OVER
1 名前:ミナト 投稿日:2008/07/23(水) 00:53
はじめまして。

ベリキューがメインですが、呼称等曖昧なので指摘していただけたら嬉しいです。
2 名前:OVER 投稿日:2008/07/23(水) 00:54


今日の夜はなんだか眠れない。
はっきりと言ってくれた舞美には感謝している。
しかし、こんなに切ない気持ちにさせる彼女が好きで好きでたまらないのだ。
分かっている。
越えていかなくてはならない。
分かってはいるのだ。


分かってはいるのに・・・やはり彼女の笑顔が脳裏に焼きついて消えない。


3 名前:OVER 投稿日:2008/07/23(水) 00:56


彼女と初めて出会ったのは昨年の4月だった。
今でもはっきりと覚えている。
多くの後輩たちの中に彼女はいた。
周りに話しかけまくる明るい子や、早速いじられキャラになりそうな子、年相応に見えない幼い印象の子、色々なタイプの子がいた。
しかし栞菜が気になったのはただ一人。
決して目立つタイプではない彼女だった。

4 名前:OVER 投稿日:2008/07/23(水) 00:58
有原栞菜が所属するテニス部は校内一の部員数を誇るほど人気で、毎年春には多くの新入生が見学や体験入部に来る。
その年も例年通り多くの新入生が来ており、初めて“先輩”となる栞菜は好奇心に満ちた目で新入生の顔を一通り眺めていた。
隣には同じくテニス部の友人、中島早貴。

「ねぇ栞菜、あの子見て!ちょー可愛い!」

早貴の指差す方に視線を向けると、確かにアイドルだと言われても納得してしまいそうな女の子が友達と話していた。
ハーフかクオーターだろうか、日本人離れしたルックスで、染めているのか他の新入生より髪は少し明るい。

「本当だ。あ〜・・・なんかもう人気出そうなオーラ出てるよね。」

栞菜自身も一年前は「ずば抜けて可愛い」と注目を浴びたし、今でも人気は衰えていない。
単純に多くの人に好かれるのは喜ばしいことだが、見られていると鬱陶しく感じることだって時々ある。
自身も経験してきた周りからの好奇心に満ちた目を向けられる彼女に少し親近感を覚えたところで聞き覚えのある声が聞こえた。

「なっきぃ!!」

元気良く早貴を呼ぶ声の主は人懐っこい笑顔を浮かべながら二人に近づいた。
ショートカットの彼女を見て、いかにも運動が好きそうだな、と栞菜は思った。

「千聖、来てくれたんだ。」
「なっきぃが入ってる部活見てみたいじゃん。」

栞菜は早貴に尋ねる。

「知り合い?」
「そう。家が近くて小学校の頃からよく遊んでたの。」

早貴に紹介してもらったその子の名前は岡井千聖というらしい。
栞菜も簡単に自己紹介をすると部長が新入生に並ぶよう呼びかけた。
部活の前に一度新入生に自己紹介させるようだ。
千聖は部長の指示通り列に紛れ、栞菜と早貴は他の部員たちのもとへと走った。
5 名前:OVER 投稿日:2008/07/23(水) 01:00
一人ずつ名前と簡単に一言述べていく。
その内先ほど話題に挙がった美少女の番となった。

「えっと、菅谷梨沙子です。」

菅谷梨沙子ちゃん、か・・・。梨沙子を見ていると、その隣の子とふと目が合った。
瞬間。その子は俯いた。栞菜はその頬が少し赤らんだ気がした。興味はもう梨沙子ではなく、その子に注がれた。
栞菜は梨沙子の言葉もろくに聞かずに考えた。
なんて名前だろう。どんな声で、どんな風に話すんだろう。そう言えばさっき梨沙子ちゃんて子と喋っていた子だ。
・・・なんだか、よく分かんないけど、あの子と話してみたいな。
いつの間にか梨沙子の自己紹介も終わり、そして、その子が顔を上げ、口を開いた。
八重歯が覗いて見える。




「はじめまして。鈴木愛理です。」



6 名前:ミナト 投稿日:2008/07/23(水) 01:03
短いですが、今日はここまでです。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/23(水) 02:19
おもしろそう!
きっと好きなCPだと思うので次の更新楽しみにしてます
8 名前:名無し飼育 投稿日:2008/07/24(木) 02:06
おおおおおお!
ワクワク期待してます^^
9 名前:OVER 投稿日:2008/07/26(土) 02:19




あの時・・・そう、あの瞬間。栞菜は心臓をギュッと握られた。
一度止まったかと思えた鼓動は反動でもついたのか一気に早まり、隣の早貴に気付かれてしまいそうなほど大きな音を立てていた。
今思えば、自分はあの瞬間に心奪われていたのだ。

一目惚れ、か。らしいと言えばらしいのかな。

以前から可愛い子を気に入りがちだった。そんな自分を思い出し、口の端だけ上げてみた。
けれど、苦笑いすら上手く出来ない。
舞美の言葉は正しくて、栞菜は受け止めなければいけないのだが、思った以上にその言葉は重かったようだ。

「なんでこんなに好きなんだよ。」

上手く笑えない自分にだけ聞こえる声で小さく呟いた。

緊張のせいか不安を隠せない目をした彼女を守りたい、と心の奥底ではきっと、自分でも気付かないほど奥ではきっと・・・あの瞬間から思っていたのだろう。
どうせなら気付きたくなかった気持ち。

彼女が私を好きになりますように、そんな願い事はもう唱えない。
もしも願いが叶うのならば、彼女と出会う前に戻してほしい。
彼女の方は見ないから。彼女に恋したりなんかしないから。お願い。

