) 20:43
舞美はきょとん、と顔を上げて、みんなを見た。
全員、うなずいた。

「な……に…?」

早貴が間を置かずに言う。

「私たちは殺し合いなんてしない」

また、全員でうなずく。
舞美はそれに力を得て、自分も言った。

「私も、殺し合いなんてしたくない。したくないよ。
 だけど……それじゃみんな死んじゃうよ」

2時間誰も死ななければ、ルールによって全滅させられてしまう。

「そう……そうなんだよね」

早貴は、言いづらそうに弱く微笑んだ。

「でも……」

舞美もつられて微笑んだ。
さっきとは打って変わって、心の中は静かだった。

「私は、それでもいいよ」

そう言った。
舞美にはわかった。早貴の言いたいのはそういうことなのだ。
7人はすごいメンバーだった。
年も性格もバラバラなのに、みんなが1つのものを見ていた。
今回だって、疑心暗鬼に駆られるような絶望的な条件の前で
全員の思いが一瞬でまとまった。
11 名前:  投稿日:2008/07/04(金) 20:43
―――みんな……

舞美の目から涙が溢れる。
えりかが後ろから抱きついてきた。
ぎゅう、と抱きしめられて、もっと涙が出てきた。

「みんな……私も、栞菜と同じ気持ち。みんなと、同じ気持ちだよ」
「よかった。舞美ちゃんがそう言ってくれて……」

早貴はそういう。声が震えていた。

「だけど…」

早貴の後を引き継ぐように、舞が話し始めた。

「全滅しちゃったら……栞菜の遺言が果たせなくなる」

舞美は、再びきょとん、としてしまった。

「遺言?」

もう一度、手紙を見る。

 ℃‐uteの曲を、みんなの分も歌って

それが、栞菜の遺言だ。

「でも、殺し合いはしたくない」
「舞……だけどそれじゃあ……どうするの?」

殺し合いをしなくては、全滅する。
それでは、誰も歌を続けることはできない。
どちらも選べないとしたら、どうすればいいのか。
12 名前:  投稿日:2008/07/04(金) 20:44
背後から

「ルールでは」

えりかの声がした。

「2時間、誰も死ななかったら全滅するって話だった。
 それ以外に全滅することはない」
「うん。だけど、誰も殺さないんでしょ?じゃあ……」

そこまで言ってから気がついた。

「2時間ごとに、死んでいけばいい……ってこと?」

栞菜みたいに、と言うと抱きしめる力が強くなった。
感情が湧いてこなかった。
2時間ごとに、死んでいく。そんな恐ろしい言葉がすっ、と出た。
栞菜を失った衝撃に、心が麻痺してしまったみたいだった。


「そう……そういうこと」
「じゃあ」

舞美は、わざと明るい声を出した。

「私が一番でいいよ」
「舞美!何言ってるの!?」
「だって……リーダーだし。そうだ、愛理が残りなよ。歌、上手だから……」
「やだっ!!」

愛理が立ち上がった。
13 名前:  投稿日:2008/07/04(金) 20:44
「残るのは、一番年下の舞ちゃんでしょ!!」
「はっ?愛理何言ってんの!?」

今度は舞が立ち上がる。
舞美の顔から、思わず笑みがこぼれてしまった。
意味わからないとこで、2人が譲り合う。
それは、楽屋で見かけるいつもの光景と、何も変わらなかった。
こんなときなのに、2人は相変わらず。

笑いに、涙が混じった。

「みんな!」

早貴も立ち上がって、みんなを見渡す。最後に下を向いて、小さく言った。

「くじで決めよ」

誰も、何も言わなかった。

【残り6人】



14 名前:  投稿日:2008/07/04(金) 20:45
ここまでです。
15 名前:  投稿日:2008/07/06(日) 19:37
沈黙がかえって落ち着かない。

教室にあった紙切れを使って、舞美が「1」〜「5」の数字を書き込んでいった。
「1」の紙を引いた人が、今から2時間以内に死ぬことになる。
ペンを握った舞美の手は、震えていた。

自分が書いている数字は、死の順番なのだ。
この数字によって、メンバーたちは死んでいく。
そう考えるとまるで、自分がみんなを殺しているような気分になる。

くじができあがるまでの時間は気まずかった。
皆がたがいの顔をうかがいながら
手を取り合いながら沈黙している。

みんな話すと必ず暗いことを言ってしまうと自覚しているから
黙る以外にできなかった。

5枚のカードを作り終えた。
最後に
何も書かないカードを加えた。
空白のカードを引いた人が、最後まで生き残る。

「できた」

舞美は、努めて明るくそう言った。
16 名前:  投稿日:2008/07/06(日) 19:38
「ルールで確認することある?後から変えたりできないからね」

早貴が、みんなに言う。

しばらく、そのまま。

「じゃあ……」
「待って」

手が上がった。

「愛理?」
「本当に、これで大丈夫かな?」
「何が?」
「……」

愛理は、下を向いた。何かを考えている様子だ。

「まさか、裏切る人なんていないよ」

愛理が口を開く前に、舞美が言った。
愛理は首を振る。

「わかってる。直前で自殺するのを辞めたって、どうせ全滅しちゃう。
 結果は同じなんだから抜け駆けする意味がない」
「じゃあ……」
「そうじゃなくて、みんな自殺しちゃって大丈夫なの?プログラムは…」
「そんなこと気にしなくていいよ!」
17 名前:  投稿日:2008/07/06(日) 19:38
「ううん。じゃなくて……」
「何よ!?」

舞美はつい、大声を出してしまった。

「あの……だから……」

反対に愛理の声が小さくなる。
「ごめん」と舞美は言って、愛理に先を促した。

「……さっき、説明されたルールにこうあった。

 2時間の間、1人の死者も出なかった場合
 闘う意志のないものと見なし、全員の首輪を爆破、勝者はなしとする。

 そうだったよね?」
「だから……2時間あけずに……」
「そこじゃなくって……私が気になってるのは
 『闘う意志のないものと見なし』ってこと。
 確かに2時間ごとに1人ずつ死んでいるから、首輪は爆破されない。
 でももし、順番に自殺していってることをあいつらが知ったら
 やっぱり『闘う意志のないもの』って思われない?」
「……」

みんな黙った。

参加者が順番に自殺していく。
戦闘は起こらない。
そんな状況を、このプログラムは想定しているだろうか。

―――いや

プログラムのルールは、参加者同士が団結できないように周到に作られている。
強さも使い勝手もバラバラに与えられる武器。
5分ごと時間を置いて戦場に出される参加者たち。
参加者が疑心暗鬼になり、闘わざるを得ないような状況を見事に作り上げていた。

