zeroU(再開)
1 名前:extra 投稿日:2006/04/29(土) 03:45
旧森板と青板で書いていた作品です。
パソコンが壊れ、ストックが飛んでしまって更新ストップしていたことを
まずは謝らせて下さい。

完結させようと思います。
あと少しですので、暇つぶしで構いません。
お付き合い下さい。
2 名前:reason 投稿日:2006/04/29(土) 03:46
3 名前:reason 投稿日:2006/04/29(土) 03:46
4 名前:reason 投稿日:2006/04/29(土) 03:46
許しを乞う時、人は何を見つめているのか。
許してもらいたい相手なのか
それとも自分自身か
はたまた、慈悲も何も持っていない神か
5 名前:reason 投稿日:2006/04/29(土) 03:46
6 名前:reason 投稿日:2006/04/29(土) 03:46
自分の胸の丈まではあると思われる草むらの中
少女は走る 走る はしる
草によって、手には切り傷が無数に見受けられる、
しかし、それ以上に目を引くのはついさっきあったような火傷。
ただれた手を握り締め、走るが、少女は永遠に草むら抜けることができない
それでも、立ち止まらず

走る   走る    走る
7 名前:reason 投稿日:2006/04/29(土) 03:47
8 名前:reason 投稿日:2006/04/29(土) 03:47
「殺したって何のこと言ってんのや?」

平家が穏やかな声で話す。
能面のような表情で吉澤から感情というものを読み取ることは一切できない。

「知ってるくせに」

吉澤はそう小さく呟き、ビー玉のような瞳で平家を見つめる。

まるで、この空間に平家と吉澤しかいない感覚

石川は、確かにこの空間にいる事を確かめるため、ドアに触れ感触を確かめる。
先ほどの物音の原因のライターが、小川の足元に転がっている
小川は気づかず、足を少し動かした拍子にライターを蹴ってしまう。
9 名前:reason 投稿日:2006/04/29(土) 03:48
カツーン
10 名前:reason 投稿日:2006/04/29(土) 03:48
ベットに辺り、小さい物音。
普段、生活をしていれば、聞き逃してしまいそうなその音
吉澤は、過敏に反応をし、視線を落とす。
そして、ゆっくりと視線を戻したと思った瞬間、吉澤は前のめりになり倒れていく。
それは、決められていたシナリオの様にスローモーションに感じた。

吉澤の体を支えるために、誰1人として体を動かすことは出来ない
ただ崩れていく吉澤を見つめていた。




部屋の入り口でたちすくむ3人。
11 名前:reason 投稿日:2006/04/29(土) 03:49
 
12 名前:reason 投稿日:2006/04/29(土) 03:49

走れ


逃げなきゃ


捕まる、捕まりたくない 前に進まなくては


…捕まりたくない?


     



        本当は、強く抱きしめて欲しい
13 名前:reason 投稿日:2006/04/29(土) 03:49
 
14 名前:reason 投稿日:2006/04/29(土) 03:49
平家はゆっくりと扉を閉める。
そして、小さく息を吐く。
何人もの病人を見てきているが、ここまで自分が磨り減っていくのを感じることは少ない。
「吉澤は、裕福な家だった。恵まれた家庭と言って良かったよ。」
平家は誰ともなく話を始める。
石川は机の上の空虚を見つめていたが、声に反応し平家の方を見る
小川は、声を出さず涙を流していた
15 名前:reason 投稿日:2006/04/29(土) 03:49
 
16 名前:reason 投稿日:2006/04/29(土) 03:50
耳を澄ますと夏の音がする
それしか感じない
それ以外は感じたくない

目の前は真っ暗で少し先さえ判断できないのに、五感はこれ以上にないほどに研ぎ澄まされている

手に力が入っていくのが自分でわかった
手のひらに小さく雫が落ちる。


−−−コレハナンダ ココハドコダ アタシハ・・・?
17 名前:reason 投稿日:2006/04/29(土) 03:50

我に返り、目の前を見れば、首をダランと垂らした猫が1匹
物も言わず、吉澤の手の中に存在した
「ひっ!!!」
小さく悲鳴をあげ、吉澤は手を大きく振り払う
ゴトンと物のように落ちる息をしていたはずの1つの塊
吉澤は後ずさりをし、走り去る


---アタシジャナイ アタシジャナイ アタシジャナイ

吉澤は、ヘッドホンをつけ世界と隔絶をする。
18 名前:reason 投稿日:2006/04/29(土) 03:50
 
19 名前:reason 投稿日:2006/04/29(土) 03:51
平家はゆっくりと再びソファに腰をおろした。

「吉澤の家に問題があるとすれば、父親が教育熱心だったこと。ただそれだけ。公になっている事はね。」

「公になっている?」

石川が眉をひそめ、平家を見る。
平家はうなづき、ライターの火をつける。
「実際は、理不尽な事で吉澤は手をあぶられていた。炙るやないな…焼かれていた」
カチっとなり、火が自己主張するように小さな穴から出る。


何度も頭の中で繰り返される平家の声。
石川は何度も何度も首を横に振ることしかできない。
20 名前:reason 投稿日:2006/04/29(土) 03:52
  
21 名前:reason 投稿日:2006/04/29(土) 03:52
記憶の中という檻の中では、動くことも指を少し動かすことも目を開くことすらできない

どうして
どうして
・・・どうして何度も何度も繰り返し、あの悪夢が蘇る
22 名前:reason 投稿日:2006/04/29(土) 03:52
  
23 名前:reason 投稿日:2006/04/29(土) 03:52
  
24 名前:extra 投稿日:2006/04/29(土) 03:52
本当にすみませんでした。
25 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/29(土) 15:23
おかえり
26 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/29(土) 15:44
あぁぁぁぁぁっっ!!おかえりなさい!
待ってました!ずーっっっっっっと待ってました!
今年一番、いえ、生きてきて一番嬉しいです!
楽しみにしています!
27 名前:名も無き読者 投稿日:2006/04/29(土) 17:54
狽、おおおおおおおっ!?
や、やった! ありがとうございますっ! おかえりなさいっ!
楽しみです・゚(´□`)゚・。
28 名前: 投稿日:2006/04/29(土) 23:26
嬉し泣きってこういうことを言うんですね
本当に、本当に嬉しいです
おかえりなさい!
29 名前:名無し3 投稿日:2006/05/05(金) 15:42
おかえり
がむばれ
30 名前:reason 投稿日:2006/05/05(金) 21:42
 
