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- 1 名前:ybbhkm 投稿日:2007/10/17(水) 14:53
- これを見た人は,超超超超幸せもの☆☆
@週間以内に好きな人に告白されるか、
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好きな人とイイ事があるよ・・・・☆★
コレを読んだら、1時間以内にどこかに貼る★★
数ゎあなたが好きな人への思いを込めて ...。
サア!がんばってぇ♪
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/17(水) 20:59
-
- 3 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 00:52
-
いいヤツだなって感じるのが好きだ
自分の中のルールみたいのがあって
いいヤツでいようと思うし
いいヤツと一緒にいられたら『幸せ』だ
それは別に恋に限らない
恋愛だけが『幸せ』だなんてあたしは思わない
そういうんじゃなくても
ずっとこうしていたいってぐらいの
時が止まってもいいぐらいの『幸せ』を感じることができるんだ
- 4 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 00:52
-
1.
自慢じゃないが、あたしはサービス精神旺盛ないいヤツなのだ。
高校3年生の冬といえば、受験ノイローゼとか、
結構ピリピリしてるもんだと思ってたけど。とあるクラスに限って言えば、そうでもない。
内部進学を希望した生徒ばっか集めてるクラス。そうとう酷い成績をとらない限り
来年の自分たちにはしっかりとした足場が保証されてる。
女の子ばっかの女子校。緊張感は皆無。
そのクラスにはあたしの幼馴染もいて、話を聞くたびにほっこりした気分になり、
疲れきったほかの先輩たちにも、楽しい話題を振りまいてやりたいと常々思っていたのだ。
ちょっとくらい楽しませてやらないと、受験生たちは、倒れてしまうかもしれない。
かといって逆に迷惑になるわけにはいかない。授業を抜け出して屋上に来たあたしは、
癒しの内部進学クラスに目をつけ、彼女らの元へ降り立った。
文字通り、ベランダに、降り立った。
- 5 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 00:53
-
「「「・・・・・」」」
突如ベランダに出現した後輩に、クラス全員静まり返った。
そのクラスにいる幼馴染は窓際の席。軽く手を振るが、彼女は応えてくれなかった。
「・・・くぉらぁぁ!よしざわぁ!!」
ワンテンポ遅れてやっと事態に頭がついてきた先生が叫んだ。
ガラス越しでよく聞こえなかったけど、多分そんなようなことを叫んでいた。
その瞬間、ベランダの手すりをひらりと飛び越え、階下の教室へ。
今度は自分が居るべき二年生の教室。ひらりと舞い降り、立ち上がらずに陰に隠れる。
さっみーな。
一瞬影が目に入った先生も、気のせいだったと窓の外から手元に意識を戻す。
- 6 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 00:53
-
―――コン
窓際最後列の友人から、一度だけノックで合図。
この時間の授業は、言っちゃ悪いがもうおじいちゃんな先生。
ひとたび板書を始めれば、何が起きても気づかない。
鍵を開けてもらって、ドアを開けるのと同時に友人が窓を開ける。
あたしがその隣の席に座ると教室を冷たい冬の風が駆け巡る。
おじいちゃんはゆっくりとした動作で振り返り、窓を閉めている友人を確認し、
また授業に戻っていった。
クラスメートは、気づかないおじいちゃんを見て必死に笑いを堪えている。
こういうのんびりしたとこ、キライじゃないんだけど、ちょっと利用させてもらう。
- 7 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 00:54
-
授業が終わると同時に、三年生の授業をしていた先生が入ってきた。
呼び出されて行くと、おじいちゃん先生がその先生と話してる。
「吉澤さんはずっと授業を受けていました」
空から突然舞い降りて来て、さらにその下の教室にまた降りていったんだと説明されて、
「ありえない」と切って捨て、出席簿を見せ、教室に居たと証言してくれた。
あたしはわざわざ来てくれた先生を労ってやろうと微笑みを向けた。
女子高生がベランダを行き来するなんておじいちゃん先生の常識にはない。
ふつー無いだろうが、あたしの運動神経はハンパじゃない。
それでも確かに見たのだと食い下がる先生に、おじいちゃん先生が言った。
「分かりました。後で話しましょう」
無理に決まっているだろうと、哀れむような視線とともに。
あたしは放免、先生はきっとこの埒の明かないおじいちゃんと語り合うのだろう。
放課後、何人もにサイコーと称えられ、あたしは満たされた気分で、帰路に着いた。
- 8 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 00:54
-
「なにやってんの」
玄関で見慣れた靴を発見し、
帰りにゲーセンに寄ってゲットしたぬいぐるみをカバンにしまった。
部屋のドアを開けると幼馴染が少し怒った顔をして待ち構えていた。
「ひーちゃんを待ってたの」
「なんで?」
「分かるでしょっ、今日ベランダで!危ないじゃないっ!」
「もー、家でまで説教聞きたくないよ」
家でまでっていうか、説教なんてされてないんだけど。
ハッとしたような表情を浮かべる彼女。いつもの帰る時間はとっくに過ぎてる。
『学校に残されて散々怒られたに違いない』『察してあげなきゃ』
・・・とか勝手に思ってんだろーな。
「うるさく言うつもりはないけど、あんまり心配させないでね」
「うん。でも、あれぐらい平気だよ?」
「心臓に悪いのっ」
「・・・ごめん」
案の定、ずいぶん優しい口調になって、諭すように彼女が言った。
あたしは精一杯疲れた顔を浮かべた後、ゆっくりと彼女に謝る。
でも、こうやって構われるのも、すごく楽しいから
あたしは何度でもバカをやるんだろうな。うん。やめらんない。
- 9 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 00:55
-
あたしのしおらしい態度を見て機嫌を直した彼女は、
そのまま家で夕飯を食べて、家で宿題やって、家のお向かいへ帰っていく。
彼女が部屋を出てから、あっと思い出したあたしは慌ててカバンを開けた。
急いで階段を駆け下りると、玄関が閉まりかけているのが見えた。
「梨華ちゃんっ」
声が届いて、閉まりかけの扉はもう一度開かれた。
「これ、あげる。今日から新入荷らしいよ」
「あ、かわいー!ありが…」
差し出したのは彼女の好きなキャラクター。
12月で、クリスマス仕様になってる。受け取って、素直にお礼を言いかけた彼女は、
言葉と動きを途中で止めて、何かを考えている。
忘れるトコだった。タネ明かししないなんて、フェアじゃない。
- 10 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 00:56
-
「今日、学校何時に出たの?」
うん。いい質問だ。無邪気な顔してんのもイイ。
説教されて、ゲーセン寄ってじゃ時間の計算が合わない。
「いつもどーりだけど?」
「怒られてたんじゃ・・・騙したのねっ!!」
「学校で怒られたなんて言ってないよ。正直、おもしろかったっしょ?」
最高の笑顔を向けるあたしの顔面めがけてぬいぐるみが飛んできた。
しっかりとキャッチして、大事にしてよと言いながらほうり返してやる。
子供の頃とおんなじ顔になって、靴を脱ぎ捨てた彼女とあたしの、
楽しい、楽しい『おいかけっこ』。
ガタガタ、バタバタと、昔から変わらないけたたましい騒音が家中を包み、
やりすぎなぐらい逃げ回ったあたしに、いつまでたっても捕まえられなくて
ふて腐れた彼女が最後に残した「知らない、ばか」という一言があたしを包み、
その日の夜は更けていった。
- 11 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 00:56
-
- 12 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 00:56
- 2.
これも自慢ではないのだが、あたしは可愛げのあるいいヤツなんだ。
基本的にあらゆる行動を気分で決める。今朝の気分は『早めの登校』だ。
いつもは梨華ちゃんが迎えに来るまで家を出ない。
別に昨夜ケンカしたからとかではない。そもそもケンカだとは思っていない。
『じゃれあい』だ。うん。からかっただけ。そんだけ。
統計とったら『じゃれあい』の次の日は『早めの登校』が多いような気もするが、
偶然だ。
いつもより早い時間の通学路は、いつもと違う顔ぶれに溢れている。
昨日のいたずらは『吉澤ひとみは天使事件』としてもう皆の知るところとなっていた。
屋上の手すり越えただけなのに、天使の翼で空から舞い降りたことになっていた。
冬なのに後輩からの熱視線で温度が上がりそうなぐらい注目されている。
他のクラスの先輩たちは「うちのクラスにも舞い降りて」って、
受験に疲れを見せ始めていたのに、今日は随分楽しそう。
なんとでも言ってくれればいい。面白いじゃん。目的達成、楽しんでもらえたみたいだ。
どーせ信じてるわけないし。今度、小道具で翼造ろうかな。
- 13 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 00:57
-
「おはよう」
「はよ」
チャリに乗った梨華ちゃんが、後ろから追いついてきた。
先に出たことについては何も言われなかった。
あたしは散々怒らせた昨日のことが頭に浮かんで気まずい。
梨華ちゃんはもう怒ってなくて、いつもどーり。こういうとこ、大人なのかもしれない。
「はい」
「ん。」
短く言って、梨華ちゃんのチャリの籠にうすっぺらいカバンを入れて、
持ち主を後ろに乗せて。学校までの短い距離をのんびり行く。
一緒に家を出ると、二人とも歩きだけど
先に出ると、あたしに追いつくために梨華ちゃんはチャリで来る。
二人乗りして、だべってるこの瞬間、キライじゃないけど
あたしの中に『早めに登校』なんて選択肢が浮かんだ理由とは、きっと関係ない。
- 14 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 00:58
-
「んあ、おはよ。今日もあっついねー」
「だれと、だれが」
「おはよう、ごっちん」
昨日の共犯・後藤真希。こんな朝早くに現れるのはめずらしい。
一時間目の出席日数、ついにリーチでもかかったかな。
「おはよ、梨華ちゃん。ってか誰とか言ってないし」
「じゃあ気温か?冬だぞ。脳みそ蕩けてんの?」
「朝から喧嘩しないでよぉ」
ケンカじゃない。じゃれあいでもない。挨拶代わりだ。
いっつも梨華ちゃんとの仲があやしいって絡んでくる。
ただの幼馴染だろ。どう考えても。このバカ。
- 15 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 00:58
-
「いいかげん教えてくれてもよくない?」
しつこい。他のことにはとことんサバサバしてっくせに。
あたしと梨華ちゃんには、どうしても幼馴染以上の関係であって欲しいのか。
梨華ちゃんは三年生の教室に向かったので、今は二人きり。
マジで聞いてくるから手に負えない。
「だぁーかーら、何もないってば」
今日だけで3回目。今月はもう30回目。二年生になってからだと・・・もう知らねーよ。
数えきれないほど繰り返した答えを、また繰り返す。
このあとはごっちんが飽きるまで「嘘」「本当」の繰り返しになるんだけど。
「じゃぁ、誰が好きなわけ?」
- 16 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 00:58
-
まさかの新展開に、あたしはちょっとびびった。
ほんと、こいつ今日はどうしちゃったんだろ。朝早すぎて壊れてんのかな。
いつも無駄な時間しか生み出さないくせに。会話だ。これは会話になってる。
「べ、べつに、そんなんいないけど」
「動揺してんじゃん。じゃなきゃおかしい!めちゃモテるのに全部断ってんじゃん」
動揺じゃなくてお前の新しい行動に驚いただけだ。
おかしいって・・・それはごっちんの主観だと思う。
あたしは、好きだと言われたからって知らない人と付き合いたくないし、
よく知ってる人でも自分がなんとも思ってなければそんなこと考えられない。
好きな人がいないから、誰とも付き合わない。それのどこがおかしいのだ。
「ってか梨華ちゃんと付き合ってんでしょ?」
あたしのこんな筋の通った説明にも、彼女の言説は揺らがない。
人の話は聞かない。聞いても参考にしない。
うん。いつものごっちんだ。繰り返しの、繰り返し。無駄な時間だ。
結局、間に少しだけ新展開を挟んだだけで、最後は元に戻ってしまった。
- 17 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 01:00
-
痛くない腹でも、探りに探っていじくり回されれば痛み出すようだ。
昨日追い掛け回されながら散々怒られたから、今日はおとなしくしていた。
しかし、今日のあたしは間違いなくこの学園のヒーローであるから、
ラブレターは大漁だった。なんだかんだで発展はしないけど、あたしは
大真面目にラブレターを書いてくれる人をないがしろにしたりしないいいヤツだから。
お呼び出しには応える。
その気はないけど、女の子から告白されるのも楽しい。
嫌悪感も無いほうだし、お望みなら抱擁ぐらいはして帰る。
「分かりました。諦めますから、一回だけギュってしてください」
後輩が、誰もいなくなった教室でそう言ってきたので、あたしは応えてあげた。
この子で今日のお呼び出しは全部こなしたことになる。
随分遅くなってしまった。傾いた日に照らされたグラウンドがやたら綺麗で、
少し見とれてボーっとしてしまった。
そのせいでふにゃけたあたしの脳みそが勘違いをした。
今抱きしめている子が一瞬梨華ちゃんに見えた。絶対ごっちんのせいだ。
- 18 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 01:01
-
納得がいかないままあたしは今日も帰路に着く。
バイトの休憩に入ったごっちんから、たまたま暇だと電話があったので、
ごっちんがしつこい所為で妙な幻覚を見たと、報告ついでに文句言ってやった。
「んあ、それよしこの願望じゃないの」
手ごわい。しつこい。もう、ねちっこい。
絶句しているとごっちんは畳み掛けるように、それは恋だの、深層意識の現われだの、
嫌になるほど梨華ちゃんの話をして、もう休憩終わりだと一方的に電話を切った。
一気に疲れたあたしが玄関を開けると、昨日と同じく見慣れた靴があった。
幻覚を見たのはごっちんのせいであって、梨華ちゃんは全く悪くないのだが、
なんだか部屋に入るのが億劫になって居間で一息つこうと、ドアを開ける。
「あ、おかえりー」
やたら高い声に出迎えられて、あたしはカバンを床に落としてしまった。
幼馴染をなめていた。他の友人なら、あたしの部屋で待ってるだろう。
いや、そもそもあたしの留守に上がらないし、連絡も無く突然来たりしない。
しかし相手は梨華ちゃんなのである。
我が家の団欒の半分は、梨華ちゃんで出来ています。
- 19 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 01:02
-
「梨華ちゃん、何しに来たの」
「あー、なんか言い方冷たーい!」
「昨日も来てたじゃん」
「お喋りしたかったんだもん」
うっとうしい。いつもならからかって楽しむのに、なんか今日はうっとうしい。
あーもう、めんどくさい。全部ごっちんのせいだ。
いつもは気にならないとこがすっげー気になる。もうオフ丸出しのスウェット姿とか、
ストレートになってる髪とか、お茶を口に持っていく仕草とか。
なんか、見てられない。冷たくあしらってたら、親に諌められた。
しぶしぶ部屋に行くかと言うと、
「んー、なんか疲れてるみたいだし、明日でイイ」
気ぃつかわれてしまった。
ほんとになんか用事あったような口ぶりだから、気にならなかったわけじゃないけど、
今日はダメだ。ダメなんだ。ごめんね、ごっちんの所為だから。
と、言ったら今度は梨華ちゃんにからかわれること間違いなしだから、
心の中でだけ謝っておいた。
- 20 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 01:02
-
- 21 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 01:02
- 3.
これはもう完全に自慢なのだが、あたしには最高にいいヤツな幼馴染がいる。
梨華ちゃんは真面目そうに見えて、あんまりしっかりしてない。
そして、不真面目そうな印象を持たれることの多いあたしは、意外にしっかりしている。
なのに、あたしたちの登校風景は逆だ。
「はい、これ持ってて」
「ん〜」
間延びした声で返事をしたあたしは、梨華ちゃんにヘアセットされている。
歩きながら器用に髪をまとめていく様子を見てみたいと時々思うのだが、
残念ながら叶うことはないだろう。
「ほんと、朝からラブラブだね」
「うわっ!」
「きゃッ!」
突然現れたのは、梨華ちゃんのクラスメート・藤本美貴。
こいつもごっちんと同じようなことを言う。というか、ごっちんと一緒になって言う。
ごっちんと美貴はバイト先が同じなので、
昨日の幻覚のことをごっちんの脚色込みで聞かされていることだろう。
「いや〜、さすが。今日はいつもよりラブラブに見えるわ」
ニヤニヤしながら言う美貴。特に視線はあたしに向けられている。
ちっくしょお、ごっちんめ。
- 22 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 01:04
-
なんのこと、と空気読まずに聞いてくる梨華ちゃんを誤魔化しながら学校に行き、
あたしは教室に向かった。別れてすぐに美貴に余計なこと言うなとメールでクギをさした。
返事は『あんな恥ずかしいこと本人に言えない』とのことだった。
ギリギリの時間にごっちんが来て、のんきにおはよ〜と言いやがるから、
美貴に何を言ったか、授業そっちのけで問い詰めてやった。
「ミキティ?あぁ。
んーとね、よしこが梨華ちゃん抱きしめたいって言ってたって」
脚色込みって言うか、事実抜きでごっちんの意見しか伝えられてない。
これじゃ幻覚の話じゃなくて、あたしの秘め事の話みたいじゃないか。
そりゃ美貴も恥ずかしがるわけだ。誰の所為だと思ってるんだ。
あぁ、でもどーせ会話にならないと思うと突っ込む気にもなれない。
美貴にまだ返信してなかったので、弁解しておいた。
こういう幻覚を見て、それもきっとごっちんの所為なんだと事細かに打って送ると、
“ミキも願望だと思う”
ちっくしょお。お前らなんか嫌いだ。
- 23 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 01:05
-
昼休みになると、ごっちんが保健室に寝に行くと言うので、付いていった。
教室を出たついでに美貴に自分でも説明しておこうと思い教室を覗くと、
都合よく梨華ちゃんは席を外していた。
しかし、いつ戻ってくるかも分からないので、美貴を誘って教室を出た。
部室棟の一角を占領して、あたしは弁明を始めた。
とりあえず美貴は何も言わずに聞いて納得してくれたが、気になることを言い出した。
美貴はどうやら、昨日の梨華ちゃんの来意を心得ているようだった。
気にはなっていたし、今朝尋ねても、帰ってからねともったいぶられていたので、
いったいなんの用だったのと聞くと。
「相談したかったんだと思うよ。なんか悩んでたし」
そーだん。装弾?・・・相談。
そうか、それで昨日は梨華ちゃんの様子がおかしかったんだ。
だからあたしは昨日の梨華ちゃんにいちいち違和感を覚えてたんだ。
- 24 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 01:06
-
美貴にそういうと、何故か、笑われた。しかも爆笑じゃない。クスって。
そんで、違和感とかじゃないでしょ、と言った後に、
『んあ』の人と同じようなことを言い出した。
今日の相手はちゃんと会話できる人だから、なんでそんなにしつこく言うのか、
思い切って聞いてみた。
「はたで見てる人のほうがよく分かることって多いよね」
「あん?」
「だから、いつも当人が正しいとは限らない」
いや、確かに遠くから俯瞰したほうが見えるものは多いだろうけど。
それじゃ、あれか。あたしは美貴とごっちんの言うとおり、
梨華ちゃんが大好きで、気づいてないのはあたしだけなわけか。
そんなバカな。自信を持って言える。ただの幼馴染だ。
「幼馴染でも何でもいいけどさ、相談ぐらい聞いてあげなよ?」
美貴は気にしてあげなよと言って、優しく微笑んでいた。
ちくしょお。なんか大人びて見えるじゃんか。
- 25 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 01:06
-
今日もラブレターは大漁だった。しかし、今日は早く帰らないと。
友達何人かに頼み込んで、放課後あたしを呼び出した子に帰ったと伝えてもらった。
部活で残る友達は、見かけることがあれば伝えておくと言ってくれたので、
あたしは足早に学校を後にした。
「お〜よっちゃん、今日は呼び出されなかったの?」
モテモテに翳りが見えてんじゃないのと、うっとうしい事を言いながら美貴が寄ってきた。
別にモテなくても一向に構わないし、毎日告られてるわけでもない。
こないだの天使の噂でテンション上がってるだけだと思う。
だいたい、美貴が相談聞いてやれって言うから、珍しく梨華ちゃんのために
わざわざ時間取ろうとしてんのに。
「そんな急いで帰っても、梨華ちゃん今日帰り遅いと思うよ?」
委員会だもんと言われ、徒労だと分かると一気に気力がなえて、疲労感が降りてきた。
急いでも仕方ないならと、美貴のバイト先まで一緒に行った。
- 26 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 01:07
-
なんか勝手に急いでいたなんて悔しいから、バイト中の美貴とごっちんをからかって、
いつもよりのんびり歩いて帰ってみた。
そしたら遅くなるらしい人に、家の前で偶然会ってしまった。
「おかえり、どっか行ってたの?」
やわらかい笑みを浮かべた彼女に、あたしもおかえり、と返した。
「昨日の話さ、聞くからウチ来なよ」
「あ、うん。・・・着替えてから行くね」
なんだよ。そんな落ち着かないとダメなくらい長い話なわけか。
あたしも気合入れて聞くかぁと思って、ジャージに着替え、
珍しく自らお茶を淹れてやった。今日は朝までだって付き合ってやる。
- 27 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 01:08
-
「なんでひーちゃんそんな格好なのぉ!」
おい。またあたし空回っちゃってますか。
やってきた梨華ちゃんはいつものスウェットではなく、私服だった。
結局、お茶は梨華ちゃん一人で飲んで、あたしはその間に着替えることになった。
着替えて戻ると、息つく間もなく手を引っ張られて、出掛ける羽目に。
駅の近くでよく分からない買い物に付き合わされた。
ふだん買わないような、おもちゃ付きのおやつ。
相談がなんだったのか全く聞かされないまま、近所の神社に連れて行かれた。
「ここで待ってて」
「ちょ、そろそろ説明してよ」
ずっとはぐらかされていたのに、ここでやっと違う反応が返ってきた。
すんげぇ困った顔。
もういいよ。分かったよ、待ってる。いつまででも待ってやるよ。
5分程して戻ってきた彼女には、見知らぬおまけが付いていた。
- 28 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 01:09
-
梨華ちゃんのトレーナーを着た子供はあたしの部屋でココアを飲んでいた。
梨華ちゃんはと言うと、自宅で洗濯中だ。
シャワーはあたしんちで浴びさせてたし、待機場所もあたしの部屋なのに、
洗濯は梨華ちゃんち。その基準もよく分からない。
なんとなく聞いた話から察するに、梨華ちゃんは昨日もこの子に会ったらしい。
いじめられていたんだろう。泥だらけの格好で、帰るに帰れないと泣きじゃくっていた。
そこを通りがかったいい人の塊、石川梨華。とりあえず自宅に連れ帰って、
今日と同じケアをしてあげたんだろう。
それは分かる。そういうとこ、結構好きだし、この子供にも同情はする。
でも、あたしに相談してどうなると思ったんだろう。
いじめっこをしばけとか言いたいのか。美貴のほうが迫力あるだろ。
しっかり乾燥させた元の服を持って、やっと梨華ちゃんが戻ってきた。
あたしは子供と打ち解けるのは得意で、先ほど買ったおまけのおもちゃで
子供と戯れていた。
- 29 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 01:09
-
こっそりと、どうしろと言うのだと梨華ちゃんに尋ねると、
何もしなくていいから付いてきてと言われた。
「じゃ、行こっか」
今度は近所の公園に連れて行かれた。なんか行動範囲狭いな。
見るからに頭悪そうな・・・いや、腕白そうな子供が4、5人で遊んでいた。
なんとなくこいつらがいじめっこなんだろうなと偏見に満ちた目で見ていたら、
なんだよ、来るなよ、汚い、臭いと言い出した。
「あのね、そんなこと言っちゃダメなんだよ」
梨華ちゃん・・・。あたし、涙出そうだよ。
そんなこと言っても無駄だと思うって言ってやりたかったが、
何もしなくてイイと言われてたから、とりあえず見守っていた。
その後もありきたりな・・・いやいや、真っ当な説教を続ける梨華ちゃん。
あ、やべ。今度はあくび出そうだ。
- 30 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 01:10
-
「よしっ!そのボール貸せ!!」
しゃーない、このまま梨華ちゃんに任せても、いじめられっこの明日は変わらない。
吉澤ひとみ、一肌脱ぎます。
突然大声を上げて、子供引き連れ遊び始めたあたしを、
梨華ちゃんが呆然と見ているのが、走り回りながらでも確認できた。
別にあたしバカになったわけじゃねーから。
こーいうのは怒ってもなくなんないし、仲間になんなきゃ話も出来ない。
「梨華ちゃんを狙えー!!」
あたしの掛け声とともに、梨華ちゃんにボールが飛んでいく。
あ、割と痛そう。ごめん、でも大人だから我慢できるよね。
あたしの絶妙なコントロールでいじめられてた子供の足元にボールが転がる。
「ほらっ、投げろって!こうやって!!」
近づき、輪に連れ込む。梨華ちゃんに当てそこなった子供に向かって叫ぶ。
「次、オマエだっ!」
- 31 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 01:11
-
子供はテンションだけで生きてんだから。遊んで楽しけりゃ仲間なんだよ。
ほら、あたし抜けてもさっきのゲームは続いてる。
そこにいじめっこといじめられっこの垣根はもうなかった。
「あ!!帰っちゃうの!?」
「おー、またなー。仲良くしろよー」
またなー、絶対だぞーと叫ぶ子供たち。つーかもう夕方だ。おめーらも帰れって。
今度はあたしが梨華ちゃんの手を引っ張る。そのまま家の前まで来て、顔を見ると、
なんだかへこんでるように見えた。なんでだよ。
「私、ダメだねぇ」
さびしそうに、引きつった笑み。なんだよ、そんな顔すんなよ。
昨日のとは逆の幻覚だ。
真っ赤な夕日に照らされた梨華ちゃんが、教室でギュってしてと言った後輩に見える。
『よしこの願望でしょ』
『よっちゃんは梨華ちゃんが好きなんでしょ』
いやいや、ありえないから。え、でもなんか手が動いてる。
いやいや、ありえないだろ。なにやってんだあたしの手。
あたしは、梨華ちゃんを抱きしめた。何故か梨華ちゃんは素直にあたしに体を預けていた。
- 32 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 01:13
-
「ダメじゃねーよ。あの子も笑ってたじゃん」
「うん・・・私、何も出来なかったけど」
「違うって」
そうじゃない。あたしだけだったら、きっと初めから関わらない。
放っておけない梨華ちゃんは、すごくイイことしたんだ。
梨華ちゃんが頑張ってたから、あたしは梨華ちゃんのために頑張ったんだ。
そういうとこがイイとこじゃんか。自信もって笑えよ。笑顔のが似合うぞ。
って言いたいんだけど、さすがに口は勝手に動いてくれない。
「・・・ごめんな」
やっとそれだけ言うと、梨華ちゃんがピタリと止まった。
体を離して、梨華ちゃんを見ると、目と口がこれでもかってくらい開かれてた。
- 33 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 01:14
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「・・・なに」
「ひーちゃんが謝るのなんて何年ぶりだろ」
「せっかく素直に謝ってんのに・・・」
「あ、ごめん。せっかく、ひーちゃんが気遣ってくれたんだもんね。
うん、ありがと。」
「べ、べつに・・・、あたし、そゆとこ、キライじゃねーし」
「ありがと。頼りにしてるよ」
にっこり微笑む梨華ちゃん。
あれ、なんか・・・心臓動くのいつもより早い。体温も高い。
嘘だろ。ごっちんと美貴に勝ち誇った顔されちゃうぞ。
「でも、ひーちゃんがごめんって・・・!」
こらえ切れないという顔で笑う梨華ちゃん。
あー、ほらやっぱ。こいつと付き合うなんてありえない。
幼馴染でいいんだよ。
このままの関係で時が止まっても、あたしは『幸せ』だと思える。
- 34 名前:123 投稿日:2007/12/08(土) 01:15
-
- 35 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/09(日) 01:34
- おもしろいですね。
続き期待してます!
- 36 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/09(日) 06:40
- あれ〜こんなところに
素敵なお話があるわ〜 またひとつ楽しみが増えたYO♪
- 37 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:36
-
進路も決まったし
あとは品行方正にしていればそれでいい
余裕があるからだろうか
最近、友達のことが気になる
まず、同じクラスで
なんだかひょうひょうとした友達
好きだーってオーラ丸出しのくせに
それに自分では気づいてないその幼馴染
あと、二人を見守るへんなやつ
- 38 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:37
-
1.
よっちゃんも、恋ってもんを知れば変わると思う。
「でねっ、ひーちゃんが大真面目に謝ってたのー!!」
すんごい楽しそうに言うのは、ミキのクラスメート・石川梨華。
彼女の幼馴染は、確かにいいかげんそうな空気を持ってはいる。
しかし、謝っただけでこんな笑われるって人としてどーなわけ?
「よっちゃんだって、ごめんぐらい言うでしょ?」
「言うけど、だいたい嘘くさいの!
あんな真面目なの久しぶりに聞いたよ〜!」
きゃはは、といっそう笑い声を高くした梨華ちゃん。声高すぎ。
耳鳴りしそうなんだけど。
うちは女子高なのに王子様がいる。それがひーちゃんこと、吉澤ひとみ。
よっちゃんはかっこつけ。特に梨華ちゃんの前では余裕ぶってて生意気。
ミキやごっちんの前ではそうでもないんだけど。
印象としては、ガキっぽい。
勝ち負けにちょーこだわるし、意地っ張り。すぐ拗ねるし、不貞寝する。
- 39 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:37
-
そんなよっちゃんは、王子様の名に相応しい顔してる。
色は透き通るようで、肌荒れ知らず。さらさらの色素の薄い髪の毛は、
お得意のスポーツをより爽やかに輝かせる。目鼻立ちの整い方なんか、作り物じみてる。
それが、梨華ちゃんの前だと落ち着いた振りして、顔はふにゃふにゃ、にやにや。
そりゃ好きなんだと思っても間違いはないだろ。
「そーいや、よっちゃん最近また告白ラッシュらしいね」
「そーらしいねー。帰り遅くて寂しい〜」
そう、分からないのはこっちのお姫様の気持ち。
こんなセリフ吐きながら、表情はほとんど変わらない。
それどころか、まだ思い出し笑いしてる。
「実際のトコ、どうなの?」
「どう?ひーちゃん、疲れてるみたいだよ?」
いや、そーじゃなくて。聞き方が悪かったのかな。
ミキが知りたいのは、よっちゃんのことどう思ってるかであって、
あれの体調なんてどうでもいい。
梨華ちゃんは素でそんなこと言うし。なんとも思ってないのかな。
読めない。梨華ちゃんって意外にしたたかだから。マジちょっと腹黒いぐらいだから。
ミキみたいに純粋な子じゃ聞き出せない気がする。
- 40 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:38
-
ってか、分かりにくすぎて、聞くのが怖い。
冗談っぽく言ったら、冗談っぽくラブラブですよーとか言われそうだし。
果てしなく真っ直ぐなトコあるから、真面目に聞けば答えそうだけど、
そんな恥ずかしい真似、何のきっかけもなく出来ない。
それに、さっきからモテるよっちゃんに妬く様子は見受けられない。
二人の様子は、幼馴染のおねぇさんに片思いする王子様に見えないこともない。
もしそうなら、ミキ、顔にでちゃう。よっちゃんゴーイングマイウェイに見えて、
けっこう空気とか読む子だから気付いちゃいそうだし。
よっちゃんが当たる前に、ミキが勝手に砕いちゃ悪い。
「そっか。お疲れって言っといて」
内部推薦決まったし、他の子はそろそろ必死だけど、暇だから。
ついつい王子様の恋の行方なんて気にしてしまった。
よっちゃんはウチの学校の一番のエンターテイメントだけど、
ミキにとっては王子じゃなくて、友達だから。あんま野次馬しちゃうのも悪い。
とりあえずここまでにしとこう。
- 41 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:38
-
あの二人の家は高級住宅街にある。特によっちゃん家なんか豪邸だし、
梨華ちゃん家もかなりきれいだ。ようするに金持ちの子なのだ。
だから、ミキみたいな庶民は、バカ高い授業料のために親から小遣いケチられて、
必死でバイトして欲しいもの買ってるのに、よっちゃんはのんびり冷やかしにやってくる。
「ミーキ!おかわりちょーらい」
「はーい、三杯目からは料金五倍になりまーす」
「え、ぼったくり喫茶!?」
ご両親は、温泉旅行に出掛けたらしい。時間に融通が利くんだろう。
それで、家に帰っても誰もいないよっちゃんは、あたしのバイト先で夕食だ。
昼間は喫茶店で、夜はちょっとイイ感じのレストラン。いい値段するし、
二階にバーもあるので、ディナータイムは大人のデートが多い。
でっかい声でオレンジジュース飲んでるこいつは、
つまみ出されても文句言えないんじゃないだろうか。
でも、店長がこいつ気に入ってるし、飲んでるのはジュースなのにやたら絵になる。
絵を飾る代わりに飾られてる感じ。
- 42 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:38
-
あーもうバカバカしい。こいつは綺麗な見た目のただのガキ。
ごっちんが休憩に入ったので、バカはひょこひょこ裏に入っていく。
ミキはごっちんの休憩終わるまで仕事だから行ったり来たりしていたのだが、
裏でごっちんとトーク中のよっちゃんは、みるみる疲れた顔になって行く。
「ミキティ、交代」
「あいよー」
店長が甘やかすから、よっちゃんは店の関係者でもないのに裏で食事していた。
まぁ、しっかりお金払うんだから悪いことはないんだけど。
ミキとごっちんが代わる代わるこいつのお食事の相手してるみたいで、なんかイヤ。
「何話してたの?おつかれじゃん。」
「梨華ちゃん」
短く答えたよっちゃんからはフロアでジュース飲んでるときの明るさが消えていた。
ごっちんはねぇ・・・ミキ以上によっちゃんと梨華ちゃんの仲にはうるさいからねぇ。
でもね、ガキって責めれば責めるほど意固地になってくんだよ。
この綺麗な大きいガキも例外ではない。
「なんとも思ってねぇっつーの!」
ほら、何にも言ってないのに自ら梨華ちゃんの話題に突っ込んで行く。
- 43 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:39
-
なんだ、こないだ梨華ちゃんと子供助けに行って、謝ったら笑われたんだっけか。
今日聞いた話をよっちゃん視点からも語ってもらおう。
つーか、梨華ちゃんの話からは見えてこなかったのは、何のごめんだったのか。
確か、梨華ちゃんはいじめっこを叱ってやろうと思って、
でも普段よっちゃん以外の人を叱り付けたりしないから、怒るテンション作りのために
よっちゃん引っ張っていったのに、上手く叱れなくて。
そしたらよっちゃんが解決してしまったと。へこんでたら「ごめん」と言われたと。
「待って、あたしそんなことの為に連れて行かれたの?」
「梨華ちゃんはそう言ってた。何がごめんなわけ?」
「・・・・。」
なんだ。何黙り込んでんだ。簡潔に手早く答えろ。そろそろ休憩終わりなんだから。
言いにくそうに、ぼそぼそと何か言ったが聞き取れない。
聞き返してやると、
「だって急に抱きしめちゃったし上手く慰められなかったし」
ものすごい早口で言われた。顔真っ赤。なんでこれで自覚ないんだろう。
抱きしめたって、それ初耳なんだけど。梨華ちゃんそんなこと言ってなかった。
つーか抱きしめたんじゃん。しかも冗談一切抜きのマジモードで抱きしめたんじゃん。
絶対自覚してるだろ。もう吐いちゃえよ。好きなんだろ?
・・・って言ったらキレるだろうから言わないけど。
- 44 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:39
-
ごっちんには言うなよって言われながら、フロアに戻った。
よっちゃんは、またジュース頼んでる。
バイトが終わるまでここにいるつもりなんだろうが・・・あ、ごっちんだ。
「梨華ちゃんち行けばいいじゃん」
「今日はいないってさっきも言ったよね」
「じゃあ、梨華ちゃん帰るの待ってればいいじゃん」
「帰らせたいのか。ここにいたら迷惑だってのか。」
梨華ちゃんは確か今日は家族で外食って言ってたな。
ミキは学校で聞いたんだけど、ごっちんはさっき聞いたんだろうな。
普段はそんなアホでもないんだけどね。何でだろ。
よっちゃんの話だけは聞かない。聞く気がないようにも見える。
「あ、いらっしゃいませー」
お客さんに救われたよっちゃん。ごっちんは笑顔でよっちゃんから離れていく。
「すいませーん、藤本・・・あ、ミキティ〜!!」
「おぉーどうしたの?」
やってきたのは1週間前からウチに来ているミキのいとこだった。
- 45 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:40
-
店長は基本的に優しい。完全に身内が冷やかしに来ただけなのにミキに
はやくあがっていいよと言ってくれた。さすがにそれは出来ないので、
いとこにはよっちゃんと一緒に待っててもらうことにした。
バイトが終わる頃には、人見知りの激しいよっちゃんにしては珍しく打ち解けていた。
「すんごいねーほんと。まい、こんな顔綺麗な人見たことないかも」
「いやぁ、あたしもまいみたいないい女見たことねぇって」
なんか褒めあってるけど、待て。
まず、まいちゃんよ。ミキが生まれたときから見てるでしょ。ミキの綺麗な顔。
ものすごい綺麗な顔したいとこが、あんたにはいんでしょ。
そしてよっちゃん。まいちゃんよりいい女見たことあんでしょ。
ちょー可憐な先輩、これぞいい女ってミキを何度も見てんでしょ。
まぁ、大人だからそんなこと言わない。社交辞令でしょ。二人とも。
「よっちゃん、明日遊びに行こうよ!」
「いいよぉ、番号教えて」
なんか心の中で突っ込んでる間に二人の会話は妙な方向に。
ちょっと待て、よっちゃん。人見知りはどこいったの?
ちょっと待て、まいちゃん。あんた明日帰るって言ってなかった?
なんかテンションおかしくない?気のせいだよね?ただの友達だよね?
あぁ、神様お願いします。どうか、この予感だけは当たりませんように。
- 46 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:40
-
- 47 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:41
-
2.
恋するのには賛成だけど、ミキの身内は勘弁して欲しい。
「ごめん、よっちゃん。もっかい言って」
「だから、梨華ちゃん梨華ちゃん言うの止めろって」
「いや、その理由」
「好きな人できたから」
「誰?」
「まいだってば」
頭が痛くなりそうだ。このガキ。ホントにガキだ。
一目ぼれで、胸がいっぱいだそうだ。
それとミキたちが梨華ちゃん梨華ちゃん言うのとは関係ないだろ。
それで気分を害するというならその理由は、
梨華ちゃんが好きだっていう現実に引き戻されるからじゃないのか。
ごっちんは、ふーんってよく分からない表情をしている。
なんだよ。このとことん器用で人生に不器用なガキの面倒は、
ミキが一人で見るわけか。しかもまいちゃんって。
あぁ、知らん顔したい。関わりたくない。ミキの身内でさえなければ。
- 48 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:42
-
昼休み、ミキは、ごっちんとよっちゃんが教室まで迎えに来て屋上に連行された。
こないだこいつらがイタズラしたから封鎖されてたはずなのに。
なんでか鎖の南京錠用の鍵まで持っていた。相変わらず、こいつらめちゃくちゃ。
聞いたらミキまで申し訳ない顔で歩かなきゃならなくなりそうだから、スルーした。
まいちゃんのことばっか聞いてくるから、
梨華ちゃんが泣いちゃうよ〜っていつもみたいに言ったら、
急にムッとした顔になって、こんなこというのだ。
どうしてやろうか。帰ってからうざいって言ってたとか言ってやろうかな。
「ね、あたしのことなんか言ってなかった?」
正しい解答は、朝、あの綺麗な子によろしくねといわれました、だが。
違うだろ。オマエの恋する顔は、そんなワクワクした顔じゃないだろ。
甘くって蕩けそうで、ちょっと気持ち悪いあの顔だろ。
梨華ちゃんに向けるあの顔こそがオマエの恋する顔だろ。
あぁ、分かっちゃった。舞い上がっちゃってんだろ。
- 49 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:42
-
そうと分かれば、もういいや。行け。そしてちょっとは大人になって来い。
「朝、よっちゃんによろしくって言われたかな」
「マジ!?もっと早く言ってよ」
会ったら言うぐらいでいいんだよ。朝一でよっちゃんとこ行って、
どうしても伝えて欲しいようなことだったらオマエにメールするだろ。
どう考えてもめんどくさい。こいつガキだから。
本当に好きな人には気持ち隠しちゃうんだ。小学生レベルが。
「よしこさぁ、なんで梨華ちゃんには好きな人できたって言わないの?」
「え、言ったほうがいいのかな」
「仲良しな幼馴染なんでしょ?恋バナぐらいしたほうがいいよ。ね、ミキティ?」
やっとごっちんが動き出してくれたと思ったら・・・
なんで振るかな。あんだけよっちゃんは梨華ちゃんが好きって分かってたんだから、
なんか思惑があるんだろうけど。
ねぇ、ごっちん知ってた?ミキ、エスパーじゃないんだよ。
打ち合わせも目配せもなく話振られたら、ミキが邪魔しちゃうかもしれないんだよ。
- 50 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:43
-
「まぁ、そうだねぇ」
無難に乗っかっておいた。まさかここで複雑な役柄なんて振ってこないだろうと。
甘かった。ごっちんは、あちゃーって顔してる。無理だよ。多分、誰にも出来ないよ。
え、何?通じ合ってると思ってた?勘違いだよ、それ。
「いや、やっぱ言わないほうがいい!」
「なんで!?5秒前と意見違うの!?」
よっちゃん、ちょー驚いてんじゃん。無理あるでしょ。気まぐれにも程があんでしょ。
「言わないほうがいい!ね、ミキティ!」
無理。ほんと無理。振るな。一人で処理しろ。その方がまだ自然だから。
よっちゃんのごっちんに関する許容範囲はかなり広くなってるから。
大分おかしい発言でも納得してもらえるから。会話性とかもう求めない域に達してるから。
「ミキの意見よりさ、ごっちんの理由は?」
「んぁ?えとね、あー・・・ほら、梨華ちゃんはまいちゃん知らないじゃん」
「・・・そだね。分かんない人の話しても面白くないかもしれないもんね」
- 51 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:43
-
チャイムが鳴ってうやむやのまま教室に戻ったのだが、ミキとしてはちょっと興味あった。
予想通り、とって付けたような筋の通らない話によっちゃんは納得してくれたし、
梨華ちゃんにはしばらく黙っているんだろう。
よっちゃんはデートのために早退したから、ミキとごっちんが黙ってればいいのだが。
ミキは常々この読めない姫の気持ちを知りたいと思っていたのだ。
今までのよっちゃんに関する恋バナと言えば、だれだれがよっちゃんの事好きらしい、
ってそればっかりだったが、今度の主語はよっちゃんだ。
これはもし片思いじゃないなら、妬くだろう、と。
よく考えたら、好かれることに罪はない。妬く理由もなかっただろう。
そういう感じだったのかもしれない。だとすれば、今言ったら、
梨華ちゃんの気持ちも分かるじゃないか。気になる。
どーせよっちゃんもすぐ正気に戻るだろうし。
あぁ、でも明日にしよう。
とりあえずバイトの時にでも、ムチャ振りしてくる後輩にお伺い立てないと。
- 52 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:44
-
「あ。ミキティ早いねー」
「うん。ごっちん掃除してたの見たよー」
幸い二人とも仕事が始まる時間より早く揃った。
ミキは、早速屋上でどうしたかったのか聞いてみる。
「んあー、ミキティもよしこと梨華ちゃんくっつけたがってるから、
梨華ちゃんに邪魔者のこと教えたくないだろうと思って。」
邪魔者って、ミキのいとこのことか。血つながってんだよ。言葉選べや。
あと、別にくっつけたいとは思ってない。とりあえず好き合ってんじゃないかって
予断の元、二人が幸せになればいいのになって思って日々突いているだけだ。
「まーね。で、ごっちんはミキが反対したらどんな流れにしたかったの?」
「ミキティと言い争って、
その中でよしこが梨華ちゃんをいかに好きか並べてやるつもりだった」
なるほど。もう言うなと言われたけど、ミキとごっちんの喧嘩だ、黙ってろと。
どんなに梨華ちゃんとよっちゃんが話題になっていようと黙ってろと。
意外に考えてる。ほんとなんであんなムチャ振りしてきたんだろ。
これも聞きたかったが、過剰な期待は知らないほうが楽なので聞かないでおいた。
「ま、ごっちんが心配することもないと思うよ」
分かったような分からないような顔だったが、大丈夫。ミキが保証するよ。
- 53 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:44
-
ごっちんは用事があるとかで早めに帰ったから、ミキは帰り一人だ。
こんな可愛い子に一人で夜道は歩かせられないから、店長が送ると言ってくれた。
寒い時期なので助かる。ホクホクの気分で看板片しに出たら、
ガキが一人で座っていた。
「その椅子も片付けるんだけど」
「ん。あぁ・・・」
よっちゃんは、やけに疲れた顔で、痛々しいくらい弱い笑みを浮かべながら言った。
「一緒に、帰らない?」
「ミキ、方向違うんだけど」
「じゃ、泊まりに来ない?」
譲歩ってハードル上げることだっけ。そっちの方がお断りだ。
しゃーない。店長に言いに行くか。
「泊まらないけど、帰り送ってくれるなら遊びに行ってあげてもいい」
ミキ、優しい。
- 54 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:45
-
よっちゃんには言い忘れていたけど、まいちゃんはかなりの天然だ。
ごっちんと話すだけで疲れきってるよっちゃんの手に負える相手ではない。
よっちゃんの家で、ココア飲みながら。今日のデートのことをぽつぽつと。
「ああいう・・・なんつーか、自由?なトコは・・・その・・・」
「いいよ、知ってるから。馬鹿だったでしょ」
必死に言葉を選んでくれているよっちゃんに助け舟をだした。
舞い上がってただけだから。勝手に思ってたんだろーな。まいちゃんは理想の女って。
無駄に金持ってるから、ふぐ鍋なんか食べに行ったらしい。贅沢な。ミキになんかおごれ。
途中で白子を出してくれたよっちゃんの馴染みの女将さんに、
白子が海を泳ぐ様について語るまいちゃん。ドン引きしちゃったよっちゃんと女将さん。
二人とも、悪くないよ。
よっちゃん、まいちゃんの頭脳は宇宙なんだよ。ロマンがいっぱいなんだよ。
「まぁ、舞い上がっちゃってたんだね。反省しな」
「・・・はい。」
あ、ほんとだ。梨華ちゃん、大真面目なよっちゃんってウケんね。
あまりにもへこんでるから、だだっ広い家に一人は可哀そうな気がして、家に電話した。
そのかわり明日は早朝によっちゃんのバイクで家まで送ってもらおう。
その夜、よっちゃんは「し、白子・・・来るなぁ・・・」という寝言を発していた。
- 55 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:45
-
- 56 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:46
-
3.