それを、℃‐uteが上回った。

今回だけは、主催者の誤算だったと言わざるを得ない。
18 名前:  投稿日:2008/07/06(日) 19:38
しかし自分たちだって、そのままでは団結できなかったかも知れない。
舞美自身、みんなと合流するまで、鉈を手放すことができなかった。
最初は怖くて、みんなのことを疑っていた。
他人のために自分の命を捨てられる人なんて、いないのではないか、と。

しかし、戦闘が始まるよりも早く、栞菜が命を投げて殺し合いを拒否した。
驚くほど早く、自分の命を捨てる決断をした。

℃‐uteを、同士討ちさせないために。

プログラムで全員が結束するという、奇跡的な状況は
栞菜の死によってもたらされたようなものだ。
これはさすがに、プログラムも想定の範囲外だろう。
だとしたら……

「ルールに載ってないけど……特殊なケースってことで
 全員の首輪を爆破させちゃうかも知れない……」

愛理は、そう言った。

「……」

全員、黙った。今日、何度目かの沈黙だった。

「でもさあ……」

千聖だった。

「だからって、殺せる?」

愛理は、びっくりしたように大きく首を振った。
そこまで考えていなかったのだろう。
愛理はただ、リスクを指摘しただけだ。その先は何も考えていなかったに違いない。
19 名前:  投稿日:2008/07/06(日) 19:38
「じゃあ、考えてもしょうがないよ」

千聖はしばらく愛理をじっ、と見ていた。
愛理は誰とも視線を合わせられず、戸惑っていたが最終的には

「そうだね……ごめん何でもない」

と言った。

他に、意見をするものはいなかった。

【残り6人】



20 名前:  投稿日:2008/07/06(日) 20:27
紙を4つ折りにして床に並べる。
それをメンバーが1人ずつ、取っていった。
くじを作った舞美自身は、最後に残されたカードを取る。

みんな、紙を手の中で強く握ったまま
誰かが「見よう」と言うまで開こうとしなかった。

舞美は、自分が指示した方がいいかと思ったが
声が出なかった。

―――これで……決まっちゃうんだ

このくじで、自分の生死が決定してしまう。
そう思うと、「見よう」と言うことができない。

生き残れる確率は1/6。
くじを開けるまでは、まだ小さな希望が残されている。
その、まだゼロではない希望が
中身を見たらゼロになってしまうかも知れない。
その確率の方が遙かに高い。

できれば、ぎりぎりまで見たくなかった。

しかし

―――あと……どのくらいだろう
21 名前:  投稿日:2008/07/06(日) 20:27
部屋には時計がない。
与えられた荷物にも、時計は入っていなかった。
栞菜が死んでから、どのくらい経ったかわからない。
躊躇している時間はない。
すぐに、くじの結果を確認しなくては。

舞美は、1つ深呼吸をすると、気持ちに弾みをつけて言った。

「みんな、見よう」

そう言って、舞美はすぐに自分のカードを開けた。

―――……ウソ

舞美は、放心した。

みんなも舞美に続いて、自分のカードを確認する。

「あたし……5番。最後だ」

愛理の声だった。

「3番」
「4番」

舞、続けて千聖がカードを見せる。

「私は2番」

えりかが、ふざけた調子でそう言った。
22 名前:  投稿日:2008/07/06(日) 20:28
「や、やだ……」

舞美は無理に笑おうとした。
その手には「 」。何の数字も書かれていなかった。

「作った私が、生き残っちゃダメだよね。
 もう1回……」
「1番は私」

早貴が、舞美の言葉を遮って言う。

「ねぇ……ダメだよ。もう1回……」
「くじの結果に文句言わないの!」

えりかが、強く舞美の背中を叩いた。
舞も、愛理も、近づいてきて舞美の背中を強く叩いて
笑った。

舞美は

―――ごめんみんな……

強烈な自己嫌悪に襲われた。
くじの結果を見る直前、一瞬だけ「生きたい」と思ってしまった。
この状況を忘れて
他のメンバーのことを忘れて
ただ、助かりたいと
自分勝手にそう思ってしまった。
23 名前:  投稿日:2008/07/06(日) 20:28
だからカードを見るのが怖かった。
自分のカードに数字が書かれて
自分の死が確定してしまうのが怖くてしかたなかった。

結果
舞美が生き残ることになってしまった。

もちろん舞美がどう思ったところで結果は変わらない。
しかし、そう言い聞かせたところで罪の意識は消えてくれない。
自分の意志が、自分の生への執着が
みんなを見捨てることになってしまったのだという思いは
どうやってもぬぐい去ることが出来なかった。

みんなが笑顔で舞美の背中をバシバシ叩く。

そんな中でただ1人
千聖だけが床をじっと見つめて涙を溜めたまま
舞美と目を合わせようとしなかった。

【残り6人】



24 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/07(月) 22:07
まさか今頃この手の小説が読めるとは思いませんでした
嬉しいです
頑張ってください
25 名前:  投稿日:2008/07/09(水) 18:42
ピーっ、というサイレンの音が教室に響き渡った。
全員が、スピーカーに注目する。

『禁止エリアを連絡します。
 4階西側。4階西側が間もなく禁止エリアとなります』

「4階西側って……」
「ここだ」

舞美は、立ち上がった。

「行こう」

全員が、立ち上がった。
自分のデイパックを持って教室を出る。
連なって廊下を移動して階段まで来たとき
早貴が言った。

「私……ここに残るね」

みんなが振り返る。
早貴は、みんなと距離を取るように、一歩さがった。

「禁止エリアが増えるってことは
 もうすぐ2時間だから……」

舞美は、思わず早貴の手を強くつかんだ。
早貴は、舞美の手を振りほどいた。
26 名前:  投稿日:2008/07/09(水) 18:42
「だめだよ。私が残らなきゃ、みんな死んじゃうんだから」
「なっきぃ」
「舞美ちゃん。℃‐uteを……」

