美しい関係〜everlasting〜 2
1 名前:ルビ 投稿日:2012/04/23(月) 18:27
前回に続き、いしよしを書きます
2 名前:ルビ 投稿日:2012/04/23(月) 18:46
前スレ

ttp://m-seek.net/test/read.cgi/dream/1330356147/


アンリアル短編書きます。
3 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 18:54
4 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 18:55
5 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 18:56



幼馴染みが明日、結婚をする――――――――


6 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 18:57
親同士が仲良くて、0歳の頃からいつも一緒にいた
男っぽくて、なんでもそつなくこなせるあたしは、
女の子っぽくて、ネガティブな彼女をいつも守っていた


『りっちゃんね、大人になったら、ひーちゃんと結婚するの』


遠い昔、そんなことを言われた

とても嬉しかったのに、恥ずかしがり屋だったあたしは、
いつも彼女を突き放すようなことばかり言っていた


『何言ってるの?あたしたち、女の子同士だから、結婚は出来ないんだよ?』
『えー!でもりっちゃんたちが大人になったら、結婚出来るかもしれないよ?』
『そんなわけないよ』


否定したけど、あたしは少しだけ・・・ほんの少しだけ期待した
もし2人が付き合っても、誰からも変な目で見られない世の中を――――――
7 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 18:59
あたしたちが結婚出来る未来が来ますように



七夕や神社に行くときは必ず祈ってた


だけど、そんな祈りは当然通じなかった


しかも、梨華ちゃんはいつの間にか
あたしにそういうことを言わなくなった


顔もまあまあ綺麗で、
スポーツ万能でいつも格好良いって言われていたあたし

寄ってくる女の子はたくさんいた

その度に梨華ちゃんは女の子に嫉妬した

女の子に興味がないあたしは、
別に好きになったり、ドキドキなんてしなかった

だけど、梨華ちゃんが嫉妬してくれることが嬉しかったから、
何度か付き合ったりすることもあった
8 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 19:00
でも、そんな梨華ちゃんも恋をした
同級生、先輩・・・
その姿を見て、あたしは胸が痛くなった
はち切れそうになった


他の人のことを想って、嫉妬しないで・・・
あたしだけを見てて


どす黒い感情があたしの胸の中をぐるぐると回った

梨華ちゃんを泣かした奴は許さない
梨華ちゃんを傷つけた奴は許さない

梨華ちゃんが傷つく度、泣く度、
あたしはその男のところに怒鳴りつけに行った


『ひーちゃん。もう私、大丈夫だから・・・あんなことしないで?』


いつものように怒りに行ったあと、そう言われた
9 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 19:02
『何言ってんの。いつでもあたしが梨華ちゃんを守ってやっから、
心配しないで?幼馴染みの仲でしょ?』


そのときはあたしに迷惑かけてるって
ネガティブになってるんだろうなって思ってた。


でも・・・違った


『・・・もう大丈夫って言ってるの。分かる?
ひーちゃんは女の子なんだよ?ちゃんと普通に恋をして、
自分を大切にしてよ。私は・・・自分のことは自分で守るから』



そう言われた日から、あたしと梨華ちゃんの関係は変わった


寄り添うように自転車で2人乗りしていた登下校も
梨華ちゃんが自転車を買ってしまって、別々になることが増えた
10 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 19:03
『今日は彼氏と遊ぶから』
『今日は友達と遊ぶから』



そうやって離れたあたしたちの関係性は
もう元には戻らなかった



お互いに親友ができ、登下校も別々になり、
会話はするけど、昔のように寄り添ってすることもなくなった




普通ってなんだろう―――――――


11 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 19:04
梨華ちゃんが結婚を決めたときからよく思う



あのとき梨華ちゃんが言った“普通”って
男と女が恋に落ちるってこと?
女と女はおかしいの?
女が女を守りたいっていう感情は間違ってる?


自分に降りかかった梨華ちゃんの“普通”っていう出来事に
あたしはただ泣くことしか出来なかった

いつも近くにいたのに、遠い存在になってしまった
しょっちゅう会っては、愚痴を聞いたり、
相談に乗ったりするのに遠く感じる



“好き”の感情が“憧れ”の感情になってしまった

12 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 19:05
「ひーちゃん!遅くなってごめんっ!待った?」



そんな彼女が結婚式の前日にあたしに会いたいと言ってきた



「ううん。さっき来たところだよ」



本当は20分前から、
ここの喫茶店にいる

記憶の中にある、梨華ちゃんとあたしとの思い出を遡りたかった
もう明日になったら、自分の感情に蓋をしなければいけない
そう思ったから・・・


「で、どうしたの?今日は・・・
結婚式の準備とかしなくちゃでしょ?」
13 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 19:10
そんな大事な日にあたしと会ってくれることがとても嬉しいのに、
いつもこうやって、冷たい態度をとってしまうのは昔から変わらない


「ひーちゃんといたいって思ったの。独身最後の日に・・・」
「・・・そっか」


寂しい顔をする梨華ちゃん

そう見えたのは錯覚なんだろうか



「あのさ・・・遊園地行かない?」
「遊園地!?」
「そう。最近行ってないから」



彼女はさっきの表情とは裏腹に
満面の笑みをあたしに向けてくれる
14 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 19:11
「大丈夫!ジェットコースターには乗らないからっ
あ、お化け屋敷もダメだったよね?
じゃあメリーゴーランドくらいしかないね」



彼女は意地悪そうな顔をする



「なんだよ・・・乗れるよジェットコースター!
お化け屋敷だって大丈夫だよっ」
「いいのいいの。私メリーゴーランド好きだから!」
「こんにゃろー」



彼女がニコニコ笑ってくれる
それだけであたしはとても嬉しかった
15 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 19:12
結局、あたしたちは遊園地の中で
数回メリーゴーランドに乗っただけで、
あとはベンチで話したり、ヘンテコな着ぐるみの動物と写真を撮っただけだった


「もう帰る?」


辺りは真っ暗で、
あと少しで夜の0時を回るところだった


「・・・最後に観覧車乗らない?」
「観覧車?」
「うん」


さっきまでキャーキャー言って笑っていた彼女の顔が
少しだけ申し訳なさそうな顔になる


「いいよ」
「やった!」
16 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 19:14
あたしは走って観覧車に向かう梨華ちゃんの後ろを
歩いてついていく

そんなあたしを見て、梨華ちゃんは口を尖らせて
繋ぐようにして、あたしの手を取った


初めて繋ぐその手はとても冷たくて、
ずっとこの手を離したくないという感情にかられる


あたしが梨華ちゃんの向かい側に座ると、
彼女は怒った顔で、自分の隣の席をパンパンと叩いた


内心嬉しいけど、呆れたような顔をして
あたしは横に座った


「梨華ちゃんっ?」
17 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 19:15
彼女があたしの肩に頭をちょこんと乗せる


「いいから・・・黙ってて?」
「え・・・う、うん・・・」


あたしが体を硬直させると、
梨華ちゃんはゆっくりとあたしの手をぎゅっと握って、話し出した


私ね、ひーちゃんのことがずっと好きだった
物心ついたときからずっと

だからね、ひーちゃんに駆け寄ってくる女の子に凄く嫉妬してた
なのに、ひーちゃんが自慢げにそれを話して来てさ・・・

だから私もひーちゃんを嫉妬させたくて、
色んな人と付き合った

そしたら、ひーちゃんも嫉妬してくれて
それが凄く嬉しかったの。
あぁひーちゃんもあたしと同じ気持ちでいてくれるんだって・・・
18 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 19:16
でもさ・・・それじゃダメだったんだよね
ひーちゃんへの気持ちを押し殺して、他の人に恋をして、
傷つけられて、泣いてしまって、ひーちゃんが慰めてくれて、
相手の人を怒ってくれる


嬉しかったけど、それじゃダメだったの。


ひーちゃんは女の子で、あたしも女の子


幼い頃はそんなことから目を避けても大丈夫だった
でもどんどん年を重ねていくと、変な目で見られた


『石川ってさ、吉澤って子と仲良いよね。
もしかして、付き合ってんじゃねーの?』


何回か、軽蔑した目で言われたことがあった
19 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 19:17
ひーちゃんには言ったら、
その子のところにまた怒りに行くと思って言わなかったけど・・・


だから、“普通”の恋をしなきゃって思った
私だけじゃなくて、ひーちゃんも・・・


お互いに恋をして、
友達の中で一番になればいいって思った

だけど、私不器用だから、
そんな風に上手く出来なくて・・・


ひーちゃんを突き放すようにしてしまった・・・


「ごめんね?」
「・・・ううん」


彼女の目から零れ落ちた涙が握っているあたしの手に流れた
20 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 19:20
そうだったんだ・・・
勘違いしてたんだ、あたし・・・


でも・・・今気づいても、もう遅い

明日には梨華ちゃんは結婚してしまう


だけど、きっと梨華ちゃんは独身最後の日だから、
あたしに言ってくれたのかもしれない

もう戻れないように

もう過去を振り返られないように


そして梨華ちゃんは言った


本当は何もかも投げ捨てて、
ひーちゃんのところに行きたいって思う
21 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 19:21
でも私にはそんな勇気はないの。

今の生活を捨てる勇気が・・・


パパもママもお姉ちゃんも妹のことも大好きだし、
旦那さんのことだって好き



「だからね、ひーちゃん」
「うん・・・」
「一瞬だけ、私の恋人になって?」



梨華ちゃんから説明された


ここの遊園地の観覧車は0時ぴったりに頂上で
キスをしたカップルは来世でも一緒になれるということ――――――
22 名前:for 投稿日:2012/04/23(月) 19:22
「次は私が男に生まれてくるから」
「え?あたしでしょ。男は」
「それはダメだよー!ひーちゃんは女の子がいい」


2人で言い合ってると、
時計の針とゴンドラが頂上に達しようとしていた


「もう、どっちでもいいよ。とにかく一緒になれれば・・・」


あたしがそう言うと、彼女は微笑んで、
ゆっくりと目を瞑る


その仕草がまるっきり女の子で、
やっぱり来世で男になんのはあたしの方だなってちょっと笑ってしまった


「ひーちゃん?」
「ううん。なんでもない」


あたしはゆっくりと顔を近づけると、
彼女は穏やかな顔をして目を瞑る
23 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 19:23


5、



4、



3、



2、



1、

24 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 19:24




――――――梨華ちゃん、愛してる



25 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 19:24
26 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 19:24
27 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 19:26
次の日、梨華ちゃんは無事に結婚をした

あの日2人で一緒にいたときに向けてくれた笑顔とは
また別の笑顔を見せていた


今だから思うけど、あの日見せてくれた笑顔が
きっと彼女の本当の笑顔だったんじゃないかって
ちょっと自惚れたりもする


一瞬だったけど、
今世で恋人になることが出来たあたしたち・・・


来世では一瞬だけじゃなくて、
ずっと恋人でいられますように



今度こそはお願いします、神様――――――――

28 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 19:26
29 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 19:26
30 名前:for an instant 投稿日:2012/04/23(月) 19:27


おわり

31 名前:ルビ 投稿日:2012/04/23(月) 19:29
ちょっと悲しい終わりになってしまいました・・・

次は惚気満載の作品を予定してますっ
32 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/24(火) 02:29
泣いてしまいました。こうゆうカップルこの世の中にけっこういるんだろうな。

次回作チョー楽しみにしてます!
33 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/26(木) 00:26
新板ありがとうございます^^
今回は悲しいお話でしたね思わず泣いてしまいました;;
次回は楽しそうなのでお話のようなので楽しみにしていますw
34 名前:ルビ 投稿日:2012/04/28(土) 21:25
>>32 ありがとうございます。
そうですよね・・・現実はやっぱり厳しいです。。。

>>33 ありがとうございます。
本当に惚気満載なんですが、楽しんでいただけると嬉しいです。
35 名前:ルビ 投稿日:2012/04/28(土) 21:26
リアル短編書きます。
吉澤さんサイドです。
36 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:26
 
37 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:26
 
38 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:27
「ジャーン!」


朝からご機嫌な梨華ちゃんが楽屋に入って来るなり、
自分の写真集をあたしと麻琴に見せる


「うお!!!」


やべー


白のビキニだあああ



「可愛い!!」


麻琴はそそくさと写真集を開きだして、
梨華ちゃんを思いっきり堪能してる
39 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:28
あたしはというと・・・



「ねぇ、よっすぃー・・・
表紙だけじゃなくて、中身も見てよっ」
「だって可愛いんだもん」



梨華ちゃんの顔が分かりやすく、
真っ赤になる


「もー!正直に言いすぎぃ」


そう言って、体をクネクネする姿も可愛い



それにしてもヤッベーよ。
この表紙・・・
40 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:29
今まで何冊も出してる梨華ちゃんの写真集

それは梨華ちゃんのアルバムみたいなもので、
まだ幼さが残る可愛い笑顔から
この表紙みたいに色っぽい顔までたくさん詰まってる


あー谷間もやっべー


「ちょっと吉澤さん、表紙から近すぎ!」



おっと・・・


気づいたら、かなり近くに梨華ちゃんの胸


やっぱでかい・・・



「ね、吉澤さん、撮っていい?」
「なにを?」
41 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:29
あたしは顔の前に写真集を持ったまま、
顔だけをずらして向かい側にいる麻琴を見る


「そのニヤニヤ顔」


あれ


ニヤニヤしてる?あたしの顔


全く無意識なんだけど・・・



返事する間もなく、麻琴は携帯をあたしの方に向ける


まあまあいいじゃないか


誰だって、こんな表紙見たらニヤけるっしょ?
42 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:30
「りっちゃん、撮らないの?」



そう言われた梨華ちゃんは
モジモジしながら、iPhoneを取り出す


「もう!本当近すぎぃ」


可愛く口を尖らせながら
あたしの方にiPhoneを向ける


「超可愛いよ、梨華ちゃん」


表紙の梨華ちゃんに言うように、
あたしはさらに顔を近づける


「もう!よっすぃー!エッチなんだからぁ」


あ、またモジモジしてる
43 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:31
反応はちょっと古くさいけど、
やっぱり可愛いあたしの相方



「ねぇ、よっすぃーは見ないの?中身」



写真を保存したらしい梨華ちゃんは
あたしの横に座る


「んー。見たいけど、帰ってからゆっくり見る」
「えー!リアルタイムで感想聞きたいー」
「そうだね。じゃあ今日梨華ちゃん家行っていい?」



笑顔で梨華ちゃんは頷いた
44 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:31
 
45 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:32
仕事中、写真集のことで頭がいっぱいだった

梨華ちゃん家でお酒を飲みながら、
2人で写真集を見て、1枚1枚、
場所とかそのときのこととかを事細かく教えて貰う


いつも写真集を発売したときしてること


みんなはそんなこと聞いてどうすんの
とかって言うけど、あたしは梨華ちゃんのことを全部知りたくて、
自分が梨華ちゃんについて知らないことがあると、
しつこいくらい聞いてしまう


自分では抑えているつもりだけど、
最近ではラジオとかでも、自慢するようなことを言ってしまって

でも、みんなに言って回りたくなる


梨華ちゃんのことを一番知ってるのは、
梨華パパや梨華ママでもなく、このあたしなんだってこと

だって目を見れば、なんでも分かっちゃうんだもん
そんなの親でも出来ないでしょ?
46 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:32
 
47 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:33
帰りの車



横にいる梨華ちゃんは朝の梨華ちゃんとは違って、
なんだか機嫌が悪い


「梨華ちゃん、お腹空いた?」
「うん」


足と腕を組んで、眉間にしわを寄せながら目を瞑ってる


「家になんかある?買ってこようか?」
「いい。昨日の残りあるから」


そう言うと、話しかけて欲しくないのか、
あたしの方に背を向けて、眠るようにして俯いた


ったく


赤ちゃんかよ
48 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:33
 
49 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:34
「あ゙ー疲れたぁ」



家に入って、すぐにソファに寝っ転がる梨華ちゃん


「ご飯、冷蔵庫にある?」
「うん」


あたしはせっせと冷蔵庫から出して、
ご飯の準備をする


って言っても、チンするだけだけど


あーぁ


写真集はご飯食べてからか・・・
50 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:34
 
51 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:39
「んーおいしいっ」


みるみるうちに梨華ちゃんの顔が明るくなっていく


本当に分かりやすいなあ


「沖縄は楽しかった?」
「うん!あのね、・・・・・・――――――――」



あたしの一言に何倍もして返ってくる言葉たち


ほら、喋りすぎて手が止まってるよ


「梨華ちゃん、ご飯冷えちゃうよ」
「あ、ホントだ!また喋りすぎちゃったっ」


照れたように微笑む顔も可愛い
52 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:39
 
53 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:40
「お腹いっぱーい」
「じゃあ、写真集・・・」
「なんか眠くなってきちゃったよ」


梨華ちゃんがソファに向かう

待ってよー!!!


あたし写真集見たいんだって


梨華ちゃんのエピソード聞きながら、
一緒に見たいんだってー



「梨華ちゃん、写真集・・・」
「ちょっと、お昼寝するだけだから」


お昼寝にしては、もう10時回ってるけど・・・
54 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:41
お腹いっぱいになって
すぐ眠くなっちゃう梨華ちゃんも可愛いけど、
今日は眠くなって欲しくないよ・・・


「ひーちゃん、座って?」


ソファに座っている梨華ちゃんが横をポンポンと叩く


「はいよ」


そして当然のように
梨華ちゃんは気持ちよさそうにあたしの膝に頭をのせて、
お腹に顔を埋める



髪を耳にかけてあげて、
優しく撫でてあげると・・・


「ひーちゃん、大好き」
55 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:42
そんな言葉が返ってきた

こうしてる時間が凄く幸せで
いつまでもこうしてたいって思うんだけどさ・・・


あたしは写真集が見たいんだよ!


目の前のテーブルに無造作に置いてある梨華ちゃんの写真集

自分の写真集くらい、丁寧に扱いなよ


そんなことを思いながらも、
あたしは写真集の中身が気になってしょうがない

梨華ちゃんが膝で寝ているせいで
動けないあたしは仕方なく、少し遠目から表紙を見つめる


可愛い


超可愛いよ


だから早く梨華ちゃん起きて〜
56 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:43
―――――――
――――


結局、その日梨華ちゃんが起きることはなかった


次の日の4時に起きて、
のろのろと寝室に入っていった


足もしびれたし、写真集も一緒に見れないし


梨華ちゃんが膝からどいてくれたから、
普通に見られるんだけど、やっぱりあたしが初めて見たコメントを
その場で梨華ちゃんに伝えた方がいいしなぁ


そんなことを思って、
結局ちゃんと見られたのは次の日の夜だった
57 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:43
 
58 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:43
 
59 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:44
「もう本当にちゃんとしないとダメでしょう?」


麻琴と3人でご飯を食べることになって、
あたしと梨華ちゃんで麻琴を待っていたら、
麻琴は軽装でこの店に来た

よく分からないけど、
梨華ちゃんは怒ってるみたい


「すいませんって・・・」
「あのね?麻琴は前からそう!どこか抜けてるの」


隣で口を尖らせて文句を言ってる梨華ちゃん


ここ1時間ずっとこんな感じ・・・

あたしはというと、
そんな2人をおつまみにかなり飲んじゃってます
60 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:45
「あたしとよっすぃーだからって
お店にそんな軽装じゃダメなんだからっ」



あれ、ひーちゃんじゃなくて
今日はよっすぃーなんだ・・・


「もう・・・それ何回も聞きましたからぁ」


一生懸命考えてあげてるんだなぁ
麻琴のこと・・・


昔から梨華ちゃんは他人のこと・・・
特に後輩のことを自分のことのように悩んで
色んな人に相談して、後輩にアドバイスするけど、
熱弁しすぎて、空回ってしまって
落ち込むってことが多かった


「それにさぁ、この前だってね・・・
麻琴、風邪ひいてたでしょ?ちゃんと体の管理をしなきゃいけないでしょ?」
61 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:46
そういえば、梨華ちゃんは仕事の日は
気持ちが引き締まってるせいか、風邪引かないことが多いけど、
休みの日には決まって、風邪を引いてたな

いや・・・今でも変わらないか・・・



「もう、前怒られたじゃないですかー
そのこと・・・」
「麻琴!全部繋がってるのよ。抜けてるところがあるから、
風邪を引いたり、軽装でお店に来たりするの!」




それにしても、
口尖ってる梨華ちゃんは可愛い


あぁ・・・なんか首痛くなってきた
62 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:47



・・・



「もう・・・いい加減にしてくださいよー
・・・親分!!!いつまで石川さん見てるんですか!!!」





―――――へ??



あ・・・



あたし無意識で
ずっと1時間中、隣の梨華ちゃんを見てたのか

63 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:48
だから首が痛いのか・・・


なるほど・・・



「全然関係ないんだけどさ、
やっぱ梨華ちゃん可愛いよ・・・」




キャッ



分かりやすいように顔を真っ赤にして
顔に両手をあてる


恥ずかしがり方が古いけど、
そんなとこも可愛い
64 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:48
「照れてる顔も可愛い」
「もうひーちゃぁん・・・」



あ、ひーちゃん呼びになったっ


高くて可愛い声・・・


そんな梨華ちゃんも



「マジで可愛い」





バンッ――――――――




・・・
65 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:49
あれ、目の前からクッションが飛んできたんですけど・・・



1時間ぶりに前を見ると、
凄く怒った麻琴の顔があった





今にでも湯気が出そうなくらい
怒ってるみたい



なんかあたし悪いことしました?



酔ってて、頭回らないんだよ
ごめんね麻琴



そう言って、また梨華ちゃんを見つめる
66 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:49
「梨華ちゃんさ、ご飯食べなよー
ずっと喋ってると、冷めちゃうよ?」



頬杖しながら、そう言うと
梨華ちゃんは思い出したように食べ始めた


ご飯忘れるくらい一生懸命だったんだね




・・・




「おやぶん・・・」



また麻琴かよぉ

67 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:50
あきれ顔で頬杖したまま、
麻琴の方に顔だけ向けると



「ん?」
「あんがとーございやす・・・」



なぜかあたしに感謝をしてるみたい


麻琴は解放されたかのように
ご飯を食べ始めた


よく分かんねーけど、
まあいいや


再びあたしは梨華ちゃんの方に顔を向ける
68 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:50
 
69 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:51
梨華ちゃんの好きなところ


それは数え切れないくらいある


他の人にとっては欠点でも
あたしにとっては好きって思う1つの材料であって、
欠点までもが好きなんだ



全力でおせっかいをするところ
全力で恥ずかしいこともやってのけちゃうところ
いつも全力だから、空回っちゃって、
勘違いされるところ

すぐ機嫌が悪くなるところ
お腹いっぱいになったら、眠たくなるところ
おおざっぱなところ
部屋が片付けられないところ
自分の気持ちを恥ずかしいくらい真っ直ぐに言うところ



本当にたくさんある
70 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:52
でもあたしが一番好きなところは・・・



『ひーちゃん、おはよう』



『いただきます、ひーちゃん』



『ひーちゃん、おやすみ』



『ひーちゃん、また明日』



・・・――――――――
71 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:53
いつも・・・いつも一緒にいてくれるところ


いつも横で怒ったり泣いたり楽しんだり笑ったりしくれるところ


それだけで、あたしはいいんだ


何もいらない


あたしが梨華ちゃんにやってあげたいことはたくさんある

だけどあたしが梨華ちゃんにして欲しいことはたった一つ


ただ、傍にいて欲しい


それだけなんだ

だから・・・これからも
お互い結婚して、子供が出来て、
おばあちゃんになっても、
こうやって一緒にいる時間を大切にしようね―――――
72 名前:梨華ちゃんの好きなところ 投稿日:2012/04/28(土) 21:53


おわり

73 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/28(土) 23:07
いい!
麻琴になりたい…
74 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/29(日) 01:26
まこっちゃんお疲れ様です!そしてとってもうらやますぃ〜。
75 名前:ルビ 投稿日:2012/05/02(水) 14:39
>>73 ありがとうございます。
惚気に一番の被害者はやっぱりまこっちゃんと圭ちゃんですよね(笑)

>>74 ありがとうございます。
本当にお疲れ様ですね・・・でもこの3人の雰囲気、好きなんですよね〜
76 名前:ルビ 投稿日:2012/05/02(水) 14:39
リアル短編書きます。
77 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 14:40
 
78 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 14:40
 
79 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 14:40
目の前にあるiPhoneが震えてる

ディスプレイを見ると、
圭ちゃんからだった


「梨華ちゃん、圭ちゃんから電話」


吉澤がソファに座ったまま、
キッチンにいる石川に顔だけ向けて言う


「ごめん、今手が離せないから、よっすぃーとって」
「はーい」


言われた通りに通話を押す
80 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 14:41
「もしもーし」

『ん?あれ・・・もしかして』

「ひとみでぇーす」

『なんなのそのテンション』

「今、梨華ちゃんはお料理中で手が離せないので、
電話をとることができません。ピーっという発信音の・・・」

『バカ!あんたの遊びに付き合ってる暇はないのよ』

「あれ、圭ちゃんって暇人じゃないの?ねー梨華ちゃんっ」


石川に顔を向けて大きく言うと


「うん!圭ちゃんはいつもひまじーん」


なーんて、いつもお決まりなイジリ


『・・・あんたたち、覚えときなさい』
81 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 14:42
「うえー怖いよー!ってことでじゃあねー」

『うん、じゃあね〜・・・って私、用があって電話したんだけど』

「あー・・・なに用って」

『あのね、梨華ちゃんに紹介する人はどんな人がいいかなぁと思って』

「は!?なに紹介って?」

『あれ、聞いてない?まあよっちゃんに教えたら、
面倒くさいことになりそうだから、言わなかったんじゃない?』

「なんだよ、面倒くさいって」

『まぁ・・・それはいいとして。梨華ちゃんはどんな人がいいか聞いて』

「嫌だ」

『もう・・・いいから聞きなさい』

「自分で聞きなよ、そんなこと」

『だから、こうやって電話してるんじゃないの!
それをあんたがとったんでしょ?』

「知らないよ、そん―――」
82 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 14:43
石川が料理を終え、
iPhoneを吉澤から取り上げた


「もしもし、圭ちゃん?」

『あ、梨華ちゃん?』

「ごめんね・・・でなぁに?」

『この前、誰か紹介するって言ってたでしょ?
それで、どんな人がいいかなぁと思って!』

「あー・・・うーん」


石川は無意識にチラっと吉澤を見る


「優しくて・・・スポーツが出来て・・・マメな人?」

『うーん・・・分かった。条件に合いそうな人探してみるね』

「ありがとー」

『うん、見つかったら連絡するー』
83 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 14:44


kei-side

84 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 14:44
2週間後、
私は条件に合った人を探しまくって、
梨華ちゃんに合いそうな人を見つけた

かなり自信がある


探すとき、“よっちゃんに似てる人”
と思って、探したことは内緒だ


「あー緊張するよー」


梨華ちゃんは助手席でずっと深呼吸をしてる


「大丈夫よ。落ち着いていけばね?」


車を運転しつつ、渾身の笑顔を送った

うん、これで梨華ちゃんも大丈夫よ
私の笑顔は最強なんだからっ
85 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 14:45
「そうだよ。好みじゃなかったら、すぐポイって出来んだから」


後ろから聞こえてくる声
大股を広げて、腕を組んで機嫌悪そうな顔


「・・・で、よっちゃん、なんであんたがいんのよ」


梨華ちゃん家に迎えに行ったら、
当たり前のようにズカズカと車に入ってきたこの子


最近はほとんど家にいるみたいだけど・・・

半同棲生活ってこと?


昔は梨華ちゃんがよっすぃーよっすぃー言ってたのに、
いつの間によっちゃんはこんなになっちゃったのか・・・


まあ・・・この2人をずっと見てきた私からすると、
凄く嬉しいのは確かなんだけどね
86 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 14:46
「でしょぉ?私がこの日に会うって言ったら、
呼んでもないのに来ちゃったんだよぉ?」


口を尖らせて言ってるけど、
なぜか嬉しそう


「ったく、あんたは・・・あんたの方が暇人じゃないっ」
「そんなことないよ。あたしは梨華ちゃんの保護者として来たの!
本当は行くつもりなかったけど、わざわざ来たんだよ」


後ろからひょっこり顔を出して、
一生懸命反論するけどさ・・・


「あーそー!じゃあ、保護者は私で十分だから、
帰ってもいいよ?」
「え・・・いや・・・あの」


分かりやすくしどろもどろになる

本当・・・あんたって子は・・・
87 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 14:48
「圭ちゃん、そんなこと言わないでよ。
2人いてくれた方が落ち着くし」


こうやって当たり前のように
庇うんだから・・・梨華ちゃんは・・・

昔からいつもお互いに助け合ってた

梨華ちゃんが関係ないことで
怒られたときもよっちゃんが助けてたし、
よっちゃんが太って、色々言われたときも
真っ赤な顔して怒ったり、やる気を出させるような言葉をかけたり・・・


本当はこれからも2人で居続けることが
2人にとっても幸せなのかもしれない

でも梨華ちゃんは結婚を望んでて、
よっちゃんもああだけど、梨華ちゃんの結婚を望んでて

それなら、やっぱり先輩としては
幸せになって欲しいって思うから・・・

だからよっちゃんが梨華ちゃんの恋で
悲しそうな顔をしてたら、私が支えなくちゃいけないって思うし、
それが私の役目だなとも思う
88 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 14:48
 
89 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 14:50
「・・・なんであんたがそこに座るの」


レストランに入ると、
すでに今回の梨華ちゃんに紹介をする寺田さんと
私に寺田さんを紹介してくれた友達もいた


椅子が4つで
よっちゃんは私を追い越して、
そそくさと壁側にある寺田さんの前の椅子に座った


「だって、梨華ちゃんを挟んだ方がいいっしょ?
圭ちゃん、あっちから椅子とってきなよ」


よっちゃんさ、自信ありげな顔で言ってるけど、
こういうときのマナー分かってる?


「そんなことより、寺田さんと梨華ちゃんを
向かい合わせに座らせる方が先でしょ。
あんたと寺田さんが向かい合ってどうすんの」
90 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 14:50
椅子をとりながら言う


よっちゃんはぶーたれた顔で立ち上がる


「はいはい。こっちに座ればいいんでしょ。」


よっちゃんが私と梨華ちゃんの間に入り込んで、
無理矢理座った


「・・・あんたはこっち!!」


服を引っ張って端っこに追いやる


「ちぇっ」
91 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 14:51
座る位置がやっと決まって
私たちが一息つくと


「洋服、可愛いですね」


寺田さんが梨華ちゃんに向かって言った


梨華ちゃんに会う前に
寺田さんに一言だけアドバイスをした

『可愛いって言ってあげてください。
そしたら第一印象だけは確実にいいはずなんで』

梨華ちゃんのことを十分すぎるくらい知ってる私は、
もっとアドバイスできることはあったけど、
やっぱりこればかりはね、2人が自然と恋愛をしていくのが
筋ってもんだからね・・・

ちゃんと考えてるでしょ?


「そんなことないですよぉ」
92 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 14:52
ほら、モジモジして嬉しそうにしてる

ホント分かりやすいんだから


でも・・・


「あ、これマネキン一式買ってるだけですから」


こいつめー

私が必死に盛り上げようと思ってんのに・・・
昔のよっちゃんを見てる気分だよ
精神年齢が中学生だった頃の・・・


「よっすぃー!これは違うよぉ。
これはよっすぃーが買ってくれたんでしょお?」


なんでそんな振りをするかなー
また調子乗っちゃうでしょーが
93 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 14:53
「あー!そうだったそうだったっ
一緒に買いに行ったんだよね。
聞いてくださいよ!梨華ちゃんってファッションセンスゼロなんですよ。
それで、この服買うときも―――」




「よっちゃん、その話はいいの」


ニヤニヤしてるよっちゃんが一変して
口を尖らせる


「もー!よっすぃーのばかぁ」

あきれ顔の梨華ちゃん


本当だよ・・・

なんでこういう席で良いところを言わないで
悪いところばかり言うのよ
94 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 14:55
あんたが梨華ちゃんに恋をして欲しくないのは
分かるけど、これもあんたが望んでることでしょ?

