さよならの向こう側
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/01(土) 23:52
- 不定期ですが短編を何本か。
ぺーぺーですが、どうぞよろしくお願いします。
細かいとこは目をつむって頂けるとありがたいです。
- 2 名前:『掌』 投稿日:2007/09/01(土) 23:55
-
いつだって思う。
すくえるものは少ない。
つかめるものはもっと。
- 3 名前:『掌』 投稿日:2007/09/02(日) 00:01
-
「よっちゃん」
すこしぼうっとしていたようだ。
美貴に声をかけられるまで楽屋に二人だけだと気がつかなかった。
今日はガッタスの公開練習で、久しぶりに大人メンバーがみんなそろったのだが、
みな他の仕事が入っているから早々に着替えて出て行ったらしい。
…バイバイはちゃんと言ったはず。あたしはマネージャーの迎えを待っていた。
「この後仕事?」
「うん、移動して天王洲で収録」
「そっか」
美貴は?
と聞こうとしてやめた。
彼女は今あまり表にでることはない。ほとぼりがさめるまでは。
ほとぼり?そんな風に言うと、なんだかものすごく悪いことをしたみたいだ。
彼女は犯罪者じゃない。目つきは悪いけど。
- 4 名前:『掌』 投稿日:2007/09/02(日) 00:02
-
美貴はあたしの横に来て、いすに座らずテーブルに浅く腰掛けた。
あたしはきちんとテーブルに向かっていすに座っているから、ちょうどお互い
逆の方向を見ていることになる。美貴は爪をいじっている。あたしはメールの
チェックが途中だったので、視線を手の中のケータイに戻した。
「よっちゃん、白髪ある」
「えぇまじで?ぬいてぬいて」
あたしはケータイから視線を上げずに言った。
美貴は腰を上げると、あたしの真後ろにたってサルが毛づくろいするように
髪をいじりはじめた。
「やっべぇよね、20代で白髪は」
「やばいやばい」
美貴が息を漏らすように笑う。
あたしはケータイをテーブルに置いた。その時だった。
- 5 名前:『掌』 投稿日:2007/09/02(日) 00:04
-
「よっちゃん、ごめんね」
「えっ」
何言ってんの、とあたしが言うより早く美貴が続けて言った。
「嫌味とか皮肉とかいろいろ言われてるでしょ」
- 6 名前:『掌』 投稿日:2007/09/02(日) 00:05
-
空気が急にかたくなった気がした。誰に聞いたのだろう。
あたしは今、モーニングのリーダーを長く務めたこともあり、
中澤さんに次いで中堅のリーダーのような立ち位置にいて、周りで
何かあればコメントも求められるし、皮肉だって言われる。
時には説教だって。
「ごめん、ずっと迷惑かけてるね」
謝らなくていい。
タイミングが悪かったのだ、すべて。
たまたま美貴の件が、これまでの騒ぎのとどめのような形に
なってしまっただけだ。リーダーになった直後だったというのも。
でもそんなことを言っても彼女の気は晴れないだろう。
- 7 名前:『掌』 投稿日:2007/09/02(日) 00:06
-
あたしは美貴を見た。
美貴は迷子になった子どものように頼りない目をしていた。
あたしは立ち上がると、美貴の目の前にずいと掌を突き出して言った。
「あたしの手、でっかいだろ」
「は?」
「まぁ、聞いてよ」
美貴はさっぱり意味がわからないという顔をしていたが、かまわず続けた。
「あたしたちにはきっと持てる数が決まってるんだよ。あたしが10持てる
からって美貴も10持てるとは限らない。掌の大きさも違うしね。だったらさ、
いっぱい持てなくても、これだってものをしっかりつかんで放さないように
しなきゃ。まだあるだろ?持ってるもの」
- 8 名前:『掌』 投稿日:2007/09/02(日) 00:09
-
言い終わるとそのままぐっと宙を握り、にやりと笑って部屋の隅に目をやった。
美貴もつられてそっちを向く。
そのときちょうどノックの音がして、あたしは弾かれたようにドアへ
向きなおした。
「吉澤ぁ、行くぞ」
「はい」
バックをひっつかんで、部屋の隅に転がっていたそれを拾うと、
じゃあねとだけ言って部屋をでた。
きっと言いたいことは伝わっただろう。
- 9 名前:『掌』 投稿日:2007/09/02(日) 00:10
-
美貴は今日も練習をがんばっている。
- 10 名前:『掌』 投稿日:2007/09/02(日) 00:11
- 終わり。
- 11 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/09/02(日) 03:18
- すごいよかったです。
心の真ん中にずしんときた感じ
また楽しみにしてます!頑張って下さい
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/03(月) 21:14
- ミキヲタはこんな妄想でもしなきゃやってられないよホント。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/04(火) 01:52
- ガンバレ。・゚・(ノ∀`)・゚・。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/05(水) 11:36
- こうゆうのいいですねぇ
頑張ってくださいまし
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/08(土) 23:16
- 美貴。゜(゜´Д`゜)゜。
すごく良かったです。作者さんありがとう。
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/15(土) 17:14
- >>11
ありがとうございます。
初レスを頂いて感激しました。
不定期になりますが、これからもどうかご贔屓に。
>>12
ミキヲタさん、がんばって!
少しでも気紛れになれば光栄です。
>>13
うんうん、がんばってほしい・゚・(ノ∀`)・゚・
13さん優しいね。
>>14
ありがとうございます。
気に入ってもらえてうれしいです。
がんばります。
>>15
そんな!
