レインられいん
- 1 名前:パム 投稿日:2007/09/20(木) 02:21
- どうもパムです。
スレタイに意味はないです。
まずは、草板「うれし三千里」の「家出女と出戻り女」の続編です。
ttp://m-seek.on.arena.ne.jp/cgi-bin/test/read.cgi/grass/1131903992/2-86
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/20(木) 02:23
-
◇◆◇月の王子様◇◆◇
- 3 名前:白い指 投稿日:2007/09/20(木) 02:23
- 先生は、私の椅子に座り、窓枠に肘を付いて外をずっと眺めている。
先生が椅子に座っているから、私は机で勉強することが出来ない。
床に座ってテーブルの上で、先生が用意してくれた問題を解いている。
高校三年生になり、大学受験のために塾に通いたいとママに言ったら、「さゆは可愛いから夜遅くまで外にいたら危険だからダメ」って言われて、代わりに家庭教師を頼むことになった。
可愛いすぎるのは罪なんだよね。その罰として、仲良しの絵里と一緒に塾に通うことができなくなっちゃうんだよね。
可愛いから塾に行けないのは仕方ないけど、家庭教師はあまり気が進まなかった。
人見知りする方だから、家庭教師の人と仲良くやっていける自信なんてないし、怖い人だったらどうしようとか、男の人だったらどうしようとか、てか、そっちの方が危険じゃんなんて色々考えてしまって、家庭教師の先生が来る今日まで勉強がまともに出来なかった。
今日、家庭教師の先生が来るからねと、朝食のときにママから言われて、学校にいる間は落ち着きがなかったし、帰りたくなかった。
絵里にそのことを話したら、興味深々で早く帰りなよ、写メ送ってねと言った後、塾があるからと言って先に帰ってしまった。
学校で一人ぼっちになるのも寂しいから仕方なく帰ると、玄関にはすでに家庭教師の先生が来ているらしく見知らぬ靴があった。
多分、先生は私の帰りを待って、今はリビングでママと一緒に話しているだろうと思った私はそうっと気付かれないように二階に上がった。
- 4 名前:白い指 投稿日:2007/09/20(木) 02:23
- しかし、自分の部屋を入ると、すでに先生は私の椅子に勝手に座って外を眺めていて、テーブルに数枚の問題用紙が置いてあった。
先生から何も話しかけてこなかったので、こちらからも話しかけることはしなかった。
とりあえず、これをやればいいのかと思い、勝手に問題を解き始めた。
問題用紙は国語、日本史、数学、物理、英語の五枚。
問題数は二十問。すこし手こずりながらもすべて解き終えた頃には、夜になっていた。
でも、やっぱり先生はまだ外を眺めていた。
暗くなった外は、それこそ何も見る物なんてないのに先生はずっと外を眺めている。
家庭教師をやる気がまったく見受けられない。これならママに言えば即刻クビに出来る。やっぱり塾に通うことにしよう。
とはいえ、今。これからどうしよう。
先生はまったくこちらの気配に気づいていないようにすら思える。
ジーンズにTシャツの格好で男っぽいけど、体の細さからして女性に間違いないと思う。性別がどちらかはっきりしないのは、先生がずっと外を眺めていて後ろ姿しか見えないから。
何て声をかけようか迷っているうちに、そうだその前に宿題をやってしまおう。その間にさすがに先生も気づいてくれるだろうと思ったが、そうはいかなかった。
結局、宿題が終わっても先生はそのまま。
気付けばもうじき八時。家に帰ってきてから二時間、先生は外を眺めたまま固まっている。
時計の針がちょうど八時を指したところで、突然、先生の椅子が回転して、私と目が合った。
- 5 名前:白い指 投稿日:2007/09/20(木) 02:24
- 全身に強烈な電気が流れたようにビビッときた。
私は口をぽかんと開けたまま、先生の目を見つめていた。
肌は白くて、大きな綺麗な瞳。全身から優しい雰囲気を漂わせ、私を包み込む。
まさに私の理想の王子様が目の前に現れた。
王子様は、「できたの?」と聞いてきたけど、私はその言葉を理解することなく、優しい声に浸っていた。
何も話さない私に対して、王子様は再度言うこともなく、私の真向かいに座った。
間近に王子様の顔が来て、急に恥ずかしくなった私は俯いて問題用紙をじっと眺めた。
王子様からはほのかに甘い香りが漂ってきた。
王子様は私が甘い物が好きだと知ってて、甘い香水をつけてきたに違いない。
王子様は、問題用紙を手に取ると、赤ペンで丸バツを付けることもなくじっと眺めた後、私の目の前に置いた。
そして、正解、不正解に関わらず一問づつ優しい声で解説をしてくれた。
解説をするとき、問題用紙をなぞる指先がとても綺麗で、私は問題よりも、白い指をずっと眺めて、王子様の説明はやすらぎのBGMとなっていた。
- 6 名前:白い指 投稿日:2007/09/20(木) 02:24
- 途中、ママが夕食を持って部屋の中に入ってきた。
でも、王子様はママに気づくこともなく熱心に説明をしていた。
ママは何度も声をかけたり、うろうろしたり、ときには顔を突っ込んで問題用紙を眺めたりしてとても邪魔だった。
ようやく王子様がママの存在に気づいて、説明を中断した。
その瞬間、私はお姫様から普通の女子高生に戻った気がして、凄く不機嫌になってママを睨みつけた。
ママは、勉強中の邪魔をしたことに私が腹を立てたと勘違いして、謝ると部屋を出て行った。
ママが部屋から出て行ったあと、王子様は「じゃあ、続きやろうか」と私に向かってニッコリとほほ笑んでくれて、私はまたお姫様に戻る。
すべての問題の説明が終わったときには、九時を過ぎていた。
王子様は「遅くなっちゃったね。初めてだから時間配分がわからなくて長くなっちゃった。ごめんね」なんて言ったけど、私はまだまだ続けて欲しかった。
しかし、王子様は立ち上がってしまった。
もう帰っちゃうのかと残念に思ったのも束の間、王子様はまた椅子に座って、外を眺めた。
でも、今度は一人で眺めることはしなかった。
- 7 名前:白い指 投稿日:2007/09/20(木) 02:24
- 「さゆみちゃんも、こっち来てみ」
王子様が手まねきをして、私を呼んだ。
私は、心臓の高鳴りを抑えるようにゆっくりと王子様に近づいた。
王子様は、空に向かって指さした。
「今日は満月。なんだけど、あいにく雲があっておぼろ月だ」
私は、王子様が指差す月を見た。
真っ黒な夜の空に、ぼんやりと月の明かり、そして、それを覆っている真っ白な雲。
「でも、この月も好きだ」
好きって言う言葉に反応して私は、王子様の顔を見た。
綺麗な優しい表情の奥にちょっぴり何かを懐かしむ寂しいような悲しいような表情が感じられた。
目が合って王子様は、ニッコリ笑うと「見て」と言って、もう一度、月をさした。
私は月を見ずに、王子様の白くて細い綺麗な指を見つめた。
「暗い闇の中に光を与えて白くしてくれる」
王子様は、私に言うわけでもなく独り言のように呟いた。
私は気になって、視線を王子様の顔へと向けると、王子様ははっきりと寂しそうな表情をしていた。
そして、続けてぼそりと、こう呟いた。
「黄金の月」
- 8 名前:白い指 投稿日:2007/09/20(木) 02:24
- ようやく私に気づくと、表情は一変して元の優しい笑顔を見せてくれた。
「じゃあ、次は金曜日に来るね。それまで、さっき教えたところ復習しておくんだよ」
王子様は帰ってしまった。
私は王子様を真似て椅子に座って月を眺めた。
急に寂しくなって自然と涙が零れ落ちた。
- 9 名前:パム 投稿日:2007/09/20(木) 02:24
- つづく
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/20(木) 20:57
- うおー新スレおめでとうございまーす!
パムさんの作品大好きです。続き楽しみにしてます。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/21(金) 00:12
- 新スレおめでとうございます、ていうよりも、自分的にはありがとうございます、です。
このシリーズ、大好きでした。続きが始まりなんとも感慨深いです。
あの御方の登場を楽しみにしてます。
- 12 名前:パム 投稿日:2007/10/01(月) 05:02
- レスありがとうございます。
自分もこの話は大好きですw
いつの間にか二年も経ってようやく続きを書けるようになったので、大切に書いていきたいと思ってます。
あの御方って、やっぱあの御方ですかね?楽しみにしててください。
- 13 名前:黄金の月 投稿日:2007/10/01(月) 05:02
- スタジオに作られた偽物の満月。
偽物とわかっていても、それを見た瞬間、私は得も言えぬ恐怖を感じた。
月を見ないように後ろに振り返り、目を伏せた。
体が小刻みに震えている。
やだ。帰りたい。
私はゆっくりとスタジオの出口に向って歩いて行った。
けれど、それはあっけなくマネージャーの保田さんに引き止められた。
無理矢理マイクを掴ませれ、背中を押されて満月の下に連れて行かれた。
この曲を貰ったとき、私は歌いたくないと涙ながらに訴えた。
しかし、回りから見ればそれはわがままのようにしか聞こえなかった。
ベランダで満月を見上げながら恋人の帰りを待ち続けている女性の歌。
それはあまりにも私にとって現実過ぎて、歌うことなんてできない歌。
そして何よりも私が一番歌いたくない理由は、この歌の最後には恋人が帰ってくる。
それが私には受け入れられなかった。
せめてこの部分だけでも変えてくれるように頼んでも聞き入れてはくれなかった。
夢を見れる場所のはずなのに、現実を突き付けられているようで私は耐えられなかった。
- 14 名前:黄金の月 投稿日:2007/10/01(月) 05:02
- 照明が当たり、月はさらに輝きを増し、黄金に輝く。
イントロが流れ出すと、この曲の女性の心が私の中に入り込んでくる。
幸せを感じていた日々。
満月の夜は決まって二人でベランダに出てビールを飲む。
けれど、突然消えてしまった恋人。
理由がわからず、連絡も取れず、ただ待つだけの日々が続く。
それでもきっと恋人は、満月の夜にはベランダに出て月を見上げているだろうと思い、満月を見上げる女性。
この先は歌えない。
どんなにこの女性の心が私に流れ込んできても、私には歌うことが出来ない。
涙を流して、無言のまま曲が終わるのを待った。
涙を流したのが良かったのかディレクターは大喜びでOKを出して、そのまま収録を終えることができた。
車を運転する保田さんは説教をすることなく終始無言だった。
私も何も喋ることなくぼんやりと夜空を眺めた。
満月は見えない。
私は安心すると同時に悲しくなる。
満月が見えないということは、きっとあの人は今、寂しがっている。
あの人に寂しい思いをさせたくはない。けれど、私にはそれを慰めることすらさせてもらえないのが悲しい。
- 15 名前:黄金の月 投稿日:2007/10/01(月) 05:03
- マンションの前で車が止まると、保田さんが先に降りた。
そして、マンションを見上げて、溜息をついた。
それがどういう意味か見なくてもわかる。
保田さんがドアを開けてくれて、私は俯いたま外に出た。
「あのバカ、懲りずにまだやってるよ。いい加減、目を覚ましてあげなよ」
だったらなぜあんな歌を歌わせるの?
歌いたくないと言ったときに、そう保田さんに訊ねた。
そしたら保田さんは、「あいつにいい加減、無駄だと解らせたくてね」と答えた。
この歌を歌えば絶対に希望を持つはずだから保田さんの言うことが理解できなかった。
「あんたさ、勘違いしてるでしょ」
とぼとぼとマンションに中に入って行く私に向って保田さんが言った。
勘違い?
振り返って保田さんを見た。
- 16 名前:黄金の月 投稿日:2007/10/01(月) 05:03
- 「あの歌は結局、恋人は来ないんだよ。来なかったんだよ」
そして、そうじゃないの?と私に聞いて、にっこりと笑った。
そんな訳がない、はっきりと歌詞には帰ってきてることが書かれている。
「この歌は、あなたの歌でしょ。あなたがどう歌うかで変わるの。歌わないことも歌なのよ」
歌わないことも歌。
私はレコーディングのときの一回しか、最後の部分を歌っていない。
私が望んでいない物語は私が歌わないことによって、この物語を変えることができる、のだろうか。
私は少しだけ笑ってマンションの中に入って行った。
ドアに手をかけると、鍵がかかっていない。
今日だけは、満月の夜だけは、鍵をかけない。
ドアを開けると、ベランダから風が流れてきて、カーテンが大きく揺れる。
ベランダに立っているあの人が振り返る。そして、私だとわかるとまた月を見上げる。
幾度となく繰り返された光景。
歌とは違う物語。
帰りを待っているのは私じゃない。
けれど、もし、私がこの物語を変えることのができるのなら、この歌を頑張ってみよう。
黄金の月はもう見えないとあなたに気づかせてあげよう。
「ひーちゃん、ただいま」
- 17 名前:パム 投稿日:2007/10/01(月) 05:03
- つづく
- 18 名前:パム 投稿日:2007/10/01(月) 05:04
-
- 19 名前:パム 投稿日:2007/10/01(月) 05:04
-
- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/03(水) 05:22
- この人はもしや・・・!
ワクテカ
- 21 名前:オレンジ 投稿日:2007/10/12(金) 03:41
- 「私の王子様なのぉ〜」
はあ、もうこれで何回目だろう。
常連の女子高生3人組はいつもの席でいつものようにおしゃべりをしている。
はずなのだが、今日はちょっと違う。
さゆみちゃんだけが一方的に話している。
亀ちゃんは携帯をいじり、ガキさんは宿題をやって、まったくさゆみちゃんの話を聞いていない。
多分、学校でも同じ話を聞かされてたんだろう。
「真希さ〜ん。おかわりぃ〜」
空になったグラスを掲げながら亀ちゃんがおかわりを頼んできた。
特製のオレンジジュースをグラスに運ぶついでに、私がさゆみちゃんの話し相手になってあげよう。
「はい。亀ちゃん」
「どうもぉ〜。真希さんのオレンジジュース美味しいからすぐなくなっちゃう」
「それはありがとう。うちには美味しいコーヒーもあるよ」
「それはちょっと…」
何がちょっとなのさ。
「あっ!真希さん聞いて。私ね、ついに王子様に巡り合えたの」
おっと、早速来たか。
何故かお客さんもこの三人だけだし、私はガキさんの隣に座ってさゆみちゃんの話を聞いてあげることにした。
「さゆみちゃんの王子様じゃ、さぞカッコいい人なんだろうね」
「カッコいいていうか、カッコいいんだけど、綺麗で儚げで、とても不思議な雰囲気を持った人なの」
- 22 名前:オレンジ 投稿日:2007/10/12(金) 03:41
- おっと、これはヤバい方向に行きそうだぞ。
悪いけど引き揚げさせてもらおう。
けど、立ち上がろうすると、誰かが私の服を引っ張った。
ガキさんだ。
そんなに困っているのかい?君たち。
「ほうほう。それはさゆみちゃんにしては意外だね」
「王子様はね。もうすぐさゆみを連れてお月さまに帰っちゃうの。だから、真希さん今までお世話になりました」
どういたしまして。
よし、戻ろう。
って、ガキさん!離してよ。
「真希さん。さゆみがお月さまに行っても、さゆみのこと忘れないでね」
「うん。ある意味忘れないよ。じゃあ、この辺で」
だから、ガキさんもういいでしょ。十分あなた達の苦しみわかったよ。
「ねぇ、真希さんにだけ特別に王子様の写真見せてあげる」
「ちょっと、さゆ!写真あるなら早く言ってよ!」
写真を見せてもらえなかったんだろう、急に亀ちゃんが話に入ってきた。
「絵里も絶対に王子様に夢中になりそうだからダメなの。その点、真希さんは安心なの」
どうしてさ。
- 23 名前:オレンジ 投稿日:2007/10/12(金) 03:41
- さゆみちゃんは携帯を取り出すと、ニヤニヤし始めた。
恋だねぇ〜。恋してるねぇ〜。
亀ちゃんは必死になって携帯を覗き込もうとしてるけど、さゆみちゃんはすぐ携帯を閉じて私に渡した。
ちょっとドキドキしてきた。月に行ってしまうようなおかしな王子様とは一体どんな人なんだろう。
携帯を開くと、窓に肘をついて外を眺めている綺麗な横顔が写っていた。
あれ?この人どこかで見たことあるな。
誰だっけかな?
「あっ、ひとみさんじゃん」
ガキさんが横から覗き込んで、その写真を見て言った。
ひとみ?知らないなぁ〜。しかも、女の子の名前じゃんそれ。
「さゆ、王子様ってひとみさんのことだったの?」
「なんでガキさんが知ってるの!信じられない!私の王子様なんだからね!ガキさんには似合わないんだからね!」
おおっと、さゆみちゃんそれは言いすぎじゃないかい?
