Love IS so cute!
1 名前:セツナ 投稿日:2007/12/06(木) 06:42
℃-uteさんの短編をいくつか更新してみようと考えてます。
最初はやじうめ。
よろしくお願いします。
2 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 06:43

忘れなんないっ!
3 名前:セツナ 投稿日:2007/12/06(木) 06:43
失礼…タイトルから間違えました。もう一度w
4 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 06:44

 忘れらんないっ!
 
5 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 06:45


何か、変だ。
目の前で、長いまつげが揺れる。
あたしは…今、キスをしている!?

うあ…舌が入ってきた…。
頭の後ろがひっはられて、柔らかくて暖かい舌があたしのに優しく絡められる。
ダメ…。
頭のてっぺんから湯気出そう。
ほっぺたは既に火の車だ、って使い方違う?

いやいや、気持ち…いぃ…、ときとぎ漏れる彼女の声がひ、
ん?あれ?彼女…?
6 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 06:45

あたしは、ボーッとする頭の中にふとよぎった不安を取り出すように彼女の肩を押して、
あたしの口内にあった彼女の舌を引き抜いた。

「ん?」

心なしかうるんでいる彼女の、充血してるみたいに赤い目に見つめられて、またまた頭が
ボーッとする。

「あの、あの、」
「どしたの?えり?」

やっぱり、不安のまんまの「女」だったあたしのキスをしていた相手は、あたしを信頼しきった
目で見つめ、そうたずねた後、やっと事態の変化に気づいたらしい。

「ん?どうしたの?」

あたしはたぶんだって今、彼女がしているようなそんな素っ頓狂な顔をしているに違いないのだ。
目なんか真ん丸くなっちゃってるに違いないのだ。

「わかんない・・・んです、あなたのこと。」
「へ?」

目の前のあら、やばい、っていうかかなり美少女…、
は、少し笑いながらそうたずねた後、真剣な顔に戻った。
7 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 06:46
やばい…美少女…。
この子とさっきまでキスしてたの…?
まだ収まりきっといなかった心臓は、よりいっそう早鐘のように脈打つ。
なんか…見つめられてるし…。

「え、なにそれ、なんの冗談?」

もうきっと、ほんとだってわかってるようなトーンで聞き返されて、あたしはもう一度彼女を諭すように
「わかんない…。」と、静かに言った。

「え、待って待って。えり、あたしだよ?舞美」

彼女はようやっと事態の深刻さに気づいたように、あせり始め、早口でまくしたてはじめた。

「矢島舞美。えりと学校は違うけど、中学校は一緒で。三年のときおんなじクラスで。で、卒業しちゃったんだけど、
卒業してから、連絡またとるようになって、それでえりがこないだ、ねぇ?告白?してくれて…」

いやいや、何照れてるんですか・・・。
ちょっとキュン、とか胸がなっちゃいましたけど・・・。

「いや、わかんない」
「え、待ってよ。こっちがわかんないんだけどぉ」

ニコニコと笑う目の前の美少女にクラクラしながら、
っていうか、なんでアンタはまたもとのテンションに戻っているの!?
8 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 06:47
「ちょ、ちょっと、とにかく。え、待って。あたし今、いくつ?」
「へ?だから、高1だよ。あたしと一緒」
「高1・・・?」

ピン、とこない。
当たり前だ。
なんだか頭がスッカラカン。

目の前の美少女のことはもとい、たぶん自室であろう−なんとなく感覚的に?−この部屋のことも、自分のものだという実感
がいまいちないのだから…。
部屋の作り自体はわかるんだぁ、あたし、ここに住んでた。でも、まわりの小物に見覚えがないのだから…困った。

「ちょっと、お母さんっ!えりがなんか変なんですけどっ!」

舞美、はクルッと勢いよく振り返ったせいで、おもいっきりオレンジ色のパンツをあたしに見せてから部屋を出て行った。
はにゃあ?んにゃあ?
お母さんっ!とか言った?ここはやっぱりあの舞美ちゃんの家なわけ!?

9 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 06:47



 
10 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 06:48
「特に以上は見当たりませんね」

まったくお医者さん、っていうイメージの医者がレントゲン写真みたいなのを見つめて、あたしの目の前でそう言う。
なんだかわけのわからないうちに、お母さんが−私のお母さんだった−部屋に来て、あたしの額に手を当てたり、
いろんな質問をされたり、そしてまた舞美ちゃんのことを聞かれたり…。
ほんとうにわからない、と伝えると真っ直ぐに病院に連れてこられて、私は今簡単な検査をしてもらった。

「はあ。でも、この子、とっても仲のいい友達のことを覚えてないって言うんです」
「はいはい。ここ数日、何か精神的にショックなことを体験したとかいうことはありますか?」
「えりか?」
「あ、え、わかんない、です……」

医者とお母さんの話をどこかドラマのようだ、とぼんやりと思いながら眺めていたあたしは、
突然自分に投げかけられた視線に、かろうじて記憶していた会話に出てきた単語から質問を導き出し答えた。

「んー、とにかく、脳の方にまったく異常は見られませんし、もし何か不具合が生じているとすれば、
ここですね。精神科に繋ぐこともできますが、どうなされますか」

医者は心臓の位置を指した後、カルテみたいな紙に何かを書き込んでいる。
11 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 06:48
「私は専門ではないので何もいえませんがね、たまにあるらしいんですよ。一時的な記憶障害ってやつですか?
目が覚めたら急にここがどこかわからなくなったとか。そういう風な話も」
「はぁ、ではそちらで診てもらえるようお願いします」

母がそう言って、あたしは精神化に連れて行かれることとなる。
頭が妙に重く感じて、どうにかこの事態をなんとかしたいのはあたしも同じだったから、
が、しかし…。

「わかりません……」

ここにきてから三回目のわかりません、で、どちらかというと医者というよりは肉体労働についてそうなだけども白髪の
精神科の医師は、「そうです、か。」と半ば諦めたような口調でおっしゃった。

12 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 06:49


病院から出て、ケータイをつけてみると、メールが二通届いてた。
『えり、病院の結果どうだった?電話がいいけど無理だったらメールでいいから教えてね?』
舞美ちゃんからだった。

「はぁ…」

かわいかったなぁ。
あたしのこと、心配そうな顔で見つめてた。
あたしの乗ったお母さんの車が見えなくなるまで見送ってくれてた。
あたしと、彼女は、きっと付き合ってる、とかそういうことなんだよね!?
だつてあんな濃厚なキスをしてたんだもん。
記憶はなくなったと言えども、その前だってあたしなんだから、あんな風になるためには付き合うっていう事実が
必要なことなんだと思うわけだよ。

ペシッ-
脳みそがガクッ、と揺れる。

「アンタ、なんか変なクスリでもやったんじゃないでしょうね!?」

お母さんだ。
お母さんに頭を後ろからはたかれた…。

「やってないって言ってんじゃん。しかも、薬物とか検出されなかったでしょ?」

そうだよ。
お母さんが変なこと言うから尿検査と血液検査までやらされたじゃんかぁ!
13 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 06:49
「でも、忘れてるのって舞美ちゃんのことだけなの?」
「あ、そうみたい……」

さっき、メールが二通きてた。
舞美ちゃんのじゃない、もう一通は『メグ』と登録されている友人・村上愛だ。
『この間ノート取り忘れた理科の授業あんじゃん?明日絶対に休憩中に絶対貸してね?』
相手も、メールの内容も、全部把握できる。
そう、『この間』がいつのことを差しているのかまでちゃんとわかる。

と、なると、学校が一緒であるメグのことは覚えている。
その学校で起こっていたことも覚えているっぽい。
あたしの行動範囲なんてたかが知れているので、忘れているのはやはり、きっと、舞美ちゃんのことだけなんだろう…。


いやいや、あたし、他の誰のことは忘れても、自分の恋人のことは覚えとかなきゃいけないんじゃないの?

ため息を吐いた後、がっくしとうなだれたら、丁度きたタクシーに背中を抱いたお母さんに乗せられた。

『異常なかったよ。身体には。医者が言うには、なんか精神的なショックがあったときとか、一時的にこうなっちゃう
ケースがあるって話で。でも、特に何も覚えてなくって。まあ、それが一般的なことらしいんだけど。その嫌な記憶を
忘れるために記憶なくしちゃうって感じ?』

舞美ちゃんにメールをぱこぱこと打つ。
14 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 06:50
「一番仲いい友達のこと忘れちゃうなんてねぇ…」

隣で母親がぽつりと言った。
ごめんなさい…。あなたの娘はハレンチな娘です…。
部屋であんなことをしていたなんてっ!
しかも、女の子と…。
その感触やら、ほのかに漂ってた香りとか、生々しいものをなんだか思い出して急に赤面した。

けれど、少しも嫌悪みたいなものを感じないていうことは、やつぱりあたしは女の子を彼女にいできる人間なんだろうな。
なんか、今はとても実感がないのだけれど…。

『そっか。混乱させちゃつたらごめんね?でも、…ほんとになんにも覚えてないの?あたしのこと…。』

舞美から返信がきて、あたしは胸が痛む。
心配そうな顔してくれた彼女のこと。
あんなに優しい、きっと、あれが愛のあるキスってやつ、をしてくれていた彼女を忘れちゃってること…。

一体、自分に何があったっていうんだ。
わかるもん。
彼女を好きになった気持ち。
あんなにかわいい子。
あんなにあたしを心配した顔してくれる子。
あたし、好きになっちゃうはずだよ…。
15 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 06:51
『ごめんね。覚えてない。でもッ!きっとすぐ思い出すからっ!あんまり心配しないでよ。大丈夫だよ。』

一応、『彼女』というつもりでメールを打ち返してみる。

『うん。ソダネッ!えりがあたしのこと忘れるはずないっ!って忘れてンのカ・・。だからぁ、あたしのこと思い出さないわけないっ!
信じてるからねっ!えりっ!』
『任せといてよ。』

なんだか、心の中がホッとした。
また彼女の記憶はさっき変なことになってからの記憶しか持ち合わせてないけれど、『恋人』という関係でいることを少しも
苦痛に感じないし、むしろなんか棚からボタモチ的な嬉しい感覚だってあるわけだし。
メールで会話してたら、なんだかずっと知っているような自然な気分になれたから…。

16 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 06:52


「はぁ!?舞美を忘れたぁ!?」
「ちょ、メグっ!声でかいってぇ!」

あたしは思わずメグの口を押さえた。
学校に来て、さんざん悩んだあげくメグに相談してみた。

「あ、ごめんごめん。テヘッ!」

メグがおちゃらけるのをさめた目で見るとメグは「はいはいはい」と覚めた口調で言ってから、

「それ、冗談じゃなくって?」

といぶかしげな目をあたしに向けた。
あたしは、しょうがなくうなずく。
あたしだって覚えて痛かったのは山々なのだよ?
あれ?違うから今こうなってるんだっけ?
でも、こんなややこしいことになるのなら、覚えていた方がよかったに決まってる。

「アンタが、あの好きで好きでどうしようもない舞美ちゃんを忘れた、」
「はい。っていうか、そんなに好きだった?確かにかわいかったけどもサ」
「あちゃー。これそうとうきてますね。ほんとうですね。もう片思いのときなんかねむれなくて何度あたしに舞美のことで
電話かけてきたかっ!夜中にっ!人がっ!寝てるっ!ときにっ!」

あちゃー…。
そうでしたよね。メグってこういう人が弱ってるときに限って、攻撃してくるタイプの人間ですもんね。

17 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 06:53
あれ?
でもちょっと待って…。
それってなんか、

「それってなんか記憶にあるような……」
「ん?」
「だから、そのメグを何度も夜中に起こして、恋愛の相談?してた感じ?」
「はぁ?なにそれ。そこまで思い出してて、舞美のことは思い出せないっていう?」
「はい……」

なんかでも、ぼんやりと、なんかそのとき胸に抱えてた気持ちみたいなものは、思い出せるのですけど…。
駄目だ…。舞美ちゃんつて言う存在にはたどり着かない…。

「あれ?っていうかメグは舞美ちゃんと知り合いなの!?」
「うわ!!」

メグがおおげさにぴょんと飛びのいて両腕を擦りながらブルブル震えるアクションをとる。

「アンタが『舞美ちゃん』だって。気持ち悪いわっ!」
「いや、だってぇー…、初対面なんだもんぅー……」

メグは震えるのをやめて、はぁ、となんか納得したような声を出し、真顔であたしを見つめてた。

18 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 06:54


「ちょっとぉ、気まずいよぉ。顔あわせづらいよぉー。」
「ガタガタ言わずにちゃっちゃと歩くっ!」

あたしは、メグに腕をがっしりと掴まれて歩いている。
放課後、メグがあたしの机の目の前に立ったと思ったら、急に『行くよっ!』と言ったので、『クルヨッ!』って一応
返したら、白い目でみられて心底あきれたみたいな声でため息をつかれて、それから今こんな状態になっている。
『舞美の家っ!行って、二人のことちゃんとあたしと舞美で話してあげるっ。そうしたら、何か思い出すかもしれないでしょう?』
メグの提案。

あたしはと言えば、あの子にまた会えるのが嬉しい反面、なんだか緊張している。
家が近づくのがなんとなくわかって、なんだかガタガタ足がおぼつかなくなっていく……。

「メグ、ちょっと止まって…」
「そんなこといわないっ!」
「いや、ほんとに…っ!!」

気分が悪くなって、そっかこことはきっと家のほんとすぐ側なんだってどっかでさとったときに、見てはいけないものを目にした
ような気がして、その瞬間、記憶がフラッシュバックした…。
19 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 06:54
あたしは、気がついたら、メグの手を振り払って駆け出していた。

目から涙が溢れていて、それはほっぺたを容赦なしに伝う…。
あたしは…失恋してたんだ…。

さっき見た光景。
舞美が、かわいらしい女の子と、自分の家に二人で入っていくところ…。
あの子と舞美は…、この間あたしの目の前であたしに気づかずキスをした。
そのまま、少し不機嫌な舞美に連れられて、あの女の子は舞美の家に連れこまれてた…。

前がよく見えなくて…、
止まった場所は…、
やだなぁ、ここ、あたしと舞美がはじめてキスした場所じゃん。

ブランコにのったあと、何故か転んだあたしに舞美が駆け寄って手を差し伸べてくれて、そんときに「好き」って思わず言ったら、
舞美はとびっきりの笑顔を浮かべたまま、泣いた。嬉しいって泣いてくれた…。

嘘つき…。
嘘つきぃ……。

「っく……」

ヘナヘナと身体に力が入らなくなって、涙を溢れさせたまま地面に座り込む。

20 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 06:55
「えりっ!」

急に背後から舞美の大きな声が聞こえて、びっくりして振り返った。
途端に舞美が泣きそうな顔に変わる。
それからあたしの元まで走ってきて、しゃがんでぎゅっとあたしを抱きしめた。

そっか、胸、最近おっきくなったんだよねぇ。
と、腕に当たる感触でどうでもいいことを考えたら、なおさら泣けてきて嗚咽を漏らした。

「あの子、妹。」
「へ?」

意外な、意外すぎる言葉にキョトンとしてしまう。

「えりもしかして、見てた?愛理とキスしたとき……」

心臓が、いまさらながらその事実を舞美の唇から聞かされてぎゅうう、と押しつぶされる…。
やっぱり、したんだ…。
愛理っていうんだ…。
そうだよ、見てたよ。
舞美はあたしの返事を待たずに、続けた。

「あの日、えり急に来れなくなったってメールはいってたから、あたしだから、愛理と家にいるの落ち着かないしで、
えりの家行ったの。そしたら、えりなんか怒ってるみたいで、あんまり口利いてくれなくって…。『別れよう。』ってあたしに
行ったよね?」
「うん……。」

思い出したの、全部…。
それで、舞美が「やだよ。え、なんで?」ってあたしに聞いて、それから悲しそうな目して、あたしを見てて。
あたしは、どうしたらいいのかわかんなくて、頭がグラグラして、そしたら舞美にキスされてた。
気持ちよくって、いとしくって、好きすぎて爆発しそうになって……。
きっと、その瞬間だ…。
記憶が飛んじゃったの…。
21 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 06:55
「見てた?やっぱ見てたの?」
「うん…」
「違うの。ほんとに違うんだよ?」

舞美はあたしに顔を向ける。
なんで…泣いてるの…サ…。
あたしは、舞美の涙に余計涙が出てきて、
それでも舞美の顔が見たくて何度も何度も手でぬぐった。

「あれ、唐突にされて。えり見てたならわかるでしょ?あたし嬉しそうにしてた?怒ってたと思うんだけど…」
「でっ、でも…っ…一緒に家…。」
「…だから、妹だって言ってるじゃあんー」

舞美が泣きじゃくる子供みたいな声をあげてあたしをもう一度抱きしめた。

「今度、お父さん再婚することになって…。」
「う、そ…っ?」
「その相手の女の人の連れ子があの愛理で。なんかおんなじ学校でね?ずっとあたしにあこがれてた、とか急に告られて、
急にキスされたの。だから、キスはあっちからされただけだし、家に一緒に入ったのは、兄弟になるからでさぁ。っていうかなにぃ?
あたし、えりと別れたくないよ。えりが好きだよ。」

肩、縮むかと思った…。
舞美にぎゅっ、と抱きしめられて…。
22 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 06:56

冷静になってみると、それはなかなかにそれほどたいしたことではなくって…。
舞美はだって、すこぶるモテる。


「でも…、心配だよ…。」
「大丈夫だって。愛理になんかしたらお母さんたちの結婚駄目ってお父さんに言うからね?あたしの希望最優先ってお父さんは
言ってんだからっ!って釘刺しておいたからっ!」

舞美はブランコをキィーキィー言わせながらニッと笑って、立ちこぎをはじめた。

風に流れる綺麗な黒い髪…。
夕日に染まる…。

そう、誰だって好きになるの。
好きでどうしようもないの…。

「舞美、一緒に住もうよ。」
「へっ!?」

キィ、ガチャ-ズシャ-

舞美は変な風にバランスをくずして、やっとの思いで足で身体を支えた。

23 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 06:56
「な、なにいうかなぁ、急に。」
「何、あせってんの?」
「いや、だって、一緒に住むってさぁ…。」

舞美のほっぺたが真っ赤なの、夕日のせいじゃないって気づいてるけど、言ってやる。
だって、確かめたいんだもん。
舞美の口から、聞きたいんだよ…。

「愛理ちゃんと同じ家にいたい?」
「もう違うってぇ!」
「じゃあ、なにぃ?」
「…。」

チラッ、とあたしを見る顔。
舞美もきっとわかってる。
あたしが確かめたいだけなんだってこと。
それでも、言ってくれるんだ。

「えりが好きだから。緊張すんじゃん…。」

潔く、男前にはっきりと、
女の子らしく、照れながら視線逸らしたりなんかして…。
24 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 06:57
「記憶戻ったから。」

あたしは舞美に近づいて、ムードに気づいた舞美が寄せる唇に引き寄せられるように唇を重ねた。
愛理には、こんなキス、してないよね?
こんなに、気持ちよくさせるキス、あたしにだけだよね…?
優しい…。



25 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 06:57
大好きだよ。
これからも、きっとジャラシって、わけわかんなくなって、また記憶喪失になっちゃうかもっ!
そんくらい好きなあたしを、こんなにももっと、どうしようもないくらい好きにさせたんだから、
ちゃんと責任とってよね、舞美。

「愛してるよぉ…。」

抱き合って言うと、

「ん、あたしも…愛してる。」

って少しかすれた舞美の声が聞こえた。

「やばい、記憶とびそぉ。」
「ちょっとぉ、やめてよぉー?」

もう逃げない。
その声を耳元で聞ける。
体温を感じられる。
誰より特別でしられる距離を、もう自分から離したりしないから…。
26 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 06:58

 忘れらんないっ! −Fin−
27 名前:セツナ 投稿日:2007/12/06(木) 06:59
以上です。
今度はこの話の中に出てきた愛理ちゃん視点の話を考えています。
28 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/12/06(木) 08:58
凄く面白い作品ですね!
ニヤニヤしながら読んじゃいましたw
29 名前:セツナ 投稿日:2007/12/06(木) 22:54

 スコール

 
30 名前:セツナ 投稿日:2007/12/06(木) 22:54
体中が、雨に濡れていた。
じんわりと寝そべった体の下方が麻痺していて、
それから・・・、

あたしの体にかけられた・・・パーカー?

あたしは、異変に気づき、ガバッと体を起こした。
その勢いにともなって軽く眩暈・・・。

あたしが寝そべっていたベンチのギリギリに、
ちょこん、とその人は腰掛けてあたしのことを見ていた。

「あ、起きた。」
「え、なんでいんの?舞美ちゃん・・・?」

頭の中はクエスチョンマークだらけ。

小雨の降るベンチ。

夕方のように薄暗いこの銀杏並木には、あたし達のほかに誰もいない。
31 名前:セツナ 投稿日:2007/12/06(木) 22:55
「っていうかあたし、空から降ってきたと思った。」
「ん?何が?」

あたし、寝ぼけていて頭が働かない。

「愛理が。昨日ラピュタ見たから。」
「え?」

・・・っていうか、わかんない。

「なんかっ!異質だったのっ!」

あたしの怪訝な顔に気づいてか、舞美ちゃんは少し怒った風にそう言った。
あたしは思わずふは、と笑う。

「だから、イメージよ、イメージ。」
「そっか。」
「うん。」

・・・。

「うん。」

舞美ちゃんは二度繰り返して、うなずいた。
32 名前:セツナ 投稿日:2007/12/06(木) 22:55
妙な沈黙・・・。

ああ、そっか。思い出した。

家を飛び出したあたしは、はじめて舞美ちゃんと笑い合った場所で・・・。
はじめて、彼女のことを憧れでなくほんとに好きだ、と気づいたこの場所で・・・。
ただ、途方に暮れていたんだった。

舞美ちゃんには、『彼女』がいる。
もう付き合って、何年にもなる彼女。

あたしがあまりにもしつこく舞美ちゃんに言い寄ったら、
すんごく真面目な顔して、すんごく真面目な声で、
『あたしは、えりが好きだから。愛理とは、付き合えない。』
そう言われた。

気づいたら、強い雨の降る外に飛び出していて、
ベンチにゴロンとなって、雨の落ちてくる空を見上げたら、
雨が目に入って、痛くって・・・頬に流れたしずく・・・。

ぎゅっ、と目を瞑って、『忘れよう。』そう心の中で唱えていた。

ら、いつの間にか眠ってしまっていたようだった。
33 名前:セツナ 投稿日:2007/12/06(木) 22:55
「あのさ、妹だからとかそういうことじゃないよ。」

舞美ちゃんは、地面を見つめてそう言う。

「わかってるよ、そんなこと・・・。」
「そっか・・・。」

だから、胸が痛いんだ・・・。

舞美ちゃんのほっぺたに、まるで泣いているみたいに雨が伝う・・・。
舞美ちゃん・・・、

「なんで傘、差さないの?」
「ん・・・?」

舞美ちゃんは少し黙って手に持っている傘を見つめた後、小さな声で、

「罰、かな・・・。」

って呟いた。
34 名前:セツナ 投稿日:2007/12/06(木) 22:56
好きな人に、こんなに悲しい顔させるために、好きになったわけじゃないのに。
あたしだって、こんなにつまるほど、胸が苦しくなるために好きになったわけじゃない。

神様は、意地悪・・・。

ぽつぽつと、地面に落ちる雨を見送ってたら、急に鼻の奥がむずむずして、
クシュン、とクシャミが出た。

急に、体の冷たさを実感していると、舞美ちゃんがあたしに向く。
びくり、とした途端に手をぎゅっ、と掴まれて引っ張られる。

地面に降りた足は、舞美ちゃんの肩を追いかける。

「風邪、ひいちゃうじゃん。」

優しく、しないで・・・。
あったかい、手のひら・・・。

はじめて、この手に触れたとき、ドキドキしたんだ・・・。

好き、なんだぁ・・・。
35 名前:セツナ 投稿日:2007/12/06(木) 22:57
「・・・ック・・・・・・。」

涙が溢れた。
雨が急に強くなって、あたしの声を掻き消すから、なんだかもっと切なくなって、
声を上げて泣き始めてしまった。

止まらない止まらない・・・。

あったかい手が、力強い手が、優しい優しい温度の手が・・・。

あなたのことが、大好きです・・・。

好きです。好きです。
好きで好きでどうしようもないんです・・・。

「あ、傘させばよかった。」

家の玄関にたどりついたとき、舞美ちゃんがぽつりと言った。
あたしはそれに、思わず噴出したら、涙に詰まって変な声が出た。

「愛理は、・・・かわいいよ。」

ゆっくり顔が近づいて・・・重なる・・・。
二度目のキスは、柔らかくて優しくて、

36 名前:セツナ 投稿日:2007/12/06(木) 22:57

でもとても冷たかった。
 
37 名前:_ 投稿日:2007/12/06(木) 22:58
 スコール −Fin−
38 名前:セツナ 投稿日:2007/12/06(木) 23:00
レスどうもありがとうございます。

>>28さん
ありがたいお言葉を!
どうもありがとうございます!
39 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/12/07(金) 00:10
やじうめもやじすずもいいですね
次のお話しも期待しています
40 名前:_ 投稿日:2007/12/07(金) 18:03

 空から少女は振るように
41 名前:_ 投稿日:2007/12/07(金) 18:04
ひどい人。

ひどい人。

なのに、嫌いに、なれない・・・。

42 名前:_ 投稿日:2007/12/07(金) 18:04
あたしは、あの日からよくこの銀杏並木にかよう。
あのベンチで思い出すために。
このベンチで一緒に雨に濡れてくれたあの人を、まだ好きでいること。
一緒に罰を受けてくれた人のこと、思い出してはひんやりと胸がいっぱいになる。

忘れなきゃ。

新しい、恋でもしなきゃ。

もう舞美ちゃんは同じ家にいない。

付き合っている彼女と、同棲をはじめてしまった。

「ん〜、気持ちいい。」

やけにシンとした空気。
なのに、ぽかぽかと降り注ぐ陽気に伸びをした。
声が空しく響いた。

・・・。
43 名前:_ 投稿日:2007/12/07(金) 18:04
銀杏は青い葉をつける。
たくさんたくさんたぁーくさん。

あたしは、あの日のようにベンチにゴロンと横になった。

もう雨は落ちてこない。
罰は、あの日に、終わった。
はずなのに・・・。

最後のキスが忘れられない。
唇にそっと触れて、目を瞑った・・・。
44 名前:_ 投稿日:2007/12/07(金) 18:05


「あれ、もしかして、空から降ってきた人ですかぁ?」

あの日にまた意識が戻ってそれに首まで浸りそうになったとき、
ふいにおちゃらけたもごもごした声が聞こえた。

誰の声かは、すぐにわかった。
隣町にあたしが住んでいた頃、幼馴染だったヤツだ。

それにしても、そのセリフ・・・。

あたしは、目を開けてキッとそいつをにらんだ。

「なにぃ?」

ぎょ、っと驚く仕草を見てカラカラ笑った。

「千聖、何よ、空から降ってきたって・・・ラピュタ?」

あたしは上半身を起こして、千聖に向かい合う。

「そぉ、だってこれ。」

千聖は近寄ってきて、挨拶もなしにあたしの隣に座りつつ、
あたしの胸元にぶらさがってたネックレスを揺らした。
45 名前:_ 投稿日:2007/12/07(金) 18:05
なるほど・・・。
確かに、飛行石だっけ?に見えないわけでもない。

「いきなしベンチで寝てる人がいてぇ。これついてるじゃないっすかぁー。空から降ってきたと思ったね。」

楽しそうに笑うその顔に無性に腹が立つ。
あの日、あたしは心も体も冷たくて。
そこにはあの人が座ってた・・・。

「千聖、目つぶってみて。」
「え?うん。」

無邪気に笑うのが、いけないんだから。
素直すぎるのがいけないんだから。
あの人とおんなじこと、言っちゃったから・・・。

あたしは、千聖の唇にあたしのそれをそっと重ねた。

46 名前:_ 投稿日:2007/12/07(金) 18:06
千聖が驚いたようにパッと目を開ける。

「え、今、何した?」

千聖のくちびる、あったかかったです・・・。

「人間は罪を重ねていきていくものなのよ。」

あたしに、この罰は重くて、耐えられそうに無かったから・・・。
あたしは、キョトンとしてる千聖をほっぽって立ち上がって歩き出す。

「ありがと。千聖。」

それだけ、呟いた。
聞こえたかどうか、わからない。

それでも、ありがとう。

あの日の冷たいキスは、もう思い出せません。
あなたのあったかいくちびるに、代わったよ。
47 名前:_ 投稿日:2007/12/07(金) 18:06
ありがとう。

ん〜、だからさ、ついでに。
空から降ってきたのは、千聖ってことにしといて。

「あ、愛理?」

後ろからかすかに聞こえてきた焦ったような声に、思わず笑ってしまった。

「この愛理のキスを受け取ったんだから、感謝しろよっ!」

振り向いて、大きな声で言った。
千聖は、何を考えてるのかわからない間抜けな顔をしている。

「なんだよ、それぇ。へぇーんなの。」

千聖がそう言うのを聞いて、改めてバイバイ、と手を振った。
千聖はすぐに笑顔になって手を振った。

「今度、遊びに行くぅー。」

背中の後ろから投げかけられた声に、振り向いてあたしは大きくうなずいた。
48 名前:_ 投稿日:2007/12/07(金) 18:06

今度キスをするときは、あったかいキスがいい。

罰は、あの雨の日に終わったから。

何故だか、真っ直ぐにそう思えた。
49 名前:_ 投稿日:2007/12/07(金) 18:07

 空から少女は降るように −Fin−
50 名前:セツナ 投稿日:2007/12/07(金) 18:10
レスほんとうにありがどうございます。

>>39さん
いいっすか!
そう言っていただける作品をこれからも書いていきたいです。

ちなみに、今回の更新でシリーズは終わりです。
51 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/07(金) 23:11
素敵な雰囲気で、でも等身大で。
いやー好きです、こーゆー文章。
52 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 02:26