早貴の目が、まっすぐ舞美を見た。

「よろしくね」
「やだっ!!」
「千聖!!来ちゃダメ!!」

その声に千聖はびくっ、となった。
早貴のものとは思えない恐ろしい怒鳴り声。
こんなに声を荒げるところなど見たことない。

えりかが前に出て、千聖を抱きかかえるようにして下がらせた。
千聖はえりかの手を振りほどこうとする。

「いつ爆発するか、わかんないんだからっ!」

―――……なっきぃ

早貴が怒っている。
メンバーを守るために全身で怒鳴っている。
その声に圧倒されるように千聖はおとなしくなった。

早貴は、必死で笑顔を作ってみんなに手を振ると
身体を反転させて背中を向ける。

「なっきぃ……」

後ろから舞美の声。
27 名前:  投稿日:2008/07/09(水) 18:42
「ごめん……」
「ううん」

涙声になった。もう振り向けない。
最期の別れに、涙なんて見せたくなかったから振り向けなかった。

早貴は廊下の奥を睨むように見て、走り出した。

背後から自分を呼ぶ声がこだまする。
涙が溢れて止まらない。

でも
早貴は立ち止まらず、振り返らず
もといた教室まで走り続けた。

何もないがらんとした教室に戻る。
ゆっくりとほこり臭い部屋の真ん中まで歩くと
仰向けに寝転がった。
天井のあちこちに染みが見える。

―――なんか……教室で寝るのって、変な感じ

早貴は胸の前で手を組み合わせると
ゆっくり、目を閉じた。

頭の中で、みんなの声がする。
早貴を呼ぶ、メンバーの声。
それを心で聞いて、早貴は不思議と落ち着いていた。

自分の命が、間もなく消えようとしている。
そんなときでもみんなの声が、早貴を落ち着かせてくれる。
いつもと変わらなかった。
28 名前:  投稿日:2008/07/09(水) 18:43
早貴は、自分から何かを求めていくことが苦手だった。
子どものころから求めるよりも、人に譲ることの方が多かった。
譲ることに慣れてしまって、いつもそうなっていた。

 謙虚だね

そう言われた。そうほめられた。

 でも、自己主張しないと

そう怒られもした。
そう怒られても、自己主張の仕方がわからなかった。
自分では主張しているつもりだったし
千聖や舞には煙たがられることもあるくらいだったから
きちんと言うことは言っていたはずだ。

でも
不安になる。

私は自分を持っていなかったんじゃないか、と。

そんなとき不安を取り除いてくれたのは
早貴を呼ぶ、みんなの声。
みんなが「なっきぃ」と言ってくれるたび、確認できた。
自分は確かに、ここに存在しているのだと。
それが、安心できた。
29 名前:  投稿日:2008/07/09(水) 18:43
℃‐uteのみんなが譲り合ってばかりなのは
お互いのことが、ちゃんと見えているから。
決して、主張が弱いわけではない。
その証拠に
一度7人で目標が決まると
あくまでどん欲に、前に進むことができた。
早貴はそのとき確かに「自分」を見つけていたのだと思う。

―――すごいね……みんな……

℃‐uteが早貴を見つけてくれた。
℃‐uteが自分を作ってくれた。

だから……

早貴は思う。

……℃‐uteを守るためだったら、構わない。
すぐにみんなが、自分の後を追いかけて来てくれる。
自分の居場所は、絶対になくならない。
自分たちの絆は、絶対に死なない。

30 名前:  投稿日:2008/07/09(水) 18:43

ピピッ

音が大きく響いた。
びっくりして目を開けると自分の首元が赤く点滅している。

―――爆発する!!

早貴は身体を丸めて、両腕で自分の胸を抱きかかえた。
恐怖が黒く心の中に流れ込む。

早貴は再び目を閉じて

―――みんな……

みんなの顔を、できるだけ鮮明に思い描いた。
心を支配しようとする恐怖をかき消すように。

しかし身体は早貴の意志とは反対に震える。
涙が止まらない。

きつく結んだまぶたに、最後
円陣を組んでステージに向かう、メンバーの姿が映った。




ドン



【残り5人】

31 名前:  投稿日:2008/07/09(水) 18:44
5人は3階の教室まで移動した。
ここも、机の除けられたがらんとした空間。
5人には広すぎる空間に
すすり泣く声が響いて舞美の胸を圧迫する。

舞美は泣くこともできずに
呆然とみんなの様子を眺めるだけ。

―――なっきぃ……

早貴が死んでしまった。
みんなを守るために。
舞美を生かすために、早貴が死んだ。

その事実が舞美の胸に大きくのし掛かり
心がしびれたみたいだった。
悲しいとか、悔しいとか
そういう感情らしい感情がちっとも湧いてこない。
混乱した心の中に

―――なんで、死ぬのが私じゃなかったんだろ…

そんなどうしようもない疑問が浮かんでくる。
あそこで、みんなのために死ぬのは、誰でもよかったはずだ。
自分が死んでいてもよかった。
それなのに

―――なんで……

早貴がいってしまい、自分はこうして生き残っている。
32 名前:  投稿日:2008/07/09(水) 18:44
それはくじが決めたこと。
偶然の采配。
偶々、自分が当たりを引いた。
偶々、早貴が「1」を引いた。
それだけのことだ。
ただそれだけで、早貴の運命が決まってしまった。

―――誰でもよかった。自分でも……

早貴の死は、誰とでも交換可能な、無意味な死だ。
それが早貴でなくてはならない理由なんて、ない。

早貴が生きていたことは
誰とも換えることのできないことだったのに。
早貴の存在は早貴でなくてはならなかったのに。

舞美は、気がつくと泣いていた。
悲しかったからではないと思う。
わけがわからなかった。
こんなふうに生死が簡単に決められてしまう状況に
理解がついていかず頭が混乱して
それで泣いたのだ。
漠然とした不安。
圧倒的な恐怖が、舞美を揺さぶり続ける。
そのまま、みんなが顔を伏せたまま、
時計のない部屋で、止まったような時間だけが経過していった。
33 名前:  投稿日:2008/07/09(水) 18:44

人の動く気配がして、舞美は顔をあげた。
愛理が、えりかの肩に手を置いて、えりかを睨んでいる。

いや、睨んでいるのではない。
目を真っ赤にした愛理の口はきつく結ばれていたが、
愛理は肩を震わせてえりかに何かを訴えていた。

「ど、どうしたの?」

舞美が聞くと、愛理は弾かれたようにえりかから離れた。

―――愛理?

もう一度

「どうしたの?」

と聞いて、2人を見比べたが
2人とも顔を伏せて、何も言わなかった。

ざわり、と舞美の胸に不安がよぎる。
2人は何かを伝え合った。自分にはそれがわからない。
自分の知らないうちに何かが進んでしまい、置いて行かれる。
そんな不安だった。
34 名前:  投稿日:2008/07/09(水) 18:44

それから何分経っただろう。
えりかが不意に立ち上がって
教室を出て行こうとする。

「えり?」

舞美が声をかけると、えりかは立ち止まった。

「舞美……」

えりかは振り返らずに背中を見せたまま

「一緒に来て」

そう言って、教室を出て行ってしまった。

舞美はわけもわからず、えりかの後を追って出て行った。


えりかは何かに急かされるように歩いた。

「ねぇどこ行くの?……ねぇ!」

舞美は小走りに後を追う。
えりかは目を合わせようとはせず
ただ前を見ながら歩き続けた。
35 名前:  投稿日:2008/07/09(水) 18:44
―――えり……。どうしたの?

えりかは、階段を2階へと降りていく。
階段を降りたところで、立ち止まった。

「どうしたの?」
「次……」

追いついた舞美に背を見せたまま

「……私の番だから」
「……」

えりかが振り返る。その表情を見た瞬間

―――えり?