「ちょっと、さゆ落ち着いて。ひとみさんは私の従姉なの」
「ええ〜。ガキさんが従妹なの。ショックぅ〜」
「ちょっと!泣くことないでしょうが!」
さゆみちゃん、それはあんまりだよ。
ふ〜ん。とはいえ、しっかり者のガキさんの従姉か。じゃあ、月に帰るとかおかしなこと言ってるのはさゆみちゃんだけなんだろうな。
- 24 名前:オレンジ 投稿日:2007/10/12(金) 03:41
- 「真希さん、私にも見せてよ」
「おっと、ダメだよ」
「なんでよぉ〜。いいじゃん。じゃあ、ガキさん見せて」
「何を?」
「ガキさん持ってないの写真?」
「何で従姉の写真持ち歩いてないといけないのさ!」
「あ〜、そっか。そうだよね。あはは」
う〜ん。どっちかっていうと亀ちゃんの方が間違って月に行ってしまいそうだな。
「ねぇ、ガキさん。王子様はいつお月さまに帰っちゃうの?」
「帰らないから、すぐそこのマンションにいつも帰ってるから」
すぐそこと指差したマンションは確かあややが住んでるマンションだ。
「ねえ、そこのマンションってあややが住んでるよね」
「えっ!そうなの!?真希さん何で今まで教えてくれなかったのよ。ガキさん、今から行ってサイン貰いに行こうよ」
「カメ、落ち着きなさいって。住んでないから。真希さんもそれは噂に過ぎないですから」
え?いや、見たことあるんですけど。
「なんだ。真希さんいい加減だなぁ〜」
あんたに言われたくないよ。
- 25 名前:オレンジ 投稿日:2007/10/12(金) 03:42
- 「ガキさん、今からひとみさんに会いに行くの。案内して」
「ダメだから、今行ってもいないから。どうせすぐ会えるんでしょ。我慢しなさい」
「でもぉ〜」
う〜ん。ガキさんはお姉さんだねぇ〜。
でも、あややは見たとこあるんだよ。
「よし。今日はもう帰ろう。真希さんごちそうさまでした」
ガキさんは立ち上がると、渋っている二人を引っ張ってお店を出て行った。
あっ、携帯返すの忘れた。
私は走ってお店を出ると、空一面に綺麗な夕焼けが広がっていた。
オレンジ色の夕焼けを見て、急に何かを思い出した。
慌ててさゆみちゃんお携帯を開いて、そこに写っている人を確認した。
あのときの人だ。
せっかくこっちに戻ってお店を開いたというのに、ミキティが一度もここに訪れない理由がようやくわかった。
- 26 名前:パム 投稿日:2007/10/12(金) 03:42
- つづく
- 27 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/13(土) 04:47
- おもしろそう〜!
パムさん頑張ってね。
- 28 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/14(日) 00:28
- パムさんの作品の中で特にこのシリーズ大好きです。
個人的にはよっすぃとあの方がこのストーリーでどう絡んで来るのか楽しみです。
- 29 名前:パム 投稿日:2007/10/20(土) 00:31
- レスありがとうございます。
- 30 名前:真っ赤な嘘 投稿日:2007/10/20(土) 00:31
- 居心地が悪い。
どうして私はひとみさんの家にいるのだろうか。
それは真希さんのお店を出た途端、松浦さんに会ったからだ。
では、どうしてカメは怒っているのだろうか。
それは私が松浦さんと知り合いだということを黙っていたからだ。
では、どうしてさゆは怒っているのだろうか。
それは松浦さんとひとみさんが一緒に住んでいるからだ。
では、どうして松浦さんは怒っているのだろうか。
それはひとみさんがなかなか帰ってこないからだ。
- 31 名前:真っ赤な嘘 投稿日:2007/10/20(土) 00:32
- とりあえず、帰ってもいいですかね?
「ダメ」
そうですか。
私もつい最近知ったことなんだよ。
「嘘だ」
そうですよね、松浦さん?
松浦さんは単なる居候だから。
「嘘なの」
そうですよね、松浦さん?
- 32 名前:真っ赤な嘘 投稿日:2007/10/20(土) 00:32
- とりあえず、先に食べませんか?
「ダメ」
そうですか。
最近は最近だよ。ついこの間。
「嘘だ」
そうですよね、松浦さん?
居候は居候だよ。それ以上なんかないよ。
「嘘なの」
そうですよね、松浦さん?
- 33 名前:真っ赤な嘘 投稿日:2007/10/20(土) 00:32
- ひとみさんはどこに行ったんですか?
「知らない」
そうですか。
先週くらいだって。
「嘘だ」
そうですよね、松浦さん?
恋人なわけないじゃん。
「嘘なの」
そうですよね、松浦さん?
- 34 名前:真っ赤な嘘 投稿日:2007/10/20(土) 00:32
- ひとみさん遅いですね。
「遅くない」
そうですか?
先月だったかも。
「嘘だ」
そうですよね、松浦さん?
アイドルは恋人作らない約束になってるから。
「嘘なの」
そうですよね、松浦さん?
- 35 名前:真っ赤な嘘 投稿日:2007/10/20(土) 00:32
- 電話してみましょうか?
「うん」
ひとみさん今どこにいます?
でっかいどう?
ああ、北海道ですね。
- 36 名前:真っ赤な嘘 投稿日:2007/10/20(土) 00:33
-
「今すぐ帰ってこーい!!!」
- 37 名前:真っ赤な嘘 投稿日:2007/10/20(土) 00:33
- 「ガキさん?」
「もう先に食べちゃいましょう」
「ダメだよ。ひーちゃんがカニ買ってくるんだから」
「カニ買いに北海道まで行くバカをいつまでも待っててもしょうがないでしょうが!」
「親友だと思ってたのに絵里に黙ってたぁ〜」
「うるさーい!あんたに言ったらみんなに言いふらすでしょうが!」
「さゆの王子様なのにぃ〜」
「はい、さゆ残念!」
泣きたいのはこっちだ。
- 38 名前:パム 投稿日:2007/10/20(土) 00:33
- つづく
- 39 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/21(日) 23:53
- 苦労人ガキさんに幸あれ。w
- 40 名前:銀色ナイフ 投稿日:2007/11/10(土) 02:58
- 幸せすぎて怖い。
私はそんな日々から逃げ出した。
逃げ出してから一年半。
二度目の冬を迎えようとしている。
会社を出ると肌を突き刺す寒さに体を震わせた。
この寒さには慣れそうにもない。
一刻も早く家に帰ろうと早足で駅に向かう。
人ゴミの中を何度となくぶつかりながら、私は駅を目指す。
電車に乗り、いつもの二人掛けの席に座る。
私の隣に座る人は誰もいない。
空いている隣の席に幻を見る。
私を元気づけようと必死でアホなことをするあいつの笑顔を。
甦る幸せに心が温まる。
さらにその幸せに浸るために私は目を閉じる。
目を閉じるといつもあの時の満月が浮かぶ。
秋空の少し肌寒い日に暖かな光を放っていた満月。
あの日、満月に魅せられて二人は抱き合った。
あの時のぬくもりだけが今の私を支えてくれる。
幸せすぎた。
ただそこにいてくれるだけで幸せだった。
そんな些細なことで幸せを感じる分だけ、逆に私の心を苦しめた。
あいつがいない時は常に恐怖に襲われていた。
ひょっとして戻ってこないのではないのか。
他の人とどこか遠いところに行ってしまうのではないのだろうかと。
その疑心は、幸せで満たされていた心に闇を落としていく。
その闇を涙で流そうと泣き続ける日々が続いた。
あいつは何も悪くない。
毎日ちゃんと帰ってきたし、泣く私を優しく抱きしめてくれた。
そんな日々が続く中、私は気付いてしまった。
あいつが笑わなくなったことに。
私を心配し、苦しむ表情を見せるようになった。
その表情を見て私はさらに落ち込み、悪循環の日々が続いた。
このままではいけない。
そう思っても、どうすることもできなかった。
電車が終点に着き、目を開けた。
電車の扉が開くと同時に流れてくる冷気にまた体を震わせた。
夜空には鋭い三日月が輝いていた。
満ちた月の行く先は、闇に覆われていくばかり。
黄金の輝きを失った銀色の三日月は今日も私の心を冷たく突き刺す。
- 41 名前:パム 投稿日:2007/11/10(土) 02:58
- つづく
- 42 名前:白銀スノースカイ 投稿日:2007/11/22(木) 04:54
- 太陽の光が反射してキラキラと輝く真っ白な雪原の中を彼女は歩いていた。
彼女は真っ白なコートと金髪の髪を風になびかせていた。
私はその光景に見惚れてしばらく見つめていた。
彼女は、立ち止まると両手を広げたまま後ろに倒れた。
私は驚いて走り寄ると、彼女は目をつぶっていた。
「ちょっと!大丈夫ですか」
肩を掴んで大きく揺さぶると彼女は驚いた顔して私を見た。
「良かったぁ〜。もう、なっち、てっきり死んじゃったのかと思っちゃったよ」
「ごめんなさい。なんか、急に寝転がりたくなっちゃって」
そう言うと彼女はまた目を閉じた。
今日は良い天気だし、確かに気持ちが良いかもしれない。
けど、ずっとこうしてたら風邪ひいちゃうよ。
- 43 名前:白銀スノースカイ 投稿日:2007/11/22(木) 04:55
- 「あなた東京の人?」
「うん。東京からカニを買いに来た人」
カニ?
あっ、本当だ。カニ持ってる。
「わざわざカニ買いに来たの?」
「うん。あややがね、今日は鍋だよって言うから、じゃあカニがいいなって思って買いに来た人」
「帰らなくていいの?」
「ガキさんが怒ってるから東京に帰りたくない人に今は変わった」
「うんと、ちょっと話が見えてこないけど、とりあえずここでずっと寝てたら風邪引いちゃうから行きましょ」
「なっちも寝転がってみ。雲の上にいるみたいだよ」
う〜ん、困った人だなぁ。
「ほら、早く」
「きゃっ」
背中を引っ張られて無理矢理倒された。
雪のクッションで痛くはなかったけど、もの凄く冷たくて体が硬直した。
けど、綺麗な青空を見たら、自然と力が抜けて雪の冷たさも心地良くなってきた。
「小さい頃、雲に乗りたいって思ったことない?」
「あるよ」
「やっぱみんなあるよね」
- 44 名前:白銀スノースカイ 投稿日:2007/11/22(木) 04:55
- そう言ったきり彼女は黙ってずっと空を見ていた。
私も一緒になって空を見た。
こうやって空を見るのは何年ぶりかな。
こうして見ていると懐かしく感じて、小さい頃おばあちゃんが話してたことを思い出した。
おばあちゃんがまだ小さかった頃、この高原で遊んでると空から天使が舞い降りてきたって言ってた。
その天使は、真っ白な服を着て、頭は金髪で外人さんみたいで、背中から翼は生えていなかったけど、あれは間違いなく天使だったとおばあちゃんは言ってた。
天使はおばちゃん達のところに近寄ると飴をくれた。そして、その飴を舐めると体が急に浮かんで天使と一緒に空を飛んだって言ってた。
パパや親戚のおじさん達は、その飴はやばい薬だったんじゃないのなんて言っておばあちゃんの話を信じてなかった。
私は小さい頃は信じて、何度かこの高原で天使が来るのを待ったことがあった。でも、大人になるにつれてパパと同じ意見ではないけど、おばあちゃんは夢を見たじゃないかと信じなくなった。
「飴食べる?」
「えっ?」
これは偶然なの?それとも本当なの?
私の隣にいる彼女は飴を私に差し出してきた。彼女はすでに飴を舐めてて、口をもごもごさせてる。
私は戸惑いながらも、本当に天使なのかとちょっと思って飴を貰った。
飴を口の中に放り込むと、すっぱいレモンの味が口の中に広がった。
- 45 名前:白銀スノースカイ 投稿日:2007/11/22(木) 04:55
- 「なっちはさ、もし大好きな人が突然家からいなくなっちゃったらどうする?」
突然どうしたんだろう、この人は。よくわからない天使さんだ。
大好きな人がいなくなっちゃったらか。
どうするって言われても、どうするんだろう。
「泣いちゃうかな」
「あっ、泣けばいいのか」
「いやっ、いいかどうかはわからないけど、悲しくて泣いちゃうでしょ普通は」
「私は泣けないんだよね」
天使さんは、大好きな人を思ってるのか、思いつめたようにして遠くの空を見ている。
天使さんは泣くことができない。泣くことができないと、ずっと心は曇ったままだよ。
泣いて、心を晴らさないといつまでも外に出ることができないよ。
「泣きなよ」
「泣きなよって言われてもね」
「ここなら泣いても雨は降らないよ」
「じゃあ、泣く」
- 46 名前:白銀スノースカイ 投稿日:2007/11/22(木) 04:55
- 天使さんはそう言うと私に覆いかぶさって強く私を抱きしめて、静かに泣き出した。
私は天使さんが泣き止むまでずっと頭を撫でてあげた。
雪の雲の上で天使さんが泣いている。
流す涙は雪となって、大好きな人のところへと積もる。
雨のように流れはしないから、気づいてあげてよ。天使さんの気持ちに。
天使さんは泣き止むと照れくさそうにしながら涙を拭いて立ち上がった。
心が晴れたのだろう良い笑顔をしている。
「ありがとう」
私に目を合わせず照れながらお礼を言った。可愛らしい天使さんだ。
「天使さんのお役に立てたみたいで、なっちは嬉しいよ」
「ん?天使?」
「おばあちゃんが言ってたの。ここで天使に会えるって。想像してたのとちょっと違ってたけどね」
「そうなんだ。じゃあ、私も天使に会えたのかな?」
ん?天使さんが天使に会ったの?
天使さんは、もう一度ありがとうって言うと、また飴を一個くれた。
私は帰って行く天使さんの後ろ姿を見ながら、飴を口の中に入れた。
今度は甘いイチゴ味だった。
- 47 名前:パム 投稿日:2007/11/22(木) 04:56
- つづく
- 48 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/24(土) 18:48
- おぉー意外な所から
- 49 名前:ピンクファイア 投稿日:2007/12/08(土) 02:12
- せっかく今日は王子様に会える日なのに、何故かガキさんから王子様は今日は行けないと言われた。
一人寂しく帰る足取りは重く、家に帰るのも嫌になって何となく公園に入った。
公園は公孫樹の葉で埋め尽くされていて、まるで黄色い絨毯みたい。
ここを王子様と一緒に歩いたら幸せだろうな、なんて思うと少しニヤけてしまった。
王子様のことを思い出すと少し元気になって、公園中を走りまわった。
通り過ぎる人が変な目で私のことを見てるような気がするけど、そんなの気にならないくらい不思議と幸せな気分だった。
ふかふかの絨毯の上に仰向けで寝転がった。
西の空は夕焼けに染まってオレンジ色をしている。
そして、三日月が浮かんでいる。
まだ、月は黄金に輝いていないから、王子様は月には帰らない。
王子様は、大切なお姫様を置いて今どこで何をしているんだろう。
私のために可愛いドレスと真っ白な馬車を用意してるのかな。
白馬に乗った王子様が私の家に訪れて、別れを寂しがるガキさんと状況を理解してない絵里がオロオロする様子が目に浮かぶ。
私はうっすらと涙を浮かべながらも、満面の笑みでみんなに手を振って、王子様のエスコートで馬車に乗る。
馬車が動き出すと、ガキさんが走って追いかけてくる。ようやく理解した絵里も泣きながら追いかける。
私は馬車から顔出して、最後の別れを告げる。
- 50 名前:ピンクファイア 投稿日:2007/12/08(土) 02:12
- 「バイバーイ。みんな元気でねぇ〜」
「大丈夫?」
手を振った先に松浦さんの顔があった。
私はそこで現実に戻って振っている手をどうしようか困って固まった。
松浦さんは、ちょっと苦笑いすると私の隣に寝転がった。
「さゆみちゃん、どっか行っちゃうの?」
松浦さんが宙に浮いた私の手を降ろして、そう訪ねてきた。
「もうじき私は王子様と一緒にお月様に行くの」
「王子様とお月様か」
私と松浦さんは同時に、空に浮かぶ月を眺めた。
「無理だよ」
松浦さんは冷たくそう言って上半身だけ起き上がった。
無理なんかじゃない。王子様は、私を月に連れて行ってくれるんだ。
私はムッとして起き上がって松浦さんを睨んだ。
「可愛い顔して睨んでも怖くないよ」
- 51 名前:ピンクファイア 投稿日:2007/12/08(土) 02:12
- 可愛いって言われて緩んだ顔をすぐに引き締めてもう一度睨んだ。
なんか松浦さんは、自分の方が王子様のことを知ってるんだぞって言ってるみたいで腹が立つ。
そりゃ、出会ったのは先かも知れないけど、でも、これは運命なの、順番じゃないの。
森の中を彷徨った王子様は魔女の歌声に惑わされて森の中から抜け出せなくなっているだけなの。
その森の中で王子様は可愛いうさぎちゃんを見つけたの。そして、王子様は魔女の歌声から目が覚めると、魔女の魔法でうさぎに変えられてしまった私を元に戻すため、魔女と戦ってるの。
そう、あなたと。
魔法から覚めた王子様に、あなたの勝ち目はないわ。
「さゆみちゃん、戻ってきて」
あっ、いけない。つい自分の世界に入っちゃった。
でも、絶対そうに違いない。松浦さんは王子様を閉じ込めているんだ。
だって、月を愛おしそうに眺める王子様のあの表情が何よりの証拠。
- 52 名前:ピンクファイア 投稿日:2007/12/08(土) 02:13
- 「私ね、落ち込んだときはこの公園に来るんだ」
松浦さんは、昔を思い出すかのように遠い目をして語りだした。
「私ね、ここに来る前は、住んでた町から一歩も外に出ることが出来なかったの。私が住んでたところは公孫樹の木が多くて、町中が黄色い落ち葉で埋め尽くされてた。
私は、その黄色い絨毯があるところしか自由に動くことが出来なかったし、外に出ようとも思わなかった。でもね、そんなある日にひーちゃんと出会ったの。一目惚れだった。
でも、ひーちゃんはすぐにあの黄色い絨毯の外に出て行ってしまって私は追いかけることが出来なかった。どうしても、あの黄色い絨毯から足を一歩踏み出すことが出来なかったの」
「でも、松浦さんは今ここにいますよ?」
「恋の炎が焼き消してくれたの」
「恋の炎?」
「そう。ひーちゃんが私の心に点けた炎は季節が変わっても消えることなく激しく燃えて、桜の季節になると、その炎はさらに燃え上がって、私を縛りつけていた黄色い絨毯を全て燃やして消えたの。
そしたら、私は今まで一歩も踏み出したことがなかった外の世界に出ることが出来て、ひーちゃんを探し歩き回ってるところをスカウトされて何故かアイドルになっちゃったの。
でもね、そのおかげで簡単にひーちゃんに会うことが出来た。その時は本当に運命だと思った」
- 53 名前:ピンクファイア 投稿日:2007/12/08(土) 02:13
- 思った?過去形?