こちらこそありがとうございます。
初めての作品でほめられると調子に乗りそう…。
用心用心。
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/15(土) 17:15
-
遅くなりましたが。
高橋愛さん、お誕生日おめでとうございます。
- 18 名前:『そばに』 投稿日:2007/09/15(土) 17:17
-
暗い。星ひとつない空。
ベランダに背中を預けて、煙草に火をつける。
眠れない夜の決まりだった。
蒸し暑い夏も終わり、夜は大分過ごしやすくなったが
それでも寝つきが悪いのは変わらない。
ひとみは手すりに両肘をかけ少し背中を反らせると、
のぼってゆく白い煙を目で追った。
- 19 名前:『そばに』 投稿日:2007/09/15(土) 17:18
-
「眠れないの?」
腹筋を使い声のほうへ視線をもどすと、パジャマ姿の愛が
立っていた。
眠たそうに目を擦っている。
「悪い、起こした」
「ううん。大丈夫」
愛は裸足のままベランダに下りて、ひとみに抱きついた。
目を閉じて肩の辺りに頬を押し付けてくる。
寝ぼけているのだろうか。
ひとみは、灰皿代わりに持って出たビールの空き缶に煙草を
入れて、火を消した。
人がいるところでは吸わない。
- 20 名前:『そばに』 投稿日:2007/09/15(土) 17:20
-
「…こわい夢見ちゃった」
愛は薄く目を開けると、どこを見るわけでもなく
そっと呟いた。
ひとみはゆるく愛の背を撫でている。
「明日も学校だろ?一緒に寝てやるよ」
明日、といってももうとっくに12時を回っているから
日付はすでに今日だ。
ひとみは愛の髪に唇を落とすと、手をひいて部屋へ入った。
- 21 名前:『そばに』 投稿日:2007/09/15(土) 17:21
-
二人が一緒に暮らし始めて、もう一年になる。
共通の友人を介して知り合った。
一人は大学生。もう一人は社会人。
たいした共通点のない二人。
けれども、友達から恋人になるのに時間はかからなかった。
気がつけば、そばにいることが当たり前になっていた。
今でも時々不思議に思う。
なぜ惹かれあったのか。
- 22 名前:『そばに』 投稿日:2007/09/15(土) 17:21
-
二人してベッドに潜り込む。
時計を見るともう3時を過ぎていた。
「風邪ひくなよ」
ひとみは肘を立てて横を向くと、愛の顎の辺りまで布団を
引っ張った。
その手ですっと髪を撫でる。
愛は気持ちよさそうに微笑むと、すりすりとひとみのそばへ
寄り身体をくっつけた。
- 23 名前:『そばに』 投稿日:2007/09/15(土) 17:22
-
「なんだよ、甘えたかっただけかよ」
口では文句を言っているが、甘えられて満更でもない。
ひとみの口元には笑みが浮かんでいる。
「違うよ。愛されてるなぁって思ったの」
「なんだそりゃ」
「あたしも愛してるよ」
「…わけわかんねぇ」
嘘。
本当はわかっている。
素直に言葉を口にできないひとみは、いつも愛の言葉に
救われていた。
何も言わなくてもわかってくれる。
信じてくれる。
愛しい、人。
- 24 名前:『そばに』 投稿日:2007/09/15(土) 17:23
-
「…おやすみ」
眠りに落ちていく愛を見つめながら、どうかずっとそばに、と願った。
- 25 名前:『そばに』 投稿日:2007/09/15(土) 17:23
- 終わり。
- 26 名前:『そばに』 投稿日:2007/09/15(土) 17:25
-
短くてすみません…。
なまってなくてすみません…。
- 27 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/15(土) 17:26
- 名前欄変え忘れた…orz
- 28 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/16(日) 13:35
- なまりなんて気にしなくて大丈夫ですからw
よしあい良いですねー
できれば、この設定で続いても面白いんじゃないかと
- 29 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/15(木) 23:42
- ヒサブリに更新します。
新たな挑戦。
最近の流行にのって?やじうめです。
- 30 名前:『横顔』 投稿日:2007/11/15(木) 23:42
- 「おはよー」
もう夕方なのに朝の挨拶なんて変なの。
そう思ってたのは5年前のこと。あの頃5年生だった
あたしももう高校1年生だ。月日が流れるのは本当に早い。
楽屋のドアを開けると、舞美がソファの背もたれに軽く
腰掛けながら何かを覗き込んでいた。
「あ、えり」
おはよ。
と声を出さずに、唇を動かして言った。
- 31 名前:『横顔』 投稿日:2007/11/15(木) 23:43
- 「なになに?どうしたの?」
音のない挨拶にあたしが訝しがっていると、舞美は慌てたように
(しー!)と人差し指を唇に当てて必死な顔をした。
その慌てっぷりになんだかまずいことをした気分になって、
あたしは肩をすくめ同じように口に人差し指を当てて
「ごめん」と唇だけで言った。
舞美はあたしのびっくり具合がおかしかったのか、満面の
笑みでこちらを見ると、片手で手招きしてもう片方の手で
ソファを指差した。ここからは背もたれしか見えず、舞美が
何を指しているのかわからない。
あたしはとりあえずテーブルに荷物を置くと、訳もわからず
手招きされるままに舞美の横へ行った。
- 32 名前:『横顔』 投稿日:2007/11/15(木) 23:45
- 「お」
背もたれの方からそっと覗き込むと、そこにいたのは
丸まって眠る我らが舞ちゃん。その手にはしっかりと愛用の
タオルが握り締められている。
「昨日怖い夢見て眠れなかったんだって」
まだ時間あるから。
とあたしの耳元で舞美が声を潜めて言った。
- 33 名前:『横顔』 投稿日:2007/11/15(木) 23:46
-
「かわいいー」
「ね。まだまだ子どもだよね」
「タオルだしね」
「そこがまたかわいいよね」
「舞美が一番かわいいよっ」
「もーえり何言ってんのー」
あたしがニヤニヤしながらからかって言うと、舞美は照れた
ようにあたしの肩を押した。舞ちゃんの寝顔を覗き込んでいた
あたしはバランスを崩して仰け反った。
「しーしー。あんまり騒ぐと起こしちゃうよ」
今度は舞美が肩をすくめた。
眠っていることを確かめるように柔らかく寝顔を眺めている。
- 34 名前:『横顔』 投稿日:2007/11/15(木) 23:49
-
あたしはそんな舞美の横顔を見つめる。
鈍い彼女はあたしが見ていることに気がつかない。
きれいな舞美。
高校生になってさらにその美しさは増して。いや、メジャー
デビューして忙しくなってきてからかな。ずっと一緒にいた
からわかる。
なんか…大人の顔になった。
5年前に出会ったときから、ずっと見てきたからわかるんだよ。
一番長く、一番そばで。
舞美。あんまり急いで大人にならないでね。
- 35 名前:『横顔』 投稿日:2007/11/15(木) 23:51
-
「あたしを、置いていかないでね」
声に出さないあたしの願いを、舞美が叶えてくれるのか
その横顔からはわからなかった。
- 36 名前:『横顔』 投稿日:2007/11/15(木) 23:51
-
おしまい。
- 37 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/23(金) 09:05
- 舞美が>>31って言ったからじゃない意味で声に出せない梅さん切ないな…
そして可愛いなみんなかわいいよ
みきよしもよしあいも良かったっす
- 38 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/24(土) 00:12
- >>28
すみません!レス返すのを忘れたまま更新してしまいました…orz
感想ありがとうございます。読んでくださる方がいらっしゃるのが
すごくうれしいです!吉愛好きなので、また書きたいですね。
- 39 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/24(土) 00:16
- >>37
レスありがとうございます!