よっちゃんは昨日恋をして、昨日恋に破れた。はえーよ、バカ。
「美貴ちゃん!?」
朝、一番に聞いたのは、甲高い声だった。
寝起きなのと、耳鳴りが酷いのとで、頭が回らない。
よっちゃんのベッドって、クイーンサイズだから、一緒に寝てたのに、
横には誰も居なかった。その代わり、入り口には、驚愕の表情を浮かべた梨華ちゃん。
美貴ちゃんですけど、なにか?
「梨華ちゃん、ウルサイ」
その後ろにはふにゃふにゃの顔のよっちゃん。
歯ブラシくわえて、あくびして。梨華ちゃんはミキとよっちゃんの顔を
代わる代わる見て、
「言ってくれればよかったのに・・・
あ、私先に行くね!遅刻しちゃダメだよっ」
なにを言えばよかったって?
- 57 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:46
-
朝ごはん食べて、シャワー浴びたら、だんだん頭がはっきりしてきた。
早く起きて、家まで送れって言ったのに、よっちゃんは寝過ごしたわけだ。
ミキが起きればよかったんだけど、よっちゃんが任せろって言うから任せたのに。
梨華ちゃんが何を言いたかったかもなんとなく分かった。分かりたくなかったけど。
よっちゃんは気にもしてない。なんでか着替えもしないでぼんやりニュース見てる。
「よっちゃん、ミキ推薦だから、目付けられたくないんだけど」
「あぁ、遅刻?大丈夫、しないよ」
梨華ちゃんがよっちゃんを起こしに来たのは、かなり早い時間だったんだけど、
ミキは一旦帰らないと。そうするともう出ないと間に合わない。
付いて来る気ないのか。別にいいけど。先出ようかな。
そう思って立ち上がると、よっちゃんもジャージのまま立ち上がった。
「ほい」
ヘルメットを渡された。一応送ってくれる気はあったみたい。
「よっちゃんはなんで着替えないの?」
「梨華ちゃんからめんどくさいにおいしたから、美貴だけ送って、サボる」
待て。そのにおい、ミキも気づいてるから。
- 58 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:47
-
気づいてはいるのだが、一緒にサボるとさらにめんどくさいことになりそうだから、
ごついバイクで家に帰り、ママとよっちゃんが談笑してる間に荷物整えて、
バイクの後ろに乗って、校門まで行くと面倒だから、学校の近くで降ろしてもらう。
んじゃ、と言って本当に帰って行くよっちゃん。
あぁ、気が重い。教室に入ると、梨華ちゃんはまだ来てなかった。
先に行くとは言っていたが、あの後すぐ出たわけもない。早すぎる時間だ。
よっちゃんが送ってくれたおかげで、予想以上に早く着いたから、
梨華ちゃんがまだなのにも納得だ。来たらうるさいぞー・・・。
いっそ来なければいいのに。でも梨華ちゃんも推薦だからな。ちゃんと来るだろうな。
「おはよう、美貴ちゃん」
「あ、おはよ」
来た。なんでだろう、今朝は悪魔に見える。いやいや、ミキの思い込みだな。
そう。梨華ちゃんが勘違いしてることは間違いないけど、よっちゃんを好きかどうかは
定かではない。明るい感じで否定しとけば、そーなんだーって感じになるんじゃない。
なんて聞いてくるかと身構えていたのに、梨華ちゃんはそのまま席に向かってしまった。
何も聞かれないと言うのは予想してなかった。
なんだったんだろ。ミキが来てるなら言ってくれればよかったのにって事だったのか。
それなら一緒に学校行くか。やっぱ勘違いはしてるよなぁ。
- 59 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:48
-
何も言われないプレッシャーはものすごいものがある。
何にも言ってくれない。言って欲しくなかったはずなのに、
いっそ問い詰めて欲しい。なにこのドM発言。
追い詰められてたから、昼休みにやってきたごっちんが天使に見えた。
「んぁ、よしこ来てないし、メールも返ってこないんだけど、なんで?」
当然のように梨華ちゃんに聞くごっちん。
そこね、今一番触れなきゃいけないけど、触れたくないトコ。
関係ないバカ話して欲しかった。
「美貴ちゃんに聞いたほうがいいよ」
にっこり、正真正銘天使の微笑なのだが、まだ悪魔に見える。
どうゆうこと、と騒ぎ出したごっちんに、梨華ちゃんが全て分かってるような微笑み。
いや、オメ、なんもわかってねぇから。しかし、チャンスだ。
「あのね、梨華ちゃん。今朝の」
「いいの!分かってるから!応援するよ!」
いらん。そんな応援いっさいいらん。だから何もわかってねぇって。
- 60 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:48
-
なんてやっかいな。
梨華ちゃんは話を切り上げ、放課後、
“今日はよっちゃんち帰るんでしょ、邪魔しないからね!”
とわけの分からないメールを送ってきたまま、帰ってしまったようだった。
バイト先は定休日なので、ごっちんを捕まえて、小会議開催決定。
「よし!その勘違い、利用します!」
いやだ。力強く言い切るごっちんは妙な小芝居を思いついたみたいだけど、
どうでもいい。この勘違いが解けて、妙なプレッシャーがない生活さえ戻れば、
ミキにはどうでもいい。やるなら主演・監督、後藤真希でやってくれ。ミキは降りる。
あぁ、相談する相手間違えた。誤解を解く手伝いをして欲しかっただけなのに。
梨華ちゃんにヤキモチ焼かせて、よっちゃんとくっつけようと言い出した。
ほんと、どうでもいいから。なるようになって付き合うなら祝福するけど、
そんな積極的に何とかしようなんて思ってない。
だめだ、こいつは梨華ちゃんよりよっぽどやっかいだ。
事細かに指示されたけど、結局その台本が役立つことはなかった。
もうやけになってその通りやってやろうかと思っていたのだが、やらずに済んだ。
梨華ちゃんと、会ってしまったのだ。
いや、もともと小芝居見せに家へ行こうとしてたから、会ってしまったというのは
どうかとも思うが、予定通りの場所ではなかったのだから、会ってしまったのだろう。
- 61 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:49
-
梨華ちゃんは、まだ学校に居たのだ。保健室から、沈んだ顔で出てきた。
けっこうな時間が経ってたはずなんだけど。保健の先生と仲いいからな。
「ごっちん、先によっちゃんち行ってて。暇してるだろうから。
んで、梨華ちゃんちょっといい?」
初めからこうしておけばよかった。
落ち着ける場所って事で、屋上に行こうとしたけど、よく考えたら出入り自由なのは
あのバカ共だけだから、無難に食堂に行った。さいわい、人気はない。
あったかい紅茶を買って、梨華ちゃんに渡し、言った。
「梨華ちゃん、はっきり言おうよ。応援なんかしてないっしょ?」
読めないと思っていたミキがどうかしていた。
よっちゃんに抱きしめられたとは言わなかった梨華ちゃん。
両親が不在だからと、早起きしてよっちゃんを起こしに来る梨華ちゃん。
大事な思い出だったんだろーな。大事な人なんだろーな。
「そんなことないよ。美貴ちゃんとなら上手く行くと思うし、応援してるよ。」
悲壮な顔で精一杯悲しみを堪えて、梨華ちゃんが言った。
まだ言うか。せめていつもの読めねぇ表情で言えや。
- 62 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:49
-
「あのね、ミキ、あんなの好きじゃないから」
「え?」
「意地っ張りだし、ワガママだし、ガキだし、バカだし、素直じゃないし、優しくないし」
「そ、そんなことないよ!ひーちゃん、優しいんだよ・・・」
「なら、梨華ちゃんが付き合えば?」
痛いほどの沈黙が流れる。ごっちんの小芝居の構想は無駄になっちゃったけど、
確信も得られたし、気になってたとこはっきりさせとこう。
そもそも、オットコマエだからなんとなくよっちゃんを動かそうとしてたけど、
よく考えたら梨華ちゃんを動かしても問題ないんだ。
だいたいよっちゃんガキだから動かないし。
「ひーちゃんは、そんな風に思ってないだろうから。」
さびしそうに、やっと認めてくれた。めんどくさい二人だと思ってたけど、
よっちゃんが悪い。梨華ちゃんは自分の気持ち、ちゃんと分かってる。
あのガキだけが、大好きなくせに自覚もなく、フラフラ、ニタニタ、バカやってんだ。
梨華ちゃんは、ちゃんと分かってる。よっちゃんが大事に思ってることも、
それを恋だとは思ってないことも、今好きだと言ったら逃げてしまうだろう事も、
全部分かってたんだ。
- 63 名前:123 投稿日:2007/12/11(火) 01:51
-
とりあえず、勘違いは解けたし、せっかくバイト休みだし、ごっちんも居るし、
よっちゃんちに行こうってことになった。その道すがら。
「梨華ちゃん演技上手いよねー」
「え、なんで?」
「ミキ、ほんとによっちゃんに興味ないのかもと思ってたもん」
「ひーちゃん、敏感だから」
また寂しそうに笑う。いや、寂しそうに見えるのは今だからなんだろう。
昨日なら、読めない顔に見えたんだろう。どうとでも取れる笑顔。
気持ちを知ってるから、感じとることができた。
なんか、むかつく。
あんなバカガキのために、一日、いや、昨日も入れて二日も振り回されて。
もっと長い間その被害に遭ってた人は、こんなふうにしか笑えなくなってんだ。
ごっちん、決めた。協力するよ。絶対この二人くっつけてやる。
そんで、梨華ちゃんのふにゃふにゃになった本当の笑顔、写真にとって笑ってやるんだ。
- 64 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/11(火) 01:51
-
- 65 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/12/11(火) 07:46
- 超面白いっす
激しく期待
- 66 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/11(火) 22:02
- おもろい
めっちゃ続き気になるうう
- 67 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/12(水) 19:55
- このキャスティング大好きです!
楽しみです!
- 68 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:27
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人生を踏み外すのはどんな時だろう
あたしの場合は、反抗期だった
では、立ち直ることが出来るとしたら
それはいったいどんな時だろう
あたしの場合は、恩人と呼べる人に出会えたときだった
その恩人に、あたしはどうしたらいいだろう
しっかりと自分の足で立てるようになり、次はあたしが助けてやろうと思った
- 69 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:28
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1.
店長の都合で、バイトが早く終わってしまって、あたしはミキティとお茶していた。
「ごっちんって、中学どこだったの?」
「んぁ?なに、急に」
「ミキ、高校受験だったからさぁ。ごっちんどうだったのかなと思って」
あと数ヶ月で卒業のくせに変なこと気にするんだなぁ。
でも、もうちょいだからこそ気になるのかも。
別に隠してたわけでもないんだけど
そういえば話したことなかったかもしれない。
「ちょっと長くなるけど、いい?」
いや、手短に話せとか言ってたけど、
あたしは構わず、ゆっくりと自分の過去を語りだした。
- 70 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:28
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あの頃、あたしはクズだった。
家出して、男の家を泊まり歩いてた。当然のことながら、相手もろくな男じゃなかった。
殴られそうになって、そこからも逃げ、友達と一緒に夜の街を歩き回ったこともあった。
そんな時には、援交オヤジを引っ掛けてはホテルで金だけ抜いて逃げていた。
中学生でも入れるクラブを見つけては、葉っぱ吸って、狂ってた。
親に必死で探されて、キレたあたしが一方的に喚き、怒鳴り散らして、
また家を飛び出していく。そんな繰り返しだったのに、ある日仲間を失った。
親の説得に応じたその友達は、もうあたしと家出仲間ではなくなった。
一人になったあたしは、当面の資金作りに援交オヤジに付いていった。
ホテルに入ると、そのオヤジは懐から黒い手帳を覗かせた。
終わったと思った。逃げて、逃げて、未だ捕まったことはなかったのに。
オヤジは、あたしの歳を聞くと、親身になって話を聞いてくれた。
あたしは、なぜか正直に話していた。話しながら、自分でもめちゃくちゃだと思った。
オヤジは、同情してくれて、もうしないと誓ってくれるなら、
そして自分と一緒に家に帰るなら、学校や、署には連絡しないと言ってくれた。
家に帰ると、親は泣きながら、そのオヤジに謝っていた。
でも、あたしは泣かなかった。
- 71 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:28
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考えたら、すごい話だと思う。見逃してもらえたなんて話も聞いたことないし、
涙も見せずに切り抜けるなんてありえないとは思った。
友達が学校に行き始めたと聞いて、あたしは様子を見に行った。
二年生の途中から、まったく学校に行っていなかったあたしは、もう6月だというのに、
自分の新しい担任の顔も名前も、まったく知らなかった。
あたしの担任は、あのオヤジだった。
今思えば、ずいぶん探し回ってくれてたんだろうなとすぐに想像がつくのだが、
その時は、騙されたとしか思わなかった。
初めて自分の教室に行って、スプレーで窓に大きく“うそつき”と書いてやった。
数秒見詰め合って、あのオヤジが口を開いた瞬間、ガラス全部叩き割ってやった。
学校中の怯えた視線を一身に受け、あたしは校門から堂々と出て行った。
ガラスで切ってしまい、腕からは血がポタポタと滴っていた。
- 72 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:29
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最寄り駅から二駅のところに、あたしの一番落ち着く場所があった。
いつもの、くだらない仲間しか来ないその場所に行こうとしていたのに、
電車の窓に写った自分の顔が、あまりにも凍りついていたから。
金を抜くつもりだったくせに、一人前に裏切られたって顔をしていたから。
降りるのも忘れて、放心していた。
正気に戻って、とりあえず適当に降りてはみたものの、
全く知らない街で、あたしは為すすべもなく立ち尽くしていた。
何分、いや、何十分、もしかしたら、何時間も。
そろそろ暗くなろうかという頃、変な高校生に声を掛けられた。
声を掛けられるのは慣れていたが、特定のタイプの人間に限ってで、
その時声を掛けてきた人には、戸惑ってしまった。
真面目そうな、フツーの女の子。
血まみれの腕を垂らして立ち尽くしている間、
何人もの人の侮蔑の混じった視線に晒されながら、あたしの世界は、あたし一人だった。
上品で、やわらかい笑みを浮かべて、怪我してるね、よかったら家に来ない、と、
そう言われて、あたしの世界は、二人になった。
- 73 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:29
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怪我してる人を放ってはおけないという、道徳的な信念の下、
その女の子は、あたしの手当てをしてくれた。
どうせもう二度と会うこともないだろうと、あたしは事情を聞かれ、素直に話した。
そしたら、その子は、あたしの話については何の感想も言わず、
自分と、自分の幼馴染の話を始めた。
平和な、話だった。普通の中高生の、普通の話。
あたしには、それがひどく新鮮で、退屈なはずの『日常』が眩しくてたまらなかった。
俯いて、いいね、羨ましいと言うと、にっこり笑って言ってくれた。
何も遅くない、取り返しのつかない事なんてないんだよ、と。
大人からではない、一つしか変わらないその子からの言葉は、あたしに響いた。
こんなふうになってしまってから初めて、あたしは泣いた。
怒鳴られても、泣かれても、殴られても、涙を流したことなどなかったのに。
変わりたい、そんなふうに生きてみたいと、心から叫んだ。
声は震えていたし、涙も、止まらなかった。
- 74 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:31
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その子の着ていた制服を頼りに、高校を探し出し、生まれて初めて親に頭を下げた。
全部断ち切って、あの高校に行きたいんだ、行かせてくれと言うと、
ありがとう、と言いながら泣いてくれた。あたしも、親と一緒になって泣いた。
学校にも謝りに行った。急に教室に行っても馴染めないだろうからと、
毎日保健室で特別授業をしてくれた。
二年生の頃から行ってないし、内申書なんて、無い方がマシなくらいだった。
それでも、親と先生が、あたしの見えないところで随分頑張ってくれて、
私立高校だったおかげで、光明が見えた。
あたしは、入試の前に、面接試験を受けることになって、呼び出された。
いろいろなことを聞かれた。
こんなこと、今までなかったんだろう。
偉い人がたくさん来ていた。最後に、理事長が、
どうしてウチにいらしたいと思ったのかしら、と聞いてきた。
あたしは、その日いちばんのはっきりした声で、
そちらの生徒さんに、救ってもらったからですと答えた。
- 75 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:31
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「いや、嘘じゃん」
「え、なんで?」
「うちの理事長、おっさんじゃん。なのに、口調が完全女だったじゃん」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
なんだ嘘かよ、せっかく真面目に聞いてたのにって、ミキティはコートを着て、
さっさと席を立ってしまった。あらら、せっかく長いこと語ってたのに。
「待ってよ。あっちの市の第五中学。あたしの母校」
「最初からそれだけ言えよ」
「あ、でもさ。声掛けてくれたのって、梨華ちゃんなんだ」
「はいはい。モデルが、でしょ」
「えー、もう嘘決定なのー?」
「現実味なさすぎ」
現実味ないかぁ・・・なんか酷い言われようだな。
ま、信じてくれなくてもいいけど。
「いちおー続き、聞いてくれる?」
「・・・いいけど、家に着く前に終わらせてよ」
- 76 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:31
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学力さえクリアすれば、内申書には目をつぶってくれるという知らせが届いた。
出来るもんならやってみろってことだったのかもしれない。
見くびられたのかもしれない。面白がられただけだったのかもしれない。
金髪をやめた。ピアスも、耳以外は全部外して、メイクもやめた。
一年近く着ていなかった制服を着て、煙草も、酒も、葉っぱも全部処分した。
携帯も変えた。場所探知を恐れて、家に居るとき以外、電源を入れたことがなかった。
久しぶりに、街中を歩きながら、画面の暗くない携帯を見た。
高校の前で、待ち伏せして、梨華ちゃんを見つけた。
精一杯の声を出して、あのっ、と叫んだ。
ずいぶん中学生らしくなったあたしに、一瞬、誰か分からないという顔を向けた。
でも、すぐに思い出してくれて、あの日と同じ笑顔を見せてくれた。
あたしも笑った。こんなに自然に笑ったのも、久しぶりだった。
- 77 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:32
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梨華ちゃんと同じ学校を受験できることになったと言うと、
じゃあ、ひーちゃんと同級生になるんだね、附属中学の3年生だから、と言って笑った。
あたしが、ひーちゃんって誰、と聞くと、前に聞いた幼馴染の名前だと教えてくれた。
“ひーちゃん”の話は面白かった。あたしの居た夜のグレーな世界とは違って、
太陽の光を浴びて、鮮やかに彩られていた。
好きなの、と聞いたら恥ずかしそうに、内緒だよと言っていた。
あたしはそのとき、梨華ちゃんの秘密を一つ教えてもらって、
自分が梨華ちゃんの生きる色鮮やかな世界の仲間に入れてもらえた気がした。
それからも学校のことや、友達のこと、長らくあたしに縁遠かった『日常』の話を、
梨華ちゃんは乞われるままにずっと続けてくれた。
携帯の番号も教えてくれて、休みの日には勉強も教えてくれた。
ほぼ一年分になる遅れを取り戻して、しかも偏差値もそこそこの学校を目指すのは、
半端じゃなかった。夏休みは学校で補習を受け、梨華ちゃんもほぼ毎日面倒見てくれた。
- 78 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:32
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夏が過ぎ、秋も終わり、冬が訪れ、入試直前になっても、勉強に明け暮れていた。
あの先生はこういう問題好きだからって、一人じゃ絶対出来ない予想をしてくれて、
あたしは、奇跡を起こすことが出来た。
すこしだけ、他の子と扱いが違うあたしは、試験後にもう一度面接を受けた。
前回も居た人も居たけど、笑顔でおめでとう、やるじゃないと言ってくれたのは、
理事長だけだった。
改めて、今でも気持ちは変わってないわよね、と言われ、
はい。
と短く答えて、後日、自宅に合格通知が届いた。
その日のうちに、あたしは梨華ちゃんの家に、合格通知を見せに行った。
そこで初めて、“ひーちゃん”に会った。
普通は受験番号が張り出されるだけだから、“ひーちゃん”は不思議そうな顔をしていた。
あたしは別に隠すつもりはなかったんだけど、梨華ちゃんが誤魔化したので、
理由は何も言わなかった。
“ひーちゃん”は、来年からよろしくっ、と言って笑ってくれた。
- 79 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:32
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「だから、理事長おっさんだってば」
「いーじゃん、どっちでも」
「あーはいはい。そういう話なんだよね。」
「そうそう。だから、あたしは梨華ちゃんの気持ち知ってたよ」
「・・・あっそ」
ミキティは最近知ったらしいけど、あたしは入学する前から知ってた。
でも、内緒だよって言われたから、誰にも言わなかった。
「じゃぁ、よっちゃんに嫌がらせしてただけじゃないんだ?」
「そんなんしないよー」
よしこは、あたしが自分の足で歩き始めて、最初にできた友達だもん。
そんで梨華ちゃんは、あたしの恩人。本気で、二人を応援してるんだ。
「どこまでその話引っ張る気?」
「嘘じゃないって。梨華ちゃんに恩返ししたいの」
「あっそー」
あたしは、近くのアパートで一人暮らしをしている。
昔の仲間に会わなくて済むように、正月も地元には帰らない。
ついでにもう一つ。教えてあげないけど、理事長って、実はオネエ系なんだよ。
- 80 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:33
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- 81 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:33
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2.
あたしは、ミキティと作戦会議をしていた。
「んあ。どーしよっか」
「ね、昨日の話なんだけど。梨華ちゃん、一年のとき忙しそうだったんだよね」
「それはもーいーじゃん」
嘘扱いしてたくせに、気にしてるんだ。
「ミキティ、協力する気になったんでしょー?」
「そうなんだけどさ。理事長はおっさんなんだよねぇ・・・。
いや、ごめん!そだね。よっちゃんだよね!」
うん。そう。今日はあたしのことはどうでもいい。よしこだ。
「よっちゃんはガキだからさ、突っ込まれたら意地になると思うんだ」
「うん」
ミキティから、梨華ちゃんの分析もじっくり聞いた。
- 82 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:33
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なんとも言えない沈黙に包まれる。
ようするに、手詰まりなんだ。梨華ちゃんの読みは、正しい。と思う。
少なくとも、今すぐよしこに告ってもいい結果は得られないだろう。
「で、どーすんの?」
「ごっちん入学前から梨華ちゃん幸せにしたかったんでしょ。
二年も考えて、何もなかったの?」
あ、疑ってるくせに利用した。ずっるい。
そうなんだけど、あんだけ言ってもよしこは変わらないんだ。
こりゃもう梨華ちゃんの気持ちを伝えるぐらいしか残ってない。
「いや、勝手に告っちゃダメでしょ」
「んあ、分かってるよ」
あたしは思いつく限りのこと試してきたんだ。
全然考えてなかったんなら、一個くらいアイデア出して欲しい。
「じゃー・・・、梨華ちゃんに恋人出現。とか?」
・・・それいってみよう。
- 83 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:34
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「よーしーこー、今日も来るんだよねー?」
「おぉ、行くよー・・・何、まさか来るなとか言う気?」
なんか警戒した感じで言われた。
どーせバイト先に現れるんだから、そん時に小耳に挟ませようってことになった。
今はその確認をしている。
「そんなこと言わないよ。一人だよね?」
「・・・わーかってるよ。梨華ちゃん誘えって言うんだろ?」
しゃーねーなとか言いながら、携帯を取り出すよしこ。
あれ、なんか今日は素直。感心、感心。
「うん。ミキとごっちんのバイト先。行く?分かった。
じゃ、一緒に行こっか」
じゃ、適当に行くから働きながら待ってて、と言ってよしこは出て行った。
・・・あ。一人で来ないとダメじゃん。もー、アホよしこ。
まーいーや。きっと梨華ちゃん喜んでるよね。
- 84 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:34
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「うぉい」
ロッカーで着替えてたら、やたらと低い声したミキティに睨まれた。
「んぁ?」
「んぁ、じゃねーよ。なんでわざわざ梨華ちゃん誘わすんだよ」
「違うよ。よしこが勘違いして、勝手に呼んだの」
「だとしても、止めろよ」
「えー?梨華ちゃん、迷惑だったかな?」
喜んでくれてると思ったのに。
都合悪かったのかな。どうしよ、謝ってこようかな。
「ちげーよ。・・・はぁ、なんでそんな梨華ちゃん大事なわけ?」
「恩人だもん」
「・・・・そろそろそのネタ止めないと、ミキ、協力しないよ?」
ネタじゃないってば。
まぁ、信じられないんだろうな。あたしも今となっては信じられないもん。
あんなに頼りにしてた梨華ちゃんも、2年も経てば欠点も知って、
フツーの人に見えてくるもん。初めからフツーの人としか思ってないミキティには、
想像もつかないだろう。
- 85 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:35
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「とにかく、作戦は守ってよね」
「・・・らじゃー。」
すんげぇ睨まれた。ミキティ、怖い。
裏の裏まで見てきたあたしが保証する、ミキティはヤンキーやっていけるよ。
しかもけっこーそん中でも偉くなれると思う。
「ミーキー」
「ごっちーん」
聞きなれた声に呼ばれ、仕事を始めた。
「ごっちん、ちょっとよっちゃんあっちにやってて」
ミキティの指示で、よしこを連れて裏に入った。
怖いから従う。そんで、気になるから聞き耳立てる。
よしこ?あぁ・・・ジュースでも飲んでれば。
- 86 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:35
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「梨華ちゃん、ごっちんの中学時代、知ってるんだって?」
「え、急にどうしたの?」
「昨日そんなこと聞いてさぁ・・・ぶっちゃけ、不良だったの?」
「・・・ごっちんに聞いたとおりだと思うよ。」
あれ。ミキティが気になってたのって梨華ちゃんじゃなかったんだ。
あたしがバカやってたかどうかが気になってたんだ。どうでもいいじゃん。
「いや、聞いたんだよ。多分、全部。でも信じられなくってさぁ」
「ん〜、私も聞いただけだからねぇ」
「でも、見たんでしょ?ガラス割って、血まみれになったごっちん」
「見たよ」
「え、やっぱ本当だったの!?」
「分かんない」
「なにそれ〜!教えてくれる気ないでしょ」
「だって・・・見たけど、それで本当に窓ガラスで切った傷かどうか、
私には分からないじゃない?お医者さんじゃないもん」
梨華ちゃん、ガラスの破片、抜いてくれたじゃん・・・。
なんだろ。なんでそんな隠すんだろ。あたしはそんなに恥ずかしいと思ってないんだけど。
でも恩人だからね。恩返すからね。
勝手にオリジナルジュース作り出したアホっぽいのと、必ずくっつけてあげるから!
でも・・・梨華ちゃん、ほんとにこれで幸せになれるのかな。
- 87 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:36
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「そーだけどさ・・・。じゃ、その後、泣いてた?」
「美貴ちゃん」
「あ、ごめん。じゃー、勉強教えてあげてた?」
「教えるってほどじゃないよ。一緒に宿題したりしてたかな」
「ん〜・・・そっか。本当なんだ。全部」
あれ、梨華ちゃんは嘘ついてるのに、なんで分かったんだろ。
否定も肯定もせず、梨華ちゃんは黙って、微笑んでいた。
「梨華ちゃん、優しいね」
「美貴ちゃんは、勘いいよね。
・・・ごっちん、本気だったから。知ってたら、気を使っちゃうでしょ?」
「そだねー、びびって今ほど気軽にはできなかったかもね」
・・・それで、梨華ちゃんはよしこにも言わなかったんだ。
あたしが自分の足で立つのに、周りの評価が邪魔にならないように。
キレイにリセットして、過去があたしに追いついてこないように。
やばい、ちょー大恩人じゃん。あたし、まだ梨華ちゃんに守ってもらってたんだ。
ミキティはそれに気づいたんだろう。
いい子だよね、ミキティも。梨華ちゃんも、ミキティのことが好きとかなら
恩返しのしがいもあるんだけどなぁ。
でも、ミキティ。悪いけどミキティにはあたしのほうがびびってるから。
- 88 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:36
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「ひーちゃんは、知らないから」
「だろーね。大丈夫。勝手に言ったりしないよ」
「うん。知らないで出来上がった友情だから」
「でも、すごいね。よくそんなのに声掛けれたね。意外と肝据わってるよね」
「そんなのなんて、言わないであげて」
「う。・・・ごめん」
梨華ちゃぁん、あたし今日また泣いてもいいかなぁ。
「でも、ごっちん、なんで隠さなきゃいけないか分かってないみたいだったよ」
「うん。知ってる」
「説明してあげないの?世間はそんなに甘くないんだって」
「・・・・」
「よし!!答えてくれてありがと。
・・・あれ?じゃあ、なんで理事長は女言葉だったんだろ」
さっき分かったから大丈夫だよ。
梨華ちゃんは何も答えなかったけど、ミキティは話を切り上げた。
ってか、ミキティもそんな自分の好奇心だけ満たしてないで、
同じ方法で、よしこを呼んで作戦決行すればいいじゃん。
理事長のセリフだけふざけてたのかな、なんて言ってるけど、
罰としてその答えは教えてあげません。
- 89 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:37
-
向こうの会話にもひと段落ついた頃、こっちも終わったらしい。
「うわ、まずっ!!」
「え、飲ませて、飲ませて」
おわっ、激マズ。よしこのオリジナルジュース、何を目的に作られたんだろ。
おいしさを求めてなかったことだけは間違いない。
「何入れたの〜!?」
「秘密〜!あいつらにも持っていこーぜ」
「あ、待って。ミキティのに、これも入れたい」
「うわ、これ怒るよ」
ミキティのキライなものばっかり厳選して追加しといた。
「なにこれ、ケンカ売ってんの?」
「これ、おいしー」
梨華ちゃんに飲ますのは可哀そうだったから、ごとースペシャルに変えておいた。
ミキティのほうにはよしこがさらに追加して、最終的にどす黒い液体になっていた。
そんなことしてたら、店長が、お客さん来るまで摘んでていいよと、
たこ焼きを出してくれた。なんでこんなの作ってたのかは分からない。
- 90 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:37
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「よしこ、たこ焼き熱いよ」
「あ?冷めたらおいしくないじゃん」
「梨華ちゃんに、フーフーしてあげなよ」
「・・・やだよ」
「やれよ」
「なんでだよ」
「熱いから」
「熱いのと――――」
よしこがうだうだ文句言ってんの聞き流してたら、ミキティが梨華ちゃんに、
あれ恩返しのつもりらしーよ、って耳打ちしてるのが聞こえた。
梨華ちゃんは困ったような微笑みを返していた。
「フーフーしてあげなって」
「聞いてた?ねぇ、聞いてた?」
聞いてないよ。言い終わったみたいだから、話を続けたら、
よしこは何かを諦めたような顔をした。さらにやれよー、と続けると、
「はい、あーん」
憮然としたよしこが、梨華ちゃんに食べさせてあげて、
ミキティが梨華ちゃんを後ろから操って、よしこに食べさせてあげて、
なんか今日は、これでいいかと思った。
- 91 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:38
-
- 92 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:38
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3.
昨日のミキティのために作ったドリンクは、よしこが自分で飲まされていた。
すぐにトイレに吐きに行ってたのに、よしこは今日休みだった。
暇だからお見舞い行ってやろーかなと思ってたら、梨華ちゃんを見つけた。
「あの、すいません!」
「はい?」
・・・・・。
近所の高校の制服を着た男の子が、梨華ちゃんに声を掛けた。
このまま歩いてたら、追いついちゃうな。ちょっと終わるの待ってよう。
「それで、よかったらアドレスだけでも・・・」
「ごめんなさい・・・、好きな人が居るので」
「・・・そうですか。呼び止めて、すいませんでした」
その男の子と別れて、梨華ちゃん一人になったから、今度はあたしが声を掛けた。
ダメだったのって聞いたら、ひーちゃんには言わないでねって言われた。
うーん、紳士的な好青年だったけどなぁ。やっぱよしこがいいのか。
頑張るよ。恩返しするからね。よしこをその気にさせるからね。
- 93 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:39
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「今からバイト?」
「んーん、理事長だったの。だからよしこん家行こっかなって」
あたしは、月一で理事長や、校長と面談がある。その日はバイト休み。
フツーの高校生やってることが奇跡だからね。大変なのだ。
「そう。どうだった?」
「んぁ、進学したいなら、短大の方に推薦してあげようかって」
「へぇ、どうするの?」
「分かんない。ね、ミキティにも言わない方が良かったよね?」
「聞いてたの?」
「んー・・・聞こえた。よしこは聞こえてないみたいだったけど」
なんか、聞き耳立ててたのは言いたくない。
梨華ちゃんにがっかりされたら、生きていけない気がする。
世界中があたしの敵だったとき、梨華ちゃんだけは、あたしの味方だったから。
「そっか。いいんだよ?気を遣わしてごめんね。」
「んーん。そんなんいいの。あたし、梨華ちゃんの言うとおりにしたい」
なんか、困った顔で、笑ってた。
- 94 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:39
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なんかお見舞いに買ってあげようと思って、ちょっとコンビニに寄った。
ガラの悪い中学生が2人居て、こっち睨んでた。
梨華ちゃんに、腕引っ張られて、小さい声でダメって言われたから、
無視した。そしたら、笑われた。あ、なめられた。
久しぶりすぎて忘れてたけど、あたしこういうの嫌いなんだった。
ムカついてるまま、適当に見てたら、梨華ちゃんが先に出るのが見えた。
慌てて付いて行ったら、裏に入って行ったさっきの中学生を呼び止めてた。
梨華ちゃんもなめられるのキライなのかな?
「今、何か盗ったよね?」
あぁ、万引きか。いかんなぁ。昔はよくやったけど。つーか睨むなっての。
「あぁ?んだよ、かんけーねーだろ!」
そう言って、腕を掴んでいた梨華ちゃんを突き飛ばした。
もーダメだ。うっぜぇ。
「いってぇ!!」
は?まだ、何もしてないし。
- 95 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:39
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「何してんの?」
よしこだった。必死に離れようとしてるけど、びくともしない。
よしこは馬鹿力だから。っていうか馬鹿だから。
梨華ちゃんが事情を説明する。
もう一人の腕は、あたしが後ろに捻ってる。
よしこほど力ないから、掴んでるだけじゃ解かれるかもしれない。
「ふーん。ダメじゃん」
のんびり言ってるよしこ。
はぁ。説教する気も、どうにかしようって気もないらしい。
「よしこ、買い物に来たんでしょ?行って来なよ」
「は?これどうすんの?」
「あたしが預かる。」
ふーん、逃げられたら言ってね。顔は覚えたからってよしこが脅しいれて、
それでも中学生は一番敵いそうもないのがいなくなって、またなめた顔してる。
ほんと、人を見る目、養った方がいい。
- 96 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:40
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どっちが最初に睨んできたやつだっけ。あぁ、こっちだ。
後ろ手に捻り上げてた方の髪の毛掴んで、こっち向かせる。
「なに睨んでくれてんの?ムカついちゃったじゃん」
「ごっちん!!」
あぁ、ちょっと待ってて梨華ちゃん。すぐ済むから。
中学生は、何も言えないで固まってる。伝わる力が、本気を見せ付ける。
「なんか言えよ」
「は、はな・・・」
「は?」
突き放して、カバンを取り上げる。特に怪しいものは入ってない。
おもっきりゴミ溜めのほうに叩きつけて、さぁメインディッシュだ。
梨華ちゃん突き飛ばしてくれた方。どうしてくれよう。
とりあえず、前髪ちぎる勢いで引き寄せる。
「カバン」
黙って、差し出されたカバンを受け取る。表情は完全に固まってる。
根性ねー。あたしなら、あんたらくらいん時はバイクに囲まれても平然としてた。
- 97 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:41
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「ねぇ、なにこれ」
未開封の化粧品。けっこうある。1万くらいはすんじゃないの。
こんなに盗って、売りさばく気だったんだろーな。救えねぇ。
まぁいいんだけどね。いや、良くないけど、あたしは言う資格ない。
このガキが許されないのは、梨華ちゃんを突き飛ばしたことだ。
「黙ってんじゃねぇよ」
顔面に、軽く手の甲を入れてやったら、それだけで泣き出した。
うっぜぇって。もうこのままおもっきり殴りつけてやろうとしたら、
「ごっちん!!!」
梨華ちゃんに、体ごと捕まった。
梨華ちゃんは、泣きそうなくらい、必死な顔して、やめて、もういいからって、
なんでそんな顔すんの。
あぁ、一気にやる気なくした。とりあえず腹に一発蹴り入れてやって、
よしこが戻ってきたから入れ違いにコンビニの中に入った。
すれ違うときに、よしこがどうしたのって聞いてきたけど、何も答えなかった。
ってか、元気じゃん。サボりかよ。見舞いなんてやめときゃよかった。
そしたら、梨華ちゃんのあんな顔見ないで済んだのに。
- 98 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:41
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梨華ちゃんって、本当にめんどくさいことをする。
あのまま痛めつけときゃ早く済んだのに。コンビニの店員に突き出しても、
そのまま放っときゃいいのに、付いててあげてた。
裏から、梨華ちゃんとよしこが出てくるまで30分はかかった。
あたしは入らなかった。
「だって、あいつ梨華ちゃん突き飛ばしたから」
必死に言い訳してる。あたし、かっこ悪いな。
梨華ちゃんは、分かってるよ、後で話そうねって、微笑んでくれたけど、
あたしの一番好きな顔じゃなかった。
よしこは、あくびしながら、寝すぎたとかつぶやいてる。
「ひーちゃん、先帰ってて」
まだ何か言いたげなあたしを気遣って、梨華ちゃんが言ってくれた。
よしこも、んじゃ、荷物持ってあげるって、
梨華ちゃんのカバンと、コンビニの袋を持ってあっさり帰ってった。
- 99 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:41
-
「ごっちん、やり直したいんだよね?」
「もう、やり直せたよ」
ムッとして、言った。
梨華ちゃんのおかげで、こうして高校生やらしてもらってる。
希望すれば、進学もできる。進学すれば、もう本当にリセットだ。
素行なんて関係ない、社会人一歩手前になれる。
「私のために、ごっちんが暴力ふるっても、私は嬉しくない。悲しいよ」
「先にやってきたの、あいつらじゃん!」
「やられたら、やりかえすの?」
「何が気に入らないの!」
「ごっちん!!」
なんで。なんで。なんで。なんで。なんで。なんで、なんでそんな顔するの。
笑っててよ。いつだって笑ってくれたじゃん。
初めて会ったときも、会いに行ったときも、勉強教えてくれたときも、
高校受かったときも、いつだって笑ってくれなかったことなんかなかったじゃん。
あたしは、その場から走り去った。
やばい。泣けてきた。どこ行こう。あ、ミキティんとこ行こう。
- 100 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:42
-
「うちのお姫様泣かしといて、逃げんの?」
バイト先に向かって走ってたのに、よしこん家の前で捕まった。
泣かせといてって、泣いてんのあたしだよ。
片手に、携帯を持ってた。梨華ちゃんが電話したのかな。
「もしもし。どーも。出前頼んでいいっすか?藤本に持って来さしてください。
あ、藤本何分くらい借りれます?30分。分かりました。お願いします」
おたくの店長さんって、よしこが携帯指差して、へらへらしながら言った。
なんか、無性に腹が立って、蹴りこんだら、あっさり避けられた。
無視して立ち去ろうとしたら、へらへらしたまま、肩つかまれた。
よしこは、次の電話を掛け出して今度は、出ないなーってぼやいてた。
なんかバカバカしくなって、誰って聞いたら、お姫様って言われた。
「電話あったんじゃないの」
「ないよ。一生懸命だから、うちのお姫様。そんな余裕ない。
一人で泣いて、へこんでるんじゃない?」
だから泣かせないでよって言われて、簡単に想像できて、情けなくなってきた。
梨華ちゃんは、あたしが勝手に走ってったのに、責任感じてくれちゃう人。
- 101 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:42
-
なんか、あたしもうダメかも。梨華ちゃんも傷つけちゃったし。恩を仇で返すなんて。
「迎えに行ってくる。家入ってて。美貴が来るから」
よしこは、のんびり言って、あたしを玄関に押しやって、出掛けていった。
あたしは、立ち尽くしてた。かっこ悪い。また、誰かに助けられるまでじっとしてんのか。
今度は誰が助けてくれるんだろ。あ、ミキティか。
早く、来ない、かな――――
ダメだ。そんなの、ダメだ。変わってない。あたしは何にも変われてない。
ハッとして振り返ると、今まさにミキティがあたしの肩を叩こうとしていたところだった。
「うわ、びびったぁ」
間一髪。だいたい、ミキティに恩なんかできたら、いったい何倍返しだ。
「ほい、ジュース。んで、どしたの?」
「あ・・・」
言いたくない。中学時代の行いより、よっぽど恥ずかしい。
でも、もともとミキティに聞かせるつもりだったし、ざっと説明した。
- 102 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:43
-
「バカじゃん」
一刀両断。情け容赦いっさいなし。さすが。
でもいい。正しいから、今日はいい。
そうこうしてたら、よしこが一人で帰ってきた。
「・・・梨華ちゃんは?」
「あれ、気にする資格あんの?」
よしこは、冗談みたいな顔してたけど、本気で怒ってた。
ミキティがなだめて、あたしは黙り込むしか出来なかった。
「ミキ、一年前ってこんなガキだったかな?」
呆れた様子で言われた。そろそろ戻らなきゃいけないからって、最後に
梨華ちゃんに謝りに行くなら付いてってあげるって言ってくれた。
「謝ったらこいつバイトに連れて行くから。よっちゃん後頼むね」
「うん。二人帰ったら梨華ちゃんのカバン届けに行くわ」
勝手に話はまとまったけど、今のあたしに逆らう気力はなかった。
梨華ちゃんは、泣きはらした顔で笑ってくれた。後はミキが言っとくからって言われて、
もう、二人ともに情けなくて、あたしは俯いてしまった。
- 103 名前:123 投稿日:2007/12/15(土) 00:44
-
「ごっちん、ムカついても、手は出さないのがフツーの人。分かった?」
「・・・・はい。」
「まだまだ、ごっちんは過去清算できてないみたいだね。分かってる?」
「・・・・はい。」
「ごっちんが間違ったことしたら、梨華ちゃんは悲しむ。分かったよね?」
「・・・・はい。」
「よっちゃんも、正しい。ごっちんが悪い。分かりました?」
「・・・・はぁい。」
急遽バイトに入ることになったあたしは、一個ずつ取り出してダメだしされてる。
ミキティに。なんかちょっと悔しいのはなんでだろう。
「それから」
まだあんのか。
「よっちゃんは、梨華ちゃん命。間違いなさそうだね?」
「あ、それは間違いないです」
イタズラっぽく笑うミキティ。帰ってきてからのよしこ、マジこわかったもん。
お姫様だってさ。そう言って、ミキティと二人で顔見合わせてあたしはやっと笑った。
- 104 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/15(土) 00:44
-
- 105 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/15(土) 19:50
- これは面白い。更新楽しみにしてますよ。
- 106 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/16(日) 12:55
- 良い人の固まりな梨華ちゃんのおせっかいがきっかけだったのか。
いつもは梨華ちゃんの役回りだけど今回はごっちんが空回りしまくってますね。w
そろそろ自分の気持ちに気付いて欲しいと願いつつ次回の更新を楽しみに待っています♪
- 107 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/20(木) 17:14
- >>106
ネタバレ勘弁><
>>作者さま
更新楽しみにしてます
- 108 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/20(木) 21:33
- 85年組めちゃ好きです
がんばってくださいませ
- 109 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:36
-
あたしは自分の顔を直接見たことがない
それは皆そうだと思うが、自分と言うのは
鏡越しでないと見られない
あたしは自分の心を見たことがない
心が語りかけてくることはあっても
本人は見えなくて聞き逃してしまったりする
人は自分というのを見てみたいものらしい
でも、内面までは普通の鏡じゃ映せない
他人という鏡を通さないと
人は自分を見ることが出来ない
- 110 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:36
-
1.
