屋根まで飛んで
1 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/20(水) 15:49

壊れて消えた


2 名前:_ 投稿日:2008/02/20(水) 15:51

●○○○○○○○○○


3 名前:_ 投稿日:2008/02/20(水) 15:52

  7月26日
今日の夕食はコロッケ。
隠し味でチーズを少し入れたら、長女が 「いつもよりおいしい」 と言った。
うれしい。 これからは毎回入れようかな。
でも次女は気に入らなかったみたいだ。 半分以上残していた。

  7月27日
夫が会社の若い女の子と電話をしていた。
「いつでも相談に乗るから、何かあったら俺を頼っていいんだよ」 だって。
ばっかじゃないの。 かっこつけちゃって。
それにしても、軽々しく自宅の電話番号教えるなよ。

  7月28日
娘たちと一緒に、公園へ出かけた。 初めて会うお母さんがいる。
「娘さんはおいくつですか」 と訊かれたので、「6歳と2歳です」 と答えた。
「2歳にしては、体が小さいですね」 と、無神経な一言。
腹が立つ。 次女の成長が遅いのは、私もずっと気にしていることなのに。


4 名前:_ 投稿日:2008/02/20(水) 15:53

# # #


5 名前:_ 投稿日:2008/02/20(水) 15:53

忌々しいテスト期間も今日で終わりだ。
これから4月までの2ヶ月間、長い春休みに入る。
まだまだ先があると思っていた大学生活も、気づけばあと1年しかない。

全体的に、手応えがあったとは言えなかった。
試験範囲の広い認知心理学はことごとくヤマを外したし、進級のかかった比較文化論は
3問中1問を丸々白紙で出してしまった。
奇跡的に留年は免れたとしても、来年度はかなりの単位数を取り直さなければならない。
まぁ、今までさぼってたんだから自業自得だけど。


しかし留年か。 洒落にならないな。
もともと大学に入るときにも浪人したし、もし留年したら、順調に進んでいる同じ年の友人
たちより2年も遅れをとってしまう。
高卒の子や短大の子たちなんか、とっくに社会に出ているというのに。
私ももう22だ。 4月で23になる。
親に甘えられるのも、あと1年が限界だろう。

ベッドにごろんと横になった。
急に眠気が襲ってくる。 ここ2〜3日、あんま寝てなかったせいかな。
もぞもぞと布団の中に潜り込んで、目を閉じた。


6 名前:_ 投稿日:2008/02/20(水) 15:54

「お姉ちゃんただいまあああああ」

眠る体勢に入った途端、叩き起こされた。
ぼふっ。
体格の良い妹が、私の布団の上に飛び乗る。

「いってぇ! 腕、腕!」
「へ?」
「腕、踏んでる!」
「あぁ、ごめんごめん、うへへ」

妹の絵里は屈託のない顔でへらへら笑うと、ベッドの上に座り直した。

「お姉ちゃん、あのねぇ」
「うんうん」
「今日バイトに新しい子入ってきたー」
「あーそう」
「すっごい可愛いの! 絵里の1個下でねー高3でねー、色白で黒髪で」
「へえ、この時期にバイトって、受験終わったのかねぇ」
「うん、推薦だからとっくに決まっちゃったんだって」


7 名前:_ 投稿日:2008/02/20(水) 15:54

絵里はそこでひと息つくと、「さむーい」 と言って、私の布団の中に入り込んできた。
発育ばっかり良くても、こういうところは子供だな、と思う。

「‥‥あれぇ、あんまりあったまってなーい」
「だってあたしも今帰ってきたとこだもん」
「そっかー」

絵里が私の二の腕にぎゅっとしがみついた。

「てゆうかお姉ちゃん、また痩せた?」
「うーん、そうかなぁ」
「痩せたよー、また腕細くなった」
「なんか最近疲れて食欲なかったからかも」
「いいなぁ。 絵里は疲れたら余計たくさん食べちゃうよ」


8 名前:_ 投稿日:2008/02/20(水) 15:55

絵里は私の布団の中で、今日あった出来事、大学での友人関係、気になる男の子の話
なんかを気の済むまで喋って、いつの間にか眠ってしまった。


年のわりに甘えんぼで危なっかしいけど、素直で可愛い妹だ。
顔も性格も似ていないとよく言われる。
が、そんなことはない。
ひたすら楽しいことを追求するところも、適当で豪快なところも、自分が考えていることに
語彙が追いつかないところも、私たちはよく似ている。

まぁ私の場合、適当で豪快なのは見た目の雰囲気や仕草だけで、内面はめちゃくちゃ
几帳面で神経質だけど。
私はプライドが高くて、わりと完璧主義で、中に溜め込んでしまう性格なので、実は毎日
ストレスまみれなのだ。
絵里の素直さや天真爛漫さがうらやましくなる時もある。


それにしても眠い。
大学に入ったばっかの頃は、3日くらい寝なくても余裕だったのにな。
もうそんなに若くないってことか。
絵里の髪を撫でながら、私も目を閉じた。


9 名前:_ 投稿日:2008/02/20(水) 15:55

10 名前:_ 投稿日:2008/02/20(水) 15:55

11 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/21(木) 01:19
お姉ちゃんはあの人かな?
続き楽しみにしてます。
12 名前:_ 投稿日:2008/02/21(木) 01:50

●●○○○○○○○○


13 名前:_ 投稿日:2008/02/21(木) 01:51

  8月11日
もうすぐお盆。 娘2人を連れて、昨日から実家に帰省している。
しばらく会わないうちに、父と母はめっきり老けた。
毎日2人きりで淋しいだろうな。
たまにはこうして孫の顔を見せに来てあげなきゃ。

  8月12日
今頃、夫は1人で何をしているんだろう。
料理や掃除は1人できちんと出来ているのだろうか。
夫は、14日にはこっちに来ると言っていた。

  8月13日
娘たちを見て、母が 「お姉ちゃんはあんたに似てて、妹は旦那さん似だね」 と言った。
そうなのだ。 次女は私に全然似ていない。
長女のほうは、大きな目も薄い唇も私にそっくりなのに。


14 名前:_ 投稿日:2008/02/21(木) 01:51

# # #


15 名前:_ 投稿日:2008/02/21(木) 01:52

「お姉ちゃあああん」
ぼふっ。

腹の辺りに衝撃を感じて、一瞬で目が覚めた。
顔をしかめながら目を開けると、満面の笑みで私を見つめている絵里がそこにいた。

「‥‥苦しいんだけど」
「あのねぇ、今日ねぇ」
「絵里、重い」
「この前話したバイト先のー」
「ちょっと、腹踏んでるって」
「踏んでるんじゃなくて乗っかってるんですぅ」
「どけー。 苦しいよー」
「あーあ、そろそろダイエットしようかな」
「ばか、ダイエットなんかしなくていいよ」
「ぶひー」

絵里は私の腹の上から腰を浮かせると、ベッドに座り直した。
私もベッドから体を起こした。

テストが終わってから、毎日自分の部屋でぐうたら過ごす日が続いている。
春休みと言ってもまだ2月になったばかりだし、寒くて布団から出られないのだ。
たぶん、毎日10時間くらい寝てる。 いくら寝ても寝足りない。


16 名前:_ 投稿日:2008/02/21(木) 01:52

寝起きだからか、頭がぼーっとしていた。
頭の片隅にかすかに浮かんでは消える、断片的な映像。
なんだか変な夢を見ていた気がする。

見覚えのあるキッチンで、小さな女の子が泣いている。
顔は見えない。
床には鍋がひっくり返っていて、シチューが豪快に撒き散らされていた。
女の子のそばに母が立っている。
母の服の裾を掴んでいるのは、小さい頃の私だ。
‥‥ということは、泣いている女の子は絵里だろうか?

既視感はあった。
今までに何度か、同じ夢を見たことがあるのかもしれない。
もしかしたら現実にあった出来事なのかもしれない。
思い出そうとすると、頭の奥がじんじんと痺れて吐き気がした。


17 名前:_ 投稿日:2008/02/21(木) 01:53

「で、さゆがね」
「え? 誰?」

ぱっと意識が引き戻される。
絵里を見ると、怪訝そうな顔で私を見つめていた。

「んー、えっと、バイト先のー」
「あ、この前言ってた子ね。 新しく入ってきた色白黒髪の」
「そう、その子がさゆっていうんだけどー、なんかお姉ちゃんに会いたいって」
「お姉ちゃん? ‥‥‥ってあたしのこと?」
「うん」

私は首を傾げた。
どうして突然私の話になるんだ。

「なんで?」
「うーん、なんでだろ、よく分かんない。 あ、うちのお姉ちゃん美人なんだよ、って絵里が
 自慢しまくったからかなー」
「はぁ、そりゃどうも」
「うへへへぇ」


18 名前:_ 投稿日:2008/02/21(木) 01:53

絵里はベッドから飛び降りて、床に転がっていた携帯電話を手に取った。

「よーし! じゃあ明日さっそく連れてくるね!」
「明日!?」
「どうせお姉ちゃん毎日ヒマでしょ」
「う、うるさいな」
「メールしとこーっと」

絵里は上機嫌で携帯を開いて、画面をスクロールする。
ふっと、絵里の顔から笑みが消えた。

なんとなく気になって訊ねてみる。
「どうした?」
「‥‥さゆの連絡先、まだ聞いてなかった!」
ずっこけた。

「ま、いっかー。 どうせ明日もシフト一緒だから会うし」
絵里は笑顔で携帯を閉じると、鼻歌を歌いながら私の部屋を出て行った。


19 名前:_ 投稿日:2008/02/21(木) 01:54

しゃーぼんだーまーとーんーだー

絵里の鼻歌が遠ざかっていく。
懐かしいメロディに包まれながら、私は目を閉じた。

やーねーまーでーとーんーだー

何かが思い出せそうで思い出せない。
なぜかさっき見た夢の映像が浮かび、そして消えてゆく。

“屋根まで飛んで、壊れて消えた”

心の中でそこまで歌って、ふと思考が止まった。
この歌には続きがあったはずだ。
でも思い出せない。

もう寝よう。
眠いときには寝るに限る。
仰向けのまま何度か深呼吸をして、寝返りをうった。
眠りは思いのほか早く訪れた。


20 名前:_ 投稿日:2008/02/21(木) 01:54

21 名前:_ 投稿日:2008/02/21(木) 01:54

22 名前:_ 投稿日:2008/02/22(金) 03:24

●●●○○○○○○○


23 名前:_ 投稿日:2008/02/22(金) 03:24

  8月30日
夫がにやにやしながら、聞こえよがしに言った。
「新入社員の女の子がさぁ、なんか悩んでるんだよなー」
なぜそんなことを、わざわざ私に言うのか。 私にどんな答えを期待しているのか。
どうでもいいので、「あっそ。 相談にでも乗ってあげたら」 と返してやった。

  8月31日
幼稚園の夏休みも、今日で終わり。
明日からまた毎日早起きしてお弁当作りだ。
正直、ちょっと面倒くさい。

  9月1日
初日から寝坊した。 へこむ。
夫は、私の知らないネクタイを着けていた。
誰から貰ったんだろう。

  9月2日
長女と次女が喧嘩をしていた。
長女が描いた絵を、次女がクレヨンでぐちゃぐちゃにしてしまったとか。
まだ2歳の次女に悪気はない。
こういう場合、普通は長女に 「お姉ちゃんなんだから我慢しなさい」 とでも言うのだろう。
でも、言えなかった。 私は次女を叱った。


24 名前:_ 投稿日:2008/02/22(金) 03:25

# # #


25 名前:_ 投稿日:2008/02/22(金) 03:25

「お邪魔しまーす」
「うへへ、どうぞ入って入ってー」

玄関から声が聞こえて、私は飛び起きた。
どうやらコタツの中でうとうとしてしまったようだ。
しまった、寝過ごした。

社交辞令でも私に会いたいと言ってくれたんだから、それなりに出迎えようと思ってたのに。
コタツから這い出して、窓ガラスに映る自分の姿を見た。
髪は変な寝癖がついてるし、上下ジャージだし、ペディキュアは剥げかけている。

‥‥まぁ、いっか。 客が来るからって妙に着飾るのも恥ずかしいし。
とりあえず、ぼっさぼさの髪を手ぐしで整える。


26 名前:_ 投稿日:2008/02/22(金) 03:26

リビングの引き戸が開いて、2人が入ってきた。
「ただいまぁ」
いつも通りへらへらと笑っている絵里の後ろから、長い黒髪がさらりと覗く。

「あっ、こんにちはー。 もしかしてお姉さんですか?」
「あ‥‥どうも」

一瞬、言葉に詰まった。
絵里のバイト先の後輩だという彼女は、びっくりするほど可愛かった。

「お姉ちゃん、この子が前言ってたさゆ、あ、さゆみっていう子」
「さゆみです、よろしくお願いします」

人形みたいだ、と思った。
肌は陶器みたいに白くて滑らかで、背中までまっすぐ流れる黒髪は毛先まで手入れが
行き届いている。 きらきら光る真っ黒な瞳に吸い込まれそうだ。
私はぽかんと口を開けて固まった。
すげー、世の中にはこんな可愛い子がいるんだ。


27 名前:_ 投稿日:2008/02/22(金) 03:26

「‥‥‥‥」
「‥‥どうかしました?」
「へっ? あ、いや別に、フヒッ、何でもないっす、ぐへ」

うわ! 変な声出た!
まずい、今のは絵里の笑い方よりキショかった。

「あはは、よろしくお願いします」
「いやいやこちらこそ、えっと、絵里の姉です、ひとみです、どうも」
「ひとみさんかー。 なんかぴったりな名前ですね」
「えぇ? はぁ、うん、よく言われる」