かわいいと言ってもらえてうちの子たちも喜んでます。
吉絡みでまた書きたいですね。
インスピレーションよ閃け!!
- 40 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/24(土) 00:18
- 最近めっきり寒くなりましたね。
ってな感じで更新です。
アンリアル、やじうめ。
- 41 名前:『放課後迷路』 投稿日:2007/11/24(土) 00:20
- グラウンドから運動部の元気な声が聞こえる。
というかそれしか聞こえない。教室棟に人の気配はない。
今日は金曜日で明日は休みだし、みんなさっさと帰って
どこかへ寄っているのかもしれない。
あたしは教室の時計を見た。
もうすぐ5時か、そろそろかな。
机に広げていた宿題をかばんにしまい、帰る準備をする。立ち上がり
窓から空を見上げると、真っ赤な夕日が顔を隠していくところ
だった。日が暮れようとしている。
- 42 名前:『放課後迷路』 投稿日:2007/11/24(土) 00:20
-
「部活終わったら一緒に帰らない?」
あたし待ってるよ。
そう言ったのはつい2時間ほど前。
委員会だし。
と、言い訳のように付け加えたのも。
普段一緒に帰るのは、舞美の部活が休みの日だけ。でも今日は
たまたま委員会で放課後残らなくちゃいけなかったから、それなら…
と思って舞美に言った。言った後に、迷惑だったかなって心配に
なったけど、舞美がものすごい勢いで「ほんとに?じゃあ終わったら
ダッシュで迎えにくるね!」っていつもの笑顔で笑ったから、
あたしはほっとした。
- 43 名前:『放課後迷路』 投稿日:2007/11/24(土) 00:22
-
「らしく…ないかな」
迷惑だなんて。
舞美がそんな風に思うわけないのに。
「舞美はバカだからなぁ」
きっとあたしの不安や心配は、舞美にはわからない。
自分でも上手にできていると思う。
けれど本当のところあたしは、純粋な友情というものを忘れてしまった。
思い出すことはできない。気づいてしまったから。
戻ることはできない。惹かれてしまったから
- 44 名前:『放課後迷路』 投稿日:2007/11/24(土) 00:23
- 窓を開ける。空気が冷たくてしんとしている。
グラウンドを見下ろすと、陸上部が20人ほど円になって先生の話を
聞いているのが見えた。ちょうど先輩たちの影に隠れていて、ここからは
舞美の背中しか見えなかったけど、背筋をぴんと伸ばしてじっと先生の
ほうを向いているのはわかった。部活終わりのミーティングだろうから、
あとは片づけをしたらもう解散だろう。
バックネットの方に目を向けると、野球部がノックをしているのが
見えた。こちらはまだまだ終わりそうにない。野球部にすごくかっこ
いい先輩がいる、と同じクラスの子が騒いでたけど、あたしには誰が
誰だか全然わからなかった。がんばって探してみたけど、だめだ。
みんな同じに見える。
- 45 名前:『放課後迷路』 投稿日:2007/11/24(土) 00:25
- 号令とともに『ありがとうございましたー』と声がしたので
陸上部の方へ視線を戻すと、もうみんなバラバラになっている。
舞美の姿が見えないが、じきにここへ来るだろう。
「うわっ、さむ」
風が強い。日はもうとっくに落ちてあたりは薄暗くなっている。
あたしは身を縮めて窓を閉めた。と、その時だった。
「えりー!」
突然外から声がして、あたしは慌ててもう一度窓を開けた。
- 46 名前:『放課後迷路』 投稿日:2007/11/24(土) 00:26
-
「舞美」
「あ、えりー」
少し体を乗り出して下を覗き込むと、舞美がぶんぶんと手を振っている。
あたしもつられて手を振る。外はこんなにも寒いのに、舞美の額には
玉のような汗が浮かんでいる。
「本当に待っててくれたんだ!片付けさっさと終わらせてすぐ行くね」
「いいよ、上まで来るの大変でしょ?靴箱で待ってる」
「わかった!走っていくからー!」
花が咲いたように、という表現は舞美の笑顔のためにあるのかもしれない。
日が暮れてどんなにあたりが暗くなっても、舞美が笑うだけで色がついた
ようにぱっと明るくなる。
- 47 名前:『放課後迷路』 投稿日:2007/11/24(土) 00:27
-
「じゃああとでね」と舞美は踵を返してその言葉のとおり駆け出して
いった、かと思ったらすぐにもどってきた。
「どうしたの?」
「言うの忘れてたー。待っててくれてありがとね!部活の日もえりと帰れる
なんてすごいうれしいよっ!」
とか言って、と照れたように笑って今度こそ走っていってしまった。
「なーに…いってんだか」
うれしいのはこっちのほうだよ。
あたしは窓を閉めてかばんを持つと教室を出た。
- 48 名前:『放課後迷路』 投稿日:2007/11/24(土) 00:28
-
本当は毎日だって一緒に帰りたいんだぞ。
部活終わるの待ってでも一緒に帰りたいんだぞ。
でも友達同士でそこまでするのは変だから我慢してるんだぞ。
「わかんないだろうなー」
なんだかもやもやする。
わかってほしい。わかってほしくない。
気づいてほしい。気づいてほしくない。
戻りたい。戻れない。
- 49 名前:『放課後迷路』 投稿日:2007/11/24(土) 00:29
-
「どうしよう…」
あたしは確かに靴箱へ向かって階段を下りているはずなのに、
なんだか迷子になってしまったような気がした。
- 50 名前:『放課後迷路』 投稿日:2007/11/24(土) 00:29
-
終わり。
- 51 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/24(土) 01:20
- うわーかーわいい〜二人とも。
吉絡みもやじうめも大好きです。更新楽しみにしてますね。
- 52 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/11/24(土) 01:47
- やじうめ可愛いけど梅さん切ないですね…
迷路を抜け出せる日はくるんでしょうか?
