一品小料理屋
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/22(木) 22:00
- メロンの話(リアル系)。
超絶不定期ダラダラ更新予定短編集。
傾向として むらしばむら さいだいさい
でもメンバーもれなく書いていくかと思われる。
- 2 名前:ネコの日 投稿日:2007/02/22(木) 22:02
-
- 3 名前:ネコの日 投稿日:2007/02/22(木) 22:02
-
午前零時。日付がかわる。
誕生日。わたくし柴田あゆみ、23歳になりました。
親友であるあの子からのメールは、微妙にフライング。
二分ほど早かった。
らしいっちゃらしいのに、笑いをかみ殺すことができない。
あはは。と思わず声をたてて笑ってしまっていたら、日付が変わっていた。
あぁ。なんという失態というか、もったいないというか。
あたたかいメールの文面に目を細めていたら、また何通か携帯にメールが舞い込んでくる。
携帯の操作中に飛び込んでくるメールたち。
さすがにフォルダ分けしてるから、メンバーのものはすぐにわかった。
最初はひとみん。
もう眠くなる時間だっていうはずなのに。
くす。と口元を持ち上げ、メールを選んでハイ、開封。
添付ファイルもついてるよ。
- 4 名前:ネコの日 投稿日:2007/02/22(木) 22:03
-
件名:にゃぁん。
本文:あゆみん 誕生日おめでとうにゃん
- 5 名前:ネコの日 投稿日:2007/02/22(木) 22:03
- あぁ。やっぱりメルちゃんの写メだ。
丁寧にデコラティブされた写真。文末にはちゃんとくちびるの絵文字。
長々と続く文面だけれど、最後の結びはやっぱり「おやすみなさい」だった。
眠いの我慢して書いてくれたのかな。うれしいな。
穏やかな幸せに頬をゆるめ、次のメールを開封することにした。
お次は、まぁしぃ。
- 6 名前:ネコの日 投稿日:2007/02/22(木) 22:04
-
件名:祝!
本文:23歳おめでとう。いつか追い越されてしまうかしら。
マサオドキドキしちゃう。
今年は忙しくなるけれど、気合入れて……
- 7 名前:ネコの日 投稿日:2007/02/22(木) 22:05
-
追い越すわけあるかい。冷静にツッコミを入れて、それでも笑ってしまう。
まぁしぃの言葉はいつも優しい。
自分自身にそこまでの思いやりがもてない分、その手のあたたかさは憧れる対象にもなる。
真摯で。きっとメロンの、誰よりもロックな人。
ほころぶ頬を引き締めることすら忘れて、優しい長文を読みきる。
あ。やばい。ちょっと泣きそうかも。
すんとしゃくって、涙をこらえると…あ。着信音。
まだむらっちからのメールが届いてなかったんだ。
フォルダの横に数字の1。むらっちからの、メールを特別な思いで開いた。
仕事仲間。ちょっとだけ、枠を超える、大事な人。
ほんとうはね、日付の変わるまで一緒に居たかったなぁとか思ったけど。
そろそろ仕事も忙しくなるし、自重は大事だという大人の理由でガマンした。
でもきっと、隣に居られなくても、想う強さが変わらない優しい言葉だろう。そう思っていた。
キーを押し、開かれた文面に、一瞬視線が止まる。
- 8 名前:ネコの日 投稿日:2007/02/22(木) 22:05
-
件名:おめでたい。
本文:猫の日おめでとう! にゃぁん
- 9 名前:ネコの日 投稿日:2007/02/22(木) 22:06
- ……。
ん?
一度メールの画面をとじ、もう一度開く。
同じ文面しか映らないのは当然なのだけど、一文だけ。
一瞬ひとみん宛?と思ってみるけれど、カーボンコピーも見つからない。
コシコシと手の甲で視界を拭ってみるけれど、文面が変化するわけない。
あのメルヘン!と携帯のボタンを素早く押して、リダイヤルだけで耳にあてがう。
呼び出しにメロディーコールなんか指定してくれているのは嬉しいけれど、今ばかりは納得いかない。
――もしもし?どうしたの、こんな夜更けに。
いつもよりゆったりとした口調で問われて、さらに気分が複雑になる。
「ちょ、っと。さっきのメール」
――あぁ。あれね。猫の日ですね、おめでとう〜。にゃぁぁん。て。
少しばかり強めに言ってみても、どうやら想定内だったようで、めぐちゃんは慌てもしない。
それどころか、ひとみんの猫話ついでにンナンナする「むーちゃん」口調で返してきた。
軽くあしらわれているのがわかって、思わずくちびるを噛んでしまう。
悪いジョークだとわかっても、やっぱり、特別に言葉が欲しかったのに。
――あゆみ?
こちらの態度に気づいたのか、怪訝かつヒヤヒヤとした感じの声。
耳に届いても遅いんだから。
「もういい。今日は早く寝ることにする。明日ね」
あぁ。つまらないと、子供の拗ねる声。
こういうとき、自分がほんとうにイヤになる。
- 10 名前:ネコの日 投稿日:2007/02/22(木) 22:07
-
――ちょっと。ちょっと待ってあゆみ!切らないで。
携帯を耳から離そうとしたとき、大きく慌てた声が耳に触れた。
それは滅多にない慌てぶりで、強がりさえも引き止める真摯さを持っていたから。
抱き寄せられたように感じたって言ったら、ぜったいに付け上がるから、伝えないけど――。
「な。なによ」
一瞬の胸の痛みに胸元で拳をにぎるのに、さっきまでのおちゃらけはドコへやら。
思いやりと真摯さを詰め込んだ言葉が、電話越しに吹き込まれた。
――直接言いたいんだよ。私のワガママで怒らせちゃってゴメン。
困ったような笑みを浮かべている、その表情がわかる。
直接言いたい。そのささやかな願いが、体の芯から私を幸せにする。
想われてる。愛されてる。そう、思う。
――零時丁度に一人で呟くだけじゃ、やっぱり足りなかったんだ。
自分で呆れるように言いながら、めぐちゃんは小さく息をついた。
――だから、一晩思いを詰め込んで、明日伝えることにする。
変なところで意地っ張りていうか。頑なっていうか。
愛しさを胸に積み上げて、倒れないように抱きすくめる。こんなに好きなの、ぜったいに言えない。
たまには折れようかな。そう行き先をきめて、声にちゃんと向き合った。
- 11 名前:ネコの日 投稿日:2007/02/22(木) 22:08
- 「じゃぁ。明日まで待ってる」
――うん。ゴメンね。
「あやまるなバーカ」
袖をつまむように声をぶつけると、ふふ…と微笑みを伴う吐息。
――仕方がないなぁ。特別に優しいキスもつけるよ?
ニ。とすっかり主導権を握ったような笑みで告げるから、甘えてみることにする。
だって。誕生日だから。それくらいいいでしょ?
「すごく甘いのがいいな。あますぎるのは苦手だけど、めぐちゃんは別だから」
一瞬声が詰まったのは、甘えられると思ってなかったからだろう。
――それは……。善処します。
苦笑まじりに紡いで、明日の約束を交わしてから通話を切った。
今日はちょっと早く寝よう。
早く明日に行きたい。
目が覚めて、仕事場で、その声を受け取るために。
さすがにキスは受け取りにくいけど、それは時と場合を選んでくれるだろう。
今夜観る予定だったレンタルDVDを青い袋に再度しまって、机の上にさしもどす。
明日もまた、いい日でありますように。
素敵な一年を、過ごせますように――。
- 12 名前:ネコの日 投稿日:2007/02/22(木) 22:09
-
おしまい
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/22(木) 22:14
- 柴田さん誕生日記念ということで。
しばらく誕生日ネタが続くかと思いますが、
楽しんでいただけたなら幸いです。
近著に、夢板フリースレ おとなになっても。という短編もございます。
(村田さんと大谷さん バロムクロスな少年の友情)
資がない小料理屋ですが、今後ともごひいきに。
- 14 名前:粉っぽい読者。 投稿日:2007/02/22(木) 22:20
- 早速寄らせて戴きました。
どうもごちそうさまです。大変美味しゅうございました。
またきますね。
- 15 名前:名無し読者さん 投稿日:2007/02/22(木) 22:49
- 素敵な小料理屋の開店、おめでとうございます。
これからちょくちょくよらせていただきますので、
どうぞよろしくお願いします。
まずは好物のしばむらコンビ、ごちそうさまでした。
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/23(金) 17:19
- メロンというお品書きを見て寄らせて頂きました。
4人それぞれのキャラクターがリアルですね、作者さんの愛を感じます。
また来ますね。
- 17 名前:柑橘類 投稿日:2007/02/25(日) 19:48
-
- 18 名前:柑橘類 投稿日:2007/02/25(日) 19:49
-
日付かわんなー。
部屋の中。ぽつりと呟いてみる。
お風呂上りに缶ビール。今日はさすがに奮発して、ちょっとお高めの缶ですよ。おほほ。
大人のおたのしみやねー。これね。ほんっと。
とうとう成人してから五年ですよ。こういう言い方すると、ぜったいに成人式の写真の話をむしっかえされる。
長かったんだか早かったんだか、イマイチ実感ないけども。いいのもう。たくさん写真あるし。
ふるりと乾かしたばかりの頭を振って、中身が半分に減った缶を持ち上げた。
くーっと呷るのに、この炭酸の刺激がね。たまらんのさ。うん。
ぷは。飲みきった空の缶が、テーブルでカコンとかわいた音をたてた。
- 19 名前:柑橘類 投稿日:2007/02/25(日) 19:50
-
知り合いのバンドマンさんからも声をかけていただいたり、いろいろあったけど、誕生日の前祝はほとんど断った。
なぜなら、ペットが遊ぼうと言うものだから、夜からパスポートで目一杯潮風に当たってきたのだ。
寒い。寒いよ海風。さらに北風。
室蘭から出てきて片手を越える年月が過ぎ、寒さには強かったはずのまぁしぃも、体が東京の人になってしまったよう。
今年がいくらあったかいとは言え、寒い日の風には体がちぢこまる。
地元にくらべりゃ東京と沖縄くらいあったかいはずの東京なのにね。さみしいねぇ。
一緒に居ようか?と飼い主面したムラタが言ったけれども、ペットの情けは無用と笑って別れた。
先に電車を下りるむらっちを車窓から見送ったのだが、いつも挨拶が違う。
今日はどうやら敬礼らしい。
一度ギャルソンやら舞台風に頭を下げていたが、それは顔が見えないからヤメたと笑ってたっけ。
小さく手先だけで敬礼を返すと、目はやわりと細まっていた。
さすがはわがペット、なかなかカワイイもんである。
手にしていたネズミーリゾートの小さな袋も、今はテーブルの上。
ちょこんと置かれたその中身は、小さなぬいぐるみ。
――これで24歳のまぁしぃに三人分の最後のプレゼントだから。
そう渡す村田の声に、一瞬目をみはったのだけど「そういうことですので」という余裕の笑みに何も言えなくなった。
なんだって。誕生日前日に行くんだよって話しを、あゆみんにしていたらしいのだ。
そうすれば流れ的に、やっぱり普段の行動を制約しないひとみんにも伝わるわけで。
――当日以後のプレゼントは別ですけど、ってどうやらみんな思ってるみたいだけど。
人の知らないところで企みがなされていたらしい。
白い小さな「くま」なアイツをぶらさげて、部屋に帰宅したわけなのでした。
- 20 名前:柑橘類 投稿日:2007/02/25(日) 19:50
- ちくしょう。みんなだいすきだ。
そりゃ三人とも好きだとか言いたくなるってもんだ。
本命に「サイテーだなお前」と言わしめるほど、雅恵は三人がそれぞれ好きなのです。許してあなた。
や。ちょっとした冗談も含んでますよ?さすがに。
ころんと、大好きなクッションを抱えて床に転がる。
携帯の時計を見ながら、はいカウントダウン。
5…4……
お?微妙にフライングか?と思うメールの舞い込みをかき消すかのように、手にした携帯がいきなり震えた。
ドワァ!って着信ですか。そうですか。と、相手も見ずに通話ボタンを押す。
参ったな。さっき「許してあなた」とか思ったのが災いしたのかな。
ほんとうに零時丁度って、どういう乙女心ですか――?
「まぁしぃ誕生日おめでとー。ってほら、メル鳴かないの?にゃぁ〜んって」
――斉藤さん?ていうか、強引に猫鳴かすな。
腰のあたりでも弄られたのか、ニァ…と嫌そうなか細い声。
そんな飼い主じゃ、元旦の零時丁度に抱きしめたくても、そりゃ逃げるわな。正解だメル。
- 21 名前:柑橘類 投稿日:2007/02/25(日) 19:51
- 苦笑まじりに改めて、携帯を耳によい位置へ持ちかえる。
「おう。ありがとね。って、零時丁度って狙いすぎじゃないかい?」
「だって、そりゃあさぁ。最近ほら、行き来できないじゃん?だったら、せめて零時丁度に…って思ってさ」
ちょっとばかり申し訳なさそうな声なのは、育児に追われる母親の言い分。
あれですかね。バツイチ子持ちと付き合う男の気分て、こんな感じなんでしょうかね。
冗談さておき。
まぁしぃ猫アレルギーなもんで、ひとみんちには行きにくくなっちゃったのよね。
その分会えるときにはちょっと…まぁ……、無粋なことは言わぬが華です。
思いもよらず沸き立った甘さに頬を穏やかにしながら、しかりと言葉にする。
「この前も言ってたけど、ウチらって長い間一緒に居るじゃん?