31 名前:reason 投稿日:2006/05/05(金) 21:42
 
32 名前:reason 投稿日:2006/05/05(金) 21:42
『ひとみ、手を出せ』

吉澤はビー玉の目のまま、手を差し出す
『父』と呼ばれるべき男の手には、火のついた紙が蒔きついている細い頼りない棒
ヤケル やける 焼ける
ただ赤い幻影のようなものを吉澤はジッと見つめる
33 名前:reason 投稿日:2006/05/05(金) 21:43
 
34 名前:reason 投稿日:2006/05/05(金) 21:43
「吉澤が、肉を食えなかったのは知ってるか?」
石川はハッとしたように顔をあげる
「臭いだ。肉を焼く臭い」
平家は、息を吐くように言葉を出していく。
「多分、この前・・・爆発の時か後藤が表面に出てきたと思うが、あれは人肉の焼ける臭いで吉澤が混乱したからだと思ってる」
石川は何も言葉を返すことが出来ない。
「吉澤は今までに3人、人を殺している」
小川の涙が一瞬で止まる。
35 名前:reason 投稿日:2006/05/05(金) 21:43
 
36 名前:reason 投稿日:2006/05/05(金) 21:43
火に焼かれているはず手が見える
これは誰の手なのだろう・・・
父は、誰の手をそんな顔で焼いているのだろう
37 名前:reason 投稿日:2006/05/05(金) 21:44


あたし



あたしの手はどこだ?



38 名前:reason 投稿日:2006/05/05(金) 21:44
   
39 名前:reason 投稿日:2006/05/05(金) 21:45
「吉澤さんが、そんな事をするわけないです!!人殺しなんて…」
小川は抗議をしている途中で、言葉を繋ぐことが出来ない
石川は黙って小川の背中をさする。
「平家さん。私もそう思います。どうゆう事ですか?」
石川は冷静さを保って平家に話しかけたつもりだった
ただ出てきた言葉は、震えていた。
「うん。そうやな。吉澤はそんなんする奴ちゃう。でもな・・・」
平家は、そっと心臓を指さす。
40 名前:reason 投稿日:2006/05/05(金) 21:45
 
41 名前:reason 投稿日:2006/05/05(金) 21:49


ヨシザワ ハ ゲンジツ ガ ワカラナクナッテタ






平家の言葉が頭には入ってこない。

42 名前:reason 投稿日:2006/05/05(金) 21:49
 
43 名前:reason 投稿日:2006/05/05(金) 21:49
吉澤は、暗闇の中で自身の手を見つける。

それは誰の手でもない
自分の手でしかない

返してください
お願いします、返してください
お願いします・・・


「返せ!!!!!!」

そう叫んだ吉澤は、炎を持ち口の端を曲げている父親の手につかみかかる。
44 名前:reason 投稿日:2006/05/05(金) 21:49
 
45 名前:reason 投稿日:2006/05/05(金) 21:49
そして、まるで木の枝を折るように、父親の腕を折った。
状況が把握できない父親
ただ痛みだけがリアルに伝わってくる

「あ…ああ…ああああああああ!!!!」

炎が手からこぼれ落ちる
真っ赤な炎は、部屋のカーテンに燃え移る
フランフランと揺れる父親の腕
46 名前:reason 投稿日:2006/05/05(金) 21:50
「それは・・・それはあたしの手だ!返せ!!!」
吉澤は尚も折れた手を引っ張り、自分のものにしようとしている
火はだんだんと大きさを増す

赤い
部屋が赤い
暗闇がだんだんと明るくなってくる

痛みに悲鳴をあげ、目を剥きだしにしてのたうちまわり叫ぶ父
47 名前:reason 投稿日:2006/05/05(金) 21:50
吉澤が見えるのは、赤い景色
ただただ赤い景色
音はもう聞こえない
臭いも何もない

そう何もない
吉澤は恐怖に襲われ、走る 走る 走る


48 名前:reason 投稿日:2006/05/05(金) 21:50
 
49 名前:reason 投稿日:2006/05/05(金) 21:50
人生に望むのは自分の人生を生きる自由だけだった
50 名前:reason 投稿日:2006/05/05(金) 21:51
 
51 名前:reason 投稿日:2006/05/05(金) 21:51
 
52 名前:extra 投稿日:2006/05/05(金) 21:51
あと少しです。
お付き合い下さい。
53 名前:26 投稿日:2006/05/05(金) 23:40
あぁぁぁ…
どうなるのかとても気になって眠れなさそうですw
どこまでもお付き合いいたします!
54 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/12(月) 01:59
待ってます
55 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/29(木) 22:06
待ってます
56 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/02(水) 22:11
待ってます。
57 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/03(木) 00:12
上げないように。
58 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/06(金) 05:02
まってるよー
59 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/24(日) 17:25
いつまでも待ちます。
60 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/01/21(日) 01:25
待ってますよー
61 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/29(金) 15:50
久々に読みました。
やっぱいいですね!
まだまだ待ってます。
62 名前:sage 投稿日:2007/11/13(火) 21:19
まてますよー。
63 名前:sage 投稿日:2007/11/13(火) 21:19
まてますよー。
64 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/13(火) 21:47
あげないで
65 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/01/04(金) 08:12
私も待ってます
66 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/01/04(金) 08:12
私も待ってます
67 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/02/27(水) 05:22
こんなところにあるとは!まってます。
68 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/08(木) 03:23
待ってますよ
69 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/07/11(金) 02:15
すばらしい作品で驚きました。
結末が気になります。