核心は今まで触れたことなかったけど、
やっぱりよっちゃんは梨華ちゃんを恋愛対象として好きなんだよね

でも本人は全く気づいてない


「仲良いんですね。3人とも」
「まあ一応私先輩なんですけどね」


寺田さんは私たちのその姿を見て
微笑んでくれてる

よっちゃんのせいでおかしくなった、
この雰囲気を脱却したくて、
私は寺田さんに『何か質問をしてください』と催促をした


「あのー・・・じゃあ定番なんですけど、
趣味とかってありますか?」
「はい!手芸とか好きです」
「家庭的ですね。料理とかはするんですか?」
「料理も、たまにですけどしますよ」
95 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 14:55
いい感じいい感じ

保田が2人を見て安堵していると・・・


「でも梨華ちゃんの作るご飯はトイレ臭いんですよ。
ゴボウの切り方も―――――」


「もうよっすぃー!!」

はあ・・・


もうだめだ
このままだと梨華ちゃんの印象が悪くなるよ


「ったく・・・ここら辺で私たちは帰りましょうか」


寺田さんの友達に目配せして立ち上がる


「ほら、よっちゃん行くよ」
96 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 14:56
乱暴によっちゃんの肩を叩く


「えーつまんねーよ。あたしいるー」


私が立ち上がったことをいいことに、
梨華ちゃんの横に座り直す


「あんたが一番帰るべき人間なの!ほらっ」


もう本当よっちゃんがいると、
いつになっても梨華ちゃんに恋人が出来ないよ

今度は力強くよっちゃんの袖を引っ張った


「なんだよもう・・・」
97 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 14:57
言われるがままによっちゃんは立ち上がって、
思い出したように梨華ちゃんの方へ振り返る



「あ、梨華ちゃん!鍵貸してよ。梨華ちゃん家の鍵。
今日も泊まってくからさ。先に帰っとく」



寺田さんに聞こえるかのように、
少し大きめの声でそう言った


「あ、分かった。ちょっと待ってね」


梨華ちゃんはなんのためらいもなく、
バックから鍵を取り出して、よっちゃんに渡した
98 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 14:58
 
99 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 14:59
「あんた梨華ちゃん家の合い鍵持ってないんだ」


梨華ちゃん家へ向かう車の中――――


ご飯に誘ったけど、
梨華ちゃんがいつ帰ってくるか分からないから
家で留守番するって言い張って断られた

ちょっとご飯食べるくらい別にいいのに・・・


「・・・持ってないけど?」
「でもまいちゃん家の合い鍵は持ってたわけでしょ?」
「そうだねー」


よっちゃんはつまらなさそうに窓の外を眺めてる


そんなに私といるのが楽しくないわけ?
100 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 15:01
「なるほどね。やっぱり意識しちゃうんだね。
合い鍵っていうのは。友達には意識しないけど」
「なにそれ」


ムカついて言ってやったけど、
あまり動じてないみたい


自分の気持ちに気づいて欲しいのもあるけど、
気づいたら気づいたでよっちゃんが悲しむかもしれない

何よりも相手の気持ちを考える子だから

梨華ちゃんの夢が家庭を持つことである限り、
よっちゃんは絶対に自分の気持ちを言わない

自分の気持ちを伝えてしまったら、
梨華ちゃんが悲しむって分かってるから


「ね、よっちゃん。今回は続くと思う?梨華ちゃんたち」
「続かねーよ。1週間くらいじゃない?持っても1ヶ月だな」
「凄い自信だね」
101 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 15:02
でも自分の気持ちは自覚してなくても、
うすうす感じてると思う


「だって無理だもん。梨華ちゃんのわがままに付き合ってられんのは――――」
「あたしだけだって言いたいの?」
「・・・それは・・・いや・・・」


梨華ちゃんの愚痴に付き合っていられるのも、
梨華ちゃんの扱いを完璧に熟知しているのも、
どんな梨華ちゃんも可愛いって思ってるのも、

よっちゃんなんだってこと


どんなにこれから梨華ちゃんが好きな人が出てこようと、
それは変わらない事実

梨華ちゃんにとって、恋人、友達、仲間
たくさんカテゴリーがあっても

吉澤ひとみっていうカテゴリーには誰も入れない
102 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 15:02
「思い切って言えば?好きだー愛してるーって」
「いや・・・それ別の意味になっちゃうでしょ」


なんだ、分かってんの
私が言いたいこと


「え?よっちゃんが梨華ちゃんに対して思ってる好きって
そういう意味じゃないの?」


ちょっと意地悪してみる


「ちげーよ。同期として、仲間として、友達としてだよ」
「ふーん」


こんなに証拠は揃ってるのに、
まだ気づかないなんて本物のヘタレだよ
103 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 15:03


hitomi-side

104 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 15:28
「ただいまー」


声だけで分かるけど、
一応聞いてみるか・・・

「おかえり!どうだった?」
「ヘヘ」

ほら、笑ってるよ
なんだその笑顔は・・・

分かりやすい顔しやがって


「すっごくいい人だった!
料理もやるんだって!凄く優しくて、私の話も聞いてくれて、
スポーツもね、よくやるんだって〜!あとね、なにより・・・
阪神のファンなんだってーー!!!凄い偶然と思わない!?」
「へー」


目をきらきらさせて、
ソファに座ってるあたしの横に座る
105 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 15:29
「運命なのかなー
ビビっときちゃったんだよねー」


そう言って、あたしの肩に頭を乗せた

なんだかんだ言って疲れたみたい
こう見えて、結構人に気遣うところあるもんね。


「梨華ちゃん、それどの男のときも言ってるよ」


そうだよ。
ちょっとだけでも相手から自分に対する好意が見えたら
梨華ちゃんはすぐ心が動いてさ・・・

だから今回だって、すぐ終わるに決まってる


「あれ、そうだっけ?でも今回は絶対運命だと思うの!」


あたしはむしゃくしゃして、
肩にある梨華ちゃんの頭を気にせずに立ち上がって、
お酒を取りに冷蔵庫に向かった
106 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 15:29
「よっすぃーどうしたの?」


後ろから呼ばれる


「べつにー」


むしゃくしゃしてる自分を見せるのが嫌で、
振り返らずに言った


「あ、よっすぃー、私に先越されるのが嫌なんでしょ?」


お酒をとって、ソファに再び座る
今度は肩に頭を乗せられないように、
梨華ちゃんから離れた


「嫌じゃないよ。どうせすぐ飽きるよ。
今まで1ヶ月以上まともに続いたことほとんどないじゃん」
107 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 15:30
そうだよ。
すぐ飽きる

運命だー

なんて言ってた自分がバカになるような日はもうすぐだよ


「続くもん!!今度こそは結婚するもん!」
「まだ会ったばっかじゃん。いきなり結婚の話?」


私はテレビに顔を向けて話してるのに、
梨華ちゃんはずっと私の方に顔を向けてる

いつもそうだよね
イベントするときも、MCするときも

恥ずかしくなるくらい、ずっとこっち見てさ
108 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 15:31
「もうさっきから、なんでそんなに機嫌悪いの?」
「別に悪くない」

ちょっと自分の態度に反省をして、
梨華ちゃんの方に顔を向ける


なのに・・・


「ふーん・・・あ、寺田さんからメールだぁっ」


顔を輝かせて、
震えているiPhoneを触った


はあ・・・
109 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 15:31
 
110 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 15:32
3日経って、梨華ちゃんたちは付き合いだした


それから1週間経っても、
1ヶ月経っても、2人は別れなかった

それどころか、あたしと梨華ちゃんの間に壁が出来ていた


梨華ちゃんをご飯に誘っても、
泊まっていいか聞いても、
今日はダメって断られた

あたしに愚痴をこぼすことも少なくなって、
寺田さんの話もあたしの前ではほとんどしなかった

圭ちゃんにそのことを言うと、
圭ちゃんには相談してたみたい


『梨華ちゃん、最近あたしのこと避けてない?』
『え?そんなことないよ・・・付き合うってこういうことよ?
今までベッタリしすぎてたんだよ、私たち』
111 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 15:33
日に日に大人っぽくなっていく、
梨華ちゃんを見ることが凄く辛かった

昔みたいに・・・昔みたいに背中ばかり見ていた頃の感覚・・・


ううん・・・


違う・・・


もっともっと遠く感じる


あたしの知らない梨華ちゃんが増えていく


梨華ちゃんの機嫌や表情はあたしがコントロールしてたのに、
今では寺田さんがコントロールしてる


言葉には出さないけど、
機嫌が良い日は寺田さんと何かあったんだろうなとか
機嫌悪い日はなんかされたのかなとか・・・
112 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 15:35
いつの間にかご機嫌取りも
あたしじゃ出来なくなってしまって―――――――


もうあたしじゃダメなの?
あたしが笑顔を作ってあげることも、
あたしのせいで悲しい顔になるのも、


もうないの?――――――――



今まで感じたことのない、
寂寥感が体中をぐるぐると回る


溢れ出しそうになる涙を必死に抑える


おかしいよ、あたし・・・
113 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 15:35
梨華ちゃんに幸せになって欲しいんでしょ?
梨華ちゃんの夢を叶えて欲しいんでしょ?
仲間として、友達として、梨華ちゃんを応援したいんでしょ?



なのになんでこんなに悲しいの?寂しいの?



アヤカのときもまいちんのときも
こんな気持ちにはならなかったのに・・・


そして・・・
付き合ってから、
4ヶ月経ったときに言われた
114 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 15:37




「よっすぃー、私結婚しようと思う―――――」



115 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 15:37
 
116 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/02(水) 15:37
 
117 名前:ルビ 投稿日:2012/05/02(水) 15:37
本日は以上です。
118 名前:ルビ 投稿日:2012/05/02(水) 16:38
そういえば・・・
ここに出てる“寺田さん”は名前を借りてるだけなので、
本物の寺田さんを想像しないでくださいっ
私関西弁とか出来ないので・・・(汗
119 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/03(木) 00:32
どうなるの?先が読めません!
120 名前:ルビ 投稿日:2012/05/03(木) 17:20
>>119 ありがとうございます。
どうなるんでしょうか・・・是非次も読んで下さいっ
121 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:28
 
122 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:28
 
123 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:29
「よっすぃー、私結婚しようと思う――――――」




久しぶりに梨華ちゃん家に誘われて、
浮かれ気分で来た

どんなこと聞こうかなー

しばらく行ってない家は汚くなってないかなー

そしたらまた大掃除しないとなー

あ、最近梨華ちゃん家行ってないから、
また外食ばっかかも
冷蔵庫なんもない可能性あるなあ・・・


そう思ってスーパーに急いで行って、
色々買ってきた
124 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:30
でも・・・


梨華ちゃんの一言で自分の浮かれた気分は一蹴された



「寺田さんね、凄くいい人なの。
とても優しくて、とてもマメで、
なにより私のわがままを聞いてくれる」



梨華ちゃんの声が聞こえない


すべての音が雑音に聞こえる


あたしの耳には


『結婚をしようと思う』


その一言が響き渡って、離れようとしない
125 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:31
「ちょっと早いかなって思ったんだけど、
もうこのチャンスを逃したら、私一生結婚出来ない気がして・・・」



梨華ちゃんが・・・


梨華ちゃんが結婚する?



嘘だ



そんなの嘘だ


あたしは認めないよ



ずっとずっと一緒にいようよ。
126 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:31
お互いご飯を作りあって、
梨華ちゃんの汚い部屋を掃除してあげて・・・
笑い合って、慰め合って



いいじゃん、家庭なんか持たなくてさ


楽しければ、それでいいじゃん。


旦那さんがいて、子供がいて、
一軒家で、犬がいて


そんな家庭でも嫌なことって絶対あるんだよ?



「まだ返事はしてないんだけど。
よっすぃーには一番最初に言っておきたくてさ」
127 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:32
梨華ちゃん言ったでしょ?


『よっすぃーを越えられる人じゃないと結婚できない』って


寺田さんはあたしを越えられたの?


あたしの方が梨華ちゃんの愚痴聞いてあげられるし、
話もいっぱい聞いてあげられる。

わがままもいっぱい聞くよ

梨華ちゃんが望むこと全部やってあげる


だから・・・お願い、あたしを1人にしないで・・・



「結婚しても・・・仲良くしてね。よっ――――――」
128 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:33
ガチャンッ



立った瞬間、膝の上に置いてた卵が
床に無惨な状態で落ちてしまった


「よっすぃー!ちょっとなにす――――――」


あたしを見上げた梨華ちゃんが
驚いた顔をした


「・・・泣いてるの?」


目から一粒の涙が零れ落ちた



「ごめん―――――」



どうすることも出来なくて、
あたしは自分の鞄も忘れて帽子だけとって家を出て行った
129 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:34


kei-side

130 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:34
梨華ちゃんが寺田さんと付き合うことになって、
4ヶ月が経つ


思ったより、かなり長い日数


もしかしたら・・・このまま結婚ってこともあるかも



そしたらやっぱり私がスピーチなのかなあ


一番目をかけていた後輩、梨華ちゃん


泣き虫で負けず嫌いで
いつもネガティブで

たくさん頼られたし、たくさん話を聞いた


妹のような存在
131 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:35
後輩の幸せを嬉しく思い、
鼻歌を歌いながら、夜ご飯の片付けをしていた



ビンボーン―――――――



あれ、こんな時間に誰だろう


もう9時だ



「はーい」


扉をあけるとそこには・・・




「・・・よっちゃん?」
132 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:36
キャップを深く被って俯いてるから
顔は見えないけど、確かによっちゃんだった



「どうしたの?こんな遅くに・・・」
「ごめん・・・あたしさ、どう、すれば、いい、のか、分かん、なくて・・・」



震えた声で泣いているのが分かった

よっちゃんが泣いたところを見たのは数えられるくらいで
こうやってプライベートで見たのは初めてだった


「・・・とにかく入って?」
「ごめん」


ソファに座っても、
よっちゃんは帽子をとらない
133 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:37
「よっちゃん、帽子取りなよ。
別に私に格好つける必要なんてないでしょ?」


優しく言いかけると、
ゆっくりと帽子をとった


よっちゃん・・・



目が充血してて、凄く腫れてる

溢れる涙が止まらなくて、Tシャツで拭いたのか、
白いTシャツが少しだけ滲んでいるのが分かる


「よっちゃん・・・どうしたの?」


コーヒーを持って、隣に座る
134 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:37
「んぐっ・・・うぅ・・・ん・・」
「ゆっくりでいいから」


よっちゃんは両手で顔を覆って、
体を折り曲げて声を出しながら泣き出した



「うぅ・・・んぐ・・・」



よっちゃんのこんな姿、初めて見た


ほとんどの後輩たちのこういう姿を見たけど、
よっちゃんは見たことなかった


悲しいことがあっても、
声を出さずに泣いてた

それに泣くのも少しだけで、
いつも我慢してた
135 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:38
「我慢しなくていいからね?
思いっきり泣きなさい。もう背負ってるものはないんだから」


優しくよっちゃんの背中をさすった


モーニング娘の中での自分のポジション、
そしてリーダーという責任感


いろんなものから縛られて、
泣くことも出来なかったんだろう


だからよっちゃんは娘を卒業したあとでも、
涙を我慢するようになってしまった


仕事以外のことで傷ついたときも、
唇を噛みしめて、一粒だけ涙を零すだけだった
136 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:39
10分後・・・



「・・・ご、めん・・・けいちゃん」


よっちゃんはゆっくり体を起こす


「あんたは我慢しすぎなのよ。もっと私を頼りなさいっ」
「うん、ありがとう」


泣きすぎたせいか、笑顔を作ることも出来なくて、
顔はぐしゃぐしゃになってる


初めて見たよっちゃんの泣き顔はなんとも言えなくて・・・
見るだけで胸が痛くなった
137 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:40
「・・・こんなに泣く理由・・・聞いてもいい?」



よっちゃんの膝に置いている拳に力が入るのが分かった



「梨華ちゃんが・・・結婚、しようと、思うって」



・・・――――――――


嘘・・・本当に?


梨華ちゃんが・・・


結婚?
138 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:41
さっき鼻歌交じりに考えていたこと

梨華ちゃんの結婚


現実になるってこと?


さっきまでは後輩の幸せを予感して
楽しみにしていたはずなのに、
いざ直面すると頭が混乱した


いい意味じゃない


悪い意味で・・・


目の前に梨華ちゃんの結婚を目の当たりにした、
よっちゃんがこんな姿になってるから?


ううん、違う
139 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:42
だけど、自分の中にとてつもない違和感があった


梨華ちゃんが寺田さんと・・・結婚?



「あたし、さ・・・じぶ、んでも・・・分からない、んだ
なんで・・・こんなに悲しいのか・・・ほん、とは梨華ちゃんが、
付き合い、始めてから・・・頭ん中、梨華ちゃんばっかで・・・」



梨華ちゃんから誘いを断られる度、泣きそうになって
意味もなく、梨華ちゃん家の前うろうろして・・・
あたし辛いんだよ。梨華ちゃんがあたし以外の人のために
泣いたり、笑ったりするのが・・・


前は長くても1ヶ月で、
それに気づくまではいかなかった

でも1ヶ月過ぎてから、すげー寂しくて・・・
140 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:43
携帯を眺めてながら微笑んでる梨華ちゃんを見て、
寺田さんに嫉妬して・・・

でもなんか言っちゃうと、
困らせちゃうからずっと言わなかった

気持ちを押し殺して・・・

そのときはまだその感情が嫉妬だって自覚してなかった


自分の中で抑えよう抑えようって思ってたのに・・・


今日梨華ちゃんから“結婚”って言葉が出てきた瞬間、
あたしは頭が真っ白になって、どうすればいいか分からなくて、
胸が痛くなって・・・涙がポロポロ出てきたんだ




「あたし・・・梨華ちゃんに、結婚して欲しくない――――――」


141 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:44
再び両手で顔を覆った


「幸せになって、欲しいって・・・思ってた、はず、なのに・・・
サイテーだよ・・・あたし・・・本当にサイテー・・・」

「そんなことない。そんなことないよ?」


泣き崩れるよっちゃんに
私は背中をさすり続けた


そしてよっちゃんは嗚咽混じりで叫び声に近い声で言った




「すき、なんだ・・・すき、なんだよ・・・梨華ちゃん、のこと・・・
友達とか・・・仲間とか、じゃなくて、1人の人間として・・・1人の女性として・・・
誰にも、渡したくない、んだ・・・あたしだけ、のものになって欲しい



胸が張り裂けそうなくらい、愛しちゃってるんだよ――――――――」



142 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:44


hitomi-side

143 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:45
夢を見た。



梨華ちゃんが遠くへ行く夢。


あたしを残して、遠くへ行く彼女を追いかけたいのに
あたしはなぜか動けなくて、じっと背中を見つめてるだけ


いやだ・・・いやだ・・――――――――



1人にしないで


ずっと一緒にいてよ・・・


梨華ちゃんがいなくなったら、あたし・・・


やだよ・・・いやだ・・・
144 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:45
「ちゃん・・・ひーちゃんっ!ひーちゃんっ」



あれ、梨華ちゃんの声がする・・・



うっすらと目を開ける


泣きすぎて、瞼が重い





梨華ちゃん・・・――――――――



145 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:46
梨華ちゃんがベッドに寝ているあたしを包み込むように抱き締めていた

そして心配そうに眉をハの字にしている梨華ちゃんの姿が見える


な、んで・・・


昨日、泣き疲れたあたしは泊まっていくように
圭ちゃんから言われて・・・


周りを見渡しても、圭ちゃんの部屋だし


梨華ちゃんの部屋じゃないのに・・・



「ひーちゃん、ごめんね」



涙を零しながら、
なぜか汗でびしょびしょになったあたしの長い前髪を
耳にかけてくれる
146 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:47
「ひーちゃん、うなされてた
私のせい、だよね?ごめんね・・・」


泣かないで


梨華ちゃんの泣き顔を見ると、
こっちまで辛くなるんだ


梨華ちゃんの頬へと手を伸ばし、
包み込むように涙を拭う


「こんなときまで、優しくしないで?
もっとわがまま言っていいんだよ?」


ずっとあたしの髪を梳かしてる手が暖かくて安心した気持ちになる


「でも梨華ちゃ――――」
「結婚・・・やめることにした」


147 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:47
・・・っ――――――――




え!?




どういうこと・・・




なんで!?



「ひーちゃんに言ったときには、
まだ寺田さんには何も言ってなかったの。
考えさせてくださいって言っただけで・・・
本当はひーちゃんに“嫌だ”って言って欲しかったんだと思う」
148 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:48
寺田さんから結婚って言葉を聞いたとき、
すぐにひーちゃんの顔が浮かんだ

結婚したら、もうひーちゃんに頻繁に会えなくなる
結婚したら、私の家で一緒にご飯食べたり寝たり出来なくなる


そう思ったら、悲しくなっちゃって・・・


でもこんな気持ち、ずっと持ってたって
意味ないでしょう?


いつかは2人とも結婚するかもしれない
そしたらこの気持ちは捨てなきゃいけない


だから・・・今なんだって・・・

今、捨てるべきときが来たんだって


そう思ったの・・・
149 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:55
でも簡単に捨てることが出来なくて、
寺田さんに返事をする前にひーちゃんに伝えたの


私の中では、きっと笑顔で祝福されるんだろうなって思ってた


だから泣いてるひーちゃんを見て、
本当に驚いた


何も言わずに涙を流してるひーちゃんを見たら、
全部全部どうでもよくなった


だからひーちゃんが出て行ったあと、
色々考えて・・・


寺田さんとの結婚をやめたら、
次はいつになるか分からない


もしかしたら家庭を築くことも出来なくなるかもしれない
150 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:57
でも・・・気づいたの


ひーちゃんを越える人はいない


少なくとも、私の中では・・・


だから寺田さんにお断りの電話をして、
ひーちゃんにも電話したのに、鞄も携帯も置きっぱなしなんだもん

ひーちゃんの実家とか色々探しで、やっと見つかったの


目を腫らさせて眉間にしわを寄せて、
眠ってるひーちゃんが―――――


圭ちゃんが教えてくれた


『あんなよっちゃん、初めて見た』

『寂しいって、悲しいって・・・ずっと泣いてたんだよ?』

って
151 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:58
「でも・・・避けてたじゃん・・・あたしのこと」



ふくれっ面になってるあたしを見て、優しそうに微笑んだ


「それはね――――――――」


寺田さんに言われたの。
吉澤さんと付き合ってるって噂があるみたいだけど・・・って

もちろん私は違うって言ったんだけど、
それでも私とひーちゃんが仲良くしてるのが嫌だったみたいで、
何回もひーちゃんとあまり話さないでって言われちゃってね・・・


そのこと以外はとても良い人だった
本当に優しくて、私のことも理解してくれて・・・
だから嫌だって言えなかった

本当は監視カメラもついてるわけじゃないんだから、
別に喋ってもよかったはずなのに、
大真面目に話したらダメって思い込んじゃって・・・
152 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 17:59
ほら・・・あのマインドコントロール?

自分でかけちゃったんだよね


私はもうこの人しかいない
この人が言うことはちゃんと聞かなくちゃって
自分の年とか結婚のことばかり考えてた


だから自分の気持ちに気づかなかったの。



「私ね、思うの。どんなに優しくて、スポーツ万能で、
マメで、私のわがままを聞いてくれても、



今までもこれからも吉澤ひとみが
私の一番のパートナーなの――――――――」



「優しい人とかわがままを聞いてくれる人を必要としてるんじゃない。
私はひーちゃんが必要なの。だからね、ひーちゃん・・・寂しいなんて思わないで?」
153 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 18:00
今まで、梨華ちゃんに優しくしようって思ってた
でもそれがキツかったわけじゃない。
梨華ちゃんのためだって思ってた・・・

あたしの中ではもしかしたら、あたしが子供っぽくなったり、
わがままになったら、梨華ちゃんはあたしのこと嫌うんじゃないか

そう思って、わがままを出すことが出来なかった


でも、出していいんだ

本当のあたしを・・・


嫉妬ばかりするあたしを・・・


「梨華ちゃん、ごめんね?」
「ん?」
「嫉妬しちゃった・・・」


顔を赤らめて言うと、
苦しいくらいにぎゅっと抱き締めてくれた
154 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 18:01
「嬉しい・・・私だけだと思ってたから・・・嫉妬してるの」



そんなことないよ

本当はあたしの方が嫉妬してるかもしれない


これからはさ、絶対に離したくないって思う
ずっと一緒にいたいって思う
愛してるから・・・今は言えないけど・・・マジで愛しちゃってるから


「梨華ちゃん」
「ん?」
「家に帰ったら、大掃除が待ってるぞー」
「えーっ!別にあれでいいよー」


だめだめ
あたしが嫌なんだもん
足の踏み場もないところなんて


これからはさ、前よりも梨華ちゃん家に
お世話になると思うからさ―――――――
155 名前:梨華ちゃんの恋 投稿日:2012/05/03(木) 18:01


おわり

156 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/04(金) 00:57
うるうる(ToT)
でもよかった!
うん素直がいちばん!
157 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/04(金) 22:14
吉澤さんに感情移入して読んでました…苦しかったー!!
でも最後に本当の形に行き着いて良かったです
158 名前:ルビ 投稿日:2012/05/05(土) 22:20
>>156 ありがとうございます。
本当に素直が一番ですねっ

>>157 ありがとうございます。
書いていて、こっちも悲しくなりましたー
159 名前:恋人になろうよ 投稿日:2012/05/05(土) 22:20


hitomi-side

160 名前:ルビ 投稿日:2012/05/05(土) 22:21
リアル短編です(汗
161 名前:恋人になろうよ 投稿日:2012/05/05(土) 22:22
「で、あんたたち最近どうなの?」


本当は梨華ちゃんと一緒に圭ちゃんを飲みに誘ったのに、
梨華ちゃんに急な用事が出来て、圭ちゃんと2人きりで飲むことになった

最初は断ったのに、
無理矢理連れて来られた


「あんたたち?なんで、複数なわけ?」
「だぁかぁらぁ・・・あんたと梨華ちゃんのことを言ってるの!」


また訳の分からないことを言ってるよ
あたしたちがどうって・・・別になんもないけど


「何言ってんの、圭ちゃん」
「もう・・・キスとかしたかって聞いてんのよ!!」




ブハッ!!!!
162 名前:恋人になろうよ 投稿日:2012/05/05(土) 22:24
思いっきり口に含んでいたビールを
圭ちゃんの顔面に吹き出してしまった

圭ちゃんはキーキー言って
ハンカチで顔を拭いてる


「な、な、なんであたしが梨華ちゃんとキスすんの?」
「だって、あんたたちそういう関係になったんでしょ?」



そういう関係って・・・


あの・・・なんか勘違いしてませんか、保田さん



「あたしたち、別に付き合ってないから」



圭ちゃんは冷静に言い放ったあたしを
これでもかってくらい目を開いて見つめた
163 名前:恋人になろうよ 投稿日:2012/05/05(土) 22:25
「は・・・!?だって、この前うちの家で愛の告白しあってたじゃない」


愛の告白・・・?


したっけ、そんなの・・・


愛してるとか好きとか付き合ってとか言ってないよね?


つうか、言ってないからあたしたちは
前と同じような関係なわけで・・・


「てか、聞いてたの?あたしたちの会話」
「・・・まあね・・・だって、あんた史上最高に落ち込んでたんだもん。
気になるじゃない。よっちゃんのあんなとこ見たことなかったし・・・」


まあ、確かに・・・

言われて見れば、あんなに声を出して大泣きしたのは記憶にない
164 名前:恋人になろうよ 投稿日:2012/05/05(土) 22:26
もしかすると、赤ちゃんの頃以来かも
声を出して大泣きしたことって


それほど梨華ちゃんの存在が大きいってことか・・・



「あんた、梨華ちゃんのこと好きなんでしょ?」
「うん」

「嫉妬もするんでしょ?」
「うん」

「ドキドキもしたりする?」
「・・・う、うん・・・たまに」

「誰にも渡したくない?」
「うん。渡したくない」

「もし、梨華ちゃんが他の誰かと結婚したら、
よっちゃんはどうなる?」



うーん・・・
165 名前:恋人になろうよ 投稿日:2012/05/05(土) 22:27
「死ぬほど泣いて、世の終わりみたいになる」



はあ・・・


なぜか圭ちゃんは大きくため息をつく


「告白しなさいよ、好きだから付き合ってって」
「え・・・え!?」


つ、つ、付き合うって・・・


つまり恋人っつうことですか?


梨華ちゃんがあたしの恋人!?



「だって、あたしたち女の子同士――――――――」
「そんなの関係ないって前にも言ったはずでしょ?」
166 名前:恋人になろうよ 投稿日:2012/05/05(土) 22:28
真剣な目をして圭ちゃんが話し出す


「私ね、羨ましいよ、あんたたちのことが」
「あたしたちのことが!?」
「そう・・・異性とか関係なしに人間として好きになってるんだもん。
それって凄いと思わない?」


例えば、夫婦は子供がいるから
一緒にいるっていうところもあるかもしれない

彼氏と彼女だったら恋をしたい、ドキドキしたい
そういう気持ちで付き合ってるかもしれない

でもあんたたちは?

別に子供がいるわけでもないし、
何かを求めているわけでもない

なのにずっとお互いに惹かれ合ってる

それって奇跡に近いと思わない?
167 名前:恋人になろうよ 投稿日:2012/05/05(土) 22:28
「自分が思うままに伝えればいいの。
相手がどんな風に思ってるとか考えないで?」

「でも、もし梨華ちゃんが同じ気持ちじゃなくて、
あたしがフラれちゃったら、そのあとが大変じゃん。
2人の仕事多いんだよ?」



はぁ・・・



また圭ちゃんがため息をつく


「いいから、告白してみなさい。
フラれたら、そのときにまた考えればいいんだから」
168 名前:恋人になろうよ 投稿日:2012/05/05(土) 22:28
 
169 名前:恋人になろうよ 投稿日:2012/05/05(土) 22:29
そうは言われたものの・・・


本当に大丈夫なのかな


もしフラれたら、あたし立ち直る自信ないんだけど・・・


梨華ちゃん家でご飯を食べ終わって、
いつものようにソファに2人座ってくつろいでいた

横にいる梨華ちゃんをチラっと見てみる


やべ・・・


圭ちゃんから言われたからかな・・・


超ドキドキすんだけど・・・
170 名前:恋人になろうよ 投稿日:2012/05/05(土) 22:30
整った眉毛
三日月の目
潤った唇
ほんのり黒い肌


昔、ホテルのベッドで間近に見たときの、
梨華ちゃんとは違って、凄く大人っぽかった


こんなに色っぽくなってるのに、
性格は全く変わらないところがなんともいえなく・・・


可愛いよね


ってやっぱりそこかいっ


ああ、もう自分ツッコミなんて
いつもしないのに・・・

171 名前:恋人になろうよ 投稿日:2012/05/05(土) 22:31
ドキドキしすぎて
心臓が壊れそう


「り、梨華ちゃんっ」


テレビを見て、笑っていた梨華ちゃんが
こっちを見る


「なあに?」
「いや・・・あの・・・」


ど、ど、どう言えばいいんだ!?
落ち着け、あたし・・・
落ち着くんだ・・・


きっと“好き”とか言っても、
友達としてだと思われる

だからちゃんと伝えないと・・・
曖昧な言葉で言っちゃうと、曖昧なまんまになっちゃう
172 名前:恋人になろうよ 投稿日:2012/05/05(土) 22:32
「梨華ちゃんさ、あたしのこと好き?」
「うん、もちろん!」

「あたしのことで嫉妬とかする?」
「うん・・・昔もよくしてたなあ」

「あたしにドキドキしたりとかってする?」
「・・・う、うん・・・する」

「あたしと一緒にいたいって思う?」
「うん。ずっといたいって思うよ」

「あたしが結婚することになったら、どうする?」
「え!?・・・死んじゃいそうなくらい落ち込むかも・・・」



すぅ・・・


大きく深呼吸をする


「じゃあさ、付き合わない?あたしたち――――――――」
「うん・・・」
173 名前:恋人になろうよ 投稿日:2012/05/05(土) 22:33
えーーー!?



目を丸くして、
あたしを見つめる



「り、梨華ちゃんといると、落ち着くし・・・
お互いに好き同士なんだし・・・あの、お互いになんでも知ってるから・・・
付き合ったら、いいんじゃないかなーって・・・」



おいおい意味わかんねーよ


何言ってんだ、あたし・・・


しどろもどろになってるあたしを
梨華ちゃんは驚いた顔でじっと見てる
174 名前:恋人になろうよ 投稿日:2012/05/05(土) 22:33
えぇい!!!




もういいやっ!!!




・・・っ――――――――




「ひ、ひーちゃん?」



あたしは思いっきり梨華ちゃんを抱き締めた
力いっぱいに・・・
175 名前:恋人になろうよ 投稿日:2012/05/05(土) 22:34
「好きなんだよ・・・梨華ちゃんのことが・・・
友達としてとかじゃなくて・・・離したくないんだ。
ずっと一緒にいたい・・・これからもずっと横で梨華ちゃんの笑顔が見たい。
梨華ちゃんの中で1番でありたいんだよ・・・だから・・・



あたしの恋人になってください――――――――」



背中に回してる手をゆるめて、
梨華ちゃんの顔を覗き込んだ


「ダメ、かな?」


うわわわわ


梨華ちゃんの目からポロポロと涙が出てくる


え、あたしのせいだよね?
確実にあたしのせいだよね?
176 名前:恋人になろうよ 投稿日:2012/05/05(土) 22:35
「ご、ごめん・・・違った?
梨華ちゃんの気持ちは・・・あたしと違ったのかな・・・?」



梨華ちゃんは精一杯首を横に振る



「じゃあ、どうして――――」
「嬉しいの・・・凄く凄く嬉しいの・・・」



梨華ちゃん・・・



優しく梨華ちゃんを抱き締めると、
今度はあたしの背中にも腕を回された
177 名前:恋人になろうよ 投稿日:2012/05/05(土) 22:37
「梨華ちゃんの夢・・・叶えられないけど、いい?」
「そんなこと・・・あたしの本当の夢はね・・・



ひーちゃんの恋人になることだったの――――――――」



ずっとずっとひーちゃんの特別でありたいって思ってた
格好良い格好良いって他の人に言われてるのも嬉しかったけど、
本当はいつだって嫉妬してた

ひーちゃんはあたしのものなんだって言いたかった
付き合ってるわけじゃないのにさ・・・


「だからひーちゃんより早いんだよ?好きになったの」


マジかよ・・・



知らなかった・・・
178 名前:恋人になろうよ 投稿日:2012/05/05(土) 22:38
あたしのことで嫉妬してたのも、好きだって言って来たのも
ただのじゃれ合いだと思ってた・・・



気づかなかったんだ・・・あたしは・・・


最近、梨華ちゃんを好きになったんじゃない


きっとあたしも梨華ちゃんと同じように
昔からずっと梨華ちゃんを好きだった


でもあたしは子供だったから、
気づかなかったんだ


「ごめんね」
179 名前:恋人になろうよ 投稿日:2012/05/05(土) 22:39
「ううん・・・もういいのっ
こうやって、ひーちゃんが恋人になろうって言ってくれたんだもん」


もう何もいらないよ


小さく呟いた声に
気持ちがこもっているのを感じた


「だめだめ。あたしは梨華ちゃんに
与えてあげられなかったものが、
たくさんあるんだよ?
これからはちゃんと自分の気持ちを言葉にしていくから」



照れているのか、
梨華ちゃんはあたしの肩におでこをくっつけた
180 名前:恋人になろうよ 投稿日:2012/05/05(土) 22:40
12年間――――――――


ずっと一緒にいて、
辛かったことも楽しかったことも全部一緒に味わってきた


一時は離れていた時期もあったけど、
あたしと梨華ちゃんは今も一緒にいる

モーニング娘に入ったときと同じ・・・
梨華ちゃんが横にいる


12年間、仲間、同期、友達だった彼女が
今日からはあたしの恋人になる

これ以上は好きになんないだろう

なんて思ってたけど、
きっとあたしは今以上に梨華ちゃんを好きになるんだ



「梨華ちゃん、大好き」
「私もひーちゃんのこと大好きっ」
181 名前:恋人になろうよ 投稿日:2012/05/05(土) 22:40


おわり

182 名前:ルビ 投稿日:2012/05/05(土) 22:42
前スレで2002年から書いてきたんですけど、
やっと恋人になりました(笑)

いやぁ長かった・・・

次はアンリアルの長編を始める予定です。
ちょっとダークな内容になると思いますが、是非読んで下さいっ
183 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/05(土) 22:44
甘い後のダーク…
ぜひ読みます!
184 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/06(日) 00:24
やっぱりこうでなくっちゃね!

