美しい関係〜everlasting〜
1 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 00:22
ずっと読んでいたんですけど、書きたくなったのでスレ立てました
小説は初です
いしよしで基本的にリアル短編を書きます
短編なんですけど、全部繋がっているように書くつもりです
未熟ですが、よろしくお願いします
2 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 00:31


『わたしらの関係』
3 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 00:33




ドリームモーニング娘、リハ某日―――――



「どうにかして下さいよ〜」
「だぁから私には無理っ」

10分前から楽屋前でうろちょろしている私達・・・


「だって早くしないと集合時間なっちゃいますよ・・・
このままじゃぁ〜〜〜〜〜」

「あーもうっ!うるさいっ
あと20分あるから・・・」


2人が焦っていると、向こうの方から
凄い形相で走ってくる1人の姿が・・・


「うぉーーーーーーーーっ
やべーーーーーーーーっ」
4 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 00:35

「あーーーっ吉澤さぁぁん!!遅いよーー」


楽屋前にいる2人が一斉に叫ぶ


「はぁ・・・はぁ・・・
・・・あれ?なんで2人とも楽屋にいるわけ?」

吉澤は2人の前で自分の膝に手をつき、
息を切らしながら言う


「吉澤さんを待ってたんだよ!!!」
「はぁ?なんで??」


2人は顔を見合わせて・・・


「石川さんをどうにかしてください!!!!」


5 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 00:37
「・・・へ???なに?梨華ちゃんがどうかしたの??」


吉澤の頭の上にハテナマークが並ぶ



「どうしたもこうしたも・・・
さっき小春が鼻歌歌ってたら、石川さんが
『小春、音程間違ってるよ』って説教されて」

「あたしだって!!
さっき、ちょっと咳き込んだだけで
『麻琴!リハなんだから、ちゃんとケアしなさい』ってめっちゃ説教されて」



2人はため息をついて、項垂れた


「ハハハッなぁんだっ
なんかあったのかと思ったじゃんっ
そんなのいつもの梨華ちゃんでしょ?」



「いつもよりもっと酷いんです!!!」
6 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 00:39
――――――――



麻琴と小春に梨華ちゃんの機嫌を直すように頼まれて、
1人、梨華ちゃんだけがいる楽屋に入った



・・・・・・

目の前にはこっちを向かずに台本を読んでいる梨華ちゃんが座っていた



確かにその後ろ姿は機嫌が悪いように見える



「大体2人は本当にもう・・・」


何かを言おうとして梨華ちゃんがこっちを見た



「あれ・・・??よっすぃじゃん。おはよー
ところで、麻琴と小春知らない?」
「おはよー梨華ちゃん」


吉澤は微笑みながら、石川の隣の席に座った
7 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 00:41
「なに笑ってんの?」
「いや・・・梨華ちゃん可愛いなぁと思って」


口が尖ってますよ石川さん

本当分かりやすすぎ・・・


「そんなの知ってる」


あぁれ?こりゃぁー重傷だよ


大抵のことなら、これで機嫌直るのに


「梨華ちゃん、飴いる??」
「いらない」


口を尖らせてそっぽを向く


あれ・・・お腹空いてるわけでもないのか・・・
8 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 00:42
「眠い?」
「全然」


眠いわけでもないのか・・・


よっしゃっ!久しぶりにやるかっ



よっすぃの梨華ちゃんご機嫌取り大検証!!!!



えぇっと・・・


昨日の朝、電話したときはすっげぇ機嫌よくて、
『私ちょっと走ってみようかな』とか言ってて・・・
まぁその1分後にはやっぱやめるって言われたけど・・・

昼もメールでめっちゃハートマークついてたし・・・


って考えると昨日の夜・・・か
9 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 00:45
昨日の夜は梨華ちゃん、何してたんだっけ・・・


んーっとっ―――――


あっ!!舞台の稽古だっ

それだそれ!!



「ってかよっすぃ!何時だと思ってるの?
今、集合時間の15分前だよ??」
「あーっごめんごめん。でも間に合ったから、いいっしょ」

「これだからよっすぃはぁ〜・・・んっ」


吉澤は石川の尖った口にテーブルに置いてあったポッキーを差し込んだ


「ハハッ」
「ちょっと何すんのよぉ〜・・・」
「いやぁ・・・つい・・・可愛くて」
10 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 00:46
最近の私・・・というかここ数年の私はよく梨華ちゃんに「可愛い」と言う
でも、無意識。本当に!まじで!


確かに機嫌とるために言ったりすることもあるけど、
それ以外は本当無意識


他の人とかには結構意識・・・というか
褒めようって思って言うことはあるけど、梨華ちゃんに対しては無意識
なんでかよく分かんないんだけど・・・


「梨華ちゃんさぁ〜、最近舞台の稽古で忙しいじゃん?
どうなの、稽古、うまくいってる?」


そういうと石川は眉をハの字にして俯いた


やっぱりコレか・・・
11 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 00:48
「よっすぃ・・・私、舞台向いてないのかも・・・」
「なぁんで?そんなことないよ。梨華ちゃん、舞台上手だよ?
毎回見に行くけど、本当上手」


ちょっと持ち上げすぎたか・・・?


石川は顔を上げてチラッと吉澤を見て、
再び俯いた


「バカ・・・持ち上げすぎ」
「そっそんなことないって!
なんで?誰かに何か言われたの??」



泣きそうな顔をして石川は顔を上げて話し出した


「うん・・・5日連続でね、怒られた
しかも同じところを何回も・・・『全然なってない。もう一度やり直し』って」
「・・・そっか・・・でも期待してるから怒るんじゃね?」

石川は首を横に振る
12 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 00:49
「期待してないよ。私なんか・・・」
「もぉーっ梨華ちゃん!またネガティブになってるよ?
ポジティブ梨華ちゃんの方があたし好きだよ?」


先輩も後輩も梨華ちゃんは完璧にポジティブになったって思ってる
でも根は今でもネガティブで、たまにこうやって相談してくる

それを知ってるのは多分圭ちゃんと柴ちゃんと私だけだと思う


「よっすぃは落ち込んだりしないの?」
「するよーっめっちゃする!でもそういうときは、
体動かしてストレス発散する。そしたら全部どっかに飛んでいってしまう」


あぁ〜もう涙目やめてよ・・・
あたし、梨華ちゃんの泣き顔苦手なんだって・・・


「じゃぁさっ一緒に走りに・・・」
「そうだよね・・・期待してるから怒るんだよね」


ん?え?
話が前後してるけど・・・
てかまた誘いスルーかよ
何回目だ??もうすぐで2桁いくよ
13 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 00:51
「そうだよ!期待してるから、怒るんだよ!
期待してなかったら、怒ったりしてないよ!
それにさ・・・あたし、梨華ちゃんが笑顔でいてくれる方がいい
これからリハなのに、口尖らせてる梨華ちゃんは嫌だよ?」


吉澤が言うと石川はパッと顔を明るくさせた


「キャハッまぁたよっすぃー!私のこと大好きなんだからぁ〜」


そう言って腕で吉澤の横腹をつつく



いや・・・ひやかし方古いよ・・・


まぁ何はともあれ機嫌が直ってくれてよかった

別にあたしは不機嫌な梨華ちゃんも嫌いじゃないから、
そのままでよかったんだけど・・・


「自販機行ってくるけど、梨華ちゃん、レモンティーでいい?」
「うん!ありがとーっ今日頑張ろうねぇ〜よっすぃー!」


吉澤はニコっと笑って楽屋から出た
14 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 00:54
――――――――・・・


「あっ親分!!どうでした?」
「ちゃんと治りましたよ!」

ドリムスでは唯一後輩の2人
だから梨華ちゃんが機嫌悪いときに迷惑がかかるのは
この2人なわけで・・・そのたびに機嫌を治すんだけど・・・

まぁここ最近は少なかったし、
大抵「お腹空いた」とか「眠い」とかだから、大して時間はかからなかったけど


「んーっと7分!ちょっとかかりすぎちゃいましたね〜」
「んだよーっ別に時間と勝負してるわけじゃないし」


ドリムス結成する前、小春はわたしらがこういう関係って全然知らなかったみたいだけど、
ドリムス結成してから、小春は積極的にあたしらの関係に絡んでくるようになった


「んじゃ、自販機行ってくるね。2人ともなんかいる?」
「水あるから大丈夫!」
「小春も水あるから大丈夫でぇーすっ」
15 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 00:55
――――――――



休憩時間、他の先輩がいない楽屋で小川と久住は雑誌を見ていた


「ほんっとよかったよ。りっちゃんが集合時間までに機嫌治ってくれて」
「でも焼きもち焼いちゃいますよ〜
石川さん、めちゃくちゃ大事にされてるじゃないですか?吉澤さんに」


「いやぁ〜まだ分かってないなぁ小春は
あの2人と3人だけになってみ?そしたら、そんな焼きもちなんて消えちゃうから。
っていうか、親分に対する見方も変わると思うよ?」

「えーなんでなんでぇ〜?」
「だってさ〜なんていうか・・・親分、りっちゃんにゾッコンだもん
いろんな意味で・・・もぉねっエロ親父みたいなの」
「なぁにそれ!どういう関係なんですかあの2人!?」

「いやぁ!別に肉体関係があったり、付き合ってるとかっていうんじゃないよ?
ただね・・・なんていうんだろうなぁ〜

とにかく・・・親分とりっちゃんの関係は・・・



・・・面白いんだよ」
16 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 01:04
『わたしらの関係』おわり


うぅ・・・なんか初めてなので上手くいきませんでしたが
どんどん上手くなるように頑張ります。これから1ヶ月間暇なので、
じゃんじゃん更新したいと思います。

エピソードとか時期が逆転しちゃうかもしれませんが、
基本的には全部繋がるように書きたいと思います。
17 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/28(火) 01:16
ドリムスいしよしとは!
面白そうです。
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/28(火) 06:34
面白かったですよ。リアル物大好物です!
19 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 10:57
>>17
ありがとうございます
現役時代と関係性が全然違うので、書いてて面白くなりますっ
>>18
ありがとうございます
出来るだけ、忠実になるように頑張りますっ
20 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 11:22

『時間が経った今』

〜保田視点〜
21 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 11:24
『もしもーしっ圭ちゃん?今暇〜?』
『まぁ暇だけど〜』

『じゃぁいつも私たちが行ってるお店で
飲もうよ〜。よっすぃーもいるから〜』
『おっけー。じゃぁ30分後に行くね〜』


よっちゃんが卒業してから、
よく私たち3人一緒に過ごすことが増えた
最初は梨華ちゃんと2人が多かったけど、
よっちゃんが卒業してから、いつの間にか3人でいることが多くなった

iPhoneのフォルダにあるお揃いのカバーをつけたiPhoneを持って
ニコニコ笑ってくっついてる梨華ちゃんとよしこの画像・・・


「こんな風になるまで・・・ほんと時間かかったよね」


この画像を見るたびに、胸が高鳴る
もちろん、変な意味じゃなくて・・・
なんか凄い・・・感慨深いというか・・・
この2人が仲良いと自分まで嬉しくなる
22 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 11:26
――――――――



「梨華ちゃんよっちゃん〜」
「あ!圭ちゃんだっ!お疲れ〜」
「おぅ!ケメコッお疲れ〜」

まただよ・・・
あんたたち2人なのになんで隣同士に座ってんのよ

しかも個室って・・・まぁ芸能人だからっていうのもあるかもしれないけど・・・
それに・・・まぁいいか


「なぁにあんた、酔っぱらってんの〜?」


すでに何本飲んだの?って数の焼酎と日本酒のビンが・・・
そして目がトローンとなっているよっちゃん

「酔っぱらってねー」
「私、明日早いから、あんまり飲んでないの。そしたら『じゃぁ梨華ちゃんの分も飲もー』って」

保田は奥にいる2人の仲の良さに改めて嬉しくなりながら、
誰もいない手前の席に座った
23 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 11:28
「まぁここ飲み放題だし・・・もととらないといけないしね」
「そうだよ〜ケメコいいこと言うじゃんっ」
「ケメコ言うな!“ちゃん”付けなさいよ」


そんな言葉は吉澤の耳に入らず、石川の方に体を向けた


「でさ、梨華ちゃん。そいつは本当だめだと思うよ」
「え?なんで?みんないい人って言ってた」
「なに?なんの話?」


保田が聞くと『梨華ちゃんの相手探し会議』と吉澤がぶっきらぼうに言った

定期的にこの2人は梨華ちゃんの相手について話し合いのようなことをする
といっても、周りのスタッフとか芸能人とかがほとんどなんだけど・・・
それに大抵、よしこが『そいつはだめ』て言って終わる
なにやってんだか・・・


「“いい人"っていうのが一番だめ!あの人は誰にでも優しくしちゃうから、
来る者拒まずって感じで」

それあんたでしょ・・・



って言いそうになったけど、慌てて口を閉じだ
24 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 11:29
だけど・・・


「なにそれ〜!来る者拒まずってよっすぃじゃんか〜」
「は?なんであたし?」
「まりっぺでしょ〜美貴ちゃんでしょ〜麻琴でしょ〜さゆでしょ〜小春でしょ〜・・・あとはね〜」
「何それ・・・意味わかんね」


吉澤は石川が言ってる意味が理解できない様子で、
焼酎を口にする


あぁ・・・ほんとこの2人面白い


「よっすぃはね、1人の人を好きになれないよ。きっと
浮気するよ。めっちゃ」
「しないよ。んなの!あたしが浮気嫌いなの知ってるでしょ」
「するよぉ〜!じゃぁ私だけが好き?どんな人と比べても、私が一番好き?」
「え〜・・・なにそれー」


本当になにそれだよ。大体趣旨が見えなさすぎでしょ
あんたら、よしこの相手は男だと思ってる?女だと思ってる?
で女だったら、彼女は梨華ちゃんってことになってる?
25 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 11:33
石川は吉澤を上目遣いで見つめる
うつろうつろした目をしている吉澤も確実に石川を見つめる


「うん。梨華ちゃんが一番だよ。どんな人と比べても」
「やったぁ!私もだよーー」


はぁぁーーー何やってんのさ・・・
あんたらどんな関係?

私はあんたたちが何もないって分かってるから大丈夫だけど、
他の人がこれ見ちゃったら、確実に疑うでしょ

そう・・・それがこの2人が個室にする理由


お酒が入るといつも以上にイチャイチャしだす
だけど、2人か私との3人か麻琴との3人かのときだけ・・・
だから大人数だったり、事務所の忘年会とかドリムスの食事会とかのときには、
この2人は比較的口をきかない

最後の最後にどちらかが酔っ払った方を運んで帰る
食事の席で他のみんなが知ってるのはそれだけ

とはいっても・・・少し??いやかなり他のメンバーは2人の関係について疑ってる
26 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 11:34
「もぉあんたたち私の存在忘れてるでしょ・・・」
「あっごめん圭ちゃん・・・圭ちゃんはねよっすぃの次に好きだよ」

いやそういうことじゃないんだけど・・・


「え?なんだよそれ!あたし1番なのにケメコ次ってどういうこと!?
ケメコとあたし、ジャンル違うでしょ」


いや・・・いろいろ間違ってるけど・・・
あたし、梨華ちゃんの1番になろうとも思ってないし
第一友達に1番とか2番とかないし
ジャンルもなにも、あんた女だから私と同じジャンルだし
なにより、なんでそんな嫌そうにするのよ
ってか“ちゃん"を付けろ“ちゃん"を


「キャハッそっか!よっすぃと圭ちゃんだったら、ジャンル違うね〜」


ムカ・・・なんなのさこの2人は・・・


「っも!あんたたちいい加減にしなさいよっ
私これでもあんたたちの先輩なんだからねー」


昔はよく2人セットで怒って、梨華ちゃんが泣いて
それを見たよっちゃんがほんの一瞬・・・ほんの一瞬だけどギッて私の方を睨み付けてたっけ・・・
27 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 11:38
「じゃぁさ、よっすぃー!ハンアンのさ、スタッフで・・・えっと・・・
カメラマンだっけな・・・背が高くて、ちょっとだけ長髪で」


って無視かい!!


「あぁー・・・確かに格好良いけど・・・残念ながらダメだね。」
「えーっ?なんで??」


いつまで続けるつもりなのさ『梨華ちゃんの相手探し会議』

石川と吉澤は保田には目もくれず、お酒を飲みながら向き合う


「あの人はね、あんま人のこと“可愛い”って言わないよ。
自分にプライド高そうだから」
「そう?そういう風には見えないけど・・・」
「うんん!顔もまあまあ格好良いし、長髪だし・・・いつも無表情だし・・・
そういう人は確実にプライド高いから“可愛い”とか言わない!
だめだめ。他の人にしな」


私呼ばれた意味ってあるのでしょうか・・・うぅ
ケメコ寂しい・・・

大体・・・この会議の意味って・・・
いや・・・突き詰めるといろんなことが面倒くさいからやめとこ
28 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 11:45
と思いつつも面白がってるわけで・・・
っていうか、それは小川も同じで

いや・・・誰でもこの2人と一緒にいたらこんな気持ちになるんだろうな


“こんな風になるまで”


それは梨華ちゃんとよっちゃん両方が変わったんじゃない
明らかによっちゃんが変わった

梨華ちゃんはいつでもよっちゃんを優しく見守ってて、
それでいて本人は無意識だろうけど、凄い嫉妬して
周りにもバレてて・・・そんな梨華ちゃんの反応をおもしろがるように
よっちゃんに近づいてた子もいたっけ・・・いや・・・今でもたまにいるな・・・

よっちゃんは・・・梨華ちゃんとあまり一緒にいなかったとき、
梨華ちゃんが男性のスタッフと話してると、切なそうにそれを見ていたよっちゃん
よっちゃんはいつも梨華ちゃんを切なそうに見ていた
今の優しい目じゃなくて、切なそうだった
自分の気持ちを素直に言えずに、ぶっきらぼうになってしまって・・・


2人はお互い惹かれ合ってた
恋人とか友達とか同期とかメンバーとかそんな一言の関係に収まりきれない



この2人しかない関係っていうのが確実にあった・・・―――――
29 名前:ルビ 投稿日:2012/02/28(火) 11:47

『時間が経った今』

〜保田視点〜
       おわり
30 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/28(火) 13:58
圭ちゃんかわいそすw
次も楽しみにしてます
31 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/28(火) 15:55
二作一気に読ませていただきました。
面白いです!楽しみが増えました。
32 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/29(水) 00:51
いま見つけましたブックマークしましたあなたは最高です!
33 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/29(水) 06:42
これは期待!
34 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/29(水) 14:03
更新楽しみにしています!
35 名前:ルビ 投稿日:2012/03/01(木) 20:16
>>30 ありがとうございます。
これからも圭ちゃんとまこっちゃんにはたくさんお世話になると思います・・・

>>31 ありがとうございます。
これからも楽しんでもらえるよう頑張りますっ

>>32 ありがとうございます。
まだまだです・・・これからも読んでもらえるように頑張ります!

>>33 ありがとうございます。
期待に応えられるように頑張ります

>>34 ありがとうございます。
次からは今までの2作とは違って、ちょっと暗めになるんですが、
これからも読んでもらえると嬉しいです。
36 名前:ルビ 投稿日:2012/03/01(木) 20:18
これからは少しの時間、いしよしでいう、“氷河期”について書きたいと思います。
今までの2作と違ってラブラブ感全然ないので、ちょっと書きにくい感じもあるので、
楽しんでもらえるか不安いっぱいですが、頑張って書きたいと思いますっ
37 名前:ルビ 投稿日:2012/03/01(木) 20:22


『気持ちの変化』

〜吉澤視点〜

38 名前:気持ちの変化 投稿日:2012/03/01(木) 20:24
2002年


コンサート某日――――――――


あたしたちは地方コンサートのため、ホテルに泊まっていた

5期の新人が入ってきて、あたしと梨華ちゃんはお姉ちゃんチームになり、
ホテルも1人部屋が多くなっていた


今日も1人部屋


「あ゛ーづがれだーー」


まだ誰も使っていない真っ白なベッドに飛び込んだ


「ふぅ・・・」


あぁ〜このまま眠りそう・・・

39 名前:気持ちの変化 投稿日:2012/03/01(木) 20:26
コンコンッ



ドアから音がした


「ん?誰だろ・・・」


吉澤は背伸びをしながら起き上がって
ドアの方へと向かった

ドアの前に行くと・・・


「よっすぃーっ私・・・」


その声は梨華ちゃんだった・・・
前はよくあたしの部屋に来てたけど
最近は全然来なくなった

もしかして『眠れない・・・』とかかな
もう17才だよ?梨華ちゃん・・・

そう思いながらも、内心来てくれたことが嬉しかった
40 名前:気持ちの変化 投稿日:2012/03/01(木) 20:30
自分がニヤけていることに気づき、
深呼吸をしてドアを開いた


「どうしたの、梨華ちゃん?」
「あのね・・・よっすぃ・・・怖い夢見ちゃったの・・・」


お・・・久しぶりだよ
梨華ちゃんの“怖い夢”
娘に入って仲良くなり始めてから、
しょっちゅう部屋に来ては、
『よっすぃ・・・怖い夢見た』って泣きついて来た


仕事のときは心配するぐらい、一生懸命で
あたしたち4期をしっかりと引っ張ってくれる
でも、ホテルだと家族と一緒じゃないせいか、
辻加護と並ぶくらい子供になった


「そっか・・・入る?」


吉澤はそう言って、石川が中に入りやすいようにドアを大きく開いた
41 名前:気持ちの変化 投稿日:2012/03/01(木) 20:32
「いいの?」
「もちろん」

涙目の梨華ちゃんが本当愛しくて・・・
いつもからかったりしてるけど、
こんな顔見ちゃうとからかうなんてことは頭からすっ飛んでいってしまう

本当に女の子なんだなぁ・・・


「ありがと、よっすぃー」


そう言って、俯きながら部屋に入った


「ねぇよっすぃ・・・一緒に寝てもいい?」
「・・・え?う・・・うん」


前はよく同じベッドで抱き合うようにして寝てた 

泣いてる梨華ちゃんを泣き止ませたくて、
慰めて慰めて、ギュっと抱きしめて・・・
42 名前:気持ちの変化 投稿日:2012/03/01(木) 20:34
いつだったか・・・
私の胸の中で眠っている梨華ちゃんが
『お母さん』と呟いたことがあった

少し・・・ほんの少し傷ついた気持ちにもなった
『よっすぃ』を求めてるんじゃなくて
『お母さん』を求めてんだって

だけどお母さんと同じくらいのぬくもりを感じてくれたってことも嬉しかった


あの日と同じ・・・あたしの中には梨華ちゃんがいて、
必死に目を閉じようとしてる


「梨華ちゃん、まだ怖いの?」
「うん・・・ちょっとね・・・」
「・・・あたし・・・いるからさ?ずっとこうしてあげてるから、
安心して眠って?明日早いんだから、ちゃんと睡眠とらないと」


そういうと小さく頷いて、必死に閉じようとしていた目が
少しだけ緩んだ
43 名前:気持ちの変化 投稿日:2012/03/01(木) 20:36
・・・梨華ちゃん・・・こんな表情、他のメンバーに絶対見せないでね?
怖い夢を見たり、悲しいことがあったら、絶対あたしに言うんだよ?


そう言えればどんなに楽か・・・
でも今のあたしには無理だった

梨華ちゃんみたいに素直になれっこないし、
なにより自信がなかった

梨華ちゃんを全部受け止めるっていう器があたしにはなかった

自分のことだけで精一杯で・・・
辻加護の世話もやってあげられない
いつも甘やかしてしまう
もちろん後輩の面倒もみてあげれない
嫌われるのが怖くて、優しくしてしまう
先輩との壁だって、いつになっても壊せないまま

よっすぃはしっかりしてるから・・・

みんなしてそう口を揃える


でも違うんだ・・・本当は“しっかりもの”を演じてるだけなんだ
44 名前:気持ちの変化 投稿日:2012/03/01(木) 20:38
吉澤は不意に石川を強く抱きしめた


「よっすぃー・・・?どうしたの??」


腕の中にいる梨華ちゃんが顔を上げて
うすれたような声で言う


「ん??なんにもないよ」
「よっすぃ・・・強がらないで?私に相談出来なくても、
誰かには相談して?ため込んじゃったら、よっすぃーだめになっちゃうよ・・・」


ずっとずっと梨華ちゃんの方が大人だった
何も言わないでも、分かってくれる
でも人に相談することができないあたしを分かってくれて、
あまり深く聞いてこなかった
梨華ちゃんはいつだって人のことを考えてる

でもあたしは自分のことしか考えられてない
45 名前:気持ちの変化 投稿日:2012/03/01(木) 20:42
――――――――



・・・


・・・・・・



「きゃーーーーっ!!よっすぃーの変態ヤロー!!」



ん・・・ん・・・なんだ??




加護の声・・・??


そう思ったときには、ドアが閉まる音がした
46 名前:気持ちの変化 投稿日:2012/03/01(木) 20:43
腕の中に何か気配を感じる・・・


あ・・・そういえば梨華ちゃん、昨日来たんだっけ?


梨華ちゃんの方に体を向けたまま、顔だけを時計に向けた


6時30分か・・・


まだ起きる時間まで30分ある・・・


なんで加護のやつ、こんな時間に起きてるんだよ・・・
てか『変態ヤロー』ってどういうこと?


「あ〜もう・・・あいつのせいで目が覚めちゃったよ」


呟きながら、加護の部屋に行くために起きようとした
47 名前:気持ちの変化 投稿日:2012/03/01(木) 20:45
ん・・・動けない・・・なんか引っかかってる??


布団をはいでシャツを見ると、
梨華ちゃんがシャツの裾をしっかり掴んでいた


うそ〜

このままじゃ動けないよ・・・


壁側にいるあたし・・・

こっち側には引っ張れない・・・
とすると梨華ちゃんをまたいで引っ張ることになる


うぅ・・・そんなこと出来ないよ〜


吉澤は石川の手をゆっくりシャツから離させようとするが、
頑なに離そうとしない
48 名前:気持ちの変化 投稿日:2012/03/01(木) 20:46
もーっ仕方ない・・・
このまま梨華ちゃんが起きるまで待つか・・・


「・・・」


いや!加護が今頃『よっすぃーって変態なんだよ』
って言いふらしてるかもしれない

だめだ・・・なんとしてでも加護のところに


「ふぅ・・・」


吉澤は石川の頭の両側に両手をおいて、ゆっくりとまたいだ

梨華ちゃんの横顔・・・


「可愛い・・・」


ってそんなことじゃなくて・・・
49 名前:気持ちの変化 投稿日:2012/03/01(木) 20:48
静かに静かに・・・


吉澤は体ごとゆっくりとシャツを引っ張る


梨華ちゃん・・・お願いだから離して〜


そのとき、石川が吉澤のシャツを少し引っ張った


「うぉっっ」


その衝動で石川の顔の横で突っ張っていた両手が見事に崩れた


だから当然あたしの顔は梨華ちゃんのすぐ横・・・
というか目の前に梨華ちゃんの首筋があって・・・
しかも思いっきり体がくっついてて

しかもまだ梨華ちゃんはぐっすり寝ていて・・・
50 名前:気持ちの変化 投稿日:2012/03/01(木) 20:49
・・・めっちゃいい匂い・・・


ってそんなことじゃなくて・・・


自分でも顔が赤くなっていってることが分かる


梨華ちゃんが起きないことを祈った

こんなとこ見られたら、冗談抜きで変態扱いされちゃうよ
加護ならまだしも・・・梨華ちゃんには・・・


そう思いながら吉澤は体を起こす


「んぅ・・・ん・・・」

そのとき・・・石川の顔が正面を向いた
51 名前:気持ちの変化 投稿日:2012/03/01(木) 20:53
整った眉
綺麗なまつげ
甘い匂い
潤った唇
ほのかに黒い肌


やべぇ・・・こいつ女だ


吉澤が見とれていると、石川がシャツを離した


「うぉっ」


その瞬間吉澤はベッドから崩れるように落ちてしまった


「いってぇ・・・」


梨華ちゃんはというと・・・まだ寝てる

どんだけ睡眠足りてないんだよ・・・
52 名前:気持ちの変化 投稿日:2012/03/01(木) 20:54
吉澤は石川を見るのを避けるかのようにその部屋から出て行った


それ以来吉澤は同じベッドで石川と寝ることがなくなった



――――――――


「加護ぉ〜」
「あ!変態ヤロー!!」


加護の部屋に入るとなぜか辻の姿もあった


入るなり、2人で『変態ヤロー』って・・・


「なぁんであたしが“変態ヤロー”なんだよ」
「だって梨華ちゃんと抱き合って寝てたじゃん!」
「いや・・・2人だってよく抱き合って寝てるじゃん」
「梨華ちゃんとよっすぃーと私たちは違うの!!」
「違うって何が?」
53 名前:気持ちの変化 投稿日:2012/03/01(木) 20:55
「よっすぃーは男、梨華ちゃんは女」


得意げに話す辻


「いや、訳分かんね。あたし、女だし」
「ううん!女の子らない!」


いやそこ胸張るところじゃないし


「なに?じゃぁ確認でもする?」
「きゃぁーーーっ!よっすぃーの変態!!」
「ちょっうるさいってば!とにかくあたしは女だし!
梨華ちゃんが怖い夢見たから、一緒に寝てただけ!
昔もしょっちゅうあたしの部屋に来てたでしょ?」


そんときは今みたいにならなかったのに
54 名前:気持ちの変化 投稿日:2012/03/01(木) 20:57
まぁあんときはあたしは女だったから・・・
てか今も女だっての!

年々男っぽくなるあたし・・・
もうボーイッシュって感じじゃなくて、
辻が言うように本当に男化してる
でもその原因はちょっと梨華ちゃんにあって・・・

ミスムンのとき、梨華ちゃんがよく格好良いって言ってくれて
それが凄く嬉しくて・・・もっと言ってもらいたいと思って、
いつも格好付けたりしてしまう
梨華ちゃんにいろんな相談が出来ないのも、そこにある
梨華ちゃんにはいつでも“格好良いよっすぃー”って思って欲しくて
弱いところを見せたくなくて・・・もちろん涙も見せたくなくて


こういう気持ちを変に意識したことはなかった
いつの間にかそうなってて

でも・・・これっておかしいのかもしれない
55 名前:気持ちの変化 投稿日:2012/03/01(木) 21:01
あたしは女の子で梨華ちゃんも女の子

あたしが梨華ちゃんに格好良いって思って欲しいとか
自分だけにこういう顔を見せて欲しいとか
間違ってる・・・


そしてそれ以来梨華ちゃんに対して突っぱねるようになった
前よりもキモイキモイと言い
メンバーで彼女にしたくない人には必ず梨華ちゃんを出した
そうして無意識に梨華ちゃんの気を引くようになった




そしていつの間にか・・・“梨華ちゃん”とも呼べなくなった




56 名前:ルビ 投稿日:2012/03/01(木) 21:02


『気持ちの変化』

〜吉澤視点〜  
       おわり
57 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/02(金) 01:18
十代の頃の自分と重ね合わせて泣きそうになりました
梨華ちゃんの言動は嬉しくて辛いんです.....
58 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/02(金) 12:23
連日の更新ありがとうございます。
いいですねえ。
59 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/02(金) 12:24
申し訳ありません。上げてしまいました。
60 名前:ルビ 投稿日:2012/03/02(金) 12:56
>>57 ありがとうございます。
梨華ちゃんとよっすぃーの優しさの違いが
すれ違いを招いてるのかもしれないですね・・・

>>58 ありがとうございます。
上手くできなくて、不安しかありませんが・・・
2人の関係性の変化をちゃんと書けるように頑張りますっ
61 名前:ルビ 投稿日:2012/03/02(金) 12:57


『自分の居場所』

〜吉澤視点〜
62 名前:ルビ 投稿日:2012/03/02(金) 12:59
ごっちんが卒業して、
石川も加護も辻も後輩と仲良くなって
プライベートでも遊んだりして
自分の居場所が分からなくなった
楽屋にいても、何となく居心地が悪くて外に出た


石川が心配してくれてる


それは感じていた
でもずっと避けていた
石川の自分に向ける眼差しが怖くて・・・

他の人にはあたしが悩んでるなんて分かりっこないって思ってた
レッスンとか収録ではいつも誰かとじゃれ合って、笑いをとって
みんなから『よっすぃーはおもしろい』
そう思われることだけでよかった

でも石川だけは違った
63 名前:ルビ 投稿日:2012/03/02(金) 13:00
ふと目線を感じると、
石川が悲しそうな目でこっちを見てて
何か話しかけられそうになったら、
避けるように他のところへ行った


そういうとき以外は普通に喋ったりした
ほとんどが石川の悩みのことだったけど・・・


昔と変わらない
みんなにはそう見えるかもしれないけど、
あたしたちの関係は明らかに変わってしまった

同期&友達から同期&仕事仲間に変わった

相談にも普通に乗るし、あたしが一番、
メンバーの中で話すのも石川っていうのは変わらない
でもプライベートも遊ばなくなって、
じゃれあうことも少なくなって、話す内容も仕事の話だけになった


これは成長っていうのかな・・・
64 名前:ルビ 投稿日:2012/03/02(金) 13:02
“ライバル”


モーニング娘は基本的そういう意識を持ちなさいって言われてる
メンバーで同期で年齢も近いなら、
なおさらライバル意識を持たないといけないはずなのに、
あたしと石川は最初からそういうのが全くなかった

もちろん今もそういう意識はない
他のメンバーにはなんとなくあっても、石川にはない
ライバルでも友達でもない・・・もっと冷めた関係“仕事仲間”
それが今のあたしたちの関係なのかもしれない


あたしが悩んでたときに出会ったのがまいちんとアヤカだった


自分の悩みを気兼ねなく相談できて、
いつも無理していた自分を甘えさせてくれた

収録が終われば、すぐに連絡をとり、
どっちかの家に行って、泊まったりした

凄く癒されて、自分の居場所を見つけた気がした
65 名前:ルビ 投稿日:2012/03/02(金) 13:03
そんなときだった・・・――――――――



「よっすぃー」



吉澤はいつものように娘の楽屋から離れて
壁に一人よっかかって、メールをうっていた

1人殻にこもっているようなこのとき、
誰も話しかけることはなかった

なのに、話しかけてきた人物は・・・


「り・・・石川・・・」


面と向かって“石川”って言ったことはなかった
でもなんて言っていいか分からずに“石川”って言ってしまった
66 名前:ルビ 投稿日:2012/03/02(金) 13:04
「まぁたぁよっすぃーは〜
ずっとここでメールばっか打って・・・」


からかうように言う口調

それがなんとなく寂しかった


「よっすぃーさ、最近凄くいいよねっ」
「いいって・・・なにが?」


あたしを気遣ってくれてるのが凄く分かった
気遣われるのが嫌で緩く返そうとするけど、
なぜか石川には思い通りにいかなくて・・・


「なんか・・・活き活きしてるっていうか・・・
まいちゃんとアヤカさんと仲良くしてるんでしょ?
やっぱ友達って大事だよね・・・」
「うん・・・」
67 名前:ルビ 投稿日:2012/03/02(金) 13:05
なんとなくまいちんとアヤカにふれて欲しくなかった
昔石川としてた恋人ごっこみたいなことを
今、まいちんとアヤカともやってたりして・・・
だからってなんでふれて欲しくないのか分からないけど・・・
とにかく知られたくなかった

仕事のこと以外の会話なんて久しぶりで、
どう返したらいいか分からない


2人に沈黙が流れた


「よっすぃー、今楽しい?」


沈黙を破ったのはもちろん石川だった


横にいた石川があたしの前に立つ
石川の顔は凄く笑顔だった
68 名前:ルビ 投稿日:2012/03/02(金) 13:07
「え?な・・・なにが?」
「んーっと・・・全部!仕事とか人間関係とか・・・」
「・・・楽しいよ?凄い・・・うん」


本当に思ってた・・・楽しいって
まいちんとアヤカと仲良くなって、気持ちに余裕が出来て、
コンサートも凄く楽しいし、収録も楽しい

なのに、石川から聞かれると
自分が嘘ついている気分になった


「なら・・・よかった!本当に・・・
よっすぃーの相談相手が出来て・・・本当によかった・・・」


笑顔なのになぜか悲しそうなのは気のせいだろうか・・・


「ありがと・・・」


そっけない返ししかできない自分が憎らしかった
69 名前:ルビ 投稿日:2012/03/02(金) 13:08
石川が自分を心配してくれてることがめちゃくちゃ嬉しいのに・・・


「でも・・・ちょっと嫉妬しちゃうな・・・
本当はさ・・・本当は私に相談して欲しいってのもあったんだけど・・・
でも一番大切なのはよっすぃーがちゃんと楽しく仕事が出来ることだから」


あたしが言えないことを石川が全部言ってしまう

石川はいつもみんなのことを考えすぎて、空回りして、
たまにウザがられて・・・
だからあたしを心配してくれることも石川の性格からなのかな・・・
って思ってた自分が嫌になった


「あ・・・それとさ?お洋服、ちゃんと考えて着ないとダメだよ?
髪の毛もきちんとして、言葉遣いもきちんとして、
座るとき、足開いちゃダメ!女の子なんだから・・・ね?
よっすぃーは美人なんだから、もったいないでしょ?」


そう言ってどんどん口を尖らせる
真剣な目でそういう石川にあたしはどう接すればいいか分からない
70 名前:ルビ 投稿日:2012/03/02(金) 13:10
あたしは石川に格好良いって思って欲しくて・・・
あたしは石川に好きなタイプが「男よっすぃー」
って言ってくれたことが凄く嬉しくて・・・

なのに、石川からそんなこと言われたら
どうすればいいんだよ・・・


「うん・・・そうだね」
「オフの日だって、おうちにいるだけじゃダメなんだから
まいちゃんとアヤカさん誘って、可愛いお洋服着て、
外にいっぱい出た方がいいと思うの・・・それに・・・」


吉澤は不意に笑みが出た

「ん?なに笑ってるの?」
「いや・・・相変わらず、よく喋るなぁと思って」
「なによぉ・・・よっすぃーが喋らなさすぎなのよっ」

さっきから石川が言ってることは、結構石川にも当てはまることで・・・
オフの日もずっと家にこもってるし・・・
71 名前:ルビ 投稿日:2012/03/02(金) 13:12
ずっとこういう話してなかったのに、
お互いのプライベートが分かるってことがなんとなく嬉しかった


「とにかく!まいちゃんとアヤカさんにいっぱい甘えて、
女の子っぽくなって、もぉーともぉーとお仕事頑張ろ?
私たち、先輩と後輩を繋ぐ大きな役割担ってるんだから・・・ね?」


それはどうだろ・・・
あたしには向いてないや・・・上と下を繋ぐパイプ役なんて・・・
でもそんな弱気なことも言えるはずがなく、『うん』と返すと、
石川はニコっと笑って楽屋に戻っていった



まるであたしの保護者みたいだな石川・・・


72 名前:ルビ 投稿日:2012/03/02(金) 13:13
――――――――


2004年4月


あたしはいつも通り、まいちんの家でまいちんとアヤカと3人でご飯を食べていた


「それでさ、あたし可笑しくなっちゃって・・・」


プルルルルル・・・


「あ・・・電話」


着信を見ると、久しく見ていない名前が携帯の画面に表示された


「・・・石川だ・・・」

不意に口から出てしまった
73 名前:ルビ 投稿日:2012/03/02(金) 13:14
「梨華ちゃん?」


アヤカとまいちんが不思議そうにあたしを見る


あたしは2人にメンバーとは仲が良くないと話していて、
そんなメンバーから電話があることに驚いてるみたいだった


「あの・・・ちょっと・・・トイレ借りていい?」
「え?なんで?」
「ちょっとトイレで話したいから・・・」
「トイレで!?」
「う・・・うん」


2人に石川の話を聞かれたくないのか、
石川にまいちんの家にいることを知られたくないのか
どっちか分からなかった
だけど、とにかく2人の前で電話することが嫌で
トイレに入って電話をとった
74 名前:ルビ 投稿日:2012/03/02(金) 13:16
「もしもし」
『あ、よっすぃー??』
「うん」
『今、家?』
「へ?・・・あ、そうだけど」
『そうなんだ・・・私たち、こうやって電話で話すの久しぶりだね』
「あ、そうだね・・・」
『なんか・・・懐かしいね』
「そうだね」
『・・・で・・・あの・・・』


いつも弾丸トークのように喋る石川がなぜか口ごもった


「なに?」
『いや・・・あっ明日ロケでしょ?
ちょっと寒くなるみたいだから、上着持ってった方がいいよ』
「へ?あ、そっか・・・うん分かった」
『そう・・・うん・・・じゃぁ・・・また明日ね?』
「あ・・・うん・・・じゃぁ」

そう言って電話を切った
75 名前:ルビ 投稿日:2012/03/02(金) 13:17
明らかにおかしかった


石川は昔から分かりやすくて
悲しいときも困ってるときも楽しいときも嬉しいときも
全部分かった


「なにがあったんだろ・・・」


吉澤はそう呟いてトイレから出た


「よっちゃん、メンバーから電話ってあるんだね
メールはしてるって言ってたけどさ」


トイレから出ると、すぐにアヤカから言われた
76 名前:ルビ 投稿日:2012/03/02(金) 13:19
「あ〜うん・・・まぁたまに」
「メンバーの中でさ、一番喋るって言ってたの梨華ちゃんだったもんね〜」
「でも・・・喋るって言っても、石川が喋ってるのを聞くって感じかな」
「めっちゃ想像できる!だけどさ、まいたちだけだもんね〜
こうやって一緒にご飯食べたり、相談聞いたりできるのっ」


それからずっと石川の電話のことで頭がいっぱいだった


なにがあったんだろ・・・
いつも相談してくる石川が相談しないって・・・
よっぽどのことなのかな・・・
いや・・・とうとう相談もしたくなくなったとか


今のあたしに石川がなくなったら、
完璧にモーニング娘の中での自分の居場所がなくなってしまう
8月には辻加護がいなくなって、
石川に見捨てられたら、あたし・・・
77 名前:ルビ 投稿日:2012/03/02(金) 13:21
「っちゃん・・・よっちゃん・・・!」
「え・・・ん?なに・・・?」
「さっきからなんかおかしいよ?なんかあった?」
「いや・・・なんでもない・・・ちょっとあたし、今日帰るね」


他の人といる気分じゃなかった


どんどんマイナスのことばっかり考えて、わけが分からなくなる


自分の居場所・・・
それは外に作るより、モーニング娘の中で作る方が大切だった


そんなの分かってた
分かってたけど・・・ずっと分からないふりして今まできてた

昔の方が自分の居場所があったような気がする・・・
78 名前:ルビ 投稿日:2012/03/02(金) 13:23
叱ってくれる先輩がいて、
気が合うごっちんがいて、
バカ騒ぎできる辻加護がいて、
公私とも仲の良い・・・梨華ちゃんがいて


昔に戻りたい


あんなにきつくて辛くて大変だったのに、
凄くいい思い出のように感じる

地方のコンサートとかでホテルに泊まっているときは、
毎晩お互いの部屋を行き来して、
色々愚痴喋ったり、つんくさんに電話したり
辻加護の変なダンス見せられて大笑いしたり
4人で怒られて、あたし以外の3人が大泣きする度に
慰めるのはいつもあたしの役目で



確かにあのとき、あたしの居場所はあったんだ――――――――
79 名前:ルビ 投稿日:2012/03/02(金) 13:23


『自分の居場所』

〜吉澤視点〜

   おわり
80 名前:ルビ 投稿日:2012/03/02(金) 13:27
やぁ〜

暗い・・・

よっすぃーファンの人、ごめんなさい・・・
根拠もない妄想だったりするので、
あんま現実っぽくないかもしれないですが・・・

次からは明るくなってきますっ
早く現在のいしよしを書きたい気持ちがあるんですが・・・
抑えて抑えて、そこに上手く辿り着くようにがんばりますっ
81 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/02(金) 19:22
凄いです。物語の中に引き込まれてしまいました。
続きが気になります。
82 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/02(金) 23:58
吉澤さんと石川さんもどかしくてたまらなく愛しいです
83 名前:ルビ 投稿日:2012/03/04(日) 17:10
>>81 ありがとうございます。
文章力、まだまだですが、そう言ってもらえると嬉しいですっ

>>82 ありがとうございます。
2人の心情をちゃんと書けるように、これからも頑張ります。
84 名前:ルビ 投稿日:2012/03/04(日) 17:10


『卒業までのタイムリミット』

〜吉澤視点〜
85 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/04(日) 17:11
2日後――――――――



あたしたちメンバーは楽屋に集められた


あたしたちの前に向かい合うように立っている、
かおりんと石川

もしかして・・・
もしかして・・・

あたしは今まで培ってきた経験から悪い予感がした


飯田は一歩前に出て、深呼吸をして話し出した


「えー・・・来年の1月に私飯田圭織は・・・
モーニング娘を卒業することになりました
約4年、リーダーやってきて、大変なこともあったけど、
みんながいたから、やってこれたんだなぁと思います。
まだちょっと先だけど、まずはね?のんちゃんとあいぼんの卒業があるから、
それまでは2人のことだけを考えてあげたいなと思ってます」


そう涙を浮かべて言った
86 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/04(日) 17:13
かおりんの卒業――――――――

それはなんとなく予想が出来ていた
もちろん、凄く凄くお世話になった人だから、
寂しいって気持ちもある
でも、100%祝福の気持ちで送り出せるって自信もある

だけど・・・
あたしがしてる悪い予感はそのことじゃなくて・・・


卒業を発表した、かおりんの横にいる石川・・・


嘘でしょ?

辻加護は2人で卒業したんだから
あたしたちも2人じゃないの?
密かに考えてた・・・
昔は辻加護が見た目や年齢からセットにされることが多かったから、
残りのあたしと石川もセットなんだって思ってた
グループ分けは絶対に石川と一緒にならなかったし、
4人並ぶときもメンバーで横並びするときもほとんど対局に石川がいた

でも、コントとかバラエティ番組とかで、
辻加護が関係ないところでセットにされることが増えて
スタッフからも『石川吉澤コンビは面白い』なんて言われて、
石川と一緒に喜んで・・・

なのに・・・やっぱりあたしたちは別々なの?
87 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/04(日) 17:18
今年1月に安倍さん、8月に辻加護
来年1月にかおりん

なんでこんなに一気にいなくなるのに
石川まで・・・


少し間を置いてから、石川も飯田と同じように
一歩前に出た


お願い・・・卒業なんて言わないで・・・


でもそんな願いは届くわけもなかった


「えーっと私も、モーニング娘を卒業することが決定しました
私は来年の5月だから1年あるんだけど・・・、
それまでののとあいぼんとかおたんの卒業もあるから、
それまでちゃんと3人を支えてあげたいなと思っています。」
88 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/04(日) 17:19
かおりんの清々しい挨拶に比べて
石川の挨拶は奥歯にものが挟まったような挨拶だった・・・
涙も浮かべないで、どこか一点だけを見つめているようで・・・



納得・・・してないんだろうな・・・


ついこの間、先輩と後輩のパイプ役頑張ろうって言ってたのに・・・




一昨日の電話はこのことだったんだ・・・



ほとんどのメンバーが泣きじゃくってる中、
私は涙が一粒も出なかった

不思議なくらいに・・・
89 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/04(日) 17:21
悲しくないわけじゃない寂しくない訳じゃない

それよりもっともっと自分の中で大きい喪失感があった・・・


驚きすぎて涙が出ない
現実を受け止められなくて涙が出ない

もしかすると、石川も同じ気持ちなのかもしれない


それから5月間、石川と卒業の話をすることはなかった
会話は何度もしたけど、あたしも石川も卒業の話を避けていた




石川は他のメンバーと卒業について話していたし、
あたしも石川の卒業のことを他のメンバーと話した
といっても、あまり深く話したりはしなかったけど・・・
考えたくなかった・・・認めたくなかった
まだ先だ・・・まだ先だ・・・そうずっと心の中で念じてた
石川の卒業が話題に出ても、違う人のことだ
赤の他人だ・・・そう思って自分の意識から“石川梨華”を遠ざけた
90 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/04(日) 17:21
――――――――



あたしがいつものように楽屋から離れて、
壁によっかかって、音楽をきいてたとき・・・


ん?


イヤホンがはずれて、流れていた音が消えた


「・・・石川」
「ふふ・・・よっすぃー!
イヤホンとっちゃったっ」


そう言って、石川はとったイヤホンを手に満面の笑みを見せた


「なぁーんだよ?」
「別になんでもないよ〜
よっちゃんと話したくてっ」
91 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/04(日) 17:23
石川はあたしが恥ずかしがるようなことを、
なんともないように言う
それが時にあたしの心を痛めつけるんだ


「よっちゃん・・・サブリーダー大丈夫?」
「え?・・・なんで?」


サブリーダー
かおりんが卒業して、やぐっつぁんがリーダーになって
石川が卒業するから、あたしがサブリーダー
そんなの普通の流れのはずなのに、自分では納得いかなくて・・・
今のあたしはサブリーダーに向いているんだろうか


圭ちゃんもやぐっつぁんもメンバーのことをちゃんと見てて、
叱るときは叱ってあげる

あたしは自分からメンバーと離れて、
こんなとこにいて・・・
92 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/04(日) 17:24
「だって・・・よっちゃん・・・」


石川が口ごもった

誰もが吉澤はサブリーダーにふさわしいと言った
まいちんもアヤカも・・・
よっちゃんはしっかりしてるからって・・・
でも石川は分かってくれてる
あたしがサブリーダーに向いてないってこと


「石川ーっ出番だよ」


沈黙が流れたのを破ったのは
あたしたちのどちらでもないスタッフだった

「はーい!じゃぁね、よっちゃんっ」
「うん」

でも・・・言わないんだ
石川は・・・
あたしが傷つくと思って、サブリーダーに向いてない理由を言わない

分かってるよ?
あたしがサブリーダーに向いてない理由
93 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/04(日) 17:24
――――――――


2時間後・・・

再び壁によっかかってると・・・


サッ



紙飛行機??


あたしの足下に紙飛行機が・・・


周りを見渡してみると、スタッフが慌ただしく動いている姿だけで
あたしに紙飛行機を投げたような姿はなかった


あたしは疑問に思いながらも、
紙飛行機をとり、広げた
94 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/04(日) 17:26







よっすぃー、今日、仕事のあと空いてる?
久しぶりに2人でご飯食べたいなと思ってるんだけど・・・


梨華より





95 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/04(日) 17:27
丸文字で書かれてる・・・


確かに石川の字だった


「石川・・・」


石川が自分から誘えないっていうのは知ってるけど、
ここまでとは・・・


一生懸命言葉を考えて、紙飛行機を折って
あたしの足下にめがけて飛行機を投げた石川の姿が
容易に想像出来て、不意に笑みがこぼれた


あたしはその石川に応えるように、
紙飛行機に返事を書いて、さっきのように石川の足下に投げてやろうと思って、
楽屋に向かった
96 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/04(日) 17:29
よし・・・みんな後ろ向いてる・・・今だ・・・


吉澤は、少しだけ楽屋の扉を開いて
立ちながら矢口と談笑していた石川の足下をめがけて紙飛行機をなげた


・・・


!!!

やべ・・・


石川の足下には届いたものの、拾ったのは矢口だった



あたしは息を潜めて、
楽屋から見えないように扉の横の壁に背中をひっつかせ、
中の様子をうかがった
97 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/04(日) 17:30
「なに!?これっ」
「え??どうしたの??
・・・あ!!紙飛行機だっ!」
「なに?梨華ちゃん・・・?」
「ちょっ・・・やぐっつぁん、それちょうだい!!」
「なになに??梨華ちゃんのなの??」


そう言って追いかけ合ってる2人・・・
お願い・・・石川、やぐっつぁんから奪って、その紙飛行機!!


「んーっと!?」


あたしの願いもむなしく、やぐっつぁんが紙飛行機を元の形に広げる


「ちょっと!!」
「んーなになに・・・
『今日、空いてるよ。焼き肉でも食べに行く?よっすぃーより』
なんだこれーー!!」
「うわわわっやめてーやぐっつぁん!!」


そう言って、石川はやっとのことでその紙飛行機を奪った
98 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/04(日) 17:31
もちろん、その紙飛行機に書いてある内容は
楽屋にいるメンバー全員に聞かれた


「やっぱりアンタたち・・・
メンバー内では恋愛禁止って言ったでしょ!」
「いや、かおたん、そんな真剣な顔して怒んないでよっ」
「だっておかしいでしょ〜2人とも近くにいるのに、
手紙で・・・しかも紙飛行機でって!!
付き合いたてのカップルがすることだよ?ねーかおり!」


やぐっつぁんはからかってるように見えるけど、
かおりんは・・・マジだ・・・


「あのねー!メンバーはライバルなのっ
何度言ったら分かるの?大体、昔からアンタたちはスタッフからも注意されてるでしょ?
くっつきすぎだって!そのせいで2人が付き合ってると思われてるって!!
まさか・・・本当に付き合ってるとは思ってなかったけど!」
「いや・・・だから付き合ってませんって!!ほんとなの!かおたん、信じてよ〜」
「いやぁ〜こんな決定的証拠が出たら、そんなこと言えないよ〜」
「もー!やぐっつぁんっ」


先輩2人に怒られてる石川・・・
99 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/04(日) 17:33
「吉澤ー、次出番!」


スタッフの声・・・


「ごめん、石川・・・頼んだよ」


そう呟いて、吉澤はスタジオへと急いだ



――――――――


収録後・・・


「お、よっすぃー彼女待ってんだ〜」


そう言ってニヤニヤしているのは、
ほかでもない、やぐっつぁん・・・


楽屋にはまだメンバーの半数しか帰ってきてない
終わった人から帰って良くて、いつもあたしは終わったら速攻帰ってるけど、
今日は・・・帰ってない
100 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/04(日) 17:34
「いや・・・彼女って」
「だって〜いつもよっすぃー、終わったらすぐ帰るじゃん?」
「いや・・・そうだけど・・・別にうちら付き合ってないから〜」


って言っても、やぐっつぁんはそんなこと知ってて、
からってるから、何言っても意味ないんだろうけど・・・


「いいなぁ〜石川さん!吉澤さん、
私とも一緒にご飯食べに行きましょうよ!」


半分下着姿の小川が近づいてくる

まず、服を着ろ!服を!