 ほんものに変わるまで
53 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 02:26
木の陰に隠れて、聞いていた。
甘酸っぱい雰囲気の流れる会話を・・・。
これは、盗み聞きだ・・・。

えりかは息を潜めて、話が早く済んでくれないものかと願う。

「あの、先輩、好きです。」

何故か泣き出しそうに聞こえるその声。
?マークを浮かべながらも、えりかはジッと待つ。

「・・・私はあなたのこと嫌い。大っ嫌い。」

嫌な感じのする物言い。
そのセリフにえりかはギョッとする。
おいおい・・・、そこまではっきり言わなくても・・・。
何故か心臓がバクバクしはじめる。

頼むから、はやく終わってくれよ・・・。
額に変な汗が噴出す。

「・・・そうですか・・・。」

少し幼い感じのする声の持ち主が寂しそうにそう言うのを聞いた。
あれれ?あんまりショックじゃないのかなぁ?
えりかは、その声のトーンに少しびっくりしながらも、おそらくその少女がパタパタと駆けて行く気配を感じる。
54 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 02:27
「はぁ・・・。」

木の向こうでため息・・・。

「疲れたぁ・・・。」

えりかはさっきと全然トーンの違うその声に少々面食らう。
どうでもいいけど、はやくそこからいなくなって欲しい。

「なんであんなひどい嘘つかなきゃなんないのぉ・・・。」
「え、嘘だったの!?」

思わず呟いて、慌てて口を手で塞いだ。

「何?え、誰かいんのぉ?」

やばいっ!
と思うけど、動くことができずに固まる。
足音と気配が近づいて、えりかはギュッと目をつぶる。

「あの・・・、何してるの?」

そう問いかけられて、覚悟を決めて目を開けた。
うわ・・・、かわいい・・・。
目の前にあった顔に、そう思ってしまう。
55 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 02:27
そこにいたのは、えりかもよく知っている顔だった。
どうりで、どこかで聞いた声だと思ったわけだ。

「ごめんね。聞くつもりなかったんだけど、なんかすんごい勢いで二人で歩いてくるからさぁ。」

えりかは、おずおずと謝る。
考えれば、その時点で二人とすれ違ってこの場所をさればよかったんだけど。

「梅田さんだ。」

居心地の悪い気持ちが、彼女のその一言で変わる。
とっても、人なつっこい笑顔を向けられてしまった。
というか、何故あたしの名前を知ってる!?
えりかは困惑する。

背の高い自分が、どれだけ学園内で目立っているかえりか自身は気づいていない。

「はい。梅田です。ほんとすいませんでした。矢島舞美さん。」

何故だかえりかは張り合いたい気持ちになり、目の前の少女-舞美にフルネームを呼んで見せた。

「っていうか、なんでこんなところにいるのぉ?」

ほんとにニコニコよく笑う人だ。
えりかは少々面食らいながら、質問に答える。
56 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 02:28
「や、すきなの。ここが。」
「え、ここが?」

舞美は思わず驚いて聞き返す。
そもそも、二人がいる場所は体育館裏で。
日当たりがよくないせいで、空気もよどんでおり、あまり気持ちのいい場所とは言えなかったからだ。
舞美が驚いてるのがわかったえりかは、また張り合ってしまう。

「さすが生徒副会長、モテるんですねぇ。」

いいじゃないか、好きなんだから!ここが!
しかし、自分の口から飛び出した言葉が余りにいやみったらしくて驚く。
あたし、性格悪いって思われちゃうよ・・・。

「いやぁ、違うの。誤解しないでね?さっきの子、ほんとにしつこくてさぁ。毎日ストーカーしてくんの。」
「え゛・・・。」

何故だか気持ちが張り詰めていたえりかは、その瞬間素に戻る。

「っていうか、そういう子に冷たい態度とるのはあんまりよろしくないんじゃないでしょうか・・・。」
「え、なんで?」
「だって、なんか怖くないですか?ストーカーまでしちゃう女の子怒らせちゃうのは。」
「だって、じゃあほかにどうすればよかったの?」
「ああ・・・。」

不安そうな顔をされて、言葉に詰まる。
少しの沈黙。
えりかは、不思議な気分になる。
もともとえりかは学校にいても、なるべく目立つ行動は控えるようにしている。
あまり、自分に自信のあるタイプではなかった。
顔が綺麗、背が高くてかっこいい!
小学生のころ、そんな言葉に少し調子に乗ってしまったことがある。
そのときに思い知らされた。
自分は、見た目よりも「できない」子なんだと。

恥をかくのはもうたくさんだった。
57 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 02:29
なのに、そんな自分と学校で1,2を争う有名人が話をしている現実。

「っていうか、やっぱりほんとにやばいのかなぁ?」

腕をガシッ!とつかまれてわれに返る。
・・・なんなんだ、この人。妙に人懐っこい・・・。
えりかは、またまた面食らいながらも、とりあえずなだめることにする。

「いや、ちょっと言ってみただけだし・・・。」
「待って待って。もう怖いんだけど、あたし。」

いや、そんなうるうるした目で見つめられても・・・。
えりかはついおかしくなって、噴出した。

「え?」

舞美は急に噴出されてキョトンとする。
舞美がキョトンとえりかを見ていて、それから何かを考えるように俯くと勢いよく顔を上げた。

「ねぇ、梅田さん。あたしと付き合って!」
「え?」

キョトンとするえりか。
キョトンとする舞美。
58 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 02:30
「あー、じゃなくって。」

舞美は慌てて言葉を繋いだ。

「付き合ってる振り、して欲しいの。」
「あぁ。って、えぇ!?」

自然にのりつっこみを決めるえりかは、戸惑う。
舞美はいたって真剣な顔だ。
えりかの手をこれでもかっ!ってぐらいに強くつかんで。

「だって、それしかないと思うのっ!だからお願い。」
「いや、ちょっと待ってよ。それって、あたしが危険にさらされるんじゃ・・・。」
「違うっ!」

ぶんっ!と繋いだ手が揺らされる。
いや、激しいし、舞美さん・・・。

「梅田さんなら、絶対大丈夫だよ。」
「え、何を根拠に・・・。」

あたしなんて、絶対駄目だよ・・・。絶対笑われるよ、矢島さん・・・。
えりかは自虐的な思いにとらわれる。

「大丈夫だから、お願いっ!」

手に握りを変えられて、両手に掴んでそうねだられる。

「え、っていうか、えーと、それってあたしになんか得あるかなぁ?」

他の言葉がうまく思い浮かばなかった。
無下に断ることもできそうになかったし、かと言ってはいそうですね、ってな風に引き受けられるような話ではない。
59 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 02:30
「あー・・・、じゃあ、えぇーっと・・・あのねぇ・・・。」

舞美は、うつむいて考え始める。
握った手のひらが少し汗ばんでくるのを感じたえりかは、ひとつため息をこぼした。

「矢島さんっ家ってお金持ちだよね?」
「え?ああ・・・、まぁ、そこそこ?」
「じゃあ、枝豆一年分頂戴。」
「枝豆・・・?」

舞美はキョトンとする。
えりかはその隙に手を舞美の手から抜き取ってしまうと、ポケットに突っ込んだ。

「あたし、大好物なの。じゃ、そういうことで。」

えりかは、スタスタと歩き始める。
冗談じゃない。
何故、居合わせただけでストーカーの標的になる?
矢島さんは可哀想だけど、自分が傷つくのは嫌だ。
このままサラッと姿を消せば、忘れてくれるだろう、この取引。

なんだか、自分がエゴの塊のように思えて少し歩く速度が遅くなる。

「あっ!じゃあ、帰り、迎えに行くからっ!」

後ろから、舞美の声がして、えりかは甘い考えを振り払った。

絶対、そんな振りゴメンだっ!

60 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 02:31


そう思ったのに。

「ねぇ、来てる?来てる?」

矢島さんって、そういや運動神経抜群だったっけ?

浮かない顔して、矢島舞美に腕を掴まれてる梅田えりか。
後ろを振り返ると、適当に、

「来てない、来てない。」

と告げた。

放課後、ホームルームが終わった教室が一気にざわめいた。
みんなの憧れ、人気者の矢島舞美さんがクラスでも地味でルックス以外では目立たない梅田えりかの元へ
すっと歩いていき、机の前で立ち止まる。

「じゃ、帰ろうか。」

ニコッ、と副会長スマイル。
二人が今日始めて言葉を交わしたばかりだとは誰も思わないだろう。
あらら、なかなか演技が上手ですね。
えりかはそんな風に思いながらも、やはり、戸惑った。

今も、クラス中の視線を集めている。
逃げよう!そう思って立ち上がったとたんに、物凄いスピードで脇を陣取った舞美にガシッと腕を組まれてしまった。
61 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 02:32
「なっ!?」

思わず声を荒げるも、舞美の顔がにっこりと微笑む。
ああ・・・副会長さん。
なんか、腕はびくともしないし・・・。
えりかは、観念して早足で歩き始める。

「ふふ。」

隣で舞美が笑うのがわかった。

なるべくかかわらないようにしてたら、きっとそれでお役ゴメンに違いない。
えりかは、そんな風に思ってすみやかに靴箱で靴を履き替え、学校を後にしようとする。
舞美は「ちょっと待ってよ!」と慌てて靴を慌ててつっかけ、また腕を組んでくる。
・・・なんか、憎めないけど・・・。

ちょっぴり、ほだされそうになった瞬間、背筋が凍りつくのを感じた。

「あの、あたしすんごく睨まれてるんですけど・・・。」
「ああ・・・、あの子だよ。鈴木愛理ちゃん。」
「って、あの告白の?」
「そう。」

舞美の顔が暗く影を落とす。
えりかは、不思議と鈴木愛理を威嚇していた。
強い目で、睨む。

あ、やばい・・・。

思った瞬間には遅くて、愛理は涙ぐむどどこかに走っていってしまった。
62 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 02:32
あたし、ヒールじゃん・・・。

えりかは、思い出して小さくため息を吐く。
隣の舞美は、愛理を意識して見ないようにしていたのかいなくなってしまったことには気づいていないようだ。
少なくとも、さっきまでのあたしは、下級生を涙ぐませるようなそんなキャラじゃなかったのに。

「枝豆いつくれんのぉ?枝豆ぇ。」

しかし、隣の舞美にも理由があるわけで。
強く物が言えないえりかは、そんな方法で苛立ちを伝える。

「枝豆?ああ・・・。」
「忘れてたのかよ・・・。」

思わず、頬が緩む。
舞美の腕の力が一気に抜けたせいもある。
なんだか、よくつかめない人だ。

こうして、接する前のえりかの舞美に対するイメージ。
とにかく才色兼備!学園一目立つセレブ。
そんなイメージだった。

「ところでさぁ、今思ったんだけど、家、こっちでいいの?」
「あ、うん。あたしの家、こっちだよ?」
「なんだ、おんなじ方向だ。」
「うん。」

いつまでこの腕は組まれてるんだろうか・・・。
そんな疑問が頭をよぎったけど、学校を離れてしまうと舞美の隣にいるという事実はなかなか心地がよかった。
その横顔を思わず見つめる。
スゥー、と通った鼻筋。チワワみたいにおっきな目。何故かニコニコな表情。
どっからどう見ても、かわいい。
自分より背は低いけれど、スタイルもなかなかのものだということを、体育祭なんかで認識していた。
63 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 02:33
「あたし、こっちなんだぁ。」
「あ、そっか。じゃ、また明日ね。」

意外にあっさりしてんだな。
違う方向に向かおうとしたのがわかって、発した言葉は至極簡単に受け入れられてしまった。

「ばいばい。」

舞美が笑顔で手を振る。
錯覚する。
自分が彼女の恋人なんではないか、と。
そこまではいかないかもしれない。
昔から仲の良い友人ぐらいが丁度いいかも。

えりかはそんなことを思いながら、舞美に小さく手を振り返す。
今日は肩の下まで真っ直ぐに下ろされているストレートの黒髪がキラキラ赤くなりかけた太陽を映して
なびく。

「はぁ・・・、ありゃモテるわ。」

呟いたら、なんだか急に寂しくなってトボトボと歩いた。
64 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 02:33


『へぇ、なんかえりかちゃんも大変だね。』
「そぉなんだよ。もうわけわかんない。」

休憩時間に話す、仲のいい友達なら学校にもいる。
だけど、この話は学校の中でするのはまずいと思った。
ので、電話口の向こうにいるのは従姉妹である嗣永桃子。

『でもすごいじゃん。見初められたってことでしょ?あの綺麗な子に。』

桃子も舞美を見たことはあった。
丁度、桃子の学校での弁論会があったとき、舞美が弁論を読んでいたのだった。

「見初められたって・・・。ただそこにいたからじゃないの?」
『そんなことないよ、えりかちゃん、かっこいいもん。』

なんだか、勇気づけられる。
この従姉妹と話をしていると、そういう気持ちになれるから好きだ。
えりかは、少し笑う。

「はぁあ、明日から何するんだろ。」
『適当にしてれば問題ないって。』
「だよね。別にたいしたことじゃないよね。」
『うん、そうかもね。』
「何よ?かもね、ってぇ。」
『いやいや、大丈夫。大丈夫。元気出して!ファイトぉー!』
「桃ちゃん、サブイ。」
『ひっどぉ〜い。』

明らかにぶりっこした声。
これでいて、彼女にはどこか甘えられる部分があるのが不思議だ。
内心、すごく頼りにしている。

諸事情はあったものの誰かに相談してみようっ!と思い立ったとき、即座に彼女が思い浮かんだ自分の気持ちがやっと理解できたような気がした。
65 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 02:34


「お弁当作ってきたの。」

ニコニコと笑顔を振りまいて、目の前に立った人物にあきれながらも、何故かえりかもつられて笑う。
なんだかなぁ、あんなに気分重かったのに、ペース乱されるよ。
美人って得だな。

昼休みに入ったばかりの時間、えりかは舞美に腕を組まれて教室を後にしながら、そんなことを考える。

屋上に行くのかな?と思っていたら、それはビンゴだったみたいで、
腕を組まれたまんま、よどみなく屋上までたどり着いた。
と、舞美がキョロキョロしはじめる。
えりかが不思議に思っていると、

「よし、ここなら誰からも見られないよ。」

と、貯水タンクの陰まで連れて行かれた。

「え、誰かに見られた方がいいんじゃないの?」

だって、アピールするにはそれが一番じゃん。

「えりかちゃんって意地悪だよね。」
「え?」

なんで?あたしはむしろあなたのことをすんごく考えてあげたのですけど・・・。
えりかは、キョトンとした後、舞美が何故か真っ赤になってることに気づいてドキッとする。
いやいや、何ちょっと変なムード期待してんだ、あたし。
そんなことを思いながらも、舞美の動作を息を呑んで見つめてしまう。
66 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 02:34
「これ、食べて。」
「あ、え?」

何故かお弁当だと思っていた紙袋の中身は調理パンだった。

「お弁当は?」
「あるにはあるんだけどっ!」

舞美は落ち着きがない。

「だったら、食べさせてよ。」

えりかの面白いことセンサーが発動した。
絶対、そのお弁当に面白いことが隠されてるに違いない。
半ば、奪い取るようにして紙袋からお弁当を取り出す。

「あっ!ちょっと待って!」

舞美がとめようとすればするほど、えりかの動きはすばやくなり、

「あーあ・・・。」

舞美が呟くのと同時にお弁当の中身が明らかになり、えりかはぷっ!と噴出す。

「えー?っていうか、これはないでしょお?」
「だってぇ、料理得意じゃないんだもん・・・。」

だからって。気味の飛び出した目玉焼きが二枚、茹でられた枝豆、それと白いご飯が無造作につめられている
お弁当は、なかなかに圧巻だった。
えりかは、ひとしきり観察した後、からかおうとして舞美を見るも、言葉を飲み込む。
かわいそうなぐらい真っ赤だ・・・。

「真っ赤じゃないですか・・・。」

ぽつりと呟いて、おとなしくお箸を取り出して手を合わせた。
67 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 02:35
「頂きます。」
「え?たべんの?」
「食べるよ。」

枝豆をパクリ。

「いけるよ!枝豆っ!」
「枝豆なんて誰でも作れるじゃん・・・。」
「でも、あたしが好きだから入れてくれたんでしょ?」

えりかが笑うと、舞美はコクリとうなずく。

「一年分には程遠いけどねぇ。」

何故か、からかいたくさせる。
舞美のそばにいると、かわいげがなくなる自分を感じる。
でも、何故かそれを嫌だとは思わなかった。

「味しないよ、これ。」
「え、まずい?」

伺うような視線にずっと見つめられてる。
けど、悪い気はしない。
どころか、なんだか得意げな気分になってくる。

「まずくないよ。」
「よかったぁ。」

そんな風に言うたびにほっと肩の力を抜く舞美はなんとなくかわいかったし。
誰かの手作り弁当なんて、実ははじめてだったりする。
えりかは、料理が好きで得意なことを知ってる母は、「自分のお弁当ぐらい自分で作りなさい」そう言うのが
口癖で。
自分で毎朝お弁当を作るのも味気ないので、昼食はいつも購買部のパンだった。
68 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 02:35
「ごちそーさまでした。」

少しメニューに驚きはあったものの、そんなこんなでえりかは満足していた。

「おいしかったよ、矢島さん。」
「ほんとにぃ?」

えりかが笑いながらうなずくと、舞美は「ありがと」とはにかんで笑う。
不思議とえりかの胸の中が満たされる。

「あ、矢島さんじゃおかしいから、舞美って呼んでください。」

舞美は、お弁当箱を片付けながら言う。

「舞美?」
「うん。」

呼び捨てにすると、ニコッと笑顔になった彼女に何故かドキドキする。

「あたしは、なんて呼べばいい?」
「なんでもいいよ。」

目を伏せる。
顔、赤くなってないかなぁ?
あの弁当、変なものが入ってたんじゃあるまいな・・・。
えりかは心臓の鼓動を抑えようと必死になる。

「えりか、えり・・・。うん、えりにしようっ!」

なのに、舞美が自分を呼び捨てにする度にドキンッ!と心臓ははねた。
その、笑顔にも。
えへへ、と舞美ははにかんで笑う。

えりかは戸惑っていた。
何、あたしうっかり惚れそうになってんの・・・。
これ、恋人ごっこなんだよっ!?

「あぁ!!!!!!!!!!!」

落ち着けぇ、と自分に言い聞かせていたえりかは舞美の大きな声で更に心臓を跳ね上げられた。
あるいは、止まるかとさえ思った・・・。
顔が真っ赤になるのがわかる。
思わず、胸を押さえた。

「あの、矢島さん・・・大きな声出さないでもらえますか?」

なるべく冷静にそう言う。

「だって、あたし梅田さんがお弁当食べてるとこ見てるだけでご飯食べてなかったぁあ。」
「は?」

舞美は調理パンの袋を無造作にはぎ、はぐっとかぶりつく。

「おお、なかなか豪快ですね、矢島さん。」

その瞬間、バッと顔を上げられてまた心臓がはねる。

「舞美でしょ?えり。」
「ああ・・・そうでした・・・。」

えり、と呼ばれてキュンとなる。
いや、さっき自分も梅田さんとか言ってなかったかぁ?
あたし自分が矢島さんって言った後に気づいてたけど、矢島さんもそう言うからまあ、いいのかな?って思ってたのに・・・。
えりかは不服に思いながらも、バクバクとパンを消化していく舞美を見る。
自然に笑みがこぼれた。

「ちょっと、詰まらせないでよ?」

二人は、錯覚じゃなく、昔から仲のいい友達のようだった。
69 名前:セツナ 投稿日:2007/12/09(日) 02:37
今回は、ここまで。

レスありがとうございます。
>>51さん
雰囲気とか、文章とか褒められると、
舞い上がっちゃいますね。
70 名前:セツナ 投稿日:2007/12/09(日) 03:39
眠るタイミングを失ってしまったので、最後まで更新してしまおうと思います。
71 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 03:40
二人は、それから一週間と数日、恋人ごっこを続けている。
名前を呼び捨てあうのにも慣れたし、お弁当はお互いが作りあいをしてきたりする。
舞美がやっぱ体に悪いから、と調理パンを持ってくる日はえりかの寂しい日。
でも、舞美が自分が作った弁当をおいしいと褒めちぎりながら食べてくれるだけで、寂しい日ではなくうれしい日になった。
学校内でも、「矢島舞美に彼女ができたって話は嘘じゃなかったっ!」みんながそう思い始めて。
二人で下校するのも、もう当たり前のようになった木曜日の午後、事件は起こった。

「明日はあたしえびちりが食べたいなぁ。」
「えー?どうやって作るかわかんないよ。」

腕を組んで仲良く歩く二人。
えりかは、毎日と言っていいほど、そんなことを言って舞美を困らせていた。
一度、目玉焼きが玉子焼きに変わった意外は、あのお弁当に変化はなかった。
それでも、えりかは満足だったし、舞美がえりかのお手製弁当からおかずを分けてくれるだけで、
自分で作る弁当も、味気なくはなくなった。
それどころか、幸せに満ちている。
自分が舞美に引かれて行くのを、もう止める気なんてさらさらなかった。

『梅田さん、最近綺麗になったよね。』
そこかしこでそんな噂話をされていることに、本人は気づいてないのだけど。

「舞美のセンスなら大丈夫だよ。」
「ちょっとそれどういう意味よぉ?」

つっかかってくる舞美を見ながら笑顔になっていたえりかの顔が、舞美の肩越しに何かを見て固まる。
靴を履いていた舞美は、「えり?」と呼んでから靴箱の陰から顔をのぞかせ、その事実に気づいたようだ。

「どうしたの?」
「あー、来ちゃったよ。」

瞬間、舞美も何かを感じ取ったのかビクッとしてえりかの傍に寄ると、その腕を掴んだ。
72 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 03:40
「舞美先輩。」
「あ、愛理、久しぶり。」

玄関から入ってきたのは、鈴木愛理だった。

「お話があるんで、きてもらえますか?」
「ああ・・・え、ちょっとそれは、どうかな。えりと帰るし。」
「二人の秘密、バラしちゃいますよ?」

愛理は声を落として、そう言った。
一瞬、なんのことだかわからなかったえりか。
舞美がぎゅっと腕を掴んで、えりかの顔を見る。
不安げな顔。
ああ、そう言えば自分達は『恋人ごっこ』をやっているんだったっけ。

「秘密って?」

舞美は俯いて、言った。
そんなのは、ないことになっている。

「バラしたら、嘘ついてたってことになっちゃうんですよねぇ。これってもう、あたし達三人だけの問題じゃ
ないと思うんです。」

愛理が冷静にそう言って、えりかは何故かカチンとくる。
舞美の株、落としたくない。
嘘つき呼ばわり、されて欲しくない。

「いいよ。」

えりかが変わりに答えた。

「あたしも行くけど、い?」

それでも、えりかには、どうしても愛理が怖い子だとは思えなかった。
いつも、何かきっかけがあれば壊れてしまいそうな子に見える。
まあ、ストーカーされたりした舞美の気持ちは自分には知る由もないのだけれど。
73 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 03:41
愛理は、えりかの言葉にコクリとうなずく。
それから歩いていく。

「えり?」
「バラされたら、大変でしょ?」

なんでもない顔した。
胸が痛かった。
ほんとうに、すっかりと忘れていた。
自分たちは、『恋人ごっこ。』をしていること。
いつの間にかほんとに仲良くなって、その仲のいい友達に密かに思いを寄せてる感覚でいた。
愛理の存在が、前を歩く華奢な体が、自分の腕をギュッと掴む舞美の手が。
現実と言うナイフでえりかの胸をえぐる。

だったらさ、あたし、それでいいから。
舞美をこの子の呪縛から、解いてあげられれば、それでいいから。

その考えに達した瞬間、随分とえりかの気持ちは落ち着いていた。

愛理は、練武館の前で足を止めた。

「あたし、剣道部なんです。今日はお休みで誰もいないから。」
「あ、そう。」

にっこりと笑ってそう言われて、えりかはまた不思議な気分になる。
自分の腕を掴んでいる舞美の手はもう緩んでいた。
ほんとはさぁ、そんなに怖くないでしょ?この子。
そう思いながら舞美を見ると、舞美は困ったような呆れたような顔でえりかを見返した。

中に入ると、換気されていた館内は随分と気持ちがいい。

「話って何かな?」

もう、どっちを助けたいのかわからなくなった。
そもそも、助ける、とかいう考え事態が間違っているのかもしれない。
えりかは、複雑な気分になる。
74 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 03:41
「あたし、知ってるんです。二人が本当の恋人同士じゃないこと。」
「そんなことないよ。」

舞美はぽそりとそう言った。

「だって、おかしくありませんか?あたしを振った直後に彼女が出現するなんて。あたしだけは、気づきますよ。
確かに、あたししつこかったかもしれません。でも・・・、舞美先輩を好きな気持ちは梅田先輩には負けないと
思います。」

強い目でそう言われて、えりかは少しおののく。
アンタはそう思ってても・・・現実はどうであれ・・・。
あたしの気持ちがアンタに負けてるなんて、言わせないよ。

えりかは、何故か泣いてしまいそうになる。
風に乗って舞美のシャンプーの香りが鼻を掠めたからかもしれない。
舞美はもう自分の腕を掴んではいない。

五分五分だね。

わけのわからないことを思って、えりかはクスッと笑う。
助けて欲しいのは、舞美じゃなくて、あたしかも。
だから、あたしは言うよ。
えりかは息を吸い込んで、言葉を発した。

「あんたにどう思われようと、あたし達付き合ってるし。もう舞美に付きまとわないで。」
「じゃあ、キスしてください。」
「は!?」

愛理の言葉に大きな声を上げたのは、舞美の方だった。

「ほんとうの恋人同士だったら、キスするぐらい簡単でしょ?」
「・・・愛理に見せる必要ない。」

えりかがどうしていいかわからずに、たちすくんでいると、舞美がそう言った。

「しないと、あたしにもまだチャンスあるって思っちゃいますよ?いいんですか?」

その視線は何故かえりかに向けられていた。
75 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 03:42
「わかったよ。してやろうじゃん。」

挑発に、乗った。
舞美に向く。舞美は、ビクッとゆれる。
いいよね・・・?
あたしのこと・・・、好きか嫌いかって言うと好きでしょ?
みじめな気持ちになりながらも、舞美に目で訴える。

舞美は、泣きそうな目をしていた。
なんで?ヤなの?
嫌か・・・。

シーン、と静まり返った館内に、

「ごめんね。愛理。あたし、嘘ついてた。」

舞美の呟きが毀れる。

あーあ、愛理、大正解だよ。
ライバル一人、撃沈だね。
えりかは、涙目になる。

胸が引き裂かれる。

ねぇ、舞美・・・?