次回作も楽しみにしております
- 53 名前:和蝶 投稿日:2008/02/03(日) 19:41
- >>51
ありがとうございます。
なかなか更新できなくてすみません…(汗
これからもよろしくお願いします。
>>52
梅さんは不幸が似合っ(殴
うそです…すんません。3バカスレのせいだと思われます。
暖かく見守ってやってください。→梅
- 54 名前:和蝶 投稿日:2008/02/03(日) 19:43
- 日がかなり開いてしまってすみません。
更新です。やじうめ。
一応『放課後迷路』の続きの設定です。
- 55 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 19:45
- 舞美はバカだから。
あたしの不安も心配も、悲しみも苦しみも、この心の痛みも、きっとわからない。
それに、舞美はやさしいから。
あたしが気持ちを伝えたら、きっと困る。あたしを悲しませたくなくて。
だからずっとこのままでいい。これが一番いい。
あたしは自分に言い聞かせる。
だけど、ずっとごまかせるって本気で思ってたのかな?
あたしの心はもう限界まで膨らんでいたのに。
自分で思っているよりもずっとずっと大きく。
ほんの少しの摩擦で、あっけなく割れてしまうほどに。
- 56 名前:『Full 投稿日:2008/02/03(日) 19:45
-
***
- 57 名前:『Full 投稿日:2008/02/03(日) 19:46
- 今日は火曜日。部活動の日。
本当なら一人で帰る日。
だけど今日もたまたま放課後に委員会があって、それを良いことにあたしは
舞美と一緒に帰る約束をした。委員会自体は全然たいしたものじゃなくて、
一時間もしない内に終わってしまったから、教室に戻って仕方なく嫌いな
勉強をしながら舞美を待つことにした。
と言ったものの勉強する気などさらさらなく、ものの十数分でシャーペンを投げ
出して、後はひたすらグラウンドを眺めていた。
「元気だなぁ」
雪がちらつくこの季節も、陸上部はハーフパンツでトラックを駆けている。
舞美はすぐに見つかった。部員の子と談笑しながら小さいハードルを使って
練習している。羨ましいな。あたしも舞美くらい足が速かったら一緒に
陸上部で走れたのに。でも実際問題あたしは運動オンチなので、こうして
遠くで見ていることくらいしかできない。
- 58 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 19:47
- まぁでも、それも悪くないと思う。
好きな人のことを考える時間というのは結構幸せだったりする。
もちろん、好きな人を待つ時間も。
だから今のあたしは結構幸せだ。
そして幸せな時間というのはあっという間に過ぎていく。
気がつけばもう部活の終わる時刻になっていた。あたしのノートは白いままだ。
勉強しなきゃな。せめてテスト前ぐらいは本気で。
- 59 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 19:48
- 立ち上がってストーブの火を消す。
今日は舞美が教室まで迎えに来てくれる事になっていた。「寒い中外で待たせる
のは悪いから」と。やさしい気遣いは舞美らしいと思う。でもそのやさしさが
あたしを苦しめる。
火の消えたストーブはなんだか無機質な感じがして冷たい。やっぱり舞美がくるまで
点けておこうと思い直して、もう一度スイッチを入れるためにしゃがみこむと
突然ドアのすべる音がした。
「あ、梅田さん。まだ残ってたんだ」
- 60 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 19:49
- 時間も時間だし、舞美だと思って勢いよく顔を上げたのだが残念ながら違った。
同じクラスの子だ。帰宅部の自分がこんな時間にクラスメイトと会うのは
ちょっと気まずい。
「うん、ちょっと勉強してた」
あたしは立ち上がるとできるだけ自然に白いノートを閉じて、白々しく嘘を
ついた。舞美を待っている、ということは言えなかった。なんとなく。
「えらーい!あたしなんてもう教科書開いただけで寝ちゃうのに。あたしも
梅田さん見習って勉強しなきゃなー」
「あ、いや、2学期の成績が悪かったから…。そ、そっちこそどうしたの?
忘れ物?」
- 61 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 19:51
- 勉強してたなんて嘘っぱちなのに、素直にほめられて後ろめたくなって
しまった。ごめんね、でも嘘なんだよ。本当はあたしも寝ちゃうんだ、なんて
心の中で謝りながら話題を変える。これ以上ほめられたら、心の中が罪悪感で
いっぱいになりそうだ。
「うん。ケータイ机に入れっぱなしにしちゃってて」
クラスメイトは話しながら机の間をぬって自分の席へ向かう。お目当てのもの
はすぐに見つかったようだった。何かを確認するかのように、手早くボタンを
操作して画面を覗き込んでいた。
なるほど。人気者の彼女にとって携帯は必需品だ。
あたしは教室の時計を見た。そろそろ舞美が来る時間だ。
いつでもすぐに出られるように机の上を片付けようとした、その時だった。
- 62 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 19:51
-
「ねぇ、梅田さんって付き合ってる人いる?」
- 63 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 19:52
- 最初何を言われたのかわからなかった。あたしと彼女は別に仲が悪いわけじゃ
なかったけど、恋愛相談をするほど仲がいいというわけでもなかったし。
「え、や、いないけど…」
あたしの答えにクラスメイトはぱっと表情を明るくする。
「友達がさ、梅田さんのこと紹介してほしいって言うんだけど、どう?
結構いいやつだよ。あたしが保証する」
なるほど。人気者の彼女には友達も多い。恋のキューピッドをすることも
多いのだろう。そして今回、幸か不幸かあたしに白羽の矢が当たったらしい。
- 64 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 19:54
- どうしよう…。
こういう話ならさっき聞かれたときに「いる」と答えていればよかった。
今更そんな嘘つけないし。でも、紹介されてもどうしようもない。
あたしは舞美が好きなんだから。
だけどはっきりNOと言うのもクラスメイトに悪くて、あたしはすっかり
困ってしまった。
「もしかして……好きな人とかいる?」
沈黙を否定ととったのか、伺うようにして彼女が質問を重ねた。あたしが
困っているのをわかって自ら助け舟を出してくれたのだろう。あたしは
それに甘えることにした。
- 65 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 19:54
- 「うん。まぁ…片想いなんだけど」
「そっか。じゃあ無理だよね」
「ごめんね」
「いいのいいの、気にしないで。こっちこそごめん」
お互いに謝りあっているのがおかしくて二人して笑った。
本当は『ありがとう』って言いたかったけど、気を遣ってくれてありがとう、
なんておかしいからやめた。
「それじゃ」
「うん、また明日」
「がんばってね」なんて笑顔で手を振る姿を見て、彼女が好かれるのが
わかる気がした。もし彼女が恋をしたらその時はどうするんだろう。恋の
キューピッドも大変だ、なんて考えながら彼女の背中を見送る。その姿が
ドアの向こうへ消えたとき、予想もよらない声が聞こえた。
- 66 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 19:55
-
「おっと、どうしたの?矢島さんも忘れ物?」
「…あ、うん。ちょっとね」
舞美だ。
心臓が一気に跳ね上がる。
…その扉の向こうに、いつからいた?
