Dear Liar
1 名前: 投稿日:2005/03/19(土) 01:50
みきあやです 
お付き合いください
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/19(土) 01:50
彼女の愛想の良さは偽り
彼女の微笑みは他人を寄せ付けない為の壁
彼女の心の中にいるのは

誰なんだろう
3 名前:. 投稿日:2005/03/19(土) 01:51


-Dear Liar-


4 名前:. 投稿日:2005/03/19(土) 01:52


いつもと同じように流れていく日々の中で全ての事柄においてどうにも嫌気が差していたあたしは、学校をサボって学校と反対方向の電車に飛び乗った
見慣れない風景が目の前に広がる瞬間を見たかった
別に辿り着く先はどこでもよくて、今すぐこの現状から抜け出したかった
理由はそれだけ

若気の至りなんて言葉で片付けてしまえば一瞬で片付いてしまう
そんなちっぽけな逃避行
辿り着いた先で何かがあるとは限らない
それでもいつも通りの生活を今日もまた繰り返して、このまま年をとっていくなんてまっぴらごめん
お断り
誰もわかってくれなくても、あたし自身が納得していればそれでいい
どうせこの先、あたしはあたし自身の足で歩いて行かなくちゃいけないんだから
親だの先生だのが引いたレールの上で良い娘を演じながら生きていくなんて、最高につまらない生き方
他の誰がそれがいいって言ったって、あたしにとってはそんなのまったく意味がない
流れる風景をぼんやり見つめて、あたしはそんな事を延々思う
5 名前:. 投稿日:2005/03/19(土) 01:52
どんどん流れる景色
トンネルを潜ったその先に一面広がる青、また青
海を見たのなんて何年ぶりだろうか
親とも友達ともここ数年海に遊びに行った記憶がない
せっかくだし次の駅で降りる事にしてあたしは鞄を膝の上で握り直した

6 名前:. 投稿日:2005/03/19(土) 01:53

少し古めの駅舎が何だか哀愁と共に懐かしさを運んでくる
改札を潜って鼻をくすぐる潮風を思い切り吸い込んで深呼吸した

「さぁて、どっちへ行こうかな…」

そう呟きながら左右を見渡してみるけれど、これと言って興味を引きそうなものもなく
鞄の中には今日読むつもりだった文庫本もちょうど入っているし、砂浜にでも座ってそれでも読めればいいやと思い、浜の方へおりてみる事にする

特に刺激が欲しかった訳じゃない
同じような日常から少しでも逃げ出せればよかった
それが例え砂浜で読書するなんて、つまんないような事でもそれをするという事に意義がある
肩からかけたショルダーバッグを背負い直して、あたしは浜へ向かって足を進めた
7 名前:. 投稿日:2005/03/19(土) 01:53
案の定、平日昼前の海岸には人っ子一人見えない
あたしはある意味予想通りのその光景に一人満足して、砂浜へ腰を下ろした
瞬間、制服のスカートの事が気になったけれど座ってしまったものは仕方ない
どうにかなるだろうなんて思い直して、鞄から少し厚めの文庫本を取り出した

そのまま読み始めたあたしはすぐに本の内容に引き込まれる
聞こえてくるのは波の音とページを捲る微かな音
それと、たまに通る軽トラックのエンジン音
柔らかな日差しが文庫本を照らして、潮風がふわりふわりと髪を揺らす
目の前に落ちてきた前髪を指でつまんで持ち上げつつ顔を上げたあたしの目に飛び込んできたのは
こちらへ向かって歩いてくるボードを抱えた人の姿
どんどん近づいてきたその人は、光に透ける濡れた茶色の髪を無造作にかきあげながらちらりとあたしの方を一瞥して何事もなかったかのように通り過ぎて行った
8 名前: 投稿日:2005/03/19(土) 01:54

今回はここまで
読みにくかったらごめんなさい
9 名前:K坊 投稿日:2005/03/19(土) 10:33
みきあや!!
期待大です!!頑張ってください!!
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/19(土) 14:13
おもしろそう。期待しています!
11 名前: 投稿日:2005/03/22(火) 17:55
更新します
12 名前:. 投稿日:2005/03/22(火) 17:56

「…はぁ」

潮風で多少ベタつく髪を弄びながら溜息をついて店内を見回す
この小洒落たカフェという佇まいの店を見つけたのは偶然だった


太陽が天辺に昇りいい感じだった日差しがそれなりにギラギラしたものに変わり、砂浜でじっと読書に勤しめなくなったおかげと言うか、そのせいと言うか
とにかく
あたしはここに来て以来ずっと下ろしていた腰をやっと上げ、軽く鳴ったお腹に何か入れようと海辺の街を散策して
そこで見つけた喫茶店へ足を踏み入れた

「いらっしゃいませ」

カランカランと軽快な音を立てるドアにかかったベルの音と共にかけられる柔らかい声

「お好きな席へどうぞ」

カウンターの内側で微笑みながらサイフォンで珈琲を入れる女性は店の雰囲気にとても合っていると思う
年の頃は22,3歳といった所か
普段なら絶対に座らないカウンター席に座り、ショルダーバッグを床へ置いた

「ご注文は?」

オシボリと呼ぶにはいたく可愛らしいハンドタオルを巻いたものと水の入ったコップが目の前に置かれる

「えっと。何かオススメとかありますか?」
「今日はホットサンドと紅茶のセットですね。珈琲がよろしければもうしばらく待っていただければ美味しいのをお淹れしますよ?」
「あ、じゃあそれで」
「はい。少々お待ちくださいね」
13 名前:. 投稿日:2005/03/22(火) 17:57
コバルトブルーのコップの中で氷が軽く音を立てる
それ以外は薄く流れるBGMとサイフォンの音くらいしか聞こえてこない
海はすぐそこにあるのに意識して耳を凝らさないと波の音は聞こえてこなかった

「…はぁ」

本日何度目かの溜息をついた時、白いお皿に乗ったホットサンドがカウンターから差し出される

「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」

見上げた店の主は相変わらずにこやかに微笑んでいる
あたしはオシボリでもう一度手を拭くと両手を合わせた

「いただきます」

こんがりと焼けたトーストの間からとろりとチーズが溢れ出す

「おいし〜」
「ありがとうございます」

こんなに美味しいホットサンドを食べたのは久しぶりだと思う
昔はもっと何を食べても美味しいと感じていたような気がするのに、いつからか何を食べてもまぁこんなものかなと思うようになっていた
勉強、進路、人付き合い
大人に近づけば近づくほど、何かを失っている
そんな気分
白いお皿の上で赤いプチトマトがゆらりと揺れた
14 名前:. 投稿日:2005/03/22(火) 17:57

「珈琲にミルクかお砂糖は入れられますか?」
「えっと…、いつも適当なんで…。どうせなら美味しく飲みたいし。オススメの状態でお願いできます?」
「はい」

我ながらおかしな注文をしたと思うけれど、店主は変わらぬ微笑みで手際よく砂糖とミルクを混ぜている
近所にもこんな店があったらいいのにと思うけれど、きっと学校が立ち入り自体を禁止するに違いない

「どうぞ」

大きすぎず、小さすぎず
珈琲カップはあたしの手にすっぽりと馴染んだ
すごくほっとした自分がそこにいる

「あ、そうだ」

カップをそっと置いて制服のポケットを漁る

「なんでしょう?」
「あの、これ海の所で拾ったんですけど。多分ボード持った人が落としてったんじゃないかなって。他に誰もいなかったし。ここら辺の人っぽかったんですけど御存知ないですか?」

ハンカチに包んだソレを店主に見せる
カウンターから少し身を乗り出してハンカチの中を覗いた店主は少し考えて、眉間に皺を寄せた

「ボード?女性でした?」
「はい」
「う〜ん、誰かなぁ」
15 名前:. 投稿日:2005/03/22(火) 17:57
この辺りでボードをやる人間なんてきっとゴマンといるのだろう
思い当たる方が奇跡的な事なのかもしれない
そう思ってまた溜息をつきたくなった瞬間、後ろで店のドアベルが派手に鳴った

「アヤカぁ。来た〜」
「もぉ。もっと静かに入ってきてっていっつも言ってるのに」
「ごめん。お腹すいたからさぁ」

コトっと音を立てて隣の椅子が引かれる
ふわっと香る潮のニオイ
思わず見上げた視線の先には店主と同じくらい綺麗な茶色のロングヘアーの女性

「お客さん?」
「見たらわかるでしょ?ほら、ちゃんとお客さんに謝って」
「ごめんごめん。どうせいつもみたくお客なんていないと思ったからさ。ほんとごめん」

にやりと笑うその顔はどこか憎めなくて、小さい頃毎日遊んだ近所の幼馴染を思い出させた
16 名前:. 投稿日:2005/03/22(火) 17:58
「いや…いいです。気にしないでください」
「そう?悪いね。さんきゅ。ってあれ?それアイツのじゃん?」
「え?」
「お客さんの持ってるソレ。どしたの?」
「や、あの、さっき砂浜で拾ったんですけど…」
「なんだ、もしかして彼女の?」
「そうそう。電話してみる」

アヤカ、と呼ばれた店主と後から来た女性は間違いなくこれの持ち主と知り合いらしい雰囲気
それならば此処に預けて帰ればいい
ジーパンの後ろポケットから携帯を取り出して電話をかけ始めた彼女の横で、あたしは珈琲を口にする
世間は広いようで狭いものだと思う
苦くもなく、かといって甘ったるくもない珈琲はとても美味しかった
17 名前:. 投稿日:2005/03/22(火) 17:58


−あ、美貴?まい。あのさ、今日ボードした?
−やっぱし?落としたっしょ、アレ
−うん、そう。懐中時計。拾ってくれた人がいるからさ
−アヤカんとこにいるから
−よろ〜



「今来るって」
「持ち主が見つかってよかったです」
「でさ」
「はい?」
「開けて…ないよね?ソレ」
「ああ、はい。開けてません」
「ならいいんだ。開けてたら血の雨が降るとこだった」
「え?」
「もぉ。ヘンなコト言わないの、まい」
「ま、いいじゃん。開けてないみたしだしさ。結果オーライってやつっしょ」
18 名前:. 投稿日:2005/03/22(火) 17:59


ソレを見つけたのは本当に偶然だった
お尻についた細かい砂を叩いて、制服のプリーツを撫で付けショルダーバッグの底についた砂を払う為に視線を落とした瞬間
視界の端で何かが光った
数歩先の砂の上で光るソレを手にとって初めてそれが小型の懐中時計だとわかる
そっと拾い上げて全体についたまとわりつく砂が水分を含んでいる事から、きっとさっきの人が落としたに違いないと思った
一瞬目があっただけのボードを抱えたあの人
もしかしたら帰るまでに何処かで会うかもしれない
大事な物かもしれないソレを大事にハンカチに包んで、あたしはそっとポケットへしまい今に至る
19 名前: 投稿日:2005/03/22(火) 18:02
レスです

>>9 K坊さん
レスありがとうございます
ご期待に添える内容の物を書けるかはわかりませんが頑張ります

>>10 名無飼育さん
レスありがとうございます
期待を裏切らないように頑張ります


相変わらず読みにくかったらごめんなさい
20 名前: 投稿日:2005/03/24(木) 18:46

更新します
21 名前: 投稿日:2005/03/24(木) 18:46



結局あたしがホットサンドと珈琲を全て胃の中に収めてしまっても、美貴という人は現れなかった
これと言って用事がある訳でもなかったけれど特にここにいる理由も見つからない
帰ります、と店主に告げて財布を取り出したあたしに、せっかく拾ってくれたのだから連絡先だけでも
と言う店主の頼みを断りきれず、あたしは携帯のアドレスと番号を書いて店を後にする
また来てくださいねと笑った店主の顔はとても優しかった
22 名前:. 投稿日:2005/03/24(木) 18:46



23 名前:. 投稿日:2005/03/24(木) 18:47

足元に転がる小石を蹴りながら駅を目指す
そう言えば、小さい時よくこうやって近所の公園から家に帰ったものだ

あの頃は毎日が楽しくて仕方なかった
きっと大人になったらもっと楽しいに違いない、と大人になった自分を漠然と思い浮かべたりしていた
今、この時点でこんなに楽しくないのならば
大人になったらどうなってしまうのだろう
考えれば考える程鬱になる

気分転換をする為に学校をサボってこんな所までやってきたというのに
何もかもが水の泡になってしまいそうだ
アスファルトの道を歩く事をやめ、あたしは砂浜に向かって走り出した
無数のテトラポットが積み上げられたその場所に立ち、海に向かって叫んでみる

「あー!!!!!」
24 名前:. 投稿日:2005/03/24(木) 18:47
海鳥が頭の上で数羽鳴いた
馬鹿みたい、そう思った瞬間ショルダーバッグから着信を伝える軽快なメロディー
手にとって携帯のディスプレイにはさっき登録したばかりの番号が表示されている
さっきまで隣で賑やかにサンドイッチを大量に食していた彼女のもの

「…もしもし?」
「あ、まつ〜らさん?あたし。まい」
「さっきはどうも」
「今美貴来たから。渡しといた。ありがとね?」
「いえ、お返しできてよかったです」
「まだこの辺?」
「あ、はい」
「そっか。ま、ヤじゃなかったらまたおいでよ。アヤカの店あんましお客来ないからさぁ」