存在するかなんて知らない神様に願う。



「彼女との思い出を全て消して」その言葉を口に出来ないのは、そう願えないのは、彼女と過ごす時間がやはり愛しいから。




10 名前:OVER 投稿日:2008/07/26(土) 02:20



いくら悩んでも仕方ない。
勇気が無いなら、自信が無いなら、いくら悩んでも行動に移すことは出来ない。
行動に移す勇気がない自分にはそもそも悩む権利すら無いはずだ。
どこか期待してしまっている自分が勝手に悩んでいるだけのこと。
舞美にも言われたじゃないか。期待なんてしてはいけない。
だから、もういい。もっと傷付く前に、彼女に気付かれてしまう前にそんな自分を置いて、“栞菜”はこの恋を終わらせる。

「もういい。・・・うん、もういいんだ。」

先ほどと同じように呟いて、栞菜はベッドに潜りこんだ。
目をきつく閉じる。そうしないと決心が涙とともに崩れそうだったから。




11 名前:OVER 投稿日:2008/07/26(土) 02:22




結局栞菜はあの日愛理と会話出来なかった。


人数が多いなか知り合いでもない子に話しかけるのに躊躇っていると、1年生は数人ずつグループに分かれて上級生から素振りを教わりに移動してしまった。
ペアを組む3年生の夏焼雅にサーブ練習の相手を頼まれた栞菜は、そちらへは行けなかったのだ。

「栞菜、ファーストとセカンド交互に打ってもいい?」
「はい。大丈夫です。」

雅にそう答えると1年生がぞろぞろと上級生について行くのが目に入り、栞菜は愛理を探した。目立つ梨沙子の側にいる愛理は簡単に見つかった。

「え?」

・・・愛理も栞菜を見ていた。
気のせいではない。
なんで?相手に気付かれてしまうほど見すぎてたのかな。

「どしたの?」

サーブを打つ準備は終わっているのにレシーブの構えをしない栞菜を不審に思い、雅が栞菜に近づき尋ねる。
栞菜が答える前に、雅はその視線をたどる。

「あー、あれ私の幼馴染。」
「へっ?」

思わず変な声を出してしまったが、そんなこと気にならなかった。
華奢な左手を愛理の方に軽く振り、雅は言う。

「あの子、菅谷梨沙子。かわいいっしょ。」

そっちかよ。「まぁ、栞菜も可愛いけどね」なんて続ける雅に内心つっこんでみる。
そして梨沙子をチラリと見ると、余程嬉しいのか満面の笑みを浮かべながらブンブン腕を振っている。
見た目に反した幼い行動。そんなところも可愛い。
愛理はそんな梨沙子に笑っていた。
その光景に知らず知らずの内に栞菜の口角も上がっていた。

「そうなんですか。」
「うん。お母さん同士が仲良くてさ。」
「へぇー」

雅も顔はかなり整っている。
「お母さん同士もそれぞれ美人なんだろなぁ」栞菜がそう言おうとするのを雅の言葉が遮った。

「そうそう、梨沙子の隣の子。愛理っていうんだけど。梨沙子と3人で何回か遊んだことあるから、あの子も知ってる。」


同じ中学校だから当然なのだが、栞菜は「世間って狭いですね」と返していた。

「そんなしみじみ言わないでよ。てか練習しよ!」

笑いながらそう言った雅に頷き、ラケットを握り締めた。


12 名前:OVER 投稿日:2008/07/26(土) 02:23




新入生がすっかり1年生、に慣れてきた。
どの部活も1年生が入って新チームとして始動しようかという時期に差し掛かっていた。
梨沙子はそのままテニス部に入部し、千聖は陸上部に、愛理は美術部に入部していた。

「あー!!筋肉痛だぁ!!」

3階の音楽室へと階段を昇る足を止め、愛理は振り向く。身長はほとんど同じだが段差のせいで今は梨沙子が愛理を見上げる形になる。

「りーちゃんさぁ、毎日毎日球拾いとか筋トレとか素振りとか頑張るようなキャラだったけ?」
「そりゃ出来たら筋トレとかしたくないけど・・・でも『これが終わったらみやと帰れる』って思ったら全然へーきになっちゃうんだよね。」

そんなに真っ直ぐ言われると自分のことでもないのに照れてしまう。
愛理は少し照れたのを隠すためにワザとふざけて言った。

「なら、こんな階段くらい愛のパワーで昇りなさい。」
「今はむり。みや不足だもん。」
「なんで?」
「昨日の放課後はみやが『今日は栞菜と話があるから』とか言って一緒に帰れなかったの。
朝はみや、朝練しに先に行っちゃうし。」
「りーちゃんも朝練すればいいじゃん。」

愛理と梨沙子は毎朝2人で登校している。梨沙子が朝練に行くと1人で登校することになってしまうが、いつも「みや、みや」言う梨沙子が朝練に行かない理由が気になり、愛理は言ってみた。
しかし、その理由は実に単純だった。

「愛理、りさこが朝起きれると思う?」
「思わなーい」
13 名前:OVER 投稿日:2008/07/26(土) 02:24
「いや、てか起きろよ!」

2人で笑い合っていると、上から声がした。
急に聞こえた声に驚き、2人は踊り場を見上げる。
微笑みながら2人を見ていたのは、栞菜と早貴だった。

「栞菜先輩!」
「そりゃ朝練は強制じゃないけどさ。」

驚く梨沙子にかまわず栞菜は続ける。その声色は厳しいものではない。
最初こそ冗談混じりできつい言葉を投げかけたが、梨沙子を咎めているわけではないのは、栞菜と話したことがない愛理でも分かった。
しかし、栞菜を見上げる梨沙子の表情は反対に曇っていく。

