LOVE & PEACE
1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/28(金) 15:41

よろしくお願いします


2 名前:LOVE & PEACE 投稿日:2007/09/28(金) 15:42

 ─── 好き、になるのって、
       ホント、なんでなのかな?───



出逢ったばかりの頃、
惜しげもなく、その外見と同じの女の子っぽさ全開にして、
事あるごとに泣いてばかりいるキミをほっとけなかった

キャラを掴んで、日ごと輝きを増すキミから目が離せなかった

いつでも不器用なまでに、筋を通そうとする生真面目さとか、
そのピンクな風貌とは裏腹に、職人気質といっても良いほどの
仕事への向き合い方とか尊敬できた

 
 
 ───だけど、どれも違って、そんなんじゃないんだよ

3 名前:LOVE & PEACE 投稿日:2007/09/28(金) 15:43

撮りが押して、二人帰ろうとしたのは遅い時間
梨華ちゃんは興奮したように、まだほんのり頬を上気させたままの
笑顔には締りがない

「もぅさぁ〜、よっすぃはさぁ〜」
「なーによ」

私も、なんだろう、ニヤニヤが止まんないんだけど、ね

「なんでさ〜ぁ、あーゆーの、急にするかなぁ?」
「ああゆうのって?」

ちょっと顔を覗き込むように聞くと、むぅって唇が尖って
それでも、目は微笑んだまま
それに気を良くして、私は被せるように言う

「なんでよー、フツーじゃん、フツー
 私がぁ梨華ちゃんの肩抱くなんてー、フツーでしょ?
 それよりもー、なんであんな驚いちゃうわけ?」

梨華ちゃんのほっぺたの赤味が、また、強くなった気がする
4 名前:LOVE & PEACE 投稿日:2007/09/28(金) 15:44

なんで、そんな照れちゃったの?
カメラ回ってる前じゃ久々だったから?
コントじゃないから?
アドリブだったから?

そんな赤くなられたら、こっちも照れるんですけど…

すっごい笑顔だったでしょ?
カメラチェクしなくたってわかったよ

すごく楽しそうに笑ってる気配を肩越しに感じて、
私もやたら気分が高揚して顔が崩れた

そりゃ、笑顔のつもりだけどね、思いっきり笑顔

梨華ちゃんは、いつでも私の意図するところを読んで
合わせてくれる、そういうトコ勘がいい
気持ちいいんだ、梨華ちゃんの隣りは、さ
5 名前:LOVE & PEACE 投稿日:2007/09/28(金) 15:45

「…だってさ〜ぁ、
 なんかぁ〜、照れちゃったんだもん!
 よっすぃ、あんなことするって思ってなかったから、
 こーねぇ、心臓がぁ、すっごいドキッてしちゃってね…」
「そっかー、ときめいたのかー」

作戦成功! なんつって、ウソウソ
ホントはただ、ああしたかっただけ

自分の胸に手を当てて、上目遣いで私を見てる梨華ちゃん

あー、この顔、昔よく見たなぁ
私の気持ち、探ろうとしてるでしょ?
仕事の勘はいいクセに、こういうトコ、ピンとこないのも
変わんないよね
6 名前:LOVE & PEACE 投稿日:2007/09/28(金) 15:45

「なによぉ、そのヤらしい笑い方は〜」
「ヤらしいって、失礼だなー
 つーかぁ、梨華ちゃん、今日テンション異様に高かったもんな
 OnlyYouの時も、なんか自分笑いしてたしー」
「や、あれはぁ…あれはなんかぁ、よっすぃが笑ってたからさぁ
 つい、あたしもつられて〜
 なぁんかぁ、あそこからくるったよね、うん、そうそう」
「はは、何一人で納得してんだよ、
 私の、ただ泣きたくなるの、の時はおとなしかったじゃん」
「だって〜、良かったもん、聴き入っちゃったよ
 よっすぃ、男の人の歌ばっかだったじゃない?
 けどさ、女の人の歌いいよね、しっとりしててね
 聴いてて、こう、切ないくらいだったよ!」

あたしの事も褒めてってカンジで、私を見上げてくるけど
それは無理、自分笑いする人の歌は褒められません
なんつって、ウソウソ、
可愛かったよ、うん、
やっぱ、梨華ちゃんの楽しそうな笑顔は最高だよ
見てるとこっちまで、笑顔にさせられるんだ

上手く歌おうとかじゃなくて、ハートで歌ってるってわかるからね
まさに、LOVE & PEACE に溢れてる
7 名前:LOVE & PEACE 投稿日:2007/09/28(金) 15:46

私は確かに男の歌、歌うことが多かった

けど、それも結構感情移入出来るって言うか、
結局、人を想う気持ちって、男とか女とか以前に共通出来るトコ
あんだなって思うし、

前に、ラブ・ストーリーは突然に、を歌った時とか、
ホント、唐突に梨華ちゃんのことが頭に浮かんじゃってさ、

歌詞だけ見てる時は、そんなふうに思わなかったのに、いざ歌うと
ホント、鳥肌立ちそうだった

それに、あの日、歌わなかった部分も、
ズシリって胸にきて、なんだか泣きたくなるんだ

そう、そうなんだよって、心ん中で相槌打ちまくってて、

私の歌を褒めてくれる梨華ちゃんは、
まさかこんなこと想いながら歌ってるって、夢にも思っちゃ
いないんだろうけどさ、

だけど、なんか自分でも変だなって思うけど、
ほかの誰に思われるよりも、梨華ちゃんにだけは可愛いって
思われるのが、恥ずかしすぎて耐えられそうにもないから、
絶対に言ったりしないんだけどね
8 名前:LOVE & PEACE 投稿日:2007/09/28(金) 15:47

「梨華ちゃんの歌は、すげぇ、LOVE & PEACEでした、まる」

そう言うと、私を見上げてた顔が、一瞬、キョトンとして、
それからまた、笑顔になる

「なぁに、それ、フフッ、まーいーや、うん、
 やっぱり、ハッピーじゃなきゃね、うんうん」

また一人で、うんうん頷いてたかと思ったら、
ふいに、フワッと、私の腕に自分の腕を絡めてくる

なんだよ、
カメラ回ってなきゃ、自分からそおいうコトしてくるクセに、

ちょっと、ドキッとしちゃったじゃんか、
んなことくらいで、いまさらときめいてんじゃねーよって、
自分ツッコミ入れてると、歌ってた時よりも甘い声がする

「あ〜〜、お腹すいたなぁ、ねぇ、ひーちゃん?」
「ん?なんか食べたいもんあんの?どっかで食べてく?」
9 名前:LOVE & PEACE 投稿日:2007/09/28(金) 15:48

ん〜〜、
と、見上げてくる目線に、得意のピンクを甘く混ぜて
梨華ちゃんは微笑みを残したままの表情で言う

「…なんかさぁ?おうちでご飯がいいよね?」
「なーに?作ってくれんのぉ?」

まったく期待しないで、冷かすように聞くと、
それはさぁ、えぇとぉ、とかなんとか、言葉を濁してる

わかってたけどね、こうなるってコト

「…簡単なモンしか出来ないよ?」
「やったーーー♪」

私と組んでいる腕にギュッと力を入れて、
喜びを顔中どころか、体中に広げていくような梨華ちゃん
敵わないんだよねぇ、私、この人のこういうトコには、
10 名前:LOVE & PEACE 投稿日:2007/09/28(金) 15:49


キミを見てると、いつも胸が、


二人の前には、まだまだ扉がたくさんあって、
今まで開けることを躊躇っていた、すごく重いものもあって、

この扉は、
どんなふうに開いていくんだろう?
それともずっと、
閉じたままなんだろうか?

そんなふうに思ってきたけど、

ずっと、叶いたい願いは扉の向こうにあるから、
キミのお得意のLOVE & PEACEを胸に抱いて、
扉をあけていきたい、

11 名前:LOVE & PEACE 投稿日:2007/09/28(金) 15:50

とりあえず、
今晩は、お腹をすかせたキミのために、

この想いを、あたたかい湯気を上げるぬくもりにしてあげるよ




12 名前:LOVE & PEACE 投稿日:2007/09/28(金) 15:51


       ===== お終い =====









13 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/28(金) 15:53

ラブラブチェリーに溶かされて、自分の脳内だけでは処理しきれずに
スレ立てしてしまいました
お目に留めて下さる方がいらっしゃれば、お付き合いお願いします

14 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/28(金) 23:10
これは続くの? って言うか続け!!

ホント最近のいしよしは熱いですね。楽しみにしてます。
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/29(土) 03:28
こんなの待ってた!良かった!BQ!
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/29(土) 12:36
イイ(・∀・)
これからもよろしくお願いします。
17 名前:50/50 投稿日:2007/10/04(木) 00:36


 ─── よっすぃは誰が好き?



            石川梨華ちゃん ───




昔のあたしとよっすぃの声が耳のずっと奥で、した

…なんで、こんなの思い出しちゃうんだろう?
そんなふうに頭の片隅で思いながら、
あぁ、あの時と心臓が同じ音をたててたからだって、わかった

これで止まっちゃうんじゃないかってくらい、
どくんって大きくひとつ鳴って、
その後、小さなドキドキがなかなか収まらなかった

一瞬の驚きの後には、
大きな喜びに飲みこまれてしまいそうな気持ちが、
ただ恥ずかしくて、顔が閉まりなく緩んでいった
ああいうの、照れ笑いって言うのかな?
18 名前:50/50 投稿日:2007/10/04(木) 00:37

「て言うか、あんた知ってたの?」

目の前のケメちゃんの口許が、グラスから離れて
ゆっくり確認するように動いた

「…台本になかったわよねぇ?」

肩を抱き寄せる仕草をして見せて、
ケメちゃんはちょっとおどけた表情になった

そう言えばあの撮影があった日も…
ケメちゃんは、何か言いたそうにニタッと笑って
あたし達を見てたけど、結局何も言わないで帰っちゃったんだっけ

あ〜ぁ、今晩、ケメちゃんちで飲もうよ、
なんて言いださなきゃ良かった

あたしはキッチンにいるよっすぃをチラリと見た

あの日も、よっすぃのおうちでご飯を作って
もらってたんだよね
19 名前:50/50 投稿日:2007/10/04(木) 00:37

最後のひとくちを口に入れて、モゴモゴしてるあたしを見ながら
よっすぃが「なーんかぁ、私ばっかり作ってる気がするよねぇ」
ズルくねぇ、なんて言って、ニヤニヤするもんだから

もちろん本気じゃないってわかってたんだけど、
ちょっと悔しかったからさぁ、あたしはこう言ったんだ

「えぇ、じゃあさぁ、今度はさぁ、うちにおいでよ」
「つーかぁ、梨華ちゃんち行ったってー、今度は片付け係じゃん?」
「……」

あのね〜、別にね、あたしはね、
お掃除して欲しいなんて、お願いしたこと一回もないんだけどなぁ
そりゃぁ、お片づけしてなかったあたしが悪いんだけどさぁ
よっすぃだから、いいよねって、甘えてたとこあるし
20 名前:50/50 投稿日:2007/10/04(木) 00:38

あたしが無言でジトッと見上げたら、調子に乗ったよっすぃは、

そもそもさぁ、
そんな見た目しといて女らしーことなんも出来ないってサギじゃねぇ
サギサギ、とかって

小学生が囃し立てるみたいに、あたしにヤイヤイ言い出した
ほぉんと、子供っぽいんだから、そう思ってね、

あたしは、無言で立ち上がると、空いたお皿を重ねて
キッチンへ運んで、蛇口を捻った

ザァーと流れ出た水にスポンジを浸して、液体洗剤を落とすと
よっすぃが椅子から立ち上がる音がして、近づいてくる気配がした

それでも、あたしが振り返らないで、お皿を洗い出すと、
ふいに伸びてきた長い腕が、後ろから、腰の辺りに巻きついてきた

「もー、拗ねないでよぉ、わかってんでしょ?
 ジョーダンなんだからさー」

わかってるけどさぁ、そんなの、
口には出さないで、唇を尖らせて見せた

「ねー、梨華ちゃんはー、そのまんまでいんだからぁ」
21 名前:50/50 投稿日:2007/10/04(木) 00:38

よっすぃの声に、ちょっと幼いような必死さみたいなものが
紛れてて、あたしは、クスリと笑ってしまった

かわいいなぁ、よっすぃって、
すごくかわいくって、本当に優しい子なんだよね


いつでもこうやって慰めてくれてたよね

あたしがネガティブ全開で、イジけたり、落ち込んだり
失敗したことに自分が許せなくて泣いたりしていると
こうして、背中から抱きしめるように腕を回して、

梨華ちゃんは悪くないよ
梨華ちゃんは頑張ってるよ
梨華ちゃんのこと、私はわかってるから

私は、いつでも梨華ちゃんの味方だよ───


そう言ってくれてた、
口に出さなくっても、あたしにくれるその温もりで伝えてくれてた
22 名前:50/50 投稿日:2007/10/04(木) 00:39

本当は、わかってるの、いつだって、どんな時だって、
このままのあたしで、そのままでいいよって受け止めてくれる人
そんな人って、よっすぃしかいないって


「あ、笑ってんな?」

よっすぃも声に笑いを滲ませて、クスクス笑う、あたしの顔を
覗き込もうとする
その顔を避けるように、反対側を向くと、また逆から追いかけてくる

「顔、見せなよー」
「や〜よ」

よっすぃと二人でいる時、
時々ね、こうしてじゃれてる時、
あたし達って、なんかぁ、恋人みたいって思ったりするんだ
そんなふうに思うのっておかしいかな?

「梨華ちゃーん」

あんまり情けない声で名前を呼ぶから、
堪えきれない笑い顔のまま、声のする方に首を回したら、
驚くほど近くに、よっすぃの顔があって、
23 名前:50/50 投稿日:2007/10/04(木) 00:39


 ───あぁ、なんてキレイ顔、


もう七年もの間、近くで見てきた顔

それなのに、時々、いまこの瞬間に一目惚れしちゃったみたいに
よっすぃの顔から目が離せなくなるのは、なんでなの?

それがわからないから、あたしは戸惑っちゃうんだ、
そして、持て余しちゃうの、
ふいに訪れるから、こういうときめき、は


昔っから、
よっすぃを想う気持ちって、恋と似てるって自覚はあった
だけど、最初はそれが楽しかった
スキスキって簡単に口に出しちゃって、
あたしのよって堂々と腕を組んだ

胸が痛むことなんてなかった、なんだか誇らしいような気持ちで、
だけど、今は…
24 名前:50/50 投稿日:2007/10/04(木) 00:40

その、こうして近くで見ると、透き通るほど光彩の純度が高い瞳が、
あたしのことを、息を潜めるようにじっと見てて、

その瞳はまるで、あたしのこと捕まえようとしてるみたいで、
だから思わず、口に出しそうになるから、


……だぁいすきよ、

言葉で表すことをしたのなら、たったそれだけの、気持ち

家族とか、昔からの友達、メンバーに柴ちゃん、
それと同じなら、あっけらかんと伝えられるはずなのに…

いまのあたしの唇から、その言葉が出てしまったとしたら、
ふたりの間では、違う響きを持ってしまいそうで、


それはまるで、約束を破ることのような後ろめたさがあって
恐れてる ─── 怖い、の


25 名前:50/50 投稿日:2007/10/04(木) 00:40

「ちょっとー、石川?」

目の前で、片手をひらひら振られてるのが見えて、
あたしは、ハッとした

「何よ、ボーっとして、あんた、もう酔ってんの?」
「え?違うよぉ」

お酒の入ったグラスを手に取りながら答えた時、
ちょうど、おつまみを作ってくれてたよっすぃがキッチンから
戻って、あたしの横に腰を下ろした

ふううん、相槌みたいなニュアンスで鼻から息を吐いて、
ケメちゃんは、あたしから目線をよっすぃへと動かす

「よっしー、やるわね」
「…は?」

ご機嫌の猫みたいに目を細めたケメちゃんに、
よっすぃは胡坐をかいて座りながら「何の話?」と聞きなおす
26 名前:50/50 投稿日:2007/10/04(木) 00:41

「決まってんじゃないの
 あんたたちのラブラブチェリーの話よ」
「…ラブラブって」

よっすぃは苦笑して、あたしを見る
あたしも答えようがなくって、よっすぃを見返した

よっすぃは、アレはさーと言いながら、あたしの顔から
目線を外して、グラスを持ち上げた

「…なんつーの?期待されてたから?
 ほらさー、ケメちゃんだってわかるっしょ?
 あの、梨華ちゃんのオーラ、
 あたしに絡んでみなさいよ〜ってヤツ」

そんなふうにシレッと言うから、
ケメちゃんは、うんうん頷いて、あたしをニタニタ見る

うそぉ、そんなのあたし、出してないったら!