こういう小さな幸せを大事にしてくれるの、すごい嬉しい。ありがとう」
回線のむこうで微かにのまれた息。
ふ。とこぼれおちる笑みは、自分だけのものじゃない。
- 22 名前:柑橘類 投稿日:2007/02/25(日) 19:52
- 「うん。じゃぁさ、この前の話しついでに、いっそひとのこと嫁にもらってよ」
にぃっと笑いながらなんだろう。
軽い冗談だとお互いにわかってるからこそ、このやりとり。
メロンの記念日のときにでた話を持ち出して、こちらをつついてきた。
「えー。三人いっぺんじゃなきゃヤだなぁ」
ウヒャヒャ。と引き攣った大笑いを放ちながら、先方はきっと体を折って笑ってるはずだ。
手はたたけない。携帯もってるから。
ひとしきり笑い声をあげてから、吐息混じりにこっちに訴えかけてくる。
「ったく、ほんっとサイテーだなぁオマエ」
何度か聞いた言葉に、ニヤリと口角を持ち上げた。
「やぁだもう。知ってるくせにぃ」
ふざけて言い切ってから、ちゃんと伝えるべき言葉は伝えますよ。
「まぁしぃさぁ…」
「でも愛してるって言える相手は、そんなに居ないでしょ。やっぱ」
…。呆れるはずの言葉を押し切るように断ち切ったあとで、押し黙る回線のむこう側。
はぁ。とようやく吐き出された息の奥で、ひとみんの苦笑が見えた。
- 23 名前:柑橘類 投稿日:2007/02/25(日) 19:52
- 「ったくもぅ。そういうところもサイテーなんだよ」
――天然で口説くなっての。明日おぼえてろ?
心外だなぁ。思ったとおりに言っただけで、口説いてなんかないのにな。
あ。しかも、なんか今この人悪だくみしたっぽい。
言葉のわりに怒ってないあたり、お互い様で弱いみたいだね。
サイテーだって英語のスラング並に、好きの裏返しなんでしょ?ね。
だからこその、ウチらって感じもするけど。
「さてと。25歳の最初の電話も奪ったことだし、ひとはそろそろ退散するよ」
――みんなからも、お祝いのメールとか来てるんでしょ?
「んー。なんかさっきから、キャッチとかメール着信のバイブとかで変な感じ」
実のところと、手にしていた携帯の実情を話すとひとみんは小さく笑った。
耳に当ててるのにブーンだチリンだウルサイったら無いのよ。
ふはと陽気な笑い声をあげて、「仕方ないなぁ」と向こうは笑った。
「じゃぁ、まぁしぃのこと、みんなに返すわ」
「どこの不倫OLさんですか、そのセリフ」
笑ったまんま。じゃ、また明日。
携帯なのに小さく手を振って、通話を切る。
通話時間はものの三分。なのに、気楽で気軽で穏やかにもなるのは、相手が相手だからだろうな。
そして通話時間が消えた後には、まぁ家族やらお友達やらのメール沢山。
急いで読み解かなければいけないわけでもないし、どうせ宵っぱりだから時間をかけて読めばいい。
- 24 名前:柑橘類 投稿日:2007/02/25(日) 19:53
-
ひとまず開いたメール。
メンバーからもやっぱり届いてる。
かあちゃんのもあるけど、それは最後のお楽しみにします。うん。
というわけで、大事なメンバーから…と。
件名:おたおめ
本文:まぁしぃ、25歳の誕生日おめでとう。また一つ離れちゃったね…
あゆみんのは相変わらず簡素というか。素っ気無いというか。
絵文字使わないからねぇ。あの子。
無理して使っても、なんか文体が硬派なもんだから似合わないのね。そこが可愛いんだけど。
先一昨日送ったメールの返しも含まれてたり。時間差攻撃ありすぎですよあゆみさん。
おう。と小さくハイタッチして返したくなるような、彼女らしい秘めた闘志を包む言葉たちが並んでいる。
今年はことさら野望とか、目標とか、一個ずつ高い場所にあるかんね。
四人で突破してこうぜー。うん。
納得してメールの画面をとじる。
- 25 名前:柑橘類 投稿日:2007/02/25(日) 19:53
- で。お、ペット村田からもメールあり。
どれ開けてみようか。
――?
一瞬視界を疑う。
コンタクトはまだ外してないぞ?首をかしげるけれども、文面はかわらない。
- 26 名前:柑橘類 投稿日:2007/02/25(日) 19:54
-
件名:文旦よおめでとう!
本文:2月25日生まれのあなた。誕生果は阿久根文旦です。
分類は柑橘類。果物言葉は郷愁・里心・なつかしみ である。
以上。また明日。
だけ。だ。
- 27 名前:柑橘類 投稿日:2007/02/25(日) 19:55
- 思わずテーブルに伏しそうになって、ひとり腕立て伏せで耐える。
あのやろう!と思わず脳内で唸ってしまうけれど、届くわけないので唸れない。
ましてや口に出せるわけも無い。
ていうか、誕生果てなんなんだ。文旦って、えらいでかいなおい。
日ごろの優しさもジョークもわかるからこそ、憎めないズルい女だ。バイバイありがとうさようならだ。
そう言えば、あゆみんはなんか、えらい丸め込まれたとか言ってたな。
恋人相手に「猫の日おめでとう」だけで送ったらしい。
ズルい女に加えて、ひどい女だ。
携帯を手にしたまま、ちょっとばかりの考え事。
よし。これはあゆみんにも連絡を入れて、ひな祭りに軽く仕返しをしてやろう。そうしよう。
後であゆみんにメール入れておくべ。
- 28 名前:柑橘類 投稿日:2007/02/25(日) 19:56
- と。あれ?メンバーでもう一通?
って、さっき電話切ったばっかりの斉藤さんじゃないですか。
件名:言いそこねた!
本文:愛してるよまぁしぃ with love
……。愛してるを重ねてどうすんだ。ほんっとうにウチの斉藤は…。
思わず愛しさに頬がゆるむ。
ツッコミたいけどツッコミどころがわからない…。
ちぇー。可愛いな。相変わらずくちびるの絵文字に、ほくろ付きですよ。
相変わらず灰汁の強い、愛しいメンバーである。
彼女たちと出会わなければ、こんな長い間歌ってたかなぁ?とか思う。
あんな熱い会場にできたかな?とか、やっぱり思う。
だってそれは運命だからとか、同じ時代に生まれたからとか…沢山の糸が絡み合ってできあがったわけで。
こういうことを真剣に考えるから、センシティブとか言われるんだろうけど。
だって。ほんとうにそう思うことを、考えるのは悪いことじゃないよ?
明日になったら、ちゃんと面と向かって伝えないとね。
プーを袋から取り出して、その小さな体をぎゅっと抱きすくめる。
三人分。それこそぎゅーっと。
さて。残りのメールは白いプーさんと一緒に、ベッドで読むことにしましょうか。
そして多くの言葉に返事を出していれば、そのうち寝る時間にもなりましょう。
ベッドに腰をかけ、ふと明日はどれだけ呑まされるのか。と思った瞬間。
缶ビールを開けなきゃ良かったと、ほんのり思った私なのでした。
- 29 名前:柑橘類 投稿日:2007/02/25(日) 19:57
-
おしまい
- 30 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/25(日) 20:03
- 大谷さん誕生日記念。更新いたしました。
彼女の語り口調や感覚、知れば知るほど愛らしくなっていきます。
「四人で結婚しちゃう?」「籍入れてしまう?」
で朝からキーボードに向かって吹きましたからね。
上質のうたうたいで居てくれることを願います。
これからも、ぜひに。
- 31 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/25(日) 20:11
- というわけで、いらっしゃいませ(返レス)。
>14
ご来店ありがとうございます。
和風も洋食もデザートも出せる居酒屋を目指して頑張ります。
またおいでくださいね。あったかいものお出ししますので。
>15
ありがとうございます。どうぞよしなに。
最初に好物を出してしまったら、これから何を出しましょう。
今回の味付けもお口に合いましたら幸いです。
>16
いらっしゃいませ。
素材はかわらないけれど、味付けが違う。という典型例になると思われます。
最近は4人のおしゃべりにすっかりヤられ気味です。抜け出せません。
今後とも、どうぞごひいきに。
というわけで、二品目でした。
みなさまのお口に合いましたら幸いです。 店主
- 32 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/25(日) 20:18
- おお。美味しくいただきました。さすが。
前回といい、一人称ながらに小気味良いリズムで、
>>23のあたりなど、コチラの口元もにやけました。
また寄らせてもらいますね。
- 33 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/25(日) 23:08
- わぁ!本当に大谷さんっぽいですね
私も大谷さんの口調が好きです 「結婚してしまう?」には笑いました。
所々に散りばめられた「小ネタ」が良い隠し味ですね。
- 34 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/26(月) 00:23
- 私も大谷さん口調大好きなんです。
あの声で読んでしまいました。
幸せ。
- 35 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/26(月) 23:09
- 次は耳の記念日でしょうか?
更新楽しみにしています。
- 36 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/03(土) 00:34
- いらっしゃいませ。今日はもうネタが決まってますのでね。
お料理は後にして、先にご挨拶をさせていただきましょう。
>32
一人称のリズムは独特になりますね。
地の文とはかけはなれるので、たまに綴ると新鮮です。
一人称部分はなるべく、日記などと照合して口調に無理がないようにしてます。
メンバーの会話リズムもラジオ参照です。
>33
「結婚してしまう?」「四人で籍入れちゃう?」でしたね。
この子たちアホだー!と感涙しました。可愛すぎます。
その後鍋をつつきながら未来を誓いあうだなんて。現実は妄想を越えますねぇ。
現実のネタを織り込むのが大好きなので、これからも美味しく混ぜ込みたいと思います。
どうぞごひいきに。
>34
あの声で読んでいただけるとは光栄です。
口調・声ともに、彼女の語りはやわらかくて心地よいですねぇ。
発言にて時折真理を突き刺したり、果てなく優しかったり。
感受性豊かな良い子だなぁと思います。
>35
えぇ。ご察しのとおり、耳の記念日でございます。
おかげさま、耳の記念日の記述は回避させていただきました。
ち、小さな意地です。とほほ。
お待たせいたしました。では、本日の更新です。どうぞ。
- 37 名前:あかりがついたら 投稿日:2007/03/03(土) 00:34
-
- 38 名前:あかりがついたら 投稿日:2007/03/03(土) 00:35
-
三月三日。日本全国ひな祭り。
日付がかわり、もたらされた祝辞の数々に目を落とし、携帯のメール一覧を見ながら、しばらく途方にくれる。
誕生日おめでとう。という旧友、および両親や兄のメールなどはいい。
ハローに所属する友人や、慕ってくれる下の子たちの愛らしいメールも良い。
メンバーのフォルダに詰め込まれた、まるで自分自身がネタとして書いたようなメールタイトルはどうしたものか。
携帯を持ち上げ、持ち下げ、横にしてみても、縦にしてみても――縦は普通だ――文面は当然かわらない。
『人の嫌がることはしてはいけません』と、小学校の頃は周囲の少年たちが言われていたものだが。
いまさら、この年齢――本日めでたく25歳+1歳になってまで、身につまされるとは思いもせなんだ。
細い肩をかっくりと落としながら、なかなかの切なさに床に転がる。
一応昼すぎまでは眠れるけれども、これからどうしよう。
時計は前日25時。性質的にはまだまだこれから活動時間なのだけれども。
どれくらいの活動時間範囲内かと言うと、世間様で言うところの21時くらいのものだろう。時間がありすぎる。
どうしようか。いっそゲーム機の電源でも入れてくれようか。
…。その前に一言だけでもメール入れておこう。
- 39 名前:あかりがついたら 投稿日:2007/03/03(土) 00:36
-
「申し訳ございませんでした。村田めぐみ26歳。色、濃く、反省しております――」
- 40 名前:あかりがついたら 投稿日:2007/03/03(土) 00:36
-
- 41 名前:あかりがついたら 投稿日:2007/03/03(土) 00:36
-
めずらしく村田が遅い。
というより、実は村田だけ時間をずらして集合時間を伝えてある。
久方ぶりに一緒にご飯を食べに行ったり、改めて誓いを立ててみたり。
最近、さらに輪をかけて仲良しなメロンのサプライズである。
昨日あれだけ落としているのだから、今日の仕掛けはきっと巧く行くだろう。
という話から、「いったいあんたら、どこまで落としたの?」という斉藤瞳の声に次いで、誕生日メールの話になったのだった。
「あゆみんは何を送ったわけ?」
「んー?ふつーに。ひな祭りおめでとー。って、ホンットに、一言ッだけっ」
会話を耳にして、斉藤瞳は鏡に向かいながら奥歯を噛む。
だって。この会話、面白すぎるんだもん。
「で?まぁしぃは?」
「三の日おめでとう。って。なんか微妙な協会の記念日があるらしくて」
「三の日ぃ?そんなのあんの?」と怪訝な声をあげてから、あゆみが盛大な笑いを放った。
「ていうか。誕生果っていうのがさ、ちょっと調べてみたら、なんか教えるのもったいないくらいシャレててさ?