栞菜と梨沙子の間にいる愛理は少し居心地が悪くて梨沙子の横に並んでみた。
そのまま梨沙子の顔を横目で見る。ついさっきまでふざけていたのが一転、少し潤んだ瞳で栞菜を見つめていた。
親友の心境が全く分からない愛理は驚いた。
しかし、驚いたのは愛理だけじゃない。時折チラと愛理を盗み見ていた栞菜も、早貴も後輩の反応に内心驚いていた。
自分の言葉がきつかったのかもしれない。そう思った栞菜は慌てて謝る。

「ご、ごめん!別に怒ってるわけじゃなくて・・・」

しかし、何を謝れば良いのか分からず、続きが出てこない。
そんな栞菜を見かねて早貴が間に入る。

「まぁまぁ、梨沙子も栞菜も悪くないんだし、この話はもういいじゃん。
あ、それよりさぁ、もしかして次音楽?」

今いる北校舎の3階には音楽室がある。そして、梨沙子と愛理の手には筆箱と音楽の教科書。
早貴の手にも筆箱と音楽の教科書、リコーダーがあった。
つまり、早貴たち2−2の次は梨沙子たち1−2が音楽の授業だということだろう。

「はい。今日1人ずつ前に出て自己紹介するんですけど、その時に1曲歌うか楽器で演奏するかしなきゃいけないんですよ。」
「その自己紹介のやつ去年もやった。緊張したけど、人の見るのは楽しいから結構面白かったよ。」

声のトーンは落ち着いていたが、梨沙子がきちんと答えたので、愛理と早貴はホッとした。
ホッとしたところで愛理は気付いた。

「あ!急がなきゃ休み時間終わっちゃう!」
「ほんとだ!それじゃ失礼します。」
「うん。また部活でね。って、私たちも行かなきゃ!ほら、行くよ、栞菜。」

愛理が言うと梨沙子は2人に軽く会釈し、筋肉痛もどこへやら、愛理と共に階段を駆け上っていった。
早貴は栞菜の左手を取って走り出そうとした。が、棒立ちの栞菜は動かず、それはかなわない。
それどころか栞菜は振り返り、自分達の前を通り過ぎた梨沙子に向かって声を投げた。

「朝練は結構人少ないから1年生でもコート入れるんだ!だから起きれた時で良いから来てみなよ!あたしで良かったら色々教えるし!」

大きな声はしっかりと届いたが、返球はなかった。梨沙子は聞こえていないフリをして懸命に足を運んだ。


14 名前:OVER 投稿日:2008/07/26(土) 02:29




音楽の後にそのまま早貴と3階のトイレに寄ってから2−2の教室に戻ろうとしていたら梨沙子の姿があったから驚かそうとした。
急に会話に加わったことに実際梨沙子とその友人、愛理っていう子は驚いていた。
しかし、予想していた反応とは全く逆の表情をした梨沙子。
会話につっこんではみたが、そんなに嫌がられることを言ったつもりはない。
そして、おそらく聞こえていたであろう誘いを無視された。
栞菜は朝練に特別思い入れはない。それは梨沙子だって一緒だろう。
栞菜でさえ思い入れなど無いのに、むしろ一度も朝練に参加したことのない梨沙子が栞菜の言葉に反応する理由が分からない。
だが、あんな泣きそうな顔をされては気になる。
いくら考えてもぐるぐる同じところを回るだけで答えは導かれない。

いや、もしかしたら。
朝練がどうこうじゃなくて、自分に問題があるのだろうか。

新たな選択肢が浮かび上がる。
直前の休み時間のことばかり考えている栞菜は、真っ白なノートを覗いた数学教師にすら気付かなかった。

「新井、前で2番の(1)答えて。有原、お前は2番の残り全部な。」

明らかに配分がおかしいが文句は言えない。
栞菜は意地の悪い教師に指されたが問題など全く解いていなかった。
仕方がないので教師の目を盗んで後ろの席の熊井友理奈に教えてもらい、黒板に解答を書く。
そして席に戻る際、友理奈に話しかけた。

「シャーペン借りてるのに答えまで聞いてごめんね。でも助かった。ありがとう。」
「ほんと栞菜ちゃんってドジだよね。全部忘れるなんてさ。」

友理奈はニヤニヤしながら栞菜をいじる。

「でも一緒にいたのになっきぃってば全く気付かないんだよ。なっきぃだってドジじゃん。」
「なかさきちゃんもたいがいだねぇ。」

恥ずかしくなって、ついつい早貴を巻きぞいにしてしまったが、本人は席が離れているから、大丈夫だろう。


15 名前:OVER 投稿日:2008/07/26(土) 02:29




「ねぇ、さっき何かあったの?」

愛理は音楽の授業が終わると真っ直ぐに梨沙子のもとへ歩いた。

「なんでもないよ。」

梨沙子は眉を下げながら淡々と答えた。

「じゃあなんで有原先輩のこと無視したの?」
「別に・・・急いでただけじゃんか。」
「でも、話しかけられた時、りーちゃんなんだか」
「おーい、誰かテニス部いないか?」

