未来ノトビラ
1 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/07/13(水) 15:35

CPはいしよしです。

2 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/07/13(水) 15:36

中編予定だと言うのに、恐れ多いタイトルをつけてしまいました・・・

秋に新たな扉が開くことを期待しつつ、
秋ツアー前には終える予定です。

それではどうぞ。


3 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/13(水) 15:37


  『未来ノトビラ』


4 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/13(水) 15:38


『わたし結婚するの』

そう言った梨華ちゃんは笑顔だった。



月に一回、必ず集まる高校時代の仲良し4人組。
それぞれ別の道に進んだけど、色あせることなく続いているアタシ達の友情――

しっかり者の藤本美貴は、バリバリの営業ウーマン。
抜けてるようで自分をしっかり持っている後藤真希は、
既に自分の店を持つヘアメイクアーティスト。
普段は大人しいけど、実は熱くて芯の強い石川梨華は、幼稚園の先生。
そしてアタシ、吉澤ひとみは最近ちょっとだけ
世間に認められつつある写真家だったりする。

ほんと個性的な4人。
けれど、とことん気が合って、
卒業してもう8年経つというのに
ちゃんと時間を作って、毎月律儀に集まってる。

5 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/13(水) 15:38


『今度またオランダに撮影に行くんだ』

その日の集まりの最初に、
アタシは皆に報告するつもりでいた。

『今までは2週間くらいで帰国してたけど
 今回は半年ほど向こうに滞在する予定なんだ』

結構大掛かりな撮影を任されたことを
一番に親友たちに教えたくて。

『だからしばらくは、この集まりには
 参加できないけど戻ってきたらよろしく!』

喜んでくれると共に、またお土産いっぱい頼まれるだろうなぁ・・・
なんて店に入るまでは、ボーッと考えてた。

6 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/13(水) 15:39

店に行くと、いつも通り美貴が一番乗りで。
向かい合わせに座るとすぐ、梨華ちゃんが到着して
アタシの隣に座った。

いつもの定位置。
梨華ちゃんとアタシが隣同士で
美貴とごっちんが向かい側。

長い付き合いの中で
自然と決まった4人の定位置。

ほどなくごっちんが到着して
『さあ飲むぞ』
そんな空気になった時だった。

ふと感じた左肩の重み――

そこに視線を移すと、何も言わず、ただ目を閉じて
アタシの肩に頭を乗せた梨華ちゃんがいた。

7 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/13(水) 15:40

どうしたんだろ?
何かあったのかな・・・

そんな風に思わせるほど
それは唐突で、珍しい行為だった。

美貴がしたのなら納得。
彼女は、普段から触れ合うことが好きだから。
ごっちんだったら眠いの?って思う。

けど普段の梨華ちゃんはこんなことしない。
抱きついたり、手を繋いだりさえしない。

アタシが肩を抱き寄せて
一緒に写真に写ったりはするけど
必要性のないところで、ましてや梨華ちゃんの方から
肩にもたれかかってくるなんて、今まで一度もなかった。

案の定、向かい側に座る
美貴もごっちんも驚いた表情をしていて・・・

8 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/13(水) 15:40


『梨華ちゃん、何かあったの?』

そう問いかけようと思ったけど
彼女から感じる温度が気配が、すごく繊細な感じで。

『何も聞かないで』

そんな風に、切に訴えられている気がしたんだ。

だからアタシは、アタシだけが感じる
彼女の温度を気配を、守ってあげなきゃいけない気がして・・・

驚きと心配の視線を向けていた向かい側の2人に

『そんな顔してどうした?
 梨華ちゃんはアタシと2人の時はいつもこんなだよ?』

そんな思いを込めて
当たり前の出来事だって視線を送って
左肩を動かさないように気をつけながら
メニューを取って、真ん中に置いたんだ。

9 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/13(水) 15:41

とりあえず、ビールと幾種類かのつまみを頼んで
店員さんが下がったところで、梨華ちゃんは頭を上げた。

「何頼んだのぉ〜?」

そう言ってメニューを広げる梨華ちゃんの声は
いつも通りで。

「あ〜、わたしこれも食べた〜い!」

目当ての品を指差しながら
向かいの2人に言う梨華ちゃんもやっぱり
いつも通りで。

さっきアタシが感じた温度や気配は
彼女の言動からは綺麗に拭い去られていて、安心すると共に
取り越し苦労だったかな?なんて思ったくらいだった。

10 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/13(水) 15:42

「「「「かんぱ〜いっ!!」」」」

4人の声が重なって
月一の宴が始まった直後だった。


「わたし結婚するの」

まばゆいばかりの笑顔で
梨華ちゃんはそう言った。

「マジ?!」
「誰と?!」
「いつの間に?!」

アタシ達の矢継ぎ早の質問に
頬を染めながら答えていた彼女は、とても幸せそうで。

お開きになる頃には、最初にアタシが感じた心配なんか、
どっかに吹っ飛ぶくらい、幸せそうな笑顔を振りまいていたんだ――

11 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/13(水) 15:42


「り〜かちゃん!ヘアメイクは
 ごとーに任せてよ!」

祝宴と化した本日の宴で、したたか酔ったごっちんが
梨華ちゃんの腕に、自分の腕を絡ませながら言う。

「もちろん、そのつもり」

「じゃあ、美貴は〜?」

反対の腕に、ぶら下がるように
これまた酔った美貴が梨華ちゃんに絡む。

「美貴ちゃんには、スピーチ
 お願いしたいの」

「かしこまり〜」

なんだよ。
2人して満足そうにしやがって。

12 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/13(水) 15:43

梨華ちゃんの両腕にぶら下がる酔っ払いを
払いのけて、梨華ちゃんの肩を抱いた。

「んじゃ、式の写真はアタシに撮らせてよ」

そのまま隣から顔を覗き込んだ。

「・・・出発前の忙しい時に悪いよ」

「何だよ、水くさい。
 最高に綺麗に撮ってあげるからさ」

そのまま少し離れて
カメラを構えるフリをする。

梨華ちゃんの前に立ちはだかって
ポーズをとる2人組。

「お前らじゃねーよ。
 かわいい花嫁さんを撮るの!」

そう言った時も、梨華ちゃんはすごく嬉しそうだった。

13 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/13(水) 15:43

そして式の当日。

きらめくウェディングドレスに身を包んだ梨華ちゃんは
ごっちんの腕によって、更に輝いていて。

アタシが一瞬、言葉を失うほど
それはそれは美しくて――

すぐさま、カメラを構えて
美しい梨華ちゃんを撮り続けた。

大切な親友の。
かけがえのない仲間の。

最高に輝く姿を
この手でたくさん残してあげたいって――


14 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/13(水) 15:44


「やっぱり・・・」

出来上がった写真を自分のデスクに並べ
一つ一つを入念にチェックしていく。

式の翌日つまり今日、日本を経つ予定のアタシは
一刻も早く彼女の姿を確かめたくて、ほぼ徹夜で現像した。


真っ白なドレスと
色鮮やかなドレス。

キラキラ光る指輪に
背の高いケーキ。

色とりどりの花。
各テーブルに灯るキャンドルの光・・・


どれも幸せの象徴のはずなんだ。

15 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/13(水) 15:44


笑ってる梨華ちゃん。
はにかんでる梨華ちゃん。

ふと遠くを見つめる梨華ちゃん。
唇を噛み締める梨華ちゃん・・・

悲しげな瞳の色。
うっすらと浮かぶ目の下のクマ――


「――全然幸せそうな顔してないじゃん・・・」

昨日一日、ずっと感じていた違和感。
周囲に笑顔を振りまいているときでさえ
レンズ越しの彼女は、笑ってなんかいなかった・・・

16 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/13(水) 15:45

「梨華ちゃん、体調悪い?」

たまりかねて、式の途中でアタシは尋ねた。

「全然。どうして?」
「いや・・・、なんとなく、さ・・・」

言えなかった。
『結婚したくないの?』なんて。

彼女が決めた道。

驚くほど唐突だったけど、
こうと決めたら突き進む彼女らしい選択で。

本当に大切そうに、梨華ちゃんに接する彼と
あの日、あんなに嬉しそうに報告してくれた彼女。

どれも、不幸になる要素なんてない。
きっと疲れてるだけだ。

昔から梨華ちゃん、
無理しすぎちゃうところあるから・・・

17 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/13(水) 15:45

「つらかったら言ってね?」

彼女のアップを撮るフリをして、
そっと梨華ちゃんに囁いた。

具合悪かったら、ウチラ3人で
場を盛り上げるとか、何でもするし。

そんなつもりで、アタシは言った。

「うちら、頼れる親友だよ?」

けれど梨華ちゃんは、
一瞬だけ眉間にシワを寄せると
何かを堪えるようにグッと奥歯を噛み締めた。

そして、アタシを真っすぐ見ると言ったんだ。

「ねぇ、よっすぃ〜
 わたし綺麗かな?」

18 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/13(水) 15:47

「当たり前じゃん。
 最高に綺麗だよ」

梨華ちゃんを笑顔にしてあげたくて。

「新郎がうらやましいよ。
 こんなカワイイお嫁さんもらってさ」

いつもの笑顔を少しでも
取り戻してあげたくて。

「出来ることなら、
 アタシのお嫁さんにしたいぐらい」

おどけたように、そう言った。


 『もうまた、よっすぃ〜ったらぁ』

少し高い、甘えたような声で
きっとそう言って、笑ってくれるはずだって思った。

なのに梨華ちゃんは、
アタシを見つめたまま、静かに一筋の涙を流して

「ありがとう。よっすぃ・・・」

消え入りそうな声で
そう呟いただけだった――

19 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/13(水) 15:48


「やっぱ、結婚したくなかったのかなぁ・・・」

梨華ちゃんの写真を眺めながら
一人つぶやく。


――あの彼、ほんとは性格悪かったりして・・・

それはないな。
人の良さだけがウリだって言ってたし・・・

――じゃあ、あれだ。薄給なんだ。

いやいや、それもない。
年収聞いたけど、アタシよりいいし。

――顔がダメとか?

う〜ん・・・。アタシほどイケメンじゃないけど
まあ悪くはないと思うし・・・

――そっか!Hがヘタなのかも。

あ、でも交際期間短くて
まだしてないって言ってたっけ・・・

20 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/13(水) 15:49

次々と浮かぶ答えを
自分自身で否定しながら、作業を進める。

現像した写真をまとめて
新しい住所と新しい姓になった梨華ちゃん宛の封筒に入れた。

「ナーバスになってただけなのかなぁ・・・」

全てが新しい環境になるんだもんな・・・
不安がるのも無理ないか・・・

中に同封する手紙を書こうとして
ふと時計を見た。

――出発まで、まだ充分時間あるよな・・・

準備は出来てるし、
あとは空港に向かうだけだし・・・

21 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/13(水) 15:49

もう一度、新しい住所を見る。

――途中で寄れないこともないよな・・・


やっぱり心配だった。
昔から、一人で抱え込んでしまう梨華ちゃん。
少しでも吐き出して元気になるなら
不安が半減するなら、力になってあげたい。

目的地までの地図と行き方をサッと調べると
封筒と大荷物を抱えて、アタシは家を出た――

22 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/13(水) 15:49


23 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/13(水) 15:49


24 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/07/13(水) 15:50

こんな感じで始めました。
以後宜しくお願いします。

25 名前:名無し留学生 投稿日:2011/07/13(水) 19:51
新作来た!

ネタ扱い上手いですねwww
しかし、梨華ちゃんの連載の事を考えたら、余計に切ないを感じるのは私だけではないでしょうか?
ドSな玄米ちゃ様、今度は最初から辛い展開に宣言してるような感じですね。

でも、私は信じ出る、きっといい結果になれる。
多分ねw
26 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/13(水) 22:45
玄米ちゃ様、イタイ、イタすぎます
最高です
27 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/13(水) 23:36
最初から泣きそうです!
どうしてくれるんですか!
ハッピーエンドを信じてますよ!
28 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/13(水) 23:36
最初から泣きそうです!
どうしてくれるんですか!
ハッピーエンドを信じてますよ!
29 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/13(水) 23:38
二重カキコすんません!
30 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/07/19(火) 12:34

>25:名無し留学生様
 ありがとうございます。
 信じるものは救われる・・・といいけど。

>26:名無飼育さん様
 ドM最高!

>27:名無飼育さん様
 あらどうしましょ・・・


PKのとき、自分の両手を握り締めずに
せめてぬいぐるみの手でも握り締めていれば・・・
なんてバカなことを思いつつ本日の更新に参ります。

31 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/19(火) 12:35


32 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/19(火) 12:35


「ここだ・・・」

結構いいマンションじゃん。

 『とりあえず、数年マンションで暮らして
  いずれ梨華好みの家を建てようと思ってるんです』

照れくさそうに、そんな風に言ってた
梨華ちゃんの旦那さん。

彼ならきっと
梨華ちゃんを幸せにできるなって、その時思った。


新婚旅行は、少しだけお預けで
彼の今の仕事が落ち着いたらってことになってるらしい。

それでもいいと結婚を急いだのは、
意外にも梨華ちゃんの方だって。

披露宴の暴露話の中で紹介されて
照れくさそうに微笑んで、
「本当です」って認めた梨華ちゃん。

その時ファインダーを覗いてなかったら
アタシはやっぱり、皆と同じようにはやし立てていただろう・・・

33 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/19(火) 12:36

エントランスの入り口で
部屋NOを押す。

仕事はやめちゃったから、きっと家にいるはず。
もしいなかったら、その時は当初の予定通り
手紙を書いて、ポストに入れていこう。

そんな風に思いながら、
応答を待った。


『はい』
「あ、梨華ちゃん。アタシ」
『・・・え?よっすぃ?!』
「うん」
『何で?!どうしたの?!今日出発でしょ?!』

突然早口になって、テンパる梨華ちゃんが面白くて
思わずニヤリとする。

34 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/19(火) 12:37

「出発まで時間あるからさ、ちょっと寄り道した」
『そんな、寄り道って・・・』
「新居見てみたかったし、梨華ちゃんの奥さん姿も見てみたかったし」

そして何より。

「写真持ってきたんだ」
『うそ!もう?』
「だからさ・・・」

「――いい加減入れてくれない?」
『あ、ごめんっ!』

あわてふためく彼女が容易に想像できる。

ウィーンって音がして
自動ドアが開いて、アタシはやっと中に入った。

35 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/19(火) 12:37

エレベーターを降りると
部屋から出て待っててくれた梨華ちゃん。

「よっ!若奥さん」

右手を上げて、そんな風に声をかけると
はにかんだ笑みを浮かべた。

うん、今日は大丈夫そうだ。

「ごめんね、無理してくれたんでしょ?」
「ちょー無理した。完テツ」
「うそ・・・、ごめん・・・」

ハの字に下げられた眉。

「あはは、うっそ。
 ね、新居に上がってっていい?
 まだ散らかってないでしょ?」

「もうまた、よっすぃ〜ったらぁ」

少し高い、甘えたような声でそう言って
笑ってくれた梨華ちゃん。

――やっぱり直接来てよかった。

36 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/19(火) 12:38

部屋に通されて、
一番に飛び込んで来たのは、ピンク色。

「新居でもピンクかよぉ〜
 やべぇ、目がチカチカする」

大げさにまばたきして見せると
笑いながら、ソファーを勧めてくれた梨華ちゃん。

――やっぱ昨日は、疲れてただけなのかな?


勧めてくれたからと言って
落ち着いて座ることが出来ないのが、アタシの常。

「ねぇ、他の部屋見てもいい?」

お茶を入れる彼女に断って
すぐそばの部屋を覗いた。

37 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/19(火) 12:38

うぉっ!
いきなり寝室・・・

えっと・・・
やっぱ、新婚初夜だから昨日はここで――

なんてどうしても考えてしまう。

梨華ちゃんて初めてなんじゃなかったっけ・・・
付き合いだしても、そうなる前に別れてたよね・・・


「エッチなこと考えてるでしょ?」
「うわぁっ!!」

突然耳元で、そう言われて飛び上がる。

「ひ、ひ、人聞き悪いなぁ」
「よっすぃ、どもりすぎ」

ふふ。なんて笑って
アタシの横を通って、寝室に入るとベッドに腰掛けた。

38 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/19(火) 12:39

「しばらく一人なの」
「へ?」

「彼、お仕事で今日から出張だから」

手招きされて、アタシもベッドに腰掛ける。

「昨日も別々に寝たの。
 だからしてない」

「そっか・・・、寂しくない?」
「う〜ん。今までずっと一人暮らしだったし。
 特には寂しくないかな?」

あ、また。
悲しげな顔した。

「旦那さん、いつ帰ってく・・・」
「見て?」

遮られた。

「これ、よっすぃ〜にもらった写真立て」

39 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/19(火) 12:40

どピンクのリボンやハートがついた
ぶりぶりの写真立て。

卒業のとき、
『よっすぃ〜に毎日会えなくなるの、寂しいなぁ』
なんてしみじみ言うから、他の2人にはナイショで
こっそり梨華ちゃんだけにプレゼントした写真立て。

そこには若かりし頃の
制服を着たアタシと梨華ちゃんが写ってて・・・

「わっけぇな、2人とも」

ここに写る梨華ちゃんは
ほんとすごく楽しそうで。

アタシの心に引っかかってる
昨日の梨華ちゃんの様子を確かめておきたくなった。

40 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/19(火) 12:40

「・・・ねぇ、梨華ちゃん」
「なあに?」

ベッドの脇に、その写真立てを戻すのを待って
アタシは思い切って尋ねた。

「――今、幸せ?」


「どおしたの、急に?」

一瞬の沈黙のあと、可笑しそうに
笑いながら言った彼女。

「いや、何か、さ・・・」

アタシでよければ聞くよ?
不安とか、不満とか・・・

美貴やごっちんみたいに
経験豊富じゃないから、頼りないかもしんないけど・・・

「でも、そばにいてあげることは出来るから」

41 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/19(火) 12:41

「うそ・・・」

え?

「わたしのそばになんか、いてくれないよ・・・」

なに・・・、言ってるの?

俯いた梨華ちゃんの肩が震えだす――

ちょ、待って!
な、泣いてんの?!

アタシ何かマズイこと言った?
どこで地雷踏んだ?
とりあえずどうしたらいい?

助けて、ごっちん。
ミキティーッ!!!

42 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/19(火) 12:41

「ふふふ・・・」

隣から小さな笑い声。

「あはは、よっすぃ〜可笑しい!」

そう言って、顔をあげた梨華ちゃんは
心底可笑しそうに笑っていた。

「な!泣いてないじゃん。
 騙したな!」

「騙してないよ。だってよっすぃ〜
 今日から半年外国じゃない。
 だから、わたしのそばにはいれないでしょ?」

「あ・・・」

43 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/19(火) 12:42

「大丈夫、わたし幸せだよ?」

だって、彼ね。
すごくわたしを大切にしてくれるし。
とっても優しいし。

「――わたしには・・・、もったいないくらいだもん」

「なーに言っちゃってんの。
 こんなカワイイ子がお嫁さんなんだから。
 昨日だって、皆に羨ましがられてたじゃんか」

「そおだけどぉ〜」

そう言いながら、梨華ちゃんは
写真立てに視線を移した。

「よっすぃ〜は、どんな人を選ぶんだろうね?」
「アタシ?」
「そう」

さっきの写真立てを、再び手に取る――

「どんな人が、隣に立つんだろうな・・・」

まるで独り言のように
そう呟いた。

44 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/19(火) 12:42

「アタシの相手は、被写体として
 美しくないとダメ」

「うわっ!ハードル高〜い」

「だってそうじゃん。
 撮りたいって思うような人じゃないと
 きっと魅かれないもん」

思わず言葉を失って
夢中で撮りたくなるような人じゃないと
アタシの心は奪われないだろう・・・


「わたしだったら」

梨華ちゃんが指で四角を作って
アタシに構図を合わせる。

「よっすぃ〜を被写体にするなぁ」

「マジで?
 それって遠まわしに
 美しいって言ってくれちゃってんの?」

45 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/19(火) 12:43

「美人だもん、よっすぃ〜。
 時々、見とれちゃう時あるんだよ?」

「これでも?」

梨華ちゃんの作った四角のまん前で
思いっきり変顔した。

「もうまた、よっすぃ〜ったらぁ」

笑いながらそう言って、
自ら四角を壊すと、そのままそっと
アタシの両頬を手の平で挟んだ。

「体、気をつけてね?
 タマゴばっかりじゃなくて、
 ちゃんとバランスよくご飯食べるんだよ?」

少しだけおせっかいな梨華ちゃん。
まるで、出来の悪い生徒のように、言い聞かせられる。

46 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/19(火) 12:43

「お酒、飲みすぎちゃダメだよ?
 無理しないで、体をちゃんと休めてあげて。
 めんどくさいからって、自分で前髪切っちゃダメだからね?」

最後のはどうでもよくね?
てか、幼稚園生か?
アタシは。

「わかったら、お返事は?」
「先生、辞めたくせに」

「いいのぉ〜。
 良い子はお返事するのぉ。
 ちゃんとしなきゃ、歌うからね」

「ハ〜イッ!」

即効で右手を上げて返事した。

「なによぉ〜
 ひっどぉい」

そのまま、少しだけふざけ合って、
そして少しだけおしゃべりをしてから
アタシは笑顔で空港に向かった――

47 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/19(火) 12:43


48 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/19(火) 12:44


49 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/07/19(火) 12:44

本日は以上です。

50 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/19(火) 20:56
嵐の前の静けさって感じ、かな
51 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/19(火) 23:49
笑顔で終わってほしいです!
52 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/21(木) 01:05
まだまだ謎だらけですね。
次回で少し見えてくる予感♪
53 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/07/25(月) 11:32

>50:名無飼育さん様
 どうでしょう?

>51:名無飼育さん様
 ですよね〜

>52:名無飼育さん様
 カケラくらいは・・・


では本日の更新に参ります。
54 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/25(月) 11:32


55 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/25(月) 11:32

順調を通り越して
予定よりも半月早く、アタシの仕事は終わった。

手ごたえはバッチリ。
ほんとにいい写真が撮れたと思う。

梨華ちゃんに言われた通りの生活を概ね守ったおかげで、
大きく体調を崩すことなく、大腕を振って帰国できる。

「今夜くらい、少しハメ外したっていいよねぇ・・・」

撮影に没頭してたおかげで
いつもの行きつけに飲みに行ってない。

オランダに来るたびに顔出してたのに
今回はまだ一度も行ってないや。

撮影の成功を報告がてら
今夜くらいは、大いに飲んじゃおう!

56 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/25(月) 11:33

足取りも軽く店に向かう。

小さいけれど、ガチャガチャしてなくって
とっても心が落ち着くバー。

日本人のお姉さんが、たった一人で
切り盛りしてて、行く度にすげぇって思う。

異国の地でちゃんと根を張って生きるって、
並大抵のことじゃない。

一度だけ、彼女にレンズを向けたことがあるけど
輝く笑顔で、思わず見とれた。
元から綺麗な人だけど、その時はほんと
ビックリするくらい眩しかったんだ。

57 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/25(月) 11:34

『恋してるから』

彼女はそんな風に言った。

『恋してるとね、女は美しくなるの。
 ほら、よく見て。
 よっちゃんを見つめてる子達、
 皆そんな目をしてるわ』

そんな風にも言われた。

こういっちゃなんだけど、アタシはモテる。
アジア人でこんなにモテるのも珍しいみたいだけど、
どこか店で飲んでると、必ずと言っていいほど声をかけられる。

しかも、女性がほとんど――

あの店でしか飲まないのは、
このことが原因だったりもする。

だって、アタシはあの店で
彼女の恋人ってことになってるから。

58 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/25(月) 11:34

一度、マジで迫られて、ほとほと困り果ててたら
彼女がそういうことにしてくれた。

『私のコイビトに手を出さないで』

なんて凄んでくれて・・・

そん時の彼女。
ヤバイくらいカッコ良かった。

だからアタシはいつもココに来ると
あの店で飲む。

ただ単純に、お酒を楽しめるから。

たわいのない撮影話にも、
耳を傾けてくれる彼女がいるから――


59 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/25(月) 11:35


「アヤカ〜、久しぶりっ!」

浮かれた気分のまま、その店の扉を開けた。
けれど取っ手を握ったまま、アタシは凍りついた。

開けた視界に、あまりにも
殺風景な景色が広がっていたからだ。

磨きこまれた木製のテーブルやイスがない。
彼女のお気に入りの絵がない。
カウンターの奥にある酒棚に飾られた酒瓶がない。

そして何より――
陽気な客が、一人もいない・・・


「何だよ、これ・・・」

思わず呟いた。

まるで、店じまいでもするみたいじゃんか――

60 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/25(月) 11:35

「よっちゃん!!」

カウンターの中で、一人立っていた彼女が
とびっきりの笑顔で微笑んだ。

「もう会えないと思ってたのに・・・」

「これ、何?!
 どういうこと??」

思わずカウンターに駆け寄った。

61 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/25(月) 11:35

「そんなにビックリしないでよ。
 せっかくだから、少し飲もう?
 このお酒だけね、とって置いたの」

それは、ココに来るとアタシが
必ず飲む酒のビンで。

「カウンター席しか残ってないから
 ごめんね?そこ座って」

申し訳なさそうにそう言って。

「最後によっちゃんと飲みたいなぁって
 ずっと願ってたの」

恥らうように、頬を染めて。

「願いが叶っちゃった」

うふっ。なんて嬉しそうに微笑んで
グラスを2つ準備すると、カウンターを出て
アタシの隣に腰掛けた。

62 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/25(月) 11:36

「ねぇアヤカ。これどういうこと?」

隣に腰掛けた途端
黙り込んでしまった彼女。

「改装でもすんの?」

黙ったままグラスに酒を注いで行く。

「――まさか、辞める・・・とか?」

一瞬の沈黙の後、
突然彼女は、アタシの肩にもたれてきた。


「・・・アヤカ?」
「お願い。少しだけこのままでいさせて・・・」


左肩に感じる重み――

視線を移すと、何も言わず、ただ目を閉じて
アタシの肩に頭を乗せているアヤカがいて・・・


63 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/25(月) 11:37

「・・・どうした?アヤカ?」

しばらく無言の時間が続いた後
体勢を直すと、普段通りの明るい声で、彼女は言った。

「よし、これで終わり!
 さ、乾杯しましょ?」

「ちょっと、終わりってなんだよ」

アタシの言葉を無視して、無理矢理グラスを持たせると、
彼女から軽く触れ合わせた。

「カンパ〜イッ!」

カチンッと軽い音が鳴って
グラスの中身を彼女が一気に呷る――

「ね、ほんとどうしたの?
 全部片付いちゃってて、いきなり終わりって
 言われても、全然わかんねーよ」

思わず尖った声になる。


「――よっちゃん、私ね・・・」

64 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/25(月) 11:37

「結婚するの」

「・・・結婚?マジで?
 なんだよ、そんなおめでたいこと早く言ってよ。
 何も用意して来なかったじゃん」

連絡くれれば、お祝いとか持ってきたのに――

「あ、そうか。もしかして、それで店閉めんの?
 じゃあ、寿閉店か・・・
 ね、式はいつ?
 相手はどんな人?」

これだけいい女だもん。
ぜってぇ、イケメンで経済力もある男だよな、きっと。

65 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/25(月) 11:37

「よっちゃんとは、真逆の人よ」

「へ?」

「私の気持ちに敏感な人」

敏感かぁ・・・
アタシこれでも、結構気ぃ遣いなんだけどな・・・

「私の視線に気付いてくれる人」

視線?
スキスキビームってこと?

「そして、何より私を大切にしてくれる人」

おおっ。
それは重要だね。

66 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/25(月) 11:38

「良かったじゃん。
 素敵な人とめぐり合えて」

アタシがそう言った途端
隣から深いため息が聞こえた。

「ほんと、よっちゃんて鈍感」

「鈍感?アタシが?」

「そう。色恋に関してね」

そりゃ、まあ。
経験はそんなに豊富じゃございませんけど
ため息つかれるほど、鈍感でもないと思うんだけど・・・

67 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/25(月) 11:38

「だって、よっちゃん。
 私があなたを好きだったこと
 全く気付いてないでしょ?」

「ふぇ??」

飲みかけた酒を吹き出しかけた。

――アヤカが・・・、アタシを・・・?


「ほら、やっぱり気付いてない」

可笑しそうに笑いながら、アヤカは続けた。

「気付いてないっていうか、よっちゃんは
 ハナから女は恋愛対象外って思い込んでるでしょ?」

最後だから言うね?
私、よっちゃんのこと好きだった。
最初にこの店に来てくれた日からずっと・・・

68 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/25(月) 11:39

「でももう、今日で終わり。
 実らない想いを抱え続けるほど
 辛いものはないのよ?」

「アヤカ・・・」

「ヤダ。そんな顔しないでよ。
 今言ったでしょ?好きだったって。
 あなたのことは、もう過去形よ」

さっきね、あなたの肩に寄りかかって、
好きだった人の温度を感じて、この恋を終わりにしたの。

「これで、綺麗さっぱり。何の未練もなく
 彼女と結婚できるわ」

そっか・・・

――って、女と結婚?!

驚きの視線を向けると
アヤカは吹き出した。

「ここ、オランダよ。
 同性同士で結婚できるの」

69 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/25(月) 11:39

それから彼女は、これからの2人の夢を語ってくれた。

この店を閉めて、新たな土地で
小さなカフェを始めること。

いつか大きな家を建てて、
おばあちゃんになっても2人で仲良く暮らすことなど・・・

輝く笑顔は、彼女にレンズをむけたあの日
アタシが思わず見とれた笑顔そのものだった。

「いい恋、してんだね」
「あら、恋に鈍感なよっちゃんでも分かる?」
「ひでーな、その言い方」

ふふふ。

可笑しそうに笑い声をもらして
彼女は言った。

「よっちゃんは、とっても優しいわ。
 それに本当はすごく人の心に敏感な人。
 だけど、自分の心には少し鈍感なの」

自分の、心・・・?

70 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/25(月) 11:40

「よっちゃんの心の中には
 ずっと住んでる人がいるじゃない」

「アタシの中?」

「そうよ。よっちゃんずっと恋してるでしょ?」

はあ?
大丈夫か、アヤカ。

「待ってよ。アタシ恋人いねーし。
 好きな人とか、ここんとこずっといねえよ?」

しいて言えば、仕事が恋人。
人にときめいたことなんて、久しくない。

「ほらやっぱり。
 鈍ちゃんだわ」

鈍ちゃんて・・・

71 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/25(月) 11:40

「よっちゃんの心には、
 出会ったときからずっと、誰かがいたわよ?」

「誰だよ、それ」

「さあ?それはよっちゃんにしか
 分からないでしょ?」

眉を寄せたアタシを
からかうように笑うアヤカ。

「なんだよ。
 アタシにしか分からないなら
 やっぱアヤカにも分かんないんじゃないか」

こいつ酔ってんだろ。
それとも幸せボケってやつか?

「誰かまでは分からないわよ。
 きっと私の知らない人だもの。でもね・・・」

そっと手を握られた。
そのまま、アヤカの胸の上に導かれる――

72 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/25(月) 11:41

「ちょ、何して・・・」

「私は心で感じるから。
 よっちゃんみたいに、頭で排除して
 心にあるものを見逃すようなことはしない」

見据えられた。

「だって私、あなたの中に住んでる人には勝てないなって
 そう思って諦める気になったんだもの・・・」

不可解すぎるアヤカの言葉。

だけどなぜか、アタシの心の中を
思いっきりかき混ぜられたような、そんな気がしたんだ――


73 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/25(月) 11:41

74 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/25(月) 11:41

75 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/07/25(月) 11:41

本日は以上です。

76 名前:名無し留学生 投稿日:2011/07/25(月) 14:52
出た!アヤカさんGJ!

よっすぃ〜鈍感すぎのでこちまでイライラする。
頑張って!早く自分の気持を正直になってくださいwww
77 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/25(月) 22:56
なるほどねー
よっちゃん、ファイト
78 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/28(木) 01:26
以外と本人はわからないものなのよ。
79 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/08/02(火) 14:02

>76:名無し留学生様
 鈍感でもいつかは・・・

>77:名無飼育さん様
 頑張るYO!

>78:名無飼育さん様
 分かっていらっしゃる!


では、本日の更新に参ります。

80 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:03

81 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:03

荷物は粗方詰めた。
あとは明日、身の回りの品を突っ込んで
飛行機に乗りさえすれば、東京へ帰れる――

嬉しいんだ。
もっと浮かれるはずなんだ。

だけど、昨日から
アヤカに言われた言葉が、体中を渦巻いている・・・

 『よっちゃんの心の中には
  ずっと住んでる人がいるじゃない』

 『だって私、あなたの中に住んでる人には勝てないなって
  そう思って諦める気になったんだもの・・・』

ほんとに住んでんのか?
アタシの心に、誰かが・・・

撮影スタッフの誰かか?
それとも学生時代?

小さい頃から、今まで関わった男を
思いつく限り並べてみても、全く心はときめかない。

82 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:04

アヤカの思い違いだ、きっと。
だって当の本人が思い当たらないんだから。

そう思いたいのに、なぜか心がざわつく。
早く答えが知りたい。
このモヤモヤが気持ち悪い・・・

――もしかして、あの3人も気付いてるのかな?

帰国報告を兼ねて、
いっそ聞いてみようか・・・

腕時計を見た。

「日本は今、夜中か・・・」

梨華ちゃんじゃ、旦那とよろしくやってたら悪いし。
ごっちんは絶対寝てるし。
かけるとしたら、美貴しかいねぇか・・・

しばし逡巡して、怒られんのを覚悟で
携帯を手に取った。

83 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:05


『もしもし』

お、意外にも普通の声。

「ごめん、美貴。寝てた?」

『お〜、よっちゃん!
 ちょうど今、ごっちん家で飲んでんのよ』

なんだよ。
今月はごっちんの家で集まりだったのか。

「予定より随分早く、仕事が終わってさ。
 明日こっち出て、日本に帰れるんだ」

『マジで?』

「うん。早く終わったおかげで、
 1週間くらいは、のんびりさせてもらえそうだし、
 皆にも早く会いてぇなって思ってさ」

要求どおりのお土産も、ちゃんと買い込んだしね。

84 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:05

「今日集まってるんじゃ、来週は無理かな?」

『お土産のために空けるよ』

「土産のためかよ!」

いかにも美貴らしい。

「ね、後の2人は大丈夫かな?
 日にちはそっちで決めてくれちゃっていいからさ」

『後の2人って、もしかして
 ごっちんと梨華ちゃんのこと?』

「ばーか。他に誰がいんだよ」

『・・・梨華ちゃんは、ムリだと思うよ』

トーンが下がった美貴の声。

そっか・・・
もう独身じゃないもんな。
気楽に夜に飲み歩けるような環境じゃないか・・・

85 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:06

『・・・ねぇ、よっちゃん』

「ん?」

『梨華ちゃんと連絡とってないの?』

「え?」

『そっち行ってから1度も
 連絡してないの?』

「あ、うん・・・
 アタシも忙しかったし。
 梨華ちゃんは梨華ちゃんで、新婚生活満喫中かと思って・・・」

幸せに暮らしてるかな?
料理とか、片付けとか出来てんのかな?

出国前に見た、悲しげな顔が
ふとよぎる。

――ちゃんと笑顔で、毎日暮らしてるかな・・・?

86 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:06

『梨華ちゃんからも
 1度も連絡ないんだよね?』

「まあ、うん・・・」

てか、マメに連絡するのは、常にアタシの方だし。
梨華ちゃんから連絡来ないのは、いつものことだから。


『あのね、よっちゃん。
 梨華ちゃんね――』

なぜだか言いよどむ。

「梨華ちゃんがどうしたんだよ」

『うん・・・、だからさ――』


87 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:07

『離婚したんだよ。
 よっちゃんが、旅立ってすぐ』

「はああ?!!」

『その後ね、少し一人で色々考えたいって
 突然、沖縄の離島に行っちゃった。
 そんでそのままずっと、帰ってきてないの』

「なにそれ?!
 うそでしょ?」

『嘘じゃないよ。だから、よっちゃんと同じだけ
 美貴もごっちんも、梨華ちゃんに会ってないんだ』

――マジ、なの・・・?


そんな・・・、だって・・・
だって梨華ちゃん、あの日言ったじゃん。

  『大丈夫、わたし幸せだよ?』って・・・


88 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:07

ねぇ、梨華ちゃん。
やっぱり幸せじゃなかったの・・・?

アタシが行っちゃうから。
アタシに心配させないために。
あんな風に、笑顔を見せたの?


『よっちゃん、聞いてる?』
「・・・え?ああ、聞いてるよ」

89 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:08

『ねぇ、よっちゃん。
 美貴ね、梨華ちゃん相当苦しんだと思うんだ』

そうだよ。
きっとまた一人で悩んで、一人で苦しんでさ・・・

『梨華ちゃん、どうしても自分の気持ちに
 嘘がつけなかったんだよ』

あの日、ちゃんと聞けば良かった。
ほんとは、結婚したくないんじゃないか?って・・・

『梨華ちゃん何も言わないけど
 きっともう、限界だったんだと思う』

「――限界・・・?」

『だから、もう少しだけ
 そっとしておいてあげようって
 ごっちんと決めたんだ』

「そっとしておく?」

『だからよっちゃんも、
 しばらくはそのままで。
 梨華ちゃんに電話とかしない方がいい』

「何だよ、それ・・・
 何なんだよ」

うちら親友じゃん。
なのに放っておくの?
辛いときに、見放すの?

90 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:09

『バカよしこっ!!』

突然電話越しの声が、ごっちんに代わる。

 (ごっちんやめなって)

後ろから、美貴の声がする。

『いいや、やめない!
 バカなよしこが、バカだから
 バカって言ってんだ!』

「バカバカって、代わるなりなんだよ!」

『バカヤドーッ!!』

思わず耳から、携帯を遠ざけた。
海じゃねえんだから、電話に向かって思いっきり叫ぶな!

 (だから、ごっちんやめときなってば!)

『うっさい!ミキティは黙ってろ!』

アタシは一体誰と会話してんだ?

91 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:09

『いいか、よしこ。
 耳の穴かっぽじってよく聞け!』

「ごっちん、酔っ払ってんの?」

『そうだ。何が悪い』

「悪かねーよ。
 けど、人にからむな」

『からんでない。
 説教するんだ』

「説教?」

何でアタシが、遠い国にいて
わざわざ電話越しに酔っ払いに説教されなきゃ
いけねーんだYO!

92 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:10

「帰国したら聞くから、
 今日は寝ろ」

今日はきっと話しになんねー。

『いいか、よく聞け』

聞かねーよ。


『このっ、どんかんヤローッ!!』


耳がジーンてなって
グアングアン脳に響く。


ん?待てよ。
今『どんかん』って言ったよな。
漢字に変換するとアレだよな。

93 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:11

「なんでアタシが鈍感なんだよ」

昨日までは一度も言われたことがなかった。
なのに、よりによって異国の地で、連日に渡って言われるとは・・・

『お前は鈍感だから、
 梨華ちゃんの苦しみは絶対に分からない』

酔っ払いのたわ言とはいえ
思わずムッとする。

『だから、そっとしておけ。
 ヘンになぐさめようとか思うな。
 分かったら手を挙げて返事しろ』

「挙げたって見えねーだろ」

『じゃあ仕方ないから、返事だけしろ』

「やだね」

『じゃあ返事しなくていいから
 絶対電話とかすんな、いいな。じゃ!』


――ツーツーツー・・・

94 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:11

「おいっ!もしもしっ?!
 あのヤロ・・・切りやがった!!」

何なんだよ!
ったく・・・

携帯を放り投げて
ベッドの上に、大の字に寝っ転がった。

人のこと、バカとか鈍感とか
好き放題言いやがって・・・

アタシそんなに鈍いか?
アタシが連絡したら、そんなに迷惑か?

「てか、昔っからアタシが一番
 梨華ちゃんの近くにいたんだっつーの!」

95 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:12

仲良し4人組だったけど、
飲み会だって、旅行の時だって
いつだって梨華ちゃんはアタシの隣だった。

自然とそう決まってた。

いっぱい色んなこと話したよ。
梨華ちゃんの悩みや不安も全部聞いた。
アタシだって、いつも一番に梨華ちゃんに相談するんだ。

この職業に就くときだって
梨華ちゃんが背中を押してくれたんだ。

 「一人前になったら、
  最高にかわいい梨華ちゃんの笑顔を
  一番に撮ってあげるからね?」

そんな約束だって、
密かに交わしてんだぞ!

96 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:12

「くっそー!!
 何なんだよ、もうっ!」

モヤモヤを晴らしたくて
電話したのに、余計モヤモヤすんじゃねーか!

ごっちんといい
昨日のアヤカといい――


  『ほんと、よっちゃんて鈍感』

ハイハイ、わるぅございましたね!

  『でももう、今日で終わり。
   実らない想いを抱え続けるほど
   辛いものはないのよ?』

そりゃ確かに、全然気付かなかったけどさ・・・



  『お願い。少しだけこのままでいさせて・・・』


思わず飛び起きた。

97 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:13


  『あなたの肩に寄りかかって、
   好きだった人の温度を感じて、この恋を終わりにしたの』


ふと感じた左肩の重み――

そこに視線を移すと、何も言わず、ただ目を閉じて
アタシの肩に頭を乗せた梨華ちゃんがいて――



  『――よっちゃん、私ね・・・』
  『結婚するの』


『わたし結婚するの』


昨日のアヤカと、
あの日の梨華ちゃんの笑顔が重なった。



98 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:13




まさか――
うそ・・・だ、ろ・・・?


――梨華ちゃんが、アタシのことを・・・?




99 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:14


  『梨華ちゃん何も言わないけど
   きっともう、限界だったんだと思う』


『ねぇ、よっすぃ〜
 わたし綺麗かな?』


  『梨華ちゃん、どうしても自分の気持ちに
   嘘がつけなかったんだよ』


『よっすぃ〜は、どんな人を選ぶんだろうね?』
『どんな人が、隣に立つんだろうな・・・』


100 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:14

「まさか、そんなこと・・・」

ギュッと胸が締め付けられた。

もしかして、あの日。
あの飲み会の日。

梨華ちゃんが、すごい決意をしてたんだとしたら?
あの行為にアヤカと同じ意味があったんだとしたら?

だからあんなに・・・
繊細な温度と気配だったんじゃ・・・


  『お前は鈍感だから、
   梨華ちゃんの苦しみは絶対に分からない』

だとしたら、ごっちんの言う通り。

――ほんと鈍感でバカだ、アタシ・・・


101 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:15


 <♪♪♪♪♪>

ベッドの上に放り投げたままの
携帯が着信を知らせる。

美貴からだ・・・


「もしもし・・・」

『よっちゃん、さっきのあんま気にしないで?
 なんかごっちん、大分飲んじゃっててさ。
 何言ってるか、自分で分かってないと思うから』

美貴の気遣うような声が
素通りしていく・・・

『だからよっちゃん、
 ほんと酔っ払いのたわ言だって思ってさ・・・』

102 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:15


『よっちゃん・・・?』

「――知ってたの・・・?」

『え?』

「もしかして2人はさ・・・
 その・・・、梨華ちゃんが、さ・・・」

けど勘違いだったら?
肩に寄りかかるなんて、あんなの全然意味なくて。
ただ、ふと寂しく感じただけで。

隣にいたのが、単にアタシだったからってだけで――


『・・・よっちゃん?』

「ごめん、美貴。
 なんでもねぇや」

103 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:16

重い沈黙が続いた。

今話しているのは美貴なのに
繋がってるのは美貴なのに
アタシの脳裏に浮かんでくるのは、梨華ちゃんのことばかり。


ねぇ、梨華ちゃん。今どうしてる?
ちゃんと笑ってる?
ちゃんと食べてる?
一人で泣いたりしてない?

梨華ちゃんの笑顔と悲しげな顔が
アタシの脳内で、順番に入れ替わって、胸を締め付ける――


――梨華ちゃん、会いたいよ・・・


104 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:16


『――よっちゃん、・・・どうした?』


「・・・会いたいんだ、梨華ちゃんに・・・」

いますぐ会いたい。


会って・・・

アタシ、梨華ちゃんに会って――


『よっちゃん聞いて?』

美貴とごっちんは、梨華ちゃんの本当の気持ちは知らないよ。
梨華ちゃん言わなかったから・・・
でも感じてた。きっとそうだろうって。

梨華ちゃんが、結婚決めたとき
きっとすごい覚悟をしたんだって思った。
だから、美貴もごっちんも全力で応援してあげようと思ったの・・・

だけどさ――


105 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:17

『ねぇ、よっちゃん。もう一度言うよ?
 梨華ちゃん、どうしても自分の気持ちに
 嘘がつけなかったんだよ』


梨華ちゃんの、キモチ――


  『わたしだったら』

  『よっすぃ〜を被写体にするなぁ』

  『体、気をつけてね?
   タマゴばっかりじゃなくて、
   ちゃんとバランスよくご飯食べるんだよ?』

  『お酒、飲みすぎちゃダメだよ?
   無理しないで、体をちゃんと休めてあげて。
   めんどくさいからって、自分で前髪切っちゃダメだからね?』


梨華ちゃん・・・

106 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:17

アタシ、梨華ちゃんには、幸せになってもらいたかったんだ。
いつだって、笑顔でいて欲しかった。

こっちで一人ぼっちで、寂しかった。
けどさ、梨華ちゃんの笑顔を思い出して、
ここまで頑張ってきたんだよ。

今度の仕事がうまくいったら、
梨華ちゃんの最高の笑顔を、この手でおさめてあげようって。
約束どおり、最高の笑顔を撮ってあげようって、そう決めてたんだ――

107 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:18


「美貴・・・
 アタシ会いたいよ、梨華ちゃんに・・・」

『よっちゃん・・・』

「会って、さ・・・
 会って――」


――この腕に抱きしめたい・・・


言葉にした途端、
大きく心臓が跳ねた。


108 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:18

好きだったんだ、アタシ・・・
梨華ちゃんのこと、ずっと好きだったんだ――


 『私は心で感じるから。
  よっちゃんみたいに、頭で排除して
  心にあるものを見逃すようなことはしない』

アヤカの言う通り。
アタシ勝手に、頭ん中で決め付けてた。


 『よっちゃんの心には、
  出会ったときからずっと、誰かがいたわよ?』

もうずっと前から
アタシの心には梨華ちゃんが住んでたんだ。


 『だって私、あなたの中に住んでる人には勝てないなって
  そう思って諦める気になったんだもの・・・』

そうだ。アタシの中では
いつだって梨華ちゃんは特別だった。

だからあの日も、彼女の繊細な温度を守りたかったんだ。
アヤカには、『どうしたんだ』って聞けても、
梨華ちゃんには聞けなかった。

梨華ちゃんの想いを、梨華ちゃん自身を
無意識のうちに、アタシは守ってあげたかったんだ・・・

109 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:19

「美貴、アタシ。
 梨華ちゃんに会いに行ってくる」

認めてしまえば、簡単なもので
いつの間にか、心にあったモヤモヤが晴れていく――

そして、代わりにあふれ出してきたのは
彼女への愛しい想い。
まるで、たがが外れたように
次々とあふれ出して、アタシの心を埋め尽くしてく――


「好きだ、梨華ちゃんのこと・・・」

ドクドクと心臓が早鐘を打ち出す。

「好きなんだよ・・・」

血液がすごい勢いで
体中を駆け巡ってる。

110 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:19

「アタシが、幸せにするから・・・」

『うん、うん』と
涙ながらに頷く声が電話から聞こえる。

「例え他の誰かと一緒にいたとしても
 絶対奪い去って来るから」

だから美貴――


「梨華ちゃんの今いる場所を教えて・・・」


111 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:19

112 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/02(火) 14:20

113 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/08/02(火) 14:20

本日は以上です。

114 名前:名無し留学生 投稿日:2011/08/02(火) 16:39
お!やっとわかってくれた。ほっとしましたわw
ドキにムネムネしてる次回を楽しみしてる。
115 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/08/04(木) 15:41

>114:名無し留学生様
 ありがとうございます。


では本日の更新にまいります。

116 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/04(木) 15:41

117 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/04(木) 15:45

空港を出た途端、ジリジリと強い日差しが
容赦なくアタシの肌を刺す――

思わずニヤついた。

だってきっと、こんな日差しの中で暮らしてたら
梨華ちゃんぜってぇ、黒さに磨きがかかってるはずだもん。

乗り継ぎだって、全然苦にならない。
長旅だって、どんどん近づいていくと思えば
嬉しくて胸が高鳴る。

アタシの気持ち・・・

――梨華ちゃんに早く会いたい。

もうそれしかない。

118 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/04(木) 15:46

オランダからのでっかい荷物を携えて
タクシーに乗り込む。
さすがに運転手さんもびっくりしてる。

けれど、全てが。

アタシの周りで起こる全てが
ベタだけど、何だかバラ色に見えるんだ。

「どちらまで?」

運転手さんの問いかけに
メモした民宿の名前を告げる。

「分かりますか?」

「ああ、わかるよ。
 長く滞在するのかい?」

ゆっくり車を発進させながら
人懐っこい笑顔を向けられる。

119 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/04(木) 15:46

「んー、まだ決めてないんですよ。
 予約もしてなくて、飛び入りなんです。
 こんなんで泊まれますかね?」

「あはは。大丈夫。
 そこのオーナーなら、何とかしてくれるさ」

「良かった・・・」

ホッと一息。
泊まれなくても、押しかける気でいたけど。

「そこね。5ヶ月前から
 チュラカーギーが来て、大評判さ」

「チュラカーギー?」

「美人さんのこと。
 いや〜、おかげで近所の男どもに
 活気が出ていいや」

運転手さんが豪快に笑う。
つられてアタシも微笑んだ。

チュラカーギーか・・・

120 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/04(木) 15:47

「けど謎なんだな〜」

のんびりした口調で
運転手さんが続ける。

「何でこんなとこに、一人で来たんだか。
 失恋でもしたのかね〜
 あ、そこだよ」

ゆっくりと停車する。

お代を払って、お礼を言って車を降りる。
多すぎる荷物を下ろすのを、運転手さんが
一緒に手伝ってくれて、民宿の前に運んでくれた。

「お〜い、圭ちゃ〜ん。
 お客さんだよ〜」

「は〜い」

中から元気のいい返事が聞こえて
不思議な走り方をしながら、女性が一人出てきた。

「めんそーれー」

――チュラカーギーはこの人じゃないな。

121 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/04(木) 15:47

「予約してないんだって。
 泊まれるかい?」

「ええ、もちろん」

その言葉に安心したように
運転手さんが「良かったね」
そう言って、アタシの肩をポンポンと叩いた。

「ありがとうございます」

礼を告げると、「じゃ」
軽く手を挙げて、車へと戻って行った。

122 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/04(木) 15:48

「一泊ですか?」
「いえ」
「そうよね〜、その大荷物」

アタシの横に積み上げられた荷物を指差した。

「あ、これは仕事で外国行ってて、
 そのまま来ちゃったんで、こんなにいっぱいなんです」

「あら、そう。
 ここへはじゃあ仕事で?」

「いえ、違います。
 えっと・・・、あの〜、ココの良さを分かるには
 どれくらい滞在すればいいですかね?」

「ここの良さ?
 そうね・・・」

腕を組んでしばし熟考。
でも顔がコワイ・・・

123 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/04(木) 15:48

「5ヶ月くらいかな」
「5ヶ月かぁ・・・」

「無理?」
「2週間じゃダメですかね?」

「ふふ。ダメじゃないわよ。
 いいとこたくさんあるから、
 限られた時間の中で、思いっきり楽しんで?」

「ありがとうございます!
 で・・・、あの・・・、その2週間
 こちらでお世話になれますかね?」

「大歓迎よ!
 さあ、どうぞ」

笑顔で勧められて、玄関を上がる。

「石川〜!お客様よ〜!」

奥に向かって呼びかけた
その名前に、胸の鼓動が跳ね上がる。

124 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/04(木) 15:49

「今、行きま〜すっ!!」

聞きなれた高い声が、耳に飛び込んできて
跳ねた鼓動が一気に加速する。

「うちは、あたしと今から来る
 従業員の2人でやってるから、
 行き届かない所もあるかもしれないけど
 その時は遠慮なく言ってくださいね?」

駆けてくる足音の方が気になって
曖昧に頷いた。

125 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/04(木) 15:49


「めんそ〜れ〜」

笑顔で現れた彼女は
予想した通り、黒さに磨きがかかっていて。

「――よ、っすぃ・・・」

驚きと共に、彼女の笑顔が凍りついても
アタシの鼓動は更に速度を増す。

「・・・どう、し、て・・・?」

呟くようにそう言って、手に握ったままの
ぞうきんをポトリと床に落とした。


「ハイサイ、梨華ちゃん」

126 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/04(木) 15:50

「ヤダ、あなた達知り合いなの?
 早く言ってよ、もう!」

バシンなんて、背中を叩かれる。
だけどアタシは、梨華ちゃんから目を離せなかった。

苦しそうに寄せた眉。
キュッと結ばれた唇。
落ち着けるためなのか、胸にあてられた小さな手――

今すぐ抱きしめたい・・・

けど絶対
焦ったらダメだ。

きっと今のまんまの梨華ちゃんじゃ、アタシを拒否する。
だから待つ。たった2週間だけど、ゆっくり。

梨華ちゃんだけを見つめて――

127 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/04(木) 15:50


**********



128 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/04(木) 15:51


どうして、よっすぃ・・・

――何で、ここにいるの・・・?


