全力で、逆走
- 1 名前:510-16 投稿日:2008/03/14(金) 20:44
- こんにちは。
B℃の短編を書きます。
やじうめ、あいかん、りしゃみやを特に好みます。
若輩者ですが、お付き合いしていただけたら嬉しいです。
ではよろしくお願いいたします。
- 2 名前:510-16 投稿日:2008/03/14(金) 20:45
- まずは、あいかんです。
- 3 名前:犬の飼い方 投稿日:2008/03/14(金) 20:46
-
―今日の栞菜は、なんかおかしい。
鈴木愛理、今悩んでいます。
- 4 名前:犬の飼い方 投稿日:2008/03/14(金) 20:46
-
今朝はすごくいい天気で、あたしは上機嫌で家を出た。
「春はあたしの味方だなー」なんて、どこかできいたことのある台詞をつぶやいてみたり。
「栞菜、もう家出たかな?」
あったかい日差しに少し目を細めて、その人の顔を思い浮かべる。
まっすぐで、かっこよくて、大好きなあたしの恋人。
そうだ、もうすぐ桜が咲く。そしたら、栞菜とお花見に行こう!
普段から直球の愛情表現をくれる栞菜と、照れ屋のあたし。
犬みたいにじゃれてくる栞菜と、どちらかというと猫みたいにすましているあたし。
だからこそ、お花見計画を提案したら、きっと栞菜ってば尻尾振って喜ぶはず。
栞菜の満面の笑みを想像したら、早く会いたくなってきて。
今日も一日頑張るぞって、そう思った。
そんな朝だった。
- 5 名前:犬の飼い方 投稿日:2008/03/14(金) 20:47
-
それなのに、それなのに、だ。
有原栞菜の様子が、おかしい。
いや、正確にいうと、どこがおかしいのかは説明できないのだけど、なんだか妙なのだ。
- 6 名前:犬の飼い方 投稿日:2008/03/14(金) 20:47
- ここは、収録前のいつもの楽屋。
舞美ちゃんとえりかちゃんの年長コンビは、ふたりで仲良くMDを聴いている。
千聖ちゃん、なっきー、舞ちゃんは、テーブルの上でお菓子パーティーを始めて、あたしもなんとなく一緒にいる。
そして、栞菜はというと、少し離れたソファーで読書中なんだけど。
その小説を読んでいる栞菜が、どうもあたしの目には、不自然に映ってしまうのだ。
読書好きの栞菜。
本を読んでる姿は実際見かけるし、読書してること自体はなんら不自然でもない。
だけど、集中していないというか、なんというか。
どうも心ここにあらずといった感じ。視線がよく宙に浮かんでる。
そして、あたしがこんなに観察するもんだから、当然栞菜と頻繁に目が合う。
栞菜は微笑んでくれる。だけど、視線はすぐに本へ。
でも、気がついたら、またどこでもないところを見ている。
「愛理ちゃん、どしたの?」
舞ちゃんの声で我に返った。
さっきから何も喋らないでいるあたしを心配したんだろう。
「え、ううん、なんでもないよ。」
「なんか、ぼーっとしてたよ、考え事?」
「ま、そんなとこかな?」
そう返事して、3人の会話に参加する。
テーブルの上を見たら、いつの間にかスナック菓子の空箱と、キャンディーが2つ残っているだけだった。
- 7 名前:犬の飼い方 投稿日:2008/03/14(金) 20:48
- 舞ちゃんに言われたばかりなのに、あたしはまた考えてしまう。
もしかして、これは俗に言う、避けられてる状態・・・・・・・とか?
いやいや、今朝も普通におはようって言ったし、昨日のメールもいつもどおり「愛理大好き」なんていう恥ずかしいこと言ってくれちゃ
ってたし。
いやいや、第一、あたしなんかしたっけ?
うん、何もしてない、はず。
はずなんだけど・・・・・・・・・・
最悪を予想してしまったら、不安が大きくなる。
その不安を流すために、無数の「そんなはずない」が、洪水のように頭を駆け巡る。
ううん、そもそも、栞菜が変だって決まったわけじゃない。
あたしの勘違いなのかもしれないし。
あたしの思考はもうめちゃくちゃだった。
- 8 名前:犬の飼い方 投稿日:2008/03/14(金) 20:49
- 勘違い・・・そうであってほしい。
そういわんばかりに栞菜をちらっと見てみた。
視線の先には、栞菜の姿。
その栞菜の視線の先は、本だったり、天井だったり、それから―
また目が合う。
だけど、なんかスルーされてるような、そういう感じがした。
・・・・やっぱりいつもの栞菜じゃない。
気づいたときには、あたしは栞菜のいるソファーに向かっていた。
空いている隣のスペースに、そっと腰を下ろす。
栞菜はあたしを無視するわけでもなく、本にしおりを挟んでテーブルの上に置いた。
怒ってるって感じではないな、と、安心してはみたけれど。
だけど、何かおかしい。何か足らない。
わかんないけど、でもなんか違う。
- 9 名前:犬の飼い方 投稿日:2008/03/14(金) 20:50
- このなんともいえない違和感がいやで、あたしは話しかけてみる。
「最近、なんかあった?」
「え、なんかって、いつも一緒にいるじゃん」
そう言って、栞菜は「最近っていうか、昨日お母さんがねー・・・・・」と他愛のない話を始めた。
なんだかうまく誤魔化されたような気がする。
- 10 名前:犬の飼い方 投稿日:2008/03/14(金) 20:51
- 「あー、それ舞が狙ってたのにー!」
「早いもん勝ちだよーだ」
「でも、さっきのみかん味だって、舞がほしかったやつだったのにぃ!」
騒がしくなるちびっ子組の声が聞こえてきた。
だけど、栞菜の話もそれと同じくらい、遠くに聞こえる。
ほんとに、あなたは今ここにいるの?
うつむき気味の頭。
どこを向いているかわからない視線。
さっきのあたしみたいに、舞ちゃんに指摘されたときのあたしみたいに、ただ考え事してるだけ。
そんな風には思えなかった。
どうしてかは、わからない。
だけど、それだけじゃない。
- 11 名前:犬の飼い方 投稿日:2008/03/14(金) 20:51
- 「じゃあ今からコンビニ行こうよ。ね、舞美?」
「うん、えりのおごりでー、とか言ってw」
「まったく、しょうがないなぁー。」
訪れた沈黙の裏側でメンバーのやりとりが聞こえてきた。
「ちょっとウチらコンビニいくけど、なんかいるー?」
楽屋のドアの前で、えりかちゃんがこっちに向かって叫んだ。
首を横に振ったあたしをちらっと見て、「特になしー!」と栞菜が大き目の声で返した。
- 12 名前:510-16 投稿日:2008/03/14(金) 20:58
- >>7 改行が不適切な部分がありました。
読みづらくしてしまい、申し訳ないです。
- 13 名前:510-16 投稿日:2008/03/14(金) 20:59
- ついでにキリがいいので一旦ストップです。
- 14 名前:510-16 投稿日:2008/04/06(日) 19:33
- ネット環境復活いたしましたので続きです。
- 15 名前:犬の飼い方 投稿日:2008/04/06(日) 19:35
-
バタン
楽屋のドアがしまる。
広い楽屋の隅。そこにあるソファーにふたりだけ。
気まずさを感じているのはあたしだけのようだ。
それでも、栞菜が不自然に映るのはどうしてだろう。
- 16 名前:犬の飼い方 投稿日:2008/04/06(日) 19:36
- こういう沈黙は、苦手。
いつもなら、楽しそうに喋る栞菜を見てるはずなのに。
「元気?」
出てきたのは、こんなつまんない言葉。
「元気だよ?てか、どしたの、愛理?」
今度はちゃんとあたしを見て言ってくれたけど。
- 17 名前:犬の飼い方 投稿日:2008/04/06(日) 19:36
-
栞菜、あたし、もうわかんないよ。
ほんとに元気?
何かあったんじゃないの?
「元気だよ」って、確かに笑顔で言ったけど。
本当に、何もないかもしれないけど。
だけど、あたしは知りたいの。
何かあっても、何もなくても、知りたいの。
- 18 名前:犬の飼い方 投稿日:2008/04/06(日) 19:37
- 「ねぇ、かんな―」
あたしは少しうつむいている栞菜に、覗き込むようにして話しかける。
どうしてあたしをちゃんと見てくれないの?
どうしていつもの栞菜じゃないの?
今日はどうしちゃったの?
どうしたらいいの?
それとも、全部あたしの勘違いなの?
顔をあげた栞菜に見つめられる。
どうしよう。
言いたいことはいっぱいある。だけど、なんていえばいいのかわからない。
目が合っている間が、永遠に思えた。
時が止まっている、そんな錯覚を覚えた。
- 19 名前:犬の飼い方 投稿日:2008/04/06(日) 19:38
- ・・・って、何か言わなきゃ!
あたしが口を開きかけた、そのとき―――
「・・・・・あー!もう!!」
目の前の彼女が突然沈黙を破るもんだから、あたしはびっくりして「うわぁっ!」と変な声を上げてしまった。
「あーあーあー!ムリムリムリ!やっぱりムリだよぉー、あいりぃー」
ぐしゃぐしゃと頭をかき回す。
あーあ、そんなことしたら髪の毛が・・・・って、それはどうでもよくて。
「ちょっと、落ち着いてよ。どうしたの?」
あたしは自分のしたかった質問なんかすっかり忘れて、栞菜の説明を待っていた。
ていうか、すっかりいつもの栞菜に戻ってるんですけど。
その栞菜は、「あのですね、愛理さん。最近気づいたことがありまして・・・」と前置きをして、こう続けた。
- 20 名前:犬の飼い方 投稿日:2008/04/06(日) 19:39
- 「あたし、ものすごーく、愛理が好きで。なんていうか、恐ろしいくらい好きで。もう好きで好きで好きで好きで・・・」
こんなに「好き」を連発されて、あたしは恥ずかしさに身体が熱くなる。
「だけど、愛理はあんまり人前で手繋ぐのとか好きじゃないでしょ?いや、あたしは別にそういう愛理がいやなんじゃないよ?うん、そうなんだけど・・・・でも、愛理が近くにいたら、どうしても、くっついたりしたくなって。でも、愛理が恥ずかしがる気持ちもわかるから、今日は我慢してみようかなーって思ってね。」
- 21 名前:犬の飼い方 投稿日:2008/04/06(日) 19:41
- なるほどね・・・・
なんとなくわかってきた。
「あー、だからあんなに不自然だったわけだ。目も見てくんないし?」
「だってさぁー、見たら好きって気持ちが爆発しそうになるんだもん。愛理って、すんごくかわいいからさ。」
そう言いながら、あたしにぴったりとくっついてきた。
肩が触れて、栞菜の体温をうっすらと感じる。
そうそう、この距離だ。
これがいつもの栞菜で、これがいつものあたしたち。
さっきまでの不安や、もやもやは、完全にどこかにいっちゃったみたい。
「でも、よーくわかった。愛理がすごく、好き。我慢とかいうのは不可能でした。」
「ムリしなくたって、いいからね?今日みたいな栞菜もキライじゃないけど。」
そのままの栞菜が一番いい。
「じゃ、ちゅーする?」
「しませんー。いつみんな戻ってくるかかわかんないじゃん。ここは楽屋です。」
「あー、やっぱそう言うんだよなー、愛理は」
「だって、恥ずかしいじゃん」
「だけど、したいんだもんー」と、あたしの愛しい恋人は膨れている。
今日の不自然な栞菜も、あたしを思ってくれてのこと。
今だって、強引にキスしないのも栞菜の優しさ。
ありがと、かんな。
- 22 名前:犬の飼い方 投稿日:2008/04/06(日) 19:42
- いつでもどこでもじゃれつきたがる、あたしの困った恋人は、
いつでもどこでも、あたしにありったけの愛情をくれる。
だから、あたしもそれに応えたい。
「今度、ふたりでお花見行きたいな。」
- 23 名前:犬の飼い方 投稿日:2008/04/06(日) 19:42
-
从 ’w’)<おしまいは
- 24 名前:510-16 投稿日:2008/04/06(日) 19:50
-
- 25 名前:510-16 投稿日:2008/04/06(日) 19:51
- 以上です。
こんな感じでやっていきますので今後もよろしくお願いします。
- 26 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/06(日) 21:48
- 続きキターーー!!今度も楽しみに待ってます!
- 27 名前:510-16 投稿日:2008/04/07(月) 00:30
- >名無飼育さん
記念すべき初レスです!ありがとうございます!!(感涙
亀更新ですが、今後も温かく見守っていただけたら嬉しいです。
- 28 名前:名無飼育 投稿日:2008/04/07(月) 01:23
- B℃モノキター
私の好きなCPなのでまったり期待しながら読みます^^
あいかんは最近から好きになったんですが栞菜って犬っぽいですね♪
続きを楽しみにしてますがんばってください。
- 29 名前:510-16 投稿日:2008/04/07(月) 14:10
- >>28 名無飼育さん
ありがとうございます!
あいかんの需要ってどうなんでしょうね?
愛理は、犬な栞菜が密かにかわいいと思っているんですけど、口には出さないって感じします。
州´・ v ・)<それが賢い犬の飼い方だもん
- 30 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/08(火) 21:41
- あいかんキタワァ
やじうめにも期待してます
- 31 名前:510-16 投稿日:2008/04/12(土) 00:34
- 愛理、お誕生日おめでとう!
・・・・ということで、またもやあいかんですw
- 32 名前:桜の季節に 投稿日:2008/04/12(土) 00:38
-
- 33 名前:桜の季節に 投稿日:2008/04/12(土) 00:39
-
そっと手を繋いで、並ぶ二つの影。
目の前には、無数の桜の花びら。
ちらちらと、またひとつ、地面に落ちた。
- 34 名前:桜の季節に 投稿日:2008/04/12(土) 00:40
-
- 35 名前:桜の季節に 投稿日:2008/04/12(土) 00:41
- いつだったかは忘れたけど、「お花見に行こう」と愛理が言った。
それから、天気予報の桜情報を毎日チェックして、日々のスケジュールをこなしていった。
新曲のイベントや、ツアー前のこの時期は、すごく忙しい。
そんな中での今日のオフ。
今朝は目覚ましがなる前に起きて、身支度をしたらすぐ家を出た。
時間には十分余裕はあったけど、いてもたってもいられなかったのだ。
思ったとおり、愛理より早く待ち合わせ場所についた。
15分前だったから、結構待たなきゃいけないと思っていたのに、5分もたたないうちに彼女は現れた。
あたしをみつけて、驚いた表情でこう言った。
「あれ、珍しいね。栞菜がこんなはやくくるなんて。」
「たまには早起きしてみたんだよ。じゃ、いこっか。」
「いつもこれくらい早くきてくれたら・・・」なんて皮肉も聞こえたけれど、なんだって嬉しい。
多分、愛理も同じはず。
どちらともなく自然に繋がれた手が、それを証明しているように思えた。
- 36 名前:桜の季節に 投稿日:2008/04/12(土) 00:42
- 土手は、桜でいっぱいだった。
「うわぁ!」と感嘆の声を上げて、愛理はその木の下に駆け寄った。
あたしは、立ち止まって、その様子を見ていた。
視界を覆う真っ白な花びら。
太陽の光が、眩しい。
花を乗せた枝がしなるほど、満開の桜。
時折風が吹いて、それを揺らす。
ひらひら舞う花びらの中に、あたしは愛理を見つける。
手を広げて、上を向たまま、ぐるーっと回りを見渡している。
その姿に、あたしは素直に感動するんだ。
なんて、可愛いんだろう、って。
「きれいだね」
近づいてきたあたしにそう言って、彼女はふわりと笑う。
ねぇ、愛理。あたしはね、そんなキミが愛しくて仕方がないんだ。
何も言わないあたしを見て、愛理は「どしたの?」って首をかしげた。
「愛理に見惚れてたんだよ」
桜の中の愛理を、花びらごと抱きしめた。
- 37 名前:桜の季節に 投稿日:2008/04/12(土) 00:43
-
「ここにしない?」
「いいねー、特等席じゃん!」
大きな桜の幹の根元に、持ってきたレジャーシートを敷いた。
花びらの間から、うっすらと太陽の光が差している。
ベビーカーから赤ちゃんを抱き上げている若い夫婦。
2匹のダックスフンドを連れて散歩している女の人と、その子供。
スポーツウェアで元気よくウォーキングをしている老夫婦。
平日ということもあって、周りにはそれほど人はいなかったけど、それぞれが好きな時間を過ごしているみたいで、なんだか心が暖かくなった。
- 38 名前:桜の季節に 投稿日:2008/04/12(土) 00:44
-
人の幸せを素直に喜ぶことが出来るのは、あたしも幸せだからだ、と思う。
いつだったかは、はっきり思い出せないけど、あたしは愛理に恋をした。
好きだと自覚してからの葛藤の日々。
愛理の笑顔を見るたび、嬉しいはずなのに、言いようのない切なさで胸が苦しくなった。
自分ではどうしようもできなくて、愛理に気持ちを伝えたけれど、別に何かを期待していたわけではない。
恋人になれたらいいな、と思ったこともあったけれど、そんなの夢のまた夢だって、そう思ってたんだ。
だけど、愛理は今、あたしの恋人で。
夢のまた夢が実現するなんて、あの頃では考えられなかった。
でも、あたしはこんなに穏やかな幸せを手に入れることが出来たんだ。
- 39 名前:桜の季節に 投稿日:2008/04/12(土) 00:44
- ぐるりと周りを見渡して、また視線を愛理に戻した。
何度見てもカワイイよなぁ、なんて、愛理バカ丸出しなことを考えてたら、ふとあるものに目が留まった。
それは、愛理が持ってきた四角いバスケット。
お花見に四角いバスケットといえば・・・・
「ね、もしかして、それって・・・」
「うん。あのね、お弁当、作ってきたの。」
お弁当!愛理のお手製弁当!