そうよね、王子様と一緒になる運命なのは私なんだから。
「さゆみちゃん聞いてる?ひーちゃんと一緒に暮らし始めた頃は何もかもが幸せに満ちてた。初めてこの公園に来て、この黄色い絨毯を見たときもちっとも怖くなかった。いつでも私の恋の炎で消せるから。
だから、仕事で落ち込んだり自信を失くしたときはこの公園に来て、私の恋の炎はまだ燃えてるか確かめるの。うん、大丈夫まだ燃えてるってね。そうすると自信を取り戻して、ひーちゃんに笑顔で会える。
でもね、」
松浦さんは、次に出てくる言葉を口にはしなかった。
その後、無理して笑顔を作って「じゃあね」と言ってこの黄色い絨毯の外へと出て行った。
松浦さんの恋の炎はまだ燃えているのかもしれない。でも、それはきっと松浦さんが消えないように必死で守っているだけのように感じた。
愛が注がれなかった淡い恋の炎は、赤く激しく燃えずに、寂しく燃え尽きてしまうのかもしれない。
- 54 名前:パム 投稿日:2007/12/08(土) 02:13
- つづく
- 55 名前:パム 投稿日:2008/03/07(金) 02:05
- ずいぶん空けちゃってすみません。
では、久々の更新です。
- 56 名前:白紙の手紙 投稿日:2008/03/07(金) 02:06
- 今日も王子様は、窓枠に肘を付いて夜の空を眺めていた。
私はそんな儚げな王子様の横顔を眺めている。
カニを買いに北海道まで行った王子様が帰ってきたのはあれから一週間後のこと。
松浦さんから連絡を貰った私とガキさんと絵里は、王子様のお城へと向かった。
ガキさんは、王子様のことをどうしてか悲しむような目をして見た。
そして、王子様の隣にいた松浦さんの表情は固かった。
何も語ることなく三人だけ何かを悟っているようで、さゆみは悔しかった。
鍋を囲んだ食事なのに、みんな静かだった。
カニに夢中になっているわけでもない。一人を除いて。
みんな、王子様のことを気にしている。一人を除いて。
松浦さんは、未だに箸すら手に取っていない。
ガキさんもまた、同じ。
そんな雰囲気だから、私も食べる気にはならず、ずっと窓際に座る王子様を眺めていた。
- 57 名前:白紙の手紙 投稿日:2008/03/07(金) 02:06
- 微動だにしない王子様にしびれを切らしたのか、松浦さんは溜息とともに立ち上がった。
そして、壁に掛けられていた何も張られていないコルクボードを外した。
裏側には手紙が張り付けられていたようだった。松浦さんはそれを外すと、ガキさんの前に置いた。
ガキさんは、深いため息をついた後、手紙を手に取って破いた。
その行動を見て、誰もが驚いた。
松浦さんも予想外だったのか、慌てて破れた手紙を拾って、もう一度ガキさんの前に置いた。
「ちゃんと見てよ」
「どうして私に見せるんです?」
「この手紙、何なの?」
「なぜ、私に聞くんです?」
「ガキさんなら知ってるでしょ」
「松浦さんもわかってるんじゃないんですか?」
「だから、どうして今さらあの人から連絡があるのって聞いてるの!」
- 58 名前:白紙の手紙 投稿日:2008/03/07(金) 02:06
- 突然、ただならない空気が張り詰めた。
さすがの絵里も察知したのか、今更ながら私にどうしたの?なんて聞いてきた。
絵里の質問は無視して、この状況の渦中であるはずの王子様を見た。
王子様は、私の視線に気づいて、こちらを振り向くと私を手招いた。
誘われた私は、王子様に寄り添って一緒に月を眺めた。
「そんなの私は知りません。直接聞いてください」
冷静なガキさんの口調とは裏腹に、松浦さんの荒れる息が聞こえる。
「ひーちゃん、どういうこと」
松浦さんの怒りはようやく王子様に向けられた。でも、松浦さんの口調は怯えていた。
- 59 名前:白紙の手紙 投稿日:2008/03/07(金) 02:06
- 王子様は、私の肩に手を回して、引きよせた。
王子様のぬくもりは冷たかった。
「ひとみさん、会ったのですか?」
ガキさんは全てを知っているようで悔しい。
私には、知らないことが多すぎるみたい。
ガキさんの質問に、王子様は月を見つめながらゆっくりと答えた。
「会ったよ」
見えていないけど、でも、空気を伝って松浦さんの震えが感じられた。
そして、ガキさんは破れた手紙を拾って、私に見せてくれた。
何度も書き消された跡のある白紙の手紙。
言葉にすることができないほどの強い思いが、この手紙には込められていた。
- 60 名前:パム 投稿日:2008/03/07(金) 02:07
- つづく
- 61 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/08(土) 02:02
- 更新お疲れ様です。
毎回楽しみに読ませて頂いてます。
この手紙を書いた人って……。
登場を楽しみにしてます!
- 62 名前:白紙の手紙 投稿日:2008/05/09(金) 02:54
- 家の中は外よりも冷たい。
暖かさも温もりもない孤独な空間。
ストーブに火を入れ、やかんに火をかける。
部屋着に着替えて、部屋が暖まるで毛布に包まる。
自分でもなんて惨めな生活をしてるのだろうかと思う。
あえてこんな生活を選ばなくても良いこともわかっている。
けれど、こうしていたい。
あいつがいない暮らしで、わずかでも幸せを感じるようなことはしたくなかった。
- 63 名前:白紙の手紙 投稿日:2008/05/09(金) 02:54
- やかんからけたたましく沸騰を知らせる音が鳴った。
ゆっくりと立ち上がって、火を止める。
マグカップにインスタントコーヒーを入れて湯を注ぐ。
テーブルにコーヒーを置いて、引き出しの中から書きかけの手紙を取り出す。
コーヒーを一口飲み、まずは手紙を読み返す。
当たり障りのない言葉からこの手紙は始まる。
『お久しぶりです。お元気ですか?私は元気です。
こちらはもう冬です。昨日、初雪が降りました。』
初雪が降ったのはもう一ヶ月前になる。
未だに書き終えることができずにいる。
- 64 名前:白紙の手紙 投稿日:2008/05/09(金) 02:55
- 私は寂しくないと伝えなくてはならない。
『こちらの暮らしにも慣れ、気の合う友人も何人か出来ました。
朝まで飲み明かせる友人や、今年こそは天使に会うんだとおかしなことを言う子がいたりと毎日楽しくやっています。』
この後どう書き綴ったらいいのかわからず、何度も書いては消している。
つい自分の弱さを出してしまう。
この手紙は別れの手紙。
もう二度と会えないと伝える手紙。
会えないと思うと会いたくなる。
いつもそう。毎日、毎日あいつのことばかりを思う。
この思いを断ち切るために私はこの手紙を書くと決めたのに。
いつまでも未練たらしい。
結局、手紙はすべて消した。
白紙に戻した。
もう少し気持ちが落ち着いたら、あいつへの想いが薄れたら書いてみよう。
- 65 名前:白紙の手紙 投稿日:2008/05/09(金) 02:55
- 冷めたコーヒーを入れなおして、テレビをつけた。
もう興味も失せた歌手が次々と歌っている。
次の歌手の番になったとき、画面に大きな満月が映った。
私は息が止まりそうになって、チャンネルを変えようとリモコンを手にした。
どれでもいい。ボタンを押せばこの歌を聞かなくて済むはずなのに、私はリモコンを持ったままその歌を聞きいた。
歌が終盤になると、歌詞の字幕は流れているのに彼女は歌わなかった。
流れる歌詞を読んでいると自然と涙が零れた。
「帰りたい」
今まで思うことも許さなかった思いが自然と声に出た。
目に入った白紙の手紙を取り、指で「会いたい」と書いて封をした。
- 66 名前:パム 投稿日:2008/05/09(金) 02:56
- つづく
すんごい間を空けちゃってすみませんでした。
- 67 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/10(土) 02:01
- やったー更新されてる!いつかいつかと待っていました。
毎回、まるでジグゾーパズルのピースが繋がっていくかのような感覚です。
今回はプラス涙でした。
- 68 名前:red siginal 投稿日:2008/06/23(月) 03:23
- 真っ赤な夕日を見て私は足を止めた。
赤い夕日が空に滲んでオレンジ色に染めている。
夕日の空ってこんな色してたんだな。
久々に人間らしい感覚を取り戻したような気がする。
こっちに来てからというもの、今までの生活を一切捨てた。
大好きなビールもやめた。お酒で寂しさを紛らわすつもりはなかった。
むしろその寂しさを味わいたかった。
なんて、今までの自分を思い返してみると、結構自分はMなのかもって思って思わず噴き出してしまった。
笑ったのも久し振りかも。
今日はとてもいい気分で過ごせたので、同僚のなっちを初めて自分の家に誘った。
久しぶりに誰かと一緒にビールが飲みたくなった。
コンビニで買ったビールをぶら下げて、夕日を眺めながら帰った。
あっ、この道はあいつのマンションへ行く道と似てるような気がする。
一緒にスーパーに買い物を行った帰り道。
手を繋いで帰ったあの道に。
- 69 名前:red siginal 投稿日:2008/06/23(月) 03:23
- 思い出して顔がにやけてる。
気がついてすぐに表情を戻したけど、少し遅かった。
「裕ちゃん、何にやけてるの?」
「なんでもない。あそこの信号を渡った先がうちやから」
「あれ?」
「そう、あの信号」
「違う。そうじゃなくて、あの人、天使さんだよ!裕ちゃん、なっちが言ってた天使さんがいるよ!」
なっちは急にはしゃぎだして、私の腕をバシバシ叩いてきた。
夕日でなっちが指差している人の顔がよく見えない。
でも、わかる。
「裕ちゃん、天使さんも誘おうよ。天使さんカニ持ってるよ」
何でカニを持っているんだろう。あいつは。
相変わらずよくわからないなんて笑って一歩踏み出した。
- 70 名前:red siginal 投稿日:2008/06/23(月) 03:23
- 「天使さーん」
なっちは手を振りながら、あいつの元へと駈け出して行った。
あいつがにっこりと笑ったように見えた。
先に行くなっちを追いかけることせず、私はゆっくりと歩いた。
この先、どうしたらいいのかわからない。
信号は青。
なっちは渡って、あいつに抱きつきやがった。
手を強く握りしめて嫉妬に耐えた。
こんなことくらいで、嫉妬してしまうから逃げてしまったんだ。
あいつが他の誰かと仲良くしているのを見たくないから逃げた。
なっちは早くとせかす。
でも、足は思うように先に進まない。
信号が点滅し始めた。
この信号を渡らなければあいつのところへもう二度と行けない。
なのにどうして、私は走ることができないんだろう。
真っ赤な信号機を前に足を止めた。
はっきりとあいつの顔が見えた。
久しぶりに見たあいつは痩せていた。
でも、あの笑顔は変わりなかった。
信号が青に変わるまで、あと、もう少し。
じっと見つめて、その時が来るのを待った。
- 71 名前:パム 投稿日:2008/06/23(月) 03:24
- つづく
- 72 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/24(火) 00:13
- 幸せになってほしい、ただそれだけです。
- 73 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/24(火) 01:56
- 更新きてた!嬉しいです
次回もまったりと待ってます
- 74 名前:黒い雲 投稿日:2008/08/22(金) 23:15
- 翌日、手紙を破ってしまったことを謝ろうと、ひとみさんの家に向かった。
激しい雨の中での傘は意味をなさず、全身ずぶ濡れになってひとみさんの家のチャイムを鳴らした。
ひとみさんは、私の突然の訪問にも嫌な顔を見せずに迎え入れてくれた。
真っ白いタオルと着替えを出してくれて、私はひとまずそれに着替えた。
着替えている間にひとみさんは紅茶を入れてくれた。
冷えた体に温かい紅茶は良く沁みた。
一息つくと、テーブルの上に置かれている破れた手紙が目に入った。
私がその手紙に手を伸ばすと、ひとみさんは隠すように素早く掴んで、丸めてポケットに突っ込んだ。
「手紙、破ってしまってすみませんでした」
ひとみさんは私の謝罪を受け流すように、席を立って窓際へと歩いて行った。
ひとみさんは決して怒ったりしない。
わかっているから、こうして謝りに来たのかも知れない。
「雨、強くなってきたね」
ひとみさんは、少し開いていたガラス戸を閉めながら言った。
激しい雨の音は消えて、部屋の中が静まり返った。
沈黙が続くと、先ほどまで聞こえていなかった雨の音がはっきりと聞こえるようになってきた。
激しさを増したのだろうか。
- 75 名前:黒い雲 投稿日:2008/08/22(金) 23:15
- そういえば、二年前のあの日もこんな雨の日だった。
保田さんに頼まれて、ひとみさんの様子を見に行った。
鍵のかかっていない玄関の扉を開けた途端、私は部屋の中の惨状に声も上げられなかった。
ガラスの破片が無数に飛び散っていたので、靴は脱がずに部屋の中に入った。
食器から服や雑誌あらゆるものが部屋に散乱していた。
とてもひとみさんの部屋とは思えない部屋だった。
一番奥の部屋の扉を開けると強い風が吹きつけてきた。
顔を手で伏せて、部屋の奥を見ると、カーテンが大きく揺れる奥にひとみさんが立っていた。
激しく雨が降っているのに、ベランダに立って空を見上げていた。
私は、走り寄って、ひとみさんを無理矢理部屋の中に連れると急いで戸を閉めた。
ずぶ濡れになったひとみさんのためにタオルと着替えを渡したけど、まったく何もしないでの私が変わりに濡れた体を拭いて、着替えもした。
その間、ひとみさんは放心状態で一言も喋らなかった。
ひとまず、保田さんに連絡を入れると、しばらく一緒にいてあげてと言われた。
保田さんに言われなくても一緒にいたと思う。こんなひとみさんの姿を見たのは初めてだった。
部屋の片づけをしている最中も吉澤さんは部屋の中から空を見上げていた。
何が見えるのだろうかと、私もひとみさんと目線を合わせてその先を追った。
けれど、見えるのは黒い雲ばかりで、ひとみさんが何を見ているのかわからなかった。
- 76 名前:黒い雲 投稿日:2008/08/22(金) 23:15
- ひとみさんが普段通りに戻ったのは、翌日だった。黒い雲もすっかり晴れた日だった。
思ったよりも早いと思うべきか、それとも私が来るのが遅かっただけなのだろうか。
とにかく、ひとみさんはいつもの明るいひとみさんに戻った。
「恥ずかしいところ見せちゃったね」と照れ笑いをしながら言ったひとみさんの表情は今でもはっきりと覚えている。
そんなひとみさんの姿を見て、私はとても腹立たしくなった。
ひとみさんに対してではなく、ひとみさんを置いて逃げていったあの人に。
小さい頃からひとみさんを見てきた私にとって、ひとみさんは特別な人だった。
頭が良くて優しくて格好良くて、ときにはアホなこともしたりして、私が一番尊敬している人。
ふいに顔を上げると、ひとみさんがじっと私を見ていた。
見られていたことを知って、私は思わず視線を反らしてしまった。
「電話くれれば迎えに行ったのに」
「そんな、迎えに来てもらうなんてできませんよ」
「ずぶ濡れで来られても困るよ」
「すみません」
「まっ、いいんだけどね。ところで、それ、里沙には大きすぎたかな?」
「はい、ちょっと」
久しぶりに名前で呼ばれたような気がする。
名前で呼んだのは、一定の距離を置くためなのだろうか。
小さい頃、自然と呼び合っていた名前が、今となっては逆に他人行儀に感じる。
ふいに、ひとみさんとの距離感が掴めなくなって寂しくなった。
- 77 名前:黒い雲 投稿日:2008/08/22(金) 23:16
- 「里沙はもう大学決まったんだっけ?」
「はい」
「おめでとう。ちゃんと教えてよ」
「すみません」
「今度、合格祝いに美味しいものでも食べに行こうか」
「まだ、いいです。友達がまだだから」
「そうだったね。今、さゆみちゃん頑張ってるもんね」
「そういえば、どうして家庭教師なんかやってるんですか?」
「ケメ子に言われたんだよ。たまには働けって」
「そうでしたか。そうですよね。ひとみさんはもういい大人なんですから、いつまでもフラフラしてないで下さい」
「なんだよ。ガキさんまで言うのかよ」
ガキさんって呼ばれてほっとした。
やはり今はそう呼ばれる方がしっくりくる。
私は笑ってみせると、ひとみさんもつられて笑った。
ひとしきり笑い終えると、ひとみさんはまた窓際に行って戸を少し開けた。
冷たい風が流れ身をすくめると、ひとみさんはすぐに戸を閉めた。
- 78 名前:黒い雲 投稿日:2008/08/22(金) 23:16
- 「ごめん。なんかさ、今日の天気はあの時と同じだったからさ」
「覚えてるんですかあの時のこと」