壊れそうなほど、心臓が激しく動いて
呼吸が出来なくなりそう。

手が震えて
体が震えて・・・

保田さんもいるし、
平静を装いたいのに、出来ないよ・・・

ねぇ、よっすぃ・・・

わたし、あの日閉じ込めたの。
あなたへの想いを、心の奥底に閉じ込めて鍵をかけたの。

だから、もう開けないで欲しい――

129 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/04(木) 15:51

「お友達なら、石川の部屋に
 近いところがいいかしら?」

保田さんに問いかけられて我に返る。

そうだ。
わたしとよっすぃ〜はお友達なんだ。
学生時代からの親友。

だから、きっと
離婚したと聞いて、心配して
よっすぃ〜はわざわざ来てくれたんだ。

――それ以上でも、それ以下でもない。


ギュッと拳を握って、心を静めた。
込み上げる気持ちを無理矢理押さえつけて
再び蓋をして、鍵をかける・・・


わたしは、離婚して傷心してここに来たの。
よっすぃ〜に話しを聞いてもらって、慰めてもらって
『ありがとう』
そう言って、安心して帰ってもらえばいいんだ。

130 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/04(木) 15:52

何度も何度も繰り返し
心の中で練習する。

『ありがと、よっすぃ〜
 心配して、わざわざ来てくれたんだよね?』

そう言って、笑顔をむければいい。
よっすぃ〜は優しいから、慰めてくれる。
一生懸命、言葉を選びながら、励ましてくれる。

そうしたら、ちょっとだけ涙を見せて。
もう一度『ありがとう』って言えばいい。

その涙が本当は。

あなたとの距離が縮まらないせいだなんて。
どんなに想っても、ただの友達でしかいられない
苦しさのせいだなんて、口が裂けても言えないから――

131 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/04(木) 15:52


「よっすぃ〜のお部屋はここだよ」

多分、大丈夫。
普通に言えた。

ドアを開けて、中へとよっすぃ〜を促す。

部屋の中を見回す後ろ姿に
愛しさが込み上げてくる・・・

髪、少し伸びたね?
ちゃんとご飯、食べてた?

油断すると、とび出しそうになる
想いに懸命に蓋をする。

・・・ダメ。
しっかりして。

132 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/04(木) 15:53

「チュラカーギー」
「え?」
「なんでしょ?」

振り返ったよっすぃ〜は
まばゆいばかりの笑顔。

「運転手さんが、そう言ってた。
 梨華ちゃんのことでしょ?」

「どうだろ・・・」

「おかげで近所の男どもに活気が出て、
 ありがたいって言ってたよ」

「そんなことないよ」

「ねぇ、梨華ちゃん」

よっすぃ〜が近づいてくる。
それだけで加速してしまう、わたしの鼓動。

大丈夫。
さっき練習した通りにするの。

――頑張れ、わたし。

133 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/04(木) 15:53

「ありがと、よっすぃ〜
 心配して、わざわざ来てくれたんだよね?」

ちゃんと目を見て言えた。
震えずに言えた。

「ごっちんと美貴ちゃんに聞いたんでしょ?離婚したこと。
 やっぱり、焦っちゃダメだね。続かなかった・・・」

大丈夫。
きっと、大丈夫――

「梨華ちゃん」

これで、よっすぃ〜は慰めてくれるはず。
あとは流れに任せて、本当の気持ちさえ隠していればいい。

だってずっと。
もう何年もずっと、そうして来たんだもの――

134 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/04(木) 15:54

「心配だったよ」

小さく頷く。

「ちゃんと笑顔で暮らしてるかなって
 ずっと心配だった」

優しいよっすぃ〜。

「ごめんね、よっすぃ〜
 こんな所まで・・・」

お仕事だって大変なのに。
オランダから、そのまま駆けつけてくれたんでしょ?
だって、スーツケースに荷札がついたままだもの・・・

135 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/04(木) 15:54

「心配だったのは、ほんとだけど
 それが一番の理由じゃないから、謝らないで」

よっすぃ・・・?

「アタシが来たかったんだから」

いつになく真剣な瞳で
見つめられて身動きが出来ない。

「アタシが、来たかったんだ・・・」

ねぇ、息がつまりそうだよ・・・

「会いたかったんだ、梨華ちゃんに・・・」

どうしよう・・・
よっすぃ・・・


「ただ、アタシが会いに来たかっただけなんだよ・・・」

136 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/04(木) 15:55

137 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/04(木) 15:55

138 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/08/04(木) 15:55

本日は以上です。

139 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/04(木) 20:47
震えが止まらん
どっちの美人も頑張れ
140 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/05(金) 00:39
最高です!胸が苦しいっす!


120で大爆笑です!
141 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/08/09(火) 12:40

>139:名無飼育さん様
 Tシャツ着て頑張るYO!

>140:名無飼育さん様
 ありがとうございます!


では本日の更新にまいります。
142 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/09(火) 12:41

143 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/09(火) 12:41

――鍵が壊れた。

ただ、あなたが。
よっすぃ〜がそばにいるというだけで
あっという間に、壊れてしまった。

好き・・・
どうしようもなく、あなたが好き・・・

もう限界だったから。
もう自分を止められそうになかったから。

だから、わたしは・・・

――彼を選んだのに・・・


144 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/09(火) 12:42

よっすぃ、お願い。
これ以上、わたしを壊さないで。

――ずっと隠してきたの。
――ずっと守ってきたの。

あなたに嫌われたくなかったから・・・

そばにいられればいい。
一番近くにいられれば、それで良かった。

だけど、あなたに恋人が出来るたびに
嫉妬で狂いそうになった。

別れたと聞くと、慰めるフリをしながら
喜んでいる自分がイヤだった。

145 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/09(火) 12:42

よっすぃ〜苦しいの。
あなたがそばにいるだけで、苦しいの。

呼吸が乱れて、
心が乱れて、

苦しくて、苦しくて
息がつまりそうなの。

だからお願い。
お願いだから、もう帰って――


146 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/09(火) 12:42


**********


147 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/09(火) 12:43

2週間て、はえーよな。

あれから梨華ちゃんは、アタシを避けた。
廊下で会っても、食堂で会っても。

夜な夜な行われる、保田さん主催の
『ゆんたく』に参加しても。

さりげなく、だけどきっぱりと
アタシを拒絶し続けた。

「もう、リミットなんだよな・・・」

部屋に寝っ転がって、航空券を見つめる――

いっそのこと、無理矢理抱きしめて、
好きだって言っちまおうか・・・

148 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/09(火) 12:44

 <コンコン>

部屋のドアがノックされた。

「どうぞー」

気だるい体を起こしながら
ゆっくり視線を移す。

「保田よ。入るわね?」

予想通りの来客。
この民宿のオーナー、保田さんは
毎日のようにアタシの部屋を覗きにくる。

「今日は何スかぁ?」

最初の頃は、観光場所の斡旋。
中ごろになると、昼間から飲める店の紹介。
そして昨日は、とうとう酒の買出しを頼まれた。

まあ、おかげでこの短期間で
たくさんの人と仲良くなれたけど。

149 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/09(火) 12:44

「明日帰るのよね?」
「んー、そうっスね・・・」

保田さんは、アタシがココに来た目的を知っている。
滞在3日目の夜に、さんざん飲まされて、吐かされたから。


「で、あんた達最近どうなの?」
「へ?」

「いや、だから。あなたと石川。
 相変わらず、話しもしないじゃない」

「こっちはする気マンマンなんですけどねぇ・・・」

大げさにため息を一つついて、
ズカズカと部屋の中に入ってくると、アタシのまん前に座った。

150 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/09(火) 12:45

「あんた、このまま石川を置いて
 自分だけ帰る気?」

「まあ、とりあえずは・・・
 だって、仕方なくないですか?」

「はあ?あんた、それでいいわけ?!」

圧倒的目力に思わずのけ反った。

「いや・・・、良くないっスよ?
 良くないですけど・・・」

背筋が痛い。

「じゃあ、どうすんのっ?!」

――バタンッ。

耐え切れずに
後ろにひっくり返った。

151 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/09(火) 12:45

「ちょっとあんた、大丈夫?」

保田さんが手を引いて起こしてくれる。
だって、怖いよ。
近いよ。

梨華ちゃんなら、大歓迎だけどさ・・・

「とりあえずは帰りますけど、また来ます。
 梨華ちゃんに受け入れてもらえるまで、何度でも」

そう、何度だって。

ちゃんと目を見て話してくれるまで。
アタシも、梨華ちゃんが好きなんだって
分かってくれるまで。

だって今、無理やり告白しても
梨華ちゃんは絶対、受け入れてくれない。

そういうとこ、妙に頑ななんだ。

152 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/09(火) 12:45

「でも石川、あんたが帰ったら
 きっとココを辞めるわよ」

「まさか・・・」

「まさかなもんですか。
 あの子、あたしにナイショで
 ココで働いてくれる子を探してる」

「マジ・・・、ですか・・・?」

保田さんが、大きく一回頷いた。

「おそらくココを辞めて、
 またどこか遠くに行くつもりでしょうね。
 誰にも言わずに」

そんな・・・

153 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/09(火) 12:46

「それだけまだ、あんたのことが
 好きだってことじゃないの?
 何とも思わないなら、逃げたりしないわ」

「けど・・・」

「協力してあげよっか?」

へ?

またもや、圧倒的目力で迫られて
思わずのけ反る。

「一日、帰るの延ばせない?」

「一日なら出来なくはないですけど・・・」

またもや、背筋が痛い。

「じゃ、延ばしなさい。
 明日この宿、誰も宿泊客いないの。
 だからあたしも久しぶりに飲みに行っちゃおうかなって」

「・・・てことは・・・」

154 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/09(火) 12:47

「ふ・た・り・き・り!」

――バタンッ。

また後ろにひっくり返った。


「あたしにいい考えがあるの」

見上げる保田さんは、超笑顔。

「その代わりこれを宜しく」

目の前にメモを広げられる。
そこには、高級なお供え物が書かれていて――


「万事あたしの言う通りにしなさい」


保田さんの笑顔が
かの有名な『保田大明神』に見えた・・・

155 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/09(火) 12:47

156 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/09(火) 12:47

157 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/08/09(火) 12:48

短めですが、本日は以上です。

158 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/09(火) 19:34
ワクワクソワソワ
なにが起こるのかしらん?
159 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/10(水) 00:29
ヤススが最高すぎる!
160 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/08/17(水) 16:58

>158:名無飼育さん様
 ( `.∀´)<悪いようにはしないわ

>159:名無飼育さん様
 ( `.∀´)<いつもよ


では本日の更新です。

161 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 16:59


162 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 16:59


はあ〜〜

よっすぃ〜今頃、空の上だよね・・・


結局見送りもしなかった。
お客さんだけどしなかった。

わざと他のお客様に時間をかけたり
片づけを優先させたり、裏庭に逃げ込んだり・・・

だって無理なの。
もう無理なんだもん。

結局また逃げたんだ、わたし――

163 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:00

よっすぃの隣にいることが苦しくて。
膨らみすぎた想いを、壊すことも消すことも出来なくて
もうどうにもならなかった時、彼が助けてくれた。

『想いを抱えたままでいいから、
 僕のお嫁さんになりませんか?』って・・・

結婚したのに、心も体も許さないわたしを
責めたりもせず、ただ待っててくれた彼。

大切にしてくれる彼を好きになろうって
この人とならって、そう決めたはずなのに・・・

よっすぃ・・・
ダメなんだ、わたし。

あなたじゃなきゃ、ダメなの――

164 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:00


『今日は新しい宿泊客は、誰も来ないから
 ゆっくり掃除していいわよ〜』

そう言ってくれた保田さんの言葉に甘えて
普段の3倍くらい時間をかけて、各お部屋のお掃除をする。

ほんとに今日
お客さんがいない日で良かった・・・

重い心に
動かない体。

内にしまい込んだままの思いが
わたしの全身を蝕んで、どうにも抗うことが出来ない。


一番最後に回したお部屋の前に立って
大きくため息をついた。

けど・・・
やらなきゃ・・・

165 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:01

何とか自分を奮い立たせて
その部屋の扉を開けた。

「よっすぃ〜の匂い・・・」

残された香りにさえ、
胸が痛んで涙が溢れそうになる。

「ごめんね、よっすぃ〜」

きっと不思議だっただろう。
何か悪いことしちゃったかもって、自分を責めてるかもしれない。

「ごめんなさい・・・」

もう一度呟いたら、涙が溢れ出した。

166 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:01

泣きながら、よっすぃ〜のいた形跡を消していく・・・

ゴミ箱。
冷蔵庫。
洗面台。
トイレ。

お布団にシーツ。

すべてを拭い去って、
一つずつ、アトを消して行く――


キッチリ閉められたクローゼットに
手をかけて中を開いた。

167 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:02

「何これっ?!!」

思わず大きな声が出た。

そこにあったのは、荷札がついたままの
よっすぃ〜の大きなスーツケース。

「もしかして忘れたの?!」

あり得ない・・・
けど、よっすぃ〜ならあり得る・・・

命より大切だって言うカメラはないし、
部屋は綺麗だったし・・・

「うそ・・・
 もう!バカっ!」

慌てて部屋を飛び出して
事務室に向かう。

168 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:02

「保田さ〜んっ!
 保田さぁ〜〜んっ!!」

「何よ、騒々しい」

「大変なんですっ!
 忘れ物があって・・・」

「忘れ物?」

「はい・・・
 ――あの・・・、えっと・・・」

怪訝そうに、保田さんがわたしを窺う。

連絡しろって言われるかな?
けど、したくない。
住所は分かるから、宅急便で送れば・・・

「だから忘れ物って何よ?!」

すぐそばで、大声で言われて我に返る。

「・・・よっすぃの部屋に、スーツケースが・・・」

消え入りそうな声で呟いた。

169 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:03

「ああ、それ。
 忘れ物じゃないわよ」

予想外の言葉に戸惑う。

「彼女の宿泊、今日までだもの」

え?!
今なんて・・・

「一日延泊。昨日決まったの。
 石川に言うの忘れてたっけ?ごめんごめん」

「・・・うそ・・・、だって保田さん。
 今日は宿泊客はいないって・・・」

「ヤダ。あたしは『新しい宿泊客は、誰も来ない』
 って言ったはずよ?」

そんな――

「彼女朝から海に写真撮りに行ってるわ。
 でも遅いわねぇ・・・
 2、3時間で戻るって言ってたけど・・・」

待って、そんな・・・
今夜もよっすぃ〜がココにいるなんて・・・

170 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:03

「もうすぐ夕方よね・・・
 張り切って、盛り上がっちゃってんのかしら?」

うふっ。
なんて、保田さんは笑ってる。

だけどわたしは・・・
わたしは全然笑えない。
他のお客様がいないんなら、逃げられない・・・


「あ、そうそう。
 あたし今夜久しぶりに飲みに行くから
 彼女の夕食とか、お世話。悪いけど一人で宜しくね?」

とびっきりのウィンクもどき付きで頼まれる。

「お願いです!それだけは・・・」

ムリ。
どうしても、それだけはムリなの。

「なんで?
 あんた達、お友達でしょ?」

保田さんに見据えられた。

「2人になるとマズイことでもあるわけ?」

グッと言葉に詰まる。

マズイのは、わたしだけ・・・
わたしの気持ちだけ・・・

171 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:04


 <♪♪♪♪♪>

俯いたままのわたしに、ため息を一つついて
保田さんは受話器を上げた。

「はい、保田荘です。
 ・・・あら先生。・・・え?
 ・・・はい、吉澤ひとみさんはうちの宿泊客ですけど・・・」

――先生?診療所の?


「何ですって?!岩場から海に転落して手遅れですって?!」

――いま、なんて・・・


「すぐ診療所に運びこまれたけど、おそらくもうって・・・」

――ヤダ・・・、何言ってるの・・・?


  『彼女朝から海に写真撮りに行ってるわ。
   でも遅いわねぇ・・・
   2、3時間で戻るって言ってたけど・・・』

172 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:04

「よっすぃ!!」

思わず叫んで、そのまま外にとび出した。

そんなのヤダよ・・・
手遅れなんてヤダよ・・・

全速力で診療所に向かう。


――お願い、いなくならないで・・・

代わりにわたしの命をあげたっていい・・・
だから、お願い・・・

もつれそうになる足を必死で前に出す。
息が激しく乱れて、涙がとめどなく溢れて
思うように足が動かない。


なんでもするから・・・
どんなことでもするから・・・

どうかお願いです。
お願いだから、よっすぃの命を奪わないで――

173 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:05


診療所につくと、何も言わずに
乱暴に扉を開けて、一気に中に進む。

「あら、石川さん」

看護師の麻琴ちゃんに
不思議そうな顔で出迎えられた。

「・・・はぁはぁ・・・、っぐ、
 よっ、すぃ・・・」

言葉が続かない。
呼吸が苦しい。
汗か涙か分からないものが、次々と頬を伝う・・・

「ああ!吉澤さんですか。
 診察室ですよ」

歩き出した麻琴ちゃんの後を追って
奥の診察室へと向かう。

扉を開けたその先に――

174 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:06

「よっすぃ!!!」

ベッドに駆け寄って、跪いた。

「・・・ヤダよぉ・・・、どうし、て・・・」

ベッドの上に横たえられて
体中を包帯でグルグル巻きにされて・・・

「・・・ね、がい・・・
 起きてよぉ・・・」

グルグルに巻かれている手を握ったけど
彼女の優しい温度は全く感じられなくて・・・

「・・・ねぇ・・・、おね、が、い・・・
 返事して、よ・・・。よっすぃ・・・」

「はい」

え?
今返事した?

ギュッと手を握ったまま
慌ててベッドを覗き込む。

175 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:06

「ねぇ!よっすぃ!
 分かる?わたしだよ?」

「えっと・・・」

「梨華だよ!石川梨華!」

あの綺麗な顔も包帯で覆われていて、
あまりの痛々しさに胸が締め付けられる。

「もちろん、分かってるよ」

良かった・・・
生きてる・・・
ちゃんと分かってくれてる。

「よっすぃ・・・」

一気に涙が溢れ出した。

「よっすぃ・・・よっすぃ・・・」

何も言葉に出来なくて
何度も名前を呼ぶ。

176 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:06

「あのね、梨華ちゃん」

声をかけられて
もう一度彼女を覗き込んだ。

「何?何でも言って?
 よっすぃ〜が望むことなら、何でもするから!」

誰かがトントンと
後ろから、わたしの肩を叩く――



「アタシ、こっちにいるんだけど・・・」


・・・え?


恐る恐る、後ろを振り向いた。


177 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:07


「よ・・・っすぃ?」

困ったように微笑んで
わたしの後ろに立っていたのは
紛れもなく、大好きなよっすぃ〜で。

「それ・・・、さっきあの看護師さんが
 包帯巻く練習してたマネキンなんだけど・・・」

その姿に。
その声に。

わたしの涙腺は決壊した。


「あ、あわわ・・・
 えっと・・・、梨華ちゃん・・・
 心配してくれたんだよね?ごめん・・・」

申し訳なさそうに謝ったよっすぃ〜にとびついた。

178 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:07

「うわぁ!」

そのまま後ろに尻餅をついたよっすぃ〜に
ギュッと抱きつく。

「・・・良かった・・・、よっすぃ・・・」
「ごめん、心配かけて」

優しく髪を撫でてくれる。

「・・・バカ」
「ごめん」

「バカ、バカ。よっすぃのバカ・・・」
「ごめん・・・」

でも――

「ほんとに良かった・・・」

よっすぃが生きてて。
よっすぃが無事でいてくれて――

179 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:08


――あれ?

でも保田さん『海に転落して手遅れ』って・・・


「ああ、それはあの酒」
「え?」

よっすぃ〜が指差した先には
安倍先生が酒瓶の首だけを握っていて・・・

「保田さんにあの酒頼まれてさ。
 朝一であれ買って、それから海の写真撮りに行ったんだ。
 撮ってるうちに夢中になっちゃって、岩場で足滑らしちゃって・・・」

よっすぃ〜の視線の先には
包帯でグルグル巻きにされた右足。

「ヤダ!ごめん!」

抱きついたまま、すっかり
よっすぃ〜の膝の上にいたわたしは
慌てて飛び降りた。

180 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:08

「たいしたことないから、大丈夫だよ」

優しく微笑んでくれた、よっすぃ〜の笑顔が眩しくて
思わず目をそらした。

「ほら、吉澤さん。
 もうちょっと、ちゃんと固定するから
 こっちに座って」

笑いを必死でかみ殺している安倍先生に促されて
椅子に腰掛けたよっすぃ〜が続きを教えてくれた。

181 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:09

岩場で足を滑らせて、海に転落したのは本当で。
落ちながらも、カメラだけは何とか必死で岩場に残して
代わりによっすぃ〜に道連れにされたのは、このお酒。

ちょうど漁師さんが、よっすぃ〜が
海に落ちるところを見てて、すぐに助けてくれて・・・

幸いにも、よっすぃ〜はカメラのために
変な体勢で踏ん張ったときに捻った右足のケガだけで済んだけど
酒瓶は、岩場に打ち付けられて粉々に砕け、
中身は大海の一滴になったって――


「それを圭ちゃんに、なっちが電話で報告したんだよ」

可笑しそうに安倍先生が言う。

「それをそばで聞いてて、石川さんてば
 勝手に誤解したんでしょぉ〜?」

なんて、これまた可笑しそうに
麻琴ちゃんに言われたけど。

よっすぃ〜だけは、
優しい笑顔で、わたしのことを見ててくれた。

182 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:09

さんざん、安倍先生と麻琴ちゃんにからかわれて
診療所を後にする。

辺りを夕陽が照らしていて
今日も一日が終わって行くんだと思うと
ここに来てはじめて、それを寂しく感じた。


「・・・ねぇ、梨華ちゃん」

右足を引きずるよっすぃ〜に合わせて
ゆっくりと並んで歩く。

ずっと帰って欲しかったよっすぃ〜。
ずっと避けてたよっすぃ〜。

でも今は。

沈んでいく夕陽が恨めしくなるほど
このまま、そばにいたいなんて思ってる・・・

183 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:10

「写真を撮りたいんだ」

驚いて隣のよっすぃ〜を見上げた。

「まだ撮るの?」
「うん」

眩しそうに、海に沈んで行く
大きな夕陽を見つめるよっすぃ〜。

――綺麗だよね、この景色。

これをカメラに収めたいと思うのは、
とっても自然な気持ちだと思う。

今日が終わってしまう。
サヨナラが待っている。

そんなキモチを抱えた
わたしみたいな人以外は――

184 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:10

「いいよ」

チクチクと痛む心を隠して
笑顔で答えた。

「そこで待ってるから、
 好きなだけ撮っていいよ」

立ち去ろうとしたわたしの腕を
よっすぃ〜が掴んだ。

「撮りたいのは、海でも夕陽でもないよ」

ドクンドクンと心臓が
音を奏で始める。

「梨華ちゃんだよ」
「・・・よっすぃ・・・」

「約束したでしょ?
 一人前になったら、最高にかわいい
 梨華ちゃんの笑顔を一番に撮ってあげるって」

夕陽に照らされたよっすぃ〜の笑顔が眩しい。

185 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:11

「アタシさ、今回の撮影すげぇ手ごたえあるんだ。
 この仕事がうまく行ったら、梨華ちゃんの最高の笑顔を
 この手で撮ってあげようって、日本を発つ前から決めてた」

大きな瞳で見つめられて
息が詰まりそうになる。

「撮りたいんだ、梨華ちゃんを」

暴れだす心臓が苦しくて
体が震えそうになる。

「梨華ちゃんを撮りたい」

「――よっすぃ・・・」

「ほらぁ、さっき言ってくれたじゃん。
 『よっすぃ〜が望むことなら、何でもするから!』ってさ」

わたしの口調をマネして
おどけたように、そう言った。


――遠い昔の、小さな約束・・・

そんな些細なことを覚えてくれてたなんて・・・


「もうまた、よっすぃ〜ったらぁ」

わざと膨れてみせて、
いつものように、よっすぃ〜の腕を叩いた。

186 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:12


「じゃあ撮るよ〜」

――リラックスして。
――ほら、笑って。

よっすぃ〜に笑顔を向ける。

シャッターが切られて、一枚だけだと思ってたのに
続けざまにシャッターが切られる。

「ちょっと!まだ撮るの?」
「まだまだ、まだまだ」

――今度は、ちょっと右向いてみて。
――次は逆。


・・・ふふ。
あの時みたい。

高2の修学旅行――

 『梨華ちゃん、撮ってあげる!』

買ったばかりのデジカメを
嬉しそうに自慢して、目的地につく度に
わたしを撮ってあげるって、はしゃいで――


187 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:12

「ねぇ、梨華ちゃん。
 覚えてる?高2の修学旅行のこと」

ドキッとした。

「アタシさ、夢中だったんだ。
 夢中で梨華ちゃんばっか、撮ってた」

話しながら、シャッターを切るよっすぃ〜。

「夢中になりすぎて、2人だけ
 おいてけぼりになったんじゃない」

「ふはは。わりぃ、わりぃ」

気がついたら、皆はもういなくて。
早く行かなきゃって、よっすぃ〜の手を引っ張ったのに・・・


「ラスト一枚」

あの日と同じことを言って
よっすぃ〜は、もう一枚シャッターを切った。

188 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:13

「アタシさ、あん時に
 これで生きていきたいって思ったんだよ」

カメラを右手に持って
笑いながら言う。

「だから梨華ちゃんは、
 アタシの人生を導いてくれた大恩人」

ゆっくりとよっすぃ〜が近づいてくる。

「けどさ、夢中になると
 あの時みたいにおいてけぼりくらっちゃうし、
 今日みたいにヘマするからさ・・・」

再び、壊れそうなほど
心臓が暴れだした。

「この手を引いてくれないかな?」

差し出された左手に、恐る恐る触れた。


「ふはっ。相変わらず、ちっちぇ手」

包み込むように、ギュッと握ってくれた
大好きなよっすぃ〜の大きな手。

189 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:13

「プニプニだし」

歩きながら、繋いだ手をかかげて
意地悪く言う。

「黒いし」
「何よ、もう!」

だけど、繋いだ手は離したくない。

「けどさ。
 かわいいよ、すっげぇ」

一気に心臓が跳ね上がった。


「・・・ねぇ、梨華ちゃん」

わたしの視線がよっすぃ〜を捉えるのを待って
彼女は言った。


「このまま2人で、一緒に帰ろうよ」


190 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:13

191 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/08/17(水) 17:13

192 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/08/17(水) 17:14

本日は以上です。

193 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/17(水) 22:19
ここからこじれるのが玄米ちゃわーるど
・・・なーんちゃって
194 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/18(木) 00:06
涙腺が決壊しそうです!どうしてくれるんですか!
195 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/27(土) 13:09
更新が待ち遠しいです!
196 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/27(土) 13:10
更新が待ち遠しいです!
197 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/30(火) 17:37
ドキドキしながら待ってます
198 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2011/08/30(火) 21:30
初めてリアルタイムで読んでいます!
ドキドキです!
199 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/03(土) 17:24
玄米ちゃ様、初レスです。ひょんな事から過去作品を読み、嵌ってしまい、
過去作品一気読みして、ここにたどり着きました!!
とても読み易く!情景が浮かんでくる作品ばかり!感服です!!
頑張って下さい〜楽しみが一つ増えました!!
200 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/03(土) 23:40
いつも一定のペースで更新してくれる玄米ちゃ様なのにちょっと心配
現実の二人がひどすぎるからだろうか
玄米ちゃ様の作品大好きなので正座して待ってます
201 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/09/05(月) 13:26

>193:名無飼育さん様
 さあどうでしょう?

>194:名無飼育さん様
 すみません。

>195、196:名無飼育さん様
 お待たせしました!

>197:名無飼育さん様
 同じくお待たせしました!

>198:名無し募集中。。。様
 ありがとうございます!

>199:名無飼育さん様
 ありがとうございます!
 ひょんな事が気になる・・・

>200:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 お待たせしました。


では、本日の更新です。
2回分一気に更新します。




202 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:26


203 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:28


はぁ・・・

気付かれないように、
浅いため息を一つ吐く。


宿についた途端、梨華ちゃんは
我に返ったように、繋いだ手を離した。

さっさと一人で上がって
事務室に行き、保田さんを探してる――

探したって無駄だよ。
とっくに飲みに行ってんだから・・・


 『石川が血相変えて、診療所に向かったわよ。
  しかし、あんたってドジね〜。ホントにケガするなんてさ。
  ま、いいわ。あたしはこれから飲みに行って、朝まで帰らないから
  後は2人で好きにヤッちゃって〜』

なんて、『ヤる』に変なアクセントをつけて
言われちゃったりなんかして・・・

204 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:28

そんな突然、ヤるとかヤらないとか・・・

そりゃ、好きですから。
愛し合えるものなら、愛し合いたいなんて
思っちゃったりもするけど・・・

探すのをやめて、今度は何度も電話を試みている
彼女の姿を見て、もう一度ため息をついた。

「そんなとこまでいかねぇって」

思わずボヤいた。

205 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:29

さっきはアタシなりに
結構頑張ったんだけどな・・・

『このまま2人で一緒に帰ろう』なんてさ。

アタシは、一緒に東京に帰ろうって、
そのつもりで言ったのに・・・

今の彼女の様子を見ている限りじゃ
『宿まで手を繋いで帰ろう』って解釈だったらしい。

ふぅ・・・
苦手なんだよ、言葉にすんの。
何か照れくさいって言うか、なんつーかさ・・・

けど伝わらないなら、言うしかない。
誰が聞いても、明らかに分かるように
ストレートにはっきり、言葉と態度で伝えるしかないじゃん。

206 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:29

「おーい!梨華ちゃーん」

事務室で電話を握り締める彼女に
声をかけた。

「保田さん、もう飲みに行ったんでしょ?」
「うん・・・、そうみたい・・・」

「じゃ、いいじゃん。
 たまにはゆっくりさせてあげたら?」

「でも・・・」
「アタシは梨華ちゃんと2人きりがいいな」

驚いたように目を見開いて
視線をさ迷わせて、頬を赤らめてる。


――覚悟してよ?

今夜は、ぜってぇ逃がさないから・・・

207 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:30



**********



208 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:32


心臓がもたないよ・・・

よっすぃ〜のそばにいたい。
よっすぃ〜に触れていたい。

だけど、壊れてしまった心の鍵を
直す時間がなかったから、抑えられる自信がないの。
自分の心なのに、歯止めが効かないの。

ねぇ、よっすぃ〜。

手を繋いだりしたら、錯覚しちゃうの。
そんな風に見つめられたら、勘違いしちゃうよ・・・

それなのに――

2人きりがいい、だなんて・・・

209 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:32

「いてっ・・・」

玄関に立っていたよっすぃ〜が
右足に手をあててうずくまる。

「大丈夫?」

さっきケガしたところだ。
ずっと無理して歩いて来たから・・・

「部屋まで、肩貸してくんない?」
「いいよ、つかまって?」

よっすぃ〜の脇にもぐり込んで
腰を支える。

「大丈夫?歩ける?」

「大丈夫。梨華ちゃんがそばにいてくれれば
 アタシは大丈夫だからさ」

間近によっすぃ〜の整った顔。

やめてよ。
たったそれだけで、わたしドキドキしちゃうんだよ?

210 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:33

心音が聞こえてしまいそうで、少しでも体を遠ざけたいのに
よっすぃ〜はわたしの肩をグッと掴んで離さない。

よっすぃ〜に固定された体に反して
グラグラ揺れるわたしの心。

このままじゃ、崩れちゃう・・・
このままじゃ、壊れちゃう・・・

怖いの、よっすぃ〜。

わたしの想いが
ずっとしまい続けたこの想いが

あなたにバレてしまったらって――


――だけど・・・

211 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:33

よっすぃ〜のお部屋に入って、
座椅子に腰を下ろすのを手伝う。

小さな和室。
大好きなよっすぃ〜が、2週間過ごしたお部屋。

今日で本当にお別れだから。
この想いに決別するまで、もうあなたには会わないから。

だから・・・

――だから今夜だけ・・・


「ねぇ梨華ちゃん。
 アレ見て」

そう言って、よっすぃ〜が指差したのは
冷蔵庫の上。

埋め尽くすように、びっしりと泡盛のビンと
おつまみが山盛りされている――

212 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:34

「保田さんから」

テーブルの上の紙を指でつまんで
よっすぃ〜がわたしに差し出す。


 『今夜は2人でゆんたくを楽しんで。
  酒とおつまみは、オーナーからの差し入れだから
  遠慮なくどーぞ。
   追伸 石川は今夜は一人でとことんお客様に尽くしなさい。
      吉澤、あとは任せた。
  じゃあね、ちゅーっぅ!!」


「オエ〜。最後にちゅーはいらねえって」

心底嫌そうな、よっすぃ〜の言い方に
思わず吹き出した。

213 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:35


「一緒に飲もうよ」

大好きなよっすぃ〜の笑顔。

「ゆんたくっておしゃべりの事なんでしょ?
 一人じゃムリだもん」

大好きなよっすぃ〜の優しい声。

「ね?だからさ。
 2人で飲も?」

窺うように覗き込む
大きくて、綺麗な瞳。


好きよ、よっすぃ〜。
こんなにも、あなたのことが好き。

だから、今夜だけは。
最後の夜くらいは。

――あなたをひとりじめしてもいいよね?


よっすぃ〜の目を
真っすぐ見つめて頷いた。


214 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:35




215 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:35


「でさぁ、すげぇの!」

よっすぃ〜はすごく楽しそう。
オランダでの撮影話を面白おかしく話してくれる。

小さなテーブルを前に、隣に並んで
お酒を注ぎあって、語り合って・・・

幸せなひととき。

いつか、この時間が
大切な思い出の1ページになるんだ。


「次は梨華ちゃんも連れて行きたいなぁ・・・」
「ふふ、楽しみにしとくね?」

そんなことはないだろうけど、
そう言ってくれるだけで嬉しいよ?

216 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:36

「じゃ、ゲンマン」
「え?」

「約束する」
「大げさだよ」

「ホントに連れてくから」
「・・・よっすぃ・・・?」

小指を差し出して
わたしを待つよっすぃ・・・


「――梨華ちゃんに、
 聞いて欲しいことがあるんだ・・・」

強い眼差しで見つめられた。

「どうしたの・・・?」

声が震えた。

いつになく真剣な顔。
かすかに震えてる、よっすぃ〜の小指・・・

217 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:36

「・・・アタシ、さ・・・」

よっすぃ〜のノドがゴクリと音を立てる。

「その・・・、なんつーか、ね・・・?」

よっすぃ・・・
――もしかして、好きな人が出来たの?

ズキンと胸が痛む。


  『アタシ、あいつと付き合ってみようと思うんだ』

過去に何度も聞いた言葉。

  『あいつのこと好きかもしんない』

その言葉を聞くたびに
わたしの胸は張り裂けそうで、
一人になると、涙がこぼれてどうしようもなかった。

218 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:37

「オランダって、その・・・
 すげえ国でさ・・・」

そこまで言って、
静かに深呼吸をする――

間違いない。
よっすぃ〜が、自分のことを話すとき。
こんな風に伏し目がちに、言葉を捜しながら言うんだ。

『好きな人が出来たんだ』って――


・・・もしも今。

今、あなたから
他の誰かに向けられた想いを聞いてしまったら――

今度こそ、本当に。

本当にわたしは――


――粉々に、壊れてしまう・・・


219 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:37


「よっすぃ〜、酔ってるでしょ?」

よっすぃ〜が紡ごうとした言葉を
無理矢理さえぎった。

「ちょっと飲みすぎだよ?
 一人でこんなに飲んじゃって・・・」

泡盛の空ビンを持ち上げる。

「よっすぃ〜がグイグイ飲んじゃうから
 わたし、ほとんど飲んでないんだよ?」

わざと責めるような口調で言う。
けど本当は、自ら飲まなかっただけ。
だってお酒に飲まれてしまったら、
きっと自制なんか効かなくなってしまうから・・・

220 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:38

「だから今夜は、この辺にしとこ?
 明日の便は何時?
 ちゃんと起こしてあげるから、安心し――」

「酔ってるように見える?」

今度はよっすぃ〜にさえぎられた。

「アタシ、こんくらいじゃ酔わないよ」
「・・・酔ってる、よ・・・」

「酔ってねぇって。目、見てよ」

「はいはい。酔ってないです」

茶化すようにそう言って、
よっすぃ〜の視線を避けるように立ち上がった。

「今のうちにお布団敷いとくから・・・」

そそくさと押入れに向かって
お布団を引っ張り出す――

ドスンって音がして、よっすぃ〜を見ると
ふてくされたように、そのまま後ろに倒れて
仰向けに寝そべっていた。

221 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:38

ごめんね、よっすぃ・・・
親友失格だね?

だけど、今のわたしは受け止められない。
昔みたいに、笑って『頑張れ』って言える自信がないの。

きっと溢れる涙を止められない。
そしたら、溢れる想いも止められなくなっちゃうの。

だから、今はごめん。

明日東京に帰ったら、美貴ちゃんとごっちんに
聞いてもらって?

わたしは、あなたへの想いが消えてなくなるまで
もうあなたには会わないから――

222 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:39

ゆっくり丁寧に時間をかけて
よっすぃ〜が眠るためのお布団を敷いた。

横目でそっと、よっすぃ〜の様子を窺うと
大の字にひっくり返ったまま、規則正しく胸が上下している――

眠っちゃったんだ・・・
思わず笑みがこぼれる。

よっすぃ〜は、いつだってそう。
飲むだけ飲んだら、こんな風に大の字になって寝ちゃうの・・・


「よっすぃ〜」

優しくよっすぃ〜に声をかける。

「風邪ひいちゃうからこっちで寝よ?」

返って来たのは、かすかな寝息。


――わたしがしてあげられる、最後のこと・・・


223 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:39

ゆっくりとよっすぃ〜の元に向かう。

眠っているときでさえ、
整った綺麗な顔立ち…

ねぇ、よっすぃ〜知ってる?

わたしね、旅行の時とか、飲み会とかで
こんな風によっすぃ〜が潰れた時、
いつも隣でよっすぃ〜の寝顔を、こうして眺めてたの。

ずっと一番近くにいたわたしの特権。
自分の寝る時間を削ってでも、あなたを見ていたかったんだ。

――でも、それも今日で終わりだね?


224 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:40

「好きな人の話し、聞いてあげなくてごめんね?」

そっとよっすぃ〜の髪を撫でた。


「――好きだったの、よっすぃ〜のこと…」

はじめて声に出した想い。

「本気で好きだったんだよ・・・?」

涙が溢れた。

まるでわたしの想いを拒否するかのように
背を向けて、体を丸めてしまったよっすぃ〜。

ごめんね。
もう2度と飛び出て来ないように、ちゃんと蓋をするから・・・

225 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:40

涙を拭って、笑顔を作ると
思いっきり、よっすぃ〜の肩を揺さぶった。

「よっすぃ〜起きて?」

いつものことだけど、
一向に起きる気配がない。

「風邪ひいちゃうから。
 ほら!」

強引に腕をとって、力が抜けた体を抱き起こす。

「よいしょっ」

必死で抱えて、引きずるようにして
何とかお布団まで運びこむ。

「飲み過ぎちゃダメだって、いつも言ってるのに」

静かに眠るよっすぃ〜にお布団をかけてあげた。

226 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:41


――幸せになってね、よっすぃ〜。

心の中で呟いて、もう一度だけ
よっすぃ〜の髪に触れた。

「ばいばい・・・」

次の瞬間、すごい力で
触れている腕を掴まれた。

「・・・よっすぃ・・・?」
「ばいばいって何だよ」

わたしの腕を掴んだまま
ゆっくりとよっすぃ〜が起き上がる。

「・・・アタシの話し、終わってねぇよ・・・」

潤んだ大きな瞳が
わたしを捉えた。

227 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:41

「最後まで、ちゃんと聞けよ・・・」

よっすぃ・・・

どうして・・・?
どうしてそんな目をするの・・・?

「――アタシのこと・・・、もう過去形なの?」

絶対に縮まらないはずの距離なのに・・・

何で?
そんな熱い視線で・・・

「もう・・・、過去の人になっちゃったの・・・?」

うめくように、よっすぃ〜が呟いた。


228 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:42



離して・・・

そう言いたいのに、言葉にならない。

期待と不安と
希望と恐怖が

グルグルと体の中を渦巻いている――


「・・・アタシの見た景色、
 梨華ちゃんは見たくない?」

何を言い出すの・・・?

壊れそうなほど、心臓が高鳴る。
掴まれた腕から、よっすぃ〜に伝わってしまうほど体が震えてる。

怖い・・・
けど――

229 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:43

「アタシは見たいんだ。
 梨華ちゃんが見た景色」

よっすぃ・・・

「ここに来て、たった2週間だったけど
 梨華ちゃんが行ったとこ、梨華ちゃんの目に映ったものを
 全部見たくて、保田さんや島の人に聞いて全部行ったんだ」

「・・・ぜん、ぶ・・・?」

「うん。ここの良さを分かるには5ヶ月かかるって
 梨華ちゃんがここに来てからの期間を
 最初に保田さんに言われたんだけどさ。
 やっぱ5ヶ月はムリだから、2週間で全部まわろうって、
 全部感じようって、毎日色んなとこ行った・・・」

けどさ・・・

「余計梨華ちゃんの気持ちが分かんなくなって来ちゃってさ。
 全然話してくれないし、あからさまに避けられるし
 ちょっと・・・てか大分へこんだ」

よっすぃ〜が一つ息を吐き出して
掴まれた腕が自由になる・・・

「ごめん、痛かった?」

無言で首を横に振った。

230 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:43

「正直、今みたいに腕引っつかんで
 こっち向けよって、そんな風にしようとも思ったんだ」

けど、アタシは・・・
梨華ちゃんを大切にしたかった。

もっと梨華ちゃんに近づこうって
もっと梨華ちゃんの想いを感じようって

そんな風に思って
最後にもう一度、海に行ったんだ。

やっぱ梨華ちゃん、
海を眺めてた時間が多かったって皆が言ってたから・・・

眺めてるうちにさ、もっと近づけば、
梨華ちゃんの心に近づけるかなって思ったんだ。
そしたら、行き過ぎてボッチャンってさ・・・

231 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:44

「はは、相変わらずアホでしょ?」

悲しげによっすぃ〜が笑う。

「アタシ、かっこわりぃな〜って。
 折角1日延ばして、梨華ちゃんと2人になる
 チャンスももらったのに、怪我しちゃってさ。
 最悪じゃんなんて、またへこんでたら梨華ちゃんが
 診療所に駆けつけてくれて・・・」

よっすぃ〜の大きな瞳が
わたしを捉えた。

「すげー嬉しかった・・・」

――信じられない、言葉の数々・・・

ドクンドクンと
大きく波打つ心音・・・


ねぇ、よっすぃ・・・
わたし、期待しちゃう、よ・・・?

232 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:44

「アタシさ、言葉にすんのとか苦手だし
 うまく態度にも出せないけどさ・・・
 やっぱり梨華ちゃんが見た景色は、全部見たいって思うんだ」

そこまで言って、
静かに深呼吸をする――

「だから、ね・・・」
「――だか、ら・・・?」

よっすぃ〜のノドがゴクリと音を立てる。

「だからもし、梨華ちゃんが
 誰にも言わずに、ここを出てどこか遠くに行ったとしても・・・」

よっすぃ〜の眼差しが
強いものに変わる――

233 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:45

「どんな手使ったって、
 アタシは必ず梨華ちゃんを探し出す」

「・・・よっすぃ・・・」

「探し出して、絶対捕まえる」

グッと体ごと引き寄せられた。

「だからもう逃げられないよ・・・
 てか、もう逃げんな」

強く抱きしめられた。


「――好きなんだよ、梨華ちゃんのことが・・・」

体中が震えた。

「やっと気付いたんだ。
 自分の気持ちに」

よっすぃ〜が・・・
わたしを、好き・・・?

234 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:45

「アタシが幸せにする。
 約束する」

夢・・・、じゃないよね・・・?

「だからお願い。
 過去の人にしたりしないで・・・」

よっすぃ〜が震えてる・・・

――本気・・・、なんだよね・・・?


「アタシ、元旦那よりは稼ぎは悪いけど
 一人くらいは養えるよ?
 苦労なんかさせない。そばにいてくれるだけでいいから・・・」

だから――

ゆっくりと体が離れて
再びよっすぃ〜に見つめられる。

「一緒に東京帰ろう?
 それで、一緒に暮らそう?」

とめどなく涙が溢れ出した。

235 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:46

「アタシが夢中で撮りたくなるのは
 梨華ちゃんしかいないんだ」

う、ううっ・・・

「梨華ちゃんだけなんだよ」

嗚咽が止まらない。


「返事、聞かせてよ」
「・・・ううっ、う・・・」
「それじゃわかんねって」

優しく微笑んで、涙を拭ってくれる。

「う〜、あ〜あ〜あ〜」
「そんなに泣くなって。アゴ出てるじゃん」

「・・・ぅっ、・・・バ、カ・・・」

涙を拭ってくれた手が
そのまま頬に添えられる。

ゆっくりよっすぃ〜が近づいてきて
ギュッと目を閉じた――

236 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:46

柔らかな感触をアゴに受け止めて
驚いて目を開ける。

「返事、聞いてねーもん」

目が笑ってる・・・

こういうとこ、
すごくイジワルなんだから・・・

「好きだもん。大好きだもん。
 よっすぃ〜なんかより、ずっとずっと前から
 好きで、好きで・・・」

言葉に詰まった。

「――苦し、く、て・・・
 辛く、て・・・、どうしようもな・・・」

よっすぃ〜の唇が
わたしの唇を塞いだ。

237 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:46

ずっと触れてみたかった唇。

イケナイ感情を抱いた自分を
ずっとずっと責めてたのに・・・

「好きだ・・・」

信じられないほど近くに
大好きなよっすぃ〜がいる。

「今まで苦しめた分
 幸せにするから・・・」

再び強く抱きしめられた。

「ぜってぇ幸せにするから」

よっすぃ〜の腕の中で頷いた。


「――好きだよ、梨華ちゃん・・・」

縮まらないはずの距離が
ゼロになった。

238 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:47






239 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:47


日差しの眩しさに、
思わず顔をしかめた。

よっすぃ…?
――あれ?いない…

そろそろと起き上がって、
素肌に布団が触れる感触に思わず赤くなる――

 『好きだよ』

何度も何度も囁いてくれたよっすぃ・・・

――ほんとに、夢じゃないんだよね…?

胸元に残るよっすぃ〜のアト。

ずっと秘めてたのに、ずっと苦しかったのに・・・
信じられないくらい、今すごく幸せ…

240 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:47

でも、よっすぃ〜はどこ?
一緒に寝たはずなのに…

もしかして、朝起きて後悔してるとか?
酔った勢いの過ちだったとか?

ヤダ・・・
そうだったら、どうしよう…

一人で困惑してるところに、お部屋のドアが開いて
慌ててお布団で体を隠した。

241 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:48

「起きた?」

眩しい笑顔で、お部屋に入ってくると
手にしたお盆をテーブルに置いて、よっすぃ〜が近づいてくる。

「おはよ、梨華ちゃん」
「…お、おは、よ…」

後悔してないのかな・・・?

「朝ごはん、こんぶのおにぎりでいい?
 保田さんに許可もらって、勝手に作っちった」

優しく笑うよっすぃ〜。

「お腹空いたでしょ?」
「・・・あ、う、うん…」

どうしよう・・・
恥ずかしくて、まともに顔が見れない・・・

242 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:48

「――昨日は、ごめん・・・」

言いづらそうに口ごもりながら
俯いてしまったよっすぃ〜。

「あの・・・、さ。
 アタシ・・・、その・・・」

もしかして、昨日のこと後悔してるの?
浮き立つ気持ちが一気に沈んで行く・・・

「あ〜、だからさ。
 ほんと昨日はごめん」

すごい勢いで頭を下げたよっすぃ〜。
ヤダ・・・泣いちゃいそうだよ・・・


「――梨華ちゃん、気持ちよくなかったよね?」


・・・へ?


243 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:49

「・・・その・・・、アタシ、さ・・・
 する方って、・・・初めてだったから、
 結構いっぱいいっぱいだったんだ・・・」

すぐ横で正座をして
その大きな瞳でわたしを窺う。

「何かだいぶテンパってて、
 でも、何かすげー嬉しくて。
 アタシはすげえ良かったんだけど
 梨華ちゃん、イケなかったよね・・・?」

・・・ちょ、ちょっと・・・
真顔でそんなこと聞かないでよ・・・

「ごめん・・・
 アタシ、へたくそだったよね・・・?」

一気に顔中、真っ赤になった。

244 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:49

「あの〜、・・・アタシ頑張るからさ。
 もっと努力するから。だから・・・その・・・」

もうヤダ・・・
恥ずかしいよ・・・

耳まで熱くなっているのが
自分でもよく分かる。

「お願いだから、幻滅したりしないで?ね?」

お布団ごとギュッと抱きしめられた。

「元旦那より、きっとうまくなるから、ね?
 次はもっと優しく出来ると思うし・・・
 だからお願い。ね?ね?」

すがるような目で
わたしを覗き込むよっすぃ〜。

バカ・・・

「・・・よっすぃってほんとにバカ」
「バカって・・・」

視線を外したよっすぃ〜が
苦しそうに顔をしかめる。

245 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:50

そんなこと、大真面目に聞かないでよ。

でもね、すごく愛を感じるの。
心の奥がポカポカと温まって、自然と頬が緩むの。

だから――

するりとよっすぃの腕をほどいて
向かい合うと、よっすぃ〜の頬を両手で挟んだ。

「・・・嬉しかったよ。
 よっすぃ〜と一つになれて」

すごくすごく
言葉では表せないくらいに。

「泣きたくなるくらい
 今わたし幸せだよ?」

潤んだ瞳がわたしだけを
見つめてくれてる――

好きよ、よっすぃ・・・
だから、肝心なことを教えてあげるね?