昨夜遅く、両親が帰ってきた。帰ってきたと思ったら、また出掛けていった。
今度はヨーロッパを回ってくるそうだ。なんで冬休みまで待ってくれないかな。
もう慣れたけど。中学生になったぐらいから、両親の自由っぷりは承知してたけど。
帰ってきていたから、梨華ちゃんも今日は起こしに来てくれなかった。
迎えに来てくれる時間は寝過ごしてしまったようだ。
起きたら両親はもう居なかった。早すぎる。何しに帰ってきたんだろう。
テーブルの上に、温泉饅頭と、置手紙があった。
“行ってきます。母より”
起こせ。せめて、見送らせろ。つーかなんだこの手紙。
めんどくせー。今日はもう休もう。
携帯を見るとごっちんから、サボりかぁってメールが入ってた。
そーいや昨日、美貴に作ったジュース飲まされたな。
ごっちんと美貴はあたしに対する愛情が足りない。
あのジュースの所為にしよう。
思い出したらなんだか本気で気持ち悪くなってきた。
ダメだ、もう一回寝よう。
- 111 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:36
-
二度寝から覚めたら、もう学校は終わってる時間だった。
気分もすっきりしたし、腹もへってきた。
朝飯なのか昼飯なのか夕飯なのか全く分からないけど、なんか食べよう。
また家に一人だし、夕飯はどっか食べに出よう。
そうすると、今からだと微妙だな。コンビニでも行くか。
外に出ると、同じ学校の生徒をたくさん乗せたバスが通っていくのが見えた。
あたしはコンビニの裏に友達がいる。真っ黒い野良猫で、名前はまだない。
気が向いたら餌をやり、気が向いたら撫でてやる。
中に入る前にヤツに挨拶に行ったら、なんだか騒がしくなってきた。
ひょいっと顔を覗かせると、あたしのよく知ってる人が二人と、知らない人が二人。
梨華ちゃんとごっちん。あと中学生。まためんどくさそーなことをしている。
見知らぬ中学生が、あたしの幼馴染を突き飛ばした。
さらに手を振り上げたので、仕方なくあたしはその手を掴んで止めた。
「何してんの?」
ごっちんがもう一人の中学生も捕獲してんのが見えた。めんどくさそー・・・
- 112 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:37
-
「ふーん。ダメじゃん」
説明してもらったけど、あたしの感想は以上だ。ドロボーさんにこれ以上の感想なんてない。どうでもいい。なんなら、見逃してやってもいいぐらい。
梨華ちゃんもごっちんも心得たもので、
あたしにこれ以上なにか期待しているようにも見えない。
ごっちんが預かると言うので、あたしはコンビニの中に入った。
なに買おう。あ、雑誌出てる。あとは・・・・
コンビニから出ると、ごっちん、と叫ぶ声が聞こえ、まだ揉めてる事に気付いた。
ゆっくり裏に向かうと、中学生二人が膝付いて、ごっちんが鬼の形相で立っていて、
梨華ちゃんが泣き出しそうな顔で鬼にすがり付いていた。
なんだ、これ。
「どうしたの?」
鬼は答えてくれなかった。仕方ないから、泣きそうな幼馴染にも聞いてみた。
でも、なんでもないとしか言ってくれなかった。
なんでもなくはないんじゃなかろうか。
- 113 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:37
-
黙りこくって、随分おとなしくなってしまった中学生を連れて、
コンビニの店員のところに行った。奥で聞きますと言われたから、
ごっちんにも行くよと言ったのに、ごっちんは入ってこなかった。
事情を説明して、なぜかあたしがカバン拾いに行って、
中学校の先生とか、こいつらの親とかに連絡付くまで、梨華ちゃんが話してた。
あたしはぼんやりしていたのだが、出たら30分は経っていた。
帰り道で、ごっちんが、あいつは梨華ちゃんを突き飛ばしたから、とか言い出した。
やはりあの中学生たちはごっちんにやられたらしい。
「分かってるよ、後で話そうね」
梨華ちゃんが言いたいのは、“ひーちゃんが居ないときに話そうね”ってことかな。
なんでか何にも教えてくれないし。ごっちんはすんげぇ不満そうだった。
見かねた梨華ちゃんに促されたので、あたしは空気読んで先に帰った。
- 114 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:37
-
あーあ、だるかった。こないだの小学生も、さっきの中学生も。
あたしがめんどくさいことするのは、昔からたいてい梨華ちゃんのせいだな。
家に着いて、梨華ちゃんのカバン置いて、買ってきたものを軽く摘んでた。
でも、あの二人の様子が気になって仕方ない。
普通じゃなかった。なんだか本気の空気を感じた。
あたしの幼馴染、不器用だからなぁ。
今日のめんどくさいことは、中学生の万引きだけで十分のはずだ。
残念ながらごっちんとの揉め事は上手く行かないだろう。
あたしの勝手な予想だけど。多分、一日に二つは処理できないだろう。
はぁ、しゃーねーな。気まずい空気醸し出して、家来られても迷惑だし。
玄関先で一発空気換えてやっか。そう思って、二人を待つことにした。
寒い中待っててやったのに、遠くに見えたのはごっちん一人だった。
やっぱりダメだったか。話し合いは決裂したんだろうな。
さて、お姫様はどこで泣いてるやら。
- 115 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:38
-
おーおー、すごい勢いで走ってんなぁ。
どこ行く気だろ。こりゃ、家も通り過ぎてく気だな。美貴んとこかな。
「うちのお姫様泣かしといて、逃げんの?」
進路塞いで、言ってやった。ごっちんが顔を上げる。
あれ、こいつも泣いてる。お前らめんどくさいなぁ・・・。
「もしもし。どーも。出前頼んでいいっすか?藤本に持って来さしてください。
あ、藤本何分くらい借りれます?30分。分かりました。お願いします」
こっち見てるから、おたくの店長さんだって教えてやったら、蹴りこまれた。
ま、避けたけど。甘いね。タイミングとかが甘い。
ごっちんはまたどっか行こうとしたけど、肩を掴んで止めた。
わざわざ行かなくても、美貴はここに来るんだから。で、梨華ちゃんだ。
「・・・・出ないなー」
「だれ?」
「お姫様。」
電話あったんじゃないのとか寝ぼけたことを言ってくる。
そんなに余裕のある人だったら、あたしは家の中でのんびり待ってるよ。
- 116 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:38
-
ごっちんを玄関の中に押しやって、あたしは梨華ちゃんを迎えに行った。
あたしと別れた場所で、一人しゃがみこんでいる梨華ちゃんを見つけた。
「さっみーよ、ここ。帰ろう」
肩に手を置いて、少し顔を覗き込みながら言った。
ごっちんが走り去って、見送って、自分の世界に浸ってたってとこかな。
予想通り、梨華ちゃんは一人で泣いていた。
「ひーちゃん、どうして・・・?」
どうしてって?なんでそんなセリフが出てくるかなぁ。
「迎えに来たに決まってんじゃん」
昔からそうだったのに、何をいまさら。
パターンじゃん。小学生の頃から、何度も何度も梨華ちゃんはめんどくさいことして。
上手く収拾つけられなくて、行き詰ったら、一人で泣いて。
なかなか弱音吐けないお前のために、あたしが探し回ってやってたじゃん。
いいかげん大きくなって頻度は減ったけど、いまさらそんなこと言うなよ。
- 117 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:39
-
立ち上がらせて、一緒に歩き始めた。いつもより速度は遅いかな。
「で、何があったわけ?」
「・・・・ごめんね、今は上手く言えない。」
「ふーん。」
いいけど。別にいいけど。ごっちんはクラスで一番仲いい友達で、
梨華ちゃんとは何でも言い合えると思ってたけど、別にいい。いいったら、いい。
・・・ちくしょお。なんだよ。言えよ。
すんげぇ、面白くない。家の前に着いて、カバンは後で届けるよと言って別れた。
美貴が、ごっちんに何か言っているのが聞こえてきた。
どうやらごっちんは、美貴に事情を説明したらしい。
え、訳分かってないの、あたしだけじゃん。うわ、つらい。
「・・・・梨華ちゃんは?」
「あれ、気にする資格あんの?」
なんだよ。泣かしといて。あたしは理由も教えてもらえねぇし。
なんなんだよ。気になるなら、あんなすぐ泣く子放置すんじゃねーよ。
もやもやしてたあたしは、表面には出してないつもりだったけど、
美貴に落ち着けと言われてしまった。
- 118 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:39
-
ごっちんは黙り込んでる。美貴は呆れてる。あたしはイラついてる。
とんでもなく居心地の悪いこの空間は、我が家の玄関。
誰か何か言えよ。美貴、あんま関係ねーんだから何とかしろよ。
あ、一番関係ないのあたしか。だって、一人だけ事情知らないし。
・・・ちくしょお。
とりあえず、美貴がこの場は収めてくれて、あたしは家の窓から、
向かいの家でごっちんが謝るのを眺めていた。
ごっちんは俯いたまま美貴に連れられて出て行き、美貴はあたしに軽く手を振っていた。
それを見送り、カバンを持って梨華ちゃんの家に向かうことにした。
「はい、カバン」
「ありがとう」
涙は止まったみたいだけど、その顔はいまだあたしの心を乱す。
なんも言ってくれねーとかさ、ずるくね?
もう悔しいから聞かないけど、ずるくね?
あー、もう。やめた。こんなこと考えてんのが一番めんどくせー。
- 119 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:39
-
梨華ちゃんに、両親がまた出かけたこと、その置手紙の短さ、昨日のジュースのまずさ、
まぁ、そんなこといろいろ話してた。
そしたら、梨華ちゃんは、あたしが一番気になるところに戻ってくれた。
「私ね、ごっちんにお説教しようとしちゃったの」
「ほう。」
「それで、ごっちん怒っちゃったの。私が悪いの」
「へー」
真面目に聞いてよって言われた。でも、あたしは結構真面目に聞いてる。
梨華ちゃんの私が悪いはアテにならない。
なんでも背負い込むから、悪くなくても悪いと言ってしまう。
説教したかったのは、中学生を締め上げてたことなんだろう。
別に梨華ちゃんは悪くない。何であっても暴力で解決すんの、キライだから、
ごっちんのやり方を認めるわけがない。それじゃぶつかるのも、当然じゃん。
そう言ってんのに。
「でも、それも私の価値観でしょ?押し付けちゃダメだよね」
「ダメじゃねー」
「ごっちん、怒ってたじゃない」
「それでも全然ダメじゃねー」
- 120 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:40
-
「ひーちゃん、適当なことばっか」
そう言って、笑う梨華ちゃん。別に適当に言ってんじゃない。
ダメなのはごっちんだ。暴れて、怒られたら逃げ出して。
こいつは一人で泣いてたのに。自分だけ美貴に泣きつこうとして。
「梨華ちゃんさ、ごっちんのしたことが正しいと思ってんの?」
「そうは思わないけど」
「トモダチじゃん。悪いことしたら叱らないと。でしょ?」
万引き中坊相手とはいえ、暴力沙汰でしょ。絶対ごっちんも叱らないとじゃん。
それで上手く行かなくても、ダメなんかじゃない。
最悪ダメでも、あたしが認めてやる。
誰もお前を認めてくれなくても、お前は正しいってあたしが叫び続けてやる。
熱くなったあたしがそう言ったら、梨華ちゃんは真っ赤になって俯いてしまった。
あれ?いや・・・、なんか間違えたかな?
「ひーちゃん、ずるい」
そう言って、あたしの腰に手を回してきた。梨華ちゃんの鼓動が聞こえる。
梨華ちゃんの髪の香りが、鼻先を掠める。
あったかくて、やわらかくて、いい香りで、あたしは梨華ちゃんの肩に手を回した。
あれ、なんかさっきまでとは違う意味で熱くなってきた。
- 121 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:40
-
「ひーちゃーん、ごはん食べて行くでしょー?」
「あ、うん!・・・行こっか?」
「うん・・・」
梨華ちゃんのママがそう言ってくれたので、梨華ちゃんを促して、一緒に部屋を出た。
手が、体が離れたとき、やけに寒く感じた。
「また出かけちゃったんだって?今度はどこ行ったの?」
「あー、ヨーロッパ回るらしいよ」
「あら、じゃー、ウチに泊まっていく?」
「え。」
いや、よくあることなんだけど。
今回みたいに両親が急に出かけたらよくお世話になるんだけど。
今日はちょっと。なんか熱いし。
「そーだね。ひーちゃん、泊まりなよ」
え゛?梨華ちゃん?
あれ、真っ赤になってなかった?動揺してんのあたしだけ?
・・・ま、そーだよね。幼馴染だもんね。子供の頃からくっついたりしてるもんね。
なぁんだ。赤くなってたのも、気のせいかな。
もー、いいや。お言葉に甘えて梨華ちゃんの家に泊まることにしよう。
- 122 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:40
-
- 123 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:41
-
2.
家にいても梨華ちゃん家に居ても、あんま変わらないような距離だし。
慣れすぎてあんまり気にならないから、今朝もいつもどおりだ。
校門のあたりで美貴に会って、また冷やかされて。
ギリギリの時間にやってきたごっちんに・・・・・無視されて?
「ちょ、待て」
「んぁ?」
「いや、おはようって言ってんじゃん」
なんか気まずそうに目を逸らされて、ボソッとおはよって言われた。
なんだよ。機嫌悪いのか。それとも昨日のこと気にしてんのか。
意外にナイーヴ?めんどくせー・・・。
美貴だな。こいつを何とかしてくれるのは美貴だ。美貴にメールしよっと。
・・・・これでよし。席も近いし、なんか気まずいのヤだな。
「ごっちん、あたし授業抜けるわ」
「・・・あっそ」
ほんとに態度悪いな。ちくしょお。戻ってもこんな感じだったら文句言ってやる。
頼むぞ、美貴。
- 124 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:41
-
今日は天気がいい。風は冷たいけど、太陽ぽかぽか気持ちいい。
どこ行こうかな。屋上は風がきついしな。学校からも抜け出してお茶しよっかな。
校門は封鎖されているので、壁を乗り越えるべく、あたしは体育館裏を目指していた。
目立たないから、登ってても誰にも見つからない。
誰も居ないと思ったのに。
「きみ、だーれ?」
うちのじゃない制服を着た女の子が、一人で座っていた。
怪しい。怪しすぎる。夜だったらさすがのあたしも逃げ出すシチュエーションだ。
さいわいまだ朝だし、勇気を出して声を掛けてみた。
「あ、ごめんなさい」
振り向いたのは、予想以上に可愛い子だった。
外に用があったのでもないし、暇つぶしはこの子とでいいか。
「いいよ、別にチクんないよ。あたし、吉澤。君のお名前は?」
「あ、アヤです。えっと、怪しい者じゃなくてですね」
いや、悪いけど何を言っても怪しいのは間違いないよ。
でも面白そうだから、何か飲みながらゆっくり聞いてあげよう。
- 125 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:42
-
「幼馴染?」
「そうです。その子に会いに行こうと思ったんですけど」
「放課後じゃダメなの?」
「・・・迷惑かなと思って」
朝っぱらから他校に突入しようとする方が迷惑だろう。
なんかこの子、ズレてる。あたしは少し関わったことを後悔しはじめていた。
「私、避けられるんです」
「ほう」
「その子、3年生になってからバイト始めたんですけど、どこか教えてくれないし」
「あらら」
「家に帰るのも遅いから、ほとんど会えないし」
「ふーん」
「こないだは放課後待ち伏せしてたんですけど、バイトだからって追い返されて」
「あーぁ」
この子、アヤちゃんだっけ。初対面なのに赤裸々に語ってくれるなぁ。
学食の前の自販機で買ってあげたミルクティを見つめながら、完全に語りモードだ。
あたしはさっきから相槌ばっかり。避けられるかぁ。
幼馴染。あたしで言うと梨華ちゃんかな。
- 126 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:42
-
「やっぱ学校違うと会えなくなるもんですかね?」
「ん〜、ずっと附属だからなぁ」
「そうなんですか。子供の頃からみんな一緒なんですね」
「いや、別の高校受けた子もいるけど」
「避けられはしませんよね。私、嫌われてるんですかね?」
聞かれても。うかつなこと言えないし、どうしよう。
まず、この子の気持ちを考えてみよう。例えば梨華ちゃんが別の高校だったら。
あたしは多分、家には普通に遊びに行こうとするだろう。
でも、梨華ちゃんは忙しそうにしてて、会いに行っても避けられる。
ん〜それは寂しいなぁ。
「寂しいよねぇ」
「分かりますか?」
「うん。あたしも仲良い幼馴染いるんだぁ」
「同じ学校ですか?」
「うん。ここの3年生」
「吉澤さんは?」
「2年生」
「じゃぁ、来年離れ離れですね」
お、そういえば。内部進学だけど、ここにはもう来ないな。大学キャンパスの方だ。
でも家にはいるしなぁ。あ、大学生ってバイトとかサークルとかいろいろあるんだっけ。
- 127 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:43
-
「私、この高校に来たかったんです。」
「へぇ、落ちたの?」
「・・・・違います」
あれ、失礼だったかな。軽く上目遣いで睨まれた。アヤちゃんが言うには、
受験の日にやむをえない事情とやらの所為で受けられなかったんだそうだ。
そういえばアヤちゃんの着てる制服ってかなりの進学校のだ。受けてれば落ちるわけないな。
「その頃からです。避けられるようになったのは」
なんかなぁ。芝居がかってんだよな。聞くよ?暇だから聞くけど。
それまではどちらからともなく家を行き来し、電話もメールも毎日していたのに、
顔を合わすことも少なくなり、メールの返事は1日おきが2日おきになり。
電話もつながらない。バイト先は聞いても教えてくれない。
夏休みに入る頃にはすっかり疎遠になってしまい、転機が訪れたのは、
つい先月のことだったそうだ。
「家の前で会ったんです。もう2,3ヶ月会ってなかったんですけど」
「ほう」
会ったはいいがそんな急に話題もない。戸惑っているうちにその子の携帯が鳴り、
会話を交わすこともなくその子は扉の奥へと消えて行ったそうだ。
- 128 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:43
-
あたしならどう思うだろう。連絡もなくなって、会いたくても会えなくて、
やっと会えたと思ったら、言葉もなく目の前から消えて行く。
切ない!ヤだよ、梨華ちゃん!!
「聞いてます?」
「あ、聞いてるよ。ごめん、それで?」
感情移入してイっちゃってた。あたしは続きを促し、アヤちゃんも話を続ける。
久々の対面にずっと会いたかった自分の気持ちを思い出し、その日の夜、
電話を掛けたそうだ。五分前に外を見た時、その子の部屋の電気は点いていた。
なのに、その子は電話には出てくれなかったんだ。
「それで、どーしたの?」
「どうもできません。次の日メールは来ました。ごめん、寝てたって」
でも、アヤちゃんはその子が本当に寝た時間を知ってるんだ。
人影が動いて、電気が消されるのを見届けて、どんな気分でベッドに入ったんだろう。
「すっげぇ酷いじゃん。会いに行くのなんてやめとけよ」
なんでそんなヤツに会いに行くんだ。
いくら幼馴染でも友情が壊れる瞬間ってあると思うぞ。
- 129 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:43
-
「フツーそう思いますよね。でもあたし、そう思えなかったんです」
「なんで」
「その子のこと、好きだから」
辛くて、もうイヤになって、浮かんできたのは二人の思い出だったそうだ。
一緒に遊んだことや、助け合ってきたこと、なによりその子の笑顔が浮かんで、
居てもたってもいられなくなり、放課後待ち伏せしたり、今朝も会いに来たらしい。
「吉澤さんなら、どうですか?」
「え?」
「あたしと同じ立場だったら、どうしますか?」
キライになって、放っておくか。文句言いに行くか。それとも。
あたしは必死で考えた。考えて、考えて、答えは。
「会いに行くよ」
「・・・・どうしてですか?」
「その子のこと、好きだから」
理由だって知りたいし、訳分かんないままでなんかいられない。
かけがえのない時間。彼女の笑顔。浮かんでくる思い出なら山ほどある。
その一つ一つがあたしを梨華ちゃんの元へと駆り立てるだろう。
- 130 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:44
-
自分をこの子に重ね合わせて、会わせてあげたいと思い始めた。
3年生なら梨華ちゃんか美貴に聞けば見つけられるだろう。
「協力したげるよ。その子の名前は?」
「本当ですか!?藤本美貴って・・・」
「ごめん、なかったことにしよう」
「はぁ!?ちょっ、知ってるんですか!?」
「知らない。何も知らない。さよなら」
そう言ってあたしは立ち上がったのだが、アヤちゃんはあたしの腕を掴んで離さない。
離せ。ダメだって、そんなの。
美貴の幼馴染なんでしょ?そんなのに梨華ちゃん好きって言っちゃったんだよ?
あぁ、名乗らなきゃよかった。まだ苗字しか知られてないよな。
特徴とかでバレるかな。バレるよなぁ。
好きって言ってもあれですよ、ごはん好きとかと同じ意味ですよ?
でも、美貴に伝わったら間違いなく意味変わるじゃん。
ダメだって。悪いけど、再会はしない方向で。
「なに?不法侵入だよ?守衛さん呼んじゃうよ?」
「はぁ!?」
振り切った後ろから人聞きの悪いセリフがいっぱい聞こえるけど、なかったことにする。
あたしは今日、アヤなんて子には会ってない。家帰るまで忘れることに決めた。
- 131 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:44
-
教室に戻ると、ごっちんの態度は改善されていた。
「よしこぉ、昨日の梨華ちゃんのこと、ごめんね」
「それはあたしに謝ってんの?それとも梨華ちゃんに謝ってんの?」
「梨華ちゃんのだぁーりんとしてのよしこに謝ってる」
「それしか言うことないのか」
「ない」
なんだそれは。でもいいや。無視されるよりは全然いいや。
ここまできっぱり言われたら、あたしも無理に謝罪を求めようとは思わない。
でもさ、あたしだって頑張ったじゃん。・・・ちくしょお。
あたしとしてはまだごっちんに言ってやりたいことはいっぱいあったのだが、
昨日のことを思い出すと、腰に回された手の温度とかが先に浮かんでくる。
昨日は梨華ちゃん家に泊まったから、自分からも梨華ちゃんに似た香りがする。
同じシャンプー使って、同じベッドで寝たのに、微妙に違う匂い。
梨華ちゃんからは、もっと甘い、いい匂いがするんだ。
変な子に会ってから・・・・いや、会ってないけど。なんだかおかしい。
思考のベクトルが全部、梨華ちゃんの方へ向いてしまう。
梨華ちゃんは、大学に入ってもあたしの傍にいてくれるだろうか。
アヤ・・・誰かさんと同じように避けられてしまう日は訪れるんだろうか。
- 132 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:44
-
放課後、いくつかお呼び出しはあったのだが、そんな気分じゃなくて、
昼休みのうちに急いで回って断った。
「あ、梨華ちゃん、ダーリン来たよ」
うっせぇよ。ごっちんに“だぁーりん”言わしたのも美貴だな。
残り2、3人のところへ放課後行き、待たせていた梨華ちゃんのところへ行った。
「帰ろ」
「うん」
「あ、待って!ミキも出る」
「ごっちんは?」
「よっちゃん待つのイヤだってさ」
「・・・・」
あいつなんなの?あたしなんかしたっけ?
納得いかないところは多々あったのだが、美貴に言っても仕方ないので黙ってた。
そのまま他愛もない話に花を咲かせ、家の前まで来て、バイトに行く美貴を見送った。
「ひーちゃん、家来るよね?」
「あ、うん。着替えたらすぐ行く」
「うん、待ってるね」
- 133 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:45
-
さて。あたしは着替えを終え、梨華ちゃんの部屋に居る。
今日のことをどう消化したらいいのかな。来年になってもあたしはここに居るのかな。
「梨華ちゃん」
「ん?」
聞いてみたくて、大学生になっても変わらないよねって、
喉元まで出かかったのに、言葉にはならなかった。
「なんでもない」
「なにそれ、変なのぉ」
すごい葛藤してたのにそんなこと言うから、手元にあったぬいぐるみを投げつけた。
「いったーい、なにすんのぉ!」
投げ合い開始。今日もレフェリーは梨華ちゃんのママ。
ご飯だよーって言うから、試合終了。最後にぶつけたのはあたしだった。
- 134 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:45
-
梨華ちゃんは、あたしが負けっぱなしじゃ止めないのを知ってるから、
諦めてぬいぐるみを下に置く。二人で食卓につき、夕食をほおばる。
食後のティータイムも終わり、部屋に戻ると梨華ちゃんが宿題をやり始めた。
あたしはやらない。横で読書をしている。
「ひーちゃん、宿題は?」
「ん〜学校でやるよ」
「ダーメ!宿題はお家でするから宿題なの!」
しゃーねーな。言い出したら聞かねーからな。やるか。
あたしは実は勉強苦手じゃない。やりだしたら詰まらないし、楽に終えれる。
おねーさん、手こずってますねぇ。
「・・・終わったの?」
「終わったよ?」
読書の続き。ページめくる手を止めて、梨華ちゃんの方に目を向ける。
梨華ちゃんは、そんなに勉強得意じゃない。出来ないわけでもないけど、
フツーに辞書見たり、参考書とにらめっこしながらやってるから、あたしと比べると遅い。
- 135 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:45
-
昔から分かりきってることなのに、何故か不満そう。
あたし、あんまり弱点ってないんだよね。あ、泣いてる子には弱いかな。
三年生のこの時期は受験対策に復習が主だ。つまり梨華ちゃんの宿題は、
二年生のあたしにも出来る。やってくれとは、絶対言わないだろうけど。
「手伝おうか?」
「いらない」
意地っ張り。知ってるけどね。
でも完全に集中きれてるみたいだから、下に行ってミルクティ淹れてあげた。
梨華ちゃん家だけど。勝手知ったるってやつ。
あったかくて、ホッとする。ミルクティ。そーいや今日誰かに買ってあげたな。
あ。アヤちゃんだ。聞きたいな。でもなぁ・・・・あ。
「梨華ちゃんさ、あたしのこと好き?」
「ブぶばぁぁぁっ」
・・・・・・・・。
なんと言おう。この惨状を、なんと言ったら良いだろう。
コントかよってぐらい盛大にミルクティを噴出してくれて、机の上は・・・泥沼だ。
あたしの本は机の下にあったから無事だけど、梨華ちゃんの宿題はもうダメだな。
あたしは、黙って見つめることしかできない。
「な、なんで?」
息も絶え絶えに梨華ちゃんが尋ねてきたけど、まずはこの部屋を掃除した方が良いだろう。
- 136 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:46
-
タオルを持ってきて、丁寧に参考書やノートを乾かしていく。
あとちょっとしか使わないのが、せめてもの救いだな。
「ふぅ。」
「ねぇ、な、なんであんなこと聞いたの?」
一息つくあたしに、即座に聞いてくる。あれ、ずっと気になってたんだ。
真面目に掃除しろよなぁ。自分のノートじゃん。
あたしは今日会ったアヤちゃんの話を始めた。万が一に備えて、
名前は伏せさせてもらった。さらに、梨華ちゃんに誰にも言うなと口止めもした。
Aさん(仮名)には、とても仲のよい幼馴染がいました。しかし、Aさんとその幼馴染は、
会う機会が減ってしまいました。Aさんはそれをとても悲しんで会いに行くのですが、
どうやら嫌われているようで、避けられてしまいました。
でも諦めないAさんは今後もその大好きな幼馴染の下へ通うそうです。
「あたしは、この話を聞いて、梨華ちゃんを思い浮かべました」
「あぁ、幼馴染」
「そう。でね、そんなんヤダなと考えて、気付いたの。」
「な、なに?」
「そもそも梨華ちゃんに嫌われてなきゃ避けられないなって」
「・・・・そう。キライじゃないよ。避けないから安心して。」
あれ、なんかガッカリしてる?何か期待してたのかな。
- 137 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:46
-
「梨華ちゃん?」
「なーにー?」
すっかり聞く気なくしてる梨華ちゃんに、あたしは笑顔を作って、言った。
「避けられても、会いに行くよ」
「避けないってば」
あれ、見向きもしない。おかしいな。後輩なら5人は倒れる笑顔なのに。
何を期待してたんだろ。会いに行くじゃダメか。なんだろ。
「大学生になっても、変わらないよね?」
「わかんないよ」
ちょっと怒ってる?
え、マジ分かんねぇ。何?何を期待されてたの?
何に反応した?ココア噴出したのは、あ。
「梨華ちゃん、だいすき?」
「・・・疑問形?」
やっとこっち向いてくれたけど、口調は冷たい。口元はにやけてんだけど。
これも違うのかな。いや、疑問形がダメなんだな。
- 138 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:46
-
「だいすき」
「もーいい。」
「だいすきだよ」
「からかってんでしょ」
「だぁいすきぃ」
「やーめーて」
「かぁいいね」
「バカっ」
そっぽ向いて、お風呂入るって、出て行ってしまった。
でも、顔は真っ赤だった。テレてんな。なんか、可愛いかも。
からかって、ぬいぐるみ投げられて、梨華ちゃんも楽しいのかな。
楽しいんだろうな。このままって、楽しいよな。
ごっちんと美貴は梨華ちゃんのダーリンとか言ってたけど。
あたし年上の方が好きだな。年上で可愛げがあると好きだな。
見た目は綺麗なのが好きだな。いや、でも可愛いのも好きだな。
まい綺麗だったな。笑えないぐらい可愛い通り越したアホだったけど。
梨華ちゃんって年上で、可愛げのある、可愛らしい子だよな。
あたし、梨華ちゃんけっこー好きみたいだな。
でも、残念ながら鼻からミルクティ垂らしちゃう人には色気を感じないな。
すんげぇ顔になってたもん。だから梨華ちゃんはただの幼馴染だな。
- 139 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:47
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- 140 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:47
-
3.
あぁ、顔覚えられてしまった。
いつもの登校風景。視線の先には、アヤちゃんが。
アヤちゃんはこっちに寄ってくる。やめろ。来るな。
「おはようございます、吉澤さん」
「・・・・おはよう」
名前呼びやがった。くそ。挨拶だけだったら100%素通りしてやったのに。
横で梨華ちゃんが小さな声で、だれって聞いてくる。
知らないって言いたい。でもなぁ、昨日会ったじゃないですかぁとか言われたら、
Aさんだってバレちゃう。そしたら梨華ちゃん絶対めんどくさい事しだす。
そして、そのゴールには美貴がいるんだ。絶対からみたくない。
「ちょっと知ってる可哀そうな子。ごめん、先行ってて」
梨華ちゃんを見送り、アヤちゃんと対峙する。
ちくしょお。何の用だよ、こんなとこで。待つなら美貴を待てよ。
「あの人が吉澤さんの好きな人ですか」
「え、」
「幼馴染でしょ。昨日言ってた」
「まぁ・・・」
なんであたしが言葉詰まらせにゃならんのだ。年下だろ。
バカバカしい、こっちのペースで行くぞぉ。
- 141 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:47
-
「何の用だよ?」
「あなたに会いにきました」
「だから、何の用で」
「お話したくて」
「手短にどうぞ」
「いえ、ゆっくり話しましょう」
誰かを思い出す。どこまでも自分の話しかしないマイペース馬鹿。
この手の人間と話しても絶対収穫ないんだよな。無駄しか生み出さない気がする。
そしてさらに厄介なことに、逆らっても無駄なのだ。
マジ関わらなきゃよかった。
「はぁ・・・いいよ。」
「よかった。それじゃ、来てください」
近くの喫茶店に連れて行かれたが、ここはお勧めしないな。
もう一個奥の筋にある喫茶店の方がおいしいコーヒー出してくれるんだ。
「ここの紅茶おいしいんです」
昨日ミルクティあげたから、紅茶好きだと思われてんのか。
あたしはコーヒーの方が好きなのだが。
- 142 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:48
-
「ミルクティ二つお願いします」
勝手に注文された。
勝手って言葉がこれほどに似合う人間、そうそういないんじゃないだろーか。
別にいいけど。紅茶がキライなわけでもないし、ここのコーヒー美味くないし。
「で、何を話したいの?」
「ご趣味は?」
「・・・・・冗談?」
「もちろん」
焦るなと言わんばかりに、来たばかりのカップに口をつける。
ふてぶてしいぞ。どうしよう。可愛げのない年下はキライなんだけどな。
美味しそうに一口飲んで、アヤちゃんはあくまでマイペースに話し始めた。
「相談があるんです」
「相手間違ってない?」
昨日会ったばかりの人間に悩み相談などするだろうか。反語。
そんな内気そうにも見えないし、友達ぐらいいるだろう。
なんであたしに相談するんだ。
「吉澤さんなら分かってくれるかと思いまして」
「あたしなら?」
「そう、吉澤さんじゃないと、ダメなんです」
- 143 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:48
-
「吉澤さん、さっきの人のこと好きなんですよね?」
「幼馴染だからねぇ」
「そうですか。私は、そこに迷ってます。幼馴染として好きなのか、愛しているのか」
そんな軽々しく愛とか口にしちゃう人も好きじゃないなぁ。
あたし、こいつ苦手かも。つーか、美貴か。美貴を愛してるかもって言ってんのか。
ププって笑ったら怒るだろうなぁ。
「ん〜、ごっちゃになってるだけじゃないの?」
「そうかもしれません。」
「つーか、どっちでもいいじゃん」
「ダメです」
何でだよって聞いたら、気が済まないから、だって。
ほんとに勝手だ。知らねーよ。気持ちの整理ぐらい自分でつけろよ。
愛情と友情の境目ねぇ・・・それってまったくの別物じゃないの?
「私は、みきたんが死んだら、死ぬと思います」
「例えがこえーよ。いきなり死ぬなよ」
「あ、そうですね。さっきの人の名前、なんていうんですか?」
「・・・・梨華ちゃん」
あんまり言いたくなかったけど、あたしが完全に覚えられちゃってるから、
梨華ちゃんだけ隠しても美貴にバレるのは時間の問題だろう。
ほんと、心から再会できないことを祈ってる。
つーか梨華ちゃんは勝手に殺さないでくれよ。
- 144 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:48
-
「吉澤さんは、梨華さんが泣いてたらどうしますか?」
「迎えに行く」
「他の友達だったら?」
「え。」
どーするだろ。他の子、例えばごっちんが泣いてたら。
誰かに任せるかな。じゃぁ、美貴が泣いてたら・・・・泣くわけねーか。
それでも泣いてたら。・・・笑うな。笑いながら事細かに事情聞くな。んでもっかい笑う。
他の子でも、関わらないだろうな。そういや、梨華ちゃんだけかも。
いや、他の子は一緒に帰るわけじゃないから迎えになんか行かないよな。
「私は、他の誰が泣いてても、みきたんのことを一番に考えます」
「あ、そう」
考えてる間に、アヤちゃんは自分の意見を言ってきた。自己主張強め。
でも、あたしもそーかも。誰が泣いてても、梨華ちゃんが泣いてなきゃいいかも。
え、あたし酷いやつ?自分ではいいヤツだと思ってたのに。
- 145 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:49
-
「私、ダメなんです。みきたんのことになると、周り見えないんです」
「はぁ。」
「吉澤さん、分かってくれますよね?」
「いやぁ。」
「Love is Blind!!」
恋は盲目?力強く言ってくれてっけど・・・・。
本当に迷ってんだろうか。きっぱりLOVEって言ってるし。
つーか何で英語?いやぁ、って否定だよ?yeahっていうノリノリの答えじゃないよ?
「片時も離れたくないんです。」
「へぇ」
「みきたんが知らない誰かといるなんて、耐えられないんです」
「ほぉ」
「嫉妬するなんて、これって愛ですよね?」
「どーでしょ」
「吉澤さんは、どうですか?梨華さんのこと、同じように思いますか?」
片時も離れたくない?いや、たまには離れたい。
知らない誰かといるなんて?そりゃ、ちょっとはイヤだけど。
これって愛らしいですが?・・・・えぇぇ?嫉妬は独占欲じゃないの?
- 146 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:49
-
「みきたんが、好きなんです」
「そぉですか」
また質問投げっぱなしだよ。返事待たずに自分の話だよ。
「私がこの気持ちに迷いだしたのは、最近なんです」
「そーなの?」
子供の頃から暴走しっぱなしで、仕舞いに逃げられたんじゃないのか。
「失くしてから気付くんですよ」
「あ?」
「みきたんの部屋の明かりが消えたとき、気付いたんです。
あー、こんなにも、好きだったんだって。」
真っ直ぐな目で、射抜かれる。
否応なしに、真剣にさせられる目だった。あたしは、真面目に考え始めた。
会えなくなることは想像して、切なさは伝わってきたんだけど、
絆が断ち切られる瞬間ってどんなだろう。想像してみるか。
あたしは、梨華ちゃんに切り捨てられた。
笑顔や、泣き顔が浮かんできた。匂いも。感触も。声も。温もりも。
あぁ――――――、こんなにも、好きだった。
- 147 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:50
-
「どうですか?」
「あ?」
「私の気持ち、分かってくれましたか?」
「・・・お前、何がしたいわけ?」
こいつの一言で一気に現実に連れ戻される。正直、痛いほど気持ちは分かったけど。
なんなんだ、こいつは。なんか変だ。上手く言えないけど、違和感がある。
何か隠してる人間特有の雰囲気。なんだろ。何が狙いなんだろ。
昨日からちょいちょい芝居がかってたし、今の話は、相談なんかじゃない。
稚拙だけど、誰かに聞かせるために用意した物語のような。
「知りたいんです。自分の気持ちが」
「・・・・」
「吉澤さん。私の気持ちは、愛してるとは言えませんか?」
アヤちゃんは、顔色一つ変えることなくあたしを見つめる。
初めて本気であたしの意見を待っているのを感じた。
梨華ちゃんから拒絶されることなんて考えたこともない。
言われて初めて考えて、他の誰よりも大事に思ってる。失くしたくない。ずっと、傍に。
でも、これは愛なんだろうか。
何故あたしでなければいけないのか、分かった気がした。
アヤちゃんの美貴を想う気持ちは、あたしが梨華ちゃんを想うのとたぶん同じ種類。
アヤちゃんはあたしという鏡に映して、自分の気持ちを捕まえようとしてるんだ。
あたしにも、アヤちゃんという鏡に映る自分の気持ちを見て欲しいんだ。
あたしには、あたしが見えない。アヤちゃんにも、アヤちゃんは見えない。
- 148 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:50
-
気持ちはシンクロし始めたのに、あたしにはまだ分からない。
今、アヤちゃんとあたしは一対の鏡のようになっているのに。
いや、鏡だからこそこんな風に向き合ってちゃダメだ。
合わせ鏡の奥にいる『あたし』は、後姿でしか映ってくれない。
奥のほうの気持ちは、見るものに背を向ける。それじゃ、分からない。
見られたくない『あたし』の背を、見たいあたしが永遠に追いかけることしかできない。
何か、ないと。後姿見たって読めねーよ。
「私は、みきたんの前でだけ、私になれる」
あたしの返答を待っていたアヤちゃんの発したその一言で、
いや、絶対にただの気のせいなんだけど。それは十分に分かってるんだけど。
頭の中の、出来事。あたしの、イメージなんだけど。
一瞬、合わせ鏡の奥の自分が振り返ったように思ったんだ。
初めて目を合わせた『あたし』は、梨華ちゃんの前でしか現れたことなくて、
あたしに認識されたこともなくて。
やっと、あたしに気付いてもらえたって、にっこり笑ってたんだ。
自分の笑顔を思い浮かべるなんて、気持ち悪い。
でもそいつは、頭ん中で笑った『あたし』は、最高に嬉しそうだった。
あたしはそいつを、ずっと友情と名づけ、そう呼び、疑ったことすらなかった。
そいつは、どんなでもいい、抱きしめて、笑われたって構わない。
たとえ鼻からミルクティ出してたって変わらない。愛してるよ。
心の底でずっと叫んでた、梨華ちゃんと居たいんだってあたしに言うんだ。
- 149 名前:123 投稿日:2007/12/20(木) 22:51
-
「愛だろ」
「じゃあ、吉澤さんも」
「あたしは関係ねぇ」
吐き捨てるように言って、あたしは席を立った。
もう、知らない。答えは教えてやった。それだけでいいだろう。
お前という鏡に映ったあたしが、愛してるって言ってたから、
合わせ鏡の中のお前も、愛してるって言うはずだ。でも、詳しくは言わない。
白昼夢もいいとこだから。あたしはそんなメルヘンチックにはなりきれない。
一応年下だから、伝票は持って行ってやった。
一人で喫茶店を出る。思いのほか長い時間が経ってしまっていたようだ。
これから学校に行くか。それとも帰るか。今日の気分は。
「学校行くかぁ」
独り言だけど、独り言じゃない。
あたしの頭ん中で、さっきから嬉しそうにしてるやつに言ったんだ。
行くかぁじゃないな。行ってやるよっ、だ。
今までのお詫びだ。あたしが気付かずに端っこに押しやってたみたいだから。
お前は、ちょっとでも梨華ちゃんの近くにいたいんだろ。あたしはどっちでもいいけど。
・・・いや、自分に言い訳すんのはやめよう。してもしょーがねーし。
居場所作ってやろう。認めてやるよ。受け入れる。お前はあたしだ。
あたしの梨華ちゃんを愛する部分だ。いいよ。一緒に行こう。仲良くやろーぜ、恋心。
- 150 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/20(木) 22:51
-
- 151 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/21(金) 03:03
- よっちぃかっこいい!!
- 152 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/21(金) 19:13
- Aさん出てきた(^^)v
よっしー可愛いw
鏡のくだり素敵でした。
- 153 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/22(土) 00:28
- 136あたりのあまりの鈍さ具合に思わずニヤニヤ
Aさんとみなさんがどう絡んでるのか想像するとニヤニヤ
- 154 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/22(土) 10:26
- さらりと置いてくれた116レス目にちょい感動
- 155 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:30
-
向き不向きってあると思う
だから、すごい困難なことに見えても
他の人の介入とかで
思いのほか簡単に解決したりする
- 156 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:30
-
1.
もうすぐ冬休みだし、もうすぐ給料日だし。
最近ミキ幸せかも。今日も労働に勤しみますか。
「みきたーん」
「お、おつかれー。どうだった?」
ごっちんに連れられてご来店。いらっしゃいませ。
今日の帰り際、よっちゃんは何にも言ってなかったけど。
「みきたんの名前出したら逃げられた」
「んふふ、予想通り」
「みきたん嫌われてるの?」
「あいつがそういうヤツなだけ」
「そうそう。よしこめんどくさがりなの」
だいたいミキみたいないいヤツが嫌われてるわけないだろ。
嫌ってたらあのガキ、その3倍嫌い返してやる。
「それより、手応えは?」
「分かんないよ」
まぁ、想定の範囲内です。
何の話かというと、発端は前の日にさかのぼる。
- 157 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:30
-
◇◇◇
- 158 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:30
-
バイト中のことだ。
よっちゃんから出前の注文があって、ミキが届けに行くことになった。
・・・うち出前なんてやってないんだけど。よっちゃんしかそんな電話掛けてこないんだけど。
まぁ、それはいい。
よっちゃん家行ったら、ごっちんが玄関でうな垂れてて、揉めてたことを知る。
ミキが、このミキがその場は収めてあげて、ごっちんを連れてバイトに戻った。
ごっちんへの説教も終わって、バイトに精を出す。
「あれ、みきたーん、吉澤さんはぁ?」
「あ、あやちゃん。来ないよ」
えぇっ、なんでぇって胸倉掴んで言われた。
ご来店の彼女は松浦亜弥。通称あやや。ミキの幼馴染、ではない。
中学の頃の、委員会の後輩。内申書のネタがないからって無理やりやらされた委員会の。
そこで会って、たまたま気があって、仲良くなった後輩。
ミキを追っかけて同じ高校に入ってきた可愛い後輩。
ちなみに自分の容姿には絶対の自信を持っている。
そんな彼女が、他人に憧れるなんて。ミキは奇跡だと思う。
これを逃したら、現実的と向き合って生きる機会はもう来ないとすら思った。
- 159 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:31
-
その相手は残念ながらよっちゃん。ミキは必死で止めた。
一目見て声を掛けようとした行動力溢れるあやちゃんを必死で止めた。
よっちゃんって、告白してきた人たちの顔を三日で忘れるから。
しかも入学したばっかの頃だったから、よっちゃんは新入生に日々囲まれてた。
賭けてもいい。よっちゃんは絶対振るし、絶対忘れる。
ミキの大事なあやちゃんを、そんなその他大勢扱いされちゃ堪らない。
もちろん、じゃあ紹介してよって話になったんだけど。
バイト先で待たせてたら、やっぱいいって言い出した。
その理由は、梨華ちゃんといるよっちゃんを見てしまったから。
あんな緩みきった顔する人だとは思わなかったんだそうだ。
入る隙のなさを実感したらしい。他の子もみんな気付けばいいのに。
それ以来、よっちゃんを眺めるだけのいちファンで落ち着いている。
ミキも、それが一番だと思う。よっちゃんって観賞用だと思う。
わざわざ関わって、バカみたいなとこ散々見てるからもうダメだけど、
もしも梨華ちゃんと違うクラスでよっちゃんと関わる機会がなかったら。
ミキもよっちゃんを王子様として眺めてたかもとか思うもん。
あやちゃん本人も、離れて見るのが一番幸せなことに気付いてるだろう。
バカガキだから。近づいたら欠点しか見えないから。
今日も綺麗なのを観賞しに来たのだが、よっちゃんは今頃梨華ちゃん家で夕食だろう。
ミキとごっちんで相手しますんで、勘弁してください。
- 160 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:31
-
「ねぇ、あややのこと知らないんだよね?」
「は?知ってるよ」
「ミキティじゃなくてぇ、よしこ!」
こっち見てたじゃん。主語を省くな。突然言い出して、なんで分かんないのって顔すんな。
なんで説明足りないくせに、すべての情報共有できてると思うんだろう。
分からない理由はオマエが会話のルールを破ったからだよ。
「知らないと思うよ?」
「あやや、演劇部だったよね。ちょっと協力しない?」
「え?」
よっちゃんは最近ごっちんに何も期待しない。
ミキもそうしようかと思ってたくらいなんだけど、この時の提案は面白かった。
「私が、みきたんの幼馴染?」
「そう。そんでミキティが好きなの」
「照れるぅ」
「ちょ、黙ってて」
おい。あやちゃんが戸惑ってるから空気柔らかくしてやろうと挟んだのに。
酷すぎるだろ。ホント勝手だよな、オマエは。
でもアイデア自体は悪くない。可能性は感じる。だが、一歩足りないな。
- 161 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:31
-
「もっと捻らないと、ダメ」
「ミキティは黙っててって」
頭はたいてやった。ついさっきまでミキに説教されてたくせに、絶対忘れてる。
ごっちんの台本を要約すると、
あやちゃんがよっちゃんに、『ミキが好きだから協力してくれ』と近づいて行く。
なんとか巻き込んで協力させて、あやちゃんとミキが結ばれるまでをよっちゃんに見せ付ける。
そこでよっちゃんも幼馴染への愛に気付き、梨華ちゃんと結ばれてハッピーエンド。かな。
はっはっは。絶対そんな風には行かない。
あのガキのことならお見通しだ。最初からミキの名前なんか出したら、
笑い話か厄介話としか思わない。
だいたい、せっかくよっちゃんの知らない人っていうメリットがあるのに。
生かせてないだろ。『幼馴染』を信じ込ませるだけじゃなくて。
ミキならもっと活用する。芝居なんだからさ、ドラマを挟もうよ。
「ミキの名前は出さないで。幼馴染に会いに来た他校生ってことにしよう」
「・・・・」
「なんか言えよ」
ごっちんは何も言わない。痛かったのか。泣きそうな顔で見るな。
オマエ今日中学生コロス勢いでしばいたんだろ。そいつらの分だと思え。天罰だ。
「みきたん、私一応毎日学校行ってんだよ?見覚えくらいあるんじゃない?」
ごっちんじゃなくてあやちゃんが意見してくれた。でも甘い。甘すぎる。
あいつは基本的に年上好きだから、後輩の顔なんか絶対知らない。
後輩の名前具体的に出してるの聞いたことない。興味ないんじゃない。
- 162 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:32
-
「大丈夫。アホだから」
「そうかなぁ・・・」
「違う制服着てもらうし」
「はぁ?」
あやちゃん含めた後輩に興味ないのは言いづらい。一度は想い人だったからね。
他校生って、私服だと思い込んでたあやちゃんは戸惑いを隠せないようすだ。
確かにミキの予想だからな。外れてるとは思わないけど、見覚えぐらいあるかもしれない。
でも違う制服を着てれば、うちの高校の生徒と照合するなんてこと、まずしない。
「ミキの知り合いにいろんな制服持ってる人がいんの」
「・・・縁切ったほうがいいんじゃない」
「機会があればそうしたい。でね、ごっちんにも役はあるの」
「何?」
「よっちゃん教室から追い出して」
多分、気まずい空気とか醸し出せば、それだけでサボって出て行くだろう。
それかごっちんが態度悪くしてればミキに苦情が来るだろうし。
来たら“なんとかしとくからサボってくれば”とか言えば出て行く。
絶対。あいつは授業より居心地を大事にする。でも屋上行かれるとまずいな。
風が冷たい朝がいい。まだ眠いからモーニングコーヒー飲みに行こうとするかもしれない。
「あんたたち、学校抜け出すときどこから出るの?」
「んぁ。体育館裏の壁越えるの」
「あやちゃん、明日そこに待機してて。制服持って行くから」
「ちゃんと来るのぉ?寒いのに待ちぼうけはヤダよ」
「なんとかする」
- 163 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:32
-
「話はねぇ、ミキの名前だけ伏せて褒めちぎって」
「「えぇぇぇ?」」
なんだよ。褒めるとこ山ほどあんだろ。何が不満か。
猛反対された。リアリティがなくなるとか、すぐ誰のことか聞かれちゃうとか。
後半は一理あるが、前半は何だ。褒めたらリアリティなくなるってどういう意味だ。
「じゃぁ、いいよ。アドリブで」
「拗ねないでよ。流れぐらいは決めてくれないと、無理だよ」
「んぁ、よしこが梨華ちゃん好きって気付くように」
そうなんだけど。
ミキとオマエが散々突っついてダメだったのに、あやちゃんに丸投げか。
「分かった。好きって言わせればいいんだね」
うわ、頼もしい。でも死ぬほど不安だから、一応聞かせてほしい。
「え、石川さんのこと聞けばいいんでしょ」
甘いんだって。全力で否定されて終わりだ。あやちゃんは幼馴染への愛を語るだけでいい。
できれば、梨華ちゃんのことはよっちゃんに自分から話させたい。
重ね合わさせて欲しいな。ミキと梨華ちゃんを錯覚させて欲しいな。
「よしこは梨華ちゃんのありがたみを忘れてると思う」
ここでオマエが話に加わってくるんだ。なんなら黙っててくれてもいいんだけど。
あ、でもそれはなかなか鋭い指摘かも。
- 164 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:32
-
「あやちゃん、ミキに避けられてることにしよう」
「えぇぇ〜?」
「ミキティ調子乗ってない?」
オマエら・・・・最後まで聞いてから文句言え。せめてどうしてとか聞け。
まず文句から入るの止めろ。
「あのね、ごっちんの言うとおりなの。傍にいて当たり前と思ってんの。」
「それで幼馴染に避けられるお話なの?」
「みきたんなんかに避けられるなんて私のプライドが許さない」
なんかって。あれ、ミキが嫌われてる?
