OVER THE RAINBOW
- 1 名前:にーじー 投稿日:2009/04/12(日) 03:47
- どうも、にーじーです。
鈴木さんの誕生日なのでスレたてます。
色んな話を書きたいのですが、
スレをたくさんたてるのも迷惑だと思うので、
ここにごちゃごちゃと色々書いていきます。
登場人物は、鈴木さんとか嗣永さんとか、
Buono! のメンバーが多いと思います。
とりあえず最初は音楽の話です。
慣れなくて読みにくいかもしれませんが、
よろしくお願いします。
- 2 名前: 投稿日:2009/04/12(日) 03:52
- 小さく空いた部屋の窓から、エフェクターで歪んだギターの音色が青空に向かって流れ
ていく。私は最後のコードを弾き終えると、反響する音の海に身を浸す。
しばらくしてまぶたを開けると、スティックをくるくると回す桃と目が合った。
「ちょっと、いくらなんでもひどすぎる」
「そうかなー」
私はぺろりと舌を出すと、微かに開いていた窓を全開にする。ややあって、穏やかな春
の風が舞い込んできた。
今日もまた、いつもと変わらない一日が過ぎていきそうだ。
- 3 名前:ロックの神様 投稿日:2009/04/12(日) 03:54
- 「ロックの神様」
- 4 名前:ロックの神様 投稿日:2009/04/12(日) 03:55
- 季節は夏。
今日の空には、夏の強い日差しをさえぎる雲はどこにもなくて、太陽はうざったい位に
自己主張をしている。そんなうだるような暑さの中、私は校庭横のベンチに腰をおろして
いた。
太陽の光は、校庭を囲む木々――確か桜だったような気がする。あまり興味はないけど
――の隙間をぬうように、私のもとに降り注ぐ。
こんな、透き通るような青空の日は、昔のことを思い出す。舞美ちゃんのこと。
彼女との思い出は去年の春にまでさかのぼる。私がまだ、この学校に入学する前のこと
だ。
- 5 名前:ロックの神様 投稿日:2009/04/12(日) 03:56
- 舞美ちゃんは、私にとって無くてはならない必要な人だった。
スポーツ万能で、かわいくて、誰にでも優しいスーパーマンみたいな人。と、人は言う
けれど、正直私にとってそれらはどうでもいいことだった。私にとって舞美ちゃんは、言
葉通り、必要な人だったのだ。
舞美ちゃんは、私の世界の全てだった。そして、空気のような存在。もしいなくなって
しまったら、私も窒息してこの世界から消えてしまうと本気で思っていた。
もしかしたら、人によっては、そういう人のことを、親友と呼んだり、恋人と呼んだり
するのかもしれない。でも、私はそういう言葉を持ち合わせていなかったから、それが正
しいのか判断するすべを持たない。
そんな舞美ちゃんとの最後の思い出は、彼女に誘われたライブハウスでの光景。
彼女はバンドでギターを弾いて、歌を歌っていた。人が集まらないのか誘われることが
よくあって、そこで彼女は流行りの歌を演奏しては、彼女の友人たちで溢れかえったライ
ブハウスを盛り上げていた。
- 6 名前:ロックの神様 投稿日:2009/04/12(日) 03:57
- そんな彼女が珍しく、どうしても、と言って誘ったライブの日。彼女は珍しく、私たち
の知らない歌を歌った。
歌う、という表現は適切ではないかもしれない。その日の舞美ちゃんは、叫ぶように、
絞り出すように、必死で音を鳴らしていた。
私は不思議と、その名前も知らない曲を、歌詞を、彼女の声を今でも鮮明に覚えている。
彼女はその狭いステージの中で、きっと何かを伝えようとしていた。未だに、それが何な
のかはわからないけど。
その曲が、舞美ちゃんとの最後の思い出だ。その後、一言二言言葉を交わし、次の日私
は街を出た。この学校に入学するために。
そうして彼女は私の前からいなくなった。
それなのに、私はまだ生きている。ベンチに腰かけ、空を見上げながら、暑いなーなん
て思っている。
- 7 名前:ロックの神様 投稿日:2009/04/12(日) 03:59
- 「あーいり」
「きゃっ!」
突然、首筋に冷たい何かが当たる。
思わず高い声を出してしまった私の前に、見覚えのある影が現れた。
「りーちゃん、遅いよ」
「ごめんごめん」
彼女は、悪びれる風もなく顔をくしゃくしゃにして笑い、先ほど私の首筋に当たった冷
たい何かを差し出す。
「ごめんなさいの印ってことで、ね」
「えー」
「いらないの?」
「もらうけどさぁ」
彼女とこういう会話をしているだけで、私は不覚にも温かな気持ちになってしまいそう
になる。それを必至で押しとどめ、ペットボトルに口をつける。