舞美は胸を強く押されたような苦しさを覚えた。
こちらに向いたえりかの表情は
とても頼りなく、はかなかった。
いつものえりかが消し飛んでしまったみたいだった。
いつものような
目が離せなくなる笑顔も
ウザいくらいの存在感も
救ってくれそうな明るさもない。
今のえりかは
運命の前に、とても小さく、弱く見える。

「最後は、舞美と2人がよかった」

どきんっ

胸が苦しくなった。
36 名前:  投稿日:2008/07/09(水) 18:45
さっきとは違う。
不安による苦しさではなく
心が泣きたがっているような
締め付けられるような苦しさ。

それでも舞美は

「どうして?」

そんな間抜けな受け答えしかできない。

「バカ……」

えりかが小さく笑って
身体が舞美の前に移動した。
つま先がぶつかる。

えりかは両手で舞美を強く抱きしめると
舞美の肩で、小さく泣き出した。

舞美も、えりかの背中に手を回して、強く抱いた。

「ま、舞美。泣いちゃダメだよ……」
「えりだって」
「だって、舞美はこれからの℃‐uteを守るんだよ。
 泣いてたら、℃‐uteじゃない」

涙がますます溢れて止められない。
想いが嗚咽となって出てくる。
37 名前:  投稿日:2008/07/09(水) 18:45
「舞美……。私、最初ここに連れてこられたとき
 死ぬの嫌だって、思った。
 でも、舞美が助かる。舞美がこれからも生き続ける。
 私が死ぬの、無駄じゃないんだよね……」

2人の身体がちょっと離れる。
舞美は、えりかの顔を見て

「……」

必死に涙を拭いた。
そして、絞り出すように

「うん」

それだけ言った。

―――バカ……私……

舞美は心の中で自分を責めた。
どうして、えりかの死を肯定するようなことしか言えないのか。
どうして、えりかを引き留めないのか。

―――……

しかし
引き留めるのが不可能だということは、舞美も理解している。
だから、だからせめて
えりかの命を無駄には終わらせたくない。
38 名前:  投稿日:2008/07/09(水) 18:45
「私……絶対、生きるからね!」

そう言うと
えりかはいつもの笑顔になって

「ありがと」

そう言った。
いつもの明るく、頼れるえりかがそこにいた。



ピーッ

スピーカーから音がした。

『禁止エリアを連絡します。
 1階東側。1階東側が間もなく禁止エリアとなります』

えりかがぎゅっ、と舞美の手を握った。

「じゃあ……」

えりかは階段に向かって歩き出す。

「えり!!」

舞美は、強く拳を握って踏みとどまった。
心の中にぽっかり空洞ができたように暗い。
39 名前:  投稿日:2008/07/09(水) 18:45
―――やだ、行かないで……

本当は引き留めたかった
℃‐uteの未来なんてどうでもいいから

―――最後まで、私と一緒にいて

そういって引き留めたかった。

しかし、えりかは舞美に考える暇を与えず階段を駆け下りていく。

「えり!!行っちゃダメ!!」

舞美は階段のところまで走って叫んだ。

「行かないで!!」

えりかが階段の途中で立ち止まる。

「舞美……」

世界が遠のくような目眩を感じた。
近く感じられるのは、えりかの声だけ。

「お願いだから……来ないで……」
「えり……だけど……」
「舞美が生きてくれるって、そのために自分は死ぬんだって
 そう思ってなきゃ……死ぬの怖くなる。
 お願いだから、舞美……そのまま……教室に戻って」

舞美は何も言えなかった。
これ以上近づいたら、えりかが壊れてしまうと思った。
その、脆そうな空気に気圧されて、動くことすらできなかった。

舞美はその場に立ちつくしたまま
えりかは舞美に背を向け階段を降りるまで振り返らなかった。
40 名前:  投稿日:2008/07/09(水) 18:45



1階の廊下に立ったえりかは、目の前の扉を見上げた。
扉の上には木の札が下がっていて「PC室」と書かれていた。
扉には鍵がかかっていなかった。
中には埃をかぶったコンピューターが立ち並んでいる。

―――ひょっとして……使える?

放送も使えるようになっていた。
プログラムを実施するために電力の供給が復活しているのかも知れない。
本部の人間が主催者と連絡を取るためにネットも復活しているかも。

えりかは弾かれたように、一番近くのパソコンにとびつき、スイッチを入れた。
ディスプレイに、見慣れたOSの画面が表示された。

―――早く……早く……

立ち上がりの動作ももどかしく、えりかはブラウザを開く。
学校のパソコンなのでパスワードを聞かれるかと思ったが
杞憂だった。

―――使える!!……間に合うか……。

えりかは、パソコンの前に座り、キーボードを引き寄せた。


41 名前:  投稿日:2008/07/09(水) 18:46

舞美は、えりかのいなくなった2階の廊下で
しゃがみこんだまま動けなかった。

―――えり……

えりかが、自分の前からいなくなってしまった。
涙がどうしても止まってくれない。
しかし

―――舞美が生きてくれるって、そのために自分は死ぬんだって

えりかの言葉を思い出して、舞美は涙を拭った。
壁に手をつき立ち上がると、階段を上っていった。

階段の下の方から「ドン」と鈍い音がする。

舞美は全身から抜けそうになる力を、どうにかとどめて
階段を上り続けた。

【残り4人】


42 名前:  投稿日:2008/07/09(水) 18:46


舞美がようやく3階までたどり着いたときだった。

みんなのいるはずの教室からパァン、と弾けるような音がした。
続けてガラスの割れる音。

―――な、何……今の……

あんな音の鳴るものが、教室にあったとは考えられない。
誰かのデイパックに入っていたのだ。

―――銃を……誰かが使った……

混乱して立ちすくむ舞美の耳に
銃声が今度は
2発続けて聞こえた。


43 名前:  投稿日:2008/07/09(水) 18:46
44 名前:  投稿日:2008/07/09(水) 18:46
今日はここまでです。
45 名前:  投稿日:2008/07/09(水) 18:47
>>24
ありがとうございます。
時代遅れの設定に需要があるものかどうか不安でしたが
レスいただけて嬉しいです。
最後までよろしくお願いします。
46 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/10(木) 19:37
すごい面白いです
ハラハラドキドキで心臓に悪いですw
次も楽しみにしてます
47 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/10(木) 21:12
使い古された設定に℃-uteを放り込むことで、斬新な展開になってますね
今後どうなるかはさておき、実際の℃-uteの雰囲気からして、ほんとにこういうことになりそう
続きもすごく楽しみです
48 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 13:54