昔から、初対面の人には決まり文句のように言われてきた言葉だ。
よほど印象的なのか。
生まれたばかりの私を見た両親は、目の大きさにちなんで私を“ひとみ”と名づけたらしい。
誰から見ても、私の第一印象は“ひとみ”なのだろう。


28 名前:_ 投稿日:2008/02/22(金) 03:27

さゆみちゃんが私の顔をじっと見つめている。
何なんだ一体。
どぎまぎして、思わずぐりんと目をそらしてしまった。
あ。 やべ。

「お、お茶とか! ちょっと待って、お茶的なもの出すねっ、ついでにおやつ的なものも」

思いっきり目をそらしたことの言い訳に、私はキッチンへ向かうことにする。
なんで私こんなにテンパってるんだろう。 何に動揺してるんだろう。

「すみません、お気遣いなく」
「いやいやいやそんなわけにいかないから、お客様はあれだから、神様だから」

あぁ、またわけの分からないことを言ってしまった。
さゆみちゃんがきょとんとしている。
絵里が 「お姉ちゃん、なんか今日余裕なーい」 と言って笑った。


29 名前:_ 投稿日:2008/02/22(金) 03:27

キッチンでお茶を淹れながら、ため息をついた。
初対面の人に対して爽やかに好印象を残すのは、私の得意分野なはずだ。
あー、何してるんだろ自分。
最悪だ。 かっこ悪すぎる。 絶対、変な人だと思われた。


リビングにいる2人の会話に耳をすます。

「ねっ、さゆ、うちのお姉ちゃん美人でしょ。 うっへっへ」
「うん、びっくりしたー。 絵里とあんまり似てないね」
「あー、やっぱりね‥‥」
「あ! ごめん、そういう意味じゃなくて!」
「どういう意味だよう」
「絵里も可愛いけど、お姉さんとは系統が違うねって話」

少しほっとする。
今のところ、私に対するマイナスイメージはないみたいだ。
絵里のお姉さんって挙動不審だね、とか言われてなくてよかった。


30 名前:_ 投稿日:2008/02/22(金) 03:28

やばい、何だこれは。
なんで私はこんなにどきどきしてるんだ。

彼女を見た瞬間、脳天にズドンと雷が落ちたような衝撃を受けた。
こんなこと初めてだ。
よく分かんないけど、恥ずかしい言葉で表現すると、なんか、う、う、運命を感じた。
うおお。 ひどい。 我ながら痛すぎる。

でも、初めて会った彼女に物凄い勢いで強く魅かれたのは事実だ。
何なんだ、これが恋に落ちたってやつなのか、そうなのか。

自分でも説明のつかない甘ったるい感情に戸惑っている。
だいたい、さゆみちゃんは女だ。
おかしい。 だって私はなんちゃらビアンとかじゃない、はず。
だってこんなこと今までなかったもん。


31 名前:_ 投稿日:2008/02/22(金) 03:28

お茶と和菓子を持ってリビングに戻った。

「えー、羊羹きらーい。 絵里、チョコ系かクッキー系がいい」
「うるさいな、文句あるなら自分で持ってこいよ」
「ぶー」
「さゆみちゃんは羊羹でいい? ごめんね、年寄りくさくて」
「いえ、ありがとうございます。 私、栗ようかん大好きなんですよ」

ぶはっ。 だ、大好きとか。
こっち向いて言われるとなんか無駄にどきどきするんですけど。

‥‥だめだ、これは重症だ。
さゆみちゃんが好きなのは私じゃなくて羊羹だ。
分かってますよ、分かってますけど。


居た堪れなくて、この場から逃げ出したくて、
「コンビニ行ってくるっ!」
私はそう叫んで部屋を飛び出した。

財布を忘れたことに気づいたのは、コンビニを通り過ぎてからだった。


32 名前:_ 投稿日:2008/02/22(金) 03:29

33 名前:_ 投稿日:2008/02/22(金) 03:29

34 名前:_ 投稿日:2008/02/23(土) 01:48

●●●●○○○○○○


35 名前:_ 投稿日:2008/02/23(土) 01:48

  9月17日
お風呂から上がってリビングに入ったら、夫が慌てて電話を切った。
何かやましいことでもあるんだろうか。

  9月18日
特売日。 卵(M)1パックが99円になっていたので買った。
「お1人様1パックまで」 と書いてあったが、長女と次女にも持たせて合計3パック。
でも特売品なので賞味期限が近い。
よく考えたら、あと3日で卵30個も使いきれるわけがない。 失敗した。

  9月19日
ゆで卵好きの長女が、今日1日で5個の卵を消費した。
その他、朝は目玉焼き4つ、昼はチャーハンに混ぜて2つ、夜は厚焼き玉子に4つで、
合計15個使ったことになる。 この調子なら楽勝じゃないか。

  9月20日
次女と夫は卵料理に飽きたようだ。 実は私も飽きている。
長女だけが、今日もゆで卵を4個食べた。

  9月21日
夫が電話の子機を自分の部屋に持ち込んで、1時間以上話しこんでいる。
誰から?と訊いたら、取引先の人だ、と。
絶対うそだ。 声の調子からして絶対違う。 あれは女だ。


36 名前:_ 投稿日:2008/02/23(土) 01:49

# # #


37 名前:_ 投稿日:2008/02/23(土) 01:49

絵里とさゆみちゃんは急激に仲良くなった。
毎日のように一緒に遊んでいる。
‥‥ので、私も便乗。
さゆみちゃんは、うちにもよく遊びに来るようになった。

「ひとみさん、今度3人でカラオケ行きましょう」
「えぇ? なんで?」
「だってさゆみ、ひとみさんと仲良くなりたいもん」
「え‥‥あは、いやぁ、さゆみちゃんがそう言うなら、ふへへへ」
「よし、じゃあ決まり! 来週、予定空けといて下さいね」

任せて下さい!
私はいつでも暇ですよ!
あなたとの予定が最優先ですから!

「あ、それとさゆみちゃんっていうの、やめません?」
「えー、じゃあ何て呼べばいいの」
「さゆでいいです、さゆで」
「さ、さ、さゆかぁぁぁ。 うわああああ」
「だめですか?」
「なんか恥ずかしいよー」
「やだちょっと赤面しないで下さいよ、さゆみまで恥ずかしくなっちゃう」


38 名前:_ 投稿日:2008/02/23(土) 01:49

私たちの会話を聞いていた絵里が、呆れてため息をついた。

「なんか気持ちわるーい」
あー、自分でもそれは自覚してる。
「お姉ちゃんだけならまだしも、さゆまでキモーい」
バカ、何てこと言うんだ。 さゆみちゃんがキモいわけないだろ。
「なんか付き合い初めのカップルみたーい」
えへ‥‥そうかな。

思わずにやけそうになって、慌てて顔を引き締めた。
まずい、キャラ変わってる。
私はこんな締まりのない人間じゃなかったはずだ。

‥‥しかしカップルか‥‥‥ぐふふ。
ほんとにそうなれたらいいなぁー。


39 名前:_ 投稿日:2008/02/23(土) 01:50

正直、自分がこんなに彼女にはまるとは思っていなかった。
さゆみちゃんはどこからどう見ても女の子だし、私はストレートだ。
同性にこんな感情を抱いたことなんて、今までなかった。

中学高校と女子校だったので、似たようなことはちらほら見かけた。
私自身、外見や仕草が男っぽいせいか、同級生や後輩の女の子に告白されたこともある。
でも、その子たちが純粋なビアンだったとは思えない。
彼女たちは私を“男”に置き換えて見ていただけだからだ。

そういうのが本当に気持ち悪かった。
生物学的に完全に女の私を都合よく男に脳内変換して、いったい何を妄想してるんだろう
と思うと鳥肌が立った。
女子高で欲求不満なのは分かるけど、勝手に彼氏役を押し付けられるのは御免だ。


40 名前:_ 投稿日:2008/02/23(土) 01:50

そういえば3年くらい前だったか、何度か自宅に変な手紙が届いたことがある。
女の子特有の丸みがかった字で 『好きです』 とか 『いつも電車で見てます』 とか書いて
あって、めちゃくちゃ怖かった。
手紙には消印がなかったから、直接うちのポストに入れに来たんだろう。
ストーカーかよ。 今でも寒気がする。
電車で見てるだけなのに、なんでうちの住所知ってんだよ。


しばらくして、駅のホームで知らない女の子に告白されたんだっけ。
「今までおうちに手紙送ってたんですけど、やっぱり直接渡そうと思って」
うわーお前だったのかよ、ていうか誰だよお前、とか思って、薄気味悪くなると同時に、
ものすごく腹が立った。

「そういうのもううんざりなんだよ」 「気持ち悪」 「2度と近づかないで」
そんな感じのことを言って断った覚えがある。
今思うと、結構ひどいな自分。 さすがにちょっと言い過ぎたよな。

「手紙だけでも読んで下さい」 って言われて一応受け取ったんだけど、そのときは相当
イライラしてたから、あとで駅のゴミ箱に捨てといた。


41 名前:_ 投稿日:2008/02/23(土) 01:51

今の自分は、あの時の女の子と同じ立場だ。
って、やっぱり私さゆみちゃんのこと恋愛感情で好きなのかな。
よく分かんないけど。

もし私がさゆみちゃんに告白して、「気持ち悪い」 とか 「2度と近づくな」 とか言われたら
どうしよう。 ‥‥ぐあああ、きついわ、これ。 生きていられる自信がない。

あの女の子、すごく傷ついただろうな。
今さらながらごめんよ。
私も同じように女の子を好きになって、あんたの気持ちがよく分かったよ。
手紙くらい読んであげればよかった。


42 名前:_ 投稿日:2008/02/23(土) 01:51

「あーでもぉ、実はさゆみ音痴なんですよー。 引かないで下さいね」
「いや大丈夫、あたしもへたくそだし! ていうかさゆみちゃんは声が可愛いから音痴でも
 全然いいと思う!」
「うふふ、うれしーい。 でもさゆみちゃんじゃなくて、さゆって呼んでほしいな」
「いきなりは難しいよう」

「うーん、じゃあ練習しましょう練習。 私のほう向いて、さゆって言ってみて下さい」
「‥‥‥さゆ」
「はい、じゃあ次は3回続けて」
「さゆさゆさゆっ、さゆっ」
「あはは、やっだぁー照れちゃ〜う。 しかも1回多いー」
「ふ、ふへっ、ぐひひひひ」

‥‥だめだ、我ながら本気でキモい。
なんで私はさゆの前だとこんなにキモい人になっちゃうんだろう。
あ! 今さゆって言っちゃった! 心の中で! あー調子乗っちゃった!
もおおおおおなんかもうだめ、恥ずかしい。 消えたい。


結局カラオケには明日行くことになった。
あーすげー緊張する。 絵里も一緒だから3人だけど。
お風呂で歌の練習しとかなきゃ。
明日はさゆみちゃん、いや、さゆのスウィートヴォイスを心ゆくまで堪能してこようと思う。


43 名前:_ 投稿日:2008/02/23(土) 01:51

44 名前:_ 投稿日:2008/02/23(土) 01:51

45 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/23(土) 15:06
一見ほのぼのしてるのに、今後の展開が怖いです。
続き楽しみにしてます。
46 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/23(土) 20:07
名作の予感
47 名前:ななし 投稿日:2008/02/23(土) 23:59
ドキドキ感たっぷり…
期待して待ってます。
48 名前:_ 投稿日:2008/02/24(日) 01:52

●●●●●○○○○○


49 名前:_ 投稿日:2008/02/24(日) 01:53

  10月4日
『ひとみちゃんは今日も小さい子たちの面倒をよく見てくれました。 お遊戯の覚えも早く、
 いつも周りの子に教えてあげています』 ―――幼稚園の連絡帳より
長女を誇らしく思うと同時に、次女のことを考える。
長女と違って次女は引っ込み思案だし、同じ年の他の子たちに比べて体も小さい。
幼稚園に行ったら溶け込めるだろうか。 先生に褒めてもらえるだろうか。

  10月5日
ここ1週間ほど、夫の帰りが遅い。
理由を聞いたら、仕事が詰まってるとか何とか、予想通りの答え。
ご機嫌取りのつもりなのか知らないけど、今日は家族にお土産を買ってきてくれた。
私にはブランド物のハンカチ。 娘たちにはなんか高そうなおもちゃ。

  10月6日
夫が昨日買ってきたおもちゃのことで、長女と次女が喧嘩をした。
どっちが先に使うか、とかそんな理由だったようだ。
私はまた長女の味方をしてしまいそうになったけど、今日はグッとこらえた。
「妹に先に使わせてあげなさい」 ちゃんと言えた。

  10月7日
娘たちが、私の似顔絵を描いたらしい。
長女はとても綺麗に描いてくれて、うまく私の特徴も捉えていた。
長女には絵の才能があるんじゃないかと思う。
それに引き換え、次女が描いた絵は、人の顔とは言えないレベルだった。
まだ2歳だから当たり前だけど。


50 名前:_ 投稿日:2008/02/24(日) 01:53

# # #


51 名前:_ 投稿日:2008/02/24(日) 01:53

私は今、たぶん夢を見ている。
またあの夢だ。

キッチンで泣いている幼い妹、零れたシチュー、それを見つめる母と、幼い私。
そして現在の風貌の私が、その光景を別の場所から傍観している。
私が“私”を見ている。

静かなキッチンに、妹の泣く声だけが響いている。
母と“私”は固まっていて、無表情で突っ立っているだけだ。
妹以外は時間が止まっている。
それを傍観しているこっち側の私も、金縛りに遭ったように動けず、声が出せない。

ただ泣いている妹が可哀相で、慰めてやりたかった。
泣かないで。 どうしたの? どこか痛いの? 何があったの?