なんか悔しいからそれでいいか〜って」
「それでいいかって。あんたたち本当に逆襲したの?」
椅子の背もたれに振り返ると、「「うん」」と素直なハーモニー。
あまりに素直なものだから、笑いが零れ落ちた。
- 42 名前:あかりがついたら 投稿日:2007/03/03(土) 00:37
- 逆襲というのは、この二週間の間におめでたいコトが連続するメロンの内輪話。
誕生日を迎えたあゆみと、雅恵のそれぞれのおめでとうメールに際し、村田がちょっとした「おいた」をしたのである。
あゆみの場合は猫の日に関してだけの文面。
雅恵の場合は誕生果というネタの文面だけ。
メンバー同士のおふざけだとわかっているからこそ、逆襲してやろうと口裏を合わせていたらしい。
あゆみがその後の顛末を紡ぐ。
「で。ね。一時くらいかな。反省文届いたよね」
――雅恵ちゃんと一斉送信になってたから、あ、これ同じ文面なんだって思って。
あゆみの言葉に、ふは…と雅恵が苦笑する。
「潔い文面が余計に、ショックっぽかったよね。あれね」
うんうん。頷きあう二人の姿に、瞳は肩をすくめた。
これは逆襲する妹たちが悪いのか、いたずらしちゃった長女が自業自得なのか。
笑っちゃ悪いとは思うが、高確率で後者だろう。
「めぐちゃん、ちゃんと来るのかなぁ」
素直な真心に近ければ近いほど、メンバーの口調はやわらかになる。
それはいつでも変わらない。
不意にこぼれたリーダーの声に、きょとんと視線をむけた。
- 43 名前:あかりがついたら 投稿日:2007/03/03(土) 00:37
- 「えぇ?拗ねちゃったり?」
あゆみの言葉に、そう。と頷く。
「もういいよ…って、ぐずってみたり?」
雅恵の声に、そういうこと。と、再度頷く。
……。末っ子と三女は視線を見合わせ、「ありえないってことは無いのか」と眉を寄せた。
好不調に波のある長女だから、支える時には三人の腕が必要なのだけれど。
…どうしたものか。腕を組む。
急に大人しくなった二人を見やって、次女が笑った。
「じゃぁ、私がメール入れておくよ。
最近あったかいからって、寄り道しないでちゃんと来いよー?って。
それなら、二人のいたずらもかかわらないでしょ?」
ん?と首をかしげて問うのに、「よろしくおねがいしまぁす」あゆみと雅恵が小さく手を合わせる。
ほんと。この二人は…。苦笑を止められない。
二人の前で携帯をとりあげ、さっくりとメールを打ち込む。
長めのスカルプチャーでボタンを打つのも、もう手慣れたものだ。
送信したあと、画面をしかりと確認し、ぱたりと携帯をとじる。
「これで大丈夫でしょ。あとは、むーちゃん来るの待つしかないって」
――その間にケーキ用意と、あとなんか炭酸用意しておくか。
次女の発案にはぁいと手をあげ、妹たちが腰をあげる。
このときの誰も、長女村田の慄き具合など知る由もなかったのである。
- 44 名前:あかりがついたら 投稿日:2007/03/03(土) 00:38
-
- 45 名前:あかりがついたら 投稿日:2007/03/03(土) 00:39
-
電車通勤グループも七周年。手には文庫本。
横並びのシートの隙間におさまる細い体をあずけて、睡眠時間の少なかったことを自力でうやむやにする。
考え込んでしまうのは、実のところの悪い癖で。
その一。ネタが滑った。
その二。仕込んだネタが不発だった。
その三。さらにフォローまでもダダすべりで、収集つかなくなりそうだった。
など、など。主にネタ関連で悩まされる時に、睡眠時間まで削ってしまうことがある。
今日だってそう。結局。怒らせてしまったという過去の事象に、縛られてしまっているのだ。
じゃぁしなきゃ良かったじゃない?という至極もっともな言い分もあるが。
翌日の反応などを見る限りには、笑って済ませてくれていたと思ったのに。
これでむこうがネタだから〜と明るく笑ってくれても、きっと自分は笑えない。
ごめんなさいと謝ることしかできないだろう。
手にした文庫本の文字を追う気力もなくなり、こつ…と本の天を額にあてる。
これでも繊細なんですよ。
メロンラウンジで滑ったあとは一ヶ月の不眠症ですよ。
自分だけでコケてしまったのなら自らで被ればいいのだけれど、今回は相手が居るわけで。
参った。薄っすらと息を吐いて、電車のオフホワイトに塗られた天井を仰いだ。
- 46 名前:あかりがついたら 投稿日:2007/03/03(土) 00:40
- 瞬間。
ブルブルルル…と鞄の中で携帯が振動した。
完全に悩み事に気を取られていたせいか、不意にもたらされた外的衝撃に大きく肩をすくませてしまう。
ヘタしたらビックリしすぎて、数センチは腰が浮いたかもしれない。
…なんか、隣に座ってる人の視線が痛い。あいたたた。
私は何事もなかったかのように平静を装い、自らの鞄の中から携帯を取り出す。
開いた画面にはメール着信。ひとみんからだ。
昨日日付のかわるころにも、特別ライブ中継でメルにゃんプレゼントがあった。
一時間ちょっとの間に突き落とされると知らなかった私は、メルにゃん相手にンナンナしほうだいだったのだが…。
幸せだったな。村田めぐみ。一瞬だけど…。
青灰色の柔軟な獣を思い返し、どれ。と画面を展開させると、いたって普通の文面。
件名:おはよー
本文:あんまり寒くないからって、寄り道して遅刻しないようにね?
またあとでねー。にゃぁん。
- 47 名前:あかりがついたら 投稿日:2007/03/03(土) 00:40
- …。
なぜかしら、読まれているような気がして苦笑する。
びっくりして飛び上がった数瞬前など、まるで夢幻だったかのように胸があったかくなる。
もつべきものはメンバーだ。ありがたい。
「寄り道なんてしませんよ。今最寄につきます。またあとで」とだけ、簡潔に返して携帯をしまう。
ひとまず。今日の仕事場に着いたら、なによりも先に二人に謝ろう。
そうして自分の中で自分がフラットになるまで、今日のお祝い気分は封印しよう。
さすがにね。
電車がホームへ滑り込む。
減速する車両の中、ゆっくりと立ち上がり、降りなれた駅にいつものように足をつけた。
ただし。いつものスタジオとは違うから、そこは用心しなければならないだろう。
慎重に降り口をえらび、改札を潜り抜けたのだった。
- 48 名前:あかりがついたら 投稿日:2007/03/03(土) 00:40
-
- 49 名前:あかりがついたら 投稿日:2007/03/03(土) 00:41
-
「さて。これで万端整ったのかな?」
「ちょぉっと、いーんじゃなぁい?これー」
パンパンと一仕事を終えたかのように、下の子二人が手をはたく。
「ねー。ケーキも選んで買ってきたんでしょ?」
「ん。この前のコンボイでチョコだったから、生クリームでご用意いたしました」
瞳の問いに、二人はきちりと答える。
簡単なサプライズ用に…とは言え、見栄えも豪華。
ケーキ用意よぉし!炭酸用意オッケ〜。電気落とす準備も大丈夫。
マネージャーさんに一役買ってもらって、打ち合わせと称してろうそくに灯をつける間を作ってもらう段取りもしたし。
「さっき駅に着くってメール来たから、そろそろだと思うんだけど」
と。瞳の携帯に、マネージャーさんから作戦開始メールが入る。
これでろうそくの灯をつけ、ノックの音がしたら電気を消す。
ドアを開けた瞬間、部屋の中で見えるものはろうそくの灯りだけだ。
きっと驚く。
「っと、はやくはやくッ」
小さな声でせかすのに、雅恵はライターで年齢分のキャンドルに灯をともしていく。
コンボイの時には大きいの二本に、小さいの六本だったため、ある意味、燃え盛る松明状だったケーキ。
今回はスマートに、大きいのを五本と、小さいの一本でまとめてみた。なかなかスッキリしている。
ココン。と小さなノックの音。
ニヤリとした笑みをかわし、あゆみが灯りのスイッチを消した。
「「はぁい「どうぞー」」」と綺麗なハーモニーをのせた返事が、ドアの開くのを招き入れる。
さぁ、どんな顔をするのか見ものだ。
と、思っていた三人を待ち受けていたのは、予想外の展開だった。
- 50 名前:あかりがついたら 投稿日:2007/03/03(土) 00:41
-
- 51 名前:あかりがついたら 投稿日:2007/03/03(土) 00:42
-
「なにをそんな浮かない顔をして」
到着するなり開口一番、マネージャーが苦笑した。
どうやらひとみんから顛末を聞いているのか、事情は知っている様子。
「いやぁ。ちょっと、ネタが滑ってしまってねぇ。
おめでたい日のはずなのに、寝つきがわるかったんですよ」
帽子のトップをカシカシと指先でかいて、自分自身の呆れも隠さずに苦く笑う。
「ま。そんなに気にしなくていいんじゃないの?」
「普通ならそう思うんでしょうけど。やっぱ、何より先に謝らないと」
まだ他のメンバーは来てないらしく、村田が最初だよ?とマネージャーは軽く告げた。
おかしな話だ。ひとみんは人に遅刻するなと言っておきながら、自分がゆっくりだとは。
確かに。自分は居住区と職場が遠いというわけでもなく、比較的近いほうだし。
なにより、他に手をかけていることもないので、品行方正遅刻なしにたどり着く。
どちらかと言えば、早めに着くほうだ。
おかげさま逆算して集合時間ギリギリまで眠っている悪癖もあるが、今日はさすがにちゃんと起きた。
諸事情噛み合わて眠れなかっただけなんですけどね。
打ち合わせと称して先に別室に行き、進行表に目を通した。
ふと連絡があるのか、携帯を動かすマネージャーを横目に、書類にかじりつくけれども。
一通りの話をきいて、あとは村田から伝えてね?と任される。
あいはい、合点承知いたしやした。
- 52 名前:あかりがついたら 投稿日:2007/03/03(土) 00:42
- 「じゃ。控え室いこうか」
このスタジオ初めてだもんね――。とマネージャーの先導であてがわれた部屋へ。
なんだかガラス張りの吹き抜けがあり、デザインビルでも随分と洒落ている。
こういう場所で仕事ができるっていうのは、職業の特権なのかしらねぇ。と、改めて感謝するのだけれども。
気づけばマネージャーの足は部屋の前で止まっていて、倣うように歩みをとめた。
ココン。という軽いノック。
「「はぁい「どうぞー」」」
返ってきたのは、三重唱。
あれ?三人ともまだ。って、言ってませんでした?
目を円くして見るマネージャーの顔はどこかしたり顔。
開くドアの奥には、暖色の小さな灯がぽわんとしたぬくもりを放っている。
「ほら。気にしなくて平気だったんじゃない?」
ポンと肩を押され、戸惑いばかりが顔を持ち上げる。
え?え?え!?
「ハッピーバースデーむらっちゃん!というわけで、先にろうそく消して!」
「燃えるっていうか、ケーキが燃える!」
慌てる声に背中を押されて、ひとまずろうそくの灯を吹き消したら。
その瞬間、拍手とともに部屋の電気がついた。
普通に祝福気味のメンバーの表情。
えっと。言ってもいい?
なんか、がっちり覚悟をしていたせいか、足から力が抜けるんですけど――。
- 53 名前:あかりがついたら 投稿日:2007/03/03(土) 00:43
- 気づけば床の上、ぺたんと座りこんでしまった私を妹たちが一度に取り囲んだ。
「ちょッ、むらっち?」「どうしたの?」
だってさぁ?だってさー?
「あんな風に怒ってたんだって思ってたらさ?