- 67 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 19:56
- 「お待たせー」
「ん、お疲れ」
クラスメイトと2、3言葉を交わすと舞美が教室へ入ってきた。その表情は
いつもと変わらない、と言ってあげたいところだが明らかに変だった。
舞美の作り笑顔はわかりやすいんだよ…。
聞かれた。絶対聞かれた。心臓の音がうるさいほどに体中を叩く。
あたしは腹をくくる。大丈夫。今までだって上手にやってきたんだから、
これくらいなんてことない。
「舞美、さっきの話」
「…ごめん、聞いちゃった」
舞美はばつの悪い顔をして言った。本当にバカ正直というかなんというか…。
あたしはわざとらしくため息をついて言った。
- 68 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 19:58
- 「盗み聞きって言うんだよ、そういうの」
「ほんとごめん!なんか声かけにくくって…真面目な雰囲気だったし」
「そう?」
できるだけ平静を装う。
面倒くさかったから話合わせただけだよ。
好きな人なんて本当はいないし。
嫌なんて言ったらあの子に悪いじゃん。
だから。
そう答えるつもりだった。
大丈夫、上手くできる。
でもそれは、あたしの思い過ごしだった。
- 69 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 19:59
-
「あたし、応援するよ」
「え?」
応援。
その一言がガツンときた。
一気に頭へ血が昇っていくのがわかる。静まったはずの心臓が、再び激しく
鳴り始める。舞美はバカだから、あたしの気持ちに気づくわけない。
そんなことはわかっていた。それでもいいと思っていた。
舞美のそばにいられるのなら、なんでも。
だけど、舞美。
あなたがそれを言うの…?
- 70 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 20:00
- 「えりってばもう水くさいじゃん。そういうことはちゃんと相談してよね。
うちら友達なんだからさー」
あたしの不安も心配も、寂しさも苦しさも、この心の痛みも舞美にはわからない。
わからないんだ。
あたしの中の黒いものがぐるぐるととぐろを巻いて膨らんでいく。
あたしを蝕んでいく。もう限界だった。
弾けて割れる音がする。
- 71 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 20:01
-
「友達じゃないよ」
しぼり出した声は、硬くて重くて自分のじゃないみたいだった。はっと
弾かれたように顔を上げた舞美の体を窓へ押しつけて、あたしは乱暴な
キスをした。
「ん!や、ちょっ」
膨らんではじけた気持ちはもう抑えられない。
舞美。
どうして気づいてくれないの?
どうしてそんなこと言うの?
舞美にとって、あたしって何なの?
- 72 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 20:02
-
「えり!」
体はあたしのほうが大きいけど、力は舞美のほうが強い。両手で押し返されて、
あっけなくあたしの体は離れた。押された拍子に太腿を机にぶつける。でも
別に痛くなかった。痛いのは身体じゃなくて、むしろ。
「…なんで」
「舞美が悪いんだよ」
わかってよ。気づいてよ。
「え」
「あたしは…」
もう戻れない。
「あたしは、舞美が好きなんだよ」
- 73 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 20:02
-
***
- 74 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 20:03
-
「はぁー……」
どうして、あんなことしちゃったんだろう。
半ば叫ぶようにして告白した後、あたしは教室を飛び出した。下へは降りられ
なかった。靴箱やグラウンドに、まだ部活終わりの生徒が残ってそうだったから。
とりあえず人のいない場所に行きたかったあたしは、気づけば屋上へ続く階段の
踊り場にきていた。ここなら誰もいない。
しゃがみこんで膝を抱える。膝に顎を乗せると、上履きのつま先が見えた。
突然それがぐにゃりと歪む。鼻の奥がつんとして、あぁあたし泣いてるんだな
とわかった。
- 75 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 20:05
- 終わった。
しかもサイテーな終わり方で。
それがとても悲しくて悔しいのに、どこかあたしはほっとしていた。これで
もうあたしは舞美への気持ちに苦しまなくていい。切なくなることもない。
自分の気持ちをごまかさなくていい。そう思ったら、なんだかほっとした。
ただ、友達でもいられなくなってしまったけれど。
スピーカーから下校のアナウンスが流れる。
舞美はもう帰っただろうか。
- 76 名前:『Full of Love] 投稿日:2008/02/03(日) 20:06
- 「ふふっ」
なんだか笑いがこみ上げてくる。
こんな風になっても舞美のことばかり気にする自分がおかしかった。
あたしも帰らなきゃ。このままじゃ校舎に閉じ込められてしまう。
熱くなったまぶたを掌で冷やす。閉じたまぶたの裏でまた舞美が見える。
ほんと、どうしようもないなあたし…。
「えり」
重症だ、声まで聞こえる。
そう思って顔を上げたらそこに本物の舞美が立っていた。
- 77 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 20:08
- 「ここにいたんだ」
「…舞美」
あたしの名前を呼ぶ声がやさしくて、前と全然変わらなくて、あたしは混乱する。
階段を上ると舞美はあたしの横へ腰を下ろした。
「もう、探したんだから。あんまり心配かけないでよね」
「…なんで?」
「え?」
「なんでそんなに普通なの?舞美、あたしがしたことわかってる?」
「わかってるよ」
「わかってない!」
「わかってる!あたしだって…」
「あたしだってずっと、えりのこと好きだったんだから」
- 78 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 20:10
- たぶんこの時のあたしは最高に情けない顔をしていたと思う。
「へ?」
「だから……も〜何回も言わせないでよ」
舞美の顔がどんどん赤く染まっていく。
まさか。だって、そんなことって。
「…で、でも舞美あの時応援するって言ったじゃん!」
「しょうがないでしょ!まさか自分がそうだと思わなかったし…。
あたしだって、教室でえりの好きな人の話聞いたときはすごいショック
だったんだからね!」
- 79 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 20:12
- 信じられない。
開いた口がふさがらないとは、まさにこういうことを言うんじゃない
だろうか。
舞美があたしを好き?あたしが舞美を好きなように?