「もちろんだよ。ガキさんが私の服を脱がして、エッチなことしたのもね」
「してないですよ!着替えさせただけじゃないですか!」
「あれ?そうだっけ?」
「そうですよ。当たり前じゃないですか。まったく」
「でもさ、あのときガキさんが来てくれたおかげで助かったよ。ありがと」
ひとみさんからお礼を言われると、照れくさくてどうしたらいいのかわからなくなる。
私はとにかく目を伏せてひとみさんの顔を見ないようにした。
「こんな季節はずれの大雨は、何かが起こる前兆なのかな?」
ひとみさんの問いかけに私を顔を上げた。
ひとみさんは私のことを見てはいなくて、空を見ていた。
私はひとみさんの隣に立って、一緒に空を見上げた。
黒い雲の前兆を、私は知っている。
ひとみさんに向けて笑顔見せると、ひとみさんも笑顔で返してくれた。
明日はひとみさんが望んでいた満月の日ですよ。
- 79 名前:パム 投稿日:2008/08/22(金) 23:17
- つづく
- 80 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/25(月) 20:36
- 更新楽しみにお待ちしてました。
すでに続きが気になってしょうがない!です。
- 81 名前:月の王子様 投稿日:2008/12/12(金) 04:15
- 「今日は満月だから、家でお月見でもしよう」って王子様からメールが入ったのは私だけではなく、ガキさんにも絵里にも入っていた。
邪魔しないでねと二人に念を押すと、どうしてかガキさんからも「時が来たら邪魔しないで帰るよ」と私以上に強く念を押してきた。
何か嫌な予感がするけれど、今日は満月だから、きっと、絶対、王子様が私をお月さまに連れて行くんだ。
ガキさんと絵里はその見送りをするために呼ばれているだけなんだと自分に言い聞かせながら、王子様のお城に向かった。
- 82 名前:月の王子様 投稿日:2008/12/12(金) 04:15
- お城の中に入ると、以前来たときよりも殺風景になっていた。
その意味をすぐに察知したのはガキさんだった。
「出て行っちゃったんですね」とガキさんはベランダで空を見上げている王子様に向って言ったけど、王子様は何も答えなかった。
お月見って実際どういうことをするのかわかってないけど、とりあえずご飯を用意して、カーテンを全開にして、お月さまが見れるようにした。
その間もずっと王子様はお月さまを眺めていた。
ガキさんが「できましたよ」と言っても王子様はその場から離れようとしなかった。
返事も何もしない王子様にガキさんはそれ以上は何も言わず、「先に食べちゃおうか」と言って箸を取った。
絵里は「たまにはこういうのもいいね」なんて言って、楽しそうにしている。ガキさんはそんな絵里のアホアホトークに大袈裟にツッコんでいる。
私は、くだらない絵里の話に付き合う気になれなくて、お茶の入ったグラスを持ってベランダに出た。
そして、王子様の隣に並んでお月さまを見上げた。
- 83 名前:月の王子様 投稿日:2008/12/12(金) 04:16
- 金色の綺麗なお月さまをじっと眺めるのは、意外と飽きなかった。
でも、少し肌寒くて王子様に体を摺り寄せると、王子様は初めて私を見てくれた。
「綺麗な満月だね」
「はい」
ああ、なんて素敵なシチュエーションなのかしら。
お月さまと王子様とお姫様の二人だけの世界。
絵里のアホな笑い声が耳障りだけど、そんなのもすぐに聞こえなくなるくらい、この後二人は本当の二人だけの世界に飛び立って行くんだ。
「もう二年ぐらい経つかな」
私が夢の世界に浸っていると、隣から優しい声が聞こえて顔をあげた。
王子様は、昔を懐かしむように優しく微笑んでいた。
「あのときも今日みたいな満月だった。暗い夜の中、黄金に光る満月はあの人を綺麗に照らしていた」
「吉澤さん?」
「何?」
「いえ、何も」
聞きたいことはたくさんある。でも、どれも聞きたくないことだから、それ以上言えなかった。
王子様は、私の背中にそっと手を回して振り返らせた。
- 84 名前:月の王子様 投稿日:2008/12/12(金) 04:16
- 「寒いね。中に入ろうか、風邪ひいちゃうよ」
お月見はもう終わりなのかしら。部屋の中に入るとすぐにカーテンが閉められた。
鍋を囲んで、食事が進む。
ガキさんも絵里も王子様も楽しそうに喋っている。
私だけちっとも楽しくない。
だって、私にはわかるから、王子様が今日でいなくなってしまうことを。
本気で楽しんでいるのは絵里だけで、王子様もガキさんも、そして、私も無理して笑っていた。
笑いながらも時計を気にしているガキさんが気になる。
笑いながらも不意に見せる王子様の不安な表情が気になる。
賑やかな会話よりも時計の針の音が気になって仕方がなかった。
刻々と何かが訪れる時間が迫っているかのように時計の針は、私は焦らし焦らせた。
「もう、帰ろう」
募る不安に負けた私はつい口を滑らせてしまった。
12時になる前に帰らないと魔法が解けてしまう。
今まで夢見ていた時間がすべて消えてしまいそうで、私は現実から逃げることを選んだ。
- 85 名前:月の王子様 投稿日:2008/12/12(金) 04:16
- 「えー、泊まるんじゃなかったの?お泊りセット持ってきたのに」
絵里が持ってきたのは歯ブラシだけじゃない。私は絵里を睨んで黙らせた。
「怖ーい」なんて言って王子様に寄り添うからもっと睨んでやった。
ガキさんは、立ちあがって「帰ろうか」って言ってくれた。
ガキさんに言われたら、絵里も諦めたらしく一緒になって立ち上がった。
王子様は引き止めることはしなかった。
ごちそうさまと言って私たちが帰ろうとしたときに、玄関の扉が開いた。それと同時に時計の針は12時を指した。
誰もが息を飲んで誰が入ってきたのか待っている。
扉の閉まる音が聞こえ、目の前の扉のノブが回る。
- 86 名前:月の王子様 投稿日:2008/12/12(金) 04:16
- 「ただいま」
入ってきたのは松浦さんだった。
いち早く王子様に振り向いたのはガキさんだった。泣きそうな顔をして王子様を見ていた。
王子様は、ニコっとガキさんに笑い返すだけで、何も言わなかった。
「あー、お鍋してたんだ。ずるいな」
松浦さんは、王子様の隣に座って、空になったお鍋を覗き込んだ。
「みんなどうしたの?」
「あややさん、聞いて下さいよ。絵里、お泊りセット持ってきたのに、みんな帰ろうって言うんですよ」
「お泊りセットってその歯ブラシ?それだけ?」
「はい」
「カメちゃん面白いな。いいよ、泊っていきなよ。もう遅い時間だし、ひーちゃんに会えるのも今日で最後なんだから」
「え?」
ガキさんが驚いて松浦さんと王子様を見た。
- 87 名前:月の王子様 投稿日:2008/12/12(金) 04:17
- 「あれ?ひーちゃん言ってなかったの?」
「うん。なんかね、言いだしそびれちゃって」
「ありゃ、私、余計なこと言っちゃったかな」
「ううん。いいよ、ありがとう。まあ、そういうわけだから、みんな泊っていきなよ」
「どういうことですか!」
ガキさんの怒鳴り声で、松浦さんと王子様から笑みが消えた。
「出て行くなら、どうして今日行かなかったんですか!あんなに今日の満月を待っていたんじゃないですか!」
ガキさんは王子様に掴みかかって叫んだ。怒りながら泣いていた。
「別れはちゃんとしたかったんだけどね。でも、こういうのは苦手で、やっぱり上手いことできなかった」
「それはどちらにですか?私たちにですか?それとも中澤さんにですか?」
「どちらにも」
- 88 名前:月の王子様 投稿日:2008/12/12(金) 04:17
- ガキさんは王子様から抜け落ちるように手を離し、肩を落とした。
どうしてガキさんが一番悲しんでいるんだろう。
どうして私は悲しくないのだろう。
カーテンを開いて満月を見上げた。
結局、王子様はお姫様を探し出すことはできなかったみたい。
私だったらどこへだって付いて行ったのに。
- 89 名前:月の王子様 投稿日:2008/12/12(金) 04:17
- 夢の終わりはとても平凡だった。
朝、目が覚めて、まだ眠っているガキさんと絵里をそのままにして一人、リビングに行った。
真っ白いこの部屋には最初から誰も住んでいなかったように綺麗で何も無かった。
あれは夢だったと私は思うしかなかった。
- 90 名前:パム 投稿日:2008/12/12(金) 04:18
- ずいぶんと間をあけてしまってすみません。
次、最終話です。
- 91 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/13(土) 11:10
- お疲れさまです
まだ謎めいててもやもやです
- 92 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/13(土) 11:24
- 切ない。胸が痛い。
泣けてきました。ラスト、楽しみにしています。
願わくば、ふたり幸せに…なんですが。
- 93 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/13(土) 23:12
- 中澤さん、昨日のブログでお月様について書いてました。
すごいタイミング!!
- 94 名前:真っ白な世界 投稿日:2008/12/14(日) 04:52
- 死ぬほど寒いけど、冷えたビールを持ってベランダに出た。
どうしても今日の満月を見たかったから。
こうして素直に満月を見れるようになれたのは、ようやく吹っ切れることができたからだろう。
やはり赤信号は前に進めない。
わずか1分ほどの時間がとてつもなく長い時間に感じて、焦って飛び出しても結局は前に進むことを許してはくれなかった。
ようやく会うことが出来た私に向かってあいつはにっこりと笑った。
- 95 名前:真っ白な世界 投稿日:2008/12/14(日) 04:52
- 「カニを買いに来ました」
「は?ああ、そうやな」
「あややが鍋をしたいって言うんで」
「ああ、そうなんや」
「カニと言ったら北海道ですよね」
「まあ、そうやな。どこでも買えるけど」
「そしたらガキさんに怒られちゃった」
「まあ、そうやろ。ガキさんにあんま心配かけんなや」
「そうですよね」
「そうや。で、もう帰るんか?」
「はい。居なかったから」
「誰が?」
「裕子さんが」
「めっちゃここにおるやん」
「家に」
「そりゃそうやろ」
「だから、」
「だから帰るんか?相変わらず訳のわからん奴やな」
「こんなとろこで会うつもりはなかったんです」
「そんなん言われてもしゃあないやん」
「そうですけどね」
「けど、なんや」
「寒いから」
「は?」
「外で会うと寒いから、ゆっくり話できないでしょ」
「だったら今から帰ろうや。てか、めっちゃ今、話してるで」
「そうですね。あっ、もうすぐ飛行機の時間だ」
「そ、そうなんか?もう帰るのか?」
- 96 名前:真っ白な世界 投稿日:2008/12/14(日) 04:52
- あいつはまるで偶然会った友人に話しているかのように、いつも通りに話し、そして、どこか行ってしまった。
なっちは横で黙って聞いていたけど、あいつが行ってしまうのを見て私をせっついた。
あいつの背中を見て私はもう本当に終わったのだと確信して、追いかけることはしなかった。
追いかけたところで、すぐ目の前の信号は赤なのだから、どうやったって私はあいつの元にたどり着くことはできない。
逃げ出した私に追いかけることは許されないみたいだ。
本当なら陽気に飲むはずだったビールは一転して悲しみの酒になった。
なっちはずっと私の話を聞いてくれた。
とことん泣き腫らして、酔いつぶれて次の朝はスッキリ目が覚めた。
今までの夢がようやく覚めたようだった。
この日からあいつに会う前の私に戻った。
あいつのことが頭をよぎることもなく、寂しさに襲われることもなく日々が過ぎた。
今日の満月が来るまでは。
- 97 名前:真っ白な世界 投稿日:2008/12/14(日) 04:53
- 満月を見るとどうしても思い出してしまう。
この日だけは、あの日の私に戻ってしまう。
とても幸せだったあの日。
幸せな時間だけを思い出せるならそれでいいだろう。
今日だけは、この幸せに浸らせて貰おう。
すうっと部屋に吸い込まれるような風が吹いて私は振り返った。
まさかと思った。期待していた。今日なら、帰ってきてくれるかもしれないと。
でも、扉は一向に開かなかった。
私は苦笑いをして、一瞬でも期待した自分を恥じて、空になった缶ビールを潰して部屋の中に入った。
もう終わったんだ。もう満月を見るのも辞めにしよう。
- 98 名前:真っ白な世界 投稿日:2008/12/14(日) 04:53
- 次の日の夜も、帰りの電車でつい見てしまった月を見ながらまた思い出す。
あの月がある限り、私はこうして思い出してしまう。
何もかも捨てて、消し去って真っ白な世界に行きたい。
そうすればまた会えるのかも知れない。
「ここ空いてますか?」
冷えた隣の空席に、いつかあいつが座ってくれることを私は願っていた。
けれど、もうこんなことをするのも辞めよう。
「どうぞ」
すべてを真っ白にして、何もなかったのかのようにもう一度やり直してみよう。
けれど、もう二度と逃げたりはしない。
「ふぅ〜、良かった。どこまで行くんですか?」
「あんたが行きたいところまで」
- 99 名前:パム 投稿日:2008/12/14(日) 05:00
- 終わり。
更新が滞ったりしてすみませんでした。ようやく終わりまで辿り着きました。
本当は、来週くらいにこれを更新しようと思ったんですけど、93さんが言うようにすごいタイミングだったので、今日更新しました。
本当は昨日更新したかったんですけど、ちと間に合わなかった。弾丸トラベラー見てたしw
待っていてくれたみなさんありがとうございました。
また、そのうちここで何か書きます。
- 100 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/17(水) 00:56
- 素敵なお話をありがとうございました。
毎回、切ない思いで読ませて頂いてました。
ふたりのリスタートが幸せなものになりますように。
- 101 名前:天使のリボルバー 投稿日:2009/11/03(火) 22:16
-
※◇※天使のリボルバー※◇※
- 102 名前:天使のリボルバー 投稿日:2009/11/03(火) 22:16
- 数枚の万札を手に持ちながら、えらくご機嫌な調子で銀行から出てきた男を私はたまたま見つけた。
奴の顔を見た瞬間に、怒りが込み上げてきた。
奴は間違いなく、今、世間を騒がせている連続強盗殺人の手配犯だった。
私は、気づかれないように奴を尾行した。
誰にも気付かれずに、奴を始末できる場所に辿りつくまで追い続けた。
奴は、何度も角を曲がり徐々に人気のない薄暗い路地へと移動していた。
きっと私が尾行していることに気付いているからだろう。
しかし、私は、ここまで来れば別に気付かれていようが構わなかった。
丁度良い頃合いを見計らって、さっさと奴を始末したかった。
幾度の経験で、気配というものを感じられるようになった。
今、奴は角を曲がったところで私を待ち伏せしているのが、私には見えなくてもわかった。
ここで良いだろう。辺りには誰もいない。気付かれることもない。
私は、角まで行かずに10mほど離れた場所で止まった。
右手をまっすぐ伸ばして、肩の高さまで上げる。
狙いを定める必要はない。
- 103 名前:天使のリボルバー 投稿日:2009/11/03(火) 22:16
- 奴には何も言わせない。懺悔する機会も与えない。
だって、奴は、善良な人を有無を言わさず殺して、金を奪っているのだから。
伸ばした右手で銃を握るポーズをとる。
後はイメージするだけで、徐々にその姿を現す。
これが神様が私に与えたくれた裁きの武器、金色に輝くリボルバー。
一息吐いて、吸う。そして、呼吸を止める。
静寂の中で、奴の呼吸だけが聞こえる。
迷いはない。奴を殺せば、少しだけこの世界も平和になれる。
引き金を引いた。
音はしない。
銃口から飛び出した弾丸は角を曲がって、その役目を果たした。
奴が崩れ倒れる音がした。
私は、奴が死んだことは確認せずに、来た道を帰ろうと振り返った。
- 104 名前:天使のリボルバー 投稿日:2009/11/03(火) 22:17
- 「初めて見るタイプの能力やな。ごっちん」
振り返った私の数メートル先に、いつの間にか女性二人がいた。
隣の女性に話しかけた方の女性は、30代くらいの年上の女性で、得も言えぬ迫力があった。
一方、その隣にいる女性は、私よりもいくつか年上くらいで、至って普通の女子大生のような人だった。
「えっ、誰が?」
女子大生風の女性が私以外の人を探すように辺りをキョロキョロしながら言った。
「見てなかったんか。あのガキや」
「へぇ〜、そうなんだ」