復活されるのを待っています。
70 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/20(水) 17:11
今見つけました!!
帰ってきましたか!!前にも一度拝見していて
すごく気に入ってたんです
よかったーーー  ずっと待ちますよ 
71 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/20(水) 18:17
ageないで下さい
更新来たかと思って期待しちゃうじゃん
72 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/20(水) 18:49
すいませーん
73 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/20(水) 18:54
学習してないんで?
ageないで
74 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:06
75 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:06
ねぇ?どれが本当でどれが嘘か本当にわかってる?
あなたの見えているもの全てがあなたが作り出した幻想だったとしたら?
誰もあなたを愛していなかったら?
あなた自身すらあなたを愛していない人生は悲劇ですらない喜劇。
76 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:06
77 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:07
吉澤は、見慣れない天井に違和感を覚えたが、
一瞬にして嗅覚がここがどこだかを教えてくれる。
「あーやっちゃったなぁ…」
体に巻かれている包帯に気づき、刺されたことを思い出す。
体を起こそうとすると鈍い痛みが響いた。

「もう大丈夫かと思ってたんだがなぁ…難しいもんだね」
痛みを誤魔化すために独り言をつぶやきながら、グーッと体を伸ばすと
嫌な視線を感じ部屋を見渡すと、脚を組みいつも以上に神経質そうな目線を受ける。
「い、石川さん?」

声をかけると組んでいた脚をほどき、ベッドのそばに立つ石川。
「子供たちは・・・「空を飛んだんでしょ?」
石川の発言をさえぎるように、なんでもないことのように言う吉澤。
「なんで?」
「空を飛ぶ夢は欲求不満の象徴なんだって。欲求の解放は、飛ぶしかないんじゃないかな」
吉澤の言動は、家に運んだ時とは違い、「普段」の吉澤だった。
石川は何かを考え込むかのように目を伏せ、下唇を噛んだ。
「あなたは、どんな夢を見ているの?」
吉澤は、石川を目を細め見つめ、口元を少しだけ緩める。
78 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:07
吉澤がベッドから倒れこみ、小川が救急車を呼んだ。
吉澤を助けたい気持ちと同じくらいに浮かんだのは「日常」に戻りたいという小川の気持ち。
部屋にいる限り、誰もが悪夢から逃れられないと。
小川が動いたことで、石川も正常の判断に戻り、保田に報告の電話を入れた。
保田は詳しくは後で聞くといい、とりあえず顔を見せに来いと伝えただけだった。
79 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:08
80 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:08
空が赤い。
世界が赤く色づく。
眩しかった日常にあと少しで届きそうだった。
本当にあと少しで。
81 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:08
82 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:08
絶対的な力での支配は、報復を受けるだろう。
受けない方法は、1つだけ。
人間扱いを一切しないことだ。
83 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:09
84 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:09
「夢診断でもしてくれるの?」
吉澤は、からかい口調で石川に応える。
石川は、眉をしかめる。それに吉澤は気づき、言葉を続ける。
「夢なんか見ないよ」
「・・・そう」
石川は諦め、部屋を出るために支度を始める。
「いしかーさん。」
吉澤の声に石川は振り向く。
「無理しちゃダメだよ」
ニコっと笑う吉澤。
吉澤の笑顔を見たのは、久しぶりだった。
「そのままお返しするわ」
石川はコートを手に取り、部屋をあとにする。
吉澤は肩をすくめ、少しだけ笑みを浮かべ背中を見送った。
「無理が出来たら幸せなんだけどね〜」
窓から広がる暗闇に愛でもささやくような穏やかな声の吉澤。
85 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:09
86 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:09
ヒトを人だと認識すると面倒なことはいっぱいあります。
ヒトはヒトでしかなく、モノと同等なのです。
だから、いつだって世界は自分の思い通り。
87 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:09
88 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:10
「石川!」
署に戻り、保田を探していると先に声をかけられた。
「ご迷惑おかけいたしました。」
石川は深々と頭を下げる。
「今回の辻のお母さん殺害と集団殺害、吉澤への暴行はあの子達よね」
石川は何も言わずにうなずく。
「子供達の一人だけ生き残ったから、様態が安静したら取調べを開始するから」
保田はそう言い残し、石川の頭をポンっとたたいた。
「保田さん!吉澤さんの過去について何か文書は残ってないですか?」
保田の猫目が少しだけ大きくなる。
「どこで聞いたの?」
静かな保田の声。
「平家さんです。」
保田はあーっと言いながら、天井を見上げる。
「書類は用意させて持っていくわ。あんたも少し休みなさい。追い詰められた顔しないの。」
そう言うと保田は、どこかに電話をかけた。
石川は、また深くお辞儀をし、その場を後にした。
89 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:10
90 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:10
この世から消えるのは、一瞬。
この手ですぐ消してあげる。
世間から消えるのは、3時間。
葬儀が終わればさようなら。

永遠にさようなら
91 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:10
92 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:10
『よしこ、腕痛くないの?』
綺麗な茶色の髪に整った顔の女の子。
吉澤はその声に反応して、ただれた自身の腕をなでる。
「痛くない」
『変なの。じゃあ、何で泣いてるの?あれのせい?』
クイっと吉澤の父親だった人の写真をあごでさした。
吉澤は小さく首を横に振る。
『ごとーは知ってるよ』
うつむいたままの吉澤。
『殺したのはよしこでしょ』