52 名前:_ 投稿日:2008/02/24(日) 01:54

しゃーぼんだーまーとーんーだー

突然、あの童謡のメロディが流れ始めた。
いや、音だけじゃない。 歌だ。 誰かが歌っている。
調子はずれの、幼い女の子の声。

屋根まで飛んだ。
屋根まで飛んで、壊れて消えた。

かーぜかーぜーふーくーなー

‥‥あれ? なんか飛ばしてないか?
「壊れて消えた」 と 「風々吹くな」 の間に、まだ歌詞があったような気がする。
なんだっけ。 なんだっけ。 思い出せない。


その時、さっきまで見えない何かに押さえつけられていた体が、ふっと軽くなった。
あ、動ける。
手を伸ばそうとした瞬間、目が覚めた。


53 名前:_ 投稿日:2008/02/24(日) 01:54

外はまだ薄暗い。
時計を見ると、朝の4時を少し過ぎたところだった。

「‥‥ん?」
どうも苦しいと思ったら、絵里の重量感たっぷりの二の腕が、私の胸元を圧迫していた。
絵里を起こさないように、そっと腕を持ち上げてどけてやる。

いつの間に私のベッドに入ってきたんだろう。
変な夢でも見て怖くなったのかな。


19にもなって仕方のない妹だ。
そういえば、私が中3で絵里が小6の時までは同じ部屋で寝てたっけ。
もっと前は、同じベッドで寝ていた覚えがある。
いつ頃だろう。 私が小学校低学年とか、その辺かな。

その前は。 私が小学校に上がる前は?
‥‥‥あれ? 幼稚園の頃、何があったんだっけ?
おかしい。 何も思い出せない。

普通、自分の中にある1番古い記憶って2〜3歳頃じゃないのかな。
私の物忘れがひどいだけなのか。
小学校に入学する前のことを、何1つとして覚えていない。


54 名前:_ 投稿日:2008/02/24(日) 01:55

そういえば、自分や絵里の小さい頃の写真を見たことがない。
昔、それが不思議で両親に尋ねてみたことがある。
あんたたちは小さいとき写真が嫌いだったんだよ、なんて言われたけど、本当だろうか。
小学校の入学式の時に撮った写真では、私も絵里も満面の笑みで写っている。

あー、頭がガンガンする。
曖昧で不確かなことを思い出そうとしても、ただ疲れるだけだ。


絵里は私の隣で、無邪気に熟睡している。

まだ幼さの残る寝顔を見つめた。
左目の上に小さな傷。

小さい頃、母が絵里を抱いたまま転んでしまい、絵里は顔に怪我をしてしまったのだと
聞いたことがある。
今さら母を責めるつもりはないけど、絵里の可愛い顔に一生残る傷がついてしまったのは
可哀相だな、というかもったいないな、と思う。

すやすやと寝息を立てて幸せそうに眠る妹を見つめながら、私もまた眠りに落ちた。


55 名前:_ 投稿日:2008/02/24(日) 01:55

56 名前:_ 投稿日:2008/02/24(日) 01:55

57 名前:名無し飼育 投稿日:2008/02/24(日) 05:34
よしさゆですか!メッチャ久しぶりですね
続きが楽しみです
58 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/24(日) 22:00
日記のところの文章にものすごい迫力を感じます
59 名前:_ 投稿日:2008/02/25(月) 01:41

●●●●●●○○○○


60 名前:_ 投稿日:2008/02/25(月) 01:41

  10月21日
長女と次女に対する私の愛情は不平等なのかもしれない、と最近思う。
いや、本当はずっと前から気づいていた。 自分で気づかないふりをしていただけだ。
なぜだろう。 私は、次女の何が気に入らないのだろう。

  10月22日
夫は会社へ、長女は幼稚園へ行き、昼間はいつも次女と家で2人っきりだ。
息苦しい。 窒息しそうな時間。
次女は1人で絵を描いたり、人形を使ってままごとをしたりしている。
あまり私には絡んでこない。
幼いながら、私の愛情の差に薄々感づいているのかもしれない。

  10月23日
夫のスーツのポケットから、四つ折りの小さな紙切れを発見した。
『昼休み、いつもの場所で』
きれいに整った、女性の字だった。


61 名前:_ 投稿日:2008/02/25(月) 01:42

# # #


62 名前:_ 投稿日:2008/02/25(月) 01:42

信じられないことが起きた。
走れ。 急げ。 早く帰って絵里に知らせなきゃ。
足がもつれる。 息が切れる。

「さゆみ、ひとみさんのこと好きです。
 まだ会って1ヶ月も経ってないし、いきなり何だよって思われるかもしれませんけど。
 あぁ、はい、そういう意味の“好き”です。
 一緒にいると、なんか胸がどきどきするんです。
 さゆみのこと、気持ち悪いって思いますか?
 ‥‥よかったぁ、ドン引きされたらどうしようって思ってたんです。
 え、男として見てるかなんて、そんなわけないじゃないですか。
 ひとみさんは女の人じゃないですか。
 女の人に恋しちゃうなんて、さゆみ、変ですかね?
 なんか自分でもこんな気持ち初めてで、よく分かんないんですけど。
 あの、ひとみさんは、さゆみのこと、どう思ってますか?」


63 名前:_ 投稿日:2008/02/25(月) 01:43

「絵里! 絵里いいいいい!!!」

叫びながら玄関に飛び込んでパンプスを脱ぎ捨て、階段を駆け上がり、絵里の部屋の
ドアを勢いよく開けた。

絵里はポテチを口にくわえたまま、きょとんとして私を見ていた。
「なに、お姉ちゃん。 どうしたのー」
「っは、あのねぇ、あのあのあの、実はですね、はぁっ」
息が切れてうまく喋れない。
「あはは、やだもー、落ち着いてから喋ってよぉ」

何度か大きく息を吐いて、ごくんと唾を飲み込んだ。

「ふぅー、あのねぇ、さゆ、さゆがね」
「あ、お姉ちゃんやっとさゆって呼べるようになったんだ」
「もう慣れたもん」
「で、さゆがどうしたの」
「な、なんかあの子、あたしのこと好きだって」


64 名前:_ 投稿日:2008/02/25(月) 01:43

絵里は一瞬フリーズしてから、目を輝かせて私の両手をぎゅっと握ってきた。

「やだーうそー! よかったじゃーん!」
「えぇ? よかった?」
「だってお姉ちゃん、さゆのこと好きだったんでしょ」

今度は私がフリーズした。

「ああああ! なんで知ってんの」
「バレバレだったよぉ」
「まじでー!? あたしそういうの隠し通すの得意なはずなんだけど!」
「んー、確かにいつもは全然分かんないんだけどねぇ」

やっぱそうなのか、私は傍目にも分かるほどおかしかったのか。
急に恥ずかしくなって俯いた。


65 名前:_ 投稿日:2008/02/25(月) 01:44

「お姉ちゃん耳まで真っ赤だよぉ、にひひひ」
「くそ、黙れうんこ」
「さゆと初めて会った時から、なんか変だったもんねー」
「う、うるさいな」
「ねー、さゆのどこが好きなのー?」
「‥‥‥ぜっ全部だよ全部」
「うっわ寒ぅ〜。 お姉ちゃんって、照れてるわりにわざわざ恥ずかしいこと言うよね」
「っく‥‥」

くっそー、いちいち腹立つなぁ。
からかわれることには慣れていない。

私が押し黙ると、絵里は私の顔を覗き込んでにやにや笑った。
「ってことは、さゆと付き合うんだよね?」
「え?」
「やだなー、絵里これからちょっと気まずいなーどうしよう」

あれ? そういえばどうなったんだっけ。

「‥‥‥え、分かんない」
「はあ?」


66 名前:_ 投稿日:2008/02/25(月) 01:44

「どう思ってますか?」 と訊かれたので、私は当然のように 「大好き!」 と即答した。
それだけだ。
付き合うとか付き合わないとか、そんなの無かったような‥‥

「まーじでぇー? つまんなーい!」
絵里はアヒル口をさらに尖らせて不機嫌そうに言った。


なんで? 普通こういうのって付き合うべきなの?
私には分からない。
だいたい、女同士で付き合うって何すんのって感じだし。
一緒に出かけたり遊んだりするのはいいとして、その先はどうなるんだ。
だって女同士じゃやれないじゃん。 入れるものがないじゃん。

それに、よく考えたら私、さゆとチューしたいとかやりたいとか思わない。
そばにいて幸せを感じるだけだ。
可愛いなーとか好きだなーとか思ってドキドキするけど、欲情したことはない。

こういうのが男と女の違うところなんだろうな。
「可愛い・好き・どきどきする=やりたい」 っていう男の感覚が、女にもあるとは限らない。
そりゃ性欲強い女の人もいるんだろうけど。 私はその辺けっこー淡白だと思う。


67 名前:_ 投稿日:2008/02/25(月) 01:45

絵里はさゆと私のやりとりについてひと通り聞き出したあと、満足したように自分の部屋へ
戻っていった。


ぽふんとベッドに仰向けになって、携帯の受信メールをスクロールする。
さゆの名前を見つけるたびに、顔がにやけた。

今までめんどくさくてフォルダ分けなんてしてなかったけど、これを機会にやってみようかな。
さゆのメール専用フォルダとか。
‥‥ぶおおお、どうしよう、名前のとこに全部さゆさゆさゆさゆって並ぶんだよ。
想像しただけでよだれが出そうだぜ、うひょひょーい。


『今日は驚かしちゃってすみませんでした。
 でも、ひとみさんがさゆみのこと好きだって言ってくれて
 すっごく嬉しかったです。
 これからも絵里と3人でいっぱい遊びましょうね!
 たまには2人っきりで遊べたらもっと嬉しいな(笑)』

今日最後に来たメールを10回読み返して、携帯をぱちこんと閉じた。

私、幸せ者だな。 こんなに幸せでいいのかな。
さゆと出会わせてくれた絵里には、感謝してもしきれない。
今度お礼に焼肉でもおごってやろうと思う。


68 名前:_ 投稿日:2008/02/25(月) 01:46

69 名前:_ 投稿日:2008/02/25(月) 01:46

70 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/25(月) 19:30
よしさゆ?よしえり?
どちらにしても、続き、楽しみにしています!
71 名前:_ 投稿日:2008/02/26(火) 03:34

●●●●●●●○○○


72 名前:_ 投稿日:2008/02/26(火) 03:35

  11月4日

野菜が好きな長女のために、野菜をたっぷり入れたシチューを作った。

煮込んでいる途中、ふと目を離した隙に、次女がキッチンへ入ったようだ。
がしゃーんと凄い音がしたので慌てて行ってみると、鍋が床にひっくり返っていた。
泣きわめいている次女のそばに、椅子が倒れている。
椅子に上って鍋を覗き込もうとしたのだろう。

怒りが湧き上がった。
せっかく長女のために時間をかけて作ったシチューを、次女が台無しにしてしまった。
頭に血が上る。 次女をきつく叱り、ほっぺたを2度、強く叩いた。
次女は火のついたように泣き続けている。

騒ぎを聞いてキッチンに入ってきた長女が、次女のもとに駆け寄った。
長女は 「大丈夫?」 としきりに繰り返している。
はっとして次女を見ると、服に熱いシチューがべっとり付いていた。
服をめくり上げると、胸からお腹にかけて火傷をしていた。

ぞっとした。 自分で自分が怖くなった。

床にひっくり返った鍋、そのそばで泣いている娘。
この光景を見て、普通の親なら真っ先に娘の心配をするだろう。
私は、シチューを台無しにされたことしか頭になかった。
次女の心配なんかしていなかった。


73 名前:_ 投稿日:2008/02/26(火) 03:35

# # #


74 名前:_ 投稿日:2008/02/26(火) 03:36

さゆと2人で買い物に行くことになった。
と言ったら、絵里はにやにやしながら 「いってらっしゃぁーい」 と私を送り出した。
ちくしょう、いちいち癪に障る口調で喋りやがる。
ただ、言うほど悪い気はしなかった。
私とさゆのことを面白がってはいるが、なんだかんだで絵里は私たちを応援してくれて
いるのが分かるからだ。


「ひとみさん、これ見て〜。 超可愛い」
リボンをかたどったショッキングピンクのヘアアクセサリーをつまみ上げて、さゆが目を
きらきらさせた。
「あー、うん、ほんとだねぇ」
私の好みじゃなかったけど、とりあえず相槌を打っておく。

そんな髪飾りよりさゆのほうが5万倍可愛いよ、と喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
危ない危ない。 気持ち悪い言動は慎まなきゃ。


75 名前:_ 投稿日:2008/02/26(火) 03:36

私たちは雑貨屋に来ていた。
普段、私がこんなファンシーな店に来ることはめったにない。
可愛らしい小物が嫌いなわけじゃないけど、こういう乙女丸出しの店には入りづらくて。

さゆは髪飾りの棚から動こうとしないので、私は適当に店の中を見て回ることにした。
凝ったデザインのキャンドルがあって、思わず足を止める。
実は、最近アロマキャンドルにはまっているのだ。
絵里に見つかって 「お姉ちゃん意外とこういうの好きなんだー」 とからかわれたので、
友達から貰ったんだと言い張ったけど。


76 名前:_ 投稿日:2008/02/26(火) 03:37

「あー、シャボン玉だー」
さゆの声が聞こえて振り向いた。
「ひとみさん、これ懐かしくないですかー」
さゆは、シャボン液とストローがセットになったパッケージを手に取って眺めていた。

