作者フリー 短編用スレ 7集目
1 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/01(火) 23:34
このスレッドは作者フリーの短編用スレッドです。
どなたが書かれてもかまいませんが、以下の注意事項を守ってください。
・アップするときはあらかじめ“完結”させた上で、一気に更新してください。
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 なお、レス数の下限はありません。
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前スレ 作者フリー 短編用スレ 6集目
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2 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/01(火) 23:37
前スレがいっぱいになったので立てました
1レスだけですが最初からまた載せます。ごめんなさい
3 名前:Orange Lemonade 投稿日:2009/09/01(火) 23:37
「りんごを食べると、歯ぐきから血が出るんだって」

そういうと早貴は、歯の隙間からしゅうしゅうと息を吐くようにして、
そのあと笑った。熊井ちゃんは、むずかしい顔をした。
それが不服で、なおかつ不思議で、早貴はもう一度いった。

「りんごを食べると、歯ぐきから血が出るんだってさ」

聞こえなかったのかと思ったのだ。
熊井ちゃんはあいかわらず。「む」という一文字であらわせそうな、
そんな顔をしている。不機嫌なような、それでいて何も考えていないような。
そんな顔をしていても、そんな顔だからこそ、熊井ちゃんはビューティーだ。
早貴は、「む」の顔をしてる熊井ちゃんを、頬杖をついて見上げる。
熊井ちゃんは立っていて、早貴は座っているから、見上げる感が半端ない。

愛佳と梨沙子は別スタジオ。ちらりとカメラに目を走らせると、三人がかりの大修理中。
撮影再開までは、もうしばらくかかりそうだ。
早貴は、同じ体勢のまま、息にも声にもならない、ため息をつく。
4 名前:Orange Lemonade 投稿日:2009/09/01(火) 23:41
「うちさ」

ようやっと、熊井ちゃんが口をひらく。うん、と早貴は相づちを打った。
大きい動物は、感覚が脳に到達するまでに時間がかかる、そう聞いたことがある。
たとえば恐竜。たとえばくま。

「りんご好きだけど、血、でたことないよ」
「まるごとかじると、出るんだよ」
「ううん。かじったことあるけど、出なかった」
「それ、いつぐらい?」
「幼稚園生」
「きっと乳歯だったからだよ」
「にゅうし?」
「赤ちゃんの歯」
「にゅうしは血、でないの」
「やわらかそうじゃん」
「やわらかいと出ないの」
「だって、固いのと固いのがぶつかると、こわれんじゃん。
 だけどさ、どっちかやわらかいと、ぐにゃってなる気しない?」
「するかも」
「それそれ」
「そっか」
「イエス」

早貴がにやりとうなずくと、熊井ちゃんも、ほっとしたように笑った。
笑った顔の熊井ちゃんは、ビューティーよりもキューティーになる。
5 名前:Orange Lemonade 投稿日:2009/09/01(火) 23:41
沈黙に耐えかねたのだ。
撮影用のりんごを起点に、ぎこちなく始めてしまった会話が、ゆらゆらながら、
なんとか着地して、早貴もほっとする。
と、やり過ごしたと思った途端に、ふたたびの沈黙が早くも落ちる。

熊井ちゃんはじっと立っている。
早貴は座って見上げている。

熊井ちゃんだから大きいんだろうか。
熊井ちゃんだから黒いんだろうか。
熊井ちゃんだからくぐもった声なんだろうか。
くまはりんごが好きなんだろうか。
熊井ちゃんは熊井ちゃんは。
6 名前:Orange Lemonade 投稿日:2009/09/01(火) 23:41
視界を黄色が横切った。

一瞬遅れて、早貴は沈黙に耐えかねた熊井ちゃんが、かごの中から、
レモンを取り上げたことを知る。
レモン、と熊井ちゃんはつぶやき、レモン、と早貴も認める。
レモンもかじると、血が出るかな、と熊井ちゃんがいう。
どうだろう、と三度目の沈黙をおそれる早貴が乗っかる。

血は出なくてもすっぱいよ。しみるかな。歯ァ立たなくない? わかんない。
かじってみようか。え。

目をまるくする暇もなく、熊井ちゃんが、黄色い果実に歯を立てた。
繊維のちぎれるぶつりという音を、早貴は耳の中で聞いた。
鼻の奥で、柑橘の香が、鮮血のようにはじけた。
7 名前:Orange Lemonade 投稿日:2009/09/01(火) 23:43
おわり
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/14(月) 22:46
ツボコロ
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/14(月) 22:47
宇宙人の絵里的にはー
靴下を履く地球人の事がー
もぅ信じられなくって!

足の裏はチョー大事なとこなんです。
絵里たちを生かしてくれる地面、それを尊敬しているから、
感謝しているから、体の一部は常に地面に接してるんです。
それが足の裏なんですよ。わかります?

なのに! そーれーなーのーに、靴下履いちゃう!?
防御しちゃうの? え、それって罪じゃないの?
重犯罪ぢゃないのぉ〜!?
と、ワタクシは言いたい訳であります。

「……えりすごいね」
「そうなんです、絵里すごいんですよ?」
「靴下に穴開いてる言い訳で、そんなん言う人は確かに宇宙人だわ」
「だからぁ、宇宙人だもん」
「うち別に裸足であがってもいんだよ」
「えっ!? そうなんですか? も〜それ早くゆってよ〜」
「言う前に演説始まってもうたやろが」
「へっへ、スンマッセンお邪魔しやーす」

首の後ろを撫で撫でしつつ、えりは玄関で靴と靴下を脱いでから
うちにあがった。
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/14(月) 22:49
仕事の後の買い物に夢中になってしまい、気付いたらだいぶ遅い時間
だったので、えりはうちに泊まっていく事になったのだ。

とりあえずソファに座ってもらって、自分は寝室に。
ちゃっちゃと髪をお団子にまとめてから、あたしのベッドの隣
(ってか床なんやけど)に布団を敷いて準備完了。
んでリビングに戻る。
そしたらえりがこっち見てた。

「おっ、『お団子かわいい』!」
「……でっていう」

なんつって。
いやあたしも来るんじゃないかと思ってたからさ。
布団敷きながら、思い出したりしてたわけよ。

「いやあ、玄関すごいっすね」
「靴?」
「そうそうそうです。山みたいですよ」
「あー整理しなきゃと思ってんだけどさー」

うちの玄関の靴箱、もう溢れちゃってて、上の棚に箱ごとガンガン
積んでる状態。主にブーツなんやけど。
こうなった原因は、なんかのテレビ番組で観たコレ。
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/14(月) 22:50
『どんなにお洒落してても、靴が汚れてたら台無し』!

もうね、駄目。呪いみたいに忘れられない。この文句。
それで、汚れないように、というか、汚さないように毎日違う靴を
履くようになった。
うまく手入れができるか不安だったのもある。
忙しいのを言い訳にして、たくさん買う方を選んじゃったんだよね……
っていう話をえりにしたらどえらい共感されて、えりも最近あたし
みたいになってきちゃってる。
今日も新しいブーツを買ってた。

「絨毯こんなだったんだ」

飲み物を用意して持って行ったら、被害者がそんなことを言ってて。
素足でソファの下に敷いてるラグをふにふにして、感触を確かめている。
コップをテーブルに置きながら言った。

「絨毯ってかラグやね」

モコモコの黒いやつ。
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/14(月) 22:52
「ラグ。ラグって言うんですか」
「ラグ知らんのか」
「……あー名前は知ってた、かも……?
 絨毯、カーペット、の別名……みたいな?」
「いやラグはラグだよ。ちっちゃいカーペット的ではあるけど。
 えりん家ってフローリングだっけ」
「そうなんですよ自分の部屋は畳で」
「畳見えんのかぁ?」
「……まー確かに足の踏み場は……でも片足分くらいは!」

思わず噴き出した。
この、ポジティブだかなんだか判断に困るセリフ!

「しかも片足かよ!」
「あっ愛ちゃん、あれだけドーンだと帰ってきた時嬉しいでしょ」

急に話変わるし。これは靴のことやね。

「嬉しい、てか帰る時点で明日なに履こうってニヤニヤするわ〜」
「わかる〜!」

わかってくれんのかぁ。
可愛ぃいくて、ほんとにいいやつ。
ちょっとアホだけど。
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/14(月) 22:53
さて。
あたしはじっとしていられないタチなので、テーブル下の棚に
置いてあるコロコロクリーナーを取って、ラグの端っこから適当に
掃除を始めた。
そしたら、うっかりえりの足を蹴っちゃって。

「あっ、ごめん!」
「あっ、いやいやお構いなく」
「ほんとごめん」
「いやいやいや」

なのにまた蹴ってしまった。

「ああ〜もう、マジごめん」
「ぬははっ、愛ちゃん超ウケる!」

なんかとりあえず面白がってくれてホッとしたんやけどね、
そっからえりは、あたしの足(ちなみにこっちも裸足ね)に
ちょっかいをかけはじめた。
足の指だけでツンツンしてきたりして、掃除の邪魔をする。

「なんや仕返しか!」
「そうかもしれなくも〜な〜ぁ〜い〜」
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/14(月) 22:55
このぉ。
あたしはソファの下の方から、持ってたコロコロで応戦した。
でもこれ粘着テープやし、服にくっつくだけでろくな武器にならん。

「なんですかそれ、キレイにしてくれるんですか〜?」
「うっせー!」

もう怒った!
立ち上がって襲い掛かる振りして腰とか腹の辺りコロコロしまくった。
えりは笑いっぱで抵抗しないし、こっちも引っ込みつかなくなって
あちこちコロコロ続けてると、なんか面白くなってきて。
えりはえりで笑いが止まらない。

「ちょいちょ、いひゃひゃひゃ」
「めんどくせえ、キレイに洗ってやるから脱げ!」
「そ、そりは、む、ひゃははあははは」

無理無理無理! って、えりはその時初めて拒否する仕草を見せた。
まあちょっと悪ノリだったかな、って、あたしも攻撃をやめた。
洗濯は好きだから、ほんとに洗っても良かったんやけどね。
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/14(月) 22:56
「はー、あーもう疲れた〜」

気がつくと、ソファにぐったり寝そべる後輩がそこに。

「からかう方が悪いんやろが」
「まったくごめんなさい。……いやーそのコロコロ、なかなかですな」
「なんて?」
「いやなんでも」
「……あ、ジュースどうぞ」
「あ、どうもどうも」

なんとなく、それ以上突っ込まなかったけど……



あれ以来コロコロを見ると、えりのあの言葉を思い出す。
けど、なんか怖くて「あれどういう意味?」って聞けてません。
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/14(月) 22:56
ノノ*^ー^)<宇宙人のツボ的なアレです
17 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/14(月) 22:57

18 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/14(月) 22:57
ノノ*^ー^) フッフッフ
19 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/14(月) 23:13
914に、ふと見に来たタイミングで丁度更新されてて。これが見られてかなり得した気分。
「いやなんでも」で通る仲ってステキ。
悪ふざけのあとの普段使わない筋肉の疲労感。想像しただけで疲れてきました。
20 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/15(火) 00:02
なにこの微妙な寸止め感
21 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/21(月) 21:23
モーニング娘。を卒業することになりました。
そう言って、舞台から降りてきた。
まだなんか足がふわふわするから、
楽屋に戻らずに通路を一人で歩いてみてる。

「頑張ったな小春」

そう言って肩を叩いてきたのは愛ちゃんだった。
振り返って見てみたら、目を真っ赤にして泣いてた。
22 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/21(月) 21:23
あーあ。
カッコいいのは台詞だけじゃないすか。
なにやってんすか。
小春の卒業発表も噛んでるし。
釣られて小春もコメント噛みそうになったじゃないすか。

「よしよし」
「……小春がよしよしってした方がよさそうなんすけど」
「ほっとけ」

そう言いながら抱きしめられて、
(というか抱きつかれてるみたいだったけど)
ああ、愛ちゃんと一緒にいるのもあと3ヶ月か……
なんて考えた。
愛ちゃん、小春が卒業しても一緒に遊んでくれるのかなあ?
23 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/21(月) 21:23
「愛ちゃん」
「なんや」
「小春大丈夫なんで放してください」
「大丈夫って顔してえんよ」

こっち見ないで、抱きしめたままそう言う愛ちゃん。
小春の顔見てないじゃん。

愛ちゃんがぐっと腕に力をこめる。
ちょっと、愛ちゃん、小春苦しいっす。

「大丈夫やから。誰も見てえんて」

大丈夫なのか大丈夫じゃないのかハッキリして下さいよー。
困ったなあ。
涙声でそういうこと言わないでほしい。
あーあ、服が濡れちゃってるし。
鼻水ずるずる言ってるし。

こんなの小春っぽくないんだけどなあ。
今ここにジュンジュンが来たら何言われるか……
24 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/21(月) 21:24
まあいいや。
愛ちゃん、あとちょっとの間でいいから、
小春のこと守っててください。
あと5分もしたら、ミラクルビームで戻ってきますから。



25 名前:神様なんて信じない 投稿日:2009/09/25(金) 20:26
さりげなさを装って避けていた。
笑顔で誤魔化したりもしていた。

だってやっぱりすぐには受け入れられない。

今までそんな素振りなんて一度も見せなかったくせに、
あの日、急に好きだなんて言ったのは、このせいかとまで考えてしまった。

今はまだ、できればあまり近くにいたくない。
そばにいたら、言いたくない言葉を言ってしまいそうだから。

だけど。
そういうときほど、神様は絵里の味方にはなってくれない。
26 名前:神様なんて信じない 投稿日:2009/09/25(金) 20:27
「…なんで小春がいるの?」

地方でのコンサートのときの宿泊ホテルは、だいたいがシングルだけど、
ときどき、ホテルのほうで空きがなくて2人部屋になったりもする。

そういうとき、たいてい絵里の同室はさゆだけど、シャワーを終えてバスルームから出てきたとき、
いるはずのさゆはそこにいなくて、代わりに、申し訳なさそうにベッドで膝を抱える小春がいた。

できれば、今、いちばん会いたくない子がそこにいて、飛び上がりそうになった。

たぶんきっと、目に見えて絵里は嫌そうな顔をしたんだと思う。
絵里の言葉を聞いた小春が悲しそうに眉尻を下げた。

「代わってもらいました」
「…いつのまに」
「…今日のライブが始まる前から、お願いしてました」

ということは、この部屋に入るなり、先に風呂に入れとさゆが言ったのはこれがあったからか。

「代わってって言って、さゆに何も聞かれなかったの?」
「特には…」

ああやっぱり。
ガキさん以上に、さゆには隠し事なんてできないなあ。
27 名前:神様なんて信じない 投稿日:2009/09/25(金) 20:27
「…あっそ」
「あの、亀井さん」
「なに? 絵里、もう疲れてるから、話なら明日にしてくれないかな」

突き放すようにぶっきらぼうに言い放って、小春に背を向けるようにベッドに座る。

そう言ったところで、絵里にそんな時間を作るつもりがないことは小春も感づいているんだろう。
でなきゃ、わざわざ部屋を代わってもらったりはしない。

バスルームで髪を乾かしておいてよかったと思った。
スキンケアも済ませておいてよかった。

「亀井さん」
「…もう寝る」

小春の顔も見ないまま、シーツを捲りあげてベッドの中に急いで潜り込む。

「亀井さん」
「もう寝るって言った」
「亀井さん、怒ってますか?」
「……別に」
「じゃあ、さびしいですか?」

いちばん聞かれたくない言葉を、いちばん言われたくない相手から言われて、目の奥が痛くなった。
28 名前:神様なんて信じない 投稿日:2009/09/25(金) 20:27
「…なんのこと」

興味なさげを装ったけれど、声が詰まって上ずった声になってしまった。

「…小春がいなくなるの、さびしいって、思ってくれますか?」
「さあね」

ほんの少し、小春がたじろいだのがわかる。
傷つけた気がして胸が痛んだけれど、訂正する気にはなれない。

「亀井さん、小春と話すの、嫌ですか」
「…うん」
「小春がこの部屋にいるの、困りますか」
「…うん」

嘘。
ホントは、そんなこと思ってない。

だけど。
だけど今は悔しい。つらい。悲しい。

なによりも、ただ、せつない。

「亀井さん」

呼びかけてくる小春の声にいつもみたいな不躾な感じがない。
それがまた絵里の胸の奥のほうをぎゅっと締めつけてきた。

「亀井さん。亀井さんは小春のこと」

そこまで言われて、何を聞かれるのかが予測できた。

終わりにしたくない。
だけど、終わってしまう。

もう戻らない。
今のこの状況を何にも知らなかったあの時間は、もう戻ってこない。
29 名前:神様なんて信じない 投稿日:2009/09/25(金) 20:27
すうっ、と背筋が凍る思いがして、身震いを誤魔化すように起き上がると、
起きるとは思わなかったのか、小春が目を見開いた。

大きくて、黒い、真っすぐな瞳が絵里を見つめる。
見つめながら、絵里の言葉を待っている。

その目の威力に胸が射抜かれる。
言葉にしてはいけない、心に渦巻く気持ちを吐き出してしまいたくなる。

「…そういうの、いちいち聞かれても答えるのめんどくさい。
 絵里に聞きたいことがあっても、それがどんなことでも、絵里の答えはもう全部『うん』だから」

だけど、でてきた答えは素直じゃなくて。

「…っ、おやすみ…っ」

小春の返事も聞かずに背を向けて再びシーツを頭まで被った。

涙が出そうになるのを堪える。

困ればいい。
悲しめばいい。

今ももう困ってるだろうけれど、もっともっと困ればいい。
もっともっと悲しめばいい。

だって絵里には、その権利があるでしょう?
30 名前:神様なんて信じない 投稿日:2009/09/25(金) 20:27
どれくらい、沈黙が続いていたかわからない。

でも、小春がベッドから降りる気配がして、その次の瞬間にはドキリとした。
絵里のほうのベッドの端に、小春が腰を下ろしたのがわかったからだ。

「…よかった」

どきどきと高鳴る心音が聞こえていたのか、それだけ言った小春の声はどこか穏やかだった。

「小春も、亀井さんが大好きです」

なにを急に、と反論しようとして、小春の質問に対する返事はすべて『うん』だと言った自分の言葉を思い返し、
小春がわざと自分に都合よく捉えた質問だと悟って、顔中に熱が集まるのを感じた。

「離れてても、どこにいても、大好きです。そばにいなくても、亀井さんのことだけ大好きです」

きっぱりとそう言いきった言葉の強さがただ胸を打つ。

泣きたくない。
泣きたくなんかないのに。

堪えれば堪えただけ、大粒の涙がぼろぼろと零れた。

零れた涙を吸い込んでいく枕が少しずつ湿っていくのがわかる。

悪い夢であればいいと心のどこかで願っていた現実を小春はとうに受け入れていて、
そしてそれを絵里にもきちんと受け止めて欲しがっていることも痛いくらいにわかった。
31 名前:神様なんて信じない 投稿日:2009/09/25(金) 20:28
「…亀井さん?」

そろりそろりと、小春の手がシーツ越しに絵里の肩を撫でる。

それでも返事をせず、起き上がることもしないでいたら、小春は諦めたように細く息を吐いた。

「…おやすみなさい」

言葉と一緒に小春が絵里のベッドから立ち上がる。
そのすぐあとで隣からベッドのスプリングの軋む音が聞こえた。

シーツを捲る音がして、部屋のライトのスイッチが一つずつ消されていく。

どんどんと暗闇に沈んでいく室内。

その灯りがすべて消える前に、絵里はそっと、ベッドから起き上がった。

「あ、真っ暗じゃないほうがいいですか?」

小春が尋ねる。
でもそれは、きちんとした意味を持って絵里の耳には届かなかった。
32 名前:神様なんて信じない 投稿日:2009/09/25(金) 20:28
「…それだけ?」
「え?」

ぽつりと漏れた言葉に小春が首を傾げたのがわかる。
そして絵里を見つめ返したその表情に、絵里の涙に気づいたであろう驚きのいろを確認する。

「小春の聞きたいことは、それだけ?」
「えっ?」
「…さゆに頼んで部屋まで代わってもらって、言いたいことは、それだけなの?」

絵里の言葉の意味を理解しかねているようすの小春が眉根を寄せる。

「…何もないなら、もういい」

焦れったさと同時に急激に恥ずかしさが増してきて、すぐにシーツの中に潜り込んだ。

「えっ、ちょ、亀井さん?」
「…もういい」
「よくないですよ」
「何もないんだったらもういいってば」
「ありますよ、あります。めっちゃあります」

小春の声に焦りのような慌てぶりが滲んで聞こえた。
33 名前:神様なんて信じない 投稿日:2009/09/25(金) 20:28
「…いいんですか、言っても」

なのに、不意に声色が真剣味を帯びて、涙が引いたと同時に心臓がドキリと跳ねる。

「そっちに行っても、いいんですか?」

跳ねた心音が速度を増す。
けれど素直に返事を返すには、まだ気持ちに余裕がなかった。

「亀井さん?」

普段だったら少し高くて目立つ小春の声が、今は何故だか労わるような優しい響きで絵里の耳に届く。

「聞こえてますか?」
「……返事なら、さっきした」

答えた声はみっともないくらい震えていた。

どうしても素直になれず、半ば突き放すような口調になってしまったのに、
小春は何も言い返すことなく、静かに、絵里のほうのベッドに近づいてきた。

ベッドの端に乗せたであろう小春の膝が、スプリングに小さく軋んだ音を起てさせる。
34 名前:神様なんて信じない 投稿日:2009/09/25(金) 20:28
「…亀井さん」

呼びかけながらシーツをそっと捲りあげられ、突然隠れる場所を奪われた絵里は、そのままカラダを竦ませた。

その絵里の肩に小春がそっと触れてくる。
触れた小春の手が震えていたことに気づくのに、そんなに時間はかからなかった。

胸を鳴らしながら振り向くと、泣き出しそうな笑顔で見下ろす小春の顔が、薄暗がりの中でもはっきりと見えた。

たまらなくなって思わず腕を伸ばした。
その腕を小春が掴まえ、ゆっくりと絵里のほうに倒れこんでくる。

人の重みをこんなにも心地よく感じる日が来るなんて考えもしなかった。
同じぐらい、こんなにもせつない気持ちで抱きとめる日が来るなんて。

はっきりした言葉にするのもされるのも嫌で、それらを拒絶したくて、強く小春にしがみつく。

おそるおそる絵里を抱きしめる小春の腕のチカラのたどたどしさだけでなく、
全身で感じる小春のすべてが、ますます絵里の心をせつなくする。

「小春のこと、忘れないでくださいね」

また涙が浮かびそうになったことに気づいたように、小春が絵里の耳元で囁くように言った。
35 名前:神様なんて信じない 投稿日:2009/09/25(金) 20:29
ずるい言い方をすると思った。
こんな気持ちにさせといて、今更どうやって忘れろって?

涙と一緒に悔しさが滲んできて、勢いのままに小春の胸倉を掴まえたら、小春が意外そうに顎を引いたのがわかった。

「…こんなバカな子、忘れられるか」

言い終わると同時に小春の唇を奪ってすぐに離れたら、小春は驚いたように大きな目を見開いて、
そのあとで絵里の言葉を理解したと言いたげに小さく微笑んで、絵里に顔を近づけてきた。

「じゃあ、この夜のことも、忘れないで…」

呟くような言葉に胸が鳴るのと同時に痛みが生まれる。

忘れられたら、どんなに幸せだろう。

忘れない。
忘れてなんかやらない。
絵里の心にこんなにも強く、その存在を刻んだことを。

小春が絵里の耳元に口づけたのを合図に、絵里は、カラダの自由を小春に委ねた。



おわり
36 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/25(金) 23:48
小春ぅぅぅ(つд;)
37 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/26(土) 00:12

いしごまアンリアル
38 名前:忘れられない 投稿日:2009/09/26(土) 00:14


ある日の夜中。
アタシは仕事帰りで疲れ切っていた。
上司に怒られ、同僚にからかわれ、後輩に相談にのられる毎日。
ましてや今日は恋人にもフラれるという、正しく踏んだり蹴ったり。







風呂の中で出来るだけ疲れをとって、風呂上がりにビールを飲む。
これが、今のアタシにとって唯一の癒しだった。

普段はこの後すぐに寝てしまうけど、今日はあまり見ないテレビを、たまたまつけていた。
ほら、一応失恋したし。

普段と違う行動をしたくなって、てやつ?




39 名前:忘れられない 投稿日:2009/09/26(土) 00:15

「びみょー」





どのチャンネルも、おもしろくない。
アタシは何度もチャンネルを変えていた。





―――消そ。





テレビを消すため、電源ボタンに指を置く。

DVDでも借りてく―――





40 名前:忘れられない 投稿日:2009/09/26(土) 00:16




『次は、街角アンケートコーナー!今回は、今でも忘れられない恋はありますか、と言うテーマで皆様に聞いてみました!』





最近売れ出したお笑い芸人が、でっかい声でテレビコーナーの名前を言う。
あまりの大きい声で、ていうのもあるけど。
それよりも、コーナーのテーマのほうが印象に残って。
テレビを消さず、そのままそのコーナーを見ていた。





忘れられない恋、か。





アタシがそのテーマに食らい付くのは、仕方がないことだと思う。
だって、今日恋人に『他人と自分を重ねないで』とフラれたから。

要はアタシに、今だに忘れられない人がいる、ということ。


 
41 名前:忘れられない 投稿日:2009/09/26(土) 00:18


高校の時に付き合っていた、一つ上の先輩がいた。
アタシの猛アタックの末、付き合うことになったんだけど、相手の大学進学とともに、関係が終わった。
というか、向こうから、いきなり別れを告げられた。

理由は今だに、わかっていない。





ごとー、重かったかな?


 




〜♪


 
42 名前:忘れられない 投稿日:2009/09/26(土) 00:20



一人目のインタビューが終わって、芸人がその恋愛について話合っている時に、携帯が鳴りだす。

会社からだったら出ないでおこうとしたけど、時間からして会社関係じゃないのは確か。
なので、電話に出ることにした。


 


「はい」

『あ、ごっちん?』

「ぉ、久しぶり」


 


電話の相手は、高校時代の親友のよしこだった。
普段かかってこないだけに、そして久しぶりの再会(声だけだが)に、会話が尽きない。
クラスのこと、部活のこと、そして…その時付き合ってた恋人のこと。



43 名前:忘れられない 投稿日:2009/09/26(土) 00:20


『今も先輩と連絡取ってんの?』

「いや、全然」

『何で?』

「何でって言われても…」

『番号は知ってんの?』

「うん、知ってるけど」





その間テレビでは、2、3人インタビューがされていたけど、まったく眼中になかった。


 


あの声が聞こえるまでは―――


 

44 名前:忘れられない 投稿日:2009/09/26(土) 00:21
 


『恋ですか?

…ワタシは高校のときに付き合ってた人が、まだ忘れられなかったりしますね』


 


特徴のある声。
誰も聞き間違えることのない、あの声。

思わず電話しながら、もう一度テレビを見入ってしまう。





『い、今テレビ見てる!?あの人が…』

「うん。アタシもちょうど見てた」





噂をすればってやつ?
まさかこんな形であの人を見るとは。

というか、さっきのあの人の発言。

まさか……



45 名前:忘れられない 投稿日:2009/09/26(土) 00:22


『その時付き合ってた人が、とてもかっこよかったんです。年齢が一つ下で、部活でもエースで。
でも、自分の勝手な理由で、別れちゃいました。
好きすぎて、逆に怖くなって。
それで逃げちゃったんですよね。
その人は逃げなかったのに。

今思えば、ホントバカなことしたなって思います』

『その事を、今の恋人は知ってるんですか?』

『いや、今はいないんですよ。その人以来いないんです』

『じゃぁ、本当にその人のコトが好きなんですね』

『そうですね。もしその人がこれを見てたら、怒っちゃうかな?何で別れたんだって』






このコメントのあと、再び芸人たちが話し合っていた。


 

46 名前:忘れられない 投稿日:2009/09/26(土) 00:23



おいおい、ウソでしょ?


 


『ごっちん。今の先輩の言葉…』

「ん?」

『明らかに未練感じてるっぽくない?』

「……ぽいね」





テレビを消して、もう一缶のビールを取りに、冷蔵庫を開ける。
なぜかわからないけど、無性に飲みたくなり。
そしてそれを一気飲みした。

どうして、ビールというのはこんなにおいしいのだろう?





『ごっちん、いいの?』

「何が?」

『わかってんでしょ?』

「……」

『こっちは切るから、先輩に電話してみなよ』





じゃぁね、とよしこは電話を切った。



47 名前:忘れられない 投稿日:2009/09/26(土) 00:24


いったい今日は何の日なんだ?と思ってしまうほど、沢山のことが起こった。

彼女にフラレタと思ったら、久しぶりの親友から電話があり。
さらには元カノがテレビに映って、まるでまだ自分のことを好きだという素振りまで見せて。





もう、何が何だかわからなくなってきた。




48 名前:忘れられない 投稿日:2009/09/26(土) 00:26


――――とにかく。

今はあの人に電話したほうがよさそうだ。

じゃないと、よしこに殺されるし。

それに―――






テレビの詳細が気になってしょうがない。





電話帳を開いて、あの人の名前を探す。
さっきまでテレビに映っていた、忘れられないあの人の名を。

別れてから、繋がるかわからないけど。





一か八か――――だ。






END
49 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/29(火) 07:29
わ〜い いしごま最高!!
50 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/10/01(木) 01:10
いしごま良いね!
続きも見たいような。
51 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/10/01(木) 18:24
続編を期待しちゃいます。
52 名前:autumun 投稿日:2009/10/17(土) 21:05
初めて書きます
文化祭シーズンなので文化祭ネタです
れなえり。
53 名前:Cultural festival 投稿日:2009/10/17(土) 21:07
今日はハロ高文化祭です
ここ一ヶ月間、れーなはずっと放課後も居残りで準備に追われていました
れーなのクラスはお化け屋敷だって・・・
絵里のクラスはセルフのマンガ喫茶だから何もすることないしー
「めんどくさがりの絵里にはぴったりっちゃね」
なんてれーなに言われちゃったけど
れーなが一緒なら残って作業も楽しいのに!
学年が違うんだからクラスが一緒になるはずもなく。
あと3ヶ月遅く生んでくれたられーなと一緒の学年だったのに!
なんて不毛な怒りを親にぶつけてみる
54 名前:Cultural 投稿日:2009/10/17(土) 21:07
なんで絵里がこんなに拗ねちゃってるかというと、さかのぼること1ヶ月前。
「ごめん、れなこれから毎日お化け屋敷のセットつくるけん、一緒に帰れん」
こんなに可愛い絵里ちゃんをひとりで帰らせるなんてっ!
怪しい人とかに襲われちゃったらどーするの!
とかぶつぶつ言いながら結局無事に一ヶ月耐えたのです、
長かったあああ!
55 名前:Cultural 投稿日:2009/10/17(土) 21:07
そして、やっと迎えた文化祭当日

「れーな、一緒にまわろ♪」
「ごめん絵里、今日れな午前中ずっとお化け屋敷のシフト入っとるったい」
「えぇ!絵里とお化け屋敷どっちが大事なの!」
「そりゃ絵里が大事やけど、クラスのみんなに迷惑かけるやろ」
「ふんだ・・・れーなのばか」
「シフト終わったらすぐ行くけん、それまで待っとって」
「ふぇーい・・・」
56 名前:Cultural festival 投稿日:2009/10/17(土) 21:08
やっとれーなと一緒にいられると思ったのにぃ!
模擬店で売ってたタピオカのミルクティーをひとつ買って
ひとり屋上でぶーたれてた
散々絵里に待たせといてやっと!って思ったらこれだもん
なんか悲しくなってきた
れーなのあほーってつぶやきながらタピオカを吸い込む。
今日はくやしーくらいの秋晴れ、
ぽかぽかの陽だまりの段差に腰掛けてうとうとしてたら
いつの間にか、夢の中・・・
57 名前:Cultural festival 投稿日:2009/10/17(土) 21:08
夢にれーなが出てきて
ぎゅって強く抱きしめてくれた


『好いとお絵里・・・』

『愛しとー』

『絵里はれなのものっちゃ』
58 名前:Cultural festival 投稿日:2009/10/17(土) 21:09
付き合ったばかりの頃はよく言ってくれた甘い言葉も
最近はなかなか言ってくれない
ただでさえ一緒に帰れなくてさびしいのに・・・

・・・れーなは寂しくないのかな
・・・もう絵里のことなんてどーでもよくなっちゃったの?

涙が頬を伝うのに気づいてふと目をさますと
もう時計は1時を指していた
遅いよぉ、れーなのばか。
涙が奥からどんどんこみ上げてきた
59 名前:Cultural festival 投稿日:2009/10/17(土) 21:09
バタバタバタッ
れーなが息切れしながらこっちに来た

「ハァハァ・・・絵里、こんなとこにおったん?探したっちゃ」

ちょっと怒ったように言うれーな
もう絵里のことなんて嫌いになっちゃったんだ

「っ・・・れぇななんてっ知らなぃもん!」
「ちょ、絵里なんで泣いとー?」

60 名前:Cultural festival 投稿日:2009/10/17(土) 21:09
精一杯怒って言ったのに、涙のせいで情けない声になってしまった
こんなんじゃ愛想尽かされるよね、って自己嫌悪。

「遅くなってごめんっちゃ、泣くほど寂しかったと?」

わざとじゃないかってくらい慌ててれーなが言うからつい
「絵里のこと、もう嫌いになったんでしょおっ?」
なんて、怒鳴ってしまう自分が嫌。
いつから絵里こんなかわいくなくなっちゃったんだろ
もう絵里ダメダメだあって
走って逃げようとしたらつかまれた腕。
61 名前:Cultural festival 投稿日:2009/10/17(土) 21:10
「絵里、なに勘違いしたんか知らんけど、れなは絵里のこと大好きやけん。」

って抱きしめられた
・・・デジャブ?
またどんどん涙が溢れてきちゃって
でも、今度はれーなが優しく拭いてくれた
62 名前:Cultural festival 投稿日:2009/10/17(土) 21:10
「泣き止んだと?」
「うん・・・ありがとれーな」
「ここんとこずっとかまってやれんかったけん、れなも悪かったと」
「悪かったとー(笑)」
「これからどーしようか」
「・・・今日はこのままイチャイチャしてたい」
「れなも」
顔を真っ赤にして俯きがちにそういうれーな
本当、可愛いんだからぁ
さっきまでのマイナス思考が嘘のように飛んでいく、晴れていく。

63 名前:Cultural festival 投稿日:2009/10/17(土) 21:10
「うへへぇ、れーな好きぃ」
なんて抱きついたら真っ赤な顔のまま
「れなも好いとーよ」
ってキスしてくれた
こういうとこ、かっこよすぎ
かわいくてかっこいいれーな
・・・絵里だけの、王子さま

64 名前:Cultural festival 投稿日:2009/10/17(土) 21:10

「ミルクティーの味がしたっちゃ」
「もぉ!ムードない!」

そんなれーなも大好きだよ、へへ。

65 名前:Cultural festival 投稿日:2009/10/17(土) 21:12
おわり

途中で「Cultural festival」の「festival」が抜けてしまいました
申し訳ないですm(_ _)m
駄文ですみませんでした(-∀-;)
66 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/10/20(火) 22:00

>>37-48の石視点です。

感想くださった皆様、ありがとうございます。
67 名前:忘れられない―Rside― 投稿日:2009/10/20(火) 22:02



【新着メールはありません】




もう来ないのはわかっているのに、それでも、メールボタンを長押しして問い合わせ続けているワタシ。
よく飽きずに、やり続けているなと自分でも思う。

高校からの親友の柴ちゃんにも、いい加減新しい恋見つけたら?と言われるけど。
それができたらとっくにしてるから、といつも返事していた。

一応、諦めようとは思い、問い合わせるのをやめた時期はあった。
だけど3日経ったら、また長押ししているワタシがいて、自身に苦笑いをしたのを覚えている。





というか、元々あの子を振ったのはワタシ。
なのに今だに忘れられない、あまりの自分勝手さに、頭にくる。

いい加減、諦めなきゃ。



68 名前:忘れられない―Rside― 投稿日:2009/10/20(火) 22:04


〜♪





と、突然鳴りだした携帯。





【新着メール1件】





携帯の待受を見ると、そう書いてあった。
淡い期待をしつつ、急いでその受信メールを見てみた。





「…柴ちゃんか」





メールは柴ちゃんからだった。
内容は、今度ゴハンを食べにいこうと言うもの。
とりあえず返事を返して、携帯をベッドの上に置く。





諦めなきゃと言ってるそばからこれじゃ、先が思いやられるわ。





*****



69 名前:忘れられない―Rside― 投稿日:2009/10/20(火) 22:07


「すいません、こちら東京テレビなんですが、質問に答えていただけないでしょうか?」





次の日。
たまたま仕事が休みだったので、ワタシは渋谷に買い物に来ていた。
最近仕事ばっかりしてたから、今の季節の洋服もなくて。
それでブラブラ歩いていたら、テレビ局の人に声をかけられた。

最初はなんかの勧誘かと思ったけど、カメラを持っている人もいたし、このテレビ番組も知っていたから、怪しくないのはわかった。

でも、せっかくの休みなんだから、放っておいてほしい。



70 名前:忘れられない―Rside― 投稿日:2009/10/20(火) 22:08


「すいません、今急いでるん…」

「今、忘れられない恋はありますか?」





断ろうとしたワタシの言葉を遮って、マイクを持った人が質問してきた。
そしてそのマイクを、ワタシに向ける。





おいおい、無視しな―――





――――忘れられない、恋?





「あの…忘れられない恋は?」

「あ、す、すみません」





質問されてから何も言わなかったからか、痺れを切らしてもう一度ワタシに話し掛けてくる。

何故よりよってその質問なのか?
ワタシが逆に質問したいくらいだった。

でもさすがにそう言うわけにはいかないので、一応答える。


71 名前:忘れられない―Rside― 投稿日:2009/10/20(火) 22:09



「恋ですか?

…ワタシは高校のときに付き合ってた人が、まだ忘れられなかったりしますね」

「そうなんですか。どんな方だったんですか?」





そこまで聞くのかと思ったけど、ここまできたらできるだけ答えてやろうと、逆に開き直ってきた。

そうすると、口が止まらなくなるわけで。





「その時付き合ってた人が、とてもかっこよかったんです。年齢が一つ下で、部活でもエースで。
でも、自分の勝手な理由で、別れちゃいました。
好きすぎて、逆に怖くなって。
それで逃げちゃったんですよね。
その人は逃げなかったのに。

今思えば、ホントバカなことしたなって思います」



72 名前:忘れられない―Rside― 投稿日:2009/10/20(火) 22:14

あの後も、10分ほどいろんな質問された。
そして、2週間後に放送予定なのでぜひ見てくれと言われ、テレビ局の人は去っていった。

ホント、ワタシ何やってるんだろう?





*****





放送日になった。

普通なら自分がテレビに映ってたら、見たいものかもしれないけど。
内容が内容だけに、見たくないような気もする。
というか、そもそもワタシが映るとは限らないし。





〜♪





そんなこと考えていたら、携帯が鳴った。



73 名前:忘れられない―Rside― 投稿日:2009/10/20(火) 22:15


「もしも…」

『梨華ちゃん!今梨華ちゃんがテレビに出てたんだけど!』





電話は柴ちゃんからだった。
柴ちゃんがテレビを見ろと言うものだから、仕方なくテレビをつける。
すると、あの時のワタシが映っていた。

見てて恥ずかしいと同時に、こいつ痛いわぁと自身に対して思えてくる。
いかにも『今でも大好きなんです』と言ってるようで。
いや、ある意味言ってるんだけど。





『もしその人がこれを見てたら、怒っちゃうかな?何で別れたんだって』



74 名前:忘れられない―Rside― 投稿日:2009/10/20(火) 22:17


テレビの自分がそう言ってて、心臓がドクンと動いたのがわかった。

ワタシ、こんなことも言ってたのね。





もしあの人が見ていたら?
あの人はどんな反応をするの?

知りたいようで知りたくない。
本当に怒っていたら?
何を今更、なんて思っていたら?





今でも、ワタシと同じ気持ちだったら?





『ぉーぃ梨華ちゃん?』

「ぁ、ごめん柴ちゃん」

『アタシと電話中なのに、あの子のコト考えてたでしょ?』





そこで『はい、そうです』なんて言えるわけがない。
だって柴ちゃんに失礼だし。

でも、親友だけあってすぐにばれるわけで。




75 名前:忘れられない―Rside― 投稿日:2009/10/20(火) 22:18

『まぁそれも仕方ないと思うけどね。ていうか、梨華ちゃんからはあの人に電話かけたの?』

「えっ、それは…」

『待ってるだけじゃ何も始まらないよ。かけてみれば何か変わるかもよ?』





人から言われて、気付くコトはよくあること。
今は正しくそれで。

ワタシから連絡したことなんてなかった。
いつも待っているだけだった。
それで、ずっとあの人のことを忘れられないと言っているのは、勝手すぎる。

それを今更気付くなんて。





「ごめん、柴ちゃん。ちょっと用があるから、いったん切るね」

『はいよー。ちゃんと言うんだよ』

「うん、ありがと」



76 名前:忘れられない―Rside― 投稿日:2009/10/20(火) 22:19


『用』が何かのかを言ってないのに。
柴ちゃんはそれが何なのかをよくわかっていて。

さすが親友だと思いながら、電話を切った。
そして、あの人の番号を探す。

フリガナ検索で『ゴトウ』と打って。
知り合いに『ゴトウ』はあの人しかいないから、すぐに見つかった。





番号の場面を出して、後は通話のボタンを押すのみ――――





――――ぇ?





通話ボタンを押してないのに、画面が変わった。
そして携帯がバイブて震えている。

しまいには『後藤真希』の番号が載っていた。

これがどんな意味をしているか、さすがのワタシでもわかった。





あの人からの電話だった。


77 名前:忘れられない―Rside― 投稿日:2009/10/20(火) 22:20



今までメールすら来なかったのに。
このタイミングで電話なんて。
待ち続けて来ないのに、こっちから掛けようとしたら先に掛かってきて。
一体これはなんなんだろう?

とにかく、不意打ちすぎるよ、ホントに。

でも、このチャンスを逃したら、もう来ない気がした。
だから、ワタシは通話のボタンを押す。






チャンスは、掴むもの――――だ。






「も、もしもし?」

『あ、り、梨華ちゃん?ごとーだけど…』









END
78 名前:カモミール 投稿日:2009/10/21(水) 22:39
休日だというのに、早く目が覚めてしまった。

…というか、ほとんど眠れなかった。

少し肌寒くなってきた朝の空気に身を震わせると、
ボーっとする頭でキッチンへ向かう。

特に何かを食べる気にもなれず、ただ紅茶でも飲もうと思ったのだけなのに、
勝手が分からないというのは不便なもので。

見当を付けて扉を開けるも、ことごとくハズレを引く運のなさに嫌気がさした。


家を出たい私と、反対するパパ。

もう子供じゃないのになんて子供みたいに拗ねた私に、
降って湧いたルームシェアの話。


「一部屋、物置代わりになっていて…借りて頂けると、私も助かるんです」


パパの前ではそんな風に言っていたけど、
案内されたその部屋はとても広くて綺麗で。

それがよっすぃ〜なりの気遣いだったと気付いて、すっかり恐縮してしまった私を

「今日からココが梨華ちゃんの家だよ」と、優しく迎え入れてくれた。
79 名前:カモミール 投稿日:2009/10/21(水) 22:40
とはいえ、いくら「自分の家」でも昨日の今日では勝手がわからない。

ハァ…

とりあえず、と手近にあったヤカンに水を入れてお湯を沸かす事から始めてみる。

カチカチと音を立てて点いた青白い炎。

不規則なその動きを見ていたら、紅茶を探す事も忘れてついまたボーっと…


―――パタン


不意に響いたドアの音に、身がすくむ。

やだ、悪いことをしているわけでもないのに…

空気が動いて、音の主が入ってきたのが分かっても、まだ振り向けずにいると

「はよ」

身体が後ろから包み込まれ、少し低めの声が耳元をくすぐった。
80 名前:カモミール 投稿日:2009/10/21(水) 22:40
―――――――――――――――

「実はひとつだけ、言っておかなくちゃいけない事があるんだ」

夕飯を終え、部屋で荷解きの続きでもしようかと立ち上がろうとした時
不意によっすぃ〜が切り出した。

言葉の続きを聞く為に、再び腰を降ろした私に、
少しだけ言い辛そうな素振りを見せる。

「何?何でも言って?」

いくら友人関係が長いとはいえ、同居となれば話は別。
当然にルールも必要だろうし、そういう事は早く決めた方が良い。

「あの、別に何かをして欲しい訳じゃないんだ…」

先を促す私に、言葉を選ぶように慎重に口を開く。

「梨華ちゃんは何も変わらなくて良い」

「うん」

ただ、知ってて欲しい


「あたし、梨華ちゃんの事が好きなんだ」


―――――――――――――――
81 名前:カモミール 投稿日:2009/10/21(水) 22:41
「…お、はよ」

普通に返したつもりなのに、思うように声が出ない。

「早起きだね」

寝起きのせいか、少しハスキーな声。

「目が、覚めちゃって…」

腕を解く事も出来ず、預ける事も出来ない身体を堅くして、
ただ質問に答える事に集中する。

「何してたの?」

「紅茶探してたんだけど、場所が分からなくて」

「あたしが淹れるよ」

「あ、うん」

ようやく開放された事にホッとして、足早にその場を立ち去った。

もう、紅茶なんてどうでも良い気分だったけど、
部屋に戻る訳にもいかず、リビングのソファに腰掛ける。

うるさくしちゃったかな…。

よっすぃ〜の早起きの原因が自分にある可能性に気付いて、
今更だけど申し訳ない気持ちになった。


いつだって、私は気付くのが遅いんだ。
82 名前:カモミール 投稿日:2009/10/21(水) 22:41
「カモミールにしたんだけど、大丈夫?」

ティーカップとポットを持って、よっすぃ〜が隣に腰掛けた。

「うん、ありがと」

ソファには充分な広さがあるのに、ぴったりと身体を寄せられる。

今までだってよっすぃ〜は優しかったけど、時々すごくそっけなくて。

こんな風にベタベタとするのは苦手なタイプだと思っていたのに。


―――あたし、梨華ちゃんの事が好きなんだ


こんな風にする理由を知ってしまって、私は…


「梨華ちゃんは何も変わらなくて良いんだよ」

「えっ?」

私の思考を見透かすように、よっすぃ〜が言った。

「昨日言ったこと気にしてるでしょ?」

意識してもらえるのは嬉しいけどね。と、少しおどけてみせる。

「変えたかったのは、あたし自身だから」
83 名前:カモミール 投稿日:2009/10/21(水) 22:42
梨華ちゃんを好きになって、怖くなった

気付かれるのが、失うのが、すごく怖かった

距離を置くことで気持ちが薄れればと思って、少し避けたりもして

それでも想いは強くなるばかりでさ

もうね、どうしたらいいのか分からないから…

素直になるって決めたんだ
84 名前:カモミール 投稿日:2009/10/21(水) 22:42
「だから、変わるのはあたし。梨華ちゃんは何も変わらなくて良いから」

「…なんか、それ、ヘンだよ」

「そう?私の気持ちを知ってるって事以外、梨華ちゃんは今までと変わらない訳で…
 シンプルな話だと思うんだけどなぁ」


うーんと唸って考え込んだよっすぃ〜を横目に、カップに手を伸ばした。


カモミールってリラックス効果があるんだっけ…

多分、寝不足の私を気遣って。


今までだってよっすぃ〜は優しかったけど、時々すごくそっけなくて。

嫌われてるのかも、なんて思っていたのに。
85 名前:カモミール 投稿日:2009/10/21(水) 22:42
「梨華ちゃんの横顔、好きだな」

いつの間にかこちらを見つめていた、よっすぃ〜が呟く。

「な、何よ急にっ」

「いや、前から思ってたんだよ」

言えなかったけど…と拗ねたように付け加える。

「今まで言えなかった分、いっぱい好きだって伝えたい」

素直過ぎるよっすぃ〜の言葉はあまりにストレートで

「もう、わかった、から…」

何だかすごく、心臓に悪い―――

「まだ、わかってないよ」

そう言うと私の手を取り、自らの胸に当てた。


「あたしの気持ち、もっと、全部知って欲しい」
86 名前:カモミール 投稿日:2009/10/21(水) 22:42
本当に何も変わらない?


熱い手に包まれて感じる、強い鼓動。

今までだってよっすぃ〜は優しかったけど、これからはきっと、もっと…


「梨華ちゃん…」


もう一方の手が頬に添えられ、親指がそっと唇をなぞった。

綺麗なヒトミに見つめられて、私はもう動けずにいる。


「愛してる」


そんな風に囁かれて、本当に何も?

ほら、もう、カモミールだって効果がないのに…


さっきとは別の鼓動が、はっきりと音を立て始めたのを感じて


―――私はそっと、目を閉じた
87 名前:カモミール 投稿日:2009/10/21(水) 22:43
END
88 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/11/25(水) 23:11

やじうめです。

 
89 名前:車の中でかくれてキスをしよう 投稿日:2009/11/25(水) 23:11

******

 
90 名前:車の中でかくれてキスをしよう 投稿日:2009/11/25(水) 23:12

 思ったより長い距離を歩いて来たから、迷わず楽屋へ戻れるか少しだけ不安になった。灰色の壁と白い廊下は前も後ろも同じ様子に見える。せかせか前を歩くその背中へ声を掛けようと口を開きかけた時、相手が振り返った。
 何も言わず、口角を持ち上げて笑っていた。
 
 他のメンバーには内緒だ、と前置きされ道中も黙ったままだった。

 えりの、「ついて来て」と平静を装った真剣な表情に言葉を返すことができず、こくりと頷くだけだった。でも、取り繕った冷静さから隠し切れない笑みを私は見逃さない。
 楽屋をこっそり抜け出し、℃-uteの撮影現場とは違う方向へ入り組んだ廊下を進んで行く。私はえりの背中を無言でついていった。
 きっと、戻ったら千聖や舞に二人でどこへ行っていたのか問い詰められるな。
 くすぐったい杞憂に自然と表情がニヤついてしまった。

91 名前:車の中でかくれてキスをしよう 投稿日:2009/11/25(水) 23:12

******

 
92 名前:車の中でかくれてキスをしよう 投稿日:2009/11/25(水) 23:12

 分からなくて。この気持ちがどういう種類の感情なのか全然分からなくて、動揺していた。嬉しいのに泣きたくなったり。些細なことで心臓がどきどきしたり。触れられた箇所が熱くなったり。わけが分からない。
 気持ちの正体をつかめないまま、搾り出した言葉は。「好きだよ」だった。えりを目の前にして動揺していて、嬉しかったり身体が熱かったり、心臓がばくばくしていて、泣きたい気持ちだった。全部ひっくるめて表した言葉がそれだった。
 えりは、表情を崩してそっぽを向いてしまった。照れるじゃんって言いながら肘で私を突いてきたけれど。全然伝わっていないと感じた。「好き」でしかないのに。好きじゃ伝わらない。なんだか急に不安になって、「えりは? 」と尋ねてみた。

 「えりは、私のこと好き? 」

93 名前:車の中でかくれてキスをしよう 投稿日:2009/11/25(水) 23:12

 * * *

 
94 名前:車の中でかくれてキスをしよう 投稿日:2009/11/25(水) 23:13

 あらかじめ知っていた答えを口にするみたいな呆気ないものだった。
 えりはひとしきり照れたり、ごねたりした後きちんと答えた。

 「好きに決まってるじゃん」

 どうして、わざわざ言わせるのか、と恨めしそうな表情だけで私を責めているみたいだ。嫌われているとは思ってなかったし。えりの答えは予想できた。答えを本人の口から聞いても安心するどころか、その不安はくっきりと心に染み付いてしまった。
 当たり前のことだった。
 えりはえりで、私は私。
 思いの形も、好きの意味も。
 他人と他人なんだから、どんなに頑張っても一つになることなんてない。

 「大好きだよ、えり」

 それでも繰り返し思う。えりを好きだということ。
 えりにも好きでいてほしいということ。
 心に付いた染みは、もう、消えることはない。

 「舞美? 」
 私よりも背の高い相手を引き寄せてぎゅっと抱きしめた。
 力を加減しないと思わぬダメージを与えてしまうから細心の注意を払い、触れた箇所全部でえりを模った。
 どうしようもない。今更、過去へは戻れない。過去へ戻れたとしてもえりと何が何でも出会いたいと思う。
95 名前:車の中でかくれてキスをしよう 投稿日:2009/11/25(水) 23:13

 「私、嬉しいんだよね」
 脈絡無い行動を取り続ける℃-uteのリーダーには慣れっ子の様子で、えりは「えー? 」と咎めるような返事をしつつも大人しく腕の中に収まっていた。

 「えりと一緒にいることができて嬉しい」

 ああ、泣きそうだ。

 分からなくて。動揺していて、どきどきしていて。体温が上がっていく。

 「何それ」
 素っ気無い態度のえりだったが、すべてを許すみたいに体重をこちらに預けてきた。
 語彙力のない自分を諦めて、私はもう何も言葉を口にしなかった。

96 名前:車の中でかくれてキスをしよう 投稿日:2009/11/25(水) 23:14

******

 
97 名前:車の中でかくれてキスをしよう 投稿日:2009/11/25(水) 23:14

 最後の曲がり角で、手を引かれた。
 「舞美、こっち」
 返事をしようとした瞬間に、えりが「しーっ」と人差し指を自分の口に当てて私の言葉を奪った。
 地声の大きさをついつい忘れがちになってしまう。あわてて私は空いている方の手で口を塞いだ。大袈裟なリアクションにえりが片眉を下げ呆れた様子を見せた。
 えりの腕にぴったりと寄り添い、辺りの様子を伺った。物音がしなくて人の気配もなかった。
 重たい扉をゆっくり開けながら、えりは「スタッフさんがさっき教えてくれたの」ともったいぶる態度だった。
 ちょー、感動したから。まじでびっくりするから。
 ボリュームを押さえられた声でも、相手の興奮具合は充分伝わってきた。
 何があるのか予想できなかったけれど、心持ちわくわくした。
 勇敢な相手は邪魔臭い大道具や機材を掻き分けどんどん先へ進んでいく。扉の中は照明が灯されておらず、殆ど暗闇だった。
 えりの顔を覗きこんで確かめる。えりはいたずらっ子みたいな、得意げな様子で、「いいからこっち」と宙へと視線を向けた。

 照明が点けられていなかった理由がわかった。
 頭上に広がる満天の星。
 本格的なプラネタリウムがスタジオいっぱいに広がっていた。
98 名前:車の中でかくれてキスをしよう 投稿日:2009/11/25(水) 23:15

 「おー…… 」

 言葉を失うとか、開いた口が塞がらないとか。まさにそれ状態だった。
 まさか、こんなところで星空を見ることができるとは夢にも思っていなかった。
 「みんなに見せたいところなんだけど」
 ぽつりと零した相手の言葉に耳を傾けた。
 「大勢で騒いだら迷惑になるし」
 だから、まじで他のメンバーには内緒にして。
 再度念押しされ、私は黙ったまま何度も頷いた。

 すごいとしか言いようがない。きらきらしたスタジオは、限られた空間なのに、どこまでも広がっている本物の空みたいだった。

 「一人だけだったら、連れてきてもいいよって言われて」
 寄り添っていた腕から離れてスタジオの中央へ進んでみた。
 真ん中に立ってぐるりと回ってみても星、星、星、星、星だらけだ。
 「たまたま通り掛かったらここのスタッフさんに見せてもらえたんだ」
 話を聞いていない私を余所にえりは言い訳みたいなことをぽつりぽつり述べていた。
 「みんなに教えてもいいですか?ってお願いしたけどやっぱりだめでさ」
 でも、一人くらいならいいよって。
 中央から、スタジオの隅に立っていたえりを見てみた。
 「すっごいきれい」
 えりの会話なんてまるで無視して率直な感想を伝えた。
 「よかった」
 息を吐きながらえりが笑ってくれた。
99 名前:車の中でかくれてキスをしよう 投稿日:2009/11/25(水) 23:15

 「すごい、すごい。すっごいやばい」
 超きれい。やばいこれめっちゃきれい。

 「舞美を連れてきてよかった」
 感想とも言えない単語の連続しか伝えられなかった私に、どうやらえりは満足してくれたらしい。
 えりのたった一人に選ばれた優越感に浮き足立つ。
 「ありがとう、えり」
 星の中に立つ二人。
 まるで世界に二人きりみたいな孤独だった。
 でも、えりと二人だったら何も怖くないと思った。
 「教えてくれて、ありがとう」
 こっちきて。と、私は手を伸ばしてえりを誘う。
 真ん中で一緒に見ようよ、こんな近くの距離だって、一人ぼっちはやっぱり寂しい。
 えりはこちらを見ていたが、動かない。
 「あと、5分だけ」
 戻る心配をしている風のえりを見越して先に甘えてみせた。
 一歩踏み出してえりの手を取り強引にこちらへ引き寄せる。
 優しいえりに付け込むみたいなお願い事だった。
100 名前:車の中でかくれてキスをしよう 投稿日:2009/11/25(水) 23:15

 「仕方ないなぁ」
 えりは渋々ながら、やっぱり承諾してしまう。

 プラネタリウムはとてもきれいだった。
 でも、星より近く息遣いが聞こえる距離のえりの横顔が印象強く心に残っている。
 同い年なのに、随分と大人びたその様子は「きれい」、だけでは言い表せなくて、私はまた言葉を失った。

 どうか私のことを嫌いにならないで下さい。
 えりを私から奪わないで下さい。
 
 流れ星も流れていないのに。気付くと、そんなことを胸の中で祈っていた。

101 名前:車の中でかくれてキスをしよう 投稿日:2009/11/25(水) 23:16

 * * *

 
102 名前:車の中でかくれてキスをしよう 投稿日:2009/11/25(水) 23:16

 帰りの車内、撮影が長引いた所為で疲れてしまったのか、メンバーの多くは眠っているみたいだ。愛理が背筋を伸ばして窓の外を見ていることがわかった。耳にはイヤホンがしてあったから、音楽を聴いているみたいだ。最近洋楽にはまりだした彼女から借りたCDは海外ですごくヒットしたそうだけど、耳慣れない英語を聴いていると眠たくなった。申し訳ないと思いつつも、ポータブルプレイヤーにダウンロードしたまま聴いていなかった。
 自分の席を立ち、通路を挟んで斜め前の席へ移動した。何気ない素振りで腰を落ち着ける。移動車の中はともすれば寝息が聞こえてきそうな静けさで、エンジンの音だけが車内に響いていた。

 
103 名前:車の中でかくれてキスをしよう 投稿日:2009/11/25(水) 23:16

 席一つ分、向こうの窓を見た。
 すっきりしない天気だった。遮光シートの所為なのか本当にどんよりしているのか、外の様子は曇り以上に淀んでいた。
 隣に座っている相手はシートに深く座り、目を閉じていた。
 私も同じだけ深い位置に座り直し顔だけ寝ている相手の方へ向けた。
 小さい嘆息が零れてしまった。
 すると、こてん、と相手の顔がこちらに動いた。

 「舞美? 」
 目を閉じたままのえりが私の名前を呼んだ。
 言葉に詰まった。どうして、私だと分かったんだろう。
 「ごめん、起こしちゃった」
 咄嗟に謝った私にえりは眉を八の字にしながら「んーん」と軽く首を横に振った。
 「目、閉じてただけ」
 言いながら瞼を持ち上げて、上目遣いでこちらを見てきた。「おはよ」と悪戯っぽい目つきで笑う。私も「おはよう」と言いながら笑ってしまった。
 「何、どうしたの?」
 手元にあった、携帯電話でえりは時間を確認しながら私が隣に来た理由を尋ねた。寂しかった? なんて聞くから、答えに迷ってしまう。私は嘘が下手だから取り繕うことはせずに素直に言う。
 「ちょっとだけね」
 いつも通り、携帯電話を操作しながら、メールをチェックしているみたいだ。何件か、用事を済ませるとえりは携帯電話を閉じた。
 パタン、というその音が合図だった。
104 名前:車の中でかくれてキスをしよう 投稿日:2009/11/25(水) 23:17

 「えり」

 名前を呼ぶ。
 また、えりが上目遣いでこちらを見たことを確認してくっきりと表情を作る。
 相手が安心できるように、精一杯笑った。
 心臓の音がうるさかったけれど、とても冷静な自分がいた。
 「目、閉じて」
 笑いながら、誘導していく。
 一度、えりは瞬きをした。
 私は何も言わず、えりを見つめ続けた。
 すると口元を綻ばせ、えりはゆっくり目を閉じた。
 その瞬間、瞬間のえりが連続写真みたいに、脳裏に焼きついていく。
105 名前:車の中でかくれてキスをしよう 投稿日:2009/11/25(水) 23:17

 呆気ない距離だった。
 肩に乗っているえりの頭の重みが心地よいと思った。
 感情を取りこぼさないように、ゆっくりゆっくり近付いていく。
 間近で見る肌理細やかな素肌に見惚れてしまいそうになるのをぎりぎりの理性で堪え、そっと唇を重ねた。
 触れたその感触に心が震えた。
 両極端の感情に押しつぶされるみたいだ。
 何もかもが一瞬の出来事。

 車内はとても静かで、エンジンの音と、外で行き交う車通りの音だけ聞こえていた。
106 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/11/25(水) 23:17


END
 
107 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/11/26(木) 22:45
最後の2レス、すごくドキドキしました
108 名前:コンパスイッチ 投稿日:2009/11/29(日) 21:47

コンパスイッチ


109 名前:コンパスイッチ 投稿日:2009/11/29(日) 21:49
遠い日の夢を見た。
あたしがまだ十代で、グループの一員として活動していた日の夢。


それが覚めたとき、まだ頭が混乱していて、夢の内容が現実のように思えた。幸せな気持ちだった。
その幸せは、スポットライトの下ですべてが一体となる興奮よりも、
木漏れ日にはしゃいでいる安心のほうに似ていた。
だから、あれからたくさんの月日が流れて、今は事務所さえ離れた場所で活動しているのだということがはっきりしてくると、
今度は泣きたい気持ちになった。初めての経験だった。
110 名前:コンパスイッチ 投稿日:2009/11/29(日) 21:50
のどがカラカラだったので、電気もつけずに冷蔵庫に向かった。
深夜のキッチンで冷蔵庫は、財宝のつまった宝箱のように、中から光を放って開いた。
あたしはお宝であるところのスポーツドリンクを取り出し、直接に口をつける。

室内にひとつ、大きなため息が溶けていった。

開けっ放しの冷蔵庫は、ペットボトルを持ったあたしの影を、失礼にも悪魔のように引き伸ばし、
そして、あんな夢を見た原因も照らし出す。
それは、テーブルの上。長方形にたたまれている。
あたしが寝るまえそこに放り出したたたずまいのまま、あった。
111 名前:コンパスイッチ 投稿日:2009/11/29(日) 21:52
「……いちーちゃん」

ありえないことだけど、洩れたその声で自分のつぶやきに気がついたような感覚だった。
あたしはあきらめるようにイスに座り、新聞を手に取った。普段からこの家に存在するものではない。
契約をしていないので、いつもはポストに新聞は届けられない。
仕事帰りに立ち寄ったコンビニで、“市井紗耶香復帰”の見出しに惹かれて手を伸ばしたものだ。
内容はそれ以上読んでいない。
貼り付けられている写真はただ、穴が開くほど眺めた。
112 名前:コンパスイッチ 投稿日:2009/11/29(日) 21:53
連絡は、なかった。
あたりまえだ。最後にいちーちゃんと会話したのはもう、いつになるだろう。
それも思い出せない。そのくらいの時間が流れたのだ。
それでも物事の前後はわかる。その、いつかの最後の会話からあと、あたしにも色々なことが起こった。
あたしはそれを、いちーちゃんに相談することはなかった。連絡もしなかった。
つまりは、そういうことなのだ。
113 名前:コンパスイッチ 投稿日:2009/11/29(日) 21:53



114 名前:コンパスイッチ 投稿日:2009/11/29(日) 21:55
「たしかに、ツイてないところはあるかもしれないな」

離ればなれになることが決まったあと、本当に離ればなれになってしまうまえ、
いちーちゃんはいつもの口調で言った。二人で立ち寄ったカフェでのことだった。

「でもそれって、仕方のないことだろ?」
「仕方なくない」

あたしはふくれっ面で鼻を鳴らした。なんせ、あたしは十四歳だったのだ。

「うわっ、後藤、なんだよそのひどい顔」
「知らない」
「おまえ、自分は見えないからいいかもしんないけど」

いちーちゃんはこれから大事なことを発言するように、一度言葉を切った。

「すんっげー、ブッサイク」
115 名前:コンパスイッチ 投稿日:2009/11/29(日) 21:57
知らない、ともう一回くり返しながらも、あたしは顔を背けた。
残念ながら、あたしは実によく知っていた。鏡くらい見たことがある。
怒ってるときや、いじけてるとき、さらにそれが合わさったときなんかは特に、あたしはブサイクな顔になる。
それは認めることにしよう。だけど、それにしても。

「そんな言い方ないじゃん」
「へ?」
「ブッサイクって」
「だってブッサイクな顔してんだもん、後藤。おまえ、今の顔、鏡で……」
「だからブサイクは許すにしても、ブッサイクって。小さな“つ”入れることないじゃん!」
116 名前:コンパスイッチ 投稿日:2009/11/29(日) 21:58
あたしは真剣に怒ってたのに、いちーちゃんは目をまるくしてから、吹き出した。

「そんなことか。じゃあ、早くやめろよ、そのブッサイクなツラ」

あたしはブサイクとブッサイクの違いを力説しようとしたけれど、
ようやく自分の怒りが、本当とは全然違う場所を向いてしまっていることに気がついた。
感情が揺れやすいというか、こういうことがよくあった。
なんせ、あたしは十四歳だったのだ。
117 名前:コンパスイッチ 投稿日:2009/11/29(日) 21:59
平日午後二時の喫茶店は、人もまばらだった。
客層もスーツ姿の人が大半で、あたしたちに気づいている様子はない。
たとえ気づいていたとしても、騒ぎ立てることはないだろう。そんな雰囲気のあるお店だった。
だから今、店内で一番うるさいのはおそらくあたしたちというか、あえていってしまえば、あたしだった。
それも二位以下を大きく引き離して。
118 名前:コンパスイッチ 投稿日:2009/11/29(日) 22:00
「……いちーちゃん、よく平気な顔してるね」
「ブッサイクな顔じゃなくて?」

いちーちゃんはしつこいのだ。それを無視して、あたしは続けた。

「いちーちゃんは、あんな事情で娘。をやめなくちゃならなくなって、それで平気なの」
「平気もなにも、仕方ないだろ」
「仕方なくない」
119 名前:コンパスイッチ 投稿日:2009/11/29(日) 22:01
話がループしてしまった、とあたしは思った。
だけど、今度はふくれっ面をしなかったせいか、いちーちゃんはイジワルを言わなかった。
代わりに小さく笑った。
笑顔のはずだけど、それを笑顔と呼んでいいか、あたしにはわからない。
妙に寂しげで、だけどなんだか色気とは違う、セクシーな笑い方だった。
ああ、とあたしは思った。
人はこんな笑い方を、どんな気持ちのときに浮かべるんだろう。
そして、どういう人がこんな表情を、浮かべることができるのだろう。
120 名前:コンパスイッチ 投稿日:2009/11/29(日) 22:02
「誰にでも、どうもならない事情のひとつやふたつ、あるもんだろ」

認めたくないことだから、黙っていた。
あたしは黙ることで、なにかを拒否しているような気持ちでいた。
きっと、こんな小娘が亀のようにかたくなったところで、それをいともたやすく吹き飛ばしてしまうような、なにか。
正体さえつかめないそれに、それでも抵抗するように。

「……餞別代わりな」

やがて、いちーちゃんはそう口にして伝票を手に取った。
颯爽とレジに向かうその背中に向かって、あたしは言う。

「餞別は、去る人がもらうものだよ」
121 名前:コンパスイッチ 投稿日:2009/11/29(日) 22:03
細かいことはいいんだよ。
レジでお金を払ういちーちゃんの耳がほんのり赤く染まっていたので、
案外本気で間違えたのかもしれない。わからない。
こんな単純なことが、もうきっと、あたしにはわかることがない。
そんなあたしより、いちーちゃんはもっとたくさんのことを理解していた気がする。
勝手にあたしがいつまでもそのままだと信じてやまなかったものが、少しずつ変化していくことも。
だけど、あのときのあたしには何もわからなかった。幼すぎた。

いちーちゃんのグループ脱退から少しして、あたしは十五歳になった。
それから何回も季節が巡った。あの頃あの笑顔を浮かべたいちーちゃんより、今ではずっと年上だ。
122 名前:コンパスイッチ 投稿日:2009/11/29(日) 22:04



123 名前:コンパスイッチ 投稿日:2009/11/29(日) 22:06
記憶にあるものより、さらに大人びた笑顔を、写真の中のいちーちゃんは浮かべていた。
あたしの笑顔はどうだろう。あんまり大人な自信はない。
だけど、気づけばそれを、あたしも浮かべていた。
この一晩のあいだに、これまでの日々を一度に経験したような気分だった。

あの頃。弾けるような笑顔をいつも浮かべていた頃。
その日々はたしかに幸福な記憶に間違いない。それが終わってしまうのは悲しいことだ。
仕方ない事情というのは誰にでもある。
いちーちゃんにも、あたしにもやっぱり、あった。
だけど、あたしたちは負けなかった。
いつまでも下を向かずに、少しずつ、少しずつ顔を上げ、まえを向き、足を踏み出した。
別々の場所で、それぞれのペースで。
124 名前:コンパスイッチ 投稿日:2009/11/29(日) 22:07
そして今ようやく、仕方なく、なくなったのだ。

笑顔に自信はなくとも、あの頃と違うあたしはもう、知っている。
これからも仕方のないことはいくつもあたしたちのまえに立ちふさがるに違いない。
それでも、あたしたちは乗り越えていくことができる。その力が、あたしたちの身体にはある。
そうやって、こんなところまでやってきたのだ。
125 名前:コンパスイッチ 投稿日:2009/11/29(日) 22:09
またいちーちゃんと連絡を取り合うようになるのか、それはまだわからない。
でも、大丈夫。あせる必要はない。
新聞の内容は相変わらず読まないまま、写真をもう一回見つめた。その笑顔で充分だった。
もうすっかり目の慣れた暗闇で、つまづくことなくベッドに戻った。
夢に過去を見て、ぼんやりした頭で現在までを見たのだ。
あたしは目を閉じ、いつかその日がやってきたとき、はじめにかける言葉でも考えながら、
やがて眠ってしまうのを待つことに決めた。

なら今度は、そんな未来の夢を見ることにしよう。
126 名前:コンパスイッチ 投稿日:2009/11/29(日) 22:09

コンパスイッチ おしまい

127 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/11/30(月) 01:23
ハロプロ(OG含め)も娘。小説もまだまだ終わらんのかもしれんなぁ
と思わせてくれる小説でした
面白かったです
128 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/02(水) 21:24
面白かったです。ありがとうございました。
129 名前:オガマー 投稿日:2009/12/06(日) 23:56
小春の卒業なんで載せます。
130 名前:オガマー 投稿日:2009/12/06(日) 23:56

 素顔フレイバー。
131 名前:オガマー 投稿日:2009/12/06(日) 23:57


ほんとは、好きだって言いたかった。
132 名前:オガマー 投稿日:2009/12/06(日) 23:57
「小春ぅ〜、アンタほんとに行かないの?」

机に突っ伏してるアタシに、お姉ちゃんの声が聞こえる。

「え、小春行かないって言ってんの?」

お母さんの声も、聞こえる。



アタシは机の上に立ててある、なんでもない集合写真を見つめた。

あたしの家族と、圭介お兄ちゃんとこの家族と、みんなでキャンプに行ったときの写真。



いつだって、子供扱いされたけど、

いつだって、優しくって。

いつもいつも、小春の頭を優しく撫ぜてくれた。



家族のみんなが、気づかない小春が落ち込んでる日、お兄ちゃんだけが、

気づいてくれた。



「小春?もう二年も会えなくなっちゃうんだよ!?」

「いいよ、別に。」



想像以上に、かわいくない声が出た。

いいよ、別に。

なんて、嘘。

一週間顔を見られないだけで、泣いちゃうかも。

そんな日が来るって、想像するだけで泣けちゃうかも。



あの日、好きだって言いたかった。

アタシの学校の試験がやっと終わって、

小春にだけは、内緒でいいこと教えてやるって。

圭介兄ちゃんが言って。
133 名前:オガマー 投稿日:2009/12/06(日) 23:58
小春は浮かれてその場所に行ったんだ。

室内テーマパーク。

ウキウキしてたんだ。

なのに、圭介兄ちゃんの隣には、綺麗な女の人が立っていた。



「俺、今度、彼女と一緒にアメリカ行くことになったんだ。」



お兄ちゃんの彼女がジュース買いに行ったとき、圭介兄ちゃんが言った。



「これ教えるの、小春がはじめてだぞ。」



イタズラな笑顔で、小春を見た。



「アメリカッ!?すごいじゃん、なんでッ!?」



はしゃぐアタシをお兄ちゃんは、嬉しそうに見ながら、

彼女の仕事をサポートするために、自分もそちらへ行くのだと言った。



泣いちゃいそうだから、わざと、笑ってた。

バカみたいに、とびっきりバカみたいに笑ってた。

お兄ちゃんの隣で笑う彼女が、その彼女に優しく微笑みかけるお兄ちゃんが、

涙で滲んで見えなくなって、携帯が鳴った振りをした。



帰り道、雨が降っていた。

お兄ちゃんは、彼女をタクシーに乗せると、小春の傘に入ってきて、笑った。



134 名前:オガマー 投稿日:2009/12/06(日) 23:58
「こうやって一緒に歩くのも、もう最後かもな。」



スッと握っていた傘がお兄ちゃんの手に握られて、アタシはお兄ちゃんの

向こう側の肩が濡れるのをボンヤリと見つめていた。



「小春は、ちぃーさいときから、ほんっと元気だったよな。」



なんだか、お別れを言われてる気分になった。



「イタズラばっかしてさあー、よく俺の家にかくまってやってた。」



もう二度と、会えないよ、って伝えられてる気がした。



「お前は強がりだからさ、泣きたいときに素直になれないだろ?」



雨が、傘の上で音を立てる。



「俺がいなくなるのなんて、寂しくないよなあ?」



ああ、全部気づかれてたんだあ、って思った。

今日のアタシの態度、隠してたつもりだったのに、

バレちゃうんだ。

お兄ちゃんの笑顔がだって、泣きそうになってた。

135 名前:オガマー 投稿日:2009/12/06(日) 23:59
でもね、違うんだ。

寂しいとか、そういうんじゃないんだ。



時々当たる肩に、ドキドキしてるんだ。

好き、って。

好き、って・・・。



言えなかった・・・・・・。

136 名前:オガマー 投稿日:2009/12/07(月) 00:00
「ほんとに行かないのね!?後で泣いたって知らないから。」

お母さんがしびれを切らしたようにそう言った。

とき、携帯が震えた。



「あ・・・・・・。」



お兄ちゃんからのメールだった。

『俺のこと、好きなら、告白しに来い。』



なんだ。

なんだ、バカヤロウ・・・。

やっぱり、全部気づいてるくせにっ!