ほっんと、よっすぃもさぁ、よく言うよね、
あの時はときめいた?とか聞いてきた癖にまったく調子いいんだから!

いつものよっすぃらしい言い方、それなのに、いまはそれが
なんとなく、面白くなくって、あたしはグラスをぐいっと開けた




27 名前:50/50 投稿日:2007/10/04(木) 00:41



「よっすぃ〜、まくらぁ〜♪」

あたしは、よっすぃの胡坐の片側の腿に頭を乗せながら
ご機嫌で笑った

「…えへへへへぇ〜♪」
「酔ってるわね」
「ねぇ?」
「…石川って、あんたがいると酔うの早いわよね
 甘えてんのよね」

よっすぃの息だけで笑う気配がして、
あたしは「そんなことないですよぉ」って言おうと思ったのに
口が開かないで、瞼が重くなってくる

あったかいんだもん、
よっすぃに触れてると、だからね、眠たくなっちゃうんだよ

「あんた、昔っから、石川を甘やかすの好きよねー
 そうやってるの見てると……」

カップルみたいよって、
ケメちゃんが言うんだろうなって思って、
あたしの口許が小さく笑う
28 名前:50/50 投稿日:2007/10/04(木) 00:42

だけど、ケメちゃんは、

「…変わんないわよね……ハァ、変わったのかしら?」

しみじみした声でそう言った

「七年でしょう?やっぱ長いじゃん…
 変わったよね、そりゃ、けどさー、変わんないんだなぁ
 フィフティー、フィフティー」
「悪いけど、よっちゃんの言うことって、意味不明よ」
「ひでぇ!」


二人がたてる笑い声と、グラスにぶつかる氷の音が、
まるで、優しい子守唄みたいに響いて、





あたしは、とろんとしていた目を、うっとりと閉じていた

 

29 名前:50/50 投稿日:2007/10/04(木) 00:43


      ===== お終い =====




30 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/04(木) 00:43

    更新しました
 
31 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/04(木) 00:44

レス、ありがとうございます!


14 :名無飼育さん
続きは、こんなもんで許してもらるんでしょうか?(w

15 :名無飼育さん
こちらこそ、書いて良かった!(w

16 :名無飼育さん
はい(・∀・)よろしくお願いします
32 名前:14 投稿日:2007/10/04(木) 23:31
もう、大満足です。w

これからも素敵な物語を楽しみにしてます。
33 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/09(火) 01:53
あーなんかいいですねー
ほっこりした気持ちになりました
34 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:39

珍しくって言い方も何だけど、梨華ちゃんが自分ちに夕飯食べに
来てって言った

なんか作ってくれるんだってさー、へぇ〜

昔ね、一時期作ってくれたことがあったんだけど、
梨華ちゃんがイメージしてる料理を作れるあたしっていうのに
なる前に飽きちゃったみたい

梨華ちゃんは、仕事以外のことには、わりと飽きっぽい
仕事以外って言うか、たぶん、ほんとに好きなこと以外
35 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:40

エントランスでインターフォンを押したけど、返事がない
手を離せない場合のこととか考えて、二回目は押さないで
合鍵で入った

梨華ちゃんに合鍵を貰った(預かった?)のは、かなり前の話
一応、なんかあった時の為に身近にいる誰かに、持っててもらいたい
からって言ってた

それはある意味、私のこと一番信頼してくれてるってことだよな、
そう思って、嬉しかった

まぁ、私って、もともと昔から頼られキャラだったし、
それって、この世界に入るのとか関係なしにね
長女気質が染み込んでんのかなぁ?
けど、それを面倒って思うことは、たまにしかなくって
ほとんどの場合は安心できたんだ
私を必要としてくれる人がいるってことだからね

それにさ、なんか、ひとりが苦手とか、カッコわりぃし、
だからって、私が自分からベタベタ甘えるとかさ?
キモいっつーか、キャラじゃないっしょ?

人一倍大人っぽく見られてたけど、仲間の存在を一番頼ってたのかも
最近、昔の自分をそんなふうに思うようになった
36 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:40

梨華ちゃんとは、もちろんずっと一緒だったから、
すごく甘えてたって思う
それは、解り易い甘え方じゃなかったけど、

梨華ちゃんは私をわかってくれてるでしょ?
梨華ちゃんは私のそばにいるよね?
梨華ちゃんは私が好きでしょ?

言葉で伝えたこと、ないクセに、
自信があるとかじゃなくて、信じてきたんだ、梨華ちゃんのこと

梨華ちゃんと、私の距離は離れないって解ってる
それは、肩がぶつかるくらい近くって、嘘なんかつけない距離
だったら、もうそれでOKなんじゃない?
そんなふうに思ってきた、だってさ、その先って…

ウチらって、芸能人だし、女同士だし、娘。愛してたし、
真面目だし、夢っていうかお互いの未来を考えちゃうし、

NGワードを避けるように進めてきたクイズの回答みたいだ
それを踏み越えるのに必要なモノって何?
37 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:41

チンッと、軽やかな音を立てて開いたエレベーターの扉
乗り込んで、壁に肩を押し付けるように立つと、
その先でしか触れられないモノを思って、瞼を閉じた

した覚えなんてないのに、
まるで何よりも大切な約束事めいていた
見えないけど、そこに確かにある重たい扉に手をかけちゃ
いけないって
けど、私は、その扉にまた一歩近づいて見上げてる

人は所有物なんかじゃないけど、
キレイごとで本音を誤魔化さなくっていいなら、
梨華ちゃんは、私のモノだって思ってきた
ちょっと違うか?
私のヒト、私の為にそこにいてくる人って気がしてた
誰より大切にしてきた、これからだってそうする、だから…



 ─── ねぇ、梨華ちゃん、開けてもいい?


浮遊感に包まれた後、目を開けると、私は扉の外に出た
38 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:41

玄関でインターフォンを鳴らす
…あれ?…出ない……
ちょっと待って、もう一回鳴らそうとして、手を伸ばしたら、
ザワッと音がして、梨華ちゃんの慌てた声がした

「…はいっ」
「……俺」

わざと作って低い声で、囁くように言ったら、フゥ〜と
呆れたみたいな溜息が聞えた

「どちらの俺様ですか?」
「吉澤さんちの俺様ですよ…つーか、開けてよぉ
 ノッてくんないとハズいんだからさー」

ふふ、と、楽しそうな声で笑って、ちょっと待ってて、そう言って
インターフォンが切れた後、ドアが開いた

笑顔の梨華ちゃんが、いらっしゃい、そう言って、その笑みを
嬉しそうに顔中に広げる

……なんだろ?いま照れた
時々、見慣れてる梨華ちゃんの笑顔に、
コイツって、可愛く笑うよなぁ、なんて改めて思ってしまう
39 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:42

「どうぞ、どうぞ上げって♪」
「あ、うん…お邪魔しまーす」

廊下を進んで、リビングダイニングのドアを開ける時、
いい匂いがするのかなぁ、なんて思ったけど、んなことはなく
ただ、意外だったのは部屋がキレイに片付いていた

「お、どしたぁ?」
「なにがよ?」

梨華ちゃんはわかってるんだろう、
ちょっと、ほっぺたが赤くなった
と、その顔が気まずそうに歪んで、私から目を逸らす

「…あの、さ」
「ん?」
「あのぉ、ね」
「…ん」
「……実は、ご飯作ってないの」
「は?」
「あっ、だからぁ、違うよ?やろうと思ってたの、ちゃんと!
 ……ちょっとね、ちょっとだけお昼寝しようかなぁって思ったら、
 えっとぉ…」
「ほぉ、いま起きたわけね」
40 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:43

私が、ニヤッと笑うと、梨華ちゃんも眉を下げ気味の顔で
えへへ〜と笑った

「まー、いいよ、慣れないことして疲れたんでしょ?」
「なによぉ、それ、慣れないってさぁ!」
「ハハ、んじゃ、一緒に作ろっか?」
「え?」
「なに作ろうと思ってたの?」
「…カレー、お肉じゃなくってね、シーフードのにしよっかなって
 でも、よっすぃはいいよ、今日はさ、あたしがね、するから」
「つーか、二人のが早いでしょ?」
「今日はダメなのっ あたしがするって決めてたんだもん!」

なんだか、ちょっと必死な顔が可愛くて、

随分、大人っぽくキレーで、お姉さんな雰囲気になったのに、
こういう例の強情さを、相変わらずヘンな方向に出して
昔と変わらない幼さを覗かせるから、
私の胸が、ふいに切なく鳴る

41 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:43

「だってさ、よっすぃは、してって言ったら、いつでもいつまででも
 しててくれるでしょ?
 それは、お料理のことだけじゃないよ?
 よっすぃがイヤイヤしてるんじゃないってことだって
 あたし、ちゃんとわかってるんだ
 だけどさぁ、あたしだって、たまにはしてあげたいじゃん?」
「……梨華ちゃん」 
「よっすぃの喜ぶ顔が見たいんだもん」

そう言って、照れながら、柔らかく笑う顔は、なんでだろう?
子供みたいにあどけない

ねぇ、梨華ちゃん…
いくらでもキレーになったキミを見せつけていいから、
際どい露出も、セクシーなキミも振りまいていいから、

お願いだから、今の大人になったキミが、
今でも、昔となにも変わらない無防備な表情をするのは、
私の前だけにして

42 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:44

だって、私はそんな梨華ちゃんをずっと大切にしてきたから
守ってきたなんて、おこがましいことを言う気はないんだ

ただただ見てきたんだ、傍に居続けたんだ
 ─── だって、それは、それは、梨華ちゃんが、


「………好きだよ」


ぽつん、と、
言葉が、勝手に口から落ちてるってことに、
梨華ちゃんの目が、驚きに見開かれていくことで気がついた
私、なに言った?いまなに言った?

ボッとほっぺたが熱くなる
首筋まで、カッカとしてくる

梨華ちゃんの唇が戸惑うように薄く開こうとして、

「ちょ、ちょっと待って、待って、待って」

私は梨華ちゃんが何か言おうとするのを止めた
43 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:45

黙って、私の顔を見てる梨華ちゃん
そのどこか落ち着かない不安げな表情を見てると、
いま私が口にした言葉を誤魔化したくなった
だって、それは、
七年の一緒にいた日々を壊してしまうことのような気がして、

けど、頭で何かいい訳を考えるよりも、
もっと強く、私の手が、指先が、梨華ちゃんに触れたがってる

壊すんじゃない、
失くすんでもない、
満たしたいんだ

私は、一歩、大きく前に進んで、梨華ちゃんの揺れる眼差しを
捕まえた


「…好きだよ……もう、さ、…好きなんだ」


結局、それ以上、伝えたいことなんかなかった
ただ、はっきりと言葉に気持ちを込めた
44 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:46

梨華ちゃんの見開かれた目に涙が浮かんできて、
薄く開きかけた唇は引き結ばれて、また開きかけて
小さく震えた

いいよ、なにも言わなくて、
答えが欲しいわけじゃなくって、
ただ、伝えたかったんだ、ずっと伝えたかったんだよ

いつか伝えたいって思ってて、
でも伝えない方がいいような気もして、
同じところばかりぐるぐる回ってたんだ

そこから進むのに必要だったのが、勇気よりも勢いだったなんてね
でもさ、格好つけちゃうとただの勢いじゃないから
梨華ちゃんへの想いが、あんまり増えちゃったから溢れ出たんだよ

もう、いいよね、
守らなきゃいけないのって、自分たちの気持ちじゃない?

梨華ちゃんの気持ちを疑ったことってないからさ、自惚れてる?
だけど、梨華ちゃんだって同じでしょ?
45 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:46

私の頭の中は梨華ちゃんへの問いかけで一杯だったけど、
誤魔化す言葉ばかりを言ってきた唇は、
さっきの一言で、もう素直に開くことは出来なくなったみたい

それでも……これからは、もっと素直に…
気持ちを伝えていけたらいいって思う

わかってくれてるって、それはそうなんだけど、
それでも、いままでは一人で心に溜めてた気持ちを
二人で向き合ってちゃんと伝えていきたい
46 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:47

そんなふうに考えてても現実は、
やっぱり単純に出来てる体が先に勝手に動いて、
私は腕を伸ばすとそっと指先で、梨華ちゃんの目尻に触れていた

瞬きした瞼、
つぅ、と、静かに一筋涙が滑り落ちて、
あんまり綺麗な表情だから、私は目を細めると魅入られたまま
その顔に、自分の顔を近づけた

私以外を映さないで、とかって、一瞬マジで思っちゃったよ
でも、いいから、わかってるから、そんなこと言わないから

唇が触れ合う間際、

「……目、閉じてよ」

照れ臭くって、ムスッとした声が出てしまった

梨華ちゃんは、一瞬目を見開いて、ああそうかと納得したみたいに
唇を小さな笑みのカタチにすると、
そっと瞼を閉じた
触れたかった、その場所に、触れた
瞬きするほど、短いくちづけ

私が唇を離すと、梨華ちゃんの瞼がゆっくり上がっていく
47 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:48

あぁ、なんだろう?胸が詰まって苦しいよ
私は目の前の梨華ちゃんを確かめるように、手を伸ばした

さっきの涙の跡が光ってる
なんで泣いたの?なんて聞く必要もないよね
私だって、泣きそうなんだから

涙の跡を辿って、唇に触れた
繋がることの出来た場所

ずっと、セクシーだって思ってた
ぷるん、と弾力があって、濡れて瑞々しくって、
甘い香りがしてきそうで、なんかの南国のフルーツみたい

信じられないくらい柔らかい感触
湧き上がってくる愛しいと想う気持ち
ゆるり、ゆるりと艶やかな唇の上で指を滑らせた

梨華ちゃんの唇が薄く開いて、はぁ、と熱い息がかかった
48 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:48

どこか焦点の合ってないような熱っぽい眼差しでこっちを見てる

私の背骨のどこかから、ぞくりと震えが這い上がってきて、
梨華ちゃんの頭を両手で抱えるように上を向かすと、くちづけた

角度を変えて、強弱をつけて、啄みを繰り返す
梨華ちゃんが、私の服をギュッと掴んだ

唇を開いて、くちづけを深くし、舌で弄る
梨華ちゃんの肩が、ビクッと持ち上がった

声のカタチにならない音を喉の奥で蠢かせて、
梨華ちゃんは私の服を握る手に、また力を入れた
体に入ってる力と裏腹に緩んできた唇の隙間に、舌を差し入れると
戸惑う舌をつついて、誘う

頭の後ろ側で、フラッシュが焚かれてるみたいだ
白い光が瞬き続けて、いままで感じたことのない強い衝動に
押し動かされて、体が勝手に動いていく
49 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:49

 ─── ねぇ、もっと、もっと欲しいんだ
      私、欲しかったんだ、梨華ちゃんのこと
        ……こんなに、こんなに、こんなにも、


体を寄せて、左腕を首の下に支えるように回すと、
右手の掌を梨華ちゃんの胸のカタチに添わせるように包みこむ
胸の音が、走ってる ドクドクと早く、早く 

掌に僅かに力を入れて握って、放す
柔らかさにもっとじかに触れたくって、服の裾から
入れようとした私の手に梨華ちゃんの手がやんわりと触れた
その手と指を交差させて握りしめながら、塞いでいた唇を離した

咄嗟に俯いてしまった顔が見たくて、ほっぺたに手を
添えると、驚くほど熱かった
真っ赤な顔で、上目遣いで私を見る眼差しが潤んでる

ヤバい、キスしたい、
私は唇を寄せながら囁いた、恐ろしく甘ったるい声が出た


「……ヤだ?」



50 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:50

梨華ちゃんは自分のほっぺたにある私の手の上に自分の手を
重ねて、小さく首を横に振る

「……ヤとかじゃなくって」
「…ん」
「ヤじゃないんだけど……けど…」
「……怖い?」

躊躇いがちに頷く顔を見ながら、私は「…そっか」と短く答えて、
軽く微笑むと顔を離した
梨華ちゃんが繋がってる手にグッと力を入れて、私を見上げる

「…あの、誤解しないでね、よ…ひとみちゃんのことが
 怖いんじゃないんだよ?」
「うん」
「その……ひとみちゃんが、あたしにね、しようとしてることが
 怖いわけでもないの」
「うん」
「自分でもね、上手く言えないんだけどね……でも、ね、なんか…」
「うん…なんか、わかるから…いいよ」
「……ひとみちゃん」
51 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:51