愛理が最後まで話し終わる前に教師がまだ音楽室に残っている生徒達に呼びかけた。
梨沙子が小さく手を挙げて答える。

「先生、あたしテニス部です。」

先生の用件は「テニス部の有原が筆箱・教科書・リコーダーを忘れていったから部活の時にでも渡してやってくれ」というものだった。




「なんで私が・・・。」

そう呟いたのは梨沙子ではなく、愛理だ。

「だって今りさこ栞菜先輩・・・ちょっと駄目だし、愛理は前体験入部に来た時、栞菜先輩のこと気に入ってたし、ちょうどいいじゃん。」
「そもそもなんで駄目なの?りーちゃんも最初は有原先輩と夏焼先輩と3人で帰ったこととか嬉しそうに話してたのにさ。
そういえばさっき、有原先輩を無視した理由聞けなかったよね?」
「だから、さっきは急いでただけだってば!」
「じゃあ、なんで辛そうな顔したの?」
「りさこ、そんな顔してた?」
「してた。」

言葉に詰まった梨沙子に愛理は言う。

「りーちゃんの目、ウルウルしてたもん。」
「・・・そんなことないよ。」
「あるよ。」

また梨沙子は言葉に詰まる。
愛理の蚊の泣くような声が沈黙を破る。

「どうして話してくれないの?」

小さい頃からの親友が自分に悩みを話してくれていない、ちょうどそんな状態。
何も話してくれそうにない梨沙子の態度が不安だった。

「・・・笑わない?」

梨沙子は思い口を開く。

「笑わないよ。りーちゃんの悩み、笑うわけないじゃん。」
「ヤキモチなんだ。」
「ヤキモチ?」
「そう。ヤキモチ。」
「それって、どういうこと?」
「りさこは本当にみやのことが好きなんだ。」
「それは・・・分かるよ?」
「別に決まりはないんだけど、普通同じダブルスのペアは同じ学年の人と組むんだって。
みやが言ってた。でも、みやはね、栞菜先輩とどうしてもペアになりたくって、栞菜先輩に何度もお願いしたんだって。」
「・・・うん。」

梨沙子の話の意図がよく分からない。
しかし、せっかく話そうとしてくれている梨沙子を止めるつもりなどない。愛理は静かに聴くことにした。

「栞菜先輩は、みやに『夏焼先輩は私よりも上手い人と組むべきだから』って断ってたけど、みやが何回も何回もお願いするから『そこまで言うなら』ってペア組むことにしたんだって。」
「それで?」
「みやが、あの人見知りのみやが、2年一緒にやってきた3年生じゃなくて、1年だけ一緒だった後輩を選んだんだよ。
それってさぁ、みやにとって栞菜先輩は特別ってことだと思うの。」

確かに雅は人見知りだ。梨沙子の家で初めて会った時、大人びていて、かつ年上なのに雅は不安そうに梨沙子の小指を握りながら愛理に話しかけてきた。

「でも、それはテニスでの話でしょ?」
「みや、栞菜先輩といる時楽しそうだもん。
というか、ん〜。そうじゃなくて。その、嫌なの。」
「嫌って、何が?」
「みやが栞菜先輩と仲良くするの。りさこも栞菜先輩は優しいし面白いし、好きだよ?
だけど、テニスでも何でもみやと一緒にいないでほしい。なんか、みやが取られちゃうみたいで嫌なの。」
「りーちゃん。」
「ワガママだし、子供っぽいし、こんなこと思っちゃいけないんだろけど・・・。」
「・・・」

本気で人を好きになったことのない愛理は、梨沙子に掛けるべき優しい言葉を探すが見つからなかった。
代わりに浮かんだのは1つの疑問。

みやのこと好きって・・・どういう意味の“好き”なんだろう?
りーちゃんも、みやも女の子じゃん。


16 名前:ミナト 投稿日:2008/07/26(土) 02:44
>>7
州´・ v ・)<コメント第1号ありがとうございます♪
このCPは実際にイチャイチャしまくってるんで書いてみましたw

>>8
うはーありがたいお言葉w(ノ∀`)
期待していただけるような文章じゃないと思いますが・・・頑張ります!
17 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/26(土) 20:57
ヤッバイ!
すごくおもしろいです!!
次の更新も心待ちにしてます♪
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/06(水) 13:51
登場するキャラも設定も見事に自分のツボです!
続き楽しみにしてます
19 名前:OVER 投稿日:2008/08/08(金) 17:40



「2人とも教室戻らないの?」

女子生徒の1人が声をかける。その声に気付かされたが、音楽室にはその女子生徒と友人を除いて2人だけになっていた。

「あ、うん。私たちもすぐ行くよ!」

愛理が返事をすると、女子生徒は「そっか」と音楽室を出て行った。

「りーちゃん、とりあえず教室戻ろ。」
「うん。」

特に話すこともなく静かに並んで歩く。
音楽があったのは6時間目。急がなくては帰りのホームルームが始まってしまうが、なんだか急ぐ気分にはならない。
それは隣の梨沙子も同じようで、急ぐ素振りは見えない。

本当は聞いてみたい。
「りさこは本当にみやのことが好きなんだ。」と言った梨沙子に。
梨沙子が雅を好きなのは傍から見ても分かる。疎い愛理にだって。
だからヤキモチを妬くというのも頭では考えられる。
しかし、聞きたいのは“本当に”が意味すること。「好き」は友達としてなのか、それとも恋愛におけるものなのか。
梨沙子の言葉遣いからすると、きっと後者なのだろうが・・・確かめていないのだから前者の可能性だってある。
いや、むしろ女の子同士なんだから前者の可能性の方が高いのではないか。
聞いてみたい。