「帰ろっか」
「ちょ、ちょっと待って」
舞美が立ち上がって行ってしまいそうだったので、あたしは慌ててその
手首をつかむ。状況が飲み込めない。舞美がさっき言ったことを確認
したくて、あたしは必死だった。
「あ、あたしの好きは友達としてじゃないよ?恋愛としての好きなんだよ?」
「うん」
「恋人としての好きって意味だよ?」
「そうだよ」
「舞美も…そういう意味であたしのこと好きだって思ってもいいんだよね?」
- 80 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 20:13
- 違うだなんて言わせない。
最後の質問はほとんどそういう勢いだった。あたしのそんな必死さを知ってか
知らずか、舞美はやわらかく笑うと背伸びしてあたしの唇に触れた。
「あたしも、そういう意味でえりのことが好きだよ」
頬を染めて舞美は笑う。
いつか見た、花の咲いたような笑顔で。
それが本当に綺麗だったから、あたしは泣いた。胸がいっぱいになって
自然と涙が出た。黒いものが吐き出されてぽっかり空いた穴が、こんこんと
満たされていく。
ああ、幸せって本当はこういうことをいうのかな。
- 81 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 20:14
-
「あたしも…舞美が好き」
もう一度キスしたくて、舞美の背中に腕を回して引き寄せる。
最後の下校のチャイムが鳴ったのはちょうどその時だった。
二人してはっと顔を見合わせる。校門が閉まる時間だ。
「やばいよ、走ろっ」
「わっ!」
舞美があたしの手を引っ張って駆けだした。
もうちょっとでキスできたのに…なんてチャイムを恨めしく思う。
でも、もういいんだ。これからはいつだって。
- 82 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 20:15
-
「舞美」
「なにー?」
「あとでまたキスしようね」
あたしはつながれた手に力を込めた。
- 83 名前:『Full of Love』 投稿日:2008/02/03(日) 20:16
-
終わり。
- 84 名前:和蝶 投稿日:2008/02/03(日) 20:24
- 文章書くのって難しいね…(メソメソ
なかなか納得いくものが書けなくてやきもきしてます。
結局は自己満足なのかも、ですけどね。
更新頻度が落ちてしまって申し訳ありません。
精進します。今年もよろしくお願いします(遅
- 85 名前:和蝶 投稿日:2008/02/03(日) 20:25
-
リl|*´∀`l|>隠すんだよ
- 86 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/04(月) 01:12
- (ノ∀`)久々に幸せな梅さん読んだような気がする
- 87 名前:名無し飼育 投稿日:2008/02/11(月) 21:29
- ↑のレスにウけたw
そっか、やじすず全盛だから、当て馬が多いんだな、梅さんは。
かくいう自分もやじすず派だw
でも、この話はなんか好きだ。
- 88 名前:和蝶 投稿日:2008/02/12(火) 23:02
- >>86
梅さんってなんか不憫なキャラになってきましたよねw
『Full〜』は実は完全に梅さん救済企画でした。
ちょっと強引でしたけどね…(汗
梅さんも舞美以外のカプができればもっと幸せに
なれるかも…?
- 89 名前:和蝶 投稿日:2008/02/12(火) 23:06
- >>87
今はやじすずが人気なんですか?そっかー。
ベリキューは正直まだキャラを掴みきれてないので、もっと
ベリキュー作者さんの作品を読んで研究しなきゃ、ですね。
好いてくださってありがとうございます。
- 90 名前:和蝶 投稿日:2008/02/12(火) 23:08
- さて、珍しく更新です。
アンリアル、いしよし。
先に断っておきますが、恋愛ものではありません。
- 91 名前:『さよならの向こう側』 投稿日:2008/02/12(火) 23:10
-
「はぁー…」
息が詰まる。こういう空間は嫌いだ。
不謹慎とはわかっていたものの、こっそり建物から抜け出した。
煙草も吸いたかったし。
自動ドアを出ると、すぐ向かいにちょうどいい高さの花壇を見つけた。
その縁に腰掛けて煙草に火をつける。親戚のおじさんやおばさんに
こんなとこ見られたら、きっとうるさい。ただでさえあたしは親戚
中で浮いてるっていうのに。
- 92 名前:『さよならの向こう側』 投稿日:2008/02/12(火) 23:10
- 胸いっぱいに吸い込んで吐き出す。体中の力が抜けていく感じがした。
『脱力』ってまさにこういうことを言うのかもしれない。
あぁあたし疲れてるんだ、なんて他人事のように思った。
この二日間、忙しすぎて自分が疲れてることすら気づかなかった。
こういうときはやたら若いやつに雑務が回ってくるものらしい。
もっとも、大人たちは違う意味で忙しそうだったけど…。
煙が昇っていくのをぼけーっと眺める。
と、煙の向こうに真っ青な空が見えた。
「青いなー」
「青いね」
独り言のつもりで言ったのに相槌があったからびっくりした。
声のしたほうに視線をやると、見慣れた顔が見えた。顔は笑ってるけど
目の下の隈がすごい。こいつも疲れてる。
- 93 名前:『さよならの向こう側』 投稿日:2008/02/12(火) 23:12
-
「なーにしてんのよ、こんなとこで」
「いいじゃん別に。息抜きだよ、息抜き。そういう梨華ちゃんこそ
こんなとこで何してんの?」
「あたし?よっちゃんを連れ戻しにきたに決まってるじゃない」
「よく言うよ」
「ふふ、ばれた?」
梨華ちゃんはあたしの従姉妹だ。小さい頃から仲がいい。
趣味とか性格とかいろんなものが正反対なのに、あたしたちは何故か
面白いほどに馬があった。自分たちでも不思議だ。
梨華ちゃんはあたしの隣にそっと腰掛けた。一緒に空を見上げる。
「…じいさま、もう着いたかな?」
「着いたって、どこに?」
「天国」
「あー…どうだろね」
「むしろ地獄?」
「こら」
「うそうそ。ジョーダン」
- 94 名前:『さよならの向こう側』 投稿日:2008/02/12(火) 23:13
- 一昨日、じいさまが死んだ。脳卒中とか言うやつらしい。
ついこないだまでピンピンしてたのに、人間ってのは本当にわからない。
あたしはじいさまが好きだった。女孫ばかりだったからか、男っ
ぽいあたしをじいさまもかわいがってくれて、時々二人で飲みに
行ったりした。昔は相当やんちゃだったらしく、その武勇伝を
あたしに聞かせては「お前はわしにそっくりだ」と豪快に笑って
いた。
親戚で唯一あたしの金髪を悪く言わなかったのもじいさまだ。
自分の真っ白な髪を撫でては「わしの方がおしゃれよ。白金だからな」
と自慢げに鼻を鳴らしてニヤリと笑っていた。
- 95 名前:『さよならの向こう側』 投稿日:2008/02/12(火) 23:14
-
「殺しても、死ななそうだったのにな…」
「おじいさま?」
「うん」
「そうだね。みんな言ってた。びっくりしたって」
「みんなって、親父たち?」
「そう」
「ふん。遺産の話ばっかしてたんじゃねぇの?悲しむことも
しないでさ」
「…しょうがないよ、お葬式とかって何かと物入りだし。
お金の話になるよ、どうしても」
梨華ちゃんは大人だ。あたしよりも、きっと。
それとも単に強がっているのかもしれない。彼女はいつだってお姉さん
ぶりたがる。あたしの前では特に世話焼き姉さんになるから…といっても
本当のところはどうなのかわからないけれど。それこそ彼女に大人になって
ほしくないというあたしのエゴだ。いい訳だ。
- 96 名前:『さよならの向こう側』 投稿日:2008/02/12(火) 23:16
-
「行こう。そろそろ出てくるよ。お骨拾ってあげなきゃ」
「えー…」
「『えー…』じゃない。ちゃんとお別れしよう」
「お別れねぇ…」
じいさまはいつかあたしに言っていた。
別れはいつも突然やってくるものだ、と。
戦友の死や、親の死。それから、ばあさまの死。
――――死に別れるときは「さようなら」なんて挨拶は役に立たん。
みんなそんなもん飛び越して向こうにいっちまう。
?