「枝豆、一年分はもういいから。」

えりかは、震える声でそう言うと、ゆっくりと舞美の両頬に手を当てた。
舞美はうるんだ目でえりかを見つめる。
何をしているんだろう?そんな思いが脳裏を掠めたが、衝動が抑えきれない。
その唇が何か言おうとする前に、えりかは顔を寄せた。

不思議と、拒まれなかった。

やわらかく、重なる・・・。

心臓が、張り裂けそうだった。
好きだよ、舞美・・・。
涙があふれそうだった。
想像以上に、気持ちよくて、
想像以上に、辛い・・・。

唇が離れる瞬間・・・。

「ごめんね。バイバイ。」
76 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 03:42
もう、涙を我慢できなかった。
これで何もかも終わりだ。
舞美は放心状態で、真っ赤になってた。
ファーストキス、奪っちゃったかな。
ラッキー。
最高なのに、胸が痛いや。
涙で前がかすむわ。

「うわぁーん・・・。」

後ろでなきわめく声が、愛理のものだとわかった。
つられるようにして、涙が出てきた。
嘘だって、もういっちっゃたんだっけ?
もうストーカーされても守ってあげられないけど・・・。
って、これじゃあたしがストーカーじゃん。

「あははっ!」

笑い声は、そのまま嗚咽に変わる。

「えり!」

立ち止まってると、腕を掴まれた。
誰かなんて、迷うこともなかった。

「もうバイバイって言ったじゃん。おこんないでよ。枝豆、我慢するんだからさ。」

目を手のひらで覆ったまま、舞美を向かないまま、言う。
舞美がその手をはがすのがわかる。
駄目だ・・・。顔なんか見れない。
目をぎゅっとつぶると、ほっぺたをしずくが伝った。

次の瞬間・・・。
唇に降った温もり・・・。
77 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 03:42
やわらかい・・・。
気持ちいい・・・。
これは、さっき知ったもの・・・。

舞美の、唇・・・。

ゆっくりと、感触が薄くなって、離れる。

何が起こったのかわからないえりかは、目をゆっくりとあける。
真っ赤になって、自分を見てる舞美がいた。
いつかみたいに、手が掴まれていて。

「えりのこと、好きなの。」

頼りない声にそういわれた。

「だから、バイバイなんていわないでよ。」

ぎゅっと抱きしめられる。
フワッと舞美の髪の毛の匂いがして、えりかは我に返る。

「え、ほんとに?」

涙は止まっていて。
自分の声は想像以上に鼻声で。
舞美はえりかの胸で頷いた。

「だって、さっきキス嫌がったじゃん。」
「違うの。えりがあたしを別にすきじゃないなら、して欲しくなくて・・・、でも、好きだよね?」
「・・・当たり前じゃん。」

えりかは、ギュッと舞美をだきすくめる。
傍を愛理が通る。
えりかと目が合う。
愛理はあっかんべー、をして行った。
78 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 03:43
思わず、笑う。
かわいげのないキューピットだな。
でも、絶対アンタに舞美はあげない。

えりかはもっとぎゅっと舞美を抱きしめた。

二人は愛理から見ても、本当の恋人同士だった。


79 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 03:44

「えびちり、作ったよ!」

舞美は何故か得意げな顔でそう言った。
えりかは、お弁当の中に入ってるオレンジ色の物体を見て、食欲をなくす。

「なんでそんな得意げなわけ?」
「だってぇ、今までは嫌われるのが怖くてがんばれなかったけど、今はえりも好きでいてくれてるってわかったから。」

ああ、かわいいな・・・。
えりかは、腰がくだけそうになって、胸がいっぱいになる。

「舞美がかわいいだけでもうおなかいっぱいだから。」
「何よ、それぇ。食べたくないからでしょ?」

まんざらでもない顔して、舞美が笑うからだよ。
えりかはそう思いつつ、「頂きます。」とえびちりを口に放り込む。

「あ、意外とイケル。」
「でっしょお?ちゃんと味見したんだから。」
「意外と、には突っ込まないんだ?」
「ん?」

気づいてなかったみたいです・・・。

弁当を平らげた後、えりかはちょっとした作戦を実行する。
80 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 03:44
「あ、おなか痛い・・・。」

お腹を押さえて、うずくまる。

「え・・・。嘘ぉ!?」

舞美きがすぐそばまで寄ってくる。
背中に手を当てた舞美に、スクッと顔を上げてちゅっとキスしてやる。

「びっくりしたぁ。」

耳まで、真っ赤になっちゃって。
見詰め合うと、口元に笑みを浮かべたままもう一度目をつぶって、「ん。」なんて言ったりする。
えりかは、たまらなくなって深いキスがしたくなる。

腰がくだけそうなキスをした後、二人とも真っ赤になって。
舞美は、ふふっ、と笑う。

「えびちり食べた気分だ。」
「ぅおっ!何それ。よくそういうこと言うよ。」

えりかは、大げさに顔を覆った。
舞美になおもほっぺたにキスされて、ぎゅって抱きしめた後、
ここが屋上だと言うことに気づいた。

ふと立ち寄ったらしい下級生が、顔を真っ赤にして口をポカーンと開けて、二人を見ていた。
81 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 03:44
「ぼっ!」

またえりがが大げさに驚くと、

「すいませんでしたっ!」

女の子は、お弁当の袋らしきものを抱えて逃げていったしまった。
二人はギクリとしながらも微笑みあう。

「いいんですかぁ?生徒会長さん。」

えりかが舞美を抱っこして、ユラユラゆれると舞美は楽しそうに笑う。

「いいの。もうニセモノじゃないんだから。」
「あ、一本とられた。」
「なにそれぇ。」
「ん?好きだよ、舞美。」
「あっ、はじめて言ってくれたっ!」

えりかを向こうとする舞美をえりかはぎゅっと抱きとめる。
真っ赤になって顔は、まだ見せてあげない。
もう手遅れなのに、舞美がそう思って微笑んでるのも知らないで。


82 名前:_ 投稿日:2007/12/09(日) 03:46

ほんものに変わるまで −Fin−
 
83 名前:セツナ 投稿日:2007/12/09(日) 03:46
思った以上に長かったですね。
84 名前:セツナ 投稿日:2007/12/09(日) 03:47
ラスト隠しに。
次回は愛理ちゃん救済企画w
85 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/09(日) 17:49
ホントに大好きです、ここの小説。
86 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/10(月) 01:36
うん!カワイイし登場人物みんな好感持てる

是非救済してあげて。.゜.(ノ∀`).゜.。
87 名前:セツナ 投稿日:2007/12/10(月) 02:43

 ジャンプ
 
88 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 02:44
「ただいま。」

居間にいた千聖は、その声が愛理のものだとわかる。
その声がかなり鼻声だったことも。

予想したとおり、愛理はドタドタとまっしぐらに階段を昇っていってしまったようだった。

「なんかあったかなぁ・・・。」

千聖は隣の幼馴染から借りて呼んでいたジャンプをテーブルに置いた。
愛理の好きな、アイス、学校の帰りに買ってきたのになぁ。
千聖は、ソファーにゴロンとなって、腕に頭を乗せ天井を見上げる。

胸がモヤモヤする。

愛理と千聖の親は共働きをしている。
愛理と千聖は血の繋がった姉妹ではない。
愛理は、父親の連れ子で、千聖は母親の連れ子。
今の両親が結婚した三年前に二人は姉妹になった。

「どうした!?千聖!こんなのお前らしくないっ!」

千聖は、一人で大声を出し、腹筋を使って立ち上がる。
ソファーの上で、拳を天に突き上げると、ソファーでぴょんぴょんと跳ね、「とぅ!」
とヒーローよろしく飛び降りた。
89 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 02:44
冷蔵庫から、アイスを取り出す。

居間の扉から、顔を出す。

「愛理ぃー、愛理の好きなアイスあるよぉ?」

二つ並んだカップアイスをテーブルにおいて、腕を組んで待つ。
愛理と自分は正反対の人間だと思う。
千聖は、年相応にすくすくと育った。
しかし、愛理はとても同い年とは言えないぐらい、頭もいいし大人びていて身長も高い。
自分が解決できない悩みを、愛理は抱えている。
そのくらい、まだまだ自分が子供だと自覚している千聖にもわかる。

自分が助けられることがあるとすれば、バカなことを言って笑わせてあげることぐらいだろう。
愛理がはじめて、泣いて帰ってきた日、千聖はびっくりした。
あの愛理が泣いている。
理由を聞いても、部屋に閉じこもって教えてはくれなかった。

悔しくなった。
その日から愛理のことが気になって、気になって。
ある日、千聖は愛理がとてもかわいいってことに気づいた。
向かい合って、朝食を食べていた朝、急に思った。
見つめていた千聖に愛理が気づいて、フワッと笑った後、元気印の千聖が朝食をほとんど食べられなかったほど。
90 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 02:45
自分は、愛理が・・・。
千聖は、それ以上を形にしたくなかった。
できなかったのかもしれない。
千聖は、等身大の千聖で。
まだ幼い。

「アイス溶けちゃうよ・・・。」

そう独り言をこぼした直後、カチャ!っとドアが開いた。

「こんなところに置いてるからでしょお?」

愛理は笑う。千聖の好きなフワッとした笑顔。
それでも、何故か胸が痛い。
わかってる。愛理の目が、真っ赤だからだ。

「これで冷やしな。」
「え?」

千聖は思わず自分のアイスを差し出していた。

「いいよ。千聖食べなよ。」

愛理は笑ってそう言うと、「いただきまぁーす。」とスプーンを持ちアイスの蓋を開ける。
千聖も習うようにアイスを食べ始める。
91 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 02:45
「なんで見るの?」

愛理はおかしそうに千聖に向いた。

「ああ・・・、んっとねぇ、なんで泣いたのかな?って。」

知りたかった。知りたかった。
今日こそ聞かなければ、と思った。
でも、直後に失敗した、と思う。
愛理は表情を失くし、スプーンをカップの中に置いてしまう。

「千聖は、知らなくていいことだよ。」
「そんなことないもんっ!」

なんだか子供扱いされたみたいで腹が立った。

「言っても、千聖にはわかんないよ。」

愛理はフワッと笑う。
それは時々、千聖を怖くさせる。
届かないの?
同じ年なのに、あたしを愛理ちゃんのテリトリーには入れてくれないんだ?
愛理がまたアイスを食べようと下を向いた瞬間、千聖は奮い立った。

「わかるよっ!もう子供じゃないもんっ!同じ年だもんっ!愛理が悩んでたら、助けたいよっ!
・・・姉妹だもん・・・。」
92 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 02:46
勢い勇んでつい余計なことまで言ってしまった気がして、顔を赤くして最後の言葉をつけくわえた。

「愛理ね、振られたの。」
「え?」

心臓が、ジンジンとしはじめるのを感じる。

「今日、決定的に振られちゃったの。」
「・・・。」

ニコッと笑顔を向けられて、千聖はどうしたらいいのかわからなくなる。
やっぱり愛理は、自分より大人だ・・・。

「でもね、不思議とすっきりしたんだ。」
「なんで?」

振られる気持ちは感じたことがない。
それでも、誰かに恋をしてそれに敗れるってのは、相当辛いものなんじゃないだろうか・・・。

「だって、あの二人、絵になるんだもん。」
「え?」

愛理の言っている意味がわからない。
それでも、俯いたまま笑みを浮かべた愛理につられて千聖も笑顔になる。

「愛理ちゃん、笑ってる方がかわいいよ。」
「わっ!なにそれ。」

愛理が余計、笑う。
千聖は嬉しくなって、自分の持ちギャグを次々と疲労してみた。
愛理は、それを楽しそうに見てくれた。
千聖は、嬉しくなった。

天井突き破りそうなほど、幸せになった。
93 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 02:46
「千聖のアイス、溶けてるよ?」

ネタを出し尽くしてしまい、ふぅ、と息を吐くと、愛理がクスクス笑いながら
そう言った。

「あ・・・。」

愛理がまだおかしそうにクスクス笑う。

「いーんだもん。こうするとジュースみたいで千聖好きだもん。」

そう言って、グッととろとろした液体を飲み干す。

「ぷはぁっ!」
「もう、千聖かわいい。」

胸の中があったかくなる。
千聖は最高の笑顔になる。

「あたしには、千聖がいてくれるもんねぇ。」

それは、どこか遠いものを思って発せられた言葉に感じた。
94 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 02:47
「そうだよ。だから、もう泣いちゃ駄目だよ。約束。」
「えー?うん。」

小指を繋いで指きりげんまんなんて、なんて子供っぽいだろう。
それでも、愛理が嬉しそうな顔で繋いだ小指を揺らすのを見てると幸せになれる。
もう、ないちゃ駄目だよ?
あたしと約束したんだから。
この指が離れたって、同じ家にいるんだから。

泣いたら、わかっちゃうんだから。

「ごちそうさまぁ〜。」

愛理が部屋を出るころには、もうすっかり普通の愛理に戻っていて。
フワフワしたテンションでそんな風に言うと、ヒラヒラと手を振りながら居間を出て行く。

「なにそれっ。」

千聖は笑ってそれを見送ってジャンプをまた手にとった。
何故だかニコニコが離れない。
漫画はさっきよりもすっごく面白く感じた。
95 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 02:48

 ジャンプ −Fin−
 
96 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 02:53
レスありがとうございます。

>>85さん
ありがとうございます。
これからもそう言ってもらえるようにがんばります。

>>86さん
救済企画始動。
次回、まだ少し続きます。
97 名前:セツナ 投稿日:2007/12/10(月) 02:54
名前欄変え忘れたw
98 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 22:53

 MVP
99 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 22:54
千聖が、優しくなった。
前はのんびり屋のあたしを置いて一人でさっさと登校していたのに。

「愛理、はやく行こうよ〜。」

足踏みして、今にも走り出したそうにそう言う。
先に行っていいのに、って言葉は言わない。
千聖がコロコロ笑って、あたしに話しかけてくれると、なんか癒されるって言うか。

あたしと千聖は本当の姉妹ではないから、
育った環境も価値観も違って、最初はなかなか仲良くなれないでいた。
『愛理ちゃんってなんか絡みづらいよね。』千聖に面と向かってそういわれたとき、思わず笑った。
なんていうか、なんて邪気のない子だろうって。

思い出してクスッと笑うと、千聖は不思議な顔をしてあたしを見て、だからあたしは手を差し出した。

「え?」
「手繋ごうよ。」
「マジで?中学一年生だよ?」
「うん。」

あたしは、半ば強引めに千聖の手を取る。
千聖はちょっと赤くなっておとなしくなって、あたしは笑う。
なんか妹っていうか、弟みたい?
千聖にはよく同い年なんだからっ!と拗ねられることがあるけど、そう思ってしまうんだから仕方がない。
100 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 22:54
千聖に悩みを打ち明けた日から、千聖はすんごく優しくなって。
違う、ほんとはずっと優しくて、あたしが気づいてなかっただけで。
そして、あたしはその優しさに甘えるようになっていた。

あたし、ほんとはさ、クラスでちょっとしたハブになってるっていうか・・・。

誰にも言いたくないから言ってない。
好きで、自分から一人でいる振り、してる。
クラス以外の場所では、部活に仲のいい友達もいるし、平気なんだけどね。

だから・・・執着しちゃったんだ。
舞美ちゃんは、すごく優しかったから。
学校中の人気者で、あたしにすごく優しくて・・・。
いつの間にか、彼女が唯一な気持ちになっちゃってた。
剣道部は休んで、彼女と、一緒に下校したかった。
方向だって別々で、そんなこと、冷静に考えるとなんかちょっとおかしいんだけど・・・。
とめられなくて・・・。

「はぁあ・・・。」

思い出すつもりなんてなかったのに。
やっぱり、ふっきれてない。
101 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 22:55
「愛理、ため息つくと幸せ逃げるよ?」
「あ、だね。」

ぎゅっと手を握って言われた言葉に思わず笑った。
そう、何もあたし無理して大人ぶりたいわけじゃないの。
みんなには大人っぽいって言われて、千聖にも言われて。
でも、子供らしいところだってちゃんとあるし。
一人じゃ、心細いときだってある・・・。

仲のいい友達がいた。

千聖の手のぬくもりはその子の手に似てるかもしれない。
でもきっと、この手はあたしを離さない手。
そう思うと、心が少しだけ軽くなった。
102 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 22:55


「愛理ちゃんっ!愛理ちゃん!」

下校時刻、栞菜がドアの向こうからそう呼んだ。
あたしは、笑顔になって駆け出す。
転校生のこの子は、あたしのクラスの実情を何も知らないと思う。
『みんな、子供なんだよ。』
あたしはそうクラスの子達のことを一蹴し、一人でいる方が楽なの。
と笑った。
『あ、栞菜もそういうときある。』
彼女はそう言って、それから楽しい話をたくさんしてくれた。
剣道部を休むの、当たり前になったときにも、一人だけ心配して声をかけてくれた。

こっちが何をしてあげるかじゃない、優しさが、後でうれしかった。

「明日、体育祭じゃん?」
「あー、もうヤなこと思い出させないで・・・。」
「え、っていうか忘れてた・・・?とか・・・?」
「忘れるように勤めてるの。」
「へぇ〜。」

栞菜が妙に関心するから笑った。
だって、あたし運動は得意な方じゃない。
でも、中学一年生になって何故か体育の成績はあがってきてるんだけどね。
走ること、好きじゃないから得意じゃない。
ほら、昔から言うじゃない?
好きこそ物の上手なれ、って。

「はぁ、憂鬱。」

そんな風に言いながら練武館に足を踏み入れようとした瞬間、

「あー千聖ちゃんだ。」
「ん?」

栞菜の言葉にグラウンドを見ると、ほんとだ。
千聖が先生の指示でグラウンドに石灰でラインひいてる。
そうか。確か体育委員なんだっけ?
雑用ばっかで嫌だ、ってぼやいてたのを思い出した。

「なんであんなに楽しそうなの?」
「運動大好きだから。」

栞菜の問いかけに笑って答えた。

走るの苦手なあたしでも、剣道は得意だ。
小さな頃からやっているし、何より、無心になれるところがいい。
心が、強くなる。

そんなわけで、今日も腹筋と背筋と素振りを30回ずつ3セットこなす。
気合です。

胴着がどうにもこうにも臭いこと意外は、大好きなスポーツなのでした。
103 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 22:56
「帰んないの?」

練武館の傍に腰を下ろして、グラウンドを見てたら、着替え終えた栞菜に尋ねられる。

「あ、千聖と帰るから。遅くなりそうだし。」
「そっかぁ。仲いいね、二人。」
「んー?」

あたしが首をひねると、栞菜はバイバイ、と笑ってあたしに手を振って自転車置き場の方に走って行った。
もう赤くなった辺り。
千聖は、なにやら予行演習のようなものをやらされているっぽい。
綱引きの縄を何人かかがりで倉庫から引っ張り出して、定位置に置く訓練?

あんなことばっかりしてると、明日体力ないんじゃないのぉー?
そう思いながら笑ってると、『よし、そろそろ終わるかっ!』って先生の声が聞こえた。

「千聖ー!」

ヘト、って感じで肩を落とした千聖に声をかける。
毎日こなす腹筋のおかげかあたしの声は静かなグラウンドによく響いた。

うわ・・・。
なんでそんなかわいい笑顔浮かべるかなぁ?

「待っててくれたの?」

千聖は従順な犬みたいにあたしのところにまっすぐに駆けてきてそう笑った。

「うん。」

変だな、千聖の前だと、あたし素直でどうしようもなくなるよ、最近。

「ほら、マメできちゃった。」

だいぶ暗くなりかけた道を歩く。
幸か不幸か私たちの家は学校から徒歩15分程度のところにあって、だから自転車通学ができない。
だけど、千聖と一緒に歩く道はそれはそれで楽しい。
飼い犬のお散歩してる気分?

千聖にバレたらきっと怒られちゃうだろうけど。
104 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 22:56

「あー、明日楽しみっ!」
「マジで?」
「徒競走絶対一位になるから、見ててよ。」

千聖はグッと腕に力を入れて胸を張った。

「うん。」

あたしも、ちょっとがんばっちゃおうかな?ってチラッと思った。
105 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 22:56


「もうっ!お母さんっ!」

千聖の大きな声で、目が覚めた。
あのハイテンションの原因は・・・間違いなく体育祭だね・・・。
こんな早起きしてる千聖、はじめてかもしれないよ。

あたしはそんなことを寝ぼけた頭で思いつつ、まだなり始めてもいない目覚ましを止めた。

「おはよう。」

キッチンに下りて行くと、千聖がお母さんの傍をうろうろしている。
どうやら、お弁当の中身が気に食わないらしい。
しょうがないじゃん。お母さんは野菜入れたがるもんなんだよ?

あたしは笑いながら朝食を食べる。

「んもう。」

千聖はとうとう観念したようにあたしの隣に座った。

「早起きじゃん。」
「まぁっねぇ〜ん。」

あらあら、ご機嫌ですこと。

「あ、今日また準備あるから先に出ちゃうね。」
「あ、そうなの?わかった。」

なんとなく、気分が沈んだ。
だから、そんなにもう準備ばっちりなんだ?
ご飯食べる段階ではいつも、寝癖ばちばちなのに。

「行ってきまぁーすっ!」

千聖が超特急でご飯を食べて、そう挨拶をする頃にあたしはやっと朝食を食べ終え、
洗面所に向かった。
106 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 22:57
 
107 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 22:57
あーあーあー、ヤだな。
あたしは、運動場に整列している。
もうすぐ、徒競走がはじまる。

目立つのは嫌いじゃないけど、やっぱり走るのは苦手。
緊張するぅ・・・。
一人一人と順番がきて、そしてスタート位置に千聖が並ぶのが見える。

「がんばれっ!」

あたしは拳を天に突き上げる。
千聖はチラッと振り返って笑いながらあたしに手を振った。
わぁ、緊張してるじゃん。大丈夫かな・・・。
あたしは、両手を組んで千聖を応援した。

千聖は、予告どおり、一位をとった。

「わぁ!すごいっ!千聖すごいっ!」

一人でテンションあがっちゃって、騒いでたら「仲良しだねぇ。」斜め後ろの席から、栞菜の声が聞こえて、少しだけ恥ずかしくなった。
だって、なんかすごかったんだよっ!
いつも絶対犬みたいなのに。
今日はかっこよかったんだよ?

あたしは微笑む。
気がつくとスタート位置に並んでいた。

緊張、戻ってきた・・・。
どうしよう・・・。
あー!

「よーい!」

パンッ!

駆け出す。
やっぱり、ずっと走りやすい。
あたしの足ははやくなってる。
少し得意な気分になって、ターンを曲がりきろうかと言うとき、あの人の顔が視界に飛び込んできた。
108 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 22:57
「愛理!がんばれっ!」

ほら、声も。
そういうところが、嫌なの。
そういうところが、嫌で嫌で・・・大好きだったの・・・。

視界が滲んで、胸が痛んで、何あたしのこと応援してるんですか?
彼女がやきもち焼くよ?
焼かないか・・・。

ドンッ!

肩に衝撃。
あたしは気がついたら、土の擦れる音と一緒に地面に叩きつけられていた。

「痛い・・・。」

もう、半べそ状態。
こんなみじめな気分、あの日以来だよ・・・。

「愛理!」

舞美ちゃんの声が聞こえた・・・。
はやく、立ち上がらなきゃ!
駄目、痛い・・・。捻挫したかもぉ・・・。

「鈴木っ!」

先生の声がして、あたしは目の前の光景に愕然とする。
109 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 22:59
「愛理、乗って。」
「え?」
「はやくっ!」

千聖が背中を差し出してた。
あたしは、千聖の声に背中を押されてゆっくりと千聖の肩に腕をかける。
千聖はあたしの腿をグッと力を入れて抱えて、あたしを背中に乗せて走りはじめる。

「うぅ・・・。」

短い髪の毛がほっぺたに当たって、そのおんぶして全力疾走が余りにもはやくて、あたしは、風の心地よさに涙が出てきた。

「泣かないの。」
「・・・はい。」

なんだ、犬じゃないじゃん。
千聖め・・・。
犬でいればかわいいのに。かわいいのに。

あたしは、どこに行くのかもわからないその背中にぎゅっと抱きついて目をつぶった。
傍をガヤガヤが通り過ぎる。
通り過ぎる。

「到着。」

ストンッ!とお尻から下ろされた。
そこは、グラウンドの隅の仮説保健室?

保健の先生がいて、「あら、捻挫かなぁ?」ってあたしの足を見て言った。

「痛いです。痛いです。」

足首をひねられて、思わず先生の手を止める。

「湿布はっとくから、今日は一日おとなしくしてなさい。」
「・・・はい。」

処置をしてもらってる間、千聖はただ隣に立っていた。
しゃべらないのが気になっていたけど、話しかけられない。
110 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 22:59
恥ずかしかった。なんだか、とても。

「かっこよかったよ、千聖。」
「えーえへへへへ。」

先生に声をかけられると、デレデレと笑う。
なんだ、いつもの千聖じゃん。
そのやりとりに思う。
って当たり前じゃん。

千聖は、千聖じゃん。
普通、そう。

「あの人・・・、あの三年の人のせい?」

保健の先生がほかの先生に呼ばれると、千聖が隣でそう言った。

「えー、何いってんのぉ?」
「ハチマキ、青だったよね。リレーで4組に勝つから。」

四組・・・。舞美ちゃんのクラス・・・。

「千聖、ありがと。」

でもね?
舞美ちゃんすっごく足がはやいんだよ。
体育の授業見てて、知ってる。

「勝って。」
「うん。」

犬みたいな、かわいい笑顔。
111 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 23:00
 
112 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 23:00


「勝てるわけないんだよ。」
「・・・なんで負けたの・・・。」
「だから勝てないんだって。」

だって、あたしが好きになった人だよ?
ひどい振り方したのに、あたしが普通に挨拶するようになったら、さっきみたいに心配してくれちゃったりもする。
そういう人なんだよ・・・。
ってリレーに関係ないけど・・・。

「来年、リベンジっ!」
「や、卒業しちゃってるじゃん。」
「あっ、そっかっ!えぇえええええ?勝ち逃げじゃんっ!」
「・・・そうだね。」

グラウンドにはもうほとんど人が残ってなくって。
お母さんに心配されちゃったけど、あたしは千聖の後片付けが終わるのを見ていた。
あたしの隣に千聖はちょこん、と座って。
帰りたくなさそうだったから、少しだけ付き合ってる。

「勝ち逃げかぁ・・・。」
「ごめんね。勝つって言ったのに。」

千聖の言葉に笑った。

「帰ろっか?」
「そだね。」
「元気だしてよ。」

いつもみたいな笑顔見せて?
あたしは、手を差し出す。
片手には松葉杖。
片手には、しょんぼりしてる千聖の手。
113 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 23:01
「でも、かっこよかったよ。」
「なぐさめはやめてよ。」
「ほんとだよ。」
「嘘ばっかり。」

幸か不幸か、家までの距離は徒歩15分で。
あたしは千聖の手を少しだけたくましく思いながら歩く。

「勝ち逃げじゃないかもよ。」
「へ?」

千聖はキョトンとして、あたしは笑った。
あたしを背中に乗せて走ってくれたのは、千聖だけだったから。

「MVPだよ。」
「もうわけわかんないよぉ。」

あたしのみの審査だけどさ、許してよ。

「安心した。」
「ん?」
「かっこよかった。」

あたしが目を見て言うと、千聖は夕焼けのせいじゃなく赤くなって。
少しうつむいて笑う。

「来年は一緒のチームになりたいよ。」
「え、じゃあクラスも一緒ってことじゃん。」

千聖がキョトンと私を見る。

「うん。」
「そっか。なりたいね。」

いっぱいの笑顔につられて、笑う。

「うん。」

素直に、なるよ、千聖。
114 名前:_ 投稿日:2007/12/10(月) 23:02

 MVP −Fin−
115 名前:セツナ 投稿日:2007/12/10(月) 23:12
このシリーズ終わりです。
116 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/11(火) 00:40
ほのぼのしました
117 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/12/15(土) 02:27
やじうめめちゃくちゃ可愛いです!
118 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/24(木) 12:10
待ってます
119 名前:セツナ 投稿日:2008/02/08(金) 02:32
エロス企画に出そうかどうか迷ったお話です。
120 名前:_ 投稿日:2008/02/08(金) 02:33

 キャンディーガール
 
121 名前:_ 投稿日:2008/02/08(金) 02:33

私の体は甘い甘い味がする。
不思議な不思議な事実。


122 名前:_ 投稿日:2008/02/08(金) 02:34

小さな頃、幼馴染とじゃれていたときに『愛理ちゃん、あまぁ〜い。』とまるでキャンディーのように指を舐められた。
私は幼心にその部分が熱をもつように熱くなって、怖くなったことをよく覚えている。

-はむっ。

と、急に耳たぶにかぶりつかれた。
舌先がイタズラに奔放に耳たぶを伝う…。

「舞美ちゃん…。」
「ん?いーじゃんいーじゃんちょっとぐらい。」

真っ赤になってしまった私の頭をポンッ!と叩いて、今度はほっぺたを舐める。

「愛理、さくらんぼみたいだよ。でも、味はあっまぁ〜い。」

絶対、わかっててイタズラしてるよね?