芝居抜きでミキが嫌われてるの?くそ。無視して続けてやる。最後まで聞け。
「よっちゃんと梨華ちゃんはしょっちゅう家を行き来してんの」
「そだねぇ」
「私も行きた〜い」
「でも行けなくなって、会えなくなって、会いに行っても避けられる人が現れる」
「何の話?」
「お芝居でしょ」
「意を決して連絡してくるあやちゃん、でもミキはそれを無視すんの」
「なんで?」
「ごっちん、お芝居だって」
「それをよっちゃんに想像させる。そこでよっちゃんは!」
「どぉすんの?」
「やっぱ好きだぁって言うんじゃない?」
言ったらいいんだけど。上手く行くかな。だいたいの行動は予想できる自信あるけど、
これは騙しきれるかが勝負だな。かま掛けてんのがバレたらなんとも思ってないって言われるな。
- 165 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:33
-
「あやちゃんの演技力次第だけど、言うと思う。」
他校生だと思ってるから、学校に突入してきてるとなれば覚悟も伝わる。
どうせもう会うこともないと思うだろうし。
「じゃあ、言うね」
「んぁ、そーなの?」
あぁ、自信家だからなぁ。でもあやちゃんのは実力を伴う自信だから大丈夫かも。
「同情して会わせてあげるって言われたら?みきたんも芝居すんの?」
「するよ」
「え、みきたん大好きって吉澤さんの前で言うの?」
「諦めたんじゃなかったの?」
「いつか石川さんにも飽きるかなと」
飽きても年下はダメだと思う。お姉さまに甘えるタイプだと思う。
だからおバカなミキのいとこは圏外になったんだと思うし。
あと・・・・飽きないと思う。もう17年一緒であんだけラブラブだし。
「じゃあ振ってあげようか」
「暴れるよ?」
「ミキティ調子乗ってるよね?」
『みきたんなんか』が相手ですもんね。
人生において振られることがあり得ないと本気で思ってる人だしね。
ってかさっきからなんでごっちんまで文句言うわけ?
- 166 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:33
-
「まぁ、そのへんは空気読んで臨機応変に行くから」
よっちゃんがそこまで付いて来るとも思えないし。
せいぜい教室教えるか、ミキ呼び出すかぐらいだろう。いや、逃げるかも。
「骨組みはこれぐらいでいい?」
「十分。あとの肉付けは任せて」
「んぁ。」
んぁって、オマエは流れ関係ないだろ。追い出すだけでいい。
っていうか余計なことはしないでほしい。
「じゃ、最終確認。明日のあやちゃんのキャラは?」
「幼馴染のみきたんが大好きだけど、最近避けられてる。
どうしても会いたくなって勇気を出して他の学校まで突入してきた厄介な人」
「そうそう。よっちゃんとミキが知り合いだってことは?」
「知りません」
「うん。目的は?」
「吉澤さんに幼馴染への愛について語ること」
「完璧!あやちゃんに頼んでよかった」
「んぁ、ミキティ。あたしが言い出したんだけど」
ごっちんの手柄はミキのもの。ミキの手柄はミキのもの。
ある子供に大人気の方が言った言葉のアレンジだ。覚えておくように。
「じゃ、ドラマチックにお願いね」
- 167 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:34
-
◇◇◇
- 168 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:34
-
で、さっきあやちゃんは報告に来てくれた。
よっちゃんとの会話は一通り聞かせてもらったんだけど。
あのガキ、ミキのことだと知ったらやっぱ逃げやがった。
読めてたんだけどなぁ。ほぼ予想通りの行動だったんだけどなぁ。
ダメだな。こりゃ今までとそんなに変わってないな。幼馴染としての好きだな。
「ごめん、あやちゃん。失敗だわ」
「そぉなの?私まったく分からなかったんだけど。
吉澤さんってすごいね。初めて喋ったけど、表情全然読めないね」
終始、飄々としてたらしい。気のない相槌ばっかりで、なんとか好きとは言わせたけど、
手応えはまったくなかったらしい。さらっと言われすぎて、拍子抜けしたとか。
でも、そのあとミキに会わせようとしてくれたから成功したとも思ったらしい。
しかし。あいつはミキの名前を聞いたら逃げ出したわけだ。予想はしてたけど。
ってか、ミキ像酷すぎ。超ヤなやつみたいじゃん。
「綺麗な目してたなぁ。声もいいトーンだったし」
「迷いなくガキだからね。純粋なの」
「ホントに石川さんのことなんとも思ってないんじゃないの?」
「あやちゃん、悪いけど諦めて。
もうよっちゃんにめんどくさい人として顔覚えられちゃってるよ」
「だよねぇ」
苦笑するあやちゃん。
そう。これであやちゃんは万が一にもよっちゃんとどうこう出来なくなった。
それで成果ないなんて申し訳ないなぁ。学校でもしばらくよっちゃん避けてもらわないとだし。
「私、明日もう一回行ってこようかな」
「はい?」
- 169 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:34
-
「だって、これで顔覚えられちゃったなら、制服着てるとこ見られちゃマズいでしょ?
どうすんの?双子の妹ですとか言えば通じるの?」
「いや、無理だね」
「じゃぁ、早いとこケリつけないと私ずっと逃亡者じゃん。
上手く行かなきゃただの嘘つきでしょ?みきたんは卒業だけど・・・」
「おっしゃるとおり、あやちゃんはあと一年よっちゃんと一緒だもんね」
「そうだよ。だからもう一回行ってくる。制服まだ借りれる?」
「あ、うん。大丈夫。他にもなんか手伝おうか?」
「いい。自分で考える」
「何かあんの?」
「ひみつ」
行動力溢れてるよね。そこらへん中びっしょびしょになる勢いで溢れてるよね。
今日だってどっかでよっちゃんに会ったりしないように、
帰りはミキがよっちゃんに張り付いて、居場所とかあやちゃんにメールして、
ごっちんとこそこそ帰ってもらったもん。こんなのこれからずっとは大変だよね。
手伝わなくてもいいらしいし、頑張ってもらっちゃおうかな。
「もっとミキへの愛語った方がいいよ」
「キモい」
はいはい。じゃ、頑張ってきてください。ご来店ありがとうございました。
- 170 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:34
-
- 171 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:35
-
2.
朝一で梨華ちゃんからよっちゃんが知らない子と出掛けていったと聞かされた。
あやちゃんのことだろう。特徴聞いたし間違いない。ってか詳しすぎ。どんだけ見てたんだよ。
一時間見詰め合っててもそこまで気付かねぇよってぐらい細かい描写を聞かされた。
梨華ちゃんって軽く痛いよね。
ぼんやりと、していた。
二時間目も終わりかけ、そろそろあやちゃんも終わったかなとか、
何話したんだろとか、上手く行くのかなとかそんなことばっか考えてた。
ふと、窓の外に目をやった。思考の迷路に囚われたときにはよくあることだ。
ベランダに、いつか見た光景が蘇った。
ひとつだけ違うのは、降りてきた影が立ち上がらないこと。
隠れてるんだろうけど。確かに先生は見逃したのか気付いてないみたいだけど。
ダメだろ。こんなに短い間隔で同じイタズラなんて、らしくないじゃないか。
いつ立ち上がって、混乱の渦に巻き込む気なんだろうと考えると、
ミキは気が気ではなかった。
あぁ、でも外によっちゃんがいるってことは話は済んだんだ。
何話したんだろ。え、もう授業終わるじゃん。終わるまでそこにいる気?
チャイムが鳴った。号令もそこそこに、ミキはベランダに走った。
先生が出て行くのを見届けて、ベランダのドアを開けた。
「よっちゃん!?」
「よぉ。梨華ちゃんは?」
- 172 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:35
-
軽く手をあげながら聞かれたが、
呼ぶまでもなくよっちゃんのお姫様はミキのすぐ後ろにいた。
「ひーちゃん!危ないから止めてって言ったでしょ!」
「んー。忘れた」
「ひーちゃん!!」
梨華ちゃんは本気で心配してるけど、ミキは別のことが気になってた。
何をしに来たのか。おとなしく授業終わるのを待ってたなんて、目的は何なんだ。
「言いたいことがある」
「何よ」
「鼻からミルクティ垂らしてても、好きだよ」
梨華ちゃん鼻からミルクティ垂らしてたんだ・・・・・。
ププ。って、何しに来たんだこいつ。幼馴染の恥を晒しに来たのか。わざわざ空から。
王子様だから。教室中が注目してるから。にっこり笑顔に蕩けてる人もいるけど、
今みんなの頭ん中鼻からミルクティ垂らした梨華ちゃんの映像でいっぱいだよ?
どうすんの?ちょっとしたイジメだよ?あれ、でも、こいつ今、好きって言った?
「なんでそんなのばらすのよっ!」
「だって言いたかったんだもん」
「恥ずかしいじゃない!黙っててよ!」
「怒った顔もいいね」
「出てってよ!!教室帰りなさいよ!」
「うわ、ちょ、痛いって」
- 173 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:35
-
梨華ちゃんは、王子様を追い出してしまった。
真っ赤な顔して、鼻からミルクティの弁解をしている。
みんな笑ってたからね。梨華ちゃん今すぐ帰りたいだろうなぁ。
「美貴ちゃん!」
お、ミキの番が回ってきた。
ミルクティの説明はいらなんだけど。どうせあのバカのせいで噴き出したとかだろうし。
「ねぇ、よっちゃん好きだって言ってたね」
「えぇ?何を?」
テンパって気付かなかったか。聞き逃してるみたいだ。
よっちゃんは気付いたのかな。気付いたのかもしれないな。
これはあとであやちゃんに何かおごらないとだな。すっげぇよ、大女優。
「言ってなかったっけ?」
「知らないけど、ミルクティはね――――」
まぁ予想通りの言い訳は聞かせてもらったけど。
面白いな。今度は梨華ちゃんがいつ気づくかだな。教えてあげようかな。
あ、でもまだ確証ないし。あやちゃんから話聞いて、それからかな。
あいつホント面白い。気付いたら即会いにきたよ。しかも好きだって。
ガキは素直だねぇ。みんなの前で言ってたから告白ではないな。
変わってないつもりだろうけどミキには通じないよ?オマエのことなんてお見通し、だ。
- 174 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:36
-
昼休み、ごっちんによっちゃんの居場所とかメールしてもらって、
鉢合わせにならないようにあやちゃんのクラスに向かった。
「来てない?」
「あ、はい。今日はお休みみたいです」
「そう・・・、ありがと」
行ったのに、あやちゃんは朝から来ていないと言われた。
よっちゃんは二時間目途中に現れたのに。なにしてんだろ。
携帯を取り出して、ミキは電話を掛け始めた。コール音が響く。
十数回鳴らしても、あやちゃんは電話には出なかった。
サボってどっか騒がしいところにでもいるんだろうか。
授業中に掛け返されても困るので“今どこにいるの”というメールを送っておいた。
結局、放課後になってもあやちゃんから連絡はなかった。
どういうことだろう。どう理解すればいいんだろう。
間違いなく今朝一緒だった人物には心当たりがあるのだが。
「美貴ちゃん、今日もバイト?」
「え、あぁ、うん」
「どうしたの?」
「いや、別に」
「そう?一緒に帰らない?」
「あ・・・・ごめん、ミキ寄るとこあるから」
- 175 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:36
-
聞けないな。聞けないのに、よっちゃんに会ったら聞いちゃいそうだ。
おとなしく連絡待ってよう。ごっちんには話そうかな。
「んぁ、梨華ちゃーん」
「帰るぞぉ」
あ、よっちゃんと一緒に来たってことは一緒に帰るんだろうな。
これじゃごっちんにも言えないな。どうしよう。
「んあ?ミキティ帰らないの?」
「用事あるんだって」
「ふーん、美貴バイト遅れないようになぁ」
「うん、バイバイ」
みんなと別れて一人で校門を出たんだけど、立ちっぱなしでずっと携帯眺めてた。
諦めて歩き出した頃、やっと携帯が鳴ってくれた。着信中・あやちゃん。
「もしもし!?どこにいんの!?」
『・・・うしろ』
「え?」
振り向いたそこには、
ミキが用意した制服に身を包み、ふくれっ面したあやちゃんが一人で立っていた。
- 176 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:36
-
電話を切り、直接問いかける。
「なんで電話でないの?いや、何してたの?」
「・・・考え事」
「メールぐらい返してよ」
「みきたん、心配した?」
「はぁ!?」
「心配、した?」
したよ。めちゃめちゃ心配しましたよ。正直、縁起でもない事考えましたよ。
何言ってんだこいつは。
「よっちゃんと何話したの?」
「答えてよ」
「は?」
「心配したって言ってよ」
「・・・心配したよ」
「ずっと携帯見てて私に気付かなかったじゃん」
「あやちゃんの連絡待ってたんじゃん。ってか声掛けてよ」
「気付いて欲しかったんだもん」
なんだ。急にわがままか。なんだよ。
ホント何話したの?マジ教えて欲しいんだけど。
- 177 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:37
-
「愛だって」
「そっか」
「うん。・・・ちょっと寂しかった。
吉澤さんて、石川さんでいっぱいなんだって思った」
ミキのミスだったかもしれない。具体的に何を話したかは聞いてないけど、
あやちゃんは、実に巧みによっちゃんを騙した。ちゃんと目的を果たした。
でも、あわよくば、みたいな感じだったんだろうけど、ちょっと期待してたんだ。
本当に、梨華ちゃんのこと、なんとも思ってないって結果に期待してたんだ。
少なくともこんなにはっきり見せ付けられるとは、思ってなかったんだ。
ミキは分かってた。あやちゃんがこの結果を望んでなかったことも、
よっちゃんにはこの結果しかなかったことも知っていたのに。傷つけてしまった。
「ちゃんと話すよ。よっちゃんに」
「え、なんて?」
「全部ミキが悪いんだって」
言い訳だって全部考えてあげる。ゆっくり癒してあげる。
あんなバカから逃げ回らなくていいようにしてあげるから。
「だから・・・ごめんね?」
「やめてよ、優しくしないで。今ならみきたんなんかでも良く思えちゃう」
また、『なんか』かよ。いいじゃん。ミキけっこーいいヤツだよ?
誰かに優しくされたかったくせに。朝から一人で我慢してたくせに。
- 178 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:37
-
「おいで。何かおごったげるよ」
「ホント?どこ行くの?なんかあったかいものがいい」
「バイト先に決まってんじゃん。メニュー見て勝手に決めなよ」
「・・・・最ッ悪」
「ミキなんかに期待しないでよ」
どーせ『なんか』ですから。
あったかーいミルクココアをおごってあげて、
ごっちんにもあやちゃんの快挙を教えてあげた。
「あややすごい!」
「でしょー、ごっちんもなんかおごってね」
「いーよぉ、ご飯食べていきなよ。よしこと梨華ちゃんも来るし」
「「え゛」」
どう言い訳すんだよ。まだ考えてないよ。ごっちんはそのマズさに全く気付いていない。
さいわい制服着たまんまだけど、嘘突き通したって意味ないし。
予想以上に早まったけどしょうがない。よっちゃんと司法取引するか。
「ごっちん、来たら梨華ちゃん引き止めといて」
「んあ、いいよー」
機嫌良いなぁ。でも、ダメだ。
事情があって、これ以上二人のことにはタッチできなくなる。
「梨華ちゃんに何も言っちゃダメだよ」
「え、なんで?」
「恩返しはさりげなく!鶴もさりげなかったでしょ!誇示しちゃダメ」
「あぁ、なるほど」
- 179 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:37
-
ホント、アホばっかりで疲れることもあるけど、意外に助かってるかも。
扱いやすいわ。
ごっちんが店先で梨華ちゃんと話す声が聞こえてきた。お二人様ご来店。
打ち合わせどおり、よっちゃんが一人で先に入ってきた。
ミキとあやちゃんはいつもよっちゃんが座る席で待ってる。目が合った。
「あれ?」
お、考え中。でも、考えなくて良い。すぐ教えてやるから。
「よっちゃん。この子、ミキの親友、あやちゃん」
「え、あ、うん」
「いろいろ話したと思うけど、あれ嘘なの」
「あぁ!?」
「ミキがムリヤリ頼んだの。ミキが全部悪いの。謝るよ。
ごめん。文句も聞く。どうしても殴りたければ殴ってくれてもいい」
「え」
「もう梨華ちゃんとのことに口出しはしないから」
「・・・・から?」
「あやちゃんは悪くないの、分かってあげて」
よっちゃんじゃないけど、こんなに真面目に謝罪したのは何年ぶりだろう。
大体、話は通じたようだ。ちょっと赤くなってるようだから、意味は分かっただろう。
愛してるとかは黙っててやるから、騙したことには目をつぶれ。
特にあやちゃんは責めるな。ミキには文句言ってもいい。さぁ、どうする。
- 180 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:38
-
「アヤ、ちゃんさぁ」
「よっちゃん!」
「ちげーよ。美貴は黙ってろ。君さぁ、本当に全部嘘だったの?」
よく分からないことを言い出した。嘘だって言ったじゃん。
しかも責めるなって言ってんのに、よっちゃんの標的は完全にあやちゃんだった。
「幼馴染ではないです」
「嘘はそれだけ?」
「いえ、避けられてもいません」
「ふーん。それだけ?」
「それだけ、です」
「迷ってんの?」
「・・・・・迷ってました」
ん?よっちゃんは怒ってないみたいだ。でもいつになく真剣な顔。
そして、話が見えない。幼馴染でもなく避けられてもいないって、
ミキの設定全否定なんだけど。まだなんかあんの?何を迷ってるんだろう。いや、過去形か。
謎の理解が二人の間では成立したらしい。よっちゃんはいつもどおりの笑顔で振り返った。
「いーよ。美貴に騙されるなんていつものことだし」
「ごめんね」
「気にすんな。つーかマジになんなよ。キモいし」
マジになったミキがキモい?オマエがそれ言うか?
最愛の幼馴染に真面目に謝ってたぁって笑われてたオマエが言うのか?
あー、やっぱ行い正しく生きていこう。こんなバカに謝らなきゃなんて耐えがたい。
- 181 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:38
-
「あ、でも梨華ちゃんには余計なこと言うなよ」
「それはもう。ごっちんにも口止め済みです」
「・・・・ごっちんにも?」
「ごっちんにも」
「・・・・あれが、そんな指示に従うと思ってんの?」
・・・・・。そういえば、そんな保証はない。彼女はそういうヤツだ。
急いで外に出て、二人を見ると、やっぱりごっちんは梨華ちゃんに、
よっちゃんも気付いたみたいだと話していた。唯一の救いは、梨華ちゃんが真に受けていないこと。
アホは偉大だ。信用がないから、真実を伝えるにも時間を要す。
ミキがフォローしておいた。
「ごっちん、寝言言ってないで入りなよ。梨華ちゃんもどーぞ」
ごっちんはきょとんとしてた。
オマエ言うなって言われたこと覚えてないだろ。
ってか聞いてたんだろうか。返事したよね。もー、本当に期待すんのやめようかなぁ。
よっちゃんと、梨華ちゃんと、あやちゃんは同じテーブルを囲んでいた。
いろいろネタばらししないとなんだけど、梨華ちゃんがいるからあんま出来ない。
結果、あやちゃんはコスプレマニアってことにされてた。
他校の制服着まくる後輩女子高生コスプレイヤー・あやや。
恐ろしいことに、梨華ちゃんのなかではこれが真実なのだ。
- 182 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:39
-
思いのほか楽しい食事になったようで、上機嫌なあやちゃんと駅まで歩く。
ふと思い出して、何に迷ってたのか聞いてみたが教えてくれなかった。
その後、あやちゃんはよっちゃんを褒めちぎってた。懐が深いとか、ミキとは出来が違うとか。
なんでミキが比べられるのかは知らないけど。
「みきたーん」
「んー?」
「みきたんのこと好きかも」
「そりゃどーも」
「付き合ってあげてもいいよ」
「お願いしよっかな」
「でもちゃんと告白してね」
「めんどくさーい」
「なはは、頑張りなって」
最後に、庇ってくれてありがとうと言われたので、
協力してくれてありがとうと返し、あやちゃんと別れた。
実際、ごっちんとミキが頼んだわけだし。
ちょっと好きだったはずのよっちゃんに見せ付けられちゃったわけだし。
お礼だけじゃなくて謝らなきゃだけど。いちおう、これでケリついたことにさせていただきます。
ありがと、ごめんね。
- 183 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:39
-
- 184 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:39
-
3.
ん〜暑い。暑いって言うか暑苦しい。暑苦しいって言うか熱苦しい。
今は昼休みだ。場所は屋上。つまりバカ二人に連れられてやってきたってことなのだが。
今日連行されてきたのはミキだけじゃない。
本日のゲストは、梨華ちゃんとあやちゃんだ。
「ねぇ、みきたん。なんで私呼ばれたの?」
そこのバカに聞いて欲しい。ミキも連れてこられた一人だ。
もう一人のバカは幼馴染を屋上のさらに上に誘って、楽しげに笑っている。
「ごっちん、なんで呼んだの?」
「よしこがあやちゃんも一緒にランチしようって。気に入ったんじゃない?」
「ミキは?」
「ついで」
コロスぞ。っていうか寒いんだよ。寒いのに目の前は熱苦しいんだよ。
ランチタイムだそうだが、食事はもう済んだ。
イチャつくなら帰ってイチャついてくれればいいのに。
あのバカガキ恥ずかしがって梨華ちゃんと二人きりにならないようにしている。
つまり、本気でミキはついでなのだ。
「帰る」
「んぁ、あたしも〜」
「あ、私も」
- 185 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:39
-
学食の方も空いてくる時間だから、お茶でもってことになって向かった。
「ごっちん、寂しい?」
「んぁ?なんで?」
「だって午後から大掃除して明日終業式じゃん?」
「そだねぇ」
「年明けたらミキたち一月で授業なくなるし、よっちゃんあんなだし」
ってか、梨華ちゃんがいたから高校生になろうと決めたごっちんは、
今後どう思ってるんだろう。
「んぁ〜恩返し終了だねぇ」
「鶴の真似して空にでも帰る?」
「飛べたらそうする」
「恩返しって何?」
「ごっちんは梨華ちゃんに恩があったの」
「そうそう。で、恩返しによしことくっつけてあげたかったの」
「へぇ、じゃあ私が恩返し代わりにしてあげたようなもんだね」
「「・・・・」」
あやちゃん、自己主張強すぎるよ。
そこはいいじゃん。ごっちんも頑張ったことにしてあげようよ。
いや、間違いなく功労者はあやちゃんだよ?それは認めるけど。
- 186 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:40
-
「ホントだ!あやや、恩返ししてあげようか!?」
バカ。ほんとうに本物のバカ。略してホンバカ。
騙されやすそうなやつだなぁ。ちょっと心配になってきた。
壷とか買う前には相談しろよ。聞いてやるから。切り捨ててやるから。
「えぇ?いいのぉ?」
「いいよぉ!好きな人できたら言ってよ」
オマエの恩返しはそのポイントでしか出来ないのか。
あやちゃんもゲットしたみたいな顔してるけど、それ釣ってもいいことないよ。
あんま役に立たないよ。引っ掻き回されるのがオチだよ。
「みきたんは恩返ししてくれないの?」
「ミキは趣味で構ってただけだから。ってか昨日ココアおごったじゃん」
ついでに言うと、ごっちんは昨日あやちゃんにお食事おごってたはず。
「ミキティ、よしこがまとめて払ってたの知ってるくせに・・・」
言うな。あやちゃんには知られてなかったんだから。
いいじゃん。あいつが一番恩返ししなきゃじゃん。気持ち気付かせてくれてありがとう、
ここ、おごります、ぐらい言ってもいいじゃん。ってか言うべきじゃん。
「みきたん、ほんとに汚いよね」
そんな目で見ないで。
- 187 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:40
-
「わぁ〜かった!何?何して欲しい?」
「ミキティ、キレるとこじゃないでしょ」
腹も立つわ。趣味だったのに。なんでそんな大げさに言われなきゃならないんだ。
思わぬとこでミキ株大暴落起こしたし。そもそも恩返しするような立場じゃないんだよ。
一人でどんどん恩返ししてろ、鶴がっ。三歩進んで全て忘れろ、この鳥っ。
「にゃはは、考えとく。もう戻るね。一年生は掃除範囲広いから」
「んぁ、思いついたら言ってねぇ」
「お手柔らかにぃ〜」
あやちゃんを見送る。ひらひら手を振るこちらは暢気なものだ。
三年生はほとんど教室の周りだけだし。こいつは掃除なんかする気ないし。
ってかこいつ特例で入学許可された割には全然優等生じゃないな。
「ごっちん、そんな不真面目でよく退学にならないね」
「ん〜、理事長との話し合いすっぽかしたら退学だよ」
「甘くない?」
「辞めさせたいの?」
別にそんなこと思ってないけど。
更生ってもっと真面目にならないとダメなんじゃないの。
屋上の鍵も隠し持ってるし、遅刻はしょっちゅうだし、やる気はないし。
普通より悪いよね。
- 188 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:41
-
「んあ、それよりさ、あやちゃんって好きな人いるの?」
「よっちゃんファンでしょ」
「それは諦めたんでしょ?よしこ以外」
「えーっと・・・」
中学のとき三年間同じクラスだったのに一度もあやちゃんにラブレター出さなかった子が、
・・・・・とても理不尽な罵声を浴びせられていた。
毎日愛と褒め言葉を囁くと誓ったミキのクラスメートは、インフルエンザで寝込んだ日、
美しさを褒め称えなかった罪であやちゃんにこっぴどく叱られていた。一度も彼氏にはなれずに。
あやちゃんの可愛さを称える箇所が10ヶ所以下のラブレターは主の下へ直接届けられ、
クラス全員の前で罵られていた。他にも、可哀そうな人は多々いる。
あやちゃんは異常に気が強い。容姿への絶対的な自信に支えられている。
「・・・初恋だったんじゃない」
「え、じゃぁまたよしことくっつけないと」
バカか。梨華ちゃんへの恩返しを代わりにしてもらったお礼に、
梨華ちゃんへの嫌がらせみたいなことしてどうするんだ。本末転倒もいいとこだろ。
「考えとくって言ってたじゃん。言われるまで何もしなくていいんじゃない」
「そーだね。」
素直だな。ホントは分かってたんじゃないの。
それか、本気だったけどよっちゃんを何とかするということの難易度に負けたのか。
そうだったら悲しすぎる。そうじゃないと信じておいてあげよう。
- 189 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:41
-
予鈴も鳴っちゃったから、のんびり教室に戻った。
「あ、美貴ちゃ〜ん!急にいなくならないでよぉ」
声高いな。さっきまでごっちんと落ち着いたトーンで話してたから余計つらい。
「お宅のダーリン、ミキたち呼んどいてほったらかしなんだもん」
「えぇ?ひーちゃんのせいなの?」
まぁ、寒かったし。厳密に言うと季節が悪かったんだけど。
春だったらのんびり見守ってたと思うんだけど。
「いやぁ、お邪魔しちゃ悪いじゃない?」
「ちょっとぉ、やめてよぉ」
くねくねしてさぁ、わざとやってんなら止めて欲しいな。
嬉しそうじゃん。なんか、素直な笑顔だよね。よかった。
ずっとそうやって笑ってられるように、祈ってるよ。目的達成。
「写真撮って良い?」
「なに、急に。いいよ」
「あ、それダメ」
「えぇぇ?」
写真用の笑顔はいらない。よっちゃんに蕩けた笑顔が撮りたかったんだ。
しゃーない、今度隠し撮りでもするか。
掃除場所の割り振りが始まったので、席に着いた。
- 190 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:42
-
「お、美貴」
「お、ミキティ」
「おぉ、ってサボってんなよ」
三年生の教室近くの階段掃除になったんだけど、下からバカコンビが現れた。
「サボってねぇよ」
「これ。ほら、ゴミ捨て」
いや、無理だろ。うろうろしてる理由にはなるかもしれないけど。
階段登ってどこ行こうとしてんだよ。どんなルートでのゴミ捨てなんだよ。
なんでいったん最上階登ってから外に向かうんだよ。無駄だらけだろ。
「いや、何してんの?」
「んぁ、よしこが梨華ちゃんとこ行きたいらしいから」
「うん。どこにいんの?」
いや、オマエなに堂々と言ってんの?
ミキとごっちんにはバレたねぇ。だからって開き直りすぎじゃない?
いやいや、開き直るのもいいよ。サボってまで来るなよ。梨華ちゃん迷惑じゃん。
「梨華ちゃんと付き合ってんの?」
「んんーにゃ」
「そーなの?」
ごっちん聞いてなかったんだ。気にしないって大事なことらしいね。
あんた大物だよ。
- 191 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:42
-
「それより、どこにいんの?」
「教室じゃなかったかな」
「さーんきゅ」
「さーんく、ゆー」
バカコンビ去る。
サボって堂々と教室まで会いに行くんだ。担任いるよ。
こないだよっちゃんに逃げられてぶち切れてた担任が一緒に掃除してるよ。
「よぉしぃざわぁぁぁ!!!」
教室からかなりエキサイトした叫び声が鳴り響いた。
持っていたゴミ袋放り出して、よっちゃんは走り去った。階段をあり得ない速度で下りて行き、
うちの担任が階段降りかけたときにはもう見えなくなった。
「梨華ちゃん、ゴミ捨てに行こうよ」
「さっきひーちゃんもいなかった?」
「いたよ。一緒にゴミ捨て行こう」
「えぇ?ひーちゃんどうなったの?」
「知らない。行こ」
あ、誘いに来たんだ。嬉しくないお誘いだなぁ。
校内の有名バカコンビが言うからクラス全体が認めちゃって、
梨華ちゃんはゴミ捨て係に就任した。
- 192 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:42
-
「ミキティも行く?」
「行かない」
「美貴ちゃんも行こうよ」
そんな必死な目で見るな。そいつを高校生にしたのはオマエだろ。
後悔してんのか。実は関わらなきゃよかったとか思ってんのか。
・・・・梨華ちゃんに限ってそれはないな。冷静な判断しない人だからな。
階段掃除なんてすぐ済むから暇だし、一緒に行ってやることにした。
「明日の終業式で冬休み突入だねぇ」
「クリスマスじゃん。梨華ちゃんご予定は?」
「えぇ?家族と過ごすだけだよ」
「んぁ、あたしには聞かないの?」
「オマエはミキと一緒でバイトだろ」
外食産業だから。こないだから飾り付けで残業してたぐらいだから。
分かりきってることは聞かない。
「あたしにも聞けよ」
「よっちゃん、急に現れないで」
現れたというかそこにいたんだけど。逃げたってごっちんが確実に来る場所といえば、
通り道であるここにいるのは納得だけど。
「・・・ご予定は?」
「決めてない。というか、ちょっと聞いてくれ」
- 193 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:43
-
よっちゃんは毎年クリスマスに小父さんの知り合いの家に行ってたそうだ。
ムカつくことに、フィンランド。昔から本物のサンタに会いに行ってたんだそうだ。
でも、今年は両親が帰ってこない。ヨーロッパ巡りをしてるのに、
わざわざ帰国してまたフィンランドに行くなんてめんどくさいと。
両親に見捨てられたよっちゃんは、今非常に悲しんでいる。
サンタさんに会いに行く気満々だったよっちゃんは、いろんなお誘いを断ってしまっていた。
どんなお誘いがあったのかは知らないが、今非常に悲しんでいる。
親、すごいな。めんどくさいで娘放置するんだ。
ある意味間違いなくよっちゃんを育てた人たちだと感じさせてくれるけど。
ってかオマエは何歳のつもりでサンタさんに会いたかったんだ。
「バイト入ってるからさ、食べに来なよ」
「そうそう、ケーキとか一緒に食べたげるよ」
パパとママに見捨てられて、ガキは完全に拗ねていた。
「ヤダ。お前らずっと一緒じゃないもん」
めんどくさい。なんだよ。当たり前だろ。こっちは細々と働いてんだよ。
サンタさんに会えないって拗ねんなよ。悩みが贅沢なんだよ。
「んぁ、梨華ちゃんと来れば?」
「え、私!?」
「そーだよ、よっちゃん。梨華ちゃんをディナーに誘いなよ」
最高のパスだろ。
- 194 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:43
-
「梨華ちゃん・・・・いい?」
「え、うん。いいよ。」
おい。オマエら。ちょっと待て。
クリスマスディナーだよ?いつもの適当な食事じゃないんだよ?
いい?いいよ。って、色気がない!
「もっとちゃんと誘えよ。」
「そーだよよしこ。王子様発揮してよ」
「えぇ〜?」
顔の割りに嬉しそうな声だな。ここまでか。ここまで含めて最高のパスか。
よっちゃんは、しょーがねーなって言いながら咳払い。
背筋伸ばして、梨華ちゃんに向き合った。
「聖夜の鐘が鳴り響くまで、あなたの時間を頂けますか?お姫様」
「えぇ〜?」
「ほら、梨華ちゃんノってノって」
「えっとぉ、・・・もちろんですわ、王子様?」
聞くな。誰に何を聞いてるんだ。
ぐだぐだだと思ってたのに、よっちゃんは、王子様だった。
「誓いの印に」
すっと梨華ちゃんの手をとって、甲に口づけをした。
いや、さすがにミキもこれは赤面ものだ。
- 195 名前:123 投稿日:2007/12/24(月) 02:45
-
芝居もここまで行くと笑いも起きない。
笑ってたのはよっちゃんだけだった。なんつってって言ってるけど。
リアルに王子に見えちゃう自分のルックス理解した方がいい。
「あれ、え?どしたの?」
みんなちょっと飲まれてんだよ。周りで見てた人まで赤くなってんだろ。
動じない人はオマエともう一人。
「あはは、ミキティまで赤くなってるぅ」
バカコンビの片割れ。ちょー面白いんだけどって、オマエ羞恥心ないのか。
赤くもなるさ。見てるこっちが恥ずかしい。似合いすぎだろ、こいつ。
よく考えたら誘い文句も変だったぞ。聖夜の鐘って、日本に住んでてすぐ浮かぶか?
変だろ。変すぎるだろ。なんでオマエには通じないんだよ。
そうだ、梨華ちゃん。梨華ちゃんは?お姫様本人は?
「・・・・ばかぁ」
だよね。恥ずかしいよね。赤面しちゃうよね。
梨華ちゃんは顔を上げて、にっこり笑って?そして、言った。
「かっこよすぎ」
えぇぇぇ〜喜んでたのぉ・・・・・・・?
・・・・はぁ、好きにしてくれ。
先に帰らしてもらうことにしよう。知らない。もー勝手にすればいいじゃない。
- 196 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/24(月) 02:45
-
- 197 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/24(月) 15:04
- バカップルや!バカップルがおるで!!w
- 198 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/24(月) 17:55
- なぜだか「志村ぁぁぁぁ!後ろぉぉぉぉ!」な気分です
- 199 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/24(月) 22:57
- ごっちんが残念過ぎるwww
- 200 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:28
-
当たり前だけど
人それぞれ過去がある
それを知られたいか知られたくないか
それはその人次第だから
例え友達でもムリヤリ暴くのはマナー違反
でも歴史がその人を創るから
過去を知ればその人を知ることになる
でも、どんな過去でも受け入れてあげようと思う
より深く知って
もっとその人を大事に思いたい
- 201 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:29
-
1.
あたしは冬休みが苦手だ。
冬休みだけじゃなく、春休みも。夏休みはもっと苦手だ。
とにかく長いお休みというのが苦手なのだ。
一人暮らしで、休みに入ったら実家に帰るだろう。
あたしは、帰らない。親に心配をかけないために帰らない。
ときどき少し、寂しくなる。
そんなときは梨華ちゃんのところに行く。
梨華ちゃんは笑ってくれる。いつでも、迎え入れてくれる。
高校に入ってからも本当に、この人に救われたと思う。
なのに。
- 202 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:29
-
ミキティがあんまり二人には構うなと言い出した。
冬休みに入った初日だった。
朝からバイトで、夜は週末だから忙しくなる。
だからその日は、あまり寂しくならないはずだったのに。
あたしは、すごく悲しかった。
ミキティに腹が立ったわけではない。
梨華ちゃんとよしこをくっつけるというのは、こういうことだと分かっていた。
自分の一番身近な二人の世界に、遠慮しなきゃならなくなる。
寂しくなった。
寂しくなったら梨華ちゃんのところに行ってたのに、
梨華ちゃんのところへ行けなくて寂しくなった。
あたしは、どうしたらいいんだろう。
クリスマスシーズンも終わった年末。
店もお休みに入る。去年は、梨華ちゃんの家にいた。そしてよしこは外国にいた。
今年は、よしこが梨華ちゃんの家に居る。では、あたしはどこにいるんだろう。
- 203 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:29
-
クリスマスの夜、梨華ちゃんはよしことディナーだった。
二人とも少し落ち着いた装いに身を包み、とても幸せそうに見えた。
よしこが梨華ちゃんを見る目が変わった。前よりもっと愛おしそうに見つめていた。
あたしもそれは、心から喜んでると思ってた。
それが梨華ちゃんにできる唯一の恩返しだったと思ってた。
あややとミキティが頑張り始めてから、よしこは変わった。
あたしは、本当に頑張ってたのかなと思うときがある。
本当に望んでたのかな。
二人きりの世界ができて、こんなふうに自分の居場所がなくなってしまうのを、
心のどこかで恐れてたんじゃないかなと思うときがある。
そんなことを考え始めたら、心が痛みでいっぱいになった。
ずるい自分はキライ。せめて梨華ちゃんに対してだけは、真っ直ぐに立っていたい。
- 204 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:29
-
今日で、バイトは終わりだ。次は来年。
ミキティと、ぼんやり空を見上げて帰路に着く。
なんだっけ、オニオン座だっけ。空に輝く星を見上げ、違うことを必死で考える。
でも、星座のお話なんて、あんまり知らないから。
すぐに寂しい気持ちがずるいあたしと連れ立って、思考のステージに立とうとする。
考えたくないのに。よしこみたいに本読めばよかった。
よしこなら変なこと知ってるから、星を見るだけで別のこと考えられるのかも。
「ごっちん、明日からなにすんの?」
ミキティに聞かれた。そうだ、ミキティと適当に話せばよかったんだ。
ムリヤリ星の知識なんて引き出そうとしなくても、すぐ横にミキティがいたんだ。
「分かんない。ミキティは?」
「ごろごろする」
いいな。あたしも実家でなら、ごろごろするよ。お母さんとこたつで話したりするよ。
でも実家に居たらお母さん、不安そうな顔するからな。
あぁ、また寂しくなってきた。
- 205 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:30
-
「んぁ、予定はないの?」
「だから、ごろごろすんの」
それ予定なんだ。あたしとはスケジュールの捉え方がちょっと違うみたいだ。
「出かけたりしないの?」
「誰とよ」
「誰でもいいじゃん。あ、あややとか」
あややってアクティブそう。
“みきたん”が暇してたらどっか行こうって叫びそう。
「あやちゃんは年末年始はオフなの」
「オフって何?」
「騒がしいのをオフにすんの」
あややのテンションってスイッチ式なんだ。知らなかった。
一年分のパワーを蓄えてるのだろうか。
「誰かいるでしょ?」
「いねーよ。彼氏とも先月別れたし」
そーだっけ。そういえば、そんなこと言ってたような気もする。
- 206 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:30
-
「次の候補は?」
「ミキ純情だから、すぐ次とか無理」
「嘘だぁ」
「いや、ほんとにいない」
次がいるかいないかが嘘じゃなくて、純情が嘘だって言いたかったんだけど。
まぁいいか。別にわざわざ訂正しなきゃならないほどの勘違いでもないし。
「ごっちん、彼氏つくんないよね。よっちゃん系?」
「よしこ?どういうこと?」
「彼氏より彼女かって」
あぁ、そういえばよしこって男の子より女の子に人気だしね。
「どっちもいない」
「だろーね」
そう言ってミキティは何度も頷いていた。
どういう意味だろう。何がそんなに納得なんだろう。
- 207 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:30
-
「よっちゃんたち、付き合うと思う?」
「付き合うでしょ」
よしこはクリスマスに告白するものだとばかり思っていた。
あたしたちが最後の戸締りをするからと店長に頼み込んで、
梨華ちゃんとの時間を延長してあげた。約束通り、聖夜の鐘が鳴り響く午前零時まで。
喧騒に飲まれて教会の鐘の音は店まで届かなかったけど、
二人は童話の中の王子様とお姫様みたいに寄り添いながら帰っていった。
帰ってから、梨華ちゃんがよしこの家に泊まったと聞いたので、
ミキティと一緒によしこを事情聴取にかけた。
聖なる夜に、想い合う二人が朝まで同じベッドで。愛育んだんでしょって聞いた。
そしたら、見捨てられた仕返しにおじさんの秘蔵のボトル開けてやったら、
愛を告げるどころか、二人とも潰れて寝てしまったと言われた。
肝心なところで決められない人間というのはいる。
よしこもそういう人間だったようだ。二人は未だ幼馴染のまま。
でも、いつまで?
- 208 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:31
-
「ごっちん、寂しいんでしょ」
前にも聞かれた。いつだったか。あ、学校だ。大掃除の日。
あの時はよかったんだけど、今はそれ一番のNGワードだ。
今なら死ぬほどへこめるよ。うっとうしいでしょ。その話題はやめて。
「べつにー」
「強がるなって」
どうさせたいの。へこませたいならへこむけど。
その話題で映画みたいに「ちょっとね」とか微笑めって言うなら、今は無理。
「よっちゃんたち、時間かかるんだよ」
「うん」
「ゆっくりでも確実に進みだしたよね」
「・・・うん」
「なるべく二人のペースに任せた方がいいの」
「・・・・」
「ごっちんも分かるでしょ」
あたしは、もう返事が出来なかった。
分かる。分かってるけど。あたしには、梨華ちゃんしかいなかったのに。
なんだか、ミキティとよしこに取り上げられた気分。
- 209 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:31
-
「ごっちん、年末年始どうすんの?」
「分かんないってば」
「なんだよ。ミキの予定聞いたでしょ。ごろごろするのも予定なの」
「しないもん」
そんなの一日で限界だ。
「じゃぁ、何すんの」
「分かんないぃ」
「なんでごろごろしないの?」
「一人だもん。してらんない」
「ごっちん実家帰らないの?」
「帰らないよ」
「去年どうしてたの」
「二日に家族が来て、あとは梨華ちゃん家にいた」
「じゃ、今年も梨華ちゃん家行くんだ」
ミキティが行くなって言ったようなもんじゃないか。
よしこと梨華ちゃんのお邪魔にならないように行かないよ。
誰のせいでこんな寂しい気分になってると思ってんの。
- 210 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:31
-
「行かない」
「なんで?」
「行くなって言ったじゃん」
ミキティは目をまん丸にして驚いていた。
「ミキそんなこと言ってない」
「言った。構うなって言ったよ」
精一杯の非難を込めて言った。八つ当たりなのは分かってる。
でもミキティは、一瞬考えるような表情を浮かべて、今度は笑い出した。
「近づくなって意味じゃないよ」
「んぁ?」
「ごめん、勘違いさせたね。いいんだよ。
ミキは、もう二人の関係を突っついちゃダメだって言いたかっただけだよ」
「じゃ、梨華ちゃん家行ってもいいの?」
「それはミキが許可することじゃないよ。梨華ちゃんさえよければね」
まぁ梨華ちゃんはダメなんて言わないだろうけどって、ミキティはまた笑った。
あたしの、勘違い?