アタシに失恋させようってつもり!?

お兄ちゃんの優しい泣きそうな笑顔だけが浮かんだ。

小春のこと、大切に思ってくれてるって、

安心できるんだ・・・あの笑顔。



『待ってろ!圭介!』



アタシはそう打ち返すと、ドアを開けた。

「お母さんっ!やっぱりアタシも行くっ!」



タクシーに乗ったら、涙が溢れそうになって、

慌てて空を見上げた。

快晴だ。

ラッキーなやつ・・・。



泣かない泣かない。

ちゃんと、伝えよう。

お兄ちゃんが、優しく笑えるように。

アタシのこと、考えて悩んだりしないように。

気持ち全部、伝えるから。



泣いちゃっても、知らないよ。



気持ち全部、伝えてください。

あの、泣きそうな優しい顔で・・・・・・。
137 名前:オガマー 投稿日:2009/12/07(月) 00:00
以上です。
138 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/24(木) 20:48
ブーツ!
ブーツ!
ブーツ!
139 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/24(木) 20:50
今年は二人で飲もう、ってことになった。

誕生日で主役なのに、結構な大荷物でうちに来たえりは、
リビングにて持ってきた物をいちいち説明しながら床におろす。
大半はお酒で、店にあった梅酒を一通り買ってきたりしてた。
飲み切れないのは、来年のお楽しみなんやって。ちゃっかりさん。

そして、もったいぶって最後に取りいだしましたるは、こちら!

「これっ! 今年の絵里達を象徴するシロモノでありますよ」

この時期よくある、お菓子が詰まったサンタの赤ブーツ(大)である。
それを見たあたしは、すぐさまキッチンからもうひとつのブーツを
取り上げ、えりに向かってかかげた。

「こっちはシルバー!」

歳末大爆笑セール、開催中!
140 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/24(木) 20:51
ひとしきり笑い終えたあと乾杯して、で、だらだら今年を振り返る。

「なんだろぉねぇ今年。あ、なんかブーツたくさん買った気が」
「買いました! 両手に抱えてえっちらおっちら歩いたり」
「じゃあ2009ブーツイヤーとかか?」
「それだ! 愛ちゃん良いこと言った!
 並べよう! 並べちゃおうよここに!」
「ブーツをかぁ? えりのも無いと意味無いじゃん!」
「ん〜でもぉホントたくさん買い物したね」
「ほやね」
「今日のも一緒に行けばよかったですね」

ごめーん、あたしが部屋の掃除ちゃんとしてたら……
ブーツの色揃えられたし? 衣装にも手ぇ出したかもね。

「いや絵里はコスプレはもういいっす」
「はは、普段はいいか」
「遠慮しときます」

あたしら服の趣味は似てるけど、コスプレは別なんだよねー。

「サンタ二人で飲み会なんて、愚痴言い合ってるみたいだしね」
「いやそれはいいんじゃないですかね」

あら、それはいいんだ。

「サンタも人間なんだからぁ、愚痴はいっぱい言っていい!」
「ところでサンタって人間なの?」
「え、にん……違う?」

あれ、どっちだったっけ?
141 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/24(木) 20:54
それはそれとして、愛ちゃんは人間じゃないですか。
愚痴言ってくださいよ。ねえ。

「えー急に言われても」

ただいま愛ちゃんマドラーで混ぜラー。
カラカラさせながらしばし黙り込む。
絵里はなんか予感がしたので、赤ブーツの封を切って、中身を物色する
フリして待った。

中からチョコボールを見つけて二、三個口に放り込んだ時、愛ちゃんが
ポツリとこんなことを。

「愚痴っつーか」
「ん、うん」
「あたし今とりあえずの目標がさ、アメリカに住むことなんやけど。
 住めなくても、滞在? はしたくて」
「……知ってる」

チョコボールの中のピーナッツが、喉に引っかかりを残して、
胃に落ちていった。

「あーでもやっぱさ、怖いなーって」
「そりゃ怖いよね」
「うん、マコト強いなーって」

まこっちゃん。
NZことニューズィーランドに留学経験のあるまこっちゃん。
愛ちゃんは昔からまこっちゃんをライバル視してて、留学までされて、
羨ましくて仕方ない、って思ってるんだって。

そんなことを言いながら梅酒をくいっと一口飲んで、間を置いた。
142 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/24(木) 20:57
「……あー、ヤバイ超こええ」
「行く前からそんなに」
「これ愚痴やで」
「なるほど」
「リーダービビってる! ヘイヘイヘイ」
「酔ってきました?」
「酔ってきました!」

これちょーだい!
ビビリーダーが、絵里のばらまいたお菓子の中からたこ焼きスナックを
取り上げて貪り始める。

「向こうじゃ、これも食えねえのかよォ〜」

『孫』の替え歌で嘆いたのが面白くて思わず笑ってしまって、
あ、ヤバイ怒るかも……と思いきや全然そんなことはなく。

「そやってえ、失敗して帰ってきてもぉ、えりみたいにみんな笑って
 許してくんなきゃやだー!」

絶叫とともに抱きつかれてしまった。ってか酔うの早いよ!
しかもずっとヤダヤダ言ってて子供? みたいな。ちょっと小春っぽい。
いったいどこでチャイルダー(Child+er)・オンしちゃったんだろ。
ちょーだい! のあたり?

けど、面白かった。アリです全然OKです。

「うはは愛ちゃん面白い。
 だいじょうぶだよぉみんな許すよ。平気平気」
「ほんとかあ?」
「勇気を買いますよ。だから笑って帰ってくればいいんです」

しばらくして、愛ちゃんは離れた。
泣いてるかと思ったけど、泣いてなかった。
ただ、目はうるうるしてたし、えりの手を掴んで離さない。
そしてこの時、言われた。
143 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/24(木) 21:00
「でもさ、……えりだけは遊びに来て」

エギョー!!
と、変な叫び声を上げそうになる。
絵里、頼られてる! 愛ちゃんに本気で頼られてるよ!
うわーうわー参ったな肝心要は亀井絵里ですかそうですか。
っつーかほんと言い方が愛ちゃんらしいよねストレートじゃないのに
こうなんか求められてるのはバーンとわかっちゃう感じの。
野球ならバッテリーだよね理想の二人だわ(夫婦)みたいな。
妻の亀井です。違う。絵里です。

「あ? 何や妻って」
「いやあ参ったなあ。単身赴任っぽい」
「いろいろ飛びすぎ。お前も酔ってんだろー」
「今の愛ちゃんには言われたくないー。
 まあ任してくださいよ。もち行きますよ。ブーツ買いに」
「そっちかよ!」

にしても、酔ってても「付いてきて」って言わないのはすごい。
実際自分でなんとかしようと考えてるから、言わないんだと思う。
ってことまでわかっちゃった。絵里さすが、妻。
144 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/24(木) 21:00
……
………
145 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/24(木) 21:02
……ん?

そういや昨日、えりの誕生日プレゼント渡したっけ?

朝方ベッドで微睡んでいた時に思い出したものの、飛び起きるわけには
いかず、あたしはそーっとベッドから降りてそーっと寝室を出た。

リビングの床に転がってたシルバーのサンタさんブーツは、やっぱり
開封された形跡がない。
実はこれの中に、プレゼントを隠してある。
覗きこんでみたら、案の定中に入ったまま。

プレゼントは至って普通のボディバターやけど、生々しいかなーと
思ってなかなか贈ることができなかったものだ。
塗って、馴染んで、香る。うんやっぱ、何かリアルやね。

このままだと渡し忘れそうな気がしたんで、寝室に戻ってえりの枕元に
プレゼントを置いて戻ってきた。
あらこれサンタみたいじゃん。思いがけず。
146 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/24(木) 21:03
お昼くらいになって(ずいぶん寝たなあ)、サンタさんが来たよぉ、
と言いながらえりが起きてきた。
手のひらサイズの包みを持って。

「おー良かったやん」
「ねえねえ早速開けてみていいですか?」
「お構いなく」

そう言うと、床にぺたりと座り込んでリボンを外す。
出てきたボトルに、おお、という声。

「これあれですよね、塗るやつ」
「そーだよー」

では早速! と突然言い出したから、え、もう使ってまうんか、
と思いながら成り行きを見守ってると、えりはしゃきっと立ち上がって、
なぜか玄関へ行こうとした。

「どこ行くん」
「あれこれ、ブーツのお手入れするやつじゃないの?」
「ちげーよ!」
「え? え?」

蓋を開けて香りに気付くまで、えりは本当にブーツオイルだと
信じて疑わなかったらしい……

うんやっぱ、今年って、ブーツイヤーだったんだね。
147 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/24(木) 21:03
終わし
148 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/24(木) 21:04
エリー
149 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/24(木) 21:04
クリスマス
150 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/24(木) 21:28
ノノ*^ー^)<ていうか愛ちゃん>>139で絵里ちゃんと「今年の」って言ってるじゃないですか
川*’ー’)<笑いすぎて忘れてた
ノノ*^ー^)<うわー有りそうーちなみに絵里は忘れてたよー

修正ミスでした。
ごめんなさい。
151 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/25(金) 02:44
うほっほい!豊富なリアルネタと(勘違いでなかったら)某所ネタがチラっと入っててたのしいいいいいい
高橋さんの本音引き出すのにこなれてるテクニシャン亀がSUTEKI。
エリクリぃー!
152 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/26(金) 21:40
Q1★自分のキャラクターを一言で言うと?
落ち着いた女の子供(by ジュンジュン)。年下やけど、しっかり
してて、たまに子供らしさが自然に出てる。結構いいバランス♪

Q2★最近のマイブームは?
ホテル泊まりの時、自分の部屋にジュンジュンに来てもらうこ
と。お風呂に1人で入るのが怖いので、部屋にいといてもらって
るんです!





………

……

153 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/26(金) 21:42
ツアー先のホテルにて。
愛佳の部屋に呼ばれた純は、椅子に座って一人テレビを観ていた。
部屋の主は風呂に入っていて、あがるまでは純が、半分留守番のような
かたちでこの部屋に滞在している。
浴室から水音がしなくなったな、と思った頃、愛佳が中から純を呼んだ。

仕事でなければ普段は大きな声を出さないので、返事をする時は
わざわざ近くまで行って、そしてできれば、本人の顔を見てから返す。
という訳で行こうとしている途中だったのだが、愛佳は浴室の中から
話を続けた。

「テーブルにー、ピンクのチューブあるやろ?」
「あるヨー」
「取って取って」

確かにテーブルの上にはチューブが転がっていて、純は言われた通りに
それを取り、浴室まで持っていった。
とはいえ部屋はシングルなので、たかだか数歩の距離である。
見てみると、扉の隙間から細い腕がひらひらしていた。
一度湯船につかってしまった愛佳が、面倒くさがって腕だけ出している
のだった。

「ハイ、どうぞ」

純が中空を泳いでいる愛佳の手のひらを丁寧にすくいあげて、そこに
トンとチューブを当ててやると、湯で温まった赤い手のひらはまるで
獲物を得た生物のようにパッと収縮し、チューブをがっちりと掴んだ。

「ありがとぉ」
154 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/26(金) 21:45
そして次の瞬間、純の優しさが悲劇を呼ぶ。
愛佳の腕が引っ込められる前に、扉を閉めようとしてしまったのだ。

「いった!」
「あッ!」

腕を挟んでしまったことに気づいた純は、勢い良く扉を開け放ち、
中を覗き込んだ。
浴槽には、手首あたりをさすっている愛佳がいた。

「ダイジョウブ!?」
「う〜もぉ気ぃつけてやぁ」
「ゴメンホントゴメン」
「まあ愛佳もめんどくさがったのが悪いわ。だから泣かんでよし」
「っ、う」

青痣ができたのを想像してしまって、ちょうど目頭が熱くなっていた
ところだったのだが。
止められてしまった。

「……ゴメンネ。痣になったらワタシマッサージしますですよ」
「なってからは遅いんと違う?」
「それでもしますカラ!」
「……あーじゃあヨロシクお願いしますぅ」
155 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/26(金) 21:46
マッサージか。

扉を閉めてから、愛佳はその言葉を反芻して思った。

中国式のマッサージって、どんなんやったろ?
156 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/26(金) 21:49
風呂からあがった愛佳は、ベッドに横になって携帯をいじっていた純に、
中国のマッサージについて聞いてみた。

「……光井サン、エッチ」
「え、何でぇ!?」
「したいならしたげてもイイヨ?」
「ちょ、ちょっと待って、……え、エロい……んやろ?」
「男の人だけですヨ。他は普通ダヨ」

そこまで聞いて、愛佳はやっと理解できた。
湯あがりですでに紅い顔なのが幸いである。
が、最初の一言で即座にいかがわしい方向へ持っていった純にも、
大いに問題があるではないか。

「もー最初にエロイとか言わんといてー」

口を尖らせて文句を言っても、純はペロリと舌を出すだけだ。
少し、年の差を感じた。

「……ところで、ソウ腕、腕は?」

起き上がった純が、心配そうにこちらを見る。
愛佳は改めて挟まれた手首のあたりを見てみたが、はっきりとした痕は
残っていない。ただ、ホテルの部屋は照明が白熱灯なので、色の変化は
よくわからなかった。

「色わからんけど、ま、平気」
「ちゃんと見ないとダメダヨ」

純は半袖のTシャツから伸びた愛佳の腕を取って、自分の顔の前に
引き寄せた。
157 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/26(金) 21:55
「わかる?」
「う〜ん……」
「わかれへんやろ?」
「ホンット綺麗な腕だネー」
「はあ?」
「つるつる」
「そらぁ、保湿バッチリっすから」
「すべすべ」
「グヒャヒャ、まあま、あんま褒めない褒めない。
 アンタもあのクリーム使う?」
「ん〜」

顔を近づけすぎた純の唇が、手首に触れる。

「ぬわー!!!」

パパス!

驚いて思わず逃げ腰になってしまうが、ぐっと堪えた。
ただの偶然かもしれないからだ。

「ちょお! 近すぎ!」
「もっと」
「あらっ?」

さらに抱きしめられて、いよいよ偶然ではないとわかったところで、
……この抱かれ心地の良さったら。

愛佳は思わず目を閉じてしまった。
158 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/26(金) 21:57
「……なあ、ウチらって、さみしーもん同士なのかなあ」
「ワタシは寂しくない」
「うっそやろー」
「嘘じゃないヨ。愛しいだよ」
「……?」
「わかる?」
「……あ! わ、わかっ……た」
「ホント?」
「す、すいませんでした」

こっちが子供でした、と愛佳は続けた。
159 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/26(金) 21:58




『一休殿、この衝立の虎を捕まえてはくれぬか』

『わかりました。ではお殿様、私に縄を。
 そして後ろにまわって、この衝立から虎を追い出してください』





中国人は知らんか、この話……
160 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/26(金) 21:59
いつか誰かに、この大きい虎の顔がプリントされたお気に入りの
Tシャツを『脱がされそう』になったら、話して焦らしてやろう、
などと密かに思っていたのだが。



人生とは、思い通りにいかないもの。
161 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/26(金) 22:01

162 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/26(金) 22:01

163 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/26(金) 22:01
>>153-160
おわり。



>>152は元ネタです。
タイトルは特にありません。
164 名前:名無し飼育さん 投稿日:2010/02/27(土) 00:55
とてもイイ!
165 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/02/27(土) 08:23
この二人面白いバランスでいいなぁ
166 名前:がらがら 投稿日:2010/03/07(日) 03:42

がたんがたんと車体が揺れるのにあわせて、眠気が襲ってきた。
タオルを出そうかどうか迷う。隣に桃子がいることを考えると、寝るのも悪いかもしれない。

「声、嗄れてたね」

そう言う桃子も喉が潰れていて、マスク越しの声はさらに聞き取りづらい。
急に手が伸びてきて、指で喉を撫でられる。
身体を引いても、座席のスペース以上には後ろに下がれなくて、雅は桃子の手をつかんだ。
眉をひそめてみせるとおとなしく桃子は手を引っ込めた。空いている車内をつまらなそうに見回し、
ほんのわずかに、雅に身体をもたせかける。

「はやく治らないかなあ」

いつもよりも低くかすれた声で、桃子がぼやく。
張り上げるような歌い方は良くないと教わっていても、ライブ中にそうなってしまうと
修正がきかないままに突っ走ってしまう。そのせいで喉はやられてしまって、今日もまたラジオ収録で
どうしても喋らなくてはいけなかったから、どうにも悪化してしまった気がする。

すぐ治るよ、と言おうとしたのに乾いた咳が出た。
するとなぜか、手のひらをぺたりと首の前面に押し当てられる。
怪訝に思って桃子を見ると、「あっためたら治るかも」とよくわからない理屈が返ってきた。

「治らないと思うけど」
「うーん、でもハンドパワーとか」

ていうか恥ずかしい、と当てられた手を強引に外すと、不満そうに桃子は口をとがらせる。
といってもマスクをしているから口許は見えなくて、きっとそうしたんだろうなという雅の想像だったけれど。
目だけを見ても、桃子は拗ねているように思えた。

「病は気からって言うじゃん?」
「へー」
「へーって。みや、この言葉知らないの?」
「知ってるけど」

ていうかさあ。
仕返しとばかりに雅が桃子の喉をぺちぺち叩く。

「喉つらいなら、無理して喋らなくていいから」
「えー。もったいない」
「そんなんじゃいつまで経っても治んないよ」

非難がましい視線を無視していると、べったりと身体を寄せられた。
「ハンドパワー」手のひらで喉を撫でてやると、桃子はくすぐったそうに笑った。


end
167 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/08(月) 22:40
いいももみや
168 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/15(月) 21:40
169 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/15(月) 21:40
「あんたはホンマに嫌なやつ」
170 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/15(月) 21:41
メッチャ単純すぎてアホかいなと思うかもしれへんけど「明るい場所は人の心までも明るくする」っていうんは結構ありうることやというか、あたしは好きな人と光の当たる場所で喋っていると、心の中の何かが強く引っ張られるような気持ちになってしまうねん。その何かっていうものの正体が何かはようわからんけど、やっぱりそれはポジティブな何かであって、心を温かくしたり穏やかにしたり軽やかなものにしたりするんやけど、そういったことよりも、とにかくあたしはそれが「引っ張られる」というように感じられてしょうがないんよ。といってもそれは、視線のビームのように、あたしの目の前で喋っている好きな人に向かって一直線に飛んでいくというわけやなくて、むしろそれは下腹の辺りから生まれて脊髄を貫いて胸を熱くし喉を潤し脳内の雑事を見事にクリアにした後に脳天から脱して天に向かっていくようなそんな感じやねん。人間の感覚っていうのはホンマに我儘というか都合の良いように相対化できるとでも言うたらええのか、とにかく冷たいことが気持ちよく感じられたり熱いことが気持ちよく感じられることがあって、その感覚は温度とは全く関係なくて、全く同じ温度であってもそのときのあたしの気持ち一つで冷たさや温かさが心地よいものになったり不快なものになったりとコロコロと変わってしまうねん。だけど光は不変であり明るさは絶対であり、周囲の状況なんかとは無関係に、常にあたしの中の何かを引っ張ってくれる力があるんやと思いたい。そうやんな、ジュンジュン?
171 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/15(月) 21:41
「ミツイさんの心、単純ね」

「ああ、もう・・・・・アホォ・・・・・」
172 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/15(月) 21:41
あのな。今あたしの口からすとんと落ちてきた「アホ」という言葉は、関西圏でよく使われるところの合いの手の一種のような「アホ」ではなくて、本当に純粋にリアルにジュンジュンの言ったことがアホとしか思えなかったから出た言葉やねんで。あたしがこれだけの思いと言葉を重ねて作り上げた一つの考えを、ジュンジュンは「単純」の一言で片づけたけど、たとえそれが論理的に正しい解釈だったとしても、今この場であたしとジュンジュンの間で交わされる言葉として適当かどうかはまた全く別の問題やっていうことは理解していてほしいわ。好きな人とは目と目で語ることができるとか、言わなくても全て伝わるとか、そういった小学生向けの漫画のような幼い夢想を信じている人は決して少なくないけど、あたしはそんな妄想とは全く無縁の考えを持っていて、やっぱり人間と人間は言葉以外の何かでつながることはできないって思ってるから、好きな人の前ではいつだって必要以上にお喋りになるし、そしてその考えはあたし一人だけが抱いているものではなくて、おそらくは大多数の人が潜在的に感じているはずとあたしは思っているから、だからあたしはあたしの前で口数が少なくなる人に対して「あたしに興味がないんかな?」とか思ってしまう。
173 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/15(月) 21:41
「一言で言うと?」

「もっと喋れや殺すぞジュンジュン」
174 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/15(月) 21:42
ジュンジュンは自分に対して否定的だったり攻撃的だったりする人間にはやけに饒舌なくせにさあ、自分に対してあからさまな好意を注いでくる人間に対しては妙にしおらしくなったりするところがあるけどそれって全然面白くないで。相手が誰であっても、あたしはじっと見つめあっているだけで心が愛情で満たされるような単純な性格やないし、たとえ手をつないでも、それ以上の肉体的接触があったとしても、やっぱりそれだけで何かが満たされるなんてことはなくて、いつだって飢えたあたしの心を満たしてくれるのは好きな人の心の中だけにある素の言葉なんよ。ああ、「好き」とかいう言葉も確かにそう悪くないけど、そこからは辞書に載っている意味以上のものを感じ取ることはできひんし、あまりにも一面的すぎる言葉やからそれ以上の解釈のしようがないっていうか、結果としてその「好き」という言葉は「雨が降ってる」「あのポストは赤い」「お腹が減った」とかいう言葉と同じで、誰が発しても同じ価値しかない言葉のようにしか思えないところがあるねんな。だからあたしは今ジュンジュンが何を考えているかってことが知りたいし、あたしが発した言葉がジュンジュンの心の中でどんな連鎖反応を起こしたかっていうことも知りたいし、一秒前には存在しなかった全く新しい思いや考えがジュンジュンの頭の中から生まれる瞬間が見たいんよ。ていうかケチケチすんなやボケが。TVではしょっちゅうやってることやろうが。
175 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/15(月) 21:42
「今はTV映ってないもんね」

「だからなんやねん」

「もうちょいだらっとしていましょうよ」
176 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/15(月) 21:42
「だらっとする」とかそういうマイナーな日本語だけは覚えるのが早いっていうのはジュンジュンの気質を見事に反映してると言いたいところやけど、そういえば娘。の仕事場ではやたらと「だらだら」という言葉が使われているし、他ならぬあたしだって口癖のように言ってるんやからジュンジュンだけを責めることはできひんのやろうなまったく。でもなあ。「何もいらない。好きな人といる。それだけで幸せ」とかいうやつおるけど頭わいてるやろ。本当に「おるだけ」やったらおらんのと同じになるはずやけど、そうならへんのは、絶対に隣にいる人間についてあれやこれやと妄想を広げているからに違いないし、手を伸ばせばすぐにでも触れることができるって知覚しているからというのもあるし、それはやっぱり「好きな人といる」のその一歩先の言葉や行動を予感しているからであって、そういう思いすら誘発しないような存在だっていうんなら隣にいる人間の価値ってゼロやろ?「何もいらない」なんて言えるのは相手の価値を認めんことやし、自分の価値を捨てることやで。そういえば高橋さんとか亀井さんって時々そういった恋愛関係の話してるし、「好きな人といられれば、他に何もいらない」みたいなことを言ってたような気がするけどやっぱりあの二人の頭がわいてるってことには疑いの余地がないわ。なんやねん。何笑ってるねんジュンジュン。
177 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/15(月) 21:42
「電気消しますよ」

「なんでやねん」

「アハハハ。今日のミツイさん、ちょっと引っ張られ過ぎ」
178 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/15(月) 21:42
引っ張られ過ぎとか何いきなりあたしの言葉をまるで慣用句として成立している言葉のように使ってるねん。今ここで話したことはあたしとジュンジュンの二人しかいないこの部屋の中だけで使った言葉であって、一秒前までは世界のどこにもなかったはずの言葉であり、そして今ここにある二人の時間が途切れてしまえば乾いたアスファルトに落ちた一片の粉雪のように跡形もなくあっという間に消えていくはずの言葉なんよ。そういった積み重なることのない言葉を生み出しては消し去り合うことが、お互いをお互いの間合いに入れることを許した間柄の二人が行うべき一種の儀式であり、礼儀というもんちゃうんか。ああ、暗いな。暗いわホンマ。もうあたしの中にある何かを引っ張る、光と愛の力は消えてしまったし、光の中にいたときに感じていたような理屈抜きの温かさや優しさも消えてしまったけど、だからといってそれがネガティブなだけのものとはどうしてもあたしには感じられなくて、暗い場所には気持ちを暗くする要素は意外と含まれていなくて、逆に胎内回帰願望を満たすようなどっしりとした安心感のようなものがあたしを包んでいくように感じられてしょうがないんよ。
179 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/15(月) 21:43
「こんな風に?」

「なんやねんその手。めっちゃ冷たいやん」
180 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/15(月) 21:43
だからいい加減、今ジュンジュンが何を考えて何を思っているかを出鱈目でもいいから、ただの単語の無意味な羅列でいいから、ずらずらと並べて、あたしの中にある何かをぐいぐいっと引っ張っていって一秒前まではなかった世界をあたしに見せてほしいんよ。短い言葉には少ない内容しか含まれないし、限られた言葉から無理に解釈を広げるっていう行為はつまるところ相手を解釈するのではなくて自分の思考を再確認するこでしかないわけだし、あたしがジュンジュンのことを深く理解するためにはやっぱりジュンジュンの中から出てきたたくさんの言葉をたくさん耳にする以外に方法はなくて、そういった労力を惜しむ人間はきっと誰からも愛情を受けることはできないし誰かに愛情を与えることもできひんはずであって、そんな真理を無視して近道や抜け道を通って人の心の一番深いところに入ってこようなんてずるいと思わん?
181 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/15(月) 21:43
「なあ、あたしの言ってること、わかるやろ?」

「もう寝よ」
182 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/15(月) 21:43
なにその関西弁みたいなイントネーション。めっちゃむかつく。
183 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/15(月) 21:43
184 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/15(月) 22:10
これは斬新な試み。
何を書いてもネタバレになってしまうので
>>178-179
お気に入りです とだけ。ありがとうございました。
185 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/03/17(水) 00:07
ジュンジュンいいね
186 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/06/21(月) 00:14
『ポラロイド』
187 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/06/21(月) 00:14
カシャ、カシャ、・・・・。

夕暮れ、黄昏時にカメラのシャッターが降りる音だけが
この川辺に響く。

別に何の珍しさもなく、この時間帯になるとガキさんはカメラを持って
その後に勝手に着いていく絵里と人気のない川辺で自然と二人きりになる。そう、いつもの光景なはずなんだけど、いつもと違う。
いつも二人でいるのほほんとした空気じゃなくて、いつもより緊張感が漂っているような、どこか余所余所しい空気が二人の間を行き来していた。

『ガキさん、絵里お腹空いたんでそろそろ帰りません?』

『あー、そだね。でももうちょっと撮りたいからさ。カメ、先帰ってなよ』

『ガキさんがまだここにいるのなら絵里もまだここにいます』

一旦、カメラのレンズから目を離し、絵里の方を振り向き
はぁ、と溜息をひとつつかれる。

『カメさ、前から、いや、今日思い切って言おうとしてたんだけどさ』

『なんですか?』

やっぱり、いつもの明るくてひょうきん?なガキさんと違うな、そんな短い付き合いじゃないからある程度の事はわかっている、つもり

『カメはもう、私と一緒にいない方がいいんじゃないかなぁって』

『え?どうしてですか?…もしかして絵里いままでガキさんの邪魔になってました?薄々とは気づいてたんですけど…。』
188 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/06/21(月) 00:15
『いや、そうじゃなくて。私と居てもなんも得るものがないから、って意味で言ったんだ。邪魔とかじゃない』

『得る物たくさんありますよ。絵里、ガキさんから沢山大切な物もらいました。』

『うーん、あげた覚えはないんだけど。私ってカメラで写真撮ってばかりいるじゃん一日中、カメの話とかちゃんと聞いてやれないし相手してやれないし、そんなのつまんないしカメに悪いなぁって』

『悪くなんかないですよ!絵里は、それでもガキさんの隣にいつまでもこうやっていれるのが大好きなんです』

あなたの夢はそうね 少し大きくて
私の夢はあなたと すごしたいだけ

どこかで聞いた事のある歌詞が絵里の中で自然と流れる

『カメは、なんも自分の事わかってないんだね』

『わかってますよぉ、ガキさんの方こそ自分の事わかってないんじゃないですか?』

『はは、そう言われてみればそうかもね。でも、カメはもったいないよ、私と一緒に居るの、こんなとこ居たら無駄だよ?カメのためにならない』

『どうしてそういう事言うんですか?絵里のためになるかならないかは、絵里自身が決める事でしょ?』

『だから、それが駄目駄目で、無駄しか生まないんだよ』

『ムカ…。絵里が嬉しくてやってる事が全部無駄だって言うんですか?』


『そだよ、無駄だよ。カメは、私みたいにー、、、。なんでもいいからさ、夢中になれる物を探しな。その方がカメらしいよ』

『もう、見つけてますよ、絵里が夢中になってるのはガキさんです。ガキさんさえいれば絵里は他のことなんてどうでもいいんです』
189 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/06/21(月) 00:15
『浅いよ、カメは考えてる事が全て浅い。』

『浅いとか…普通に傷つくんですけど』

今日は、その手に構えてるカメラよりも、構って欲しくて、見て欲しくて大げさにしゅん、と肩を落として落ち込んだフリをしてみた

『もう、帰んなよ。日もかなり落ちてきたし』

『いやです、帰りません』

普段は、ヘラヘラ笑っててバカみたいって言われるけど
いつもと違う表情と声のトーンでガキさんに、絵里は真剣なんだよアピールをする

『はぁ、カメ、あんたやっぱり邪魔かもね』

『たとえ、ガキさんに邪魔と言われても帰りません。』

『ね、別れよ?てか別れて。もううざい邪魔。』

『ちょ、ストレートすぎませんか?』

『そうまで言わないとカメ、帰ってくれそうにないから、だから、』


もう一度絵里と向き合ったガキさんに真剣な目で
『もう帰りな、そしてもう友達としてでも、カメとは会わない』って

言われた。

『でも、この街狭いから絶対街中かどこかで会いますよ?』

『そん時は、お互い無視ってことで』

『ひどいよ・・・。』


『私が心の中で10ゆっくり数えるから。私向こう向いてるから
その間にカメは走って私から姿が見えなくなるまで走って帰りなよ』


『そこまで言うんなら、もういいです。ガキさんの事見損ないました。がっかりです。』

見損なったって、今までカメは私のことどんな目で見てたんだろ?
まぁ、今となっちゃどうでもいいことか

1、2、と心の中でカウントダウンを開始する

『ガキさん、さよなら。絵里、今まで幸せでした』

なんて言いながら、私の部屋の合鍵を鞄から取り出し、川へ投げ捨てる。ポチャン、と音がしたと同時にカメが私に背を向けて走り出す足音だけが響く。

あーあ、行っちゃった。

なーんにも、とくになーんにも思わないけど
あんなポケポケプーがいなくなるだけでもまぁまぁ寂しいものなんだな

後悔なんてしないけど

私は、さっきと同じように川辺の夕日に向かってカメラのシャッターを切った。
190 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/06/21(月) 00:15
=END=
191 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/06/26(土) 20:37
さゆえりー
192 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/06/26(土) 20:37

『 眠らぬ姫 』
 
193 名前:眠らぬ姫 投稿日:2010/06/26(土) 20:38
今日は仕事がないからって、さゆがうちに遊びに来た。
そんなにあることじゃないし、決まってから結構楽しみにしてたのに。


『ごめん。なんか、眠い』


うちについてそんなにたたない間に、さゆは一言言い残すとあたしのベッドにねそべり、
すぐに寝息を立て始めた。

ええー。
つまんないよおぅ。

あたしのベッドに散ったさらさらの黒髪をちょっと引っ張ってみたけど、反応なし。
恐ろしく寝つきのいいさゆは、もう熟睡モードに入ってしまったらしい。
よく動きよく食べてよく眠る。
さゆはホント健康的だよね。

目の前で寝られてしまうと無理やり起こせないのは、職業病かもしれない。
小さくため息をついて、その辺にあった雑誌を引き寄せる。
194 名前:眠らぬ姫 投稿日:2010/06/26(土) 20:38
雑誌をぱらぱらとめくる。
色とりどりの写真を眺めていると自然にわくわくしてきて、こういう時はやっぱり
あたしは女の子だなって思うんだよね。

あ、これ欲しいなー。
こないだ買ったやつにも合いそうだし。

ホント服はいくつあっても足りない。靴も帽子も欲しいし鞄だって欲しい。
ずっと一緒の物は嫌。昨日と同じは嫌。いつだって新しいものが欲しいの。
新しい服を着ると新しい気持ちになれる。キアイが入るの。
新しい物を身につけたその場所だけ、あたしは新しいあたしに生まれ変われるの。

物が欲しいんじゃないの。新しい気持ちが欲しいの。新鮮なあたしでいたいのきっと。

「……ぃ」

「ん?」

さゆ?
起きた?
195 名前:眠らぬ姫 投稿日:2010/06/26(土) 20:38
ぐるっと首をめぐらせると、寝息は規則正しいまま。
だけど、ちょっと眉間にしわがよっている。

「さゆ?」

小さく声をかける。
怖い夢でも見ているんだろうか。
だったら起こした方がいいのかもしれない。

「……え…りぃ?」
「うん。どうしたの?」

答えることはないとわかっていて聞いてみたら、顔の側に置かれていた手が
何かを探すみたいにむにむにする。
ぎこちなく動く指にそっと触れると、さゆの長い指はあたしの手を探るようにして絡まった。
196 名前:眠らぬ姫 投稿日:2010/06/26(土) 20:38
「……眠れない」
「うそぉ?」

今までずっと思いっ切り寝てたよね?
あの寝顔。あの寝息。加湿器で殴っても起きそうになかったんですけど?
あたしは冗談っぽい口調でそう言ったけど、さゆは真顔。すっごい真剣な顔で答えた。

「夢の中でもね、夢じゃないの。ずっと仕事してるのあたし」
「仕事の夢を見るんだ」
「ずっと今の仕事と今のあたしとつながっていて」
「だからさゆは夢の中で仕事をー」
「夢じゃないの。あたしにとってそれは夢じゃなくてずっと続いていて」

さゆの話は長くて、途切れがちで、とりとめがなかった。
ぽつぽつと言葉を落としながら、さゆは再び長いまつ毛を揺らして瞳を閉じた。

「じゃあ、ずっと起きていなよ、さゆ」

さゆは答えない。目を開かずにじっと眠りに落ちる時を待っている。夢ではない夢に落ちようとしている。
でもあたしはさゆをそんな場所には行かせない。
あたしはベッドに上体を押し付けて、さゆの寝顔にそっと近づく。

眠り姫にかけられた魔法を、あたしはおとぎ話と全く同じ方法で解いた。
197 名前:眠らぬ姫 投稿日:2010/06/26(土) 20:39
「さゆ?」

起きたのかなって思ったけど、続く答えはなかった。
薄く開いた唇からは規則正しい寝息。
ただ、その表情が。
にまあって嬉しそうに、幸せそうに緩んで。
眉間のしわも消えてて。

「……たんじゅーん」

繋いだままの手で、人差し指を伸ばして鼻先をつついてやる。
むうって唇がとがったけど、緩んだ表情は変わらなかった。

「こら。起きてるんでしょ、さゆ。なんとか言いなさい」

それでもさゆは何も言わなくて。勝ち誇ったような表情をして。どこか笑いをこらえているようでいて。

でもあたしはさゆが眠っているのか眠っていないのかわかっていて。
夢を見ているのか見ていないのかわかっていて。

あたしの手はその間もずっとさゆに握り締められていたわけで。妙にその手があったかくて。
198 名前:眠らぬ姫 投稿日:2010/06/26(土) 20:39
しばらくそのにやけた顔を眺めてたけど、そろそろ首が痛くなってきたから、
くるりと体を返して雑誌に視線を戻した。


ぱらり

ぱらり


ん。これも欲しい。
げ。たっかいなあ。


めくりにくくなった雑誌を、指先でゆっくりとめくる。


片手は、にやけた姫に預けたままで。
199 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/06/26(土) 20:39
『 眠らぬ姫 』   終わり


Special Thanks to esk
200 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/01/04(火) 02:42
同じ学年の和田さんは、よく一組に来る。
和田さんは四組なのになんでかな、と花音に訊くと、
えー、そんなの決まってるじゃーんとにやにや笑う。
なになに?教えてよ、と憂佳が言っても、
花音はにやにやするだけで、答えを教えてくれる気は
ないみたい。
花音は知ってるの?と訊けば、
知らないの憂佳だけじゃん、と言う。
窓から、おーい、と和田さんがやってくる。
憂佳ちゃんおはよう、と手を振りながら和田さんが言う。
おはよう、と返した声は小さくなった。
彩花ちゃん、と言うと、和田さんは、ん?と尋ね返す。
花音のことは花音と呼べるのに、和田さんのことは
彩花ちゃんとしか呼べない。
どうしてなのか、わからないけれど、ためしに心の中で
呼び捨てにしてみたらすっごい恥ずかしかったから、
今のままでいいや、と思う。
花音が、ねえ、あやはどうしていつも一組に来るの?と言った。
憂佳ちゃんに会いに来てるのさー、と、
たははと笑いながら彩花ちゃんは言う。
冗談だとわかっても、顔が熱くなる。
両の手のひらをほっぺたに当てる。
熱かった。
憂佳ぁ、顔真っ赤、と花音が笑った。


おわり
201 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/01/11(火) 18:10
愛ガキです
202 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/01/11(火) 18:11


 
203 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/01/11(火) 18:11

 月明かりだけが頼りだった。平坦ではない道を選んだのは10年前の自分だ。迷ったり、躓いて転んだり、へとへとに疲れて動けなくなったり。それでもここまで歩いてこれたのは、一人じゃなかったから。あの時は4人いた。今は二人だけど。
 口の中だけで何度も繰り返す。おめでとう、よかったね。心から応援しているよ。ずっと繰り返していないと、聞きたくない声が聴こえてくるから、思い続けた。おめでとう、よかったね。私も嬉しい。たくさんの言葉たちは嘘ではない。嘘じゃないのに、意味を為す前に言葉は形を失いさらさらと崩れていく。燃えた後の灰のようになった言葉がのどの奥に詰まったみたいで、呼吸が上手にできなくなった。
 
204 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/01/11(火) 18:11


 助けて。

 誰に祈るでもなく。息が詰まると咄嗟にその言葉が頭を過ぎった。
 空には月が輝いていた。星はない。
 帰宅する途中、タクシーから降りて自宅までの短い距離を歩いていた。私は迷子のようなひどく心細い気持ちに襲われた。
 分かってしまうから、余計にやり場をなくす思い。私が抱くどんな思いもすべてを受け入れてしまう相手の様子が簡単に思い浮かんだ。
 
205 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/01/11(火) 18:12

 今日は二人の仕事がたまたま重なった。
 いつも、一緒にいるわけじゃない。
 お休みにわざわざ会うことも滅多にない。
 どうして、今日会ってしまったんだろう。偶然を呪った。
 偶然じゃなかったのかもしれない。ただ、時間は戻せない。決定も覆せない。分かってる。だから、分かってるのに。
 先ほど、別れたばかりの相手を思うとどうしようもない気持ちになった。分かっているのに、聞き分けのない幼い感情が湧いてくる。私が10年前に選んだ道を照らす明かりは徐々に輝きを失いとうとう一つになってしまった。
 こんなにも自分は頼りなく小さい。情けない気持ちを感じながらも、でも衝動は抑えられなかった。

 立ち止まり、携帯電話を取り出して呼び出す。

 相手を呼んでいる電子音が遠くで遠くで聞こえる。息だけじゃない。耳の中にも、何かが詰まったみたいに感覚が鈍い。
 おめでとう。よかったね。おめでとう。お互い頑張ろう。
 キレイ事なんかじゃない。嘘でもない。本心だ。
 今日初めて聞いた。愛ちゃんのモーニング娘。卒業の時期が決まったこと。
 卒業、その言葉を愛ちゃんの口から聞いた時は本当に嬉しかった。
 まさか、信じられない思いもあるし、聞いたばかりで気持ちを整理できていない。でも一番に浮かんだは気持ちはおめでとうだった。
 
206 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/01/11(火) 18:12

 一番長く、彼女の背中を見ていた。愛ちゃんにしか分からないその肩に乗っている重圧がどれくらいのものだったか。その荷を降ろして、自由に思い切り羽を伸ばせるんだ。彼女の望んでいたことがこれから先、叶っていく。愛ちゃんなら大丈夫。
 モーニング娘。へ加入してから彼女はたくさんのものを背負っていたと思う。大き過ぎる期待。知らず知らずに自分も加担していたのかもしれない不安が襲い喉の奥が鳴った。ぎゅっと目を瞑る。

 『泣いてるの? 』

 数回のコール音の後、電話に出た相手が驚いていた。
 私は自宅近所の夜道に立ち尽くしていた。
 一歩も進めない。
 まさか、私だって歩いてきた。自分の足でここまで来た。
 一人では、どこへも行けない。
 そんなはずはない。
 
207 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/01/11(火) 18:13

 『ガキさん? 』
 電話を掛けたのはこちらなのに返事をしない私を呼んでいる。

 「違うの」
 湿っぽい声になってしまった。鼻水も出てきた。
 『は? 』
 「嬉しいの。嬉しいんだよ」
 きちんと言葉になっていたか自分では分からなかった。
 「愛ちゃんが、娘。を卒業して、ハローからも卒業して、すごい色んな場所で活躍するのはホントに楽しみだし。絶対できるって分かるの。だからすっごい嬉しいの。分かる? 」
 彼女に私の気持ちが分かってもらえているのか。こんなに不安になったことは出会ってから初めてだ。
 「嬉しいのに」
 私は愛ちゃんの気持ちが分かる。笑っているんだ。情けない私の状態を想像して、きったないくっしゃくしゃの顔で笑っている。表情だけ見ると、笑ってるのか泣いてるのか分からないような崩れ方だろう。
 「寂しい」
 
208 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/01/11(火) 18:13

 息が出来なかった。
 完全に怪しい人だ。涙が止まらない。呼吸ができない。苦しい。
 「愛ちゃん」
 こんなに寂しい気持ち、私以外には分からないんだ。愛ちゃんにはもう、分からないんだ。そう思ったら余計に心細くなった。
 同期は4人いた。
 まこちぃとこんこんはほとんど同時に卒業した。
 残ったのは愛ちゃんと私だった。その時は同じ思いを感じることができた。所属メンバーは先輩の数より、後輩の人数の方が多くなり。いつの間にか私はサブリーダーになっていた。嘘みたいだ。
 愛ちゃんが卒業すると、とうとう、一人になる。

 「寒い」
 『ガキさん、まさかまだ外? 』
 「寒い寒い寒い」
 『ちょっと、何やってんの。お家帰りなさい』
 相手の様子は見えない。自分の状態もよく分かってない。ひどい顔になっていることは見えなくても分かる。ただ、どんなにみっともないかとかそういうことじゃなく。自分の言葉に混乱した。
 「愛ちゃんのバカ」
 『はぁ? 』
 「寒いっつってんの、寒い寒い寒い寒い」
 『寒いのは分かったから、お家へはよ帰りねや』
 「家は目の前だよ」

 でも、動けないんだよ。
 置いていかないでよ。なんで?
 どうして、卒業しちゃうの。
 バカ。バカバカバカ。
 
209 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/01/11(火) 18:13

 「ホントに、バカ」
 『バカはあんたやって、風邪ひくが。外にずっとおるんか? 』
 「愛ちゃんの大バカやろう」
 『泣いてたかと思ったら怒ってるし』
 「何で私が泣いてるか分かってんの? 」
 八つ当たりだった。
 でも、愛ちゃんの所為だ。
 愛ちゃんが卒業しなけれればこんなに心細くなったりしない。
 ここでもし、ごめんって言ったらぶん殴るけど。そして絶交だ。もう口きかない。卒業式にも出てやらない。勝手に卒業しちゃえばいい。私を置いてどこへでも行っちゃえばいい。
 手の届かない、お月様みたいな。暗い夜道を照らしてくれる。たった一つの明かりのように。光は道を照らしてくれて迷いはしなかった。お陽様みたいにすべてを照らす光ではないのかもしれないけど。愛ちゃんはたった一つの明かりだった。私にとってずっと大切な光だった。
210 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/01/11(火) 18:14

 『大好きだよ』

 信じられないけど。愛ちゃんはそう言った。確かに好きだと言った。

 「バカーーっっ 」

 頭に血が昇る。そんな状態だった。
 近所の迷惑も不審者騒動も頭から消えて、私は携帯電話に向かって大声を張り上げていた。
 "大好きだよ"
 知ってるよ、そんなこと。
 バカ。

 一方的に通話終了のボタンを押した。相手からすれば、迷惑極まりない電話だったと思うけど、これくらいじゃ私の気が済まない。
 くしゃみが出た。ぶぁっくしょん。唾が飛ぶのも鼻水が飛ぶのも構わなかった。悔しいから私からは言ってあげない。
 卒業の、その瞬間まで言ってやんない。

 「大好きだよ」

 だから、寂しいんだ。
 月に向かってもう一度くしゃみをして。それから家へと歩き出した。
 
211 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/01/11(火) 18:14
以上です
212 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/02/08(火) 20:02
今これが読めてよかったです
作者さんありがとう
213 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/02/14(月) 22:44
『カラオケ』



カツカツカツカツカツカツ

タッチパネルが反応しない箇所を、生田がペン先でずっと叩いていた。
譜久村が歌っている間もずっと。
曲を憶えなきゃいけないから歌いに行こう、と誘ってきたのは生田の方で、
その誘いにのってカラオケに来たのだ。
一曲ずつ交互に五曲ほど歌い、譜久村がマイクを置いたところで、生田が急に
大きな声で訴えた。

「つか無理やろ! 歌詞出とぉやん!」

それは譜久村も何となくうすうす気付いてはいたが、黙っていたことである。

「テレビ消す?」
「やる気ゼロ!」

生田はタッチペンを放り投げる。検索機本体とボロボロの紐で繋がっている
細いペンは、放たれた槍が途中で雷に撃たれたかのように、空中で止まってすぐ落ちた。
214 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/02/14(月) 22:47
「ちょっと休憩しようか」

譜久村は一応先に芸能界入りしているので、生田を含む同期をサポートしなくては、
という思いを加入した時から持っている。
マイクをテーブルに置いて水を飲んで……ゆったりした動作のその隣で、
生田はまた落ちたペンを拾ってパネルを操作し始め、歌手名検索で
“いくたえりな”と入力した。

「……それは出ないと思う」

譜久村の忠告と検索ボタンを押すタイミングはほぼ同時。

「あはは」

だから、生田が人の言葉と機械のエラーメッセージのどちらに対して笑ったのかは
よくわからない。
そんな同期は、次に譜久村の名前を入力した。

「みずきって、あの漢字で読めん」
「よく言われるよ」

検索。
ヒット無し。

「あー、耳って字入っとるけん“みずき”?」
「うん、全然違うし」
「来年は入っとぉかなぁ」

急に話が飛んだが、譜久村は咄嗟に

「曲憶えんと入れてもらえんよ?」

生田に似た口調でそう答えていた。
215 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/02/14(月) 22:47
『カラオケ』おわり

譜久村聖さんと生田衣梨奈さん
216 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/02/14(月) 22:50
9期って入れ忘れた
217 名前:紺野あさ美の??な日々 投稿日:2011/02/17(木) 16:31
私は待望のアナウンサーになり、半年の研修を終え、ある情報番組の小さなコーナーを任せてもらえるようになった。
初回は原子力発電についてのレポートをすることになった。
生放送ではないので、それほど打ち合わせもなかったので、
とりあえず自分でネットなどで調べて、頭に叩き込み資料を手に現場にむかう。
218 名前:紺野あさ美の??な日々 投稿日:2011/02/17(木) 16:32
新幹線から従来線に乗り換えて、柏崎の駅に到着。
駅からは先乗りしているスタッフの車で発電所へ。

車の中でゲストが来ることを知らされる。
ちょっといやな予感。

事務棟で最終打ち合わせをする。
IAEAの人が査察に来てるので、その人たちにもインタビューすることに・・・

「英語はちょっと・・・」

「だいじょうぶだよ、ゲストは留学してるし。
それにたいした話をするわけじゃないしね」

少しほっとする。
219 名前:紺野あさ美の??な日々 投稿日:2011/02/17(木) 16:32
暫くすると懐かしい声が。

「やっぱりこんこんだった」

「まこっちゃん!」

おとなってずるい・・・というか自分もおとなか、とりあえず社会人だ。
220 名前:紺野あさ美の??な日々 投稿日:2011/02/17(木) 16:33
就職試験の面接では
「本当にマスコミに就職したいと思っているのか?」
とか
「元芸能人のコネを使って仕事をしようと思ってるだろ?」
見たいな事を言われて・・・

純粋な報道の仕事だと直属の上司から言われていたのに・・・

小川麻琴は地元出身だから、原発が存在することのメリット、デメリットに関する説明の後に、
原発があることの不安などについて語るのにふさわしいだろう。
だから約束が違うと言っても通らない。
221 名前:紺野あさ美の??な日々 投稿日:2011/02/17(木) 16:34
収録はまこっちゃんもその辺はわきまえているから、
ふたりだけ馴れ馴れしい感じを出さずに、まともな情報番組になったんじゃないかな。

会社に戻って上司に今日の件を報告という形で文句を言うけど、
まぁいいんじゃないみたいな反応。

放送後、視聴率がよかったとかほめられたけど、あまりよい気分じゃない。
222 名前:紺野あさ美の??な日々 投稿日:2011/02/17(木) 16:34
次回放送分の取材という名の撮影にむかう。
成田のほうに自然農法で野菜を作るという人にインタビューをすることになっている。
『新東京国際空港』のことまで調べてきたから完璧だ。

現場に着き、車から降りると、
先乗りしているスタッフと話しているうしろ姿の若い女性。
大きな麦藁帽で誰だかわからない。

もしや、小春では?

やっぱり久住小春だ!

満面の笑みで駆け寄ってくる。
223 名前:紺野あさ美の??な日々 投稿日:2011/02/17(木) 16:35
収録は有機農法やら健康な食生活とか、意外とまともなものだった。
・・・・・
ガッタスに戻ったら音楽ガッタスが活動の中心になってしまったようなものかな・・・
などと悟った気になった。
224 名前:紺野あさ美の??な日々 投稿日:2011/02/17(木) 16:35
その翌週は滋賀県の仏教遺跡についてということで光井愛佳、
その次は宇部市の工業ということで道重さゆみと続いたので、
これはあまりにもひどいと上司に伝えたら、
北海道の酪農ということで、田中義剛氏と里田さんという王道路線。

その後は横浜のMM21についてということで、
ゲストは里沙ちゃんかと思ったら、矢口さんと石川さんだった。
225 名前:紺野あさ美の??な日々 投稿日:2011/02/17(木) 16:36
そしてスペシャル的な番組として、アニメ・マンガ業界の将来についての座談会ということで、
マンガ家、編集者、アニメクリエーター、声優とかの中にファン代表として能登有沙がいる。
のっちが来ることは予想していたし、今日は万全完璧に仕切るぞと気合を入れる。

事前にスタッフから難しい話になりがちな人が多いから、
平易な話題に導くようにと言われていたが、
案の定、自分のわからない方向に進みだし、のっちもついていけてないようなので、
ちょこっと『スレイヤーズ』の事に話題を変えてみた。
そしたらのっちとふたりだけで盛り上がってしまった。
それでほかの出演者と少し変な感じになってしまったようだけど、
特に注意されなかったから、完璧ということにしておこう。
226 名前:紺野あさ美の??な日々 投稿日:2011/02/17(木) 16:37
その次の収録はローカルアイドルについてというテーマで、
誰がゲスト?

どうも私的には知らない人のよう。
前回同様、局内で収録だという。
スタジオに移動しようとしたら、何かの手違いでその道の評論家というか研究家の先生が遅れるらしい。
他にもいろいろ問題が発生したらしく、ゲストの秦さんとかいうアイドルと控室にいてくれという。

彼女は初めおどおどしていたけど、
話し始めると立て板に水で、私は質問に答える以外はうなずいてるような状態。
丁寧な言葉遣いで、敬語を乱発してる。
モー娘。時代の私がアニメの声優やってるのに憧れてSKEに入った・・・私は声優なんてやってない!
227 名前:紺野あさ美の??な日々 投稿日:2011/02/17(木) 16:37
そしてこないだバラエティーで学力テストみたいな企画をやったんだけど、
ダントツでよい成績を上げてしまったらしい。
こんなことで注目を浴びても、たいして仕事が増えるわけでもないし、
メンバーとの関係が変になるかもって考えて発言してたら、
超謙虚キャラに見られて・・・なんて言ってるから、
「タレントは目立ったもん勝ち」
みたいなことを松浦さんが言ってたと話したら、

「賢いといっても、メンバー内では、ということですから。
芸能界の中では違いますよ、紺野さんほどじゃありませんし・・・」

などと言う。
228 名前:紺野あさ美の??な日々 投稿日:2011/02/17(木) 16:38
私のことを全教科完璧に賢いように思っているようなので、
外国語はとにかく苦手だと言ってみるが、
どうも謙遜にしか思われていない。

大人数だとメンバー内で競い合うことが多くなるみたいな話になって、
ふと同期がみんな外国語を学んでいることを思い出し、
私に勝てそうな分野で優位に立ちたいと考えてるのかなと思ったりする。

その内、なぜアイドル辞めて女子アナになったんですか、みたいな突っ込んだ質問を次々とされて、
しどろもどろになってしまう。
そこに突然誰か入ってきて「ドッキリカメラ」だという。

なぜ私が・・・もうタレントじゃないのに!
229 名前:紺野あさ美の??な日々 投稿日:2011/02/17(木) 16:39
そこで目が覚める。

なんだろうこの夢は?

まだ入社もしていないのに・・・
230 名前:紺野あさ美の??な日々 投稿日:2011/02/17(木) 16:39
でも朝の光は輝いている。
231 名前:紺野あさ美の??な日々 投稿日:2011/02/17(木) 16:40
今日もずっと晴れてるのかな?
232 名前:紺野あさ美の??な日々 投稿日:2011/02/17(木) 16:40
お し ま い
233 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/02/27(日) 23:34
『りんご』

「欠けてるのって、食べられたってこと?」
「それをデザインっぽくしたやつなんじゃね?」
「おお〜、マックさんはさすが」
「マッキントッシュね」
「そうでしたっけ」
「そうやで」
「マックじゃハンバーガーですもんね」
「りんごそのものより好きかも」
「食べかけが」
「そういうんやのうてぇ」
「わかってますわかってます。あいちゃんアイフォン愛しすぎ」
「イチゴも好きだよ?」
「イチゴも食べかけだったらいいのにね」
「なんでよ、それマックのロゴの話?」
「そうですよ。あ! 真ん中食べかけだったら♥っぽくてかわいくない?」
「やーだー! イチゴはあの完成形がええんやって!」
「なんかもう難しい年頃ですね」
「さゆあんたバカにしてるやろ」
「面白がってるだけですよ。食べかけがいいなんて」
「一緒やん! てか別に食べかけが好きなんて言ってませんから」
「さゆみは結構好きだよ、なになにかけ、みたいなの」
「使いかけの」
「化粧品とかね」
234 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/03/31(木) 23:43
高橋と紺野です
235 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/03/31(木) 23:43
今日はこんこんと食べに来てる。珍しくこんこんからのお誘いで、私は喜んでOK。
予定が合わなければ立ち消えになることもあるけど、今回はうまく予定が合った。
「これおいしそう」「これ面白くない?」「あたしこれ食べてみたい」「これちょっとカワイイね」、
そんなことを言いながら料理を選んで、待つことしばらく。たくさんの料理がテーブルの上にやってきた。
むぐむぐ食べてるこんこんに、あたしはいろいろ話をした。卒業のこと、舞台のこと、
加入したての9期たちのこと、などなど、そのほか、いろいろ。

こんこんは聞き上手だと思う。あたしの話より目の前の色とりどりの食べ物たちに集中したいだろうに、
というかだいぶ集中してるような気もするけど、でもありがとう、なんて思う。
こんこんも時々自分の話をする。時に語り口が熱っぽくなるこんこんを、ああ、こんこんだなあって思う。
あの頃と違って今はあまり頻繁に会えないから、こういうとき安心する。こんこんはこんこんだなあって。
うれしくなってそのまんまをお伝えしたら、こんこんは照れ臭そうに「えー、そうかなあ」と笑った。ああ、こんこんだなあ。

夜の公園を歩く。ちょっと酔い醒まし、と言ってほんの少し時間延長をお願いしてみた。サドンデス?ちょっと違うか。こんこんに言ったら、冷静に訂正されそうだ。

「わたし、頑張るよ、愛ちゃん」

こんこんが言う。照れ屋さんなこんこんが、仕事の顔になる。こんな顔は何度も見てきた。けど、
これまでのどのこんこんとも、違う気がした。私はそれがうれしくて、
うれしいってどっから目線だよって思うけど、うん、って頷いた。こんこんなら大丈夫だよ。これもどっから目線だよ、だけど。

「またね」。こんこんはそう言って、いつも通りにふにゃっと笑って帰っていった。
見送ったあと、少し歩いて、ちょうどいいところに来たタクシーに乗る。
ドアが閉まって、走り出す。ゆっくり、不規則に揺られながら、今日のことを思い出してみた。いつもと違ったこんこんと、いつも通りのこんこん。
それから、自分。

目を閉じて、未来を頭に描きだす。
そこにあるのは、決心と迷い、恐怖と喜び。何度も経験した、でも、新しい感情。
私は今、どんな顔をしてるだろう。
236 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/03/31(木) 23:44
以上
237 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/05/12(木) 20:37

さゆりしゃです。


 
238 名前:君が好き 投稿日:2011/05/12(木) 20:38

******

 
239 名前:君が好き 投稿日:2011/05/12(木) 20:38

 時が経つのはあっと言う間だ。今ではちょっと頑張らないと思い出せなくなってしまった。真冬の寒い都心でバイバイした夜。それでもはっきりと思い出すことができる。
 絵里の後姿が瞼の裏に焼き付いて離れない。
 その日は朝からテンションがたかくて、ずっとはしゃいでいた。今までにないくらいハイになり、最後の方ではメンバーのみんなも何を言っているのか、辻褄が合わなくなっていたくらいバカやって騒いだ。
 散々騒いだ後。お別れする時、酔いが醒めるのを自覚していた。
 絵里やジュンジュン、リンリンとは違い。さゆみは、眠って目が覚めたら同じような日々が続く。のに、さっきまでのことが夢のように感じられた。これから踏み出す一歩からが現実、みたいな感覚だった。絵里の背中が遠くなっていくほどに私の頭の中は冴え渡っていった。
 
240 名前:君が好き 投稿日:2011/05/12(木) 20:39

 あれから、さゆみ自身何かが変わったかといえばそれほど変化はなかった。
 モーニング娘。を卒業した絵里とはたまにしか顔を合わせなくなった。それが一番変わったことだ。
 当たり前だけど、毎日のように顔を合わせていたことがどれだけ特別だったのか、絵里がいなくなってやっと理解した。
 
241 名前:君が好き 投稿日:2011/05/12(木) 20:39

******

 
242 名前:君が好き 投稿日:2011/05/12(木) 20:39

 「やっぱ大失恋だよね」
 笑いを取ろうと狙ったさゆみの言葉に年下の先輩が心細げな様子を見せた。
 「全然分からない」
 ごめんなさい。
 深刻な様子で謝る梨沙子ちゃんには悪いと思ったけどさゆみは思わず笑いを零してしまった。
 「分かんなくて当然だよ」
 このチャンスを逃すまいと、いい子いい子するついでに相手に触れてやろうと手を伸ばす寸前。梨沙子ちゃんが顔を上げた。
 「全然分からないけど、でも。あのなんて言ったらいいのか」
 ごめんなさい。
 と、相手は申し訳なさそうな様子になる。
 「どうして梨沙子ちゃんが謝るの? 」
 「道重さん、辛い思いを思い出させちゃったのかなって」
 だから、本当にごめんなさい。
 泣きそうな様子になった梨沙子ちゃんがこちらを見つめた。
 さゆみ、ヤバいんですけど。その表情は犯罪です。って、さゆみはまだ何もしてないから。さゆみは犯罪者じゃないけど、でも。もう、それ以上はヤバいから。
 梨沙子ちゃん。お願いだから、自分のかわいさを自覚して。
243 名前:君が好き 投稿日:2011/05/12(木) 20:40

******

 
244 名前:君が好き 投稿日:2011/05/12(木) 20:40

 また、ハロー!チャンネルが出版されるということで。念願叶って今日は梨沙子ちゃんとさゆみの二人きりのロケだった。まぁ、スタッフさんはいるけど。電信柱とかガードレールとか。空気なんかと同じよう存在だった。無いと困るけど、ちっとも気にならない存在。
 しかも、今はロケバスの中での待ち時間。スタッフさんも側にいない。正真正銘二人きりのシチュエーションだった。生きていてよかった。アイドルになってよかった。
 興奮していることが相手に伝わったら警戒されかねない。だからここは大人の対応で年下の気を緩ませて……。でも、何もしません。
 さゆみはこうして二人でお話できるだけで十分シアワセだもん。好き過ぎるといざ相手が目の前に現れても結局何にもできないなぁなんて自分のヘタレさを知ったりした。
 今回のライブ衣装かわいいねーとか、ネイルは自分でやってるのー?とか。
 そんな風に、他愛もない話をして待ち時間を楽しく過ごしていた。
 始めは楽しくお互いお喋りしていたけれど。徐々に梨沙子ちゃんの口数が少なくなっていった。疲れているのに悪いことしちゃったかなぁと反省したけど。始めに気付けたとしてもやっぱり色々聞きたい欲望には勝てなかったと思う。
 疲れて眠いのかな、と思って様子を伺おうと覗き込んでみると。予想外に意志のある瞳とぶつかった。
245 名前:君が好き 投稿日:2011/05/12(木) 20:40

******

 
246 名前:君が好き 投稿日:2011/05/12(木) 20:41

 梨沙子ちゃんから、さゆみは質問された。
 「亀井さんが去年、卒業された時のことって聞いてもいいですか? 」
 今までの会話と脈絡のない質問に、梨沙子ちゃんが何について聞きたいのか理解するのに一瞬、間ができてしまった。
 こちらが気分を害したと勘違いされたら困る、と思いさゆみはすぐに取り繕った。
 「梨沙子ちゃんからの質問だったら何でも答えちゃうよ」

 どうして、梨沙子ちゃんは絵里の卒業の話を聞きたいのだろう。口数が少なくなっていった様子から、結構前から気にしていたのかな。
247 名前:君が好き 投稿日:2011/05/12(木) 20:41

 絵里が卒業して半年ぐらい経つ。時が過ぎるのはとても早い。その時の記憶も曖昧になってきた。軽い絶望気分も味わったけど。でも、梨沙子ちゃんが気にかけるような辛い思い出ではなかった。だって、絵里は生きているワケだし。しかも元気なワケだし。さゆみも絵里が側にいないと生きていけないワケじゃない。正直、毎日楽しい。

 モーニング娘。として一緒に活動できたことは特別なのかもしれないけど。絵里とさゆみの関係なんてそこまで特別なものではない。それより、さゆみは今、梨沙子ちゃんに運命感じたいくらい。

 なんとなくだけど、察しがついた。
 彼女と同じBerryz工房に所属する夏焼雅ちゃんに関係するのだろうか。
 でも、ベリーズは全然卒業とかとは無縁そうだけど。梨沙子ちゃんの真意をはっきり掴めないまま、さゆみは2010年12月15日の様子をごまかしたり茶化したりしないできちんとお話してあげた。
248 名前:君が好き 投稿日:2011/05/12(木) 20:41

******

 
249 名前:君が好き 投稿日:2011/05/12(木) 20:42

 そして、さゆみは今。窮地に立たされている。
 背中にヘンな汗を掻き、卑怯過ぎる梨沙子ちゃんの上目遣いにいとも容易く追い詰められていた。
 顔に汗を出さないのはアイドルに必須の技だ。この辛抱強い笑顔ってこういう時にも役に立つのだな、と冷静な自分にちょっと自己嫌悪。
 目の前の梨沙子ちゃんが見せる純粋さは、今のさゆみにはないのかもしれないとはっとした。
 この業界でまだまだやり残したことがあるのに。さゆみより長くこの世界でお仕事をしている梨沙子ちゃんの純粋さを見せ付けられ、ちょっと不安になった。
 でも引退なんてするつもりは全然無い。さゆみにはさゆみにしか出来ないことがまだまだある。絶対。
250 名前:君が好き 投稿日:2011/05/12(木) 20:42