「あっ、私もぉ〜。」
「ま、舞ちゃん……。」

腕にぱくっ。
と唇が当たる。
舌が乱暴に私の腕を舐めた。

「あ、あ、あのさぁ〜、みんなもうよくない?」
123 名前:_ 投稿日:2008/02/08(金) 02:35


私がハロプロキッズオーディションに合格してから数年。
℃-uteというグループが結成されて少しの頃、偶然移動バスの席が隣になった舞美ちゃんの唇が
腕に触れた。
私はドキッとした。眠っている彼女の頭がガクッと私の上にのっかった瞬間の出来事。
眠っているから大丈夫かな?と、思ったのが大間違い…。
寝ぼけているらしい彼女はこともあろうに私の腕をかじってきた。
小さく、笑いながら。
『いた…舞美ちゃん、ちょっと痛いよっ!!』
危険を感じた私は彼女をたたき起こしてしまい、まだ腕に唇をつけたままだった彼女は、顔をあげてキョトンと私を見た。

『ん?なんでこんな甘いの?愛理の腕。』
『え、なになに?』

後部座席にお菓子を渡そうとしていた栞菜が通路にいた。

『栞菜ぁー、舐めてみなよ。愛理の腕、すごい甘いの。』
『バッ……。駄目。やめてよ、舞美ちゃん。』

なんだか、あんまり舐められると骨が熱くなっちゃう気がして、怖いんだよ。
もっとも、これまでの人生で何回も人に舐められた経験のある私は、『舐められる。』という行為自体には拒絶反応が
出なかった。習慣って、恐ろしいよね。

一気に腕を腕でかばい、バスのギリギリまで退けたけど、栞菜はニヤニヤと笑いながら私の腕に唇を寄せた。

『じゃ、舞美ちゃんも舐めたトコロ♪』
『ちょっと、やだぁー、栞菜ぁー。』

バスの座席に逃げられるスペースなんて限られてる。
すぐに私の腕は栞菜の口付けを受けた。
充分には信じていなかったらしい栞菜が、腕に唇をつけたまま、『ん?』と唸った。
124 名前:_ 投稿日:2008/02/08(金) 02:36

『なにこれ。ほんと甘いんですけど。ちょー美味しい。』
『ちょっ、ちょっ……。』

ぺろぺろぺろぺろ、と遠慮なしに腕を舐められ私は少し怖くなった。
でも、次に襲ってきた感触は、あの頃の焼け付くようなものではないふわふわとまるで自分が綿菓子にでもったような
気分にさせてくれる柔らかい暖かさだった。


125 名前:_ 投稿日:2008/02/08(金) 02:37
「よし、これで今日もお菓子代節約。」

舞ちゃんはそう言うと、「ありがと、愛理。」と私に笑った。
「どういたしましてぇ〜。」と応える。
そ、そんなことより、

「首筋はやめてください。」

私はついに耳とほっぺたを舐めあきた舞美ちゃんが首筋をぺろぺろとやる感触に耐え切れなくなって手のひらで
唇を舌を離した。
が、それは大失敗。
今度は、手のひらをぺろぺろと舐められることになる。

「やぁだぁー。もう、このリーダーやぁだぁー。」
「悪い子だね、愛理。」

ドキリ、とする。
舞美ちゃんの声のトーンが、微かに低くなったのを感じた。
舞美ちゃん、多少暴君な振る舞いはするものの、普段はとっても優しい。
それでもたまに、プチン-ってきちゃう瞬間があるらしくって、私たちメンバーはそれを僅かに恐れている。

「えり、ドア閉めなよ。」
「え?」

楽屋の隅で雑誌を読んでいたえりかちゃんが、顔を上げた。
私の視線に気づいたのか、戸惑うように舞美を見た。

「でも…、」
「いーからっ!!!!!!!」
126 名前:_ 投稿日:2008/02/08(金) 02:37
楽屋中がシン-としていた。
先ほど、マネージャーさんが廊下にみんな出て行っていて楽屋には私たちしかいない。
今の舞美ちゃんの声が、マネージャーさんたちにも聞こえているはずだけどグループ内のもめごとにいちいち首を
突っ込んでくるとは思えなかった。

閉まりきっていなかったドアをえりかちゃんが閉める。
それから、カチャリ-と鍵をかけた。

「何すんの?みぃーたん。」

早貴ちゃんが、少しだけ低い声で聞いた。

「うわっ!え!?」

私は思わず体を自分で抱いた。

「いーじゃん、脱ぎなよ、愛理。」

耳たぶに微かにくちびるを触れさせながら、舞美ちゃんが言う。
舞美ちゃんにぎゅっ、と体を掴まれて、私は立たされる。
力がすんごく強かったし、拒むことも怖い…。

デニムのジャケットをはぎとられて、その下に着ているワンピースはがばっ、とめくりあげられた。
スッ-と体に空気が触れて、下着姿にされたことを知る。
ぎゅっとつぶったまぶたの上をワンピースの生地が擦れていった…。

私はゆっくりと目を開ける。
舞美ちゃんがニヤニヤと私を見ていた。
椅子にガタン-と座った舞美ちゃんの手が背中に伸びる。

胸元が急な開放感に襲われる。
慌ててブラジャーを押さえようとしたけれど、「愛理?」と舞美ちゃんが低い柔らかい声で言うのでかなわなかった。
127 名前:_ 投稿日:2008/02/08(金) 02:38
「なにすんの?」

千聖の声だった。
舞美ちゃんは私のわき腹をゆっくりなでていて、その舞美ちゃんのこと後ろからにらんでいる千聖に気づいてない。
よかった…、と思った。

「何って…舐める。だって、あまぁ〜いじゃん愛理…。」

舞美ちゃんがふっと笑う声がお腹にかかった。
ひっ、と小さな声が出たけど、私は目を瞑っていた。
腕がぎゅっ、と握られていて、抵抗する気力がなかった。

舞美ちゃんの舌がおへその辺りからだんだんのぼってくる。
胸は…いくらなんでも…っ。

恐怖に支配された私の耳に、急に素っ頓狂な音楽が流れてきた。
笑点のテーマだった。

「あっ、ごめんなさい、あたし…。」

栞菜がぼそっ、と言って携帯を手にとるのを見たとき、一斉にいくつもの着信音が耳に流れ込んできた。
舞美ちゃんの舌は、あばらの辺りでぴた、と止まっていた。

「せーのっ!!!!!!!」

みんなが携帯に目を落としているとき、えりかちゃんが大きな声で言った。

「うひゃあ…っ!!!!!!」

私はどっ、と私たちの方に駆け寄ってきたメンバーにびっくりして腕で顔を覆った。

「ちょっと、何すんだよっ!」

舞美ちゃんの怒声に顔を上げてみると、メンバー全員で暴れる舞美ちゃんを押さえつけていた。
128 名前:_ 投稿日:2008/02/08(金) 02:39
「舞美、今回のはひどい。ちょっと頭冷やしなよ。」

そう言ったのは、えりかちゃんだった。
え…、こんな冷たい目したえりかちゃん見るの、はじめて。

力の強い千聖が、えりかちゃんのベルトを使って舞美ちゃんの腕を背後に回し
ぎゅっ、と固定する。

「えりっ…!?」
「ごめんね、愛理。何もできなくて。」

早貴ちゃんがそう言って私に携帯の画面を見せてきた。
『タイトル なし 本文 私が合図したら、一斉に舞美押さえつけるよ。いい?』

えりかちゃんからのメールのようだった。
私は、それを見た瞬間からだのちからがふっと抜けるのを感じて、床にしりもちをついた。

「愛理、大丈夫?」

舞ちゃん…、みんなありがとう。

「ほら。」

栞菜がブラジャーを渡してくれる。
私はすぐにそれを取ったが、力の抜けた指から再び床に落ちそうになる。

「しょーがないな。つけてあげる。」
「ありがとう。」

栞菜がブラジャーをつけるとき、胸とかいろいろ触られたけど、これはしょうがないことだよね…?

「ね、ね、」

呼びかけに顔を上げて見ると、千聖が少しだけ息を荒くして立っていた。

「千聖、一回愛理のこと舐めてみたかったんだけど、駄目?」
「え…。」

私は戸惑った。
脳みそがフワフワとあまり正しくは動いてくれないけれど、
舞美ちゃんのショックがあるので、正直今はそんな気分じゃない…。
129 名前:_ 投稿日:2008/02/08(金) 02:40
「千聖…、」

えりかちゃんが千聖の肩に手を置いて、私は少しだけほっとした。
これで舐められなくて済む、と。

「あたしも一回舐めてみたかったんだよね。」
「へ!?」

えりかちゃんの言葉に私は思わず素っ頓狂な声をあげた。

「ねぇ、あたしもいい?愛理?」
「ぅ、え…!?」

早貴ちゃんまで…。
え、栞菜も?舞ちゃんも…?なんでみんなそんなにニヤニヤして私に向かってくるんですかぁーっ!!!???

130 名前:_ 投稿日:2008/02/08(金) 02:40


体が…、
体がまるで宙にでも浮かんでいるみたい……。


私は下着姿でメンバーに肩やら腕やらほっぺたやらと舐めながら、思った。

舞美ちゃん…、みんなの前で私をハダカにするなんて…、信じられなかったけど…、

千聖が肩から背中側に移動して、椅子に座っている舞美ちゃんが見えた。
目が、合う。
舞美ちゃんは、鼻でフンッ、と笑った。

「あたしが、守ってあげてたのになぁ…、愛理。」

それは、少しだけ感じている…。
℃-uteがこんなにも野獣の集まりだったなんて…。

「ブラジャーとっちゃおうよ。」

栞菜の声。
ねぇ、ねぇ、神様…なんで私の体はこんなに甘いんでしょうか…!?

131 名前:_ 投稿日:2008/02/08(金) 02:40


「おめーらっ!その辺にしなよっ!」

ダンッ!と舞美ちゃんが立ち上がる。
栞菜の手が、背中で止まるのがわかった。

「そろそろ、お仕事の時間ですから。」

舞美ちゃんがそう言うと、メンバーたちはハッとして時計を眺め、散り散りになった。

「これ、解いてよ。愛理。さっきはごめん。でも、メンバーの前だけだから、許してくれるよね?」

舞美ちゃんの様子が、普段と少しも変わらなくなっていて、私はコクリと頷いた。

「今度は、二人きりで、なめてあげるよ。」
「…。」

ニコニコと笑った舞美ちゃんに、私は呆れ顔をして、それから、

「そうだね。」

と笑った。
舞美ちゃんが驚いた顔に笑って、私はメイク台に駆け寄った。

132 名前:_ 投稿日:2008/02/08(金) 02:41


私の体は甘くて甘い。
それはそれは…素敵な事実。

133 名前:_ 投稿日:2008/02/08(金) 02:42

 キャンディーガール −FIN−
134 名前:セツナ 投稿日:2008/02/08(金) 02:46
レスありがとうございます。

>>116 名無飼育さん
そう言っていただけるのが一番嬉しいです。
今回はほのぼの系ではないですが…。
>>117 名無し飼育さん
今回はやじうめではないですが…。
>>118 名無飼育さん
恐縮です。
期待を裏切ってなければいいですけど。
135 名前:セツナ 投稿日:2008/02/14(木) 16:53

 2月14日
 
136 名前:セツナ 投稿日:2008/02/14(木) 16:54
朝から、矢島さんの様子はおかしかった。
なんだかひどく寝不足って感じの雰囲気で、トボトボと机まで歩いてきて、そして
まったくもって輝かしいあたしの目の前の席に座った。

「おはよ。」

その様子が気になって、ジッと見入ってしまったあたしは、しょうがなく彼女が席に着いてしまってから、ややタイミングはずし気味に
挨拶。と、彼女はあたしを振り返って「あ、おはよ。」と少し笑った。
体調悪いのかなぁ?

なんて、思いつつ、今に至る。

サラサラの長い黒い髪がやけに陽気な外の光に反射して、キラキラ光る。
ああ、今日も矢島さんはあたしの女神だよ。
そんなことをチラッと思って、お経みたいな話をしてるティーチャーと隣の席の子を意味もなく確認した。
137 名前:セツナ 投稿日:2008/02/14(木) 16:55
そもそも、矢島さんのことをあたしは今このクラスになるまで知らなかった。
いや、厳密には知ってはいたんだけど、あまり気に留めてなかったっていうか・・・。
高校一年生になって、同じクラスになって、偶然前の席に座った美少女が誰なのか最初はわからなかったのだ。
彼女は、あたしが何度か目にしたことのある彼女とはすっかり違って、とても大人っぽく、綺麗になっていた。
名前を聞いた瞬間にああ、そうか、小学校でおんなじクラスだった彼女だ。
と納得しては見たものの、彼女の変身ぶりが気になり気になり・・・。
目で追っかけ続けているうちに、それが恋だと気付いた。
『梅田さん、プリント。』ボーッとしてたあたしにかけられた彼女の声と笑顔に、急速にはやくなった心臓の鼓動、
今も覚えてる。

何があったの?
ゲームのやりすぎ?

こんなに気になるんなら、さっききいとけばよかったんだ。
おかげで授業がちっとも頭に入らない。いや、いつも入ってるとは言いづらいけど。
後悔、先にたたず。
だって、彼女とあたしはそれほど仲良しなわけではない。
席が前後なこともあって、話はするときはする。
たまには、お弁当を一緒に食べたりもする。
だけれど、中学生の頃から仲のよかった友達が同じクラスにいたせいで、当初あたしに入り込む隙間はなく、
そんな風に時間をすごしてるうちに、今日まできてしまった感じ。
138 名前:セツナ 投稿日:2008/02/14(木) 16:56
「え、ちょっと待って・・・。」

前の席で矢島さんが小さな声で呟いて、あたしはその真剣な背中に微笑んだ。
彼女がこんな風に授業中に一人言を言うのは、稀じゃなくって。
このクラスで何人の人がそれを知っているだろう、と思うと少しだけ得意な気分になったりもするのだ。

少し笑いながら、その背中を見つめていたら、なんだか気分がほとーっとしてきて、ああ、これはきっと多分・・・、外の陽気のせいだ。
あたしは、そんな風に思いながら机にゆっくりと体を倒す。
その瞬間、矢島さんの机の中身がチラッと見える。
なんだろう、あの箱・・・。リボンかかっててかわいいな。
今日は彼女の誕生日ではない・・・。
そこまで考えて、ハタと気付いた。

ガバッ!と体を起こす。
隣の席から視線を感じたけど、そんなこと構ってられなかった。

今日は・・・2月14日じゃないですか・・・!!!!!!!

黒板に目を向けて確認するけど、やっぱりそうだった。
なになに、それチョコレート?
誰かにあげるの?
誰かから貰ったの?

一気に目が覚めた。
139 名前:セツナ 投稿日:2008/02/14(木) 16:57
キーンコーンカーンコーン−

そういや、昨日の夜ちょこっと考えたんだった。
バレンタインデイに矢島さんからチョコをもらえたら、どんなに素敵だろう・・・、と。
友チョコを作ってお返しに・・・とか・・・。あー、駄目だな。
だって、あたしと彼女は何度も言うようだけど、そんな仲ではない。
考えてから、ちょっとだけむなしくなって。忘れよう忘れようと思いながら目を閉じたら、ほんとにすっかり忘れていた。

チャイムが鳴ったことにも、周りのみんながガヤガヤと騒ぎ出したことで気付いて、あたしは意識を前の席に戻す。
「ん〜。」って大きく伸びをする矢島さんにちょっとキュンとして、そしてギクリとして、慌ててちょんちょんと肩をつついた。
矢島さんが「ん?」と振り返る。

「あのさ、あのさ・・・。」

続きを待つ視線に少ししり込みする。

「どうしたの?」

キョトンとして聞かれて、額に汗。

「今日さ、」
「今日?」
「誰かにチョコ貰った?」

あたしは考えた末に、そんな質問を。
矢島さんは、何事もないかのようにううん、と首を振った。

「あ、そう・・・。」

じゃあ、あの箱は・・・。
矢島さんが持参したものだってことですか?
ま、まあ?と、友チョコってこともあるのだし。
でも、あの立派な箱は・・・かわいいアレンジは・・・。
140 名前:セツナ 投稿日:2008/02/14(木) 16:58
あたしは一人で考えてフルフルと頭を振った。

「どうしたの?」

矢島さんが言う。
こんなに、彼女と話をするのって、三日ぶりぐらいなのにぃ・・・。
胸が、なんだか痛くて、あたしは「ちょっとトイレ。」と言って席を立った。

「はぁあ・・・。」

トイレの中、鏡の前でため息をつく。
なんだろう、この急展開。
矢島さん、好きな人、いるの・・・?

「えりかちゃんどうかしたの?」

急に声をかけられて、ドキッとして声のした後ろを振り向く。
同じクラスの嗣永桃子が立っていた。

「ううん。なんでもない。」

あたしは慌てて笑顔を作って、トイレを駆け出す。
あーあ、授業はじまっちゃう。
かえんなきゃ怒られちゃう。
なんだかしんないけど、桃ちゃんに隣でしゃべられて教室まで誘導されてる気分だし。

「じゃ、またねぇ〜。」

教室のドアの前で桃ちゃんはそう言って手を振って、前の方のドアから教室に入って行った。
あたしも、のろのろと席に歩く。
矢島さんの姿を見ると、チクリと胸に針が刺さる。
ゆっくり歩くと、座る直前にチャイムが鳴った。
141 名前:セツナ 投稿日:2008/02/14(木) 16:59
なんだよ、なんだよ、あたし彼女の隣の席がよかったよ。
思う存分後姿を見つめられるこの場所を、随分気に入っていたのに・・・。
夏休みに、私服で登校してきた彼女の私服が背中が開いたものだったことに、大喜びしたのに。
あたしの恋・・・終わっちゃうの?

なんだか涙が出てきた。
慌てて、こらえる。
でも、ジワ、と視界が滲んで机に突っ伏した。

142 名前:セツナ 投稿日:2008/02/14(木) 16:59

「えりかちゃん、気分でも悪いの?」

チャイムが鳴って、尋ねられてびっくりした。
この声は、矢島さんの声。

「あ、うん。ちょっとね・・・。」
「え、大変じゃん!保健室、行く?」

あたしは、そこまで大事にするのもなんだと思って、チラッと視線をあげて、また胸がドクリと脈打つのを
感じた。
・・・さっきの箱、机の中にない・・・。

勢い良く顔を上げると、矢島さんがちょっとだけビクッとして、あたしはうる目になる。

「え、大丈夫?」
「駄目・・・。保健室行く。」

心配そうに少し眉を潜めた矢島さんに、そう告げると一目散に逃げ出した。



誰かに・・・あげたのかな?
あたしが、トイレ行ってる間?

保健室には誰もいなかった。
眠ろう、眠ろう・・・。
眠ってしまえば忘れるさ。
143 名前:セツナ 投稿日:2008/02/14(木) 17:00
 
144 名前:セツナ 投稿日:2008/02/14(木) 17:01
ギュルルルル−

「ぅわぁ・・・。」

かっこ悪い。自分のおなかの音で目が覚めた。
あたしは、少し笑いながら目を開けて、思わず目を見開いた。

「えりかちゃん、おなか減ってんの?」

目の前で、矢島さんが笑ってた・・・。

「え・・・なんでいるの?」

ここ、保健室だよね?
あ・・・、

「なんでって、保体委員だから?」
「そうでした。」

あたしがあせった自分が恥ずかしくてつぶやくと、矢島さんはまたおかしそうに笑った。
ああ、かわいいな・・・。
だめ。好き。胸が、痛い・・・。

「もう授業終わっちゃったよ?」
「え?あ、ほんとだ。」

時計を見ると、あたしは二時間ほど熟睡していたようで、矢島さんの向こう側にはあたしのかばんと、矢島さんの
かばん・・・。
145 名前:セツナ 投稿日:2008/02/14(木) 17:02
「もう下校ですよね・・・。」
「なんでさっきから敬語?」

なんでもないことでクスクス笑う彼女が好きだけど、好きだけど。
チクショウ、この際、あたしもチョコでも作ってくりゃよかった。
ドカーン!と三学期に、来年はクラスが離れてしまうかもしれない彼女に、最後にあたってくだけるぐらいの覚悟見せりゃよかった。
少し、自暴自棄なことを思っていると、矢島さんが「あ、そうだ。」とつぶやく。
?と思ってみていると、また心臓がドッキーン、とはねた。

あれ・・・?
その箱。鞄の中から出てきたその箱は・・・。
まさか、あたしに・・・?

え?その笑顔の真意は・・・?

「よかったら、食べる?チョコじゃおなか太らないかもしれないけど。」
「え?あれ?いいの?」

何、この普通な感じ。
『実はね、これ、作ってきたんだ。』って照れながら言うとか・・・。
え、何?
好きな人は?

「これ、あげる人いるんじゃないの?」
「あーうん、まあ、いいんだよ。」

え・・・何?
その微妙な笑顔。
うろたえてるようなこわばってるような、でも寂しくはなさそうな。
失恋・・・?では、なさそうな雰囲気。
勇気がなくって、渡せなかったクチとか・・・?
146 名前:セツナ 投稿日:2008/02/14(木) 17:02
あたしは、そこまで考えてあせってその箱を奪い取った。

「ありがとう。すごいおなか空いてんの、もう。」

あたしは、なりふりかまわずリボンを解いて、箱を開ける。
もう絶対これ、あたしのものにしちゃったから。
もう後戻りはできないからっ!

「あっ!」
「ん?」

箱を開けたとたん、矢島さんがそう言って、カサっと何かがあたしの座ってるベッドに落ちた。

「なにこれ。」

あたしが拾い上げると、矢島さんは真っ赤になる。
・・・なにこれは・・・。
ひょっとして、メッセージカード?
見た途端にあたし、失恋とか・・・?

真っ赤になって、小さくなってる矢島さんを見て、あたしはため息をついた。
カードはあたしの手の中で、あいにくあたしは表を見る勇気がない。

「これ、やっぱり渡してきたら?」

あたしは、大きなハートマークを象ったチョコレートの上にメッセージカードを戻した。
注意深く、見ないように。
そしたら、矢島さんはあたしの手元をジッと見て、それからガバッとあたしの手元のカードを奪い取った。

「これ、見て。」

真っ赤な顔で、差し出された。
いやいや、だから、あたしは・・・って・・・え?

カードの上にかかれてた文字が視界に入って、びっくりして、
それから急に騒ぎ出す心臓・・・。
真っ赤な矢島さんはうつむいてあたしにカードを差し出していて・・・。
147 名前:セツナ 投稿日:2008/02/14(木) 17:04
カードには、

「えりかちゃん、好きです。」
「読まないでぇ・・・。」

思わず口に出すと、矢島さんからか細い声が聞こえた。

「え、え?ちょっと待って。」
「わかってる。受け取ってくれるだけでいいから。」
「これ、あたしへなの?」
「ごめんね。受け取ってくれるだけでいいから。」
「あたしのこと、好き・・・なの?」

ああ、やばい・・・。
きっと、気づかれた真っ赤な顔で視線を上げた矢島さんに、あたしも真っ赤なこと・・・。
チョコレート、食べてないのに、鼻血出そうなこと・・・。

「い、いただきます。」

なんとなく視線が合ったままなのが恥ずかしくて、あたしはチョコに向いた。
うわっ!なにこれ・・・。手作り・・・?
駄目・・・。もうおなかいっぱいっていうか・・・。
チョコを取る手が震えてますよ、って言うか・・・。

さっき無意識に受け取っていたカードが手の中であたしを見る。
もっともっと顔が熱くなった。

「あの、おいしいよ。」

隣の矢島さんを見上げて言う。
148 名前:セツナ 投稿日:2008/02/14(木) 17:04
「あ、よかった・・・。」
「あの、あたしもっていうか、あたしもって言っていいのかな?」

矢島さんを見る。
真っ赤だ、真っ赤だ・・・。
あたしに・・・このカードを渡したから、真っ赤なの?
ドクン−と何かが喉に痞えて、慌てて胸骨をドンドンと叩く。

「大丈夫?」
「あ、いや、うん。あの、好き。」

おずおずと聞かれて、おずおずと答えた。
やだ、なんかすごい恥ずかしいじゃん。
でも・・・、矢島さんが急にニコッと笑って・・・、駄目。チョコ・・・甘いし。
胸が締め付けられて、もうわけわかんないし。

「ほんとに!?」

コクコク、とうなずいた。

「食べる?」

あたしは、何を言っていいかわかんなくて尋ねる。

「うん。」

矢島さんはそう言って、

「あ。」

あたしの食べていたチョコをパクッとかじった・・・。
いやいやいや・・・。
今、髪の毛サラッって手に当たったし・・・。
あたしがかじったとこだし。

149 名前:セツナ 投稿日:2008/02/14(木) 17:04
「意外とおいしい。」
「意外とって。」

あたしは、その言葉にやっと笑った。
やっと笑って、ちょっとドキドキしつつ、彼女がかじったチョコをかじる。
食べちゃった食べちゃった。

「これ、手作り?」
「そう。徹夜しちゃった。」
「え、マジで?」

ぎゅるっ!
チョコを飲み込もうとした喉がギクリと絞まる。
だって、真っ赤な顔で笑顔って・・・。
いやいやいや、どうしたらいいんだろう、もう、駄目っぽい。

「渡すのやめようかと思ったんだけど。」
「あー。」

あたしは、ほとんど生返事で。
だって、頭がぼーっとしちゃって。

「カード抜くつもりだったのに、そのまま渡しちゃって・・・。でも、よかった。」
「あ・・・うん。」

そういうことかぁ。
そういうことかぁ。
いやぁ、あたしは夢でも見てるんじゃなかろうか。

150 名前:セツナ 投稿日:2008/02/14(木) 17:05
「あのさ、」
「ん?」
「座っていいかな?」
「あ、うん。もちろん。」

あたしは慌てて少しだけ横に退けた。
矢島さんは、『ありがと。』と呟いて座る。
なんか、隣に座ってるよぉ。
いや、座ったこともあるけど。
みんなでお弁当を囲んだときに。
なんか、笑顔で話しかけてくれるんですけど。
いや、いつもそうなんだけど・・・。
今日は特別胸がドキドキするっていうか・・・。

「ほんと、かわいい。」

思わず、呟いた。

「あはは。」

矢島さんが笑って、あたしスルーされた?と思ったら、

「チョコついてるよ。」

ってほっぺたに視線。

「え、ああ・・・。」

あたしがぬぐおうと腕を持ち上げた瞬間・・・、
目の前が、霞む、なんか、これって、キスっていうか・・・、
駄目。いいにおいするし・・・。
死、ん、じゃう・・・。

ボト、って手からチョコレートが落ちて、われに返った。

「あー!シーツ汚れたっ!」
「わぁ、ほんとだッ!」

矢島さんが、えっと、あの・・・、思わず噴出した。

「自分もチョコついてるんですけどっ!」

あたしにキスして、チョコレート口元にくっつけてどーする・・・。
やばいやばい。
この子、マジやばい。
あたしは、口元をぬぐった矢島さんにゆっくりと顔を近づけた。
151 名前:セツナ 投稿日:2008/02/14(木) 17:06

・・・。

「また、ついちゃったね。」
「とってからしてよ。」
「うん、ごめん。」

ファーストキスも、セカンドキスも、甘い甘いチョコレートの味がしました。
152 名前:セツナ 投稿日:2008/02/14(木) 17:06

 2月14日 −Fin−
153 名前:セツナ 投稿日:2008/02/14(木) 17:07
結局前のにはレスつかなかったなorz
やじすずは人気ないのですかね。
154 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/14(木) 20:44
ホントここの梅さんはかわいいなぁ。
やじすずも大好きですよ!
155 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/15(金) 01:14
イヤイヤやじすずは人気だと思いますよ
ただ前作は過激でどうレスしたら良いか?矢島さん怖かったし…

梅さん幸せで良かった!
最近はやじすずの当て馬的な役回りの作品が多いからなぁ
156 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/29(土) 00:00
待ってますよー
157 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/26(月) 13:14
待ってるんだけどなー
158 名前:_ 投稿日:2008/07/27(日) 07:39

 ほーむわーく。
159 名前:_ 投稿日:2008/07/27(日) 07:39
清潔な前髪が綺麗にそろって眉まで伸びる。

「ねぇ、何が楽しいの?」

真剣に宿題に向かっていた視線があたしに向く。
ふにゃってした笑顔と一緒に

「楽しいって、やんなきゃじゃん。」
「そっか。」

うん。と舞美は笑って、また視線をノートに向ける。

だって、あたしはこんな今も、あなたに夢中で。
ほんとは奪いたいけど、
彼女の時間、全部、全部。

でも、、、、、
宿題はやらなきゃだもんねぇ・・・。
あたしは置いてきたけど。

入学当初、
あたしの目的はたくさん友達を作ることっ!で。
その目標は、まぁ、少し違う方向に向かってしまっている。
160 名前:_ 投稿日:2008/07/27(日) 07:39

家はお向かいなのに
小学校までは一緒だったのに、
何故か中学校は別々。
毎日のほほんと生きてきたあたしは
すっかり忘れていた
すれ違うことはあっても、
舞美が特別な人だったこと。
というか、最近、気づいてしまったのだ。


桜が、緑の葉をつけはじめた頃、
あたしは入学式後の初登校にあくびをかみ殺しながら
もうくせになっちゃってるポケットに手を突っ込んで
猫背なスタイルで歩いてた。

高校だけは出ろって口をすっぱくした両親は高校卒業の
時だって大学に行けってまた口をうめぼしにするって
わかってる。

そんなわけで、高校に登校することに自分の意思はなく、
まあ、友達でもいっぱいできれば、毎日は楽しくなるかなぁ?
っなんて気だるく歩きながら、
実を言うとキョロキョロ探してた。

面白そうなこと。

毎日あげあげで高校に来たくなるような理由。
それは、恋とかでもよかったし、
恋がよかったかな、やっぱ。
まあ、とどのつまり、あたしたちの限られた世界ではそのくらいしか
刺激という刺激が思い浮かばなかったんだなぁ。

それでも、やっぱり気だるい登校。
そんな時・・・、
161 名前:_ 投稿日:2008/07/27(日) 07:40

「ぎゃあ!」と悲鳴。
ドサドサバサって音。
ぎゃあ!ってアンタ女の子なんだからもっとかわいい・・・

・・・

「かわいい・・・。」

思わず呟いてしまった。
一言で言ってしまえば美人。
そんな彼女が・・・、あたしの1m後ろで鞄の中身を見事に道にぶちまけてた。
え!?ていうか・・・、

「まさか、底抜けた!?」

あたしが思わず尋ねると、

「そぉ、もうどうしよう。だから、お兄ちゃんのお下がりとか
やだったんだよぉ・・・。」

と、情けない声が答えてくれた。
ほんのり恥ずかしさでピンクに染まった頬。
やっぱりかわいい。

「どうにかなるまで入れたげる。」

あたしは自分の鞄に、彼女のまっさらぴんの教科書たちをつめた。

「えー?ほんと?ありがとう!えりかちゃん。」

ボッ、と一瞬で顔が赤くなって、

「うん。いやいや。」

とあたしは変な返事をした。
だってあんなかわいい笑顔向けるんだもんなぁ、いきなしー。

矢島舞美。
活発なキャラに似合わず意外と人見知りな彼女が
あたしに臆することなく語りかけてきたのは、
あたし達が知り合いだったから。
しかも、向かいの家だよ。
162 名前:_ 投稿日:2008/07/27(日) 07:41
ってなわけで、一目ぼれならぬ二度目惚れ?みたいなものを
しちゃったあたしは、奇跡的に同じクラスになった舞美に、
離しかけまくった。

一緒に登下校もできる。
もともと、仲のよかったあたし達の距離はあっという間にまた元通り。
ああ、なんてパラダイス。
こうして、ゴールデンウィークまでもずぅうううううっと一緒にいられるなんてっ!

・・・しかし、真面目です。舞美ちゃん。
どんなに難しい数式をあなたがといていても、
あたしの気になる問題は、ただ一つなのね?

 スキナヒトハ、イマスカ?