- 105 名前:天使のリボルバー 投稿日:2009/11/03(火) 22:17
- 30代の女性は、私が今さっき使った力を見ていた。
けれど、別に構わない。
この先で何が起こっているのかなんて知らないはずだし、奴を殺したのが私だなんて証拠はない。
恐れる必要は何もない。何よりも私は正しいことをした。これは正義だ。
私は、二人の女性を無視して歩いた。
それと同時に女子大生風の女性も私に向かって歩きだした。
無関係な人を巻き込むつもりも殺すつもりもなかった。
しかし、騒ぎを荒立てられては、これからも続く私の使命を実行できなくなってしまう。
右手をバックで隠して、いつでも発射できるように準備をした。
彼女は、私の心配をよそに私を素通りした。
私は、さらに30代の女性を避けて歩いた。
この女性も私には何も言わなかった。
良かった。一息ついて、安心して、私は慌てないように慎重に、かつ、急いで角を曲がった。
曲がったすぐその場所で、彼女たちの様子を伺った。
気になったのは、女子大生風の女性が行った先だ。
あそこには間違いなく、私がつい先ほど殺した男が倒れている。
彼女は、角を曲がった瞬間に悲鳴をあげるに違いない。
そして、もう一人の女性が駆けよって、警察に電話するだろう。
- 106 名前:天使のリボルバー 投稿日:2009/11/03(火) 22:17
- 「裕ちゃん。もう死んじゃってるよ」
予想しない言葉が聞こえてきた。
彼女は、そこに奴の死体が転がっているのをわかっていたかのように、驚くこともなく、淡々とその状況を伝えていた。
「そっか。でも、こっちの手柄にしても問題なさそうやろ」
「いいの?」
「あんなガキは見たことも聞いたこともない。きっと慈善事業のつもりで勝手にやってるだけやろ」
「でも、なんか悪くない?ご飯くらい奢ってもいいんじゃない」
「まあ、それくらいええけどな」
「じゃあ、話しといて。私は、とりあえずこいつを連れていくから」
「ええー、すぐ戻ってくるやろ。うち、嫌や。あんなガキと話するのなんて、ごっちんやってぇや」
「何にもしてないんだから、それくらいしないよ」
「わかった。わかった。はよ、片付けに行けって」
- 107 名前:天使のリボルバー 投稿日:2009/11/03(火) 22:17
- 意味のわからない会話が続いていた。
けれど、私に何か悪い出来事が起こりそうな予感がした。
私は、彼女たちに捕まる前に、この場から立ち去ろうとした。
しかし、それはすでに遅かった。
振り返ると、目の前は炎の壁が道を塞いでいた。
慌てて、私は戻って、彼女たちとは反対方向の道を走りだした。
しかし、それもすぐに足を止められた。
この道も同じように炎の壁で塞がれた。
残る道は彼女たちがいる道しか残っていなかった。
背後から、足音が聞こえる。
私の目の前にある炎の壁は、彼女たちのどちらかが出した能力に間違いない。
私と同じように神様から与えられた力のはずなのに、彼女たちはその力を使って、天使である私を追い詰めようとしている。
それは許されることではない。
私は、もう一度、銃を出した。
そして、向こうが何かを言う前に、先に倒してしまおうと決意した。
- 108 名前:天使のリボルバー 投稿日:2009/11/03(火) 22:18
- 同じような力を持っている人とは、一度も戦ったことはない。
けれど、私のこの銃なら、炎など突き抜けるはずだ。
負けるはずはない。私は、神様から力を与えられた天使なんだ。
相手の顔を見るよりも先に体を捻ると同時に引き金を引いた。
弾丸は湾曲して、あの30代の女性のこめかみめがけて飛んで行く。
ほんの一瞬の出来事だから、弾丸の軌道を読んで、弾丸を止めるなんてことは私以外誰にもできなはしない。
そう思っていた。
しかし、彼女のこめかみの数センチ先で、赤い炎がぱっと燃えて、弾丸は一瞬のうちに消えてしまった。
「危なっ!何しよるんやこのガキ!」
彼女の怒声に、腰が引けて、その場にしゃがみ込んでしまった。
彼女は、ゆっくりと私に近付いてきた。
ヘビに睨まれたカエルのように、私は、次の弾丸を放つことどころが、逃げることすらできなかった。
- 109 名前:天使のリボルバー 投稿日:2009/11/03(火) 22:18
- 「あのな、あんた。褒美に飯奢ってやるから、ちょっと待って」
殺されると思ったけど、彼女はそれだけを言って、そのあとは何も言わず、誰かを待っていた。
そういえば、もう一人の女性がいなくなっていた。
そして、待つこと数分後、突如、目の前に姿を現した。
「ただいま」
「おっそいねん。何しとった」
「あのね、ミキティが報酬貰ったら、ヘッドホン買ってきて言ってたから買いに行ってた」
「そんなの後でええやろ!てか、報酬使ったんか!」
「うん。そうだよ」
「今回、あいつ何もしてないやんけ!なんで、あいつの欲しいもん買ってやらないかんねん」
「裕ちゃんも何もしてないじゃん」
「いや、それはたまたまやろ」
「あっ、ちゃんと引きとめておいてくれたんだ」
「あっ、そうや。ちゃんと言ったで」
「おう、裕ちゃんにしては上出来だ」
「うっさいわ」
- 110 名前:天使のリボルバー 投稿日:2009/11/03(火) 22:18
- ようやく、私に目を向けられた。
突如、現れた女性は、しゃがんで私と目線を合わせた。
そして、にこっと笑った。
この人からは恐怖は感じられなかった。
彼女は、裕ちゃんと呼んでいるもう一人の女性に振り返った。
「裕ちゃん。この子、怯えてるようだけど、何言ったの?」
「何って、飯奢ってやるから、ちょっと待てって言っただけやって」
彼女は、首を傾げて、もう一度私を見て、手を差し伸べてきた。
けれど、私は彼女を手を取ろうとはしなかった。別に怯えているわけじゃない。この二人が怪しすぎるからだ。
「どうしたの?」
彼女は、私に聞いてきた。
「なんなんですか、あなたたちは」
「何って言われてもな、まあ、あんたと同じようなもんや」
手を差し伸べた彼女ではなく、ヘビの方が答えた。
「うん、そんな感じ。でね、あいつを始末したお礼はこっちが頂いちゃったからせめてのお礼にご飯を御馳走しようと思ってね。裕ちゃんから聞いてるよね?」
- 111 名前:天使のリボルバー 投稿日:2009/11/03(火) 22:18
- 私と同じ?
確かに、私と同じように特殊な能力を持っている。
けれど、とても私と同じとは思えなかった。
特に、ヘビの方は、天使と言うよりも悪魔と言った雰囲気だ。信じられるわけがない。
「裕ちゃん、ちゃんと言ったの?」
「言ったわ。ほら、ガキんちょ。いつまでも座ってないで立てや」
「う、嘘だ。あなた達は、悪魔だ」
私は、力を振り絞って言った。
「うん、裕ちゃんはね。でも、私は違うよ」
「いや、うちかてちゃうわ!」
「じゃあ、どうして、天使である私を殺そうとしたんですか」
「天使?」
二人は、見合って首を傾げた。
「意味分からん。藤本と話させるか」
ヘビの方の女性が言った。
「先にご飯食べようよ」
「こいつが訳わかってないんやから、先にお互い話が通じるようにせないかんやろ」
「うーん。もう、わがままだな」
「わがままちゃうやろ」
勝手すぎる二人は、お互いに勝手なことを言って、勝手に私の手を掴んだ。
そして、一瞬にして、目の前の風景が見知らぬ部屋へと変わった。
- 112 名前:天使のリボルバー 投稿日:2009/11/03(火) 22:20
-
★...
- 113 名前:ガラスのハート 投稿日:2009/11/03(火) 22:20
- 「あっ、ごっちん!早かったな。買ってきた?」
「うん。これだよね」
ごっちんと呼ばれた女性は、先ほど買ってきたというヘッドホンを部屋にいた女性に渡した。
「おっ、サンキュ。これで安心して外に出られるよ」
彼女は、すぐに袋からヘッドホンを取り出すと、iPodに繋げて、その使い心地を確かめていた。
「うん。バッチリだ」
「それは良かった。これで、みんなと遊びに行けそうだね」
ごっちんは、喜んでニコニコしていた。
「藤本。そんなんええから、やって欲しいことがある」
ヘビの女性は、ヘッドホンを付けた女性からヘッドホンを取り上げた。
「あっ、ちょっと何すんだよ」
「こいつと会話しろ」
そして、私をヘッドホンの女性の前まで引き寄せた。
「誰こいつ?」
「今日の獲物を仕留めた奴だ」
「えっ?このガキが?」
「そうや。意味わからんこと言うから、あんたが話つけて」
「えっと、何の話を?」
「今日のご褒美にご飯を御馳走するんだよ」
「は?普通に言えばいいじゃん」
「それが上手く伝わらんから、あんたがしろって言ってるんや」
「それくらい自分でやれよな」
「何にもしてせぇへんくせして、勝手に物買った奴が何を言っとるんや!」
- 114 名前:ガラスのハート 投稿日:2009/11/03(火) 22:20
- 藤本と呼ばれた女性は、ソファに座り、空いている席を叩きながら私を見た。
「わかったよ。ほら、何ぼけっとしてんだよ。座れよ」
私は、キョロキョロと周りを見渡した。
至って普通の部屋だった。
ごっちんと呼ばれている女子大生風の人に、関西弁で話す怖い女性、そして、ヘッドホンを買ってもらった藤本という女性。
きっとこのヘッドホンの人も、特殊な能力を持っているに違いない。
突然、部屋に連れてこられて、素直に言うこと聞くほど私はバカじゃない。すぐにでも、ここから逃げ出したい。
「なんだよ。立ってる方がいいのかよ。まっ、別にいいけどさ。名前は?」
名前を聞くなら、先に名乗るのが礼儀だろと思っても、それは口に出さない。名前なんていうつもりもない。何も喋るつもりはない。
「新垣里沙か。ごっちん、さあ、なんて呼ぼうか」
えっ?私、今、自分の名前言った?何も言ってないはずなのに、この人は言い当てた。
そして、ごっちんは「うーん」唸って何かを考えている。
「ガキさん!」
「は?なんで、年下にさん付けしないといけないんだよ」
「いやいや、違うよ。さんも含めてのあだ名だよ」
「あっ、そう」
ええっ?あだ名考えてたの?しかも、ガキさんって、何だよ。この人たち一体何者なんだよ。
- 115 名前:ガラスのハート 投稿日:2009/11/03(火) 22:21
- 「さて、ガキさんはいくつだい?」
藤本は、私に聞いてきた。私は答えるつもりはない。けれど、またしても言い当てた。
「えっ!21?なんだよガキさん、ガキのくせ大人じゃ〜ん」
「おっ、良かったね裕ちゃん」
「何がやねん」
「ひょっとしたら、裕ちゃんの子供でもおかしくない年かと思ったよ。私は」
「うっさい!」
「で、そんな大人なガキさんには彼氏はいるの?」
「藤本!」
「いいじゃん。これが会話ってもんだよ」
こいつら、何考えてるんだ。何の話をつけるつもりなんだ。何を私から聞き出したいんだ。
「おおっと。21年間彼氏いないんだ。やっぱりガキさんはガキだな」
「処女みたいだよ。裕ちゃん」
「だから何や!別にどうでもええわ!」
こ、こいつら、私をおちょくっているのか。からかって、いたぶって最後には殺すつもりなんだ。
ならば、やられる前にやるしかない。
素早く右手を上げて、藤本の目の前に突き出した。
息を付く暇もなく私は引き金を引いた。
- 116 名前:ガラスのハート 投稿日:2009/11/03(火) 22:21
- 「うわっ!あぶねぇなガキさん!何すんだよ!」
しかし、この藤本は、私が右手をあげた瞬間に何をするかまるでわかっていたかのように、私が撃つよりも先に避けた。
そして、残りの二人は、特に驚くわけでもなく、余裕の表情でこの状況見ていた。
「うん。素晴らしい才能や」
裕ちゃんと呼ばれている人は、腕を組んで関心していた。
なんとなく、わかってきた。この藤本という人は、私の考えていることを聞くことができる。
答える気がなくても、質問されれば、自然と答えは頭の中で用意される。この人はそれを瞬時に読みとっている。
だから、私が銃を撃つことも事前にわかっていた。この距離なら、横に避けるだけ十分なのもわかっていたんだろう。
そして、もう一人、裕ちゃんという人は私を仲間に入れるつもりだ。
私と同じと言っていたから、この人たちも私たちと同じように、世の中の悪を退治しているのだろうか。
この人たちも、神様に選ばれた天使たちなのだろうか。見た目も中身もとてもかけ離れているけど。
「おっ、そういうことだぜ。ガキさん。美貴たちは、エンジェルだ。ミキティーズエンジェルだ」
それともう一つ、この人はバカだ。
- 117 名前:ガラスのハート 投稿日:2009/11/03(火) 22:21
- 「なんだとこの野郎!ちゃんと本題に入ろうとしてんのに、バカとはなんだ!」
「だって、あなたは…」
「あっ、喋らなくていいぜガキさん。こっちの質問を聞くだけでいい」
「勝手に人の心を読まないで下さい」
「仕方ないじゃん。そっちが読まれないようにしろよ」
「どうやって?」
「そんなの知らないよ。美貴は読む方だから」
「とにかく、あなた達は誰で、何をしている人で、私をどうしたいのですか?」
「だから、質問するのも話をするのもこっちだって。勝手に話すな、うるさくて仕方ない」
まずいぞ。この人たちは私と同じような力を持っているし、目的も同じかも知れない。けれど、明らかに人間的にやばい。
どうしたらいい?
この人は、私の行動を読めるし、裕ちゃんは弾丸を燃やしてしまう。ごっちんは瞬間移動してしまう。
素晴らしい力を与えて貰ったと思っていたのに、こうも何もできないのか私は。
- 118 名前:ガラスのハート 投稿日:2009/11/03(火) 22:22
- 「おいおい、ぐちゃぐちゃ余計なこと考えるなよ。とりあえず落ち着けよ。美貴たちは味方だぜ。目的も同じだ。悪い奴を始末する。けど、美貴たちはガキさんとは違う。戦う相手が違う。相手は強い、同じように敵も力を持っている。倒すには仲間が必要だ。つまりはガキさんは美貴たちの仲間に今なったというわけだ」
「ちょっと勝手に決めないで下さいよ」
「喋るなって。美貴にはわかるぜ。ガキさんの強い正義感が。でも、今までガキさんが相手してる奴は、下っ端も下っ端どうでもいい奴らだ。今日の相手だって、報酬5万のチンケな奴だ」
「ヘッドホン代にしかならなかったね」
「ちょいまて!これ5万もしたんか!」
「うん」
「藤本!貴様、何考えとんねん。このドアホ!」
「えっ?いや、ちょっと待ってよ。とりあえずこっちの話を」
「仕方なくやった仕事を何で何もしてないあんたが全部使うねん」
「いやいや、今、めっちゃ頑張ってるじゃん。これでチャラってことで」
「いや、あかん。明日からバイトしろや」
「美貴には無理なことわかってるんじゃん」
「あの、」
「あっ、ガキさん。まあ、そういうことだ。これからよろしく。私は藤本美貴。美貴様と呼びたまえ。こっちは、後藤真希、ごっちんな。こっちの怖いのが中澤裕子さん。決して逆らうなよ。死ぬぞ」
「わかってるんなら、いっぺん殺したろうか」
「冗談ですって!」
- 119 名前:ガラスのハート 投稿日:2009/11/03(火) 22:22
- 勝手に話を進められて、勝手に私を仲間にしてしまったこの人たちは、本当に天使なのだろうか。
本当に、この世の悪を退治する正義の使者なのだろうか。怪しすぎる。
「美貴たちは可愛い天使ちゃんだぜ。ガキさん」
藤本さんは笑っていた。
あんなに怒っていたはずの中澤さんも私に笑って「よろしく」と握手を求めてきた。
そして、後藤さんは、
「あれ?後藤さんは?」
「迎えに行ったんじゃねぇの」
「誰をですか?」
「さあ、誰だろうね」
なんて、ニヤニヤ笑いながら、藤本さんは言った。
何故かこの人の言動には、勘に触る。
だから、つい手が勝手に動く。
- 120 名前:ガラスのハート 投稿日:2009/11/03(火) 22:22
- 「うおっ!あぶねぇな、なんだよ!何にもしてねぇじゃんかよ!」
天使のリボルバーの弾丸は悪を貫く。
だから、この人には当らないのか、そんなはずはない。
この人は、絶対に悪だ。他の人にとっては正義でも、私にとっては間違いなく悪だ。
だから、もう一度。
「ちょっと!ガキさーん、何考えてんだよ。マジでやめろって。家中、穴だらけになるだろう」
「冗談ですよ」
私は、笑って銃を消した。
慌てた藤本さんは、安心して、ソファにぐったりと腰を降ろした。
ちょっとだけ、面白いなと思った。
- 121 名前:ガラスのハート 投稿日:2009/11/03(火) 22:22
-
☆。。。
- 122 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/11/04(水) 00:46
- パムさんの新作、嬉しい〜!!
秋の夜長に楽しみが出来ました。
次回も今から楽しみにしてます。
- 123 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/11/05(木) 23:05
- パムさん!! 待ってました!