「あー今度ね、今度!」
「そんなこと言って〜!いつもスルーなんだからっ」
101 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/04(日) 17:35
別にスルーしてるつもりはないんだけど、
メンバーとプライベートで遊ぶって感覚が分からなくて・・・
収録とか楽屋で2人で話したりしても、
プライベートで話せるか話せないか・・・なんてことを気にしてしまって、
ほとんどメンバーの誘いは・・・とくに2人きりは傷つけず上手く断るようにしてる


「じゃぁーあたしとは〜??」


そう言って藤本が吉澤のすぐ横に椅子を持ってきて、
吉澤によっかかるように座る


「もーっアンタたちね・・・妻は梨華ちゃんなんだから!
ほら、どきなさい!!」


矢口がそう言いながら、吉澤の近くにいた小川と藤本を追い払う


「なんでですか!矢口さん関係ないじゃないですか〜
それに、妻ってなんですかー??」


そう言って、再び藤本は椅子を吉澤の方へ近づける
102 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/04(日) 17:36
そのとき・・・――――――――



「はぁ〜疲れちゃった」


すごい高い声・・・


石川だ


そう思って、扉の方へ目を向ける


「よっすぃー!・・・」


あたしを見つけた目が三日月の形に変わる

でもミキティを見つけた途端に顔が曇る
103 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/04(日) 17:37
「ほらほらほら!美貴ちゃん、どきなさい!」
「えーもう、矢口さん関係ないのにー」


口を膨らませた藤本は、吉澤から離れていった


「よぉーし!これで夫婦揃ったねっ」
「なんですか??夫婦って?」


石川の顔にハテナマークが集う


「いいのいいの、早く着替えてきな
8時に予約してっから」


吉澤がそう言うと、石川は満面の笑みをして頷いて、
更衣室へと走った
104 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/04(日) 17:38
「くぁ〜!!やっぱりよっすぃーは格好良いね〜
あ、そうだ!圭ちゃんに連絡しないとっ」
「なんで圭ちゃん?」
「いいの!とにかく、仲良くしてきたまえ!!」


そう言って小さな体で胸を張る


――――――――


「よっすぃ〜っ遅れてごめん」
「思ったより早かったじゃん。行こっか?」
「うんっ」


石川と2人並んで歩くと後ろから聞こえる声


「ヒューヒュー!お熱いね〜
妻を大事にしなさいよ〜〜」


やぐっつぁんの声
105 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/04(日) 17:39
「はぁい」


反論するのが面倒で、振り返らずに手だけ振った

だけど廊下に出ると・・・


「あ・・・かおたん」


目の前にはスタジオから帰ってきた飯田の姿

「アンタたち・・・!あれほど言ったのに、
まだこりてないのー!?」

もう、これ以上怒られるのもからかわれるのも
面倒だよ・・・

吉澤は石川の手をとって、飯田の前を振り切るように
走り出した


「あぁーーーー!!ちょっと!!
メンバー内では恋愛禁止なんだからね!!!
せめて、石川が卒業してからにしなさぁぁぁい!!」
106 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/04(日) 17:40
――――――――




2人は建物から出て、一旦足を止めた



「はぁ・・・はぁ・・・ごめんね、こんなに走らせて・・・」
「はぁ・・・ううん!嬉しかった」
「嬉しかった??」
「い・・・いや、今日ご飯付き合ってくれて・・・凄く嬉しい」
「あ・・・別にそんなの・・・前もよく行ってたじゃん」
「そうだけど・・・」
「もーいいから、行こう?」



いつもの石川らしくない姿に嫌気がさして
再び手を引っ張った
107 名前:ルビ 投稿日:2012/03/04(日) 17:41
今日は以上ですっ
108 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/05(月) 00:36
どうなるんだあ!
109 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/05(月) 07:58
これはいいところでw
110 名前:ルビ 投稿日:2012/03/11(日) 22:05
>>108 ありがとうございます。
どうなるんでしょうか・・・書いてて自分がモジモジするんですが・・・

>>109 ありがとうございます。
遅くなりましたっ
111 名前:ルビ 投稿日:2012/03/11(日) 22:07
上、sage書くの忘れてました・・・
すいません
112 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/11(日) 22:09
――――――――



「でね、お姉ちゃんが私に怒っちゃって・・・」



焼き肉屋に着いてから1時間、ずっと石川は愚痴を言いまくってる

さっきの控えめな石川はどこに行ったんだ・・・


「・・・ふぅ・・・なんかよっすぃーに聞いてもらったら、
スッキリしちゃった!」


なんて言って、すでに冷めているであろうハンバーグを
口いっぱいにほおり込む

本当・・・マイペースというか、なんというか・・・


よく安倍さんとか辻加護とかに
『梨華ちゃんの弾丸トーク聞いてて、ストレス溜まらないの?』
って聞かれるけど、あたしにとっては一生懸命話してる石川が
なんというか・・・可愛いくて
もちろん、話なんて右から左に流れて行ってることも多いけど、
自分が石川の相談相手になってるってだけでなんとなく嬉しい気持ちになる
113 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/11(日) 22:10
石川はあたしにじぃーと見られてることも気づかずに
黙々と食べている


よく食べるのに、なんでそんなに痩せてんだろ・・・
少し太ったかも・・・って呟いた5日後には2キロ痩せたりしてて
プロ意識が本当に高いんだな・・・石川って


「はぁ・・・食べたぁ!!」


石川はニコニコ笑って、ナフキンで口を拭く


「じゃぁ、もうそろそろ帰る?」
「え…いや…あの…」


石川から笑顔が消えた


「なに?どうしたの?」
「…あの…聞いてほしいことがあるんだけど」
114 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/11(日) 22:11
さっきとは一転して、真剣な顔つきになる


「うん…なに?」
「あのね…?私卒業するでしょ?」
「うん」


ズキ…


“卒業”

その二文字が胸に突き刺さった


「それまでさ…泣かないでおこうって…
入ってから1年間は、毎日ってくらい泣いてて、
よっすぃーにも迷惑いっぱいかけたでしょ?
だから、卒業まであと少しは、絶対泣かないって!」


決心したような目つきに圧倒されそうになった

そこにはネガティブ梨華ちゃんはいなかった
115 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/11(日) 22:12
でもさ…でも…


卒業までって言っても、カオリンの卒業もあるし、
石川の卒業前の番組収録とかでは、間違えなく
“卒業スペシャル”みたいなことがあるだろうし、
そのときに石川が我慢できるとは思わないんだけど…


「無理かな…?」
「…うーん…ちょっと無理かもね…」
「えー!やっぱそうかな」


石川は口を尖がらせる


「そんなに気、張らなくてもいいんじゃない?
いつも通りでさ」
「もー!全然分かってないよ、よっすぃーは!
卒業って大事なんだよ?入ったころよりは、成長したってことを
みんなに見せたいの!」
「別にいいじゃん、んなの…そんなことしなくても、
みんな成長したの分かってるよ。最初の頃より泣かなくなったのは明らかだし、
ポジティブだし…」
116 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/11(日) 22:14
そうだよ…成長してるよ…凄く…
知らないうちに女の子から女になってって
こっちが近づくのを躊躇するくらいに…

なんでも前向きに考えられるようになって
自分のことだけじゃなくて、他の子のこともちゃんと考えてあげられる


「でも…でも、出来るだけ我慢する!
だからさ、よっすぃー見てて?私が泣かないように」
「あたしが?」
「そう!入ってから、一番傍にいるのはよっすぃーだし、
相談してるのもよっすぃーだから」


ちょっと…ううん
凄く…凄く嬉しかった

でも石川は自分のほんのちょっとした一言にあたしが嬉しいって感じてるなんて
分かってないんだろうな…


「うん…分かった…監視しとくよ」
「ヘヘ…ありがとう」
117 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/11(日) 22:14
卒業までのあと少し…
あたしは石川のために何が出来るだろう
そう考えてたけど、もしかすると簡単なのかもしれない
いつものように隣で石川が話すのを聞いて
昔みたいにこうやってご飯を食べる
それでいいのかもしれない

今日の石川を見ていて、そう思った


「あとね…」


石川が聞こえないくらいの声で呟く


「なに?」
「あのね…おせっかいだって…
おせっかいだって思ってくれてもいいんだけど…」


そう言って一呼吸おいた


「よっすぃーのこと…
サブリーダーね?合ってると思うよ?私…」
「えっ?」
118 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/11(日) 22:16
思ってもみないことを言われて
どうしたらいいか分からなかった
朝は全然違うようなこと言ってたのに…
いや…『サブリーダーに合ってない』とは言われなかったっけ


「冷静に人のこと見れるし、よっすぃーが思ってる以上に、
よっすぃーはしっかりしてるよ?
それにね…今までのサブリーダーの保田さんと矢口さんのマネはする必要ないと思う
よっすぃーはよっすぃーなりのスタイルを作ればいいんじゃないかな?
一歩外に出てメンバーを見るってことも大事なことだと思う」


自分が悩んできたことをいっきに言われた気がした
これまで落ち込んでいるあたしのところに来ても、
核心は言わずに、冗談を言ったりして笑わせてくれた

いつでも、石川は落ち込んでいるあたしに気遣うように話しかけてきた


「な…なんでそんなこと…別にあたしは…」


このごに及んでまだ自分が悩んでいるってことを
表に出せないことが嫌になった

でも石川はそんなことも分かってくれてる
119 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/11(日) 22:18
「本当に違うんだったら、別にいいの。
でもね…少しだけでもいい。少しだけでも私の言うことに耳を傾けてほしい
まいちゃんとアヤカさんに相談出来てるならって…そう思ってたけど…
でも、一番よっすぃーの隣にいる時間が長いのはさ、私だから…
もうね?もう…卒業したらよっすぃーの隣にいられなくなるから…
本当は…本当は、よっすぃーと2人でモーニング娘を引っ張っていきたかった
でも…出来ないから…だから、よっすぃーには
しっかりとモーニング娘を引っ張っていってほしいの」


石川の目には涙が溢れてた


今までの気持ちが溢れるように…



石川に対して変な意識をして、
態度変えたり、呼び方を変えたりしている自分が恥ずかしくなった


もっともっと大事なことっていっぱいあるんだ

素直になって、自分の気持ち伝えたり、
目標をしっかりと持ったり、みんなのために何かを考えたり…
120 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/11(日) 22:20
家に帰って、ベッドの中で
声を出して泣いた

一生分くらい泣いた





本当に…本当に石川は卒業しちゃうんだ






今までふざけあってからかって
あたしは何も石川のことを考えてあげられてなかったのに、
石川はあたしのことを考えてくれてた

なのに、あたしは自分のことばかりで…
121 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/11(日) 22:21
笑い合った日
楽しかった日
大泣きした日
ふざけあった日
怒られた日
慰め合った日

石川との色んな日々が自分の頭の中に
フラッシュバックのように思い出された


「ごめんね…ごめんね」


吉澤は泣きながら呟いた


ごめんね、梨華ちゃん…

変に冷たくしてごめんなさい
避けちゃったりしてごめんなさい


寂しいよ…


目を背けていた大きな喪失感
それを頭からかぶったような感覚になった
122 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/11(日) 22:23
――――――――



それからあたしは出来るだけ、
“梨華ちゃん”と呼ぶようにした

まだ恥ずかしくて、完全にとは言えないけど、
梨華ちゃんが『よっすぃーが梨華ちゃんって呼んでくれる』なんて言って微笑んでいるのを見て、
もっと早くこうしていればよかったって思った


それに、食事に行ったり、プリクラに行ったり、
花見をしに行った

自分が思ってた以上に梨華ちゃんの隣は居心地がよかった
それは仕事だけじゃなくて、プライベートでも…


そして梨華ちゃんが卒業したあと、ハロモニの司会が梨華ちゃんになるって聞いて、
めちゃくちゃ嬉しかった

もちろん、本人にそのことを言えるわけなんてないけど…


自分の気持ちもあの日、号泣してから楽になって、
カオリンが卒業してから、一歩外に出て冷静にみんなのことを見るということも
出来るだけ実践して、何か気づいたことがあれば意見も言うようになった
123 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/11(日) 22:24
あと梨華ちゃんと約束した監視役だけど…

梨華ちゃんは思った通り、カオリンの卒業式とか卒業スペシャル番組、
自分の卒業スペシャル番組とか色んなところで泣いていた

『監視役、いらなくね?』って言っても、
『次はもう泣かないから』の一点張りで、最後の最後まであたしは監視役




5月7日――――――――




「楽しく…ハッピーで!」


梨華ちゃんが公演前にメンバー全員に言った言葉


矢口さんが脱退して、あたしがリーダーになって
梨華ちゃんがサブリーダーの仕事をしてくれる

たった1ヶ月くらいだけど“2人でモーニング娘を引っ張る”ことができた
124 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/11(日) 22:25
そしてステージ裏で梨華ちゃんから耳打ちされた



「監視役頼むね?」
「…無理だと思うけど…」
「だぁいじょうぶだよ!とにかく笑顔でっ」


そう言って思いっきり笑顔を見せた



――――――――



卒業公演、卒業式


梨華ちゃんは…




涙を見せなかった
125 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/11(日) 22:26
最後の最後まで笑顔だった


梨華ちゃんが泣きそうにならないように、
あたしが冗談混じりの卒業コメントを言ったのも大きかったのかな…


なんか締めっぽくなるのが嫌で…


最後まで笑顔で終わる
ハッピーな気持ちで終わる

それが石川梨華だった


公演が終わったすぐは大泣きしてたけど、
打ち上げでも笑顔で、やり切った姿は凄く格好良かった


可愛いだけじゃない
強さがある
華やかさの中に強さがある…

だからあたしは彼女に惹かれてるのかもしれない


うん…これも一生言えそうにないな…
126 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/11(日) 22:29
――――――――



みんな解散して、あたしも家に帰ったあと、
梨華ちゃんに電話をした



『もしもし』
「梨華ちゃん?」
『よっすぃー!どうしたの??』
「いや…コンサート終わってから、2人で話してなかったからさ」
『そうだね…』
「うん…あのさ…卒業、おめでとう」
『ふふ…ありがとう』
「あの…ほら、あたし、ちゃんと梨華ちゃんにさ…気持ち伝えられなかったじゃん?」
『気持ち?』
「そう…コンサートの…卒業コメント、梨華ちゃんが泣かないように…って考えてたから」
『あ…そうなんだ…でも、感動したよ?』
「そうなの?…でも…ちゃんとさ、言いたいからさ…すげー恥ずかしいけど」
『うん…』
127 名前:卒業までのタイムリミット 投稿日:2012/03/11(日) 22:31
「あの…梨華ちゃんが思う以上にさ、あたし梨華ちゃんっていう存在大事だったよ?
すげー落ち込んでるときとか、悩んでるときとか、空回りしてる梨華ちゃん見て、
めっちゃ癒されたりしてさ…なんていうか…あたし、羨ましいんだよね、梨華ちゃんのこと」
『え?私のこと!?』
「そう。凄い…なんつぅか…強いし…人のことも考えられるし」
『でも、私結構嫌われてるよ?』
「なんでよー別に嫌ってないっしょ!あぁいうガツンと叱れる先輩も必要なんだって
あたしは結構さ、嫌われたくないとか思っちゃうタイプだし」
『そうかなー』
「そうだよ!これからもさ、自分にも他人にも厳しい梨華ちゃんでいてほしいし、
全力な梨華ちゃんでいてほしい。あ、でも無理はしちゃ駄目だかんね?
すぐ体壊すんだから」
『ふふ…今日はよく喋るね、よっすぃー』
「あ…確かにそうかも…でも…ほら、ちゃんと言葉にしとかないといけないって
梨華ちゃんに学んだから」
『私に?』
「そう…あたし、梨華ちゃんの分もしっかりとリーダーやっていくから…
お互いにリーダーだし、一緒に頑張ろうね?」
『そうだね!頑張ろう!』
「うん…ごめんね?こんな夜遅くに電話しちゃって…
とにかくさ…あの…うん…卒業おめでとう!」


なぜか、緊張してしまった…
昨日と今日で梨華ちゃんが全然違うように感じて…
卒業っていうだけなのに
どこか遠くに感じた



“卒業”


あたしも立派に卒業出来る日が来るといいな…
128 名前:ルビ 投稿日:2012/03/11(日) 22:33


『卒業までのタイムリミット』

〜吉澤視点〜   おわり
129 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/12(月) 00:26
胸がキュンキュンするのう
130 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/12(月) 16:17
うわあ切ない
131 名前:ルビ 投稿日:2012/03/13(火) 18:37
>>129 ありがとうございます。
胸キュン・・・嬉しいです!
>>130 ありがとうございます。
これから、どんどんバカップルに変貌していくので、楽しみにしててくださいっ
132 名前:ルビ 投稿日:2012/03/13(火) 18:39


『素直になれなくて』

〜吉澤視点〜
133 名前:素直になれなくて 投稿日:2012/03/13(火) 18:41
梨華ちゃんが卒業して、少し経った頃・・・


あたしはリーダーということもあって、
ハロモニ収録のときは梨華ちゃんとの打ち合わせが増え、
そのせいか、雑談も増えていった


ハロモニ収録日――――――――


「梨華ちゃんいるー?」


吉澤はモーニング娘と同じ楽屋にいる、
石川を探しに楽屋に入った


中を見渡すと、梨華ちゃんが鏡の方をじぃーと見ている
・・・鏡越しで口が尖っている梨華ちゃんが見える

なぜかこっちを見てくれない・・・


そしてその梨華ちゃんとあたしを交互に見ている、
麻琴、コンコン、重さん、亀ちゃん
134 名前:素直になれなくて 投稿日:2012/03/13(火) 18:42
ん?なんかジェスチャーしてる・・・


4人が一斉に・・・


梨華ちゃんを指さして
両手の人差し指をたて、それを頭にたてる
いわゆる鬼のポーズ?

4人はその一連の動作を繰り返す


梨華ちゃんが・・・怒ってる??


あぁ・・・なるほど・・・


ご機嫌斜めなんだ・・・


いつもなら面倒くさいと思って、
あとで話しかけるけど、今日はハロモニのことで話があるし、
時間がないんだよ・・・
135 名前:素直になれなくて 投稿日:2012/03/13(火) 18:43
もういいや・・・


吉澤は4人をスルーして、
石川に近づいた


「梨華ちゃん」


それでも反応がない

ムカついて、イスごとこっちに向かせた

目の前には口を尖らせて、
あたしを睨み付けている梨華ちゃん



「なによ?」



こえー・・・

声が低いよ・・・
まぁ梨華ちゃんにしては・・・だけど
136 名前:素直になれなくて 投稿日:2012/03/13(火) 18:44
「ハロモニのことで話があんだけど・・・」
「・・・うん・・・なに?」
「あのさ・・・」


吉澤は手元の台本に目をやって
再び石川の方に目をやる


あれ・・・

あっ・・・


「梨華ちゃん、前髪の分け目変わった?」


そう言うと、分かりやすいように石川の顔が明るくなる


「え!?分かるの?よっちゃんっ」
「うん・・・右分けが左分けになってる」


さらに明るくなる梨華ちゃんの顔
137 名前:素直になれなくて 投稿日:2012/03/13(火) 18:45
コレだったんだ・・・
だからずっと鏡とにらめっこしてたんだ


「変かな??」
「ううんっ!可愛いと思うよ」
「本当??よかったぁー!で、どうしたの?」


石川は満面の笑みを浮かべて、
後ろにある自分の台本を手に取った




一通り打ち合わせが終わってから
少し雑談をして、あたしは楽屋を出た



「吉澤さぁん!」



後ろを振り向くと、さっきの4人が目を輝かせて、
こっちを見てくる
138 名前:素直になれなくて 投稿日:2012/03/13(火) 18:46
「なに?どうしたの?」
「吉澤さんって凄い!!天才!!」
「は?何?」
「あの石川さんを一瞬で笑顔にさせちゃうんだもん!」
「・・・でもあたしは思ったことを言っただけなんだけど」


吉澤がそう言うと、関心したような眼差しで吉澤を見つめる4人


「いや、前髪なんて普通気がつきませんよぉ!
やっぱ吉澤さんはちゃんと気配りが出来るんですねー」
「これから、石川さんが機嫌悪いときには、吉澤さんを呼びますね!!」
「そうだよ!!吉澤さん呼べば、私たちも怒られないで済む!!」
「ラッキーラッキー超ラッキー」


あたしが答える間もなく、
4人で淡々と進んでいく会話


4人はニコニコ笑いながら楽屋へ戻っていった
139 名前:素直になれなくて 投稿日:2012/03/13(火) 18:47
ったく・・・相変わらず女の子だねーみんな・・・


いや・・・あたしも女だよ?



「・・・あ!」



ちょっと待って・・・
さっき、『石川さんが機嫌悪いときには、吉澤さんを呼びますね』
って言ってなかった??


え・・・うそ・・・
超嫌なんだけど・・・


そんな毎回毎回梨華ちゃんのご機嫌斜めの理由なんて
分かりっこないでしょ


こうしてあたしはリーダーの他に
“梨華ちゃんのご機嫌取り”という役割がついてしまった
140 名前:素直になれなくて 投稿日:2012/03/13(火) 18:49
その日は一日中、スタッフやメンバーから、
キラキラした目で見られて、大変だった


ってか、どんだけ梨華ちゃんは怖がられてるんだよ
ってか、どんだけ梨華ちゃんは機嫌悪くなってんのさ



そのあとのハロプロのコンサートでも
美勇伝の2人からなんども『石川さんの機嫌を直してください』って言われて、
そのたんびにあたしは、梨華ちゃんの扱いを心得ていった


大体は“可愛い”と言えば、機嫌がよくなる
だけど、いきなり話しかけない方がいい
ちょっとずつ距離を縮めて行くのがベストなやり方
阪神が負けた次の日は、要注意!
その日はあたしでも機嫌をとるのは無理
とくに阪神対巨人で負けた次の日なんて、もってのほか

そのせいか、あたしは自然と野球の・・・
とくに阪神の結果に耳を傾けるようになった
141 名前:素直になれなくて 投稿日:2012/03/13(火) 18:50
てか・・・5年間毎日のようにいたのに、
結構分かってないことっていっぱいあんだな〜



いつの間にか、あたしは梨華ちゃんの機嫌をとるのも
面倒ではなくなって、ご機嫌斜めになる理由を探すのも楽しくなった



――――――――



「あのさー梨華ちゃん」


たまにあたしと梨華ちゃんはご飯を食べに行くようになった
もちろん、梨華ちゃんがあたしをご飯に誘ってくれた日から


「なに?」


でもあの日と変わってるのは個室になったこと

といっても、その店に個室があったら・・・の話だけど・・・
142 名前:素直になれなくて 投稿日:2012/03/13(火) 18:52
「梨華ちゃんさ、本当分かりやすいし、言葉攻めに弱いよね」
「え?そう?」
「うん。可愛いとか言われたらさ、すぐ顔真っ赤になっちゃうでしょ?」


機嫌とるためにはいいんだけど・・・


「だってぇ〜」
「きっとさ、何も思ってなかった男の人から、
“可愛い”って言われたら、すぐ意識したりするでしょ?」
「うーん・・・そうだね・・・するかも」


ムカ・・・

それってさ、どうなの?
一言でフラ〜って行っちゃうなんて、
優柔不断にもほどがあるよ


「知らない男に可愛いなんて言われても、
絶対ついて行っちゃダメだよ?」
「なにそれ〜子供に言い聞かせてるみたいっ」
「だって子供じゃんっ」
143 名前:素直になれなくて 投稿日:2012/03/13(火) 18:55
そうだよ・・・梨華ちゃんは子供だよ
現役のときは、なんだかんだ言ってお姉ちゃんみたいだったし、
卒業したあとも少しの間はお姉ちゃんだった

だけど、こうやってご飯を食べたり、
外に一緒に出たりすると、子供みたいな梨華ちゃんがどんどん分かってくる

変なおもちゃ見つけたら、
ケラケラ笑って、その場でずっと遊んでたり、
お腹いっぱいになって、その場で眠ったり・・・


「なによそれっ!」
「なぁんだよー!子供だよ子供!
梨華ちゃんは子供子供子供っお子ちゃま〜」


なんか無性に腹が立って、いつもならこんなこと言わないはずなのに、
どんどん口から出てしまう


「もーっ!!よっすぃーなんて、
大っ嫌いなんだからーっ」
144 名前:素直になれなくて 投稿日:2012/03/13(火) 18:56
大きい声でそう言うと、
吉澤は黙り込んでしまった


「あれ・・・よっすぃー??」
「・・・なんでそんなこと言うんだよっ」


そう言って、吉澤は下を向いてしまった


「え・・・??ご、ごめん・・・うそうそ!!
好きだよ?よっすぃーのこと」
「・・・マジ?」


曇った顔に少し笑みがこぼれる


「うん!!マジマジっ」
「そっかーっあたしは好かれてんなぁ〜」


吉澤は頭をかきながら、笑みを見せた
145 名前:素直になれなくて 投稿日:2012/03/13(火) 18:58
“どんなにモテても好きな人からモテないと、
モテるなんて、なんの意味もない”



誰かが言ってた言葉を思い出した


・・・いや・・・なんで思い出してんだよ




冗談だって分かってるけど、
つい本気にとらえてしまう
他のやつだったら、笑って『あっそ』って言えるんだけど、
梨華ちゃんにはそれが出来なくて・・・


子供っぽいのは、あたしの方だ・・・
146 名前:素直になれなくて 投稿日:2012/03/13(火) 18:59
「じゃぁさ、よっすぃーはあたしのこと好きぃ?」
「どうだろ・・・」
「なにそれ!!人に言わせておいて、なんで自分は言わないのよっ」
「え?別に・・・梨華ちゃんの片思いってことじゃん?」



再びムキーっとなる石川・・・



それを見るのがあたしのちょっとした楽しみだったりもする


まだまだ素直になれないあたし・・・



本当は素直にならなきゃいけないんだけど、
梨華ちゃんのその怒った顔を見るのも照れた顔を見るのと同じくらい好きなんだよね


ごめんね、梨華ちゃん
あたしが面と向かって、なんでも素直に言える日はまだ遠いみたい
147 名前:ルビ 投稿日:2012/03/13(火) 19:00


『素直になれなくて』

〜吉澤視点〜  おわり
148 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/14(水) 00:06
よっすぃ〜はどんな梨華ちゃんも大好きなんだよ
ここ数年つくづくそう思う
149 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/14(水) 10:29
盛り上がってまいりました
150 名前:ルビ 投稿日:2012/03/20(火) 01:04
>>148 ありがとうございます。
私も思います・・・梨華ちゃんに向ける目線が凄く優しいですよね

>>149 ありがとうございます。
あと少しで、バカップル見参!するので、楽しみにしててくださいっ
151 名前:ルビ 投稿日:2012/03/20(火) 01:05


『素直になるとき』

〜吉澤視点〜

152 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:07
2007年――――――――


「ほんとに大丈夫?」
「大丈夫だって」


石川と辻がダブルキャストを務める舞台がもうすぐ始まるのだが、
辻が体調不良になり、降板することになった。
そして、その代役を間もなく卒業する吉澤がすることになり、
石川が『私が頑張って教えます』と出演者やスタッフに告げ、
舞台稽古の休憩時間も2人で練習をしていた


「美貴ちゃん、怒ってたでしょ?」
「まぁね・・・」


正直、めちゃくちゃ怒ってた
『あと1週間で卒業する人を舞台の代役にするなんて、バカじゃないの?』って
でも、あたししかいないんだよ・・・
のんも梨華ちゃんも同期で、この短時間で台本を覚えなくちゃいけなくて、
稽古場にも慣れなきゃいけないっていう大きな壁を突き破ることが出来るのは、
のんと梨華ちゃんの同期のあたししかいない
もちろん、自信なんてない
自分に言い聞かせてるのかもしれない
153 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:09
だけど4期はいつもこうやって頑張ってきた
誰かが誰かのフォローをして、誰かが失敗したら4人で怒られて、
あいぼんの・・・あのときも同じだった
落ち込んでいる、のんの代わりに梨華ちゃんと謝って謝って謝って
嫌いとか好きとかそんなの超越している存在なんだ

ミキティは本気でスタッフに怒鳴りに行こうとしてたけど、
なんとか阻止して、説得した
まぁ・・・それでもずっと怒ってたけど

「でもさ、あいつもいいやつなんだよ」

そう、ミキティはあたしを心配してくれてるだけなんだ

「そんなの、分かってる。私が一番分かってるよ?
不器用なだけなんだよね・・・」
「うん・・・でさ、本当に手伝ってくれるの?
美勇伝のコンサートあんでしょ?」
「まぁ・・・でも、忙しいの慣れてるからさ」

梨華ちゃんは満面の笑みを見せる
その笑顔を見るだけで、なんでも出来るような気分になるから不思議だ


「よっしゃっ!やろ!」
154 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:11
とは言ったものの、一番最初に聞いたときは絶対無理って思いながら、引き受けた
だって、できるかできないかとかじゃなくて、
あたししかいないっしょ?普通に考えて・・・
そのときは、ため息混じりで引き受けたけど、
稽古場に来て、梨華ちゃんの姿を見て、気持ちが変わった

最初から、出演者の人たちが優しく受け入れてくれた

内心、凄い怒ってんだろうなとか
アイドルがこんな短時間で出来るわけないだとか思われて、
完璧アウェーな状態で稽古するのかな、なんて思ってたけど、全然違った


あたしがその雰囲気に呆然としていたら、
スタッフの人が耳打ちしてくれた


『石川が吉澤が入りやすいように、頭下げて回ってた』
『私がよっすぃーに全部教えますからって言って回ってた』


やっぱり梨華ちゃんはどんなときでも4期のお姉ちゃんだった


それから、梨華ちゃんとの練習が始まった
155 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:14
あたしが弱音を吐いては、梨華ちゃんが訳の分からない慰めをしてくれて、
直接それが慰めにはなってないけど、
あたしを慰めようと空回ってる姿が微笑ましくて、頑張ろうって思った

正直言って、本番まで・・・いや本番が始まってもその繰り返しだった


電話しては弱音を吐き、『絶対大丈夫、何も怖くない』って言われて、
『立場逆じゃね?』なんて突っ込んでは2人で笑って、談笑して


そんなこんなで舞台が始まり、無事にあたしは卒業をした
そしてあたしは舞台一色になり、ようやく掴んできたと思っていたとき・・・


「ねぇ、圭ちゃん呼ばない?」


大阪であたしが舞台、梨華ちゃんがコンサートを終えて、
食事をしようと梨華ちゃんとスタッフで外に出た


「え゙」
「なに、その顔?」


吉澤は顔をしかめていた
156 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:15
別に圭ちゃんのこと嫌いなわけじゃないよ?
本当に!!

でも・・・なんでだろうな
やっぱ食事をするってなると、別っていうか・・・なんというか


吉澤がブツブツ言ってると、
答えを聞かずに、石川は保田に連絡をした


「あ、うんっ!そう!こっちはスタッフも一緒なんだけどね」


うわ・・・あたしの意見無視〜?
まぁいいや・・・


「圭ちゃんね、ずっとよっすぃーと食事行きたいって言ってたんだよ〜」
「あぁ、そうだったね」
「ずっとさ、頼まれてたんだっ!今、圭ちゃん、大阪にいるからさ、
今だ!って思っちゃってっ」


と、得意げに話す梨華ちゃん
157 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:16
――――――――



「で、最近どうなの?」



うわぁぁぁぁ
キターーーーーーーー


噂の『最近どうなの?』


久しぶりに聞いたよ


あたしと梨華ちゃんは横に並んで、
その向かい側に圭ちゃんが座って、ナンコツを食べながら言った


「最近は、舞台とコンサートばっかだよー」


梨華ちゃんはサラリと答える
158 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:17
「石川ー」


スタッフからの呼び出し・・・


えー

あたし、1人で圭ちゃんの相手すんのかよ・・・


吉澤は、立ち上がってスタッフの元へ行く石川の姿をじっと眺めていた



「あんたさ・・・」



保田がさっきとは打って変わった様子で、話し出す
声は低めでナンコツも持ってない

あたしは、圭ちゃんの方へと顔を向ける
159 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:18
「ん?」
「仲良くやってんの?梨華ちゃんと」
「へ?」
「だーかーらー・・・まぁ、あんた基本的にアホだから、
ちゃんと言わないとダメね・・・」
「はい?」
「あたしさ、あんたたち2人を見てるとイライラするのっ
お互いさ、惹かれあってるのにさ、遠慮しあって・・・」



惹かれ合ってるって・・・
あたしたち、そんな関係じゃないよ?
それに遠慮してるなんて思ってない



「最初の頃は、そんなんじゃなかったじゃない
2人とも周りが呆れるほど、ベタベタしてたじゃん」



・・・そうだっけ?
まぁ・・・そうだったかも

160 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:20
「よしこ、思春期だったからさ、
意識しちゃったのかもしれないけど」


・・・



急に吉澤の顔が真っ赤になる


しかし保田は気にせずに話を続ける


「梨華ちゃんのことさ、好きなんでしょ?別に変な意味じゃなくてさ・・・
前よりは、素直になったと思うよ?でもね、ちゃんと言葉にしなきゃ伝わらないの
とくに梨華ちゃんは・・・相手が言ったことをそのまま受け取っちゃう子だからさ、悪いことも良いことも
素直にならないで、ずっとからかったり、突き放したりしちゃってると、
そのうち梨華ちゃん、いなくなっちゃうよ?
今は、まだ言葉にしなくても、梨華ちゃんは隣にいるかもしれない
でもそれって、仕事があるからなんじゃない?
一緒の仕事じゃなかったら、2人一緒にいる機会も減っちゃうんじゃないの?
仕事帰りのご飯だけじゃなくて、普通にプライベートでもっと遊びなさいよ



あんたは、梨華ちゃんを必要としてるんでしょ?」
161 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:21
ドクンッ



梨華ちゃんへの気持ち・・・


それをこんな風に言われたのは初めてだった


今まで『2人は付き合ってる』とか言われて、
からかわれたりしたけど、
こんな風に真剣にあたしと梨華ちゃんのことを考えてくれた人は初めてだった



だから・・・何も言うことが出来ない


圭ちゃんの言うことが正論すぎて・・・


仕事が一緒だから、一緒に食事して、
仕事が一緒だから、談笑し合って
162 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:22
あたしがどういう風にどんな理由で梨華ちゃんを好きなのかは分からない


だけど、あたしが梨華ちゃんを必要としていて、惹かれてるのは間違いない



「可愛いって思ったら、可愛いって言っていいの
好きだって思ったら、好きって言えばいいの
大事だって思ったら、抱きしめてあげればいい
女同士だからとか、関係ない
泣いてたら、泣き止ませてあげて?
困ってたら、相談に乗ってあげて?
意識なんてすることない
・・・普通のことでしょ?


気持ちに従えばいい
誰もダメだなんて言える権利はないよ?
人の気持ちに正しいとか間違ってるとかないんだよ」





「・・・」
163 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:23
何も言えない・・・


本当に本当にその通りだ・・・



今まで、意識しすぎてた


考えてみれば、他のメンバーには、あの・・・いわゆる“口説き文句”?を
言ったりとか、恋人ごっこをしたりしてたけど、
いつからか・・・ううん・・・本当は最初から・・・
“好き?”って聞かれると、決まって、“どうだろ”なんて言って、
ごまかし続けてきた


“恋人ごっこ”ってのも、よく考えてみると、梨華ちゃんとはあんましてない
友達同士がじゃれ合ってるってだけ
ただあたしが男っぽくて、梨華ちゃんが女の子っぽいから
周りからしたら、ベタベタしてたように見られただけ


だから・・・だから、あの夜、最後に一緒に寝たときに、
意識してしまって、前のようにじゃれ合うことが出来なくなったんだ
164 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:25
梨華ちゃんに対して、友達っていう意識だったから可愛いって面と向かって言えたし、
くっつくことも出来たし、甘えたりすることも出来た

だけど友達から女なんだって意識を持ち始めてから、
面と向かって可愛いって言えなくなって、
梨華ちゃんって呼ぶことも出来なくなって、
まるで子供のようにからかうようになったんだ



この感情は・・・なんだろ

恋・・・なの?


「友達、同期、ライバル、恋人、家族、
あんたたちの関係はどれ?」
「え・・・?」
「・・・そんなことね、考えなくていいんだよ?
世の中なんて矛盾だらけなんだから・・・
友達がこれ、とか・・・恋人がこれ、とか定義なんて
誰も出来ないんだから・・・」
165 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:26
なんで圭ちゃんはあたしの気持ちを分かってくれるんだろう


いつも避けてたのに


「ごめんね・・・圭ちゃん」


吉澤が掠れた声で呟く


「なによぉ・・・今更
あんたは抱え込みすぎなの!もっとこのお姉さんに相談しなさいっ」


そういって、保田はウインクをする


「ハハ」


それを見て吉澤が笑う
166 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:26





うん・・・この関係がいいんだ・・・きっと
先輩だからとか後輩だからとか悩んでた自分は捨てよう・・・



「圭ちゃん、また遊んであげよーか?」
「なんなの、その上目線!当たり前じゃない
この7年間、あたしは何回あんたを誘ったと思ってんの!?
何百回と遊んでもらうわよっ」





167 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:29
――――――――



舞台がすべて終わった日、打ち上げをしたあと、
梨華ちゃんから家に誘われた


「久しぶりだね、よっすぃーが私の家くんの」
「そーだね。ま、引っ越してて、前の家とは違うけど」


吉澤は石川から促されて、ソファに座った

「紅茶でいい?」
「うん」

石川はお湯を沸かしにキッチンに行って、
すぐに戻ってきた

梨華ちゃんはあたしの横に座るものだと思って、
横をあけてたけど、梨華ちゃんはあたしの後ろに立ったまま
168 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:31
「なに、どうしたの?」
「肩、揉んであげるね?疲れたでしょ?」


いつもそんなことしないのに・・・
ってかどっちかというと、梨華ちゃんの方が『肩揉んで』って言う方なのに


「・・・あのさ・・・卒業、おめでとう」
「へ?」


予想外の発言に、吉澤は驚いて、顔を石川の方へ向ける

だけど、石川は何も言わず、吉澤の顔を前に向かせる



「黙って、聞いて?」
「う、うん・・・」



石川は一呼吸置いて話し出した
169 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:33
「卒業してからも、よっすぃー、ずっと舞台のことで頭いっぱいだったからさ・・・
やっと、落ち着いたでしょ?だから・・・
今日がよっすぃーの本当の卒業の日なのかなって・・・
それでね、私の卒業のときは、よっすぃーが手紙くれたり、
メッセージくれたりしたから、私もよっすぃーに言いたいの・・・」
「・・・ほう」


話しながらも、石川は肩を揉む手の動きをやめない


「ひーちゃん」


たまに呼ぶそのあだ名
呼ぶタイミングが気まぐれすぎて、ときどき驚いてしまうこともあるけど、
梨華ちゃんからそう呼ばれると、なぜか嬉しくなる


「私ね、ひーちゃんのこと、好きだよ?」


ドクンッ
170 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:34
「格好良いところだけじゃなくて、しっかりしてるように見えて、
抜けてたり、抜けてるように見えて、しっかりしてるところも。
ちょっぴり、アホなところも」


石川さん、少しずつ悪口になってますよ・・・


「気が多いひーちゃんは嫌いだけど、
優しすぎるからだと思って、そこは許してあげる」


ん?どういう意味?


「あとね、強がりなところも好き!
格好付けたがりなところは、ときどきムカつくけど、
格好良いから許す」


許すって・・・なんでさっきから、上目線なんだよ
171 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:37
「あたしね、ひーちゃんが同期じゃなかったら・・・
こんなに頑張れてなかったかも・・・
一生懸命やっても・・・真面目にやっても、なかなか・・・報われない世界で、
ひーちゃんが『よく頑張った』って・・・言ってくれることがなによりの救いだった

私がどうでもいいようなことを・・・相談しても、
聞いてくれて・・・ま、右から左に流れていってたと思うけど・・・
嫌な顔一つしないで・・・聞いてくれて嬉しかった」



梨華ちゃんから出てくる言葉は震えていた




泣き顔を見せないように梨華ちゃんはあたしの肩を揉んでいた




「ひーちゃん・・・」
「ん・・・?」


今度は振り向かない

彼女の意志を大事にしたいから
172 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:38
「モーニング娘のオーディションを受けてくれてありがとう・・・
私が泣いてるとき、抱きしめてくれてありがとう・・・
ネガティブな私に付き合ってくれてありがとう・・・
いつも相談聞いてくれてありがとう・・・
・・・ひーちゃん、大好きだよ・・・」


・・・




この部屋に梨華ちゃんの鼻をすする音だけが響き渡る




ピーーーーーーーー




「・・・あ、お湯沸いたみたい」


梨華ちゃんはキッチンへ向かう
173 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:39
あたしの頬にも涙が流れていた



胸が痛くて痛くて・・・
なにも返せない



“ありがとう”とさえも言えない


でも・・・素直に・・・素直にならないと



「梨華ちゃん」
「・・・ん?」


涙を拭いて、梨華ちゃんの方へ体ごと向けるけど、
梨華ちゃんはこっちを向いてくれない


まだ、泣いてるのかな・・・
174 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:40
「あたしも・・・あたしも好きだよ・・・梨華ちゃんのこと」



石川の肩がピクっと震えた


だけど、何も言わない


「梨華ちゃん?聞こえた?」
「う、うん」


なんだよ・・・勇気出して気持ち伝えてるのに


「あのさ、あたし、最初の頃・・・」
「あ、あたし、お風呂入ってくるね」



素直な気持ちを伝えようと思っていたけど、
梨華ちゃんに遮られた
175 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:42
不自然にあたしに背中を向けたまま、
お風呂場に行くためにカニ歩きをする梨華ちゃん


「梨華ちゃん、何してんの?」
「な、なんでもない・・・」


ドタッ


梨華ちゃんの体がテーブルにあたって、リモコンが落ちた


それを拾おうと、梨華ちゃんがしゃがんだ瞬間、見えた梨華ちゃんの涙


「梨華ちゃん・・・」
「さ〜っお風呂お風呂」


マヌケな声を出して、風呂場へと向かった
もちろん、さっきの格好のまま・・・カニ歩きで
176 名前:素直になるとき 投稿日:2012/03/20(火) 01:43



負けず嫌いなのか・・・恥ずかしがってんのか・・・


だけどその涙は、決して悲しみの涙じゃなかった




“気持ちに従えばいい”





自分の気持ちにブレーキをかけるのは、やめよう
あたしは梨華ちゃんが大切で、梨華ちゃんを必要としている
だから、これからはきちんと伝えよう
自分の思ってることを・・・


177 名前:ルビ 投稿日:2012/03/20(火) 01:43


『素直になるとき』

〜吉澤視点〜 おわり
178 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/20(火) 02:43
泣いてしまいました。やっぱりこの二人が大好きです!
179 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/20(火) 08:27
良かった良かった。・゚・(ノД`)・゚・。
180 名前:ルビ 投稿日:2012/03/25(日) 23:42
>>178 ありがとうございます。
2人が出会って12年も経ってるのに、
こういう風に妄想出来ることが幸せです(笑)

>>179 ありがとうございます。
はい!本当によかったです。ずっと私も気分がブルーになりながら書いていたので・・・
181 名前:ルビ 投稿日:2012/03/25(日) 23:43


『2人の変化』


182 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/25(日) 23:43
 
183 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/25(日) 23:44


〜新垣視点〜


184 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/25(日) 23:46
2007年



夏ハロコンの練習が始まっていた


吉澤さんと美貴ちゃんが卒業、脱退をして初めてのハロコン



正直、2人がやめて、みんな切羽詰まってた
吉澤さんと美貴ちゃんの存在は今のモーニング娘にとってかなり大きい存在だった
その2人がいなくなって、初めてのハロコン・・・

とくに愛ちゃんと私は、リーダーとサブリーダーということもあって、
自分のこと以上にメンバーを見てあげないといけないというプレッシャーもあった
その上、8期のジュンジュンリンリンはハロコンが初めてだった

みんな1人1人が顔が強ばっているくらい焦っていた



そんなある日、石川さんと吉澤さんが私たちのレッスンを見学しに来た
185 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/25(日) 23:47
――――――――



向かい側にいる2人
正面じゃなくて、端っこの方にいる


・・・・・・



あ゙ーーーー


集中出来ない!!!!



さっきから、キスしちゃうんじゃないかってくらい顔を近づけて、
真剣な顔して何かを話している石川さんと吉澤さん

見学っていって来たのに、さっきから少ししかこっちを見ない


その2人が気になって、どうしてもそっちに目がいってしまう・・・
186 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/25(日) 23:48
きっと他のメンバーも気になっちゃってるんだろうな・・・


光井とジュンジュンとリンリンはあの2人仲良いなぁくらいにしか思ってないんだろうな

小春は・・・驚きつつもちょっと嫉妬しちゃってるかなぁ

さゆと亀と田中は超驚いてるに違いない・・・

愛ちゃんは・・・私と一緒でちょっと喜んでるかもしれない


え?私喜んでんのかって?
うん、喜んでます・・・ものすごく・・・


私がモーニング娘に入ったとき、2人の仲良しぶりは異常だった

楽屋で話すときは、今みたいに凄く顔を近づけて話してて、
普段は男っぽい雰囲気の吉澤さんが
石川さんの前ではときどき甘えたような感じになってて
石川さんも吉澤さんの前ではデレデレで・・・

私たち5期の4人はよく2人について話していた
187 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/25(日) 23:49
『恋人同士みたいだよね』『2人とも絵になってるよね』とか


きついことがあっても、この2人を見てると凄く癒された


まぁ私が元からモーニング娘のファンっていうこともあるかもしれないけど・・・


だけど、いつの間にか2人はあまり話さなくなった


というか吉澤さんが少し石川さんを避けてるようだった


でもときには吉澤さんが石川さんにかまって欲しいかのように、
石川さんに突っ込んだり、からかったりしてて・・・
正直・・・なにがしたいんだろう・・・なんて思ってたこともあった

口では『石川はタイプじゃない』とか『石川とは価値観が合わない』とか
『石川はキショイ』とか『石川は彼女にしたくないし、ユニットも組みたくない』とか
言ってるくせに、異常にからかったり、突っ込んだり・・・
途中、吉澤さんは石川さんのこと嫌いなのかななんて思ってたけど、
やっぱり違う
188 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/25(日) 23:51
本気で嫌いな人に突っ込んだりもしないし、からかったりもしない



6期のさゆ亀田中はそんなときに入ったから、
2人がイチャついてる姿は驚きでしかないんだろう


2人を見てて・・・

え?なんで2人のことをそんなに知ってるかって?
それは・・・まぁ矢口さんとか保田さんに・・・うん・・・


でもいつからか、2人でご飯を食べに行くようになったみたい・・・

私がそのことを知ったのは・・・


・・・


そうそう!紙飛行機!

矢口さんたちが大騒ぎしていた紙飛行機っ

どんなことがあったかって?それは上を参照してみて・・・

189 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/25(日) 23:53
それに石川さんが卒業して、当然楽屋には石川さんがいなくなった
だからなのか分からないけど・・・いやだからなんだけど・・・
吉澤さんは直接、石川さんのことは言ったりしないんだけど、
間接的に石川さんのことを言うようになった


たとえば――――――



美貴ちゃんが自分のプリンをさゆが食べたと楽屋で大騒ぎしているとき・・・


「重さんが食べたんでしょ?」
「食べてないですって!」
「だって、さっきそのプリンおいしそうって言ってたんじゃぁーん!」
「そんなの言っただけじゃないですかー」
「じゃぁ誰が食べたの?美貴のプリン」


2人で言い合いしていると、吉澤が入ってきた


「ねぇよっちゃんさぁん!重さんがね、美貴のプリン食べたんだよー」
「だぁから!食べてないですって」

吉澤はテーブルの台本を手にとって、
無言で2人の顔を見る・・・
190 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/25(日) 23:55
そして・・・


「あーぁ、ダメじゃん、重さん
ミキティのマイプリン食べちゃぁ」



愛スクリームと〜Myプリン〜♪
FuFu!!♪♪



キィーバタン・・・


・・・・・・


メンバー全員が一斉に楽屋から出て行く吉澤さんの姿を見た



・・・



「ちょっとよっちゃんさあああぁぁぁん!!!!!」
191 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/25(日) 23:58
他には――――――――



さゆと亀が楽屋で可愛い素振りを研究しているとき・・・



「小指がたってるとさ、可愛いく見えるんじゃない?」
「あーそうだねっ!お茶飲むときとか、マイク持つときとか!!」
「そうそうっ!今度実践してみよーかー」

「ちょっと!小指立たせるのはいーけど、横に人がいるときは、やめてよね
あれ、当たったら超痛いんだから・・・」
「はーい」



道重と亀井が藤本の言葉にふてくされていると、
今まで、みんなに背を向けて1人音楽に浸っていた吉澤が振り返って、
藤本の顔をじぃーっと見た



「なに?よっちゃんさん・・・」
「あのさ・・・」
192 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/25(日) 23:58






「いつも小指立っている人はどうすればいいの??」






・・・



「「え?」」
193 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/25(日) 23:59
「あ、なんでもない」




フンフンフンフフンフーン♪
(すきなひとが〜♪)




キィーバタン・・・



吉澤はザ☆ピースの鼻歌を残したまま楽屋から去っていった




「ちょっとよっちゃんさあああぁぁぁん!!!」
194 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:01
もういっちょ他には――――――――



「ねぇミキティ」
「なに?」


生放送のリハーサル待ち・・・
今日は一日中、確認確認で楽屋にこもりっぱなし・・・


「これ見て」


吉澤は藤本に紙切れを見せた



そこには


ながざわ ゆうこ
あべ   なつみ
いいだ  かおり
やすだ  けい
やぐち  まり
ごとう  まき
いしかわ りか
つじ   のぞみ
かご   あい
おがわ  まこと
こんの  あさみ


と書いてあった
195 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:02
「え?」
「これさー、ハロプロにいるモーニング娘。OGなんだけど、
“し”って文字があるのって石川梨華だけなんだよ」



へ??



・・・


「そ、それがどうかしたの?」
「いや・・・別になんでもないんだけどさ・・・
今、超ヒマだからさ・・・」



私は吉澤さんが言ってほしいことが浮かんで、
笑顔で言った


「そういえば、吉澤さんも“し”付きますねっ
お揃いじゃないですかーっっ」
196 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:03
ナイス!!

私ながらに自分を褒め称えた


「そ、そんなの他にもいるでしょ」
「え?」


吉澤は慌てたように名前を書いた紙を折ってゴミ箱に入れた

・・・これを言ってほしかったんじゃないの??