コロシタノハヨシコデショ

顔をあげた吉澤は、後藤の強い目線とぶつかった。
「・・・違う」
『見てたよ。ごとー。ものすごい声だったね。あの人。』
楽しそうに笑う後藤。
『火達磨ってあんなのなんだね。のたうちまわってさ』
クスクスと楽しかった思い出を語るかのような後藤。
「後藤さん」
『勿体ないね〜。最期まで見るべきだったよ。逃げちゃうなんてさ。』
父親があげていた声なのか、ウガアアアと叫びを上げる後藤。
『うん、似てる。聞いてたでしょ?』
「…何が目的?」
吉澤は後藤の目をまっすぐみながら静かにつぶやく。
『よしこを自由にしてあげたいんだよ。ごとーは』
93 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:11
94 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:11
『自由』なんて誰も本当は望んでいない。
いつだって『不自由』な普通でいたい。
95 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:11
96 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:11
吉澤は電気を消された病室で、ベッドに腰をかけていた。
「…見られちゃったよなぁ〜」
頭を抱えながら、刺されてからの記憶を辿った。
「頑張ってたのにな〜。刺されなければなぁ。」
ドンっとそのままベッドに倒れこむ。
「あ、いてっ。」
ガチャと開くドア。吉澤は寝転んだままドアの方に目を移す。
「やっぱりそうなるよねぇ…」
腕を組んだ保田が憮然と立つ。
「吉澤。」
「はーい。」
体を起こし、保田と向き合う。
「どこまで思い出したの?」
吉澤はニコっと微笑む。
「ごっちんが笑ってくれたくらい」
保田は手を額にあて、ため息をつく。
「そんなため息なんかつかなくても」
「つくわよ。」
「保田さんにはお世話になってますよ。小川を寄越したのも保田さんでしょ?」
保田の目が少しだけひきつった。
「あんたって本当に頭はいいわよね。」
「なにそのトゲのある言い方」
クックと楽しそうに笑う吉澤。
「性格が悪いって言ってんのよ。あんたに必要なのは、後藤じゃない」
吉澤は笑いをやめ、真顔に戻る。抑揚のない声は部屋の中で思ったより響いた。
「保田さーん?それ言っちゃう?」
97 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:12
98 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:12
その人を知りたいなら
過去を知りなさい。
その人を愛したいなら、
過去を知らずに未来を想いなさい。
99 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:12
100 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:12

石川はデスクに置かれた書類と向き合っていた。
保田は書類を渡すときにこれで自分の中で整理しないさいと言い残した。

ある家族に起きた残虐な事件が書き残されていた。
犯人は、後藤真希。
吉澤は横でそれを見ていた唯一の目撃者だった。
101 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:12
102 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:13
夜に融け込むカノン。
人が泣く。
影は踊る。
狂ったように踊る影。
沈黙は、全てを受け入れている。
103 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:13
『ごとーの家においで。楽しいものを見せてあげる』
後藤は、吉澤に手を差し伸べた。
吉澤は、その手を受け入れず静かに立ち上がる。
後藤は、その行動を愛しそうに見つめる。
『おいで』
吉澤はうつむいたまま、後藤のあとに続く。

『よしこ。人は殺しちゃダメなんだよ。殺させあうんだ。』
常識っしょ?と笑う後藤。
吉澤は、肯定も否定もせず目を伏せた。
後藤の家に転がるいくつかの人だった物。
もう逃げる力も失った後藤より少しだけ年の離れた女性と若い少年。
『そこにいるのがねーちゃんと弟ね。』
後藤は壁にもたれる二人を指さす。
吉澤は、ボーっと二人を見ていた。
そして、足元にあった死体につまづく。
その様子を後藤は楽しそうに見ている。
『よしこ。それお父さんとお母さんね』
吉澤は、後藤に目を向ける。
『ごとーはやってないよ。そこの二人がさ。やっちゃったんだよ』
ね?と壁にもたれた二人に声をかけるが、反応はない。
『もう少ししたらさ、またおもちゃ来るから待っててよ』
後藤はそう言い、ソファに寝転がり小さな寝息をたてた。
吉澤はソファの横に腰をおろし、ただその光景を眺めていた。
104 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:13
105 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:13
誰だって悪人になろうとはしないでしょう。
誰だって唯一の何かになりたいでしょう。
106 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:13
107 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:14
来訪を知らせる電子音が部屋に響く。
後藤はソファの上で目を開く。
『おっそすぎだよねぇ』
そう言いながら、髪を整え玄関に向かった。
吉澤の方を見ると、子供を抱いた男性が立っていた。
『義兄さん、これおねえちゃんがやっちゃったんだよ』
床に横たわる両親を指さす。
男性は子供をギュッと胸に抱き、状況を隠す。
顔色がどんどん白くなるのが目に見えて分かる。
『隠すの手伝ってくれるよね?ごとーもおねえちゃんを犯罪者にしたくないの』
ぐっと男性に近づき、内緒話をするように耳元でつぶやく。
そして、吉澤に目を向ける。
立ち尽くす男性を置いて、後藤は吉澤の横に座り込む。
『パーティだよ。』
楽しそうに笑う後藤。吉澤は小さくうなづいた。
108 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:14
109 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:14
さぁさぁ
見においで。
楽しい時間の始まりだ。そして苦しい時間の終わりだよ。
見ないと一生後悔する素敵な時間。
楽しむか苦しむかはあなた次第。
110 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:14
111 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:14
112 名前:reason 投稿日:2011/05/16(月) 01:14
113 名前:extra 投稿日:2011/05/16(月) 01:15
失礼しました。
114 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/05/16(月) 20:43
まってました。おかえりなさい。
115 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/05/18(水) 02:26
再開ありがとうございます!ホント待ってました。 続き楽しみにしてます。
116 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/05/19(木) 22:54
おかえりなさい、待ち続けた甲斐がありました。
117 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/05/21(土) 20:25
おおおおおおお!!!再開待ってました!!!
118 名前:extra 投稿日:2011/05/21(土) 23:28
>>ALL
みなさん、こんな駄作を待っていただき本当にありがとうございます。
119 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:28