後ろでアヤカさんの声がする
余計な事言わないでと笑うその声に思わず笑みが零れる

「ぜひ。また寄らせていただきます」
「約束ね」
「はい」

電話の向こうでドアベルが軽やかな音を立てた
25 名前:. 投稿日:2005/03/24(木) 18:47




26 名前:. 投稿日:2005/03/24(木) 18:48

その数分後
ほんの数時間前に降り立ったばかりの駅で、時刻表を眺めて溜息をつくあたしがいた
ここまで本数がないとは予想外の出来事
次の電車が来るまで、あと軽く一時間はある
それでもまだ幸いなのは読みかけの文庫本はまだ大量に頁数を残しているという事

自動販売機で甘夏ソーダなどという、近所では絶対にお目にかかれないような缶を見つけて即座にそれを購入したあたしは
駅構内の待合室の古いベンチに座って文庫本を開き、細かい文字の並ぶそれに視線を落とす
しばらく読み進めていくうちに、左手で持った甘夏ソーダの缶がじわりと汗をかき始めた


「松浦…亜弥さん?」

唐突に呼ばれる自分の名前に心臓が撥ねる
ソーダの缶を落としてしまいそうな勢い
27 名前:. 投稿日:2005/03/24(木) 18:48
「へ?!は、はい。松浦ですけど…?」

恐る恐る顔を上げたあたしの前に例の彼女が立っていた

「コレ。拾ってくれてありがとう。お礼言いたくて」

満面の笑みを浮かべる彼女はさっき海で見た時の印象とはがらりと違っていて、内心本当にこの人だっただろうかなどと思う

「たまたま、なんで…そんなお礼言われる程の事でも…」
「たまたまでもなんでも、拾ってくれた訳だし。すっごい助かったから。だからありがとう」
「ど、どう致しまして」

お互い深々と頭を下げる姿は駅員からはどう見えていたのだろう

「次の電車?」
「はい」
「時間あるね」
「そうなんですよね…」
「せっかくだしちょっと話す?」
「あ、はい」

彼女は藤本美貴だと名乗り、日に焼けた手を差し出した
握ったその手は少しだけ硬くて、同じくらいの年の女の子の手の平だとは思えなかった
よいしょ、という声と共に隣に腰掛けた彼女から里田さんと同じ潮のニオイがする
ついでに太陽のニオイもする気がした
28 名前:. 投稿日:2005/03/24(木) 18:48
「うわ、甘夏ソーダじゃん。そんなもん飲むヤツ初めて見た」

藤本さんはあたしの手元の缶を見て一人大笑いしている
不躾と言えば不躾なんだろうけれど、あたしにはとても人懐っこいコにと思えた

「…飲む?」

缶を持ち上げて聞いてみる

「美貴はパス。松浦さんだけで楽しんで」

にやっと笑うその表情は、あたしの周りにいない感じで
あたしはこの人を好きかもしれないと思った
29 名前: 投稿日:2005/03/24(木) 18:50

自分は甘夏ソーダ好きですが

今回はここまで
30 名前: 投稿日:2005/03/25(金) 18:33

更新します
31 名前:. 投稿日:2005/03/25(金) 18:34



32 名前:. 投稿日:2005/03/25(金) 18:34

「ふぁ…」

通勤ラッシュでごった返す電車の中で、出掛かった大きな欠伸をそっと噛み殺す
と言うのも昨日
メルアドの交換をして別れた藤本さんと結構遅くまでメールのやり取りをして
途中から里田さんとも同時にメールしたりして夜更かししてしまったせいだ

二人とメールしてみて思ったのは
里田さんは最初に思った印象のまんまの人で
藤本さんは里田さんとは違って、最初の印象と仲良くなってからの印象がまったく異なる人という事
一番最初に受けた
あの冷たい、何事にも動揺しない、興味を示さないような印象は一体なんだったんだろう
おやすみと二人に告げてからその事について少しだけ考えて、何時の間にか眠りに落ちたという事と次第

次々出そうになる欠伸と格闘しつつ、単調な揺れに時折閉じそうになる瞼を気合でこじ開けて人の流れと共にホームに降り立った
33 名前:. 投稿日:2005/03/25(金) 18:34

「うっす」

後ろからぽんっと肩を叩かれる
振り向く前にすっと隣へ立つ背の高い知り合い
今更顔を見なくても声だけで判別のつく相手

「あ、よっちゃんさん。おはよぉ」
「おはぁ、ってかさ〜。今日はサボるなよ?松浦ぁ」
「サボんないもん。ちゃんと来てるでしょ?」
「今日は同伴出勤だからサボれまい」
「…同伴出勤って…」
「まぁなんにせよ、ちゃんとガッコ行かないと吉澤みたいになっちゃうぞ」

あはは、と笑うその顔に曖昧に笑って返す
よっちゃんさんはあたしの学校の購買で働いている人で、毎日パンを買いに行っているうちに仲良くなった
と言うか、彼女と仲良くない人なんているのだろうかと思うくらいで
女のあたしから見ても綺麗な顔立ちをしているし、密かに校内に‐吉澤さんファンクラブ-が存在する
実は先生も何人かそこに所属しているのいないのって話

そのたくさんの取り巻きの中の誰よりもあたしはよっちゃんさんと仲がいいらしい
よっちゃんさん本人の話だから確証はないけれど
クラスメートに羨ましがられる事もしばしばだから間違いないのだろう
34 名前:. 投稿日:2005/03/25(金) 18:34

「で?」
「え?」
「どこ行ってたの?昨日は」
「ん〜、海の方まで」
「海?いいなぁ。ボードやりたいなぁ。毎年やりたいやりたいと思ってるだけでやらずに済んじゃうんだよね」
「ボードかぁ」
「なに?松浦も興味あんの?」
「ん〜ん、そぉいう訳じゃないんだけど。昨日知り合った人達がボードしてるから」
「へぇ、いいなぁ。海の方住みたいとは思うんだけど、そうすっとガッコ遠くなるし…」
「よっちゃんさん、朝弱いもんね」
「うるへ〜」

こうやって、駅から学校へ向かう道をよっちゃんさんと二人で何だかんだ言いながら歩くと必ず何人か男の人が振り返る
それだけじゃない
同じ学校の人達が羨望の眼差しでこっちを見てくる
よっちゃんさんに言わせると、よっちゃんさんののせいだけじゃないらしいけど
それ以外になんの理由があると言うのか
理解し難い
35 名前:. 投稿日:2005/03/25(金) 18:35

理解し難いと言えば
羨望の眼差しで見つめてくる彼女達もそうだ
羨ましいと思うのならば、なぜ一歩踏み出そうとしないのか
そう言えば、一度それをクラスメイトに尋ねた事があった
だって恥ずかしいし、嫌われたくないと言う彼女の思考がどうしてもあたしには理解できなくて
そうかなぁ、平気だと思うけどなぁなんて曖昧な返事をした記憶がある

「次の休みにさぁ」
「うん?」
「一緒に海行かね?」
「よっちゃんさんと?」
「そう。そのボードやってる人達紹介してよ」
「聞いてみるけど」
「おっ、マジで?さんきゅ。今日のお昼はパン一個オマケしちゃうぞ〜」
「ありがと」
36 名前:. 投稿日:2005/03/25(金) 18:35



後で藤本さんと里田さんにメールしてみようと思いながら、校門でよっちゃんさんと別れ
あたしは教室を目指す
今日もまた平凡な一日が始まろうとしていた
37 名前: 投稿日:2005/03/25(金) 18:36

何だか誤字脱字が多くてごめんなさい
気をつけてはいるんですが…


38 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/27(日) 19:50
綺麗な文章ですね。更新も早くて嬉しいです。
続き期待してます。
39 名前:K坊 投稿日:2005/04/03(日) 02:01
丁寧な文が羨ましいです!!
これからよっすぃがどう絡まるか楽しみです。
頑張ってください!!
40 名前: 投稿日:2005/04/04(月) 18:36
更新します
41 名前:. 投稿日:2005/04/04(月) 18:37



42 名前:. 投稿日:2005/04/04(月) 18:37

「松浦」

お昼の購買での壮絶なパン購入合戦をよっちゃんさんのおかげで回避したあたしは、紙パックのいちごオレ片手に屋上にいた
少し錆付いたフェンス越しに見下ろす校庭に、楽しそうに喋ったりしている同じ制服の群れを認める
彼女達は何を持ってして、あんなに楽しそうでいられるのだろう
そう思いながら、無駄に甘ったるいいちごオレをストローでちゅるりと飲み込んだ瞬間
明らかに標準語ではないアクセントで呼ばれた名前

「ん〜?」

ストローを咥えたまま振り返ったあたしの目に映ったものは、風に靡く金の髪
やっぱりなぁなんて思うあたし
そう
彼女に限って来ない訳がない

「昨日サボったやろ」
「ん〜。サボった」
「サボったあかん言うてるやろ?何でサボってん」
「なんとなく、かなぁ」
43 名前:. 投稿日:2005/04/04(月) 18:37

背中の後ろでフェンスがカシャンと軽い金属音を立てた
いっそこのままフェンスごと地面に落下してしまえばいいのに
いくらなんでもそこまで錆びている訳ではないとわかってはいるけれど
何となくそんな事を思ったりする

「あほ。あんたももうちょい自覚ってもんをな…」
「自覚ねぇ…」

いちごオレを左手で掴んだまま見上げた空は青く、白い雲が初夏の訪れを告げてくる
その青と白のコントラストがあのカフェの水の入ったコップを思わせる
コバルトブルーのあのコップをあたしは思いの外気に入っているらしい
少しご機嫌麗しくない彼女を尻目に、あたしの頭の中はコバルトブルーとサイフォンの奏でる静かな音でいっぱいで
空を飛べるものならば、このままあの店まで今すぐ飛んで行くのもいいなぁなんて思ったり
そんなあたしを見てか、ふっと一つ息を吐き出す彼女
何となく、周りの空気が少し柔らかくなったような
そんな気配
44 名前:. 投稿日:2005/04/04(月) 18:37

「…まぁなんにせよ、あんま困らせんとってや?」
「ん。ごめん」
「しゃあないなぁ、ほんまに」

くしゃっとあたしの頭を撫でて、ほんならなぁ、と言って歩き出したその人の背中に思わず呼びかける

「裕ちゃん」
「中澤先生、やろ?」
「心配かけてごめん」
45 名前:. 投稿日:2005/04/04(月) 18:38

返事の代わりにひらっと手を振って屋上を後にする[中澤先生]
あたしの親戚である彼女は、この学校の理事長兼校長で
体面上の問題というのもあるだろうけれど、純粋にあたしを心配してくれるイイ従姉
小さい頃、あの綺麗な金髪に憧れて大きくなったら自分も裕ちゃんみたいな金髪にするんだと密かに心に決めていた
今でも彼女の金髪はとても綺麗だと思うけれど
あの色は彼女だから似合うのであって、あたしにはきっと似合わないという事実に気がついてしまった
大人になるというのは
結構非情だ
46 名前:. 投稿日:2005/04/04(月) 18:38

だいぶ温くなって余計に甘さを増したいちごオレを一気に喉に流し込んで、あたしはもう一度空を見上げた
切り取られた都会の空はなんとも不自由な人生そのもののようで、たまに可哀相になる

ふいにポケットの中で振動した携帯
それと同時に、よっちゃんさんからオマケでもらったベーコン卵サンドの包みが足元でかさりと音を立てて倒れる
その場にしゃがんでソレを起こしながら開いた携帯の画面には、後でメールしようと思っていた当人の名前が表示されていた
-藤本美貴- と

47 名前: 投稿日:2005/04/04(月) 18:43
レスです

>>38 名無飼育さん
綺麗な文章だなんて ありがとうございます
まだまだ至らぬ点はあると思いますがお付き合いいただけると嬉しいです

>>39 K坊さん
丁寧な文ですか? あまり自覚はないのですが…
でも ありがとうございます 
吉澤さんは一応話に最後の方まで絡んでくる予定です
頑張ります

多少一文を短くする努力をしてみましたが
相変わらず読みにくかったらごめんなさい
48 名前: 投稿日:2005/04/05(火) 18:33

更新します
49 名前:. 投稿日:2005/04/05(火) 18:33



50 名前:. 投稿日:2005/04/05(火) 18:34


ホールを突っ切った先にある購買事務所のガラスの向こうで
頬杖をつきながら、ボールペンを小器用にくるりと回転させるよっちゃんさん
真面目なのかそうじゃないのか、わからないような飄々としたその態度を裕ちゃんは
『アイツはあれでええねん』
と言う

校長がいいと言うのならば、誰もそれについて口を挟む事はできない
ある意味この学校の中で一番得をしているのは彼女じゃないか、とあたしは内心そう思っているのだけれど
よっちゃんさんに言わせると、音楽教師の平家先生の方が待遇がいいらしい
学内で数少ない無担任教師で、他のどの無担任教師も準備室もしくは職員室に在中している中
平家先生のみ音楽準備室の隣に専用の部屋を持っているから
と言うのがその理由
51 名前:. 投稿日:2005/04/05(火) 18:34
あたしはその理由を知っているけれど、裕ちゃんに堅く口止めされているせいでそれを口に出す事ができない
学校中で理由を知っているのは本人達を除いたらきっとあたしだけだと思う
しかし、他の先生達もよく文句を言わないものだ

内心思っていても、校長先生があの容姿と迫力ではそうそう口は挟めまい
他の先生の気持ちを思うと、ちょっぴり不憫に思えた
それでも大人は黙って働かなければいけないなんて、やっぱり不自由な生き物だ
52 名前:. 投稿日:2005/04/05(火) 18:34