「そう?あんまいないかもよ?」


美貴ちゃんがフォローするように言う
197 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:05
「藤本美貴、新垣里沙、亀井絵里、田中れいな・・・」


お、ホントだ


吉澤の顔がみるみる明るくなっていく


「光井愛佳、久住小春、たかは・・・

・・・し・・・あい、みちし・・・げさゆみ」
「うわわわ」


今度は吉澤さんの顔が暗くなっていく


「トイレ行ってくる・・・」


・・・


キィーバタン・・・
198 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:06
誰が見ても、吉澤さんは石川さんのことが大好きって言うのが分かるのに、、
ハロモニの収録とかで楽屋が一緒になると、全然そういうことがない



むしろ、石川さんをからかったり、突っ込んだりしてる



まあたまに、機嫌を直すために、褒めたりなんかはしてたけど、
そういうときだけで、デレデレした顔もあまりしなかった


先輩なんだけど、凄くしっかりした、優しい先輩なんだけど、
こういうときは中学生かって突っ込みたくなる
199 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:07
――――――――



「はぁーい1時間、お昼休憩ねー」




先生のその言葉に反応して、一斉に体から力が抜ける


石川さんと吉澤さんもそんな私たちを見て、心配そうにかけよってくる



「大丈夫?凄いハードだね、ダンス」



ニコっと微笑む吉澤さんの笑顔


あぁ〜癒される〜
200 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:08
なんて思ってたのも束の間
石川さんがさゆと亀に近寄る


「さゆ、あそこのダンスはさ、もっとこうして、こうした方がいいんじゃないかな?」
「え?あ、はい」
「あと、えりは移動のときさ、こうじゃなくて、こうした方がいいよ」
「あ、はい」


いきなり、石川さんのお説教・・・じゃないアドバイス


「じゃぁ、あたしらはこれで・・・」


気まずい雰囲気にならないように、
吉澤さんが言った

「え、もう帰っちゃうんですか?」
「うん、梨華ちゃん、お腹空いたみたい・・・
このままにしてると、もっと不機嫌になっちゃうから」

吉澤さんは私だけに聞こえるように呟いた
201 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:10
「ひーちゃんっ!?なに言ってるの?」


吉澤さんの言うとおり、石川さんは凄く不機嫌そうだ


「なにもない、早く行こ」
「もっ!」


吉澤さんは石川さんの腕をとるけど、
石川さんはそれを振り払い、スタスタとドアの方に向かった


「重さん、亀ちゃん、さっきのアドバイス、聞かなかったことにしていいからね」


また吉澤さんは私たちにしか聞こえないような声で呟く


「ひーちゃんっ!!」
「はいはいっじゃぁ、頑張ってね〜」


そう言って、2人は去っていった
202 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:14
――――――――


「なんか、凄く変わったね・・・石川さんと吉澤さん・・・
とくに、吉澤さん・・・」


さゆが呆気にとられたように呟く


「でも・・・やっぱあの2人は・・・一緒の方がいいよね
なんか微笑ましいよ・・・見てて・・・」


愛ちゃんはそう言って、微笑んだ


私たちはさっきの息のあった一連の行動を思い出して、
笑い合った


レッスンが始まって、メンバー全員と笑ったりしてなかったから、
久しぶりにみんなで笑った気がする・・・



やっぱ凄いや・・・石川さんも吉澤さんも・・・
203 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:15


〜新垣視点〜 おわり

204 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:15
 
205 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:15


〜里田視点〜


206 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:17
――――――――




「「よっすぃー、卒業おめでとー!」」

「ありがとーっ」


よっすぃーの舞台が終わり、
やっと落ち着いてできる、よっすぃーとアヤカとの食事会

今日はよっすぃーの卒業祝い


「いやぁー、それにしても、よっちゃん本当頑張ったね!」
「まあね、最後の最後も突っ走って、終わったって感じかな」


私たち3人は2003年に仲良くなって、
お互い合い鍵を持ったり、毎日のように家に行って
ときには恋人同士、ときには親友のような関係で
仲良くしてきた
207 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:19
いつもよっすぃーをアヤカと取り合って、
笑い合って、誰か違う人とよっすぃーがくっついてたら、
アヤカと2人で凄い嫉妬していた


よっすぃーはあまり人に干渉しない
基本的、人に対して無関心なところがある

そのくせ、とてもナイーブで繊細な心を持つ

だから、あまり人に相談出来ないし、
弱音も吐くことができない

だけど、私たちには相談してくれる
その関係が凄く嬉しかった


だけど・・・



「でも、よっちゃんさ、よくあんな短期間で台本とか色々覚えられたよね」
「うん、梨華ちゃんがいたしね!それがさ、梨華ちゃん、いつも変な慰め方するんだよね
多分さ、普段梨華ちゃんが弱音を聞いてもらう方だから、慰め方知らないんだろうなぁ」



そう言って、よっすぃーは何かを思い出したかのように、微笑んだ
208 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:20
ここ最近、よっすぃーは梨華ちゃんのことを話す回数が増えた


梨華ちゃんが卒業するくらいのときから、
食事に行くようになったらしい
でも『仲良いんだ〜』ってからかっても『んなことねぇよ』なんて言って、
顔を背けるように携帯を手にしていた


そのときは、メンバーの中にも食事に行くような人が出来たんだって
ちょっとホッとした反面、ちょっと嫉妬もした


だけど、今思えば、あれは照れていたのかもしれない

前は全然しなかった梨華ちゃんの話を会うたんびにするもんだから、
まいもアヤカも嫉妬だらけ・・・


ほら・・・やっぱり

隣にいるアヤカを見ると、ムっとした表情・・・

やっぱ嫉妬してる・・・
209 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:21
「でもさー、梨華ちゃん、楽しそうなんだよねー
あたしを慰めてるとき!昔はさ、ってか今もそうなんだけど、梨華ちゃんが弱音を吐いて
あたしが慰めることがほとんどだったから、あたしに頼られてるのが嬉しいみたいで」


梨華ちゃんのことを話すときのよっすぃーは明らかにいつもとは違った


何回か梨華ちゃんとよっすぃーと私の3人でご飯を食べたことがある


だけど、別に普通だし、同期の関係って感じで、
何も違和感を感じることはなかった



でも・・・ただ一つ気になったことがあったんだけど・・・
ううん・・・錯覚かもしれない
210 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:22
――――――――



それから6ヶ月くらい経った・・・


よっすぃーからの連絡が極端に少なくなった

ガッタスとか音楽ガッタスで一緒になることは多い
仕事帰りに食事は何回かした
でもそれ以外では、ほとんど会ってない


アヤカに聞いたら、アヤカもあまり連絡がないらしい


そんなとき、アヤカからちょっとした提案があった


「最近、よっちゃんからの連絡が少ないでしょ?」
「うん、そうだね」
「前だったらさ、しょっちゅう連絡が来て、遊ぼーって言ってきたのにさ・・・
その理由ってさ、もしかしたら梨華ちゃんなのかなぁって」
211 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:24
私たちは昔からよく、よっすぃーについて話す
ナイーブで敏感なよっすぃーを何度も傷つけたことがあったから
だから私たちはよっすぃーのちょっとした変化を見逃さずに、
何か変化があったら、アヤカと話しあって、
傷つけないように、どうしたのかを聞いた

それが苦かって聞かれたら、まったくそうじゃない
私もアヤカもよっすぃーのことが大好きだから


「うん。まいもそう思う!仕事場では、何かあるってわけじゃないんだけどさ、
なんか・・・梨華ちゃんに対するよっすぃーって何か違う気がする」
「・・・それでさ、考えたんだけど、今度梨華ちゃんも誘ってみない?食事会に。
よっちゃんがさ、この3人に梨華ちゃんが入っても大丈夫かさ、試してみようよ」


よっすぃーは昔からこの3人に誰かが入ることを極端に嫌がった
他の人を私たちが誘ったら、露骨に嫌な顔をした
他にもお揃いのモノをテレビで見せるのを嫌がったり、
私たち2人がよっすぃーに内緒でご飯食べに行ったら、凄い嫉妬したり・・・

とにかく、よっすぃーはこの3人ってことに拘っていた
212 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:25
「うん!今から電話してみる?」
「そうだねっ」


まいたちは試すとは言ったものの、
内心ではよっすぃーは梨華ちゃんがこの3人に入ることを嫌がると思っていた
よっすぃーとまいと梨華ちゃんでの食事は普通にあっても、
よっすぃーアヤカまいっていう3人はやっぱり特別だったから


だけど、そんな考えは簡単に一蹴された


「もしもし、よっすぃ〜?」
『おーまいちーん!』
「あのさー、今度、食事行こうと思ってんだけど・・・
もちろん、アヤカも一緒にね!それでさ、梨華ちゃんも一緒にって思ってるんだけど・・・」





「お!いいじゃーん!4人で食事しようよー」





うっそおおお!!!


よっすぃーは間髪を入れずに返事をした
213 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:26
まいとは逆側の携帯に耳をくっつけているアヤカも唖然としていた


「いつにするー?」
『え?んっとねー・・・来週の月曜日の夜とかは?』
「あ、その日だったら、梨華ちゃんも大丈夫だと思うよ!
ね、梨華ちゃん、来週の月曜の夜って空いてるよね?」

「うん、空いてるよー」


え・・・??


『ちょっと待って!梨華ちゃん、そこにいるの?』
「うん!今2人で買い物してんのっ
ちょっ・・・ハハハ!おかしーでしょ、それっ」

「なんでよーおかしくないよー!!」
「バニーのカチューシャなんてしてる人いないから」
「えー!マイプリンでしてんじゃぁん!」
「あれは仕事でしょ!」
「えーだって、ひーちゃんマイプリン好きでしょ?
今度ひーちゃんの前でしてあげよーと思ったのに!」
「そぉんなのしなくていーから!ちゃんとしたカチューシャ探しなよ」
「はーい」
214 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:28
あの・・・置いてけぼりなんですけど・・・

里田とアヤカは顔を見合わせる


「あ、まいちん!?ごめんごめん
それで、なんの話だっけ?」
『・・・あ、あの来週の月曜日の夜、食事会するって話なんだけど』
「あ、そうだそうだ!2人とも大丈夫だよ!
・・・ってなぁにやってんだよー!」

「ウサ耳!可愛いでしょ?」
「可愛いくないから」
「えー!!なんで!?」
「うそうそ可愛い可愛い」
「すっごい投げやりなんですけど」
「いや・・・ってかこんなのしないでしょ!?プライベートで」
「いーじゃん!可愛いでしょ?」
「どうせ、買ったの忘れて、ほとんどしないっしょ?
ちゃんとしたカチューシャ探しなさい!」
「はーい・・・あ!これはー?」
「だぁーかぁーらぁー!それもさ・・・」



「ごめん、アヤカ・・・切っていい?」
「うん・・・」


ブチッ
215 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:29
はぁぁ





なんなんだこのバカップルは・・・


今度食事する必要もない気がするんですけど・・・


「でもさ、2人ともいつから仲良くなったんだろう」
「昔さ、メンバーの中で一番話すのは梨華ちゃんだとは言ってたよね」


だけど、メンバーとはプライベートでも遊んだことないし、
お泊まりもしたことないって言ってた



「やっぱ、あの舞台から急激に仲良くなったとかかなー?」
「んーどうだろ」
216 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:31
――――――――



「ううん!よっすぃーとはモーニング娘入って1年もしないくらいで、
一緒に遊んでたよ!お泊まりもしたしっ」


なんじゃそれーー!!


4人での食事会

2人のことについて聞いたけど、
まいたちが思い描いていた2人の関係とはまるで違った


「え、でも前さ、よっちゃん、メンバーとプライベートで遊んだことないって言ってなかった?
泊まりもしたことないって言ってたし・・・」
「え?そんなこと言ったっけ?」


なにぃー??
217 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:32
「ごめん、あたし、その場のノリで言っちゃってたかも・・・」



アホだ・・・本当に・・・



「もしかしてさ、よっすぃーにとって私の存在ってメンバーじゃないってこと?
ほらさ・・・運命の人・・・とか??キャハッ」
「ばぁーか!ただ忘れてただけだよっ」


さっきから漫才のように繰り広げてる2人の会話


ボケも突っ込みもタイミングバッチリで、
たまによっすぃーがボケても絶妙なタイミングで梨華ちゃんが突っ込む


本当に・・・あなたたちM1グランプリ出たらどうですか??
218 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:33
――――――――


帰り道・・・


思いっきり潰れた梨華ちゃんをよっちゃんは乱暴に・・・でも優しく連れて帰った


やっぱり・・・よっすぃーは照れてるんだ・・・梨華ちゃんに対して

昔からよっすぃーは梨華ちゃんに対しては、他の人とは違う気持ちを抱いてたんだ
前に3人でご飯を食べたとき、なにがあるってわけじゃなかったけど、
よっすぃーの梨華ちゃんを見る目が凄く凄く切なかった

今になって分かる・・・

よっすぃーは確かに梨華ちゃんのことが好きだったんだ
昔も今も――――――――


「なんかさ、拍子抜けしちゃうよね・・・」
「ホントだよ・・・なんだったんだ今までのよっすぃーは・・・」
219 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:34
きっと舞台中、それか舞台後になんかあったんだ・・・
だって明らかにおかしいもん
前はあんな風に人前でイチャイチャしてなかったし、
前より、よっすぃーの梨華ちゃん好き好きオーラが全面に出てる
なにがあったんだ・・・


はあああああ


大きい声でアヤカがため息をつく

そして大きく深呼吸をして言った


「でも私・・・楽しみが出来ちゃったかも」
「え、なに?」



「梨華ちゃんを見てニヤけてるよっちゃんを見ること!そして2人の関係を見ること!
なんかさ、どう考えたって、梨華ちゃんには勝てないよ・・・
だって、目がトローンってしてるんだもん、梨華ちゃんを見てるよっちゃん!
梨華ちゃんもさ、よっちゃんの隣にいると、いつも以上に可愛いく見えるし」
「確かに・・・」
220 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:35
誰がどう考えたって、お似合いの2人だ


梨華ちゃんにしか引き出せないよっすぃーの顔がある
よっすぃーにしか引き出せない梨華ちゃんの顔がある


2人を見ている人だったら、誰もが確信できることだ


「変にさ、嫉妬してたりしたけど、今日の2人の姿見て、
凄い・・・微笑ましくなったっていうか・・・今までよっちゃんは格好良いって思ってたけど、
今日のよっちゃんは可愛いかった!格好付けないで、素のよっちゃんって感じ!」
「うん・・・まいもそう思った・・・よし!!これからは2人を応援しよう!」


って言いつつも、なにを応援するのか分からないけど・・・



よっすぃーは確実に成長してた

悲しそうな目をしていたよっすぃーはそこにはいなかった

幸せそうな目をしていた
221 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:39
――――――――


それから、仲良し3人組に梨華ちゃんが入り、
4人で誕生日祝ったり、食事会をしたりして、
前は梨華ちゃんに嫉妬していたアヤカもよっすぃーに汚染・・・
いやいや・・・影響されて、梨華ちゃんにしょっちゅう可愛い可愛いと言い出した


喋りすぎて、疲れて眠ってしまった梨華ちゃんに、
しょうがねぇなという風に上着をかけるよっすぃー

ガッタス練習の休憩中に遊んでたら、着替えに行ってた梨華ちゃんが戻ってきて、
一目散に笑顔になって、おいでという風に手招きをするよっすぃー

変な行動をする梨華ちゃんに対して、言葉では鋭いツッコミなのに、
ニヤニヤしているよっすぃー


よっすぃーの“言ってることとやってることが違う”姿が微笑ましすぎて、
笑ってしまう・・・

そんな行動を見てるとさ、誰だって思っちゃうじゃん?




たぶんよっすぃーはものすごい梨華ちゃんのことを・・・


222 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:40


〜里田視点〜 おわり

223 名前:2人の変化 投稿日:2012/03/26(月) 00:40
 
224 名前:ルビ 投稿日:2012/03/26(月) 00:41


『2人の変化』 

  おわり
225 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/26(月) 07:28
おもしろい!ホントにおもしろい! あの発言の背景がよくわかりました。
226 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/26(月) 16:18
こうしていしよしウォッチャーが増えていくのですね。
227 名前:ルビ 投稿日:2012/03/27(火) 14:11
>>225 ありがとうございます。
そう言っていただけると、本当に嬉しいですっ

>>226 ありがとうございます。
今の雰囲気のいしよし見てしまったら、誰でもいしよしウォッチャーになりそうですよね(笑)
228 名前:ルビ 投稿日:2012/03/27(火) 14:12


『私だけに』

229 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:12
 
230 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:12
 
231 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:14

「吉澤さぁーん・・・」


事務所で偶然会って、高橋と新垣と食事に行くことになった吉澤

以前なら、どう話したらいいか分からないから
後輩の誘いは断っていたはずだけど、
最近、楽しすぎの浮かれすぎで、
そんなことがどうでもよくなった吉澤は間髪入れずに誘いに乗った

それまではよかった・・・


初めて、石川もいなくて、、
後輩と、たった3人でご飯を食べに来たのがなんだか嬉しくて、
テンションが上がった吉澤はいつも以上にお酒を飲み過ぎて、
潰れてしまった


吉澤はテーブルに俯せになっている


そんな吉澤をここ30分起こし続ける後輩2人
232 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:15
「おーい・・・吉澤さぁん」



・・・



「そうだ!先輩か誰かに電話してみない?」
「そうだね〜・・・じゃぁ、まいちゃんかアヤカさん?」
「うん・・・一応、吉澤さんに聞いてみる?」


ということで、吉澤に誰に電話をすればいいか聞くことになった

でも、目の前の吉澤を見る限り、答えそうにない・・・


まあ建前上・・・


そのつもりで2人は聞いた
233 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:15
「吉澤さん、誰か電話で呼んで、来てもらいましょうか?」



・・・



やっぱダメか・・・


そう思って、里田の電話番号を探そうとしたとき・・・




「ん〜・・・りかちゃ・・・ん」




「え!?石川さん?今“梨華ちゃん”って言ったよね?」
「うん、言った・・・」
234 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:17
もちろん、石川さんと吉澤さんが仲良いのは知ってる
最近プライベートでも仲良いのも知ってる

だけど、このタイミングで石川さんの名前を言うことに
驚きを隠せない2人



「まぁいいや・・・石川さんに電話する?」
「うん・・・でも石川さん、なんて言うか分からないし・・・
愛ちゃん、電話してよっ」
「・・・うん分かった」



深夜1時・・・


寝不足だけで機嫌が悪くなるのに、
こんな時間に電話しても大丈夫だろうか
235 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:18
プルルルルル・・・



『もしもーし、愛ちゃん?』
「あー梨華殿〜!」


いつもの高い声に高橋はホッと胸を下ろした


『どうしたの?あれ・・・
今日よっすぃーと食事行ってるんじゃなかったの?』
「そ、そうなんですけど、あの・・・酔いつぶれちゃって・・・
起こしても全然起きないんですよ」


『あ〜・・・』


少しの沈黙があった
236 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:19
「あれ・・・石川さん?」
『そこの店、なんてとこ?』
「えっと、ここは・・・○×ってとこです」
『そっか・・・結構近いんだね・・・今から、20分で行くから、待ってて』
「え、あ、はい!」



そう言って電話が切れた


高橋からは『迎いに来てください』とは言ってないのに、
自然と迎いに来ると言った石川の口ぶりは
まるで、よくある出来事かのようだった



「石川さん、怒ってた?」
「ううん!普通だったよっ
別に驚いた感じでもなかったし」
「そっか・・・ならよかったっ」
237 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:19
 
238 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:20
言った通り、20分で石川は3人がいる店に着いた


「もう、本当にごめんね!迷惑かけて・・・」
「あ、いえ!大丈夫です」


石川はまるで、吉澤が自分の家族であるかのように言った


「まったく何やってんのよっ」


そう言って、吉澤のお尻を思いっきり叩く


その姿があまりにも自然過ぎて違和感を感じない


もちろん、吉澤はそれでも起きない
239 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:22
「よっすぃー!起きなさぁい」
「・・・」



はあ・・・


石川は少しため息をついて、高橋と新垣の方をチラっと見て、
再び吉澤の方へと目をやり、自分の口を吉澤の耳に近づけた



「ひーちゃん」



甘い声でそう囁く声は、友達に対してでも家族に対してでもなく、
恋人に対して囁くような声だった



「ん・・・ん・・・あれ、梨華ちゃん?」
240 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:23
さっきのまったく起きなかった吉澤が別人のように、
目をこすりながら、顔を起こして、石川の姿を捉えた


「ほら、行くよ」


石川は冷めたような声で呟き、
吉澤の腕をとった


「はぁーいっ」


それとは対照的にウトウトした顔をしながら
甘い声で返事をする吉澤


「本当に、ごめんね・・・代金は私が払っとくから」
「そんな!いいですよ」
「大丈夫っ!あとで、よっすぃーに返してもらうから」
「あ・・・はい・・・あ、ありがとうございます・・・」


石川は戸惑う2人に満面の笑みを見せて、
代金を払い、店を去っていった
241 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:23
 
242 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:24
「ふぇーいっ」


バタンッ


よっすぃーは帰ってくるなり、変な声を出しながらベッドに飛び込む


まぁ帰ってくるとは言いつつも、ここは私の家なんだけど・・・


そして当たり前のように、ベッドに寝っ転がるよっすぃーも
どうかと思うけど・・・


「もー、ちゃんとお洋服着替えなさいっ」
「やだよぉー!めんどいーもーん!」


舌足らずで甘えたように言って、
石川の枕に顔を埋める
243 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:25
「もう!」


石川はタンスから比較的、自分には大きめのTシャツと下のジャージをとって、
吉澤が寝っ転がっているベッドに腰を下ろした


「そのままで寝ると、きついでしょ?
だから、ちゃんと着替えるのっ」
「はぁーい」

吉澤はそう返事して、
横になっていた体を起こして、石川の方に体を向ける


私がよっすぃーの着ているシャツに手をかけると、
子供のように、よっすぃーはバンザイをする

私がよっすぃーの履いてるジーパンに手をかけると、
また子供のように、よっすぃーは腰を浮かせる
244 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:27


・・・



「はい、出来上がり」


あっという間に吉澤はTシャツとジャージ姿になる


「ひーちゃん、今日楽しかったよー」


吉澤は背伸びをして、再びベッドに寝っ転がる


「そう、よかったね。よっすぃーは今まであんまり後輩と食事しなかったもんね」


私は外に出てしまったから、
もう一浴びしようと思って、タンスからパジャマをとろうとしていると、
凄い視線を感じて、振り返ると、よっすぃーがじっと私を見ていた
245 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:29
「なに?」
「ひーちゃんって呼んでっ!よっすぃーじゃなくて、ひーちゃんがいい」
「はいはい・・・ひーちゃん、もう寝た方がいいよ?
私、お風呂入ってくるから」


そう言って、石川はパジャマを持って風呂場に入ろうとした


「ね、梨華ちゃん」
「もー・・・なに?」
「一緒に寝ないとヤだよ?」
「はいはい、一緒に寝るから、早く寝なさい」
「はぁーい」


大きな目をキラキラとさせて、
こっちを見つめるひーちゃんはとても可愛かった
246 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:30
私だけが知ってるひーちゃんの顔・・・

それは酔っ払って、ある一定を超えたら、
究極の甘えん坊になり、究極の寂しがり屋になること

酔っ払ったら、熱くなって語り出したり、少し寂しがり屋になる
ひーちゃんが自分の酔っ払ったときを把握しているのはそれだけだ

他のメンバーもそれだけだ

だけど、私だけは知ってる

動かなくなるほど酔っ払ったときに私の家に連れて帰ったら、
幼稚園児のようになってしまう


そんなひーちゃんを表面的にはウザがりながらも、
ちゃんと付き合ってあげる


だって、普段じゃ、想像出来ないくらい、別人なんだもん・・・


このことは絶対誰にも言わない
もちろんひーちゃんにも・・・
247 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:32
ひーちゃんに言ったら、
『これからは理性がなくなるまでは絶対飲まない!』
なんて言いそうなんだもん


私だけが知ってるひーちゃんの顔・・・


それだけで凄く凄く嬉しいんだもん


甘い声で『ひーちゃん』って呼ばないと起きないところは、
ちょっと・・・いや結構、変態だと思うけど、
私の声でしか、起きないってことも嬉しい

たまに、ひーちゃん呼びにビクって肩を揺らすのに、
酔っ払ったら、『ひーちゃんって呼んで』
って言っちゃう、ひーちゃんが愛おしい


きっとお風呂から上がったら、爆睡してるんだろうな、ひーちゃん・・・


でもその寝顔を眺めながら、寝るのがちょっとした楽しみでもあるんだよね・・・
248 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:32
 
249 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:34



「・・・ん・・・いってぇ・・・」


あ゙ーーー


頭が痛い・・・飲み過ぎた・・・


カーテンから眩しいばかりの太陽が吉澤を照らす


ここは・・・梨華ちゃんの家か・・・


あたしは飲んだ日の記憶がないときはいつも梨華ちゃんの家に泊まっている
なんでかよく分からないけど・・・
梨華ちゃんが言うには、梨華ちゃん以外の人が起こしたり、抱えようとすると、
あたしが蹴ってしまうらしい・・・
そして梨華ちゃんの家に行くと、
何も言わずにそのまま、ベッドで寝てしまうらしい・・・
250 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:36
自分の家でもないし、昔よりはよくなったけど、
ピンクだらけの家なのに、なんでか凄く落ち着く


ベッドから降りると、キッチンに立ってる梨華ちゃんの姿が見えた


梨華ちゃんの背中からちょっとだけ・・・負のオーラが漂っている


機嫌が悪い・・・きっと・・・


そりゃそうだ・・・いつもは同じ席で飲んでて、
潰れたあたしを連れて帰ってくれるけど、
今回はわざわざ店まで来て、あたしを運んでくれたんだから、
怒るのも当然だ



「・・・梨華ちゃん?」



あたしは恐る恐る梨華ちゃんに声をかける
251 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:38
「あ、よっすぃー・・・おはよ」



少し低い声・・・


不機嫌とまでは行かないけど、少しだけ怒っているみたい


「ごめんね、昨日・・・あたし、なんかやった?」
「ううん・・・いつも通り、何も言わずに寝ちゃったよ・・・」
「そっか・・・本当ごめん」
「はい・・・これ」


梨華ちゃんが出してくれた水を一気に飲む


「ふぅ・・・本当に、ごめんね?」
252 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:40
吉澤は石川の行くところ行くところについて行って、
『ごめんね』『別にいーよ』と繰り返す


「ごめん・・・」
「もー、本当にいいから・・・
これからはさ、私のいないところではそんなに飲まないでよ?」
「うん・・・分かった」


梨華ちゃんの言う通りにしよう
今、『次は梨華ちゃんに電話しない』と決めても、
酔っ払ったときのあたしをコントロールなんて出来ない

だから、これからは梨華ちゃんがいるところ以外では
お酒は控えよう・・・


「今日、ひーちゃん休みでしょ?」
「うん」
「私は仕事あるからさ、鍵、ポストに入れてて」
「・・・あのさ、明日、一緒の仕事でしょ?だから、今日もここに泊まって、
明日一緒に行かない?」
253 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:41
「・・・うん、いいけど、今、冷蔵庫なにもないよ?」
「大丈夫、なんとか自分で買って、作るから。
もちろん夜は梨華ちゃんの分も作っておくね」
「そっか・・・じゃ、よっすぃーの手作り楽しみにしておくから」
「うん!いってらっしゃい」

「いってきます」


酔っ払って、私が梨華ちゃんの家に泊まった日はいつもこんな感じだ
なぜならあたしは次の日が休みのときだけ、
たくさんお酒を飲むようにしているから


「ふぅ・・・」


吉澤がテレビの前のテーブルを見ると、
朝食が用意してあった


「お、梨華ちゃん、やっさしーっ」
254 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:43
ご飯、漬け物、肉じゃが、その他もろもろ


「うまそーっ」


吉澤が箸を取ろうとキッチンに行くと、
ゴミ箱にコンビニ弁当の殻が・・・


わざわざ弁当の中身をお皿に出さなくても、
このまま弁当置いときゃーいいのに・・・


ったく・・・喜んじゃったじゃん


梨華ちゃんが朝食作ってくれたー・・・てさ・・・
255 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:45
まぁそうだよね・・・梨華ちゃんが料理、
たくさん出来るなんて話聞いたことないし
少しは作れるとは言ってたものの、こんなに出来るはずがない・・・


「まぁいいや」


お腹空いてたしね・・・


「にしても・・・頭いてぇー」


昨日どんだけ飲んだんだよ・・・


256 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:45
 
257 名前:私だけに 投稿日:2012/03/27(火) 14:45
 
258 名前:ルビ 投稿日:2012/03/27(火) 14:46


『私だけに』

おわり
259 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/27(火) 17:46
面白いです。
気が付いたら読みながらにやけてました。
260 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/28(水) 01:43
この二人可愛すぎる!
261 名前:ルビ 投稿日:2012/03/28(水) 13:12
>>259 ありがとうございます。
私もニヤニヤしながら書いてます(笑)

>>260 ありがとうございます。
本当可愛いです!いしよしはエピソードが多いので、書いてて楽しいです。
262 名前:ルビ 投稿日:2012/03/28(水) 13:12


『好きな先輩』

〜小川視点〜
263 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:13
 
264 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:13
 
265 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:20
モーニング娘を卒業し、留学して
約1年半・・・

帰ってきて、みんな変わってたらどうしようと思っていたけど、
みんなは全然変わってない

だけど一つだけ決定的に変わったことがあった


それは石川さんと吉澤さんの関係


と言っても、石川さんからよく吉澤さんとプライベートで遊ぶってことを
聞いただけなんだけど・・・
でも、それって私からすると、凄いこと・・・
石川さんが
『よっすぃーったらね、1日に何度も可愛いって言ってくるんだよ?どう思う?』
なんてノロける日が来るなんて思ってもいなかった
ってか、それを私に言ってくる石川さんもどうかと思うんだけどさ・・・
266 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:21
私は石川さんと吉澤さんの関係を一番知ってる後輩だと思う
まぁ・・・自分で言うのもどうかと思うけど・・・
というか、5期の4人はみんな石川さんと吉澤さんの関係を見ることが1つの楽しみってのもあった
石川さんはよく5期の面倒を見てくれて、
よく怒られるんだけど、よく相談に乗ってくれた
その石川さんを見ていると、吉澤さんのことが好きだなんて誰だって分かることだ


「あー・・・ないなぁ〜」


今日もそんな石川さんと食事に来ている

さっきから、バックの中をゴソゴソと何かを探しているようだ
終いにはバックの中のものを全部出している



「あーない・・・んー」



私は石川さんのバックから次々と出てくるものをじっと見つめていた
267 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:22
「ん?」


クリアファイルに入ってある白い紙を見つけた



そこには『hANGRY&ANGRY』と書いてあった



「麻琴?・・・あ、これ?見る?」



石川は小川の視線が自分のクリアファイルにあることに気づいて、
小川にそれを差し出した


「あ、すいません」
268 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:22
そこには




アンケート

1、HANGRYの好きなところは?
2、HANGRYの嫌いなところ、直して欲しいところは?
3、ANGRYにとって、HANGRYの存在は?




と書いてあった
269 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:24
「なんかさ、2人でユニット組むようになって、
そういう質問、よく聞かれるんだよね〜」


困ったような言い方なのに、
石川さんの顔は嬉しそうだった


「石川さん、これなんて答えるつもりですか?」


私はちょっとした好奇心で聞いた

ノロケ話なんて迷惑だっ!なんて言ってるけど、
本当は、この人たちのノロケ話が大好物だったりする


「んーと・・・どんな質問だったっけ?」
「えーと、吉澤さんの好きなところ!」


まだ石川さんは何も言ってないのに、
ニヤニヤしてる自分がいる・・・
あぁ・・・ダメだ・・・変態だよ私・・・
270 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:25
んー・・・


眉をハの字にして悩む石川さん


いつかいつかとニヤニヤして待ってる私・・・


「んー・・・やっぱり、
いつも冷静で、しっかりしてて、優しいところかな・・・」


うんうん・・・

・・・

って・・・え?

「それだけ!?」

おっと・・・

自分の中だけに止めておこうと思った言葉が出てきてしまった
271 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:26
「それだけって?」
「いや・・・もっとあるのかなーって思って・・・」
「んー・・・そりゃあさ、いっぱいあるよ?
格好良いとかさ、スポーツ万能とかさ・・・
でもやっぱり一番私が尊敬出来る部分としては、
しっかりしてるところと、冷静なところと優しいところなんだよね・・・」


んー・・・そっか・・・


でもなんか、つまんない・・・


石川さんと吉澤さんがお互い認め合ってて、
尊敬し合ってるってことは分かってる


でも、私が待ってる答えはそんなんじゃないんですよ〜


「じゃぁ、吉澤さんの嫌いなところと直して欲しいところは?」
272 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:28
ノロケろ〜

ノロケろ〜

ノロケろ〜


あ゙〜なんか今日の私変だ・・・


「言葉使い!あと、男っぽい仕草とか!」


お、これは即答だ


「まぁ、これは前からずっと本人にも言ってるんだけどさ、
まったく直らないの!」
「でも、それも吉澤さんのいいところの一つじゃないですか?」


石川さんはいつも吉澤さんに『格好良い』って言ってたから、
言葉使いとか仕草が男っぽいところは好きなんだと思ってた
273 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:30
「まぁーそうなんだけどさ〜・・・よっすぃーには、
ちゃんと女の子になってほしいの・・・格好良いよっすぃーも好きなんだけどね
言葉使いと仕草はまた別の話でしょ?」


なんか説得されてる気分だ・・・


「じゃぁー次!石川さんにとって、吉澤さんの存在は???」


これはノロケるでしょ〜


「・・・んー・・・家族以外で、一番大事な存在かな・・・
よっすぃーとの出会いはね・・・家族抜きで一番大切な出会いだと思ってる
こんなさ、ワガママで小姑みたいな私に9年も付き合ってくれて、
悩みを聞いてくれて、本当に感謝してるの・・・
昔はよく、慰めてもらったり、支えてくれたりしたから、
今度は自分が支えてあげられればなぁって思ってるんだけどね・・・
あんま上手くいかないんだよね〜・・・やっぱ、よっすぃー、しっかりしてるしさ、
弱いところもあんま見せてくれないの・・・でもね?もし、よっすぃーが
私を頼ってくれたり、弱いところを見せてきたら、全身で包み込んであげようって思う」




石川は満面の笑みを見せた
274 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:31
「あ、あった!これこれっ
はい、お土産!」


そう言って、バックからキーホルダーを出して、小川に手渡した



・・・


石川さん・・・私、今もの凄く感動してます・・・


ここまで吉澤さんのこと思ってたなんて・・・


「はう・・・っはう・・・んぐっ」


小川は溢れそうになる涙を石川に見せないように、
目の前のチャーハンを口いっぱいに入れた
275 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:32
「ちょっちょっと麻琴?
そんな口に入れたら、危ないよー」
「・・・ゴホッゴホッ」
「ほら〜言ったでしょ〜」


石川は小川の横に座って、背中を優しく叩きながら、
水を渡す


「す・・・いません」
「もう、大丈夫?」


石川さんは私の顔をのぞき込んだ



もう・・・今、石川さんの顔を見ちゃうと、
もっと涙が出てきちゃうじゃん


「石川さん」
「なに?」
「石川さんって、吉澤さんのこと好き?」
「・・・当たり前でしょ」
276 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:33
 
277 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:35
1週間後、事務所に行くと
誰もいない会議室で一人、何かを書いている吉澤さんを見つけた


「終わった〜!!」


少し観察してみようと、
ガラス越しに見ていると、大きく背伸びして
そのまま机に俯せになった


「吉澤さーん!」


留学が終わって、ちょこちょこメールはしてたし、
ちょこちょこ会ってはいたけど、
2人きりで会うのは帰ってきてから初めてだ


「おー麻琴!!!久しぶりじゃんっ」
「ますます親分、かっこいいっすねー!」
「はは〜ん!さては、あたしを狙ってるなー」
「ふん!狙ってませんよっ
吉澤さんには石川さんがいるんですから!」
278 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:36
2年前からどう変わったか、見てやろうじゃないのっ


「ふふっ・・・何だよそれ」


えーー!!超顔真っ赤じゃないっすかー!!

昔の親分だったら、

『てめぇー何言ってんだよっ!!lkjfぁkhdlkばl』


だったのに・・・


「本当に成長したんですね〜吉澤さん」
「は?何が?」
「フフ・・・なんでもないです」


ふとテーブルに目をやると、
紙切れが1枚・・・
279 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:38
「あ!これ、hANAGRY&ANGRYのアンケートですか?」
「え?あ、や・・・」


吉澤は慌てたように紙を持って背中に隠す


いや・・・分かりやすすぎですよ

仲良いと似るって言うけどさ・・・


「ちょっと見せてくださいよぉー」
「嫌だ!ぜってぇー麻琴にだけは見せたくないっ」
「いいじゃないですかー」


吉澤は立ち上がって、小川と向き合う


「ってかたいしたこと書いてねぇーし」
「じゃあ、なおさらいいじゃないですか!」
「いや・・・たいしたこと書いてるかも・・・」
「そんなら、もっと見たい!!」
280 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:49
もう長引くのは嫌なんで、ここらでいっちょ終わらせますか・・・


「あ、石川さん!」


私はドアの方を向く


「え、うそ!?」


それと同時に吉澤さんもドアの方を向く



「いえい!今じゃぁ〜」


ふん!!吉澤さんなんて、チョロいもんだぜ


「て・・・てめぇ・・・」
「オホホ!吉澤さんのことならなんでも知ってますのよ」
281 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:50
真っ赤っかになっている吉澤さんは置いといて、
アンケートを見ようじゃないの



アンケート


1、ANGRYの好きなところは?

可愛いところ
・顔
・仕草
・持ち物
・部屋

いい意味でワガママ
・お腹空いたら、すぐに機嫌が悪くなる
・食べたら、眠いって言い出す




「・・・」
282 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:51
すいません・・・

突っ込みどころ満載でなにも言えないんですけど・・・


まず箇条書きってどういうことよ

んで、可愛いところってほとんどじゃん!
素直に全部って書けばいいじゃん!

って言うと、吉澤さんは


「寝顔はイケてない」


ってまた、ノロケですか・・・

あとはさ・・・

『いい意味でワガママ』ってどういうこと!?

ワガママにいい意味とかあるんですか・・・?
283 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:53
しかもそれって後輩の私たちが一番石川さんに悩まされてる部分だったりするし・・・


「あの・・・吉澤さん?」
「なんだよ」


吉澤はもう諦めたというような感じで、
大きく足を広げて背もたれによっかかった状態で、椅子に座っている


「石川さんの良いところってさ、
もっと他にあるんじゃないですか?」
「え、なに!?」
「いや・・・例えば、なんでも全力で頑張るところ・・・とか、
いつも一生懸命なところ・・・とか」


これじゃぁ、ノロケにしか見えないよ・・・


「あぁ・・・じゃぁ、それも書いとく?」
「いや、いいです」
284 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:53
次は・・・



2、ANGRYの嫌いなところ、直して欲しいところ


洋服とか髪型を自分で決められないところ




・・・って少な!!!



後輩がこう言うのもなんですけど、
石川さんの短所って、それよりもっと他にあると思うんですけど・・・

主に、上に書いてある『いい意味でワガママ』ってとこ・・・
285 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:54
んで、次が最後


3、HANGRYにとってANGRYの存在は?

同期、メンバー



えーーーー!?


ここまで来て、それだけってどういうこと



・・・



ん??


なんか消しゴムで消した跡があるんだけど・・・
286 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:55
「吉澤さん、『同期、メンバー』って書く前に、
なんて書いたんですか?」
「え・・・なんも書いてないけど」
「書いてあるじゃないですか!消しゴムで消した跡が残ってますって」


ありゃりゃ

また顔が真っ赤だ・・・


きっと、照れくさいキザなことでも書いたんだろう

でも恥ずかしくなって、真っ赤な顔して、
消しゴムで消したんだろう

って好きなところはこんなに書いちゃってるのに・・・



「ねぇ吉澤さん」
「なに?」
287 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:56
「石川さんのこと好き?」



吉澤さんは分かりやすく目を大きくする


「なんだよ・・・いきなり」
「だから、石川さんのこと好き?」



「・・・どうだろうねぇ〜」



あれ・・・まだ成長してないようですけど・・・


誰が見ても、梨華ちゃん好き好き人間にしか見えませんけども・・・
288 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:57
「あーぁ・・・可哀想に石川さん・・・」
「は?なんで?」
「だって、石川さんに『吉澤さんのこと好き?』って聞いたら、
『当たり前でしょ』って言ってたのに・・・あ〜可哀想だ石川さん」



「ちょ、ちょっと!!マジで??それさ、録音してない!?」



なに?録音って??



「はぁ?録音なんてしてるわけないじゃないですか!!!」
「あっそ」


ったく・・・喜怒哀楽が激しい人だ・・・
前まではそんなんじゃなかったのに・・・

自分の気持ちに気づいたら、ここまで変わるもんかね・・・
289 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 13:59
「はあ〜あ・・・『よっすぃーは家族以外で一番大事な存在』とも
言ってたのにな〜・・・あ〜ホント石川さん、可哀想だ
あれ・・・目から汗が」
「うっそーーー!?まじで??それさ、録音してない!?」

「だぁから、するわけないじゃないですか!?
もう、帰りますねっ」


そう言って、ドアを開こうとしたとき・・・


「ちょっと待て、麻琴!」
「なんですか?」


私が振り返ると、吉澤さんが深呼吸をしていた


「梨華ちゃんに、『吉澤さんに石川さんのこと好きか聞いたら、
“もちろん好きだよ”って言ってた』って言え!」
「は?言ってないじゃないですか」
「いや・・・いいから言え!」
「言わないですよ。さっき、吉澤さん、“どうだろねぇ〜”って言ってたじゃないですか」
「前言撤回だ!愛すべき後輩よ・・・伝えときなさい」
「調子良すぎ・・・私より親分の方が石川さんに会ってるんでしょ?
なら、直接言えばいいじゃないですか」
290 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 14:02
はぁ・・・


吉澤さんは大きくため息をついた


「言えないから、言えっつってんだろ?」
「なぁんで私が怒られなきゃいけないんですか・・・」
「麻琴が伝えるって言わないからじゃん」
「だって、吉澤さん、さっき違うこと言ってたじゃないですか」
「だぁから、さっきはなんか・・・ほら・・・気分が乗らなかったんだよ」
「なんじゃそれ・・・結局、石川さんが“当たり前でしょ”って言ってくれて、
死ぬほど嬉しいから、自分も同じ気持ちだよって言いたいだけでしょ?」
「死ぬほどって・・・」
「じゃぁ、もう本当に帰りますからね」


バタンッ


もう!

絶対そんなこと言いませんよっ私は・・・

大体、石川さんと吉澤さんのこの差はなんなんだ・・・
大人と子供じゃないか・・・
291 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 14:03
その日、私は石川さんに


『吉澤さんに今日会って、この前石川さんに聞いたみたいに、
“石川さんのこと好きか”って聞いたら、
“んーアゴが出てて、色が黒い人はちょっと無理かなぁ”て
半笑いで言ってましたよ』


なんて言ってやった


ったく、私に物事を頼むなんざ100万年早いんだよ


思った通り、石川さんは怒り出して、
息が荒くなっていた


ケッケッケッケ・・・


自業自得だぜ吉澤親分・・・
292 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 14:04
 
293 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 14:05
数日後



「ここで会ったが百年目・・・
ちょっと来てくれるかい、小川さん」



事務所でゆったりとお茶していたら、
後ろから低い声が・・・



「よ、吉澤さん・・・」


仁王立ちして、いつになく怒っている様子の親分

あの日に石川さんに電話をして以来、
何度もかかってきた吉澤さんからの電話は
無視をし続け、メールでの誘いも無視し、
最後の最後に“音信不通”とメールを返した
294 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 14:06
あ〜れ〜


私の腕が凄い早さで掴まれ、
どこかに連れて行かれる


「あの〜親分?」
「・・・」


うわっ眉間にしわがよってるよ・・・
相当怒らせちゃったな・・・


誰もいない倉庫みたいなところへ連れてこられた

なんか学校の先輩に呼び出しくらったみたい


「小川さん、もうお気づきですよね?」
「・・・やぁ〜なんのことかさっぱり〜」


あまりの吉澤さんの迫力に声が裏返る
295 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 14:08
「あたし、“アゴが出てて、色が黒い人は無理”なんて言った覚えないですけど?」
「あれ??そうでしたっけ・・・」
「“どうだろうねぇ〜”しか言ってないですけど」
「あ〜そんなこと言ってたような、言ってないような・・・」
「知ってた?私、君がいない間、ずぅーとスポーツ関連の仕事が増えて、
そのたびに、鍛えなきゃって思って、年々、体を鍛える時間が増えて、
筋肉もかなり付いてるみたいなんですよ〜」
「あ・・・そ、そうですか・・・」


吉澤さんは私にゆっくりと近づきながら、
手首をぐるぐるして、頭をコキコキと鳴らす


ひぇーお母さぁん怖いよ〜



「い、石川さん、なんて言ってたんですか?」


石川さんのことを話して、なんとかノロケさせれば、
この場は収まるかも!!
296 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 14:09
「・・・一週間、メール禁止、電話禁止、話しかけるの禁止、家に入るのも禁止」
「そ、それは・・・」


って、恋人同士かよ!

凄い突っ込みたいけど、ここは我慢だ我慢


「い、いいじゃないですか!一週間、連絡取らなければ、
石川さんも吉澤さんの有り難みが分かりますよ」
「・・・・・・あいつは・・・ずっと待ってくれてたから、
一週間、一ヶ月話さなくても、きっと平気だよ」


でも吉澤さんは平気じゃないと・・・
なるほどなるほど


やばい・・・顔がニヤけてしてしまう
抑えろ自分


「てか、話がズレてんだっつぅーの。
・・・やっぱ、アイドルは顔が基本だから、顔はダメとして
何処がいい?」
297 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 14:09
顔を傾けて微笑んでいる姿は恐ろしく怖い


「あ・・・あの・・・」


こういうときこそ・・・こういうときこそ・・・



「あれ、石川さん?」



「へ?嘘!?」


ダーーーー



小川は吉澤がドアの方に目をやっている隙に
奥の方に走って、電話をかけた
298 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 14:10
石川さん、石川さん、
お願い、出て!!

このままじゃ、まじでヤバイよ・・・



『はい、もしもし』
「あー石川さぁぁぁん!」
『どうしたの?』



「麻琴ーーー!!また、嘘つきやがったな!!
・・・て誰と電話してんだよ」


『あれ、よっすぃーそこにいるの?』
「はい!私が、正直に石川さんに話したのに、
吉澤さんが“告げ口”するなって怒るんですよ」
299 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 14:12
吉澤さんは慌てて、自分の口を塞いで、
私を睨み付ける


『もう・・・よっすぃーは本当どこまでも子供なんだから・・・』
「そんなことないです・・・私が正直に言わなきゃよかったんです」


吉澤さんは今にも私に襲いかかろうとするように、
私を睨み続ける


『麻琴、よっすぃーに替わってくれる?』
「はい!」


「吉澤さん、石川さんが替わって欲しいって」


小川が吉澤に携帯を差し出すと、
目をまん丸くして、さっきとは打って変わって、
情けないような顔に変わった
300 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 14:13
「はい・・・うん・・・うん・・・
いや・・・そうだけど・・・うん・・・え゙・・・あと一週間!?
せめて、4日間にして・・・うん・・・はい・・・」


どんどん声がか細くなっていく
まるで、浮気が見つかった旦那さんみたいだ


「はい・・・」


石川さんと電話が終わったみたいで、
吉澤さんが私に携帯を突き返す

携帯が私に渡った途端、再び吉澤さんが私を睨み付ける


「石川さん?」
『麻琴、これからは、またなんかされたら、
ちゃんと言ってよ?麻琴は私が守ってあげるから』
「キャー石川さん大好き!」
『フフ・・・可愛い後輩だもん!』
「ありがとー石川さぁん!」
『いーえっ!じゃぁまた何かあったら、電話するんだよ?』
「はーい!じゃあまた〜」


ブチッ
301 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 14:15
爽快感溢れる小川の顔とは
真逆で凄い怖い顔をしている吉澤



「なぁにイチャついてんだよ」
「あれ?吉澤さんも、石川さんとイチャつきたいの?」
「・・・この野郎・・・」



殴りたい気持ちと殴ったら石川さんに
また連絡されるという2つのジレンマに置かれている吉澤さん



「もっと大人になれば、こんな風にならないんですよ」
「ったく・・・いつからそんなに偉くなったんだ」
「フフフ」
302 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 14:16
本当にこの2人が先輩で幸せだ


いつも気にかけて、心配してくれる石川先輩
ちょっと怖いけど、とても優しい吉澤先輩

子供のように見えて、実は凄く大人な石川先輩
大人っぽく見えて、実は凄く子供っぽい吉澤先輩


石川さんの吉澤さんに対する想いとか
吉澤さんの石川さんに対する想いとかには負けるけど、




私も2人のことがだぁーいすきですっ




303 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 14:16
 
304 名前:好きな先輩 投稿日:2012/03/28(水) 14:16
 
305 名前:ルビ 投稿日:2012/03/28(水) 14:17


『好きな先輩』

〜小川視点〜 おわり
306 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/28(水) 14:22
マコトいいなぁ
この二人良すぎる!!
307 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/28(水) 14:22
マコトいいなぁ
この二人良すぎる!!
308 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/28(水) 14:22
マコトいいなぁ
この二人良すぎる!!
309 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/29(木) 00:57
小川さんおつかれです
310 名前:?1/4?3?μ 投稿日:2012/03/29(木) 11:10
どんどんあほぅになっていく
よすぃーが可愛すぎる!
マコいいぞぉー♪
311 名前:ルビ 投稿日:2012/03/29(木) 11:34
>>306 ありがとうございます。
こんな可愛い先輩がいて、羨ましいですねっ

>>307 ありがとうございます。
本当にお疲れ様です(笑)これからも、小川さんにはお世話になると思います・・・

>>308 ありがとうございます。
梨華ちゃんはそうでもないですけど、よっすぃーは本当に変わりましたよねーっ
312 名前:ルビ 投稿日:2012/03/29(木) 11:35


『嫉妬心』

313 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/29(木) 11:35
 
314 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/29(木) 11:35
 
315 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/29(木) 11:37
『もしもし、まいちん?』
「よっすぃー!どうしたの?」
『今日の夜、空いてる?食事したいなぁと思って』
「あ〜・・・ヘキサゴンのメンバー、数人と食事する約束になってんだけど、
よっすぃーも一緒に来る?」


最近・・・いやここ2年くらい、
よっすぃーから私への誘いの電話はほとんどなかった
なぜなら、いつもよっすぃーの隣には梨華ちゃんがいるから
私を誘うときは、大抵よっすぃーと梨華ちゃんが一緒にいるときで、
今日みたいに1人で誘ってくることは珍しかった


よっすぃーは知らない人と食事をすることがあまり好きじゃない
よく知っている人じゃないと食事をしない
だけど、久しぶりに誘ってきたから、断りたくなかった
私は『じゃあいいや』って言われると思ってた
でも違った
316 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/29(木) 11:37
『そっか〜・・・じゃあ行こうかな』
「え?よっすぃー来んの?」
『う、うん・・・だめ?』
「いや、ダメじゃないけど・・・
じゃぁ○×ってお店だから、8時に来て」
『おっけー』


珍しい・・・絶対断ると思ってた


もしかして、よっすぃーもちょっとは変わったのかな
317 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/29(木) 11:38
 
318 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/29(木) 11:38
そう思ってたけど、食事会の席のよっすぃーは
とても居心地が悪そうだった

ずっと携帯の画面を見て、全然話さなかった


「よっすぃー?どうしたの?」
「え?なんにもないよ?」


そうやって微笑むよっすぃーの顔は
なんとも言えなく切なそうだった


最近はずっと幸せそうだったのに・・・


二次会でカラオケに行くことになって、
よっすぃーに帰る?と聞いても、よっすぃーは首を横に振った
なんでだろ・・・あんなに居心地悪そうにしてるのに・・・
319 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/29(木) 11:39
ヘキサゴンのメンバーたちがよっすぃーを気遣って、
話しかけてくれた
だけど、微笑むだけで、話はあまり続いてなかった

『よっすぃーはクールだから』

そう言ったけど、いつものよっすぃーとは明らかに違った


カラオケではいつもはしゃぐのに、ずっとドアの近くの席に座って、
携帯の画面を見つめている


「まいちん、ちょっとトイレ行ってくんね」


よっすぃーは私にニコっと微笑んで、出て行った


私は無性によっすぃーの様子が気になった
前だったら、悩み事とか言ってくれたのに、
今回は全然言ってくれない

心配になって、ドアの前でトイレから戻るよっすぃーを待った
320 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/29(木) 11:40
「あ、まいちん、どうしたの?」
「ちょっと話あるんだけど、いい?」


不思議そうにこっちを見つめるよっすぃーの腕を引っ張って、
階段の踊り場まで連れてきた


「なに?」
「よっすぃーさ、なんかあったんならいいなよ・・・
私とよっすぃーの間で遠慮なんていらないよ?」
「・・・」


吉澤は再び携帯の画面を見た


「梨華ちゃん・・・」
「梨華ちゃん?」
「今日、好きな人に告白すんだって・・・」
「え!?」


私は驚いた

あの梨華ちゃんが告白って・・・

自分から人を誘うことも苦手な梨華ちゃんが・・・
321 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/29(木) 11:41
「なんか、テレビ局の人なんだって
何度か会って、結構いい感じらしくて」
「そっか・・・ついに梨華ちゃんも恋人が出来るんだ」
「ふふ・・・そうだよね・・・梨華ちゃんから告白されて、
断る奴なんていないよね・・・そうだよね」


吉澤は寂しそうに笑う


「よっすぃーは・・・嫌なの?梨華ちゃんに彼氏ができんの」
「ううん!嬉しいよっ
梨華ちゃんがね、結果どうだったか、連絡するって言ってたからさ、
その連絡を待ってるんだけど、なかなか来ないんだよね」


声は凄く明るかった
だけど、目はずっと変わらずに切なげで、寂しそうだった


よっすぃーが今日、食事をしようと言った理由
そして、居心地が悪い席でも居続ける理由

それは梨華ちゃんのことを頭から遠ざけるためだった
322 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/29(木) 11:43
きっと一人で家にいると、梨華ちゃんのことを考えてしまうから、
誰かと一緒にいようとした


だけど、それでも気になってしょうがないんだ
よっすぃーを見れば、一目瞭然だ


「電話、したら?」
「ううん・・・この時間だもん・・・
きっと・・・お取り込み中だと思う」


そう言ってまた笑う


深夜12時


確かにもう告白しているであろう時間帯
323 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/29(木) 11:44
「まあ・・・よかったよ
梨華ちゃんがやっと、彼氏を作ってくれてさ
これで、あたしが彼氏の代わりをするのも終わりだ!」


吉澤は明るく言い放って、
部屋に戻ろうとする


「何言ってんの!?梨華ちゃんがよっすぃーのこと、
そんな風に思ってるわけないじゃん!
そりゃぁさ・・・私とか他のメンバーはその・・・
よっすぃーを彼氏代わりって・・・無意識で思ってたかもしれない
もちろん、今はそんなこと全然思ってないよ?
だけどね、これは言える!梨華ちゃんは絶対よっすぃーのことを
彼氏代わりなんかにしてないっ」



悲しげな背中に私はそう叫んだ


振り返ったよっすぃーは涙を浮かべ、
抑えてくるものを我慢するように下唇を噛んでいた
324 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/29(木) 11:45
「・・・電話しなよ・・・気になるんでしょ?」


よっすぃーは携帯の画面を見て、
何かを決心したように、私の横を通り過ぎていった
325 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/29(木) 11:45
 
326 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/29(木) 11:45
電話に出て欲しい、出て欲しくない
そんなジレンマに吉澤は立たされていた


プルルルルル



『・・・』



電話は確かに繋がった

だけど、声が聞こえなかった


「・・・梨華ちゃん?」


吉澤は今にも心臓がはち切れそうだった
327 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/29(木) 11:46





『・・・ひーちゃん・・・』





凄く凄く小さな声で呟くのが聞こえた



「大丈夫、梨華ちゃん?」
『・・・なんで電話してくるの?
こんなタイミングで・・・なんで・・・』



梨華ちゃんは泣いていた
声を振り絞るかのような、か細い声だった
328 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/29(木) 11:47
「連絡がさ・・・なかったから」


自分でも分からない・・・
自分でも分からないけど、あたしの頬に涙がつたった


『・・・・・・ちゃったの・・・』
「ん?なんて?」





『・・・振られちゃったの・・・私』



え・・・




耳を疑った・・・
なんで梨華ちゃんが・・・
329 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/29(木) 11:48
「そんな・・・なんで梨華ちゃんが振られるの?」
『ううん・・・本当はね、告白もしてないの・・・
彼と会うために家を出ようとしたら、メールが来て』




ごめん・・・
俺、付き合ってる人がいるんだ
嘘ついてごめん
石川さんと一緒にいるところを彼女の友達が見たみたいで・・・
もう石川さんと会わないで欲しいって言われて・・・
本当ごめん



『って・・・』
「・・・」


吉澤は何も言うことが出来なかった
330 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/29(木) 11:48
「梨華ちゃん、これから、家に行くから」



それでも・・・慰める言葉が浮かばなくても・・・
梨華ちゃんの近くにいたかった




『・・・来なくていい・・・1人になりたいの』
「梨華ちゃ・・・」




ブチ


吉澤の声を遮るかのように電話は途切れた
331 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/29(木) 11:49
「まいちん、ちょっと梨華ちゃん家行ってくる」



帰ってきたよっすぃーの目は切なそうでも寂しそうでもなかった
どこか使命感を漂わせるような目だった


「梨華ちゃん・・・」


私がそういうと、よっすぃーは首を横に振った


多くは聞かない・・・
聞く必要はないって思った
梨華ちゃんはよっすぃーが守ってくれるって


「すいません・・・用事が出来たんで」


よっすぃーは丁寧にお辞儀をして、
部屋を出て行った
332 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/29(木) 11:50
 
333 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/29(木) 11:50
 
334 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/29(木) 11:51
短いんですが、今日はこれで終わりにします。
335 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/30(金) 00:52
せつねぇ〜
336 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/30(金) 08:31
急に雲行きが怪しくなってきましたね。
続きが気になります。。。
337 名前:ルビ 投稿日:2012/03/30(金) 11:20
>>335 ありがとうございます。
これからどう梨華ちゃんが戻っていくのか注目ですっ

>>336 ありがとうございます。
やっぱり仲良いとは言っても、お互い女の子なので、
避けられない道は絶対ありますよね・・・まあいしよしはまだだとは思うんですけど・・・
338 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:21
 
339 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:21
 
340 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:21
ピンポーン



・・・



チャイムを鳴らしても、
出てこない・・・


絶対家にいるはずなんだけどな・・・



ガチャ


ドアノブを握ると、
鍵がかかってなくて、開いてしまった
341 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:22
中に入ると、真っ暗な部屋に小さく泣く声が聞こえた



「んぐっ・・・ふぇ・・・ん・・・」



吉澤は真っ暗な中、電気を点けて
ベッドの方に目をやると、
壁側に小さな膨らみが見えた



「梨華ちゃん」



優しく言うけど、梨華ちゃんからの返事はない


だけど、泣き声は止まらず、
静かな部屋に響き渡っていた
342 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:23
吉澤はベッドの横に膝立ちして、
奥にある膨らみをゆっくりとさすった



「梨華ちゃん」



あたしは名前を呼ぶことしか出来ない

それでも梨華ちゃんは何も答えない


・・・これほど自分が無力だって思ったことはなかった



5分くらい、そうしていると、
梨華ちゃんが丸まったまま、小さい声で呟いた



「・・・来ないで・・・って言ったのに」
「・・・心配だったんだよ」
343 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:24
あたしは震える体を暖めてあげたくて、
さする手をやめなかった



「なん・・・で・・・?」
「ん?」




「なんで・・・ひーちゃんは・・・そんなに優しくするの?」
「・・・」



適当な答えが見つからない


心配だからここにいる
暖めてあげたいから、体をさすっている
泣いているから、泣き止ませたいと思う

それ以外答えが見つからない
344 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:26
「昔は・・・こんな風じゃ・・・なかったじゃない
私を避けて・・・からかって・・・近づくと・・・
あからさまに嫌そうな顔して・・・なんで変わったの・・・?」
「それは・・・」



石川は自分の中で吉澤の存在が
大きくなっていってることに怖くなっていた



「ひーちゃんなんて大嫌い・・・」
「うん」
「ひーちゃんなんて・・・アヤカちゃんとまいちゃんとだけ
仲良くしてればいいんだよ・・・」
「うん」
「ひーちゃんなんて・・・・・・うぅ・・・んぐっ・・・」
「梨華ちゃん・・・」
345 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:27
梨華ちゃんが嫌いって、本当に言ってるんだったら、
ここから消えるよ
梨華ちゃんがアヤカとまいちんとだけ仲良くすればいいって
本当に思ってるんだったら、
あたしはもう梨華ちゃんと仲良くしないよ


でも違うでしょ?
本当はそう思ってないんでしょ?