 「寂しいって気持ちは確かにあるんだけど」
 さゆみは努めて明るい声を出した。だって梨沙子ちゃんが本当に苦しそうな表情でいるから。さゆみがいじめているみたいでこっちこそ苦しくなってきた。

 「全然変わらないんだよ、さゆみ」
 眉を八の字にした梨沙子ちゃんがまたヤバい。ダメだダメだ。理性を保ってさゆみ。ここで負けたら地上メディアでこのかわいい顔が見られなくなってしまう。世界中のさゆみファンの方の為にも理性を保たなきゃ。

 「絵里が、モーニング娘。を卒業してメンバーじゃなくなっても。変わらないんだよね」
 もう、目を逸らすしかない。決意してさゆみは梨沙子ちゃんから思い切って顔を逸らした。
 「だから、梨沙子ちゃんも遠慮する必要はないと思うよ」
 「えん、りょ……? 」
251 名前:君が好き 投稿日:2011/05/12(木) 20:43

 深呼吸。深呼吸。静かに息を吐き出してからまた梨沙子ちゃんの方を見た。
 「かなり、お互い頑丈にできてるみたい」
 絵里も。さゆみも。
 苦しい時はお互い様なんだけど。でもやっぱり一杯いっぱいになっちゃうと感情任せで言いたい放題になっちゃう時もあって。ひどいこと言ったし、逆に気持ち悪いことも言っちゃったし。後から、ごめんねってできるだけ伝えてきたつもりだけど。でも、やっぱり傷付けたり困らせたりしちゃったのは取り返しがつかない。どんなにさゆみがかわいくても、過去は変えられない。

 「さゆみと違って梨沙子ちゃんは優しいから。相手に気を遣うかもしれないけど。結構ね、大丈夫なモンだよ」
 「道重さんも」
 その笑顔で名前を呼ばれると涙が出ちゃいそうだよ、さゆみ。
 「優しいですよ」
 「梨沙子ちゃんの方が優しいから。さゆみかわいいけど、かわいいと同じくらい図太いんだよ」
 小さい子どもみたいな頑なな表情で首を振る梨沙子ちゃん。ダメだ。ぎゅってしたい。無防備過ぎるこの子。
 「道重さんは優しいです」
 鼻血ブーもんだよね。興奮し過ぎて表情を保てそうにない。ヘンな顔になる。ヘンな顔はちょっと無理。梨沙子ちゃんに見せられるような顔じゃない。無理無理、絶対ムリ。だから、ごめん梨沙子ちゃん。
252 名前:君が好き 投稿日:2011/05/12(木) 20:43

 「安心しなよ」
 なんて甘い言葉で年上の包容力を見せつけたつもりだ。
 そして安心しきった様子の相手に付け込みさゆみは梨沙子ちゃんを抱き締めた。
 相手も相手で、無邪気にさゆみに擦り寄ってくるし。
 何っ、このかわいい生き物。さゆみ興奮MAX!!どうしよう。お持ち帰りしたい。あ、ヘンな意味じゃなくて。ずっと側に置いておきたくなる、感覚。ね、分かるかな。
253 名前:君が好き 投稿日:2011/05/12(木) 20:43

 「梨沙子ちゃんかわいいんだから」
 もっとガンガン攻めても絶対受け止めてくれるよ。
 なんてたって、かわいいは正義なんだからね。
 ぎゅーってしながら、そんなこと言ってみたけど。梨沙子ちゃんに伝わったかは分からない。だって確認ができなかったから。

 「道重さん、大好き」

 あんな至近距離で。
 っていうかさゆみの腕の中で、あの菅谷梨沙子ちゃんに囁かれた。
254 名前:君が好き 投稿日:2011/05/12(木) 20:44

 ホントに大好きで。超かわいくて。声がヤバくて。直接会ったりすると、緊張して見つめることが出来ないから。時間を作ってパソコンの画面から熱い視線を送りまくっていた相手の菅谷梨沙子ちゃんに。梨沙子ちゃんの声で。
 もう、好き過ぎてごめんなさい。
 その日の記憶はそこから途切れてしまった。
 次の朝目覚めた時に、ロケも抱き締めたことも大好きって言われたことも全部夢かと思ったけれど。梨沙子ちゃんからメールが届いていて全部本当だったことに、また一人で興奮してしまった。
255 名前:君が好き 投稿日:2011/05/12(木) 20:44

 次、梨沙子ちゃんと会う時どうしよう。舞い上がって鼻血出ちゃったらみっともないよね。まともに梨沙子ちゃんのこと見られないかも。既にほっぺがほてってきちゃってるし。何これ何これ、超ヤバい。

 そして、梨沙子ちゃんが気にしている相手が本当に雅ちゃんだったら彼女に意地悪しちゃいそうかも。こればっかりは仕方ないよね。ファンの皆さんならわかって下さると信じているもん。まぁ小さい頃からずっと梨沙子ちゃんから攻撃されていて平気なんだからきっと雅ちゃんも結構頑丈なはず。
 さゆみ、手加減しないから。
 ごめんだけど雅ちゃん。覚悟してよ。
256 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/05/12(木) 20:45

以上です。

 
257 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/01(金) 23:59
およそ九分くらいの出来事
258 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/02(土) 00:01
絵ブログを描いている最中も、おしゃべりが止まらない九期。
この日はカラオケの話をしていた。
聖が最近初めてカラオケに行ったので、当然その話題も出た。
仕事がてらでも充分楽しんだようで、一緒に行った香音も嬉々として
当時の様子を語っている。

「いいナー超楽しそーなんやけどー?」

衣梨奈は言葉の割にスケッチブックから目を離さない。
一方、里保は顔を上げて

「聖ちゃん、あと他にまだ行ったことないとか、
 やったことないとか無いの?」

と話題を膨らませた。
訊ねられた聖は、左手に持ったペンのキャップを下唇のくぼみに
押し付けて、うーん、と視線だけで斜め上を見た。

「また仕事で連れてってもらえるかもよ。
 あーでも私は一回行ったから一緒じゃないかなー」

香音は妙に察しのいいところを発揮して、次に聖に同行するのは先輩と
二人のうちの誰かだろう、と向かいに座っていた衣梨奈と里保を指差した。

「衣梨奈行くー!」
「えーわたしも行きたい」
「あ! あれがまだだ」
「おっ、どれがまだだ?」
259 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/02(土) 00:03
聖曰く、映画館に友達同士で行ったことがないのでそれがいい、
とのこと。
これには三者三様の歓声があがった。
そういえば、と口々に映画に関する思い出話をした後、
まずチケットを買うのが緊張するよね、という流れになった。

「てか二人はさー今度“中学生一枚”ってなんじゃなーい?」

衣梨奈が香音と里保にそう告げると、そうだそうだねと興奮気味な
相槌が返ってくる。

「ますます緊張するー」
「香音ちゃん、聖ちゃんに買ってもらおう」
「え、聖だってまだやったことないよ!?」
「じゃー練習しとくー?」

動揺する聖に対して、提案したのはまたも衣梨奈。
ちょうど正面に座っていた。
普段からメイドの真似事をしていたせいか、あっさり窓口係になりきって
ニヤッと笑う。

「はい! いらっしゃいませぇ〜」
「……あ、ちゅ、ちゅ中学生ください」
260 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/02(土) 00:05
「みずきちゃんそれ違う! でもかわいい」
「かわいいけど何枚くださいって付けないと」

香音と里保が立て続けにフォローした直後、窓口係が鼻声で。

「申し訳ございませーん、中学生は置いてないんですヨー」
「……って言われないとは思うけど」

里保はこっちをフォローする気はないらしい。

「待って待って、もっかいやる。ち、中学生一枚ください」
「学生証をお見せくださーい」

は? と聖は思わず声に出してしまった。
香音が手を叩いて、衣梨ちゃんすごい! と年上の同期を褒め称えた。
すごいすごい、里保もそれにのっかっている。
二人とも“学生証の提示”までは思いつかなかったのだ。

「ウェットな方ですのでー。ほんとに中学生ですかー?」
「それは余計だよ!」

即座に里保のツッコミが飛んでくる。香音は爆笑していた。
すると聖が練習であることを忘れて、

「かばん!」

と小さく叫んで本当に取りに行こうとしたので、
慌てて三人で彼女を止めた。

「みずきちゃんはほんと天然だなあ」

とは、香音の弁。
261 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/02(土) 00:07
おわりほりほ
262 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/02(土) 00:09
>>213-215とネタ被ってる感じですがハロプロTIME放送前と
後ってことでひとつ。
263 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/29(金) 22:46
愛ガキです。

久しぶりなので、雰囲気が分かりにくいかもしれませんが
お付き合いして頂けると嬉しいです。
264 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/29(金) 22:47
************************ 
 
 
 

里沙が家に来た。
別に珍しくもないことだ。 
 
 

そしてテレビも点いてない愛の部屋の、お互いの出す音しかしないこの空間も。
 
今日は愛はパソコンに、里沙は携帯に熱中していた。
 
 
 
 
 
 
しかし愛としては里沙といる時の無言はむしろ心地良く、普段は固まってるどこかの筋肉が解れていく感じさえする。
 
むず痒いけれど、これが10年の絆なんだろうと感じた。
 
 
 
 
 
 
 
そんなことをぼーっと考えていると、横からジーっと見つめられているような気がした。
 
 
横というと、つまり里沙しかいないわけで。
 
目だけで確認してみるとやっぱり里沙だったわけで。
 
 
 
目が合ったまま数秒が経過した。
265 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/29(金) 22:47

 
 
 
 
10秒ほど経っただろうか。
 
 
 
 
 
 
それでも里沙はただ見上げるばかり。
 
ベッドに腰掛けている愛に対して相手は床に座っているし、
左手を枕にしているから若干上目遣い気味で見つめて来る。

右手は相変わらず携帯を握ったままだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「……………。」
「…なんやぁ?」

「…んー、別にぃー」

「………ほぉーか?」
「ふふっ、ほーやでー」

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
里沙がふにゃっと笑いながら、また手元の携帯に視線を戻した。
 
だから愛も里沙から視線を外すが、もう集中できそうになさそうだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
10年の絆と言うのはいいものだけど、時にはタチの悪いものにもなる。
 
分かり過ぎるのも問題だった。
266 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/29(金) 22:47
 
 
 
目は口ほどにものを言う。
 
 
 
 
一体、どこの誰が言ったのか。
 
まさにその通り。
 
 
 
 
10年の絆のおかげで目を見ればお互いのことがわかる、本当に聞こえて来る。
 
だからトクントクンと身体の奥が震えて止まらない。
 
 
 
 
なのに求めてきた彼女は素知らぬ顔で、見覚えのあるページを見ていた。
 
どうやら愛のブログを見てるらしい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

『キスして欲しい』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そう伝えて来たくせに、ズルいもんだ。
 
 
 
 
 
 
…どうしようか。
 
 
 
 
 
 
 
 
そう考えながらも、もう意識は完全に囚われているから、
手入れしたばかりの爪で頬を掻くしかない。
 
…いくら抵抗しても、里沙の求める視線が頭から離れない。
267 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/29(金) 22:48

 
 
 
 
無駄に足掻くのには理由があって。
 
つまり初めてのことではなくて。
 
 
 
 
 
 
行動に移した後の彼女の反応は、すぐに予想でき過ぎる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
燻る熱に知らんぷり出来なくなって、半ば無理矢理こちらを向かせて唇を奪えば、
『いきなり何すんのさー』と少し怒りながら笑うだろう。 
 
 
そこで『そっちが欲しそうな目するからやろっ』と反論してみても、
そんなことないと少し頬を染めながら顔を背けるだけで認めない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
証拠不十分な彼女と現行犯な自分では分が悪い上に、

彼女は自分よりも口が達者で、判決は彼女に軍配が上がる。
 
 
 
 
 
 
 
これも惚れた弱みなのか、頭の中では白旗ばかりだ。
268 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/29(金) 22:48

 
 
 
 
何度も繰り返してしてきた行為。
 
それは触れる感触も体温も、相手の応え方さえも思い出すのは簡単過ぎる。
 
 
 
 
 
 
 
 
未来はどうせ決まってる。
 
 
 
 
 
 
きっとどんな言い訳しても里沙には勝てないだろう。
 
結局彼女はしょうがないなぁと笑うんだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
だったら、負けてもいいか。
 
 
 
 
 
 
 
 
曲でも『素直に伝えよう』って歌ってるし。
 
今日はオフでお泊まりだし、最後はI love youで収まるし。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ズルい恋人の無言の要求にHands up!してやろう。
 
 
だからもう足掻くのはやめにした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
彼女の右手を携帯と一緒に引っ張って、顔を寄せる。
 
もう片方の手で頬を撫でれば、やっぱりあっさり応えてくる彼女。
269 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/29(金) 22:49

 
 
 
 
求めて求めて、求められて。
 
里沙が何かを言おうとしても、声まで飲み込んでいく。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
静かだったこの空間に2人分の弾んだ息が混じった。
 
 
 
 
 
 
 
 
足りない、まだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
口づけだけじゃ収まらない心にも、一緒に過ごした年月を感じる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
熱に従ってさらに身体を寄せて求めれば、さすがに驚いたのか弱い抵抗を見せるけど、
目で想いを伝えたらおとなしく愛の誘導に従った。
 
 
 
 
 
横目で見えたパソコンはまだ明るいままだけど、そのうち携帯と仲良く一緒に黒くなるだろう。
 
 
 
 
 
 
 
 
『好き』を伝えてくる目を見下ろして目でそれに答えながら、そっとボタンに手を掛けた。
 
 
 
 
************************
270 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/07/29(金) 22:50
END
271 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/14(日) 14:37
愛ガキです。高橋さん視点。
272 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/14(日) 14:39

軽く息を吐き出しながら、手にしていたiPhonをテーブルの上に置いた。
どうやら新しいアプリにかなり熱中していたらしい。
時計を確認すると、日付が変わってから1時間近くが過ぎていた。
照明を最小限にしぼった部屋には心地よい静寂が佇んでいる。
明日は撮影があるしそろそろ寝ようかと立ち上がった時、
ぴんぽーん
と気の抜けるような音が部屋に広がった。
こんな時間に訪ねてこられる心当たりなんてないのでかなり訝しみながらインターフォンのモニターを確認する。
そこに映ってたのは、少し前に染めたばかりの明るい髪を揺らしながらうつむき加減に立っているガキさんの姿だった。
一瞬、心臓が跳ねる。
約束もしていなければ連絡も来ていない。
深夜にアポなしだなんてあまりに彼女らしくない行動に妙な胸騒ぎがして、受話器も取らずにドアへと急いだ。

「ガキさん!」

力任せにドアを開けながら思わず叫ぶ。
大声で彼女を怯えさせてしまうかもしれないと気付いたのは、マンションの通路に響いていく自分の声を認識してからだった。
モニター越しに見るよりもずっと綺麗な髪が夜風にさらわれて揺れている。
不安を煽られているような気がして、もう一度、今度はできるだけ優しく名前を呼んだ。
がきさん。
彼女はあたしの懸念をよそにゆっくりと顔を上げた。
273 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/14(日) 14:40

「あー。あいちゃんだー。」

柔らかく甘えた声色。
一気に力の抜けたあたしはドアを開けた体勢のまま大きくため息をついていた。
考えてみれば失礼極まりない行為だったが彼女は気にした風もなく「あいちゃんだー。あいちゃんだー。」と繰り返しながらすり寄ってくる。
背中に回る暖かい手に、首もとを撫でる柔らかい髪に、胸の鼓動が加速して。
本気で心配させられた憤りが少なからずあったはずなのに、なんだかどうでもよくなっていた。
しばらくはされるがままにしていたけれど、何時までも外に居るわけにはいかない。
なんとか中へ引き入れても、彼女は相変わらずあたしにひっついたままだ。

「んー。あいちゃん。あいちゃんー。」
「ちょっ。なに、どうしたんよ。」

最近では本当に珍しい甘えた声と態度に動揺して、思わず彼女を引き剥がしてしまった。
不機嫌そうにあたしを見つめる見つめる瞳は少し潤んでいて、少しふくらんだ頬も心なしか上気している。

「あんた、もしかして酔ってるんか?」
「んー。よってない。うちあげとお祝いでちょっとだけ飲んだけどよってないよー?んふふー、あべさんとね、飲んだの、ふふ。」
「……完全に酔ってるやんか。」
274 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/14(日) 14:41

嬉しそうに、本当に嬉しそうに語る彼女からは、やっぱり仄かなアルコールの香りがした。
腰に手を回しておぼつかない足取りの体をささえながら、リビングのソファーへ連れていく。
触れ合う部分の体温がいつもより少し高い。
その感覚がよからぬ想像を連れてきてはまた心臓を跳ねさせる。
ふにゃふにゃの彼女をソファーに座らせ、キッチンへ足を向ける。
冷蔵庫を開けながら、視界の隅にとらえた彼女は所在なさげにキョロキョロしていた。
明らかにいつもの様子とは違う彼女に思わず苦笑いがこぼれる。
自然と頬が緩みかけるが、こんな状態でここまで来たことに思い至って急速に体が冷えた。
本当に心配させてくれる。
なんだかこの数分だけでかなり振り回されているみたいだ。
けれど、彼女が今ここにいる、それだけでひどく満たされている。
これが惚れた弱みって奴なのだろうか。
もう一つ苦笑いをして、彼女に水を手渡した。

「ほれ、水。」
「あ、ありがとー。」

嬉しそうに破顔して手を伸ばす彼女はやっぱり年下なんだと改めて思った。
グラスを両手で持ってんくんくと喉をならす姿がやけに幼く見えて、思い切り甘やかしてやりたくなる。
くしゃくしゃと頭を撫でながら隣に腰を下ろす。

「で?どうしたん?今日は安倍さんのイベントやったんやろ?」
「そうだよ?着ぐるみ着てねー?あべさんにぎゅーってしてもらったの。」
「着ぐるみぬいだらね?がきさーん!ってびっくりしてくれて。」
「メールもね?あたしがいちばんだったんだって。へへ。」
275 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/14(日) 14:42

訪ねて来た真意を聞きたかったのだけれど、あまりにも幸せそうに語るものだからすっかりその気をそがれてしまった。
彼女はというと中身が半分ほど残ったグラスを胸の辺りで抱えながら安倍さんがね?安倍さんがね?と繰り返している
ソファーから伸びる足をパタパタさせながら目を輝かせる彼女は、普段後輩を前にしている時とは完全に別人だった。
久しく見ていなかった彼女のこんな姿は確かに愛しいのだけれど、それを引き出したのが自分ではないということが少々複雑な気分にさせる。。

「「雨の降らない星では」あるじゃん。あれをね、あべさんがねー、うたってくれてね。」
「あれはやっぱりとくべつだから、うれしかったんだー、へへ。」
「ほんとにねーかっこよかったんだよー?」

ソファーに深く身を沈めながらあからさまに適当な相槌を返してみても
彼女は止まらない。
そういえば十年記念隊の時もこんな様子でひどく妬いた事を思い出した。
あの頃ほど余裕がないわけではないけれど、やっぱり面白くないことに変わりはない。
子供じみた独占欲だと分かっていても、少しくらいこちらに気を向けて欲しかった。

「あとねー、やじまちゃん。やじまちゃんきてた。」
「……なあ。」
「3人でね、写真とったの。あべさんと、やじまちゃんと、さんにんで。」
「……りさちゃん。」
「んー?」

苦し紛れに普段はあまり呼ばない名で呼んでみた。
反応を返してくれたはいいが、なんだか気恥ずかしくって顔を見ることができない。
彼女が不思議そうにのぞき込んでいる私の顔は絶対に真っ赤だ。
恥ずかしいやら、腹立たしいやらでわけが分からない。
どうしたのー?なんて身を乗り出しながら聞いてくるけれどそれはこっちの台詞だ。
突然酔って押し掛けてきたかと思えば先輩の話ばかり。
どうしたんだ一体。
2人で居るんだから少しだけ、少しだけいいからあたしを見てくれたっていいじゃないか。
いつだって言葉の足りないあたしはこの気持ちをうまく伝える事ができなくて、拗ねたような態度で反抗してしまう。
背を向けた私の肩を、ねえ、ねえ、と揺する彼女の手がやけに暖かくて絆されそうになるけれど、もう、意地だった。
276 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/14(日) 14:44

「……楽しそうやな。」
「楽しかったよー。あべさんよろこんでくれたもん。」
「……よかったやんか。」
「今日はほんとにいい日だったー!」
「……そうか。」
「そう!ほんとにね、いい日だったから、今日のさいごはあいちゃんにあいたいとおもったの。」

そしたらもっといい日になるでしょ?なんて笑いながらゆっくりと後ろから抱きすくめられた。
今日は本当に振り回されっぱなしだ。
勝手に妬いていたのが馬鹿みたいで、馬鹿みたいに彼女が愛しい。
頬の横を通ってあたしの正面で組まれる腕が、遠慮がちに少しずつかけられる柔らかな重みが、確かな熱を持ってあたしの心臓を煽る。
自分の心音に耐えきれなくなったあたしは目の前にある彼女の手にそっと唇をおとした。
嬉しそうに笑う穏やかな震えが背中越しに伝わって。
くるりと体を反転させて彼女の腰に手を回しながら、彼女の肩に顔をうずめる。
ひどく情けないであろう表情を見られたくなかった。

「りさちゃん、すき」

くぐもってしまったその音がきちんと伝わったかは分からないけれど、あたしを包む暖かな腕は確かに少し強くなった。
あいちゃん、と柔らかな声が降りてくる。
こんなにも優しく、あたしの名前を呼べる人を他には知らない。
顔を上げると、幸せそうに微笑んで瞳を閉じる彼女。
言葉の足りないあたしの気持ちがどうか伝わりますように、ありったけの思いを唇に込めて、彼女のそれにそっと重ねた。
277 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/08/14(日) 14:46
以上です。今更すぎる安倍さんおたおめイベネタ。
ダラダラながくなっちゃった。ごめんなさい。
278 名前:とろける 投稿日:2011/09/10(土) 17:56
 白いシーツの上に寝そべる白い肌の私。
 金髪が陽にあたり、毛先が眩しくて見えない。
 どこかに消えていってしまいそうで。
 難しいことは考えたくないけれど、色々思うことはある。
 ふとため息をつき目をつむった。
 頭に浮かぶ笑顔。ごっちん、矢口さん、あいぼん……。
 全て一度に解決してしまえばいいのだけれど、そうはいかないんだろう。
 バカでもわかるよ。
 ――走りたい。
 けれど、正直な話、体は疲れていて。
 
 このまま昼寝もいいかな。
 隣に寝そべる梨華ちゃんの顔を見るだけでホッとする。

 「かわいい」

 おわり
279 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/10(土) 17:57
落ちが思いつかなかったんで安易なネタに走りました。
飼育に初めて投下したのでアレな感じです、今後頑張ります。
280 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/11(日) 00:08
良いと思います
これからも期待してます
281 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/15(木) 00:59


『月見』

282 名前:月見 投稿日:2011/09/15(木) 01:00


ゲームをしようか、久しぶりに一人で酒を飲もうか、迷う。

今夜は月が綺麗。

中秋の名月、だっけ?
十五夜とかなんとか男サーの子が言ってた気がするけど忘れちゃった。

暑いけどベランダに出て風に当たってみる。
団子でも作ろうかな。

283 名前:月見 投稿日:2011/09/15(木) 01:01


部屋に戻ってテレビを付けたら見覚えのある子が映ってる。
随分大人っぽくなって歌も上手くなった感じ。


懐かしい。あたしの後輩。


記憶の中の高橋は、酷く訛ってて馬鹿みたいに真面目でいっつも難しい顔をしてた気がする。

この子も娘。卒業するんだ。
きっとこれからも沢山の壁にぶつかって、一人で苦しむこともあるだろう。あの頃のあたしみたいに。
そんで、もっと強くなる。この子もきっと。あの頃のあたしみたいに。


そういえば、この間テレビで紺野も見た。
あたしに憧れてると言っていたあの子がアナウンサー。
やっぱり少し似てるところあったと思うな。あたしと紺野。


284 名前:月見 投稿日:2011/09/15(木) 01:02

夜空を眺めながら酒を飲むことにした。
まんまるの月はどこか頼りなさ気で、目を離したら消えちゃいそうだった。

月ってどうして黄色なんだろう。
あたしは凄く薄い黄色の時の月が好き。
今夜の月はあたしの好きな色だ。

団子は面倒くさいし、いいや。




今朝も見たワイドショーを思い出す。

あの子、今なに考えてんのかな。
最後に連絡をとったのはいつだったっけ。
285 名前:月見 投稿日:2011/09/15(木) 01:02

あの頃のこと、青春だったとか言う人は多いけどなんだかしっくりこない。

でも、あの頃のあたしたちは多分輝いてた。
思い出すだけでも眩しい煌めく日々。

あたしたちは世界の中心に居て、
月なんかと比べ物にならないくらい明るいライトに照らされたものを見て
なんて綺麗な景色なんだろうと思いながら、ライトの照らす先を追いかけて走り続けた。


あたしは、ライトの明かりが段々と陰っていくのを見て見ぬ振りをした

あの子は、影に隠れていたものを見つけて自分でライトを壊した

286 名前:月見 投稿日:2011/09/15(木) 01:02

もうすぐあたしも追いかけるのをやめるんだ。

月が綺麗だということをあたしは知ってる。



月に飽きたら、また光を探せばいい。
287 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/15(木) 01:05

『月見』

( ´ Д `)< おわり
288 名前:& ◆/2WOP73qBI 投稿日:2011/09/21(水) 11:16
初めて書きます。

『カミサマ』
289 名前:& ◆/2WOP73qBI 投稿日:2011/09/21(水) 11:17
---もしも、私に勇気があれば---

少しだけで良かった。いや、たった一言言うだけで良かった。
でも、私には出来なかった。

こういうことを思うのはたぶん私だけじゃないと思う。だけど、だけど、、、


私、清水佐紀。私にはずっと引き摺ってきた、何度も忘れようとした恋がある。

忘れるのが無理なら、なにかしらの形でケリをつけたい。そう決心がつけるのに何年もかかったことは恥ずかしい限りだ。
でも、今度は後悔したくない。想いを伝えたい、たとえどんな結果が訪れようとも。


そんなことを思いながら、私はある場所にいる。
ここは、、、





心臓に突き刺さるような楽器の音とヴォーカルの声、それに負けないような歓声。
観客は今日のライブを心待ちにしていたみたい。
そんな中、私だけ、同じ空間にいるのに別の場所にいるみたいだった。




290 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/21(水) 11:19
出会いは中3の秋―5年前―に遡る。
私は文化祭の実行委員をやっていて、ステージでやるパフォーマンス大会の担当だった。
バンド演奏、ダンス、アカペラなどいろいろあった。
私はジャンケンで負けて、嫌々責任者になった。
例年ならば、何の問題も無く終わるはずなんだけど、私の時は違った。
でも、違ったお陰で私は出会えた。

大会の参加申請に女の子2人組が来た。
代表者が来たのだろうと思っていたから、不思議には思わなかった。
それは違ったみたいだった。

話を要約するとこう

本当は3人組でバンドを組んでるんだけど、1人はまだ小学生。でも、今年がここでやれる最後のチャンスだからどうしてもやらせて欲しいとのことだった。

私は即座に断った。面倒なことに関わりたくない、それに絶対許可されるわけない。

「なんでダメなんですか?」
派手な見た目をした女の子が言ってきた。
こういうことを言うだろうと思ってたから大人が使う例の台詞を言った
「ルールだから、生徒じゃない人の参加は認められない」
「ルールってそんなに大事なものですか?」
私を睨みながら彼女は言ってきた。
「1人が破れば、みんな守らなくなる。そうなると秩序は保たれない。」
良く意味はわからなかったけど、言われたことがある文句を言ってみた。
291 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/21(水) 11:19
数分間の沈黙の後、彼女が口を開いた。
「夢があるんです。」
「夢?」まっすぐな瞳で見つめられてちゃんと返せなかった。
「うちら、いつか有名になって『武道館』でライブをやりたいんです。」
「ブドウカン?」
「そこはバンドの聖地なんです。」
ずっと黙ってた小さな女の子が言った。
「でも、それと今回のことは関係ないよね?」
「関係あるんです。うちらが組むキッカケになったのはこの学校なんです。だから、うちらのファーストライブはここの体育館でやりたいんです。」
気が強そうな彼女の目には涙が溜まっていた。
「だったら、こんな小さなところじゃなくても・・・」
一度拒否したから素直に認められなかった。
「こんな小さなステージでも、うちらにとっては武道館なんです。だから、絶対ここでやりたいんです。」
彼女の言葉は私の胸に刺さった。
ここまで力説されて、認めなかったら私はただの鬼だ。
同時にこの子たちの歌を聴いてみたい、そんな感情も浮かんでいた。

「わかった。先生に掛け合ってみる。でもその前に私にあなたたちの歌を聴かせて」
「わかりました。明日の放課後にもう1人連れて、3人で来ます。」
とても嬉しそうな表情だった。彼女には涙より笑顔が似合うみたいだった。
「待って、名前教えて。ちなみに私は清水佐紀」
「うちは夏焼雅。この小さいのが嗣永桃子、小学生が鈴木愛理」


それが私と彼女の出会いだった。
292 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/21(水) 11:20
私が回想してるうちにライブはラストに差し掛かっていた。

「今日、ここ『武道館』でライブが出来たのは他でもないファンの皆さんのお陰です。あと、関係者やスタッフの皆さんのお陰でもあります。」
大きな拍手が会場を包み込む。
「それともう1人、感謝しなければいけない人がいます。」
さっきまで大歓声に包まれていた会場に静寂が訪れ、誰もが雅の話に聞き入っていた。
別の空間にいた気がした私も含めて。

「うちらのワガママを聞いてくれて、ファーストライブを文化祭でやらせてくれた女の子。彼女はうちらの初めてのファンで、ここまで苦しいことがあっても彼女の『3人なら絶対武道館でやれる』って言葉を信じて、いや裏切らないようにするためにここまでこれました。そんな彼女にラストナンバー『ロックの神様』を届けたいと思います。」

私のことを覚えてくれた・・・
あれからずっと会ってないのに。
雅の言葉が私の背中をほんの少し押してくれた。
聞こえなくてもいい。でも今言わなきゃいけない。


「雅のこと、ずっとずっと好きだったよ。そしてこれからも―――」
293 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/21(水) 11:20
終わりです。
294 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/21(水) 15:54

 台風の目
295 名前:台風の目 投稿日:2011/09/21(水) 15:54
みんなと過ごせる時間が少しずつ短くなっていく。
あと九日しかない。先輩もこういう時間を過ごしてきたのかな。
しかも台風までやってきた。とても強いらしい。
東海地方が大変だと聞いて、鈴木の実家が心配。
だけど、本人はいたって明るい。いつもの笑顔でみんなを笑わせてる。
マネージャーさんが時間を確認してる。あっ! さゆのお仕事だ!
296 名前:台風の目 投稿日:2011/09/21(水) 15:55
「さゆ、そろそろ時間じゃない?」
今日のさゆは、新宿のルミネtheよしもとでトークショーだ。
いつもみたいにさゆは九期の子たちと戯れてる。
最近は鞘師一辺倒ではなく、フクちゃんや生田ともよく話している。
「え、待って! りほりほの写真撮ってない!」
「さっき撮ってたじゃん」
「カワイイのが撮れてないの!」
297 名前:台風の目 投稿日:2011/09/21(水) 15:55
鞘師の顔は曇り空という感じだ。
そんな鞘師の隣に鈴木が寄ってきた。
左耳に両手を添え、小声で何か話すと、二人は笑顔になる。
今がチャンスとばかりにさゆが携帯を構える。
「ブログ用でーす!」
撮り終えて画像を確認したと思ったら、
「……じゃあ、行ってきまーす!」
もうドアから出ていくところだ。
「さゆ! 台風に気をつけてね!」
「愛ちゃん、ありがとう。頑張ってきます!!」
298 名前:台風の目 投稿日:2011/09/21(水) 15:55
扉が閉まると、あちらこちらからため息が聞こえてきた。
あれ?

「……さゆ自身が嵐なんじゃない?」
「ガキさんがこれからアレを操るんだよー」
あーしが言うと、わかってるよ、と笑顔を見せた。
「道重さんは台風の目なんだろうね」
「コラー! 鈴木ー! 台風に目なんかないでしょーが!」

END
299 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/21(水) 15:56
台風で暇なんやよ
終わりやよ
300 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/21(水) 19:49
リアルタイムネタですごいなと
あるあると思いながら読みましたよかったです
301 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/21(水) 21:08


広島産と生ガキさん

302 名前:広島産と生ガキさん 投稿日:2011/09/21(水) 21:09

「新垣さん、新垣さん!」

楽屋の端から聞こえていたはずの声がいつの間にかすぐ側で聞こえる。
鏡越しに視線を送ると、案の定ニコニコとした笑顔がこちらを見ていた。

「なに?どうしたの?」

なんとなく、嫌な予感はするものの一応聞いてあげる。
かわいい後輩の話を聞いてあげるのは、先輩の役目だ。
例えそれが本番前のメイク中であったとしても。
わからない程度に小さな溜息をついたのは内緒ということで。

「聞いてくれます?」
「うん、聞くよ」

後ろに立っている生田の方を振り返ると、彼女は待ってましたと言わんばかりの笑顔で嬉しそうに話し出した。
しかし、いつも思うのだが彼女の声は音量調節が出来ていないと思う。
303 名前:広島産と生ガキさん 投稿日:2011/09/21(水) 21:09
「あのですね、今日学校で英語のテストがあったんですけど!」
「うん」
「思ってたよりもできたと思うんですよね!」
「そう、よかったじゃん」
「そうなんですー!」
「ねえー…」
「はあい!」
「……」
「……」
「…で?続きとか他の話とかないわけ?」
「それだけです!」

ハッキリと。彼女は笑顔で言いきった。
そう。そうか。
どうやらこれで話は終わりだそうだ。
ということは2人の会話も終わりじゃないか。

なのに。なのにどうしてそうも自信満々の笑顔でその場にいるのだろう。

終わりならば、去ればいいじゃないか。
話したいことが終わったのなら、はい、さようなら。それでいいじゃないか。

なのに。なのにどうして笑みを絶やさずこちらを見るのだろう。

それで?という表情で続きを促してみても、何も話し出さない。
こちらとしても言いたいことも話したいこともないので、何も話せない。

当然のように沈黙になる。
304 名前:広島産と生ガキさん 投稿日:2011/09/21(水) 21:10
こういうとき、どういうリアクションを取れば正解なのだろうか。
私は悩む。
悩んだ顔を見せても、彼女の笑みは変わらない。
気づいていないのか。
気にしていないのか。

ニコニコ
ヤレヤレ

向き合う2人の表情は対照的である。
彼女はいつもこうだ。
オチのない話、反応しにくい話を一方的に話す。
正直、なんて言ってあげたらいいのかわからない。
適当に相槌を打って一緒に喜んであげたり、時には全く聞かない所謂『無視』ということもする。
なのに、どちらのリアクションを取っても、彼女の反応はいつも一緒、笑っているのだ。
ちゃんと話を聞いてくださいよとこちらに要求することもない。
一度困り果てて「もうしゃべらないでください」と言ったこともある。
それなのに彼女は自分のペースを乱すことなく懲りずに私の元へ来たりして。

はっきり言って、よくわからない。
彼女の何もかもが。
305 名前:広島産と生ガキさん 投稿日:2011/09/21(水) 21:10
加入し合流してから半年以上が経つ。
生田以外の9期メンバーはだいたい掴めてきたというのに、この子だけはどうも無理だった。
一番お調子者だと思っていた鈴木が実は一番しっかりしていたり、
クールだと思っていた鞘師が意外と子供っぽかったり、
お嬢様だと思っていた譜久村が案外アホだったり。
9期は第一印象とのギャップという意味でも、早い段階でキャラが立っていた。

そしてこの生田も。

最初の印象は大人しい、どちらかと言えば暗い子なのかなと思った。
それはきっと、長い髪の毛とどこかぎこちない笑顔だったから。
時折こちらを見る笑顔が何を考えているのかわからず怖いと思ったこともあった。

しかし、いざ蓋を開けてみれば第一印象からは想像もつかないくらい明るい、変な子だった。

笑顔を絶やさないというよりへらへらしていたり、先輩が注意しているときに「切り換えー!」と叫んだり、急に口調がギャル化したり、何キャラなのかさっぱりなのだ。
説明しづらいので今のところKYキャラとして片付けてはいるが、そのことを別段気にしてないようなところもきっと変わっていると思う。
だからと言って冷たくしすぎると泣き出しそうな目でこちらを見てくるし。

もう、ほんと。
全然わからない。
306 名前:広島産と生ガキさん 投稿日:2011/09/21(水) 21:11
「…もう話終わりなんだよね?」
「はい。新垣さんのその髪型かわいいですね」
「あ、ありがとう…」
「いえ〜」
「……」

彼女の笑顔は、やはり変わらない。

ニコニコ
キラキラ
ヘラヘラ

私は溜息をつく。

どうしてだろう。
自分の周りにはどうしてこうも頭を悩ませる人が集まるのだろう。
今はいなくなってしまったが、亀井といい久住といい。
この2人もいつも笑顔で私を振り回していた。まるで今の生田のように。
もうすぐ卒業してしまう高橋も多少種類は違えど彼女にもよく悩まされ続けている。
自分勝手に話を進めて、脱線し、いつの間にか自己完結をする。
巻き込まれるのは、いつも私だ。
変化球なのかストレートなのか、私はいつも捕球し損ねる。

「生田ーダンスの先生が呼んでるよー」

そんな2人の無言の見つめ合いを壊したのは、入口付近にいたリーダーの声だった。
くいくいと外を指しているから、廊下に行けということだろう。
307 名前:広島産と生ガキさん 投稿日:2011/09/21(水) 21:11
「あ、はーい」

妙に高い声で返事をして、生田はそちらへと向かう。
ショートカットの短い髪がふわりと揺れる。
なんとなくその後ろ姿を見ていたら、唐突に彼女が振り向いた。

「新垣さん、今日の夜メールしますね」

何故唐突にそんなことを宣言するのだろう。
しかも不器用なウインク付きで。
呆気に取られる私を置いて、彼女は再び背を向ける。
そのまま扉が閉まるのを見送って、私はわざとらしく溜息をついた。
胸の奥がざわりと音を立てる。
なんなんだろう、あの子は。
なんなんだろう、この胸騒ぎは。
308 名前:広島産と生ガキさん 投稿日:2011/09/21(水) 21:12
「さて、と」

気を取り直し鏡に向きなおしたところで、さっきまでの私たちの様子を見ていたのであろう鞘師が声を掛けてきた。
小さい鞘師は、私の斜め後ろに立っている。

「新垣さんも大変ですね」
「そうなのよ。毎回絡まれてほんっと困るんだから」

おどけた様子で肩を竦めてみせると、鞘師は小さく笑った。

「でも新垣さん知ってます?」
「んー?なにが?」

生田のせいで中断していたメイクを再開しつつ、鏡の中の鞘師にちらりと視線を合わせる。
今日はいつもより支度に時間が掛かっていた。
メイクもまだ、半分しかしていない。
早いとこ済ませよう。
そう思いながら再び鏡の中の自分に視線を戻し、アイラインを引いたときだった。
鞘師の言葉が、引っかかったのは。


「衣梨奈ちゃんって、いつも新垣さんのことばっか話してるんですよ」
309 名前:広島産と生ガキさん 投稿日:2011/09/21(水) 21:12
幼い鞘師の声が耳に届く。
ざわり。胸の奥がまた音を立てる。
視線を上げると何かを企んでいるのか、はたまた純真無垢に話の種としてそれを伝えたのか。
鞘師は目を細めて笑っていた。
なんとなく、彼女もまた掴めないなと思った。

「…へーそうなんだ」
「はい。何かあると『新垣さんに話そう』とか『これ新垣さんが好きっちゃんね』とか楽しそうに話してるんです」
「意外だねえ…」

あんな様子だから多少は気に入られているとは思っていたが、自分がいないところで名前を出されていたとは。
あとは――と尚も続けようと口を開いたところで、ドアの外から鞘師を呼ぶ声が掛かった。
それは先ほど生田を呼んだ先生の声だった。

「あ…」
「行っておいで」

なんだか名残惜しそうにしてる鞘師に行くよう促すと生田とは違う短い返事をして鞘師は扉の外へ出て行った。
バタンという音を聞いて休ませていた手を再開させる。
それと同時に、頭の中はぐるぐると思考し始めていた。
310 名前:広島産と生ガキさん 投稿日:2011/09/21(水) 21:13
どうして、こうも頭を悩ませるのだろう。
こんなに日々困らされているのに。
どうして、先程の鞘師の言葉を聞いてほんの少し嬉しいと感じるのだろう。

わからない。

いつもニコニコしている彼女の謎。
彼女がいつも私のことを話すという事実。
それを受けどうして喜びを感じるのかという疑問。

どうしてだろう。
考えたところで答えは出ない。
いや、出さないのだ。

私は知りたくないのだ。
気づきたくないのだ。
気づいてしまったら、寂しくなるだけだから。

鏡の中の自分を見つめる。
今日はちょっと、チークが濃いかもしれない。
そう思ったところで気づく。
まだメイクは途中である。頬が赤いのは、化粧のせいではない。

気づいたことを後悔した。
311 名前:広島産と生ガキさん 投稿日:2011/09/21(水) 21:14
私は人知れず溜息をつく。
今日だけで、何度目だろうか。

でも、こんな自分が嫌いじゃないことを私は知っている。
こうやって振り回されるのも、頭を抱えるのも、私はなんだかんだで好きなのだ。
面倒見のいい小姑役が。
決して、彼女に限ったことではない。きっと。
そう思ったところで、数人の顔が頭を過ぎる。
今はもう、ここにはいない人たちが。

「今度こそはあたしより先に行っちゃわないでよね」

小さく呟いた言葉は誰の耳にも届かない。
私の側にいる子に限って、私のもとを去っていく。
そんなのはもう、ごめんだった。


いつの間にか、生田も鞘師も戻ってきていた。
楽屋が少しうるさくなってきている。
わざとらしくガタリと音を立てて立ち上がった。

「コラー騒いでないでさっさと着替えるー」


もう少し、何も知らないままでいたかった。
彼女の笑顔を追っている。
私の願いはきっと、叶わない。
312 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/09/21(水) 21:15

「広島産と生ガキさん」おわり

新垣さんがんばれ
313 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/21(水) 21:20

 今日の私 元気ですか

314 名前:今日の私 元気ですか 投稿日:2011/09/21(水) 21:20
ドリームモーニング娘。のリハーサルが始まって八日目。
コンサートの初日まであと……。
今日は非常に強い台風が日本列島に近づいている。
東海地方は大雨で川が増水し、避難勧告が出た。
今年の日本は、天災が多すぎる。
でも、来てくれる人には夢の時間を過ごしてもらいたい。
夢を見失わないパフォーマンスができるように頑張っている。

どんなに風が吹こうとも。どんなに雨が降ろうとも。
315 名前:今日の私 元気ですか 投稿日:2011/09/21(水) 21:21
そんなことは関係なく、メンバー全員がバテている。
中澤も飯田も安倍も保田も矢口も石川も吉澤も久住も
床に寝そべっていた。

「だりー」
「あっつー」

そんな声が聞こえてくる。
一人足りない。藤本ではない、辻でもない。ましてや高橋であるはずがない。
いつの間にかいなくなっていた。
316 名前:今日の私 元気ですか 投稿日:2011/09/21(水) 21:21
誰かが言った。
「小川の様子、見てきたほうがいいんじゃない?」

何故か不謹慎に聞こえる言い方だ。

「倒れてるかもよ」
そんな声も聞こえたが、誰も動こうとはしない。
何故なら藤本の妊娠が発表され、一人一人のパートが増えたからだ。
一人いなくなっても誰も困ることはない。
誰も死にたくはない。しかし練習は始められない。
全員そろわないとフォーメーションも確認できない。
317 名前:今日の私 元気ですか 投稿日:2011/09/21(水) 21:21
時間が過ぎるばかりで、いくら経っても帰ってこない。
台風も気になるので、テレビを見始めた。
女性アナウンサーがニュース原稿を読み上げている。
『小川の様子を見ると言って家を出た男性が行方不明になっています』

誰もがそのときこう思った。
不謹慎だろ、紺野。
318 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/21(水) 21:22
今日の私 元気ですか 

終わりです。
台風で暇でしたその2
319 名前:ダブルユー 投稿日:2011/09/21(水) 23:14
ダブルユー
320 名前:ダブルユー 投稿日:2011/09/21(水) 23:15
辻から電話があった。開口一番「あいぼん大丈夫?」と言った。
大丈夫なわけがねえだろ、と思った。笑ってしまった。
「大丈夫……だと思うよ、たぶん」
「たぶんって、なにそれ」
辻も笑った。矢継ぎ早にぽんぽんと、何やら私のことを心配する風な言葉を口にした。
それはあまりにも流暢で早口だったので、何を言っているのかよく分からなかった。
とりあえず私のことを心配しているんだろうということは分かった。
しかし全然心がこもっていないと思った。
「ねえ、ほんと大丈夫? のんにできることなら何でも言ってね」
うざい。もう二度と電話して来るな。今お前にできることはそれしかない。
そう思ったので、言ってやろうとして、やっぱり言えなかった。
321 名前:ダブルユー 投稿日:2011/09/21(水) 23:16
「うん、大丈夫だと思う」
「そう? ならいいんだけど」
良くない。何も良くなかった。辻は何にも分かっていない。
お前が何を知っていると言うんだろう。
電話口で子どもがぐずる声が聞こえた。辻は「ちょっとごめん」と言って、
どうやら子どもを、辻の子どもの名前なんて忘れたが、とにかくあやしているんだろう。
ああ小憎らしい。携帯片手に、子どもを抱いて、かつての親友の危機を思いやる私ステキ、か?
いい身分だ。お前は何にも分かりゃしないよ。
322 名前:ダブルユー 投稿日:2011/09/21(水) 23:17
「ごめんね」
「いいよ、全然、旦那さんと、子どもは、元気?」
「うん、ぼちぼちでんな」
「なにそれ」
辻はケタケタと電話口で笑った。それから「そうそう」と言った。
何だろうか。早くこんな電話は切ってしまいたい。辛すぎる。
「あいぼんさー」
「なに?」
「のんのこと嫌い?」
何でだろう。何でそうなるのだろう。全然意味が分からないと思った。
323 名前:ダブルユー 投稿日:2011/09/21(水) 23:17
「どうして?」
「ねえ、私のこと」
ののが「私」だってさ。ちゃんちゃらおかしいね。笑ってしまう。
「何?」
「のの、って呼んで」
「え?」
「のの、って言って」
「なんやねん」
「私のこと嫌い?」
どうなんだろう。よく分からない。憎らしいと思うよ。
でも、嫌いかと言われると、それはよく分からなかった。
「わかんない」
「だよねー。だkらさあ、ねえ。のの、って言ってよ」
「だからなんやねんそれ」
「いいからさー」
恐ろしく照れくさかった。何で今更。ああいやだいやだ。
324 名前:ダブルユー 投稿日:2011/09/21(水) 23:18
「のの」
「なーに?」
「切るね」
「うん、元気で」
「そっちこそな」
「じゃーねー、また今度」
電話は切れた。しばらく携帯を離せなかった。
まだ生きていてもいいんだろうなあと思った。

おわり
325 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/22(木) 23:17
CP:あいがき・あいさゆ


コンサートツアー中のホテルにて。

- Sayu -

「あーいちゃん♪」
さゆみはいつものように愛ちゃんの部屋に遊びにきた。返事はない。

ドアを開けっ放しで何処かへ行ってしまったようだ。
全く……モーニング娘。のリーダーともあろう人間が無用心にもほどがあるの。

ふと下を見ると愛ちゃんのスーツケースが目に入る。

別に使用済み下着とか興味があるわけじゃないからね?
いくらさゆみが変態って言われてても、そんなことはしないの。
さゆみは生身の愛ちゃんが……ハァハァ

少々荒くなった鼻息を抑えながら、ファスナーに手をかけ、スーツケースを開く。
愛ちゃんは服が多いけど、ちゃんと整理整頓されてるなあ。
絵里とは大違いだね(笑)

ちょっとだけだから愛ちゃん許してね。
完璧にストーカーというか犯罪行為を平然とやってのけるさゆ。
さすが某掲示板で変態スレが続くだけのことはある。

さゆみは可愛いものが大好きなの。
愛ちゃんの下着に興味があるだけで、別に下心なんて1mmもないの。
変態なんて心外なの!

なんて酷い言い訳をしながらスーツケースを漁る道重さゆみ(22)
326 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/22(木) 23:18
そしてついに、愛ちゃんの下着発見!!!
これはヤバいー(≧∇≦)さゆみ、テンション上がるネッ

思わず袋に顔を近づけると、ジップロックに入った物が目に付く。
取り出して見ると、なにやら硬い物が丁寧にハンカチで包まれている。
んー?何だろう、これ??

それを取り出した瞬間、さゆみは息を飲んだ。
そこに入っていたのは、いわゆるオトナのオモチャ。
さゆみは見てはいけないものを見てしまったと思って
心の中で愛ちゃんに謝り、勝手に荷物を漁ったことを反省した。
愛ちゃんも性欲くらいあるよね……さゆみだって毎晩……。
でも、愛ちゃんこんな物使ってるんだ……なんかオトナってゆーか……。
と、頬を赤らめながらも少し感心し、それを元に戻そうとした時、
廊下から足音が聞こえた。

さゆみは今見てしまったことの気まずさから、
焦ってとっさにクローゼットに隠れていた。
そのオモチャを持ったまま……。

足音の主は愛ちゃんと、そして愛ちゃんと同期のサブリーダー、ガキさん。
なにやら言い争いをしているみたいなの。

その雰囲気にクローゼットから出るタイミングを逃すさゆみ。
「ドッキリー!」とか言って元気にでられる雰囲気じゃないの。
でも、それ以外方法がないの……!

出る機会を伺っていると、ガキさんの明らかに不機嫌な声。

「てか、ちょっと最近さゆとくっつき過ぎじゃない?」
327 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/22(木) 23:20
――え?
思わず耳を疑った。
クローゼットの隙間から外の様子を伺うさゆみ。

「それは不可抗力やて。さゆが一方的にやろ!てか言わんかったけど、里沙ちゃんこそカメが卒業する前はガキカメとかゆーてベタベタしとった……。」

「でも、私達はチューなんてしないけど?」
ふてくされた顔でガキさんのが答える。

「ガキさん…妬いとるん?」
愛ちゃんがガキさんの顔を覗き込んで尋ねる。

「っ……。」
ガキさんの顔が赤くなる。

「理沙ちゃん可愛いーーー!」
そう言って、愛ちゃんはガキさんを抱き締めた。

――愛ちゃん、二人っきりの時は里沙ちゃんって呼んでるんだ……。

「さゆは挨拶みたいなもんやろ、他の人にもしとる。それにあーしからは絶対せんよ。」

「…でも、んっ…」

反論しかけたガキさんの口は愛ちゃんの唇で塞がれる。

さゆみは今目の前で起こっていることが信じられなかった。
愛ちゃんとガキさんが……!?ウソ……。
びっくりして声が出るところだった。

「あーしが好きなんはガキさんだけやで?」
愛ちゃんは真っ直ぐガキさんの目を見つめて言う。

……さゆみ、今日は見てはいけないものを見てしまう日みたい。
328 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/22(木) 23:22
部屋の空気が変わったのがわかった。
愛ちゃんは再びキスをして、ガキさんをベッドに押し倒す。
「あーしが、キスして感じるのはガキさんだけやで?」
「愛ちゃん……ずるいよ……。」
ガキさんはもう真っ赤になってされるがまま。


さゆみの心拍数は上がっていく一方。心臓はバクバク。
これから起こるであろうことを見たいけど見たくない……。

後輩に見られてるとは知らず、愛ちゃんはガキさんに覆いかぶさった。
そのまま濃厚なキスが数分間続く。

「んん……ハァハァ」
やっと愛ちゃんが唇を離すと、ガキさんの目はトローンとして
「愛ちゃんやらしい顔してる……。」
と照れながら微笑んだ。

すると愛ちゃんはいきなりガキさんのズボンに手を突っ込んだ。
「ちょっと…やめっ……」

いきなりのことに驚き慌てるガキさんをよそに、ニヤリと笑う愛ちゃん。
パンツの上からガキさんの敏感な所を優しく撫でる。
「あんっ…ダメ…」
愛ちゃんの手を掴むが、全然力が入ってないみたい。

これ以上見たくない…!
さゆみは、嫉妬と葛藤で狂いそうになりながら、ふたりから、愛ちゃんから目を離せなかった。
329 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/22(木) 23:23
- Ai -

もうすでにそこはパンツの上からでも湿っているのがわかって、あーしは嬉しかった。
「もうパンツびちょびちょやのー。キスだけで里沙ちゃんこんなにして、エッチなのはどっちやの?」

恥ずかしさでもう泣きそうな里沙ちゃん。
いつもはしっかりもんの癖に、ベッドの上ではほんまに可愛いんやから。
もっともっといじめたくなる。

だから耳元で
「これからもっと気持ちよくしてあげるからな。」
と囁いてみた。
案の定、更に顔を真っ赤にして涙目になる里沙ちゃん。
たまんない、全部あーしのもんや。

右手でそこを撫でながら、左手で器用にズボンとパンツを脱がしていく。

もうすでに腰砕けになっている里沙さんの脚を開き、
強引に体を割り込ませ、顔をその中心に近付けた瞬間、

「待って…愛ちゃん!お風呂…っ入って…ない…から…」
里沙ちゃんは慌てて起き上がって制止しようとする。

ここまできておあずけはないやろ。

「なんや、じゃあ指ならいいか?」
里沙ちゃんは一瞬躊躇ってから、無言でコクンと頷く。

けれどもスイッチの入ったあーしは止まるわけない。
大好きな人のあそこを舐めたいと思うのは、人間の本能や。

指ですると見せかけて、強引に顔を近づけて、
柔らかな舌で里沙ちゃんの敏感な所を舐め上げた。
330 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/22(木) 23:25
- Sayu -

「ダメ!ダメだって…!ああんっ……」
愛ちゃんの舌が触れた瞬間、思わず声がでてしまったガキさん。
色っぽい女の表情をしてる。やばい…さゆみまでじゅんじゅんきちゃうよ……。
てか下半身だけ裸のガキさんの股に顔を埋めてる愛ちゃんの構図がエロ過ぎるの。
ここまでピチャピチャ音が聞こえるし。
なんなの!!!さゆみを差し置いてガキさんいつの間に愛ちゃんを落としたのよ!
331 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/22(木) 23:26
- Gaki -

いくらなんでも恥ずかし過ぎる!
必死で愛ちゃんの頭をそこから遠ざけようとする。
お風呂の前にこんなことをされるのは始めてだったのだ。

やだ……恥ずかしい……。
その気持ちとは裏腹に、どんどん溢れていくのが自分でもわかった。
もう愛ちゃんの頭を離そうとする腕に力が入らない。
声を我慢するのに精一杯。

もうありえない。
明るい部屋で、こんな格好で一番恥ずかしい場所を
愛ちゃんに間近で見られてることも、
舐められて感じちゃってることも、ありえないんだから!!!

愛ちゃんの舌はまだ私の一番気持ちいい場所に達してない。
早くそこに欲しいなんて、期待してる私がいる。
それに気付いてカァッと身体が熱くなる。
いつから私こんなにエッチになったの?愛ちゃんに嫌われたくないよ……。
332 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/22(木) 23:28
愛ちゃんはそんなガキさんの思いを知ってか知らずか、
慣れた手つきで皮をめくり、敏感な蕾を剥き出しにした。
そこにキスをしてそのまま全体を口に含み、
吸いつきながら敏感な場所には優しくチロチロと舌を這わす。
愛ちゃんの本気の責め。

「んあっ…ああああっ…ハァハァ…ああん」

もう声を抑えることができない。
気持ち良過ぎて全身がとろけそう……。
悔しいけどやめてほしくないのだ。
愛ちゃんは私の気持ち良い所を知っている。
その愛ちゃんのテクニックの前に僅かに残る理性は崩れてしまい、
私は抵抗するのをやめ快感に身を任せていた。


- Ai -

抵抗する力がなくなった。
見上げると気持ちよさそうに目を閉じ、
時々眉間にしわを寄せ、快感に浸る里沙ちゃん。
可愛いなあ。

あーしは顔をあげ、
「なー、里沙ちゃんの味がするよ。」
と一言。
333 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/22(木) 23:30
- Gaki -

いきなり快感が途切れ、目を開けると、
自分の広げた脚の間から顔を出した愛ちゃんがいじわるな顔をしている。
一気に顔に熱が集まる。

「なー、里沙ちゃんの味がするよ。」
なななななんてこと言うの!

「愛ちゃん!もうやめて!汚い…から…」
「あーしが綺麗にしてあげるよ。」
チュッっとビチャビチャなそこにキス。

「んっ」
反応してしまう私。愛ちゃんのいじわる……。

「やめちゃっていいのー?里沙ちゃんのココ、こんなにヒクヒクしてるのに。」

そう言ったかと思うと、簡単に中に指を入れられた。

「ああんっ」
「アッヒャー!里沙ちゃん、濡れすぎ。2本入ったでー。」
「愛ちゃんの馬鹿……」
そんなこと言われなくてもわかってるのだ……。
余裕たっぷりのヘラヘラしたこの人はいつも私は骨抜きにする。
そのせいで、普段から愛ちゃんの指を見るだけで、
濡れてしまう身体になってしまったなんて絶対言えない。

指で中をかき回しながら、その上の突起を舌でこねまわされて、
もう何も考えられなかった。
意識が遠のいていく……。
334 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/22(木) 23:33
- Sayu -

「あっあっ…」
ガキさんは痙攣し出し、腰が無意識なのか動いてしまっている。
さっきも言ったけど、この光景、エロ過ぎるの……。
しかもガキさん開き直って喘ぎすぎなの。
さゆみの思った通り愛ちゃんはテクニシャンだったの。
自身をガキさんに重ねあわせて悶々とするさゆみ。

すると愛ちゃんは急にまた舐めるのを止め、ガキさんの顔を覗き込む。

「え…」
快感の波が止まってしまい、物足りなそうな表情で愛ちゃんを見つめるガキさん。

「里沙ちゃん腰動いとるけど、そんなに気持ちええか?」
愛ちゃんは再びやらしい表情でニヤリと笑う。

「なっ…違っ…」

「そんな大きな声出して、隣の部屋9期やで。『新垣さんと昨日何してたんですかー?』って聞かれたらどうしようね、サブリーダー?」

愛ちゃんは指を入れたまま、身体を起こしてガキさんの顔の横に手をついて、
ガキさんを見下ろす。


――言葉責めキター!!!
――愛ちゃんドSなの…!堪らないの…!!!


「今日は一段と締めつけてくるのー。グチュグチュ。」
ゆっくり指を動かしながら愛ちゃんは言った。


俯いて無言で首を振るガキさん。
寸止めで焦らされて、我慢の限界なのか、
ガキさんは愛ちゃんの首に手を回して引き寄せた。

「愛ちゃん…ねえ…」
「んー?どうした?」
とぼけた声で愛ちゃんは答える。
335 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/22(木) 23:35
「いじわる…わかってるくせに…」
「言わないとわかんない。」
そう言うと愛ちゃんは指を抜いてしまった。

糸を引いてテカテカいやらしく光っている指を舌で丁寧に舐め始めた。

「ちょっと!愛ちゃん!ヘンタイッ!」
ガキさんは焦って愛ちゃんの腕をつかんで止めさせようとした。

愛ちゃんはそのままその指をガキさんの口に突っ込んだ。
「じゃあ代わりに綺麗にして?里沙ちゃんのせいで汚れちゃったやよ。」
NOと言わせない口調と視線。

――あああああ!!!愛ちゃん強引なの。あの目で見つめられただけでイけるの!!!

この時、さゆみかなり息が荒くなったの。バレなくてよかったなの。

愛ちゃんの指を舐めて綺麗にするガキさん。

――指を舐めることがこんなにやらしいプレイだとは知らなかったの。
――ガキさんったら、クネクネ腰が動いてるの。


「で、どうしてほしいの?」
「…愛ちゃん…入れて…」
「ふふ…里沙ちゃん、可愛い。イかせてあげるから、もう少し声抑えてね。」

せっかく綺麗にした指で、突き上げる。
ガキさんは手で口をおさえて、声を必死におさえてる。

シャツをまくりあげ、ブラを上にずらして、
おっぱいを味わい始める愛ちゃん。

「里沙ちゃん、乳首立ってるよ?」

おっぱいを揉みしだきながら
もう片方の先端を口に含んで、ピチャピチャ淫らな音を立てて刺激する。

器用にガキさんを快感に追い込んでいく。
ほんの数十秒後、ガキさんの体が大きく波打った。
336 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/22(木) 23:36
「ハァハァ…愛ちゃ…激し過ぎ…」
「でも、気持ちよかったやろ?」

「好きやよ、里沙ちゃん。」
まだ息が整ってないガキさんのまぶたに優しくキスをした。

「お風呂行こか。今日は、いいもの持ってきたんよー。」
ぐったりしてるガキさんとは対照的に、愛ちゃんは元気にベットから下り、
ニコニコしながらガキさんに話しかける。


「あれ?持ってくるの忘れたか。」
バックをごそごそしながら愛ちゃんがつぶやく。

――やばい、さゆみの手の中にあるものを探しているに違いないの……!

その時、一瞬、愛ちゃんと目が合った気がした。

――でも気のせいだと思うの。だって女の勘がそこまで鋭いと、それはもうエスパーなの。

「まあいいか。ガキさーん!お風呂入るやよー。」
いつものテンションの愛ちゃんに戻っている。

ふたりがバスルームに消えたのを確認し、さゆみは静かに部屋を後にした。


その夜、さゆみは今日あったことを思い出しながら、何回と果てた。
沸き上がってくるガキさんへの嫉妬を振り払い、
愛ちゃんの指遣いとあの目つきを想像して……。
337 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/22(木) 23:37
翌日、コンサートはいつも通り何事もなく行われた。

ガキさんが少し疲れてるようだったの。
でもきっとさゆみも負けないくらい寝不足なの。


――Hey hey you. Ha ha…. Yes It's so. It's you. Come on.

愛ちゃんを眺めながら、さゆみは心の中で口ずさんだ。
338 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/22(木) 23:39
その夜、

「愛ちゃん……一回だけでいいから抱いて……。」

相談があると言い、ホテルの自室に愛ちゃんを呼び出したのだ。

下着姿で愛ちゃんを迎えたさゆは、ハッキリとした口調でそう言って、
愛ちゃんの頬に両手を添え、キスをした。

「さゆ、どうしたんよ……?」

愛ちゃんは驚いてはいるが、どこか冷静な感じがした。
今日こうなることがわかっていたかのような。


さゆみは愛ちゃんを見つめる。
「さゆみ…愛ちゃんのことが好きなの。」

ベットに腰掛ける愛ちゃんにまたがって、愛ちゃんの太ももに股をこすりつけ、
愛ちゃんの手をつかんで胸に押しつける。
339 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/22(木) 23:41
――愛ちゃんは優しいの。後輩がここまでしてるのを黙って見過ごすはずがないの。

――Hey my girl. 年齢の差なんて 気にさせないわ

「……さゆ、きn…」
愛ちゃんが何か言いかけた言葉を遮って

「付き合ってなんて言わないから、一回だけ、卒業しちゃう前に思い出ちょうだい……お願い?」

愛ちゃんは何かと葛藤しているようだった。
――何に悩んでいるのかなんてわかってるの。でも、さゆみは愛ちゃんが欲しい。

愛ちゃんが寂しそうに笑った気がした。

片手でブラを外され、胸に顔をうずめた。
愛ちゃんはさゆみを受け入れた。

――キスはしてくれないのね。
340 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/22(木) 23:42
- Ai -

コンサート後、さゆに相談があると部屋に呼ばれた。

今日のさゆの様子はおかしかった。
あーしに対する態度も。
そしていつもより元気がなかった。上の空って感じで。
相談事ってなんやろ。

下着姿で迎えてくれたさゆは色っぽい表情をしてる。
シャワーを浴びたばかりなのだろう、濡れた髪が肌にはりついている。
でも化粧はバッチリだった。
いつもより可愛い……。不覚にもドキッとしてしまった。

動揺を隠して、とりあえずベットに座る。

「愛ちゃん…一回だけでいいから抱いて…」

ハッキリとした口調でそう言われ、キスをされた。
あーしは固まってしまった。
さゆからの好意は薄々気付いていたが、
今、目の前でさゆに迫られていることでそれが確信変わった。

――さゆ、どうしてこんなに焦ってるの……?
――あーしは卒業しても、会えなくなるわけでもない。

……もしかして、さゆはあーしとガキさんの仲に気付いている?

さゆはいつもあーしの部屋に遊びに来る。
でも昨日は来なかった。
そして、あれはスーツケースに絶対に入れたはずだった。

「……さゆ…昨日、」
思わず疑問が声になったが、それよりも大きな声にかき消される。

「付き合ってなんて言わないから、一回だけ、卒業しちゃう前に思い出ちょうだい……お願い?」
341 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/22(木) 23:45
熱い吐息を感じる。
目の前にある切ない顔。
太ももに感じる湿り。

こんなになっちゃっている後輩を放っておくことなんて……

――里沙ちゃんごめん。

背中に手を回してブラのホックを外す。

透き通るように白い柔らかな胸。

「んんっ…」
舐めた瞬間、色っぽい声を出す。

あーしの上で喘ぎながらユラユラ揺れるさゆ。
もうパンツの中はグチャグチャだろう。
あーしの太ももと触れ合って音がするほどなのだから。

「すごい濡れてる。やらしー…」
「だって…愛ちゃん…」

サイドの紐を引っ張ってパンツを抜き取る。

――なんて簡単な脱がせ方のできる下着!里沙ちゃんにも今度から履かせよう(笑)

対面座位の姿勢で、さゆの脚を開かせ、熱くなっているそこに触れた。
342 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/22(木) 23:47
- Sayu -

いつも愛ちゃんのこと想って自分で弄っているそこは、
今、愛ちゃんの細い指が触れている。

愛ちゃんがさゆみのおっぱいを舐めながら
上目づかいでさゆみを見ている。

――あああ!いいの!その顔……ゾクゾクする。

「ああん、だめぇ…愛ちゃん…」
「ふふ…さゆ、可愛いのー。」

――吐息が聞こえる 距離で二人 リズムに任せて 舞い踊るの

――あああ、もうだめ。愛ちゃんの指遣いにさゆみ腰が止まんない。
343 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/22(木) 23:49
- Ai -

「ここがいいんか…?」
「うん!そこっ…気持ちいい!もっと!愛ちゃんっ愛ちゃん…ハァハァ…」

自ら腰を振りあーしを求めるさゆ。

「さゆ、腰動き過ぎ(笑)」
「だって…、気持ちいいよう。愛ちゃ…ああ」

上体を保てなくなって、あーしの首に腕を回して抱き着くように倒れ込む。
耳元で喘がれる。正直、これはかなりくる。

「ねえ…入れて?愛ちゃん、気持ちよくさせて?」
ストレートな表現に、あーしの息が荒くなる。
腕と指を動かしているからではない。

――この子に飲まれてる。

胸が熱くなるのを感じる。

――あーしの責めに、乱れ、反応するさゆが可愛い…。




- Sayu -

――ああん…最高!愛ちゃんの指が入ってる。

――愛ちゃんもハァハァしてるの。さゆみの色気に溺れるがいいの。
344 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/22(木) 23:51
- Ai -

「いいっ…そんなに、強くしたら…ああん!…だめなの…」

「だめ?やめちゃうよ?いーの?」
素直でガキさんとは真逆なタイプのさゆの反応に、新鮮さを感じながらも、
あーしは平常心を保ち、いじわるに笑ってみせる。

「ああん…あっあっ…ダメ!イきそうっ!あん…やめないで!愛ちゃん気持ちいいいいい!…ハァハァ…」

「そこ気持ちいいよう。愛ちゃん……もっとちょうだい…」

――責めてるのはあーしなのに、主導権はさゆにある。

「ハァハァ…さゆ…」
あーしまで声がでてしまう。

――してやられた感じがする。思い通りにいかない。

――……でも、すごく興奮してる。
345 名前:Hey 投稿日:2011/09/22(木) 23:53
- Sayu -

――私の全てを 抱きしめて良いのよ

うるんだ瞳で愛ちゃんにキスをせがむ。
愛ちゃんはそれには答えてくれなかった。

――でもいいの、今はいいの。

「ああ!愛ちゃん!愛ちゃんんん!好き!」

愛ちゃんの腕の中で絶頂に達する。

肩で息をしながら、愛ちゃんを見つめると、
愛ちゃんの顔は赤く、目をそらされてしまった。

――照れてるの。さゆみ可愛かったでしょ?ガキさんみたいなマグロはつまらないの。ね?愛ちゃん。
346 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/22(木) 23:55
>>345 名前欄ミスしました。すいません。



- Ai -

あーしの名前を叫びながら、静かになったさゆ。
しばらくそのまま抱き合っていたけれど、まともにさゆの顔を見れなかった。

コトが終わって、何を話したらいいかわからずそわそわしてると、
さゆが少し照れくさそうにしながら、あーしに飲み物を持ってきてくれた。

「愛ちゃん…ありがとう。すっごく気持ちよかったの。」

「えっ…ああ、ほうか。」
ストレートに言われ、顔が赤くなる。なんや……調子狂う。

もらったコップの水を一気に飲み干した。

――それより、ガキさんのこと、さゆに聞きださなきゃ…。

どうやって切りだそうか考えていると、さゆが抱きついてきた。

「さゆみ、眠くなっちゃったの……。多分すぐ寝ちゃうと思うから、愛ちゃん、さゆみが眠るまで側にいて?」

――……んーまあしょうがないか…。
急に愛もすごく眠くなってきた。
早くさゆを寝かして自分の部屋に戻りたかった。

「わかったから、ちゃんとパジャマ着い。風邪引くで。」
「ふふふ、愛ちゃん優しい。」

いつもの調子のさゆ。なんだかとても愛おしく感じてしまう。

――でも、あーしはガキさんが好きなんよ……さゆの気持ちには答えられない。

「さゆ、ごめn……」

意識はそこで途切れた。
347 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/22(木) 23:57
- Sayu -

目の前には無防備な姿でスヤスヤと寝息を立てているリーダー。

――睡眠薬の威力はすごいなの。おやさゆみん、愛ちゃん。

「……次はさゆみが気持ちよくしてあげるね」

さゆみは愛ちゃんの服に手をかけた。




- Ai -

さゆの匂い。

「愛ちゃん綺麗。」

甘い優しい声。

まだ頭がボーッとしてる。
なんだか全身がくすぐったくて気持ちいい。

――んー夢かー……?