「じいさまも、飛び越えていっちゃったよ」
「え?天国?」
「いや、さよならの向こう側」
「…何それ?」
梨華ちゃんは眉をひそめて聞いてきた。
そりゃそうだ。誰だってこんな話、意味がわからないと思う。
- 97 名前:『さよならの向こう側』 投稿日:2008/02/12(火) 23:18
-
「死ぬときは突然だから、さよならしないでみんな飛び越して
いっちまうんだーって、昔じいさまが言ってたの」
「ふぅん。さよならの向こう側、ねぇ…。じゃあ『こんにちは』だね」
「へ?」
今度はあたしが眉をひそめる番だった。
「なんで『こんにちは』が出てくんの?」
「だって、さよならの向こうなんだから普通『こんにちは』でしょ?」
「いやいや、ぜんぜん普通じゃないよその考え方」
「えー、そんなことないよ。だって突然死んじゃって、さよならを飛び
越していっちゃうわけでしょ?それで今度は新しい自分になって、
『こんにちは』なんだよ」
そうだよ絶対、なんて梨華ちゃんは目をキラキラさせている。
ぶっとんでいる。あまりにもぶっとびすぎている。
通夜と葬式の疲れが出たんだろうか。思考回路がまともに働いて
ないんだきっと。
- 98 名前:『さよならの向こう側』 投稿日:2008/02/12(火) 23:20
-
「新しい自分になって『こんにちは』って…なんだそりゃ」
「そうやって考えれば悲しくないでしょ?」
「え?」
「死んだらきっと生まれ変わるの。みんな生まれ変わってこうして
また出会うから、さよならは言わないんだよ」
あたしに微笑みかけるその顔を見て、わかった。
きっと最初から、梨華ちゃんには全部お見通しだったんだ。
あたしが火葬場から出てきた本当の理由とか。
中に戻りたくない本当の理由とか。
そういうもの、全部。
- 99 名前:『さよならの向こう側』 投稿日:2008/02/12(火) 23:21
-
「よっちゃん、おじいさまのこと本当に大好きだったもんね」
なんだか悔しかったから返事はしなかった。
そうだよ、あたしは本当にじいさまのことが大好きだったよ。
「行こう?やっぱり最後まであたしたちの手で送ってあげるべきだよ」
「……」
大好きだからこそ、あたしたちの手で。
わかっていたけど怖かった。じいさまの死を受け入れたくなかった。
あまりにも突然の別れで、実感だってない。あたしは弱かった。
でも、今は梨華ちゃんがいる。
- 100 名前:『さよならの向こう側』 投稿日:2008/02/12(火) 23:27
-
「ねぇ」
「んー?」
「本当に生まれ変わんの?」
「そうだよ。だってさよならの向こうは『こんにちは』に決まってるもん。
それに、信じるものは救われる、だよ」
何の根拠もないのに自信たっぷりに言うその姿を見て、梨華ちゃんには
かなわないな、と思った。いい孫を持ったね、じいさま。
あたしは立ち上がると、両手を空高く突き上げて思いっきり伸びをした。
信じてみることにしよう。
さよならの向こうの『こんにちは』。
「それじゃ、行くか」
「うん」
あたしたちは並んで歩き出した。
さよならの向こうの『こんにちは』のために。
- 101 名前:『さよならの向こう側』 投稿日:2008/02/12(火) 23:28
-
終わり。
- 102 名前:和蝶 投稿日:2008/02/12(火) 23:31
- すみません、訂正です。
>>96 のじいさまとよっちゃんの台詞の間にある
「?」は無視してください。
よろしくお願いします。
- 103 名前:和蝶 投稿日:2008/02/12(火) 23:37
- はい、久しぶりの吉絡みでしたー。
一応このスレの表題作なんですけど、先に何にも考えずに
スレッドの名前をつけてしまったのでかなり困りました。
『さよならの向こう側』ってなんやねん!…みたいなorz
無理やりひねり出した短編なんで、わかりにくいところが
あると思います…すみません。
- 104 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/16(土) 07:53
- うわーこういう恋愛ものじゃないやつ大好きです
これからも楽しみにしてるんで頑張ってください
- 105 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/21(水) 15:37
- あとからひねり出したなんて…計画的表題作のつもりで読んだのに(笑)
いや、自分もこういう話大好きです
じいさまいいキャラですね
- 106 名前:和蝶 投稿日:2008/09/23(火) 23:10
- >>104
レスありがとうございます。がんばりますです。
>>105
期待を裏切ってすんません…。自分でも何でこんなスレタイにしたのか
謎ですな。あんま考えて生きてないのがばればれですねww
- 107 名前:和蝶 投稿日:2008/09/23(火) 23:15
- ひさびさ更新です。
あ、ごっちん誕生日おめでとう。
でも、今回はまったくごっちん関係…リl|*´∀`l|>ないんだよ
ご、ごめんなさい!!