梨華ちゃんは真面目だからさ、超がつくほど、
いつもは前向きに頑張ってるけど、何か想定外のことが起こると、
軽くパニくったり、ウジウジ悩みだすのって変わってないからね
でもこうと決めたらさ、私よりも迷いなく突き進むけど

いいんだ いままで、待ったんだし、
もう後少しくらい、違うな、きっといつまでも、私、待てるから
梨華ちゃんが、私と同じ答えが欲しくなるまで

純情ぶってるなんて思わない
客席のあるステージや、カメラの回ってるスタジオにいる梨華ちゃんと
私の前で、睫を震わせながら俯く梨華ちゃんは、
純情な直向さは同じでも、違うって、わかってるから

急いで答えて欲しいなんて思ってないんだ
ああ、でも、ちょっと強がりかも知れない
でもね、私の前では、そのままの梨華ちゃんでいて欲しい
無理して、合わせて欲しくないんだ、ああ、矛盾してるな
でも、どれも本当の気持ちだよ
だから、そんな、

「泣きそうな顔しないでよ、マジで、わかってるって大丈夫」
52 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:51

ニッと、笑って見せると、梨華ちゃんは、ホッと、息をついで、
改めて、私を見上げる

「…ひとみ、ちゃん」
「ん?」
「ひとみちゃん、なんか…変わったね」
「…そうかなぁ」
「うん、なんか子供っぽいんだけど、やっぱり大人なんだなって」

梨華ちゃんの見上げてくる目線が、なんか、こそばゆくって
私は肩を竦めた

「そうぉ?よくわかんないなぁ…んじゃ前は?どうだった?」
「大人っぽかったんだけど、子供だったって言うのかな?」

梨華ちゃんは、ちょっと空を見るように言葉を選んでる
ひょっとして褒めてくれてる気なのかも知れないけど、
いまいちピンとこなくて、私は訝しげに眉を寄せた

「なにそれ?同じじゃねぇの?」

何が気に入らないのか、梨華ちゃんは気色ばんで、
焦れた声を張り上げた

「違うじゃん!あたしの言うことちゃんと聞いてる?」
「聞いてんだろー」
53 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:52


「嘘、もっかい言ってとか言うじゃん」
「言わねーよ」

こういう梨華ちゃんって、ちょっと面倒くさい
イヤさ、別に嫌いじゃないけど、嫌いじゃないんだけど、
相手すんのが面倒だから、つい口調が悪くなると言うか、
おざなりになるっつーか…

「ひとみちゃんさぁ、もう大人の女性なんだから、その口調やめなって
 言ったよね?あたし、何度も言ってるよね?」

出来の悪い生徒に言い聞かせる先生みたいな勢いで、
真顔で詰め寄るように言われても、ねぇ?

梨華ちゃんはヒートアップしてきて、人差指を私に向かって
突きつけて、振る
ちょっと、それ止めろよな、ムカッとくんだよ

「うるせぇなー、いんだよ、最近は気をつけてるし
 気取ってっと、思ったこと言えなくなんの
 つーかぁ、おまえがグチャグチャゆーから…」
「あっ、おまえって言った!それヤだって言ってんじゃん」
「あーもー、マジうぜぇ……カレー作るぞー」
「ちょっとー、逃げる気?」
54 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:52

キッチンに向かって歩き出す私を追いかけながら、
まだ言い足りないのか、後ろで梨華ちゃんがキャンキャン吠えてる
付き合ってられるかってーの

つーかさ、さっきの顔を真っ赤にしてしおらしくしてた梨華ちゃんは
どこ行っちゃったの?

まぁ、でもいっか、
ウチらは同期で戦友みたく解り合えて、
家族みたいに一緒にいると落ち着けて、
腐れ縁の幼馴染のように励ましあって、

時には、こうして言いたいことは言い合って、
それでも、喧嘩したつもりはなくって笑い合ってきた

梨華ちゃんとだから、いままでずっと続けてこれた関係
二人だから変わらずにいれて、
二人だから変わって行くんだ

私と梨華ちゃんの絆、
他の人たちとは違う、二人だけがお互いのかけがえのない人
55 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:53

いままで、辛いことや苦しいこと、足掻いてきたこと
いろいろあったけど、
そういうのも、隣りに梨華ちゃんがいたから
いま思い出すと幸せだった気がするんだ

これからもキミが傍にいる
その必然が、私に幸せの意味を教えてくれる

だから、キミさえいれば、私は幸せでいれるんだ
いつの日も、いつまでも、キミさえいれば……



私の毎日は、幸せな色で彩られてく ───



56 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:54



57 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:54


「…て、いうかひとみちゃんはねぇ」

言葉の途中で振返ったら、梨華ちゃんがヤケに嬉しそうな顔してて
何よ?私の悪口ってそーんなに楽しいんだ?
そう思ったら、ちょっと困らせてやろーか、なんて思ってしまって、
私は微笑んだ

「キスしたい」
「……へ?」

梨華ちゃんは、一瞬、間の抜けた顔をして、
それから、ほっぺたを赤く染めながら、なんとも曖昧な
笑い顔のような表情になった

私の口許がニヤリと持ち上がり、おどおど視線を彷徨わせる
梨華ちゃんに向かって、首を斜めにしながら顔を近づけていく

唇が届きそうな距離になると、
梨華ちゃんは、ギュッと瞼を閉じて、その力を抜いて
顔を上に上げた
私のキスを待ってる顔

すっごく可愛いくって、唇を押し当てたくなるけど、その寸前で、
チュッ、と唇を鳴らして顔を離していった
58 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:55

梨華ちゃんのキス待ちの顔を眺めていると、ヤバいくらい
顔がニヤけてくる

瞼に戸惑いを漂わせながら、梨華ちゃんが薄く目を開けて
ニヤニヤしてる私を見つけると、カーーーッと顔を火照らせた

「な、なによ、なんなのよ!」
「…何がよ?」
「なにがよ、じゃないわよっ」
「ん〜?なーにー」
「バカッ…もーーー、バッカじゃないの?!
 あーもー、バカバカ!」
「アハハ、ひっでぇ言われようだな」
「もぉ、笑ってないでっ ち、ちゃんとっ キスしなさいよ!」
「うん……おいで」

私が両手を広げると、その中にすっぽり梨華ちゃんが納まって、
まだ拗ねるように見上げてくる唇を優しく塞いだ


あーー、ヤバい、
こうして私は、ますます、どんどん、ずぶずぶ、と
梨華ちゃんにハマって行くんだ………




59 名前:イツノヒモキミトハッピー 投稿日:2007/10/17(水) 15:57

 ─── それは、なによりもかけがえない幸せな日常 

        


               イツノヒモキミトハッピー ───








        ===== お終い =====

60 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/17(水) 16:01

更新しました


なんだか、まとまりがないです、ウムム…
この後、吉澤さんは〜47辺りを繰り返します
そりゃあ、もう何回も、ま、そんなカンジ(w
61 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/17(水) 16:03

レス、ありがとうございます


14様
また続けてしまいました……てへへ

33名無飼育様
いしよしはほっこり、ほこほこですよぉ♪
62 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/17(水) 19:46
あぁ、もーーーー!!!
超イイっす!最高です!
しあわせをありがとう
63 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/17(水) 20:58
更新お疲れ様です
ここのいしよしいいなー大好きです
64 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/17(水) 23:22
おもしろかったです!!
自分の中での いしよし・ってほんと、こういう
感じなんです。又、楽しみにしてますね♪
65 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/17(水) 23:39
いしよしはいいですねぇ
年月を重ねるごとに深みを増してきた感じが
66 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/18(木) 15:08

そのCMのオファーがきた時、
私は感心したもんだ、へぇ、世の中そこまで進んだのかって

そのCMは新しく発売される缶チューハイのモノで、
コンセプトは女の子同士の友達以上恋人未満な雰囲気
コンテとか見た感じじゃ、結構、甘め?
なんとも夢見がちな世界なんだな

そもそも、なんでこんなCMの話がきたかっていうと、
もともと私はアイドルグループでデビューしたんだ
十代の中頃にね

自分で言うのもなんだけど、プロデューサーに天才的に
カワイイとか言われちゃってさ?
事務所側も期待大だったと思うワケ、
なのに、なーんでか売れなくて、底辺アイドルになっちゃってた

67 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/18(木) 15:09

その頃、他に売れてたアイドルグループがあったからさ、
差別化の個性化を図る為に、私はボーイッシュキャラで押されてた

もともと資質があったんだろうね、
私がそのキャラを前面に出して発売したシングルは、
まぁ、それなり売れて、うちのグループの代表曲となった

けど、芸能界ちゅうのは厳しくて、私が属してたグループは解散
その後、クイズ番組とかバラエティー、情報番組とか細々と
一人で活動してたんだけど、

前クールのドラマでチョイ役を貰ったんだ
それがゴールデンタイムでさ、
その役がチョイ役でも、かなり印象に残るタイプのモンで
どんな役かって言うと、主演の女の子を好きな友達の役

そのドラマの演技はかなり評判が良くって、
本当に女が好きなんじゃないか、とかって、
下世話な週刊誌には煽られるし、
うっかり恋に落ちそうな同性でのランキングにも、
しっかり上位に入っちゃうくらい、私の知名度は上がった
68 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/18(木) 15:09

事務所としてはさ、稼がせたいワケだからね、
そのまんまで行け、もうこうなりゃ、売れんだったら
女の子との噂のひとつやふたつくらいドンと来い!
GO!GO!!って、勢いになっちゃって、

私も期待されると悪乗りしちゃうから、ねぇ?

トーク番組に出た時も、
「女の子、カワイイよね、あの身体の柔らかそうな
 ラインとか触ってみたくなるねぇ」
なんつって、言ってみたり、

動作も、実はしっかり宝塚のトップの男役の人の動きとか
研究しちゃって、体の動きは大きくダイナミックが基本とかさぁ

座る時も足は膝から広げて、上体を前方に倒すとか、
反対に足を組む時はリラックスしたように上体を後ろに倒して、
ムダに大きく組むとかね、実践してたの

まぁ、そんなこんなで、いまの私の位置づけとイメージが
出来上がったんだ
69 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/18(木) 15:10

相手役の女の子を知った時、正直、かなり吃驚した

そのコは、私がアイドルグループにいた時、
ウチらよか、よっぽどメジャーなグループにいたコで、

しかもその、これでもかって言うほど、絵にかいたような
女の子チックな外見と行動が、私のボーイッシュなものと対極に
あって、よく比べられたりしてた
だから、私自身、ちょっと意識してチェック入れてたし、
 
そのコのいたグループも今では解散しちゃってるんだけど、
いまだによく写真集は出してるし、
昔のアイドルの曲をカバーしたアルバムとか出したり、
舞台とか出てるみたいだった

こう言っちゃなんだけど、
最近ではあまりメジャーな活躍をしていなかったそのコが、
このCMに起用されたのは、去年出た映画のおかげかな?

今までのそのコのイメージをぶっ壊すヒール役だったんだけど、
業界内での評判は上々だったらしい
70 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/18(木) 15:10

とは言え、彼女は映画のPRで出てた番組とかで、
「もぉね、夜も眠れないくらい緊張してたんですよぉ、
 だってぇ、あたしとぉ、まるっきり違うキャラだしぃ〜」
なんつってて、
これからも女の子チック全開を死守する気みたいだったけど

まぁ、そんなふうにココにきて、
偶然にも騒がれだした私たち、

前にアイドルで同期だったのも面白いらしく、
めでたく起用が決まったんだ
71 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/18(木) 15:11

撮影の日、
先に楽屋入りしてる私のところへ、スタッフさんが彼女をつれてきた


コンコン、

「吉澤さん、ちょっといい?」
「はーい」

ドアを開けると、そこには小首を傾げて可愛らしくニッコリと
100パーセントのアイドルスマイルを浮かべたコ

「えーと、吉澤さん、知ってるよね?
 こちら石川梨華さん、んでー、石川さん、
 こちらが吉澤ひとみさん」
「わぁ〜〜♪吉澤さんだぁ
 かぁっこいいー、あたしね、あのドラマずっと見てたんだよぉ
 すっごぉく、よかったよぉ」
「あー、どうも」

石川さんは、子犬がご主人を見つけたみたいに、
目をキラキラさせながら、私のとこに駆け寄ってくると、
ギュッと腕を掴んで左右に振り出した
72 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/18(木) 15:12

「もぉねぇ、梨華、一緒にお仕事できるかと思ったら
 嬉しくってぇ〜」

そう言いながら、あたしの腕に自分の腕を絡めて、上目遣いで
はにかむように微笑んだ

「あはは、光栄だなぁ」

私は鷹揚に微笑んでみせたけど、内心ちょっと動揺してた

何、この色っぽい眼差し
何、何なんなの、こうゆうの? 何でそんな目で見んのよ
女同士なのに、誘われてるみたいな気がするし
うっかりドキッとしそうになるじゃんか

落ち着けー、落ち着けー
カワイイ女の子を食っちゃうイメージの私が、
反対に食われてどーするよ?

頭に上りそうな血液を、空いてる方の手で髪をかきあげながら
どうにか落ち着かせようとしていると、
石川さんがいる方の腕にムニムニした感触が…
73 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/18(木) 15:12

あ、あんた、何してんのよ!

見ると、かなり豊満な胸を、ぎゅっぎゅって押し付ている石川さん
思わず目が釘づけ、

「ゴホン!」

スタッフさんの咳払いがして、慌てて顔を向けると苦笑いしてた

「石川さん、吉澤さんのこと気に入ったみたいだねー
 本番もその調子で、ラブラブでやっちゃってね」
「はぁ〜い、もうバッチリでーす!
 石川にぃ、ドーンと任せちゃって下さぁい」

ニコニコ笑ってる石川さんと、フリーズ中の私を見ながら
スタッフさんは「ハハ、じゃ、後で呼びにくるから」と言って
ドアから出て行った

後に残されたのは、
腕に押し付けられる、これでもかってくらいの柔らかい感触
どーするよ?私
74 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/18(木) 15:13

ぱたん、とドアが閉まると、
二人っきりになった楽屋に、石川さんの鼻にかかって
甘ったるい声が囁く

「…ねぇ?どーする、吉澤さん?」

ど、ど、どうするってな、何を?!

「もぉ、吉澤さんってば〜、ど・こ・見てるのかなぁ〜」

ど、どこって、そりゃーもう…気づけば目が釘づ…
クスクス笑う声がして、石川さんの顔まで目線を上げると
その唇がニッと薄く引きあがった

「……触る?」
「へっ?!」
「梨華の、触りたい?」
「い、い、いいっ」
「…いいって、どっち?」
「そ、そりゃぁ…」

石川さんのグロスで濡れた唇が艶っぽく、キランと光って、
その唇が歪んだと思ったら、ぷっと吹き出した
75 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/18(木) 15:13

「ふ、ふふふ、吉澤さん、もっとナンパな人かと思ってた
 トーク番組とか見てて、ほんとに女の子口説いちゃうのかなって、
 けど純情なんだねぇ、顔、真っ赤だよぉ、かぁわいい〜」
「あ、あんたねぇー」
「どもっちゃってぇ、すごんだって怖くないよぉ〜 あはは!」

ち、ちくしょー!腹抱えて笑ってんじゃねぇー
ナンパなんだよっ 普段の作ったキャラの私は!
まぁ、なんの自慢にもなんないけど…

このままじゃマズいんじゃねーの、私?
こんなやられっぱなしって、どうなのよ?

私は冷静に普段のキャラを取り戻そうとして、
腕に当たる、この柔らかくって、温かい感触がダメなんじゃんっと
少し、乱暴に腕を振り解いた

「つーか、あんたさー」
「あんたじゃないよ?梨華だよぉ」

ニコニコと嬉しそうに、さっきの妖しさがウソだったかのような
無邪気な笑顔を向けられて、ぐっ、と言葉に詰まる
76 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/18(木) 15:14

なんなんだよぉ、
あんただって、キャラ全然違うだろって言ってやろうと思ってたのに
急に子供みたいに邪気のない顔で笑うんじゃない!
つーか、こいつ小悪魔?

あたし、アイドルですぅ、なぁんにも知らないの
なんつー顔してんじゃねーぞ

私は腕を組んで、石川(なんかムカつくから、呼び捨てにしてやる)を
見下ろす

こいつ、相変わらずちっちぇなぁ…
細い体もむかーし、歌番組で一緒んなった時と変わんないんじゃない?
なのになんで胸だけデカくなってんだ?