普通に祝ってもらえるわけないって思うじゃぁぁん」
張り詰めていた気持ちの糸がプツンと切れて、不安定だった足場がストーンと落ちる。
華麗な着地だったのかもしれないが、実際は床の上に座り込んでいるわけで。
あー。どうしよう。
いまさら思い知る。
こんなに不安に思ってたんだ――。
涙が出てくるほど。
「あゆみちゃんも雅恵ちゃんもゴメンねぇ…」
いまさらながらの謝罪を、至近距離で二人が受け取った。
「ちょっと、泣かないでー?むらっちー」
――逆になんか、そんな気にしてると思わなくて。泣かせちゃって…。
「や。なんか、すごい複雑怪奇なんだよ。
謝らなきゃイケナイのと、嬉しく思っていいのか悩んでるのと…」
帽子を取ってしおしおと肩を丸めるのに、あゆみが真正面に座り込む。
オロオロとした表情は、いつもの強気さを覆い隠してしまって、愛しさも増す。
ハンカチで目頭を押さえてくれるのに、自分で笑ってしまうのだけれど。
「ったく。しゃぁねぇなぁ、もー。
嬉しくっていいに決まってるじゃん。誕生日なんだからさぁ」
横に立ってるまぁしぃの手が、髪の毛をわしわしと撫でてくる。
「ほんっとさぁ。メロンってファンも特異だけど、メロン自体妙なグループだよねぇ」
コツンと頭を指先で突いて、ひとみんが笑う。
- 54 名前:あかりがついたら 投稿日:2007/03/03(土) 00:44
-
手荒い前夜と、穏やかな祝福ではあったけれども、こうして25歳+1歳の誕生日はしかりと訪れた。
これから仕事をこなして、さらにたらふく祝われるのだろう。
お腹一杯。いや、喉いっぱいになるくらいには、おめでとうやらどうやら言われるはずだ。
「じゃぁ、改めて仕事までの時間仕切りなおししようぜー」
と、まぁしぃが後ろから私の体を抱き起こす。
救護されてるみたいだな。そう思った瞬間、同じ理由で吹きだした三人もろとも床にひざまずいた。
抱き起こされるどころか、体勢が崩れてますがな。
仕方がなし。自力で立ち上がり、他の三人を両手で引き起こす。
まるでピッチで戦士たちをねぎらうキャプテンみたいだな。立場はまったく違うけれども。
「じゃ、改めまして!「「誕生日おめでとー」」」
ひとまずアルコール抜きで饗される祝杯のため、用意された炭酸の抜ける音がこの上なく心地よく感じる。
きっと、メロンだからなんだろうなと思ってみた昼下がりだった。
改めて誕生日おめでとう私。許してくれてありがとう二人とも。
もう後ろ髪は引かないよ。なので、この先もしないとは言い切りません。
みなさん?イタズラするならばくれぐれも、後を引かない程度にしましょうね――。
「むらっち、今なんかよからぬこと考えなかった?」
「いや!?滅相もございませんですよッ」
あゆみん、対私専用だとは言え、勘、鋭すぎですよ…。
- 55 名前:あかりがついたら 投稿日:2007/03/03(土) 00:44
-
おしまい
- 56 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/03(土) 00:45
-
三品目、あかりがついたらを更新しました。
村田さん誕生日おめでとうございます。
ちなみ。大谷さんが書くのを渋った村田さんの誕生果ですが、
イエローマンゴー(カラバオ種) 分類:トロピカル
果物言葉は魅了・芳潤でありました。
文旦がどうこう言うわけではありませんが、確かに教えるのははばかられますね。
いつもと違って地の文体が増えてますが、
これも味付けの一環ということでご容赦いただけましたら幸いです。
読んでいただいてありがとうございました。
次回のご来店もお待ちしております。 店主
- 57 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/03(土) 23:05
- 弱っている村田さんが目に浮かぶようです。
いやぁ〜メロン記念日って本当に良いグループですね
- 58 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/05(月) 19:28
- うわーすっげ好きですこの話
悪戯し合ってて気も遣い合っててなんかもうね、いいですねメロン
- 59 名前:ハイドアンドシーク 投稿日:2007/04/17(火) 21:15
-
- 60 名前:ハイドアンドシーク 投稿日:2007/04/17(火) 21:16
-
一段と小麦色。
着替えの風景――鏡越しのソレを視界の内側にしながら思う。
低温火傷とかふつーに言ってはいたけれど、あれって度がすぎると中まで焼けちゃうんだよ。
けっこう音声軽く言ってたけどさぁ。垢すりだけで済むならいいけど、さすがに心配もするって。
つうか、いくらイベントで楽しい嬉しいって、わかるよ?わかるけどさぁ。
背中見せることねぇだろう。
ったくもう。ファンサービスも過剰やっちゅーね。
自分は自分であんまり眠ってないもんだから、思考がよろしくない方向へ向いてしまう。
ひとみん司会の時には、思わず「モエー」とか発言しちゃってね。
控え室に戻ってきてから「モエーはないでしょうよ」とペットに言われる始末だし。
でもだって、ひとみんの制服だぜ?萌えるだろ?
あ。それは私の趣味丸出しですか。そうですか。
いいじゃんねぇ。ブレザーにルーズですよ。可愛いじゃぁん。
- 61 名前:ハイドアンドシーク 投稿日:2007/04/17(火) 21:17
-
つぅか、仕方がないじゃんね。
タイプの違う、まったく違う場所で育った、同い歳。
ギャルになりきれなかった自分と、突き抜けちゃってギャルだった彼女と。
コンプレックスも、リスペクトも綯い交ぜになった、不可思議な連帯感。
すでに親愛なのか愛情なのか、熟れ寿司みたいに貴腐しちゃった感情。
本当に好きな人って、そういうもんなのかもなぁ。
いつまでたっても、どっか好きなまんまなのかもしれない。
小さなコトにイチイチ気づくのは、気にしないで居られないから。
背中合わせにお互いの見える方向を専門にみつめて、その温度で確かめあってるような。
……。美化しすぎか。
まぁ。なんだ。好きなものが多いのは幸せです。
どこに行っても幸せを身近に感じられるだろうから。
でも。本当に必要なものは、多くない。
まぁしぃの場合は、ぜったい、音楽。
そして……。心のどこかで、永遠に「敵わない」と思っているこの心とかね。
見え隠れするその彼女の気持ちと、手数を明かさないこの心とを。
不器用に、すりあわせていけたらいいんだ。
そう、いつも思ってるんだけど。
- 62 名前:ハイドアンドシーク 投稿日:2007/04/17(火) 21:17
-
- 63 名前:ハイドアンドシーク 投稿日:2007/04/17(火) 21:18
-
「っと。やっば、まぁしぃコレ取って」
ジャージ着込んで一段落。
声の方向を見れば、ひとみんが背中のファスナーと格闘している。
なんだ?見つめると、せっかくのネイルがファスナーにひっかかったらしい。
オシャレが本末転倒気味ですな。斉藤さん。
って――?
「なんでわたし…」
自分がたどり着くよりも前に、あゆみが立ってて、むらっちだって椅子に座ってるじゃん。
「取ってくれるでしょ?」
どこか不機嫌な声で言われて、なんだい逆ギレかよと言いかけて…。
不意に雑誌で口元を覆い隠したペット村田に気づく。
ハタ!と思いついてあゆみんを見れば、同じタイミングで後ろを振り返りやがる。
えぇっと…。もしかして?
「そうだ、むらっち喉渇かない?」
ちょ!ま!あゆみん、取ってつけたように言うな!
「あぁ〜、そういえば!刺激が足りないって思ってたところでねぇ。
ちょっと炭酸でも補給してこようかしらぁ」
うお!待てこらペット。ニヤニヤして頷いてんじゃないよ!
先にさっさと着替え終わった二人が、そそくさとドアのほうへと歩んでいく。
マジですか。これで置き去りかい。
――はーい。中はまだ着替え中ですよー。
「札替えておくからね〜」
なんて。そんなところで連携プレイ見せなくていいよ…。もう。
- 64 名前:ハイドアンドシーク 投稿日:2007/04/17(火) 21:18
- 二人が出て行ってしまった後、一瞬立ち尽くしたのだけれど。
「で、取ってくれるの?」
困ったような、どこか嬉しそうな顔で言われて、しぶしぶ近寄る。
「なんでアクセサリーの類を外せて、これで引っかかるかなぁ」
見れば指先は真っ赤。なんだ、アクセサリを取り外すのに苦労した形跡。
ファスナーにたどり着くまで、どれだけ苦労してんのさ。まったく。
言えばすぐに取ってやったのに。
自分の短めのネイルならばいとも簡単にほどける呪縛。
ラインストーン一つがファスナーの金具にひっかかっていた。
不自然な体勢の腕を解放してあげると、大きく肩で呼吸をひとつ。
そのままひっかかっていた手を持ち上げて、しげしげとネイルの損傷具合を確認している。
確かめる前に言うことあるでしょうよ、お姉さん。コラ。
眠ってないことから不機嫌が頭を持ち上げようとした瞬間、くるりとチューブトップだけになった肩がふりかえった。
「ありがとね」
って。あぁ…絶妙のタイミングでありがとうだって。
腹立ちそうな気分は、いったいどうすりゃいいって言うのさ。
口元をもごりと動かしたままコトバをさがしていたのだけれど、その声は呼吸ごと小さく一度ふさがれて。
思わず片手で、口元を覆ってしまう。
- 65 名前:ハイドアンドシーク 投稿日:2007/04/17(火) 21:20
- 「なによ。その、イマイチ薄い反応は」
「だ。だって、普通キスする、か?こ、こういう…」
な、なにをいまさら自分は照れてるんだ。と、自分でツッコミを入れたくなる。
「眠ってないんだから。疲れてるの丸判りなんだし、キスぐらいされときなって」
確かに、眠ってないのはほんと。一時間しか寝てない。
疲れてるのは、まぁ四回まわしだからそりゃ、みんな同じ様に疲れてるけど楽しんでる。
最後の文言。イマイチ、納得……できないっていうか、したくないっていうか。
「栄養にはなるでしょ」
トドメを刺すように。ニヤリとくちびるを持ち上げて、決め付けるような口調で彼女が笑う。
そのこぶしで、トンとこの胸元をたたく、仕草の姉貴っぷりのよさったらないし。
否が応でも納得せざるを得ない。
一度のキスが、至福の栄養剤になること――。
ちくしょう。読まれてる。
悔しいことに、こうなったらもう、降参するしかないんだよね。
今までの、経験則。長い長い積み重ね。
「あと二回なんだし。いっちょ乗り越えようぜー!ってね」
ニシシと歯を見せて笑うのに、思わず苦笑しながら。
突き出された拳をそっと包んで、そっと近づく。
近づいて、離れて。
呆然とする表情に向かって手をのばし、子供にするように髪をくしゃりと撫でた。
- 66 名前:ハイドアンドシーク 投稿日:2007/04/17(火) 21:20
- 「で。ひとみんも栄養足りる?」
「う…、ぅん」
半端な受け答えになった彼女を人事のように笑いながら、自分もジャージのファスナーをもちあげた。
外のケータリングでなんかつまんでこよう。
あわよくば、炭酸でも奪ってこよう。
「ケータリング行くけど、一緒に来る?」
きっとさっきより疲れが取れた顔をしてると、ペットはニヤニヤするんだろう。
どうせ同じように疲れを癒してるくせしてさ。
ドアを開けようとする自分に追いついた彼女の手をとって、一緒に外へ出た。
短い休憩時間の中で、確かな休息を得る。
普通なら至極難しい技であるはずのコトも、このメンバーだからできるんだろうね。
背中合わせもいいけど。
ときどき手を繋いで居れたらいい。
背中合わせのかくれんぼだけで終わらない。