でダークですか?覚悟しときます。
185 名前:ルビ 投稿日:2012/05/06(日) 08:19
>>183 ありがとうございます。
ガラっと雰囲気変わります・・・読んで下さいーっ

>>184 ありがとうございます。
やっぱり恋人だと見せる顔も違いますからね・・・
リアルの続編も固まってはいるんですけど、まずはアンリアル長編を書きたいと思います。
186 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/06(日) 08:24
187 名前:悲しきlone 投稿日:2012/05/06(日) 08:25
188 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/06(日) 08:26


人には誰だって忘れられない過去がある

あたしの中には悪魔がいた

どうしようもないくらい醜い悪魔が
あたしの体中を巡って離れようとはしない

でもそんなあたしを・・・
今にでも壊れてしまいそうなあたしを

救ってくれた人がいた――――――――

どうしてあたしたちは惹かれ合ったんだろう

きっとそれは孤独を知っていたから

誰からも愛されない孤独を・・・

189 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/06(日) 08:27


月という明かりしかなかった時代、
人間たちはどう過ごしていたんだろう

光を求めて、急いで家に帰ったのだろうか
家族という暖かさを求めて、急いで家に帰ったのだろうか

今では人工的な光があたしたちを照らし続け、
街は輝いているように見える

でもそんなのは幻想に過ぎない

わいわい賑やかで楽しそう

なんてのは表面だけ

だって、アタシの心はいつまでも暗いまんま
光がどこにも見えない


助けて・・・誰か――――――――

190 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/06(日) 08:29
「麻琴、絆創膏ない?」
「また親分、殴られたんスか?」


口元を手で抑えて走ってきたアタシに
麻琴が出来たてのラーメンと絆創膏をくれる


「ありえねーよ、マジで・・・
グーだよ、グー!女だと思えないね」


口元に絆創膏を貼ったから、
凄く食べにくい


「もうそろそろ誰かのとこに収まったら
どうなんスか?このままだと体持たないっスよ」
「あームリムリ。あたし、そういう柄じゃないし」


ズーズー・・・


「あーやっぱ、ここのラーメン最高」
191 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/06(日) 08:31
アタシは吉澤ひとみ、27歳
こう見えても普通の女子。

高校卒業してから、やることなくて、
金集めるために始めたのがこのラーメン屋。
つっても、小さな屋台だけどね

そんで、こいつが小川麻琴
高校のときの後輩でなにかとソリが合って、
まだ高校生だった麻琴を無理矢理ここで働かせた

アタシの1日のスケジュールは
昼頃に起きて、女でも男でも?
とりあえず呼ばれたら行って、
適当にご飯食べたり、映画見たり・・・

まあそれ以上のこともたまに?
いや結構・・・あったり・・・
だからアタシには関係を持ったやつが数え切れないほどいる
でも恋人はいない

少なくとも・・・アタシはそう思ってる

で、夜になると、この屋台を開いて
夜中の2時くらいまで一応仕事をしている
192 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/06(日) 08:31
「で、今回はなんて言われたんスか?」
「もうさ、聞いてよ、麻琴・・・」


昼間にさ、いきなり女から連絡があって、
急いでそいつんとこ行ったら、
いきなり抱いてとか言われて・・・

で言われるがままに抱いてやったらさ


『やっぱり・・・シャンプーもボディソープもいつもと違う』


て言われて、何言ってんだこいつって思ってたら


『さっきまで他の女のところにいたでしょ』


ってすげー怖い顔して言われんの。

まあ図星なんだけどね・・・
193 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/06(日) 08:34
それからはさ、本当一瞬だったよね
アタシの顔面向かって、拳が降ってきて
気づいたら、口から血が出て・・・

「大体、アタシは付き合おうなんて言った覚えないのにさ。
バカな女だよ。もうこれだから、女ってのはさ―――――」
「いや、親分も女ですから・・・」

あ、そっか・・・
最近男とはヤッてないせいか
気持ちが完璧男になってたよ

「まー、自業自得ってやつッスよ」
「はあ?麻琴はあっちの味方するわけー?」
「だって親分は世の女性の敵なんでね。私も一応世の女性だから」

訳わかんねーよ、こいつ


ぶつくさ文句を言いながら、
目の前でラーメンの仕込みをしている麻琴を見ていると

「親分、早く手伝ってくださいよっ」
「あーわりぃ。もう少しで食べ終わる」

ズーズー・・・
194 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/06(日) 08:34
195 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/06(日) 08:35
「ねー、もうそろそろ店閉めない?お客さん誰も来ないし」
「店終いするの、2時って決めたじゃないですか」


そーなんだけどさ・・・


超暇なんだもん

もうそろそろ夏だってのに、
夜になると異常に寒くなるし・・・


すぐそこにある自販機で
ホットコーヒーを買っていると・・・



「んぐっ・・・ふぇ・・・うぅ」



小さく丸まって、ベンチで泣いている女の子発見
196 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/06(日) 08:36
普通だったら、話しかけないはずなんだけど
なんかほっとけなくて、アタシの足は吸い込まれるように
彼女に近づいて行った


「どうしました?なんか悲しいことでもありましたか?」
「・・・んぐっ・・・うぅ」


よいしょっと・・・


あたしは地面にあぐらをかいて
彼女の顔を覗き込んだ


「寒いっしょ?こんなところにいたら」


買ったコーヒーを彼女の頬にくっつける


「んぅ・・・うぐっ・・・」
「泣かないでよ・・・」
197 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/06(日) 08:38
どうしてだろう


彼女が泣いていると、こっちまで泣きたい気分になる


あのとき以来・・・
涙は一度だって出たことないのに―――――――


腰をあげて、頬に手を伸ばして涙を拭ってあげると
泣いている彼女と目があった



ドキッ



味わったことのない胸の痛みが
体全身に響き渡る



「ラーメン、食べませんか?暖かいですよ?」
198 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/06(日) 08:39
アタシがそう言うと、
彼女は黙って頷いてゆっくりと立ち上がった


「麻琴、ラーメン一丁」


麻琴の頭の上にはてなマークが集っているみたい

彼女のことを知らせるために
顔を彼女の方に向ける


「ラジャーッ」


勢いよく、ラーメンを作り始めた


アタシは椅子に座る彼女の横に腰掛けて、
タオルを渡す


「ごめん、ハンカチとか持ってなくてさ・・・」
「・・・いえ、ありがとう、ございます・・・」
199 名前:悲しきlone 投稿日:2012/05/06(日) 08:40
ドキッ


また目が合った


小さな手で、涙で濡れた顔を拭いていく

その姿がとても儚げでとても悲しそうで
見ているだけで胸が痛んだ


「親分、水お願いします」


麻琴の声でアタシは彼女のことを
じっと見つめていたことに気づいた


「いや、こんな寒いときに水っておかしいでしょ」
「だって、それが普通じゃないですか。どこの店も」
「じゃあ麻琴はみんなが死ぬって言ったら、自分も死ぬのか?」
「いや、意味分かんないですから」
200 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/06(日) 08:42
アタシに呆れたのか、
麻琴は自分で水を彼女に出した


「もしよかったら、ホットコーヒー飲む?
すっげー暖かいよ?」
「いや・・・でも、ラーメンには・・・合わないから」


自分の持ってるホットコーヒーと
今、彼女の前に置かれたラーメンを交互に見る


「確かに」


そう言うと、麻琴がからかうように笑った

その姿を見て、怒ろうとしたとき


「ふふ・・・」


彼女も小さく微笑んだ
201 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/06(日) 08:43
「笑えんじゃん。アンタ、笑ってた方がいいよ」
「・・・あ、ありがとうございます」


彼女の頬が赤く染まる


「どうして泣いてたんですか?」


手を洗いながら、麻琴が言った



「え?・・・いや、あの・・・仕事で失敗しちゃって・・・」
「ふーん・・・仕事ってなにやってんの?」
「普通の・・・OLです・・・」



仕事で失敗しちゃって、
こんなに泣いちゃうもんなんだ

責任感が強い子なのかな・・・
202 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/06(日) 08:44
そのあと、たわいもない話をして
彼女は帰って行った


『また来ます』


その一言を残して・・・



彼女は石川梨華って名前で27歳なんだけど、
学年で言えば、アタシの1つ上。
1人っ子らしい。仕事が大好きで、
自分にとって生き甲斐なんだって
アタシにはラーメン屋が生き甲斐なんて、
ぜってーありえないけど・・・


彼女が行ってしまったあと、
アタシの頭の中は彼女でいっぱいだった
203 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/06(日) 08:45
「梨華さん、可愛かったですね」
「うん」
「親分、一目惚れッスか?」
「うん・・・って何言ってんだよ」


目の前にいる麻琴は
なぜだかニヤニヤしている


「そうかそうか・・・親分も一目惚れしちゃうんだ」
「ば、ばかじゃねーの・・・
アタシは自分からってことは絶対ないんだから」


そうだよ・・・
アタシは来る物拒まずでこれまでやってきたんだ・・・
今まで一度だって、
自分からどこか行こうなんて言ったことないし、
これからだって、絶対ない!
204 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/06(日) 08:46


でも、頭から離れなかった


彼女の泣いてる姿が・・・


なんであんなに悲しい顔をするんだろう


そう考えているうちに
また彼女に会いたくなった


『また来ます』


その一言に、アタシの気持ちを託した――――――――

205 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/06(日) 08:46
206 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/06(日) 08:46
207 名前:ルビ 投稿日:2012/05/06(日) 08:46
本日は以上です。
208 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/06(日) 11:11
短編を読みに来たら、新作もキテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
各々の設定がハマっていて頭に浮かんできますw
これからどうなるのか楽しみにしてます。
209 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/07(月) 00:54
どんな感じになるんだろ?すごく期待してしまいます。
210 名前:ルビ 投稿日:2012/05/08(火) 21:25
>>208 ありがとうございます。
そう言っていただけると凄く嬉しいです!これから長くなると思いますが、
是非見てくださいっ

>>209 ありがとうございます。
期待に応えられるよう、頑張ります!
211 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/08(火) 21:26
212 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/08(火) 21:26
213 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/08(火) 21:27
「ねぇ、あなたって人を愛したことないの?」
「ん?どうだろー」


腕の中にいる女が甘えた声で言ってくる


「私が愛を教えてあげようか?」
「マジで?」


髪を撫でると、女は目を細めた


「本気になってみる?」
「うん、なってみる」


そうやって、また行為が始まる


本気にはならない

どんなことがあっても・・・
214 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/08(火) 21:28
愛してるって言って欲しいと言われれば言うし
キスをしてと言われたらする
抱いてと言われたら抱く

こんな従順な人間って他にいないよね

でもいいんだ、それで・・・

できるだけ期待に応えてやる

でもそれ以上を求めたら・・・
本気でアタシを好きになったら、アタシは潔く関係を断ち切る

相手が引きずらないように、
最低な別れ方をしてね・・・

それがアタシにとっての、
ほんのちょっとした罪の償い方だ


こいつも、そろそろ終わりかな


なんて思いながら、求められるままに抱いてやった
215 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/08(火) 21:29
「えー今から?無理だよ。今ちょっと取り込み中でさー
・・・え?あーなんか面倒くせぇことがあって・・・うん・・・うん」



ドアが開く音がして、
後ろから足音が聞こえる



「え?昨日も言ったじゃん。・・・ったく・・・
愛してるよ、誰よりも・・・バカ、恥ずか―――――」



「ちょっと!!!」



勢いよく、腕を掴まれて
振り向かされる



あ、ヤベ!!
216 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/08(火) 21:30
とでも言うような顔をして、架空の相手に急いで謝って、
携帯を閉じた


「な、なんだよ・・・」
「・・・他にも女がいたの?」


いつもとお決まりのパターン。


もう何十回と迎える修羅場。


でも他の人と違うのは、自ら望んでやっているということ



「・・・うん、ごめん」
「・・・サイテー・・・」



うん、サイテーだよ
分かるよ、その気持ち
217 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/08(火) 21:31
でもこれも全部君のためなんだよ


女は涙を浮かべて、下唇を噛んでる



「ちゃんと謝ったら・・・許してあげるから・・・
その子と別れて?」



元はと言えば、アタシと出会ったことがすべての間違いなんだよ


アタシなんかに会わなければ、こんなことになんなかったのにさ



「・・・悪いけど、アンタが浮気だから
さっき話してた人が・・・本命、だから」

218 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/08(火) 21:31




バシッ――――――――





思った通り、頬をビンタされる



最低なヤツでしょ?
こんなヤツ、早く忘れな


本気になったのが悪いんだよ?


アタシは汚れてんの
こんな人のことを好きになった人が悪いんだよ
適当に遊んでいればよかったのにさ・・・
219 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/08(火) 21:32
220 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/08(火) 21:33
「麻琴ー、なんか冷やすもんある?」
「またですかー?今週2回目ッスよー」


麻琴が出してくれた保冷剤を頬にくっつけたまま、
保冷剤とセットで出てきたラーメンを食べる


「あー金曜日にもあったけ」
「珍しいですね、親分が日にち覚えてるなんて」


・・・だって、彼女に会った日だから・・・


あれから約1週間、彼女は来なかった


『また来ます』


その言葉はただの挨拶だったのかな
もう・・・会えないのかな
221 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/08(火) 21:34
肘をついたまま、目を閉じて
彼女の姿を思い出していると・・・



「あのぉ・・・」



後ろから高い声がして、振り返ると、
申し訳なさそうに眉をハの字にした彼女が立っていた



「え・・・あ・・・ど、どうしたの?」



いや、どうしたもこうしたも、
ラーメン食べに来たんでしょーが


そんなことは言ってから気づいた
222 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/08(火) 21:35
「ラーメンを食べに、来たんですけど・・・」



慌てているアタシとは正反対に
麻琴はニコっと微笑んで、ラーメンを作り始めた



「み、水!入れないとね」
「今日は・・・ホットコーヒーはないんですか?」



そういう彼女の顔には小さな微笑みが含まれていた



「今日は売り切れでね。水で我慢してください」
「ふふ・・・分かりましたっ」



この前とはまた違った笑顔を向けられる
223 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/08(火) 21:36
ドキッ



また、胸が高鳴った


「て、てか・・・アタシの1こ上でしょ?タメ口でいいよ」
「え・・・でも・・・」
「むしろ、親分が敬語ですよね」
「うるせー麻琴」


眉を片方だけ上げて、口を尖らせて
変な顔をしている麻琴とにらみ合ってると


「じゃ、じゃあ・・・吉澤さんのことなんて呼べばいいかな?」
「へ?・・・あー・・・なんでもいいよ。呼びやすいので」


彼女は眉間にしわを寄せて、
一生懸命考えているようだ



「じゃあ、ひとみちゃんは!?」
224 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/08(火) 21:37



ブハッッ




口に入れていた水を麻琴の顔面に噴き出してしまった


「ちょっと、親分なにやってんスか!?
こういうときだけ、私の方、向かないでくださいよっ」



ぶつくさ文句を言いながら、
タオルで顔と服を拭いている


「ダメかな?」
「い、いや・・・そんなの呼ばれたことないからさ・・・」
「やぁ〜親分も女の子なんスね。“ひとみちゃん”だって・・・」


からかうように笑う麻琴の方に
口に水を含んだまま、顔を向ける
225 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/08(火) 21:38
“それ以上言うと、また噴き出すゾ”



無言のアピール



麻琴はそれを無視するかのように
手元にある水をゴクゴクと飲み出す



「じゃあ、小川さんは麻琴ちゃんでいい?」



ブハッッ



「てめぇ、この野郎!!」



麻琴が噴き出した水が
思いっきり顔面にかかった
226 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/08(火) 21:38
「ダメかな?」
「いや、いいですよ・・・好きに呼んじゃってください」
「麻琴も女の子なんだね・・・“麻琴ちゃん”だって」



からかうように笑うアタシに
口に水を含んだまま、顔を向けられる



“それ以上言うと、また噴き出しますよ”



無言のアピール



「キャハッ・・・なんか2人とも面白いね」



・・・


なんか分かんねーけど、
喜んでるみたいだからいいや
227 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/08(火) 21:39
「アタシはなんて呼べばいい?」
「うーん・・・みんな“梨華ちゃん”って呼んでるっ」



梨華ちゃん・・・かあ・・・



梨華・・・


んーそっちの方がムリだ



「じゃあ、梨華ちゃんで」



そう言うと、彼女は満面の笑みを見せてくれた
228 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/08(火) 21:40
「ひとみちゃんっ」
「なに?」
「ひとみちゃん!」
「だから、なに?」
「ふふ・・・呼んでみただけっ」


この前と全く違う彼女がそこにはいた


彼女の笑顔は驚くほど眩しかった
この前の悲しい顔を思い出させないくらいに・・・


きっとこういう風な笑顔が出来る人は
なんの悩みもなく、みんなに愛されて生きて来たんだろう



「会社はどう?」
「え?んーとねー・・・――――――――」



一言の質問に彼女は何倍も増して返してきた
229 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/08(火) 21:41
彼女には“愛ちゃん”っていう後輩がいて、
その子は彼女にベッタリらしい
仕事もいつも失敗ばかりで手に負えないんだって
でも、なんか憎めないって


でも梨華ちゃんもこの前仕事で失敗したって言ってたよね?
あのときはたまたまだったのかな・・・



そして同じ年の子で、ちょっと性格がきつめな“美貴ちゃん”
いつもお世話してくれるんだけど、なぜかいじられキャラの先輩、“圭ちゃん”
四六時中怖いんだけど、どこか憎めない上司、中澤さん
“愛ちゃん”より年下なのにしっかり者の“お豆ちゃん”


ってかほとんど“ちゃん”付けなんだ


色々丁寧に話してくれたんだけど、
正直頭に入ってんのは、半分くらい


「はぁ〜」
230 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/08(火) 21:42
彼女は口に手をあて、大きくあくびをする


「眠い?」
「お腹いっぱいになったら、眠くなっちゃった」


梨華ちゃんは照れるようにして笑った


「あのさ・・・また来てもいいかな?」
「もちろん、いいですよ!」


アタシが答える前に麻琴が答えた


夜なのに彼女の笑顔は眩しくて、
見るだけで、心が癒された
231 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/08(火) 21:42
232 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/08(火) 21:44
「にしても、梨華さん、よく話しますねー」


彼女が帰ったあと、
器を洗いながら麻琴が言う

「だね。でもさ、お腹いっぱいになったら、
眠くなるって赤ちゃんかよってね」
「そうですよ〜」

顔を見合わせて笑った

久しぶりにアタシたちは他人のことを思い出して、
笑ったかもしれない


いつも2人の狭い世界で笑い合って、
からかいあって・・・


本当はお互いに友達がいるはずなんだけど、
この小さな屋台がアタシたちを周りと遮断させ、
いつの間にか気持ちの面で狭い空間で生きていた

それから彼女は月曜日と木曜日の2日間、
決まった時間に現れるようになった
233 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/08(火) 21:45
234 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/08(火) 21:45
235 名前:ルビ 投稿日:2012/05/08(火) 21:45
本日は以上です。
236 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/09(水) 00:02
ほんわかしてきます。楽しそうな3人といっしょにラーメン食べたいな。
237 名前:ルビ 投稿日:2012/05/09(水) 22:06
>>236 ありがとうございます。
現実でも麻琴はいしよしから愛されていて、
本当・・・羨ましいです(笑)
238 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:07
239 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:07
240 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:09
「でね、美貴ちゃんが中澤さんに抗議をしに行ったの!」
「ふーん」


梨華ちゃんが買った枝豆を片手に、肘をついたまま、
彼女の方に体を向け、長い長い話を聞いている

麻琴はというと、話に飽きたらしく
ずっと携帯をいじってる


「私たちはガラス越しにじぃーっと見つめてたんだけどね・・・」
「“美貴ちゃん”が勝ったの?」
「ううん!さすがの美貴ちゃんでも中澤さんには勝てないよぉ
しょぼーんとした感じで怒られてた」



ガクッ



なんだよ・・・結局、上司が部下に怒ったって話じゃん

今の流れからすると、なにかしら下克上があったのかなって思っちゃうよ
241 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:10
「はぁ〜」


いつものように彼女は大きなあくびをする



「お腹いっぱいになった?」
「ううん。しゃべり疲れて、眠くなっちゃった」



『じゃあ、また来るね』


そう一言残して、今日も彼女は暗闇の中を帰って行った



「よくもまあ、毎回毎回・・・親分、よく相手出来ますね」
「まあね。でもさぁ・・・すげーと思わない?数日会ってないだけで、
こんなに話す内容があるなんてさ。きっと喜怒哀楽が激しい子なんだろうね」



暗闇に消えていった彼女の方を見つめた
242 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:11
はぁ・・・


後ろから麻琴のため息が聞こえる



「なんだよ」
「いや、別になんもないッスよ。
ただ親分はお人好しだなーと思っただけです」



お人好し・・・なのかな



彼女の話を聞いてると、心が温かくなるんだ
アタシが忘れている、怒りや悲しさ、楽しさ、面白さ・・・
それを彼女はいとも簡単に思い出させてくれる

なにより、一生懸命話している彼女を見ていることで
アタシの心が洗われていくような気がした
243 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:11
244 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:12
「それでね――――――――」



彼女と会うことが日課になってきた、ある日・・・



ドッカーンッッッ――――――――




近くに雷の音



・・・っっ――――――――




「梨華ちゃん!?」
245 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:13
彼女はアタシの膝に頭をつけて、
体を丸めていた



「どうしたの?雷怖いの?」



アタシが優しく言うと



「うん・・・大きい音が嫌いなの。
雷とか花火とか工事現場とかも苦手なの・・」



弱々しい声で彼女はそう言った





ザーーーー
246 名前:悲しきlone 投稿日:2012/05/09(水) 22:15
勢いよく雨が降ってきた


「麻琴、店閉めるぞ」
「はいっ」


梨華ちゃんをどかそうとすると、
子供のように駄々をこねて、アタシの腕を掴んだ


「行かないで・・・」


涙目の彼女がとてつもなく儚げで、
一番最初に会ったときの彼女を思い出した


「大丈夫、行かないから」


アタシは腕を掴まれたまま、
急いで、ある程度の片付けをして、
彼女を駅まで連れて行った
247 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:15
248 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:16
「もう大丈夫?」
「・・・」


駅に着いても、
彼女はアタシの腕から手を離さなかった



「少し、座ってよっか?」



彼女は小さく頷いた



「・・・ごめんね、ひとみちゃん」
249 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:17
彼女は声を震わしながら言う


いいよ



そう言う代わりに、頭を優しく撫でてあげる



「雷なんてさ、そんな怖がることないよ。
自分に落ちる可能性なんて、ゼロに近いんだから」
「・・・うん・・・」



30分したら、雷の音はしなくなった


彼女もすっかり元通りになって、
帰って行った
250 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:19
「わりぃ・・・待った?」


アタシたちが駅に行ったあと、
麻琴が全部片付けをしてくれた

だからちょっとしたお詫びのつもり


ま、牛丼だけど・・・



「いや、そんなに待ってないッスよ」
「なら、よかった」



メニューに目をやる



「梨華さん、親分のこと好きなのかもしれませんね」
「へ?何言ってんだよ・・・んなわけないでしょ」
251 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:20
「だって、普通雷くらいであんなに怖がります?
可愛い子ぶってんるんですよ」


んー、どうだろ


「まあ、本当に怖がってたみたいだし・・・」
「ふーん」



だって、彼女の肩が凄く震えてた



「ま、親分も踏ん切りつけないとダメっすよー。
ああいうタイプは面倒くさいから」
「どういうタイプだよ」
「なんかー・・・純粋な女の子って感じ?
悪い世界を知らなくて、そのまますくすく育った感じ・・・」
252 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:21
まあ、確かに・・・
アタシたちとは生きてる世界が違うもんね


「そういえば、麻琴もノーマル?」
「へ?あー・・・私は完璧なノーマルっすよ。
ってか、親分・・・“も”ってどういうことですか?」


だから麻琴はこのアタシに何も興味が湧かないんだ
女が好きな人だったら、誰だってアタシを好きになるはずなのに


なんてことは口が裂けても言えません。


「だってアタシも女には興味ねーし」


そうだよ・・・
アタシは男にしか恋愛対象にならない

どんなに女に告られようと、
抱こうと、アタシは女に興味はない
253 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:22
「あんだけ何十人もの女と関係持っといて、
よく言えますねー」


冷めた目線がアタシに浴びせられる


「つか、もうちょっとオブラートに包めないかね」
「え?これでも遠回しに言ったつもりなんですけど・・・
だって直接って言うのは、何十人もの女とエッ――――――――」



ご注文、何になさいますか?


ゴホンッ



「牛丼で」



「まあ・・・どうせアタシは本気になんねーし
あっちがどう言おうと、ムリムリ」
254 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:22
なんだよ、この割り箸・・・


かってーんだよっ


乱暴に口で割り箸を割った



「それならいいんですけどね」



本気になんないよ
アタシには本気になる資格なんてないし・・・

ましてや好かれる資格もない


「あ、そういえば――――――――」
255 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:23
256 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:25
「もう一杯ちょうらい!!」


梨華ちゃんは目とほっぺたを真っ赤にして
さっきからずっとこう言ってる


今日はここに着くなり、
大声を出しながら、泣き出した

どうしたのか聞いたら、
また仕事で失敗をしたらしい


梨華ちゃんの話を聞く限り、
しっかりしてそうな感じなのにな・・・


それから、こんな状態になるまでは
そんなに時間はかからなかった


涙を流しながら、お酒を飲んで、
ラーメンを食べて、餃子を食べて・・・
257 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:26
見ているこっちの方が胸が痛くなった


「ひろみちゃんっ」
「梨華ちゃん、アタシの名前、“ひとみ”だから」
「分かっれるよ〜。ひろみちゃんっ」


酔っ払って、滑舌が悪くなったんだ・・・


「なに?」
「なんれ今日は私の横に座らないのよ〜」


だってさ・・


「座りなさいー!!ひろみちゃーん!」


だから、“ひとみ”だっつーの
258 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:27
アタシは仕方なく、
いつもの椅子に座った



「ふぇ〜ふぇ〜
ひろみちゃん好き〜」




そう言って、アタシの肩に頭を乗せる



「はいはい、分かったから、もうお酒はやめようね」



梨華ちゃんの手から
日本酒の入ったおちょこをとると、口を尖らせて怒った
259 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:28
「梨華ちゃーん、おーい
起きてー!もう店終いしないといけないから〜」


アタシの肩に頭を乗せたまま、
ピクリとも動かない梨華ちゃん



「どうしますか?起きそうもないッスよ?」
「んー・・・おぶって連れて行くか」



・・・



ちょっと待て・・・



アタシ梨華ちゃんの家知らないぞ・・・
260 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:30
どこら辺かは聞いたけど、
住所は全く知らない


それに・・・



「梨華ちゃん、電車でいつも帰ってたよね・・・」
「あ・・・もう終電行っちゃいましたね・・・」




どうしよ


マジで・・・どうしよ



「あっ!今私の家、母親が来てるんですよー
だから、親分。よろしくお願いしまーす。
片付けとかは全部やっておくんで」
261 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:31
見たこともない満面の笑みをアタシに向ける


この野郎、笑顔で言えばなんでも許されると思ってやがる・・・



1人ムカついてたら、
麻琴がそそくさと梨華ちゃんをアタシの背中に乗せる



「じゃ、親分、おやすみなさーい」



麻琴がニコニコ笑って、手を振ってる


顔面に水じゃなくて、
熱湯のおでんをぶつけたい気分だよ・・・



アタシは麻琴を睨み付けて、
梨華ちゃんを後ろに乗せたまま、家へと帰った
262 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:32
よいしょっ


泥酔してしまった彼女を
ベッドの上にゆっくりと下ろす


ふと彼女の寝顔を見ると、
最近は感じてなかった感情が胸の中をぐるぐると回る



アタシは棚のかなり奥にあるグレンジングをとってきて、コットンにしみこませる

そして彼女のおでこ、目、鼻、頬、唇へとゆっくりとコットンを滑らせる



ぴくりとも動かない彼女に
なぜか不安を感じる



「り、梨華ちゃん?・・・梨華ちゃん!!!」
263 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:33
アタシは荒れた声を寝ているはずの彼女にかける




「んぅ・・・」




彼女の眉が少しだけ動いた



・・・よかった




ホっと胸を撫で下ろす




「って・・・何考えてんだ、アタシ・・・」
264 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:34
再び、コットンを顔に優しく滑らせる



初めて見た、彼女の寝顔は
悲しくなるくらい、綺麗だった


どうして悲しいか分からない


でも彼女の寝顔を見ると、
とても切なく、悲しい気持ちになった


コットンを伝って、感じる彼女の温度・・・


自分の手で触れてみたくなった


メイクが全て落ち、
彼女の顔を包んでいるものが剥がされた
265 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:36
さらさらな髪、
おでこ、眉、目、鼻、頬、そして唇


自分の手で丁寧に撫でていく



こんなに人の顔をじっくり見たのも、
優しく触れたのも初めてだった



唇に手が行くと、
アタシの手はなかなかそこから離れようとしない


綺麗な唇に自分の親指を右左と何度も往復させる



そして、その唇に自分のそれを重ねたい衝動にかられた
266 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:37
キスがしたい――――――――



指じゃなくて、
唇で彼女の温度を知りたい



吸い込まれるようにして、
顔を近づける



近づくにつれ、
どんどん彼女の顔の美しさが分かった




あと少し・・・あと少し・・・




彼女の唇まであと1pになろうとしたとき・・・
267 名前:悲しきlone 投稿日:2012/05/09(水) 22:37
ガタンッ



テーブルから携帯が落ちた




やべっ!!!



勢いよく彼女から顔を離す




スースースー



でも彼女は起きなかった
268 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:38
「はぁ・・・」


心臓飛び出るかと思ったよ・・・

ドキドキしている胸を落ち着かせると、
さっき、自分がしようとしていたことを思い出す


「何やってんだ、アタシ・・・」


本気にならない


そう誓ったアタシ・・・



なのに、どんどん彼女を好きになってる



一緒にいればいるほど、
アタシは彼女を好きになる
269 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:39
だから、距離を置こうと考えたのに・・・



自分のこの気持ちを全て捨てたい一心で、
シャワーを何度も頭から浴びた


消えて・・・



消えて欲しい・・・



こんな気持ち・・・


意味もない、こんな気持ち・・・



どうやったって、報われないこの気持ち・・・
270 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:40
271 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/09(水) 22:40
272 名前:ルビ 投稿日:2012/05/09(水) 22:40
本日は以上です。
273 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/10(木) 00:21
もどかしい!でもこういうの大好き!吉澤さんが頑張るんだ!
274 名前:ルビ 投稿日:2012/05/12(土) 22:07
>>273 ありがとうございます。
そうですか?そう言ってもらえると、凄く嬉しいです!
275 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/12(土) 22:08
276 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/12(土) 22:08
277 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/12(土) 22:09
ん・・・ん・・・



眩しい太陽の光が窓からさしている


あれ?カーテン開いてる・・・


てか、なんでアタシこんなとこで寝てんだ?



ベッドで寝らずに床にあぐらをかいて、
ベッドの上に頬をくっつけてる

窓に顔を向けたまま、体を起こした



「あ、ひとみちゃん起きたぁ?」
278 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/12(土) 22:10
後ろから高い声がして、
声がする方に振り向く



「梨華ちゃん」



満面の笑みをしている梨華ちゃんが、
泡だらけの包丁を片手にこっちに近づいてくる



「起きたら、びっくりしちゃった!
見たこともないところで寝てるんだもん!」



ポタポタ・・・



泡がどんどん床に落ちていく
279 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/12(土) 22:11
「ちょ、ちょっと梨華ちゃん!泡、落ちてる!!」
「キャー!!ごめんなさいっ」


どうしよどうしよ


梨華ちゃんの足下に寄って、近くのタオルで床を拭く

彼女は慌てているからか、
包丁のことなんて気にしないで、
キャーキャー言いながら、上下に包丁を振り回してる



「ちょっと、梨華ちゃんっ
包丁危ないから、置いてきなよ」
「ごめんなさい」



ちょっと大人しくなった声が
上から聞こえた
280 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/12(土) 22:12
顔をあげると、
彼女の寂しそうな背中が見えた


「梨華ちゃん」
「ん?」


振り返った、彼女の顔は
とても申し訳なさそうだった


「なんか、作ってくれたの?」


そう言うと、分かりやすく顔に笑顔が戻る


「うん!ひとみちゃんのために、
野菜スープ作ったの!食べる?」
「うん、ありがとう」


さっきとは打って変わって、
彼女から鼻歌が聞こえた
281 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/12(土) 22:12
282 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/12(土) 22:13
「おいしい?」
「うん、おいしいよ」


さっきから、何度も聞かれる


両肘をテーブルにつけて、
両手に顔を乗っけて、
アタシが食べているのをじっと見てる



「梨華ちゃんは食べないの?」
「私はさっき食べたから」



そう言って、笑顔を見せた



「ね、梨華ちゃんさ、今日仕事じゃないの?」
「へ?」
283 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/12(土) 22:15
彼女は思い出したかのように時計を見る



「あ!!!やばいよ!!遅刻だああ」



叫びながら、鞄をとって
大慌てで家を出て行った



「なんか・・・嵐みたいな子だな・・・」



さっきまで梨華ちゃんが座っていたとこを眺めて、
アタシは小さく呟いた
284 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/12(土) 22:15
285 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/12(土) 22:16
『ねえ、ご飯食べに行かない?』


それから数日経って、
ご飯に誘われた


行ったらダメだ
絶対に行ったらダメ



頭ではそう思ってるのに、
自分の気持ちはそうじゃなかった


笑顔でそう誘ってきた梨華ちゃんに
アタシが断れるはずもなかった



「ごめーん!待った?」
「ううん、今来たところだよ」
286 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/12(土) 22:17
アタシと梨華ちゃんは初めて肩を並ばせて歩いた

今まで、屋台で喋るか、
酔っ払った梨華ちゃんを運んで、
自分の家に連れて行くかだったから・・・


そんなことだけで喜んでいるアタシが
妙に気持ち悪くなった



「今日行くところね、すごーくおいしいのっ」
「でも、アタシお金ないよ?」
「大丈夫!足りなかったら出してあげる!」


いつもだったら、少ない金で
ご馳走が食べられるって喜んでるはずなのに、
全然嬉しくなかった



彼女はいかにも高そうなビルに入っていく

その後ろをアタシはついて行く
287 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/12(土) 22:18
梨華ちゃんはエレベーターを通り過ぎて、階段に向かった



「何階なの?」
「5階だよっ」
「じゃあ、エレベーターで行かない?」



アタシは体をエレベーターの方に向ける


「私ね、狭いところ苦手なの。だから階段で行こう?」
「え・・・うん、分かった」


体の向きを戻すと、
梨華ちゃんがアタシの手を繋いできた
288 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/12(土) 22:19
「梨華ちゃん?」
「階段だと、手を繋いで行けるでしょ?」



なんだ・・・そういうことか・・・



アタシは溢れ出しそうになる自分の気持ちを抑え、
自分にいつもしてることと同じだと言い聞かせる


呼び出されて、相手が望むようなことをしてあげる


仕事のようなものだ


何度も何度もそう言い聞かせた
289 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/12(土) 22:19
290 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/12(土) 22:21
「梨華ちゃんってさ、彼氏いるの?」



いや・・・もしかして、彼女・・・とか?