またそこに、目がいってしまいそうになり、
私は自分が少し、嫌いになりそうだった

「ねぇ、ねぇ、吉澤さん?」

こいつの声聞いてると、綿菓子を無理矢理耳に突っ込まれたような
気がしてくるし
77 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/18(木) 15:14

「…あー?」
「キャ、怖ぁい♪」
「………」

私は大袈裟に溜息をついて、椅子をひいてドカッと座ると
バックから、持って来た情報誌を開いてパラパラ捲った

つんつん、と肩が突付かれる
無視していいですか?では、遠慮なく

「……ごめんなさい」

消え入りそうなしおらしい声がして、私は思わず石川を見てしまった
まるで、苛められてる小動物みたいな目をしてこっちを見てる

ちょっと下がった頭の上に、しゅんっと音がしそうに垂れた耳とかが
似合っちゃいそうで、思わず保護したくなる雰囲気

あー、ダメ、頭がくるりと回って眩暈を起しそう
私、ダメなんだよ、弱いんだよ
小動物とか、子供とか、ちっちゃくって、ひ弱そうなのに弱いんだって
78 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/18(木) 15:15

「……怒ってる?
 こめんね、あのね、あたしね、初対面の人って苦手なんだ
 だからね、こう、自分を盛り上げて行こうって思ってね
 やり過ぎちゃうの
 吉澤さんとは、こういうお仕事だし、うんと仲良くなって
 おかなくちゃって思っちゃって…」

すげー、間違ってたよ石川さん
そんで今は正解、大正解のど真ん中ストライクゾーン

「や…怒ってないけど、て言うかさ
 私はさっきみたいのって苦手だからさ、
 その、石川さんが私との仕事を上手くやろうって気持ちは
 ありがたいんだけど、普通でいいから
 今みたく普通にしててくれたらさ、ほら、こっちだって、ね」
「……うん、ありがとう、あたし一生懸命やるから、よろしくね!」
「ん、よろしく」

こてっと可愛らしく小首を傾げて、ふわっと笑う顔はマジ可愛いよ
昔と変わってないんだね
ってゆーか、初対面じゃねーよ……て、そこはイイか、
覚えてないみたいだし
79 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/18(木) 15:15

ジッと私を見たままの顔、
私、溶けるかもよ、んな見たら、溶けないけど

「…え、と…何?」
「あのね、吉澤さんのこと、ひとみちゃんって呼んでもいいかな?」

ひ、ひとみちゃぁん?!
ヤかも…

「そ、それはなぁー」

目線を外して、頭をかくと「じゃ、じゃあね!」と勢い込んだ声

「…ひーちゃん、ダメ?」

ねぇ、そこでさ、なんで目ぇうるうるさせんの?
狙ってるよね、ぜってー狙ってんだろ
うぅ、なのに、したでに出られるとどこまで弱いんだ、私は?!
あーもーーー 好きにして

「いいけど…」
「わぁ、ありがと!あたしのことは梨華って呼んでね」
「…おぅ」
80 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/18(木) 15:16

目の前で、指を組んで目を無駄にキラキラさせてるけど
目ぇ痛くないない?大丈夫?
つか、何がそこまで嬉しいの? 全くしょーがないな〜

って、ゆーか呼び捨てか……呼び捨て、ね
なんかテレんな って、なぜ?!


…あれ?
ねぇ?なんだかんだ言って、私、このコの言いなりになってない?

 
……………



コンコン、


「吉澤さん、石川さん、リハお願いします」

スタッフさんの声がドア越しに響いて
私は立ち上がると梨華(照)を見た
81 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/18(木) 15:17

梨華はこれぞ女の子って、胸を張って言えるような笑顔をしてて、
うん、いんじゃない?
そう思った私は、私に求められてる顔をつくる

「…行こっか、梨華」
「うん!」

 
 ─── 色っぽいより、可愛い、か ───


誰かが囁くような声が聞えて、振返ったら、
梨華が、キョトンとした目をして私を見返した

「……ひーちゃん?どうしたの?」

不安げに眉を寄せるから、私は微笑んだ

「…なんでもない、行こ」

なんだ、今の、空耳かな、うん
さぁさぁ、今日もがんばりまっしょい

82 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/18(木) 15:17



                    



                     <<<<< つづく
83 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/18(木) 15:19

更新しました



なんだか、ごめんなさい…
いろんな意味で、ごめんなさい

84 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/18(木) 15:19

レス、ありがとうございます


62名無飼育様
お礼を言っていただけるようなことは何も…はい

63名無飼育様
当方もいしよし大好きです、お互いもっと好きになりましょうね

64名無飼育様
おもしろかったですか?良かったです

65名無飼育様
いんですよねぇ、いしよし…心に染みますよ

85 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/19(金) 03:39
おもしろそうですね!
続き楽しみに待ってます。
86 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/19(金) 04:20
すげーおもしろそう!!!
またひとつ楽しみがふえたよ!
87 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/19(金) 06:47
リアルにこの二人でCMでてほしいですねー
次回の更新楽しみです。

88 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/22(月) 22:45
小悪魔梨華ちゃん超カワイイ。
89 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/23(火) 13:04

次の日は屋外の撮影から始まった

回想シーンの数カット、結構サクサク進んで、撮影は押すことなく
わりと早く終った

……この衣装…早く脱ぎてぇ

私が足早に控え室として使わせてもらってる建物に向かうと
パタパタと小走りな足音が近づいてきた

「…もぉ、ひーちゃん早い!
 おんなじとこ行くんだから、待ってくれてもいいのに〜」
「梨華さ、トイレ一人でいけないタイプだったろ?」
「え?なに?なんの話?」
「なんでもない」
「あーっ 感じ悪いよぉ」

梨華がセーラー服に包まれてる腕を、同じセーラー服を
着てる私の腕に絡める
90 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/23(火) 13:05

あ、またコイツは…
そう思ったけど、同じ制服を着て、こうされるのはそんなに
悪い気分じゃない

撮影の時から思ってたけど、梨華と高校生になったみたいで、
ちょっといい
本当の高校生の頃は、こうやって友達とじゃれ合うことなんて
なかったからさ

あの頃は、受けられる授業だけを受けに行ってただけ
梨華もそうだったんだろうな

「…梨華さぁ、高校の時、どんなコだった?」
「あたし?可愛かったよ♪」
「………」
「なぁにぃ、なんで無言になるの?
 そうだよね、梨華は可愛いねって言ってくれないのぉ?」

…コイツ、バカ?
言うわけないだろ?むしろどーして言うと思うのか教えてくれ

「ひーちゃん、皺よってるよ?」

梨華が自分の眉間に皺を寄せて見せる
オマエが寄せてどーするよ?…なんか、やっぱ、バカだわ、コイツ
91 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/23(火) 13:06

私が、フッと笑うと、梨華も嬉しそうに、ふふふ、と笑う

不思議だなぁ、なんか、なんでこんな馴染んでんの?
やっぱ、昨日の撮影の余韻なのかな?
もちろん演じなきゃいけない自分って、理解してるし
なんか、なりきってんな、私

「…あのね、ひーちゃん」
「ん?」
「あたし、高校行ってないんだ
 お仕事が忙しかった時だったし、あたしってね、こう
 いくつものこといっぱい出来るタイプじゃなくってね
 お仕事大好きだから頑張りたくって……
 だからかなぁ、こんなふうに制服着れると嬉しくなっちゃう」

ストレートロングの黒髪のウィッグをつけた梨華の制服姿は
以外と違和感がない、てか、むしろ……んんっ!

そうだな、こう言う時、どう言うかな、この役の私なら…
本はないけど、たぶんこうだな

「…可愛いんじゃない?似合ってるよ」

こう言ったら、梨華の役だったら、やっぱこう頬を赤らめて…

92 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/23(火) 13:06

パッチーーーン!

「いでっ!」
「ヤだ、もぉ、ひーちゃんたら、そんなほんとのこと〜」

クネクネ身を捩らせる梨華……キモい、キモいよ、このヒト

てか、ジーーンジーーンと腕が痛んでるんですけど?!
ちょっと涙目になっちゃった、くすん

「ひーちゃんもぉ、似合ってるよ♪」

歌うような声で言う梨華を見れば、背伸びするみたいに見上げてくる顔が
きらきら光ってる
フッ、マジで嬉しいんだな、単純なヤツ

私は腕を擦ってた手を上げて、ウィグの短い髪をかきあげてみた
黒のショート、ダサくね?中坊だな、こりゃ

「コスプレみたくね?」
「…こすぷれ?」
「あ、いい、考えなくて」
「ひーちゃんねぇ、女子高にいそうだよ?」
「女子高?」

なぜ限定?そんで何よ?その得意げな顔は?
93 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/23(火) 13:07

「うん、女子高のねぇ 王子さまでぇ、なんかね、スポーツ部なの
 それでー、もちろんレギュラーだよ、強いの、でねモテモテなんだ」
 
指を組んでうっとり言う

…王子?…モテモテ?…女子高で…
バラとか背負いそーだな、私

ぅわっ…ぞぞぞー 想像したら鳥肌たった

「お弁当なんか作る必要ないよ?毎日貰えるからね、大丈夫」

大丈夫って……
そうか、大丈夫なのか、それは良かった
それよりも梨華の頭は大丈夫?

「お勉強はそんなに出来なくてもいいんだけど、スポーツは…」
「ストップ、ストーップ、ちょっと待て、まだ続ける気?」

調子よく話てた梨華は、それを止められて不服そうな声をだした

「え〜、だって、ひーちゃん見てると想像出来るんだもん!」

それって、想像じゃなくって、妄想と言わないか?
94 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/23(火) 13:08

まぁ、妄想でも想像でも要するにそういうキャラなワケだ
別にいーけどね、自分で率先して作ってきたんだし
梨華は姫キャラだよな、どー見ても

「梨華はさ、勉強出来てもスポーツダメそうだよね」
「えぇ?!違うよ〜
 あたしはね、スポーツ得意なんだから!
 中学校の時はテニスしてたし、体柔らかいし、足だって速いよ?」
「ふぅーーん?」
「なによぉ、その疑ってるような目は!ほんとなんだからねっ」
「はいはい」
「やぁもぉ!ほんとなんだから〜」

梨華は足を止めると、拗ねたように唇を尖らせて私を見上げて、
子供が自分の言うことを主張する時みたいに、
膝をゆらゆらさせながら体を揺すった

フッ…なんか、可愛いぞ、こいつ
私の片手が自然に出て、梨華の頭の後ろを軽く押した

「わかったから、さっさと着替えに行って、なんか飲も?」

95 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/23(火) 13:08

建物に入って、控え室の張り紙がしてあるドアを開ける

セーラーの上のファスナーに手をかけながら、そう言えば
後から入ってきた梨華は、ちゃんと鍵閉めてたっけ?と思って
声をかけた

「…そう言えば梨華…!?」
「ん?なぁに」

…んごっ
喉から変な音が出た

梨華はちょうどセーラーを脱いで、首を抜こうとしているところだった
なんで脱いでんの?
イヤ、違う、そう言うことじゃない
同じ控え室なんだし、着替えてるだけだし…

けど、
なんでセーラーの下に黒いブラなの?

さっきまで着てたセーラーが清純さの証みたく真っ白で、
それを捲り上げた下から、黒いレースに縁取られデカい膨らみが…

ごくっ……すっごいよ、谷間

96 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/23(火) 13:09

ねぇねぇ、ちょっとちょっと、コイツ、エロいと思わない?
半端ないよ、目の前でやられてみ?!

私だけじゃないって、ジッと見ちゃうって誰だって
って、誰に言い訳してんの?

首から外したセーラーを腕からも抜いた梨華が、キョトンとした顔を
して、小首を傾げるように私を見た

「…あれ?ひーちゃんどうしたの?」

梨華は私の顔の上にあててた目線を、
私が見ている先を辿って、自分の胸元へと動かした

「あ、ひーちゃん、こういうの好き?」
「すす好きって?」

そのデカい胸?
例えば、顔なんか埋めて寝たら死ぬと思うよ、窒息死
私、窒息死はあんまり好きじゃない、試したことないけど
しっかし、自分と同じ種類の体とは思えん
97 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/23(火) 13:09

「このブラね〜、カワイイでしょぉ?フランス製なんだよ?
 レースがさぁ、やっぱり日本のと違うよね
 ひーちゃんも欲しいなら、お店紹介するよ」

あ……ブラ、ね
いいよ、そんな厭ら…、じゃなくって、
誘っ…、あれ、違うな…とにかく!

「…いい」
「え?」
「あ、いらないってこと、紹介はいりません」
「そぉ?じゃ、欲しくなったら言ってね♪」

欲しくなったら、言ってね、ニコッ…って、
…ごくっ

ヤバい、違う!なんか私、思考回路が男子化してないーーー?!
違う、違う、ちっがーーーう!

梨華がおかしいから、フツーじゃないから
そんなほっぺた抓りたくなるような、子供みたいな無邪気な
微笑み方するクセに、
その体って、ありえないから…つーか、とにかく、

お願い…先に服着て……


98 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/23(火) 13:10

車で移動中
当然のように、梨華は私の隣に座って、
なんだ、かんだと楽しそうにしゃべりまくってる

たいして面白くもオチもない話を、へーとかほーとか適当な
相槌を打ちながら聞いていたら、急に静かになった

おや?と思ったら、
こてん、と肩に重みがかかって、すぅすぅと寝息が聞えてきた

コイツって、
ほんとにただ本能だけで生きてるに違いない
さぞや、おいしい毎日を送ってるんだろうな
コイツの恋人って、なんか苦労しそう…

はぁ、と、呆れた溜息をつこうと思っていたのに、
梨華の呑気な寝顔を見てたら、ふぁ、と、眠そうな欠伸が出た

99 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/23(火) 13:11

撮影所での撮りが終ると、スポンサーさんが私と梨華に
このCMの缶チューハイをくれた

「キミたちみたいな若い女のコがターゲットだからね
 何か感想があったら聞かせて貰えると嬉しいよ」

ハイ、と、頷いて、頭を下げてお礼を言いながら、缶チューハイの
入った保冷バックを受け取った
「お疲れ様でした」とスタッフさんにも声をかける

二日間続いた撮影も今日でお終い
梨華にも「お疲れ」と声をかけると、ちょっと躊躇う顔をした梨華が
笑顔を作って明るい声を出した

「お疲れ様でした あのね…、ひーちゃん、この後って忙しい?」
「イヤ…べつに…」
「じゃあねっ…」

梨華が両手を口許で合わせて、私を見上げてる目を嬉しそうに
キラッキラ光らせた時

「あ、石川ちゃ〜ん、見っけ」

100 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/23(火) 13:11

「わ、ヤだ!偶然ですね〜、おはようございます♪」

梨華はくるりと私に背を向けると、声をかけてきた男の方に
小走りで寄って行った

……あいつって、最近よくクイズとかバラエティー番組に出てる
ちょっとおねぇ入ったヘアメイクとかやってる奴じゃねぇ?

梨華が高い笑い声を上げながら、そいつの腕を馴れ馴れしく
叩いてる

何、あいつ?なんか調子いいよな
ブスッと自分の顔が歪むのがわかった


……そうだ、帰ろう

別に私は梨華と約束とかした訳じゃないし、
忙しいかって聞かれて、別にって答えただけだから、
待っててやる必要なんてない、全くナシ、はい、無問題
さぁさぁ、帰りましょー

101 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/23(火) 13:12

私がスタジオを抜けて、歩き出すと、廊下にパタパタ音が響いて
走ってきた梨華が横に並ぶ

「もぉ、ひーちゃん、なんで先行っちゃうの?」
「なんか、忙しそうだったから…」
「………」
「梨華って、誰にでもああなの?」
「え?」

足を止めて、梨華を見た
私がこんなことを言うのって検討違いかも知れない、だけど、
もし、自分が男だったら、梨華にあんなふうにされたら
勘違いする気がする
こいつ、俺に気があるんじゃないか?とか
簡単にヤれる女なんじゃないか?とか

「梨華って、なんか…、
 あたしの時もそうだったけど、媚びてんじゃない?」
「媚びてる…?」
「あぁ」

梨華は難しい顔をすると、唇を引き結んで俯いた
102 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/23(火) 13:14

「…そっか、そう見えるんだ?」
「梨華さ、いろんな奴に誘われんだろ?そんなんで大丈夫なのかよ?」

そんなのっ
梨華はバッと顔を上げると眼差しを強くして、
何かを飲み込むみたいに喉を鳴らした後、口を開いた

「…さっきの、あの人は女の子に興味ないって知ってたから、
 ちょっと慣れなれしかったかも知れないし、
 ……ひーちゃんは、女の人だから、初対面なのに
 調子に乗っちゃってたけど、あたしだってわかってる
 誰もかもになんてベタベタしないよ?」

ほんとかよ?
一瞥すると、梨華は私の視線を避けるように俯いた

「そりゃ、気に入って貰えたらなって思うし、
 ファンですって言っちゃったり、いつも見てます、とか
 応援してますって言ったりすることあるけど…」
「……はぁ」
「…呆れた、の?」
「オマエ、自分のキャラ考えてみろよ?
 梨華みたいなのが、ニコニコしてんなこと言ったら、
 相手のヤツがどうとるか分かんねぇの?」
103 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/23(火) 13:14

「……でも」
「もういいよ、別に、梨華には梨華のやり方があるんだろ?
 余計なこと言った」
「そんな…そんな言い方しないでよぉ、…もうしないから
 ひーちゃんがよくないって思うなら、あたし、もうしない」

また、そう言う言い方して、
私の機嫌を取るような言い方
そういうのって、自分はこいつにとって特別なんじゃないかって
思わせるんだよ!