「よっちゃんさん」

開きっぱなしになっている扉の横の壁を軽く叩いて名前を呼ぶ
こんこん、と軽快な音がホールに響いた

「お、どした?珍しい」
「さっきメール来てさ」
「んん?」
「ほら、朝よっちゃんさんが紹介して欲しいって言ってたボードやってる人から」

頬を一掻きする仕草をした後、思い出したと言わんばかりに笑みを浮かべるよっちゃんさん
そう言えばあの顔が好きだって言ってたクラスメートがいた
確かに普段の綺麗な顔立ちの割に子どもっぽい一面を見せるあの笑顔には、ファンクラブを作らせてしまうだけの破壊力がある
あたしはよっちゃんさんにバレないようにこっそり軽く溜息をついた
53 名前:. 投稿日:2005/04/05(火) 18:35

「で?聞いてみてくれた?」
「うん。OKだって」
「マ〜ジで?やった!」

彼女の右手の中で、きゅっと握り締めたボールペンがみしりと軽い悲鳴を上げた

「日曜でいい?」
「土曜!土曜!善は急げ!」
「はいはい。じゃあ土曜に行くって伝えとく」
「さ〜んきゅ」
「どういたしまして」

54 名前:. 投稿日:2005/04/05(火) 18:35



-そう言えば、次いつこっち来れる?-

藤本さんからのメールの内容は簡潔なその一文のみだった
昨日今日の付き合いの割りには彼女はとても気さくな文体でメールを送ってくる
元々お堅い文章はあまり好まないあたしにとって、それはとてもありがたい事
里田さんなんかは、最初っから人懐っこさ大爆発で
メールの内容もいかにも里田さんと言った感じを醸し出している

しかし、藤本さんにしろ里田さんにしろ
あまりお互いの事をよく知らないにも関わらず、もうすでに仲の良い友達の様な雰囲気で接する事ができる相手はとても珍しい
正直、クラスメートだって最初のうちはみんなぎくしゃくして打ち解けるまで結構時間がかかった覚えがあるのに
彼女達ときたら、時間や年齢云々等というのはまったく関係のない次元の問題の様で
できればもっと早くああいう人達と知り合いたかったと思う
本当に
55 名前:. 投稿日:2005/04/05(火) 18:35

高校に入る前ぐらいから彼女達と知り合っていたならば
あたしのこの憂鬱は、今ここになかったかもしれない
漠然とそう思いながら、あたしはそっと制服のポケットの中で軽く存在を主張する携帯電話に手を添えた
土曜日にまた訪れる、あの雰囲気の良いカフェを思い浮かべながら



56 名前: 投稿日:2005/04/05(火) 18:36
中澤さんと平家さんの関係については本編が終わり次第、書ければいいなと思っています

しかし
吉澤さんはリアルでも握力強そうです
57 名前:みきみき 投稿日:2005/04/06(水) 00:46
更新楽しみに待ってます☆
58 名前: 投稿日:2005/04/26(火) 17:49
お待たせしました
更新します
59 名前:. 投稿日:2005/04/26(火) 17:49



60 名前:. 投稿日:2005/04/26(火) 17:50
ベッドに寝転がって携帯を眺める
ついさっき返信したばかりではあるけれど、藤本さんは割とすぐに返事をくれる
それも、投げやりな感じではなく
とても誠実な感じで

ひたすら見つめる待ち受け画面のピンクのおサルが受信表示に変わる
いつもなら一瞬に思えるその画面が何だかとてもじれったく思えた

「ええと、何々…?」


 -晴れるといいね、土曜日
 亜弥ちゃんもやってみる?
 やるんだったら美貴が教えるし
 まいがよかったらまいでもいいけど、


「そのうちできるっ!とか言われるよ?≠セって。あははは。それっぽい」

61 名前:. 投稿日:2005/04/26(火) 17:50

里田さんの何を知っている訳ではないけれど、きっと彼女なら間違いなく
海を目前にどうするべきか顔色を伺うあたしに、笑ってそう言うだろうと思った
きっと里田さんは理屈でどうこうというより、躯で覚えてしまえというタイプに違いない
決して悪い意味ではなく、良い意味で大雑把な人だと思う
元気で、明るくて、細かな事を気にしなくて
アヤカさんのあの店で、よく笑いながらたくさん食べる
そんな人

「あたし?あたしはとりあえずいいや。やってみたくなったら藤本さんに教えてもらうよ(w≠チと」

藤本さん、か
昨日初めて逢った人
それでも、夜には彼女はあたしを亜弥ちゃん≠ニ呼んでいた
あたしは藤本さん≠フまま
正直、一つ年上の藤本さんをどう呼んでいいかわからない節はある
美貴ちゃん≠ネりなんなり
そう呼んでも、彼女は嫌がらないだろう
62 名前:. 投稿日:2005/04/26(火) 17:50

そう言えば、よっちゃんさんと藤本さんは年が同じだったはず
よっちゃんさんでさえ、いつまでもさん≠取る事ができないあたし
土曜にあの二人が出会ったら、やっぱりお互い気さくに話をしたりして仲良くなるんだろうか
よっちゃんさんに限って人見知りしたりする事はないだろうし
里田さんとなんて、すごくいい友達になってしまいそうだと思う

「あ、返事来た」

開いた受信画面いっぱいに広がったのは
藤本さん、里田さん、アヤカさんの三人が無理矢理一画面に収まって笑顔でVサインしている写真
アヤカさんの顔が少し困惑気味なのは見なかった事にしておこう
思わず零れた笑みのまま、その下に続く文字に目を通す


-了解
 きっとすぐにやりたくなるハズだから(w
 ちなみに関係ないけど現在地
 焼肉屋で〜すv

63 名前:. 投稿日:2005/04/26(火) 17:51

「焼肉屋ね。…焼肉?え?今何時?」

見上げた時計は11時を軽く過ぎている
写真をもう一度見直すと、確かに下の方に美味しそうに焼けたお肉が網の上に何枚も乗っているのが見える
しかも
その前にはまだまだ山の様にお肉が…

「…胃もたれとかしなさそうだもんなぁ…」

以前、夜中に無理矢理裕ちゃんに焼肉屋に連れて行かれた事を思い浮かべる
あの日の裕ちゃんはそんなにお肉は食べていなかった
平家先生といい調子でお酒を飲んで、一皿焼いたか焼かないかぐらいだったのに
翌日胃もたれしたとか言って、あたしにコンビニに二日酔いと胃もたれに効く例の液体ドリンクを買いに行かせた
平家先生は、あほやな裕ちゃん、とか言って笑ってたから
結局平家先生の方がああ見えて、裕ちゃんよりも胃が丈夫なのかもしれない
64 名前:. 投稿日:2005/04/26(火) 17:51

「お肉好き好き〜」

テレビでたまに目にするアイドルが、調子っぱずれに歌っているCMソングを歌いながら藤本さんに返信する


-今度一緒に行こう?
 里田さんの食べっぷりが見たい(w
 あ、でも嫌だったら無理には…


嫌だなんてきっと言われないとわかっていたけれど、つけてしまったその一文
あたしは
こんな自分が
好きじゃない


変わりたいのかもしれない
変わりたくないのかもしれない
大きな変化を望んで
小さな変化を怖れて
イイコでいたくて
イイコでいる自分が嫌で

あたしは
矛盾の塊で

こんなあたしの本心を藤本さんが知ったら
彼女はどんな顔をするのだろう

大人になってしまえば
きっともっとズルくなってしまうあたしを
彼女は
どんな顔で
見つめるのだろう
65 名前:. 投稿日:2005/04/26(火) 17:52

小さく振動した携帯が、藤本さんの返事を連れてくる


-全然OK 
 何だったら、土曜に行こう?
 美貴んチ狭いけど泊まってけばいいしさ
 亜弥ちゃんと話してみたいコトたくさんあるし
 よかったら考えといて
 しっかし
 牛タン最高〜!
 ってか聞いてよ
 美貴がせっかく焼いた牛タン、まいが横から奪るんだよ
 信じられない(爆


牛タン好きなんだ、藤本さんて
あの日に焼けた笑顔を真剣な表情に変えて、里田さんと牛タンを取り合う姿がなぜだか安易に想像できて
何だか笑えた
66 名前:. 投稿日:2005/04/26(火) 17:52

藤本さん達と
あの海辺の町で生きていけたら
あたしはズルい大人にならずに済むんだろうか
不条理な世の中で、日々鬱になったりせずに
前向きに生きていく事ができるのだろうか

「お肉好き好き〜」

ぼそりと歌う本日二回目のそのフレーズは
独りぼっちのあたしの部屋で、妙に切ない響きを耳に残して
何事もなかったかのように、壁の中へ吸い込まれていった

「…明日、ガッコ行きたくないな…」

ブルーな心境が出てしまわないように、細心の注意を払いながら藤本さんに返信して
あたしは枕に顔を埋めた

67 名前: 投稿日:2005/04/26(火) 17:54
レスです

>>57 みきみきさん
すみません お待たせしました


更新間隔が少々開いてしまいましたが…

夜中の焼肉はさすがに胃もたれする気がします
今回はここまで
68 名前:マカロニ 投稿日:2005/04/26(火) 22:32
はじめまして♪(^O^)
一気に読みました、松浦さんがさぼりたくなる気持ちがすごい感情移入できて自分的に読みやすかったですw(>_<)
早く土曜日が来ることを一緒に待ちながら次の更新待ってます!
69 名前:読者 投稿日:2005/04/27(水) 07:41
ちょっとすごく面白いです。
(文が変ですみません)
雰囲気いいですなぁ。
次回も更新楽しみに待ってます。
70 名前:名無し読者 投稿日:2005/04/29(金) 03:19
やべーおもしれー
71 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/29(金) 05:28
おもしろいです。次回に期待。
72 名前:名無し読者 投稿日:2005/04/30(土) 17:33
なんまらおもしれー
続き期待してます!!
73 名前:みきみき 投稿日:2005/05/03(火) 19:52
おもしろかったからもう一回読んだ!!
更新お願いします♪♪
74 名前: 投稿日:2005/05/09(月) 18:34
更新します
75 名前:. 投稿日:2005/05/09(月) 18:34



76 名前:. 投稿日:2005/05/09(月) 18:34

結局、朝目覚めたあたしは
裕ちゃんにごめんと謝った昨日の自分はなんだったのかというぐらい
さくっと学校をサボる事に決めたあたし
制服で自宅を後にして、駅のトイレで私服に着替える
制服は皺がつかないように丁寧に畳んで、ショルダーバッグに仕舞い込んだ
教科書は一冊も入っていない鞄
裕ちゃんが見たら呆れて溜息をつくかもしれない

「さて、と」

行き先は決まっていた
一昨日訪れたばかりのあの海沿いの街
藤本さんにも里田さんにも連絡はしていない
わざわざ連絡しなくても、何だか逢える予感がした
77 名前:. 投稿日:2005/05/09(月) 18:34

学校の人に見つからないように帽子を目深に被ると、通勤ラッシュに沸く駅の階段をいつもと反対側へと進む
何だか胸がとてもドキドキした
遠足に行く途中に感じたあの気持ちに近いかもしれない
上着のポケットからMP3プレイヤーを取り出すと、ヘッドフォンを耳にあてる
友達の影響で聞き始めた、最近人気急上昇のバンド
ヴォーカルの人の声は柔らかいくせに力強くて、あたしの躯によく馴染む
電車が来るまでの、ほんの短い時間
あたしは少し大きめの音でその声を楽しんだ
電車に乗ってしまえば、音漏れを気にしなければならないから
78 名前:. 投稿日:2005/05/09(月) 18:35

目の前に滑り込むように入ってきた電車にスーツ姿の人達と共に乗り込んで、ボックス席に腰掛けた
いつも乗る電車ならば、この時間
一人でボックス席に座るなんて絶対にありえない状況
こんな朝から海の方へ向かう人なんて、そっち方面に職場がない限りそうそういない訳で
そんな些細な事でも、あたしの胸はやっぱりドキドキして楽しい気分になる
MP3プレイヤーのヴォリュウムを少し下げて、窓枠に頬杖を付きながら流れる景色を目で追う
都会の喧騒がどんどん過ぎ去って行くのは、少し快感だった
あたしは都会に背を向けている
そんな子供じみたささやかな反抗
大人になってしまえば、きっと何であんな事をしたのだろうと思う時が来るに違いないけれど
今はこうするのがベストだと思う
きっと裕ちゃんはそんなあたしを子供だと言うだろう
79 名前:. 投稿日:2005/05/09(月) 18:35

軽く溜息をつくと隣に置いたショルダーバッグから、相変わらず全部を読みきれていない厚めの文庫本を取り出して視線を落とす
耳元で切ないラヴソングを歌い上げるヴォーカルの声は、読書の邪魔をする事なく
あたしの躯に染み込みながらアルバム一枚分を歌い進めていった

