Sound Street
1 名前:莫紘 投稿日:2008/08/01(金) 14:29
色々出てきます。℃-uteメインで新旧娘とか+α。
週1〜2回。ちまちまと更新。
2 名前:& ◆7uyBxZliFg 投稿日:2008/08/01(金) 14:32


全てが動きを止めた、その一瞬。

世界から音がなくなったのを感じた。

3 名前:Sound Street 投稿日:2008/08/01(金) 14:32

『Sound Street』

4 名前:Sound Street 投稿日:2008/08/01(金) 14:36
1.

開けっ放しになっていた窓から入ってくるピアノの旋律。

きっと演奏者の頭の中には、しっかりと楽譜が記憶されているのだろう。
そう思わせるほどのミスひとつない、正確な演奏だった。

ショパンのワルツ第6番。
『小犬のワルツ』とも呼ばれるその曲は、題名の通り
小犬が自分の尻尾を追いかける様子をヒントに作曲されたものらしい。

序盤から跳ね回るような指の動き。
途中、短く鳴らされる高音が模しているのは犬の首につけた鈴の音。
2分にも満たない短い演奏は、それでも容易に情景を想像することができる。

そして、その曲の最後の音を聞いた時。
舞美はふと思い出した言葉があった。        


「…ねえ、クワドリヴィウムって知ってる?」
5 名前:Sound Street 投稿日:2008/08/01(金) 14:37

『音楽を愛せ。

それは神の創った世界を愛すること、即ち神を愛することである』

そんな教えの下に創立された聖桜音楽院は、幼稚舎から大学まで
一貫した音楽教育を受けられ、これまでに何人もの著名な演奏家を
輩出してきた、伝統ある学校である。

伝統ある故なのか、ピアノに限らず声楽や各種弦・打楽器、作曲や指揮など
実に様々な科がそろっているが、クラス分けは全科混合で行われる。

そんな生徒たちを教え導く教師陣も国内外で名を馳せる人物が揃っていて
偶然なのか、特にフランスを母国とする講師たちが大半を占めている。

コンセルヴァトワール。

フランス語で「音楽院」を表すこの言葉が、国内では聖桜を指すことは
多分、その事実が関係しているのではないかと一部では言われているらしい。
6 名前:Sound Street 投稿日:2008/08/01(金) 14:40
そんな音楽院に通う乙女たちの放課後は忙しい。

舞美のクラスメイトたちはホームルームが終わってすぐ、足早に教室を出て行った。
自身が十数年の愛情を注いでいる楽器か、もしくは課題曲の楽譜を抱え、我先に
練習室や部活動へと移動するためである。

「ごきげんよう、舞美さん」
「うん。ごきげんよう」

いかにもお嬢様学校、という挨拶を交し、軽やかな足取りで教室を出て行く
クラスメイトたちの姿を見送って、舞美はひとつ後ろの席で日誌の記入をしている
友人を振り返り、それがまだ時間がかかりそうなことを確認すると、鞄から
読みかけの文庫本を取り出して開いた。

舞美と彼女は放課後の練習室通いしていない数少ない仲間だった。
もっとも、どちらにも「最近は」という言葉がつくのだけれど。

そして、その言葉を思い出した。
7 名前:Sound Street 投稿日:2008/08/01(金) 14:43
「クワドゥ……いや、なに?」

日誌に自身の名前を書き込む途中だった手がぴたりと止まり
最後の一文字の糸へんだけを書いて止まった中途半端な空欄を残したまま
清水佐紀は、舞美が発した言葉を反芻し―――ようとして舌を噛んだ。

「クワド、リヴィウム」

もう一度、今度は佐紀が聞き取りやすいように単語を区切ってみる。
それでも首を傾げる彼女は、どうやら聞き覚えはないらしい。

「神様の創った世界を知るための4つの学問のこと」
「…ストップ」

数学、幾何学、天文学…指を折りながら数えていた舞美にかかる声。
見ると、ペンを机に放り投げた佐紀がげんなりした表情で頬杖をついて
舞美へ向けて恨めしげな視線を送っていた。
8 名前:Sound Street 投稿日:2008/08/01(金) 14:47
「数学と幾何学、いらない」
「そんなこと私に言われても」

美術とかでいいのに、とぼやく佐紀に舞美は苦笑いを浮かべた。
そういえば彼女は、概ね実技も学科も成績は良好だったけれど
数学とはどうも相性が悪いらしい。昼休みも、返却されたばかりの
テストの点数が芳しくなくて、職員室に呼び出されたとか何とか。

「で、それがどうしたの?」
「どうってわけではないけど…それだけ」

なにそれ、と笑って、名前の残りを勢い良く書き込んだ佐紀は
今度は自分の番だと言うように、ペンを筆箱にしまいながら言った。
9 名前:Sound Street 投稿日:2008/08/01(金) 14:55
「どうするの?」
「ん…」

一見、何の脈絡も内容に思える佐紀の言葉は
けれども今の舞美にとってはもっとも的確に質問の核を得ていた。
話しかけるんじゃなかった…そんな後悔が浮かんでくる。
会話をすれば彼女が必ず、その話題を持ち出すことは判っていたのに。

「落成公演の日から、一度も練習してないでしょ」
「………知ってたんだ」
「知ってるっていうかさ―――」

佐紀が漏らした言葉に、舞美は思わず溜息をついた。
ああ、やっぱりそうなのか―――と。
10 名前:Sound Street 投稿日:2008/08/01(金) 15:12
「先生、怒ってないの?」
「何も言われないよ。今のところは」
「………さすが主席」

主席かどうかは関係ないでしょ。
そう言いかけたけれど、ちらりと盗み見た佐紀の真剣な表情に
結局、ただ曖昧に口を動かして声にならない声を出すに留まった。

「帰ろうか」

そう言って鞄と日誌を手に立ち上がった佐紀は、きっと
他にも聞きたいことがあっただろう。
それでも何も言わなかったのは彼女なりの優しさか。

ありがとう。と先に教室を出て行く佐紀の背中に小さく声をかけて
窓を閉めようと窓枠に手をかける。


聞こえていたピアノは、合唱部が練習を始めたのだろうか。
いつのまにか賛美歌に変わっていた。
11 名前:莫紘 投稿日:2008/08/01(金) 15:14
とりあえず様子見でここまで。短いですが。

作中に取り上げている作品はどれも、有名なものを集める予定です。
興味を持った方はぜひ、ニコ○コ動画やyou○ubeなどの動画サイトへ。
多分、結構な高確率で聞けると思います。
12 名前:& ◆7uyBxZliFg 投稿日:2008/08/01(金) 15:16
そういえば別の板でも音楽学校を舞台にした話が始まったばかりだったみたいですね。
スレ立ててから新スレ巡りしてたら気付くとかもう(ry

あちらの作者さまの、自分とは違う音楽表現を楽しみにしたいと思います。
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/25(月) 23:39
面白そうですね
続きを期待してます

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