あたしは嬉しさのあまり、愛理に抱きついてしまった。
少し照れくさそうにしている愛理が余計に可愛くて仕方がなかった。
- 40 名前:桜の季節に 投稿日:2008/04/12(土) 00:45
- だって、だって、お弁当だよ?かわいい彼女の手作りのお弁当だなんて!
驚きと喜びを隠せないあたしに、愛理は「はい」とそれを渡してくれた。
わくわくしながら、パカっと蓋をあける。
そこにはキレイにラップしてあるサンドイッチが目に飛び込んできた。
その他にもプチトマト、ポテトサラダ、たこさんウインナー、アスパラのベーコン巻きといったようなものが入っている。
見た目も色鮮やかで、すごくかわいいお弁当だった。
「食べていい?」
「うん。あ、でも、おいしいかわかんない・・・けど。」
あたしがあまりにも期待しているからかな、愛理は自信なさそうに答えた。
だけど、どう客観的に見たって、おいしそうなんだよね、このお弁当。
愛理が作ったんなら、なおさら美味しいに決まってる。
- 41 名前:桜の季節に 投稿日:2008/04/12(土) 00:46
- 「いただきまーす!」
一番近くにあったサンドイッチにおもいきりかぶりつく。
食パンの柔らかな感触。
シャキシャキしたレタスにみずみずしいトマト。
極めつけは、カリっと焼かれたベーコン。
あぁ、おいしい、おいしい、おいしい!
あまりにも威勢よくかぶりついたから、咀嚼に時間がかかってしまった。
愛理はそんなあたしに、「どう?おいしい?」と、少し不安げなまなざしを送ってくる。
もごもごと顎を動かし、一気に食べてからあたしは言った。
「おいしいよ!愛理!すっごくおいしい。」
「え?本当?本当に!?」
ぱあっと明るくなる愛理の笑顔。
おいしいお弁当も嬉しいけど、あたしにはこの笑顔が一番のご馳走なんだな。
「うん、おいしい。ね、他のも食べていい?これは何が入ってんの?」
キャッキャと喜ぶあたしに、愛理ははにかみながらサンドイッチとおかずの説明をしてくれた。
- 42 名前:桜の季節に 投稿日:2008/04/12(土) 00:46
-
- 43 名前:桜の季節に 投稿日:2008/04/12(土) 00:46
- 「もうお腹いっぱいだぁ。」
「栞菜、すんごい食べてたよね」
「えー、だってマジでおいしかったんだもん、愛理の手作り弁当。」
「あたしも喜んでもらえて嬉しいよ。だって、栞菜のために作ったんだしさ。」
「栞菜のために」
こういう何気ない一言に、あたしの心はときめく。
「ホント、嬉しかった。ありがとう。」
まっすぐ愛理を見つめて、お辞儀をした。
「どういたしまして。なんか、照れるね。」と愛理は笑った。
だって、すごく嬉しかったから。
だから、愛理に素直に感謝の気持ちを伝えたかったんだ。
- 44 名前:桜の季節に 投稿日:2008/04/12(土) 00:47
- 「あー、幸せ幸せ。」
お腹もいっぱいになったことだし、2人でごろんと寝そべる。
背中には暖かな芝の感触。
しばし2人きりで春の香りを楽しむことにした。
いい天気。
真っ青な空に、雲がゆっくりと流れている。
時折風にのって桜の花びらが舞い降りてきた。
静かで、平和だ。
そう思っていたとき、ふととなりに居る彼女の規則正しい呼吸に気づいた。
もしかして、と視線をチラとそちらに向ける。
- 45 名前:桜の季節に 投稿日:2008/04/12(土) 00:47
- 「あーあ、寝ちゃってるし。」
予想通り、愛理はすやすやと寝ていた。
別に、責めるつもりもなかった。
だって、こんなにいい天気なんだもん。お腹もいっぱいなわけだし、眠くならないほうがおかしい。
それにしても、本当かわいいよなぁ・・・・
幸せそうに寝ている愛理の髪を、そっと撫でる。
起こさないように気をつけながら。
- 46 名前:桜の季節に 投稿日:2008/04/12(土) 00:48
-
愛理は、熟睡していた。
それは、多分疲れているから。
彼女は℃-uteではメインボーカルを張っているが、それだけでなくBuono!の活動もある。
頑張り屋さんの愛理だから、人が見ていないところでも努力しているだろう。
メンバーの前では弱みを見せないけれど、相当疲労もたまっているはずだった。
それに、今日だって、早起きしてお弁当をつくってきてくれたに違いない。
あたしのために。
なんて幸せ者なんだろう。
こんなに愛しい人に、同じように愛されることができるなんて。
彼女をあたしの前に与えてくれた神様に感謝したい。
愛理が生まれてきてくれて、本当によかった。
だから、こんな日くらいは、ゆっくり休ませてあげたいと思う。
あたしが愛理にしてやれることといえば、こんな風に隣で髪を撫でること、これくらいしかないけど。
だけど、隣で寝ているあたしの愛しい彼女の顔は、とても幸せそうで。
だから、あたしはこの愛に自信を持てるんだ。
- 47 名前:桜の季節に 投稿日:2008/04/12(土) 00:49
-
生まれてきてくれて、ありがとう。
聞こえているかわからないけれど、そうつぶやく。
そのときあたしは、彼女がもうすぐ誕生日を迎えるということに気づいた。
- 48 名前:桜の季節に 投稿日:2008/04/12(土) 00:49
-
桜の花びらが、ひらりと舞い降りた。
- 49 名前:桜の季節に 投稿日:2008/04/12(土) 00:49
-
- 50 名前:桜の季節に 投稿日:2008/04/12(土) 00:50
-
从 ’w’)<おしまいは
『桜の季節に』―完
- 51 名前:桜の季節に 投稿日:2008/04/12(土) 00:52
- おまけ
ノk|‘−‘)<・・・・って、誕生日プレゼント買わなきゃ!!!
- 52 名前:510-16 投稿日:2008/04/12(土) 00:59
- ということで、『犬の飼い方』の続編でした。
あたしの住んでいるところでは、若干花見の時期すぎちゃってるんですけどw
>>30名無飼育さん
読んでいただいてありがとうございます!
あいかんですけど、よかったらどうぞw
リl|*´∀`l|<うちも早く登場したいんだけどねー、
从・ゥ・从<作者さんがねー・・・・
- 53 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/12(土) 22:40
- あいかん可愛いすぎです!
もしよろしければ、鈴木さんを好きになったときのことを有原さんにはっきりと思い出してもらいたいです!!
- 54 名前:510-16 投稿日:2008/04/13(日) 00:56
- 愛理の誕生日にあわせて慌てて書いたので、文章がおかしいです(汗
しかも結構多いっていう・・・読みにくかったらごめんなさい。
>>53名無飼育さん
ありがとうございます。
可愛いあいかんを目指しているので、すごく嬉しいお言葉です!
うちの栞菜は、愛理の誕生日のことさえ忘れちゃうような困ったちゃんですからw
頑張って思い出させてみます。
- 55 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/16(水) 00:53
- いや〜めちゃくちゃあったかい気持ちになりました
引き続き執筆頑張ってください
- 56 名前:510-16 投稿日:2008/04/28(月) 20:44
- 明日は名古屋の合紺いってきます。
眠れないので小説更新します。
さて、気になるカプですが・・・・すぐにわかりますw
- 57 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/04/28(月) 20:51
-
- 58 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/04/28(月) 20:52
-
4月。
梅田えりかは、久しぶりの制服の感触に、少し緊張していた。
母がクリーニングに出しておいてくれたおかげで、アイロンがピシッとかけられている。
今日から高校2年生となったわけだが、春休みも終わってしまい、これから待ち受けているであろう退屈な始業式と、続けざまに行われる課題テストのことを思うと、げんなりしてしまうものだ。
- 59 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/04/28(月) 20:52
- 「えりかちゃん、おはよー!」
「あ、桃子ちゃん」
特徴的な声で元気よく挨拶した彼女は、嗣永桃子。
すごく「女の子」な少女で、そのまっすぐな心は見ていて気持ちが良くなる。
えりかとは、1年生のときに同じクラスになり、それ以来、よく行動を共にしていたのだ。
天真爛漫で社交的な彼女。
その小さい体のどこにそんなパワーがあるのか知りたくなるほど、元気な女の子である。
- 60 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/04/28(月) 20:52
- 「あ!」
突然、桃子が走り出したので、驚いて顔を上げた。
「ね、クラス!あたらしいクラス発表されてるよ!」
見てみると、前方には生徒の山ができている。
桃子は黒い集団の山を指差し、「はやくはやく!」と手招きした。
新しいクラス!
えりかの胸は高鳴った。
別に、1年生のときのクラスがイヤだったわけじゃない。
ただ、楽しみなだけ。それだけだ。
- 61 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/04/28(月) 20:54
-
「ええっと、梅田、梅田っと・・・」
掲示板の前に来たえりかは、1組、2組、3組・・・・と順番に探していく。
こういうとき、出席番号が早くてよかったと思う。
おかげで、2−4と書いてある模造紙に、自分の名前を見つけることができた。
反面、隣の桃子はというと、身長が低いこともあって、苦戦していた。
精一杯背伸びしているのだが、目の前には体格の良い男子が立ちはだかっており、なかなか見えそうになかった。
「あたしも手伝うよ。」
「ツ、ツ、ツ・・・」と呪文のように繰り返しながら、模造紙を凝視する。
まったく・・・嗣永なんて偉そうな苗字はやめてほしい。
えりかが、罪もない友の苗字に不満を抱いていたら、いつもよりも1オクターブ高い声で桃子が叫ぶ。
- 62 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/04/28(月) 20:54
- 「あった!5組んとこ!ほらほら!」
「どれどれ?」と、えりかが視線を左にずらしたとき−
- 63 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/04/28(月) 20:54
- 「あ!」
えりかは、思わず大声を上げてしまった。
周りの生徒が騒がしかったから、それに気づいた人もいないだろう。
が、えりかは、自分が大声を上げたことすら気がついてなかった。
- 64 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/04/28(月) 20:55
-
矢島舞美
2−4と書いてある模造紙。ここに、自分と同じように、その名前はあった。
「・・・・矢島―舞美」
口に出したとき、えりかは自分の声が震えていることに気づいた。
- 65 名前:510-16 投稿日:2008/04/28(月) 21:01
- めちゃくちゃ短いですが、本日はここまでです。
>>55 名無飼育さん
こちらこそ、あたたかいレスありがとうございます!
本当に励みになります!
- 66 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/05/05(月) 01:28
- やじうめ楽しみにしてます!
- 67 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/09(金) 23:09
-
- 68 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/09(金) 23:09
- 矢島舞美。
えりかが彼女の存在を知ったのは、1年生のとき。
残暑が続く、9月の始めのころだったと思う。
- 69 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/09(金) 23:09
- 休み時間、えりかはいつものように、桃子と過ごしていたのだが、桃子は次の英語の授業に必要な、英和辞典を忘れてしまったことに気づいた。
「あたし、佐紀ちゃんに借りてくる!」
そう言って、桃子はあわただしく教室を出て行った。
佐紀ちゃん―清水佐紀は、桃子の幼馴染のことである。
幼稚園からずっと一緒だったらしく、クラスは違えどしょっちゅうお互い会いに行っているくらい仲良しな2人だ。
そのおかげでえりかも仲良くなり、今では桃子を介さなくても友達だといえる関係となっている。
身長は低いが、しっかりしている佐紀は、えりかにとって頼れる存在だった。
- 70 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/09(金) 23:10
- 「あ、待って、うちも行くー」
一人で待っていても暇だし、佐紀の顔も見たい。
そう思って、桃子の後を追い、廊下に出た。
そのときだった。
窓から顔を出して、外を見ていた少女。
少し離れたところにいたその少女に、えりかが釘付けになったのは。
- 71 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/09(金) 23:11
-
真っ白な肌。
頬杖をつく手。
すらっと伸びた足。
そして、そよ風になびく、長くて美しい髪。
それは、一枚の絵だった。
どんなに素晴らしい芸術家の絵も、彼女には敵わない。
えりかは、目の前の少女に感動を覚えた。
時が、止まっているように感じた。
それは、一瞬であるような気もしたし、永遠であるようにも思えた。
- 72 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/09(金) 23:12
- 「ほんっとさぁ、ももちはドジなんだからー」
「そんなことないもん。もも、オトナだもん!」
「うっそだー。幼稚園のときからあたしがいなきゃなんもできなかったくせに。」
「そんなことないもん!ねぇ、えりかちゃん。」
不意に声を掛けられ、はっと我に返る。
目の前には呆れ顔の佐紀とふくれっつらの桃子がいた。
しかし、現実に戻っても、視線は彼女を捕らえて離さなかった。
距離が近くなかったことをいいことに、えりかは彼女をつい見つめてしまっていたのである。
そんな風に、不自然にぼーっとしているえりかの視線の先を認識して、佐紀が言う。
「あぁ、舞美ちゃん?」
「『舞美ちゃん』?誰、それ。」
探るようなトーンで、えりかの疑問を桃子が代わりに口に出した。
自分が知らない情報を佐紀が知っていることに不満があるのかな、とえりかは思った。
- 73 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/09(金) 23:12
- 「あそこにいる女の子のこと。1年1組の矢島舞美ちゃん。美人でスポーツ万能ってことでうちの学年では結構有名なんじゃないかな?」
「ふーん。で、佐紀ちゃんはあの子とどういう知り合いなの?」
「前期の委員会が一緒だったの。」
「あ、そう。佐紀ちゃんの友達はももの友達でもあるんだから、今度紹介してよねー。」
「紹介って・・・」
いろいろ詮索するかと思いきや、桃子はあっさりしていた。
やはりえりかの予想通り、矢島舞美という少女と佐紀との関係が気になっていただけのようである。
そんな桃子と佐紀のやりとりを聞きながら、えりかは心の中で復唱した。
- 74 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/09(金) 23:13
- 1年1組、矢島舞美。美人で、スポーツ万能。
運動部に入ってるのかもしれない。だとしたら、何部だろう。
彼女に対する興味が次々に湧いてきた。しかし、佐紀に聞くつもりもなかった。
影でこそこそ調べているような気がして、後ろめたく感じたからである。
そこまでおおげさに考える必要などなかったのだが、なぜだか彼女のことは聞けなかった。
彼女に興味があることを佐紀たちに知られたくなかったからかもしれない。
いつの間にか話題は変わっており、桃子がもっといろいろ聞いてくれたらよかったのに、とえりかは思ったのだった。
- 75 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/09(金) 23:16
- それから、一週間もたたないうちに、矢島舞美が陸上部であるということが判明した。
もちろん、誰かに聞いたわけではない。ただ、えりかがよく舞美を見かけるようになり、結果的にそのようなことがわかった、ただそれだけである。
放課後、校舎の周りを一人きりで走る舞美。
教科書を抱えて、友達数人と急いで教室移動している舞美。
全校集会で、おとなしく校長先生の話を聞いている舞美。
どうしてそれまで彼女の存在を知らなかったのか疑問に思うほど、えりかは舞美を見つけることがうまくなっていた。
いつどこで見ても、舞美は美しかった。
えりかは、そんな舞美を見ることに、いつの間にか楽しみさえ感じるようになっていた。
- 76 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/09(金) 23:17
- だから、えりかは驚いているのだ。
だって、矢島舞美と同じクラスになるなんて、期待どころか考えたこともなかったのだから。
しかし、掲示板に張り出された紙には「梅田えりか」とも「矢島舞美」とも書いてあった。
確かに、彼女はえりかにとって興味深い人物だ。
廊下ですれ違えば、振り返らずにはいられなかったし、事あるごとに、舞美を探してしまってたのは事実だ。
- 77 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/09(金) 23:17
- しかし、えりかはあくまでも舞美を、見る対象として認識していたのである。
それは、絵画を鑑賞するのと同様であるといってもよい。
これまでは、一方的に見ているだけだった。
そう、こうして「矢島舞美」という文字を見ているように、だ。
この文字に意識など存在しないのである。
しかし、クラスが同じということは、普通に考えてあちらからも認識されるようになるだろう。
「えりかが見ている」という事実を、向こうに「見られる」可能性だって十分あるのだ。
「あれ、舞美ちゃんも一緒じゃない?」
どうしよう、と戸惑っているえりかの心情なんて知った様子もなく、桃子が言った。
今頭の中で考えていたまさにその人の名前が出てきて、えりかは一瞬どきっとした。
そして、もしも舞美に聞かれたら、と思うととても恥ずかしいような気がして、きょろきょろと回りを見回してしまったのであった。
- 78 名前:510-16 投稿日:2008/05/09(金) 23:19
- 本日の更新終了です。
毎回短くて申し訳ないです。
- 79 名前:510-16 投稿日:2008/05/09(金) 23:21
- >>66
レスありがとうございます。
やっとやじうめ書けましたw
今回はいつもよりも長くなる予定ですので、長くお付き合いしてくださったら嬉しいです。
- 80 名前:510-16 投稿日:2008/05/09(金) 23:23
- すみません、上の名前入れるの忘れました(;゚Д゚)
名無し飼育さん 、失礼しました!