「うん、小さい頃よく遊んだよ」
「さゆみも! さゆみシャボン玉大好きだったんですよぉ」
「へえー」
「綺麗で可愛くて儚くて、まるでさゆみみたいですよねー、きゃはっ」

こ‥‥これはツッコむべきなのか。
全力で肯定したらまたキモいと思われちゃうけど、大好きなさゆを否定したくはない。
私はリアクションに困って曖昧に笑った。

さゆは私の葛藤など気にも留めていないようで、ただシャボン玉セットを懐かしそうに
見つめている。
結局、いちいち振り回されてるのは私だけだ。
空回りの自分が情けなくて、小さくため息をついた。


「しゃーぼんだーまーとーんーだー」

はっとして顔を上げる。
さゆが呟くような声で口ずさんでいた。


77 名前:_ 投稿日:2008/02/26(火) 03:37

不意に、こめかみがズキンと痛んだ。
妙な映像が頭の中にフラッシュバックする。
私はぎゅっと目を閉じた。

4人の小さな女の子が公園で遊んでいる。
砂場で夢中になってトンネルを掘っているのは、私だ。
私の隣には、知らない女の子が1人。
その女の子も私も、見た目は6歳くらいだろうか。

「やーねーまーでーとーんーだー」
滑り台のてっぺんで、2〜3歳の女の子2人がシャボン玉を飛ばしながら歌っている。
あれは絵里と、‥‥‥‥さゆ?
絵里とさゆが、滑り台の上に2人並んで歌っている。
‥‥本当にさゆなのか分からない、でも似ている、さゆに似ている。

「やーねーまーでーとーんーでー」
「こーわーれーてーきーえーたー」

私と絵里は、小さい頃さゆと遊んだことがあったんだろうか。
何も覚えてないけど。
それにしても、私の隣にいる知らない女の子は誰なんだ。
私と絵里、さゆと、ってことは、年齢からしてさゆの姉なのかもしれない。


78 名前:_ 投稿日:2008/02/26(火) 03:38

「‥‥ちょっとひとみさん、どうしたんですか」

さゆに肩を揺さぶられて、私は目を開けた。
「あれ‥‥」
「なんか今、立ったまま寝てましたよ」
「あは、ごめんごめん」

私の頭の中に浮かんできた映像が、本当にあった出来事なのかは分からない。
だけど気になる。 何かが引っかかる。

「さゆ、あのさ、突然なんだけど、さゆってお姉ちゃんいたりする?」

一瞬、さゆの表情が物凄く辛そうに歪んだ。
どきりとした。

「はい‥‥いましたよ」
「あ、やっぱそうなんだ。 なんか今変なこと思い出してさぁ」
「4年前に死にましたけど」


79 名前:_ 投稿日:2008/02/26(火) 03:38

80 名前:_ 投稿日:2008/02/26(火) 03:38

81 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/26(火) 06:06
姉重死んじゃったんだ…
続きが楽しみです!
82 名前:_ 投稿日:2008/02/27(水) 01:55

●●●●●●●●○○


83 名前:_ 投稿日:2008/02/27(水) 01:55

  11月14日
次女が昼食を残したので、頭に来て、お尻を数回叩いた。
1度手が出てしまうと、もう歯止めがきかない。
あのシチュー事件(と私は呼ぶことにした)で次女の頬を叩いて以来、
抑えきれなくなってしまった。

  11月15日
次女がクレヨンで床を汚したので、二の腕を思いっきりつねり上げた。
夕方になれば長女が、夜になれば夫が帰ってくる。
家族がいれば大丈夫なのだ。
だけど昼間、次女と2人きりになると、どうしても理性が吹っ飛んでしまう。

  11月16日
昼食を作っている間、次女が私の足にまとわりついていた。
うっとうしかったので、「離れなさいよ!」 と怒鳴って勢いよく振り払った。
次女は床に転んで泣き出した。
まただ。 私はいつも、やってしまってから後悔するのだ。
でも感情を抑えられない。
次女を憎いとさえ思ってしまう自分が怖い。


84 名前:_ 投稿日:2008/02/27(水) 01:56

# # #


85 名前:_ 投稿日:2008/02/27(水) 01:56

やっちまった、と思った。
お姉さんのことなんて全く知らなかった。

「ごめん、なんか」
さゆに辛いことを思い出させてしまったのが申し訳なくて、自己嫌悪に陥る。
「いえ、いいんですよ。 昔のことですし」

さゆは少し淋しそうに笑うと、暗い雰囲気を吹き飛ばすように明るい口調で言った。
「よしっ、次行きましょう次! さゆみ、お腹へっちゃったなー」
「あ、あたしも!」
私もさゆに合わせて、慌てて明るく答えた。

さゆに腕を引っ張られて、雑貨屋をあとにする。
「ひとみさん、甘いもの好きですか?」
「うーん、そこそこ」
「じゃあ行きましょう、さゆみ、いい店知ってるんですよ」


86 名前:_ 投稿日:2008/02/27(水) 01:56

私の腕を掴んでずんずん前を行くさゆの後ろ姿を見ながら、唇を噛みしめた。

やっぱり私はだめ人間だ。
さゆと一緒にいると、何をやってもうまくいかない。
普通に喋ってるだけで赤面するし噛みまくるし、キモい笑い方しちゃうし。
いつもの爽やかクールビューティーな私はどこへ行ってしまったんだ。

今日だけでいくつもの失敗を犯している。

甘いもの好きのさゆのために手作りのマンゴープリンを持っていったら、申し訳なさそうに
マンゴーは好きじゃないと言われてしまった。
知的なところを見せようとして豆知識を披露したら、知ったかがバレて墓穴を掘った。
気合いを入れて新しいジーンズを穿いていったのに、値札どころか、サイズ表記のシール
までが貼り付いたままだった。 お約束すぎて涙が出る。

挙句の果てに、何気なく振った話題で地雷を踏んだ。
最悪だ。 今日はマイナスの印象しか残してないじゃないか。


87 名前:_ 投稿日:2008/02/27(水) 01:57

「ちょっと、どうしたんですかひとみさん。 暗いですよ」
「えー、そうかな‥‥」
「そんなあからさまにしゅんとしちゃって」

うわ、しまった。
私がそんなテンション低かったら、さゆまでつまんない気分にさせてしまう。

「あっ、いや、ごめん、そんなことないよ! 超元気! 超楽しい!」
ゴッ。
元気をアピールしようとして拳を振り上げたら、さゆの顎にクリーンヒット。
「あ‥‥ごめん‥‥」
「‥‥いえ、大丈夫です‥‥」

さゆの顔がひきつっている。
沈黙が流れる。
終わった。 もうだめだ。 完全に嫌われた。 死のう。
絶望で目の前が真っ暗になった。

ああ、もう泣きそう。
鼻の奥がつんと熱くなって、喉の奥がきゅんと苦しくなって、私は 「ひっ」 とか何とか
声を漏らしてしまった。

‥‥‥まずい、聞かれたかな、今の。
恐る恐るさゆのほうを見ると、ばっちり目が合う。


88 名前:_ 投稿日:2008/02/27(水) 01:58

「‥‥‥っぷ、あは、あははははは」
突然さゆが笑い出したので、私はびっくりして固まった。
何? なんで? そんなにおかしかったかな。

「くふふふふふ、あはは、やだもうひとみさん、泣かないで下さいよ」
言われた途端、耳までかぁっと熱くなった。

「な! 泣いてないもん」
「あっは、涙目で何言ってんですか」
「ちちち違うし! あくびしただけだし!」
「嘘だぁー、『ひっ』 て聞こえた」
「違うし! ええと、あれだよ、屁の音ごまかそうと思って声出してみただけだし」
「そこで言い訳するなら、普通しゃっくりとかじゃないんですか?」
「あ‥‥そうか」
「あと、泣いたことよりおならのほうが恥ずかしいと思いますよ、女の子として」

ああああそうだよね普通、明らかにおかしいよね、何言ってんだ私は。
もう消えてしまいたかった。
喋れば喋るほど、どんどん墓穴を掘っていく。


89 名前:_ 投稿日:2008/02/27(水) 01:58

私がさらに真っ赤になって俯くと、控えめにさゆは笑うのをやめた。

少し間があって、両手にしっとりと柔らかな感触。
びっくりして顔を上げた。
さゆが私の手をきゅっと握っている。

「さゆみ、ひとみさんのそういうとこ好きですよ」
「‥‥へ?」

私はぽかんとしてさゆを見つめ返した。

「そうやって空回りしちゃうひとみさん可愛いと思います。 さゆみにいいとこ見せようとして
 頑張ってくれてるの分かるし、すごく嬉しいなって」
「うそ! だって全部失敗してるもん、かっこ悪いじゃん」
「それが可愛いって言ってるのにー」
「‥‥でもあたし普段はこんなんじゃないんだよ、かっこいいとか言われるんだよむしろ。
 さゆの前だとおかしいだけで」
「普段がどんな感じなのかは分かりませんけど、さゆみは、さゆみと一緒にいる時の
 ひとみさんが好きです」


90 名前:_ 投稿日:2008/02/27(水) 01:59

―――何だよ、反則技だよそれ。
じわっと涙が滲んできたので、慌てて目をこすった。
また笑われちゃう。

「だからもう余計な心配しないで下さいね」
「‥‥うん、うん分かった、しない」
「さゆみ、ひとみさんのこと好きですからね」
「うん、なんか‥‥ありがとう、嬉しすぎてやばい」

やっぱり私はさゆが好きだ。 そして、さゆも私のことが好きなんだ。
あー。 すげー。 どうしよ。 これって凄いことだよね。
好きになった相手も自分のこと好きだなんて、宇宙規模で考えたら凄い確率だと思う。

「‥‥‥ていうかこのままじゃさゆみがやばい」
「え?」
「あっ、いえ、何でもないですー。 ひとりごとー」


91 名前:_ 投稿日:2008/02/27(水) 01:59

その後、さゆおすすめの店でケーキを食べて、適当に街をぶらぶらして、帰ることになった。
楽しくて幸せな1日だった。
こんなのがいつまでも続けばいいのに。

少し遅くなったので、さゆを家まで送っていくことにした。
夜道を1人で歩かせるのは心配だ。
でも、女が女を家まで送るってどうなんだろ。
私だって帰り道は1人なのに。


「ありがとうございました。 じゃあ、ひとみさんも気をつけて」
「うん、またね」
玄関先の門の前で手を振って、さゆが家の中に入るまで見送る。

その時、後ろ姿のさゆが何かぼそっと呟いた。

私は首を傾げた。
かすかに聞こえたのは、「早くしなきゃ」 とか 「今のうちに」 とか。
‥‥ま、いっか。 独り言が多い年頃なんだな。
意味が分からなかったので、私は聞こえなかったことにしてそのまま帰路についた。

今日のこと、また絵里に報告しよう。
嬉しかった。 最高に幸せだ。 今なら死んでもいい。


92 名前:_ 投稿日:2008/02/27(水) 02:00

93 名前:_ 投稿日:2008/02/27(水) 02:00

94 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/27(水) 04:37
いつも続きが楽しみです!
95 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/27(水) 09:54
素晴らしいです。
母親の日記の鬼気迫る感じと、現在の楽しそうな雰囲気(と少し気になる感じ)がたまらないっす。
伏線の引き方が上手いなぁと思わせます。
テンポも良く、読むのが気持ちいいです!
96 名前:_ 投稿日:2008/02/27(水) 23:58

●●●●●●●●●○


97 名前:_ 投稿日:2008/02/27(水) 23:58

  11月25日
次女がソファの上で昼寝をしていた。
カバーが次女のよだれで汚れてしまっている。
腹が立ったので、次女を叩き起こしてほっぺたを3発ほど殴った。
しまった。 顔は目立つ。 跡が残ったら、夫にバレる。
冷やしたタオルで応急処置をした。 なんとか腫れが引いたので、ひと安心。

  11月26日
朝食のとき、長女のために作ったゆで卵に、次女が手を出した。
私は 「だめよ!」 と言ったけど、長女がゆで卵を半分に割って、次女にあげていた。
なんて優しい子なんだろう。
それに比べて、人の食べ物を取ろうとする次女は、なんてあさましい子なんだろう。
罰として、次女には昼食を与えなかった。 これで反省するはずだ。


98 名前:_ 投稿日:2008/02/27(水) 23:59

# # #


99 名前:_ 投稿日:2008/02/27(水) 23:59

「絵里ー! おーい! ‥‥絵里?」
部屋の前で何度か妹を呼んでみたけど、返事はなかった。
おかしいな、玄関に靴はあったはず。 トイレかな。
別にいいや、中で待ってることにしよう。

「入るよー?」
一応声をかけてから、ドアを開けて部屋の中に入った。
やっぱり誰もいない。


「ん‥‥何これ」
絵里の机の上に、古ぼけた日記帳が置いてあった。

表紙には、『1991年』 と書いてある。
91年ってことは、私が6歳で絵里が3歳の年か。
あ、でも絵里は12月末生まれだから、ほとんど2歳か。


100 名前:_ 投稿日:2008/02/28(木) 00:01

なんとなく手に取って、ぱらぱらと適当にページをめくる。
『‥‥11月25日、次女がソファの上で昼寝をしていた。 カバーが次女のよだれで‥‥』
お母さんの日記だ。 子育て日記?