遊んだ帰り道に手を繋ぐ子供のように、満たされた気持ちで繋がれる、二人で居れたらいいなって。
改めて、そう思った。
- 67 名前:ハイドアンドシーク 投稿日:2007/04/17(火) 21:21
-
おしまい。
- 68 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/17(火) 21:25
- 四品目 ハイドアンドシーク
大谷さんと斉藤さんをお届けしました。
ちょっと洋酒の利いたソルベみたいなかんじで…。
すいません、調子にのりました。
最初に浮かんだのはレビューの時の、焼きむらの話からでしたが。
日曜日の大騒ぎがとても面白かったので引っ張ってきてしまいました。
ご笑覧ください。
次回のご来店もお待ちしております。 店主
- 69 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/17(火) 21:29
- と、いうわけでいらっしゃいませ。
>57
弱りきった村田さんは書くのが楽しかったです。
ツッコミなどを受けたときの、苦笑いも好きです。
……某所で見たスキップ!に悶絶する村田さんが面白すぎました。
そういうノリも書いていきたいものです。
>58
ありがとうございます。
好いていただけるとこの先の経営(笑)にも勇気が湧きます。
この子たちの「お互いリスペクト感」が大好きです。
今後ともごひいきに。
- 70 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/04/17(火) 22:22
- 次の誕生日は空いちゃうしなー、と思っていたら。
素敵な一品、ありがとうございます。大変おいしゅうございました。
この二人は見ていてホント「年期の入った夫婦だよなあ」とにこにこ
してしまいます。言葉が足りないように見えても、その実、奥深いところで
しっかりお互いの手も、心も重ね合っていて。
足繁くおじゃましますので、次の営業日も楽しみにしております。
- 71 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/18(水) 20:35
- 斉大って熟年夫婦みたいでいいですね
斉藤さんが大谷さんの事を「アンタ」と呼んでたりしますしね♪
「スキップ」の映像はアンフォゲッタブルのイベントでも公開してましたね
やはり村田さんは弱ってましたww
また寄らせてもらいます
- 72 名前:願い言 投稿日:2007/07/02(月) 23:40
-
- 73 名前:願い言 投稿日:2007/07/02(月) 23:41
-
仕事から帰る道すがら、ペット犬谷とひとみちゃんと三人で散歩に興じている。
歩きなれる犬谷はリードを引っ張るごとく、先頭を意気揚々と歩く。
本当に飼い主とパートナーシップをとれる犬は、半歩後ろで歩くはずなのだがどうやら育て間違ったらしい。
すっかり蒸し暑さだけが追い越している夏の様相に、私村田の体からは水分も蒸発してしまいそうである。
バッグから時折ペットボトルを取り出しては、持参品だけで追いつかなかった潤いを取り戻すために口にした。
夜の気配。
アスファルトから匂う、湿った空気。
もう遠くなってしまったはずの、懐かしい世界に思わず目を細める。
たとえばそれは、期末試験後だとか放課後だとか。
ジャンパースカートの制服を脱いだ後から始まる、学生同士のレクリエーション。
制服そのままだって繰り出すときには繰り出したけどね。
隣に居ない彼女の温度も一緒に、思い出すように時間を思う。
- 74 名前:願い言 投稿日:2007/07/02(月) 23:43
- よくはしゃぐ児童公園を通り過ぎ、しばらくの夜道を行くと不意にヤナギのようにしなだれるモサモサが目に入る。
近づくにつれて黒のなかに光が反射して、その正体がナニモノなのか悟れた。
折り紙の輪を連ねたレイに、金銀折り紙のお星様。
ヒラヒラとそよかな風を受けてさざめく、たくさんの短冊たち。
「あー。七夕飾りぃ。もうそんな時期かー」
気づけば幼稚園の低い門扉にそう様に、大きな竹飾りがそびえ立っているではないか。
リハーサルをスウェーデンリレーのように複雑に綯いで繰り返す生活を送る我々は、必然的に歳時記というものが遠くなる。
三歩ほど遅れて歩くひとみんが追いついて、先にたどり着いていた犬谷と上を見上げた。
- 75 名前:願い言 投稿日:2007/07/02(月) 23:44
- 「やー。子供の字だねー。可愛い」
「やっぱアレかね。ヒーローになりたいとかあるのかね」
短冊にこめられた小さな願い事。
街灯に淡く照らされた文字が、薄っすらと内容を伝える。
絵馬とかじゃなし。読んだら願い事をかなえてくれなくなるとか、そういうコトはないだろう。
子供の希望を踏みにじるのが、大人に夢を与える商売の人だとは芳しくない。
それでも純粋に願い事を書き綴れる子供の字は、微笑ましいことこのうえなかった。
「おにくたべたい」とか「メイドさんになりたい」とか。
メが英数字エックスに見えそうな、ギャル文字真っ青の難読モノもある。
読解も楽しそうだが、今はやめたほが賢明だ。
というか。待て諸君!とツッコミたいものはあるが、まぁ、時代なんだろうな。
ひみつのアッコちゃんのコンパクトが欲しかった我々と、さほど変わらないのだ。
きっと。
この願いを綴った子供たちが、大人になったときにも。
- 76 名前:願い言 投稿日:2007/07/02(月) 23:44
-
「なんかさ。これ、夜にひっそり短冊下げにきてもバレそうになくね?」
大谷くんの無理な言葉と。
「えー?無理だって。字でバレるっしょ」
素で受け止めるひとみちゃんと。
内緒にならない声量で会話を繰り広げる二人の肩越しに、ぼんやりと月の色。
公園があの位置で、こっちに歩いてるってことは…こちらはあの駅のある方角で――。
今頃一人部屋へ帰り着いているだろう、その表情を想って奥歯で微笑みを噛み殺す。
ためしに紡いでみるのもいいかもね。
彼女へ向かって。
声にも言葉にも、文字にもならぬ願い事を…。
そして試しに聞き出してみるのも面白いのかもしれない。
たとえば、クリスマスのプレゼントを探るように。
- 77 名前:願い言 投稿日:2007/07/02(月) 23:45
- 「なんならさぁ二人とも、利き手じゃないほうで短冊書いてみたら?そしたら、案外イケそうじゃない?」
この心根の溢れぬように、抑えきれぬ微笑を冗談へ綯いで差し出す。
幸い、笑みは声の中にだけほどけて、彼女たちには見えはしない。
くるり。この発言に振り返ってから、ひとみちゃんが体を折って笑い出した。
おやおや。犬谷も楽しそうに、ニカリと表情にしわを寄せて。
「そりゃぁ、なぁ。利き手じゃなけりゃ、ミミズののたくったような字にはなるだろうけど」
「つぅかむらっちゃん、よく考えるねそんなこと」
笑いのツボに入られたのか、斉藤さんはしゃがんでまでウケていらっしゃる。
ヒットマン村田襲名ってトコかしらね。
- 78 名前:願い言 投稿日:2007/07/02(月) 23:46
- 「でもほんとにやっちゃダメよ?こんなピュアなお願いなんか書けないんだから」
「そりゃそうだよ。」
夜なのに。住宅街なのに。
少しだけ時間を巻き戻したように、当時まだ知り合っても居ないはずの彼女たちと過ごす夏の夜。
「でも、この時期に七夕ってのは、やっぱり慣れないねぇ」
仙台八月だからさ。
「あー。それは言えてるわぁ」
郷里の祭を思い描いて。
ほんの小さな時間錯誤に、足元のアスファルトを一度だけ靴底で蹴った。
- 79 名前:願い言 投稿日:2007/07/02(月) 23:46
-
おしまい。
- 80 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/02(月) 23:47
- 五品目 願い言
夜の帰路と散歩という素敵な世界を実際に見せてくれた三人をお届けしました。
あぁ。現実が妄想を越えていく(苦笑)。
そろそろカレンダーでは七夕ですが村田さんの地元は旧暦のお祭りですからね。
ちょっとした錯誤とセンチメンタルがあるだろうという推測でした。
短いけれども、生ぬるい夜の日常のお話です。ご笑覧ください。
- 81 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/02(月) 23:48
- いらっしゃいませ。久方ぶりの営業日です。
みなさまをしかりとおもてなしできますかどうか。
ショットグラスに醸造酒という趣で、呷っていただけたら幸いです。
…斉藤さんの逆上がりはときめきました。
>70
年期の入った夫婦という二方ですが、自分はまだまだ勉強不足なので。
じっくり観察していけたらなぁと思います。
ブログの端はしで現れるその関係にときめきますね。
お祭り屋台だったり。可愛い子たちだ。
>71
灼熱のDVDでの「サイテーだなおまえ」から、もうメロメロだったりします。
斉藤さんが時折キラキラしたフィルターをかけてる感じもして、そこも可愛いと思います。
私も同日場所にてスキップのレッスン映像を拝見しました。
リアル _| ̄|○ だった村田さんが愛しくてたまりません。
不定期営業ですが細々と続けてまいります。
今後ともごひいきに。 店主
- 82 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/07(土) 18:00
- 情緒溢れるお話ですね、まさに村田さんという感じがしました。
すっかり忘れてましたが世間は七夕なんですね
読んでいたら何だか涼しくなって来ました(−v−)Ф))
次の営業日を楽しみにしております
- 83 名前:からめて。 投稿日:2007/08/10(金) 21:45
-
- 84 名前:からめて。 投稿日:2007/08/10(金) 21:45
-
休憩時間。
外に出るのがはばかられて、スタジオの控え室でぼんやりと過ごしている。
コンビニ行くついでに焼いてくるわ。
なんて、気軽な声をあげて瞳ちゃんは出かけていき。
まぁしぃは休み時間と言いながらも機材を弄るのに夢中だ。
結局控え室に残されたカタチになった私とめぐちゃんは、自然と距離を縮めていた。
フットサルで屋外出づっぱりだった私は、どうやら心のエネルギーが知らず減っていたみたい。
久しぶりに「甘えてもいい」人と一緒。
ちょっとした体の疲れも表面に出てきて、細い肩に頭を預けた。
- 85 名前:からめて。 投稿日:2007/08/10(金) 21:46
- 「ねー。なんかめぐちゃん、可愛くなっちゃったよねぇ」
エクステンションで長くなった髪。
色味はかなり明るい。
最初に現れた日には、キャイキャイと騒いだ記憶がある。
いくばくかの日数を得て、見慣れた気はするけれど、やっぱり不思議。
自分も気まぐれに長さを変えるけど、ずっとヘルメットだった髪型が突然かわるとガラっと容貌も変化する。
彼女のそれを一房とりあげて、指先でくるくると思わず弄ぶ。
するりとほどける指ざわり。
追うまではせずに、自由になった手をその髪の表面へ持ち上げた。
なで。なでなで。
地毛のやわらかな感触が、するりするりと指先をすべる。
しばらくするままにさせてくれていた彼女も、ぷすっと噴出すように笑みながらこの手首をそっと取った。
まるで、子供の悪戯のくすぐったさに、堪え切れなくなった大人のように。
- 86 名前:からめて。 投稿日:2007/08/10(金) 21:46
- 「あらそう?若返ったかしら?って。
そうそう可愛いと言われて嬉しい年齢でも無いけどね」
うそだぁ。嬉しそうだよ?