「さゆ?」

「あ、おはよう愛ちゃん♪」

薄暗い部屋でよく見えなかったが、
さゆがあーしの髪を撫でながら、
首、耳、鎖骨、丁寧に唇と舌が這わしていた。

――なんでこんなことになって……?てかここどこだ?

自分がどういう状況に置かれているのか、寝起きで頭がうまく働かない。

――温かくて心地よい。さゆの柔らかな肌と触れ合って気持ちいいんだ。

――えっ、あーし服着てないっ!?


そこでやっと我に返った。
さゆから離れようとすると、両手が何かに縛りつけられている。

「さゆ……やめて……。」
348 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/23(金) 00:00
- Sayu -

――溶けちゃうような いいことしたいわ

愛ちゃんを抱き締めて、全身を撫でてゆく。

――女の子同士、裸で抱き合うのは最高なの。さゆみもまたパジャマを脱いじゃった。
――愛ちゃんも気持ちよさそうにしてる。


愛ちゃんが完璧に目を覚ました。

「さゆ……やめて……。」
「次はさゆみの番。愛ちゃんは寝てていいよ。」

――ウォームアップは終わりなの。本気モードに入るの。

さっきまでの雰囲気とは一転、愛ちゃんのおっぱいを味わう。
指でつまんでコリコリしてみたり、甘噛みしてみたり。

「ハァ…んんっ」
愛ちゃんが吐息を漏らす。

――全身を愛撫したから、相当感じやすくなっていると思うの。

さゆみの思惑通り、愛ちゃんは始めての快感に戸惑いを隠せないようだ。
必死に声を我慢している。

「んんっ……」

――Hey my girl その声もSU TE KI

「愛ちゃん、可愛い。声我慢しなくていいよ。」

――ふふふ…下もそろそろいいかなー。

愛ちゃんは抵抗したけど、無理矢理、脚を開かせて
指で濡れ具合を確認し、ゆっくりと中へ入れる。
中はもう熱くてすごく締めつけてくる。

「ああん…ハァハァ…だめ…さゆ…」

――そんな声出して、さゆみを誘ってるとしか思えないの。

指を動かし、愛ちゃんの気持ちいい所を探す。
ある場所を突いた時、愛ちゃんがビクッとしたのをさゆみは見逃さなかった。

「愛ちゃん、ここ、気持ちいい?」
指を2本にして反応した部分を強く刺激すると、愛ちゃんは可愛い声で鳴いた。

もっと気持ち良くなってもらいたくて、
愛ちゃんの脚をもっと開かせて、その間に入り込んだ。

初めて見る愛ちゃんのあそこ。可愛い。
エッチな匂いがする。

愛ちゃんは必死に抵抗してるけど、強引に、指で広げてペロペロしたの。

――口づけより いいことあるのよ
――その続き教えちゃう
349 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/23(金) 00:02
- Ai -


さゆがあーしの脚の間で、
今まで誰にもされたことがなかった行為をしている。

腰に力が入らなくて、とろけてしまいそうな感触。
後輩にこんな淫らな姿見せている恥ずかしさと
全身が性感帯になっているような自分への戸惑い。

こんなこと初めてだった。
シーツをつかみ、淫らな声をあげ、息は荒くなるばかり。

――頭が真っ白になりそう……。気持ちいい。


その後、さゆはあーしのバックから盗んだであろう物でイかされてしまった。
それでも尚、あーしの中で動き続ける。
「さゆ、もう無理……!」

反応がなかった。さゆは、いつのまにか爆睡している。

自力で縄をほどき、それを抜いて、
さゆに服を着せ、ベットに寝かせた。

フラフラになりながらホテルの自室に戻り、
シャワーを浴びる気力もなくベットに倒れこんだ。



- Sayu -

もう抵抗する力のなくなった愛ちゃんを
子犬のように舐めながら、さゆみは愛ちゃんの表情を伺う。

――愛ちゃん可愛い顔してるの。さゆみ、結構うまいかもなの!


「これも使おーっと!」
さゆみは愛ちゃんの持ち物を取りだした。

「さゆ……やっぱり昨日……」
愛ちゃんは怯えた目をする。

「さゆみこれよくわかんないけど、痛くしないようにするから。」

もうトロトロになっている愛ちゃんの中に入れ、スイッチを入れる。

「あああああ…だめもう…!さゆっ……」

――感じてる愛ちゃん可愛過ぎるの!!!

興奮したさゆみはたまらず自分も触ってしまう。
自身のそこはもう太ももまで垂れてくるほど濡れていた。

――感じてる愛ちゃんを眺めながらするオナニー、病みつきになりそう……。

愛ちゃんは痙攣してイってしまった。そして、さゆみも続けてすぐ。

――オモチャは確かに使ってみたかったけど、さゆみがイかせてあげたかったの。
350 名前:Hey my girl 投稿日:2011/09/23(金) 00:05
さゆみが気が付くと朝。
ちゃんとベットで寝ていた。掛け布団までかかってる。

「あれ?愛ちゃ…」

夢だったのかとあたりを見渡すと、床には縄が落ちていた。


――不覚だったの……さゆみも寝不足だったの……。

昨日の寝不足に加え、今日はコンサートがあった。
そして愛ちゃんに攻められ、起きていられる体力なんてもう残ってなかった。

愛ちゃんはもういない。
残り香と縄だけがそこに残っていた。



Hey my girl 一章 終
351 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/23(金) 00:19
エロはsage更新の方が…
それと、もし続きものなら自スレを立てたほうが良いかと
352 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/23(金) 01:05
同意
内容はともかくスレを立てるべき
353 名前:sage 投稿日:2011/09/23(金) 03:21
待ってました!あっち落ちちゃったから読めないかな?と思ってたけど嬉しいです
長くなりそうならスレ立てた方が良いかも?
第二章も期待しています!!
354 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/23(金) 23:59
こちらに書いたんですね。続きがあるなら是非書いて欲しいです。
355 名前:どうでもいい話。 投稿日:2011/09/25(日) 21:31

 どうでもいい話。
356 名前:どうでもいい話。 投稿日:2011/09/25(日) 21:31

ファミレスにいる。
待ち合わせよりもだいぶ早い時間に集合場所に着いてしまった。
しょうがないので近くの店に適当に入ったのだ。
相手にメールを打つ。

メニューを見ていたら、珍しく甘いものが食べたいと思った。
チョコレートパフェなんかよさそうだな。
サンデーも考えたけど、がっつり食べたい。
そんな誘惑を満たすのはパフェしかない!
ドリンクバーもあるから、時間は潰せるはず。
357 名前:どうでもいい話。 投稿日:2011/09/25(日) 21:31
……梨華ちゃんみたいに甘いっ!
パフェなんてやっぱり柄じゃなかったなぁ。
生クリームにチョコレートブラウニー、バニラアイス。
ご丁寧にチョコムースまで乗っている。
まぁメニューの写真見ましたけど。
こういうのだいたい盛ってあるじゃん!
なんて心の叫びを口に出してみたかったが、抑えた。
TPO TPOと何度か頭の中で繰り返したら冷静になってきた。
温かい紅茶やコーヒーをおかわりすると、なんとか底が見えてくる。
よかった、本当によかった!
358 名前:どうでもいい話。 投稿日:2011/09/25(日) 21:31
メールが来た。約束の時間、10分前。
「よしざーさぁん、きましたよー」
「遅いっ!」
麻琴はキョトンとした顔で席に着き、パフェの器を見てこう言った。
「吉澤さん、知ってました?」
「なに?」
「パフェって完璧な、って意味があるんですよ。完璧なスイーツ、っていう」
なんだか妙に納得してしまった。
359 名前:どうでもいい話。 投稿日:2011/09/25(日) 21:31

 END.
360 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/09/26(月) 00:18
結構すきかも
361 名前:あやみきリアル 投稿日:2011/10/12(水) 21:22

 あやみきリアル
362 名前:あやみきリアル 投稿日:2011/10/12(水) 21:23
美貴ちゃんから久しぶりに電話があった。
結婚する前から互いのメールや電話は減っていってた。
「まだ他のメンバーには言ってないんだけどさ。赤ちゃん出来たかも。
発表は先だと思うから、秘密だよ〜」
笑って言ってた。
「おめでとう」
って伝えたけど、なぜか『ご利用は計画的に』とCMのフレーズが浮かんだ。
ドリムス。春ツアーのあと、ヤりまくったんじゃないのぉ?
秋ツアーもうすぐ始まんじゃん。
なんなの、みきたん。
363 名前:あやみきリアル 投稿日:2011/10/12(水) 21:23
ある日、会社に行くとみんな騒がしい。
どうもみきたんの妊娠が伝わっているようで。
きたね、この日が。
ドリムス。のみなさんが大変らしく、大量に作ったグッズ処分とか。
ソロパートの振り分けとかフォーメーションの変更とか。
周りでごちゃごちゃごちゃごちゃ。
うるっさいなぁ。ここにみきたんはいないのに。
……会って顔見て伝えてほしかったなぁ、みきたんのバーカ。
364 名前:あやみきリアル 投稿日:2011/10/12(水) 21:23

 END.
365 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/13(木) 00:57


オカン力!

366 名前:オカン力! 投稿日:2011/10/13(木) 01:00

講義も終わり、日の暮れ始めた夕方。大学生にとって自由なこの時間。
大学敷地内のちょっと端にある、小さな棟の小さな部屋。
謎のサークル『ゴロッキーズ』と書かれた看板が掲げてある部屋の中に私はいた。

「ちょっと田中さーん!今のは田中さんがいけなかったと思います」
「えぇ?れいなのせいじゃないやろ今のは」
「田中さんの3段目のカードの距離感が合ってなかったと思うよ」
「さゆみたち全然そんな…」
「ね。今さゆとれいな絶対合っとーつもりでその先いこうとしたよね」
「うそだー」
「ていうか絵里は足を下ろしなさい」
「そうそう絵里が胡坐掻いてやるけん壊れたっちゃろー」

私の前にいる3人がやいやい言いながら大真面目にやってるのはトランプを積み上げていく遊び。所謂トランプタワーである。
大学生にもなって何を真剣にやってるのだろう。しかも大学で。
私は傍観者に徹し机の隅でレポートをしていたのだが、3人で建設中だったトランプタワーを誰が壊したかでぐだぐだと揉め始め、そのうるささに顔を上げざるをえなくなってしまった。

「せっかくここまでいったのに絵里が…」
「絵里が胡坐を掻いてやるからでしょ」
「えぇー絵里のせいじゃないよ。ガキさんどう思います?」
「まーまーもう1回作ればいいでしょうが」

目の前で行われているやり取りを適当にあしらい宥める。
明らかに2対1の構図になってしまっている光景に呆れながら笑っていた時だった。
367 名前:オカン力! 投稿日:2011/10/13(木) 01:02
「あれ?誰か携帯鳴っとらん?」

その一言で一瞬にしてその場が静まる。
静まった空間に流れる聞き慣れた着信音。

「あ。私のだ」

ポツリと呟き、鞄の中へと手を伸ばす。
伸ばした右手が携帯を掴んだところで、なんとなく、嫌な予感がした。
そう、あくまでもなんとなく。
ただこういう時、大抵その予感は当たるものだということを私は知っている。

新着メール1件の文字に従いそれを開く。
見ると、そこには思った通りの名前が表示されていた。
やっぱりなと思いつつ内容を確認すると、なんてことはないくだらない雑談のメールだった。

今日あった出来事。
時系列関係なくただ思いつくままに書いてあるメール。

これは彼女が寂しがってるとき、構ってほしいときに送ってくる内容だ。
それはここ数日で私が学んだ彼女の特徴。
今日は少し、早めに帰ってあげた方がいいかもしれない。
小さく溜息をついた。

「あぁーごめん。ちょっと今日は早めに帰るわ」

部屋の中にある時計をちらりと見ながら3人に声を掛ける。

「えぇー今からがいいとこなのにー」
「そうですよー」
「ガキさんがいないと秩序が保たれないんですよ」
「絵里絶対秩序の意味わかってないでしょ」

不服そうな顔でだらだらと文句を言う3人にごめんと謝るも、この3人にただの謝罪の言葉は効かないようだった。
そもそも、トランプタワーで遊ぶ輪の中にさっきまで私はいなかったのだから抜けても問題ないように思えるのだが。
368 名前:オカン力! 投稿日:2011/10/13(木) 01:03
「まあでも、ガキさんだって用があるんだから」
「ありがとうさゆみん。キミだけは私の味方だ」

何かあるのだろうと気を察してくれた1人の手を握り大げさに感動してみせる。
が、他の2人が尚も突っ掛ってきた。
全く、勘弁してくれよ。

「あ、じゃあその理由を言ってくださいよ」
「そうそう。そしたら許可します」
「んー…」

何故か上から目線で腕を組む2人に私は苦笑いを浮かべる。
何か秘密があるわけでもないし、隠したいわけでもない。
ただ、その理由を話すとちょっと。少しばかり厄介な展開そうになりそうだったからだ。
それでもこの場を抜け出すためには仕方ない。
さっきまで言い合いをしていた人たちが結束して聞き出そうとしている姿に苦笑しながら私は答えた。

「今さ、ちょっと親戚の子が家出してきて私ん家に来てるんだよね」

10日程前に突如私の前に現れた従姉妹である彼女。
親と喧嘩したとかなんとかでわざわざ田舎から出て来て今では私の家に居候として住み着いてしまったのである。
彼女の突拍子もない行動は私の今一番の悩みの種だった。

観念しそういう事情を話すと目の前の3人は案の定目を輝かせる。
やはりというかなんというか。
私としてはあまりいいことではないのだがつまり。興味を持ったようだった。

「えぇーなんその展開!」
「おぉードラマっぽいねえ」
「ね。そんなことあるんだね」
「家出ってことは問題児?」
「いよいよガキさんの小姑っぷりが発揮されるわけですね」
「で、どんな子なんですか?」

キラキラとした目で問いかける3人に里沙は困った顔を返す。
他人事だからこんなに楽しそうな表情が出来るんだろうな。
369 名前:オカン力! 投稿日:2011/10/13(木) 01:03
「んー田中っちとちょっと似てるかもしんない」
「え?ヤンキーってこと?」
「おい!れいな別にヤンキーじゃないし!」
「そーゆーのだよ、そーゆーの」
「いやいや。ヤンキーとかじゃないけど、服装とかはそういう田中っち系統かも」
「ドクロとかそっちタイプだ」
「福岡から来てるから博多弁だしね」
「おぉ!それはれいなっぽいね」

「でも性格で言ったらカメ寄りかもなあ」
「適当ってこと?」
「マイペースっていうか何考えてんのか読めないところとか」
「あぁーいわゆる天才的な思考回路ってやつですね」
「……あとこういう風にところどころ寒いところとかね」
「それはモロ絵里タイプやね、うん」
「同意」
「絵里は空気を読めないんじゃなくて読まないんですよ?」
「はいはい」

「あとさゆみんにも似てる部分あるかも」
「えぇーかわいいってことですかぁ?」
「違うよ、ナルシストってことじゃない?」
「ナルシストキャラじゃなくて事実を言ってるだけなの」
「ハイハイハイ。そういうわけじゃないんだけど、かわいいもの好きっていうかかわいい人が好きみたいなところなんだけどね」
「アイドル好きとかそういうことだ」

3人の矢継ぎ早の質問に答えながら頭の中に彼女を思い浮かべる。
ミニスカートや肩出しのギャルっぽい服を着てへらへらにこにこしているアイドル大好きな彼女。
自分のペースで暴走して、私を振り回して。
370 名前:オカン力! 投稿日:2011/10/13(木) 01:04
そして今この場にいる3人を見る。
毎日ここにきて好き勝手に遊び、好き勝手しゃべっては私を巻き込んで。
そんな3人をちょっとずつまとめたような彼女。
ちょっと似ていてちょっとずつ違う。
そう思うと、私が彼女に振り回されるのも当然のような気がした。

そのことに気づいた私は小さく笑った。

それでも感じるこの感情はなんだろうか。
諦念と同時に感じる楽しさはなんだろうか。

溜息をついて、呆れて、笑う。
そんな毎日を私は知らず知らずのうちに楽しんでいるのかもしれない。


「あ、また携帯鳴ってますよ」

指差す方を見るとディスプレイを光らせている携帯が彼女からの着信を伝えていた。
今度はメールではなく電話だった。

『もうどこ行ってるんですかー?早く帰ってきてくださいよー!』
「どこって大学に決まってるでしょーが。だいたい講義中も電話かけてく――」
『それよりテレビ壊れちゃったんです!なんかー録画出来なくなっちゃって』
「ちょ、それよりって…」
『ちゃんと聞いてますぅー?』
「はいはい聞いてるから。で、何?テレビが壊れたんだっけ?てか録画できないのはテレビじゃなくてレコーダーの問だ――」
『そうなんです!お姉ちゃんが見たいって言ってたテレビも録画できないんで、えっとぉーあのーだからー』
「わかってるから。すぐ帰るから」

帰宅予定時刻を告げ、嬉しそうに笑う彼女の声にばいばいと返して携帯を閉じた。
短い溜息をつく。
顔を上げると、にやにやとした顔が3つ、こちらを見ていた。
何て言うか。気恥ずかしい。

「…ほんとあの子は私がいないとダメなんだからー」

照れを隠すように出た私の言葉に3人は目を見合わせて小さく笑っていた。
371 名前:オカン力! 投稿日:2011/10/13(木) 01:04
「わかっとーけん」
「さっさと行ってあげてください」
「ガキさん、好かれてますねえ」

なんとなくその視線たちは居心地が悪かったものの、そう言ってもらえるのはありがたい。

ありがたいと思うのは、この3人から解放されるからなのか。
はたまた彼女の元へ少しでも早く帰ってあげたいと思ってるからなのか。

机の上に散らばっていた筆記用具を手早くまとめて鞄に突っ込む。

「あんたたちもあんまり遅くなんないよーにね」
「それお母さんが言うセリフですよ」
「ガキさんのお母さん力ってなんなんだろうね。オカンだよ、オカン」
「絵里、だんだんガキさんがお母さんに見えてきたもん」

好き勝手言う3人に、もう笑うしかない。
それじゃあまた明日と告げて私は部屋を出た。
足取りがいつもより速いのはきっと気のせいだと思う。



「いやーあんなガキさんの嬉しそうな顔初めて見たかもしれん」
「やっぱガキさんって頼られるのが好きなんだよ」
「とか言って絵里は頼りすぎだから」
「えぇー絵里は程よくを心がけて…」
「どこがよ。いつもガキさんにノート見さしてもらっとーやん」
「あれだよ。ぎぶあんどていくってやつだよ」
「え、ちょっと待って。絵里は何をあげてるわけ?」
「え?………笑顔とか?」
「……さ。さゆ帰ろっか」
「そうだねれいな。2人で帰ろう」
「ちょっとぉー!」
372 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/13(木) 01:05


「オカン力!」おわり
373 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/19(水) 20:07


『GO back TO』

374 名前:GO back TO 投稿日:2011/10/19(水) 20:08
楽屋の扉をコンコンと叩く。
中からどうぞというスタッフと思しき返事が返ってきたが、誰だかわからない。
聞き覚えのないスタッフの声に時の流れを感じ、ほんの少し、寂しかった。

短く息を吐く。
そこで自分が多少なりとも緊張していたことに気付いた。
そんな柄でも、そんな相手でもないのになあ。
小さく自嘲してドアノブに手を掛けた。

扉を開くと、中には懐かしい顔ぶれが揃っていた。

「おぉー久しぶりー」

次々に声が上がり、楽屋内が沸く。
口々に皆が、私の名前を呼ぶ。
素直に嬉しかった。

「ついに来たかー」

気合いの表れなのか、リーゼント頭のリーダーが嬉しそうに笑う。
近づいてくる皆を見て、私の顔には自然と笑みが零れる。
久しぶりの再会。
変わらない皆。
少し恥ずかしくて、どうしようもなく嬉しい。

近況なんかを手短に交わしながら皆と話して回る。
そして最後。
輪の外にいた彼女のもとへ行くと、私は声を掛けた。

「久しぶり、梨華ちゃん」

彼女の目はまっすぐ私を見ていた。
まるで、さっきから追っていたみたいに。
375 名前:GO back TO 投稿日:2011/10/19(水) 20:09
「久しぶり、ごっちん」

彼女の声が私の名前を呼ぶ。
久しぶりに聴く彼女の声は相変わらずだった。

「元気だった?」
「うん、無駄に元気だったよ」

彼女は笑ってみせる。
そして途端、何かを堪えるように俯いた。

「……もう、何してたのよぉ」

甲高いはずの声が少し涙声になっている。
彼女は何を責めているのだろう。
わかるけど、わかってあげない。

「何って、一応活動してたんだけど。見てくれてなかったの?」

わざとらしくからかうように答えると、彼女は膨れっ面になった。

「見てたよ、ずっと見てたけど……違う。言いたいことは、そんなんじゃなくて――」

顔を上げた彼女の潤んだ目の奥が赤い。
彼女は言葉を切る。
一生懸命笑っていた。

「………おかえり」

涙声がいよいよ掠れてる。
鼻声になるところも変わっていなかった。
私は笑う。
彼女を見つめる。

「ただいま」

ポンポンと叩いた頭がすごく懐かしかった。
376 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/19(水) 20:10

『GO back TO』おわり
377 名前:見せたがり 投稿日:2011/10/21(金) 05:49
凄いと!凄いとっ!
早くにいがきさんにも見せてあげたいっちゃ
こんな凄い事教えてくれた聖に感謝っちゃね
衣梨奈に出来るかわからんけど
頑張るとよ!

378 名前:見せたがり 投稿日:2011/10/21(金) 05:51
――――――――――――――――――――――――――――――


「にーがきさんっにーがきさんっっ!」
「あのですね!見せたいんです!」
「衣梨奈にーがきさんに見せたいモノがあるんです!」

「ヌぉっ!ちょっと落ち着きなさいよ」
「で、見せたいモノって何?」
ちょっと驚いた顔をした後にニコぉッて
いつもの笑顔を見せてくれる

んっ今日もにいがきさんは可愛いとっ

「ハイっ!」
「今すぐに見せてあげたいんですけど、今はダメなんです」
聖が二人っきりの時じゃないとダメって言ってたっちゃ…
379 名前:見せたがり 投稿日:2011/10/21(金) 05:53
「なーんか上から目線なんですけどー」
あっ睨まれたwこの顔も可愛いっちゃねー
「じゃぁいつなら良いわけー?」
おっと、ここからが大切とよ

「あのー衣梨奈これからにーがきさん家にお泊まりに行っても良いですか?」
うんっ我ながら良い上目遣いが出来たと思う!
快く泊めてくれるに違いないっちゃねw

「へっ?ウチに?」
「別に良いけど、本当になんなのさー」
よしきたっ!第一段階突破っちゃ!

「後でのお楽しみですっ!」

「っとに、生田は訳分かんない子だねーw」
「変な事しないでよー?」
380 名前:見せたがり 投稿日:2011/10/21(金) 05:54
変な事って何かいな?日記盗み見たり?
そんな事するわけないっちゃっ!
「変な事なんてしませんよw」

「わかってるよw」
「じゃぁ行こっか?」
にいがきさんに撫でられるの気持ち良いっちゃ
眠くなってきたっちゃ

「なーによ生田、おねむなのー?」
「車までは自分であるい…………」

381 名前:見せたがり 投稿日:2011/10/21(金) 05:55
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「…たっ…くたっ!生田ってば!」
「着いたから!起きてっ!」
にーがきさんだぁ
やっぱりかわいかねー
「ちょとーニヤニヤしてないで、シャキッと起きなさいよー」
んーっ困った顔も可愛いっちゃー

…っともう着いたっちゃね
ここからが本番っちゃ!
衣梨奈ファイトー!オーっ!

「にいがきさんモタモタしてないで、早く行きますよ!」

「もーほんとKYw」
「さっきまで寝てた癖に、理解しがたいよねーw」

良いから早くにいがきさんの部屋に行くッちゃっ!
382 名前:見せたがり 投稿日:2011/10/21(金) 05:56
「お邪魔しまーすっ!」

「コラーっ!靴脱いだら揃えなさーいっ!!」
衣梨奈はそれドコロじゃないとよ
「っとにもー」
にいがきさんが揃えてくれてるから大丈夫っちゃねw
さてさてココがにいがきさんの部屋…
きっと勝手に開けたら怒られるっちゃね…
「なに突っ立ってんの?」
「なんか飲み物持ってくるから先に入ってて」

「りょーかいですっ!」
緊張すると!

「オレンジジュースで良いー??」

「良かでーすっ!」
いざっにーがきさんの部屋へっ
383 名前:見せたがり 投稿日:2011/10/21(金) 05:58
「やばいっちゃ…にーがきさんの匂いでいっぱいっちゃ…」
すぅーーーーっはーっ

「…なーにやってんのよw」

「深呼吸ですっ」
見たら分かるっちゃろ?
「見たら分かるよ。そーゆー事じゃないでしょーがw」
分かってるならほかっといて欲しいっちゃ
「ほーんとに訳分かんない子だねーw」
「で、見せたいモノってなんなの?」

そうっちゃ。衣梨奈は見せたいモノがあるとよ
「ちょっと目瞑ってて下さいっ」
「はいよー」
「しつれいしまーす」

カッチャン
384 名前:見せたがり 投稿日:2011/10/21(金) 06:07
「ちょっちょちょっと生田っ?なんなのこれ?手錠?!」
ちょっと煩いっちゃね
「衣梨奈真剣なので、静かにして貰えますか?」
次は…
「生田っ!いいから外しなさい!」
「生田ってばっ!」
にーがきさん軽いっちゃねw
お肉食べてないっちゃろか?
「っこぃしょっ」
このベッドフカフカっちゃっ
「いーくーたーっ!」
なんかいな?
「なんですかー?」

「なんですか?じゃないでしょーが!」
「さっさとコレ外しなさいっ…んっ」
確かこの辺りっちゃね
385 名前:見せたがり 投稿日:2011/10/21(金) 06:10
「やッだっ…どこ触ってんの!ぃッくたっ!」

「にいがきさんの躰?」
ドコって聞かれても衣梨奈もよく知らんとです…

「ッくたっ…っとにヤメてッ」
「っねがいだ…からッ」
なんか腰の辺りがゾワゾワすると…
「っやぁっだッ」
「ぃくたッて…ばァっ」
衣梨奈ヤバいっちゃ
なんかキモチ良いと
にーがきさんもちゃんとキモチ良いとかいな?
「にーがきさん…キモチ良いと?」

「ッチくない…からっもーヤっメテッ」

…オカシイっちゃね?ココで合ってるっちゃろ?
もう少し強くした方が良いとかいな?
386 名前:見せたがり 投稿日:2011/10/21(金) 06:12
「…やっめッ…もっ…んッ…っちゃぅっ」
「にーがきさんっもー少しですよ」
「もー少しで見えますよっ」

「ゃぁ…ッだぁっー…もぉっムリっッ」
「…んっあぁっッ…」

…静かになったっちゃ
「にいがきさん見えましたか?」
「凄いっちゃろ??」

「…生田…コレ外して…」
あれっ?なんか怒っ…てる??
なんでっちゃ???
「腕…痛かったとですか?」

パシンッ!

「ったぁッ…」
なんでっ?なんで叩かれたと??
なんでにーがきさん泣いてると??
387 名前:見せたがり 投稿日:2011/10/21(金) 06:13
「…んでっ?なんでこんな事したのっ?」「ヤメテって言ったのにッ!」

衣梨奈はっ衣梨奈はっ
「にーがきさんに見せてあげたくて」
泣くなんて想像もしてなかった
「にーがきさんに喜んで貰いたくて」
誉めて貰えると思って
「フワフワ飛んでるみたいになって」
凄いねーって頭撫でてくれると思って
「真っ白い世界が見えたから」
衣梨奈の方を見て笑ってくれると思って

でもにいがきさんは嫌だったっちゃね…
もう嫌われたっちゃ…
「ごめ…んなさ…い」
「嫌…いにな…らないで下さい」
「嫌いにならないで下さい…」

388 名前:見せたがり 投稿日:2011/10/21(金) 06:15
「生田…」
「叩いてゴメンね…痛かったよね?」

ごめんなさい…ごめんなさい…

「にーがきさん…ごめんなさい…嫌いにならないで下さい…」

「もう分かったから、涙拭いて?ねっ?」
「にーがきさんっ…」
許してくれると?

「ちゃんと見えたよ」

「えっ?」
何が?

「白い世界。見せたかったんでしょ?」

「だって…にーがきさん…」

「嫌だったけど、生田の気持ちは嬉しいよ」
「悪気があった訳じゃ無いんでしょ?だから許してあげる」
389 名前:見せたがり 投稿日:2011/10/21(金) 06:17
にーがきさん…
衣梨奈にいがきさんが嫌がる事したとよ?衣梨奈は最低っちゃろ?
「生田おいでっ」

「にーがきさんっ」
好きっちゃ衣梨奈はにーがきさんが大好きっちゃ
「生田は凄いねーっヨシヨシ」
「でももうしないでね?」

にーがきさんが嫌がる事はしないっちゃ
「はいっ!」

にーがきさんっ大好きっちゃっっ

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

(#・e・)<フクちゃんには説教が必要なのだ
390 名前:見せたがり 投稿日:2011/10/21(金) 06:19
“終わり”です
391 名前:恐がり 投稿日:2011/10/22(土) 03:57
「にーがきさんっ写真撮りましょーっ」

またきたっ…
なんなの?恐い…
「…そっそーだねっ撮ろっか」
恐い…
「撮ってあげるから、携帯貸して?」
恐い…
「やったーっ!ありがとーございまーすっ」

恐い…
なんでこんなに笑顔なの?
なんでこんなに近寄って来るの?

「にーがきさんっ明日も撮りましょーねっ」

恐い…

「さっ最近毎日撮ってるよねー?」
「私ばっかりじゃ無くて、たまには田中ッチとかと撮って貰えば?」

私ばっかり…
「にいがきさんと撮りたいっちゃけど…」
ヤダ恐い…なんで?
その顔なんなの?
392 名前:恐がり 投稿日:2011/10/22(土) 03:59
「りょっ両方と撮れば良いでしょーが」

あっ笑った
「そーですねっ!じゃぁ明日は田中さんにもお願いしてみますっ」
早くどっか行ってよ
「うん。そーしなよ」
恐い…
恐い…

この子の笑顔が恐い…
近くに来すぎて恐い…
表情の変化が恐い…
心変わりが恐い…

どうせ今だけなんでしょ?

これ以上近づかないで

気を許してしまいそうになる

私の中がこの子に占領されそうになる

大切な人は皆私を置いて行ってしまうから

私の大切な人にならないで



明日が恐い…
来週が恐い…
来年が恐い…

もう手遅れかも
393 名前:恐がり 投稿日:2011/10/22(土) 03:59
終わり
394 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/22(土) 15:33
フリースレの生ガキのやつ
一人のセリフは一つの「」内でおさめたほうがいいよ
395 名前:歴史的和解 投稿日:2011/10/24(月) 11:00
最近何かオカシイ

田中っちが一緒に写真撮ってくれるなんて、オカシ過ぎる

私を嫌いな事は間違い無い筈なのに




「ガキさん、さっきの写真貰ったちゃろ?れなもブログ載せるけん、送っといて貰える?」

「分かった。後で送っとくね」

普通に仕事上の会話…に見せ掛けて…
やっぱり普通では無い

今までの田中っちなら私になんか頼まない
しかも笑ってる


うぅーん…直接聞いてみようかな?

でもただの気まぐれだったら…
396 名前:歴史的和解 投稿日:2011/10/24(月) 11:01
「ガキさんこの後時間あると?9期の事とか、話したい事もあるしご飯でも行かん?」
私、今お食事に誘われてる?田中っちに??

「ムっムリなら良いっちゃん。後でメールとかするし…」

「全然大丈夫なのだっ!私も聞きたい事とかあるし」


プッ

「えっ?」

「ガキさんマジウケるっちゃんwwなのだってwwバカボンのパパっww」

「そっそんなに笑う事無いでしょーがw」

「だってっwwwれな涙出てきたw」


「もー笑い過ぎっ!!遅くなっちゃうから早く行くよ!w」


「そうっちゃねw」
397 名前:歴史的和解 投稿日:2011/10/24(月) 11:03
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「居酒屋に着いたのだっww」

「もー勘弁してよ田中っちー」
タクシーの中からずっとこんな調子…とんだ失言をしてしまったorz


悪びれもせずニシニシ笑ってる田中っち
もう恥ずかしいから止めて欲しい


「ガキさん何飲むとー?お酒とか飲んじゃうっ?」

お酒の力でも借りましょ
シラフよりは聞き易くなるよね
「んー呑んじゃおっかな。梅酒!ロックで!」
明日も仕事だけど夕方からだし大丈夫だよね?
398 名前:歴史的和解 投稿日:2011/10/24(月) 11:04
「フーッwガキさんおっとなぁーwれなもなんかお酒飲みたいっちゃん」

「おっとなーってアナタ…アナタも充分大人でしょーが」

あれ?田中っち呑むの?
はじめてかも…
お酒弱い筈なのに大丈夫なの?

でも楽しみかも
酔っ払った田中っちってどんなんなっちゃうんだろ?


「まーねーっww」

「珍しいねぇ。カシオレとかなら田中っちでもいけるんじゃない?」

「じゃーそれにするっちゃん」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
399 名前:歴史的和解 投稿日:2011/10/24(月) 11:07
田中っち本当に弱いんですけど…


私が今まさに三杯目のグラスを空にしたとゆうのに
田中っちのカシオレはまだ半分も減ってない…
なのにこの酔っ払いっぷり

「ガキさーん//れなお酒飲めるよーになったっちゃーんww」
カシオレ半分も呑めてないけどねー

「そーだねー」

「炭酸も飲めるよーになったしーwwれなももー大人っちゃねっニシシっ」
二十歳越えてるしねー

「うんうん大人だねー」



はぁーっ…

こんだけ酔っ払ってたら、何話しても分かんないんだろーなー…
…分かんない方が都合良いかもしれないけど
400 名前:歴史的和解 投稿日:2011/10/24(月) 11:09
「ねー田中っち?」

「なんかいなぁー?」



「田中っちってワタシの事嫌いじゃん?」
「はぁ?なん言っとーと?なんでれながガキさんの事嫌うと?」

イヤイヤ嫌いでしょーが
そこ否定されたら困っちゃうじゃないの

「だってあんまりワタシに関わらないでしょー?」

「それは違うっちゃろっ!関わらんのはガキさんの方やん!」

あれ?田中っち酔い冷めてる?

…顔赤いし目ウルウルだし冷めてない様に見えるけど…

「ガキさんがれなの事嫌っとーから、れなは関わらんよーにしとったと!」

私が田中っちを嫌う?なんで?
401 名前:歴史的和解 投稿日:2011/10/24(月) 11:11
お互い嫌われてると思って避けてたって事?

「そもそもれなはガキさん事好いとーし」
なーんだ嫌われてなかったって事ねー


「ワタシだって田中っち好きだよー」

良かった良かったうんうん
明日からも宜しくです!

「違うっ!!」

「ふぇっ??なっなによ?」

「れなの好きはガキさんの好きとは違うっ!!」

違わないでしょー?
大切な仲間だと思ってるし、これからも仲良くしたいって思ってるよ?


「なにそれー?ワタシだってちゃんと好きだよ?」


「れなはっ…れなはっガキさん事愛しとーっちゃん…」
402 名前:歴史的和解 投稿日:2011/10/24(月) 11:14
えーーーーっ!?
愛してる?LikeじゃなくてLoveって事??田中っちがワタシにLove?
初耳なんですけど!
どーしよ?何か話さなきゃ。

田中っちの事は好きだけど、そんな風に考えた事無かったし…

むしろ嫌われてると思ってたのに…

うーん…




あれっ?田中っちまさか寝ちゃったの?
そんなバカな…


こんな衝撃発言しといて寝ちゃうとか…
まー田中っちらしいっちゃらしいけど


あれだけ酔っ払ってたんだし、きっと明日は覚えて無いよね?

田中っちには悪いけど聞かなかった事にして
ゆっくり考えさせて貰おう

「…ガキさん…愛しとーよ…」



…はぁ…ワタシ何も知らないフリ出来るかな?
403 名前:歴史的和解 投稿日:2011/10/24(月) 11:16
終わり
404 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/25(火) 11:36
ガキれなガキれな!
まさに歴史的和解ですね
405 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/26(水) 13:51
『変な夢を見た』
406 名前:変な夢を見た 投稿日:2011/10/26(水) 13:53
アップフロント女王杯。東京2000m

「こちらアップフロント女王杯のパドックです。出走各馬は周回しております」

「では1枠1番から見て行きましょう。」
407 名前:変な夢を見た 投稿日:2011/10/26(水) 13:54
「1番オドッテミタ 馬体重の変化はなし。前走ユーチューブSを快勝してここに望みます。ただここではまだ力不足か?」


「2番イチマンエンセイカツ 馬体重はマイナス10キロ。最近の節制が響いてるようです。近走は牡馬と競馬してきた同馬はキレ味なら間違いなくNo.1でしょう。」


「3番ライトノベル 馬体重はプラス30キロ。明らかに太いですね。なかなか調整が上手くいかないようです。良かった頃のライトノベルはどこにいったのか。」
408 名前:変な夢を見た 投稿日:2011/10/26(水) 13:54
「4番ルノワールサン 馬体重はマイナス5キロ。あまり気にしなくていい数字だと思いますが、同厩舎のトトノイマエダの引退発表が原因で元気がないんでしょうか。心配です。」


「5番アメオンナ 馬体重は変化なし。発汗が凄いですね。この馬はいつもこうなんですが今日は特にイレ込んでますね。しかし、気性が悪いタイプではないので折り合いを心配する必要はないです。 」


「6番ハブラレ 馬体重はプラス2キロ。出走馬唯一の九州産馬。ブス哲賞1着からここに臨みます。アメオンナとは対称的に気性が問題なので今日も折り合いに苦労するでしょう。」
409 名前:変な夢を見た 投稿日:2011/10/26(水) 13:55
「7番ドコモデハウッテナイ 馬体重の変化なし。馬格は牡馬をも圧倒しますね。ただゲートが下手な馬なのでどうしても後方からの競馬になってしまいます。末脚に期待しましょう。」


「8番ホンマル 馬体重はプラス15キロ。ちょっと太目に感じます。馬具を使ったり工夫してますがなかなか復調する気配はありません。ファンからも『終了した』と言われてますが今日勝って払拭したいところ。」


「9番ツンクヨバワリ 馬体重は変化なし。ブリンカー装着。自信無いのかオドオドしてますね。この辺はブリンカーの効果に期待したいです。」
410 名前:変な夢を見た 投稿日:2011/10/26(水) 13:55
「10番ベイベイ 馬体重はプラス3キロ。本当は登録名を『バイバイ』にしたかったのに『ベイベイ』になったお茶目な同馬。キャリアが長いだけあって落ち着いてますね。好勝負でしょう。」


「11番スーパーボール 馬体重はマイナス1キロ。うるさい馬ですね。『いやあっ、いやあっ』と鳴きながら歩いてます。人気薄ながら侮れないと思います。」


「12番コンパクト 馬体重はプラス3キロ。近走使い詰め感が否めませんがトレードマークの尻尾は立っているので大丈夫でしょう。ただ胴が短く筋肉質の馬体は短距離向きなので今日はどうでしょうか。」
411 名前:変な夢を見た 投稿日:2011/10/26(水) 13:56
「13番ミツイアイカは出走取消しです。疲労骨折とのことです。」


「14番トトノイマエダ 馬体重はマイナス5キロ。年内での引退を発表した同馬。とても多くのファンに愛された名馬でした。ここを勝って是非とも紅白記念で有終の美を飾って貰いたいです。」


「15番キラーソー 馬体重は変化なし。長かった鬣をショートにしてとてもコンディションが良いですね。もともと力はある馬でしたが降着などでなかなか勝てない時期が続きました。ここからスターダムを駆け上がって欲しいです。 」


「16番ウタガスキ 馬体重はプラス3キロ。先日引退したアーティストの正統後継馬として期待されています。ここで強さを証明して女王として君臨できるのか?」
412 名前:変な夢を見た 投稿日:2011/10/26(水) 13:57
さあゲート入りは完了。アップフロント女王杯スタートです。

ポンとツンクヨバワリが1頭好スタートを決めた。それとやはりドコモデハウッテナイが出遅れ。
あとはまずまずのスタートです。

好スタートを切ったツンクヨバワリですが『私なんかが先頭なんて無理』と言わんばかりに下がっていく。
代わりにオドッテミタとコンパクトが前に出ました。
好位にはルノワールサン、アメオンナ、ベイベイがつけて
3馬身離れて中団馬群
3,4馬身後ろにポツンとハブラレ。今日は珍しく折り合っている!
さらに3馬身後ろにイチマンエンセイカツ、ドコモデハウッテナイ、ライトノベルが控える格好になる

縦長の展開になりました。

先頭は前半1000mを57秒で通過。これはハイペースだ。先行勢には厳しいか。
413 名前:変な夢を見た 投稿日:2011/10/26(水) 13:57
3,4コーナー中間大ケヤキを過ぎて中団からキラーソー、ウタガスキが進出を開始。
後方の各馬はまだ動きません。ハイペースを見越してなのでしょうか?

最高のメンバーが揃いました。最高の舞台が整いました。あとは各馬直線でどんな絵を思い描くのか。

600標識。まだまだ長いぞ。

残り500と少々、コンパクトまだ先頭。オドッテミタは厳しいか?
真ん中割ってウタガスキとキラーソーが伸びてくる。
やはり先行勢は伸びない。
外からトトノイマエダも伸びて来た。
聞こえますかこの大歓声!
トトノイマエダを後押しできるか?
さらに大外からイチマンエンセイカツが伸びてきた。
残り300、坂を登る、コンパクト苦しいか。
先頭はウタガスキとキラーソー。この2頭の決着になるのか?
外からトトノイマエダとイチマンエンセイカツも伸びて来ているぞ!
最内からハブラレも来ているがここから届くのか?

トトノイマエダ、トトノイマエダ、トトノイマエダ
差し切れるぞトトノイマエダ!
後ろからドコモデハウッテナイも猛然と追い込んできている。

残り100m、もう先頭にはトトノイマエダ!強い、やっぱり強い!こんな馬が引退なんて考えられない。
見よこの圧倒的な強さ、これがアップフロントの最高けっさ…
いや、最内からハブラレがトトノイマエダを交わす!!
なんということだ
ハブラレが1着でゴールイン!!!

2着にはトトノイマエダ。3着には後方から追い込んだドコモデハウッテナイ。

場内騒然としています。
スタジオにお返しします。
414 名前:変な夢を見た 投稿日:2011/10/26(水) 13:58
「ゲストの真野恵里菜さん、どうでしたか?」

「ハブラレの空気の読めなさおっとっけー」

「はい?」

「あっ間違えました…」

「以上アップフロント女王杯でした。来週はGVたいせいSです。またお会いしましょう。」
415 名前:変な夢を見た 投稿日:2011/10/26(水) 13:59
終わりです
416 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/26(水) 22:09
いちいち面白かったです
417 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/27(木) 21:02
『SDQ』
418 名前:SDQ 投稿日:2011/10/27(木) 21:02
んっ、と軽く呻いてから目を覚ました工藤遥はとりあえずベッドから上体を起こす。
そして見覚えのない部屋に小首を傾げた。
傷一つない綺麗なフローリングに四方を真っ白な壁に囲まれている。
全体的に真新しい感じがするのと、家具や家電らしきものが殆どないからか、あまり生活感が感じられない。





「どこだよ、ここ」



工藤遥は自分がなぜこんな部屋にいるのか分からなかった。
そして両手首に手錠がかけられ、首には首輪がされていることにも、全く見当がつかない。
ちなみに首輪には鎖が付けられていて、その先端はベッドの脚にくくりつけられ、ご丁寧に南京錠までされている。



その為、遥の行動はかなり制限されていた。
ただここがどこだか分からないのに不用意に歩き回るつもりはなかったので、そこは鎖が付けられていようがいまいが、あまり意味はないことだった。


419 名前:SDQ 投稿日:2011/10/27(木) 21:03


「おまけに・・・何だよ、この服」



遥は今、一般的にロリータと言われるようなフリルやリボンがたくさんついた、
ピンク色のドレスのような服を着ていた。
もちろんこれは遥の趣味ではない。
ということは、ここへ連れてきた犯人が着せたという事になる。
ただ変態オヤジが着せたと思うと虫唾が走るので、そこはあまり考えないことにした。




遥は小さく息を吐きだすと静かに目を瞑る。
そしてとりあえず自分が覚えている範囲で記憶を遡ってみることにした。
昨日は確か10期だけで撮影と雑誌の取材があった。









その仕事以降は何も予定もなく、どうしようかなぁと思っていると不意に声をかけられた。
声をかけてきたのは同期の飯窪春菜だった。
春菜は今から自分の家に来ない?と軽い調子で遥を誘ってきた。



いくら同期とはいえ、まだ一緒に活動するようになってから一カ月くらいしか経っていない。
そんな人を普通に自分の家へ招くという行為に、遥は一瞬戸惑いを覚えた。
だがすぐに春菜のその誘いに快く頷いた。



春菜は10期の中では一番年上で、だからなのか年下の遥や優樹に対して無条件に優しい。
それもあって時々本当の姉のように思えるときもある。
だから基本的に少々頼りない性格だったが、遥は春菜のことが嫌いではなかった。



身支度を終えると、同期の2人と別れて遥は春菜と一緒に自宅へと向かった。
ただ結構電車を乗り継ぐのかと思いきや、多分20分も乗っていなかったと思う。
さすが東京住まいだなぁなどと感心している間に、駅からさほど離れていないとあるマンションに辿り着いた。





ここの5階だというのでエレベーターで上がり、その階の角まで行くと春菜はカバンから鍵を取り出してドアを開ける。
お先にどうぞと促されたので、言われるままに遥は部屋の中に入った。
傷一つない綺麗なフローリングに四方を真っ白な壁に囲まれている。
全体的に真新しい感じがするのと、家具や家電らしきものが殆どないからか、あまり生活感が感じられない。



本当にここに住んでいるのかと聞きたくなり、遥が後ろに振り返ろうとした瞬間だった。
後ろから手が伸びて口元に白いハンカチみたいなものを当てられた。
そしてそこからの記憶がない。
ということは、つまりそういうことなんだと思う。


420 名前:SDQ 投稿日:2011/10/27(木) 21:04
とはいえ、なぜ春菜がこんな誘拐のような真似をしたのかが分からない。
遥自身に何か深い恨みでもあるのか、とも思ったが特に心当たりはない。
確かに遥の性格上、年も上下関係もなく誰に対しても強気で、言葉も決して優しくない。
でも春菜はいつも笑っていたし、そういう言葉の一部分を気にしている素振りもなかった。
普通に話していたし、普通に笑っていた、ように思う。




二人の関係はそれなりに良好だと思っていた。
だがそれは遥だけが思っていたことだけで、春菜は影で我慢していたのかもしれない。
などと考えたところで事の真相に辿り着けるはずもなかった。
その答えを知る術は、平然とドアを開けて中に入ってくるとにこやかな笑みをこちらに向ける、
飯窪春菜に聞くしかなかった。




目が合う。起きてたんだね、良かったと春菜は優しく微笑みながら言った。
それから遥がいるベッドまでやってくる。
春菜はとりあえずベッドの縁に軽く腰掛けると、手に提げていた白い袋の中からペットボトルを一本取り出した。
そして遥ちゃんはお茶で良かった?と小首を傾げながら聞いてくる。





その質問に遥は答えなかった。
けれど春菜は特に気にした様子もなく、そのペットボトルを一旦袋の中に戻すと、
今度はスナック菓子を取り出した。
新商品だから買ってみた、と言って笑う春菜は楽屋にいるときと何ら変わりない。
でも変わらないことが逆に怖いと遥は思った。


421 名前:SDQ 投稿日:2011/10/27(木) 21:05

「あ、あのさ・・・なんでこんな変態みたいなことしてんの?」
「えっ?」
「いやだから、この手錠とか首輪とかさ、絶対変じゃん!普通じゃないよ」


普段から掠れている声がさらに今は掠れている。
それは少し緊張しているからもしれない。
春菜はいつもと変わらないけれど、既にこんなことをしている時点で普通ではない。
だから何を仕出かすか分かったものではないので、遥は春菜の動きや表情を常に気にかけていた。



「嫌だった?」
「そりゃ嫌だよ。こんなことされて喜んでたらただの変態じゃん」
「うーん、そっか。ごめんね?でもこうでもしないとさ・・・はるちゃん、逃げちゃうと思ったから」


春菜は持っていたビニール袋を適当に床に置いた。
それから遥の方を見ると、額に眉を寄せて少し困ったような顔をする。
その顔のまま体を捻ると片足をベッドの上に乗せた。と同時に春菜の両手が遥の体の脇辺りに置かれる。
少し傾いているし変則的ではあるけど、まるでクラウチングスタートみたいな格好だった。

422 名前:SDQ 投稿日:2011/10/27(木) 21:06


「は、はぁ?訳分かんないんだけど」


声が微かに震えた。自分でも少し情けないと思った。
でも遥は春菜が怖かった。
こんな風に誰かに怯えるのは生まれて初めてだった。




遥の言葉がまるでスタートの合図だったかのように、春菜は膝を立てている足ではない逆の足の方で床を蹴る。
春菜の体が浮いたかと思うと遥の体の上に馬乗りになった。
そして脇にあった両手が遥の細い肩を掴む。また目が合った。
すると顔が一気に近付いてきて、今は春菜の息遣いが分かるほど近くにある。





「はるちゃんは本当に面白いね」


そう言って春菜は歯を見せずに笑う。
やっぱり楽屋にいるときと変わらない笑顔だ、と遥は思った。
春菜は笑ったまま手を伸ばして遥の髪に触れる。


それから軽く腰を上げると遥の髪に口付けた。
髪が終わると、耳、そして頬、顎。最後に唇かと思って遥は強く目を瞑る。
だが一向に唇には何の感触もこない。
遥が恐る恐る目を開けると春菜が優しく微笑んでいた。そして額にそっと口付けされた。

423 名前:SDQ 投稿日:2011/10/27(木) 21:06


「私ね・・・人と違うものが好きなの。服でも家具でも小物でも。もちろん、人間でもね」



はるちゃんは結構レアだと思うなぁ、春菜は遥の耳元に顔を寄せると囁くようにそう言った。
それから少しすると顔の位置を段々と下げて、最終的に遥の首筋に顔を埋める。
鼻息なのか吐息なのか、首筋に息がかかってくすぐったいようなこそばゆいような感覚に遥は軽く首を竦める。


すると春菜の可愛らしい笑い声が聞こえてきて、今まで体の横に置いてあった手が遥の服を掴む。
掴まれたのはちょうど胸の辺りだった。
遥はまだ幼いのであまりそういうことへの知識はなかったが、これからされるであろうことは何となく想像がついた。



だから本能的に逃げようとした。
だが春菜が馬乗りなっているし、仮に逃げられたとしても首輪に鎖がついている為、遠くに離れることはできない。
おまけに手首に手錠が嵌められているので殴れもしない。

424 名前:SDQ 投稿日:2011/10/27(木) 21:07
遥は諦めた小さく溜め息を吐き出す。
すると春菜は優しく微笑んでから遥の背中に手を回す、そして服の襟辺りを何やら探っていた。
どうやら背中にあるチャックを探しているらしい。
遥はさり気なく手錠された両手をしっかりと組んだ。春菜がようやくチャックを探し当てる。
すると遥は組んだ両手をできる限り高く振り上げてから、力一杯春菜の頭上目がけてそれを振り下ろした。



ぐほっ!と春菜はまるでオッサンみたいな低い声で呻いた。
それは少○ジャンプで攻撃を受けたときに口にするお決まりの台詞であった。
当然女子が言う台詞ではなく、それも春菜のようなオシャレ女子は死んでも言わないような
台詞だった。



ただそれはそれとして、遥は今にも倒れそうな春菜の顔面に足蹴りを一発お見舞いする。
遥の足が見事なくらい春菜の顔面にめり込む。
さすがに2発も食らった春菜は完全に気を失い真後ろに倒れる、そしてベッドに沈み込んだ。

425 名前:SDQ 投稿日:2011/10/27(木) 21:07



「はる、ちょーケンカ強いんで。そこんとこ夜露死苦!」



遥は右手の親指を立てると無い胸を張って自慢げに言ってみた。
けれど春菜からは当然のように何の反応も返ってこない。どうやらただのしかばねのようだ。


426 名前:SDQ 投稿日:2011/10/27(木) 21:08
おわり
427 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/27(木) 21:16
うぉぉぉぉぉぉぉぉ10期きたあああw
アリかナシかと聞かれたらこれは完全にアリです
かなりいいっす
428 名前:たなからぼたもち 投稿日:2011/10/29(土) 08:03
「やなのやなの!」

「気にくわんっちゃ!」

「ダメやと思います」

「許せませんわ!」

「どうなんだろうね?」


また始まった…

最近の楽屋はずっとこんな感じだ

どうやら皆は
新垣さんと衣梨奈ちゃんが仲良くしているのが気に食わないらしい

429 名前:たなからぼたもち 投稿日:2011/10/29(土) 08:06
「生田だけズルいの!さゆみだってガキさんとイチャイチャしたいの!」
特にイチャイチャしてる様には見えないけど…
道重さんにはそう見えるんですね…


「れなもっちゃ!生田シメるしかないっちゃろ!」
衣梨奈ちゃんピンチ!逃げて!
シメられる!


「愛佳は反対です…もしそれが新垣さんにバレたら…」
光井さんのおかげで助かった様だ
それにしてもこの人、自分の保身に必死ですね


「…それはダメですわっ!新垣さんに嫌われてしまいますわ…」
まー折角二人を離しても、新垣さんに嫌われたら意味無いよね


「どうなんだろうね?」
430 名前:たなからぼたもち 投稿日:2011/10/29(土) 08:08
「じゃー生田にガキさんの悪口吹き込んで、嫌いにさせるの!」
おっ!それは中々面白くなりそうじゃないですか?


「ムリっちゃ…れなガキさんの悪口なんて言えんと…」
おっと…田中さんは意外と健気な乙女ですねww


「愛佳も言われんかもしれません…」
9期の悪口は言えても新垣さんのは無理なんですね…


「良い所ならいくらでも言えますわ!」
うん。そんな事誰も聞いてないよね?
聖ちゃんて意外と空気読めないよね?


「どうなんだろうね?」

431 名前:たなからぼたもち 投稿日:2011/10/29(土) 08:10
「じゃあ逆に生田を手懐けるの!ガキさんに近寄らない様にするの!」


「それなら良いっちゃね!」

「イケるんちゃいますか?」

「えりぽんのツボは心得てますわ!」

「どうなんだろうね?」


どうやらこの作戦で行く様だ

どうやって手懐けるのか…

近い将来リーダーになる私としては、実に興味深い
432 名前:たなからぼたもち 投稿日:2011/10/29(土) 08:12
「生田ー!さゆみとブログ用の写真撮るのー」

「生田ー!れなのドクロちゃんネックレスあげるっちゃー」

「生田ー!愛佳チーズケーキ作って来たんやけど、食べるやろー?」

「えりぽーん!一緒に道重さんの最新写真集見ますわよー」

「どーなんだろーねー」



おっ!衣梨奈ちゃん来たww

中々わいわい盛り上がってますな

まっ、先輩に呼ばれたら誰でも来るよね


あっ新垣さんも来た…

誰にも相手にされて無いww

皆衣梨奈ちゃんを手懐けるのに気をとられてて、新垣さんに気付いて無い
433 名前:たなからぼたもち 投稿日:2011/10/29(土) 08:13
これなんだっけ?本末転倒?ウケるw


「もー良いのだ…今日は鞘師とご飯食べに行くのだ…空いてる?」

棚ぼた頂きますw

「はいっ!!」
434 名前:たなからぼたもち 投稿日:2011/10/29(土) 08:13
おわり
435 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/29(土) 15:00
『手紙』
436 名前:手紙 投稿日:2011/10/29(土) 15:00
私がハロープロジェクトを卒業して一年。
センター試験まで時間が無く、勉強漬けの日々を送っている。
朝から学校に行って、学校が終わると予備校に行き、家に着くのは0時近くになる。
今日もそんな時間に家に帰ってきた。

「ゆうか、手紙来てるよ。差出人書いてないから変だけど中身は見てないから」

ママが一通の手紙を渡してくれた。
差出人が書いてない手紙。
イタズラでないことはすぐにわかった。
だって見覚えがある字だから。
437 名前:手紙 投稿日:2011/10/29(土) 15:00
部屋に駆け込み手紙を読もうとした。
でも、良く考えると彼女から連絡は卒業して以降一回も無い。
なんでいきなり手紙?
不安な気持ちを抱えながら手紙を開いた。
438 名前:手紙 投稿日:2011/10/29(土) 15:01
ゆうかちゃんへ

元気?
勉強頑張ってる?
あやはあやなりリーダーとして頑張ってるよ。

今まで連絡しなくてごめんなさい。
あの時、あやは裏切られたと思ったの。
私たち4人でやっとデビューしたのに、さきちゃんとゆうかちゃんが辞めちゃってあやとかのんだけ置いていかれ気がした。
正直、悲しいよりも怒りの方が大きかったかも。
でも今は違う、素直にゆうかちゃんの決断を応援できる。
だから手紙を書いたんだ。

そんなゆうかちゃんへあやから応援メッセージを書きます。

辛いことや嫌なことがたくさんあると思う。
でもそんな時思い出して
私たちの、ファンの皆さんの笑顔を。
スマイレージは笑顔をマイレージのように貯めるグループだったでしょ?
その笑顔のポイントを悩んだ時に使ってみて。
必ず役に立つと思う。
ゆうかちゃんのポイントが無くならないようにあやは頑張って活躍してゆうかちゃんに笑顔を届けるから。
それでも乗り越えられなくなったら戻って来なよ。
でもそれは最終手段。
ホント言うとあやは帰って来てほしくない。
帰ってくるのは、あやたちが大人になって、みんなそれぞれの幸せを掴んだ時ね。
その時は笑顔で4人で会おう。
胸張って会えるように、あや頑張るから!


p.s.
あやってゆうよ
まえだゆうかちゃんだよね
ゆうかちゃんってよんでもいい?
あやのことはあやかちゃんってよんでね
439 名前:手紙 投稿日:2011/10/29(土) 15:01
あやかちゃんがそんなことを思ってたなんて知らなかった。
でも、今は応援してくれる。
私もっと頑張らないと!
勉強が苦しいなんてもう思わない。
私が決めた道だから。

引き出しにはあやかちゃんから初めてもらった手紙が入ってる。
その手紙に今日来た手紙を重ねた。

あやかちゃんからの手紙、私の宝物がまた一つ増えた。
440 名前:手紙 投稿日:2011/10/29(土) 15:02
おわりです
441 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/04(金) 15:08
「恋は失くすもの」
442 名前:「恋は失くすもの」 投稿日:2011/11/04(金) 15:09
恒例になったコンサートの後の食事会

申し訳程度に一杯飲んで、
その空気から逃げるように店の外へ。
珍しいでしょ?私が飲まないなんて

階段に腰をおろして溜息ひとつ。
ぼんやりネオンで騒がしい夜景を見つめる。

コツコツ。聞こえてくる足音
その足音で、身に纏う空気で、香水の匂いで、顔を見なくても誰だかわかる
というかわかってしまう自分がむなしい。


その人は黙ってあたしの頭に手を置いた。

慰めてほしいわけじゃない。
謝ってほしいわけじゃない。
弁解してほしいわけじゃない。

そんな甘い恋をしたかったら、違う相手を選んでた。
443 名前:「恋は失くすもの」 投稿日:2011/11/04(金) 15:11
今までの想いは涙になるしかなかったみたい。
最後のひとしずくが顎から落ちるまで、どのくらい時間たったのかな。

その人はずっと横にいてくれた。


「中澤さん、ありがとうございます、もう大丈夫です。」
「ん。先戻る。」

戻っていく後ろ姿に、こっそり何度も好きと呟く。


伝わってほしいけれど、伝わってほしくない。
困らせたいけれど、困らせたくない。

終わらせたいけど、終わらせたくない。この恋。
444 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/04(金) 15:12
「恋は失くすもの」

おわり
445 名前:「来年になったら」 投稿日:2011/11/04(金) 18:05


side Y


最近寒くなってきたねー。
今年はどんな冬になるだろう。

ね、去年のこと覚えてる?
え?忘れた?
ひどいなー。
あたし?
あたしはねぇ……あれ?
覚えてないかも。
ごめんごめん。
だってさ、ずっと一緒にいたじゃん。
幸せだったってことしか覚えてないや。
ごめんってば。
でも1つ覚えてただけいいっしょ?
ほんとーにごめん。

あ。
じゃあさ、今年もあたしに幸せって思わせてよ。
あー、いつも一緒にいたから幸せだったってことしか覚えてないやーって来年言いたい。
そしたらこのやり取りを思い出せるかもよ。
一緒にいてくれる?
こんな気持ち、梨華ちゃんとじゃないとならないんだよ。
もちろん!
なんてったって、あたしは梨華ちゃんと一緒にいる気満々だからね!


「もう、来年は覚えててね」

「梨華ちゃんもね」


本当は覚えてた。
梨華ちゃんとのこと、全部じゃないけど覚えてるよ。
だけど覚えてないって言われたから、あたしだけなんてちょっと寂しいじゃん?
来年は、2人で思い出そう。
その時にこの話ができたらいいな。


446 名前:「来年になったら」 投稿日:2011/11/04(金) 18:05


side I


うん、もう11月だもんね。
また寒くなるのかなぁ?
やだなー。

去年のこと?
覚えてないかも。
そういう自分だって覚えてるの?
ほらやっぱり。
調子いいこと言っちゃって。
2人とも覚えてないんじゃん。
そんなんじゃ騙されないんだからね。

何それー。
一緒にいればいいの?
うん、一緒にいよ。
それじゃ、私にも幸せだったなーって思わせてくれるんだよね?
よかった。
よっすぃ〜じゃないと、私も嫌だもん。


「もう、来年は覚えててね」

「梨華ちゃんもね」


本当は覚えてたの。
よっすぃ〜とのことだもん、全部じゃないけどちゃんと覚えてるよ。
ちょっと意地悪。
来年になったら教えてあげる。
その時に2人で思い出せたら、ね。

447 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/04(金) 18:07
「来年になったら」
終わり


「」前は会話、「」後は心の中で思っていることでした
448 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/04(金) 21:10
新参です。
甘めの愛ガキをひとつ。
449 名前:こんや 投稿日:2011/11/04(金) 21:11
―――― 今日、行っていいかな?