- 8 名前:ロックの神様 投稿日:2009/04/12(日) 04:00
- 「じゃあ、いこっか」
どこに? と聞こうと思ったけど、ジュースが口いっぱいに入っていたから、とりあえ
ず頷いておいた。
りーちゃんは、こっち、とだけ言うと私の手を引きクラウンド沿いの並木道を歩いて行
く。私も何もわからないままとことこと付いて行く。
私は興味がないから詳しく知らないのだが、りーちゃんの話によると、春にはこの並木
道の街路樹はたくさんの花を咲かせるらしい。
うちの学校はとにかく広い。学園都市、と呼ばれる大学があるそうだが、それはきっと
こんな風だろうと思う。
中高一貫の学校だから六学年あるのだが、敷地に対して校舎の占める割合は微々たるも
ので、残りは全て公園だとかお店だとかそういったものに使われている。
- 9 名前:ロックの神様 投稿日:2009/04/12(日) 04:01
- 「どこ行くの?」
「あれ、言ってなかったっけ。友達のとこ」
「友達?」
こちらの方角は公園であるとか、川であるとか――何故か川まであるのだ。この学校に
は――よく言えば自然豊かな景色に溢れているのだが、言葉を変えると何もない場所だ。
私もたまに公園でぼうっとしたりはするけど、それも時間を持て余しているときくらいで、
生徒が好んで寄り付くような場所ではない。
公園で花見でもしているのかな、と私は不意に思い付く。今は夏だけど。
でも、そんなどうでもいい予想は外れて、りーちゃんは公園を抜けてさらに奥に入って
いく。その先には街路樹と似たような木が、所狭しと植えられている。
- 10 名前:ロックの神様 投稿日:2009/04/12(日) 04:02
- 「ねー、りーちゃん、どこいくのさー」
「あ、聞こえてきた」
りーちゃんはいたずらっぽく笑うと、耳を澄まして、とポーズで私に伝えてくる。りー
ちゃんと同じように耳に手を当てると、確かに遠くから微かなメロディー。
「やってるやってる。いこ、愛理」
「え、うん。どこに?」
- 11 名前:ロックの神様 投稿日:2009/04/12(日) 04:02
- 今日のりーちゃんは、いつにも増して強引で、そして楽しそうだ。長いことりーちゃん
とは一緒にいるけど、こんなに嬉しそうな表情は滅多に見ることはない。
いつものりーちゃんはどちらかと言えば人見知りで、自分から何かをするというタイプ
ではなく、私がすることと同じことをしようとする。
だから、こんな風に積極的なりーちゃんは新鮮に映った。
りーちゃんは、この学校に入って初めて出会った友達だ。一度もクラスが一緒になった
ことはないのに何故か親しくなっていて、今はよく一緒にご飯を食べたり、歯を磨いたり
している。
舞美ちゃんとは違った意味で、とても大切な人だ。ときどき心を許してしまいそうにな
り、そんなとき私は理由のわからない罪悪感でいっぱいになる。舞美ちゃんがいなくなっ
た私は、息ができないどころか、新しい生活に満足しようとしているのだ。
- 12 名前:にーじー 投稿日:2009/04/12(日) 04:06
- 更新終わりました!
>>2-11
この話はもう少し続きます。
中途半端に区切っちゃってすみません。
それではまた次回。
- 13 名前:ロックの神様 投稿日:2009/04/13(月) 22:05
- 青く生い茂った木々の中に入ると、メロディーは次第にはっきりとした形を帯びてくる。
これは何の音だろう、太鼓のような音と、低い弦楽器の音。
「あそこだよ」
りーちゃんが指さした方向には、小さな小屋があった。音も、どうやらあそこから流れ
てきているようだ。
建物のそばまで来ると、閉じられた窓を突き抜ける、つんざくような音。体にびりびり
と震動が伝う。ガラス越しに中を覗いたとき、私は思わず呼吸を止める。
そこには、青の世界があった。
小さな女の子の叩くドラムの破裂音、もう一人の女の子が奏でる弦楽器のリズム。そし
て、彼女たちの歪んだ表情と、そこから絞り出される声。まるで世界の終りを見たような
――。
- 14 名前:ロックの神様 投稿日:2009/04/13(月) 22:06
- 「愛理、どうしたの?」
りーちゃんの言葉にも反応できず、私はただその光景に見惚れてしまう。私を掴んで離
さない空間。今でも思い出せる音。似ているのだ、あのときの舞美ちゃんと。
そう言えば、舞美ちゃんがいなくなって変わったことが一つだけある。彼女がいなくな
って、私の世界は白黒になった。四季の移ろい、周りの景色、そういったものに興味が持
てなくなってしまった。