面白そう・・・というかすでに面白いですw
>>116の最後のほうとかww
- 124 名前:パム 投稿日:2009/11/10(火) 02:07
- >>122
>>123
ありがとうございます。
色々と滞らせますが、当分はこれで楽しんで頂けたら幸いです。
- 125 名前:超アホ 投稿日:2009/11/10(火) 02:07
- 「ただいまぁ〜」
あれから数十分ほど、藤本さんと格闘していると、のんびりとした後藤さんの声が聞こえてきた。
それと、たくさんのブランド品を抱えた二人の女性が現れた。
その二人の女性はとても対照的だった。
ブランド品をたくさん持っている人は、ピンクだらけの可愛い格好をしているのに対して、もう一方の人はTシャツジーパンの至ってシンプルだ。
でも、シンプルでありながら、その人の青い目が凄く印象的だった。
見つめられると、何もかも見透かされそうで、私は思わず目を反らした。
ピンクだらけの人が、荷物を床に置くと、怒った表情をして、こちらに近づいてきた。
そして、周りにいるみんなは、突然、耳を塞ぎ出した。
藤本さんに至っては、買ったばかりのヘッドホンを急いで取りつけて、私の袖を引っ張った。
「ガキさん、何、ボケっとしてんだよ。耳を塞いだ方がいいぜ」
「え?はい?」
「ちょっと!美貴ちゃん!耳塞いだ方がいいってどういう意味よ!そのヘッドホン取りなさいよ!」
耳に弾丸が飛び込んできたかのような衝撃に、私はのけ反って、すぐに耳を塞いで避難した。
- 126 名前:超アホ 投稿日:2009/11/10(火) 02:08
- 「美貴ちゃん。また嘘ついたね。シャネルのカンボンラインのミディアムトートのピンクなんてなかったじゃない!しかもね、そこに行く途中でバーゲンやってたのよ。どうしてくれるのこれ。全部、お金使っちゃったじゃない!」
「知るかよ!勝手に買ったのはお前だろ!美貴には関係ねぇよ。それと、美貴はちゃんと聞いたんだよ。ようやくそのトートが買えるって大喜びで買いに行く人の声を」
「そうよ。きっとその人が買ったのよ。だから、お店行った時には、ありませんって言われたのよ。それ以前にお金使っちゃって、あったとしても買えなかったんだよ。どうしてくれるのよ」
「知るか!勝手にお前が買ったんだろう!」
「もう信じられない!」
「それはこっちのセリフだ」
「キィ―ーーー!くやしぃーーー!」
「うるせぇよ!いい加減にしないと、ガキさんの火が吹くぜ。なあ、ガキさん」
「えっ?何ですか?」
藤本さんに突かれて、耳を塞いでいた手を離した。
「誰?この子」
「ようやく気付いたか、こんちくしょう。新メンバーのガキさんだ。ガキと言ってもこう見えて21歳。でも、処女」
「うるさーい!」
「きゃっ!ちょっと、危ないじゃない」
「ガキさん、マジで撃つなよ。見ろよ。穴だらけじゃねぇか、誰が直すんだよ。これ」
「あなたが悪いんじゃないですか」
- 127 名前:超アホ 投稿日:2009/11/10(火) 02:08
- 最悪だ。
藤本さんが一番最悪だけど、この人も酷過ぎる。こんなにキーキーうるさい人は始めてだ。だから、みんな耳塞いたんだ。
ひょとして、この人の能力はこれなのか?
「あはは、そうだぜガキさん。梨華ちゃんの能力は、超音波。最低限、耳は塞がないと、この先、音楽を楽しめなくなるぜ」
「ちょっと!変なこと言わないでよ!」
やっぱりうるさい。
こんな人たちと一緒で本当に敵を倒すことができるのだろうか。
「あっ、ごめんね。美貴ちゃんが言うことは信じなくていいからね。私は石川梨華。よろしくね」
石川さんは、ようやく普通に聞き取れる声であいさつをしてくれた。
「新垣里沙です。よくわからないですけど、よろしくお願います」
「よくわからないってどういうこと?美貴ちゃん、ちゃんと説明した?」
「うっせな。ちゃんとやったつうの」
「うるさいのは美貴ちゃんじゃない」
「ああ、うっせぇ。うっせぇ」
藤本さんは、ヘッドホンをつけ直して、繋がっていたiPodを操作して、石川さんを無視して音楽を聞き始めた。
「よろしくミートゥー。私のネームは、セックスあるよ」
「はい?」
一段落ついたかと思ったら、もう一人が私に手を差し伸べてきた。
先ほどの青い目が黒い目に変わっていた。
その目を見ると、先ほど以上に自分のすべて見られているような気がした。
- 128 名前:超アホ 投稿日:2009/11/10(火) 02:08
- 「はい。セイ、コール、ミー、名前」
「ええ?」
何を言っているんだこの人は?
たしか、さっき、この人、自分の名前を、セ、セックスって言ったよね。バカ?この人もバカ?
藤本さんを見ても、藤本さんは目を閉じて、音楽を聴いていた。
石川さんは、買ってきたブランド品を整理している。
中澤さんは、座ってテレビを見ている。
後藤さんは、いない。
本当にこの人の名前なのだろうか。でも、呼べないよ。セックスさんって言うこっちも言われる方も恥ずかしいじゃん。
「ユーのネームはなんやねん」
「え?はい?ああ、私は新垣里沙です。よ、よろしくお願いします」
「よろしくよっすぃ。あっ、」
「えっ?何ですか?」
セックスさんが言ったと同時に、藤本さんが笑いをこらえようとしているかのようなしぐさをした。
やっぱり、この人の名前は違うよね?藤本さん、そうですよね。私の声聞こえてますよね?
藤本さんは首を横に振った。
聞こえてるじゃん!
- 129 名前:超アホ 投稿日:2009/11/10(火) 02:08
- 「ガキさんは、ノーセックス。でも、私セックス」
「はあ?」
こいつヤバい。藤本さんよりもバカだ。超アホだ。
だって、その証拠に藤本さんが笑いに堪えられなくなってる。
「さあ、私の名前を大声で言えあるよ」
「いえ、あの、本当なんですか?」
「酷いねん。ガキさん、酷い。私の立派なネームをバカにしたんでんねん」
もう何言ってるのかわからない。付き合いきれない。
私は無視して、中澤さんが見てるテレビを一緒に見ることにした。
ピッと音がなって、画面が切り替わった。
大きな画面に女性の裸が大きく映った。そして、大きな音で、とても恥ずかしい声が流れた。
すぐさま、私は目を伏せた。
背後で、あのアホが笑い声が聞こえた。
こいつを殺しても誰も文句は言うまい。
こいつなら殺せる。こんな奴に私が負けるはずがない。
「からかうのはやめてください」
振り返って、銃口をアホの目の前に突き付けた。
けれど引き金を引くことができなかった。
目を見つめられて、身動きが取れなかった。
得も言えぬ感覚に囚われて、心が震えた。全てを見られている感じがして、怖い。
この人は、本格的に危ない人だ。
- 130 名前:超アホ 投稿日:2009/11/10(火) 02:09
- 「えい」
と、一言、アホが言うと、いつの間に用意したのか水鉄砲を私に向かって撃ってきた。
「もー!!!嫌だ!」
何もかもが吹きとんで、私は、その場に泣き崩れた。
「あ〜あ、よっちゃん。ガキさん泣かしちゃった」
「あれま。大丈夫ガキさん?これくらいで泣いてたら生きてけないよ」
「うるさーい!うるさーい!お家に帰りたーい」
「ついに壊れちゃったよ。よっちゃん謝りなよ」
私の心を読み取れる藤本さんは以外にも役に立つようで、今の私の混乱した感情をすぐに理解してくれた。
「ごめんよー。アメちゃんあげるから許してよ」
「よっちゃん、子供じゃないんだからさ」
「ん?」
私は、あることに気付いて、顔を上げた。
「あれ?やっぱり、ガキさんはガキか。アメくらいで釣れるとは」
「違う!今、あんた、よっちゃんって言いましたよね?セックスさんのことよっちゃんって言いましたよ?」
- 131 名前:超アホ 投稿日:2009/11/10(火) 02:09
- 「ぶっははは。今、ガキさん何つった?」
「い、いえ、何も言ってませんよ」
「いや、言ったじゃん。ねぇ、セックス?」
「うん言った」
「別にいいじゃないですか!私だって、大人なんですからね!」
「よし。じゃあ、そんな大人なあなたに、私のフルネームを教えてあげよう」
アホがニヤリと笑って、何かを考えている。
きっとさらに卑猥なことを言うつもりだ。こいつらは新しくきた私をからかって楽しんでる。一刻も早くここから逃げ出したい。
「よっちゃーん!!!それは言っちゃダメだ!あまりにも酷い。こっちも引くわ!」
突然、藤本さんがアホを掴んで、叫んだ。
この人が酷いと言うくらいだから、よっぽど酷いことを言うつもりだったのだろう。
このアホは一体何を考えているんだ。
「そうかな?」
「そうだよ。ダメだよ。もうこのくらいにしとけって」
「あっそう」
不満そうなアホは口を尖らせて、私に手を差しだした。私は握手をするつもりはなく、手を出さなかったけど、勝手に手を掴まれて、握手された。
「私は、吉澤ひとみ。よろしくね、ガキさん」
吉澤さんは、ニコっとほほ笑んで挨拶をした。
今の吉澤さんの瞳は、とても柔らかくて、先ほどのような感覚に陥ることはかなった。
そして、ふと隣を見ると、中澤さんはエッチなビデオを普通に見ていた。
お家に帰りたい。
- 132 名前:超アホ 投稿日:2009/11/10(火) 02:09
- ☆。。。
- 133 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/11/10(火) 18:50
- がんばれガキさん…w
- 134 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/11/10(火) 19:12
- ガキさんノーセックスwww
超面白いです、楽しみにしてます
- 135 名前:ジョーカー 投稿日:2009/11/17(火) 00:43
- みんなは食事を終えると急いで食器を片づけたので、まだ食べていた私も急いで食べて片づけた。
みんなアホのくせして、こういうところはしっかりしているんだ。
「よし、じゃあ、やりますか」
藤本さんの合図で、みんなテーブルを囲んだ。
これから何が始まるのかわからないけど、とりあえず私は後藤さんと中澤さんの間に座った。
藤本さんから時計回りで順に、石川さん、吉澤さん、中澤さん、私、そして後藤さんの順でテーブルを囲んでいる。
各々、飲み物だけテーブルに置かれている。あとは何もない。
すると藤本さんは、みんなにチップを10枚づつ配り、そして、トランプを取りだした。
「えっ?トランプ?」
「そうだよ。最近、夕食後は必ずトランプをやってんだよ」
「そうですか」
意外で驚いた。
だから、あんなに急いで食器を片づけたのか。
それにしても、何でトランプ?
「たまたまやったら意外と面白くて、最近やってんだよ」
「そうですか。勝手に私の心と会話しないで下さい」
「いいじゃん別に。ガキさん、ポーカーは知ってるよね?」
「はい。なんとなく」
「よし。美貴が親だ。最初にチップがなくなった奴が明日の朝食当番。いいね」
「まあ、それくらいなら別に」
- 136 名前:ジョーカー 投稿日:2009/11/17(火) 00:44
- 別に朝食作るくらいなら構わないか。
中澤さんは強そうだな。
後藤さんは何を考えてるかわからないから、手強いかも。
石川さんはまったく読めないな。どうなんだろう。
とりあえず、藤本さんと吉澤さんはアホだから負けはしないでしょ。
「ガキさん。甘く見てもらっちゃ困るな。今のところ勝ってるのは、美貴とよっちゃんだけだぜ」
「えっ!?嘘!………ていうか、勝手に会話しないで下さいって、あーーー!!!」
「ようやく気付いたかガキさん。しかし、もう始まった。降りることはできないぞ」
「ちょっと!ちょっと!いいんですかこれ?藤本さんに絶対勝てないですよ」
そうだ。まだ会って間もないけど、すでに自然と藤本さんと接してて、うっかりしていた。
藤本さんは心を読めるんだ。
ポーカーのような心理戦なんて得意じゃないか。しかも、親って。
あれ?藤本さんはわかるけど、なんで超アホな吉澤さんが藤本さんに勝てるんだ?
アホだから心が読めないのかな。そうだろうな。
「違うよガキさん。よっちゃんの能力知らなかったっけ?」
「ええっ?何ですか?」
「そっか、知らないんだ」
「ええ、何ですか?教えてください」
「知らない方がいいよ」
「ちょっと、気になるじゃないですか!吉澤さん、教えてくださいよ」
「うーん。どうしようっかなぁ〜」
「中澤さん、教えてくださいよ」
「うーん。ちょっとガキさんにはショックが強いから知らんほうがええな」
「ちょっと何ですか。怖いじゃないですか」
「まっ、すぐにわかるよ。始めるぜガキさん」
「えっ、嘘。ちょっと」
- 137 名前:ジョーカー 投稿日:2009/11/17(火) 00:44
- 一斉にみんながチップを一枚テーブルに置いたのを見て、私も真似て一枚置いた。
藤本さんが慣れた手つきでみんなにカードを配り始めた。
吉澤さんの顔をちらっと見た。
吉澤さんと目が合うと、異様な感覚になるので、今までも極力見ないようにしている。
食事中につけていたはずのカラーコンタクトを今は外している。
吉澤さんの能力は目に関係するのかも知れない。吉澤さんの目からは得体の知れない力を感じる。
目。目と言えば、
「ガキさん。いいかい?今は、ゲームに集中しろよ」
「あっ、すみません」
すでにカードはみんなに配り終えていた。
カードを手に取ると、7と8のツーペアだった。
役は出来ている。けど、これでは勝てそうにない。
私は、みんなの様子を見てみた。
後藤さんは、まったくの無表情。まさにポーカーフェイス。何を考えているかわからない。あるいは、ルールをわかっていないのかもしれない。
中澤さんも表情は変わってない。けど、自信あり気な表情だ。とても勝てそうにない。
石川さんは、あからさまに残念そうな表情をしている。きっと何も役が出来ていないんだろう。この人には勝てそうだ。
そして、藤本さんは、余裕の表情だ。そりゃ、そうだ。すでに今、みんなが何の役を揃っているのかわかっているに違いない。それでこの表情だとすると、勝つ自信があるんだろう。
「ガキさん。これはただの友達同士でやってるトランプじゃないんだぜ。特に美貴の前では色々考えるなよ。手に取るようにわかるぜ」
「それってイカサマじゃないんですか?」
「違うよ。自分の力を発揮してるだけだよ」
「でも、カードは交換できるんですよね」
「できるよ。一回だけ」
「ですよね。だったら、今、どんな役だろうが知っててもあまり意味ないですよ」
「まあね」
と言ってるけど、藤本さんは余裕の笑みだった。
- 138 名前:ジョーカー 投稿日:2009/11/17(火) 00:44
- 「パス」
石川さんは、カードをテーブルに置いてしょんぼりしながら言った。
「おーい!早速かよ!」
「だって、美貴ちゃんが変なのしか配らないのがいけないじゃない!」
「知るか!」
「私は、ビットね。2枚交換」
と言って吉澤さんは、チップを1枚置いて、カードを2枚捨てた。
2枚捨てたってことは、すでにワンペアかスリーカードになってるに違いない。
私は、ツーペアだから、1枚しか捨てれない。けど、もし吉澤さんがスリーカードだったら、1枚だけの交換では勝てる可能性は低い。
「レイズ。このままでええ」
「ええっ?嘘!このまま!」
「ガキさん。うるせえよ」
「だって、だって、このままって、本当に良いんですか?」
「ええよ」
中澤さんは、至って強気な表情ままだった。
カードは伏せて、チップを3枚出して上乗せした。
今までも勝ってるという吉澤さんの後に続いて、このままって、しかも上乗せしてるし。
相当、自信があるんだ。
てことは、スリーカードよりは確実に上の役が出来てるはずだ。
そうすると、最低でもフルハウスを狙わないといけない。
すると、やはり交換は1枚だけだ。どうしよう。
「ガキさん。どうすんの?降りてもいいんだぜ」
藤本さんが、挑発するような目をして言ってきた。
「誰が降りますか。コールです。1枚交換」
「ふふん。良いのがくるといいね」
「うるさい!」
「私はレイズ。全部交換」
「うそー!!!」
- 139 名前:ジョーカー 投稿日:2009/11/17(火) 00:44
- 後藤さんはさらにチップを1枚増やした4枚と、カードをすべてテーブルに置いた。
レイズはいいとして、全部交換って、どういうこと?
だって、後藤さんの能力は瞬間移動でしょ。まったくポーカーじゃ役に立たないじゃん。
どうすんの?勝つ気あるのかな。やっぱりルール知らないんじゃないのかな。
「さて、美貴はコール。1枚交換ね」
藤本さんは、チップを4枚置くと、吉澤さんから順に交換するカードを配って行った。
吉澤さんは、交換した新しいカードを見てニヤリと笑った。
中澤さんは、交換しなかったら、そのまま。
そして、私は、たった一枚のカードを祈るような気持ちで捲ろうとした。
けど、見る直前でその手を止めた。
顔をあげると、みんなが私を見ていた。
「ガキさん、どうした?見ろよ」
藤本さんが、ニヤニヤしながら言ってきた。
「い、いや。このままでいいです」
「見ないの?」
「だって、見たら藤本さんにバレるじゃないですか」
「でも、見ないとガキさんわかんないじゃん」
「それ以上に、勝手に知られる方が嫌なんです」
「あっそ。別にいいけどさ」
「おー、これは凄い」
そして、私の隣で、本当に凄いのかどうかわからないくらいの、のん気な声して後藤さんが言った。
この際、後藤さんはどうでもいい。
- 140 名前:ジョーカー 投稿日:2009/11/17(火) 00:45
- 「私は、ドロップ」
吉澤さんは、そう言ってゲームを降りた。
「えっ?降りるんですか?」
てっきり吉澤さんは、良い役が揃ったのかと思っていたから意外で思わず聞き返してしまった。
「うん。だって、勝てないもん」
あっけらかんとして吉澤さんは言った。先ほどの笑みは一体なんだったのだろう。
「じゃあ、うちもドロップ」
中澤さんは、吉澤さんの言葉を聞いて勝ち目がないことを悟って降りたようだ。
「さあ、ガキさんは?」
どうしよう。
吉澤さんのあの笑みは、間違いなく狙い通りのカードが来た笑みだ。スリーカードからフォーカードまでのどれかの役が揃っているはずだ。
でも、吉澤さんが降りたってことは、吉澤さんは自分の役よりも誰かが強い役を持っていることがわかったからだ。
と、なると後藤さんか、藤本さんにさら良い役が出来たに違いない。
となると、私にも勝ち目はない。
「ガキさん。カード見た方がいいんじゃない?」
さも吉澤さんは、私の役が何かわっているような感じで言ってきた。
私は手を伸ばして、カードを確認しようとした。
いや、待てよ。もし、吉澤さんが、私の役をみんなよりもわかっていての言葉ならば、私はここで見る必要はない。
ここで、見たら返って藤本さんにバレてしまう。
いや、さらに待てよ。吉澤さんがわかっているということは、同時に藤本さんもわかることじゃないか。
ダメだ。このゲーム到底勝てそうにない。
- 141 名前:ジョーカー 投稿日:2009/11/17(火) 00:46
- 「じゃあ、ガキさんはドロップだね?」
勝手に私の心を読み取った藤本さんが言った。
「はい。ドロップです」
すでに敗北した感じで、弱弱しく言った。
「じゃあ、私はコール」
後藤さんは、相当自信があるのかないのかは、その表情からはまったく読みとれないけど、さらっとチップを投げた。
それを見た藤本さんは呆れた顔をしている。
「は?お前は降りろよ!」
「なんで?」
「もういいよ。じゃあ、美貴もコール。これで勝負だぞ」
「うん」
「あーあ、もったいないなガキさん。フルハウスで勝てたのに」
吉澤さんが残念そうに私に言った。
え?フルハウス?