珍しく私から愛ちゃんへ「会いたいよ」のメール。
これまでは当たり前に毎日のように顔を合わせていたけれど、彼女が卒業をした今、メールはまだしも電話をすることすらままならない。

前に会ったのはきっと1週間くらい前。
それでも今、会いたいのだ。
450 名前:こんや 投稿日:2011/11/04(金) 21:11
―――― 仕事で遅くなるから、先帰ってて

私が来ることを当たり前のように受け止めてくれる彼女。一緒に住んでるわけじゃないのに「帰ってて」の言葉が嬉しいし、ちょっとくすぐったい。
私は彼女のお言葉に甘えて、先に“帰宅”することにした。
451 名前:こんや 投稿日:2011/11/04(金) 21:13
合鍵で入った彼女の部屋は、前とさほど変わっていない。
変わらない景色に安心して、せめてものお返しにと温かいスープとお風呂を用意してソファに横たわる。
そんなつもりは無かったけれど、大好きな人の、いないけれどその存在感と、慣れ親しんだソファに心地よくなって、いつの間にか私は眠ってしまった。

どれくらい経ったのか、気づいたら彼女の掌が私の頭を撫でていて。
452 名前:こんや 投稿日:2011/11/04(金) 21:13
「・・・・・んっっ・・・・あいちゃん?」
「ただいまぁ――」
「ごめっ あたし寝ちゃってた?」

隣にいる彼女の顔を覗き見れば、優しい笑みを携えていて。

「スープ、美味しかった ありがとな?」

その言葉が嬉しくて、ドキドキしながら寝起きのけだるい身体を起こす。

「ママに教えてもらったの、簡単だし美味しいから作ってみた」

そう言いながら穏やかな空気が心地よくて、そして寝起きの身体がやっぱり重たくて、彼女に抱きつき眼をつぶる。

背中に彼女の温かい手を感じながら、首元にすりよる私。いつもなら「なんやぁ 甘えん坊やなぁ」なんて、からかいの声が聞こえてくるはずなのに、今日は何にも言わない。
ただただ私の背中を撫で付ける手。
453 名前:こんや 投稿日:2011/11/04(金) 21:14
あぁ、きっと伝わっちゃてるんだ。
私がここに何しに来たかなんて、何にも言わなくても伝わってるんだ。

「・・・やっと出来た」
「・・・何が?」
「りさちゃんほじゅー・・・・」
「・・・そだね・・」

やっぱりね。おんなじ気持ち。私もここへ「あいちゃんほじゅー」に来たんだもの。
照れくさくてはっきりとは言えないけれど、その気持ちが伝われとばかりに、抱きしめる腕を私は強めた。
454 名前:こんや 投稿日:2011/11/04(金) 21:15
「こんや」
おわりです。

スレ汚し失礼いたしました
455 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/05(土) 05:19
あったかくてイイ!です
456 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/05(土) 19:35


『家出少女』
457 名前:家出少女 投稿日:2011/11/05(土) 19:36
スーパーで買い出しをした帰り道、小学校前を通っていた私はその子を見つけた。
校庭裏のフェンスをよじ登り学校を出ようとしている少女を。
時刻はまだ昼にも達していない。
その光景は違和感でしかなく、非日常的すぎた。

「何してんの?」

知らない間に声が出ていた。
厄介事になんて関わりたくない性分なのに。
それでも思わず声を掛けたのは、少女の手にはランドセルだけでなく小さめのボストンバッグがあったからだろう。
少女が私を見据える。

「何って、抜け出してんの」

私の問い掛けに少女は平然と答える。驚いた様子も悪びれた様子もない。
その声は一見可愛らしい容姿からは想像出来ない、掠れていて酒やけしたような声だった。
それもまた私の好奇心を掻きたてる。
少女がボストンバッグをフェンスの外へ投げ込んだ。

「サボり?」

ドサリと音がしてボストンバッグは地に着く。意外と重いらしい。
458 名前:家出少女 投稿日:2011/11/05(土) 19:37
「見たらわかるでしょ」

随分生意気な口をきくもんだと思ったけれど、大して腹は立たなかった。
昔の自分ならその言葉遣いにキレていただろうが時が経ち大人になったのだろう。そんなことはなかった。
それにたぶん、その子の目が懐かしく感じたからかもしれない。
遠い遠い昔に見た、どこか冷めたような目。
どこだっけ。誰だっけ。イマイチ記憶が結びつかない。

フェンスのてっぺんまで到達した少女がひょいとこちら側へ飛び降りる。
ショートカットの柔らかい髪がふわりと揺れる。
すとんと音がして少女はいとも簡単に学校という世界を抜け出した。

「あんた主婦?それとも無職?」

スーパーの袋を目に留めたのか少女が私に問い掛ける。
こんな昼間にジャージ姿で買い物をしているからだろうか。
しかしあんたって。それに後者の言い方も酷い。

「残念、どっちでもないよ。こう見えて教師」
「え、ウソでしょ」
「ほんとだって」
「教師なら今頃授業中じゃん。平日なのに学校は?」
「その言葉そっくりそのまま返す。定時制だからねーこれから出勤」
「マジ…?」

しまったという表情をし慌ててバッグを拾い上げる少女に私は笑って付け足す。
459 名前:家出少女 投稿日:2011/11/05(土) 19:37
「高校の教師だから。ガキんちょは専門外だから興味ないよ」

私の言葉に一瞬ポカンとしたものの、言いたいことがわかったのか少女はホッとした表情を浮かべた。
本当はどういう人であれサボろうとしている学生を容認するなんていけないのだろうけど、今だけは知らない振りをした。
それでも一応形式として「戻りなよ」と言ってみる。が、「人に言われてノコノコ戻るくらいなら最初からしない」と返されてしまった。
妙に納得してしまうその口ぶりに苦笑するしかない。

「家出するんでしょ?」
「してきたの」
「そんなバッグで見つからなかったの?」
「そこの茂みに隠してたから」

校庭の隅。人目にはつかない茂み。
前もって準備していたのか。どうやら計画的な家出らしい。
小さい割りに考えているものだ。

「行く当てあんの?」
「ないよ。今から探すとこ」

そのくせ行き先は決まっていない行き当たりばったり。
少女の考えることはよくわからない。
460 名前:家出少女 投稿日:2011/11/05(土) 19:37
「ないなら帰ればいいじゃん。帰る場所があるんだから家出なんかしないでさ」
「帰る場所があるから家出するんでしょ。家なかったら家出じゃなくてただのホームレス」

ある意味理屈ではある。
小学生のくせによく口が回るもんだ。
その姿がまたどこか懐かしくて、私は頭を悩ませる。
一体誰に似てるんだろう。

「説教聞く気ないんで。それじゃ、もう行くから」

ランドセルとボストンバッグを持ち直し少女は堂々と歩き出す。
学校から逃げるわけでもなく、私から逃げるわけでもなく。
その姿を見て、私はまた声を掛けていた。

「じゃあ美貴ん家来なよ」

少女は足を止め驚いた顔をしたあと「本気?」と怪訝な顔をした。
その顔にこくんと頷く。
初対面の相手の家。いくら教師と言ったとはいえ、それはあくまで本人談。
信じていいのだろうかという視線が私を見つめる。
461 名前:家出少女 投稿日:2011/11/05(土) 19:38
「どこの学校で教えてんの?」
「隣町の高校」
「あの駅の近くの?定時制っつったよね」
「そう」
「ふーん」

やっぱり、という声が聞こえたかと思うと、少女はもう一度私をじろじろと見て「じゃあ、よろしく」と笑顔を浮かべた。
どうやら品定めの結果は問題なしと出たらしい。

「友達ん家に泊まるより、スリルあるね」

少女は楽しそうに笑った。つられて私もそうかもねと笑う。
歩きながら、何より自分で発した言葉に驚いたことは悟られないようにした。





「ま、適当に上がって」
「お邪魔しまーす」

少女に荷物をリビングの隅に置くよう指示し、適当に座っててと伝える。
「意外とキレイなんだね」とぼそりと言った言葉には突っかからないことにした。
そう広いわけではないごく普通のマンション。
ありふれた女性の一人暮らしの部屋を少女は興味深げにキョロキョロと見回していた。
462 名前:家出少女 投稿日:2011/11/05(土) 19:38
「ところで何の教科教えてんの?」
「んー英語」

買ってきたものを冷蔵庫に入れながら少女の質問に答える。
隣駅にある定時制高校の英語教師。
そんな話をすると一瞬ハッとした表情をしたもののすぐに興味ない素振りで「あっそ」と呟いた。
何か引っかかることでもあったのだろうか。

「あ、でも今から出勤ならあんたいなくなるじゃん。いいの?」
「大丈夫大丈夫。美貴が出て行ってからも家にいていいから。あ、まさかさすがに一人が怖いとかないよね?」

わざとらしく真面目な顔をして聞くと「バカにしないで」と怒られた。
こんな強気のくせに意外と怖がりとかだったらどうしようと思っていたのだが、その心配はないらしい。

「そういやお昼食べてないでしょ?」

生憎一人暮らしのため簡単なものしかない。
インスタントラーメンでいいかと聞くと「失敗しない分そっちの方がありがたい」と返ってきた。
やっぱりこの子は生意気である。
463 名前:家出少女 投稿日:2011/11/05(土) 19:39
ラーメンを食べながら、少女は私のことを聞いてきた。
年齢、仕事のこと、恋愛事情などなど。不思議と名前は聞いてこなかった。
けれど一人称が「美貴」なので名前はバレているのだろう。
いちいち自己紹介をするのは面倒だったし、面倒と言えば私は少女のことを聞かなかった。
少女の名前も年齢も何故家出をしたのかも。
話したいことがあれば向こうから話し出すだろうし、話したくないのであれば話さなければいい。
それは私が放任主義の家庭で育てられたからだろう考えだった。

「もし見つけたのが美貴じゃなくて梨華ちゃんだったら今頃キミ強引に帰らされてたよ」
「梨華ちゃんって人厳しいの?」
「厳しいっていうかうるさい。生徒どころか先生たちの小姑だもん」
「怖いの?あんたの方が怖そうだけど」
「怖くはないかなー。中澤さんの方が怖いし」
「…へえーそうなんだ」

初めのうちは警戒心からかあまり口を開こうとしなかったものの、他愛もない世間話をしている内に饒舌になってきた少女は私の職場の話を嬉々とした表情で聞いていた。
大人の世界が楽しいのだろうか。
冷めていると思っていたが、話し出すとそうでもないらしい。
年上相手のツッコミも臆することなく言ってくる。
それもまた、誰かに似てるなと思った。

会話が途切れ少女の目がふと部屋に飾ってあった写真に留まる。
視線を追ってそれを見た私は胸が小さく疼くのを感じた。
464 名前:家出少女 投稿日:2011/11/05(土) 19:39
「あれ、友達?」
「うん。美貴とさっき言ってた梨華ちゃんと、あと友達2人」

いつだったか忘れてしまったが、昔友人たちと4人で撮った一枚の写真。
気を使わない関係がすごく心地良くて気が付けばいつも一緒にいた4人。
だがその中の1人は4年前にいなくなってしまった。
そう、出会った頃はこの少女みたいに冷めていたあいつ。
冷めているというより、『無』と言った方が近いだろうか。
仲良くなってそれは笑顔に変わっていったけれど。
周りに流されないマイペースなあいつのあの目。

あぁ、そうか。この子の目はあいつに似てるのかもしれない。
だからきっと懐かしいと感じたんだ。私はあっさりと懐古の謎を結論付ける。
それが間違ってるとは思わずに。

そう言えば風の噂であいつはこの街に戻ってきていると聞いた。
今頃どうしてるのかな。

物思いに耽っていたのだろう。
少女の「ねえ!」という強い声で我に返った。

「あっ、ごめん。なに?」
「ううん、ごちそうさまってだけ。この食器どうしたらいいの?」
「あぁ、そこの流しに持ってって」
465 名前:家出少女 投稿日:2011/11/05(土) 19:39


生意気だと思っていた少女は案外律儀な奴だった。
一宿一飯とでも言うのか。ちょっと意味は違うが、少女はご飯を食べ終わると家のことをよくしてくれた。
食べ終わった食器は私の分も洗ってくれたし、暇だからと部屋の片付けもちゃちゃっとやっていく。

「手際いいね。家でもよく手伝いとかしてんの?」

そんな様子を見て私はつい言っていた。
ポロっと口から出たあとで、家のことを聞いてしまったなと気づいたが出た言葉はしょうがない。
それでも少女は大して気にした風でもなく「まあ」と答えた。

「お母さん、あまり家にいないからね」

しばらくしたあとでポツリと少女は言葉を続けた。

「あんたと一緒で仕事してるし、はるのこと構う暇なんてないし」

『ハル』と言ったのは少女の名だろうか。
小学生らしい寂しそうな表情をするわけでもなく、少女は淡々と、呆気らかんと話す。
少女が家出した理由はここにあるのだろうけれど。
「そっか」としか返せなかった自分が情けない。
それから何を言うでもなく時間は流れ、私は出勤時間となってしまった。
466 名前:家出少女 投稿日:2011/11/05(土) 19:40


「昨日作ったカレーが鍋にあるから晩ご飯はそれ食べてて」
「うん」
「お風呂は適当に入ってていいから。一応Tシャツとズボン出しとくけど…大きいか」
「ううん、大丈夫」
「眠たくなったらベッドでもソファーでも好きに寝て。まあ多分そこまで遅くはならないだろうけど」
「うん」

バタバタと準備をしながら家の勝手を伝える。
少女は素直に頷いて私の話を聞いていく。
荷物を持って玄関で靴を履いていると、少女はわざわざ見送りに来てくれた。

「あ、それから」
「?」

動きを止めて少女を見つめる。
何事かと小首を傾げる少女に、私は笑顔で最後に伝える。

「帰りたくなったら勝手に帰ってていいよ。鍵はポストに入れてくれればいいから」

合鍵を手渡しながらなるたけさりげなく。
機嫌を損ねたりするかと思ったが、存外に少女は素直に頷いた。
467 名前:家出少女 投稿日:2011/11/05(土) 19:40
「ていうかさ、うちが何か盗んでいなくなるって考えないわけ?」
「キミはそういうことしない」

私がそう断言すると、少女の顔は呆れてたもののその顔には笑みが含まれていた。
その表情を見て私は再度確認した。この子はそういう子じゃないだろう、と。

「それじゃ」
「うん、いってらっしゃい」

少女の声に私は一瞬驚いた顔をして「いってきます」と笑顔を返した。
それは、一人暮らしには久しい響きだった。



私が家に帰ってくると、明かりはついたままだった。
まだ起きているのだろうか。
小学生の就寝事情は知らないけれど、今時の子はこんな時間まで起きてるものなのかもしれない。
鍵を開け「ただいま」と声を掛けた。
が、返事は返ってこない。聞こえるのはテレビの音だけ。
靴を脱いで上がると、少女はそこにいた。
ソファーの上で丸まるようにして、寝息を立てて、ぐっすりと。

「…まったく」
468 名前:家出少女 投稿日:2011/11/05(土) 19:41
ダボダボのシャツとズボン。寝転びながらテレビを見てそのまま眠ってしまったのだろう。
気持ちよさそうに眠る姿を見て私は溜息と同時に微笑を零していた。
生意気なくせに、かわいい。
ここにきて、ほんの少し母性本能とやらが目覚めたのか。
全くの無縁だと思っていたけれど。

華奢な少女の体を抱えベッドへと運ぶ。
少し起きかけたようだったが、きちんと布団を掛けてやると安心したようにまた眠った。
初めて見た、子供らしい愛らしい顔だった。

しばらくその寝顔を見つめ、自分のことをするためにベッドを離れた。
軽めの晩ご飯、明日の準備などを手際よく済ませシャワーをさっと浴びる。
リビングで水を飲んでいると、机の上に置きっ放しになっていた少女の携帯が目に入った。

悪いことだとは思ったけれど、その携帯を開く。
発信履歴を見ると、私が家を出てすぐだろう。『お母さん』当てに履歴が残っていた。
やはり少女はしっかりしている。

子供のくせに大人っぽい。
あどけない寝顔をもう一度見て、私は眠りに就いた。



アラームが鳴る音で目が覚めた。
寝返りを打って落ちそうになったところでここがソファーだったことを思い出した。
耳元で鳴っていた携帯を止める。

「そうだ、あの子…」

普段は寝起きは悪いけれど、今日だけはすぐに少女のことを思った。
まだ幾分かボーっとする頭で寝室へと向かう。
とは言っても一人暮らしの小さな部屋。ベッドに少女がいないことはすぐにわかった。

「帰ったのかな…」
469 名前:家出少女 投稿日:2011/11/05(土) 19:42

リビングの隅に置かれていたボストンバッグもランドセルもなくなっている。
家へと帰ったのか。はたまた違う場所を求めてどこかへ行ったのか。
どちらにせよ少女がいなくなったことだけは確かだった。
まあ一日だけの付き合いだ。たまたま会っただけの関係。心配したところでどうしようもない。
家に帰っててくれたらいいけど。
そんなことを思いながら洗面所へ向かおうとしたときだった。

机の上にある一枚の置き手紙に気が付いた。
あの少女からだろう。ていうかそれじゃなかったら怖い。
手に取って目を通す。


『藤本先生、ありがとうございました。1回家に帰ろうと思います。カレーおいしかったです』


小学生らしくもあり、それでもやはりきちんとした字で綴ってあるお礼の言葉。
やっぱり少女は律儀だ。
ふとどうして名前を知ってるのだろうと思ったが、大方片づけをしているときにでも私の名前を見つけたのだろう。
生意気なくせに最後までしっかりした少女だった。
470 名前:家出少女 投稿日:2011/11/05(土) 19:42



少女がいなくなった数時間後、学校へ出勤した私は同僚である梨華ちゃんに少女のことを話してみた。
「美貴ちゃんが子供相手って想像がつかない」と言われてしまったが、彼女は楽しそうに話を聞いてくれる。
梨華ちゃんとそんな話をしていると、上司である中澤さんがやってきた。
そして挨拶をしようとした私を遮って思いもよらぬことを発したのである。

「そういや藤本、あんた遥の面倒ありがとうな」
「……は?遥って誰ですか?」
「とぼけんでええねん。今朝帰ってきて藤本先生によろしくって言うとったで」

中澤さんの言葉の意味がさっぱりわからない。
遥?私の知り合いにそんな人はいない。
面倒?今朝帰ってきた?
……ということは、まさか。
471 名前:家出少女 投稿日:2011/11/05(土) 19:43
「あの子、中澤さんの娘さんだったんですか?」
「そうやで。なんや知らんかったん?」

少女は名乗っていないし、聞きもしなかったのでそんなこと知りやしない。
まさか、そんな。あの子が中澤さんの娘だったとは。
思わずあんぐりと開いた口を見て梨華ちゃんと中澤さんは遠慮もなく笑う。

しかしそう言われて見れば、少女の攻撃的な雰囲気とそのくせ律儀なところは中澤さんに似てるかもしれない。仁義の世界みたいな。
それにあの時やたら仕事の話を聞きたがったのも合点がいく。
私を通して母親の職場の話を聞きたかったのだろう。
もしかしたら家に来る前から私のことに気づいていたのかもしれない。
いくら少女が度胸があると言っても知らない人の家に泊まりはしないだろう。
世間は案外狭いものだ。

「にしてもうちの娘を誘拐するとはあんたもえらい度胸しとんなあ」
「いやいやいや、中澤さんの娘さんだったとか知らなかったんですけど。それに誘拐じゃないですから」
「知らない娘を朝帰りさせるなんて、ほんとダメな奴やな。それでも先生かっちゅう話や」
「っ……」

そう言われると、返す言葉が見つからない。
親切心とはいえよく知りもしない小学生の女の子を家に連れてったのだ。
たまたま知り合いの娘で、あの子がきちんと連絡してたからよかったものの、下手したら犯罪モノである。
472 名前:家出少女 投稿日:2011/11/05(土) 19:43
「ま、何はともあれ遥が無事でよかったわ。帰ってきたときもなんか楽しそうに笑うてたし」
「へ、へぇ」
「藤本とどっか似てんのかもな」
「えっ?」
「今の藤本は丸くなったけど、昔の藤本っつったらそりゃあ尖ってたで。生意気やったし物事ずけずけ言うし」
「…あぁ、なるほど」

その時、私は初めて気が付いた。
あの時懐かしいと感じた少女の目は、友人のものなんかではなく、私自身のものだったと。
あの頃の、あいつらに会う前の鏡で見た私の目。
どれもつまらないと冷めて、何か楽しいことはと探して。
冷めてるくせに熱だけはある青い炎みたいな。
それは友人と似ているものでもあったけれど、同時に私に似ているものでもあった。
少女の刺々しい攻撃的な態度も、生意気そうな口調も。

あの子はごっちんではなく、美貴に似ていたのだ。

無意識の意識だったのか。
少女をほっとけないと思ったのは。
ただの気まぐれだと思っていたけれど。
473 名前:家出少女 投稿日:2011/11/05(土) 19:43
「中澤さん、遥ちゃんって案外いい子ですよね」
「当たり前やん。私の娘やからな」

自慢げに笑う中澤さんの隣で私は、少女のこれからの人生が変わることを願って笑った。


「そう言えば美貴ちゃん、机の上に置いてあるけどごっちんから手紙きてたよ」


私は何もしてあげれなかったけれど、きっとこの先、誰かと出会ってあの子も少しずつ変わるだろう。


「えっ、マジで?」


私が梨華ちゃんやあいつらに出会って変わったように。


「なになに?ごっちんなんて?」
「今こっちに戻ってきてるんだってさ。来週遊びにいくね…って梨華ちゃん近いから」
「えぇーいいじゃーん。もっと見せてよぉー」
「あぁーもう藤本も石川もうるさい!」


あの子もきっといつかは―――。
そんなことを思いながら。
474 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/05(土) 19:44


『家出少女』おわり

475 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/05(土) 23:27
家出少女、よいですね
ちょっとほろっときました…
476 名前: 投稿日:2011/11/06(日) 10:39
一つ前の「こんや」というのを書いたものです。
また一つ置かせていただきます。
477 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/06(日) 10:40
「こんや  また別のある夜」
478 名前:こんや また別のある夜 投稿日:2011/11/06(日) 10:43

明日の仕事がたまたま二人してオフだったから、だったらおいでとメールしたら
すぐに「行くね」と彼女から返事がきた。

久しぶり二人で外で食事して、お酒も少しに飲んで気持ちよくなって我が家に帰宅。
里沙ちゃんはまだ少し酔っているようだったけれど、眠くなるほどでもないようで、
先にお風呂に入っておいでと促せば、素直に頷きお風呂へ向った。

いつもお仕事の現場で見ていた時とは明らかに違う、のんびりと無防備な歩き方。
後輩たちに囲まれて引っ張っていく、背中とは似ても似つかない華奢な肩を見ながら、
愛おしい気持ちがこみ上げる。


479 名前:こんや また別のある夜 投稿日:2011/11/06(日) 10:45

やっぱり彼女の隣にいたい。
どんなに一緒の時間が少なくなったって、あたしが彼女の癒しになりたいし、
あたしだって彼女が必要なのだ。そんなことを酔いが冷めていくのを感じながら
考えていたら、さっぱり顔の彼女がやってきて。

「愛ちゃんも入っておいで?」

笑顔で促された。

いつもならもう少しのんびり入るのだけれど、今日は彼女がいるからと半身浴は
そこそこにして、お風呂を出る。
先に髪を乾かした里沙ちゃんが「やってあげる」と言うもんだから、そのお言葉に甘えて、
髪を乾かしてもらった。



480 名前:こんや また別のある夜 投稿日:2011/11/06(日) 10:48

お礼に温かいココアを煎れて、取りとめもないお喋りをソファーに掛けて興じる。
この、なんでもないのんびりとした時間がとても大切で、手放したくは無い。
いつかは一緒にすみたいなぁなんて考えていると、あたしのカップも、彼女のカップも底が見えていて。

「寝よか」
そう声をかけると彼女も立ち上がり、ベッドルームのほうへ身体を向けた。

先に歩き出した彼女の背中はやっぱり華奢だった。一緒にいたときは、そのリーダーシップで
大きく見えていたけれど、そんな肩書きを一時的にでもそっと下ろしている今のこの場所では、
それはそれは思っていた以上に華奢で。

思わずふわりと抱きしめた。


481 名前:こんや また別のある夜 投稿日:2011/11/06(日) 10:50

「なにー 歩きづらいんだけど」
「えーやん、すぐそこまでだし」

くすくす笑いながら返された言葉なんて、抗議ともとれない。
彼女だって嫌ではないことくらいわかっているから、そのままの状態で
後ろから抱きしめながらベッドルームへ向った。

一人では少し大きめなベッドへ身を預け、電気を消す。
いつもうつ伏せの体勢で眠る彼女を暗がりの中で横から眺めていた。
せめて寝つきの悪い彼女の寝息が聞こえるまで起きていよう、そう思いながら。



482 名前:こんや また別のある夜 投稿日:2011/11/06(日) 10:52

するとあたしの顎あたりに温かくて柔らかな感触がして。
それは、うつ伏せから突然振り返って、彼女がくれたキスだった。
勿論それを理解する頃には、また元のうつ伏せの姿に戻っていたのだけれど。

一瞬の出来事だったけれど、その一瞬がとても愛おしくて、あたしは彼女の肩越しに顔を寄せた。

すっかり伸びたさらさらの髪を持ち上げて、彼女のうなじにキスをする。
それから耳と首筋にも「好きだよ」と気持ちを込めながら。

するとうつ伏せだった彼女はゆっくりと振り返り、あたしの首の後ろへ腕を伸ばした。

どちらも言葉は出さないけれど、目と目がしっかり合うのを感じる。
おでこと鼻がくっつきそうになるくらいに顔を寄せて、あたしは一言発した。



483 名前:こんや また別のある夜 投稿日:2011/11/06(日) 10:54

「もう、ねる?」
「・・・・・ううん、まだ。・・・・ねない」

そう彼女の言葉を最後まで聞き取ったあと、その唇にあたしのそれをそっと重ねた。






よるはまだ、ながい。






484 名前:こんや また別のある夜 投稿日:2011/11/06(日) 10:55

このお話は以上です。
お眼汚し失礼いたしました
485 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/06(日) 14:06
あったかい作品だなぁ
読んでほんわかします
486 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/06(日) 14:06
あったかい作品だなぁ
読んでほんわかします
487 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/06(日) 18:51


『弱者』
488 名前:弱者 投稿日:2011/11/06(日) 18:52
 
+++


あの〜。

その制服、わたしと一緒のところのですか?

ですよね一緒ですよね。
でもわたしのとは違いますね。


わたしの制服、しわくちゃなんです、いつも。

上も下も脱がされて、ぐちゃぐちゃのまま、畳んでもくれないから、
しわくちゃになっちゃうんです。

わたしはいつもその塊を眺めるだけだった。
ほんとは干したかったのに、手も足も動かせないから、
明日も着るのにって

思いながら、見てました。
489 名前:弱者 投稿日:2011/11/06(日) 18:52
 
あ、でも、それは昔の話かも。うふふ。
最近はずっと目をつぶっていました。
痛くて痛くて、耐えられなくて、
ああー、終わろう。終わろうって、考えながら目をつぶったの。
なにが終わるのかもよくわからないんだけどね。






でも、終わった。






それからね、制服、毎日クリーニングしてもらってるんだ。
だからもうしわくちゃじゃないんだよ。
でもこんどは汚れが全然落ちないの。
あーあ。また明日も出さないと。
ふふふふふ。
490 名前:弱者 投稿日:2011/11/06(日) 18:53

あ、もう帰っちゃうんですか?寂しいなあ、せっかく打ち解けてきたのに。
また来てくださいね。


さよなら。




+++
491 名前:弱者 投稿日:2011/11/06(日) 18:53

衣梨奈がバスから降車したとき、外はほとんど暗かった。
病院から出たすぐの段階ではまだ夕焼け空が広がっていたのに。
気温も更に下がったのではないかと思う。
携帯電話で時刻を確かめる。17時10分。
衣梨奈はやるせないような、騙されたような気分になった。

秋の夕暮れは一瞬だ。すとん、と太陽がいなくなる。
西空には夕焼けの最後の切れ端がわずかに残っているが、
しかしそれも今に消えてしまうのだろう。

衣梨奈はその瞬間を見たいようで、見たくないようで、結局前を向いて歩くことにした。
太陽はまた朝日となってこの街を照らしにやってくるのだから。
そういうもの。これが当たり前の世界。でも――――


聖は違う。

病院の聖だけは、ずっと夜の世界にいる。
492 名前:弱者 投稿日:2011/11/06(日) 18:54

精神病院は思ったよりきれいなところだった。
聖はきれい好きだから安心した。薄ピンクのカーテンを自慢していた。
衣梨奈が花を持っていくと「わぁー」と喜んでくれたからもっと安心した。

ところが聖は衣梨奈のことを覚えていなかった。まるで初対面扱い。
この、学校の制服には反応を示したけれど。
面会後、聖の先生に戸惑いをぶつけると「事前に説明したのですが」と呆れられた。
聖に会いたい一心で全く頭に入っていなかったのだと謝罪し、もう一度説明を受けた。

聖は重度の記憶障害になってしまったらしい。
まず、『自分』以外だれも覚えていないということ。
そして『父親』を殺した『自分』を覚えていないということ。
しかし今日のように、事件に関わる断片をたまに独白することがあるということ。

「虐待と殺人。この二つの重圧に、自己防衛本能が働いたせいでしょう」

『性的虐待』が、どういうことかは知っていた。
ただしそれは文字としての、遠い存在としての知識だ。
親友のあの姿が脳裏にフラッシュバックする。白い肌、暗い瞳。
最後の「さよなら」。
もう定義など衣梨奈の脳裏から吹き飛んでいた。
聖が殺人を犯したと知った日以上に、心が重石となって衣梨奈の海に沈んだ。
493 名前:弱者 投稿日:2011/11/06(日) 18:54
 
ぶるるっ

衣梨奈は身震いをする。少し薄着だったかもしれない。

さびれたカメラ屋を左にまがると、ゆるやかな下り坂が現れた。
ほっと胸を撫でおろす。この坂をまっすぐ行けば自分のよく知る道に合流するはずだ。
初めて歩くルートでも、やがて理解し、適合していく。

世の中もまたそういうものだと衣梨奈はずっと思っていた。
しかし、もし、まったく、自分ではどうすることもできない事態が起こってしまったら・・・・


聖と同じような事態に陥ってしまったら・・・・


私も殺すのだろうか。友達にも相談できず。機関にも助けてもらえず。
私も殺してしまうのだろうか。
494 名前:弱者 投稿日:2011/11/06(日) 18:55

家に着いた。
玄関の戸を開けるとそれに気付いた母親が「おかえりなさい」と声をかける。
衣梨奈は小さな声で「ただいま」と言い、とぼとぼと二階へあがった。
自室に入り、扉を閉める。電気を点ける気分にはならなかった。

衣梨奈はのそのそと布団の中にもぐりこみ、

「あーーーーーー」

決壊した。
うずくまり、頭をぐりぐり布団に擦り付ける。
あるいは上下に激しく揺らす。
気分が悪くなっても衣梨奈は続けた。さらに布団を叩く。
ボスッ。ボスッ。耳に響くのは、鈍く、虚しく、
怒りも憎しみも悲しみもすべてが無駄になるような音。
なのに、手のひらはこんなに痛い。


「っあっぅぐ、あっ」

「みずきっ、い」

「みずきぃー・・・・っごめん、えっ・・・・」


聖の顔。聖の声。聖の気持ち。
全部思い出して、再生して、想像して、涙に換えていった。
495 名前:弱者 投稿日:2011/11/06(日) 18:55
 

泣き疲れた頃には頭がぼうっとして、衣梨奈は水が飲みたくなった。
制服を着っぱなしだったことに気付いて、急いでスウェットに着替える。

そして一瞬考えて、

衣梨奈はぐしゃぐしゃの抜け殻を置き去りにしたまま、部屋を後にした。

 
496 名前:名無し飼育さん 投稿日:2011/11/06(日) 18:56


『弱者』終わり
497 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/08(火) 19:38


「言わない関係」

498 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/08(火) 19:38

隣のクラスの香音ちゃんと一緒に帰ろうと、鞄の中に教科書を突っ込み自身の教室を出たところでポケットに入れてある携帯が振動していることに気づいた。
黙認されてはいるものの、一応は校内での携帯電話の使用は禁止であるため、一旦教室に戻って確認する。
そういうところは意外と気にするタイプだった。
気にするくらいなら使うなって話だけど、そこまで優等生ではない。
通りかかった先生にバレないようにと廊下に背を向けこっそりと携帯を開く。
振動の原因は一通のメールだった。


『今日、18時、あそこでね』


やけに区切られた、文章というより単語が3つ。
差出人は1つ年上の幼なじみだった。
私は頭をぽりぽりと掻いてそのメールを見つめる。


どうやら、一方的に約束を取り付けられてしまったようだ。
それは残念なことに、このメールを受信した時点で成り立ってしまっている。
499 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/08(火) 19:38
なんでこちらの都合を聞かずに既に決定事項であるような文面で送ってくるのだろう。
普通は相手の都合を聞くとか、お願いならばせめて「来て」くらい書いてよと思う。

まぁ、特に支障はないから行くのだけれど。

それにしてもなんでこんなに場所がアバウトすぎるのだろう。
時間はきっちりと指定してきたくせに、もしお互いの思ってる場所が間違ってたらどうするんだろう。

まぁ、わかるから別に聞き返さないけれど。

学校と家までのちょうど中間地点にある公園。
そこは、彼女の家の近くでもあり、私たちが小さい頃からよく使う場所でもあった。
つまり彼女の言う「あそこ」はここを指している。

わかってしまう自分もなんだかなあと思う。

言わなくてもわかる関係。それは2人で過ごした時間が長いから成り立つこと。
ただひとつわからなかったのは、彼女が呼び出した理由だけだった。
何かしたっけと思うも、心当たりなんてこれっぽっちもない。
そもそも彼女の思考回路なんてわかったためしがない。
500 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/08(火) 19:39

携帯に表示されている時刻を見る。
帰りの会が終わり下校になったばかり。
家から公園までは割と近いし、一旦帰って宿題の1つでもして行っても充分間に合うだろう。
そんな計画をぼんやりと立てながら私は携帯を閉じて隣の教室へと向かった。
3組の扉を開けると私のクラスより先に終わったのか既にほとんどの生徒が下校しており、生徒の数はまばらだった。

「香音ちゃーん」

その中に目当てである人物を見つけ入口から声を掛けた。
放課後で人も少ないけれど、違うクラスに入るのはどこか気後れする。
別に先生なんかいないから入ってもいいのだけれど。
そういうところはやっぱり気になるタイプだった。

「あっ里保ちゃん」

自分の机で何かをやっていた香音ちゃんは私の呼びかけに気づくと、トコトコとこちらへやってくる。
しかし、いつも笑っているはずの顔が少し暗い。

「一緒に帰れる?」
「あーごめん。今日さ、宿題やってなくって居残りなんだよね」

先程まで香音ちゃんが座っていた机を見ると、なにやらプリントが大量にあるようだった。
聞けば3日前に出た宿題をうっかり出さずにいたら怒られてしまいペナルティをくらってしまったらしい。

「大変だね」
「まーねーほんとついてないよ」
「でも自業自得だよね」
501 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/08(火) 19:39
やれやれと大げさに溜息をついて肩を竦めて嘆く香音ちゃんの仕草がわざとらしく、そして全然反省してないように見えて私はケタケタと笑ってしまった。
それを見て困り顔を作っていた香音ちゃんも笑う。

「待ってようか?手伝うし」

プリントを指差しながら私はそう提案した。
時間ならいくらでもあるし、それに待ち合わせまでの時間つぶしにもなる。
何より友達が困ってるときに助けてあげるのが友達というものだ。
そう思って香音ちゃんに言ったのだけど。

「でも早めに終わったとしてもちょっと説教されるだろうし、先帰っていいよ」

私の提案は、申し訳なさそうに首を振る香音ちゃんに断られてしまった。
でも…と尚も食い下がってみたものの、大丈夫だからと今度は笑顔で言われてしまう。
待たれてると思うと、逆にやり辛いのかもしれない。

「そっか」
「ごめんね、一緒帰れなくて」
「ううん、いいよ」

バイバイと手を振る香音ちゃんに頑張ってねと声を掛けその場をあとにした。
別にいつもいつも一緒にいるわけではないから、一人で帰ることは苦ではない。
そのまま昇降口に向かって歩きながら時間潰しのための宿題はどれが適切かを考え始める。
少量しかない英単語の宿題がいいだろうか。
502 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/08(火) 19:40
そんなことを思いながら2階の階段を降り始めた時だった。

「里保ちゃーん!」

大きな声が階段に響く。それは私を呼ぶ声。
なんだろうと足を止め振り返ってみたが、その姿は見えず。
辺りを見渡してみてもそれらしき人はいない。
首を傾げると「上だよ、上」とその声に教えられた。
それに倣い上を仰ぐと、見知った顔がひょっこりとこちらを見ていた。
「ちょっと待ってて」とその口が動く。

階段を駆け下りて来たフクちゃんはほんの少し息を切らしていた。

「大丈夫?」
「あ…うん、大丈夫。それよりさ、今から委員会手伝ってほしいんだけど」

息を整え告げられた言葉に私は再度首を傾げた。

フクちゃんは生徒会の書記で、私は生徒会執行部の下で働く学級委員である。
月に一回の委員会活動でしか会わないのだけれど、どうしてかこの先輩は私を可愛がってくれ、自身の下の名前で呼ぶよう私に強要した。
さすがにそれはと渋るとあだ名でもいいからとお願いされその日からこの先輩をあだ名で呼ぶようになり、今では敬語もなくなってしまっている。
503 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/08(火) 19:40
そんなフクちゃんから出た「委員会」という言葉。
月一である会議は、先週したばかりだった。

「今日って委員会あったっけ?」
「ううん。本当はなかったんだけどね」

困った顔で薄く笑うフクちゃんの話によると、どうやら急遽先生たちに明日までの期限で総会資料を作るようにと押し付けられてしまったらしい。
今日は生徒会活動はない予定だったので既に帰宅してしまった生徒会役員もおり、人手が足りなくて書記のフクちゃんが人員を集めるために駆け回っているんだとか。
普段はおっとりとしたフクちゃんの口から、いつもよりかは早口の説明を受ける。
なるほど、そういうことか。

「お願い里保ちゃん!簡単なコピーだけでもいいから」

いくら仲良くなっても彼女は先輩だ。
先輩に頭を下げられては、断るわけにもいかない。
それに断る理由もない。
もちろんいいよと頷くとぱっと顔を上げたフクちゃんの顔は途端に笑顔になる。

「里保ちゃーん!ありがとう!」
504 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/08(火) 19:41
そして次の瞬間、私は柔らかい感触に包まれる。
そう、何故かフクちゃんに抱きしめられてしまった。
しっかりと、がっつりと。
ここで抱きつく意味が、全く持ってわからない。
いや。嬉しいのはわかる。わかるけど。

「…あの…苦しいから。…さっさと、行こ?」
「本当ありがとうね!」
「うん、だからっ…」
「ありがとー」
「……」
「……」
「………手伝わないよ?」

低い声で呟くとさっと離れてくれたものの、その顔はどこか渋々といった表情だった。
小さく苦笑して早く行こうと促す。
私は腕時計をちらりと一瞥するとフクちゃんの後に従い生徒会室へと向かった。
505 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/08(火) 19:41

***


すべり台の上に仁王立ちで立っている人物が目に入る。
何かを制覇したつもりなのだろうか。
私がバタバタと公園へ向かうと、その影は気取ったヒーローみたいなポーズで私を待っていた。
いや、決闘を待つ佐々木小次郎的ななにかかもしれない。
それなら私はさしずめ宮本武蔵と言ったところか。
ただ、私は彼女に勝てる気がしない。

「遅いよ里保!」

私を見つけた彼女に妙に高い声で叫ばれる。
左腕につけた銀色の腕時計は約束の時刻を15分程過ぎていた。

「近所迷惑だよ、そんな大声じゃ」

息を整えながら急いで来たのがバレないようにゆっくりとした足取りですべり台の下まで行くと、上にいる彼女を見上げた。
西日のせいなのか角度のせいなのか。表情までは見えない。

「ねえ、パンツ見えてるよ」

その代わりに見えてしまったものを告げると、彼女はバカと短く呟いてすべり台から降りてきた。
なんとなく、制服姿ですべり台を滑る彼女は似合っているなと思った。
ミスマッチなマッチング。子供っぽいというか、アホっぽいというか。
もちろんそんなことは言わないけれど。
506 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/08(火) 19:41
「なんで返事返してくんなかったの?なんで遅れたの?」

スカートの汚れをパンパンと叩きこちらを向いた彼女に、怒っているというよりどこか悲しそうな顔で問われる。
しかし、これは眉尻が垂れている彼女なりの膨れっ面なのだ。
そう、つまり悲しんでいるのではなく彼女は怒っている。

この日初めて見た表情がこれだとは。

幾分か私より背の高い彼女に見つめられる。
肩を竦ませながら私は彼女の問いに答えた。

「ごめん、忘れてた。ていうか急に言われても、いろいろあるんだって」

一応メールの件に関しては素直に謝った。返すのを忘れてた私が悪い。

だが、私にだって理不尽だと感じることがある。
一方的に取り付けられた約束。
そう簡単に都合が付かない場合だってあるだろう。

しかし、遅れた原因であるフクちゃんに捕まったことは言わなかった。
別に話すことでもないと思ったし、言ったところで別にそれは意味をなさないと思ったからだ。
理由を聞いたのは彼女のくせしてその理由をどうでもいいと思ってるのは彼女なのである。
その証拠に「いろいろ」とはぐらかしてみても引っかかってくることはない。

「返してくれんと里保が来るかわからんやん。そしたら衣梨奈がここに来ても待ちぼうけになるやんか」

15分も待ったしとか一人で寂しかったとかなんとか。
愚痴なのか文句なのかぶつぶつと言っている。
そんな彼女に私は言ってやる。呆れた表情をしながら。
507 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/08(火) 19:42
「なら待たなきゃいいじゃん。来なきゃいいじゃん」

私が約束の時間に遅れた時点で、帰ればいい。
私が来るかわからないなら、端から来なければいい。
返さなかった私が悪いと思うなら、腹を立てたなら、来なければいい。帰ればいい。

そんな私に彼女は言う。ほんの少しの微笑みを加えて。

「でも来たじゃん」

確かに。返事を返していないくせして私はここに来ている。
行くということも行かないということも言ってないのに、彼女が待つここへ来た。
そして彼女はいた。ここで私を待っていた。
彼女の読みは正しく、彼女の行動は間違っていない。
どこか得意げに笑う彼女の顔が、少しだけ気に食わなかった。

「まっ、結果的に来たけんいいけどさー」

そう言って彼女はまた笑う。
彼女の長所は『すぐ許す』だそうだ。
決して怒らないわけではない。
が、すぐに許す。というより、その怒りを忘れる。
508 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/08(火) 19:42
くるくる変わる彼女の表情を見ながら私は聞きたかったことを口にした。

「で、何なの?」

彼女が私をここに呼び出した理由。
それが知りたくて、のこのことここにやってきたのだけれど。
フクちゃんに解放されて真っ先にここへと走ってきたのだけれど。

「んー別に」
「…は?」

訝しげに眉をひそめ思わず低い声が出てしまった私を気にすることなく、彼女はあっけらかんと答えた。


「なんとなく」


そう。ただの気分だった。
考えればわかるはずだった。
彼女が何も考えていないことくらい。

もう、と溜息混じりについた言葉は彼女の耳には届いていないらしい。
聞こえていないのか。
聞いていないのか。
長い付き合いだ。今更それはどちらでもよかった。

「じゃあ帰っていいの?」
「ダメ」
509 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/08(火) 19:42
即行で返された言葉に私は思わず笑う。
釣られて彼女も笑った。

2人を包む空気が緩く変わる。

諦めた私は鞄を置いて近くにあったブランコに腰掛けた。
当たり前のように彼女も私の隣に座って。

ギーギーと錆付いた音が響く。

それからしばらく、彼女の口から出る話を適当に突っ込みながら他愛もない世間話をした。
学校は同じでも学年は違うし、幼なじみと言ってもドラマや漫画みたいに家が隣同士なわけでもない。
昔に比べて会う回数は減ったが、こうして2人で会えばやはり会話は弾む。
と言ってもほとんど彼女がしゃべってるようなもんだけれど。
彼女はなかなか私にしゃべる隙を与えてくれない。


どれくらい経っただろうか。
彼女は昨日の英語の時間に起きた新米教師の失態話を中途半端に切り上げすくっと立ち上がった。

「ねーそろそろお腹空いたけん帰ろうよ」

公園前を走る車を見ながら不服そうに唇を尖らせている。
どうやら、飽きたらしい。
やっぱり彼女は唐突だった。
510 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/08(火) 19:43
「ずっと話してたくせに…そもそも呼び出したのだってそっちでしょ」

呆れながら言うと、そうだっけと大して気にしてなさそうに彼女は振り返る。
これじゃあまるで私が呼び出して付き合ってもらってたみたいじゃないか。

しかし、彼女はそんな私の苦笑は気にならないらしい。

「ほら、早く帰ろうよ」

向き合い差し出される彼女の右手。
躊躇いなくそれに従う私の右手。
握手するように握り合った手はあったかかった。

彼女に引っ張られ立ち上がる。
立ち上がったところで、私達の手は思いのほかすぐに離れ行き場を失ってしまった。

なんだかそれが少し意外で。違和感なのかなんなのか。
なんとなく悔しかったのでその手で隣に立った彼女の左手を繋いでみた。

彼女の温もりが私の中の違和感をなくす。

その様子を見ていた彼女は笑っていた。
511 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/08(火) 19:43

日はとっくに暮れていた。

歩き始めた彼女の足は少し遅いような気がする。
帰りたいと言ったのは彼女のくせに、もうその考えは変わったのだろうか。
斯く言う自分も彼女の速度に合わせてるため遅かった。

「んーお腹空いたけどまだ話し足りんっちゃんねー」
「えっまだ話すの?」
「そうだ!里保うちでご飯食べていきなよ。ママも会いたがっとーけん」
「えー…うん。じゃあお母さんにメールしておく」

やったぁと繋いだ手をぶんぶんと振り始めた彼女にならい、私は小さく笑った。
それを見た彼女もまた笑った。

2人で歩く帰り道は、いつも遅い。

こないだ起きた姉弟喧嘩の話を適当に聞き流しながら、私はこういう時間がいつまで続くのかなとぼんやり考える。
もうしばらく、こうやって過ごしたいなって思ったことは言わなかった。

彼女の言いたいことがわかるように、きっと彼女も私のことをわかってくれるだろうなと思ったから。

「ちょっと聞いとー?てかなん笑いよーとよー」
「なんでもないよ」

柔らかい笑い声を交わしながら、2人で夜空の下を歩いた。
2人が大人になるのは、まだちょっと先の話。
512 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/08(火) 19:44

『言わない関係』おわり

名前欄にタイトル入れるの忘れてたごめんなさい
513 名前:猫とギターと枯れたサボテン 改 投稿日:2011/11/11(金) 04:38
猫とギターと枯れたサボテン 改
514 名前:猫とギターと枯れたサボテン 改 投稿日:2011/11/11(金) 04:38
夕方、電話が鳴った。ディスプレイに「藤本美貴」とあったので、
「ミキティから電話だよ」と言ったのだけど、よしこが起きる気配は無い。
しょうがないので私が取った。
開口一番「てめえ今何時だと思ってんだよ」とドスの効いた声がしたので、
私はおそろしくなって電話を切った。また鳴った。
やはりディスプレイには「藤本美貴」とあり、「だから電話だってば」と
よしこに声を掛けるのだけど、やっぱり起きそうにもない。
おそるおそる出ると「てめえなんで切った」とまたドスの効いた声がして、
どうしようもなくおそろしいのでまた切った。また鳴った。
もう出る勇気はなく、よしこの尻をぺしぺしと叩いて
「だから電話なんだよ!」と大声で言った。そこでようやく起きた。

よしこは「ああ……」と寝ぼけた声を出して、電話を取った。
「もしもし?」「え? ああ、うん、ごめん」「ごめんなさい」「ほんとごめんなさい」
「すぐ出ます」「ほんとうにすぐ、すぐ、今すぐに」とかなんとかしどろもどろに言い、
電話を切った。そしてまた「ああ……」と言ったっきり、ぼんやりとして、微動だにしなかった。
私はしばらく固まったままのよしこを眺めていたのだけれど、あまりにも動きが無いので飽きた。
お腹が空いた、と思った。
515 名前:猫とギターと枯れたサボテン 改 投稿日:2011/11/11(金) 04:39
「美貴ちゃん怒ってるよう……」
「そうだね、怒ってたね」
「怖い……」
「何したの」
「今日五時から約束してたんだよね……」

時計を見ると今は六時前だった。

「断ったの?」
「いや、今から行かなきゃ」
「じゃあ急がなきゃ。なにぼんやりしてんの」
「怖い……」

よしこはいつもこうなのだった。普段は何も怖いものはない、という顔をしている癖に、
いざという時になると急に怖気付いて、何もできなくなるのだ。
ただ、確かに、あのミキティは恐ろしかった。
私は軽くおしっこを漏らしていた。よしこは盛大に漏らしているようだった。
516 名前:猫とギターと枯れたサボテン 改 投稿日:2011/11/11(金) 04:39
何にせよさっさと服を着替えて、準備して、早く行かなきゃもっと状況は悪くなるよ、
ミキティに殺されてしまうよ、と優しい口調でよしこをたしなめたのだったが、
「めんどくさいよう」とかなんとかぶつぶつ言って、一向に動こうとしなかった。
私はよしこのこういうところが嫌いだった。めんどくせえ、と思った。

台所で鍋にいっぱいの水を汲んで、よしこにぶっかけた。
「うひゃあっ」と言って、すぐに「なにすんの!」と怒ったが、
その怒った顔がかわいかった。

「これでおしっこ漏らしたのはきれいになったでしょ、早く着替えて」
「えー……」
「着替えねえんだったらそのまんま行け」
「分かった、分かった」

よしこはのろのろと服を脱いだ。私はバスタオルを渡した。
517 名前:猫とギターと枯れたサボテン 改 投稿日:2011/11/11(金) 04:39
「ああ……めんどくさいよう……」
「じゃあ行かなきゃいいんじゃん」
「そんなことしたらミキティに殺される」
「じゃあ文句言わずに早く着替えろよ」
「分かった、分かった」

よしこは着替え終わると、ほとんど置物のようになっていたギターをケースに入れた。

「あれ? ギター使うの? なに?」
「今日はバンド練習なんだよね」
「へえ、めずらしい、私も行っていい?」
「いいんじゃない? でもスタジオのお金払ってね」
「ケチだね」
「ケチじゃないよ、しっかりしてるんだよ」
「しっかりしてる人は寝坊とかしないけどね」

よしこは「それもそうだ」と言って笑った。
その屈託のない笑顔がとてもかわいい、と思った。
518 名前:猫とギターと枯れたサボテン 改 投稿日:2011/11/11(金) 04:40
家を出た。日はもうとっくに沈んでいて、夕方というよりも夜だった。
よしこは「あっ」と言って何かを思い出したかのように部屋へ戻り、
なかなか出て来なかった。私は時計を見た。もう六時を回っている。
ドアを開け「何してんの? 早くしないと」と声を掛けると、
よしこはベランダのサボテンに水を遣りながら、
うとうとと舟を漕いでいたので呆れた。

そのサボテンは随分昔に私がプレゼントしたもので、
今はもう見る影も無く枯れていた。
「よく日の当たる場所に置くこと」「水をやり過ぎないこと」
その二つさえ守れば枯れることなんかなかなか無いはずだし、
口を酸っぱくして何度もそれを教えたはずなのだけど、
気付くといつもよしこはサボテンに水をやっていた。
私はそれを見つける度に「水やりはひと月に一回ぐらいでいいんだよ」と言うのだけれど、
よしこは「植物なんだから水やんないと死んじゃうよ」と口答えした。
だからもう放っておくことにしたらこの様である。
519 名前:猫とギターと枯れたサボテン 改 投稿日:2011/11/11(金) 04:40
私はドアを閉めると、よしこのギターを背負って駅へ向かった。
もうなんだか面倒になったから、私がスタジオに行ってギターを弾こうと考えたのだ。
ただ、スタジオの場所が分からなかったので、ミキティに電話した。

「もしもし?」
「もしもし? ごとーです」
「あ、久しぶり。元気?」
「げんきげんき、ところで今日どこのスタジオ行けばいいの?」
「え? なんで?」
「よしこの代わりにあたしが行くから」
「あ、そうなの、助かるわ。あのクソ野郎」
「まあまあ」
「ぶっころしてやる」

ミキティの声は以前よりもずっと凄みが増していて、
背筋がぞわぞわした。本当によしこは殺されるだろうなあと思った。
520 名前:猫とギターと枯れたサボテン 改 投稿日:2011/11/11(金) 04:41
「で、どこに行けばいいの?」
「今どこ?」
「駅前だけど」
「あ、近くだから、迎えに行くよ。北口に居てね」
「あいあい」

駅前でぼんやりとミキティの迎えを待った。
普段はあまり気が付かないけれど、自分がギターを持っていると、
楽器を持っているバンドマンらしき人が不思議と目に付いた。
どいつもこいつも冴えないなあ、やってる音楽もきっとクソなんだろうなあ、
と思いながら、十数人目のバンドマンを見送ったところでミキティが来た。

ミキティは会うなり「あの野郎」とドスの効いた声で言い、
その声色にやはりぞくぞくした。さすがに今度はおしっこ漏れなかった。
そういえばさっきちょっとだけ漏らしたパンツのまま出てきてしまったなあ、
ということをふと思いだした。意識すると、まだ乾いていなくて、
ちょっと居心地が悪かった。
521 名前:猫とギターと枯れたサボテン 改 投稿日:2011/11/11(金) 04:41
ミキティに案内されるままスタジオに入った。知らない子が二人居た。
「こっちがさゆで、こっちがれいな」とミキティがぶっきらぼうに紹介した。
さゆ、と言われた子は、「道重です。初めまして。よろしくお願いします」と
丁寧に挨拶してくれた。育ちの良いお嬢さん、という感じだった。
私はこういう子が苦手で、なぜかというと、何を考えているのか全然分からないからだ。

よしこも何を考えているのか全然分からないのだけど、
あれは本当に何も考えていないから、何を考えているのか分からない、
という訳の分からなさであって、こういう育ちの良さそうな子の、
何を考えてるのか分からない感じというのは、もっと腹黒い、周到な計算の下で、
自分が何を考えているのかを人に見せない、そういう意地汚い感じがするので、
私は育ちの良さそうなお嬢さんが嫌いなのだった。

もう一人、れいな、と言われた子は、「田中です」と言って、
ぶすっむすっとした顔をこちらに向けた。
この子は分かりやすく人見知りなんだな、という感じがして、好感が持てた。
この華奢な身体でドラムを叩くというのも、なんだかいじらしくて、かわいいと思った。
522 名前:猫とギターと枯れたサボテン 改 投稿日:2011/11/11(金) 04:41
私は「ごとーです。ごっちんって呼んでくれてもいいよ」と二人に挨拶した。
さゆは「後藤さんですね」と言い、れいなちゃんは「ごっちんさん」ぼそりと呟いた。

「私はどういう風に何を弾いたらいいの?」

ベースアンプをちょこちょこいじっているミキティに訊いた。
ミキティはめんどくさそうにこっちを向くと、
「ごっちんは、そうだなあ、適当にさあ、弾いてくれればいいよ」と言った。

「あ、そうなの」
「そうそう、ギターなんて鳴ってればいいから」
「そうだね」
「じゃあとりあえずなんかやってみようか」

ミキティが適当にベースリフを弾くと、れいなちゃんがそれに合わせて
シンプルな8ビートを叩いた。悪くないドラムだった。
とてもタイトに正確なリズムキープをするタイプのドラマーだ。
ただその分少しパワーに欠けているかな、と思った。
523 名前:猫とギターと枯れたサボテン 改 投稿日:2011/11/11(金) 04:42
私はミキティに言われたとおり、適当に指板を押さえて、適当に弾いた。
とんちんかんな音が出て、ベースのリフと全然合っていなかったけれど、
ギターは音が鳴っていればそれでいいのだ。
私はギターのボリュームを上げ、ゲインを上げ、
ローとハイを下げ、ミドルを上げた。
そこにさゆが頓狂な声で、めちゃくちゃな音階のメロディを歌った。

それは全体としては雑音以外の何物でもなかった。
ただ、それが不思議と気持ちよかった。
何時間でもできる気がした。
駅前で見た冴えないバンドマンたちも、
こんな風にクソみたいな音楽をやって、
それに陶酔しているに違いない、と思った。
ひどくバカバカしい、クソみたいな陶酔感だった。
そして私はそれが好きだった。
524 名前:猫とギターと枯れたサボテン 改 投稿日:2011/11/11(金) 04:42
チカチカと終わりを告げるランプが点滅し、時計を見ると八時だった。
本当にアッという間もなく、練習が終わった気がする。
私はぼんやりしていた。ミキティに「早く片付けて」と言われて我に返った。
れいなちゃんとさゆはもうスタジオの外に出ているようだった。
唐突に、今、よしこはどうしているだろう、と思った。
525 名前:猫とギターと枯れたサボテン 改 投稿日:2011/11/11(金) 04:43
挨拶もそこそこに三人と別れると、家に急いだ。
別れ際、ミキティが「また来週にここで!」と言った、ような気がしたが、
私はとても焦っており、よしこが心配だった。
息を切らせてドアノブに手を掛けると、すんなりノブは回り、ドアが開いた。
「よしこ」と言ってみたが、返事は無かった。
窓が開いているのだろう、外の月明かりが部屋の中に差していた。
ベランダにはたっぷり水を受けて、枯れ切ったサボテンがあった。
水滴が月の光でキラキラ光っていた。

明かりをつけて、部屋を見回したが、よしこはどこにもいなかった。
私はギターを下ろして、ケースから出すと、Cのコードを弾いてみた。
ペランと三味線のように情けない音がして、とても悲しかった。
窓の外で発情した猫の鳴き声がした。春だなあと思った。
よしことはもう会えないのかもしれないなあ、と思った。
526 名前:猫とギターと枯れたサボテン 改 投稿日:2011/11/11(金) 04:47
おわり

以前短篇集に出した「猫とギターと枯れたサボテン」という話を読み返していて、
ふと書き直したくなり、書き直したものの、そういうものを書き込んで然るべき
スレッドというものも思いつかず、とりあえず話題のフリースレに、と思って、
ここに書き込みました。
527 名前:call a name 投稿日:2011/11/13(日) 01:15
ガキれな
528 名前:call a name 投稿日:2011/11/13(日) 01:15
楽屋の隅でひとりでぼんやりしていたら、田中っちがやってきた。

「あの、ガキさん…」

なんだか神妙な顔つき。

まわりを見ると、なんでか誰もいない。
おかしいな、さっきまでそこにさゆみんがいたような気がしたんだけど。

「んー? なにー?」

あんまり深く考えずいつもの調子で返事する。
でも、内心では、ちょっとだけ、緊張した。
529 名前:call a name 投稿日:2011/11/13(日) 01:16
田中っちとは、ぶっちゃけあんまりふたりきりってなったことがない。
仲が悪いとか嫌ってるとかじゃ全然なくて、
なんていうか、お互い仲間意識は強いんだけど、良好な関係でも適度な距離ってあるじゃん。
それがあたしと田中っちとでは、他の人から見れば「仲悪い?」みたいに思われちゃう、っていうか。

カメとか愛ちゃんとか、隣にいるのが自然って感じるメンバーもいたけど、
つかず離れず、でも、ちゃんと相手のことは認めてる、っていうか、どっちかっていうと憧れにも近いような。

…いや、田中っちに憧れてもらえるような要素なんてあたしのほうには何も思いもつかないから、そう思ってるのはあたしだけだろうけど。

でも、だからこうやって話しかけられて、正直嬉しく感じてたりもするわけで。

「あのー、あのね…」
「ん? なに? …あ、もしかして深刻な話?」

ちらちらと気まずそうにあたしの顔色を窺ってるのがわかる。
軽い口調が相手に不信感を抱かせそうで声のトーンを落としたら、田中っちは少し慌てたようすで首を振った。
530 名前:call a name 投稿日:2011/11/13(日) 01:16
「や、そんな、深刻ってわけじゃ…」

両手を胸元で振っては見せるけど、表情には居心地の悪さが滲んでいる。

「……もしかして、あたし、なんかやらかしちゃった、とか…?」
「えっ、あ、いや、ちが、違くてっ、ぜんぜん、そんなんやなくって…!」

歯切れの悪さはあたしにとってもなんだか居心地が悪い。
いつもの田中っちなら思ったことをどんどん口にしているから、よほと言い出しにくいことなんだろうなと思った。

「あの、えっと、その…」

もじもじと落ち着かない視線であたしの顔と自分の手元とを交互に見る。
その仕草は大切なことを報告する小さな子供みたいで、それがやたらといじらしく健気に映って、
あたしも、無理に聞き出そうとするのはやめて、田中っちが言葉にするのを待つことにした。

「うん、焦らないでいいよ、田中っちのペースで話して?」

そう言うと、なんだかホッとしたようにも、ますます焦ってしまったようにも見える複雑な表情を見せたけれど、
うん、と小さく頷いて、こくり、と喉を鳴らせたのがわかった。

「あの…、あの…さ…、さ…、えーと…、さ、さ…」

言いたいことのとっかかりだろうか、言いづらそうに恥ずかしそうに。
531 名前:call a name 投稿日:2011/11/13(日) 01:16
ちらり、と、またあたしを見るから、うん、て小さく微笑んで頷き返したら、ぱっと顔が赤くなった。
決まりが悪そうに目を逸らして、けれど何か決意したように、ぎゅっ、と目を閉じる。

「…っ、さ、…さっちゅん…っ!」

それが聞こえた瞬間、あたしは、今、自分の耳に届いた言葉がなんなのか、咄嗟には理解できなかった。

「…ぅ、え…?」

情けない声が漏れて、そんな自分の声で我に返って事態を把握する。

聞こえたのは紛れもなく田中っちの声で。
でもって田中っちが言葉にしたのは、一応、公式プロフィールにもなっている、あたしのニックネーム。

とはいっても、ハローのメンバーは誰ひとりあたしをそんなふうには呼ばないし、
地元の友達だって今さらそんなかわいらしいニックネームでは呼んでくれなくなった。

だから、田中っちが声にしてくれたそれが、あたしを呼んでくれたんだ、ってことに、すぐには頭が回らなくて。
532 名前:call a name 投稿日:2011/11/13(日) 01:17
なんでだろう。
なんで急にそんなこと言いだしたの?

あたしとの今までのつかず離れずの距離、縮めたいって思ってくれたのかな?
これって田中っちなりの親愛の表現って解釈していいのかな?

おそらく勢いで呼んだせいもあるんだろうけど、田中っちの顔はさっきよりもどんどん赤くなってて。
そしてたぶんあたしの顔も、今まで田中っちには見せたことないくらい真っ赤になってるはずで。

……ていうかあたしも何か返したほうがいいのかな?

きっと田中っちだって恥ずかしくてたまらないはずなのに。
たぶん本当はいますぐ逃げだしたいとか思ってるはずなのに。

顔を赤くしながらも、田中っちはあたしの反応を待ってるみたいだった。

それがなんだかひどくあたしの心を揺さぶって、どきんどきん、って、心臓が高鳴ってるのがわかる。

ライブツアー初日の開演直前みたいな高揚感。
だけども、それとはくらべものにならないくらいの。

「……あ、えーと、あー…、れ…、れい、な…?」

カッコ悪いくらいに声が上ずる。
そんなふうに呼ぶことなんて、雑誌のインタビューのときぐらいだ。

そう思うと、その名前がとてつもなく大きな意味をもった気がしてまた心臓が跳ねた気がした。
533 名前:call a name 投稿日:2011/11/13(日) 01:17
あたしが呼ぶのを聞き届けた彼女の目が大きく見開かれる。
それは予想外だったと言いたげな反応で、さっきまでの赤い顔がさらに赤くなっていく。

「え? …ちょ、な…、え…?」

もう本当に我ながら情けない。
こんなときに気のきいた言葉がなにひとつ見つからないなんて。

「あの…、た、たな…」
「わ、わあぁあーーーーっっ!」

いきなり奇声を発した田中っちが顔を覆ってうずくまる。
さすがに唐突でギョッとなってしまったけれど、心配になって駆け寄って手を伸ばしたら、
その手が彼女のカラダに触れる前に勢いよく立ちあがられてしまい、あたしの手は空中で行き場をなくしてしまった。

けれどさっきより近くで目が合って、お互い顔は赤いまま、どう声をかけたらいいかわからなくて。

恥ずかしいのか、ただ気まずいだけなのか。
だけど、心臓は相変わらずドキドキしていて。
534 名前:call a name 投稿日:2011/11/13(日) 01:18
かける言葉に迷って視線を落としたのはあたしが先で、だけど、そのあたしの頭のすぐ上で田中っちが大きく息を吸い込んだのがわかった直後、

「…っ、さゆのあほーー!!!」

楽屋の外にまで聞こえるような大きな声で田中っちは叫んだ。

叫んだ内容にあたしがまた面喰ってると、そんなあたしに気づいた田中っちは何か言いたそうに唇を開きかけて、
なのに結局何も言わずに唇を噛んで目を逸らしてしまった。

「田中っち…?」

おそるおそる呼びかけると、田中っちはほんの少し気まずそうに眉尻を下げたけれど、
すぐに唇をへの字にして、あたしには何も応えずに踵を返して楽屋を出て行った。
535 名前:call a name 投稿日:2011/11/13(日) 01:18
出て行く後ろ姿を半ば呆然と見送っていたら、田中っちと入れ替わりにさゆみんが入ってきた。

「れいなってばヒドーイ」

唇を尖らせながらそう言ったけれど、言葉とは裏腹に顔はニヤついていて、田中っちが最後に言い残した言葉で、
何の前触れもなくあたしを誰も呼ばないニックネームで呼んだ言動にさゆみんが絡んでいるのだと察知した。

「さゆみん、アンタもしかして…」
「あっ、いやーん、ガキさん怖い顔ー」
「いやーん、じゃないよ、もう…」

溜め息と一緒に頭を抱えたら、さゆみんはますますおもしろそうに笑う。

「…なんなの。罰ゲームかなにか?」
「んー、まあそんなとこ。れいな、今日も遅刻だったでしょ? 前に今度遅刻したら罰ゲームって約束してたの」
「そういうことならもっと他にあるでしょーが」
「えー? でも、さっきのれいな、いつもと違ってかわいかったでしょ? 恥ずかしがって赤面するとか、超レアで」
「…だからってさあ…」

はー、と呆れ気味に深く息を吐くと同時に、さっきの田中っちを思い出す。

恥ずかしそうに何度もこちらのようすをちらちら窺って、顔を赤くして、どう考えたって理不尽な罰ゲームをバカ正直に実行したりして。

素直というかなんというか…。
536 名前:call a name 投稿日:2011/11/13(日) 01:18



――― かわいいなあ。


537 名前:call a name 投稿日:2011/11/13(日) 01:18
そんなふうに思い至ってハッとなる。

滅多に見ない田中っちの表情にあたし自身の気持ちが奇妙に揺らいでしまったこと。
その高揚感にも似た気持ちは、何かとくらべるなんてできないくらいに、あたしの心を今も揺さぶっていること。

そして、もう誰も呼ばなくなったニックネームで呼ばれて、不覚にも胸が躍ってしまったこと。
もう一度、あんなふうに呼んでほしいと、思ってしまったこと。

「…ちょ…」

顔に熱が集まるのがわかる。
たぶんきっと、さっきみたいに顔が赤くなっているんだろう。

そう思ったらまた田中っちの顔が浮かんで、余計に顔が熱くなった。

「や、だもう、ちょっと待ってよ…」

胸の高鳴りが意味するこの気持ちにどう名前をつけていいかわからなくて、揺れ動いてる気持ちをどうやって鎮めていいか見当もつかなくて、
その感情たちをぶつけるみたいに、あたしは自分の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。




おわり
538 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/13(日) 01:33
ガキれなキター!とってもよかったです!
539 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/13(日) 19:45

「嗅覚への刺激」

いしよしです。
540 名前:嗅覚への刺激 投稿日:2011/11/13(日) 19:45


「梨華ちゃんいい匂いするね」
「気付いた?ボディクリーム変えたんだ〜」
「この匂い、なんかおいしそう」
「食べちゃやーよ」
「どうしよっかなー」
「とか言って、そんなことできない癖に」
「そんなのわからないじゃん?」



あなたはいつも言うの。
笑って、これは冗談ですよってわかるように。
私はいつも本気なのに。
よっすぃ〜の前では、いつでも一番の私。
あなたがかわいいと言ってくれる私でいられるように、いつでも本気。

だから今も、本気。



「じゃあ……食べてみる?」



脚の間に膝を滑り込ませ、ソファーに片手をついて迫ってみる。
途端にその表情からは笑みが消え、瞳が揺らぎながら私を映し出した。
ほら、やっぱり。


541 名前:嗅覚への刺激 投稿日:2011/11/13(日) 19:46


「なんちゃって。ちょっとはドキドキした?」



知ってるの。
私たちには一歩踏み出す勇気がない。
こうしてじゃれて、それで終わり。

髪を撫でて、体を離した。
この際キスの1つでもしちゃえばよかったかな。
そしたら何か変わったかな?


恋人に、なれたのかな?


ドキドキしてたのは自分の方。
だって好きだから。



「もう寝るね」
「今日はお疲れさま」
「よっすぃ〜も」



シワ1つないベッド。
シーツの間に潜り込む私は、なんかサンドイッチの中身になったみたい。

真っ白なシーツに挟まれた私。


542 名前:嗅覚への刺激 投稿日:2011/11/13(日) 19:47


「梨華ちゃん」



被っていたシーツを捲ってさっきまでいたソファーへと視線を向ける。
見えたのは、斜め後ろ姿。
よっすぃ〜はソファーの背に腕を乗せて、こっちに体を向けようとしていた。


「あのさ」
「何?」


耳が少し赤らんでいるのは、ライトのせい?
それとも……。




「さっき、ドキドキした。そんだけ」




また前へ向き直ってしまったあなた。
そっか。
ドキドキしたんだ。

私はまたドキドキしてる。
あなたの言葉を聞いたから。


よっすぃ〜。
私、あなたのことが好きよ。



いつか一緒にサンドイッチの中身になれるかな。
私の体からふんわりと匂う、フルーティーな香り。
その時はきっと、同じ香りに包まれるかな。



「おやすみ、梨華ちゃん」
「おやすみ、よっすぃ〜」



いつか。
私を食べてくれる?