80 名前:. 投稿日:2005/05/09(月) 18:35




81 名前:. 投稿日:2005/05/09(月) 18:35


「まいもよくサボってたよね、そう言えば」

カウンターの向こうで今日もサイフォンで珈琲を淹れているアヤカさんが笑う

「うっさいな〜。いいじゃんよぉ。だってめんどかったしさぁ」

あたしの隣で昼前だと言うのに、大量のおにぎりと格闘している里田さんが愚痴る

「美貴もサボってたしねぇ。アヤカだけじゃない?怒れるのって」

反対隣で淹れ立ての珈琲にシュガースティックを四本も入れながら、藤本さんが苦笑いする

82 名前:. 投稿日:2005/05/09(月) 18:36

駅の改札を潜った瞬間、藤本さんに捕獲されたあたしはそのままアヤカさんの店に連れて行かれた
たまに駅前に補導員らしいのがいるからというのがその理由だけれど
席につくや否や、私服姿のあたしに藤本さんは

「でもその格好だととても高校生には見えないよね。あれ?って事はヘイキだったのかな、拉致ってこなくても」

等と首をかしげて、アヤカさんがそっと下を向きながら笑いを噛み殺したのをあたしは見てしまった
確かに、私服で歩いていると女子大生に間違われてキャッチに捕まる事も珍しくはない
ちなみに、裕ちゃんと平家先生と私服で歩いていると大抵ウォータービジネスの人と間違われて
私服のよっちゃんさんと歩いているとカップルと間違われる
誰でもいいからあたしを普通の高校生だと認識してください、なんてたまに思う訳けれど
まぁ、それも今となっては慣れてしまった事で案外どうでもよかったりはするのだけれど
83 名前:. 投稿日:2005/05/09(月) 18:36

「そういやさ。サボるって何の略だっけ」

唐突におにぎり片手に里田さんがそう切り出してくる

「サボる?サボリーマン?」
「そうだっけ?サボテンとかじゃなくて?」

里田さんと藤本さんの二人があたしを挟んで顔を見合わせて真剣に悩んでいるけれど
内容が内容だけに、そうそう笑う訳にもいかなくて
あたしはさっきのアヤカさんみたいに俯いて必死に笑いを噛み殺す

「…もう、二人とも何言ってるの。サボタージュ、でしょ?」

堪りかねたのか、アヤカさんが口を挟んだ

「おおっ?!アヤカあったまいいねぇ。さすが英語ペラペラなだけはある!」
「…サボタージュはフランス語だよ、まい」
「…あ〜…」

苦笑いする里田さんと、頬を掻く藤本さんの間で
あたしは我慢できなくなって吹き出した
84 名前:. 投稿日:2005/05/09(月) 18:36

「あははははははっ」
「そ、そんなに笑わなくても…」
「ごめ…いや、だって、あははっ。おっかし〜」

こんなに笑ったのはどれくらいぶりだろう
お腹が痛くなるまで大笑いしたあたしは、アヤカさん特製のカフェオレを全て飲み干してしまうまでくすくす笑いが止まらなかった

「亜弥ちゃん、笑い過ぎ」
「ごめんなさぁい」
「で?そんだけ学校サボタージュ≠オてヘイキ?」
「んぅ〜、どうだろう。ヤバいかもしんないけど、なんとかなるかなって」
「楽天的ぃ」
「かも」
「でも明日はちゃんと学校行ってね?」

相変わらずおにぎりを次から次へと口へ放り込む里田さんに、せっせとおにぎりを握りながらアヤカさんが言う

「はい」
85 名前:. 投稿日:2005/05/09(月) 18:36

あたしはそれをアヤカさんの好意だと受け取って、素直に返事した
まったく押し付けるような言い方ではないのに、そうしようと思わせるような雰囲気
里田さんがアヤカさんと一緒にいる理由がなんとなく
ほんの少しだけわかったような気がした


86 名前: 投稿日:2005/05/09(月) 18:48

レスです

>>68マカロニさん
ありがとうございます 少々読みづらいのではないかと心配していたので
そう言っていただけると嬉しいです

>>69読者さん
ありがとうございます
面白いと言っていただけてドキドキしています
頑張ります

>>70名無し読者さん
ありがとうございます
頑張ります

>>71名無飼育さん
ありがとうございます
恐縮です

>>72名無し読者さん
期待を裏切らないように頑張ります

>>73みきみきさん
すみません 更新間隔が少々開いてしまいました


思いの外、たくさんレスをいただいてしまって驚いています
ありがとうございます
完結までどうぞよろしくお願い致します
87 名前: 投稿日:2005/05/09(月) 18:54
ちょっと幅を取ってしまっているので隠します
サイト始めました
メール欄を参照していただけると幸いです

88 名前: 投稿日:2005/05/09(月) 18:55
というか
誤爆してしまいました…_| ̄|○
削除依頼出してきましたが
作者様申し訳ありません
…ちょっと逝ってきます
89 名前: 投稿日:2005/05/09(月) 21:52
逝ってきますついでに訂正を…

>>76
× さくっと学校をサボる事に決めたあたし
○ さくっと学校をサボる事に決めた

消したつもりでそのままUPしてました
あまりにクドいので脳内変換しておいてください
90 名前:読者 投稿日:2005/05/10(火) 01:15
微妙な温度を感じさせてくれる文章ですね。
とても好きです。
次も楽しみに待たせていただきます。
アヤカ、いいオンナですねw
91 名前:みきみき 投稿日:2005/05/15(日) 22:56
作者さんのペースで更新してくださいね♪
92 名前: 投稿日:2005/05/16(月) 16:18
更新します
93 名前:. 投稿日:2005/05/16(月) 16:19



94 名前:. 投稿日:2005/05/16(月) 16:19

店の中は少し異様な空気だった
藤本さんも、里田さんも、アヤカさんも笑顔を浮かべてはいたけれど
何だか例えようのない雰囲気を醸し出している気がして仕方なかった

「何かお作りしましょうか?」

カウンターからアヤカさんが問う

「日本茶とかあります?」
「個人的に飲んでいるやつでよろしければ」
「じゃあそれを」
「少々お待ちくださいね」

会話はそこで止まってしまう
さっきまで座っていたカウンターから移動したオープンテラスは、心地良い日差しと穏やかな潮風で気持ちがよかった
あたしは少しドキドキしながら、目の前で風に揺れる髪に触れている相手を見つめる

「ん?なん?」

視線に気がついたのか、あたしを見つめ返す瞳はいつも通りの柔らかい光を湛えている
95 名前:. 投稿日:2005/05/16(月) 16:19

「…いや、怒ってる、かなぁって」
「あたし?いや、別に?」
「…ほんとに?」
「ほんまに」
「…ならいいけど…」

アヤカさんが急須にお湯を注ぐ音だけが聞こえてくる
さっきまであんなに明るかった里田さんは、どこか引きつったような笑顔を浮かべたままやっぱりおにぎりを黙々と口の中へ放り込んでいたし
藤本さんに至っては、懐中時計を開いて見た後、携帯を取り出してひたすらソレを弄っていた

「裕ちゃん、心配しとったで?」
「…うん」
「あんま心配かけやんよぉにせなあかんやん」
「…うん。ごめん」

平家先生は怒らない
いつも
誰にだって、優しく諭すように話をしては最終的に綺麗に纏めてしまう
96 名前:. 投稿日:2005/05/16(月) 16:20

「ま、気持ちはわからいでもないけどな」
「え?」
「あたしもよぉサボったもん、学校」
「そうなの?初めて聞いた」
「高校ん時な」
「大学は?」

そう聞いてはっとする

「ごめ…」
「気にしやんの。慣れてるし」
「…うん」

俯きかけた所へ、そっと日本茶が差し出された
ふわりと緑茶のいい香りがする

「お待たせしました。店で出していないのでお口に合うかわかりませんけど」
「ありがとぉ。無茶な注文してごめんなさいねぇ?」
「いえ、メニューなんてあってないような店なので」
「ふふっ、だからおにぎり?」
「そうですね。その為の日本茶だったりしますし」
「なるほど」
97 名前:. 投稿日:2005/05/16(月) 16:20

平家先生とアヤカさんが笑って、ぴくりと里田さんの肩が揺れた

「先生、なんですよね?」

指についた御飯粒を口の中へ押し込みながら里田さんが振り返る

「あたし?うん。高校で音楽教師してます」
「やっぱまつ〜らさん、怒られちゃったり…?」
「怒らないから大丈夫。安心して?」
「ならよかった」

そう言って笑う里田さんの視線が少し宙を泳いでいたような気がする
98 名前:. 投稿日:2005/05/16(月) 16:20

「美貴?」
「ん?」
「いっちょ、どう?」
「え?」
「海行かない?」
「そんだけ食べて浮く?まい」
「動かないと太るし〜」
「しゃあない、付き合うか」

笑いながら席を立つ藤本さんの手には相変わらず携帯電話
一瞬だけ見えた待ち受け画面には里田さんとアヤカさん、藤本さんが笑顔で収まっていたようだったけれど
藤本さんの隣に誰かまだいたような気がした
あたしの視線に気がついたのか、藤本さんがあたしの方を見遣る
その目は、あの日海岸で見た瞳と似ている
そう思った次の瞬間には、いつも見せている笑顔を浮かべた藤本さん

「じゃあ土曜にね?亜弥ちゃん」
「あ、う、うん」
「夜にでもメールするし」
「わかった」
「じゃあ、平家先生。また」
99 名前:. 投稿日:2005/05/16(月) 16:21

そのまま連れ立って店を出て行く二人の後姿を見つめていた平家先生が、じっとあたしの顔を見つめてくる

「な、何?」
「あたし、名前言うたっけ?」
「え?」
「あの美貴ってコにあたしの名前教えたっけ?」
「いや、言ってないかも…」
「亜弥ちゃん言うた?」
「どうだったかな…言ったっけ…」

お互い首を捻っていると、お皿を両手に持ってカウンターから出てきたアヤカさんが笑った

「松浦さんが言ってたよ?電話かかってきた時に。彼女、耳がいいからね。それ聞いてたんじゃないかなぁ」
「そうだっけ?」
「うん、アタシ記憶力だけはいいから」
「アヤカさんが言うならそうなのかも」
「なんや、やっぱ亜弥ちゃんが言うたんやん。ちゃんと覚えとってよ」
「ごめ〜ん」
「纏まったところで、これ。よかったら試食してみてください」

淡いピンク色のお皿にはおいしそうなミルフィーユがやたら存在を主張している
100 名前:. 投稿日:2005/05/16(月) 16:21

「試作品で申し訳ないんですけど。あの二人に試食させようと思ってたらいなくなっちゃったから」
「ええんですか?」
「どうぞ。正直な感想言っていただけると助かります」
「ほんなら、いただきます」

甘すぎず、柔らかすぎず
アヤカさん特製のミルフィーユはとても美味しかった
今まで食べたどのケーキ屋さんのものよりもしっとりとしていて、また食べたくなるような味がした
それを平家先生と二人で少し興奮気味に説明している間、アヤカさんは嬉しそうに
でも少し恥ずかしそうに笑っていた

代金は結構ですと言う彼女に、美味しかったからどうしても払いたいと平家先生は言い
しばらく問答した後、緑茶代込みと言う事で千五百円払って落ち着いた
あたしのカフェオレ代とミルフィーユ代も込みだったという事に気がついたのは、店を出てしばらく歩いた時だった
101 名前:. 投稿日:2005/05/16(月) 16:21

「お金、払う」
「ん?さっきの支払いの話?そんなんええよ。たまにはみっちゃんに奢らせて?」
「いいの?」
「うん」
「じゃあ、ご馳走様です」
「よろしい」

満足そうに笑う平家先生と連れ立って歩く、海辺の街
しかも平日の昼間に先生と生徒が二人きりなんて、ちょっと普通じゃないシチュエーションだとこっそり思う

「そう言えば」
「ん?なん?」
「平家先生、なんで此処に来てたの?」
「ん〜、何となく」
「へ?」
「ほら、裕ちゃんにあちこち行かせてもろてるやん?あたし」
「あ〜…うん」
「それで今日はたまたまこの街に来てた、と」
「なるほどね…」


102 名前:. 投稿日:2005/05/16(月) 16:22




携帯が突然着信を告げて、何気なく見た画面に表示された名前に
やべっ%凾ニいう、あまり上品でない反応を示してしまったあたし
藤本さんと里田さんが手元を覗き込んできて、相手が誰か問うてくる

「…従姉なんだけど…ウチの学校の校長…」
「マジ?出ないとマズくない?」
「…だね」

覚悟を決めて出ると、案の定呆れた声が聞こえてくる

「なぁにやってんねん、自分」
「ごめんなさいっ!」
「謝るくらいならサボんなっちゅ〜ねん」
「…うん」
「制服のままやったりせんやろな?」
「それは…大丈夫」
「っとに。確信犯娘。やなぁ」
「…ごめんてば」
103 名前:. 投稿日:2005/05/16(月) 16:22

携帯を耳にあてたままひたすら謝るあたしの横で、里田さんと藤本さんはひたすら低い笑い声を立てていて
ちらりと見上げたアヤカさんは、あらあらといった面持ちであたしの方を見ていた
ちょっと泣きたくなったのは内緒にしておこう

現在地を聞かれた後、夜御飯に付き合えと言われてへい≠ネんて間の抜けた返事を返してから電話を切った
その直後に、二人が思いっきり大爆笑したのは言うまでもない話
しばらくして、再び着信を知らせるメロディーが鳴った時は一瞬スルーしてしまおうかと思ったくらいで
一応確認した相手の名前に、あたしは軽く首を捻りながらボタンを押した
それから10分もしないうちにやって来た平家先生が、あの店に足を一歩踏み入れた瞬間
店の中が異様な雰囲気に包まれてしまったと言う事と次第
あんなに明るかった藤本さんと里田さんにどんな心境の変化があったのか、あたしには知る由もなく
今に至る