- 81 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/15(木) 23:32
-
- 82 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/15(木) 23:32
- 桃子と別れてから、えりかは新しい教室に入った。
ざわざわと生徒の声が聞こえてくる。担任はまだ来ていなかった。
よそ見をしないで、そのまま自分の席へ直行。
先ほど「舞美に見られていたら・・・」ということを心配しすぎた結果の用心であった。
周りにはすでに何人かの女子がいて、おしゃべりを展開していた。
えりかの存在に気づいた彼女達は、「よろしく」と愛想よくあいさつをした。
えりかもそれに応えながら、流れるように会話に参加した。
- 83 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/15(木) 23:33
- クラス初日というものは、特定のグループがまだできていない。
多分、これから1週間の間に、自然とグループみたいなものができてくる。
その結束力云々は、人によってまちまちだが、例えば女子全員で固まるとか、逆に個人個人がバラバラであることはおそらくありえないはずだ。
えりかは別に、一人でいたいタイプでもなかった。
だから、こういう女子特有のシステムにアレルギーがあるわけではない。
ただ、「初日に友達が出来なかったら、どうしよう。」という不安を抱えなければいけないのは、少し面倒だな、と思うだけだ。
イジメとか、そういうのには無縁の高校だし、そんなに大げさな話でもない。
それに、ムリをしてまで誰かと付き合う必要もないとは思っている。
ただ、ひとりよりも、友達が多いほうが楽しいはずである。おそらく皆もそう思って交流しているのだろう。
人付き合いをする際、それについて深く考える必要はないのだ。
なんとなく会話に加わりながらも、えりかの視線はきょろきょろと落ち着かなかった。
理由は自分が一番よくわかっていた。矢島舞美を探していたのである。
- 84 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/15(木) 23:33
-
後方にあるロッカーの前に、その人はいた。
身の回りのものを片付けているようである。
2年生になっても、相変わらず美しい黒髪だな、とえりかは思った。
刹那、視線が絡まった。
ほんの一瞬―――ほんの一瞬だけど、どきっとした。
- 85 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/15(木) 23:33
- こちらを認識した彼女は、軽く会釈して、微笑んだ。
そんな舞美を見て、えりかも慌てて微笑み返した。
舞美の笑顔を見て、えりかは安心した。
無視されると思っていたわけではない。
ただ、説明は出来ないけれど、不安だったのだ。
しかしな、とえりかは思い直した。
確かにえりかは舞美を見ることに密かな喜びを感じてはいたものの、彼女はアイドルでもなんでもない。
当たり前だけれど、矢島舞美も同じクラスメイトなのだ。
変に遠慮したりして、壁が出来るのはよくない。
他の人たちと同じように、普通に付き合えばいい。
そう、人付き合いに深く考える必要なんて、ない。
- 86 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/15(木) 23:34
-
そう思うと、えりかは急に彼女に近づきたくなった。
喋ってみたい。声を聞いてみたい。
不思議なものだ。
先ほどまで、舞美に認識されるなんて考えてもみなかったはずなのに、一度目があって、彼女に自分を認識されると、今度はもっと近づきたくなる。
気がつくと、えりかは舞美がいるほうへ向かっていた。
- 87 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/15(木) 23:34
- 「おはよう!」
先に声を掛けたのは、舞美のほうだった。
とても快活で、気持ちのいい声だった。
「おはよう!あ、えっと、梅田えりかといいます。」
「矢島舞美と申します。」
わざと仰々しく言ったのがおもしろくて、2人で笑った。
一度言葉を交わせば、あとは簡単だ。
「あたし、実は人見知りでさぁー」
「えー、全然見えないよ?うちのほうが人見知りだし!」
「そう?だってさっき喋ってたじゃん?あのへんで。」
「あれだって話しかけられたからだしー」
- 88 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/15(木) 23:34
-
今まで舞美に感じていた、妙な緊張が一気に解けて、えりかは自然に会話を楽しんだ。
こんな風に笑うんだ。こんな声してるんだ。
喋れば喋るほど、矢島舞美が見えてきて、愉快だった。ものすごく、わくわくした。
「友達ができなかったらどうしよう。」なんて、そんな不安も、いつの間にか消えていた。
クラスのみんなとも仲良くやっていけそうだ。
それに―
えりかは隣を見た。
自分の不安を、一気に取り去った舞美。
今日初めて言葉を交わしただけなのに。
不思議な人だな、と思った。
- 89 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/15(木) 23:35
-
- 90 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/15(木) 23:35
- 次の日、えりかは思い切って舞美をお昼に誘ってみた。
「昨日初めて喋ったのに、図々しいかな。」という不安はあったが、今誘わなければ、なんだかずっとただのクラスメイトで終わりそうな気がしたからだ。
「あの、一緒にお昼ご飯食べない?」
断られるとは思っていなかったが、この一言をかけるのにずいぶんと勇気がいった。
他のクラスに行かないだろうか。
もう食べる人が決まっているのではないか。
考えなくてもいいのに、不必要なまでのマイナス思考が邪魔をした。
なぜだか舞美のこととなると弱気になってしまう。
幾分緊張の色が隠せなかったえりかの言葉に対して、舞美は笑顔で「いいよ」と言い、えりかはほっとしたのだった。
- 91 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/15(木) 23:35
- 舞美の提案により、外でお弁当を食べることにした。
4月初旬は、まだ桜が咲いている。
中庭の真ん中にある小さな噴水に、太陽の光が反射してキラキラ輝いていた。
「ごめん、もしかしてみんなでワイワイお昼食べたかった?」
「ううん、あたし、誘ってくれて嬉しかったよ。二人で話してみたいって思ってたし。」
舞美にそう言われ、えりかは素直に嬉しく思った。
矢島舞美は、普通の少女だった。
最初に会ったときの印象が強すぎて、どうしても一歩引いてしまっていたけれど、今こうして普通に喋っている。
昨日までは、ずっと一方的に見つめているだけだったのに、ずいぶんと積極的になったものだ、と自分でも感心している。
- 92 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/15(木) 23:35
- 「えー!?矢島さんってケーキだめなの!?」
「ダメなのー。あの生クリームがね・・・。っていうか、『矢島さん』って。名前でいいよぉ」
舞美はコロコロ笑って言った。
いきなり名前でいいといわれても、えりかはなんと呼んでいいかわからなかった。
「ほらほらほらほら、『舞美』って呼んでよ、えりぃー」
なかなか名前を呼ばないえりかに、舞美は催促するように言う。
彼女の発言には、ちゃっかり「えり」という呼び名が含まれていた。
甘えるような催促の仕方といい、ずるいなぁ、とえりかは思った。
- 93 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/15(木) 23:36
-
「・・・・・・・・舞美。」
恥ずかしくて、声が極端に小さくなってしまった。
だって、すごく照れる。彼女を、『舞美』と呼ぶことが。
「これからもよろしくね、えり!」
「よ、よろしく、舞美!」
箸をおいて、握手をする。
ぎゅっと握られ、えりかは顔が熱くなっていくのを感じた。
舞美の手は温かかった。
そんな舞美の体温を意識したら、えりかの心臓がどきどきいった。
- 94 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/15(木) 23:36
-
- 95 名前:510-16 投稿日:2008/05/15(木) 23:38
- 本日の更新は以上です。
勉強に嫌気がさして、ついつい飼育を覗くあたし。
リl|*´∀`l|<明日のゼミ大丈夫?
从・ゥ・从<ガーってやっちゃえばいいんだよ!
- 96 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/16(金) 00:49
- 初々しいやじうめが可愛いですね
今後の展開も楽しみにしてます
- 97 名前:510-16 投稿日:2008/05/24(土) 00:23
- 続きを書きます。
- 98 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/24(土) 00:24
- 呼び方を変えるということは、案外重要かもしれない。とえりかは思った。
彼女を「舞美」と呼ぶことで、えりかのなかで何か特別な愛着が芽生え始めたのである。
クラスで舞美を呼び捨てにしているのは、えりかだけ。
だからといって、どうっていうわけでもない。
だけど、その事実は、えりかに優越感を与えることとなっていた。
とはいっても、それによって誰かが劣等感を感じているわけではなく、えりかが勝手に良い気分でいるだけである。
自己満足、結構じゃないか。
えりかはそう思った。
矢島舞美との仲を考えたときに、おそらく「仲良し」といえるのではないだろうか。そんな風にえりかは自負していた。
- 99 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/24(土) 00:24
- ただ、仲良くなっても、舞美を見つめる癖は治らなかった。
それは無意識にしてしまう、まさに「癖」のようなもので、クラスメイトに「えりかちゃんってたまにぼーっとしてるよね。」と笑われることもあるほどである。
ただ、前までと違うのは、えりかの視線に舞美が気づくこと。
それから、それに微笑み返してくれることだった。
- 100 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/24(土) 00:25
-
- 101 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/24(土) 00:25
- 桜はもうすっかり散ってしまい、新緑の葉も見慣れた、5月のある日のことである。
休み時間、えりかはいつものように舞美と世間話をしていた。
舞美の話を聞きながら、「近くで見ても、かわいい顔してるなぁ・・・」と隠れファン丸出しなことを考えていたとき、
「えりかちゃん!ひっさしぶり!」
突然、とある声がこだました。
確認するまでもない、この独特の声はあの人しかいない。
「ももこちゃん!」
えりかの予想通り、後ろのドアから嗣永桃子がひょっこり顔を出していた。
そのさらに後方から、「あたしもいるよ」と佐紀も現れた。
桃子の言うとおり、本当に久しぶりに会った。
4月は、新しいクラスが始まったばかりで、友達の名前を覚えるのに精一杯だったのだ。
学年や全校の集まりで顔を見ることはあったが、改めてこうして声を聞くのは久しぶりだった。
元気そうでなによりだ、とえりかは思った。
佐紀も相変わらずお世話役のようで、変わらない二人を、えりかは嬉しく思った。
- 102 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/24(土) 00:25
- 「あれ、えりと佐紀ちゃんって知り合いだったんだー。」
「あ、舞美ちゃんじゃん!4組だったんだねー」
佐紀が以前言ったとおり、佐紀と舞美は知り合いだったようである。
確か委員会が一緒だったんだっけ、とえりかは思い出した。
そんな二人のやり取りを見て、桃子は佐紀に「ももにも紹介してよー」とせがんだ。
袖をひっぱられてあたふたしている佐紀を見て、えりかと舞美は目を合わせて笑った。
「えっと、この子は、矢島舞美ちゃんで・・・・」
「嗣永桃子でーす!いつもえりかちゃんがお世話になってます!」
桃子は、実際のところ、舞美の顔も名前も知っていた。
だから、「紹介」とは、単に仲良くなるきっかけをつくることを意図したものであろう。
「あ、嗣永さんって、茶道ダンス部の?」
「もものこと知ってるの?ていうか茶道ダンス部のこと知っててくれるなんて、感動!さっすが舞美ちゃん!」
いつもに増してエンジン全開の桃子に、えりかの頬も自然と緩んでいく。
舞美とついさっきまで初対面だったことを感じさせない桃子の態度には、脱帽だな、とえりかは密かに感心していた。
- 103 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/24(土) 00:25
- ちなみに、茶道ダンス部というのは、桃子が所属している部活のことである。
とはいっても、部員は彼女一人だけだ。
入学して早々立ち上げた部活であるが、人数が足りないため、正式な部活としては認められていない。
桃子曰く、茶道ダンス部とは、文字通りダンスをしながら茶道をするらしいのだが、えりかはどんなことをしているのかよくわからなかった。
部員は桃子ひとりだけなのに「絶対部活にするんだ!」と言っており、勧誘なども積極的に行っていた。
結果はついてこないが、その精力的な活動と、桃子の社交性があいまって、舞美のように本人を知らなくても「茶道ダンス部の嗣永桃子」は有名になっていた。
1年のときにも、何度か「勧誘頑張ってね!」というエールを受けていたのを、えりかは目撃していた。
- 104 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/24(土) 00:26
- 「茶道ダンスって、おもしろい?」
「楽しいよー!舞美ちゃんも入りなよ!」
「え、入っちゃおっかなー、とか言って。あははは!」
初対面の二人の会話はまだ続いていた。
その様子を、楽しそうに見ていたえりかを、佐紀が肘でつつき、えりかだけに聞こえる声でそっと言った。
「えりかちゃん、舞美ちゃんと仲いいみたいじゃん。」
「うん。まあね。」
返事はそっけないけれど、えりかは嬉しい気持ちを隠せなかった。
「傍から見ても、仲良く見える。」そう思ったからである。
- 105 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/24(土) 00:26
- 「ところで、えりかちゃん、明日暇?」
桃子がぱっとえりかのほうを向いた。
唐突な質問だったが、特に予定もないので、「うん。」と答えると、桃子が続けて言う。
「放課後、ケーキ屋さん行かない?ちなみに、可愛いももと佐紀ちゃんの奢りでーす」
「え、ウソ、なんで?」
「ももが大人だからだよー」と言った桃子の横で、佐紀が「明日―5月25日。誕生日でしょ?えりかちゃん。」と笑顔で付け加えた。
「あ、そういえば!」と、思い出す。
昨日母と誕生日プレゼントの話をしていたばかりだというのに、間抜けだなぁ、とえりかは思った。
そんなえりかの横で、舞美が不満そうに言う。
「えりぃー、あたし聞いてないよぉー」
「え、そうだったっけ?」
「聞いてませんー。もう。もし知ってたらえりにとっておきの誕生日プレゼント用意したのにぃ!」
「ごめんって、ごめんごめん。」
謝りながら、えりかは内心嬉しさでいっぱいだった。
舞美が、ぷくっと頬を膨らませて怒っている顔が可愛くて仕方がない。
それも、自分の誕生日を知らなかったと言う理由だなんて!
- 106 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/24(土) 00:26
- その日の夜、0時ちょうどにケータイが鳴った。
「新着メール1件」と表示されたディスプレイ。
送信主は桃子であった。
彼女曰く、嗣永憲法の第何条か(えりかは正確な数字は覚えていなかった)によると、誕生日は0時ちょうどメールを送らなければならないのだそうだ。
「ももが一番だったでしょ?笑」で締めくくられていた本文を見て、「らしいな」と思いながら、えりかはケータイを閉じた。
「ふぁぁ・・・・」
大きなあくび。
えりかは、目じりに溜まった涙を、袖で拭いた。
今日は、大好物の枝豆をお腹いっぱい食べ、家族でケーキを食べてのんびりしていたのだが、英語の予習をしていなかったことに気づいて、大慌てでこなした。
いつもよりも頭を使ったため、お風呂では何度か寝てしまいそうになっていた。
そんなこんなで、お風呂から上がって体温がちょうどいい具合に上がっている今、えりかの眠気はいっそう大きいものになっていた。
- 107 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/24(土) 00:27
- 眠たい。寝たい。
そう思っているにも関わらず、意地になって起きている理由を、えりかは正しく理解していた。
矢島舞美からの、メールを待っているからである。
別に、何か約束したわけでもない。
ましてや、舞美は今日の今日まで自分の誕生日を知らなかったのだ、メールがくるかどうかは、わからない。
でも・・・・
誕生日を教えていなかったことに関して、怒っていた舞美を思い出すと、つい、淡い期待を胸に抱いてしまう。
だから、こうして目をこすりながら、ケータイを見つめているのである。
バイブ音が鳴るたび、「おっ!」と反応するも、空振りだったりした。
時計は0時15分を回っている。
いっそのこと、自分から舞美に送ろうかと思ったが、その場合、本文になんて書けばいいのかわからなかったし、それはなんだか情けないよな、と思い直していた矢先、えりかが誕生日を迎えて5度目のメールが届いた。
- 108 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/24(土) 00:27
- 「来た来た来たぁ!」
眠気がピークを越えたため、妙なテンションになっていたえりかが見たのは、「矢島舞美」の文字。
本文にはこう書かれていた。
HAPPY BIRTHDAY!
華の17歳だね!あたしもはやく大人になりたいなぁー。ステキな女性になってね、えり。今でも十分だけどー、とかいって(笑)
おやすみぃ
無駄に勢いのある文章だが、いかにも舞美らしい。
そして、「今でも十分」という箇所に、くすぐったいような気分になったと同時に、むしろ舞美にふさわしい言葉だよな、と思ったえりかだった。
- 109 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/05/24(土) 00:27
-
- 110 名前:510-16 投稿日:2008/05/24(土) 00:32
- えりか生誕記念ということで、更新です。
17歳おめでとう!!
>>96 名無飼育さん
レスありがとうございます!