イラッときて、乱暴に髪をぐしゃぐしゃっと掻く
なのに、梨華の下がった頭を見下ろしてると、そこにしゅんっと
垂れてる耳が見えるような気がして、これ以上キツい言葉を吐く気に
なれない

「梨華、ウサギみたい…」
「カワイイってこと?」
「…バカだってこと」
「ひっど〜い!」

私が、フッと笑うと、安心したみたいに梨華も、ふふふ、と笑う
おかしいなぁ、なんか、なんでこんな素で説教垂れてんの?
104 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/23(火) 13:15

やっぱ、昨日、今日と演じた役柄が抜けてないのか?
なんかほっとけない気がするんだよ

けど、梨華だって頼りなさそうにしてても、この世界そこそこ長いんだし、
上手く渡っていけてるはずだ
マジ、こんなこと言うの余計なお世話じゃねぇ?
なのになんか、言っちまうなんて、ハマってんな、私

ふわっと、梨華の髪の毛が揺れて、片腕に重みがかかる
まったくコイツは、そう思って見下ろすと、ニコッと見上げてくる顔
……なんだよ?可愛いじゃん

「ねぇ、ひーちゃん、あたしウサギさんになったんだよ?」
「は?きぐるみ着たの?」
「違うよぉ、バニーちゃんだよ!」

バニー?
あ、あぁ、あの胸元ガッツリ見えそうな、体のラインがピッタリした
編タイツの……ブハッ
想像したら、一瞬、鼻の奥がツンときた
まさか鼻血とか出てないよね?男子中学生じゃねーっつーの
105 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/23(火) 13:16

「な、何?なんの仕事?」
「写真集とセットのDVD、メイドさんにもなったよ
 梨華のおもてなし、ひーちゃんどっちが好き?」
「ど…どっちって…」
「見てみる?」
「……うん」

なんだかわからないうちに思わず頷いていた
梨華は嬉しそうに微笑んで、私と組んでいる腕にぎゅっと力を入れた
むにゅっと当たる感触

ねぇ、わざとでしょ?絶対わかってやってるだろ?
そんなことばっかしてると揉むよ?ウソ、揉まないけど…

「…じゃあねぇ、これからウチにおいでよ
 お酒も貰ったし、一緒に飲んじゃおう?」
「はい、はい」
「なぁによぉ、そのイヤそうな返事は〜」

別にイヤなんかじゃない
ただ、ちょっと、なんか、とにかく……はい、はい


106 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/23(火) 13:16













                      <<<<< つづく
107 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/23(火) 13:17

更新しました

108 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/23(火) 13:17

レス、ありがとうございます



85名無飼育様
続き、書きました(w

86名無飼育様
楽しみひとつ減ってないことを祈ります、アーメン

87名無飼育様
そうなんです、その設定だけの為に……バカだ

88名無飼育様
カワイイものはお世話が大変!
109 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/24(水) 03:28
>100のほうで胸がちくちく痛かった。
ちょっとおバカな梨華ちゃんがかわいいですね
楽しみが減ったどころか幸せな気持ちに浸れましたよ。ありがとう!
110 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/25(木) 14:51

マンションの前まで帰ってくると、部屋の前で先を歩いていた梨華が
振返り、もごもごと言いにくそうな声を出した

「…悪いんだけど、ちょっと、ちょっとだけここで待ってて」

言うが早いか、ササッと梨華は自分だけ部屋の中に入った

なんだぁ?
部屋がすっごい散らかってるとか?
あの、TVで特集とかされちゃう片付けられない女ってヤツ?
まぁ、あんまり要領が良さそうじゃないし、苦手っぽいかもね

私はドアと反対側の柵に手をかけて、空を見上げる
今日は月が出てない
つーか、月ってどっちの方角に出るんだっけ?
そんなことを考えながら、月を探して身を乗り出しキョロキョロしてると
ドアが開く音と被さるように訝しげな声がした

「……ひーちゃん、なにしてるの?」
「…ヤ、別に、ハハッ」
「え、と、どうぞ」
「では、遠慮なく」
111 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/25(木) 14:52

上がらせてもらって、勧められるままリビングにあるソファに座る
目の前にはガラステーブル、その先にはTV

横にある引き戸を開けたら、山積みの下着とか落ちてきたらどうしよう?
ま、開けなきゃいいだけだし、心配ないか

梨華は貰ったチューハイとグラス
来る途中で、ウチにはなんにもないからって、コンビニに寄って買った
おでんをテーブルに置いた
練り物、大好きー、いただきます!
「はい」と手渡されたお皿に、早速、ちくわを取った

梨華はチューハイをグラスに注ぎながら、もう食べてるの?って笑う
あ、しまった、まず乾杯だよね
「ゴメン、ゴメン」誤魔化し笑いをしながら、グラスを取って
ソファの下のラグに座った梨華のに、カチンッと合わせる、乾杯!

「お疲れ様、楽しいお仕事だったね」
「はふふはふ」

ちくわが思ったより熱い、はふはふしながら噛んで飲み込む
次はゆでたまごに向かって箸を伸ばした

「おでん好き?」
「うん」
「ふふ、良かった」
112 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/25(木) 14:53

梨華が嬉しそうに微笑む
何?なんかヤケに大人っぽい微笑み
つーか、年相応なのか?

私の頭の中には、昔の初めて言葉を交わした梨華が残ってて、
昨日、今日と一緒にいた梨華が、漠然とこんなコなんだろうなって
思ってた通りだったから、へぇ、そんなふうに落ち着いた表情で
笑ったりするんだ?って意外に思ってしまう

グラスに手を伸ばして、ゴクッとチューハイを飲む、おぉ!
梨華も、コクッと飲んで、あっ、と小さく声を漏らした

「美味くね?」
「美味しいね!」

ほとんど、同時に言って笑う

ずっと続く、初恋の味
そんな夢みたいな味が、もしあったら、こんなふうにさわやかさを
纏った甘さが広がるんだろうか?

グラスに注ぐのが面倒くさくなって、私はシルバーピンクに光る缶を
掴むと、そのままゴクゴクッと飲んだ
113 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/25(木) 14:53

「あ〜、ひーちゃん、お行儀悪いよぉ」
「いーの、格好つけたって美味くないっしょ」
「ふふ、しょうがないなぁ」

別に真似しなくたっていいのに、梨華まで缶を取って、そのまま
口をつけた

「ねぇ、ひーちゃん?」
「ん?」
「芸能界って…広いよね」
「はぁ?」
「狭い世界って言われるけど、やっぱり広いじゃない?
 長い間いたって、一緒にお仕事したことない人っていっぱいいるもん
 だから、ひーちゃんとお仕事できて、あたし良かった
 すっごく楽しかったんだよ」

純粋さを感じるほど、真っ直ぐとした明るい目で私を見て、
その眼差しの真剣さをほわほわと崩して柔らかく笑う

「……ん、私も梨華とで良かった…なんとなく」
「なんとなくってなによぉ!」
「だからー、なんとなく、だよ」
114 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/25(木) 14:54

私が、フッ、と笑うと、梨華も楽しそうに、ふふふ、と笑う

まだ、たった二日間しか一緒じゃないけど、
何回もこんなふうに笑い合えて、梨華の笑った顔を見てると、
私をちゃんと見て、ほんとに楽しそうに目を細めて笑ってるから、

私も、もっと楽しい気分になって、さらに笑っちゃうんだ
それを繰り返してたら、なんでだろう?
これからも、これがずっと続いてくって気にさせられる

「そう言えばぁ、あたしー、あのドラマのひーちゃん好きだったんだ
 ほんとにちゃんと見てたんだよ?
 あたしだったら、あんな答え言わないな
 まぁ、本があるからしかたないよね」
「へぇ?なんて答えんの?」
「じゃ言って、あのシーンやってみせて」
「え”〜〜、マジでぇ?」
「お願い、お願い!」
「はぁーーー」

まぁ、いっか、
ほんとに見ててくれたみたいだし、好きって言ってくれてんだし
いっちょ、サービスしちゃいますか
115 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/25(木) 14:54

私はソファからすとんと落ちて、梨華の横に座った

梨華がいるのと反対側の足を立膝して、腕をだらんと乗せる
投げ出してるもう片方の足の先を見るカンジに、俯き加減で
はい、スタート

「…そんな、泣かされるようなカレシなんかやめちゃいなよ
 あたし、さ……遠慮してたんだ、女だから
 けど、もう止めた、好きだったんだ」

ここで顔を上げて、相手を見れば、梨華も俯き加減から吃驚したように
目を見開いて、私を見てる、上手いじゃん

「ね、幸せにしてあげるよ、あたしを選んで」

さぁ、なんて答えんの?って思った時には、伸び上がるように
両手を広げる梨華が見えて、その腕の中にロック・オン状態

うわっ!わやら、ちげっ、柔らかい…

女のコの腕の中ってあったかいんだな
温かくて、柔らかくて、安心な場所って気がする
なんか、いいな、ちょっと守られてるカンジ…
116 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/25(木) 14:55

すぅ、と息を吸う梨華の胸の動きを感じた

「…嬉しい、あたしも好き、ふたりで幸せになろ?」

はひゃ!
芝居だってわかってんのに、なんか照れる、マジで、照れてる
自分の顔が熱を持って、赤くなってんのがわかってさらに照れた

「……どぉかなぁ〜?」

梨華の声が頭の上から聞えた
ちょっと上擦ってるから梨華も照れてんのかな?
そんなことより、いま顔を上げたくない、こんな顔、見られたくない
だから私は本のない芝居を続けた

「…どうもこうもないよ、もう離さない、幸せになるんでしょ?」
「…えっ?!」

ほっぺたを寄せてる梨華の胸の鼓動が早くなったのがわかった
つられたように、私の胸までドキドキいいだした

あ、なんか、これはヤバい気がする、このままじゃ非常にマズい

117 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/25(木) 14:55

私は体を起そうとして背中に力を入れた
まるで固まってしまったように、梨華の腕が外れなかったから
変な体勢で、力の入りきらなかった私は梨華の方に引き戻されて
勢いよく倒れた

ドンッとぶつかる音がして、私は慌てて体を起した

「わっ、ゴメン」

私の下にいた梨華は、頬をほんのり赤く染めてて、目がうるっとしてる
その潤む目を上げて、私を見た

「……ひーちゃん」


ごくっ…
もしここで、キスして、とか言われたらどーしよ?
私、しちゃうかも?いっちゃうかも?いってもいいの?!

「…な、何?」

118 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/25(木) 14:56

「背中いったぁ〜いぃ!起してぇ!」
「あっ……あぁ、そっか、うん」

もー、何考えてんだ、私?!
自分がマジで嫌いになりそうだ

私は梨華の腕を掴んで、引っ張り起こしながら、「大丈夫?」と聞いた
梨華がうんと頷いて、起き上がる

私、酔ったんか?
って、これぽっちで酔うわけないんだよ…はぁ

「あ、そうだ!ひーちゃん」

私のメランコリックな感傷を吹き飛ばすように、
元気な声を出した梨華は、立ち上がりTVの前に行くと、
しゃがんで台の扉を開いた

「あたしのDVD見てくれるんだよね、ちょっと待ってね…」
119 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/25(木) 14:57

DVDをセットし終わった梨華が私の隣に来て座る
リモコンを操作すると、TVがついて画面が変わった


『はぁ〜い、こんにちは!石川梨華でぇす♪』

画面の向こうの梨華もテンションが高い
ニコッと微笑んで、人差指を頬に寄せて、小首を傾げる
『今日は、いっつも梨華を応援してくれるみんなをおもてなしするね』

梨華は軽い足取りでドアの前に行くと、こっちを振返って、
おいでおいでと手招きする

画面が近づくと、ドアは二つあって、ひとつにはコーヒーのマーク、
もうひとつにはカクテルのマークが描いてあった

「ひーちゃん、メイドさんとバニーちゃんどっちがいい?」
「…あ、…え、えぇーーーと、…バ、バニー?」

なぜ疑問系?
私の動揺に関係なく、カクテルマークに画面が近づき、ドアが開いた
120 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/25(木) 14:58


『いらっしゃいませ〜』

ブッ…マジで、バニーだ、片耳がちょこんと折れた黒ウサギ

網タイツに包まれた脚を捉えた画面は、焦らすようにゆっくりと
ローアングルから上に上がって、胸元でいったん止まって、ズームして
引いて、梨華の笑顔を映した

『ご注文は何がよろしいですか?』

片耳に手をあてた梨華が画面に近づいて、
『はい、かしこまりました』そう言って、くるりと後ろを向く

私は気を落ち着かせる為に、飲んだチューハイを思わず、ブハッと
吐きそうになった

ぽわぽわの尻尾がふるっふるっと揺れてる
それがついてる、まあるいおしりの揺れに目がいってしまう…

そういうふうに作ってあるんだ
梨華の体のパーツ、そのひとつひとつが艶めかしく映って、
そそられて画面に見入るように
121 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/25(木) 14:58

赤い幕を捲って入った梨華が、格好つけて上げた片手に銀のトレイを
乗せて出てくる
空いた方の片手を腰に、しなっ、しなっと腰を振って、胸を突き出して
歩いてくる
画面に近づくとテーブルに乗せたのはアイスとプリンだった

「…なんで、酒じゃねーの?」
「さぁ?お酒は二十歳にならないと飲んじゃいけないからかなぁ?」

つーか、
このDVDを成人限定にするべきなんじゃない?
そう思いながら、缶に口をつけてチビチビ飲み、画面を見る
122 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/25(木) 14:59

『お待たせしましたぁ〜』

ニコッと笑った梨華が、え?、と大袈裟に驚いた顔をして、
『甘えん坊さんね、特別だよ』そう言って画面に近づいてくる

胸元の谷間が見えそうなアップ、唇のアップ、濡れた唇が舌舐めづり
するように、ゆっくりと開いて『アーーーン』と言う

また胸元のアップ、その前に銀のスプーンを持つ手が映ってる
それがバストショットまで引いて、笑顔の梨華になった

私の、画面に向かう自分の目が、見る、というより睨むと言うほうが
しっくりくるほど、険しくなっていた

『美味しかった?良かった』

胸元で指を組んで、上目遣いしてはにかむように微笑む画面の梨華は、
いま私の横にいる梨華がするのと、そっくり同じ表情をしてる
当たり前だ、同じ梨華なんだから、
だけど、私は、画面の梨華をもう見たくなかった

その後、『え?記念写真?』と言って、セクシーポーズを取る梨華から
私は目を逸らした
123 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/25(木) 15:00


『ありがとうございました、また会いに来てね』

画面に目線を戻すと、梨華が「メイドさんも見る?」と聞いてきた

私は横にいる梨華から、目を逸らして「ヤ、いい、今日は」と言って
テーブルにある、開いてない缶を取ってプルトップを引いた

「ね、どうだった?」

弾むような声に、たぶん、というか、絶対、期待されてる言葉は
言ってあげられない、と思って、口が重くなる

「…んーーー」
「ん?」
「はぁ…」
「?」

顔を見れば、機嫌の良さそうな微笑みを目許に残した穏やかな顔で
私を見てる、この梨華が、あの梨華
明らかに製作の意図がわかってても笑えるんだ?