結局気のせいなのか何なのかさえはっきりしないまま、二人と別れてしまった


104 名前:. 投稿日:2005/05/16(月) 16:22



「ねぇ、平家先生」
「…なぁ、亜弥ちゃん。此処学校やないねやから、その先生っての止めへん?」
「平家先生って呼ぶの、クセになっちゃってんだもん」
「裕ちゃんは裕ちゃんで、亜弥ちゃんが学校で中澤先生って呼ばへんねん、アイツ≠ト嘆いてはったのに…」
「あたしと裕ちゃんが従姉だってのはみんな知ってるけど、平家先生とは普通に先生と生徒って事になってるんだもん。仕方ないじゃん」
「それはそうやけど。個人的に嫌やねん。学校出たら平家さんて呼んで。いっつも言うてるけど」
「ん〜。努力してみる」
「ほんまに頼むで?毎回訂正すんの、疲れんねん」
「は〜い」

潮風が平家先生の髪を弄んで過ぎていく
日差しに透ける薄茶色の髪は、いつもよりも明るい色に見えた
105 名前:. 投稿日:2005/05/16(月) 16:22

「で、見つかりそう?」
「ん?う〜ん、どないやろ。着いたばっかで裕ちゃんから電話あったからなぁ。まだ見てないねん」
「ごめんね?」
「なも。一緒見て歩いてくれへん?」
「いいの?」
「学校は無断欠席やなくて病欠にしとくってさ」
「やった!」
「ったく。職権乱用やっちゅ〜ねん」
「だね」

ひとしきり笑った後、平家先生の探し物を一緒に探す為にこじんまりとした海辺の街をひたすら歩いた
途中、ボードをする藤本さんと里田さんの姿を見つけたあたし達は
道路と海岸を仕切るガードレールの上に腰掛けて、彼女達を眺めながらしばしの休憩を取る
ぼんやり二人を眺めているあたしの隣で、平家先生がこめかみを抑えて俯いた
106 名前:. 投稿日:2005/05/16(月) 16:23

「頭、痛い?平気?」
「…うん。なんか、すっごいズキっとしてん。しばらくしたら治ると思う」
「日陰行く?」
「…だいじょぶ」
「どうしても具合悪かったら言って?」
「ごめんなぁ」
「別に謝られるような事じゃないし。それにほら、前兆かもしんないじゃん?」
「…そうやとええけど」

視線を平家先生から海へ戻すと、遠目ながらに藤本さんがじっとこっちを見ているように思えた
あたしの視線に気がついたのか、そうでないのか
ふっと視線を逸らした藤本さんがその後あたし達の方を見る事はなく
夜するからと言っていた藤本さんからのメールは来なかった

107 名前:. 投稿日:2005/05/16(月) 16:23


正直な話
ただ楽しいだけだと思っていた逃避行が、現実とリンクし始めている気がして仕方ない
何がどうだと説明する事はできないけれど、ぼんやりとそう思う
それでも、明後日にはやってくる土曜日が楽しみだった


108 名前: 投稿日:2005/05/16(月) 16:28
レスです

>>90 読者さん
ありがとうございます
何だか言われた事のないようなお言葉を頂いてしまって
正直どうしていいやら…(w
アヤカさんはいいオンナです
本人ちょっと天然だったりしますが、今回はそこの所を隠しつつ…(w

>>91 みきみきさん
更新間隔まちまちで申し訳ないです
今回は少し多めに更新しました

ごちゃごちゃしてきました
当初の予定通りではあるんですが、スレの容量以内にまとまるか怪しい雰囲気に…
アヤカさんのお店は採算取れてるんでしょうか
今回はここまで

109 名前:みきみき 投稿日:2005/05/16(月) 21:01
おぉ〜更新だぁ!!美貴ちゃんといい感じには
いつなるんだ??
110 名前:いきいく 投稿日:2005/06/02(木) 14:22
圃是ン
ほぜん
111 名前: 投稿日:2005/06/23(木) 19:34
間隔開きましたが
更新します
112 名前:. 投稿日:2005/06/23(木) 19:34





113 名前:. 投稿日:2005/06/23(木) 19:35


「何かさ、ドキドキしたりしない?こゆのってさぁ」

ボックス席の向かい側でやたらと嬉しそうに笑うよっちゃんさん
時々足がパタついたりして、楽しくて仕方ないというのが本当によくわかる
よっちゃんさんは犬っぽい、と密かにファンクラブの中で囁かれているらしいけれど
今のこの姿をあの人達に見せたら黄色い歓声を上げるに違いない

「遠足みたい?」
「そうそう。そんな感じ、そんな感じ」

満面の笑みを浮かべながら頷く姿はとても年上とは思えない
そのまま窓の外を見遣って、今にも鼻歌でも歌い出しそうな勢いの彼女を
誰が止められるだろう

止める必要なんてないのかもしれないけれど
114 名前:. 投稿日:2005/06/23(木) 19:35

「そういえばさ、昨日平家先生休んでた?」
「へ?昨日?」
「うん、昨日。音楽なかったっけ?松浦のクラス」
「昨日はなかったけど…。そう言えば見かけなかったかも…」
「五線譜届いたから持ってったんだけどさ。何回行ってもドアに不在のプレート出てたから」
「ふ〜ん…じゃあ休みだったんじゃない?」
「りじちょぉから何か聞いてるかと思ったんだけど。ま、いっか」

よっちゃんさんの口から発せられる理事長≠フ響きは、いつもあたしにりじちょぉ≠ニして届く
きっと彼女はお堅い名前等を口にするのが得意ではないのだろう
勝手な話だけれど、あたしはそう推測している

「ごめん、聞いてないや」
「いいって。月曜にまた持ってけばいい話だし。それにちょっと気になっただけだからさ」
「そっか」
115 名前:. 投稿日:2005/06/23(木) 19:35

確かに昨日、平家先生は学校を休んだ
理由も知っている
それでも、あたしはやっぱりそれを知っていると言う事はできない
理事長と従姉等という立場は、一見有利に思えるけれど、案外面倒なものだ
心底憧れている人がいるならば、変わってあげてもいいと思う
間違いなく
三日で嫌になると思うけれど

「しっかし、ほんっと楽しみだなぁ」
「そう?」
「ナニ、松浦は楽しみじゃない訳?」
「あたしは何回か行ってるし…」
「それじゃなくて。ボード、ボード」
「あ〜…、あたし…やらない」
「マ〜ジすか。もったいなくね?教えてくれんでしょ?誰だっけ、フジモトさんだっけ?」
「うん、藤本さん、だけど」
「松浦も一緒にやろう?絶対楽しいって」
「気がむいたら、ね」
「なんだかなぁ」
116 名前:. 投稿日:2005/06/23(木) 19:35

呆れ顔のよっちゃんさんを尻目に、あたしはやっぱりまだ全部読めていない文庫本に視線を落とす
しばらくして顔を上げると
よっちゃんさんは窓枠に頬杖をついたまま、居眠りしていた
思わずその寝顔をじっと見つめて
これをファンクラブの人が見たら軽く卒倒しそうだと思う
長い睫、白い肌

静かに携帯を取り出して、こっそりその寝顔を撮らせてもらう
別にあたしの趣味ではなく
今日のこの外出よっちゃんさんファンの誰かにバレた時の

賄賂用に


117 名前:. 投稿日:2005/06/23(木) 19:35






118 名前:. 投稿日:2005/06/23(木) 19:36


「いいお天気」

大き目のビーチパラソルの下で、これまたとんでもなく大きなバスケットの中から次々とタッパウェアを取り出しながらアヤカさんが言う
あたしはそれを手伝いながら頷いた

「そうですねぇ」
「まいってばまた日焼けしちゃう。あれじゃ誰も道産子だとは気がつかないだろうなぁ」
「え?里田さんって北海道出身なんですか?」
「そだよ?美貴ちゃんもそうだけど」
「藤本さんも?日焼けしてるからわかんなかった」
「冬場はねぇ、白いよ二人とも。冬になったらわかるよ」
「楽しみにしときます」
「そうして」

顔を見合わせてくすくす笑う
アヤカさんが笑うと、お嬢様みたいだと思った
とても本人には言えないけれど
119 名前:. 投稿日:2005/06/23(木) 19:36

「て言うか、これ、お昼…ですよね?」
「そうだけど?少なすぎた?」
「いや…多くないかなって…」
「あ〜、全っ然。むしろ足らないかもってくらいだから」
「…これで…足らないかも…ですか」
「まいがね〜」
「ああ…里田さん…」
「エンゲル係数高いから。ほんと」

肩を竦めたアヤカさん
でもその表情は穏やかで、むしろ何だか嬉しそうに見えた
その理由が何だか、あたしにはわからないけれど

「吉澤さん、だっけ?おトモダチ」
「トモダチって言うか、まぁ、そうっちゃそうなんですけど」
「ん?」
「いやいや、何でも。吉澤、で合ってますけど?」
「たくさん食べる?」
「里田さん程じゃないかなぁ」
「まいを基準にしたらみんなすっごい小食になっちゃうから」
「あはは」
120 名前:. 投稿日:2005/06/23(木) 19:36

里田さんみたいなのを、きっと世の中では大食漢≠ニ呼ぶんだろう
と言うか
今の話だと里田さんの食費はアヤカさんが払っているらしい
一体どうなっているんだろう

「あ、でもよっちゃんさん、すっごい食べるものがある」
「ナニ?まさかまいみたいに白い御飯とか言うんじゃ…」
「ゆでたまご」
「え?」
「ゆでたまご。何はなくともゆでたまご。前、遠足の時、先生とかは学校が用意したお弁当だったんですけど」
「うん」
「入ってなくて」
「ゆでたまご?」
「うん。それで何で今日のお弁当にタマゴが入ってないんだ〜?!≠チて叫んでました。芝生の真ん中で」
「ほんと?」
「ほんと」
121 名前:. 投稿日:2005/06/23(木) 19:37

あの時の事を思い出すと、今でもかなり笑える
お箸を握り締めて大絶叫するよっちゃんさんの顔はほんと真剣で
それを見た裕ちゃんが呆れて首を数回振ったのをよく覚えている
よっちゃんさんズキのクラスメートは、その姿さえ格好よく見えていたらしく
お箸を咥えたまま夢見る乙女のような顔をして、よっちゃんさんを見つめていて
なんだかなぁ、と思った記憶がある

「見た目の割には結構面白いのね、吉澤さんて」
「黙ってればカッコイイってヤツですか?」
「中身をよく知らないから何とも言えないけど」
「まぁ、見た目程格好よくはないかなぁ…」
「そうなの?」

過去最大級に莫大な数のおにぎりのはいったタッパウェアが目の前に出てきた瞬間
少し離れた砂浜で、よっちゃんさんが大きなくしゃみをした

122 名前: 投稿日:2005/06/23(木) 19:39

レスです

>>109 みきみきさん
みきあやです、とは確かに書きましたが イイカンジになるかどうかは…(w

>>110 いきいくさん
保全ありがとうございます
お待たせしました


吉澤さんは今でもゆでたまごとベーグルをこよなく愛してらっしゃるんでしょうか
今回はここまで
123 名前: 投稿日:2005/06/23(木) 19:44

今回もやらかしました

>>115

×→心底憧れている人がいるならば、変わってあげてもいいと思う
○→心底憧れている人がいるならば、替わってあげてもいいと思う

他にもある気がしますが
脳内変換お願いします
124 名前:みきみき 投稿日:2005/06/23(木) 22:47
久しぶりに読んだから話の内容忘れたから
最初から読んだよ!!
おもしろかった♪また更新お願いします!
125 名前: 投稿日:2005/08/19(金) 18:50
約二ヶ月ぶりになりましたが
更新します
126 名前:. 投稿日:2005/08/19(金) 18:51




127 名前:. 投稿日:2005/08/19(金) 18:51


「で?」
「ん?で、って?」
「松浦はどうすんのって話」
「へ?」

アイス烏龍茶の入ったグラスを口につけたまま、よっちゃんさんの顔を見つめる
どうも、ぼんやり考え事をしている間に話はどんどん進んでいたらしい
とりあえずよく冷えた烏龍茶をごくりと飲んで、少し油っぽい机に置いた

「聞いてなかったっしょ?亜弥ちゃん」

何時の間にか亜弥ちゃんと呼ぶようになっていた里田さんがにやりと笑う
あたしは、ははっと苦笑いを浮かべながら頷いてみせた
正直、ほんっと話を聞いていなかった

「あたしはアヤカんとこ行くけど、松浦はどうする?」
「へ?」

少し違う世界にトリップしている間に現実世界はあたしの知らない世界になっていた
よっちゃんと呼ぶアヤカさん・里田さん組に、その二人をアヤカとまいと呼ぶよっちゃんさんが其処にいて
あたしだけが微妙に過去の世界に生きている
それならもうそのままでも構わないと思ったけれど、さすがにそういう訳にもいかないだろう
128 名前:. 投稿日:2005/08/19(金) 18:52

「ウチ来る?」

素晴しく油の滴る塩カルビをあたしのお皿に乗せながら藤本さんが言う
タレにじわりと油が拡がった

「いい…の?」
「いいよ?メルでも言ったじゃん」
「そう…だけど。迷惑じゃない?」
「全然。じゃあ決まり」

笑って返す藤本さんの目に、一瞬見た事のないような柔らかさを感じた気がしたけれど
次の瞬間にはもう、いつもの藤本さんになっていた
きっとそう見えたのは気のせいだろう