246 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:50

「初めてがよっすぃで嬉しい・・・」

見開かれた目で、
穴が開くほど見つめられる――

「・・・はじ・・・めて・・・??」

恥ずかしくて、顔を隠すように
目の前のあなたに抱きついた。

「よっすぃが初めてだから
 ヘタとか、そういうの分かんないもん・・・」

そう呟いた途端、すごい勢いでよっすぃ〜が
わたしを覗き込んだ。

「旦那とは?!」
「・・・してない」
「一度も??」
「うん・・・」

「マジ??!」
「まじ・・・」

「じゃあ、昨日苦しそうだったのは・・・
 声とかなかったのは・・・」

こぼれ落ちそうなほど
大きな瞳を見開いてる。

247 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:51

「なんだ・・・
 そっか・・・、そうなのか・・・
 てっきり、アタシ・・・」

そう呟いたと思ったら
途端にニヤニヤし始めた。

「クハ〜ッ。
 梨華ちゃんの初めて。
 もらっちったんだぁ・・・」

蕩けそうに下がった目じり。

「やべぇ。超嬉しいかも・・・」

――コホン。

よっすぃ〜がわざとらしく咳払いする。

「改めまして。
 どうだった?初体験」

「バカッ」

べぇってして、頭からお布団をかぶったら
無理矢理、隣に滑り込んで来たよっすぃ〜。

248 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:51

「からかってごめん」

耳元で囁かれる。

「初めてなのに、優しくしてあげられなくてごめんね?」

そんな優しい声で囁くなんて
ずるいよ・・・

「不思議なんだ。
 自分の気持ちに気付くまでは、平気だったのに。
 お風呂だって一緒に入ったことあるのに。
 こんな風に抱きしめると、すげえドキドキするんだ・・・」

ピタリとくっついた体から
よっすぃ〜の心音を感じる・・・

「聞こえるでしょ?
 アタシの心臓の音」

コクリと頷いた。

249 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:52

「昨日よりも、ずっと深く梨華ちゃんのこと
 好きになってる。愛しくて仕方ないんだ・・・」

腕の力が緩んで、そのまま
覆いかぶさるようにして、上から見下ろされた。

「梨華ちゃんは?」

呼吸が出来なくなるほど、
熱っぽく見つめられる――

――そんなの・・・

「決まってるじゃない…
 心臓、壊れちゃいそうなんだから・・・」

そう答えたら、蕩けそうな笑顔をくれて
甘くて、優しいキスをくれた――


250 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:52

「よしっ!決めたっ!!」

よっすぃ〜が勢いよく飛び起きる。

「梨華ちゃん、風呂入って。
 早く服着て、出かける準備して?」

「・・・はい??」

ちょっと!
キスの余韻とかない訳?!

「忙しくなるぞぉ〜!」

ランランと輝く大きな瞳。
二カッと目映いばかりの笑みを浮かべて
よっすぃ〜があっという間に、お部屋をとび出して行く――

251 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:53

「何なの・・・もうっ!」

そんな風に言いながら、思わず笑みが零れる。
だって、そんなよっすぃ〜も
好きで愛おしくて、仕方がないから。

何を考えてるかなんて、想像もつかないけれど、
きっと楽しいことに違いない。

「よぉ〜し。
 わたしも急ごっと」

よっすぃ〜においてけぼりにされないように。
また、手を繋いでもらえるように――


252 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:53


253 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/05(月) 13:53


254 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/09/05(月) 13:54

次回最終回となります。

255 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/05(月) 19:52
やっとですねー!よかった!
わくわくしながら待ってます!
256 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/05(月) 21:05
更新きたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
キュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンしてます><
257 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/06(火) 00:48
私も胸がキュンキュンしてます!
最終回楽しみに待ってます!
258 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/07(水) 02:13
最終回楽しみだけど名残惜しい〜!
さりげなく梨華ちゃん復帰後のライブMCネタも盛り込まれてて
ニヤニヤさせてもらいましたww
259 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/13(火) 11:01
最終話マッテマス
260 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/09/13(火) 12:53

>255:名無飼育さん様
 お待たせしました。
 ありがとうございます。

>256:名無飼育さん様
 9キュンいただきました!

>257:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 楽しんで頂ければ幸いです。

>258:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 そう言って頂けると嬉しいです。

>259:名無飼育さん様
 お待たせしました。


では、最終回です。

261 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 12:53


262 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:04

言われた通りに、お風呂に入って
身支度を整えて、よっすぃ〜のお部屋に向かう。

さっきは事務室で電話してたけど
姿が見えないから、きっとここにいると思うんだけど――

遠慮がちにドアをノックした。

『どうぞ〜』

よっすぃ〜の声が聞こえて安心した。

「よっすぃ〜、着替えたよ?」

ドアを開けながら
声をかけた。

「じゃあ、おにぎり食べて待ってて」

背を向けたまま答えるよっすぃ〜。

何やら、机に向かって
書き物をしているみたい。

263 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:05

「う〜んと・・・」

ペンを額にあてて、何やら考え込んでる。
急なお仕事かな・・・?

邪魔しちゃいけないと思って
静かにお部屋の中に入ると
言われた通りに、おにぎりに手を伸ばした。

――おいしい・・・

早起きして、わたしのために
握ってくれたんだと思うと嬉しくて仕方ない。

264 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:05

「よしっ!完璧!!」

満足げにそう言って、振り返ったよっすぃ〜に
「コーヒーいれよっか?」
って、笑顔で声をかけた。

よっすぃ〜のお部屋に遊びに行ったとき。
こんな風に急なお仕事が入ると、
よっすぃ〜は仕事部屋にこもっちゃう。

『好きにしてていいよ』
って言ってくれるから、雑誌を読んだり
テレビを見てくつろいでいると、仕事を終えたよっすぃ〜が
申し訳なさそうに、お部屋から出てくるんだ。

だから、笑顔で迎えてあげるの。
『コーヒーいれよっか?』って――

265 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:06

「ううん、いらない」

予想外の答え。
でも満面の笑みの彼女。

スタスタとわたしの目の前に来て
あぐらをかいて座ると、手にした紙を
自慢げにわたしに見せた。


 [私、石川梨華は、愛しの吉澤ひとみさんと
  想いが通じあったので、一緒に東京に帰ります。
  よって、本日を持ちまして、この保田荘を辞めることを
  お許し頂きたく、ここにお願い申し上げます]


266 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:06

「ちょっと、何これ?」

「ん?退職願。
 あとは梨華ちゃんのサインだけ」

はい。
なんて言って、ペンを差し出される。

「仕事じゃなくて、こんなの書いてたの?!」

「そうだよ。ほら急いで。
 この後、梨華ちゃんの荷物詰めて
 島の皆にも挨拶行かないと」

忙しいよ〜
なんて、ニコニコしながら言われる。

「待って。
 よっすぃ〜、ちょっと待って」

「何?」
「何って・・・」

だって、ここ保田さん一人なの。
明日もお客さんくるし、そんなに急には・・・

267 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:07

「昨日、一緒に東京帰ろう。
 一緒に暮らそうって言ったじゃん」

「確かにそうだけど・・・」

だって、今日急になんて
迷惑かけちゃうよ・・・

「大丈夫。保田さんには話しついてるから」
「え?」

「お供え物もちゃんとしたし」
「お供えもの?!」

「あ、いや・・・こっちの話。
 とにかく大丈夫だから。
 ド〜ンっとアタシに全部任せてよ!」

拳で胸を叩いて、
背筋を伸ばしたよっすぃ〜。

268 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:07

「オレについて来いっ!」
「ほんとに大丈夫?」

「あったりめーよ!
 大船に乗ったつもりで、任せきっちゃってよ」

「沈んだりしない?」

「するわけないじゃん。
 もし沈んでも、背中に乗せて
 岸まで泳いで行ったらぁ!」

ふふっ・・・
何か笑っちゃう。

でも、そこまで言ってくれるんなら――

「全部任せよっかな。
 よっすぃ〜に」

そう言ったら、本当に嬉しそうに微笑んで
肩を抱き寄せられた。

269 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:08

「今夜こそ、思いっきり優しくスルから。
 ちゃんとイカしてあげるから。
 身も心も全部、アタシにゆだねちゃって。ね?」

「・・・エッチ」

「何で?愛し合う2人の
 自然な姿でしょ?」

イタズラな指が、体のラインをなぞるように
這い上がってきて、慌てて阻止する。

「ケチ・・・」
「今夜って言ったじゃない」

「だって好きなんだもん。
 触れたくなっちゃうんだよ」

・・・参っちゃうな。
これ以上、好きにはなれないなんて思ってたのに・・・

270 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:08

少しむくれたよっすぃ〜の唇に
自分から軽く触れ合わせた。

「――今は、キスだけね・・・?」
「うん・・・。
 じゃもう一回だけ、ちゃんとしよ?」

そう言って、近づいてきた
よっすぃ〜の顔を両手で挟んで阻んだ。

「ダメ!急がないといけないんでしょ?」
「ちぇ・・・」

その代わり――

「今夜、好きにしていいから・・・」

勇気を出して言ってみたのに。


「ぐおおおおっ!!
 鼻血でそぉ〜〜!!」

「お願いだから、叫ばないでよ!!」


271 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:09


それからすぐに、2人で荷物を整理して、
保田さんに挨拶して、島の皆にも挨拶に行った。

全員が祝福してくれて
お祭りのように喜んでくれて――


楽しすぎる時間を、皆と共有した結果、
愛しいあの人は今、すっかりベロベロになって隣で眠っている・・・

「勧められたままに飲むから・・・」

スッとした高い鼻の先っぽを
指ではじいてみても、スースーと
寝息で答えるだけで、起きる気配なし。

272 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:09

「部屋まで一緒に運ぼっか?」

「すみません。辞めるって言ったのに
 やっぱ今日は泊めてなんて・・・」

「仕方ないじゃない。
 飛行機飛んじゃったんだから」

保田さんが豪快に笑った。

「しかし、面白いわよね〜
 あんたの恋人。
 カッコいいんだか、ドジなんだか
 さっぱり分かんない」

保田さんの言葉に苦笑しながら
一緒に運ぶのを手伝ってもらう。

綺麗にお掃除したはずのよっすぃ〜の部屋に再び戻って、
お布団を敷くとグデングデンの体を横たえた。

273 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:10

「あんたも隣で寝るんでしょ?」
「はい」

「良かったわね。
 石川のそんな幸せそうな顔、始めて見たわ」

おやすみ。

そう言って、投げキッスをするから
慌てて、わたしとよっすぃの唇を手で塞いだ。

「全く!失礼しちゃうわっ」

そう言って笑いながら、
保田さんはお部屋から出て行った。

274 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:10

「ほんっと、しょうがないなぁ・・・」

柔らかいほっぺをプニプニとつつく。

「今夜は、思いっきり優しくスルって
 ちゃんとイカしてくれるって言ったクセに・・・」

あどけない顔で眠る
よっすぃ〜の隣に潜り込んだ。

「期待してたんだからね・・・」

幸せそうな寝顔。
それだけで、わたしの心は充分満たされるの・・・


――だから、いいよ。

そんなちょっぴりドジなあなたでも
わたしの全てを任せたいって、心から思うから――

「今夜のことは
 責めないでいてあげるね?」

あなたの寝顔にキスを一つ落として
夢の中にいるあなたを追いかけて
わたしも一緒に眠りについた――

275 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:11






276 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:11

「ただいま〜」
「お、おじゃま、します・・・」

先に玄関に入ったよっすぃ〜が
クルリと振り向いて、わたしを見つめる。

「おじゃまじゃないでしょ?
 ただいまでしょ?」
「そ、そうだね・・・」

「今日から、ココは梨華ちゃんの家なんだよ?」

わかったら、やり直し。
最初が肝心だからね。

なんて言ってるけど、
昨日酔いつぶれて、一日ココに来るのが
遅れたのは、誰のせいだと思ってんのよ?

少しだけムッとしながらも
言われた通りにやり直す――

277 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:12

「た、ただいま・・・」
「おかえり、梨華ちゃん」

突然グッと抱きしめられた。

「今日からずっと一緒だね」

耳元で優しい声が聞こえる。

「今まではアタシの家でも
 今日からは2人の家だから」

――おじゃましますは禁止だよ?

胸に抱かれたまま頷くと
「よしっ」って、ニッコリ微笑んで
わたしから離れた。

278 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:12

よっすぃ〜の匂いに包まれた
よっすぃ〜のお家。

今日からココで、2人っきりで
暮らすんだと思うと、何だか少し
恥ずかしくて、でもすごく嬉しくて――


「アタシちょっと仕事部屋にこもるから
 好きにしてて?」

え・・・?

それだけ言って、サッサと
お部屋に入ってしまう。

「ちょ、ちょっと・・・」

何よ!
いきなり一人ぼっちにするなんて。

まあ、でも2日も延泊しちゃったから
仕方ないのかもしれないけどさ・・・


「べぇーだ」

よっすぃ〜が消えたお部屋に向かって
あっかんべぇすると、彼女が出てきた時のための
コーヒーを落とし始めた――

279 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:13

荷物を片付けたり
お部屋を少し、掃除したりして時間を潰す。

けど、元々綺麗なお部屋だから
結局はヒマを持て余してしまう。

「遅いなぁ・・・」

コーヒーだって、
おいしくなくなっちゃうよ?

仕方なくソファーに体を投げ出した。


――夢みたい、だな・・・

前はココにくると
胸が痛かった。

近くにいたいのに、逃げ出したくて。
触れたいのに、触れられれば突き放して――

それなのに今日から
ココで暮らすなんて・・・

280 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:13

「ほんと夢みたい・・・」

そう呟いた途端、
よっすぃ〜がお部屋から出てきた。

「何が夢なの?」
「ううん、何でもない」

慌てて首を横に振って
笑顔で声をかけた。

「コーヒーいれよっか?」
「いや、ちょっと出かけてくる」

ソファーから浮かしかけた体が固まった。

「ごめん。ほんと好きにしてて?
 てか、自分の家だもんね」

ニッコリ微笑んで
サッサと出て行こうとする。

281 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:14

「ちょ、ちょっと待って!
 どこに行くの?」

「ん?ちょっとね。
 じゃ・・・」

あっけにとられたわたしを
置き去りにして、行ってしまった彼女。

ふつふつと怒りが込み上げてくる――

何よ!何なの?!
あれですか?
手に入ったら、途端にってやつ?!

信じらんない!

282 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:14

今朝なんか『ごめんっ!!』
って土下座したクセに・・・

『今夜こそ絶対!寝かせないから!
 ほんとに覚悟しといてっ』って言ったクセに・・・

ほんとに知らないんだからね!!

ドスドスと音をさせて、お部屋に戻ると
2人で飲むために買った泡盛を、引っ張り出して
一人でヤケ酒を飲み始めた――


283 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:14



**********



284 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:15


「ただいま〜」

あれ?
寝ちゃったかな?

音をさせないように、部屋に上がって
中を覗くと、ローテーブルにうつ伏して
すっかり眠っちゃってる。

「あちゃー。カゼ引くって」

慌てて近寄ると
彼女から漂う匂い・・・

「酒クセぇ・・・」

285 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:15

「ねぇ、起きなよ」

肩を揺する。

「カゼ引くよ?」
「・・・べっつに、いい・・・」

「よかねぇよ、ほらっ」

後ろから体を抱えあげて
とりあえず、ソファーに移す。
途端に崩れ落ちる体を、引き寄せて抱きとめた。


「・・・よっすぃの・・・バカ・・・」
「はいはい、どうせバカですよ」

「・・・よっすぃの・・・浮気もの・・・」
「はあ??」

酔っ払いのたわ言とはいえ
聞き捨てならん。

286 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:16

「・・・どうせ、わたしのことなんて・・・」
「何言ってんの?」

「・・・うう・・・、うぐっ・・・」

突然泣き出した梨華ちゃん。

「・・・どうせ、どうせ
 わたしのこと、なんて・・・」

「何言い出すんだよ」

「もう・・・嫌いになったの・・・?
 わたしじゃ、ダメ・・・なの?」

バカかっ!

そう言おうとして言葉を飲んだ。
アタシを見つめた梨華ちゃんが
あまりにも真剣だったから・・・

287 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:16

「どうして急に
 そんなこと言い出すんだよ・・・」

優しい声で聞いた。
彼女の瞳にたまった涙が、これ以上零れ落ちないように。

「だってぇ。だってぇ・・・
 よっすぃ〜、一人でどっか行っちゃうんだもん。
 何も言わないで、いなくなるんだもん・・・」

次々と零れ落ちる涙を見てられなくて
彼女を抱きしめた。

「ごめん・・・」

ほんとごめん。
アタシ、一つに夢中になると
何もわかんなくなっちゃうから・・・

288 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:17

「全部話すから。
 ちゃんと話すから」

不安にさせるつもりなんかないよ。

誰よりも、何よりも
梨華ちゃんのことを大切に想ってるから――


「アタシ、どうしてもお礼を言いたくて。
 梨華ちゃんのこと、幸せにするから安心しろって
 言いたくて、元旦那のとこに行ってきたんだ・・・」

目を見開いて
絶句してしまった梨華ちゃん。

「梨華ちゃんが、その・・・はじめてだったって聞いてさ。
 マジで大事にしてくれてたんだって思って・・・」

きっとまだ、梨華ちゃんのこと
好きなはずだって思ったから――

289 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:17



290 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:17


大きく息を吐いて、
部屋NOをプッシュする。

いなかったらここで待つ。
彼が帰ってくるのを待つ・・・


あの日――
本当に大切そうに、梨華ちゃんに接していた彼。

仮にも夫婦なんだ。
肉体関係を迫ったって構わないのに。
無理矢理自分のものにすることだって、出来たはずだろうに。

きっと梨華ちゃんだって
覚悟していたはずなのに――

彼は梨華ちゃんの気持ちを大切にしてくれた。

それは、相当に深い愛情を抱いていないと出来ないはずで。
きっと今も、梨華ちゃんを心配しているはずで・・・

291 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:18

『はい。どなたですか?』

「あ・・・、えっと・・・
 吉澤です。あの梨華ちゃんの、その・・・」

『ああ、きっといらっしゃると思ってました。
 どうぞ』

ウィーンと自動ドアが開いた。

きっといらっしゃる?
アタシが来るって思ってたってことだよね・・・

不可解に思いながらも
一度だけ訪れたことのある部屋に向かった。

292 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:18

部屋の前に着いて、呼び鈴を鳴らすと
すぐに玄関が開いた。

「お待ちしてました。
 どうぞ」

中へ上がるよう進められたけど
少しだけ警戒してしまう。

「あ、ごめんなさい。
 外に出ますか?」

すげー。よく気がつくな。
やっぱ、人の良さだけがウリだって太鼓判押されるだけあるわ・・・

「いえ。お邪魔します」

少しだけ、距離を置いて
アタシは部屋に上がった。

293 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:19

リビングに通されたアタシが
真っ先に思ったのは――

半年前と変わってないってこと。

まるで、訪れたあの日に帰ったよう。
一面ピンクで、梨華ちゃんの趣味ど真ん中で・・・

「これで模様替え出来そうです」
「え?」

部屋を見回していたアタシに
お茶を出しながら、にこやかにそう言った彼。

「あなたが来たということは
 梨華さんが幸せになったってことですよね?」

驚きのあまり固まった。

「もし、あなたにフラれて、
 また僕のところに戻って来てくれたら
 それはそれで大歓迎したんですけど」

――残念だなぁ・・・

294 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:19

「やっぱり・・・、今でも梨華ちゃんを?」

「好きですよ。
 でも僕は彼女の笑顔が好きなんです」

出会った頃、彼女は辛そうにしてました。
叶わぬ恋に胸を痛めて、傷つきすぎて
崩れる寸前だったと思うんです。

だから、僕は言いました。
『想いを抱えたままでいいから、
 僕のお嫁さんになりませんか?』って・・・

それで楽になれるなら。
彼女の想いがうまく昇華するならって。

「けど甘かったですね。
 生真面目な彼女を余計苦しめてしまったみたいで・・・」

彼の顔が始めて歪んだ。

295 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:20

「あなたへの想いは、聞いていました。
 今、梨華さんは笑顔ですか?」

持参した写真をそっと差し出した。

「――これは・・・、いい笑顔ですね」

眩しそうに、写真の中の梨華ちゃんを眺める彼。

彼の手にあるのは、
診療所の帰りに、アタシが撮った梨華ちゃんの写真。

夕陽に映える梨華ちゃんの
最高の笑顔を届けに来たんだ。

「安心して、梨華さんを
 諦められそうです」

とびっきりの笑顔を向けて
それを返そうとした彼の手を制した。

296 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:20

「良かったら・・・」
「いいんですか?」

「ええ。アタシ、その笑顔を
 ずっと守ってみせますから」

彼の目を真っすぐに見つめる。

「必ず守りますから」

はじめて強い視線がぶつかった。

「もしも泣かせたりしたら、その綺麗な顔に
 容赦なくアザを作らせてもらいますよ?」

「望むところです」

フッと気が抜けたように
彼の視線が穏やかなものに変わる――

「この写真は、僕の宝物にします」

小さな声で彼が呟いた。

297 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:20

「彼女に忘れ物を渡してもらえませんか?」

そう言って、立ち上がると
彼は梨華ちゃんの寝室に向かった。

少しして出てきた
彼の手に握られていたのは――

「梨華さんが出て行った日、
 ゴミ捨て場に捨ててあったんです。
 宝物を捨てたら後悔しますよって、彼女に伝えて下さい」

それから――


「最近は、バツイチの方が男はモテるらしいんで。
 僕の人生、これからバラ色になりそうですよって。
 だから安心して、幸せになって下さいって。
 そう伝えてください――」

298 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:21


彼から預った梨華ちゃんの忘れ物を
ローテーブルの上に置く――

梨華ちゃんの目から
再び涙が溢れ出した。

梨華ちゃんが、大事そうに
手にとって、そのままそれを胸に抱える。

「――ごめん・・・、なさい・・・」

彼に対して。
そして胸に抱えた宝物に対して。

何度も何度も繰り返し謝る梨華ちゃん。

299 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:22

梨華ちゃんが胸に抱えた宝物――

それは、卒業の時にアタシが
こっそり梨華ちゃんにだけプレゼントした写真立て。

若かりし頃の、制服を着た
アタシと梨華ちゃんがそこにはいて――

どんな思いで、梨華ちゃんはこれを捨てたんだろう・・・
そして、どんな思いで、彼はこれを拾ったんだろう・・・

そう思うと、締め付けられるように胸が痛んだ。


肩を震わす梨華ちゃんを
丸ごと抱きしめる。

「ごめんね。ずっと苦しい思いをさせて・・・」

でも、もうそんな思い、絶対にさせないから。
誰よりも何よりも、大切にするから。

そして、彼の優しさを
踏みにじったりも絶対しないから――

300 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:22




「――あ・・・
 とか言いつつ、アタシ
 早速、泣かしちゃったよね・・・?」

腕の中の梨華ちゃんを窺う。

「・・・殴られてきた方がいいかな・・・?」

結構腕力ありそうなんだよなぁ・・・

痛いよね・・・
腫れるよね・・・

――前歯折れたりしないかな?

情けなく眉を下げたアタシの両頬を
梨華ちゃんの小さな手が包み込む。

「手を引いてくれって言ったのは
 よっすぃ〜の方なんだからね?」

「うん・・・」

「今度一人ぼっちにしたら
 絶対に許さないんだから」

「二度としないよ」

「ほんとに?約束する?」

小首を傾げて、窺うように言う彼女が
可愛いくてたまんない。

301 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:23

「ずっとずっと一緒にいてくれないと
 ダメなんだから・・・」

潤んだ瞳が愛おしくて。
艶やかな唇から吐き出される言葉がいじらしくて・・・

「絶対絶対、約束だよ?」
「約束するよ。絶対一人にしない」

視線を合わせたまま、頬に触れたままの
彼女の手を握った。

「絶対離したりしないから・・・」

はじめてだよ、こんな気持ち――

狂おしいほど好きなんだ。
目の前の梨華ちゃんが・・・

「もう絶対一人にしないから。
 離さないって誓うから」

だから――

「一生アタシのそばにいて」

そう言ったら、嬉しそうに目を細めて
彼女の方からアタシの唇に触れてくれた。

302 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:23

「――好きだよ・・・」

熱いキスを交わしながら
何度も何度も囁く・・・

溢れる想いが、
声になって、行為になって彼女の元に届く。

一昨日よりも大胆に応えてくれる彼女に
アタシの心が震える。

――欲しい。梨華ちゃんが・・・

合わせた唇から漏れる吐息に煽られるように
アタシの欲望は増幅し、彼女の上をすべろうとする――

303 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:24



――でも、待って。

もう一つだけ、見せたいものがあるんだ・・・


「梨華、ちゃん・・・」
「・・・ん・・・?」

吐息まじりで答える彼女。
緩んだ瞳が色っぽくてたまんないよ。

「見せたいものがあるんだ・・・」

肩を抱いたまま、傍らに置いた自分のカバンを引き寄せる。
中から、大切にケースに入れておいたそれを取り出して、
梨華ちゃんに渡した。

304 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:24

「帰ってきて、仕事部屋にこもって、
 一番最初に現像したのって、これなんだ」

「・・・ヤダ。よっすぃったら・・・」

恥ずかしそうに、でも嬉しそうに
それを眺める梨華ちゃんに満足する。

久しぶりに2人で写った写真。

保田荘の前で、2人寄り添って
記念に保田さんに撮ってもらったもの。

保田さんに煽られて、
お互いに体を寄せ合って
お互いの小指を絡めあって――

「絡めた小指に運命の糸を結びつけちゃった。
 それから、ハートで2人を囲ったの。どう?」

制服姿から、大人になったアタシ達2人の
まばゆい笑顔の写真。

「さっきの宝物とこれ
 2つ並べて飾らない?」

蕩けそうな笑顔で
梨華ちゃんが大きく頷いてくれた。

305 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:25

「明日、写真たてを一緒に買いに行こ?
 オランダで超カッコイイの買ったんだけどさ。
 保田さんにお供えものとして、献上させられちゃったから・・・」

「お供えもの?」
「うん」

いつの間にか、目をつけられてたなんてさ。
結構いい値段したのに・・・

「ほんとはそれに、アタシが写した
 梨華ちゃんの写真を入れるつもりで買ってきたんだよ?」

ちょーかっけぇの。
フレームの細工も細かくてさ。
すげぇお気に入りだったのに・・・

「どうして、そんなに気に入ってたのに
 あげちゃったの?」

「だって仕方ないじゃん。
 梨華ちゃん騙して、ひと芝居打ってあげるから
 代わりによこせって・・・」

「――騙す・・・?
 ――ひと芝居・・・?」

隣から強烈な殺気を感じた。

306 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:26


「どういうことかな?
 よっすぃ〜」

上がった口角。
けど、笑ってない瞳――

・・・や、やべぇ。
ジリジリと後ずさる。

「違うんだ!ケガはほんとにしたんだよ。
 ほんとに梨華ちゃんに近づきたくて海に行って・・・」

「ふ〜ん・・・、それで?」

笑顔で近づいてくる梨華ちゃんのコメカミに
青筋が立ってるのが見える。

「だからね・・・
 つまり・・・、その・・・」

「つまり、なあに?」

産毛まで逆立ってるYO!

307 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:26

「黙ってないで、ちゃんと説明してっ!!!」

うわぁ!!
今、ツノが見えた!!


「――えっと・・・、だから・・・
 その・・・ね?ケガしたのは、アタシがドジで本当で。
 酒瓶のクダリは・・・、実は、事前に用意された筋書きだったりなんかして・・・」

――ごめんなさい・・・

深々と頭を下げた。

「サイテー」
「だよね・・・、ごめん」

ほんとにゴメンナサイ。

「けど、そうでもしなきゃ梨華ちゃん
 話してもくれなかった・・・けど・・・
 ――そんなの関係ないです・・・」

ひと睨みされて、あえなく撃沈。

308 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:27

はあああ〜〜〜〜

深々とため息をついて
梨華ちゃんがソファーから立ち上がる。

「ちょ、ちょっと!
 どこ行くの?!」

「出ていく」

歩き出した背中を、慌てて追いかけた。

「待ってよっ!」

梨華ちゃんの腕を掴んで
振り向かせた。

309 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:27

「ほんとにごめん!ごめんなさいっ!!
 何度でも謝るから!何でもするよ。
 何でも言うこと聞くから・・・」

――だからお願い。

「出て行くなんて、言わないでよ・・・」

アタシ必死だったんだ。
どうしても梨華ちゃんと話したくて。
好きなんだって伝えたくて。

だから・・・


「だったら、今朝言ったこと守って」
「今朝・・・?」

「『今夜こそ絶対!寝かせないから!
 ほんとに覚悟しといてっ』って言ったじゃない・・・」

・・・ふえ?

310 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:28

「優しくしてくれるんでしょ?」

梨華ちゃんがいたずらっぽく微笑んだ。

「昨日だって、ほんとは期待してたんだからね?」

うおっ!マジ?
マジっすか?!

「――許して、くれるの・・・?」
「今朝の約束、ちゃんと守ってくれたら」

くうううぅぅっ!
やべぇ!

ニヤケだしたアタシの頬を
梨華ちゃんが思いっきりつまむ。

「もう・・・恥ずかしいんだから
 あんまり言わせないで・・・」

こんなこと言われたら
チョー張り切っちゃうよ?

311 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:28

目の前の梨華ちゃんを
思いっきり抱きしめて、耳元で囁く・・・

「今すぐしよ・・・」
「もっとロマンティックに誘ってよ・・・」

不服そうに尖らした唇に軽く触れた。

「じゃあ、とびっきり熱い時間を過ごそう?」
「微妙だってば」

合わせた唇で、お互いの熱を感じる。

――好きだよ。
――大好き。

2人の欲望が重なって一つになる――

よし、じゃあ。
とっておきのセリフだよ?

梨華ちゃんの手を引いて
寝室の前に連れて行く。

312 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:28


「2人で『未来の扉』を開こうよ」

ほら、一緒にノブを握って?

この扉の向こうには、
2人だけの世界があるんだ。

むき出しの想いを、そのままぶつけ合う
2人っきりの世界が――

「いい?一緒に開けるよ?」

大きく頷いた梨華ちゃん。


「「せーの!」」

中に入ったと同時に
どちらともなく抱き合って、自然に唇を合わせた。

313 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:29

「・・・あ。・・・んっ。
 ちょっとだけ・・・、待って・・・」

本格的になる前に、マッタをかける。

「・・・もうっ。焦らさないでよ・・・」


「焦らしてないって。
 この先は、アタシ達2人だけの秘密でしょ?」

だからね?

ウィンクをして、開け放たれたままの扉に手をかけた。


314 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:29



「誰にも覗かれないように
 扉を閉めとかないと。ね?」



  <バタンッ!>


315 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:29


316 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:30


・・・・・・ということで。


一番知りたい、扉の向こうは

作者にも見せてもらえませんでした・・・orz



「くそ〜
 2人とも覚えてろよ〜」


317 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:30


おわり



318 名前:未来ノトビラ 投稿日:2011/09/13(火) 13:30


319 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/09/13(火) 13:31


消化不良をおこす方、続出な予感・・・

だが、作者は悪くない。
文句があれば、扉の向こうの2人にお願いします!!



とまあ、いい訳はさておき…

今作はいかがでしたでしょうか?
是非ご感想など頂きたいところですが
実は読んで下さっている皆様に、お許し願いたいことがございます。

私事なので、申し上げるべきかどうか悩みましたが
今後、作品をお待ち下さる方がいては申し訳ないと思い
正直に申し上げます。

320 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/09/13(火) 13:33

前回の更新が、かなり空いてしまったのには
訳がありました。

実はその期間に身内を亡くしました。
あまりにも急だったため、自分自身
少しばかり受け止めるのに時間がかかっております。

かと言って、毎日悲しみにくれている訳でも
涙を流し続けている訳でもないので、ご安心頂きたいのですが
完全に消化するには、今しばらく時間が必要なようです。

一時は某スレさえ開く気力も起きず、
せっせと2人の情報を追っていた日々が
嘘のような生活を送っていました。

やっとここ数日で、少しずつ情報を追い始められるようになり
何やら色んな爆弾があったことを知りました。

しかしながら、情報として追ってはいても妄想する気にはなれず
ましてや、それを形にしていくことは、今の自分には非常に難しく、
しばらく書くことをお休みさせて頂くことを
お許し願いたいと思った次第です。

321 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/09/13(火) 13:34

幸い『未来ノトビラ』は事前にほぼ完成していて
未完は自分が一番したくないことでしたので
何とか秋の扉が開く前に完結させました。

ぶっちゃけ、書きかけの新作が一つ
構想メモにもいくつか作品がありますので
気力が戻ったら書きたくなるような気もしますが
今のところは、文字に起こす気力が持てないというのが現状です。


今現在、戻ってくるというお約束が出来ないので
このようなご挨拶になり、申し訳ありません。

今までお付き合い下さった方々
書く場所を与えて下さった管理人様
今日まで本当にありがとうございました。
心から御礼申し上げます。

玄米ちゃ

322 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/09/13(火) 13:34

323 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/09/13(火) 13:34

324 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/09/13(火) 13:34

325 名前:名無し留学生 投稿日:2011/09/13(火) 13:48
玄米ちゃ様、連載完結おめでとうございます。

大変な事が起こしました、辛い気持ちわかります。
無理せずにゆっくり自分の気持ちを整理してくださいませ。

日本語は変だから、たぶん自分の意志をちゃんと伝えられないと思っておりますが。
すみません。

今まで、玄米ちゃ様の作品をいっぱい読ませて、幸せでした。
これからも、玄米ちゃ様を応援します!
326 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/13(火) 21:15
まずは脱稿おめでとうございます

ソレ、めっちゃ見覚えあるわぁとか
くぅ〜毎度のことながらキレイにまとめるねぇ
なんてのんきに読ませていただいてました・・・

玄米ちゃさまの状況も知らずに
更新を急かすようなレスをしてしまい
本当に申し訳なく思ってます

ゆっくりゆっくりお気持ち整理してください
そして気が向いたら
またここに帰ってきていただけると嬉しいです

これからもずっと私は玄米ちゃヲタです
327 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/13(火) 23:23
完結お疲れ様でした&ありがとうございます。

大変な状況の中私たちの期待に応えるべく無理をさせてしまいましたね
ゆっくり整理をして下さい。
そしてもし、気が向いたなら帰って来て下さいね。
沢山の素敵な作品をありがとうございました。
328 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/14(水) 00:37
完結お疲れ様です。この二人の未来がとても気になりますが.....

私は玄米ちゃ様の小説でたくさん笑いたくさん泣かされたくさん感動しました。今はほんとに感謝の言葉しかありません。ありがとうございました。

何年かかってもいいからあなたのこと待っていてもいいですか?
329 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/18(日) 00:08
玄米ちゃ様の作品がなかったらここまでいしよしにはまっていない。
玄米ちゃ様の作品ほど泣いたり笑ったりキュンキュンしたりハーンしたり
胸が締め付けられたり感動したりしたものはない。
玄米ちゃ様の作品ほど更新を楽しみにしていたものはない。

今までありがとうございました。
またいつかここに帰って来られる日をゆっくり待ってます。
330 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/12/05(月) 15:11

皆様、温かいお言葉の数々をありがとうございました!
おかげ様で元気に暮らしております。
そしてやはり、いしよしは自分の活力の源であることに変わりはなく
日々元気をくれる2人に感謝し、尊敬すると共に
少しずつ書きたい病が再発してしまいました。
今までのようなペースで書いていくことは難しいと思いますが
ちょくちょく書いていけたらと思っています。


>325:名無し留学生様
 本当にありがとうございます!
 温かいお心が伝わってきて励まされました。
 感謝してます。

>326:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 玄米ちゃヲタだなんて、もったいないお言葉を頂き
 恐縮するやら、嬉しいやら・・・

>327:名無飼育さん様
 こちらこそありがとうございます。
 優しいお言葉を頂き、調子にのって帰ってきてしまいました。

>328:名無飼育さん様
 嬉しいお言葉の数々をありがとうございます。
 自分でも予想外に早く帰ってきてしまいました。
 これもリアルのお2人のおかげです。

>329:名無飼育さん様
 なんと嬉しいお言葉の数々!
 恐縮です。

  
331 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/12/05(月) 15:17

本日はリハビリを兼ねてのアンリアル短編です。
とある小ネタにピコンとしただけなので
あまり期待せずに軽く読み流して頂ければ・・・

2回に分けてお送りします。
それではどうぞ。


332 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:17


  『ラクガキ』


333 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:18

「よしざわさぁ〜〜んっ!!」

砂浜をぜぇはぁ言いながら
猛ダッシュしてくる、かわいい妹分。

 <ズサッ>

ふはは。
コケてやんの。

「くぁ〜〜っ!もうっ!
 走りにくいったら、ありゃしない!」

砂にやつあたりして、
またアタシを目がけて走り始める。

――あいつはいいよな、無邪気で。

アタシもあんな風に、無邪気でいられたら
悲しい顔をさせることもなかったのにな・・・

334 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:19

「ぐあ〜〜、やっとついた!
 何で砂浜って、こんなに走りにくいんですかね、全くもうっ!」

パラソルの下で、サンデッキに寝そべるアタシの腕を
引っ張りあげて起こすと、自分が走ってきた方を指差した。

「どうです?だんなぁ」

しっぽを振って、褒めて欲しいとアピールする犬のように、
期待の視線をアタシに向ける。

「今度はかなりレベル高いっすよ?」

――確かにね。

ちら見した感じでは、今までコイツが
捕まえてきた子達から、数段レベルアップしてるように見える。

けど――

335 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:20

「やっぱ、アタシは興味ねーよ」

再び寝そべろうとして、阻まれた。

「ちょっと待って下さいよ。
 吉澤さんありきで、こちとらナンパしてんですから」

「麻琴だけ勝手に遊んで来い」

「ダーメですって。
 そもそも今回沖縄に来たのは、吉澤さんのためなんですよ?」

別れてからずっと暗い顔しちゃってさ。
引きずってんのバレバレなんですよ。

この前だって、深酒して倒れたと思ったら
トイレに篭っちゃってさ。
心配して覗きに行ったら、『オマエ今のぞいただりょ?』って。

「めんどくさいんですよ、酔った親分は。
 そんなの相手できんの、いし――」

マズったというように
そこで止まった麻琴。

「てめぇ、その名前出したら
 ぶん殴るからな」

336 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:20

「ほらぁ〜。名前すら耳にしたくないなんて。
 傷口開きっぱじゃないですか」

「んなことねーって。
 あんなの過去だ、過去」

うるさいハエを追い払うように手を振って、
麻琴に背を向けてサンデッキに寝そべる。

「過去だったら、もういいじゃないですか。
 新しい恋、探しに来たんでしょ?」

麻琴が回り込んで、
アタシの顔の前に顔を寄せる。
だから、反対側に寝返る。

「自分だって、初日はノリノリだったじゃないですかぁ」

また麻琴が目の前に回り込んでくる。
だから、また寝返りを打つ。

 『今度の子達の中に、
  よく似てる子がいるんです』

声をひそめて言った
麻琴の言葉に、思わず耳がピクリと反応した。

337 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:21

「はあ〜。やっぱ
 吉澤さんの基準は、石川さんなんだなぁ」

 <ボカッ>

「いってぇ〜!
 何すんですか!」

「その名前だしたら
 ぶん殴るっつったろ」

脳天を押さえて、涙目になってる。


――自分でも、嫌になるんだよ。

誰を見ても、あの人と比べてる。
あの人の面影を今でも追い求めてる。

サイアクだな・・・
こんな真っ青な海の前で、どんよりしてるなんてさ。

338 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:22

「・・・どの子だよ」

サンデッキから体を起こした。

「おおっ!乗り気になりました?」
「ちょっと見るだけ」
「素直じゃないんだから」
「うるせぇ」

もう一度殴ろうとしたら、
脳天を片手でカバーして、少し先にいる女の子たちを指差した。

色白の子と色黒の子が
アタシ達の様子を窺ってる――

・・・フッ。アタシ達みてぇ。

339 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:22

「とりあえず、麻琴の顔を立ててやるよ」

そう言って、立ち上がると
彼女たちに向かって歩き出す。

「そうこなくっちゃ!
 親分はもちろん、色黒の子でしょ?」
「別にどっちでもいいよ」
「またまたぁ、黒い方がお好みのクセに」

そう言った麻琴を睨みつけた。
別に黒いのが好みな訳じゃない。
好きになった人が、たまたま黒かっただけだ。

「でもマジで。
 顔とかじゃなくて、なんとなく雰囲気が似てますよ?」

――石川さんに。


近づいていくうちに
その言葉がウソじゃないって分かった。

なんとなくだけど。

出会った頃の、あの人みたいだ
そう思った。

340 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:23

「お待たせしちゃったねー
 こちらがさっき言ってた吉澤さん。
 ね?そこらの男子よりイケメンでしょ?」

「お前、何だよ。
 その紹介の仕方」

クスクス笑う彼女。

――あの日。

初めて言葉を交わした日の
あの人の笑顔とダブってみえる・・・


「はじめまして。
 道重さゆみです」

色白の子が自己紹介する。
そして・・・

341 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:23

彼女と視線が合って
ゴクリとつばを飲み込んだ。

「はじめまして。
 亀井絵里です」


「うちらはあたしが声かけた時に
 言った通り、高校の先輩後輩で――」

麻琴が2人に、一生懸命話しかけてる。

だけど、どこかアタシは脱力してた。
当たり前だけど、声も違うな・・・なんて。

――バッカみてぇ、アタシ。

342 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:24

「もうすぐ夕方だし
 どっか飲みにでもいかない?
 ご馳走するよ」

「ほんとですか?」
「わーい!」

喜びの声をあげる2人に反して
隣には驚きのあまり、口をあんぐり開けたままの麻琴。

「お前、口閉じろ」

脳天とアゴを両手で挟んで
思いっきり内側に力を入れると
麻琴の歯がガチンと鳴った。

「アイタッ!!」

「ふふっ」
「お2人って面白いですね?」


  『ふふっ。ひーちゃんとマコトって面白い。
   ほんとの姉妹みたい』


耳の奥に残る、甲高い声が聞こえたような気がして
振り切るように今度は、麻琴の背中を叩いた。

343 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:25

「ほら行くぞ!」

「暴力はんた〜い!!」

歩き出したアタシの背中に
麻琴の抗議の声と、楽しそうな2人の笑い声が届く。


――せっかく沖縄まで来たんだ。

何もかも。
思い出さえも、この海に捨てて。

新しい恋をしてみちゃおうか・・・


「待ってよ〜」

麻琴がアタシに追いついて並んで歩く。

「・・・じゃなきゃ、ココに来た意味ないもんな?」

アタシの唐突の発言に、一瞬だけ眉を寄せたけど
すぐに飛びっきりの笑顔を返してくれた。

344 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:25



345 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:26

「もう一杯。
 もう一杯だけ、ね?」

「ダメですって、もう」

「いいじゃん、もう一杯だけだから」

「ダーメ、帰りますよ」

「うん、分かった。
 帰るから、だからもう一杯!」

「ダ〜メたら、ダ〜メ!
 ほら立って。行きますよ?」

麻琴がアタシの腰を支えて立たせる。
その途端、一気に視界がグラついた。

 <バタンッ!>

「キャッ!」
「ちょっと大丈夫ですか?!」

2人が心配そうな顔で
アタシを覗き込む。

「はあ〜〜」

麻琴だけが、大きなため息をついた。

346 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:26

「これね、いつものことだから心配しないで」

麻琴が心配顔の2人に
アタシのいつもの醜態を説明する。

ははは・・・
わりぃね、麻琴。
やっぱ、個室にしといて良かったなぁ。

ほどよく回る天井。
なんか、久々に楽しく飲めたかも。

「次行こうよ〜、つぎ〜」

大の字にひっくり返ったまま
皆に呼びかける。

「2次会行くぞぉ〜」

ふへへ・・・
楽しくなってきた。

347 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:27

グイッと腕を引っ張られた。

――わりぃねー、ほんと。でも楽しいよ。

「よいしょっと」

掛け声とともに
体が支えられて、上体を起こされた。

――いつもご迷惑ばかりかけて、すんません。

立ち上がろうとしたところで
声をかけた。

「ありがとう、りかちゃ――」

自分で発した言葉に
一気に冷水を浴びせられた気がして
瞬時に酔いが吹っ飛んだ。

――今、アタシ。何て言おうとした・・・?

348 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:27

ハッとして、アタシを抱えている人を見ると
あの人に似た彼女で。

困ったように、眉を寄せて
アタシを見てる。

「ごめん・・・」

そう言うと、彼女は悲しそうな目で
静かに首を横に振った。


アタシ多分。
彼女に期待させてた。

好意的な視線をくれてるのに、
ちゃんと気付いてたから。

いっそこのままの流れで
彼女と行くとこまで行っちゃってもいいって。

349 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:28

あの人のことは全部忘れて
今日から、この子と始めてみようって。

カケラすら、もう思い出せないほどに。

全部消して。
全部塗り替えて。

1からはじめてみようって

――そう、思ってたのに・・・


よりによって。

こんな時に、
彼女を思い出してしまうなんて――


350 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:29



「吉澤さんて、ほーんと
 どーしよーもないね」

ホテルの部屋に戻ると、
開口一番、麻琴にそう言われた。

「せっかく新しい恋を掴む
 チャンスだったのにさ」

腕組みをした麻琴が、
ソファーに座るアタシを見下ろす。

「亀ちゃんだって、もうその気だったよ?
 重さんと部屋も変わろうかなんて、相談してたんだから」

今夜は何も反論できない。

351 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:29

黙って、注いだばかりの
泡盛が入ったグラスを一気に飲み干した。

熱い液体がノドを通り、胸に流れて、
まるで傷口をなぞられているような気がして
思わず顔をしかめた。


「けどさ・・・」

言いよどんだ麻琴を見あげる。

「そんな吉澤さんが好きだよ?」

人懐っこい笑みを浮かべて
グイグイと人の体を尻で押すと、
無理矢理、同じソファーに腰掛けた。

「もっと言うと
 石川さんを好きな吉澤さんが好き」

「はああ?」

「あ、逆もなんだけどね」

352 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:30

「ね、どうして別れたの?
 好きなんでしょ、まだ。
 何で手放したんだよ」

「――わかんね・・・
 そうした方がいいような気がしただけ・・・」

ギリギリと胸が疼きだす――


一流大学に進学した梨華と
結局、一浪しても三流大学にしか行けなかったアタシ。

すげー会社に就職して、
かっこいいスーツとか着て、嬉しそうに見せてくれても
無邪気に喜んであげられなかったアタシ。

353 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:30

社会人として成長していく姿を
いつの間にか、直視出来なくなって。

アタシには、あと2年も残されてる学生生活。

きっと無事、卒業したって
大学の時と同じで、梨華に追いつくことなんかムリで。

アタシなんかに縛られてたら
梨華の将来まで潰しちゃうって、本気で思いつめた。


――好きだけど、さようなら。

そんなのバカらしいって、ずっと思ってた。
だけど、現実には

――好きだから、さようなら。

そういうことがあるんだって
初めて知った。

354 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:31

「どうせ、アタシ達
 ラクガキから始まった恋愛だったし」

グラスにまた、泡盛を注ぐ。

「あ〜あ。すっかり酔いが覚めちったなぁ・・・」
「また倒れるよ?」
「部屋だし、その辺転がしといていいよ」

笑いながら言うと、
麻琴が自分のグラスを持ってきた。
今夜は、とことん付き合ってくれる気らしい。

麻琴のグラスに泡盛を注ぐ――

「でも、最初にさ。
 あの席に座ってる人の写真撮って来いって
 言われた時は、ビビッたよ。
 普段モテモテで、隠し撮りされるのを嫌がってた人が
 隠し撮りを命令すんだもん」

思わず苦笑した。

懐かしいな・・・
麻琴を待ってる間、すげードキドキしたんだ・・・

机に書いたラクガキ。
それが、梨華との始まりだった――

355 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:31


356 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:32

 [つまんねぇ〜
  全然わかんねぇYO]

数学なんて選択したのが、バカだった。
さっぱりわかんねぇよ。

何を血迷ったのか、選択教科に数学を選んだアタシ。
サイン・コサイン・タンジェント
その響きをカッケェなんて思った自分の脳みそを殴ってやりたい。

意味不明な数式をノートにとることさえ億劫で
授業中に、イタズラ書きしまくってたアタシ。

机の上に書くと、消すのが面倒だから
教科書とか、ノートに書いてたけど、
その日はほんと、最高につまんなくて
思わず机にも書いちゃったんだ。

終了のチャイムと共に
友達に声かけられて、すっかり消すことを忘れたアタシは
その翌週、同じ席に座って驚いた。

357 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:33

 [ちゃんと授業を聞いてたら
  わかるようになるよ]

はあ?

一瞬意味がわかんなかったけど
すぐに、自分が書いたラクガキのことを思い出した。

これってラクガキに答えてんの?
この人、マジで書いてんのか?

おもしれぇ。

一つ上の3年生のクラス。
選択の時だけ、2年が使うって知ってるはずだから
もしかして、アドバイスしてるつもりなのかも。

358 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:33

 [聞いててもわかんないんだけど
  どーしたらいい?]

聞く気なんて、さらっさらないけど。

そして次の週には、

 [ほんとに全然わからないの?]

そんな答えが返ってきた。


 [全くわかんない]

 [じゃあ教えてあげようか?]

 [マジで?でも勉強なんかより
  違うこと教えて欲しい]

 [どんなこと?]

 [スリーサイズとか?]

 [ちゃんと勉強しなさい!]