私のカードを見てもいないけど、やはり吉澤さんは私の役をわかっているようだ。
恐る恐るカードを捲って見ると、ハートの8だった。
吉澤さんの言うとおりフルハウスだった。
石川さんは、当然のごとく役はできていない。
吉澤さんもフルハウスだったけど、数字が私よりも小さかった。
中澤さんは、フラッシュ。吉澤さんの言葉を信用したとおり、負けていた。
- 142 名前:ジョーカー 投稿日:2009/11/17(火) 00:46
- そして、藤本さんは、なんとツーペア。
「しょぼ!」
「なんだと!」
「だって、これだったら私、最初の時点で勝ってますよ」
「降りた奴は何を言っても無駄だ」
そう言って、藤本さんはニンマリして、みんなが賭けたチップを持って行った。
「あっ、ちょっと藤本さん。後藤さんのまだ見てないですよ」
「見る必要なんかねぇよ」
「あなたになくても私にはあります。後藤さん?」
「ん?はい」
後藤さんが広げたカードはまったく揃っていなかった。
「2、3、5、8、9・・・なんですかこれ?」
「違うよガキさん。8、5、9、2、3だよ」
「同じですよ」
「後藤の誕生日」
「藤本さん、わかるように説明お願いします」
「面倒くせぇな。ごっちんは85年9月23日生まれってことだよ」
「それがどうしたんですか!」
「知るか!ごっちん!お前、いい加減ルール覚えろよ!」
藤本さんは、後藤さんが最初に捨てたすべてのカードを広げてみんなに見せた。
綺麗に4の数字が4枚揃っていた。
- 143 名前:ジョーカー 投稿日:2009/11/17(火) 00:47
- 「あっ、フォーカードですよ。後藤さん」
「うん。そうだね」
「いや、そうだねじゃなくて、これだったら、私の役よりも強かったんですよ」
「うん。でも、4って数字は縁起よくないでしょ。しかも4枚揃ってるし」
「揃ったら何でも縁起がいいわ!真面目にやれよなごっちん」
「うん。次、頑張る」
ダメだ。この人、本当に何考えるかわからない。
「それにしても、よっさん。ごっちんがフォーカードなの知ってて、最初によく降りなかったな」
中澤さんが言った。
「ええ、だって、ごっちんはたまに何だろうが全部交換しますよね。とくに今回は4だったから、交換しそうだと思って」
「ふーん。ただ、見てるだけじゃなくて、ちゃんと考えてるんや、あんたでも」
「ええ、まあ」
ああ、なるほど。後藤さんはさらにアホなんだ。
それにしても、吉澤さんは凄い。まるで、みんなのカードを知ってたかような口ぶりだ。
なんでわかったんだろう?後藤さんだけじゃなく、私のだって、私が知らないのに役まで当ててた。
「よっちゃんは全てお見通しなんだよ。ねぇ、よっちゃん?」
「うん。今日は花柄だってこともね」
花柄?
何が?
全てお見通し?
ま、まさか。。。
- 144 名前:ジョーカー 投稿日:2009/11/17(火) 00:47
- 私は、テーブルに散らばっている裏返しになっているカードを指差した。
「ひょっとして、吉澤さん。このカードが何か見えます?」
「うん。あっ、ミキティ。ジョーカーは無しじゃなかった?」
「あっ、ごめん」
「ダメだよ。ちゃんと抜いといてよ」
そう言って吉澤さんは、私が指差したカードともう一枚裏返しになっているカードを山から外して、表を私に見せた。
そのカードは二枚のジョーカーだった。
そういうことか、吉澤さんは透視できる。だから、目が合うと見透かされたような感覚になるんだ。
だから、藤本さんだけでなく、吉澤さんもポーカーで勝ったことあるんだ。
「なるほど。そういうことでしたか。それにしても、藤本さんと吉澤さんがいたら、まったく勝ち目がないじゃないですか。それなのにやってて、面白いですか?」
私は、中澤さんに聞いた。
「普通の奴とやった方がつまらん。なんとかしてこいつらを負かす方法を考えるのが面白いんや」
中澤さんは、笑ってそう言った。
確かに、中澤さんなら、普通の人やったらつまらないかも知れない。けど、私はこんな勝ち目のないゲームはつまらないと思う。
「ガキさん。これは一見単なるゲームのようだけど、実は、結構、役に立つんだぜ」
もう藤本さんが勝手に心を読もうが怒る気もしなくなった。
「ガキさんは銃。中澤さんは火。普通に戦ったら、美貴達に勝ち目がない。でも、戦い方によっては勝てる方法がある。
つまりさ、これは、訓練なんだよ。敵がどんな能力を持っているのかわからない。でも、強くても、倒さなくちゃいけない。そのとき、どうやって戦うかを考える必要があるんだよ」
- 145 名前:ジョーカー 投稿日:2009/11/17(火) 00:47
- あっ、吉澤さんが言ってた花柄ってもしかして。。。
「おい、ガキさん聞いている?美貴、今、凄く良いこと言ってるんだけど」
「ちょっとぉー!!!吉澤さん、見ました?絶対、見ましたよね?」
「おい!ガキさん、美貴の話を聞けよ」
「うるさーい!吉澤さん、それはダメですよ。やっちゃいけないですよ」
「でも、見えちゃうもんはしょうがないじゃん」
「見えちゃうって。あっ、今も見てるんですか。見ないで下さいよ!」
「ガキさーん。美貴、とっても大切なこと…」
「いいじゃん別に。今もみんな素っ裸だし」
「うわぁー!!最悪だー!!こいつ最悪だー!!」
「おーい、ガキさーん」
よりによって、スケベな吉澤さんにこんな能力を与えるなんて、神様はどういうつもりなのだ。
これは間違いだ。きっと、天使のイタズラだ。
間違いは正さなくては、間違った能力は間違ったことに使われる。
私が食い止めなくては。
「おい!ごっちん。ガキさん置いてみんなどこかに連れっててくれ!」
吉澤さんに向けて放った弾丸は、一歩遅く、クッションを突き破っただけだった。
ちくしょう、あいつら、絶対に力の使い方を間違ってる。
- 146 名前:ジョーカー 投稿日:2009/11/17(火) 00:47
- ☆。。。
- 147 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/11/19(木) 23:00
- ごっちん可愛いw
- 148 名前:バスに乗ろう 投稿日:2009/11/27(金) 02:00
- 「ったく、何でバスなんだよ」
藤本さんは、バスの最後尾の窓側に座るとすぐに悪態をついた。
「仕方ないじゃない車が故障しちゃったんだから」
そう言って石川さんが、藤本さんの隣に座った。
吉澤さんは、藤本さんとは反対側の窓側に座り、その隣に私が座った。
そして、最後、真ん中に中澤さんが座った。
後藤さんは、先頭の席に座っている。
なんで、後藤さんだけそんなに離れた席に座ったのかはわからない。
今日は、みんなで映画を見に行く。
何気なく私がこの映画見たいな、なんて言うと、じゃあ行こうとみんなが言いだして、早速行くことになった。
初めて見る街並みが新鮮で、私はずっと窓の外の景色を見ていた。
隣に座る吉澤さんは、ずっと降車ボタンを見ている。
「吉澤さん、今から見てなくてもいいじゃないですか」
「ボタン見ると押したくなるよね」
なんて吉澤さんは言うと、手を伸ばしてボタンを押そうとした。
「ちょっと!まだ早すぎですよ!」
「いや準備だよ。準備」
吉澤さんは、本当にボタンの上に指を乗せていつでも押せる準備をした。
「子供か、あんたは」
- 149 名前:バスに乗ろう 投稿日:2009/11/27(金) 02:00
- まあ、さすがにむやみに押すほどバカではないようなので、私は吉澤さんのことは放っておいて、外の景色を眺めた。
バスに乗ってからすぐにコンビニが見えた。家からも近いので、このコンビニを頻繁に利用することになりそうだ。
その次には美容室があった。けど、美容室はちゃんと探すことにしよう。
他にもラーメン屋さんなどご飯屋さんも結構あったりして、不自由しない街のようだ。
次々に流れるお店をチェックをして、この街の地図を頭の中に描いた。
バスが信号で停車したところには、お花屋さんがあった。
そういえば、あの家は殺風景だ。今度、ここでお花を買いに行こう。
なんて思っていると、突然、銃声が鳴った。
乗客が悲鳴を上げて、瞬時に身を屈ませていた。
隣に座る吉澤さんは、まったく気にせずボタンを凝視している。
藤本さんは、ヘッドホンをして大音量で音楽を聴いてるので気付いていないようだ。
石川さんと中澤さんは、私が撃ったのかと思ったのだろう、私を見ていた。
「いえ、私じゃないですよ」
「じゃあ、誰や?」
中澤さんの言葉に返事をするように、先頭の後藤さんとは反対側の席に座っていた男が立ちあがった。
野球帽を深く被り、サングラスにマスクと顔を完全に隠していた。
男は拳銃をこちらに突きつけていた。
「このバスは、オレが乗っ取った。オレの言うことを聞かない奴はぶっ殺すぞ!」
男は大声で叫んだ。
- 150 名前:バスに乗ろう 投稿日:2009/11/27(金) 02:00
- 「中澤さん、どうしましょう」
私は、小声で中澤さんに訊ねた。
「藤本。あんた、わかってたやろ」
中澤さんは、ヘッドホンをしたままの藤本さんに向かって言った。
「うん。でも、これに乗るって言ったの梨華ちゃんだし」
「ちょっと!私のせいって言うの!美貴ちゃんが黙ってるのがいけないじゃない!」
「おい!後ろの奴、ギャーギャー騒ぐな!」
男は、銃を向けながらこちらに歩いてきた。
そして、こともあろうことに中澤さんに銃を突きつけた。
「おい、お前ら。これはおもちゃじゃなんかじゃないぜ。死にたくなかったら、大人しくしてろ」
「すみませんね。この子ら、気が動転しちゃって」
中澤さんは、何をするわけでもなく、意外にも丁寧に謝った。
男は、それでとりあえず許したのか、また、前に歩いて行くと、運転手に銃を突きつけた。
「おい、青に変わったぞ。発車しろよ」
男は、バスジャックした目的も、どこに行くかも言わなかった。
運転手は、バスの運行経路どおりにバスを走らせた。
しかし、もちろん停留場で止まることはなかった。
「何が目的なのよ!」
バスを走らせてから、何も言わない男に対して、耐えかねた一人の女性が言った。
「うるせぇ!黙ってろ!」
男は、銃を向けながら、女性に近付くと、その女性を殴った。
私は、男の自分勝手さに、頭にきてリボルバーを出した。
けれど、すぐに中澤さんが私の手を押さえつけた。
- 151 名前:バスに乗ろう 投稿日:2009/11/27(金) 02:01
- 「ここで発砲したら、あいつと変わらんぞ」
「でも、このままじゃ」
「藤本、あいつの目的はなんだ?」
「知らない。むしゃくしゃしてるだけじゃないの。あいつの頭の中は、怒りに満ちてて気分が悪い」
「そっか。じゃあ、銃を取りあげるだけで良さそうだな」
中澤さんは、そう言うと男に気付かれないように、右手を目の前の高さまで上げた。
「ダメですよ。中澤さん。あいつ、体中に爆弾仕込んでます。中澤さんがやったら大爆発しますよ。ガキさんもね」
そう言ってきたのは、未だにボタンを押す準備をしている吉澤さんだった。
「むしゃくしゃしてる割には準備のいい奴やな」
中澤さんは、そうっと手を降ろした。
「誰だ!ごちゃごちゃ喋ってる奴は!」
私たちの会話に気付いた男が大声をあげた。
そして、他の乗客たちも余計なことをするなと言わんばかりに、私たちのことを睨んでいた。
男は、私たちのところまで来ると、何も喋っていなかった石川さんを殴った。
「きゃあ!ちょっと!私、何も喋ってないわよ!」
殴られた石川さんは、怒って立ちあがった。
「貴様、死にたいのか!」
男は、石川さんの眉間に銃を突きつけた。
「撃てるもんなら、撃ってみなさいよ」
キレた石川さんは、怖がることもなく男を挑発しだした。
「てめぇ!こっち来い!」
男は、石川さんを掴んで引っ張りだすと、石川さんを前方へ引きずっていった。
「ったく、アホやな。あいつ」
中澤さんは、呆れた様子で言った。
「ここは、ごっちんにあの男をどっかに連れてって貰うか」
「ダメですよ。ごっちん、寝てます」
「なんでやねん!」
- 152 名前:バスに乗ろう 投稿日:2009/11/27(金) 02:01
- 「おい!静かにしろ!オレの言うことをきかない奴がどうなるか、今、見せてやる」
そう言って男は、石川さんを床に座らせると、銃を石川さんの頭に突き付けた。
「これはヤバいぜ。マジだぜ、あいつ」
あの男の心を読み取ったのか、藤本さんが言った。
「中澤さん。私、あの男の頭を狙います。頭なら撃っても爆発しないですよ」
「いや、頭が爆発して、無残な光景なるから、うちはいやや」
「そういう問題じゃないですよ。一刻を争うんですよ」
そんな会話をしている最中、男は息を荒くして、石川さんに銃を突きつけたままだった。
男の手は震えていた。人を殺したことなんかないからだろう。
男が銃を本当に撃つまで、まだ時間がありそうだ。早く何か解決策を考えないといけない。
「中澤さん、どうします?」
「わからん」
「ちょっと」
ダメだ。私が何とかするしかない。
私は、右手をバックの中に入れて、その中でリボルバーを出した。
バックに穴が空いちゃうのは嫌だけど、新しいのは石川さんに買ってもらうことにしよう。
一度、深呼吸をして、引き金に指を置いた。
- 153 名前:バスに乗ろう 投稿日:2009/11/27(金) 02:01
- 「ピンポーン」
突然、チャイムが鳴った。
すぐに誰の仕業かはわかった。吉澤さんを見ると、ばっちりボタンを押していた。
「ちょっと!こんなときに何してるんですか!」
「だって、降りるの次だよ」
「今はそういう状況じゃ、ないじゃないですか!」
「ん?どこ行くの?」
「もう、いいです!」
しかし、こんなアホな吉澤さんの行動が奇跡を起こした。
条件反射で、運転手は停車した。
バスが揺れて、男が体制を崩した。
そこを私は見逃さずに、引き金を引いた。
弾丸は、バックを突き破って、男の手元に飛んで行った。
弾丸が男の銃を弾いた。
飛んだ銃は、後藤さんの頭に当り、ようやく後藤さんが目を覚ました。
「あれ?梨華ちゃん、何しているの?」
まったく状況を知らない後藤さんがのん気な声で石川さんに訊ねた。
「ごっちん!この男、どっかに連れってて!」
石川さんは即座に言った。
「何で?」
「何でもいいから早く!」
「どこに?」
「どこでもいいから!」
「嫌だよ。そんなの」
石川さんと後藤さんが言い合っているうちに男が立ちあがった。
「お前ら、何ごちゃごちゃ言ってんだよ!」
男は、怒鳴ると、せっかく男から取り上げた銃をあっさりと拾われてしまった。
- 154 名前:バスに乗ろう 投稿日:2009/11/27(金) 02:01
- 「何これ、どうしたの?」
それでも後藤さんはのん気だ。
そして、もう一度、男は石川さんに銃を向けた。
どうしようかと隣の中澤さんを見ると、姿がなかった。藤本さんも、吉澤さんもいなかった。
というか、バスの扉が開いていた。
あいつら、降りてる。
他の乗客も、それに気付いて、一斉に逃げ出そうとした。
これじゃ、逆効果だ。男が無差別に銃を乱射する。
そして、男も逃げ出す乗客に気付いて、ついに銃声が鳴った。
銃声で、乗客は体を伏せた。
何とか弾丸は誰もいないところへ軌道を変えることが出来たけど、次はどうなるかわからない。
まったく、何やってんだよと、みんながいる外を見ると、姿が見えなかった。
あいつら、本気で逃げやがったな。
もういい、こうなったらあの男を撃ち殺してやる。
決心した私は、リボルバーを構えて男を狙った。
しかし、その男の姿も見えなかった。
そして、後藤さんも。
後藤さんがどこかに連れて行ったようだ。
私は安心して、手を下げた。
そして、私も乗客もみんなバスから降りた。
バスから降りた瞬間、急に気が抜けて、地面に座り込んだ。
「飛んだ目に合った」
「おっ、ガキさんだ」
突然、後藤さんが目の前に現れた。
- 155 名前:バスに乗ろう 投稿日:2009/11/27(金) 02:02
- 「うわっ、驚かさないで下さいよ。あの男、どっかに連れてったんですか?」
「うん。そうだよ」
「さすが後藤さんですね。助かりましたよ」
「みんなは?」
「それがどっかに逃げちゃったんですよ。どうしようもない奴らですよ。まったく」
「ふーん。じゃあ、私たちも映画見に行こうか」
「えっ?探さないんですか?」
「だって、もうすぐ始まっちゃうよ」
「いや、そういう状況じゃないですよ」
「大丈夫だよ」
なんて、やはりマイペースな後藤さんは、映画館の中に入っていったので、私も後を追いかけた。
「あっ、いたいた」
後藤さんが、映画館の中で誰かを見つけると、そこへ歩いて行った。
すると、吉澤さんが後藤さんに気付いた。