120 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:28


121 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:30
「まとも」というのは、誰が決めるのか。
自分から見たらどれも見たことのない生き物だ。
すごく怖い見たことのない生き物だ。
122 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:30


123 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:30
保田は、薄ら笑う吉澤から目を逸らすことが出来ずにいた。
「保田さん、それはさすがに言っちゃダメでしょ?全部知っててさ?」
吉澤は軽く左眉を上げた。
「全部知ってるからよ。いい加減、解放されなさい」
「解放ねぇ…」
吉澤は自身の唇に指をあてながら、下から舐めるように保田を見た。
「保田さん、何を怖がってるの?」
クスクス笑いながら、目を細める。
保田は、吉澤の目を見ながら言う
「後藤よ。」
124 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:30


125 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:31
自分の中に人とは違う力があったとしたら、
それは試さずにはいれないだろう。
だって、自分は他の誰にもたどり着けない場所にいる
唯一の人間
126 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:31

127 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:31
顔面蒼白のまま、後藤の義兄は必死に人であったモノをのこぎりで刻んでいる。
「はーやーく」
後藤は、その様子を楽しそうに見つめる。
「ねぇ、よしこ。やっぱりナタとか必要なのかな?」
黙ってその様子を見ていた吉澤の顔をのぞきこんで聞く後藤。
吉澤はそれに答えもせず、ただその光景を目に映している。
「ナタってさ〜、よく昔話とかであるじゃん?首をスパーっと切るみたいなさ?」
自身の首を左から右に切るジェスチャーを楽しそうにする後藤。
「でも、愛する女のためによくやるよね?」
後藤が指さす方向には、顔は青いのに汗ばかりかいている男。
「お姉ちゃんが犯罪者になっちゃう…とか言っただけであんなに一生懸命だよ」
満足そうにその横顔を見つめる後藤。
128 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:31
吉澤は黙ったまま立ち上がり、刻まれている母親だったモノに近づいていく。
そして、刻んでいる横で半笑いのまま肉をグチャグチャと弄んでいる後藤の姉の肩をトンっと叩いた。
「よしこー?その人、もう壊れちゃってるから何しても無駄だよ?」
後藤が声をかけるが、吉澤は反応しない。

「ママー、ママーきゃははははははははははは!」
内臓であろう血まみれの臓器に頬をすりよせている女。
吉澤は、その臓器を取り上げた。
女の何も映していなかった目に光が点り、吉澤に襲いかかる。
「何するんだよ!!!!ママに触るな!ママを返せ!!!!!!!」
悲鳴にも近い怒鳴り声をあげながら、吉澤の腕に掴みかかる。
その動きに後藤が反応し、立ち上がろうとしたが、吉澤は後藤を制した。
「返せ!返せ!かえせ!かえせえええええ!」
吉澤は、半狂乱の女に殴られながら内臓にキスをした。
キスをした瞬間、女に組み敷かれる吉澤。
腕で顔をかばう吉澤。
腕の隙間からかすかに流れてくる涙が見える。
129 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:32
後藤は立ち上がり、横から思いっきり女を蹴飛ばした。
「痛い!まきちゃん何するの!?」
キッと後藤を睨むが、後藤のあまりの無表情に女は止まる。
「ごとーの客に何してんだよ?あんた」
でも…でも・・・と聞こえないくらいの声で呟きながら、
キョロキョロと目を動かし助けを求める女。
「へぇ〜。頭狂っててもごとーがキレてることはわかるんだ?」
後藤がもう1度蹴り飛ばそうとした瞬間。
「後藤さん。大丈夫だから。」
吉澤が上体を起こす。
「よしこ」
「トイレ貸して」
部屋を出て行く吉澤の後姿を見ながら
後藤は舌打ちをし、女を睨みいつもの定位置であるソファに腰をおろした。
女は慌てたように母親の内臓をかき集め、また大切に抱きしめていた。
その慈しむような表情は、後藤を少しだけ苛立たせる。
「ゆーき」
後藤の声に弟の背中が大きく震えた。
「お姉ちゃん、お母さんのところに行かせてあげな」
130 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:32


131 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:32
自由ではないなら、それはあなたが支配下にいるから。
自由になりたいなら?
132 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:32

133 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:33
保田は姿勢を正す。
「後藤は吉澤に何をしてくれた?」
出来る限りの冷静の声を出す。
「自由にしてくれたんだ。何回も話したじゃない。」
吉澤は眉を困ったように下げる。
「自由ね。吉澤、今から言うことを一言も漏らさずに聞きなさい。
それであんたの無駄に良い頭で考えなさい」
吉澤は、ため息をつく。
「後藤は、あんたを好きでも大切とも思ってないわよ」
吉澤はその言葉に嬉しそうに頷く。
「だから、愛しているんだ。よしざーを好きとか大切とか言う人を愛せないよ」
当然のことのように話す吉澤。
「おかしいわよ」
「おかしくなんかないさ。死体を好きという人を好きとは思わないでしょ?」
肩をすくめる吉澤。
「あんたは死体じゃないでしょ。」
ため息まじりの保田の声。
吉澤はにっこり笑う。
「死体だったらよかったとは思うよ」
134 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:33


135 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:33
誰かが言いました。
この世を手に入れたい。
誰かが言いました。
この世ってどこにあるの?
136 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:33


137 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:33
姉に手をかけたとき、弟の精神はもう崩壊していた。
早く、早くお母さんのところに行かせてあげたい。
殺すことが愛情のように感じ、涙も出なかった。
抵抗する女を抱え込む、女を愛していた男も同じように感じていた。
動物のような叫び声で暴れる女。
女の理性ない暴れに殴られ、口の端から血を流しながらも
一番いい方法だと思い込んでいた。