本人たちの仲が良すぎて、初々しいやじうめって、結構難しいですw
よろしければ、これからもどうぞ見守ってください。
- 111 名前:510-16 投稿日:2008/05/24(土) 00:34
- 更新少ないので、お詫びのAAネタ
**********************************
从・ゥ・从<えりぃ!誕生日おめでとー!
リl|*´∀`l|<まいみぃー
从・ゥ・从つ<はい、プレゼント!
リl|*´∀`l|<ありがとー・・・・・・・ってこれ・・・・・・・・?
从・ゥ・从<枝豆、えり好きでしょ?
リl|;´∀`l|<・・・・・・・・・あ、え?あ、ありがとっ
- 112 名前:510-16 投稿日:2008/05/24(土) 00:34
- 从・ゥ・从<って、そんなわけないじゃんw
リl|*´∀`l|<もーw
从・ゥ・从<ホントのプレゼントは・・・・・・・
リl|*´∀`l|<は?
从・ゥ・从<えっとねー・・・・・・・あーなんか恥ずかしいなー
リl|*´∀`l|<(も、もしかしてこの展開は・・・・!)
从・ゥ・从<プレゼントはね・・・・・・・
リl|*´∀`l|<・・・・・・・・・・・(ワクワク)
从・ゥ・从<えっと・・・・・・・・あ・・・・・たしw
リl|*´∀`l|<え!?舞美、それって・・・・・(キタ━(゚∀゚)━!)
从・ゥ・从<・・・・・・とか言ってw
リl|´∀`l|<(ガーン!!!!!!)
- 113 名前:510-16 投稿日:2008/05/24(土) 00:35
- 从・ゥ・从<実は迷いまくってさ、まだ買ってないのー。でもえりの欲しいものあげたいから、本人に聞こうかなって思って・・・・・・ってえりどうしたの?
リl|;´∀`l|<(・・・・・はっ!)な、なんでもないんだよ
从・ゥ・从<で、えり、なんか欲しいものある?
リl|´∀`l|<んー・・・・・・・っとね・・・・
从・ゥ・从<?
リl|*´∀`l|<・・・・・・・舞美。
从・ゥ・从<えー、あたし!?もうそのネタいいからー。あ、わかった、あたしに遠慮してるんでしょ?さすがに車とかはムリだけど、なんでも言ってよー。
リl|*´∀`l|<遠慮なんかじゃないよ。あたしが一番欲しいのは舞美だもん。
从・ゥ・从<えー、やだ。
リl|;´∀`l|<え、え、えっ!?
- 114 名前:510-16 投稿日:2008/05/24(土) 00:35
- 从・ゥ・从<だって、それじゃあたしの誕生日みたいじゃん。
リl|*´∀`l|<・・・・・?
从・ゥ・从<だって、あたしがえりのものになるんでしょ?えりの誕生日なのに、あたしが幸せになったら意味ないじゃん。
リl|*´∀`l|<舞美・・・・・・・
从・ゥ・从<それに、とっくにあたしはえりのものなんだからさ。
リl|*´∀`l|<・・・・・・・・まいみぃー!大好きだよぉー!
从・ゥ・从<あたしも!えり、誕生日おめでと!
リl|*´∀`l|人从・ゥ・从
- 115 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/24(土) 19:05
- 梅さんが男子学生みたいなノリですねw
初々しいやじうめって新鮮です
次回も楽しみにしてます
- 116 名前:510-16 投稿日:2008/06/02(月) 20:14
- それでは続きです。
- 117 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:14
- 夏休みが始まってもう1週間がたった。
「つまんないー」
宿題である英語の問題集は机の上に広げてあるが、えりかはさっきから何もする気になれなかった。
扇風機の風に、ページが虚しくパラパラとめくれていく。
「夏休み」という言葉には、なぜだかわからないけど、キラキラした何かがあった。
確かに宿題はいやだけれど、それでも「夏休み」と聞くだけでわくわくした。
「これをやろう。あれもできるかな?」と、計画し、それでも早くすぎてしまう休暇を惜しみながら、9月を迎えてしまうものである。
桃子にいたっては、テストが終了した時点で夏休みまでの日めくりカレンダーなんていうのを作成していた。
それくらい、学生にとって、夏休みとは大切で楽しい期間なのだ。
去年までのえりかも、そうだった。
しかし、今年はなんだか気分が乗らないのである。
- 118 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:15
- 始まって2、3日は、楽しかった。
いつもよりもゆっくり起きて、普段は見れないお昼のワイドショーを見たり、ちょっと夜更かししてみたりして、「夏休みがきたんだなぁ」としみじみ思っていた。
しかし、えりかは飽きたのである。
いつもと変わらない毎日。
お小遣いは限られているから、買い物だって毎日は行けないし、一人で行ってもどうせ同じように飽きてしまうだろう。
学校にいたほうがマシだな、とえりかは思った。
夏休みが始まる前は、学校に行けば舞美に会えたのに。
えりかは、舞美との日々を思い出して、再びため息をついた。
- 119 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:15
- 夏休みに入る前、えりかは舞美に夏休みをどう過ごすのか質問したことがあった。
それには、ちょっとした期待が込められていたのかもしれない。
そのとき一緒に喋っていたクラスメイトたちは、近場の遊園地に行くと言っていた。
それを聞きながら、えりかは頭の中で舞美と遊園地で遊んでいる絵を想像し、「うちも舞美と行きたいなぁ」思ったのである。
しかし、そんな期待を知ってか知らずか、舞美はいつもの様子で「お盆前までは毎日部活だなー」と言ったのである。
「もう、宿題なんてできるわけないよねー」
そう言って、舞美は笑っていたのをえりかは覚えていた。
舞美はえりかの質問に、単純に答えた。
だから、えりかの期待しているような答えは返ってこなかったとしても、それは気にすることではない。
矢島舞美は、意外にも天然であることが判明したので、えりかは特別落ち込むこともなかった。
別に、舞美はわざと「部活ですよ、忙しいですよ」と強調したわけではない。
それは十分承知である。
- 120 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:17
- でも、やっぱり舞美とどこかに出かけたりしたいなぁ、と思ってしまう。
反面、舞美が部活で忙しいのもわかっているから、気軽に誘えない。
「つまんないよ・・・舞美・・・・・」
思わず声に出してしまう。
さっきから、何度もケータイを開いては閉じていた。
無意識に受信ボックスを開いて、画面をスクロールする。
目に飛び込んでくるのは、「矢島舞美」という文字の羅列。
舞美、舞美、舞美・・・・
えりかは、手持ち無沙汰にシルバーのストラップをいじった。
舞美が、誕生日にくれたものだ。
『何にも用意できなくて・・・・安物だけど、あたしとお揃いのやつ。よかったら使って?』
舞美が、照れくさそうに渡すのが、すごく可愛かったのを覚えている。
シンプルなデザインのストラップも嬉しかったけれど、なにより舞美が選んでくれたということ、舞美とお揃いということが、えりかにとっては一番嬉しいことだった。
- 121 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:20
- 考えてみれば、夏休みに入ってからも、音信不通になるなんてこともなく、メールは結構していた。
ただ、部活で忙しい舞美に対して、自分の持っている自由な時間の量は、多すぎる。
だから、暇だと感じてしまうのだろう、とえりかは思った。
「まいみぃー、まいみぃー、まいみぃー」
そうはわかっていても、実際退屈なえりかは、ついに舞美コールを始めた。
暑さにイライラしていたこともあったかもしれない。
30コールをすぎようとしたとき、ケータイが鳴った。
ま、まさか!?
と、望んでいたはずの展開にも関わらず自分でも驚くえりか。
しかし、待ち受けに表示された文字を確認してみると、電話は、舞美からではなく、佐紀からだった。
「いきなりごめんね。えりかちゃん、今暇?よかったら・・・・」
「暇暇!もう暇すぎて死にそう!」
えりかは、つい本能的に勢いよく返事してしまい、佐紀の言葉を切ってしまった。
電話越しに、佐紀が一瞬驚いて、それから「そんなに暇だったの?」と笑ったのがわかった。
そこで初めて、念力で舞美からのメールを呼び寄せようとしていた自分の行為のバカバカしさに気づき、暇は人を異常にするなぁ、と思ったのであった。
- 122 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:20
- 「暇死にするところだったよー」
アイスティーをストローでずずっと飲み干して、えりかが言った。
佐紀の用件は単純そのもので、暇だから近くのファミレスで喋らないかという内容だった。
店内は同じように夏休みの時間を持て余している学生や、専業主婦の団体でざわざわしている。
うっすらかいた汗を、クーラーがひゅうと冷やした。
「舞美ちゃんは、部活・・・だっけ?」
佐紀は、えりかの「暇」という言葉に、「舞美と会えなくて暇」という意味が含まれていることを、しっかり理解していたようだ。
舞美は地区大会で好成績だったらしく、都大会の出場が決まっていた。
舞美が部活を頑張っていることを知っているえりかは、彼女を応援したいと強く思っている。
しかし、都大会に出るということは、舞美と会えない期間が延びるということも意味していた。
- 123 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:21
- 「それでもさぁ、うちは舞美と会いたいわけで」
「うんうん」
「でもそんな考え、うちのわがままだっていうこともわかってるわけで」
「うんうん、複雑だねぇ・・・って、ちょっと、ごめん。」
そう言って、佐紀はおもむろに立ち上がり、後ろを振り返り、手を高く挙げた。
誰かに合図を送っているようだったため、誰だろうとえりかが思ったとき、
「ホワイト嗣永参上!」
何かの戦隊モノのポーズをして、現れた桃子は、当然のように佐紀の隣に座ったのだった。
- 124 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:30
- 「そりゃあさぁ、仕方ないよ。舞美ちゃんってエースなんでしょ?うちのクラスの男子も言ってたよ。『矢島さんって、すごく足速いよなー』、って。」
ストローをくるくる回しながら、まるでさっきまでここにいたように、桃子は会話に加わった。
佐紀がえりかに電話をしたあと、ちょうど桃子から暇だという連絡が入ったらしい。
そう佐紀が経緯を説明する横で「以心伝心だよねー!」と、桃子が嬉しそうに言っていた。
「うん・・・・」
先ほどの桃子の話に相槌を打ちながらも、えりかは別のことを考えていた。
- 125 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:30
- クラスの男子。
別に、どうってことない単語なのに、えりかはなんだか不愉快に思った。
桃子からその言葉を聞いて、5組の男子が舞美の話をしている場面を想像したとき、とても嫌な気分になったのである。
根拠は何もないけれど、でも下心とか、そういうのがあるように思えたのである。
全部想像のことなのに。
実際は、ただ単に「足が速い矢島さん」の話をしていただけかもしれないのに。
しかし、そう言い聞かせたところで、不快感は拭えなかった。
舞美が、汚れされるような、そんな気がしたのだ。
- 126 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:31
- 舞美を汚さないで。
ふわっと風になびいた舞美の髪を思い出して、えりかは思う。
なんとか阻止しないと。
うちが舞美を守らないと。
うちの舞美を。
うちの・・・・舞美・・・・・・?
- 127 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:31
- あぁ、そうか。
えりかは、思った。
うちは、舞美のことが、好きだ。
目の前にいる佐紀と桃子を見ていたら、無性に舞美に会いたくなった。
- 128 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:31
-
- 129 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:32
- カランコロン
下駄の音が心地いい。
今日は、舞美と地元の神社で夏祭りへ行くことになっていた。
実は、あのファミレスの日に、舞美に会いたいという欲求が増したため、その場で舞美を誘ったのである。
桃子に、「でも、えりかちゃんって舞美ちゃんとあんなに仲いいしさ、フツーに誘ったらよくない?」と言われ、「それもそうか。」と思ったのだ。
- 130 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:32
- 舞美が、好きだ。
あの日、えりかはそう思った。
いや、「そう気がついた」というほうが正確なのかもしれない。
いつからかはわからない。
ただ、えりかのなかで、舞美の存在が大きくなっていったのだ。
気がついたら、舞美のことが好きだったのだ。
歩きながら、えりかは時折ショーウインドウや止まっている車の窓に自分の姿を映す。
去年買ってもらったばかりの黄色い浴衣姿に、少し照れながらも、ご機嫌な様子だ。
しかし、えりかを上機嫌にさせる理由は、主に舞美と会えるというところにあった。
神社に近づくに連れて、騒ぎ声が大きくなってくる。
自分の胸が高鳴りをえりかは感じていた。
上品に歩くのも、なんだかもどかしくなって、歩くペースも自然と早くなっていった。
- 131 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:32
- 待ち合わせ場所の鳥居の下に、舞美が見えた。
ちょうど舞美もえりかに気づいたようで、お互い駆け寄り、そしてぎゅっと抱き合った。
「まいみぃー」
「えりぃー」
自分の名前を呼ぶ舞美の声を聞いて、「そうそう、この声が聞きたかった!」とえりかは思った。
舞美は大人っぽい紺色の浴衣を着ていた。
すらっとした身体に、アップにした髪がよく似合っていた。
舞美の浴衣姿を見て、えりかは改めて舞美が好きだなぁと思った。
- 132 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:37
- 商店街の入り口にある神社の鳥居から、アーケード沿いに所狭しと屋台が並んでいる。
賑わう通りには、焦げた醤油の香りやら、甘い綿菓子の香りが充満していた。
通路には人が行きかっていて、学校の友達もいっぱいきている。
ふたりは、ゆっくりと歩きながら、屋台を見て回ることにした。
「会いたかったよ、舞美」
「あたしもだよ!誘ってくれてすんごい嬉しかったんだから」
寂しかったのは、自分だけじゃなかったんだ。と、友情を再確認して、えりかは自然に頬が緩む。
楽しくて、楽しくて、仕方がない。
「都大会頑張ったで賞ってことで、今日はあたしの奢り!」
「マジで?いいの!??えっとねー、たこやきでしょ?やきそばでしょ?あとはりんご飴に・・・・」
「ちょっとー、それは調子乗りすぎだよー」
食べ物という食べ物を指折り挙げ始めた舞美に、えりかが焦ってセーブをかけた。
- 133 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:38
- 「・・・・・ふぅ。並びつかれたー」
「あたしも。下駄ってなれないしね。っていうか、ここ人あんまいないよね。穴場だね、えり。」
ちょうちんの明かりが、遠くに見える。
えりかたちは、一通り屋台で物色した後、お祭をやっているメインストリートから、路地を一本外れたところにある公園にやってきた。
普段履きなれていないから、下駄で歩きまわって予想以上に疲れたし、何より二人でゆっくりと話したい気分だったからである。
二つ並んでいるブランコに腰掛けたら、キーコキーコという音がした。
「えりはさ、夏休み何してた?」
「んー、宿題やったり、テレビ見たり、メールしたり?あ、あと佐紀ちゃんたちとも会ったかな?舞美は部活?」
「うん。ま、都大会はダメだったけどね。」
舞美は「えへへ」と笑った。
- 134 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:39
- えりかは、舞美と比べて自分がただ情けなく思えてきた。
うちは、なんにもしてない。
やりたいことなんてなにひとつない。
毎日、同じことの繰り返し。
自由な時間がたくさんあるはずなのに、全然活用できていない。
夏休みでもそうなのだ、普段の学校生活を考えると、えりかは自分のしていることが無意味であるように思えてきた。
いや、というよりは、むしろ何もしていないのではないだろうか。
- 135 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:39
- 街灯がぼんやりとした光を生み出す。
ざわざわとした声が遠くに聞こえてきて、えりかは寂しくなった。
「うち、なんなんだろう?」
つい、えりかは本心を言ってしまった。
それは、自分自身も意図してないことであった。
違う、舞美にこんなこと話したかったんじゃない。
とっさにそう思ったけど、出てしまった言葉は取り消せない。
「どうしたのさ、急に?」
うつむいたえりかを心配して、舞美が声を掛ける。
顔を上げると、舞美が首をかしげて「大丈夫?」というポーズをした。
「自分がさ、わからないの。舞美みたいに熱中できるものないし。」
えりかの言葉を聞いて、舞美はきょとんとした。
いきなりこんな話題だもん。
えりかは首を捻っている舞美を見てそう思った。
「んー・・・」
それでも一生懸命考えてくれる舞美を見て、えりかは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
- 136 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:40
- 「でもさ、」1分ほど黙った後、舞美はそう言って、言葉を続けた。
「うまくいえないけど・・・・・・あたしは、今のえりが好きだよ?」
え・・・・?
予想外の言葉に、えりかが顔を上げたとき、
- 137 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:40
- どーん!
大きな音がした。
「うわぁ!えり、花火だよ!花火!!」
ブランコから立ち上がって、舞美はキャッキャとはしゃいだ。
舞美の言葉通り、打ち上げ花火が上がっていた。
そういえば、祭のフィナーレに毎年花火が上がっていたっけ。
「ね、えり、きれいだよ!ほら!」
舞美は右手で夜空を指差し、左手をえりかに差し伸べる。
えりかは舞美の手をとって立ち上がり、ふたりは並んだ。
- 138 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:40
- どーん!