こんな些細なやり取りが
楽しみで仕方なかった。

359 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:34

もうすぐ夏休みになる――

夏休みが開けたら、きっと席替えされちゃう。
そしたらもう、このやり取りも出来なくなる・・・

そう思ったアタシは
勇気を振り絞った。

 [夏休みになる前に、
  あなたに会ってみたいです]

悩んだ挙句、
初めて敬語でそう書いた。

ドキドキしながら、
次の週にその教室に行くと、
アタシのラクガキが消されていて
その答えさえ、書かれていなかった。

撃沈かよ・・・

さすがのアタシも
しばらく落ち込んで、立ち直れなかった。

360 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:34

その翌週が、一学期の最後の授業で。

もう違う席に座ろうかな?
なんて思ったりもしたけど、一言[楽しかった]って書くのも
なんかカッケェかなって、そう思っていつもの席に座った。


 [ここに連絡下さい。
  わたしのメアドです。
  先週は風邪引いて休んじゃったの。
  遅くなっちゃってゴメンナサイ]

授業中に雄たけびをあげそうになったのは
あの日が初めてだった。

すぐさま、それを登録して
アタシのメアドも机に書いて
意気揚々と教室を出て、ふと思った。

――待てよ・・・、ちょー変な人だったらどうしよう・・・

361 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:35

そのまま直行して、部活の後輩の
麻琴のクラスに行く。

指でクイクイって、麻琴を呼ぶと
周囲から黄色い歓声があがった。

「麻琴に頼みがある」
「え〜なんですかぁ?」

「まずは写真部に行って、カメラ借りて来い」
「何でまた?」

「ここからが重要だ」

麻琴の首を抱え込んで、
耳に唇を寄せると、周囲から悲鳴に似た声があがる。

362 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:35

「成功したら、かぼちゃケーキご馳走してやるから」
「ほんとに?!」

暴れそうになる首をグッと掴んで
もう一度抱え込んだ。

「やるな?」
「もちろん」

「よし。じゃあ3年I組の
 窓側から2列目の後ろから2番目に
 座ってる人の顔を隠し撮りして来い」

「はああ??」

「いいか?顔がハッキリ分かるように
 写してくるんだぞ?
 ついでに全身もいいな?」

「ちょ、ちょっと待って」
「頼んだからな、じゃ!」


363 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:36


「あの時の吉澤さん、有無を言わさずなんだもんなぁ。
 大体1年に3年を隠し撮りしろって、すげーヒドイよね?」

「麻琴こそヒドイよ。
 まさか本人に、写真撮らせてくれって言うなんて
 想像もしなかったよ」


ドキドキしながら、放課後
待ち合わせ場所の中庭で待ってたら、
麻琴と一緒に、知らない人がやってきて――

 「こんにちは、吉澤さん」
 「は、はあ。こんにちは・・・」

すぐさま、麻琴の首根っこを掴んで
小声で聞いた。

 「誰だよ、この可愛い人?
  アタシのファンか?」
 「違うよ、写真の人」
 「写真?!
  ――写真って、お前まさか・・・」
 「撮らせて下さいって言ったら、ついていくって・・・」
 「てめぇ!」

ヘッドロックをかけたアタシと
かけられた麻琴を見て、彼女がクスクスと笑った。

 「石川梨華です。よろしくね?」

364 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:37


「やっぱ優しい顔になるんだね、吉澤さん」
「ん?」
「石川さんの笑顔を思い出す時」

「・・・仕方ねーよ、まだ好きだから」
「あ、認めるんだ?」
「今更、誤魔化したって仕方ないっしょ?」

「そんなに好きならさぁ、もう一度やり直せば?」
「ばーか。こっちが思ったって向こうはそうじゃねーよ」
「そうかなぁ?」

「ったりめーだ。ってか…」

胸がギュウッて痛んで、
立ち上がるとそのままベランダに出て、風にあたった。

「南国はいいな・・・」

爽やかな風と優しい波の音が、
こみ上げてくるアタシの想いを、ゆっくりと鎮めていってくれる。

365 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:38

「なんだかなぁ・・・」

アタシに続いて、そう呟きながら
麻琴がベランダに出てきた。

「幸せでいてくれれば、それでいいんだよ」

彼女が特別なのは、もう認めるよ。
だからこそアタシは、誰よりも幸せを願ったんだ。
こんな自分じゃ、人並みの幸せさえ、あげることが出来ないから・・・


「ねぇ、吉澤さん?」
「んー」

「ラクガキ・・・してみたら?」
「ラクガキ?」
「うん!」

満面の笑みの麻琴。

366 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:38

「ラクガキから始まったんでしょ?
 じゃあ、ラクガキで終わらせればいいんじゃない?」

「ラクガキで終わらす?」

「ラクガキしてみて、返事がなかったら
 今度こそ、潔く想い出に出来るかもよ?」

「返事って・・・
 そもそも、そんなラクガキどこにすんだよ」

「あそこ」

麻琴が、真っすぐ指差したのは砂浜。

「あそこにさ、でっかく石川さんへの気持ちを書いてみたら?
 もしかしたら、返事くるかもしんないよ?」

「ばーか、くる訳ないだろ」

「1%の賭けだよ」
「確率すくなっ!」

「これでも気をつかって
 高く見積もってあげたんだけどな・・・」

ははは・・・
気を使わせて悪かったね。

367 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:40

「だって最初のラクガキも
 返事なんか期待してなかったんでしょ?」

ジッと麻琴に見つめられる。

「返事が書いてあれば、ハッピー。
 なければ今度こそ、サヨウナラ。
 で、明日こそいい人を見つける・・・、どう?」

――賭け、ね・・・

そうだな。
いいキッカケになるかもしんない。
そろそろ本気で、梨華への想いは断ち切らないと・・・

ラクガキで始まったアタシ達なんだ。
ラクガキで終わらすってのも、なんかいいじゃんか。

368 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:41

「よし、わかった!
 麻琴行こう!」

「親分、そう来なくっちゃ!」


2人でジャレあいながら、砂浜に出る。
太目の枝を探して、月明りの下
裸足になって、砂浜に思いをぶつける――

「見えにくいでしょ?
 ライトつけてあげるね?」

どこからか借りてきた、でっかい懐中電灯で、
麻琴が砂浜を照らしてくれた。


369 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:41


  [りか、あいしてる
   だからすげー幸せになれ〜!!]


一気に書き殴って、フーと息を吐いた。

無理矢理、眠らせていた想いが形になって
なんだかスッキリした気がする。

これで返事がなければ、スッパリあきらめよう。
終わった恋だって、波に消してもらって
綺麗さっぱり洗い流してしまおう・・・

振り返ると、あったかい麻琴の笑顔。
やっぱコイツ、いいやつだな。

「まーこと!」
「ふぇい?」

「大好きだぞっ!」

愛情をたっぷりこめて、
髪をぐしゃぐしゃにしてやった。

370 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:42

371 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/05(月) 15:42

372 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/12/05(月) 15:42

本日は以上です。

373 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/05(月) 23:22
おかえりなさい!!
ずっと待ってました。
よっすぃの梨華ちゃんを大好きな気持ちが現実に迫る勢いで伝わって来ます。
後半も待っています。
374 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/06(火) 00:17
玄米ちゃ様待ってました!おかえりなさいませ!
まこっちゃんメンドクサイ二人のことをよろしくお願いします!
375 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/06(火) 05:44
玄米ちゃさま!!
玄米ちゃさま、玄米ちゃさまだぁ ぅぅっ
玄米ちゃさまの名前をみただけでモニターがかすんで見えます。
おかえりなさい。後編も楽しみに待ってます。
376 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/06(火) 12:34
毎度のことなんですけどね、
シチュエーションでご飯3杯いけます
377 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/12/09(金) 13:57

>373:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 お待たせしました。

>374:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 メンドクサイ二人のために頑張ってくれますよ。

>375:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 そんなに感激して頂けると照れます。

>376:名無飼育さん様
 ステキな褒め言葉をありがとうございます。


では後半です。

378 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 13:57


379 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 13:58


  [ひーちゃんへ]

マジか?!

ベランダから、うっすら見える文字。
裸足のまま、ホテルをとび出して砂浜に一目散に駆け寄る――

「梨華・・・
 どうしてここに・・・」

「ひーちゃん、わたしもう幸せだから。
 これが最後のラクガキだよ?
 だからね・・・、バイバイ・・・」

「待って!待ってよ、梨華!
 お願い、待って!!」

アタシやっぱ、梨華じゃなきゃ・・・

380 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 13:59

「梨華っ!!」

 <ドサッ>

いってぇ・・・

衝撃に驚いて、目を開く。
体に巻きつくタオルケット。
床に投げ出された枕・・・

――なんだ。夢かよ・・・

安心してる自分に
朝イチで嫌気がさす。

そろそろと起き上がって
部屋を見回した。

「麻琴・・・?
 おーい」

んだよ、一人で朝食行きやがったな・・・

381 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:00

――麻琴はもう見たんだろうか?

昨日のラクガキの結果を・・・

で、アタシを起こせずに
一人で朝食に行ったのか・・・

当たり前だよな。
ここは沖縄だ。しかも平日。
大企業の社員の梨華が、ここに来るなんて
そんなこと、あるわけない・・・

「期待してどーすんだ、ばーか」

どうしても沸き起こってくる感情をねじ伏せようと
悪い方へと考えを巡らす。

今朝の夢は、正夢だ。

382 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:00

大きく息を一つ吐いて
ベランダに出た。

今日も快晴。
海も真っ青で、新たな出発には相応しい日だ。

一度だけ、ギュッと目をつむる――

これで終わりにしよう。
あのまま、アタシのラクガキが残ってたら
この想いとも、おさらばだ。

梨華だって、もう幸せだって夢で言ってたし。

返事がないのが、いい知らせ。
日本人はいいこと言うじゃん。

383 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:01

何度も何度も
心の中で呟いて、脳に言い聞かせる。

それなのに、意思に反して、
どんどん高鳴り出す心音・・・

――バカ、落ち着けアタシ。

期待なんかすんなって、
さっきから言ってるだろ?

それなのに、ベランダの欄干においた指が
笑っちゃうほど震えだす・・・

だから、頼むから期待すんなって!
確率は1%なんだ。
よくわかってんだろ?アタシ。

分かってる。
よく分かってるよ・・・

384 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:02

――けど、だけど。

もしも・・・
ほんとにもしもだけど・・・

キセキってやつが起きて
1%の賭けに勝ったとしたら・・・

震える指で、欄干を握りしめた。


その時は――


思い切って閉じた目を開いて、
白い砂浜を見た――


385 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:02





「ぷはっ・・・」

思わず笑いがもれた。

「・・・アハ、ハハハ・・・」

乾いた笑いと共に
全身の力が抜ける。

「さい、こ、う・・・じゃね?」

ギリギリと削られるように胸が痛んで
そのまま砂浜に背を向けて、ベランダの欄干に寄りかかると
ズルズルとその場に座り込んだ。

386 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:03

「へん、じ・・・どころか・・・」

グッ・・・ウグッ・・・

「――なさけ・・・、ねぇ」

涙が溢れてきて
両手で顔を覆った。

わずかな期待を胸に見つめたそこには、
アタシのラクガキなんか跡形もなくて。
だからって、梨華の返事が書いてある訳でもなくて――

小さな子供たちが、砂遊びしてて
文字さえ判別できない。

387 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:03

「わら・・・う、しか・・・
 ねぇよ・・・なぁ・・・」

次から次に涙が溢れてくる。

だから期待すんなって言ったのに。
結果なんて、初めから分かってたはずなのに――

「なん、で・・・こんな・・・
 イタイん、だよ・・・」

拳を握って、自分の胸を叩いた。

未練タラタラじゃねーかよ。
サイアクだ、アタシ――


388 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:04


 <ピンポーン>

部屋のチャイムが鳴って、
続けて遠慮がちに扉がノックされる。

――麻琴、帰って来たのか。

Tシャツの裾を引っ張りあげて
グシグシと顔を拭くと、立ち上がった。

こんな姿見せたら、また気を使わせちゃうな。
今だって、ちゃんとアタシが大丈夫か確認してから
入って来ようとしてくれてる。

大きく深呼吸して、頬を2回叩いた。

泣き顔は隠せないだろうけど、
これ以上、気は使わせたくない。

389 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:04

ベランダから部屋にあがって
ドアに向かって、声をかける。

「おかえりー
 鍵持ってんだろ?」

なるべく遠いソファーに腰掛けて
下を向いて、自分のカバンをあさくる。

 <ピンポーン>

んだよ。

「アタシは大丈夫だって。
 気ぃ使わなくていいから、入って来いって」

ドアに向かってそう言うと
やっとカードキーが差し込まれる音がした。

390 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:05

扉が開いて、中に入ってくる気配がする。

「賭け、負けちったねー」

背中を向けたまま
努めて明るい声を出す。

「アタシのラクガキ、跡形もなく消えててさぁ。
 子供が砂遊びしてやんの。
 思わず笑っちったよ」

足音が近づいてくるから
慌てて立ち上がった。

「さて。顔洗って、
 アタシも朝ごはんでも食べにい――」

「じゃあ、何で泣いてるのよ」

そう言った声は、麻琴のものじゃなくて――

391 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:05

「・・・な、んで・・・」

夢か?
さっきの夢、まだ終わってなかったの?

「ひーちゃんの泣いてる時のクセ。
 人に背中を向けて、自分のカバンの中を
 意味もなくいじるの」

「――梨華・・・、どうし、て・・・?」

なんでココに、梨華が・・・


「こんなもん送りつけてきて・・・」

グッと唇を噛み締める梨華。

「一体、どういうつもりなのよっ!!」

叫ぶようにそう言って
大粒の涙を零した。

「こんな・・・の、もらった、ら・・・
 わたし、だって・・・」


392 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:06

梨華の手に握られている携帯には
昨夜アタシが書いた、ラクガキの写真が表示されていて。

「今更こんなの送りつけて・・・
 ――ズルイよ、ひーちゃん・・・」

「ち、ちがっ。アタシ送ってない・・・」

「分かってるわよ!!
 ヘタレなひーちゃんが、直接わたしになんて
 送れる度胸がある訳ないじゃない!」

地味に、ヒドい・・・

393 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:07

「マコトが、これが親分の本心だって。
 このラクガキが全てだって言うから・・・」

あいつ・・・

「だからわたし、朝一番で
 飛行機乗ってココに来て、
 ちゃんと返事も書いたのに・・・」

へ・・・返事?!

「ちゃんとよく見てよ!」

手を引っ張られて
ベランダに連れ出される。


あ・・・

さっきの場所から
子供たちがこっちに向かって手を振ってる――

394 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:07


  [ひーちゃん
   あいしてる]


「ハートマーク・・・」

砂遊びしていたと思ったのは
砂を盛り上げて、ハートを作っていたからで・・・

「マ・・・ジ?」
「冗談でこんな恥ずかしいことしないわよ」

「・・・ほんとにいいの?」
「じゃなきゃ、会社休んでまで
 こんなとこに来ない」

「だって、アタシ・・・」

「ひーちゃんがいいの」

――ひーちゃんじゃなきゃ、ダメなの・・・

一気に視界が歪んだ。
さっきとは違う、熱くて幸せな涙。

握られたままの手を引いて抱き寄せた。

395 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:08

「アタシ・・・、ヘタレだし、頭悪いし。
 ほんとにこんなんでいいの?」

バカ・・・
アタシの腕の中で梨華が小さく呟いた。

「わたしの幸せを願ってくれるなら
 お願い。ずっとそばにいて・・・」

梨華・・・

「わたしを好きなら
 絶対に離さないって約束して」

腕の中から見上げられる。

「わたしにはひーちゃんだけだから・・・
 ひーちゃんしか、いらないから・・・」

だからお願い――

396 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:08

「約束する。
 ずっとそばにいる。
 もう絶対、離さない」

「どんなひーちゃんでも好きなの。
 だからもう、どこにも行かないで・・・」

背伸びした梨華が、アタシの唇をふさいだ。


――ああ、梨華だ・・・
――ほんとに、梨華がいる・・・


込み上げてくる想いを素直に解き放って
彼女が合わせてくれた唇から、一気に注ぎ込んだ――

397 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:08



398 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:09


梨華のラクガキも
写メにおさめたくて、手を繋いで砂浜に出る。

空いた方の手には、
ホテルのロビーで買ったお菓子の袋が一つずつ。


「おねえちゃ〜んっ!!」

大きく手を振るのは、海パンで元気に遊ぶ色白の男の子。
その横には、はにかむように小さく手を振る色黒の女の子。

「ぷはっ!」
「ひーちゃんてば、わたし達みたいだって
 言いたいんでしょ?」

手を繋いだまま、肘でわき腹をつつかれる。

「あの子たちも、アタシらみたいに恋人だったら面白いね」
「まだ小さいんだから、そんな訳ないでしょ」

「そうかな〜。最近の子はマセガキだよ?」

399 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:09

「おねえちゃん、みて〜」

男の子が、指差したのは
梨華の書いたラクガキ。

上から見たときより、さらに装飾が施されていて
数え切れないほどのハートマークが・・・

「すっごいちゅーしてたから」

グホッ。
むせた。

「ね、もういっかい
 ちゅーみせて?」

はあ?
コイツ、マセガキにもほどがある・・・

400 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:10

「これ、わたし達からのお礼。
 2人で一緒に食べて?」

梨華が微笑むと
マセガキの顔がほころんだ。

コイツ・・・
肌の色だけじゃなくて、
何かアタシに似てやがる・・・

ふと気がつくと、隣の女の子から
黒いオーラが・・・

「ヒーくん!」
「ん?あ、これリカちゃんの分」

思わず梨華と顔を見合わせた。

401 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:10

「リカちゃんも、もういっかい
 みたいよね?ちゅー」

お、おい!
大きく頷くなっ!

「おにいちゃん」

な、なぬ?
アタシのことか?

「ちゅーは、おとこから
 するもんなんだぞ」

あのなー

「言っとくけど、アタ――」

なぜか梨華が繋いだ手を引っ張って
アタシが話すのを制す。

402 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:11

「ヒーくんはしてあげるの?
 リカちゃんにちゅーって」

おまっ。ガキになんてことを・・・

「うん!するよ!」

ちゅっ。

おわっ!
コイツ、口にしやがった!

いっちょ前にドヤ顔のマセガキくん。
ケンカ売ってんのか?

「ヒーくんは男らしいね。
 い〜な〜。リカちゃんがうらやましい」

クスクス笑う梨華。
お前、この状況を楽しんでんだろ?

403 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:11

「おにいちゃん」
「何だよ」

思わず返事しちゃったじゃねーか。

「ちゅーしてあげなよ。
 おねえちゃん、うらやましいっていってるよ?」

「だーからー、アタ・・・」

今度は腰のあたりを
後ろからツンツンとつつかれる――

ゲッ!!
ちびリカ・・・

期待を込めた、純粋な目で見つめられて
ハア〜っとため息をつく。

わーったよ。
すればいいんだろ?

404 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:12

「いいか?」

ちびっ子2人が
無垢な目でアタシを見つめて頷く。

「ちゅーって言うのはな。
 まずこうして、肩を抱いてだな・・・」

って!

なにをアタシは
マジになって、ガキに教えてんだよ!

梨華が肩を揺らして
笑いを堪えてる。

くそ〜!

「で?」
「おにいちゃん?」

急激に恥ずかしさが込み上げてきて
乱暴に梨華を引き寄せると、唇の端に音を立てて口づけた。

405 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:12

「なんか」
「さっきとちがうね?」

「う、うるせぇ・・・」

マセガキどもめ・・・

「ごめんね2人とも。
 お姉ちゃんのカレシね、すっごく
 恥ずかしがり屋さんなの」

カレシじゃねーし。

「だからこれくらいで許してあげて?」
「「えー」」

コイツら・・・

406 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:14

「でもお姉ちゃん、
 すっごく幸せなの。だから、ね?」

ズキューン!
今アタシ、打たれたぞ。

「ふ〜ん、そっか」
「ならいーや」
「リカちゃんいこ!」
「うん!」

繋がれた小さな手。
空いた方の手には、それぞれお菓子の袋を握りしめてる。


「かわいいね、あの子たち。
 名前まで一緒なんてビックリしちゃったね?」

手を振っていた
梨華がアタシを見て微笑む。

最高に可愛い
アタシの彼女。

407 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:15

「でも、ヒーくんは
 ヘタレじゃないみたいだけど」

美しいものにはトゲがある。
やっぱり日本人はいいことを言う。

「ア、アタシだってさ・・・」
「アタシだって?」
「そりゃ、キメる時は・・・」
「キメる時って?」

「今夜期待して待ってろ!!」

ぶっきらぼうにそう言って
真っ赤な頬を見られないように、そっぽを向く――


「「吉澤さぁ〜〜んっ!!」」

あ・・・

大きく手を振りながら
走り寄ってくる、これまた白黒2人組。

――な、なんか、イヤな予感がする・・・

408 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:15

「まこっちゃん、帰っちゃったんですよね?」

息を切らしながら
重さんがアタシに問いかける。
ってか、まこっちゃん?!

「・・・あ、まあ・・・、うん・・・
 けど、良く知ってるね?」

「メールが来たんですよぉ」

あいつ、いつの間に交換してたんだ?

今まで黙ってた亀ちゃんが
アタシを見て、思いっきり微笑む。

――なんだろ・・・、この背筋が寒くなる感じ・・・

「もし今日、吉澤さんが一人きりだったら
 今夜も、お相手してあげてねって、絵里にメールが来たんですぅ」

あは、あはははは・・・
予感的中・・・
しかもなぜ『今夜も』を強調する・・・

409 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:16

「見てくださいよぉ。このア・ト」

亀ちゃんが、襟首をずらして
梨華にも見えるように、肩を露出する。

うっすら赤く
ひっかきキズのようなものが――

「吉澤さんったら、アノトキ
 強く肩を掴むから」

お、おいっ!
だからなんで、意味深な言葉を強調するんだよぉ・・・

「ふぅ〜ん」

隣からものすっごく不機嫌な声が・・・

410 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:16

「そんなに昨日の夜は
 楽しかったんだ」

抑揚のない言い方に、アタシの血の気が一気に引いていく。

「ちがっ!梨華。
 ほんと違うよ。アタシ何もしてないって!」

「そんな・・・。吉澤さん、まさかアレを
 酔った勢いとか言うんですか?」

あーまた、そんな
誤解を招く言い方を・・・

「サイッテー」

くるりと背を向けて
梨華が歩き出す。

411 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:17

「ちょ、待って!梨華!
 ほんとに違うって!
 酔っぱらって肩借りただけだってば!
 そりゃー、ちょっとそんな気もあったけど
 アタシは梨華を思い出して・・・」

「わたし帰るから、お好きにどーぞ」

「だーかーらー
 ほんとに違うって!
 亀ちゃ〜ん!頼むからちゃんと言ってよ〜」

必死で梨華を食い止めながら
亀ちゃんを見ると、ニヤリと微笑んで

 『シ・カ・エ・シ』

口の動きだけで、そう言った。

マジかよ・・・
勘弁してくれ〜〜〜〜!!

412 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:17


それから何度も何度も説明して
昨夜飲んだ店にまで行って、全部実演して
その帰り道、おそろいのミサンガを買って
願いをかけたとこで、やっとお許しが出た。


「ねぇ?何の願いをかけたの?」

昨日まで麻琴がいたベッドに
今は、腰かけた梨華がいる。

「んーとねー」

 <パシャ>

嬉しそうに、足首を写メにとる
梨華を見つめながら、思わずアタシの顔がほころぶ。

413 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:18

「ちょっと待ってて、ひーちゃん
 今マコトに送るから」

ご丁寧に、画像を加工してから
送る気らしい。

麻琴に感謝しなきゃ・・・

 『親分のキモチ、受け取るなら
  迎えに来てやって下さい。
  あと一日宿泊残ってるんで』

あのラクガキの画像と共に
そんなメッセージもあったらしい。

「よしっ!
 送信完了!」

梨華がアタシに笑顔を向けて
アタシが寝そべるベッドへと移動してくる。

414 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:18

「で?質問なんだっけ?」

起き上がって、腰掛けた梨華の隣に並ぶと
小さな手をギュッと握った。

「だからそれ、何の願いをかけたの?」
「知りたい?」
「そりゃあ知りたいよ?」

ふふ。

「ひーちゃんが浮気しませんようにって」

ガックリ肩を落とした。

「だから、してねーってば」

そういえば、こいつ
根に持つんだよなー。

415 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:19

「その願いだったら、
 すぐに叶っちゃうから
 あっという間に切れちゃうよ?」

ちょっとイジワル言ったつもり。

「いいの。どーせ
 東京に帰ったら、外さなきゃいけないし」

なぬ?!

「だって、会社にしていけないでしょ?」

が〜ん・・・

そうだ。いつだって
おそろいのモノを外すのは、梨華が先なんだ。

416 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:19

「もお〜、そんなにイジけないでよぉ〜」

つんつんと頬をつつかれる。

「ひーちゃんは何のお願いをしたの?」
「・・・べつに」

思わず唇が尖る。

「教えてよぉ」

梨華がアタシの膝の上に乗って、正対する。
それだけでドキドキと加速するアタシの心臓。

「ね、教えて?」

417 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:20

「・・・ずっとつけてられるようなこと」
「ずっと?」

「・・・一生、梨華のそばにいさせて下さいって」
「ひーちゃん!」

思いっきり抱きつかれて
そのまま後ろに倒れこんだ。

「――それだって、もう願い叶ってるよ?」

両手をついて
上から見下ろされる――

「一生だよ?
 まだまだわかんねーじゃん・・・」

思わず声がかすれた。
そっと頬を撫でられて、一気に限界寸前が訪れる・・・


「――分かるよ・・・
 わたしずっと、ひーちゃんから離れないもん」

唇をなぞられて、背筋が震えた。

418 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:20

「――自信・・・あるんだから・・・」

もうダメ、限界。
梨華を引き寄せて、唇を重ねた。

「・・・っん・・・、ひー、ちゃ・・・」

そのまま体勢を入れ替えて、
今度は梨華を見下ろす――

「・・・昼間、約束したでしょ?
 今夜期待してろって・・・」

「うん・・・」

アタシの愛を受け取ってよ。
海よりも深く、あなたを愛してるから――


419 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:21


「――ひーちゃ、ん・・・、すき・・・
 あい、し・・・」

・・・うおっ!そうだった!

思わず梨華に触れていた手を止めた。

「もう・・・、なによぉ・・・
 じらさないで・・・」
「違うって」
「じゃあ、なによぉ」
「写メとんの忘れた」
「何の?」

「梨華のラクガキ」

あー、そうだ。
白黒コンビが2組も登場したから
すっかり忘れちゃったんだ。

420 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:21

「まだ残ってるかな?
 もう暗いから、懐中電灯借りない――」

「んもぉ」

首に手を回されて
梨華の胸に引き寄せられた。

――や・・・、やわら、かい・・・

「これでも行く気?」
「・・・ムリ・・・みたい・・・」

アタシの答えに満足そうに微笑むと

「ラクガキなんかじゃなくて
 直接伝えてあげるから・・・
 ――だから・・・シヨ?」

そう言って、アタシの耳に唇を寄せた。


  『ひーちゃん、あいしてる』


421 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:22


422 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:22


423 名前:ラクガキ 投稿日:2011/12/09(金) 14:23

     終わり



424 名前:名無し留学生 投稿日:2011/12/09(金) 14:28
おお!玄米ちゃ様お帰り!

しかもリアルタイムで更新発見します^ ^
嬉し限りだ。

やっぱり玄米ちゃ様はネタ扱いがお上手ですね。
外は寒いけど、コレを読んだらポカポカで心から温かくなりますわ。

425 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/09(金) 19:57
これぞ玄米ちゃワールド!
リアルな小ネタ満載で、泣かされて、笑わされて、ほっこりして。
作品中のいしよしに負けないぐらい私も幸せです。
426 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/12/13(火) 15:39

>424:名無し留学生様
 ありがとうございます!
 相変わらず小ネタ大好きなもんで。
 嬉しいお言葉を頂き調子にのってしまいそうです。

>425:名無飼育さん様
 ありがとうございます!
 こちらも作者冥利につきる
 嬉しいお言葉を頂き調子にのってしまいそうです。


というわけで。

早速調子にのって、『ラクガキ』の
梨華ちゃん視点なんてものを書いてしまいました。

こちらも2回に分けます。
それではどうぞ。

427 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:39


  『Rakugaki』

428 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:40

――なんか、違うんだもん・・・

  (・・・信じらんない)
  (だって、一番のホープだよ?)


――だから何?

  (バカなんじゃない?)
  (違うよ、全女子社員を敵に回すのが怖かったんだよ)


――そんなんじゃない。

  (それでもやっぱもったいないよ)
  (好きになれないなんて、何が不満なんだろうねー)

429 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:40

「りぃ〜かちゃん」
「あ、美貴ちゃん・・・」

「社内中、梨華ちゃんとホープ君の話で
 もちきりだね〜」

楽しそうに言う美貴ちゃんの顔を睨みつけた。
それなのに全く動じてくれない。

「ね、今夜梨華ちゃん家に行ってもいいでしょ?」
「今夜?!」
「うん。美貴興味あるんだよね。
 梨華ちゃんの私生活」
「はい??」

「じゃ、帰りね」

軽くポンと肩を叩かれ
颯爽と去っていく、同期の藤本美貴ちゃん。

一番の仲良しだし、
とっても気さくでいい子なんだけど・・・

はあ〜〜
バレちゃうんだろうな・・・

大きくため息をついた。

430 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:41


431 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:41

「おじゃましま〜す」
「散らかってるけどごめんね」

「うわっ。ほんとだ。
 しかも悪趣味・・・」

ちょっと!
少しはオブラートに包んでよ!

「適当に座って?
 今お茶入れるから」

「お構いなく。
 あ、いきなりカンパイでもいいよ。
 どうせ泊まってくし」

何でもないことのように
サラリと言う美貴ちゃん。

そりゃ、覚悟はしてましたけど。

432 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:42


「――なるほど・・・、両方だったか・・・」

え?

お茶を入れる手を止めて
慌てて美貴ちゃんを振り返る。

「梨華ちゃんのキモチが、どんなにイケメンでも
 どんなに優秀でも、どんなに将来有望でも揺るがないのは
 どっちの理由かなぁって思ってたんだけど」

楽しそうに言う美貴ちゃんの真意が分からずに
思わず眉間にシワが寄る。

ニッコリ笑って、後ろ手を組みながら
キッチンにいたわたしの目の前にやって来ると
手に握っていたものを突き出した。

「これじゃあ、誰にも心を動かされないのも
 納得だわ」

433 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:42

はやっ!
もう見つけたんだ・・・

美貴ちゃんの手に握られているのは、
何度見ても見飽きることがない、あなたの写真。

ほら、こうして写真の中のあなたと目が合っただけで
今だにわたしは、ドキドキしちゃうの・・・

「この人、めちゃめちゃイケメンだね」
「ま、まあね・・・」

――女の子だけど・・・

434 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:43

「梨華ちゃんが恋人いないのに、彼氏を作らないのは、
 人並みはずれた理想の高さゆえか
 どうしても忘れられない人がいるゆえか
 どっちなのかなーって思ってたんだよね」

これでナゾが解けたなぁ・・・
それにしても、綺麗な顔してるねー。
これじゃホープ君なんか、足元にも及ばないなぁ。

彼女の写真を見ながら、
楽しそうに呟く美貴ちゃん。

「ね、梨華ちゃん。
 この人のこと好きなんでしょ?」

縦に一回首を振る。

「ずっと片思い?」

今度は左右に首を振る。

「え?じゃあ付き合ってたの?」

また縦に一回。

「てことは――」

435 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:43

 <ピンポーン>

「あ、ごめん。
 お客さんだ」

ひとまず、追求を逃れた。
って言っても、一時的だけど。

どうしよう・・・
男の子ってことで、話しを合わせた方がいいのかな・・・


「はい、どちら様ですか?」
『あ、石川さん。あたしです』
「マコト?!」

今日約束してたっけ?

美貴ちゃんに断って
慌てて玄関に行く。

436 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:44

「石川さん、こんばんは」

温かな人懐っこい笑顔で
紙袋を前に出す。

「実家からね、送ってきたんです。
 笹団子、石川さん好きでしょ?
 だからおすそ分け」

「あ、ありがと・・・」

「あとね、ちょっと今日は話があって・・・
 吉澤さんのことなんだけど」

ビクンッ。

自分でも驚くくらい体が跳ねた。

437 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:44

「吉澤さんて、この人のこと?」

背後から美貴ちゃんが登場・・・

「そうです!そうそう!
 ・・・って、はじめまして・・・あの〜」

マコトが戸惑いの表情を浮かべる。

はあ〜〜
参ったなぁ。

「・・・出直した方がいいですかね?あたし。
 連絡しないで急に来ちゃったんで」

「ううん、全然いいよ。
 さ、上がって上がって?」

「でも・・・」

マコトが黙っているわたしの表情を窺う。

438 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:45

「なんなら今夜泊まって行ってよ」

美貴ちゃんが、マコトの腕をとった。

「美貴も笹団子食べたいし。
 その吉澤さんの話が聞きたいし」

いいの?
そんな表情でわたしを見るマコト。

――もういいよ。

その意味を込めて、肩をすくめてみせた。

439 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:45


たぶんわたしは
聞いてもらいたかったんだと思う。

――今でも大好きな彼女のことを・・・

思い出すだけで、こんなにも
胸が苦しくなる彼女のことを――


440 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:45


441 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:46

「ねぇ美貴ちゃん。
 わたし間違ってる?間違ってた?」

「んー」

なによぉ!
人が真剣に話してるのに!

「ってか、梨華ちゃんて酒飲むと
 いつもこんななの?」

「はい。ベターって寄りかかって
 コッチ向いてよって」

「それじゃあ、吉澤さんも逃げたくなる訳だ・・・」

「そんなことないもん!
 ひーちゃんの方が酒癖悪いもん!!
 いきなりバタンって倒れちゃうんだから!
 もう一杯って、次行こうって、しつこいんだからっ!」

美貴ちゃんがマコトに視線で確認する。
マコトが大きく頷くと、

「似たもの夫婦ってわけか・・・」
って呟いた。

442 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:46


あれから美貴ちゃんには全てを吐いた。
ていうか吐かされた。

もちろん、ひーちゃんが女の子だってことも――

驚くかと思ってたら、全然フツーに
『美貴もこんな人が近くにいたら、好きになっちゃうなあ』なんて。

『そんなの絶対ダメだもん。
 美貴ちゃんがひーちゃんの恋人なんて
 絶対絶対ダメだもん。
 他のどんな人も、ひーちゃんの恋人になっちゃダメなんだもん!』

そう喚いたら、
『じゃあ何で別れたんだよ!』って――

443 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:47

自分だって後悔してるんだもん。
何であの日、頷いちゃったんだろうって・・・

イヤだって駄々こねて、泣いてすがれば良かったって
すっごくすごく後悔してる。

だけど、ひーちゃんの苦しそうな顔、もう見たくなかった。
無理に笑顔を作って、わたしの話を聞く姿を
もう見てられなかったんだもん。


――好きだけど、さようなら。

そんなのバカらしいって、ずっと思ってた。
だけど、現実には

――好きだから、さようなら。

そういうこともあるんだって
初めて知ったんだ。

444 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:47

「――わたし、やっぱり間違ってたのかなぁ・・・」

「かもね」

「ちょっと美貴ちゃん、少しは慰めてよ!」

ブーっとふくれて
グラスの中身を一気に飲んだ。

「マコト、おかわり!」
「はいはい」

ため息をつきながら、マコトが
差し出したグラスにワインを注いでくれる。

445 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:48

「で?梨華ちゃんはどうすんの?
 沖縄行き」

ズキンと胸が痛む。

わたしがこんなにお酒を飲むのは
ひーちゃんが新恋人を探しに沖縄に行くって
マコトから聞いたから。

今なら間に合うよって。
吉澤さんは石川さんのことが忘れられないんだよって。
そんな自分を吹っ切りたくて、沖縄に行くんだよって――

だけどさ。
もうわたし、恋人じゃないんだよ?
そんなわたしが、今更――

446 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:48

「ねぇ、石川さん。ほんとに行かせていいの?
 吉澤さんモテるから、恋人出来ちゃうよ?」

グラスの中身をグイッと呷った。

熱い液体がノドを通り、胸に流れて、
まるで傷口をなぞられているような気がして
思わず顔をしかめる。


「――勝手に・・・行けばいいじゃん・・・」

だってそうでしょ?
別れた彼女に、とめる権利なんてない。

447 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:49

深いため息をついて
美貴ちゃんとマコトが顔を見合わせた。

「なによぉ」

「・・・可愛くない女」

美貴ちゃんの一言が、グサリと胸に刺さって、
ふてくされると、そのまま横になった。

可愛くないもん、わたし。
素直じゃないもん、わたし。

――でもね、ひーちゃん・・・


涙が溢れそうになって
寝そべったまま、2人に背中を向けると、
ギュッと目を閉じた。

こんな時、ひーちゃんなら
『風邪引くぞ』って、お布団かけてくれるのに・・・

448 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:49


バカ・・・

わたしだって、モテるんだよ?
会社で女子社員なら、誰もが憧れる人に
告白だってされたんだから・・・

もう、ひーちゃんなんか知らないもん。


沖縄でも
パリでも
ジャカルタでも
バンコクでも

どこにでも、好きなとこに行っちゃえ・・・



449 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:50


  『・・・ホテルは?』
  『砂浜が見えて・・・』

  『・・・てことは・・・』
  『・・・ああ、見える・・・』

美貴ちゃんとマコトの会話が
断片的に聞こえる。

  『・・・問題は・・・』
  『・・・ないない。あっちもムリです』

なによぅ。
2人でヒソヒソ話しちゃって。

  『・・・シャッ・・・音気をつけ・・・』
  『・・・りょーか・・・フォローよろ・・・ねが・・・』

もういいもん。
みんな知らないっ!

固く目を閉じて、無理矢理
睡魔を捕まえた――

450 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:50

451 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/13(火) 15:51

452 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/12/13(火) 15:51

本日は以上です。

453 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/13(火) 20:50
きたああああああ
震えが止まりません
454 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/13(火) 21:01
いしよしの周りを彩るメンバーもいいんですよねぇ
更新楽しみに待っております
455 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/14(水) 00:14
小ネタ最高です!
もどかしくて面倒くさい二人が大好きっす!
456 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/12/14(水) 11:32

>453:名無飼育さん様
 近頃寒いですからね〜

>454:名無飼育さん様
 ありがとうございます。

>455:名無飼育さん様
 自分も大好きっす!

ではサクッと後半の更新です。

457 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:32

458 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:33


  [来たぞ沖縄!
   さっそくビーチに出て
   可愛い子GETするって
   親分が張り切ってま〜す!]

  [残念。親分のオメガネに適わず・・・
   ナイスバディのいい子だったんだけどなぁ]

  [おっ!今日は朝イチで積極的な子をGET!
   これは親分おちるな]

  [あ〜残念。あとひと息でチューしそうだったのに・・・]


はあ〜〜

この2日間、何事にも身が入らない。
マコトがくれるメールに一喜一憂して
わたし、ほんとバッカみたい。

459 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:33

終業時間が来て、帰り支度をしていると
美貴ちゃんがそばにやって来た。

「どう?吉澤さん新恋人みつかったって?」
「・・・さあ?」

不機嫌になる自分を止められない。

「マコトちゃんからメール来てんでしょ?
 逐一報告入れますねって言ってたじゃん」
「別にどうでもいいもん」

帰ろうと席を立ち上がったところで
携帯が震えた。

 <メール受信 マコト>

460 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:34


「・・・見ないの?」

固まってしまったわたしに
美貴ちゃんが遠慮がちに言う。

見るけど――

だってこんな中途半端な時間。
イヤな予感がするんだもん・・・

思わず携帯を取る手が震える。

隣で美貴ちゃんがジッと見つめてるから
しっかりしなきゃって、必死で自分に言い聞かせる。

見たくない気持ちと
はやる心がせめぎあって、呼吸が苦しくなった。

461 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:34


  [見つかったよ。親分の恋人候補。
   多分、今夜は行くトコまで行くと思う]


あまりの衝撃に
その場に崩れ落ちそうになった。
慌てた美貴ちゃんが、わたしの体を支えてくれる。

「・・・もう・・・ダメ、かも・・・」

声に出したら、どうしようもなく
涙が溢れ出して。

「とにかく梨華ちゃん、家に帰ろ?」

美貴ちゃんに支えられたまま
タクシーに乗って、家まで帰った。

462 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:34



463 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:35


「好き・・・」

こんなに苦しくなるくらい。
涙が止まんなくて、何も出来なくなるくらい。


「認めるんだ?自分の気持ち」

美貴ちゃんにそう言われて
コクリと頷いた。

「美貴、思うんだけどさ」

美貴ちゃんが隣に移動してきて
わたしの頭を撫でてくれる。

「ワガママになりなよ。
 相手の顔色とか窺ってないでさ」

「でも・・・」

464 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:35

「好きだから、そばにいる。
 好きだから、離れない。
 単純でいいんだよ?」

そうだけど――

「・・・時間、巻き戻したい」

だって今頃ひーちゃんは、恋人候補の子と――

「・・・やっぱり意地張らないで
 行けば良かったな・・・」

もう遅いんだろうけど。

だって、ひーちゃん押しに弱いもん。
だって、ひーちゃん優しいんだもん。

だからきっと今夜・・・

ギュッと胸が締め付けられて
また涙がこぼれた。

465 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:36



チャリーン

テーブルの上の携帯が
メールの受信を知らせる。

思わず時計に目がいった。

まだ終わらない夜。
やけに長く感じる夜。

――きっと、うまくいったんだ・・・

ひーちゃんと顔も知らない誰かが抱き合う姿が
脳裏に浮かんで、呼吸が止まるほど苦しくなる。

466 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:36

「メール、見なよ」

美貴ちゃんが、携帯をとって
わたしに渡すけど、見たくなんかない。

「早く」

わたしの手をとって握らせようとした
美貴ちゃんの手を振り払った。

「見たくないっ!」

「ほんとにいいの?
 メール、マコトちゃんからじゃないよ?」

え?

もう一度差し出してくれた携帯を受け取って
ゆっくりと開く――

467 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:36


 <メール受信 ひーちゃん>


――うそ・・・

――なんで・・・?


件名も文章も何もない。
ただ一つだけ、画像が添付されていて・・・


  [りか、あいしてる
   だからすげー幸せになれ〜!!]


468 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:37


砂浜に浮かぶ文字。

――何、これ・・・?
――どうして・・・?

ドキドキが加速する。
ひーちゃん、どういう意味?

チャリーン

また、メール音がして
今度はマコトからで――


469 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:37

  [これが親分の本心だよ?
   今日、うまく行きそうだった子、雰囲気が石川さんに似てたんだ。
   でもね、大事なとこで親分ったら石川さんの名前呼んじゃってさ。
   せっかくのチャンスが台無し。

   親分の中には、今だに石川さんしかいないよ?
   そんなに吹っ切れないなら、石川さんへの想いをラクガキしてみなよ
   って言ったら、さっき送った画像の通りに書いたんだ。
   あれが、あのラクガキが親分の全てなんだよ。

   ねぇ、石川さん。
   石川さんもまだ、親分のこと好きならさ、
   親分のキモチを受け取りにココにおいでよ。

   あたしは朝、親分が起きる前に帰るから。
   宿泊だって、あと一日残ってるし。
   2人ならやり直せるよ、絶対。

   だから。
   親分のこと、迎えにおいでよ]

470 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:38

涙が溢れた。

――ひーちゃん・・・

もう一度、あの画像を呼び起こす・・・


  [りか、あいしてる
   だからすげー幸せになれ〜!!]


わたしもだよ、ひーちゃん。
わたしも、あなたをあいしてる――

471 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:38

「どうする?まだ膝抱えてイジける?」

優しい目をして、美貴ちゃんが聞いてくれる。
思いっきり首を横に振った。

「わたし、沖縄行く。
 ひーちゃんのラクガキに
 ちゃんと答えてこなきゃ!」

泣き笑いだけど、元気にそう言ったら
弾けんばかりの笑顔を返してくれて

「明日、あさって
 会社にはうまく言っておくよ」

って、ウィンクしてくれた。


472 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:38



473 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:39


あの部屋か・・・

マコトがベランダから
携帯を片手に大きく手を振ってる。


『親分、まだグッスリだから大丈夫。
 今のうちに、あたしは帰るね?』

「――マコト・・・、ほんとにありがとう」

『いいっていいって。
 あたしは2人が好きだからさ』

もう一度手を振ると
静かにベランダの戸を開けて
部屋の中へと消えて行った。

474 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:39

さてと・・・

砂浜には、あの画像のままの
ひーちゃんのラクガキ。

  [りか、あいしてる
   だからすげー幸せになれ〜!!]

幸せになるよ、わたし。
あなたと2人で幸せになる。

よし!早くラクガキしなきゃ。

傍らに、多分ひーちゃんが使った太目の枝。
それを拾って、大きく深呼吸する。

消すの、もったいないなぁ・・・
そう思いつつ、手で砂浜をならしていると
ちびっ子2人組がやってきた。

475 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:40

「おねえちゃん、なにしてるの?」

色白のおめめが大きな男の子。

「この砂の上に書いてある文字を消して
 今度はわたしが、お返事を書きたいの」

「ふーん」

色黒で笑顔が可愛い女の子。

ふふ。
わたし達みたいだね?ひーちゃん。

「「てつだってあげる!」」

2人して一気に、両手で砂をならしてくれた。

476 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:40

「そのぼうでかくの?」

「うん。これはおねえちゃんが
 自分で書きたいから、見ててくれる?」

「いいよ」

お手手を繋いで、そばで見守ってくれるちびっ子達。
それだけで、なぜか勇気をもらえた。


  [ひーちゃん
   あいしてる]


シンプルでいい。
だって、一番伝えたい想いはこれだもん。

477 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:41

「ねえ、おねえちゃん。
 ぼくたちがハートマークとかつけてもいい?」
「え?」

「だって、ほら」

男の子が女の子を見る。
胸に手をあてて、憧れの眼差しを
わたしではなく、ラクガキに向けている女の子。

「もっと、ろまんちっくに
 キラキラさせたい!」

ね?

そんな目でわたしをみて
男の子がボソッと呟いた。

「かくのはきっと、ぼくなんだけどさ」


478 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:41









479 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:41


「・・・ねぇ、ひーちゃん?」

真っ白な肌。
別れてもずっと、恋焦がれていたあなた。

「んーどした?」

耳を寄せた胸腔から響く、
大好きな優しい声。

――今、幸せ?

そう聞くのは、愚問な気がした。

だって、見上げたあなたの綺麗な瞳が、
とっても優しくて、とっても嬉しそうな色をしていたから。

何も言わずに人差し指で、
そっと優しい目尻に触れた。

480 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:42

「アタシ、さ・・・」

ひーちゃんが半身を起こして
わたしを見下ろす。

「頭わりぃし、ヘタレだし、
 うまくなんて言えないけどさ・・・」

そっと髪をひかれる。

「こうして梨華と一緒にいられるだけで、すげー幸せなんだ。
 他にはなんもいらないって、強く思う」

思わず涙がこぼれ出す。

「好き・・・
 どんだけ言っても足んないくらい。
 梨華だけが好き・・・」

次から次に涙が溢れて
頷くことしかできない。

481 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:42


「・・・バ、カ・・・」

嗚咽の中で、絞り出した言葉は
こんなにも可愛くない言葉で・・・

――ごめんね、ひーちゃん。

かわいくないよね?わたし。
素直じゃないよね?わたし。

でも・・・


「・・・伝わってるよ、ちゃんと。
 梨華の気持ち」

そっと長い指で
頬に伝わる涙を拭ってくれる。

「少しだけ不器用だけど、
 そんなところも全部ひっくるめて
 梨華を愛してるから」

482 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:43

込み上げる感情を抑え切れなくて
ひーちゃんに抱きついた。

かわいくないけど
素直じゃないけど

でもわたし。

あなたがそばにいるだけで
あなたのそばにいられるだけで
ほんとにほんとに幸せなんだよ?

だからもう一度、直接伝えたい。

483 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:43

「・・・ひーちゃん、あいして――」

最後の文字は
ひーちゃんに飲み込まれた。


強くて深いあなたの愛が
全身に注ぎこまれ、体中を満たしてくれる。

だからわたしは、
必死でしがみつき、あなたがくれる愛に全力で応えるの。

わたしが一番伝えたい想いを乗せて――


  [ひーちゃん
   あいしてる]



484 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:44

485 名前:Rakugaki 投稿日:2011/12/14(水) 11:44


  おわり

486 名前:玄米ちゃ 投稿日:2011/12/14(水) 11:46

以上です。
大変お粗末様でした。

487 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/14(水) 19:56
ヒューヒューだよー
やっぱり私は玄米ちゃさまが一番スキ
きゃっ、言っちゃった
488 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/15(木) 00:51
キュンキュンしました身体中のいろんなところが。
そして心があたたかくなりました。
もうすぐクリスマスです。
ケーキが食べたいな〜あのケーキが。
489 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/11(水) 10:54
一気に読みました!
玄米ちゃ様が書かれる小説大好きです
490 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/01/18(水) 11:27

>487:名無飼育さん様
 まさかピロコさんに告白されるとは!

>488:名無飼育さん様
 甘いケーキはそのうちきっと。おそらく。多分・・・?

>489:名無飼育さん様
 ありがとうございます!


さて、本日は短編を一つ。
明日は梨華ちゃんの誕生日ですが、誕生日には一切絡めていません(汗)

更には、誕生祝なんて申し訳なさすぎて
到底言えないくらいの出来栄えですので
くれぐれも期待せず、暇つぶし程度に読んで頂ければと思います。

ではどうぞ。

491 名前:癒されてます 投稿日:2012/01/18(水) 11:27


492 名前:癒されてます 投稿日:2012/01/18(水) 11:28

「どうしよう・・・
 したくなっちゃった・・・」

ふぇ??

ソファーに腰掛けたアタシ達。
もちろん、配置は隣同士。

アタシの腿に手を置いて
ズズズッと距離を縮めてくる。

――ヤ、ヤバイって・・・

わかってんの?
最近のあなた、ますますヤバイんだってば。

意識してんのか、無意識なのか知んないけど
やらかい膨らみをムダに押し付けてきたりさ。

衣装からはみ出さないようにって
アタシにチェックさせたりさ。

今だってその・・・

暖房効いてるからって、
薄着のまま、アタシにしなだれかかって来ちゃってさ・・・

493 名前:癒されてます 投稿日:2012/01/18(水) 11:28

「よっすぃ〜だってあるでしょ?
 したいとき」

「そ、そりゃ・・・ね」

ってか、どこでスイッチ入ったのよ?

「・・・ねぇ・・・したくない・・・?」

耳元で囁かれて
そのまま唇で耳たぶを挟まれる。

「・・・ぁ・・・」

思わず小さく声が漏れた。

「・・・ふふ。かわいい」

調子づいた唇が、ゆっくり首筋を這って
背筋がゾクゾクと震える。

494 名前:癒されてます 投稿日:2012/01/18(水) 11:29

「・・・ど、どうし、たんだ、よ。
 急に・・・、ぁ・・・んっ」

「急にじゃないもん。
 わたしはいつだって、よっすぃ〜に触れたいの・・・」

お願い。
首筋に息をかけないで。

「好きだから触れたい。
 好きだから触れて欲しい」

そっとアタシの手を取ると、指と指を絡めてつなぐ――

「ねぇ・・・ダメ?」
「・・・ダ、ダメ、ってか・・・」

「ダメじゃない?」
「・・・そんなの、決まってんじゃん」

ふふ。

妖しい笑みを浮かべて
彼女がアタシの膝の上にのる。

抜群の破壊力を持つ、あの谷間が
至近距離で丸見え。

・・・やべぇ。

495 名前:癒されてます 投稿日:2012/01/18(水) 11:30

「ツアーとか、収録とか。
 ずっと忙しかったから、ほんとに久しぶりでしょ?
 こうして2人きりで過ごすの・・・」

首の後ろに回された手が
誘うように、アタシの髪を撫でる。

「忙しくても、してたじゃん」
「そうだけどぉ」

そっと腰に手をおいて
ゆっくり中に忍ばせて、素肌に触れた。

「足りなかった?」

小さく頷く彼女が、可愛くて愛おしくて・・・

496 名前:癒されてます 投稿日:2012/01/18(水) 11:30


「ギュッてして?」

言われたとおり、ふくらみに顔を埋めて
腕に力を入れた。

「この前の続き、しよ・・・?」

この前の続き?
う〜ん、どれだろ・・・

キッチンでのかな?
お風呂でのかな?