そんな気持ちを抑えて黙って歩く。2人の距離を一定に保ったまま。


20 名前:OVER 投稿日:2008/08/08(金) 17:42




「なっきぃ!」
「何?」

鞄とラケットケースを肩にかけた栞菜が早貴に近付く。
一方、早貴の手は竹箒を持っていた。

「音楽室ついて来てよ。」
「無理。」
「えー、冷たくない?」
「掃除だもん。」

早貴が箒を栞菜の目の前に差し出すと、栞菜はわざといじけた表情をしてみせた。

「そういうことですか。なら1人で行きますよ。」
「拗ねないでよ。忘れ物したのは栞菜なんだし。」
「そうだっけ。」
「もう!早く取りに行かないと部活遅れちゃうよ。」
「あはは!ごめん、じゃあ行ってくるね。」

そのやりとりを見ていた友理奈が早貴に「栞菜ちゃんって喋らなかったら美人なのにね」と話したことにも気付かず、栞菜は音楽室へ向かった。

音楽室の扉を開き、栞菜は自分が座っていた席を確認した。教師の机を見た。忘れ物入れを覗いた。
しかし、自分の持ち物は見当たらない。
仕方がないので職員室に行き音楽教師に尋ねてみると、梨沙子に預けられたことが分かり、栞菜は素直に部室へと歩いた。

21 名前:OVER 投稿日:2008/08/08(金) 17:43


あ!

思わず口に出そうになり、慌てて口許を左手で押さえる。
部室のドアの側には女の子が立っていた。
心細いのか俯いているが、栞菜にはすぐ誰だか分かる。


――鈴木愛理だ。


22 名前:OVER 投稿日:2008/08/08(金) 17:43


どうしようかと迷ったが、よくよく考えればテニス部の栞菜がテニス部の部室に行くのは当然のことだ。それに、愛理は梨沙子か雅に用があるのかもしれない。
深呼吸で落ち着かせて歩き出す。
しかし鼓動はかえって早く、頬は熱くなっていく。
足元を見て、愛理に気付いていないフリをしながら普段より大き目の歩幅で歩いた。

なんでもない。なんでもない。なんでもない。なんでもない。なんでもない。なんでもない。
気持ちを落ち着かせようと歩幅に合わせて繰り返す。
なんでもない。なんでもない。なんでもない。なんでもな

「あ、あの・・・」

なんでもなくない。
栞菜は振り返る。


23 名前:OVER 投稿日:2008/08/08(金) 17:44


「有原先輩、これ忘れてたみたいなんで。」

愛理が栞菜に手渡したのは筆箱、教科書、リコーダー。

「え、あぁ、アリガトウ。」

恥ずかしすぎる。豪快すぎる忘れ物を、よりによって愛理に渡されるなんて。
それに思わずイントネーションまでおかしくなってしまった。
愛理の顔は引きつっている・・・もう、最悪。第一印象悪すぎ。

出だしが悪かったことで吹っ切れたのか、その後は不自然になることなく話せた。

「でも、さっき先生に聞いたら梨沙子が持ってるって言われたけど、なんで鈴木さんが?」
「!」
「鈴木さん?」

栞菜は目を見開いたまま固まった愛理に呼びかけた。

「あ・・・えっと、今日りーちゃん歯医者行くから部活休むらしくて。それで、私が代わりに持ってたんです。」
「それでかぁ。あ、そうだ!鈴木さんって梨沙子と仲良いよね。」
「はい、良いですけど。」
「梨沙子、あたしのこと何か言ってなかった?」
「いえ、特に何も・・・」

栞菜の突然の質問に困惑しながらも答えている間に、愛理は思い出した。

「あ、でも!『栞菜先輩は優しくて、面白くて好き』だって言ってましたよ。」
「ほんとに!?」
「ほんと、です。ついさっき言ってたんで。」
「ありがとう。」

あの後梨沙子に嫌われているのでは、と少し不安になったが、その不安は必要なかったようだ。
栞菜はそのことが嬉しくて、思わず顔を近付け、自分よりも背が高い愛理の頭をポンと撫でた。


24 名前:OVER 投稿日:2008/08/08(金) 17:46


「ちょーっと、栞菜。何やってんの?」
「夏焼先輩!」「みや!」
「私の愛理いじめたらー、どうしよう?」
「そこちゃんと考えて下さいよ。てか、いじめてませんから。」
「本当にぃ?それよりさ、なんで愛理こんなとこにいるの?」
「有原先輩の忘れ物渡しに来たの。」
「有原せんぱーい!しっかりしてくださいよぉ。」
「すいませーん」

ニヤニヤしながら雅が栞菜をつつき、2人で笑った。すっかり顔が赤くなっている愛理に気付かないまま。

「それじゃ、私も部活行きますね。」
「うん。ほんとありがとね。」
「愛理、バイバイ。」


25 名前:OVER 投稿日:2008/08/08(金) 17:47




愛理は美術室へと駆けた。誰にも顔を見られぬようにと急ぎ足で。
ひたすら顔が熱い。

どうしよう、どうしよう。
絶対赤くなってるよ。
でも有原先輩と話しちゃった!ちょっとだけだけど・・・。
あ、それに、向こうも私の名前を覚えていてくれた!
1度りーちゃんに言われて体験入部に行っただけなのに!
あ・・・でも、あの時は喋らなかったな。私の名前知ってたのは、りーちゃんから聞いてただけなのかも。
さっきもりーちゃんのこと気にしてたし・・・。
でも頭!頭なでてくれた!うぁー。もう、ほんとどうしよう。