夜空に大輪を咲かせ、パチパチパチと音を立てて、花火がまたひとつ消えていく。
その刹那的な美しさに、えりかは心惹かれた。
ふと、隣の舞美を見た。
花火が上がるたび、彼女の顔をぱあっと光が包む。
そんな舞美の横顔があまりにも綺麗で、えりかは言葉を忘れた。
そして、ぐっと気持ちが舞美に動いていくのがわかった。
『今のえりが好きだよ?』
舞美のその言葉には、深い意味なんてないかもしれない。
それでも、今のえりかにとってはどんな励ましより、嬉しかった。
思い出すだけで、心臓が熱くなるような、そんな言葉だった。
- 139 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:41
- 「舞美と、花火見れてよかったな。」
「あたしもだよ!誘ってくれてありがとね。」
「いいよ、うちが会いたかっただけだし」
「えー、あたしのほうが会いたかったと思うなー、とか言って。」
どーん!
まだ花火は上がり続けている。
「夏休みも後半分かー。えり、宿題終わった?あたし、全然手つけてないんだけど。」
「あたしは・・・・・あ、日記書いてないやー」
「ヤバくない?ね、来週一緒にやろうよー」
「あ、それいいね!じゃ、うちのノート代はドリンクバーで・・・」
「別にえりのノート借りなくたって自力でやりますー」
弾む会話が、夏の夜空にこだまする。
二人の手は、繋がったままだった。
- 140 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:41
-
- 141 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/02(月) 20:50
- 次の更新までに日が空きそうなので、長めにしてみました。
普段も亀なのに、申し訳ないです。
(ま、万が一読んでくださる方いたら、ですけどw)
>>115 名無飼育さん
レスありがとうございます!
確かに、男子中学生ですねw
やじうめ、一番書きたかった話なのに、思うように書けなくてもどかしいです。
作者と同様、もたもたしてる梅さんなのですw
- 142 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/07(土) 18:57
- 更新お疲れ様です
夏休みの最後らへんに、ガーーーーッと宿題やった頃を思い出しましたw
次回も楽しみにしてます
- 143 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/21(土) 17:47
-
- 144 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/21(土) 17:47
- 「んー」
伸びをして、ベッドから這い上がる。
シャーッとカーテンを開けたら、眩しい日差しが差し込んできた。
なんだかCMのワンシーンのようで、えりかは楽しくなった。
時計を見ると、目覚ましがなる10分前。
いつもは目覚ましが鳴ってもなかなか起きず、母親になんども呼ばれてやっと布団から抜け出すようなえりかだが、今日は特別だ。
カレンダーの今日の日付のところに、ぐるぐると○が記してある。
えりかは、その下に、ピンクの目立つ色で「修学旅行!」と書いてあるのを確認して、にんまりした。
- 145 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/21(土) 17:48
- 修学旅行。
それは、えりかにとって、「舞美と旅行」と同義語であった。
夏祭りで宣言した通り、夏休みの後半は、舞美と宿題をしたり、街へ遊びに行ったりもした。
舞美といる時間は、えりかにとってどれも楽しいものだった。
それがたとえ宿題をしているときでも、だ。
そのおかげで、新学期が始まって振り返ったときに、今年の夏休みは楽しかったな、と思えた。
最終的に、前半の暇さも、夏祭りで感じた虚無感も、全部きれいに忘れることができた。
「忘れた」というか、舞美との楽しい思い出で全部埋められた、といったところだろうか。
洗顔をして、ダイニングに入ると、お母さんに「今日はさすがに早いわね」と笑われた。
「いいわねー。修学旅行。お母さんも高校生に戻りたいわ。」
「いいでしょ?あ、ちゃんとお土産買ってくるからね。」
「ありがとう。気をつけて無事帰ってくるのよ。家に着くまでが修学旅行なんだから。」
「わかってる、わかってる。」
そんな会話を交わしながら、トーストをかじっていたら、ケータイが鳴った。
- 146 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/21(土) 17:49
- 「もしもし、えり!!??」
確認するまでもない、舞美だった。
いつもおっとりしている舞美の声が、あせっているように聞こえて、えりかは驚いた。
「ちょ、どうしたの!!??」
「今、どこ?」
「どこって・・・家だけど?そういう舞美はどこに・・・・」
「家?家?あれ?・・・・・・・・・あー!」
えりかの言葉を無視して、舞美は、ひとり電話口で「しまったー」とか「バカだー」と繰り返している。
「え、どゆこと?説明プリーズ。」
「1時間、間違えた、集合時間。」
それを聞いて、えりかはぷっと吹き出してしまった。
曰く、舞美は1時間集合時間を間違えて、学校に誰もいなかったため、驚いてえりかに電話をしたらしい。
「置いてかれたと思ったんだもん!」という必死な声を聞いて、相当うろたえたんだろうなーとえりかは思った。
- 147 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/21(土) 17:49
- 「舞美は天然さんだなー」
ふふふ・・・と、えりかが笑う。
そう、舞美は相当の天然ボケだった。
例えば、入学式の次の日。
学年が上がったのに、1年生のときの下駄箱に行ってしまったらしい。
それも1週間ほど同じ間違い繰り返し、やっと直ったと言っていた。
えりかの誕生日の日には、12時ちょうどにメールを送ろうと思っていたのだが、デコメに懲りすぎて、気がついたら日付が変わっていたという。
ファーストフードでウーロン茶を頼んだくせに、なぜだがガムシロップとミルクを取ってきたということもあった。
えりかは、そういう舞美を心底可愛いと思った。
あの超がつくほどの美人である矢島舞美が、こんなに天然なんて。
えりかは、そのことが自分だけしか知らない情報のように思えて、余計に舞美に愛着が湧いた。
天然な矢島舞美は、えりかのお気に入りだった。
「あ、先生きた。よかったー。じゃ、またあとでね!」
「うん。バイバイ。」
電話を切ってから、えりかは、「天然だなぁ。」とまた笑ってしまった。
- 148 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/21(土) 17:50
-
- 149 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/21(土) 17:50
- 大阪にあるホテルの1室。
えりかは、ベッドに寝転んでいる。
ツインルームの相方である矢島舞美は、現在入浴中で、時折シャワーの音が聞こえてきた。
さっきから、どうも落ち着かない。
えりかは手持ち無沙汰にドライヤーを手にしたが、髪はとっくに乾いていた。
毎週欠かさず見ているドラマを思い出して、テレビをつけてみたはいいけど、全然集中できなくて、なんだかつまらなかった。
結論から言えば、舞美のことが気になって仕方がなかった。
目、耳、すべての神経が、舞美を気にしているのだ。
そうか、これが好きってことか。
えりかは、ベッドに寝転びながら、そう思った。
少女マンガなどに、よく「気になる男の子」とか「意識する」という表現があったのだが、イマイチ想像できなかった。
しかし、今ではわかる。
舞美が、確かに、気になるのだ。
- 150 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/21(土) 17:51
- ガチャ
!!
別に寝転がっててもよかったはずなのに、えりかは慌てて起き上がった。
そこには、お風呂上りの舞美が立っていた。
「あー、気持ちよかったぁー。」といいながら、タオルで髪の毛を乾かしている。
いつもの白い肌に、ほんのり赤みが差していて、それがとても色っぽい。
舞美は、当然のようにえりかのとなりに腰掛けた。
そのとき、彼女のほてった体の温度と、シャンプーのいい香りを感じて、えりかは、突然心臓を掴みたい気持ちになった。
どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・!
えりかは、動揺していた。
一度意識し始めたら、他に気をそらすものがない限り、隣にいる舞美が異常なくらい気になってしまう。
いつもの学校ではぴったりくっついていても、なんとも思わなかったのに、その距離の近さも意識してしまうのだ。
- 151 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/21(土) 17:51
- そんなえりかとは対照的に、舞美はいつもと変わらぬ様子で話しかけてくる。
「京都、楽しかったねー。あたし、実は去年も家族旅行で行ったんだけどね、京都。でも、やっぱり修学旅行って、なんかいいね!」
「そ、そうだね。」
「明日はUSJだよ!超楽しみぃ!あれ、あれ、なんだっけ?落ちるやつ。」
「ジュラシックパーク?」
「そうそう!あたし絶叫系好きだからさ、100回くらい乗れるかもー、とか言ってー」
「えー、あたしニガテだからなぁ・・・・」
「そうなの?一回くらい挑戦してみようよ!うん、そうしよう!ね?」
そう言って、舞美は、えりかの腕に自分の腕を絡ませてきた。
その瞬間、えりかの身体がびくっとなった。
舞美は「風呂上りの一杯がまだだった!」といいながら、腕をほどいて、お茶とりにベッドからおりた。
えりかは、バッグからペットボトルを取り出している舞美の後姿を見ながら、ほっと胸をなでおろした。
多分、ふたりきりだから、だ。
だから、こんなに意識してしまうんだ。
だって、舞美以外、いないんだもん。
- 152 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/21(土) 17:51
- コンコン
えりかがこの状況をどうしようか悩んでいたら、ノックの音が聞こえた。
ちょうど近くに立っていた舞美が「誰だろ?」といいながらドアを開けたら、そこにはクラスメイトがいた。
「やほーい!今からウノ大会するけど、舞美ちゃんたちも一緒にやらない!?」
救世主だ!とえりかは心の中で密かに思った。
舞美と一緒にいられるし、不自然に意識することもないし、なによりおもしろそうだったから。
舞美が、好きだから、意識してしまう。
だけど、そのせいで不自然な雰囲気になるのはイヤだった。
「「やる!」」
そのまま返事したら、舞美とハモって、余計におかしくて、顔を見合わせて笑った。
- 153 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/06/21(土) 17:51
-
- 154 名前:510-16 投稿日:2008/06/21(土) 18:14
- 短いですが、キリがいいのでここまでです。
>>142 名無飼育さん
読んでいただきありがとうございます!
やはりガーーーーってやりましたかw
とりあえず、期日前にガーーーーーってやらずに済むように、レポートは早めにやろうと思いますw
从・ゥ・从<因数分解なんて、気合で解けるよ、とか言ってw
ル*’ー’リ<絶対値なんて、もものかわいさですぐ外れちゃうんだから!
川´・_・リリl|*´∀`l|<・・・・・・・・・
- 155 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/23(月) 00:50
- あの…別スレに誤爆しちゃってますよー
削除依頼したほうがいいかと
- 156 名前:510-16 投稿日:2008/06/23(月) 17:17
- >>155さん
ご指摘ありがとうございます。
重ね重ね申し訳ないんですけど、板違いという意味でよろしいでしょうか?
それとも154のレスが不適当という意味ですか?
勘違いしてたら本当にごめんなさい。
- 157 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/23(月) 18:43
- 155さんじゃないんですけど
別のスレッドに、この小説の一部を間違ってうpされてるみたいです
同板の「水辺のいきもの」というスレです
- 158 名前:510-16 投稿日:2008/06/23(月) 20:35
- あぁ!!!本当ですね!削除依頼します。
本当ご指摘ありがとうございました!
- 159 名前:510-16 投稿日:2008/06/23(月) 20:47
- このたび、「水辺のいきもの」の作者様および読者様には、大変ご迷惑おかけしました。
ここでわびるのも筋違いだとは思いますが、これ以上作者様のスレを汚したくなかったので、こちらで謝罪させていただきます。
このようなことがないよう以後気をつけたいと思っています。
ご指摘していただいた方を含め、本当にありがたく、また申し訳なく思います。
長文失礼しました。
- 160 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/23(月) 22:38
- こんばんは。「水辺のいきもの」スレッドの主です
あまりお気になさらないでください
スレ立て後初レスが誤爆というのは、めったにない経験でした(笑
- 161 名前:510-16 投稿日:2008/06/24(火) 00:07
- >>160 名無飼育さん
あぁああ!!!作者様ですか!
もう死んでお詫びしたいです・・・・・orz
わざわざレスしただいてありがとうございました。
こんなん言うのもあれですけど、執筆頑張ってくださいw
- 162 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/03(木) 02:46
- 続きを楽しみにしています。
がんばってください!
- 163 名前:510-16 投稿日:2008/07/14(月) 09:52
- 続きです
- 164 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/07/14(月) 09:53
- 「うちのクラスは誰もくっついてないのかな?」
「あたしはそういう噂聞いたことないけど?」
「そっかー」
その日の夜、えりかは舞美と共にクラスメイトの部屋にいた。
修学旅行といえば、お決まりの深夜トーク。
最初はウノ大会だったのだが、さすがに何度も繰り返すうちに飽きてくる。
というわけで、女子6人が集まるこの部屋でも、先ほどから座談会が開かれているのだ。
時計の針は、11時を回っていたが、若い女子高生のパワーは衰える様子もなく、きゃあきゃあと盛り上がっていた。
- 165 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/07/14(月) 09:53
- 「あー彼氏欲しいな。どこかにいい人いないかなー。」
「え、野球部のキャプテンじゃなかったっけ?」
「だってさー、先輩かっこいいけど、恐ろしい倍率だよ、あれは。」
「マネの先輩といい感じって噂だしね。」
「「「えー!?マジで!?」」」
機関銃のごとく話す友達を見て、えりかは「ほぉー」と思うばかりだった。
さっきから話を聞いていると、もうすでに彼氏がいる人や、中学時代からずっと片思いをしている人もいて、それぞれが恋愛をしているようだった。
- 166 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/07/14(月) 10:21
- みんな、恋というやつをしているんだ。
他人の恋愛の話を聞きながら、えりかは、自分の年齢がもう17であることに気づいた。
初恋の話、バレンタインのドタバタ劇、親友と同じ人を好きになってしまったという切ない話など、彼女達の持っている恋愛経験は、多岐に渡っていた。
えりかは、まるで物語のあらすじを聞くかのごとく、それらの話を聞いていた。
そして、もう恋の一つや二つ、していても不思議ではないんだよな、と他人事のように思った。
これまでの話の流れからしても、皆他人の恋愛話が好きなようだ。
えりかも、興味がないといったら嘘になる。
恋愛ドラマなどを見たりして、それなりに、恋する乙女に憧れたこともあった。
しかし、彼氏が欲しいとか、そういう具体的な話になると、なんか違うよなぁと思うのだ。
だから、人の恋愛話や、「誰が誰とどうなった」とかっていう噂話を聞くのは楽しいのだけれど、別に積極的に自分から話したいとは思わない。
たとえ話したくても、悲しいかな、えりかはネタ自体を持っていなかった。
- 167 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/07/14(月) 10:22
- 「で、えりかちゃんは?」
「ちょっとー、えりかちゃんに彼氏いないわけないじゃん。ね?」
他人事であるはずの恋愛話をふられ、えりかは、話が、いきなりすぎるんですけど!とつっこみたくなった。
「いないよ。」とえりかが答えると、双方からは「えぇー」という、驚きが入り混じった、「残念だ」というニュアンスのリアクションが返ってきた。
えりかは場の空気を読んで「なんもなくてごめんねー」と笑ってみせる。
愛想のいい彼女たちは、別にえりかを責めたり、「つまんない」なんて言わない。
「かわいいのに、もったいないなー」「サッカー部のマネとかやったら絶対モテモテだよ」などと言ってそれなりに盛り上がっていた。
- 168 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/07/14(月) 10:22
- ・・・・・・・・・
えりかの心は、複雑だった。
自分の異端さを、まざまざと思い知らされたからである。
- 169 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/07/14(月) 10:37
- 舞美を好きであるということ。
これに関しては、自信があった。
自信もなにも、事実、好きなのだ。
舞美が隣にいるだけで、楽しい。
別に、特別何かしていなくても、側にいるだけで、楽しいし、その幸せは本当に無意識の幸福感で。
例えば、他の友達といるときとどう違うのかなって意識的に比べたときに、初めて「あぁ、舞美といるほうが、絶対楽しい」とか「舞美とはずっといても飽きないよな」と気づかされる。
「好きなのかもしれない」といったん思い始めてからというものの、みるみるうちに、それは「舞美が好きだ」という確信に変わっていった。
だから、その事実には自信がある。
- 170 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/07/14(月) 10:38
- でも、果たしてこういう場で舞美が好きだといえるのか、というと、そうではない。
それは、本人が目の前にいるからではない。
舞美がここにいるいないに関わらず、「あたし、舞美が好きなんだよね」なんて、いえるわけなかった。
恋をしているのは当たり前で、恋愛話が楽しいのは当たり前。
そして、相手が男であることもまた、当たり前なのだ。
- 171 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/07/14(月) 10:41
- もちろん、えりかだって考えた。
女の子である舞美が好きなのは、変じゃないかって。
しかし、事実、舞美が好きなのだ、どうしようもない。
しかし、彼氏がどうのといったような話できゃあきゃあ盛り上がる女子を見ているうちに、えりかの考えに変化が現れてきた。
舞美を好きであればあるほど、それは重荷になるだろうということに気づいたのだ。
事実、“フツーの恋愛”を目の当たりにして、えりかは舞美を好きな自分というのは、必ずしも好ましいものではないと思った。
それは、他人にとってもだし、自分にとっても、だ。
- 172 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/07/14(月) 10:55
- ホント、おめでたい人間だな、ウチは。
初めて舞美を見て、惹かれるようにふらふらと近づいて、無邪気に好きになって。
性急に諦めよう、えりかはそう思った。
できるかどうか、わからない。
だけど、そうするより他ないんだ、きっと。
- 173 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/07/14(月) 10:56
-
- 174 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/07/14(月) 10:56
- そういえば。
考えてみれば、この座談会に関しては、えりかと舞美はほぼ完全に聞き役に徹していた。
しかし、舞美の様子からして、退屈というわけでもなさそうだ。
そのとき、ふとえりかの頭にはある疑問が生じた。
- 175 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/07/14(月) 10:56
- 「舞美ちゃんは?好きな人とか、気になる人とか、いないの?」
!!