「今は彼氏いないよ。1年前に別れた」



なんだ、やっぱ男なんだ


ってか、いないんだ・・・


ホっとした自分に
また言い聞かせる


いつもと同じことでしょ?


仕事でしょ?
291 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/12(土) 22:22
「ひとみちゃんはいるの?」
「アタシは・・・いないよ」



いるって言った方がよかったのに・・・


アタシの口はいつも頭で思ってることと違うことを言いだす



「そっか、よかった!」
「よかった?」
「うん!私、ひとみちゃんのこと好きだからっ」



ドキッ



なんでこんなサラっと言えるんだろう
292 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/12(土) 22:23
でも男が好きなんだよね?



ってことは、友達としてってこと?


だけど、アタシが恋人いないって言ったら、
よかったって言ったよね・・・?



アタシが1人、焦っていると・・・



「でも、ひとみちゃんがそういうんじゃないって言うなら、
別にいいの。私はひとみちゃんに何か求めてるわけじゃないから
一緒にいるだけでいいの。」



アタシが何も言わないでいると、
悲しそうな顔で笑った
293 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/12(土) 22:24
「だからさ、これからはもっとひとみちゃんと会っていい?
月曜日と木曜日だけじゃ嫌なの。もっともっと一緒にいたい」
「う、うん・・・」



無理に笑う彼女にアタシは頷くことしか出来なかった



ごめんね、梨華ちゃん


アタシじゃ、君を幸せにすることは出来ないんだ



一緒にいるだけでいいって言うんだったら、
アタシは一緒にいてあげるよ

それだけしか・・・それだけしかアタシはしてあげることが出来ない
294 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/12(土) 22:25
抱き締めてしまうと、キスをしてしまうと、
自分の気持ちに歯止めが効かなくなりそうだから・・・


ほら・・・こうして美味しそうに食事をしている君を見るだけで、
胸がドキドキする


味わったことのない胸の痛みが
全身を駆け回る


それからアタシと梨華ちゃんは
よくご飯を食べに行くようになった


それどころか、会えない日にはメールをしたり、
電話をして、彼女の話を彼女が寝るまで聞くようになった。
295 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/12(土) 22:26
  
296 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/12(土) 22:26
297 名前:ルビ 投稿日:2012/05/12(土) 22:26
本日は以上です。
298 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/13(日) 03:26
せつないです。でも今の関係もいいよね。続きがとても気になります!
299 名前:ルビ 投稿日:2012/05/13(日) 09:46
>>298 ありがとうございます。
本当せつないです・・・どうなるんでしょうか・・・
2人の行方を最後まで見守っててくださいっ
300 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 09:47
  
301 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 09:47
302 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 09:48
「ねーひとみちゃん」
「なに?」


珍しくアタシがラーメンを作っていると、
梨華ちゃんが立ち上がって、こっちに来た



「前から思ってたんだけどさ」
「うん。なに?」



梨華ちゃんがいつも頭に巻いているアタシの
ねじねじの手ぬぐいをとる


「女の子なんだから、こんなところにつけちゃダメでしょ?」
「でもラーメン屋だからさ・・・」


その手ぬぐいをアタシの首にひっかけて、結び始めた
303 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 09:49
「ラーメン屋でもダメ。頭にあとがついちゃう」
「いいんだよ。アタシは・・・」
「ダメ!」


こんな風にアタシを叱ってくれる人は梨華ちゃんだけだった
麻琴はこういう梨華ちゃんを見て、おせっかいだー
なんて、迷惑そうな顔してたけど、
アタシは梨華ちゃんが面と向かって怒ってくれることが嬉しかった



「ほら、この方が可愛いでしょ?」



満足げな顔をしてる


嫌な予感がして、恐る恐る下を見ると



「なんじゃこりゃ!」
304 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 09:50
手ぬぐいにもアタシの格好にも不似合いなリボン結びがされていた
誰がどう見てもおかしいのに、彼女はニコニコ笑ってる



「ふふ、可愛い」
「いや・・・あの・・・」



梨華ちゃん越しに麻琴がこっちを見て、
笑いをこらえているのが分かる



ちくしょー
笑いものにしやがって・・・



「ほ、ほどいていい?」
「ダーメ!」
「だ、だってこれだったら、ぶらぶらするからさ、
ラーメン、作りにくいんだよ・・・だから・・・ね?」
305 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 09:50
梨華ちゃんは口を尖らせて、ため息をつく



「じゃあいいよ。でも頭には巻かないで?」
「分かった、分かった!」



アタシが外そうとすると



「あ!今日だけはつけてて!」
「えぇ?」
「だって可愛いんだもん!」



はあ・・・


さっき、梨華ちゃんが叱ってくれるのが嬉しいとか
って思ったけど、撤回しよ・・・
306 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 09:51
めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど・・・



それから梨華ちゃんはラーメンを作ってる、
アタシをずっと見ていた


その姿を見て、麻琴が言った



「親分と梨華さんって恋人みたいッスね」



その言葉に梨華ちゃんは嬉しそうに笑顔を見せた


「もうヤダー!そんなんじゃないよぉ」
「うわぁ梨華さん、キモイからクネクネしないで下さいよー」
「なによ、麻琴ちゃん!キモイとか言わないのっ」


ころころ変わる彼女にアタシは凄く癒された
きっと、アタシがそうじゃないから・・・
307 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 09:52
アタシが持ってないものを彼女はたくさん持ってる


「なんか、梨華さんといるときの親分って可愛いッスね」
「なんだよ。お前もからかうつもりか?」
「違いますよー!今まで男だなんだって言ってたけど、
やっぱ親分も女なんだなーって」


梨華ちゃんが帰ったあと、麻琴から言われた


なんだよそれ・・・


でも、麻琴が言ったこと・・・
分かるような気がする



女の前では出来るだけ格好付けなきゃって
無意識で思ってたけど、梨華ちゃんの前だと、
格好付けるというより素の自分でいられた
308 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 09:52
309 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 09:53
310 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 09:53
そして・・・


屋台の中がいっぱいで
梨華ちゃんが外のテーブルでラーメンを食べていた日―――――



アタシと麻琴はいつも以上のお客さんの数で
凄く忙しくて、梨華ちゃんを見ることが出来なかった


「ラーメン1丁」
「了解」



そんなやりとりがずっと繰り返されてたとき・・・



「ねーちゃん、1人でラーメンなんて寂しいね」
「え?」
「よかったらさ、俺たちとどっか行かない?」
311 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 09:54
そんな会話が外で行われているとも知らずに、
アタシはずっとラーメンを作ってた


「親分、親分!!!」


外のテーブルにラーメンを持って行った麻琴が
慌てたように戻ってきた



「なんだよ、そんな慌てて・・・」
「梨華さんが、男に絡まれてて――――――」



・・・っ――――――――




持っていた振りざるを放り出して、
帰るときにいつも被っている帽子を深く被り、屋台を飛び出した
312 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 09:57
「いいじゃん、行こうよ」
「いや、離して――――――――」



麻琴が言った通り、
梨華ちゃんは数人の男に絡まれていた

腕を掴まれ、引っ張られそうになっていた



この野郎・・・



アタシは今までに感じたことのない感情が、
どす黒い感情が心の中を回り始めた


ゆっくりと近づいていく


アタシには周りの様子なんて見えてなくて、
梨華ちゃんと周りにいる男たちしか見えてなかった
313 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 09:58
離せ・・・




触るな・・・




「嫌がってんだろーが」



男の腕を掴んで、彼女から離した


彼女をアタシの後ろに隠す



「は?ラーメン屋のヤツが何の用だよ」
314 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 10:01
クスクス笑う、野郎たち・・・


自分で稼ぐこともできねー奴らが格好付けてんじゃねーよ
チャラチャラしてっけど、結局はお前らが来てる服もパンツも
被ってる帽子だって“ママ”に買って貰ってんだろーが

そんなヤツらが偉そうにしてんじゃねーよ


お前らに触れられるって考えただけで反吐が出る・・・



「なんか文句あんのかよ」



アタシは少し上を向いて、
深く被った帽子のつばの下から目を合わせる



1,2,3・・・
315 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 10:02
3人か・・・



3人だったらなんとかなるかも・・・




そう思ったとき




「ひ、ひとみちゃん・・・」




後ろにいる梨華ちゃんが
アタシにしか聞こえないようなか細い声で言って、アタシの服を引っ張る
316 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 10:03
・・・




「一度でも彼女に触れてみろ・・・
仲間全員でお前らの家行ってやるから」




睨み付けながら低い声で言った



「な、なんだよ・・・か、彼氏いたんじゃん
は、早く行こうぜ」



4人は慌てるように走って逃げてった



言葉にもないカギが調子乗ってんじゃねーよ
317 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 10:05
奴らが走っていったあとも、
そっちの方を少しの間睨み付けていると


「ひ、ひとみちゃん・・・」


梨華ちゃんの声が聞こえた
帽子を外して、振り返って微笑んで見せた

「なに?」
「・・・ひとみちゃん、男の子と間違えられたみたいだね」

ってかそのつもりで、帽子被ってたんですけど・・・

「そうだね。そんな男っぽいかな、アタシ」
「ううん!ひとみちゃんは可愛いよ」
「またそーやってからかうんだから・・・
ってか、こっちで食べないで、屋台の裏で食べな?」

梨華ちゃん、見えてないと不安だし・・・

そう呟くと、
梨華ちゃんは照れたように笑った
318 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 10:05
319 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 10:06
お客さんも梨華ちゃんも帰って、
辺りには誰もいなくて、静けさが漂っていた


「親分、話あるんスけどいいですか?」
「え?あ、いいよ」


麻琴は外のテーブルに腰を下ろした


アタシはビールを2本取り出して、
麻琴の前に1本置いた



プシュー



ゴクゴク・・・



「やっぱ、仕事のあとのビールは最高だね」
「・・・」
320 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 10:07
でも麻琴は目の前のビールに手を伸ばさなかった



「ん?どうした、麻琴」
「・・・あの・・・」


珍しく言いにくそうな顔


なんだよ・・・らしくねーじゃん





「親分、梨華さんに本気なんですか?――――――――」






・・・――――――――
321 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 10:11
へ?





「な、何言ってんだよ」
「だって、あんな親分、初めて見ましたよ?
確かに昔は暴れ回ってましたけど、
人のために怒ったところなんて初めて見ました」




昔、アタシは族には入ってなかったものの、
よく暴れ回って、警察に何度もお世話になった



「別にそんな――――――――」
「誰かのところに収まった方がいいとは言いました。
でも、梨華さんは違います。生きてる世界が違いすぎますよ・・・」



そんなの分かってるよ
322 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 10:13
いつか、踏ん切りつけないといけないってことも分かってるんだ


でも・・・


「今、突き放してあげないと、親分が傷ついちゃいますよ?
それでも梨華さんのことが好きって言うんだったら――――――――」
「大丈夫だよ。ちゃんとケリつけるから」



麻琴の言う通り、このままだとお互いにいいことなんて1つもない


早く手放してやらないと・・・

「麻琴」
「なんですか?」
「お前はこれからもさ、アタシの傍にいてくれる?」
「当たり前じゃないスか!なにがあっても、親分についていきますよ」

じゃあいいよ


愛がなくても、アタシが生きてるって証明してくれる人がいれば、
アタシはこれからも生きていける――――――――
323 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 10:14
1週間、アタシは色々考えた
梨華ちゃんのこと、自分のこと


どう考えたって、アタシが梨華ちゃんを
好きになっていい理由なんてなかった

どう考えたって、アタシが梨華ちゃんと
このまま一緒にいていい理由なんてなかった


どんなにもがいたって、
いつかは離れなければいけない


だから心に決めた



梨華ちゃんとさよならをしよう。


もう会わないように、最低な別れ方をしよう――――――――
324 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 10:15


To: 石川梨華
sub:

今日の夜、アタシの家来れる?

今日は、店休みなんだ




From:石川梨華
sub:

分かったーっ(^o^)

お仕事終わったら、
すぐ行くね☆彡

325 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 10:15
326 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 10:17
「おじゃましまーす!」



彼女はこれから起こる出来事を知らず、
両手いっぱいに買い物袋を持ってきた


「こんなにいっぱい。梨華ちゃんが作るの?」
「うん!あのね、ひとみちゃんオムライス好きでしょ?
だから、オムライスに挑戦しようと思って!!
意外とオムライスって難しいらしいねっ」


そう言って、冷蔵庫に買った物を入れ出す

暢気に鼻歌を歌いながら・・・


「卵は何個使おうかなー
たくさん使った方がふんわりなるけど、栄養にはよくないよねー」


鞄からエプロンらしきものを出して、
楽しそうにつけた
327 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 10:18
「ジャーン!
今日ね、買ってきたのっ!可愛いでしょ?」



ピンクの花柄のエプロン


彼女は楽しそうに回って見せる



「どう?」
「うん、可愛い」



これ以上、長引かせると、
アタシは言えなくなる


そう思った
328 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 10:19
楽しそうな彼女を見ていると、
幸せそうな彼女を見ていると、
嬉しそうな彼女を見ていると、


全部全部どうでもよくなってしまう

なにもかも捨てて、彼女を腕の中に閉じこめてしまいたくなる


でも、それは出来ないから


どうしても出来ないから・・・


お互いに傷つくだけだから・・・



「梨華ちゃん、その前に話があるんだけど、いい?」
「うんっ」
329 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 10:20
冷蔵庫に全て入れ終わったのか、
そそくさと、ソファに座った


アタシも梨華ちゃんの隣に座る



「アタシ、梨華ちゃんに言ってないことがたくさんあるんだ」
「え?」
「アタシね・・・




何人もの女と関係を持ってる。何股もしてるんだよ」





・・・――――――――




彼女の顔が曇った
330 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 10:21
アタシはその顔を直視することが出来なくて、
目を逸らした




「お昼は女のところに行って、
ご飯をおごって貰ったり、映画を見たり、たまには肌を寄せ合って―――――」
「言わないでっ!それ以上・・・言わない、で」




声だけで泣きそうになっている梨華ちゃんの顔が浮かんだ



ごめんね、梨華ちゃん



「アタシはさ、誰か1人に絞る事なんて出来ない人間なんだよ。
だからと言って、誰が1番ってのもない。全てお遊びなんだ」
331 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 10:22
「私も・・・?私もそうなの?」




違う・・・違う・・・




胸が痛むのは、梨華ちゃんだけ
嫉妬をしてしまうのも、梨華ちゃんだけ
触れたくなるのも、梨華ちゃんだけ



本気で・・・

本気で好きなのも、梨華ちゃんだけ――――――――



でも・・・


332 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 10:23
「うん」




小さく頷いた






「それと・・・」
「・・・それと?」






さよなら、梨華ちゃん――――――――
333 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 10:24





「アタシ、昔、人を殺したんだ――――――」





334 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 10:24
  
335 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/13(日) 10:25
   
336 名前:ルビ 投稿日:2012/05/13(日) 10:25
本日は以上です。
337 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/14(月) 00:43
うぁっ!とにかく二人には絶対に幸せになってほしい。一緒に二人で。
338 名前:ルビ 投稿日:2012/05/15(火) 16:37
>>337 ありがとうございます。
険しい道が待っている・・・予感ですが、どうなるんでしょうか・・・
339 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 16:37
340 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 16:38
341 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 16:39





「ありがとう、梨華ちゃん――――――――」




342 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 16:40
アタシは玄関で1人、
扉によっかかったまま、崩れるようにして座り込む


『アタシ、昔、人を殺したんだ』
『・・・嘘・・・うそ、でしょ?』
『本当だよ・・・友達とその子の家族全員殺した。
1人1人ナイフで殺して・・・その人たちの家で殺したんだけどさ、
床が血だらけだった・・・だってさ、その友達が――――――――』


全てを言う前に梨華ちゃんはこの家を去った
涙を流しながら・・・


嘘じゃない・・・
殺したのは本当なんだ


脱ぎ捨てた花柄のエプロンが
さっきまで梨華ちゃんがいたことを思い出させた
343 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 16:42
今まで梨華ちゃんと過ごしてきた思い出が頭を駆けめぐる


『ひとみちゃんのこと、好き』
『ひとみちゃん、可愛い』
『ひとみちゃんは女の子なんだから』


泣いている梨華ちゃんを見つけたとき

初めて“ひとみちゃん”と呼ばれたとき

雷に怯えていた梨華ちゃんを駅まで連れて行ったとき

お腹いっぱいで眠くなってたこと

話し疲れて眠くなってたこと

口を尖らせて怒られたこと

手を繋いだこと

酔っ払った梨華ちゃんをここに連れてきたこと

梨華ちゃんが作ったスープがおいしかったこと

梨華ちゃんのオチのない話
344 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 16:43
たくさん、たくさん
いっぱい、いっぱい


梨華ちゃんとの思い出があった


泣いた梨華ちゃん
笑った梨華ちゃん
怒った梨華ちゃん
眠った梨華ちゃん


たった数ヶ月なのに、
たくさんの彼女を見た


アタシは溢れ出す涙を止めることが出来なかった


もう、涙は出ないと思ってた
アタシの中には涙はなくなってると思ってた


でも、なくなっていなかった
345 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 16:44
彼女が教えてくれたこと


笑うこと
怒ること
楽しむこと

そして、泣くこと――――――――



「うぅ・・・んぅ・・・りか、ちゃん・・・ご、めん」



声を出して泣いた

あのとき以来だった
過呼吸になるんじゃないかってくらいってくらい泣いた


もう、どうでもいいと思った
346 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 16:45
死んでもいい。


そう思った



だけど、あの世でアタシを待っている人はいない。


だからアタシはこの世で生き続けてきたんだ。


こっちの方がまだアタシを求めてくれる人が、
必要としてくれる人がいると思ったから



でも・・・もうキツイよ
辛いよ・・・



神様、もういいですか?――――――――


347 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 16:45
348 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 16:45
349 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 16:46
それから1ヶ月が経った



あの日、梨華ちゃんが去っていった日の夜



麻琴が心配で家に来てくれた
鍵がかかってなかったらしく、
すぐに部屋に入れたらしい



アタシは人生で初めて、自殺をしようとした



でも死ななかった



よくテレビで見る、リストカット


それをやってみた
350 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 16:47
なんのためらいもなかった


血が出ていくのを見て、
アタシも人間なんだ


そんなことを思ってた



だけど・・・死ねなかった



せっかく死を覚悟したのに



目が覚めたとき、アタシは病院にいた



目が覚めたアタシを
麻琴は泣きながら怒った
351 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 16:48
『なんで、死のうなんて思ったんスか!?
そんなの親分らしくないですよ!!!』



病人だっていうのに、
麻琴はアタシを責めるように肩を叩いた



『親分がいたから、私は今ここにいるんです!
親分がいなくなったら私・・・どうすればいいんですか?』



ごめん、ごめん


泣きじゃくっている麻琴に
アタシは何度も謝った



1人だけでも、アタシを・・・
仮面を被っていない“吉澤ひとみ”を
必要としてくれる人がいれば、いいと思ってた
352 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 16:49
でも違った


アタシには梨華ちゃんが必要だった



失って気づいた・・・
梨華ちゃんの存在の大きさに



でも、もう戻ることは出来ない


どうすることも出来ない



「親分、また明日!!」



アタシが自殺をしたあと、
麻琴は“死なないでください”と言う代わりに、
別れ際に“また明日”と言うようになった
353 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 16:50
数ヶ月前は携帯にメールや電話が来なくても、
寂しさなんて感じなかったのに、
今は胸がからっぽになったように、寂しさを感じる


数ヶ月前は自分が笑ってないことに
気づかなかったのに、鏡を見る度に
真顔で怖い顔をしている自分を見るのが嫌になった


こんなにも変わってしまった


こんなにも傷ついてしまった


傷つかないために離れたのに、
アタシは傷ついてる。


でも、結局いつかは離れなきゃいけないから、
これでよかったのかな・・・
354 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 16:51
自分の家のポストを見る



今日も誰からの手紙もない

あるのはチラシだけ


アタシは何を待っているのだろうか、
誰を待っているのだろうか



自分の家に続く階段を
重い足取りで上っていく



はぁ・・・



癖になってしまった、ため息をつき
顔をあげた
355 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 16:52




・・・っ――――――――




――――――――・・・!!!




356 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 16:52




ウ、ソ――――――――





嘘だ・・・――――――――



357 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 16:53
アタシの目の前に
ありえない光景が広がる



梨華ちゃんが・・・



梨華ちゃんが・・・



彼女が体を丸くして、
アタシの家の前に座り込んでる



「・・・ひとみちゃん」



アタシに気づいた梨華ちゃんが
顔をあげる
358 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 16:54
彼女の目からは涙が溢れ出ていた
たくさん泣いたのか、目が腫れていた




「り、か・・・ちゃん・・・」




梨華ちゃんが笑ってる
涙を流しながら、笑ってる


なんでこんなときも君は笑うんだ


なんで泣いてるのに笑ってるんだ
359 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 16:54
「・・・話が、あるの・・・」




立ち上がって、アタシの方に近づいてきた



「は、話なんてないよ・・・」
「私があるの」



涙を手で拭って、
アタシを真っ直ぐ見つめたまま、言われた
360 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 16:55
361 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 16:58
「うそつき」



ソファに座るなり、
そう言われた


「何が?」
「とぼけないでよ・・・何人もの女の人とはもう会ってないんでしょ?
自分からちゃんと“ごめん"って謝ったんでしょ?しかも・・・
私に出会ってから・・・」


そう・・・


本当はとっくの昔に関係を絶ってた



『あ、そういえばさ・・・アタシもう誰とも関係持ってないから』
362 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 16:59
梨華ちゃんを駅まで送ったあとに、麻琴に言った


『へ?どういうことですか?』


麻琴は凄く驚いた顔をした


無理もないよ・・・


麻琴に出会う前も出会った後も
なにがあってもアタシの横には誰かしら女がいた


でも、アタシは自ら全ての女と縁を切った


『だから、アタシの携帯にはそういう関係の女の名前がいなくなったってこと』
『・・・え、うそー!!!』
『そんな驚かなくてもいいでしょ・・・』
『だって・・・親分って、シなくちゃ生きてけないんじゃ―――――』
『ば、ばか!!アタシをなんだと思ってんだよっ』
363 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 17:00
理由なんてない


なぜか・・・自分の中で全てを終わらせたかった
梨華ちゃんに対する罪悪感からとかじゃない

ただ、自分の中でもう必要ないって思ってしまった



「それに・・・人、殺してないんでしょ?」



真剣な眼差しがアタシに注がれる
嘘じゃない、嘘じゃないんだよ・・・



「ホントだよ?」
「嘘!!麻琴ちゃんに聞いたんだからっ」
「麻琴に!?」
364 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 17:01
アタシに体を向け、
梨華ちゃんは話し出した



2週間、何もすることが出来なかった

ショックが大きすぎて・・・



ひとみちゃんに対してどうするとかじゃなくて、
何もすることが出来なかったの


心を整理する時間が必要だった


でね、心の整理をしたあと、
思ったの。



ひとみちゃんが人を殺すわけないって――――――――
365 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 17:02
私に向けてくれた笑顔は本物だった
偽物じゃなかった



だから、ひとみちゃんは簡単に
人を殺す人じゃないって思ったの



だから、アタシは麻琴ちゃんに会うために
店を開ける少し前にいつもの場所に行ったの


そしたら、思った通り、
準備しているのは麻琴ちゃんだけだった



『麻琴ちゃん』
『・・・り、梨華さん!!』



私に気づいた、麻琴ちゃんは凄く驚いてた
最初、あたふたして、声もまともに出てなかった
366 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 17:03
『な、んで・・・』
『本当のこと、教えてもらいに来たの』




でも、麻琴ちゃんは簡単には教えてくれなかった


“親分の気持ち、大事にしたいんで"



そう言ってた


でも、アタシはそのまま帰ることが出来なかった


どうしても、どうしても知りたかった



『私、ひとみちゃんのことが大好きなの。
どんなひとみちゃんも好きなの。諦めきれないの。』
367 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 17:04
泣いたら、ダメだって思った

同情なんかで教えて欲しくなかったから
私の気持ちを信じて欲しかったから・・・


目を逸らさずに、麻琴ちゃんの目をじっと見た



そしたら・・・



『本当に、受け止める自信ありますか?』
『ある』
『戻れなくなるかもしれませんよ?』
『大丈夫。戻るつもりないから』



そして教えてくれたの


麻琴ちゃんが知ってる、ひとみちゃんのこと全てを
368 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 17:05
369 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/15(火) 17:05
370 名前:ルビ 投稿日:2012/05/15(火) 17:05
本日は以上です。
371 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/16(水) 00:54
二人ならどんな困難も乗り越えられることを信じています。
早く続きを.....
372 名前:ルビ 投稿日:2012/05/16(水) 22:59
>>371 ありがとうございます。
2人の行く末、最後まで見守っていてくださいっ
373 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:00
374 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:00
375 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:01
親分に出会ったのは、
私が高1のときで、親分が高3のときでした


親分は凄く有名だった
色んな女の人に手をだしてるってことで・・・


それに、色んな学校の女子や男子と
やり合ったって噂も流れてました



全然違う世界の人だと思ってたんです。



でも・・・あるとき・・・




私が・・・自殺を、しようとしたとき
376 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:02
出会ったんです、親分と――――――――



私の家族、飛行機事故で全員死んじゃったんスよ

そのときは凄く悔やみました
自分も旅行に行けばよかったって
旅行に行って、自分も死ねば良かったって


でも、学校の用事でいけなかったんです



たった1回の事故で
全てを失った私は、死ぬだけしか選択肢がなかった



・・・当時の私はそう思っていたんです。


お葬式が終わって、1週間
私は死ぬ場所を探していました。
377 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:03
出来るなら、自分のことを忘れないで欲しい



パイロットのちょっとしたミスで
家族全員亡くしてしまった人間がどんなに悲しんでいるか、
辛いのか・・・それを知って欲しかったから、
目立つような自殺をしようと思ったんです。



それで、見つけたのが学校の屋上でした



みんながまだ授業中だったとき、
私は1人フェンスを越えて、心の準備をしてたんです。


私はもう少しでみんなのところに行ける



待っててね。
378 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:04



――――――――・・・



そのときだった・・・


親分が屋上に来たんです。


でも、それは私を助けるためじゃなくて、
授業をサボるため・・・


だから私がフェンスの向こう側にいることに少しだけ驚いてました



『何やってんの』
『し、死のうと思ってるんです』
379 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:04
親分はなんともない顔をして、
ベンチに座ろうとした


『ち、近づいたら死にますよ!』
『いや、アタシ近づいてないから』


なんの動揺も見えなかった


目の前にはこれから死のうとしている人がいるのに、
どうでもいいというような顔をする親分に腹が立った



『ど、どうして自殺するか聞かないんですか?』
『聞いて欲しいなら、聞いてあげるよ』



親分は眠たいのか、
あくびをしながら背伸びをした
380 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:05
『止めようって思わないんですか?』
『止めて欲しいなら止めるけど?』



困っている私を見て、
親分が口を開いた


『ごめんね、ここに来たのがアタシで・・・
アタシ、求められたこと以外はしないの。だから死にたいなら、勝手に死んで?
でも慰めて欲しいなら、慰めてあげるから言って?』



そう言った親分がきらきら輝いているように見えた
格好良く見えた

それで、私は話し出した



『私の家族、この前の飛行機事故で全員死んじゃったんです。
私以外、全員死んじゃったんです。だから、私も・・・』
381 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:06
私が話し出したら、
親分は体をこっちに向けて、話を聞いてくれた



『ふーん。じゃあ死んだらいいよ』
『は?』
『だって、君の家族は君が来てくれることを望んでるんじゃない?
死んで、あっちで親孝行すればいいでしょ?』



嫌味に聞こえるはずなのに、
私には嫌味に聞こえなかった



『君を必要としてくれる人が、あの世に多いか、
これから過ごしていく、この世が多いか・・・考えてみたら?』
『は、はあ・・・』


私はその時点で何を言いたいのかはっきりとは分かってなかった
でも、親分が話してくれた
382 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:08
『アタシの場合はさ、この世の方が多いから。
両親とも死んだけど、両親はアタシを捨てたからさ。
別にあの世に行く必要なんてないんだよ。
これからの未来の方がアタシを望んでくれる人が多いと思うし』



捨てた・・・?



親分は施設で育ったんです。
5歳のときに親から捨てられて・・・
でもその親もどっちとも病気で死んだらしいです。

親分はきっとアタシを捨てた罰が当たったんだって言ってたけど、
きっと本心じゃなかったと思います。

親分は自分を捨てた親でも心から好きだったと思うんです。
だからこそ、嫌だったんですよ。
そんな自分が・・・心の底から嫌いになれない自分が・・・


私は親分のおかげでそのとき自殺をしないで済んだんです。
383 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:08
それから、私はしつこいくらい
親分にひっついて回りました


モテモテの親分はとても格好良くて、
世話をしてくれる親分が好きでした
もちろん、先輩としてですよ?



でもある日、親分に言われたんです。


『麻琴、アタシのこと格好良いと思ってる?』


私は大きく頷きました。

そしたら親分は・・・


『麻琴は全然アタシのこと分かってねーなー
アタシは格好悪いよ。世界一格好悪いんだ』
384 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:10
そして・・・話してくれたんです。
親分の過去を――――――――




親分には“アヤカさん"っていう幼馴染みがいたんです。
施設によく遊びに来てくれたらしいです。

でもアヤカさんはちゃんとお父さんもお母さんもいて、
その両親が親がいない子を援助する会の会長をやっていて、
よく遊びに来てたんです。

それで、親分はずっとアヤカさんと一緒だったらしいです。
2つ上のアヤカさんが5歳の自分にはかなりお姉ちゃんに見えたらしくて、
ずっと後ろについて回ってたって・・・


でも、親分が中2になったとき、
高1だったアヤカさんから言われたらしいんです。


『好きなの。付き合って』
385 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:10
それを聞いた親分は凄く驚いて、
一瞬、訳が分からなかったらしいです。


でも、その言葉がどういうことか理解した途端、
気持ち悪くなったって・・・


中2っていう年は丁度思春期だということもあって、
同性同士の恋愛は軽蔑に値する物だったらしくて、
ひどいことを言ってしまったらしいんです。



『ごめん、アタシそっちじゃないんだよね。
普通に男が好きなんだ・・・てか、レズとかって
アタシ・・・よく分かんねーし』



そう吐き捨てて、
アヤカさんの前を去って行った
386 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:12
今考えれば、バカなこと言ったって反省してるって言ってました
でもそのときの自分は軽蔑する気持ちしかなかったって・・・


それから2週間、親分はアヤカさんを避け続けた
メールも電話を無視して、施設に来ても、いないように言って貰ってたらしいんです。



でも、そのあとすぐアヤカさんは
家族と一緒に家で死んだ――――――――


父親のリストラが理由だったらしいんですけど、
親分は自分を責めた



もし、あのとき付き合っていれば、
せめてアヤカだけでも生きてたかもしれない

もし、あのとき電話をとっていれば、
メールを返していれば、居留守をしなければ


色んな後悔が親分の中を駆けめぐった
387 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:13
最低だ


アタシは最低だ


自分を傷つけるように、
自分を責めて責めて、
体の中の水分がなくなるんじゃないかってくらい泣いたって・・・



それから、親分は人が求めることだけをするようになったんです。
付き合ってと言われても、断らない
体だけの関係でもいいんだったら、いつだって自分の体を提供してあげる
一緒に居て欲しいんだったら、飛んでいって、横にいてあげる


親から必要とされなかった分、
自分を必要としてくれる人のために尽くしたんだと思います。


『これが私が知ってる親分の全てです』


でもね、最後に麻琴ちゃん言ったの。
388 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:14
『だけど、私の知らない親分もいる』


きっと私にも話せない過去があると思うんです。


だって、アヤカさんのことだけで
自分の人生をあそこまで犠牲にしないはずです。


だから、きっと・・・
もっと辛い過去があるはずなんです。

私にはそれを聞く勇気がありません。


でも、梨華さんなら・・・
聞けるかもしれない。


親分と梨華さんが離れるまで、
私は2人が全く違う世界にいるから一緒になるべきじゃないと思ってました


でも違った――――――――
389 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:15
あんな親分、初めて見ました
何をやるにも心ここにあらずって感じで・・・


見てる私も辛いんです。
だから、なんとかしてあげてください


親分を助けることができるのは梨華さんだけです。



「そう・・・言われたの。
麻琴ちゃん、ひとみちゃんのこと心配してるよ?」



馬鹿野郎・・・


人のことを心配する前に自分の心配しろっつーんだよ


いつもいつも親分親分って・・・
なんでこんなアタシについてこようって思うんだよ
390 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:16
「ね、ひとみちゃん・・・全部話して?」


心が揺れた

アタシが隠していたこと
ほんの少しにしか過ぎないけど、
梨華ちゃんは受け止めてくれた

アタシの過去を少しだけでも受け止めてくれたんだ・・・


だけど・・・――――――――



「梨華ちゃん・・・アタシは梨華ちゃんがその話を聞いても、
心配して、アタシのところに来てくれたことだけで嬉しいよ」

麻琴にさえも言わなかったアタシの過去
391 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:17
その話を聞いたら、
梨華ちゃんだけじゃなくて、
麻琴もいなくなるかもしれないって思ったから・・・



「なんで?なんで話してくれないの?」
「必要ないから。悲しませたくない。失望させたくない」



せめて、“可哀想な人"


それだけでいいから・・・


彼女の思い出の片隅にいたいんだ



「悲しまないよ?失望なんてしない」
「誰だってそうだよ?最初から悲しむとか言う人なんていないよ」
392 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:18
もういいんだ・・・
その気持ちだけで・・・アタシは十分だから




2人の間に沈黙が流れる――――――――



アタシはソファから降りて、
床に座って、テレビをつけた


この静けさが怖くて・・・



「ハハ、梨華ちゃん。テレビ面白いよっ」



テレビを見つめたまま、
出来るだけ明るい声を出す
393 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:18
「ひとみちゃん」
「ん」



前を向いたまま答える

本当はテレビの内容なんて全然頭に入ってない

後ろにいる梨華ちゃんのことが気になってしょうがない


立ち上がって、帰っちゃったらどうしようって・・・



この期に及んで、そんなことを考えてたら・・・



ブチッ



テレビの電源を切られた
394 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:19
どこに視線を合わせればいいか、迷ってると



「ひとみちゃん、こっち向いてよっ」



腕を掴まれて、梨華ちゃんの方に振り向かされた



「な、に?」



彼女の目には涙が溢れていた

でも零さないように必死に抑えてる





バシッッ――――――――
395 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:20
っつ・・・





「っな・・・」




思いっきり彼女はアタシのほっぺたを叩いた


アタシが別れを告げた女たちがしてきたように


でも今までのとは違う


頬じゃなくて、胸が痛かった
396 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:21
「しっかり向き合いなさいよ!
いつまで逃げるつもりなのっ!?」



彼女は声を荒げるように言った



「誰にだって、忘れたくない過去はあるんだよ?
あなただけが特別っていうわけじゃない。いつまで甘えてるのよっっ」



彼女はソファから降りて、
アタシの方に向いて、正座をした



「甘えてなんか――――――――」
「甘えてるよ!!麻琴ちゃんにも自分にも・・・
・・・本当のひとみちゃんを教えてよ」
397 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:22
語尾になるにつれ、
彼女の声が震えていくのが分かった



「でも梨華ちゃんが傷つ――――――」
「私じゃないでしょ?ひとみちゃんでしょ?傷つくのは・・・
私は好きで、ひとみちゃんの傍にいたいって思ってる。」



変わるのが怖いんでしょ?
自分が傷つくのが嫌なんでしょ?