そして、私にとって舞美ちゃんは青だった。海のように空のように、どこまでも吸い込
まれていくような青。
雲のない澄んだ空や、透き通った川の流れを見たときに、舞美ちゃんのことを思い出す
のはそのせいだと思う。そのときだけ私の世界は、白黒のモノクロームから解放され、青
一色に染まる。
でも、こんな風に人の表情を見て、音を聞いて、舞美ちゃんのことを思い出すのは、初
めての経験だった。
- 15 名前:ロックの神様 投稿日:2009/04/13(月) 22:07
- 「やっぱり連れてきてよかった」
「え?」
演奏が終わるのと、りーちゃんがそう言ったのと、私が我に返ったのはほぼ同時だった。
言葉の真意をつかみかねている私をよそに、りーちゃんは私の手を引いたまま建物のド
アを開ける。
そこでは、小さな少女が息を切らして咳きこんでいて、もう一人の少女が心配そうにそ
の背中をさすっていた。
「りーちゃん!」
でも、りーちゃんに気付くと、辛そうな表情を吹き飛ばして、華やかに笑う。
「梨沙子、遅かったね」
もう一人の少女も、大人びた表情で笑った。
- 16 名前:ロックの神様 投稿日:2009/04/13(月) 22:08
- 「あれ、そっちの子は?」
そして、ようやく気付いたように大きな方の少女が私を指さす。大人びた笑いを浮かべ
た少女だ。
「愛理だよ。ほら、よく話に出してるでしょ?」
「あー、この子が例の。ふーん」
りーちゃんの言葉に返したのは小さな少女。ふーんふーんふーんと何度も繰り返し私の
周りをぐるぐる回られると、さすがに少し居心地が悪くなってる。別に、最初からよかっ
たわけでもないけど。
「あの…」
「愛理ちゃんは何が好き?」
なんとか状況を打開しようと口を開くと、唐突に質問を浴びせられた。
「え? え? 好きって何が…」
「なんでもいいから。ほら、何が好きなの?」
少女は私の正面に立つと、ずい、と顔を近づける。
- 17 名前:ロックの神様 投稿日:2009/04/13(月) 22:09
- 「えっと、えっと」
「ほら。ほら。何」
「えっと、あの…、かっぱ。そう、かっぱです」
「かっぱ? かっぱってあのきゅうりの好きな? はげてる?」
「…はい」
肯いてから、私は途方にくれる。初対面の二人はあっけにとられた表情。かっぱが好き
です、なんて明らかに変な子じゃないか。ゴルフが好きとか、牛乳が好きとか、もっと他
に言いようがあったはずなのに。
隣でこっそり笑っているりーちゃんをじろりと睨むと、そのまま私は視線を落とす。
だから、気づかなかった。
「かわいー!」
「んゃっ!?」
突然何かにタックルされる。さっきの小さな少女だ。
「かわいいねー! 愛理ちゃんキュウリ欲しいの?」
「いや、別にキュウリが好きなわけじゃ…」
「桃のペットになればいつでもキュウリあげるよ?」
「うう…りーちゃん…」
- 18 名前:ロックの神様 投稿日:2009/04/13(月) 22:09
- 私は抱きつかれたまま、隣のりーちゃんに助けを求める。りーちゃんは、ほらほら、と
少女を引っ張るが、彼女は構わず私を抱きしめ続けた。
「この子かわいいね! ペットにしたい」
「ほら、いい加減怖がってるからやめな」
もう一人の少女が冷静に言うと、ようやく私から手を離す。でも、何故か自分より背の
高い私の頭を撫でている。
「いい子いい子」
「この子は桃のペットじゃないんだからいい加減やめなって」
何とか止めようとしている彼女と、困り切った私をよそに、りーちゃんはもはや止める
素振りも見せず、楽しそうに笑っている。
こうしていると、先程の演奏がまるで夢だったかのように思える。あのとき、この部屋
に漂っていた空気は確かに青だった。でも、今はいつもと変わらない白黒の世界。
- 19 名前:ロックの神様 投稿日:2009/04/13(月) 22:10
- 背の高い少女は、諦めたように溜息を吐くと、視線をりーちゃんに向けた。
「で、梨沙子は何しに来たの? 理由、私は聞いてなかったけど」
「もちろん、みやに会いにだよ」
「ここじゃなくたって会えるじゃん」
「ははは、確かに」
いつの間にか、桃と呼ばれた少女も視線を二人に向けていて、部屋の中は一本の糸が通
ったような変な空気になる。
「みやに会いに来たっていうのはほんとだよ。後ね」
りーちゃんが私の手を取る。
「愛理に私が歌ってるとこ見せたくて」
歌う、という単語に私の心臓が反応する。急にドクドクと動きを早くして、目の前の景
色をぼやけさせる。
- 20 名前:ロックの神様 投稿日:2009/04/13(月) 22:11