あっ!
スタジオの隅で、立ったままシた時の・・・

「なに想像してるのぉ〜」

体を離して、緩んだ瞳でアタシの顔を覗きこむ彼女。
小さな手が、そっとアタシの頬に触れ、
誘うように妖しく指で撫でる・・・

たまらなくなって、吸い寄せられるように、
彼女の肌に唇を寄せた。

497 名前:癒されてます 投稿日:2012/01/18(水) 11:31

「・・・ん、・・・ぁ・・・ダメ・・・
 ・・・ダメ、だってばぁ・・・」

艶っぽい声で、そう言うけど
直接触れたふくらみは、存在を主張してるよ?

邪魔する布を少しだけずらして、
開いた胸元から、唇を滑らす――

大きく育った果実。
いつだって甘い、アタシだけのたわわな果実。

「・・・たまんね。おいし・・・」

ピリピリと脳がしびれて
アタシの中の残り少ない理性を潰していく・・・

ダメだ、止まんね。
そのままソファーに押し倒した――

498 名前:癒されてます 投稿日:2012/01/18(水) 11:31




「ストーーーップ!!!」


・・・へ?


尖った場所をくわえたまま、顔をあげた。


「――シャワー・・・、浴びてから・・・」

は、はは。
な〜んだ、なんだ。そんなこと?

胸元から首筋に舌を這わせて
耳元に到達すると、とびっきり甘い声で囁いた。

「イイよ、このままで・・・」

真上から彼女を見下ろす。
そっと髪を撫でて、唇を寄せてもう一度囁いた――

499 名前:癒されてます 投稿日:2012/01/18(水) 11:32

「今すぐ梨華ちゃんが欲し――ンガッ」

両頬を挟まれて、着陸を阻まれる。


「違うの。これもよっすぃ〜のセリフなの」
「はあ??」

アタシを押し戻して、
乱れた服を直しながら起き上がる彼女。

「これで少しは分かった?」

ニッコリ笑って聞かれるけど
こっちはサッパリ訳わからん。

てか、こんなとこで止められて
かなりムッと来てんですけど!

「もぉ〜わかんないかなぁ?」
「だから何がだよ?」

500 名前:癒されてます 投稿日:2012/01/18(水) 11:32

「いやせません」
「はい?」

「恋人としてね、
 聞くに忍びないのよ、あのコーナー」

だってね。
よっすぃ〜の声は、ほんとはすごく色っぽくて、
あんなんじゃないもん。

今みたいに耳元で囁かれたら、それだけで感じちゃうくらい
セクシーな声なんだよ?

なのにさ。
『ギュッてして?』も
『この前の続きしよ?』も
『なに想像してるの』も
『ダメ、ダメだってば』もさ・・・

501 名前:癒されてます 投稿日:2012/01/18(水) 11:33

「ひどすぎるのっ!!」

はあ〜〜
ったく・・・

「だからね?
 こんな感じだって分かれば
 次から絶対うまくできるでしょ?
 もう宝塚みたいにはならないでしょ?」

「どーかなー」

「今度の収録はわたしも一緒だから大丈夫だよ!
 わたしに言ってると思えばいいんだよ、ね?
 よっすぃ〜なら出来るよ!」

両手を握り締められて
力強く言われてもねぇ・・・

「練習してみよ?
 今度はよっすぃ〜の番ね?」

502 名前:癒されてます 投稿日:2012/01/18(水) 11:33

「『ギュッてして?』からやってみよ?
 『ギュウぅ』じゃないよ?
 『ギュッ!』でもないからね?」

ほら早く!
なんて、太ももを叩いて急かされる。

ほーほー
わかりましたよ。

そっちがそうなら、こっちだって――

コホンッ。

「・・・ギュってして?」

「そうそう。その調子!
 かわいい、よっすぃ〜」

満足げに目を細める彼女の腰を引き寄せて
自らの膝の上に乗せた。

503 名前:癒されてます 投稿日:2012/01/18(水) 11:34

「じゃあ、次」
「次にいっていいの?」
「もちろん!さっ、次の言葉
 言ってみて?」

期待に膨らんだ彼女の瞳。

では、ココロを込めて。
雰囲気たっぷりに・・・

「・・・シヨ?」
「へ?」

油断したスキに、後ろに回した手を
ソコに伸ばして、手の平を押し付けた。

「・・・ンッ・・・」

おおっ!
思わず漏れたエロい声。
いいねぇ、たまらん。

504 名前:癒されてます 投稿日:2012/01/18(水) 11:34

逃げようとする体を反対の腕でロックして、
触れている指をじわじわと動かす。

「・・・ゃ・・・っ・・・」
「ん?」

「ちが・・・ぁん・・・
 ・・・そう・・・じゃ・・・なく、て・・・」

「違くない、違くない」

だって、恋人同士がギュッてしたら
次にやることは、一つしかないでしょ?

「・・・・・・バ・・・カぁ・・・
 ちゃん・・・と・・・、はぁ・・・人の話・・・聞いて・・・っよぉ・・・」

スーッと撫でるように指を忍ばせて
熱くなっているソコに直接触れた。

505 名前:癒されてます 投稿日:2012/01/18(水) 11:35

「・・・ぁあ・・・っん!
 ・・・ヤ・・・だぁ・・・」

小刻みに、彼女の体が震える。

「・・・すげぇ濡れてる・・・」

さっきだって本気で感じてたもんね?

「練習なんかよりさ、先にコッチを
 どうにかした方がよくない?」

耳元で囁いたら
また彼女から溢れ出して来た。

もう抗えないでしょ?

だから言ったじゃん。
『ギュッ』ってしたら、あとはもう愛し合うしかないんだってば。

506 名前:癒されてます 投稿日:2012/01/18(水) 11:35

「そ・・・ぉ、だけ、どぉ・・・」

それに、あんなの上手くなくていいじゃん。
アタシの濡れた声は、梨華ちゃんだけ知ってればいいよ。

だから、その艶やかな声もアタシだけに聞かせて――

「わかってる・・・よぉ・・・」

そう言って、しがみついてきた
彼女の服に手をかけた。

もうさ。
とっくの昔に、なってるけど。
すでにチョーやみつきになってるけど――

華やかに微笑む彼女を、もっと喜ばせたくて
そっと唇を寄せて、前回彼女が言ったセリフを耳元で囁いた。


507 名前:癒されてます 投稿日:2012/01/18(水) 11:35


 『クセになりそう・・・』




508 名前:癒されてます 投稿日:2012/01/18(水) 11:36


   おわり


509 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/01/18(水) 11:38

大変失礼致しました!
この題名は、単純に作者の感想です。

土曜日の某ラジオのこのコーナーだけは飲料厳禁です(笑)
どんなに嫌なことがあっても、あのコーナーのよっすぃ〜には
必ず笑顔にさせられます。
ご本人は至って真面目にチャレンジされてるんですけども。

はてさて、今週の土曜日には
お2人にどんなセリフが待っておりますことやら・・・


ながらくお待たせしていますが、
そのうち新作を始められると思います。
510 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/01/18(水) 11:38

511 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/01/18(水) 11:38

512 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/01/18(水) 11:38

513 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/19(木) 01:38
後日談ですね了解しました
新作楽しみにしていますが玄米ちゃ様のことだからまた悶え苦しまなくちゃならないのね

新作はやくカモーン!
514 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/19(木) 06:51
ひゃああああ
玄米ちゃ様、エロイ!エロすぎます!
エロすぎる石川さんお誕生日おめでとうございます
新作楽しみにしてます
ハァハァ
515 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/19(木) 23:55
初めて感想つけます。
玄米ちゃ様の作品はリアルの取り入れ方が絶妙で
いつも現実の2人とオーバーラップしてドキドキしてしまいます。
今回はそうきたか…ていうか石川さんヤ○○ンチェックしてたんですねw
確かに今度一緒に出ますからねぇ
もう普通には聴けなくなってしまいましたw

次回作品も楽しみにしています。
516 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/01/26(木) 15:27

>513:名無飼育さん様
 お待たせ致しました!

>514:名無飼育さん様
 先日の放送がまさに『ひゃああああ』でした。

>515:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 これからも是非ご感想お聞かせ下さい。


いやはや何と申し上げましょうか・・・
『いやせません』は乗り切ったのに、
エンディングトークでコーヒー吹くとは、夢にも思いませんでした。
2人一緒の時は最後の一瞬まで気を抜いてはいけませんね(笑)

さて、本日より新作開始です。
そんなに痛いテイストではないです。
今のところは・・・

ではどうぞ。


517 名前:理想+1 投稿日:2012/01/26(木) 15:27

518 名前:理想+1 投稿日:2012/01/26(木) 15:28


  『理想+1』


519 名前:理想+1 投稿日:2012/01/26(木) 15:29

23時50分。
今日も何もなかった一日が終わろうとしている。

もう何年、こんな風に過ごしてるのかな・・・

朝起きて。
会社に行って。
どこにも寄らずに帰宅して。
そしてまた、同じような一日が始まるの。

毎日何も変わらない。
退屈すぎる日々。

恋人でも出来たらいいんだろうけど・・・

――恋なんて、そんなに簡単に転がってるものじゃない。

520 名前:理想+1 投稿日:2012/01/26(木) 15:29

「見た目だって、いい方だと思うんだけどな・・・」

ぬくぬくとコタツで温まりながら
頬杖をつく。

「胸だってある方だし。
 声だって可愛いって言われるし・・・
 世の中の男共はどおして、わたしに声かけてくれないわけぇ?」

コタツの上に置いたままのスタンドミラーを
引き寄せて、自分の顔を覗いた。
鏡の中の自分に、ニッコリ微笑みかける。

「――ほら。可愛いじゃん、わたし」

唇を尖らして、大きなため息をつくと
脱力して、そのまま机に突っ伏した。

521 名前:理想+1 投稿日:2012/01/26(木) 15:30

  『石川さん可愛いし、スタイルもいいから
   彼氏が羨ましいね〜』

社長ほか、おじさま方は
大抵そんな風に言う。


  『うそ!梨華ちゃん彼氏いないの?
   じゃあ紹介してあげる。ほら、取引先の
   ○○君なんてどう?』

社長婦人ほか、おばさま方は
そう言いながら、実際に紹介なんてしてくれない。

酷い時には

  『そんな風に言っちゃって〜
   ほんとは素敵な彼氏がいるんでしょ?
   だって梨華ちゃんみたいな可愛い子を
   周りが放っておく訳ないじゃない。ねぇ?』って。

実際、放って置かれてるから
困ってるんじゃないよ!

522 名前:理想+1 投稿日:2012/01/26(木) 15:30

「あ〜あ・・・
 誰かいい人いないかなぁ?」

優しくて
スポーツ万能で
中性的で
大人で
背が高くて
笑った時に目が優しくなる人・・・

そんな王子様が、絶対いるはずなんだよなぁ。


「・・・まぁ、一つくらいかけたって、この際いいよ?」

もういい歳だもん。
妥協する事だって、一応覚えたし・・・

523 名前:理想+1 投稿日:2012/01/26(木) 15:31

そう思ったって、肝心の出会いが全くない。

うちの会社は、中小企業のいわゆる小の方だから、
取引先も決まってて、新しい出会いなんて望めたもんじゃない。
それに、男性と言えば、おじさんばっかだし・・・

習い事も面倒だからしてないし
電車も女性専用車両しか乗らないし
行きつけのお店なんて、近くのコンビニくらいだし・・・

わたしの日常生活のどこにも
素敵な出会いに遭遇する要素が潜んでないんだ。


いっそのこと転職でもしちゃう?
――ムリムリ。貯金もないし、生活できなくなっちゃう。

じゃあ、ネットで出会うとか?
――もっとムリ。線繋げられないし。

夜の街に繰り出してみる?
――ダメダメ。わたしには一番ムリ。


「ってか、夜の街に王子様がいるわけないじゃん」

524 名前:理想+1 投稿日:2012/01/26(木) 15:32

一人で呟いて、一人で突っ込む――

一人暮らしの悲しい習性が
すっかり染み付いちゃっていて
余計に落ち込んでくる。

そもそも、ここ数年の寂しい一人身生活の原因は
ほんとは自分にあるんだってことも、実は分かってるんだ。

『紹介して下さいよ〜』
って言いつつ、本気で紹介してくれようとすると
ちょっと逃げ腰になっちゃうわたし。

いざ紹介されて、付き合ってみても
数回で会うことすら面倒になっちゃうわたし・・・

だってほら。
その相手って、わたしの理想から1つかけたくらいじゃなくて
2つも3つも足りないんだもん。

何か魅かれるものがあれば
会うのが面倒くさいとか、思わないんだろうけどさ・・・

525 名前:理想+1 投稿日:2012/01/26(木) 15:34

「寂しいなぁ・・・ほんと」

弱小会社に勤務する者には、
同期なんてものは存在しないから、
こんな日に一緒に飲みに行ってくれる人がいない。

じゃあ学生時代の友人はどうかと言えば、
皆彼氏持ちで、人恋しくなる寒い季節の、しかも金曜の夜に
一緒に飲んでくれる人なんて、いるわけがない。

ってか、そもそもわたし、友達少ないし・・・

この不精な性格も災いして、年々友人の数が減少中。
新規開拓が望めない職場にいるから
交友関係は狭まるばかりで・・・

「あ〜あ!
 もうこんな生活イヤ〜!!」

526 名前:理想+1 投稿日:2012/01/26(木) 15:34

ぬくもりが欲しい。
トキメキたい。
毎日が楽しくなるような出来事に出会いたい――

「はぁ〜あ・・・
 何かこう、劇的に世界が変わる!
 みたいな出来事、起きないかなぁ・・・」

毎日がキラキラして。
毎日がワクワクして。

心の底から、
今楽しい!って。
今、幸せ!って。

そう思える日々――


「鏡よ鏡よ鏡さん。
 わたしの王子様はどこかしら?」

――しーん・・・


・・・当たり前だけど、ムカツク。

527 名前:第1章 1 投稿日:2012/01/26(木) 15:35

「いいもん!今夜はヤケ酒飲んでやるから」

鏡の中の自分にべぇってして
立ち上がった。

こんな夜は一人でヤケ酒飲んで、サッサと寝るに限る。
じゃないと色んなこと考えちゃって、寝付けなくなっちゃうの。

「ボトル一本空けて
 お昼までゆっくり眠ろうっと」


――あれ・・・?

肝心のワインがない。
ついでに言うと、他のアルコールも。

・・・あ。忘れてた。

昨日飲むつもりじゃなかったのに
寒くて、眠れなくて飲んじゃったんだ・・・

528 名前:第1章 1 投稿日:2012/01/26(木) 15:36

「サイアク・・・」

飲みたい気分なのに飲めないなんて…

コンビニ行く?
――やだ面倒くさい。

じゃあこのまま寝る?
――寝れるわけないよねー。


はあああ〜〜
仕方ない。コンビニ行くか…

パジャマの上にコートを羽織って
お財布とケータイだけ持ってお家を出る。

コタツもヒーターもそのままつけて行きたいけど、万が一ねぇ。
帰って来たとき、燃えてたりしたらやだし。
冬場は特に気をつけないと・・・

あー、やっぱ行くのやめよっかなぁ?

頭の中で二つの選択肢を秤に乗せてみる――

…だよね。行こ。

思い切って、全てを消して玄関を閉めた。

529 名前:第1章 1 投稿日:2012/01/26(木) 15:36

「うわっ!さむっ!!」

マフラーもしてくれば良かった!
体の前で腕組みをして、少しでも寒さをしのぐ。

コンビニまで、歩いて五分。走って三分・・・
――もちろん走ったりなんかしない。

大通り沿いのマンションだから、
こんな夜中に一人で出歩いても、全く危なくない。
ってか、金曜の夜はまだ人が結構いて、
この格好、ちょっと失敗だったかも・・・なんて思う。

これじゃあ、たとえ王子様に出会っても逃げちゃうよねー。

530 名前:第1章 1 投稿日:2012/01/26(木) 15:37

予想通りと言うか、当たり前と言うか、
無事何事もなくコンビニにたどり着いた。

つつがなく買い物を終えて、手にはワイン2本とチーズにサラダ。
ついでに明日は、朝昼ごはんになるはずだから、
パンと牛乳を買って、家ごもりの準備は万端。

お昼すぎに起きたら、とりあえず洗濯して、それから…

なんて考えながら、信号待ちをしていると
少し離れた細い路地に、人が見え隠れしてる。
道の端に積み上げてあるダンボールを、指差し確認して、
一番上の箱を持ち上げると路地の中に姿が消えた。

ぼんやりと小さく灯る看板。

へー。あんなとこにお店なんかあったんだ…
全然気付かなかった。
何屋さんなんだろ?

今度、明るい時に前を通ってみよ。

531 名前:第1章 1 投稿日:2012/01/26(木) 15:38

また人が路地から現れて、ダンボール箱を持ち上げた。
視線を前に戻すと、歩行者用の信号がちょうど青に変わる。

「うわぁっ!!」

歩き出そうとした途端、
路地にいたその人が声をあげた。

・・・あら〜、かわいそー

持ち上げたダンボールが地面に落ちていて、
中から丸っこい物体が転がってる。

「すみません、すみません」

よけて通る歩行者に、被っていた青い帽子をとって頭を下げると、
ため息を一つついて、それを一人で拾い始めた。

532 名前:第1章 1 投稿日:2012/01/26(木) 15:38

目の前の青信号が点滅を始める――

う〜ん・・・
急ぐ訳じゃないし。
ま、いっか。

横断歩道を渡らずに、
細い路地の方へと向かう――


「はい」

手前に転がる3つを拾って、その人に声をかけた。

レモンか…
レストランなのかな?

わたしの声に驚いたように、
その人が、脱いだ帽子に入れた
たくさんのレモンを抱えたまま立ち上がった。

533 名前:第1章 1 投稿日:2012/01/26(木) 15:39

「あ、すみません。
 ありがとうございます!」

抱えた帽子を差し出すけど、
すでにいっぱいで、乗せられなさそう。

「あ、じゃあ、ここに・・・」

わたしの戸惑いに気付いたのか、
申し訳なさそうにそう言って、その人が
抱えたレモンを、傍らのダンボール箱に戻した。
続いてわたしもそれに倣う。

「ほんと助かります。
 ありがとうございました」

深々とわたしに向かって頭を下げると
また散らばっているレモンを拾いだす・・・

「手伝いますよ?」

ここで立ち去るのも何かねぇ・・・
別に急いでないし。

534 名前:第1章 1 投稿日:2012/01/26(木) 15:39

「え?マジっすか?
 すみません、ほんと助かります」

心底嬉しそうな声。
そんなに喜んでもらえると、こっちまでちょっと嬉しくなる。


「・・・よし!
 これで最後かな?」

最後の一つを拾ったわたしが
それをダンボールに入れると、その人がまた
深々と頭を下げた。

「ほんとに助かりました!
 あ、そうだ。これ良かったら・・・」

箱の中から、2、3個レモンを
取り出すとわたしに差し出す。

「いえ、そんな・・・」

両方の手の平を見せて
いらないと言うジェスチャーをする。

だって、そんなために拾ったわけじゃないもん。
てか、すでに口の中に過剰な唾液が・・・

それにこのくらい、
ほんとに大したことじゃないし。

535 名前:第1章 1 投稿日:2012/01/26(木) 15:40

「あ、そっか!」

え?

「落ちたのなんてイヤですよね?」

へ?

「ちょっとだけ、ここで待ってて下さい!」

あ、ちがっ!

「すぐ戻りますから!」

手に持っていた帽子を被ると
あっという間に背を向けて、路地に姿を消す・・・

「ちょ、ちょっと待って!!」

慌てて、消えた背中を追いかけて
路地に入ると、薄明かりの中へ消えて行くのが見えた。

536 名前:第1章 1 投稿日:2012/01/26(木) 15:41

その人が消えたところに
さっき見た看板と同じものがある。

「焼酎BAR・・・」

へぇ・・・
そういうのがあるんだ・・・

そこには、地下へ降りる階段があって、
入り口が一つしかない。

遠慮がちに階下を覗き込んでると
さっきの人がすごい勢いで、ドアを開けて
階段を駆け上って来た。

あ・・・

「すみ、ません!
 ハァ・・・、お待たせしました」

息を切らしながら、
大きな丸い物体をわたしに差し出す。

537 名前:第1章 1 投稿日:2012/01/26(木) 15:41

「良かったら、どうぞ」

その人が、ニッコリ笑ったのが、
階段の電気に照らされて良く分かる・・・

――綺麗な、顔・・・

確かにシルエットも綺麗だった。
立ち姿も完璧だった。
でも、ここまで整ってるなんて・・・

見つけちゃったかも。
理想の王子様。

けど――

「これ・・・、お嫌いですか?」
「え?あ、いえ・・・」

って!

両手に一つずつ。
ツルリとした表面じゃなくて、
ちゃんと網目が出来ている立派なメロンが
わたしに差し出されていて――

538 名前:第1章 1 投稿日:2012/01/26(木) 15:42

もらえる訳ないじゃない!
こんなの!!

ただ、ちょっと手伝っただけだよ?
しかも、通りがかりに数個だけレモンを拾ってあげただけ。
それがどうして、高級メロンに変わる訳?!

「そんな高級なの、頂けません」

不思議そうに眉を寄せるその顔も、
完璧なほど整っていて、見惚れてしまいそう・・・

「高級なのか・・・、これ」

耳を疑った。
大丈夫?この人。

「そっか・・・じゃあどうしようかな・・・?」

考えるように視線をさ迷わせて
最後に、わたしの手元の袋に止まった。

539 名前:第1章 1 投稿日:2012/01/26(木) 15:42

「酒、好きですか?」
「・・・へ?あ、ええ・・・まあ・・・」

「どなたかとこれから飲むご予定でした?
 そのワインたち」

そうなんです。
とか、見栄張る?

けど、張ったところでどうなのよ。
それに見栄を張って、待たせてる人がいるなんて言ったら
次はどんな高級フルーツが出てくるか、分かったもんじゃない。

「残念ながら、今夜は一人で・・・」

<今夜>にアクセントをつけておいた。

「そっか。
 なら、店に来ません?」

親指だけ立てて、階下を示す仕草が
悔しいくらいキマってる。

540 名前:第1章 1 投稿日:2012/01/26(木) 15:43

「焼酎・・・嫌いですか?」

「嫌いっていうか・・・
 一人で焼酎って飲まないから・・・」

・・・あ、一人って言っちゃった。

「じゃあ、2人で飲みましょ?
 店はもう閉めたんで」

2つのメロンを片腕に抱えると、空いたほうの手を
そっとわたしの腰に回す。
まるで、外国の紳士が女性をエスコートするように
優しくそっと添えられて、階下へと誘われる・・・

――ヤダ、わたし。
何、ドキッとしちゃってんの?

この声からも、容姿からも
女性だってちゃんと分かってるのに・・・

「照明がちょっと暗いんで
 足元、気をつけて下さいね?」

中性的な顔立ちに
スラリとした背――

わたしの理想を、2つクリアしてる・・・
なんて、バカなことを思った。

541 名前:理想+1 投稿日:2012/01/26(木) 15:43

542 名前:理想+1 投稿日:2012/01/26(木) 15:43

543 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/01/26(木) 15:45

こんな感じでスタートしました。
本日は以上です。

544 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/26(木) 22:41
新作きたーーーーーーー
キュンキュンなのかイタイのか
すっごく楽しみです
545 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/27(金) 00:40
この物語の主人公のプライベートはまるで私!わかる部分がいっぱいありすぎです。だからこそハッピーエンドでお願いねん!
546 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/30(月) 11:59
コンスタントに新作があってすごく嬉しいです!
また楽しみが増えました。
547 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/02/03(金) 17:48

>544:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 しばらくはキュンキュンなはずです・・・

>545:名無飼育さん様
 ハッピーエンドねぇ・・・
 んーどうでしょう?

>546:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 楽しんで頂ければ幸いです。


では本日の更新です。

548 名前:理想+1 投稿日:2012/02/03(金) 17:49


549 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 17:53

階段を降りきると、添えられていた手が
スッと外され、ドアを開けてくれる。

どれも、スマートな身のこなし。
慣れているって言うか、サマになってるって言うか・・・

但し、メロンを2つ抱えてはいるけど・・・


「どうぞ、入って下さい」
「あ、じゃあ失礼します・・・」

中を窺いながら、ゆっくり足を踏み入れる。

「こんばんは・・・
 お邪魔します」

お店に入るのに、この挨拶もどうかとは
思ったけど、何となくね・・・

「ささ、遠慮しないで下さい」

中へと促され、キョロキョロと辺りを伺う――

550 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 17:53

洗練されていて、かなりお洒落なお店。

余計な飾り付けとかはなくて、
深い焦げ茶色のカウンターに背の高い椅子が数個。
そのすぐそばに、小さな丸いテーブル席が2つ。

狭いけど、全部が木製で出来てるから
どこか温かみがあって、落ち着く。

地下だから、窓はないはずなんだけど
陰気な感じは全然しなくて、逆に爽やかな風が
吹き込んでいるように感じるのは何でだろう・・・?


「どうぞ、座ってください」

カウンターに腰掛けるように、わたしに声をかけてから
彼女が軽い身のこなしで、カウンターの中に入る。

551 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 17:54

「う〜ん・・・
 今夜はどれがいいかな・・・?」

わたしに背を向けて、酒棚にズラリと並べられた
焼酎のビンを眺める彼女。

へぇ・・・
焼酎って、こんなにたくさん種類があるんだ・・・

「焼酎飲んだことあります?」

カウンター越しに突然振り向かれて驚く。

「え?あ、まあ、一応は・・・」
「ロックで?」
「まさか。水で割って」
「おや、残念」

そう言ってまた背を向けて
酒棚を見つめる。

「焼酎は、ロックが一番美味しいんですよ。
 アルコールがきつかったら、水を横において
 少しずつ、味わうのがいいんです」

そう言って、また振り返る。
『キランッ』とか、効果音がつきそうなほど眩しい笑顔。

552 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 17:55

「よしっ!じゃあ、今夜はあんまクセのないヤツで」

そう言って、被っていた帽子のつばを
後ろ向きにして被りなおすと、踏み台に乗って
一番上の段から、ビンを一本取り出した。

「これ、ちょー美味しいんです。
 優しい味で飲みやすいから
 はじめてロックで飲む人も大丈夫だと思います」

まるで少年のように微笑んで、得意げに言う彼女。
帽子を後ろ向きに被ったせいで、さっきよりも顔がはっきり見える。

ほんとに、綺麗な顔――

その造形の美しさに、
思わず見入ってしまいそうになる。
容姿はほんと、わたしの理想そのもの。

――この人の恋人って、どんな人なんだろ・・・

あ、もしかして
ここのオーナーだったりして。

2人で仲良くお店なんて・・・
ちょっとうらやましいなぁ。

553 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 17:56

「家、お近くですよね?」
「え?」
「そのカッコ・・・」

あ・・・

ふと我に返る。

コートの下から覗くピンクのパジャマ。
モコモコのあったか靴下にサンダル――

は、はずかしい・・・
あまりにも場違いすぎる・・・

「アタシいっつも金曜の夜は
 この店で朝まで一人で飲むんです。
 週末は閉店時間が過ぎても、お客さんが粘るんで
 終電行っちゃうんですよね〜」

視線を動かしている手元に落としたまま
そう言う彼女。

「ずっと一人きりで飲むんですか?」

だってだって、恋人のオーナーは?

「はい。ずぅ〜っと一人きりで」

はあ〜、寂しいもんです・・・
なんて呟いた彼女。

554 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 17:58

「ほんと一人酒って、寂しいんですよ?」

そんな問いかけしなくたって、わたしだって知ってるよ。
日々、身にしみて感じてるんだから。

「酒が入って、気分よくなってきても、熱く語る相手がいないし」
「まあ、一人だとそうなりますよね」

「深酒して、ひっくり返っても誰も起こしてくんないし」
「あんまり一人で深酒はしない方がいいんじゃないかな?」

「トイレに籠ってたって、誰も気にしちゃくんないでしょ?
 何かそれって、つまんないっつーか・・・」

「・・・ねぇ。普段そんな飲み方してるの?」

「いやいや、滅相もない!
 例えばですよ!たとえば!」

思いっきり真顔で否定したと思ったら
すぐに端正な顔を崩して微笑んだ。

「でも今夜は、寂しい一人酒にならずにすむんで
 超ラッキーです」

またまた『キランッ』と効果音がつきそうな笑顔。
さすが、夜の世界の人。
おそるべし・・・

555 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 18:00

「あ、コートかけましょうか?」

入った時と同じように、軽い身のこなしで、カウンターを出ると
わたしのすぐ横に立って、手を差し出す。

「コート、預かりますよ?」
「え?あ、う、うん・・・」

やっぱ恥ずかしい・・・

相手は、ターコイズ色のTシャツで
こちらは、キショピンクのパジャマ・・・

更には、コートを脱いだら
あらビックリ!

デッカイうさぎの顔が
プリントされてたりするんだけど・・・

「酒入ったら、きっと暑くなりますよ?」

笑顔のまま、手を差し出してくる彼女。

それはごもっともなんだけどね・・・

あ〜あ。
こんなことなら、誘いに乗るんじゃなかったな・・・

556 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 18:00

「もしかして寒いですか?」

思いっきり左右に首を振った。
これ以上、暖房を効かせられては困る。

「あ、そっか!
 透けてたりします?
 それなら気にしないで下さい。
 この店、アタシ一人でやってますから」

「え?一人で?」
「はい」

――てことは・・・

「このお店のオーナーって・・・」

「このアタシです!」

敬礼つきで
とびっきりの笑顔を向けられた。

557 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 18:01

「まあ、脱ぎたくなったらご自由にどうぞ。
 すぐそこにハンガーラックあるんで」

彼女が指差した先を、一応確認。

「そうそう。買った中に冷やしとかなきゃ
 いけないもんてあります?
 帰るまで冷蔵庫に入れときますよ?」

「あ、じゃあ・・・
 牛乳とサラダをお願いします」

傍らに置いたコンビニの袋から
2つ取り出すと、彼女に渡した。

代わりに受け取ったのは、
すぐそこのハンガーにかけてあったパーカー。

「冷蔵庫、カウンターの奥にあるんですよ」

また軽やかにカウンターの中に入りながら
そんな風に言う。

「しばらくアタシ、見えないとこにいますから
 ごゆっくりどうぞ」

ニッコリ笑って、カウンターの奥に消えていく――

558 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 18:01

ふう・・・

思わず息を吐き出した。
額と首筋にじんわり汗をかいてる。

「違うんだけどな・・・」

思わず呟いた。

――どうしよう、これ・・・

手渡されたパーカー。
彼女ってば、完全にわたしが
スケスケパジャマを着てると思ってるよね・・・

身を乗り出して、カウンターの奥を窺う。
宣言通り、しばらく彼女が出て来そうにないのを確認すると
そっと音を立てないように、コートを脱いだ。

559 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 18:02

――やっぱりこのままは、恥ずかしいな・・・

しぶしぶ手渡されたパーカーを羽織る。
ふわっと香る優しい香り。

香水かな?
もう一度息を吸い込んでみる。

いい匂い・・・

人って匂いだけでも
クラッと来ちゃう時あるんだよね〜

やっぱり、おそるべし。
夜の世界の人――

そんな風に思いながら、
席を立って、コートをハンガーにかけた。

560 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 18:02


席について、しばらく待っていると
彼女がお皿を手に、奥から戻ってきた。

わたしの姿を捉えた途端、
目が優しくなった。

申し訳ないけど、パーカーを脱ぐときは
もう一度、奥に消えてね?


「さてと!
 じゃ、乾杯しましょっか?」

ロック用のグラスを2つ用意して
彼女がわたしの隣に腰掛けた。

「水も一応用意したんで
 強すぎたら飲んで下さいね?」

んじゃ。

帽子を脱いで、カウンターの上に置いた。

561 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 18:03

「カンパ〜イ!」
「かんぱ〜い!」

クハ〜ッ!
うめえ!

最初の一口をゴクリと飲んだ彼女が
心底美味しそうに、声を漏らす。

じゃあ、わたしも彼女にならって
まずは一口・・・

「うわっ。いきなりそんなゴクリって・・・
 大丈夫ですか?」

舌に残る優しい味。
熱い液体が、ノドを通っていくのを感じる――

心配そうに覗き込む
大きな瞳にニッコリ微笑みかけた。

「うん!おいしいっ!!」

途端に彼女が破顔した。

562 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 18:03

「これ、すっごく美味しい!
 まろやかで、飲みやすくて・・・
 こんなの初めて飲んだ!」

ニコニコと嬉しそうに
わたしに相槌を打つ彼女。

あれ?この人、こんなにタレ目だったっけ?
どっちかと言うと、キリリとしてた気がするんだけど・・・
ヤダ。また一つクリアしちゃったじゃない・・・

「ふはっ」

突然彼女が吹き出した。

「どうかしたの?」
「ん?」
「今、笑ったから」

「何か可愛いなあって」

563 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 18:04

「最初にレモン拾ってくれた時から思ってたけど
 可愛い人だなぁって」

不意をつかれて、思わず頬が熱くなる。

「顔も、手も、声も。
 仕草も全部可愛いや」

――知ってる。
いつもなら、心の中でそう言うのに・・・

「ふはっ。何かほんと可愛い・・・」

楽しそうに、そう呟いた彼女。

――く、くどかれてる訳じゃないよね??


「・・・恋人、います?」

うわっ。
予想通りかも。
やっぱりおそるべしだわ、夜の世――

「そりゃ、いますよね〜」

彼女が手元のグラスに
視線を落とした。

564 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 18:05

「いいな〜、恋か・・・
 一度でいいからしてみたいな・・・」

予想外の言葉に驚いて
隣の彼女を見た。

「ほら、こう・・・
 劇的に世界が変わっちゃうようなヤツ。
 この人のためなら、全てを捨ててもいいってくらい激しいヤツでさ」

毎日がキラキラして。
毎日がワクワクして。

心の底から、
今楽しい!って。
今、幸せ!って――

「そう思えるような恋ってヤツを
 一度でいいから、してみたいなーなんて・・・
 って、あれ?笑ってます?」

565 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 18:05

可笑しかった。
だってわたしと一緒なんだもん。

「ふふふ・・・」

堪え切れずに思わず
声が漏れた。

「はあ〜、あなたみたいな人には
 わかんないんだろーな、きっと・・・」

むぅっと尖った薄い唇。
何か意外に、この人ったら可愛い。

「・・・ヤダ。可笑しくて笑いが止まんないかも」

「はあ〜。もう、いいッスよ。
 好きなだけ笑ってください・・・」

566 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 18:06

「違うの、違うの。
 そうじゃなくて」

「いいですって。
 気なんて使わなくて」

ふてくされたように、そう言う彼女を
横から覗き込んだ。

「わたしと全く一緒なんだってば」

「・・・へ?はあ??
 うそでしょ?!」

「ほんとほんと。
 わたしもここ数年、ずぅっと一人酒なの」

「マジッすか?」
「マジもマジ」

だってほら。

しっかり上まで上げていた
パーカーのファスナーを思いっきり下ろした。

「こんなパジャマ着ちゃうくらいだから」

ただでさえ、大きな目が
2倍に見開かれた。

「ね?彼氏いたらこんなの
 着てないってば」

567 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 18:06

「・・・プハッ!
 アハハ!すげぇや!」

「ちょっとぉ、笑いすぎ」

「いや、だって。
 ぷははっ。もっとよく見せて」

そう言うと、彼女が両手でわたしが羽織っているパーカーを
半分ほど脱がせて、胸元を凝視する。

「・・・ふはっ!可愛い」
「もう!バカにしてるでしょ?」

「バカにしてないって。
 でもアタシは着れないかな〜」
「ほらやっぱり〜」

彼女の手をペシッて叩いた。

何か久しぶりかも。
こんな風に笑いながら、お酒を飲むのなんて――

568 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 18:07

「ねぇ?あなたのこと、何て呼んだらいい?
 マスターとか?」

「マスター?」

「だって、BARの店主とかって
 大体そう呼ぶじゃない」

彼女が無言で、
グラスの下に敷いてあるコースターを指す。

グラスを持ち上げて、
そこに書かれてある文字を読み上げた。

「・・・Heat me」
「そ」
「お店の名前でしょ?」
「そう」
「ヒートミーって、そう呼べばいいの?」

ヒートミーねぇ。
何か呼びにくいなぁ。

569 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 18:07

「伸ばさないで言ってみて」
「伸ばさない?
 ――ヒ・ト・ミ・・・あっ!ひとみって言うの?」

「大正解!
 ご褒美にハイ、あーん」

口の中にから揚げを突っ込まれた。

「・・・むふっ。おいしい。
 よくわたしの大好物が、から揚げって分かったね?」

すごい、すごい!
どうして分かったんだろ?

「ん?だっておっぱい大きいから」
「・・・へ?」

ニヤリと笑った横顔。

「から揚げ好きな人に
 おっぱい大きい人多いって言うし
 さっき凝視させてもらったから」

一気に体温が上昇する。

570 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 18:08

「し、信じらんない。
 そんな・・・」

しょ、初対面で
お、おっぱいとか・・・

恥ずかしくて、ぼそぼそと小さな声になる。

「ふはは、うっそ。
 さっきつまみ持ってきたとき、一番に
 から揚げに視線が行ってたから」

そうなの?
すごい・・・、よく見てるんだ・・・

「そっちは?
 名前、教えてよ」

「え〜、どうしよっかなぁ?」

ちょっとだけ仕返し。

571 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 18:08

「なんでよ?いいじゃん!
 教えてよ、りかちゃん」

「え〜、教えてやら・・・って!
 何で知ってるの?!」

クスクス笑う彼女。

「ちょっと!ねぇ、何で??」
「ヒミツ」

唇の前に人さし指なんか立てちゃって。

「教えてってば〜」

だって、気味が悪いじゃない。
名前を知られてるなんて。

「じゃあ、教えてあげるから
 一つ約束して」

「何?」

小指をとられて
彼女のそれと絡まされた。

572 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 18:09

「金曜の夜は、ここに飲みに来て」

朝まで付き合ってくんない?
ちゃんと家まで送ってくから――

小指を繋いだまま
ジッと目を見つめられて、囁くように言われる。

整った顔が間近にあって
自分の心臓が、ドクドクと脈打ち出すのを感じる・・・

「客としてじゃなくて。
 個人的に付き合ってよ」

――付き合う・・・

「恋人いない同士、
 楽しく飲み明かそうよ」

・・・そ、そうだよね。
ヘンな意味じゃないよね?

何を身構えちゃってんだろ、わたし・・・


――コクリと頷いた。

573 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 18:09

彼女が、小指を外して
そっとわたしの耳元に近づいてくる。

くすぐったいような、恥ずかしいような
何とも言えない感覚――


 『R・I・K・A
  名前も可愛いね』

耳元で囁くように言われて
背筋が震えた。

同時に彼女の長い指が、一点を指し示す――

あ・・・
携帯のストラップ・・・

してやったりの表情の彼女。

574 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 18:10

何か調子が狂うんだ。

可愛いって連呼されても、イヤミに感じなくて。
女性だって分かってるのに、ドキドキさせるその仕草や声。

多分今までに、わたしが出会ったことのないタイプなんだ・・・


「何かついてる?
 アタシの顔」

ぶるんぶるん。
大きく首を横に振った。

「やっぱ、りかちゃんて可愛い。
 アタシが男だったら、ココ打ち抜かれてたかも」

彼女が自分の左胸を指差した。

そうだね、きっと。
あなたが男の人だったなら――

575 名前:第1章 2 投稿日:2012/02/03(金) 18:10


優しくなくても
スポーツ万能じゃなくても
大人じゃなくても


――きっとわたしは

  恋に落ちていただろう――


576 名前:理想+1 投稿日:2012/02/03(金) 18:11

577 名前:理想+1 投稿日:2012/02/03(金) 18:11

578 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/02/03(金) 18:11

本日は以上です。

579 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/03(金) 19:32
ドキドキするワクワクするソワソワする
580 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/03(金) 20:28
すごい好きなかんじです!
581 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/04(土) 00:08
この後はもちろん素敵な展開が待ってると信じてる......
582 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/02/09(木) 17:08

>579:名無飼育さん様
 今しばらくはそれを持続できると思います。

>580:名無飼育さん様
 ありがとうございます。

>581:名無飼育さん様
 それはもう間違いなく・・・とは断言しかねます。


では、本日の更新です。

583 名前:理想+1 投稿日:2012/02/09(木) 17:08

584 名前:第2章 1 投稿日:2012/02/09(木) 17:10

朝日が差し込むお部屋に戻ると
思わず笑みがこぼれた。

久しぶりの朝帰り。

って言っても、
そんなに色気のあるもんじゃないけど。

しかも完徹なんて、何年ぶりだろ?
お酒も入ってるし、グッスリ眠れそうだな・・・

とりあえずヒーターとコタツをつけて、お湯を火にかける。
お茶を飲んで、体が温まったら、ゆっくり眠ろう。

でもあの焼酎。
高いものだったんじゃないかなぁ?

「毎週、お代はいらないからって言ってたけど、
 そうは行かないよね〜」

585 名前:第2章 1 投稿日:2012/02/09(木) 17:10

コートを脱ごうとして、ふわっと香った香り・・・
彼女のパーカーを、ずっと来てたからだ。

「どこの香水だろ?」

すごくいい香りがする――

くんくんと残り香を嗅いでいると
玄関のチャイムが鳴った。

こんな朝早くに誰?

 『石川さーん』

ドア越しに小さく呼びかける声。

――うそっ、この声って…

慌てて玄関に行って、ドアを開けた。

586 名前:第2章 1 投稿日:2012/02/09(木) 17:11

「良かった、間違ってなかった」
「どうして?」

「ああ、さっきマンションの前まで
 送って来たから。表札みてココとは思ったけど
 万が一違ってたらって、ちょっと不安だった」

白い息を吐き出して
照れたように言う彼女。

けど、わたしの聞きたいのは
そっちじゃなくて、何でココに来たのかってことで・・・

「はい、これ」

差し出された白いビニール袋。

「預かったまま忘れちゃってたでしょ?
 牛乳とサラダ」

「ああっ!
 そうだ!すっかり忘れてた!」

目を細めて、優しく笑う彼女。

587 名前:第2章 1 投稿日:2012/02/09(木) 17:11

「わざわざごめんなさい・・・」

だって、これだけのために
お店に戻って、届けにきてくれたんでしょ?

「来週じゃ賞味期限切れちゃうからさ」

いたずらっぽく微笑んで

「んじゃ、また来週」

そう言って帰ろうとした
彼女の手を思わず掴んだ。

・・・すごい、冷たい。

「――良かったら、お茶でも飲んでいかない?」

驚いたように見開かれた
大きな瞳。

だって、こんなに冷えちゃってるじゃない。
鼻の頭も真っ赤だよ?

588 名前:第2章 1 投稿日:2012/02/09(木) 17:12

「・・・いい、の?」

遠慮がちにそう尋ねる口から
真っ白な息が出る。

「良かったら、温まって行って?」

そう言ったら、彼女の顔がほころんだ。

なんでだろ・・・
自分の行為なのに、不思議で仕方ない。

「じゃ、ちょっとだけ・・・
 おじゃまします」

出会ったばかりの人を
部屋にあげるなんて、初めてのことだった。

589 名前:第2章 1 投稿日:2012/02/09(木) 17:12

「寒いからコタツに入ってて?」

そう言ってキッチンに向かう。

何かほんと不思議な感じ。
深夜に出会って、一緒にお酒を飲んで
こうしてお家にまであげて――

男性だったら、これぞ運命的な出会い!
ラブストーリーの始まりって感じだよね・・・

容姿はほんと、わたしの理想そのものだもの。

中性的で
スラリとした背で
笑った時に目が優しくて・・・

あ、心が優しいも追加だ。

590 名前:第2章 1 投稿日:2012/02/09(木) 17:13

お茶を淹れて、お部屋に戻ると
立ったまま、キョロキョロしてる彼女。

「コタツに入って、先に温まってて良かったのに。
 はい。お茶どうぞ」

「・・・えっと・・・
 ――コタツって、これ?」

グフッ。
飲みかけたお茶を吐き出しそうになった。

「――もしかして・・・
 コタツ知らないの?」

コクリと頷く彼女。

信じられない。
そんな人がいたなんて。

591 名前:第2章 1 投稿日:2012/02/09(木) 17:13

「初めて?」
「うん・・・」

この人って一体・・・

あのメロンを高級だって知らなかったり
コタツを知らなかったり・・・

夜の世界の人って
こんなにズレてるもんなのかしら?

「この中に入ってみて?
 すごくあったかいから」

お布団をあげて、中に入るよう促す。
恐る恐る、わたしに倣って足を入れる彼女・・・

「すげー!あったけぇ!!」

キラキラと目を輝かせて
喜ぶ顔が小さな子供みたい。

――なんか、かわいい・・・

592 名前:第2章 1 投稿日:2012/02/09(木) 17:14

「いただきます」

丁寧に言って、両手で湯飲みを挟んで飲む姿も
何だか愛らしくて、自然とわたしも笑みがこぼれる。

「コタツってあったけぇ〜」

お布団を肩口まであげて
グイッと中に進むと、わたしの足とぶつかって驚いた。
身をかがめて、お布団の中を覗き込む彼女。

「――なんか・・・」
「何?」

「コタツってエロい」

はあ?

「だってさ、照明赤いし
 足ぶつかっちゃうし」

・・・ん?
ちょっと何して――

593 名前:第2章 1 投稿日:2012/02/09(木) 17:14

「足こすりつけないでぇ」

「ふへへ。
 やっぱエロ〜い」

クイクイって
器用に足の先でくすぐろうとする。

「ちょっ、ふふっ。
 やめてよ、くすぐったいってばぁ」

「エイ!どうだ!」
「んもぉ」

そっちがそうなら、反撃しちゃうから!

いたずらに忙しい足を捕まえて
コタツの中で、コチョコチョってくすぐってやった。

594 名前:第2章 1 投稿日:2012/02/09(木) 17:15

「グハッ!ちょ、カンベン!
 ごめんなさい。もうしませんから!」

「ほんとに?」

「ぎやぁ〜、ほんと待って。
 ごめん、ごめん」

転がって、のたうちまわってる。

「じゃ、許してあげるけど」

そう言って、寝転がった彼女の目の前に顔を寄せる。
涙目になってて、かわいい。

「今度したら、こっちもやるから」

って、彼女の首筋に触れた。

595 名前:第2章 1 投稿日:2012/02/09(木) 17:15

「ヒャッ!!」

グッて肩を思いっきりすくめて
わたしの手を挟んだ。

「マジ、ギブ!
 降参っ!!」

「首弱いの?」

挟まれたまま、少しだけ指を動かしたら
一層肩に力が入る。

「ムリムリ!
 ダメなの、そこ」

肩をすくめたまま
両手でわたしの手を無理矢理外した。

「はあ〜〜
 ほんとダメなんだってば」

むぅって唇を尖らせて

「もうしないように、このまま握っとく」

って言って、優しくわたしの手を握った。

596 名前:第2章 1 投稿日:2012/02/09(木) 17:17

「・・・手、冷たいね?」
「ひとみちゃんも冷たいよ?」

「じゃ、しばらく繋いでよっか?」

コタツに入って、横になって
両手を繋いで、向き合って・・・

何かほんとに不思議だな。
体と共に、心もポカポカ温まっていく――


「ふわぁ〜あ」

ふふ。大きなあくび。

「寝てもいいよ?」
「んー」

もう半分、夢の中みたい。

「おやすみ」
「うん・・・」

安心したように目を閉じた。

597 名前:第2章 1 投稿日:2012/02/09(木) 17:17

ほんと綺麗な顔だな・・・

すべてが整いすぎるほど整っていて、
高貴な人って感じがする。

目を閉じてると、王子様じゃなくてお姫様みたいだな・・・

透き通るような真っ白な肌。
スッと通った鼻筋。
薄くて柔らかそうな唇・・・

ふふ。
気持ち良さそうに眠ってる。

けど枕しないと、後でつらいよ?

598 名前:第2章 1 投稿日:2012/02/09(木) 17:18

寝室に取りに行こうと思って
繋がれたままの手を外そうと試みる。
けど、逆にギュッと握られて驚いた。

「起きてるの?」

尋ねてみたけど、聞こえてくるのは
スースーという穏やかな寝息の返事だけ。

もう一度やんわり外そうと試みるけど
やっぱり失敗。

「・・・もう」

思わず笑っちゃう。
小さな子供みたい。

599 名前:第2章 1 投稿日:2012/02/09(木) 17:18

仕方なく、苦心して
手を繋いだままコタツを抜け出し
彼女のすぐそばまで近づいた。

「枕もってくるから離して?」

優しく耳元で囁く。

「ね?ちょっとだけだか・・・キャッ!」

離してくれたと安心した途端
体ごと捕まえられた。

「ちょ、ねぇってば」
「・・・あったかぁい・・・」

むにゃむにゃと動く口元。

――やだ、可愛い・・・

擦り寄ってきた彼女に
そのまま抱きしめられた。

600 名前:第2章 1 投稿日:2012/02/09(木) 17:19

「抱き枕だと思ってるでしょ?」

わたしの吐息で、彼女の前髪が揺れる。

「仕方ないなぁ、もう・・・」

自由になった手で、彼女のおでこをつついて
そのまま上に手を伸ばして、クッションを掴んだ。

「こんなこと、誰にもしたこと
 ないんだからね?」

今だ夢の中の彼女に、一つだけ文句を言って
クッションを自分の頭の下に敷くと
彼女の頭の下に腕をくぐらせた。

無意識のうちに、安定する場所を探して
二の腕の位置で落ち着くと、またスースーと規則正しい寝息を立てる。

「おやすみ」

温かいぬくもりを感じながら
わたしも一緒に眠りについた。

601 名前:理想+1 投稿日:2012/02/09(木) 17:19

602 名前:理想+1 投稿日:2012/02/09(木) 17:19

603 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/02/09(木) 17:20

本日は以上です。

604 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/10(金) 00:08
懐かしのネタ連発そして興奮
ずっとこの幸せが続きますように...

でも玄米ちゃ様のことだからなあ...
605 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/10(金) 06:38
小ネタにニヤニヤしつつ、この人何者なんだ??と更新楽しみにしてます
606 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/02/14(火) 12:03

>604:名無飼育さん様
 ええ。その不安はいつの日か的中するでしょう(笑)

>605:名無飼育さん様
 何者でしょうかねぇ・・・


では、本日の更新です。

607 名前:理想+1 投稿日:2012/02/14(火) 12:03

608 名前:第2章 2 投稿日:2012/02/14(火) 12:04


 <・・・ブーンブーン>

うるさいなぁ・・・

 <ブーンブーン>

もう、なによぉ・・・

 <ブーンブーン>

何なの、もうっ!

起き上がろうとして
体の自由が利かないことに驚いた。

609 名前:第2章 2 投稿日:2012/02/14(火) 12:04

そっか。腕枕・・・

わたしの起こした振動で
眉間にシワを寄せた彼女。

「・・・ごめん。起こしちゃった?」

ゆっくりと瞼を起こしていく・・・
と思ったら、半分ほど開いたところで
わたしと視線が合うと、一気にMAXまで見開いた。

「う、うわぁっ!!」

5センチの距離が
一瞬で1メートルに広がる。

「なによぉ」

自分から擦り寄ってきたクセに。

610 名前:第2章 2 投稿日:2012/02/14(火) 12:04

「な・・・え?お?
 ど・・・ええ?」

「動揺しすぎ」

「だ、だ、だ、だって・・・」

何よ、もう!
そんなにイヤだったわけ?