そういえば、私や絵里は小さい頃、どんな子供だったんだろう。
なぜ私には幼い頃の記憶がないんだろう。
これを読めば、何か思い出せるかもしれない。

続きに目を通そうとした時、部屋のドアが開く音がした。

「ちょっとお姉ちゃん‥‥‥あ! やだ、だめええええ!!!」
絵里の大声にびくっとして、後ろを振り向く。
「読んじゃだめー!!!」
絵里は私のほうへ突進してくると、日記帳を奪い取った。

「な、何だよ‥‥」
「‥‥‥どこまで、読んだ?」
「は?」
「どこまで読んだかって訊いてんの」

いつものへらへらした表情ではなかった。
絵里は、私を睨みつけた。


101 名前:_ 投稿日:2008/02/28(木) 00:02

「どこって‥‥1〜2行だよ。 すぐあんたが来たから」
「ほんと?」
「ほんとだよ」
「‥‥なんか変なこと書いてあった?」
「いや別に。 絵里がよだれでソファ汚した、とかそんな感じ」

絵里は日記帳を抱きしめたまま、大きく息を吐いた。
「そっかぁぁぁ。 なんだ、よかったー」
気の抜けた表情。 いつもの絵里の顔だ。 私もほっとした。

「じゃ、お姉ちゃんに読まれたら困るから、これ隠してくるね!」

絵里は悪戯っぽくそう言うと、日記帳を持って部屋を出て行った。
変なの。 なんであたしは見ちゃいけないんだろう。


102 名前:_ 投稿日:2008/02/28(木) 00:02

ポケットの中の携帯が震えた。
取り出すと、背面ディスプレイがピンク色にぴかぴか光っている。
さゆからのメールだ。

『今週の日曜、うちに来ませんか?
 親が出かけちゃって、家に1人ぼっちで暇なんです。
 たまには室内でまったりしましょう☆』

わお! 積極的! 何だよ、ドキドキしちゃうじゃん。
さゆは狙って言ってるんだろうか。
こういうの、世の男子にしてみりゃ殺し文句なんだろうな。
これは大接近、いや一線を越える大チャンス、しかも彼女のほうから誘ってる! みたいな。

あー、まずい。
さゆを好きになってからというもの、何かあるたびに、「自分が男だったらどう思うか」
というのをいちいち想像してしまう。
女目線と男目線、両方の立場から物事を考えるようになってきている。
なんかやだなぁ、こういうの。
女のくせに女を好きになってしまった以上、仕方ないんだろうけど。

どんなふうに返せば好印象なのかよく分からなかったけど、
『行く行く!!!』
2度繰り返し、びっくりマークを3つ付けて返信した。
行きたいという意志と、誘われて嬉しい気持ちが伝わればいい。


103 名前:_ 投稿日:2008/02/28(木) 00:03




その夜、夢を見た。
最近、同じ夢ばかりで少々飽きてきたくらいだ。

公園にふわふわ漂う無数のシャボン玉。
私は、知らない女の子と一緒に砂場で遊んでいる。

「りかちゃんはそっちから掘ってね」
砂山を手でぺたぺたと固めながら、幼い私が言った。
女の子は、「わかったー」 と言って、砂山の反対側からシャベルでトンネルを掘り始める。

そうか、あの女の子はりかちゃんっていうのか。
たぶんさゆのお姉ちゃんだよね。

滑り台のてっぺんには幼い頃の絵里とさゆがいて、一生懸命ストローを吹いてシャボン玉
を飛ばしている。
近くのベンチにいた母が、「液を飲んじゃだめよ」 と注意した。
絵里とさゆは、シャボン玉の唄を歌う。

「かーぜかーぜーふーくーなー」
「しゃーぼんだーまーとーばーそー」


104 名前:_ 投稿日:2008/02/28(木) 00:04

ぱっと場面が変わって、キッチンの中で泣いている小さな女の子。
ひっくり返った鍋と、撒き散らされたシチュー。
佇む母と私。

話しかけなきゃ。 泣いている妹をなぐさめなきゃ。

「絵里、どうしたの? なんで泣いてるの?」
あ、今日は声が出る。

私の声は届いたようだ。
俯いて泣いていた妹が、顔を上げて私のほうを振り向いた。


―――その瞬間、目が覚めた。 びっしょり寝汗をかいていた。


105 名前:_ 投稿日:2008/02/28(木) 00:04

106 名前:_ 投稿日:2008/02/28(木) 00:04

107 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/28(木) 01:44
なんでこんなにドキドキするんだろ
自分にはまだまだ結末が読めません
108 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/28(木) 02:21
読む度々ドキドキしまくりです
109 名前:_ 投稿日:2008/02/29(金) 00:21

●●●●●●●●●●


110 名前:_ 投稿日:2008/02/29(金) 00:22

  12月3日

次女が人形を使ってままごとをしている。
鏡の前に人形を座らせて、「おけしょうしましょうね」
次女が勝手に私の化粧ポーチを漁り、口紅を取り出した。

いつもの私なら、この時点で次女を叱っているだろう。
でも今日は我慢する。 私はしばらく次女の様子を見ることにする。

次女が口紅のキャップを外した。
人形の唇の部分に、それをぐりぐりと塗りつける。
ぽきり、と口紅が根元から折れた。

満を持して、私は爆発する。
「何してるの!」
次女がびくっと震え上がる。
「この口紅、高かったんだからね! あんた殴られなきゃ分かんないの?」

私は次女を突き飛ばし、床に倒れた次女の背中を足で小突いた。
次女が泣きながら 「ごめんなさい」 と繰り返しているけど、私は止まらない。
必死に体を丸めて耐えている次女を、何度も蹴りつける。

最初に叱るのを我慢した、本当の理由。
それは、次女をなるべくひどく痛めつけたかったからだ。

私は、次女が口紅を折るのを待っていた。
虐待する口実が欲しかったのだ。


111 名前:_ 投稿日:2008/02/29(金) 00:22

# # #


112 名前:_ 投稿日:2008/02/29(金) 00:22

さゆの家のインターフォンを鳴らした。
中からぱたぱたとスリッパの音が聞こえて、がちゃりと鍵が開けられた。
ドアの隙間から、さゆの顔が覗く。

「あ、どうも、えへへ」
「こんにちはー。 どうぞ上がって下さーい」

さゆはにっこり笑って、私を玄関に迎え入れた。
「あれ‥‥」
玄関には、男物の靴がいくつか並んでいる。
「ひとみさん? どうかしましたか?」
「えっ、いや、何でもない」

私は、家の中をきょろきょろ見回した。
我ながら子供っぽいけど、余所の家の内装というのはどうしても気になってしまうものだ。
つるつるの廊下、真っ白なカーテン、埃ひとつない家具。
特別裕福というわけではなさそうだが、神経質なほど隅々まで綺麗に掃除されている。
足を踏み入れるのに躊躇してしまうくらい。


113 名前:_ 投稿日:2008/02/29(金) 00:23

「あ、階段こっちです。 さゆみの部屋、2階なんで」

さゆに案内されて階段を上がると、2つのドアが並んでいた。
右のドアには、【 さ ゆ み 】 と名前の書かれたプレートが掛けられている。
可愛らしい飾り文字で、いかにもさゆらしかった。

左のドアには 【 り か 】 という同じようなプレート。
夢で見た名前と同じだ。
4年前に死んだという姉の部屋なのだろう。


私と目が合うと、さゆは優しく微笑んだ。
促されるまま、ドアの前に立つ。

さゆが部屋のドアを開けた。
「連れてきたよー」

は?

開け放たれたドアの前で、私は固まった。
部屋の中には4人の若い男がいて、にやにやと私たちを見つめていた。
いや、正確には、私1人を。


114 名前:_ 投稿日:2008/02/29(金) 00:23

「あー、これがさゆみちゃんの友達?」
「おねーさん、美人だね」
「さゆみちゃんのこと好きってほんと?」
「何? レズなの? あはは」

同時に4人から話しかけられて、私は困惑した。
何が何だか分からない。 誰だお前ら。

目の前の男たちを、上から下までざっと眺める。

むらのある汚い茶髪。 香水くさい。
胸元開けすぎ。 そのわりに体はたるんでる。
鼻くそみたいなピアス付けてる奴いるし。
こいつは腰パンしすぎて短足だ。

何だよ、こいつら。
明らかに調子乗ってる典型的なチャラ男の集団だ。
どう考えても、清楚で乙女で可憐なさゆの友達だとは思えない。


115 名前:_ 投稿日:2008/02/29(金) 00:23

さゆは鏡台の前の椅子に腰をおろした。
化粧ポーチを漁りながら、冷めた目で私をちらりと見る。

背すじが凍りついた。
氷のように冷えきっていて、感情のない瞳だった。
‥‥私の知ってるさゆじゃない。


「じゃ、あとは任せるから」
さゆがそう言って顎で合図すると、男の1人が私の腕を掴んだ。
「あー、じゃあごめんね、おねーさん」


116 名前:_ 投稿日:2008/02/29(金) 00:24

あっという間だった。
私は床に引きずり倒されて、男たちに取り囲まれた。

「ちょっと、何‥‥‥うわ、うそっ、やめてよ」
腕と足を押さえつけられる。

「な、なんで? やだ、さゆ助けて、あああっ」
服の裾に男の手がかかる。

「やだっ、やだよおおおおお」


必死に手足を振りほどこうと暴れたけど、男相手に力で敵うわけがない。

「いってぇ! ちんこ蹴られたー、まじうぜぇ」
「さゆみちゃーん、この女うざいんだけど殴ってもいい?」
「好きにすればー」
「さゆみちゃーん、中出しはぁ?」
「どうぞご勝手にー」

さゆは興味なさげにそう言うと、鏡に向かって化粧直しをし始めた。
私のほうなんか1度も見ずに。


117 名前:_ 投稿日:2008/02/29(金) 00:24

「あはっ、おっぱい小せえ」
「勃たねー」
「あーでも意外と」
「誰から?」
「じゃんけんだろ」

抵抗できたのは最初のうちだけだった。
服を捲られ下着を押し上げられ、素肌が晒された瞬間、頭の中が真っ白になった。
体が硬直する。 声が出ない。

漫画やドラマなんかだと、やられちゃう女の人は最後までぎゃーぎゃー喚いてるのに。
あんなの大嘘だ。
殴られるかもしれない。 何か痛いことされるかもしれない。
そう思ったら、怖くて体なんか動かない。

「うおお、やべー、写メ撮ろうぜ写メ」
「おい、足開けよ。 入んねー」
「せっかくだし撮っとこー、記念に」
「お前そっち押さえとけよ」


118 名前:_ 投稿日:2008/02/29(金) 00:24

乱暴に体をまさぐられ、無理矢理ねじ込まれて、恐怖は絶望に変わった。
ぎゅっと目を瞑って、押し寄せる圧迫感に耐える。

「いっ、痛‥‥」
早く終われ早く終われ早く終われ。
もうやだ、死にたい、いっそのこと殺してほしい。


「俺ムービー撮るー」
「あっ、いいなぁー俺も俺も」
「もっと声出せよ」
「すげぇ、なんか監督気分、AVの」
「見して見して」
「けっこー興奮するなこれ」
「体位変えようぜ」

男の動きに合わせて、私の体が揺れる。
男の肩越しに見えるさゆの後ろ姿が、白くぼやけていく。

「あはは、こいつ泣いてるー」
「かわいそー」


119 名前:_ 投稿日:2008/02/29(金) 00:24





すべてが終わったあと、私は虚脱状態で天井を見つめていた。
背中に張り付く床は、相変わらずひんやりと冷たい。

どうしてこんなひどいことをされるのか分からなかった。
本当にさゆなのか。
本当に、さゆがやれって言ったのか。
この状況が信じられなくて、頭の中は盛大に混乱していた。


男共は帰ったようだ。
部屋の中は私とさゆの2人きり。
さゆはベッドの上に座って、真剣に携帯電話をいじっている。
ゲームの間抜けなBGMがピコピコ鳴っていた。

「さゆ‥‥」
乾ききった喉から声を絞り出す。
返事はない。
さゆは携帯のゲームに熱中している。


120 名前:_ 投稿日:2008/02/29(金) 00:25

具体的に何をされたかなんて、覚えていなかった。

下腹部がじんじんと痺れるように痛む。
汗がひいて肌が冷えていく。
口の中にも出されたのかもしれない。
喉の奥に、ねっとりした生臭さがこびりついている。


「‥‥さゆ‥‥」
私の声なんか聞こえてないみたいだ。
さゆは携帯の画面から視線さえ動かさない。

きっと私がいけないんだ。
何かさゆに嫌われるようなことしちゃったんだ。
ぶわっと涙がこみ上げてくる。

「ごめん、さゆぅ‥‥‥う、う、うええええん」
自分でも呆れるくらい、ガキみたいな声で私は泣いた。
無機質で無感情な部屋の空気が、私をいっそう惨めにさせる。


121 名前:_ 投稿日:2008/02/29(金) 00:25

ゲームのBGMが危機感を煽るメロディに変わった。
「あ、まずいっ‥‥」
座っていたさゆが前のめりになり、目を見開いて携帯の画面に顔を近づける。

「やだ、だめっ、あーーー待って待って待って、‥‥ちょ! あ! いやーーーっ!!!」
部屋の中に、さゆの悲鳴が響きわたる。

「あぁ〜もうっ! あと少しでハイスコアだったのに!」
さゆは怒ったようにそう言うと、携帯電話をベッドに投げつけた。


さゆの視線がゆっくりと私のほうへ向けられる。
「‥‥‥あれ、ひとみさん。 まだ寝てたんですか?」


122 名前:_ 投稿日:2008/02/29(金) 00:25

「やだなーもう、終わったらさっさと帰って下さいよ」
‥‥さゆ。

「そこにいられても困るんですけどー」
さゆ、どうして?