梨華ちゃんの言う通りだった


人のせいにしてたけど、
結局は自分のことが一番だった


傷つきたくない
変わりたくない
悲しみたくない
398 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:23
――――――・・・1人になりたくない



今まで格好付けてたけど、
本当はアタシだって、普通の人間で、普通の女の子だった



「ひとみちゃんの、ひとみちゃんのタイミングでいいから」



いつの間にか震えていたアタシの手の上に
梨華ちゃんの手が添えられた


暖かくて、安心した。
安心して、涙が出そうになった。


自分が今、どんな感情であるのか分からない


悲しいのか、嬉しいのか、寂しいのか、楽しいのか
399 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:24
自分の気持ちを整理するのに時間がかかった

それでも彼女は何も言わずにアタシの手を包んでくれた





もういいよ。





もういい――――――――




どうなったっていい。




この手がアタシを離すことになっても、
自分の全てを知ってもらうことに何か意味があるのかもしれない
400 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:24
本気で好きになった彼女に
アタシの全てを託そう。


それでダメだったら、そのときは・・・




また、死のう――――――――



死ぬことが人生にとって不正解なわけじゃない


生きることが人生にとって正解なわけじゃない


生きることが正しいなんて決めたのは人間だ。



辛くて、キツくて、悲しくて、寂しくて、どうしようもないとき
死んだって仕方がない
401 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:26
今までアタシが生きてきた理由。
それはアタシを必要としてくれる人にとことん尽くそうと思ったから
それ以外、何もなかった。

でも、きっと・・・もしかしたら、彼女がアタシの人生の中で
アタシを一番必要としてくれる人かもしれない


そして・・・彼女はアタシが一番必要としている人


だからいいんだ。


アタシの全てを話したとき、
彼女がいなくなってしまったら、
そのときは首つりでも飛び降りでもなんでもやろう

だけど、今回は絶対に助からない方法で死のう
もうこの世に未練なんてないから

アタシは大きく深呼吸をして、
今まで必死に隠そうとしていた事実を伝えた。
402 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:27




「アタシの父親は殺人者だったんだ――――――――」



403 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:28
404 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/16(水) 23:28
405 名前:ルビ 投稿日:2012/05/16(水) 23:28
本日は以上です。
406 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/17(木) 00:29
痛い!なんも言えねぇ。ただひたすら続きが気になります。
407 名前:ルビ 投稿日:2012/05/20(日) 14:48
>>406 ありがとうございます。
本当に痛いです。書いている方も結構辛かったり・・・(汗)
408 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/20(日) 14:49
409 名前:悲しきlone 投稿日:2012/05/20(日) 14:49
410 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/20(日) 14:50
「アタシの父親は殺人者だったんだ――――――――」





彼女の手がピクっと震えた


でも、彼女は何も言わなかった
黙ってた




「22年前の事件知らない?家族4人全員を殺した犯人が、
逃亡した末に飛び降り自殺をした。

そいつの子供がアタシなんだ――――――――」
411 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/20(日) 14:52
父親はアタシが生まれる前からギャンブル好きだった


リストラされたらしくて
仕事を探す毎日だった


でも探しても探しても見つからなくて、
能がなかった父親が結局考えたことは、
ただお金があればいい、それだけだった


そして、ギャンブルから窃盗、強盗へと手を伸ばして行った



そのときのアタシはいきなり食事が豪華になったとか、
洋服が増えたなんてことは深く考えてなかった

それどころか毎日卵の料理が食べられるなんて、
バカみたいなことを考えてた


母親も問いただしたみたいだけど、
割の良いバイトを見つけたって言われただけだったらしい
412 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/20(日) 14:55
最初は母親もなんとなく納得してたけど、
途中からやっぱりおかしいと思い始めた頃、
父親がある家に強盗に入ったんだ

だけど誰もいない家だと思って入ったのに、
部屋には人がいて・・・


住居侵入で捕まるだけだったらよかったのに、
そのときの父親は金を奪うことで頭がいっぱいだった

だから母親、父親、10歳の女の子、
そして、アタシと同い年だった5歳の男の子を次々に台所にあった包丁で刺して、
その家にあった金目のものすべてを持ち去った


現場は血の海だったらしい――――――――


その事件の犯人がアタシの父親だっていうことが確実になったのは、
事件があった2日後だった


それで突然、家に大人数の警察がやってきて、
うちのもの全てを押収して行った
413 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/20(日) 14:58
そのときの母親の姿は何十年経っても忘れられない


事務仕事のように、そそくさと押収していく警察
まるで血が通ってないくらいの冷静さをまとい、
何かを説明してくる警察

アタシには全てが早送りのように見えたのに、
母親の姿だけはなぜかコマ送りのように・・・
まるで1つだけの世界を切り抜いたように、
呆然と立ち尽くしているように見えた


その事件以来、母親はアタシと口をきかなくなった
ずっと父方のおばあちゃん家に預けられて、
母親の居所なんて分からないままだった


そして、事件から2ヶ月が経ったとき、
母親と久しぶりに会って言われた



『お母さんね、ちょっとした事情で名字が変わっちゃうの。
でもひとみは名字変わらないから安心して?あなたに迷惑かけたくないの・・・』
414 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/20(日) 15:00
そう言って連れてこられたのは白い建物の前で、
なぜか母親はアタシに大きな荷物を預けた



『ひとみ、いい?いつも人のために頑張るの。
そしたら、絶対いつかは報われる日が来るから』




そう言い残して、母親はその場を去って行った



アタシはその背中を追いかけたかった
でも、見えたんだ――――――――


母親の背中越しに見慣れない男が母親の方を向いて、
微笑んでいる姿が・・・


きっと、子供だからこの光景の意味が分からないと思ったんだと思う
415 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/20(日) 15:01
実際に、そのときのアタシは意味が分からなかった


なんとなく、母親の背中がアタシを拒んでいることだけは分かった

あの人は前を向いてる
前を向いて、新しい人と一緒に生きていく
じゃあアタシは何?
母親にとってアタシは振り返った場所にいる人

ただ、そのとき確実に分かったことは
“捨てられた"ってこと

手元の白い手紙がそれを物語っていた



『この手紙を中の人に渡して』



この中にはきっとアタシのことをよろしくお願いします
って書いてあるんだろうな

子供ながら冷静だったのを覚えてる
416 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/20(日) 15:02
でも時間が経つにつれ、分かったんだ



母親には好きな人がいた。
その人と一緒になるためには、アタシが邪魔だった
母親は父親と他人になれてもアタシがあいつの子供っていうのは
どうなっても変わらない事実


そのあと、アタシが11歳になったときに
父親が崖から飛び降り自殺をしたってことをニュースで知ったんだ

悲しかった

すげームカついたけど、
腹立つくらい悲しかった


そして、中2のとき
たくさんの疑問がアタシの中に残ってて、
施設の先生に全てを教えて欲しいって言ったんだ
417 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/20(日) 15:03
そしたらさ・・・


耳を疑うようなこと言われてさ




『ひとみちゃんのお父さんとお母さんは結婚してなかったの』




母親は違う人と結婚していて・・・

だからアタシは不倫相手の子供だった

でも幼いアタシは気づかなかった

母親が何日も帰ってこない日があっても、
それが普通だと思っていたし・・・

でも考えてみれば、母親も父親もお互いのことを
お母さんとかお父さんって呼んだのを聞いたことがなかった
418 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/20(日) 15:08
あとになってさ、思い出すんだよ

あれってこういうことだったのか・・・って


不倫相手の子供の上に、隠し子だったんだよ――――――――

だから名字なんてさ、最初っから違ったんだよ
アタシは父親の方の戸籍に入ってたから
母親と名字が違うのは当たり前だった


あのとき、アタシが捨てられた日に見た光景は
どういう意味だったのかははっきりとは分からない

その男がどこまで知っているのか

アタシのことを母親はどう説明していたのか・・・


でも考えれば考えるほど、胸が痛くなる


だってさ、子供を捨ててるところに男が来るわけないじゃん
きっと拾った子供を施設に預けた、なんて言ったんだと思う
419 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/20(日) 15:10
アタシは母親に一言言いたくて、
この言い表すことの出来ない感情を伝えたくて、
母親の居場所を教えてもらった



でも・・・
行くべきじゃなかった――――――――



涙が出てくるくらい理想的な家族が目の前にあってさ


高校生くらいの男の子1人と
アタシと同じ年くらいの女の子1人と
小学校低学年くらいの女の子1人が
母親と、あのとき見た男とで楽しそうに庭でバーベキューやってたんだよ


なんでさ・・・
なんで同じ人間から生まれたのに、こうも違うかなーって

同じ地球にいて、同じ人間で、同じ日本人で、同じ東京人で
同じ人から生まれてて

なんでこんな違うんだよ
420 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/20(日) 15:11
方や捨てられてしまった犯罪者の娘
方や笑顔が絶えない家庭の子供たち


どこで食い違ったんだろう


色々考えたよ


あの日、アタシの母親は死んだ


本当はさ、生きてんだけど
アタシの中では粉々に消えてなくなってしまった

きっとどこかで、アタシを捨てたこと悔やんでるだろうな
って思ってた自分が恥ずかしくなった

アタシを産んだってことも、
アタシを捨てたってことも全部忘れてんじゃないか
ってくらいの幸せに溢れた笑顔をしてて・・・
421 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/20(日) 15:12
でも、結局はさ
どんなに憎い母親でもさ、アタシにとってはたった1人の母親だった
だから最後にくれた一言は本物だと思ってしまった


『ひとみ、いい?いつも人のために頑張るの。
そしたら、絶対いつかは報われる日が来るから』


あぁ・・・アタシは母親のために頑張れなかった
あぁ・・・アタシは父親のために頑張れなかった


だから、アタシはこんな風になってしまったんだ


そう思った
胸に穴が開くんじゃないかってくらい、考えたけど、
結局行き着く先の答えはいつもそこだった



何にしても、アタシは人のために何かをしなくちゃ
余計なことはしたらダメ
人がして欲しいことをやらなきゃ
422 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/20(日) 15:13
いつの間にかそう思うようになってしまった



そのあとすぐだったかな・・・

アヤカのことは・・・


ボロボロだったんだよ
身も心も

人に頼るしかなかった


自分で自分の存在を証明することが出来なかった

他人に必要とされることでしか自分を見出すことが出来なかった


「アタシはさ、汚れてんの。不倫相手の子供だし、
殺人者の子供だし。だからいつ人を殺すか分からない。
ときどき自分が怖くなるんだ。腹が立って、
どうしても自分でコントロール出来なくなってきたとき、
改めて感じる。ああ自分は本当に殺人者の子供なんだってことを・・・」
423 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/20(日) 15:14
アタシは気づかれないように横目で彼女の顔を見た



梨華ちゃんは何かを考えているように
一点を見つめていた


ごめんね、本当にごめんなさい

梨華ちゃんには関係ないのに――――――――



「梨華ちゃん、ありがとう。
アタシ、梨華ちゃんのこと好きだったよ。
マジで・・・マジで好きだった・・・
こんなに人を好きだって思ったのは初めてだった」


彼女の瞳が戸惑うように揺れた
424 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/20(日) 15:15
「でもさ、アタシはもうそれだけで十分だよ。
人から好かれることに慣れてないんだ。
必要とされるのは慣れてんだけどさ・・・
だから、きつく当たっちゃった・・・
でも、もう本当に――――――――」




・・・っ――――――――


「っな・・・」


彼女がいきなりアタシを押し倒した



目には涙を浮かべてた

でも零れてはいなかった


唇を噛んで、真剣な顔でアタシをじっと見つめてた
425 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/20(日) 15:15
426 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/20(日) 15:16
何分経っただろう



アタシは梨華ちゃんの目から逸らしちゃいけないような気がして、
ずっと見つめ合っていた


お互いの気持ちを探り合うようにして・・・


そのときだった・・・




「どう、し・・・て?」
「へ?」




久しぶりに言葉を発した梨華ちゃんの声は掠れていた
427 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/20(日) 15:18
「どうして・・・そんな風に、思うの?
過去形なの?・・・私への想いは過去形なの?」
「え・・・いや、ちが、うけど・・・」


2人とも徐々に声が震えていくのが分かる



「なら・・・別に、いいじゃない・・・
分かってよ・・・信じてよ・・・私の、気持ち・・・
どんな、ひとみちゃんだって・・・例え人を殺そうと
例え世界中のみんながひとみちゃんの敵になっても、
私は、味方だよ?・・・それに・・・」
「・・・そ、れに?」



一粒だけ彼女の目から涙が零れた
その涙がアタシの頬を伝った


「悪く言わないで・・・私が、好きに、なった人のこと・・・
悪く言わないでよ・・・汚れてるなんて、言わないで?
“殺したい"って感情は・・・誰にでもあるものよ?
憎いから、消えて欲しい・・・そんなの、ひとみちゃんだけが、思ってること、じゃない
普通のことなの・・・それを実行するか、しないか、っていう差だけでしょ?」
428 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/20(日) 15:19
堰を切ったように次々に涙が降ってくる
一生懸命に必死に伝えようとしてくれる気持ちを
アタシはどう受け止めればいいのか分からなかった


今まで愛されることがなかったから

言われることをしてた
唯一自分からしていたのは突き放すこと

相手が本気になりそうになったら、
自分から突き放す


それしかしてこなかったから
どうすればいいか分からない


彼女の気持ちをどう受け止めればいいんだろう



「バカ!!」
「え?」
429 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/20(日) 15:20
顔を覗こうとした瞬間、
梨華ちゃんはアタシの首筋に顔を埋めて、
子供のように大きい声を出しながら泣いた




「うわあああああん!!!!!!」
「り、りかちゃん・・・」




耳元で泣くから、
鼓膜が破れそう



「バカぁっ!・・・ひ、とっ・・ちゃ・・・バッ・・・カァ」



返す言葉が見つからなくて、
彼女の背中を何度も何度も繰り返しさすってあげる
430 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/20(日) 15:21
「ごめんね」
「そ、んな・・・こと・・・ばが、ほしい・・・んじゃな、い」


分かってる
分かってるけど・・・


「・・・」
「うわあああああん!!!!!」


それから20分くらいして、
すぐに梨華ちゃんはアタシの腕の中で眠った

やっぱりどんなときも梨華ちゃんだ

泣き疲れて、眠っちゃう梨華ちゃんが
凄くらしくて、ちょっと笑えた


朝方、床で腕の中にずっと閉じこめたままだった彼女を
ベッドに運び、ベッドの中でまた彼女を目一杯に抱き締めた
431 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/20(日) 15:22
432 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/20(日) 15:22
433 名前:ルビ 投稿日:2012/05/20(日) 15:22
本日は以上です。
434 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/21(月) 01:26
梨華ちゃあああああああああああああああん!頑張れそして頼むぞ!
435 名前:ルビ 投稿日:2012/05/27(日) 21:17
>>434 ありがとうございます。
梨華ちゃんって、よっすぃーが言ってたように
本当に華やかさの中に強さがありますよね・・・
436 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/27(日) 21:18
   
437 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/27(日) 21:18
   
438 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/27(日) 21:20
「んぅ・・・ん・・・」



彼女が目をこすりながら、体を起こす


彼女の顔は目も顔自体も腫れていた



「・・・ひと、みちゃん!?」



キッチンにいるアタシの姿を捉えたのか、
ベッドに座ったまま驚いたように目を大きくさせる



「なんだよ、そんな驚いて・・・自分が来たんでしょー?」
439 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/27(日) 21:20
ぶっきらぼうに言って、
暖めたタオルを持って彼女の前に膝をついた



「そうだった」



まだ寝ぼけてるみたい


床に目を下ろして、
ボーっとしてる

焦点があってないよ・・・



「ほら、顔上げて」
「ん」



言われた通りに梨華ちゃんは顔を上げた
440 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/27(日) 21:21
暖まったタオルで目を優しく包んであげると、
気持ちよさそうな顔をした



「あーあ、顔も目も腫れてるから今日はアヤカのお参りいけないね」
「なにがー」



気の抜けたような声をしやがって・・・



「アヤカにさー、アタシの恋人ですって紹介しようと思ったのにー」
「ふーん・・・・・・ん?」



梨華ちゃんがちょっと疑問を持った素振りをしても、
アタシは彼女の目からタオルを当てたまま、離さない



「そ、そ、それって、ど、ど、どういう・・・」
「どもりすぎ」
441 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/27(日) 21:22
昨日はあんな積極的だったのにさ



「梨華ちゃん、好きだよ。だから、アタシの恋人になって下さい」
「え、ちょっちょ・・・えぇ!?今!?ムードもへったくれもないじゃん!!!」



タオルで目を包んでいた手を
梨華ちゃんが掴んで、目から離させられた


まあ確かに、ムードないよね

第一梨華ちゃんの目にタオル乗っけてるから、
目見えないしね。


ま、だから言ったんだけどね



腫れた目をした梨華ちゃんが
大きく目を開いて、こっちを見てる
442 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/27(日) 21:23
「ん?」
「ん?じゃなくてさー・・・もう一度言って?」
「嫌だ」



嫌に決まってんじゃん


生まれて初めて、告白したんだよ?
これでも勇気いったんだからさ。
勘弁してよ・・・



「じゃあ、アヤカさんのところ行かない!」



悪知恵が働いたかのように
分かりやすく口を膨らませて、そっぽ向く
443 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/27(日) 21:25
「梨華ちゃんがそう言うなら仕方ないな・・・
昨日の梨華ちゃんの話を聞いて、アヤカのところに
お参り行ったことなかったからさ・・・
梨華ちゃんとだったら行けるかなって思ったんだけど・・・
まあ・・・仕方ないか?」



悪知恵は悪知恵で返すが勝ち。
これ、常識!



「ムムム・・・もう!!」



久しぶりに見た口を尖らせる彼女が可愛くて、愛おしくて・・・



「さ、朝ご飯食べよう!」




・・・っ――――――――
444 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/27(日) 21:25
立ち際に触れるだけのキスをした



・・・



すぐに背を向けたけど、
後ろからは何の反応もない



もしかして嫌だった?



心配になって振り返った



「梨華ちゃん?」
445 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/27(日) 21:26
目を開けたまま、
金魚のように口をパクパクさせてた



「なんて顔してんの」
「・・・だ、だって・・・びっくりして・・・心臓止まりそう」
「やめてよ。死んだら困るから」
「そ、そういう意味じゃないよぉ・・・」



泣きそうになる梨華ちゃん・・・


そして、何かを思い出したように立ち上がった



「ちょっと待って!!!
ひとみちゃんとの初めてのキスはこんなんじゃ嫌ああ!!!」

「はあ?」
「ムードがないよ、ムードが!!」
446 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/27(日) 21:27
さっきからムード、ムードって・・・

どっちかっていうと、梨華ちゃんの方が
ロマンチックなことに疎いくせに


「あ!!!」


何かを企んでるような、悪魔の笑み
嫌な予感・・・


「別にひとみちゃんがムードを作らなくても、
私が作ればいいんだっ」

「へ?」


ちょ、ちょっと梨華ちゃん・・・



真剣な目をして、アタシに近づいてくる
447 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/27(日) 21:29
「り、りかちゃん・・・」


首の後ろに両手を回された


やっばい・・・


心臓が壊れそう



「ひとみちゃん」
「は、はい」
「好きよ?大好き」
「う、うん」
「どんなひとみちゃんも好き」



ちゅ




・・・・・・
448 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/27(日) 21:30
・・・





「ひ、と・・・み・・・ちゃ、ん・・・」



形勢逆転。



唇をくっつけたキスしかしない梨華ちゃんを
困らせたくて、少し開いた唇の隙間から舌をねじ込ませた



「んぅ・・・はぁ・・・」



彼女の息が荒くなっていくのが分かる
喘ぎ声に近い声を出す彼女に意地悪したくて、
逃げ回る舌を追いかけるように絡ませる
449 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/27(日) 21:30
「んぅ・・・はぁ・・・ん・・・
頭が・・・んぅ・・・真っ白に、なっちゃ・・う・・・よ」



首に回っていた手がいつの間にか
アタシの肩をぎゅっと強く握りしめていた



あれ、もう降参?



舌を入れる代わりに愛情を確かめ合うように、
上唇をくわえたり、下唇をくわえたり、
アタシが先走らないように、彼女の反応を見ながらキスをし続けた



今まで、キスはただの行為の第一段階でしかなかった


愛なんてなくて、ただの行為で・・・
450 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/27(日) 21:32
でも、違った


肌を寄せ合うことよりも
キスをすることの方が相手の愛の深さが分かる


溢れそうになるお互いの愛を確かめていく


君はどのくらい、アタシを愛してくれてるの?
アタシはどのくらい、君を愛せてる?


大丈夫かな


アタシの愛はちゃんと伝わってるかな



不安になって、キスを止めた
451 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/27(日) 21:34
「どうしたの?」



俯いたアタシの額に梨華ちゃんの額がくっつけられる



「分かんない・・・なんか怖くなっちゃって」
「大丈夫、大丈夫だよ?」



おでこをくっつけたまま、
彼女が髪をなでてくれた



「いなくならない?」
「ん?」
「梨華ちゃん、いなくなったりしない?」
452 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/27(日) 21:35
怖いんだ、目を離した隙に
君がいなくなってしまうんじゃないかって


これは幻なんじゃないかって



「しない。絶対しない。いつでも傍にいる。約束する」
「・・・ありがと」



嬉しくて、幸せすぎて、涙が出た



そのとき初めて、アタシはうれし泣きをした


幸せすぎても涙って出るんだ
453 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/27(日) 21:35
ちゅ



ちゅ・・・




頬を伝わる涙をキスで拭いてくれる



背伸びをしてゆっくりと目にキスをしてくれて、
最後におでこにキスをしてくれた





好き




大好き
454 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/27(日) 21:37
今までバカにしていた気持ち――――――――




でも、今になって分かる


人を好きになるってこんなにも人を変わらせるんだ


昨日までいつだって死んでいいって思ってた
でもこうして梨華ちゃんと恋人という関係になって、
今は生きていたいって心の底から思うんだ


前だけを見よう


もう振り返るのは止めにしよう


人のためじゃなく、
自分のために幸せになろう――――――――
455 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/27(日) 21:41
だから・・・前に進むために
最初で最後・・・アヤカのところにきちんと行って、頭を下げよう


今まで心の中で謝り続けていた
でも、そんなんじゃダメだ


ちゃんと向き合って、
謝ろう


そして、梨華ちゃんのことを紹介しよう


この人がアタシの好きな人だって・・・



あんな風に好きっていう気持ちまで否定するようなことはしない



きちんと言おう
本当の気持ちで、自分の言葉で――――――――
456 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/27(日) 21:41
   
457 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/05/27(日) 21:41
    
458 名前:ルビ 投稿日:2012/05/27(日) 21:42
本日は以上です。
459 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/28(月) 00:49
吉澤さんの気持ちを大切にしてあげてください!お願いします!
460 名前:ルビ 投稿日:2012/06/19(火) 18:42
>>459 ありがとうございます。
このまま2人は幸せになるんでしょうか・・・

461 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/19(火) 18:43
462 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/19(火) 18:43
463 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/19(火) 18:44
「ありがと、ついてきてくれて」
「ううん!嬉しかった。私も連れて行ってくれて」



ずっと行けなかった場所――――――――


行く資格がないと思ってたし、
行ったら、積み重ねてきたものが
全部崩れるような気がして・・・


必死に必死に逃げて、逃げて、逃げて


ふと思い出したときには、
無我夢中で誰かを抱いた

誰でもよかった・・・
464 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/19(火) 18:45
こんなに酷いヤツのどこがいいんだ

頭では自分を卑下しながら、
本当は相手がアタシに優しく微笑んでくれることが嬉しかった


こんな悪魔に対しても笑ってくれる人がいるんだ


その笑顔は仮面を被ったアタシに対してだって
分かってはいたんだけど、そんなのはどうでもよかった


お願い、お願いだから
アタシを否定しないで

アタシの存在を否定しないで


ずっとずっと助けを求めてたんだ
465 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/19(火) 18:45
でも本気で願ってなんかいなかった
きっとこのままアタシは死んでいくんだって思ってた


ま、そんな人生も悪くない
なんて格好付けながら・・・


1人になるのが怖かったんだ
だから誰かに呼ばれては抱いてみたり、優しい言葉をかけて、
必要としてもらおうとしてた


でも、梨華ちゃんに出会って、
無意識のうちに1人でいることが寂しくなくなってたのかもしれない


1人のときもメールをしたり、
電話をしたら彼女と繋がってられるって感じたから


だからアタシは全ての女と縁を切ったんだ
466 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/19(火) 18:46
アヤカ――――――――



もう、いいよね?


アタシ、幸せになっていいんだよね?



許して欲しいなんて思ってない


ずっとずっとアヤカのことは忘れない


きっと死んだ人にとって、
一番悲しいことは忘れられることだと思うから
467 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/19(火) 18:47
これからは、“さよなら"の代わりに
“ありがとう"を言い続けるよ


アヤカに出会ってよかった


辛いとき、楽しいとき、悲しいとき、
いつでも一緒にいてくれたのはアヤカだった


小さなアタシを・・・捨てられたアタシを・・・
軽蔑しないで、優しく接してくれてありがとう


そして、好きになってくれて
ありがとう――――――――

468 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/19(火) 18:48
その夜、アタシと梨華ちゃんは初めて体を重ねた

必死だった

こんなに愛するってことは大変なんだって思った


優しく、傷つけないように・・・

少し油断すると、
この子を全部自分のものにしたくて
壊してしまいそうだったから・・・

自分は何をされてるっていうわけじゃないのに、
鼓動がどんどん早くなっていくのを感じた


何回もしてきたことなのに、
今までとは全然違くて・・・
469 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/19(火) 18:49
どうしたらいい?
アタシは愛せてる?
乱暴じゃない?優しく愛せてる?


梨華ちゃんと同じように
アタシは汗でびしょびしょだった


とにかく必死で必死で・・・


汗で額にくっついていた前髪を
彼女が目を細めながら整えてくれた


「伝わってるよ?ひとみちゃんの気持ち」


まるでアタシの不安な気持ちを分かっているかのように
梨華ちゃんはそう言ってくれた
470 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/19(火) 18:50
「こんなに・・・こんなに大事に愛してくれるのは
ひとみちゃんが初めてよ?」


アタシの頬を両手で包んで、
目に涙を浮かべてた


生まれたままの姿で抱き合って
2人で呼吸を整えた


「私が・・・あなたの恋人役にもお母さん役にも
お父さん役にも友達役にもなるから・・・
弱いひとみちゃんも強いひとみちゃんも全部包み込むから

自分のこと抑えないで?
わがままになっていいんだよ?――――――――」
471 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/19(火) 18:50

“ありがとう"って言う代わりに、
首筋に顔を埋めた


すぅーっと匂いを嗅ぐと
とても甘くて優しい香りがした


アタシはたった1人の女の子に出会っただけで、
世界一不幸な人間から世界一幸せな人間に変わった――――――――



472 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/19(火) 18:50
473 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/19(火) 18:50
474 名前:ルビ 投稿日:2012/06/19(火) 18:51
本日は以上です。
475 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/20(水) 01:33
胸がキュンとなりました
476 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/21(木) 01:01
矢口のマネとか有能なのは事務所辞めていくんだろうな
477 名前:ルビ 投稿日:2012/06/30(土) 14:14
>>474 ありがとうございます。
是非、最後まで見てください!
478 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:15
   
479 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:15
   
480 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:16




「梨華ちゃん、ここどこ?」
「どこって、遊園地だけど?」


梨華ちゃんと付き合いだしてから1ヶ月が経った

付き合ってからも梨華ちゃんは梨華ちゃんで、
相変わらずよく喋るし、よく泣くし、
よく食べるし、よく寝るし

お母さん役とかお父さん役とかって言ってたのに、
結局はどっちかっていうとアタシの方が親みたいだった


梨華ちゃん家に行っては片付けて、
適当に畳んである洋服を綺麗に畳み直したり、
コンビニ弁当でご飯を済ませようとする梨華ちゃんに
ご飯の作り方を教えたり・・・
481 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:17
そんで今日は麻琴に言われて、
初めての遠出のデート


『たまには遠いところにデートしたらどうスか?』
『いや、でも屋台あるし』
『親分がいても、いなくても、あんま変わんないから別にいいスよ?』


皮肉にも似た言葉だったけど、
麻琴の優しさだと思って、素直に甘えた


仕事が終わって、屋台に来た梨華ちゃんに
どこがいいか聞くと、凄く悩み出した

なかなか決まりそうにならなかったからか
麻琴がポツリと言った


『ディズニーランドとかどうですか?』
『えぇ!?でも・・・ひとみちゃん、興味ないでしょう?』
482 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:18
少し投げ捨てたように
梨華ちゃんはアタシの方を向いた


ケッケッケ


それがあるんだな


何を隠そう、アタシはディズニー好きなのだ
人生に疲れた、みたいなことを言ってるけど
アタシにだって、好きな物の1つや2つあるんだな


『あれ、知らないんスか?親分ディズニー大好きなんスよ』
『えー!?そうなのー!?めちゃくちゃ意外!!』
『顔に似合わないですよねー』
『うん、似合わなぁい!!』


ぶつくさ言ってる連中は気にせずに
アタシはディズニーランドに行くシュミレーションをしてた
483 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:19

中に入ったら、
きっとミッキーとかミニーがいるから
即写真撮って、ディズニーグッズを買って・・・
それからそれから・・・


アタシは傍でこそこそ話している2人を放っておいて、
頭の中はディズニーたちでいっぱいだった



・・・――――――――



なのにさー

なんだよ、遊園地って・・・


アタシは乗り物に乗りたいんじゃないんだよっ
ディズニーに会いたいんだよ!
484 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:19
隣でニコニコ笑ってる梨華ちゃんが
ふてくされているアタシの手を引っ張る

ったく、こんなことになるんだったら
行き方とか梨華ちゃんに任せるんじゃなかった

初めてのちゃんとしたデートだからって
凄い張り切って準備してたけど・・・


「もう、ひとみちゃん!ちゃんと自分で歩いてよお」


子供のように手を引かれてるけど、
周りから見れば、何やってんだって感じだよね


梨華ちゃんが女同士だと外で手繋いでたら、
変な目で見られちゃうから男の子っぽい格好にしてって言われて
前以上に男っぽい格好をするようになった

だから周りから見たら、駄々をこねてる彼氏を
彼女が引っ張ってる状態?なのかな・・・
485 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:20
でも今のアタシにはそんなのどうでもいいんだ


「なんで遊園地なの!?ディズニーつったじゃんか!」
「だって!!」


アタシに見切りを付けたのか、
呆れたように手を離して、こっちを向いた


「だって、なんだよ」

「ひとみちゃん、お金持ってないでしょう?
知ってる?ディズニーランドってお金高いんだよぉ?」



あ゙・・・

そうだった


前まで外に行くとき、いつも誰かに払ってもらってたから
金のことなんて考えてなかった
486 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:21
ってこんなこと言ったら、梨華ちゃん怒るよね


アタシが口を摘むんでいると


「はぁ・・・帰る?」


俯いているアタシの顔を困ったように覗く


「ううん。帰んない。遊園地行くよ」
「よし!・・・ほらっ」


落ち込んでいるアタシを気遣ってか、
梨華ちゃんは笑顔でアタシに手を差し出してくれた


それだけで自分の気持ちが弾んで
勢いよく彼女の手をとって、走り出した
487 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:22
結局、遊園地代もアタシの財布にはなくて、
半分出してもらった


本当はおごる立場なのにね・・・


なんて呟いたら、
“ひとみちゃんも女の子なんだから、別に関係ないよ"
って言われた

まあそうだけどさ〜


こんな格好までしといてさ、
周りから見ると、彼女に払わせてるってことじゃん?


それって、めちゃくちゃ格好悪いっしょ・・・
488 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:22
   
489 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:23
「ね、あれ乗ろ!」
「え・・・い、いや・・・」
「いいから、早く」


梨華ちゃんが指さしたのは、
子供が乗るようなジェットコースター


梨華ちゃんもジェットコースター苦手なのかな・・・


で、でもさ・・・
こんな小さくても、アタシは・・・


「楽しいね!ひとみちゃんっ」
「う、うん」


横でベルトを持ちながら、
ニコニコ顔で足をブラブラしている梨華ちゃん
490 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:24
その姿は他の子供と変わんない


周りは子供だらけっつーのに、
よくこんな満面の笑みで足ブラブラなんて出来るね・・・



「出発進行ー!」



お姉さんの陽気な声で子供たち+大人2人を乗せた、
可愛らしい乗り物が動き出す



う・・・う・・・うおおおおおお!!!
ぎゃーーー!!!


無理ーーー!!!



はあ・・・はあ・・・
491 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:25
周りの子たちがアタシを見て、
くすくす笑ってる…なんてのは気にする暇もなく…


「次、お化け屋敷ぃ!!」
「え、無理無理!!」
「ひとみちゃん、お化け怖いんだぁー」
「んなわけないじゃん!!」
「じゃー行こう!」


アタシ、上手く乗せられてる?


つか、梨華ちゃんお化け大丈夫なの?


「いってらっしゃーい!」


これまたお化け屋敷に不似合いな陽気な声で
手振って、笑顔なお姉さん
492 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:27
やべ…

ム、ムリ…

ちょ、ちょっと待て…

ぎゃああああ!!

梨華ちゃあん!梨華ちゃん!!

もう何よっ

なんか当たった!!誰かいるよ!!!

もうっ!ほら、腕掴んでて?

わ、分かった…

い、いやあああ!!ぎゃああ!

もう、ひとみちゃんうるさいっ!じっとしててよ

493 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:28
ム、ムリだっつーの…あ、梨華ちゃん先行かないでっ

だから腕掴んどきなさいって言ったでしょ!