 <ブーンブーン>

「さっきからうるさいよ」

音の出所は、彼女のダウンのポケット。

今だに状況を把握しきれていないのか
ボーッとしたままの彼女に
「早く電話に出たら?」と声をかけた。

611 名前:第2章 2 投稿日:2012/02/14(火) 12:05

のろのろと立ち上がって
かけてあるダウンに手を伸ばす彼女。

何か腑に落ちないなぁ、あの態度。
何であんなに動揺するのよ。

「――もしもし」
 『・・・ま!』

彼女が携帯から耳を離した。

『一体どこで何してんですかぁ〜〜〜〜!!!!』

すごい剣幕・・・

驚いて彼女を見ると
気まずそうに目をそらした。

612 名前:第2章 2 投稿日:2012/02/14(火) 12:05

そっか・・・

――やっぱ、恋人いるんだ。

だから、あんなに動揺して・・・


ヤダ。ちょっぴりショックかも・・・


「違うって。そういうんじゃないよ」

彼女の発言に、チクリチクリと
小さなトゲがささる。

確かに違うよ。
そういう関係じゃないもん。

「だーかーらー。
 違うって。大丈夫だって言ってんじゃん」

何か複雑。
別に何もしてないのに、
わたしってば浮気相手みたいじゃない。

613 名前:第2章 2 投稿日:2012/02/14(火) 12:06

聞くのがイヤで、お手洗いにでも行こうと
体を起こそうとして、そのまま床に崩れ落ちた。

「イタッ!」

手、手に力が・・・

「・・・ちょ、大丈夫?」

 『大丈夫って!誰と一緒にいるんですかぁっ?!!』

また、まくし立てる声が漏れ聞こえる。

「どしたの?
 どっか痛い?」

心配そうに覗き込んでくれる彼女。
そして、崩れ落ちたままのわたしを助けようと手を伸ばしてくる――

「触らないでぇ〜〜!!」

わたしの叫びと共に、彼女の動きと
漏れ聞こえていた金きり声も止まった。

614 名前:第2章 2 投稿日:2012/02/14(火) 12:06

「し、しびれてるの・・・」

だから触らないで。
お願いっ!

「プハッ!」

思いっきり吹き出した彼女。
そして、同時に人指し指が・・・

「ギャ〜ッ!!」

何ともいえないこの感覚。

「触らないで!お願い!!」
「触った方が早く治るよ。ほら」
「ヤ、ヤメてぇ〜〜」

クスクス笑いながら
「な?大丈夫だって言ったろ」
電話の向こうにそう言う彼女。

615 名前:第2章 2 投稿日:2012/02/14(火) 12:07

何が大丈夫なのよ!
こっちは全然大丈夫じゃないわよ!

しかも誰のせいで
こんな風にしびれてると思ってんのよっ!!

ジワジワと広がる感覚に、ジッと耐える。

「わりぃ、マコト。
 後で帰るときに電話する」

 『ちょ、あ〜!どこにいるかだけ――』

ブチッ。

遮るように終了ボタンを押した彼女。
そしてそのまま長押し。

「電源切っちゃった」

いたずらっぽく笑った。

616 名前:第2章 2 投稿日:2012/02/14(火) 12:07

「いいの?」
「何が?」

とぼけた顔で、指だけは
わたしの腕をつつく。

「もう大丈夫だもん」
「ちぇ。つまんねぇ」

唇を尖らすけど
愛嬌たっぷりで、何か笑っちゃう。

「ねぇ、でもいいの?電話。
 随分怒ってたみたいだけど・・・」

いないって言ってたけど、この顔だもんね・・・

「――恋人・・・でしょ?」

少しだけ語尾が上ずった。

617 名前:第2章 2 投稿日:2012/02/14(火) 12:07

「恋人?誰が?
 梨華ちゃんがなってくれんの?」

へ?

「梨華ちゃんなら大歓迎なんだけど」

きゃっ。

腕を引き寄せられて
彼女の胸に収まったまま一緒に倒れこむ。

「今度はアタシがしてあげる」

さっきまでとは、逆の体勢。

「もう少し寝よ?」

ふわぁ〜あ。

また大きなあくびをした彼女。

618 名前:第2章 2 投稿日:2012/02/14(火) 12:08

――いい香り・・・

彼女に包まれると感じる
優しい穏やかな香り。

「いい匂いだね?」
「ん?」
「香水?」
「んー」

もう夢の中なの?

「日本では売ってないんだ」

今にも閉じてしまいそうな瞼。

「気に入ったの?」
「すごくいい香りだよ?」

「なら、今度あげる・・・」

ギリギリ最後まで言い切ってから
完全に閉じられた瞼。

619 名前:第2章 2 投稿日:2012/02/14(火) 12:08

「おやすみ」

返事のかわりに
グッと引き寄せられた。

いっか、もう・・・

恋人がいるかもしれない不安とか
危険な人かもしれない警戒とか

出会ったばかりで、こんな風にしちゃって
ほんとは色々考えなきゃいけないんだろうけど――

徹夜明けの回らない思考が、それを拒む。

「慎重派なわたしには珍しいんだよ?」

わかった、わかった。

まるでそう言うように
髪を撫でられた。

くすぐったくて、思わず首をすくめた。

コタツの暖かさと、彼女の腕の温もりと
穏やかな優しい香りに包まれたまま
彼女を追いかけて、わたしも再び眠りについた。

620 名前:第2章 2 投稿日:2012/02/14(火) 12:09




621 名前:第2章 2 投稿日:2012/02/14(火) 12:09


 <ドンドンドンッ!>

――んもう・・・


 <ドンドンドンドンッ!>

今度はなによぉ・・・


 『そこにいるのは分かってんですっ!!』

・・・え?
ドア越しに聞こえた声。


 『ひとみ様!!いるんでしょ?!』

ひとみ様?!


 <ドンドンドンドンッ!>

622 名前:第2章 2 投稿日:2012/02/14(火) 12:09

「・・・う〜ん・・・
 っせぇなぁ・・・」

音から逃れるように
わたしの胸に顔を埋めようとする彼女。

「ちょ、ちょっと!
 ひとみちゃん?!」

「・・・やわらけぇ・・・」

グリグリと顔をこすり付けてくる。

「ちょっ、ねぇ。
 ・・・んっ。どこ触って・・・」


 <ドンドンドンドンッ!>

 『ひとみ様!!いい加減にして下さいよっ!!!』


623 名前:第2章 2 投稿日:2012/02/14(火) 12:10

ハッとしたように顔をあげた彼女。

まき戻して再生したように
さっきと同じ反応。

「う、うわぁっ!!」

わたしと視線が合って、
瞼が一気にMAXまで広がる。

また飛びのくのかと思ったら
わたしを見下ろしたまま固まった。

真顔で見下ろされて
ありえないくらい心音が加速する――

「かわいい・・・」

そっと頬に手が添えられる。
吸い込まれそうな瞳が、わたしだけを映していて
なぜだか息苦しくなる・・・

624 名前:第2章 2 投稿日:2012/02/14(火) 12:10

「ほんと、かわいいよ・・・」

視線を絡み合わせたまま言われて
一気に体中が熱くなった。

端正な顔がゆっくり近づいてきて
心臓が壊れそうなほどドキドキして
どう反応していいのかさえ、分からなくなる・・・


 <ドンドンドンドンッ!
  ドドドドドンドンッ!!>

 『ひとみ様〜!!
  いい加減にしないと――』

 『うるせぇっ!!
  お前がいい加減にしろっ!!』

隣の住人が怒鳴る声が聞こえて
我に返った。

625 名前:第2章 2 投稿日:2012/02/14(火) 12:11

「――冗談・・・やめて」
「本気ならいいの?」

「・・・へン、だよ」

だって、ひとみちゃん、女の子じゃない・・・

「イヤ?」

戸惑いながら、頷いた。

「そっか・・・。ごめん」

彼女の体の重みとぬくもりが消えた。

626 名前:第2章 2 投稿日:2012/02/14(火) 12:11

「ったく・・・
 あいつ、心配症すぎんだよ」

立ち上がった彼女が、そう呟いて
ダウンを手にとった。

「金曜日、店で待ってるね?」

笑顔でそういい残して
玄関に向かう。

ドアをあけると、責め立てる声が
飛び込んで来た。

 っるせぇなぁ。
 大丈夫だってば。

あしらうように言う彼女の声が
この部屋を出て行く――

627 名前:第2章 2 投稿日:2012/02/14(火) 12:11

かすかに響く、廊下の声・・・

 『だーかーらー。
  心配すんなよ。女の人の家だって』

そう答える彼女の声に
なぜかチクリと胸が痛んだ――


628 名前:理想+1 投稿日:2012/02/14(火) 12:12

629 名前:理想+1 投稿日:2012/02/14(火) 12:12

630 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/02/14(火) 12:13

本日は以上です。

631 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/14(火) 21:43
どちらの国の王子様かしら
632 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/14(火) 22:35
更新がすごく楽しみです!
633 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/15(水) 00:34
やっぱ王子様だあ!もしくは玉子様?
634 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/02/22(水) 10:05

>631:名無飼育さん様
 どうでしょうねぇ。

>632:名無飼育さん様
 ありがとうございます!

>633:名無飼育さん様
 後者に1票!


では本日の更新です。

635 名前:理想+1 投稿日:2012/02/22(水) 10:05

636 名前:第3章 1 投稿日:2012/02/22(水) 10:06

 『金曜日、店で待ってるね?』

そう言ってくれたけど、
ほんとに待っててくれてるかな・・・?

小さな期待と大きな不安が
胸の中を渦巻いていく――


彼女に出会った日から
わたしの日常は少しだけ変わった。

行きも帰りも、彼女のお店の前を通って
イヤだった週末を指折り数えて、平日を過ごした。

会社の帰りに酒屋さんに寄って
焼酎の棚を眺めてみたりもした。

「――連絡先、聞いておけば良かったな・・・」

メールなら聞けたかもしれない。
勇気を振り絞って、
『ほんとに今夜行ってもいいの?』って――

637 名前:第3章 1 投稿日:2012/02/22(水) 10:07

コタツにもぐり込んで、一人で思案中――

やっぱり置いたままのスタンドミラーを引き寄せて
自分の顔を覗きこんだ。

「メイクはOKなんだけど・・・」

はぁ・・・
なんだかなぁ。

女の子。
新しく出来たお友達。

だったら別に。
意識なんかしなくたっていいじゃん・・・

638 名前:第3章 1 投稿日:2012/02/22(水) 10:08

何だってこんなに構えちゃうんだろ、わたし――

それもこれも、あの容姿のせいよ!

中性的で
背が高くて
笑った時に目が優しくなっちゃって。

おまけに、優しいしさ。
一人でお店なんか経営しちゃって、わたしなんかよりよっぽど大人だろうし。
あのスラリとした感じは、スポーツ万能そうだし・・・

まあ最後の1つは、まだ未確定だとしても
わたしの理想を充分に満たしていて。

ただ一つ、王子様なんかじゃなくて、
王子様風の女の子だってだけで・・・

『一つくらいかけたって、この際いい』

なんて思ってたけど、
一番大事な性別が違うんじゃダメなんだってこと
今になって気付いちゃったよ・・・

639 名前:第3章 1 投稿日:2012/02/22(水) 10:08

「はあ・・・」

ふと鏡を見たら
眉間にシワを寄せた、かわいくないわたしの顔。

  『ほんと、かわいいよ・・・』

こんな顔してても、そう思ってくれる?

もしもあの時。
わたしが止めたりしなかったなら――


「あ〜ダメダメ」

ヘンだって。
おかしいって。

何で女の子とキスすんのよ。
おかしい。絶対におかしいってば!

640 名前:第3章 1 投稿日:2012/02/22(水) 10:09

あまりにも恋愛から遠ざかりすぎて
わたし、ちょっとおかしくなっちゃってるんだ。

もう深く考えるの、やめた!

わたし達、お友達だもん。
何を遠慮なんかすることがあるもんですか!

「よしっ!」

ちょっと立ち寄った風で
とにかく、お店に顔を出してみよう!

気合を入れてコタツを抜け出すと
着ていく洋服を選び始めた――

641 名前:第3章 1 投稿日:2012/02/22(水) 10:09




642 名前:第3章 1 投稿日:2012/02/22(水) 10:09

「いらっしゃいませ。
 せっかくですが、お客様。本日はもう――」

「あ!梨華ちゃん。
 待ってたよ!」

カウンターの奥から、ひょっこり顔を出したひとみちゃんが
すごい勢いで、入り口までとび出してきた。

「マコト邪魔だ。どけ」
「ちょ、ひとみ様?!」

「ささっ。入って?
 寒かったでしょ?」

カウンターに促されちゃって
コートなんかも脱がせてくれちゃって・・・

「来てくれて良かったぁ」

心底嬉しそうに微笑む彼女に
また胸の奥がキュンと鳴く。

643 名前:第3章 1 投稿日:2012/02/22(水) 10:10

「マコト分かっただろ?
 お前は空気読んで帰れ」

「ちょっと待って下さいよ!
 あたしだって、自己紹介くらい・・・」

「こいつ、マコト・・・以上」
「ちょ、ひとみ様?!」

ふふ・・・
何だかさっぱり分からないけど
この2人、ちょっと面白い。

644 名前:第3章 1 投稿日:2012/02/22(水) 10:10

「・・・わ、ほんとだぁ。
 かわいい・・・」

「だろ?」

なぜかドヤ顔のひとみちゃん。

「ひとみ様が惚れるのもわかるなぁ」

・・・へ?

「なっ・・・て、てめぇ!
 ヘ、ヘ、ヘンなこと言うな!」

真っ赤になったひとみちゃんを見て
わたしも頬が熱くなる・・・

今、惚れるって言ったよね?
聞き間違いじゃないよね?

645 名前:第3章 1 投稿日:2012/02/22(水) 10:11

「いいからお前は明日の準備でもしてろ!」
「イデデデ・・・」

耳を引っ張って、ドアまで連れていくひとみちゃん。

「あ、あの!石川様っ!
 あたしは、ひとみ様のお世話役のマコトと申しまして
 世間知らずのこのお方のために、身の回りの小さな事から大きな事まで、
 あんなことやこんなことも、この小さな体に一手に引き受け
 更にはお店の仕入までさせられて――」

「てめぇ、それ以上言ったら
 レモンの仕入、一桁間違えたの、じいやにバラすかんな」

「・・・ゲッ!」

「んじゃ、気をつけて」

そう言ったひとみちゃんを恨めしそうに見上げると
わたしに一礼をして、マコトさんは自らドアの向こうに消えて行った。

646 名前:第3章 1 投稿日:2012/02/22(水) 10:12

「・・・ねぇいいの?」
「何が?」
「だって終電がないんじゃ・・・」
「ああ。いいの、いいの」

全く問題ないと言うように
頭の上で手を振りながら、カウンターに入っていく彼女。

「いいんだ、あいつは。
 どうにかして帰るから」
「どうにかって・・・」

「『大変な時こそ執事の腕の見せ所!』とかって
 よくムダに張り切ってるから」

執事・・・?!

「今頃鼻息荒く、ムダに歩いてるか
 諦めてタクシーにでも乗ってんじゃないかな?」

クスクスと笑いながら
グラスと酒瓶を用意してるけど・・・

647 名前:第3章 1 投稿日:2012/02/22(水) 10:12

「ねえ、もしかしてさ・・・」

もしかしなくても。
薄々そんな気もしてたけど。

「ひとみちゃんて、すっごいお嬢様だったりする?」
「お嬢様?」

キョトンとした顔。
あれ?違う?

「だって執事さんがいるんでしょ?」
「あ・・・」

うって変わって、シマッタという表情。

「先週だって、何でうちにいるのか
 わかったのだってさ・・・」

「・・・そ、それは・・・、えーっと・・・」
「えっと?」

「・・・ごめん、GPS」

ほら、やっぱり。

648 名前:第3章 1 投稿日:2012/02/22(水) 10:13

「すげぇ高性能なんだって。
 今だってほら」

ポケットから小さな機械を取り出して
わたしに見せる。

「これだけは電源切ったらダメなんだよ。
 その途端に、引きずり戻されちゃうからさ」

「お家に?」
「ん?まあね」

目の前のグラスに、黄金色の液体が注がれていく――


「・・・その時が来るまではね。
 好きにさせてもらってるんだよ」

「その、時・・・?」

「そう。その時・・・」

ふぅーとひとつ、ため息を吐くと
ひとみちゃんがカウンターを出て、わたしの隣に座る。

649 名前:第3章 1 投稿日:2012/02/22(水) 10:13

「アタシの将来ってさ、こうビシッと
 レールが敷かれちゃってんの」

おどけたように身振りつきで話してるけど
目の奥が少しだけ寂しそう・・・

「その時が来たら、乗客をいっぱい乗せて
 前だけ見て走んなきゃいけないから。
 今のうちにちょっとだけ、寄り道させてもらってるってとこかな?」

「跡継ぎさん・・・なんだ?」
「うん」

諦めと覚悟と・・・
複雑な色を含んだ瞳のまま、彼女は笑ってみせた。

650 名前:第3章 1 投稿日:2012/02/22(水) 10:14

「やめよ、この話。
 今日は芋焼酎に挑戦だよ?
 芋は始めてでしょ?」

差し出してくれたグラスを受け取りながら頷く。

「よし!じゃあ、かんぱいしよう!」

では。

「金曜の夜に、かんぱ〜い!!」

カチンッ。

彼女の音頭で、軽くグラスを触れ合わせたけど
金曜夜にカンパイって、何かヘンじゃない?

「そお?
 だって、今夜が来るの、すげぇ楽しみだったんだもん。
 毎日指折り数えて過ごしてたんだから」

「ほんとに?」
「ホントだよ!」

ムキになって言う彼女がかわいい。

「実はわたしもなの」
「マジで?」

大きく頷いた。

「ふはっ。何かうれしいな・・・」

651 名前:第3章 1 投稿日:2012/02/22(水) 10:15

「・・・けど、ほんとはね?
 ちょっと怖かったんだ・・・」

視線をそらして
はにかむように、そう言った彼女。

「すげぇ楽しみだったのは間違いないんだけど
 来てくれなかったらって考えると、怖くもなっちゃって・・・」

綺麗な横顔・・・
真っ白な肌に、完璧なほど整った顔立ち・・・

小さい頃に読んだ物語の王子様は
わたしの想像の中で、こんな人だったな・・・


「――はじめて、なんだ・・・」

え?

戸惑ったような視線が
わたしの視線とぶつかる。

「こんな気持ちになんの、初めてだからさ・・・
 何か・・・ちょっと、・・・色々、怖い・・・」

弱弱しく微笑む彼女の笑顔に
突然大きく心臓が跳ねた。

652 名前:第3章 1 投稿日:2012/02/22(水) 10:16

「・・・ごめん。ヘンなこと言って」

苦笑いした彼女が
グラスの中身を一気に飲み干す。

「クハ〜ッ!もう一回乾杯しよ?」

再びグラスを満たそうと
彼女が酒瓶を持ち上げ、グラスを満たしていく――

彼女の一つ一つの動作が、
まるでスローモーションのように
ゆっくり見えるのに、自分の心音だけが
それに反するように、どんどん早まっていく・・・

653 名前:第3章 1 投稿日:2012/02/22(水) 10:16

「仕切りなおしだね?」

そう言ってグラスを掲げた彼女は
優しい笑顔で。

「では改めて」

椅子をぐるりと回して、わたしに正対すると
もう一度わたしのグラスと触れ合わせた。

「可愛い梨華ちゃんに、乾杯」
「・・・もう!またそんなこと言って・・・」

「だってそうじゃん。
 この間のパジャマ姿も可愛かったけど
 今日のカッコもすげぇ可愛いよ?」

654 名前:第3章 1 投稿日:2012/02/22(水) 10:17

「それにさ」

俯いたわたしの頬に
そっと彼女の指が触れた。

「メイクも」

長い指先が、そっとわたしの頬を撫でる。

「・・・すげぇ、キレイだよ・・・」


いつ以来だろう・・・
こんなに胸が痛くなるのは――


――女の子に恋・・・?

まさか・・・

だって彼女は、王子様じゃないもの。
執事がいるほどの、すごいお嬢様。
王子様になんてなれっこないんだから・・・

655 名前:第3章 1 投稿日:2012/02/22(水) 10:17

「ごめん。やっぱアタシ、ヘンだよね?」

意味なく激しさを増していく心音・・・


胸の奥が熱くて。
触れられた頬が熱くて・・・

戸惑うほどに、全身が・・・熱い・・・


頬に添えられた手が離されそうになって
思わず掴んだ。

656 名前:第3章 1 投稿日:2012/02/22(水) 10:18

「――このまま・・・、つないでも、いい・・・?」

何でこんなこと言ったのか、自分でも分からない。
彼女とどうなりたいかなんて、今のわたしには分からない。

でも・・・

ただ触れたかったの。
ただ無性にあなたに触れたかったの。

ただ、それだけなの――


握ったはずが、いつの間にか握られていて。
彼女の指とわたしの指が交互に絡む――


657 名前:第3章 1 投稿日:2012/02/22(水) 10:18

何も言えなかった。
彼女も何も言わなかった。

シンとした空気だけが
2人の周りを包んでいたのに
それはぜんぜん、嫌な感じはしなくて・・・

繋がれた場所から感じる温度だけで
幸せになれるだなんて。

こんな経験、初めてだった――


658 名前:理想+1 投稿日:2012/02/22(水) 10:18

659 名前:理想+1 投稿日:2012/02/22(水) 10:19

660 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/02/22(水) 10:19

本日は以上です。

661 名前:名無し留学生 投稿日:2012/02/22(水) 19:19
マコトさん、こんなわがままなお嬢様に付いて大変ですね、可哀想よwww

しかし、増々謎が迫ってきますね。
今後の発展もドキワクしてます。

玄米ちゃ様、お願いします!
ぜひぜ〜ひ、はっぴエンディング!!!
662 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/22(水) 21:26
途中で呼吸するのも忘れて読みいってました
ああやっぱり玄米ちゃ様すごいわ
663 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/23(木) 01:06
ひとみちゃんの幸せは梨華ちゃんの幸せ
梨華ちゃんの幸せはひとみちゃんの幸せ


まこっちゃん頼みますよ!
664 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/02/25(土) 13:03

>661:名無し留学生様
 ありがとうございます。
 ハッピー!になればいいですけど・・・

>662:名無飼育さん様
 嬉しいお言葉ありがとうございます!

>663:名無飼育さん様
 ですよね〜


さてさて現実がひどすぎて何も手につきません・・・
なので今日は予定外の更新を。
今回分は短いですが、ほっこりして頂ければ。

ではどうぞ。
665 名前:理想+1 投稿日:2012/02/25(土) 13:04

666 名前:第3章 2 投稿日:2012/02/25(土) 13:05

花の金曜日。

随分前にそんな言葉が流行っていたけど
今のわたしは、まさにそう。

彼女に会える金曜日に向かって
毎日を頑張って生きていると言っても過言じゃない。

『梨華ちゃんカレシ出来たでしょ?』

もう何人の人に言われただろう。

『やぁだ。カレシなんていませんよぉ〜』
『またまた〜。隠さなくていいじゃない』

このやり取りも、すでに何十回。

いくら聞かれてもほんとだもん。
カレシなんていないもん。

ただ、隣に座って
ただ、手を繋いで
ただ、お酒を飲んで
ただ、おしゃべりをするだけ。

それ以上は何もないよ?

667 名前:第3章 2 投稿日:2012/02/25(土) 13:05


「何かいいことあったの?」

隣に座る彼女が、わたしを覗き込む。

「ふふっ。また言われちゃった」
「彼氏いるのかって?」
「うん」

くすぐったい・・・
長い指が、時々わたしの手の甲を撫でる。

「梨華ちゃんの彼氏かぁ・・・
 どんな人がタイプ?」

「ん?ひとみちゃんみたいな人」
「アタシ?」

668 名前:第3章 2 投稿日:2012/02/25(土) 13:06

「優しくて」
「うん」

「スポーツ万能で」
「うん」

「中性的で」
「うん」

「大人で」
「うん」

「背が高くて」
「うん」

「笑った時に目が優しくなる人」
「マジ?全部アタシにあてはまるじゃん」

669 名前:第3章 2 投稿日:2012/02/25(土) 13:06

「スポーツ得意なの?」

「得意だよ。大体何でも出来る。
 あ、ダイビングとか梨華ちゃんやる?」

「やったことはあるんだけど、昔ちょっとしたことで
 トラウマがあって、あんまり好きじゃないかも・・・」

すごく怖かったんだもん。
お姉ちゃんにヒレで顔を蹴られて。

「えー!
 海の中ってすげぇよ?」

ニモがいたり。
カメがいたり。

「潜った途端にさ、劇的に世界が変わるんだ」
「そんなに?」

「人魚姫になった気分になれるよ?
 今度一緒に潜ろうよ!ね?」

力説する彼女。
繋がれている手にも、自然と力が入る。

670 名前:第3章 2 投稿日:2012/02/25(土) 13:07

「人魚姫が2人って言うのもなぁ・・・」

だってロマンがないじゃない。

「じゃ、アタシ王子様になるよ」
 船で見守ってるから恋して?」

「わたし声とられちゃうの?」
「そう。タコのおばさんに」

「やぁだ〜」

手を繋いだまま、ひとみちゃんが
わたしに襲いかかる。

じゃれ合って。
笑い合って。

そして――

671 名前:第3章 2 投稿日:2012/02/25(土) 13:07

「一緒に潜って欲しいな」

「潜るよ一緒に。話は変更する。
 題して『人魚になった王子様』どう?」

こうしてギリギリのラインで、会話を楽しむの。

「王子様が声を奪われちゃうの?」
「ううん。奪われない。
 奪われちゃうのはハート」
「ハート?」

「そう。人魚姫にね」

いたずらっぽくウィンク。
そんな仕草だけで、胸が高鳴るわたしはどうかしている。

672 名前:第3章 2 投稿日:2012/02/25(土) 13:08

多分お互いに感じてるの。
これ以上は踏み込んじゃいけないラインだって・・・

わたし達は、多分魅かれあってる。

だけど越えてはいけない。
これ以上、近づきすぎたら
きっと壊れてしまうから――


「あ、そうそう。
 昨日マコトがさ」

ほら、彼女も話を変えた。

これでいいんだ。
今はこれが一番心地いい。

673 名前:第3章 2 投稿日:2012/02/25(土) 13:08


「・・・ねぇ、ひとみちゃん?」
「ん?」

だけど、もう少し
ほんの一歩だけでいい。
進んでみたいなんて思うの、欲張りかな?

「・・・金曜日だけじゃなくて、ね?」
「だけじゃなくて?」

「違う曜日も来てもいい?」

毎日でも会いたいって思っちゃうの。
あなたと別れてすぐに、もう会いたいって強く思っちゃうの。

「あ、もちろん。営業時間中だよ?
 お代だって、ちゃんと払うし・・・」

驚いた彼女が固まってる。

「べ、別に無理にって訳じゃないけど・・・」

失敗だったかな?
そんな風に思うの、わたしだけなのかな・・・

674 名前:第3章 2 投稿日:2012/02/25(土) 13:09

「――いい、の・・・?」

え?

「だって梨華ちゃん、仕事とか・・・
 朝だって早いだろうし・・・」

繋いだ手にギュッと力が込められる。

「無理させたらいけないって
 マコトにも言われてて・・・」

「ムリなんかじゃないよ?
 だってわたし、ひとみちゃんにいっぱい会いたいんだもん」

やべ。ちょーうれしい・・・

呟くように言った彼女の
優しい目尻が一層優しくなる。

675 名前:第3章 2 投稿日:2012/02/25(土) 13:09

「待ってるよ、いつでも」
「いいの?」

「――アタシも・・・会いたいから・・・」

お互いの手を強く握り締めた。

2人の温度がピタリと重なる――


ねぇ、ひとみちゃん。
あなたもわたしと同じ想いだといいな・・・

2人の温度を、心地よく感じてくれているなら、
それだけで、わたしは充分幸せだよ?

676 名前:理想+1 投稿日:2012/02/25(土) 13:09

677 名前:理想+1 投稿日:2012/02/25(土) 13:09

678 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/02/25(土) 13:10

本日は以上です。

679 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/25(土) 19:26
ハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
ハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
ハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
680 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/25(土) 21:47
この幸せがずっと続きますように
681 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/02/29(水) 18:45

>679:名無飼育さん様
 ありがとうございます。

>680:名無飼育さん様
 ずっとはねぇ・・・


では本日の更新に参ります。

682 名前:理想+1 投稿日:2012/02/29(水) 18:46

683 名前:第3章 3 投稿日:2012/02/29(水) 18:52

「こんばんは〜」
「いらっしゃい!」

にぎやかな店内。

あの日の約束通り、わたしは毎日のように
彼女に会いにこのお店に来ている。

土日が定休日だから、その2日間だけは
彼女に会えないのが少し残念だけど・・・

「姫のご来店で、王子の目が更にタレたで〜」

常連さん達から、なぜかわたしは『姫』
そして、ひとみちゃんは『王子』と呼ばれている。
2人並んだ姿が、サマになるとか・・・

その中でも、一番の常連である中澤さんは
いつだって、わたし達2人を茶化して遊ぶ。

初めて合った時は、ただのタチの悪い
酔っ払いだと思っていたけど、実はこのお店の
賃貸管理をしている不動産業者の社長さんなんだそうで・・・

684 名前:第3章 3 投稿日:2012/02/29(水) 18:53

「姫、ほら王子の目の前にどーぞ」

カウンター越しにひとみちゃんの目の前になる席を
進めてくれるのは、普通の椅子にお子様用の椅子をつけて
足をブラブラさせながら座っている矢口さん。

この人も、初めて会ったときは
ただのタチの悪い大酒飲みだと思っていたけど
実は、老舗のおせんべい屋さんの女将さんなんだとか・・・

他にもこのお店には、個性が豊かで、
常に陽気な常連さんたちがいる。

そこにいるだけで、その場を華やかにしてくれる安倍さん。
いつも一番隅っこで、グラス片手にナンコツをかじっている保田さん・・・

685 名前:第3章 3 投稿日:2012/02/29(水) 18:53

「王子には愛人がつきものなのよ?」

そう言って、カウンターの奥から出てきたのは
胸元の開いたドレスを着て、色気たっぷりのこれまた常連客の飯田さん。

手伝わなくていいって言うのに
『いいの。カオ、お料理得意だから任せて?』って
勝手にカウンターの中に入って来ちゃうんだって
この間、困り顔でひとみちゃんが言ってた。

「姫はお飾り。
 愛人は・・・うふっ」

なんて言って、ひとみちゃんの頬にキスをする。

むぅっ。
バカ。逃げなさいよ!

686 名前:第3章 3 投稿日:2012/02/29(水) 18:54

「コラ、カオリン。
 姫がムッとしとるやろ!」

「あら別にいいでしょ?ねぇ?」

飯田さんが、ひとみちゃんの鼻の先を
人指し指でつつく。

「お・う・じ・さ・ま」

真っ赤になったひとみちゃんが俯く。
けど、その視線の先には、大きく開いた胸元があって・・・

――この人だけは、わたしの敵だ。

687 名前:第3章 3 投稿日:2012/02/29(水) 18:55

「王子。いい加減にしないと、
 姫が怒って帰っちゃうぞぉ〜」

わたしの顔を覗き込んで、意味深にウィンクしながら
からかうように矢口さんが言う。

「え?うそっ!帰っちゃダメだよ。
 来たばっかりじゃんっ」

慌てたひとみちゃんが、カウンターをとび出して
わたしのすぐそばに来る。

「今日は何飲む?
 どんな感じの焼酎がいい?」

矢継ぎ早に聞いてくるひとみちゃんが可笑しくて
吹き出しちゃいそう。

「同じことすれば、姫のご機嫌も
 きっと直るべさぁ」

・・・え?

安倍さんの発言に、ひとみちゃん同様
わたしも固まった。

688 名前:第3章 3 投稿日:2012/02/29(水) 18:55

「ユー、キスしちゃいなよ」

え、え、え〜〜〜〜っ!!

隅にいたはずの保田さんが
なぜかノリノリで、そんなことを言い出して。

「そうそう。機嫌取りはそれが一番やで?」
「ブチュッとブチュッとしてみたいんだろ?」

輪をかけてノリノリの中澤さんと矢口さん。

「・・・そ、そんな、別に。わたしは・・・」

コホンッ。

咳払いを一つして、腰掛けたままのわたしの肩に
真っ赤な顔をしたまま、ひとみちゃんが両手を置く――

ちょ、ちょっと。
・・・ひとみちゃん?!

689 名前:第3章 3 投稿日:2012/02/29(水) 18:56

ありえないくらいに、ドキドキが加速する。
真剣な瞳に見つめられて、身動きが出来ない・・・

「梨華ちゃん・・・」

ゴクリ。
ひとみちゃんのノド元が動いたのが分かった。


・・・ちゅっ。


「「「「「えええええ〜〜〜〜っ!」」」」」


頬に感じた柔らかい感触・・・

690 名前:第3章 3 投稿日:2012/02/29(水) 18:56

「なんじゃそりゃ!」
「いくじなし!」
「ヘタレ王子」
「口でしょフツー」

「だ、だってさぁ!」

みんなが口々にひとみちゃんを責めるけど
正直わたしはホッとしている。

だって。
口になんかされたら
わたしの心臓が持たないもん・・・

はやし立てる皆と
責め立てられるひとみちゃんと
ひそかにホッとしているわたしを
カウンターの中から、楽しそうに眺めている飯田さんと目が合った。

ニッコリ微笑みながら、素早くウィンク・・・


前言撤回。

――この人もきっと、わたしの味方だ。


691 名前:第3章 3 投稿日:2012/02/29(水) 18:56



692 名前:第3章 3 投稿日:2012/02/29(水) 18:57


「ごちそうさん」
「またねー」

今夜は金曜日。
閉店時間をだいぶ過ぎてから、
わたし以外の皆が、やっと重い腰をあげる。

「美味しかったよ」
「ダーリン、また来週」

ご機嫌に出て行く陽気な酔っ払い達。
けれど、毎晩ここに来るようになって
気付いたことが一つだけあるの・・・

「ッン〜、チュッ!」

「「「「「「オエ〜〜〜ッ!!」」」」」」

オチが保田さんだということ・・・

じゃなくて。

誰一人、お勘定を払っていない気がする。
かく言うわたしも、その一人だったりして――

693 名前:第3章 3 投稿日:2012/02/29(水) 18:58

2人きりの店内で、いつものように
隣に座って、指を絡ませて手を繋ぐ。

――わたしが一番、幸せを感じる時・・・


「ねぇ、ひとみちゃん?」
「ん?」

「気になってることがあるんだけど・・・」

ゆらゆらとグラスを揺らす
ひとみちゃんに思い切って切り出してみた。

694 名前:第3章 3 投稿日:2012/02/29(水) 18:58

「お代ってさ」
「オダイ?鯛の仲間?」
「違うよ、このお酒とか、食べ物の料金のこと」
「ああ、梨華ちゃんは、
 そんなの気にしなくていいよ」

ニコニコと優しい目で見つめてくれる。

「そう言われたって・・・
 だってお店の経営とか大丈夫なの?」
「ケーエー?」
「そう。経営」

「K・Aねぇ・・・
 それ、なんの略?」

開いた口がふさがらないとは
このことだ。

695 名前:第3章 3 投稿日:2012/02/29(水) 18:59

「ほんとに分からない?」

「K・A?
 今夜はオール?
 あれ?もしかしてアタシ誘われちゃった?」

ニヤリと微笑む彼女の横で
ガックリとうな垂れた。

「・・・ちょっと手を離していい?」
「え〜」
「いいから、ちょっと!」

両手を使って、経営とは何かを
わたしだって、そんなによく分かってないけど
説明しようと試みてみる。

696 名前:第3章 3 投稿日:2012/02/29(水) 18:59

「このお酒を仕入れる時に・・・
 あ、仕入れってわかる?」

「うん。マコトが買ってくる酒とか
 食べ物のことでしょ?」

「そうそう。で、仕入れるときにお金払うよね?」
「多分ね」

・・・とりあえずここはスルーしよう。

「今度は常連さんを始め、
 お客さんに、その仕入れたものを出すよね?」

「うん。皆いっぱい頼んでくれるよ」

そうだよね。
それは、よく知ってる。

「まさか、わたしと一緒で
 お金もらってないとか言わないよね?」

「まさかっ!
 梨華ちゃんだけ特別だよ!」

そ、そうなの?!
わたしだけ特別なの?

――やだ、うれしい・・・

697 名前:第3章 3 投稿日:2012/02/29(水) 19:00

では安心して、また手を繋ごうかな・・・

そっと手を差し出すと
ニッコリ微笑んで、手の平を重ねてくれる。

わたしの指の間を彼女の指が通り抜け
ギュッと握ってくれる、この瞬間がたまらなく好き――


「月に一回、皆1万円ずつ払ってくれてるよ」

・・・はい??

「・・・月に一回、1万円・・・だけ・・・?」
「うん!」

うそでしょ?!
あれだけ飲んで、食べといて?!

「ほんとに月に一回なの?」
「そうだよ」

698 名前:第3章 3 投稿日:2012/02/29(水) 19:00

「ちょ、ちょっと待って!」
「もー、何でまた手を離しちゃうのさ」

ね、よく考えて?
どう見積もってもおかしいよね?
絶対に、100%赤字だよね?


「――アカジって・・・何?」

はああ〜〜

「どしたの?梨華ちゃん。
 具合悪い?」

「頭痛い・・・」

「マジ?!
 熱あんの?」

スッと彼女が近づいて
2人のおでこがくっつく・・・

699 名前:第3章 3 投稿日:2012/02/29(水) 19:01

「ん〜、熱はなさそうだけど・・・」

ち、近いって・・・
また心臓が早鐘を打ち出す。

「歩ける?
 家までおんぶして行こうか?」

そんなに真顔で心配しないで・・・
ほんとに具合が悪い訳じゃないんだから。

「マコトさんも、分かってないんだよね?」
「何を?」

「経営と赤字」

「K・Aトアカジ?
 マコトからも聞いたことない名前だなぁ」

700 名前:第3章 3 投稿日:2012/02/29(水) 19:02

「・・・よく分かった。
 マコトさん、呼んでくれる?」
「今から?!」

「どうにかして来れるんでしょ?
 執事さんなら」
「まあ、そうだけど・・・」

しぶしぶ携帯を取り出して
連絡しているひとみちゃん。

ただの弱小会社の一社員のわたしが
経営を論ずることになるなんて思いもしなかった。

大それたことなんて、わからないけど
経営していく以上、利益を出さなきゃいけないことくらい
わたしだって分かるんだよ?

701 名前:第3章 3 投稿日:2012/02/29(水) 19:02

「今から全速力で来るってさ。
 あ〜あ、せっかく2人きりなのにな・・・」

唇を尖らして
ボヤクように言った彼女の手を握った。

「経営と赤字のこと
 ちゃんと理解できたらご褒美あげるから」
「マジ?」
「何がいい?」

ん〜とねー。

視線だけを上にあげて
一生懸命考えてる姿がかわいくて
また、胸の奥がキュンと鳴く。

702 名前:第3章 3 投稿日:2012/02/29(水) 19:02

わたしね。
今、初めて感謝してるんだ。
あんな弱小会社に勤めていることを・・・

だって、小さい会社ゆえに経理も任されてて、
収入と支出、利益と損失。それくらいだったら、
この世間知らずのお嬢様に、教えてあげられるんだもの・・・


「じゃあ、コタツでまた一緒に寝よ?」
「それでいいの?」

「うん。それがいい!」

703 名前:第3章 3 投稿日:2012/02/29(水) 19:04


ぬくもりが欲しい。
トキメキたい。
毎日が楽しくなるような出来事に出会いたい――

あなたに出会う前は、毎日そう思ってた。

だけど、今は
毎日がキラキラして。
毎日がワクワクして。

心の底から、
今楽しい!って。
今、幸せ!って。

――そう思えるんだ・・・

704 名前:第3章 3 投稿日:2012/02/29(水) 19:05

これってやっぱり。

――『恋』だよね・・・?


このまま秘めてた方がいいのかな・・・?

微妙なラインに立ち止まったままの方が
お互いのためなのかな・・・?


「どうかした?」
「・・・ううん。何でもない」


チクリと刺さったままの
小さなトゲに気付かないフリをして
わたしは彼女に、とびきりの笑顔を向けた――


705 名前:理想+1 投稿日:2012/02/29(水) 19:05

706 名前:理想+1 投稿日:2012/02/29(水) 19:05

707 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/02/29(水) 19:06

本日は以上です。

708 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/02/29(水) 22:53
楽しくなってまいりました
709 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/01(木) 00:10
王子様!アフォ過ぎると姫が逃げるぞ!
710 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/01(木) 10:48
痛いの期待してます!
711 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/03/05(月) 11:41

>708:名無飼育さん様
 そろそろ本領発揮します。

>709:名無飼育さん様
 伝えときます。

>710:名無飼育さん様
 お待たせしました。いよいよ突入します!


では本日の更新です。

712 名前:理想+1 投稿日:2012/03/05(月) 11:42

713 名前:第4章 1 投稿日:2012/03/05(月) 11:43

「ヤダ、遅れちゃう・・・」

美容室でアップにしてもらった髪。
飯田さんが用意してくれた、胸元が大きく開いた紺色のドレス。

「やっぱこれ・・・
 開きすぎだよね・・・」

 『王子はモロ顔に出ちゃうくらい
  タニマ好きだから、間違いなく釘づけになるわよ?』

なんて言われたけど・・・

ザックリ開いた胸元からは谷間どころか
ふくらみが結構大胆に見えていたりして・・・

714 名前:第4章 1 投稿日:2012/03/05(月) 11:43

「どうしよう・・・
 横からとか見えちゃいそう・・・」

鏡の前で、前かがみになってみたり
横を向いたりして、確かめてみる。

「う〜ん・・・
 やっぱ違うの着ていこうかなぁ?」

でも違うのなんか着ていったら
常連の皆さんになんと言われるか・・・

はあ〜っと大きく
ため息をついた。

715 名前:第4章 1 投稿日:2012/03/05(月) 11:44

わたしをこんなに悩ませているのは
今夜のパーティーに着て行くお洋服。

パーティーと言っても
いつものひとみちゃんのお店だけど――


わたしが、ひとみちゃんとマコトさんに
経営と赤字を論じてから、早一ヶ月。

昨日の夜、いつものようにお店に立ち寄って
扉を開けた途端に、すごい勢いでひとみちゃんが
走りよってきて、思いっきり抱きしめられた。

716 名前:第4章 1 投稿日:2012/03/05(月) 11:44

「梨華ちゃん!黒いよっ!」

むぅっ。
いきなり何よ?

「すげぇ!ほんとに黒いんだって!」

瞳をキラキラさせて
人のことをマジマジと見つめて
言わなくたっていいじゃないのよ!

「ひとみ様、主語がないから
 石川様が勘違いしてますよ?」

仕入れの時だけで、普段はお店には来ない
マコトさんもめずらしくお店に来ていて・・・

「主語?主語は梨華ちゃんだよ!」

ワアッハハハハハ!!

常連さん達の大爆笑が
お店中に響いた。

ムスッ・・・

思わず唇が尖る。
だって、そんな皆して
人の肌の色のことを笑わなくたっていいじゃない・・・

717 名前:第4章 1 投稿日:2012/03/05(月) 11:45

「梨華ちゃん!」

ひとみちゃんがわたしの両肩を掴む。

「梨華ちゃんが、ケーエーとアカジのこと
 教えてくれたから、今月初めて『クロジ』って
 ヤツになったんだ!!」

・・・へ?

「見て?ほらっ!」

彼女が差し出したのは、
わたしが教えてあげた帳簿。

「ね?プラスだよ!プラス!!」

ほんとだ・・・

718 名前:第4章 1 投稿日:2012/03/05(月) 11:45

「王子おめでと!!」
「姫のおかげやな」

「なら明日は、初黒字パーティーでもするべさ」
「賛成!」

「主役はあなた達2人だから・・・」

愛人を豪語する飯田さんが
妖しげな笑みを浮かべて、わたし達の元へやってくる――

「2人の衣装はカオに任せて?」



――そんなやり取りがあって、今朝届いた衣装がこれ・・・

719 名前:第4章 1 投稿日:2012/03/05(月) 11:46


はあ〜〜

鏡を見つめたまま
再び深いため息をつく。

「これで行くしかないよね・・・」

時計を見ると、既に約束の時間を過ぎている。
これ以上、遅れるわけにもいかないし・・・

仕方ない。
腹くくって行こう!

上にコートを羽織って
前をしっかりとめてから、お家を出た。

720 名前:第4章 1 投稿日:2012/03/05(月) 11:46

歩いて5分、走って3分の道のりを
早歩き4分で到着を目指す。

だって、走ったら
せっかくのセットが崩れちゃうもの・・・

いつもの細い路地を曲がろうとして
突然、人が現れて驚いた。

「キャッ!」
「遅いわっ!」

目の前には、仁王立ちの中澤さん。

「・・・す、すみません。
 ちょっと、このドレスが・・・」

言い訳を聞こうともせず、中澤さんが
わたしの腕を引っ張って、もと来た道に戻す。

721 名前:第4章 1 投稿日:2012/03/05(月) 11:47

「ちょ、ちょっと?
 中澤さん?!」

周囲に目を配って、路地を覗き込んで、
誰も来ないのを確認すると、中澤さんはわたしに正対した。

「よく聞いてや?」

声をひそめて、迫力のある真顔で言われて緊張が走る。

「あんた、王子のこと
 まだ好きになってないよな?」

・・・え?

「本気で惚れてるわけやないやろ?」
「・・・急に・・・、どうしたんですか?」

722 名前:第4章 1 投稿日:2012/03/05(月) 11:47

「いいから!
 まだそんなんじゃないよな?な?」

「・・・え・・・ええ・・・。まあ・・・」

――まだ、そんな。

人に断言できるほどでは・・・

ていうか、そこには触れないように
いつも避けているから・・・

「良かったぁ・・・」

良かった・・・?

心底ホッとした顔をして
中澤さんは続けた。

723 名前:第4章 1 投稿日:2012/03/05(月) 11:48

いいか?
あんたのために言うんやで?

王子のこと、絶対本気になったらアカン。
あんたと王子じゃ、住む世界が違い過ぎるねん。

あんたが本気になったところで
絶対に一緒にはいられん。

泣くのがオチや。

遊びならええ。
あんたが遊びならええねん。

724 名前:第4章 1 投稿日:2012/03/05(月) 11:48

「いいか?
 絶対本気になったらアカンよ?」

――どうして・・・

「・・・何で、ダメなんですか・・・?
 ひとみちゃんがわたしを捨てるから?
 ひとみちゃんは・・・」

――遊び・・・なの・・・?

眉間にシワを寄せて
悲しげな目をすると、中澤さんは首を横に振った。

「おそらく王子は・・・
 あんたのこと、本気になっとる」

・・・え?

「本気で恋しとると思う。
 けどそれは――」

725 名前:第4章 1 投稿日:2012/03/05(月) 11:49

「終わりを意味するんや」
「――終わり・・・?」

「王子がドえらい家の出だってこと
 知ってるよな?」

「はい。なんとなく・・・」

「王子が今、自由にさせてもらってるのは
 彼女が一度も恋したことがないからや」

敷かれたレールの上を走る前に
映画やドラマで見るような、ホントの恋をしてみたい。
それが出来たら、大人しく跡を継ぐからって・・・

「王子が言った初めてのワガママやそうや」

726 名前:第4章 1 投稿日:2012/03/05(月) 11:49

「だからな。あんたがもし本気になったとしても
 いずれは必ず別れがくる。悪いことは言わん。
 あんただけは本気になったらいかんよ?」

「どんなに努力しても
 一緒にはいられないんですか・・・?」

――どうしても。絶対に・・・なの・・・?

「それだけは断言できる。
 絶対にムリや」

そんな・・・


「中澤さ〜ん!」

路地から出てきたのは、ひとみちゃん。

727 名前:第4章 1 投稿日:2012/03/05(月) 11:50

「あ!梨華ちゃんもだっ!」

嬉しそうに端正な顔を崩して笑う彼女。

「中澤さん、外でタバコ吸うなんて言ったまま
 帰って来ないから、心配して見に来たら
 2人で何やってたんだよぉ?」

「王子に見せる前に
 最終チェックしてやってたの」

「最終チェック?」

「王子がクギ付けになる胸元の!」

そう言って中澤さんは
いたずらっぽく、わたしの胸をタッチした。

728 名前:第4章 1 投稿日:2012/03/05(月) 11:50

「あ!ちょっと!
 梨華ちゃんに何てことすんだよっ!」

「はよ2人で腕くんで
 降りといで〜」

ヒラヒラと手を振りながら
階段へと消えて行く中澤さん・・・


――どういうこと・・・なの?

――全然意味が分からないよ・・・


「コホンッ」

ひとみちゃんの咳払いで
我に返った。

729 名前:第4章 1 投稿日:2012/03/05(月) 11:51

「キレイだね、梨華ちゃん」

目を細めて、そう言ってくれる彼女・・・


真っ白な衣装に包まれて。
白いマントをなびかせて。

アクセントに、わたしの好きなピンクをあしらって。

背筋をピンと伸ばして、わたしをみつめるあなたは
まるでおとぎの国の王子様・・・

わたしが夢に見た。
子供の頃から憧れ続けた、大好きな王子様――


「んじゃ。どうぞ」

頬を染めたひとみちゃんが
わたしに腕を差し出す――

730 名前:第4章 1 投稿日:2012/03/05(月) 11:51

どうして・・・
どうしてダメなの?

別れがくるからって、好きになっちゃいけないの?
それって絶対乗り越えられないの?
今の時代に、そんなことがあるの?

乗り越えられないなんて・・・

そんな・・・
そんなこと――


「梨華ちゃん?」


――もう・・・遅いよ・・・

だって、こんなに胸が高鳴るんだもの。
自分でも抑えようがないんだもの・・・


731 名前:第4章 1 投稿日:2012/03/05(月) 11:51

「大丈夫?
 何かあったの?」


――今更、遅いよ・・・

そんなこと言われたって
今更、遅すぎるよ・・・


だってわたしは・・・
もうとっくに・・・


――この王子様に、恋してしまってるんだもの・・・

732 名前:理想+1 投稿日:2012/03/05(月) 11:52

733 名前:理想+1 投稿日:2012/03/05(月) 11:52

734 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/03/05(月) 11:52

本日は以上です。

735 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/05(月) 12:29
お昼ご飯フイタ直後に
胸が締め付けられるわキュンキュンするわで忙しいです
ついに、ついに玄米ちゃワールド炸裂ですね!
736 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/05(月) 12:43
痛いのはいやよ!でもこれがないと玄米ちゃワールドにならないのよねぇ
737 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/06(火) 00:35
ついに来てしまうのですね、、
738 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/03/09(金) 10:36

>735:名無飼育さん様
 はい。いよいよです。

>736:名無飼育さん様
 ご理解頂き感謝します。

>737:名無飼育さん様
 いざ!