- 211 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:32
-
でも、二人の世界に入り込めなくなる日は間違いなく訪れる。
「あたし、よしこと付き合って欲しくなかったかも」
「はぁ?あんなに突っついといて何言ってんの?」
今じゃないなら、今のうちに向き合っておこうと持った。
だからミキティにずるいあたしを見せてみたのに、ミキティには通じなかった。
あれ?ミキティ気付いてて寂しいんだろとか言ってたんじゃなかったのかな。
「あぁ、そーゆうこと。違うよ。
単にミキたち卒業で、よっちゃんは梨華ちゃんばっかでしょ?そういうの」
「よしこは変わんないし、卒業はおめでとうだよ」
「そっか。」
自分の中の扉を少し開けて、ミキティに中を覗かせた。
すぐに分かってくれて、ミキティは考え込んでしまった。
何故だろう。すっごく期待していた。
ミキティの次の言葉で、あたしは救ってもらえるような気がしていた。
「よっちゃんは、梨華ちゃんの恋人を目指すんだろうね」
「うん」
「ごっちんは、梨華ちゃんの恋人目指してないよね」
「うん」
大好きだけど。よしこがいるし、そんな気持ちは全然ない。
- 212 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:32
-
「じゃ、関係ないよ」
「なんで」
関係あるよ。だって梨華ちゃんには特別な人ができるんだよ。
「梨華ちゃんの恋人って席は埋まるけど、梨華ちゃんの友達って席には座ってていいんだよ。
大丈夫。あんたも大事で特別な“梨華ちゃんのごっちん”でいられるよ」
あたしの勘ってすごいかも。答え、もらえちゃった。
いや、自分の勘褒める前にミキティだな。お礼言わないと。
梨華ちゃんにとって、あたしも特別なんだ。
「あんたの代わりも居ないよ」
「んあ・・・」
「こんな変なやつなかなかいない」
お礼言うのやめた。ちょっと助かった気がしたけど、恩返しもしてあげない。
ミキティは本当に可笑しくて堪らないといった様子で笑っていた。
- 213 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:32
-
「拗ねるなよ」
「あたし本気で悩んでたのに」
「分〜かってるよっ」
あたまガシガシされた。
悪い頭で考えても悪い考えしか浮かばないから考えるの止めろって言いながら。失礼な。
でも、あたしこのままでいいんだって思えた。あぁ、明日は梨華ちゃん家行こう。
ミキティに話してよかった。だって、寂しい気持ちが引っ込んでくれたもん。
「それにさ、ごっちんちゃんと頑張ってたと思うよ」
「なんで?」
不安はなくなった。二人の世界が創られ始めても、あたしの居場所はなくならない。
でも、どうだろ。さっきまで、あたしはやっぱりずるかったんじゃないかな。
くっつけたいと言いながら、そんなこと望んでなかったかもしれない。
「ミキの勘。あ、オリオン座」
空を指差し、ミキティが声を上げた。つられて見上げると、さっき見た星だった。
あ、オニオンって玉ねぎじゃん。そうだ。夜空に大きく輝いているのは、オリオン座だった。
- 214 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:33
-
- 215 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:33
-
2.
大掃除が終わった。そもそも、一人暮らしの部屋の掃除なんてすぐだけど。
なんとなく普段より念入りに掃除して、それなりの満足感に包まれていた。
『♪〜♪〜♪〜』
携帯の着信音が鳴り響いた。ゆっくりした時間を過ごしていたから少し驚いた。
「は〜い」
『ごっちん、ひま?』
「まぁ、ヒマっちゃヒマかな」
『家来ない?』
よしこからのお誘いだった。
もう少ししたら梨華ちゃんに連絡入れようかと思っていたのだが。
まぁいいか。どうせ梨華ちゃん家もよしこん家も場所変わらないし。
「いいよ」
『よかった。待ってる。早くね』
よしこが待ってるなんて言うの珍しい。何かあるのかな。
- 216 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:33
-
「いらっしゃい」
出迎えてくれたよしこは、いつもの休日ジャージスタイルではなく、
きっちり上着まで着ていた。
「んぁ、よしこ出掛けるの?」
「いや、呼んどいて出かけないよ。入って」
よしこならやりかねない。じゃあ留守番よろしくとか言われても驚かない。
促されて中に入る。なんとなく服装の理由が分かった。
「あら、お客さま?」
「学校の友達。ごっちん、こちらアヤカさん」
「あ、後藤真希です」
口調も仕草も穏やかな、綺麗なお姉さんがそこに居て。
よろしく、とふんわり笑いかけられて、とても温かい人柄なのかなと感じた。
「よっちゃん、お茶淹れてくるね」
「あ、いいよ。あたしやるから」
あと、よしこと親密すぎかな。誰?アヤカさん?どういう関係?
- 217 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:34
-
よく分からないままにお茶を頂いた。
ふんわりとした空気の中、よしことアヤカさんはゆっくり笑っていた。
「よっちゃん、大学行くの?」
「うん。そのつもり」
「そっかぁ。よかった」
「フツーだよ」
進路か。真面目な話してるなぁ。なんか、あたしの知らないよしこの顔だ。
「あの、ごっちん来てるからさ、もう・・・」
「あ、そうだね。そろそろ帰るね」
「んぁ、あたしは――――」
「アヤカ、送るよ」
「いいよ。二人でゆっくりしなよ」
ん〜・・・分かんない。何にも分かんない。
あたしを呼んで、あたしをダシに追い返して、でも送っていくよっていって、
よしこが何をどうしたいのかまったく分からない。
- 218 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:34
-
「梨華ちゃんのとこも行くの?」
「行ったんだけどね、お留守だったの」
梨華ちゃんとも知り合いなのか。
よしこは玄関でアヤカさんを見送った。あたしも一緒に出て、見送った。
「ふぅ・・・」
「ね、どういう人?」
「元カノ」
え。
「よしこ、彼女居たの?」
「まぁ、昔だけど」
「いつ?」
「中三の夏頃から・・・半年ぐらい」
「さっきの人と付き合ってたの?」
「何にそんな驚いてんの?」
「驚くよ!梨華ちゃん一筋かと思ってた」
よしこが梨華ちゃん以外の人を好きだったなんて。考えられない。
なんとなく物語みたいに、子供の頃から幼馴染を想い続けてたんだと思ってた。
- 219 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:34
-
「こないだまでなんとも思ってなかったからねぇ」
「チューとかしたの?」
「まぁ、付き合ってたらすることは一通り・・・」
なんか、ショック。
あぁ、童話の中の純粋な王子様が普通の人に変わってしまったみたいな。
「なんか怒ってない?」
「別に」
怒ってはない。衝撃を受けたことは確かだけど。
ちょっとキライになったかもしれないけど。ガッカリした。うん。これだな。
「参ったよ。急に来るからさぁ」
「なんで別れたの?」
よしこは、珍しく困ったような顔をして、語り始めた。
- 220 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:34
-
◇◇◇
- 221 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:35
-
よしこが中学三年生に上がったとき、家庭教師が来るようになった。
別に成績に問題があったわけではなく、昔この近くに住んでいて、
引っ越してしまった人が大学に入って、また近くに住むようになったから。
よしこのおじさんとおばさんもすごく気に入ってたから、勝手に頼まれたらしい。
それが、アヤカさん。
初めは懐かしくて、楽しく話しながら、勉強してたけど、
基本的には勉強に問題ないから、時間はすごく余る。
自然と話すだけの時間が増え、よしこは毎週その時間が来るのを楽しみにしていた。
大学生のアヤカさんは、中学生のよしこにとってすごく大人で、
夏に入る前には心惹かれるようになっていた。
でも、アヤカさんには高校時代から付き合っていた彼氏が居た。
遠距離恋愛ながら、付き合いは続いていたので、幸せそうに話すアヤカさんを、
よしこは眩しく思いながらも、何も言えずに見つめていた。
- 222 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:35
-
夏休みに入ったある日、アヤカさんはいつもの時間に目を泣き腫らして現れた。
驚いたよしこは何があったのかと尋ねた。
アヤカさんはなんでもないよと微笑むだけで、何も教えてくれなかった。
よしこにとって彼女が大人だったように、彼女にとってよしこは子供に過ぎなかった。
でも、よしこは諦めなかった。
彼氏と何かあったんだろうと、核心を突いた。
アヤカさんから涙が溢れた。よしこはそのすべてを拭い、抱きしめて言った。
「その涙止めてやるよ」
アヤカさんは大人だった。笑顔を浮かべて、何言ってるのと返された。
「あたしが止める。別れろよ。幸せにするから」
なんでアヤカさんがその時頷いたかは分からない。
弱みに付け込んだんだってよしこは言うけど、
あたしはそうじゃないと思った。
- 223 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:35
-
よしこは、浮かれていた。
半ば本気でこのままの時が永遠に続くものだと思っていた。
終わることを考えずに、アヤカさんと過ごす時間に溺れていった。
家に帰ることも少なくなり、アヤカさんの部屋に入り浸っていた。
ずっと、アヤカさんを求め続けた。
嬌声を聴きながら、この声を一生聞き続けたいと願っていた。
どんな音楽よりも素晴らしい音色だと心から思っていたそうだ。
周りが見えなかったと言っていた。
あたしにも、すごく分かる。享楽的に刹那を生きる楽さは十分に知っている。
ふと、周りが目に入るまで、気付かないんだ。世界が繋がってることを忘れてしまう。
途切れた世界から、梨華ちゃんが救ってくれた。
あたしが、梨華ちゃんの元で明るい世界に戻っている同じ時、
梨華ちゃんから離れて、よしこは光の乏しい狭い世界に落ちていってたんだ。
- 224 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:36
-
アヤカさんはやはり大人で、よしこはやはり子供だった。
退廃的な生活を終わらせるきっかけになったのは、年末によしこが発した一言だった。
「高校、行くのやめる」
「・・・え?」
「ずっと、ここにいる」
ベッドの中での、呟き。
よしこは、本気だった。行かないでいいと思っていた。
学校も、他の人間も必要ないと思っていた。
この空間だけで自分は生きていけると思っていた。
初めはきちんと話していたらしい。と言っても、よしこは自分の気持ちばかりで、
アヤカさんの正論に耳を貸すこともしなかった。
次第に、分かってもらえないことに腹が立ってきた若き日のよしこは、
アヤカさんの部屋を出て行った。
部屋に残されたアヤカさんは泣いていたけど、よしこはその涙を拭わなかった。
後日、冷静になって部屋を訪ねたが、鍵が変えられ、連絡もつかず、
部屋の前でよしこは一夜を明かした。朝になっても、アヤカさんは帰ってこなかった。
- 225 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:36
-
家に帰っても、親はアヤカさんを全面的に信頼していたので、
特に心配もされていなかったらしい。
着信拒否されているアヤカさんの携帯に、返ってこないメールを送り続けた。
年が明け、学校が始まって、することもないので仕方なく学校に向かった。
その日は冬には珍しく雨が降っていて、どんよりとした空気が身に沁みた。
放課後までずっと外を見ていた。すると校門近くの見慣れた傘が、よしこの目に入った。
校門を出ると、待ち焦がれていた再会が訪れた。
傘も差さず飛び出してきたよしこを見て、アヤカさんは、悲しそうな顔をしたそうだ。
濡れた体で部屋にいざなわれ、久しぶりに肌を合わせて、よしこは気付いた。
いつもと、匂いが違っていた。
手を止め、涙を流すよしこに、アヤカさんは何も言わず、続きを促した。
よしこは、最高の音色だったはずのこの声を、もう聴きたくないと思った。
聴けば聴くほど、消えてしまいたくなるほどの嫌な気持ちが広がっていった。
暗闇の中、どこで、という一言を涙とともに零したよしこを、アヤカさんが抱きしめた。
「形、間違えちゃったね。私が甘えちゃった。
初めからこうしておけば、ずっと一緒にいられたかもしれなかったのに」
紡がれた言葉は、よしこに物語の終焉を告げていた。
- 226 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:36
-
◇◇◇
- 227 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:37
-
つまりあたしがガキだったと、きっぱりよしこは言い切った。
「それっきり会ってなかったんだけどね」
「どうして急に?」
「気になったんだって。あたしが高校行ったのかなって」
なんでいまさら気にするんだろうね、時期的なことなら去年もあったのにって、
よしこは声だけで笑ってた。目は、内側を振り返るように細められたままだった。
衝撃的だ。よしこは、あたしの予想よりはるかに大人だった。
ある意味ですごく大人だったのだ。
「梨華ちゃん知ってるの?」
「ん〜まぁ、アヤカと付き合って、別れたことは知ってるよ」
生々しい話はしてないということか。
しかし二年振りに会ったなんて、積もる話もあるだろうに。
「んぁ、なんであたし呼んだの?」
「二人きりだとまた抱いちゃいそうだったから」
死ねばいいのに。
- 228 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:37
-
「梨華ちゃんが好きなんでしょ?」
「好きと色気はまた別。色っぽいもんは色っぽい」
本気で死ねばいいのに。
「女の敵ぃ」
「ばっか、あたしは世の中すべての綺麗なお姉さんの味方だよ?」
イメージ完全に崩れた。よしこのファンほどではないけど、
ちょっとは王子様だと思ってたのに。
ただのスケベだ。
「梨華ちゃんに言ってやる」
「やめとけって」
「なんで」
「結局なんにもしてないもん」
わぁ、最低だぁ。開き直ってるよ。あたしは、気持ちのことを言ってるのに。
「スケベ根性は梨華ちゃんに向けなよ」
「・・・・無理」
「なにが」
「恥ずいし、久々だから自信ない」
どスケベヘタレ王子。よしこって複雑?
- 229 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:37
-
「あたし、梨華ちゃん家行くつもりなんだけど」
「あぁ、さっき車の音したし、帰ってきてんじゃない?」
「付いてこないの?」
「なんで付いてくの?」
「梨華ちゃんに余計なこと言うかもよ」
よしこは、少し考えて、観念したような顔をしてちらりとこちらに目をやった。
「・・・」
「なに?」
「気持ちが、意識が揺らいじゃいそうで怖かったんだ」
「抱く気はなかったってこと?」
「ないわけでもないけど。ごっちん呼べば、あの頃とは違うって思えるから」
「あたしは何?」
「命綱みたいな。今と繋がる命綱」
よしこは、もう戻っちゃダメだからって寂しそうな顔をした。
あたしにもある。もう二度と戻っちゃいけない過去。う〜ん。分かる気もする。
あとアヤカさんの気持ちも分かる。去年来なかったのはきっと傷がまだ癒えてなかったから。
よしこの人生を狂わせそうになって、悪を演じて身を引いたんだろう。
そんな感じがする。アヤカさんから確かな愛を感じたよ。
二人はきっとあたしには想像もできないぐらいややこしい関係だったんだろう。
- 230 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:38
-
「あたしよしこはもっと子供だと思ってた」
「なに?同い年だよ」
「そうじゃなくて、純粋?無邪気って言うか」
「そんなヤツいねーよ」
「でもよしこはそうだと思ってた」
冗談だと思ったみたいで、よしこは笑った。
「本当だよ。お伽話の王子様。暗い所なんて何もないと思ってた」
一瞬、目を見開いて、驚いたような顔のまま固まってた。
その後笑顔になって、あたしには向けたことなかった優しい目をして言った。
「子供だったから。夢見てたんだと思う。でも、ちゃんと純粋に愛してたつもりだよ」
「梨華ちゃん以外に愛とか使うな」
「・・・・結局それかよ」
よしこの最低容疑はマシになった気もする。
でも梨華ちゃん以外の人を浮かべてそんな目をしてはいけない。
絶対。もう両想いだから二人に任せるけど、これだけは譲らない。絶対ダメ。
「梨華ちゃん家行こっか」
「そだね」
あたしの知らなかった王子様の過去はここに置いといて、
あたしの知ってる純粋な王子様と一緒にお姫様に会いに行こう。
- 231 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:38
-
- 232 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:38
-
3.
去年もそうだったからか、梨華ちゃんのママは、あたしを暖かく迎えてくれた。
もう今年はお正月まで泊まっていけとまで言ってくれた。
やっぱり、あたしには梨華ちゃん家が必要だな。
よしこも家に一人だから、泊まれって言われるのかと思ったら、
もともと出入り自由だから好きに行き来するらしい。
どっちも自分の家みたいなもんだと、梨華ちゃんも言っていた。
年末は忙しい。なにかとバタバタしている。
あたしもぼんやりお世話になってる気はないから、お手伝いをする。
今日はママさんの代わりに夕食を作ることにした。
「よしこ、買い物行こう」
「一人で勝手に行けよ」
寝転がって、ゲームしながら。こちらを見もせずに。
でもあたしは諦めない。10分ぐらいぎゃーぎゃー言い続けてたら、
ゲームでミスをしたよしこが、あっと叫んだ後、機嫌悪そうに立ち上がった。
梨華ちゃんは家に残して。さぁ、夕飯の食材を買いに行こう。
梨華ちゃん家の台所は今大掃除の真っ最中だから、よしこの家の台所を借りる。
よしこの大掃除は昨日、親の頼んだ掃除の業者が入って終わらせたらしい。
両親が旅行に出てからほとんど使われていないのが伺える台所で、冷蔵庫をチェックした。
「何も入ってないね」
「昨日やばいのあったら捨てといてって頼んだからね」
まともな食材は初めからなかったということか。
梨華ちゃんママから多めにお金預かってるし、一から買い揃えるか。
- 233 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:38
-
スーパーに向かう。よしこにどこが近いか聞いても、よく分かんないというから、
あたしがよく行く店に来た。レジのところでいつものパートのおばさんに、彼氏?と聞かれた。
よしこの格好は細身のパンツにごついスニーカー、上はダウンで、男に見えなくもない。
断固違う、ありえないと言っておいた。
「ごっちん、あたしのこと本当嫌いだよねぇ」
帰り道でしみじみ言われた。荷物はすべてよしこが持ってる。
「んぁ?別に。なんで?」
「・・・お前だけは口説き落とす自信ない」
なくていい。なにがあってもよしこが梨華ちゃん以外と付き合うなんて認めない。
相手があたしなんてのも、認めない。だからありえない。
「って、よしこまさか、誰でも口説き落とせると思ってんの?」
「いや?」
「じゃ、なんで“あたしだけは”なの」
「そんな気分になる自信がない」
あぁ、よしこの気分の問題。でも悪いけどあたし全然悲しくないよ。
- 234 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:39
-
一人暮らしももうすぐ二年。
料理にはかなり自信がある。どんな障害も乗り越えてみせる。
なんでこんな大げさにならなきゃならないんだろう。
見た目と中身のギャップって、楽しいものだと思ってた。
ギャップに気付いてこんなに悲しい気分になったのは初めてかもしれない。
手伝いを申し出てくれた梨華ちゃん。一緒によしこん家で調理に取り掛かった。
しかし、しかしだ。残念ながら、梨華ちゃんはものすごく不器用だったのだ。
あぁ、ダメだよそんなに皮むいたら食べるとこなくなっちゃうよ。
ダメだって、包丁の向き逆だよ。手の皮までむいちゃうよ。
そういえば、よしこがものすごく嫌そうな顔をしていた。
知ってたなら止めてくれればいいのに。
「梨華ちゃん」
「なぁにぃ?」
楽しそうだね。お料理楽しい?あたしは恐くて堪んないよ。
ごめんね。出会ってから今まで、困らせて、助けられてばっかりだったけど、
今日は言わせてください。
「あっちで、よしこと遊んでていいよ」
「いいの、手伝うよ」
天使の微笑み。
あぁ、どうしよう。自分が梨華ちゃんに困らされる日が来ようとは。
- 235 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:39
-
あたしじゃどうにも出来ないから、助けを求めることにした。
学校に居るときはよくやるよしこへのアイコンタクト。
相棒の理解は早かった。即座に頷いて、梨華ちゃんを台所から遠ざける。
「梨華ちゃ〜ん、こっちおいで」
「どうしたの?」
「ちょっと」
何も言わずに呼ばれれば行くしかない。
今のうちに梨華ちゃんが準備しかけてた食材をかき集めてこっちに寄せる。
最高速度を目指して下処理をやる。あたしってこんなに手際良いんだ。新発見。
「なぁに、ひ〜ちゃん、離してよぉ」
「ん〜暖房効くまで寒い」
「私、湯たんぽじゃないんだからぁ」
ちらちらあたしの様子を伺うよしこ。
もーちょい、と目で合図する。瞬きで了解の返事が返ってきた。
「あ、どっかに湯たんぽあったかも。探してきて」
「自分で行きなさいよぉ。私はお料理中なの!」
やめて。そんなに料理に意欲を燃やさないで。
あたしはさらに速度を上げるが、このまま戻ってこられたら間に合いそうもない。
- 236 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:39
-
「分かった。じゃ、一緒に探しに行こう」
「ひ〜ちゃんの家でしょ、一人で行きなさいよ〜」
「寒みぃじゃん」
あぁ、神様。プロ並みの速度をあたしに。もしくは頑張れよしこ。
「あ、暖房効いてきたんじゃない?もう戻るね」
神様のバカ!イジワル!よしこもバカ!スケベ!
「・・・さ、寂しいな」
「え?」
「梨華ちゃんに一緒に居てほしいのになぁ」
「ひ〜ちゃん・・・」
照れ屋のよしこがちょっと身を削ってくれた。さっきのバカは撤回しよう。
「ばぁ〜か。梨華ちゃん、いいよ〜よしこの相手してあげて」
これなら不自然じゃない。
よしこがワガママ言い出して、梨華ちゃんにその相手を頼んだってことで。
手、疲れた。軽く振ってみたが少しピリピリした。
- 237 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:40
-
出来上がった料理を、石川家に運ぶ。
我ながら上手く出来たと思う。梨華ちゃんが少し腑に落ちない顔をしていた。
よしこは寂しいと言っていたくせに、梨華ちゃんを横に座らせてずっと本読んでたから。
ごめんね。でも、二人のおかげで美味しく出来上がったから。楽しみにしてて。
「ん、うまい!」
「もうずっと家に住んでくれて良いのよ」
「おいしい〜」
石川家のみなさんは絶賛してくれた。よしこは黙々と食べている。
「ひーちゃんも、おいしい?」
「ん?あぁ、うまいよ」
なんか違うこと考えてたな。梨華ちゃんに聞かれてやっと感想を言ったよしこ。
「なんでごっちん実家帰らないの?」
その時、食卓の空気はわずかに、しかし確かに硬直した。
「家庭の事情。知りたいなら後で教えてあげるよ」
「あ、いや、別に・・・ごめん、いいや」
あたしが返事するしかないから、答えたのに。
よしこは一瞬の空気に気圧されてしまったようで、それ以上は聞いてこなかった。
- 238 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:40
-
でも、あんな空気になって気にするなって方が無理だから、
梨華ちゃんの部屋でよしこと話すことにした。
「あたしね、中学の頃ちょっとやんちゃだったの」
「ほう」
「地元帰ったらその頃の友達に会っちゃうじゃん」
「まぁ」
「お母さんは心配なの。またつるみだすんじゃないかって」
「ふーん。信用されてないんだね」
「そうかもね。まぁ、そんなわけで心配かけるから帰らないの」
これなら、梨華ちゃんのよしこには言わないという方針にも支障ないだろう。
こんな漠然とした話ならいいだろう。よしこも一応納得してくれたし。
でも、よしこにはいつか知ってもらいたいな。梨華ちゃんが卒業したら話そうかな。
「そっか。今日泊まるの?」
「泊まるよ」
「ウチ来ない?」
「は?」
「ウチで飯作って欲しいな。実家帰らなくて暇だから来てんでしょ?
ウチの親もいないし。ウチに泊まってもよくない?」
家政婦代わり?まぁ別にいいけど。・・・いや、大事なこと忘れてた!
「よしこより梨華ちゃんがいい」
「じゃ、梨華ちゃんも一緒に」
「えぇ?私もぉ!?」
- 239 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:41
-
梨華ちゃんの返事待ちになった。
年末年始、まったりした時間はよしこより梨華ちゃんと過ごしたい。
よしこはあたしの料理が気に入っただけ。
それよりは、寂しい気持ちをちゃんと理解してくれてる梨華ちゃん家にいたい。
「今日は二人とも泊まっていけばいいじゃない」
「いや、あたし帰るよ」
「んぁ、よしこは泊まらないの?」
「自分のベッドじゃないと寝にくいし」
あたしには理解できない感覚だな。あたしはどこでも寝るよ。
よしこって意外に神経質。いや、意外でもないかな。
とにかく明日考えようっていうお話になるんだろうな。
「そっか。ん〜ごっちんどうする?」
「んぁ、梨華ちゃんは?」
「ひ〜ちゃんのお家で寝るけど」
え。明日の話じゃないの?今から梨華ちゃんはよしこん家に行って、よしこん家で眠るの?
そんであたしにどうするかって聞いてるの?え、なにこれ。
「梨華ちゃんいないんだから、もちろんウチ泊まるでしょ?」
当然のように聞かれてるけど、あたしはいまいち意味が分からない。
他にどんな選択肢があるのかも分からない。
- 240 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:41
-
よく分からないまま、よしこん家に移動になった。
確かによしこのベッドは大きいのだが、三人で寝るのはどうなんだろう。
「あ、じゃあゲストルーム使っていいよ」
よしこにそう言ったら、お客さま用の寝室というのに連れて行かれた。
ここは本当に日本なんだろうか。お客さま用の布団じゃなくてベッドがあるんだ。
「梨華ちゃんは?」
「え、梨華ちゃんはあたしと寝るよね?」
「うん。ごっちん一緒に寝ないの?」
いや、だって。
挟まれた人は多分あんまり寝心地よくないよね。
あ、でもよしこがどスケベ発揮したときのために居た方がいいのかな。
よしこをこっそり呼んで、声を潜めて聞いてみた。
「ね、梨華ちゃん襲う気?」
「ばか」
本気で聞いてんのに、心底呆れた顔で、んなことしねーよ、と言われた。
別に好き同士なんだししてもいいんじゃないの。いや、でも構っちゃダメなんだった。
何もないとなれば、あたしはゲストルームで寝ることにしよう。
万が一、なにかする気になったときのお邪魔になっても悪いし。
- 241 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:41
-
寝る場所も決まって、テレビ見ながら雑談。
「梨華ちゃん恋人いたことあるの?」
「どうしたの、急に」
「んぁ、・・・・なんとなく」
ちらりとよしこの方を見たら止めろという顔をしていたので、アヤカさんの話はしない。
「付き合ってたって言えるような人はいないかなぁ」
デートだけなら人並みにあるけどねぇって。梨華ちゃんはちゃんとお伽話のお姫様かも。
興味なさそうにゲームしてるよしこの耳が、ピクリとしたのをあたしは見逃さなかった。
「よしこはぁ?」
「・・・あん?」
「恋人。いたの?」
ここで聞かないのも不自然かなと思って聞いてみたら、
今度は冷静な顔して紅茶に口をつけていた梨華ちゃんの耳がピクリとした。
なんでこんなに二人して興味ない風を装うんだろう。
「いたよ」
「あっそ」
「興味ないなら聞くなよ」
明らかにホッとした顔をして、ポーズだけのセリフを吐いたよしこ。
逆に言ってやりたいけど。興味あるなら聞けよ。
- 242 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:42
-
よしこがもう眠いから寝るって言い出して、お風呂入って寝ることにした。
梨華ちゃんとよしこは、よしこの部屋に入っていって、あたしはゲストルームに入った。
料理係に就任しちゃったわけだし、明日は何作ってあげようかなと思いながら眠りにつく。
いつもより少し遅めの時間だったので、すぐ眠気に襲われ、結論はでなかった。
時計の針が午前4時を回った頃、あたしはトイレに行きたくなって部屋を出た。
トイレから出ると、リビングの明かりが点いているのが目に入った。
よしこの家って色んなものがあるからおじさんこだわりのセキュリティになっている。
侵入は不可能って自慢げにおじさんが話してるのを聞いたことがあるから、
不審人物ではないだろう。梨華ちゃんか、よしこか、両方か。
夜中だからドアの音がやけに大きく響く。
リビングのソファにはよしこが一人で座っていた。
テーブルの上には、高そうなお酒のボトルが置いてあった。
グラスは一つしか出ていない。よしこ一人で飲んでたのかな。
あれ、でもよしこって・・・
「飲んだら寝ちゃうんじゃなかったの?」
「あぁ、ごっちん。どした?」
よしこは、あたしがドアを開けたのにも気付いてなかった。
- 243 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:42
-
トイレに起きたのだと言うと、よしこは飲むかと聞いてきた。あたしは考えた。
お酒は久しぶりかもしれない。先日ミキティに言われた。あたしが間違ったことをしたら、
梨華ちゃんは悲しむ。あたしがお酒飲んだら梨華ちゃんは悲しむかな。
クリスマスに梨華ちゃんも飲んだはずだと思い出したので、よしこの相手をすることにした。
「もらおうかな」
「ん。グラス取ってきなよ」
うーん、あの頃もかなりいいお酒飲ませてもらったことあるけど、
これはそれ以上な気がする。それともあたしが味分かるようになっただけなのかな。
「よしこ飲めるんじゃん」
「ん〜、まぁ」
「クリスマスは寝ちゃったんじゃなかったの?」
「梨華ちゃんが、寝たから」
「二人とも寝たって言ってたくせに」
よしこは、苦笑していた。
やはりクリスマスに、告白しようと思っていたらしい。
家に帰って、間接照明だけにして、引っ張り出してきてたツリーを眺めて、
ふと隣に居る梨華ちゃんを見たときには、本当にこの子のことを好きだと感じていた。
でも、目の前に大きな壁が見えた。長年の幼馴染という壁。
この壁を乗り越えてしまった先には、何があるのか。
どんな風に接すればいいのか。歩き出そうとしたよしこは止まってしまった。
- 244 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:43
-
「で、安易なんだけどさ、酒の力って効くかなと思って」
「勢いが欲しかったんだ」
「うん。でも、梨華ちゃんは寝ちゃった」
ちょっと酔ってるときはすんげぇ可愛かったんだって、でれでれした顔してた。
いつもより弱弱しくなって、上気した頬が赤く染まって、とろんとした目で、
肩にしなだれかかる梨華ちゃんの髪から、堪らなくいい匂いがしたと。
そんなこと聞かされても、あたし困るんだけど。どう返事しろと。
「寝顔見てたらさ」
あ、返事しなくてよかったんだ。よかった。
「あたしは、この子も壊しちゃうんじゃないかなって」
アヤカさんの顔が浮かんだそうだ。あの頃は気づかなかったこと。
最後に抱いた日のアヤカさんは、悲しんでたんだと。
よしこは、アヤカさんを壊してしまったのだと。
「もうなんも言えないなって思って」
「うん」
「ベッドに運んで、あたしも寝た」
だから、ある意味二人とも潰れて寝ちゃったんだよって言っていた。
- 245 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:43
-
「壁を乗り越えるのが、怖い」
「時々、触れることすら怖い」
「また狂ってしまいそうで、怖い」
「驚くほど臆病な自分が、怖い」
正直な感想は、ウザい酒。
怖いか。よしこがこんな真面目に話してるの珍しいかも。
今日はよしこの話をよく聞く日だな。普段は聞き流してるんだけどな。
でも、新しい関係に飛び込んでいくのは、誰だって怖いと思うものだろう。
「考えすぎだよ」
「ははっ、そうかも」
「一個ずつでいいじゃん。まずその壁越えてみてさ」
先の先まで見てたら、動けない。未来に何の不安もない道なんてそうそうない。
可能性ばっか気にしてたら、どの道も歩けないじゃないか。
「スケベなことは後で考えなよ」
「・・・」
よしこは、下を向いて、グラスを回していた。
- 246 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:44
-
「ごっちん、あたしのことただのスケベだと思ってる?」
「うん」
顔を上げたよしこはそう聞いて、嫌そうな顔をした。
なにが違うというのか。
情緒のないやつだなと言って、よしこはあたしに顔を向けた。
「それしか考えてないわけじゃないよ」
「それしか言わないじゃん」
「お前がな。・・・あたしにとって、あの頃の象徴なんだ。思い出しちゃうんだよ」
「したくなきゃ、しなきゃいいじゃない」
梨華ちゃんがよしこの体目当てだとは思えないし。よしこはどうか知らないけど。
「でも、それじゃ気持ち伝わんないかも」
「ギュってして、愛してるって言えばいいじゃない」
猿じゃあるまいし。理性と言葉があるでしょ。
「でも、怖い」
「何が」
「だって、触れたら止まらないかも」
- 247 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:44
-
イライラするなぁ。
あたしはグラスの中身を飲み干し、よしこにグラスを突き出した。
よしこが注いでくれて、あたしはそれも一気に飲み干し、またグラスを突き出す。
「ね、これ結構きついよ?」
「いいから注げ」
黙って、注がれる。また飲み干し、また突き出す。2、3度繰り返して、よしこが口を開いた。
「あの、もうやめといたほうが」
「なんで」
「いや、明日つらいかもよ」
「分かってる」
「んじゃ、やめときなよ」
「いいから」
「でも・・・」
「“でも”とか、“かも”とか、そんなんばっか考えたってしょーがないじゃん!」
よしこは唖然とした顔をしていた。でもあたしは言ってやるぞ。
- 248 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:44
-
よしこは、立ち止まってる。でも、アヤカさんだってそんなの望んでないと思う。
変わって欲しかったから、アヤカさんはよしこを手放したんだと思う。
そんで、よしこは変わった。慎重なばっかで、一歩も動けない臆病者に変わった。
そんなの、誰も望んでなかったと思う。
「怖いよ!未来なんてみんな怖いよ!明日生きるのが怖い人だっているよ!」
「あの、ごっちん?声が・・・」
「バカになれ!何も考えるな!突っ走れ!アヤカさんと梨華ちゃんは別の人なんだよ!」
傷つけた、壊したとか言うけど、よしこだって傷ついたんじゃないの。
だから閉じ篭っちゃってるだけなんじゃないの。
よしこなりに傷があるのは分かったよ。
突っ走ってアヤカさんみたいに壊しちゃったって後悔するのが怖いのも分かった。
でも、そんなの梨華ちゃん可哀そうじゃん。
梨華ちゃんはよしこが好きで、よしこに触れて欲しくて、よしこに愛してるって言って欲しいのに。
「勝手に重ねて勝手に怖がってんじゃない!梨華ちゃんだけ見てろよ!」
アヤカさんは、傷つけられた、壊されたなんて思ってないと思う。
それでもまた人を愛するのが怖いというなら、違う方法で愛せばいいじゃないか。
あの頃の愛の形と、梨華ちゃんと育む愛の形はどうせ違うんだから。
あたしは立ち上がり、もう寝ると告げてリビングを出た。足元が覚束ない。
よしこがその後どんな顔をしていたかは知らない。
- 249 名前:123 投稿日:2007/12/29(土) 00:45
-
部屋に戻る前によしこの部屋を覗いた。梨華ちゃんはぐっすり眠っていた。
よしこん家が広くてよかった。結構大きな声出しちゃったから。
梨華ちゃんの寝顔を覗き込む。手を伸ばして、その髪にそっと触れた。
「ん・・・ひー・・・ちゃん・・・」
よしこの夢見てるのかな。梨華ちゃんの夢の中のよしこはあんな臆病じゃないのかな。
よしこはきっと下でまだ飲んだくれてるよ。
今はこんな風に触れることも怖がってるけど、変わるよ。きっと。
あたしが言ったからってすぐに変わるとは思わないけど。
これからもよしこは傷を抱えて、一生懸命考えて、梨華ちゃんとの距離を測るんだろう。
いいんだ。それでいいんだけど。なにか一つのきっかけになったらいいな。
あたしは、周りの人に見守られているのを、自覚してる。
よしこも、よしこが思ってるより、見守られてるんじゃないかな。
まず気づいた方がいいな。
アヤカさんも、梨華ちゃんも精一杯の愛情注いでくれてんじゃないかな。
二人だけじゃなくて、きっと今までよしこに好きだと言った子達も、
精一杯愛してくれてるんじゃないかな。
ダメだ、頭くらくらしてきた。
もう戻るね、梨華ちゃんおやすみ。いい夢見てね。
- 250 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 00:45
-
- 251 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 08:42
- かっけーなぁ、それぞれ。
- 252 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 23:35
- うわ、そうきましたか。深みが出ますね。
次回更新楽しみにしています。
- 253 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:04
-
始まりには終わりがある
始まったら終わりが来る
じゃあ、楽しいことも始まらなければ
悲しい終わりも来ないんだ
終わるのが怖いと
始めるのも怖くなる
怖くなったら
何も決められない
- 254 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:05
-
1.
起きたら昼だった。
ソファの上で目を覚ますと、毛布が掛けられているのに気付いた。
周りを見たが、ごっちんも梨華ちゃんもいなかった。シャワーを浴びようと浴室に向かった。
シャワーを終えて、リビングに戻ると寝起き丸出しの人物が座っていた。
「おはよ」
「ちょ、うるさい。話しかけんな」
そんなでかい声でもないんだけど、頭と口を押さえるごっちん。
飲みすぎだな。あたしより相当ハイペースだったからな。若いくせに情けない。
飲み物だけは豊富な冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出し、
ごっちんにはコーヒーを淹れてやった。
「あー・・・」
お礼を言うだけの余裕もないらしい。
よく分からないお辞儀をしてごっちんはカップに口をつけた。
こいつがこんなんってことは、毛布を掛けてくれたのは梨華ちゃんだな。
そのまましばらく二人でボーっとしていたのだが、ごっちんが立ち上がり、
シャワーを浴びに行ったので、あたしは本を読み始めた。
- 255 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:05
-
「あー・・・おはよ」
「おぅ」
今がお目覚めか。シャワーから出てきたごっちんは幾分余裕を取り戻したようだった。
あたしは本を置いて、ごっちんはあたしのスポーツドリンクに手を伸ばした。
「大丈夫?」
「ん〜もう平気だと思う」
「今日はなんかつまみ作ってよ」
「また飲むの?」
「飲むよぉ」
悲しいことに、飲まなきゃやってらんない。
梨華ちゃんはすぐ寝ちゃうけど、ごっちんは普通に飲めるみたいだし。
あと、ごっちん酒入ってるほうがまともな会話できるし。
「梨華ちゃんはぁ?」
「知らない。あたしも起きたのさっきだし」
二人してだらだらしてる間に梨華ちゃんは起きたんだろう。
家に帰ったんじゃないかな、と言ったらごっちんはそう、とだけ言った。
その後はまたぼんやりとした時間が流れた。
- 256 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:06
-
「なんか夕食リクエストある?」
「作ってくれるの?」
「作って欲しいから家来いっつったじゃん」
「あぁ、そういえばそうだっけ。ってかまず昼飯じゃない?」
「んぁ、じゃーお昼なにがいい?」
「なんでもいい」
ちょっとイラついた顔をされたけど、実際なんでもいいからなぁ。
ごっちんは立ち上がり、冷蔵庫から昨日の余った食材をいくつか取り出していた。
あたしにはよく分からない。何がどのくらい出来上がるのか見当もつかない。
仕方ないか。料理なんてしないし。
「よしこ、パンの方が好きだっけ」
「ん、気にしなくていいよ」
またイラついた顔をされた。細かくリクエストした方がいいのかな。
でも、作ってもらうのにごちゃごちゃ言ったら怒られそうだけど。
とりあえず、何も聞かれなくなったので別の本を読もうかと思い、自分の部屋に行った。
本棚を眺めるが、どれもピンと来ない。何読もう。
何度でも読み返すほうなのだが、今日は何を読むか決められない。
窓から外が見えた。
梨華ちゃんの家の玄関が開くところだった。
中から出てきた梨華ちゃんは、ポストのところまで行き、中からいくつかの郵便物を取り出す。
また中へ引き返していく梨華ちゃんが、少しして立ち止まった。
あたしはすぐに窓から離れた。
- 257 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:06
-
「んぁ、できたよ」
「お、早いね」
リビングのドアを開けるとごっちんにそう言われたので、
ダイニングテーブルに着いた。オムレツとサラダとパン。
頂きますと言って、食べ始めたのだが、ごっちんは野菜ジュースだけだった。
「うまいよ。食べないの?」
「ん〜胃が受けつけない」
まだ気持ち悪いのか。
そういうことなら気にしなくていいなと思い、あたしは食事を続けた。
「なにしに上がってたの?」
「ん。本取りに」
「何も持ってないじゃん」
「忘れた」
「ばぁ〜か」
本当に忘れた。
何もかも、忘れた。
立ち止まった梨華ちゃんは、あたしの部屋を見上げたのだろうか。
- 258 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:07
-
食事も済み、ごっちんとのんびりリビングでテレビを見ていたら、梨華ちゃんがやってきた。
「あ、起きたんだ」
「おぅ」
「おはよ〜」
ごっちんにおはよう、と返し、梨華ちゃんもソファに座ろうとした。
あたしに掛けられていた毛布が端っこに畳まれているのを見つけた梨華ちゃんは、
それを持ってリビングを出て行った。片付けに行ったんだろう。
「よしこあのままここで寝たの?」
「ん・・・そうみたい」
「梨華ちゃんが毛布掛けてくれたの?」
「そうみたい」
ごっちんは甲斐甲斐しいねぇ、と満足げに微笑んでいた。
戻ってきた梨華ちゃんが改めてソファに座った。
「美貴ちゃん何してるのかな?」
「ミキティ?ごろごろするって言ってたよ」
美貴らしいと思う。基本的にはぐうたらだからな。
あたしが言ったら怒るだろうけど。
- 259 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:07
-
「梨華ちゃん、夕飯なにが食べたい?」
「え?私にも作ってくれるの?」
よしこだけだとは作り甲斐がないからって、あたしを睨みながら言っていた。
なんでもいいって言っただけでそんな怒らなくてもいいじゃないか。
「そうね〜、何でもいいよ」
ざまぁみろ。
ごっちんは梨華ちゃんを睨まず、あたしを睨んでいた。
「っつーかさ、何が作れるの?」
「何でも大体作れるよ」
おぉ、頼もしい。仕方ないから何かリクエストしてやるかと思い、考え始めた。
なんかあるかな。あー、やっぱ何でもいいなぁ。
「あ、なんか買いに行く?見たらイメージ湧くかも」
どうせ昨日の残りの食材しかないんじゃ作れるものは限られてくるだろう。
特に欲求が湧かないんだよな。
- 260 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:08
-
「梨華ちゃんも行く?」
「うん」
「じゃ、行くかぁ」
「あたし行かない」
「あぁ?」
せっかく人が出かける気になったのに、ごっちんが行かないだと?
あ、くそ。梨華ちゃんと二人にしようとしてるな。もう決めたからメモ書くねと言い出した。
「ちょ、見ながら決めんだろ〜」
「なに?何でもいいんでしょ?」
そうだけど。正直何でもいいんだけど。
二人きりとか緊張すんじゃん。
「いいけど、じゃぁごっちん何で来ないんだよ」
「なんか気持ち悪いから寝る」
ちくしょお、微妙に本当の事言いやがる。
「そうなの?大丈夫?」
「大したことないよ」
「じゃぁお前も来いよっ」
「ひーちゃん、無理させちゃダメだよ」
あ、梨華ちゃんが裏切った。
・・・・違うか。もともと梨華ちゃんは何にも言ってないか。しゃーねーな。
- 261 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:08
-
「何作る気なんだろうねぇ」
「さぁ・・・メモは?材料見たら分かるんじゃない?」
「ん〜とね、あ、パスタだ」
解決すんの早かったな。
二人で、近くのスーパーまで歩く。どこが近いのかよく分からない。
あたし、お使いとかしたことないかも。
梨華ちゃんは迷いなく進んでいく。
角を曲がってから、そういえばこの先にあったかなと思い出した。
「ん〜っと、え、ひーちゃんち、牛乳もないの?」
「え、昨日買ったと思うけど」
「でも、書いてあるよ」
「飲んじゃったんじゃない?」
「じゃ、ひーちゃん取ってきて。生クリームもね」
中に入ってからも、梨華ちゃんに迷いはなかった。
私はこれとこれ見てくるからって、任されたんだけど。
ん〜・・・分かんねぇ。どこにあるんだろ。全部見て回らないとならないかな。
あ、手分けしたってことは梨華ちゃんが行く先と逆方向に行けばいいのかな。
スーパーってめんどくさいな。
物ありすぎなんだよ。コンビニぐらいで十分だと思う。
あ、上に書いてあるじゃん。えーっと、牛乳・・・・とは書いてないな。
ドリンク。あそこかな。あれ、ペットボトルばっかじゃん。向こうは・・・酒か。
ないな。うん。このスーパーには牛乳が売ってない。
- 262 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:08
-
「あれ、ひーちゃん、なにそれ?」
「ん?ジュース」
「・・・牛乳は?」
「なかった」
梨華ちゃんは、はぁ〜ってため息をついて、買い物かごにジュースを入れた。
信じてないな。本当になかったぞ。
かごを代わりに持ってあげて、梨華ちゃんの後ろから付いて行った。
メモを見ながら順調にごっちんのお使いが片付いていく。
かごの中身と梨華ちゃんの動きしか見てなかったのだが、
次の瞬間かごに入れられたものに、あたしは目を見開いた。
牛乳と生クリーム。あたしがさっき頼まれたのになかったものたちだ。
そしてここはドリンクコーナーではない。
なんでだよ。牛乳だってドリンクだろ。納得がいかない。
「なんであんの?」
「ひーちゃんが探さなかっただけでしょ」
え、なに?みんな思わないの?
ペットボトルの横に並べるべきだと思わないの?