「…梨華さ、恥ずかしくないの?」
「え?」
124 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/25(木) 15:00

「ああいう、さ、梨華自身じゃなくって、その、女を売り物に
 してるって言うか…」
「………」

梨華が、ぎゅっと唇を噛んで、俯いた
もう止めとけ、そう思う私がいるのに、自分のどこかが傷つけられた
気がして止められない

「…セクシーとか言われて、その気になってんのかも知んないけど、
 あんなの見て喜ぶヤツとか、それだけだよ
 きっと、梨華のこと、そういうふうにしか…」
「…いけない?」

思いがけない強い口調に、ハッとして梨華を見れば、
見たこともないほど、強い眼差しとぶつかった

「あたしのこと、それだけの女って見てるのはひーちゃんだよ…」
「私は…そんなつもりない!
 梨華だって、ほんとはやりたくないんでしょ?」

梨華が口許を歪めて唇の端を引き上げる、冷めた目をして、
それって笑ってるつもりなの?そんなふうに笑う顔なんて見たくない

「喜んでやってるって言ったら、嘘だけど、嫌だとは思わないよ
 納得してるから、あたしね、アイドルなの」
「……だったら…仕事、選べばいいだろ?」
125 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/25(木) 15:01

私は情けない声を出した
こんな梨華知らない、私の知ってる梨華じゃない

「そういうことじゃないよ、 あたし、もう二十歳過ぎてるんだよ?
 大きすぎる夢なんて持ってないし、現実だって見えてる
 だから、メディアに出続けたいの、消えたくない
 だってさ、ずっとずっと応援してくれてる人たちがいるんだよ?
 あたしが変わって見えても、何も変わらないで応援してくれてる
 その人たちのアイドルでいたい、笑顔でいたいの
 だからやるよ、あたし、この世界に残れる為だったら頑張れる」

言葉を失くすあたしを見て、梨華は苦笑いした

「ふっ、はは、なんかあたし、
 ひーちゃんならわかってくれるんじゃないかって思ってたけど、
 ひーちゃんにとって都合のいいあたししか気に入ってくれないんだ?」
「なんだよ、それ?
 梨華は、あたしに気に入られる梨華を作ってたって言うの?」
「作ってたわけじゃないよ、ただ、ひーちゃんが思ってるあたしが
 あたしのすべてじゃない、DVDの中も、このあたしも石川梨華なの」

私はやっぱり、なにかを誤魔化されてる気がして、詰問調になった

「それじゃ、ほんとの梨華はどれなんだよ?!」
「それは…全部だよ」

梨華は缶に唇を寄せながら、くぐもる声で低くそう言った
126 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/25(木) 15:01

こんな雰囲気で飲んでて楽しいワケがない
口をつけてた缶が空になると、それを握りつぶして私は立ち上がった

「帰るよ…」
「……うん」

玄関へと向かう私についてきた梨華が、ドアに手をかけた私に
声をかける

「…ひーちゃん……ゴメン、ね」

思わず振返る、シン、とした静かな表情
何か言うべきなんだろうか?でも、何を?

「…なんで?」

梨華は口許だけで薄く笑うと、なんにも言わないで首を横に振った

「……それじゃ」
「うん」

外に出て、バタン、とドアが閉まっていくのを見ていた
127 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/25(木) 15:02

閉ざされたドアは、まるで私を拒絶してるみたい
なのに、置いてきたモノがあるようでドアの前から動けない

いま目の前で固く閉まったドアが、軽やかにまた開いて、
「ヤだ、ひーちゃん、ほんとに帰る気だったの?」
そんなふうに拗ねた声で言いながら、梨華が笑顔を覗かせる気がする

けど、耳に響いたのは、ガチャリ、とかけられた鍵の音
それが合図みたいに、私の足は前へと運ばれる
128 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/25(木) 15:03

ふと、忘れモノを思いついたように足を止めて、
柵から身を乗り出して空を見上げた

やっぱり月は出ていなかった






                     <<<<< つづく
129 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/25(木) 15:03



130 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/25(木) 15:06

更新しました


109名無飼育様
優しいレスをありがとう!じんわり沁みました
131 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/25(木) 23:32
切ないね。
132 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/26(金) 05:25
ああ本当に切ない…。
133 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/26(金) 08:16
吉澤さん辛いけどガンバレ
134 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/26(金) 17:00

CMが流れ出した



135 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/26(金) 17:00

同窓会のお知らせ─── 
複雑な表情でハガキを手に立ち竦む私

「…来るかな」ボソリと呟いて、
思いを馳せるように空を仰ぎ見ると、高校時代の思い出が甦る

制服姿の二人が、自転車の二人乗りをしてる
二人の楽しそうな笑い声が、聞えてきて消えていく

画面が変わって、同窓会と書かれた看板が大きく映る
その横の会場に入って、誰かを探すみたいに画面が横に動いて、
ピタッと止まった先には笑顔の梨華

「…元気だった?」梨華の声で、はにかむ笑顔がアップになり、
『元気でね』の声が被さって、高校時代の二人が校門の前で
反対の方向に歩き出す姿

会場を後に夜道に出る梨華を追いかけて、「ねぇ、この後飲まない?」と
私の声、ニッコリと嬉しそうに微笑んで頷く梨華

部屋の場面になり、手に持ってるチューハイの缶がアップで映る
ソファを背に二人並んで座って、梨華が酔った雰囲気で私の肩に
頭を凭れ掛けてる
「…あの頃、好きな人いた?」梨華がそう言いながら、首を回して
私を見る、見詰め合う二人

136 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/26(金) 17:01

二人に被さるように、缶チューハイに描かれているさくらんぼが
アップで映って、ナレーションが入る
 ─── ずっと続く、初恋の味、cutetheチェリー新発売



「………」

なんとなくつけたTVで、いきなり流れ出した映像に、しばらく
動くことが出来なかった

ハッ…
いつの間にか詰めていた息を吐いて、もう違うCMが流れてるTVを
見るともなく見る


女のコが思春期に同性に対して一時的に持つ、恋愛感情に似た憧憬

その気持ちは忘れたようでいて、現実に疲れた時なんかに、ふっと心に
甦ったりして消えないんだよね、キレイな思い出だから
そういうの感じたことあるコって、意外に多いと思うんだ
女のコはキレイで儚くて、切なくて、曖昧なカンジが好きでしょう?

撮影の前に、そんなふうにスポンサーさんが言ってたのを思い出す
梨華は身を乗り出すように前のめりになって、うんうん頷きながら
真剣に聞き入っていたっけ


 
─── 梨華、元気にしてるかな?

私の問いかけに答えるみたいに、梨華の声がした
137 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/26(金) 17:02

『芸能界って…広いよね』

フッ、ハハ、確かに、本当だ
そうだよ、仕事が一緒になることなんてないんだ

『ひーちゃんとお仕事できて、あたし良かった
 すっごく楽しかったんだよ』
『あのドラマのひーちゃん好きだったんだ
 ほんとにちゃんと見てたんだよ? 』
『…嬉しい、あたしも好き、ふたりで幸せになろ?』

ハァァァ…

ねぇ、なんでそんな特徴的な声してんの?
酷いじゃないか、
誰とも間違えようがない、梨華の言ったこと、忘れることなんてできやしない

頬をほんのり赤く染めて、目をうるっとさせて、その目で私を見上げて、
酷いじゃないか、
潤んだ目なんかすんな、オマエのせいだ、オマエのせいだ
梨華が、そんな、可愛い顔、するから…だから、

私……キ、ス、したかった、したいと思ってた
言っとくけど、誰にでもそんな気おこす訳じゃないから
138 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/26(金) 17:02

一応、こういうキャラしてるけど、
それは作ってるんであって、別に女が好きとかじゃないし…

作ってる?…あぁ、作ってるよ
けどそれは、この世界にいるヤツなら当たり前のことで、
だけど…それは、騙そうとか、そう言うんじゃないし、
嘘なんかでもなくって、望まれてる自分を少し大目に露出してるだけだ
私…であることに変わりはない

『アイドルでいたい、笑顔でいたいの
 だからやるよ、あたし、この世界に残れる為だったら頑張れる』
『ひーちゃんならわかってくれるんじゃないかって思ってたけど…』
『…ひーちゃん……ゴメン、ね』

……ごめん、
そう言わなきゃいけないのは私、だ
ほんとはわかってた、わかってたハズだった
でも……

ねぇ、梨華、ウチら初対面なんかじゃないんだ
そっちは忘れてるみたいだけど、私は覚えてる


139 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/26(金) 17:03

一日も忘れたことない、なんて言ったら嘘だし、
梨華と共演することになったから思い出したって言っても嘘だ

ずっと、残ってた、それは小さく、



あれはまだデビューして一年経っていなかった
なんで、非常階段に出たかなんて、私も行き詰っていたからだ
センターに抜擢されて、望まれてる姿を頑張ってたけど、
この世界と言うより、アイドルっていうものに馴染めなかった

踊り場にひょこっと頭の先だけ出てて、
引き返そうとしたけど、洩れて聞えてくる嗚咽に足が止まった

私は数歩近づいて、階段に座ってるそのコの衣装と、顔は覆って
いたけど、全体のカンジから同期の他のアイドルグループのコだって
ことがわかった

人の気配に気づいたそのコは嗚咽を止めた
無理に止めたからだろう、ひぃっく、としゃくり上げる声が
ヤケに大きく外気を震わせた
私はその場にしゃがみ込んで、俯きながら声をかけた

「…いいよ、泣いてて、顔見えないし、誰かなんてわかんないし、
 けど、ほどほどにしといた方がいいよ、腫れたらヤバいっしょ?」
140 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/26(金) 17:03

何かあったのかな?
だけど、年頃の女のコが何人も集まってずっと一緒にいるんだし、
泣きたくなることが一回もないなんて言ったら、そんなの嘘だ

私は空を見上げて、ぽつり、ぽつり、と自分の思っていることを
口にした、それはそのコへの慰めなんかじゃなくって、
自分がまた立ち上がれるように

もう、嗚咽は聞えない、肩も震えていない
それだけ確かめて、私は先にドアから出て行った

閉じようとするドアの隙間から、顔を上げて振返るそのコの、梨華の
眼差しが頼りなげに揺れているのが見えた

それから暫くの間は、梨華を意識していた
当時は歌番組で顔を合わせることも、何回かあったけど、
名乗りあったワケじゃないし、何かを打ち明けられたワケでもない
だから話しかけたりしなかった

もし、同じグループにいたなら、頭を撫でたり、肩に手を回したり
慰めて、一人で泣かなくていいようにしたのかも知れないけど…

その後、梨華が一人で泣いてるところを見ることはなかったし
グループを解散した後は顔を合わせることもなかった
141 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/26(金) 17:04

梨華の振返った顔は、いまでも思い出せるよ
涙を溜めた目が縋るモノを探してるみたいに揺れてた

こんなにはっきり思い出せるようになったのは、やっぱり梨華と
向き合って、言葉を交わしたからだろう

今まで、特別、梨華の情報を集めようとしたことはないし、
人の口に上がる噂程度で、この世界で頑張ってるってことがわかって
それでいい、と思っていた
グループ違っても、同期なことには変わりはないし

もう、泣き虫じゃなくなってんのかな?
そんなふうに何回かは思ったりしたけど

たぶん、あの泣き顔をみた一時に、
私は自分の中で、梨華を作り上げていた

実際に言葉を交わした梨華が、想像通りの私を頼ってくるような
ちょっと抜けてて放っておけない、甘ったるい女のコであることに、
私は安心したんだ、嬉しかった、楽しくなった
なんだか、傍にいてあげたくなる気がしたんだ
142 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/26(金) 17:04

あの頃よりも、ずっと女の体になっちゃってて、
それにどぎまぎと焦ったりしたけど、
私を見上げるその表情には、幼さを残していて、
甘えて聞えるような声で、ひーちゃん、ひーちゃんって、
他の誰かが呼んだりしない言い方で私を呼び続けるから

私、勘違いしたんだ



梨華はもう大人の女で、一人でもこの世界で逞しくやっていけてる
私が余計なことを言う必要なんてなかった

それでも梨華は、その行動を媚びてると言った私には素直に従った

仕事のことだけには口を出すべきじゃなかったんだ
梨華はプライドを持って頑張ってきた
他人の目にどう映るか?それを考えたことがないワケがない
それでも、だぶん色んなナニかを犠牲にしてでも
仕事は頑張ってきたんだろう
梨華にとって仕事を続けることは、それほど大きな意味がある

だから、私は、言ってはいけないことを言ってしまったんだ
梨華を…傷つけた

143 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/26(金) 17:05

あのDVDを見なけりゃ良かった
そう思って、そんなことを思う私だからいけないんだ、と気がついた

この世界は流れが激しい
自分で作っていかなかったら、ただ流されて見えなくなる
それが分かってたから、あの頃と変わらなく見える梨華が
愛おしく感じて、繋ぎとめたかった

下らない解ったつもりの独占欲を、
梨華のことを思ってるからだよ、なんて顔はもうしない

大人になっても夢見がちなオトメ、みたいな顔して見せても
梨華はかなり現実的だ

そんな梨華が、もし、
私が傍にいることを喜ぶんだとしたら、それは、
甘やかされて、慰められることではなくて、
理解されて、励まされることなんじゃないだろうか?



ねぇ、梨華
まだ勘違いしてるかな、私?


144 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/26(金) 17:05



145 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/26(金) 17:06

缶チューハイのCMはゴールデンタイムにバンバン流れてたりして
スポンサーさんのビックネームを、さすがだなぁーなんて思って
一ヶ月が過ぎた

まぁ、私は何発か単発のTVに出たりして、それなりに毎日を
こなしていた

今日はラジオの収録がある
パーソナリティは、実は結構付き合いがあったりする里田まいだ

私はあんまり業界の人間と親しくなったりしないんだけど、
アホゥなことばっかり言って、知識の無さを売りしてるまいちんが
実は結構、場の空気を読むのが得意で知恵が働くっていうところが
気に入ってつるんでる

このラジオ番組のスポンサーさんが、チューハイのスポンサーさん
なもので、ちょっと巷で話題になってるコーナーみたいなとこで
要するにチューハイの宣伝をしゃべるワケだ

収録前に、
差し入れと言って甘いものを持ってきてくれたスポンサーさんが
私の傍に寄ってきて、小声で囁いた

「聞いてると思うけど、また石川さんと撮ってもらう映像、
 今度はホームページアップだから宣伝よろしくね」
146 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/26(金) 17:07

「はい」営業用爽やかスマイルを浮かべる私

そうなんだよな、
梨華と、また撮るんだ

あのCMの後、二人が普通に会ってるカンジを出すんだって
まぁ、デート?ぽい?そう見えなくもない、みたいな

今回は全国ネットでTVから流れるワケじゃなくって、
ホームページアップだし、大掛かりな撮影とかじゃなくて
屋外撮影、セットなし、ついてくるカメラさんも一台
台本もほどんどなくって、アドリブ、アドリブって書いてある

今回は梨華との顔合わせなんてもちろんないから、
撮影現場で、久しぶりに会うことになる
147 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/26(金) 17:07

あれから、あの梨華の家で険悪な雰囲気で別れたあと、
梨華には会っていない
メールしようかと思って、携帯を開いて、あるはずだった
石川梨華の登録をしてなかったことに気がついた

そっかー、なんかすっかり馴染んでたけど、
二日しか一緒じゃなかったんだし、聞いてなかったのか

そんなふうに思って、
もちろんこのままでいいとか思ってなかったし、
この後、梨華との縁が切れるとしても、ひとこと謝るべきだって
思ってはいた

都合よくスタジオや局の廊下ですれ違うなんてことはないし、
梨華の事務所に連絡先を聞くことも考えた
家は知ってんだから、行ってみるか?と思わなかったワケじゃない

だけど、どれも行動に起せなかった

そもそも、ごめん、以外はなんて言ったらいいかわからないし、
一ヶ月以上も過ぎて、いまさら、ごめんって何?ってカンジだし
148 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/26(金) 17:08

梨華との関係がどういうカタチにしろ、続くんだとしたら
次、会った時が勝負だ、そう思ったら
縁が切れてもいいなんて、ただの強がりで

冷めた目で見られたら、
ひーちゃんって、呼びかけてくれなかったら
きっと何も言えなくなる、それが、怖くなった

男前キャラとか言われてるけど、ヘタレなんです、私
打たれ弱いのよ、臆病だしね、だって女のコだもん、なんつって

こんなふうに自分を茶化して誤魔化して、早いもんだね、一ヶ月なんて

でもまぁ、会っちゃったら話さないワケにはいかないだろうし、
話すからには、ちゃんと謝っときたいし、うん、ガンバレ私
そうだ、このままなんてダメだ

もう一度頷いて顔を上げると、CMが入って、中に呼ばれる
まいちんが目許をニタッとさせて、おお、来たなって顔をする
はい、来ましたとも

CMが空けて、
「今日のゲストはぁ〜」とまいちんが元気な声を張り上げる
149 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/26(金) 17:08

「吉澤ひとみさんで〜す」
「どーもー、こんばんは」
「はい、こんばんはーって、何よ〜他人行儀じゃないですか?
 実はね、結構仲いいんですよ」
「うん、そうだね、飲みに行ったりするしね」
「羨ましいですかぁ?リスナーのみなさん!
 今日も、よっちゃんは格好いいですよ〜」

私のくぐもった笑い声が入る、まいちんはおどけた表情をしている

「なんだ、そのフリ」
「いーのよ〜
 実はね、よっちゃんが出てるCM、それが結構話題なんだって
 知ってた?」
「話題?なんて?」
「フッフフ〜」
「なんだよー」
「わかるよ、あのカンジ、女のコだもん」
「は?」
「私もねぇ、相手がよっちゃんならね、考えますよ」
「あの、里田さん?」
「相手役は石川梨華ちゃんだったわけだけど、可愛かった?」
「あー、うん、カワイイね」
「ヤッダー」

バシンッと叩かれた音が入る、
手加減しろよ…腕を撫でてみせたら、ニッと口角を上げた…ったく
150 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/26(金) 17:09

「ところで、まいちんは飲んでくれた?」
「うんうん、美味しかった、女子の好きなテイストだよね、チェリー
 けどさ、甘すぎないよね、そこがよかった」
「実はさ、今度、スパークリングをもっと効かせたバージョンが
 出るんだ」
「ほぉ、楽しみだね、大人のね、女子の楽しみが増えるわけだ
 で、なに?またnew バージョンのCMとか撮ってるの?」
「それはー、ないんだけどー
 お知らせがあってさ、その発売が来月頭なんだけれども
 それに合わせてね、ホームページであのCMの続きが見れるんだ」
「へぇ〜、それはチェックしないとね、リスナーのみなさんも
 ホームページ要チェックですよ〜」
「はい、お願いしまーす」
「で、なに?
 やっぱこう、もっとラブラブ指数上がっちゃったりすんの?」
「それはねぇ…ヒミツですよ、ヒミツ
 なんつって、これから撮るんだけどね」
「なーんだ、でもね〜、上げてったほうがいいよ、私、そう思うな」
「ハハッそうなの?じゃ、ちょっとこう、気合入れて…」
「キャー、なんの気合?絶対チェックしますよ、もう、個人的にね
 と言うわけで、気になるみなさんは!」
「ホームページ、遊びに来て下さいねー」
「はい、と言うわけで
 ゲストはよっちゃんこと吉澤ひとみさんでした、ありがとう〜」
151 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/26(金) 17:09

CMが入って、出ようとする私にまいちんが紙切れを渡してくる

 この後、飲み行かない?