「よぉっし!そうと決まれば食うぞぉ!」
「お〜!」
「おねぇさあん!骨付きカルビ7人前!」

勢いよく手を挙げて、里田さんが赤いエプロンの店員さんにオーダーする
店員さんは一瞬驚いた顔をしたけれど、直ぐににっこり笑って厨房へと引っ込んだ
それを見届けてからこっそり隣に座るアヤカさんを見遣ると、思った通り微妙に困った表情を浮かべている
129 名前:. 投稿日:2005/08/19(金) 18:52

「ま、まい?何、7人前って?」

穏やかながらも、少しだけ驚きを含んだその声が煙の向こうから静かに聞こえてくる
レバ刺しを黙々と口の中へ放り込む藤本さんの隣で、カクテキを摘みかけていた里田さんはものすごく不思議そうな顔をして
事も無げに普通ではありえない台詞を口にした

「え?だって人数分じゃ足らないでしょ?」
「…はぁ。そだね。ごめん、聞いたあたしが馬鹿だったよ」

うんうんと頷きながら、5人前あったはずのレバ刺しの最後の一切れが藤本さんの口の中へ消えていく
里田さんの食欲もすごいけど、藤本さんのレバ刺し好きも相当なものですね、とあたしはアヤカさんに囁いた
アヤカさんは烏龍茶の入った水滴のついたグラスの側面を華奢な指で撫でながら、黙って頷く
それでも困った感がしないのは、きっともう慣れてしまっているからだろう

「お会計、すごい事になりそう…」

ぽつりと呟いたあたしの声を拾ったよっちゃんさんが、机の上に置かれた伝票を覗き込む

「…わぁ…すげぇや…。給料すっ飛ぶな、こりゃ…」
130 名前:. 投稿日:2005/08/19(金) 18:53

ウチの学校のお給料はそんなに悪くない
先生ではないよっちゃんさんのソレだって、そこら辺の学校の同じ立場の人よりもたくさんもらっているはずだ
それでもそんな台詞が出るとは、よっぽど凄い数字が書いてあるのだろう

「見せて?」

よっちゃんさんが差し出してきた伝票は、あたしの手に収まることなくアヤカさんの手の中へ収まった

「今日は二人はお客さんなんだから。気にしちゃ駄目」
「でも…」
「お会計は気にしなくていいから。どんどん食べて?」

ふわりと笑うアヤカさんは、焼肉屋というよりフランス料理のお店が似合いそうな雰囲気だけれど
こんな煙たい焼肉屋もそれなりに馴染んで見えるから凄い

「でも…」

二回目のでも、を口にした瞬間、里田さんの元気な声が店内に響いた

「タン塩7人前追加!」
「ついでにレバ刺し5人前」
131 名前:. 投稿日:2005/08/19(金) 18:53

アヤカさんが苦笑いしたその正面で、里田さんのカクテキをつまみながら藤本さんもよく通る声でオーダーする

「うわっ、それまいのカクテキ!」
「いいじゃん、別に。こないだ美貴のタン塩横取りしたっしょ?」
「それはそれ、これはこれ!」
「はいはい」

漫才のようなやり取りをする二人の横でよっちゃんさんは楽しそうに笑っていた
あたしはアヤカさんと顔を見合わせてお互い苦笑いを浮かべてから、既に空になったグラスを持ち上げて店員さんを呼んだ
新しい烏龍茶を注文する為に

132 名前: 投稿日:2005/08/19(金) 18:56

レスです
>>124 みきみきさん
すみません お待たせしました
面白いと言っていただけると幸いです


個人的な事情で更新間隔が開いてしまいました
待っていて下さる方がいらっしゃったのであれば、ご迷惑おかけしました
なるべく定期的な更新を目指したいと思っていますので、よろしければ完結までお付き合いお願い致します

焼肉屋の描写をしていたら、ちょっと行きたくなりました
133 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/29(月) 22:29
心理描写が興味をそそります!待つのは苦じゃないですよ☆だっておもしろいんだものw
134 名前: 投稿日:2005/11/21(月) 18:05
すみません 
また二ヶ月近く開いてしまいましたorz
取り急ぎ、UPします
135 名前:. 投稿日:2005/11/21(月) 18:05





136 名前:. 投稿日:2005/11/21(月) 18:06

通された部屋はこじんまりとしていて、かと言って狭くはなく、以外に綺麗に片付けられていた
風に揺れる白いレースのカーテンからは潮の香りに混じって仄かに某柔軟材の匂いがして
以外にマメな人なのかもしれないと思う
以外に、等と口にしたら藤本さんは怒るかもしれないけれど

「適当に空いてるトコ座って?」
「あ、うん。お邪魔します」

そんな会話の後、少し悩んでテレビの見える角度に置かれた小さなコタツ兼机の所に敷かれた座布団に腰を下ろす
当たり前のように二枚引かれたソレは、セット品のように見えた

「珍しい?一人暮らしの部屋」

きょろきょろしてしまっていたらしいあたしに、麦茶であろう液体の入ったコップを差し出しながら藤本さんが笑う
あたしは、ソレを受け取りながら頷いた

「した事ないし、知り合いにも一人暮らしの人っていないから」
「そういや高校生だっけ、亜弥ちゃん」
「うん」
「じゃあ仕方ないんじゃない?卒業したら一人暮らし始めたらいいじゃん」
「ん〜。そうだね、考えてみてもいいなぁ」
「人生長いんだもん。やりたい事やんないなんて損だし。何事もチャレンジ!」
137 名前:. 投稿日:2005/11/21(月) 18:06

ぐっ、と親指を突き出して笑う藤本さんに笑顔で返して
頭の隅で将来について思い浮かべる
やりたい事ってなんだろう、自分はどうしたいんだろう
どんなに学校をサボって逃避行したとしても、答えが見つかるかなんてわからない
もしかしたらあたしのやっている事は意味がないの極みで、それをやる事に意義があるなんてのはつまらない意地かもしれない
そう思ったら、大きな溜息が口をついて出た

「…はぁ」
「んん?どした?つまんない?」

麦茶のコップに口をつけながら藤本さんが問う

「あ、いや、そうじゃなくて…。いいなって」
「へ?何が?」
「藤本さんはやりたい事が何かってちゃんとわかってるみたいでいいな、って」
「何ソレ?わかってないよ?美貴だってさ」
「…そうかなぁ」
「そうだよ。ああもぉ、お風呂でも入ってさっぱりしてきなよ亜弥ちゃん。せっかく泊まりに来てんだしさ。楽しくやろ?」
「…ごめんなさい」
「ごめんなさいも禁止!ほれ、さっさと入ってくる!バスタオルとかそこらにあるやつ使ってOKだから。全部洗濯してあるし」
「…うん。ありがとう」

玄関と部屋の間のちょっとしたスペースを手際よくカーテンで仕切って、藤本さんは部屋へ戻ってしまう
ヴン、と軽い音がしてテレビが点けられて、音楽番組らしき音が聞こえてきた
それは藤本さんなりの気遣いなのかもしれない
そう思ってあたしはそのまま服を脱ぎ、ユニットバスへお邪魔した
138 名前:. 投稿日:2005/11/21(月) 18:06




139 名前:. 投稿日:2005/11/21(月) 18:06

濡れた髪をバスタオルで拭きながら、お肉のCMに出ているアイドルが出ている歌番組をぼんやり眺める
割と人気のあるらしい彼女は、サングラスの司会者に話を振られてそれはそれは嬉しそうに話をしていた
とても高いアニメ声で

しばらくそれを見つめていると軽い頭痛を覚えて、視線をテレビから逸らす
その先に見えたのは伏せられた写真立て
バスルームからはシャワーの音が聞こえている
迷った挙句、立ち上がってそっとそれを手に取った

「…っ…これ…」

どきりとした
心臓がかつてないぐらい大きな音を立てている
ごくりと喉が鳴る
その音が嫌に大きく聞こえて、慌てて写真立てを元に戻した
まだ、シャワーの音は聞こえている
140 名前:. 投稿日:2005/11/21(月) 18:07

「…なん…で…」

見てはいけないモノを見てしまったと思うのと同時に、この部屋に入ってから感じていたちょっとした違和感の原因がわかってしまう
ソレを見た事によって、ばらばらだったピースがそれなりに形を成して目の前に現れた
二枚の座布団
二本の歯ブラシ
二種類のシャンプー
綺麗に洗濯されているけれど、藤本さんの匂いではないバスタオル
この部屋は、、、、




「ん?どしたの?」

慌てて振り返った先に、首からかけたタオルで髪を拭く藤本さんの姿
きょとんとしたその表情はさっきまでの彼女となんら変わりなく、どうやらあたしが写真を見てしまった事はバレていないようだった
141 名前:. 投稿日:2005/11/21(月) 18:07
「あ…いや…アニメ声だなぁって…」
「んん?ああ、そのコ?すごいよね。衣装もいっつもピンクだし。オンナノコ!ってカンジじゃない?」
「そ、そうそう。なんかもう、すごいなってしか思えなくて…」
「あはは。美貴と同意見だね」
「う、うん」

声が裏返りそうになりながらも、どうにか凌いだらしい
楽しそうに笑う藤本さんを見ながら、あたしも笑って見せた
今まで誰にもバレた事のない、作り笑いで

142 名前: 投稿日:2005/11/21(月) 18:10
>>133 名無飼育さん
そう言っていただけると非常に助かります
上手く表現できているかいまいち自信がないので…
暇をみてどんどん進めたいと思っていますのでお付き合いよろしくお願い致します



最近の松浦さんは前髪下ろしている事が少ないですね
少ないですが今回はここまで
143 名前: 投稿日:2005/11/21(月) 22:13
いまさら誤字に気がつきましたorz
他にもあるかもしれませんが とりあえず

>>136 
×以外に
○意外に

何思って打ってたんだか…
144 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/22(火) 22:30
更新お疲れさまです☆ なぬっ!・・・これはドッキリな展開ですねw
145 名前:みきみき 投稿日:2005/11/23(水) 16:39
更新まじで待ってますQ!!  



        早く読みたい
146 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/02(金) 23:28
おぉ、気になるところで……w
作者様のペースでまったり頑張ってください。
続き楽しみにしています……
147 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 04:57
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
148 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 16:53
いっきに読ませていただきました!
かなり続き気になります!
亜弥ちゃんは何を見たんだぁ?
気になるー!!!
149 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 16:54
続きまだですか?
150 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/14(水) 20:31
まってるよ
151 名前:みきみき 投稿日:2005/12/16(金) 14:14
まだ?
152 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/16(金) 21:49
焦らずに更新してくださいね。
このお話大好きですから、まったりまったりでも待ってますので……
153 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/20(火) 16:22
かなりまってますよ
154 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/21(水) 01:40
さげろ!
155 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/27(火) 22:09
更新まだですかぁ?
156 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/28(水) 00:14
作者さんの都合もあるんだからせかさない。
また〜りと待ちましょうよ
157 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/31(土) 04:22
待ってますから
158 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/01(日) 12:10
まだまだ待ってます
159 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/01(日) 22:35
まだまだまだ待ってますよ
160 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/02(月) 14:34
まだかなぁ
161 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/08(日) 13:52
いつまでも待ってますよぉ
162 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/19(木) 00:18
待ってるよ
163 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/22(日) 16:20
まだですか?
164 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/22(日) 22:24
あげんな!!
165 名前: 投稿日:2006/01/23(月) 18:32

更新します
166 名前:. 投稿日:2006/01/23(月) 18:33




167 名前:. 投稿日:2006/01/23(月) 18:33


電気の消えた藤本さんの部屋
しばらく目を凝らしていると暗闇に目が慣れてきて、天井に取り付けられたシーリングファンがゆっくりと回転しているのがそれなりに見えるようになる
そういえばアヤカさんのお店にもこのくるくる回る物体がついていた
あたしの住んでいる所では小洒落たカフェか、ちょっとお洒落なマンションもしくは注文住宅にだけ付いている印象だけれど
この街では案外普通のインテリアなのかもしれない

「亜弥ちゃんさ」

一人暮らしの部屋にしては少し贅沢に思えるセミダブルのベッドの中で、隣に寝転がる藤本さんから声がかかる

「ん?」

しばらくコチコチと壁掛け時計が時を刻む音だけが聞こえて
すぅ、と軽く息を吸ったのが聞こえた後

「嘘、ついた事ある?」

藤本さんの静かな声がした
168 名前:. 投稿日:2006/01/23(月) 18:34

「え?」
「嘘。誰かについた事ってある?」
「そりゃ…何回かは…あるけど…」
「それ、バレた?嘘だって」
「う〜ん…バレ、たかなぁ。変にスルドいんだよね…、裕ちゃん」
「従姉って人?」
「うん」

裕ちゃんに嘘はつけない
中途半端に嘘をついた所で絶対に見破られてしまうし、気合を入れて嘘をついても
あの綺麗な顔ですっと目を細めて、じっと見つめられるとごめんなさい、と白状してしまう
押さえつけられたり怒鳴りつけられたりすると表向き、素直に謝っても内心で猛烈に反発するあたしの性格をよく知っている彼女だからかもしれないけれど
たまに母親よりもあたしの事をよくわかっているんじゃないかと思う

「その人以外には?」
「裕ちゃん以外?ん〜、そうだなぁ…」

ゆったりと回転するシーリングファンを見つめながら記憶の糸を辿る
最後についた嘘はなんだっただろう
169 名前:. 投稿日:2006/01/23(月) 18:34