「くはぁ〜〜〜〜・・・。」

聞けない、らちあかなくって零したため息に舞美は「眠いの?」って笑った。
ほら、笑顔だけでこの胸はこんなドキドキすんの。
もうどうしたらいいの。

聞けるわけない、らちあかない。
手をそぉっと包んで、舞美の手。
いつもあったかい。
ぐでぇ、と突っ伏して眠った振りした。

ドキドキ、ドキドキ、ドキドキ

指先から伝わればいいのに・・・。

好き、だよ。
163 名前:_ 投稿日:2008/07/27(日) 07:41



164 名前:_ 投稿日:2008/07/27(日) 07:46
ツンツンと指がひっぱられる感覚。
あたしはどうやらほんとに夢の中にいたようで。
ああ、窓から差し込むいい陽気・・・。

・・・・・・。

これはまだ夢でしょうか?
指先が舞美のに絡まる。
そしてそれは、舞美にそっと握られる。

ドキドキドキドキ
爆発しそうになったから、ぎゅって指先掴んで、
バッて顔上げた。

「へ!?」

とびっきり驚いた声、驚いた顔・・・。
そんな舞美に笑いそうになったあたしに逃げようとした指・・・
真っ赤な顔・・・?

どうしよう、笑えない・・・。
もしかして、この指、離さないでいいの?

「宿題、終わったの?」

キシキシ音が鳴りそうに首振って、繋いだ指はからまったまんま。

「・・・好きな人、いる?」

真っ直ぐ目を見つめたあたしの質問に真っ赤になった舞美。
あたしはなんとなく、気づいてしまった・・・。

「あたしがすきなの、舞美。」

気づいたわりに随分と弱弱しくなった声・・・。

「え、ほんと!?」

おどろいて少し後、すごい笑顔になった舞美に

ドキドキドキドキ

胸がとろけそうに熱くなって・・・

「あたしもぉ・・・・・・。」

真っ赤な顔。
繋がれた指・・・。笑顔・・・。
もっとぎゅっと繋ぐ指・・・。






165 名前:_ 投稿日:2008/07/27(日) 07:46
あたしの宿題、解けた・・・。



 −FIN−
166 名前:セツナ 投稿日:2008/07/27(日) 07:51
>>154 名無飼育さん
リl|*´∀`l|<あがるわねぇ!!
ありがとうございます。
>>155 名無飼育さん
怖い矢島さんは不人気(メモメモ
疑問に答えていただいてありがとうございます。

>>156 名無飼育さん
>>157 名無飼育さん
お待たせしました。
167 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/27(日) 12:16
待ってましたよ
なんか甘酸っぱいってか気恥ずかしい感じがいいですw
168 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/10/14(火) 10:41
作者様のやじうめ大好きです!
次の作品楽しみに待ってます
169 名前:名無し飼育さん 投稿日:2008/11/07(金) 00:04
ここのやじうめ素敵すぎる!
170 名前:セツナ 投稿日:2008/12/27(土) 03:08


  幸せレター。
171 名前:_ 投稿日:2008/12/27(土) 03:08
あたしに、散々いい顔したくせに・・・。
あの麗しいルックスで、あたしに何度も何度も笑いかけたくせに・・・。
あいつが悪いんだ。
あいつのせいだもん。

あいつなんて、不幸になってしまえばいい・・・。

あたしは、目的の靴箱へと急ぎながら、軽くめまいを覚えていた。
いーや、これは当然の報いなんです・・・。
どうにか気持ちを持ち直す。

ガクガク震える手。
もうすっかりと暮れてしまった空。

この前、一度だけきたくつ箱・・・。
足を踏み入れただけであの日の高揚感を思い出し、それと同時にものすごい絶望感に
襲われた。

廊下までは中庭の該当で明るかったのに、靴箱のあたりはかなり暗い。
どうやら、天井についているはずの電気が切れちゃっているみたいだ。

でも。
そう。この靴箱。
名前が見えないけどここだったはず。
だって一番端の列。
それから、三段目。
そこが彼女の・・・。

あたしはポケットに震える手と一緒に突っ込んでいた水色の封筒を取り出し、そして
その靴箱にそぉーっ、と突っ込んだ。
172 名前:_ 投稿日:2008/12/27(土) 03:09




173 名前:_ 投稿日:2008/12/27(土) 03:10
眠れなかった。
自分がこんなに小心者だとは思わなかった。
やめとけばよかった。
でも、途端にひやりとしたあのときの感触がよみがえる。
そうだ、私は悪いことはしていない。
でも・・・、寝不足で眠い・・・・・・。

ホームルームを今か今かと待ち構えていたとき、めずらしくクラスメイトに名前を呼びかけられた。

「梅田さん?」

あたしは、驚いて思わず椅子から飛び上がった。
声のした方を向く。

「な、なに?」

ドギマギしているあたしをよそに、廊下側の一番前に座っている彼女は「お客さん。」と、さらりと
あたしに『お客さん』を示した。

は・・・?
あれって、スポーツ万能で学年一の人気者の矢島まいみさんでは・・・?????

そのお客さんを見て、あたしの目は思わず丸くなったと思う。
そんなあたしをかまいもせず、遠くからでも十分美人とわかる彼女は、あたしの席までスタスタと
歩いてきた。

ひっ。

思わず、息を呑む。
だって、いきなり矢島さんがあたしの耳元に唇を近づけたから・・・。
174 名前:_ 投稿日:2008/12/27(土) 03:10
「ちょっと話あるんだ、いい?」

小さな小さな声だった。
でも、なんか思ってたより若干低音のその声に、心臓が急にまたバタバタと騒ぎ始めた。
矢島さんは、あたしが返事をするより先にあたしの席を離れ、廊下に出る。
え・・・?
あの、でもホームルームが・・・・・・。

そんなことを思っていたのだけど、ドアのところにたった矢島さんがちょいちょいとあたしに
手招きをしたので、はじかれるように立ち上がりあたしは彼女に続いた。

話?

話・・・?

自分でいうのもなんだけど、あたしは暗い。そして、陰湿だ。
クラスの子みたいに見た目に気を使っているわけでもなくって、きっとあたしはダサイのだろうけど、
みんなみたいに変わる勇気もなかった。
それなのに、そんなあたしに・・・、この前を歩くしなやかでつややかな黒髪を持つ学年一の人気者が
なんの話・・・?

廊下を端まで歩いて、それから屋上へと続く階段を半分だけ上る。

「この辺でいっかな?」

矢島さんは周りをきょろきょろと確認する。
そのときちょうど、ホームルームの時間を告げるチャイムが鳴り響いた。

やばい、これって遅刻になっちゃうんじゃ・・・。
でも、矢島さんの話・・・。
あたしは、言いたいことをグッと我慢して、下を向いた。
175 名前:_ 投稿日:2008/12/27(土) 03:12
「話ってのは、これのことなんだけど・・・。」

彼女が少し困ったような顔で目を泳がせて、あたしはその次に目に飛び込んできた彼女のポケットから
出てきた青い封筒を見て、我が目を疑った。
だって、だってだってっ・・・それは、昨日あたしがあいつの靴箱に入れた・・・。

「不幸の手紙・・・、梅田さんでしょ?」

ヒヤリ、と背中に冷たいものが走る。
なんで・・・なんでなんで・・・。

「あの、ごめん。違うの責めてるわけじゃないんだぁ。これって、あの間違えてあたしの靴箱に入っちゃってた
みたいなんだけど・・・。」
「なんでっ!!」

思わず語気が荒くなって、慌てて自分を落ち着けた。

「あたしが・・・そんなもの書く必要があるんですか?」
「えっ?あれっ、じゃあ、違ったのかなぁ?でも、封筒の裏に梅田えりかって・・・。」
「え?」

あたしは、彼女がそう言って見せてきた封筒の裏側を見て、愕然とした。
『梅田えりか』確かにあたしの名前が書いてある。
うそ・・・うそ、なんで!?
いくらなんでも笑えない。
不幸の手紙書いてご丁寧に自分の名前そえちゃいましたなんて・・・。

「あの、それでこれ、吉澤先生への手紙だったんだよねぇ?」

あて名まで・・・。
でも、それですっかり謎は解けてしまった。
あたしは、封筒を間違えたのだ。

どの色の封筒にしようか迷ってたギリギリまで。この前、あの手紙を書くとき・・・。
それで・・・、どうしようか迷ってたピンク色の方の封筒を選んだんだった。
そして、名前を書いていた青い封筒は、便箋がはいっている袋の中に戻してしまっていたのだった・・・。
176 名前:_ 投稿日:2008/12/27(土) 03:12
「あの、ごめんね。あのなんていうか、ちょっと気になって中覗いちゃって・・・。ごめん。」

黙ってればいいのに、そんなこと。
変に正直な人だな。
と、誤るその人を眺めながら思った。
そっか、読んじゃったのか。
でも、いいや。
別になんの変哲もない不幸の手紙だし。

この手紙を五人に渡さないと、あなたは必ず不幸になります。

・・・・・・。
あたし、ばかみたい。
はずかしい。
手紙を差し出している目の前の人気者は、こんなに綺麗なのに。
あたし、ばかみたい・・・。
なに高校生にもなってこんな子供みたいなこと・・・。

「えぇ?なんで泣くのぉ・・・?」

矢島さんがひどく困った声を上げて、あたしの顔を覗き込もうとしたけれど、あたしは体をそらした。
はやくいなくなって欲しかった。
だって、あなたはなんだかまぶしすぎる。
きっと、あなたみたいな人なら、あいつも・・・。吉澤先生も、あたしのこと、少しはそういう風に・・・。
もっと、優しく。きっと、優しく・・・・・・。

あたしの願いとは裏腹に、矢島さんはあたしが泣き止むまで・・・、否、あたしが泣き止んでもまだそこにいた。
177 名前:_ 投稿日:2008/12/27(土) 03:13
「あ、泣き止んだ?よかった。」

あたしが振り向いたら、あたしに向いたその笑顔にキラキラと太陽の光が指していた。
とっても、優しい笑顔だった。
自分でもわけがわからないけれど、あたしにはなぜかそのとき矢島さんが、聖母マリアか何かに見えていて・・・。
なんだか急に、

「あたし、振られたの・・・。」

懺悔したくなった・・・。
矢島さんの表情が消える。
それで、彼女はマリア様なんかじゃないってすぐに気がついたけど、あたしは止めなかった。

「手紙、書いたら、捨てられてた・・・。ゴミ箱に・・・。職員室の、ゴミ箱・・・。」

そう、担任に呼ばれていてあたしは、あの日、そんでもって彼女に会えると半ば期待しながら、
それでもやっぱり、あんな手紙を出した後だったからビクビクして。
でも、彼女はきっとなんにもなかったようにしていると思っていた大人の人だから。
そうして、そのうちにきっと誰もいない場所に呼び出して・・・振られることはわかっていたんだ。
でも、伝えたかった。

「ただ、好きって伝えたかっただけなのに・・・。」

あたしが、また泣きたい気分になっていたら、矢島さんが急にブワッと目に涙を溜めた。
それに驚いて、あたしは自分が今どういう状況にいるのかをすっかり忘れてしまうところだった。

「ごめん。なんかつらいこと聞いちゃって・・・。ごめんね・・・。」

矢島さんは、声を震わせながらあたしに謝った。
誤ることなんてないのに。あたしが勝手に聞かせただけなのに・・・。
間違って、手紙を入れちゃっただけなのに。

「なんで泣くの、、、ですか。」
「ごめん。いや、想像したらなんか、ごめん・・・・・・。」

そう言えば、もうとっくに一時間目がはじまってしまっているんだ、と、その時グラウンドの方から
聞こえてきたホイッスルの音で、思い出した。

「・・・授業、はじまってますよ。」
178 名前:_ 投稿日:2008/12/27(土) 03:14
どうしたらいいか、わからなかったのが、正直なところ。
あたしは、もうずっと人と深くかかわることを避けていたから、泣き止みそうな彼女になんて声を
かけたらいいのかわからなかった。
何が起こっているのかも、もう考えられなくなっていたくらい。
あたしの生活には、こんなこと起こりえないはずで。
でも、起こってる?

「あ、そだね。」

ぐすっ、と鼻をすすって矢島さんは青い封筒をあたしにかざした。

「これ、中身抜き取って入れに行こうよ。今日の放課後、吉澤先生のくつ箱に。」

赤い目で、彼女は笑ってそう言った。
あたしが返事をする前に彼女は階段をおりきって、あたしはわけがわからずにその綺麗な黒髪が揺れるのを
ジッと見つめていた。

「じゃ、放課後、そっちの教室で。」

階段を下りたすぐそばにある教室に彼女は頭を低くして入っていってしまった。

179 名前:_ 投稿日:2008/12/27(土) 03:14



なんで、あの人は・・・。
なんで、あんな風に・・・、
知り合って間もないあたしのために?
なんであんな風に泣いたんだろう・・・。

『今日の放課後、吉澤先生のくつ箱に。』

そう言った彼女の目ははれていて。
でも、笑顔はとってもかわいくて綺麗だった。

不思議なことに、あたしはさっき矢島さんにすべてを打ち明けたおかげか、不幸の手紙があの人の手に
わたっていなかった安堵感からか、すっかりとそんな気はうせていた。
つまり、もう一度あの手紙を吉澤先生のくつ箱に入れようなんて気は・・・。

恥ずかしくなったっていうのもあるけど・・・。
矢島さんが、なんだかきっと、すんごくまっすぐだったせいで。
あたしは、あたしが恥ずかしかった。

『放課後、そっちの教室で。』

そのときが着たら、はっきりともういいです。、って言おう。
そうしたら、あの綺麗な子にあたしはさっきよりはもう少しだけ、それはほんの少しだけど心象を良く
持ってもらえるかもしれない。
こんなときでも、こんなことを考えるあたしはやっぱり、卑怯者かな。

でも、なんかやなんだもん。

決めた。

窓の外には青空が広がっていて、あたしはなんだか急にすがすがしい気分になっていた。


180 名前:_ 投稿日:2008/12/27(土) 03:15



「一時間目、起こられなかった?」

ニコニコと笑うその顔からは、なんだか親しみが見て取れるようで、あたしは思わずこちらに歩いてくる
矢島さんに見とれてしまっていた。

「こっち、自習だったから・・・。」

そう、教室を覗いてみたら、先生はそこにいなかった。
チラチラといつもはあたしなんかにむくはずもないクラスメイトの視線をいくつか感じたけど、それは
さっきまで一緒にいた矢島さんのせいかもしれない、とあたしはどこかで納得していた。

「うっそぉー、いいなぁ。あたし中澤先生でぇー、ちょー怒られちゃった。二時間目はじまるまでずっと。」

ははっ、と彼女は最後に笑った。
あたしの机に手をついて、なんだかひどく楽しそうに・・・。

どきっ、と心臓がはねる。
その笑顔が急に止んだと思うと、今朝のように耳元に唇を寄せられたからだ。

「で、いついこっか?また人いっぱいいるね。」

ああ、そうだ。その話。
くったくのない笑顔を見せられて忘れていた。
彼女はそのためにあたしの元にきたのだ。
それ以外にあたしに用事なんてあるはずもないのだ。
それは、当然の事実で、そう考えるとなんだかフワフワとおぼつかなかった思考が急に冷静になった。

矢島さんはハナウタを歌った。
がちゃがちゃと、騒がしい音たち−つまり、部活に行く子たちがロッカーから荷物を取ったり、または帰宅部の
子たちがロッカーに荷物を片付けたり−の溢れるあたしのクラスの教室で。
このクラスの人間じゃない矢島さんは、少しも違和感なくそこに存在していて、ベランダに続くドアの窓から
外を眺めながら、小さくハナウタを歌っていた。ずっと。時折、教室を見返りながら。
181 名前:_ 投稿日:2008/12/27(土) 03:15
あたしがその矢島さんにつられるように教室を振り返ると、後ろのドアのところにクラスメイトが二人、なにやら
慌てた様子で窓のサンをつかんでいた手を離して駆けていってしまった。
大方、たぶんその有名な来訪者とあたしのうわさでもしていたのだろうか。
いったい、どんなうわさだろう。きつと、おかしいんだろうな、この2ショットは。

でも、それでも、やっぱり自然に矢島さんはハナウタの続きを窓の向こうに向かって続け始めただけだった。

「失敗したかもぉ・・・・・・。」

ひどく間延びしたような声が少し後ろの机から聞こえてきた。
矢島さんは、眠たそうにカフ、とあくびをかみ殺してそれから長い右腕を目の前の机に伸ばしてそれにもたれるように
机の上に突っ伏した。

「部活終わるのとか、ここで待つより、一旦外出ればよかったかなぁ・・・・・・?」

頭の真上が見えていた。

「でも、それだと門が閉まっちゃうかも。」
「あ、そっか。」

はじかれたように顔をあげた矢島さんは、なんだかすんごく眠そうで、左目の二重が少しだけおかしくなってた。
あたしは、それになん゛かひどくほっ、としたような気分になって口から笑い声のような声が漏れた。

「ん?」

矢島さんが笑って、その声がひどく優しく響いたので、あたしはううん、と首を横に振って前に向き直った。

言わなきゃいけないんだけど、ナ。
もう不幸の手紙はいいって。
なのに、なんでか口をつかないんだよな。
それどころか、ちっとも言いたい気がしない。
なんでだろう、なんでかな。

壁にかかっている時計の針が時間を刻む。

「まだだめかなぁ?」

しびれをきらしたような眠そうな声に、

「まだだめ。」

と、だけ返した。
だってまた暗くならない。
182 名前:_ 投稿日:2008/12/27(土) 03:16
「でもね、でも、あたしのクラスの靴箱、先生のとこの隣なんだ。だから、バレなくない?ちゃちゃって
やっちゃえばさあー。」

そうなんですよね・・・・・・。
並列しているいくつかの靴箱。
あたしはどうやら列を間違えたらしい。
そこに、矢島さんたちのクラスの靴箱があって、あたしはあの手紙を・・・・・・。

「あの、やっぱりやめないですか・・・。」

あたしは、思い切ってそう言ってから彼女をそっと見た。

「ん〜?せっかくここまで待ったのに。いーじゃんやろうよ。」
「でも、やっぱりなんか・・・。」
「びびってる?」

いたずらに彼女は言った。
あたしはきっとあいまいに笑ったと思う。
少し困った。でも、彼女の顔がなんだか楽しそうに見えたので、これ以上とめるのはよそうと思ってしまった。

「だぁーいじょうぶだって。もし見つかったりバレたりしても。自分がもらっちゃったってあたしが言って
あげるし。」
「あの・・・。」

眠そうで無防備な笑顔を見ていたら、オレンジの教室の中、急に訪ねたくなった。

「嫌じゃないんですか?あたしみたいなのに、かかわるの・・・・・・。」

小さな小さな声になってしまった。
だって、「不幸の手紙」だし。あたし、こんなだし。

「なにが?」

普通に、聞き返された。
素とか自然とかそんなんじゃなくって、普通に。

「いや、別に・・・・・・。」

あたしは、そんな風に返すことしかできるわけもなくなってしまった。

「えりかちゃん、って読んでもいいかな。」

しばらくした後、もう眠ってしまったかと思われた彼女から急にそんな質問が投げかけられた。

「いいですけど・・・・・・。」
「ほら、さっきからなんか話しかけよっかなぁー?って思ってたんだけど、なんか梅田さん、とかって
呼びかけるのってちょっと照れくさいっていうか・・・。」

彼女は少し苦笑いで、だからあたしは笑っていた。
あたしは、名前の方が照れくさく感じるんだけどな・・・。違うんだろうな。
あたしに答えるように、笑顔を見せたこの人にとったら・・・。
183 名前:_ 投稿日:2008/12/27(土) 03:17



「うわぁー、くっらぁーい。」

声を潜めて、矢島さんはそんな風に言う。
電気はまだなおっていないようだった。
先ほどまで眠っていた彼女、図書室から借りていた本を読んでいたあたし。
廊下をとうりかかった担任に、「もうそろそろ帰りなさい。」と言われて教室を出た。
階段を下りる間にもう夜は帳をはりめぐらせていた。

「これじゃ、間違えるわ。」

矢島さんは独り言のようにそう言った後、携帯電話を開いた。
おお、明るくなった。

「なんかドキドキするね。」

あたしがあの一文を書いた青い便箋を持って、吉澤とかかれた靴箱の前で。
矢島さんはひどく楽しそうに笑った。
あたしは、苦笑いをする。
不思議な人。

「よし。オッケー。」

さも当然のようにあたしが書いた不幸の手紙は、矢島さんの手によって、吉澤先生の上履きの上に
のっかった。
いっか。もうあれはきっと、彼女のものだ。

「じゃ、かえろっか。ふぁー・・・、やばい。ちょっと本気で眠いや。」

あたしは、なんでもない風の彼女にまた笑えて来た。

昨日の自分をこっそり思い出して比べてさえいた。

「えりかちゃん、家どこなの?自転車?」
「一駅あるから。」
「あー、じゃあ、駅か。あたしの自転車乗ってく?」

振り向いた彼女の質問にどう答えていいかわからずにいると、彼女は「よしっ。」と勝手に結論を出して
しまったようだった。
184 名前:_ 投稿日:2008/12/27(土) 03:17
「こっち。」

自転車置き場に案内されて、彼女は鞄から取り出した鍵で自転車の鍵をはずす。

「あの、二人乗りしたことない。」
「あたしは、荷台のついてないその自転車を見て、戸惑ってしまった。

「あ、」

自転車にまたがった彼女はそう言って、

「はじめてって難しいか。じゃ、運転する?とか言って。」

彼女は笑う。
どうやら、自転車から降りてあたしと並んで歩いていくつもりだつたらしいけど、あたしは思い切って言った。

「運転する。」
「え、いいの?」

びっくりしたように彼女がこちらを向いた。
何にそんなにびっくりしたのかわからなかったが、あたしは、彼女を乗せてまともに走れるかどうかを心配していた。

「じゃあ、行きます。」

彼女はあたしの肩につかまってうまく後ろに乗った。
あたしが漕ぎ始めると、「やばい。後ろとか久しぶり。」なんて嬉しそうな声が聞こえた。

「ごめんね。遅くまで付き合わせた上に・・・。」

あたしは、息があがっていたけど、それだけはいわなければ、と思った。
よぉーく考えたら、駅まで歩いて帰ってもよかったのに、なんてあのとき断らなかったんだろう、と思ったけど
もう自転車は走り出してしまっていたし。

「ううん。あたし、はじめてだったから、なんか楽しかった。」

人の不幸の手紙を愉しむ人ってどうよ?
そんな風にチラッと思ったけど、「あー、気持ちいい。」とフワリと吹いた風に彼女がつぶやくのを聞いて、
あたしは、黙っていることに決めた。

「あ、」

駅までたどり着いたとき、あたしの息は切れていて、矢島さんの乗った自転車が走り出すのを見届けようと
したとき、彼女はそう言って振り向いた。

「ねぇー、あれって、結果わかんないよね。」
「あれ?」

あたしは酸欠でそれがなんのことだかわからなくって、彼女が普通に息をしていることに半ば感動さえしていた。

「なんでもない。あはは。それじゃ、ばいばい。」
「さよなら・・・。」

小さく手を振る姿がかわいらしかった。
矢島さん、ってきっとすごくモテるんだろうな。
そんなことに、今はじめて気づいた気分だった。
185 名前:_ 投稿日:2008/12/27(土) 03:18



きっと、吉澤先生はあの手紙を読んでキョトンとするだろう。
きっとそうだ。
もしかして、必死で五通書いたりして?
いや、それはないよなぁー、やっぱり。
きっと、誰のイタズラだ?と首をかしげるに違いない。
そして・・・いつも人気者なはずの自分がいつ誰にどうやって反感をかったのか考えるんだ。

チャポン、と前髪からしずくが浸かったお湯に落ちて、あたしは胸がざわめくのを感じた。
心の芯がひやりとする感覚。

目をつぶって首を振る。
そうして、彼女の顔を思い浮かべた。
矢島、まいみ。

中学生のときに、おんなじクラスだったことがある。
一年だけ。
きっと、彼女はそんなこと忘れていそうだけど。
もちろん、あたしは彼女の接点などなかったのだから。
どんなに長い時間、おんなじ教室にいようとも。

なのに、なんで・・・。
今日はあんなに長い時間、一緒にいたんだろう。
胸がざわざわとざわめいた。

いまさらながら、今日起こった出来事がすべて嘘だったようで、でも、嘘じゃなかったことを思い出したのだ。
肩につかまっていた彼女の手の感触を覚えている。
彼女が歌っていたハナウタを覚えている。

あたしは、その歌声を思い出しながら、ひどくおだやかな気分になっていた。
ここ数日では、めずらしいくらいに・・・・・・。

186 名前:_ 投稿日:2008/12/27(土) 03:19



 
187 名前:_ 投稿日:2008/12/27(土) 03:20

あの不思議な不思議な出来事から一週間たったとき、忘れたくても忘れられないあの日の記憶がまたサッと脳裏に
よみがえってきた。
グラウンドを矢島さんが走っていた。
ダントツのトップ。持久走をやっているようだった。
あたしのクラスも昨日やった。結果は散々たるものだった。
けれど、彼女はどうだろう、ひどくひどく美しい。

あまり見たことのないポニーテールがしきりにゆれる。
綺麗な黒髪・・・太陽に反射して。
スラッとした足は、確実に地面を蹴り。
目で追いかけるのでさえ、置いてきぼりにされちゃいそうなほど、彼女ははやい。

チャイムが鳴ると、彼女はクラスメイトと楽しげに笑っていた。
ハイタッチをした調子にまたポニーテールが小気味よくゆれる。
なんだか、あたしは。

なんでだか、あたしは。

その日の放課後、クラスメイトの口から時折こぼれるのを頼りに一度調べたことがあった美容室の前に立っていた。
今朝、お小遣いをもらったばかりなので、お金は十分に足りる。

スローモーションのようにさえ感じた店の自動ドアへの道のりも店員さんからの声があたしにかけられた瞬間
すべてが無になった。

「はじめての方ですよね?」

小さな女の人だった。髪の毛はゆるくカールがかかっていて、それが結構ばっちりとアレンジされている。

「ご指名の美容師はいますか?」
「あ、いえ・・・。」
「じゃ、おいらでい?」

おいら?と一瞬?マークが浮かんだけど、あたしはうなずいていた。

「ちょっと重いよねぇー。どんな感じにしたいの?」

あたしは、髪の毛に霧吹きを当てられながら、思わず固まってしまう。
そういう質問に、答えは用意してなかった。

「綺麗な顔してるから、短く切っちゃうのもありだと思うけど・・・。」
「あ、それは・・・。」

短くするのは、なんかだめな気がする。
188 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:00
「んじゃあ、それあえず量少なくして色入れてみたらどうかなぁ?」
「あ、はい。お願いします。」
「はい。わかりました。」
「あ、でも、あまり明るいのは校則にひっかかるので。」
「あ、そっか。それどこの制服だっけ?」
「九都です。」
「あー、そうだ。そうだ。でも、あそこ結構ゆるいほうだよね、校則。いやさぁー、おいらが現役の頃友達が
行ってたんだけどさ?おいらの学校厳しかったから、正直うらやましかったもん。」

お姉さんはとってもお話上手だった。
あたしは、時折笑うだけでよかったし、確認して欲しいときにはきちんとこちらに確認してくれた。

はじめてだったのに、お洒落な美容院とか。
でも、あっという間に時間は過ぎた。
自分が『変わりたい』って思ってここにきたことすら、忘れてしまっていたほどに・・・。

だから、シャンプーを終えて、ブロウしてもらっている鏡の中の自分を信じられない思いで見つめ返した。

「やっばい、梅ちゃんちょーかわいい。」

あたしの髪の毛の襟足をいじりながら矢口さんはそう言った。

「あ、自分でもちょっとそう思ったでしょ?今、思ったでしょ?」
「や・・・。」

実は、少しだけ思ってしまった。
なんか妙に高くて嫌だった鼻も、両親日本人なのに何故か濃い目元も・・・。
先ほどまでとは打って変わって、なんだかそう少し、自信に変わるくらいの・・・。


「あ、梅ちゃん、せっかくかわいくなったんだから、もっと顔上げて歩きな?」

レジで会計を済ませて出て行こうとするあたしに矢口さんがそう声をかけてくれた。
189 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:00
「それから、また来てねぇ〜。」
「あ、はい。」

商売上手なちっちゃなお姉さんにあたしも手を振り替えして店を後にした。
やだ。あたしなんか変なのかな?なんか、視線を感じる。

矢口さんは顔上げろって言ったけど、俯いて走りだした。

駅についたら、トイレに駆け込んで自分の顔とか体をチェックしたみたけど、どっこもおかしいところなんてなかった。
なんで見られてたの?
もしかしたら・・・。
いや、でも、まさか。や、でも、あるいは・・・。
190 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:01


次の日、教室に入るとクラスメイトがポカーンとあたしを見た。

「え、もしかして、梅田さん、だったりする・・・?」
「うん・・・。」

あたしは、顔から火が出そうだった。
昨日、美容院からの帰り道、なんとなく変わった自分に胸をときめかせたりしてみたけど、このことを考えると
不安でしょうがなかったんだ。
やっぱり、みんなに見られてる・・・・・・。

「やっべぇ、美人でね?」

クラスの中でもおしゃべりな方の女子が寄ってきて、あたしを見た。

「そうかな?」

ほんとに、不安だった。
からかわれてるだけかも、って、思っちゃってる。

「なんで今まであんなだったのか不思議なくらい。ね、ちょーいけてね?」

彼女は教室の後ろのロッカーの前にいた仲のよい友達に大きな声でそう投げかけた。
どうやら、嘘ではないっぽい?