憧れていた、学校でも人気の先輩と話が出来たことに、愛理はパニックに陥った思考にコロコロと表情を変えながら喜んだ。


26 名前:OVER 投稿日:2008/08/08(金) 17:48




その日、「一緒に帰ろう」と雅に誘われ、栞菜は葉桜の並木道を雅と歩いていた。
周りには下校する生徒がたくさんいて騒がしいのだが、2人を包む空気は違っていた。

昨日雅と帰った時、栞菜は「もうすぐ引退だから、最後の大会も栞菜と頑張りたい」と打ち明けられたが、断っていた。
雅は部内の後衛で1、2を争うほど技術がある。ここぞという時の決め球を持ち、苦しい展開でも粘ってくれる。
そんな雅を栞菜は信頼していたし、一緒に組みたかった。
だが、雅と組むということは、3年生にとって最後の大会の団体戦に出るということ。
栞菜はそれだけが気がかりで快諾出来なかった。

「昨日私言ったよね。『諦めない』って。」
「言ってましたね。」

ぴたりと歩みを止める雅が栞菜を見つめる。逆行でその表情はうまく読み取れないが、栞菜は雅の瞳を見つめ返した。

「私、最後も栞菜とペア組みたい。」

雅たち3年生の引退をかけた、7月の大会のペアはそろそろ決めなければならない。
部員の希望を考慮したうえで顧問が決めるのだが、成立の確率を上げるためには栞菜にも「夏焼雅」と希望を出してもらう必要がある。
雅の真剣な眼差しを受け止めながら栞菜は口を開く。

「あたしも先輩と組みたいです。けど、」
「けど?」
「あたしが団体戦に出たら、3年生で団体戦に出られなくなる先輩が1人増えるじゃないですか。あたし、それだったら組めません。」
「そう、だけど・・・。」

今まで一緒に頑張ってきた同期のことも大切で、それ以上雅は何も言えず、2人は黙って歩いた。


27 名前:OVER 投稿日:2008/08/08(金) 17:49


2人が別れる路地に差し掛かった。
栞菜はふと雅を見上げる。
夕日で雅の髪は茶色く染まり、梨沙子を思い出した。

「あたし、今日梨沙子を怒らせちゃったかもしれません。」

ポツリと、道端の小石を蹴るように言った。

「いつ?今日梨沙子いなかったじゃん。」
「5時間目の後たまたま会って、――――」

栞菜は話した。階段でのこと。梨沙子が涙を浮かべていたこと。朝練に誘ったらそのまま走って行ってしまったこと。

「でも、鈴木さんは梨沙子があたしのこと『優しくて、面白くて好き』だって言ってた、って言うんですよ。
だから余計何考えてるのか分かんなくて・・・。」
「そんなことがあったんだ。」

雅は一呼吸置いて続ける。

「私も幼馴染だけど、たまに梨沙子が何考えてるのか分からなくなることあるよ。
昔から私が運動会で1位になったり、試合で勝ったりしたら自分のことのように喜んでくれるのに、佐紀ちゃんとか、ちぃと遊んだ話するとちょっと不機嫌になったり。
私にとって嬉しいことを梨沙子も嬉しいと思ってくれてるのかと思ってたのに、そういうわけでもないみたいでさぁ。」

短い期間だが、栞菜にとって梨沙子は可愛い後輩の1人だった。
いや、他の後輩には悪いが1番可愛がっているのは梨沙子だ。
梨沙子は雅にべったりだから単純に話す機会が圧倒的に多いせいかもしれないが。
梨沙子の笑顔が可愛くて、つい笑わせようと変顔したりしてしまうくらいなのだから、これは間違えようのない事実。
栞菜は雅が話す梨沙子の姿が用意に浮かんだ。

「今日後で梨沙子にそれとなく聞いてみるよ。」

そう言った雅に託し、栞菜は手を振って雅と別れた。


28 名前:OVER 投稿日:2008/08/08(金) 17:50




痛かった。
あんなに痛い思いをするのなら、これからは歯磨きをもっと丁寧にしないと。
梨沙子は夜、歯医者での治療を思い出して顔を歪めていた。

♪〜

聞きなれた単調なメロディを立てた携帯の液晶が光る。
メールの送信者を確認すると愛理だった。
内容を確認し、返信しようとしたら急に画面が変わる。


夏焼 雅
090XXXXXXXX


29 名前:OVER 投稿日:2008/08/08(金) 17:51


「もしもし。」
『梨沙子?今大丈夫?』
「うん。どしたの?」
『ちょっとさぁ、聞きたいことがあるんだけど。』
「何?」
『・・・今日栞菜と何かあったの?』
「何、急に?」
『栞菜が梨沙子のこと気にしてたから。私も2人には仲良くしてほしいし。』
「別にケンカしてるわけじゃないよ?」
『うん。それは知ってるよ。』
「・・・。」
『梨沙子、黙ってちゃ分かんないよ。』
「そうだけど・・・。」
『小さい頃からずっと隠し事なしでやってきたじゃん。何かあるなら聞くよ?』
「みや。」
『ん?』
「ごめんなさい。」
『何が?』
「何でもないけど・・・。」
『梨沙子。』
「・・・。」
『・・・。』

沈黙が続く。
こんな時、雅は梨沙子が喋るまで何も言わないことを梨沙子は知っていた。
言わなきゃ。でも・・・。
いや、電話でなら言える気がする。それに、子供っぽくてバカバカしい気持ちを話したら、雅は笑ってくれるかもしれない。
そう信じて、梨沙子は重い口を開いた。

30 名前:OVER 投稿日:2008/08/08(金) 17:52


「みや、あのね。」
『うん。』
「昨日一緒に帰れなかったじゃんか。」
『あぁ、ゴメンね。どうしても栞菜に話したいことがあってさ。』
「ペアのこと?」
『そうだよ。もしかして、それで怒ってたの?』
「違う!怒ってはないよ。」