探したよ。探したけどなかったんだ。あるべき場所になかったんだ。
納得のいかないあたしに、梨華ちゃんは横にある紙を指差した。
“乳製品コーナー”
そういう分類の仕方か。そういえばコンビニの牛乳もペットボトルとは並んでないな。
- 263 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:09
-
帰り道、あたしが袋を持っていたら、梨華ちゃんが持つよと申し出てくれた。
断ったが、昨日のごっちんと比べたら雲泥の差だな。
あいつはその一言を発しなかった。別に持つのが嫌なわけでも、持って欲しいわけでもない。
ただ、この一言の気遣いがいいんだよな。
「ありがと」
「え、なにがぁ?」
「いや、別に」
「なにそれ、変なのぉ」
梨華ちゃんに笑われたけど、あたしの機嫌はかなりよかった。
家に帰ったら、寝ると言っていたごっちんがテレビ見て笑ってたのに文句を言わなかった。
今日のあたしはかなり優しいな。
「ごっちん、手伝うよ」
「え、い、いいよ。よしこと遊んでてよ」
またやってる。
ごっちんもバレバレなくらい嫌がってんのに、梨華ちゃんは気付かない。
「いいよ、ごっちんそのために居るんだから。仕事させなきゃ」
「そうそう。あたしが一人でやらないと意味ないじゃん」
「でも、お手伝いくらいするよぉ」
いいからいいからって、無理やりソファに引きずって行った。
- 264 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:09
-
「今日って大晦日じゃない?」
「あぁ、そうだね」
「初詣行こうか」
「ヤダよ。人すんげぇじゃん」
あたしは人ごみダメなんだ。
気分悪くなるとかじゃないけど、機嫌は悪くなる。
「あ、ひーちゃん人ごみキライだったね」
思い出してくれたらしい。
「あれ、ごっちーん?」
「んぁ、なにー?」
いい音といい匂いがキッチンを包んでいるが。大晦日って、日本人なら蕎麦だろ。
年越し蕎麦食わないと。
「大丈夫。このパスタも細くて長いから」
あぁ、長寿祈願だっけ。細く長く生きるみたいな。
いや、確かにそうだけど。なんか違うじゃん。気分乗らないじゃん。
ほんとに情緒ないよな。もっと侘び寂び的なものを大事にしてもらいたいと思った。
- 265 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:10
-
- 266 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:10
-
2.
年越しパスタで一年を締める羽目になった。
石川家では、おばさんの手打ち蕎麦が出されてたらしいけど、
それもちょっと怪しかったので、遠慮した。
まぁ、結果的にうまかったからいいんだけど。
『さーん、にー、いーち、ハッピーニューイヤー!!』
一応テレビのカウントダウンにだけは合わせた。
「あけましておめでとうございます」
「おめでとうございます」
「おめでとうございます」
梨華ちゃんは律儀にデコメを送り始め、繋がらないとか喚いていた。
あたしとごっちんは送って来た人に返信だけする。
特に装飾なし。コピー&ペーストの繰り返し。おめでとう、よろしくみたいなの。
ひと段落着いたかと思われる午前1時半過ぎ。
梨華ちゃんがお風呂に向かい、あたしとごっちんは晩酌準備。
出てきた梨華ちゃんが無謀にも参加しようとして、止めたのだが聞いてくれなかった。
どうせ寝るんだろうなと思いながら、とりあえず一杯目は三人で乾杯をした。
ゆっくりと飲むあたしとごっちん。何故かハイペースな梨華ちゃん。
あ、クリスマスのときも梨華ちゃんこうやって飲んでたんだ。
そうか、梨華ちゃんって真面目だから、飲み方知らないのか。
- 267 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:10
-
ん〜もうすぐ大学生なんだから飲む機会増えるよなぁ。
しかも外で。怖いなぁ。こんな感じで飲んで酔ってるとこ人に見せるのヤだな。
「梨華ちゃん、もっとゆっくり飲みなよ」
「えぇ?なぁんでぇ?」
プーって頬が膨らんで、あたしの顔をつんつんしてくる。
あぁ、もうすでにちょっと可愛くなり始めてるし。
「味わうものだからさ、そんな口いっぱいに含んで飲むもんじゃないよ」
「おいしくないもーん」
じゃ、飲むな。酒に失礼だ。嗜好品だよ?好んで嗜む品だよ?
好まざる者飲むべからずですよ。
「いいじゃん。いい飲みっぷり」
ごっちんがそう言って、梨華ちゃんのグラスに注ぎ足した。
目で止めろと合図したのに、ごっちんはいっぱいに注ぐ。
合わせろよな。通じてないわけないぞ。ちくしょお、嫌がらせだな。
ダメだって。ちょー可愛くなんだよ。
めちゃめちゃ色っぽくなっちゃうんだよ。
- 268 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:11
-
「ひーちゃぁん」
「ん?」
「ちゅー」
口だけ。口の形だけ。
すぐに止めて、きゃはははって笑ってんの。
「梨華ちゃん。グラス空いてるよ」
「あ、ホントだぁ。ごっちん、おかわりぃ」
「はいはい」
「ちょ、マジやめろって」
調子に乗り始めたから止めた。
二人きりもやばいけど、ごっちんに見られるのもやばい。
このあとは、くっついて来るんだよ。
「ひ〜ちゃぁ〜ん」
ほら見ろ。がっちり腰つかまれた。
ごっちんを見たら、平然とした顔で自分のグラスに注いでいた。
目が合うと、ボトルがあたしに向けられた。
「飲む?」
飲む?じゃねぇよ。この状況に早くも慣れてんじゃねぇよ。
本人心臓バックバクなんだぞ。
- 269 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:11
-
もうちょいだ。もういっそ寝てもらおう。
あたしは自ら梨華ちゃんにもう一杯勧めた。
「もぉ〜、酔わせてどうする気ぃ?」
どうもしません。ごっちんいるし。
・・・まだそんな気になれないし。
5分ほどであたしの作戦は功を奏した。
目をしょぼつかせ始めたので、そろそろ寝るかと聞いた。
もう返事は頷くだけだった。
「ベッド連れてくわ」
「んぁ、大丈夫?」
「なにが?」
もう、完全に抱えてるし、ごっちんよりよっぽど力あるつもりだけど。
「怖くないの?」
「あ・・・・」
そっちか。う〜ん、意識ないような人には何もしないと思うけど。
「10分以内に戻らなかったら見に来て」
ごっちんが手を挙げて了解を示したので、梨華ちゃんを抱えて部屋に向かった。
- 270 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:11
-
ベッドに降ろしたが、梨華ちゃんは動かなかった。
あたしは縁に腰を下ろし、仕方なく布団を掛けてあげた。
「ひ〜ちゃん・・・どこぉ・・・?」
少しだけ目を開けて、その手があたしを探すから、そっと重ねて、耳元で答えた。
「ここにいるよ」
満足げな笑みを浮かべ、梨華ちゃんは重ねられたあたしの手を軽く握った。
瞬間、鼓動が高鳴り、触れたいという衝動に駆られる。
同時に触れてしまうことが怖くなり、手を離そうとしたのに、
手を離してしまうのも怖かった。
動けなくて、じっと寝顔を見つめてた。
「よしこ」
「あ、もう10分経った?」
声を潜めて、開けっ放しのドアから覗くごっちんに尋ねた。
思ったより時間が経つのが早いなと思ったのだが、
ごっちんはゆっくりと首を横に振って、顔を正面に向けて言った。
「30分経ったよ」
あたしも、酔ってるのかな。
- 271 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:12
-
「遠慮しようかと思ったんだけど、ドア開いてたから」
「うん・・・」
ゆっくりと、出来る限りゆっくりと手を離した。あたしが思っていたより、手は簡単に外れた。
そして、手が外れても梨華ちゃんは変わらない寝息を立てていた。
あたしは立ち上がり、ドアに向かった。
「ありがと」
「怖かった?」
「ばぁーか」
部屋を出てすぐの廊下で振り返り、ごっちんがドアを閉めるのを見ていた。
さっきは逆光で表情が見えなかったのだが、振り向いたごっちんはやけに真面目な顔をしていた。
「なんでそんな顔してんの?」
おどけて言ったのだが、ごっちんの表情は変わらなかった。
「よしこは、なんで泣いてるの?」
言われて頬に手をやると、指先が冷たく濡れた。
「顔洗ってくるわ」
「ごゆっくり」
勝手に飲んでるから、と言ってごっちんはリビングに入っていった。
- 272 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:12
-
洗面所で顔を洗い、今日が新年最初の日であることを思い出した。
「・・・かっこわりースタート」
ぽつりと、鏡の中の自分に零した。
リビングに戻ると、ごっちんは本当に一人で飲んでいた。
あたしもソファに座り、目の前のグラスに注ごうとして、
初めから自分がほとんど飲んでなかったことを思い出した。
「んぁ、ヘタレに乾杯」
「うっせー」
グラスを合わせる高い音が響いた。
「昼間さ、牛乳の場所が分からなくて」
「は?」
「スーパーでね、探してたの」
「あぁ、お使い?」
「そうそう」
関係ない話がしたかった。
ごっちんも乗ってくれたようで、あたしの涙には触れないでくれた。
「牛乳って飲みもんだろ?」
「ドリンクコーナーにあるとこもあるけどね」
あ、やっぱそうなんだ。
- 273 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:13
-
バカな話に花を咲かせ、夜は更けていく。
時計の針は午前五時を回って、あたしの酔いも回った頃、ごっちんが立ち上がった。
スローペースとはいえ昨日より飲んだくらいなのだが、今日は足取りもしっかりしていた。
「ちゃんとベッドで寝ないと風邪引くよ」
まだグラスを傾け続けるあたしに、ごっちんが言った。
からっぽになったつまみの皿をキッチンに運ぶごっちんに、
風邪引いたら看病してくれるんでしょと返した。
「しないよ、ばぁ〜か」
「え、ショック」
「んぁ、梨華ちゃんが病人食作ってくれるんじゃない?」
あの手つきでさ、とごっちんが真似しながら笑ったので、あたしも笑った。
「不器用だからねぇ」
「あたし冷や冷やしたもん」
「はは、血の味がしそうだよなぁ」
「でしょ?」
怪我人に看病されるんだもんなって、二人して笑った。
笑いも収まって、ごっちんの片付けも済んで、あたしもグラスの中身を飲み干して。
「でもさぁ、いいヤツなんだよ」
「んぁ・・・知ってる」
からかわれると思っていたのだが、ごっちんは静かに微笑んでいた。
- 274 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:13
-
グラスをシンクに置いて、ごっちんと一緒にリビングを出た。
すこしずつ、梨華ちゃんの眠る部屋に近づいていると感じ始め、緊張が高まってくる。
「よしこ大丈夫?」
「ん?」
「もう、泣かない?」
「・・・10分したら見に来てくれる?」
「ばぁ〜か」
起こしてしまわないように、声を落として笑いあった。すこし緊張がほぐれる。
おやすみと言って、ごっちんはゲストルームに入って行った。
あたしは一人で部屋のドアを開ける。
真っ暗な部屋に、廊下の明かりが差し込み、ぼんやりとベッドの輪郭が浮かび上がった。
少し目線を上げると、その上に一人分の膨らみがあるのも見えた。
大丈夫。梨華ちゃんとはずっと一緒だっただろ?
すこしだけ隙間を残して、ベッドに入った。
梨華ちゃんの体温で暖められたベッドは気持ちよかった。
かなり飲んでいたので、すぐにぼーっとしてきて、あたしは目を閉じた。
余計なことを考えずに眠れそうだとホッとして、あたしは眠りに落ちた。
- 275 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:13
-
- 276 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:13
-
3.
8時頃、梨華ちゃんに起こされた。
ベッドに入ったのが6時近かったので、ほとんど眠っていないのだが。
「新年の挨拶だから起こしてきなさいって」
「ん・・・」
梨華ちゃんの両親からのお呼び出しだった。
無理やり連れて行かれて、挨拶をさせられて、お正月だから飲みなさいって日本酒飲まされて。
縁起物のおせち料理をとりあえず一通り食べさせられて。
ふと向かいに座るごっちんを見たら、平然としていた。なんでだよ。
同じ時間に寝たはずなのに。同じくめちゃめちゃ眠いはずなのに。
「初詣に神社行くけど、ひ〜ちゃんどうする?」
「・・・寝る」
「よしこ行かないの?」
「行かない」
「なんで?」
人多そうだし、眠いし。
おみくじ代わりに引いといてあげるねという梨華ちゃん一家とごっちんを見送り、
あたしは二度寝をした。だから、なんでごっちん元気なんだよ。
- 277 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:14
-
あたしが目を覚ましたのは、また昼だった。
おせちのおかげで、腹も減ってないし、テレビを点けてボーっとしてた
正月はおもしろい番組しちゃいけない決まりでもあるんだろうか。
テレビを消して、シャワーを浴びる。服も着替えて、あたしは出かけた。
正月って言っても最近じゃ休むとこの方が少ないだろう。
街はいつもの休日とそう変わらぬ喧騒に包まれていた。
ど派手なギャルも歩いてるし、チャラい男がそれを必死でナンパして。
あたしはあくびをして、本屋に向かった。
テレビの正月番組よりはおもしろそうなのがあるだろう。
気になっていた本をざっと立ち読みして、気に入った二冊を持ってレジに向かった。
本屋から出ると、ナンパ現場に遭遇した。
正月からそれしかすることないのか。
まぁ、本読もうとしてるあたしも正月らしいとは言いがたいが。
「もう、イヤだってば」
「えぇ〜?いいじゃん。一人でしょ?」
しかもイヤとか言われてんじゃん。無理やりはよくないなぁ。
新年早々、初振られ?いや、どうせ昨夜からフラフラしてんだろうし、
夜中にも数え切れないくらい振られてんだろうな。
- 278 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:14
-
気まぐれに、男の背中越しにその女の子に声を掛けた。
「よ、お待たせ」
男が振り向いて、腕をつかまれていた女の子が見えた。
あれ、ど派手なギャルじゃないんだ。意外と、落ち着いた・・・・
「よっちゃん・・・」
「あれ、なんだよ!一人じゃねーじゃん」
嘘ついてんじゃねーよっと吐き捨てて行った男に、あたしは中指を立てた。
死ね。
向き直り、気まぐれなんて起こすもんじゃないなと痛感した。
「アヤカ、なにしてんの?」
「よっちゃんこそ」
なんだよ。あたしのおみくじ、引いてたら凶だったんじゃねーの。
「本買いに来た」
「お正月から?」
「親が帰ってこねーんだよ」
「あぁ、おじさんらしいねぇ」
笑ってるけど、笑い事じゃないよ。
クリスマス前からだよ。たぶんこのまま冬休み中放置されるんだよ。
- 279 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:14
-
「暇なら、ちょっと付き合ってよ」
ね、って微笑まれたら、あたしはもう逆らえない。確かに暇だし。
そのままアヤカに連れられて、ショッピングに付き合わされた。
「どっちがいいと思う?」
「ん〜・・・右の方が、よく似合ってたよ」
「そう?じゃあ、そうする」
あぁ、忘れてたな。アヤカがこうやって服とか靴とか選んでるとき、
こうやって一緒に選ぶのすっげー好きだったな。
真剣に考えすぎて、逆にアヤカを待たせたこともあったっけ。
あたしはアヤカにどっちが似合うかなってやってんのに、
アヤカはもうどっちでもいいとか言い出したり。
「これは?」
「ん〜、アヤカにはちょっと下品だよ。こっちの方がよくない?」
「そう?これもいいよね」
「え、こっちだって」
「えぇ〜?」
うん。揉め方もこんな感じだった。でも、いっつもアヤカがこの辺でさ、
「じゃあ、よっちゃんがいいって言った方にするね」
折れてくれるんだ。
- 280 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:15
-
アヤカの部屋まで、付いていった。荷物が多かったから。それだけ。
引っ越したと思ってたのに、アヤカの部屋は同じ部屋だった。
近づけなくて、確かめたこともなかったっけ。
付き合ってくれたお礼にお茶飲んで行けと言われて、コーヒーを淹れてくれた。
あぁ、アヤカと付き合いだしたからコーヒーなんて飲むようになったんだっけ。
コーヒーが好きなんじゃなくて、淹れてくれるアヤカの後姿が好きだった。
「こないだはゆっくり話せなかったね」
「あぁ、友達が来たから」
こっそりトイレから電話掛けて呼んだんだけど。
カップに口をつけると、懐かしい香りが広がった。
「あの子、かわいかったね」
「まぁ、見た目はねぇ」
ごっちんの欠点は主に内面だからな。一回会っただけなら可愛い子だろうな。
この苦味、初めはキライだったのに、背伸びして飲んでたな。
「恋人?」
「まさか」
今のところ、知り合いの中で一番恋人から遠い人物だ。
素直に美味しいと思える。この味を知れたのはアヤカのおかげかな。
「そうなんだ。恋人、いるの?」
「・・・いないよ」
- 281 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:15
-
「そう」
「アヤカは?あの時の人とはどうなったの?」
「あの時?」
「二年前の人」
アヤカとも、あたしとも違う香水をつけてる人。
今でも鮮明に思い出せるあの香りを、アヤカにつけた人。
「あぁ・・・よっちゃん、怒らない?」
「いまさら怒らねーよ」
正確には一度も怒ったことなどない。ただただ悲しみが溢れるのみだ。
あたし怒ってもよかったんだ。そうか、浮気だもんな。
また一つ、あの頃には分からなかったことが分かった。
アヤカは言葉を選ぶように、ゆっくりと口を開いた。
「そんな人、いないの」
ソンナヒトイナイノ。そんな、人、いない、の?
「は?」
「友達の香水と、混ぜたの」
わけ分かんねー。何言ってんだろ。
- 282 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:15
-
「よっちゃん、香水好きだったじゃない?」
「まぁ」
アヤカの香水は、あたしが選んでプレゼントしたものだった。
いつも使ってくれと頼み、あたしはその香りがアヤカの匂いと混ざって、
くらくらするほど魅惑的な匂いに変わるのが大好きだった。
毎日のように、その匂いを鼻先で舐め取るように嗅いでいた。
「だから、匂いで気付くだろうなって思って」
だから気付いたよ。絶望に匂いがあったら、多分同じ匂いがするんじゃない。
「自分で振りかけたの」
「なんでそんなこと・・・」
「お別れを言いたくなかったから」
お別れを言いたかったからの間違いじゃないのか。
「気付いてた?」
「え?」
「私、よっちゃんにバイバイって言ったことないんだよ」
別れた日、アヤカはなんて言ってたっけ。
何も言わなかった。あたしは、抱きしめたままアヤカが寝てから部屋を出たんだ。
付き合ってるときの帰り際、なんて言ってたっけ。またねって言ってた。
こないだはなんて言ってたっけ。帰るね、って言っただけだった。
気付いてなかった。さよならも、バイバイも言われたことなかった。
- 283 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:16
-
「恋人、いないんだよね?」
「え、うん」
「私と、やり直さない?」
あたしは即答することができなかった。迷ってしまった。
アヤカはさらに続けた。
「ちゃんと、お別れまで付き合ってよ」
あたし、まだアヤカとお別れしてないんだ。
でも2年も会ってない。いや、でも今アヤカは目の前にいる。
アヤカはあたしを裏切った。でも、あれは嘘だった。
アヤカは、嘘を吐いたんだ。でも、嘘を吐かせてしまったのはあたしだ。
あたしは、一度の浮気を許さなくて傷つけたんだと思ってた。でも、それも違った。
アヤカは、返事を待ってる。
「す・・・・好きな人が、いる、から」
搾り出すように、やっと言った。
言えたと思った。これで、この話は終わりだと思った。
「私とはいつお別れしたの?」
「え」
「終わりまで、付き合って」
「もう、終わったんじゃ―――」
「まだだよ。だから、やり直して」
あぁ、あの日に何もなかったとしたら、あの別れは成立しないってことになる。
- 284 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:17
-
「で、でも、」
「その人には言わなくていいから」
「え?」
「私のことは、秘密でいいから」
よっちゃんの邪魔にはならないよって、まただ。その笑顔はダメだ。
逆らえなくなりそうだ。あぁ、世のお父さんたちはこうやって不倫に走るのかな。
でも、あたしは梨華ちゃんと付き合ってるわけでもなんでもないんだから隠さなくても。
あぁ、完全にやり直すこと前提で考え始めてる。
「私は、あの日から動けない」
あたしも、動けないよ。好きな人といるのが怖くなるんだ。
まだ、終わってなかったからなのかな。
「ここから、この場所から、やり直そう?」
アヤカが、近づいてくる。息遣いまで聞こえる。
首筋から、あたしの大好きだった香りが立ち上ってくる。
あたしの腕に、アヤカの長い髪が触れる。この髪を撫でるのも大好きだった。
あたしは、堕ちてしまった。
- 285 名前:123 投稿日:2008/01/02(水) 01:17
-
「よっちゃん、変わったね」
「そう?」
「前ほどがっついてない」
「まぁ、久しぶりだし」
いつも、終わった後にだけアヤカは煙草吸ってたっけ。
この匂いも好きだったな。同じ銘柄探して、家で燻らせたこともあったな。
「あれから一度も恋人つくってないの?」
「ん・・・まぁ。」
一本もらい、火をつけた。
あいまいな返事しかしてねーな。
あたしってこんな情けないヤツだっけ。あたしなんて、こんなもんかな。
「私も」
「・・・・ふーん」
ゆっくりと、煙を吐き出す。
冷めてしまったコーヒーの味が、口いっぱいに広がった。
アヤカのマンションを出ると、あたりはもう真っ暗だった。
携帯を取り出す。何度も着信音が聞こえてたけど、部屋の中では一度も出さなかった。
“帰ったよ”“どこにいるの?”“遅い”“帰ってくるの?”“梨華ちゃんの家にいるから”
ごっちんからだった。
中に一通、梨華ちゃんからのメールがあった。
なんとなく開けなくて、携帯をポケットにしまい、歩き出した。
あたしは、ダメなやつだ。
- 286 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/02(水) 01:18
-
- 287 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/02(水) 01:54
- よっすぃ、もっと強くなれ!!
- 288 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/02(水) 02:19
- がーん(; ̄□ ̄)
- 289 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/02(水) 11:07
- 危険なよしアヤも好きですw
- 290 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/02(水) 12:35
- 本当の意味でまだ梨華ちゃんの事を好きになっていないのかな。
梨華ちゃんのメールが気になりますね。
- 291 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/03(木) 08:08
- 吉澤にはお気付きの点をいろいろと言ってやりたいが、自重w
- 292 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/03(木) 13:56
- まぁ、まだ梨華ちゃんとは付き合った訳じゃないから二股ではない…、だろうけど
今のよっすぃが梨華ちゃんを好きでいる資格は無いわなぁ。
- 293 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/03(木) 14:29
- 本当にネタバレ勘弁して下さい。自治スレ読んでますか?
特に35レス目移行を読んでください。
作者さんすみません。更新楽しみにしてますよ。
- 294 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/04(金) 13:40
- 結果はどうあれ、よっちゃんが純粋すぎて切ないっす。
こんな経験ないけど気持ちは分かるなぁ。
- 295 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/04(金) 16:12
- ミキティはまぁ、ともかくとしてもごちんがキレそう。
- 296 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/05(土) 17:56
- ごっちんのキャラが好きです。
待ってまーす♪
- 297 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:29
-
理解できないこと
一、バイト先の後輩
二、宇宙の仕組み
三、自己犠牲精神
一つ目と、二つ目は多分たいていの人が
分からないと思ってるだろう
三つ目の何がイヤって
めんどくさいんだ
本音と建前をぐちゃぐちゃにして
言い訳するための接着剤に見えるんだ
- 298 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:29
-
1.
お正月は、こたつでみかんだ。
新春特番見て、まったり過ごすんだ。ミキの貴重な休日。
誰にも邪魔させる気はなかったのだが、程度にもよる。
「梨華ちゃんとかどうしてんの?」
『寝てるんじゃないかって』
「朝から今まで?あり得なくない?」
『前にもそんなことがあったんだって』
「いや、電話で起きるでしょ」
バカガキが失踪したらしい。
初詣に行って、帰ってきたらよっちゃんの家の鍵が全部閉まっていた。
帰ったとメールしても返事はなく、夕方頃、ミキにも連絡が入った。
よっちゃんが来てないかと聞かれ、来てないと答えるとすぐに電話は切られた。
気まぐれなヤツだから、あまり気にはしていなかった。
正月だろうと何だろうと、気が向けばふらりといなくなることもあるだろう。
それが全く連絡がつかないまま、夜10時近くになり、ごっちんから二度目の電話があった。
さすがに少し気になって、片っ端から知り合いに聞いてみた。
一通り思いつく人全部に聞き終えて、収穫なし。それでごっちんと三度目の電話中だ。
『寝ながらうるさくて電源切ることもあるんだって』
「なんでごっちんは一人で探してんの?」
『んぁ、勘。家には居ない気がする』
本当にその勘が当たってたら大事件だが、よっちゃんの両親は海外で連絡がつかない。
- 299 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:29
-
「なんか根拠でもあるわけ?」
『だってよしこ、変だったもん』
「なんで変だと思ったの?」
『勘』
こいつは・・・まともに説明する気ないのか。どう変だったかとか言えよ。
埒が明かない。勘の根拠が勘だなんて、根拠は無いと言ってるのと同義じゃないのか。
ほんとダメだな。年が明けてもこいつは変わらないな。
会話が進む気がしなかったので、適当に切って、梨華ちゃんに電話を掛けることにした。
さて、梨華ちゃんだ。
と思ったら、あやちゃんから“誰と長電話してるの〜?”とメールが来ていた。
長電話というか、いろんな人に掛けまくってただけだから一件一件は短かったんだけど。
何か用だったのかな。梨華ちゃんは寝てると思ってるなら、聞いてもしょうがないか。
後でいいや。とりあえずあやちゃんに電話してみよう。
『みきた〜ん、電話長いよ』
「ごめんごめん、どうかしたの?」
『うん、吉澤さんがね、掛けてって。代わるね』
あん?よっちゃん?そんなバカな。聞き間違えたかな。
『あ・・・もしもし、美貴?』
「オマエ何してんの?」
『・・・いや、ちょっと』
聞こえてきたのは、間違いなくよっちゃんの声だった。
あやちゃんと居るなんて、考えもしなかった。なんだよ、実は仲良しなのか?
- 300 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:30
-
まいちゃんの時は分かる。
ミキのいとこだから、ミキに話すのも納得だった。
でも、全般的によっちゃんの相談係に就任した覚えはない。
ごっちんの勘は当たってた。よっちゃんは、一人でふらふらしていたらしい。
偶然あやちゃんがよっちゃんを見かけて、声を掛けたらあまりにも様子がおかしかったから、
とりあえずミキに電話を掛けた。しかしミキは通話中だった。
放っておくのも心配で、無理やり家まで引っ張って行った。
そして、ミキに電話してくれと頼まれたあやちゃんがさきほどまた掛けてきたというわけで。
「よっちゃん、今日何の日か分かってる?」
「あけましておめでとうございます?」
「そう、おめでたい日なの。そんな陰気くさい顔する日じゃないの」
「はぁ」
こんな時間によっちゃんは家に訪ねてきた。
帰りたくないとかなんとか。知るか。オマエはミキの恋人か。しかもウザいタイプの。
だからって断ったらあやちゃんの家に居座る気かもしれないし、
そうなったらミキ、申し訳なくてあやちゃんに顔向けできなくなる。
仕方なく許可して、ごっちんに見つかったから心配するなとメールを入れておいた。
やってきたよっちゃんは、吉澤ひとみのキャラにも、お正月にも似つかわしくない陰気な顔で、
ミキに何があったかを話し始めた。話の内容にだけはその顔がよく似合っていた。
「よっちゃん、ミキに何言わしたいの?」
「忌憚なきご意見」
言うぞ?本当にきっぱり言い切るぞ?
- 301 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:30
-
「バカ。ヘタレ。スケベ。最低。よっちゃんにはガッカリだよ」
「・・・・はぁ」
へこんでんじゃねぇよ。言えっつったじゃん。
まぁ、自己嫌悪は十分みたいだし、これは帰りづらいだろうな。
梨華ちゃん見るのも、ごっちんに突っ込まれるのも辛いんだろうな。
ほんとヘタレだな。度胸がないなら浮気みたいな真似するなよな。
「ずっとまだ好きだったの?その・・・」
「アヤカ」
「そう、アヤカ」
「いや、むしろ会いたくなかった」
嫌な思い出だったわけか。
浮気されて、捨てられて、泣きまくった思い出だもんな。あ、浮気はしてないんだっけ。
・・・・本当かどうか怪しいもんだけど。ミキはその人知らないから断定は出来ないけど。
「なんでそんな人とより戻すかなぁ?」
「だって、まだ別れてなかったから」
「バカ」
「なんだよ。そう言われたんだもん」
「仮に別れてなかったとしても、好きとか思ってないならその場で別れりゃいーじゃん」
「・・・・」
「なに?ミキなんか間違ってる?」
「・・・いえ、ごもっともです」
うむ。素直でよろしい。すべてはよっちゃんが断れなかったのが悪い。ヘタレめ。
- 302 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:31
-
「まぁ、ここまでは梨華ちゃんとごっちんの友達としての意見で」
「え?」
「ミキの個人的な感想はねぇ、気にしなくていいと思う」
「・・・はぁ?」
人は誰しも過ちを犯すもの。逆らえないときってあると思う。
身に覚えがあるからと庇っているわけではない。
以前ミキが『三つの恋の同時進行』に挑戦していたこととは関係ない。
ちなみにめちゃくちゃ大変だった。予定と話がごちゃ混ぜで・・・あー、思い出したくもない。
「ミキから言わせてもらえば、その人も変だし」
「アヤカ?」
「うん。二年も会ってないのに別れてないって、変じゃん」
「いや、別に本気でまだ付き合ってるって言いたかったわけじゃないだろ」
「なんだ、分かってんじゃん」
おかしなことを言う元恋人に、冷たく出来なかったんだろ。
よっちゃんは、うな垂れて話し始めた。
「初めてだったんだ。アヤカからあんなの」
それまでの行動も悪かった。別れた日の印象が強烈過ぎて忘れていたが、
よっちゃんはその人が大好きだったんだ。楽しい思い出だっていっぱいあったんだ。
それを思い出してしまった。あの頃に抵抗を持たなくなってたんだ。
いっつも余裕に見えて、いっつもよっちゃんが一番じゃないような態度で、
傍にいてほしいと願うのは、いっつもよっちゃんの方だったのに。
放りだせなかったんだろ。でもその優しさをどこに向けるかはよっちゃんの自由だ。
- 303 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:31
-
「アヤカと、居てあげなきゃと思って」
「居ればいいじゃん」
「でも、梨華ちゃんが好きなんだ」
「それでもいいじゃん」
「アヤカに気持ちはなかったはずなのに、やり直すんだ」
「別にいいじゃん」
付き合う理由なんて人それぞれだ。
同情でもなんでもいい。思い出にしがみついて馴れ合うも自由。
幸せかどうかは知らないけど。それが甘く蕩けるような関係だとは思わないけど。
「好きなのは、梨華ちゃんなんだ」
「なら振ればいいじゃない」
それだけだろ。考えすぎなんだよ。やっぱガキだな、こいつ。
その日の内に後悔した事はないけど、ミキだって付き合ってから違うと思ったことあるし。
もちろん、すぐ別れた。あんたじゃなかったって言った。その人にも言えばいいじゃないか。
「傷つけたくない」
「ならそのままでいいじゃん」
黙り込んで、俯いてしまった。
言えないならそのまま付き合ってればいい。
誰に優しくするも自由だけど、それでよっちゃんが一番悲しんでちゃダメだろ。
自己犠牲精神は梨華ちゃんの専売特許だと思ってたけど。こいつも同じなんだな。
ミキには理解できない。
- 304 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:32
-
「あたし悩んでんだよ?」
「何を?」
「アヤカとこのまま付き合っていくのか・・・」
「だから、したいようにしろって言ってんの」
やっと口開いたと思ったら、何言ってんだ。このヘタレが。ミキに決めさす気かよ。
そんなんダメに決まってんだろ。その人にも梨華ちゃんにも失礼だろうが。
「大体さ、ミキがこう言うの分かってたでしょ?」
「まぁ・・・」
だからミキに話したんだろ。梨華ちゃんに言うなんて論外だし、
ごっちんもこんな話にまともにとりあうわけないし。
それどころか、下手すりゃ殴り合いにでも発展しそうだ。
話しても一番ダメージ受けなくて済みそうなミキを選んだんだろ。
「お望みどおりでしょ。ミキは別にいいと思うよ」
付き合ってたわけじゃないんだ。浮気ですらない。
気が変わった。気まぐれなよっちゃんにはお似合いでしょ。
「でもさぁ・・・」
「納得いかないのよっちゃんでしょ」
ガキだからな。筋通したいんだろ。そんでよっちゃん的にこれはルール違反なんだろ。
でもね、ミキ的にはどっちでもいいの。
- 305 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:32
-
「帰りたくねぇ」
「さっきも聞いたよ」
「泊まっていい?」
「・・・ママがいいってさ」
うちのママはよっちゃんがお気に入り。
帰ると言っても引き止めてやるぐらいの勢いで喜んでた。
「あ、でもごっちんが心配してたから電話しときなよ」
「えぇ〜?」
「じゃ、メール」
「えぇ〜?」
「なんだよ」
「美貴が掛けて」
も、ほんとダメだなこいつ。ヘタレの国の王子様だな。
帰国しろ。帰国して、ヘタレしかいない国のてっぺんで平和に生きてろ。
「千円」
「電話一本で!?」
「じゃ、自分で電話しろ」
「・・・・払う」
「まいど。税率は消費税と一緒でいいよ」
「どこに払う税だよ・・・」
さぁ?日本国にじゃないことは確かだね。税という名の割り増しかも。
ってか、払うな。自らぼったくりを認めるわ。情けないなぁ。
- 306 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:33
-
携帯を開いて、ごっちんに電話する。
コール音が聞こえてきたが、何故かなかなか出ない。
「あれ、出ないよ」
「ごっちん?」
「うん・・・・あ、出た。もしもし?」
『あ、美貴ちゃん?ごめんね、ごっちん寝ちゃってて。
見たら美貴ちゃんからだったから』
「梨華ちゃん?いや、いいんだけど。ごっちん寝てるんだ」
「げ。」
『うん。どうしたの?起きたら伝えとくけど』
「あぁ、梨華ちゃんでいいよ。よっちゃんミキん家に泊まるから」
『ひーちゃん?ひーちゃんそこに居たの?』
「居るよ。代わろうか?」
よっちゃんは死ぬほどうろたえ始めた。
頭抱えて、目を見開いて、ミキに掴みかかろうとして、後ろ向いて、また頭抱えて。
『いいよ。ごめんね、お正月からお邪魔しちゃって』
「あー、ママが喜んでるから気にしないで」
『そう?ほんとにごめんね』
「いーってば。じゃね」
ごめんねって、梨華ちゃんってホントよっちゃんの犠牲者だよな。
電話を切ったら、よっちゃんが電話代わろうとしたことに文句を付け始めて、
詐欺だ、金返せとか言ってる。声を大にして言おう。初めから値段設定が詐欺だ。
今さら言っても絶対返さない。大体、代わらないなんて言ってないし。
- 307 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:33
-
帰らなくていいことになったら、よっちゃんは少し元気になった。
どんだけヤなんだよ。
「美貴ぃ〜」
「あ?」
「あたし、どうしたらいいかな?」
「どうしたいの?」
「みんなが幸せなのがいい」
漠然としてるなぁ。
「とりあえず、明日どうするか考えれば?」
「え。」
「ず〜っと帰らない訳にもいかないでしょ」
あくまで普通の生活を営みながらなら好きにすればいいと思うだけで、
このままミキに迷惑かけ続ける気なら、すぐさま別れるべきだと思う。
「はぁ・・・美貴、明日忙しい?」
明日はとりあえずまだ逃げときたいわけか。
「忙しくはないけど、まいちゃんが来るかな」
「えぇ〜」
正月にいとこが来るなんて、どこのご家庭にもある出来事だろ。
むしろイレギュラーなのはオマエだよ。
微妙に口説きかけてたから会いたくないかもだが・・・知らない。なら帰ればいい。
- 308 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:33
-
「なに?正月だもん。親戚だもん。そりゃ来るよ」
「だからダメなんじゃんか」
「なにが?別にいいじゃん」
「あたしはそういうの気になるの。身内に混ざって何話そう?」
またオマエ的ルールかよ。帰れよ。知らねーよ。ってか会う気満々か。
明日もウチに居座るんだな。もー・・・めんどくさいから別れろ。
「傷つけたくないだけで、好きではないんでしょ?」
「分かんねぇ。でもあの頃は確かに好きだった」
昔のことなんか聞いてねーよ。まぁ、思い出にしがみつくも自由。
「想像しましょう。梨華ちゃんが泣いてます。隣の部屋でその彼女が泣いてます。
片方の鍵だけなら開けてあげます。どちらを開けて欲しいですか?」
心理テストと呼ぶのもおこがましいような質問だなと自分でも思った。
「・・・・」
あーあ、悩んじゃった。即答できないんだ。
どうするか考えてるのか、よっちゃんは腕を組んで黙り込んだ。
ゆっくりとこちらに視線を寄越すが、どうやら名案が浮かんだわけではなさそうだ。
「美貴、恥を忍んで頼みがある」
「聞くだけ聞いてやる」
「・・・・たすけて」
どこまで情けないんだ、オマエは。
- 309 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:34
-
- 310 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:34
-
2.
よっちゃんの頼みというのはありえないことだった。
ミキに、よっちゃんの代わりにその人と円満にお別れしてくれないかと。
当然断った。断ったのだが報酬、いや、よっちゃんの熱意に負けて、
ミキは今アヤカさんとやらを待っている。ちなみに学習したのか今度は後払いだそうだ。
一応、昨日の質問のよっちゃんの答えは、梨華ちゃん。
どっちも行ってやりたいけど、やっぱ梨華ちゃんかなという答え。上から目線がムカつく。
答え出たなら自分で言えばいいのに、直接じゃ何も言えないという。
とりあえず今は一緒に居るけど、彼女と話し合いが始まったら逃げるんだそうだ。
「よっちゃん、お待たせ」
「アヤカ、ごめんね。急に」
「ううん。嬉しいよ。そちらは?」
うわ、手ごわそう。ミキには分かる。
こんなガキに惹かれるぐらいだから、もっとバカっぽいのかと思ってた。
予想よりはるかに大人の雰囲気だ。
「どうも。美貴です」
「ミキちゃん。よろしくね」
「よろしく」
「あ、ちょっ、二人とも、お茶でも・・・」
よっちゃんはもううろたえ始めてる。
こんなか。昨日もこんな感じでペース握られてやらかしちゃったわけか。
- 311 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:34
-
席に案内されて、それぞれ注文したものがやって来て。
「あ、あたし電話してくるから。ちょっと、ごめんね」
もうか。もう逃げ出すわけか。別にいいけど。全く期待してなかったし。
よっちゃんが店を出た。話が終わるまでどこかで時間潰してもらうことになってる。
さて、報酬がかなりおいしいから、いや、よっちゃんが可哀そうだから頑張ろう。
「よっ―――」
「よっちゃんの好きな人って、ミキちゃん?」
先制攻撃でミキのペースにもって行くつもりだったのに、一呼吸負けた。
すごく嫌な感じだ。この先の話全部先手を打たれるかのような。
この人から見たら高校生なんか敵じゃないんだろうな・・・いや、弱気になっちゃダメだ。
失敗したら時間を無駄にしたことになる。そんなの絶対いやだ。
一時間以内に勝って済ませればものすごい時給になるし。
でも、ナイスパスだ。部外者と思われないように、ミキもこうするつもりだった。
「えぇ。よっちゃん、あんなだから隠せないみたいで」
「ふふ、言わなくていいって言ったのに」
「フツー浮気の告白なんてしませんよね」
浮気だよ。オマエは気の迷いだって言ってんの。気付け。
「やだ、敬語なんて止めてよ。対等に話そう?」
「・・・じゃあ、遠慮なく。ちょっかい出すのやめてくれない?」
うん。こっちの方がやりやすい。挑発もしやすいし。
- 312 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:35
-
「ミキちゃん、浮気されてもいいの?」
「気の迷いぐらいあるでしょ」
「あれ?でも、よっちゃん恋人はいないって言ってたよ?」
「それは、ミキとよっちゃんの問題。今はあなたの問題を話そう?」
彼女は余裕の表情で、カップを口に運ぶ。
つられてミキも飲み物に手を伸ばしそうになったが、思いとどまった。
タイミングを支配されたくない。
「よっちゃんタイプ変わったんだねぇ」
「そう?腹黒いとこが元カノにそっくりだって言ってくれるけどね」
「えぇ?それって私のこと?」
「だと思うけど?」
「ふふ、よっちゃんがそんなこと言うかなぁ?」
うわ、笑ってるよ。切れるとこだろ。切れろよ。絶対その方が扱いやすくなるのに。
くそ、長期戦になると時給で割に合わなくなる。
「よっちゃん優しいからきっぱり言えないの」
「そうだよねぇ。優しすぎるよねぇ」
ほんとはヘタレだから。あと迷ってるから。
「優しいよっちゃん苦しめて、楽しいわけ?」
「すごく楽しいよ?」
うわ、すんごいこと言った。大丈夫だよ。この人振っても絶対傷つかないよ。
・・・・怖くなってきた。勝てないかも。
- 313 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:35
-
「へー、じゃあよっちゃんが好きなのは、あなたじゃないって分かってるんだ?」
「好きな人いるって聞いてるからねぇ」
あ、そうだった。やばい。バカな質問してしまった。こんなときこそ飲み物だな。
自分のペース。落ち着け。あ、そうだ。言うことはまだあるぞ。
「大体、ほんとに浮気してなかったの?」
「うん?」
「よっちゃんと別れたとき。誰か他に居たんじゃないの?」
「いなかったけど・・・ないことを証明するのって難しいんだよねぇ」
確かに。これが本当に取調べだったらネタは上がってんだよってとこだけど。
証拠がないことは、証拠にはならない。誰々に聞けば分かるとか言われても分からない。
真相は、さっき会ったばっかのミキには絶対分からない。
「ま、バレなきゃいいね。さすがのよっちゃんも怒るよ」
「よっちゃんは嘘つきキライなんだ?」
「そりゃキライでしょ」
「じゃあ、ミキちゃんも嫌われちゃうねぇ」
「は?」
なんでだ。あんなガキとは付き合ってないんだから、浮気したこともない。
嫌われるのはオマエだろ。
「う・そ・つ・き」
コーヒーの湯気越しに、細められた目がミキを見据える。
ミキには分かる。はったりじゃない。やばい。いつから、どこまでバレてた?
- 314 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:35
-
黙ってしまったら認めたことになる。ミキは意地だけで口を開いた。
「は?なにが?」
「ふふ、よっちゃんの好きな人は、ミキちゃんじゃないよ」
うわ、超初めから疑われてんじゃん。いや、疑われてるどころじゃない。
断定されてる。おかしいぞ。そんなにボロは出してないはず。
「じゃあ、誰って言いたいの?まさか自分とか言う気?」
ミキよりは正解だけど、大正解ではない。
しかし、彼女はゆっくりと首を振り、優しげな笑みを浮かべて言った。
「石川梨華って知ってる?」
あ、大正解。なに、この人。梨華ちゃん知ってるの?
あぁ、昔は近くに住んでたんだっけ。そりゃ梨華ちゃんも知ってるか。
「・・・知ってるけど」
「あはは、そんな驚かないでよ。ミキちゃん友達思いだねぇ」
うっわ、ちょーなめられてる。
でもやばい。自分でも分かった。今のは動揺を隠しきれてなかった。
「よっちゃんは、梨華ちゃんが好きなんだよ」
なんだよ。そんなこと、言われなくても分かってるよ。
- 315 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:36
-
「オーケー、分かった。本音で話そう。ミキとよっちゃんはただの友達。
あなたは何?梨華ちゃんに嫌がらせがしたいわけ?」
「梨華ちゃんのことは妹みたいに可愛く思ってるよ」
「でもあんたは邪魔してんの。よっちゃんも縁切りたがってるよ?」
もういい。知らない。円満じゃなくてもいい。
よっちゃんなんかに構ってられない。もうこれはミキとこの人との勝負だ。
「よっちゃんは、キレイだよねぇ」
「は?」
「傷つかないように守ってあげたいよねぇ」
「いや、あんたが一番傷つけてるから」
何をか言わんや。彼女はまだ悠然と微笑んでいる。
「そう、傷つけちゃったの」
「反省して消えれば?」
「それってすごく無責任だと思わない?」
「傷口抉る方が勝手だと思うけど」
「う〜ん、瘡蓋はめくった方が治り早いことがあるよね」
「あんたのは抉ってるだけでしょ?もういいからさ、
よっちゃんに関わらないで。よっちゃんは迷惑してんの。消えて」
決まったな。これでフィニッシュだ。
円満とは程遠いけど、言うべきことはこれで終わりだ。
なのに、彼女の微笑みは崩れない。嘘だ。ちょっとはムカついただろ。
なんでだ。大人って怖い。
- 316 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:36
-
「私ねぇ、よっちゃんの考えてることなら大抵分かるの。今悩んでるなとか」
「勘違いじゃない?」
絶対勘違い。ほんとに分かってたら、好きな人をあんなに困らせないでしょ。
実はキライなのかな?キライな人に抱かれてまで困らせるかぁ?
ミキならしないけど・・・この人がどうかは知らない。絶対的に情報が少ない。
「そうかなぁ?当たってると思うよ?」
「じゃ、何考えてるか当ててみてよ」
「ん〜・・・よっちゃん、動けなくなってるでしょ?」
「は?」
意味わかんない。動けるよ。ピンピンしてるよ。さっき見たじゃん。
「ミキちゃん気づいてなかったの?」
うあ。ちょームカつく。なんだ。何かの比喩か。動けない?歩けない?止まってる?
進まない・・・あ。一個、進んでないこと発見した。
「梨華ちゃんとのこと?」
「あ、気付いてたの。別に梨華ちゃんに限らないけど。恋愛に、ね」
それは感じる。よっちゃんのペースに任せてたけど、両想いのわりには進んでない。
え、この人なんで知ってんの?年末に突然やってきた人じゃなかった?