「自分だけはまともだなんて思わないでよ?」
後藤はアゴでその光景をさしながら、にっこり笑い吉澤を見た。
吉澤は口を手でおさえ、トイレに駆け込む。
「繊細だねー」
後姿を愛しそうに見つめる後藤。
138 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:34
3人に視線を戻す後藤。
「お姉ちゃんは幸せものだね。すごく愛されてる」
139 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:35
−−−−−−−−−−−−−−−プツン



切れる命の音。


140 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:35


141 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:35
理解したいだなんて思ってはいけません。
知ることすらできない無力なあなた。
深い闇にのまれ、あなたを失ってしまう前に
無力ということを知ることです。
142 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:35


143 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:35
「保田さん、お願いがあるんだけど」
吉澤が雰囲気を変えるように明るい声で言う。
「なによ。聞かないわよ」
「いやいや、聞いて」
楽しそうに話す吉澤。
「なに?」
「いしかーさんに会いたい」
保田の猫目が大きく開かれる。
「は?」
「どこにいるの?いしかーさん。」
「本署にいるはずよ・・・何するつもり?」
保田のあからさまに警戒した態度に苦笑いをする吉澤。
「謝りたいんだ。ごっちんがひどい事言ったからさ。随分前に。」
「謝る?」
にっこりと頷き、立ち上がる吉澤。
「いしかーさんとこ行ってくる」
144 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:36

145 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:36
手に入れたいものが大きければ大きいほど
その代償は大きく、そして心を削っていく。
146 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:36


147 名前:reason 投稿日:2011/05/21(土) 23:36


148 名前:extra 投稿日:2011/05/21(土) 23:37
本日はここまで。
読んでくださる方々に心からの感謝を。
149 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/05/22(日) 14:02
更新されていたんですね。
待ってました!
150 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/05/22(日) 20:13
更新されてて嬉しいです。作者さん頑張ってください
151 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/05/26(木) 19:33
何と更新されてたとは!待ってた甲斐がありました。
152 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/06/10(金) 21:44
ずっと続き気になってました!
この世界観引き込まれます!!
153 名前:extra 投稿日:2011/06/14(火) 20:43
   
154 名前:extra 投稿日:2011/06/14(火) 20:44
>>150-152
お待ちいただき本当にありがとうございます。
マイペースに完結までもっていこうと思いますので
もう少しお付き合いください。
155 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 20:44
 
156 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 20:44
 
157 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 20:44
私のような人間をもう存在しなければならない。
さもなくば、私は死ぬことすらできない。
158 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 20:44
 
159 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 20:44
「そんなつまらないものを読んでないで、デートしませんか?」
振り返るとニッコリ笑った吉澤。
吉澤は手を伸ばし、自身についてまとめられた書類を
軽蔑したような目で一瞬見てから、石川に視線を移す。
160 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 20:44
 
161 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 20:45
吉澤の手から書類を取り返し、封筒の中に仕舞う石川。
「石川さん、出かけましょう」
デスクの中に片付けたのを見て、吉澤は穏やかな声で話す。
「出かけるって。あなた病院にいなくて平気なの?」
吉澤について書かれた書類について、軽蔑な視線を見ただけで
何も言わない吉澤に対して違和感を覚えながらも、
石川は冷静を装って答えた。
「病院飽きちゃって」
さもどうでもいい遊びのように話す吉澤
「飽きるってそうゆう問題じゃないでしょ?!刺されてるのよね?」
「刺されたんだろうね。記憶があいまいでさ。頼りない頭なもんで」
と首をかしげながら自虐的に笑う。
「・・・映画とか行くわけではないんでしょ」
石川の諦めたような口調。
「それは次回で。さ、行こう」
石川のかばんを右手に持ち、吉澤は部屋を出て行く。
「ちょっと!」
なんとかコートだけをつかみ、吉澤の背中を追いかける石川。
162 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 20:45
 
163 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 20:45
断言さえしてくれればいいのだ。
「おまえは価値がない」と。
軽蔑してくれればいいのだ。
「貴様はどうして生きてられる」と。
それは何よりも力になる。
164 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 20:45
 
165 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 20:45
「今日はよしざーの車でね。いしかーさんの車、今悲惨でしょ?」
「え?」
「あれ?車で襲われたんじゃないの?」
石川は目を丸くして、吉澤を見つめる。
「何でわかったかとか思ってる?」
吉澤の言葉に石川は眉をひそめる。
「なんとなくだよ。さぁ、乗って!ドライブだよ」
妙に明るい吉澤に胸騒ぎを覚える石川。
ただ選択肢はない。
黙って助手席に乗り込む。
助手席に座ったのを確認して、車は動き出した。
166 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 20:45
 
167 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 20:46
「どこ行くの?」
石川は吉澤の横顔を見つめる。
「柴ちゃんのとこ」
「は?!」
石川の反応に満足そうに顔を向ける吉澤。
「今日の今日じゃまだマスコミもあそこまでかぎつけてないでしょ。警察もさ。」
「もう吉澤さんの出番はないわよ」
吉澤は前を向き、肩をすくめる。
「ここからは警察の仕事ってこと?」
「そうよ」
石川は強い口調で言う。
「了解。でも、今回のボスとカタはつけさせてよ。刺されてるわけだしね?」
「ボスってののちゃんのことを言ってるの?」
「そう。愛しい吸血鬼のことだよ」
「愛しい?」
「愛しい人に似てるんだ。」
吉澤はビー玉のような目をして、車を運転し続けた
168 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 20:46
 
169 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 20:46
血をしたらせる森の夢を見た。
オアシスのように素敵で。
なによりも満たしてくれた。
どんな幸せを渡されてもこんなに心は満たされない。
170 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 20:46
 