ニ。と笑むのも、まんざらではなさそう。
ライブ中鋭さを放つこともある眼も、今は細められて穏やか。
「そういう柴田くんも、今の髪型可愛いよ」
表情も出るし。なんか、歳相応より――。
「子供に見える?」
先にあげ足を取ってひっくり返すと、その眼が大きく驚きを孕んで慌てる。
こうなると、放ったジャブは彼女のメガネすらふっとばして、会話のリズムはこちらのもの。
「や。えっと、そういう意味じゃなくって…」
ほんとうに珍しく、口ごもるように言葉が曖昧になるから。
うん?と小さく表情を覗き込んだら、どこかふてくされたようにも聞こえる声が言葉を紡いだ。
- 87 名前:からめて。 投稿日:2007/08/10(金) 21:47
- 「可愛いけど、かっこよくも見えるから」
――村田としては、ちょっと…ねぇ。いまさらなのは解ってるんだけど…。
そよぐ視線と、曖昧な言葉。
頬に微かにさす朱は、裸眼で済むこの目には誤魔化せない変化。
「ちょっと、めぐちゃん。それ反則だよ」
思わぬ優位。思いがけぬ漣。
長いエクステンションを、首筋にわざと指先をすべらせて持ち上げる。
「あゆみ?」
なにをしようとしているのか?という声色には、相槌すら打たずにそっと表情を寄せた。
リハーサルでも、髪を結んだらばれそうな…ばれなさそうな微妙な位置。
悪戯に吸い上げて、舌先を軽く当てる。
持ち上げた指先に彩が残ったことを確認してから、長い髪をいとおしむようにそっと指先で梳いた。
- 88 名前:からめて。 投稿日:2007/08/10(金) 21:48
- 「し…ッ、コラ」
突然の誘惑に上ずりを隠せず、慌てる声。
コツ。と痛くないゲンコツを頂戴するけれど、ホントにまったく痛くないし。
「カッコいい柴田でしょ?」
シタリ顔で笑ったら、頬を真っ赤にした彼女が下を向いてしまった。
「悪い子のすることだよ」
批難めいた言葉の色は、どこか弱くて。
混じる息に熱があることを感じて、自分はちょっとどころか嬉しく、楽しくなった。
悪い子。と言われる、その真意がはかれないほど、もう子供じゃないのだ。
「でも、そういうわたしも好き?」
ん。………。んぅ。
刺されたトドメに観念したように頷いて、めぐちゃんは恨めしそうに上目遣いにこちらを見た。
それからポンポンと自らの肩をたたく。
姿勢を戻しなさい。という意味合いらしい。
大人しく甘えていればいい。て、ことなんだろう。
なんて、可愛らしさの極み。
コツリと居眠り体勢で頭を預けると、今度こそ、呆れたというように苦笑がこぼれた。
- 89 名前:からめて。 投稿日:2007/08/10(金) 21:49
- 「参ったね。もう歳の差なんて、役に立たない」
でも、その笑みは彼女自身に向けられたものらしい。
真意をはかれずに視線だけをむけると、んーと思案気な相槌が聞こえて。
「社会人になると、三歳なんて大差ないって話」
――人の中身が勝負を決めるようになるのよねぇ。
いつの間にか、追い抜かれてしまうのかな。なんて、柄にもない苦笑。
少しばかりの奥様口調で、この肩に腕をまわし、私の髪の表層をやわらかく撫で梳く。
どことない不安なんだろうか。
変わらないのにな。
時折の不安は押し寄せるけど、眠れない夜だって訪れるけど。
成長痛を伴う毎日を、貴女と越えてきたのだから。
愛しさを胸の奥に痛めながら、甘えるように眼を閉じて告いだ。
- 90 名前:からめて。 投稿日:2007/08/10(金) 21:50
- 年齢の差。
校舎の中であれば、越えられない壁になるけれど。
大人になるにつれて、確かに、その壁は低くなっていく。
でも。でもね。
「でも、めぐちゃんはめぐちゃんだから」
きょん。と、さっきあげ足を取った時と同じほどの眼の瞠り方。
開けた瞼と視線のさき、曖昧にくちびるを結ぶ彼女が居る。
「可愛いのも、美人なのも。
ときどきカッコイイのも。悪戯を仕掛けて、ニヤニヤしてるのもね」
――私の大事なお姉ちゃんで、大事な…大好きな人だよ。
動きを止めた指先をとり、きゅっと握り締めて。
舞い降りる静寂に、そぉと表情を傾がせる。
こく…と小さく息を飲む音すら、詰める距離に届くのに。
コツコツ!とドアのノック音が聞こえて、めぐちゃんは椅子を蹴倒して立ち上がった。
肩の支えを失って幾分ずっこけ気味になる体を、どうにか持ち直す。
- 91 名前:からめて。 投稿日:2007/08/10(金) 21:50
- 「ど!どぉぞぉッ」
ドシャァンと一脚の椅子が真横に倒れるのを、思わず笑ってしまった。
どうしよう。
今日のめぐちゃん、可愛すぎる。
戻ってきたのはひとみんだったんだけど、はぁ?って怪訝に眉を寄せてめぐちゃんと私を見た。
慌てて立ち上がった彼女と、二脚並んでいたはずの椅子の位置取り。
交互に見やってから、あ!と頭の上に電球を浮かべて、得心したようにニヤリと口元を持ち上げる。
これ以上この場に居ると分が悪くなりそうだから、私もまぁしぃっところに行ってこよう。
やっぱ練習気になるし。
立ち上がってドアへ歩み寄る私に、ひとみんは笑ったまんま何も言わない。
「あ。あゆみ、これまぁしぃっとこ持って行って」
と、頼まれものらしきペットボトルを受け取り、控え室を出る。
廊下を曲がるときにめぐちゃんの「だぁって!」という抗議の声が聞こえて笑ってしまった。
きっと小さく突付かれてるんだ。
慌てるめぐちゃんをニヤニヤ笑いながら、瞳ちゃんはその言葉を受け止めてくれているだろう。
- 92 名前:からめて。 投稿日:2007/08/10(金) 21:52
-
さて。
気分を転換するように、小さく肩を竦める。
どうやってさっきの表情を取り戻そう。
さっき感じた胸の痛みも、愛しさも、すぐさま凪に戻せる感じがしない。
きょとんとしたあの表情が色づくのを思い出して、心と胸の熱が上がる。
とりあえず、メールだけでも送っておこう。
自分ひとりだけで抱えているには、この空気は熱すぎる。
『その色が消えるまでに逢おう?』
二人にしかわからない、言葉があればいい。
簡単なメールに潜んだ思いを、彼女なら受け止めてくれるから。
受け取る側の表情を思い浮かべて、微笑みを噛み殺した。
送信ボタン一つで、誘惑は距離を越えるよ――。
- 93 名前:からめて。 投稿日:2007/08/10(金) 21:53
-
おしまい。
- 94 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/10(金) 21:59
- 六品目 からめて。お送りしました。
絡めて。絡め手。
と、いう感じです(何)。
あからさまに色と艶の気配を増しましたけど、
引かれてないかちょっと心配な店主です(苦笑)。
書こう。と決めていた矢先に、
エクステンションを取ってしまった村田さんですが、
先日も大変愛らしゅうございました。
毎度不定期営業ですが、よろしくお付き合いください。
店主
- 95 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/10(金) 22:02
- >82
この話をまとめている間に、仙台の七夕も始まったりしましたね。
密度の高い吹流しは地元の祭には無いもので、
また素材も紙というあたり、
一度肉眼で確認してみたい祭の一つであります。
今回は情緒とは程遠くなりましたが、
それとは別の熱をお届けできたら幸いです。
またのご来店お待ちしております。
- 96 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/12(日) 23:39
- 村田さんがかわいい(´д`;)
メロンで一番年の離れた2人ですが
こういうシチュエーションでは柴田さんが有利だったりするんですね
ラウンジで割り箸を持って踊る村田さんは素敵でしたね 〜(−Δ−)‖♪
六品目ご馳走様でした、また寄らせてもらいます
- 97 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/23(日) 22:55
- 久々に寄ってみたら美味しそうなのが増えてて嬉しいですw
- 98 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/05(土) 22:34
- 作者の保全です。
短いネタは浮かんでくるので、まだまだ連ねていきたいと思います。
ラウンジの( ‐ Δ‐)さんはお弁当食いかけで箸持ってでてくるわ。
あぁもう。実物は妄想を越えるし…w
近いうちになにかお届けできますように。
- 99 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/06(日) 00:54
- 美味しそうなメニューをお待ちしてます
- 100 名前:眠れる獅子、起こすべからず。 投稿日:2009/01/07(水) 09:58
-
- 101 名前:眠れる獅子、起こすべからず。 投稿日:2009/01/07(水) 09:59
-
どうしてこうなってしまったのか?と、後から頭を抱えることが人間にはままある。
道を一本違えてみようと気まぐれを起こしては、違えた道が目的地とつながっていなかったり。
お昼のメニューに悩んで選んでみたものの、結果的に胃もたれを起こして唸っていたり。
どうだろう諸君。
小さな好奇心から大きな後悔というのは、誰にも覚えがあることだろう。
かくいう私も例外ではないのだよ。
小さなたとえを持ち出してみては比べてみるけれど、今のこの状況が一大事ということでもない。
そう。今、この瞬間はまだそうでもないのだ。
これから予想される出来事が、ちょっと問題に思えるだけで…。
ちょっとどころか大問題に発展するであろう出来事だと、予測がついてしまうだけで。ね。
それが問題か…。
「ってねぇ、むらっちゃん聞いてるの?」
ドス声で問われて思わず肩が竦んだ。
それこそ大山田研究所の助手村田のごとく、ビクっと背中まで丸めてしまう。
- 102 名前:眠れる獅子、起こすべからず。 投稿日:2009/01/07(水) 10:00
-
「あぇ?は、ハハ!ハイ!聞いてますですよ」
あぁ。舞台人もなにもありゃしない。
素で大根役者的返しをしていれば、聞いてないことは丸わかりってもんでさぁね。
「つぅか、たまにぐーっと飲むトコ見てみたい〜とか。
いい加減なコト言って勧めたのがイケナイんですからね?」
責め立てられるとは言わないが、さすがに音声は厳しい色を含んでいる。
だ。だって…。見てみたかったんだもぉん。
最近アルコール摂取に強くなったって言うからぁ、そのお手並みっていうんですか?
勇姿って言うんですかね。そういうのをですね…。
「反省も含めて、ここは村田に全部の責任を取ってもらおうとね。誰もがそう思うわね」
全会一致ですよこりゃぁ――。
うむうむと両腕を組んでうなずく雅恵が、問題の手から瓶を取り上げる。
件の人物は手から硬質の手触りが消えたせいで、音声をいらだたせた。
- 103 名前:眠れる獅子、起こすべからず。 投稿日:2009/01/07(水) 10:00
-
「大丈夫だよぉ。まぁだ飲めるってぇ」
口調がしっかりしているあたりが怖いものの、体の芯はいささかスポーツマンらしくない不安定さ。
「あぁもう、あゆみちゃぁん。なんでこんなに」
くずれそうな体を支えに入ると、体の半分以上の重さがぐたりとのしかかってきた。
「のんでいいって言ったの、むらっちじゃぁん」
突き刺さるのは視線だけじゃない。
音声までも月面に刺さる投げ槍のごとく。
プラーンと磔の刑。
ていうか。この状態で絡まれるって、素面としては最悪なんじゃないですか?
しまった。たった今気づいてしまった…。からまれる。
「だいたいねぇ、むらっちが弱すぎるんだよ。カシスウーロンとか、甘い子ばっかりさー?」
あ。甘い子ばっかりって、これでもようやく酒気に慣れてきたというのに。
ひどいな。自分がちょっと飲めるからって、ひどい言い草だ。
「それでも若い女子が、スミノフだジーマだの瓶をかっ食らうのもどうかと…」
思わず言い返してしまってから、自分の失態に気づく。
うん?と眉を持ち上げて、引っかかった言葉を反芻したようだ。
- 104 名前:眠れる獅子、起こすべからず。 投稿日:2009/01/07(水) 10:01
-
「まだ画にできてますーぅ!若い子だったらかわいいくらいですよっ」
あ、やっぱり酔っ払ってる。
論点が微妙にずれてるもの。
まぁ。ねぇ。大勢の宴席でなら、若い女の子もボトルを持っててさまになるでしょうけど?
いまこの時点で大事なのは、彼女をアルコールから遠ざけることだ。
「まだ時間あるんでしょ?飲んでいいんでしょー?」
さらにも重ねようという意思を見せるのに、さすがに最年長である私は声をひと際強くした。
「もうダメです。許しません」
強くピシャリと言い切ると、不意に目が円く見開かれる。
そのままじーっとこちらの顔をうかがっていたかと思うと、ぐーっと眉毛が曲がっていく。
がくりと表情を落として、肩を震わせて。
え?マジで?と思うまもなく、「めぐちゃんが〜」と声まで震わせてくれるじゃないか。
ていうか。こんな酒の呑み方だったかい?君は?!
このままではにっちもさっちも動かなくなりそうだ。よろしくない。
「送っていくから帰りすよ!」
どーん!と喪黒福造並に指をつきつけ、ひとまず酔っ払いを黙らせることにする。
- 105 名前:眠れる獅子、起こすべからず。 投稿日:2009/01/07(水) 10:02
-
「えー?やだー。帰らない」
ダダまでこねるか。うぬぅ。この酔っ払い手ごわいな。
奥歯にものを挟んだような微妙な表情で彼女を見ていても、当の本人は不都合を気にしない。
「じゃぁ!めぐちゃんちで、もう一本空けてもいい?」
それで最後だからぁ。ね――?
泣き落としのあとは甘えん坊かい!まったくもう。この子は。
村田が弱いと知っててこうするのかね。
彼女の意思が折れないか、じーっとその目を見る。
こちらの根性を試すように、じーっと見つめ返される。
なんというか…ウギャウギャ言ってるライオンの子供みたいだ。
ライオンじゃない。あくまで仔ライオン。
裏と面もないあたり、こちらの芯まで訴えてくる。
……。ダメだ。根負けする。
弱いに決まってるじゃないですか!もう!
「ほんとうにそれでいいのね?」
折れてやろうじゃないか。大人の顔で。
- 106 名前:眠れる獅子、起こすべからず。 投稿日:2009/01/07(水) 10:03
-
二人のメンバーはことの行く末を見守っていたけれど、あゆみが条件を提示したことで少し表情をゆるめた。
それはそうだろう。
一人で帰るのを心配をするより、私がついてると思えば心労も少ないというものだ。
「わかった。その条件飲むから帰ろう?」
「ほんと?ホントに?」
無邪気に言い放ってこちらに視線を持ち上げる。
「だからめぐちゃんすき〜ぃ」
にへら。と無防備極まりない笑顔を向けられて、内心たちくらみがしてしまう。
こ。この子、ほんとうにドッチの顔を見せているんだろう。
計算ずくのダークサイドか、てらいなきピュアネスか。
「じゃぁ搬送任せた」「うむ。任された」
うだうだしているエースの体にコートをまとわせ、荷物を背負う。
地道に節約生活をしていると思えば、たまのタクシーで吹っ飛ぶんだから仕方が無いよねぇ。
「て。今回のは領収証きりますからね」
とマネージャーへ頭をさげて了承受諾。一路我が家へ。
途中でコンビニ寄ってくれって喚こうがどうしようが、今度ばかりは折れてやらないのだ。
覚悟なさい!って、折れない覚悟が必要なのは私のほうなのだろうな…と思いつつ。
私はあゆみの重さを肩に負ったままで、タクシーへと乗り込んだ。
思い描いた大問題とは違う着地点へ、誘導されているとも知らずに――。
- 107 名前:眠れる獅子、起こすべからず。 投稿日:2009/01/07(水) 10:04
-
- 108 名前:眠れる獅子、起こすべからず。 投稿日:2009/01/07(水) 10:05
-
「ひどいー。コンビニ寄ってくれないなんて」
めぐちゃんちはアルコール無いじゃん。
いじわるとか冷血とか人をさんざん言ってくれる体を、玄関ドアをあけて押し込める。
すでに午前0時をまわるのだ。
これ以上喚き散らされてはご近所迷惑極まりない。
いくら都会のただなかとは言え、村田はひっそり穏やかに暮らしているのだ。
今さら状況を崩すこともないし、無駄なマイナスは避けたい。えぇホントに。
「まだ文句を言うか」
呆れた口調で近づいて、その呼吸ごと閉じ込めてはみるけれど挑戦的な視線はかわらない。
うぬ。と半端な緊張感をたたえたまま、離れた二人は無言になってにらみ合った。
玄関で。コートも脱がずに。
むー。とむつけた表情を隠しもせず、あゆみのブーツが玄関タイルを蹴った。
下手したらこちらのスネすら蹴りかねない勢いでだ。
カツンコツンとリズムだけは精確。
あ。むつけるっていうのは方言で膨れるとかヘソを曲げるの意である。閑話休題。
- 109 名前:眠れる獅子、起こすべからず。 投稿日:2009/01/07(水) 10:06
-
「こういうあゆみちゃんは可愛くないなぁ」
少し怒った口調で言ってみても、表情ひとつ変わらない。
酔ってるわりには…なんか……冷静な感じもするな。
「そっか。めぐちゃんからすると、こういう私は可愛くないんだ…」
ふぅん。真正面から言葉を受けて、納得するようにソールがパタンと床を打つ。
じっと見ていた目から、不意に強さがにじみ出る。
「でも、キライにはならないんでしょ?」
わ。いきなり胸の中心打ち抜いてきたよこの子は!