「誰に聞いたわけ?」
「言ったでしょ?会ったら分かるの」
- 317 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:37
-
この人、気持ち悪い。得体が知れない。・・・もうめんどくさいなぁ。
「やり直さなきゃダメなの」
もう好きにしてくださいって言っちゃいそうだ。
いや、でもなんとか諦めてもらわないと、この時間がすべて無駄になる。
「よっちゃんは別れたいんだって」
「それは自分で言わないとね」
「無理だって。ヘタレだもん」
出来ないからミキがここに居るんだ。頼まれたんだ。
言えないから言ってきてくれと頼まれたんだ。
なるべく傷つけないように、円満にねって頼まれたんだ。もう知らないけど。
「だからこそ言わしてあげたいの。それが私の責任」
言わしてあげたい?ちょっと待て、それってもしかして。
「初めからすぐ別れるつもりだったの?」
彼女、アヤカさんはゆっくりと頷いた。もう一度終わらせるために、やり直す?
変えたいのか。よっちゃんに、自分でけじめつけれる人になって欲しいのか。
「そんなのよっちゃんじゃない。ヘタレでバカで人傷つけないのが、よっちゃんじゃん。
あんなへこませて、変われなんて、エゴもいいとこじゃん」
思い上がってんじゃねーよ。
- 318 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:38
-
「分かってるよ。だから、そのかわりに私は、どんな傷でも背負う」
どんな傷でもって・・・振られるくらいで大袈裟な。
何度でもあるかもしれないことじゃん。あ、ミキに文句言われてるこれも一つの傷か。
「なんでよっちゃんが、私と付き合ってたか分かる?」
「好きだったんでしょ」
「うん。多分、2番目にね」
「はぁ?一番は?」
「梨華ちゃん」
昔からよっちゃんって梨華ちゃんのこと好きだったのかな。
またミキには分からない話だ。いや、ミキにも分からないけど、この人にだって分からない。
「また勘違いじゃない?」
「ふふ、かもね。梨華ちゃんが忙しいみたいで、よっちゃんずっとイライラしてたの」
「何の話?」
「付き合いだすちょっと前の話」
よっちゃんが中三の頃だっけ。いっこ下だから、ミキは高一。梨華ちゃんも高一。
あれ、たしかに梨華ちゃんは忙しそうにしてたぞ。最近、その理由も分かったけど。
「私、慰めてあげてたのよね。ず〜っと」
梨華ちゃんがごっちんの先生みたいになってた頃だよな。
想像できるなぁ。勝手なヤツだからな。理由も教えてもらえずにそんなんだったら、
めちゃめちゃ不機嫌になりそう。
あれ、なんかミキ、この人の話を信じ始めてる。ずっと疑ってたのに。
- 319 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:38
-
「梨華ちゃんの代わりだったの。多分ね」
それは、よっちゃんの気持ちに対して失礼ではないか。
そんなふうに決め付けちゃダメだろ。好きだったって言ってたもん。
「私は元彼のこと考えたくなくて、よっちゃんは梨華ちゃんのこと考えたくなくて。
思ってたよりね、居心地がよすぎて、甘えちゃった」
「別に何でもいいよ。過去のことなんてミキには関係ないし」
仮にそうでも知らないよ。どんな理由でもいいよ。
それより、もう別れてくれるのか、別れてくれないのか。はっきりしてくれ。
「よっちゃん、逃げっぱなしのまま放り出しちゃったの」
「それがどうしたの?なんでいまさら困らせるの?」
「私ね、あの日、傷ついた顔しちゃいけなかったの。でも、しちゃった」
「別れた日のこと?」
「うん。罪悪感を負わせてしまったのが、私の罪」
ミキも昔の話は聞いたけど、高校行くのやめるなんて人生投げ出すような決断、
たかだか大学生がさせれるわけない。よっちゃんがバカだったんじゃん。
罪って。なにをそんなに責任感じる必要があるんだ。
「乗り越えさせてあげたいの。梨華ちゃんのためにも」
なんであいつの周りにはこんなに身を投げ出すような人が集まってくるんだろう。
愛されてるってことなのかな。・・・ミキは愛されてんのかなぁ。
この人、信じれるのかな。ミキは何を信じたらいい?
- 320 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:39
-
「多分ね、ミキちゃんの知らないとこでもよっちゃんはすごく悩んでる」
それはそうだと思うけど。それを解決するために新たな悩み提供したのか。
「ミキちゃんは、よっちゃんの人生に向き合う覚悟ある?」
ないよ、そんなの。なんでミキが・・・あぁ、勝てないと思った理由が分かった。
「私は、あるよ。多分、梨華ちゃんも」
気付いてた。本当は、感じてた。ミキは、この人に初めから気合いで負けてたんだ。
この人は、よっちゃんがホントに好きなんだ。わざと嫌われるようにしてんだ。
この人が背負うつもりの傷は、振られる傷なんかじゃなかった。
大好きな人を苦しめるって、そうとうなドSじゃなきゃ辛いだろうな。
「だから、任せて?大丈夫。これ以上に傷つけたりしないから」
「乗り越えれる程度の傷にするからって?」
「そうだね。だからその先で、よっちゃんを梨華ちゃんと待っててあげて」
この人は、よっちゃんのことをミキよりよっぽど真剣に考えてる。
「ミキに、そんなネタばらししていいの?」
「だってよっちゃんには言わないでしょ?」
「・・・・さぁね」
「ふふ、五分前までなら、こう言ってたよ。“言うに決まってんじゃん”」
確かに。ミキも飲まれてるな。でも、この話に乗ったら時間をムダにしたことになるが。
・・・はぁ、信じるか。でもこの人をじゃない。ミキは、ミキの勘を信じるだけだ。
- 321 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:39
-
「美貴!どうだったぁ〜?」
店を出て、よっちゃんに、済んだから帰るぞと電話した。
やってきたバカは、うきうきした顔で、首尾を尋ねてくるが。
「うん。ダメだった」
「はぁ!?」
「いや、ホントごめん。お金いらないから、自分で頑張って」
「ちょ、マジで言ってんの!?」
あーもう、うるさい。そういや梨華ちゃんからのメール見てないとか言ってたな。
オマエがそんなヘタレだからミキの時間がムダになったんだ。補償金払ってほしいよ。
「昨日の梨華ちゃんのメール見たの?」
「え・・・・見て、ない」
「見てみなよ」
よっちゃんはしぶしぶ携帯を開き、メールを確認した。
「・・・おみくじの結果だ」
「なにそれ?見せて」
「代わりに引いといてあげるって言われてたの。当たるわけねぇのに」
おみくじってそういうのアリ?どうなんだろ。ミキもあんま信じないなぁ。
・・・いや、でもこれは当たってるんじゃないの?全体運の大吉は知らないけど、
“恋愛・自分から動いて吉。”ミキもそう思うよ。
少なくとも、最大の懸案事項はオマエが動けば解決する。神様って意外と見てるのかもね。
- 322 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:39
-
- 323 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:40
-
3.
今日からバイト再開。よっちゃんは結局正月中ずっと家に居座ってた。
どうやら主にごっちんを避けていたようで、バイトが始まってから帰ることにしたようだ。
まいちゃんとママは引き止めてたけど、ミキが追い出した。
よっちゃんと話し合って、ごっちんと梨華ちゃんには隠しておくことになった。
・・・・ホントはアヤカさんの意見でもあるんだけど。まぁ、よっちゃんは知らない。
ミキは、アヤカさんの共犯になってしまった。
と言っても、あのバカの人生に責任を持つつもりはさらさらない。
どうなるのか、結果を見守るつもりだ。
ごっちんに黙ってるのは、流血沙汰を避けるためなのだが、
梨華ちゃんに黙ってるのは、よっちゃんが発狂しちゃいそうだから。
そんなに好きなのに、アヤカさんを振って傷つけるのもイヤらしい。
先は長そうだとは思うけど、まぁミキには関係ない。のんびり見守らせてもらう。
「おかえり」
「なんでだよ」
「誰もいないんでしょ?だからミキが代わりに言ってあげてんの」
「お前、玄関の外に居るじゃん」
久しぶりに家に帰ったよっちゃんを出迎える人は居ない。
梨華ちゃんは帰ってくるの知らないし、ごっちんはもう自分のアパートに帰っていった。
ばったり会ったらフォローするってことでバイト行く前に付いてきたのだが、
会わなかったから仕事がない。だから、後ろからおかえりと言ってやったんだ。
「おーかーえーりー」
「・・・ただいま」
- 324 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:40
-
憮然としたよっちゃんと別れ、バイトに向かった。
新年初めの仕事。そんなに人来ないかなと思ったら、店長いわく、正月外食の人は多いらしい。
それなりに気合入れなきゃなと思ってたら、ごっちんに話しかけられた。
「ねー、よしこミキティん家にいたの?」
「いたよ」
「なんで?」
「ミキが可愛いから?」
「・・・・」
そんな嫌そうな顔すんな。ほんと失礼だな。
礼儀がなってない。せめて突っ込め。その本気で気持ち悪そうな顔は傷つくぞ。
「なんか言えよ」
「可愛いからって・・・ないわぁ・・・」
しみじみ言うな。そんなことなら言わなくていい。こないだのアヤカさんとよっちゃんも、
中々イライラさせてくれたけど。今年最初の殺意はオマエにやるよ。
「仕事だ、仕事」
「はいはい」
開店準備を始めると、出てきた店長がお年玉をくれた。
ちょーラッキー。よっちゃんから取れるはずだった金、逃しちゃったし。
惜しかったけど。アヤカさんには負けちゃったし。しょうがない。
あ、かくまってやったのをネタに今度たかってやろう。
- 325 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:40
-
「みきた〜ん」
「お、あやや。いらっしゃいませ〜」
「あやちゃん。もう冬眠終わったの?」
「・・・人を熊みたいに言わないでよ」
だって、ねぇ。冬眠じゃん。毎年、初めと終わりだけ大人しくして、
あとはどこまでも騒がしいんだから。短期の冬眠みたいなもんじゃん。
一年の計は元旦にありって嘘だよね。ここに元旦だけおとなしい人が居るもん。
「吉澤さん元気になった?」
「よしこ?」
げ。やめてよ。バカコンビの片割れが食いついてくるじゃん。
「さぁ?ごっちん、よっちゃん元気?」
「へ?元気なんじゃない?」
「そうなんだ。よかった。心配してたの」
あぁ、せっかくバカが流されかけてたのに。そんな気になるワード吐いちゃダメだよ。
「え、何を心配してたの?」
「風邪とかじゃない?そういや家で咳してたわ」
「寒かったもんねぇ」
ん〜。それもギリギリだ。
寒かったとかは、あやちゃんが状況を知ってる何かを感じさせてしまう。
- 326 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:41
-
「寒かったねぇ、お正月。あやちゃんみたいに冬眠したかったよ」
「ちょっとぉ、止めてって言ったじゃん。それに私、初詣行ったんだから」
「そーなの?」
「言ったじゃん!初詣の帰りに見かけたって」
「んぁ、何を見かけたの?」
ちっ、絶妙のタイミングで食いついてきやがった。
まさか正月寒かった話から、よっちゃんに繋がってしまうとは。
「よっちゃんだよ。ミキん家来る前の」
「んぁ、よしこか」
一つまみの真実は便利だな。嘘じゃないけど、すべてでもない。
あやちゃんに見かけられたときのよっちゃんは、来る前なのは確かだけど、
別にミキの家に来る途中とかではなかった。
あやちゃんにとっても嘘ではないから、もう妙な事言われなくて済むし。
「それより、どしたの?あやちゃん」
ミキの名前呼びながら入ってきたんだから、なんか用あるんだろう。
よっちゃんの様子聞きたかっただけってことはないだろうし。そんなのメールで十分だ。
「別に?」
「あやや、何飲む?」
「ミルクティ。みきたんのおごりで」
なんでだ。ごっちんはいい返事をして奥に入ってしまった。
- 327 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:41
-
しばらくして戻ってきたごっちんは、本当に伝票をミキに渡した。
いいけど。前にごまかそうとした分、支払うけど。
「何しに来たの?」
「顔見せに来ただけだけど」
「・・・何のために?」
「今年も私は可愛いから」
「ごっちん、突っ込まないの?」
「いいんじゃない?可愛いね、あやや」
ミキにはあんな態度だったくせに。まぁでも正解かな。
何人たりともあやちゃんの容姿を否定することは許されないからな。
対応の差にはムカつくけど、よしとしよう。
「二人ともおみくじ引いた?」
「引いてない。」
「あたし引いたよ。吉だった。あややは?」
「聞いてくれるぅ?私大吉しか引いたことないんだよねぇ」
「あやや、すごい!」
「でしょ!?神様って見てるよね。私に不幸なんて似合わないからね」
今年も自信たっぷりなんですね。
ミキならそんな紙切れで気分よくなるためだけに運使うなんて絶対ヤだけど。
- 328 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:42
-
「みきたん、感想は?」
「わぁ〜、すごいねぇ」
棒読みなのはご愛嬌。
正直どうでもいいんだけど。一週間やそこらで顔変わるわけでもないし、
そんな紙に書いてあることに感動も出来ないし。
でも一応のセリフにあやちゃんは満足してくれたようだ。
「あ、ごっちん。よっちゃんのおみくじって誰が引いたの?」
「んぁ、梨華ちゃん。一枚目に末吉引いてね」
末吉って、凶の手前じゃなかったっけ。
う〜ん。紙切れに喜ぶのはヤだけど、不快にさせられるのはもっとヤだな。
「んで、あたしが『次はよしこの〜』って叫んでからもう一枚引いたの」
叫んだんだ。神聖さとか厳かさとか、完全に無視だな。
まぁ、神様に語りかけてたのかな。ここに居ないけどよっちゃんのだよって。
「んで、大吉だったんだ」
「うん。梨華ちゃんに取り替えればって言ったんだけどね」
わざわざ叫んだのに、そんな提案すんな。
なんの為に叫んだんだ。オマエのテンション上げるためか。違うだろ。
どこまでも無意味なヤツめ。
梨華ちゃん真面目だよねって言ってるけど、ごっちんがダメなだけだと思う。
- 329 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:42
-
「あやちゃんは毎年大吉で、なんかいいことあったの?」
「ん〜、今元気で無事なんだから、運いいんじゃない?」
微妙に冷めてますよね。
まぁ、夢見がちな人よりはそんなんの方がいいと思うけど。
「んぁ、あやや恩返しなにがいいか思いついた?」
「まだ考え中かなぁ」
「ミキ、ここの支払いでいいよね」
「みきたん何言ってんの?ダメだよそんなの」
「え、だって、こないだの分じゃないの?」
「これは、みきたんから私へのお年玉でしょ?」
お年玉って同意なく搾取されるもんじゃないだろ。
それじゃ落とし玉じゃん。事故だから諦めろ的なものになっちゃうじゃん。
「じゃあ、あやちゃんもミキにお年玉ちょーだいよ」
「二つも上のくせに恥ずかしくないの?」
こんなときだけ年上なんだ。
いや、でもどう考えても年上を敬ってないよね。言うだけムダだから言わないけど。
『あやちゃん>ミキ』が大原則だもんね。
- 330 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:43
-
「じゃあ、いらないよ」
「当たり前でしょ?反省してね」
「ミキティ、反省」
ごっちんがそう言いながら手を差し出した。
どこぞの猿回し?お手みたいな真似して頭下げるんでしょ?絶対やらないよ?
無視してたのに、驚くなかれ。ごっちんは五分ぐらい言い続けた。
「あー、もう。しつこい」
「ミキティ、反省」
「やらないよ?」
「反省しないのぉ?」
「しねーよ」
根負けして相手してしまった。そのガッツは是非とも違うことに向けてもらいたい。
言い出したはずのあやちゃんは鏡を取り出して、ミキたちを完全に無視していた。
「だいたい、ごっちんに反省するわけじゃないもん」
「あややも見たいよね?ミキティの反省」
「あー見たい見たい」
嘘だ。おもいっきり流したような言い方じゃん。鏡しか見てないじゃん。
ごっちんは勝ち誇った顔で、あやちゃんの肩を指し示す。ここに手を置けってか。
めちゃめちゃ恥ずかしいのに。肩に手を置いて、あやちゃんに反省って、頭下げたのに。
「・・・みきたん、何してるの?」
今年の殺意、ごっちんの独り占めになりそうだよ。
- 331 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:43
-
お客さんも来始めたので、ミキとごっちんは仕事を開始した。
まぁ、あやちゃんもお客さんだから一応仕事してたんだけど。
途切れた合間に、あやちゃんのところへ行く。
「みきたん、今日何時まで?」
「店長の気分次第」
平常どおりかもしれないし、思いつきで早めに締めるかもしれない。
「もし早めに終わったらさ、おみくじ引きに行こ?」
「え、もう引いたんでしょ?大吉」
「も〜、みきたんのだよ!」
うわ、いらない。帰って寝たい。
よっちゃんとまいちゃんが朝まで寝かしてくれなかったから、本気で眠い。
連日徹夜で騒いでたから、今日は久々にゆっくり寝れる日なのに。
でもなぁ、断るのもなぁ。せっかく冬眠終わったみたいだし。
「おみくじって何時まで?」
「知り合いが居るから何時でも大丈夫」
「ん〜じゃあ、早く終わったらね」
絶対だよって、念を押されたけど、そもそも早く終わるかどうかわかんないし。
平常営業で終わって帰るはずの時間までなら付き合ってあげよう。
だから、終わりまで働いたら直帰決定だ。ホントに今日は眠いんだ。
- 332 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:45
-
店長の気まぐれは発揮されそうにない。
暗くなってきたから、あやちゃんにはもう帰ってもらったほうがいいかな。
「ミキティ、もうあがっていいってさ」
「は?なんで?」
「あたしがミキティの分まで働くから」
残念。惜しかった。一応受け答え出来てるんだけどね。
それじゃ納得できないから、その理由まで言ってほしかった。
「なんでごっちんがそんな頑張るの?」
「あややに頼まれたの。これが恩返しらしいよ」
「店長は?」
「あがっていいよって」
「ふーん。じゃ、おつかれ」
そんなに混んでもなかったし、店長もごっちんも納得してるなら、そうさせてもらおう。
なにせ眠いから。このまま神社行っても、ラストまでの時間よりは早く帰れそうだ。
しかしあやちゃん、ごっちんを有効活用したなぁ・・・。まさか使い道があったとは。
「どこが近いかな?」
「あ、知り合いのとこがいいんだけど」
「決めてんの?じゃ、いいよ。行こっか」
なんだろ。大吉しか出ないとこなのかな。
別にいいのに。凶でも笑って済ませる自信あるけど。
場所によっては時間かかりそうだな。そっちのほうがよっぽど心配だ。
仕事上がらなきゃよかったってオチだけは勘弁してもらいたい。
- 333 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:46
-
「ここだよ」
「うっわ、無理」
えぇぇ〜って言ってるけど、ミキが言いたいよ。
距離的には近かったけど。なにこの石段。無理。正月休み明けにそんな体力ない。
「ゆっくりでいいから」
「いや、いいよ。神頼みとか好きじゃないし」
「みきたん!お願いだから・・・」
お願いって、そんな。なんでよ?
ミキにこの石段登らせて、あやちゃんにどんな得があるの?
「ホント無理。これは、ない」
「・・・・先に上がる。そんで、みきたん来るまで待ってるから」
「いや、ミキ行かないって言うか、行けない?」
うん。ミッションインポッシブル。特撮用のロープとかで引っ張って。
「でも、待ってるから」
勢いよくあやちゃんは駆け上がっていった。冬眠明けのくせに、なんでそんな元気なの?
うわ、どうする、藤本美貴。行くのか?行かないのか?
これがよっちゃんだったら放っておく。でもあやちゃんは、本気だ。
ミキが上がってくるまで、絶対待ってる。
- 334 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:46
-
「はぁ・・・はぁ・・・」
もう無理。ひっくり返って落ちて死ぬ。
覚悟決めて登りだし、やっとゴールが見えてきた地点にて。
分かってはいたが、体力的にかなりやばい。
もうちょい。上がりきって、あやちゃん引っ張って帰って、寝る。
頑張れ、ミキ。今日は久しぶりに一人でゆっくり寝れるんだから。
「ついたぁ・・・」
そこにいると思ってたあやちゃんに向けて言ったのだが。
あやちゃんは見当たらない。
トイレとかかな。もう一刻も早く帰って寝たい。
おみくじ引けば満足らしいし、戻ってくるまでに引いておこう。
「三百円ので」
「はい、こちらどうぞ」
引いた。引いたぞ。呼吸も落ち着いてきたし。
あとはあやちゃんを待つばかりだな。
「あの、藤本先輩。松浦さんなら、あっちですよ」
「ふぁ?あ、キミあやちゃんのクラスの」
「あ、はい。伝言頼まれました。ここ私の家なんです」
見覚えのある子に言われ、指されたほうへ向かった。
足がぴりぴりする。明日は筋肉痛だな。
- 335 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:47
-
建物が見えてきて、その前に巫女さんが立ってるのが見えた。
あ、自販機も発見。下りも意外に体力使うからね。チャージしとこう。
「みきたん」
選んでいたら、後ろからあやちゃんの声がした。
「あやちゃんもなんかいる?」
「ミルクティ」
「あはは、好きだねぇ」
リアルに疲れてる自分のためにスポーツドリンクと、あやちゃんの缶を持って振り返って、
ミキは二つとも地面に落としてしまった。
「なに、その格好」
「・・・可愛いでしょ?」
巫女さんは、あやちゃんだった。
「おみくじ引いた?」
「あ、うん。まだ見てないけど」
「貸して。読み上げてあげる」
「その格好で?うわ、なんか重みありそうだね」
おみくじをアヤちゃんに渡して、落としてしまった缶を拾おうと腰を落とした。
あ、やばい。腰にもきてる。
- 336 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:47
-
立ち上がれなくて、腰押さえてたら、上から声が降ってきた。
「今年のみきたんは・・・凶です」
託宣みたい。凶ってあんま入ってないんだよね。雰囲気はあるけどダメージはないな。
逆にレアなの引いたって感じ。あと自分で見てないし。
「全部、悪いことしか書いてないけど」
だろうねぇ。じゃなきゃ凶の値打ちがないよ。
「一つだけ、いいことが書いてあります」
「へぇ」
「ちゃんとこっち向いて聞いてよ」
素直に顔を上げる。
凶ってホントかな?ミキのことからかいたくて適当に言ってんじゃないの?
「目の前の人は、あなたの運命の人です。大切にしましょう」
・・・・は?
今、紙見てないよね。完全にミキの顔見ながら言ったよね。
- 337 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:48
-
「見せて」
「あ、ちょ」
すっと立ち上がり、おみくじを取り返した。
・・・・凶は本当なんだ。あ、今ちょっと悲しかったかも。ミキ純粋。
「書いてないでしょ。巫女さんが嘘吐かないでよ」
「・・・格好だけだもん」
まぁ、巫女さん姿は、可愛かったけど、たしかにニセモノだった。
「はやく着替えてきなよ。帰るよ」
「・・・はぁーい」
背を向けて、中へ向かうあやちゃん。あ、ちょっと待って。
「あやちゃん」
「ん?」
『カシャッ』
「オッケー。どうぞ。早くね」
「・・・可愛い?」
「ちょー可愛いよ」
写真に収めておかないとね。うん、キレイに撮れた。被写体がいいからな。
- 338 名前:123 投稿日:2008/01/07(月) 11:48
-
「あやちゃんってホントにコスプレ好きなんだねぇ」
「みきたんが遅いから着てみただけだよ」
石段を下りきって、生還した気分だ。上の神社はあの世だな。
「でも、似合ってたよ。あ、メールで送ろうか?」
「うん。送って」
「はい、送信・・・しました」
「ありがと」
送信ついでに時間を確認したら、なんとか予定より早く帰れそうだった。
「みきたん、嘘で怒った?」
「怒んないよ」
「じゃあ、どう思った?」
「大切にしようと思ったよ」
「私けっこーみきたん好きだよ」
「知ってる」
「どうする?」
「だから、大切にする」
「・・・みきたん、タチ悪い」
「それも知ってる」
何が言いたいかは分かったよ?ミキ空気読めるし。一部を意図的に省略させてもらってる。
だってねぇ・・・。考えること一杯あるから。まずね、今めんどくさいの。
ミキには珍しく人のことで頭一杯なの。よっちゃんが片付いたら、ちゃんと考えるから。
ホントごめん。今日は勘弁してください。
- 339 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/07(月) 11:48
-
- 340 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/07(月) 23:29
- ここの美貴ちゃんはなんだかんだ言って良い人ですね。
よっちゃん!!がんばれ!!梨華ちゃんが待ってるぞ!!
- 341 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/08(火) 01:24
- 吉澤はなんだかんだいい人に囲まれてますねw
そりゃヘタレ王子になるわけだw
がんばって大人になって欲しいですね。
- 342 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/09(水) 03:14
- 「いいかげんにしろ!吉澤!」ってビンタ張りたい気分ス
ま、誰でも試行錯誤しながら大人になっていくんだしね。
- 343 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 19:53
-
信頼するものに裏切られるのはすごく悲しい
仲のいい友達のことって、かなり信頼してる
くさい言葉だから、なかなか言えないけど
そういうものなんだ
だから、友達の裏切りってすごく、堪える
腹が立つのと、悲しいのとで
押しつぶされそうなほど、苦しめられる
- 344 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 19:54
-
1.
もうすぐ梨華ちゃんの誕生日。なにかプレゼントを買おうと思ったけど、
なかなか喜んでもらえそうなものが浮かばない。
よしこに何かないか聞いてみたのだが、あっさり知らないと言われた。
というか、学校が始まってからのよしこの様子は、おかしいと思う。なんか、暗い気がする。
何かあったのかな?
「ごっちんって動物みたいだよね」
「んぁ?」
しょうがないからバイトの前にミキティに相談して、よしこのことも話してみた。
人間だって動物だと思う。
「なんだろ。ぜんぶ勘だけで、考察しないよね」
「人のことでも考えたら分かるの?」
「・・・まぁ、材料さえ揃えばね」
それってすごい。考えることってすごいんだ。
別に何にも考えてないわけじゃないけど、人のことなんて気持ちとかならともかく、
何かあったかどうかなんて、そんなの考えたって絶対分からないと思ってた。
「ミキティは分かったの?」
「・・・・さぁ?」
自分も分かってないくせに偉そうに言ってたのかな。・・・まぁ、いつものことか。
- 345 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 19:54
-
「それより、なに買おう?」
「よっちゃんのことはもういいの?」
「よしこは友達だもん。何かあって、大事なことならそのうち話してくれるよ」
「いやぁ、どうかな・・・?」
こればっかりはなぁってわけの分からないことを言うミキティ。
ミキティもなんだか変だ。最近よそよそしい気がする。
「ミキティも変。あ、考えてみるから材料ちょーだい」
「ん〜、アヤ・・・や。」
「あやや?」
ミキティ、あやちゃんって呼んでなかったっけ。
あたしは結構適当に呼んでるけど、ミキティは中学の頃から仲良しだし。
聞いたことないな、そんな風に呼んでるの。あ、ふざけてなら呼んでたかな。
「あややがどうかしたの?」
「別に。ちゃんと自分で考えな。大体いっつも物事を考えてなさすぎなんだよ」
あ、去年の年末には、頭悪いから考えるのやめろって言ってたくせに。
理不尽だと思ったから抗議してやった。
「それはそれ、これはこれ!もー、余計なことだけ覚えてんじゃねぇよ!」
今日のミキティは特に変だ。なんだか、イラついている。
- 346 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 19:54
-
自慢じゃないけど、ミキティを怒らせた経験なら山ほどある。
その経験から言わせてもらえば、今日のミキティの怒り方は変だ。
ミキティはすぐ怒るけど、なんだかんだ言ってこんな風にキレない。静かに怒る。
意外と落ち着いてる人なんだ。なのに、今日は口調が荒い。
「ミキティ、どうしたの?」
「別に」
「嘘だぁ。なんかイラついてる」
「・・・そうかもね」
怒鳴って悪かったと言って、ミキティはフロアに出てしまった。
ロッカールームに残されたあたしは、言われたとおり考えてみた。
何があったんだろう。
ん〜、やっぱ限界を感じるなぁ。
材料さえ揃えば他人のことでも考えれば分かるって、ホントかなぁ。
そもそもあたしは本当に材料ぜんぶ持ってんのかな。あやや。イライラ。ミキティ。変。
他には何があるかな。あ、よしこ。よしこの話にちょっと反応してたような気がした。
あやや。イライラ。ミキティ。変。よしこ。暗い。・・・少ない。多分足りてないな。
うん。無理だ。やめた。知らなきゃいけないことなら、どんな形であれいずれ分かる。
それでいい。聞いても教えてくれないことなんて、知らなくていい。
- 347 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 19:55
-
あたしもフロアに出て、お客さんが来るのを待った。
店長も一緒に話していたのだが、裏に行ってしまったのでミキティと二人で話し始めた。
「ミキティ、梨華ちゃんのプレゼント。何がいいと思う?」
「何か候補ないの?」
「去年はキャラクターの靴下あげたんだけどね」
「・・・・微妙な顔されたでしょ」
「すごい、よく分かったね」
さすがだな。ミキティは時々エスパーだからな。
「すごいセンスしてるよね。ごっちん物は選ばない方がいいよ」
「選ばない?」
選ばないってことは、どうするんだろう。お店に行って、最初に目に入った商品とか?
・・・怖いなぁ。また靴下だったらどうしよう。諦めて買うしかないかな。
「ごっちん、変なこと考えてない?」
「変?」
何考えてたか教えてあげたら、ミキティは呆れたような顔で一言。
「バカ。」
ミキティが言ったんじゃないか。
- 348 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 19:55
-
「よしこにも相談したのにね、知らねって言われたの」
「去年も相談したの?」
「ううん。去年あんま喜んでもらえなかったから、今年は頑張ってリサーチしてんの」
「リサーチなら、梨華ちゃんに何が欲しいか聞けば?」
「サプライズがなくなるじゃん」
「だからって靴下もらっても。サプライズしかないじゃん」
「今年は靴下じゃないよ」
もー、ミキティって人の話聞かないなぁ。
「・・・さりげなく聞けば?」
「さりげなくかぁ〜」
何か言いたげな顔をした後に、ミキティが提案してくれた。
さりげなくって難しいよね。ナチュラルなのが一番難しかったりするよね。
「あ、あややに聞いてもらお」
我らが大女優、松浦あやや。
結構ひねくれてるよしこが完全に騙されたという噂の大女優。
「また恩返しさせられるよ?」
「・・・・」
前にあややに頼まれてミキティの分もバイト頑張ることになった日があった。
恩返しだった。大したことないはずだったのに。
何故かミキティを送り出した直後に急に客足が伸びて・・・めちゃハードで大変だった。
- 349 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 19:56
-
あややは間違いなく大吉が相応しい人だと思う。
あの日、言い出すのが五分遅れてたら、店長はミキティが抜けることを許さなかっただろう。
スーパーラッキーガールの周りの人は、ラッキーでいられない。
それで世界のバランスが取れてる気がする。
だって一緒に行ったミキティなんか、凶だったらしいし。
「あ、ミキティ凶のおみくじ持ってきてよ」
「持ってないよ。持って帰ってないよ、気分悪い」
占いとか信じないってタイプのくせに。あたしそれ見たかったのにな。
見せろよなぁ〜、笑いたかったのに。境内の木に括ってきたらしい。
凶ってまだ見たことないな。あたしもそんな運悪い方じゃないかも。
一応、今年は上から二番目の『吉』だし。結構、運いいのかも。
でも、あややには負けたな。大吉と吉の、一番目と二番目の越えがたい壁を見せ付けられたな。
大吉ガールの幸福のためなら、吉でも不幸を被る羽目になる。
そういや、よしこも大吉だっけ。ん、でも梨華ちゃんが引いたから梨華ちゃんのかな?
どっちでもいいか。
引いた人同じなんだから二人で平均して、中吉ぐらいだと思っとこう。
ミキティとあややも平均すれば・・・小吉かな。バランスで言うと、あたしが一番運いいな。
よしこに勝った。あ、でも梨華ちゃんにもまた勝っちゃう。
それはなんか可哀そうだな。やっぱ、あの大吉を梨華ちゃんのにすればよかったのに。
やっぱりあややは間違いなく大吉だし、ミキティは凶のほうが面白いし。次はぜひ大凶で。
じゃあ、あたしはよしこに勝って、梨華ちゃんも幸せ。
うん。最高だったのに。
- 350 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 19:56
-
「その勝手な理屈はどうでもいいけどさ」
あっさり切り捨てられた。
「結局あやちゃんは大吉なんでしょ?またハードな恩返ししたいの?」
「・・・ちょっと、いやかも」
「ってか、ごっちんもよっちゃんもさぁ、簡単に人を頼りすぎなんだよ」
恩返せばいいと思ってんじゃねー、まず自分で行動してみろって、ミキティはご立腹。
またイラついてる。よしこは今関係ないんじゃないかな。
確かによしこも自分が自分がって人じゃないけど。とりあえず今は何も言ってないし、
いないとこで文句言われてるなんて可哀そうだ。
「よしこは関係ないじゃん」
「関係ないかぁ?ないなぁ・・・」
ないんだよなぁって、今度はため息をついて何か考えてるみたいだ。
「どーしたの?」
「ん〜ミキさぁ、人のためとか大嫌いなのね」
「だろーね」
「そんなん結局言い訳でしょ?絶対、自分に都合のいいようにしかしないでしょ?」
「んぁ、そうかなぁ。そうでもない人もいるよ」
「いーや、みんなそうだって。本気で人のためだけに頑張るヤツなんていない」
「いるってば」
「誰よ?」
「梨華ちゃん。あ、お客さん来た」
- 351 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 19:56
-
お客さんが入ればムダ話は終わり。
再開されるのはまたお客さんが途切れたとき。
「ごっちんは、人のために頑張れる?」
「場合によっては、頑張る」
梨華ちゃんのためなら頑張ると思う。梨華ちゃんはあたしに光をくれた人。
ミキティに言われたみたいに、恩返せば何してもらってもいいとは思ってないけど、
返さなくていいとも思わない。本当に、救われたから。
「恩返しねぇ・・・」
「ミキティは?」
「無理。ミキの都合が最優先。それが一番スッキリするんだよ」
「すごく、らしいね」
ミキティは、そんな感じ。
「でしょ?なのにさぁ、こないだからミキ我慢してることあんの」
「へぇ。どんなの?」
「ん〜説明しづらい」
「じゃ、いい」
「すごく、らしいね。あ、お客さんだ」
なにがだろう。
あたし、どんなだと思われてんのかな?まぁ、どんなでもいいや。
「「いらっしゃいませ」」
- 352 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 19:57
-
「ミキね、梨華ちゃんみたいな人って、理解できないんだよね」
「あたしだってそうだよ」
心から尊敬してるし、感謝してるし、あんなふうに生きたいという憧れだけど。
あたしはあれほど人のためだけに行動することは出来ない。
「結局、バカみるだけじゃん」
「そうかな?」
あたしは、梨華ちゃんに会えてよかったけど。
梨華ちゃんがああいう人で、本当によかったと思ってるけど。
あたしに関わって、バカを見たと思われてるのかな。
「ごっちんじゃなくて、世の中にはさ、いんの。そういう人食い物にしちゃうヤツが」
「ミキティは?」
「・・・騙される方が悪いと思ってるよ」
ふーんとだけ返しておいた。そういう見方もあるんだなぁって。
「なんか、ないの?」
「なにが?」
「酷い、とか。人でなし、とか」
「別に」
だからってミキティが、捕食者側に100%回れるとも思えないし。
悪役になりきれなさそう。そのくせ偽善者にもなれない感じ。
「あ、またお客さん。今日はなんか途切れがちだね」
- 353 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 19:57
-
本当に、途切れがちだ。
今お客さんを送り出して、また店内は閑散としてしまった。
「ごっちんさぁ、中学のとき梨華ちゃんからどんな話聞いたの?」
「二次関数とか」
「・・・今のはさ、ミキの言葉が足りなかったよ?でもね、
その答えが自然と出てくることもおかしくない?何のこととか聞いてくれてもよくない?」
だって話してくれたもん。解が交点になるんだよって言ってたもん。
「じゃあ、なんのこと?」
「・・・よっちゃんのこと」
受験勉強の内容なんか聞くわけないだろって、怒ってるけど。
そんなこと言うなら、いまさらよしこの話聞かれるのもすごく違和感ある。
中学のとき、よしこのことどんな風に聞いたかなぁ。
好きだっていうのは聞いたな。王子様みたいな人って言ってたな。
すごく優しいけど、照れ屋で可愛いとかも言ってたかな。いや、これは最近聞いたんだっけ。
ダメだ。ごちゃ混ぜでいつ聞いたかまでは分からない。
- 354 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 19:57
-
「その頃あった話とかかな。よく覚えてない」
「なんかさぁ、あんま会ってないとか言ってなかった?」
どうだろ。そういえば、梨華ちゃんはあたしの勉強にかかりっきりで、
あんまりよしこに会ってなかったのかも。でもあの距離だからな。
あたしが帰った後は普通に会ってたんじゃないかな。
あ、でも。よしこにはその頃アヤカさんが居たんだ。
ミキティはアヤカさんの事知ってるのかな?
「よしこから、その頃彼女いたって聞いたよ」
「・・・らしいね」
あ、知ってるんだ。ミキティも最近聞いたのかな。
だからよしこの話なのかな。
「あたしこないだ会ったよ。アヤカさん。超キレイな人」
「お、褒めるんだ?いいの?よっちゃんに梨華ちゃん以外の人が居たんだよ?」
「昔のことでしょ?それに、梨華ちゃんも知ってたらしいし」
「梨華ちゃんからは聞かなかったの?」
「んぁ〜・・・何も言ってなかったと思うよ」
梨華ちゃんは何も言ってなかったと思う。だって、会うまで知らなかったもん。
好きな人には恋人がいるなんて話、聞いてたら多分あたしだって覚えてるだろうし。
- 355 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 19:58
-
「・・・その人とよっちゃんってさぁ」
やけに気にするなぁ。ミキティって恋バナ好きなのかな。
もう終わったことなのに。
「なんで付き合ってたんだと思う?」
「んあ?そんなの好きだったからでしょ」
「・・・だよねぇ」
他になにがあるんだろ。よしこはその頃中学生だよ?単純に好きって気持ちしかないでしょ。
まぁ・・・あたしは今よりよっぽどややこしい人間だった気がするけど。
でもよしこだもん。言ってたもん。純粋に愛してたって。
あの顔に嘘はないと思う。
「ミキティ何言ってんの?」
「気にしないで。あ、ごっちん料理得意だよね」
「え、うん」
「ケーキとか作れないの?」
出来るけど。やっぱミキティは、なんか変だよなぁ。
「じゃあ、プレゼントは手作りケーキとかでいいじゃん。あ、」
「お客さんだね」
いらっしゃいませ。
- 356 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 19:58
-
- 357 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 19:58
-
2.
梨華ちゃんの誕生日は、梨華ちゃんの家であたしが腕を振るおうということになった。
よしこと、ミキティと、あややも呼んで、お祝いしようってことになった。
おあつらえ向きに今年の梨華ちゃんの誕生日は休みと被ってるし。
問題はバイトだな。何か買って帰りにでも届けようと思ってたから、
普通にバイト入ってるんだよな。どうしよう。
「あ、よしこ。明日さ、集まろうかって言ってんだけど」
「ん〜?」
「梨華ちゃんの誕生日だよ」
「あぁ・・・いいんじゃない?」
最近のよしこはヘタレ通り越して、腑抜けている。やっぱなんか暗い。焦点あってないし。
後輩たちもかなり心配しているようだ。休み時間ごとに教室が包囲されている。
正直、めちゃくちゃ怖い。動物園の檻の中に居るような気分。
よしこはずーっと携帯を触ってて、気のない返事ばかり。よく知らないけど、
ラブレターのお呼び出しも断ってるらしい。
知らん顔してたくせに急に立ち上がって、教室の出入り口に向かった。
「どこ行くの?」
「えーっと、・・・アヤ・・・」
「あや?」
「アヤ・・・や」
「んぁ、あやや」
なるほど。よしこはあややのとこに行くのか。あやや人気者だな。ミキティも何か言ってたし。
あれ、でもよしこもあややとは呼んでなかったような気がする。
あややって呼び方も人気?
- 358 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 19:59
-
出入り口では後輩に囲まれて、歩きづらそう。
中にはかなり痛い子もいて、わざと道塞いでぶつかることだけに希望を託している。
痛すぎる。冷や汗ものの気持ち悪さだ。王子様も大変だなぁ。
よしこを見送って、ふと思い出した。スーパー大吉ガール。あややだ。
あややが乗り気になったら、店長に急用とか出来るかも。
・・・なわけないか。本当、どうしよう。
ケーキ焼いて、バイトに持って行くか。大荷物だが仕方ない。でもそれじゃ結局遅くなるよな。
やっぱ家でお祝いするなら、あんま遅い時間になるわけにいかないし。
週末にバイト二人とも抜けるなんて店長的にもダメだろうし。
今昼休みで時間あるし、ミキティに相談に行こう。ついでに梨華ちゃんにも相談しよう。
「あれ、ごっちんだぁ。吉澤さんは一緒じゃないの?」
「んぁ、よしこ?あややのとこに行くって言ってたよ」
ミキティのところにはあややが来ていた。
「ひーちゃんが?」
「えぇ?なんだろ?私に用事?」
「・・・いいじゃん、なんでも。そんで?ごっちんは何しに来たの?」
そーだった。ミキティにバイトの相談をしないと。梨華ちゃんの都合も聞いて・・・。
よしこなんかどうでもいいや。
- 359 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 19:59
-
「明日って、ミキティもバイト入ってるでしょ?」
「ん、入ってるよ」
「遅くなるかもだよね。梨華ちゃん、遅くても大丈夫?」
「大丈夫だと思うけど・・・何時くらいになりそう?」
具体的な時間かぁ。答えにくいなぁ。店長まだ正月ボケなんだよねぇ。
多分今月一杯は営業時間未定なんだよな。・・・店長の気分次第だな。
「ねぇ、何の話?」
「明日梨華ちゃん誕生日だから、お祝いすんの。あややも来るよね?」
「え、いいのかな?」
「梨華ちゃん、いいよね?」
「いいよ。私のお祝いしてもらうだけだけど」
「ほんとですかぁ?行きます、行きます!」
「じゃ、そういうことで。ん〜ミキティ、明日何時くらいまで?」
「ごっちんも分かってるでしょ。・・・店長の気分次第」
「え、それって何時なの?」
そうなんだよなぁ。そうとしか言えないんだよなぁ。
梨華ちゃんは驚いてるけど、あたしらにとっては常識だ。
「変な店だから」
「なんでそんなところで働いてるの?大丈夫?」
「「・・・さぁ?」」
ミキティと二人して首を傾げた。大丈夫かどうかは誰にも分からない。
時給は結構いいんだよね。気まぐれな営業時間のわりにはけっこう儲かる。一応人気もあるし。
あと、面白い。店長も優しいし、ミキティもいるし、最近は見ないけど、よしこも来るし。
- 360 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 19:59
-
「気分次第ってことはさ、融通利くんじゃないの?」
「んぁ、どゆこと?」
「みきたんもごっちんも都合悪いんですって言えば聞いてくれそう」
「「いやぁ〜・・・どうだろ?」」
またミキティとハモってしまった。
一応は雇われてる身だし。ただでさえ早く終わる日とかあるのに、
バイトの都合まで聞いてくれるだろうか。
「聞いてみてよ」
「「・・・・」」
あややって、結構はっきりしてるよね。
「あ、明日何時までかは聞いてみて欲しいな」
「んあ、それは聞いとく」
「都合悪いって言ってみてよ」
「「・・・・」」
梨華ちゃんが時間を知りたい気持ちは分かるから。
あややのしつこいマイウェイに従うことは出来ないけど、これは聞いてくる。
「じゃ、分かったらメールするね」
今日もバイトだし。あたしは三年の教室を後にした。
- 361 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 19:59
-
教室に戻ると、よしこも戻ってきていて、また携帯をいじっていた。
「よしこぉ、あややはミキティのとこに居たよ」
「あ?・・・あぁ、そう」
なんだよ。せっかく教えてあげたのに。
よしこはそれほど興味ないようだった。行ったけど居なかったはずなのに。
気にしてなかったのかな。あややも用事に心当たりないみたいだったし、
大したことじゃなかったのかな。
「明日の時間決まらなかったから、後でメールするね」
「・・・おぅ」
「ちゃんとプレゼント買ったのぉ?」
「大丈夫だよ。ごっちんは?料理だけ?」
「え、ダメだと思う?」
一生懸命作るつもりだけど、何か形のあるものの方がいいんだろうか。
「梨華ちゃんだから、大丈夫だとは思うけどね」
「んぁ、梨華ちゃんだもんね」
人の誠意を踏みにじるわけがない。
あたしが全幅の信頼を置けると確信している人。
「よしこ、いいお嫁さんだねぇ」
「・・・嫁じゃねぇよ」
あ、久しぶりだな、このやりとり。
- 362 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 20:00
-
「嫁みたいなもんじゃない」
「ちげーって」
「いらないの?」
「いや、欲しいけど」
「うわ、なんかエロイ」
「・・・もういい」
そっぽ向かれてしまった。なんかノリ悪い。
よしこも梨華ちゃんのこと好きだって気付いて、こういう話になったら惚気てたのに。
最近・・・いつからだろう。学校始まってからくらいかな。
冬休み中は梨華ちゃんをなんとかしようとしてたぐらいなのに。
「なんかあったなら、聞いてあげるよ?」
「別にぃ〜・・・」
「でもさ、最近忙しそうじゃん」
よしこは、全然バイト先に現れない。
もう一ヶ月になりそうだけど、まだ両親は帰ってないらしいし。
梨華ちゃんの家に居るのかと思ってたら、梨華ちゃんは来てないと言うし。
これでラブレターのお誘いも断ってるんじゃ、何してるのか全く分からない。
まぁ、バイクで出かけてるのかも。
一通りいじり終えてちょっと飽きてたみたいだけど、またハマってんのかも。
「別に・・・そういう気分なんだよ」
気分ねぇ。気まぐれだよねぇ。あたしよりよしこの方が動物っぽいよね。
- 363 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 20:00
-
放課後になって、梨華ちゃんとミキティを迎えに行こうとしたのだが、
よしこは行かないと言う。最近はしょっちゅうだ。
いつもは別にいいんだけど、今日は一緒に帰らないと。
「明日の話するから、よしこも行こうよ」
「行かないって。あ、後でメールでもして」
ホントめんどくさがりだなぁ。
「参加しろよぉ」
「用事あるんだよ。つーか明日もさぁ・・・行けないかも」
「は?」
そんなの、認めない。梨華ちゃんの誕生日、よしこが祝わなくてどうするんだ。
「明日も、用事あるんだ。えっと、結構大事な。行けたら、行くから」
「ふーん・・・じゃ、メールは送る」
「うん。よろしく」
「でも」
「なに?」
「なるべく、来てあげてよ」
「・・・うん」
来なかったらどうなるか分かってんのとか、脅そうかとも思ったけど。
梨華ちゃんのためだから、キレイな言葉にしておいた。
- 364 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 20:00
-
「あれ、よっちゃん連れてこなかったの?」
三年生の教室に行ったらあややも居て、ミキティの第一声はよしこのことだった。
実は昨日の帰りにも、昼休みにも言ってたんだ。
よしこの希望も聞きたいから、今日の帰りは話し合いだねって。
最近よく一人で帰るよしこだけど、今日は一緒にねって言ってたんだ。
もちろん、勝手に言ってただけだから、よしこに用事があるなら仕方ない。
「なんかねー用事あるらしいよ」
「ひーちゃん、最近見ないなぁ・・・」
「んあ、そうなの?」
意識してるのかな。
照れて会いたくないのかも。そんな事言ってたし。
怖がってんだよね。よしこは今梨華ちゃんの距離を測ってるところだからね。
あ、もしかして用事って嘘で、恥ずかしがってんのかな。
「近いんだから、会いにいけばいーじゃん?」
「お家にも、居ないんだよね」
ミキティのあっさりした問いに、梨華ちゃんは首を振る。
怖がるにも程があるんじゃないかな。家にも近寄らない避け方はないだろ。
「よしこのことだから、こそこそ何か準備してんじゃない?」
フォローしといてあげよう。
よしこがゆっくり歩けるようにあたしも見守ってあげることにした。
でも、やりすぎだな。明日はまた文句言ってやろうかな。サシで飲み交わしながらでもさ。
- 365 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 20:01
-
「じゃあ、頑張って作るね」
何時になるか分からないし、がっつり食事みたいなのは止めとこうという話になった。
軽食っぽいの。これなら夜中になってもわいわい摘んだりできるし。
バイトが早く済んで夕食代わりになっても大丈夫そうだし。
メニュー決めとけばキライなものとかも避けられるし。
よしこ抜きでも、計画は順調に立てられていった。
なにしろ梨華ちゃんが食事の好みを完全に把握してたから。
計画を立てるのは楽しかった。これに参加しないなんて、よしこは損をしているな。
「じゃ、二人ともバイト頑張ってね」
「うん。また明日ねぇ」
「ばいば〜い」
それなりにまとまって、梨華ちゃんの家の前で別れた。
ふとよしこの家のガレージに目をやると、よしこのバイクがなくなっていた。
もう、出かけたのか。本当に用事あったんだ。
あたしのもう一つの予想は外れたな。めんどくさいだけかと思ってた。
- 366 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 20:01
-
ミキティと二人でバイトに向かう。
「ミキティは何あげるの?」
「ん。秘密」
「なんでよ?」
「なんでも」
何故かミキティの口数は少ない。
特に話題も見つけられなかったので、あたしはよしこのことを考えていた。
なぁんだろな、あいつ。やっぱ最近変わったよな。
正月には近づくの怖いとかって嘆いてたし。あのバカ。
あ、そっか。よしこの様子が変なのって、正月からだ。
だからミキティはなんか知ってるふうだったんだ。ミキティん家でも泣いてたのかな。
今までどおりでいいのにな。ちゃんと、よしこは梨華ちゃんを大事にしてたのにな。
関係を変えるって、こういうのも仕方ないのかもしれないけど、
梨華ちゃんに寂しい思いさせないで欲しいな。
もっと、近づけばいいのに。梨華ちゃんはよしこから離れたりしないだろうし。
でも怖いんだよね。怖がってんだよね。一歩が踏み出せないんだよね。
ゆっくりでいいのにな。あたしは、いつでも弱音聞いてやるのに。
だって、二人は両想い。この事実が、あたしにとってすごく嬉しい。
よしこは絶対梨華ちゃんを悲しませたりしない。信頼できる、大事な友達。
梨華ちゃんはあたしのじゃないけど、お前になら任せれる、みたいな。
いや、よしこじゃなきゃ、ダメなんだ。
- 367 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 20:01
-
バイト終わりに明日の終わる時間を聞いたら、何か用事でもあるのかと聞かれた。
梨華ちゃんの誕生日だというと、まさかの答えが返ってきた。
店長からのバースデイプレゼントで休みにしてあげると。
・・・・すごく嬉しいけど、この店はいつか潰れてしまう気がする。
「休みだって」
「だね。あ、梨華ちゃんにメールしときなよ」
「らじゃ」
“バイト休みになった。何時くらいに行けばいい?”