171 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 20:46
 
172 名前:extra 投稿日:2011/06/14(火) 20:47
それでは、また次回更新で
173 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:23
174 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:23
175 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:23
この苦しくて愛しい既視感。
確かめたくて、深い淵にはまっていくとわかっていながら
のまれていく
          のまれていく
176 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:23
177 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:23
「愛しい人って」
石川は、1人だけ浮かぶ人物がいたが言葉として続けることが出来なかった。
「よしざーの履歴書みてたのにわからなかった?」
楽しそうに話す吉澤
「履歴書って…」
石川の言葉に首をかしげる吉澤。
石川はノドが鳴りそうになるのを堪えて、言葉を続ける。
「聞いていい?」
「まだダメ」
間髪いれずに答える吉澤。
口元には少しだけ笑みが浮かんでいた。
178 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:23
179 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:23
自分を認識したかった
だから、出来るだけ愚劣なものをこの目に移すと決めた。
180 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:24
181 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:24
「ねーよしこ」
後藤は手の中で小瓶を遊ばせていた。
吉澤は何も答えず、目だけ後藤に向ける。
「・・・そんな目しないでよ。楽しいこと考えたのに」
後藤は少しだけ拗ねたような口調。
「試してみたくない?」
ポンっと吉澤の手元にビンを投げる。
ラベルに目を落とし吉澤
『硫酸』
大げさなまでの取り扱い注意の文字。
吉澤は目頭をおさえ、後藤にビンを返す。
「なに?嫌なの?」
吉澤は、少しだけ頭痛を感じていた。
「別によしこにはしないよ。あいつら。」
後藤のくせなのかアゴで女だった塊を削っている男2人をさす。
「ま、あれが終わってからかな〜。ごとー力仕事苦手だしね。」
クスクスと含み笑いで体が切断されていくのを見つめる後藤。
吉澤は、後藤と切断された腕や脚を見つめていた。
頭痛がさらにひどくなる。
「あ、思いついた。ねー義兄さん」
後藤の声かけにビクっと反応する男の背中。
「お姉ちゃんのこと愛してたんだよね?」
大きいはずの背中は小さくなりガタガタ震えていた。
「食べようよ。お姉ちゃんをさ。みんなで」
ね?と後藤は吉澤に向かって微笑みかけた。
そのあまりにも笑顔が純粋で吉澤は反論も同意もできずにいた。
182 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:24
183 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:24
深淵は、ほらそこだよ。
手招きなんか必要ない。
あなたは望んで深淵に足を踏み入れる。
そう心から望んで。
184 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:24
185 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:24
「つーいーた」
施設の駐車場に車を停め、息を吐きだすように吉澤は話す。
石川は、吉澤の横顔に目をうつす。
「そんな見つめられると穴があく」
吉澤は、楽しそうに石川の目をふさぐ。
「吉澤さん」
「いしかーさん、今から吉澤がすることに目を離さないで。そして・・・」
「そして?」
「終わったら殺してよ」
吉澤は軽い口調で目をふさいでいた手をはなした。
「絶対嫌。」
パンっとまだ目の前にある手をはたく石川。
吉澤は、大きな目をさらに大きくしたと思ったら、大声で笑い始める。
「いしかーさんは、いしかーさんだ」
嬉しそうに、でも、悲しそうに笑っている。
「さ、行こう。早く話がしたい。」
吉澤は待ちきれないといった感じに車から飛び降りる。
186 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:24
187 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:24
食べることはひどく下劣なことのように思えた。
生きている何かを食べる権利なんて誰にもないんではないだろうか。
188 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:24
189 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:25
目の前に運ばれてきたハンバーグとシチューに後藤は目を細める。
「牛やブタと変わらないね」
義兄は目の前の料理に耐え切れず吐き出した。
“ねえさん ネエサン ねえさん ねえさん どうしたんですか?”
“ねえさん ネエサン ねえさん ねえさん 何してるんですか?”
“ねえさん ネエサン ねえさん ねえさん”
独り言を繰り返す弟。
190 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:25
「ゆーきうるさい。よしこがせっかく作ってくれたのに」
吉澤はずっと手を見つめていた。真っ赤に染まった手。
何度洗い流しても、まだ赤く染まっているように思える。
石鹸を使っても、石鹸すら赤く染まる。
”壊れた”と吉澤は誰にも聞こえないようにつぶやく。
「まだ壊さないよ」
聞こえるはずのない吉澤の声に後藤は無機質に反応した。
「さぁ!みんな食べよう。最後の晩餐だよ。」
後藤が楽しそうにフォークを持つ。
「よしこに襲いかかるなんてさ。ユダだよ。ユダを食べよう」
吉澤にフォークを手渡す後藤。
手渡されたフォークをジッと見つめる吉澤。
「裏切りものはこれでもういないね」
無機質な後藤の声に義兄の体は震え、弟の独り言は消える。
191 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:25
192 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:25
愚劣なものを目に移したら、何かが変わると思っていた。
でも、残ったのはより醜い自分。
ああああああああああああ、消えてしまいたい。
193 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:25
何度もインターフォンを押すが、施設は静まりかえっていた。
「もう23時過ぎてるわ」
石川が再度インターフォンを押そうとする吉澤の手をとめる。
吉澤は、インターフォンは押さずにドアノブを廻す。
ガチャリと開くドア
「無用心だね。柴ちゃんにあとで説教してよ。いしかーさん。」
眉を少しだけ石川を見る吉澤。
「・・・おかしいわ」
石川は、眉をひそめる。
「ちょっとは勘がよくなったね。不審者がいるから見回りを頼んでるのにね。」
石川の心拍が早くなる。
早く確認しないといけないという意識と、見たくないという意識。
体が動かない。
吉澤はポンっと石川の肩をたたく。
「待ってる?」
「・・・いくわよ。あなたを生きて病院に帰さなきゃ」
吉澤を睨む石川。
「生きてねぇ?」
睨まれていることを気にもとめずにちゃかすように話す吉澤。
「重要参考人ですから。」
石川はきっぱりと言い放ち、施設に足を踏み入れた。
194 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:25
195 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:25
最期は誰が決めるのでしょう。
神がお告げで決めると偉い人が言いました。
神はどこにいるのですか?
あなたの心だと偉い人は続けます。
最期を決めるのは自分なのですね?
おこがましいと私は殺されました。
                             殺されました。
196 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:25
197 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:25
198 名前:reason 投稿日:2011/06/14(火) 21:25
199 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/06/16(木) 21:00
この世界観が引き込まれる