あたしは、少し落ち着いて自分の席まで歩いた。

「あたしも髪の色変えようかなぁー。」

って彼女は自分の髪の毛のけさきをいじっていたけど、もう少し色は落とした方がいいような気がした。
いつも、注意されてるのに・・・。強いなぁ・・・。
191 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:02
見物客がきた。
しかも、わんさか。
とおりすがりにあたしを覗いていく人もいる。
っていうか、なんなの、これ・・・。
あたしって、そんなにみんなに知られてたの?
きつと違うよ。なんかすっごく変わった子がいるから見にいかない?的にのりだよ、きっと。
はやくいなくなってくれないかなぁ?

居心地悪くチラッと廊下側を見てみると、バチッと目が合ってしまった。
矢島さんに・・・・・・。

彼女は、ニコッとあたしに笑顔を見せて、それから教室に入ってきた。

「わぁー、ほんと誰かと思った。」

ニコニコとくったくのない笑顔。

「えりかちゃん、だよね?」
「うん・・・。なんでこんなことになっちゃったのかな・・・。」
「え、だってすっごくかわいいよ?」

また、普通に言われてしまった。
すっごく恥ずかしくなった。
思わず勢い良く顔を上げたら、彼女にニコッと微笑まれたから・・・。
もしかしたら、ほっぺた赤くなっちゃったかもしれない・・・・・・。

だめだ、ほら、本物の光と一緒にいると、あたしは昨日までのあたしとちっとも変わってないとやっぱり思い知らされる。

「ね、この前のあれ、さ。どうなったのかな。」
「ああ・・・・・・。」

どうなったんだろう?

「あ、ごめん。あの、ごめんね。思い出させちゃった?もしかして。」
「ん?」

あたしは、彼女が何故謝っているのかがさっぱりわからずにいた。
そうして、思い当たった。
あの不幸の手紙とやらを書いた自分が、どうしてそんなことをしたのかを・・・。
何故だか、すっかり忘れてしまっていた。
廊下で吉澤先生にすれ違っても、もう胸は痛まなかった。

192 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:02
「ああ、いいんだぁ。あたし、あれからなんかすっきりしちゃって。」
「え、そうなの?あ、だからイメチェン?」
「あ、ああ、まあ、そんなところかな?」

あなたとおんなじような光を浴びたかったなんて、いえるわけもなかった。

そんな後ろめたさを感じてはじめて、

「舞美、授業はじまっちゃうよぉー。」

友達に名前を呼ばれて、

「あ、もういかなきゃ。またね。」

そう言って笑った矢島さんの後姿を眺めながら。
あたしは、気づいていた。
彼女に抱いた自分の中の、特別な感情に・・・。

ドアの向こうに消えて行くその横顔を、思わず引き止めたくなってしまうほど、胸が急に・・・。
ギュッ、って痛んだ・・・・・・。
193 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:03

もしかしたら、思ってたんだ。
あんな風に、小さいけどなんかおかしいけど、秘密を共有したあたしに、彼女は翌日も笑いかけてくれるんじゃないかって。
期待したんだ。
笑いかけては、くれた。
偶然に、目が会うと。
でも、あの日みたいに、さっきみたいにあたしに向かって歩いてきてくれることはなくて・・・。

でも、来てくれた。
それが、何を意味するかに、あたしは今気づいた。
またコントロールがきかなくなる・・・・・・。
また、深い痛みを追うことに・・・・・・・きっとなる・・・・・・。

だって、もっともっと近づきたいって、思っちゃう。
思ってる。
暴れだしそうになってる。
あの笑顔をいつも傍で見ていたいって。

あたしは、彼女の特別には一切されていなかったのに。
いないのに・・・・・・。
あたしの中の特別だけが、大きくなっていく・・・・・・。

前髪が、太陽の日差しに透けて、あたしはまた後悔していた。
194 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:04



「マジだ。梅田さんだ。」

ちっちゃな黒髪ショートの女の子にそう言って両指で指された。

「ほんとだ。やばい。綺麗・・・。」

そう言ったのも、ちっちゃな黒髪を肩くらいまで伸ばした女の子。

「ね、綺麗だよね。ちょっとびっくりしちゃった。」

そう言って笑いかけたのは、やっぱり綺麗な黒髪をした矢島さんだった。
クラスにいても、なんだか落ち着かなくって、もしかしたら放課後あたしはまたあの美容室に行って
髪の毛の色だけでも戻してもらおうかなんて思ってた。
そんな放課後、三人の来訪者はあたしのところにやってきたのだった。

「あ、紹介するね。こっちが清水佐紀ちゃんで、こっちが嗣永桃子ちゃん。」
「ども。」
「よろしくぅー。」

ショートの子から順に矢島さんはあたしに彼女たちを紹介してくれた。

「やばいやばいやばい。モテそうだよねぇー。ちょっと嫉妬。」

清水さんは、早口でそう言って、嗣永さんはうんうん、とうなずいた。
あたしは、恥ずかしくなって顔を伏せる。

「あー、それでね?今日みんなでカラオケでも寄ってかえんない?って話してたんだけど、えりかちゃんも
一緒にどうかなあ?って。」

そう切り出してきたのは矢島さんだった。

「カラ、カラオケ?」

家族で行ったりはしたこともあるけど、こんな風に友達に誘われて放課後そんなところに行くのははじめて。
行くのは・・・?
やだ。あたし、行く気になってる?

「どう?六時過ぎちゃうと高くなっちゃうからはやめにいきたいんだけど。」

清水さんが急かすようにそういう。

「佐紀ちゃん、せっかちだよねぇー。ほんと。で、どうかな?」

嗣永さんがあたしを覗き込む。

「やっぱ、いきなりは嫌?」

矢島さんが困ったようにあたしに向いて笑ったので、あたしは首を横に振った。
195 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:07


嗣永さんと清水さんはおしゃべりな子達だった。
あたしと矢島さんの前を歩いてる。
なんだかひっきりなしに話す声が聞こえて、あたしから見ればずいぶん背の小さな二人は、なんだかとってもかわいらしく思えた。

「何笑ってるの?」

矢島さんに聞かれて、ヒヤッとする。

「いや、なんだかかわいらしいなぁ、って思いまして・・・。」
「ねえ、敬語やめようよぉー。」

矢島さんが明るくそう言って、彼女が押している自転車の車輪がカラカラと音を立てる。

「ねぇ、舞美。今日の順番じゃんけん。」

清水さんがこちらに向く。

「いーよ。ほら、えりかちゃんも。」
「あっ、あたしは・・・。」

そう言ったとたんに、周りに少し不穏な空気が流れたことがすぐにわかって、あたしは、

「やります・・・。」

と手を差し出した。
196 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:07



一番なんて・・・、寄りに寄って、一番・・・・・・。
でもでもさ?よぉーく考えてみたらさ?
みんながうまく歌うの聞いてから歌うより、自分から行ったほうが・・・・・・。
やっぱり、無理があった。そう考えるのには。
あたしのこれまでの人生が、明るくポジティブになんて考えさせてくれなかった。

「えりかちゃん入れて入れて。」

駅前にあるカラオケ屋。
あたしたちは、部屋に通されて、そしてあたしには清水さんからリモコンが手渡される。
清水さんにリモコンを差し出される。
あたしは、あせって歌本をめくっていた。
どうしよう、何を歌ったらいいかわかんないよ。」

「SPEED?好きなの?どれでもいいから入れちゃいなよ。ほら、佐紀せっかちだから。」

矢島さんがあたしが覗いてるページを覗き込んで、そう促してくれた。
だから、あたしは決心して、一番好きなWHITE LOVEを入れる。
でも、結構古い歌だし・・・。
あたしは、ほんと最近の音楽とか知らない。
家族ときたときとか、みんながわかる曲を歌っちゃうから、むしろ演歌とかよく知っていたりする方の
人間で・・・。

どこかでやっぱりみんなに笑われてるんじゃないかな、って思った。

あたしは、無我夢中で歌っていた。
歌詞の乗っている画面以外は目に入らない。
右隣の嗣永さんが本をめくっているところとか、メロンソーダを飲んでいるところとかがチラッと視界に
入ったけど・・・、友達同士のカラオケってこんななのかな。

「かわいい声ぇ・・・。」

清水さんがぽつり、とそう言うのが聞こえた。
あたしの頬はボッと熱を持った。
どうしよう、なんかやばい。ちゃんと聞かれてる・・・・・・。

背中にじっとりと汗がにじんだ。
197 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:08

「えー、やばい。うまいうまいうまい。」

清水さんがそんな風に行って、

「どうしよぉー、あたしが一番音痴じゃない?」

矢島さんが笑ってそう言った。
嗣永さんは少し笑いながら、リモコンで曲を入れていた。

清水さんが入れた曲が流れ始める。

「はい。タンバリン。」

清水さんにそう言って、自分の持っていたタンバンリンを渡される。

「えー、じゃあ桃マラカスやる。」
「えー、マラカス!?マラカスやっちゃうのぉー?」

清水さんがそう言ってる間に、歌がはじまってしみずさんは歌い始めた。
これってどうすればいいのかな?
っていうか、うっまぁーい。
CMで聞いたことのある曲。

創だよね、最初はこういう盛り上がる系の曲入れたりしたほうがよかったのかな、きっとそうに決まってる。

タンバリンは手持ち無沙汰だったけど、隣の嗣永さんがそりゃあもうはちゃめちゃにマラカスを振っているので、
それに笑ってたら、自然にあたしの手はリズムに合わせてタンバリンをたたいてた。
嗣永さんのこと、楽しそうに眺める矢島さんが、とてもかわいかった。
198 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:09
「あー、やばい。あたしほんと音痴だけど笑わないでね?」

矢島さんの番がきて、あたしにその言葉が向けられる。

「まさか、笑わない。」

あたしは、素直にそう言って、そしたら矢島さんは満面の笑顔をあたしに向けてくれた。
やばいやばい・・・。ほんとにかわいいな、彼女は・・・・・・。

「あたしこれ好き。ドキューン!!!!」

嗣永さんが盛り上がって、矢島さんもそっちに目をやって少し笑ってから歌い始めた。

なんだ。別に音痴じゃないじゃん。
声が独特で、なんかちょっとかっこいい。
清水さんとおんなじようなちょっと低音で。
聞いてて心地いい声。

結構ハヤイリズムのその曲を必死な感じで歌う矢島さん見てたら、あたしの方にチラッと視線が向く。
歌ってる笑顔のままで。っていうか、ずっと笑ってるの。
あたしは、その目が画面の方に向き直ったのを見て、なんだか急にはずかしくなった。
結構、ガン見しちゃったかも。

「あっ、次、桃っ桃だからね、みんな心して聞くようにっ!!!!!」
「はいはい。」

嗣永さんの言葉に、清水さんがそう相槌を打つので思わず笑った。
笑った後、冷静に次の曲を選んでる清水さんに、急にまたあせり始める。

「ね、ねえ、演歌とかだめかなぁ?」

思わずあせりすぎて、一番なじんでる矢島さんに顔を近づけてたずねる。

「演歌!?」

はじかれたようにこっちを向いた矢島さんに、

「うつそ。演歌歌えるの?聞きたい。あたし聞きたい入れてよ。」

清水さんがすんごく乗ってきた。
199 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:09
「えっ、もうキャプテンっ!!桃の歌っ!!!あっ、はじまっちゃったっ!!!!!」
「ばかだ。出だし歌えてないよぉー。」

清水さんが楽しそうにソファーに仰け反って嗣永さんを指差した。

嗣永さんは、かわいいロックって感じの曲を歌った。タイトルの画面には、アニメの主題歌って
書いてあった。なんだか見た目どおり、かわいい系の曲が好きなのかな。
そんでもって、声もかわいらしかった。最初っから少し思ってたけど、なんだかとても高校生には
思えないくらい。
振りらしきものもところどころついていて、清水さんはその嗣永さんのちょっとだけぶりっこしたみたいな動きを
また笑ったりしていた。

「あたし、おかわり頼むけどえりかちゃんは?」

矢島さんにそういわれてみると、一番最初に頼んだウーロン茶がだいぶなくなっていたので、あたしはコーラを
一緒に頼んでもらうことにした。
必要以上にのどがかわいたせい。
それにしても・・・。矢島さんってコーラ飲んでたよね?もう空だとかやっぱりはやくない?
嗣永さんのメロンソーダと清水さんのミルクティーはまだ半分以上残ってるのに。

「あたしもなんかカラオケとかすんごくのどか沸いて大変なんだぁ。」

矢島さんはそう言って、受話器の方へと歩いて行った。
あたしは・・・、緊張して知らない間にがぶ飲みしちゃってただけなんだけどなぁ・・・。

演歌は以外にも好評だった。
だけど、やっぱり他のみんなが歌うときよりも盛り上がらない。
逆に真剣に聞かれすぎて、なんだか顔から火が出ちゃうほど恥ずかしく感じた。

「やばい。桃もこれ今度歌えるようになろう。」
「歌詞とかすごいよね、演歌って。」

みんなはそんなこと思いもしないように楽しそうに会話をはずませていた。
200 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:10
「命くれないだもんね。」
「桃はじめ命が欲しいのかと思った。」
「ふぅーん。」
「あ、ひつどぉーい。」

やばい。清水さんと嗣永さんって漫才やってるみたいだ。
面白い。
でも、意外と矢島さんって静かなほうなのかな。

「つーか、桃に演歌って死ぬほど似合わないからやめた方がいいよ。」
「なにそれぇー。ほんっとひどいよね、キャプテンはぁー。」

そんな会話をしながら、どうしてもさっきからずっと気になっていることを隣で静かに本をめくっていた
矢島さんに聞いてみることにする。

「ねえ、なんで嗣永さんは清水さんのことキャプテンって呼ぶの・・・?」
「あー、」

矢島さんがのんびりとそんな風に言って、歌っている清水さんに目を向けた。

「なんかね、自然教室で佐紀がリーダーになったときがあるらしくって、それからずっと桃はキャプテンって
読んでるって聞いたことがある。」
「そうなんだ。じゃあ、中学生の頃とかから知り合いだったのかな?」
「あっ、そうっ!!!!!」

矢島さんが大きな声を上げて、あたしはびっくりした。
びっくりしたのはあたしだけじゃなかったようで、清水さんまでもがちらっと矢島さんを確認する。

「えりかちゃんさあー、中学校のときおんなじクラスのときあったよね。」
「あ・・・、覚えてたんだ?」
「んー、実は忘れてたんだけどあの日?夜自転車で帰ってるとき、思い出してぇー。」

矢島さんは、少しだけ苦笑しながらそう答えてくれた。
やっぱりそうか・・・。
でも、まあ、思い出してくれたのはやっぱり嬉しい。
だって、ちっとも記憶に残ってなかったわけじゃないんだもんね・・・?

清水さんの歌っているこれまたやっぱりCMで聞いたことのあるスローなラブバラードが心地よくボックス内に
響いていた。
201 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:10


「プリクラとるべ?桃。」
「撮る撮る撮ろう?」

二時間歌ってその後、二人ははしゃいで嗣永さんの最後の言葉はあたしに向いて放たれた。

「う、うん。」

プリクラかぁー。
ナンカスーパーとかで一人でこっそりとったこととかあるけど、やっぱりこういうのははじめてで。

「いつもね、新しい友達と遊んだときは撮るんだみんなで。」

矢島さんがそう言って、あたしは『新しい友達』と言われたその言葉にちょっぴり感動していた。
だって、携帯のアドレスも交換した。
すべてがはじめてのはこと過ぎて、なんだかいろいろついていけなくって、二時間の間に三回もトイレに
行っちゃったけど、みんなでプリクラに収まったあたしは、少しだけ笑顔をつくってあげると、なんだか

ほんとうにみんなの友達みたいに見えた。
202 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:12




「ねえ、お願いがあるんだけどいいかな?」
「え、何?梅田さんめずらしいじゃーん。」

あたしは、クラス一元気なあの子に話しかけていた。
すんごく迷ったんだけど、勇気を出してみることにした。
だって、昨日の帰り道『絶対また来ようね。』って嗣永さんがあたしに笑顔を向けてくれたから・・・。
社交事例かもしれないとやっぱりあたしはネガティブだったけど、やつぱりそんなままじゃいやだから・・・・・・。

「んで、なになに?」
「あ、あのカラオケで歌ったら受ける曲とか教えてもらいたいなぁー、って。」
「あっ!」

彼女は、そんな風に言って、あたしの顔を指差した。

「やっぱ男でしょ?男できたんっしょ?そうじゃないかと思ってたんだよねぇー。」
「いや、あの・・・・・・。」
「いーからいーから照れなくっても。わかった。ウチに任せといていい曲選ぶよ。
あんね、男受けを狙うならまずこれだね。」

彼女は、あたしにショッピングモールの携帯サイトみたいなところから、いろいろな曲のジャケットと
タイトルを見せてくれた。

「ダウンロードすんなら、アド送るけど?ここ無料だからちょーいいよ。」
「あ、うん。お願いできるかな?」
「オッケー。携帯貸して。」
「あ、うん。」
「送信、とりゃ!!!!!!!はい。オッケー。登録登録。」

彼女は機種の違うはずのあたしの携帯をいとも簡単に操作して、自分のアドレスをあたしの携帯に登録してくれた。
そしたら、すぐに彼女からのメールが届く。
サイトのアドレスが乗っていた。

「ありがとう。」
「無料だけど会員制だから、空メ送ってからなるといいよ。」

なんだか、少し前までちょっと怖いかなって思ってたその子は、なんだかとても親切な子だった。
あたしは、知らないことだらけな自分を少し恥ずかしいと重い、だけど、新しいことを知るのはこんなにも
楽しいことなんだ、って同時に思い始めていた。
203 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:13
『そうなんだ。新しい曲覚えるんだね。』
矢島さんのメール。
昨日の夜届いてた『初メール(キラキラ)今日は楽しかったまた遊ぼうね^^』ってメールに返信できなくって、
でも、やっと送ってみた。
きっと、笑われる内容かもしれなかった。最近の曲知らないから覚えます。なんて。
でも、あたしには、矢島さんには隠すことなんてもうないような気がしていたから、送ることができた。
用件もないのにめーる、なんてのはできる人ではないし。
それに少しだけ、もしかしたら、次も誘ってもらえるかもしれないな、なんて期待を込めなかったわけでもない。

例によって、そんなこと考えて送ったメールの後には、少しだけ落ち込むのだけれど・・・。

あたしは、クラスのみんなに自分から積極的に話しかけるように努力した。
なんだか一番話しかけやすかったグループのこたちは、なんだかすごい団結力で、あたしのこと簡単に
受け入れてくれなくって、ショックだったりしたけど。
それでも、あたしはめげなかった。
生徒手帳にこっそり入れているあの日四人で撮ったプリクラを眺めてたら、なんだかいつでも勇気っていうか、
やる気が沸いてきていた。

そのうちに、席の近い子達と頻繁に話ができるようになった。
お弁当も一緒に食べれるようになった。
きっと、あたしを友達だって認めてくれたんだ、って思えた。

メアドも交換して、いろんな子のメールとかから、絵文字の使い方とか、用事がないときのメールの打ち方とか
勉強した。でも、その子たちと仲良くなればなるほど、矢島さんから距離が離れていくような機がした。
だって、あたしたちは、クラスが違う。
それは決定的に悲しいことだった。

もしも、クラスが一緒なら、今頃きっと仲良くなってたのは彼女たちだったかもしれないのに・・・。
204 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:14
『そっかカラオケ行ったんだね。歌える曲増えたの?』
『うん。増えたよ〜。なんか矢島さんたちのおかげで、また一つ積極的になれたって感じ?』

たまに、矢島さんとはメールをやりとりした。
前にあたしが書いた内容について、矢島さんからどう?っていう探りのメールが入ってくるときもあれば、
あたしが思い切って自分からメールをするときもあった。

クラスが違うだけじゃなくって、教室がある階さえも違う。そんなに遠くなかったら、今頃あたしは彼女を
遊びに誘えてたかもしれない。偶然、廊下で会ったその拍子に。
そのくらい、あたしは変われていた。
きっと、ずいぶん明るくなったのだと思う。

だってクラスにいても、仲良くしているグループじゃなくっても、よく話しかけられるようになったし、
お母さんなんて、「何かあったの?」とか心配そうな顔して聞いてきた。これには少しだけ参った。
あたしにとっては、すんごく前向きなことなのに、何故かすごく心配されちゃったんだもん。
でも、「変わりたかったから、かわった。」そんな風にまっすぐ気持ちを伝えただけでお母さんはほっとしたように
微笑んで納得してくれた。
それどころか、休みの日には一緒に買い物に行こうなんて誘ってきたりする。少しだけ高級なお店に。
お洒落したいでしょ?なんて、楽しそうに誘ってくれたりするんだ。

それで、また一つ矢島さんに遅れるメールの話題が増えた。
買い物に行った日の夜、それを着て撮るのはなんとなく恥ずかしかったから『こんな服買っちゃった』と写メを
撮ってメールを送った。

そしたら、送り返されてきたメールにびっくりしてしまった。

『え、やばい。すごい似合うよ絶対ぃー。着てるとこ見たかったな。あっ、そうだっ!!!!!すっごく久しぶりだし、
今度一緒に遊びに行かない?その服着てるとこも見たいし、カラオケでどんな曲歌えるようになったかも知りたいよぉー^^。』

そんなメールだった。
・・・誘われちゃった!?
一緒に、遊びにいけるんだ!?
なんだか、感じていた小さなボーダーみたいなもの。
それは、ただクラスが違うというだけで。
それが簡単に今とっぱらわれてしまったようで、あたしはすっごく舞い上がった。
これ、一度きりじゃない。

これからは、きっとあたしも誘える。
そんな風に思えて、とても、それはとてもとても、嬉しかったんだ。
205 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:17


次の土曜日、あたしと矢島さんは駅で待ち合わせをしていた。
みんなで遊んだあのカラオケボックスのある学校に近い駅前だ。

「ごめん、待った?」

少し時間よりはやくきすぎたあたしに、矢島さんはニコニコしながら手を振って近づいてきた。

「ううん。っていうか、まだ時間前だし。」
「あ、そっかぁー。えへへっ。」

矢島さんと、なんだか自然に話せてしまっている。
前にあったときは、少しばかり緊張みたいなものをしていたのに。
あたしの肩の力はあのときよりもずいぶんとずいぶんと抜けていた。

「わぁー、やっぱ似合うよね。スタイルいいからかっこいい。」
「そう?」

こんな風にほめられることにも、それほど照れることなく対応できるようになった。
でも、やっぱり、矢島さんに言われるのはなんだかすごく特別で、嬉しいけど、それは見せない。出さない。

「え、ねえ、一人?」
「ん?」

あたしが尋ねると、矢島さんはキョトンとした顔をした。
あれ、もしかしたら、清水さんと嗣永さんも一緒かと思ったんだけど・・・え、なに!?二人っきり・・・!?

「ううん。なんでもない。」

アタシは俯いてそう言った。

「もしかして、やだった?デモさ、沙紀も桃も今日二人で映画行く約束しちゃってたらしくて、これないって。
だから、我慢してよ。」

矢島さんは、そう言いながらあの日のカラオケボックスがある方に歩いて行こうとする。

「や、違うんだぁ。やなんじゃなくて、一緒かと思ったから少し驚いただけだよ。やなわけない。」

あたしは、なんだかシヨックを受けちゃってる矢島さんに向かって、明るくそう言った。

「そう?なんだぁー、あせった。あたし嫌われてる?とか思っちゃった。」

えへへっ、と矢島さんは笑う。
206 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:18
「そんなわけないじゃん。」

そんなわけない。はっきり否定してあげたかったのに、あまり主っきり良くは言ってあげられなかった。
それでも、矢島さんは「そかそか。よかった。」とニッコリと笑顔を見せてくれた。
でもさ、矢島さんって結構すごい私服のセンスしてるんだね。
いや、ちょっと前のあたしなら思いもしなかったかもしんないけど・・・。
なんていうか、派手で、ちょっと独特!?

「ピンク、好きなの?」

ちょっとイメージになかったので聞いてみる。

「あ、うん。好き。え、変かな?」

それが服装のことだとすぐにわかったようで、あたしは目をそらしながら、

「ううん。すごくかわいい。」と、それだけやっと言った。

矢島さんと、なんだかすんごく自然に会話ができている気がする。
BOXに入るのもスムースで、会話も絶えない。

「それでね、その子がいうには男受けするにはこういう曲だって話で。あたしなんもわかんなかったから、
うながされるままに、練習したりして。」
「あはは。そーなんだ。」

男受け、とかあたしが狙ってないのはきっと矢島さんも知ってると思う・・・・・・。
だって、あたしと彼女が出会ったきっかけになったあの人は・・・、女性だから。

「えー、でもこれとかちょーかわいらしそうだよね、聞きたいな。」
「ほんとに?悪いけど、うまいよ?」

あたしが笑いながらそういうと、矢島さんはキョトンって顔をした。
207 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:19
「ん?」
「ううん、なんでもない。」

次の瞬間には、いつもの笑顔。
友達とカラオケ。それにはもうずいぶんなれてきていたし。
それに、こういうのは適当でもいいと知った。
なぜなら、曲を選んでいたりする子は、聞いてなかったりもするから。

でも、二人でカラオケってはじめてだな。
っていうか、これって、デート?
デートなのかなぁ・・・?

あたしは、かわいらしい曲をかわいらしく歌いながら矢島さんの様子をチラッとうかがった。
矢島さんは楽しそうに手拍子をしながら、あたしに笑顔をくれた。
デート、なのかなぁ・・・?

二人でガンガン曲を入れて、ガンガン歌いまくった。
気づいたことがある。
二人だと、フリードリンクにしといても、なかなかドリンクに手がつけられない。
トイレに立ちづらい。
というか、矢島さんの歌うの聞きたいから、出て行くのがもったいない・・・。

「なんかほんと変わったよねぇ、えりかちゃん。」
「そぉ?」

曲もそろそろつきてきて、疲れたなぁーって頃、矢島さんに急に言われた。

「うん。なんか別人みたい。」
「そっかなぁ?」

なんだか、最近はそういうことさえもあんまり自分で思わなくなっていた。

「なに、前の方がよかったかな?」

沈黙がなんとなく嫌で、そんな言葉を振る。

「ううん。そうじゃないけど、なんかちょっとなんか勝手に置いてけぼり感?みたいのちょっと感じちゃった。」

なにそれ・・・。

「あたしはっ、あのね、あの日、あの不幸の手紙の日?」

ばかみたいな過去を笑いながら話す。
思い出すとちょっぴり恥ずかしくて、でも、なんだかちょっと楽しかった思い出。

「あの日からずっと、矢島さんみたいになりたかったんだよ。」

彼女が少し寂しそうだったから、このくらい言ってもだいじょうぶかな?って思った。

208 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:19
「え?」

矢島さんは、キョトン、とした。

「えーえー、何言ってるのかなぁ?」

あ、照れた。顔、嬉しそうだよ?
なにそれ、矢島さんって結構単純だったりすんの?
かわいい・・・・・・。

「あたし暗くてどうしようもなかったから、矢島さんみたいな子になりたいなって思い切って髪の毛の色も
変えたんだよ。」
「マジなの?」

うん、とあたしがうなずくと「えー?そうだったんだぁ。」なんてまた彼女は嬉しそうに笑った。

「なにそれ。あたしとか、普通じゃん。」

何を謙遜をって思ったけど、彼女があまりににこにこ笑うからあたしもつられて思わず笑った。

「えりかちゃんの方が、モデルさんみたいでうらやましいよ。」
「は!?モデル!?」

思わずびっくりしちゃって声がでかくなる。

「うん。スタイルいいし、なんか外人さんみたいだし、かっこいい。」

なにこんなほめられてんのあたし。やばい、顔が赤く鳴っちゃう・・・・・・。

「ねえ、もしかして、どっかの血混ざってる?」
「ううん、純日本人。」
「へ?そうなのぉー?うらやましいなぁー。」

なんだか、彼女はほんとうにあたしのルックスに関して好印象を持ってくれているみたいだ。
そして、二人でこんな風に遊んだりもしてくれる。
あたしは、なんだか胸にいっぱいあったかい気持ちが広がっていくのを感じていた。
このままいったら、もしかしたら??

だめだめ。変に期待すると、傷つくよ。
そうそう。まずはじっくり仲良くなっていくことを考えたほうがいい。
209 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:20



そんなことを考えていたんだけど、そんな日々の終わりはいとも簡単にやってきてしまった。
二人っきりで顔を少しだけ寄せて撮ったプリクラを次の日の日曜日、散々眺めてニヤニヤしちゃったりしながら
すごしていたあたしに、その次の日の月曜日、矢島さんが話をしにやってきたんだ。

「ちょっといい?」

いつかみたいに、耳元に唇はよってこなかった。
少し期待しちやった自分が、ばかみたいだと思った。
210 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:20
「あの、あのね?ずっと思ってたことなんだけど、言っていい?」

はじめて会話した日と、おんなじ場所で、矢島さんは妙に神妙な顔をして、あたしに振り返って
そんな風に言った。

なんでそんなにびくびくしてんの・・・?