さっきより大きく泣いている声がそれを証明していた


泣き声と共に体が震えている


そんな梨華ちゃんがあたしは


愛おしくて愛おしくて愛おしくて――――――
346 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:28
再び10分が経ち、梨華ちゃんは
ゴソゴソと体をこっちに向けて、顔を見せる


梨華ちゃんの目は真っ赤に充血していて、
目が凄く腫れていた
涙もまだ止まっていなかった


あたしはゆっくりと梨華ちゃんの頬に親指を持っていって、
包むようにして、涙を拭き取る
そして同じように瞼に親指を持っていって、
優しく撫でる



「梨華ちゃん・・・あたしに愛想尽かないで?
なんでも、あたしに言って欲しい」




石川は頬にある吉澤の手を
自分の手で包み込んだ
347 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:29
「ごめんなさい・・・あんなこと言っちゃって」
「ううん・・・ちゃんと梨華ちゃんのこと、分かってるから」


吉澤はそう言って微笑んだ


「目、痛い?」
「ちょっとね・・・ヒリヒリする」
「暖めてあげるよ」


吉澤は石川の片方の目を片手で覆い被せる


「あたたかい・・・」


石川は優しそうに微笑んだ


「ね、こっちは?」


石川はもう片方の目を指さして、
仰向けになり、目を瞑った
348 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:30
「じゃあこっちも・・・」


吉澤も優しそうに微笑み、
もう片方の手を優しく、石川の目に覆い被せる


「アイマスクみたいだね」
「あたしの体勢、変だから、誰かに見られたら、笑われちゃうよ」
「大丈夫。誰も入ってこないから」


少しの間、そうしてると
石川は『ありがと』と呟き、
吉澤は両手を石川の顔から離した


「ひーちゃん」
「なに?」
「こっち、おいで」


石川は布団をはいで、
壁の方に体を寄せる
349 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:31
吉澤は小さく微笑み、向き合うように、
ベッドの中に入った


ベッドの中は梨華ちゃんのぬくもりのせいか、
暖かかった


「私ね・・・凄く好きだったの・・・彼のこと」
「うん」
「本当にね・・・大好きだったの」
「うん」
「振られちゃってもいいから、告白しとけばよかった」


今にも泣きそうな顔をするから、
泣かせたくなくて、思いっきり抱きしめた


「付き合ってたんだって・・・」
「うん」
「嘘ついてたんだ・・・」
「うん」


梨華ちゃんもしがみつくように、
あたしの背中に腕をまわす
350 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:32
「大丈夫・・・あたしがいるから・・・」
「うん」


この子を大事にしないとって
心から思った
この子を傷つける人は絶対に許さないって


「ひーちゃん」
「ん?」
「私ね、こんな風にひーちゃんから慰めてもらって、
優しくしてもらってるけど・・・




ひーちゃんのこと誰かの代わりだなんて思ったことないよ?」




それはあたしが一番欲しい言葉だった
好きとかより、もっともっと欲しい言葉だった
351 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:34
「この先、どんなに好きな人が現れても、
私にとって、ひーちゃんが一番大切な人」
「うん」
「だから、あたしはひーちゃんに愛想なんて尽かないよ?」
「うん・・・」


また少しの時間、そうしていると、
梨華ちゃんが話し出した


「私ね、怖いの」
「怖い?」
「うん・・・自分のこと知られるの・・・
みんな、私のこと、“女の子っぽくて、ちゃんとしている人”
って思ってるみたいで、それを壊してしまうのが凄く怖い」


それはいつも梨華ちゃんが言ってることだった
352 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:36
「私、凄い負けず嫌いだし、料理もあんまり出来ないし、
ずぼらだし、ロマンチックなのも、疎かったりするし」


梨華ちゃんの声が小さくなっていくのを感じた


「・・・でも、そこも梨華ちゃんの魅力だと思うよ?
負けず嫌いだから、なんでも一生懸命で、空回っちゃったり、
変なところで几帳面で、レシピ通りに完璧に作っちゃうから
めちゃくちゃ時間かかるし・・・かと思ったら、バッグの中は汚かったり・・・
そのギャップっていうのかな・・・そういうところも可愛いと思う」


何か思い出したように吉澤は笑みを見せた


「そういう風に思ってくれる人がいてくれたらいいんだけどさ・・・」
「そうだね・・・いっそのこと、あたしが男だったらよかったのにね」


あたしは軽く言ったつもりだった
梨華ちゃんは普通に流してくれると思った
353 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:37
「ううん、ひーちゃんは女の子のままがいい」
「え!?」


吉澤は石川の背中に回していた手をほどいて、
石川の顔をじっと見た


梨華ちゃんはもう涙を浮かべてなかった


「そんなに驚くことないじゃん」
「いや・・・だってそんなこと言われるとは思ってなかったから」


あたしが男の子だったらよかったのにとまで
梨華ちゃんが思っているとは考えてなかったけど、
あたしが・・・その・・・彼氏だったらいいなと思ってるかなとは考えてた
まあ・・・今のでただの自意識過剰が証明されたんだけど
354 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:38
「だってさ・・・ひーちゃんが男なんてもったいないよ
女の子だったら、メイクも出来るし、オシャレもいっぱい出来る
ひーちゃんは自分で思ってるより、美人で、可愛いんだよ?」
「バカ」


真っ赤になっている顔を見られたくなくて、
もう一度ギュッと抱きしめた


「あ、ひーちゃんが照れてる」
「照れてない」
「嘘だぁ〜」
「照れるわけねーだろ」
「あ!言葉遣い!ちゃんとしなさいっ」


背中に回された石川の手が吉澤の背中を思いっきり叩く


「いてっ」
「あ、また言った!“痛い”でしょ!」


って言ってまた叩く
355 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:40
「分かった、分かったから・・・」
「分かればいいんだよ分かれば!」


梨華ちゃんは優しくそう言って、
鼻先をあたしの鎖骨に押しつけた
鎖骨が弱いあたしは、梨華ちゃんの息があたるごとに
身震いをする


「こしょぐったい」
「ふふ・・・それとね?ひーちゃんの優しさって、
女の子特有のものだと思うの」


梨華ちゃんが顔を上げて、上目遣いをしながら言う


「女の子特有?」
「そう・・・男の人だったらね、気づかないようなところも
ひーちゃんはちゃんと気づいてあげて、
さりげなく優しくしてあげる・・・
だけど、どれも無意識で、“ありがとう”って言っても、
“なんのこと?”っていう顔をする」


困ったような声で梨華ちゃんはそう言った
356 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:41
「そういうところがさ、ひーちゃんのダメなところでもあるんだよ?」
「え?なんで?」
「誰にだってさ、そういう風にしちゃうから、
みんなひーちゃんのことを好きになっちゃう」
「いいじゃんっモテモテな方が人生楽しいよ」
「バカ」


今度は梨華ちゃんが私に抱きつく


「なんで?嫌なの?梨華ちゃんは、あたしがモテモテで」


吉澤は何か分かったように意地悪な声でそう言う


変なところでプライドが高い梨華ちゃんは
絶対否定すると思った


「嫌だよっ!」


石川は勢いよく布団をはいで起き上がり、
吉澤に体を向けて、正座をする
357 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:42
「梨華ちゃん?」
「ずっと思ってたの・・・ずっと・・・」
「何を?」


吉澤は分からないという風に体を起こして、
石川とは対照的にあぐらをかく


「ひーちゃん、引かない?」
「なにが?」
「今から、どんなこと言っても、引かない自信ある?」
「え?うーんどうだろ・・・でも梨華ちゃんにはいつも引いてるし
大丈夫なんじゃない?」
「バカっ」


石川は枕を思いっきり吉澤にぶつける


「真面目に聞いてるの!」
「ごめんごめんっ・・・引かないよ。どんな梨華ちゃんでも」
358 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:43
梨華ちゃんはあたしに小さく微笑んで、
大きく深呼吸をする

あぐらをかいてるあたしと
正座をしている梨華ちゃんがあまりにも対照的過ぎて笑ってしまう


そして梨華ちゃんは真剣な顔で話し出した
今までのこと・・・



ひーちゃんが一番最初に同期以外で仲良くなったのが、
ごっちんだった


「え、そんな遡るの!?」
「ひーちゃんは少し黙ってて!」
「あ、ごめんごめん」
359 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:45
ごっちんはね、私の中ではよかったの・・・
ひーちゃんと凄く意気投合してて、2人を見ていると、
なんか凄く微笑ましかった
でも、それはね?きっとごっちんがひーちゃんのことを女友達として見てたから
ちゃんと対等に仲良くしているって感じだった

だから私もごっちんとひーちゃんと3人でいる時間が凄く楽しかったし、
凄く安心できた時間だった


でもね、私が最初にイラってきたのは、
かおたんだったの


「かおりん?」
「そう・・・」


ミスムンのときさ、今まではそんなにだったのに、
ベタベタくっついて・・・
私がひーちゃんに『よっすぃー』って行くと、『梨華ちゃんキショイ』
って言ってたのに、かおたんが『ダーリン』って行くと、
笑顔で抱きしめてくれたって自慢してた
360 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:46
「待って!梨華ちゃんの中であたしたちは恋人同士なの?」
「うん。そのつもりだけど・・・というか・・・夫婦の方かな?」


でも、女の子同士の中では・・・だよ?
ひーちゃんが男の人と付き合うってなっても、私はなんにも言わないし、
なんとも思わない・・・と思う


そう言ってくれたのが嬉しい反面、あたしは男でも嫉妬してんのに・・・
て拗ねてる自分が恥ずかしかった


「って、ちゃんと話聞いて?」
「う、うん」


矢口さんも・・・そういうところあったけど、
応援してくれてたから、まあいいんだけど・・・


応援って、なんの応援!?


口に出したら、また面倒なことになりそうだから、
あたしは黙って、梨華ちゃんの言うことに耳を傾けた
361 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:48
次は、こんこん!こんこんはさ、自分からベタベタしたりしないけど、
ひーちゃんがずっと可愛い可愛いって言ってた
何しても可愛いって
私には『キショイ』『黒い』『アゴ出てる』の3つしか言わなかったくせに・・・


「麻琴も・・・」
「いや!!麻琴はない!絶対ない!」
「だぁから、黙ってて」


麻琴ともベタベタしてたよ?
お揃いのものがどうとか言ってさ・・・
『麻琴を連れて、海に行く』なんて言って、ばっかじゃないのって思ってた



どんどん口調も鼻息も荒くなってるよ
大体過去のことだし、普段梨華ちゃんは忘れっぽいのに、
なんでそんな細かいこと覚えてんだよ・・・
362 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:49
あとは・・・美貴ちゃん・・・は最後にして、
絵里!

絵里のこともずっと可愛い可愛い言っててさ
レッスン中もさ、他の子が笑ってくれないからって、
すぐ笑ってくれる絵里のところばっか行ってさ
本当に・・・絵里に向かって、変な踊りをしているひーちゃんを見て、
何度後ろから蹴ってやろうって思ったか・・・


ゲッ・・・
よかった・・・それが実行されなくて


さゆもそうだよ?
可愛い可愛い言って、口説き文句ばっかり言ってさ
『王子様だよ』なんて言って・・・王子様なんているわけないでしょ
ばっかじゃないの・・・白馬にでも蹴られとけって思った


ちょっちょっと・・・本格的に怖くなってきたぞ・・・
ってか梨華ちゃんの理想って“白馬に乗った王子様”じゃなかったの!?
363 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:51
「小春だって・・・」
「いや、小春は10才くらい違うんだよ?
嫉妬の対象じゃないでしょ」


あたしがそう言うと、梨華ちゃんは何かを考えるように腕組みをした


「そっか・・・そうだよね」


今まで梨華ちゃんが言ったことは誰が聞いても嫉妬にしか聞こえないけど、
自分でそれを認めているのか知りたくて、“嫉妬の対象”って言ってみたけど、
ちゃんと認めてるみたいで、少し嬉しかった



「最後に美貴ちゃん・・・」


うわ・・・これは怒られそうだ
自分でも気づくくらい、ミキティはあたしにベッタリだったし、
梨華ちゃんのことをウザがってたミキティは
梨華ちゃんが嫉妬するのを分かっているかのように、
ベタベタしてきた
あたしも調子に乗って、ベタベタしてた
364 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:52
てかあのときと今のミキティの違いも凄すぎるけど・・・
今ではあたしが梨華ちゃんに怒られてる姿をニヤニヤしながら見てる
どうしてこうも、みんながみんな梨華ちゃんの味方をするんだ


「美貴ちゃんはさ・・・美貴ちゃんは・・・」


次に出す言葉を考えるように、
石川は下を向いた


「やっぱやめた」
「え!?」


怒られる気まんまんで、構えていた体から
力がスーっと抜ける感じがした


「だって、今の美貴ちゃんは好きだもん
昔のことを思い出して、イライラして、
もう一度美貴ちゃんのことが嫌になんてなりたくないもん」
365 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:55
いや・・・さっきからそうとう昔のこと思い出してると思うけど・・・


ひーちゃんにとっては大したことない発言でも、
その人にとっては、大きな言葉だったりするの。
『王子様だよ』とか『海に行こう』とか、『可愛い』とか
『彼女にしたい』とかどうせひーちゃんはほとんど覚えてないでしょ?

無責任にもほどがあるよ・・・
あたしなんてさ、最近は言われるようになったけど、
現役のときは全くなかった

口を開けば、『キショイ』って言われて、
『彼女にしたくない』『ユニット組みたくない』『ピンクが好きすぎ』
『梨華ちゃんの部屋は吐き気がする』
『ひっこんでろつってんだろ邪魔なんだよ』とか
『すいません石川さん、帰ってください』とか
『アゴついつい出ちゃう石川梨華』とか
なんであたしがここまで言われなきゃいけないんだろうって・・・
最初はキショイって言われるのも嬉しかったけど、
言われすぎってのもきつかった

石川は息してるのかってくらい剛速球で言った

梨華ちゃん・・・どんだけ記憶力いいんだよ
鳥肌たっちゃったよ
ってか後半は大喜利じゃん
366 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:58
「でも、番組的には盛り上がってたでしょ?」
「そうだけど・・・おいしかったらなんでもいいってわけじゃないんだよ?」



「私ね、辛かったの・・・凄く凄く
ひーちゃんから避けられてさ・・・みんなには可愛いって言ったり、
“好きだよ”なんて言ってるのに、あたしには全然言ってくれなかった」



正座をして、小さくなっている梨華ちゃんが
先輩から怒られて、泣きながら必死に怒られた理由を話してくれた、
昔の・・・15才の梨華ちゃんの姿に見えた


でも・・・今、こんな風にしちゃったのはあたしなんだ
しかも9年間もずっとため込ませて、あたし以上に悩ませちゃってた


「あーぁ・・・ひーちゃんから嫌われちゃったって・・・
でも、時々さ、一緒になって追いかけごっこしてくれたり、手を繋いだり、
私の手にひーちゃんの手をのっけてきたりして、
正直、よく分からなかったの・・・ひーちゃんが・・・」
367 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 11:59
あのときのあたしは、凄く情緒不安定で、
梨華ちゃんを突き放しては、離れそうになっていく梨華ちゃんを
傍に置いときたくて、“ごめんなさい”のつもりで、
自分のやり方で梨華ちゃんを引き留めた

でもそんな気持ちなんて伝わるはずがなかった

あたしが思春期のときに、家族以外で一番被害にあった人は
紛れもなく梨華ちゃんだった


「ごめんなさい」


あたしは今までのことを全部忘れて欲しくて、
今を見て欲しくて、精一杯梨華ちゃんを抱きしめた


「全部全部、ごめんなさい」
「ひーちゃん・・・」
368 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 12:01
梨華ちゃんも“分かったよ”という風にきつく抱きしめてくれた


「好きだよ・・・どんな梨華ちゃんもさ」
「本当?」
「うん・・・お腹空いたら不機嫌になる梨華ちゃんも
食べたら、すぐ眠くなる梨華ちゃんも、小姑になっちゃう梨華ちゃんも
寝顔がイケてない梨華ちゃんも・・・全部可愛いって思うよ」


こんな風に思うのは梨華ちゃんただ一人だよ

あたしの梨華ちゃんに対する“好き”の言葉の中には
“love”がきちんと入ってる
“like”じゃない“love”が入ってる
家族にしかない感情が他人である梨華ちゃんにあるなんて、
他の人から見ると、ちょっとおかしな話かもしれないけど、
確かにあるんだ・・・あたしの中には――――――――


だけど、ごめんね?
これからもいっぱい嫉妬させると思う
でも今度は無意識じゃないから・・・
嫉妬してる梨華ちゃんを見たいだけだから・・・
でも梨華ちゃんが嫉妬したときは、
ちゃんと全身で包み込んであげるからね

369 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 12:01
 
370 名前:嫉妬心 投稿日:2012/03/30(金) 12:01
 
371 名前:ルビ 投稿日:2012/03/30(金) 12:02


『嫉妬心』

〜おわり〜
372 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/30(金) 12:05
ひーちゃん…
素直になったなー(T_T)
373 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/31(土) 01:52
これからを大事にするんだよ
374 名前:ルビ 投稿日:2012/04/01(日) 13:28
>>372 ありがとうございます。
本当に素直になりましたよね。こっちが恥ずかしくなるくらいです・・・

>>373 ありがとうございます。
これからもいしよしネタが増えていくのは本当、奇跡みたいなものです・・・
375 名前:ルビ 投稿日:2012/04/01(日) 13:30
あの・・・全編リアルものを書こうと思ってたんですが、
ネタ切れ&妄想炸裂でアンリアルを書こうと思います。
上手く書けるかわかりませんが、見てくださると嬉しいです。
今回は中編になります。
376 名前:ルビ 投稿日:2012/04/01(日) 13:31


『心の繋がり』

377 名前:ルビ 投稿日:2012/04/01(日) 13:33
「よっちゃんさん、遅いねー」
「そうだね」


私が会社に入って、約1年
会社に就職してすぐ、梨華ちゃんと出会った
性格は正反対だったけど、それが逆によかったのか、
すぐに仲良くなれた

そして少し経って、梨華ちゃんに恋人がいることが分かった
私は何度も梨華ちゃんに彼氏を見たいって言ったけど、
梨華ちゃんは頑なにそれを拒んだ
『あんま格好良くないんだ〜』なんてからかったけど、
梨華ちゃんは怒って、『そんなことない!凄く格好良いんだよ』って言われた
見せたくない何かがあるのか・・・
よく分からなかったけど、しつこくは聞かなかった

梨華ちゃんは恋人のことを“ひーちゃん”と呼んでいた
男なのに“ちゃん”付けなんだって思ってたけど、
まあ恋人だし、そういうのもありかなって思いながら、
私も“ひーちゃん”って呼んだんだけど、
『ひーちゃんって呼んでいいのは私だけだから』
そう言われて、私はみんなが呼んでいるという、
“よっちゃん”という呼び方に一応敬意を入れて“さん”を付けた
378 名前:ルビ 投稿日:2012/04/01(日) 13:35
そして丁度1ヶ月前、梨華ちゃんから恋人は女だということを聞かされた
最初は驚いた。正直ちょっと引きもした
もしかして、私も狙われてるんじゃないかって
まあ、ただの自意識過剰だったんだけど・・・

梨華ちゃんが言うには、恋人は1個したの大学4年生で、
とても格好良くて、でも凄く可愛いらしい
優しくて、綺麗な心を持ってて、大好きなんだって
そうやって、よっちゃんさんのことを話す梨華ちゃんは幸せそうで、
それを見て、私は愛に男女関係ないんだということを教えられたような気がした


そして昨日、いきなり梨華ちゃんから会わせてあげると言われた
昼前に家に来てと言われて、地図通りに家に着いたんだけど、
まだよっちゃんさんはいなかった


「よっちゃんさん、朝から買い物でもしてんの?」
「ううん!朝から買い物なんてしないよ。ひーちゃんは夜型だから」
「ふーん・・・じゃあ何してんの?」


梨華ちゃんの顔が一瞬曇った
でも、すぐに笑顔になって言った
379 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 13:37
「知らないっ・・・どこかで遊んでるんじゃないかな」


その梨華ちゃんの姿に私は何か違和感を感じた


「もしかしてさ・・・梨華ちゃん、今日よっちゃんさんに会ってないの?」
「え?・・・うん会ってない。昨日の夜出かけて、昼間に帰るって言ってた」


梨華ちゃんはなんでもないって感じで目の前にある紅茶に口をつけた

私は悪い予感がした
昨日の夜に出かけて、昼間に帰ってくるってことは
どこかに一泊してるってことだ
友達だったら、行き先とか伝えるはずだ


私はよっちゃんさんのことを詳しく聞こうと思って、
口を開こうとした、そのとき・・・



ガチャ


「あ!ひーちゃんだっ」
380 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 13:38
梨華ちゃんは満面の笑みで
玄関の方へと走った


私はどうしていいか分からず、
立ち上がって、よっちゃんさんを待っていた


「お腹空いたんだけど、なんかない?」
「あ、シチューがあるよ」
「じゃあ、シチューで」


よっちゃんさんがドアを開けて出てきた

その姿はまるで男の子のようだった
黒のTシャツに黒の革ジャンで下はジーパン
顔は思ってた以上に綺麗で、肌も白くて、
私が今まで見た人間の中でナンバーワンとも言えるくらい格好良かった


「・・・誰?」


突き刺すような視線が私に注がれた
381 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 13:39
「あ、梨華ちゃんの同僚の藤本美貴です」
「ほら、美貴ちゃんだよ!前に話したでしょ?」
「そうだっけ」


よっちゃんさんはなんの興味もないという様子で、
椅子に腰掛けた



「・・・」



キッチンに立っている梨華ちゃん
ソファに座ってる私
そして椅子に座って携帯をいじってるよっちゃんさん

誰も口を開かず、各々がそれぞれのことをやっている

このなんとも言えない緊張感はなんなんだろう
382 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 13:40
梨華ちゃんと私で話してたときにはなかった、この雰囲気
それは確実によっちゃんさんからのものだった


梨華ちゃんのよっちゃんさんに対する声と私に対する声も違った
そんなの恋人同士だから・・・ってのもあるかもしれない
だけど、梨華ちゃんの声は甘くなるどころか、
気を遣うような話し方だった


「あの、どこに行ってたんですか?」


さっきの話が気になって、
言わない方がいいってのは分かってるんだけど、
聞いてしまった


「美貴ちゃん!」


案の定、梨華ちゃんは怒っていた
383 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 13:41






「ふっ・・・別にいーよ。



・・・女んとこ」





・・・

384 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 13:42
よっちゃんの方を見ている、
梨華ちゃんの目が泳いでるのが分かった


やっぱり・・・
私の悪い予感は的中だった


でも・・・なんでこんなに悪びれてないの?
梨華ちゃんもなんで怒ってないの?
目が泳いでるのは一瞬だけ
すぐにフライパンへと視線を戻した


「・・・」


あまりにも潔くて、なにも言い返すことが出来ない
この生活が普通なの?
梨華ちゃんは恋人が平気で浮気しちゃっても、
大丈夫なの?

キッチンに立っている梨華ちゃんと
椅子に座ってるよっちゃんが私とは別世界にいるように感じた
385 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 13:42
 
386 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 13:44
よっちゃんさんは食事を終えて、
部屋の中に入った

食事中も食後もなにも話さない
“いただきます”も“ごちそうさま”も言わない

その姿を梨華ちゃんは悲しそうな目で見てた


「そういえば、私、今度のプロジェクト任されることになったのっ」
「え、まじ!?凄いじゃんっ」


梨華ちゃんは私に何か聞かれると悟って、
私と目を合わせ途端、すぐ違う話をした


10分くらいすると、
よっちゃんさんが部屋から出てきた


「梨華」
「なに?ひーちゃん」


私との会話で笑っていた梨華ちゃんは
慌てたようによっちゃんさんに駆け寄った
387 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 13:45
「今日も帰れないから、夜ご飯作んなくていいよ」
「・・・分かった!明日は何時帰ってくるの?」
「明日はそのまま直行で大学行くから、午後に帰ってくる」
「そっか・・・明日の夜ご飯はいるの?」
「うん」
「そう・・・じゃあカレー作っておくね」


2人の姿はまるで母親と子供みたいだった
年も1才しか変わらない
2人とも凄く綺麗なのに、恋人に見えない理由はただ一つ・・・
そこには愛が見えなかった
少なくともよっちゃんさんには・・・


「じゃあ行ってくんね」
「うんっ」


ドアを開けて、玄関へ行くよっちゃんさんの後ろに
梨華ちゃんはついて行った
388 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 13:47
「あ、そういえばさ、今日の夜ご飯代欲しいんだけど・・・」
「いくら欲しいの?」
「んーっと2000円」
「分かった。ちょっと待ってね」


耳を澄ませて、2人の会話を聞いてると、
梨華ちゃんが財布を取りに戻ってきて、
また玄関へと行った


「はい」
「さんきゅ。じゃーね」
「うんっいってらっしゃい」


はぁ・・・


梨華ちゃんのため息が聞こえる


だけど玄関から戻ってきた梨華ちゃんは笑顔だった
389 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 13:48
この笑顔の裏に色んな苦しみや悲しみが詰まってるんだ
今までそんなこと気づかなかった
でもよっちゃんさんといる梨華ちゃんを見て、そう思ってしまった


「ねぇ、梨華ちゃん・・・」
「そういえばさー、美貴ちゃん、このマンショ・・・」
「梨華ちゃん!」


また私の話を避けようとする梨華ちゃんを私は無視した


「どういうこと!?なんで、あんな普通でいられるの?
“今日も”って言ってたよね?それってまた女のところに行ってるってことだよね?
好きなんだよね?付き合ってるんだよね?なんでそんな普通にしてられるの!?
美貴、分かんないよっ!よっちゃんさんのことも、梨華ちゃんのことも!」


出て行ったよっちゃんさんにも
そして目の前にいる梨華ちゃんにも嫌気がさした


「落ち着いて、美貴ちゃん・・・」
「落ち着いてなんていられる訳ないじゃん!
美貴の知ってる梨華ちゃんはあんなんじゃないよ!?」
390 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 13:50
全然違う・・・

私は梨華ちゃんに会うまで、本音で話せる友達がほとんどいなかった
第一印象で怖がられ、話しても怖がられ、
いつも藤本さんは強いって思われて・・・
泣き言の一つも言えなかった

だけど梨華ちゃんに会ったとき・・・

「そんな無愛想でいると嫌われちゃうよ?」
「・・・別にいいよ。友達作るために仕事しに来たわけじゃないんだから」
「なんでそんな言い方するの!?」

会ってすぐ梨華ちゃんにそう怒られた


友達って凄く大切なんだから
言葉もちゃんと丁寧に使わなきゃ
お鼻かむときは、失礼しますって言ってからかむの!
挨拶は大事だから、ちゃんとしないとっ
髪も身だしなみも女の子なんだから、きちんとしなきゃダメだよ?


会社で1日一回は怒られる

そんな梨華ちゃんがウザくもあり、
ちょっと微笑ましくもあった
391 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 13:52
自分から心を開けない私を気遣って、
梨華ちゃんが最初に心を開いて、悩みを話してくれた

もちろん、梨華ちゃんにだって悪いところはいっぱいある

凄く気まぐれで、いきなり機嫌が悪くなる
『お腹空いたー』『眠いー』『疲れたー』
この3つをずっと繰り返す梨華ちゃんを見て、
ちょっと可笑しくなって、笑ったら、
『なに笑ってるの?美貴ちゃん!』って怒られた


「ご機嫌をとるように、困ったような顔をしてる、
梨華ちゃんなんて見たくないよ?
悪いところもすべて見せられるのが恋人なんじゃないの?」
「美貴ちゃん・・・」
「前に言ってたじゃん・・・
よっちゃんさんのこと、凄く可愛い、優しい、心が綺麗って
美貴にはそんな風に見えなかった」


あの鋭い目つきを見て、
どうやって可愛いとか優しいとか思えるのか不思議でたまらない
392 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 13:54
「前は・・・あんなんじゃなかったの・・・
変わっちゃったの・・・ひーちゃん」
「なんで?」
「よく分からない・・・」


それから梨華ちゃんがよっちゃんさんとの出会いから
今までのことを全部教えてくれた


ひーちゃんとの出会いは・・・はっきり言って最悪だった


家の帰り道に大きな倉庫があってね
そこに1匹だけ子犬が捨てられていたの
私は高校に入ったばかりのときに、その子犬を見つけて、
毎日、そこに通って、ご飯をあげてた


それで高校3年になったばかりの頃、
遊びに行った帰り道にいつも通り、
ご飯をあげに倉庫に行ったんだけど、
奥から物音がしたの・・・
私はちょっと怖くもあったんだけど、
変な好奇心で声がする方に近づいた
393 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 13:55
そしたら、大きなベッドに裸で女の子同士が抱き合ってて・・・


「え!?真っ最中!?」
「ううん。寝てただけ」


私が気づいた音は寝返りしたときのお布団の音だった

私の足音に気づいたのか、
1人の子が体を起こしてこっちを見たの


『誰?』
『あ、あの・・・』
『何か用?』
『いえ・・・なんでもありません!!』


そう言って、私は走って逃げた


「その話した子がよっちゃんさんだったってことか」
「そう・・・」
394 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 13:57
その日以来、倉庫には行かなかった
なんか見てはいけないもの見ちゃったって感じで怖かったの
でも・・・ワンちゃんには悪かったな・・・
どうしてんだろ・・・ちゃんと生きてるのかな・・・


「でも、もう10年くらいでしょ?死んでんじゃない?」
「ちょっと!美貴ちゃんっ」
「ごめんごめん・・・続けて」


それでね、ある日見つけちゃったの・・・
学校の中で・・・


「同じ高校だったってこと?」
「うん」


でもね、私のことは全然覚えてなかった
通りすがっても、見向きもしない
しかも、いつも違う女の人連れて歩いてるの


「梨華ちゃんの高校って女子校?」
「そうだよ」
「それじゃーモテるよね。あの容姿じゃ・・・」
395 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 13:58
そう・・・みんなひーちゃんの顔が好きだったの
ひーちゃんの心は見ようとしてなくて、
ひーちゃんも心を見せないように、ずっと笑ってた

そうして1ヶ月くらいが過ぎた頃だった、
いつも閉まってるはずの体育館倉庫が開いてて、
私体育委員だから閉めなきゃと思って、
近づいたら、見ちゃったの・・・


「またヤってたの!?」
「もう!そんな汚い言葉使わないでっ」
「ごめんごめん」


そうじゃなくてさ・・・ひーちゃんが泣いてるところ・・・

声を出さずに小さくうずくまって一人で泣いてた
その姿がなんとも言えなくて・・・
ひーちゃんの方が体は大きいんだけど、
そのときは小さい子供にしか見えなかった

私はさ、思わず駆け寄って抱きしめたの
396 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:01
『んっ・・・んだよ・・・』
『いいから・・・黙ってて』
『訳分かんねー・・・はなせ・・・よ』
『離さない・・・泣き止むまで離さない』
『どうなるか・・・わかって・・んの?』
『そんなの分からない・・・分からないけど・・・
どうなってもいい。あなたが泣き止むんなら』
『・・・ばかじゃねーの・・・』


そしたら、ひーちゃんは抵抗する手をとめて、
また泣き始めた


その日から、毎日、放課後に体育館倉庫で
どうでもいい話からお互いのことまでたくさん話した


あとから聞いたんだけど、
ひーちゃんのパパは記憶にもないくらい小さなときに病気でなくなって
ママはひーちゃんを助けて死んだんだって
中2のときに道の真ん中で大喧嘩して、
一緒にいたくなくて車道にひーちゃんが飛び出てしまって、
それを助けようとして・・・
凄くそれを後悔してるって
そのときは思春期でずっとイライラしてたから、
喧嘩の理由もどうでもいいことだったって
397 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:03
親戚みんな、ひーちゃんを責めたらしいの
でも自分にはいつもいつも近寄ってくる女子がいて
こんな奴ってみんな知らないんだなって
心の中では笑って、思ってもない気持ちを・・・
“好きだよ”“愛してるよ”そう言って
抱いたら、面白いように懐いてくれたって

きっとそれで自分の心の隙間を埋めてたんだと思うって言ってた
私にはさ、その方法で隙間を埋めようとは思わないけど、
でもなんとなく分かるような気がする

私も容姿でなんでも決めつけられて、
勝手に私のことを定義づけてて、それから外れたら、
人が変わったように、私を捨てる


だから見捨てられなかった


悲しそうなひーちゃんの傍にいたい
少しでも心から笑って欲しい

そういう一心で私は毎日放課後に体育館の倉庫に行って、
ひーちゃんとお話してた
398 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:05
そしたらね、あるときひーちゃんが

『今まで、体育館倉庫は自分にとって泣く場所だった
でも梨華に出会えて、ここが笑う場所になった』

って言ってくれたの
私はそれが凄く嬉しかった


そしてすぐ私の卒業が来て、
私は大学に入って、一人暮らしを始めた

ひーちゃんとの連絡はとらなかった

携帯番号もアドレスも交換してなかった
聞こうかなと思ってたけど、なんとなく深入りしちゃいけないのかなと思って、
何も聞けなかった


そして、大学が始まって、2ヶ月くらい経ったとき・・・


その日は大雨で、家に居たら、呼び鈴が鳴った
私は誰とも約束してなかったし、何も頼んでなかったから、
不思議に思いながら、ドアを開けたら・・・
399 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:07



『ひーちゃん・・・』



びしょびしょに濡れたひーちゃんが
涙を流して立ってたの


『なんで来ないの?』
『え?』
『倉庫で・・・ずっと待ってたんだよ?
梨華がいないから・・・また泣く場所になっちゃった』


私は必死にひーちゃんを引き寄せて
力一杯抱きしめた



「ごめんね、ひーちゃん・・・
寂しかったんだよね?悲しかったんだよね?」
400 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:08
私も泣きながら、震えるひーちゃんの背中をさすった



『梨華・・・梨華・・・梨華・・・』



壊れたロボットのように、
ひーちゃんは私の名前を呼び続けた


そのとき思ったの・・・
私はなにがなんでも、この子を守ってあげないといけない
もし、私がこの子から離れるときが来たら、
そのときは私が嫌われたときだって


そして・・・その夜初めて、私たちはキスをして
夜を共にした


それから私とひーちゃんは一緒に住むようになったの
401 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:10
ひーちゃんは高校を無事に卒業して、
国の援助もあって、私と同じ大学に入ることができた

最初の一年はよかったの・・・
ひーちゃんが高校卒業するまでの一年・・・

毎日、授業が終わったら、すぐ帰ってきて・・・
たまには友達と遊んだ方がいいって言うのに、
友達なんかいらないって言って・・・
でもそんな風に言ってくれることが凄く嬉しかった
きっと・・・ひーちゃんは私に依存してたんだと思う
目の前に自分を分かってくれる人がいる
それだけでひーちゃんにとってはよかったんだよね

私じゃなくていい
ただ理解してくれる人でいい
きっとひーちゃんはそう思ってたんだと思う
だってね?一度も言ってくれたことがないの・・・
“好き”も“付き合って欲しい”も・・・


「え・・・待って!2人って付き合ってるんじゃないの?」
「ううん・・・それは私の願望・・・
付き合ってることになってて欲しい。私は付き合ってるって思ってる
でも、ひーちゃんはきっとそんなこと思ってない」
402 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:13
大学に入ってから、ひーちゃんは前のひーちゃんに戻っちゃったの
たまに大学で見かけると違う女の人連れて・・・
目があっても、隠そうとしなかった
だけどね、私ひーちゃんの恋人なのか分からないから、
責めることも出来ないし、嫉妬した姿を見せることも出来なかった

そのとき、私はひーちゃんにとってただの都合の良い女なんだって思った
朝と夜、料理を作ってくれて、ご飯代もくれて、洗濯もしてくれる
相手がつかまらないときは、夜を共にしてくれる
って言っても・・・最近はまったくなんだけどね


「そんなの・・・別れればいいじゃん!自分で分かってるんだったら、
別れて欲しいって言えばいいじゃん!」
「それが出来ないの・・・」
「なんで?」
「愛してるから・・・ひーちゃんのこと・・・凄く愛しちゃってるの」


梨華ちゃんの目には迷いはなかった


でもそれって本当に愛って言うの?
その人の幸せを願うのが愛って言うんじゃないの?
今のよっちゃんさんは幸せには見えないよ
403 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:16
「このままでいいの・・・ひーちゃんにとって、その他大勢じゃないことは確かだから
帰ってくる場所・・・その空間に私がいるだけで・・・
それだけで私は幸せって思える。多くを望んだら、もうひーちゃんの隣にはいられない気がする」


違う・・・違うよ梨華ちゃん・・・


「・・・間違ってる・・・そんなの間違ってるよ!
美貴、そんな梨華ちゃん、嫌いだよ?いい子ちゃんを演じてるように見えて・・・
美貴が好きなのは、いつでも全力で、曲がったことが大嫌いで、分かりやすくて、
笑顔が可愛い梨華ちゃんだよ?よっちゃんさんの前での梨華ちゃんは、笑ってても、全然可愛くなかった

・・・でも・・・梨華ちゃんが1週間前に見せてくれた、
梨華ちゃんが高校卒業する前の日に撮ったっていうツーショットの写真・・・
あれは凄く可愛かった・・・悔しいくらいに・・・よっちゃんさんも・・・
凄く凄く輝いてて、可愛かった・・・でも今日見たよっちゃんさんは別人のように見えた・・・
写真より綺麗なのは綺麗だった・・・でも全然可愛くなかった」


梨華ちゃんの目から涙がこぼれ落ちた


それと同時に私の目からも涙が零れ落ちた


「美貴ちゃん、なんで泣いてるの?」
「悲しいから。梨華ちゃんがそんな風に扱われてることが悲しいから」
「美貴ちゃん・・・」
404 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:18
梨華ちゃん・・・
梨華ちゃんは知らないと思うけど、
私は梨華ちゃんのこと、とても大事に思ってる
親友だって

そんな親友がこんな風になっていることを知って、
とても悲しいんだよ?
胸がはち切れそうなくらい・・・




「どこか・・・遠いところに行きたい」





梨華ちゃんが聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた
405 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:20
「・・・・・・行こう・・・遠いところ」
「え?」
「美貴のお父さんがアメリカで新しく事業始めるの
美貴も誘われたんだけど、今はいけないって断った
でも、今だったら間に合うよ。一緒に行こう?
お父さん、梨華ちゃんのこと知ってるから、説得したら、大丈夫だと思う」



そうだよ・・・
2人でアメリカに行こう?
それでさ、格好良い男見つけて、
国際結婚でもしようよ
目の青い子供産んで、一緒に育児のこと相談しあって・・・
そういう未来もいいと思わない?



結局その日、梨華ちゃんは首を縦に振らなかった
でも横にも振らなかった
406 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:20
 
407 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:21
1週間後・・・



梨華ちゃんから電話があった・・・


「もしもし」
『・・・美貴ちゃん・・・美貴ちゃん・・・』


梨華ちゃんは泣いてた


「どうしたの?」
『もう・・・ムリなの・・・』



梨華ちゃんは泣きながら話してくれた
408 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:23
昨日の朝、もうすぐひーちゃんの誕生日だから、
誕生日プレゼントを買いに行こうと思って、
お店に向かってたら、ホテルからひーちゃんと知らない女の人が出てこようとしてて・・・
私ビックリして・・・女の人とそういうことしてるって分かってたけど、
いざ目の前にしたら、頭に血がのぼっちゃって・・・
気づいたら、ひーちゃんの頬を叩いてた

それでもひーちゃんは無表情だった
なんにも感じないように、私の横を通り過ぎていって、
女の人の腕を引っ張っていった
女の人が私の横を過ぎるときね、言われたの


『夜の相手にもならない女が調子乗ってるんじゃないわよ』って


足が動かなかった
床に足がくっついたみたいだった

何分そうしてたから分からない
携帯の鳴る音で私は自分がラブホテルの入り口に一人でいることに気づいた

携帯を見たら、ひーちゃんからだった
409 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:25



『夜、話そう』



それだけだった


そのときに確信したの

あぁ私は本当に都合の良い女なんだって
夜の相手さえも出来ない勘違い女だって

その他大勢にもなれない・・・


体で繋がってはいないけど、心では繋がってる
そんなことを考えていた自分が恥ずかしかった

体で繋がれてないなら、心では繋がってるって思おうとしてたんだ・・・


もう分かってるから・・・分かってるから・・・
言われなくても、分かってるから・・・
410 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:27
ひーちゃんの口から聞きたくなかった
『梨華に出会えて、泣く場所が笑う場所になった』
私の大切な言葉を発した口から聞きたくなかった


だから私は昨日の夜、家に帰らなかった

「今どこいるの?」
『会社の近くの公園。なんとなく、会社には入りづらくて・・・』
「そっか・・・今から行くから、そこで待ってて」
『分かった・・・』


「・・・梨華ちゃん、大丈夫?」


私が出来るだけ優しい声でそういうと、
梨華ちゃんは嗚咽しながら呟いた




「・・・私・・・遠くに行きたい・・・」




・・・



・・・・・・

411 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:28
 
412 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:30
アメリカに来て1年経った――――――


ひーちゃんと一緒にいたときより
精神的ストレスは確実になくなった

笑うことも増えて、友達も増えた

最初アメリカに来たときは、
ホームシックで辛かったけど、
その度に美貴ちゃんや美貴ちゃんのお父さんが助けてくれた
日本にいるときに比べて、
ゆっくりと時間が進むようなアメリカの雰囲気が私は好きになった


『前に戻りたいって思う?』


美貴ちゃんはよく聞く
でも私はいつも


「ううん。今の方がいいよ」


そう言うと、美貴ちゃんは優しそうに笑ってくれる
413 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:31
いつも生意気そうに見える美貴ちゃんだけど、
本当はとっても優しくて、私の気まぐれにも付き合ってくれて、
おせっかいにも呆れた顔はするんだけど、嫌な顔はしないで、
付き合ってくれる



今の方がいい



そうに決まってる


あんな生活に戻りたいなんて思うはずがない
今が一番幸せなんだ



美貴ちゃんから確認のように聞かれる度に
毎回私は自問自答する


本当に今の方がいいの?


当たり前じゃない
だってあのときの私はボロボロだった
414 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:32
でもたまに違う答えも返ってくる



ひーちゃんに会いたい
ひーちゃんに会いたいの
お願い、ひーちゃんに会わせて?――――――――




ねぇ・・・美貴ちゃん、こんな私はおかしいんだろうか



家に帰って、一人でいると
思い出してしまうの
ひーちゃんと過ごした日々


ほとんどがギリギリの状態だったのにね
415 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:35
でもね



私にとって、ひーちゃんと仲良く過ごした2年間は
その倍のボロボロだった4年間より長く感じて、
より輝いてみえるの


もう何年も見てないあなたの微笑みが
私には容易に思い出すことが出来る


美貴ちゃんに言われて、
あの日、ひーちゃんがいないであろう昼間に家に帰って、荷物を準備した
『よっちゃんのことを思い出すようなものは持って来たらダメ』
私はその言いつけを守った
思い出がいっぱい詰まった携帯も捨てて、新しい携帯を買った



でもね・・・でもね・・・ひーちゃんに手紙を書いたペンだけは持って来ちゃったの
あの日、目が腫れるくらい、一生分くらい涙を流しながら書いた手紙――――――――
416 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:38
ひーちゃんへ


ひーちゃん、ひーちゃん、ひーちゃん
もっと面と向かって呼んでおけばよかった。
あの日、ひーちゃんが雨に濡れたまま、
私の家の前に立っていた日
私はあのとき、ひーちゃんのことを一生守っていこうって思った。
でも、もし私がひーちゃんから嫌われる日が来たら、
そのときはひーちゃんの前から消えよう。
そう思ってた。でもね・・・そのときはそんな日が来るなんて思ってなかったんだ。
バカみたいだよね・・・勘違いしてたんだ私。
ひーちゃんは私のこと好きなんだって。
でも、ひーちゃんは「自分のことを理解してくれる人」を
求めてたんだよね?
ごめんね・・・気づかなくて・・・もっと早く離れるべきだったのに。
ううん・・・気づかない振りをしていたのかも・・・
他の女の人と寝ようが、他の女の人に好きって言おうが、
いつかは私のところに帰ってくる。心は繋がってる。
そう思ってたの・・・バカだよね?自分でも思うよ・・・
きっと私の愛が重すぎたんだと思う。
好きすぎて、ひーちゃんが離れていっちゃったんだと思う。
417 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:40
でもね、これだけは分かって?
私はあなたを守りたかった。
自分のせいでママが死んだと思っていたひーちゃんを・・・
あなたのせいじゃない・・・あなたが悪いんじゃない。
私があなたにぬくもりを与えることで、そう思って欲しかったの。
でも結局、私には無理だった。
ひーちゃんを救うことが出来なかった。
私がひーちゃんの前から消えることで、ひーちゃんが幸せになるなら、
私はひーちゃんの前から消えよう。
そう思ったから・・・私はひーちゃんの前から消えようと思います。
ごめんね・・・本当は向き合わなきゃいけないことなんだけど、
ひーちゃんから私を責める言葉を聞きたくなかったの。
ひーちゃん・・・好きよ。大好きだよ。愛してるの。
忘れないで・・・あなたをこんなに想っている人がいることを。


さようなら


梨華より


PS:10万円置いとくね
ちゃんと計画して使うんだよ?
418 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:43
涙で紙がぐしゃぐしゃになっていて、
文字が滲んでた



ちゃんと読めてるかな・・・
どんな風に読んだんだろ


そんなことを思って、
一人、家に帰って泣く毎日



笑うことは確かに増えた
でも泣くことも増えた



ごめん・・・美貴ちゃん
私にはやっぱりひーちゃんが必要みたい――――――――
419 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:44
 
420 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:45
「雨か・・・」



ラウンジの窓から見える雨
何度も窓から外を眺めているのに、
映画を見ている感覚になる


ここに私は住んでいるんだ



傘、忘れちゃったな


美貴ちゃんが昨日、大雨降るから傘持ってこないとダメだよって
教えてくれたのに



「今日はタクシーか」
421 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:46
 
422 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:48
仕事が終わっても、
雨は止んでいなかった


「あ、梨華ちゃん、今日終わり?」
「うん。美貴ちゃんがさ、昨日傘持ってきた方がいいって
言ってくれたのに、傘忘れちゃった」
「もー!傘、会社にあるから貸そうか?」
「ううん!タクシーで帰る」


大雨の日は、なんとなくあの日を思い出すから、
今日は早く帰りたいの、ごめんね美貴ちゃん


「わー・・・」


ザーーーー


音をたてて降っている雨
423 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:50
こういうときって、何を叫んでも
誰にも聞こえないような気がする


「ふふ・・・やってみよっかな・・・」


日本語だし、分かんないよね

周りを見ても、ほとんど人がいない・・・

一歩外に出て、手を大きく広げて、全身で雨を感じる


すぅ・・・


ひーちゃんの・・・ひーちゃんの・・・



「バカヤローーー!!!!」



少し遠くにいる人を見る
・・・よかった・・・気づいてないみたい
424 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:52





「ふぅ・・・すっきりしたあ」






体から力が抜けたように肩を落とす

タクシーを探そうと、バックを頭の上で持って、
足を踏み出そうとした・・・そのとき・・・
425 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:53







「なにがすっきりしただよ――――――――」






426 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:55
真横から声がした


少し低い声



振り返ると、
そこには黒い革ジャンにジーパン姿で、
ピンクの傘をさしている人がいる
どう見ても不似合いだ




「・・・」





声が出ない・・・



驚いて・・・動けない
雨の音が聞こえない・・・
427 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:56
私の視線はその姿に定まったまま






「恋人の顔も忘れたわけ?」






そう言って、雨にうたれている私に近づき、
傘の中に入れてくれた




こ・・・い・・・びと?
428 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:58




「あれ?まじで忘れちゃった?」




焦った顔が私の目にうつる




「・・・ひー・・・ちゃん」




私が小さく呟く声に彼女は微笑む




「本当に・・・本当に・・・ひーちゃんなの?」
429 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 14:59
彼女は笑顔で頷く




何年も見てなかった
ずっと見たかった笑顔がそこにある――――――――




「よかった・・・覚えててくれて。
大体、周り見渡してんのに、こっちだけ見てくれないんだもん」





誰もいないか確認したとき
確かに真横は見なかった

雨のせいで耳も目も鈍くなっているから
430 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:00



「これ、覚えてる?梨華の傘」



ひーちゃんはそう言って、
見上げて、ピンクの傘を見る




「日本から持ってきたの?」
「そう。ってか、まさか外国に行ってるとは思わなかったよ
日本中捜したんだよ?ったく、行動範囲が広すぎんだよ」




口を膨らませるひーちゃんも久しぶりに見た
431 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:01
「なんで捜したの?なんで私を捜したの?」
「ま、それはあとで。梨華の家に連れてってよ」




ひーちゃんは私の手をとって繋いできた




「なんで?なんでそんなに簡単に言うの?
私はあなたの前から消えたの!あなたには私が必要ないから
あなたが必要なのは・・・」

「なんで決めつけんだよっ!そんなこと・・・誰がいつどこで言ったんだよっ」



さっきの声とは違って、荒々しく言う


「だってひーちゃん――――――――」
432 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:02
バタッ




ピンクの傘がスローモーションのように
水たまりの中に落ちていく



その様子を眺めていたら、
私は思いっきり抱きしめられた



「梨華・・・会いたかった・・・
すげー会いたかったんだよ・・・」



「ひーちゃん・・・」
433 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:03
ひーちゃんの体は冷たかった
あのときみたいに、背中をさすってあげたかった
でもそんなことをしたら、負ける気がした
何に勝とうとおもっているか自分でも分からない
でも自分の手はひーちゃんの背中には回らなかった



「なんで今更、そんなこと言うの?
私はもう・・・忘れたんだよ?あのときのこと」



ううん
忘れてない

今でも毎日のようにあなたを思い出しながら
泣いてるの

元気にしてるかな
今はちゃんと笑ってるかな


そんなことを思って大泣きしてる
434 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:04
体に当たる雨がどんどん強くなっていくのが分かる



「迷惑なの。こんなことされると・・・
もう私はあなたと違う人生を歩いてるんだよ?」



ううん・・・私はあなたに会いたかった

ずっとずっと会いたかったんだよ?


あなたへの手紙を書いたペンも大切にとってあるの



・・・



人が多くなってきたのが分かる
435 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:06
私たちの声は聞こえないだろうけど、
こんなところで雨にうたれて抱き合っていたら、怪しまれる


だから・・・だから・・・今日だけ・・・今日だけ



「ホテル・・・とってないの?」
「うん。梨華の家に行けると思って」



本当に・・・自意識過剰なんだから・・・


なんて・・・本当は今でも好きなの。あなたのことが
悔しいくらいに・・・



「じゃあ・・・私の家に来る?」
「本当?」



ひーちゃんは回していた手をほどいて、
私と向き合う

私が小さく頷くと、ひーちゃんも小さく微笑んだ
436 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:06
 
437 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:08



「うわーっ!でっけー」



2LDKの私の家

前住んでいた私の家と比べて、1.5倍くらいあるかな
そういえば、今も私の家を使って居るんだろうか

私は部屋にどんどん入っていくひーちゃんの背中を見つめて、
洗面所に行き、濡れている足を拭いた


それにしても、荷物が多いのは気のせい?