「もうあなたには用ないんで」
昨日、好きって言ってくれたのに。

「はー、うざーい」
さゆは大きくため息をつくと、蔑んだ目で私を見下ろした。


全部、嘘だったんだ。
‥‥そうだよね、さゆが私のことなんか好きになるわけないもんね。
私が1人で舞い上がってただけなんだ。
バカだな、あたし。 かっこ悪。

自分が恥ずかしくて、情けなくて惨めで、私は泣きながら笑った。
さゆも私を見て笑った。


123 名前:_ 投稿日:2008/02/29(金) 00:26

124 名前:_ 投稿日:2008/02/29(金) 00:26

125 名前:_ 投稿日:2008/02/29(金) 00:27
アイタタタタ
どうもすみませんでした。
あと2回で終わりです。
126 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/29(金) 00:50
うあああああああああああ
生きろおおおおおおおおおおおお
127 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/29(金) 04:46
今回は更新前の注意書きが必要でしたね。
128 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/29(金) 06:46
面白い!
けど読むのが怖い…しかし、気になる〜 嵌るぅ〜
129 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/29(金) 13:13
怖くなった…でも気になる…うわさゆ、マジ怖い…
なんか想像出来てリアルにさゆが怖い
130 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/29(金) 21:21
凄くショックで昨晩は殆ど眠ることが出来ませんでした。
131 名前:名無し1 投稿日:2008/02/29(金) 22:18
あわわ…これからどうなってしまうのでしょうか
見たいけど怖いそんな気持ちです。
132 名前:ななし 投稿日:2008/03/01(土) 00:44
期待して毎回見てます。
怖い…、さゆ一体どういう理由で…
133 名前:_ 投稿日:2008/03/01(土) 00:46

☆☆☆


134 名前:_ 投稿日:2008/03/01(土) 00:46

最高の気分だった。
ひとみさんは混乱した表情で私を見上げている。
うわごとのように私の名前を呼び続ける彼女の姿は、この上なく哀れだった。

4年間憎み続けた吉澤ひとみが、今、完全に私の手の中にあるのだ。

なんて気持ちいいんだろう。
ぞくぞくする。
もっともっと傷つけばいい。
私の姉と同じ分だけ、苦しめばいい。


135 名前:_ 投稿日:2008/03/01(土) 00:47

姉の梨華が自殺したのは、4年前、私が中3になったばかりの春だった。

原因は分からなかった。
心当たりといえば、死の数ヶ月前から少し帰りが遅くなったことくらいだろうか。
それでも夜9時前には必ず帰宅していたけど。
姉はもともと真面目な性格で、大学生になっても夜遊びなんか全くしない人だった。
私たち家族は、姉に友達がいないんじゃないかと心配したものだ。

帰りが遅くなったことは、むしろ喜ばしい変化だった。
世間知らずのまま社会に出るよりは、人並みに遊んでおいたほうがいい。
父も母もそういう考え方の人だったから、心配なんかしなかった。

それは、何の前触れもなく。
平和に暮らしていたはずの姉が、なぜ自ら死を選んだのか。
結局詳しいことは何も分からなくて、私たちはただ姉の死を悲しむことしかできなかった。


136 名前:_ 投稿日:2008/03/01(土) 00:47

ひとみさんは部屋の床に仰向けに倒れたまま、顔だけをわずかにこちらに向けている。
また目が合った。

「‥‥さゆ、なんで‥‥」
呟くような声がした。

私は腰掛けていたベッドから立ち上がり、ひとみさんの傍らにしゃがみ込む。
「知りたいですか?」
ひとみさんは唇を噛み締めて、涙をぽろぽろ流しながら頷いた。


137 名前:_ 投稿日:2008/03/01(土) 00:47

私が姉の遺書を見つけたのは、あれから1年後だった。
ベッドと壁の間に落ちて挟まっていたのだ。

私はそれを、何度も何度も読み返した。
姉を自殺にまで追い込んだ吉澤ひとみという人物に対して、激しい怒りが湧き上がった。
遺書を見つけたことは、両親には言わなかった。
内容を知っているのは私だけだ。

いつか絶対、私の手で吉澤ひとみに復讐してやる。
そう決意して、私はこの4年間ずっと、彼女に近づく機会を伺っていた。

私は吉澤ひとみのことを調べた。
彼女は優しい家族やたくさんの友人に囲まれ、それなりに男とも付き合い、大学生らしく
バイトやサークル活動に勤しみ、充実した生活を送っていた。
私の姉の人生を奪った張本人が、うらやましいほど人生を楽しんでいる。
彼女のことを知れば知るほど、憎しみは強くなった。

バイト先が絵里と同じだったのは、偶然なんかじゃない。
全ては計画通りだった。


そして今、私は心ゆくまで彼女を傷つけることができた。
目的を果たすことができたのだ。


138 名前:_ 投稿日:2008/03/01(土) 00:48

私は、部屋に飾られていた写真立てを手に取った。
大好きなお姉ちゃんの写真。
ひとみさんの顎を、優しく指で持ち上げる。

「この人、覚えてます?」

一瞬の静寂。
ひとみさんは怪訝そうに眉を寄せ、申し訳なさそうに首を振った。

「覚えて‥‥ない?」
「‥‥ごめん」
「ふざけないで! さゆみのお姉ちゃんはあんたのせいで死んだんだから」

ひとみさんが目を見開いた。

「お姉ちゃんは、ずっとひとみさんのことが好きだったんです」
「‥‥‥‥」
「まだ思い出せないんですか? 4年前、駅のホームで告白した石川梨華ですよ」
「え‥‥もしかして」

ひとみさんがはっとした表情になる。
目が泳ぎ、顔が青ざめる。

「あなたにフラれたせいで、お姉ちゃんは自殺したんです」


139 名前:_ 投稿日:2008/03/01(土) 00:48

「そ、そんな、まさか」
「そりゃそうですよね。 まさかそんなことで自殺なんかするとは思いませんよね」
「‥‥あの、ごめんあたしそんな傷つけるつもりじゃ」
「必死の想いで告白したお姉ちゃんに 『気持ち悪い』 とか吐き捨てて、貰った手紙は封も
 開けずにゴミ箱に捨てて、それでも傷つけるつもりじゃなかったなんて言えるんですか?」


お前のせいでお姉ちゃんは死んだんだ。
お前が殺したんだ。
それなのに、その顔すら記憶に残っていないほど、お前にとってはどうでもいい出来事
だったのか。 お姉ちゃんは死ぬほど苦しんだのに。

一気に憎しみのボルテージが上がる。
私は発作的に、ひとみさんの首をぎゅっと掴んだ。
彼女の肩が揺れる。
私の指に伝わる、生きた鼓動。

「うっ‥‥」
指が食い込んでいく。


140 名前:_ 投稿日:2008/03/01(土) 00:48

死ねばいい。
姉を殺し平然と生きてきたこの女を、私の手で消してやる。
死ね。 最後まで苦しんで死ね。

「ごめん、ごめん謝るから、‥‥っく‥‥」

「くるしいっ‥‥」

「‥‥ゆ‥‥ゆるし、て‥‥」

許すもんか。
姉の苦しみを、体で知るがいい。
私は無言で、ゆっくりと彼女の首を絞め上げる。

「あ‥‥うぐ‥‥」
抵抗される気配はなかった。
彼女はただ私の顔を見つめたまま。


141 名前:_ 投稿日:2008/03/01(土) 00:49

私はこの人を憎んでいた。
大好きな姉を殺した吉澤ひとみを、殺したいくらい憎んでいた。
近づいたのも、すべて計算のうちだった。

それなのに、いつの間にか。

私の言動に一喜一憂する彼女を、愛しく思ってしまう自分がいた。
いちいち照れたり焦ったり凹んだりする年上の彼女のことが、可愛くて仕方なかった。

違う、そうじゃない。 私はこいつを憎んでいる。
そうやって何度も自分に言い聞かせたけど、止められなくて。
認めたくなかっただけだ。
どんどん傾いていく自分の気持ちに、気づかないふりをしていた。

私は、ひとみさんのことが好きだった。


142 名前:_ 投稿日:2008/03/01(土) 00:49

「‥‥さゆ‥‥」
彼女が何か言おうとしている。

小刻みに震える腕を、私のほうへ伸ばしてくる。
白い手が私の頬に触れた。


はっとして、私は彼女の瞳を見つめ返す。
だめだ、こんなくだらない情にほだされちゃいけない。
だって私の最終目的は、こいつに復讐することなんだから。

憎しみを思い出せ。
こいつがお姉ちゃんを殺したんだ。
殺せ殺せ殺せ。


「く‥‥」
細い首を絞め上げる。
彼女の顔が、さらに苦しそうに歪む。

死ね。 早く死ね。
私の憎しみが消えないうちに。


143 名前:_ 投稿日:2008/03/01(土) 00:49

震える彼女の手が、愛しそうに私の頬を撫でた。
冷たい指から伝わる温かい感触。
心が揺れる。 憎悪が霞む。 溶ける。

「‥‥さ、ゆ‥‥すきだよ‥‥」
彼女はそう言って、かすかに笑った。

私は指に力を込めた。


彼女は静かに目を閉じる。
私の頬に触れていた手は、やがて糸が切れたようにくたっと床に滑り落ちた。
彼女の目尻から、涙がすうっとこめかみをつたい落ちていく。

時が止まり、音が止んだ。
すべてが、終わる。


144 名前:_ 投稿日:2008/03/01(土) 00:50

145 名前:_ 投稿日:2008/03/01(土) 00:50

146 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/01(土) 02:00
最後思わず叫んだ
いたたまれないです…
うーあー。さゆぅ…
147 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/01(土) 03:02
息が出来ないくらい緊張しながら読みました
うわ…さゆ…
148 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/01(土) 14:57
( ´ Д `)<yochikoooooooooooooooooooooo!!!!!!

どんな結末を迎えるのか気になります。
次回楽しみにしてます。
149 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/01(土) 15:01
実は次女のことはまだ何も解決していない…
最終的にどうなるのかすごく気になります。
150 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 00:55

★★★


151 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 00:55

どーもこんにちは、絵里でぇす。
あ、せっかくなんで簡単に自己紹介しますね。
東京生まれの東京育ち、山羊座AB型の19歳、趣味は四字熟語で特技は一輪車です。

家族構成はー、いわゆる核家族ってやつですね、現代社会の主流です。
ふつうに父と母、あと姉がいました。
あ、なんで過去形かってゆーとぉ、お姉ちゃんはこの前殺されちゃったからです。

ていうかお姉ちゃん殺したのって、絵里の友達なんですよねー。
さゆみっていう1つ年下の女の子で。
ま、友達って言えるのかどうか微妙ですけどね。

実は絵里、さゆのことずっと前から知ってたんですよ。
だからさゆが絵里のバイト先に来た時は、マジちょー焦りました。
結果的には、あっちから近づいてきてくれるなんてラッキーって感じでしたけど。


152 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 00:55

さゆには、梨華って名前のお姉ちゃんがいました。
見るからに女の子って感じで、か弱そうで、ピンクが大好きで、無駄にブリブリしてて
音痴なところまで、さゆにそっくりでした。

‥‥って、なんで絵里がそんなことまで知ってるのかって?
うへへへへ。
まぁいずれ教えてあげますけど、その前にちょこっとヒントあげますねヒント。

梨華とさゆみ、ひとみと絵里。
つまりは2組の姉妹がいたわけで。
色白で派手な顔立ちの、『ひとみ』 と 『さゆみ』。
色黒で幸の薄そうな地味顔の、『梨華』 と 『絵里』。

あれー? あれあれー?
この容姿や名前の共通点は、果たして偶然でしょうか?