あたしののどはゴクリと音を立てた。

まさか、まさかそんなわけはないよね。
あたしって、いつからこんな楽観的になったんだろう。
きっとね友達とかできちゃったせいだね。

暗い自分を忘れちゃったせいだね。
でも、あなたを見るとほんとの自分を思い出すはずなのに。
なんでだか、今はもう、あの頃の自分は思い出せないよ。

「もう一回告白したらどうかなぁ、って。」

舞美の気弱い瞳かあたしに向いた。

「そのこんなこと言って、絶対うまくいくとかはいえないんだけど・・・、
そのなんていうかえりかちゃんかわいくなったし、明るくなったし、きっと
なんていうかだいじょうぶなんじゃないかなぁ、ってずっと考えてたんだ。」

彼女は、何故かうかない顔をしていた。
でも、それはあたしが勝手に見ている錯覚なのかもしれないと思った。
だって、あたしの気持ちはひどく落ち込んでいたから・・・・・・。

「それだけ、言いたかっただけだから。」

彼女はそれだけ慌てて言うと、ひどく慌てたように走ってあたしの前から姿を消した。
フワリといい香りだけを残して。
そう、あの日も確かこの香りがしていた。背中側に載せた彼女の髪の毛の辺りから・・・。
211 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:21



何故だか、それからのあたしは落ち着いていた。
ひどくしっかりと、考えていた。
自分がこれからやるべきことを。
落ち込むのなんか、いつだってできるって。
あの頃のあたしだって、できる。

『もう一回、告白してみたらどうかなぁ?って。』

彼女は、そう言ったんだ。
つもり、きっと、何度でもチャンスはあると、あたしは自分に言い聞かせていた。

その次の日の放課後、暗がりの中、あたしは携帯電話を開いていた。
名前を確認する。
『矢島舞美』間違いない。

なんか、やっぱりあたしは少し勇気が足りなくって、
面と向かっていうのは、やっぱりひどく怖くって、
だから、こうすることに決めました。

矢島さんの靴箱の前で、あたしは心の中でそう唱える。
そして、彼女を最初に見たときのような希望の色をした黄色い封筒を彼女の靴箱の中、
彼女の上履きの上に載せる。

「ふぅ・・・。」

止めていた息を吐き出すと、ずいぶんと気持ちが軽くなった。

傷つくの、少しだけ怖いけど、それより何より、あなたにあたしの気持ちを知って欲しかったから。
思ってるのは、彼女じゃないよ、ってあたしの心が悲鳴を上げるから。

きっと、あなたは驚いて、真剣に悩むのかもしれない。
もしも、困らせたら、ごめん。
でも、あなたもあたしを少し落ち込ませたから、おあいこってことにさせてね。

あたしは、自転車置き場に視線をやった。
そう、あの日も丁度あそこに舞美の自転車があって・・・。
あれ?あれって、矢島さんの自転車じゃない?

どうして?
212 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:22

「これ、間違ってないよね!?入れる場所っ!!!!!!」

大きな声が後ろから聞こえて、あたしの心臓はひっくり帰りそうになった。

うそ・・・。なんで、いるの・・・・・・。

振り返れずに、あたしはたちすくんだ。

「間違えてないよね?」

今度は静かな声だった。
あたしは、小さく深呼吸をして、うなずいた。
そして、振り返る。

「矢島舞美ちゃんへ、って書いてあるでしょ?」

思わず泣いちゃいそうだった。
彼女がなぜかないちゃいそうな顔をしてたからかな。

「書いてる・・・。」
「だったら、矢島さんへだよ。」
「でも、中に書いてあることも、嘘じゃないんだよね?」
「不幸の手紙じゃなかったでしょ?」

あたしはあの日を思い出して、少し笑った。
彼女にとって、もしかしたら不幸の手紙・・・??なんて、チラッと思い浮かんでたら、
矢島さんが真剣にあたしの書いたあの言葉を眺めているのに、気づいた。
213 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:24
「そんなに見ないでよ。」

思わず、そうつぶやく。

「えりだけ手紙とかずるいよね。」
「え?」

何を言われてるかぜんぜんわかんなくて、あたしはキョトンとしてしまった。

「じゃあさ、あたしも手紙でいい?返事。」
「え、ああ、うん。いいよ。」

気まずくならないのが不思議だった。
あたしは、告白をしたのかな?そんな風に思っちゃうほどだったけど、舞美がやっと顔を
あげてあたしにニコッとなんだか泣きたそうな笑顔を向けたとき、胸がキュンとしてそれから
ギュッと痛くなった。

まるで、あの日みたいだと思った。
該当に照らされる道を舞美を後ろに乗せて自転車で走る。
なんとなく前より少しだけ彼女の体が近くにあるような気がして、胸がドキドキするほど、
それはあたしが恋をしているせいかもしれない、と思った。

「じゃあ、明日、手紙書きます。」
「ああ、うん。わかった。」

彼女の笑顔はできそこないの笑顔だった。
でも、なんだかずいぶんかわいい笑顔。
それはやっぱりあたしが恋をしているから?だろうな、きっと。

「ばいばい。」

そう言って、小さく手を振るその仕草もこの前よりもずっとずっとかわいく見えた。

その日の夜、眠れないことを想定できてたら、きっと返事は口にしてくれって、あのとき言って
いたのになぁ。
214 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:25
次の日も、少しも落ち着かなくて。
びっくりするぐらい、舞美の姿は見かけなかったし。さっぱり。
といっても、いつもこんな感じなんだけど、今日はやけに・・・、さけられてる感じとかも
しちゃったりとかして・・・。
でも、覚悟ならできてるはずなんだ。
だいじょうぶ。

あたしは、舞美とおなじことをしていた。
放課後の教室。いつかみたいに。だけど、今日は一人で待つ。
舞美はいったいどんな思いで、こういう時間をすごしたんだろう。
あたしが、ちゃんと手紙書くのか心配だったとか?
心配性・・・。
優しい・・・。
あたしのために、いつか泣いてくれた、舞美・・・。

変だな、やばい泣けてきた。

「えりかちゃん。」

机に突っ伏した途端に、あたしにかけられた彼女の声に、あたしは幻聴でも聞いたかと急いで
顔をあげた。
でも、それは幻聴ではなかった。
やばい、こんなにはやいなんて思ってもみなかった。

苦笑いの彼女。
夕暮れのオレンジが染める教室。
215 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:26
「直接渡すなら、口で言ってもおんなじじゃない?」

歩いてくる彼女に、にじみかけた涙が気づかれないようにと願った。

「でも、恥ずかしかったから。」

彼女がそう言ったけど、目の前に差し出されたピンク色の封筒を受け取った瞬間、何を言われたか
わからなくなってしまった。

『梅田えりかちゃんへ』

ゆっくりと、封筒を開けて、中の便箋を取り出す。
ずいぶんと文字数が少ない気がした。
便箋を開いて中を見たあたしの心臓は、止まってしまったんじゃなかと思った。
うるさかったセミの鳴き声さえも、遠ざかる・・・・・・。
216 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:26
『あたしも、好きです。  矢島舞美』

思わず勢い良く彼女を見たら、昨日から何度もくれた苦笑いをしてた。
苦い笑いじゃないね、苦笑いじゃなかったんだよね。
それって、苦笑いじゃなくて、照れてるの・・・?

照れてるの・・・?
うまく、笑えなくなったのは、あなたも、私に恋をしているから・・・?

心臓が早鐘のように騒ぎ出す。
セミの声がコミンミンとうるさかった。

「こんなに長い一日なら、昨日伝えとけばよかった。」

なぜだか彼女は泣き出しそうに見えて、あたしは立ち上がる。
傍にいてあげなきゃ、って気がした。
そしたら、彼女があたしに寄りかかってきて、あたしの心臓は破裂するんじゃないかってぐらいドキリとした。

いい香りがする。
あたしの、大好きな香り。
何度も何度も思い出した香り・・・・・・。

矢島さんが顔を上げて、その目がひどくうるうるしてることに気をとられてたら、
目の前でまつげがゆれて、唇にはふわりと・・・唇の感触・・・・・・。
永遠みたいで、ほんの少しのはじめてのキスの後、真っ赤になっていたらしいあたしを、
真っ赤になっている矢島さんはおかしそうに笑った。

「夕焼けのせいだよ。」
「ほんとに?」
「ん、うそ。」
217 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:27


『矢島舞美ちゃんへ、


    好きです。


       梅田えりか』

218 名前:_ 投稿日:2008/12/29(月) 03:27
 幸せレター。 −FIN−
219 名前:セツナ 投稿日:2008/12/29(月) 03:31
容量の確認不足でいろいろとすみませんでした。
今までにレスをくださった方もありがとうございます。
220 名前:セツナ 投稿日:2008/12/29(月) 03:38
>>167 名無飼育さん
>>168 名無飼育さん
>>169 名無し飼育さん

レスありがとうございます。
励みになりますです。
お待たせいたしました。
期待に応えられていれば良いのですが。

前スレのレスをのせさせていただきます。

>>36 名無飼育さん
リアルタイムで感想キターw
ありがとうございます。
こんな時間に読んでくれている方がいるとは・・・w

>>39>>40名無し飼育さん
こちらこそありがとうございます。
作者自体はagesage気にしないので、もし間違えてしまったときでも
謝らなくって大丈夫と思います。
221 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/24(土) 04:25
やじうめ〜〜♪
222 名前:名無し飼育 投稿日:2009/05/17(日) 21:47

ここのやじうめ好きです☆舞美が可愛い☆
楽しみにしてます。
223 名前:セツナ 投稿日:2009/12/05(土) 14:45
お久しぶりです。
少しだけ、いつもとは雰囲気が違うかもしれませんが。
224 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:46

   生きるという力。

225 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:47
太い幹に腰掛けて、うちの足はブラブラと揺れる。
今日はミニのスカートを履いているけれど、そんなことは気にしない。

だって、あたしを見える人なんてこの世には、存在しないんだもん。

妖精なんてつまんない。
妖精なんてつまんない。

プラプラと足を動かす速度が速まって、不思議なことにあたし達の姿は見えずともそれは
重力に相まってだんだんと体を心地よくしていく。
226 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:47
ブラブラ、プラプラ−

ブーツが心地悪い。
ジジジジジ−とジッパーをはずす。

「あっ!!!!!」

足を止めなかったのがいけなかった。
ブーツはあたしの悲鳴の直後に、地面に激突した。
あれ、つくって貰うの高かったのに。
少し口を尖らせて、あたしは高さ20mに届こうかという木の幹から地面に飛び降りた。
不思議なもので、こういうところは人間と違う。

ほら、フワリと足の裏にまるで小さな羽根が生えたように、一度フワ、と浮かび上がってから、
あたしはうまく着地するんだ。

近くのベンチでは、カップルが肩を組んで座っている。
どう見てもラブラブ。

だけど、妖精なんてつまんない。

こうして、カップルを横目にブーツを足に押し込んでいるからじゃないよ?
まあ、それもあるっちゃあるんだけど・・・。
わかっちゃうんだ。
知っちゃってるんだ。

あの二人、あと三日経ったら、破局しちゃうの。

あたしはスタスタとカップルに背を向けて二、三歩歩いた。
春の湖。春の緑はとても綺麗でうたしはこれ見よがしにのびをする。

そう、こんな風に気持ちよくいられるお仕事もあるんだよ。
丁度、そう、そこに咲いているピンクの小さなお花みたいな。
気持ちいいお仕事。

あの二人が出会って、恋して、なんとなくうまくいかないとき、あたしは粉を振りまくの。
それは、人間の世界で言う『チャンス』ってやつ。
あの男は、それをものの見事にゲットして、隣の美人を彼女にしちゃったってわけ。

227 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:47

『えりかちゃん!今日はもうあがっていいって!』

どこがもっそりと聞こえる、でも幼い声が頭の中に直接響いて、あたしは唇を尖らせた。

『あがっていい』、あたしはそういわれるのが嫌いだ。
なんか完璧、『お仕事』してるみたいで。
まあ?
完璧にお仕事なんですけど?

「ね!」

目をつぶって、心で思い念じた場所に、目を開くとあたしは立っていて、
さっきの声の持ち主にそう語りかけた。

「げ。意味わかんないし、ギャルだし。」
「そういう千聖だって黒いよ?」
「あー!黒いって言ったあ。」

ポカッ。
とわき腹にワンパン入って、

「痛い。痛い・・・。千聖痛いぃいいいい。」

あたしよりも20cmは背の低い千聖におもいっきり凭れてやる。

「もう、えりかちゃんって大人げなさすぎ。」
「大人じゃないもん。」

まだ人間の年で数えたら15歳だもんねぇ〜。

「それより、今日のお駄賃とポイント。」
「あ、あんがと。」

千聖が差し出したのは、透き通ったまるで空みたいな色した大きな飴玉。
あたしはそれを口に含む。
妖精のここは好き。お駄賃が飴玉だなんて。少し笑ってしまうけどかわいくってすき。
しかもこれってただの飴玉じゃなくって、すんごく幸せな気分になるんだよ。
人間はこれを『おいしい』って表現するみたいだけどね。

228 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:48
千聖にもう一つ手渡されたもの。
それは、ポイントカードだ。
透明なカードにポイントが表示されている。
前回から20p増えてる。
『見張る』仕事しかないとき、それはだいたいこの数値になる。

あたしのこの大好きな洋服たちは、このポイントを使って手に入れられるのだ。

晴れた日、空に浮かんでいる雲と、とびっきりに甘いお砂糖と、それからミルク。
そういったものでこの洋服は作られているに違いない。
洋服屋さんはそれを生業としているわけで、技術は絶対他人には漏らさない。
そうしないと、『妖精として人間に就く』仕事に戻されてしまうからね。
229 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:48


次の日のあたし。
電話をするカップルを眺めている。
彼女の部屋のある彼女の家の二階の側の木の幹に座って、プラプラと足を揺らしながら。

人間の世界には、それはそれはたくさんの障害があって、
それを取り除いてあげることが度々に必要だ。

今日、彼女はとんでもない『声』を耳にする。
部屋にいるはずの彼の部屋から、自分じゃない女性の声を聞いてしまうのだ。

『メイデイ、メイデイ。』

頭の中に聞こえてきた声に、あたしは背筋を正す。
聞こえてきたのは、昨日の千聖とは違う声。
少しハスキーな千聖の声とは違って、まさしく女の子って感じの声。
今日の担当は舞ちゃんか。

『もうすぐ、電磁波の影響で電波が乱れます。問題の女性の声を彼女が聞き取れない可能性が出てきました。早急に対処してください。』

「はぁーい・・・。」

あたしは、嫌々といったような声で返事をする。
だって、誰がそんな仕事やりたいものか。
あたしがもし、何もしないでいたら・・・あの二人はこのままうまく行くのかもしれない。

あたしは俯いた。
あたし、恋ってのを知らない。
たぶんそれってあの空色の飴玉みたいな味がすることなんだと思う。
だって、あたし、あれを食べてるとき、あの人たちみたいな笑顔になると思う。

それを奪われたら?

こんな迷いを感じることは日常茶飯事。
だって、『妖精』の仕事はほとんど『恋愛』についての仕事が多いから。
ごくたまにそれ以外の仕事ばかりを望む変わり者もいるけど、あたしはみんなと一緒だし、別に『恋愛』でいいって思ってた。
230 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:49
だけど、だけどね、

『メイデイ、メイデイ。準備は整いましたか?もうすぐ時間となります。』

すごく、胸が痛いよ・・・。
あたしは、その瞬間、胸に手を当てて、目をぎゅっとつぶった。
心の中で、決心をしたんだ。

あたしは、彼女にその女性の声を聞かせない。

そう思ったとたんに、つまんなかった妖精の仕事のこと、モヤモヤ悩んでた全てのこと、
一気に胸からつっかかりを無くした。

窓の中を慌てて見る。
彼女は幸せそうに微笑んでる。
少し力を込めて耳を澄ますと、
『バレなかったみたいだ・・・。』
と例の彼の声が聞こえた。

これで、二人はうまく行く。
だって、そうなんだ。
彼女の相手の彼は、たった一度事故のような形で、他の女性とキスを交わしてしまった。
その女性は、こともあろうにその瞬間をしっかり写メしていて、彼を脅してきた。
『彼女と別れないって言うなら、彼女にこの写真見せるから。』
そんなことは馬鹿げている。
そんなことで、あたしが最初っから見守っていたかわいいかわいい恋をしていた二人を
破局に追い込むことなんて、やっぱり馬鹿げているよ。

あたしは、間違ったことはしていない。
あの二人が末永く続くことはあたしの幸せでもあるけれど、その前に二人の幸せなのだ。
だってほら、幸せそうな笑顔で電話を切った後も彼女は、眠りに就くまで幸せそうな笑顔で・・・。
231 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:49

そのとき、胸にフッと不安が過った。
あたしはルール違反をした。
いいんだ。そのことは悔やんでいない。

でも、なぜ・・・?

なぜ誰も何も言ってこない?
ドクリ−
と心が跳ねた。

ルールを破った妖精はどうなるって言っていただろう。
どうしよう、どうしよう。
そんなこと、自分の身に起こるわけないと思って、誰の話もきちんと聞いたことがなかった。
あたしはどうなってしまうんだろう。

そんなことを思って心を暴れさせていると、ポツリと前髪にしずくがたれた。
雨・・・。
そう、この二人が別れるはずだったのは、雨の日。
今日を終えた明日の雨の日。
あたしは、間違ったことはしていない。

ぎゅっと目をつぶり、あたしはあたしの戻るべき場所へ戻った。

トクリ−
とまた心が揺らぐ。
誰の気配も感じない・・・。

目を開くと、千聖と舞ちゃんがあたしをおびえるようなあるいは寂しそうな目で見つめている。
それは、どこか捨てられた子犬のようで、あたしは目に涙を溜めて、ふっ、と笑ってしまった。

ああ、そんなにひどいことをしたんだな。
とどこか達観してしまっていた。

「えりか。」

人間で言う、関西なまりの妖精。
金髪で肩をいからせたこわぁーいこわぁーい中澤先輩。
彼女が角を曲がって姿を現し、あたしに真っ直ぐ向かってきた。

232 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:50



妖精−
それは、魂のよりどころを無くした心達が成るもの。
どこからどうきたのかは、誰も知らないはずで。だって教えてもらったことがないから。
あたしは、実際そんなことは気にも留めない能天気なタイプの妖精だったため、
この年になるまでその意味を、存在の理由を考えたことがなかった。

ただ、この世界に必要なもの。
それだけはどこかでわかっていたけれど・・・。


233 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:50


「よく考えたら、あたし、自分がなんでここにいるのかもわからないんですよねぇ。」

そう言えば、ここに来るまで考えたこともなかったな。

「それはみんな似たようなものだよ。」

隣で梨華さんはそう言った。
白いシンプルなワンピースにサラサラの髪の毛。
華奢な膝を抱いている彼女にあったのは、丁度あたしが要請のお仕事の『恋愛』組からはずされた日のことだった。

あの日、中澤さんはあたしのことを怒鳴りつけ、
それから・・・それからは、ただぽつりと静かに『明日、あの二人のこと見とったらええわ。』と言ってあたしに背を向けた。

次の日、あたしは『なにさ?』と開き直って二人を眺めていた。
千聖も舞ちゃんもあたしに近寄ってこなくなって、それだけのことで心はたいぶやさぐれていて・・・。

でも、あの二人はうまくいくんだから。

そんな根拠もない自信だけが、唯一のあたしの心の支えだった。

雨がザァーザァーと降り続く日、それが悪かったんだ。
と、後であたしは知ることになる。
もともと、彼女の恋を応援するところかせはじまったあたしのお仕事は、いつの間にか彼女の側に立って行われることが
多くって。
だから、あの日もあたしは彼女の側をフワフワと歩いた。
雨の日は、着地ができない。
何故なら、足を地面につけるたびに少し地面にたまった雨水−ちゃんとした原理は知るはずもないのだが、人間界のもので
妖精に一番大敵なのは水なのだ−に影響が出てしまうから。
高い高い空の上から、見守る。

幸いあたし達の体を水は素通りする。
それでもささいなゆがみはあるらしいのだが、この高さなら人間が気づくことはまずない。

彼女が差した真っ赤な傘。
雨粒がはじける音が聞こえる。

遠くから歩いてくるらしい紺色の傘。
それが誰のものかもあたしにはすぐわかる。
彼、だ。
そして、その隣にいる不穏なものを察知して、あたしは耳を済ませた。

234 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:51

『だって今日は約束してないんでしょ?』
『そーだけど・・・。』
『だって雨だし。傘に隠れれば気づかれないって。』
『・・・。』

それは、予測していない事態だった。
あたしは、それほど細かい人間ではなくって、どちらかというとフワフワと不真面目だった。
だいたいの出来事は頭にいれるけど、ディテールは置いておく。
そういうタイプの妖精だった。

彼と彼女がどうして偶然鉢合わせた彼のマンションの前で破局を迎えるのか・・・。
それは、ただ単に昨日の電話のことが原因なのだと思っていた。
でも、違ったのだ・・・。

彼女は、彼とそして察するに腕でも組んでいるであろう知らない女性を目撃してしまう。
なんの決意も、なんの予測もなしに。

耳を塞いでしまいたかった。
彼と彼女の距離が10mまで近づいたとき。

耳を塞いでしまいたいぐらいに、彼女は黙り込み・・・。
彼も黙り込んだ・・・。
昨日の電話では、喧嘩をするはずだった。
なのに・・・、今は・・・。

彼女の心の破れる音がした−


フワッと風が舞い降りた。
隣に中澤さんがいた。

235 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:51
「わかったやろ。運命はかわらん。アンタがやつたことは無意味やったんや。」
「そんな・・・。」
「違うで。アンタ、妖精の仕事は嫌なことも請け負うことやと思ってたやろ?でも、それは違うで。」

赤い傘が、紺色の傘から離れていく。
どんどんどんどん離れて・・・角を曲がって行ってしまう・・・。

「彼女には昨日の電話の声を聞くほうが幸せなことやったんよ。妖精とおんなじように人間にだって
性格があってなぁ。彼女はあの声を聞くことによって、彼とちゃんと話をすることになる。あの要請書
には書かれてなかったけど、彼の浮気はほんとうなんよ。」
「え?」

かすれた、声が出た。

「写真を撮られたのはたまたまやった。あのキスは確かに事故やで。でも、あの彼氏の方はその後に
事故ではすまされん、列記とした浮気をしてるんよ。今日ここで、彼はそれを彼女に打ち明けた。それで
二人は終わるはずやった。彼女が冷静に話をできたから、きちんとけじめをつけることができた。

せやけど・・・。
もうあの二人、あえへんのよ。今日、ここで別れてから一生。」

「・・・・・・。」
「妖精は幸せをつくることしかせぇへん。例えそれがちっちゃなちっちゃな、一見幸せには見えんことでもな。」

言葉が、出なかった。
ただ、いつににく中澤さんがあたしに優しく話しかけていて、それはなんとなく『母親』のようだと思っていて、
涙だけが、ほっぺたを伝った・・・。
236 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:52


「まあた考えてるの?今日、えりかちゃんにお仕事くるんでしょ?」

梨華さんの声にハッとする。
梨華さんは、前にあたしがいた部署にはなかった役職に就いている。
ここの妖精達のメンタル面をサポートする仕事。

つまり、失敗をやらかした妖精には、それなりに『罰』を与えなくてはいけなくて、それは世の中をもっと知るため
だとか社会勉強だとか、いろいろな言葉に変えられてしまうんだけれど・・・。
『仕事がくる。』その事実がこれほどまでに心を押しつぶしたことはない。

あの後、あたしの寝泊りしている部屋に隣の部屋の千聖と舞ちゃんがやってきた。
『えりかちゃん移動だって?』
『大変・・・。』
『だってさぁ、飛ばされるの挫折部でしょ?』
千聖の言葉に気分が重くなった。

そう、あたしが飛ばされたのは『挫折部』人生に挫折した、もしくはこれからする人を相手にする仕事。
でも、妖精は人を幸せにするんでしょ?
そんな理屈は通用しない。
なんせ、ここはもしかしたら自分の就いた人間が最終的に『自殺』してしまうかもしれない場所なんだから。

大抵の人に日常のちゃんとした軌道はなくって、
それって、やけになっている人だとか、一人ぼっちの人だとか、そういう環境におかれる人たちにゆくあることらしいんだけど。
そんな中で、妖精は人生に『生きる力』を与える手伝いをする。
だけれど、軌道というか、向かっている先が常に不安定な人たちを取り扱う『挫折部』は先行きの見えない仕事を
担うことになる。
それは、いつのまでもその場しのぎの幸せになるのかもしれない粉を撒く。

そうしてそれって、もしかして妖精がやる気をなくさないために敷かれているルールなのかもしれない、と思ってしまった。
あたしは意外とネガティブな妖精なんだろうか・・・。
だって、『自殺します』とかいう最終結果がわかっている人物を助けてもあげられないのに・・・なぐさめるだけの仕事なんて、
それこそつらすぎる。
こっちの心が壊れてしまうことだってありうる。
237 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:52
最近気づいたのは、自分が意外にネガティブなことと、強くないってことだった。
それを石川さんに話すと彼女は、
『うんうん。いい兆候だよ。』とニコニコと笑った。
『自分を知りすぎた気になることはよくないことだけれど、ある程度自分のことを知っておくのはいろいろと後々役にたつからね。』
と。
『ただし、これだけは覚えておいてね。『ネガティブだから』とか『弱いから』なんて決め付けだけはしちゃ駄目だよ?それって妖精
のお仕事に似ていてね?幸せと見えない幸せを与えるように、なんにもできない自分と思ったって、相手にとってはあなたの
その少し嫌だなぁ、って思っている部分が強みになったりするもんなんだよ。弱さを知らなければ、他人の弱さはわかってあげられない。
強さを知らなければ、相手のほんとうの強さはわからないってね。』

半分以上、理解できなかった。
あたしは実際、かなりやさぐれていたし、もうどうでもいいとさえ思っていたりした。
どうしても、今回のことがうまくいくようには思えなかったし。
だって、この部署にいるのって大抵が二十歳を過ぎている大人ばっかりで・・・。
まだ子供のあたしには、荷が重過ぎる気がしたのだ。

『荷が重過ぎる。』
そう石川さんに零したとき、こんなことも言われた。

『えりかちゃんがさ、重すぎるという荷物は、あたしにとってはそれより何十倍も重い荷物になるかもしれないんだよ?』
今度はさっぱり意味がわからなかった。
『つまり、時と場合と相手によって、あたし達は何色にでもなれるの。はい。』
そう言って、石川さんがくれたのは飴玉だった。虹色の飴玉。
それはやっぱり幸せな味がして、あたしはとりあえずその飴玉のためにお仕事をがんばろう、って決めたんだ。
238 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:52


あたしに与えられた仕事は、なんとなく納得のいくものだった。
相手が、14歳の女の子だったから。
もしかしたら、これが石川さんの言っていた強みに繋がるように誰かが用意してくれたのだとしたら?
でも・・・。
内容を読んであたしは愕然とする。

『矢島舞美』
あたしの担当するその子は、陸上をやっている。
中学生の部門で、県の記録を持っているような本当に走る能力に恵まれている子だ。
その子が、不運にも靭帯を断裂してしまう。
それ自体はスポーツ選手などにもよくあることらしいのだけれど、彼女の場合は少し特殊なことが起こってしまい、
今までみたいに走ることができなくなってしまうらしい。
そこまでは、決められた、既に定められている運命。変えることはできない。
あたしに与えられた仕事は、その後の彼女のケアだ。
陸上だけが人生の全て、と言い切ってしまうような少女の人生に『生きる希望』を見出すキッカケを与える。

書類に今度こそはしっかりと目を通したあたしは、読むんじゃなかった、という気分になる。
もうすぐあたしはこの子の元に向かう。
初日は石川さんがついてきてくれるらしい。

「はい。これ。大事にしまっておいて。」

ぐっと力を入れた声が聞こえてきて、テーブルにドンッと振動。
石川さんだった。石川さんが・・・大きな壷に詰められた大量の妖精の粉を持ってきた。
あたしはうろたえる。

「いや、いくらなんでもこの量・・・使うわけじゃないですよね?」

今までのお仕事なら、一人につき片手で足りる程度の粉しか貰ったことがなかった。
239 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:53
「はい。これ。大事にしまっておいて。」

ぐっと力を入れた声が聞こえてきて、テーブルにドンッと振動。
石川さんだった。石川さんが・・・大きな壷に詰められた大量の妖精の粉を持ってきた。
あたしはうろたえる。

「いや、いくらなんでもこの量・・・使うわけじゃないですよね?」

今までのお仕事なら、一人につき片手で足りる程度の粉しか貰ったことがなかった。

「ほら、今回から無期限でしょう?」

そうなのだ。気分が重くなる理由はもう一つあって。
このお仕事には期限がついていない。
あいまいなターゲットの彼女が『生きる力を見出すまで』なんて期限じゃあ、いつまでかなんてわかりっこない。

とりあえず、もてない事はない粉を部屋に持っていく。
今日はまだ使うべきときではないので、持っては行かない。
今回の仕事が、今までと違うところは期限がないというだけでなく、仕事をする予定もないのに相手を見学しに
行く期間が十分に与えられるところだった。
このルールの理由として、一つに『相手を知ること』といわれている。
つまり、全てが・・・何から何まで今までの仕事とは違ってやっかいなのだ。
全てはあたしの手腕にかかっているといわれているようで・・・。

そりゃ、自分を見つめなおしてもしまいますよ・・・。
240 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:53


時間がきて、あたしは両頬をペチッと叩いた。
隣で石川さんはクスッと笑って、『そんなに緊張しなくっても大丈夫よ。まだ何も起こらないから。』とにっこりと
笑顔を見せた。