だから今はまだ。
おやすみなさい。
543 名前:嗅覚への刺激 投稿日:2011/11/13(日) 19:48
終わりです

新参なので二人になってるか心配
スレ汚し失礼いたしました
544 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/13(日) 21:35
ドキドキドキドキ
いしよし良かったです
545 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/14(月) 02:25
本当に新参さんですか?
すごく面白かったしドキドキしました
546 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/14(月) 07:51
良いいしよしをありがとう
547 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/18(金) 23:37


『青春時代のバイセコー』

548 名前:青春時代のバイセコー 投稿日:2011/11/18(金) 23:38
自転車を押しながら歩く家までの帰り道。
夕焼けに目を細める里保の隣には、衣梨奈がいた。

香音と遊びに行った帰り、駅の近くでたまたま衣梨奈と会った。
中学生である里保の移動方法はお金の掛からない自転車であるが、少しだけお姉さんの衣梨奈は公共のものを使うらしい。
行きはバスだったとあとから聞いた。
歩きだった衣梨奈に合わせて自転車を降り、こうやって話を聞きながら帰路についていた。


住宅街にある坂道に差し掛かる。
そこそこ傾斜もあり、そこそこ長いこの坂は2人の近道。
そのまま上り坂を行こうとした里保を見て、衣梨奈が言った。

「あれ?漕がないの?」

隣を見れば、ニヤニヤとした顔がこちらを見ている。
それを見て里保はムッとした表情を返す。
自分で言うのもなんだが、里保は相当の負けず嫌いだった。
けしかけられたなら、その言葉に乗るしかない。

「漕ぐよ」

降りていた自転車に跨り、ペダルに足を掛ける。

「全然余裕だし」

力を込めてその足を踏み込んだ。
549 名前:青春時代のバイセコー 投稿日:2011/11/18(金) 23:38




「ねー降りたら?」
「…っ、いや…大丈夫…!」

余裕でしょという表情で言ってみたが、衣梨奈のリアクションを見る限り、繕えてはいないのだろう。
秋だというのに、少し汗を掻いていた。

衣梨奈の挑発に乗り、最初は飄々と漕いで見せたもののすぐにペースはダウン。すぐに立ち漕ぎに切り替えた。
が、一生懸命漕いでいるのに里保の自転車はまだ中腹を過ぎたあたりだった。

ちょっと、舐めていたかもしれない。

隣を歩く衣梨奈の方が普通に速いと思う。
合わせてくれてるから2人の差はないのだけど。

「しょうがないなー」

ぽつりと衣梨奈が呟いて里保の後ろに回る。

「な、に…すん、の…?」

息も絶え絶えで聞いた言葉のあと、自転車がふと軽くなる感覚がした。
首を捻って後ろを見ると、衣梨奈が自転車の荷台を押している。

「い、いよ…!」
「いいからいいから。ほら、前向いて」

宥められ渋々前を向く。

悔しかった。見栄を張った手前。
でも降りて諦めるよりかは幾分かマシかもしれない。
それに、正直助かる。
550 名前:青春時代のバイセコー 投稿日:2011/11/18(金) 23:39
「がんばれー!」

楽しそうに応援をする声が背中に掛かる。
どこか気の抜けるような声で力んでいた体が解けていく。

「そんな声じゃ頑張れないよ」

照れ隠しに出た言葉も、衣梨奈は「えぇー」と笑うだけだった。
あんなに重かったペダルも、おかげさまで大分軽い。
里保の顔に笑みが浮かぶ。

「ほらっ、あとすこし!」

ペダルを踏む。
衣梨奈が駆ける。
車輪が回り出す。

勢いのついた自転車は先ほどまでとは打って変わって快調に上っていく。

そしてあっという間に坂のてっぺんまで到達する。

「つ、ついたあ…!」
「やったぁー!」

手を借りたとはいえ、達成感があった。
自分のことのように衣梨奈が喜んでいる。
「ありがと」と告げると衣梨奈は持っていた鞄を自転車の籠に突っ込んだ。

ハテナ顔で衣梨奈を見る。
笑顔で里保を見ていた。
551 名前:青春時代のバイセコー 投稿日:2011/11/18(金) 23:39
衣梨奈がひょいと荷台に飛び乗る。
ぐらりと揺れた自転車。
必死でバランスを取ろうとする里保の腰にするりと腕が回った。

「っ、ちょっと」
「しゅっぱーつ!」

衣梨奈が地面を蹴った勢いで自転車は走り出す。
走り出したら止まらない。
そしたら、しょうがない。

再度ペダルに力を込めた。

里保の長い髪の毛が風に靡く。

順調に漕ぎ出したところで、里保は疑問という名のささやかな抵抗を言葉にした。

「てか、体格的に逆じゃないの?」
「ん?」
「私の方が小さいんだから、そっちが漕いでよ」
「里保の自転車だからこれでいいの」

ぽんぽんと背中を叩く手に妙に納得してしまう。
太ってるわけでもないからいいかと結局許してしまった。

なんだかんだで、里保は衣梨奈に甘い。
552 名前:青春時代のバイセコー 投稿日:2011/11/18(金) 23:40
「じゃあ下ったら里保と交代してあげるから」
「約束ね」
「うん、約束」
「でもその隙に漕いで逃げるけどね」
「えぇーひどーい」

でも少し意地悪だったりする。
そして、
なんだかんだで、衣梨奈は里保に優しい。


目の前にはさっき上った分と同じだけの下り坂。
「飛ばせー」と呑気な声が里保を煽る。
腰に回った手がくすぐったい。

「漕がなくても坂道なんだから加速するよ」


頬を切る風は少し冷たい。
きゃーと騒ぐ後ろがうるさい。
背中に伝わる熱はすごく暖かかい。


家までもうすぐなのが惜しいなと思った。


553 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/18(金) 23:41


『青春時代のバイセコー』おわり

554 名前:おい しい も の 投稿日:2011/11/19(土) 15:11


落ち葉で焼き芋。
そんなベタなこと、一生縁がないと思っていたけれど。

里保は、ボーッと現実味のないままに積み上げられた落ち葉を見つめていた。

黄色茶色山吹色、赤くて緑で黄色いですね。
自然から生み出される色の鮮やかさはなんなんだろう。
そもそも紅葉で葉っぱが赤とか黄色になるのってどうしてなんだろう。

「里保ちゃん、はい!」

一見冷たそうにも見える考え事中の里保の様子など何のその。
満面の笑みで腕に抱えたさつまいもを見せるように突き出す香音。

今回の焼き芋の発案者である香音は、一目見た時からきっと明るくて面白い子なんだろうと感じていた。
引っ込み思案で人見知りな里保は仲良くなれないと思っていたのだけれど、
何だか結局、こんな風に臆さぬ性格に救われている。
時に強く手を引いてくれる。時に振り返って気にかけてくれる。
この子は明るいだけなく、優しいんだ。

「好きなのえらんで!それがMYおいもだからね!」
「え」
好きなの、と言われても。
大きさも色もさほど変わらない大量のさつまいもに決めかねる。
普段はやっぱりちょっとよくわからない香音のテンション。

「ほらほら〜」
「えー?何でもいいよぉ…」
「なーに言ってんの!おいも選びは重要だよ!」
「同じじゃん」
555 名前:おい しい も の 投稿日:2011/11/19(土) 15:12
戸惑う里保のその横から腕が伸びる。
ひとつの芋を香音の腕から引き抜いたのは衣梨奈だった。

「えりなこれ!絶対これ!」

里保には衣梨奈がその一本にこだわる理由が全くわからなかったが、
その隣あたりにあった芋をじゃあ、と引き抜いた。

すると何故か衣梨奈はそれもいいなあ、とじっと里保の持つ芋を見つめてくる。
里保はじゃあ交換する?と衣梨奈に尋ねるが、じっと二本の芋を見比べた後、
やっぱりこれがいい、と最初に選んだ芋を大事そうに抱えた。
…全くわからない。

衣梨奈と知り合ってあと数ヶ月もすれば一年になるのだが、
彼女の言動も、感情の起こるタイミングも未だに読めない。
正直、時々、いや結構頻繁にめんどくさい。

ただ、素直に笑って泣いて怒っている衣梨奈は里保にとって少し眩しい存在でもあったりする。
自分が選んだ芋をじっと眺めているけど、他と比べて何がどうか、
そんなの考えたこともないし、衣梨奈のように考えることはこの先もない。

「さすが生田さん、お目が高い。…そう、それはあたしが狙ってたおいもだー!よこせー!」
器用に芋を片腕で抱えながら、空いた右手で衣梨奈の芋を取ろうとする香音。
「やーだよ!もうえりなのだもんねっ」
それを結構真剣に逃げて回る衣梨奈。
里保には全くわからない次元の争いだが、何だか楽しそうで素直に羨ましい。
そしてとても楽しい。
里保は衣梨奈に盾にされて二人に挟まれながら笑った。
556 名前:おい しい も の 投稿日:2011/11/19(土) 15:12
「かのんちゃーん!アルミホイル忘れてるよー」

随分と遠くから聞こえて来るおっとりした声に三人とも振り向く。

「あっ、ごめーん!ありがとみずきー!」

この一般的な家よりもかなり大きい部類に属する家に住むのは、このおいも会発案者の香音、ではない。
今、アルミホイルとバケツを抱えて小走りで向かって来る聖の自宅である。

何を隠そう、おいも会発案者の香音はハナっから聖の家を会場にするつもりでの話だったのだ。
焚火をするに充分な落ち葉があるほど敷地内に木が植えられており、
火を扱っても危険のない充分なスペースが確保できるという非常に合理的な理由。利用しない手はない。

香音のおいも会の発案にも、会場の提案にも真っ先に二つ返事なのは聖だった。
聖がお嬢様育ちと言うのは何となく普段の物腰や価値観の違いから理解できる。
そういう、いわゆるベタなものに聖は非常に興味を示した。
4人で行われた学校帰りの寄り道でさえ、最初はそれはそれは驚きと感動の連続だった。
しかし育ちを鼻にかけない聖の素直で感動屋な性格ゆえであると知っているから、
誰もそれを嫌がったりはしなかった。

ちなみに言うと、今回の主役の芋は里保の知っているそれより小さく、形が丸い。
聖が家にあるものを用意してくれた時点で恐らく高いのだ。芋にもランクはきっと存在する。
557 名前:おい しい も の 投稿日:2011/11/19(土) 15:12
4人で各自芋をアルミホイルに包みながら聖は目を輝かせる。
そして、じゃんっ、と細長い鉄の串を取りだした。
「これがあると上手く火が通るんだって!インターネットで調べたの!」
「へー知らなかった!漫画と全然違うね」
「漫画だからね」

香音の能天気な発言に思わず突っ込んでしまった。
飛び出すように言葉が出てくるのも香音だからなんだけど。
里保の言葉に、香音はへへっ、と目を半月の形にして笑った。
里保はその笑顔が大好きだった。

「それでねっ、たき火で火がついてる時の温度は
 でんぷんを上手く糖分にするには温度が高すぎるんだって」
「え?」
聖がきらきらとした目のままに言いだした言葉に全員が顔を上げた。

「だから燃え尽きて灰になった状態の中に一時間程度置いておくの、
 そしたらあまーくっておいしく出来るんだって」
「えー!長いよー!」
香音が不満の声をあげた。
なんというリアリストなお嬢様。インターネット信者。

「え、でもおいしい焼き芋食べたいよ!」
衣梨奈が至極普通のことを大きな声で真面目に言った。
だけど、里保も同意見。小さく頷いてみた。
香音も意見は同じ。しかし時間がかかる。大きな相反する二つの問題に、うわー、とオーバーに頭を抱えた。

「どうしたらいーのー!お腹ぺっこぺこだよ!待てないよ!」
「まあまあ」
ここぞという時にお嬢様育ちの『自分の意見が通って当然力』を発揮する聖は落ち葉に火をつけ始める。
558 名前:おい しい も の 投稿日:2011/11/19(土) 15:13
カサカサに乾いた落ち葉ではなく火のつきはあまり良くないので、小枝なども集めている。
乾いたものが良く燃えて、最初は弱かった火もだんだんと強くなり、冷えていた外の空気に熱が加わる。

「わあっ!あったかい!けど近くだと熱い!」
香音が大騒ぎ。
衣梨奈はあったかくて熱くない、そんなたき火と自分のベストの距離を探している。
里保は聖と一緒に笑って見ている。少し冷えた手をぎゅっと握り合い、その反対の手は時々火にかざした。

「よしっ、そろそろいいかなぁ」
「あっ、え?こんなんでいいの?弱くない?」
「多分。焼き芋のベストの温度は60度らしいから…」
「60度ってどのくらい?」
「かのんちゃん触ったらわかるよ!」
「えりなが触りなよー!」

4人でたき火を囲み、火が弱まってきてから各自鉄の串に貫かれた、何だか仰々しい芋を持つ。
衣梨奈が剣のようにして真剣な顔をしてポーズを決める。
改めて普通にしていると本当に美人だと里保は思った。自分とは正反対の大きな目。
しかしやっていることが非常に危なっかしくて、だからこそ、衣梨奈だった。

「じゃーおいも入れますよー」
「はーい」
「よーしっ」
「うわー」

「「「「せーのっ」」」」

鉄の串を上手く使って灰の中に芋を入れる。
衣梨奈と香音と聖と、3人ともが自分の芋にこだわって、鉄の串の延長線上に4人で位置した。
里保も鉄の串の先にある自分の芋を思った。なんだかとてもわくわくする。
559 名前:おい しい も の 投稿日:2011/11/19(土) 15:13
4人で囲むたき火の温かさも火が燃えている時より丁度よい。
たき火の周りに腰掛けて、いつものように話が盛り上がればあっという間の一時間だった。
途中何度もまだ?まだ?と急かし逸った香音をしっかりと制した聖の合図で一斉に芋を取りだす。

「おいもー!」
「やっと会えたねー!」
「あっつい!」
「あっつ、あっつい!」

軍手をしてもなお非常に熱いアルミホイルを何とか剥がすと、強く香ばしい香りと甘い香りがした。
アルミホイルの内側は蜜が染み出していて、見るからに甘そうだ。
見ているだけで口の中が早く、と求め出す。
半分に割ると、トロッとした濃い黄色の芋から湯気が勢いよく上った。

「何これ!全然いつものと違う!超美味しそう!」
「熱いこれ絶対熱いよね!」
「でも早く食べたいー」
「あっく!!!あくいあくい!!!」
「かのんちゃんもう食べてるし」
「ちょっと大丈夫?」
口を押さえて涙目になっていく香音にペットボトルのキャップを外して飲み物を差し出す。
一気にごくごくとお茶を飲むと、ぶはぁっ、と盛大に息を吐いた。

「ありがとー。ヤバい、火傷した」
「もーかのんちゃん焦って食べるからだよ」
「でもおいしい!」
560 名前:おい しい も の 投稿日:2011/11/19(土) 15:13
香音を咎めながらも、里保も待ちきれない気持ちでいっぱいだ。
少しずつ、何度も息を吹きかけて冷ましながら小さく一口。

「美味しい!」
口の中にトロッとした舌触りと想像以上の甘みが広がって、香音と顔を見合わせた。
香音も恐る恐る二口目に挑む。
聖も衣梨奈も少しずつ口にして、同じように声を上げた。

「おいしい!」
「あまーい!」
「ヤバい!おいしい!」
待ちに待った分おいしさも幸せもひとしお。
夢中になってほおばった。

食べるのに集中して無言にもなりかけたその時に。

「おいもって、おいしいものの略なんじゃないかなぁ!」
衣梨奈がすごい発見をしたと言わんばかりに大きな声で言いだした。
里保がえっ、と気を取られていると。
561 名前:おい しい も の 投稿日:2011/11/19(土) 15:13
「ふふっ、そうかもしれないね」

聖がとても嬉しそうに柔らかく微笑んだ。

「うん」

里保も甘さと温かさに包まれて、頬がほころんだ。
多分、いや絶対、4人だからこんなにおいしくて、幸せ。

「おいしーね、ほんとに」
「うん…って、ちょっとかのんちゃん!」
「え?」

「…ふっ、ふふ、あははっ」
「あはははっ」
「んははっ」
「え?なになにー?」

頬に芋がついている香音を見て、皆で大笑いをした。
里保もひときわ大きな声をあげて涙が出るほど笑った。


高い秋の空に響き渡った少女たちの笑い声が煙のようにずっとずっと遠くまで上って行った。


562 名前:おい しい も の 投稿日:2011/11/19(土) 15:17

終わりです。

野焼き禁止などの条例もあるのでたき火の際にはご注意ください。
そして、安全に、安心して焼き芋が出来るような生活が少しでも早く戻りますように。
563 名前:マノサンポ 投稿日:2011/11/19(土) 16:25
仕事が終わり家路に着いた。
普段はママが駅まで迎えに来てくれるけど今日は事情があって来れないみたい。
そんなことめったにないから面倒な反面、嬉しくもあった。
車で通る景色と徒歩で通る景色はまるで違う。
もしかしたら今日は新たな出会いがあるんじゃないかと胸を踊らせた。
564 名前:マノサンポ 投稿日:2011/11/19(土) 16:26
電車から降りて、駅から離れる。
路地に入ると、初々しい中学生のカップルが視界に飛び込んできた。
ぎこちなく手を繋いでる二人。
そんな姿がとても微笑ましかった。
20歳にもなるとさすがにそんな恋愛できないな。
そう心の中で呟いた。
この二人の恋の結末は私には、いや彼らにもわからない。
ただひとつ確実にわかることがある。
別れに向かって1秒1秒近づいてるということ。
それが明日なのか50年後なのかはわからないけど。
565 名前:マノサンポ 投稿日:2011/11/19(土) 16:27
そんなことを考えていると、見知らぬ細く暗い道を歩いていた。
さすがに道に迷うのは、出会いとは言えない。
とにかく見たことのある目印が辺りにないか見渡した。
だけど何も見つからなかった。
困り果てた私は何屋さんかはわからないけどその店の前に立ってるお年寄りに道を聞いた。
すると老人は
「お嬢さんは何か重大な秘密でもお持ちですかね?」
と答えた。
私は突然の問いかけに驚いた。
秘密か・・・・・・・・
A secret makes a woman woman.
という漫画に出てくるセリフを思いついた。今は関係無いけどね。
もちろん私にも秘密はある。
というより誰にだって秘密はあると思う。
それを聞いてこの老人はどうするつもり何だろう。
好奇心が私を突き動かす。
「それを聞いてどうするんですか?」
「買い取ります」
「えっ!?」
「それを担保にお金を貸すこともできます。どうですお店に来ませんか?」
「はい…」
秘密の質屋みたいなものなのかな。
とにかく気になる。
私は老人に連れられ店内に入った。
566 名前:マノサンポ 投稿日:2011/11/19(土) 16:28
出入り口脇のガラスケースの中を覗くと、そこにはノートや短冊、巻紙などが飾ってあった。
それぞれに名前と値段が書いてあった。
値段はバラバラで1000円のものから高いのは30000円もするものもあった。
「これはなんですか?」
私は尋ねた。
「期限が来てもお金を返さなかった方の秘密です。わかりやすく言うと質流れ品です。」
黙って頷いて物色した。
もしかしたら知り合いの秘密があるかもしれない。

予感は的中した。
しかも驚くべき人物の名前があった。
私の憧れの、憧れ以上の感情を抱く先輩、矢島さんだ。
値段を見ると20,000円だった。
なかなか高価な秘密。
どんな秘密何だろう。
気になって仕方なかった。
567 名前:マノサンポ 投稿日:2011/11/19(土) 16:29
即座に買おうとしたけど思いとどまった。
もしかしたら知らない方が良いものかもしれない。
彼氏がいるとか
鈴木さんと付き合ってるとか
私のことが嫌いとか・・・

待って
私の暗黒面が語りかけてくる。
『秘密を握れば舞美は振り向いてくれるよ!』
その言葉に私は同調した。
付き合えるなら手段は選ばない。
そう思えるぐらい私は矢島さんが好き。
それに私の哲学は過程より結果を重視する。
普通の女の人は過程を重視するみたいだけど、私は違う。
だってどんな素晴らしい過程を歩もうが結果がともわないと意味が無い。
芸能界も人生も結果すべてだと思ってる。
568 名前:マノサンポ 投稿日:2011/11/19(土) 16:30
私は老人に20,000円を渡し、短冊を受け取ると店を出た。

小さい短冊がズシリと手に重みを与える。
まるで私に見るなと訴えかけるように。
矢島さんの想いがそうさせてるのかもしれない。

矢島さんが売った秘密。
今思うとお金に困ってる訳でもない矢島さんが何で売ったんだろうか。
もしかして秘めた想いを昇華するために売ったのかもしれない。
それが何なのかは見ればすぐにわかることだけど。
だんだん怖くなって見れなくなった。
私が軽い気持ちで見ていい代物ではない気がしてきた。
569 名前:マノサンポ 投稿日:2011/11/19(土) 16:30
何の解決にもならないのに矢島さんに電話かけた。

「どうしたの?真野ちゃん」
電話越しでも透き通るような綺麗な声だ。
「あの・・・」
「元気ないね。なんか嫌なことあった?私で良かったら相談乗るよ!」
「矢島さんには秘密ってありますか?」
ストレートに聞き過ぎて後悔した。
矢島さんは数十秒沈黙した。
「なっ何でもないです!忘れてください!」
「あるよ・・・」
「えっ!?」
突然答えてくれた。
「今は誰にも言えない秘密があるんだ。でもそれはいつかちゃんと話したいと思ってる。」
私はその秘密を買ったのか。
そして知ることが出来る。
「でもね、そのタイミングは今じゃないんだ。だから今は忘れることにした。なんか変なこと言っちゃった私。」
もしかしてその言い方から察するに『恋』に関することなのかな?
「そんなことないですよ!今の言葉で元気が出ました。」
「そう?今ので?やっぱり真野ちゃん変わってるな〜」
矢島さんはそう言って笑っていた。
570 名前:マノサンポ 投稿日:2011/11/19(土) 16:31
電話を切った私は秘密が書いてある短冊を丸めて川に投げ込んだ。
矢島さんの想いは私なんかが知る権利はない。
ゆらゆら流される秘密を眺めながら私はなんとなく良いことをした気がした。
誰かに買われる前に私が守って良かった。
買ったときの動機は関係ない。
だって結果がすべてだから・・・
571 名前:マノサンポ 投稿日:2011/11/19(土) 16:32
終わりです
572 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/19(土) 23:02


スチューデントティーチャーって言うらしい

573 名前:スチューデントティーチャーって言うらしい 投稿日:2011/11/19(土) 23:03
月曜日
朝学校に行くと、クラスのみんなが少しはしゃいでいた。
聖に何があったのか聞くと、今日から教育実習生が来るらしい。便乗して私も浮かれてみた。
8:45。担任が若い女性を連れてやってきた。小柄な女の人だった。
豆みたいに顔が小さいなというのが第一印象だった。化粧が気合入ってるなとも思った。
豆みたいな女の人が黒板に名前を書いた。ドラマで見る女優さんと同じ名前だなと思った。
もしかしたら親戚なのかなと期待した。
「にいがきりさ」と女の人は言った。期待は外れてしまった。


火曜日
職員室の前で昨日の女の人に会った。昨日より薄いメイクだった。こっちの方がかわいいと思った。
「おはようございます、アラガキ先生」「ニイガキです」笑顔で訂正された。
「ちゃんと覚えてね生田さん」先生が私の名前を覚えてくれていた。真面目なんだなと思ったのと同時に少し嬉しかった。
放課後廊下で大量のノートを抱えていたニイガキ先生を手伝った。いい子だねと褒めてくれた。


水曜日
ニイガキ先生の担当教科は国語だった。漢字は覚えればいいし文章問題は探せばいいだけだかららしい。
反対に英語が苦手だと言った。黒板に『bey bey』と書いていた。バカなのかと思った。
昼休みのお弁当を一緒に食べた。玉子焼きをあげると喜んでくれた。
574 名前:スチューデントティーチャーって言うらしい 投稿日:2011/11/19(土) 23:04
木曜日
隣のクラスの里保がやつれていた。どうしたのかと聞くとニイガキ先生と
同時期に来た里保のクラスを担当するもう一人の教育実習生が厄介らしい。
覗くとかわいらしいすらりとした女の人がいた。名札に書いてある名前は読めなかった。
ミチシゲと読むらしい。ドウジュウかと思った。
里保がミチシゲ先生に捕まったので私は教室に戻った。ニイガキ先生が笑顔で迎えてくれた。
ニイガキ先生でよかったなと思った。


金曜日
小テストの点数が悪かった私は居残りをさせられた。新垣先生が一緒に残ってくれた。
誰かのお世話をすることが好きだからと教員を目指した理由を話してくれた。目がキラキラしていた。
帰り際おさらい用とプリントを渡された。新垣先生の手作りだった。
特別だからねと新垣先生は声を潜めた。なんだかワクワクした。


土曜日
家に遊びに来た里保に愚痴をこぼされた。ミチシゲ先生が怖いらしい。
怒るの?と聞くとそうじゃないと首を横に振った。里保は更にやつれていた。
まあ食べなよとクッキーをあげた。しゅわしゅわしたいとわけのわからないことを呟いていた。


日曜日
聖の家に遊びに行った。相変わらずお菓子が豪華だった。聖はミチシゲ先生と仲良くなった話をしていた。
里保は怖いと言っていたと告げるとそんなことないよと反論された。
ミチシゲ先生がよくわからなくなった。ふと新垣先生はどうしてるだろうと思った。
575 名前:スチューデントティーチャーって言うらしい 投稿日:2011/11/19(土) 23:05
月曜日
2日ぶりに会えたのが嬉しくて新垣先生に抱きついてしまった。
何か言われるかと思ったが、新垣先生は笑っているだけだった。
プリントを忘れたと言うと少し怒られた。しょうがないなと言う表情で私の頭をぽんぽんと叩いた。
聖が羨ましそうにこちらを見ていた。


火曜日
昼休みに職員室に遊びに行くと新垣先生とミチシゲ先生が飯田先生と話していた。
2人とも退屈そうな顔をしていた。ふとミチシゲ先生と目が合った。ジェスチャーでやれやれと言っていた。
ミチシゲ先生と気が合いそうな気がした。新垣先生は真面目に聞いている振りをしていた。


水曜日
移動教室の時廊下で里保に会った。何かに怯えてるようだった。そのすぐあとに道重先生と会った。
里保はどこにいるのか聞かれた。教えるとそそくさとそちらへ向かった。あの人は何をしてるのだろうと思った。
居残りが終わり帰ろうとしたら雨が降っていた。立ち往生していると新垣先生が傘を貸してくれた。
先生はどうするのかと聞くと折り畳み傘があるからと笑っていた。
「生田ー風邪引くんじゃないよー」新垣先生が手を振った。さん付けが取れてて少し嬉しかった。
576 名前:スチューデントティーチャーって言うらしい 投稿日:2011/11/19(土) 23:06
木曜日
新垣先生が休んだ。どうやら風邪を引いたらしい。私のせいだと思った。
新垣先生もウソをつくんだなと思った。優しさは嬉しかったけど居ないことは寂しかった。
代わりに道重先生と話してみた。かわいい子が好きらしい。やっぱり気が合いそうだと思った。
里保との話で弾んだ。そのことを里保に言ったらしかめっ面をされた。
なんだか一日が遅く感じた。


金曜日
担任が今日で最後だと言った。何のことかと思ったら教育実習の期間だった。すっかり忘れていた。
新垣先生はいつも通りだった。最後の授業も呆気なく終わってしまった。
一昨日のありがとうと昨日のごめんなさいを言いそびれた。
「楽しかった人ー?」帰りの会で新垣先生が幼稚園の先生みたいにみんなに聞いた。
誰よりも高く手を挙げた。「ありがとう」と言った新垣先生の声は少し掠れていた。
別れ際「bey bey」とからかうとくしゃくしゃに頭を撫でられた。涙が出そうだった。



土曜日
返せなかった新垣先生の傘だけが残った。
577 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/19(土) 23:07


スチューデントティーチャーって言うらしい おわり

578 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/21(月) 04:28
愛ガキです。
センチメンタル愛ちゃん。
579 名前: 投稿日:2011/11/21(月) 04:30
卒業後、一人で立つ大きな舞台。もう助けてくれるメンバーはいない。一人で歩いていかなければならない。
そう思っていたけれど、共演者、スタッフ、沢山の素敵な出会いがあった。

そんな素敵な人たちと作り上げてきた舞台も本番まで残り一週間を切り、稽古も佳境を迎え、今まで以上に気合が入る。
今までとは勝手が違うし、壁にぶつかることもあるけれど、みんなと共に作り上げていく舞台。
やっぱり演技は楽しくて、毎日、充実しているなあって思う。

ただ一つを除いて。
580 名前: 投稿日:2011/11/21(月) 04:32
家に帰ってきて、たまたまつけたテレビに写った見慣れた顔。
そこにいるのはつい先日まで一緒に活動していた仲間たちだった。
卒業してもうすぐ二ヶ月が経とうとしているのに、自分があの中にいないというのはやっぱり不思議な感じがして、
一抹の寂しさを感じたが、それよりも、日々成長している後輩たちを誇らしく思った。
そして、なにより心馳せるのは、小さな体でみんなを引っ張っている同期の姿で。
581 名前: 投稿日:2011/11/21(月) 04:33
りさちゃん、元気かな?

お互い大事な舞台を控えていることもあり、忙しい稽古の日々。
それに加えてりさちゃんはモーニング娘。での活動もあり、最近、満足に連絡が取れていなかった。

今まで当たり前のように毎日一緒にいたのに、今では会おうとしないと会えない距離。
その変わってしまった距離間が、二人の関係をも変えてしまうようで、ここ数日、不安が胸に燻っていた。

そんな中、久しぶりに見た彼女の姿。テレビ越しだけれど、元気そうで安心する。
けれども、それと同時に沸き起こってくるのは孤独感。

なんだか無性に寂しくなり、声だけでも聞きたいと、気づいた時にはiPhoneを手にとっていた。
582 名前: 投稿日:2011/11/21(月) 04:36
遅い時間にも関わらず、すぐに繋がったことで幾分か気持ちも上がったが、りさちゃんの声を聞いた瞬間、堪えていたものが溢れでた。
泣いているのを悟られたくなくて黙っていたら、電話口から聞こえくるのは心配そうなりさちゃんの声。

「あいちゃん?もしもし?どーしたの、あいちゃん?あいちゃん?」

このまま黙っているわけにもいかず、一つ深呼吸をして名前を呼ぶ。

「りさちゃん」

一体何日ぶりだろうか、彼女の名前を呼ぶのは。
またひとつ、当たり前だったことを失ってしまったことに気付いて、頬を涙が伝う。

「あいちゃん、だいじょうぶ?どうした?なんかあったの?」

泣いていることに気づいたのだろう。りさちゃんは驚いたように声を上げた。
だけど、あたしは何も言えなくて。

すると、不意に電話口から少し低い、特徴ある歌声が聞こえてきた。
りさちゃんが、あたしの大好きな声で、あたしの大好きな歌を歌ってくれていた。
583 名前: 投稿日:2011/11/21(月) 04:37
心地よく響く彼女の歌声。
それはいつだってあたしを大きく包んで、力を与えてくれた。不安な時には安らぎを。落ち込んでいる時には勇気を。悲しい時には喜びを。
だけど、今は、涙は止まるどころか溢れ出る一方で。
どうしようもなくて、あたしは、ただ、りさちゃんの声を聞きながら泣き続けた。
584 名前: 投稿日:2011/11/21(月) 04:38



「ねぇ、あいちゃん。明日、会えないかな?」

あたしが落ち着くのを待って、優しく紡がれる彼女の言葉。

彼女にはきっと全てお見通しなのだろう。
電話の理由も、涙の訳も。

それならば伝えることはただひとつ。
きっと彼女は「しょうがないんだから」と呆れながらもあたしの我侭なお願いを聞いてくれる。

「ねぇ、りさちゃん、今からうち来て。」
「え、今から!?」
「お願い。」
「もう、しょうがないなあ〜」
585 名前: 投稿日:2011/11/21(月) 04:39
終わり。
586 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/22(火) 20:37
『おそろい』

いしよしです
587 名前:『おそろい』 投稿日:2011/11/22(火) 20:38

きっとあいつは知らないと思う。

何も知らずに喜んで、何も知らずに周りに見せびらかして。
いつの間にか終わってて、気付いた時には傷付けられている。
あたしが勝手に期待して、勝手にがっかりするだけなんだけど。
そうなることはわかっているのに、次は、今度こそはと思ってしまう。

悪い癖。

いつも終わったあとに反省して、傷をなぞっていくように片割れに触れる。
かわいそうに。
相棒に会えなくて寂しいよね。
ごめんな、あたしなんかに拾われちゃったばかりに。
もう少しあたしが……いや、一緒か。
せめてあと1回くらいは会わせてやりたかったなぁ。


お前も今からこいつらと同じ運命を辿るかもしれない。
辿らないかもしれない。
あたしなんかに拾われちゃったばかりに、行き先不安な将来を辿ることになっちゃって。
でもさぁ、仕方ないんだよ。
あたしはそんなあいつを好きになっちゃったんだ。
ほんと、悪い癖。
そんな性格をわかってて、それでも小さな期待を抱いて毎回同じことを繰り返してて。



左の手のひらに置かれた、首にリボンの飾りがついているうさぎのストラップ。
リボンについているストーンがキラリと光るのを見てから、ぎゅっと握りしめてポケットにそのまま拳を突っ込んだ。
これがあたしだから。
これがあたしの表現方法だから。

扉を開けて、あいつがいる楽屋へと足を進めた。

588 名前:『おそろい』 投稿日:2011/11/22(火) 20:38

「おはよ〜」
「おーっす。梨華ちゃん手出してみ」
「手?あ、そういえばね、見て。ネイル新しくしてもらったの」
「かわいいじゃん。似合ってる」
「ありがと」

両手の爪をあたしに向けて、嬉しそうに微笑んでる。
そんな梨華ちゃんがかわいいよ。

「そうじゃなくて、手のひら。出して」
「こう?」


両手を合わせてちょうだいのポーズ。
ずっとポケットに入れっぱなしだった左の拳を出すと、梨華ちゃんの手のひらの上で開いた。
落ちていくストラップ。


いってらっしゃい。
お前はどれくらい持つかな。

589 名前:『おそろい』 投稿日:2011/11/22(火) 20:38

「やーん、かわいい〜。どうしたの?」
「この間ぶらついてたら見つけた。梨華ちゃん好きかなぁって」
「超好きだよーありがとうよっすぃ〜」
「ちなみに梨華ちゃんのはピンク。あたしのは」
「ブルー!色違いだ。そっちもかわいいね」


あたしの鞄についたうさぎを見つけて梨華ちゃんは目を細めている。
色違いのお揃い。
石川梨華の側には吉澤ひとみがいますよってアピール。
気付いてないけど。
何も知らないけど。

それでいい。

それで、いいんだ。

590 名前:『おそろい』 投稿日:2011/11/22(火) 20:39

「アングリー的にはこっちのがよかった?」
「う〜ん、どっちも。でも、よっすぃ〜がこっちをくれるって言ったからピンクで。あたしも鞄につけようかなぁ」


じゃあね。
お前の相棒はあたしんとこでお前に会えるのを待ってるから。
いつでも待ってるから。

梨華ちゃんの手に包まれているストラップを見ながら、あたしは微笑んだ。





591 名前:『おそろい』 投稿日:2011/11/22(火) 20:39

一週間後。
「おはようございまーす」
楽屋で雑誌なんかを読んでいたら、いつものかわいらしい声が聞こえてきた。

「あ、よっすぃ〜」

目が合うと鞄を机に置いて小走りであたしのところに駆け寄ってくる。
それだけであたしの世界が一気に彩りを増していくのがわかった。

さっき梨華ちゃんの手に握られていた携帯。
そこにつけられていたのは、あたしのストラップではなかった。


そうだよね。


気付かれないように視線を落として自分を嘲笑った。
ほら見ろ。
あの女はこーゆーやつなんだよ。

読んでた雑誌を閉じた。
当たり前のように隣に座ってくるこいつがなんかもう……やっぱりかわいい。

592 名前:『おそろい』 投稿日:2011/11/22(火) 20:40

「よっすぃ〜、これこの間のお返し」
「何々?開けていいの?」
「どうぞ。気に入るといいんだけど」

出てきたのは、真ん中にピンクのストーンがついている小さなクロスのストラップ。

「この間出掛けたら見つけたの。ちょうどピンクと青しか残ってなくてね、ハンアンカラーだなって思ったから買ってきちゃった」



それは間違いなく梨華ちゃんの携帯についてるのと同じ形。
色違いのお揃いだった。

梨華ちゃん。
何も知らないから、こんなことができるんだよ。

593 名前:『おそろい』 投稿日:2011/11/22(火) 20:40

「ありがと。すっげー嬉しい」
「よかったぁ、気に入らなかったらどうしようって思ってた」
「その時はこう、んなもんいらねーよ、ポイって」
「ひどーい」
「しないけどね」


ありがとう。
今、最高に嬉しい。

594 名前:『おそろい』 投稿日:2011/11/22(火) 20:40

「それじゃあ今までのこと許してあげようかな」
「今までのこと?」
「アイフォンケース、ブーツとかとか。まだ言おうか?」
「あれはごめんってば。もう、よっすぃ〜の意地悪」
「あはは、だからこれで許すって」


鞄につけたうさぎのストラップ。
アイフォンのケース。
その他諸々、今まではこいつらが相棒を待っていたけど、今回は向こうが待つ番。

お揃いのものが増えていくたびに、あたしはなんか安心する。
マーキング行為みたいなもん。
だから、初めて梨華ちゃんがあたしを縛り付けてくれたような気がして、嬉しかった。
大好きだよ。
もらったストラップを握りしめる。


隣でいつものように他愛もない話を繰り広げている梨華ちゃん。
あたしはその話に相槌を打つ。

いつもと同じ風景。
ただ1ついつもと違うのは、あたしの手のひらには、梨華ちゃんからもらったお揃いのストラップがしっかりと握られていることだった。

595 名前:『おそろい』 投稿日:2011/11/22(火) 20:42
終わりです


前回「嗅覚への刺激」を書かせていただいたものです
レスくださった方ありがとうございました
本当に不安だったので安心しました
596 名前:マノケイバ 投稿日:2011/11/22(火) 20:44
私、真野恵里菜は競馬界の異端児。
個人的には風雲児だけどね。
まあいいや。
既存の勢力が新しい波を恐れて排除しようとするのは長い人間の歴史で繰り返し行われて来たことだから。
何が新しいって?
せっかちだな。
簡単に言うと、予想理論が人とは変わってるんだ。
みんなは予想するときどんなファクターを用いる?
血統?実績?調教?タイム?コース適性?関係者のコメント?・・・
たぶん多くのファクターから複数用いて予想してると思う。
でも私は違う。
たった一つしか使わない。
だって複数用いないといけない予想理論なんて矛盾してるじゃん。
じゃあどんな方法かって?
気になる人は明日の競馬番組にゲスト出演するから見てね。
597 名前:マノケイバ 投稿日:2011/11/22(火) 20:45
「皆さんこんにちは。今週はいよいよジャパンカップですね。もう予想は済みましたか?まだという方は是非この番組を参考にしてください」

アシスタントの女性が台本通りに言った。
この素人女じゃなくて私をレギュラーで使えばいいのに。

「ゲストに真野恵里菜さんがいらっしゃってます。真野さんは競馬がお好きとのことですが、好きな馬はどの馬ですか? 」

お決まりの質問がきた。
私はこの時のために前もって答えを用意していた。

「好きな馬はいません。好き嫌いという感情を持ったら馬券に影響が出るので」

私、かっこいい!
かっこいい女性って同性からも支持されるから、これで人気上がること間違いない。

「はぁ。それだけ真剣に競馬をやっているということですね」

「そうです。勝ちにこだわってます」

あー。早くTwitterのフォロワーの数が見たい。
今の発言で50人は増えたはず。
598 名前:マノケイバ 投稿日:2011/11/22(火) 20:46
「聞いたところによると独自の予想理論をお持ちとか」

「若いのに凄いですね」

男性の予想家が嫌味っぽく言ってきた。
今に見てろと自分に魔法かけてイマジネーションさあ大きく膨らませて♪

「そうです。ちょっと皆さんとは違ってますけど」

「具体的にはどんな理論なんですか?」

来た来た。この時を待ってましたー。
電波に乗せてお届けします。革命を。
599 名前:マノケイバ 投稿日:2011/11/22(火) 20:46
「まず、私は血統、実績、調教などは一切使いません」

「そんなのはありえないですよ!」

他の予想家たちがちゃちゃを入れてくる。
私の独演会を邪魔しないで欲しい。

「皆さんはストレスという言葉をよく耳にしますよね?」

「しますね」

「ストレスというと悪いイメージをお持ちだと思いますが、それは過度なストレスのことを指してるんです。
ストレスは度合いによって意味合いが変わるんです。」

周りの出演者は私の言葉に圧されて黙り込んでいた。

「今言った過度なストレスとストレスのない状態では馬は力を発揮できません。人間だってそうですよね。ガチガチに緊張してたり、気が抜けている時は本来の力は出せません」

続けて私は言う。

「反対に程よいストレスは良い効果を生みます。程良い緊張感とよく言いますよね。わたしはこのストレスを0〜100の指数に表して予想します」
600 名前:マノケイバ 投稿日:2011/11/22(火) 20:47
「なるほど斬新な予想理論ですね。では本日のレースの予想を聞いてよろしいですか?」

「もちろん。任せてください」

私は手元にあるボードを立てた。

「◎しかありませんが・・・」

「私の予想は勝ち馬だけです。勝ち馬以外興味無いので」

いいね!いいよ!私。

「では見解をお願いします 」
601 名前:マノケイバ 投稿日:2011/11/22(火) 20:47
「まず、上位人気馬についてですが、一番人気のピアノバンソウはストレス指数98なので切ります」

「理由は?」

ピアノバンソウを◎にしている予想家が噛みついてくる。

「考えてみてください。ピアノの伴奏がどれだけストレスがかかるか。私もピアノを弾きながら歌うことありますが、その時のストレスは言葉では言い表せないものです。」

「それ馬名じゃないか?」

「何か?」

「だから馬名で判断するのかい?」

「何か?」

「続けてくれ 」
602 名前:マノケイバ 投稿日:2011/11/22(火) 20:48
「 二番人気、三番人気の馬は名前負けしてます。ストレス指数はどちらも85です。私もハロプロ期待の新星とか言われましたがかなりのプレッシャーを感じてました 」

スタジオは静まり返っていた。
さしずめ私の理論の素晴らしさに圧倒されてるんだろう。

「◎のハジメテノケイケンなんですが、この馬は指数30です。もう20走もしているのに『初めて』と言い張るあたりに初心を忘れないという程良い緊張を感じます。私も常日頃奢ってはダメだと肝に銘じています」

よし!後はレースが終わるのを待つだけ。
明日のスポーツ新聞は買い占めないと。

「さぁ、真野さんの予想を聞いたところで出走です」


実況<勝ったのは4番ピアノバンソウ!人気に応えました。


私のストレス指数は100になり、3日間部屋に閉じこもった。
603 名前:マノケイバ 投稿日:2011/11/22(火) 20:48
おわりです
604 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/23(水) 00:38
『おそろい』さんへ
独り立ちするときです!
あなたは最高です!
605 名前:LDQ 投稿日:2011/11/24(木) 18:29



「工藤は本当にしっかりしてるねぇ」



それは前からよく言われる台詞だったけど、この頃更によく言われるようになった。
でも前は特に意識していなかったけど最近は逆に少し意識して、ちゃんと落ち着いて行動しようと
心に決めていた。
そうして少しでも大人に見られたかった。





あの子と離れた年の差を埋めたかったから






606 名前:LDQ 投稿日:2011/11/24(木) 18:31


「あれ?亜佑美ちゃんもスタバ寄ったの?」
「うん。でもそういう春菜ちゃんだって、紙コップ持ってるってことは行ったんでしょ」
「まぁね。今やってる冬季限定のやつが飲みたくてさ」
「さすが東京人。スタバに行き慣れてるって感じだね」




やっぱり同期で年が近いから話しやすいのか、最近よく2人だけで話しているところを
よく見かける。
今日も相変わらず仲良さそうで、そんな2人の姿を見ていると私の胸は小さく痛む。




そんなときふと亜佑美が春菜の紙コップを受け取って、飲もうとしているのが目に入って
私は慌てて2人の元に駆け寄った。
「な、なんかおいしそうなの飲んでんじゃん」
そう声をかけると亜佑美の手が口に触れる寸前で止まって、私は内心ホッとしながらも
それは顔には出さないようにした。





「遥ちゃんも飲む?」
「えっ?いいの?」
「うん。ただ私のは生クリーム少なめにしたし、あと砂糖とかも入れてないからさ、飲むなら亜佑美ちゃんの方がいいかもよ」
「いや、その・・・甘いのはあんまり好きじゃないから」




それは小さな嘘だった、いや嘘というより見栄ってやつなのかもしれない。
とにかく私は春菜の前では子どもぽっいところを見せたくなかった。
亜佑美から紙コップを受け取ると、ゆっくりと口のところまで持っていってから、
キスするみたいにそっとコップの縁に触れた。



607 名前:LDQ 投稿日:2011/11/24(木) 18:32
でも春菜の言う通り砂糖とかを入れてないからか、まだ小学生の私にはそれは少し苦く感じた。
それは顔に出ていたらしく、春菜は笑いながら「やっぱり遥ちゃんにまだ早かったね」と、
言いながら私の頭を軽く撫でようとする。




私は子ども扱いされたのもそうだけど、自分が子ども過ぎることが悔しくて、その苛立ちから
春菜の手を少し乱暴に払ってしまった。
さすがにそれには春菜も目を見開いて驚いた。



でも怒ったり嫌な顔一つすることなく、春菜は逆に「子ども扱いしちゃってごめんね」と
すまなそうな顔をして謝ってくれた。
こんな風に後先考えず行動して、相手に気を遣わせてしまうこと自体、
私はまだまだ子どもなんだなって思う。





私は最近知ってしまった。
どんなにしっかりしていると言われても、絶対大人に勝てるわけがないことに。
どんなに私が足掻いたところで、結局子どもであることに代わりがないことに。




608 名前:LDQ 投稿日:2011/11/24(木) 18:35


「・・・・・・ごめん。ちょっと今のはやり過ぎた」
「えっ?いや全然大丈夫だよ。そんな気にしなくていいからね」
「べ、別にそんな気にしてないよ。それより春菜のコーヒーがクソマズかったから、口直しに何か飲み物買って来る」



私は少し早口でそう言うと春菜達に背を向けた。
そして小走りで自分のバックが置いてあるところに行くと、サイフだけ手に持って
逃げるように楽屋から出る。
後で春菜が何やら言っていたけれど、それは無視することにした。





飲み物を買うというのは、単に楽屋に居づらかったから言った言い訳だった。
でも口の中にまだあの苦さが残っているのも事実で、私は本当に飲み物を
買いに行くことにした。
ただ自販機には着いたはいいけれど、肝心の何を買うかで少し迷っていた。




最初は普通にお茶かジュースでもいいかなと思ったけど、缶コーヒーが視界に入ったら
コーヒーでもいいかなと思った。
さっきは苦くて飲めなかったけど、もしもがんばって飲んだら少しだけ大人に近づける気がして、
私は悩んだ末にコーヒーのボタンを押した。


609 名前:LDQ 投稿日:2011/11/24(木) 18:36
そして缶を取り出していざ飲んでみると、吐き出したくなるくらい苦いし全然おいしくないし、
最悪としか言いようのない味だった。
コーヒーの種類なんて全然分からないから適当に買ったけど、よくよく缶を見たら無糖と
書かれていた。
それはさっきの春菜のコーヒーとは比べ物にならないくらい苦かった。




そんなに大きくない缶なのにこれを全部飲み干すことすらできない。
そのことが悔しくて私は無理矢理ノドに流し込もうとした。
でもやっぱり少しだけしか飲めなくて、あまりの苦さに私はすぐに
缶を口から離すと激しく咳き込んだ。




「ごぼっ!・・・こ、こんな・・・こんなマズいの、飲めるわけないじゃんか!」
私は悔し紛れにそう叫ぶと、力一杯缶を握ってみたけれど僅かにへこませることすら
できない。
まるでお前はどう足掻いたって結局子どもなんだよ、と缶に言われたような気分だった。




610 名前:LDQ 投稿日:2011/11/24(木) 18:37
終わりです
611 名前:カルピスメロンソーダ 投稿日:2011/11/24(木) 19:15


初めまして。お目汚し失礼します。
あやかのんです。
612 名前:カルピスメロンソーダ 投稿日:2011/11/24(木) 19:16




「――花音ちゃん!カルピスかメロンソーダ、どっちがいい?」




不意に声を掛けられて、福田花音は数学の参考書から顔を上げる。

声の主は、花音の同じクラスの友人である和田彩花だ。
優柔不断な彩花は、かれこれ5分近くドリンクバーの前で悩んでいた。


「自分で決めなよー」


苦笑を返すと、花音は自分の目の前に置いてあるコップに手を伸ばす。
氷を入れすぎたためか中に入っていたオレンジジュースは味が薄くてそんなに美味しくない。
私も飲み物入れ替えようかな。誰にでもなく呟いて、花音は席を立った。

ドリンクバーには、未だに飲み物を決めかねている彩花の姿がある。


「まだ決められないの?」
「飲みたいのいっぱいあるんだよー。コーラもどうかなって」
「選択肢増やしてどうすんのよ。余計わけ分かんなくなっちゃうじゃん」


花音は再び苦笑してコップを置くと、カルピスのボタンを押す。
次は氷の量を少なくしておいた。

彩花はそんな花音の様子を見て「花音ちゃんすごいね」と、感心したように言う。


「彩が優柔不断なだけでしょ。ほら、早く決めて。――勉強しにきたんでしょ」


明日から中間テストが始まる。勉強しようと誘ったのは彩花だ。
花音は勉強ができないわけではないが、やらないから点数が上がらない。
たまには真面目に勉強しよう、そう思ってその誘いを受けたが、勉強は全くと言っていいほど進まなかった。

彩花が未だに悩んでいるのを見かねた花音は、隣からメロンソーダのボタンを押す。
あっ、と驚いたように彩花が声を上げる。


「やっぱりカルピスが……」
「もう。あとで私のあげるから」


彩花を引きずるようにして席に座ると、花音は数学の問題集を解き始める。
彩花は英語の単語帳を開いたが、すぐに閉じてしまった。


「ダメ。もうわけ分かんないよー」
「次はちゃんとしようって言ったじゃん。赤点スレスレなの怖いでしょ」


花音は夏休みの補習を思い出して肩を竦める。

ふたりの通う学校は、赤点を取っていない生徒に対しても特別補習を行う。
期末テストで赤点まではいかないが散々な点数を取ってしまったふたりもその対象だった。

彩花もその言葉を聞いて少しはやる気が出たのか、もう一度単語帳を開く。


613 名前:カルピスメロンソーダ 投稿日:2011/11/24(木) 19:17



――彩花が髪を耳に掛ける仕草が綺麗で、花音は思わず見惚れた。


「花音ちゃん?」


その視線に気づいたのか、不思議そうに首を傾げる彩花。
なんでもないよ。そう言った花音の声は少し上ずる。

冷静でいられないのは、好きだからだ。
花音はずっと、彩花に想いを寄せていた。嫌いな勉強だって、彩花となら頑張れる。


「そっか」


そう呟いた彩花は、単語帳に目を落とした。
次はばれないように、花音は彩花を見つめる。

真剣な表情が好き。悩んで困っているような表情が好き。でも、いちばん好きなのは――


「花音ちゃん。カルピスもらっていい?」
「いいよ」
「――ありがと」


この、八重歯をひっかけて笑う表情だった。

彩花は笑顔が可愛い、と花音のクラスで評判だ。
性格は変わっているが、やはりそこは美少女らしく持て囃されたりする。
実際、花音はこの笑顔に惹かれた。


カルピスを飲み終えた彩花は、コップを花音の方へ返すが、見惚れたままの花音はそれを受け取らない。
彩花はもう一度怪訝そうな顔で首を傾げる。


「花音ちゃん、だいじょうぶ?」
「……あ、いや。彩ってやっぱり可愛いなって、思って」


これ以上誤魔化すのも嘘を吐くのも面倒で、花音は正直に思っていることを口にする。

可愛い、なんていう言葉は毎日のように言っている。
――あくまでも、冗談のようにだが。


「そうかな」
「そうだよ。すっごい可愛い」
「んー……彩は花音ちゃんの方が可愛いと思うけどな」


いつも通りの世間話をするように、彩花はさらっと言いのけた。


614 名前:カルピスメロンソーダ 投稿日:2011/11/24(木) 19:17



その瞬間、花音の頬が紅潮していく。
熱くなった頬を抑えるように、花音は両手を添えた。


「なっ、何言ってんの……っ」


ほんとのことだもん。

愉快そうに笑った彩花は、メロンソーダを飲む。

――やっぱり、彩花には敵わない。
照れているのを誤魔化すようにカルピスを流し込んだ花音は、溜息を吐く。


「反則だから、それ」
「ん?」


ねえ。いい加減、気付いてよ。

鈍感で何も気付かない彩花に、花音は心の中で呟く。

好きだと伝えられたら、想いが届くのかもしれない。
少しでも彩花が気付いてくれれば、何かが変わるのかもしれない。


「ふふ。なんでもない」


気付いて。嘘。やっぱり、気付かれなくてもいい。

乙女心の分からない彩花だから、そんな彩花だからこそ――好き、なのだ。


「メロンソーダ、まずくなっちゃうよ」
「あ、うん。今はね、見惚れてた――かのんちゃんに」





「……そういうの良いから、ほんと」


火照った体を冷まそうとカルピスに手を伸ばしたけれど、氷はすでに溶けきってぬるくなってしまっていた。



615 名前:カルピスメロンソーダ 投稿日:2011/11/24(木) 19:18

終わりです
616 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/24(木) 22:43
>カルピスメロンソーダ
読みやすいしとてもキュンキュンしました!
617 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/03(土) 20:05
「あたしがついた最大の嘘」

いしよしです
618 名前:あたしがついた最大の嘘 投稿日:2011/12/03(土) 20:06

素っ気ない態度であしらった。
距離をとって、近づきすぎないようにした。
何も知りませんって自分をごまかしてた。
何も思ってない、迷惑がかかるならこのままでいい。
自分の気持ちを否定していた、あの頃のあたし。

けど、やっぱりそんなの無理だった。

知らないフリは、疲れる。
自分の気持ちなんだから気付かないわけがない。
あたしは、梨華ちゃんが好き。
これが正直な気持ち。

これが、あたしが梨華ちゃんについた最大の嘘。


やっぱりあんたはかわいいよ。
声だって性格だって、仕草の1つ取ってもかわいいよ。
ワガママお姫様なところも、ポジティブとか言いながら実はネガティブなところも、全部かわいい。
大好きにならないわけがなかった。

知ってた?
あたしは何年も前から、梨華ちゃんの虜なんだ。
あの日想いを告げた時、ほんとは逃げ出したいくらい怖かったんだよ。

619 名前:あたしがついた最大の嘘 投稿日:2011/12/03(土) 20:06

「よっすぃ〜」
「何、梨華ちゃん」

また甘い声を出してあたしを呼ぶ。
どうせ大した話じゃない。
けど呼ばれて嬉しいから、すぐに応えてしまう。


たまには一緒にいたい。
ううん、本当は毎日でも。
いつも隣にいられたら。
なんてことを思いながら、体を恋人の方へ向き直した。


「あたしに嘘ってついたことある?」
「あるよ。梨華ちゃんは?」
「ある」
「たとえば?」
「もっとかわいくなるねって」
「あぁ、そのままで十分かわいいから本気にしてなかった」
「ほら、よっすぃ〜に飽きられないようにって言ってたでしょ?」
「飽きるのは梨華ちゃんの方じゃん」
「そうなんだよね。でもよっすぃ〜のためってちょっと嘘ついてた。あの時ね、ただ構ってほしかっただけなんだ」

少しだけ恥ずかしそうにあたしを見上げる。

「こう言ったら、かわいいやつって言って見てくれるかなーって」

あたしにもたれてくる梨華ちゃん。
ひどいな、これでもちゃんと梨華ちゃんのことは誰よりも見ているつもりだけど。
抱き寄せようと左手を伸ばす。
いつもこの瞬間、緊張してしまって。
この手が振り払われないかって考えて。
触れていいのか悩んで、1回空を掴んでしまう自分の左手。

620 名前:あたしがついた最大の嘘 投稿日:2011/12/03(土) 20:07

「好きよ」

甘い声で、幸せそうに言ってくれる。

多分明日も明後日も、これからもずっとこの言葉を聞くんだと思う。
それってさ、これからもあたしの幸せが約束されてるってことだよね。
隣には梨華ちゃん。
うん、幸せ。


あたしはようやく彼女を抱き寄せた。


「そんなよっすぃ〜が好き」


すべてわかっているかのように微笑んでくれる。
まったく、あんたには敵わないよ。


だから、時間よ止まれ。
このままずっと、この笑顔があたしだけのもんになれ。

621 名前:あたしがついた最大の嘘 投稿日:2011/12/03(土) 20:07
終わりです
622 名前:OH MY DREAMを忘れない 投稿日:2011/12/05(月) 00:17


いつかまた、夢の先で。


言葉にして確認するようなことはしなかったけど、それがあたしとあの子の間で交わした約束だった。

あたしの夢とあの子の夢は違う場所にある。
だけどきっと、重なるところにある。
それがわかったあの日、あたしたちは別々の道を歩むことを決めた。

あれから、4年とちょっと。
長かったような短かったような。
振り返ればあっという間なのに、あっという間では振り返れない数々の出来事。
嬉しいことも哀しいこともあった。
でも、全部自分には必要なことだったんだなって、今なら素直に思えるから。
623 名前:OH MY DREAMを忘れない 投稿日:2011/12/05(月) 00:17

だから、ちょっとお休みさせてもらうね。
終わりじゃなくて、お休み。
だってまだ諦めたくないもん。
あたしの夢が叶う日のこと。
いつか夢の先で、二人が再び出逢う日のこと。

たぶん、あの日、あたしたちの“恋愛”は終わった。
電話するだけでドキドキして、メールするだけでワクワクして、顔を合わせるだけでホカホカしたあの頃はもう戻らない。
戻ろうとも思わない。

今のあたしは、誰よりもあの子の幸せを祈ってる。
二人で一緒にいられたあの頃よりも強く、ずっと強く。

他の誰が隣にいてもいい、幸せになってください。

こんなこと、“恋愛”をしてた当時は思えなかった。
無条件で相手の幸せを願うってさ、なんだかすっごく……
…“愛”してるって感じじゃない?

あはっ。
ちょっとダセーか!
624 名前:OH MY DREAMを忘れない 投稿日:2011/12/05(月) 00:18

結局、あれからほとんど連絡取ってない。
あたしはカッコつけで、あの子は頑固なところがあるから、心のどこかで「夢が叶うまで会わない」って約束もしちゃったんだろうね。
それこそ、言葉では確認しないようなところでさ。

でも大丈夫。
あたしは大丈夫。
支えてくれる人がたくさんいて、助けてくれる人、守ってくれる人も大勢いるってわかってるから。
これからは、ちょっと寄りかかってみたりなんかしちゃおっかな。
人間、甘え上手のほうが得だよなーって、ここ数年で思い知らされたかもしんない。



賑やかな宴会、盛り上がる仲間たち。
酔うに酔えないヘンテコな気分。

喧騒の合間に携帯画面をスクロール。
普段の何十倍だよって感じの着信履歴に、読み切れない数の未読メール。
その中に、ちょっと気になる番号発見。
胸騒ぎの11桁が残す伝言メッセージ。
思考停止で、再生キーをポチッとな。

『……今日は、お疲れ様でした』

久しぶりに聞くその声は、あの頃と変わらずのんびりで、だけど流れた歳月をしっかりと感じさせる落ち着きを漂わせていた。


〜了〜
625 名前:やきもち 投稿日:2011/12/05(月) 00:46
りほかの
626 名前:やきもち 投稿日:2011/12/05(月) 00:47
職業:モーニング娘。

とは言ってもまだ中学生の私はみんなと同じように学校に行って、同じように勉学に励まなければならない。
だからといって仕事をおろそかにするわけにもいかないし、まだまだ半人前な私には覚えることが山のようにあった。
その中で勉強時間をつくるのはなかなか難しい。
なので私はよく宿題をもっていって楽屋で勉強をしていた。
残念ながら、普段頼りになる先輩方も勉強においてはさっぱりだったから、こういう時に同い年がいることはありがたかった。
分からないところがあればお互いに教えあえるし、ダンスや歌と同じで、一緒に切磋琢磨して成長していけたらいいなと思っていた。もっとも、大抵の場合、私が教える立場になるのだけれど。
627 名前:やきもち 投稿日:2011/12/05(月) 00:48
その日も楽屋で二人仲良く筆記用具を広げ、数日後に迫った期末試験に向けて勉強していた。
楽屋にはこのあとに控えている仕事のため、先輩方を始め9期、10期とメンバーが勢ぞろいしていた。
いつもは賑やかな楽屋も、今日はみんな書き物をしたり振りの確認をしたりと、それぞれ忙しいようで、割りと静かだ。
衣梨奈ちゃんは相変わらず一人でワーキャー騒いで新垣さんに注意されているけれど。

そんな楽屋の様子を眺めつつ、目の前に座っているかのんちゃんを見やる。
かのんちゃんは、あまり勉強が得意ではないらしく、今も、うーんと唸ったあとペンを止めて考えている。
真剣なその顔があまりに綺麗で思わず見とれていると、急にかのんちゃんが顔を上げた。
628 名前:りほかの 投稿日:2011/12/05(月) 00:53
いきなり目があった私は顔が赤くなり思わず顔をそらす。
彼女はそんなこと意にも介さないようで、いつもの人懐っこい笑顔で私に聞いてきた。

「ねえ、りほちゃん。これってどうやって解けばいいの?」

「また分からないところがあるの?ちょっとくらい自分で考えなよ」

急に話しかけられたのにびっくりして、思わずつっけんどんな物言いになってしまった。
どうしていつもこうなんだろう。
自分を頼ってくれるのは嬉しいのに、どうしてか私は素直になれないのだ。

「だってりほちゃん頭いいじゃん。それに教えたかも上手いし。りほちゃんに教えてもらったところ、すぐわかるよ。」

それに比べて彼女はいつも真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる。
それが少しくすぐったくて、でも心地よくて。

「しょうがないなあ、もう。見せて、どの問題?」

照れ隠しに不機嫌さを装ったらきつい口調になってしまったけれど、かのんちゃんは「やったー」といって笑顔で教科書とノートを広げた。
急に顔の距離が近づいてドキドキする。
それでも平静さを装い、ノートを見みるとまだやったことのない類の問題が並んでいた。
どうしよう。私に解けるかな。
こういう時は焦らずに問題をゆっくり読み返す。応用問題は基本が大切だ。
629 名前:やきもち 投稿日:2011/12/05(月) 00:55
「どう、りほちゃん?」

きらきらした目で見つめられて、また心臓がドキドキし始める。

「ん〜、まだ解いたことない問題だけど、やってみる。」

冷静さを装ってそう答えると、

「そっか。」

と言い、かのんちゃんは私の手元を覗いてきた。
なんだか変に緊張してきたけれど、とりあえず、使えそうな公式をノートに書いていくことにした。
かのんちゃんは「やっぱりりほちゃんはすごいや」なんてつぶやいている。
630 名前:やきもち 投稿日:2011/12/05(月) 00:57
知っているだけの式を当てはめて解いていったけど、なかなか答えにたどり着かない。
そんな私に気を使ったのか、かのんちゃんが心配そうな声で聞いてきた。

「ねえ、分からなかったらいいよ、無理しなくて。明日、先生に聞くからさ。りほちゃんも自分の勉強しなくちゃいけないし」

「大丈夫だよ。これくらい。もうちょっと待って」

せっかく私を頼ってくれたんだ。彼女を落胆させたくない。
そう思いペンを走らせるがなかなか答えが導きだせない。

「あ、そうだ!春奈ちゃんに聞きに行こうよ。高校生だし、きっと教えてくれるよ。」

名案だ、とばかりにそう言うとかのんちゃんはノートを持って一直線に駆けていく。

「えっちょっと待ってよ!大丈夫だよっ」

そう返したものの、かのんちゃんの耳には届かなかったみたいで、すぐに春奈ちゃんと話す声が聞こえてきた。
なんだかそれが嫌で私はもう一度問題に挑戦する。
だけど、二人のほうが気になって集中できない。
なんだか、余計に頭がこんがらがってきたみたいだ。
631 名前:やきもち 投稿日:2011/12/05(月) 00:58
「やっとわかったよ。ここがねこうなってこうなるんだって。さすが高校生だよね。」

しばらくして戻ってきたかのんちゃんは私の気持ちも知らないで一人で勝手に話し始めた。

「へぇ、よかったね。」

なぜだか分からないけれど、無性に腹が立った。

「りほちゃん、怒ってる?どうしたの?」

「別に怒ってなんかないよ。よかったじゃん、分かってさ」

「りほちゃん、何か変だよ。どうしちゃったの」

「なんでもないってば。それより、次の問題やらないと時間、なくなっちゃうよ」

「うん、ごめん」

本当にどうしちゃったのだろう。こんなのちっとも私らしくない。
だけど、どうしたらいいのか分からなくて、とりあえず自分の問題にとりかかる事にしたけれど、その日は全く集中できなかった。
632 名前:やきもち 投稿日:2011/12/05(月) 01:03
終わり。

一箇所名前欄ミスりました。すいません。
633 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/11(日) 20:36
ひとまわり
634 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/11(日) 20:37
高橋がモーニング娘。を卒業してしばらく経ったある日、
鞘師からメールが届いた。
電話番号を教えてほしい、という内容に、
本人の番号が添えてあった。
それを登録してからこちらの番号を返信すると、
すぐに電話がかかってくる。

「……もしもし?」
「鞘師です、こんばんは」
「はいこんばんは、どしたの何かあったー?」

今のちょっと早口だったかな、そんなことを考えてしまうほど、
鞘師の二言目を聞くまでには間があった。

「……あの、急にすみません。
 今お時間大丈夫でしょうか」
「だいじょぶよー。うちにいるし」
「……ほんと急、急なんですけど、
 実は、お会いしてお話したいんですけど」
「え、今から?」
「はい、すいません」
「てか今どこにいるの? 仕事は?」
「レッスンが終わって帰るところで……」
635 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/11(日) 20:39
「お母さんは」
「隣にいます」

隣に、と聞いてベッドにだらしなく寝そべっていた高橋は飛び起きた。
鞘師側では小声でやり取りがあり、予想通り電話は母親に代わった。

レッスンで言われたことについて、娘はどうしても
今日のうちにあなたに相談したいことがあるらしい。
母親でも相談できないと言われ正直戸惑っているが、
夜分遅くに、迷惑なのは承知で、話を聞いてやってくれないだろうか。

という感じのことを、恐らく何度も頭を下げながら言われた。
特に謝ることはないのにこちらも自然と頭を下げていたので、
きっとお母様もそうなのでしょう、と。

「そういうことでしたら、宜しいですよ。
 あ、何でしたらうちに泊まってってくれても構、構いませんですし」

泊まりになったのはこちらからの提案である。
……また、大事なところで噛んだ。
636 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/11(日) 20:42
「その辺テキトーに座ってー」

後ろを付いてきているはずの鞘師に告げる。
鞘師母から、お土産に、と渡された箱は三つもあった。
最も軽い箱を開けてみると、中身はドリップコーヒー。
他にはクッキーの箱とパンの箱。
お茶菓子と朝食といったところだろうか。

「コーヒー、今の時間は眠れんくなりそうやから明日にしよ」
「あの、何かお手伝いを」
「いいから座っててー。あ、ゴメン鞘師! うちには炭酸がない」

ガッカリされると思っていたが返事がないので、高橋は背後を見た。

「……あります!」

そこには、ペットボトルを持ち何故か誇らしげしていた子供の姿があった。
637 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/11(日) 20:44
クッキーを載せたトレイを持って、
キッチンから慣れた歩数を経てテーブルへ。
こちらの動きをずっと見ていたのか、テーブルを前にした瞬間に
鞘師と目が合って、なんとなくニコッと。

「アハ、はい、どーぞ」
「ありがとうございます。ここの食べたことありますか?」
「ううん初めて見たー」
「美味しいですよ! 一緒に食べましょう」
「うん食べるー。で、今日レッスンで何か言われたって?」
「あ、はい、あの、それは嘘なんです」
「はっ!?」
「あ、座ってください」

座る座る、となぜか慌てて向かいの椅子に腰掛ける。
その間の奇妙さ。少しの息苦しさ。
何とかならないものだろうか。
いやそれより今、「嘘だ」と言わなかったか?

「っで、嘘って? なにが嘘なん」
「……はい。あの、特に何か言われた訳じゃないんです。けど」

坐骨神経痛で休養期間があった。
その分を過去の曲の勉強に費やすなどして自分なりに研究してきたが、
復帰してもどう頑張っても「表現」しきれない感情がある。
愛だの恋だの……
わからないなりに考えて「背伸びして」歌って踊っていても、
いつも自信が無いし、本心で納得できていない。
技術的な注意は受けてもその辺については触れられないし、
本当に今のままでいいのかとずっと悩んでいたところに、
追い討ちをかけるかのように後輩が入ってきてしまった。
とても焦っている。
638 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/11(日) 20:47
「なるほど。でもお母さんに嘘吐いたら駄目でしょ」
「そうなんですけど、こんな話できなくて……
 逆に、どう言ったら良かったんでしょうか」
「……そう言われると困るね。
 親に、恋愛ってなーに? とか無理か。
 てか、メンバーは? ガキさんさゆれいな愛佳」
「……ちょっと、なんか、同じグループの人に、
 経験ないんだ……って思われたくないんですよ……」
「超わかる!」

高橋は、この告白に共感し過ぎて感動すら憶えてしまった。
卒業した自分に矢面が立ったことにもあっさり納得。

モーニング娘。に入った時点で恋愛はご法度だが、加入前のことは
どうしようもないので詰問されることはない。
が、入る前にかなり念を押されたせいか、同期の間でもその手の
話題は一切出せない空気になっている。それが過去のことでもだ。

「学校でそんなこと話せないし」

よって、鞘師には今の今まで相談相手がいなかった、という。

「一人で考えすぎちゃったんだね」
「……やっぱり考えすぎですよね」

大方言えてすっきりしたのかそうでないのか、
鞘師は大きな溜め息を吐いた。
639 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/11(日) 20:49
「……これ食べよっか」
「あ、食べます」

クッキーを半分に割って片方を一口で行ってしまった自分に対して、
少しずつ前歯で齧って食べるひとまわり年下の後輩は、非常に愛らしかった。

「いんじゃない、そんままで」
「…………」
「あたし鞘師が急に色っぽくなったらびっくりするもん」

その後輩が、今度は噴き出すのを堪えて口元を手で覆っている。
見なかったことにして、指先に付いていたクッキーの粉を、
予め敷いていたティッシュの上に払う。
後を追うように向こうからも指先があらわれ、親指と人差し指を
擦り合わせている。

顔をあげると思ったとおり、鞘師は自分の手元に気を取られて
こちらを見ていない。
目を見て喋ると威圧的な感じがするから、こういう、見ていない時が
いいかな、と思った。

「納得、って突然起こることもあるんだよ。
 ずっと悩んで駄目ならあとは待つしかないって」
「……そうですね」
「と思うんですけど、どうですか」
640 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/11(日) 20:50
「ん〜……」

鞘師は返答に含みを持たせ、ティッシュの隅で指の腹を拭いていた。

「まだ悩んでる? 考えすぎだって自分でもわかってるみたいだけど」
「いえ、ありがとうございます。もう大丈夫です。
 ……なんか、こっちに戻って来ないかなあーって、思ってました」
「なにが」

すすす、指でおさえられたティッシュがあちらに引き摺られていく。
何となく目で追っていくと鞘師はまたこちらを見ていて、
はにかんでいる。
意味がわからないでもなかったが、高橋は

「言わないんだねえ……」

と言ってはぐらかした。
641 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/11(日) 20:53
何にせよ、話して多少は気が済んだようだし。

レッスン後で疲れているのか、明らかにうつらうつらし始めた
後輩が心配になってきたので、先に風呂に入ってもらった。

その間に母親に電話をして娘の無事を告げて、そしたら世間話に
なってしまい、かなりの長話となってしまった。
布団を敷いておこうと思っていたのだが。

鞘師と入れ替わりで入浴を終えた高橋がリビングまで戻ると、
部屋にゆったりとした音楽が流れていて、テーブルに突っ伏して
寝ている鞘師の姿があった。
やば、と小さく言ってしまった。

「おーいさやしー」

小走りになりながら声をかけても起きない。
近づいて脅かさないようにそうっと肩をゆすって。
やっと頭をあげた。

「もうちょい起きてー」
「……」
「ここどこだかわかる?」
「……?」

眩しそうにしているが、果たしてこの声が聞こえているかどうか。
一緒に活動していた時も、度々鞘師の寝起きには遭遇していた。
鈴木がよく「里保ちゃん起きろー」と言っていたのがもう懐かしい。
意識が覚醒するまでの時間がかなり長いのだ。
642 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/11(日) 20:55
今回は風呂あがりでもあるし、何より親御さんから一晩預かっている
大事な娘さんである。
風邪を引かれるわけにはいかない。客用布団を敷くのは諦めて、
自分のベッドに無理矢理連れて行った。
当然、ごろんと横たわっても自分から布団を被ったりはしないので、
体の下から引っ張り出してきちんとかけてやる。
なかなかの重労働であった。
保護者って大変だ。

リビングに戻ってきた。
まだどこからか音楽が流れていたが、その出所は鞘師の携帯に
入っているアプリだったことを知る。
これは身近に置いておいた方がいいだろう、と、持ってまた自分の
部屋に戻った。

ベッドに近寄って、枕元まで来ると、覗き込む前に声が届く。

「寝てた……」
「起きたの」

とてもゆっくりと、ベッドの中の鞘師が動いた。
多分膝を曲げたのだろう。
表面にクロワッサンのような形の皺が寄った。
もう夜中だしそのまま寝てしまっていい、と告げて携帯を渡す。
643 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/11(日) 20:59
「ちなみにそこあたしのベッドね。それとも、今から布団敷く?」

クロワッサンはブルブル震えた。

「布団冷たい……ヤだ」
「ちょっとー」

今からその冷たい布団の方であたし寝るのに、と笑うと、

「……! さ、鞘師のここ空いてましゅよ!」

突然鞘師が飛び起きた。

「び、ビビッた……。それモノマネか? なんか古いし言えてないし」
「あの、今のナシで……ほんとナシで!
 聞いてくださいわたしまだ、
 一人で寝るのがすごく寂しいし怖いんです。
 眠れなくなるから一緒に寝て欲しいんです。
 あとサインください」

あの鞘師が瞬時に覚醒できるとは、相当切羽詰っている感じだ。
と思ったが最後のお願いはなんなんだ。

「サイン!? あげてなかった?」
「新しい方のサインが出来てたらください」
「ああ、まだなんだよー出来たらあげるよ。
 あと熱逃げるよ布団閉じて待ってな」
「やった……!」

保護者って大変だ。
644 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/11(日) 21:01
またリビングに戻った。
テーブルに放置されていた鞘師のペットボトルを冷蔵庫に入れて……
等々雑務をこなして自室に戻って。
クローゼットから枕をもうひとつ出し、先にベッドにそれを置いたら、
自動的に布団が浮いた。
いや自動じゃなかった。鞘師が待ち構えていただけだった。

「寝たと思ったよ」
「ほんとに寂しいんです……」
「それはごめんね。狭くない?」
「ぜんぜん平気です。広くて落ち着かないのがヤなんです」
「きょーだいと一緒に寝てたんだっけ」
「はい」

こちらではまだまだ一人で寝ることに慣れず、
寂しさを紛らわすために音楽を聴きながら寝ているという。
さっきの曲がそれらしい。

落ち着いて、どうしてテーブルで寝ようとしたのか聞いたら、
申し訳なくてそこでずっと寝ようと思ったと告白されて、
高橋は鞘師を叱った。

「そこは遠慮しちゃ駄目だよ。風呂入ってるからって。
 あたし明日までは先輩じゃなくて保護者として一緒に居るんだから」
「ごめんなさい、なんか、どうしても……」
「でもさ、今日はいつもより子供っぽいよね。
 頼ってくれたしさ。
 さっきとか、ヤだーとか初めて言われたー」
645 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/11(日) 21:04
「…………オヤスミナサイ」

布団に潜る鞘師。

「ぅおいっ、そんな逸らし方あるかあ?」

と言ったら出てきた。

「………………
 今日は本当にありがとうございました。
 あと、生意気かも知れないんですけど」
「なーに」
「先輩じゃなくて保護者って、嬉しいです。
 仕事じゃないんだなって。
 お母さんも、もう一緒に寝てくれなくなっちゃってて……
 ……保護してくれる人は何人いてもいいし」

絶句している間に、鞘師はこちらに背を向けてしまう。
いっちょまえに大人を利用しようとしているのだ、この中一は。
反抗期が来たらウザがる運命なのに。

別にいいけど一言余計だ、と追うように横を向いてその背中に
文句を言おうとしたら、また鞘師がひとまわりして、
今度は向かい合った。
あんまり大きな動きをされると、布団が巻き込まれて体のどこかが
はみ出してしまうのだが。

「あの、もう寝ちゃいますか? ブログの更新とかは」
「あ、そうだ今日書いてない」
「イヒヒ、今だと、『添い寝なう』ですね」
「……そんなこと書きません!」
646 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/11(日) 21:05
ひとまわり/おわり
647 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/11(日) 22:43
高橋&鞘師ってなかなかないですけど、可愛いですね。
読みやすくいのもあって、卒業後の関係性ってのも面白いと思いました
648 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/12(月) 20:41
面白かったです。
649 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/12/13(火) 15:48
なんか普通に有りそうな話で特に何も起きてないんだけど妙に面白かったです
650 名前:盲目 投稿日:2011/12/25(日) 21:20

初めて書かせていただきます
651 名前:盲目 投稿日:2011/12/25(日) 21:21



あなたのことならなんでも知ってる


あなたが頼るのは私だけ


あなたには私が必要でしょ?