いつの間に書いてたんだ…
つーか、こんな時間にやってる店あんの?
まぁ、最近まいちん忙しかったし、久しぶりだし、付き合っても
いいんだけどさ

て、ことは、
帰れないんじゃん、私…
いいけどね、たまには、友達だしさ、付き合うよ

152 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/26(金) 17:10

まいちんが、朝までやってるって、連れてきてくれた店は
カフェ風で、こんな時間なのに結構若者とか多くて、
顔なじみらしいお店の人は、奥の席に案内してくれた

上手く壁みたいな立てに区切られていて、ちょっと個室みたいだ

「ココさぁ、節操なくなんでもあるんだけど美味しいよ」
「へぇ…」

メニューを見て、アルコールとつまめそうなものを頼む
ドリンクが来て、とりあえず乾杯、ほいお疲れ!

「よっちゃん、久しぶりだねー」
「それはまぁ、そっちが忙しかったからねぇ」
「ふはは、まーねー」
「いいことじゃん?」
「…うん、よっちゃんもさ、忙しくなるかもね?」
「なんで?」
「イヤ、話題だから」
「そーなの?」
「え?知らない?」
「さっきも言いかけてたね」
「まー、ほら、どこまで突っ込んでいいか難しくて、ね
 頭の固い人とかいるからさ、あんましクレームきても面倒だし」
153 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/26(金) 17:10

まいちんは、ゴクッとアルコールで喉を潤してしゃべり続ける

「最近、見てない?ネット
 有名どこ以外でも話題になってるよ
 最近はさぁ、ネットとか携帯からくるじゃん?」
「…話題?だから、どんな、だよ」
「うぅ〜ん、言うのぉ?
 まー、だからー、フツーに、よっちゃんとー、梨華ちゃんがー 
 できてるとか、あやしいとか、そんなの」
「……あ、そう」

さっすがー、余裕だねぇ
そう言いながら、ニヒヒと笑って寄こすけど、
余裕なんじゃなくって、動揺しすぎてリアクションが出なかったんだよ

ドッドッド、頬杖をついてる指から振動が伝わってくる
あら、酔っちゃったのかしら?
だから、私はこんくらいじゃ酔わねーつーの

だけど顔は、酒を飲んだら、すぐに赤くなるのを知ってるから、
まいちんは気にも留めないで、グラスを煽って話し続ける
154 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/26(金) 17:11

「まー、スポンサーの狙い通りだね
 よっちゃんをキャスティングしたかいがあるよね
 格好いいもんねぇ、よっちゃんは…
 よっちゃんにマジで迫られたら、その気がないコでも
 ちょっとよろめくと思うよ
 結局さぁ、どういう形にしろ、話題になった者勝ちだしね」
 
そっかー、んなに格好いい?すげーな私、なんつって、
まぁ、女、だからこそハマるんだよね、この男キャラも
そう思うとさ、この業界も面白いよね、それが売りになるんだから

「まぁねー、つーか、まいちん
 私がマジで迫ったら、よろめくと思うんだ?」
「よろめくでしょ」
「…まいちんも?」
「考えますよ」
「ホントかよー」
「フハハハハッ!
 って、ちょっと聞き捨てならないんだけど、迫るの?誰に?」
「えー、別にー、ないない、聞いただけ」
「あのドラマのさ、よっちゃんのイメージ結構まだ残ってるし
 こう、一途な、ね、だからさイケるよー、今なら!」
「何、煽ってんのよ」
「フハハハハッ!」
155 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/10/26(金) 17:11

マジか冗談かわからない、
まいちんと飲むといっつもこんな酒になる



けど、ネットかー
話題になってるねぇ?
 
ふーーん、別にいいけど、
一過性の話題なんて、熱病みたいにすぐに廃れる


でも、まぁ、帰ったら
久しぶりにネットを繋いでみるか…






                      <<<<< つづく

156 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/26(金) 17:13

更新しました


157 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/26(金) 17:14

レス、ありがとうございます



131名無飼育様
胸の痛みはあるでしょう…

132名無飼育様
その後で感じることもあるのかな?と

133名無飼育様
吉澤さんはその先を目指します

158 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/27(土) 04:46
大人の吉澤さんが素敵ですね
ほろ苦い切なさでドキドキ…。

作者さまはもしやあの御方でしょうか?「オ○○○チ○○」
違ってたらごめんなさいです。更新ありがとうございます。
159 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/27(土) 09:03
嵌ったみたい。
おもしろいですよ!頑張ってね。
160 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/03(土) 00:58
よっちゃん、うまく謝れるかな。
161 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/06(火) 23:56

今回は思うところあり、お先にレス返しさせてもらいます


レス、ありがとうございます

158名無飼育様
知りたいですか?…って、いう時点でバレバレかw

159名無飼育様
おもしろい?!…良かった、もうそれが気がかりでw

160名無飼育様
さぁ、どうなんでしょ?w
162 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/06(火) 23:57

えーーっとですね、158様のご指摘通りでございます

前スレの最後に上げた話がリアルモノだったので、
そのすぐ後に内容の違うリアルモノを上げるのに抵抗がありまして
しかしながら、ラブラブチェリーを見れば見るほど、お二人が作者の
脳内でじゃれ合って下さるので、ついつい書きたくなってしまいまして…


この機会にお詫びさせて下さい
前スレで新スレを待つと言って下さった方、本当に嬉しかったです
ありがとうございました!
なのに、お知らせすることもせず、名無しでいてごめんなさい!
次スレを立てる際には、名乗って立てさせていただきたいと思っております

小説と関係ない話、失礼いたしました
それでは、更新参ります

163 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/06(火) 23:58


ネットに繋いだ

………

…………

……………



口が開いた…


164 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/06(火) 23:58

そうりゃぁ、あったよ、いろいろ、たくさん、ご意見が
ブスだとか、キモイとか、オマエいらねとか、そういうのだって
まーまー、言いたいこと、解るっていうか?

だってさ、TV出てんだし、芸能人なんだからね
全ての人に好かれるなんて思っちゃいない


半面、ちょっと、グッときた

ずっと見てきたから、ずっと応援してきたから、それでいい
梨華ちゃんが梨華ちゃんであるなら、それでいい
梨華ちゃんが幸せなんだったら、それでいい、それが幸せだから

PCの向こう側から、たくさんの人のささやかで、おっきな思いが
波みたいに、いくつもいくつも流れてきてて、

この人たちって、もちろん、梨華とは
親兄弟や友達みたいな付き合いがあるワケじゃないのに

それでも、梨華の気持ちを、一番解ってるっていうか、結局、
なんだよ……両思いなんじゃないかって

165 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/06(火) 23:59

それは、梨華だけじゃなくって、
私に寄せてくれてる思いもおんなじで、

忘れてたつもりはないし、ずっと感じてきたハズなのに、
改めて、あぁ、頑張らなくっちゃ、私、責任があるって、そう思った

梨華の私に対する笑顔は、演技じゃない、本物だとか
あの二人は同期だから、過去になにかがあって、焼けぼっくりに
火がついた、だとか、
実は二人は付き合ってるんだとか、

……イヤ、それはナイんだけど、

でも、そう見えるのかなって思って、

よっちゃんは、毎晩毎晩、梨華ちゃんを……

って、そう見えるのかなっておも───、って、おいおい


166 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/06(火) 23:59

つーか……

私、女のコをヒィーヒィー言わせたことなんて、ナイっすよ
ジゴロだとか、タラシだとか、それって褒め言葉?

じゃ、せっかくだから、それにお答……出来ねーつーの!


ネットの世界なんかいい加減、みんな言いたいことだけ言ってる
だからと言って、その言葉がいい加減なだけとは限らない

言いたいことは伝えたい愛だったりもするんだ



受け取らなきゃ、ね、ちゃんと

そんで、私も負けないようにしないと!


悪かったことは、キチンと謝って、落とし前つけて、

それから、ね、


167 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:00



168 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:00

本日は晴天なり、


高台にある遊園地、
そこに、車から降りた小さな影が伸びた

一ヶ月半ぶりくらいに梨華を見た瞬間、
私の心臓はぴょんっと跳ねた

ぴょんっ、ぴょんっ、ぴょんっ
うさぎ跳びを続ける振動、心臓が頭の先を引っぱり上げる


梨華がこっちに向かって歩いてくる
まるで、ほんとにデートするみたいな気持ちだ
そう、初めてのデート

ねぇ、私、おかしくない?ヘンなとこない?

落ち着きのない指が意味もなく髪を掻き揚げ、頬をひっかき
ジーンズのポケットにひっかかることで静かになった


不思議だった
梨華だけが浮いてる、光ってる
私の目に映る景色の中で、梨華だけが浮き上がる
太陽が注ぐ、銀色のチラチラした瞬きを、ティンカーベルの粉みたいに
体中から撒き散らして

169 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:01

ぴょんぴょんぴょんっ

うさぎが大騒ぎを始めて、口から出てきそう
私は大きく息を呑んで、たまらず梨華から目を逸らす

けど、
見たくて、そろり、そろりと目線を上げて行くと、はっきり顔が見えた

梨華は笑顔を浮かべていた
ふっ、ふふ、小さな息遣いが聞えてきそう
梨華は笑顔を顔中に広げて、タッ、と駆け出した

私の目の前まで来て、とんっと軽やかな音がしそうに足を止めて
見上げてくる、ニコッ♪

「おはよぉ、ひーちゃん!」
「…あ、うん、おはよ」

こんなに可愛いかったっけ?
そりゃ、可愛いかったんだけど、
他の景色が霞むくらい、可愛いかったっけ?
梨華だけがズンズンと迫ってくる感覚
目の下らへんが、ぐわっと熱を持つ

170 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:01

「…いいお天気で良かったね♪」
「あ…うん」
「………」
「………」

ニコッと小首を傾げて笑う顔、そっから目が離れない

「なーによ、見惚れちゃってぇ、梨華が可愛いからって〜」
「ばっ…バカッ!」

つーか、私、何か言わなきゃいけないことが…

「バカって何よぉ」

プゥー、目は微笑んだまま、ほっぺたを膨らませて見せる顔
わっ、ヤべ、可愛い…

こう、こうさ、うにーーって、引っ張りたくなる、そのほっぺた
って、…そういうことじゃなく、ウズウズしてる場合ではなく


私、梨華を傷付け…たんだよね?
間抜な確認をしたくなるほど、梨華は今まで通りの笑顔で、

171 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:02


「あの、さ、この間…」
「………」

梨華の顔が強張って、目線がスッと外される
私は言葉が上手く出てこなくなって、下唇を噛むように舐めた

「集合して下さーい!」
スタッフさんの大声が聞えて、私と梨華は同時に詰めてた息を吐いた
ホゥ…

「…行こっか」「…うん」
にわかに気まずくなる空気、困ったなって思ったら、梨華が腕を
絡めてきた

「遊園地、久しぶりだよぉ、楽しみだな〜」

何ごとも無かったみたいに、ニコッとして、ね?と見上げてくる

「…仕事だけどね」
「もぉ、ひーちゃん、そー言う言い方しないのっ」

メッ!なんて言うから、うわっキショいよそれ、ひっどーい!
そんなじゃれた言い合いをしながら、スタッフさんのとこに急ぐ

一瞬、いんじゃんこのままで、自然だし、なんて思って
イヤ、謝るべきでしょって思い直す
撮影が無事終ったら、そう先延ばしする私って、やっぱヘタレだ…
172 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:03

園内に入って、「じゃ、二人で仲良さそうに歩いてて下さい」って
言われて歩き出す

アトラクション毎の別れ道で、後ろから
「ジェットコースターのある方…右の道に行って下さい」
そう言われて、私の体がギクッと強張った

後姿をカメラが撮ってる、そう思って、楽しんでるように
浮き足立つカンジを意識しつつ、
顔からは血の気が引いていく…

大丈夫、私?
あんなの乗っちゃって、撮影こなせる?……ヤッバ…

「…ね」
「………」
「…ひーちゃん?」
「………」
「ひーちゃんってば!」
「へ?!あ、何?」
「もぉ〜、ね、なんか顔色青くなってるよ?」
「そ、そう?」
「どうしたの、急に?…あ、ひょっとして…」
「な、なんだよ?」
173 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:03

「…ジェットコースター、ダメ、なの?」
「………」

返事はしなかった
梨華が探るような眼差しを左下から、ジトーーと浴びせてくる

ダメ、なんてもんじゃないっすよ、マジで
腰砕けちゃうかも?
あーー、背中にヤな汗が…

そう思って、冷や汗と戦ってたら、左腕がぐいんと後ろに引っ張られた

「あのー、すみません!」

梨華が体ごと振返って、スタッフさんを呼んだ

「どうかした?」
慌てて、駆け寄ってくるスタッフさんに、梨華は俯くと、
消え入りそうな、儚げな声を出した

「あたし…実はジェットコースター、ダメなんです…」
「え、そうなの?でも怖がる石川さん可愛いと思うなぁ」

同意を求めるように見られて、私は条件反射で頷く、あれ?
174 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:04

「…でも、ほんとにダメなの
 怖いとかじゃなくって、具合が悪くなっちゃうんです…
 頑張ろうかなって思ったんですけど、その後の撮影のこと考えたら
 無理したら、返ってご迷惑をかけちゃうかも知れないって思って…」
「…そうなんだ?
 んー、体調悪くなるのは困るな、ん、じゃ、いいや
 オバケ屋敷にするか、ね?」

はい、と頷いた、梨華の顔はほんとに青い
すげー、女優だね、アンタ、つーか梨華もダメだとか?

スタッフさんが、カメラマンさんの方に戻っていって
歩き出してから、梨華が言った

「ひーちゃんさ〜、ダメなものあるのってカワイイと思うよ?」
「…は?」
「格好いいだけの人なんていないじゃん
 キャーってさ、あたしにしがみついてもいいんだからね」
「キャーって…」

絶対言わねーだろーなー
せいぜい、うおぉぉぉ!とかかね、つーかー、

「ちなみに梨華、ジェットコースターは?」
「大好き♪」
「あ、…そう」
175 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:04

じゃ、やっぱ、私の為、に言ってくれたんだよね?