えりかの表情が、一瞬にして凍った。
どんぴしゃのタイミングで、自分の心に思い浮かんだことを、クラスメイトが言ったからだ。
周りは、「気になる気になる」と、いっせいに身を乗り出す。
- 176 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/07/14(月) 10:57
- あぁ――――
即座に、聞かなきゃよかった、とえりかは思った。(実際に聞いたのは友人だが)
正直、ものすごく気になる。
舞美に好きな人はいるのか。
それは一体誰なのか。
だけど、だからといって聞きたいか、といわれると、そうでもない。
むしろ、聞きたくないのだ。
仮に、今舞美に好きな人がいるとして。
それをこの場で告げられたときに、自分がどうなるのか、それが想像できなくて、怖かった。
冷静でいられるのか、定かではない。
- 177 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/07/14(月) 10:57
- そこまで考えて、えりかは自分に呆れた。
舞美を好きでいるなんて、バカげている。
同性を好きになったことについて、なんとなく不安を感じていたけど、今はっきり気づいた。
「これはよくない。やめよう。」そう思ったばかりだったのに。
好きなの?
好きじゃないの?
好きでいたいの?
好きでいたくないの?
わけがわからない。
- 178 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/07/14(月) 11:07
- 彼女が好きか否かは、もう答えはとっくに出ていた。
何度考えても、舞美が好きだった。
だから、誰が好きだとか、そういうのは絶対聞きたくない。
今は、諦めようとか、そういうことを言っている場合じゃない。
好きでいることがいいことなのか、それともよくないことなのか。
よくなかったら諦めがつくのか、そうじゃないのか。
そんなこと、今はどうだっていい。
それより―
- 179 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/07/14(月) 11:07
-
言わないで。
お願い、舞美――
無意味だとわかっていても、えりかは全身全霊で祈った。
- 180 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/07/14(月) 11:08
-
- 181 名前:510-16 投稿日:2008/07/14(月) 11:08
- 本日はここまで。
文章も論も梅さんの心も、全てがカオス。
- 182 名前:510-16 投稿日:2008/07/14(月) 11:14
- >>162 名無飼育さん
お待たせしました。
放置ぎみなうえに、今日の部分は特に読みにくくてごめんなさい。
なんだか投げやりな梅さんですが、やじうめ小説は投げやりにならないようにしますw
- 183 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/14(月) 18:02
- 更新お疲れ様です。
作者様の描く梅さんが可愛くて可愛くて
読みながら頑張って!と応援したくなります。
次の展開が気になってドキドキ!
楽しみに待ってます。
- 184 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/15(火) 00:11
- 梅さんの細かい心の動きの描写が好きです
次回も楽しみにしてます
- 185 名前:名無し 投稿日:2008/07/17(木) 04:38
- 梅さんの気持ちが切ない(ノ∀`)
続きおとなしく待っています
作者さまのあいかんも大好きです
- 186 名前:510-16 投稿日:2008/08/05(火) 08:28
- 続きです
- 187 名前:510-16 投稿日:2008/08/05(火) 08:29
- 「あたし?あたしは・・・」
隣で必死になって祈りを捧げているえりかをよそに、舞美が口を開く。
- 188 名前:510-16 投稿日:2008/08/05(火) 08:31
- そのとき。
「ちょっと舞美ちゃん!待った!」
「「「え?」」」
ひとりの女子がストップをかけた。
彼女は、「いいこと思いついた!」といわんばかりの表情をしてこう言った。
「ね、あたしらで当ててみない?」
「いいねぇ!」
周囲がわっと盛り上がる。
舞美は「えっ!?えっ!?」と取り残されていて、一方、えりかはというと、一言も喋らず、黙ってしまった。
しかし、それでは雰囲気が悪くなりそうだと、慌てて曖昧に笑ってみせたえりかだった。
- 189 名前:510-16 投稿日:2008/08/05(火) 08:33
- 「じゃ、あたしから。そうだな・・・・ベタだけど、野球部キャプテン!」
「ちょっとぉー、キャプテンはあたしのだって!」
「さっき諦めたって言ってなかったぁ?」
「そうそう。図々しいぞー」
なんて残酷なゲームなんだ
無邪気に笑う少女達を見つめながら、えりかは自虐的にそう思った。
順番に、少女たちが男の子の名前を言う。
それが単純な「お遊び」であるとわかっていても、えりかは気が気でなかった。
その人が好きなのか、それとも違うのか
名前が挙がるたびに、も舞美の表情を確認してみるものの、何も確信が持てず余計に心が乱された。
それは、えりかにとって、地雷のようなものだった。
- 190 名前:510-16 投稿日:2008/08/05(火) 08:34
- 「やっぱり、王子なわけ?」
「まぁ、世論はそうっぽいですな。」
さっきから話に挙がっているのは「王子」。
もちろん本物の王子様ではない。
えりかたちの学年ではちょっとした有名人で、整った顔つき、スポーツ万能、成績優秀、という、3拍子が揃った、漫画の世界から出てきたような好青年のことである。
えりかは一度も喋ったことがなかったが、顔くらいは知っていた。
ファンのような人もいるが、本気で恋をしている人もいるという噂である。
あまり興味はなかったから詳しくは知らないが、一般的に見てもモテそうな男の子であった。
- 191 名前:510-16 投稿日:2008/08/05(火) 08:34
- 「じゃ、最後はえりかちゃんだね!」
「舞美ちゃんと仲いいし、ここは注目したいところですねぇ」
きゃっきゃと盛り上がる友人たち。
ご丁寧に、手をマイクに似せてえりかのほうに向けてきた。
- 192 名前:510-16 投稿日:2008/08/05(火) 08:35
- なんという拷問。
厄介なのは、好奇心旺盛な乙女たちの、キラキラした瞳。
「興味津々」といった表情が、意図せずしてえりかにプレッシャーを与えた。
- 193 名前:510-16 投稿日:2008/08/05(火) 08:35
- 「うーん・・・・・とねぇ・・・・・・」と焦らすふりをしながら、考える。
この場をどう切り抜けよう。
考えあぐねた結果導き出した、えりかの答え、それは
「うーん・・・・・・・わかんない」
だった。
- 194 名前:510-16 投稿日:2008/08/05(火) 08:36
- 「えぇー」
「だってわかんないんだもーん」
クラスメイトはおおげさに残念そうな声をあげたけど、これはこの場のノリっていうやつで、おそらく実際そこまでえりかの答えに固執してない。
『わかんない』
それは、本当のことだった。
でも、別に適当に答えたってよかったのだ。
心の中で鉛筆を転がしたり、あみだくじをして決めたってよかった。
だって、それは単なる予想なんだから。
だけど、舞美の好きな人のことなんて、それが予想であれ何であれ、想像なんてしたくなかった
だから、わざわざ「わかんない」と答えたのだ。
それが多少「空気を読めていない発言」だったとしても、えりかにはそうするしかなかった。
幸い、場の雰囲気も壊れなかった。
- 195 名前:510-16 投稿日:2008/08/05(火) 08:36
- 「さて、じゃあ答えあわせってことで」
「実際、どうなんですか?矢島さん?」
記者会見ごっこはまだ続いていた。
今にもカメラのシャッター音が聞こえてきそう。
噂の矢島さんに注目していて、誰も浮かない表情の記者がいるなんて気づいていない。
- 196 名前:510-16 投稿日:2008/08/05(火) 08:37
- 耳を塞ぎたい。
何も知りたくない。
トイレ行くふりして、この場から逃げちゃう?
たった数秒の沈黙も、えりかは何時間にも感じた。
- 197 名前:510-16 投稿日:2008/08/05(火) 08:37
- でも、それでいいの?
本当は知りたいんじゃないの?
聞きたくないけど、でもすっごく気になってるんじゃないの?
心の中には二人のえりかがいて。
相反する感情が頭の中をぐるぐる回って、えりかは今にも気が狂いそうだった。
- 198 名前:510-16 投稿日:2008/08/05(火) 08:38
- そんななか、舞美が口を開いた。
「・・・・・っていうか、あたし、好きな人とかいないんだけどー」
- 199 名前:510-16 投稿日:2008/08/05(火) 08:39
- ・・・・・・・
「「ええええぇぇぇー!?」」
舞美以外の全員が叫んだ。
「あんだけ思わせぶりにしといて、そりゃないよ!」
たまらず舞美につっこむ。
安心してニヤけている顔を悟られないように、弾んだ声を不満にすりかえて。
さっきまであんなに怯えていたくせに、ゲンキンだなぁと自分でも思った。
「だって、いないもんはいないんだもんー」
「えー、なんで??」と聞いたクラスメイトに、舞美はそう答えた。
いつもの、あの笑顔で。
- 200 名前:510-16 投稿日:2008/08/05(火) 08:39
-
- 201 名前:510-16 投稿日:2008/08/05(火) 08:39
- 「ふあぁぁー・・・・・」
「舞美、眠い?」
舞美は「ちょっとね」と言って、目じりに溜まった涙を拭いた。
目も焦点が定まっていないようで、ほうっておいたら寝てしまいそうだ。
- 202 名前:510-16 投稿日:2008/08/05(火) 08:39
- そういえば、今朝そうとう早かったんだろうな。
出発前にかかってきた電話を思い出して、えりかはひとりで含み笑いをした。
「じゃ、うちらそろそろ戻るね。みんなはまだ起きてるでしょ?」
「うん、多分。」
「えりかちゃん、舞美ちゃん、おやすみー」
「おやすみー」
- 203 名前:510-16 投稿日:2008/08/05(火) 08:43
- そうか。いないのか。
考えすぎて、損した。
また大きなあくびをしている舞美を見ながら、そう思った。
気分屋というなら、言うがいい。
舞美に好きな人がいないとわかったとたん、急に強気になったうち。
気分屋。ていうか、単純。
でも、舞美を好きでいて、苦しくたって、それで困るのは自分。
だったらそれでいいじゃないか。
眠気のせいで、思考することに飽きたえりかは、勝手にそう結論付けたのであった。
- 204 名前:510-16 投稿日:2008/08/05(火) 08:43
- 本日はここまでです
- 205 名前:510-16 投稿日:2008/08/05(火) 08:54
- こんにちは。誤爆だらけの510-16ですw
最近更新できなくてごめんなさい。
>>183 名無飼育さん
ありがとうございます!
梅さんは恋する乙女ですからw
まさかのあっけらかんとした展開ですがw
これからもよろしければお付き合いください。
>>184 名無飼育さん
更新遅れてごめんなさい&読んでいただいてありがとうございます。
嬉しいお言葉です。
至らない点も多々ありますが、今後もよろしければ見守ってくださいね!
>>185 名無しさん
あいかんも読んでいただいたようで、併せてありがとうございます。
今回は、特に「切なさ」は大切にしたいと考えていたので、いっそう嬉しく思えます。
頑張りますのでこれからもよろしくお願いいたします。
ちなみに、幻板でほそぼそとアンリアル始めました。
こちらもマイペース更新ですが、よろしければどうぞ。
ttp://m-seek.net/test/read.cgi/mirage/1214872002/l50
- 206 名前:510-16 投稿日:2008/08/05(火) 08:56
- あ、しまった、露出されてる!
てことで今更隠しですw
- 207 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/08(金) 07:38
- 妄想が順調なのはよろしいですが、
あまりスレを立てすぎると詰まった時が大変ですよ
- 208 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/13(水) 16:41
- ずっこけて浮上する梅さんがかわいいw
- 209 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 02:46
- 「えりぃー!早く早く!」
「ちょ、待ってよ!」
「まーたーなーい!そんなに遅いと追いてっちゃうぞー」
前を行く舞美を必死に追いかける。
石畳の上をローファーで走るのは至難の業だ。
修学旅行2日目。
この日のメインはなんといってもUSJである。
えりかにとっては初めての場所。
門をくぐった瞬間、そこには夢の世界が広がっていて、なんだか歩いているだけでわくわくした。
建物ひとつとっても、日常生活ではお目にかかれないような可愛らしさがあり、目はきょろきょろせわしなく動く。
周りにいる小さい子供たちにまぎれて、キャラクターの着ぐるみに手を振ってしまう高校生がいても、誰も後ろ指を指したりしない、そういう空間なのだ。
USJを楽しみにしていたのは舞美も同じようで、彼女は歩くどころか走る勢いで元気よく足を進めていく。
えりかは、追いかけるふりをしながら、そんな舞美を後ろからそっと見つめるのも楽しんでいた。
- 210 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 02:47
- 「次、どこ行く?」
「ET!」
「ちょっと遠くない?」
えりかと舞美は、昨日一緒にいた女子グループでなんとなく行動していた。
こういった場所での団体行動というのは案外便利で、パレードの場所取りをローテーション式にしたり、どこに何が売ってたとかっていうお土産情報を交換したりできる。
- 211 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 02:47
- 先ほどのジョーズでちょっとはしゃいでしまい、えりかたちのカッターシャツは気持ち湿っていた。
いちいち「うわぁ!」とオーバーリアクションする舞美のせいで、ボートはゆっさゆっさと大きく揺れた。
「ジュラシックパーク!」
「えー、うちジェットコースターとかムリー」
「そんなこと言わずにさ、この機会に挑戦しなよー!ね、舞美ちゃん。」
「そうだよ、えり。大丈夫だって!あたしもえりとジュラシックパーク乗るの楽しみにしてたんだし」
「んー・・・・・・・舞美がそう言うなら、なんかいけそうな気がしてきた。」
「よーし、じゃあ行こう!」
「行くぞー!」と握りこぶしを高らかに挙げて、ハイテンションの女子6人は、ジュラシックパークを目指す。
怖いといえば怖いけど、でも今はみんなと楽しみたいって気持ちのほうが大きい。
舞美の横を歩きながら、えりかは、自分の気持ちをそう分析していた。
- 212 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 02:48
- 「おーい!お前らー!」
ちゃっかり気になるお店をチェックしながら女子6人が歩いていると、どこからか彼女らを呼ぶ声がした。
きょろきょろとあたりを見回してみると、男子が数人こちらへ向かってくるのがわかった。
「よっ!」
「あ、ひさしぶり!元気してた?」
「はは、見りゃわかるだろ?」
ノリのよさそうな男子が、うちのグループにいた女子に話しかけた。
どうやら2人は知り合いらしい。
- 213 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 02:48
- 「お前ら、次どこいくの?」
「ジュラシックパーク!」
「マジで!?俺らも次そうしようって思ってたんだよな。な?」
彼の呼びかけに対して、周りの男子もうんうんとうなずいた。
そんな彼の言葉につられて、なんとなく男子の集団を見る。
そのとき、えりかはある顔を発見して、「げっ!」と思った。
- 214 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 02:48
- あれ、「王子」じゃん。
そう、えりかの目に留まったのは、紛れもなく「王子」だった。
流暢に喋る例の男子の後ろで、彼は控え目にただ微笑んでいた。
以前見かけた時と変わらず端正な顔立ちで、近くで見ると、それがより際立つ。
背筋もピンとしていて、なるほどモテるのが納得いく。
男子5人の中で、ひとりだけオーラが違っていた。
本来なら、別に王子に対して「げっ」なんて思う必要もない。
彼との接点なんて皆無だし、もちろん彼に好意を抱いているわけでもない。
だけど、昨日の今日で、いちいち彼が気になった。
それは、敵対心にも似た感情で。
そう、ちょうどライバルが気になるのと同じように。
- 215 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 02:51
- 彼は噂どおりの優等生だった。
制服をきっちり着こなして、決して他の男子みたいにだらしなくない。
それでいて、クソ真面目な牛乳瓶のフタみたいな眼鏡をかけているような、ダサいタイプでもない。
一度も話したことがないえりかだったが、それにもかかわらず、彼の「育ちのよさ」が伝わってきた。
じっと見るえりかの視線に気づいたのか、王子は軽く会釈して、さわやかな笑みを見せた。
誰だって凝視されていい気分はしない。
その視線に敵意があったとしたら、なおさらだ。
しかし、目の前の「王子様」は嫌な顔ひとつしていない。
えりかは、なんだか、自分がとても子供っぽく思えてきた。
- 216 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 02:51
- 「てか、ここで突っ立ってんのもアレだし、もういっそのこと一緒に行かねぇ?」
「そだね、付き合ってあげてもいいけど」
「なんだよその言い方はー」
えりかが王子に対して敵意を燃やしているうちに、あれよあれよとふたりはことを進めていた。
周囲も、その提案には賛成という雰囲気である。
- 217 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 02:52
- 何、この展開。
えりかは、はっきりいって乗り気ではなかった。
できれば合流なんて、したくないと思っていた。
女子のみの団体行動にそれほど執着していたわけでもない。
えりかは舞美と一緒にいたい、それだけである。
つまるところ、舞美を王子のそばに置くのが嫌なだけなのだ。
男子と一緒に楽しそうにいる舞美を想像するだけで、気分が悪くなる。もっと言えば、不快。イヤ。それだけだ。
そんな風にえりかが思ってるなんて知らない男女の集団は、「じゃ、行こっか」と歩き始めた。
- 218 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 02:54
- 「ちょ、ちょっと待って。やっぱうちパス」
「え?どゆこと?」
えりかの突然の発言に、歩き始めた集団は一旦足を止めた。
1歩前にいた舞美も、振り返って首を傾げている。
- 219 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 02:54
- 「えっと、やっぱうちジェットコースター怖いんだよね」
「え?でもさっきまではりきってたじゃん」
「でも、なんていうか、いざのるとなると、怖くなっちゃって」
「あたしがいるから大丈夫だよ、えり」
「ムリムリ。ほんと。それに、昨日あんま寝れてないから気分悪くなったらヤだし。あと人数も半端じゃない?」
えりかは「でも・・・」と何か言いたげな舞美を振り切るように、早口でまくし立てた。
「うち、あそこのベンチで待ってるし。みんな行っておいでよ」
強情なまでに「待ってる」と言い張るえりかに、周りもムリに誘うのはよくないと判断した様子で「じゃ、行ってきます!」と笑顔で手を振り、歩き始めた。
やはり舞美は釈然としない様子で、えりかを気にしている様子だったが、すぐに皆の後を追って行ってしまった。
- 220 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 02:54
-
- 221 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 02:55
- 立っているわけにもいかず、えりかは無言でベンチに腰掛けた。
えりかは、別に、休みたいわけでもなかった。
「気分が悪くなったらいやだ」というのはただの口実で、実際体調が気がかりだったわけでもない。
だからと言って目的もなく立ち尽くすわけにもいかなかったので、なんとなく自分の宣言したとおり、ベンチに座ったというわけだ。
平日だったが、それなりにお客さんの入りもよく、同じ制服の集団以外にも、家族連れやカップルが目に入ってきた。
・・・・・・・・・・・なにやってるんだろ、うち。
キャラクターのグッズを身に纏い、親を急かすようにはしゃぐ子供。
午後の散歩を楽しむ人々。
この空間で唯一異質があるとしたら、それは自分に違いないとえりかは思った。
- 222 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 02:56
- えりかは、昨日の夜を思い出していた。
野球部のキャプテン、友達の兄や、同じクラスの子。
恋バナっていうやつは、男女の恋愛が基本だ。
というか、基本も何も、恋っていうのは普通男女間でするものだ。
- 223 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 02:56
- 「いないよ。」
好きな人はいるのか、という質問に対する、えりかの答え。
誰とも目を合わせるでもなく、独り言のように、そう言った。
自分の気持ちに、蓋をするように。
- 224 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 02:57
- バカだな、浮かれて。
どうしてだかは分からない。
しかし、えりかは「舞美は誰のものにもならない」と思い込んでいた。
普段舞美と接していても、彼女からは恋愛とかそういった要素が一切感じられなかった。
だから、彼女が誰かを好きになるということを、想像したことすらなかったのだ。
ただ、それはえりかの勝手なイメージで、よくよく考えてみれば、根拠なんてちっともない。
それに、舞美が言うとおり、彼女に好きな人がいないとしても、彼女に好意を寄せる人は少なくないはずだ。
- 225 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 02:57
- そんな事しなくてもいいのに、えりかは舞美の隣に「王子」を置いてみた。
そこには、誰もが思わずため息をついてしまうような、美男美女カップルがいた。
客観的にどう見たってお似合いの二人―
やめて、やめて、やめて・・・・・・・・!!