分かったから、置いてかないでよ

はいはい、あ、もうすぐだよ、ひとみちゃん

マジで!?…ってぎゃああああ!!

もうひとみちゃん!!入り口そっちじゃないから!こっちだって

無理!そこになんかある!!

大丈夫よ。こんにゃくだから

嘘だ!こんにゃくなわけない!!誰かの手でしょ!!

違うから…ほら、私に捕まってたら大丈夫だから…ね?

う、うん…
494 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:29
「はぁ…はぁ…」


もうぜってー来ない!!!!!


お化け屋敷なんてクソくらえだ!


「ひとみちゃんも女の子なんだね。
なんか新たな一面はっけーん!」


外に出てから、やっと今自分が置かれてる状況を把握できた

たかがお化け屋敷で彼女を前にして
げんなりしている彼氏…ってかアタシ…





すっげー格好悪い?
495 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:30
顔から火が出るんじゃないかってくらい、恥ずかしい


「ね、ひとみちゃん!」
「な、なに」


嫌な予感…



「あれ乗ろぉー!!」



恐る恐る梨華ちゃんが指す方を見ると…



「うえー!!まじで!?」



で、で、でけー!!!
496 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:31
目の前に巨大ジェットコースター


長い上にぐるんぐるん回って…
ひっくり返ってるよ


「ね?ひとみちゃんっ」
「む、無理!絶対無理!!!」


アタシは巨大ジェットコースターとは反対の方に歩き出す


あんなの乗ったら、心臓止まるよ
あーもー絶対来ない!遊園地なんか!



ポツポツ歩いてると、
後ろから…



「やだやだ!乗りたいよー!!」
497 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:32




「…」






きっと違う人だ


うん、違う人違う人!


声は似てるけど、世界は広いんだからね

ほら空はこんなに広いんだ
手を広げると全身で風を感じられる

目を閉じると、わいわい楽しんでる子供の声
いちゃいちゃして、幸せそうなカップルの声
長年寄り添った夫婦のまどろんだ優しい声
498 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:33
「嫌だーー!!いじわるぅ!!
乗ってくれないと、泣いちゃうよぉ!」








……



27歳の女が遊園地で泣くなんてありえない、ありえない


違う人、違う人!


てか梨華ちゃん、どこ行ったんだー?
499 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:35
拗ねてどこか行っちゃったかなぁー


後ろを振り向かずにキョロキョロ




「もーー!ひとみちゃんなんて、大っ嫌い!!
無視するなら、別れるもんねーっ」




……



500 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:35





「たのしーね!ひとみちゃんっ」
「そーだね」



目の前にはグルグルのグデングデンな道へ続くレールがすぐ見える


横にはもはや悪魔にしか見えないアタシの恋人がいる


「おもしろいね!ひとみちゃんっ」
「そーだね」
「ワクワクするね!ひとみちゃんっ」
「そーだね」


どこが楽しいんだ
どこが面白いんだ
どこがワクワクするんだ
501 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:36
そんなことを言う気力なんてない
相槌うつことだけで精一杯




「出発進行!!」




クッソ


また陽気な声しやがって・・・
大体ここの従業員たちはそもそも乗れるのか!?
乗れないのに、陽気な声で出発進行!なんてこと言ってるんだったら・・・



「ひとみちゃん!ひとみちゃん!
もうすぐで落ちるよおお!!」



え、まじ!?
502 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:37



うおっ!!!


やべっ



ギャーーーーー



体が逆さまになったような
もう周りの声なんて聞こえない
目の前が真っ白


やべー・・・


あたし、ここで死ぬのか・・・
503 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:38




……




「…ですか?…だいじょうぶですか!?」




ん…?



なに…




「大丈夫ですかっ!?」

504 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:39





スローモーションのようにゆっくり目を開けると、
目の前にはさっき陽気な声でアタシたちを送り出したお姉さんがいた



「ぁ…」



周りにはさっきまで乗っていた人は誰もいない


自分の置かれた状況がはっきりと分かって
一気に恥ずかしくなった


「す、すいません…」

505 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:40

必死に立ち上がろうとしてるけど、
腰がガクガクして立ち上がれない


やっべー
超ハズカシイよぉ


横を見ると、
アタシを不思議そうな顔で見ている人たち…



「ちょ、ちょっと…手貸してくれませんか?」



506 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:41
   
507 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:42




こんにゃろー


自分でも顔が真っ赤になってるのが分かる
恥ずかしすぎて、消えてなくなりたい


そう考えながら、周りを見渡す


失神しているアタシを置いて、
そのままどこかに行ったアイツ…


石川梨華め…


絶対に許さねー!!

508 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:42
連絡しようと携帯をポッケから取りだそうとしたとき、
目の前のトイレから、ふらふらと出てくる人、発見



「ゔぅ…」



変な声を出しながら、壁にもたれかかってる



……




「石川梨華さん?」


509 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:43
涙目で俯いていた顔をあげ、
アタシの姿を捉えると、目を大きく開き、
気まずそうな顔をする



「“楽しいね!ひとみちゃん"って言ってたのはなんだったの?」
「え、いや…その…」
「なんで乗れないのに、乗ろうとするかなー」



本当…負けず嫌いなんだから…
どうせ、パンフレットかなんかに


日本一のジェットコースター!
果たしてキミは乗れるかな?



とかなんか、挑戦的な紹介文でも書いてあったんだろう…
510 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:44


「あの…」
「もう、負けず嫌いなのはいいけどさー」
「…がうのっ…ちがうの…」
「…へ?」




……



それから梨華ちゃんは話し出した…


アタシとデートするって決まった日からの
梨華ちゃんの計画を…


511 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:45




前に梨華ちゃんは麻琴に


『ひとみちゃんはなんでも完璧にこなすのは格好良いんだけど、
格好悪いひとみちゃんも見たいよー』


なんて嘆いてたら、麻琴が
アタシの苦手な物、絶叫系、ホラー、蛇を言ってくれたらしい



それで、そのあと、上手く麻琴がデートにディズニーランドを勧めてくれた
のはよかったんだけど、お金がない上に、ディズニーランドには、
絶叫系もお化け屋敷も少なかった

それでいつの間にか梨華ちゃんの頭はディズニーじゃなくて、
絶叫系、お化け屋敷っていうキーワードだけになっちゃって、
結局、遊園地になってしまったらしい
512 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:46
梨華ちゃん自身も絶叫系はそんな強くないけど、
アタシの怖がる姿を見たくて、今日一日はしゃいでるフリをしてたらしい

でもね…



「ひとみちゃんの可愛いところ、
たくさん見れちゃったっ」



ボッ



顔がゆでだこみたいに真っ赤になるのが分かる



「ば、ばかじゃないの」
「ふふ…可愛かったなあ!
涙目になりながらアタシの手をぎゅーって握っちゃって」
513 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:49
やっぱり、こいつは悪魔だよ…


「はぁ…もう十分でしょ?」
「うん!」
「じゃあ、梨華ちゃんの本当に乗りたい乗り物に乗ろうよ」
「いいの?許してくれる?」
「うん。いーよ…もう」


半ば、どうでもいいっつーか…
もう怒る気力もないっつーか…


「じゃあ、アレ!!」


と指さしたのは



メルヘンチックなメリーゴーランド

ふふ…
やっぱ梨華ちゃんはこうじゃないとな…
514 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:50






「もうそろそろ帰らないとね」


辺りは真っ暗で、子供たちの姿もいつの間にか消えていた
少し肌寒い風がアタシたちを包む



「そうだね」



アタシたちを繋ぐ暖かい手を感じながら、
コツコツと歩き出す




あ!そうだっ
515 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:51
「ね、観覧車乗ろーよ」
「え?」
「やっぱ、遊園地来たら、観覧車乗らないとダメっしょ!」



繋ぐ手を引いて、反対方向に歩き出す



「ん、梨華ちゃん?」



なぜか梨華ちゃんはアタシの手を握ったまま、立ち止まった

不思議に思って、後ろを振り向く


「もう帰ろう?」
「え?まだ終電までは時間あるよ?」
「そうだけど…」
516 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:52
「なんか用事あるの?」
「…うん」


そっか…


ちょっと寂しくなった心を暖めるかのように
梨華ちゃんはぎゅっとアタシの腕にしがみつく


「ごめんね?」
「ううん!帰ろっか?」
「うん」


外は寒いはずなのに、
右半身はとても温かくて、とても癒された
517 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:53
   
518 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/06/30(土) 14:53
   
519 名前:ルビ 投稿日:2012/06/30(土) 14:54
すいません…
また間違えてしまいました…

>>493
入り口→出口


です。


すいません…

本日は以上です。
520 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/30(土) 21:31
すごく楽しい!ほんわかとしたとてもいい気持ちになります。この幸せはずっと続きますよね?
521 名前:ルビ 投稿日:2012/07/01(日) 14:52
>>520 ありがとうございます。
そう言っていただくと、とても嬉しいです。
幸せ・・・続くといいんですが・・・(汗)
522 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 14:52
   
523 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 14:53




「あ、また行っちゃった」
「ふふ、乗らないからでしょ?」



梨華ちゃんが降りる駅はまだ先なのに、
アタシが降りる駅で一緒に降りて、
ホームで少し話そうとは言ったものの、
1時間くらい、ずっと一緒にいる

しかも話そうと言ったのに、、
喋る言葉は少なくて、手を繋いで座っているだけ



「だって、一緒にいたいんだもん」
524 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 14:54
さっき用事あるって言ってたのにさ



「ひとみちゃんはもう帰りたい?」
「ううん、そんなことないよ」



次乗る!


って言ってから10回くらい、一緒に電車を見送ってる



「離れたくないなあ」



独り言のようにアタシの肩に頭を乗せて言う梨華ちゃんに
アタシはドキドキして胸が張り裂けそうになる
525 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 14:54
抱き締めたい

離したくない

全てを自分のものにしたい


自分の感情がいずれ梨華ちゃんを
壊してしまいそうで怖くなる


こんなに幸せなのに、
人を殺した父親の血が自分の体に
流れていることを思い出して、怖くなるんだ



好きだから、
大好きだから、

離れてしまったとき、
自分はどうなってしまうんだろう
526 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 14:56
怒りの矛先が自分じゃなくて、
梨華ちゃんに向かってしまったら、
アタシは梨華ちゃんに何をしてしまうんだろう


「ひとみちゃん?」
「…ん?」
「どうしたの?」
「なにもないよ」 


この不安をこの恐怖を
全部消したくて、握っている手に力を入れる

梨華ちゃんは何も聞かずに、
優しく微笑んで、ぎゅっと体をくっつける


「次、終電だね」
「うん…」


2人の間に沈黙が流れる

その沈黙がなんとなく寂しかった
527 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 14:56
「家に着いたら、メールして?」
「うん」
「絶対メールするんだよ?」
「うん」


「明日も屋台に来るよね?」
「うん!仕事終わったら、すぐ行く」
「そっか」
「うん」



……




「「あ」」



今日最後の電車が来た
528 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 14:57
それでも梨華ちゃんは立たない


「梨華ちゃん?」
「分かってる…行かないとね」


ため息混じりの声で呟いて、
手は繋いだまま立ち上がる


アタシも一緒に立ち上がって、
手は繋がれたまま、目の前の電車までゆっくりと歩く


終電なせいか、ほとんど人がいない


「っ…」


繋いだ手が離される瞬間がなんとなく怖くなって、
手を引っ張って、自分の胸に梨華ちゃんを閉じこめた
529 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 14:58
「ひとみちゃん?」
「ごめん…」
「ううん」


回していた手を離して、
梨華ちゃんの顔を見ると、
とても優しい顔をしていた


「家に着いたら、メールする」
「うん」
「絶対するね」
「うん」


繋がれていた手が離れて、
暖かかったはずなのに、とても寒く感じる


梨華ちゃんはこっちを向いたまま、電車に乗り込んだ
530 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:02


「バイバイ」
「バイバイ」


「またね」
「またね」


アタシは何も言うことが浮かばなくて、
梨華ちゃんの言うことを繰り返した


スローモーションのように
扉が閉まり、アタシと梨華ちゃんの間に大きな壁が出来た


梨華ちゃんは扉に手をついて、
笑顔で手を振ってくれる
531 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:06
なのに、アタシは遠くなっていく梨華ちゃんを見つめるだけで
何も動くことが出来ない

きっと泣きそうな顔してんだと思う

だって笑顔だった梨華ちゃんが
困った顔でアタシを見てる

そのあと、1分も経たない間に
メールが来た



from:石川梨華
sb:

ひとみちゃん、
寂しいの?


to:石川梨華
sb:

そんなわけないじゃん
532 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:07
ひとみちゃん、可愛い


バカ!


バカって言った方がバカなんだよぉ


なんだよそれ、子供かよ


ふふ…あ!格好良いお兄さんが乗ってきた!


は!?誰だよ、それ!


知らないよぉ…でも格好良いーっ
533 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:07
あっそ…


あ、ひとみちゃん、嫉妬してる?


するわけないじゃん!


ふふ…もう可愛いんだからー


なんだそれ!バカバカバカ




結局、梨華ちゃんが家に着くまで
アタシたちはずっとメールをしていた


きっと、梨華ちゃんとメールをしてるときのアタシは
デレデレしてて、人に見せれるような顔じゃないんだろうな
534 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:10
    
535 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:11





「ひとみちゃん」
「なに?」



白いワンピースを来て、
足下だけ海の中に入ってる梨華ちゃんが
笑顔でアタシを呼んでる


アタシはその梨華ちゃんの姿が
あまりにも綺麗で見惚れてしまう


まるで映画のワンシーンのよう……
536 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:12


「ひとみちゃん、今幸せ?」




少し遠いところに立って、
梨華ちゃんを見ていたアタシの方に
ゆっくりと梨華ちゃんが近づいてくる



「なんで?」
「なんとなく」



そんなの決まってるじゃん


今のアタシにとって、
キミがいてくれればアタシはいつだって幸せなんだよ?
537 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:13
どんなにキツくても、
辛くても、なんでも頑張れるんだ



「幸せだよ…すごく」



笑顔で微笑んでいる彼女が
アタシの目の前にいて、アタシを小さな手で包んでくれる



「よかった…好き?私のこと」
「どうしたの、今日の梨華ちゃん、なんか変だよ?」
「変じゃないよ、いつも通りだよ」



そっか、いつも変だもんね
538 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:16
なんて言うと、梨華ちゃんは首に回していた手に
ぎゅっと力を入れた


「いてて…」
「もー!」
「ごめん、ごめん」


好きだよ、

すごく好きなんだ、

梨華ちゃんのこと


照れたのか、梨華ちゃんはアタシの鎖骨に額をくっつける



「なんで、照れんの。自分で聞いたんでしょーが」
「そーだけど…こんなに直球に言ってくれるとは思わなかったんだもん」
539 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:17
梨華ちゃんの顔を覗くと、
真っ赤にして、口を尖らせてる


チュ


可愛い唇が愛しくて、
自分の唇にそっと重ねた


「ばかぁ」
「どうせ、ばかだよ」


再び唇を重ねる


今度は深く深く


自分の気持ちを伝えるように…
540 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:18
541 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:20



「暗くなってきたね」



昼間に来たのに、もう辺りは薄暗くて、
時間の経つ早さを改めて実感する


静かな海岸に海の音だけが響き渡る



「もう帰る?」
「うん」
「この前みたいに遅くならないよーにしなくちゃね」
「なんでよー!ひとみちゃんだって、寂しかったんでしょう?」
「寂しくなんてなかったよ。寂しかったのは梨華ちゃんでしょ?」


なんて言葉を交わしながら、
駅に向かう
542 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:20
   
543 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:22




結局、梨華ちゃんはアタシが降りる駅で降りて、
ほとんど言葉を交わさないで、ずっと手を握ってる


「次、終電だよ?」
「うん、分かってる」


今日の梨華ちゃんは少し甘えん坊みたい

いつも以上にくっついてくる

でもそんな梨華ちゃんがたまらなく愛おしい…


「ね、ひとみちゃん」
「なに?」
「私と離れたくないって思う?」
「へ?」
「いつも一緒にいたいって思う?」
544 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:23
肩にもたれていた梨華ちゃんが
急に体を起こして、アタシの方に体を向ける



「え…ど、どうだろ…」



離れたくないよ
いつも一緒にいたいよ


でも恥ずかしくて、言葉に出ない


「私はいつも一緒にいたいって思う!
こうして、別れるとき…すごく寂しいんだもん」


いつだって梨華ちゃんは素直だ
545 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:24
アタシだって、付き合いだした頃よりかは
素直になってる

けど、梨華ちゃんにはかなわない


驚くほどの愛情をアタシにぶつけてきてくれる



「ひとみちゃん?」



不安な顔で、梨華ちゃんはアタシの顔を覗く



「…たくないよ…」
「ん?」
「離れたくない…いつだって、どんなときだって、一緒にいたい」
546 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:24
そう言うと、梨華ちゃんは満面の笑みを見せる



「合格!」




は?



「ご、ごうかく?」
「そ!吉澤ひとみさんは私の愛のクエスチョンに
見事正解しましたので、ご褒美をあげたいと思います!」



なんだ、それ…
547 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:25
梨華ちゃんはポケットに手を入れて、
何かをつかんで、拳をアタシの前につきだして、
手を開いてと催促する


アタシは両手をくっつけて、手を開く



「はい、どーぞ」



ポトン…




「これ……」
「へへ…私の家の合い鍵」


その鍵には可愛いダッフィーのキーホルダー
548 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:26
「見て、お揃いなの」



笑顔で同じキーホルダーがついた、
もう1つの鍵を顔の前に持ってくる



「…」
「ひとみちゃん?」



っ…



梨華ちゃんの持ってる鍵ごと、
強く強く抱き締めた



「ありがと」
549 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:27
梨華ちゃんもアタシの背中に腕を回して、
力一杯抱き締めてくれる


「一緒に住も?
ずっと考えてたの…ひとみちゃんの家、寒いし、狭いから…
私の家だったら、あの家よりは広いし…
なによりいつでも一緒にいれるでしょ?」


首筋に顔を埋めると、
小さく微笑みながら、話を続けた


「ひとみちゃんを守りたいの
どんなひとみちゃんも全部包み込んであげたいって思うの…
愛されてるんだって実感してほしいの…孤独なんかじゃな…」





…っ――――――――
550 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:28
噛みつくように、キスをした


自分の中の何かが溢れてしまいそうだった


ううん…


もう溢れちゃってる…



「…ひとみちゃん」



前がぼやけて梨華ちゃんの顔が見えない
拭っても拭ってもはっきり見えないよ…


梨華ちゃんの顔が見たいのに…
551 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:28
「だめ、そんなに目を擦ったら痛いでしょ?」



そう言って、梨華ちゃんはアタシの手を優しく包んで、
膝の上に置いて、自分の手で溢れる涙を優しく拭ってくれる




「うぅ…んぐ…あり、がと」




やっとの声でそう言うと、
優しく頭を撫でてくれた
552 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:29



それから数分して、終電が来た



前と同じように、
こっちを向いたまま電車に乗る



扉が閉まろうとするとき、
アタシはふとしたことを思い出した


「り、梨華ちゃん!」
「ん?」
「…今、幸せ?」


扉は閉じてしまって、
扉の窓越しに、梨華ちゃんは笑顔で頷いた
553 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:33
「よかった…」



今度は寂しい顔なんてしない
笑顔で送ってあげるんだ


笑顔で手を振る梨華ちゃんに
応えるようにアタシも笑顔で手を振った







だけど…


そのときは気づいてなかったんだ…

アタシがふと梨華ちゃんから目を離したときに、
悲しそうな顔をしていたことに…
554 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:35
     
555 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:36
アタシは今までずっと孤独な狼だった



周りに人がいない訳じゃない


でも、いつも孤独を感じていた



愛されなかった悲しみをずっと背負って、
外面ではいい顔をし、本当は冷たい心を持つ


1人の方がいいんだ


1人の方が楽だ


そう思ってたから…
556 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:37
でも…


彼女に会って、アタシは変わることが出来たと心から思う


泣くことも笑うことも怒ることも
教えてくれた彼女…



そんな彼女をこれからもずっとずっと愛していこう
ずっとずっと一緒に生きていこう










そのときは…
そう思ってたんだ…
557 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:38



だって、このときのアタシは知らなかったから…



アタシ以外に
もう1人の孤独な狼がいることを…


558 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:38
   
559 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/01(日) 15:38
     
560 名前:ルビ 投稿日:2012/07/01(日) 15:46


悲しきlone wolf 上


561 名前:ルビ 投稿日:2012/07/01(日) 15:47
やっと上中下の上が終わりました・・・

なので・・・まだまだ長いですが、
読んで下さったら、嬉しいです。
562 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/07/01(日) 15:52
うお、これで上ですか!?
まだまだ楽しみにしてます
563 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/07/02(月) 00:47
ウルウルしてます目は真っ赤です 。
そうですか上ですか?中と下が待っているのですね。気合いをいれて更新を待ちます!
564 名前:ルビ 投稿日:2012/07/08(日) 15:12
>>562 ありがとうございます。
まだまだ先は長いですが、最後まで読んでくださいっ
>>563 ありがとうございます。
最近、更新が遅れ気味ですが、8月からは時間あるので、
それまで更新は少ないですが、最後まで読んでください!
565 名前:ルビ 投稿日:2012/07/08(日) 15:15
悲しきlone wolf中を書く前に、
息抜きとして1つ上げます。
566 名前:ルビ 投稿日:2012/07/08(日) 15:16


『初々しい2人!?』

567 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:17
リアルの続編です。
568 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:17
   
569 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:18





「初めて会ったとき、ビビっときたの?」


今日はモーニング娘。OGの飲み会


中澤さんが結婚して、
何回も飲み会はしてるのに、
ここずっと、話題の中心は中澤さんの結婚話だ


同じような話を毎回のように聞く矢口さん
その話を一緒になって、キャーキャーなってる先輩たち

最近の飲み会ではよく見る光景



「あれ、梨華ちゃん、なんでここにいるの?」
570 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:19
だけど、ただ一つ違うこと…


「え?なんで?」
「よっちゃんのところ行かないの?」


私とよっすぃーが付き合いだして、
初めてのOG会


なんとなく、気づかれちゃいけないと思って、
変に意識してしまう


そう…


私とよっすぃーが付き合っていることは、
誰にも教えていない
571 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:19
ただ一人、教えている人…


それが今私の横にいる圭ちゃんだ


誰か1人は知っている人がいた方がいいって
よっすぃーを説得して、圭ちゃんに報告したけど、
実は何も考えず惚気られるっていうのが本当の理由だったり…



「ほら…普段は一緒にいるし…」
「なに、それ惚気ー?」
「違う、違う!」



そもそも、こうした飲み会のときは
私とよっすぃーは離れてることが多い
572 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:21
“中間管理職”



それを無意識で感じちゃってるから、
2人で固まったらダメだっていうのが…
私たちの暗黙の了解


でも、付き合う前はどれだけ離れていて、
どれだけくっついてたか分からない

だんだん時間が経つにつれ、
みなさん酔っ払っていって、
私も同じように酔っ払って…

酔いが覚めたときによっすぃーが潰れちゃう

そのよっすぃーを連れて帰るのが私の役割だ

それまではあまり喋ったりしてなかった
573 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:22
「旦那さんとの初めてのキスはぁー?」


目の前の矢口さんはどんなときより、
目が輝いて見えた


「えぇ!?そんな…恥ずかしいやろ…」


初めてのキス…





574 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:22





私とよっすぃーの初めてのキスは
ロマンチックなものでもなんでもなかった



『り、梨華ちゃんっ』
『…なに?』



なんとなく分かってた

よっすぃーが私の家に来てから、
異様に機嫌をとってきて、私と目が合う度に
目を逸らして、顔を真っ赤にしていた
575 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:23
あー


また圭ちゃんからそそのかされたなぁって…


別にどっちも同じ女の子なんだから、
どっちが先とかどうでもいいのに…


だけど、緊張しちゃっているよっすぃーが可愛くて、
そのときの私はいじめたくなっちゃったの


『あの…』
『そうだ!ひーちゃん、ライブDVD見よーっ』
『…え…う、うん』



ソファーの隣に座っているよっすぃーは
分かりやすいように落ち込んでる
576 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:23
DVDを見てる途中、何度も視線を感じた


私の顔、時計、テレビ


視線はその3つにしかいってなくて…


その姿が本当に可愛くて…


いじめるのが可哀想になってきた


『ひーちゃん』
『な、なに?』


名前を呼んだだけなのに、
目を見開いてるよっすぃー
577 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:24





『キス、しよっか――――――』




よっすぃーは驚いたように、
何度も瞬きをした



『え…えぇ?』
『どうしたの?』



へこんだようによっすぃーは頭を抱えだした
578 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:25
『あたしから…言うつもりだったのに…』
『別にどっちでもいいでしょう?
キスするのに代わりはないんだからっ』



はあああ…



呆れたような大きなため息が
私の部屋に響いた



『もう…梨華ちゃん、ムードなさすぎ』
『ひーちゃんが考えすぎなのよっ』



2人で言い合ってると、
またキスをするタイミングが分かんなくなった
579 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:25
『どっちが…近づく?』


よっすぃーは眉をひそめて、
私の顔を覗いた


『…ジャンケンで決めよっか?』
『はあ??』


最初はグー
じゃんけんポン!!


あわわわわっっ



『はい、ひーちゃん!』
580 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:26
慌てた姿を片目で見て、
私は目を閉じた


『あーもうっ』


目を閉じたせいか、
音がよく聞こえる


ひーちゃんが焦ってるような
息遣い…

近づこうか迷うように、
上半身をいったりきたりさせている服の音

深呼吸をしている音…



…――――――――
581 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:26








って…

はよせんかいっ!!!



頭に来て、目を開けたら
うずくまってるひーちゃんの姿



『なにやってるのよ〜』
『…超恥ずかしいんだもん…無理無理』
582 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:27




うわっっ


首を振りながら、
立とうとしたよっすぃーの腕を思いっきり引き寄せた



『意気地無しぃ』



思いっきり両手をよっすぃーの頬につけているせいで、
よっすぃーの口がおちょぼ口になってる



『り、梨華ちゃん?』



その可愛い口に…
583 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:27



チュ―――――――




『へへ…しちゃった』




初めてのキスはこんな感じだったのに、
今はひーちゃんの方が積極的


多分、このときひーちゃんの中で
何かが吹っ切れたんだと思う


だって最近のひーちゃん、
私を見る目が…


エロいんだもんっ
584 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:28






「梨華、好きだよ」



…へ?


なんですか…


気づいたら、矢口さんが凄い近さで
私の肩を抱いてる



と思ったら、だんだん近づいてくる…
585 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:28
ちょちょちょおおお



思いっきりチョップをしてやろうと思ったら、
目の前で静止して、すぐに顔を先輩たちの方に向けた


「どう?やっぱり、直球がいいと思うんだよねー」
「確かにー!」


なに、どういうこと!?



私が今の状態に焦っていると、
次は安倍さんが私の横にやってきた


「次なっちねー!」
586 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:29
さっきと同様、肩を抱かれる


「ね、梨華ちゃん」
「な、なんですか?」
「頭をなっちの肩に乗せてくれる?」
「へ?」
「いいからっ」


頭ごと押されて、
安倍さんの肩にもたれかかった




すぅ…




「梨華、お前のその唇を食べちゃいたい」
587 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:29








え、どういうこ…



また顔を近づけられ、目の前で静止した



「キャー!!なっちエロすぎぃ!」



どうやら、この人たちは私を使って、
好きな口説き文句を言い合っているみたい
588 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:30
なんて先輩たちだ…



「次は圭織の番だよー!」



かおたんと安倍さんがハイタッチをして、
あっという間にかおたんから肩を抱かれる









589 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:30




「まりっぺぇー」
「どーしたー?」
「好きぃー」
「矢口も好きぃー」



キャハハッ




はい、私完璧に潰れました…


いつの間にか先輩たちと恋人ごっこをしちゃってます…
590 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:31
「梨華ぁー」
「なあに?」
「ちゅー」
「アハッ…ちゅー」



タコチュー顔の矢口さんがどんどん近づいてくる







チュー



キャー!!
591 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:31
「梨華の唇おいしーぜ〜」
「まりっぺのくち…」




ガタンッ




わいわい騒いでる中に
大きな音が響いた



その音の方を見ると




592 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:32




「調子乗りすぎ」










「トイレ行ってきます」




勢いよく立ち上がって、
凄い眼力で私を睨み付け、
トイレに行ってしまった
593 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:32




「よっすぃー…」



うっすらとした意識の中、
私は状況が把握出来ない



「梨華ちゃん!」
「ふぇ?」
「よっちゃん、絶対怒ってるよっ!!」



近くにいた圭ちゃんが
私の腕を掴んでゆらすもんだから、
頭がクラクラ…
594 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:33
「え、よっすぃー嫉妬してるの!?」
「嘘ー!よっさんが嫉妬してるの初めて見た!」
「嫉妬と言えば、梨華ちゃんなのにねー」




…嫉妬?


よっすぃーが?


「どういうこと?」
「だから、梨華ちゃんがみんなと恋人ごっこしてるから、
よっちゃんが嫉妬しちゃってんの!凄い眼力で睨まれたでしょ?
あれは相当怒ってるよ!!!」







!!!!
595 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:34


ガタンッ




「梨華ちゃん?」
「よっすぃーのとこ行ってくる!!」
「1人で歩ける?」
「うん、だいじょーぶ」



だって、今の話聞いて
酔いが覚めたんだもん…


普段、私に対してあまり怒らないよっすぃーが
あんなに怒ってるなんて、初めて…


ヒューヒューなんて
言ってる他の先輩たちはスルーして、
トイレに向かった
596 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:35








ひーちゃん…




トイレのドアを開けると、
凄い勢いで顔を洗ってるひーちゃんがいた




「…ひーちゃん」



呟くような声に
ひーちゃんは気づいて、顔を上げた
597 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:35
鏡越しに私を睨み付けるひーちゃんが
初めて怖いと感じた



「ごめんね」



負けず嫌いで謝るのも苦手だけど、
自然と出た言葉にひーちゃんは驚いたのか、
眉をピクっと動かした




「…酔っ払ったら、いつもそうだよね
他の人に寄りかかったり、くっついたり…」
「うん…」
「女だからまだいいけどさ、男だったらどーすんの?」
「…」



はぁ…
598 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:36
何も言えない私を鏡越しでチラっと見て、
困った顔でため息を漏らした



「…ごめん」
「…もういいよ…」
「…ごめん」
「はぁ…帰ろ」


私の姿を見ないまま、
くるっと振り返って、ドアノブに手をかけた



ひーちゃんの後ろ姿はとても悲しそうで
とても切なそうで…




「ひーちゃん」
599 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:37
その背中に声をかけても、
振り返ることなく、呟くような声でなに?って言っただけだった



「こっち見てよぉ…」



酔いもあるせいか、
涙が出そうになった


なんで涙が出るか分からない

何に対して悲しいのか、寂しいのか…


分からなかったけど、
視界がどんどんぼやけていってるのが分かった



振り向いたひーちゃんは
私の顔を見た途端、眉をひそめて困った顔をした
600 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:37
「そんな…困った、顔…しないで?
私…のこと、嫌いに、なっちゃ、った?」



困ったように下唇を噛んでるひーちゃん…



「梨華ちゃん…」



やっと名前、呼んでくれた…




涙を拭おうと、手を顔に持っていこうとしたら、
手ごと抱き締められた
601 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:38
「嫌いなわけないじゃん…
嫌いだったら…こんな嫉妬しないよ…」
「ひーちゃん…」



私も手を背中に回して、
ぎゅっと抱き締める



「好きなんだ…訳分かんないくらい…
前も好きだったのにさ…付き合ったら、もっと好きになった…」



嫉妬するなんて…
格好悪いよね、あたし…



そう呟いて、私の肩に顔を埋めた
602 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:39
「ううん…嬉しいよ?嫉妬してくれて…
私も付き合ってから、もっともっと好きになった」



これ以上好きになるなんて思ってなかった

付き合う前も頭はひーちゃんばかりだったのに、
今は前以上にひーちゃんばっかりで、
テレビで自転車見ると、「ひーちゃん、最近自転車乗ってるのかなー」
とか、色々考えてたら、ひーちゃんに会いたくなる



12年も一緒にいるのにさ…
不思議だよね




「…同じだね」
「うん…でも!私の方がひーちゃんのこと好きだよ!」
「はぁ?あたしの方が好きに決まってんじゃんっ」
603 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:40





「よっすぃーと梨華ちゃん、遅いねー」
「私、呼んできますね」



まこっちゃんが席を立って、
トイレの場所を探してるのか、
キョロキョロと周りを見渡してる



…だめだ!!!

まこっちゃん、2人が付き合ってるの知らないんだ!



「まこっちゃん、私呼んでくるから!」
「え、いいですよ!私呼んできますから」
604 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:40

だめなんだって…


いくら2人の仲良し加減を知ってるからって…
前と今じゃ2人の関係性違うんだから…



どんなに親友でも
恋人という関係とではまるっきり違う


しかも…なんか嫌な予感するんだって…



「私、丁度トイレ行きたかったし…本当大丈夫だから」
「そうですか?…ならお願いしますっ」
605 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:41








あれ、誰もいない


どうやって仲直りさせようか
色々考えてたのに…


でもよく見ると、
鍵がかかってる個室が一つ…



もしかして…


その個室の前に立ってみる
606 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:42



でもなぁ…


「よっちゃん?梨華ちゃん?」


2人いるはずなんだけどなぁ…



不思議に思いつつ、
しゃがんで下を見てみると、
スニーカー発見



よっちゃんだ!!



「よっちゃぁん!出てきなさーい
あんなの、ただのお遊びなんだから…」
607 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:42




…ゴソゴソ



服のすれてる音がする



「まったく!返事しなさいよー」







返事がないのにしびれを来して、
ドンドンっと叩いてみる
608 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:43
「いい加減にしなさいよ!いつまで怒ってんのよっ
子供じゃな…」



ドンッ



いだっ!!!!



思いっきりドアが開いて、
おでこに直撃…


「ったく、開くって言ってから開きなさ…」



気まずそうな顔で頭をかいてるよっちゃん
609 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:43





のうしろに小さくなって、顔を赤くしてる…梨華ちゃん



「ご、ごめん…圭ちゃん」
「あ、あんたたち…ここで何をしてたの!?」



開いた口が塞がらないとはこのことだ


こんなとこまで来て…



「いや、圭ちゃんが想像してるよーなことは何もしてないよ!!」
「そ、そうだよ!こんなとこでヤッたら服とかどーすん…」
「ひーちゃん!!」
「あ、ごめんごめん」
610 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:46
キィーーーーー!!!