「ごっちん。お疲れ。どこまで行ってきたの?」
「うんとね。わかんない」
すでに、みんなは席に座っていた。しかも、ポップコーンもちゃんと買ってる。
「みんな、よくまあ仲間置いて逃げれますよね」
「何言ってんだよ。映画始まっちゃうだろ」
藤本さんが、当然のように答えた。
「信じられない」
私は、藤本さんのポップコードを取り上げて、座った。
「ガキさん。これがチームワークって奴だよ」
「まったくそうは見えませんでしたよ」
「よっちゃんがボタンを鳴らす。バス止まる。逃げる。そして、ごっちんがどっかに連れてく。見事なチームプレイだよ」
「あんたら逃げただけじゃないですか」
- 156 名前:バスに乗ろう 投稿日:2009/11/27(金) 02:02
- 「ガキさんにはまだわからないだろうな」
「わかりたくもないですよ。下手したら石川さんが死んでたところだったんですよ」
「そういえば、梨華ちゃんは?」
「一緒に逃げたんじゃないんですか?」
「いや、見てないよ」
「え?じゃあ、ひょっとして、まだ外にいるんですかね。連絡しないと」
「ごっちん、梨華ちゃんどうした?」
「ん?一緒だよ」
「どこにいんだよ」
「あの男と一緒だよ」
「なんで一緒に連れてくんだよ!」
藤本さんが、静かな映画館の中で叫んだ。
さすがにこれは私も同意見だ。
「だって、梨華ちゃんがどっかに連れってって言うから」
「あの男だけだろ」
「そうなの?」
「そうだよ。ごっちん、梨華ちゃんだけ連れ戻してこいよ」
「でも、どこだったか覚えてないよ」
「なんで、そんなことすんだよ」
「だって、梨華ちゃん。どこでもいいって言うから」
「うーん・・・」
藤本さんが、腕を組んで考え出した。
ちなみに、吉澤さんと中澤さんは、まったく気にしていない様子で、パンフレットを見てる。
この人たち、絶対におかしい。
そして、映画館が暗くなり、上映が始まった。
腕を組んでいた藤本さんは、座り直して、私が持っていたポップコーンを鷲掴みして口に放り込んだ。
「とりあえず、映画終わってからにするか」
呆れて何も言えなかった。
- 157 名前:バスに乗ろう 投稿日:2009/11/27(金) 02:02
- それから、映画終了後、私たちは後藤さんと一緒に世界旅行をした。
ハワイ、パリ、ニューヨーク、エジプトにインドと一瞬にして世界が変わる光景は凄かった。それは映画以上の出来事だった。
「いないね」
「そうだね」
「帰るか」
「うん」
そして、最後は家に帰った。
翌日、石川さんがまるでドリフのコントの爆破後のような頭をして帰ってきた。
私も含めみんな、石川さんに凄く怒られた。
というか、よく生きてたと思う。
- 158 名前:バスに乗ろう 投稿日:2009/11/27(金) 02:02
- ☆。。。
- 159 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/11/28(土) 23:18
- ミキティが意外といい人w
- 160 名前:気になるお年頃 投稿日:2009/12/03(木) 01:39
- 吉澤さんは、その大きな瞳でなんでも透かして見ることができる。
寒くなってみんなが厚着をするようになったこの季節でさえ、吉澤さんの目に映るのはすっぽっぽん。
みんながみんなすっぽっぽんという状況を吉澤さんはどういう気分でいるのだろう。
「あ、あの吉澤さん?」
「何?今、手離せないから後にして」
吉澤さんの手はバッチリ空いているが、汗を流しながらおかしなポーズをとっている。
まあ、別に手がふさがっていようが構わないので続けることにした。
「吉澤さんって、何でも透けて見えるんですよね?」
「あっ、ごめん。もう一回言って」
「何でも透けて見えるんですよね?」
「うん。そうだよ」
「つまり、それって、あの、あれですよね?」
「うん。そうだよ」
「聞いてます?」
「あっ、ごめん。聞いてなかった。何?」
「つまり、その、男性の、、、とかも?」
「えっ?何?聞こえない」
「えっ、いや、あの、、、」
ああ、いかん。いくら吉澤さんとはいえ女性だ。こんなこと聞いちゃダメだ。
- 161 名前:気になるお年頃 投稿日:2009/12/03(木) 01:39
- 「よっちゃん。ガキさんがちんこ見てるのかどうか知りたいってさ」
「どひゃあーーー!!あんた、バカか!アホか!なっ、何言ってんの!」
「ガキさんの心を忠実に言っただけだよ」
しまった。
私としたことが迂闊だった。
よりによって、藤本さんがいる前でこんな話をするなんて。
「ふう」
吉澤さんは、おかしなポーズをやめるとその場であぐらをして汗を吹いている。
「まあ、見えちゃうよね」
「えっ??」
「だから、ちんこ」
「あっ、あっ、いや、もうその話は。。。すみませんでした」
穴があったら入りたいとはまさにこのことだ。
顔どころか全身真っ赤になってる。
今日まで生きてて一番恥ずかしい出来事だ。
失敗だ。今日という日は失敗だ。
- 162 名前:気になるお年頃 投稿日:2009/12/03(木) 01:39
- 「でもさ、ガキさんが思ってるようないいもんじゃないよ」
「えっ、いやっ、私は別に良いとか悪いとか別にそんなこと思ってませんよ。あのっ、もうこの話は終わりにしましょう。ねっ?」
慌てて話を終わらせようとしても、もう遅く、吉澤さんは水をグイッと飲んで、すっかりくつろぎモードになってる。
「男だけじゃなく女もさ、そうそう良い体してる人なんかいない訳なんだよ。それこそ、100人に1人とかだよ。でも、私はその1人だけを見てるわけじゃなく100人見てるんだよ。それはもうガキさんの想像を絶する世界だよ」
「ああ、そうですか。御苦労さまです。はい、もうこれで終わり!ありがとうございました」
「まあ、噂どおりに外人はでかいよ」
「えっ!?あっ、やめてください!」
「おっぱいでかいなぁ〜なんて思って上から下へと見たら、ちんこもでかくてビックリなんてこともあったよ」
「もういいですって!!」
「あと、じいちゃんばあちゃんの集団にあったときは、地獄絵図だよ」
「もう十分わかりましたからやめましょう」
「あとは、うーん。なんだろうなぁ〜。私、ガキさんが思ってるほど、ちんこ見てないんだよね」
「私もそんなこと思ってませんよ!」
「まあ、ガキさんがそんなに言うなら見せてあげてもいいけど」
「いや、本当にもういいですって。それに私に透視なんかできませんし」
「そうじゃなくて、念写もできるんだよ。ガキさんの好きな芸能人の裸を念写してあげてもいいよ」
「はっ?そんなことできるんですか?」
「まあね」
- 163 名前:気になるお年頃 投稿日:2009/12/03(木) 01:39
- へぇー、それじゃなんだかんだ言っても好きなの見てるんじゃないか。
ええ、どうしよう。好きな芸能人か。
と、つい思いを巡らせていると藤本さんと目が合った。
藤本さんはニヤリと笑って、口を開こうとした。
「うわぁーーーー!!!」
リボルバーは連射向きじゃないけど、今まで一番早く連射できたかもしれない。
今日の日はなかったことにしよう。
すべてを撃ち払い焼き払ってなかったことにしよう。
「うわっ!やめろって!何にも言ってないんじゃかよ!」
「あーーー!最悪だー!おまえら最悪だぁー!!」
「おっ、ガキさんのマグナムが火吹いた!」
「これはリボルバーだ!」
- 164 名前:気になるお年頃 投稿日:2009/12/03(木) 01:40
- ☆。。。
- 165 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/06(日) 11:38
- マグナムwwwww
- 166 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/06(日) 17:58
- おもしろい
今1番楽しみにしているスレです
- 167 名前:パム 投稿日:2009/12/10(木) 01:05
- >>165
>>166
ありがとう!
でも、次で容量一杯になっちゃいます。
- 168 名前:かくれんぼ 投稿日:2009/12/10(木) 01:05
- 「かくれんぼすんぞ」
中澤さんのこの一言で、私たちは12月の冷たい風が吹く中、河原に連れてこられた。
中澤さんが焚き火をつけてくれたおかげ少しは暖をとれるけど、寒いものは寒い。
「じゃあ、ガキさんが鬼な」
「えっ!ちょっと、何でですか!こういうのはジャンケンで決めるもんじゃないんですか?」
「いいや、うちが決めるもんや」
「そうなんですか?」
何、このジャイアンは。
ここにはドラえもんはいないんだぞ。
「ほな、10数えたら探せ。行くで」
「えっ!ちょっと待って下さいよー」
私の叫び声が合図のように、みんなが走って逃げて行った。
なんなんだこいつらは、いい大人のくせして、かくれんぼなんて。
まったく、しょうがないな。
「いち、にー、さーん、しー、ごー」
しゃがんで目を隠して、数を数える。
こんなことしたのは、小学生以来だ。
「ろく、ななー、はち、きゅー、じゅう」
- 169 名前:かくれんぼ 投稿日:2009/12/10(木) 01:06
- 数えちゃったぞ。
本当にみんな隠れたのかな。
ひょっとして、騙されてるんじゃないのだろうか。
目を開けたら、誰もいなくて、みんな家に帰っていたりしないだろうか。
かなり的中しそうな想いを抱きつつ、声をあげる。
「もーいいかーい」
「もーいいよー」
あっ、意外にもちゃんと返事してきた。
ゆっくりと顔をあげて目を開けると目の前に藤本さんがいた。
「何やってるんですか?」
「だって、さみぃじゃん」
「ったく、もー。やっぱ、みんなやる気ないんじゃないですか」
「そんなことないよ。みんなちゃんと隠れてるよ。探しに行けよガキさん」
「えー、ここから離れたくないです。藤本さんが探しに行けばいいじゃないんですか」
「なんで美貴が探すんだよ!ガキさんが鬼だろ!」
「ったく、しょうがないな。みんな、どこに行ったんですかね?」
「それ言ったらつまんねぇじゃん」
「最初からちっとも面白くないですよ!」
「ほらほら、いいから早く行けって、おイモ焦げちゃうぞ」
「えっ?焼きイモしてるんですか?」
「焚き火といったら焼きイモだろ」
「楽しみですね」
「だから、早く探してこいよ」
「ちゃんと火の番してて下さいよ」
焼きイモ!焼きイモ!
なんだ、焼きイモするためにここに来たんだ。
だいたい、こんな隠れるところがまともにない河原でかくれんぼすること自体おかしいもんね。
焼けるまでの間にかくれんぼするっていう手はずなんだ。
中澤さんも案外、お茶目なんだ。
- 170 名前:かくれんぼ 投稿日:2009/12/10(木) 01:06
- ほら、そこの倉庫の陰に隠れてるの石川さんじゃん。
わざとらしくお尻だけ出してるし。
「石川さん、見つけた!」
「あー、見つかっちゃった」
わざとらしい口調で石川さんは言うと、ダッシュで焚き火に向かって走っていた。
やっぱり目的は焼きイモなんだよ。
それなら、あともすんなり見つかりそうだ。
10しか数えてないし、そんなに遠くまで行けるはずがないんだ。
しかし、石川さんを見つけてから10分が経った。
「おーい、ガキさん、早くしろよ。焦げちゃうよ」
「えっ?えっ?嘘?ちょっと待って、みんなどこに行ったの?」
藤本さんが枝でおイモを突きながら、私を急かすけど、一向に見つからない。
気配すら感じない。
河原をひた走る21歳の私。
こんな姿、絶対に友達に見られたくない。
あれから、さらに10分。
藤本さんと石川さんはすでに焼きイモを食べている。
急がなくちゃ無くなっちゃう。
そこで、ようやく気がついた。
土手の上に私たちが乗ってきた車が一台、エンジンがかかったままで止まっていることに。
そうっと近づいてみると、中で思いっきりくつろいでいる中澤さんの姿を見つけた。
窓ガラスをノックすると、中澤さんはちらっと私と目を合わせると、車のエンジンを切って降りてきた。
「ったく、遅いねん。どこを探しとったんや」
「すみません」
「あー、さむっ」
なんて言いながらも、中澤さんは走って焚き火のところまで行った。
そして、焼きイモを手にしてニコニコしている。
うん。やっぱり目的は焼きイモなんだ。
残るはあと二人。
早く見つけないと。
- 171 名前:かくれんぼ 投稿日:2009/12/10(木) 01:06
- そして、10分。
焼きイモを十分食べた三人は車の中に入ってしまった。
ぽつんと河原の真ん中に灯る焚き火。
もうすぐ日が落ちてしまう。
早く見つけなきゃ。
というか、どこに隠れたんだあいつらは!
ああ、もう探すのやめておイモ食べちゃおうかな。
いいよね別に。誰も見てないし。
ちらりと車の方を見て、誰もこっちを見ていないことを確認した。
誰も見ていない。今がチャンスだ。
素早く焚き火に近付いて、木の枝でおイモを探ろうと火の中に入れると、一瞬にして、焚き火が2メートルを超える火柱に変わった。
「うおぉー!あぶないじゃないですか!」
車に向かって大声で叫んだ。
「次やったら、焼き殺すぞ!コラー!」
そしたら、すぐにジャイアンに怒られた。
「ドラえもん助けて」
さて、そんなことを言ってる場合じゃない。
早く見つけないと。
日が沈んだら、それこそ見つけられなくなってしまう。
いっそこのまま帰りたい気分だ。
河原を駆け回ること10分。
真っ赤な夕陽が目に染みる。
泣いてしまいそうだ。
「もぐもぐもぐ。ガキさん、遅すぎるよ。ひーちゃんギブアップ」
「えっ?」
振り返ると焼きイモを口いっぱいに頬張っている吉澤さんがいた。
- 172 名前:かくれんぼ 投稿日:2009/12/10(木) 01:07
- 「あー!!いたー!!どこに行ってたんですか!随分、探したんですよ!」
「迷子みたいに言わないでよ。ガキさんが悪いんじゃん」
「私はちっとも悪くないですよ。なんで見つかってもいないのに先に食べてるんですか」
「まっ、いいじゃん。見つかっちゃったんだし。そんじゃ、あと、ごっちんだけだね。頑張って」
そう言って、吉澤さんは、さっさと車に戻ってしまった。
うーん。まあ、いいや。残るは後藤さんだけになった。
それにしても、吉澤さんは足音もなく突然現れて、一体どこに隠れていたのだろう?
まるで瞬間移動でもしたみたいだ。
「あーーー!!!しゅんかんいどー!!!無理じゃん!ダメじゃん。後藤さん、見つけられるわけないじゃん!」
えっ?嘘、ホントに?探すの?
どこに行ったのか本当にわからない後藤さんを探さなくちゃいけないの?
とりあえず確かめに車に走って行く。
すると、まるで逃げるように車が走り去っていく。
「うそー!ちょっと待って!」
あいつら、どこまで卑劣な奴らなんだ。
しかし、逃げれると思うなよ。
渾身の力を込めた弾丸は、容易く後輪のタイヤに命中して、車は止まった。
「ちょっと!置いて逃げるってどういうことですか!」
「冗談やって」
「こんなの冗談じゃすみませんよ!」
「すまんすまん。とりあえず寒いから中に入り」
中澤さんは、車をパンクさせたことは怒りもせず、優しくしてくれた。
あまりに意外でビックリしたけど、車の中に入って、焼きイモを一つ貰った。
「あ〜、美味しい」
「かくれんぼの後の焼きイモは格別やろ」
「そうですね」
待ちに待った焼きイモは中澤さんの言う通りに格別に美味しかった。
冷めた体を内側から温めてくれる。
- 173 名前:かくれんぼ 投稿日:2009/12/10(木) 01:07
- 「で、これからどうすんの?」
藤本さんが言った。
「まあ、ごっちんなら一人で帰れるし、心配するほどのことでもないやろ」
「いや、ごっちんのことじゃなくて、うちら。車パンクしちゃってるよ」
暖かったはずの車内が一瞬にして凍りついた。
誰もが私に冷たい視線を浴びせる。
そして、凍りついた空気を溶かすのは、怒りの業火。
「死ぬ気で探してこいや!」
「うぉー!あちぃ、あっちぃーーー!!」
カチカチ山のたぬきのように火を背負って車から飛び出した私は暗闇の中で後藤さんを探して走り回った。
絶対に後藤さんはここにはいないけど、車に戻りたくもなかった。
- 174 名前:かくれんぼ 投稿日:2009/12/10(木) 01:07
- ☆。。。
- 175 名前:ごっちん 投稿日:2009/12/16(水) 00:43
- ( ´ Д `)<移動するぽ
ttp://m-seek.net/test/read.cgi/grass/1203529667/43-
ログ一覧へ
Converted by dat2html.pl v0.2