しかもまったく需要なさそうだけど、浮かんできちゃってせっかくなんで。
※ちなみに梅さんも関係ありませんww
- 108 名前:『ちいさなちいさな』 投稿日:2008/09/23(火) 23:16
- 地方でのライブを終えて、移動の車の中。
夏休みが終わって、学校が始まって、いろいろ疲れていたんだろう。
しばらくすると、隣から規則正しい呼吸が聞こえてきた。
シートの間に放り出された手を、そっと握ってみる。眠っているせいか
掌はとてもあたたかい。ふにふに、とその柔らかな感触を確かめる。
―――こんなにちいさかったかな?
ちょっとした興味。
身長が逆転した舞たち。手の大きさだって、もしかしたら。
片方の手で力の抜けた手を支えて、あいた方の手でその指を伸ばす。
掌を合わせてみたいのに、車が動くからなかなかうまくいかない
- 109 名前:『ちいさなちいさな』 投稿日:2008/09/23(火) 23:17
-
「…舞ちゃんなにやってんのぉ?」
「あ、ごめん」
そうしてもぞもぞしているうちに、起こしてしまったらしい。
触れていた手をぱっとはなした。なんだか恥ずかしい。ほっぺたが熱い。
隠れてやったいたずらがバレたみたいな気分。
千聖は寝ぼけているのか、どうもよくわかっていないみたいだった。
まだまだ眠そうにまぶたをこすっている。
「なんでもない。寝てていいよ」
「…ん〜、舞ちゃんも寝よ?はい」
「へ?」
- 110 名前:『ちいさなちいさな』 投稿日:2008/09/23(火) 23:19
- 差し出された掌に意味が分からず固まっていると、千聖がもう一度「はい」と
言ってこちらへ向けてきたので、勢いでぽんと『お手』をするかっこうになった。
「よし」と千聖はひとり満足げにうなずくと、きゅっとつないだ手に力をこめて
また目を閉じた。どうやら、さっき舞がもぞもぞしていたのは千聖と手を
つなぎたかったからだと思ったらしい。
「…そんな子どもじゃないんですけどぉ」
小さい声で抗議したところで聞こえるわけがない。それに文句言ってる顔が
こんなじゃあんまり説得力もない。さっきまで比べっこで必死になっていたのに
もうどうでもよくなってしまった。
- 111 名前:『ちいさなちいさな』 投稿日:2008/09/23(火) 23:20
- そっと寄りかかって静かに目を閉じる。
千聖の手は小さくて、やっぱりあったかい。
舞は背が伸びてうれしかったけど、変わらなくてうれしいことってあるんだな
って初めて思った。
千聖と手をつなぐのが、いつだって舞でありますように。
誰にってわけじゃないけど、眠りに落ちていく中でそう願った。
- 112 名前:『ちいさなちいさな』 投稿日:2008/09/23(火) 23:22
-
終わり。
- 113 名前:和蝶 投稿日:2008/09/23(火) 23:26
- はい。超!短編ですが…(汗
そして『ちさまい』という新しい試み!ww
自分はどうも掌に特別な何かを感じているようで、みきよしの『掌』に続き
今回も手に関する話です。なんなんでしょうね?自分でも不思議です。
- 114 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/27(火) 03:49
- さようならの向こう側=こんにちは
っていいですね◎
- 115 名前:『君と歌えば』 投稿日:2009/09/16(水) 20:38
-
目を閉じれば、音の世界。
音だけでできた世界。
私はその世界に生きている。
- 116 名前:『君と歌えば』 投稿日:2009/09/16(水) 20:39
-
『君と歌えば』
- 117 名前:『君と歌えば』 投稿日:2009/09/16(水) 20:40
- 今日は何曜日だっただろう。
わたあめのような雲を見上げて、ふと思う。学校がないと曜日感覚がとたんに失われて困る。
うだるような日差しが嫌で、できるだけ日陰をさがして歩いていく。ときどき吹く風がくすぐったくて心地いい。耳障りだった蝉の声も大分静まってきている。夏の終わりはきっともう、すぐそこだ。左手の手提げかばんを、蝉の声にあわせて軽く揺らしてみる。
みーんみーん。
ゆーらゆーら。
みーんみーん。
ゆーらゆーら。
- 118 名前:『君と歌えば』 投稿日:2009/09/16(水) 20:41
- まるで自分が蝉たちの指揮者になったような気がして、少し面白い。ひとり遊びはもっとも得意とするところだった。そのままリズムをとって歩く。額にじんわり汗をかいているけれど、そんなに気にならない。
見上げた空はどこまでも青く、高い。蝉たちは好き勝手に鳴いている。鳴き声が揃うことはないけれど、きっとこれは合唱と呼べる。
「いいなぁ…」
合唱ができるのはたくさんの仲間がいるからだ。ひとりじゃ合唱とは呼べない。
愛理はそれをよく知っている。
軽い手提げかばんもそれをよく知っている。
- 119 名前:『君と歌えば』 投稿日:2009/09/16(水) 20:42
-
***
愛理の通う学校は部活動があまり盛んではない。
中高一貫の私立にしてはなかなか珍しいけれど、一言で言ってしまえばそれが『校風』らしい。好きなことを、好きなように、好きなだけ。だから部に所属している子もいるし、いくつか掛け持ちしている子もいるし、もちろん帰宅部の子もいる。
そして、愛理はそのどれでもなかった。
鍵を借りに職員室へ向かう。愛理が職員室に行くと、誰も何も言わなくても第二音楽室と書かれた木の札の付いた鍵を渡してくれる。それくらいたった一人の合唱部は知られているらしかった。
部に所属してはいる。
ただ、部としては機能していない。
つまりはそういうことだ。
礼を言って、いつものように名前ぐらいしか知らない先生から鍵を受け取ると、愛理は職員室を後にした。
- 120 名前:『君と歌えば』 投稿日:2009/09/16(水) 20:42
-
いつもと同じ毎日。
満ち足りているといえば、嘘になるかもしれない。けれど、愛理は歌うことが好きだったし、音楽室をひとりじめできることが嬉しかった。何より、音楽がそばにあることが一番愛理を安心させた。
- 121 名前:和蝶 投稿日:2009/09/16(水) 20:46
- 短いですが、とりあえずここまで。
>>114
ありがとうございます。
思いつきの表現だけど、本当にそうだったらいいなぁと思います。
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