舞美は、教室の前で立ちつくしていた。

―――銃声は、ここで鳴った。

舞美が3階の廊下に到着してから3発。
足が、がくがくと震えだした。

―――この中で、誰かが……撃ったんだ

全身の血が凍りついたみたいに冷たく感じる。
心臓は高鳴り顔からは、どっと汗が噴き出した。

舞美は拳を強く握る。
舞美は、部屋を手ぶらで飛び出した。
武器は持っていない。
そもそも舞美の武器は鉈だ。銃が相手では適わない。

舞美は迷った。
教室に入るべきか、逃げるべきか。

扉をじっ、と睨む。しかし中からは何も聞こえてこなかった。

舞美は
1つ深呼吸をすると、教室の扉を勢いよく開いた。
49 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 13:55
立ちこめた強烈な臭いに思わず顔が歪んだ。
扉の前に立ち、教室の中を窺う。
その光景を見たとき、舞美の心臓が飛び出そうになった。

「あ、あ……愛理!!!」

愛理は、頭から血を流し
窓際の壁にもたれかかるようにしゃがんでいた。
愛理の頭上にある窓割れて大きな穴となっている。

舞美はふらふらと、教室の中に入った。
足がグチャッ、と何かを踏んだ。
足下に目をやる。

血だった。

「きゃあああああああ……」

教室の床に広く、赤黒い血溜まりが出来ている。
その中央に

―――ああ……

千聖と舞が横たわっていた。
千聖はこちらに背中を向け、その向こうに頭から血を流した舞が倒れていた。
舞の手には、拳銃が握られている。

「ち、千聖……、舞ちゃん?」

舞美の呼びかけが、段々大きくなる。

「あ、愛理!!……千聖!!……舞ちゃん!!」

何度も叫んだ。
しかし舞美が何度叫んでも、3人はぴくりとも動かない。
50 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 13:55
舞美は弾かれたように教室を飛び出した。
わけもわからず廊下を走り、トイレの個室に駆け込んで、鍵をかけた。

「はぁ……はぁ……」

舞美は自分の胸元を強くつかんで、呼吸を落ち着かせる。
しばらくして、呼吸は元に戻ったが、心臓の鼓動は相変わらず高鳴っていた。

―――終わり……じゃないの?

教室に残っていた3人が……理由はわからないが撃ち合いになった。
あと、無傷で残っているのは舞美だけだ。
最後の1人になった時点でプログラムは終了のはずだ。
しかし、なぜか実験は終了にならない。

―――なんで?……どうして?……

舞美の頭が忙しく回り出した。


……

最後の1人になったら実験は終了する。
しかし、プログラムは終わっていない。
つまり

―――誰かが……生き残ってる……

舞美の他にも、誰かがまだ生きているのだ。
それ以外に考えられない。
ということは
愛理たちを殺したのも、その人物か。
51 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 13:55
舞美は戦慄した。

誰かが生き残っている。
そして、愛理たちを撃ち殺した。
なぜ……

―――生き残るため?プログラムに勝つため?

その人物、愛理たちを殺した犯人は
順番に自殺するという取り決めに従わず
あの教室で殺人を始めたのだ。
だとしたら……

―――ここにも、来る!!

相手が銃を持っているなら
トイレの個室なんかに鍵をかけたところで無意味である。
廊下に足跡も残っているに違いない。
舞美の靴には千聖の血がべったりと付いているのだ。


【残り2人】
52 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 13:56
―――誰が?

銃声は3発。
教室で血を流していたのは愛理、千聖、舞の3人だ。

―――ということは……

残っているのは、栞菜、早貴、えりか。
この中の誰かが、死んだと見せかけて実は生きていて
そして残っているメンバーを皆殺しにする機会を窺っていたとしたら……

―――でも……

舞美は目を閉じて、必死に思考をめぐらす。

早貴たちが死んでいなかったら、舞美の首輪も
とっくに爆発しているはずだ。
2時間、誰も死ななかったら全滅するルールなのだから。
しかし、自分は生きている。
つまり、3人は確かに死んだはず……

―――……違う。

試合開始から2時間後に4階西側が禁止エリアになった。
そして早貴が犠牲になり、残りの5人の首輪が爆発せずにすんだ。
早貴が死んだのは試合開始からきっちり2時間後。

この時点で栞菜が生きていても、全滅は免れる。

―――栞菜が?

しかし、栞菜は4階から飛び降りたのだ。
無事でいられるわけがない。
53 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 13:56
いや……

舞美は頭を振る。

…飛び降りたところを舞美は見ていない。
4階の窓から地上を見下ろし、そこに倒れている栞菜を見ただけだ。
あれが死んだふりだったとしたら?
もしそうなら

―――栞菜はまだ、生きてる……

栞菜は4階の教室まで行き、そこで遺書を書いた。
この遺書は、飛び降り自殺と思わせるための偽装だった。
栞菜は遺書を教室に残して
メンバーと鉢合わせにならないように階段を降りていく。
2階の窓から外に飛び降り、そこで死んだふりをする。

遺書を読んだメンバーが戦意喪失することも、計算に入っていたに違いない。
そしてメンバーが1人ずつ自殺していくのを、じっと待った。
そして1階が禁止エリアになる前に、窓から校舎内に入り
舞美たちと入れ違いに愛理たちのいる教室に入ったのだ。

舞美は、もう一度頭を振った。

―――校舎を出るのは反則だったはず……

外に出た栞菜がまだ生きていたのだとしたら
反則を取られて栞菜の首輪が爆発するはずだ。
54 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 13:56
舞美は、聞いたルールを正確に思い出そうとした。
確かルールでは「学校の敷地外に出る」ことが違反だと言っていた。
建物の外でも敷地内であれば、反則ではなかった、ということか。
でも「校舎内で戦闘を行う」というルールに違反するのではないか。

……わからない。ルールの解釈が微妙なところだったが
栞菜が生き残っているとすれば、敷地内であればセーフだったのだろう。
しかし

―――……

舞美の頭に新たな疑問が浮かぶ。
栞菜も舞美と同じルールを聞いていた。
校舎の外が反則かどうか迷う、微妙なルールだった。
そんな状況で、真っ先に外に出ようなんて考えるだろうか?
実際に敷地内がセーフというルールだったとしても
栞菜には、それを確かめる方法がない。
なのに、戦闘が始まる前に1人で外に飛び出すなんてできるわけがない。
外に出たら死ぬかもしれない、という恐怖が心理的な壁となるはずだ。
追い詰められて仕方なく窓から脱出したのではない。
栞菜は、まだ誰とも殺し合いになっていない状況で外に出たのだ。
これが生き残るための策略であるはずがない。

ということは

―――栞菜じゃない……

栞菜が1人生き残るために外に出て死んだふりをするのは無理、ということになる。
55 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 13:56
しかしそれでは他に、生き残れたメンバーがいただろうか?
栞菜ではない。
早貴も、舞美たちが全滅していない以上、別れた時点で死んでいる。
教室にいた3人は、殺されてしまった。

「……。」

そのとき舞美は、全員の死を確認していないことに気がついた。

舞は頭から血を流していた。舞美は死んだ舞の顔を見たのだ。
あれが死んだふりでないことは、舞美でもわかる。
舞は犯人ではない。

「千聖は……」

千聖は、倒れている背中を見ただけだった。
あのとき千聖が無傷で、死んだふりをしていただけ、という可能性は……

―――ダメだ……。

舞美は、この可能性も打ち消した。
根拠は、舞美が踏んだ血溜まりだ。
2人を浸して、周囲に大きくできた血溜まり。
あれだけの量の血が舞1人から出たとは思えない。
舞が撃たれたのは頭だ。
どこを撃てばあの量の出血になるかなんてわからないが
頭だけ撃たれて、舞と千聖2人があれだけの血に浸ってしまうことはないだろう。
つまり、千聖も撃たれている。
56 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 13:57
―――愛理は?