ひーちゃんは物珍しそうに次から次へと、
ドアを開けて、驚愕している

びしょびしょの体で私の家を歩くもんだから、
絨毯もびしょびしょ
438 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:09
どれくらいぶりだろ・・・
こんな柔らかい表情をするひーちゃんを見るのは・・・


この1年、どんなことをして過ごしていたの?

私の手紙は今でも持ってる?

今でも、たくさんの女の人と関係を持ってるの?

ひーちゃんは今幸せなの?


したい質問はたくさんある
でも、それを口に出すことは出来ない


「もうひーちゃん!少しは止まってよ
絨毯がびしょびしょでしょ?」
「え・・・?あ、本当だ」
439 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:10
ひーちゃんは自分の足下を見て、
自分の歩いてきたところが一本の筋になっているのを見て、
また小さく微笑む



「そのまま、お風呂に入ったら?」
「じゃあ・・・そうする」



ひーちゃんは大きい鞄から、下着とジャージをとって、
さっき場所を知ったであろうお風呂場へと向かった



はぁ・・・



何のため息かは分からない
440 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:11
お風呂に入っているひーちゃんと
1年前、ホテルで会ったひーちゃんと別人に見えて、
どうしていいか分からない



私が好きなのはどっちのひーちゃん?



そんなの決まってる・・・


だけど自分の気持ちが何故か素直になれない



何もかも割り切って、冷静を装って、さよならするか
今までのことは忘れて、ひーちゃんの胸に飛び込むか・・・
441 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:12
ひーちゃんがお風呂に入ったあと、
私もお風呂に入り、あがってから、
ご飯を作って、ひーちゃんはそれを食べる

その流れがあまりにも自然で、
1年の期間の軽さを知った


でも一つ違うのは・・・


「うめー!やっぱ、梨華の料理は最高」


なに?なにがあったの!?
この1年間・・・


料理が終わったあと、ひーちゃんはソファに座って、
テレビをつけて、英語だらけのテレビに『すげーすげー』と騒いでいる
私はその姿を横で呆れたように見つめる



「ね、ひーちゃん」
「なに?」
442 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:14
声をかけても、こっちを向かない


ブチッ


「あ」


そんなひーちゃんがむかついてテレビを消した


何もすることがなくなったひーちゃんがこっちを向く



「ひーちゃん、色々私に言うことあるでしょ?」



それを聞いた、ひーちゃんは真剣な顔をした
443 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:15



「ごめんなさい」



ソファの上で土下座をする


なんで・・・なんでそんなに素直なの?



「いっぱい浮気して、いっぱい梨華を悲しませて、
本当に悪いって思ってる。出来れば、やり直したいって思ってるんだけど」



大きな目をうるうるさせているひーちゃんに
私はなんて言えばいいの?


この5年間、私はあなたのせいで悩んだの・・・

それなのに・・・そんな簡単に終わらせられるの?
謝罪一つで全部がチャラになると思ってるの?
444 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:16
私はあなたの何?


やっぱり都合の良い女なの?


それとも・・・


「ねぇ・・・ひーちゃん・・・全部話して?
私は・・・ひーちゃんの弱い部分も含めて好きだったの」
「今は?今は好きじゃないの?」


ううん・・・今も好きよ?

でも、今の私はどうしても一つ一つの言葉を選んじゃうの
現在形にしたら、ひーちゃんはどういう反応しちゃうんだろうとか
そういうこと考えちゃうの・・・


「ひーちゃんがこれから話す内容次第」


そういうと、ひーちゃんは私の視線を避けるように、
どこか一点を見つめて話し出した
445 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:18
小さい頃から、ボーイッシュで容姿も良かったせいか、
女の子ばっか寄るようになってて、
中2のとき、あんなことがあって、自分自身情緒不安定になって、
自分のことを好きっていってくれることが嬉しくて、
言われるままになんでもやって、
ハグしろって言われたら、ハグをして
キスしろって言われたら、キスをした
抱けって言われたら、抱いた

だからさ、自分にとってのファーストキスとか
初体験とかって覚えてないんだよね
高校に入ってからは、女子校だったから
中学のとき以上にモテて、
やる行為もどんどんエスカレートしていった
だけど、自分にとってはどんな行為もどんな言葉も意味なんてなくて
相手が喜んでくれればいいかな、なんて軽い気持ちだった

一番、自分が荒れてた頃・・・
・・あんときはなんか外の倉庫かなんかでもやってたな・・・
そんときくらいに、梨華が泣いてるあたしを体育館倉庫で見つけてくれて、
抱きしめてくれて・・・
446 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:24
他の人からそんなことされたら、ぶっ飛ばしてたと思う
『気安く触んな』って
普段は触られてんのに・・・あんときの自分はなんの鎧もきてなくて
その自分に触れられるのは自分の弱い部分を見られるようで・・・
絶対見せたくないって思ってた

だけど・・・梨華から抱きしめられて・・・
暖かかったっていうか・・・すげーぬくもりを感じて

放課後も会うことになって・・・
それから、放課後がすげー楽しみになった
学校に行くのも面倒だったのに、放課後のために学校に行くようになって
変にテンション高くて、『あー眠い』つって、
あたしの膝で口開けて寝てたり、期間限定品をたくさん買って、
あたしに見せてくれたのに、全部自分で食べちゃったり・・・

なんて女だって思ったけど・・・梨華が隣にいるとすげー安心できて
いつの間にか、他の女とハグするのもキスするのもエッチすんのもなくなって・・・
なのに、自分の心はめっちゃ満たされてて
あー自分の心の隙間を埋めるのって、体じゃなくて、心なんだ
そう思った

そして・・・梨華が卒業して
そういえば携帯の番号もアドレスも聞いてなかったって
いや・・・聞いてなかったんじゃない
聞けなかったんだ・・・なんともない人にはさ、なんでも言えたりすんのに、
梨華にはどうしても言えなくて・・・
それで・・・母親のこととかじゃなくて梨華がいない寂しさで体育館倉庫で
泣くようになった
447 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:26
「え!?ママのことじゃなかったの?」
「うん。母親のことは梨華がほとんど忘れさせてくれた
まあたまに思い出すけど、それで落ち込んだり、悩んだりはしない」


そんでさ、もう限界だって思って、
梨華の担任だった先生とかいろんな人に聞き回って、
梨華の家を見つけた。少しでも梨華に心配してほしくて、
傘もささずに梨華の家に行ったんだ
そしたら、梨華は凄い心配してくれて、
抱きしめてくれた
そのとき、こいつに触れたいって思った

変な欲望とか変な感情じゃなくて・・・
純粋に触れたいって包み込みたいって思ったんだ
梨華とした初めてのキスはあたしのファーストキスみたいなものだった
あぁ・・・キスってこんなに甘くて、全身に優しさを感じられるんだって思った
エッチも・・・あたしが言うのはおかしいけど、
自分にとって汚いものだって思ってた
でも梨華としたとき、心が癒されて・・・
初めて思ったんだ・・・自分はこの人を愛してるんだって
448 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:28
でも言えなかった・・・
梨華が好きだって言ってくれても、あたしは言えなかった
他の人には言えるのに、愛情を注いだ分、いなくなるのが辛くなるんじゃないかとか
口に出したら、嘘くさくなるんじゃないかって色々考えてしまって
言えなかった・・・

それから1年、あたしは高校が終わったら、すぐに帰ってきて、
梨華も『本当は飲み会あるんだから』とか色々文句言ってたけど、
ちゃんと帰ってきてくれて、一緒にご飯を食べて、
一緒に寝て、一緒に起きて、一緒に歯を磨いて、一緒に朝ご飯を食べて
一緒にいればいるほど、好きになっていった
でも・・・今思えば、あたしは梨華に依存してた
梨華のことを考えてあげられてなかった

だからあたしが大学に入ったとき・・・
学校で梨華を見て、今までに味わったことない喪失感に襲われた
すげー大人に見えて、普通に男と話してて
自分がめちゃくちゃ子供に思えた
たった1こしか違わないのに・・・どっちかっていうと、
家ではあたしの方が上みたいだったのに・・・
それからあたしは梨華の小さい変化に凄い敏感になってしまった
あ、リップが違う
髪型が変わってる
スカートが短い
誰に会うんだろう・・・もしかしたら、浮気してんじゃねーかって
だからこっちに振り向いて欲しくて、ふざけてみたり、
本当は浮気する勇気なんてないくせに、浮気したような口調をして・・・
449 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:30
それでも梨華は何も言わなかった
『そっか・・・』ってそれだけだった
それがすげームカついて・・・なんであたしは嫉妬してんのに、
梨華は嫉妬しねぇんだって

だから、もうやけくそになって梨華の目につくように浮気して、
嫉妬してくれるように、朝帰りを繰り返した
それに自分が愛情をあげすぎてるから、
梨華が引いちゃってるのかなって思って、
梨華の前で出来るだけ冷めたように見せて、
梨華が『ひーちゃん、最近冷たいね』
って言われるの待ってた

でも梨華は全然反応しなかった
それどころか、あたしの機嫌ばかり伺うようになって、
気づいたときには、もう元に戻れなくなってた
梨華を犯すように抱いても、何も言わなかった
怒りもしないし、あたしの顔色見ながら、声を出して・・・
そんな梨華を見ることが辛かった・・・

なにやってんだろあたしって・・・
梨華をこんな風にさせて・・・
でも、どうすることも出来なかった
450 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:32
そんなときだった・・・
梨華がホテルにいるあたしと他の女を見つけたのは・・・
あたしは梨華と目が合ったとき、
きっと冷めた表情で通り過ぎていくんだろうなって思ってた
だけど、梨華は凄い勢いで、あたしのところに走ってきて、
ほっぺたをぶった

嫉妬を露わにする梨華を自分は望んでいたはずだった
そこで梨華の手を掴めばよかったんだ
でもあたしが掴んだ腕は梨華じゃなかった
ここがゴールなんだよ・・・自分にとってのゴールなんだよって
言い聞かせてたけど、梨華を引っ張ったところで
梨華に拒絶されたらどうしようって思った


「でも・・・無表情だったよ?あのときのひーちゃん」
「それは・・・きっと梨華のフィルターがかかってるからだよ
梨華が勝手に思い込んでたあたしの姿のフィルター」


あたしだってそうだ・・・
手紙を読んで、梨華があたしを
あんなに思ってくれてるって初めて知った
いつも冷静な顔をしているように見えたから・・・
451 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:34
それで、梨華の隣を過ぎたとき、
女が言った

『夜の相手にもならない女が調子乗ってるんじゃないわよ』

あたしはその女に梨華のことを話してたんだ
こいつならちょっと話してもいいかもしんないって思ったから
もちろん、心を許せるかって言ったら、そういうわけじゃないけど、
梨華のことを話せるってだけで、自分自身気持ちが楽になった

だけどその女は梨華に変な嫉妬をして
そんなことを言った

あたしはそいつをホテルの駐車場に連れて行った


『嫉妬丸出しだったね
バカな女――――――――』


バシッ


あたしはそいつが許せなくて思いっきり、そいつの頬を叩いた
梨華ちゃんがあたしを叩いたよりもっと強く
452 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:36
「おめぇの方が嫉妬してんじゃねーかよ。
可哀想なヤツだよ。体しか与えられないって」
「・・・あんたの方が可哀想だよ!
人のせいにして、遊んでばっかいて
なにが嫉妬して欲しいだよ・・・見て欲しいって思うんだったら、
自分の腕で自分の方に向ければいいでしょ!?
あんたなんかね、体と顔以外なんの魅力もないのよっ」



そう言って、そいつはあたしを置いたままどこかに行ってしまった



そいつの言う通りだと思った
間接なことばっかやって、自分の力で振り向かそうなんてしたこと一度もなかった
心配させようと、雨に濡れたり、
嫉妬させようと、大学で違う女を連れてきて、
梨華が来そうなところをわざわざ歩き回ったり

それであたしは
謝って、全部やり直そうと思って、
梨華にメールをした

『夜、話そう』
453 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:38
でも梨華はその夜、帰ってこなかった
一人、花とか買ってさ、花瓶に飾ってる自分が恥ずかしかった

一日中眠れなかった

もしかしたら、帰ってくるかもしれない
もしかしたら、事故起こしたかもしれない

そのときに気づいたんだ

あ、こういう気持ちだったんだな
梨華があたしを待ってるとき・・・

次の日、あたしは昼間から必修の授業があったから、
部屋を出た

その授業が終わって、家に走って帰ってきたら、
家の中から梨華のものが全部なくなってた


とうとう・・・捨てられた・・・


当たり前だよ、こんなあたしを好きになるわけねーじゃん
あいつが言った通り、あたしに魅力があんのは体と容姿
心で梨華を繋ぎ止めようなんて無理だったんだ
そう思ったとき、テーブルの上にある手紙を見つけた
454 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:38
 
455 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:39



「・・・梨華・・・」



滲んでいる文字が梨華の気持ちを表しているようで、
胸が痛んだ


自分の勘違いだった
自分の勝手な思い込みだった


「ごめん・・・ごめん・・・」



ボロボロ涙が出た
いつもは梨華が拭ってくれるのに、隣には梨華がいなくて

涙が零れれば零れるほど、
自分の孤独を思い知らされているような気分になった
でも涙を流さなきゃ、感情がなくなるような気がした
456 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:41
どうすることも出来なかった
ただただ泣いて、自分の孤独を思い知らされる
2日間、ご飯も食べないままずっと泣いてた

手紙の横にあったお金があたしに対する冷めた感情のようにも見えた
手紙には『愛してる』とまで書かれてるのに・・・

それから1週間、外にも出られなかった


家には3日分のご飯しかないのに
1週間経っても、それを食べきることが出来なかった


「それからさ・・・2ヶ月間くらい・・・記憶ないんだよね」
「へ!?ご飯食べてたの!?」
「うん、ご飯は食べてたと思う。痩せたねとは言われたけど、
今は生きてるからさ」
「そっか・・・」


あ、それとさ、あたし留年したんだ
まあ遊んでばっかだったから、
留年するだろうなって思ってたけど・・・
457 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:44
でも、結局大学は辞めた
いろんな人に申し訳ないけど、自分の中ではそれが一番正しい選択だった

その選択をしたキッカケは高校の同窓会だった

本当は行く気なんかなかった
誰と仲良いってわけじゃなかったし、
もう人を抱く気力も抱かれる気力もなかったから

でも・・・そのときの同窓会の場所が学校だったんだ・・・
それを知って、あたしは何も迷わずに同窓会に行った

同窓会の日になって、
学校に入った瞬間、あたしはみんなの目を盗んで、
体育館倉庫に向かった

自分にとって無駄な時間が自分を弱らせるような気がして・・・


「そういえば、まだあったよ。梨華が書いた相合い傘とウサギ」
「あ!そうだっ!書いたねっ
壁側につけてあるマットをどけて、壁の下らへんに書いたんだよね」
「そうそう。相合い傘さ、ひーちゃん、梨華ちゃんって書いてさ、
この子はどういう意味で書いてんだろって・・・」
「んー・・・そのときはまだ深くは考えてなかったかも・・・」
458 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:46
そうだよね
あたしもそれを書いてる梨華を
『なにやってんだよ』って笑いながら見てて、
恥ずかしいっていう気持ちはなかった気がする
でも・・・だから、胸にぐっとくるものがあったんだと思う
このときのままがよかったのかもしれない・・・
お互い、自分の気持ちに気づかずに、支えられる存在として
一緒にいられればよかったのかもしれない

でもさ・・・やっぱ違うんだよね・・・
人は欲張りだから、もっと欲しくなってしまう
どう考えたって、あたしは自分の気持ちにいつかは気づくはずだったし、
気づいたら、梨華と一緒にいたいって思う
それが自然なことなんだよね

そう考えたらさ、もうなんでもいいから
梨華に会いたくなって
素直になって気持ち伝えなきゃって思った
どんなに拒絶されても、自分が幸せになりたいから
一緒になりたいって
相手のこと考えられるほどあたしは大人じゃなくて・・・
459 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:47
そしたらいつの間にか、
梨華が最初にいなくなったときと同じように、
梨華の居場所を必死に捜してた
でも、思ったより時間かかってさ・・・

あの・・・藤本ってやつ?


「美貴ちゃん?」
「そうそう、そいつがいろんな奴に言うなって手を回しててさ
もしかして、そいつ梨華のことが好きなんじゃねーの?」
「ふふ・・・違うよ・・・美貴ちゃんは私の親友だよ?
ちゃんとアメリカ人の恋人もいるんだから」
「そっか・・・ならいいけど・・・」


そんでさ・・・必死に色々探って、
アメリカにいることが分かった
それが分かったら、あとは早かった
あ、言うの忘れてたけど、あたし親戚に警察官がいてさ
しかもなんか・・・超偉いらしー
ま、興味ないからいいんだけど・・・
そんで色々調べてもらって、梨華の居場所が分かって、
今ここにいんだけど・・・
460 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:49
「ふーん・・・ずるいよひーちゃん」
「は?なんで?」
「人の手借りるんじゃなくて、一軒一軒訪ねればいいのに」
「はあ!?アメリカ中を!?」
「うん」
「無理に決まってんじゃん・・・なによりさ、早く会いたかったんだよ」


またそうやって、口説き文句みたいなことを言う


「で、あたしのこと好き?」
「・・・知らないっ」


簡単に好きなんて言えないよ

こっちだって心の整理ついてないんだから・・・

嫌われてると思ってたんだよ?
美貴ちゃんにとっては・・・まあ私にとってもなんだろうけど・・・
ひーちゃんはめちゃくちゃ悪役なんだよ?
しかも昼ドラくらいの
461 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:52
私はひーちゃんに顔を見せないように、
ソファを背もたれにして座って、テレビをつけた


ブチッ


でもひーちゃんがテレビをすぐ消してしまった


「・・・梨華・・・あたし真面目に言ってんの・・・
会えない間、本当、死ぬかと思った・・・まじで
別に誇張なんてしてないよ?こんなにも梨華のこと想ってたんだって
梨華が隣にいないなら、もー死んでもいいかなって思った
その度に梨華の手紙を読んで、どうか会わせてくださいって祈った
もちろん、拒絶されることだって考えてた
だけどさ・・・本気で受け取って欲しい・・・梨華に会ってからのあたしの7年間」


ひーちゃんの言ってることが痛いほどよく分かった
あたしも簡単にこの気持ちを捨てたくなかった
それは自分もそうだけど、なによりひーちゃんにあたしから想われてることを
忘れて欲しくなかった
462 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:54


「いいよ・・・」



私はひーちゃんの方を向かずに言う



「でもね・・・一つだけ条件があるの」
「条件?」



ひーちゃんも、私と同じように、ソファを背もたれにして座った

ひーちゃんが私の顔をのぞき込む
463 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:54





「ちゃんと順番に告白からしてほしい
ひーちゃんはあたしたちを恋人って言った
私もそうだって思ってた。でも、考えてみたらね、
『付き合って欲しい』も『好き』も言われてないの
だから、ひーちゃんがどんなに他の女の人と関係を持とうが、
それを浮気って言って責めていいのか分からなかった」




464 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:55


さっきとは違って、私の目をじっと見るひーちゃんの目が
凄く眩しかった



「分かった」



ひーちゃんは真剣な面持ちで正座をした
それを見て、なんとなく私も正座をした

465 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:56



「石川梨華さん」



「はい」



「あたし、吉澤ひとみは
誰よりも・・・誰よりもあなたのことが大好きです」



「・・・んぐっ・・・はい・・・」



「だから、あたしと付き合ってください」



「・・・」
466 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:57
私は涙が出て、止まらなかった

ずっとその口からその言葉が出てくるのを待ってたんだよ?



「梨華?答えは?」



神様・・・私は本当にひーちゃんのものになっていいですか?

神様・・・本当にひーちゃんを私のものにしていいですか?



ううん・・・


神様が反対しようと・・・
誰が反対しようと・・・


私の答えは決まってる

467 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:58





「はいっ――――――――」




468 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 15:59
私は覆い被さるようにして
ひーちゃんに抱きついた



ひーちゃんも私に負けないくらい強く強く
抱き締めてくれる



「梨華」
「ん?」
「大好きだよ」
「うん・・・ひーちゃん」
「ん?」
「私も大好きだよ」



今までの空白の時間を埋めるように
ぎゅっと抱き締めて、ぎゅっと抱き締められた



「梨華・・・」
469 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 16:00
背中に回された手が緩んで、
ひーちゃんの顔が目の前にある


綺麗な眉

大きな瞳

薄い唇


全部全部愛おしいよ・・・



ひーちゃんの顔が近づいてくる・・・

目を瞑って、近づいてくる



「ん・・・!?」


470 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 16:01
「キャハハハッ!!」



「ちょっ梨華!!何すんのっ!?」



「そんな簡単にキス出来ると思ったら大間違いだよ!」



近づいてくるひーちゃんの唇を
私は親指と人差し指で思いっきり抓った
目を瞑っているから、その顔があまりにも・・・
なんていうか・・・アホ面で笑ってしまった



「はぁ!?今の勢いからして、そういう雰囲気でしょ?」
「普通はね、付き合って、その日にチューはしないんだよ?
まあひーちゃんは出会ったその日に全部するんだろうけど」
471 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 16:02
「なんだよそれ!・・・まあ間違ってはないかも・・・」
「ちょっとひーちゃん!!!」
「あーごめんごめん」



もう先が思いやられそうだよ・・・



「ねえ梨華、ブチュっとしようよ
減るもんじゃないでしょ?」



あー・・・もうなんなの・・・
なんでこんなにも感情が豊かなわけ?



「決めた!1ヶ月間、キス以上のことはしない!」
「はあああああ!?」
472 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 16:03
まあひーちゃんにとっては、当然のブーイングだと思う


これは私なりのひーちゃんへのお仕置き


でも、私が辛かった時期はこんなもんじゃないんだよ?
女は我慢するものっていうけどさ
知ってる?ひーちゃんも女なんだよ?



「決ーめたっ!じゃあ、私はもう寝るからねっ
ひーちゃんは、ソファで寝て」



私はひーちゃんを一人、リビングに残して
寝室に入る


後ろからわーわー聞こえるけど、そんなの気にしない
473 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/01(日) 16:03
 
474 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/02(月) 01:13
こんなの.....こんなの....大好物だああああああああああ!
475 名前:ルビ 投稿日:2012/04/02(月) 22:32
>>474 ありがとうございます。
そんな・・・そんな・・・嬉しいですっ!(笑)これからも是非是非読んで下さい♪
476 名前:ルビ 投稿日:2012/04/02(月) 22:34
一気に更新し過ぎて、記事が更新出来なくなって、
中途半端になってしまいました・・・

最終回まであと少しですが、最後まで読んで下さったら嬉しいです。
477 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/02(月) 22:34
 
478 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/02(月) 22:34
 
479 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/02(月) 22:36
それからひーちゃんの禁欲生活が始まった

キス以上のことはダメ

だからハグは大丈夫なわけで、
朝起きたらハグ、朝出るときにハグ
夜帰ってきたらハグ、ご飯食べ終わったらハグ
歯を磨くときはひーちゃんが後ろから私を抱き締めて、
2人で歯を磨く
そして寝る前にハグ


大学を辞めてプータローなひーちゃんは
ずっと部屋でごろごろしている。
ひーちゃんのこれからもちょっと考えないといけないみたい・・・

あ、そういえば、ひーちゃんはもう日本へ帰るつもりがないらしい
というかそのつもりで、私の家も売り払ってしまったらしい
本当・・・どこから来るんだろう・・・その自信は・・・
口だけだけど、『私たちが別れちゃったら、どうするの?』
って怒ったら、

『そんなに言うなら、パスポート、ゴミ箱に捨ててくる
あたしには梨華のところ以外に帰る場所なんてないんだ』

って真っ赤な顔をして怒られた
480 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/02(月) 22:37
私が飲み会って言うと、
必ず

『男何人?どんな奴?あ、女もやばいなぁ・・・
ねぇ、梨華、一緒に飲み会行っていい?』


なんて言う

それに

『あーもう・・・梨華、よく我慢出来たね・・・
好きな奴が他の奴とエッチしてるなんて、
あたしは考えられないよ』


って自分がしたんでしょ


なんだかんだで、無事に1ヶ月経った
でも予定外だったことは・・・
1ヶ月経った今日が1日中休みだってこと・・・
481 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/02(月) 22:38
ガバッ



「うっ・・・」



私がベッドで寝ていると、
上からひーちゃんが降ってきた・・・



「りーかーちゃんっ!1ヶ月経ったよ?」



そう言って、私は何も言ってないのに、
布団に潜ってくる



「ね、ひーちゃん」
482 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/02(月) 22:39
伸ばしてくれた腕に私は頭を乗せる



「なに?」
「・・・もう浮気しない?」



私にとって一番付き合っていく上で重要なことだ
もう、あんな辛くてきつい思いはしたくない



「しない。しないよ。絶対に」



真剣な眼差しで私は見つめられる



「でも・・・最初から浮気するって言う人なんていないでしょ?」
483 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/02(月) 22:52
きっと私は今何を言われても信じられないかもしれない
これからはもっともっと敏感に反応してしまうかもしれない
嫉妬ばかりして、あなたを怒らせてしまうかもしれない



「あたしを信じてよ・・・梨華が手紙を置いて出て行ってから、
今日まで一回も出来なかった。誰でもいいから誘ってヤっちゃおうって思って、
ホテルにまで連れて行ったけど、全然出来なかった
ホントさ・・・参っちゃったよ・・・今までどうやって抱いてたか
どういう気持ちで抱いてたか、分かんなくなっちゃったんだよ・・・
あんなに色々女と関係持ってたってのに・・・」

「ひーちゃん・・・」


「これからさ、どんなことが起こるか分からない
いっぱいいっぱい障害はあるかもしれない。
でも、覚えてて?



あたしが好きなのは・・・愛しているのは・・・



梨華だけだから――――――――」
484 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/02(月) 22:53
「それに・・・あたしがもし・・・もしだよ?絶対ないけど、
過ちを犯してしまったとき・・・こんなことを言うのは図々しいかもしれない
だけど・・・だけど・・・あたしが帰ってくる場所を作っていてほしい
どんなに誰かと関係を持ったって・・・
あたしと梨華は誰よりも・・・心で繋がってるって思ってる
そんな・・・そんなワガママなこと思っちゃ、ダメかな?」


私は全力で首を横に振る


そして・・・ひーちゃんは言うんだ
涙を浮かべている私に・・・




「梨華、愛してる」





485 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/02(月) 22:55
それから私たちは1日中愛し合った

ひーちゃんの言う通り、
これから何が起こるか誰にも分からない
考えたくないけど、ひーちゃんが浮気しちゃうことだってまたあるかもしれない・・・
でもきっと私はそれでも許しちゃうと思う
その度に私は辛い思いをするかもしれない
きつい思いをするかもしれない
だけど、私はそんなひーちゃんも愛そう

弱いひーちゃんも寂しがり屋なひーちゃんも
恥ずかしがり屋なひーちゃんも
全身全霊で愛していこう、守っていこう


ひーちゃん・・・いつでも私はあなたの笑顔を作れる場所で、帰ってこれる場所なんだよ?
例えどんなことがあっても、ひーちゃんが私の元へ戻ってくるって信じてるから・・・




「ひーちゃん、愛してるよ」



486 名前:心の繋がり 投稿日:2012/04/02(月) 22:55


おわり
487 名前:ルビ 投稿日:2012/04/02(月) 22:56
訂正があります・・・

>>441

料理が終わったあと、



食事が終わったあと、
488 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/02(月) 23:51
(´;ω;`)ブワッ
昨日リアルタイムで読んでて「あー!いいとこで…」ってなってました(笑)
これからも楽しみにしてます
489 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/03(火) 00:47
ひーちゃん!梨華ちゃん泣かせたらぶっ飛ばすよ!
490 名前:ルビ 投稿日:2012/04/04(水) 00:22
>>488 ありがとうございます。
投稿出来ないときはどうしようかめちゃくちゃ焦りました(笑)

>>489 ありがとうございます。
本当にそうです!!私もぶっ飛ばすつもりです(笑)
でもそんなひーちゃんもやっぱり何処か愛おしくなります・・・
491 名前:ルビ 投稿日:2012/04/04(水) 00:24
次もアンリアルです。
しかも長編になる予定です
リアル短編って言ってたのに、冒頭と全然違いますが(汗)
読んでもらえると嬉しいです。

次の前半はずっと亀井ちゃんが出てきて、梨華ちゃんはあまり出てきません。
492 名前:ルビ 投稿日:2012/04/04(水) 00:26


『私が恋した人』


493 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/04(水) 00:28
***→亀井
●●●→石川
○○○→吉澤
494 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/04(水) 00:28
 
495 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/04(水) 00:28
 
496 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/04(水) 00:29



私は恋をした――――――――


外をじっと見つめたままのあなたに


悲しい目をしているあなたに


私じゃダメですか。



497 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/04(水) 00:30
この春、私は晴れて第一希望だった会社に就職することができた
女だらけの会社だから色々人間関係で問題が起こったりするんじゃないかと
心配していたけど、全くその必要はなかった


厳しくもあり優しくもある藤本さん

ムードメーカである里田さん

意外とクールな柴田さん


みなさん個性派揃いで、
仕事もプライベートもとても仲が良いらしい

でも、1人だけ他の人とは違う空気を醸し出している人がいた


いつも外を見つめていて、
とてもクールで、笑うことも少ない


本当にそういう性格なのか、
それとも何かあって、そういう風になったのか
そのときの私は分からなかった
498 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/04(水) 00:31
「吉澤さん!」
「ん?」
「これ、コピーしときました」
「・・・あぁ、ありがと」


私が吉澤さんを見ているのはいつも横顔だった
デスクワークをしている横顔・・・
吉澤さんの横顔はとても綺麗で、女の人であるはずなのに、
惚れてしまいそうになる

吉澤さんは飲み会にはいつも来ない
断る理由はいつも『体調が悪い』らしい
だけど、他の先輩たちはそれを非難しようともせず、
当たり前のように接している


そして1ヶ月を過ぎた頃


ある日の休憩中、
私は吉澤さんの横に座っている藤本さんに構って欲しくて、
うさ耳のカチューシャをして、藤本さんに声をかけた
499 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/04(水) 00:32
「藤本さん!見てください」
「・・・なにそれ・・・かなりイタイよ」
「なぁんでですかぁ!」


私はなんとなく隣にいる吉澤さんにも見せたくなった


「吉澤さん!どうですか?」
「・・・ハハ」


・・・笑ってくれた
私を見て、吉澤さんが笑ってくれた!?


「ちょっと、よっちゃぁん!何笑ってんのよー」
「いや・・・可愛いじゃん亀ちゃん」


あだ名で呼んでくれた・・・
500 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/04(水) 00:33
「そうですかぁ?よく言われますぅ」


私の決まり文句だっ
もう一回吉澤さんを笑わせたくなった


「・・・ハハ、面白いね亀ちゃんは」


確かに吉澤さんは笑ってくれた
でも・・・一瞬だったけど、吉澤さんは私を見て
悲しそうな目をした


・・・なんで?なんで悲しそうな目をするの?


それから私は吉澤さんとよく目が合うようになった

いつも吉澤さんは悲しそうな目をして、
こっちを見ている
でも・・・私を見ているんだろうか・・・
なんとなく私の目を見ているわけではないような気がした
501 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/04(水) 00:33


私はそんな吉澤さんが気になって仕方がなかった


なんで悲しい目をするの?


なんでそんなに寂しそうなの?


なんで私を見つめるの?


502 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/04(水) 00:35
そして・・・私が吉澤さんへの気持ちに確信を持ったのは、
ある日の飲み会での出来事だった



「ねーよしこー!」
「うーん?」


今日は珍しく、吉澤さんが飲み会に出席している


もしかして、私がいるからかも・・・
なんてことを考えなくもない



「よしこはー、この中で彼女にしたいなら誰?」



ドクンッ



里田さんが吉澤さんの肩に頭をのせる
だけど、吉澤さんは苦笑い
503 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/04(水) 00:35
酔っ払ったときに人を大胆にさせるのも
人によってはいい迷惑だ



「てか、あたしそっちじゃないし・・・」



・・・


なんだ・・・


いや・・・なんだって


絵里もそっちじゃないから


たまたま吉澤さんのことが気になっただけ・・・
504 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/04(水) 00:37
「え?じゃあ・・・り」
「まいちゃん!!」



藤本さんがなぜか里田さんに怒っている


私はその姿を不思議に思いながら眺めていた



「・・・あいつは別だよ
それに・・・あたし、元々、男にも女にも本気で恋愛するつもりなかったからさ
だからこれからも本気で恋愛なんてしねー
元の生活に戻っただけだし」



・・・



静まり返った


藤本さんや里田さんたちも黙ったまま、
吉澤さんを見つめている
私たち新人はその姿を不思議に思いながら見つめる
505 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/04(水) 00:38
・・・あいつ?



あいつって誰?



「よっちゃん・・・そんなこと言ってないでさ、
恋愛しなよ・・・楽しいよ?恋愛するのはさ」


いつも怒っているイメージのある藤本さんが優しい口調になる
こんな藤本さんは初めて見た


「恋愛はするかもしんねーけど、
本気にはなんねーって言ってんの。別にいいじゃん
あたしがいいって言ってんだから・・・」


悲しい目をするのは吉澤さんが言った“あいつ”が原因なの?
506 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/04(水) 00:39
「・・・ほらほら、よしこも美貴ちゃんも・・・
あんな子のことで言い合いなんかすることないでしょ?
もう終わったことなんだし・・・ほらっよしこ飲みな?」


里田さんが吉澤さんに自分のところにあったビールを渡す


「“あんな子”・・・か。まあそうだよな
普通に考えればそうだよな・・・」


吉澤さんはビールを一気に飲み干した


“あんな子”?


その人が吉澤さんを傷つけたの?



その夜、吉澤さんはあっという間に酔っ払った
事務的に口の中にアルコールを入れている吉澤さんは
はっきり言って見ていられなかった
507 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/04(水) 00:39
 
508 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/04(水) 00:40
「よっちゃん、起きな!もう遅いんだから・・・」


吉澤さんはなぜかテーブルを挟んで私の前に座って、
伏せて寝ている


誰が声をかけても起きない


はあ・・・


先輩たちのため息が妙に耳に響く


「そうだ・・・亀ちゃん」
「はい」
「よっちゃんに、“ひとみちゃん起きて”って言ってあげて?」
「え?」
509 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/04(水) 00:41
藤本さんの顔は微笑んでも、意地悪そうでもなく、
真剣な顔をしていた


「亀ちゃんだったら、よしこ起きるかも」
「え、どういう意味ですか?」


「・・・亀ちゃんはさ・・・梨華ちゃんに似てるの――――――――」




“梨華ちゃん”?

それが


“あいつ”

“あんな人”


の名前なの?
510 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/04(水) 00:42
「・・・ひとみちゃん・・・起きて――――――――」





んぅ・・・ん・・・




「・・・」




吉澤さんは起きた


私の方を向いて、焦点を必死に合わせようと目をこすっている



「ひ・・とみちゃん・・・」
511 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/04(水) 00:43
私に視線が定まった吉澤さんは微笑みながら言う


「私がこの中で彼女にしたいのは



亀ちゃんだよ――――――――」




そうして私の恋は始まった


吉澤さんと愛し合っていた“梨華ちゃん”に似ているという特権を使って、
私は吉澤さんに近づこうとした



吉澤さんのことが知りたくて知りたくて知りたくて

代わりでもいい。代わりでもいいから、私のことを好きになってほしい
512 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/04(水) 00:43
 
513 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/04(水) 00:43
 
514 名前:ルビ 投稿日:2012/04/04(水) 00:45
上は『* * *』で亀ちゃん視点です・・・

最初に書いときながら、すぐ忘れてしまいました・・・

本日は以上です。
515 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/04(水) 01:38
新作うれしいです!はたして今後どうなるのかな?あの人の登場楽しみに待ってます。
516 名前:ルビ 投稿日:2012/04/05(木) 00:26
>>515 ありがとうございます。
今日、ちょっとだけ出るので、楽しみにしていて下さいっ
517 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:27
 
518 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:27
 
519 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:27


*    *    *

520 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:28
「柴田さん」
「ん?」
「あの・・・聞きたいことがあるんですけど・・・」
「なにを?」
「・・・吉澤さんのこと・・・」


吉澤さんが好きだった“梨華ちゃん”のこと


なんで吉澤さんが悲しい目をしているのか


なんで里田さんは“あんな子”と言ったのか・・・


全部全部知りたかった


そう思って、亀井は休憩中の柴田に話かけた
521 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:28
「・・・そっか・・・会議室で話そうか?」



私は会議室へと向かっていく柴田さんの後ろについて行った
522 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:28
 
523 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:30
「亀ちゃんはよっすぃーのこと好きなの?」
「いや・・・あの・・・」


会議室に入ってすぐ言われた



「自分の気持ちに確信出来ない人には
教えられないよ?」
「・・・」


自分の中では好きって思っていたけど、
いざ口に出そうとすると、どうしても出来なくなってしまう



「・・・よっすぃーが言ってたように、
多分よっすぃーはこの先本気の恋愛はしないと思う。
それでも大丈夫なの?」
524 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:31
柴田さんは優しそうな目で私を見てくれた

その目だけで私はなぜか吉澤さんを好きになることを許された気がした


「・・・分かった。でも・・・他の人には言わないでね?
詳しく知っているのは、私と美貴ちゃんとまいちゃんだけだから」
「はいっ」
525 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:31
 
526 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/05(木) 00:31
新作ありがとうございます♪

亀ちゃんはホントあの人に雰囲気というか何かが似てますよね。
527 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:32
2人が出会ったのは、ここの会社だった

梨華ちゃんは私とまいちゃんと美貴ちゃんと同期で、
凄く仲良くて、いつも一緒だった

私たちが会社に入って、
1年経って、よっすぃーが入ってきたの

最初はさ、よっすぃーはいつも1人でいてね・・・
なんか凄くクールで、人と距離をとってた

女だらけの現場で
あの容姿のせいか、キャーキャー言われててさ

それが嫌だったみたい

2ヶ月くらい経ったときだったかな・・・


よっすぃーが初めてミスをしたの
いつも完璧になんでもこなしてたから、
みんなはそんなに怒らなかった

でも・・・梨華ちゃんだけは違った
528 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:34
『ちょっと、吉澤さん!1回のミスで、
どれだけの人が動かないといけないか分かってるの?
チヤホヤされていい気になってるんじゃないの?
みんなが許しても、私は許さないんだからねっ!!ふんっ!!』


梨華ちゃんがそう言って、吉澤さんの前から
こっちに戻ったときに、私は梨華ちゃん越しに見ちゃったの


梨華ちゃんの方を見て、微笑んでいた姿
それが私が初めて見たよっすぃーの笑っている姿だった

多分さ、口を尖らせて言う梨華ちゃんが微笑ましかったんだよね

なにせ、怒り方が古いんだもん、梨華ちゃん


それからさ、怒られるためなのか、
よっすぃー、しょっちゅうミスしてさ
その度梨華ちゃんはよっすぃーに怒るんだけど、
その姿を見て、優しそうな目をして微笑んでるの
529 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:35
『ちょっと聞いてるの!?』
『うん。聞いてるよ。石川さんの話だから』
『何言ってんの!?・・・ってあんた先輩に向かって
タメ口をきくってどういうこと!?大体あんたはねー・・・』


で、あるとき気づいたの・・・
よっすぃーがしちゃったミスは誰にも迷惑かけないようなミスで、
普通だったら、スルーしてしまうようなミスだった

でもいちいちよっすぃーが梨華ちゃんに
そのミスを教えるからさ、毎回のように怒ってたんだけどさ・・・


それを見たまいちゃんと美貴ちゃんが、
からかうようによっすぃーに近づいてって、
いつの間にか、私たち4人の中によっすぃーが入ってた

そんなとき・・・

梨華ちゃんが栄養失調で倒れちゃったの

それを聞いたよっすぃーは凄い焦ってて、
落ち着いてって言ってるのに、病院に行くってうるさくて・・・
530 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:36
その日、仕事が終わってから4人で病院に行って、
2人にさせてあげようってことで、私たちは帰るフリして
ずっと近くで話聞いてたんだけど・・・


『本当、何やってんだか・・・ご飯くらい食えよ』
『ひとみちゃん、“食えよ”じゃないでしょ?女の子なんだから』
『ここにまで来て、お説教すんの?・・・彼氏とかにさ、作ってもらいなよ?
石川さん、料理下手みたいだからさ。』


多分、よっすぃーの精一杯の言葉だったんだと思う
彼氏が今いるのか、いないのかっていう・・・


『彼氏なんかいないよ・・・こんな私好きになってくれる人なんて・・・
おせっかいだし、機嫌すぐ悪くなっちゃうし・・・ひとみちゃんだって、
嫌いなんでしょ?私のこと・・・』
『・・・なんでそう思うの?』
『だって、いつもからかってくるし、“キモイキモイ”って言うし
知ってた?私だって、少しは傷つくんだからねっ・・・ひとみちゃんは・・・』


・・・っ――――――――
531 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:37
不意打ちだった


よっすぃーが梨華ちゃんにいきなりキスをした

でも梨華ちゃんは拒まなかった


『・・・ひとみちゃん・・・どうして?』
『抵抗・・・しないんだね・・・脈ありって考えてもいいのかな?』
『ひとみちゃん・・・』


そのあとすぐ、2人は付き合いだした


2人見てるとさ、凄く癒されて・・・

なんかはっきり言っちゃうと、ちょっと夫婦漫才みたいなところもあったんだけど、
お互いがお互いを愛してて、包み込んでいて、
この2人が別れることなんて、絶対ないって、みんなが思ってた

でも、2年前に2人は別れた
532 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:39
梨華ちゃんとよっすぃーは同居してたんだけど、
朝起きたら、梨華ちゃんのもの一式なくなってたんだって
・・・手紙だけ残して・・・


「手紙・・・ですか?」
「そう・・・」


ひとみちゃんへ

私、結婚することにしたの。やっぱり家庭が欲しいの・・・
彼を愛しているの。ひとみちゃんより・・・
ごめんなさい。私を許して欲しいなんて思ってない。
ひとみちゃんも幸せになって?

さようなら


梨華より


「それって・・・」
「そう・・・梨華ちゃんは浮気してたみたい。
だから、美貴ちゃんもまいちゃんもその日以来、梨華ちゃんのことが許せないの」
「柴田さんは・・・柴田さんは違うんですか?」
「・・・親友なの・・・梨華ちゃんは私の」
533 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:40
柴田さんは“梨華ちゃん”と中学生からの親友だと教えてくれた
そして、今も連絡をとってるらしい


「本当に・・・結婚したんですか?」


なんとなく・・・気になってしまった
あんな良い人を捨てる人なんているんだろうか・・・

もしかして、何か事情があって・・・
本当は結婚なんてしてないのかもしれない・・・


「・・・してるよ・・・――――――――」


・・・違うんだ・・・
やっぱり・・・
534 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:41
「ひどいですよ!!なんでそんな手紙だけで・・・」
「亀ちゃん・・・愛だけじゃ、どうにもならないことがあるんだよ?」



なんで・・・?


愛だけでどうにもならないことってなんなの?


家庭がなくたって、お互い愛し合ってればいいじゃないの?


分かんないよ・・・
私には、彼女の気持ちが・・・


きっと彼女の愛はそんなもんだったってことでしょ?


それなら、私が全力で愛そう
“梨華ちゃん”に代わって、吉澤さんを愛していこう

私は改めて、そう思った
535 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:41


●   ●   ●

536 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:43


ひとみちゃん、どうしてるの?

ひとみちゃん、私のこと、まだ覚えてる?

ひとみちゃん、会いたいよ


ひとみちゃんに会いたいの――――――――

537 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:45
私は2年前に結婚をした

旦那さんはとても優しくて、とても気配りが出来て、
私のことを凄く想ってくれている

結婚してすぐ、彼はそんな私に気づいてくれた

私には他に好きな人がいるってこと

そのことを理解してくれて、
彼は私にキス以上のことはしない

ときどき、もう大丈夫だよって言っても、
彼は首を横に振る
私の中にまだひとみちゃんがいることを彼は分かってるみたい

私は彼のことが好き
でも愛してはいない

しかも、結婚する前から
というか・・・私が彼と出会ったのは結婚する1週間前・・・

私が彼と結婚することになった理由

それは親だった
538 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:48
 

539 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:48
ひとみちゃんの親は比較的、放任主義なところがあって、
その上、恋愛に対して、男女関係ないという考えもあり、
私たちのことは許してくれた
それどころか、ひとみちゃんが本気で人を好きになったことに喜んでいた

私は何回かひとみちゃんの実家に行き、
ひとみちゃんのパパやママとも仲良くなっていた


そんな帰り道


『ねぇ、梨華ちゃんのお父さんとお母さんにも
会いたいんだけど、ダメかな?』
『え・・・いや・・・』


私はひとみちゃんのことを親には言ってなかった
友達だとは言っていたけど、恋人とは言えなかった


『もしかして・・・あたしのこと、言ってないの?』
『え?・・・いっ言ってるよ!パパもママも喜んでたよっ』
540 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:49
ひとみちゃんにも言えなかった
パパとママに言ったら、絶対怒られる
でもそのことをひとみちゃんに言ったら、
繊細でナイーブなひとみちゃんは落ち込んじゃうと思ったから



『じゃあ、今度連れてってよ!』
『う、うん・・・』



それから、何度かひとみちゃんから言われたけど、
私はその度に曖昧に答えていた

でもだんだんひとみちゃんが怪しみ始めてきた

だから私はまず1人で、パパとママにひとみちゃんが
恋人だということを伝えようと思った


『パパ、ママ・・・私ね・・・』
541 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:50
目の前に座っているパパとママは
なんのことかと耳を傾けていた


『私ね・・・ひとみちゃんと・・・付き合ってるの』


『・・・』


返事はなかった

目を丸くしたまま、私をじっと見ていた


『2年前から、付き合っているの』


『・・・冗談でしょ?変な冗談言わないでよ〜』
542 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:53
ママは笑いながら、そう言った
でもパパは笑ってなかった
きっと私のいつになく真剣な顔を見て、本当のことだと思ったんだろう
いや・・・ママもきっと分かってた
でも、認めたくなかったんだと思う



『冗談じゃないの、ママ。私、ひとみちゃんのこと愛してるの』
『だっだって梨華、昔、男の人と付き合ってたじゃないっ』
『男とか女とか・・・そんなの関係ないよ・・・だって、ママだって、
パパが男だから、好きになったわけじゃないでしょ?』


お願い・・・私たちの愛を否定することは言わないで・・・


『それとこれは別じゃないっ!今だけよ・・・時間が経ったら別れるんだから!!
若いときは同姓に恋をするってこともあるのよ?とくに女の子は・・・』
『別れないよっ!絶対別れない!!一生・・・ずっと一緒にいるの!
それに、ちゃんといくとこまでいったんだよ!?』
543 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:54
バシッ――――――――


パパから初めて・・・初めて
頬を叩かれた


パパは私を睨むような目で見ていた
ママは声を出して泣いていた


『なんで・・・なんで分かってくれないの!?
私のこと、娘として愛してるんでしょ?
それだったら、娘が愛している人のことも愛してよっ』


私はその場にいられなくなって、
家を出た。

そのとき、私はパパもママも捨てて
ひとみちゃんと生きていこうと思った
544 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:55
 
545 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 00:56
『ひとみちゃん』
『なに?』


私はいつものようにひとみちゃんの腕の中で
ひとみちゃんに話しかける

ほら・・・ドキドキするんだよ?
ひとみちゃんとこうやって、抱き合って寝ているのが、
一番安心するの。一時期な想いだなんて言われたくない


『私、これから先、家庭なんて欲しくない。
ひとみちゃんとおばあちゃんになっても一緒にいたい』
『・・・梨華ちゃん・・・あたしもずっと梨華ちゃんと一緒にいたい』


そう言って、ひとみちゃんは私に
キスをしてくれる


ひとみちゃんだけでいい


そのときは本当に思っていた
546 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 01:00
『・・・誰?』


レストランに行ったら、
知らない男の人がパパとママと一緒にいた

ママから、私の結婚相手だと紹介された
パパの会社の人で、仕事がよく出来て、とても優しくて、
気遣いがよく出来る人だって
パパが私のことを話してくれてて、気になっていたらしい


そう話すパパもママも、ひとみちゃんのことを
忘れたかのように明るかった


なんでこんなことするの?

私には愛している人がきちんといるの

結婚も出来ないし、子供も作ること出来ないけど、
私は愛しているの

それだけじゃダメなの?

パパの部下ということもあって、
私はなにも言うことが出来ずに、
言われるがまま、一緒にご飯を食べた
547 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 01:00
 
548 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 01:02
そして・・・それから1週間
私はまた連絡をとらなくなった

どんな留守電がきても無視し続けた


結婚相手なんて・・・嘘だ
そんなことパパもママもするはずがない
あんなの私の知ってるパパとママじゃないっ


そんなときだった・・・
ママが家に来た


そのとき、ひとみちゃんはたまたま
買い物に行っていて、いなかった
549 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 01:03
『梨華、帰ってきなさいっ!!
2人で一緒に住んでるなんて・・・騙されてるのよっ』


ママは凄い形相で私の腕を引っ張った


『ママ!!なんで分かってくれないの!?
私はひとみちゃんのことが好きなの!!騙されてるなんて言わないで?』


今の私の力なら、ママを押し出すことだって出来た
でも、ママに対してそんなことは出来なかった

そのまま私はパパもいる家に連れて行かれた
550 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 01:03
 
551 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 01:04
パパは無言で私をじっと見つめていた


『パパ、お願い・・・分かって?私は結婚する気なんてないの・・・』


私の目からは大粒の涙が溢れた


『好きなの!ひとみちゃんのことが!!なんで分かってくれないのっっ!?
こんなに好きなのに・・・こんなに愛してるのにっっ!!』
『分かるとか・・・分からないとかじゃないんだよ・・・
梨華にはちゃんと家庭を持って欲しい・・・梨華を愛しているから、幸せになってほしいんだよ』



パパの目から一筋、涙が零れた


昔、まったく泣かないパパを自分の結婚式で
絶対泣かせてやろうなんて思ってたっけ・・・

でも・・・現実は違った
552 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 01:05
私のせいで・・・悩ませて・・・


ママもパパの横で泣いていた


両親をこんなにも泣かせている私は
世界一の親不孝だ・・・


『梨華ちゃん・・・ママからもお願い・・・
ちゃんと・・・ちゃんと家庭を持って?』


ママの声は震えながらも、とても優しかった


『でも・・・私は・・・』


だけど・・・そんな簡単に諦められないんだよ・・・
私はひとみちゃんじゃなきゃ・・・
553 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 01:05
『明日、一緒に市役所に行こう。そして婚約届けを出すんだ』
『・・・パパ・・・もし、私が行かなかったら?』


パパの顔は真剣そのものだった



『もし行かなかったら・・・





・・・親子の縁を切る――――――――』



554 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 01:06
 
555 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 01:07
その夜、私はひとみちゃんのいる家に帰ることが出来なくて、公園に一人でいた
ひとみちゃんの顔を見ちゃうと私は冷静な判断なんて出来ないと思ったから


携帯には5件もひとみちゃんからの電話が入っていた
メールもたくさん来ていた。だけど、中身を見るのが怖くて、見なかった


どうすればいいの?


私はひとみちゃんが好き

だけどパパもママも好き


親子の縁を切るなんて言われるとは思ってもいなかった
それだけパパとママは真剣なんだ・・・


『分かんないよ・・・』
556 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 01:08
私がベンチで顔を伏せて、
泣いていたら・・・


『やっと見つけた・・・』


その声は・・・


『梨華ちゃん』


私が顔をあげるとひとみちゃんが地面に膝をついて
優しい顔をしていた


『・・・ひとみちゃん』
『どうした?・・・なんか辛いことでもあった?』


そう言って、ひとみちゃんは手で涙を拭ってくれる
557 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 01:09
『・・・』
『そっか・・・』


ひとみちゃんは息を押し殺していた
多分、走って私を捜していたんだろう・・・
でも、心配させたくなくて、落ち着いたように話してる


ひとみちゃんは私の手をとって繋いでくれて、ベンチに座った


・・・――――――――


『梨華ちゃん?』


私は思いっきりひとみちゃんに抱きついた


『ひとみちゃん・・・好きよ・・・大好きよ』
『梨華ちゃん・・・』


涙が止まらない・・・
558 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 01:10
あなたに会うと冷静でいられなくなると思った

だけど違った

あなたが私に向けてくれた優しい目を見て
分かってしまったの・・・


あなたに私は必要ないって・・・――――――――


こんなにも暖かくて、優しくて・・・
そんなひとみちゃんを愛してくれる人はこの先、たくさんいるだろう


でも私のパパとママには私しかいない・・・


『・・・ひとみちゃんは?』
『好きだよ・・・あたしも梨華ちゃんのことが好き』
『嬉しいっ・・・』
559 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 01:12
ひとみちゃん、恋をして?