あたしは、半ば興奮さえしていたかもしれない。
わけもわからずテンションがあがっていた。
そんなとき、隣の石川さんが「いくよ?」と声をかける。
あたしはうなずく。

目をつぶった。
妖精の国では感じることのない太陽の光を瞼の裏に感じた途端に、胸に鉛が落ちた。
はじまってしまった。
そうゴングを打たれた気がした。

「おーおー、いるいる。」

石川さんの声がして、あたしはゆっくりと目を開けた。
瞬間、まぶしく感じた太陽の降り注ぐグラウンドに目がなれた頃、一人の少女が目に止まった。

ポニーテールにした髪の毛が頭の後ろでぴょんぴょんと跳ねる。
足は確実に地面を蹴り、それでも・・・少しも重力を感じさせない。
彼女は、速い。
素人目のあたしにもくっきりはっきりとそうわかる走りだった。
少し焼けた肌、太ももの筋肉は力強く浮き出て沈む。
額には汗がひかり、前髪は流れ・・・彼女は、そう、とても・・・

「綺麗でしょ?」

隣の石川さんがそう言って、心がドキッと跳ねて、急に我に返る。
もう一周を走り終えるほど、彼女を見つめ続けていた。
241 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:54
「私もハッとしたの。一週間前に彼女が走ってるとこ、見て。」
「彼女が・・・?」
「そう。矢島舞美ちゃん。」

沈む、鉛。
未来を知っていることは、太陽よりも輝いて見えるあの少女の未来を知っていることは、
あまりにも、あまりにも残酷だった。

「石川さん・・・。」
「あ、それじゃ、私はこの辺で。」

石川さんは急にあたふたして、それからシュッといなくなってしまった。
『あたし、やっぱりできません。』
急にそう言いたくなった。
聞いて貰えなかった・・・。

あたしは、暖かいアスファルトに腰を置く。
膝を抱える。

彼女は走る。
まるで、そうするためだけにこの世に生まれてきたような佇まいで・・・。
涙腺がふっ、と緩んだ。

こんなにも、綺麗なものがあるんだな。

そんな風に思っていた。


242 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:54


「どう?舞美ちゃんのこと、少しはわかってきた?」

あたしが戻ると、石川さんが声をかけてきた。

「はい。少しは。」

彼女は、陸上がほんとに大好きだということ。
最初のうちはそれしかわからなかった。
それでも、だんだんにわかってきたこと。
彼女はいつも一人でいること。
県の記録を持っていることはあんなにも人間通しに溝を作ってしまうものなのだろうか・・・?
何か彼女が好きなものを探そうかとがんばったけれど、
ほんとうに陸上だけのようで・・・。
あとわかったのは、彼女が真面目な生徒だということだけだった。
家にいるときと、授業を受けているとき意外は、大抵走っている。
彼女には、それが一番心地の良いことなんだろう。

「ふぅ〜ん。なかなかいい観察眼をお持ちのようで。」

石川さんは背中をポンッと叩いてうれしそうにそう言うと、ハナウタを歌いながらどこかへ行ってしまう。
その言葉は、ただのはげましとかしか思えなかった。

あんなに陸上全ての人が・・・それを失ったとき、どうなってしまうのか・・・。
考えるのが怖かった。

243 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:54


そして、その日はあたしが拒むほどはやく近づき、そしてとうとう県大会当日がやってきた。
この日、彼女は小雨に濡れたコンディションの悪い競技場を走る。
その途中、何かアクシデントが起こる。
それはからまりにからまって、悲惨な結果を生む・・・。


あたしは、この数日の間で心に決まってきたことがあるのに気づいている。
あたしが、彼女を見ていなくなって、彼女の運命は着実に進行していくこと。
抗いようのないその事実に、少しでも希望を与えてあげられるのは自分だけかもしれないと言う事。
だから、あたしは決して、彼女から目を逸らさないでいよう、と。
そう心に・・・たった今、心に決めた。


彼女はウォームアップをし、淀みなくコースに並ぶ。
いつもの凛とした姿がそこにはあって、彼女は手首と足首をクルクルと回した。
スタートの姿勢をとり、そして−パン−という乾いた音。
場内はより一層歓声を増す。
その一瞬はすぐにやってきた。
考えればわかるようなものだった。
彼女は、後半に強い選手で・・・。
1200mを走りぬく間に、まず、転んでしまう。
最初のカーブだった。
あたしは、息を呑んだ。
聞こえるはずのない地面と彼女のぶつかる音。
そして・・・彼女の足を紫のユニフォームを着けた選手が踏んづけて転ぶ・・・。
立ち上がりかけていた彼女の足は、変な風にねじれ・・・。


気がつくと、あたしは立ち上がっていて。
神様にお祈りでもするように両手を組んでいた。
手の甲に爪の後が残るほど、強く・・・。

舞美は、下唇をかみ締め、なんだかわけのわからないブザーが鳴り響き、
担架が運ばれてくる。
舞美はそれに載せられ、競技場の外に連れられる。
稲葉コーチが心配そうに駆け寄ると、あたしの視界から舞美たちは消えてしまった。

動くことができなかった。
放心していた。
気がついたとき、周りはもう帰ろうとする人々であふれかえっていて。
あたしは、急いで彼女の運ばれた病院に向かった。
急にテレポートした所為か、病院の中に入るなりグラリ−と強いめまいがした。

244 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:55

「先生・・・!あの子は・・・?」

舞美の母親の声が聞こえた。
靭帯断裂。
再起に時間がかかり・・・。
間違いなく彼女のタイムは落ちてしまう。
その上の、踝の骨折・・・。
もう、陸上に戻れるはずもなかった・・・。

245 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:55

********

246 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:56
彼女が入院してから、五日。
驚くべき展開。
彼女は今日まで一度も泣いていない。
付きっ切りで見ていたあたしが言うんだから間違いない。
まあ、プライベートな体を拭いている瞬間やトイレに行っている瞬間はさすがに見てはいないのだけれど・・・。

かわいい巾着に詰めた粉も使用できず。
あたしは、彼女に何かをしてあげたいのに。

お母さんが面会に来るたびに、笑顔を見せる彼女。
足を踏んづけた子が、謝りにきたときに笑った彼女。
一人になって、その顔が表情を無くすたびにあたしの胸は痛んで、あたしの目からはしずくが落ちた。

何も、何もできないの?



ほんとうにあたしは何もできなかった。
声をかけることさえも。
彼女の望みをかなえることも。
何もできない。



彼女は、少しずつベッドから起きられるようになった。
彼女は、少しずつ歩けるようになった。
未だ、泣く彼女はいなかった。

聞いてみたかった。
どうしたら、そうしていられるの?
なんで、泣かないの?
なんで、投げないの?

奇妙にさえ思えるほど。
本当は、悲しくないんじゃないの?

あたしは、そんなことまで考えるようになっていた。
247 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:57

ある日、あたしは病室の窓の外で妖精の粉を一握り撒いた。
半ば、やけだ。

いつか誰かに聞いたことがある。
目的がないと、粉は作用しないと。
その粉は作用するはずもなかった。

のだが・・・。

いつものように粉は空気中の水分を集めるように粒子が結晶になり、そしてまた溶ける。

「あ・・・。」

舞美の声だった。
心臓がドキリと跳ねた。
そう言えば、ここんところ声もあまり聞いていないような気がした。
いや、違う。
さっきみたいな素の声を、聞いていなかった。

彼女の視線を追いかけると、そこにはペットボトルのふた。
それがくるくると回転しながら部屋を出て行く。
うまいこと転がるものだ。
あたしがスッと彼女のあとを追いかけていくと、隣の病室にそのフタは吸い込まれていった。

その瞬間、見てはいけないものを見たような気がした。
気がした、という表現になったのは、あたしの体が急に生々しく重力を感じはじめたからだ。
人間の匂いが・・・鼻をつく・・・。

側で足音がした。
松葉杖の突かれる音。
舞美・・・?

グルッと身体が一回転したようだった。
グルグルと頭が回る。
迫る大型のトラック−避ける拍子に見た花壇−後頭部に受けた衝撃−そして−さっき病室の外で
見た名札

『梅田えりか』

それは、あたしの名前だった。

ピッピッピッ−
状況をどこかで掴みはじめたとき、正確な電子音が聞こえてきた。
舞美は・・・?

あたしは、彼女を見てなくちゃいけないのに。
目が痛い・・・。
瞼が、重い・・・。
248 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:57

舞美・・・?

口に出そうとするけど、口が動かない。
体中の感覚が麻痺している。
脳みそがグラグラとブレる・・・。

トン−

とお腹に衝撃を感じた。

「ねぇ、」

舞美の声だった。

「あなた、半年も眠ったままって本当?」

そう、あたしは半年以上も眠ったまんまだ。

「あたしもね、眠ってるんだ。」

お腹に乗っているのが舞美の額だとわき腹に触れた鼻のような感覚でわかる。

「もう2ヶ月・・・眠ってるの。」

なんとなく、なんとなくだけど、彼女の言う意味がわかる。
あたしは、あせっていた。

はやく、はやぐ瞼を開かないと・・・。

はやく−
249 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:58

そう思った瞬間、薄く瞼が持ち上がった。
半分カーテンの閉められた真っ白い部屋は、それでもあたしの目には限りなくまぶしく・・・。

「ま・・・ぃ・・・み・・・。」

随分と、弱い声だった。
ひどく掠れていた。
あたしは、彼女を呼んだ。

彼女は驚いたようにあたしを見た。

「起き・・・たよ・・・・・・。」

その瞬間だった。
舞美が表情をゆがめたのは・・・。
その瞳がジワッと滲み、涙が溢れ、次第に子供のように泣きじゃくる。
その泣き声で、看護士が駆けつけ、あたしの親に連絡がいった。

舞美とあたしは引き離され、あたしの母親は涙を浮かべながらあたしのほっぺたをいとおしそうに撫ぜてくれた。
全てを思い出していたあたしは、涙を止められずに、いた。

理由のわからない昏睡状態。
それは医師には説明のつかないことで。
でも、あたしには立派な理由があった。

大好きな、友達が自殺したのだった。
助けてあげることができずに・・・。
あたしは、ただただ無力で・・・。
生き延びるために、眠るしかないとあたしの身体は悟り・・・。

それでも、まだ生き延びていたかった。
あの事故は、妖精がくれたチャンスだったのだろうか・・・。
あたしを、こんな風に導くための・・・。
250 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:58

あたしの涙がかれた頃、舞美が部屋の側に立っていた。

「入りなよ。」

少し弱弱しいけれど、あたしの声は素直に出てくれるようになっていた。
舞美は泣きはらした顔でコクン−とうなずいた。

「さっき、なんでここにいたの?」

知らない振りをしなきゃいけないことに、気づいていた。

「フタが、転がって・・・。あなたの姿見てたら・・・なんか、なんかきてさ・・・。」
「ちゃんと、起きたの?」

返事がこないことはわかっていたような気がした。

「あたしは、あなたがきてくれたから、起きたよ。」

ただ、それを伝えなきゃいけないような気がした。
それが妖精がくれたチャンスなのだと思った。

「・・・あたしも起きた。」

舞美はあたしの肩の辺りをべんやりと見て、言った。

「うん。きっと。またくじけちゃうけど、起きた。」
「そっか。うれしい。」

なんだか、とてもうれしかった。
舞美がそこにいること。
目が、合うこと。
言葉が届くこと。
言葉が返ってくること。

「友達になってよ。」
「はは・・・。」

舞美は、気が抜けたような笑い声を零した。

「うれしい。友達、久しぶりだな。」
「そ?」

あたしの言葉に舞美はうなずいて。
柔らかないい匂いがした。
これはきっと、生きている匂いだと思った。

251 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:59

*******

252 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 14:59
「まだ走っちゃ駄目だって。」

車椅子に座って、あたしはそう声を荒げた。

「平気平気、つっ・・・・・・いったあ!」

舞美がぴょんぴょんと片足で飛び跳ねる姿にあたしはぷっと吹き出した。

舞美は、もう陸上に未練はないと言う。
だんだんと走ることが窮屈になっていたということを教えてくれた。
記録を出さなきゃいけないこと。
それが嫌だと愚痴った途端に周りに人が寄り付かなくなったこと。
そんな全てが嫌でたまらなかったこと。
自分は檻に閉じ込められていて、一生抜け出せずにいるような気がしてたこと。
それでも、走っていれば幸せになれたこと。
一筋縄にはいかないしがらみって、どこにでもあるんだ。

あたしが目覚めたとき、奇跡は起きると思ったこと。

あの日から、少しずつリハビリなんかをして身体は動くようになってきたけど、
だいぶつかってなかった筋肉が戻るのには、少し時間がかかりそうだ。

舞美が奇跡というのなら、あたしの目覚めは奇跡だったのかもしれない。
目の前で「いったいよぉ。」と甘えた声で言う少女はあたしにそう思わすには十分なパワーを持っている。
『えりかちゃんさあ、だって最初あたしの名前読んだんだよ?ほんとに覚えてないの?聞き間違いじゃないって!』
彼女にはそう言われるのだけれど、あたしは半年以上も眠っていて、あの日はじめて彼女と出会ったのだから、
名前なんて知っているはずもなくって。

それでも、二人の出会いが奇跡だと言うのなら、信じることにする。
そして、信じることはなんだか明るい未来を連れてきてくれるような気がするんだ。

「ぜぇーったいさぁ、えりも一緒に走ろうね。海とかマジ気持ちぃから。」
「運動は苦手だよ。」
「えー?」
「うそうそ。舞美となら走ってもいいよ。」
「へへ、やったぁ。」
253 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 15:00


『えりかちゃんほんとにうちらのこと忘れてるよぉ!』
『しょうがないじゃん。そういう決まりなんだし。』
『っていうかあの二人ってなんか友達以上っていう気ぃしない?ウチらみたいにぃ?』
『あー、舞も思ってたっ!なんか怪しいよねぇ。あ、手なんか繋いだし。』
『ちゅうしたりして、ちゅう。いけ!そこだっ!』
『まだはやいよ。千聖じゃないんだから・・・。』
『何それぇー。』

それはどこか遠い遠い世界の妖精達のおしゃべり。
254 名前:_ 投稿日:2009/12/05(土) 15:01

   生きるという力。-FIN-
255 名前:セツナ 投稿日:2009/12/05(土) 15:04
読んでて気づかれたことと思いますが、かなり前の話しですw
レスありがとうございます。

>>221 名無飼育さん
やじうめです。
まだ需要あるのかなw

>>222 名無し飼育さん
今回はどうかわかりませんが。
ありがとうございます。

256 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/05(土) 23:40
おぉ来てた
密かに待ってたよ
257 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/07(月) 02:45
泣かせるねぃ
258 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/07(月) 21:41
初めて読みました
どれも面白いです
259 名前:セツナ 投稿日:2009/12/07(月) 23:09
あまあま系いきますだ。
レスありがとうございます。つくかヒヤヒヤしてたので、嬉しかったです。

>>256 名無飼育さん
ありがとうございます。
嬉しいです。です。


>>257 名無飼育さん
こういう話しはどうかなと思ったのですが、ありがとうございます。

>>258 名無飼育さん
初レスとは嬉しいです。
お目にかなってよかった。

260 名前:_ 投稿日:2009/12/07(月) 23:13

 大きなバスタブでもてなして。
261 名前:_ 投稿日:2009/12/07(月) 23:14
チャポン-

腕を動かすと心地いい音が響く。
向かいの彼女は、タオルで遊んでて目が合うとふにゃ、と笑った。
ああ・・・のぼせそう・・・。

「あのさぁ、なんでうちだけお風呂みんなで入るの禁止なのさぁ。」
「ん?」
「いや、聞こうよ。人の話ぃ。」

あたしは思わず笑う。
タオルでブクブクゥー、って子供ですかアンタは。

「みんなでお風呂っ!うちも入ったってよくない?」
「駄目ぇ。」

余裕の笑顔浮かべちゃってさぁ。
まあ、承諾したのはあたしの方なんだけど・・・。
ほんとに言いたいのはこんなことじゃなくて・・・。

「えりはあたしのものだから。」

へへ、って。
・・・甘やかし過ぎましたよねぇ・・・。
っていうかウチMなのかなぁ?
独占欲が強い彼女に従うの、好き・・・。

262 名前:_ 投稿日:2009/12/07(月) 23:14
「じゃあ、舞美もみんなと一緒に入らないでよ。」

そう、そこなのよ。問題は。

「えー、なんで?」

ニコニコ笑いやがってぇ。
ひょっとして、待ってやがったなぁ?

「妬く・・・から。」

あたしがお湯に口がつかりそうなぐらい浸かって言うとえりぃー!って舞美がくっついてきた。
あの、なんか、あたってるし。
ほんとは、あたし恥ずかしいし。
でも、一緒に入るよね?って笑顔で言われたら断れないって言うか・・・。
ぶっちゃけ、見たい、し・・・。

なのに、お湯は乳白色とか・・・。

「あんまくっつくなぁあ。」
「あはっ!照れてるっ!かぁわいっ!とか言ってぇ。」

もう、なにこの人。
面白いんですけどぉー。

「まいみは恥ずかしくないわけぇ?」
「恥ずかしいけど。」
「え!?見えない。見えないって。」

思わず顔をのけぞって彼女を見る。

「でも、ほら、なんかさ、えりとだけ入れないってのも寂しいじゃん?」
「んー?」
「みんなとしてること、えりとしてないとかってありえないじゃん。思わない?」
「んー、まぁ・・・。」
「なんかそんなこと言われると恥ずかしくなってきたじゃんっ。」
「いや、知らないよ。」

離れる舞美に恥ずかしさがちょっと薄れる。
263 名前:_ 投稿日:2009/12/07(月) 23:15
「体洗ってあげよっか?」
「いやいやいやいや。結構ですしっ!」

無理だしっ!

「あっそ。じゃ、あーらおっと。」

ザパンッ!
って・・・。
あら、いろいろ・・・見えちゃって・・・。
やばい、鼻血出そうっていうか・・・。

湯気にやられた・・・。
入るときは一生懸命見ないようにしてたのにぃ・・・。
見ちゃったよ、見ちゃったよ・・・。

「体、洗ってあげよっか?」

触れたく・・・なった・・・。

「ほんとにぃ?」

そんな、嬉しそうとか・・・。
あたしはお湯からあがる。
彼女の目を避けるように。

「はい。」

あわ立てたタオル渡される。
肩を掴んで背中をこする。
綺麗な、白い肌が、ピンクに染まってる・・・。
264 名前:_ 投稿日:2009/12/07(月) 23:16
「まいみ、」
「ん?」

いや、こっちはあんまり向かないで?

「やっぱ、出るわ。」
「なんで!?」

彼女が振り向く前にタオルを手に渡して、お風呂場を後にした。

「あら、えりかちゃん出てきたの?」

服を着て、外に出ると舞美のママがいて、焦る。
でも、顔はゆだってて当たり前なので、大丈夫ということに気付く。

「飲んで。」
「あ、ありがとうございます。」

冷蔵庫あさってると思ったら、ジュースついでくれた。
それから、テレビの方へ歩いていったので、あたしは舞美の部屋に戻る。

少しだけしめってた髪の毛をふいて、ふぅ、と息をつく。

それもあったのよ。
舞美はパパとママいるところで、二人でお風呂ってどうなの?って思うところも。
でも、舞美にあたし、弱いから・・・。

ゴクゴクゴク、とつめたいジュースを飲み干すと少し心が落ち着いた。

265 名前:_ 投稿日:2009/12/07(月) 23:18
カチャ-
と扉が開いて、ビクッと体が揺れるのがわかった。
なんか小動物になった気分だな。

「あー、えり、ここにいたぁ。」

のほほぉーんとした舞美ちゃんが帰ってくるだけなのになぁ。
タオルで髪の毛拭きながら。

「他にどこにいるのぉ?」

平気なふり平気なふり。

「なんで急にでてくのぉ?気持ちよかったのにぃ。」
「舞美はわかってないよね。」
「何が?」

ペットボトルの水のみながら、こっちを向く。

「いや、なんでもない・・・。」

欲情してたなんて言えない・・・。

「ママがあんた達ケンカでもしたのぉ?って言ってた。」

あはっ!って。
ほんと、間、抜けるよね、舞美って。
かわいいんだよ、バカァ。

あたしは、舞美をヘッドロック気味に抱きしめてやった。
舞美は「なにぃ?」って笑う。
266 名前:_ 投稿日:2009/12/07(月) 23:22
「ううん。髪の毛、かわかしだける。」
「わぁーい。なに?なんか優しいじゃん。」
「舞美乾かしてるとき、いつもえりぃ面倒くさいえりぃ面倒くさいってうるさいじゃんっ!」
「そぉだけどぉ。」

えへへ、って。
あたしは、彼女の髪の毛をブロウする。
嬉しそうに目瞑って膝抱えてる彼女はかわいい。

「声、出しちゃ駄目だよ?」

カチャ-
と鍵をかけて、耳元で言った。

髪の毛も乾いたし、夜はあたしが強いんだっ!
って、何ものなんだよ・・。
舞美をベッドに横たえながら、自分がなんなのか、まったくわからなくなった。

もう、彼女のものなのかも・・・ね。
267 名前:_ 投稿日:2009/12/07(月) 23:24

 大きなバスタブでもてなして。-FIN-
268 名前:名無し飼育さん 投稿日:2009/12/08(火) 22:52
思ってたんですけどここのやじうめってふわふわしてるっていうかゆるかわですよね
他にはない感じで良いです
269 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/09(水) 21:30
これはよいやじうめ
270 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/11(金) 19:12
初めまして
1から読ませていただきました
作品全体の雰囲気がとても好きです
生きるという力。も考えさせてくれる良い作品でした!

P.S.初めのタイトルミスに笑いましたw
271 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/12(土) 00:52
私も最初から全部読ませて頂きました
やじうめの雰囲気がどの作品も大好きです
ちさ愛理という組み合わせも初めて読みましたがよかったです

同じく最初のタイトルミスは吹き出してしまいましたw
272 名前:_ 投稿日:2009/12/15(火) 02:14

   こすぷれ。
273 名前:_ 投稿日:2009/12/15(火) 02:14
「ただいまぁ〜。」
「あ、帰ってきたっ!」

冷蔵庫になんにもなかったもんだから、あたしが買い物に出た。
ダッシュで徒歩五分のコンビニまで行き、帰る。

舞美の待っている自室のドアを開けて、舞美の声が聞こえて、コンビニの袋の中身を取り出そうと
していたあたしは、つい、紅茶の500mlパックを床に落とした。

「な、な、な、」
「お帰りなさいませ、ご主人様っ♪なんつって。」
「何!?そのメイド服っ!」

あたしは、あまりの事態に舞美の言葉をほとんど聞き逃した。
彼女は、何故か、メイド服を着てる。

「似合う?似合う?」

スカート広げて見せたりして。
あたしは、上から下まで彼女を見て、それから急速に早くなった心臓につられるように真っ赤に
なりそうな顔を手でできるだけ隠した。
274 名前:_ 投稿日:2009/12/15(火) 02:15
「ねぇ、似合う?って。」

舞美はちょっと拗ねた声を出す。
あたしは、「に、似合うよ。」といった。
どもったのは、喉がぎゅるって変な音をたてたから・・・。

「栞菜に貰ったの、これ。」
「は?」

目のやり場に困りながらとりあえずテーブルに落とした紅茶とコンビニの袋を持っていく。
いやいや、ちょっと待ってよ。

「栞菜が?」
「そぉ。お家帰ってから開けてね?絶対あけちゃ駄目だからねっ!って言われてさぁ、かえって開けたら
メイド服が入ってたのぉ。で、一人で着るのもなんかはずかしかったから、えりの前で着ようと思って。」

あたしは、最後の言葉に思わず噴出す。

「いや、普通人の前で着る方が恥ずかしくない?」
「だってさぁー、寒くない?一人で着て自分で見てるだけとかぁー。」

まあ、確かにそうなんだけど・・・。
チラッ、と彼女を見る。
頭にボンネットまでかぶっちゃって・・・。

「意外と似合うね。」
「そぉ?えりの部屋大きな鏡ないからさぁー。」

彼女は自分の服を引っ張りながら見る。

「舞美、さっきのあれ、もっかいやって?」
「さっきの?」
「お帰りなさいませ〜♪ってやつ。」

できるだけ普通にお願いする。
舞美は落ち着きがもともとないので、こちらの微妙な変化には気づかないことが多い。

「え、お帰りなさいませっ、ご主人様っ♪・・・ふふふ。」

舞美は手を組んで首を傾げてあたしの要望にこたえて、それから急に恥ずかしそうにうつむいてそれから
また顔を上げた。
あたし、絶対もうほかの誰にも見せられないぐらいニヤけてると思うし。
舞美、真っ赤だし。

「栞菜・・・、またなんでこんなものを・・・。」

ニヤニヤしながら見詰め合ったままなのもなんなので、あきれた振りをして視線をそらす。
275 名前:_ 投稿日:2009/12/15(火) 02:16
「あっ、あっ、そうだ。えりに手紙あったよ。」
「は?」
「これ。糊付けされてるから見れなくてぇ。もう一通手紙入ってて、それはあたしへだったんだけど、」

舞美が説明しながら手紙を鞄から出して渡してくれる。
『えりかちゃんへ。』と封筒に書かれている手紙。

「それには舞美ちゃん、えりかちゃんへの手紙は本人に渡してください。のりづけはがされてたかどうか
本人に確認するから絶対あけちゃ駄目だよ!?開けてたら一生口利かないからっ!って書いててっ!
ひっどくなぁ〜い?あたしへの誕生日プレゼントだよ!?」

あたしは舞美の話を聞いてはいるけど、目の前の栞菜の文字にボッと赤面する。
『犯人はほんとに千聖なんだけど、えりかちゃんに誕生日に貰った服汚しちゃったおわびねっ!
舞美ちゃんに通販でメイド服を買ったので、舞美ちゃんに着せてあげてくださいよ。えりかちゃんの褒め殺し攻撃で。』
いやいや、自分で着てましたけど?栞菜もまだまだ舞美を見切ってないなっ!
『お楽しみがすんだら、栞菜にも舞美ちゃんのメイド姿写メってね〜♪(ハートマーク)』

「ん?なんて?」

舞美が手紙を覗こうとするので、バッと体を引く。
お楽しみってなんだよ、お楽しみって・・・。
栞菜め・・・あの年で結構変態だな?ちくしょう・・・。
若いって怖いわ・・・。

「栞菜が舞美の写メ欲しいってっ!」
「えー?この格好ででしょ?」

舞美はあからさまに嫌な顔をする。

「ご主人の言うこと聞きなさい。」

あたしがケータイを構えて少し厳しい口調でそう言うと、不服げに唇を尖らせた舞美は「撮るよ。」って声と
ほぼ同時ににこっと笑ってピースサインをした。
あたしは、彼女の単純さに少し笑う。
276 名前:_ 投稿日:2009/12/15(火) 02:17
「えー、メイドってこんなぁ?もっとぶりっこしてよ。」
「えー、やだよっ!恥ずかしいじゃんっ!」

あたしは、ニヤニヤを抑えきれない。

「ほらほら。ぶりっこ。絶対ぶりっこ。しないと舞美のこと嫌いになるよ?」
「えー?んー、わかったよぉ。えー?こんな感じ?」

両手を組んで上目遣い・・・。
ちょっと、普段のキャラと違いすぎてうけるかも。
あたしがくすっ、と笑ってしまって結局彼女もいつもの笑顔に戻ってしまって・・・。
でも、ほらもう一回っ!って言うとすぐにさっきの顔になって、あたしはパシャリとそれを写メに収めた。

「今の、送るの?」

舞美が隣に寄ってくる。

「ううん。おくんない。」
「へ?」
「チラ見ぐらいならさせてあげてもいいけど。」

あたしは、舞美に擦り寄る。
ムードを察した彼女は、その何秒かで真っ赤になる。
ああ・・・、栞菜にだけはやっぱりあげてもいいかな、あの写真・・・。
あたし、マニアックな趣味は特にないけど、今日は少しだけメイドさんのコスプレしてる人が好きな人々の気持ちがわかるかもしんないわ。
超絶に、燃える。
いや、違うな、
考えながらキス待ち体勢の舞美が眺めていたあたしに痺れを切らして繋いだ手を引っ張るので、唇を重ねる。
ん〜・・・、なんだかすごく新鮮でドキドキしてキュンとする。

唇を離して、あたしは言う。
277 名前:_ 投稿日:2009/12/15(火) 02:17
「萌え〜〜だよねっ!」
「なにそれっ!」

くしゃっ、て顔して笑う舞美に再度口付けた。
月に一度ぐらいはこの格好して貰うのも悪くないかな・・・。
278 名前:_ 投稿日:2009/12/15(火) 02:20

   こすぷれ。-FIN-
279 名前:セツナ 投稿日:2009/12/15(火) 02:32
これも少し前の話です。
ちょっと最近、スランプ気味なのです。
次の更新は、わからない状態です。
と報告がしたいがために掘り起こしましたw

>>268 名無し飼育さん
最高の褒め言葉、ありがとうございます。>>269 名無飼育さん
あざーす!
>>270 名無飼育さんはじめましてです。
生きるという力。の感想うれしいです。
タイトルミスは今自分見ても笑えます、ハイw
>>271 名無飼育さん
はじめまして。
ちさ愛理も気に入っていただけたようで、すごくうれしいです。
笑っていただけたら、間違いも本望ですw
280 名前:セツナ 投稿日:2009/12/15(火) 02:33
改行間違えすみません。

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