作者さんおかえりなさい
200 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/13(土) 11:59
ここで柴ちゃん登場ですか!!
続きが気になります!
201 名前:reason 投稿日:2011/08/29(月) 17:39
202 名前:reason 投稿日:2011/08/29(月) 17:39
203 名前:reason 投稿日:2011/08/29(月) 17:40
いやあああああああああああああああああああ!!!!!!

突然の悲鳴に石川は、吉澤の方を向く。
吉澤は、声が聞こえた方向をただ見つめ、
石川の腕を掴み、ゆっくりと声の方向へと向かっていく。

「・・・い、今の声…」
ひきづられるように歩く石川はやっとの思いで声を発する。
「柴田かなぁ」
吉澤の返答に目の色を変えた石川は、掴まれていた腕を振りほどき
声の方向へ走り出す。
前に吉澤と来たときに通された一番奥の応接のドアの前で深呼吸をして、
体当たりするようにドアを開ける石川。

ガチャ!!!

血だらけのハサミ
倒れている柴田
月さえも見えない静かな夜
204 名前:reason 投稿日:2011/08/29(月) 17:40
205 名前:reason 投稿日:2011/08/29(月) 17:40
「・・・っ!!」
口を手で覆う石川。体を動かそうにも動かない。
柴田へ足を進めることができない。
「いーしーかわさーーん」
部屋の外から聞こえる吉澤の声。
部屋にいたくない気持ちから入ってきたよりも勢いよく
部屋の外に出ると、横の部屋からちょいちょいと手招きしている吉澤。
「・・・しばちゃんが!!」
「うん。これ」
小さな小瓶を手渡してくる吉澤。
「そんな場合じゃないの!!!」
「アスピリンだってさ」
吉澤は、小瓶を石川に押し付け、顎で室内を指す。
石川がゆっくりと小瓶から室内に目を移す。

口から血を流し、頬、顎には大量の唾液。
辻希美は床の上で冷たくなっていた。
206 名前:reason 投稿日:2011/08/29(月) 17:40
「アスピリンってさ〜、鎮痛剤とかに使われてるけど興奮作用もあるんだよねぇ」
髪をかきあげながら、冷たくなった辻へ視線を送る吉澤。
「ののちゃんが柴ちゃんを殺したって言いたいの!?」
吉澤の両腕をつかみ、追い詰められた表情の石川。
吉澤はやんわりと腕を離し、ゆっくりと微笑む。

「・・もうなんで…こんなことって・・・」
石川は泣いているのか肩が小さく震えていた。
「いしかーさん、本当の闇はこんなもんじゃないよ」
バっと顔をあげると、ニヤニヤと笑っている吉澤。
「泣くのはまだ早い」
全身に震えが走る石川。

辻の遺体の近くにしゃがみこむ吉澤。
愛おしいそうに辻の顔、首、鎖骨を撫で上げる。

「な、何を・・・」
「いっぱい濡れてるなぁって思って」
ほらと辻の顔を指差す。
よく見れば、唾液が多く流れている口元。
涙かもしれない…と辻の最期を思い、石川は下唇を噛み締めた。
207 名前:reason 投稿日:2011/08/29(月) 17:40
「どう判断する?聡明な石川さんだったら」
吉澤はよいっしょと口に出し、ゆっくりと立ち上がる。
見上げる目線。
石川は、深く深呼吸をする。
「大量の薬物服用による事故死。」
その回答に吉澤はにっこりと笑う。
「アスピリン乱用より、柴ちゃんを殺害。その後、大量摂取?」
クスクスと笑いを殺したように話す吉澤。
「なに?」
「さらに興奮したくて飲んだってことかな。辻ちゃんは。」
石川は、吉澤の話を睨むように聞く。
「石川さんは、保母さんに転職した方がいいんじゃないかな?」
「なっ!」
前髪をかきあげる吉澤は、ドアを振り返り
石川の反論を聞かずに話を続ける。
208 名前:reason 投稿日:2011/08/29(月) 17:41
「なぁ?柴田。」
209 名前:reason 投稿日:2011/08/29(月) 17:41
ラブレターを書きました。
気づいてほしくて、紙に想いを綴ったのです。
ラブレターを書きました。
だけど、気づいてはもらえませんでした。
許せない
 許せない
  許せない

またラブレターを書きます。
210 名前:reason 投稿日:2011/08/29(月) 17:41



211 名前:reason 投稿日:2011/08/29(月) 17:41



212 名前:reason 投稿日:2011/08/29(月) 17:41



213 名前:extra 投稿日:2011/08/29(月) 17:43
>>199
ありがとうございます。
もう駄文すぎて嫌になりますがマイペースに更新していきます。

>>200
どんな役目をもたそうか最後まで悩んだ一人です。
なかなかひどい役目ですがw
214 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/01(木) 22:46
マイペース上等、更新楽しみにしてます。
215 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/10/29(火) 20:41
ひたすら待っております。
216 名前:名無飼育さん 投稿日:2014/04/23(水) 14:14
続き、読みたいです。ずっと待ってます。

ログ一覧へ


Converted by dat2html.pl v0.2