えりかは頭をぶんぶん振った。
これ以上想像が膨らんだら、本当に涙が出てきそうだった。
- 226 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 02:57
- えりかは、夏休みに桃子たちと喋っていたときのことを思い出していた。
桃子の口から出た「舞美のことを喋っていた男子」に、敵対意識を覚えていたときのことだ。
確かに、あのときは、「ウチの舞美を守らなきゃ」って思った。
だけど―
えりかは、「舞美自身に好きな人ができたとき」のことを考えてみた。
それは、「ある男子が舞美を好きになったとき」とは、全く違うように思えた。
- 227 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 02:58
- なにが、「ウチの舞美を守る」だ。
そんなの、ただのエゴ以外の何者でもないじゃないか。
だって、ウチは、女の子だから。
舞美の恋愛対象内すらいない。
昨日、どうして気づかなかったんだろう。
諦めよう、そう思ったのに、いざ舞美に好きな人がいないとわかると、何事もなかったように、ケロっとして。
本当に、バカだ。
日差しが、強くなってきた。
じっとしている背中に太陽が照りつけるのが、不愉快だ。
- 228 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 02:58
- えりかは、自分のとった行動についてはっきり理解していた。
勝手に、王子やそのほかの男子に嫉妬してるのだ。
そして、意固地になって、「のりたくない」という意見を押し通した。
冷静になってみると、あまりに幼稚な行動だ。
強引にでも、舞美の隣をキープすることだってできたし、舞美だってそれを拒否しなかっただろう。
先ほど別れるときに、舞美が見せた表情は決して明るいとはいえないものだった。
それが、「えりと乗りたかったのにな」なのか、「大丈夫かな?」なのか、「急にどうしたんだろう?」なのかはわからない。
ただ、間違いなくえりかを気にしていた。
- 229 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 02:58
- 少し寂しそうに背を向けた舞美を思い出し、えりかの心にはいろいろな感情が生まれた。
好かれてる、という優越感。
つまらない意地を張ってしまったという申し訳なさ。
しかし同時に、「結局は、みんなのほうがいいんじゃん。」と、行ってしまう舞美をうらめしくも思った。
「もっとウチにこだわってよ。なんでそんなにさっぱりしてるの?」
好かれていると言う自信も、裏を返せば、そういうワガママになる。
ただ、舞美がそうしたら、今度は「さっさといけば?」という態度をとるに違いない。
えりかは、自分の行動の幼稚さまで正しく理解し、情けなく思った。
- 230 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 02:59
- いつからこんな風になっちゃったんだろう。
えりかは思う。
- 231 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 02:59
-
絶世の美少女が現れた。
なんとなく気になったから、遠くからそっと見てた。
だけど、ひょんなことで、むこうからも認識されて、それから仲良くなって。
美人で、明るくて、運動神経も抜群。
だけど、実はすごく天然。
初めて声をかけられたとき、一緒にお弁当を食べたとき、夏休みにお祭にいったとき・・・・
えりかはひとつひとつ思い出していった。
パラパラ漫画のように、頭の中で変わる場面。
だけど、そこにはいつでも舞美の笑顔があった。
思い出すだけで、胸がぎゅっと詰まるような、切なくなるほど愛しい、舞美の笑顔が。
- 232 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 03:00
- ウチは、ただ舞美が好きなだけだった。
何気ない毎日の、どんなささいなことだって、舞美がそこにいれば、それは美しい色彩を帯びる。
それに、舞美だって。
舞美がウチをどう思っているか、正確にはわからないけど、好意的だってことには自信がある。
そのことだけは、声を大にして言えるはずだった。
とにかく、ウチはただ舞美が好きで。
だから、舞美に迷惑かけたくないし、舞美にイヤな思いをさせたくない。
ただ、二人で楽しく過ごせたら、それでよかった。
- 233 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 03:00
- なのに、どうして。
どうして、くだらないことを言っちゃったんだろう。
どうして、ウチひとりで空回りしてるんだろう。
えりかのなかでは、自分に対する嫌悪感が生まれていた。
舞美を好きなはずなのに、つまらないワガママを言ってしまった自分がイヤになったのだ。
ついでにいえば、雲ひとつない天気もえりかをイライラさせていた。
本来ならむしろ気分がいいはずなのだが、ひとりでじっとしているこの状態だから、快晴さがうっとおしかった。
結局は、自分がうじうじ悩んでいるのが全ての原因なのだ。
ここでひとりでいることを望んだのは自分。
要するに自業自得なわけで、それがわかってるから、余計にイヤになるのだ。
- 234 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 03:01
- 「キャー」という悲鳴が遠くで聞こえてくる。
今まさに、お客さんを乗せた船が、ゴーっという音と共にまっさかさまに落ちていった。
あの一団の中に舞美がいるかどうかは、遠すぎて確認できなかった。
あんなの、何が楽しいんだろ。落ちるだけじゃん。
さっさと終わればいいのに。
えりかの怒りの矛先は人気アトラクションにまで向けられた。
退屈しのぎの話し相手もいない。
えりかは、ひとりぼっちだった。
- 235 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 03:05
- そのとき、桃子と佐紀の姿が遠くに見えた。
距離があったため、声は聞こえなかったけど、二人でなにやら盛り上がっている様子で、どこかへ向かっているようだった。
えりかは「おーい!」と手を振ってみた。
気づくかもしれない、という期待をこめて。
今ここにあの二人がきてくれたら、どれだけ楽しいだろう。
しかし、えりかの念も届かず、二人はそのまま消えていってしまった。
「つまんない」
あの二人、すごく楽しそうだったな。
お土産の袋を両手いっぱい抱えていた少女たちの後姿からは、今にも笑い声が聞こえてきそうだった。
もしかして、もっと近くにいても気づかなかったのかもしれない。
桃子と佐紀は、2人でUSJを楽しむことに集中していた。
- 236 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 03:05
- こんなはずじゃなかった。
ウチも、あんなふうに、舞美と2人で楽しく過ごすはずだった。
写真撮ったり、お揃いのお土産買ったり。
ジェットコースターだって、本当に舞美とだったら乗れる気がした。
「遅いなぁ」
時計の文字盤を見ながら、えりかは時間が戻ったらどんなにいいだろう、と思った。
せめて、「心配しないで」くらい言えばよかった。
桃子と佐紀の仲良し2人組みを見ていたら、なんだか隣が寂しく感じた。
舞美は今頃どこにいるんだろう。
なにしてるんだろう。
結局気になるのは舞美のことばかりだった。
- 237 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 03:05
-
- 238 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/20(水) 03:05
-
- 239 名前:510-16 投稿日:2008/08/20(水) 03:17
- 今回はここまでです。
予定していたものよりも何倍も長くなってしまいましたが、8月中に完結する予定です。
>>207 名無飼育さん
貴重なご意見ありがとうございます。
本当、そのとおりですね。以後気をつけます。
ご指摘ありがとうございました!
>>208 名無飼育さん
読んでいただき、ありがとうございます!
このシリーズの梅さんは、神経質な子なんですけど、どっか抜けてますねw
- 240 名前:名無し 投稿日:2008/08/21(木) 22:19
- 更新乙です
梅さんの切なさが伝わってきて胸が痛いです
- 241 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 11:23
- ほどなくして、舞美たちは戻ってきた。
見覚えのある集団を見つけ、えりかの心は晴れた。
自分の行為のバカバカしさに気づき、「もう意地を張るのはおわりにしよう。」「もっと素直になろう。」と思っていたところである。
今の気持ちなら、何事もなかったかのように、振舞える自信があった。
もしかしたら、舞美は自分の異変に気づいていないのかもしれない。
案外気にしているのは自分だけなのかもしれない。
そういう希望もあったからだ。
「まい―」
えりかは声を掛けようとした。
が、舞美の目はえりかをとらえていなかった。
彼女の手には先ほどのアトラクションで撮ったと思しき写真が握られていて、そして、それを周りの人と一緒に見ながら歩いていたからだ。
- 242 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 11:24
- それを見た瞬間、えりかの気持ちは一気に萎えた。
正直、ショックだった。
自分が、あの男女集団の誰にも勝ってないのではないか、と思ったからだ。
「あ、えり!」
舞美が顔を上げ、えりかに手を振る。
えりかは小走りでこっちに駆けてくる舞美を想像したが、彼女はペースを変えずに、他の人たちと同じように歩いてきた。
えりかは、気づいているような、いないような振りをして、黙っていた。
「楽しかったー!」
「いっそのこともっかい乗る?」
「えーでも炎天下の中また並ぶのぉ?」
「いいじゃん、また『タケノコにょっきっき』 やろうぜ!」
- 243 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 11:24
- 彼らの口から出る話は、えりかの知らないことばかりだった。
ジュラシックパークで長く待たされたのが幸いして、彼らは以前よりも仲良くなっているように思えた。
えりかは、自分だけがひとりなような気がした。
「ごめんね、待たせて。」
「ううん。こっちこそごめんね。」
「今度は梅田も乗れるのにしようぜ」
集団と合流して、少し会話を交わす。
数分ぶりに他人としゃべる喜びと、無視されなかったという変な安心感があった。
しかし、「無視される」なんて。
被害妄想も甚だしい。
もともと彼らには悪意はないし、えりかを孤立させようなんて意図はあるわけがないからだ。
えりかは、自分はどこまでひねくれているのだろう。と思った。
どうせ、そう。
矢島舞美に相手されないから、それが悔しいのだ。
- 244 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 11:24
- 「舞美ちゃん、キャーキャー言うくせに、写真でピースしてるんだよね」
「そうそう。俺らん中で一番強いんじゃないの?な、矢島」
「えー、そんなことないからー!とか言って。ねぇえり?」
「・・・うん」
「あーでもホント楽しかったよ、えり」
なんだ、それ。
今頃うちの存在を思い出すなんて。
矢島舞美に、罪などない。
それに、元はといえば、自分でまいた種だ。
それでも、えりかは舞美を恨めしく思わずにはいられなかった。
『えりがいなくてつまんなかったよ』
なんとなく、そういうのを期待していた。
舞美が一番にウチのもとに来てくれてたら、一番に話しかけてくれてたら、多分こんな風に、舞美を恨めしく思ったりすることもなかったと思う。
もっと特別扱いしてほしかった。
みんなの前で、これ見よがしに。
- 245 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 11:25
- ただのワガママだということは重々承知だった。
だけど、どうしてだろう。
今のえりかには、舞美のやることなすこと全てを素直に受け入れられないような節があった。
舞美のバカ。
えりかは心の中でつぶやいた。
- 246 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 11:32
-
- 247 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:48
- 「・・・・・・・・・」
シャワーの音が耳に入ってくる。
なぜだか今日は部屋の明かりがうるさい。
目の前にあるテレビでは、はつらつとした女子アナがどじょうすくい体験をしている様子が映し出されていた。
見たことがない番組だったから、おそらく関西のローカル番組に違いない。
おもしろくなさそうで、チャンネルを変える。
ぱちぱちと画面が変わるなか、えりかは毎週欠かさずみているお気に入りのドラマを見つけた。
9時からはじまるこのドラマ。
修学旅行のしおりには、この時間帯に決まった予定など入っていなかったが、えりかはしっかりと録画予約を母に頼んでおいた。
『舞美と夜通し喋るだろうからなー』
出かける前、ビデオデッキの前でそんなことを考えていたっけ。
えりかは出発前のわくわくした気持ちを思い出して、どうしてこうなってしまったのか、とまた自己嫌悪に陥った。
テレビはついたままだったが、どうも見る気がしない。
えりかは窓の外をぼーっと眺めながら、今日のできごとを思い出していた。
- 248 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:48
- 男子集団とは、あれから10分ほど一緒に動いたが、人数が多い上に、お互い行きたいアトラクションも違ったため別れた。
その間、えりかは舞美の隣を避けて歩いていた。
それに対して周りが何か言うわけでもなかったし、舞美は特に気にしている様子もなかった。
えりかは、自分の気持ちを態度に出していたわけではなかったが、どこかで舞美に気にかけて欲しいとも思っていた。
明らかに避けたらどうなるだろうか、という意地悪な考えを思いついたときもあった。
しかし、そうはしなかった。
えりかは、それを「舞美を大事にしたいからそうしなかった」と理由付けした。
意地悪で、真っ黒な自分の心に、すこしでも“良心”とやらを見出したかったのだ。
しかし、「単に悪役になるのがイヤだったから」という理由も浮かんできた。
つまり、自分があからさまに避けなかったのは、舞美どうこう関係なく、「ただ周りの雰囲気を壊すから」、とか、「周りに変な目で見られるのがいやだったから」とか、「意地張ってるなんて思われたら恥ずかしいから」とか、そういう理由も考えられるというわけだ。
- 249 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:49
- シャワーの音が途切れた。
部屋にはテレビの音だけが聞こえてくるだけだ。
多分、そろそろ舞美は風呂からあがるだろう。
えりかの心に不安がじわじわと広がる。
USJから帰って、ホテルに着き、みんなでご飯を食べた。
えりかと舞美は、昨日の晩と同じように、向かい合って座ったが、会話は減っていたような気がする。
微妙な距離感が気になり、えりかには夕飯の味がよくわからなかった。
あのときは、他の人も一緒だったから、別にえりかが舞美と喋らなくても不自然さは目立たなかった。
でも、今からは多分舞美と二人で過ごすことになるだろう。
昨日みたいにどこかの部屋に逃げようか、とえりかは思ったが、舞美と向き合うことを、先延ばしにすればするほど悪循環に陥ることは目に見えていた。
- 250 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:49
- 要するに、バカみたいに意地を張ったことを反省して、素直に謝ればいい。
たとえ、舞美がなんのことを謝られているのかわからなくても、とりあえず謝ればいいのだ。
今は自分の恋路をどうしようか考えるよりも、舞美といつもどおりの関係になることのほうが大事だ。
えりかがそう思ったとき、ガチャ、とお風呂のドアが開いて、舞美が出てきた。
「あー気持ちよかった」
そう言いながら、タオルで頭を拭く舞美。
えりかは、そんな風にいつもどおりの彼女を見て、話しかけよう。謝ろう。という勇気が湧いてきた。
「あのさ、舞美―」
えりかが意を決して口を開いたとき
- 251 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:50
- ドンドン
ホテルのドアをノックする音と共に「やじまぁー」という声。
えりかの顔が反射的に不快さで歪んだ。
声には聞き覚えがあった。多分、昼間の男子集団の中心人物だ。
呼ばれた舞美がドアを開けると、えりかの予想したとおりの男子が顔を出し、舞美に話しかけた。
「これから、うちら大富豪するんだけど、矢島たち今暇?」
「うん。あ、でもえりがまだお風呂はいってないし・・・・」
「じゃ、それ終わって、気が向いたら部屋こいよ。今日のメンバーだいたいいるし。607号室だから。じゃ!」
彼はそう言うと、足早に去って行った。
- 252 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:50
- バタンとドアが閉まる音がした。
しん、と静けさが残る。
えりかの心の中には嫉妬心と独占欲が膨らんで、体中を圧迫していた。
その浸透のすばやさといったら。