では本日の更新です。

739 名前:理想+1 投稿日:2012/03/09(金) 10:37

740 名前:第4章 2 投稿日:2012/03/09(金) 10:38

「ほんとキミたちお似合いだわ」

腕を組んで登場したわたし達を
迎えた常連さん達が、拍手や歓声で冷やかす。

「コートをお預かり致します」

マコトさんがわたしの背後に回る。
しっかり留めてあるボタンを外して
コートを脱がせてもらうと、皆から再び歓声が湧いた。

肝心のひとみちゃんはというと――

飯田さんの予言どおり、わたしの胸元を見つめ、
そのままゆっくり視線を上げて、わたしの視線とぶつかった。

741 名前:第4章 2 投稿日:2012/03/09(金) 10:38

「――キレイだ・・・」

甘く緩んだ大きな瞳。

「ほんとにキレイだよ・・・」

周りの視線なんて気にならないほど
熱い視線で見つめられて、身動きすら出来ない・・・

「ほんとにキレイだよ。
 梨華ちゃん・・・」

囁くように、そう言って
わたしの頬に触れた。

金縛りが解けたように、
一気に恥ずかしさが込み上げてきて――

思わずそらした視線の先に見えたのは
たくさんの優しい笑みの中で、複雑な表情を浮かべている
中澤さんとマコトさんの顔だった・・・

742 名前:第4章 2 投稿日:2012/03/09(金) 10:39


「どうしたらいいの?わたし・・・」

次の日から、お店に行けてないの。

会ってしまったら、どんどん好きになる。
会えなくても、ますます想いが募る。

苦しいよ、ひとみちゃん・・・


コタツの上の携帯が
メールの受信を知らせる。

 [お仕事お疲れ様。
  そろそろ出張から帰ってくるのかな?
  来週は来れる?いつでも待ってるからね]

毎日通ってたのに、うまい言い訳なんか見つからなくて
[しばらく出張で行けないの]
なんて苦し紛れにメールした。

743 名前:第4章 2 投稿日:2012/03/09(金) 10:39

中澤さんを除く常連さんからも

 [姫が来ないって王子が凹んでるぞ〜]とか
 [早く来ないと愛人が獲っちゃうわよ〜]とか
 [姫が来ないとうちらも寂しいべさ]とか
 [待ってるわよ!ッン〜、チュッ!]とか・・・

それぞれにメールをくれるけど
お店に行ったところで、
ひとみちゃんに会ったところで
どう接していいか、わからない・・・

744 名前:第4章 2 投稿日:2012/03/09(金) 10:40

 [アタシ・・・何かしちゃったかな?]

一昨日届いた彼女からのメール。

 [気に障ることしたんなら謝る、ごめん]

文字を見ただけで、こんなに苦しくなるなんて・・・

 [会いたいんだ。お家に行ってもいい?]

たったこれだけなのに、涙が溢れ出して・・・


  [出張が少し長引きそうなの。
   ひとみちゃんは何も悪くないから安心して]

そう。だって、ひとみちゃんは何も悪くない。

  [わたしの留守の間、妹が泊まりに来てるから
   お家には行かないで。ビックリさせちゃうから]

なんて、電気がついてても怪しまれないように
周到なうそまでついた。

745 名前:第4章 2 投稿日:2012/03/09(金) 10:41

「どうしたらいいの・・・」

このまま出張で逃げ切れるなんて思ってない。
けど、自分がどうしたいのかも分からないの。

中澤さんに、彼女の素性を問いかけても

『悪いけど教えられん。
 けど、これだけは言える。
 あんたの手におえる相手じゃない』

それしか言ってくれなくて・・・

諦めなきゃいけないの?
そんなにキツク言われるほど、ダメな相手なの?


――ひとみちゃん・・・

あなたはどう思ってるの・・・?


746 名前:第4章 2 投稿日:2012/03/09(金) 10:41


あなたに会わなくなって
たった一週間なのに、とてつもなく長く感じた日々。

身を潜めるように、平日を過ごして
やっと迎えた土曜日。

ひとみちゃん
昨日の夜は、一人で朝まで飲んだのかな・・・


そう思うと、ギュッと胸が締め付けられた。

747 名前:第4章 2 投稿日:2012/03/09(金) 10:41

何もする気力が起きなくて。
でも、冷蔵庫に牛乳さえないことに気付いて・・・

――今日なら、お外に出ても大丈夫だろうって・・・

定休日だし、土日はどうしても用事があって
お店開けられないんだって、前に言ってたんだし。

けど、万が一を考えて。

朝までお店にいたとしたら・・・って
夕方まで待って。

帽子とメガネをかけたりなんかもして
俯き加減のまま、お家を出た。

748 名前:第4章 2 投稿日:2012/03/09(金) 10:42

なるべくひとみちゃんのお店の方は、
見ないようにしようって、視線を外したまま
足早に歩いていたけど――

横断歩道まで来て
信号待ちをしていると、嫌でもそれが目に入った。

――大きな車・・・

いわゆるリムジンってやつ。

あの細い路地を隠すように止まっていて
お店の看板さえ隠してしまっている。

突然、リムジンの運転席から
マコトさんが降りてきて、瞬間的に顔を隠した。

749 名前:第4章 2 投稿日:2012/03/09(金) 10:43

「――あれ・・・?
 どうしたんだろ・・・」

周りには目もくれず、いつもとは違う
カチッとした身なりで、細い路地に消えていくマコトさん。

その横顔は、普段からは想像もつかないほど
強張っていて、嫌な予感がよぎる・・・


――まさか・・・

ひとみちゃんに何かあったんじゃ・・・


考えるよりも先に
足がその場所へ向かっていた。

750 名前:第4章 2 投稿日:2012/03/09(金) 10:43

様子を窺いながら
いつもの細い路地まで来る。

初めて間近で見る本物の高級車。
ひとみちゃんが、すごいお家柄の出だということの証・・・

警戒しながら、路地を覗き込むと
シンと静まり返っている。

何でもないのかな・・・?

そう思おうとすればするほど
さっきのマコトさんの険しい顔が浮かんで
胸の中を不安がよぎる。

それに――

751 名前:第4章 2 投稿日:2012/03/09(金) 10:44

今日は土曜日なのに。
定休日なのに。

土日はここに来れないって。
そう言ってたのに・・・


ちょっと様子を窺うだけ。

少しだけ耳を澄まして、ひとみちゃんの声が聞こえれば
無事だって言うことだもの。

このまま帰ったらきっと
この胸騒ぎがおさまらなくて、
輪をかけて、何も手につかないだろうし――

そろ〜り。そっと。

細い路地を抜けて
階下に向かって、足を運んだ。

752 名前:第4章 2 投稿日:2012/03/09(金) 10:45

胸に手をあてて、早鐘を打ち続ける
心臓をなだめながら、そっと扉に耳を押し当てた。

かすかに話し声のようなものが聞こえる――


  『――じょさま!!
   いい加減になさいっ!!』

突然の怒鳴り声に
大きく心臓が跳ねた。

  『その呼び方を、ここではするなって言ってるだろっ!!』

初めて聞くひとみちゃんの怒鳴り声に驚いて
思わず後ずさった。

<カタンッ>

いつもは階段の入り口に出してある看板が
わたしにぶつかって揺れた。

753 名前:第4章 2 投稿日:2012/03/09(金) 10:45

  『誰だっ!!』

震えが止まらなくて
身動きが出来ない。

目の前の扉が、勢いよく開けられて
マコトさんが顔を出した。


「――石川、様・・・?」

「え?梨華ちゃん?!」

ひとみちゃんの声が聞こえて
胸が締め付けられる。

そっとマコトさんを制して
中から出てきて、わたしに正対したのは初老の男性。

おそらく――

754 名前:第4章 2 投稿日:2012/03/09(金) 10:46

「あなたが石川様ですか?」

穏やかな物腰とは裏腹な強い口調。

「私は、ひとみ様の家の執事の長でございます。
 あなた様には心から感謝申し上げます」

深々と頭を下げられるけど
それは、本当に感謝しているからではなくて・・・

「これで心おきなく
 ひとみ様はここを離れられます」

ズキンッと大きな破片が胸に刺さる・・・

「じいや!
 アタシは帰らない!
 ここから・・・離れたくないっ!」

755 名前:第4章 2 投稿日:2012/03/09(金) 10:48

「甘えるのもたいがいになさいっ!
 あなたには時間がないのです。
 もうワガママを言っている場合ではないのですよ?」

人の心を切り裂くような
鋭い言い方で、彼は言うと
再び穏やかな声に戻して、説き伏せるように言った。

「お分かりですね?
 何度も申し上げますが、もう時間は残されておりません」

そして、わたしに向き直ると

「私はこれで失礼致します」

ただ一言だけ告げて
わたしの目の前を通りすぎ、階段を上がっていく――

慌ててマコトさんが、彼を追いかけて行ったけど
彼の迫力に、有無を言わさぬ存在感に
ただただ圧倒されたわたしは、その場に立ち尽くすことしか出来なくて・・・

756 名前:第4章 2 投稿日:2012/03/09(金) 10:48


「――梨華ちゃん・・・ごめん」

今まで声だけしか聞こえていなかった
ひとみちゃんが、わたしの目の前に立つ――

「変なとこ見せちゃってごめんね・・・」

涙に濡れた瞳は、彼女が今
身に着けている宝石にも負けないくらい綺麗で・・・

「良かったら入って?」

いつものように、そっと手を引いて
エスコートしてくれたけれど、
その姿は、憧れ続けていた王子様ではなくて――

757 名前:第4章 2 投稿日:2012/03/09(金) 10:49

「――綺麗だね・・・ひとみちゃん・・・」

わたし自身がなりたかったお姫様――

眩しいくらいに綺麗で。
うらやましいくらいに可憐で。

隣に立つのを恥じてしまうくらい
ドレスを纏った彼女は美しかった。


「週末は色々あって、こんな格好なんだ・・・」

ふてくされたように言った彼女。

「ほんとはこんな格好したくない」

何でかな?
すごく胸が痛い・・・

758 名前:第4章 2 投稿日:2012/03/09(金) 10:49

「梨華ちゃん」

わたし何か勘違いしてたのかな・・・?


「父さんが具合悪いらしくて・・・」

こんなに綺麗な子なのに
王子様だなんて思ったりして・・・


「もうすぐ、帰らなきゃいけなくなりそうで・・・」

失礼だよね?
こんなに綺麗な人を、男性扱いするなんて・・・


「でも、アタシ・・・」

ひとみちゃん。
わたしもう、壊れちゃいそうだよ・・・

759 名前:第4章 2 投稿日:2012/03/09(金) 10:50

「梨華ちゃん・・・」

溢れ出る涙を止められなかった。
何の涙かさえ分からないよ。

あなたを理想の王子様だって思っていたから?
もうすぐ別れがくるから?
叶わぬ恋だから?

もう、自分でもわからないよ・・・


「アタシ・・・
 梨華ちゃんと離れたくない」

強く抱き寄せられた。

苦しいよ、ひとみちゃん。
切り刻まれるほどに胸が痛いの。
こんなに息が詰まるほどに、あなたが――


――好きなのに・・・


760 名前:第4章 2 投稿日:2012/03/09(金) 10:50


「・・・ひとみちゃん。
 ダメ、だよ。わたし達は・・・」

グッと力を入れて
ひとみちゃんを押し戻す。

「女の子同士だよ?」

ひとみちゃんの大きな瞳から
大粒の涙が零れ落ちる。

ごめんね、ひとみちゃん。
でもわたし達――

「ムリだよ。一緒にはいられない」
「そんな・・・」

「わたしは・・・」

グッと奥歯を噛み締めた。

「ひとみちゃんのこと。
 一度も恋人だなんて思ったことないよ?」

だって・・・

761 名前:第4章 2 投稿日:2012/03/09(金) 10:51

「お友達でしょ?」

「――梨華、ちゃん・・・」

ごめん、ひとみちゃん。
ごめん・・・

再び流れ出す彼女の涙を
見ていられなくて、目をそらした――

苦しくて、これ以上何かを言ったら
声をあげて泣いてしまいそうで、唇を噛み締めた。

762 名前:第4章 2 投稿日:2012/03/09(金) 10:51


「――わか、った・・・よ・・・」

震える声で、そう言った彼女。

「梨華ちゃんの気持ち・・・
 ・・・よく、わかった・・・」

鋭い刃で傷つけられたように
胸がギリギリと痛む。

「だけど・・・」

一度だけでいいんだ。
これ以上は望まないから。

だから・・・

「明日、アタシとデートしてくれないかな?」


763 名前:理想+1 投稿日:2012/03/09(金) 10:52

764 名前:理想+1 投稿日:2012/03/09(金) 10:52

765 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/03/09(金) 10:52

本日は以上です。

766 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/09(金) 11:34
ドキドキする〜!心が痛いです。
767 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/09(金) 14:01
りかちゃんとよっすぃの新ユニットABCHOの画像がこのお話にすごい合ってて
一人でニヤニヤしてしまいます。
768 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/09(金) 15:09
いやあああああ
イタいイタすぎるわあああ
ああもう玄米ちゃさま大好き
769 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/03/19(月) 13:20

>766:名無飼育さん様
 また痛くなって下さい。

>767:名無飼育さん様
 お〜、ありがとうございます。

>768:名無飼育さん様
 ドM万歳!


では、本日の更新に参ります。

770 名前:理想+1 投稿日:2012/03/19(月) 13:20

771 名前:第4章 3 投稿日:2012/03/19(月) 13:21

結局、一睡も出来ないまま朝を迎えた。

カーテンを開けると、眩しいくらいの日差しが差し込んできて
絶好のデート日和だなんて、苦笑する。

身支度を整えながら、普段よりどこか
気合の入ってしまう自分に、ふと気が付いて、また苦笑した。

「お友達とおでかけするだけでしょ?」

鏡の中の自分にそう言って
塗ったばかりのグロスを拭った。

772 名前:第4章 3 投稿日:2012/03/19(月) 13:22

約束の時間より、少し前に
玄関のチャイムが鳴る。

高鳴りだす胸を深呼吸で落ち着けてから
ドアを開けた。

「おはよう」

ニッコリ微笑んだ彼女は
わたしの胸を一瞬でときめかせてしまう。

「おはよう・・・」

精一杯の笑顔で返したけど
少しぎこちなかったかもしれない。

「出れる?」
「うん」

差し出された手を掴まずに
お家を出た。

773 名前:第4章 3 投稿日:2012/03/19(月) 13:22

「どこに行くの?」
「んー。梨華ちゃんはどこがいい?」

行き場を失った彼女の手は
ジーパンの両ポケットの中。

「行くトコ決めてないの?」
「決めてない訳じゃないけどさ・・・」

力なく微笑む横顔に
胸がズキンと痛む。

「ひとみちゃんが決めた場所でいいよ?」
「だって初めてのデートだし。
 梨華ちゃんが嫌がるとこじゃヤだから・・・」

774 名前:第4章 3 投稿日:2012/03/19(月) 13:23

「デートじゃないよ?」

不安げな眼差しが
わたしの言葉の続きを待つ。

「お友達同士ではデートって言わないよ?
 お出かけって言うんだよ?」

自分で発してる言葉に、自分が傷つけられてる。

「――そっか・・・。そうだね」

悲しげに微笑む彼女の顔を
見ていられなかった。

775 名前:第4章 3 投稿日:2012/03/19(月) 13:23

駅につくと、路線図を見上げたまま
動かなくなった彼女。

「どうかした?」
「――ごめん。行き方わかんない・・・」

そうだった。
この人は並外れたお嬢様だった。

「どこに行きたいの?」
「水族館」

ここなんだけど・・・

そう言って、彼女が差し出したパンフレットは、
遥か遠く房総にある、ここから裕に片道3時間はかかる場所で・・・

776 名前:第4章 3 投稿日:2012/03/19(月) 13:24

「ほんとにここに行きたいの?」

「うん。ほんとは前に約束したから
 一緒にダイビングしたかったんだけど
 昨日の今日じゃ、さすがに無理だから・・・
 そこだと水槽の中を見ながら、ご飯も食べれるみたいだし
 だいぶズレちゃうかもしんないけど、約束果たせるかなって・・・」

――ヤダ。泣きそうだよ・・・

そんな約束。
守ろうとなんてしてくれなくていいのに・・・

「梨華ちゃんは・・・イヤ?」

首を横に振った。

イヤな訳ないよ。
嬉しくて、泣いてしまいそうなんだもの・・・

777 名前:第4章 3 投稿日:2012/03/19(月) 13:24

目的地までの切符を買って
彼女に差し出した。

後ろから、わたしに倣って
改札機に切符を入れ、通ってくる彼女を
正面に立って迎えた。

「どうしたの?」

不安げな彼女に手を差し出す。

「今日一日、よろしく」
「え?」

「デート」
「・・・梨華ちゃん?」

「だから繋ごう?」
「うん!」

いつもみたいに
指と指を絡めて、固く繋いだ。

778 名前:第4章 3 投稿日:2012/03/19(月) 13:24







779 名前:第4章 3 投稿日:2012/03/19(月) 13:25

すっかり暗くなっちゃった・・・

あっという間の一日。

お日様が一番高い所まで昇って
すぐに傾き始めて
今はもう、跡形もなく沈んでしまって・・・

代わりにお月様が微笑んでる。

――もうすぐデート、終わっちゃうよ?

人のまばらな日曜夜の上り電車。
わたしの肩に寄りかかって、スヤスヤ眠っている彼女は
まるでお姫様みたい。

780 名前:第4章 3 投稿日:2012/03/19(月) 13:25

そう言えば――

初めて会った日も同じこと思ったんだった。
目を閉じてると、王子様じゃなくてお姫様みたいだなって・・・

透き通るような真っ白な肌。
スッと通った鼻筋。
薄くて柔らかそうな唇・・・

<ガタンッ>

電車が大きく揺れて
彼女の頭が大きく動いた。

「・・・んっ?」

ふふ。
寝ぼけてる。

781 名前:第4章 3 投稿日:2012/03/19(月) 13:26

「もう少し眠ってていいよ?
 着いたら起こしてあげるから」

「ヤダ」

繋いだままの手に
ギュッと力が込められる。

「もう寝ない」

反対の手で目をこすって
必死に睡魔と戦ってる。

「ふわ〜ぁ・・・。でも寝ない」

かわいい・・・

胸の奥から愛しさが込み上げてくる――

782 名前:第4章 3 投稿日:2012/03/19(月) 13:26

楽しかったね、今日。
すごくいい想い出になったよ?

一緒にダイビングは叶わなかったけど
もう充分だよ。

わたし、人魚姫にはなれそうもないから
王子様も、もう諦める。

だから、あなたも――

――あなたの道を進んで?

783 名前:第4章 3 投稿日:2012/03/19(月) 13:27


駅でバイバイしようって言ったのに
家まで送るって、どんなに言っても譲らなくて。

また明日お店に行くからって言ってるのに、
家まで送らないと心配だからって聞かなかった。

「もうほんとに、ここでいいよ」

マンションの前で、彼女の手を
優しく解いた。

これ以上は、ほんとにもういい・・・

だって、お部屋の前まで来られたら
もっと離れづらくなる。

お家に上がって行く?
なんて思わず言ってしまうかもしれない。

784 名前:第4章 3 投稿日:2012/03/19(月) 13:27

「でも・・・」

言いかけた彼女の声を
笑顔と共に遮る。

「今日、とっても楽しかった」

そんな、今にも泣き出しそうな顔しないで・・・

「初めてデート出来て
 わたしも嬉しかったよ?」

お願いだから、そんな顔しないでよ・・・

「色々、お家のこと大変だと思うけど
 何かわたしに手伝えることがあったら言って?」

小さく息を吸い込む――

「だって」

ハッキリさせなきゃ・・・

785 名前:第4章 3 投稿日:2012/03/19(月) 13:28


「――わたし達、お友達でしょ?」

傷ついた彼女の表情が
わたしの傷をも抉っていく・・・

「梨華ちゃん・・・」

何も言わせない。
これ以上、わたしの心を揺さぶらないで・・・

奥歯を噛み締めて、自分自身の息の根も
止めてしまおうと、さらに追い討ちをかける――


「恋人ごっこ。
 楽しかったよ?」

これでいい。
わたしのことなんか、
ヒドイ女だって、忘れてくれていい・・・

786 名前:第4章 3 投稿日:2012/03/19(月) 13:28

「じゃあ、またね?」

そう言って、彼女に背を向けて歩き出そうとしたのに・・・

「待って!」

強く手首を掴まれた。

「アタシは!」
「離してっ!」

お願い、離してよ・・・

グッと引き寄せられて
強く抱きしめられた。

「恋人ごっこなんて思ったことない!
 アタシはずっと!ずっと!」

・・・んっ!

彼女の唇が、わたしの唇を塞いだ。

787 名前:第4章 3 投稿日:2012/03/19(月) 13:29

痛いくらいの強い想いが
体の中を駆け抜ける・・・

――ダメ・・・お願い・・・

離して・・・


このままじゃ溺れちゃう・・・
せっかく頑張ったのに・・・

頑張って、諦めようって
叶わないなら、いっそ・・・

あなたのために・・・

――そう・・・、思ったのに・・・

堪えきれない想いが頬を伝った。


788 名前:第4章 3 投稿日:2012/03/19(月) 13:29

「――梨華ちゃん・・・」

「・・・うぅっ・・・」

言葉にならなくて
嗚咽だけが漏れる。

「ごめん・・・」

彼女の腕の力が抜けて
体が自由になる。

「傷つける、つもりなんかなくて・・・」

――ごめん・・・

呟くように、もう一度言った彼女に背を向けて
マンションの中へと走り出した。

「梨華ちゃんっ!」

叫ぶようにわたしの名を呼ぶ、彼女の声が聞こえたけど、
振り切るように走って、エレベーターに乗り込んだ。

789 名前:第4章 3 投稿日:2012/03/19(月) 13:29



――好きだよ、ひとみちゃん。


だけど、苦しいの・・・



苦しくて苦しくて


これ以上、あなたのそばにいたら・・・



――あなたをも壊してしまいそうなの・・・


790 名前:理想+1 投稿日:2012/03/19(月) 13:30

791 名前:理想+1 投稿日:2012/03/19(月) 13:30

792 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/03/19(月) 13:31

本日は以上です。

793 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/19(月) 15:07
ウワァァ━━━━。゚(゚´Д`゚)゚。━━━━━ン!!!!
794 名前:名無し留学生 投稿日:2012/03/19(月) 17:59
(´;ω;`)つ、辛い!ひとみちゃんも梨華ちゃんも可哀そう!
795 名前:名無し留学生 投稿日:2012/03/19(月) 17:59
(´;ω;`)つ、辛い!ひとみちゃんも梨華ちゃんも可哀そう!
796 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/19(月) 19:06
イタいこれはイタい
玄米ちゃさまの作品の中でも上位にくるほどイタい
797 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/20(火) 01:04
玄米ちゃ様のチョーいじわる!梨華ちゃんとよっすぃに優しくしてあげて!
798 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/03/23(金) 15:02

>793:名無飼育さん様
 ハンカチどうぞ。

>794:名無し留学生様
 ですよね〜

>796:名無飼育さん様
 あれ?そうですか?

>797:名無飼育さん様
 いじわるなんかじゃねぇ。ただドSなだけさ。


では本日の更新です。

799 名前:理想+1 投稿日:2012/03/23(金) 15:02

800 名前:第4章 4 投稿日:2012/03/23(金) 15:04

「ヒドイ顔・・・」

お化粧も落とさず、着替えもせず
会社さえ休んで、一日中コタツで丸まっていた
わたしの顔は、自分でも目を背けたくなるほど。

――ごめんね、ひとみちゃん・・・

そう言えば、経営と赤字のこと
ちゃんと理解できたのに、ご褒美あげないままだったね。


  『・・・あったかぁい・・・』

そう言って擦り寄ってきた彼女。

  『もう少し寝よ?』

って、大きなあくびをして、
わたしに腕枕をしてくれた彼女。

彼女に包まれると感じる、優しい穏やかな香り――

昨日一日中、一緒にいたせいか
まだあなたの香りが残っている気がするの・・・

801 名前:第4章 4 投稿日:2012/03/23(金) 15:04

「ダメだな・・・わたし」

自分で決めたのに。

彼女のドレス姿を見て
わたしなんかが、そばにいたって
彼女を輝かせてなんかあげられないって・・・

忘れてくれていいって。
ヒドイ女と思ってくれていいって。

覚悟して、わざと酷い言葉を投げかけたりもしたのに・・・

それなのに――

802 名前:第4章 4 投稿日:2012/03/23(金) 15:05

「会いたいよ・・・ひとみちゃん・・・」

会いたい。
会いたいの、今すぐ。

ダメだって分かってるのに。
結ばれないって分かってるのに・・・

どうしても、気持ちが止められないの。

会って、あなたに触れたい。
会って、あなたに本当の気持ちを伝えたい。

その想いが、繰り返し溢れてきて
自分でも手におえないの。

だから――

803 名前:第4章 4 投稿日:2012/03/23(金) 15:05

握り締めた携帯から
思い切って、彼女の番号を呼び起こす。

溢れる想いにまかせて、発信ボタンを押した――


  『・・・おかけになった電話番号は、現在使われておりません』


うそ・・・
そんなはずないよ・・・

804 名前:第4章 4 投稿日:2012/03/23(金) 15:06

もう一度、彼女のものか確かめて
発信ボタンを押す――


  『おかけになった電話番号は――』


なんで?!
どうしてよ!!

昨日一緒にいたの。
わたし、ずっと彼女と一緒にいたのに。

何で使われてないなんて・・・

805 名前:第4章 4 投稿日:2012/03/23(金) 15:06

ハッとして、慌てて家をとび出す。

まさか、もう行っちゃったなんて。
実家に帰っちゃったなんて、そんなこと――

走って3分の距離を
全速力で向かう。

お店にいるよね?
今日もお店にいるんだよね?

辺りは既に薄暗くなっていて。

もう少しで道路を挟んだ向かい側に
ぼんやり灯る、いつもの看板が見えるはず・・・

806 名前:第4章 4 投稿日:2012/03/23(金) 15:07


――うそだ・・・

だって、昨日前を通った時はまだ――

電気が落とされていても、そこにはハッキリ
<焼酎BAR Heat me>
って文字が浮かんでいたのに・・・


どうして・・・
何で全部消えてるのっ?!

807 名前:第4章 4 投稿日:2012/03/23(金) 15:07

横断歩道まで行って渡るなんて
悠長なことが出来なくて、無理矢理
車の合間をぬって、向こう側へと渡る。

何度も通った細い路地は
電気も何もついてなくて。

階下を覗き込んでも
真っ暗で何も見えない・・・

うそでしょ?
うそだよね?

ただお休みなだけだって信じたくて
階段へと一歩を踏み出したと同時に、お店のドアが開いた・・・

808 名前:第4章 4 投稿日:2012/03/23(金) 15:08


「姫・・・」

開いたドアから漏れる光を背に
わたしを見上げたのは、中澤さんで。

「下りといで?」

優しい声で言ってくれたけど
その表情は、とても悲しそうで・・・

大きな不安を抱えたまま
わたしは一歩一歩、階段を下りて行った。

無言のまま、そっと背中を押されて
お店の中へと足を踏み入れる――


「今日から、ここは空き室や」

その意味が、広がる光景からも
ハッキリ認識できるほど、お店の中には何も無くて。

ひとみちゃんが得意げに眺めていた
酒棚からも、綺麗さっぱり酒瓶が消えてなくなっていた。

809 名前:第4章 4 投稿日:2012/03/23(金) 15:08

「そんな・・・」

だって、そんな。
こんなに急だなんて・・・

「ごめんな、姫」

震えだした肩を、中澤さんが抱いてくれる。

「王子もどうしようもなかったんよ・・・」

苦しげにそう言って
わたしに新聞を差し出した。

意味もわからずに受け取って
中澤さんに促されるまま、テレビ欄の方から一枚めくる・・・

「ここや」

そう言って、中澤さんが指し示したのは
写真も何も無い、小さな小さな記事。

810 名前:第4章 4 投稿日:2012/03/23(金) 15:09

 [ヒー王女帰国]

ヒー王女?
誰、それ・・・

「王子のことや」

ひとみちゃん?!
ひとみちゃんが・・・王女?

「あの人、ほんとは王女様だったんよ。
 日本よりもずっと小さい、学校でも習わんような国やけど・・・」

もともと日本文化に興味があった彼女は
最初は、大学の4年間だけの予定で日本に留学に来たんや。

あと数ヶ月で無事卒業。
楽しい留学生活を終えて、もうすぐ帰国できる――

そんな時に、第一継承位の彼女のお兄さんが亡くなった。
そうなると当然、第二継承位の彼女が王位を継ぐことになる。
ちょうど現国王の健康状態も思わしくなくてな。
彼女が戻ったら、すぐに王位を継ぐよう準備が始められた。

――だけど、それを彼女が拒んだんや・・・

811 名前:第4章 4 投稿日:2012/03/23(金) 15:10

「たった一度でいい。ホントの恋をしてみたい。
 それが出来たら、大人しく跡を継ぐから。
 だからどうか、もう少しだけ・・・そう言ってな」

  『いいな〜、恋か・・・
   一度でいいからしてみたいな・・・』

初めて会ったあの日
ひとみちゃん、そう言ってた。


「王子が頑なに拒んだのは
 何より、帰国したらすぐ結婚せないけなくなったからや」

  『ほら、こう・・・
   劇的に世界が変わっちゃうようなヤツ。
   この人のためなら、全てを捨ててもいいってくらい激しいヤツでさ』


「国の有力者。既に決められた相手がいるらしい」

ひとみちゃん・・・

  毎日がキラキラして。
  毎日がワクワクして。

  心の底から、
  今楽しい!って。
  今、幸せ!って――

  『そう思えるような恋ってヤツを
   一度でいいから、してみたいなーなんて』

812 名前:第4章 4 投稿日:2012/03/23(金) 15:11


「――これ・・・王子からや」

中澤さんが差し出したのは、小さな袋。
中を覗くと、香水のボトルとカードが入っている――


  [梨華ちゃんへ

    新しい香水、頼んでたんだけど間に合わなくてごめん。
    アタシの使いかけだけど、まだ十分残ってるから良かったら使って?
    前に約束したでしょ?香水あげるって。

    それからね。昨日はありがとう。楽しかった。
    ほんとに嬉しかったよ。
    けど、傷つけちゃったことごめん。謝る。

    でも絶対、誓って中途半端な気持ちで、あんなことしたんじゃない。
    アタシは本気だった。梨華ちゃんのこといつだって本気だったよ。
    それだけは、どうか信じて下さい・・・

    短い間だったけど、今までありがとう。
    さようなら。

                   ひとみ]

813 名前:第4章 4 投稿日:2012/03/23(金) 15:11

「・・・うっ。ううっ・・・」

涙が止まらなかった。


  『いい匂いだね?』
  『ん?』
  『香水?』
  『んー』

  『日本では売ってないんだ』

  『気に入ったの?』

  『なら、今度あげる・・・』


そんな約束、守らなくていいから。
香水なんて、いらないから。

だから。

だから、お願い――

814 名前:第4章 4 投稿日:2012/03/23(金) 15:12

「・・・会いたい・・・
 ――会いたい、よ・・・」

中澤さんに抱きしめられた。

「香りだけだなんて・・・
 そんなの――」

ひとみちゃん。
あなたのそばにいたいよ・・・


中澤さんの胸で、声をあげて泣いた。

815 名前:第4章 4 投稿日:2012/03/23(金) 15:13


優しくて
スポーツ万能で
中性的で
大人で
背が高くて
笑った時に目が優しくなって・・・

わたしが憧れ続けた理想の王子様は


優しいけど
スポーツ万能だけど
中性的だけど
大人だけど
背が高いけど
笑ったときに目が優しくなるけど・・・

可愛くて綺麗な
わたし自身がなりたかった理想のお姫様だった――

816 名前:第4章 4 投稿日:2012/03/23(金) 15:13



数日後、手にした新聞には
また写真もない、小さな小さな記事で
彼女のことが報じられていた――


  [ヒー女王即位
   近日中にご成婚式]


817 名前:理想+1 投稿日:2012/03/23(金) 15:14

818 名前:理想+1 投稿日:2012/03/23(金) 15:14

819 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/03/23(金) 15:15

本日は以上です。
お読みになった方が810で吹かないことを願います。

820 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/23(金) 19:39
笑わせといて号泣させる玄米ちゃさま
罪な方です
821 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/24(土) 01:18
ヒー様!カンバァッーク!
822 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/24(土) 06:47
815で涙腺決壊
823 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/04/03(火) 10:45

>820:名無飼育さん様
 ありがとうございます!

>821:名無飼育さん様
 (0´〜`)<呼んだ?

>822:名無飼育さん様
 タオルをどうぞ。


では本日の更新にまいります。


824 名前:理想+1 投稿日:2012/04/03(火) 10:45

825 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:46

「あれからもう半年か・・・」

相変わらず、普通の椅子にお子様用の椅子をつけて
足をブラブラさせながら座っている矢口さんが、ボソリとつぶやく。

「早いね・・・」

そこにいるだけで、その場を華やかにしてくれるはずの
安倍さんがいるのに、何でこんなに沈んじゃうのかな・・・

「まさか一国の王女様だったなんてね・・・」

一番隅っこで、グラス片手にナンコツをかじっている
保田さんでさえ、そう言ってため息をつく・・・

「今じゃ女王なんでしょ?
 そんなにすごい人だったとはね・・・」

カウンターの中からそう言ったのは
このお店のママになった飯田さん。

826 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:47

ひとみちゃんがいなくなってしばらくして
飯田さんは、同じ場所にスナックを開いた。

その名はそのまま
『スナックかおり』

お店の雰囲気も随分変わった。
客層も飯田さんのお色気パワーで男性が増えた。

それでもこうして
前のお店の常連客が、週に一度集まる。

わたしもその度にお誘いを受けるけど
どうしても足が向かなくて・・・

だけどいつまでも断り続けることも出来なくて
今日やっと、変わってしまったお店の中に足を踏み入れた。

827 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:47

「裕ちゃんは、最初から知ってたんでしょ?」
「まあな。ここを貸すときに身元も確認するしな」

焼酎・・・
このお店にはないんだな・・・

「先に教えてくれれば良かったのに」
「誰も聞かなかったやん」

窓のない室内は、彼女がいた頃のように
爽やかな風が吹き込んでいるようにも感じられなくて・・・

「だってあの言葉遣いだよ?まさかと思うよ」
「日本語を教えてくれた人が江戸っ子やったらしい。
 さすがに、てやんでぇとは言わんかったけどな」

――やっぱり、来なければ良かった。

いないって分かってるのに。
もう会えないって分かってるのに。

彼女の温度を、無意識のうちに探してしまう・・・

828 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:48

「・・・ごめんなさい。
 わたし、帰ります・・・」

「もう王子のことは、忘れた方がいいわよ?」

立ち上がったわたしに、カウンターの中から
心配そうに声をかけてくれる飯田さん。

だけど・・・

お願い。
カウンターの中から、話しかけないで。


  『う〜ん・・・
   今夜はどれがいいかな・・・?』

そう言いながら、いつだって得意げに
酒棚を眺める背中を見つめるのが好きだった。

  『よし!今夜はこれね』

振り向いたときの眩しい笑顔が
今も目に焼きついていて離れないの・・・

829 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:48

「――ごめ、ん・・・なさい・・・」

溢れ出そうになる涙を堪えて
テーブルにお札を置いて、出口に向かった。

「ちょ、ちょっと!姫!」
「カオ!そっとしといたろ」

皆の心配そうな眼差しを
背中に感じながら、お店を後にした。

830 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:49


初めて出会った日――

この細い路地でダンボールを落としてしまって
レモンを道中に転がしてしまった彼女。

  『すみません、すみません』

よけて通る歩行者に、被っていた青い帽子をとって
頭を下げて、一生懸命謝っていた彼女。

わたしが少しだけ拾ってあげたら

  『あ、すみません。
   ありがとうございます!』

って、脱いだ帽子に入れた
たくさんのレモンを抱えたまま立ち上がったんだ。

831 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:49

  『良かったら、どうぞ』

なんて高級メロンを差し出して。

  『高級なのか・・・、これ』

なんて不思議そうに眉を寄せた。

  『そっか・・・じゃあどうしようかな・・・?』

って、今度は考えるように視線をさ迷わせて。

  『酒、好きですか?』

って、わたしの手元の袋を見て。

  『2人で飲みましょ?
   店はもう閉めたんで』

そっとわたしの腰に手を回して
わたしをエスコートしてくれた・・・

832 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:50

どれもね、鮮明に思い出せるんだよ?

あなたに出会った日のことも。
あなたと過ごした日々のことも。
あなたとさよならした日のことも・・・

どれも鮮明に。

笑顔も。
綺麗な横顔も。
長い指先も。
触れ合った温度も。

なにもかもが、鮮明に蘇って
わたしの胸を痛いくらい、締め付けるの――

833 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:50

忘れさせてよ、早く。
あなたと出会う前の生活に戻してよ。


退屈な日々でいいから。
何もない一日でいいから。

これからずっと。
ずっとずっと、同じような毎日で構わないから。
何も変わらない日々でいいから。

だから・・・

――あなたのことを・・・、忘れさせてよ・・・


834 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:51


思い出すたびに、そう願うのに
わたしの手は、心に相反して、焼酎を選んでしまう。

「出会う前は、ワインだったのにな・・・」

いつものコンビニに寄って
お酒のコーナーに来ると、なぜかワインではなく
その隣の焼酎を選んじゃうんだ。

今日こそは!って強く思ってても
どうしても手にしてしまうのは、焼酎で・・・

「・・・もう、引っ越そうかな・・・?」

ここには想い出がありすぎる・・・

コンビニも、細い路地も
このマンションも・・・

835 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:51


  『アタシは!』

  『恋人ごっこなんて思ったことない!
   アタシはずっと!ずっと!』

キスするだけで全部解決しちゃうなんて
所詮、物語の中だけで現実にはありえないんだ。

  『傷つける、つもりなんかなくて・・・』

  『ごめん・・・』


  『梨華ちゃんっ!』

最後に聞いた彼女の声。
わたしの名を呼ぶ声――

今でもね、ここに立つと
時々聞こえる気がするんだよ?


836 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:52


はああ〜〜

深いため息をついて、
エレベーターに向かう。

「本気でお引越し、考えよう・・・」

上昇ボタンを押すと
すぐにドアが開いて、箱の中に乗り込む。

階数ボタンを押して
そのまま壁にもたれかかった。

「――今頃、何してるんだろうな・・・」

女王様か・・・
わたしのことなんか、もう忘れちゃってるんだろうな・・・

――結婚、したんだもんね・・・

837 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:53

「庶民とは住む世界が違うか・・・」

エレベーターが目的階に到着したのを告げる。

再び大きなため息をついて
『ため息ついたら、幸せが逃げる』なんていうけど
つかなくたって逃げる時は逃げるじゃない。
なんて思って、箱の中で一人苦笑した。

ゆっくりドアが開かれて、足を踏み出す。

廊下に吹き込む外気が少し肌寒くて、
もうすぐ冬がやってくるんだ・・・
って思って、また少し寂しくなった。


838 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:53

――いい香り・・・

やっぱりこの匂い好きだな・・・

風に吹かれると、わたしから
ふわりと香る優しい香り。

彼女と同じ香り・・・

「もうすぐ、なくなっちゃうんだよな・・・」

全部なくなってしまえば
香りと共に、彼女のことも忘れられるだろうか――


ふと強い風が吹き付けて
別の場所から、彼女の香りを運んできた。


839 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:54



――なん・・・で・・・?


わたしの部屋の前に、うずくまる人影。
一気に心臓が跳ね上がって、苦しいほどに胸を締め付ける・・・

まさか・・・
違うよ。そんなはずないじゃない・・・

期待なんかしない。
だって、女王様がこんなところにいるはずないもの・・・

けど、あの帽子・・・

あの帽子は、わたし達が出会ったあの夜
彼女が被っていた――

気配に気付いたのか
その人がゆっくり顔をあげた。


840 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:54


「――梨華、ちゃん・・・」

ヤダ・・・なんで・・・?
どうして、ここにいるの・・・?

「・・・急に・・・ごめん」

――夢・・・なの?

でもこんなに。
涙が零れ落ちるほど、胸が、痛い・・・

「・・・今更、迷惑かもしんないって思ったけど
 どうしても――」

どうしよう・・・
本当に、ひとみちゃんなの・・・?

「どうしても、梨華ちゃんに会いたくて」

涙で歪んだ視界に見えたのは
夢でも幻でもない、ホンモノの彼女だった。

841 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:55

「ごめん・・・
 やっぱ迷惑だったかな?」

そう言って、ふぅ〜って大きく息を吐き出して。

「やっぱ、今更・・・だよね・・・」

別れたあの日のように、今にも泣き出しそうな顔をして。

「覚悟はしてたつもりなんだけど・・・」

潤んだ瞳のまま
無理矢理、口角を上げて。

――キツイな・・・

独り言のように呟いて、天井を見上げた。

842 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:55


「――梨華ちゃんは・・・、今、幸せ・・・?」

震える声で尋ねられた。

「・・・幸せ、だよ」

だってそうでしょ?
今、目の前に、あなたがいるんだもの。

「――そっか・・・。そうだよね・・・
 こんな可愛い子、周りが放っておく訳ないもんね・・・」

震える声を整えるように
彼女が大きく深呼吸する。

1度、2度、3度――



「――ダメ、だ・・・
 あきらめらんねぇ・・・」

グッと唇を噛み締めた彼女が
わたしに向かって歩いてくる。

843 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:56

「カッコ悪いって分かってるけど
 みっともないって思うけど・・・」

彼女がわたしに正対した。

「梨華ちゃんを誰にも渡したくないんだ」

強く抱きしめられた。

「この半年間、離れてても忘れることなんか出来なくて
 逆に想いが募っていくばかりで・・・」

彼女の腕に更に力が入って
痛いほど抱きしめられる。

「好きなんだ・・・」

梨華ちゃんのためなら
全部捨てたって構わないって思うくらい・・・

「――好きで好きで、どうしようもないんだよ・・・」

844 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:56

 <ガシャンッ>

わたしの手からコンビニの袋が滑り落ちて
大きな音を立てる。

驚いた彼女が離れようとしたのを
背中に腕を回して阻んだ。

「・・・この半年、いっぱい泣いたの。
 すごくすごく苦しくて。辛くて。切なくて。悲しくて・・・」

だけど、ずっと。
ずっとずっと、あなたのことが――

845 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:57

「あなたがいなくなって、
 何度も諦めようって思って。
 身分が違うって、叶わない恋だって。
 何度も何度も諦めようって、そう思うのに――」

ずっと好きで、どうしても想いが消えてくれなくて・・・


「梨華ちゃん・・・」

「自分ではどうしようもないくらい
 わたしも・・・」

腕の中から、彼女を見上げた。


「――ひとみちゃんが・・・、好きなの・・・」

846 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:57

・・・んっ。

二度目のキス。

一度目と同じくらい強い想いが
体の中を駆け抜けていく・・・

けれど今度は、2人の想いが重なりあって、
深く繋がって、わたし達を幸せへと導いてくれる――


「好きだ・・・」
「わたしも」

お互いのおでこを合わせて見つめ合った。

847 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:58


「・・・あの〜・・・
 お取り込み中すみません・・・」

声に驚いて、抱き合ったまま振り向くと
以前、マコトさんを怒鳴りつけた隣の住人さん。

「そろそろ、その続きは、
 部屋の中でやってもらえませんかね?
 コンビニ行きたいんで」

あは・・・
アハハハ・・・

「「すみません・・・」」

2人して真っ赤になった。


848 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:58



849 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:58


――半年間、何してた?
――毎日ひとみちゃんのこと考えてた。

優しい瞳が、わたしだけを見つめてくれる。

――毎日ひとりで飲んでたの?
――そうだよ。だって、ひとみちゃんがいないんだもん・・・

王子様のキスは一度きりじゃなくて
何度も何度も、わたしの唇にふり注ぐ・・・

――ごめん・・・止まんないかも・・・
――あやまらないで?わたしもだから・・・


850 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:59

っん・・・んんっ・・・

どんどん深くなる口づけ。

お互い愛し合ってたら、
物語みたいな軽いキスじゃ足りないもん。

もっと触れ合いたい。もっと近づきたい。
もっと、もっと、もっと――

「梨華・・・」

コタツに入って、抱きしめあって
熱いキスを交わす・・・

彼女の手がわたしの腕をすべって
指と指を絡ませて繋いだ。

「――これ以上したら、心臓・・・止まっちゃいそう・・・」

目の前の端正な顔が苦笑いをする。

851 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:59

「・・・初恋だから」

そっか・・・
ひとみちゃんにとっては、わたしは初恋の人なんだ。

「・・・ふふ。何か嬉しいかも」
「どうして?」

「ひとみちゃんのこと
 ぜ〜んぶ、ひとりじめできるから」

優しい笑顔。
大好き、ひとみちゃん。

「・・・んっ」

彼女の首に腕を回して
自分から口づける。

彼女の初めてが、全部わたしだなんて
嬉しくて仕方ないよ。

852 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 10:59

「・・・っん。待って・・・
 お願い・・・タンマ・・・」

「なによぉ・・・」

思わず、唇が尖る。

「唇がヒリヒリするんだもん」

薄い唇が真っ赤になってる。

「ちょっとだけ休憩。ね?」

伸ばしてくれた腕に、そっと頭を乗せて
彼女の胸の中におさまった。

853 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 11:00

「・・・ねぇ。ひとみちゃんのお相手の方って
 国の有力者だったんでしょ?
 ほんとに大丈夫だったの?」

キスの合間に、彼女が過ごした半年を教えてくれた。

成婚式の朝に、相手に破談を申し入れたこと。
お父様、お母様はもちろん大激怒なさったこと。
だけど彼だけは、彼女の味方をしてくれたこと。

国民にも彼女から直接事情を話して、許しを請ったこと。
退位する決意でいたのに、意外にも国民が支持してくれたこと。
それから半年かけて、国の法律を変えて同性婚を認めさせたこと。

そして――

わたしを迎えに来たこと・・・

854 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 11:01

「大丈夫だよ。
 梨華ちゃんを迎えに行ってくるって言ったら
 皆にバレないように、替え玉用意してあげるって言って
 協力してくれたんだ」

「じゃあ、彼以外には内緒で
 日本に来たの?」

「マコトも知ってるよ?
 もし何かあったら、すぐ連絡がくる。
 けど、アタシの替え玉、そっくりだから
 しゃべんなきゃ2、3日は大丈夫だって」


 <♪♪♪♪♪>

言ったそばから、ひとみちゃんの携帯が鳴って
2人して固まる。

855 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 11:01

「・・・た、多分。様子伺いだよ・・・
 きっと・・・」

不安げな眼差しのまま
ひとみちゃんが起き上がって、携帯を手に取った。


  『女王さま〜〜〜っ!!
   替え玉がゆでたまごにつられて
   正体をバラしちゃいましたーっ!!!』


ひとみちゃんが、大きなため息をつく。

「ごめん、梨華ちゃん。
 アタシ一旦帰る」

ひとみちゃん・・・

「でも絶対。
 絶対また迎えにくるから」

ひとみちゃんがあの青い帽子を
わたしの頭にのせた。

「必ず来るから、ここで待ってて・・・」


856 名前:第5章 投稿日:2012/04/03(火) 11:02



1ヶ月後、彼女は約束どおり
ここに来てくれた。

一国の王として、正式に日本にやってきて、
わたしと、わたしの両親に
わたしを王妃として迎えたいと頭を下げた。

何も知らなかった両親は
テレビカメラや記者の数に驚くと共に
彼女の凛としたたたずまいに
すっかり圧倒されてしまって・・・

「こんな娘でよければ
 どうぞもらってやって下さい」

なんて、2人揃って簡単に承諾してくれた。


857 名前:理想+1 投稿日:2012/04/03(火) 11:03

858 名前:理想+1 投稿日:2012/04/03(火) 11:03

859 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/04/03(火) 11:06

本日は以上です。 次回最終回となります。
また、お読みになった方が854-855で吹かないことを願います。
860 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/03(火) 11:08
待ってました
吹きましたが泣きました
最終回楽しみにしてます
861 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/03(火) 11:47
ヒー様.....いやヒー......笑わせていただきました。
862 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/03(火) 20:05
そう、そうなんです。
作り話のなかでぐらいは二人を、、、
最終回楽しみにしてます。
863 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/03(火) 20:23
ヒーのAAを貼りたくなりました(笑)
864 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/04/06(金) 10:34

>860:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 楽しんで頂けたらうれしいです。

>861:名無飼育さん様
 (0´〜`)<ヨカッタYO

>862:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 ご期待にそえていればいいのですが・・・

>863:名無飼育さん様
 (0´〜`)<ハルナYOゼッタイハルナYO!


では最終回となります。
865 名前:理想+1 投稿日:2012/04/06(金) 10:35

866 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:36

優しくふり注ぐ目映い日差しと、真っ青な海・・・

爽やかに吹き抜ける風が、わたしの体をふわりと包んで
穏やかな香りが鼻腔に届き、大きく息を吸い込む――

――幸せだな・・・

ジワジワとしみて行くように
心の中に温もりが広がって行く・・・

――うん。ほんとうに幸せだな、わたし・・・


大きなエンジン音が止まって
彼女が振り向いた。

「この辺にしよっか?」

微笑むと一層優しくなる目元。
わたしの理想を全て兼ね備える人。

867 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:36

ゆらゆらと揺れる波の上で
後ろからそっとわたしを包み込んでくれる
この国の風よりも、ずっとずっと心地いい彼女の腕の中。

「どう?この国は?」
「すごく好きだよ」

だって、あなたみたいに優しい。

「でもさすがに疲れたでしょ?」

確かに覚えることはいっぱいある。
言葉も風習もしきたりも――

このわたしが、一国の王妃さまになったなんて
いまだに信じられない。

劇的に世界が変わるみたいな出来事、起きないかなぁ。
って思ってたけど、ここまで変わっちゃうなんて・・・

思わず笑いがもれた。

868 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:37

「どしたの?」
「すごく幸せだから」

彼女の唇がわたしの頬に触れる。

「ここなら2人きりだよ。
 誰の目も気にしなくていいから」

王室を少しだけ窮屈に感じるのは
いつだって人目があるということ。

それになかなか慣れなくて
最初の一ヶ月は、すごくストレスを感じてた。

だって――

「まさかエッチの仕方まで
 指南されるとは思わなかった」

「あれはアタシが初めてだからだよ」

思い出して、思わず苦笑する。

869 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:37


  『いいですか、女王。
   まずは王妃のお召し物をお脱がせ下さい。
   次は、手でそっと王妃の肌に触れて――』


「王子の場合はさ、ちゃんと結婚する前に
 そういう教育を受けるんだよ。
 でもアタシは王女だったから受けてなかったし
 やり方わからないんじゃ、王妃に申し訳ないってさ」

「まさか、じいやさんの前でなんて
 思わなかったからビックリしちゃった」

脱がされる前に、もちろん阻止したよ。
『わたしが教えますから』って言って・・・

「じいや驚いてたね。
 王妃さまはご存知なのですか?!ってさ」

クスクスと笑う彼女の吐息が
首筋にかかってくすぐったい。

870 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:38

「今はちゃんとできてるかな?
 アタシ・・・」

細くて長い指が、胸元に触れる。

「・・・すごく、いいよ・・・」

中の素肌に直接触れられ
思わず声が漏れてしまう。

「かわいい・・・」
「・・・ダメ。ここじゃ・・・」
「大丈夫。岸からだいぶ離れてるもん。
 誰にも見えないよ・・・」

871 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:38

・・・ぁ・・・んっ・・・

敏感な場所に触れられて
カラダが反応してしまう。

でも――

「・・・ダイビング、しに・・・んっ・・・
 来た・・・ぁんっ・・・でしょ・・・?」

「あとで」

耳の後ろを温かい舌が這って
身震いしてしまう。

「・・・ね・・・、明るすぎて・・・
 はずかしい・・・よ・・・」

だってこんなキラキラ光る
太陽の下でだなんて――

872 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:39

「・・・イヤ?」

ずるいよ。
そんなに甘く緩んだ瞳で聞くなんて・・・

熱を持った2人の肌から、同じ香りが漂う――

不思議な香水。
普段は、穏やかな優しい香りを振りまくのに
こんな風に熱を持つと、甘くて妖しい媚薬のようになる・・・

――この国の王族だけに与えられる神秘の香水。

婚約を申し入れに日本に来てくれた時に
この香りがわたしから漂って、じいやさんが驚いたっけ・・・

あの後、『勝手に差し上げるなんて言語道断ですっ!』って
こっぴどく叱られたって、ひとみちゃん言ってた。

それにあの青色の帽子だって・・・

『王家の紋章が刺繍されているものを
 簡単にお渡しになるなんて、女王は何をお考えなんですかっ!』
って、すごい剣幕で怒られてた。

873 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:40

「・・・ねぇ、ダメ?」

可愛い人・・・
わたしだって、ほんとは
触れて欲しいって思ってるんだよ?