息をゆっくり吸い込む。

「ただ、なんか嫌だった。さみしかった。」
『・・・。』
「みやは小さい頃から一緒で、でもみやが中学生になってあんまり会えなくなって、りさこの知らない友達が増えて、りさこの知らないとこの話ばっかになって・・・。
やっと今年また一緒の学校通えるのに、みやは栞菜先輩と仲良くて・・・みやが栞菜先輩に取られちゃう気がして、」

途中から声は崩れていた。続きはもう涙で言えそうにない。
必死にこらえるが、電話越しの雅に分かるほどの涙は止まらなかった。

31 名前:OVER 投稿日:2008/08/08(金) 17:53


『そんなことないよ。』

梨沙子の大好きな優しい声。この声が聞きたくて、長電話して母親に怒られたこともあった。

『そりゃ学年が違うんだから、お互いに共通してることばっかりじゃないよ。
それでも、こうやって話したりするのは梨沙子だからじゃん。
私、栞菜とか愛理とか他の学年の子と・・・たまにメールはするけど、それでも電話とかしたことないし。
2人だけで遊ぶのも他の学年じゃ梨沙子だけだよ。』

照れ屋な雅のことだ。きっと携帯を握り締めて、顔を真っ赤にしていることだろう。
梨沙子の涙はいつの間にか止まり、その顔には自然と微笑みが浮かんでいた。

「みや」
『何?』

照れ隠しか、雅はぶっきら棒に答える。

「ううん。何でもない。」
『何それ?』



「好き。」

『・・・ほんっと手のかかる妹だよね。』


32 名前:OVER 投稿日:2008/08/08(金) 17:53




愛理への返信メールには「明日一緒に学校行けないかも」と付け加えておいた。
梨沙子は目覚まし時計をいつもより1時間早くセットし、空欄ばかりの宿題をそのままに、早めの就寝時間を迎えた。

33 名前:ミナト 投稿日:2008/08/08(金) 18:05
>>17
書き出しでそんなこと言ってもらえるなんて・・・
ノk|‘−‘)<嬉しいプレッシャーだかんな☆


>>18
途中矛盾してたり、語彙がないせいで幼稚な文章になってたり駄文もいいとこですが、設定を殺さないように頑張りますw
川*^∇^)ll<エンジョーイ
34 名前:ミナト 投稿日:2008/08/08(金) 18:15
>>26
×逆行
○逆光

>>27
×用意
○容易

ですね。他にもいくつかミス、というかツッコミどころがありますが・・・
申し訳ないです。
35 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/14(木) 00:34
更新きてたぁー(´▽`)
更新お疲れ様です!
この2組の関係がこれからどうなっていくのか期待しつつ、次の更新楽しみに待ってます
36 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/14(木) 23:43
文章凄く上手ですね
物語に引き込まれます

引き続き楽しみに待ってます♪
37 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/16(土) 04:33
すごく展開が気になります
つづき楽しみにしています
38 名前:OVER 投稿日:2008/08/20(水) 14:34




全体重をかけてハンドルを回す。回すというよりも押す、引っ張る・・・・・・に近い作業。
ハンドルの重さに相応しく、ギィギィと鈍くかすれた音を立ててネットは張られていった。
栞菜はハンドルを精一杯握り締めていた手を緩め、軽くネットを叩く。
少し強く張りすぎたか。
口を尖らせて小さく息を吐き、コートの砂色にまだそれほど汚れていない白いシューズを見つけ、顔だけ上げた。

目が合う。
栞菜は、2人の間に“何か”が張りつめられている気がした。
夏が来る手前の空気は、こんなにもピンとしていないはずだ。しかし、そこに存在するのは空気であり、“空気”なのだ。

「おはようございます。」

それを切ったのは梨沙子の声。

「おはよう・・・・・・。」
「代わります。私、やりますから。」

そう言って栞菜の手からハンドルを奪うと、梨沙子は張りつめられたネットを少しずつ下ろしていく。
栞菜は突然のことに呆気にとられたが、ぎこちない動きをするハンドルと梨沙子の背中に、ネットと共に緊張感が緩められていった。

「起きれるんじゃん。」

梨沙子が振り向く。得意げにピースをしてみせる後輩に笑いかけると、そこにはもう朝の柔らかな空気が広がっていた。


39 名前:OVER 投稿日:2008/08/20(水) 14:37




「うっわ!その点数は駄目でしょ!」

梨沙子の答案を覗いた千聖が言う。

「待って!なんで勝手に人の見てんの!」

騒ぐ2人をよそに、愛理は席に着いたまま、たった今返却された答案を眺めて点数を確認する。

「千聖だってヤバイじゃん!『犬が当たれば棒も当たる』って何!?」
「違う!それは間違えただけだって。」

「あ!」

なおも騒ぎ続ける2人の側で愛理の目が輝く。

「なになに?」
「どしたの?」

一通り言い合い、飽きた2人はすぐに愛理へと話題を変える。

「採点ミス発見!」

ふふ、と黒目しか見えなくなるほどに目を細めて立ち上がると、教卓へ。
愛理の行動を見た2人は急いで答案を睨みつけた。

嬉しそうに戻ってきた愛理に、何度数えても変わらない点数に諦めがついた梨沙子は聞く。

「愛理は何点だったの?」
「んー?96点だよ。」
「分けてほしいよ。」

愛理が平然と答えると肩を落とす千聖。

最近千聖は梨沙子のことを気に入っているみたいで、よくちょっかいを出している。2人は打ち解け合って冗談を言い合うほどの仲になっているようだ。
当然いつも梨沙子の側にいる愛理も交えて話すが、男の子っぽい千聖と女の子らしい愛理の会話はまだぎこちなかった。