652 名前:盲目 投稿日:2011/12/25(日) 21:21
今年に入ってから
℃-uteだけの仕事が少ない

コンサートもイベントも合同になってたりして

他のグループと話す機会が増えた


モベキマスの撮影でも
Berryz工房と一緒の楽屋

いつもより賑やかな空き時間

ふと見渡すと彼女の姿が目にはいる

珍しく誰とも話さずに
携帯の画面とにらみ合っていた

いつもと違う表情に
目を離せられない

どうしたんだろう・・・

653 名前:盲目 投稿日:2011/12/25(日) 21:22


「おーい?舞美ー?聞いてるー?」

「え!?あ、いや、」

突然の呼びかけに
あわてて返事をする私を
気にも留めず千奈美はまた話の続きを始める

彼女を視界の隅にいれながら
千奈美の話を聞いていると
彼女は携帯を閉じて
突然立ち上がり楽屋を後にした

いてもたってもいられなくなって
トイレに行くと言い残して
私は追うように楽屋を出た

廊下にはスタッフさんが忙しくしているだけで
彼女の姿は見当たらない

角を曲がったところにある自動販売機で
ジュースを2本買い再び歩き出す

すると階段の影にそれらしき
人影を見つけた

驚かせようとそっと近づく

654 名前:盲目 投稿日:2011/12/25(日) 21:23


「ごめんね。みんなと一緒にいたかったよね・・・」

彼女の、
悲しげな彼女の声に
思わず足をとめる―――

「いいんです。鈴木さんとのお喋り、大好きなんです。」

聞いたことのある特徴的な声で
すぐに話し相手が誰かを悟った

「それにこうやって鈴木さんが弱いところを見せるのは
 憂佳にだけ、ですよね?」

「ごめん・・・ねっ。かっこ悪いっ・・・よね。」

「誤らないで下さい。憂佳に頼ってくれることが嬉しいです。」

「私、憂佳がいなくなったらっ、どうしたらいいのっ」

そう言って憂佳ちゃんは涙を流す愛理の手を握る

「いつまでも憂佳は傍にいますから。」


その光景に頭を何かで殴られたような、
そんな衝撃を受けた

655 名前:盲目 投稿日:2011/12/25(日) 21:23


「舞美?!大丈夫!?」

千奈美の声でふと我にかえる

気づいたら楽屋に戻っていた

「トイレ長かったし、息切れてるしで、ビックリしたー!」

そう言って笑いながらまた話し出す




愛理が泣いているのをずいぶん見ていなかった

あんな愛理を私は知らない

愛理のことなら何でも知ってるはずなのに

なんで私に相談してくれなかったんだろう

愛理が頼るのは私だけのはずなのに

ねぇ、そうでしょ?
愛理・・・

656 名前:盲目 投稿日:2011/12/25(日) 21:24




「愛理!どこ行ってたの!」

梨沙子の声に思わず反応する

「へへへ〜っ。ちょっとそこまで〜。」

そこにはほんの少しだけ目を腫らした
いつもの愛理がいた



――あぁそうか

愛理が私を必要としているんじゃない

愛理は初めから私なんか見ていなった

ただ、
私に愛理が必要だったんだ




目的を失った2本のジュースを
そっと机の上に置いた

657 名前:盲目 投稿日:2011/12/25(日) 21:25

END

658 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/05(木) 15:16
こちらでは、初めて書かせて頂きます
659 名前:くどぅーの願い 投稿日:2012/01/05(木) 15:17


ある日、魔法をいきなり使えるようになったらどうするか。
660 名前:くどぅーの願い 投稿日:2012/01/05(木) 15:19

何がきっかけか忘れたが、撮影の合間に10期でそんな話をしていた。

「はいはいはーい!衣梨奈はー、ハロショの新垣さんの生写真全部買うとー!」
「あ、それいいねー。
じゃ、聖は売ってるグッズ全部買うよ」
何故か関係ない9期入ってきてるし。
「ふたりに聞いてないし。
てか、欲まみれだし」
「くどぅーひどーい」
泣きマネするフクちゃんの非難はスルーして、『はるなんは?』とフッてみた。
「ええ〜?
やっぱあれかなー、道重さんのこともっと推したいし」
「はい終了〜」
強制終了してはるなんに『ええ〜!?』とおっとり不満の声を上げられてると、まぁちゃんがニコニコして
「雪、ふらす」
と言った。
661 名前:くどぅーの願い 投稿日:2012/01/05(木) 15:21

「は?」
「まぁちゃん雪見たいから、雪降らす」
「寒いだけじゃん…」
なんかがっかりして呟くと、
「いいね、雪!
あたしも見たい!」
ダーイシが嬉しそうに手を叩いた。
そのまままぁちゃんとキャッキャ盛り上げる。
まったく、北国の人間は。
雪なんか今まで散々見てきただろうに。
はるなんも、ニコニコして見てる。
同期の年上ふたりは、まぁーちゃんに甘い。
リアルに妹みたいなんだろうな。
「あんたたちは佐藤に甘いねー」
たまたま通りかかった新垣さんが、苦笑するように言った。
「くどぅーにも甘いですよ」
ダーイシが余計なことを言ったので、腕をパシンと叩く。
新垣さんはまた苦笑いして、スタジオの中に入って行った。
662 名前:くどぅーの願い 投稿日:2012/01/05(木) 15:23

それは撮影の後だった。

まぁちゃんがスタジオから出て来た田中さんと、廊下でぶつかったのだ。
田中さんはジロッとまぁーちゃんの方を見たが、何も言わないで足早に歩いてった。
「ちょっと!ちゃんと周り見ろって田中さんに前に言われたでしょ!」
「ごめんなさい」
「謝るんなら、はるじゃなくて田中さんにすぐ謝んなよ!」
「はぁい」
「大体まぁちゃんは!」
今までたまってた不満を全て吐き出した。
たまたまその場に居合わせた、えりぽんとかフクちゃんもオロオロしてたけど、構わず怒鳴る。
ありえないくらい不思議ちゃんだし、手の焼ける子だし、挨拶もなんかおかしくてズレてるし。

「ポクポクポクポク言ってんじゃないよ!」
「まぁちゃんそんなポクポク言ってないもん」
「勝手にすれば!」
勢い余って外に飛び出した。
663 名前:くどぅーの願い 投稿日:2012/01/05(木) 15:24

吐く息がとんでもなく白い。

どんだけ寒いんだ。
見上げた空も、どんよりと曇ってる。
こんな芯から冷える日は、心も冷えてくる。
かじかむ指に息をふきかけて、わずかなぬくもりを得る。
664 名前:くどぅーの願い 投稿日:2012/01/05(木) 15:25

まぁちゃん、雪が見たい。


ああ、ちょっとサトゴコロってやつが出てるのかな。
ちょっとでいいから、降らないかな。
降るとまた寒いけど。
665 名前:くどぅーの願い 投稿日:2012/01/05(木) 15:26

その時。
顔に、冷たくて濡れたものがかすった。
666 名前:くどぅーの願い 投稿日:2012/01/05(木) 15:27

雪だ。
ひらひらと、うすい氷のかけらみたいなのが空から落ちてくる。
「雪だねー」
気が付くと、いつの間にかまぁちゃんが隣にいた。
「内地の雪は、すぐとける」
「ナイチ?」
「北海道は、本州をそう言うの」
「ふうん」

とりあえず、願いはかなったようだ。

667 名前:くどぅーの願い 投稿日:2012/01/05(木) 15:29



おわり
668 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/10(火) 14:53
「月が綺麗ですね」

いしよしです
669 名前:月が綺麗ですね 投稿日:2012/01/10(火) 14:54

さっきから彼女が吐く息は白く、夜空を目指して上っていく。
そいつの行き先を見上げながら「月が綺麗ですね」なんて言ってみた。
「そうだね、冬はやっぱり空が綺麗に見えるもんね」なんてこいつは言う。
わかってねーなー。
腰に手を回すと「何その顔、なぁんかヤな感じ〜」だって。
そりゃどーも。


「福沢諭吉の話があってね」
「お札の人だ」
「そう。この人さ、有名な英語を日本語にした時なんて訳したか知ってる?」
「知らないなぁ」
「月が綺麗ですね」
「うん、綺麗だね」
「これ“I LOVE YOU”の訳なんだって」

あたしは「ロマンチックだね」なんて返事が来ると思ってた。
けど実際に聞こえてきたのは「そうなんだ〜。ロマンチックだけどなんかなぁ」という声だった。
670 名前:月が綺麗ですね 投稿日:2012/01/10(火) 14:54

「なんかなぁ?」
「あたしだったら多分気付かないと思う」
「あぁ、今もそうだったもんね」
「だからよっすぃ〜がちゃんと言ってくれなきゃわかんないんだからね?」
「りょーかい」
「……ありがと」
「何が?」
「それ言うためにここまで連れてきてくれたんでしょ?」
「あ、そーなっちゃいます?」
「そーなっちゃいますね」

彼女が手袋を外すと、両手をあたしの頬に当てる。
少しだけヒンヤリとした空気を感じてすぐに温かくなった。
「鼻、赤くなってるよ」
そう言って笑う彼女の鼻も赤かったから、笑ってやった。

梨華ちゃんは、どんな月よりも綺麗だ。
だからもし、あたしが“I LOVE YOU”を訳すとしたら。

「ずっと見ていたい」

言った瞬間、ひょっとこ顔にされた。
なんだよ、いいとこなのに。
「当たり前でしょ、ずっと一緒にいるんだから」
ありがと。
そうだね。
両頬から離れた手を取った。
「帰ろっか、梨華ちゃん」
「うん」
あたし達は、これからも一緒だ。
月明かりに照らされながら2人の家に帰ろう。
671 名前:月が綺麗ですね 投稿日:2012/01/10(火) 14:55

翌日。

「圭ちゃん聞いて、よっすぃ〜がね」
「何?」
「ちょ、やめろって」
「あたしに月が綺麗だねって。寒いのにわざわざ外に出されてさぁ」
「でも梨華ちゃん気付かないでそうだねーとか言っちゃってさ」
「だって月見に行こうって言うから」
「あぁ、この間話したやつ梨華ちゃんに言ったの?夏目漱石の」
「ん?一万円の人でしょ?」
「違うよ、福沢諭吉じゃなくて夏目漱石」
「「えっ」」

これからは人の話をもう少しちゃんと聞こうと思った。
672 名前:月が綺麗ですね 投稿日:2012/01/10(火) 14:56
終わり
673 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/11(水) 10:50
面白かったです!
最後笑いましたw
674 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/12(木) 13:38
短い上にオチも何もありませんが。
愛ガキです。
675 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/12(木) 13:39
「ねえりさちゃん、もしあたしが吸血鬼になったらどうする?」
「なによ、急に?」
「伯爵に誘惑されて吸血鬼になっちゃったら、りさちゃんはどうする?
 吸血鬼のあたしでも受け入れてくれる?りさちゃんも一緒に吸血鬼として生きてくれる?」
「…あいちゃんは吸血鬼になんてさせないよ。伯爵に心奪われる前に私が落とから。絶対。」
676 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/12(木) 13:39
終わり
677 名前:保健室の前田せんせえ 投稿日:2012/01/13(金) 22:13
目が覚めたら自分の家と違うシーツの匂いと、カーテンに閉じ込められていた。
ここに来た覚えがないから記憶を辿るとじりじり陽に焼かれて肌が痛いのと吐き気と、眩暈。
つまり1年ぶり3度目の熱射病で倒れて、今は保健室にいる。
体を起こすと頭がぐるんと回されたみたいに気持ちが悪い。
起きたのにまたベッドに倒れるとカーテンの向こうで人が動いた。
「か…福田さん、起きたの?」
先生の白い腕が出て来て、カーテンを開ける。
ぼんやりした頭で、はい、でもダメみたいです、となんとか答えたら、
普段通りじゃない視界の中で先生が、ふんわり笑った気がした。
「無理に起きなくていいからね。」
先生は冷蔵庫からスポーツドリンクを持って来てくれて、口元までストローを運んでくれた。
冷たくて甘くておいしい。
ちょっとずつ世界がはっきりしてくる。
先生の赤い唇が、真っ白な肌に浮き上がって見える。
「ありがとうございます。」
子ども扱いみたいで冷静に考えたらすごく恥ずかしいのに、
先生はこれが当たり前みたいな顔でおしぼりくれたり、
体温計を差したり、私はされるがまま。「
熱射病は治ったと思って動くのが一番危ないから、って知ってるよね。」
去年も言ってた。
678 名前:保健室の前田せんせえ 投稿日:2012/01/13(金) 22:14

「もうしばらくおとなしくしてなさい。」
とは言ってもすることがない。
目が覚めたら眠気もどっかいってしまった。
どうしよ、ケータイいじるわけにもいかないし。
そう思ってたら先生がちょっと悪い顔してやってきた。
手にはアイス。うっひゃー。
「言っちゃだめだよ。」
普段みんなの前では聞かないような少し幼い声からイタズラな匂いがする。
真面目そうなのに、というか、実際浮いた噂も悪い話も聞かない。
保健室なんかサボりたい人がたむろするし、先生もそういう人を贔屓するものなのに、
たまに保健室の前を通ってもそんな空気はなかった。
そんなに見てるわけじゃないけど、なんとなく、誰とでも同じ距離をとろうとする。
遠すぎず近すぎず。
それが、二人きりだとこんなふうに崩れる瞬間がある。
誰にでもそうなのかな。アイスを食べながら先生の首元のほくろを見て思った。
「昨日は何時に寝たの?」
「3時です。」
「そんな遅くまで何してたの?」
「PV見てました。」
「おい。」
「や、だって、新曲出るんですよ。熊井さんのフリ覚えないと。」
「勉強してたんじゃないのかい。」
「ダンスの勉強を。」
「もうっ。」
先生はけらけら笑ってて白い頬が赤くなる。
目を細めると瞼がなんか可愛くなって、先生は三次元にいちゃいけないなって思った。
「ほどほどにね。」
「はーい、頑張ります。」
「がんばんのかい。がんばらなくても。」
「ええねんで。」
679 名前:保健室の前田せんせえ 投稿日:2012/01/13(金) 22:14
アイス食べて教室に戻るとき、無理だと思ったらすぐ戻っておいで、と、心配そうな顔で先生が言う。
「あとは座ってるだけなんで。」
「そう。」
へにゃっと笑うと先生はかなり童顔になる気がする。
戸を開けると廊下は保健室と比べると暑くて、だめかも、なんて思った。
教室に戻ると紗季が飛んできた。
「大丈夫?」
「大丈夫、この通り、いえー。って言いたいけど教室暑くない?しんじゃう。」
「暑い。」
冷房がきいてるんだかきいていないんだかまったくわからない。
体の中がもわもわ熱くなる感じがして、私は諦めることにした。
「帰るわー。」
「えー帰っちゃうの?」
「うん。」
「帰れる?」
外を見るとまだまだ太陽はご健在。
「先生と相談してみる。」
680 名前:保健室の前田せんせえ 投稿日:2012/01/13(金) 22:15

担任に相談しにいったら、気をつけて帰れよだけで、
この猛暑の中自転車漕ぐ元気なんかないし、また倒れたらそれこそ危ない、
って頭の中で前田先生が言う。
「一人で帰れるか?」
いや無理絶対無理。
「無理そうなので保健室にいます。」
結局とんぼ返りすることになり、荷物全部持って白い戸を開けた。
思ったような冷たい空気はなく、ノックもなしに開けたせいで中で先生がぐだっとした姿勢で書類を書いてる。
さっきまで閉じていた窓は開かれてカーテンがはためいている。
ここも暑いのか。ちょっと落胆したら先生と目が合った。
「おかえり。」
本当に戻ってくるとは思ってなかったみたいな顔してる。
「無理だったので戻ってきました。」
「そっか。ごめんね冷房切っちゃった。今つけるね。」
「いやーやっぱり帰ります。」
「帰るの?」
待ってなかったのに帰ると言えば心外みたいな、紗季と同じ顔してる。
「帰れる?」
先生はぺたぺた歩いてきて私の額に手を当てた。思ったより熱くない。
「福田さん、何で帰るの?」
「自転車です。」
ふうん、と一つ考えて、送って行こうか、と言った。
「車だから。」
アイスも食べられたし車で帰れるなんてラッキー。
「え、いいんですか?」
「心配だから。担任の先生に絵おくね。」
「お願いしまーす。」
やったーって喜んだら照れ臭そうに笑う。
681 名前:保健室の前田せんせえ 投稿日:2012/01/13(金) 22:15

「ちょっと待ってて。」と玄関で待たされ、車に乗ると明らかに片付けた跡がある。
ゴミ箱満杯でおかしい。
普通なら見られない先生の裏側が見えて、思ったよりずっと人間らしくて、近くに感じた。
とはいえそんな汚いわけじゃない。
ちっちゃな軽自動車は保健室よりずっと狭い。
「家どの辺?」
「ハロ商店街の奥の方です。」
「案外近いんだね。」
「はい。急げば自転車で10分かからないくらい。」
先生は当たり前だけど白衣はきてなかった。
「白衣ないの新鮮ですね。」
「え、なんか、はじかしい。」
ミラー越しに目が合う。ほっぺた赤くなってる。
耳まで赤い先生の後部座席から身を乗り出して前の座席に寄りかかる。
「せんせー彼氏いますか?」
「…いません。」
「えー!ちょー意外!」
いない訳がないと思ってたらまさかの返答に思わず声が大きくなる。
「せんせー可愛いのに!」
「大人をからかうんじゃありませんー。」
「からかってないです。」
だってこの学校で一番って言っていいくらい。
「せんせーもてるでしょ?」
「もてません。」
「絶対ウソ。何人からも狙われてますって。せんせー悪い男に引っかからないでね。」
先生は優しいから騙されやすそうだ。
「もう!かの…じゃない、福田さん!」
明らかに動揺して言い間違え。花音の名前。
「下の名前、知ってるんですね。」
「そりゃまあ。名簿見たりなんなりするから。」
「ふーん。せんせー名前なんて言うんですか?」
保健室の先生は、前田先生。それしか知らない。
「ゆうか…。まえだゆうか。」
窓開いていたらきっと消えてしまう。そんな声で、前田先生は、ゆうか、っていった。
「ゆうか先生。」
ちょうど赤信号で、ゆうか先生は振り返って、怒ってる顔を作ってる。
でも本当は照れ臭くてしょうがなくて、笑い堪えてるのまで全部わかりやすいから、にやにやしちゃうんだ。

682 名前:保健室の前田せんせえ 投稿日:2012/01/13(金) 22:16
川 ´‘ _‘||<あやの出番は?

チョトマテクダサイ
ということで終わりです。
683 名前:とりあえず名無し 投稿日:2012/01/16(月) 11:56
はじめまして。
みやももメインで、結構リアルな小説って需要ありますか?とりあえず短編で。
ここに書き込むの初なんでちょっとどこに書いたものか迷ってます。
684 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/16(月) 14:40
そういうの気にしないで書けるのがフリースレ
685 名前:プッチモニダイバー 投稿日:2012/01/19(木) 06:25
プッチモニダイバー
686 名前:プッチモニダイバー 投稿日:2012/01/19(木) 06:26
誰が言ったかゴマキゴマキと、その呼び方で呼ばれるのにひどく疲れてしまい、
あ、でも、時折よしこが呼んでくれる、ごまちゃん、という呼び方は好きだった。
昔々そう呼ばれていたアザラシだかラッコだかのキャラクターがいて、
それが結構好きだったので、それを思い出すと、少し気持ちが軽くなった。
「なんで笑ってんの?」とよしこが言った。はて?
「ごまちゃんのことを思い出したからかなー」
「なにそれ」
「え、もしかして吉澤さん、あなた知らないんですか、あったでしょうむかし、アザラシだかペンギンだかの、そういうアニメがあったでしょう」
「くまのぷーたろうなら覚えてるよ」
ああ、そういうのもあった気がする。それも結構好きだった。ろくでもねえやつなんだよ、たしか、
ぷーたろうってだけに、いつもごろごろごろごろして、昼間から酒とか飲んでんだよ。気の抜けた絵柄でねえ。
687 名前:プッチモニダイバー 投稿日:2012/01/19(木) 06:26
よしこがピューっと口笛を吹いた。
「おいでおいで」
てくてく、いやてくてくってのもおかしいか、とぼとぼ? のそのそ?
いやまあよくわかんないけど、とにかくそこらへんをぽてぽてほっつきまわしていたのら猫がおりまして、
よしこさんはそれに向かっておいでおいでと手招きし、口笛を吹いたわけですね。
そしたらその猫が、きょとん、とした。その表情が田中ちゃんに似ていた。
「なんでえ、かわいくない猫でやんの」
よしこは石を投げた。猫は鳴きもせずそそくさと逃げた。
「なんてことすんだいあんた、ひどいひとだねえ」
「なに? ちびまるこちゃん?」
「おっ、よく分かりましたね、さすが同い年」
「は? ごっちんはよくわかんねえなあ」
「えっ? なんでちょっと怒ったの?」
「怒ってないよ。だってごっちん意味わかんないんだもん」
いやいや、お互いさまでしょう。私はよしこの方がよくわからんよ。
まったく、やれやれだよ。猫はもういない。
688 名前:プッチモニダイバー 投稿日:2012/01/19(木) 06:27
集合集合!と圭ちゃんの声がどこからかした。これは大変だ。集合しなくては。
声のする方に駆け出すと、赤白帽を被った保田の圭ちゃんが、集合集合!と叫んでいるのが見えた。
「隊長! 集合しました」
よしこが言った。ごくろうだった、と圭ちゃんが言い、よしこの頭を撫でた。
よしこはでれでれとにやけた。ちょっとうらやましかった。ほんのちょっとだけ。
「後藤も、ごくろうだった」
圭ちゃんはそう言って、私の肩を抱いてくれた。
なんだか分からないけれど感動して、声がうわずった。
「あいがとうごぞいます」
「あー? なに? もういっぺん言って」
「隊長! あいがとうございます!」
「礼には及ばんよ。さあみんな、解散だ!」
よしこが「ちーっす!」と叫んだ。私もつられて「ちょりーっす!」と叫んだ。
「元気がよくてよろしい」圭ちゃんはニコニコした。
689 名前:プッチモニダイバー 投稿日:2012/01/19(木) 06:27
解散したので、私もよしこも圭ちゃんも自由の身である。
「梨華ちゃんとこ行こうよ、梨華ちゃん誕生日だし」とよしこが言った。
圭ちゃんは「えっ」と言い、露骨に嫌そうな顔をしたのでおかしかった。
「あたし石川苦手なんだよ、知ってるでしょ」
「知りませんな」
「えー、いけずー」
「じゃあ、行きましょう。さあ、行きましょう。ごまちゃん圭ちゃん行きましょう。梨華ちゃんのところへさあさあ参りましょう」
よしこはノリノリだった。しゅっぽしゅっぽ、言いながら、電車ごっこですね。
よしこが先頭、私が真ん中、圭ちゃんが最後尾。ぽっぽー! とよしこが叫ぶ度、
私はうおりゃあい! と叫び、圭ちゃんはガシャコーンガシャコーンという機械音を顔面で演出した。
690 名前:プッチモニダイバー 投稿日:2012/01/19(木) 06:28
「次は石川梨華、石川梨華でございあす、お下りの方はボタンをお押しになって……」
よしこの顔のホクロを押すとドアが開く仕組みである。
「ね、よしこ、こっち向いてくんないとボタン押せないよ」
「やかましいやい! ホクロ多いの気にしてんだよ!」
「え、そうなの、今更だね」
くっくっ。笑った。圭ちゃんが不服そうな顔で言う。
「私だって昔からブサイクなの気にしてるわよ」
「ヨシザワはー、圭ちゃんはー、それでいいとおもいまーす」
「はーい、ごとーもー、そーおもいまーす」
「なんなのー、ひどくなーい? いけずー」
「ちょっと! 私のこと無視しないで!」
梨華ちゃんが怒っていたので、みんなで土下座した。
ごめんね。無視するつもりじゃなかった。なんていうか、影が薄いっていうか、だって梨華ちゃん浅黒いんだもん。
ほら、もう夕方だし? 夕闇に紛れちゃうっていうか? ほら、このぐらいの時間帯を黄昏時って言うじゃん?
あれは、たれそかれ、そこにいる人が誰だかよう分かりませんなあ、というところから来ているんだってね。
知ってた? 知らねえよな、おまえ、バカだから、しらねえよな。
梨華ちゃんは「ひどい……」と言って泣いてしまい、
「ちょっと! みんな言いすぎだよ! いくら梨華ちゃんが浅黒くってバカだからって、そんな本当のことばっかり言う必要ないじゃん!」
「よっすぃのバカ!」
「ああん? てめえ人がせっかくフォローしてやってんのに何だよ! バカはてめえだよ! お前が土下座しろや!」
梨華ちゃんが泣きながら土下座するのを、私たちはにやにやと笑いながら見、あまつさえ石すら投げた。
私は投げなかった。さすがに、それはかあいそうだと思ったからだ。圭ちゃんの投石が容赦なかった。
梨華ちゃんは打ち所が悪くて死んだ。ご愁傷様である。
691 名前:プッチモニダイバー 投稿日:2012/01/19(木) 06:28
「せめて墓ぐらい作っといてやろう、武士の情けじゃ」
圭ちゃん隊長がそう言うので、めんどうだけども仕方がない、やりますか! やりましょう! となって、
公園の砂場に梨華ちゃんを埋め、花を手向けてやった。夕暮れ時の団地、砂場に落ちる建物の影。
実にドラマッチクでいい光景でした。「じゃあ次はどこに行こうか」と圭ちゃんが言った。
「もういいかな」とよしこが言った。「なんだか、虚しくなってきたよ、私」
よしこの口からそんな弱音が吐かれたことに、私と圭ちゃんはとても驚いた。
「どうしたの、吉澤らしくないじゃん、次はあれっしょ、裕ちゃんとこにでもいってさー」
「いや、決めた。吉澤は決めました。私はここで梨華ちゃんと一緒にトワの眠りにつこうと思います」
がーん、と思った。ショックだった。結局お前は梨華ちゃんがいいのか。なんてこったい。
なんだったのだ。お前はなんだったのだ。お前は私のなんだったのだ、このやろう。
よしこの頭をバールのようなもので打ち割り、それを非難した圭ちゃんの肛門にバールのようなものを突き立てた。
二人共死んだ。夕暮れ時の団地、そこに落ちる建物の影、とてもとてもドラマチックで、私はロマンチック。
二人の死体を砂場に埋めて、さようなら、そう声をかけて、私は舌を噛み切った。息がつまる。ぐっぐっ。あかん。ごめんなさい。

おしまい
692 名前:@つんくぼーい 私、二郎食べたことないですよー(^^;) 投稿日:2012/01/26(木) 18:45
ツイッター上に現れた画像が物議を醸していた。
麺とヤサイとブタが山盛りになった丼を前にした、真野恵里菜のコラージュ画像。

「誰が作ったんだか……」

恵里菜は苛立ちを含んだ声でつぶやく。
某有名ラーメン店をネタに数々のコラージュ画像が作られているのは知っていた。
Berryz工房の菅谷梨沙子もターゲットになり、パソコン画面に大写しになったラーメン画像を
見つめているものが作られていたはず。
693 名前:@つんくぼーい 私、二郎食べたことないですよー(^^;) 投稿日:2012/01/26(木) 18:46
遊びじゃねえんだよ!

神田神保町に並びながら、恵里菜は思う。
コラ画像はコラ画像だが、嘘から出た誠とでも言うのだろうか。

恵里菜はジロリアンだった。
694 名前:@つんくぼーい 私、二郎食べたことないですよー(^^;) 投稿日:2012/01/26(木) 18:46
夜の開店5分前。
並びは20人程度。
帽子をかぶり、顔を伏せていた恵里菜に話しかける者があった。

「真野ちゃん?」

肩を叩かれ、振り返るとそこには恵里菜と同様に帽子を目深にかぶった梨沙子の姿があった。

「菅谷さん……」

あなたもでしたか。

にやりと口元をゆがめると、梨沙子も親指を立てて突き出した。
695 名前:@つんくぼーい 私、二郎食べたことないですよー(^^;) 投稿日:2012/01/26(木) 18:46
「私、ホームは品川なんですよー。神保町は4ヶ月ぶりです」
「へえ。私は神保町びいきだから……」
「今度、品川にも行ってみましょうよ」
「そうだね」

DVDマガジンで共演したときよりも弾む会話に、並びの時間はあっという間に感じられた。

「ところで……」

食券を買う前に、恵里菜は切り出す。

「あれ、知ってますか。コラ画像」
「ああ、二郎の? 私も真野ちゃんもやられてるよね」
「そうなんですよう」
「伊達や酔狂で遊びに使うなって話だよ」
「まったくです」
696 名前:@つんくぼーい 私、二郎食べたことないですよー(^^;) 投稿日:2012/01/26(木) 18:47
「大豚の方ニンニクは?」
「ニンニクだけ!」

隣あってテーブルにつく恵里菜と梨沙子。

「じゃあ、真野ちゃんお手並み拝見といこうか」
「お手柔らかにお願いします」
「それにしても……。こんなに素晴らしいものを愚弄するかのような遊びに使っているのはいったい何者なんだろうね?」
「わかりません。けれど、ほうっておいて許すわけにはいきません」

インターネット上で不気味にうごめく大きな悪。
そいつに立ち向かうために、そのエネルギー補給のために恵里菜と梨沙子は箸を手に取った。

「ロット最速は譲りませんよ?」
「ここは私のホームだからね。こっちこそ負けないよ、真野ちゃん」

恵里菜と梨沙子のバトルはまだ始まったばかりだ!


おわり
697 名前:囁きの音色 投稿日:2012/01/30(月) 21:44
やすみよ
698 名前:囁きの音色 投稿日:2012/01/30(月) 21:44
イギリスでとても良い声の事を、「ミルクチョコレートボイス」って言うらしい。
とある俳優さんの声をそうたとえているんだとか。
でも「ミルクチョコレートボイス」って言葉を聞くと、
やっぱり私にとってはそれはみーよの為にある言葉なんじゃないかって思う。

みーよの声は、いつも私を満たしてくれる。
ちょっとハスキーで、優しくて甘くて、ほろ苦い。

そんな声を思い起こしているうちに、私の中からある一曲が生まれた。

それが、今私がピアノの前に座って弾いている曲。
すぐそばに控えているみーよを見つめながら、旋律を追いかける。
曲を奏でるこの指も、流れる音色も、全て、みーよの為に。
みーよの為だけを想って。
699 名前:囁きの音色 投稿日:2012/01/30(月) 21:45
私のピアノを心地良さそうに聴いてくれていたみーよは、演奏が終わったのが分かると、ゆっくりと目を開けた。

「綺麗な曲ですね。なんだかこう胸にスッて入って来るような…何て言う曲ですか?」
「自作だしタイトルはまだないよ。できれば、みーよに好きなタイトルをつけて欲しいな」
「え?私ですか!保田さんが作った曲なら、保田さんがつけた方がいいんじゃ」

「だって、これはみーよの為の曲だから」
「私の、曲?」

みーよは私の言葉を反芻するかのように、声を出して復唱する。

「ごめん、やっぱりこんなもの押し付けられても困っちゃうよね」

そんな事を言った次の瞬間、私はみーよに抱きしめられていた。

「いいえ!嬉しいっ…すっごく嬉しいです。ありがとうございます!この曲、一生、大事にしますね」
「ふふっみーよ…苦しいよ」

抱きしめる腕の力強さから、本当に喜んでくれている事が分かる。
みーよの声が涙混じりになっているように感じるのは、気のせいかな。
700 名前:囁きの音色 投稿日:2012/01/30(月) 21:47
「この曲、タイトルも歌詞もまだないんですよね」
「うん、だからみーよの好きにしていいよ。もうこれはみーよのものだから。後で譜面渡すね」
私の言葉に、みーよは真剣な表情でこう言ってくれた。
「いつか自分の納得のいく歌詞とタイトルが出来上がったら…保田さんの為だけに歌いたいな。
その時は聴いてもらえますか?」

私の作ったメロディーをみーよがその声で歌ってくれるなら、どんなに素敵だろうって思ってた。
だから、みーよの言葉が嬉しくてたまらない。

「もちろんだよ…その時を楽しみにしてる。ずっと、待ってるから」

たとえ何年かかったって。
ずっと、ずっと。
701 名前:囁きの音色 投稿日:2012/01/30(月) 21:49
「圭」
「…!!」
「すみません、一度呼んでみたかっただけなんです」
不意打ちで名前を呼ばれ、驚いた私に、みーよは少しだけいたずらっぽく微笑みかける。
そんなみーよを見ると、どうしても頬が熱くなるのを抑えられない。

「愛してます」
「…私も」

私はみーよの胸に顔を埋める。
温かいみーよの胸も、早鐘を打っているのが分かる。
なんだ…ペースを乱されてドキドキしてるのは私だけじゃなかったんだ。

「照れないで、私の顔見て言って下さいよ」
「…じゃあ、さっきの、もう一回言って」

ゆっくりと、みーよの胸から顔を離す。
その瞬間、私の願い通り、みーよが唇を私の耳元へ寄せ、
さっきよりも近くで囁いてくれた。
702 名前:囁きの音色 投稿日:2012/01/30(月) 21:50
凛とした、でもしびれそうなくらい優しくて温かいみーよの声が、私を甘く酔わせる。

「愛しています…圭」

「私も…愛してるよ、絵梨香」

たったその一言だけで、私をこんなにも幸せにさせてくれる。

離れている時も、何度も君の言葉を思い出すから。

そのミルクチョコレートボイスの囁きで、私を溶かして。
703 名前:囁きの音色 投稿日:2012/01/30(月) 21:52
おわりです
704 名前:理由なんて 投稿日:2012/01/31(火) 21:26
毎日がオフみたい。
ぽかんと出来た空白の放課後はまだ慣れなくて持て余している。
どれだけの時間を費やしてきたんだろうって思うなんて、
こういうことで気がつくとは想像もしなかった。
日落ちて友達と手を振りあってばいばいって言うの憧れてたんだ。
その中に今いる実感はやっぱりない。
辞める前から沸かない実感は今も同じで変化に私が一番ついていけてないんだ。
置いてきたはずの同僚は相変わらず高速で走っている。
たまに彩花ちゃんがくれるメールから忙しさが伝わってくる。
大変なの、私が一番わかってるから、無理してメールくれなくていいのにな。
Tシャツわざわざ渡しにこようとしてたから、それよりは休みを大事にしてほしくて断った。
というより、どんな顔して会えばいいかわからなかった。
きっと彩花ちゃんの事だからそんな些細な事は気にしないで
いつもみたいに会ってくれるんだろうけど。
ケータイ握る手が、なんとなく自分のものと思えなくなる。
よくブログ書いたな。写真もたくさん撮った。
かのんは人の勝手に弄って自撮りしてた。
それさ、内緒だけど、消せなかったんだよ。
そっと違うフォルダに隠していれた。
かのん。呼べない名前。こんなに口に馴染んでるのに。
かのん。騒がしくて、よく喋るし歌うし踊るしモノマネもするし、
それ一つ一つ上手いのに、かのんがやるとなんか幼くて可愛かった。
さきちゃんがいなくなって寂しそうな顔して
でも私が話しかけるとしょうがないっていう素ぶりでいっぱい話した。
かのんが可哀想だからとか寂しそうだから話しかけたんじゃないよ。
代わりになる気もなかった。ゆうかが、かのんと話したかったんだ。
705 名前:理由なんて 投稿日:2012/01/31(火) 21:27
辞めるまで、なんとなく繋がっていられるような、
でも、ぶつっと切れてしまうような予感みたいなのはあった。
どっちだろうって思ってた。
辞めてからその難しさに気がつくんだ。
さきちゃんに頑張ってる?笑、なんてメールを送ることも私には中々難しかったのに
辞めた私から繋がるなんてできない。
親指一本で、今までは簡単だったことが今はこんなに難しい。3次関数より難しいかも。
顔も見れない。声も聞けない。話すのなんて夢のまた夢みたい。
遠い。
かのん。かのん。
願ったら余計会いたくなったけど、私の隙間を今はめいめいとかたけちゃんとかが埋めてるのかな。
そんなん悔しくて悲しいよ。
画面に映る花音のアドレスを睨む。
メールくらい、いいんじゃないかなって。
しなきゃ、もしかしたら一生連絡とらなくなっちゃうんじゃないかな。
怖くなった。
ドキドキする。なんて打てばいい?
こんなどきどきを知られたくなくてできるだけ不自然じゃない文をぐるぐる考えれば考える程変になってく。
たったメールを打つだけなのに心臓がバクバクではると散歩してダッシュしたより速い。
ケータイと睨めっこしてたら急に画面が切り替わって、着信、は、かのんから。
え、まだゆうか送ってないよね、とか焦りながらとりあえず通話のボタンを押した。
706 名前:理由なんて 投稿日:2012/01/31(火) 21:27
「もしもし」
声ひっくり返ってはじかしい。
「ゆうか声ひっくり返ってるー」
電話の向こうで花音が笑ってる。
「慌ててとったから」
「出るの早かったもんね」
なにしてんの、の声がやわらかい。
「メールうってた」
「ふうん」
「かのんに」
「うそ」
「ほんと」
「すごくない?かのんエスパーじゃない?」
んふふって満足そうな笑い声が懐かしい。
「かのんはなにしてんの?」
「電話」
「そうじゃなくてー」
「今日オフなの。これから舞ちゃんと遊ぶよ」
「そっか」
かのんは適当にまた靴下なくしたとか、寒いからあげたプレゼント使ってねとか、
菅谷さんに助けてもらって熊井さんにTシャツもらったとか話した。
「今度テレビ出るから見てね」
「え、いつ?」
「1月後半で、夜9時からなんだけど見れそう?」
「見る」
「またメールする」
「うん、楽しみにしてる、かのんのシンデレラ」
ふふ、って、なんか嬉しそうに聞こえた。口元を押さえてるのが目に浮かぶ。
「ゆうか」
「ん?」
「呼んだだけ」
それから、花音には珍しく沈黙があって、また、ゆうかって呼んだ。
「かのん」
「なにー」
イタズラな口調と細めた三日月の目が見えた。
「呼んだだけ」
「なにそれ、真似?」
さっきまでメールすら遠かったのに、今は電話でも遠い気がする。
花音が笑ってる顔見たいよ。
「かのんが言い出したんじゃん」
「や、ゆうかが真似すると思わなかった」
707 名前:理由なんて 投稿日:2012/01/31(火) 21:28
ほら変な言い訳。可愛い。
「今度さ」
「うん?」
「ご飯行こうよ」
「前田TOに嫉妬されちゃう」
「彩花ちゃんとは今度いくもん」
行ったからには今度こっちから連絡しようって思った。
「ほんとゆうかはさー」
にやにやした声で、花音は「かのんのこと好きだよね」って。
「好きだよ」
わかっててわかってない。
「かのんのことゆうかが一番知ってるもん」
「かのんのTOだね」
ちょっと、違うんだけど。
その答えがかのんらしくて、まあいっか、今は。
だってそんなに遠くないんだって思えたから。
行こうと思えば行けるんだ。今度は。だから大丈夫。
そろそろ時間だから、ちゃんと寒さ対策するんだよとかはしゃぎすぎて喉からさないでねとか言って、またねって切った。
そしたら外が本当に寒いことに気がついた。
こんな日はよく花音がくっついてきたな。誕生日すぐきちゃうな。
あ、会う理由、あった。
自然に頬が緩んだ。
ねえ、かのん。ちゃんと会ってね。これからも仲良くしてね。
708 名前:おわりです 投稿日:2012/01/31(火) 21:29

           〃ノノハヾヽ             。ノハヽ
       ヒピュ.ー川* ` c ′) パラリラパラリラー  从*・ェ・リ
         =〔~∪ ̄ ̄〕            = ⊂   )
         = ◎――◎            = ミ三三彡 タッタッタ・・
709 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/01/31(火) 23:03
いいですね
心があったかくなる話をありがとう
710 名前:ドリムス。かしまし物語 投稿日:2012/03/03(土) 18:06

ドリムス。かしまし物語

711 名前:ドリムス。かしまし物語 投稿日:2012/03/03(土) 18:06
「えっ!!!」
大きな叫び声にその場にいた全員が振り返る。
その特徴的な声の主は明白であった。
輪の中心は3人。
キョトンとした顔の安倍と、この世の終わりのような様相を呈している石川と、その大きな瞳をさらに大きく丸くする吉澤。
「なになに、どうしたの?」
半ば反射的に声をかける者1人、なんやデカイ声出して、と少し心配する者1人、
心配したフリをして、実際は野次馬精神に満ち満ちた者1人、
単に声がしたから来てみた者1人、よく分からないが皆が集まっているので来てみた者1人、
叫び声の元に集まる。
気合入れでもないのに、こうしてゾロリと集まることはめずらしい。
712 名前:ドリムス。かしまし物語 投稿日:2012/03/03(土) 18:07
「いや、梨華ちゃん、おっぱい垂れてきたなーと思って、今言ったの。」
「ちょっ!!!」
今度は吉澤が叫んだ。これ以上騒ぎを大きくしないでくれと顔に書いてあった。しかし、安倍には読むことができない。
「いや、だって、みんなもそう思うっしょ?」
中澤と保田は、口角を少し上げるものの、何の感情も表すことをしなかった。
あわてて口を開いたのは矢口だった。
「なっちー!梨華ちゃん落ち込んでんじゃーん!」
矢口は『やべー』と思っていた。実際少し大げさに顔に出していた。
吉澤はその顔を見て、
『やべーなんてこと言うんだなっち、梨華ちゃんまたメンドくさくなるよ』
『けどちょっとおもしれーじゃん』
ここまで読めた。
「いやアタシはそう思う。」
ただ1人輪に入っていなかった飯田が、差し入れをつまみながら答えた。
”圭織!!!”
中澤と保田はそのするどい眼光を飯田に向けたが、あいにく飯田は別のところと交信中で、2人のテレパシーは届かなかった。
小川は予想外の事態にただオロオロするだけで、久住は飯田さんどうしてこっちに来ないんだろうと思っていた。
713 名前:ドリムス。かしまし物語 投稿日:2012/03/03(土) 18:07
久住が差し入れのある飯田の元へと向かったとき、輪は崩れた。
矢口は安倍を確保し、「もーなっちー」と言いながらさりげなく石川から遠ざける。
それは矢口の気遣いか、はたまた安倍からの事情聴取か。
中澤と保田は2人で目を合わせ、様子見とフォローに徹することにした。
石川はもはや今まで誰の声も聞こえず、自分の周りで輪ができてまたなくなったことに気づいていなかった。
小川がおずおずと石川と吉澤に近づき、めいっぱい明るく振舞う。
「いしかーさん、全然そんなことないっすよ、もー何言ってんすかねー、安倍さんは、もー…」
しかし、ひきつるその顔を隠せない。
「まこと…」
石川はやっと声を出したが次は急にあわてだした。
「どうしよう、いつから?どうしよう、どうしよう!」
石川のウリである。27歳、なんたってセクシーナンバー1でやっているのだ。
「い、いしかーさん…」
小川は何でこの人安倍さんの言うこといちいち気にするんだろう、石川さんはほんとーに真面目だ、と思っていた。
それが大先輩安倍に対して失礼だという意識はなかった。
そして、石川について、真面目だけどメンドくさい、という気持ちは小川の良心がかき消していた。
714 名前:ドリムス。かしまし物語 投稿日:2012/03/03(土) 18:08
ようやく落ち着きを取り戻した吉澤は小川に目配せしてから、石川のうつむく顔をそっと覗き込む。
「安倍さんが言うことだし気にすんなって。誰もんなこと思ってないよ。」
吉澤は諭すように言った。
実際、石川のおっぱいは垂れてなどいなかった。今まで誰もそんな風に感じたことはなかった。
そもそも安倍が言ったのだ。どうしてあんなに動揺してしまったんだろうと、吉澤は深く反省していた。
吉澤は常々、「梨華ちゃんほどキレイでハリのあるおっぱいを持ってる人はいない」、と本気で思っていた。
大きさ、色、やわらかさ、何もかも吉澤の好みにどんぴしゃりとはまっていた。
むしろ、石川のおっぱいが吉澤をそうさせたとも言える。
吉澤はふと、こんなとき美貴がいたら、と思った。
藤本は話の内容が乳にいかないようにする、またはいっても別の話題にすりかえる術に長けていた。
しかし、先日見せてもらった巨乳を思い出して、きっと美貴もここぞとばかりに乳ネタに食いつくだろうと思った。
そんなことを考えているうちに、石川は顔を上げていた。
「そうかなあ…」
「そうだよ。」
うるむ瞳をそっとつついて、吉澤が微笑む。
吉澤は再度小川に目配せをする。
はい、親分とばかりに小川は石川のフォローに入った。
小川が写真集のあのカットがよかったこのカットがよかった、自分は本当に色気がなくて食い気ばっかりですよーとまくしたてる。
石川に笑顔が戻ったのを確認した吉澤は、矢口と安倍の元に向かう。
2人がまったく別の話をしているのが聞こえて安堵していると、
静観していた中澤と保田が笑いながら言った。
「よっちゃん、オトコマエ〜」
そんなんじゃないっす、とハニカむ吉澤は本当に男前でいて可愛らしく、年長の2人は揃って見とれてしまった。
一方飯田と久住は差し入れについて熱く語っていた。
715 名前:ドリムス。かしまし物語 投稿日:2012/03/03(土) 18:08
「そろそろスタンバイでーす。」
「はーい!」「よっしゃいくかぁー。」
気合入れのために整列しようと廊下に出る。
石川の隣にはさりげなく吉澤が寄り添い、なにやら耳元でぼそぼそとささやいていた。
ぱっ!と吉澤を見る石川、石川に微笑む吉澤、見つめ合う2人。
小川がそれを後ろからじっと見ていた。

全員が出揃ったところで、自然と円陣が組まれる。
「石川さーん、今日もセクシーですよ。」
久住が輪の中で石川に言う。
中澤は、久住が何を意図してそれを言ったか分かりかねた。
しかし、どういう理由であれ、たとえ何も考えずだったとしても、石川を気にかける久住の成長に目を細めた。
石川が返す。
「あたりまえじゃない。今日もフェロモン全開だからね!」
「フェロモンとか今時言いませんよ。」
「ナニー!」
笑い声が響く。
中澤も、飯田も、安倍も、保田も、矢口も、吉澤も、石川も、小川も、久住も、笑っていた。

「がんばっていきまーっ!」
「しょい!!!!!!!!!」

ドリームモーニング娘。のステージが始まる。
石川が、胸をはって飛び出していった。
716 名前:ドリムス。かしまし物語 投稿日:2012/03/03(土) 18:08

終わり
717 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/11(日) 02:09
金くどぅー
718 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/11(日) 02:09
ランドセルかついだ金くどぅー
くまーちゃんにまたがり はう馬のけいこ
719 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/11(日) 02:10
「はうしどーどー はうどーどー」
「……ねーくどぅー、まーちゃんお腹空いたよ」

朝から金くどぅーを乗せて森の中を歩きどおしだったくまーちゃんが
そう言ったので、金くどぅーはお天道様を見上げました。
お天道様は、空のてっぺんにあります。お昼時のようです。

「しょーがねーな、どっかで食べるか」

これを聞いたくまーちゃんは少し元気になって、一休みできそうな
木陰を見つけてそこで金くどぅーを降ろします。
金くどぅーはランドセルから巾着袋を取り出しました。
中にはだーいし母ちゃんが焼いてくれた煎餅が入っており、
それをくまーちゃんと一緒に食べました。

「これおいしいけど、喉渇くね」
「文句言うなら食べるな。桜海老入りの贅沢品なんだから」

けれども、金くどぅーもだんだん喉が渇いてきました。
くまーちゃんは川の水を飲むことができますが、金くどぅーは
お腹を壊してしまうので、いったん自分の家へ帰ることにしました。
720 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/11(日) 02:11
「まーちゃんは来なくていい」
「えーまーちゃんも行きたい!」
「いやいいから」
「やだーやだー」

ごろんごろんごろんごろん
地面の草花をなぎ倒すようにくまーちゃんは駄々をこねています。
が、金くどぅーは冷静でした。

「喉渇いてんでしょ。そっちは川、こっちは家で、
 また戻ってくればいいんだって」
「まーちゃん知ってるもん。くどぅーはお腹一杯になったら
 寝て少しでも身長伸ばそうとするんだもん」

『寝る子は育つ』をひそかに実践していたことを指摘されて、
金くどぅーは顔が真っ赤になってしまいました。

「……じゃ、じゃあ時間決めよう。一時間後にここで待ち合」
「でもまーちゃんもお昼寝してるかもしれないけどぉ」
「……」

金くどぅーは殴りたいのをヒッシに堪え、一時間後にまた遊ぶ約束をして、
くまーちゃんと別れました。
721 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/11(日) 02:13
森のはずれにある小さなプレハブ小屋が金くどぅーの家です。
引き戸を開けると、だーいし母ちゃんがりんごを握りつぶそうと
していて、鬼の形相で金くどぅーを迎えました。

「うおお!?」
「お・か・え・りィ!」

ぶしゃああああ

りんごが砕け散ってぼたぼたとまな板の上に落ちます。
絶句している金くどぅーを尻目に、だーいし母ちゃんはちゃっちゃと
破片を拾ってミキサーに放り込みました。

「か、母ちゃん何してんの……?」
「りんごジュース作ろうとしたら、大きくてミキサーに入らなくって」
「包丁は!?」
「面倒だから潰してみた」

よく見るとまな板にはりんごの果汁がずいぶん零れているし、
着ている割烹着にもしぶきが飛んでいます。
金くどぅーは力持ちで、くまーちゃんや他の動物達と相撲を取っても
ほとんど負け知らずなのが自慢ですが、だーいし母ちゃんには
勝てる気がしません。

「飲む? ジュースは100%が一番!」
「あ、うん……」

タイムリーなことを喜ぶべきなのに、上手く言葉が出せず、

「……今度作る時は、赤い果物はやめてくれ」

と言うのが精一杯の金くどぅーなのでした。
722 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/11(日) 02:14
お昼寝をして、時間通りに森の中の待ち合わせ場所にやって来た
金くどぅーを迎えたのは、仰向けにでーんと横たわっている
くまーちゃんと、すぐ傍に佇んでいたはう馬でした。

「あっ、はう馬!」
「こんにちは、くどぅー」

はう馬は美しい鬣と大きな瞳で他の動物達の憧れの存在なのですが、
争うことが嫌いで、金くどぅーの相撲の相手を拒んだ動物でもあります。
金くどぅーは、どうにかして彼女を負かしたいと思っていました。

「今日こそその背に乗ってお前を操ってやる!」
「しーっ、まーちゃんが起きちゃうよ」

はう馬の気遣いも空しく、くまーちゃんは金くどぅーの大声で
目を醒ましてしまいます。
無言でのっそりと起き出すくまーちゃん。
襲われることをまるで考えていないその無防備さ。
ハルがいないと駄目だなこいつ、と金くどぅーは強く思いました。
723 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/11(日) 02:15
そんな、起きたばかりで半目のくまーちゃんが、傍にいたはう馬に
気付きました。

「……あれぇ、なんでいるの」
「憶えてないの。川で会ったでしょ」
「そうだっけー……」
「お昼寝するから見張っててね、って言ったのも忘れてる?」
「まーちゃんおぼえてない」

両者の会話にぎょっとする金くどぅー。
子分のような存在のくまーちゃんが他の誰かに、それもはう馬に
見張りを頼んでいただなんて。
ますますはう馬が許せなくなりました。

「……お前、ちょっとそこでじっとしてろ!」

いきなり自分を指差してわめきだした金くどぅーを、
はう馬は目をぱちくりさせて見下ろします。

「なんか、今日はとても大きな声を出すんだね」
「うっさい! 絶対動くなよー今からその背中に乗ってやんだから。
 まーちゃん持ち上げてよ」
「いいよー」

はう馬の背中は金くどぅーの背丈の倍くらい高い位置にあるので、
チャレンジにはまーちゃんの抱っこが必要不可欠なのです。
まーちゃんは軽々金くどぅーを持ち上げて、じっとしてあげている
はう馬の背に手が届く位置まで金くどぅーを近づけます。
金くどぅーはよっこいしょとその背によじ登りました。
724 名前:前レス「く」が抜けてたorz 投稿日:2012/03/11(日) 02:17
さて、ここからが問題で……

「うわわわ、やっぱ高いいい」

今までの自分の目線より遙に高い位置からの眺めと、
細い手足で不安定なはう馬の背中にしがみついているこの状況は、
壊れかかった橋に取り残されたかのような恐怖心を金くどぅーに与えます。
全身が震えだし、はう馬はそれを背中で感じて

「大丈夫? くどぅー」

と心配して声をかけましたが、

「うううっさいな、ま、まだうご、動くなよ」

金くどぅーは明らかに意地を張りました。
実は、何度もこうして背中に乗っては、怖くて動けなくなるという
失態を繰り返しているのです。

今日こそは意のままに操ってやるんだ!

毎回その決意はかたいのですが、やっぱり今回も身体が言うことを
聞いてくれそうにありません。
はう馬も、何分もじっとしているのが辛くなってきました。
くまーちゃんは完全に飽きてきて、横から金くどぅーに茶々を入れました。
725 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/11(日) 02:18
「ねーねー、まだあ?」
「……ちょっと、だ、黙ってて」
「まーちゃん見てるだけでつまんない! 遊びに行こうよ」
「うわあっ」

とうとう背中から持ち上げられてしまう金くどぅー。
いったん地面に降ろされると、腰が砕けているのかその場にへたり。
一方のはう馬は、ホッとしてその場で少し足踏みをした後

「それじゃあ、私は用があるから行くね。またね、ふたりとも」

そう言い残して駆け出していきました。

「ばいばーい!」
「……」

明るく手を振ったくまーちゃんに対して、うなだれたままの金くどぅー。
くまーちゃんがその身体に擦り寄って

「くどぅー、もっと大きくなってからでいいじゃん。
 まーちゃんがそれまでずっとのせてあげるし」

と慰めたら、とうとう金くどぅーは泣き出してしまったのです……
726 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/11(日) 02:20
森にはたくさんの動物がいます。
そのほとんどと相撲を取って、ほとんど勝ってきた金くどぅー。
けれど、勝つことが出来ないまま、動物の方が先に死んでしまった例も
少なくありません。
そのたびに、悲しくて悔しい気持ちになりました。

はう馬に乗るには今の自分が小さすぎるのだ、ということは、
金くどぅーにだってわかっています。
でも、大きくなってから、では遅すぎるかもしれないのです。

「ぐすっ……
 やだ、ぜってーあきらめない!
 ハルは乗ることに命賭けてんだよ!」
「がんこだなあー。
 そうだ、木登りしようよ!
 高いところが平気になるように」

くまーちゃんがそう言うと、金くどぅーはやっと立ち上がって、
うん、と力強く頷きました。
727 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/11(日) 02:21
木登り特訓に疲れ果てて眠ってしまった金くどぅーを背中に乗せ、
くまーちゃんは森の中を歩いていました。
もうすぐ夜が来ます。
いつもは家まで行かせてくれなかったけど、こうなってしまったら
送り届けないわけにはいきません。

この森の動物達と意思の疎通がはかれる人間は、金くどぅーただひとり。
例えその母親といえども、出遭ってしまったらどうなるかわからない、
もしかしたら怪我をさせられるかもしれないから来るな、
そう金くどぅーに言われていました。
だから、家の傍で降ろして起きてもらおうと思っていました。
728 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/11(日) 02:23
ところが、金くどぅーの帰りが遅いことを心配しただーいし母ちゃんが、
家の前に出てきていたのです。
草むらから出てきたくまーちゃんと目が合ってしまっただーいし母ちゃんは、
驚いてその場に立ち竦んでしまいました。
くまーちゃんもびっくりして立ち止まり、周囲にはとても重い空気が
流れました。

「……遅くなってごめんなさい」

くまーちゃんは、言葉が通じないことがわかっていても謝らずには
いられませんでした。
そして、雑草の上にそうっと金くどぅーを転がすように降ろして、
その場を離れようとしました。

「んんん〜……」

金くどぅーはまだ夢の中にいるようで、草の上で寝返りをうっています。
だーいし母ちゃんはすぐさま金くどぅーのもとへ駆け寄り、
我が子が眠っているだけだと知ると、思わず安堵の息を吐きました。
くまーちゃんは、近くに来た人間に緊張して様子をうかがっていました。
729 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/11(日) 02:25
しばらくすると、だーいし母ちゃんがこちらを見て

「まーちゃん……かい?」

と、くまーちゃんに声をかけ、そして

「熊のまーちゃん、いつもくどぅーから話を聞いてるよ。
 うちの子を送ってくれたんだね。どうもありがとう」

その場でおじぎしました。

くまーちゃんには理解できませんでしたが、
腰を折って頭を下げている人間の様子を見て、
こちらに敵意を持っていないということはわかりました。

だーいし母ちゃんは、怒ってない。

安心したくまーちゃんは、思わず訊ねてしまいました。

「明日も、くどぅーと遊んでいいですか」
「明日も、またこの子と遊んであげてね」

やっぱり、だーいし母ちゃんの言っていることはよくわかりません。
けれども、明日も明後日もきっと会える、そうくまーちゃんは確信しました。
730 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/11(日) 02:27
「雪融け水の川だとやっぱりおいしいね、まーちゃん」

牧場の水道水はわたしの身体に合わない
どうしたらわかってもらえるかしら

はう馬はそう言って溜め息をついています。
彼女は、川の水を飲むためだけに毎朝牧場を脱走している
ちょっとロハスな馬でした。
まーちゃんは川の水をぱしゃぱしゃ叩きながら、

「飲んでもらえばわかるよ!」

と助言します。

「うーん、でも汲んで行く道具が必要だし、ちょっと難しいかな」
「くどぅーに頼んだらー?
 あ、まーちゃんね昨日くどぅーのははに会ったよ!」
「ヒエエエエッ!?」

はう馬は思わず嘶いてしまいました。
森の熊が人間に会うとだいたい命を狙われてひどい目に遭うのですが、
くまーちゃんは嬉しそうに笑っています。
無事だったとわかっても、詳しい話を聞かずにはおれません。

「ちょっとちょっとどういうこと?」
「くどぅーがまーちゃんの背中で寝ちゃったから、
 そのままおうちに連れてった。
 いつも見えるとこでバイバイしてておうちは知ってたから」
「……何もされなかったんだよね?」
「だーいじょうぶだって! まーちゃんのこと知ってたみたいだし、
 くどぅーのははは悪い人間じゃなかったよ」
「そっか、良かったね……で、くどぅーと顔似てた?」
「んーあんま似てなかった」
「じゃあ、くどぅーはきっとちち似なんだろうねえー」
731 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/11(日) 02:30
金くどぅーが森へ遊びに出かけようとした時、だーいし母ちゃんが
いつもより重い巾着袋を持たせてくれました。

「今日はとびきりでっかいおにぎりを作ったから、
 まーちゃんと一緒に食べな」
「えっ!?
 か、母ちゃん、昨日の話ってマジだったのか……?」

昨晩金くどぅーが家の中で目を醒ました時、だーいし母ちゃんが
くまーちゃんのことを教えてくれたのですが、それを寝ぼけた頭で
聞いていたので、金くどぅーは夢の中の話だと思い込んでいたのです。

「嘘なんかつかないよ。
 でもさ、あんなに大きな熊にあんたが相撲で勝ったってほんと?」
「そ、それこそ嘘じゃねーし!
 懐に潜りこんで持ち上げて投げ飛ばしたんだよ!」
「まだ小さかった頃かな。きっと今相撲を取ったら……」
「……行って来ます!」

金くどぅーは、だーいし母ちゃんの言葉を遮るように言って
家を飛び出しました。

だーいし母ちゃんの言うことはもっともで、いまのくまーちゃんと
戦ったら、きっと自分は負けてしまう。
でもくまーちゃんはまだそれに気付いていないから、
ずっと子分のままでいるのです。



……いてくれたらいいな、と、思っているのです。
732 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/11(日) 02:33
おわり



元ネタ:光井ブログ わんこそば大会画像および記事、他色々
いくつか名前ミスってしまいました許してニャン
733 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/11(日) 15:41
すごくポクポクした
734 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/13(火) 00:44
「考える時間も1つの楽しみ」
735 名前:考える時間も1つの楽しみ 投稿日:2012/03/13(火) 00:45


もうすぐあの日か。
このところリハばかり、気持ちは武道館に全部持っていかれてたからすっかり忘れてた。

ホワイトデーなんてやつがやってくるわけで。
バレンタインもらってないからいいかなーとも思ったけど、一応なんかあった時のために準備しとこうか。

あたしって健気じゃない?