- 「ダメ。梨沙子にはもう歌わせない」
「なんで? べつにみやの許可をもらう必要なんてない」
「わがまま言わないで」
ぼやけた視界の向こうに、凛とした横顔がある。そうだ、あの時の表情だ。今日何故か
何度も思い出す舞美ちゃんの表情。今まで一度も、りーちゃんのこんな顔は見たことがな
かった。
心臓が再び強く脈打つ。ドンドン、ドンドン、ドンドン。
そこでふと、私は我に返る。この音は私の心臓の音だけじゃなくて――。
「愛理ちゃんとお話ししてちょうどいい休憩になったし、そろそろやろうか」
「桃!」
みやさんの鋭い声が響いた先では、一定のリズムでドラムの音が鳴っている。桃さんは、
いつの間にか私の元から移動していたようだ。
りーちゃんは無言のままはにかんで、ギターを肩にかける。
「ごめんみや、今じゃなきゃ駄目なんだ。一曲だけでいいから私に付き合って」
みやさんはしばらくりーちゃんを見つめた後、今日何度目かの溜息をつき、ベースに手
をかける。
- 21 名前:ロックの神様 投稿日:2009/04/13(月) 22:11
- 「一曲だけだからね」
「うん、ありがとう」
「相変わらずみやはりーちゃんに甘いねっ」
「桃、うっさいよ。で、何やるの? 決めてるんでしょ?」
そうだなあ、と梨沙子は首をかしげ、私と目が合うと噴き出すように笑い頷いた。
「『君がいれば』」
曲名を聞いて、みやさんの表情がすっと引き締まったものに変わる。桃さんも演奏を止
め、スティックをドラムの手前に固定する。りーちゃんは一度私に視線を投げかけた後、
ピックを弦に当て、瞳を閉じる。やわらかな風が吹き、外の木々がざわめいた。
――――――――
―――――
- 22 名前:ロックの神様 投稿日:2009/04/13(月) 22:12
- ライブが終わり、余韻の残る会場を後にした私は、駅の改札前で舞美ちゃんに呼び止め
られた。
「愛理、待ってって言ったのに」
「明日の準備があったから」
「そっかー、もう明日なんだもんねー」
舞美ちゃんは少し寂しそうに、でもいつもと変わらないあっけらかんとした口調で言葉
を紡ぐ。
さっきの私の言葉は、半分本当で半分嘘だ。明日の準備は確かにまだ残っていたけど、
舞美ちゃんの準備を待てないほどではなかった。
舞美ちゃんは慌てて出てきたのか、額に汗を浮かべ大きく肩で息をしている。この程度
の距離で彼女が息を切らすのは、よっぽどのことだ。ギターも肩にかかっていないし、ま
だ準備を終える前に私を追いかけたのだろう。
- 23 名前:ロックの神様 投稿日:2009/04/13(月) 22:12
- 「今日の私の演奏、どうだった?」
「なんかすごかった」
「そっかー、すごかったか」
舞美ちゃんの表情からは、彼女の気持ちは読み取れない。だから私は考えるのをやめて、
もう二度と見ることがないだろう彼女の顔を見る。蛍光灯に照らされて青白く輝く彼女は
とてもきれいだった。
「じゃあ、もうそろそろサヨナラしないと」
私はたまらなくなって、舞美ちゃんに背を向ける。もう彼女の顔は見えない。あるのは、
シャッターの下りたキオスクと、顔を知らない二度と会わない人の群れと、サヨナラを告
げる改札。
- 24 名前:ロックの神様 投稿日:2009/04/13(月) 22:13
- 「サヨナラじゃなくて、またね、でしょ? とか言って」
そう言って照れたように笑う舞美ちゃんは、やっぱり最後まで舞美ちゃんだった。振り
向いた私は、ぎこちなく笑ってみせる。
改札を抜けると、再び背中越しに声が聞こえた。
「私のこと、今日の歌のこと、絶対に忘れないでね。私も絶対ぜったい愛理のこと忘れな
いから」
私は、それには言葉を返さずホームに向かって歩く。
―――――
――――――――
- 25 名前:ロックの神様 投稿日:2009/04/13(月) 22:13
- 私は、舞美ちゃんとの約束を今でも守っている。
あの時の表情、歌った歌、舞美ちゃんが世界のすべてだったこと、そのすべてを忘れず
に覚えている。それが、舞美ちゃんのいない世界で息をして、そんな世界に少しだけ満足
している私にとっての、せめてもの償いだからだ。
- 26 名前:にーじー 投稿日:2009/04/13(月) 22:14
- 更新しました! 少し長めの話になってしまうかも…。
>>13-25
- 27 名前:ピアス 投稿日:2009/04/17(金) 23:42
- バンドものですね!
熱い展開になりそうでドキドキします。
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