40 名前:OVER 投稿日:2008/08/20(水) 14:39




梨沙子は毎日かかさず朝練に参加するようになっていた。あの朝が苦手な梨沙子が、朝練に。
根は確かに真面目である親友がいないせいで、朝は1人で登校することが多くなった。
それほど寂しくはない。
そう長くない通学路を歩き、学校に行けば変わらず会えるのだから。
決まって毎朝「今日みやがね、」と話しかけてくれるのだから。

8時20分。予鈴の5分前に愛理は必ず教室に入る。
だいたいこの時間に朝練終わりの部員たちが教室に姿を見せだすのだ。
周りから優等生というレッテルを貼られているが、朝早く登校して勉強するほど勉強一筋ではない。
教科書がこれでもか、と詰められた目の前の席を眺めたり、隣の席の友人と話したりして、目の前の席の主――梨沙子をほんの少し待つのが日課になりつつある。

しかし、期末テストも全て返され、すぐ先に迫った夏休みを待つばかりとなったこの日は違った。
愛理はこの日、日直に当たっていたのだ。
「日直は8時までに教室の鍵を開けること。」
校則で定められているわけではないが、日直が鍵の施錠をするルールが校内にあることを4月に担任は言っていた。
出席番号が続いているおかげで愛理はいつも梨沙子とペアで日直になることが多い。
この日も例に漏れず、2人は揃って日直だったのだが、朝練の途中で抜けさせるのも可哀想だと思い、愛理は梨沙子に「私が鍵開けるから、りーちゃんはいいよ」と予め言っておいた。


41 名前:OVER 投稿日:2008/08/20(水) 14:39


学校に近付くにつれ、放課後よりも遠慮がちな吹奏楽部の音が大きくなる。
時刻は午前7時39分。並木道を歩くのは愛理だけ。
することもなかったので予定よりも早めに家を出てみたが、早すぎたようだ。
少し損した気分だが、朝の空気が気に入ったので気にしないことにした。
フェンス越しにソフトボール部の練習が見えてきた。軽快な金属音がすると、青い空にボールが浮かぶ。すぐさまグローブに捕まる音も気持ちよかった。
さらに奥では陸上部も練習している。

あれ、陸上部ってあんなに少なかったっけ?

そう考えていると前からバラバラと足音が聞こえてきた。

ああ、陸上部は毎朝外を走ってるんだ。

陸上部の波に混じって人懐っこい笑みを浮かべた千聖が見えた。
その隣には愛理の知らない1年生。楽しそうに走っている。
ずっと見ていると、近くに来た時に千聖は愛理に気がついた。

「おはよー!」
「おはよう。」

挨拶を交わし、互いに軽く手を振り合うだけですれ違ってしまう。
梨沙子にとって千聖は友達だろう。
だが、愛理にとって千聖は、そして千聖にとって愛理は、クラスメイト以上ではない。
ただそれだけのこと。
千聖も愛理も互いの存在を気にする必要はなかった。


42 名前:OVER 投稿日:2008/08/20(水) 14:40




梨沙子とは以前のように話すようになった。
雅もよく練習中に話しかけてくるし、部活後は梨沙子と3人で帰るのが当たり前になってきた。
1番仲の良い早貴以外にも同学年のみんなとは仲良くやっているし、少しずつだが後輩とも喋るようになった。
クラスでも平和に過ごしている。
期末テストもなかなかの成績だった。
あとは7月の大会に向けて部活を頑張るのみ。
何も問題など無い。・・・・・・雅以外の3年生の先輩がよそよそしくなった以外は。

夏休みまで消化するのみとなった授業中、栞菜は心あたりがないか考えていた。
ノートの端にラクガキをしながら。

いじめなんて起こる部活ではない。
先輩たちのことは好きだから悪口なんて言ったことないし、嫌われるような発言もしていないはず。
練習だってサボっていないし、準備・片付けも真面目にこなしている。
もちろん部室を汚したりなんかしていない。
それじゃあ、

「栞菜ちゃんは頭良いのにさぁ、授業を真面目に受けてるわけでもないんだね。」

後ろから友理奈が小声で話しかけてきた。
ニコニコと笑うその顔に悪気はなさそうで、相手をする。
教師が目を光らせていることを離れた席から早貴が伝えようとするもむなしく、栞菜と友理奈が気付く前に雷は落ちた。


43 名前:ミナト 投稿日:2008/08/20(水) 14:54
>>35
ありがとうございます!
この2組、どうなるんでしょうか?w
バッドエンドにしたくありませんし、するつもりはないです。
タイトル通りに進む・・・と良いなぁw


>>36
こんな文章にその言葉は勿体無いのでしまってください!w
いや、本当にありがたい
州*‘ o‘リ<もーん!


>>37
展開というか話が飛びまくりで、読みづらくて申し訳ないです。
次回からは区切りつけるなりしようと思います。
コメありがとうございます。
44 名前:ミナト 投稿日:2008/08/20(水) 14:58
というわけで、短いですが更新しました。
次回は金曜、いや来週中にでも。

読んでくださっている方がいましたら、改めてありがとうございますとゆいたいです
45 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/21(木) 20:08
作者様の書く文章が好きで、更新されてないかいつもチェックさせていただいてます!
ほのぼのとした雰囲気がいいですねぇ〜
次の更新も楽しみにしてます
46 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/02(火) 17:42
文章も登場キャラも好きです
更新待ってます
がんばってください!!!

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