愛理は頭から血を流していた。
あれが撃たれたときの血ではなく、千聖の血を塗りつけただけ、とは考えられないか?
実際に頭を撃たれたら、弾が貫通して背面の壁にも血がつくだろうが
愛理の背後にあったのは割れたガラスだった。
ガラスが割れていたため、血が残っていなくても不自然ではなかった。

愛理は、2人を撃ち殺した後、千聖の血を自分のこめかみに塗りつける。
その後、窓に向けて一発撃ってガラスを割り、その下にしゃがみ込んだ。
死んだふりをして舞美が戻ってくるのを待つためだ。
本当はそこで舞美を殺すつもりだった。
しかし、舞美は教室に1歩入ったところで恐慌を来して出て行ってしまった。
だから殺せなかった。

……

しかし、今の筋書きでは舞美の聞いた音と、順序が合わない。
舞美が聞いたのは、1発の銃声、続けてガラスの割れる音。
その後少し間があいてから2発だった。
愛理が犯人だとしたら、
愛理が窓に向けて発砲している間、千聖たちは何をしていたのか。
なぜ、逃げ出さなかったのか。
恐怖のあまり逃げることもできなかったのだろうか。

しかし、やはり順序が変だ。
愛理の立場で考えれば、これから2人を殺そうというときに
先にガラスを割るのは不自然である。
そんなことをしたら、2人に応戦する隙を与えてしまうかもしれないのに……
57 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 13:57
―――応戦……応戦したの?

舞美の脳裏に、舞の手にあった銃が浮かんだ。
そして新たな仮説に至る。

先に発砲したのは舞だった。
舞は愛理に向けて銃撃を放ったが
弾は当たらず愛理の背後にあったガラスに当たった。
愛理は応戦するために、舞に向けて発砲。
1発目は逸れて千聖に当たり、2発目が舞に当たった。

これなら、音の順番通りになる。

―――その後は……

……

しかし、その後の愛理の行動に合理的な説明をつけることができない。
舞が攻撃してきたので仕方なく応戦したのなら
なぜその後、舞美に対して死んだふりをする必要があるのか。

舞美は確かに、教室でパニックになり飛び出したが
その前に何度も愛理に呼びかけている。
愛理が使った武器は銃なのだ。
正面で呆然と立ちつくしていた舞美を撃つチャンスはいくらでもあったはずだ。
しかし、愛理はぴくりともしなかった。
舞美を殺す気ならとっくに撃っている。
そして、舞美を殺す意志がないのなら、死んだふりをする必要もない。

今の推理は違う。
愛理は犯人ではない。
58 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 13:57
だとすると、残るは……

―――……えりか

えりかだ。

えりかと別れてからしばらくして
舞美は「ドン」という爆発音を聞いている。
そのときに舞美の首輪が爆発していなかったのだから、えりかは死んでいる。
禁止エリアは2時間ごとに増えるのだ。
早貴が死んでから2時間経って、えりかが死んでいなかったら
その時点で全滅しているはずである。

でも……えりか以外に生き残れるコはいない。

―――どういうこと?

舞美は、目を閉じて考える。
例えば……

実はまだ2時間経ってなかった。

舞美たちに時計は与えられていない。
だから正確に、早貴の死から何時間が経過したかを測ることはできない。
えりかの向かった1階から「ドン」という音が聞こえたから
えりかの首輪が爆発したのだと思いこんだけれども
もし違っていたら。
あの時点ではまだ2時間経っていなかったとしたら?

えりかは時間切れになる前に3階まで行き、愛理たちを殺した。
これなら全滅にはならない。
59 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 13:57
では、あの「ドン」という音は?

―――確か……1階にはPC室があったはず。

えりかは、コンピューターに細工をして、爆発させたのか。

―――そんなこと、できる?

舞美は首を振った。

コンピューターに細工をしたのでなければ……

「!!」

新たな仮説を思いついた。
えりかに与えられていた武器は、小型の爆弾だったのではないか。
えりかは舞美に爆発音を聞かせるために爆弾を使った。
舞美はそれを聞いて、えりかが死んだと思いこんだ。
では、えりかは銃をどこから手に入れたのか。

「……栞菜だ」

栞菜のデイパックの中に銃が入っていて
えりかはそれを隠し持っていた。
栞菜の武器を物色することは、次に出ていったえりかにしかできない。

……。
60 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 13:58
しかし、それならなぜ
あのとき舞美を殺さなかった?
別れる前、えりかと舞美は2人きりでいたのだ。
えりかには舞美を殺す機会があった。
どうして……

舞美はあのときのことを思い出す。
えりかに「一緒に来て」と言われて2階まで行った。

「まさか……」

そのとき舞美の脳裏に、えりかの言葉がよみがえった。

「そんな……そんなバカな……」

あまりにも信じがたい思いつきだったが
もし、そうだとしたらあのときの言葉の意味は……


―――最後は、舞美と2人がよかった


「えり……ウソでしょう……」

―――まさか、2人きりになるために?

愕然とした。全身が震える。
えりかは、そのために3人を殺したというのか!?
61 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 13:58
もし、そうだとしたら……

…もし、えりかが舞美といるために愛理たちを殺したのだとしたら
自分はこんなところにいてはいけない。
えりかと会って、話をしなくてはいけない。

「えり……なんてことを……」

確かに、愛理たち3人とも、死ぬことが決まっていた。
でもだからって……

舞美の胸の中に、苦い思いが溜まっていく。

―――こんなことのために……


舞美は走りだした。
えりかがどこに潜んでいるかわからないけど
舞美を殺す気なら、とっくに殺している。構いはしない。

「えり!!いるんでしょう!?」

舞美は大声を張り上げた。
返事はない。

舞美はもう一度声を出そうと息を吸い込む。
しかし……

「……」

……すぐに止まってしまった。
62 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 13:58
自分の間違いに気がついたからだ。

えりかが舞美より先に3階に行くことは不可能なのだ。
舞美はえりかと別れてもしばらく階段のところにいた。
その階段をえりかが上ってきたら絶対に気づいたはずだ。
校舎の反対側にも階段はある。
そこに行くためには本部の前を通らなくてはならないが
そこはすでに禁止エリアになっている。
どちらの階段も、えりかは使えなかった。
えりかには、舞美より先に3階に行くことはできない。

えりかも、犯人では、あり得ない。

「うそ……」

舞美は混乱した。
犯人がいなくなってしまった。
誰もいない。

舞美以外には、誰もいない。

その信じられない結論に、目眩を覚えた。

「なんで……どうして……」

その場にへたりこんでしまった。

―――どうして……どこか、間違ってる?