人が心配してるにもかかわらず
あんたたちは…



「そんなの分かってるに決まってるでしょ!?」
「「へ?」」


「大体あんたたち、まだキスまでしかしたことないでしょ?」
「え?知ってるの、圭ちゃん…」
「知ってるわよ。だってまだあんたたち初々しいもん」


2人は目を丸くして顔を見合わす


「ったく…じゃあキスはしてたわけ?」
「「…」」
611 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:47



こいつらー!!


絶対許さないっっ



さっき下から覗いたとき、
よっちゃんのスニーカーだけしか見えなかったのは、
梨華ちゃんがよっちゃんの上に乗っかってたから…
というのを本人たちから聞いて、再び発狂したのは言うまでもない

612 名前:初々しい2人!? 投稿日:2012/07/08(日) 15:47



おわり

613 名前:ルビ 投稿日:2012/07/08(日) 15:49
次からはまた本編の続きを書きます。

本日は以上です。
614 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/07/09(月) 00:09
本編も楽しみに待ってます。しかし今回のこれは大好物でございます!ひそかに「リアルじゃね?」と思っております!
615 名前:ルビ 投稿日:2012/07/15(日) 22:19
>>614 ありがとうございます。
でもこれがリアルだったら、妄想なんて必要なくなりますよね(笑)
ま、すでに現実が妄想を超えてる感アリアリですが…
616 名前:ルビ 投稿日:2012/07/15(日) 22:20
>>560の続きから書きます。

617 名前:ルビ 投稿日:2012/07/15(日) 22:21


悲しきlone wolf 中

618 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:21
   
619 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:23


一瞬でもいい。

このときが幸せであれば、
もう何もいらない。

贅沢なんて言わない。


だから、もう少し長く長く…



孤独から救ってくれたアナタといたい――――――

620 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:25


「あれ、久しぶりッスね、自転車」
「最近また自転車に興味を持ちだしてさ」


昔から自転車に興味があって、
自分の給料はほとんど自転車で消えていた


「梨華ちゃんにさ、自転車の話をしたら、
アタシの自転車を見てみたいって!だから、今日見せる約束したんだよね」


自分の家から梨華ちゃんの家に
持って行く最後の荷物がこのアタシの愛車

目を細めながら、目の前の自転車を優しく撫でる


「それ、社交辞令だよ…」
「ん?なんか言った、麻琴」
「い、いやなんもないッス…」
621 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:26




それから1時間後、梨華ちゃんが来て、
約束通り、自転車を見せた


「すごぉい!格好いい!!」
「でしょでしょ?やばいんだよー!このラインがさ――――――――」



……


30分後



「でね、色合いをさ、アタシは重視してて…」
622 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:26



……


「ね、麻琴ちゃん」
「なんッスか?」
「私の弾丸トークってこんな感じ?」
「…いや、もっとヒドイときありますよ」
「えー!もっとヒドイの!?」


「ちょっと、梨華ちゃん聞いてる!?」
「ごめんごめん」


自転車に触れながら一生懸命説明しているひとみと
対照的に梨華と麻琴はラーメンを食べながら、耳半分で説明を聞いてる

とくに麻琴は全く聞いてない様子
623 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:27
「ねー、自転車の話はもう分かったから、
ひとみちゃん、こっち座りなよー」


梨華ちゃんは自分の隣をトントンと叩く


…もう少し説明することあったけど、
ま、今日はここまでとするか!


「ふぅー」
「ひとみちゃん、自転車大好きなんだね?」
「うん、超好き!」
「今度乗っていい?」
「…うーん、それはダメかな」


自分の愛車に目をやる
624 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:28
「こいつはアタシしかダメなんだよ」
「…私でも?」
「うん、もしかしたら梨華ちゃんもいいかもしんないけど、
多分ダメだと思う…ごめんね、梨華ちゃん」
「そうなんだ…」


2人の茶番にしびれを来してる人から一言



「親分、私はダメっすか?」







駄目に決まってんだろーが、ボケッ!!!!!


625 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:28






「ね、ひとみちゃん」
「なに??」
「こういう自転車も格好良いけどさ、
私は2人乗りできる、普通の自転車がいいな」
「えー!?でも在り来たりじゃね?」
「だってさ…」



一緒に乗って帰りたいんだもん





ボッ
626 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:29
「…梨華ちゃん」
「ヘヘ」
「今はお金ないから、買えないけど、
いつかお金貯まったら、買おうねっ」
「やった!ひとみちゃん大好きっ」
「もー梨華ちゃんったら〜」





そして、このバカップルを見て、しびれを来している人から一言





「こんにゃろーーー!暑すぎなんじゃボケー!
さっさと帰りやがれってんだあああぁぁぁ」





627 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:30




「あれ、麻琴、今日店任せていいの?」
「へ?」
「いつもごめんね、麻琴ちゃん」
「は?」
「じゃー、また明日」




カツカツカツ




ぬおおおおおお!!!!!
628 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:30
     
629 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:31





From:石川梨華
Sub:

ひとみちゃん、ごめん(>_<)
今日、急に会社の人たちとの飲み会をすることになって、
遅くなりそうなの…
だから、先に寝てて?
本当にごめんね…




630 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:33
今日は木曜日


アタシと梨華ちゃんが付き合うようになって、
毎日やっていた屋台を月曜日と木曜日だけ休むことにした


だってさ、毎日2時近くに家に着いてたら、
ヤりたいことだって出来ないっつーの…


ま、休みの日をつくった本当の理由は
もちろん、梨華ちゃんには話してないけど…

梨華ちゃんに話したら、真っ赤な顔して怒られるだろーし



なのにさ、なんだよ…


せっかくの休みの日なのに…
631 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:34
どうせなら、屋台がある日にしろって


今までは飲み会があっても、休みの日だったら行かなかったのに…


毎日朝から夕方まで仕事をしている梨華ちゃんと
夕方から夜中まで働いてるアタシとではもちろん生活リズムが違うわけで…


その上、アタシは社会の常識なんて持ち合わせてなく、
梨華ちゃんと付き合って、初めて分かることが多い


上司から誘われたら、出来るだけ断ったらダメ
人間関係を大切にするためには、多少の過ちにも目をつぶる

その他もろもろ…

こういう話を聞く度、
多分、アタシは社会に出ても通用しなかったなと思う
632 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:36
悪いことは悪い
無理なことは無理

そんな当たり前のことが言えない世界なんて、
どこが楽しいんだ



「あ゙ーつまんね」



アタシにはちょっと不似合いなピンク色のソファに寝っ転がる


梨華ちゃんがいつも帰ってくる18時にはお風呂を沸かして、
ご飯を作って、ワクワクしながら待ってる


ちょっと前までは朝まで誰かん家に泊まって、
屋台までの時間を適当につぶしてたのに、
今では主婦かよって思うけど、梨華ちゃんを見送って、
もう一眠りして、掃除して、洗濯して、買い物行って、
ご飯作って、風呂湧かして、梨華ちゃんを迎える
633 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:37
人を変えるのはやっぱ恋なんだなー
って最近つくづく思う



「うまっ!!」



すっかり冷めてしまったご飯を一口だけ口に入れる



ギリギリまで待っていようと思ったけど、
すでに11時…


もうお腹空きすぎてヤバい…



「もういーや…食べよ」
634 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:37
635 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:38





「ん…ん…」



あ、やべ…
今、何時だ…


30分だけ寝ようと思って、
ベッドに横になってたけど、
今の時間は…2時!?


隣には梨華ちゃんの姿はない



もしかして、まだ帰ってないとか!?
636 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:39
勢いよくベッドから降りて、
ドアの前に立つ







ん?



なんだろ…なんか人の気配がする



「梨華ちゃん…帰ってきたのかな?」



ゆっくりとドアを開けて、
リビングの方を覗いた
637 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:40



「…梨華ちゃ…」




…うぅ…んぐぅ…





梨華ちゃんは泣いていた。



リビングは真っ暗で
1人、ソファに座って泣いてた。


時折漏れる嗚咽がアタシの胸に痛く刺さった
638 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:41
なんで泣いているの


なんで真っ暗にしてるの


なんでアタシの隣にいないの



聞きたいことはたくさんある



でもアタシは動けなかった。



泣いている彼女をボーっと見てることしか出来なかった
639 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:42




10分経っただろうか


それでも彼女は泣き止んでなかった


深呼吸をして、乾いた喉を潤すように唾を飲む








「梨華ちゃん」
「…っ…」



彼女の肩がピクンっと震えた
640 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:43
「なんで泣い…」
「ごめん、遅く、なっちゃ、った」



アタシに涙を見せないように
顔を背け、涙を拭いたあと、
アタシの方に振り返った顔は笑顔だった


でも声は途切れ途切れで
目も腫れていた



「本当、さ、中澤さん、が、離して、くれなくって」



何かを抑えるように、
胸に手をあてて、立ち上がり、
蛇口の水をコップに入れて一気に飲み干した
641 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:46
「美貴ちゃん、なんて、もう爆発、寸前でね」



どうして?


どうして、何もアタシが見なかったように振る舞うの?


何か聞いて欲しくないことがあるの?



もう用がなくなったはずなのに、
台所に手をついて、アタシに背を向けたまま



「美貴ちゃんを、お豆ちゃんが必死で、抑え、て」
642 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:47
まだ涙が零れているのか、
時折手を顔に持っていき、涙を拭ってる


アタシはその背中にゆっくりと近づいた



「なぁんで、中澤さんはあんなに、飲みた…」




…っ




「ひと、みちゃん」

643 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:48


抱き締めた。



悲しそうな背中を全身で包み込むように抱き締めた



「梨華ちゃん、アタシに隠し事しないでよ」
「…」



腕の中にいる梨華ちゃんを
ゆっくりとこっちに向かせる



俯いたままの彼女の頬に流れる涙を
手で優しく拭う
644 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:50
「梨華ちゃん…好きだよ?
アタシは梨華ちゃんのことが好きだから…
笑ってる梨華ちゃんも怒ってる梨華ちゃんも…
こうやって泣いてる梨華ちゃんも…」
「…ひとみちゃん」



やっと顔を上げて、
アタシを見てくれた



「だから、全部知りたい。梨華ちゃんの弱いところも」



何かも何もかも知っていたい


その気持ちを分かって欲しくて、
力一杯、彼女を抱き締めた


今度は背中だけじゃなく、彼女の全てを――――――
645 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:51





「…またね、上の人に怒られちゃったの…」
「へ?」
「バカだよねー…今の職場で何年やってんだって…」
「…そ、そんなこと!?」




ちょっと待て…



アタシはてっきり、梨華ちゃんの中に隠してる何かがあるのかと…



「そんなことって!ひとみちゃん、ひどいよー」
「ごめん、ごめん!もっと大変なことだと思ってたから」
646 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:51
本当、拍子抜けだよ…


さっき10分も突っ立ってた時間を返して欲しいよ



「大変なことって??」
「だからー例えば、親から虐待受けてて、それを思い出したとか??」
「…なにそれー!ドラマの世界だよ」
「そうだよね。ごめんごめん」



腕の中にいる彼女がやっと笑ってくれた



「もう寝よう!」
「そだね…あ!今から〜」
「ひとみちゃんが想像してるよーなことはしません!」
「あ、バレた?」
「明日早いんだからねっ」
「だって、月曜と木曜は絶対シてたじゃーん」
「しょうがないでしょー?飲み会入っちゃったんだから」
647 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:53
子供のようにふてくされてるアタシの手をとって、
ベッドに連れて行ってくれる


「でも、アタシの体は月曜と木曜は自然と梨華ちゃんを欲してんの!」
「なにそれ!そんなこと言って、土曜日と日曜日もでしょう?」


あ!そうだった!!

土曜日と日曜日は会社休みだから
昼から…


「なぁに想像してんのよ!もう寝るよぉ」
「えーヤダ」
「明日早いのー」
「ちょっとだけ」
「…きゃぁ…んぅ…ひ、とみちゃ」
「今夜は寝かせないかんね」
「…ひゃぁ…もぉ…」



結局その日、梨華ちゃんは目の下にクマを作って会社に行った
648 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:53
   
649 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/07/15(日) 22:53
650 名前:ルビ 投稿日:2012/07/15(日) 22:54
本日は以上です。
651 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/07/16(月) 00:45
でれでれのあまーい展開を希望しておりますがどうなるのですか!?
652 名前:ルビ 投稿日:2012/08/04(土) 23:39
>>651 ありがとうございます。
どうなるんでしょうか…

更新遅くなってすいません…
今回からは前のようにちょくちょく更新できると思います。
653 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/04(土) 23:40
    
654 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/04(土) 23:40
     
655 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/04(土) 23:40
それから1週間経ったある日――――――――




アタシと梨華ちゃんはいつも通り、
一緒に屋台を閉めて帰っていた



「ねー土日どこか行かない??」
「行きたい!!」
「どこ行く?」
「遊園地ー!」
「…」
「ひとみちゃん、ごめんって!嘘だよ嘘ー」
「…ったく」



いつも通り、手を繋いで
いつも通り、くっついて
いつも通り、笑ってた
656 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/04(土) 23:41
「んー何処がいいかなあ」



梨華ちゃんの返事を待ちながら、
何か音がする方に顔を向けた



あ…




ふざけんなよ!!!



てめぇー殺されてーのか!?



なんだと!?
657 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/04(土) 23:42
この時間にはよくある、
サラリーマンの喧嘩だった



「こんなとこで喧嘩すんなよー
近所迷惑じゃんねー?」


顔を梨華ちゃんの方へ向けた



「…ひ…とみちゃん」



梨華ちゃんが喧嘩をしている方を見て、
アタシの手をぎゅっと握った
658 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/04(土) 23:43
喧嘩を怖がってるんだ
可愛いな


梨華ちゃんはそんなこと言えるような雰囲気じゃなくて
明らかに明らかにおかしかった



目が動揺していて、
震えている手を口へと持って行き
必死に震えを抑えようとしていた



「どうしたの、梨華ちゃん?」
「…な、んでも…ない」



どんどん息が荒くなってる
659 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/04(土) 23:44
「梨華ちゃん!?」
「はぁ…はぁ、…んぐっ…はぁ」


涙が…


彼女の目からポロポロと涙が溢れ出た



「梨華ちゃ…」
「帰っ…て…」
「へ?」
「先に…帰っててっ」



叩き付けるようにアタシに言った



「で…でも…」
「…はぁ…んぐっ…本当に…いい…からぁ…」
660 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/04(土) 23:45
肩を上下に揺らし、
口を大きく開けて、しゃがみ込んでいる彼女を見て、
頭が真っ白になった




目の前に苦しんでいる彼女がいるのに、
アタシは動けなかった


じっとその姿を見てることしか出来なかった



アタシがまだ帰ろうとしないせいか、
這うように路地裏に行ってしまった



アタシは追いかけずに
梨華ちゃんが行った方をじっと見た
661 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/04(土) 23:46




30分後




様子を見ようと思って、
梨華ちゃんが行った路地裏を覗いた



「あれ…」



そこには梨華ちゃんの姿はなかった



「梨華ちゃん?」
662 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/04(土) 23:46
一通り呼んでみたけど、
返事はなかった




電話してみるけど、
繋がらない




『帰って』




さっき梨華ちゃんがアタシに向けて言った言葉


それが忘れられなかった
663 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/04(土) 23:47
普段の笑顔の梨華ちゃんが思い出せないくらい
怖い顔をして、声を絞り出すように叫んでた



行き場がなくなったアタシは
梨華ちゃんから言われた通り、家に帰った




家に帰っても、
梨華ちゃんの姿はなかった



電話を何度鳴らしても、
留守電になるだけ


すでに時間は12時を回っていた
664 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/04(土) 23:48
外に出て、探すか
家で待ってるか…


悩みに悩んで、
外に出ようと玄関に行って靴を履こうとしてたとき





ガチャン――――――――





ドアが開いた




「…ひとみちゃん!まだ起きてたの?」
665 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/04(土) 23:49
そこには普段通りの梨華ちゃんがいた



「ごめんね、ちょっと気分が悪くなっちゃって…
たまにね、ああいう風になっちゃ…」



っ…




「ひとみちゃん?」




目の前で苦しんでる梨華ちゃんに
何もしてあげられなかった罪悪感と
自分に対する嫌悪感が入り交じって、
おかしくなりそうだった
666 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/04(土) 23:50
でも目の前にいる普段通りの梨華ちゃんを見たら、
自分の中に入ってる力が抜けて、
気づいたら、梨華ちゃんを思いっきり抱き締めていた




「ごめん…」
「なんで?なんでひとみちゃんが謝るの?」
「いや…なんもしてやれなかったから…」
「私が帰ってって言ったんだから…
ひとみちゃんは何も悪くないよ?」
「でも…」



梨華ちゃんは体を離して、
頭を優しく撫でてくれた



「ごめんね、『帰って』なんて言って…」
「そんなの…きつかったんだろうし…」
667 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/04(土) 23:51
あんな梨華ちゃん見たことなかった
驚きすぎて、どうすればいいか分からなかった
でも…いきなりあんな風になるなんて…
もしかして…



「ひとみちゃんは何も考えないでいいよ?」



アタシが考えていることが分かったのか、
顔を覗くようにそう言った



「え?」
「ずっと…傍にいてくれればそれでいい。
何も望んでないから…私、ずっとひとみちゃんと居たいから…」
「梨華ちゃん…」
「ひとみちゃんと出会えて、本当によかったって凄く思うの。
今が一番幸せって思えるの。だから、何も考えずにずっと一緒にいよ?」
668 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/04(土) 23:52
梨華ちゃんの目には涙が溢れていた


優しく目を細めて、笑顔を向ける梨華ちゃんを見て、
アタシは心臓が壊れるんじゃないかってくらい、
ドキドキした




何も考えない…



確かにそうなのかもしれない…



変に未来のことを考えると、
前に踏み出す勇気がなくなってしまう
669 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/04(土) 23:55
女同士であることとか
アタシの過去のこととか


いっぱい抱えているものはあるけど、
一緒にいれば、大丈夫だってそう思う


例えこの先、梨華ちゃんに何が起きようと…
2人でいれば、大丈夫だ



考えれば、考えるほど
2人の未来を不安に思うくらいなら、
何も考えずに今を楽しむことが
アタシたちの未来に繋がるんだ
670 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/04(土) 23:55
671 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/04(土) 23:56







「それ、過呼吸じゃないッスか?」
「過呼吸?」



昨日あったことを一通り、麻琴に伝えた


一応…病気なのかどうかは知りたかったから…



「息が途切れ途切れで、震えてたんですよね?」
「うん」
「ビニール袋とか持ってませんでした?」
672 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/04(土) 23:57
うーん…



確かにいつも梨華ちゃんは鞄の中に
ビニール袋を持っている気がする


昨日はビニール袋を出している姿は見てなかったけど…



「過呼吸ってなにが理由で起こるわけ?」
「うーん…激しい運動をしたからとか…精神的に不安なことが起きたとか?」
「…そっか」




過呼吸なんて誰にでも起こりうるものだと思って、
そのときのアタシはまだ深く考えてなかった
673 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/04(土) 23:57





そして、それからすぐ、
ちょっとした梨華ちゃんに対する違和感が
確信のものへと変わっていった


「もしもし」
『すいません、あの吉澤さんですか?』
「…はい?」
『あの…私、石川さんの同僚のものなんですけど』
「…はい…」
『石川さんが…』




石川さんが…倒れました――――――――
674 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/04(土) 23:58
      
675 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/04(土) 23:58
       
676 名前:ルビ 投稿日:2012/08/04(土) 23:58
本日は以上です。
677 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/08/05(日) 02:07
どうなるの?はやく次を!
首をながーくして待ってます!
678 名前:ルビ 投稿日:2012/08/08(水) 11:41
>>677 ありがとうございます。
いつも遅くなってスイマセンッ

続き更新します
679 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/08(水) 11:41
    
680 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/08(水) 11:42
    
681 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/08(水) 11:43





梨華ちゃんの会社から電話があった



『石川さんが倒れました』

『いきなり過呼吸になって…』

『前から何度か過呼吸になったことはあったんです』

『でも倒れたのは初めてで…』



急いで、梨華ちゃんのいる病院に行った
682 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/08(水) 11:44
そして、梨華ちゃんの会社の人から
アタシの知らない梨華ちゃんをたくさん聞かされた



前から男の人が後輩とかに怒っていると
必ず過呼吸を起こしていた

でもそれをみんな分かっているから、
上司は梨華ちゃんの前では怒らなかった

けど、たまに梨華ちゃんの前で怒ることもあって、
そのときは必ず、パニック障害のような状態になる

何度か理由を聞いたけど、
大きい音が苦手と言うだけでちゃんとした返事は返ってこなかった

普通だったら、問い詰めるべきだけど、
普段の梨華ちゃんを見てたら、
過呼吸を起こす姿なんて忘れてしまっていたらしい
683 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/08(水) 11:45
「あの…なんで会社からの連絡がアタシに来たんですか?」


普通だったら、親の方に行くはずなのに…
まだ付き合って間もないアタシに連絡が来るなんて…


「…聞いてませんか?」
「へ?何を?」
「…梨華ちゃんの両親、亡くなられてるんですよ」
「…え?」


梨華ちゃんの親が…?



そんなこと1回も聞いたことなかった


確かに親のことは一度も聞いたことなかったけど
684 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/08(水) 11:46
「…なんで亡くなったんですか?」
「交通事故って聞いてます」
「…交通事故」
「今までは梨華ちゃんに何かあったら、
私に知らせることになってたんですけど…」
「あなたに?」
「はい…梨華ちゃん、家族が他にいないらしくて…
それで、保護者への連絡先は同期の私の名前を書いていたんですけど…
2週間前に私に何かあったらこの人に連絡してって、
あなたの携帯番号を預かってたんです。」


その人は眠っている梨華ちゃんを
心配そうに眺めて言った



「梨華ちゃん…きっと今が一番幸せなんだと思います。」
「え?」
「今まで、何人か恋人いたけど、どこか悲しい顔をしていたんです…
あなたと梨華ちゃんがどういう関係か…分からないですが、
きっと吉澤さんのおかげだと思います…本当にありがとうございます」
685 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/08(水) 11:47
深々とお辞儀をして、
優しそうに微笑み、
「失礼します」と言って帰って行った



今まで自分が思っていた梨華ちゃんは
いつも笑顔で可愛くて、苦しみなんて背負ってなくて、
子供の頃から真っ直ぐに育ってきたって…
そう思ってた


でも…違った



梨華ちゃんの過呼吸と
両親の交通事故とは何か関係があるんだろうか…



でも…それをなんでアタシに隠してたの?
686 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/08(水) 11:48
なにかあったのだとしても、
それは過去のことで…

色々トラウマがあっても、
一緒に乗り越えればいい


そういう風に教えてくれたのは
梨華ちゃんだった…


なのに…



「んぅ…」
「…梨華ちゃん!?」



うっすらと目を開けて、
アタシの姿を捉えた途端に満面の笑みを見せる
687 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/08(水) 11:49
「ひとみちゃん…ここどこ?」



梨華ちゃんはゆっくりと周りを見渡した



「病院だよ。会社の人から連絡来たんだけど、
過呼吸起こして、倒れちゃったんだって」
「…そっか…ごめんね?迷惑かけて」
「ううん!それで、梨華ちゃんさ…」
「もうさー!いきなり怒るもんだから、驚いちゃってっ
本当、なんでこんなに大きい音苦手なんだろうねー」



アタシの言葉を遮るように、
わざとらしく明るい声を出した



そのあとアタシは梨華ちゃんに何も聞けなかった
688 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/08(水) 11:50
いつも通りの梨華ちゃんに戻ったら、
さっきの人と同じように、
倒れたなんてこと忘れてしまいそうになった



2日後、梨華ちゃんはまだ安静と言われ、
今日まで会社を休むことになった

アタシも屋台を休むと言ったら、
梨華ちゃんから止められた


麻琴からも帰った方がいいって言われたけど、
梨華ちゃんから怒られそうな気がして、
いつも通り、仕事をすることにした



「ねー麻琴…やっぱおかしいと思わない?」
「梨華さんのことッスか?」
「うん…」
「そりゃーおかしいですよ」
689 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/08(水) 11:51
怒鳴る声を聞いたら、過呼吸になる
大きな音が嫌い…


思い返してみれば、
まだ付き合う前も雷が怖いって言って、
アタシが駅まで送ったし…

雷も花火も工事現場とかも苦手って言ってたよね…


「…レイプとか?」
「レイプだったら…キス以上のことするとき
なんか拒んだりするんじゃないですか?」
「んー…なかったなぁ…キスも自分からしてきたし…」


「親と関係あることなんじゃないですか?」
「交通事故で…んー…どう考えても、怒鳴り声とは関係ないような…」
「じゃあ…DV?」
690 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/08(水) 11:52





「…DV…」




「DVは怒鳴り声とか聞いたら、
トラウマで思い出したりとか…」
「親にも関係ありそうだしね…虐待…みたいな…
他になにか…」



「狭い所が苦手とか?押し入れとかにずっとこもって
閉所恐怖症になった人とかいるみたいですけど…」
「“閉所恐怖症”…」
691 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/08(水) 11:52



―――――エレーベーターで行かない?



―――――私ね、狭い所苦手なの。




―――――観覧車乗ろーよ。



―――――…もう帰ろう?


692 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/08(水) 11:53







「親分…?」
「…ごめん…麻琴…アタシやっぱ先帰るよ」





分かってしまった



知ってしまった




梨華ちゃんの過去を…
693 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/08(水) 11:55




思い当たる節はたくさんある



初めてあったとき、
会社の人から梨華ちゃんは真面目だから
ミスなんてしないって言ってたのに、
会社の人から怒られたって言って、
屋台の近くで号泣してた

そのあとも何度か屋台で泣いてた

この前も家に遅く帰ってきて、
リビングで泣いてた



それに…
694 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/08(水) 11:56




『“殺したい"って感情は・・・誰にでもあるものよ?
憎いから、消えて欲しい・・・そんなの、ひとみちゃんだけが、思ってること、じゃない
普通のことなの・・・それを実行するか、しないか、っていう差だけでしょ?』



『誰にだって、忘れたくない過去はあるんだよ?
あなただけが特別っていうわけじゃない。いつまで甘えてるのよっっ』



『ずっと…傍にいてくれればそれでいい。
何も望んでないから…私、ずっとひとみちゃんと居たいから…』



695 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/08(水) 11:57
梨華ちゃんがアタシに言った言葉…



今考えれば、おかしい…


何不自由なく生きてきた人が言うような言葉じゃない…


それに、前、梨華ちゃんが泣いている理由を
アタシがちょっとした冗談で親の虐待を思い出して泣いてるの
って聞いたときも、反応が遅かった気がする


なんで気づかなかったんだ…

なんで…


今のこの気持ちのまま
家に帰れる訳もなく、
アタシは1人、家の近くの公園にいた
696 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/08(水) 11:58




―――――こんなに大事に愛してくれるのは、
       ひとみちゃんが初めてよ?



―――――ひとみちゃん、今幸せ?


―――――幸せだよ…すごく


―――――…よかった



697 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/08(水) 11:59
彼女の言葉の裏には
いつも何かがつきまとっていたんだ…



一緒にいて、
今が一番幸せと思えてたとしても、
全て消し去ることの出来ない辛い過去が…




アタシはどうすればいい?
彼女の過去を知ってしまって、
何も言わずに黙ってていいの?

それがアタシたちの幸せに繋がるの?
何も考えないでって言われたけど、
無理だよ、そんなの…

アタシが過去と決別できたように、
梨華ちゃんも過去と決別しなきゃ…
698 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/08(水) 12:00



梨華ちゃんがどんなに拒んでも、
アタシにはすべてを知る権利がある

だって…アタシは彼女を愛してる
心の底から愛してるんだ

もう梨華ちゃんがいない人生なんて考えられないくらい…


孤独になんてさせないよ…


アタシが梨華ちゃんを守ってやるんだ

今まで彼女を苦しめてきた全てのモノから…


699 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/08(水) 12:00
   
700 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/08(水) 12:00
   
701 名前:ルビ 投稿日:2012/08/08(水) 12:01
本日は以上です。
702 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/08/09(木) 00:54
頑張れ!頑張るんだ吉澤さん!
703 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/08/10(金) 22:52
人という字はお互いが支え合っているって誰かが言ってた!
梨華ちゃんを救ってあげて、よっすぃ!
704 名前:ルビ 投稿日:2012/08/11(土) 00:11
>>702 ありがとうございます。
本当に頑張って欲しいです!
>>703 ありがとうございます。
お互いに支え合ってこそのいしよしですからねっ
705 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:13
   
706 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:14
  
707 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:14




1週間後――――――




「ちょっとさ、行きたいところがあるんだけど…」
「行きたいところ?」
「すぐ着くから…」



少し歩くだけで
大汗かきそうな真っ昼間から
アタシと梨華ちゃんは外に出た


梨華ちゃんは日焼けを気にしてか、
出たくないの一点張りだったけど、
今日だけは折れてもらった
708 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:17
目的地に着くまで、
アタシは何も言葉を発しなかった

ひたすら梨華ちゃんの手を引っ張り、
頭の中で色んなことを…考えてた



梨華ちゃんに全てを話してもらうためには、
これしか方法はない…


ごめんね、梨華ちゃん…







709 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:18




目の前に目的地が見えてきた



斜め後ろで汗を拭いてる梨華ちゃんは
まだそれに気づいてない



ここからはまだ聞こえない…




カツカツ



ゆっくりソレと距離を縮めていく
710 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:19
「ひとみちゃん、いつになっ…」




ゴゴゴゴゴー



ガガガガガー




音が聞こえてきた




2人の会話も消すくらいの音が…
711 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:20
「ちょ…ね、こっちじゃなくてさ、
違う方から行こうよ…ね?」
「…こっちからじゃないと行けないの」




困っている梨華ちゃんを無視するように
アタシは強く梨華ちゃんの手を引っ張った




「ね、今度にしようよ…今日は暑いし…」
「だめ、今日じゃなきゃ、ダメなんだよ」
「で、でも…」




ごめん…
ごめんね、梨華ちゃん…
712 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:20
少しの間だから…



全部、梨華ちゃんのためだから…





ゴゴゴゴゴォ




ガガガガガガァ




ドドドドドドォ
713 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:21
「ひ…とみちゃん、私大きな音苦手なの…
知ってるでしょ?ね、ひとみちゃんっ」
「…」




どんどんと近づくにつれ
大きくなる機械の音…




「お願い、ひとみちゃん…」





…着いた
714 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:21
アタシが目指していた場所は
工事現場だった




大きな音がする工事現場…




そして…




「梨華ちゃん、こっち」
「ねぇ…もう、帰ろうよ…」




アタシの手と繋がれていない手で
片耳を塞ぐ
715 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:22
工事現場のすぐ後ろに回る




まだ取り壊されていない工場…




「どこに行くの?…今日の、ひとみちゃんおかしいよ…」




出来るだけ工事現場の音がするところ…




小部屋を見つけた…
716 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:23
ここだ…




閉所恐怖症の人が
恐がりそうなくらいの狭い部屋




抵抗する梨華ちゃんを
引っ張って、その部屋に入ろうとする




「いや…ひとみちゃん!
お願い…私、狭い所苦手なの…ね?お願い…
ひとみちゃん…」
717 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:23
涙を浮かべる梨華ちゃんから
目を逸らしながら
その部屋に一緒に入る




ガチャ


鍵を閉める



ゴゴゴゴゴゴォ



ガガガガガガォ



ドドドドドドォ
718 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:24
「…はぁ…はぁ…ふぅ…」




梨華ちゃんの呼吸が荒くなってきた




…あと一つ…



大きな音



狭い所
719 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:24





そして、



怒鳴り声―――――――





「梨華ちゃん」
「…な、に?」
「梨華ちゃんの親って2人とも死んだんでしょ?」
「…な、なんで…知ってるの?」
「会社の人から聞いたんだよっ」
「…はぁ…はぁ…」


じりじりと梨華ちゃんに近づく
720 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:25
「なんで言ってくれなかったの!?
大事なことでしょ!?アタシは梨華ちゃんに全部言ったよ?
なのに、なんで言わないわけ?もしかして、他にも隠してることとかあんの?」
「…ないよ…そんなの…それより…」
「飲み会とかもさ、最近多いし!
他の男とでも飲んでるんじゃないよね!?」
「…そんなこと…」


梨華ちゃんはアタシから目を合わさず
肩を揺らしながら胸を抑えてる



「はっきり言いなよ!!他にも隠してることあんでしょ!?」



バンッッ



梨華ちゃんを壁に追い詰めて
顔の横を思いっきり叩いた
721 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:26
「…っ」



梨華ちゃんの肩がピクっと揺れた



「めて…やめ、て…」
「なんて言ってるか分かんない!」



もう少し…もう少し…


「お願い…やめ、てよ…」
「言いたいことがあんなら、言えよ!!!」


胸を抑えていた手を
勢いよく捕まえる
722 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:27
「いやぁっ!!!」


その瞬間、梨華ちゃんの様子が変わった


腕を掴んでいるアタシの手を
片方の手で力ずくで離そうとしてる



「離して!!!…離してっ」
「梨華ちゃん?」
「やめて!!お願いっ」
「梨華ちゃん!」
「いやっ!!いやぁ!!」



アタシの言葉は聞こえないのか
必死に…必死にアタシの手を離させようとしていた
723 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:29
アタシが手を離すと


「出してっ!!!出して!!!」


鍵のかかってるドアを
必死に叩いた



「梨華ちゃん、梨華ちゃん」



声をかけても
何も返答はなく、ずっとドアを叩く



「ごめんなさい!!!ごめんなさい!!!」
724 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:30
梨華ちゃんの姿は
まるで怒られた子供のようだった




「誰かぁ!!!助けて!!!お願いっ」




でも…明らかに“普通”じゃない


その姿は“異常”だった



「梨華ちゃん!」



再び梨華ちゃんの腕をとる
今度は優しく
725 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:31
でも梨華ちゃんは



「いやぁああ!!!やめて!!」
「ごめんごめん!梨華ちゃん、アタシだから」



暴れてる体を抱き締めようとするけど、
強く抵抗する


「梨華ちゃん、お願い…
梨華ちゃんをこういう風にした人のこと教えて?
アタシが梨華ちゃんをまも…」



「触らないで!!!」



目を見てた…
726 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:32
梨華ちゃんは
アタシの目を見て言った

全てを否定されたような感覚になった


そして

その瞬間…
アタシの中の全てが崩れたような気がした



「離してっ!離してっ!」



手を離し、
ドアの鍵を開けた



梨華ちゃんは…

アタシの方に振り返りもせず、
逃げるように出て行った
727 名前:悲しきlone 投稿日:2012/08/11(土) 00:33










立っていられなくなって、
壁によっかかったまま、崩れるように床に座り込んだ




倒れている椅子
傾いてる机
下に散らかった書類
728 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:34



そして、
少し開いたままのドア


全て梨華ちゃんが
ここにいたという証拠だった




アタシの考えは甘かった…



“忘れられない過去”



梨華ちゃんにとって、
それはきっとアタシがいても
癒せるような簡単のモンじゃない
729 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:35
アタシがどうこう出来る問題じゃない



アタシでは梨華ちゃんを
救えない…――――――――



いつ
何処で
誰に
どんな風に

何をされたのか…



想像するだけで
おかしくなってしまいそうだ
730 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:36
顔も知らないヤツに対して
怒りがこみ上げる前に
自分にムカついた



ここまでして…
知る必要なんてあったのか…


さっきの梨華ちゃんが
頭から離れない…




「ごめん…」




一筋の涙が流れた
731 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:37




「うぅ…」



それから大粒の涙が
零れ落ちる



顔を膝に埋めた



最悪だ…


なにもかも…


最悪だ…――――――――
732 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:37
   
733 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/11(土) 00:37
   
734 名前:ルビ 投稿日:2012/08/11(土) 00:38
本日は以上です。
735 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/08/11(土) 00:53
好きな人だからこそここまで真剣になれるし胸が痛くなるんだな
つらいけど乗り越えてくれ!
736 名前:ルビ 投稿日:2012/08/14(火) 00:22
>>735 ありがとうございます。
本当にその通りです…
737 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/14(火) 00:23
     
738 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/14(火) 00:23
     
739 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/14(火) 00:24







あのあと、家に帰っても
梨華ちゃんの姿はなかった


それどころか梨華ちゃんの服が
何日分かなくなっていて、
しばらく帰るつもりはないということを示してた



1人でいると、
あの梨華ちゃんの姿が頭に浮かんできてしまう
740 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/14(火) 00:24



『触らないで!!!』



その言葉が耳から離れない



普段見ないテレビをずっとつけ、
少しでも雑音に紛れようとする



屋台のことなんて忘れて、
ずっと同じソファに座り、
テレビをボーっと見て、お腹が空いたら
適当にコンビニで買って食べる
741 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/14(火) 00:25
そんな生活が2週間続いた



最初の2日は連絡していいのか
分からなくて、連絡は取らなかった
でも3日目からは毎日メールを送り、電話もかけてる

だけど、一向に返事はなかった



「梨華ちゃん…帰ってきてよ」



毎日のように梨華ちゃんの匂いがついた枕に
顔を埋めて、大粒の涙を流すのが習慣になってた



そして、心配して家に来てくれた麻琴から言われた
742 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/14(火) 00:26
『そんなに寂しいんだったら、
会社にでも直接行けばいいじゃないスか』



確かにそうだ


本当に会いたいんであれば、
梨華ちゃんの会社に行くべきだ


でも今のアタシにはその勇気がなかった



アタシを見て、梨華ちゃんはどんな顔をするだろう


そう思ったら、会社へ行くことが怖くなった
743 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/14(火) 00:26
会いたいけど会いたくない


そんな矛盾が自分の中を駆け回る



アタシでは梨華ちゃんを救えない



しかも梨華ちゃんはそれを望んでない


だから、何も考えずに傍にいてくれればいい
って梨華ちゃんは言った


アタシが全て崩してしまった…
744 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/14(火) 00:27
でも…でも…



過去のことなんか…
どうでもいい



自分が乗り越えられたから思うのかもしれないけど…



でも、大事なのは今で
今幸せなら、それでいいんだ



彼女の過去を全て消し去ることは
アタシには出来ないかもしれない
だけど、“今”の幸せをあげることはできる
745 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/14(火) 00:28
もしトラウマがあるんだったら、
辛くて、きついんだったら、
アタシが傍にいてあげればいい


全部包み込めばいい


“乗り越えよう”


“守るから”



なんて無責任なことは言わないで、
一緒にいてあげれば、それでいいのかもしれない
746 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/14(火) 00:29
気づいたら、アタシは彼女との約束を果たすために
自転車屋に向かっていた



“自転車に乗って、2人で帰ろう”



いつだったか、屋台で約束した



彼女が泣きたいんだったら、
後ろに彼女を乗せて、アタシの背中で涙を拭けばいい
寂しくなったら、アタシの背中を抱き締めてくれればいい



だから梨華ちゃん…



一緒に幸せになろう?
747 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/14(火) 00:30




会社に着いた



いつも梨華ちゃんが帰る時間…



中には入らず、外で出口をじっと見る



もし、梨華ちゃんが会社にいってなかったら?