「あ〜…」

さっき嘘をついたばかりだった
写真立てを見てしまった事を藤本さんに内緒にした
言えないけれど

「うん?」
「あ、いや。平家先生にも嘘ついた事あったなって」
「…どんな嘘?」
「犬」
「イヌ?」

ごそごそっと音がして布団の中の空気が多少入れ替わる
藤本さんがあたしの方へ向かって寝返りをうったらしい

「そう、仔犬。捨てられてて、でもウチで飼えなくて」
「うん」
「学校の体育倉庫でこっそり世話してた」
「それがバレたの?」
「ん、って言うかね」

170 名前:. 投稿日:2006/01/23(月) 18:34




171 名前:. 投稿日:2006/01/23(月) 18:34

「松浦?」
「はい?」

パック牛乳を手に体育倉庫へ向かっている途中、後ろから聞こえたあたしを呼ぶ声
下手に慌てて隠し事がバレたりしないようにあたしはゆっくり振り向く
譜面らしき本を数冊、大事そうに抱えながら首を傾げる平家先生がそこにいた

「何しとんのん?」
「あ、いや。ちょっと散歩を…」
「まぁ昼休みやし、何しとっても松浦の自由やけどな」
「ははは…」
「ちょっと譜面の整理手伝ってくれやん?散歩の邪魔して悪いけど」
「今?」
「せや、今。なん?都合悪いのん?」
172 名前:. 投稿日:2006/01/23(月) 18:35

じっと視線を合わせてくる平家先生
他の先生みたいな苦手意識は、彼女に対してはある訳がないのだけれど
それでもじっと見つめられるのは何だか居心地が悪い気がした
過ごしやすい温度のはずなのに、嫌な汗をかきそうでごくりと喉が鳴る
手元の譜面に視線をずらそうとした刹那、柔らかい声に心臓がどきりと音を立てた

「一緒に行ってええ?」
「え?」

きっと相当びっくりした顔をしたんだろう
平家先生はおかしくて仕方ない、みたいな顔で笑った
それから、ふわりと微笑む
裕ちゃんがいつも好きだと言っている優しい笑顔
173 名前:. 投稿日:2006/01/23(月) 18:35

「みっちゃんも一緒、行ってええ?」
「行くって…」
「ええやろ?行こ?」

軽い足取りであたしの隣に歩み寄ると、牛乳を持った右手にそっと触れてくる
その手は少し冷たかった

「亜弥ちゃんの隠し事なんてみっちゃんにはお見通しやで?」


174 名前:. 投稿日:2006/01/23(月) 18:35




175 名前:. 投稿日:2006/01/23(月) 18:35


「学校では絶対に亜弥ちゃんって呼ばない人だから、平家先生。秘密の共有してくれるんだってすぐにわかった」
「ふ〜ん…?」
「だから一緒に体育倉庫に行ったんだ」
「で、結局どうしたの?」
「犬?」
「うん」
「平家先生んチのコになった」
「そうなの?」
「バレちゃったその日に連れて帰ってくれたよ。だから今は平家先生んチの犬」

帰りに裕ちゃんも一緒にペットショップに寄って、ラベンダー色の首輪を買い
始めはおろおろしていた仔犬も数時間すると落ち着いたようで、平家先生の足元にじゃれてたりして
裕ちゃんの機嫌がちょっぴり悪くなったのは内緒
事情を知らない藤本さんにそこまで話しても、うまく伝わるとは思えないから
176 名前:. 投稿日:2006/01/23(月) 18:36

「可愛い?」
「可愛いよ?ちょっと名前変だけど」
「どんな名前?」
「提督」
「…は?」

思いっきり不振そうな声の藤本さん
仕方ない
あたしだって、意味わかんないと思ったから

「て・い・と・く。変だよね〜」
「…変」
「だよね」

くすくす笑うあたしの横で藤本さんはやっぱり納得がいかないのか、提督、提督ねぇ、と呟いている

「普通イヌの名前ってポチとか太郎とかジョンとかつけるもんじゃないの?」
「それもどうだろ」
「え〜?それが普通でしょ?」
「今時いないよ、ポチとかさ〜」
「そうかなぁ」
「そうだよ」
177 名前:. 投稿日:2006/01/23(月) 18:36

笑いながら藤本さんの方へ躯の向きを変えて、隣に寝そべる藤本さんと目が合う
その瞳は一番最初に会った時のような無機質な印象のものではない
ふと、藤本さんは人見知りな人なのかもしれないと思った
だからあんな目をしていたのではないか、と
でもそれも次の瞬間には打ち消される

「それが亜弥ちゃんのついた嘘?」
「え?あ、うん。そんな感じかな」
「そっか」
「藤本さんは?」
「うん?美貴?美貴はね…。どうだったかな。忘れた」
「嘘だ」
「うん、嘘。美貴はさ、亜弥ちゃんみたいにイイコじゃないからいっぱい嘘ついてると思うよ、多分」
178 名前:. 投稿日:2006/01/23(月) 18:36

すっと細められた目は、裕ちゃんを思い出させる
印象はまったく異なる二人なのに

「意味、わかんない」
「知ってた?嘘もずっとつき続けてたら本当になるんだよ。だから美貴のは嘘じゃない」

口の端を少しだけ持ち上げた風に笑ってみせる藤本さん
なんだか藤本さんが遠い
躯はここにあるけれど、彼女の心はどこにあるんだろう
理由なんてないけれど漠然とそう思った


179 名前: 投稿日:2006/01/23(月) 18:44
レスです
>>144 名無飼育さん
やっと話が動いてきました
いつまでも生ぬるい展開という訳にもいかないので…(w

>>145 >>151 みきみきさん
お待たせして申し訳ないです

>>146 名無飼育さん
すみません、気になる所で切ってしまっていました
確信犯です(w
更新速度遅くて本当に申し訳ないです

>>147 名無飼育さん
御苦労様です ってもう終わってますねorz

>>148 名無飼育さん
一気読みありがとうございます
松浦さんの見たものがわかるのはもう少し後になります
気になるかもしれませんがお付き合い下さい(w

>>152 名無飼育さん
すみません お待たせしてしまっています
大好きと言っていただけると思っていなかったのですごく励みになります
完結までどうぞよろしくお願い致します

>>156 名無飼育さん
すみません ありがとうございます

180 名前: 投稿日:2006/01/23(月) 18:49
申し訳ありませんがその他のレスにつきましてはまとめてレスさせて下さい

おまたせしてしまった事は非常に申し訳ないと思っています
催促レスつけて下さった方々にはなんと言っていいやら…
本当にごめんなさい
ですが
一言だけ言わせて下さい
すみませんがレスはsageでお願いします
同板の他の作者様にご迷惑をかけてしまいますので…
よろしくお願い致します
あ、あと
ageレスがついてしまった場合なんですが
下げろ、とか上げるな、といったレスは御遠慮下さい
小心者なので榊がビビってしまいます…orz

更新激遅の癖に、と思われても仕方ないのですが
その2点、どうぞよろしくお願いします

ここに書いてもいいのかな
来月、ガルアリに参加させていただきます

では今回はここまで
181 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/24(火) 15:18
亜弥ちゃんが何を見たのかまだわからないのかぁ
気になるなぁ!
次でわかることを期待しております
182 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/25(水) 00:37
更新お疲れ様です。文章の感じが凄く好きです。
藤本さんのこと、すごく気になります……
まったり続きをお待ちしています。
183 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/15(水) 01:54
一体何があったのさぁ?
その微妙な雰囲気は何なんだぁ?
気になるなぁ
美貴たんと亜弥ちゃんはいい感じになれるのかなぁ?
184 名前:あお 投稿日:2006/02/18(土) 23:55
かなりの良作発見!文章がわかりやすく綺麗です。作者様のペースで執筆を続けて下さいね。
185 名前: 投稿日:2006/02/21(火) 16:07
更新します
186 名前:. 投稿日:2006/02/21(火) 16:08






187 名前:. 投稿日:2006/02/21(火) 16:08

見慣れた白い天井
自室のベッドに寝転がってそれを見つめながら、一つずつ整理するように思い出していく

海辺の街
古びた駅舎
カフェ
アヤカさん
里田さん
藤本さん

藤本さんの部屋
テレビ
バスタオル
歯ブラシ
座布団
ベッド
それから、伏せられたままの写真立て
188 名前:. 投稿日:2006/02/21(火) 16:08

あたしの知っている藤本さん
あたしの知らない藤本さん
彼女のついた嘘
あたしのついた嘘

どれが本当でどれが偽物か、わからなくなりそうだった
あたしは藤本さんに嘘をついたけれど、彼女はあたしに嘘をついたんだろうか
あの瞳の奥に何を隠しているんだろうか
それとも
彼女は言っていた通りに嘘を突き通してそれを真実に変えてしまい、実際は何も隠していないのだろうか
189 名前:. 投稿日:2006/02/21(火) 16:09
それより
あたしのした事はあれでよかったんだろうか
写真立てを見てしまった事を内緒にして、まったく何も知らないフリをして
尚且つ、話していい内容と話さなくていい内容を自分の中で区別して話した事によって
余計話をややこしくしてしまったのではないか
そんな思いが胸を過る
かと言って、あの場でどうするのが一番正しかったのか、と誰かに問われたとしても
あたしは間違いなく正確な答えを導き出せない
190 名前:. 投稿日:2006/02/21(火) 16:09

わからない
わからない事が多すぎる
きっと一つ、たった一つのピースがはまってしまえばあっという間に答えは見えてくるのに違いないのに
あたしはどうするべきなんだろう
どうするべきだったんだろう

実際のところ
どうもしなくてもいいのかもしれないけれど、答えを教えてくれる人は誰もいない
少なくとも
今の時点では
191 名前:. 投稿日:2006/02/21(火) 16:09


「…むぅ」

蛸並に口を尖らせた瞬間、着信を知らせる携帯の音
枕元に置いたそれを掴んで確かめると平家先生からだった

「もしも〜し」
「亜弥ちゃん?寝てた?」
「大丈夫、起きてる」
「よかった。ちょお出て来られる?」
「へ?今?」
「うん。そろそろ裕ちゃんから亜弥ちゃんチに連絡行ってるハズやから出られるとは思うねんけど」

一階で電話が鳴る音がする

「鳴ってる」
「多分それやね。で?亜弥ちゃんの都合は?」
「都合はって、そこまでしといて都合とか聞く?」
「一応、な」

携帯の向こうで平家先生はおかしそうに笑った

192 名前:. 投稿日:2006/02/21(火) 16:09




193 名前:. 投稿日:2006/02/21(火) 16:10

「亜弥ちゃん」

玄関を開けたすぐ先に止まっていたのは裕ちゃんの銀の愛車
スカイラインクーペとかなんとかそんな名前だった気がする、で
助手席ドアを開けて待っていた平家先生にぺこりと頭を下げてリアシートに乗り込む

「よっ」
「うん」

ステアリングを握ったままの裕ちゃんとルームミラー越しに目が合う
学校ではめったに見せない表情
大人になるというのはそういうのも込みなんだろうか
だとしたら相当面倒くさい話だ
194 名前:. 投稿日:2006/02/21(火) 16:10

「悪いな、いきなり呼び出して」
「ん〜ん、いいよ」
「時間があれやからちょっと迷ってんけどな。明日どっちみち創立記念日で休みやし、ええかなって思ってな」
「何がいいって?」

確かに明日は創立記念日で学校は休みだけれど
こんな急に呼び出されるなんていったい何の用事なんだろう

「よいしょ」

軽い掛け声と共に助手席に平家先生が滑り込んでくる
ぱたんとドアが閉まったと同時にエンジンが唸った

「ほな行こか」
「行くってどこへ?」
「着いてからのお楽しみ」

シート越しに振り返って笑う平家先生とにやにや笑う裕ちゃんの横顔を交互に見ながら、何だか軽い溜息が出た

195 名前: 投稿日:2006/02/21(火) 16:16
レスです
>>181 名無飼育さん
すみません、まだわかりません
多分、わかるまで結構お待たせしてしまうと思います(苦笑

>>182 名無飼育さん
いい感じになれるかどうか、決まってはいますが
現時点で言う事はできません、ごめんなさい(w
それと
すみません、レスはsageでお願い致します

>>184 あおさん
良作とか あわわわわ
ありがとうございます わかりやすいと言ってもらえると嬉しいです
なるべく早い更新を、とは思っているのですが間隔が開いてしまう事の方が多いです…
そう言っていただけると助かります
頑張ります


展開を書いた紙を紛失しましたorz
ちょっと、というかだいぶショックです…
では、今回はここまで
196 名前:名無飼育 投稿日:2006/02/21(火) 21:55
>>182sageレスしてる
197 名前: 投稿日:2006/02/21(火) 22:00
>>196 名無飼育さん
あわわ すみません
一個ずらして見てましたorz

ほんっとうにすみませんorz

改めてレスを

>>183 名無飼育さん

文章の感じが好きとか言っていただいたのに番号ミスとか(吐血)
本当に申し訳ありません
藤本さんの事についてはぼちぼち明らかになるかと思われます
まったりお付き合いください

…ああ へこむorz


sageレスしていただきたかったのは

>>183 名無飼育さんですorz
198 名前:復習ドリル 投稿日:2006/03/02(木) 15:15
更新して!!
199 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/07(金) 00:16
待ってます
200 名前: 投稿日:2006/05/16(火) 23:08