意味がわからない。
ここには舞美1人しかいない。
それなのに
最後の1人になったはずなのに、悪夢が終わらない。
63 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 13:58
舞美は疲労に負けるようにドサッ、とその場に倒れ込んだ。

「もう……いいや、誰が犯人でも……」

四肢を投げ出して、横たわる。
犯人は舞美を殺しに来るだろうか。
でもそれなら、それで構わない。
犯人は℃‐uteのメンバーなのだから。
そこまで生きたいと思っているメンバーがいるなら
勝利はそのコに譲ってやろう。

それで、栞菜の意思は守られる。

―――もう……疲れた……

舞美は、安らかな顔になって目を閉じた。
すぐに意識はふわり軽くなり、夢の中へと落ちていく。

64 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 13:59


倒れた舞美の前に立った人物は

舞美の目から流れる一筋の涙を見た。



【試合終了】

65 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 13:59
66 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 13:59
67 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 13:59
最初にいた本部へと連れて来られた。
この4時間で頬は痩け
顔からは生気が抜け落ちてしまったようだった。
椅子に座るなり
主催者を睨みつけた。

しかし主催者は気にする風でもなく
ただ「珍しい展開だった」と小さく言った。

「どういうことですか?」

舞美が聞くと、主催者は舞美のいない間に教室で起きたことを話し始めた。


最初に銃を撃ったのは千聖だった。
千聖は愛理の頭を撃ち抜くと今度は舞の頭に銃を突きつける。
舞も銃を構えて応戦。2人が引き金を引いたのは、ほぼ同時だった。
千聖の弾は舞の頭に直撃。
一方、舞の撃った弾は千聖の腹に当たった。

「矢島が来たとき、岡井にはまだかすかに脈拍が残っていた」

舞美が教室の惨状を見たときには、まだ千聖には息があったため、プログラムは続いた。
舞美は生きている千聖を放置してしまったことになるが
「どのみち助からなかった」と言われた。
意識を失っていたし出血量もひどかったから死んだものと思いこんだのも無理はない。
そう言われた。

その後千聖は、舞美がトイレに隠れている間に出血多量で死亡した。

その後、スタッフが舞美を回収に行ったとき
舞美は廊下に横になって夢を見ながら泣いていたという。
68 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 14:00
―――千聖が……

銃声の犯人は千聖だった。
舞美は信じられなかった。
確かにその話なら筋が通る。
それでも、千聖が2人を殺したというのが信じられない。

「千聖……やっぱり…生きたかったんだ……」

舞美は、千聖の顔を思い出す。
くじの結果がわかったとき、みんなが舞美を励ます中
千聖は1人、涙を溜めたまま、舞美と目を合わせなかった。
あのとき、千聖は舞美の引いたカードが欲しかったのだ。

―――私……気づいていたのに

舞美の中に自責の念が膨らんで暴れ出す。

「わ、私……千聖のこと……、み、見てたのに……
 私が、私が見捨てた……」

千聖の悔しさを思うと、発狂しそうになる。
あのとき自分のカードを千聖にあげていればよかった。
そうすれば……

―――殺し合うことなかったのに

舞と千聖。
あんなに元気よく、楽屋ではしゃぎ回っていた2人が
なんで銃口を向け合い、殺し合わなければならなかったのか。
69 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 14:00
舞は、どんな気持ちで千聖の銃撃を受けただろう。
そんな、悲惨な結末になるくらいなら

―――私が、死んでいればよかったのに……

後悔はどんどん大きく、舞美の存在を飲み込んでしまいそうだった。

「信じられない……いいコンビだったのに……
 あんなに仲良かったのに……」

舞美の独り言に対して主催者は「そんなもんだよ」と言った。
舞美は再び、主催者を睨みつけた。


70 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 14:00


車に乗せられて、会場を後にした。
外は雲の無い快晴。何事もなかったかのような穏やかな天気だった。
しかし
舞美の心は、空洞ができたように真っ白で何も考えることができなかった。

隣に座った大人がソロデビューがどうのこうのと話していたが
耳に入ってこない。
本当は栞菜の意志を継ぐためにも
きちんと聞いておかなくてはいけない話なのだろう。
しかし
千聖と舞の最後を聞かされた後だったので、意識がまるで向かなかった。

栞菜は℃‐uteを守るために自殺した。
でも、やっぱり残酷なプログラムは、自分たちの信じる心を破壊してしまった。
結局その程度だったのだ。
そう思うと、ソロデビューなんて話はどうでもよくなってしまう。

しかし舞美の気持ちを無視して
隣の大人はしゃべり続け、車は走り続けた。
71 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 14:00
到着して車を降りるとき、カバンを渡された。
プログラムに拉致される前に、舞美が持っていたものだ。

舞美はカバンを受け取り中を見た。

すると、携帯のバックディスプレイが点滅している。
何だろうと思って取ってみると、メール着信の表示があった。

慌ててメールを開く。
差出人のアドレスは、えりかのウェブメールのものだった。
時間は、えりかが死ぬ直前。

えりかがPC室で、最後に打ったメールだった。
そして舞美は真相を知る。


 舞美がこのメールを読める状態にいることを祈ります。
 このメールを受け取るころにはプログラムは終わっているよね。

 千聖か、あるいは舞ちゃんが愛理を殺しましたか?
 あれは愛理なの。
 愛理が自分を撃つように言ったの。
72 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 14:01

舞美は、その信じられない内容から目を離すことができなかった。


 愛理はずっと「闘う意思のないもの」、というルールを気にしていた。
 6人とも自殺じゃ主催者が納得しないんじゃないか、て。

 なっきぃが死んじゃってから、愛理は私に訴えてきた。
 声には出さなかったけど、言いたいことはわかったから
 私は舞美を教室の外に連れ出したの。

 きっとその間に、3人は作戦を立てているはずだよ。
 舞美を巻き込まずに、3人で殺し合いになったように思わせる方法を。
 上手くいけば殺し合いの結果舞美が生き残った、ということになる。
 舞美は、闘いに勝ち残った優勝者として堂々とソロデビューができる。