えへっ。
ヒントのつもりだったんですけど、これじゃ答え言っちゃったようなもんですね。


153 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 00:56

# # #


154 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 00:56

  12月7日
今日は女子高の時の先輩、石川さんと会ってきた。
娘たち2人だけで留守番させるわけにはいかないので、一緒に公園に連れて行く。
石川さんも、娘を2人連れてきていた。
1年生の梨華ちゃんと、今月で3歳になる絵里ちゃん。
子供たち4人はすぐに仲良くなって、砂場や滑り台で一緒に遊んでいた。
公園のベンチで石川さんと4時間話し込んだ。
母親どうし話も盛り上がって、楽しかった。 高校時代に戻ったような気分だ。

  12月8日
今日も石川さんと会ってきた。
娘たちの世話を夫に頼んだら、夫はあからさまに面倒くさそうな顔をしていた。
日曜だろ。 お前の脳内には、家族サービスなんて欠片もないのか。
石川さんと1日中、家族のことを愚痴り合った。

  12月9日
今日は家事を早めに切り上げて、昼間に石川さんと会った。
彼女はためらいがちに言った。
「長女は可愛いんだけど、次女のことを可愛いと思えない」
同じだ。 私と全く同じ。
私は夢中になって、自分の今の心境を事細かに話した。
次女なんかいらない。 私には、長女がいればいい。


155 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 00:56

  12月10日
私はさゆみを愛せない。
石川さんは絵里ちゃんを愛せない。
それならこの際、次女同士をとっかえっこしちゃえばいい。
なんてね。

  12月11日
また石川さんに会った。
私が冗談めかして言った突拍子もない提案に、彼女は本気で乗ってきた。

  12月12日
そうだ、絶対にそのほうがいい。
どうせこの先も次女を愛せないなら、同じ状況の家の子と取り替えてしまえばいい。
自分の娘より、友達の娘のほうが愛せるかもしれない。
そのほうが、彼女たちにとっても幸せなはずだ。
幸い、子供たちはまだ幼い。 記憶などいくらでも塗り替えられる。
夫さえ説き伏せれば‥‥


156 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 00:56

# # #


157 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 00:58

絵里がお母さんの日記を見つけたのは、中3の2学期頃でした。
あ、正確には “お母さんだと思っていた人” ですね。

えーと、話せば長くなるんですけど。
絵里もいわゆる思春期で、男の子と同じようにエッチなことに興味津々だったんです。
で、友達とレディコミとか回し読みしたりするじゃないですか。
自分のとこに回ってくると、家に帰ってから、夢中になって読み漁ってました。

そうなると困るのが隠し場所です。
家の中でレディコミを隠せるような良い場所を探しまくりました。
で、色んな引き出しとか棚とかひっかき回してたら、偶然あの日記を見つけちゃったんです。


そりゃあショックでしたよ。
今まで家族として一緒に暮らしてきたのに、絵里だけ余所の家の子だったなんて。
お父さんもお母さんもお姉ちゃんも、誰1人、本当の家族じゃなかったなんて。

まぁそんな感じで最初は悲しかったんですけどね。
ほら、絵里ってわりと楽観的な性格なんで。
血なんか繋がってなくても、今が幸せならいいかなって思えるようになりました。

その代わり、本当のお姉ちゃんってどんな人だろう、って好奇心が湧いてきちゃいまして。
色々調べたんですよ。 『石川さん』 について。


158 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 00:58

学校が終わったあと、絵里は石川家の前でよく張り込んでました。

あー、あれが絵里の本当のお父さんとお母さんなんだ。
あれが本当の 『吉澤家の次女』 なんだ。
色白でほくろが多くて、なんとなくお姉ちゃん(だと思ってた人)に似てるかもな。
で、あれが絵里の本当のお姉ちゃんか。
色黒で実は根暗そうな所が絵里そっくりだなぁ。

なんて思いながら、1人1人を観察してました。
そしたら、ある日ついに見つかっちゃったんです、本当のお姉ちゃん、梨華さんに。

「あなた誰? 毎日ここに来て私の家見てるでしょ。 やめないと警察に通報するよ」

絵里は慌てて、思わず言っちゃいました。
「ち、違うんです、ただ、本当の家族がどんな人たちなのか見てみたくて」

梨華さんはぽかんと口を開けて、小さく呟きました。
「もしかして、絵里‥‥?」


159 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 00:59

梨華さんは何もかも覚えてました。

『絵里のことは忘れるのよ、今日からあなたの妹はさゆみだからね』
当時、親たちから暗示のように毎日言われていたそうです。
でも、梨華さんは絵里を忘れたりしなかった。

嬉しかったけど、ちょっとだけ心配になりました。
梨華さんが覚えてるってことは、うちのひとみ姉ちゃんも覚えてるかもしれない。

絵里はうちに帰って、お姉ちゃんにカマをかけてみたんです。
でも、お姉ちゃんは本当に何も覚えてないみたいでした。
変なとこで素直な人だから、両親の暗示にも簡単にかかっちゃったのかもしれません。


160 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 00:59

絵里は、ときどき梨華姉ちゃんと遊ぶようになりました。
もちろん家族には秘密です。
梨華姉ちゃんも、このことは誰にも言ってないみたいでした。
自分たちが会っていることが家族に知られたら、色々めんどくさいことになるだろうって
お互い分かってましたから。

梨華姉ちゃんは、真面目で石頭で世間知らずな人でした。
大学生にもなって、カラオケも行ったことがないって言うんです。
びっくりしません?
いまどきそんな人いるんだーって呆れちゃいましたよ。

絵里は梨華姉ちゃんを連れて、色んな所に遊びに行きました。
毎日すっごく楽しかったです。
一緒にいればいるほど、絵里は梨華姉ちゃんのことが大好きになっていきました。
美人で優しくて、いつも真面目で一生懸命で、本当に素敵な人だったんです。


161 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 00:59

恋バナもしましたよ。
どうやら梨華姉ちゃんは、よく電車で見かける人に恋してるみたいで。
絵里、どんな人なのか知りたくなったんで、ついて行ったんです。
梨華姉ちゃんが赤面しながら 「あの人」 と指差したのは、なんとひとみ姉ちゃんでした。

恋した相手が女の人で、しかも絵里のお姉ちゃん(仮)だったなんて。
絵里は興奮して、梨華姉ちゃんの恋を全力で応援しようと心に誓いました。
‥‥って言っても絵里ができるのは、梨華姉ちゃんが書いた手紙をうちのポストに入れる
ことくらいしか無くて。


絵里が高校に入学した頃だったかな。
なんかひとみ姉ちゃんもちょっと気味悪がってるみたいだし、もう直接告白しちゃえば、
って梨華姉ちゃんに言ってみたんです。

梨華姉ちゃんも納得して、じゃあ今度頑張って告白する、って。
その代わり絵里も近くで見守っててほしい、って。


だから、絵里は全部見てました。
勇気を振りしぼって顔を真っ赤にしながら告白した梨華姉ちゃんのことも、それを冷たく
はねつけたひとみ姉ちゃんのことも。


162 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 00:59

2日後、梨華姉ちゃんは電車に飛び込んで自殺しました。

絵里、しばらく放心状態でしたよ。
涙も出なかった。
何が起こったのか理解できませんでした。

ひとみ姉ちゃんは、なんで梨華姉ちゃんにあんなひどいことを言ったんだろう。
梨華姉ちゃんは、なんで絵里に何も言わずに死んじゃったんだろう。

そもそも絵里たちがとっかえっこされなければ、姉妹として梨華姉ちゃんとずっと一緒に
いられたはずなのに。
絵里がひとみ姉ちゃんと “姉妹” だったせいで、梨華姉ちゃんの恋に半端な協力をして
そのせいで梨華姉ちゃんは傷つけられて自殺しちゃった。

悪いのは、直接的に傷つけたひとみ姉ちゃんか。
それとも、誤解を生むような余計なことをしてしまった絵里なのか。
いや、親が絵里たちを取り替えなければ、こんなことにはならなかったかもしれない。

この気持ちを誰にぶつければいいのかも分かりませんでした。
悲しみとか怒りとか悔しさとか、色んな感情が頭の中をぐるぐる回ってるだけで。


163 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 01:00

何もかもやるせない気持ちのまま、絵里はうちに帰りました。
その時は、誰かを責める気なんてなかった。

絵里の好きなハンバーグの匂いがしました。
「ただいま」 って言ったら、キッチンから 「おかえり」 って声がして。
その日はひとみ姉ちゃんがいつもより早く帰ってて、夕食を作ってたんです。

絵里は泣きそうになりながら、なんとなく呟きました。
「あのね、昨日、近くの駅で女の人が飛び込み自殺したんだって」

お姉ちゃんは怪訝そうな顔をして、呆れたように言いました。

「飛び込み自殺って1番迷惑かかる死に方なんだよ。 電車止まっちゃうから。
 遺族が鉄道会社に、賠償金とか何千万も払わなきゃいけないんだって。
 他人に迷惑かけまくって、家族を悲しませた上に金まで払わせるなんてさ、
 最悪に親不孝な死に方だよ。 その人、親に恨みでもあったのかもね」


164 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 01:00

きっかけなんて、たいしたことじゃないんです。
明確な理由なんてない。
お姉ちゃんが言った言葉に悪意があったとも思えません。

でも、なぜかその瞬間。
今まで絵里の中にあったもやもやしたものが、はっきりとした形になりました。
全てのベクトルが揃っちゃったんです。 いちばん手近で単純な方向に。

許せない。 全部こいつが悪いんだ。
絵里の大好きな梨華姉ちゃんを傷つけたこいつが憎い。

行き場のない怒りとかやるせなさは、全て、ひとみ姉ちゃんへの憎しみに変わりました。


165 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 01:01

バイト先で初めてさゆと喋ったとき、ひとみさんに会いたいって何度も言われて、絵里は
確信したんです。
さゆは梨華姉ちゃんの自殺の理由を知っている。
だけど、自分たちが取り替えられたことはまだ知らない。

激しく憎悪に燃えるさゆの瞳を見て、絵里はにんまりしました。
面白そう。 こいつ使える。


166 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 01:01

ま、あとはご想像の通りです。

絵里はさゆを利用しました。
‥‥あ、利用したって言うと語弊がありますね。
だって全部さゆが勝手にやったことですし。

まぁ、色々と運が良かったんですよ。
絵里自身はまったく手を下さずに、ひとみ姉ちゃんに復讐することができたんです。

さゆもバカですよねー。
何にも知らずに実のお姉ちゃんを殺しちゃったんだから。
あはは、マジ笑える。
実の妹に恋しちゃったひとみ姉ちゃんのほうがもっとバカですけどね。

血の繋がりを知らないまま育った兄弟姉妹が出逢うと、お互い強く魅かれ合うんだとか。
‥‥あ、もしかしたら、ですけど。
さゆもお姉ちゃんに、憎しみ以外の特別な感情があったのかもしれません。
そうだとしたらもっと面白いですね。 うひひ。


167 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 01:01

そうそう、絵里、現場行ったんですよ。
あの日さゆの家に行ったら、お姉ちゃんが倒れてたんです。

行ったのはまったくの偶然ですよ、偶然。
この前借りたCD返しに行かなきゃー、とかそんな理由です。
虫の知らせってやつですかね。


絵里が行った時、お姉ちゃんはすでに冷たくなってました。
半分裸みたいな格好だったし、部屋の中もびみょーに生臭いし、何が起こったのか
なんとなく分かりました。

ああ、ひとみ姉ちゃんは苦しんで死んだんだ。
さゆが殺してくれたんだ。
‥‥全部、絵里の望み通り。
絵里はにやにやが止まりませんでした。


168 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 01:02

さゆは床にぺたんと座り込んで、放心状態でお姉ちゃんを見つめていました。

絵里はさゆに近づいて、こっそり耳打ちしてあげたんです。
さゆの本当のお姉ちゃんは梨華さんじゃなくてひとみさんだったんだよ、って。
ちゃんと聞こえてたのかどうか分かりませんけどね。


そのままにしておくのもアレなんで、絵里が110番してあげました。
警察って電話したらほんとに来るんですね。
ドラマみたいで興奮しましたよ。 現行犯逮捕とか初めて見ちゃったー。


169 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 01:02





あ、さっきからお母さんが呼んでるんで、絵里もう行きますね。

今日、ひとみ姉ちゃんのお葬式なんです。
うへへ、大丈夫ですよ。 絵里、嘘泣きは得意なんで。

火葬されるとき、棺にお母さんの日記を入れてあげようと思います。
我ながらナイスアイディア。
あの世で読んだら、お姉ちゃんびっくりするだろうな。


じゃ、行ってきますね。
つまんない長話しちゃってすみませんでした。

梨華姉ちゃんが天国でひとみ姉ちゃんと結ばれますよーに。
なんつって。


170 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 01:02



171 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 01:03

.       ノハヽo∈
       (・ 。.・*从                         o
    ,, ,,==∪=∪=、 ====、                ○
    ||^|| __∪∪_||\__||\                。       ○
    ||□| ̄ ̄ ̄ ̄.||\\ \\           O               しゃぼん玉 消えた
    ||□|      || ||\\  ∞ノハヽ    。 ゜ o   ;'⌒ヽ
    ||□|  ...゙゙   || ||  \\ノノ*^ー^).y== o O 。    ヽ__ノ  O        飛ばずに 消えた
    ||□|      || ||   \\∩∩)、          o
 、、,  ||□| ''''    || ||  ....  \\ \\.      ゜       ; "⌒ ヽ
    ||□|  ....   || ||      \\ \\      ○     !    i
   ⌒⌒⌒     ⌒⌒  "" ::::  \|  \|.           ヽ、_,ノ   生まれて すぐに
 ::::    """  、、,,           ̄ ̄ ̄
     ...         ∋oノハヽo∈          ,,,,                壊れて 消えた
           ::::    (0´〜`)     """           ...
 ,,,   ""    ,-,=======/ つ ∪============┐
         //.::,,:: :::::''::: しγ.::⌒:ヽ、:::::::'':::::::"::::,,::| |
   :::    //.::::::::"::::: ::,,::::ノ.: : :: 〜*ノハヽ*〜:::::| |     ""          風々 吹くな
       //.:::::,,:: ::::: ::''.::ノ:: : :: ● :: (^▽^ )::::'':::| |
  、、,,,  //.::''::::::::::,,:::''::: "":::"::''::''<==⊂ ⊂ )::"::,,:| |       :::           しゃぼん玉 飛ばそ
     //.:::,,:::::"":::::::,,::::''::: :::,,::: :::,,::: ::::(_(_つ:::: ::::| |  ,,,
    //.::: ::::::,,:::::::::'':::::: :::::::,,:::::::::: :::::::""::::::: :::,,::::::'':::| |
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       ....       ゙゙      、、,          ::::        ...
172 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 01:04



173 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 01:04

174 名前:_ 投稿日:2008/03/02(日) 01:05

終わりです。

レス返しもしていなかったのに、レスを下さった方々、
どうもありがとうございました。
嬉しかったです。 励みになりました。

途中、際どい表現というか鬱な展開があったかと思います。
嫌な気持ちになってしまった方々には、
从*・ 。.・)<ほんとに申し訳ない気持ちでいっぱいです
注意書きをするべきかどうか悩みましたが、
まぁその辺は底辺で更新してる時点で察してくらしゃい

お付き合い頂きありがとうございました。
それではまた。


175 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/02(日) 01:11
くはー!
作者さんすげーー!
176 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/02(日) 01:53
久々に胸糞悪い話読んだわ
177 名前:名無しの女性 投稿日:2008/03/02(日) 02:12
130にレスした者です。