思わず口元を覆いつくすのに、戸惑うこの目の中でふわりとあゆみが微笑んだ。
にじんだ強さの真ん中に今度は芯が通り、音声が確かに筋を伸ばした。
シャキっと。
まるで『普通の音声』そのままで。
「めぐちゃん、ほんとうに甘いなぁ」
私に対してだけじゃなくて。
「私についての、見解もね〜」
ニ。とイタズラっ子の表情で口元が持ち上がり。
一瞬のスキをつかれて、手袋の手をツイとひかれる。
え?と戸惑う間も与えないまま、一気に距離が詰められる。
- 110 名前:眠れる獅子、起こすべからず。 投稿日:2009/01/07(水) 10:07
-
まさかとは思うけど…。
残っていてもきつすぎないアルコール臭。
奔放というか普段どおりのキスと、脳裏に残る勝ち誇った表情。
もしかしたらもしかして、もしかしたらもしかするぞ?ってヤツですか?
余裕すら感じられる行動から解き放たれて、深い息をつきながら、おそるおそると問うてみた。
「あゆみちゃん……、…もしかして、あんまり酔ってないの?」
うん?と眉を持ち上げて、意を得たりと表情は輝く。
「移動途中でけっこう醒めちゃった」
しれっと言い放って、こちらの体をぎゅーっと抱き寄せる。
あんまりな答えにされるがまま。
ていうか、コートの厚みも手伝ってベアハッグみたいで気が遠くなる。
- 111 名前:眠れる獅子、起こすべからず。 投稿日:2009/01/07(水) 10:08
-
「ちょ。ちょっと待って!どのへんから計算してた?」
頬に触れられる冷たさに肩を竦めながら、さらに問うた。
「めぐちゃんが、『あゆみが飲むとこ観てみたいな〜』って言った次の瞬間から」
…最初の一杯目の一口目じゃないですか。
あ。あまりの答えに顎が外れそうだ。それどころか目眩で倒れかねない。
「もしかして…なくても、ぜんぶ計算ずく?」
ここまできたら訊いてしまえ。
下手にでるように紡いだら、返答は自信満々。
「ここまでピシャっとはまるとは思わなかったけどねぇ」
――明日ふたりに謝らなきゃいけないけど。
勝ち誇った笑みを湛えて、彼女が近寄ってくる。
無邪気に。
心底嬉しそうに。
- 112 名前:眠れる獅子、起こすべからず。 投稿日:2009/01/07(水) 10:10
-
なんということだ。
騙されてたのは私のほうか。
まるでワークショップの犯人あてゲームのように、真相を明かすその楽しそうなこと。
「悪い子」を装う彼女の嬉しそうなことったら無い。
……他の二人には黙ってたほうがいいんだろうな。
酔って帰った事実だけ謝るように仕向けよう…。
「これでもキライにならないの?」
イタズラに問いかけられて、自らの導く答えに呆れながら笑う。
大変残念なことに、私の心からは一つの答えしかでてこない。
鮮やかに騙すその大胆さも、見事に落っこちる自分自身も。
「……キライになれるもんなら、方法を教えてほしいくらいだよ」
ゆっくりと捕食の手に目を閉じると、可愛くないアルコール臭が一瞬だけ鼻先を掠めていった。
- 113 名前:眠れる獅子、起こすべからず。 投稿日:2009/01/07(水) 10:11
-
- 114 名前:眠れる獅子、起こすべからず。 投稿日:2009/01/07(水) 10:13
-
仔ライオンの映像って観たことありますか?
確かにね。保護欲をかりたてるこどもの姿なんですよ。
ミギャミギャと鳴いて、王者の風格なんかまるでなし。
でも脚が太くてねー。たくましくなるんだろうなぁ…って想像しやすい。
肉球もネコ科の可愛さなのに、爪はすでに容赦なく鋭くて。
人間が触れるにもグローブが必要だったりするわけです。
仔猫がじゃれてるようなつもりでいても、きっと人間は傷だらけ。
気付いたら深手を負うんじゃないかなぁと、今の私には容易に想像できるわけですよ。
なんでって問わないで。
ほら。この背中。
獲物でじゃれつくした仔ライオンが、電池切れをおこして寝てますよ。
さっきまで酔っ払ったフリをしていたあゆみが、くっついて眠ってるんですから。
まったく。呆れて思わず笑ってしまう。
重なるなぁ。仔ライオン。
大きな脚に大きな肉球。
無邪気に遊んでいるようでも、それは立派な狩の修練。
こちらのダメージも、きっとおかまいなし。
いつの日か捕食されて、食われるほうは骨も残らない。
恋愛にすれば、身も心も…ってヤツでしょうか。
- 115 名前:眠れる獅子、起こすべからず。 投稿日:2009/01/07(水) 10:15
-
これでもね。
ずっと育ってるのをみてるんだよ。
お母さんの後ろに隠れてしまった君を、あの日から、ずーっとずっと。
背中から腰にまわされた手を、そっと包む。
これからも私たちは同じ領域で歩いていくけれど、どこまで同じかなんてわからない。
君がほんとうに雄雄しいライオンになってしまって、村田はその時には用済みかもしれない。
違うパートナーがどこかに待ってるかもしれない。
あゆみのこの手と言葉と存在で護りぬいていく誰かが居るのかもしれない。
それでもね。
今こうして居られる幸せとか。
これから先を望める嬉しさとかを。
せめてかみ締めていられたらと思うんだよ。
だから、『試すような好奇心の発言をしてごめんね』とか。
『酔ったふりとは言え、言いたい放題だったな?』とかいうのはひとまず保留にしておくから。
せめて今日は、小さなライオンを眠らせたままで。
穏やかに明日まで。
おやすみなさい。
二日酔いにならないことだけは、ちゃんと祈っておいてあげるから。
- 116 名前:眠れる獅子、起こすべからず。 投稿日:2009/01/07(水) 10:16
-
おしまい。
- 117 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/07(水) 10:23
- 七品目 眠れる獅子、起こすべからず。
更新しました。
気付けば一年も開いてまして、店内清掃が大変でした(殴)。
シングルマッチを見た帰りがけの発想を、
やまなしおちなしいみなし風味で<身も蓋も無い言い方w
ていうか。アルコールの入った末っ子さんてどうなるんでしょう。
絡むんかな?とか友人と話してたんですが。
こちらは計算ずくめの悪い子になりました(苦笑)。
隅っこで膝を抱える長女よりは陽気なんでしょうけどね(笑)。
相変わらずの不定期営業になりますが、よろしくお付き合いください。
- 118 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/11(日) 00:53
- 久しぶりに寄らせて頂きました
新しいメニューが増えていて嬉しいです
柴ちゃんを仔ライオンに例える描写が、お見事ですね
捕食される村田さんはヤギでしょうかね?
私は柴ちゃんは酔うと絶対絡むと思います
しかも、かなりしつこいと思います
- 119 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/12(月) 00:25
- うわっと。営業されてたんですね。気付いてなかったっ。
相変わらず流麗な文章です。感服です。
末っ子さんの酔っ払い具合は、ガタラジで是ちゃんに、
『ふにゃーっと寄りかかって来た』ってばらされてましたw
まあ、ふにゃーっとなってても絡みそうですけどねw
- 120 名前:かわいくない。 投稿日:2009/03/03(火) 23:51
-
- 121 名前:かわいくない。 投稿日:2009/03/03(火) 23:52
-
さみ!
芝居の稽古が終わって稽古場から外に出た途端、ありえない寒さの空気がこの身を包んだ。
そのままくるりと扉に向かい、再度屋内へと逃げ帰る。
「どうしたの?」
後ろから続こうとしてた瞳ちゃんが、こっちを見て目を円くした。
「外。雪降ってる。さむい」
まるで言葉のつかいかたを忘れたように、単語だけで紡いで肩を竦めてしまう。
さむいよー。これは寒い。
うん?と眉を持ち上げて、そろりとドアから顔を覗かせる。
白くて粒の大きな雪が、都会の明かりを反射させる灰色の空から落ちてくる。
サリサリと音を立てるのは、水分が多いからだろう。
ベショっと汚濁したアスファルトの上に、落ちてはそのけがれに飲み込まれていく。
「あー。やっぱ東京じゃ寒いよねぇ」
くつりと喉を鳴らして瞳ちゃんが笑う。
「こんなん、ウチの田舎じゃぁあったかい方だもん」
――でも、やっぱりさみーね。
ニシシ。顔をくしゃりとさせて笑う彼女は、やっぱりどこか純粋に女の子で。
「まぁねー。北国育ちにはかなわないからねぇ」
巻きつけたストールを鼻まで持ち上げて、気合を入れなおす。
帰らなきゃ。おうち帰らなきゃ。
だって。
…これ以上残ってたら、ちょっとワガママ言いたくなりそうで、自分に注意報出てるんだもん。
はやーくー。と思っていたこの気持ちを知ってか知らずか。
後ろから聞きたくなかった声がした。
- 122 名前:かわいくない。 投稿日:2009/03/03(火) 23:53
- 「っやー。やっぱこう寒いとラーメン以外の選択は無いなぁ」
白い湯気がもうもうと立ちのぼってねぇ。
「やっぱりな。仙台の人間としては味噌基本なんだよなぁ」
味噌は仙台。仙台なら味噌だろぅ。八丁赤だしとは違うのだよ――。
まるでオヤジみたいに唸りながら、傍目キレイなおねえさんがやってくる。
さらに後ろから劇団員の「ラーメン好きなら塩を食え塩を」というチャチャが聞こえた。
彼女は毅然とした態度で振り返ると、「今日だけはミソ!」と頑なにその主張を叫んだ。
「だーって私の誕生日ですもの」
譲りませんよー。なんて、踊りだしそうな勢いで言葉の節をまわしている。
「なに。まぁしぃも店決めたの?」
瞳ちゃんに問われて、まぁしぃが「うんにゃ」と首を横に振った。
ブログでラーメンをおごるって書いてたけど、おごらなくていいから店行こうって言われなおされてた。
めぐちゃん律儀だからね。そういうトコ。
「やー?今日はめぐみちゃんが主役ですもの。決めてもらってソコに行くよ」
この時間じゃ混んでそうだけどね。寒いし。
そっか。と優しい相槌を打って、瞳ちゃんは視線を細める。
「外の雪、けっこう降ってるからね。二人とも、電車が遅れないうちに帰ってよ?」
そういう心遣いが彼女の優しさ。
うんと相槌を。ありがとうと感謝を。
まぁしぃとむらっちは二人で確かに瞳ちゃんに返した。
んだけど…。
はたっとこっちを見ためぐちゃんが、こともあろうにこう言ったのだ。
「って、あゆみちゃんまだ居たの?」
一番最初に帰り支度して、急いでそうだったのに――。と。
- 123 名前:かわいくない。 投稿日:2009/03/03(火) 23:54
-
このバカ。メルヘン。鈍感。
脳内で一言毒づいて、眉毛を曲げた。
まぁしぃと一緒にラーメン食べに行くって言うから。
一緒に居られないんだったら早く帰ろうって思ったのに。
早く帰って、録りためたHDDの中身を再生しようと思ったのに。
それで、気を紛らわせようと思ったのに。
そうしたら…。
彼女の誕生日に一緒に居られないなんてさみしい…とか、思わないで済むのに。
指名されるほど特別じゃないんだとか、今さら考えないでいいのに。
可愛くない子にならずに済むのに…。
- 124 名前:かわいくない。 投稿日:2009/03/03(火) 23:55
-
「も、もう帰るよ」
傘たてに入れていた自分の傘をとりあげ、背中を向ける。
「また明日ね」
あからさまに急に急ぎ始めたのがわかる大根役者。
カコーンと傘の先端を周囲にぶつけて、なんかすごいみっともない。
「ちょっと。
もしかしなくても、あゆみちゃぁん、実は用事とか無いんじゃないのぉ?」
どこかニヤついた感じの、知ったような口ぶり。
見えなくても顔つきのわかるほど、知りすぎている彼女の音声。
ど、…鈍感メルヘンのくせに鋭いこと言うなバカ。
思わず立ち止まってしまった自分の背中に、くすっという瞳ちゃんの笑みが当たって落ちる。
素直じゃないなぁ。って、思ってるんだろうな。それくらい解るよ。
無いんだね。と確認する口調は、まるで子供を諭すためにしゃがんだ大人のソレで。
こちらの返答を待たずに、彼女の声は続きを紡いだ。
「だったらさ。いっそ四人で食べに行こうよ」
――せっかくの誕生日なんだし、あゆみも一緒に居てよ。
……。あまりの発言に振り返ることもできない。
- 125 名前:かわいくない。 投稿日:2009/03/03(火) 23:57
-
「殺し文句だねぇコリャ」
「こら。茶化さないの」
二人の前に居るのに、そういうコト言うとか信じられない。
動けなくなった自分を補足しようとめぐちゃんが装備を整えておりてきた。
コツンとブーツの底がコンクリートで音を立てる。
「餃子と杏仁豆腐つけるよ」
進んできて、横にならんで。頭を軽く撫でて。
まるで、おねえさんの顔して。
なんだよー。ずるいよ。
「今日のめぐちゃんすごいずるい…」
視線だけを渡したら、斜め上からふわりと笑われた。
「まぁね。一つおねえさんに戻りましたので」
――今日くらいはおねえさんの顔させてよ。
ね?と至近距離で覗き込まれて、もう何も言えなくなった。
結局。必要だって言われたら許しちゃうんだ。
ちょっとしたことで拗ね気味だった自分も、頭を撫でられたら大人しくなっちゃうんだ。
仕方が無いなぁむらっちは。
可愛くない自分は他の二人に聞こえないようにつぶやいて、稽古場のドアを再びあけた。
- 126 名前:かわいくない。 投稿日:2009/03/03(火) 23:59
-
うわ。さむい。と小さな叫びをあげる彼女の横で、自分の長い傘を開く。
お気に入りの傘。ポンという小さな音をたて、かたちをあらわした。
どうぞ?とスペースへうながすと、紳士的な彼女は何も言わずにこの手から傘をとってくれた。
「えっと。先に言っておくけど、明日の朝まで一緒に居てよ?