 舞美には絶対に生き残って欲しい。
 それが℃‐ute全員の願いなんだよ。
73 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 14:01
涙が止まらなかった。
心が熱く、どうしようもないほど熱くなって溢れそう。
舞美は声を抑えることもできずに
わんわんと大きな声で泣き出した。

栞菜は未来を他のメンバーに託して飛び降りた。
早貴とえりかは時間をつなぐため、禁止エリアに飛び込んだ。
そして愛理と千聖と舞は、互いに撃ち合い心中した。
銃を向け合いながらも、舞美のことを想いながら。

全部、舞美1人を助けるために。

舞美が疑心暗鬼にかられて震えている間
みんなは必死に舞美を救おうとしていたのだ。

「み、……みんな……」

立っていることができずに地面にしゃがみこんでしまう。
自分の胸に、携帯を強く抱きしめた。

―――みんな……大好き!!
74 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 14:01
命が危機にさらされる中で、人はこんなにも誰かのために動けるのか。
その想いの大きさに、その圧倒的な深さに
舞美は涙を流して敬意を表すしかできない。

なんて優しいコたち。
なんて気高い℃‐ute

舞美は拳を強く握りしめ、青空を見上げた。
みんなの想いを、必ず歴史に残すと心に誓い涙を拭く。
そして自分にしか聞こえないくらいの声でそっと

「ありがとう」

と、みんなに言うと
静かに立ち上がり、前を向いて歩き出した。





 うちらの友情は、プログラムなんかに負けなかったんだよ。
 最後まで殺し合わなかった℃‐uteのアンチ・バトルロワイヤル。
 舞美はそれを誇りに思って、℃‐uteを未来につなげていってください。

                 えりか


75 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 14:02

A.B.R -ALL FOR ONE-


76 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 14:03
以上になります。
ここまでお読みいただいた方、本当にありがとうございました。
77 名前:  投稿日:2008/07/12(土) 14:05
>>46
ありがとうございます。
楽しみにしていただける、ということで励みになりました。
心臓、お大事になさってくださいw

>>47
ありがとうございます。
まさに、作者のやりたかったことを代弁してくださったので嬉しいです。
最終的には、℃‐uteにしかない物語になったんじゃないかな、と思っていますがいかがだったでしょうか。
78 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/12(土) 19:23
終わっちゃった!
もっと読みたかったので残念ですが7人しかいませんからね
次回作も期待しています
79 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/12(土) 19:46
面白かったです。
℃-uteならではのバトロワって感じでした。
80 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/12(土) 23:00
楽しませていただきました。最終話はミステリの雰囲気でしたね
℃-uteはいい子ちゃんばっかりでつまらん、なんて意見をよく聞きますが
そういう℃-uteならではの、そういう℃-uteだからこその、℃-uteじゃないと成立しない、
そんな話が読めたことが、すごく嬉しいです
Berryzも、あれはあれで好きなんですけど(笑
81 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/12(土) 23:09
話に引き込まれました!
すごく面白かったです!!

密かに梅さんを疑っていた自分は浅はかでしたw
82 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/13(日) 00:06
お疲れ様でした。
℃-uteは最後まで℃-uteでしたね。
すごく面白かったです。
83 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2008/07/13(日) 13:49
すごく面白かったです。
あの子達だと本当にこうなりそうで胸が熱くなりました。
84 名前:いこーる 投稿日:2008/07/13(日) 15:45
たくさんのレスありがとうございます。

>>78
もともと短編かな?と思っていたのであっという間に終わってしまいました。
この展開で長編というのも面白いかもでしたね。ありがとうございました。

>>79
正直、始めるまではこういう℃‐ute像がどこまでいけるか手探りだったんですが、
予想以上にはまったようで筆進みが早くなりました。ありがとうございました。

>>80
ミステリ仕立ては結論を先延ばしにするためでしたが、
推理シーンが思ったより厚くなっちゃいました。推理書くの好きなんで。
そういえば、最近のメンバーを昔のメンバーと比較する意見はよく見ますけど
否定的に見るんじゃなくて昔と変わっちゃったからこそ、次世代娘。小説にチャレンジしたいな、と思っています。
Berryz工房も楽しいですよね。凸凹具合がたまらない。

>>81
ありがとうございます。
作者の思惑通りに読んでくださって実は喜んでいます。

>>82
℃‐uteは最後まで℃‐ute。これからも℃‐uteであって欲しいです。

>>83
そういった感想いただけると、自分の℃‐ute観もズレてはいなかったな、と安心します。
ありがとうございました。

カムアウトしますと、HNをいこーると言います。
ttp://mseek.s47.xrea.com/pukiwiki.php?%A4%A4%A4%B3%A1%BC%A4%EB

℃‐uteものは初挑戦だったので、現状と合わない部分がでないように、慎重にプロットしました。
また機会があれば(構想ができれば)℃‐uteものにチャレンジしたいと思います。
85 名前:ナナシー 投稿日:2008/07/13(日) 23:19
さすがです!!

読み終わって涙を流し、その後HNを見てやっぱりこの人はすごい!と
勝手に涙しました。

本当にお疲れ様でした!そしてありがとうございました!
86 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/14(月) 00:18
いこーるさんでしたか!
手垢の付いた設定なのに読ませる上手い作者さんだなぁ!っと思ってました
作者さんのキッズものはキャラに深みがあって好きです
87 名前:いこーる 投稿日:2008/07/17(木) 19:41
>>85
どうもです!
名前だそうか迷ったんですが、……
そんなふうに驚いてくれてありがとうございます。

>>86
ありがとうございます。
手垢の付いた設定だからこそ、余計な手続きを省略できたので非常に書きやすかったです。
88 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/07/18(金) 05:46
いこーるさんだとわかってから読み直しましたが
凄かったです。短編でさくっと終わってくれてホッとしました。
89 名前:いこーる 投稿日:2008/07/30(水) 00:06
>>88
ありがとうございます。
普段は長編が多いですが
こんな短めの話も書いてて楽しかったです。
90 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/20(水) 18:09
自然と涙がこぼれてきました
℃の友情が鮮明に書かれていますね
感心・関心です
91 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/20(水) 18:15
ageるな
92 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/19(日) 03:52
なるほど。

69の主催者の『そんなもんだよ』という言葉は、結局、第三者の気持ちはそうだよな〜と思いました。が、この言葉があることによって、最後のメールで、この子たちの想いの強さ、絆の深さがより際立ったように感じました。

あまりこの子たちのことはわかりませんがこの小説に出てくるようないい子たちなんだろうなと思いました。

ぜひ、キュートの子たちと昔のメンバー(娘。の3、4期あたり)が絡む話を見てみたいなと思いました。
93 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/12/31(水) 16:57
めっちゃ感動しました!!
℃-ute最高!!w

ログ一覧へ


Converted by dat2html.pl v0.2