「うち、お風呂いってくる。舞美退屈だろうから、いっといでよ」
リモコンでテレビの電源を切ってから、舞美を振り返る。
出てきたのは、自分でも驚くくらいの低い、冷たい声だった。
「ううん、いい。あたしえり待つから。」
「でも、うち行くつもりないし。」
「だったらあたしも行かない。」
「行きたいなら行けばいいじゃん」
「別に行きたいなんてゆってないでしょ?ねえ、えり今日なんかおかしいよ。どうしたの?」
舞美の心配そうな声が胸にずんずん刺さった。
- 253 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:50
- 「なんでもない」
吐き捨てるように言って、えりかはうつむく。
「なんでもなくない」
「なんでもない、ってば!!!」
「じゃあなんで―」
舞美が近づいてきた、と思ったらそのままぐっと肩をつかまれた。
「あたしの目、見ないの?」
- 254 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:50
- どくん
えりかの顔を覗き込んだ舞美。
強制的に目が合う。
その瞬間えりかの心臓が大きく波打った。
どうしよう
どうしよう
舞美の視線から、逃れられない―
「だって・・・・・だって、うち・・・・・・」
- 255 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:51
-
「うち、舞美が好きなの。」
静けさにぽっと何かが飛び込む音がした。
- 256 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:51
-
- 257 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:52
- それはあまりにも自然で、言った本人さえ無自覚だった。
えりかは自分の声を自身の耳で聞いて、それでやっと自分が今なんと言ったのかを認識した。
舞美の表情は、よくわからなかった。
驚いてもいないし、笑ってもいないし、怒ってもない、ただ無表情でもなかった。
「だから、うちは舞美が他の男の子と喋ってたら嫉妬する。ううん、男子だけじゃない。うちは、いつだって舞美の視線の先にいたい。うち以外の人のところに舞美がいるだけで、すごく嫌な気分になる。うちの舞美を返して!って奪いたくなる。」
一気に喋ったからだろうか。
心臓がどくどくと音をたてているのがわかった。
沈黙になることが、舞美の顔を見ることが、なんだか怖い。
このまま全部喋ってしまおう、とえりかは思い、勢いに任せて喋り続けた。
- 258 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:52
- 「今日のも、全部あたしの独占欲が悪いの。自分のわがままだって、わかってるけど、でもなんかいやだった。舞美が男の子と一緒に楽しそうにしてるのとか、全部いやだった。無防備な舞美も、独りで嫉妬狂う自分も、イやだった。だから今回もわがまま言って困らせたの。うち、バカでしょ?あきれたでしょ?それでも舞美を好きだなんて、おかしいよね。ほんと。最低だよね、うち。」
そう言いながら、この支離滅裂な文章はどこまで続くんだろう、とえりかは思った。
言い終わったら、全てが終わりそうな、そんな予感もしていた。
「でも、それでもどこかではわかってたんだよ?舞美のこと好きでいたって、舞美は幸せになんかなれない。困らせるだけなんだって。だから、そう気づいたとき、諦めようとした。それでも舞美の顔見ただけで、声聞いただけで、好きって思っちゃうの。どうしようもないくらい、好きで、好きで・・・・」
つーっと涙がえりかの頬を伝った。
「えり、でも、あたしだってえりが好きだよ?」
「違う、違うもん。うちは、そういうのじゃないの。本当に好きなの。友達じゃ満足できないの!」
涙を拭こうとする舞美の手を振り払って叫んだ。
- 259 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:52
- これ以上期待させないで、甘やかさないで。
それに、うちは舞美が思ってるような人間じゃないから。
もっと、ずるくて、自分勝手で、まっくろなんだから。
もう言葉も出てこなくってしまい、どうすることもできない。
また下をむいたえりかに、舞美は話しかけた。
「どうして?あたしだって、えりが好きなのに、どうして違うって言われなきゃだめなの?」
「だって、ありえないじゃん。うちはね、本気なんだよ?」
舞美はきっと気づいてないだろうけど、うちだけじゃなくて、舞美を好きな人は他にもいっぱいいるはずだ。
舞美がそのなかの誰かを好きになるかはわからないが、そうでなくても舞美にもし好きだといわれたら、誰だって落ちてしまうだろう。
いずれ、そんな日がくるはずだ。
- 260 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:53
- 「うちを慰めるためにそんなこと言うの?だったら気にしないでよ。うち大丈夫だし。」
悲しそうな顔をしている舞美には悪いけど、でもここははっきりと言っておかなければならない。
舞い上がって、後で傷つくのはもうイヤだった。
「だから、なんでそうなるの?えりはあたしのこと信じてくれないの?」
「だって、舞美の『好き』とうちの『好き』は違うよ」
いつまでもこんな議論を続けているわけにはいかない。
何もかも、終わったんだから。
「そうだ、うちシャワーまだだった。」
この小さな喧嘩を切り取って、それが始まる前と今をつなげればいい。
今ならまだ間に合う。
- 261 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:53
- えりかは「ちょっと、えり待ってよ。」という舞美の言葉を無視して、「この話はもうおしまい」といわんばかりに、舞美に背を向けようとした。
そのときだった。
舞美がえりかの手首を掴み、ぐっと自分のほうに引き寄せた。
引っ張られたえりかは舞美のほうに向き直ると、えりかにぎゅっと抱きついた。
そして、一瞬身体を離したかと思うと、一切の隙をはさむことなく、舞美は自分の唇をえりかの唇に押し付けた。
- 262 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:53
- そのキスは、5秒足らずだったかもしれない。
えりかは、至近距離にある舞美の綺麗な瞳に自分の顔を見つけた。
「あたしの気持ち、これで信じてくれる?」
腕をえりかの首に巻きつけたまま、舞美がたずねた。
えりかの目を、じっと見つめて。
- 263 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:53
-
- 264 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:53
-
- 265 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:54
- パサ
艶のある黒髪が枕に落ちる。
頭の奥がまだぼーっとしているえりかの耳に、すうすうと規則正しい寝息がとなりから聞こえてきた。
朝、か・・・・・・・・
ベージュのカーテンには、うっすらと光が差し込んでいる。
早朝には違いないのだが、何時なのかはよくわからなかった。
時計を探そうかと思ったが、起き上がるのも億劫だ。
- 266 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:54
- 寝返りを打った舞美は、えりかのほうに身体を向けていた。
そっと布団から腕を出し、舞美の長い髪に触れる。
顔を見ているだけで、胸がぎゅっと掴まれた。
舞美・・・
声にならない声で舞美の名前を呼ぶ。
反応は、ない。
だけど、えりかはそれでも不思議と幸せな気持ちになれた。
昨日の晩の出来事。
それは夢のような現実。
触れている肩の部分から、舞美の暖かい体温がじわっと伝わってくるのがその証拠だ。
- 267 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:54
- ふと、舞美を抱きしめたい、と思った。
そのときにはもう、身体が自然にそうしていた。
左腕をぐるりとわたらせ、舞美をぎゅっと抱き寄せる。
さっきよりも、はっきりと舞美の体温が伝わってくる。
心臓の奥底から、温かいものが、どっと洪水のように溢れてきた。
「ん・・・・・」
強く抱きしめすぎたのだろうか、舞美がもぞもぞと動いた。
慌てて手を離したら、「えり・・・・・・・・」と舞美が目を覚ました。
ついさっきまで寝てたからだろうか。
いつもよりも、もっとふにゃふにゃとした声だった。
「ごめん、起こした?」
「んー?・・・・・いいよ・・・・・・」
そう言って今度は舞美がえりかの背中に手を回す。
なんと幸せな圧迫感だろう。
- 268 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:55
- あのキスの後、普通にお風呂に入って、取り留めのない話を二人でいっぱいした。
付き合おうか、とか、デートしようよ、とか、そんなことは一切言わなかった。
2人の関係は以前と変わっていないような気がするし、また変わったような気もした。
ただ、それに具体的な名前をつけるのは、なんだか違うように思ったし、それ以上に怖かった。
先のことは全て、不確かだ。
これからどうなるのか、どういう結末が待ち受けているのか、今のえりかには想像ができなかった。
ただ、舞美を好きなこの気持ちだけが、確かなものだった。
永遠に続くのか、そもそも永遠なんてあるのかどうかはわからないが、今この瞬間の、舞美への愛は本物であると言い切れるし、ずっと続くだろうと信じている。
幸せな未来が待っているのかは、正直なところ、なんともいえない。
そうであってほしいと願っている自分と、実際はもっと厳しい現実社会があるに違いないと予感している自分もいた。
- 269 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:55
- えりかの胸で再び眠りに落ちつつある舞美を、腕の中に閉じ込める。
ふと、浮かんだのは夏祭りの光景。
あのときは、熱中できるものもなく、何か目標があるわけでもなくのうのうと過ごしている自分に悩んでいたけど。
生きる意味があるとしたら、それは舞美しかない。
えりかは舞美の鼓動を肌に感じながら、そう思う。
きっと、自分は99%の幸せよりも、1%の舞美を選択するだろう、と。
- 270 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:55
-
「舞美」
もう一度、愛しい彼女の名前を呼ぶ。
その甘美な響きを感じながら、梅田えりかは、そっと瞳を閉じた。
- 271 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:55
-
- 272 名前:全力で、逆走 投稿日:2008/08/27(水) 16:56
- 从 ’w’)<おしまいは
『全力で、逆走』―完
- 273 名前:510-16 投稿日:2008/08/27(水) 17:03
- 完結しました。
更新スピードも遅く、さらに予想以上の長さになってしまいました。
だらだらと続いたにも関わらず、読んでいただいた方がいらっしゃったら本当にひとりひとりお礼を言いたい次第です。
>>240 名無しさん
お付き合いいただきありがとうございました。
こんな感じの結末になってしまいましたがいかがでしょうか?
これからもこちらではいつもどおり短編を更新していきたいと思っています。
次はいつになるのやら、って感じで申し訳ないですがw
本当にありがとうございました。
リl|*´∀`l|从・ゥ・从<今後もやじうめをよろしくね!
- 274 名前:名無し 投稿日:2008/08/27(水) 20:44
- 完結お疲れさまでした!
>>269最後の二行素晴らしい…
一気に読みましたが、紡がれる文章一つ一つを噛み締めるように読みました
今更ですがやじうめがめちゃくちゃ好きになりましたw
短編も楽しみにしています
- 275 名前:ななしいく 投稿日:2008/08/28(木) 02:06
- 完結してる!!!
とても楽しく読ませていただきました。
ありがとうございます。
このラストが本当に心に沁みてます。
- 276 名前:片手つないでツナワタリ 投稿日:2008/09/19(金) 10:03
- 「ねぇー、佐紀ちゃん。重いー。歩けないー。」
「はいはい。」
清水佐紀は隣でキンキン響く声を無視した。
幼稚園からずっと一緒なのだ、もうこれは条件反射といってもいいかもしれない。
「ひっどーい」と、大げさにのたまうのは、自他共に認める腐れ縁である嗣永桃子。
桃子の言うことにいちいち付き合っていたら、身体が持たないということを佐紀はよくわかっていた。
「わかったわかった。ほら、行くよ?」
佐紀はわざと駄々をこねる子供を諭すように言い、左手をさしだす。
こうして一緒に帰るの、どれくらい続けているだろう?
「ありがとっ」
どこから見てもわかる嘘泣きをやめて、両手を組んで笑顔で答えた。
かわいらしく首を傾けることも忘れずに。
- 277 名前:片手つないでツナワタリ 投稿日:2008/09/19(金) 10:04
- 結局、こうなるんだけどね。
佐紀は、満面の笑みで自分の出した左手をとる桃子を見ながらそう思った。
これが自分たちのリズム。
わざと冷たくあしらってみるのも、結局桃子に負けてしまうのも、全部ひっくるめて、自分たちのスタイルなのだ。
でもな・・・・
桃子を引っ張りながら、佐紀は思う。
「なんか、いつもあたしばっか損してる気がする・・・・」
「え?何?」
いけないいけない、心の声がついでてしまった。
佐紀は、慌てて口を空いてるほうの右手で押さえた。
「何でもないよ。」
「何でもないってなによー!ももにも教えてよ。佐紀ちゃんとももの間に秘密はないんだから!
- 278 名前:片手つないでツナワタリ 投稿日:2008/09/19(金) 10:04
- あぁまた面倒なことに・・・・。
そう思った佐紀は、冗談で適当なことを言ってみた。
「ももが、かわいくってかわいくってしかたがないーって話」
佐紀は、前を向いたまま棒読みで言った。
しかし、隣の桃子は「えっ!?もう佐紀ちゃんってばぁー」と嬉しそうに小指を立ててキャッキャと騒いでいる。
そんな桃子を見ながら、佐紀はこの関係はずっと変わらないんだろうなと思った。
自分はなんだかんだで桃子の喜ぶようなことをするのだろう、と。
とはいっても、そんなこととうの昔にわかっていたことだ。
それに。
佐紀は、変わらない自分たちのテンポを密かに自慢に思っていた。
長年の付き合いによって培われた関係は、「佐紀」と「桃子」という固有名詞の関係。
桃子のことに関しては、誰にも負けない自信があった。
- 279 名前:片手つないでツナワタリ 投稿日:2008/09/19(金) 10:04
- 「ね、いいことおもいついた!今からゲームしよ!」
「どんなゲーム?」
「もものかわいいところをひとつずつ挙げていくゲーム。言えなくなったほうが負けね。」
なんじゃそりゃ。
佐紀は、「あ、でもそれじゃあ一生終わらないよね・・・・・」と隣でぶつぶつ言っている桃子から視線を逸らした。
すると、
「あ」
佐紀は、前方に見覚えのある二つの背中を見つけた。
- 280 名前:片手つないでツナワタリ 投稿日:2008/09/19(金) 10:04
- 梅田えりかと、矢島舞美。
二人はかなり先にいるため、その後姿は遠く小さい。
しかし、彼女らをよく知る佐紀は、そんな二人の背中を眺めながら、「相変わらず仲がよさそうだな」と思った。
今年初めて会ったなんて思えないほど、二人は仲がいい。
グランドで部活をしている舞美を眺めながら、じっと帰りを待つえりかの姿を思い浮かべながら、佐紀は思った。
佐紀はえりかと舞美の関係を単純に「仲良し」とか「親友」といった言葉では表現することができなくなっていた。
決して、仲良しじゃないというわけではない。むしろ、仲がよすぎるくらいだ。
「以前は「仲良しコンビ」と思っていた。しかし、今はそれだけじゃないような気がする」、といったほうが御幣もないだろう。
- 281 名前:片手つないでツナワタリ 投稿日:2008/09/19(金) 10:05
- 修学旅行中、何かあった。
これが佐紀の予想だ。
根拠なんてない。あるとすれば女の勘というやつだ。
修学旅行後、目に見えた変化があったわけではない。
だから、本当にこれは佐紀の勘だった。
- 282 名前:片手つないでツナワタリ 投稿日:2008/09/19(金) 10:05
- 「ちょっと、聞いてるのぉ?」
「うわっ」
「なによ、『うわっ』はないでしょぉー!ももはこんなにかわいいのにぃ」
・・・・だからだよ
ももがいきなり上目遣いなんてするから・・・・・
佐紀はちらっと桃子を盗み見るように見つめた。
- 283 名前:片手つないでツナワタリ 投稿日:2008/09/19(金) 10:06
- 『ももが、かわいくってかわいくってしかたがないーって話』
さっき、適当に言った台詞。
だけど、そういうのに限って本心なのかもしれない。
ももはぶりっこだ。
でも実際かわいい。
ぶりっこなところも、全部ひっくるめて。
びゅうと涼しい秋風が吹いたとき、佐紀は知らない間につないでいた手が離れていることに気がついた。
- 284 名前:510-16 投稿日:2008/09/19(金) 10:29
- 途中ですが、ここで次スレに移ります。
ttp://m-seek.net/test/read.cgi/grass/1221786786/
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