「あ、あのさ…サンキュ…」
「ううん、いいの、今度ねぇ、二人で来て乗ろーね!」
「ぜってーヤだ!」
「あはははは!」

ちぇーー、そこまで笑うことなくね?
けどまぁ、今度はさ、自分でちゃんと言うから、ダメなんですよって

格好つけてるつもり、とかないんだけど、
ダメ、とか、ムリ、とかって、わりと言えない
私が我慢したらいいだけだし…って思っちゃうから

そういう私のよくないクセ知ってるみたいに、さらり、と
かわして、笑い話にしてくれる
しゃべることとか、思いつきだけっぽい行動とか子供みたいなのに
なんかー、大人なんだよな、梨華って

176 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:05

「オバケ屋敷も好き?」

ひょいっと顔を覗きこんだら、目がキョドってる
 
「……あれ?ひょっとして」
「………」
「ダメなものあるのってカワイイんじゃなかったっけ?」

そう言うと、梨華の眉が寄って、悔しげな目を上げる

「あたしはさ、もう十分カワイイからいいのよ
 それに、ダメってほどでもないよ、案外、平気かも?
 あたし、スプラッタ映画とか好きだしさ〜」
「映画とオバケ屋敷って別じゃね?
 あー、そう言えばココのって、怖いらしいよね」

私は声を潜めて、ヒミツを打ち明けるようにそっと囁いた

「…そういうこと言うかなぁ」
「ぷっ、キャーってしがみついていいからさー」
「なぁによ〜、そんな言い方するなら、やっぱりジェットコ…」
「わぁー、違くて!
 私がいたら安心じゃない?怖くないでしょ?ねっ!そういうコトよ」
「あーやーしー、誤魔化してる〜」
177 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:05

はしゃぎながら、オバケ屋敷の前について、
ちょっと怖がる梨華を、まーいいじゃんってカンジで私が中へ
入ろうとする絵を取る、芝居する必要まったくなくない?

中まではカメラが入らないから、
出口を出てくる時に、石川さんは吉澤さんに思いっきりしがみついて
中でラブラブだったんだろうな〜って、思わせるようにして下さいね
そんなふうに言われて中に入る



どうだったかって?
それは…まぁ、梨華はマジで涙目になってたよ

ソフトクリームを舐めてるとか、アトラクションに並んでるとか
遊園地デートを満喫してる映像をいろいろ撮って、車で移動

ま、次もまた遊園地なんだけどね

178 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:06

夕暮れが濃くなり、大きな観覧車は水面に輝いて映ってる
あちこちのアトラクションにも電飾が灯って、なんだか幻想的

乗る人のいないメリーゴーラウンドの前で
白い丸テーブルと、それっぽい白い椅子がライトを反射してる

そのひとつに斜めに向き合うように座って
私たちは缶チューハイのプルトップを引くとカツンと合わせた

梨華が大きく身振りをつかって話をし、私は耳を傾けて微笑む
楽しげな会話、弾む笑い声

いつしか囁きも聞き逃さないほど、顔を寄せていて
笑い顔のまま、至近距離で目が合った二人はふいに黙る
「…いま、好きな人いる?」
私が、梨華の目をじっと見つめながら聞いて、撮影無事終了
179 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:07

「…この後、時間ある?」

私が声をかけると、梨華が意外そうに目を瞬かせる

「…っと、メシ食いに行かないかなって思ってさー」

やぁだ〜、ひーちゃん、嬉し〜!
なーんて、テンションで腕とか組んでくるかと思いきや、

梨華は難解なクロスワードパズルを、今すぐ解けと言われたように
こくっと息を呑んで、ほんの僅か眉を顰めた

「…えぇ〜と、今日は……」
「都合悪い?」
「…ん」
「仕事?」
「…まぁ、うん、ゴメンね」

どっかから慌てて出したような笑みを取って顔に乗せると、梨華は
「お疲れ様でしたー」と、わざとらしいくらいのデカい声で言って、

「じゃ、お先に!」と、やたら元気な声で間髪いれずに続けて、そそくさと
私の前を横切って行く
180 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:08


『お疲れ様でしたー!』



あちこちから木霊する声、それが、ぼわん、ぼわん、と
どこか現実感がないぼんやりした頭に響いた

181 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:08

───あれ、

 ──────あれれ?


吉澤さんったら、避けられちゃってる?
ほんの一瞬、本能レベルで、まさかぁ〜なーんて思って、
その自分の自信がまったく意味不明だと気づく

私が梨華を気にしてるから?
厚意?好意?が、あるからって、梨華も同じだとは限んない

……あ、
肝心なこと言ってないじゃんか、


ごめんって、



それは……梨華が、あんまり普通だったから…

182 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:09

酷いヤツだよ、
私の頭を梨華でいっぱいにして、

謝るのを、謝らなきゃいけないほど傷つけるようなこと、
私が言ったのに、
それを忘れちゃうほど、普通にしてみせるなんて

ほんと酷いヤツだよ、
そのクセ、私から逃げるみたいに、さっさと背中を見せるなんて


責めてくれたらよかったのに、
バカ、でも、ひどい、でも、あっち行け、でも
この際なんでもいいからさ、あんなふうに…


『…ひーちゃん……ゴメン、ね』


あぁ、またリフレインする、梨華の声、梨華の表情、

「ぐわっ…っきしょぉ!」

私は両手で髪を掻き揚げて、バサバサとかいた

この苛立ちは梨華のせい?
違うよ、私がバカなんだ、大バカヤロウなんだ…

183 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:09



184 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:10

あーいうのって、イメージムービーとでも言うのだろうか?

いくつかのパターンに構成された二人の休日
それに被さる声を、撮影の一週間後にスタジオで撮った

でもどのパターンでも、私は最後に梨華にこう聞く
「…いま、好きな人いる?」って、

何回も聞いたもんだから、なんだかマジで、この役とかナシで、
吉澤ひとみが石川梨華に聞いてる気がしてきちゃって、
その答えが何よりも知りたいことのような気がしてくる

今日は撮影はないし、私も梨華もラフな私服
ラフっちゃあラフなんだけども、実は私は密かに戦闘態勢
最近のアイテムの中で、自分がより格好よくみえるヤツを
チョイスしてきた、ささやかな自信をつける為にね
185 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:10

撮りが終って、スタッフさんのお疲れ様でしたー!と
間延びした声がして、

控え室に私物を取りに寄り、梨華は自分のバックを掴むと
「お疲れ様でした」そう明るくいって、顔には笑顔を忘れずに、
そそくさと私の前を通り過ぎようとする

今日でもう、私との縁は切れるから、まるで、それを急ぐみたいに
でも、そうはさせない

あの蟠りの夜を、私の気持ちまで一方的にわかったようなフリを
梨華の落胆を、すべてがなかったことに、なんてさせないよ

「ちょっと、待った…」

ドア付近の壁に背中をつけて立っていた私は梨華の二の腕を掴んで、
僅かにひっぱり足を止めさせた

「…な、なに?」
「今日はさ、この後オフでしょ?
 マネージャーさんに確認済みだから、付き合ってよ?」
「………」

梨華はなぜか怯えたように肩を竦めて、私を見上げた、その時、

とん、とととん♪

ドアがコミカルな音でノックされて、梨華が硬い声で「…はい」と答えた

186 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:11

ガチャリ、開かれたドアの先には、
最近、お茶の間を騒がせている人気上昇中の芸人さんがいた


「石川ちゃーん…て、あれ?一人じゃなかったんだ…」

うっ…ヤな予感
これは前にも体験済み

つかの間、固まりそうになった私より、目の前のヤツの方が
なぜか動揺してる、その顔に浮かぶのは、ほんの僅かな狼狽

つーか、アンタ、梨華が一人だったら、なんなの?

私と変わらないくらいの、男にしては上背のない貧弱な体を
一瞥して、冷めた声で聞いた

「…なんですか?」
「え?…あーそうそう、今日もう上がりなんだよね?
 前にね、話してた僕のお気に入りの店、石川ちゃん興味あるみたい
 だったし、これから行ってみないかと思ってね
 ……そうだ、キミ、吉澤ひとみちゃんでしょ?どうかな?一緒に…」

また、オマエはっ!

私は梨華の腕を掴んでいたことを忘れて、手に力を入れてしまった
187 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:11

梨華の肩が、ビクンッと跳ねて、気まずそうに斜めに目線を落とした
私は目の前の男の小さな目を真っ直ぐに見詰めて、唇だけを微笑ませる

「…せっかくのお誘いなのに、申し訳ないですが
 今日は用があるんです、二人で」

二人で、そこを強く発音して、威圧的な口調とは裏腹に
口許だけははっきりと微笑みのカタチをキープして、

目の前の男は、ちょっと呆気にとられたように目を瞬かせて
今さら気づいたらしく、私が梨華を掴んでいる手の上に
目線を止めると、卑下た笑いを浮かべた

「…なになに、お二人さんはやっぱりそういう仲な…」

私はその鼓膜の奥に張り付いたら、なかなか取れなさそうな
粘着質の声を途中で、カラカラと笑いながら遮った

「…ヤだなぁ」

そして、目をこれでもかってくらい意味深に細めて、
そうだよ、わかるでしょ?って笑い方をして、口ではこう言う

「…そんなワケないじゃないですかー
 でも今日は二人で(また強調)行くとこあるんで失礼します」
188 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:12

何か言いたげに口を開けようとする男の前で、梨華の腕を引っ張って
サッサとドアから抜けて通りすぎる

梨華はチラッと振り返り、ひょこっと頭を下げた

廊下を曲がると、梨華は腕を引いて、私の手を払うと、ハァと溜息を
ついた、なーによ、自分からはさんざ組んできてたクセに

「…ね、ひーちゃん、噂されるよ?」
「されないよ、否定したし」
「………わかってるくせに」
「じゃ、いい、されても」

ふいに梨華の足が止まるから、私も止まった
見上げてくる顔
僅かに驚いて目を瞬かせて、その後、曖昧に微笑んだ
189 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:13

「…あたし、なんかと?」
「…なんかって…そんな言い方らしくないじゃん?」
「ふっ、ふふ、違うよ?
 ほんとはあたし、ネガティブだもん
 昔ほどじゃないけど、いまだってぐちぐち考えちゃうしさ、
 いっつもやっちゃってから、うだうだ後悔したりさ、でもまぁ
 ポジティブって意識はしてるけどね」

小さな微笑み、自信のなさそうな、
こんな微笑み方もするんだ?

だけど、どしてかな?
私はそれを知ってたような気がするよ

「…うん、知ってる」

なんで?そう問いたそうな目を、梨華は、すっと外して言った

「それより、また怒られちゃうね、あたしが媚びてるからだって、
 …あ〜ぁ、またひーちゃんを呆れさせちゃう
 あたしといるとヤな思いしちゃうでしょ?…ゴメンね」
「謝んないでよ」
「え?」
「だって梨華は、ほんとに真面目で、仕事を一生懸命頑張ってるし、
 だから、ファンの人たちが幻滅っていうか、呆れられるようなこと
 できない、私がいなくたって、ちゃんと断ってたでしょ?違う?」
 
190 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:14

「…ひーちゃん」
「ヤな思い、させたのは私だよ…この間は、ほんとゴメンね
 けどさ、いまはね、梨華のことなら信じられるっていうか、そのままで
 いいって思ってるし、応援するからさ…もっといろんな梨華を見せて?」

あー、やっと言えた
ゴメンね、たった四文字の簡単な言葉、
なのに、気持ちを込め過ぎると口にし辛くなるのでなんでだろう?


梨華は驚いてる、本当に吃驚してて、
その顔に入ってた力が抜けたら泣き笑いみたいな表情になった

私は、その顔の変化をジッと見て、見逃さないように見てて、
もし梨華が泣き出したら、どうやって慰めたら格好いいかな、なんて
チラッと考えてたら、
梨華は涙を追い払って、微笑みを強くした

「やぁーだ、ひーちゃん、告白みたーい」
「告白だよ」

さらりと答えたら、呆然とした顔をして、梨華が、ずるい、と
うわ言みたいな声で言った

ずるい、ずるい、ずるい!
子供が地団駄を踏むように繰り返して、

「ひーちゃんって格好いいよねー
 あ、そうだ!あたしね〜、今度ぉ、舞台で王子さまの役やるんだ」

唐突に始まる、マシンガントーク

えぇーっと…告白の話は終ったんだ?
私はちょっと苦笑いを浮かべる
191 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:14

「でー?
 私の真似したいってことー?」
「違うよぉ、無理だもん
 ひーちゃんみたいな格好良さは、あたしには無理でしょ?
 あたしはあたしの王子を目指すよ!」

ぴしっと指を立てて
まるで私に挑むみたいな微笑みは、梨華の眼を強く輝かせ
いつもより、凛々しさが増してるみたい

ほんとに次々、いろんな表情を見せてくるから目が離せない

もっと見せて、いろんな梨華を
私、味方でいるから、きっと、一番のファンになるよ


一日も忘れたことない、なんて言ったら嘘だけど、
ずっと梨華が残ってたんだ
あの泣き顔を見た昔に、小さく

それがたった数日で、
今度は笑顔がどんどん大きくなっちゃって、
これからは、たぶん一日だって忘れることはできない

192 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:15

「ふっ、ふふ」
「な、なにっ?」

自分の想いに耽ってた私は、
唐突に、堪えきれないってカンジで聞えてきた笑い声に
ギョッとして梨華を見た、大丈夫かよ?

「ねぇ、ひーちゃん、あたし、夢見てたの」
「…夢?」
「うん」

梨華は、ほんとに楽しい夢を見てるみたいに、ふわふわと柔らかく笑った

「…でもね、現実には無理ってわかってたから、
 夢見てるだけでいいじゃんって、思おうとしてた
 …ひーちゃん、覚えてないと思うんだけど…昔、ね…」
「うん」

何かを懐かしむように、目を細めると小さく微笑んで、
首を振りながら「…いい、なんでもない」と笑みを深くした

あぁ、やっぱり…… 
私は確信した、やっぱり梨華も覚えてたんだ?
覚えてたから、あの日の続きみたいな梨華を私に見せてくれたんでしょ?
夢の続きみたいに甘く

193 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:16

ねぇ、梨華、

夢見るのって楽しいけど、それが叶うんだったら、
もっと楽しくなれる気がしない?
だから、いつか教えてよ



梨華が、夢見てたことを
それを教えてくれたら、私は、お返しに、

とっておきの昔話を教えてあげる
いつしか泣き虫姫が、堂々とした誇らしげな笑顔が似合うくらい
キレイになってて、久しぶりに姫と会った隣国の…なんて、話を、


その頃には、たぶん、この胸で嵩を増すオモイも、
もう、隠しておけないって気がするし、ね


 



    
   ===== お終い =====

194 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:16



195 名前:夢みがちなリアリスト 投稿日:2007/11/07(水) 00:16



196 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/07(水) 00:17

更新いたしました



こちらでの最後の更新になります。

お付き合いいただいた方、ありがとうございました!

197 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/07(水) 04:47
凄く良かったですありがとう!
作者さんがあの方だったなんて気づきませんでした
それにしても>158さんはよく気づきましたよね凄いです。
新スレ期待して待ちますんで頑張ってください。
198 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/07(水) 12:00
完結お疲れ様でした。
もう終わりだなんて早すぎる
もっと色々短編よみたいのに、もう少しここで
書いていてほしいな。
199 名前:158 投稿日:2007/11/13(火) 06:31
えぇ〜!やっぱりそうだったんですねー
作者さんの小説を待ち焦がれ作者さんの居る飼育の
空気が恋しかった。会いたいと心から願えば叶うのですね。
でも、作者さんの書きたいと言う気持ちを萎えさせてしまったのなら
本当にごめんなさい。これからはレスを控えますので許してください。
200 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/13(火) 09:46

取り急ぎ、レス返しのみ失礼いたします。
レスをありがとうございます。

197名無飼育様
新スレ…あまり期待せずにお待ちいただけると嬉しいです。

198名無飼育様
こちらのスレの残量で上げるのは無理ですので、お許し下さいませ。

158様
熱烈なラブレター(w ありがとうございます。
名前バレしたことは、ちょうど良い機会だと思っておりますので、
お気になさらずに…どちらかと言えばレスいただけないほうが凹みます。
あ〜やっぱいまいちだったか…とか、一人よがりだったか…とか(w
あまりこういうことを書くとレスを強要しているようで、アレなんですが
どちらにしろ、あまりお気になさらずに…


自分の書く拙い話を望んで下さる方が、どのくらいいらっしゃるのかは
わかりませんが、また話が出来たら新スレを立てたいとは思っております。
しかし、次回は少し練ってからにしようかな、と。
ちょっと勢い上げしすぎた気がしてますので。

小説と関係ない話、失礼いたしました!

201 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/31(火) 23:19
ありがとうございました

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