帰るとか言われたら、コッチがさみしい」
傘の内側で素直に言われて、思わず頬に朱がさしたけどストールぐるぐる巻きで幸い見えないはず。
こくりと頷いて、お姉ちゃんの顔のめぐちゃんに寄りそうことにする。
「これで雨あがったら、しばらく大人の顔なんかできないんでね。花粉で」
泣きそうな顔で笑いながら、めぐちゃんが呟いた。
なるほど。それは切実なお願いなんだろう。毎年見てて思う。
「じゃぁ、一緒に居てあげる」
さっきまでのはぐれそうな子供の顔を押し隠して、口元を持ち上げる。
どれだけ嬉しいかなんて、後から伝えれば済むことだから。今は内緒にしておこう。
「あれいいなぁー。雅恵ちゃん傘もってよ」
「ぜってーイヤです」
後ろから聞こえた声に笑いながら、思わず顔を見合わせた。
四人で同じ店に向かう。
雪の降る中で歩く。
寒さは指先にともり、全身を包むけど辛くともなんともない。
こんなに気持ちがあったかいんだから。
めぐちゃんの気に入りの店は知らないけど、きっとあったかくって美味しいんだろうって。
なぜだかわからないけど、心の内側でそう信じられた。
- 127 名前:かわいくない。 投稿日:2009/03/04(水) 00:00
-
おしまい。
- 128 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/04(水) 00:13
- 八品目 かわいくない。 更新しました。
やー。すごいな自分。よく間に合っ…(殴)
この後きっと、村田さんは柴田くんのせいで、
三人分の杏仁豆腐をおごらされることでしょうw
前回とはうってかわって可愛い柴田くんでした。
きっと昨日のBSドラマの暗い表情がコッチに繋がったんでしょう。
>118
ヤギさん。えぇヤギさん。
でもトムソンガゼルとかみたいに、
平気で長距離とか山岳とか移動できるヤギさんなんで、
ネコ科の子にはおいかけるの辛いかもしれませんね(笑)。
ネコ科の持久力のなさが愛しい私です。
>119
営業してましたー。
そして今日も営業日でしたw
ふにゃーっとする柴田さんかー。
……どうせ村田がお持ち帰りす(ry
あ。でもガタラジなんですよね…。
どうせ村田が回収し(ry
それを呆れてみてる人たちが居ればいいと思います。
というわけで、
小料理屋的村田女史お誕生日おめでとう話でした。
お口に合いましたら幸いです。
店主。
- 129 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/01(水) 02:54
- ごちそうさまでした
新メニューに一月近くも気がつきませんでした
時期的には「かば3」の稽古をしていた頃でしょうか
ラーメンの湯気を思わせる暖かいお話ですね
そういえばブログで柴ちゃんだけ、村田さんにおたおめコメントしてませんでしたね
きっと、照れ臭くなっちゃって書きそびれたんでしょうねw
- 130 名前:ナイトランナー 投稿日:2010/01/12(火) 22:58
-
- 131 名前:ナイトランナー 投稿日:2010/01/12(火) 22:59
-
たとえばその唯一無二を求め、夜を駆け抜けて。
真夜中にでも会いたくなるような。
欲しがりな子供のような、大人になりかけの少女のような。
そんな恋は終わったと思っていた。
たとえば、「じゃぁ、また明日」と言ってお互いに手を振った後。
ちょっとした感覚を掘り起こされて、相手を思い出したとしよう。
めずらしくのifを持ち出したこの声に、彼女は興味をひかれたように視線をくれた。
持ち上がった眉が、まるでネコの尻尾のように素直に感情を伝えてくれる。
いつもより好奇心をにじませて開かれた目が、すぅっと細められて。
さぁ続きを話してごらん?
なんて無言で言ってくるから、こちらも真正面から切り出した。
- 132 名前:ナイトランナー 投稿日:2010/01/12(火) 23:00
-
打ち合わせの合間。
カップと企画書と乱雑な世界を広げる、会議室の机をはさんで、二人だけ。
白いニットの袖をネイルの指先でつまんで、肘をついた彼女がこちらを覗き込む。
例題?そうだなぁ。
お互い、共通で好きな曲が街中で流れていたとき。
「これ好きだよー」なんてヘッドホンを分け合う仕草を思い返して。
移動の車のゆれと、ためらいがちに寄せられた頭の重さを思い出す。
相手のつけている香水と同じ香りがしたとき。
最後にぐっと近づいたのはいつだっけ、とか考えたりして。
そうするとちょっと言葉では伝えにくいところまで考えが及んでしまったりしてね。
ちょ!っとぉ。
と、抗議めいた声を投げる手がこちらの甲を打つけれど、本気でブチたいわけじゃない。
いったい何を考えたのかなぁ?
なんて蒸し返したら脱線しそうだから言葉を飲み込んで。
次にいこうか、次に。
- 133 名前:ナイトランナー 投稿日:2010/01/12(火) 23:02
-
紅茶のペットボトルがさめていくのを、手のひらで感じたとき。
手、つなぎたいな。とかガラにもなく思ったりして。
そういうときに限って、手袋を忘れていて。
自分のコートのポケットに突っ込んだ手が、ほんとうに寂しく思えたりして。
ぐっと握った手の感触を思い出しながら、自分の気持ちを繋げて帰る。
そういう帰り道もあるんだよ。
ふぅん。
なんて、気のなさそうな相槌に聞こえるけれど、表情はなんだかうれしそう。
そういうふうに思ってるんだね。
と、言葉にしないけれどちゃんと聞こえる。
- 134 名前:ナイトランナー 投稿日:2010/01/12(火) 23:03
-
記憶か体か心か、どこかから不意に喚起されたキミが、近くに感じられる。
世界はただ平常を保っているけれど、自分だけが孤独のような気分がしてきて。
そうじゃないよ。って、自分の存在が確かなことを確かめたくて。
好きだっていう気持ちを、ただただ確かめたくなって。
そういうときに、「我慢がきかなくなって跳んでいく」ような恋。
そう。
そういう幼さは無くなったと思ってた。
- 135 名前:ナイトランナー 投稿日:2010/01/12(火) 23:04
-
「思ってた。
っていうことは、そうじゃなかった…ってコトだよね?」
今までの話を噛み砕いた彼女が、じっとこちらを窺う。
うん。と小さく肯いて言葉を肯定。
「夜中にどうしようもなく会いたくなったり、するもんなんだなぁ…てね」
不意に襲われたセンチメンタル。
大人になっても抗えない感覚。
体だけの不足じゃなくて。
心だけの枯渇じゃなくて。
どうしようもなく、会いたくなるキミが居る。
「まぁ、そんな昨日の話なんだけど」
「昨日って、メールもなにも無かったじゃん」
呆れで半分、うれしそうなのは四分の一。
あとは、最後を促す真っ直ぐさのクォーター。
- 136 名前:ナイトランナー 投稿日:2010/01/12(火) 23:06
-
そう。どうしようもなく会いたくなるキミが居る。
こんなに一緒にすごしても、まだまだ会いたいと思えるキミが存在する。
それは、なんて幸せなことか。
ちゃんと言葉にして、伝えたいと思ったのです。
でも、なかなか問屋さんはうまくしてくれないもので。
「デートのお誘いならもっとスマートにしてほしいなぁ」
なんて優位性とが綯われた悠長な声に、
「え?お泊りのお誘いだったらコレでいいの?」
と変な横槍にしてしまったのは、長い時間で培われてしまったトークのリベロ精神か。
レシーブが変な方向にとんでしまう。
- 137 名前:ナイトランナー 投稿日:2010/01/12(火) 23:07
-
「そういう風にオヤジっぽいこと言わないの」
もう。
なんてもう一回この手の甲をたたいて、不服そうにテーブルへ伏して。
「やぁ、その…」
機嫌を損ねてしまったかと覗き込んだタイミングで、視線だけが戻ってきた。
不機嫌かと思われた視線は不意に和らいで、伏した腕の中でくぐもった音の告白が届く。
「ほんと。
私たち、ずっと一緒に居るのに、こういう風に思えるのって幸せだね…」
たまにだけど、そういう風に近くに思いたくなるよね。
なんて幸せな音だろう。
自分の気持ちと、確かに絡むその心と音…。
あ。あれ?
なんか。着地点が合ってる…。
- 138 名前:ナイトランナー 投稿日:2010/01/12(火) 23:10
-
思わずキョトンとしてしまった自分に、彼女は今度こそ怪訝な目。
「なにも変なこと言ってないでしょ?」
「や。えっと、違う。そうじゃなくて」
伝えたいことが伝わってる不思議と幸せで、ワケがわからなくなりました――。
あわてて訂正。
そして白状。
「素直に伝えたかっただけなんだけどねぇ」
変なところでカーブかかったわねぇ。
「ほんと、呆れた」
と体を起こした彼女の腕が、ひとつこちらの頭をどつく。
あら?そのわりに、顔はぜんぜん呆れてないみたいよ?あゆみちゃぁん。
「じゃー、どうする?今日の帰りは何食べよう?一緒に帰るんでしょ?」
一歩先行く発言をしながら、すでに上機嫌。
ニヤニヤして、末っ子らしいいたずらっぽさが増す。
そこまで確約してもらえたら、もう今日はとても幸せ。
残りの仕事もドンと来いですよ。
「では村田はあったかいスープ系を所望します」
「なにぃ?スープぅ?難しいでしょソレ」
渋谷あたりならあるだろー。
あぁ。なんかあるねぇ。
でもあの店は歩くなぁ。
歩くついでにタワレコでも行きますか。
ジェラート屋さんの新しいのもあるね。
そろそろ休憩終わりじゃなぃ…………
- 139 名前:ナイトランナー 投稿日:2010/01/12(火) 23:10
-
夜を走ってでも会いたくなる。
そんな愛情が打ち寄せることを新鮮に思いながら。
共有しながら歩いていける。
そういう恋人で居たいなぁ…というか、居ましょう。えぇ。
希望と、お願いと、そういう決意です。
- 140 名前:ナイトランナー 投稿日:2010/01/12(火) 23:11
-
おしまい。
- 141 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/01/12(火) 23:23
- 九品目 ナイトランナー でした。
開店休業の店を覗いていただいてありがとうございました。
今回のお品書きも、相変わらずのむらでしばです。
やー。もっとアダルト路線(爆)なのかと、
キーの一文を思いついたときには思ったんですが(殴)。
ものすごい大人しく、惚気るだけの話になりましたw
やぁんもうバカップル。
なんか皆様にはお冷しか出せなかったんで、
もうちょっと巧く立ち回れたらいいな…と、
今年の店主は思っております(猛省)。
- 142 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/01/25(月) 14:25
- 長女さんにしては珍しく素直に情熱的だなと思ったのは、
アダルト路線予定だったからでしょうかw
寒い季節の熱いスープ、ふーふーしていただきました
次の営業日をのんびりお待ちしております
- 143 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/13(土) 00:46
- 久しぶりに来てみたら新しいのがきててうれしいです
自分はやっぱり店主さんの村柴の雰囲気が好きですw
また寄らせていただきます
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