ひとみちゃんが私以外の誰かを好きになることは辛いけど、
でも、ひとみちゃんが恋をしてくれた方が
私はきっと浮かばれると思う


『なんだよ・・・いつも言ってんじゃん』
『言ってるけど、昨日よりも好きになって欲しいの』
『ふふ・・・変なの、梨華ちゃん。まぁいつも変か・・・』


そう言って、照れたようにからかってくれるあなたが好き


『なにそれー?』
『うそうそ!昨日よりも今日の方が好きだよ』


でも、ちゃんと気持ちを伝えてくれるあなたが好き


だけど、こうやって私のことを好きの度合いを更新していくのも、
今日が最後なの

きっとあなたが起きたら、私のことが嫌いになっていると思うから
560 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 01:18
そして私とひとみちゃんは一晩中、抱き合った
これが最後だと・・・かみしめながら・・・

私は夢中でひとみちゃんに愛の印をつけた

この印がなくなったとき、あなたは私のものでなくなる


私がベッドから出ようとしたとき・・・


『・・・りぃ、どこ行くのぉ?』


寝ぼけたように、私の手を掴むひとみちゃん・・・
その声はとても甘くて、可愛かった


『ひとみちゃん・・・好きだよ?』


私は微笑んだ・・・
少しでも私の笑顔を覚えていて欲しくて・・・

ひとみちゃんは優しそうな目でにっこりと笑って、
再び眠りの中へと入っていった
561 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 01:18
私はひとみちゃんが起きる前に自分の荷物を持って、
家を出て、柴ちゃんの家に泊まった


柴ちゃんの家で私はずっと泣いていた


悪者になろう・・・

ひとみちゃんが私を嫌いになるように・・・
いい思い出にならないように・・・


携帯のメールアドレスも電話番号も変えて
誰にも教えなかった

だけど、柴ちゃんにだけは教えた

誰か今までの私を知っている人がいないと、
自分のバランスがおかしくなっていくと感じたから
562 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 01:19
 
563 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 01:20
柴ちゃんには全部気持ちを伝えた
だけど、一つだけ伝えてない気持ちがある


今も私がひとみちゃんのことを想っているということ


変な気を回して欲しくなかった


どうしようもないこと

もう元には戻れない

だから、私は自分の気持ちに蓋をする


でも柴ちゃんはきっと分かってると思う

私がひとみちゃんを今でも好きで、
でもどうしようもないって思っていること
564 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 01:21
だから、柴ちゃんは私に教えてくれた


『よっすぃー、気になっている人がいるみたい』


胸が壊れそうになった

あぁ・・・とうとうこのときがきたんだって・・・


柴ちゃんはよっすぃーはよっすぃーで頑張ってるから、
もう梨華ちゃんは梨華ちゃんで頑張りなってことを
口には出さないけど、言ってくれてる

だから私は自分のことを考えないと・・・


ひとみちゃん・・・


私は誰よりもあなたの幸せを願っています。
だから、絶対に幸せになって?
565 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 01:21
 
566 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 01:21
 
567 名前:ルビ 投稿日:2012/04/05(木) 01:22
本日は以上です。
568 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/05(木) 01:23
切ない・・・
「幸せ」になりますよね!!
569 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/05(木) 01:23
切ない・・・
「幸せ」になりますよね!!
570 名前:ルビ 投稿日:2012/04/05(木) 01:23
訂正があります。しかもかなり大きい・・・
523と524の間に入れるの忘れてました・・・

もし私のことを吉澤さんが好きになってくれて、
付き合ったとして、どんなに頑張っても、
私は“梨華ちゃん”の次にしかなれないかもしれない

それなら・・・それなら、誰か他の人の1番になった方がいいかもしれない

吉澤さんに深入りして、離れられなくなる前に
諦めた方がいいのかな・・・

傷つく前に・・・諦めた方がいいのかな・・・


でも・・・でも、私は・・・


「吉澤さんが好きなんです。どうしても・・・
諦められないんです。吉澤さんの悲しそうな目を見る度に、
なんとかしてあげたいって思うんです・・・それだけじゃ・・・ダメですか?」
571 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/05(木) 01:24
No-!!
明日も見に来ます
572 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/05(木) 01:28
リアルタイム更新に遭遇!感動!次回が楽しみ過ぎる!
573 名前:ルビ 投稿日:2012/04/05(木) 23:28
>>526 ありがとうございます。
似てますねー!まあキショさ加減は、やっぱりあの人の方が・・・

>>568 ありがとうございます。
どうでしょう・・・見てのお楽しみです。

>>571 ありがとうございます。
今日はあんまり展開がないんで、面白くないかもしれませんが、
読んでもらえると嬉しいです。

>>572 ありがとうございます。
感動してくださって、嬉しいです。
これからもじれったさと切なさは続くんですが、是非最後まで読んで下さいっ
574 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:28
 
575 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:28
 
576 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:29


*   *   *

577 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:29
ラウンジで休憩をしようと思ったら、吉澤さんがいた


誰もいないラウンジで1人椅子に座って外を眺めている



「吉澤さ・・・」



吉澤さんは泣いていた

横顔しか見えないけど、
下唇をかんで、なにかを抑えるように泣いているのが分かった・・・

私の声に気づいた吉澤さんは
すぐに涙を拭いて、私の方に振り向いた
578 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:30
「なに?」


振り向いた吉澤さんの顔には
一粒の涙も残っていなかった


「一人で何してるんですか?」
「・・・別に・・・ぼーっとしてただけだよ?」


嘘だ・・・
泣いてたじゃないですか・・・
悲しそうな顔をして・・・


「石川さんのこと・・・考えてたんですか?」
「・・・」


吉澤さんは目を丸くして、
驚いた様子で私を見ている
579 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:31
「噂程度だけど・・・聞いちゃいました。石川さんと吉澤さんのこと・・・」
「・・・あぁ・・・」


でも吉澤さんは再び外を眺めて、
なんでもないような顔をする



「話してください。私に・・・
今でも、石川さんのこと好きなんでしょ?」


「好きじゃねーよ・・・あんな奴・・・」


下唇をかみしめながら、
外を眺めている吉澤さんに違和感しか感じなかった


「じゃあなんで泣いてたんですかっっ!?私見ましたよ?
吉澤さんが泣いているところっっ!!」


完全に乱している私を見て、
吉澤さんはため息をついて話し出した
580 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:32
好きじゃねーよ・・・さんざん“好き”って言っといて、
さんざん“ひとみちゃんだけでいい”って言っといて、
手紙一枚で終わらせる奴なんか好きじゃねー・・・

前の日だって、言ってくれたんだよ
“好き”って・・・
“昨日よりも好き?”なんて言ってさ・・・

あたしは本気であいつのこと、好きだったのに・・・
あいつはあたしの知らないところで他の男と・・・

女だったら、どうにか出来るって思った
でも男だったらさ・・・

あたし何も胸張れるもんがねーもん
子供も与えられない。家庭も与えられない。
ウエディングドレスだって着させてやれねーし
バージンロードだって歩かせてあげられない
誇れるものって言ったら・・・他の誰よりもあいつのことを好きだって気持ちだけ

でも・・・それだけじゃ、どうしようもなんない
581 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:35
どう足掻いたって、あたしがその男に勝てる要素なんてない
最初から土俵にも立ててないんだよ・・・


でも、あいつはもしかするとそれを知ってて
付き合ってたのかもしれない

あたしは浮気だなんつって言ってるけど、
本当はその男からしたらあたしが浮気なのかもしれない

だってさ、あたしと一緒に住んでるって言っても、
ルームシェアだって言えんじゃん?
一緒にいたって、友達とでもなんでも言えんじゃん・・・
あたしたちが誰かに言わない限り、
友達しか見えないわけで・・・

ずりぃよ・・・紙切れ一枚で
簡単に家族になれるなんてさ・・・

きっと利用されてたんだな・・・あたし・・・
亀ちゃんもそう思ってんでしょ?
582 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:35
「そんなこと・・・」
「いいよ・・・気を遣わないで・・・」


きっと本当のことなんだからさ・・・

だから・・・もうあたしは好きじゃない・・・
もう忘れた。全部。なにもかも。


そう言って、吉澤さんはラウンジから
1人私を残して去っていった
583 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:35
 
584 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:35
 
585 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:36



そして



12月24 クリスマスイブ




586 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:39
夜、私は会社に忘れ物をしていたことに気づいて、
急いで会社に戻った



・・・唐揚げの匂いだ・・・


自分のオフィスに近づくにつれ、
どんどん唐揚げの匂いが濃くなっていく



誰かいんのかな・・・



そう思ったとき、奥の方で小さく明かりが見えた
それと同時に声が聞こえた
587 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:39
「うぅ・・・んぐっ・・・うっ・・・ん・・・」


それは確かに泣き声だった

よく見てみると、明かりが点いているのは
吉澤さんの席・・・


「うぅ・・・ぐっ・・・んっ」


泣き声はオフィス中に響き渡るようだった


いつもそっけなくて、クールで
人を寄せ付けなくて・・・


そんな人でも声を出して泣くんだ・・・


あんなにいつも無表情なのに・・・
588 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:40
私は吉澤さんの方へとゆっくり近づいた

そしたら、見えてきた

吉澤さんの前にある唐揚げ弁当が・・・


それを思いっきり口に入れて泣いている姿を見て、
凄く胸が痛くなった


どうしていいか分からない


このまま私が吉澤さんに話しかけて、
何かが解決するのだろうか・・・


一人にしてあげる方がいいんじゃないか・・・


でもそんなことを考える前に私は吉澤さんの名前を呼んでいた
589 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:41
「吉澤さんっ」
「っ・・・」


こっちを見た吉澤さんは涙を拭い切れていなかった
止めどなく流れる涙は机の上へ、ご飯の上へとこ零れ落ちていく


「見るなっ・・・」


吉澤さんはおもむろに顔を背けて、
涙を私に見せないようにした



「見ないから・・・吉澤さんの本当の気持ち・・・教えてください」



私は吉澤さんの背中に椅子を逆方向に向けて座り、
私と吉澤さんは背中合わせの状態になった
590 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:42
「・・・はぁ・・・亀ちゃんには・・・かなわねーよ・・・」

吉澤さんの声は震えていた・・・

そして吉澤さんはすべてを打ち明けてくれた


「明日、梨華ちゃんの命日なんだ」
「え!?・・・でも・・・石川さん・・・」
「あたしにとっての梨華ちゃんは
2年前の明日の朝、死んだんだ。手紙だけを置いて・・・」


クリスマスだった
クリスマスの日に彼女はいなくなった

あたしはプレゼント用意してたのにさ・・・

「ほら・・・これ」

そう言って、吉澤さんの首にある、
Rのイニシャルがついたネックレスをあたしに見せてくれた
591 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:43
亀ちゃんの言う通り、
好きだよ・・・今でも・・・マジで・・・
死ぬそうなくらいに・・・

きっと最初で最後だと思う

こんなに人を好きになったの・・・


しかも、自分がこんなに・・・梨華ちゃんのこと・・・
好きだなんて思ってなかったんだ


もちろん、自分では本気だって思ってたし、
一生一緒にいたいって思ってた

でも梨華ちゃんが離れてから、
精神状態がおかしくって・・・


誰にも言ってないけど・・・
病院から精神安定剤貰ってんの・・・
592 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:44
2年前に別れてから
鬱状態になってしまってさ・・・

梨華ちゃんで自分のバランスを保ってたんだ・・・

梨華ちゃんから愛されることで、抱き締めてもらうことで、
あたしは安心することができた


梨華ちゃんに会うまではそんなことなかったんだ

でも、自分の知らないところでストレスを感じてしまってて、
耳鳴りが酷かったり、過食しちゃったと思ったら、
拒食しちゃったり・・・

それでも、自分の精神状態はそんなに悪いとは思ってなかった

だけど・・・ぬくもりを知ってしまって・・・

そのぬくもりがいなくなってしまって・・・
593 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:46
あたしは自分を自分で支えることが
出来なくなってしまった


精神安定剤を飲むと、
泣きたくなる気持ちが少しでも治まるんだ

本当はさ、ちょっとした隙にでも涙が出てきそうになるんだけど、
その度にあたしは薬を飲んでる


でも今日みたいに泣きたいときは・・・飲まないようにしてる

自分の感情を・・・梨華ちゃんが好きだって感情を全部全部捨てたくて・・・
だけど、捨てられない・・・
思えば思うほど・・・泣けば泣くほど・・・好きになっていく自分がいる


梨華ちゃんのさ・・・あたしが最後に見た梨華ちゃんの顔が、
もっと醜かったらよかったんだ
しかめっ面して、怒ったり、泣いたりしている顔だったらよかったのに・・・
594 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:47
でも、あたしが最後に見た梨華ちゃんの顔は笑顔だった
そしてあたしが最後に聞いた梨華ちゃんの言葉は
“ひとみちゃん、好きだよ”だった


だから振り返っても振り返っても、
あたしにとって梨華ちゃんとの悪い思い出なんてなくて・・・

それまでおかしいなって思ったこともなかった

会社でも一緒で家に帰っても一緒
土日も・・・もちろん、梨華ちゃんが友達と遊びに行くときは別々だったけど、
本当に限られた日数だった
電話をしていた形跡もなかったし、
梨華ちゃん、メール嫌いだったから、メールもしてなかった


そう考えるほど、本当は違うんじゃないかって・・・
もしかしたら、あの日書かれた手紙は嘘なんじゃないかって思ってしまうんだよ・・・


・・・でもさ・・・本当なんだ・・・
595 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:49
あたしは信じられなくて、上の人たちに内緒で、
会社の個人データの中から梨華ちゃんの実家を探して、
見つけたその足で、あたしは梨華ちゃんの実家に向かった


そのとき、見ちゃったんだ


梨華ちゃんの実家から

梨華ちゃんと知らない男の人が出てきてしまうところを・・・



最初行くときはさ、『梨華ちゃんは結婚してる』
って自分に言い聞かせながら、少しでも顔を見れればくらいの程度だった

だけど、梨華ちゃん家に近づくにつれて、
もし梨華ちゃんが一人だったら、どうやって連れて帰ろうとか
どうやって今までの気持ちを伝えようとかって考えてた


でもさ・・・梨華ちゃんと他の男が2人でいる姿を見てさ、
なんつーか・・・現実を突きつけられた感じ?
596 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:50
なんか・・・喪失感で溢れて・・・
どうしようもなくなって、その場にいられなかった
そこからどう帰ったのか、全然覚えてなくて、
気づいたら、部屋の中がぐちゃぐちゃで・・・

きっと帰ってから、物に当たっちゃったんだろうけど・・・

そんなこと今までなかったから、
自分でもヤバイなって思って、病院に行った


梨華ちゃんが手紙を置いていなくなった日だって、
パジャマで・・・あ、梨華ちゃんがペアルックのパジャマがいいとか
変なこと言うから、あたしもパジャマだったんだけどさ・・・
いつもはジャージなんだけど・・・

ま・・・そんなことは関係ないか・・・

んで・・・パジャマでそのまま家を飛び出して、
朝から夜までずっと梨華ちゃんの行きそうな場所を探してた

ふとさ・・・ある店のショーウインドウに写ってる自分が目に入って、
自分が泣いていることに気づいた
597 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:51
おまけに喉も痛くなってて、声を出したら、枯れてた

それで気づいた

あたしは朝から夜まで泣きながら
梨華ちゃんの名前を大声で叫んでたんだって


こんなにもあたしは梨華ちゃんのことを愛してた
でもあたしの愛は異常だったのかもしれない・・・


梨華ちゃんに執着しすぎてるのかもしれない・・・
あたしの梨華ちゃんに対する愛は歪んでるのかもしれない

どうしても・・・どうしても思えないんだ

梨華ちゃんが幸せになってくれれば・・・って


どこかで1人でいる梨華ちゃんを見たら、
あたしは何フリ構わず、梨華ちゃんの腕をとって
どこまででも走って行っちゃうかもしれない
598 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:52
こんなあたしだから、捨てられたんだよ・・・きっと


「そんなことない・・・そんなことないですよ・・・」


私は泣いている吉澤さんの横に立った


「なんで・・・なんで亀ちゃんが泣いてるの?」
「辛いんです・・・なんでか分からないけど・・・辛いんです・・・」
「・・・亀ちゃん・・・」


私は泣きながら全身で泣いている吉澤さんを包み込んだ


「私じゃ・・・ダメですか?・・・代わりでもいいです。
私を石川さんと重ねてしまってもいいです。
・・・好きなんです・・・吉澤さんのことが・・・誰を想っていようと・・・」
599 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:53
吉澤さんは少し間を置いて、
手を私の背中に回してくれた

きっとそれが、吉澤さんにとって今できる、
YESの意味だったんだと思う


「傷つけちゃうかもしれないよ?」
「大丈夫ですっ!私、頑丈ですからっ」
「1番じゃ・・・ないかもしれないよ?」
「2番で十分ですっ!」



「・・・ありがとう――――――――」


それから私は家で寝るのが辛いと言った吉澤さんの隣に
一晩中付き添って、寝顔をじっと見ていた

付き合うことになって、私は
『吉澤さんがして欲しいように言ってください』と言った
600 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:54
石川さんの代わりになるからには、
とことん代わりになって、吉澤さんの心の隙間を埋めてあげたいと思った

でも吉澤さんが言ったお願い事はたった1つだった




ひとみちゃんって呼んで欲しい――――――――




言われた通り、私は吉澤さんのことを
ひとみちゃんと呼ぶようになった
601 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:54
 
602 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/05(木) 23:54
 
603 名前:ルビ 投稿日:2012/04/05(木) 23:56
本日は以上です。

全く展開してないです・・・すいません

明日は来れそうにないんですが、
妄想炸裂させて、展開出来るように考えてきますっ
604 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/05(木) 23:58
毎回リアルタイムで見てる自分っていったい…
って思うけどこれを読むのが日課です
妄想にいっぱい期待
605 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/06(金) 00:40
心が痛いです。結末はどうなるのかわからないけど吉澤さんに笑顔を!
606 名前:ルビ 投稿日:2012/04/07(土) 20:36
>>604 ありがとうございます。
日課と言ってくれて、とても嬉しいです!拙い文章ですが、
これからも読んでもらえると嬉しいですっ

>>605 ありがとうございます。
いつになったら、笑顔が戻るんでしょうか・・・
私も書いて、心が痛みます。。。
607 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 20:38
 
608 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 20:38
 
609 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 20:40


●   ●   ●

610 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 20:41
私とひとみちゃんの思い出の場所


私がひとみちゃんと住んでいた家の近くにある喫茶店


出不精な2人はたまに外に出ることはあったけど、
お互い好みも違うし、2人ともマイペースということもあって、
買い物はほとんど別々だった

買い物したあとに、待ち合わせをする場所がここ

早く終わった方が喫茶店に行って、
1人、相手を待つ

そんな待つ時間も私たちにとっては幸せに感じた
何を買ったのかなぁとか・・・

ひとみちゃんはまた白色か黒色のお洋服しか買ってないんだろうな
ひとみちゃんがワンピースなんて買ってたら、面白いのに

なんて考えて、1人でニヤけたりしていた
611 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 20:43
その喫茶店にひとみちゃんと別れてから
毎月1人で来るようになった

今月は絶対いかない
そう思っても、毎月同じ日・・・ひとみちゃんと別れた12月25日の
25日に喫茶店に足が向いてしまう


今日は25日・・・

今日も私は来てしまった

そしていつも定位置だった奥の席に座る


最初はひとみちゃん来ないかな
とか思ってたけど、1年くらい経ってから、
普段は抑えているひとみちゃんへの気持ちに浸る時間が
自分にとって大切な時間になった


それでも人が入ってくる音がしたら、
なんとなく入り口の方を見てしまう
612 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 20:44
あ、違う
・・・やっぱり違う・・・
ほら、違う
・・・だから言ってるじゃん違うって・・・
今度は向かない・・・・・・やっぱ違う


その繰り返し


ひとみちゃんを待ってる訳じゃない
じゃぁ何を待っているんだろうか

どうしても自分のその癖が直らない



カラン・・・




また音が鳴った


見ない見ない今度こそ見ない
613 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 20:45
私はじっと目の前にあるレモンティに視線を向ける


足音がどんどんこっちに近づいてくるのが分かる




・・・



でも我慢出来ないんだ・・・

今回も見てしまうんだ・・・



・・・っ――――――――



ひ・・・とみ・・・ちゃん



5メートル先に立ち止まって、
私を見ているひとみちゃんがいた
614 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 20:46
嫌だ・・・
会いたくない・・・
会いたくない・・・


あんなに会いたいと思っていたのに
ひとみちゃんを目の前にすると、
どうしていいか分からない


私は立ち上がって、ひとみちゃんの横を通り過ぎようとした



「っ・・・」




「なんで逃げんの?」



ひとみちゃんが私の腕を掴んでる


凄く低い声で言ったその声に
私はなぜか怖くなった
615 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 20:48
「会いたくないから・・・」
「・・・正直に言いすぎ」


ひとみちゃんは私の腕を放して、
私が座っていた席の向かい側に座った


ひとみちゃんの定位置だ・・・


私はひとみちゃんの行動をじっと見て、
帰ることもできず、元に戻った


「久しぶり・・・」
「うん、久しぶりだね」


気まずい空気が私たちを覆う


付き合っていたとき、なんともなかった沈黙が
妙に息苦しく感じる
616 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 20:50
「ご注文はいかがなさいますか?」


その沈黙を破ったのは店員さんだった


「コーヒーで」
「かしこまりました」


前と一緒・・・


私がレモンティーでひとみちゃんがコーヒー

お互い頼むものは変わらないのに、
私たちの関係はすっかり変わってしまった

ううん・・・私が変えてしまった


「元気だった?」
「うんっ・・・元気だった?」


でもひとみちゃんはいつだって堂々としてる
私だけなのかな・・・気まずいと感じてるのは・・・
罪悪感でいっぱいで、おかしくなってしまいそう
617 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 20:51
「どうだろ・・・元気じゃないかも」
「・・・そっか」


会社で何かあったの・・・?

そう聞きそうになった私は鈍感すぎるだろうか・・・
きっと私のせいなんだよね


「ごめんね・・・」
「・・・一応、悪いとは思ってるんだ」


ひとみちゃんの一言一言が胸に当たって痛くなる


「・・・旦那さんはどんな人?」


ひとみちゃんがコーヒーに口をつける

昔、ひとみちゃんのコーヒーに口をつけるときのすする音が
妙に耳に響いて、大好きだったことを思い出した

そんな小さな仕草でも私はひとみちゃんに癒されていた
618 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 20:54
「・・・いい人だよ・・・優しくて、気遣いが出来て、お料理も上手で・・・」
「ふーん・・・そういうのが梨華ちゃんのタイプなんだ」
「・・・どうだろ」
「まあ、でも梨華ちゃんにとっての1番の条件は
“男であること”だもんね?そりゃあ、あたしじゃダメだよね。
つーか最初っから言って欲しかったよ。バカみたいじゃん?あたし・・・」


違うよ・・・違う

男とか女とか・・・そんなの関係ないの
私は誰よりもあなたが好き
それは前からずっと変わらない

口から出そうになった
でもそんなこと言ったら、色々な人に迷惑をかける


「ごめん・・・」
「いいよ・・・別に。もう終わったことだし」


そう・・・終わったこと
私たちの関係はすべて過去形なの
619 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 20:55
「ひ・・・よっよしこの・・・」
「よしこ?」
「いや・・・あの・・・よっちゃんの」
「よっちゃん?」
「いや・・・よっ」
「ひとみちゃんって呼ばないんだ」


だって・・・だって・・・


「なんか・・・呼んじゃいけない気がして・・・」


なんでか分からない
私の中で“ひとみちゃん”という呼び方に
なぜか抵抗を感じた・・・
心の中では“ひとみちゃん”って呼んでるのに


「・・・そっか・・・一応その呼び方に特別なものを感じてくれてるんだ」


一応じゃないよ?
ちゃんと思ってるよ?
620 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 21:00
みんなが“よしこ”とか“よっちゃん”とか“よっすぃー”って呼んでいる中、
ひとみちゃんは誰からも“ひとみちゃん”って呼ばれていないのを知って、
なんか独占したい気分になったのを覚えてる
そのときは自分の気持ちに気づいてもいなかったから、何も考えてはいなかったけど、
付き合ってからは、“ひとみちゃん”と呼べるのが恋人の特権のように感じてた


「・・・うん」
「・・・よっすぃーでいいよ?」
「・・・分かった」


あーあ・・・変わっちゃった
ひとみちゃんからよっすぃーに格下げだ・・・
別に呼び名に昇格とかないけど・・・
だけど、私の心の中ではあなたはひとみちゃんなの・・・


「あの・・・よっすぃーの恋人はどんな人?」
「え?言ったっけ?恋人できたの・・・」
「・・・あの、もうそろそろできたかなぁと思って・・・」


やっぱりできたんだ
平然としているあなたに、何故か腹が立ってくる
私なんて結婚までしたのに
621 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 21:08
「すげーいい子だよ。超優しいし、超天然で、すげー可愛い。」
「・・・好きなの?」
「・・・うん・・・めっちゃ好きっ」
「・・・前、私を好きだった頃よりも?」


やってしまった・・・
嫉妬深い私は言葉を飲み込みきれなかった


「へ?」
「あの・・・いや、別になんでもないっ
どのくらい付き合ってるの?」
「・・・んーと、5ヶ月くらい前かな」


ってことは・・・12月くらいか
柴ちゃんの言った通りだ

私とひとみちゃんが別れた月に付き合いだしたんだ
そっか・・・


「梨華ちゃんは旦那さんと仲良くやってる?」
「うんっ」
「好き?旦那さんのこと」
「・・・うん・・すごーく好きだよ」
「・・・そっか」
622 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 21:14
・・・聞かないんだ
前、あたしを好きだった頃よりも好き?って
聞いてきたら私はなんて答えるだろう・・・


「・・・なんか愚痴とかないの?姑さんが怖いとかさ・・・
よく愚痴言ってたじゃん。今・・・愚痴言える人、周りにいる?」


そうだよね・・・
私にとって、友達はまいちゃんと美貴ちゃんと柴ちゃんだけのようなものだった
ひとみちゃんと別れて、まいちゃんと美貴ちゃんと柴ちゃんとも連絡とってないと思ってる、
ひとみちゃんは私には友達がいないと思ってる・・・

柴ちゃんとだけは連絡とってる・・・なんて言ったら、どういう反応するだろう
柴ちゃんに迷惑かかるかな?


「うーん・・・彼の同僚の奥さんとかとは結構喋るけど・・・
愚痴は言ったりしないかも・・・」
「そっか・・・じゃあ、愚痴吐きなっ!久しぶりに付き合ってやるよ」


なんでそんなに優しくするの?
あなたにとって、私はまだ悪者になりきれてないの?


「・・・いいの?話して・・・」
623 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 21:19
でもね・・・私は普段からいろんな人に愚痴を話してたから、
柴ちゃんにだけってのはきつかったの

色々ストレスが溜まって・・・
そういうことをひとみちゃんは分かってくれてる


「いいよ?・・・じゃんじゃん話しちゃって?」


よしっ


すぅ・・・




・・・――――――――



「もうっ!本当にありえないと思う!!」
「そうだね」
「はあ・・・なんか全部吐き出したら、すっきりしちゃった
レモンティーおかわりしよっ」
「すいませーんっ!レモンティー1つ」
624 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 21:24
なんか・・・笑えてくるよね


こんな状況でも
自分の性格が全面に出てしまうなんて

しかも、全部終わったら、レモンティーが欲しくなって、
それを言ったら、ひとみちゃんが頼んでくれる

全部昔のまんまだ


「なんか・・・変わんないね梨華ちゃん」
「そう?・・・変わんないよ私は・・・」


変わんないね

その言葉がなんだかとっても嬉しかった
彼の前でもお姑さんの前でも、いい子にしなくちゃって気持ちが強くて、
いい子にならなきゃっていうのがいつの間にか自然になってた

でも違う・・・
私はいい子じゃないんだよね・・・

本当は愚痴ばっかり言って、
すぐ機嫌悪くなったり、空回ったり・・・
625 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 21:25
それが私なのに・・・

ひとみちゃんに対して罪悪感しかなかった
だけど私にとって、ホッと出来る場所

美貴ちゃんやまいちゃん、柴ちゃんと同じ
友達っていうジャンルにひとみちゃんも
入っていたときがあったのを忘れていた


ほら・・・だってひとみちゃんもさっきより凄く優しそうな目をしてくれてる


恋人じゃなくて・・・
友達のままだったら、よかったのに・・・
どうしてこんな風になっちゃったんだろう


「・・・梨華ちゃんさ、携帯のメアドと番号教えてよ。
あ、赤外線出来る?あたし、先送るからさ。梨華ちゃん受信して?」




だめだ・・・
だめだ・・・
626 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 21:27
私たちの関係をうやむやにしたままだと・・・
ひとみちゃんのことを忘れられないし、
ひとみちゃんも私がいると、恋愛しにくくなってしまう


きっとひとみちゃんは何も考えずに言ってくれてる
酷いことをした私を忘れたかのように・・・


「・・・ごめん・・・それは出来ないの」
「・・・なんで?」
「あの・・・旦那さんにさ、バレたらやばいでしょ?
私の旦那さん、結構束縛激しいんだよね」


ごめんねひとみちゃん

こうして私はまたひとみちゃんから嫌われていく
毎日更新されていくんだ・・・私を嫌いになる度合いが



「・・・あのさ・・・梨華ちゃんは、あたしのことどう思ってんの?」
「え?」
627 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 21:33
優しい目をしていたひとみちゃんが
途端に厳しい顔に戻る


「前の日、“好きだよ”って言ってくれたよね?
浮気なんかしてるようには見えなかったし、
少し前にも“家庭なんて欲しくない”って言ってたじゃん。
最後、梨華ちゃんがあたしに声をかけてくれたときも、
笑顔で“ひとみちゃん、、好きだよ”って・・・」


覚えてるんだ・・・
私があなたに贈った最後の気持ちと笑顔を・・・


「分かんねーよ・・・あたしには・・・
いつどうやって、浮気してたのか・・・
なんで手紙だけ置いて、突然出て行ったのか・・・
あたしのこと・・・嫌いになっちゃったわけ?」
「それは・・・」


困ったように眉をハの字にしているひとみちゃんを見たのは
初めてなような気がする


「・・・なんならさ、嫌いなら嫌いって言ってよ・・・
そしたら、もう梨華ちゃんのことも全部忘れるし、私も・・・」
628 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 21:38





「嫌い。ひとみちゃんのことが、大嫌い――――――――」




629 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 21:41


手放してあげるよ・・・
私の手から・・・




「さようなら」




私が今までひとみちゃんに向けた眼差しが嘘だったかのように
厳しい眼差しをひとみちゃんに向けて言った


言ったあとのひとみちゃんの顔なんて見たくなかった


私はすぐ立ち上がって、逃げるように去っていった

630 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 21:41
 
631 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 21:43
「泣かない・・・もう泣かない・・・
絶対泣かないんだから・・・」


これでもう・・・全部終わってしまった


唯一のひとみちゃんとの嫌な思い出が出来てしまった


ごめんなさいひとみちゃん
ごめんなさいひとみちゃん
ごめんなさいひとみちゃん



何回言っても、ひとみちゃんには届かない

ううん・・・届いちゃいけないんだけど、
届いて欲しいと願ってしまう


こんな自分も手放さなきゃいけない
632 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 21:44
 
633 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 21:45
家に帰って、旦那さんがお風呂から出るのを待った



「ふぅ・・・」



お風呂から上がってきた旦那さんに
私は駆け寄る


「梨華・・・!?」


私は旦那さんを抱き締めた


「抱いて?私を・・・抱いて欲しいの」
「いや・・・ダメだよ・・・まだ」


違うの・・・
もういいの


「忘れさせて欲しいの・・・
ひとみちゃんのことを――――――――」


こうして私たちは結婚2年目にして
初めて夜を共にした
634 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 21:45
 
635 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 21:50



・・・――――――――



梨華ちゃんが出て行って、
何時間経つだろう


明るかったのに、
外が真っ暗になってる


喫茶店にも人が多くなって、
普通なら追い出されるかもしれない
でもあたしが追い出されないのは・・・泣いているからだろう


声を出さずにさっきまでいた梨華ちゃんと話していた、
体勢のままあたしは涙だけを流している

溢れる涙が手に零れているせいか、
手が湿っていて冷たい
636 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 21:51



○   ○   ○


です。すいません・・・
637 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 21:52
なんであんなこと言ったんだろう



最初、外から梨華ちゃんが見えたとき、
足が自然とここの入り口に向かっていた


目の前にあるレモンティーであろうカップに視線をおとし、
何かを考えているようだった


梨華ちゃんがこっちを見たら、あたしはもう逃げることは出来ない

梨華ちゃんに会いたい
梨華ちゃんと話したい

でもテーブルに置いている手の薬指に光る物が見えて、
無性に帰りたくなった


だけど、そんなあたしを引き止めるかのように梨華ちゃんの目があたしを捉えた


捉えた瞬間、梨華ちゃんはそそくさと鞄を持って、
あたしの横を通り過ぎようとした
638 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 22:02
『なんで逃げんの?』


いつの間にかあたしの手は梨華ちゃんの腕を掴んでいた

もっと優しく引き止める言い方があったはずなのに・・・

それからあたしは、梨華ちゃんを責めるかのように
皮肉なことを言って・・・でも家から遠いはずのこの喫茶店に来て、
昔の定位置だった席に座っている梨華ちゃんに少し期待をして、
梨華ちゃんの気持ちを確かめるようなことも言った


まだ一緒にいたいって気持ちがあって、
振った話に梨華ちゃんが乗ってくれて、
昔のように愚痴を言う梨華ちゃんが全然変わらなくて、
もしかしたら、すべて嘘だったのかもしれない
本当はまだあたしのことを想ってくれてるのかもしれない

恋人には戻れないだろうけど、
友達にはなれるのかもしれないって思って、
勢いで携帯番号なんて聞いてしまった・・・

困るって分かってるはずなのに・・・
だけどさ・・・バレるって
あたし女なんだから、女の携帯番号があるなんて普通のことでしょ?
639 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 22:09
本当のことを知りたくて、言ってしまった言葉たち
今は全部全部後悔してしまってる


言わなきゃよかった・・・


言わなかったら、梨華ちゃんの口から
“嫌い”って言葉を聞かなくて済んだのに・・・



“ひとみちゃんのことが大嫌い”って言われた瞬間・・・


あたしの中の全てが変わった


梨華ちゃんのことを思い出しても、
笑顔ばかりで“好きだよ”っていう甘い言葉だらけだったのに・・・
640 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 22:15
新しく作ってしまった・・・
厳しい顔をして、吐き捨てるように
“ひとみちゃんのことが大嫌い”“さようなら”
っていう悲しい言葉を残して出て行った梨華ちゃん


笑顔の梨華ちゃんを思い出したくても、
さっきの厳しい顔の梨華ちゃんと
梨華ちゃんが発した“ひとみちゃんのことが大嫌い”
“さようなら”が耳に残って消えない



せめて・・・せめていい思い出だけがあたしに残っていて欲しかったのに・・・



さっき言われた言葉だけで、
あたしの梨華ちゃんに関する思い出は全部黒色に変わってしまった


「せめて、“ひとみちゃん”じゃなくて、
“よっすぃー”だったら、よかったのに・・・」
641 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 22:26
プルルルルルル・・・



電話の音で、初めてあたしは体を動かして、
目線をポケットの中へと向ける

電話は亀ちゃんからだった

出たくない
出たくない

だけど・・・


『もしもし、今何してる?』
「・・・喫茶店の中でコーヒー飲んでる・・・どうしたの?」
『んー・・・声が聞きたくなって』


甘い言葉なのに甘く聞こえない
642 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 22:27
「亀ちゃん、今どこいんの?」
『ちょっと会社に用があって、会社にいるっ
でも、もうそろそろ終わるよっ』
「じゃあさ・・・」


終わらせてやるよ・・・
忘れてやるよ


梨華ちゃんの思い出全部・・・


いい思い出も・・・嫌な思い出も・・・


「今から会社の近くのホテル行かない?」
『え・・・?』
「ダメ?」
『いや・・・いいけど・・・』
「んじゃ、先行ってるね」
643 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 22:28
 
644 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 22:28
 
645 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 22:29





・・・――――――――



・・・




646 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 22:30
やっぱり・・・忘れられなかった




どうしても・・・忘れられない




目の前にいるのは亀ちゃんなのに、
梨華ちゃんのことばっかり思い出してしまう


“ひとみちゃんのことが大嫌い”
“さようなら”


2人で愛を確かめているはずなのに、
あたしは悲しくて、寂しくて
2人で体を暖めているはずなのに、
あたしはぬくもりを求めていて
647 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 22:32
大体・・・昔、梨華ちゃんも住んでいたあたしの家じゃなくて
ホテルでしようって言った時点で、
あたしは梨華ちゃんを忘れる気がなかったんだ・・・


「ひとみちゃん・・・愛してる」


腕の中で上目遣いをして言ってくる亀ちゃんに無性に腹が立った


「・・・って呼ぶな・・・」
「え?なんて?」
「ひとみちゃんって呼ぶなっつってんだよっっ」


あたしは裸になっている自分が情けなく感じて、
散らばっている洋服を集めて乱暴に着た


「何かあったの?」
「なんもねーよ・・・」
「石川さんの・・・」
「なんもねーっつってんだろ!?」


一緒にいるのが嫌になって、
荷物を持って、部屋のドアを開けようとした
648 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 22:33
「ひとみちゃんっっ」


亀ちゃんがシーツを体に巻き付けて、
走ってあたしのところに駆け寄ってきた

そうだ・・・こいつ梨華ちゃんに似てるんだった
ウザさ加減が素晴らしく似てるよ


「明日のレストランでの食事・・・覚えてる?」
「うん」
「やめる・・・?」
「・・・金もったいねーよ。心配しなくても、ちゃんと行くから」


いつになったら、あたしは梨華ちゃんを忘れるんだろう
いつになったら、薬を飲まなくて済むようになるんだろう

その日が来るときはもしかしたら死ぬときか・・・



梨華ちゃんがあたしのところに戻ってくるときかな・・・



ま、ぜってーありえないけど
649 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 22:33
 
650 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/07(土) 22:33
 
651 名前:ルビ 投稿日:2012/04/07(土) 22:34
本日は以上です。
652 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/07(土) 22:36
またまたリアルタイムで参上しました
みんな辛いよー(>_<)
みんなに幸せになってほしい
653 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/07(土) 23:40
胸がキューって苦しいです(;_;)
654 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/08(日) 01:58
つらいのう今はひたすら耐え忍ぶしかないのか
655 名前:ルビ 投稿日:2012/04/08(日) 23:16
>>652 ありがとうございます。
いつも読んで下さって、ありがとうございます!
本当に辛いです。これから、どうなるんでしょうか・・・

>>653 ありがとうございます。
これから少し展開がありかも!?なので、期待しててくださいっ

>>654 ありがとうございます。
はい・・・ハッピーエンドかどうかは言えませんが、
最後まで読んで下さると嬉しいです。
656 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:17
 
657 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:17
 
658 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:18


*   *   *

659 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:19
私とひとみちゃんが付き合って、
約1年が経とうとしていた

2人で映画にも行ったし、買い物も行った

ひとみちゃんはとても優しくて、
いつも私を気遣ってくれる

『好き?』って聞くと
必ず笑顔で『好きだよ』って言ってくれる

私は日に日にひとみちゃんのことが好きになっていく

最近は石川さんのことを言わなくなった
って言っても、前もひとみちゃんから言うことはなかったんだけど、
悲しい素振りや泣いてる姿を見なくなった気がする


私はひとみちゃんの家にも何回も遊びに行っているし、
突然行っても、笑顔で迎えてくれる
660 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:20



“石川さんの代わりでもいい”



そう泣きつくように言った自分はもういなかった
ひとみちゃんは絵里を好きになってくれてる
私はそう思ってる


「夜ご飯、8時でもいい?」
「いいよ」


今日もひとみちゃん家に来ている


ご飯はいつも私の役目で、
ひとみちゃんがいつも美味しそうに食べてくれることが
嬉しくて、最初不慣れだった手つきも、今ではかなり上達している。
661 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:21
  
662 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:22
ご飯を食べたあと、
ひとみちゃん、私の順でお風呂に入る

そう・・・私は今日ひとみちゃんの家に泊まる
でも今日だけじゃない
よく泊まっている


私がお風呂から上がると、
目の前に肩にタオルを置いて、
脇に手を当てて水を飲んでいる、
ひとみちゃんの背中があった


「うわっ」


私はその背中にとびついた


「ちょっと・・・水こぼれるじゃん」
「ごめんごめん」


私はゆっくりとひとみちゃんの体を私の方に向かせ、
ひとみちゃんの持っている水をテーブルの上に置く
663 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:23
「亀ちゃん?」


私は腕をひとみちゃんの首に巻き付けて、
ゆっくりとひとみちゃんの唇に自分の唇をくっつけた

それはどんどん激しいものになっていく


「ひ・・とみ・・・ちゃん・・・して?」
「・・ん・・・できない・・・よ」


私はひとみちゃんの首から腕を離す


「なんで?」


ひとみちゃんは・・・この家でキス以上のことはしてくれない


「なんでって・・・別になんも理由なんてないよ」


そう言って、ソファに座ってテレビをつける
664 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:24
いつも理由を言ってくれない
“どうして”って聞くと、“別に”って返ってくる

だけど、今日は私は引くつもりはない


石川さんのこと・・・
まだ忘れてないんでしょ?


私はひとみちゃんの横に座って、
テレビの電源を消した


「ひとみちゃんっ」
「なんだよ・・・」
「絵里、なんでって聞いてるのっ・・・」
「だから・・・別に理由とか・・・ないから」


ひとみちゃんは私と目を合わそうとしてくれない


「忘れてないんでしょ?石川さんのこと・・・」
「・・・は?・・・もう忘れてるよ」
665 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:25
嘘だ・・・
だって私と目を合わせてくれないじゃん
“好きだよ”って言うときも、
キスをするときも私の目を見てくれない


「じゃあ、絵里を1番に好きになってよ!
代わりじゃなくて、絵里のことを好きになって欲しいのっ
石川さんの代わりじゃ嫌なの!!」


思ってない言葉がたくさん出てくる・・・
ううん・・・本当は思っていたのかも・・・

自分は石川さんの代わりだと分かっていても、
自分でお願いしたとしても、
本当は1番でありたい。ひとみちゃんの1番になりたい。


「・・・1番だよっ亀ちゃんが」


投げ捨てたように言った言葉が
もの凄く私の胸に痛く響いてしまった
666 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:26
「嘘だよ!!だって・・・ネックレス・・・まだ持ってるじゃん!!
石川さんへのプレゼントって言ってたやつっ
もう別れて3年になるんだよ!?いつまで忘れないつもりなの!?」


私と付き合うようになってから、
ひとみちゃんは首にしていたネックレスをとった
でもそれは捨てられたわけじゃなくて、
棚の上に綺麗に包装されてある箱の中に入ってる



「・・・石川さんのこと本当に忘れたなら、捨てられるはずでしょ!?」





・・・っ――――――――



そう言った私をひとみちゃんは思いっきり睨み付け、
凄い勢いでその箱からネックレスを取り出し、
ベランダから雨が降っている外へと投げてしまった


「ひとみちゃん!!?」
667 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:28
ドタドタと戻ってくるひとみちゃんと
入れ違いに私はベランダから下を見た

真っ暗で何も見えない
しかも雨だから、余計視界が遮られる


「なんで捨てたのっ!?」


私は再びソファに座って、
テレビをつけたひとみちゃんの前に立った


「亀ちゃんが捨てろっつったじゃんっ」
「言ったけど・・・そんな簡単に捨てられるものだったの!?」


だって、大事そうにいつも見つめてたじゃん・・・
ソファに座るとき、お風呂から上がるとき、
いつだってひとみちゃんは一瞬だけその箱に目をやっていた
668 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:29


「石川さんの思い出のものなんでしょ!?
私が言っただけで、簡単に捨てられるものじゃないはずでしょ!?
いつも適当な絵里だけど、ちゃんとひとみちゃんのことは見てるの!
大事なんでしょ?あのネックレス!石川さんのこと、今でも好きなんでしょ!?
どうやっても忘れられないんでしょ!?自分の想い・・・もっと大切に・・・」



・・・っ――――――――



バタンッ




ひとみちゃんは走って外に出て行ってしまった

669 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:30
分かっていたはずだった
ひとみちゃんは私のこと、好きなんかじゃない


優しくしてくれるのも、気遣ってくれるのも、
私のことを好きになれない罪悪感から


悲しい素振りや泣くことをしなくなったんじゃない
私の前でしないようにしているだけ
それも分かっていたはずだった


でもずっと分からない振りをし続けていた

きっと、“梨華ちゃんに似ている子”
それだけで止まっておけばよかったんだ


私は傘を持って、
下に降りていった
670 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:30
 
671 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:31
・・・ひとみちゃん



そこには服が濡れようが、体が濡れようが、そんなのおかまいなしに、
体を地面につけるようにネックレスを探しているひとみちゃんの姿があった




「・・・ない・・・ない・・・ない・・・」




雨で顔が濡れていて、ひとみちゃんが泣いているかどうかも分からなかった


・・・ん?――――――――


なに??



「あっ」

672 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:31
 
673 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:31
 
674 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:33




そして


12月24日 クリスマスイブ



675 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:33
今日はひとみちゃんと付き合って、
丸1年になる



そのお祝いにひとみちゃんに外で食事をしようと言った



だけど・・・約束の時間から1時間経っても、
ひとみちゃんは来ない
電話をかけてもひとみちゃんは出ない



「やっぱり・・・」



私は会社へと急いだ
676 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:34
 
677 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:35
1年前と同じ・・・


近づいていくと、唐揚げの匂いが強くなっていく


そして・・・


「んっ・・・うぅ・・・ぐっ」


泣き声が聞こえる
それは紛れもなくひとみちゃんだった

ひとみちゃんは唐揚げ弁当の横で、
テーブルに顔を伏せて、声を出して泣いている


「ひとみちゃん・・・」


やっぱり、忘れられないんだね

明日はひとみちゃんにとって3回目の石川さんの命日


ひとみちゃんからの反応はなかった
678 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:36




「そのままでいい・・・聞いて?私、ひとみちゃんのことが凄く好き。
石川さんを忘れられないひとみちゃんを大きな心で包んであげようって思った。
だけど・・・やっぱり無理だよ・・・私がひとみちゃんの1番になれないことも、
ひとみちゃんが違う人を思って、苦しんでいる姿を見るのも・・・
何回か、石川さんに会って怒ろうって思った。でも・・・それは違うって思ったの。
もし2人が運命の2人であるなら、きっとまた一緒になれるよ・・・

だから、私は無理矢理・・・どうこうしようって思わない。
ひとみちゃんがその運命を望んでいるなら、私は邪魔なだけだから、
別れようって思った。だから・・・今日かけてたの・・・ひとみちゃんがどっちを取るか・・・
でもやっぱりひとみちゃんは、これから先、一緒になれる可能性が低くても、
石川さんをとった。だから・・・私はひとみちゃんとは別れるね・・・
ひとみちゃんありがとう・・・明日からは先輩後輩として、仲良くしてください。


あと・・・これ――――――――」



679 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:38
私は自分のコートのポケットにあるものを取り出して、
伏せているひとみちゃんの横に置いた



「・・・ごめんね。ちょっとお仕置きしたくなっちゃったの・・・
あまりにも絵里の方に振り向いてくれなかったから・・・
ネックレス・・・ちゃんと・・・石川さんに渡せるといいですね」



あの日、私はネックレスを見つけてしまった
だけど、ひとみちゃんにどう渡していいか分からなかった


最後の最後の私の意地悪・・・許してください



こうして、私とひとみちゃんの恋人生活は
1年間で終わってしまった
680 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:38


4ヶ月後

681 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:39


●   ●   ●

682 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:40
今日は彼と外食する約束をしている

まだほんのり冷たいこの季節
どういう服を着ていこうか・・・

上着は少し薄めの方がいいかな



・・・あ・・・



端の方にかけてあるピンク色のコートに目がいった


そのコートは初めてひとみちゃんがプレゼントしてくれたもので、
私に内緒だったから、1人で買ってくるのに
『すげー恥ずかしかった』って言ってた



このコートを見ると、色々なことを思い出す
だけど・・・一番に思い出すのはやっぱりこのコートを最後に着た日・・・
3年前のクリスマスの日
683 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:41
自分の荷物を持って、このコートを羽織って、
ひとみちゃんにさよならした


1年前も2年前もこのコートを見るのが辛かった

だけど今は・・・少し違う感覚がある


いい感覚ではない
だけど悪い感覚でもない


これって・・・忘れたってことなのかな



私はピンクのコートを取り出して、羽織ってみた



この感触がどの上着よりもぴったりくるのがなんだかおかしかった
684 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:42
だって・・・冬は毎日このコートだったもん
付き合ってから1回目の冬が始まる頃、このコートを買ってくれて、
まだそんなに寒くないのに、私は着ちゃって、ひとみちゃんが呆れてた



「・・・懐かしい・・・」



そして私はなんとなく・・・本当になんとなく
コートのポケットに手を入れた



ん・・・何か入ってる・・・紙??



ポケットに何か紙のような感触がして、
取り出してみた
685 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:43
そこには、


“梨華ちゃんへ”


そう書かれたピンク色の封筒があった


初めて見た、知らない手紙


この字は明らかにひとみちゃんのものだった


私は恐る恐る開けてみた



3枚の紙にびっしりと書かれてある


686 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:43

・・・っ



私はなんとなく見たくなくて、
手紙から目を反らした


これを見たら、また色々思い出してしまうかもしれない
また辛い思いをするかもしれない


だけど・・・だけど・・・


私が知らない過去のひとみちゃんのこと
それを知りたくなって、ゆっくりと目を手紙へとやった
687 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:45

石川梨華さんへ



メリークリスマス!!

これを見ているときはいつなんだろう
あんまり梨華ちゃんがポケットに
手を入れてるところ見ないからなあ
メリークリスマスで始まっておきながら、
矛盾しまくってるけど、直接渡すのが恥ずかしくてさ。
だからと言って、分かりやすいところに置くのも、
なんか恥ずかしくて・・・だから一番梨華ちゃんの身近で、
意外と気づきにくいところに入れました。
えっと、あたしがこの手紙を書こうと思った理由は、
いつも梨華ちゃんに伝えてないことがたくさんあるから。
梨華ちゃんはいつもあたしに伝えてくれてるけど、
あたしは梨華ちゃんの3分の1も言えてない。
だから、今日はこうして手紙に書きます。
そうだっ!今のあたしの状況を書くね。
今、あたしは梨華ちゃんを待っています。
さっき買い物に行って、帰ってきたら梨華ちゃんいなくて、
連絡したら、すぐ戻るって言ってたから、
この時間を使って、手紙を書いてます。
ってそんなことはどうでもいいよね。
それで、本題!
あたしが今まで伝えてこれなかったこと・・・
“ごめんなさい”と“ありがとう”を言いたいと思います。
688 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:47


まずは梨華ちゃんごめんなさい。
いつも甘えてばっかりでごめんなさい。
普段はクールとかしっかりしてるとか言われるけど、
梨華ちゃんと一緒にいると、ついつい甘えてしまうんだよね。
でもあたしが甘えると、梨華ちゃんが全身で包んでくれるから
それが嬉しくて、やっぱり甘えたくなるんだ。
だからこれからも甘えちゃいます。
あと、好きすぎてごめんなさい。
あ!今笑ったでしょ!?梨華ちゃんのマネしてみたんだよ?
寒いって思ったでしょ?でも本当に普段の梨華ちゃんは寒い!
ってそんなんじゃなくて・・・あたし、こんなに愛しているのは
梨華ちゃんが最初で最後だと思う。人に対して無関心だった自分が
唯一好きになったのが梨華ちゃん。
喜怒哀楽が本当に激しくて、顔を見ただけですぐ分かってしまう。
でも口を尖らせてる梨華ちゃんも、泣いている梨華ちゃんも
笑っている梨華ちゃんもどんな梨華ちゃんもあたしは大好きです。

689 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:49


次は梨華ちゃんにありがとう。
いつも空回ってくれてありがとう。
どんなときでも全力なせいか、よく空回っちゃうけど、
そんな梨華ちゃんにあたしは癒されてます。
あたしがその姿をからかうと、口を尖らせて、
つっかかってくるところも可愛いです。
そして・・・あたしを好きになってくれてありがとう。
今まで、みんなあたしのことを表面でしか見てくれなかった。
“吉澤さんはクールそう”“吉澤さんは怖そう”
そんな先入観があたしをずっと苦しめてた。
だけど、梨華ちゃんはそんな先入観もなく、
土足であたしの心に入ってきた。すぐ機嫌悪くなるし、
ちょっとしたことで怒るけど、
そんな梨華ちゃんにあたしは惹かれました。
そしてそんな梨華ちゃんがあたしのことを好きって言ってくれて、
本当に本当に幸せです。梨華ちゃんの親にも感謝してます。
いつか・・・ちゃんと言いたいと思っています。
“梨華ちゃんを産んでくれてありがとう”って・・・

690 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:51
でも一つだけ、梨華ちゃんの嫌いなところがあります。
それは“思い込んじゃうところ”
勝手にあたしには梨華ちゃんが必要じゃないって
思い込んでる。あたしより梨華ちゃんの方が愛情があるって
思い込んでる。あたしが強いって思い込んでる。
あたしは梨華ちゃんが思っているより何倍も弱いです。
梨華ちゃんの帰る日が遅いと凄く心配するし、
誰かあたしの知らない人と飲み会しに行くって聞いたら、
嫉妬してしまう。だけど、あたしは恥ずかしくて言えなかった。
だから勘違いしてるんだよね?これからはもっと言おうと思います。
あたしには梨華ちゃんが必要です。他に誰もいりません。
きっとあたしにとって梨華ちゃんが運命の人なんだと思う。
だからきっと来世でも会える。もし、今世で何かあったら、
絶対来世で一緒になろう。来世で何かあったら、
その次またあたしが梨華ちゃんを探しに行きます。
うわー・・・自分で書いてて鳥肌がたっちゃった・・・
だけど、梨華ちゃんがくれた愛情はこんなもんじゃないから・・・
これからはもっと梨華ちゃんを大事にします。
いつも迷惑かけてごめんね?

梨華ちゃん、愛してます。

PS:クリスマスプレゼント気に入ってくれた?
あたしが梨華ちゃんのイニシャル“R”で
梨華ちゃんがあたしのイニシャル“H”のネックレス
これね、あたしが自分で作ったんだ。
正直ね、すげー金かかった・・・
でも、超気持ちこもってっから、大事にしてね。


12月24日     吉澤ひとみ
691 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:53





――――――――・・・






その手紙は私がひとみちゃんの元から
去った前の日のものだった

692 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:55

「ひとみ・・・ちゃん・・・
ごめんね・・・ごめ・・・ん・・・ね・・・
ひとみちゃん・・・ひとみちゃん・・・」




私は床に崩れるようにしゃがみ込んで、
手紙を胸に強く当てて、声が掠れるくらい泣き叫んだ




私は今まで何を見てきたんだろう
ひとみちゃんの優しいところ?頼りがいがあるところ?