非常に面白かったです。
毎回、更新が楽しみでした。

怖い話だということは普通に感じてましたし、
誰かと誰かが交換されてることは予想できていましたが、
強姦されてしまう部分は全く予想せずに読んでしまったので
酷くショックでした。
何もされていないのに吐き気がし痛みも感じました。
気持ち悪くなりました。
その後は立ち直るために読んでいました。

私個人としては注意書きとはいかなくても、
やはり仄めかしてほしかったです。
178 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/02(日) 02:16
脱帽。
すごい。
この二言のみです。
179 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/02(日) 02:23
お疲れさまでした。
母親の日記と所々にほのめかされる伏線が不気味で、毎回ドキドキしながら読んでました。
結末は薄々予想していた部分もありましたが、それでも身震いがするほど怖かったです。
読み終わったあとはため息が出ました。面白かったです。

あと、出しゃばって申し訳ないんですが。

>>176さん
そう感じることは個人の勝手で、書き込むべきではないと思いますよ。

>>177さん
底辺だからそんなに影響ないとは思いますが、ネタバレには気を付けてください。

スレ汚しすみませんでした。
180 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/02(日) 05:11
すげー胸糞悪くてこんな作品を生み出した作者を恨みたいけど
やっぱあんた天才だー
181 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/02(日) 05:16
全部えりの脚本通りでしたね…
もしかして、って思ったこともありましたが
まさかこんな物語があるとは…
作者さん、本当にありがとございます、本当に面白かったです。
182 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/02(日) 13:26
日記の日付にもちゃんと意味があったんですね。お見事です。

姉達の純粋な恋心にも、妹達の激しい愛憎にも、酔わされました。
毎日更新を待つのが楽しかったです。ありがとうございました。
183 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/03(月) 01:31
>>179
感じたことを書いて何が悪いのかわかりませんけどw
184 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/03(月) 04:48
>>179
ほんと、でしゃばりですね。
あなたのスレではないのでそこは作者さんのコメント待ちでは?
185 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/03(月) 04:59
>>184
小説の感想も書かずに、一読者にレスしている貴方のほうが出しゃばってるし非常識ですよ。

という私のレスも非常識なので、あとで削除してもらえれば幸いです。
186 名前:しゃら 投稿日:2008/03/03(月) 05:32
>>175
わーい! ありがとうございます!

>>176
最高の褒め言葉です。 ありがとう。

>>177
不快な気分にさせてしまって申し訳ありませんでした。
仄めかすというのは文中で、ということでしょうか?
残念ながら私には、そういうことを予感させるというかぼかす表現が
できるほど文才がありませんでした。 本当すみません。
面白かったと言っていただけて嬉しいです。 ありがとうございました。

>>178
こちらこそ、こんな作品を最後まで読んでいただけて感謝の気持ちで
いっぱいです。 ありがとうございました。

>>179
うわー、結末はやっぱりある程度バレてたんですね。
でも身震いしてもらえて良かったです。
>>176さんと>>177さんのレスについては私まったく気にしてませんので
大丈夫です。 お気遣いありがとうございました。
187 名前:しゃら 投稿日:2008/03/03(月) 05:32
>>180
いやはや恐縮です。 褒め殺しありがとうございます。

>>181
個人的には、亀井さんは黒ければ黒いほど魅力的だと思っています。
楽しんでいただけて嬉しいです。 ありがとうございました。

>>182
おぉっ、目の付け所が細かいですね!
亀井さんと道重さんが同じ年齢になるのは7月から12月までの間だけ
なので、日記の辻褄が合うように日付を設定しました。
細部まで読んで下さってありがとうございました。

>>183
まぁどんなレスであれ感想は感想なので。 ありがとうございました。

>>184-185
私のために争わないで!
えらそうにまとめますが、お互い様ってことでOKですかね?
こんな胸くそ悪い小説を書いた私が全て悪いです。
お気遣いありがとうございました。
188 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/04(火) 01:43
作者様

どうも腑に落ちないので以下に書きました。
ttp://m-seek.on.arena.ne.jp/cgi-bin/test/read.cgi/imp/1027587387/635n
189 名前:しゃら 投稿日:2008/03/04(火) 04:00
>>188
ご意見ありがとうございます。
なんか恥ずかしいのでこちらでレスしますね。

>「文才がない」と理由を述べられてもどうも腑に落ちません。
その理由がふさわしくないなら、単に 「読者への配慮が足りなかった」 のが
理由でしょうね。 不親切で申し訳ありませんでした。

>描く部分と描かないで読者に想像させる部分を使い分ける、、、
>作品を読んでる限りではこのようなことは得意な方だと思います。
えーと、それは私を買いかぶりすぎです。
話の展開やオチを“描かずに想像させること”に関しては人並みに頑張って
いますが、具体的な情景描写に関しては、曖昧でぼかした表現をすることが
私は非常に苦手なので。
情景を読者に伝えようとしたら、直接的な描写しかできません。
おそらく私は想像力や語彙が貧困なんだと思います。 ごめんなさい。

書いてたら長くなっちゃったので次レスに続きます。
190 名前:しゃら 投稿日:2008/03/04(火) 04:01

あのシーンをわりと生々しく書いたのは、話の都合上、登場人物をなるべく
傷つけなければいけなかったからです。
そのためには、直接的な描写と悪意に満ちた台詞が必要でした。

「読者の気持ちを尊重する」 ことと、「自分の書きたいことを書く」 ことを天秤
に掛けたら、後者を優先しようと思いました。
すべての人に好かれる小説を書こうとは思っていませんし、批判があるのも
重々承知の上です。
それでもやはり多くの人の目に触れるべき小説ではないと感じたので、スレ
を底辺に落として更新することにしました。

注意書きをしなかったのも、事前に読者に覚悟されてしまうと残酷さが薄れる
かもしれないと考えたからです。
つまり読者さんには、あえてショックを受けてほしかったわけで。
性格が悪くてすみません。
このようなご意見が出るということは、私の判断ミスだったんでしょうね。

>それでも『文才がなくて出来なかった』とおっしゃるのなら、やはり注意書き
>をするべきだったと思います。
おっしゃる通りです。 配慮が足りず申し訳ありませんでした。

というわけで、長くなってしまいましたが必死の言い訳です。
あとネタバレ云々に関しては、底辺スレだし特に影響ないと思うので、あまり
気にしないで下さいね。
ご意見どうもありがとうございました。
191 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/04(火) 10:30
作者さんよ
粘着は気にしないで次回作を頼むよ
推しメンは出てないけど近年で一番読み応えあったぜ
192 名前:しゃら 投稿日:2008/03/05(水) 06:24
>>191
感じ方は人それぞれなので粘着だなんて思っていませんが、
お気遣いありがとうございました。

>近年で一番読み応えあったぜ
>近年で一番読み応えあったぜ
>近年で一番読み応えあったぜ

ひゃーーー! もっと言ってもっと言って!!!
もったいないお言葉ありがとうございます。
次回作はいつになるか分かりませんが、森板の自スレで細々
続けていければ、と思っています。
193 名前:しゃら 投稿日:2008/03/05(水) 07:12
案内板感想スレの>>638-639さんへ

私が言いたかったことは上記の>>189-190で全てですが、
投げっぱなしになるのもあれだし、とりあえず何かリアクション
しなきゃと思ったのでやっぱり書きます。

私が書いた文章のせいで体調を崩されたと伺いました。
なんだか妙な罪悪感が湧き上がってきますが、だからと言って
私が謝るのも変ですね。

これを言っちゃおしまいだと分かってはいますが、
たかが2次小説です。
さくっと読んで、さらっと流して下さい。

もちろん読んで頂けるのは嬉しいことですし、展開に一喜一憂
して頂ければもっと嬉しいです。
でも、体調を崩すほど感情移入するべきものではないですよね。
あくまで娯楽として楽しんでいただければ幸いです。
お体、お大事になさって下さい。
194 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/06(木) 11:43
毎回あっちこっちの読んで楽しませてもらってますw
よっすぃ〜が好きだからボロカスになるの普通なら苦手なんですけど
作者さんのはなぜかサラっと読めちゃうので好きです
純粋と紙一重に黒いとかうまいこと書くなぁと感心して見させてもらいました
また何か浮かんだら何も気にせずドロドロに書いてください
あまり普段レスなどしないので、コソコソ楽しみにしてます
195 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/06(木) 14:00
これがオリジナル小説だったら
こういう小説だったんだなあで流せるのかもしれませんが
実在の人物を使った2次小説なのだから
だからこそ感情移入してしまう人だっていると思うのですよ
書きたいものがあるのを邪魔するつもりもありませんけど
2次小説を書いているからこそ気を遣うべきところもあるのではないかと

底だから、とか、オチスレだから、とかは専ブラ使ってると気づかなかったりしますし
察しろといわれてもエスパーじゃないんだからどんな道が待ってるかなんて
わかつわけないじゃないですか

たかが2次小説、されど2次小説
小説ごっこを楽しみたいんだったら飼育じゃなくて
オリジナルのキャラ使って自分のサイトで書けばいいのになあと思います
196 名前:しゃら 投稿日:2008/03/06(木) 20:40
>>194
おお、別スレも読んで下さってるんですね。 ありがとうございます。
正直言うと、私は爽やかな話よりひねくれた話を書くほうが好きなので、
そう言っていただけるとありがたいです。
もちろんレスは無いよりあったほうが嬉しいですが、読んでもらえるだけで
十分ですよね。 ‥‥嘘です。 レスくれ。


>>195
私自身、配慮が足りなかったと思う部分については、>>189-190
すでに謝罪しました。

>小説ごっこを楽しみたいんだったら飼育じゃなくて
>オリジナルのキャラ使って自分のサイトで書けばいいのになあと思います

それは娘。小説というジャンル自体を否定してますよね。
では、なぜこの界隈にいらっしゃるんですか?
あなたこそ、飼育なんかにいないでオリジナル小説を読めばいいのになあ
と思います。
197 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/06(木) 22:21
例の箇所については、逆に作者さんはかなりソフトに書いてくれてると思います。
実際の恐怖とか生々しさははこんなもんじゃないのでね。
ということでさらっと読めました。
やー、面白かった。
198 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/13(木) 17:41
今頃見つけたw一気に読んじゃいました。
こう言った物語にさゆと絵里を使っちゃう作者さんは凄いの一言です。
199 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/14(金) 21:12
こんな検索かければ誰でも読める環境に掲載させるんじゃなく、自分のサイトに完璧にロボよけさせてそっちに書くべきだったと思うよ
200 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/12(土) 23:14
素晴らしいの一言。
なんで叩かれてるのか意味が分からない。
作者さんには次回作を書いて欲しいくらいです。
201 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/13(日) 23:35
>>1を読んで悲しい話なんだろなぁーとは思いましたが、想像以上に救われない話で感銘を受けました。次回作期待してます。
202 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/14(月) 01:19
(0`〜´)<んもう!
203 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/01(木) 09:18
>>181です
今日もう一回読みました、やっぱりすばらしいですね
ストーリを知ってるのにドキドキしちゃいます、作者さん凄い!
204 名前:value 投稿日:2008/05/02(金) 01:14
作者さんチャイコーなお話でしたよ♪
個人的に楽しませて頂きました。
ストーリーが二転三転して行くのが素晴らしかったです。

よっしーは大好きですが、いしよしも大好きですが、今回は作者さんのセンスに脱帽です(´∀`)

次回作楽しみにしてます(^Q^)/^
205 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/02(日) 14:05
これを読んで本気で死にたいと思いました。

面白いから、つい読んでしまいましたけど・・・。
私が鬱気味だっだというのもあるのでしょうけど、
とても残酷で気持ち悪かったです。
表現と文体が淡白すぎて、レイプもそうですけど、
必要以上に想像してしまいます。
淡白なことで、より現実味が増します。

本気で死にたいと思い狂いました。辛かった。
私よりも辛かった人が生きているのかどうか、
心配です。
206 名前:しゃら 投稿日:2009/01/31(土) 15:17
>>197
お気遣いありがとうございます。
長々と描写するのも嫌だったので最低限まで削りましたが、
どっちにしろ不快な描写には変わりないですねw
面白いと言っていただけて嬉しいです。

>>198
ありがとうございます。
ちなみに私はリアルでも亀井さんは腹黒い子だと思いますし、
道重さんは陰険な子だと思っています。

>>199
ええ、すみません、このスレは削除していただくつもりです。

>>200-201
身に余るお褒めの言葉、たいへん光栄でございます。
本当にありがとうございました。
次回作はあるとしたらサイトで書く予定です。

>>202
さんきゅー!
207 名前:しゃら 投稿日:2009/01/31(土) 15:17
>>203
2度も読んで下さるなんて本当に嬉しいです、ありがとう。
創作の励みになります。

>>204
なんかすみません、ハロメンをこんな目に合わせちゃって。
個人的にはどんでん返しが大好きなので、
これからも作品を書くとしたらそんな感じになると思います。
チャイコーとまで言って下さってありがとうございます。

>>205
どうか現実と創作を混同なさらぬよう。


今までレスを下さった方々、どうもありがとうございました。
このスレは削除依頼を出す予定ですが、
娘。小説自体は自サイトでひっそり続けていくつもりです。
ttp://space.geocities.jp/shal_and_do/
それではばいちゃ!
208 名前:Lyday 投稿日:2012/03/18(日) 05:53
dusty
209 名前:名無し読者。 投稿日:2012/03/27(火) 00:17
ageるな危険
メンが男にレ○プされている描写あり

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