食材を選ぶ最中は妙に楽しくて、いつもよりちょっとだけいいもん買ってみた。
何作るか、いつ作るか。
何も言われなかったら普通にあたしのご飯になるから変なのはやめとこう。




家に帰って早速買ってきたものを冷蔵庫に閉まってると、向こうの方で携帯が鳴ってる。
マナーモードにしたまんまだ、すっげー振動してる。
どうやら電話らしい。
はいはいちょっと待ってくださいね、っと。


少しだけ乱暴に冷蔵庫を閉めると携帯を手に取った。

――ほらやっぱり

ディスプレイに表示された名前を見てなんとなく思ってしまった。
736 名前:考える時間も1つの楽しみ 投稿日:2012/03/13(火) 00:46

「もしもし」
『もしもしよっすぃ〜?あたし』
「ただいま電話に出ることができませーん。ご用の方は発信音の後にご用件をどーぞ」
『出てるじゃん!』
ちょっとした遊び心じゃんね。

電話の向こうで笑ってる姿が簡単に想像できる。

「何かあった?」
『ううん、特に用があったとかじゃないんだけど何してるかなーって思って』
「買い物から帰ってきたところだけど」
『そうだったんだー』


一体何の用事でかけてきたのか、なんて質問はしない。
どうせいつものこと。
たぶん何もないんだろう。


『あたしはね、今家でごろごろしてるとこ』
「で、暇だから電話してきたと」
『正解!でも用事もある』
「何?」
『よっすぃ〜知ってる?もうすぐホワイトデーなんだよ』

ほら来た。

その話が来ることは数時間前にお見通しだよ。
「へー、そいつはすごい」
あたしはワザとらしく言ってやった。
737 名前:考える時間も1つの楽しみ 投稿日:2012/03/13(火) 00:47

『ホワイトと言ったらよっすぃ〜の担当でしょ?ムースポッキーもそうだったし』
「懐かしいね」
『だからね、ホワイトデー楽しみにしてる』
「え、あたしバレンタインもらってないんだけど」
『あげたよ』
「いや、もらってないから」
『あげたあげた。むしろいつもあげてる』
「何を?」
なんとなく想像はできるけど。

『あたしの愛情とか』

いっつもこうやって、適当なこと言って。
あーあ、仕方ねーなー。
今度の休みにうち来てもらうか。

そんなことを考えてたあたしの姿が鏡に映る。
……何にやけてんだか。
自分の頬を手のひらで思いっきり伸ばしてみた。
変な顔。
「おっもしれー顔してんなー」
『何々?』
「なんでもない」


鏡から目を逸らして、電話の向こうを想像して向き合ってみた。
きっと今は少し怪訝な顔してこっちを見ているはず。
738 名前:考える時間も1つの楽しみ 投稿日:2012/03/13(火) 00:48

「その代わり文句なしね」
『言わないよ』
「梨華ちゃんだからなー」
『ひどーい』
「まぁそんなとこもかわいいんだけど」
『もうやだぁ』

いつもの声。
たぶん電話の向こうで目を細めてるんだろうなぁ。
なんだかんだでそんな姿がかわいいんだよ、梨華ちゃんは。

『じゃあよっすぃ〜、忘れないでね』
「はいはい」
『もう、ほんと超楽しみにしてるから』
「わかった。楽しみにしててくれぃ」
『はーい。それじゃあねー』


さて、どうやっておもてなししようか。
これから計画練らないと。

そんなことを考えてたあたしの姿をやっぱり鏡が映していて。
案の定頬が緩んでいて、我ながら梨華ちゃんには甘いなぁと携帯を見つめて苦笑いした。
739 名前:考える時間も1つの楽しみ 投稿日:2012/03/13(火) 00:48
終わりです
740 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/13(火) 09:51
イイ!
741 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/13(火) 10:27
やばい、このいしよしすごくいい
742 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/03/14(水) 00:23
好きすぎる!
743 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/21(土) 12:15
『ホテル 炭酸』
744 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/21(土) 12:16
鞘師が廊下に出ると、ちょうど斜め前のドアからも誰かが
出てくるところだった。
現れたのは、頭にタオルを巻いて釣り目が強調された石田。紅い顔。
ばったりというタイミングでもないが、向こうがこちらを見て

「あ、お疲れ様です」

と言ってきたので、鞘師もオツカレ、と答え

「お風呂入ってたんだ?」

と続ける。

「はい、どーしても炭酸が飲みたくって。
 買いに行こうと思ったんですよ」
「あ、うちもー。ホテル来ると必ず自販機見に行くの」
「炭酸調査ですか、もしかして」
「うん」

さすが炭酸博士、などと話し合いながら二人で同じ方向に進む。
745 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/21(土) 12:18
目的地に自動販売機は二台あった。
ただし、片方は小さめの缶ビール専用機である。
二人ともそちらには目もくれず、大きい方の機械に注目した。

ミネラルウォーター、お茶、コーヒー、スポーツドリンクと、
そして赤い缶の炭酸が並んでいる。

「特に珍しいものは入ってないんですね」
「そうだねだいたいどこもこんな感じなんだけど、
 北海道行ったときガラナっていうのがあって。
 コーラみたいなやつで」
「……買わないんですか?」

石田は聞きながら小銭を用意していたのだが、
鞘師は喋っているだけだった。

「見にきただけだから」
「……あ、先輩。ならアタシ奢りますよ?」

あっちの方を、とビールの缶を指差す後輩。
ニヤニヤしている。

「いやいやそれは」
「炭酸じゃないですかー遠慮しないでくだっさいよー?」
「老後の楽しみに」
「老後!?」
「あ、違う、成人式だ」

石田は腰を折って大笑いして、自販機のガラスに頭を打ち付けそうに
なっていた。

「間違えちゃった。うふふ、イヒヒ」

実は『成人式』でも間違っているのだが、
鞘師がそれに気付くのは後のことである。
746 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/21(土) 12:20
「……あー、も、笑いすぎて、……涙が……はぁ〜……」
「ごめん、ごめんねー」

やっとのことで、500円玉を機械に投入した石田。
赤い炭酸のボタンを押して取り出し口から缶を取り出すと、
はい、とそのままそれを鞘師の前に差し出した。

「え、いいよ」
「いまの面白かったから。あとで飲んでください」
「ホントいいって。 自分の買いに来たんじゃろ?」
「もう一本買えますから」
「でもさ、ここ150円……」
「気にしなくていいんですよ! ほら、充分足りるんで」

釣銭を手のひらにのせて、なぜか誇らしげにしている。
頭に巻いているタオルのせいで、どこかの国の王様みたいだ。
それならば、と、鞘師は王に対し遠慮することをやめた。

「じゃあ……貰っとく。ありがとう」
「こちらこそ。超ウケました」



がこん。



石田は、再び赤い缶を取り出した。
747 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/21(土) 12:21
おわり
748 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/04/22(日) 15:23
鞘師と石田って新しいな
入った時期がそんなに変わらない年上後輩との関係って萌える
749 名前: 投稿日:2012/05/11(金) 22:07
こないだの嘘なんだよね?
愛理が袖を掴んで引っ張った。最近は二人での撮影が多くて、スタッフさんもバタバタしてる。
二人での待ち時間は珍しくはない。
そんな時の愛理はおいしいものの話で頬を緩ませたりしているのに急に、違うところに移っていた。
「こないだって?」
「舞美ちゃんが、泣いた時の。」
愛理はいつも滑舌が悪いけれど今日は一段と聞き取りにくかった。曇り空みたいに読めない。
「ドッキリの?」
「そう。」
低くてどんよりしてる。大きな黒目がゆらゆらゆれていた。
嘘だよ。
声にすると思ったより明るくなって場にそぐわないと思った。
愛理は静かで、たまにわからない。
大事な時は特に表情を隠すというか、狙われた小動物みたいにひっそりと、動きを殺していくから。
私が相談する側ならきっと「こないだ」みたいに言葉を選びながら返事をくれるけれど。
今愛理は私をじいっと見ている。見ていて見ていない。どこかなにか探してる。
袖を引いた手は何時の間にか愛理の元に帰り、お行儀よく大人しくしていた。
「どうしたの?私、やめないよ?」
少し丸まり気味の愛理を覗き込むと、うん、ともそもそ頷いた。
おがくずを抱き寄せてるみたいな動きだった。
身の回りに重たい空気が引き寄せられて、なんだか塀ができてしまいそう。
もこもこの空気は実際にはないから私から手を延ばして愛理の肩を抱く。
細い、骨、だけど華奢すぎるわけではなくて、それが愛理だなと思う。
いつも通りの肩の持ち主はいつも通りではない様子でぼんやり床の汚れを見つめていた。
そんなわけではないだろうけど、そんなところを眺めていた。
愛理は黙る。舞とか千聖なら聞いてくることを愛理は、自分の中で噛んで飲み込んで消化する。
その過程に人をいれたがらない。
む、と結ばれた口はあんな幼い頃を思い出しても、今も頑固そうで、開いてくれないのかな、いつも待っているのに。
私には待つことしかできない。きっとこじ開けるには鍵がいるのだろう。
夜行性の動物は部屋を暗くしてその時間になれば出てくるように何か条件がいるのかもしれない。
でもそれが何か未だにわからない。
おがくずなんか集めなくてもずっと塀はある。ぐるぐる周りをまだ回っている。
狼が息を吹いたらびゅううと飛んで行くようなのだったらいいのに。
愛理が黙るから、私も自分から何を話したら良いのかわからなくて黙った。
今飲み込んでる最中なら邪魔になるから愛理の言葉を待った。
そうすると愛理はしばらくしてから、ぎぎぎと重たそうに口を開いて、低くてどんよりとした声で、静かに紡いだ。言葉を。

あのね、あたし、いいか悪いか、多分悪いんだけど、ドッキリって聞いてほっとしたの。
舞美ちゃんの夢、叶わないほうが、ホッとしたっていうか、
違うの、女優になってほしいと思うし舞美ちゃんならできると思うんだよ。
でも、急で、外国いっちゃって、℃-uteの活動できなくなっちゃうんだあ、って、それが嘘で安心しただけで、
やっぱり目指してることうまく行ってほしいとおもってるのね。でも舞美ちゃんがいないのって、いなくなるのって。
750 名前:& ◆iDix3eBVp2 投稿日:2012/05/11(金) 22:08

大人しくしていた手が動いている。おがくずを集めてせっせと巣を作っている。
巣は、愛理にとっての、何だろう。
一生懸命話してるのに私はそんなことを考えていた。
ふわふらする愛理の話の要領の得ない理由は、きっと、滑舌が悪くなるのと同じところにあるし、
そういえばこういうのは、いつかは私相手ではなかった。
愛理は割りと言いたい事はまとめてさっぱり言ってしまう方だった。
言いたくない事はそもそも私達にはあまり言わなかった。
ただぎゅっと、頑固に口を結ぶか言葉尻を濁して、そうするうちに千聖が消してしまったり、する。
今は二人だから消す人はいない。スタッフさんはくる様子はない。
来ても待っててほしいなんて勝手な事を願っていた。
だってこんなこと前は言わなかった。
考えることすらなかった事態が立て続けに起き、
私も愛理も、半年後の不透明さを遠回しに吐き出す先が奪われてしまったから。
体の一部が根こそぎ奪われて行ったみたいだった。
それでも立って歩き続けないといけない。
やっと慣れたところで、慣れただけで、それが永遠ということはない。
私達はお互いに隠しているのではないかと疑うから暗に確かめる。
愛理は、頭が良くて優しいから、いなくならないでとは言わない。
その代わりに踏み絵みたいに言わせるのだ。

「いなくならないよ。」
751 名前: 投稿日:2012/05/11(金) 22:08

たったこれが一瞬効く程度の薬だとしても。
「違、そういうこと言わせたいんじゃなくて。」
慌てているのと反対に少しだけ黒目の塀が緩んだ気がした。
どんより暗い雲から雨が降り出しそう。雨が降ったら雲は溶けていくんだと思う。
「いつかそうなるかもしれないけど今は。」
大丈夫だよ。肩をさすると解けていき愛理は静かに息をはいた。

あの時えりは、決めたよ、とだけ告げた。
私にだけ、会社から駅へ歩いている最中に、お茶でもしようという気軽さで言おうとしたのは失敗して声はかすかに震えていた。
モデルになりたいから辞める、と。
過程はすっ飛ばして結果だけが。なんだか、見知らぬ女の子からバレンタインに本命チョコを渡されるみたいな唐突さだった。
6人で頑張ろうというときだった。その間にえりは辞める事を考えていただなんて。
きっかけがあり、きっと迷っていたんだろうと思う。
完全な嘘をつける人ではないことはもう長い長い付き合いでわかっているつもりだったから、
悩んでの答えを汲み取りたかった。
物分りがいいふりをして応援するねと笑うとえりは安心したように目尻を緩ませた。
それは本心からの言葉ではあったものの、自分の中に疑問の泡が淀んだ空気を含み音も立てずに表面に浮かぶ。
やっと潰れる頃には、中の空気は腐り疑心暗鬼の基になった。
恨んだりという気持ちはない。
ただ、同じじゃないんだなあって知る事になった。
長く一緒にいて知っているつもりでも確かめないと簡単に崩れていく。
安全地帯なんて存在しない。

752 名前:& ◆iDix3eBVp2 投稿日:2012/05/11(金) 22:09

愛理がそんな目で私を見るのはおそらくは知っているから。
私より少し前に違う人と、私よりもあっけない終わり方をしたのだと思う。
メールだとか電話だとか、携帯を握り締めて画面を睨みつけて、たまにあきらめたみたいにため息を吐く愛理を覚えているよ。
それからしばらくしてスタッフさんから終わりだけが伝えられた時、愛理はぐっと唇を結んでいた。
予想していた中での最悪の展開に私はふらふらしていた中その顔がくっきり浮かんで見えた。
赤い唇が真っ白になるくらい、頑固な唇は開くのを拒むみたいに。
あの日から、いや少し前から、愛理は半分言葉を失ったのだと思う。

結果だけって辛い。
その過程に少しでも関われたなら未来を変えられたかもしれないし、
変えられなくたってもっと納得できたと思う。
余計な心配をかけたくないと考えてしまうのはわかるけれど後から苦しみ続けるくらいなら
一緒に歩いていけた方がずっといい。
だから私は、愛理に小指を差し出した。
愛理は子リスみたいに固まり疑問符を頭に浮かべる。
「愛理、約束。私矢島舞美は、何か迷ったり悩んだときは、必ず愛理に相談する。
 だから愛理は、一緒に悩んでくれる?」
愛理は縛りたがらない。
そういうことが嫌いなくせに未来が怖いから、ずっと想像しているのかもしれない。
私の未来の選択肢を愛理が見つめて、愛理はそれに合わせた先を考えている。
黙って、その日が来たときに自分の中で消化できるように。
私の未来に振り回されなくたっていいのにな、と思いつつ、
そう指摘できないのは、突き放される事を愛理が怖がってる気がしたから。
「う、ん。いいの?」
愛理は小指を差し出して触れないまま止まる。
「何が?」
「その相手、私で、いいの?」
あの時携帯を握り締めていた手がそこにある。
かすれた声は、届けていいのかも迷っているみたいだから、私は手を伸ばして小指をとる。
「愛理がいいの。」
せめて私に関してはもう怖がらなくてもいいよ。
それ以上唇を結んだら唇がおかしくなっちゃうよ。
私が巣になる。愛理を包む巣に。
「ありがと」
失敗してくしゃりと変な笑顔になる。耳が赤くなったのがわかる。
愛理の大きな耳の端が色づいてるから熟れかけの果物を思い浮かべた。
強く抱きしめたら潰れてしまうから私は両腕で抱え込むように愛理を抱く。
愛理が、雛鳥みたいに何度か私の名前を呼んだ。

おわり
753 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/11(金) 22:10
℃のDマガを見て書きました。
お邪魔しました。
754 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/19(土) 17:33
こんな話が読みたかった。
とても良かったです。
755 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/22(火) 15:11
無性に書きたくなってしまったのでお邪魔します。
いしよしです。

「梨華ちゃん、ああいうのに隙見せたらダメだからね。」
吉澤は楽屋のソファにふんぞり返ると不機嫌そうに言う。
「大丈夫だよぉ。」
石川はその横で吉澤の腕の中に入る。
「だって梨華ちゃんいっつも写真くらいならって撮っちゃったりするでしょ?」
「でもそのくらい…。」
困った顔で吉澤を見上げる。
「ダメだって、梨華ちゃんエロい匂いするんだから。ツーショットの距離に近づいたらダメ。あっそうだ、ツーショットあるイベの時はこの香水ダメだよ?」
吉澤は石川の首筋に近づいて匂いを嗅ぐ。
「そんなのひーちゃんだって香水…あ、ひーちゃん。」
石川は思いついたように言う。
「何?姫?」
話逸らすなよとでも言いたげな吉澤。
「さっきの答え。」
赤くなってる石川と
「は?」
それに少しドキドキしてしまう吉澤。
「なに想像してんだよって。息が止まるくらいの甘いくちづけ…。」
そう言って吉澤の唇を見つめる。
「あの…姫じゃなくて?」
吉澤は冗談風に言ってみるけど嫉妬は隠しきれない。
「バカ、何嫉妬してるのよ。それに姫はアタ…んっ。」
吉澤は石川の唇を塞ぐ。
「っん…この香水ヤバ…ん。」
喋るなとでも言う風に吉澤の奥まで攻める。
石川の激しさと香水の香りに応えるように吉澤もギュッと抱きしめて甘いキスをする。


「「ハァ…ハァ…んっ。」」
息を鎮めるリズムも名残惜しくチュッするタイミングも合っている。
「今日ウチくるでしょ?」
「うん、ボディクリームの香りも堪能しないとね。」
「ボディクリームだけ?」
「メインは中身に決まってんじゃん。」
「エッチ。」
石川から香る匂いがよりセクシーになった気がする。
「梨華ちゃん、早く家行こ。」
756 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/22(火) 15:13
すみません、おわりです。
757 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/23(水) 02:52
続きを!
758 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/23(水) 11:07
タイムリーなネタで面白かったです。
759 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/01(金) 00:25
あまいひみつ
760 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/01(金) 00:27
石田は常に『お菓子袋』を持っている。
メンバーそれぞれアメやグミを持ち歩いてはいるが、専用の入れ物を
所持しているのは彼女くらいだった。
そのせいか、鞘師はその中身がとても気になっている。
なんとなく懐かしい巾着袋だったのも、興味を持った要因のひとつだった。

「いつもどんなの入れてるの?」

稽古の休憩時間に早速石田が巾着から一口大のチョコを取り出しているのを見て、
鞘師は尋ねた。

「チョコばっかり入れてます」
「全部同じ種類?」
「いや、……えーと」

持ち主でも把握しきれていないのか、石田は巾着をのぞき込んでいる。
汗をかいて色んな角度で額に張り付いていた前髪を、なんか揃えたいな、
と思いながら鞘師は見ていた。
761 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/01(金) 00:29
「あ、惜しいなー。今日は二種類くらいしかないです。
 いつもはもっとあるんですよ」
「言う割に見せてくれないよね?」

きつい言い方にならないように笑いながら言ったつもりだが、
大丈夫だろうか。

「見たいですか? でも見せませんよ?
 これは私の秘密兵器なんです」

大丈夫そうだった。

「そうなんだ、くどぅーのより強い?」
「もちろん最強ですよ!」

可愛い年上さん。
鞘師の石田への印象は、だいたいいつもこれに行き着いている。
だから、石田がチョコを口に含んだのを見て

「おいしい?」

こんな風に聞いてしまうのもそんな印象のせいだったのだが、

「……欲しいですか、もしかして」
「あ、そういうつもりじゃなかったんだよ」

結果気を遣わせてしまったので、鞘師は焦って自分も何か食べようと思った。
762 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/01(金) 00:31
ポケットにタブレットを入れていたのでそれを取り出す。
軽く振ってケースからタブレットを手のひらに落としてみたら、
二粒出てきたので、一気に口に放り込んだ。

「辛いやつですか? それ」
「ん? あ、そうだね。二個ならちょっと辛いかも」
「うわー辛いの駄目なんですよね」
「スッキリするしわたしは好きだよ」

いつも眠そうですもんねー、石田はニヤついている。

「そういつも眠いんだ。あ、じゃあこれわたしの秘密兵器」
「お、いいですね!」

なんか反応がおじさんっぽいなあ。でも。
わたしがすることなら、何でも『いいですね!』って言ってくれそう。

だったら嬉しいな、と鞘師は思った。

「眠くなったら、言ってくれたらあげるよ」
「いやそれは遠慮しておきます」

けれどそんな期待はあっさり裏切られた。
本当に辛いものが苦手らしい。
763 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/01(金) 00:33
流れで、じゃあ眠い時はどうするのか、という話になった。
石田は腕をつねったりしているらしい。結構荒っぽい。
鞘師は常に眠く、外からの刺激ではなかなか目が醒めないのが悩みだった。
朝は毎日辛くて、半分寝ながら身支度をしている。
歯を磨いたら少しだけ目が醒めるのだが、少し経てばまたぼんやりしてくる。

「歯磨き粉たっぷり使ったらどうですか? あれ辛いですよね」
「どうかなあ、泡ぶくぶくのまま寝ちゃいそう」
「それで苦しくて目が醒めるかも」
「そんな、それじゃ毎日死に際じゃないかー」

石田はこの発言がやけに面白かったようで、肩を震わせて笑いを堪えていた。
声をあげないのはまた気を遣っているんだろうか。
自分より小さな生き物が震えているのはなんだかキュンと来る。
失礼ながら鞘師はそう思ってしまった。

「楽しそうだね」
「す、すいません」
「いやいや」
「泡ふいてるの想像したら、面白かわいいです」
「フォローになってないなあ」
「……言い直します。かわいいですよ、鞘師さんは」
「そんなこと言ってー。フリスク食べさせるよ?」
「それは本当にやめてください」
764 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/01(金) 00:35
二度目の拒否でちょっとした疑問がわいた。
歯磨き粉。

「あゆみんってさ、もしかしてうちでも歯磨きは水だけなの?」

一応、ライブ前にはみんな歯を磨くのだが、メイクの後なので自分を含め
メンバーは水だけで磨いている。
辛いのが苦手なら自宅でもそうなのだろうか、と思ったのだ。

答えが返ってくるのに少し間があいて、石田はわざとらしく口元に手を添えて
こう言った。

「実は、子供用のを」
「……かわいい!」

とうとう鞘師は声に出してしまう。
メロン味とかイチゴ味とかの、何かのキャラクターがついたチューブを
石田が持っていると想像するだけで、もう堪らなかった。
765 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/01(金) 00:37
「駄目ですよナイショにしててください!
 特に十期には知られたくないんですって」

石田は慌てて今度はお口にチャック的な仕草をした。
鞘師もハッとして口元に手をあててこっそりまわりをうかがう。
割と騒がしかったので気付かれてはいないようだ。
視線を石田に戻すとなんとなく泣きそうな顔をしている。
泣き出すかもしれないよ。

「言わない、絶対言わないから」
「ほんとお願いします……」
「っでもさ、最近色んな味の出てるじゃん」
「そうなんですか?」
「そうだよ、ハンズとかでチョコ味のとか売ってるの見たことあるし」

興味はあったけど手が出なかった、たくさん種類があったよ、
白くて番号が付いてて……と鞘師は立て続けにプッシュした。
石田がだんだん興味深そうに、あるいは深刻そうに頷いているのが
わかったので、これが決め手とばかりに言い放った。

「今度買ってきてあげようか」
「ほんとですか!?」

見事に釣り上げられる可愛い年上さん。
鞘師はとても嬉しくて、思わず、一緒に買いに行こう、と誘ってしまった。
それを聞いて石田は

「いいですね!」

と答えた。
766 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/01(金) 00:38
おわり


歯磨き粉=捏造
辛いもの苦手=本当 です。
767 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/01(金) 04:32
イイネッ
768 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/01(金) 23:36
上の方に続いて鞘石です
あとかなりCP色が強めな話になってます
769 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/01(金) 23:38
んっ。と吐息に混じって色ぽっい声が聞こえた。
石田ちゃんの後頭部に手を回すと、軽く顔を傾げるとより深く口付ける。
どれくらいキスをしていたのだろうか、息苦しくなったのか抗議するように肩を叩かれて、
私はようやく我に返った。

名残惜しかったが顔を離すと2人とも荒い息を漏らした。
でも息が整ってくると、石田ちゃんが軽くこちらを睨んでくる。
それからキス長すぎですよって怒られた。
私は唇が魅力的だったから、つい。って言い返したら、石田ちゃんは耳と顔を真っ赤にして
意味が分かりませんってまた怒った。

だけどそうとしか言いようがなかった。
その赤い唇は柔らかそうで、でも時折艶めかしくて、無意識に誘ってくるから、いつだって
私は目が離せない。
触れたくて、唇を押し付けたくて、味わいたくなって、いつだって私は理性が保てない。
今だって少し視線を上げれば、自然と石田ちゃんの唇を見つめてしまう。

私の視線に気づいたのか石田ちゃんは慌てて両手で口元を覆う。
その仕草が可愛くて軽く吹き出すと、突然襲ってくるのやめてくださいってまた怒られた。
何も言い返せなくて私は苦笑する。

770 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/01(金) 23:38

「・・・鞘師さんってキス魔なんですか?」
「さぁ?」
「いや、さぁ?っておかしいですから!」
「自分じゃ全く自覚ないから。あっ、でも・・・石田ちゃん限定でそうかもしんないね」

微笑みながら石田ちゃんに向かって手を伸ばす。
私の手から逃れようと体が退かれる。でもそれより早く私の手が石田ちゃんの手を掴む。
手首を掴んで近くの壁に押し付ける。体を近づける。軽く顔を傾ける。亜祐美ちゃんが顔を逸らす。
気にせず顔を近づける。


「亜祐美」

私は静かに彼女の名前を呼んだ。石田ちゃんの肩が小さく跳ねる。
少ししてから石田ちゃんがゆっくりとこちらに顔を向けた。
それが意思的なのかは分からないが、少し色素の薄い茶色の瞳が微かに濡れていた。


「・・・いきなり名前で呼ぶの反則です」
「・・・石田ちゃんこそ、その顔反則過ぎだから」

目が合う。再び顔を近づける。鼻先が触れ合う。目線を逸らされる。名前を呼ぶ。また目が合う。
私は軽く顔を傾けるとしっかりと唇を塞いだ。
そして唇の柔らかさを堪能しながら、啄ばむような口付けを繰り返す。
私はこのまま永遠にキスしていたいと思った。

771 名前:名無し飼育さん 投稿日:2012/06/01(金) 23:40
短いですが、以上です

年下の鞘師にしてやられてる石田が好きです
772 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/03(日) 03:11
うはー
作者さんのツボに同意です

>>759
会話のリズムがいかにもこの2人らしくてイイ!
773 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/25(月) 19:34


猫娘 vs 年上キラー


774 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/25(月) 19:35


「今日のだーいしは、まるで猫みたいだね。」

One・Two・ThreeのMV撮影中、ガッツリメイクのまま休憩していると
鞘師さんが隣に来てそんなことを言い出した。

「猫は…田中さんの専売特許じゃないですか。恐れ多い」
「田中さんは確かに動物的な猫だけど…亜佑美ちゃんのは猫娘的な?」

この年下の先輩は、無類のお姉さま好きである。
そして尚且つ、多方面にフェチらしい。
タカハシスターズとして高橋さんをお姉さん認定、
新垣さんの膝上に座っておかあガキさん満喫、
どさくさに紛れてまぁちゃんと一緒に田中れいにゃさんの周りをうろちょろ。
道重さんはベクトルが逆なので置いておくとして…
同期の譜久村さんにまで折を見つけては甘え、
「フクちゃんの肌が好き」などと言っている。
肌といえば…大先輩の安倍なつみさんの手の質感についてまで
コメントしていると噂で聞いた。
775 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/25(月) 19:36

「だーいしのリップシーンは、ずっとモニター見ちゃってたよ」
「あれですか、唇に目が行くっていう?」

興味の対象は、後輩だけど年上な私にまで及んでいるらしい。
先日のラジオでとうとう面と向かって「唇が綺麗だなって思った」と白状された。
ぷるんとしてて、可愛かったらしい。
その後くどぅにつっこまれてしどろもどろになっていたが、
この素直な年下の先輩は、白状せずにはいられなかったらしい。
今日だってそうだ。
一度超えた壁は割とすぐに、躊躇なく越えられる程度の段差にしてしまう様子で。
自分で振っておいてなんだが、ちょっと恥ずかしい。

「確かにそれは否定できない事実なんだけど」
「もったいぶりますね」
「そうかな」
776 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/25(月) 19:37

なんだかいつも以上に目を細めて、
ニコニコしながらこちらを見ている鞘師さん。
恥ずかしがって気分的に押されるのがイヤなので、
ちょっと攻めてみることにした。

「今日は私のどこに目を奪われちゃったんですか」
「えっ?」

一瞬驚いた表情を浮かべ、顔ごと目をそらされる。
思った以上に効果があったらしい。
年下の先輩がどんな反撃をしてくるのか、すこしニヤニヤしながら見つめる。
すると鞘師さんは、伏し目がちな横顔から視線だけこちらに戻して、

「だーいしの…キミの瞳?」
「えっ!」
「ウヒヒヒヒッ」
777 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/25(月) 19:38

鞘師さんに、今日一番の笑顔がはじける。
一方の私は、きっと鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているはずだ。


完全に、してやられた。


この先輩は、年上好きのみならず、年上キラーでもあるらしい。
自分の顔がみるみるゆでダコのような色になっていくのが分かる。
そのまましばらく固まっていると、

「そのおおきくてちょっと釣りがちな目がたまらないよぉ」

などと言いながら鞘師さんは、スタンバイをしに駆け出して行ってしまった。
去り際、唇に人差し指タッチされたような気もする。
反撃した上に追撃までしてくるとは。
778 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/25(月) 19:38

「亜佑美ちゃん、萌えですね〜」
一通り見ていたらしいはるなんが、満面の笑みで近づいてきた。

わたしはコレでもかというくらい唇を突き出して、
ふくれっ面をしてみた。
779 名前:OnikUT1jxQ 投稿日:2012/06/25(月) 19:40

>>773-778

「猫娘 vs 年上キラー」


むしゃくしゃしてやった。
今は反省している。
780 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/07/03(火) 19:27
いえいえごちそうさまです。
781 名前:少年と猫 投稿日:2012/07/08(日) 21:45
少年と猫
782 名前:少年と猫 投稿日:2012/07/08(日) 21:47
深夜1時をちょうどまわったくらい、ハルは初夏のじめじめとしたむし暑さになんだか寝付けなくて。
仕方なく自室のベットに寝ころがって目を閉じ静かに空想に耽っていたのです。
ハルはポケットから変身グッズを取り出すと日曜日の朝に放送している戦隊モノのヒーローに変身しました。
敵の怪物の大きな頭は激しくくるくると周り、しばらくするとゆるく二転三転して邪神テラダーリャに変わりました。
激しい戦いの末テラダーリャを倒して、囚われのじっちゃんを救い世界に平和が訪れたその時です。
寝ている自分の上にもふもふとした何か重みのあるものが乗っかっていることに気が付いたのです。
それになんだか鼻の上がつーんとしてむずがゆくなってきました。

――お化けだったらどうしよう。
ふとそのような恐ろしい考えが頭を過りました。
もし、この間みんなで遊園地のお化け屋敷に入った時に見た恐ろしい猫の怪物のように襲いかかってきたら。
あぁ、でもハルは別にお化けはちっとも恐くなんかないですよ。お化けぐらい大丈夫ですから。全然平気……ええ、はい。
え、体が震えてるって?そんなわけないでしょう、ばーかばーか。
783 名前:少年と猫 投稿日:2012/07/08(日) 21:48
ハルは勇気を振り絞って、お腹の上に居座っているもふもふに恐る恐る手を伸ばし触れてみました。
それは想像以上に柔らかくて、温かくて、それも動物の温もりが伝わってきました。
優しく撫でてあげると、もふもふはごろごろと嬉しそうに喉を鳴らしました。
そして固い芯のようなものでハルの指をなぞってくすぐると爪をカリカリと掻いてきました。
猫だ。しかしながら、生憎部屋は暗闇でその姿は確認できなかったのです。
電気を付けたら猫の姿をしたお化けが現れる、なんて可能性も否定できませんよね。
急いで上体を起こすとベッドの中にある明かりがつく目覚まし時計を探します。
しばらくガサゴソと布団の中をガサツに探ると自身の足元で時計を発見しました。
よっしゃあ、とハルはほくそ笑むと器用に足を使って時計を手繰り寄せ手に取りました。
ところが、勢いでハルは猫の尻尾も一緒に掴んでしまっていたのです。
それもかなり強い力で。

明かりをつけると猫は、――いいえ、頭部に猫耳を生やしたあゆみんは「ふしゃあ」と鳴き叫び、尻尾をつんと伸ばし立て恐ろしい形相でこちらを睨んでいました。
ハルは恐くなってすぐにその場から逃げ出そうと試みましたが、暗闇で光る鋭い瞳に見すくめられ、まるで金縛りにあったかのように一歩も動けなかったのです。
あゆみんは短く切り揃えられた爪をぺろりと妖艶に舐めると、もう一方の手をハルの口元に運び指の先で唇をなぞってカリカリと擦りました。
どうかこれが夢でありますように、ハルはそう切実に願いながら、再び目を閉じゆっくりベットに落ちていきました。
784 名前:少年と猫 投稿日:2012/07/08(日) 21:48
おわり
785 名前:少年と猫 投稿日:2012/07/08(日) 21:52
済みませんあゆみん→だーいしで
呼称が不確かで済みません
786 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/07/09(月) 08:49
猫だーいしキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
787 名前:些細ではない出来事 投稿日:2012/07/09(月) 23:45
鞘石
788 名前:些細ではない出来事 投稿日:2012/07/09(月) 23:46
リップシーンの撮影順が近づいてきたので撮影場所に移動すると、
順番的には自分よりふたりほどあとのはずの鞘師がすでにそこに座っていて、思わず石田の足が止まった。

「…早いですね」
「まあね」

何の気なしに近づいて隣に腰を下ろすと、石田を認めた鞘師の口元が僅かに綻んだが、答えた声は少し小さかった。

「? 眠いんですか?」
「えー? もう昼だよ?」

それもそうだ。
撮影は朝から始まっていて、メイクだってバッチリ済ませているのにまだ眠いことは有り得ないだろう。

鞘師が静かなときは眠いとき、と、勝手に決めつけてしまったようで石田が言葉を迷っていると、鞘師は可笑しそうに肩を竦めた。

「まあ、寝不足ではあるけども」
「……それって眠いってことじゃ」
「そうともいうね」
「…もー、ちょっと心配したのに」
「ごめんごめん」

ふはは、と軽く笑ったあと、不意に、けん、と聞こえる咳をした鞘師が口元を押さえながら石田から顔を背ける。

けんけん、と連続して2回聞こえたあとで、ふー、と長く息を吐いた。
789 名前:些細ではない出来事 投稿日:2012/07/09(月) 23:46
「風邪?」
「んー、実は朝から喉がイガイガしてて。…楽屋、ちょっと空気濁ってたから逃げてきたの」
「あ、喉飴、持ってますよ、いります?」
「うん、ほしい」

今朝、コンビニに寄ったとき、なんとなく手にとったスティックタイプの喉飴を買った。
念のために持ってきたメイクポーチの中に忍ばせていたそれを思いだして言うと、鞘師は何故だかホッとしたように頷いた。

包装を解くと個包装された粒がふたつほど剥がれるように石田の手のひらに転がる。
そのうちの一粒を手渡そうと顔を上げたら、なにを思ったか、鞘師が大きく口を開いていた。

「えっ?」
「あーん」

思わず苦笑いしてしまった石田に構わず、鞘師は声にも出して強請る。
寝不足のせいもあるのか、どうやら今の鞘師は甘えモードらしい。

「…苦手な味じゃないといいんですけど」

包み紙を開いて粒を持ち、それをそのまま口の中に放り込んでやる。

そのとき、的を見誤った石田の指先が僅かに鞘師の唇の端に触れてしまい、ほんの少しだけ顎を引かれたが、
ぱくん、と口を閉じた鞘師はそれ以外には特に目立った反応を見せず、2秒ほど黙って、それからにっこり笑った。

「へーき」
「よかった」

ホッとしたところで、手に残ったもう一粒の処遇をちょっとだけ思案して、結局包み紙を開き、自分も口の中に放り込んだ。
790 名前:些細ではない出来事 投稿日:2012/07/09(月) 23:46
「あっ」
「えっ?」

口の中に馴染んだ味が広がるより早く、鞘師の短い声が石田の耳に届く。

振り向くと、半ば凝視に近い視線で鞘師がこちらを見つめていて。

「…? 鞘師さん?」

呼びかけると、ハッとしたように肩先を僅かに揺らしてから顎を引く。
咄嗟に距離をとられたように感じた石田が首を傾げたら、鞘師は何故か気まずそうに手で口を押さえて俯いてしまった。

「え、あれ? やっぱダメな味でした?」
「…や、だいじょぶ、へーき」
「いやいや、ダメだったら吐き出しちゃってください」

言いながら近くにあったティッシュボックスに手を伸ばそうとしたら、その手を手首ごと掴まえられた。

「…ほ、ほんと、に、大丈夫…」

ぎゅ、と掴まえられたそのチカラが思ったより強くて、掴まれた部分が熱を孕む。

伸ばしかけた手を掴まれたことで中途半端に宙を泳いでいる自分の手のあり方に困惑していると、
やがてそれに気づいたらしい鞘師が、そろりそろりと石田の手を掴んだまま、自分の膝の上に置いた。
791 名前:些細ではない出来事 投稿日:2012/07/09(月) 23:46
「鞘師さん?」

さっきから下を向いたままで顔を上げてくれないので表情が見えない。
表情が見えないと、どんなことを考えているだろうかという予測もできなくて困惑が更に濃くなった。

手首を掴んでいる手のチカラが次第に弱くなっていき、そのかわりか、手首から指先へと鞘師の手が移動する。
何か意図があるようで、でもそれは石田には読めない。

鞘師が、自身の親指の腹側で、石田の親指の爪をそろりとなぞった。
親指だけでなく、人差し指、中指、と、順番に一本ずつ、第一関節までを親指と人差し指の腹で挟んで、まるで確認するみたいに。

その動きが不快だったわけではないが、鞘師の顔が見えないことで、何をしているかがわからなくて不安でもあった。

薬指にも触れ、小指の先を挟む頃にはもうほとんど鞘師の手は石田から離れるところだったのだが、
鞘師の手のひらの熱が石田の手首の内側に伝わっていたせいか、離されるのがわかると何故だか名残惜しいようにも感じてハッとした。

思わずカラダを揺らしてしまったことで、小指の先を撫でていたチカラがほんの少しだけ強くなった。

「鞘師さん、あの…」
「…やだ?」
「やだ、っていうか、くすぐったいです」

小指だけ、さっきまでとなぞり方が違うような気がした。
そろそろ離す頃合いかと思ったのに、鞘師はまだ、石田の小指を指先だけで掴まえている。

ひょっとして、鞘師の意図はここだろうか。
792 名前:些細ではない出来事 投稿日:2012/07/09(月) 23:47
「…あたしがいま何考えてるか、わかった?」
「えっ?」

不意に聞かれてドキリとする。
返事の声もたぶん、少し裏返った。

鞘師を見ると、さっきまで下を向いていた顔はやや上がっていて、だけど上目遣いで石田を見ている。
その頬が微妙に赤くなって見えるのは気のせいだろうか。

「…え、と……、すいません、わかりません」
「……そっか」

期待に応えられないことでがっかりさせるかとも思ったが、
短く答えただけの鞘師の声色や表情はそれほど失望を見せてはおらず、なんとなくホッとしたようにも見受けられた。

その直後、がり、と聞こえて、その音の正体が鞘師の口の中だと気づく。

「ちょ、喉飴なのに噛んだらダメですよ」
「あー」

やっちゃった、という顔をしたのは一瞬で、悪びれもせず、口の中で更に細かく噛み砕く。
それからようやく、鞘師は石田の手を離した。
793 名前:些細ではない出来事 投稿日:2012/07/09(月) 23:47
「ねえ、もう一個ちょーだい」
「いいですけど、今度は噛まないでくださいね?」
「うん」

にこにこ、というよりは、ふにゃふにゃした笑い方で笑う鞘師に小さく溜め息を吐き出しながらも、再び包装を剥がす。
今度もふたつ剥がれ落ちてきたので、どちらもあげようと差し出された鞘師の手のひらに乗せてから、ふと、あることに気がつく。

さっきまで鞘師が掴んでいた小指の先。
そこに残っているのは鞘師の手の熱だけではない気がしたのだ。

なんだっけ、と思考を巡らせて、すぐに辿りつく。

鞘師の口に飴を放り込むとき、その唇に当たったのはこの指ではなかったか?
そして自分はこの手で、飴の包装を解いて自分の口の中に入れなかったか?

さっき、鞘師が聞きたかったことが唐突にわかった気がした。
なかなか顔を上げてくれなかった理由も、ようやくこちらを見たときにその頬が赤く染まっていたのが気のせいではなかったことも。

もちろん故意ではなかった。
気にするほうがどうかしていると言われるほどの些細な出来事だし、石田にしても、普段なら意にも介さないだろう。
鞘師が、あんなふうに動揺を見せたりしなければ。
794 名前:些細ではない出来事 投稿日:2012/07/09(月) 23:47
「亜佑美ちゃん?」

半ば呆然として鞘師を見つめていた石田に、今度は鞘師が困惑顔で首を傾げる。
その声にハッとして、慌てて手をひっこめたときだった。

「里保ー」

少し離れた位置から生田の声が聞こえた。

「はーい」
「小物ー、聖のと間違えとぉよー」
「えっ、ごめーん、今行くー」

振り返って答えた鞘師が再び石田に向きなおる。

「ちょっと行ってくる。飴、ありがとね」
「い、いえ…。今度は噛まないでくださいね」
「わかったわかった」

同じ言葉を繰り返してしまったせいで鞘師の返事はめんどくさそうだった。
ふはは、とまた笑うと、鞘師は少し急ぎ足で手招いている生田のほうへと向かった。
795 名前:些細ではない出来事 投稿日:2012/07/09(月) 23:47
鞘師の姿が見えなくなってから、石田は両手で自分の顔を覆い隠す。

些細なことだ。
考えようによっては間接キスまがいかも知れないが、こんなこと、同じペットボトルの回し飲みより頻繁に、日常的に起こることじゃないか。

鞘師が自分を意識した、と感じとってしまって、それが石田の感情を揺さぶる。
あんなふうに動揺なんて見せられたりしなければ、こっちも変に意識なんてしないでいられたのに!

一度気になりだしたら止まらなくなる。

鞘師はどう思ったのか。
無遠慮で不躾な後輩などと思われなかっただろうか。
そもそも、鞘師はなんだってこんなことで顔を赤くなんてしたのだ。
あんな態度では意識されているとしか思えないじゃないか。

勘違いだと思えたらどんなに気がラクだろう。
だけど、そう思えないくらいに、鞘師の動揺は顕著だった。

鞘師に掴まれていた手首がまだ熱を持っているようで、順番に撫でられた指先にも熱が灯った錯覚が起きる。

石田の心音が跳ねる。
跳ねたと同時にまた顔が熱くなって、そしてその熱は鞘師が戻ってくるまで、なかなか引いてくれなかった。





END
796 名前:些細ではない出来事 投稿日:2012/07/09(月) 23:48
正直スマンカッタ
797 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/07/10(火) 02:38
鞘石はなぜこうもいいのかね
798 名前:このついで 投稿日:2012/07/31(火) 18:58
後藤が気にかけて「圭ちゃん元気? 最近どう?」と電話をくれるのに「どうってことないよ」と返してつれなく切った。料理をしている。市販のミートソースにセロリなどを加えて、茹で上がったパスタにかけるだけの食事は、そう悪くないが良くもない。いつもこれくらい食べられるだろうと思って200g茹でるのだけど、実際は半分も食べられない。捨てるのはしのびないからラップをかけて冷蔵庫に入れておくのだけど、そうして溜まったパスタがもう冷蔵庫の中、大半を占拠している。奥の方にあるクリームパスタを取り出してみるとポツポツと黒い斑点が浮かび上がっていて思わず笑ってしまった。「腐ってやがる! 早すぎんたんだ!」けれども私の冗談に笑ってくれる人もここにはいないから寂しさを覚える。
 夕方、日が落ちてから買い物に出かけた。最近はとても暑い。きっともう夏なのだと思う。電柱に花火大会のポスターが貼ってあった。チャーミングな絵柄で、浴衣を着た姉弟と思しき男女がそこには描いてあり、花火大会という文字の裏にパッと虹色に輝く花火が垣間見える。ふつうこういうのは花火が主役であって、「花火大会」という文字列が前面に出て、主役であってどうするのだ。この姉弟はなんだ。幸福そうな顔をしやがって。私は何も楽しくないのに。
 スーパーの中は冷えすぎていて、店内全体が冷蔵庫のようなことになっていた。鳥肌が立つ。スーツ姿のサラリーマンが牛乳をしこたま買い込んでいる。牛乳を買う男の人を見ると「この人はレオンに憧れているんだな」とつい思ってしまう。ああ私のマチルダ。どこにいるのだろう。サラリーマンは納豆と豆腐と発泡酒を買い物カゴに入れてレジへ並んだ。私はやたら安い白ワインを二本と、パスタと、出来合いのクリームソースと、ナポリタンソースと、ミートソースと、それから、まあ色々と買った。
799 名前:このついで 投稿日:2012/07/31(火) 18:59
 家に帰る途中で近くにコンビニが出来ていることに気付いた。オープン初日らしく、下は小学生から上はくそじじいまで、みんなしてガリガリ君を買い求めている。私もふとガリガリ君の歯を貫く冷たさが懐かしくなって、それを買い求めた。食べながら帰る。頭の奥がキンキンと痛む。半分ほど食べて道端に捨ててしまった。「ダメですよ」後ろからそう声がかかって、見ると、吉澤だった。「保田さん、なにしてんすか。みんな心配してるんですよ」「悪い、ほっといて」そりゃまあ保田さんのことは保田さんのことですから、私も、みんなも、知ったこっちゃないんですけど、迷惑かけちゃダメですよ、私、保田さんそんな人だと思わなかった、もっとしっかりしてる人だと思ってた、ガリガリ君を道端にポイ捨てするような人じゃないと思ってた、もったない、私に下さいよ。いいよ、あげるよ、拾って食べたらいいよ、3秒ルール、まだイケると思うよ。
 吉澤はなにやら文句を言いながら家までついてきて、ズカズカと上がり込んだ。「部屋はキレイにしてるんですね」と言った。「そうじゃないと落ち着かないからね」「道端にガリガリ君は捨てるくせに?」「地球は私のゴミ箱だからね」「なにかっこつけてんだ」吉澤は買い物袋から勝手にワインを取り出して、開け、ワイングラスを要求し、渡すと、「もう一つ」と言って、もう一つ手渡すと、それらになみなみにワインを注ぎ、「乾杯しましょうか」と言った。「今は飲む気分じゃない」「じゃあなんで買ってきたんですか」「分かんないよ。そういえばスーパーで牛乳買ってるサラリーマンが居てさ」「ええ? はい」「牛乳買ってる男の人見るとレオンに憧れてるのかなって思うよね」「そうですか? よく分かんないですけど。とりあえず乾杯しましょう」「それ冷えてないよ」「ええ、冷えてないですね」「白ワインは冷やさなきゃ」「知りませんよそんなこと」「それに安かったから、きっとまずいと思うんだよね」「じゃあなんで買ってきたんですか?」「なんでだろうね。そういえばレオンにマチルダって女の子が出てくるでしょう? ナタリーポートマン」「ええ、見てないですけど」「なんで? 見なさいよ。すごくいい」「勉強になります」
 吉澤は私の手に無理矢理グラスを持たせ、形だけ乾杯した。カチンと音が鳴った。窓の外では日が暮れかかっているとはいえセミがわんわんと鳴いており、部屋の中は冷房が未だ効ききらず、まったくもってワインなんて気分じゃないのだった。「まずい」と吉澤が言った。グラスは空になっている。「だから言ったでしょ」「まずい、もう一杯」「飲みたきゃ飲んで、私は飲まないから」「保田さんも付き合ってくれなきゃダメです」「なんで」「ごっちんが悲しみます」なんで後藤が、そんなことで、悲しまなきゃならないんだ。「関係ないでしょう」「関係無いですよ。でも、迷惑をかけちゃダメです。許しませんから」私はワイングラスに口をつけた。「まずい」「まずいですよね」「ほんとにねえ」吉澤がタバコに火をつけるのを見て、私はマチルダが慣れない手つきでタバコを吸うシーンを思い出した。ああ私のマチルダ。どこにいるのだろう。

おわり
800 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/08/07(火) 00:32

工藤佐藤。
801 名前:なまえ 投稿日:2012/08/07(火) 00:32
「ねーねーくどぅー!」

今日もハルの後ろをついて歩くまぁちゃん。

「くどぅーってばー!」

名前を何度も呼ばれる。
でも、きっと用事なんてないんだ。
いつもそうなんだ。
振り返ってもニコニコしてるだけで、別に何にもない。

「くどぅー!」

だから、まぁちゃんに名前を呼ばれるたびに相手してたんじゃキリがない。
10回に1回くらい相手すれば、それでちょうどいい。

ハルはそのまま前を向いて歩き続けた。
まぁちゃんはまだ名前を呼んでくる。

楽屋が見える曲がり角を曲がる。
そこまで行けば、他のメンバーがたくさんいる。
まぁちゃんもきっと、その中でわいわいするに違いない。
802 名前:なまえ 投稿日:2012/08/07(火) 00:33
「ねぇー!」
「…」
「ねぇってばー!」
「…るっさぃ、」
「おい、ハル!」
「!?」

思わず振り返った。

まぁちゃんはいつも通り、やっぱりニコニコしている。

「い、今」
「ん?」
「名前」
「ハル!」
「ちょっと!」
「えぇ?」
「名前で呼ぶなよ!」


初めて。
初めて「ハル」って呼ばれて。
いつもは「くどぅー」とか「どぅー」なのに。
803 名前:なまえ 投稿日:2012/08/07(火) 00:34
「なんで? だってまぁちゃんはまぁちゃんって呼ばれたらうれしいよ?」
「ハルは嬉しくないっ!」
「えぇ〜なんでよぅ〜」
「なんでもだよっ、まぁちゃんはハルって呼んじゃダメ!」
「えー、つまんないのー」


まぁちゃんは文句を言っていたけど、
近くを通りかかった田中さんを見つけるとすぐに近寄っていった。

「田中さぁ〜ん、お話ししましょ〜」
「えぇー? 佐藤はもっと落ち着きぃよ」

田中さんもそう言いながら笑顔で、まぁちゃんと一緒に楽屋の中に入っていった。


「……」

ハルは、その入口をぼんやりと見つめていた。
見つめながら、耳に残った「ハル!」という声を思い出しては、
ドキドキと、心臓が余計に動くのを感じていた。
804 名前:なまえ 投稿日:2012/08/07(火) 00:35
「……名前呼ぶのは、反則だよバカ……」

何の前触れもなく、名前で呼ぶなんてズルい。
ハルって呼ぶのは、ハルの、自分だけの権利だったんだ。
それを、まぁちゃんがあっさりと割り込んできた。
でも認めない。まぁちゃんが、ハルのことを「ハル」って呼ぶのは、認めない。

「先に名前呼ぶのとか、絶対に許さないんだからな」


入口から視線を逸らして、「まさき」とつぶやいてみた。
とたんに恥ずかしくなって、耳まで熱くなった。
恥ずかしすぎて、寒気までしてきて、ぶるるっと身体が震えた。


「…恥っずかしいよこれ…ムリムリムリ」


名前で呼ぶのも呼ばれるのも、まだ、早いみたいだ。

805 名前:なまえ 投稿日:2012/08/07(火) 00:36
>>801-804
[なまえ]

TopYellの連載に二人を抜擢した人にありがとうとゆいたいです。
806 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/08/07(火) 01:19
( *´Д`)
807 名前:触れる 投稿日:2012/08/13(月) 01:29
触れる
808 名前:触れる 投稿日:2012/08/13(月) 01:30
ある夏の日の午後、ふと教務室の机に置いてあった古いアルバムに惹かれ、手を伸ばした。
備え付けの給湯室のポットで珈琲を入れ、近くのソファに深く腰かける。
スプーンでカップを混ぜつつ、アルバムを開くと思わず大きなため息が漏れた。
数年前の生徒会役員で撮影した集合写真が収められていたのだ。
珈琲を時折啜りながら、若かりし日の自分の姿に見入った。
あの頃は校則に縛られていて、履いていたスカートの丈が異常に長かったことだとか。
額を露出した髪型を強制させられていたことだとか。
しばし懐かしくもほろ苦い記憶に感傷に浸っていると、何やら足元からガサゴソと物音が聞こえてきた。
まさか鼠かゴキブリでも出たのだろうか。
それはちょっと嫌だなあ、と考えさせられる間もなく、突如、見ていたアルバムの下をするすると潜り抜けてイクタがひょいと顔を現したのだ。

「ニイガキ先生!探したんですよー、学校の中満遍なく。どこに行ってたんですかあ」
「わあびっくりしたー。ちょっと、驚かせないでよ。ばか。まじ心臓止まるかと思った……」
「もし心臓が止まったらニイガキ先生は永遠にえりなのものになりますかね」

私は「めったなことを言うんじゃないよ、ばか」と、呆れたように窘めると再び深いため息をついた。
そして恒例の説教を始める。

「大体がさ、あなたねー人間の生死をそのように軽んじるのはどうかと思うんだよね私は。――っとおいこらーイクタ、話を最後まで聞け」

既にイクタの興味の先は、先程のアルバムへと移り変わっていたのだ。
どうやら彼女の所持品だったらしい。
知らぬ間にそれを私の手元から奪うと、幸福そうに頬を緩め写真を鑑賞していた。
特にあの写真は、あの時生徒会に所属していた生徒にだけ配布されたものだというのに、一体どこで手に入れたのか。
イクタの小さな頭を軽く素手でぐりぐりと押す。
809 名前:触れる 投稿日:2012/08/13(月) 01:32
今私が言った話をちゃんと聞いていたの?と問うと、イクタは「勿論聞いてましたよお」と答え、えっへへと顔をくしゃくしゃにして笑う。
はぁ、と三度目のため息が唇からこぼれる。
イクタは昨年度私が受け持っていた学級の生徒だ。
ところが彼女は何故か私を慕っていて、担任が別の教師に変わってからも頻繁に会いにくるのだ。
正直な話、非常に迷惑だった。
しかし、こうして珈琲を飲みながら、イクタの表情を横から眺めるのも悪くはないなとも私は思った。

給湯室に戻ると冷蔵庫からピッチャーを取り出す。
冷えた麦茶を透明なグラスに注ぐと差し出した。

「どうせ珈琲飲めないでしょ」
「飲めますよ!子供扱いしないでください!」
「実際子供じゃないか」
「でも背伸びをしたいお年頃なんです!!」
「それ自分で言うかあ」

私が苦笑すると、イクタは拗ねたようにぷくっと頬を膨らませる。

昔は自分も珈琲は苦くて到底飲むことはできなかった。
年月は流れ、名実と共に成人と言える年齢になった現在では、ブラックを好んで飲むようになった。
勿論今でも、たまに砂糖を混ぜて飲んではいるが。
どうせならば牛乳に麦茶を入れて、似非珈琲牛乳と言い張って飲ませてやろうか。
そのような考えを巡らせながら心の中でにやりと笑う。
そして急いて飲み過ぎたのかイクタは「けほけほ」と咽る。
私は「あーあ、全く世話のかかる奴だなあ」と口を辛くして言うが、優しく彼女の背中をさすってやった。
810 名前:& ◆T54JFqeH.w 投稿日:2012/08/13(月) 01:32
グラスがちょうど空になった頃。
視線を気にしたように、時折イクタがちらちらと周囲の様子を窺う。
今は夏休みなので、当然夏期講習を受講している生徒以外は登校していない。
ガラス窓の向こうの校庭は侘しく閑散としていた。
「なに、どうした?」と、私は視線で問う。
しばらくその場で目を泳がせていたが、そのうち観念したかのようにイクタが口を開いた。

「この写真。ニイガキ先生の隣の女の人、誰ですか」

イクタが指で示した先には、茶髪の長髪の女子生徒がいた。
その少女は古い写真の中で、私の隣で幸せそうに微笑んでいる。

「ああ、それは私の先輩だよ」
「先輩ですか?」
「うん、そう」
「本当にただの先輩なんですかあ?」
「そうだよ」

イクタは私の答えを聞くと、満足そうに微笑んだ。
彼女は一体アタシに何を問おうとしているのだろうか。
その微笑みの奥に隠された真意がどうも掴めず困惑する。

「えりなはね、世界一素敵な女性になりたいんですよ」

私は直ぐ「それは知ってるよ」と挟む。
しかし、イクタはそれを制し話続ける。

「でも、同時にニイガキ先生の中でも一番の存在になりたいんです。できればずっと、長い間、永遠に。これからもえりなはニイガキ先生を愛し続けますよ」
811 名前:& ◆T54JFqeH.w 投稿日:2012/08/13(月) 01:33
そして「どうすればえりなはニイガキ先生の世界一大切な存在になれるんですかね」と言うと、照れくさそうに笑った。

「それはどうだろう。そもそもイクタは浮気性だからなあー」

しかしながらそれはイクタに限定された話ではない。
幼い頃は飽きっぽく、趣味が頻繁に変わるのはよくあることだ。
それに加え、周囲の影響を敏感に受けやすい。
ところで、彼女の主張する"愛"や"好き"とは一体どのような意味なのだろうか。
微妙な言葉のニュアンスの問題だが、その曖昧な部分に私は非常に悩まされた。
私の葛藤を知ってか知らずか、イクタは未だ嬉しそうにはにかんでいた。
柔らかい頬を指でつまみ弄んでやる。
彼女が時折見せるませた大人の表情の中にも、当前だがやはりどこか少女の幼さが残されていた。
きっとこの少女の興味も先程の一件のように移り変わっていくのだろう。

ところが、イクタは私の手を取ると、ソファから立ち上がらせた。
そして「えりなはずっとニイガキ先生のことが好きですからね」と念を押すように言い、甲に優しく口づけた。
私は一連の出来事に眉をひそめ、戸惑いの表情を浮かべる。
すると、イクタが思苦しげな様相で私の顔を覗き込んでくる。
それを見て私はすぐに表情を戻しはははと笑う。
少し背伸びをすると、強引に片腕でイクタの小さな背中を抱きとめた。

「え。ちょっと、ニイガキせんせぇ――――。ひゃ…………うん……ちゅぷ」
ゆっくり焦らすように薄い唇の先端を舌でなぞっていく。
そしてもう一方の手で口角を固定すると、唇に唇を押しつけた。
じわじわと口の中に香ばしいカカオの味が広がる。
溶けて混ざった唾液はほろ苦く、イクタは目を閉じて苦しげに呼吸をした。
812 名前:& ◆T54JFqeH.w 投稿日:2012/08/13(月) 01:34
唇が離れた後も、ずっとイクタは朦朧とした顔で私の目をぼんやり眺めていた。
宙に浮かぶ透明な糸をなごり惜しそうに見つめる。

「どうした、もしかして苦かったの?」
「そ、そんなことないですよ!」

イクタは白い顔をみるみるうちに綺麗な朱に染めると、恥ずかしそうに顔を背けてしまった。
私は何事もなかったかのように平静を装い、一つ欠伸をする。
しかしながら本当のところ、私もとても恥ずかしかった。
大胆な行動をとった自分に末恐ろしさを感じつつ、唇に残る感触を指で触れて確かめる。

「仕方ないなあー、今日は特別にイクタのために私の奢りでアイスあげる。他の先生には内緒だよ」
「ええ、ほんとですかあ!?やったあー」

ほんの些細な出来事で、一喜一憂する無邪気なイクタが本当に愛おしい。
私が笑いかけると、彼女も嬉しそうに笑い返してくれた。

「そういえば、夏期講習は?あなた前期の成績あまりよくなかったでしょう」
「ニイガキ先生に会うためにサボリましたあ」
「こらー、イクタのばか、ばか、ばか。ばかあー!!」


「ニイガキ先生ってさ、進路担当らしいじゃん。媚びると高校の学内推薦もらいやすいらしいよ」

いつだろうか。
あれは入学して間もない頃だったか、そのような噂を耳にした。
親友やクラスメイトは、えりなのことをとても魅力的だと言ってくれる。
813 名前:& ◆T54JFqeH.w 投稿日:2012/08/13(月) 01:36
でも、えりな自身はこれと言って特に秀でているところはないと思う。
だから彼女に接近したのだ。
そう、これはえりなのしょうもない、そして非常に打算的な考えから始まったものだった。

毎晩ニイガキ先生と電話で会話を交わす。
友人関係の悩みとか、部活動の話とか、勉強の話とか、――それから彼女自身の話とか。
クラスの連絡網に掲載されていたのは自宅の電話番号だけで、携帯番号は明かされていなかったが、間接的に友人の伝手を辿って入手した。

担任を外れてからも、相談ごとがある時や、何か嬉しいことがあった時、真っ先に伝える相手は彼女だった。
ニイガキ先生はこの学校のOBで自分の母校に深い愛情を持っている。
それからニイガキ先生には、大切な先輩がいて定期的に彼女とは連絡を取り合っているらしい、これも友人経由で聞いた話だ。

そこまでは良かったのだ。
こちらはある種の思惑というか、はっきり言ってしまえば下心を巡らせながら接していた。
ところが、ニイガキ先生はそれを知ってか知らずかえりなにとても良く、優しくしてくれた。
本当にくだらない問いにも、表面はそれこそ刺々しい物言いだったが、丁寧に答えてくれる。
次第にこちらの方が申し訳ない気持ちになってきて、なんだか惨めな気分にもなった。

それからしばらくして学生時代のニイガキ先生の写真を手に入れた。
雑貨屋で洒落たアルバムを購入して、それに写真を収めた。
時間の開いた時にはいつも、一人でぼんやりアルバムを眺める。
そこでふとえりなは考える。
これって果たして正しいことなのだろうか。
傍目から見たら少々不気味に思われてしまうのではないだろうか。
自分何しとんだろなあ、馬鹿だなあとは思う。
えりなはニイガキ先生みたいに素敵な女性になりたいと考え始めた。
いやしかし、えりなでは彼女にはなれないのだ。
814 名前:& ◆T54JFqeH.w 投稿日:2012/08/13(月) 01:37
「だってえりなは特技は何もないし、可愛くないし、面白くないし、――それに太ってる」

ええ、どうせそんなことはわかってますよ、と続ける。
教務室の、ニイガキ先生の机の前で俯く自分。
ニイガキ先生は愚痴を吐露し続けるえりなを、無言で眺めていた。
すると、先程まで何やらパソコンと睨めっこをしていたミチシゲ先生が話に加わる。

「どうしてそんな自分を卑下するの?」
「でも、でも、だって――。えりなもいいところが欲しいんです」
「いいところいっぱいあるじゃん」

ミチシゲ先生は、毎日鏡に向かって自分は可愛いんだと、優しく笑いかければきっと素敵な女性になれるよと言うと、そっとえりなの肩に手を置いた。
彼女の言っている言葉はえりなには難しくて、正直よく理解できなかった。
でも、自分の胸の中につかえていた何かが少しだけ、薄れていった気がした。

えりなは、ぐるぐると心の中で渦巻き続ける葛藤を押さえつけながら、今夜もニイガキ先生に電話をする。

「お願いします!あと五分だけ!!あと五分」
「んー仕方ないなあ……あと五分だけだよ、約束」

電話越しだがニイガキ先生が苦笑いする表情が見える。
時が立つのは早いもので、話しこんでいるうちにいつの間にか深夜0時を回っていた。
あと五分間、彼女と話をする猶予を貰ったものの何から話せばいいのやら。
彼女に伝えたいことは沢山あった。
ニイガキ先生のお陰でテストの点数が上がったことや、歌がちょっぴり上手くなったことや、身長が伸びたこと。
815 名前:& ◆T54JFqeH.w 投稿日:2012/08/13(月) 01:38
でも、えりなが今話さなければならないのはそれではない。
もっと、ずっと大切なこと。

「あのニイガキせんせえ――」
「ん、どうした?イクタ」

ニイガキ先生は優しい声で返し、えりなの言葉をいつまでも待ってくれている。
えりなは勇気を振り絞って伝えようとする。
しかし、なかなか口が思うように動いてくれず、思いは声にならなかった。

「あの……あの――――」

ようやく言葉が続けられようとした瞬間、突然電話は切れた。
えりなは深いため息をつくと、携帯のディスプレイを見て苦笑する。
ちょうど先程から五分きっかりだった。
さすがに長電話し過ぎたらしい。
どうやら自動的に電話が切れてしまったようだ。
でも、えりなから話を切り出しておいて非常に勝手だとは思うが、内心ホッとした。
本当は自分の本心を告げるのが恐かったのだ。
あんな不純な動機を教えたらニイガキ先生に嫌われてしまいそうな気がして。
そして何より、そのような思いを抱きながらもいつしか彼女に魅かれ、好きになっていた身勝手な自分がなんだか許せなかった。

電気を消して滑るように布団に潜り込むと、彼女の顔を頭の中に浮かべる。
あの屈託のない笑顔が脳裏に焼き付いて離れなかった。
今日はもう寝よう、そして明日こそは必ず伝えよう、そう自身に言い聞かせるように呟くと静かに瞼を閉じた。
816 名前:& ◆T54JFqeH.w 投稿日:2012/08/13(月) 01:40
触れる
おわり

>>808
×古いアルバム○アルバム
なんか名前欄に変なトリップ付いてしまいましたが気にしないで下さい
817 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/08/25(土) 01:41
工藤佐藤。どぅー早くよくなぁれ。
818 名前:悪ガキひざこぞう 投稿日:2012/08/25(土) 01:41
「ねー、いつになったら治るの?」
「ねー、早く遊ぼうよぉ」
「ねー、ハワイは大丈夫?」
「ねー」
「ねー」

まーちゃんは、たぶん、純粋な子だ。
悪意があるんじゃないってわかってる。

思ったままに言葉を出して、それがきっと、まーちゃんのいいところなんだけど。

でも、今回ばかりはそうもいかなくて。
ひざの痛み。前にも似たようなところが痛くなった。
あの時はなんとかごまかせたけど、今はそういうわけにいかない。

セイミツケンサ。
詳しく調べるだけだってわかってるけど、
でも、そんな漢字4文字がすごく怖く見えるんだ。

まーちゃんの言うとおり、ハワイだってある。
ハワイが終われば、秋のツアーのリハーサルが始まって、
そして、秋のツアーの本番が始まる。

検査の結果によっては、ハルは、もしかしたら…
819 名前:悪ガキひざこぞう 投稿日:2012/08/25(土) 01:42
「ねー、くどぅー」
「っるさいなぁ!」

ぐるぐると考え事をしていたところに呼び続けられて、
ハルは、真っ正面にいたまーちゃんに思いっきり怒鳴ってしまった。
楽屋に響いた自分の声。しまった、と口に手を当ててみるけど、もう遅い。

他のメンバーには、きっと、いつもみたいなケンカしてるんだって思われたかもしれないけど。
今のハルが、いつもみたいな怒り方をしたんじゃないってことは、
たぶんまーちゃんにも伝わってしまったはず。

しょげたように下を向いていくまーちゃんの頭を見て、
あぁ、やっぱりやっちゃったと、ハルは後悔する。

「ご、ごめっ、今の…」

謝るハルに何も言わないまーちゃんは、
そのまま、コツンとハルのひざに頭をくっつけた。

「…まーちゃん?」

何がしたいのかよくわからなくて、恐る恐る手を伸ばす。
真っ黒な髪の毛を、そっと梳いた。
820 名前:悪ガキひざこぞう 投稿日:2012/08/25(土) 01:42
「…こうしたら、くどぅーのひざ、早く良くなるかなぁ?」

手のひらで、包帯を巻いたひざを撫でられて。
聞こえてくる鼻声で、まーちゃんを泣かせてしまったことを思い知らされる。

「早くくどぅーと遊びたいよぉ」

言ってることはさっきと同じなのに、思いっきり心がぐらぐらした。
必死になって手を重ねてくれる、痛いはずの場所は、
まーちゃんの熱でほんの少しだけ、あったかく溶けたような気がした。

「まーちゃん」

ハルのひざに頭をつけてるまーちゃんに折り重なるようにして、
その身体に、抱きついた。

「ありがと。ハル、絶対早く治すから」
「約束だよ?」
「うん。治ったら、遊ぼう」
「うわぁい」

勢いよく顔を上げたまーちゃんは、もう笑っていて、
…でも、目尻が少し光ってたから、そっと親指で拭ってあげた。


どうなるか、わかんないけどさ。
動きたいけど。走りたいけど。はしゃぎたいけど。

早く、いつものように歌って踊ってってやりたいし、
一番近くにいるこの人をあんまり悲しませたくないから。

頑張って、我慢して、治そう。
まーちゃんが、「やったー!」って無邪気に笑ってくれるように。
821 名前:悪ガキひざこぞう 投稿日:2012/08/25(土) 01:43
>>818-820
[悪ガキひざこぞう]

なんかいろいろ荒削りなまんまな自覚はあるけど早く書きたかった
あまり反省はしていない
822 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/08/25(土) 11:48
ありがとう
ありがとう
823 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/08/27(月) 11:30
まぁどぅのいい話だった…
824 名前:もう一度、振り向かせて。 投稿日:2012/08/28(火) 01:18
もう一度、振り向かせて。

(やすみよゆい。このお話に出て来る“唯”とは
岡田さんではなく脇田さんの事です)
825 名前:もう一度、振り向かせて。 投稿日:2012/08/28(火) 01:20
「おいしいっ!これなまらおいしいっ」

唯ちゃんは一口ずつあんみつを口に入れる度、感嘆の声を漏らしていた。

今日は、唯ちゃんが気になっているという甘味処に連れて来てもらっていた。
噂通り、夏の暑さを吹き飛ばしてくれるかのような美味しさだった。
盛り付けも凝っていて見た目も楽しめる。

小さな幸福感が押し寄せる。
こんなに美味しいのなら、保田さんにも食べさせてあげたい。
今ここに保田さんがいたらどんな反応するんだろう。
保田さんも、おやつをもらった子供みたいな満面の笑みを浮かべて、おいしいって言うんだろうな。
その光景を思い浮かべて、私の口元は一瞬ほころんでしまう。
そんな私の様子を、唯ちゃんは見逃しはしなかった。

「三好さん思い出し笑い?思い出し笑いする人ってエロいんですよ」
「…うん、そこは否定しない」
唯ちゃんの怪訝そうな視線も、私は素直に受け止める。
826 名前:もう一度、振り向かせて。 投稿日:2012/08/28(火) 01:26
もうすぐ保田さんに会える。
冬には保田さんと同じ舞台に立てる事になっている。
まだ夏も終わっていないのに…ついつい先の事ばかり考えてしまう。
ブログでも、冬の舞台を待ちわびている心情を
ストレートに綴ってしまっていた。
もう一度東京で舞台に立てるなんて
夢にも思わなくて、感慨も一入だったから。
きっとブログを見た人は気が早いと笑ってるんだろうな。

でも、今の私の心を一番占めているのは舞台ではなく、保田さんの事。
私は…保田さんの事ばかり考えている。

827 名前:もう一度、振り向かせて。 投稿日:2012/08/28(火) 01:28
...

会計を終え店を出た途端、唯ちゃんの大声が私の鼓膜を揺さぶった。

「あー!!」
「ど、どうしたの!?」
「食べるのに夢中で写真撮るの忘れてました!」
「い…いいじゃん、また今度来れば」
「一人じゃ意味ないんですよう。三好さん、また付き合ってくれます?」
「うん、私でいいなら」
「約束ですよ?」

唯ちゃんは念を押すように私の顔を覗き込む。
「別にスイーツ巡りくらい、いくらでも付き合うから」
828 名前:もう一度、振り向かせて。 投稿日:2012/08/28(火) 01:28
唯ちゃんとそんな言葉を交わしつつも、
相変わらず思い浮かぶのは保田さんの顔。

ここ数日私はずっとこんな調子だ。
保田さんと再び会える日が待ち遠しくてたまらない。
浮かれてるって指摘されても仕方ないと思う。

だけど同時に、私は誰にも言えない不安を押し隠していた。

保田さんと再会できるのはいい。
でも本当はその後が怖いんだ。
冬の舞台が終われば、“また”私と保田さんは
ただの赤の他人に戻る…その事実を受け入れる事が。
829 名前:もう一度、振り向かせて。 投稿日:2012/08/28(火) 01:29
保田さんの隣は居心地が良くて、舞台が一緒だったあの頃は、
そこが私の特等席のように感じていた。
当たり前のようにそう信じてた。

だけど、舞台という枠組みから解放され外の世界に戻ると、
次第に保田さんからの連絡は減っていった。

私のいない世界に日に日に順応していく保田さんを尻目に、
私は静かにフェードアウトした。
東京から去った私に対し、保田さんが
どんな想いを抱いたのかさえ知る事ができないままに。
830 名前:もう一度、振り向かせて。 投稿日:2012/08/28(火) 01:31
私達は同じ空の下にいる。
確かに保田さんは実在して、私も今こうして同じ世界で息をしてる。
だけど、途方も無く遠い。

あの頃は、手を伸ばせばすぐに触れられる場所にいてくれた。
呼べば応えてくれた。
手に触れたら握り返してくれたのに。
こうしていると、東京にいた日々が幻みたいだ。

“みーよがいてくれるから頑張れる”
彼女の言葉はきっとウソなんかじゃなかった。
あの瞬間、私と保田さんは誰よりも通じ合っていた。
だけど保田さんの形成する世界に、おそらく今私は存在しない。
きっと自分が能動的にならない限り、
保田さんの人生に私が登場する事はない。
所詮はその程度。
今の保田さんにとって私はいてもいなくても同じ…
多分、そんな希薄な存在。

今の私達は赤の他人。
舞台を通じてでしか、私は保田さんに近付く事もできない。
保田さんには大切な人が多過ぎるから。
831 名前:もう一度、振り向かせて。 投稿日:2012/08/28(火) 01:32
...
唯ちゃんと肩を並べて歩いていると、
ふと、懐かしい香りが鼻をかすめた気がした。
今すれ違った人のフレグランスの香りだ。
その瞬間、私は反射的に振り返ってしまう。

微かな期待。
そしてそれは一瞬にして打ち砕かれ、代わりに失望感だけが残される。
…ほらね。
香りが同じなだけで、全然違う人じゃないか。

「三好さん?」
苦笑いする私を、唯ちゃんが不思議そうな顔をして見つめて来る。
「…知り合いでも見つけたとか?」
「ううん。人違いだったみたい」

彼女がこんなところにいるわけがないのに。
それに保田さんと最後に会ってから、もう半年以上経ってるんだ。
香水だって変えてるはず。
保田さん、特に飽きっぽい人だしね。
832 名前:もう一度、振り向かせて。 投稿日:2012/08/28(火) 01:33
頭では理解してるのに、それよりも先に心が反応してしまう。
欠けたパーツを探すように、無意識に私は
保田さんの姿を追い求めてる。
この気持ちの数分の一でも、保田さんが私を想ってくれていたらいいのに。

必要とされたい。
愛されたい。
だけど誰でもいいわけじゃない。
私は、保田さんにとってのかけがえのない人になりたい。
保田さんの大切な人達の枠にすら入れない私なんかが、
分不相応だとも思う。

それでも、望まずにはいられない。

833 名前:もう一度、振り向かせて。 投稿日:2012/08/28(火) 01:34
その時だった。
私の鼻先に、ぽつりと冷たい雫が落ちた。

「?」
顔を上げると、空は厚い雲が覆い鈍色に変わっていた。

雨…?

「げぇっマジ?傘忘れた」

唯ちゃんの焦った声を聞きながらも、私は空から視線を外さずにいた。

そっか…もうそろそろ秋雨の時期なのか。
北海道は梅雨がない代わりに、8月中旬を過ぎたら秋雨に入るのが通例だ。
そんな事もすっかり記憶から抜け落ちていた。
私にとっては数年ぶりの北海道の夏。

そう…ここは東京じゃなくて北海道なんだ。
ここに、保田さんがいるわけがない。

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