ひとみちゃんはあたしの悪いところも全部見てくれてたのに、
私はひとみちゃんの良いところしか見ようとしていなかった

繊細でナイーブなところとか、傷つきやすいところとか・・・
そういうところ、分かっていたはずなのに、
私が見ているところはそういうところじゃなかった
693 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:55
 
694 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:56
「梨華?」


どのくらい泣き続けていたか分からない


旦那さんの声で外が暗くなっていることに気がついた


約束・・・してたんだった
破ってしまった・・・


「来ないから、心配したよ・・・どうしたの?」
「・・・ひっ・・・とみっ・・・ちゃんの・・・手紙が・・・
コー・・・トのっ・・・ポケット・・・に・・・」


旦那さんは嗚咽しているせいで、
何言っているか聞きづらいのに、
真剣に耳を傾けてくれた

私の言ったことを理解してくれたのか、
旦那さんは私が持っている手紙を優しくとって読み出した
695 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:57




・・・――――――――



「梨華・・・まだ忘れられない?吉澤さんのこと」
「うぅ・・・んっ・・・うっ・・」



返事をする代わりに私は声を出して泣く





「もう・・・いいよ――――――――」




696 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/08(日) 23:58
へ・・・?



泣きすぎて、酸素が少なくなっているせいか、
言っていることが理解できない




「離婚・・・しよう?」
「・・・どういうことっ!?」
「俺と離婚して、梨華は吉澤さんのところに戻りなさいってこと」
「でも・・・そんなことしたら・・・」



だめだよ・・・
パパとママから絶対怒られる



「梨華・・・梨華の人生なんだ・・・梨華がしたいようにすればいい。
梨華は吉澤さんを必要としてる。吉澤さんも梨華を必要としてる。
ってことは・・・簡単だろ?2人一緒にいることが正解なんだよ・・・」
697 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/09(月) 00:00
「でも・・・」
「最初は俺がどんな梨華でも守っていくって思ってた。
だけど、俺には無理だった・・・
どこに行っても梨華は違うことを考えているみたいだった。
梨華がいるべき場所はここじゃない・・・きっと、運命なんだよ。
吉澤さんが梨華が去っていく前にコートのポケットに手紙を入れるなんて・・・
運命の2人じゃない限り、そんなことにならない。だから、戻りな?」


旦那さんは優しく私に言ってくれた


本当に・・・運命なの・・・?


私、ひとみちゃんのところに・・・戻ってもいいの?


“今世で何かあったら、来世で一緒になろう?”


ひとみちゃんはそれでいいの?

今世は一緒じゃなくてもいいの?


私は今世も来世も次も次もずっと一緒にいたいよ・・・
698 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/09(月) 00:02
「・・・ありが・・とう」




私は離婚届にサインをして、印鑑も押した

でも、それを本当に出すのは、
きちんと私がひとみちゃんのところに戻れたときだって・・・

ひとみちゃんのところにきちんと戻れるときまで
私のパパとママには内緒にしておくって言ってくれた

もし、ひとみちゃんのところに戻れなかったら、
また自分のところに帰っておいで

そう言われた


だけど、私はきっと帰らないと思う


そこまで甘えていられない


自分の・・・自分自身の気持ちを・・・ひとみちゃんにぶつけよう
699 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/09(月) 00:03
旦那さんは私に最後のお願いをした



“今晩、俺の隣に居て欲しい。
そして俺が起きる前に出て行って欲しい”



私はそのお願いをもちろん聞くことにした



この3年間、本当にありがとうございました

私のせいで、3年間を無駄にさせちゃってごめんなさい



明け方、私は眠っている彼に感謝の気持ちと謝罪の気持ちを書いた、
手紙を置いて、3年間住んでいた家を出て行き、ひとみちゃんの元へと向かった
700 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/09(月) 00:03
 
701 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/09(月) 00:03
 
702 名前:ルビ 投稿日:2012/04/09(月) 00:03
本日は以上です。
703 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/09(月) 00:06
毎日リアルタイムで読めるなんて運命ですw
今後の2人どうなるのでしょうか…
704 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/09(月) 00:44
泣いちったよもう最初はいしよしに幸あれと思ってたけど今はいしよしのまわりにも幸あれと思うよ
705 名前:ルビ 投稿日:2012/04/09(月) 23:48
>>703 ありがとうございます。
まだまだ終わりそうにありません・・・本当にどうなるんでしょうか・・・

>>704 ありがとうございます。
亀ちゃんや旦那さんが、無念でたまりません・・・
これからこの2人もどうなっていくのか・・・特に亀ちゃん><
706 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/09(月) 23:48
 
707 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/09(月) 23:49
 
708 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/09(月) 23:49


●   ●   ●

709 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/09(月) 23:50
外はまだ薄暗くて人通りもなく、
とても静かだった


タクシーを途中で降りて、
自分の足でひとみちゃんの家まで
周りの景色を眺めながら歩いてく


今年は例年に比べて、気温が低い上に
明け方ということもあって、
コートを羽織っただけでは体を暖められない
顔に当たる風が冷たくて、痛かった

目の前には桜並木が続いている
まるで私をお出迎えしてくれているかのようだ


一歩一歩歩くにつれ、
確実にひとみちゃんの家に近づいて行っている


私の目から1粒だけ涙が流れた
710 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/09(月) 23:51
でも悲しいからじゃない


いろんな爽快感が私の中に溢れていた


彼とお別れしたのに


パパとママを裏切っちゃったのに


私の気持ちはとても穏やかだった


それはひとみちゃんに会えるからだけじゃない


美貴ちゃんやまいちゃんにも気兼ねなく会うことが出来る


私はもう悪者になる必要がない
711 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/09(月) 23:51
自分が感じている爽快感があまりにも大きくて、
自分が背負っていたものがどれだけ大きかったか分かった



もし美貴ちゃんやまいちゃん、ひとみちゃんに
道端で会ったら、どういう風にすればいいんだろう


そんな気持ちでいつも外に出ていた

だからだと思う。


彼が私は“どこに行っても、何かを考えている”ように見えたのは・・・



もう自分の気持ちを隠すこともない


一直線にひとみちゃんやみんなの元に行ける
712 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/09(月) 23:51
 
713 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/09(月) 23:52
前、私とひとみちゃんが住んでいた家・・・
今、ひとみちゃんだけが住んでいる家・・・


目の前のチャイムを鳴らすと、
ひとみちゃんに会える


だけど、私の手は一向にチャイムへと伸ばそうとしない

ここに辿り着いて30分が経とうとしていた

だんだん外も明るくなり始めている


このドアの前に立った瞬間、思い出してしまった


ひとみちゃんに恋人がいること・・・


柴ちゃんから“よっすぃーに恋人ができた”
そう言われて、私はもうこれからは私に何も話さなくて良いよ
そう言った。
714 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/09(月) 23:53
ひとみちゃんがやっと恋をした
これで私はひとみちゃんの中から消える
だから私もひとみちゃんのことを消さなきゃ


そう思ったから??


ううん・・・

それはただの建前


本当は聞きたくなかった

仲良くしてたとかいい感じだとか・・・

そんな友達同士でお馴染みの会話の中の対象が
ひとみちゃんってことが凄く辛く感じると思ったから


だから、あれからひとみちゃんの話を柴ちゃんからは聞いていない
715 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/09(月) 23:54
それに・・・よく考えれば、
私はひとみちゃんに“嫌い”って言ってしまった


わざと傷つけるようなことも言った


今更、何を言っても遅いかもしれない


自分の中で今までのことを整理すればするほど、
自信がなくなっていった


ここまで来たのに・・・


私は考えすぎて、頭が痛くなって、
壁によっかかって、地面にしゃがみ込んだ



「くしゅんっ」
716 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/09(月) 23:55
あ゙ー・・・


風邪をひいてしまった



何をやってるんだ私は・・・


ひとみちゃんに会えると思ってきたのに、
チャイムを鳴らす勇気もなくて、ただ冷たい風に当たって、
風邪をひいてしまった。頭も痛いし、喉も痛い
鼻も詰まってるし、くしゃみもとまらない。



最悪だ・・・




「んっ・・・くしゅんっ!」



静かなマンションに私のくしゃみが響き渡る
717 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/09(月) 23:56
近所迷惑になる・・・


それでも全然止まらないよ・・・



「くしゅんっ!・・・はぁ・・・くしゅんっ」



もう無理・・・


ちょっと横になろ・・・


体が重くて、だるくて、
荷物からタオルケットを出して、
体にぐるぐる巻いて、鞄を枕にして
地面に横になった

あぁ・・・汚いよ・・・


でも仕方がない・・・
718 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/09(月) 23:56
 
719 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/09(月) 23:57
バタンッ



・・・――――――――



「・・・かちゃんっ・・・りかちゃんっ・・・」



「梨華ちゃんっ・・・」



私を呼ぶ声がする


ゆっくりと目だけを声のする方に向けた



「ひ・・・よっすぃー・・・」
720 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/09(月) 23:57
 
721 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/09(月) 23:57


○   ○   ○

722 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/09(月) 23:58
「梨華ちゃんっ・・・梨華ちゃん!」



朝のマラソンに行こうと思ってドアを開けたら
目の前にさなぎのようにタオルケットに丸まっている姿があった


なんだろうと思って近寄ってみたら、
顔を真っ赤にして、眠っている梨華ちゃんだった


梨華ちゃんは風邪をひいているみたいだった



「梨華ちゃんっ・・・」
「・・・よっすぃー・・・」



目だけしかこっちを向けないのは、
きっと頭が痛くて、重いからだろう
723 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/09(月) 23:59
なんでこんなところにいるの?
なんでこんな荷物持ってるの?
なんでチャイムも鳴らさないで、ここで寝ているの?


聞きたいことはいくつもあった


だけど、梨華ちゃんのこの姿を見たら
どうしても聞くことは出来なかった


あたしは梨華ちゃんの体を起き上がらせて、
体操座りをさせた

そのときに見えてしまった

梨華ちゃんが着ているコート・・・
ピンク色のコート


それはあたしが初めて梨華ちゃんにプレゼントしたものだった
724 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/09(月) 23:59
あたしは梨華ちゃんの前に膝をついて顔を覗く


頭を膝の上にのせ、タオルケットを唇の前で
しっかりと両手で掴んでいる姿がとても可愛かった


その手の薬指には・・・指輪がなかった


梨華ちゃん・・・梨華ちゃんはどうしてここにいるの?


もしかして・・・――――――――


梨華ちゃんはうつろな顔で私を見ている


あたしはそっと梨華ちゃんのおでこに手をあてた


梨華ちゃんはあたしの冷たい手が気持ちいいのか、
目を瞑った
725 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 00:00
弱り切っている彼女を見て、
唇に触れたいと思ったあたしは凄く不謹慎だ



「・・・とにかく・・・家、入る?」
「・・・いいの?」



あたしは大きく頷いた


理解不能なことだらけだけど、
このまま梨華ちゃんを放っておくことは出来なかった

あたしは左手で梨華ちゃんの腕をもって、
右手で梨華ちゃんの荷物を持った
ドアを開けるのも一苦労だ



中に入ると、梨華ちゃんをあたしのベッドにゆっくりと寝かせた
726 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 00:01



「あったかい」



小さく微笑んで、そう呟いた


本当は梨華ちゃんの部屋だったところには、
まだちゃんと梨華ちゃんのベッドがあった

だけど・・・なんとなく知られたくなかった



・・・――――――――



ベッドに入ると、梨華ちゃんは吸い込まれるようにして眠ってしまった
727 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 00:01
 
728 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 00:02
「ん・・・・ひ・・・よっすぃー?」
「梨華ちゃん、起きた?」



3時間くらいして、梨華ちゃんは起きた



「・・・よっすぃー、ずっといてくれたの?」



寝起きの梨華ちゃんの声はとても甘かった

顔色は少しよくなってるみたい


「うん・・・会社、休んじゃった」
「そっか・・・ごめんね?」
「ううん。なんか食べる?」
「うんっ」


あたしは急いでお粥を作った
729 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 00:03
手紙で浮気をしていたことを知らされ、
手紙だけで別れることになって、面と向かって嫌いと言われた


ここまでされといても、あたしはなんで梨華ちゃんに優しくしてしまうのか
そんなの決まってるよ・・・あたしは梨華ちゃんが好き
それ以外理由なんてない



このお粥作るの、久しぶりだ


梨華ちゃんはよく風邪をひいてて、
その度、あたしは梨華ちゃんの看病をしていた

いつの間にか、梨華ちゃんはリビングの方に来ていた

コートは脱いだみたいで、、
タオルケットだけを羽織っていた


梨華ちゃんの方に振り向くと、
ソファでじっとあたしのことを見ている、
梨華ちゃんは途端に笑顔になる
730 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 00:03
「はい」



あたしは小さなその口に
お粥を少し入れる


「おいしい・・・」
「よかった」



梨華ちゃんが口をあけるごとに
あたしはお粥を口に運んでいく

もぐもぐと食べる姿が懐かしい



「ね、梨華ちゃん・・・」
「なぁに?」
「なんで・・・ここに来たの・・・?」


あたしがそういうと、曇ったような顔をして、
黙り込んでしまった
731 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 00:05
「旦那さんと・・・喧嘩でもした?」
「いや・・・あ、うん」


なんだ・・・
やっぱそっか・・・
あらぬ想像をしていた自分が恥ずかしかった

喧嘩したから、指輪してないんだ

ピンクのコートはただ単に暖かいから着てるだけ
あたしに向ける微笑みも単なる気まぐれにしかすぎない


「家、帰りたくないの?」


梨華ちゃんは大きく頷いた


「・・・じゃあ・・・」
「ここに・・・しばらくいたら、だめ?」
「え!?」
732 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 00:06
別れて欲しいって言った相手だよ?
嫌いって言った相手だよ?


梨華ちゃんにとって、あたしは悲しみの対象にもならない人なの?


梨華ちゃんはあたしの悲しみとか寂しさ、分からないの?


あたしは・・・こんなに寂しい想いをしてるのに


だけど・・・



「いいけど・・・旦那さんに元恋人の家に泊まってるって
バレたら、どうするの?」



だけど、あたしは許してしまう
733 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 00:06
理由とか今までのこととかそんなのどうでもよくなってしまう

一緒にいられるなら・・・って思ってしまう



「よっすぃー、女の子だもん・・・
友達の家に泊まってるって言ったら、大丈夫だよ」
「そっか・・・」



梨華ちゃん、前と言ってること違うよ・・・



それからあたしと梨華ちゃんの不思議な同棲生活が始まった
734 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 00:07
 
735 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 00:07
 
736 名前:ルビ 投稿日:2012/04/10(火) 00:07
短いですけど、今日は以上です。
737 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/10(火) 00:08
どうなるのでしょう…
738 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/10(火) 00:08
どうなるのでしょう…
739 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/10(火) 00:13
楽しみですと言いたいのですけどまだまだ困難が待ち受けているのかな?

でもやっぱり楽しみです!
740 名前:ルビ 投稿日:2012/04/10(火) 23:13
>>738 ありがとうございます。
だんだん最終回までカウントダウンが迫ってます・・・
最後まで是非是非読んで下さいねっ

>>739 ありがとうございます。
すれ違いだらけの2人が向き合えることができるのでしょうか・・・
741 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:14
梨華ちゃんが家に来て、
1週間が経とうとしていた


梨華ちゃんは喫茶店で会ったときとまるっきり違った

積極的に話しかけてくるし、
突然不機嫌になったり、突然眠いって言いだす

昔と同じだった

それに、あたしが勘違いしそうなこともたまに言う


「ねぇ、彼女のこと好き?」


あたしは亀ちゃんと別れたことを言えないでいた


「うん・・・好きだよ?」
「そっか・・・私を好きだった頃より好き?」
「へ?」
「だから、私を好きだった頃より彼女のこと好き?」
742 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:16
悪びれた様子もからかっているようにも見えなかった


「いや・・・それは・・・まあ・・・」
「なによ!即答出来ないなんて・・・
私は好きだよっ!今の旦那さんよりよっすぃーのことがっ」
「は?・・・何言ってんの梨華ちゃん・・・
ダメでしょ・・・んなこと言ったら」
「・・・そだね」


しゅんとなる梨華ちゃんを見て、
あたしはどう反応すればいいか分からなかった

喜べばいいのか・・・でも現に梨華ちゃんは結婚してるわけで・・・
今、旦那さんと喧嘩してるから梨華ちゃんはそう言ってるんだろうな
自分にそう言い聞かせて、期待しないようにした


ふと見てしまう、ピンク色のコート
3年前にそのポケットの中に入れた手紙は
今どうなっているんだろう
743 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:17
もしかして、まだそこにあるのかな
3年間ずっとそこに入っているとしたら・・・
もし、その手紙を梨華ちゃんが見たら、
あたしの元に戻ってくる?


でも、もしそこになかったら、
思いっきり、あたしは振られているってことだ


いや・・・もう見てるでしょ・・・
さすがに3年だもん
見てどこかに捨てちゃってるよ・・・きっと

顔真っ赤にしながら書いたのにな
中身はぼんやりとしか覚えてないけど、
“来世では・・・”なんてかなり恥ずかしいことを
書いたのは覚えてる
744 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:17
 
745 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:18
「よっちゃん、ご飯行かない?」
「あーごめん、パス」
「えー!なんで?最近付き合い良かったじゃんっ」


会社から急いで帰ろうと思ったら、
まいちんと美貴と柴ちゃんに道を塞がれた


「今さ、家にり・・・
・・・今日、用事あんだよねーごめん・・・じゃ」


そう言って、3人の隙間を抜けようとしたとき・・・


「待ちなさい。よしこ・・・」


まいちんが怖い顔をして
あたしの腕を掴んでる
746 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:19
「・・・なんだよ」
「よっちゃん、今“梨華ちゃん”って言いかけたよね?」


こえーよ・・・


まいちんと美貴がゆっくりとあたしの方に迫ってくる


「なっなんで梨華ちゃんの名前が出てくんだよ・・・」
「第一!よっちゃんがご飯を断るときは、そんな断り方しません!」
「は?じゃあどんな断り方、すんの?」
「まいちゃん?」
「いえっさ!ミキティー」

ゴッホン・・・



「あ゙ーごめん。今日、だりーから、また今度」




いや・・・なんでまいちん、顎しゃくれてんの
あたしそんな愛想悪くないし・・・
ってか2人息合いすぎ
747 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:20
「って感じだよ?いつものよっちゃんは!」
「いや・・・」
「それに!よしこ、さっき“梨華ちゃん”って言ったじゃん!」
「それの何が悪いの?」


美貴とまいちんがあたしの顔を覗く


「な・・・なんだよっ」
「だって、美貴たちが梨華ちゃんの話題出したとき、
梨華ちゃんの名前、絶対言わないもん!それになぜかいつもイライラしてる」
「はぁ?じゃあ、あたし梨華ちゃんのことなんて言ってんの?」
「・・・まいちゃん?」
「いえっさ!ミキティー」


ゴッホン・・・


「あいつの名前なんて言うわけねーだろ。バカじゃねーの」



だからなんで顎出てんだっつーのっ
748 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:22
でも・・・この感覚が凄く懐かしく感じた

梨華ちゃんと付き合っていた頃、
こうやって美貴とまいちんによくからかわれてたなぁ
で、柴ちゃんはその姿を見て笑ってて・・・

そのときはうざいって思ってたけど、
今考えてみると、あのときが一番楽しかった
梨華ちゃんと付き合っていたってことだけじゃなくて、
周りの雰囲気とか、自分自身とか・・・

いや・・・でもそれって結局梨華ちゃんと付き合ってるから、
そういう雰囲気になれたし、そういう自分になれてたんだろうな


「なーにボケーっとしてんだよ!
何があったの!?梨華ちゃん、家にいんでしょ?」



あーもう・・・



あたしは3人に全部話した

もちろん、短気な美貴ちゃんがあんまり怒らないように、
オブラートに包んで話した
749 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:23




・・・――――――――




「・・・」



やっべ


オブラートに包み込んだつもりなのに、
美貴の顔が・・・ってかまいちんの顔も厳しい顔になっていってる



「ってことで!あたし、帰るね」



あたしは3人を残して、そそくさと家に帰った
750 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:23
 
751 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:25
「ただいまー」
「おかえり、よっすぃー」


帰ってきたら、
必ず梨華ちゃんが笑顔で出迎えてくれる
これは梨華ちゃんが家に来てからついた、
あたしたちの習慣だ

前は一緒に帰ってたから
こんなことはなかった



「ご飯にするぅ?お風呂にするぅ?」
「・・・どっちも用意してないでしょ」
「・・・バレた?」
「ったく、やりたかっただけでしょ?」
「ふふ・・・さすがよっすぃー!」



はぁ・・・
なんで梨華ちゃんはそうやって
あたしが勘違いするような発言ばかりするんだ
752 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:27
悪意のない行動があたしを傷つけてるなんて
ちっとも分かってないんだこの人は・・・


「私ね、今日はオムライスが食べたいっ」


廊下であたしの後ろを歩く梨華ちゃんが言った


「はいはい」


本当に梨華ちゃんは結婚してたのかよ・・・
料理もまだ全然出来ないし、
性格も前のまんまだ

見た目とギャップがありすぎる梨華ちゃんを
好きになるってどんだけ物好きなんだ・・・

って・・・あたしも物好きってことか・・・


ピーンポーン


「あ、誰だろ!」
753 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:28
料理をしていて、
手が離せないあたしを気遣って、
梨華ちゃんが代わりに玄関に走っていった


ピンポンピンポンピンポン



うわ・・・
誰だよ

失礼にも程があるでしょ・・・



『はいはーい!今出ますからーー』



・・・――――――――


『・・・みきちゃん・・・まいちゃん・・・柴ちゃん・・・』
754 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:29
え!?



あたしは手を止め、玄関に走った



「なんで、来てんの?」
「よっちゃんが心配で来たんでしょーが」



梨華ちゃんは目を丸くさせながら、
ゆっくりとあたしの後ろに隠れる


「石川梨華・・・隠れてないでこっちに来なさいよ・・・」


美貴が凄い形相で言った


「いいよ、行かなくて」


あたしは美貴たちの方に行こうとする梨華ちゃんを止めた
755 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:30
「よしこ!?なんでそんなやつに優しくするの?」
「別にいいじゃん・・・あたしの勝手でしょ?」
「・・・梨華ちゃん!梨華ちゃんがいなくなって、
どんだけよっちゃんが悲しんだか分かってる?」
「・・・」


梨華ちゃんは下を向いて何も答えない


「梨華ちゃん、よっちゃん一筋だったじゃん!
なんで浮気したの?なんで一通の手紙だけで別れようとしたの?
それで、旦那と喧嘩したから、のこのこよっちゃんのところに来て・・・
自分が恥ずかしいと思わないの!?」
「・・・ごめん」


涙をこらえてるのが声だけで分かった


「亀ちゃんだって可哀想じゃん・・・よしこと付き合ってた・・・」
「“亀ちゃん”って言うの?よっすぃーの付き合ってる人・・・」


なぜか梨華ちゃんは“亀ちゃん”に反応した
756 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:31
「うんそうだよ」
「そうなんだ」


美貴もまいちんも・・・柴ちゃんはよく分かんないけど・・・
あたしがまだ別れたことを言っていないことに気づいたみたいだった


「梨華ちゃん!よっちゃん、亀ちゃんともの凄くラブラブなの!
梨華ちゃんの入る隙なんてないんだから!」
「そうだよ!第一、梨華ちゃんはよしこの心配してないで、
自分の心配したら?早く仲直りして、帰んなよ!」


「・・・」


梨華ちゃんからの返事はない



あたしは体ごと梨華ちゃんの方に振り返った


「梨華ちゃん、リビングに戻ってて?
フライパンにオムライスできてるから、皿に移して食べといて」
「うん、分かった」
757 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:33
梨華ちゃんは美貴たちの3人をチラっと見ながら、
リビングへ戻っていった


「はぁ・・・よっちゃん、自分の置かれてる状況分かってる?」
「分かってるよ」
「分かってないよ!梨華ちゃんは結婚してるのっ
いつかは戻っちゃうんだよ?ずっとここにいる訳じゃないんだよ?」
「・・・だから分かってるって」


分かってなかったら、
こんなに悩んだりしてないよ

そりゃ・・・2人で楽しく喋ったり、ご飯食べたりしてるときは
ちょっと錯覚を覚えるときだってある
本当は梨華ちゃん、結婚してないんじゃないかって・・・

でも確かに梨華ちゃんは結婚してる


「現実から目を背けちゃ、ダメだよ?
よっちゃん、ここ最近よく笑うし、顔も穏やかだけど・・・
でもずっとじゃないんだよ?このままだと、よっちゃんもっと傷ついちゃう・・・」
「それに梨華ちゃんだって、このままだともっと旦那さんのところに
帰りづらくなってしまう。帰らせてあげないと・・・」
758 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:33
梨華ちゃん、帰らないと・・・


ずっと自分のことばっかりだったけど、
梨華ちゃんもこのまま帰らないと、
旦那さんのところに帰れなくなるかもしれない


そしたら、梨華ちゃんも傷つく・・・


「よっすぃー」


あたしが戸惑っていると、
ここに来て、初めて柴ちゃんが口を開いた




「しっかり・・・しっかり考えてあげて?
感情的になりすぎたら、あとで後悔するんだから・・・」
759 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:34



その日、あたしは梨華ちゃんに何も言えなかった


760 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:36
美貴とまいちん、柴ちゃんが言ったこと、
それがずっと頭に残ってた


いつ、帰るの?
そう聞くけど、本当は
いつまで居られるの?

そう聞きたかった

だからあたしはしょっちゅう聞くようになった

確かめるように


「ねぇ、梨華ちゃん」
「なに?」
「まだ帰らなくていいの?」
「うん。あ、よっすぃー!あそこ、見てっ」


梨華ちゃんは、棚の上の方を指さす

そこにはへんてこなウサギの風船がテープか何かで貼られていた

ピンクの風船に画用紙の耳がついている
761 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:38
「なに、あれ」
「梨華ウサ!知ってるでしょ?」
「あ〜なんかそんなのあったねー」
「うわー!よっすぃー冷たいっ」


暇があれば、書いていた梨華ウサ
梨華ちゃんの歴代の研修ノートには
名前の隣にいつもこのウサギが書いてあったっけ


「可愛いでしょ?」
「うん」
「見ていいよっ」
「は?」
「梨華ウサ、近くで見ていいよっ」


得意げに話す梨華ちゃん・・・
この子はいったいあたしが会社に行っている間、
何をしているんだ


「別にいーよ。さっご飯作ろうっ」
「もー!!」
762 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:40
あたしは毎日帰ってくる度に聞いていた

でもいつも梨華ちゃんはこんな感じ



梨華ウサ見て!

今日テレビでね、

コンビニにいったらさー



いつも話を逸らされる


一緒にいれることは嬉しい
763 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:41
だけど長くいればいるほど、
離れられなくなる


平然と過ごしている梨華ちゃんに
違和感がなくなっている自分が怖い


帰ってきたら、『彼と仲直りした』
なんて笑顔で言ってくるんじゃないか・・・

朝起きたら、また手紙で
『彼と仲直りしました。帰ります』
なんて寂しい言葉を並べて、いなくなってるんじゃないか・・・


2人で一緒にいて、楽しいはずなのに、
楽しければ楽しいほど、寂寥感が溢れ出てきそうになる
764 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:42
「梨華ちゃん」
「まだ帰んないよー」


梨華ちゃんはこっちを向かずに、
ソファでピンクの風船をいじくりながら言う

いつの間にか、あたしが聞く前に
梨華ちゃんが答えるようになった


「梨華ちゃんっ」
「だから、帰んないって
そんなことどうでもいいから、梨華ウサ・・・」


梨華ちゃんはあたしの方を向いて、
へんてこウサギを指差した


「梨華ちゃんっ!」


ゆっくりと隣に座る
765 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:42
「旦那さんとの喧嘩の理由はなんなの?」



今まで聞いたことがなかった
こんな長い期間帰らないなんて、相当な理由だろう


「・・・別に・・・どうでもいいようなこと」


吐き捨てて言った言葉に
あたしは少しムカついた


「なにそれ・・・じゃあなんで帰んないの?」
「だって・・・」


梨華ちゃんは口ごもった


「どうでもいいような喧嘩で、飛び出してここに来たの?
そんな梨華ちゃんにあたしは振り回されてるんだよ!?」
「え・・・なんで?」
766 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:44
とぼけた顔が無性に腹立つ・・・


「一日中家にいんのに、料理も作らない。
作ろうとしたら、2時間もかかっちゃう。
ちゃんと作れるのは野菜スープだけ。
酒飲んでソファで寝るわ、機嫌すぐ悪くなるわ・・・」
「そんなこと・・・そんなこと、
付き合ってるときから分かってることでしょ?」


どんどん口から出てくる

いつまでも居て欲しい気持ちと
平然としている梨華ちゃんに腹立つ気持ちとが
混合して頭の中がぐちゃぐちゃだった


「梨華ちゃん。あたしたち、もう付き合ってないんだよ?
梨華ちゃんは結婚してるし・・・」
「・・・よっすぃーも恋人いるしね」


冷たく言われた言葉が胸に突き刺さる
767 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:44
「・・・もう・・・帰んなよ!・・・うざいんだよ・・・」
「・・・え?」
「帰ってきたら、笑顔で迎えられて『ただいま』
って言って、夜は2人で乾杯して・・・
変に彼女づらみたいな言葉を言って・・・
梨華ちゃんとあたしはもう別れたんだよっっ」


あたしは梨華ちゃんを直視出来なくて、
立ち上がって、窓の方を見た


どうでもいいような意地があたしを邪魔する



「分かった、帰るよ」



へ・・・?


あたしが振り返ったときには、
梨華ちゃんは荷物をまとめに部屋に行っていた
768 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:45
どうしよ・・・


いや・・・でもこれが正解なんだ


お互いに・・・
会わない方が・・・




梨華ちゃんが部屋から出てきて、
そのままドタドタと音を立てながら、
玄関へ向かう


あたしはその姿を遠くから見つめる



「梨華ちゃんっ」



梨華ちゃんがあたしの方に振り向く
769 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:46




「もう・・・会わない方がお互いのためだよ。
梨華ちゃんは旦那さんと・・・あたしは亀ちゃんと・・・
別々の道・・・歩いていこう――――――――」



770 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:47
あたしはそれだけ言って、
キッチンに向かった




「ひとみちゃん、バイバイ」




そのときのあたしは、
“ひとみちゃん”と呼ばれたことに気が付かなかった





・・・バタンッ――――――――




少し間を置いて、
ドアが閉まる音がした
771 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:49
終わった・・・――――――――



すべて


今度こそ本当に・・・



柴ちゃんの言った通り、
あたしはしっかり考えた
ちょっと感情的になってしまったし、
後悔もするかもしれない


だけど・・・これが今あたしが出来る精一杯の梨華ちゃんへの気持ちだった


愛してるってことは相手の幸せを望むこと・・・


だから、あたしは梨華ちゃんの幸せを一番に考えたよ

幸せになるんだよ・・・梨華ちゃん
772 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:50
ふと梨華ウサに目がいった


梨華うさの風船を作ったってわーわー騒いでいた頃より
かなり萎んで小さくなっていることが
梨華ちゃんと一緒にいた時間の長さを示していた



ピンク色のへんてこウサギが
こっちを見つめてる・・・



「こっち、見んなよ・・・」



梨華ちゃんは出て行ってしまった


へんてこウサギとピンク色の風船いっぱい残して・・・




さようなら梨華ちゃん。――――――――
773 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:50
 
774 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/10(火) 23:50
 
775 名前:ルビ 投稿日:2012/04/10(火) 23:51
次から最終章に突入します。
といっても、何章とか考えていたつもりはないんですけど、
最終回までのカウントダウンが始まるということで・・・

是非、最終回まで見て下さいっ
776 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/11(水) 01:31
まだこの苦しみは続くのか?

でも最近こうゆうのが好きになってきました。楽しみに待ってます!
777 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/11(水) 07:36
苦しい。切ない…。
778 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/11(水) 17:15
切なすぎるよ…
幸せになれますよう最終章も心待ちにしてます
779 名前:ルビ 投稿日:2012/04/11(水) 23:53
>>776 ありがとうございます。
どうでしょう・・・今日の更新を要チェックです!

>>776 ありがとうございます。
本当に苦しいです。いつになったら2人は幸せになるんでしょうか・・・

>>778 ありがとうございます。
自信はありませんが、期待に応えられるように。最後まで頑張りますっ
780 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:01
 
781 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:01
 
782 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:02
周りを見渡すと、
ピンクのものがちらほら目に入って、
さっきまで梨華ちゃんがいたことが分かる


『梨華ウサ見て!』



なぜか何回も言っていた



あたしは何もする気力がなくて、
なんとなく梨華ウサの方へと近づいていき、
ゆっくりと梨華ウサを壁から離した



「風船に顔書くなんて、ガキじゃないんだから」
783 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:03
風船をじっと見ていると、
後ろに何か書いてあるように見えた


梨華ウサをゆっくりと裏返す





っ・・・――――――――






「梨華ちゃん・・・」
784 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:03
そこには・・・



右耳に






“私は世界で”



785 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:04



左耳に






“一番”



786 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:04


そして真ん中、風船には






“ひとみちゃんを愛してます”






そう書かれてあった

787 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:06
そして、風船の中に何か筒のような・・・
輪ゴムを巻き付けてある紙・・・?が入っていた



あたしは急いで風船を割って
中身を取り出した



輪ゴムをとって、
紙を広げた





“りっちゃんでやんす”




冒頭はおどけた感じだった
788 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:07
だけど、読んでいくうちに知ってしまった



あたしが知らなかった3年間・・・



この結婚は無理矢理だったこと

この結婚の理由はお父さんとお母さんが
あたしたちの交際に反対したからだということ

最後の最後まで考えたけど、
あたしに梨華ちゃんは必要ないって
勝手に思い込んでしまったこと

別れてからもずっとあたしのことを
想い続けていてくれたこと

忘れよう忘れようと思っても忘れられなかったこと

そして、あの手紙を見たこと

もう一度やり直そうと思っていたこと

だけど言うことが出来なかったこと
789 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:08
そして・・・



“だから、運命にまかせようと思う。
ひとみちゃんがこの手紙を見てくれることを願ってる。
この風船が萎む前に見てくれることを願ってる。
あとね、ひとみちゃん。私は来世で会おうなんて言葉は嫌なの。
今世がいいの。今がいいの。明日のことは明日考えればいいでしょ?
だから私はこの世であなたと一緒になりたい。
欲張りすぎるかな?”



そう書いてあった
790 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:09
 
791 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:09
 
792 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:09


●   ●   ●

793 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:10
1ヶ月前に桜満開だった並木道・・・
今はすっかりなくなってて・・・

自分の心を表しているみたいだ

最初は色んな気持ちがいっぱいだったのに・・・

今は全部がからっぽ


「なーんにもなくなっちゃった」


帰る家もないや・・・


この1ヶ月間、何の意味があったんだろう


“私はひとみちゃんが好き”


出来るだけ行動に移してみたけど、
やっぱりダメだった
794 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:10
気持ち、伝わんなかった


美貴ちゃんからもまいちゃんからも嫌われて・・・


最後、ひとみちゃんからも嫌われて・・・



ボロボロじゃん、私



いつまで続くんだろう


こんな辛い気持ち



“もう会わない方がいい”
795 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:12
本当にそうなのかな


ひとみちゃんは本当に亀ちゃんのことが好きなの?


だって、私がひとみちゃん家に住んでいるとき、
一度もデートに出かけたことなかったじゃない


毎日会社が終わったら、すぐに帰ってきてたじゃん


そういう風に言ったら、
ひとみちゃんはどういう反応していただろう


困った顔するのかな?
またバカだなぁ、梨華ちゃんはって顔で、
あしらわれて終わっちゃうのかな
796 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:12
ピンクのコート


もう着る必要がないのに、
私は着てる


体より心が寒い


でもコートを着たって、
暖かくはならない


当たり前だよね

だけど着ちゃうの

このコートを着ると
少しでも少しでも気持ちが暖かくなるような気がするから



「・・・満月だ・・・」
797 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:13
私の気持ちとは裏腹に
空はとても綺麗で、雲一つなくて



真っ暗な空には




満月と




・・・風船??


ピンク色の?


暗くてよく分からないけど、


ちらほら風船が後ろから流れるように浮かんでる・・・
798 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:14
私はその風船がどこから来たのか知りたくて、
ゆっくりと上を見ながら後ろを向く



んー?


低いから、遠くから飛ばしてるんじゃな・・・







・・・






――――――――



・・・
799 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:15
うそ・・・




10メートル先に私と一緒に風船を見ている人がいる



その風船はあなたが放したもの?


その風船はもしかして私の?


その風船には・・・なんの意味があるの?



目の前の人が私を見て微笑む




目の前の光景は全部夢なの・・・?
それとも・・・
800 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:16
――――――――





・・・




「ひとみちゃん・・・」






そこには・・・
さっきまで一緒にいたひとみちゃんがいた



並木道に2人でいるせいか、
周りの世界と遮断されているような感覚に陥った
801 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:17
「梨華ちゃん・・・」
「・・・な・・・んで」





2人は距離を縮めずに話す


夜の静けさのおかげで、
遠くてもお互いの声が聞こえる





「風船萎んじゃったら、どうすんだよ」





え・・・?

802 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:17
ひとみちゃんは私が作った梨華ウサを
顔の前で私の方に大きく見せた





「梨華ちゃん、浮気したって言ってたじゃん」





ひとみちゃんがゆっくりゆっくり
あたしの方に向かって歩いてくるのが分かる




「・・・え?」




私はこの状況を理解出来なかった
なんでひとみちゃんが私の前にいるの?
なんで梨華ウサを持ってるの?
803 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:19
「だから・・・浮気したって言ってたじゃんっ!してなかったの?」
「・・・」
「梨華ちゃんっ!
「・・・・・・してるわけないじゃない。
私、ずっとひとみちゃんといたんだよ?
いつ浮気なんてする暇あるのよ・・・」





私の目から涙が溢れてくる


読んでくれたんだ
読んでくれたんだ


通じたんだ気持ち


私たちにも運命があったってこと?
804 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:20



「家庭が欲しいって言ってたじゃん」




ひとみちゃんの声も
だんだん震えてきてる





「そんなのいらないよ。
家庭より必要なもの見つけちゃったんだもん」





ひとみちゃんが近づいてくる度、
ドキドキが止まらない


805 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:22



「嫌いって・・・ひとみちゃんのこと大嫌い
って言ってたじゃん」




ひとみちゃんはちょうど半分くらい・・・
5メートルのところで立ち止まった





「ううんっ!好きっ!ひとみちゃんのこと嫌いなわけないでしょ?
世界で一番大好きなんだからっ!誰がなんと言おうと大好きなんだから」





ひとみちゃんが微笑んでいるのが分かった
806 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:23
「ひとみちゃん、こっち来ないの?」
「・・・次は梨華ちゃんの番」




そっか・・・


私はそれを聞いて、
深呼吸をした


すぅ・・・


はぁ・・・




そして歩き出す



ひとみちゃんの元へ
807 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:29
「恋人いるって言ってたのは?」



「別れた。梨華ちゃんのせいだよ全部」



「うざいって言ったじゃない」



「ごめんね。混乱してたんだ。出て行って欲しくない気持ちと
出て行かないと梨華ちゃんが元に戻れないって気持ちとで・・・
本当はそんなこと思ってないよ?」



「会わない方がいいって言ったじゃない」



「梨華ちゃんは旦那さんのこと好きだと思ってたから・・・
梨華ちゃんがまだあたしのこと思ってくれてるんだったら、
そんなこと言わなかったよ」
808 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:32
あと一歩のところで私は止まった




「梨華ちゃん?」




「・・・ごめん・・・
なんか怖くていけない・・・
なんでか分からないけど、怖いの」




涙が溢れる


今まで遠いと思っていた人が目の前にいて、
私を必要だと言ってくれてる


手を伸ばせば届くのに、
伸ばすことが怖い
809 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:33
この3年間は思った以上に長かった


気持ちが届かないことの方が普通すぎて、
気持ちが届くことに臆病になってしまってる




「あたしのところに来たくない?」
「ううん!そんなんじゃないの・・・そんなんじゃなくて・・・」




違う・・・


でも3年間色々ありすぎて・・・


簡単にあなたの元に行っていいか分からない


旦那さんも亀ちゃんも美貴ちゃんもまいちゃんも柴ちゃんも
パパもママも旦那さんのパパもママも


傷つけてきた
810 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:34
そして私がひとみちゃんの元に戻ることで、
また傷つける人がいるかもしれない



それでいいのか


本当に私は色々な人を傷つけて


自分の気持ちを優先させていいのか



3年間、自分の欲望を抑えつけることを学んでしまって、
わがままになることが出来なくなってるのかもしれない




「梨華ちゃん、乗り越えよう?
1人で悩むんじゃなくて、一緒に悩もうよ。
悲しいときも嬉しいときも楽しいときも
全部全部2人で経験して行こうよ。




あたしもこの世で梨華ちゃんと一緒にいたいから――――――――」
811 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:34







戻っておいで?







ひとみちゃん・・・









・・・っ――――――――




812 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:35
「ひとみちゃん、好き!大好きっ」





思いっきりひとみちゃんに抱きついた




3年ぶりにひとみちゃんに抱きついた





「好きなの・・・好きなの・・・死にそうなくらい・・・
ひとみちゃんじゃなきゃダメなの・・・」
813 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:36
知ってしまった


ひとみちゃんに出会ったときに



私にとってこの世で
一番暖かい場所
一番ドキドキする場所
一番安心する場所


だから私は忘れることが出来なかった



この人が私の運命の人だから


814 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:38
帰り道、私とひとみちゃんは
お互いの空白の3年間について言い合った


ひとみちゃんは後輩がいっぱい出来て、
色々教えるのに、とても苦労しているらしい

しかも、第一印象がやっぱり怖いって言われるんだって


でも、私と一緒にいたときは、
なぜが怖いと思われてなかったんだって
きっとニヤけてるからだと思うって


そして・・・言ってくれた
私たちが別れた前の日の12月24日には
毎年、会社で1人、私の大好きな唐揚げを食べてたんだって

だから私も言った

“私なんて、毎月25日にあの喫茶店に行ってたんだよ?”
815 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:39
そしたらひとみちゃんは微笑みながら言ってくれた


“あたしたち、想い合ってたんだね”


うん・・・
随分遠回りしちゃったよね



だからその分愛し合おう?



無駄な3年だって思いたくない


あなたが亀ちゃんと出会えたことも

私が旦那さんに出会えたことも


すべて意味があることだったんっだって


そう思えるように、一緒に生きていこう――――――――
816 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:39
 
817 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:40


○   ○   ○

818 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:41
「ただいまー」
「おかえりー!!」


梨華ちゃんは帰り道、
“おかえり”が言いたいとか変なことを言いだして、
マンションを前にした途端、走って家に入っていった


「ひとみちゃん、ご飯にするぅ?お風呂にするぅ?
それともわ・た・し?」


ニコニコしながら言っている梨華ちゃんはとても幸せそうだ


「はいはい。」


あたしは軽く流して、中に入る


「もー!少しはノってよー」


後ろからわーわー聞こえる
819 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:42
こんな懐かしい光景も、
どんどん日常になっていくんだ


「ぎゃっ」


後ろから勢いよく梨華ちゃんが抱きついてきた


「なに?」
「ひとみちゃん、だぁいすきっ」


梨華ちゃんはさっきから
同じ事を何回も言ってくる
もう分かってるから・・・なんて顔をするけど、
本当は言われる度にめちゃくちゃ嬉しかったりする

だってその度に“ひとみちゃんのこと、大嫌い”
って言ったときの梨華ちゃんの声と厳しい顔を忘れていくから


「そういえば、ごめんね、あんなこと言って・・・」
「あんなこと?」
820 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:45
あたしは前に回されてる小さな手を両手でぎゅっと握る


「うざいとか・・・不機嫌になるとか・・・」
「いいよ。私もいろいろ言っちゃったし・・・おあいこだよ」
「でも、梨華ちゃんはあたしのことを想って言ってくれたのに、
あたしは自分の感情で・・・」


梨華ちゃんはあたしの声が暗くなっていくことに気づいたせいか、
あたしを梨華ちゃんの方に振り向かせて、満面の笑みを見せてくれた


「・・・もういいよ。でもさ・・・ひとみちゃん、
亀ちゃんみたいなのがタイプなんでしょ?」
「え・・・なんで?」



また亀ちゃんの話だ
どんだけ気にしてるんだよ・・・

眉をハの字にしている梨華ちゃんが可愛くて、
今度はあたしから抱き締める
821 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:46
「だって、亀ちゃん、料理出来るんでしょ?
凄い気遣いも出来て、優しいって嬉しそうに言ってたじゃない」
「それは・・・でもさ、理想と実際好きになる人って違うっていうし・・・」
「まあ・・・そうだけど」


抱き締めてるから見えないけど、
きっと梨華ちゃんは口を尖らせてる


「あたしは料理できなくても、機嫌がすぐ悪くなっても、
寝不足で怒っちゃっても、好きだよ?梨華ちゃんのこと」
「うん・・・ありがとう」


自分で言っときながら、
顔が真っ赤になるのが分かる
別に素直にならなきゃって思ってるわけじゃないんだけど、
どんどん口から出てくるのはきっと、
あたしがずっと心の中で何回も思ってたからだろう


「ふふ・・・そうだ!梨華ちゃんの旦那さんはさ、
昔梨華ちゃんが言ってた理想像に近いよね。気遣いが出来て、頼りになるんでしょ?」
「うん。でもひとみちゃんもそうじゃない。気遣い出来るし、頼りになるし・・・」
「・・・あのさ、あたし前から思ってたんだけど、
梨華ちゃんがあたしを好きな理由って、自分の理想像に近いから?」
「え?」
822 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:48
梨華ちゃんはあたしの腰に回している手をほどいて、
驚いた顔であたしを見てる


「あたし、梨華ちゃんが思ってるより、弱いよ?嫉妬もめっちゃするし、
甘えたくなることだって、たくさんあるし・・・」
「うん、知ってる。」
「じゃあ・・・」
「でも、ひとみちゃん・・・あまり見せなかったでしょ?
いつも“優しくて、頼りになるひとみちゃん”だった。」
「・・・うん・・・」


確かに・・・
あたしは梨華ちゃんに格好いいって思って欲しいとばかり思ってた
今まで梨華ちゃんばかりを責めすぎてたんだ


「だから、これからはさ、素直になって?
全部私に見せて欲しいの。ひとみちゃんの全部を。
あたしがひとみちゃんのどこが好きとか分かんないよ。全部好きなんだもん」
「梨華ちゃん・・・」


梨華ちゃんを直視出来なくて、
あたしは下を向いた
823 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:49
「前髪、長くなったね?後ろも・・・少し切った方がいいんじゃない?」



大人っぽいような仕草で梨華ちゃんはあたしの長い前髪を耳にかけてくれる
そんな小さな仕草にもあたしはドキっとしてしまう


「そういえば、梨華ちゃん、ショートが好きって言ってたもんね」
「うん!好きだよっ!ひとみちゃんのショ・・・」




・・・――――――――



梨華ちゃんの唇が色っぽく見えた
3年間という期間もあったせいか、
昔よりももっと色っぽく見えてしまった

そんな梨華ちゃんに触れたくて、
あたしは優しく梨華ちゃんにキスをした
824 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:50
でも梨華ちゃんは・・・


「ふふ・・・」
「なんで笑うんだよ」


余裕な顔で笑ってる


「だってひとみちゃん、緊張してるのが凄く分かるんだもん」
「なんだよ・・・してるよ・・・してるに決まってんじゃん。
緊張してるし、ドキドキもしてる・・・梨華ちゃんはしてないの?」
「してるよ。ほら・・・」


梨華ちゃんがあたしの手を胸にもってく


「・・・誘ってんの?」
「ふふ・・・どうだろ」


その大人な仕草にムカついて、
あたしはもう一度、梨華ちゃんにキスをしようと近づいた
825 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:51
でも梨華ちゃんはそんなあたしを知ってか、
あたしのキスをよけるように顔を反らせる


「ちょっと梨華ちゃんっ」
「ふふ」


満面な笑みを見せる梨華ちゃんは正真正銘の小悪魔だ


「あっ梨華ちゃん、させないつもり?」
「あっひとみちゃん、するつもり?」



「・・・コノヤロー」


「きゃっ」


そんなこと言っても、
所詮華奢な女の子だ


あたしは梨華ちゃんをお姫様だっこして、
自分の部屋に連れて行った
826 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:51
 
827 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/12(木) 00:51
 
828 名前:ルビ 投稿日:2012/04/12(木) 00:53
今日は以上です。

それと!
吉澤ひとみさん、誕生日おめでとうございますっ

よっすぃーにとって、27才がいい年になるように願ってますっ
829 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/12(木) 00:57
やっと…(>_<)
どちらも27歳が良い年になるといいですね!
830 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/12(木) 02:06
えっ?続きは?すっごくすっごく期待してます!
831 名前:?1/4?3 投稿日:2012/04/12(木) 10:44
きゅーーーー(><)
ドキドキしてハラハラして
泣けるしニヤけるー!
どうしてくれるんすか!?w
832 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/12(木) 11:13
連日の更新ありがとうございます。
吉澤さんの誕生日にホッとできる内容で安心しました(笑)
833 名前:ルビ 投稿日:2012/04/15(日) 20:51
>>829 ありがとうございます。
本当にやっとです・・・
27歳のいしよしも楽しませてくれそうですっ

>>830 ありがとうございます。
続き、どうなるんでしょうか。最終回まであと少し!是非見てくださいっ

>>831 ありがとうございます。
そういってくださると嬉しいです!
これからはどうなるんでしょうか・・・最後までなにがあるか分かりませんが・・・
最後まで見てくださいっ

>>833 ありがとうございます。
今回は少し間が開いちゃいました・・・
来週は忙しいんですが、出来る限り来れるように頑張ります!
834 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 20:52
 
835 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 20:52
 
836 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 20:53
ベッドにちょっとだけ乱暴に
梨華ちゃんを寝かせて、あたしは覆い被さった


電気もつけていない真っ暗な部屋に
うっすらと梨華ちゃんの顔が見える


「梨華ちゃん・・・」


そっと唇を近づける



「ちょっと待って!」



慌てたように、梨華ちゃんが言った


「はぁ・・・なんだよ・・・」


あたしは緊張しているせいか
上がっている肩をため息するのと同時に下ろした
837 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 20:54
どうもさっきから、雰囲気が出ない
あたしたち3年ぶりだよ?
分かってる、梨華ちゃん?


「ひとみちゃん、亀ちゃんと何回した?」
「は?」


また、亀ちゃんのことを聞いてくる
嫉妬するのもここまで来たら、ある意味才能かも


「だから、何回したの?」
「・・・んなの、知るかよ・・・」
「はぁぁ!?分からないくらいしたってこと!?」
「もーいいじゃん。早く・・・」


あたしはそんなことよりも早くキスをしたくて、
次の段階に行きたくて、再び唇を近づける



・・・――――――――
838 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 20:55
「なにやってんの」



なぜか梨華ちゃんは口を尖らせている
いわゆるタコチューみたいな口?