榊です
3ヵ月程更新せずにいて申し訳ありません
なるべく急いで更新したいとは常々思っているのですが
思うように時間が取れません
今後の展開を書いた紙を紛失した事も、削除されたようなお怒りのレスがついてしまう事も
全てがプレッシャーになってしまって…
榊の個人的な理由ではあるのですが、しばらく更新を休止させて下さい
夏までには戻ってこられるように時間を見ながら書き溜めていこうと思います

待って下さっている方、本当にごめんなさい
必ず更新再開して完結させますので、このスレは残させて下さい
よろしくお願い致します


とりあえずレスを

>>198 復習ドリルさん
>>199名無飼育さん

お待たせしてしまってごめんなさい
もうしばらく待っていただけると幸いです
201 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/17(水) 07:58
ずっと待ってますから
焦らずに頑張ってください
かならず更新してくれることを期待して待っております
202 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/06(火) 18:57
待っています
203 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/24(月) 01:14
まだまだ待ちますから
ひとまず生存報告だけでもしていただけませんか?
204 名前: 投稿日:2006/08/07(月) 15:41
整理があるとのことでしたので、生存報告させていただきます

生きています
スレ残していただけると幸いです

>>201名無飼育さん
>>202名無飼育さん
>>203名無飼育さん

お待たせして本当に申し訳ありません
放棄は絶対に致しませんので待って下さい
我侭を言ってすみません
205 名前: 投稿日:2006/10/30(月) 18:11
更新します
206 名前:. 投稿日:2006/10/30(月) 18:11




207 名前:. 投稿日:2006/10/30(月) 18:12

あたしは少し古めの駅舎の中に呆然と立っていた
帰りたい駅名はわかっているのに、どうしても路線図からその駅を見つける事ができない
このままでは電車に乗れない、イコール家に帰れない
必死に探すけれど、目当ての駅名を視界に捉える事はできなくて
一人慌てるあたしの耳に飛び込んでくるアナウンスの声

『混雑時間となりましたので、券売機での切符販売を一時中断いたします。御利用の方は駅員窓口までお越し下さいませ』

券売機前に並んでいた人達が我先にと列を成して窓口に並ぶ
当然、あたしもその列に加わってドキドキしながら順番を待つ
窓口の上に備え付けられた路線図にも、やはり降りたい駅は見当たらない
208 名前:. 投稿日:2006/10/30(月) 18:12

『次の方ぁ』

かったるそうな声で呼ばれて、一瞬どきりとする
何時の間にか、あたしの番が巡ってきていたらしい

「すみません、○○って駅に行きたいんですけど…」
『はぁ?』

よく見ると駅員はテレビでよく見る男性芸能人(実はあまり好きではない)であり、何故こんな所で切符を売っているのだろう、

等とぼんやりと思う

「○○って駅。…あります、よね?」

駅員(男性芸能人)の目がすっと細められる

―やぁ、御機嫌如何?
 今日は雨だって誰かに聞いた気がしたから持ってきたのに
 まったく必要なさそうだよね
 あはは、聞き間違いだったのかな

なんて
子供が使うような黄色い傘を振り回しながら、晴天の下で間違いなく場違いな雰囲気で笑う誰かを
ちょっと冷たい目で見るみたいに
209 名前:. 投稿日:2006/10/30(月) 18:12

『とりあえずこの切符買って』

ぶっきらぼうに差し出された切符を受け取り、財布から幾らかの小銭を取り出して水色のチクチクが無数に並んだ受け皿に乗せた

『次の方ぁ』

駅員はもう、あたしには興味も何もないようだった
溜息をついて、階段を目指す
やたら長い階段を人波に混じって上りきると、タイル張りの通路が伸び、そこからまた幾つかの階段が見えている
階段への入り口上部には、9番まで番号が振られていた
きょろきょろしながら7番ホームへ向かって階段を下りる
210 名前:. 投稿日:2006/10/30(月) 18:13

右が上り
左が下り

はっとして握り締めた切符を見る
                
―この切符は上り≠ネんだろうか、下り≠ネんだろうか

雑多としたホームを見渡しても、誰も教えてくれそうな親切な雰囲気を醸し出しているような人は見当たらない
もちろん、こんなに人がたくさんいるというのにただ一人の知り合いさえ見つける事はできなかった

『△△行き、7番ホームから発車します』

じりりりり、と多少大きすぎるのではないかと思えるようなヴォリュームで発車を告げるベルが鳴り
間もなく、電車は目の前を滑るように走り去って行く
その最後尾の車両の運転席を見つめていると、ふいにアレに乗らなければいけなかった気がしてきた
211 名前:. 投稿日:2006/10/30(月) 18:13

そうだ、あたしはアレに乗らなければならなかった

理由なんてわからないけれど、強くそう思う
そして、もう二度とあの電車には乗れないのだと思う
これだけ利用者の多い駅なのにも関わらず、もうあの電車と同じ所へ向かうものは無いのだと
何故か胸の中に確信として存在する思いに、あたしは絶望にも似た感覚を覚えた

それでも、どうにかしてあたしは帰らなければならない
何が何でも絶対に
あたしは帰らなければならなかった
名前すらはっきりと思い出せない、駅に向かって

212 名前:. 投稿日:2006/10/30(月) 18:13




213 名前:. 投稿日:2006/10/30(月) 18:13


「―弥ちゃん、亜弥ちゃん」
「ん、う?」

重たい瞼を上げる
助手席から身を乗り出す平家先生の顔が見える

「…夢?」
「着いたけど大丈夫?眠い?」
「…うん。大丈夫」
「そか?ならええけど」

どこか心配そうな表情の平家先生の肩越しに裕ちゃんを見遣ると彼女は我関せず、みたいな顔で煙草を吹かしていた
一番好きだという、ピースアロマメンソールの煙の匂いが、薄く開けた窓から吹き込む夜の風の匂いに混じって鼻先を掠めた
214 名前: 投稿日:2006/10/30(月) 18:16
夏頃には戻ります、と言ったのに
時が経つのは早いもので、秋になってしまいましたorz

待っていて下さった方がいらっしゃるのであれば
大変お待たせしてしまい、すみませんでした

今後、更新速度が上がるかどうかはまだはっきりしませんが
完結まで頑張っていきますので
どうぞお付き合い下さいませ

では、今回は此処まで

215 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/10/30(月) 23:57
やっほい!おかえりなさいw 
あややの夢なんだか気になりますw
216 名前:A 投稿日:2006/11/25(土) 23:11
待ってます。
217 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/26(日) 03:48
ageないで………………
218 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/02(土) 17:39
わざわざ落とさなくても…
219 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/02(土) 21:42
                 
           
220 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/12(火) 07:23

221 名前: 投稿日:2007/01/30(火) 18:03

更新します
222 名前:. 投稿日:2007/01/30(火) 18:04







223 名前:. 投稿日:2007/01/30(火) 18:04


「初めまして」

目の前で笑う相手の顔にものすごく見覚えがある
でも、間違いなく知り合いではない

「…え?あれ?」
「誰だかわかる?」
「え、あの…Yagu?」
「正解。どぉもぉ、Yaguでっす」
「ええええええ?!」
「んははははは」

大笑いするYaguの隣で裕ちゃんはにやり笑いを浮かべ
横に立つ平家先生でさえ、くくっと肩を揺らして笑っている

「え、だって、何?どういう事なの?」

意味がわからない、というか状況が良くわからない
車を降りて、二人に連れられて入ったビルの二階にある御洒落なバーで
とりあえず年齢は黙っとき、黙っとったらわかれへん、等という教師にあるまじき台詞を裕ちゃんに言われて頷いて
こういう所に興味はあったけれど、いざこの年齢で入ってみると正直あまり居心地は良くないな、と思っていたら
Yaguが登場した訳で
224 名前:. 投稿日:2007/01/30(火) 18:04

「あたしのツレやねん。もち、みっちゃんのツレでもある」
「え、だって、そんな事一言も」
「言うたらおもろないやん」
「…え〜?」

一気にものすごい疲労感に襲われる
そう言えば、裕ちゃんは昔から面白いかどうかを基準に考えるタイプだった

「あたしがBorderline好きなの、知ってたから?」
「そ。知ってたから」
「…悪趣味」
「ん?何か言うたか?」
「裕ちゃんは優しいなぁって言いました」
「あったりまえやん」

ふふん、とばかりに口の端をあげて笑うと、そのまま徐にYaguの頭を撫で始めた裕ちゃん
平家先生を見ると、やれやれ、とでも言いそうな雰囲気の苦笑いを浮かべている
どうやらいつもの事らしい
225 名前:. 投稿日:2007/01/30(火) 18:05

「相変わらず可愛くてええな、矢口は」
「そう?変わってない?大丈夫?
「おう、変わってへんで?今までと同じ矢口や」
「…そっか。良かった。芸能人やってるとさ、どれが本当の矢口かわかんなくなりそうになるんだよね」
「安心し?矢口はいつまでも矢口のままやし、不安になったらあたしとかみっちゃんの事、呼べばええ」
「うん。ありがと」

Yaguがふわりと笑う
テレビでも雑誌でも見せた事のないような、本当に安心した、みたいな笑顔だった

「亜弥ちゃん、だっけ」
「へ?あ、はい」
「自己紹介、まだだったよね」
「そう、ですね」
「Borderline、ヴォーカルのYaguこと、矢口真里です。よろしく」

立ち上がって手を差し伸べてくるYaguにおろおろしながら
同じように立ち上がってその手をそっと握る

「えと、松浦亜弥です。よろしくお願いします」

小柄なYaguの手はやっぱり小さかったけれど、力強かった


226 名前:. 投稿日:2007/01/30(火) 18:05







227 名前:. 投稿日:2007/01/30(火) 18:05



「でもさ、ほんとびっくりしたでしょ?」
「はい」
「裕ちゃんて割とそゆトコあるよね」
「…そんなのばっかりですよ」
「にゃはは。そうだよね、従姉だもんね。矢口よりよく知ってるか」
「知らない事の方が多い気もしますけど」

平家先生の香水がふわふわ漂うベッドに二人で腹這いになって話していると
つい数時間前に知り合いになったばかりの、しかも芸能人なのに
ずっと前から友達だったような気さえしてくる

藤本さんといい、矢口さんといい
最近あたしの周りには新しい知り合いが一気に増えた
それは普通に考えればとても喜ばしい事なのだけれど
あまりに急激に変化する環境についていけているのかどうか、自分自身の事なのによくわからない気がする
228 名前:. 投稿日:2007/01/30(火) 18:06

「何か悩み事あります、って顔だね」
「え?」

驚いて矢口さんの方に首を捻った瞬間、部屋のドアが開いた

「お邪魔すんで?」
「わん、わん!」
「お、提督じゃん。おいで、おいで」

平家先生に連れられて部屋に入ってきた提督がベッドにダイブして
そのまま矢口さんにじゃれついた

「うっは、顔舐めんなって。あははははは」
「わん、わん、わん!」
「ほんまやぐっちゃんの事、大好きやなぁ。提督」

よいしょ、と本日数度目の若くない掛け声と共に平家先生がベッドの端に腰掛けた
あたしも躯を起こしてそっちを向く
229 名前:. 投稿日:2007/01/30(火) 18:06

「平家先…」
「平家さん。それが嫌ならみっちゃん」

みっちゃん、とはさすがに呼べない
呼ぼうと思えば呼べるけれど、裕ちゃんみたいに学校で出てしまったらフォローの仕様がない

「…平家さん」
「よろしい。で?なん?」
「いや、どうしたのかなって」
「ああ。今夜、提督ここに置いといてもらおうと思って」
「いつもこの部屋で寝てるんでしょ?提督」
「せや。やから、って訳やないねやけど。構わへん?」
「あたしは別にいいけど…」
「矢口も〜」

大喜びの提督をむんずと抱きかかえて、矢口さんが起き上がる
230 名前:. 投稿日:2007/01/30(火) 18:06

「ごめんな?助かる」

矢口さんの腕の中で嬉しそうに尻尾を振る提督の頭を撫でて、平家先生、もとい、平家さんが笑う

「裕ちゃん、でしょ」
「わかる?」
「わかるよ。誰だと思ってんの」
「やぐっちゃん」
「正解」

顔を見合わせて笑う二人の間には柔らかな時間が流れているようで
あたしはそれを少し羨ましいと思った

231 名前: 投稿日:2007/01/30(火) 18:11

レスです

>>215名無し飼育さん
>>216Aさん

すみません、大変お待たせしました
レスいただける事が嬉しいので本当に感謝しています
頑張りますのでよろしくお願いします

>>217
>>218
>>219

すみません
ageてしまった場合はそのまま放置していただけると助かります
今回、久しぶりに更新しようと此処へ来たら
スレがochiになっていてびっくりしましたorz
ochiは勘弁して下さい…


では、今回は此処まで
232 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/01(木) 02:30
更新キター!
乙です。がんばってください^^
233 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/05(月) 18:09
面白れ〜
234 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/06(火) 01:22
あの。みっちゃん好きなんで嬉しいです。
235 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 00:04
続き気になります
236 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/21(金) 22:04
待っとります
237 名前: 投稿日:2008/01/03(木) 15:28
すみません
自己補完させて下さい
必ず戻ります
238 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/28(木) 00:40
まだまだ待ちます
239 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/06/01(月) 16:03
その言葉信じていつまでも待ちますよ

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