もし、梨華ちゃんが目を真っ赤にしてたら?

もし、梨華ちゃんがアタシを無視したら?
748 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/14(火) 00:31
色んな不安がアタシの頭を横切る



でも、そんな不安は必要なかった――――――――




梨華ちゃんが出てきた




その姿は前と変わらない



いつも通りの梨華ちゃんだった
749 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/14(火) 00:32
まるであんなことが最初からなかったかのように…



どうせなら、なかったことになってればいいのに



いつものように、
『ひとみちゃん!』って呼んでくれたらいいのに…



『迎えに来てくれたの?
本当ひとみちゃんは私のこと好きなんだからっ』



なんて笑顔で言われて、
からかい合いながら、一緒に家に帰ることが出来ればいいのに
750 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/14(火) 00:33
でも、アタシの姿を捉えた梨華ちゃんの表情が
全てを物語っていた



一瞬眉をハの字にして、
困ったような顔をした



「…ど、どうしたの…」
「どうしたのって…迎えに来たに決まってんじゃん」



そんな…そんな困ったような顔しないでよ


「私…」
「普通の自転車、買ったよ」
751 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/14(火) 00:33
視線を自分の自転車に落とす



「え?」
「一緒に乗って帰りたいって言ってたでしょ?」
「…あぁ…」
「帰ろうよ…ね?」



自転車に跨って、
後ろの荷台に乗るように促す



「でも…」
「…話したいこといっぱいあんの」
「…分かった」
752 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/14(火) 00:34



梨華ちゃんは跨らずに、
横向きに座って、遠慮しながらアタシの腰に手を回した




絶対離さないよ?
何が何でも絶対離さないから――――――――


753 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/14(火) 00:34
   
754 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/14(火) 00:35
     
755 名前:ルビ 投稿日:2012/08/14(火) 00:35
短いですが、本日は以上です。
756 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/08/14(火) 00:36
あぁどうなるのでしょうか
757 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/08/15(水) 00:25
頑張れ!二人のこと応援する!
758 名前:ルビ 投稿日:2012/08/20(月) 14:36
>>756 ありがとうございます。
どーなるのでしょーか!?

>>757 ありがとうございます。
これからも応援し続けてくださいっ
759 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:36
     
760 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:36
   
761 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:37




家に帰るまでの道のり



腰に回す手がだんだん
強くなっていくのを感じた

最初、起こしていた体も
全身を預けるように体をぴったりとくっつけた


それだけでアタシは
梨華ちゃんに許せてもらったような気がした

言葉がなくても、
梨華ちゃんの気持ちを背中で感じた
762 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:38
家の前に着いて、
自転車から降りると、
梨華ちゃんから手を繋いできた



「梨華ちゃん」



驚いて、顔を見ると
満面の笑みをした彼女がいた



よかった…



「家、入ろうか?」
「うんっ」
763 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:39
いつものように手を繋いで家に入る



「久しぶりだぁー!」
「ふふ…自分から家出たんじゃん」
「そーだけどさ〜」



ピンク色のソファに
思いっきりダイブする



「やっぱ、おうちは最高だね」



でも、笑顔の彼女を見ると、
また過去のことを聞き出しにくくなる
764 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:39
「ご飯作るから待ってて?」
「はーい」



沈黙になるのが怖い…








ご飯を作ってる最中、
梨華ちゃんの方を見ると、
いつものようにテレビを見ながら笑ってた


でもその姿を見ると、
不安になる
765 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:40
本当に話してくれるだろうか…


全てなかったことになるんじゃないか…



「梨華ちゃん、ご飯出来たよー」
「はーい!」



普段と同じ席に座って、
普段と同じような会話をして、
普段と同じようにソファに並んで座る


そして…



「ひとみちゃん…」
「ん?」
766 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:41
肩にもたれかかった梨華ちゃんが
上目遣いでアタシを呼ぶ



「…シよ?」
「え?なにを…」



アタシが言う前に
梨華ちゃんのキスが降ってきた


されるがままにアタシはソファに押し倒される



「ん…今日は…ん…積極的…だね」
「だって…2週間もしてないんだよ?」
767 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:42
それは梨華ちゃんのせいでしょ


心の中でつっこみながら、
アタシは彼女のキスを受け止める



求めるままに

求められるままに


アタシたちは抱き合った


この2週間を埋めるように…
768 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:42
やっぱりアタシは梨華ちゃんしかいない


身も心もアタシは梨華ちゃんで満たされる


他の人じゃダメなんだ


梨華ちゃんじゃないと…



「ひとみちゃん」
「ん?」
「愛してる」
「…アタシも」



熱い熱いキスをする


今までにはなかったくらいのキスをする
769 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:44






「んぅ…梨華、ちゃん」



隣にいる梨華ちゃんを抱き締めようと
寝返りをする


「…あれ?」


でも腕の中に彼女はいなかった


「り、梨華ちゃん!?」


慌てて起き上がって、
リビングへ急いだ
770 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:45
「梨華ちゃん」
「…ひとみちゃん!起きた?」



彼女はキッチンで
慣れない料理に苦戦していた



「どうしたの?珍しいね…」
「いつもひとみちゃんが作ってくれてるから、
今日は久しぶりに私が朝ご飯、作ろうと思って」



テーブルに座って、
梨華ちゃんの背中に話しかける


「そんな気遣わなくていいのに」
「いいの!私がひとみちゃんに作ってあげたいのっ」
「梨華ちゃん…」
771 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:46
久しぶりに梨華ちゃんが作るご飯は凄く美味しかった

食べている間、梨華ちゃんはアタシの顔をじっと見て
なかなかご飯を食べなかった

『じっと見てないで、早く食べなよ』

そう言うと、

『だって、見てたいんだもん』

なんて、恥ずかしいことを言う

『いつでも見れんじゃん』

アタシも梨華ちゃんに便乗して言ったけど、
きっと顔は真っ赤だ

『…この瞬間のひとみちゃんは今しか見れないでしょ?』

はい、吉澤ひとみ、
完敗です…
772 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:47
なんか、前よりパワーアップしてるのは気のせい?


食事が終わり、
2人で食器を洗い、2人でソファに座る


「ご飯、まじ美味しかった!ありがと」


照れながら梨華ちゃんを抱き締める


「ふふ…さっきからそればっか」
「だって…本当のことなんだもん」


恥ずかしさを隠すために
背中に回している腕に力を入れる
773 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:48
少しの間、そうしていると
さっきとは違う声色で
梨華ちゃんが言った


「ひとみちゃん、私…話があるの」
「話?」
「うん…」


腕を緩めて、梨華ちゃんの顔を見ると、
真剣な顔をしていた



「…話ってなに?」



梨華ちゃんの顔を覗き込む
774 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:49








「私の…




過去の話――――――――」






ドクンッ
775 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:50
心臓がきゅっと掴まれた気分になった



忘れていた…


梨華ちゃんと以前と
同じように過ごしていたせいか
アタシの頭からすっかり“あのこと”は消えていた



「…もういいよ」
「え?」
「…辛いでしょ?アタシ…後悔してんの。
自分が知りたいからって、梨華ちゃんをあんな風にさせてしまって…
辛い想いさせてしまって…すげー反省してる…」



1人でいるとき…
あのときの梨華ちゃんの姿が忘れられなくて、
心臓が壊れそうだった
776 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:50
もう、あんな姿は見たくない


「アタシは…梨華ちゃんがいてくれれば、それでいい。
辛いこともいっぱいあったのかもしんないけど…
それでも、今の方が大事じゃん?だから…」






「…ダメだよ」






へ?


777 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:51
梨華ちゃんの顔を見ると、
いつものような顔じゃなくて…


なんだか…大人びた顔に見えた



「言わないとダメだよ」
「…アタシが言わなくていいって言ってんだよ?
思い出して、辛い想いさせちゃうくらいなら…」
「…大丈夫。私は大丈夫」



そして、梨華ちゃんは話し出した


過去のこと…


淡々と、まるで自分のことじゃないような顔で…
778 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:52




「私の親は私が2歳の頃に離婚したんだ―――――――」


離婚したあとは母親と一緒に暮らしてた
だから実の父親の顔とかは全く覚えてないの
そして、小学5年生のときにお母さんは再婚した
最初は凄く幸せだった
あぁ、父親がいるとこんなに楽しいんだなって…
お母さんも凄く幸せそうで、それも凄く嬉しかった
お母さん、私と2人っきりのとき、
いつもため息ばかりついてたから…

でも、そんな幸せも長続きはしなかった
中学生になってからすぐ、
お父さんはお母さんに暴力を振るようになった
いわゆる…DVだった
私は直接暴力を受けたわけじゃないの
でも怖かった
家に帰ってくる度に今日は怒ってないかな
とか、顔色確認して…
779 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:53
普段はとても優しかったの
でも、ちょっとしたことで怒って
すぐお母さんを殴って…
私はお父さんが暴れ出したら、すぐに押し入れに入って
ずっと耳を塞いでた
お父さんの罵声とかお母さんの泣き声とか
いくら耳を塞いでも、どうしても聞こえちゃって
怖くて、怖くて…だからずっと押し入れの中で
1人、大泣きしてた

怖くて、誰かに助けを求めようと
電話を手にしたこともあったけど、
かける相手なんていなくて…
終わるのをじっと待ってた
本当に怖かった…
なのに…嫌いにはなれなかった…お父さんのこと
どんなに罵声を浴びせられようと、
暴力振るってるのを見ようと、
そのときは嫌いって思っても、
普段は優しかったから…心の底から嫌いって思えなかった
780 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:53



そして…
学校がいつもより早く終わって、
家に帰ったとき…
お母さんとお父さんが喧嘩してたの
私が帰ったことも気づかないで、
大声で喧嘩してた


それで…
お母さんが言ったの…



『一緒に死のう?』



足が動かなかった
怖くて、動かなかった
781 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:54
『何言ってんだよ!』
『もう我慢出来ないの…
アナタを殺して、私も死ぬ』



声だけでも分かった…
お母さんは正常じゃなかった



『バ、バカじゃねーの?』
『本気で言ってるの!』
『…だ、だって梨華は!?
梨華のことはどーすんだよ!』



自分の名前が出てきたことで、
心臓がドクドク鳴り始めた


なんて言うんだろう…

でも、その返事は私の存在を否定するものだった
782 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:54





『―――――私、梨華のことを愛してない』






頭が真っ白になった




『は!?自分の子供だろ!?』
『そうよ…でも、梨華が生まれたばかりのときに離婚して、
1人じゃ育児が大変で、梨華を可愛いと思えなかった
泣いてるのを見て、私も泣きそうになった…
私の方が泣きたいの!!って何度も叫んだ
何回か、捨てようって思ったこともあった』
『…嘘…だろ?』
783 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:55
お母さんは泣きながら言ってた



『嘘じゃない…本当よ?
手がかからなくなっても、可愛いと思えなかった
自分が娘を愛してないって分かるまで、そう時間はかからなかった』
『そんな…』



『―――――私は梨華よりアナタを愛してる』



それから、お母さんはお父さんに
包丁を持って近づいた

でも、お父さんは同時に死のうって言ったの

2人で首つりをしようって…
784 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:56
私はその瞬間、怖くなって
家を飛び出した


少しでも遠いところに…


そのときの私は自分の置かれてる状況を
把握できてなかった


いや…分かりたくなかった
785 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:56




次の日の朝、家に帰った



家の前には救急車と警察が来ていて、
人だかりが出来ていた

それを見て、やっぱり自殺したんだって思った


なぜか私は凄く冷静だった


恐る恐る前に進んで、
中を見た
786 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:57
ブルーシートで中は見えなかったんだけど、
運ばれているのは1人だけだった

2人じゃないの?


思ってたこと違って、
私は警察に自分のことを言って、
中に入れてもらった



そして見たものは…
驚くべき光景だった



救急車の中に
死んでしまったお母さんがいて、
そのお母さんの手を握って、泣いてる…お父さんがいた
787 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:57
『警察の検証の結果、家の中にはひもと台があって、
ひもはお母さんの指紋しかついてなかったため、
あなたのお母さんは自殺と判断されました』



ぼーっと救急車の中を見ていたら、
横で警察の人が単なる業務かのように言った



なんで…なんでよ


一緒に自殺しようとしたんじゃないの?




『なんで…なんでこんなこと…
最後に顔合わせたとき、そんな素振りしなかったじゃないか』
788 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:58
そのときに分かった


この人は、一緒に死のうと言って、
結局自分は死ぬ気なんて全くなかったんだってこと


完璧に演じきってるあの人を見て、
吐き気がした


最低だ…
最悪だ…



でも、一緒に自殺をするっていうのを知って、
そのまま家を出た私も最低だ


それから私とお父さんは
何もなかったかのように暮らし始めた
789 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:58
会話は交わす

だけどお母さんのことは話さない
本音で話をしない

偽物の家族だった

偽物の自分だった


そして、あるとき
お父さんが初めて、私に手をあげた


理由は会社で嫌なことがあったとか
どうでもいいこと…



私は怖くなって、押し入れに入った
力ずくで開けてくると思って、
襖を必死に抑えてた
790 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:59


でも、違った
お父さんは私を押し入れの中に閉じこめた

棒か何かをつっかえさせて…


何度も何度もお父さんを呼んだ
でも返事はなかった

それどころか、家から出て行ったっきり、
帰ってこなかった


真っ暗で狭くて、怖かった


トイレもしたい
お腹も空いた
喉も渇いた

時間が分からないことが
さらに自分を怖がらせた
791 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 14:59


お願い、助けて――――――――




最後の力を振り絞って、
襖を何度も何度も叩いた
両手で、両足で、全身で…



それでやっと開いた…



外に出て、時間を見ると、
2日目になろうとしてた
792 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 15:00
もう無理だ…


もうここではやっていけない


そう、思った



私はあの人を憎みたかった…

普段は優しくて、怖いときの顔を忘れるくらいだったから…
私は忘れたくなかった…

ずっとずっと憎い人のままで
ずっとずっと恨みたかった


お母さんを殺した人
私を殺そうとした人
793 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 15:00
だから、私はお父さんがいない間に
家を飛び出した


それからは必死にお金を貯めた


学校以外はずっとバイトだった

凄く大変だったけど、
あの人のお金で生活したくなかったし、
あの人のお金で進学したくなかった


そして無事に自分でお金を貯めて、
大学に行って、就職した
794 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 15:01





「私は…愛されてこなかった…誰にも…
でも、私はあの家を出てから生まれ変わったの
いっぱいいっぱいバイトして、いっぱいいっぱい勉強して、
いいところに就職して、真面目に仕事して、それが評価されてる。
笑顔でいれば、みんな寄ってきてくれる。
笑顔でいれば、全て忘れられる。全部全部積み重ねてきたの
過去の私を捨てるために…」
「梨華ちゃん…」




梨華ちゃんは淡々と話すように…
795 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 15:02





「ひとみちゃん、別れよう――――――――」







梨華ちゃんはアタシの目を見て
そう言った
796 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 15:02
    
797 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/20(月) 15:02
  
798 名前:ルビ 投稿日:2012/08/20(月) 15:02
本日は以上です。
799 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2012/08/21(火) 00:25
何で?何でだよー!梨華ちゃんには吉澤さんがいるんだよー!
800 名前:ルビ 投稿日:2012/08/31(金) 13:02
>>799 ありがとうございます。
どーなるのでしょーか(泣)
801 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/31(金) 13:03
  
802 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/31(金) 13:04





「ひとみちゃん、別れよう―――――」





そう言った彼女の目から
揺るがない決心が見て取れた
803 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/31(金) 13:04




「…そ、んな」





「今まで、本当に楽しかった…
こんなに人を好きになったのは、初めてだった
本当に、本当にありがとう――――――」




彼女の目からは
一粒の涙も零れてなくて、
どこか遠くを見て、微笑んでいた
804 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/31(金) 13:05



「な、んで?」




アタシは去っていく彼女の後ろ姿を見るだけだった


突然過ぎて、頭が回らないということも確かにある
でも、彼女があまりにも大人びていて、
涙も見せずにアタシの目を見て、“ありがとう”
そう言う彼女を追いかけて、何が変わるのだろう

彼女のことを知りすぎて追いかけられなかった
決めたら、絶対曲げない…
そんな見た目によらず、男らしいから…彼女は…
アタシがもっと若かったら、何も考えずに追いかけられるのかもしれない
でも、今のアタシはそんなに若くなかった
何も考えられずに突っ走ることが出来るほど若くはなかった
805 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/31(金) 13:06



別れようと思った理由を問い詰めるべきなのかもしれない
でも、問い詰めただけ無駄なような気がした
きっと、彼女のこれからの世界でアタシは必要なかった
彼女にとって、そこまでの人間じゃなかった

アタシにとって、彼女は親以上の存在になっていた
だから、乗り越えることができた
だから、忘れることができた

でも、彼女の中でアタシは親以上の存在になれなかった



きっとそれが答えなんだろう


806 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/31(金) 13:06
   
807 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/31(金) 13:07





「おやぶーん」
「…なんだよ」


あれから1ヶ月が過ぎた
アタシの生活は変わった


「気持ち悪いですよ」
「は?」
「そんなに真面目にラーメン作る親分」


なんだ、コイツ

アタシが店長なんだから
つかラーメン屋なんだから真面目にラーメン作って何が悪い
808 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/31(金) 13:08
「だって、前は逆だったじゃないスか」


麻琴は目の前のカウンターに座って、
アタシが作ったラーメン食べてる


「いいじゃん。麻琴、休めんだから」
「そーじゃなくて…」
「…んだよ」


何か言いたげな麻琴にしびれを来して、
動かしていた手を止める



「…梨華さんのこと、忘れたくて…
何かに没頭しようとしてるんでしょ?何もしないでいると、
思い出しちゃいそうで怖いんでしょ?」
「…何言ってんだか」
809 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/31(金) 13:09
「…何で追いかけないんですか?まだ好きなんでしょ?
相手の気持ちとか面倒臭いこと考えないで、突っ走ればいいじゃないスか」
「…バカか、お前は…もう忘れたっつーの」
「もー親分!」


グラスに水を入れて、
一気に飲み干す



「いいか、麻琴。アタシはそんな若くないわけ
なんでもかんでも欲しい欲しいとか言ってる年齢じゃないの」
「…訳分かんないスよ」
「まだ麻琴は子供だからなぁー」



あともうちょっとで店出す時間じゃん
早く仕込みやんねーとっ
810 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/31(金) 13:10






811 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/31(金) 13:11





「麻琴、新しいメニュー考えるぞ」
「えー」
「“えー”じゃねー!最近、お客さん減ってんだから」


「冷麺とか入れるってどーよ?」
「あー、いいんじゃないスか」
「お前…本気で考えてんのか?」


「麻琴、屋台の模様替えでもしよっか?」
「模様替えって…屋台に模様もなんもないッスよ」


「客増やすために、チラシ作るってどーかな」
「は?普通の店ならともかく屋台のチラシってあんま聞かないッスよ
しかも、新しい店でもないのに」
812 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/31(金) 13:12





ここ最近、ひとみが先に開店準備をしてくれて、
麻琴も少し楽になった

だけど、麻琴はそれが本当に自分たちの中で
“いいこと”だとは全く思ってなかった



“こんなのは本当の親分じゃない”



麻琴はどこかでそう思っておきながら、
寂しそうに笑うひとみにガツンと言えなかった
813 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/31(金) 13:13
でも、ひとみは本当に“石川梨華”という存在を
忘れたのかもしれない、最近はそう思うようになった

寂しそうに笑ってるように見えるのは
ただ、ひとみが梨華を失っているからそう見えるのかもしれない
もしかしたら、気持ちを入れ替えて、
真面目な自分になろうと頑張っているのかもしれない

自分が変に心配する必要なんてないんじゃないか…


麻琴がそう思うようになった頃…



麻琴は屋台の閉店時間が過ぎ、
店終いをしていた

ふと周りを見渡すと、
さっきまで横で一緒に作業をしていたひとみがいない
814 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/31(金) 13:13



外に出て、周りを見渡す



「…親分―――――」




ひとみはあの日…
梨華と初めて会った日
梨華がいたベンチにあぐらをかいて
顔を手で覆っていた



麻琴はゆっくりとひとみのいる場所へ近づいた
815 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/31(金) 13:14




うぅ…


んぐぅ…



嗚咽する声が聞こえる




「…親分…」



呟くような小さい声で言うと、
ひとみの肩がピクンと動いた
816 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/31(金) 13:15
「…忘れて…ないんですよね?
忘れられない…んですよね?」



麻琴はひとみの横に腰を下ろして、
背中を優しくさする



「…ちくしょぉ…」



心の底から出てきたような低い声で呟いた


ひとみは顔を覆っていた手で
前髪をかき上げた
817 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/31(金) 13:16
ひとみは泣いていた

大粒の涙が零れていた


顔をくしゃくしゃにして泣いていた――――――




「…忘れられるかよ…」
「親分…」
「…本当はさ…すっげー寂しいし、
すっげー悲しいし、すっげー辛いんだ…」


すっげー会いたい
会って、抱き締めたい

格好悪くてもいいから…
そんなんどーでもいいから…
手引っ張って、何も考えずに連れ去りたい…
818 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2012/08/31(金) 13:18
「…麻琴ぉ」
「…なんですか?」


「なんでだろーね…
なんで人はこんなに人を愛すんだろ…
…アタシ、思うんだよね
いっそ、このまま永遠に愛を知らなかった方がよかったんじゃないかって…」




「アタシ…このままだったら…
まじで…ヤバいかもしれない――――――――」





ひとみは苦笑いをしながら
意味深な顔をしてそう言った
819 名前:ルビ 投稿日:2012/08/31(金) 13:19


悲しきlone wolf 中


820 名前:ルビ 投稿日:2012/08/31(金) 13:21
中途半端な終わり方というか歯がゆい終わり方になってしまいました…
これから2人はどーなるのか…このままなのか…
どうぞ最後まで見てやってくださいー
821 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/09/01(土) 00:48
はあーつらいっすねぇ。
忘れられない人は誰にもいるものです。
822 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/11/24(土) 04:31
続き、待ってますよ
823 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/12/05(水) 14:53
続きお待ちしています
824 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/02/04(月) 04:46
期待してます
825 名前:ルビ 投稿日:2013/03/06(水) 18:28
お久しぶりです…
放置してしまって、本当に申し訳ないです><
構想が定まらなくて、ずるずると時間が経ってしまいました....
他にも理由はありますが、これ以上言うと言い訳になってしまうので、
これからも書くことで、何か返すことが出来たらな、と思います。

実は、この話とは別の新作が自分の中で出来上がりつつあって、、、
というのも一つ理由にあるので、これからも書けたらなぁと思います。

あげてくださった方、本当にありがとうございます。
そして、読者だったみなさん、本当にごめんなさい。

自分勝手かもしれませんが、また読んで下さることを願ってます><
826 名前:ルビ 投稿日:2013/03/06(水) 18:35




悲しきlone wolf 下

827 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2013/03/06(水) 18:36


828 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2013/03/06(水) 18:37



人はなぜ人を愛するのだろうか。



子孫を残すため?未来を作るため?


だとすれば、普通に子孫を残すことのできない、
同性愛はホンモノの“愛”とは言えないのだろうか。

しかし、家族の中で殺人が起きている今
“普通”の親よりもいくつもの困難を乗り越えたホンモノの“愛”で
結ばれた者同士の方が子供を愛することが出来るのではないか。

彼女たちはきっと“普通”に出会っていれば、
そこに愛が生まれることはなかっただろう

“普通”とはちょっと違ったからこそ、
愛が生まれたのだと…私は思う――――――――

829 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2013/03/06(水) 18:44






あれから半年が過ぎた…





ひとみがラーメン作りに没頭していることが
当たり前になってきた頃、ひとみの携帯にある電話がかかってきた



「もしもーし」
『吉澤さんの携帯ですか?』
「そーですけど」



電話の相手は“あの人”の会社の人からだった
830 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2013/03/06(水) 18:45
『ここ最近、石川さんが無断で
会社を休んでいるんですけど…知らないですか?』
「…え?」
『…やっぱり知らないですか…ありがとうございます。』
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ」
『なんですか?』


会社の人に詳しく聞くと、
梨華ちゃんはここのところ、様子がおかしいらしく、
笑顔もなくなっていたらしい


「どーしたんだろ…梨華ちゃん」
「この前会ったときは、いつも通りだったんだけどなぁ」


と、前でラーメン食ってる麻琴が言う


麻琴に目線をやると、ヤバッとでも言いそうな顔
831 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2013/03/06(水) 18:46
「麻琴さん、なんでアナタが梨華ちゃんと会っているんですか?」
「…あ、あの…この前道で、ばったり会ったんですよね」
「…あそ」



そんなの嘘だってことくらい分かってる。
でも、本当のこと聞いて、どうなる?
別にどーでもいい。あの人のことは、どーでもいいんだ。


もう興味ない。なにもかも疲れた
人を好きでいることも、一生懸命になることも、
全部全部疲れた。


それに…
アタシには幸せは似合わない。


不幸なままの方が変に欲を出したり、
わがままになったりしないで済む


だから…アタシは不幸でいい。
832 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2013/03/06(水) 18:46


833 名前:ルビ 投稿日:2013/03/06(水) 18:47
かなり短いですが、区切りがいいので今日は以上です。
834 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/03/06(水) 19:34
待ってました!!
帰ってきてくれて本当に嬉しいです。
作者様のペースで頑張ってください。
書いていただけるなら、いくらでも待ちます。
835 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/03/06(水) 19:34
待ってました!!
帰ってきてくれて本当に嬉しいです。
作者様のペースで頑張ってください。
書いていただけるなら、いくらでも待ちます。
836 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/03/06(水) 21:15
ずっと待ってました!
また楽しみにしています!
837 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/03/07(木) 12:01
更新ありがとうございます。
待っていた甲斐がありました!
838 名前:名無し飼育さん 投稿日:2013/03/08(金) 00:15
お帰りなさい。
更新ありがとうございます。
マイペースで全然OKですよ^^
次回も楽しみにしてます。
839 名前:ルビ 投稿日:2013/04/01(月) 16:32
>>834 ずっと待っていてくださって、本当にありがとうございます。
つたない小説なのに…そんなことを言ってくださるとは…本当に感謝です><
これからもどうか読んで下さると嬉しいです!

>>836 長い間待たせてしまって、本当に申し訳ありません…
楽しませられるように頑張りますので、これからもよろしくお願いします。

>>387 いえ、こちらこそ…待ち続けて下さり、本当にありがとうございます。
これからは少なくなるとは思いますが、出来るだけ更新するので、よろしくお願いします。

>>838 そう言ってくださると、とても嬉しいです。
不定期更新になるとは思いますが、更新はしていくので、
これからもよろしくお願いします。
840 名前:ルビ 投稿日:2013/04/01(月) 16:32





「親分」
「なに?」



屋台終わりにいつものように2人で缶ビールをあける


「梨華さんのこと、本当に忘れたんですか?」
「…忘れたって何度言えば分かんの?」


麻琴はよく梨華ちゃんのことを聞いてくる
心配してくれてるのは分かってる。
でも、本当に忘れたんだ。本当に…
841 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2013/04/01(月) 16:33
「でも…私は梨華さんといるときの親分が一番好きですっ」
「…なんだよ、それ」
「梨華さんも、何か理由があったんですよ」
「…いいじゃん、別に。
本人が忘れたって言ってんだから」


ひとみは立ち上がり、
飲み終わった缶を片手で潰してゴミ箱に見事に投げ入れる


「お見事ー!」
「親分!」
「んじゃ、また明日」


自分には彼女を守れるわけない。
男とか女とか、そんなこと関係なしに
彼女のアタシに対する気持ちがそこまでだったってこと
実に簡単な話だよ。

842 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2013/04/01(月) 16:34


 
843 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2013/04/01(月) 16:34





翌日


いつも通り仕事を終え、
静けさが漂う帰り道を歩いていると、
なにか物音がした


ふと近くの公園を覗いてみると、
1人女の子がブランコに乗っていた





「…梨華ちゃん」




ふと目の前にいる彼女の名前を呟いてしまった
844 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2013/04/01(月) 16:35
彼女はその声に反応するかのように
こっちを向き、目を丸くさせた





「ひとみちゃん…」





2人の間に沈黙が流れた



どう話しかければいいか分からない


そのまま『じゃあね』
と言って、帰る訳も行かず
アタシはゆっくりと彼女の元へ近寄った
845 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2013/04/01(月) 16:36



「久しぶり…だね」



同じようにブランコに座り、
ぎこちなく呟いた



「…そう、だね」



お互いのぎこちなさに
何故か寂しくなった


ちゃんと別れたのに…
変な別れ方とかじゃなく、
直接、言葉を交わして別れたのに…


それに対して、自分も納得しているのに。
846 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2013/04/01(月) 16:36
なんで笑えないんだろう


なんで悲しくなるんだろう



「…元気だった?」



ずっと下を向いている彼女の顔を
覗こうとするけど、髪で隠れて顔が見えない



「元気、だったよ…すごく」
「そっか…」
「…うん」

「あの…元気、だった?」
「…うん、すごく…元気だった」
「そっか…」
847 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2013/04/01(月) 16:37



…――――――




居心地悪いこの空気をどうにか変えたくて、
色々話してみたけど、最後まで変わることはなかった
その上、一度もアタシを見てくれなかった。


きっと梨華ちゃんはアタシのことを本気で嫌いになった
多分…いや、絶対。


そして、彼女を残して、
アタシは公園を出た。


もう二度と見ないだろう彼女の姿を背に
さっきよりも冷たい風を感じながら、
家へと向かった
848 名前:悲しきlone wolf 投稿日:2013/04/01(月) 16:38
  
849 名前:ルビ 投稿日:2013/04/01(月) 16:38
短いですが…本日は以上です。
850 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/04/02(火) 01:25
更新待ってました!
梨華ちゃんどうしたの?
メッチャ気になる
851 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/04/02(火) 13:00
更新キタ━(゚∀゚)━!
再開ほんとに嬉しいです。
ご自身のペースで、頑張ってください。
852 名前:名無飼育さん 投稿日:2013/04/03(水) 08:47
更新ありがとうございます。
もどかしい二人ですねぇ…。

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