「嫉妬してる最中」


眉間にしわを寄せて言う彼女は
雰囲気もなにもない


「ばかじゃねーの?・・・じゃあさ、梨華ちゃんは旦那と何回したんだよ」
「私?まあ3年結婚してたからねぇ・・・私も数え切れないかなあ」


ちくしょー
839 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 20:55
なんなんだ・・・
このからかってくる感じ
小悪魔的な感じ
お姉さんぶってる感じ


前からそんなところはあった

大抵、そんな風になるときはあたしが甘えたいときとか
あたしが疲れているときで、外で意地を張っているあたしを
自然と癒してくれた


でも、今日はそんな梨華ちゃんを望んでいるわけじゃないんだよ・・・


「・・・てめぇ・・・」
「なによぉ」


あたしはムカついて、さっき梨華ちゃんがしていたように
口を尖らせる



「・・・っ!?」

840 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 20:56
“なにやってんの”


“嫉妬してる最中”


そういう流れをするつもりだったのに、
突然梨華ちゃんは頭を浮かしてあたしにキスをしてきた



「うわっ!ずりー」
「あ、ごめん。キスを待ってたんじゃなかったの?」




ほら、またニヤけた顔でそんなことを言う

1つ上の彼女はこういうとき、
必ずお手本はね・・・ってな感じで
見せつけてくる



「・・・ったく・・・」

841 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 20:57
あたしはもう全部紛らわしくなって、
梨華ちゃんの両手首を両手で押さえて、
無理矢理、キスを降らせた


優しいキスが、甘いキスが、どんどん激しさを増していく



「ん・・・んぁ・・・」



どちらともなく息が漏れていく

梨華ちゃんは落ちてくる、
あたしの髪を耳にかけ、首に腕を回していく


噛みつくようにキスをしていく



でも・・・


842 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 20:57
なんか・・・




なんか・・・違う




昔と・・・



ちょっとしたキスの仕方の変化


きっとあたしにしか分からないキスの変化が
あたしに3年間という重みを感じさせた



あたしと梨華ちゃんの2人だけの癖が
いつの間にか、あたしだけの癖になり、

梨華ちゃんと旦那さんの新たな癖が出来てるんだ
843 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 20:58
そう思うと、胸が痛んだ


首筋に唇をつけて、
匂いをかぐ

でもそれはあたしと同じ匂いじゃない


違う匂い



「ひとみちゃん・・・?」



あたしは知らないうちに頬に涙が流れていた



「うぅ・・・んぐ・・・」



あたしはどうすることも出来なくて、
梨華ちゃんに背を向けて、体を丸めた
844 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 20:59
「どうしたの、ひとみちゃん・・・」




当然のことじゃん・・・


無理矢理の結婚とは言え、旦那さんは梨華ちゃんのことを好きだった
梨華ちゃんだって、一生この人と生きていくことになるんだって
覚悟までした。それだったら、普通にあって可笑しくないこと


頭で分かっていても、
体が梨華ちゃんのことを拒否していた



「・・・もどれない・・・」
「え・・・?」
「昔には・・・もどれない」



梨華ちゃんが動揺しているのが背中から伝わった
845 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 21:03
「ひとみちゃん、こっち向いて?」
「いや」
「お願い・・・」


ゆっくりと梨華ちゃんはあたしの体を自分の方へと向かせる


普段は梨華ちゃんの方が力は弱いはずなのに、
なぜか今日は力が入らない


「なんで・・・もどれないって思うの?」
「・・・にお・・い・・・キスの仕方・・・とかが前と違う」



あたしはやっとのことでいうと、
梨華ちゃんはなぁんだという様に笑ってみせる


梨華ちゃんにとっては、どうでもいいことかもしれないよ?
でもあたしにとっては重要なことなんだよ

匂い1つにしても、キスの仕方1つにしても・・・


でも梨華ちゃんはいつもあたしの1歩先を歩いているんだ
846 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 21:05
「ねぇ、ひとみちゃん・・・戻る必要ってあるのかな?」
「え・・・?」
「新しく作っていけばいいじゃない。
これからだよ?これからあたしはひとみちゃん色に染まってくの。
だから、ひとみちゃんお願い・・・あたしをひとみちゃんのものにして?」



梨華ちゃんの目は真剣だった

さっきのようにからかう梨華ちゃんはそこにはいなかった



「もしかして・・・バツ1は嫌?」



あたしは全力で頭を横に振る



「なら・・・いいでしょ?しようよ」



そう言って、梨華ちゃんはあたしの上に覆い被さる
847 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 21:06
「私、ひとみちゃんのことしか考えてなかったよ?
旦那さんとキスをしても、その先のことしても・・・」



ゔ・・・


なんか複雑な気分



あたしのことを考えてくれてても、
することはちゃんとしたんだ・・・
まあ当たり前か



「梨華ちゃん・・・本当にあたしのものになる?」
「うん、なる!」




梨華ちゃんが笑顔で返事をした瞬間に
あたしはさっきとは逆で梨華ちゃんに覆い被さって、
キスの雨を降らす
848 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:15

そしてあたしに馴染みのない、
ちょっと胸が突き刺さるような匂いをかぎながら
あたしは梨華ちゃんを全身で愛していく


早く早くあたしのものにしなきゃ・・・
早く旦那さんの匂いも癖も変えてやらなきゃ


色んな想いで必死だった



1秒でも梨華ちゃんを見ない時間が惜しくて、
あたしはずっと梨華ちゃんの顔を見て、
隙があればキスをして、
唇が腫れるんじゃないかと思うくらいキスをした
849 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:16



『ひとみちゃん、好き』


『梨華ちゃん、好き』


『ひとみちゃん、愛してる』


『梨華ちゃん、愛してる』


850 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:16
何度言っただろう



甘い吐息と共に出てくる言葉がお互いの胸に響いていく



もう“ひとみちゃんのこと、大嫌い”と言ったときの、
梨華ちゃんの声と顔は頭の中から消えていた

851 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:16
852 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:17



・・・――――――――


お互いのしたたる汗が
その行為の激しさを表していた


息を切らしながら、あたしは梨華ちゃんを腕の中に入れたまま言った



梨華ちゃん、あたし諦めないから。
絶対、梨華ちゃんのお父さんとお母さんを説得する。
時間はかかるかもしんないけど、大変かもしんないけど、
梨華ちゃんがいない方が何百倍も悲しいし、辛いから・・・


あたしがそう言うと、梨華ちゃんは零した涙を見せないように、
あたしの胸に顔を埋めた


「もう絶対離さない。梨華ちゃんがいなくなっても、絶対見つける。」
「・・・ひとみちゃん、私もういなくならないから」
853 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:18
胸に感じる吐息があたしの心をさらに暖かくする


梨華ちゃんがいないとき、
あたしはどうやって生きてたんだろう。
何を考えてたんだろう。何のために頑張ってたんだろう


つい1ヶ月前のことのはずなのに、
思い出せない自分が怖い


3年間も喪失感を感じながら、日々を過ごしていたのに、
今のあたしはその喪失感を思い出せない
そのくらい今のあたしは幸せすぎて・・・
本当に怖くなる



あたしはその怖さを紛らわすように、
梨華ちゃんをぎゅっと強く抱き締めた
854 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:19


●   ●   ●

855 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:20
夜中、私はトイレに行きたくなって、
上の毛布をゆっくりと剥いで体に巻き付けようとした

そのとき、ひとみちゃんがゆっくりと目をあげながら
私の手を掴んだ


「・・・りぃ・・・」


私を呼ぶ声・・・

それはとても甘く、儚げで
いつもの格好良いひとみちゃんとは違って、とても可愛い


「ん?」
「行かないで」


大きな目をうるうるさせながら上目遣いをしてくる


「・・・ひとみちゃん」
「行かないでよ」
「トイレに行くだけだから、ね?」
856 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:21
そう言うと、ひとみちゃんは体を起こした


「・・・あたしも一緒に行く」
「へ!?」


ひとみちゃんは私の手をとって繋いでくる
しかも毛布もなにもつけないで、真っ裸のまんま


もぉ・・・


呆れながら、私は子供を連れて行くように
ひとみちゃんの手を引っ張りながらトイレに向かった

後ろを見ると、ほぼ寝てるでしょって思うくらいウトウトしていて、
私が手を繋いでないと、後ろに倒れてしまいそうだった
857 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:21
 
858 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:23
トイレに入ろうとしても、
ひとみちゃんは私の手を放そうとしない


「ひとみちゃん、外で待ってて?」
「嫌だ」


ごねるように、でも目は半分しか開いてないまま、そんなことを言う


「私、おトイレするの」
「別にいいじゃん・・・さっきまで裸見てたんだし」
「だ、だって・・・トイレするのとは、また別でしょ?」
「そーかな・・・」
「とにかくダメ!外で待ってて?」


私は出来るだけ優しく、子供に言い聞かせるように言う
859 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:24
だけど・・・



「嫌だ」



の一点張り


はぁ・・・


素直になって欲しいとは言ったけど、
ここまで来ると、子供と母親みたいだよ
いや・・・親子でもトイレ一緒に入んないか・・・


「ひとみちゃん、毛布をめくらないといけないから、手離して?」
「嫌だ」
「もー!ひとみちゃんっ」
「あたしがめくってあげるよ」


ぎゃっ
860 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:26
あっという間にひとみちゃんは片方の手で
器用に毛布をめくりあげる


だから私は下半身だけ丸見え


「ほれ。見ないから、早くしな」


ひとみちゃんの右手は私の左手と繋がっていて、
ひとみちゃんの左手は私を包んでいる毛布を持っている


だから必然的に目の前にひとみちゃんが突っ立っているわけで・・・
私を前にして、やっと自分が言ったことがどんなことなのか分かったのか、
ひとみちゃんは顔を赤らめながら、顔だけをそっぽ向いた


夜中に私たちは何をしてるんだ


「終わったよー。ひとみちゃん毛布放して」
「へーい」


そしてまた私たちはベッドに戻っていく
目は完全に閉じている大きな子供を引っ張りながら・・・
861 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:26
 
862 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:27
ベッドに着くと、
ひとみちゃんはそそくさと、ベッドに入り
おいでという風に手を大きく広げる

私はダイビングするように腕の中に入ってく

ひとみちゃんが足を絡ませながら、
私をぎゅっと抱き締めてくれる


「んぅ・・・りぃ?」
「ん?」


上から降ってくる甘い吐息が
私の心を安心させる


「大好き。おやすみ」


甘えるようにそう言って、
驚くくらいのスピードで規則正しい寝息が聞こえた
863 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:27
 
864 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:27


*   *   *

865 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:29
吉澤さんのところに石川さんが戻ってきた



1週間前に噂で聞いた


だけど、噂とか本人から聞くまでもなく、
吉澤さんを見てたら、すぐ分かってしまった


だって全然違うんだもん


前はクールでなんでもそつなくこなして、
笑顔もあまりなかった

私と付き合っているときも、
笑ってはいるんだけど、今考えると本当の笑顔じゃなかったと思う


でも今の吉澤さんの顔はとても穏やかで優しい顔をしている
その上、携帯を見ながら、たまにニヤついてる
866 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:30
こんな姿見ちゃったらさ、
未練なんて消えちゃうよね
嫉妬なんてどっか行ってしまう


そんなとき、いつも恒例の飲み会があった


吉澤さんは“行かない”の一点張りだったみたいだけど、
その理由を十分分かっている藤本さんと里田さんは、
無理矢理、飲み会の席に連れてきた


飲み会でわーわー騒いでいるのに、
吉澤さんはずっと携帯とにらめっこ
時計とにらめっこ


その姿を見た藤本さんは・・・


「ね、よっちゃん、梨華ちゃん呼びなよ」
「え!?」


吉澤さんの顔が分かりやすく晴れやかになる
867 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:31
「そうだよー!久しぶりに梨華ちゃんも一緒に飲みたーい」


里田さんが上手くアシストをしてる


吉澤さんは笑顔で石川さんに電話をしようとするけど、
何かを思い出ように私の方を見る



“呼んで良い?”



アイコンタクトだけど、
言いたいことはなんとなく伝わった


その姿を見た藤本さんと里田さんは
思い出したように私を見る


きっと私と付き合ってたことなんて、
吉澤さんも他のみんなも忘れてるんだろうなって思ってた
868 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:33
私が悩んでることとか
吉澤さんのこととか全く喋っていなかった

プライベートを隠したがる吉澤さんを
一応気遣ってのことだった



吉澤さんの家に石川さんが来たというのが
会社の中で知れ渡ってからは、その話題でいっぱいだったから
私の存在はいつの間にか消えていた

でもそれが悲しいかって聞かれるとそうじゃない


だってさ・・・吉澤さんだけじゃなく、
他のみんなも楽しそうなんだもん

本当に凄い人なんだ吉澤さんは・・・
周りの雰囲気を変える力を持ってる

吉澤さんが楽しそうだと、みんなも楽しそうな顔をする
吉澤さんが悲しそうだと、みんなも悲しそうな顔をする

私だって、吉澤さんの周りの人の中に入ってる
だから、私もそんな吉澤さんを見ると、嬉しくなる
869 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:34
だから・・・



「大丈夫?」



横にいる柴田さんが心配そうに私の顔を覗く

柴田さんにだけは、色々相談していた



「はい大丈夫ですっ」
「本当に?」
「もう未練なんて、これっぽっちもないですから」



大きい声でそう言ったら、
“それもそれで悲しいけど”なんて吉澤さんは困った顔をして、
電話をしに、外に出た
870 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:35
「美貴ちゃん、まいちゃん・・・みんな・・・」
「「・・・梨華ちゃぁあん」」


石川さんがお店に着いて、
目をうるうるさせながら、先輩たちと対面している

石川さんの姿を確認した吉澤さんは顔が分かりやすくニヤついている

席に座るときに、石川さんが私に目配せをしたような気がした
私のこと・・・私の顔も・・・知ってるのかな・・・


「あれ、なんで梨華ちゃん、よしこの隣座んないの?」


石川さんは吉澤さんの横じゃなくて、
藤本さんと里田さんの間に座った


吉澤さんはその姿をボケーと見てる


もしかして・・・私のこと気にしてくれてるのかな・・・
871 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:37
「いや・・・美貴ちゃんとまいちゃんと全然話してなかったし・・・」
「まぁそうだね。家帰ったら、好きなだけイチャイチャできるもんね」
「もー美貴ちゃん!」
「ごめんごめん」


怒ってる石川さんとは逆に顔を真っ赤にしてる吉澤さん


そのときに見えた、2人がしてるネックレス


石川さんの首には“H”の文字のネックレス
吉澤さんの首には“R”の文字のネックレス


あれって、本当は自分のものだったんだ
渡せなかった“H”のネックレス・・・

どんな気持ちで片方だけの“R”をつけていたんだろう


なのに、私はあんなこと言っちゃって・・・
ごめんなさい、吉澤さん


でも、もういいよね?

2人とも凄く幸せそうだから
872 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:39
藤本さんと里田さんがかなりの量のお酒を石川さんに飲ませて、
石川さんはベロベロに酔っ払っちゃってる

吉澤さんは必死に止めてたんだけど、
石川さんは久しぶりにみんなと会えたせいか、もの凄くテンション高くて、
キャッキャッ言いながら、いっぱい飲んでる


可愛いなぁ・・・


吉澤さんが惚れちゃうのも、分かる気がする


私とは全然似てない・・・
だって私より可愛いもん


「美貴ちゃぁん・・・」


酔っ払った石川さんは横にいる、
藤本さんにしなだれかかるように肩に頭を乗せる
873 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:41
「なぁに?梨華ちゃん」
「好きだよぉ」


とろーんとした目で上目遣いをして、
凄い近い距離で話してる


「美貴も梨華ちゃんのこと好きだよー」


あんまり飲んでない藤本さんも調子に乗っちゃって、
石川さんの頭を撫でている

そんなことしちゃったら・・・


「てめっ!バカ!誰が触っていいっつったよ」


ほら、怒っちゃったじゃん


吉澤さんが藤本さんの腕をとる
874 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:44
「梨華ちゃんが甘えてくるからしょーがないっしょ?」
「ったく・・・梨華ちゃ」


吉澤さんは2人の間に入り込んだ


「いやぁだ!美貴ちゃぁん」
「梨華ちゃぁん」


吉澤さんのことはまるっきり無視状態で
引き離された恋人同士のように手を伸ばし合ってる


「コノヤロ・・・」


見かねた吉澤さんは石川さんの手を引っ張って、
壁側に連れて行った


ちょっとごめんね・・・あ、ごめんね

なんて、みんなに謝りながら・・・
875 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:45
だけど石川さんは・・・


「なぁに?・・・・・・美貴ちゃぁん!」


ぽかーんとした顔をしてると思ったら、
離れていく藤本さんにまた手を伸ばしてる


「きゃー梨華ちゃんが遠くに行っちゃうよー」
「いや、1メートルもないから」


冷めた声でそう言って、
吉澤さんは誰にも触れさせませんってな勢いで、
横をがっちりに固めてる


「梨華ちゃん、大丈夫?」
「んぅ・・・」


髪を撫でている吉澤さんと
吉澤さんに気づいて、微笑んでいる石川さん
876 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:47
でも石川さんは吉澤さんじゃなくて、壁の方にしなだれかかる


「ほら、こっち・・・そっちはダメだって・・・梨華ちゃん、こっち」
「んぅ・・・」


石川さんの肩をもって、吉澤さんの方に引き寄せるけど、
何度引き寄せても石川さんは壁の方にしなだれかかる


「ねぇよしこ。梨華ちゃんはよしこより、壁が好きみたいよ」
「・・・うるせー・・・」


吉澤さんは諦めたのか、
自分の膝に石川さんを寝かせる


「んぅ・・・」


石川さんは気持ちいいように微笑んで、
吉澤さんの膝に頬をくっつける

どうやら収まったみたいだ
877 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:48
「あーぁ。大変だねー」


その姿を見ていた藤本さんがため息混じりに言った


「あたしでしょ?ったく、考えて飲んで欲しいよね。
酔っ払ったら、誰にでもああやって甘えるようになるなんてさ・・・」
「いや、大変なの梨華ちゃんだから。」


ぽかーんとしている吉澤さん


「は?なんで?」
「いや・・・別になんもないです」
「そーいやーさ?よっちゃんと付き合ってた期間より
旦那さんと結婚した期間の方が長いんだよねー
ってことは、旦那さんとの方がやっちゃった回数は確実に多いね」


目がきらきら輝きだした藤本さん
どうやら、吉澤さんをからかい出すみたい
878 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:50
「そうだー!あるのとないのじゃ、やっぱ違うのかね・・・」
「まいちゃん、下品すぎ」


横にいる柴田さんが冷たく言う



「ってことはだよ?もしかしたら、妊娠してる可能性もなくはないよね?」
「は!?んなことあるわけないでしょ・・・自分の意志で結婚したわけじゃないんだから」
「いや、それでも旦那さんは梨華ちゃんのこと好きだったわけでしょ?」
「・・・はぁ〜」



吉澤さんは大きくため息をついて
テーブルに崩れるように顔を伏せた



それから吉澤さんはやけくそになりながらお酒を飲み出した
879 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:50
 
880 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:51
「ひとみちゃん、起きなさい。
残して、おうちに帰っちゃうよ?」


いつの間にか酔いが覚めた石川さんは
子供に言い聞かせるような優しい声で吉澤さんに話しかける




・・・――――――――




「・・・梨華ちゃん、下ろして!」


吉澤さんは顔をあげて、突然言った


「え?なんのこと?」
「・・・だから!赤ちゃ・・・んがーー」
881 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:52
藤本さんが凄い勢いで
吉澤さんの口を手で覆う


「梨華ちゃん、今度遊びに行こうね」


している行為とは裏腹に、
石川さんに笑顔を向ける



「う、うん!連絡するねっ」
「ふわ〜・・・」
「ほら、ひとみちゃん。帰るよ」
「ひゃぁーい!」



お母さんと小学生の子供のように
2人は手を繋いで帰っていった
882 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:52


「よかったね」



柴田さんが最後言った一言


その言葉に全部が詰まっているように感じた


本当によかった・・・


石川さんが戻ってきてくれて・・・


これからは存分に幸せになってくださいね、吉澤さん

883 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:53
 
884 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/15(日) 22:53
 
885 名前:ルビ 投稿日:2012/04/15(日) 22:53
本日は以上です。

次が最終回になる予定です。
886 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/15(日) 22:55
うむ、柴ちゃんの言葉通りです!
次回最終回ですか!?
終わるのは寂しいですが楽しみにしています
887 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/16(月) 00:00
ここまで大変なおもいをしてきた二人だから素敵な最終回を期待してます!
888 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/16(月) 08:32
次回最終回ですかあ。
寂しくなりますねえ…。
889 名前:ルビ 投稿日:2012/04/20(金) 00:19
>>886 ありがとうございます。
ご期待に応えられるかどうか分かりませんが、是非読んで下さいっ

>>887 ありがとうございます。
期待に応えられるといいですが・・・どうでしょう

>>888 ありがとうございます。
そう言っていただけると嬉しいです。最後までどうなるか分かりませんが、
是非読んで下さいねっ
890 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:20
 
891 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:20
 
892 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:21


●   ●   ●

893 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:22
私は彼ときちんと離婚することが出来た
もちろん簡単にというわけではなかったけど、
彼がとてもよくしてくれて、
パパと彼との関係も悪くなることなく
離婚することが出来た

そして、私はひとみちゃんたちがいる会社に戻った
最初は戻ることは出来ないと言われたけど、
上司に美貴ちゃんとまいちゃんと柴ちゃん、それからひとみちゃんが
色々と言ってくれたらしくて、私は元の生活に戻ることが出来た

彼と離婚して、すぐにひとみちゃんと両親に会いに行った
だけど思った通り門前払いで、ひとみちゃんの顔さえも見てくれなかった
それでもひとみちゃんは毎週のように両親に会いに行った
894 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:23


――――ピーンポーン



『はい』
「ママ?梨華だけど」
『・・・梨華1人なら入っていいわよ』
「もうママ!!」
「お母さん!あたし・・・」



ブチッ・・・――――――――



正直言って、その連続だった

895 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:23
 
896 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:24
「ね、ひとみちゃん。駆け落ちしよう?」


ひとみちゃんの腕にある頭を上げて、ひとみちゃんの顔を覗き込んだ

パパとママに会うことを拒否される度に
ひとみちゃんは悲しい顔をしている
私にはそれが耐えられなかった


「え?」
「全部・・・なにもかも捨てて、どこか遠いところに行こう?」


私の好きな人の話も聞いてくれない
ましてや会ってくれもしない
そんな親・・・


「梨華ちゃん、知ってる?ベッドの上での気持ちは一時だけなんだよ?」


そう言って、私の頭をゆっくりと腕に乗せる
897 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:26
「私の気持ちは一時なんかじゃないっ!
・・・いいの。もう本当に・・・私にはひとみちゃんさえいてくれれば・・・」


私がその場の勢いで言っていないことに気づいたのか、
真剣な顔で私をじっと見つめる


「梨華ちゃんは・・・パパとママが大好きだったんじゃないの?
自分の人生を犠牲にしてまで、パパとママの言う通りにしたでしょ?」
「そうだけど・・・」


声が震えている私をひとみちゃんは優しく抱き締めてくれた


「諦めたくないんだよ。ただでさえ、女同士って世間から差別されるのに、
梨華ちゃんの親からも、そういう風に見られたくない。」
「ひとみちゃん・・・」


私を抱き締める力が強くなったのが分かった


「でも・・・もし、一生認めてくれなかったら?」
「・・・一生、頭を下げ続ける」
「・・・じゃあ、もしまた無理矢理結婚されそうになったら?」
898 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:26




・・・――――――――



ひとみちゃんが黙り込んだ



私が見上げると、決心したような目をしていた


「・・・次は、絶対梨華ちゃんを離さない。
自信が・・・持てるようになったんだ・・・
梨華ちゃんから愛されてるって自信・・・だから・・・」


言葉に詰まったひとみちゃんの頭を
自分の腕に乗せて、強く抱き締めた


次はひとみちゃんの番・・・
899 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:27



「愛してるよ。とっても・・・」
「うん」
「もう離れないよ。ぜったい・・・」
「うん」



今までもこうやってお互いに支えてきた
だから、これから何があっても、
また同じように、腕枕をし合って、
抱き締め合って、頭を撫で合おう?


900 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:27
 
901 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:29
月日が経つにつれ、ママが私たちを受け入れているように感じた
家にはパパがいるからか、入れてくれなかったけど、
外にママが出てきてくれて、挨拶程度だけど会ってくれるようになった


でもパパは完全にひとみちゃんのことを無視した
それどころか、私のことさえも避けるようになった


当然だ・・・
一度は縁を切るとまで言われた。
お父さんの会社の人で、勝手に離婚までしてしまった
離婚をしたかと思ったら、ダメだとさんざん言われた彼女と同棲している


無視されるのも、避けられるのも当たり前のことなんだけど、
でも、それでも、ひとみちゃんは諦めなかった

雨の日でも風の日でも毎週日曜日には
私の実家に出向いた

だけど、いつの間にか
いつか・・・ひとみちゃんが諦めちゃったらどうしよう
もう行かないって言ったらどうしよう
という心配で日曜日が憂鬱な日に変わっていった
902 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:30
その生活が1年を過ぎようとしていた、ある日・・・――――




『梨華!?』


ママからの突然の電話だった



「どうしたの?」



ママからの電話は、
パパが工事現場で足を滑らせて、
高い所から落ちてしまったということだった

パパは建築会社で働いていて、
見学をしていたところだった


私はまだ残業しているひとみちゃんに、
メールで伝えて、急いで病院へと急いだ
903 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:30
 
904 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:31
「大丈夫・・・大丈夫だよ」


病院に着いたら、
パパは手術中だった

手術室の前でママは崩れるように泣いていた


「パパが大変なことになったら・・・ママは・・・」
「大丈夫。大丈夫だからね、ママ・・・」


ママが落ち着いたところに
ひとみちゃんが慌てたように走ってきた


「梨華ちゃん!お父さんは・・・」
「まだ・・・でも、きっと大丈夫だと思う」


ママの前では弱音を吐くことが出来なかった
ママにとって、パパは世界で一番大切な人だから

パパにとっても、ママは世界で一番大切な人
905 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:31
私は二番目


でも、その関係が羨ましかった

パパとママみたいな夫婦になりたいって思ってた



パパがいなくなったら、ママはどうなるの?
私だって・・・

パパがいなくなったら・・・


ひとみちゃんは椅子に座っているママに
丁寧にお辞儀をして、また私の方に体を向けた



「梨華ちゃん、強がらないでいいよ。
せめてあたしの前だけでは・・・ね?」

906 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:32
そう囁いた

その言葉を聞いた途端、
私はひとみちゃんに抱きついた


あぁ・・・なんでこの人は私が一番欲しい言葉を囁いてくれるんだろう

一番必要な時に、一番欲しい言葉をくれる



そのとき、泣きながらひとみちゃんに
抱きついている私をママがじっと見つめていたことに気づかなかった


色んなことを考えて、
頭痛がするくらいひとみちゃんの腕の中で泣いた


静かな廊下に私の泣き声だけが響いていた
907 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:32
 
908 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:33
結局、パパは命に別状はなく、
足を骨折しただけで、全治3ヶ月だった



次の日、私はひとみちゃんとパパのお見舞いに行った



扉の前で大きく深呼吸をしているひとみちゃん



「第一印象は大切に・・・」



そう呟いて、扉を開いた



・・・――――――――
909 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:34
「パパー?お見舞いに来たよ」
「おー・・・」



パパが私の姿を確認して、
ひとみちゃんの姿を確認した瞬間、
パパの顔が曇った



「あの・・・吉澤ひとみです・・・
あの・・・えっと・・・梨華さんの・・・」



ひとみちゃんは明らかに緊張していた



「私の恋人のひとみちゃんだよ」



ひとみちゃんは清々しく言った私を見て、
目を丸くして、体を固まらせた
910 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:35
なんで?
本当のことでしょ?

いつか分かることなんだから・・・


友人とか後輩とか
そんな言い回しは必要ないよ



「・・・帰ってくれ」



パパは胸に突き刺さるような低い声で呟いた


体が固まっているひとみちゃんは
パパに顔を向けた


「あの・・・」
「なんで?なんでよ!私の好きな人なのっ
認めてよ!お願い!男とか女とか関係ないじゃない!!」
911 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:35
外にも聞こえそうなくらいの声で私は言った
でもパパは・・・



「帰りなさい。パパは認めないからな」



それだけ呟くと、声をかけられることを拒むように、
私たちに背を向けた


「・・・ひとみちゃん行こう」
「え?」


私はひとみちゃんの手をとって、
病室を出て行った
912 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:36
病院を出たところで、
ひとみちゃんが忘れ物をしたらしく、
慌てて、病院に入っていった


目の前には救急車が止まっていて、
誰かが運ばれたあとみたいだった


こんな風にパパも運ばれたんだ


ママはどんな気持ちだったのかな・・・


ママがパパを想うのと同じように、
私はひとみちゃんを想ってる


ひとみちゃんがもし・・・


「ううん!何考えてんだ、私っ」


頭を思いっきり振っていると、
後ろからひとみちゃんの声がした
913 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:37
「なぁにやってんの?」


振り返ると、笑顔のひとみちゃん


「ひとみちゃん!大好きっ」
「バカ!こんなとこで何言ってんのっ」


私はこの人が生きてくれたら、
それでいいのかもしれない

一緒にいたら、どんどん欲が増していくけど、
ふとしたときに、ひとみちゃんがいなくなったら・・・
そんなことを考えてると、やっぱり私はひとみちゃんが
生きていることだけで十分だって思ってしまう
914 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:37
 
915 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:38
パパが倒れてから、
私は時間があったら、お見舞いに行くという習慣がついた


「ひとみちゃん、今日はご飯何にする?」
「今日は、いいや。外で食べてくる」


ひとみちゃんはなぜか、外食することが多くなった
会社の人ではなくて、昔の友達とって言ってるけど、
少し前まではそんなことはなかった
会社が終わったら、一緒に帰って、
代わりばんこでご飯を作り合って・・・


なのに、ここ最近は家に帰ることが遅くなったし、
夜に落ち着いて話せる機会も少なくなった
916 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:38
「ねぇ、ひとみちゃん」



久しぶりにできた2人の時間


ひとみちゃんはソファでウトウトしていて、
今にも眠りそうだった



「ん・・・なに?」
「あのさ、最近帰ってくるの遅いでしょ?
・・・本当に友達と会ってるの?」



ひとみちゃんは目をこすりながら、
座り直して、私の方に体を向けた



「前も言ったでしょ?友達がこっちに来てんだって・・・」
「いつまでいるの?その友達・・・」
「んーあと2ヶ月くらい?」
917 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:39
2ヶ月!?


おかしいよ・・・
絶対おかしい!!


別に夏休みでも春休みでもないし、
ましてや、ひとみちゃんと同じくらいの子が
そんなに休みを貰えるはずがない


「・・・いつのときの友達なの?」
「えーっと、中学生・・・かな」


目線を私から外しながら言った


「本当に・・・友達なの?」
「はぁ?」


あくびをしながら、背伸びをするひとみちゃんに苛ついた


「本当は、浮気してるんじゃないの!?」
918 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:40
「・・・なわけないじゃんか!なんであたしが浮気すんだよ」


だっておかしいじゃん!
もう1ヶ月だよ?
1ヶ月も帰りが遅くて、ご飯も外で食べて・・・
あと2ヶ月もこっちにいるって、そんなに休みが長いわけないじゃないっ

浮気してるんでしょ?本当は・・・

ひどいよ、ひとみちゃん
私はひとみちゃんだけなのにさ・・・
梨華ちゃんだけって言ってたのに・・・
もう私に飽きちゃったの?


息をしてるかってくらいの早さで言った


ひとみちゃんはそんな私を見て、
厳しい顔をしてる
919 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:40
ほら・・・やっぱり・・・やっぱりそうなんだ


「梨華ちゃんは・・・信じてないんだ?あたしのこと」
「・・・信じてないもなにも、そうなんでしょ?」
「・・・はぁ・・・」


なんでため息つくのよ!
私がため息つきたいくらいなのにっ


私はその場にいられなくなって、
家を出た
920 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:40
 
921 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:41
「はぁ・・・」



行くところがなくて、
病院まで来てしまった


実家までは遠いし、
柴ちゃんの家に行くには、時間が遅すぎるし・・・


今からじゃ、泊まりの許可、出ないかな・・・


病院の前でうろうろしていると、
看護師さんが私を見つけて、話しかけてくれた


「・・・石川さんの娘さんですよね?」
「知ってるんですか!?」
「もちろんです。今日はもう面会時間終わったんですけど・・・」


私はさっきあったことを看護師さんに言ってしまった
言わないと、公園に寝泊まりすることになるから・・・
話している自分の顔が真っ赤になっていくのが分かった
922 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:42
「・・・それじゃぁ・・・上の方にかけあってみますので、
中に入って、待っていてください。」
「本当ですか!?ありがとうございます」


私は深くお辞儀をして、
看護婦さんに続いて、病院の中に入った


――――――――


「パパ?」


看護婦さんは誤魔化してくれたみたいで、
私は宿泊許可を貰うことが出来た


『今日だけですよ』


私の耳元でそう言って、
お布団を用意してくれた


「こんな時間にどうした?」
923 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:43
「今日、泊まろうかと思って・・・」


私を確認したパパは驚いた顔で、
体を起こした


「なんだよ・・・珍しいな」
「そうかな?たまにはいいでしょ?こういうのも」


私はソファで横になって目を瞑った


「せっかく来たのに、もう寝るのか?」
「へ?あ・・・そうだね。
・・・今日はー・・・なんか変わったことあった?」


無理矢理な会話にパパは苦笑した


「・・・喧嘩でもしたか?吉澤さんと」
「え?」
「いくら家にいれないからって、
病院をホテル代わりにしたら、ダメだろ?」
924 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:44
さっきまで眠っていたせいか、
パパの声がとても優しかった

いつもひとみちゃんのことになると、
目くじら立てて、怒るくせに・・・


「・・・なんにもないよ。
本当にパパに会いたくなっただけ」


ズカズカと入ってきて、
そそくさとソファで寝ころぶ私が
なんと言おうと説得力なんてないよね

でも、喧嘩したなんて言ったら、
別れなさいって言われると思って言うことが出来なかった



「パパのせいか?」
「なんで?なんでパパのせいになるのよ」
「最近会えてないんだろ?」
「・・・え!?なんで知ってるの??」
925 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:44
私は布団を剥いで、
体を起こした





「吉澤さんが、パパの工事現場で働いてるからだよ・・・――――――――」






うそ・・・



どういうことなの・・・?



パパの工事現場で働いてるって・・・


926 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:45
それから、パパがゆっくりと話してくれた



あの日、パパが吉澤さんと初めて会ったとき―――――――


梨華と出て行ったあとに、
吉澤さんが1人で来たんだ。この病室に


「あ、あのっ」
「・・・」


顔だけで吉澤さんを確認して、
パパはまた背を向けた


「あの・・・あたし、梨華さんと家族になりたいって思ってます」
「は!?」


いきなり来て、そんなこと言われたから、
構えてたはずが、拍子抜けしちゃってさ

パパが吉澤さんの方に体を向けると、
吉澤さんは真剣な眼差しで話を続けた

927 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:47
昨日までは、梨華さんといつまでも
2人で一緒にいたいって思ってたんですけど、
昨日の夜、お父さんのことを心配して、
泣いているお母さんと梨華さんを見て、
家族ってこういうことなんだなって思ったんです。

自分のために、声を枯らすまで泣いてくれる人が
いてくれるって幸せなことだなって・・・
だから、あたし、梨華さんと家族になって、
お父さんとお母さんとも家族になりたいんです。
そんな幸せな家庭に・・・自分も入りたいって・・・
入れたら、どんなに幸せなんだろうって・・・

だけど、今のあたしじゃ、
認めて貰うことなんて出来ないことは十分承知です。
女同士っていう以上に、梨華さんに甘えてばっかりで、
全然支えになってあげられてない

だから・・・お父さんの会社の工事現場で働かせてほしいんです!


「はっ!?」


もちろん、お父さんの代わりなんてなれないですけど、
これでも、そこら辺の男子より根性もありますし、
体力もあるので!
928 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:48
あたし・・・何か、役に立ちたいんです。
梨華さんの大好きな家族のためにすることが
きっと梨華さんのためになるから・・・


「そんなこと・・・許可するわけが・・・」
「ありがとうございます!では、梨華ちゃん待ってるんで!」


そう言って、ダッシュで病室から出て行ったよ
許可もしてないのに、ありがどうって言われて・・・
きっと、吉澤さんの中では決まってたんだろうな
誰が何を言おうと、やろうって

それから1週間後に、会社の方から電話があって・・・
ずっと働いてる女がいるって・・・
梨華ちゃんの知り合いだって言われたらしい
腕っぷしがいいから、雇わせてもらいます
なんて言われてさ・・・でも、給料は全部パパの治療代に充ててくれって
断ったんだけど、わざわざ持ってきてくれてさ・・・
929 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:49
「変わった人だな、吉澤さんって」



私は胸が締め付けられた


そんなに考えてくれてたんだ。
私のことだけじゃなく家族のことまでも


「電話して、謝りなさい」


優しい顔で言うパパは
私の大好きなパパだった


「うん!」
930 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:49
 
931 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:50
「もしもし」
『梨華ちゃん!?今どこ!?』


ひとみちゃんの声の後ろに
かすかに車の音がした


「外にいるの?」

『うん。どこにいんの?迎えに行くから場所・・・』

「ううん!自分で帰るから・・・」

『・・・まだ怒ってる?』

「怒ってるよ!ひとみちゃんは女の子なんだから、
無理したらダメでしょ?迎えなんていいの。
ひとみちゃんに何かあったら大変でしょ?」

『・・・ごめん。でも・・・』

「ちゃんと、タクシーで帰るから大丈夫。」

『分かった。・・・あのさ、梨華ちゃん』

「なに?」
932 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:51
『あたし、浮気なんかしてないよ?
今はちょっと言えないけど、本当にしてない』

「もういいの・・・分かったから。ごめんね、疑っちゃって」

『もういいの!?』

「うん!」


きっと、ひとみちゃんが工事現場で働いてることを
私に言わない理由は、私が心配するからだろう

心配させないように
黙っていてくれてるんだよね・・・


マンションに着くと、
ひとみちゃんがキョロキョロしながら待っていた


ありがとう、ひとみちゃん
933 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:52
 
934 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:52
1週間後、

私はいつものようにパパのお見舞いに行った


「パパ〜」


あれ・・・?


病室に入ると、
そこには誰もいなかった



「梨華?」


後ろからの声に気づいて、振り返る



「ママ!パパはどこ?」
「今、リハビリしてるの」
「・・・リハビリ?ちょっと早いんじゃないの?」
「そうなんだけどね・・・頑張るって言って聞かなくて・・・」
935 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:53
お母さんはため息混じりに言ったけど
少しだけ嬉しそうだった


「梨華、ここに座って」


ママはソファに座って、
私を横に座るように手招きをした



「どうしたの?なにかあった?」



さっきの嬉しそうな顔から一転して、
真剣な顔だった



「梨華・・・よく聞いて?」
「うん」
「ママね、最初女の子と付き合ってるって聞いて、
自分を責めたの・・・育て方が間違ってたのかなって・・・
吉澤さんはとてもいい人よ?でもママにはただの“とてもいい人”
にしか見えなかったの。でもね・・・パパが手術した日に、
さっきまでは泣かなかった梨華が吉澤さんに抱きついて、
泣き出した姿を見て、吉澤さんは梨華にとって
心を許せる人なんだなって思ったの。」
936 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:54
ママの目には涙が浮かんでた


「梨華」


ママは私の手をとって、両手で覆うように握った



「本当に吉澤さんのこと愛してるの?」



その真剣な眼差しに真剣に答えないと
と思ったら、私も涙が零れてしまった


「うん・・・愛してる・・・とても」
「それなら・・・それなら・・・ママは応援する。
でも、中途半端な気持ちはダメよ?
世の中はまだ差別だらけなんだから・・・」


大きく頷くと、
ママは私を強く抱き締めてくれた
937 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:55
ごめんね、ママ


ありがとう、ママ


大好きだよ、ママ



私の気持ちが落ち着くと、
ママは私に一通の手紙を渡してくれた


「なに、これ」
「パパからよ・・・自分では渡せないからって・・・
ママはあなたたちのこと応援する。
だから、あとはパパ次第だからね?」


――――――――



病室から離れて、ロビーでゆっくりと手紙を読んだ

938 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:57
梨華へ


まず最初に謝らせてくれ。
梨華と吉澤さんのことを認めてあげられなくてごめん。
普通に結婚をして、子供を持って、家庭を作る。
それが幸せだと思っていた。今のパパが幸せなように。
だから、梨華も当然家庭を持つことが幸せなんだと思っていた。
でも違った。本当は幸せっていうのは、自分で掴むものだったんだよな。
誰かが無理に与える必要なんてないんだ。
前に、梨華がお母さんに
「ママはパパのことを男だから好きになったの」って
聞いたことがあった。最近になって、その言葉を思い出すんだ。
お父さんはお母さんのことを女だから好きになったんだろうか。
もし、同姓として生まれていたら、好きになっていただろうか。
今のお父さんは、うんと即答することができなかった。
愛を計ることはしてはいけない。
だけど、梨華と吉澤さんの愛は究極なのかもしれない。
世の中はお前たちが思ってるほど、優しくない
だから、これからたくさん苦労すると思う。
それでもいいんだって言うんであれば、
お父さんは梨華と吉澤さんを応援する。

最後に・・・無理矢理結婚させてごめん。
梨華のことをちゃんと考えてあげられてなかった。
これからは吉澤さんと一緒に頑張るんだよ?

もう病院なんかに泊まるな
ちゃんと帰る場所があるんだから

パパより
939 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:58



最後の最後に書いてあった



『パパのことはいいから、吉澤さんのところに行ってあげなさい。
仕事も、もうしなくていいから。力があるとは言っても、女の子なんだから
ちゃんと、梨華が守ってやるんだぞ?』


940 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:58
 
941 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 00:59






「ひとみちゃんっ」






・・・――――――――





目の前にヘルメットを被って、
作業着を着て、顔を真っ黒にしてるひとみちゃんがいる
942 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 01:00
「り、梨華ちゃん!なんでここに・・・」
「もうダメでしょ!?女の子なんだから」



私はヘルメットをとって、
自分の頭に乗せる


「誰から聞いたの?」
「パパから聞いた!」
「え!?お父さんから!?」


微笑んでいる私とは対照的に、
ひとみちゃんは驚いた顔で私を見ている


「認めてくれたのっ!私たちのことっ
応援するって言ってくれたの!」


「・・・」
943 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 01:00
ひとみちゃんの体が一瞬にして固まった
どこかに目線がいったまま、動かない



「あれ、ひとみちゃん?」



応答無し




「ねぇ!ひとみちゃんってば!!」



まだ応答はない




えいっ!
944 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 01:01
背伸びしてひとみちゃんの唇に自分のそれを勢い良くくっつけた



離れると、まん丸とした目で私を見つめてる



「戻った?」
「あの・・・え・・・マジで?」
「うん!本当だよ」



まだどこか信用出来てないひとみちゃん



「幸せにしなさいよ!」
「へ?」
「私も幸せにしてやっから!」
「・・・してやっからって。梨華ちゃん、女でしょ?」


945 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 01:02
まだ状況を飲み込めてないようなひとみちゃんに
私は思いっきり抱きついた



「ひとみちゃん、すげー愛してるぜー!!」



耳元で叫んだ声は
工事現場のみんなに聞こえたみたいで、
凄い視線を感じる



「ば、ばか!聞こえたら、どうすんの」
「いいじゃん!見せつけてやろーぜー」
「やろーぜーってなんなの、その言葉遣い・・・」



ひとみちゃん、これから一緒に成長していこうね?
何があっても、ずっと一緒だよ。
絶対離さないから、ひとみちゃんも私を離さないでね。
946 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 01:02
 
947 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 01:03


*   *   *

948 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 01:04
吉澤さんと石川さんが結婚して1ヶ月


会社での2人はどこの部署でも有名だった


結婚とは言っても、もちろん正式な結婚ではない


知り合いの人に式場を頼んで、
本当に身近な人だけの結婚式


しかも1日で2回も――――――


1回目は吉澤さんが白のタキシードで
石川さんは純白のウエディングドレス

吉澤さんはめちゃくちゃ格好良くて、
石川さんはとっても綺麗だった

誰が見てもお似合いの2人で、
2人のご両親も、涙を浮かべながら
バージンロードを歩く姿を眺めていた
949 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 01:05
そして2回目・・・

吉澤さんが純白のウエディングドレスで
石川さんが白のタキシード

失礼だけど、あまり似合ってなくて・・・
というか、この組み合わせが異常に違和感があって・・・

私たちはあまりの違和感に溢れ出そうになる笑みを
必死で抑えていたのに、藤本さんと里田さんは、
ケラケラ笑っていて、そのせいか、周りのみんなも笑ってた

当の本人たちは、
石川さんは周りを気にせず、胸を張って緊張してる面持ちなんだけど、
吉澤さんは藤本さんと里田さんの方を向いて、
顔を真っ赤にして、睨み付けていた


きっと、石川さんが提案したんだろうな

『ひとみちゃんも女の子なんだから』って


そのあとの披露宴では、反省を活かしたのか、
吉澤さんはずっとスーツだった
950 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 01:06
2人に向けられるカメラ
押されるシャッターの光
わいわい騒いでいる人たち
美味しいご飯
吉澤さんと石川さんの言葉に泣いているご両親

そして、何より幸せな2人・・・


そんな姿を見ると、
この2人が他の夫婦と足りないものなんて、
ただの紙切れだけだなんて思ってしまう

それどころか、紙切れで繋がっている夫婦より
心で繋がれている2人の方が私は美しく見えた



私が恋した人は、違う人を愛していた。

一生懸命追いかけようとしていたけど、
分かってしまった。
私は本当はこの人を愛してはいない。
私は彼女のようにこの人を包むことは出来ない。
自分の幸せよりなんて思うことが出来なかった。
951 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 01:07


この人の悪いところを包んであげることが出来なかった
でも彼女は悪いところも含めて、この人のことを愛した。

それは逆も言える。
この人は彼女の悪いところも良いところもすべて包んでいる。

でも今は、とても幸せな気分でいる


恋した人が、愛した人と笑顔で一緒にいることがとても嬉しい

きっとその力はこの人たちだから出る力だと思う

いつでもこの2人の周りにいる人たちは笑顔で、楽しそう



私も・・・いつか、こんな人に巡り会えるといいな――――――――

952 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 01:08
 
953 名前:私が恋した人 投稿日:2012/04/20(金) 01:08
 
954 名前:ルビ 投稿日:2012/04/20(金) 01:08


おわり

955 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/20(金) 01:45
ルビ様素敵な最終回をありがとうございます。胸が熱くなりました。目頭も。
新しい作品を期待してもいいですか?
956 名前:ルビ 投稿日:2012/04/22(日) 14:24
>>955 ありがとうございます。
スレが残り少なくなってきたので、少しの間短編になりますが、
ストックが結構あるので、たくさん更新していきたいと思いますっ
957 名前:ルビ 投稿日:2012/04/22(日) 14:25
リアルものの、ショートストーリー??を書きます。
958 名前:石川さんと吉澤さんの観察日記 投稿日:2012/04/22(日) 14:29


959 名前:石川さんと吉澤さんの観察日記 投稿日:2012/04/22(日) 14:29
960 名前:石川さんと吉澤さんの観察日記 投稿日:2012/04/22(日) 14:29



○月×日



事務所にて



961 名前:石川さんと吉澤さんの観察日記 投稿日:2012/04/22(日) 14:32
会議室でマネージャーと談笑していると、
横から騒ぎ声が聞こえた。

私は誰だろうと疑問に思いながら
外に出て、ガラス越しに中を覗き見ました。
そこには・・・


「違うよ!片目だけ閉じんの」
「だから、私はウインク出来ないんだってばっ」
「なんで出来ねーの?片方だけ瞑って、片方だけ開ければいいんだよ?」
「そんなの誰だって分かってるよ!」


あらぬ格好で何やってるんだこの人たち・・・


よ・・・じゃなくて、HANGRYさんが携帯をANGRYさんに向けていました。

写真でも撮ってんのかな・・・


こちらからはANGRYさんの表情は見えなくて、
HANGRYさんの背中しか見えませんでした。
962 名前:石川さんと吉澤さんの観察日記 投稿日:2012/04/22(日) 14:33
「他のやつがいいっ!」
「えー・・・じゃぁ視線は左向いて」
「うん」
「それで、口膨らませて」
「こう?」
「そう!おっけーっ!それが初級ね」
「えー!?これが初級なの?」


本当に何やってるんだ・・・


「じゃぁ撮るから、またその顔して」
「はーい」

パシャッ


「・・・ちょ・・・フハハハハッ」
「なに!?どうしたの!?」


HANGRYさんは撮った写真を見て
お腹を抱えながら笑ってます。
963 名前:石川さんと吉澤さんの観察日記 投稿日:2012/04/22(日) 14:34
「梨華ちゃん、白目になってる・・・ハハハッ」
「ちょっと待って!!消して消して!!」


事務所の中で、しかも会議室で
しかも20代そこそこの女性同士が追いかけ合ってる光景を
私はどう捉えればいいのか・・・


「別にいーじゃん!あたししか見ないんだしっ
誰にも見せないからっ!」
「だって、どうせ家に帰って、それを見て大笑いしてるんでしょ?」
「あったりめーよ!なんのために保存すんの?」
「もー!!消してって!!私アイドルなんだからねっ」


HANGRYさんはその身長を活かして、
携帯を取ろうとしているANGRYさんを上手くかわします。


「別に、あたしにとってはアイドルじゃねーもん
ファンに見せなきゃいーんでしょ?」
「もー!!!」


ANGRYさんは諦めたかのように、
静かになりました。
964 名前:石川さんと吉澤さんの観察日記 投稿日:2012/04/22(日) 14:39
「もうANGRY、悲しいから、この写真見て、癒されよう・・・」

そう言って携帯を出し、何か操作をしていました。

HANGRYさんはそんなANGRYさんを知らん振りをして
携帯を見て爆笑しています。

「キャー!かわいい!!
よっすぃーが私のねんね掴んで寝てるぅー」
「は!?なにそれ!?」

また追いかけっこが始まる

「新幹線で、私がねんねにくるまって寝てたら、
よっすぃーが私のねんねに入り込んできたみたいで、
起きたら、2人でねんねにくるまってたんだよぉ!」
「なんじゃそれ!?聞いてないよ!?」
「言ってないもーん!HANGRYさんもねんねが欲しい年頃なのねー」

あーお腹いっぱいお腹いっぱい

話しかけようとしたけど、やめました。

こんな先輩たちと付き合ってらんないよ・・・
965 名前:石川さんと吉澤さんの観察日記 投稿日:2012/04/22(日) 14:40


追記:ANGRYさんに後日、この前何をやってたか聞いたら、
『よっすぃーに変顔の特訓してもらってるの。よっすぃーね、携帯見て笑ってると思ったら、
いつも私の変顔を見て笑ってるんだよ?どう思う?』
と思いっきり惚気られました

966 名前:石川さんと吉澤さんの観察日記 投稿日:2012/04/22(日) 14:40



○月×日


新幹線にて


967 名前:石川さんと吉澤さんの観察日記 投稿日:2012/04/22(日) 14:42
今日は地方で仕事があって、
モーニング娘。OGの何人かと新幹線に乗っていました。


私の前の座席はあろうことか石川さんと吉澤さん
そして私のすぐ前は石川さん
そして私の横には美貴ちゃんが爆睡していました。

椅子と椅子の間から吉澤さんが見える
それもニヤニヤして、寝ているであろう石川さんを見ています。


なに、この変態・・・


私はほんのちょっとした好奇心で
吉澤さんの行動を見ていました。


携帯を取り出して・・・
石川さんの方に向けて

吉澤さんは体を揺らしながら、口に出さずにニヤニヤ笑ってます。

人の寝顔見て、なにが楽しいんだ、この人は・・・
968 名前:石川さんと吉澤さんの観察日記 投稿日:2012/04/22(日) 14:46
そして笑っているからか体が揺れているため、ブレそうになる携帯を両手で持って、
ニヤニヤしながら携帯越しに寝顔を見ています。

そして、勢いよくボタンを押して、
パシャッと音が鳴りました。


「・・・ん・・・あれ?よっすぃー起きてたの?」


その音に反応した石川さんがあくびをしながら座り直します。
吉澤さんは慌てて携帯をバックの中に入れました。

「う、うん」
「そう・・・あと何分で着くかな?」
「30分くらいじゃない?」
「そっか・・・もう一眠りしようかな」

こうやって吉澤さんの携帯のフォルダの中には
石川さんの寝顔が増えていくんだ・・・

前は『機嫌が悪いときに、これ見せると、照れながらもすぐ機嫌が良くなんの。
だから撮ってるんだよねー』
なんて言ってたけど、今日の吉澤さんを見ると、
石川さんにも見せない寝顔の写真がいっぱいあるんだなと変に確信してしまいます。

さて・・・今日の石川さんの寝顔写真は
石川さんの手元に届くんだろうか――――――――
969 名前:石川さんと吉澤さんの観察日記 投稿日:2012/04/22(日) 14:46



○月×日


楽屋にて


970 名前:石川さんと吉澤さんの観察日記 投稿日:2012/04/22(日) 14:48
「ねー麻琴、写真撮んない?」
「いいですよー」
「今さ、あたしの携帯、充電切れてっから、麻琴の携帯で撮って」
「はいよー」

私は言われた通り、手元の携帯をとって、
カメラの準備をしました。


・・・


「ちょっと吉澤さん?」



吉澤さんは私の肩を抱いて、
顔もほっぺたがくっつくくらい近づけてきました。


「ほれ、写真撮んでしょ?はい、かまえてー」


私は言われた通りに構えます。
971 名前:石川さんと吉澤さんの観察日記 投稿日:2012/04/22(日) 14:50
ちょっと・・・いいんですか・・・

あの人の・・・あの先輩の視線をじりじりと真横から感じました。



パシャッ――――――――



「よーしっ!」
「じゃあ、赤外線で・・・」


携帯を見たあと、顔を上げて吉澤さんを見ると、
なぜかチラチラと石川さんを見ていました。


でもニヤニヤしているのはなぜ?


「麻琴ぉー」


ほれほれ来たよ
まったく嫉妬深いんだから石川さんは・・・
972 名前:石川さんと吉澤さんの観察日記 投稿日:2012/04/22(日) 14:53
と思ったのも束の間
石川さんは予想外のことを言い出しました。

「ずるいよ!麻琴はあたしのものでしょ?」
「へ?」
「写真撮ろうよぉ」

甘えるように私に抱きついてくる先輩
それを見て口も目もあんぐりな先輩


ありゃりゃ、吉澤さん墓穴掘っちゃったよ

きっと嫉妬して欲しかったんだな
吉澤さんと私がくっつくことで、私に嫉妬してる姿を待っていたんだと思います。

でもそんな嫉妬の矛先はこともあろうか吉澤さん


私はそんなことどうでもいいという風に、
にこやかーに笑顔を振りまき、私もこれでもかってくらいに石川さんにくっつきます。


石川さんの体って柔らかくて、
暖かくて居心地いいんです。

・・・あ、変な意味じゃないですよ?
973 名前:石川さんと吉澤さんの観察日記 投稿日:2012/04/22(日) 14:57
「よっすぃー、私の麻琴に手を出さないでよねっ」
「誰が手出すかよ!!」

口を尖らせて言う石川さん


吉澤さんは怒って、外に出ようとしました。


「あ、吉澤さん!さっきの写真・・・」
「いらねー。消しといて」



・・・



ムカ・・・



結局そうなのかいっ


・・・いつまで私はこの2人に遊ばれるのだろうか

大迷惑な先輩たちだけど、
なんだかんだ言って、やっぱり大好きな先輩たちなんです。

まあ、苛立つことはしょっちゅうですけど・・・
974 名前:石川さんと吉澤さんの観察日記 投稿日:2012/04/22(日) 14:57


by 小川麻琴

975 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/23(月) 00:06
まこっちゃん視点もいいですね〜
976 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/23(月) 00:51
まるで見てきたような本当のことを......

あなたの作品まだまだ読みたいです。
977 名前:ルビ 投稿日:2012/04/23(月) 18:31
>>975 ありがとうございます。
本当にここのいしよしはまこっちゃんに迷惑かかりすぎですよね・・・汗
でもこれからも・・・まこっちゃんにはたくさん出てもらう予定です・・・

>>976 ありがとうございます。
かなり情報があるので、いしよしは本当に書きやすいし、
妄想もしがいがあります!そう言って下さると、本当に嬉しいです!
まだまだじゃんじゃん書くつもりなので、是非読んで下さい!
978 名前:ルビ 投稿日:2012/04/23(月) 18:43
最後に・・・
読んで下さった方々、本当にありがとうございました。
本当に未熟者で、どうしようもない小説しか書かなかったんですけど、
コメントを下さることで、とても励みになっていました!
私としてはまだまだ書くつもりなので、
次スレでも是非読んで下さると嬉しいです。

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