「このドレス、すごい綺麗なんだけど
 どうしても触れたくなっちゃうんだよ・・・」

甘えたようにそう言って、わたしの首筋にキスを落とす彼女。
そんな風にされたら、拒めないってわかっててさ・・・

彼女の腕の中で、クルリと振り向いた。
途端に彼女の目線が、吸い寄せられるように胸元へと滑り落ちる――

874 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:40

「・・・んもぉ」
「だってさぁ」

わたしが今着ているのは
あの日、飯田さんが用意してくれた紺色のドレス。

「本能だよ、仕方ないじゃん」

尖らせた唇に
わたしからキスをした。

唇を合わせたまま、すべるように
彼女の手がわたしの肌に触れ、
あっという間に頂を捕まえられる。

・・・っはぁ・・・ぁん・・・

「・・・梨華・・・」
「・・・な・・・に・・・?」

「――キレイだ・・・」

ドレスが床にすべり落ちた。

875 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:41

「・・・待って・・・、ひとみちゃん、も・・・」

胸元に寄せられたひとみちゃんの顔をあげさせて
今度はわたしが、彼女のブラウスのボタンを一つ一つ外して行く・・・

2人の時だけに呼ぶ彼女の名前。
だって本当の名前は違うし、王宮で呼ぶと
じいやさんに怒られちゃう。

でもやっぱり――

「キレイ・・・」

甘く緩んだその『瞳』が・・・

それに、このスッと通った鼻筋も。
薄くて柔らかい唇も・・・

そして何よりも、キラキラ光る太陽の下で、
より一層輝く、その真っ白な肌が――

最後のボタンを外して
彼女のブラウスも床に落とそうと、両手を肩に滑らせた。


876 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:41


 <ブロロロロロロッッ・・・・・・>

な、なに?
何の音?!

轟音がどんどん近づいてきて
その輪郭が見え始める――


  『女王さま〜〜〜っ!!
   船の上でなんておやめ下さい!!』

近づいてくる船の上で、拡声器を使って
こちらに向かって話しているのはマコトさん。

慌てたひとみちゃんが
両手を広げて、わたしを隠す。

  『パパラッチが狙ってるかもしれないんですよ!
   もう少し、お二方とも御自覚を持って下さいっ!!!』

877 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:42

「やべっ!梨華ちゃん
 早く服着て!」

床に落ちたドレスを拾い上げて
2人して、慌てて身だしなみを整える。


  『だ〜か〜ら〜っ!!
   お2人だけで、クルージングなんて反対だった――』

  『あんた、いつまでもツベコベうるさいのよっ!!
   どきなさいっ!!』

拡声器を奪われ、お尻ではじかれたマコトさんが
大きくバランスを崩して、船の上から落ちそうになるのを、
その人が片手で引っ張りあげた。

  『しっかり踏ん張りなさいよっ!!』


――誰?あの人・・・

878 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:42

  『あ〜あ〜
   ちゃんと聞こえてるわよね?
   ヒー!!ワタシよ、ワタシっ!!』

「お〜!マッツ!」

近づいてくる船に向かって
大きく手を振るひとみちゃん。

てか、あの人デカッ!
縦にも横にも――

「あいつ、アタシの婚約者だった人」
「へ?婚約者?」

だって、長いドレスに長い髪・・・

879 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:43

「マッツマン・グロックスっていうんだ」

何だか、どっかで聞いたことがあるようなないような・・・


  『ヒー!聞いてよっ!
   あらもう着くわね。ちょっとそっち行くから
   そのまま待ってて!!』

手にした拡声器をマコトさんに渡して
一瞬視界から消えたと思ったら、大きな板を担いで登場。


「ほらっ!あんた何してんの?!
 もっと船を近づけなさいよっ!!」

すでに地声で充分聞こえる――

880 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:43

「ヒー、危ないから
 ちょっとどいてて」

ひとみちゃんがわたしの手を引いて
言われた通り、脇によける。

「行くわよ〜
 それっ!!」

大きな衝撃で、よろめきそうになったけど
ひとみちゃんが支えてくれた。

881 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:44

2隻の船をつないだ板の上を「キャッ」とか言いながら、
迷いなく歩いてくる彼?彼女?

――何者なの?この人・・・

「よいしょっと!到着。
 もー、やっぱりヒーは男前だわ。
 添い寝でいいから一度してみたかったわ」

そう言いながら、ひとみちゃんとハグ。
そして隣にいるわたしと目が合う・・・

「キャー!やっだぁ!実物もかわいいじゃないのっ!
 ヒーのお嫁さんっ」

途端に飛びつくように抱きしめられる。
けど、ゴ、ゴツイ体・・・


――う〜んと・・・

ちょっと整理してみる。

882 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:44

長いドレスに長い髪。
キレイに仕上げられたお化粧。

ゴツイ体に野太い声。
近くで見上げると分かるヒゲのあと・・・

――も、もしかして・・・

いわゆる『オネエ』さま?!


「う〜ん・・・
 いい香りね・・・」

抱きしめられたまま、くんくんと首筋を嗅がれる。

「この媚薬のような香りをつけられるなんて
 それだけは、ほんっとウラヤマシイわっ!」

883 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:44

「だけど、ヒーったらダメよ。
 こんな太陽の下で、彼女のこと脱がしたりしたら」

両肩を掴まれて、そっと体を離すと
わたしをジッと見つめる・・・

「これ以上、彼女が真っ黒に焦げたらどうすんのよ、ねぇ?」

ニッコリ微笑んだけど
目の奥に少しだけイジワルさが覗いてる・・・

オネエさまが辛口なのは
各国共通なわけぇ?!


「それよりさ、ヒー」

そして、あっさり捨て置かれたわたし。

884 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:45


ヒーが言ってた『コタツ』
近隣諸国でバカ売れの予感よ?

完成図を見せたら、国内外から注文が殺到してるの。
これで、うちの会社もこの国も潤うわよ?

もちろん、完成第一号は
王室に献上するわよ。

彼女とイチャイチャしちゃってよ、もうっ!

近々、女王と王妃のお世継ぎを
科学の力で何とかしよう計画も国をあげて進めるって話しよ?

あなた達の子供なら、さぞ可愛い子が生まれるわ!
もう、ワクワクしちゃうっ!!

それからね、ヒーのおかげで、
ワタシも彼と結婚できることになったの!
ほんとにありがと。

あ、そうそう。
それともう一つ。

彼女の国、日本でね・・・

885 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:46

「瓦煎餅ってヤツが大ブームなんですって!
 何だかすごいことになってるわよ、あなた達」

そう言って、マッツさんは
わたし達に日本の週刊誌をくれた。

「じゃ、ワタシ達は帰るわ。
 あんまり目立つとこでイチャイチャするんじゃないわよっ」

バサッという効果音がつきそうな
ウィンクを残して、颯爽と元来た板を渡って行く――

「あ〜、まだ来ないで。
 コハルもそっち行きたかったのにぃ!」

板にへばりついて、ジワジワ進んでいた
コハルちゃんをマッツさんは片手で軽々と抱えると
元の船に戻って板を外した。

886 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:46

「コハルもお姉ちゃん達と遊ぶ〜〜っ!!」

「うるさいっ!
 お子様はジャマするんじゃないのっ!」

マッツさんが一喝すると
コハルちゃんがガックリうな垂れた。

少し年の離れたひとみちゃんの妹。
つまり彼女も王女。

「コハル!
 王宮に帰ったら、遊ぼう?」

「ほんと?
 王妃も遊んでくれる?」

「もちろん!」

少しずつ遠ざかっていく船に向かって
ニッコリ微笑んで手を振った。

887 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:47

「じゃあ、待ってるぅ!
 でも王妃、それ以上焼けないでよ?
 夜見えないと困るからぁ〜」

あの子・・・
いつもだけど、一言多いのよねぇ・・・

轟音と共に、船が小さくなって行くと
また穏やかな時間が戻って来た。


「・・・あ、これ。
 矢口さんの店だ・・・」

ひとみちゃんが見ていた
週刊誌を横から覗き込む――


888 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:47


  [ご成婚記念 『瓦煎餅』が大ブーム
   
    先日ご成婚されたヒー女王と、日本人女性の石川梨華さん。
    連日テレビや新聞で、お2人の馴れ初めやご生活ぶりが
    報道されているが、突如起こったシンデレラストーリーに
    日本でも大きなブームが起きている。

    その中の一つが、今話題の『瓦煎餅』
    お2人のお名前が並んでいるだけだが、そのシンプルさと
    本来のお2人の美しいお姿を汚さないと言う理由で
    日本各地から注文が殺到している。

    老舗煎餅屋が発売したこの商品。
    実は、このお二方と日本在住時に親しくしていたという
    矢口商店の女将の発案だというから驚きだ。
    友人のご成婚と瓦煎餅の売れ行きの2重の喜びに
    女将の矢口真里さんは笑いが止まらないと言う]

889 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:48

「なんかさ・・・」
「なんかね・・・」

「「想像つくね。矢口さんの高笑いが」」

2人で顔を見合わせて笑った。
だって、あの笑いが聞こえてきそうなんだもん。

「みんな、どうしてるのかな・・・?」

日本のものに触れると
ふとよぎる懐かしさ・・・

「今度招待しようか?
 常連のみんなも。梨華ちゃんのお父さんもお母さんも。
 みんな来てもらおうよ」

再びふわりと後ろから包まれた、わたしの体。

「・・・いいの?」

「たまには日本に行こうか?
 また替え玉使って」

クスクス笑う彼女。
またすぐバレちゃうでしょ?

890 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:48

「バレたっていいよ。
 アタシが国王なんだもん。
 国の繁栄のために、日本とももっと友好を結ばなきゃ」

んっ・・・

肩越しのキス。
もう数え切れないほど、彼女とキスしてるけど
いつだって、どんな時だって、胸の奥から
愛しい気持ちがあふれ出してくる――


「・・・いいよね?」
「うん・・・」

彼女の手が、わたしの素肌に触れた。

891 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:49


優しくて
スポーツ万能で
中性的で
大人で
背が高くて
笑った時に目が優しくなる

わたしの理想の王子様は

理想の条件に、更に一つプラスして
一国の国王となって、わたしを迎えに来てくれた――


892 名前:第6章 投稿日:2012/04/06(金) 10:49


「愛してるよ」
「わたしも愛してる」

わたしがいるのは、おとぎの国じゃない。


「・・・んっ・・・ぁ・・・好き・・・」
「・・・ハァ・・・アタシ、も・・・」

あなたが治めるこの国をわたしも共に愛していく。


「・・・ひとみ・・・」
「・・・梨華・・・」

だって、この海よりも深く
この空よりも大きく、あなたのことを愛しているから――

893 名前:理想+1 投稿日:2012/04/06(金) 10:50

894 名前:理想+1 投稿日:2012/04/06(金) 10:50


      終わり


895 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/04/06(金) 10:55

『理想+1』無事完結いたしました。
今作はいかがでしたでしょうか?
今回は痛いとみせかけて、後半大分遊びました(笑)
話の設定自体に色々無理があるので、まあいいかなと・・・

勘がえらく鋭い方は、途中で矢口さんが煎餅屋の女将だと
紹介した時点で、おや?と思われたかもしれません。

とにもかくにも、最後までお付き合い頂き
ありがとうございました!

896 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/04/06(金) 10:55

897 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/04/06(金) 10:55

898 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/04/06(金) 10:55

899 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/06(金) 12:01
最終回更新ありがとうございます。楽しかった面白かったとてもよかったです!いろんな登場人物のサイドストーリーが知りたいですな例えばヒーとか....
900 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/06(金) 19:29
最終回お疲れ様でした!痛いとみせかけられてました(笑)
小ネタがヤバいです!
面白かったです。ありがとうございました
901 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/06(金) 20:38
玄米ちゃさま、やり過ぎwww
ハンカチ用意してたのにw
902 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/04/11(水) 15:27

>899:名無飼育さん様
 こちらこそありがとうございます!
 サイドストーリーは全く考えてませんが
 気が向いたら書いてみますかねぇ。

>900:名無飼育さん様
 こちらこそありがとうございます!
 楽しんでいただけたようで良かったです。

>901:名無飼育さん様
 あ、やっぱり?
 自分でもそう思います。


さて本日は、勝手に生誕日前の恒例としつつある
リアル短編をお送りいたします。

それではどうぞ。
903 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:28

904 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:28

『Four seasons』

905 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:29


 『今年は一緒にいられなくてごめんね?』
 『なーに言ってんだって。
  舞台のことだけ考えてなよ』
 『そうだけど…』
 『大きな自信つかむんでしょ?』
 『うん!ありがとう、よっすぃ!』

抱えきれないほどの不安と、気を許すと湧いてくる弱気。
やるべきことはやったという自負と高揚感。

色んな感情を覗かせる彼女の瞳を閉じさせて、
まぶたにそっとキスをした。

 『大丈夫。梨華ちゃんならやれるから』

心にあるプラスの感情を
大きくしてあげられるのは、アタシだけ。

906 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:29

 『大丈夫。絶対大丈夫だよ』

華奢な体をギュッと抱きしめる。
根拠なく言ってるわけじゃない。
全力で戦う姿をアタシが一番近くで見てきたんだ。
だから絶対、絶対大丈夫だよ。


 『よしっ!頑張ってくるねっ!』


こうして、華のように晴れやかに微笑む彼女を
送り出したのは、一週間以上も前のこと。

強いプレッシャーを跳ね返し、
アタシの自慢の恋人は見事に羽ばたいた――

907 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:29



908 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:30

「明日は家に帰ってくるんでしょ?」
「うん」
「久々に本人がいる誕生日になるのねぇ」

ニヤリと微笑みながら言う母さん。
親子とはいえ、その意味深な笑みが似すぎてて怖い。

「なんだ。今年は仕事仲間とじゃなくて良かったのか?」

心配そうに言いながら、
顔はこれ以上ないほど嬉しそうな父さん。

「やだあなた。
 今年は梨華ちゃんが、お仕事でずっと
 東京にいないから家なのよ?」

だから、そのニヤニヤ顔はやめろって。

「そうなのか?」
「そうよ。大きな舞台なのよね?ひとみ」
「うんまあね」

909 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:31

「いくらねぇ。ひとみが梨華ちゃんの
 『アレ』だからって今回ばかりはねぇ・・・」

<グホッ>

思わず酒を吐き出しかけた。
アレって言うな!

「アレかぁ。そうだよなぁ・・・うん。」

この鈍感オヤジ、
ついにアタシ達の関係に気付いたのか?!

「・・・で、ひとみ。
 『アレ』ってなんだ?」

<ブーッ!>

たまらず盛大に吐き出した。

910 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:31

「やだもうっ!ひとみったら!」

ほら拭いて。

ふきんを手渡されて、テーブルやら服やらを
拭いていると、携帯が震えた。

すかさず画面を覗きこむ母さん。

「あら。噂をすれば…」

なんて目を細める。

「おー梨華ちゃんからか?
 ほんと綺麗になったよなぁ。
 で、母さん。ひとみが梨華ちゃんのアレなのか?」
「当たり前じゃない」
「だからアレってなんだ?」

両親の会話を背に、
そそくさと席を立って自分の部屋に向かう。

911 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:32

アタシ達の関係に気付いてないのは、うちの父さんだけ。
梨華ちゃんとこは両親ともに公認だってのに、
ほんと勘が鈍いつーか、なんつーか・・・


「…もしもし」
『ごめん。今忙しかった?』

愛しい声が耳に飛び込んできて思わず頬がゆるむ。

「大丈夫。家だよ」

「なあ、アレって一体なんなんだ?」
一人、首をひねり続ける父さんを
視界から消そうと、部屋の扉を閉めた。

912 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:32

「そっちはどう?順調?」

順調なんだって、彼女の第一声を聞いただけで
もう分かってる。
だからあえて聞くんだ。

『おかげさまで』

ビンゴ。思わずニヤリとして、
さっきの母さんの顔を思い出して、自分の頬をつねった。

もし第一声が落ち込んでたら、
お腹がよじれるほど、笑わせてあげられるくらいの
バカ話は用意してたんだ。

『10分前にかけないと、誰かに先越されちゃイヤでしょ?』

今の時刻は午後11時50分。

『離れてたって、一番におめでとうが言いたいんだもん』

つねってたって、緩む頬はもう仕方ない。

913 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:33

『麻琴とかここぞとばかりに
 一番を狙ってきそうでしょ?』

「ふはっ・・・」

思わず笑いがもれた。

『何よぉ・・・』
「嬉しいよ」
『それだけ?』
「かわいい」
『このタイミング?』

声だけで、お互いが笑顔になってるのがわかる。

「んじゃ、最高の恋人が
 今年も誕生日を祝ってくれて、超幸せだよ」
『んじゃが余計』

914 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:33

「・・・なんか新鮮だね」
『なにが?』
「遠距離恋愛みたい」
『ふふっ。そうだね』

声だけで繋がるって
余計にお互いの気持ちを、敏感に感じとれる気がするよ。

「でもずっとはヤだよ」

素直な気持ち。
当たり前のように、いつも隣にいる彼女がいない。

『わたしだって』

大事にしなきゃ。
少しでも離れると、いつだって強く想うんだ。

915 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:34

『あっ!あと10秒!』

8、7、6、5、4、3、2、1・・・

『ハッピーバースディ!!』

ひときわ高くなる弾んだ声に
嬉しさが込み上げてくる。

「サンキュ」
『んもぉ・・・もっと喜んでよぉ』
「喜んでるってば」
『劇的に言ってよぉ。
 見えないから伝わらない』

うそつけ。
ニヤついてんの、バレバレだぞ。

『ほらっ。言ってってばぁ。
 梨華、27歳も全力で愛すよって』
「はあ?」

916 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:34

『いいじゃない。愛してるって言ってよぉ』
「いつも言ってるじゃん」
『27歳になった、ひーちゃんから聞きたいのぉ』
「帰ってきたら言うって」
『今がいい』

ったく、こいつは・・・

「あいしてるぜ」
『ミスムン調じゃなくて』

頬が熱くなってくる。

見えないから
声色で伝わるから
抱きしめた時に思わず漏れる言葉じゃないから・・・

改めて言うなんて、余計に恥ずかしいんだよ。

917 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:35

「だからさ・・・あいしてるってば。
 ずっと。この先も」

『・・・ひーちゃん、今耳も首も真っ赤でしょ?』

ほら、わかっててやってる。

『いいよ。今日は許す。
 その代わり、帰ったら一番に抱きしめて
 愛してるって言って』

ちょっとだけマジな声。

「帰ってきていきなり?」
『うん』
「おかえりじゃなくて?」

『愛してるがいい』

電波に乗って、寂しさが伝わってきた。

918 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:35

「わかった」
『ほんと?』
「もちろん」
『やったぁ!』

今日もアタシは、あなたを華のような笑顔に出来たかな?

いつだってアタシは、
彼女の華のような笑顔を守りたい。

この先もずっと。
2人が生涯を終えるまで。

ずっと・・・ずっと・・・


なかなか切れない電話を切った後も
アタシはしばらく携帯を握り締めて
彼女のぬくもりを、この手に抱きしめていた――

919 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:36



920 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:36


「いってきま〜す」

家の玄関を開けようとしたところで
チャイムが鳴った。

「郵便よ。さっきエントランスから連絡あったから」

母さんの言葉に、安心して扉を開ける。

「速達です」

手渡された手紙。
アタシ宛だ・・・

けど、この特徴的な字。
送り主は――

 [石川梨華]

921 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:37

「あら、愛しの『アレ』からじゃない」
「アレって言うなって」
「じゃあ、恋人って言っていいわけ?」

――それは…

「ほら真っ赤になるクセに」

母親というものは、実に恐ろしい。

「いつまでも突っ立ってないで
 気をつけていってらっしゃい!」

ニヤニヤ顔と共に送りだされた。

922 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:37


待たせていた車に
礼を言って乗り込んだ。

手にしたままの、淡いピンクの封筒を
几帳面にゆっくり開けていく――

なんかドキドキすんな・・・

中から2つに折られた便箋を取り出して
そっと開くと、何かがハラリと落ちて、アタシの膝の上に着地した。


――桜の花びら・・・


優しく拾い上げて、手元の便箋に目を通す――


923 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:38


  大好きなひーちゃんへ
   
   お誕生日おめでとう。これからもずっとずっと宜しくね。
   お誕生日プレゼント、直接あげられないから、こんなのどうかな?

   『ひとみ殿限定 石川梨華一生独占権!!』
   なんちゃって。

   今年は遅咲きだから、ほんとはお誕生日に
   久しぶりに一緒に桜を見に行きたかったんだよなぁ・・・
   来年も遅咲きになれ〜
   同封した花びらは、こちらで咲いている桜の花びらです。
   東京の桜と一緒に、これを見て毎日わたしを思い出してね。

   帰ったら、一番にひーちゃんに会いに行くから。
   その日を思って、全力で頑張ります!

   最後に・・・
   これまでも。これからも。ずっと、ずぅ〜っと。

   『愛してるよ』

           石川梨華より

924 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:38

「ふふ・・・ありがと・・・」

思わず声に出してた。

おや?と言うように
ルームミラーを見て、微笑んだ運転手さん。

「何かいいことありました?」
「ええ」

お互いに微笑み合った。

窓の外に目を移すと、ゆっくり流れる景色の中で
風に揺れる桜の枝から、花びらが舞い落ちていく・・・

925 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:39

久しぶりに離れて迎えた誕生日。
いつにも増して、愛しい想いが降り積もってくみたいだよ・・・

いや、違うか。
毎年、毎日。どれだけそばにいても
どんどん降り積もっていくんだ。

だからさ・・・

移ろい行く季節の中で、
変わらない愛を今日も誓うよ。

そして、願いをかけよう。

926 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:39

春に咲く花びらのように。
夏に降り注ぐ日差しのように。
秋に色づく葉のように。
冬に舞う雪のように。

四季を彩るすべてのものに、願いをかけるんだ。
2人の想いが、ずっとずっと降り積もって
いつまでもいつまでも、続いて行きますようにって・・・

花びらに願いを
太陽に願いを
紅葉に願いを

そして

雪に願いを――

927 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:40


  [ 石川梨華一生独占権

    確かに受け取ったよ

    『愛してる』

    いつだって言うから

    だから今日も頑張れ ]


送信ボタンを押して、手元の封筒に
そっとキスを落とすと、また窓の外を眺めた――


928 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:40

929 名前:Four seasons 投稿日:2012/04/11(水) 15:40


     おわり


930 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/04/11(水) 15:40

お粗末さまでした。

931 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/11(水) 17:14
読んでる自分も(0´∀`) になりました
1日早いですがよっすぃお誕生日おめでとう!
そしてまだまだ始まったばかりですが梨華ちゃんが元気で千秋楽を迎えられるよう祈ってます!
932 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/11(水) 18:45
甘い…。
ごちそうさまでした。
933 名前:v 投稿日:2012/04/11(水) 21:43
あまああああああああああいいいい
よっすぃ〜お誕生日おめでとう!!!!!!!!
934 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/11(水) 22:45
最後の3レスで鳥肌
これだから玄米ちゃヲタを辞められない
935 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/12(木) 00:26
鼻血が止まらん!やっぱり玄米ちゃ様のことが好き......かも........
936 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/04/27(金) 23:53

>931:名無飼育さん様
 無事終わりましたね。
 見事な完走尊敬します。

>932:名無飼育さん様
 食あたりにお気をつけ下さい。

>933:v様
 絶叫頂きました。

>934:名無飼育さん様
 嬉しいお言葉をありがとうございます。

>935:名無飼育さん様
 御礼は鼻栓でよろしいでしょうか?

937 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/04/28(土) 00:01

さて、本日ですが…
先に弁明させて頂きますと、書くつもりなんて
これっぽっちもなかったんです。

なのに、ちょっぴりお酒が入りましたら
なんだか無性に気になっちゃいまして…

ちゃんと『一番に抱きしめて、愛してる』って言えたかな、なんて。

ええ、そうです。
『Four seasons』の続きです。

ああ、自分本気でキモイ…

ほろ酔い気分で一気に書いて、
そのまま勢いだけで上げてしまうという駄作ですが、
それでも構わん。どんと来い!な方だけどうぞ。

938 名前:Four seasons 2 投稿日:2012/04/28(土) 00:01


  『Four seasons 2』

939 名前:Four seasons 2 投稿日:2012/04/28(土) 00:03

久しぶりの我が家。
やっとゆっくり休める・・・

お部屋荒らしたまんま、飛び出しちゃったからなぁ・・・
ママにお片づけ頼んだけど、忙しくって来れなかったって言ってたし・・・
その上、暗い部屋に帰るの、イヤだなぁ・・・

キャリーバッグをゴロゴロと引きながら
エントランスを抜けて、エレベーターに乗り込む――

――え〜っと・・・、う〜ん・・・

何か忘れてるような気がするんだよねぇ。
・・・なんだっけ?

気だるい体を壁に寄りかからせたまま
エレベーターの上昇に合わせて、考えてみる。

お家に帰る前にしようと思ってたこと、
一番にしようと思ってたこと、あったはずなんだよな・・・
こういうモヤモヤ感、スッキリしなくてヤだよねぇ。

940 名前:Four seasons 2 投稿日:2012/04/28(土) 00:04

ひーちゃんがらみのことかなぁ・・・?

いやいや、このわたしがひーちゃんがらみのことで
忘れるなんてこと、あるわけがない。

たとえ、ひーちゃんが忘れてたとしても、だ。
わたしが忘れるなんて、絶対にない・・・・・・はず。

だって、だって!
ずっとずっと好きだったのは、わたしの方だし。
基本的にわたしの方が、常にひーちゃんに夢中だし。

それにわたしだったら、ひと月近くも離れてるのは耐えられないもん。

941 名前:Four seasons 2 投稿日:2012/04/28(土) 00:04

疲れてるんだろうなって思っても
毎日、声が聞きたい。

ワガママだって分かってるけど、
自分撮りした写真を添付して、会いたいって
メールだって送っちゃうだろうし・・・

ひーちゃんみたいに、相手がアクションを起こすまで
スマートに待ってたりは出来ない。

けど・・・
今回ばかりは正直助かった。

ほんとにほんとに、いっぱいいっぱいで。
自分のタイミングで、ひーちゃんに電話かけて
ひーちゃんの声が聞けたこと。

すごくすごく力になったんだ。

そう思うと、ひーちゃんて出来た恋人だよね・・・
わたしには勿体ないくらいだったりしちゃう?

ヤダ、そんなの!
絶対ヤダヤダッ!!

942 名前:Four seasons 2 投稿日:2012/04/28(土) 00:06

 <チーン>

疲れ切った脳がマイナスに振り切れる前に
エレベーターが軽い音を鳴らして、
目的階についたことを教えてくれた。

――あ〜あ。会いたいな、ひーちゃん。

お部屋に着いたら、メールしようかな・・・

会いたいよって。
いますぐ会いに来てって――


 <カチャリ>

鍵を回して、扉を開けた――


――あれ?明るい・・・

943 名前:Four seasons 2 投稿日:2012/04/28(土) 00:07


廊下からひょっこり出された顔。

「おかえ・・・ゴホン」

わざとらしい咳払いなんかをして
視線を外しながら、鼻の頭をかきかき
わたしの目の前にやってくる、愛しい恋人・・・

嬉しいんだけど。
いてくれて、会えて、すごく嬉しいんだけど・・・

「どうしたの?」

だって何か、すごい照れてる。

「ん?帰宅待ち?」

なんで疑問系?
それより、真っ赤だよ?顔。

944 名前:Four seasons 2 投稿日:2012/04/28(土) 00:07

不思議顔のまま、覗きこんでたら、突然抱きしめられた。
靴も脱がずに、玄関口で。

何?ど、ど、どうしたの?
何か嫌なことでもあった??

「・・・愛してる」
「――へ?」

「だからあ!言ったじゃん!」
「何を?」

「・・・まさか、覚えてない・・・とか?」

体を離されて、しばし目が合う・・・

「マジかよ・・・信じらんねぇ」

呆れたように、踵を返したひーちゃんに
靴を脱いで、慌てて付いていく。

945 名前:Four seasons 2 投稿日:2012/04/28(土) 00:08

「待って待ってひーちゃん。
 どういうこと?」

背中を追いかけて、リビングに入ると目に飛び込んできた、
色とりどりのご馳走と整頓されたお部屋。

くるりとひーちゃんが振り返って
わたしを凝視する。

とりあえず、怒ってはいない・・・みたい。

946 名前:Four seasons 2 投稿日:2012/04/28(土) 00:08

「はあ〜〜〜」

大きくため息をついて
わたしの前に正対する。

被っていた帽子を取られ、メガネを外され
羽織っていた上着を脱がされた。

「おかえり」
「・・・あ、うん。ただいま・・・」

――その綺麗な顔で見つめるの、反則だよ。

「よく頑張ったね」

そのまま引き寄せられて、わたしの体は再び
ひーちゃんの温かい腕の中。

「会いたかった・・・」

耳元で囁かれた声に、涙が溢れそうになって
グッと堪えて、ひーちゃんの背中にしがみついたのに・・・

947 名前:Four seasons 2 投稿日:2012/04/28(土) 00:09

「すげぇ会いたかった」

そう言って、唇を合わせるから
堪えた涙が零れ落ちた。


長い長いキスの後、
ひーちゃんがわたしの額に自分の額を合わせて言う。

「自分で頼んだクセに覚えてないの?」

からかうような言い方。

948 名前:Four seasons 2 投稿日:2012/04/28(土) 00:09

「アタシ、喜ばせたくて
 頑張ったんだけどなぁ・・・」

誕生日の時さ、電話くれて言ったじゃん。

 『帰ったら一番に抱きしめて
  愛してるって言って』ってさ――


あ・・・

「思い出してくれた?」

いたずらっぽく覗き込んだ大きな瞳。

「どうよ?」
「嬉しかった」
「ほんとかよ」
「ほんとだよ!すごく嬉しかったもん!」

ほんとにすごく、愛を感じたよ?

949 名前:Four seasons 2 投稿日:2012/04/28(土) 00:10

ニッコリ笑って、ひーちゃんに抱きついたら
わたしを抱きとめたまま、2、3歩下がって
後ろ向きのまま、ソファーに倒れこんだ。

「ノックアウト」
「なによぉ」
「その笑顔」

腕に力を入れて、起き上がって
ひーちゃんを見下ろした。

「よっすぃ、梨華にノックアウト」
「自分の曲の名前、変な風に変えないで」
「だってほんとだし」

グッと引き寄せられて、またまたひーちゃんの腕の中。

950 名前:Four seasons 2 投稿日:2012/04/28(土) 00:11

♪ だってだってBaby 愛愛会いたいわ・・・ ♪

わたしだけに歌ってくれる。
優しい優しい、大好きな声。

この声に、この温もりに。
わたしを包み込むあなたの全てに。

わたしは、いつだって力をもらって
何もかも乗り越えてきた・・・

「ありがと・・・」
「ん?」
「充電完了したみたい」
「アタシは充電ホルダーか?」

柔らかな笑い声が、胸から直接伝わってきた。

951 名前:Four seasons 2 投稿日:2012/04/28(土) 00:11

「食べよっか。
 お腹すいてるっしょ?」

ポンポンと背中を叩かれる。

「機嫌悪くならないうちに、食べてもらわないと。
 そんでその後は、アタシも頂きたいし?」

なんて言ってニヤリと笑う。

「頂くって何を?」

わざととぼけてみる。

「決まってんじゃん」

妖しい光りを纏った大きな瞳が、
わたしを覗き込んだ。

「極上のデザート」

石川梨華一生独占権。
さっそく使わないとね?

952 名前:Four seasons 2 投稿日:2012/04/28(土) 00:12

エッチ。バカ。
でも、いいよ。

そんな想いを込めて、目の前の薄い唇に
チュって口付けた。

「よっしゃ!さっさっと食おう!」

勢いをつけて、一緒に起き上がって
手を繋いだまま、ダイニングテーブルに向かう。

953 名前:Four seasons 2 投稿日:2012/04/28(土) 00:12


 『大丈夫。梨華ちゃんならやれるから』
 『大丈夫。絶対大丈夫だよ』

彼女が励ましてくれるから、わたしはいつだって全力で頑張れる。

彼女が支えてくれるから、
彼女が両手を広げて待っててくれるから、
彼女が愛をくれるから

365日。
どんなに季節が巡っても
どんなに年月を重ねても

――わたしはずっと幸せでいられる。

954 名前:Four seasons 2 投稿日:2012/04/28(土) 00:13

「ねぇ、ひーちゃん」
「ん?」

食卓を整える彼女を手伝いながら、尋ねる。

「幸せ?」

突然の質問に、一瞬不思議そうに片眉を上げたけど
すぐに綺麗な顔を思いっきり崩して微笑んだ。

「ったりめーじゃん」

良かった・・・

これからもずっと。
ずっとずっとず〜〜っと。

2人が生涯を終えるまで。

いくつもの季節を抜けて
いくつもの歳月を越えて

数えきれないほどの幸せを、一緒に紡いでいこうね?

955 名前:Four seasons 2 投稿日:2012/04/28(土) 00:13


956 名前:Four seasons 2 投稿日:2012/04/28(土) 00:14


    おわり


957 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/04/28(土) 00:15

ほんとにお粗末さまでした。
958 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/28(土) 00:23
玄米ちゃ様へ
甘すぎてとても最高です!今夜はもう一回読んで幸せな眠りにつきたいと思います!
959 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/28(土) 07:43
これまたあまああああああああいいいいい
なのに読み終わった時に目から汗が出てたのは
何ででしょうね
960 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/05/22(火) 16:23

>958:名無飼育さん様
 安眠できましたか?

>959:名無飼育さん様
 気のせいですよ、きっと。


さて、ABCHOウィークな今週。
濃くて楽しい日々が続いてますが、本日はそれをちょいと置いといて
ドリムスメンバーも登場でリアル短編なぞを。

正直たいした話ではありません。
次回から始める予定の新作が、あまりにも痛すぎて
気晴らしに書いたボツ候補にもなりかけたお話です。
暇つぶし程度でお読み頂ける方のみ、どうぞ。

961 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:23


  『愛で乾杯!』

962 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:24

「姐さんってばぁ、呑みにいきましょおよぉ〜」

一回り下の後輩に甘えられて、思わず中澤裕子の頬がゆるむ。
が、久しぶりに偶然事務所で出くわしてから、ずっとこれでは閉口する。

「ね、行きましょ?
 呑みましょ?
 酔っ払いましょーよぉ〜」

一昔前なら、とっくにキレていただろう。
だが、相手もその辺の駆け引きは、体得しているらしい。

「いいでしょ?姐さぁ〜ん」

大きな瞳がキラキラ輝いて
まるで犬のようにジャレついてくる。

犬好きな中澤のツボを絶妙につく高度なテクニック。
しかし、これはあくまでも天然であり、計算ではない。
てか計算できるような脳みそは、残念ながら持ち合わせていない。

「武道館の打上げ、全員参加じゃなかったんですよ?
 それってマズくないですか?ね?ね?」

そんなにマズイ問題でもない気がする。
現に地球は回っている。個人個人の活動も至極順調に進んでいる。

963 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:25

「だって梨華ちゃん、うるさいんスよ」

やっぱり、そこか!

「わたしも行きたかったぁ〜って。
 ほんとに誰にもお持ち帰りされてないでしょうねって。
 チクチクチクチク、うるさいんですよ」

公共の電波を使って、ちゃんと弁明しとったくせに・・・
なんて思っても、口には出さない。
今の中澤は実に寛大だ。

「ね!だからこの通りです!」

目の前で両手を合わせる可愛そうな旦那。

「お願いしますよ!ね?」

中澤が大きくため息をつく。
その脳裏によぎる四字熟語は[反面教師]

『ウチは旦那にこんな思いはさせんようにしよう』
そう心に固く誓って、中澤は頷いた。

964 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:25




965 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:26


「安倍さ〜ん!」
「なんだい?」
「うへへ・・・」

ほろ酔い気味の裏番長に
一番年下のミラクルが甘える。

「葉たまねぎ、今年もあげますね?」
「ほんと?楽しみにしてるよ〜」
「・・・ぐふふっ。裏番手なづけ作戦、継続中」
「ん?何か言ったかい?」

「いいえ。安倍さんだいしゅき〜!!」

966 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:26

一方、その向かい側では――

「カオリね、おかしいの」
「きゃははっ。カオリはいつもおかしいよ。
 何なら矢口が油さしてあげようか?」

どこにさせば円滑に動くのだろうと
しばし考えてみたりもする。

「違うの。実は記憶喪失かもしれないって思ってるの」
「記憶喪失?
 交信してるだけでしょ?」

「違うんだよ!だってね、カオリは2代目リーダーなんだよ?
 次は3代目でしょ?なのにおかしいの。
 パンフレットで4代目にとんでたんだよ?
 カオリはね、よっすぃ〜に託した記憶ないのに・・・
 ねぇ、おかしいと思わない?」

「・・・えっと・・・、あ、そうそう。
 裕ちゃ〜ん。こないだのあれさぁ・・・」

ここは、逃げるが勝ちだ。

967 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:27

「あ、そうだそうだ!
 随分前に美貴ちゃんから、親分宛の封筒預かってたんです」

かしましい会話が盛んに飛び交う中
小川麻琴が幾人かを掻き分け、吉澤ひとみの元へと駆けて行く。

その様子を、早くもベロベロになりながらも
しっかりとチラ見する、この会の裏発起人、石川梨華。
その横では、一人ちびちびと酒をすする保田圭の姿が――

「・・・フフッ。みんな楽しんじゃって〜」

目を細めて全員を見守るように言うが
彼女は主催者でもなんでもない。

968 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:27

「はい、これです!」

陽気にはしゃぐ、今夜の表発起人、吉澤ひとみの前に、
勢いよく差し出された一通の茶封筒。

表書きには、『吉澤ひとみ様 親展』
と几帳面に書かれている。

「・・・なにこれ?アタシの親宛?
 『吉澤ひとみ様 おやどの』って書いてある」

ブーッ!!

隣で思わずビールを吹き出す
一応の主催者、中澤裕子。

「うわっ、裕ちゃん汚いよ!」

非難の声が、先ほどの地味な攻撃から逃れてきた
矢口真里からあがる。

969 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:28

「ごめん、ごめん!」

飛び散った飛沫の対応に追われていると
矢口の隣から、いつの間にか現れたミラクル
久住小春が身を乗り出した。

「吉澤さん、そんな字も読めないんですか〜?
 それはね『おやってん』て読むんですよ?
 小春でも読めるのに」

読めてはいない。

「そうだよ。
 北海道の地名なんだよ、よっちゃん知らないの?」

悪ノリして、まことしやかに嘘を教える
恐るべき裏番長、安倍なつみ。

970 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:28

「へー、小春もモデルになると賢くなるんだね!」

感心してないで、嘘に気づけ。

「あ、そっか!
 安倍さん道産子ですもんねっ」

麻琴よ、お前もか・・・

どうやら、この親分子分は、少しばかりアタマが弱いらしい。
なぜ、北海道出身者が相手の名前の横に地名を書く必要があるのか、
よくよく考えてみて欲しい。

「で、ここって、安倍さん家と美貴ん家の
 どっちに近い訳?」

それを聞いてどうする?
てか、『おやってん』なんて地名は
日本にはないことに、いい加減気づけ。

971 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:29

「ちゃうわ!」

たまりかねた中澤の一喝に
首をすくめて舌を出す安倍。

中澤は少しばかり危惧している。
おバカブームが去った今、多少の常識はメンバーには備えていて欲しいと・・・

「それは『しんてん』って読むの。
 よっちゃんしか開けちゃいけないってこと!
 なっちも小春もウソを教えたらあかんよ。
 もしもこのまま信じて、誰かに教えたりした――」

972 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:29

「おやってんはYO!」
「おやってんはヨ」

「おやってんはNE!」
「おやってんはネ」

「北海道のYO!」
「北海道のヨ」

「地名だYO!」
「地名だヨ〜」


「「イエーイ!!」」

ごきげんでハイタッチ。

973 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:30

「あかん…
 教えるどころかラップにしよった…」

ガックリと肩を落とす中澤。
その肩を抱いて、懸命に励ます矢口。
必死で笑いをかみ殺す安倍と久住。
そして、上機嫌でジャレ合う吉澤と小川――

少し離れた場所では、一人交信中の飯田。
部屋中が、かしいましいことこの上ない。

そして、潰れた石川の隣には
今だ一人酒をすする保田が・・・

「フッ、若いわね。
 みんな、楽しんじゃって〜」

もう一度言うが、彼女は発起人でも主催者でもない。


974 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:31

「ねぇ吉澤さん、とりあえず開けてみなよ?」

「そうだね。親宛じゃないなら、アタシ宛だ。
 開けちまおう!」

「だから、よっちゃんしか・・・」

諌めようとした中澤の袖をそっと引っ張った矢口が
無言で首を横に振る。

そう。いくら諌めようとも中澤の言葉は、
吉澤の耳を素通りして、はるか遠くに消えていくだけだ。


「何が出るかな?何がでるかな?
 ちゃらららんちゃらちゃらららん♪」

あくまでも吉澤が手にしているのは
茶封筒だということを、念のためもう一度申し上げておこう。

「るーるるる。ほたぁる・・・」

吉澤の注意が封筒に向かっている間、
取り残された小川が何故か、いなりずしと戯れている。

恐るべし連想力・・・

975 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:32


「なんじゃこりゃあああ!!」

ジーパン刑事も真っ青な、吉澤の雄たけびに
一同の視線がはじめて一箇所に集まった。

「よっすぃ、どうした?!」

いち早く声をかけたのは矢口。
だが、吉澤の手がワナワナと震えている。

「吉澤さん!しっかりして下さいっ!」

隣にいる小川が必死に吉澤を揺さぶる。
だが、吉澤は手にしたものを、そこで焦点が合うのか?
というほどに近づけ、見入っている――


「・・・グフッ。グフフフフ・・・」

吉澤の口から、気味の悪い笑いがもれる。

「やべぇ・・・これ」

そう呟いた吉澤の手元を小川が覗き込んだ。

976 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:32

「うおっ!これまた
 すごいっすね・・・」

2人頭を突き合わせて、
一心に手元を覗き込んでいる。

「何がすごいのよ?」

興味深々の矢口が尋ねると
あっさりと吉澤が言い放った。

「おっぱい」

その発言に、聞き耳を立てていた
石川の耳がピクリと動いた。

「やべ・・・鼻血でそ・・・」

続いた吉澤の言葉に
またもやピクリと石川の耳が反応する。

977 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:33


「あああ・・・
 この後、圭ちゃんに不幸が起きる・・・」

一人交信中の飯田から不吉な予言がとび出したが、
気にとめる者は保田本人しかいない。

「どれどれ・・・」

矢口が回りこんで、吉澤の手元を覗きこむ。

「うわっ!デカッ!」

続いた中澤が驚きの声を発する。

「小春も見た〜〜いっ!」

甲高い声が発せられたが
次の瞬間、それを数倍上回る超音波が部屋中に轟いた。

978 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:33

「よっすぃ〜〜〜〜っ!!!」

隣から発せられた周波に、思わず耳を塞いだ保田。
だが次の瞬間、体に強い衝撃が加わる。

「どいてっ!!」

蹴散らされ、なぎ倒された保田を見て
飯田だけが慈悲深い眼差しを向けた。

「予感的中っ」

慈悲深く見えたのは
保田だけだったようだ。


「よっすぃ!!
 それ貸しなさいっ!!」

「なんで?」

『夫婦喧嘩は犬も食わない』と言うが、
ここも例外ではないので、その他大勢は観賞に専念することを心得ている。

979 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:34

「いいからっ!!
 今すぐ渡しなさいっ!!」

「なんで?
 アタシのために美貴がくれたんだよ?」

「な、な、な、な
 なんでこんな時に、美貴ちゃんのこと
 呼び捨てにするのよ〜〜〜っ!!!」

青筋が見える。
が、観客は全く慌てることもなく
余裕で成り行きを楽しんでいる。


「アタシのコレクションなんだからねっ。
 梨華ちゃんには一枚もあげないから」

「キィィィ〜〜〜〜!!!
 何でわたしがおっぱいなんか見て
 喜ぶのよっ!!!」

「アタシは喜ぶもん」

ひしと掴んだ封筒ごと、あっさり石川に取り上げられる吉澤。
こういう時の力は、石川の方が強いらしい。

980 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:34

「こんなもんっ!!
 全部破って捨ててやるんだから〜〜〜!!!!」

両手に握って、引き裂こうとした瞬間
石川の目に飛び込んで来たのは――


「・・・ちょ、ちょっと。やだぁ・・・」

おそらくほんのり染まっていると思われる頬。

「・・・よっすぃったら、早く言ってくれればいいのにぃ・・・」

途端に甘くなる声。

思わず久住が身震いして
すかさず小川に肩を押さえられた。

981 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:35

「んもぉ・・・写真集の時もそぉだけどぉ・・・
 いつもホンモノをみてるんだからさぁ・・・」

2人を取り巻く人々が、一列に並んで
観賞している様は、なかなか壮観だ。

「見てるけどさぁ、本物だとすぐ触っちゃうし
 食べたくなっちゃうんだもん」

やだわぁ、あちらのご主人たら、そんなストレートに・・・ねぇ。
人妻連がざわつく。

「でもやっぱ、ライブ中の写真も欲しいじゃん。
 際どい写真て、外でしか売ってないんだもん。
 春はコンコンに頼んだんだよ?」

見に来た人に、業者写真を買わせてたのか!

982 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:36

「ねぇ、アタシのコレクション返してよ」

一体どのくらいコレクションされているんだろう・・・

「返すよ?返すけどぉ〜」

一同が顔を見合わせた。

来るぞ、これは。
お持ち帰り、フルコースが・・・

石川が吉澤の隣にピタリと寄り添った。

「じゃあよっすぃ、もう少し飲も?」
「うん!いいよっ」

吉澤のグラスに、嬉々として
並々とお酒を注ぐ石川。

「みんな、何一列に並んでんの?
 こっちおいでよ」

吉澤は分かっていない。
これから、その身に起こる出来事を。

飲んで、呑まれて
その先には――


983 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:36


・・・カクンッ。

グラスを開けた吉澤の首が突然落ちた。

「ふははッ。ふへへ・・・」

酔っ払いモード
スイッチオン。

「も一軒行こ?も一軒、ね?」
「はいはい、行こうね〜」

慣れた一同は、ここからのお相手は
全て女房に任せることにしている。
と言うか、女房はきっと企んでいる。

 『酔うとよっすぃ〜ってすごいの』
 『本能のままに求めてくるんだよ?』
 『それが可愛くて可愛くて』

身悶えながら語る女房を幾度となく見てきた。
次の日には、真っ赤なアトをたくさんこさえた旦那とともに――

984 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:37

倒れた旦那を心配した遠い過去が懐かしい。
倒れた旦那を抱き起こそうとして、蹴られた頭はもう痛くない。

それぞれに想い出は、そこそこ深い。

2人にとって。
いや、嫁にとって、この飲み会は前座に過ぎない。
第一章が終幕してからというもの、なかなか訪れなかった
久しぶりのビックチャンス。

酔って、酔いつぶれて
普段めったに出さない、愛しい旦那の本能を
むき出しにしたいだけ。

2人飲みでは、先に潰れてしまう石川。
2人きりでは、セーブしてしまう吉澤。
しかし、そこに気を許せる第三者がいれば話は別だ。

石川が潰れても、誰かが面倒を見てくれる。
吉澤が潰れても、その頃石川が復活する。

よって、吉澤=潰れてもいい。

吉澤の頭の中は、いつでも単純明快。
ごきげんに軽快に、グラスを飲み干していく――

985 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:38


「つぎいくよ〜〜〜っ!!
 ・・・うえっぷ」

大きな目が、完全に据わっている。
目尻が下がりきっている。

「まことぉ〜〜
 つきあえよぉ〜〜ふははは」

「はいはい」
・・・付き合いませんとも。
だって、お隣の女房様が怖いですもん。

「まら、のむろぉ〜〜〜〜」

そろそろ、だ。

「た〜のし〜〜ぃ〜・・・」

<・・・バタンッ>

986 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:38

「やあだ、よっすぃ〜
 ほら起きて?」

仕方ない風を装っていても
ニヤニヤは止まらないらしい。

「帰ろ?ね?」
「まだのむよぉ・・・」
「うんうん。お家で飲もうね?」
「・・・梨華ちゃん」
「なあに?」
「・・・おっぱいものむ」

<ブーッ!!>

やっぱりビールを吹き出す
名ばかりの主催者、中澤裕子。

987 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:39

「じゃあ、すみません。
 わたし達、先に帰ります」

華奢な嫁が、華奢な旦那を抱え
今夜は朝まで、Happy Night。
完全燃焼間違いなしだ。

「燃焼しきって、2人とも灰になってまえ」

思わず中澤が呟いた。
しかし、言ったそばから同時に笑いも漏れる。

――憎めない2人。

ここにいる人々にとって、2人は

可愛い後輩
頼れる先輩
優しい後輩
素敵な先輩

全てに当てはまる。

988 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:39

そして10人全員が

――すっごい仲間。


「よっしゃ、じゃあ気を取り直して
 も一回乾杯しようか?」

今帰った2人の分も。
今日はここにいない、新米ママの分も。

誰かがちゃんとグラスを持って、
代わりにね。


「すっごい仲間と」


「「「「「「「愛で、かんぱ〜いっ!!!」」」」」」」


989 名前:愛で乾杯! 投稿日:2012/05/22(火) 16:39



    おわり


990 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/05/22(火) 16:41

策士な梨華ちゃんを書いてみたかっただけでした。
大変お粗末さまでした。

991 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/05/22(火) 16:41

992 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/22(火) 19:48
やっぱり玄米ちゃさまの作品が1番すきだあああ
次回作も正座して待ってます
イタイのどんどんこいっ
993 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/23(水) 02:06
私もビールを吹き出しましたよ!

イタイのですか?覚悟してます。
994 名前:玄米ちゃ 投稿日:2012/05/30(水) 11:30

>992:名無飼育さん様
 うれしいお言葉ありがとうございます。
 次は痛い成分、過剰摂取になると思われますが大丈夫でしょうか・・・

>993:名無飼育さん様
 ありがとうございます。
 次は今までの作品で一番痛くなります。


ということで、幻板に新スレ立てました。
タイトルは『紅蓮』です。

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