梨華ちゃんの返信は早かった。
「早いなら何時でもいいよって」
「あ。あやちゃんがさ、明日なんか買いに行くって言ってたから夕方頃にしといて」
「しといてって言われても」
「じゃ、5時。ごっちん料理マジ頑張りなよ」
「らじゃー」
帰ってからすぐ作るつもりだったけど、明日でよさそうだ。
さぁ、張り切って頑張ろう。よしこにもメールしておいた。
“明日、午後5時に梨華ちゃん家集合”
「よしこには送ったから、あややにも送っといてね」
「はいよ」
ふと、あややの思い通りになっていることに気づき、大吉ガールのすごさに驚いた。
- 368 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 20:02
-
- 369 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 20:02
-
3.
早起きして、いろんな材料買い込んで、あたしは朝からフル回転だ。
準備が整ったのは夕方だった。
「ごっちーん」
チャイムとともに、あたしを呼ぶ声が聞こえて、
あたしは出迎えに出た。
「できた?」
「うん。これとこれ持って」
かなりの量になるのが予測できたので、
買い物帰りのあややとミキティに持ってもらうことになっていた。
あたしは一番気合の入ったケーキの箱を慎重に持ち上げ、
梨華ちゃんの家に向かった。
「おっきい箱だねぇ。ごっちんが作ったの?」
「あやちゃん、中身はスカスカかもしれないよ」
む。失礼な。
「箱一杯だよ。ホントに期待していいよ」
- 370 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 20:02
-
ホントかよ、などと疑うミキティを無視して、
あたしたちは梨華ちゃんの家に到着した。ケーキもきっと無事だ。
「「「はっぴーばーすでー!!」」」
出迎えてくれた梨華ちゃんに、満面の笑みを浮かべ、声をハモらせて。
「ありがとー、どうぞぉ」
「お邪魔しまーす」
おじさんとおばさんにさらりと挨拶をし、梨華ちゃんの部屋に直行する。
「んぁ、よしこは?」
「来てないよ」
「あれ、よっちゃんに時間伝えたよね?」
「もちろん」
ちゃんと送ったし、あの後“了解”っていう返事も送られてきた。
「んだよ、あいつ・・・ミキもメール送る」
うん。すっぽかすなんて・・・あ、忘れてた。
「んぁ、そういえば、行けないかもって言ってた」
「は?・・・先言えよ。もう送っちゃったよ」
- 371 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 20:03
-
「っていうかぁ、家そこでしょ?見てみればいいんじゃないの?」
あややに言われて、窓からよしこの家を見てみた。
ガレージに、バイクがない。
「んぁ、出掛けてるみたい」
「まぁ、すぐそこだし。帰ってきたら呼び出すか」
「だね」
よしこに、梨華ちゃんの誕生日より大事な用事なんかあるはずない。
怖い、怖いって言ってたけど、みんな集まってんだからそんなこともないだろうし。
のんびり、待ってよう。
「あ、これプレゼントね」
「ありがと〜」
「あ、私これです!おめでとうございます」
「ありがとう、アヤちゃん」
ミキティは、誰かのCD。自分はしっかりリサーチしてたんだな。
あやちゃんは、どピンクの物体。ミキティがアドバイスしたのかと思ったら、
完全に独断で決めたらしい。この趣味の一致は、奇跡だと思う。
「じゃ、あたしのいくよー」
それなりに盛り上がってくれて、自分でも効果音入れながら、
自慢のケーキをお披露目。
けちつけてばっかのミキティも黙らせる出来映え。・・・頑張ってよかった。
- 372 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 20:04
-
***
- 373 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 20:04
-
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
よしこは、現れない。途中何度もメールを送った。電話もした。時間は過ぎていく。
楽しい会だから、それは気にしないふりをするのが無難なんだろう。
ミキティも、あややも、梨華ちゃんも楽しそうに笑ってる。
あたしも、笑ってる。でも、みんながよしこを待ってる。メールは返ってこない。
電話は繋がらない。電源が入っていない。梨華ちゃんの誕生日、あと10分。
梨華ちゃんがトイレに立ったので、ミキティに話しかける。
「ミキティ、よしこは・・・」
「・・・・」
ミキティは何も答えてくれなかった。それが、ミキティも同じ気持ちなのだと教えてくれた。
こんなはずじゃなかったのに。みんな一緒に、心から笑える日だったはずなのに。
沈黙の中、部屋に置きっぱなしになっていた梨華ちゃんの携帯がなった。
丁度戻ってきた梨華ちゃんが部屋に入ってきて、携帯を開く。
あたしは知ってる。その着信音は、よしこからのメールだ。
梨華ちゃんの表情が、ハッとしたように変わった。携帯を投げ出し、部屋を出て行った。
悪いとは思ったが、開きっぱなしの携帯の画面に目をやった。
“外”
一文字だけの、そっけないメール。
あたしは、窓を開けた。
「ごっちん、寒いから―――」
「しっ!!」
文句を言いかけたミキティを制し、外の様子に全神経を集中させた。
- 374 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 20:04
-
玄関の明かりがついた。前の道には、かすかな光で人影が照らし出されていた。
細長い、影。その後ろには、バイク・・・よしこだ。
耳を澄ます。玄関が開き、聞こえてくる足音。梨華ちゃんが駆け寄っていく。
『ひーちゃん・・・』
『誕生日、おめでとう』
シルエットだけだけど、梨華ちゃんがよしこの頬にそっと触れたのが分かった。
待ってたのに、寂しかったはずなのに。深い、慈愛に満ちた声が聞こえてきた。
『冷たい・・・中、入って。ごっちんたち来てるから』
よしこは、何も答えない。
気が付くと、ミキティとあややも、あたしと同じく窓から下の様子を伺っていた。
『どうしたの?』
『これ・・・渡しに来ただけだから』
よしこは、ポケットに手を入れ、取り出した何かを梨華ちゃんに渡した。
『ありがとう。開けてもいい?』
『・・・うん』
小さな声だった。盗み聞きみたいな真似をしてたからじゃない。
弱い、声だった。
- 375 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 20:05
-
受け取った梨華ちゃんの動きが止まった。沈黙が、永遠のように思える。
『ひーちゃん?何も、入ってない・・・よね?』
よしこのプレゼントは、空なのか。
横から、ミキティの唾を飲む音が聞こえた。
『ひーちゃん?』
『・・・ごめん』
何が起きてるのか分からない。
よしこは、そのままきびすを返し、梨華ちゃんに背を向け、バイクに手を掛けた。
どこかに行こうとするよしこの腕に、梨華ちゃんが急いで手を伸ばした。
『ひーちゃ』
『触るなっ!!』
よしこの声は、よく通る。空気が震えた。見えないけど、梨華ちゃんがどんな顔してるか。
あたしには、分かった。あんのバカ・・・!
「コラよしこぉ!!」
「バカ、危ない!」
「ごっちんっ!」
あややとミキティの叫ぶ声が聞こえたが、梨華ちゃんの部屋の窓に足を掛け、飛び降りた。
あたしを止めようと伸ばされたミキティの手が宙を掻いた。
裸足で地面に降りる。立ち上がり、よしこと梨華ちゃんの元へゆっくりと歩き始めた。
触るななんて・・・一発ぶん殴ってやらないと気が済まない。
- 376 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 20:05
-
呆気にとられた二人の顔が見える距離まで近づいた。
あたしと目が合うと、よしこは慌ててバイクのエンジンを掛け始めた。
逃げるのか。ずっと待ってた梨華ちゃんにあんなこと言っといて、逃げるのか。
あたしは駆け出したが、よしこに一瞬遅れをとった。
道に飛び出し、走り去っていくバイクの後姿に、あたしは心からの叫びをぶつけた。
「待てこのバカよしこぉぉ!!」
大声出し過ぎて、喉が痛い。耳鳴りもする。
残響の中、肩で息をするあたしに、梨華ちゃんがそっと手を置いた。
「中、入ろう?」
「・・・ん」
声が、出ない。
「ごっちんが泣かなくても、いいんだよ」
でも、涙は止まらない。
「入ろう?」
あたしは頷き、梨華ちゃんに肩を抱かれながら玄関に向かった。
あややとミキティも降りてきていたようで、出迎えてくれた。
- 377 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 20:06
-
「ありえない!」
部屋では、あややが怒っていた。よしこのファンだったのに、幻滅しちゃったか。
あたしも幻滅したよ。なんで、あんなこと言うんだろ。
「私が同じ事言われたら、絶対殺してやるのに!」
「あやちゃん、物騒なこと言わないでよ。落ち着いて」
「なんでみきたんはそんな冷静なの!」
冷たい、冷たすぎるよと言ってミキティの首を締めていた。
冷静と激情ってバランスがあるらしい。
だから、あたしもミキティみたいに落ち着かないと。
今一番気持ちを爆発させて、発散しなきゃならないのは梨華ちゃんなのに。
あややはこんなんで、あたしは泣いてて、これじゃ梨華ちゃんが泣けないじゃないか。
でも、あたしの涙は止まらない。
やっと来たと思ったら、空っぽの包みだけ残して去ろうとして。
掴みかけた手は振り払われ、触るなって怒鳴られて。
あたしが梨華ちゃんの代わりに殴ってやろうと思ったのに、よしこは逃げ出して。
あれ、あたしはなんで泣いてるんだろう。梨華ちゃんの代わりに泣いてるのかな。
そんなの意味ない。梨華ちゃんが涙と一緒に吐き出さなきゃ、意味ないのに。
あたしの涙は、止まらない。
- 378 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 20:06
-
ひととおり文句も言い終えたようで、ミキティがあややを落ち着かせた。
時間も遅くなり、ミキティもあややも寝てしまった。
あたしの涙は、止まったのか涸れ果てたのか、溢れることをやめていた。
「梨華ちゃん」
「ごっちん、起きてたの?」
三人分の布団が引かれた梨華ちゃんの部屋で、あたしは一人眠れずにいた。
ドアが開き、お風呂に入っていた梨華ちゃんがベッドに入る気配がして、話しかけた。
「あたし、梨華ちゃんが泣いてるの見てない」
「泣いたりしないよ」
弱さを見せない強い人なのかな。弱さを見せれないほど弱い人なのかな。
あたしには幸い、梨華ちゃんに贈れる言葉があった。
「あたし、ずっと泣けなかった。昔、すっごい泣きたいときあったのに、泣けなかった」
「・・・うん」
「梨華ちゃんに初めて会った日に、あの頃の全部の分、泣いたんだ」
「・・・そう」
「泣くとね、嫌な事がぜーんぶ涙と一緒に流れてくの」
「・・・そうだね」
「あたしは、梨華ちゃんを泣かせてあげること出来ないかな」
耳鳴りだけが聞こえていた。昔のあたしは、泣いたら負けだと思ってた。
涙を見せることが出来ない、弱い子供だった。
泣かせてくれたのは、梨華ちゃんだった。
- 379 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 20:06
-
「・・・うっ・・・っ」
ベッドから、嗚咽が聞こえた。
聞こえない振りするのがマナーかもしれない。あたしは、沈黙を貫いた。
部屋一杯に泣き声が広がり、梨華ちゃんの口が開かれた。
「・・・ひーちゃん、どうしたんだろう」
これには、あたしが答えるべきなんだろうな。
「あたしにも、分からない。でも、そのうち話してくれると思ってた」
なのに。
「あの・・・バカ・・・」
あたしの涙は涸れ果てたわけではなかったようだ。
「どうして、ごっちんは泣くの?」
「・・・ムカつくんだもん」
アホよしこ。前言ってたじゃん。お姫様泣かしといて逃げんのかよって、
あたしに怒ってたじゃないか。それが、なんでよしこが泣かして逃げるんだよ。
思ってたのに。よしこはアホっぽいけど、筋だけは通すと思ってたのに。
怖い怖いって悩んで、だからって、なんであんなこと言うんだよ。
「梨華ちゃん、悪いけど、あたし次よしこに会ったらぶん殴るから」
- 380 名前:123 投稿日:2008/01/17(木) 20:07
-
「・・・ダメだよ」
「うん。分かってる。だから、先に謝る。ごめん」
喜んでもらえるとは思ってない。
きっと後で知ればもっと悲しむだろうから、先に言っておく。
「やめて・・・お願いだから、ひーちゃんにそんなことしないで」
「ごめん。でも我慢できない」
梨華ちゃんのすすり泣く声が聞こえる。それがまた、あたしの決意を固める。
絶対ぶん殴ってやる。
この泣き声の分だけ、よしこに後悔させてやる。
あたしは絶対、揺らがない。揺らいでばっかのよしこを、ぶん殴ってやる。
よしこ、あたしはあんたのこと見失わない。分かんないままでなんかいないから。
あたしは、それ以上は何も言わず、泣きつかれた梨華ちゃんの寝息が聞こえてきてから、
固い決意とともに眠りについた。
***
朝になり、目を覚ますとミキティだけがいなかった。
テーブルには、置き手紙があった。
“ごめん、用事あるから先帰る”
梨華ちゃんもあややもあんまり気にしてなかったけど、
あたしにはそれが、何か意味を持っているように思えて仕方なかった。
- 381 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/17(木) 20:07
-
- 382 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/17(木) 21:02
- 更新待ってましたよ。
固唾をのんで見守ってます…。
版は打鍵ミスかと。おそらく倉庫の1143960168ではないでしょうか。
違っていたらすみません。
- 383 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/18(金) 09:12
- ここの吉澤さんは何を考えてるのかわからないですね
もう〜ごっちんに梨華ちゃんを任せたくなってきたYO
- 384 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 03:59
-
幸せは、時が止まればいいと思えることだと思ってた
でも辛いことに向かって進むぐらいなら
幸せでなくても時が止まることを望んでしまう
歩いていけることが、幸せなのかもしれない
しっかり前向いて、笑って歩けたら
幸せなんだろうな
- 385 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:00
-
1.
アヤカのマンションの下で、バイクを降りた。
エレベーターのボタンを押し、開いたドアに吸い込まれたあたしは、一人きりになった。
ポケットに残ったプレゼントを取り出した。
小さな、ピンク色のハートが付いたピアス。渡せなかった。
ごっちんたちから誘われていた。梨華ちゃんの誕生祝に集まるからと。
プレゼントは買ってあった。本当はクリスマスに渡すつもりだった。
気持ちを伝えて、梨華ちゃんも好きだと言ってくれたら、これを渡そうと思ってた。
何か身につけるものを贈りたかった。でも、あの日は何も言えなかった。
今日は、もっとダメだ。
こんな自分が、平然とした顔で梨華ちゃんの誕生日をみんなと祝うなんて、
とても出来ないと思ったから、昼間からアヤカを誘って、出かけた。
ここ最近、あたしの毎日はアヤカで一杯だった。
普段どおりに生活してたら、梨華ちゃんの顔を毎日見てしまう。
あたしには、耐えられなかった。アヤカと居る間は、何も考えなくて済む。
夜はアヤカの部屋に戻り、時計の針が進むのをずっと見ていた。
カウントダウンだ。あと何時間何分何秒で、梨華ちゃんの誕生日は終わってしまうのかな。
顔に出ていたのか、今日は大事な日なのかと聞かれた。あたしは、なんでもないと答えた。
残り時間も一時間を切った頃、アヤカが、煙草を買ってきてほしいと言い出した。
いつもはそんな事言わない。パシリにもされないし、そんなヘビースモーカーでもないのだ。
テーブルに置かれた箱から見えてる分で、十分なはずだった。
早くしないと今日が終わっちゃうよと言われ、あたしはアヤカの部屋を飛び出した。
- 386 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:00
-
一つの、賭けをした。
あたしは弱い。もう二度とアヤカの傷ついた顔は見たくない。
でも、大好きなのは、梨華ちゃん。会いたい。今日だけは。
今は、アヤカと付き合ってるから言えないけど。いや、そんなの言い訳なんだ。
アヤカと再会する前にも、言おうとしたことはあったのに。あたしは言えなかった。
言えないまま妄想だけが膨らんで。
触れてしまったら、傷つけちゃうって悲しんで、始める前から終わることばっか考えて。
特別な日だから、きっかけがあれば踏み出せるんじゃないかと思った。
運に全てを任せた。ポケットに入れてた包みは二つ。片方は、何も入ってなくて。
もう一方にはずっと渡したかったピアスを入れていた。
同じポケットに入れて、何も考えず取り出そうと思っていた。
自分の家に取りに入り、包みから出して小さなハートにそっと口付けた。
彼女の好きなピンク色のハートに、自分の気持ちを込めていた。
目を瞑り、包みを握り締め、家の前に立った。時間にはまだ余裕があった。
みんながいる部屋を見上げて、このハートが彼女に届いたら、
言葉も贈ろうと思っていた。ありったけの愛情を言葉にして伝えようと思っていた。
そして、アヤカにも言おうと。ハートに全ての決断を委ねようとしていた。
あたしは、ビビッていた。どっちにビビッてたのかも分からない。
届けたいのか、届けたくないのか。インターホンを押そうとしたまま、固まっていた。
指先が震えた。夜風に晒されて凍るようだった。
手に息を吐きかけ、メールで呼び出すことを思いついた。
開いた携帯の時計で、今日という日が残り十分もないことを知った。
- 387 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:00
-
いそいでメールの画面を開くが、指先がかじかんで動かない。
震える手で“外”とだけ打ち、玄関を見つめていた。
階段を下りる気配がして、あたしは極度の緊張に包まれた。
玄関が開いた瞬間、全身が強張るのを感じた。
出てきた梨華ちゃんが不安そうな顔に見えたが、不安だったのはあたしなんだろう。
駆け寄ってきた梨華ちゃんが、あたしのほうに手を伸ばした。
そっと頬に手の平が添えられ、そのぬくもりに泣きそうになった。
でも、梨華ちゃんに泣きつくなんて、出来なかった。
あたしは、この子の前でだけは、強くありたかった。
感覚のなくなった指先で、ポケットのつつみに触れた。
本当に、どっちがどっちか分からなかった。
祈るような気持ちで取り出し、梨華ちゃんに渡した。
包みを開く梨華ちゃんを見ながら、時計の針がゆっくり進むような幻覚に囚われた。
届くんだろうか。心臓が早鐘のようだった。
梨華ちゃんが顔を上げ、あたしはどちらが渡ったのかを理解した。
あたしの心はあたしのポケットに残ってしまった。
これ以上はこの子の前にいられないと思い、グローブをはめ、バイクに手を掛けた。
視界に映る自分の手に、アヤカの手が重ねられているように思えて、
こみ上げるものを押し殺し、唇をかみ締めた。
- 388 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:01
-
梨華ちゃんに名前を呼ばれ、あたしの腕にその手が触れかけた。
瞬間、自分の汚れた心に触れられる気がして、触るなと怒鳴った。
何も言えず、流されるだけで、何も出来ないくせに言い訳だけは人一倍。
何よりもイヤだったのは、渡った包みが空だったのだと知って、
どこかでホッとしていたこと。
投げ出して、勝手に傷ついて、アヤカのところへ帰ろうとして。
結局アヤカの温もりが癒してくれると期待している自分に吐き気がした。
こんな汚い自分に、梨華ちゃんは触れてはならない。
一瞬見えた梨華ちゃんの驚いた顔が頭を離れない。
後悔に押しつぶされてしまいそうになったとき、ごっちんの叫び声が聞こえた。
梨華ちゃんもあたしも二階を見上げ、ごっちんが飛び降りるのを呆然と見ていた。
着地して、ゆっくりと近づいてくるごっちんから、覚悟を感じた。
真っ直ぐな、決意。さっきまで、あたしも持ってるつもりだった。
腹を括ったつもりでも、今日が決断の日にならなくて安堵してしまった。
ごっちんは違う。感じる。怒ってる。あたしに、ぶつかってこようとしてる。
向き合えない。
逃げなければという、どうしようもない焦燥に駆られ、あたしはバイクを走らせた。
ミラーに走って出てきたごっちんが映り、何かを叫んでいるのだけが分かった。
エンジン音にかき消され、ごっちんの声はあたしの耳に届かなかった。
- 389 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:01
-
エレベーターが、あたしの目的の階に着いたことを知らせてくれた。
ピアスをポケットにしまい、アヤカの部屋に向かった。
「おかえり」
「ただいま」
出た時と変わらぬ調子でアヤカは迎え入れてくれた。
一瞬、時計が戻ったような感覚に襲われ、目眩を覚えた。
「早かったね」
「嫌味かよ」
日付はとっくに変わってる。煙草買いに行って、こんな時間になるわけがない。
「帰ってこないと思ってた」
「・・・他に帰るとこなんてない」
自分の家は、離れたい場所から近すぎる。アヤカが上着を脱がせてくれた。
「寒かったでしょ?お風呂入る?」
確実に外で時を刻んだ体は、芯まで冷えていた。ついでに、心も。
「風呂より、アヤカがいい・・・」
「ん・・・」
お湯なんかでは、なにも取り戻せない。
誰かの体温でしか、あたしは熱を取り戻せない。
- 390 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:01
-
「ねぇ・・・煙草は?」
「・・・忘れた」
「そう」
「ごめん、買ってこようか?」
「いいよ。買い置きあるから」
そう言って体を起こすアヤカから、あたしの好きな香水の匂いがした。
「アヤカ」
ベッドを出ようとしたアヤカの腕をつかみ、匂いごと後ろから抱きしめた。
「どうしたの?」
あたしは、何も答えられなかった。
すごく、狡いことを考えてる。何も聞かないで欲しい。
今この腕の中にいるのが梨華ちゃんだったら、このまま時計の針さえ止めてみせるのに。
「・・・黙ってるね」
何でも、見透かされてしまう。本当に、何も言わなくても、分かってくれる。
もう、いいや。このまま、アヤカといつまでも居ようかな。
梨華ちゃんに触れる資格なんてないな。
でもこんなヤツが傍に居たら、アヤカだって嫌だろうな。
そうだ。アヤカとの時間だって、いつか終わってしまう。
誰もあたしのものになんかならない。
- 391 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:02
-
美貴には偉そうに、アヤカの傍にいてやらなきゃとか、断りきれなかったとかさぁ。
ほんと、バカみてー。
楽なんだよ。それだけ。逃げ込んだだけじゃん。
あたしが何にも言わなくても、こうやって抱きしめられるんだ。
こんな楽なことってないだろ。
クリスマスに梨華ちゃんの顔見て、久しぶりに思い出して。
傷つけただろうなって、反省して。
ちょっとしたら丁度アヤカが現れてさ。
やり直そうといわれて、結局ちょっと嬉しかったんだよ。
でも、梨華ちゃんが好きだから。
黙ってていいって言われて、それに一番後押しされてんだよ。
卑怯者。
優しくなんかないんだ。
自分勝手で。取り戻したら満足してさ。
アヤカの言うとおりにする自分に酔いしれてんだよ。
梨華ちゃんの誕生日、自分で勝手に行かないって決めたくせに、
行きたい、行きたいって思ってて、アヤカに気を遣わせてさ。
甘えて飛び出したくせに。アヤカ放り出してもいいと思ったくせに。
何事もなかったかのように帰ってきて、また甘えて。アヤカの温もり奪って。
こんなん、また壊しちゃうだけじゃないか。
- 392 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:02
-
「よっちゃん?」
「・・・ごめん」
寄りかかっちゃダメだと思い、あたしはアヤカから離れた。
こうやって、アヤカ壊しちゃったんだ。
今目の前に居るからって、あの日のアヤカの顔は消えたりしない。
せっかく戻ってきたアヤカを、また壊すことなんてできない。
「私は、何からでも守ってあげるよ」
あたしの方を向き、今度はアヤカに正面から抱きしめられた。
アヤカの前でなら泣けるな。涙、止まらねーな。
梨華ちゃんの前じゃ、泣くことも出来ないのに。あたし、アヤカと居る方が楽かも。
あーぁ、だから美貴に頼んだのかも。
傷つけたくなかったんじゃなくて、この時間に自分で終止符を打ちたくなかったのかも。
ずりーな、ほんと。あたしが、あたしじゃなかったら、あたし、あたしのこと殴ってるな。
・・・何考えてんだろ。
「一緒に、行こうか」
「・・・どこ、に?」
「アメリカ」
「なんで・・・」
「留学するの。よっちゃんも、向こうのハイスクール入ればいいよ」
英語ぐらい出来るでしょ、って。出来ても、日常会話ぐらいなんだけど。
向こうの歴史とか習っても分かるかどうか微妙だな。数学はどうせ数字だからいけそう。
理科も怪しいな。外国語は、日本語取れば完璧だな。
- 393 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:02
-
「うちの親ならいいって言いそうだ」
「でしょ?だから、行く?」
「・・・行こうかな」
「うん。もうすぐ、一度向こうに行くんだ。」
「へぇ、下見?」
「そう、住むところとかも見るの。それも一緒に行こうか」
「いいねぇ」
「よっちゃん。私、本気だよ?」
しばし、沈黙が流れた。
本気か。本当に、留学するんだ。
「時計って、止まらないね」
あたしがぽつりと零すと、回された腕に力が込められた。
「苦しいんでしょ?私が、攫ってあげる」
あぁ、苦しいよ。胸が、張り裂けそうだ。
かけらが涙になって出て行くけど、湧いてくる苦痛の方が多いみたいだよ。
攫ってくれるか。この苦しみから、救い上げてくれるのか。
- 394 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:03
-
行ってもいいかな。攫ってくれるのか。
このまま、ぬるま湯に浸かっていたい。
時計が進んでしまうのを止められないなら、何も考えず流されるのもいいのかも。
あたし、何考えてたんだろ。
アヤカが、あたしを守ってくれるんだって。
あたしはもう、守ってやろうとも思ってない。
もっと子供だった頃は、幸せにしてあげようとしてたのに。
今は、甘えまくってる。
梨華ちゃんは、守ってあげたいのにな。
守れてねぇけど。
何にも出来ねぇ。
ほんと、ダメなやつだ。
「・・・考えさせて」
「明後日の朝9時までに決めてね。空港で待ってるから。あと――――」
ベッドの中に、抱き戻す。具体的な話は、聞きたくない。
「来ないのも、答えでいいから」
何も答えず、アヤカの口を塞いだ。舌の上に、煙草の苦味が広がった。
- 395 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:03
-
- 396 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:03
-
2.
これで、泣きながらアヤカを抱いたのは二度目だな。
もう、押しつぶされそうだ。一夜明けて、昨夜の会話の続きも聞きたくなくて。
アヤカの部屋を出たものの、家に帰る気にもなれない。
どうして時は止まらないのだろう。
コンビニに行った。猫の餌を買って、裏に向かった。
寄ってくる黒猫を撫で、缶を開けてやる。
おいしそうに食べるこいつを見て、動物は人を見るというのを思い出した。
「お前、見る目ないのかぁ・・・?」
なんであたしなんかに寄ってくるんだろ。
ホントは気付いてんじゃないのかな。野良猫に同情されてんのかな。
だとしたらあたし、終わってんな。
手を洗いに中に入った。鏡を見たら、あたしじゃないみたいだった。
笑えねぇ。最近、なんにも笑えねぇ。
ドアをノックされて、急いで出ようとしたら、勝手に開けて入ってきた。
なんだ、変な奴だなと思いながらすれ違おうとしたら、腕を掴まれた。
驚いて振り払うが、がっちり掴まれて手は離れない。
ムカついて怒鳴りつけてやろうと思ったら、知っている人だった。
「美貴・・・」
美貴は悲しそうな顔をしていた。
- 397 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:04
-
あたしのバイクを見かけてコンビニに入ってきたらしい。
家から近いコンビニだったので、美貴を後ろに乗せて適当に走った。
知ってる人は誰も来そうにないとこまで離れて、公園を見つけて中に入った。
「いやぁ、昨日はすごかったわ」
だよな。やっぱ昨日の話だよな。説教されんのかな。
「何か知んないけど、あやちゃんが一番切れててさぁ」
「アヤちゃんかぁ・・・」
「んで、ミキが落ち着けって言ったら、何でそんな冷静なのぉって首絞められてさ」
「激しいねぇ・・・」
あたし、何言ってんだろ。
誰のせいだよ。なに他人事みたいに言ってんだよ。
「よっちゃんさぁ、どこ行ってた?」
「・・・アヤカ」
「ふーん」
美貴の表情は、全く変わらなかった。
予想通りなんだろうな。美貴だけは知ってるもんな。
「梨華ちゃんより、アヤカさん?」
息が詰まった。空気の塊が、体を内側から圧していた。
- 398 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:04
-
すこし時間が流れた。
呼吸を整える間、見上げた空を流れる雲が、遅く感じた。
美貴は、あたしが落ち着くのを待っていたように、本題に入った。
「ミキ、よっちゃんの好きにしろって言ったよね」
「・・・うん」
「撤回してもいい?」
違うんだ。美貴のせいじゃないんだ。
昨日、梨華ちゃんを拒絶してしまったのは、美貴に好きにしろと言われたからじゃないんだ。
望んでなんかない。
でもあたしは何も言えない。言葉が、見つからない。
「いや、個人的な意見は変わってないんだよ」
「え?」
「でもミキ、あんな梨華ちゃんも、ごっちんも、あやちゃんも、見てられない」
「・・・・」
「だからさぁ、どっちつかずなんてダメじゃないかなぁと」
何も、言えない。
振り払ってしまった梨華ちゃんにも、
あたしにぶつかってこようとしたごっちんにも、
怒っていたというアヤちゃんにも、
今、こうして悲しそうに語る美貴にも、何も言えない。
- 399 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:04
-
「みんな知らないじゃん?アヤカさんとのこと」
「・・・うん」
「知ってるの、ミキだけじゃん?」
「・・・うん」
「みんなさぁ、真っ直ぐなんだよ。何やってんだあのバカって、本気で怒ってんの」
真っ直ぐ。
「でも、ミキはそうじゃないの」
美貴は。
「分かるもん。よっちゃんが今どんな状況で、どんな風に悩んでて、
梨華ちゃんを振り払って、どんな気持ちになったか想像できるんだよ」
知ってるんだ。
「違うの。ミキはみんなと違うの。
梨華ちゃんのために、怒ってやることも、泣いてやることもできないで」
でも美貴だって。
「庇うこともできずに、よっちゃんだけを悪者にしてんの」
眩しいくらいに、真っ直ぐだ。
- 400 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:05
-
「・・・ごめんな」
「違うの、ミキに謝らなくていいの」
苦しめてる。あたしのせいで、美貴が苦しんでる。
「傷つけないで、あげてよ・・・いいから、よっちゃんの好きにしていいから」
望んでないよ。あたし、誰も傷つけたくないよ。
「みんなに、あんな顔させないでよ・・・」
こんなに、真面目で、真っ直ぐで、悲しんでる美貴を見たことがあっただろうか。
俯く目に、光るものがあった。こんなに、きれいに泣ける人だったんだ。
きっと、昨日あたしの流した涙は、こんなじゃない。
長い、長い沈黙の後に、あたしはやっと口を開いた。
「アヤカ、留学するんだって」
「・・・」
今度は、美貴が何も言わない。ごめん、誰かに聞いて欲しいんだ。
「誘われた。一緒にアメリカ行かないかって。
多分、うちの親なら許してくれる。明日、一緒に住むとこ探そうかって」
- 401 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:05
-
また、長い沈黙が流れた。公園は静かだった。
明るい光に包まれたこの空間に、目を赤く腫らしたあたしたちが座ってるのが、
ひどく、場違いなように思えた。
「よっちゃんは、アヤカさんと生きていくことに決めたんだね」
美貴が、諦めたように言った。
「あたしは・・・迷ってる」
行くか、行かないか。『来ないのも、答えでいい』というのには、
それだけ大きな決断を迫られているのだと感じさせられる。美貴の言うとおり、
この先もずっとアヤカと生きていく覚悟を決めろと言われているようで。
あたしは、迷っていた。
少し前なら、迷わなかったかもしれない。
さすがに、梨華ちゃんとそんなに離れるのは嫌だと言えたかもしれない。
あるいは、梨華ちゃんを好きだと気付いていなければ、即座に行こうと言えたかもしれない。
今は、梨華ちゃんが好きで、最後に見た梨華ちゃんの顔は、あたしにとって辛いもので。
離れたくなくて、離れたい。
触れたくて、触れたくない。
相反する気持ちが、あたしの中で渦を巻いていた。
- 402 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:05
-
「梨華ちゃんの傍に、居るべきじゃないかもしれない」
「・・・」
「こんなヤツは、梨華ちゃんの傍に居ちゃいけない」
あたしは、真っ直ぐじゃない。
迷いの源泉はすべてここに帰結する。
胸を張って、好きだという資格がない。
「こんなヤツがこっちに残って、
梨華ちゃんが好きだーって言っても、梨華ちゃんには迷惑なだけだよ」
「そんなことないよ・・・」
「あるよ。汚ねーもん。汚れきってんだもん」
どろどろとした内情が、吐露されていく。
「こんな奴が幼馴染で、ずっと近くに居てさ、
知ったらきっとうんざりするよ。いや、もうしてるかな」
止まらない。美貴だって苦しんでるのに。あたしのせいなのに。
こんなこと、美貴に聞かせたら、美貴がもっと苦しむのに。
「あたしなんか、梨華ちゃんにはいらないんだよ」
あたしが苦しんでるのを、美貴に知らせちゃいけない。止めなきゃ。
美貴をあたしの方に引きずっちゃいけない。なのに、止まらない。
「あたしは、梨華ちゃんの前から消えた方がいいんだ」
- 403 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:06
-
吐き出すだけ吐き出して、うな垂れるあたしの横で、美貴は黙り込んでいた。
公園には、気付くと数組の子供がやってきていた。
その中の一組。小さな2人と、少し年が離れているように見える子。
あたしと、梨華ちゃんと、アヤカ。子供の頃は、あんな感じだったな。
一番年上にみえるワンピースを来た子が、アヤカ。
小さい2人のうち、背が高くて黒い服を着た方が、あたし。
もう1人のピンクの服を着てる子が、梨華ちゃん。
なんで時計って止まらないんだろう。
なんで人は歩み続けるんだろう。
あのままで、よかったのに。
子供たちは無邪気に遊んでいる。
注意深く見てたら、ピンクの服を着た子の動きがすこし鈍いのが分かった。
あんまり、元気じゃないのかな。
黒い服の子がそれに気付いたようで、走り回るのを止めた。
少し離れたところに居た大きな子を呼びに行き、3人は去っていった。
大きな子が2人を守るように、庇うように歩く姿に、涙が出そうになった。
―――――『私は、何からでも守ってあげるよ』―――――
アヤカなら、あたしを守ってくれる。
もう、行こうかな。何も、考えずに。あたしの時計を止めて、流されるままに。
- 404 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:06
-
美貴が口を開いて、固まりかけた決意は溶けてしまった。
「ミキは、よっちゃんに答えをあげられるよ」
「え?」
「そんな悩み、全部吹き飛ばしてあげられるだけの事を、ミキは知ってる」
「な、なに?」
縋りつくあたしから目を逸らし、美貴は、俯いた。
たっぷり時間を使って、結局、首を横に振った。
「言えない。絶対、ルール違反だから。ミキは言っちゃダメなの」
「ルール・・・?あたしはゲームなんかしてねーよ・・・」
「ごめん、これも言っちゃいけないのかもしれない」
「なんだよ・・・教えてくれよぉ・・・」
答えがあるのか。なんで教えてくれないんだよ。
混沌の中に溺れてしまいそうなのに、何故その手を伸ばしてくれないんだ。
「ミキは、昨日、梨華ちゃんに教えてあげれなかった」
アヤカとのことを、だろうか。あたしの気持ちを、だろうか。
「だから、よっちゃんにも教えてあげれない」
「美貴・・・頼むよ、限界なんだ・・・」
「言えないよ」
なら、なんでそんなことあたしに言ったんだ。
- 405 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:07
-
「よっちゃんの見てる世界は、キレイすぎる」
キレイなんかじゃない。曇り空より濁ってて、深海よりも暗い。
「でも、本当の世界はもっと汚れてる」
本当の世界は、輝いているはずだ。晴天の空より澄み渡り、星空の瞬きよりも眩い。
光がなきゃ闇もない。世界が闇だというのなら、光を放つのはあたしじゃなければならない。
それだけは、絶対違う。
「ミキには、これ以上言う資格がない」
なら、誰に聞けばいい?
あたしに手を伸ばしてくれるのは誰なんだ?
アヤカか、梨華ちゃんか。
梨華ちゃんのはずがない。あたしは、傍にいる資格さえない。
アヤカと行くことが答えなのか?
「でも、正解があるから」
与えてくれ。その答えを、あたしの手が届くところに。
「逃げたりしないで」
強い、目だった。
- 406 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:07
-
これ以上何も言うことはないという美貴を、家の前まで送っていった。
「送ってくれてありがとう」
「いや。美貴まで悩ませて、悪かった」
去りかけたあたしの背に、美貴が思い出したように声を掛けた。
「よっちゃん」
「ん?」
「前に言ってたよね。みんなが幸せなのがいいって。間違えないって、信じてる」
信じてる。そう言う美貴の顔は、口調とは裏腹に祈るようだった。
幸せ。幸せってなんだろ。時が止まってもいいと思えたら。
あたしは今、時がとまればいいのにと思ってる。全然幸せじゃないのに。
決断のときを迎えるぐらいなら、このままでいいと思ってる。
明日のことは、明日決めよう。
でもあたしに、決められるかな。明日には、決まってしまうのかな。
答えは、どこにあるんだよ。
間違えたくない。選択を誤ればあたしはもう二度と上がって来れない気がして、
止まることができず、追ってくる時計の針から逃げるようにバイクを走らせ続けていた。
- 407 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:07
-
- 408 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:08
-
3.
通り過ぎぬ嵐はなく、明けない夜もないと言ったのは、誰だったか。
深夜まで走り回っていたあたしは家に帰り、とりあえず適当に荷物をまとめた。
どうせホテルに泊まるんだから服ぐらいだし、どちらでもいいように、準備だけは。
守られてしまおうかと思った。ぬるま湯のようなアヤカに包まれてしまおうかと思った。
でも、行くと決断することも出来なくて、一睡も出来ずに悩み続けていた。
インターホンが鳴った。こんな朝早くに迎えに来るのは、梨華ちゃんだろう。
何があっても、いつも通りの行動をするから。
梨華ちゃんにとって、あたしの行動など意味を持たないから。
すんげぇ気にしてんのに、気にしてない振りをして、あたしは梨華ちゃんに乗っかるんだ。
あたしは、怒鳴ってしまってから謝ることもできない。
迎え入れる勇気はない。でも、気になって様子を伺うことにした。
部屋から下を見るが、そこに梨華ちゃんの姿はなかった。
「あれ・・・?」
なんだろう。ごっちんに会うのも梨華ちゃんの誕生日に逃げて以来だな。
梨華ちゃんに会うのも気まずいけど、ごっちんも相当気まずい。
インターホンの鳴る間隔がどんどん縮まってきて、あたしは観念して玄関を開けた。
「どうし・・・」
言い終える前に、腹部に強い衝撃を受けて、あたしは蹲った。
いってぇ・・・。
- 409 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:08
-
「おはよう、よしこ」
「・・・おは、よ」
腹を押さえて、壁に手をつきながらなんとか立ち上がったあたしは、ごっちんと対峙した。
ちくしょお・・・。なんだよ。
「反省した?」
「何をだよ」
もう一発、今度はひざ蹴りが飛んできた。
いつもならあっさり避けれるんだけど、寝不足とさっきのダメージとで、
あたしはまともにくらってしまった。
「お姫様泣かしといて、逃げんの?」
どっかで聞いたセリフだな。あぁ、あたしが言ったんだ。
ごっちんに向かって。そのまま返されてるのか。
梨華ちゃんは泣いたのか。泣いてるのに、傍に居てやれなかったんだ。
そんなもんじゃねーな。あたしが泣かせたんだ。
はは、まんまじゃん。逃げ出して、誰かのとこに逃げようとして、捕まってんの。
「・・・ごめん」
「梨華ちゃんに言いなよ。来るんでしょ?あたしも待ってるから」
謝るとこ見ててやるって、中に入っていった。
そうだ。早く決めないと、梨華ちゃんがやって来てしまう。
- 410 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:09
-
「わりぃ、そんな時間ない」
「は?」
「今日、学校休むから」
「梨華ちゃん知ってるの?」
「知らないけど・・・。あ、メールする」
分からないけど。まだ決めてないけど。梨華ちゃんには、会えない。
とりあえず学校は休んで、ギリギリまで考えよう。空港に向かいながらでも。
だから、ごっちんにはさっさと帰ってもらおう。
「なんで行かないの?」
「3、4日出かける」
「どこに?」
「アメリカ」
「おじさん?」
「いや・・・」
言うか。もう、言うか。何思われたっていいや。
「アヤカ」
「・・・は?」
「アヤカが留学すんの。付いていこうかなって」
「なんでよしこが付いてくの?」
「アヤカと、付き合ってるから」
立ち上がり、あたしはごっちんの横を通り過ぎた。
- 411 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:09
-
背中に、ごっちんの飛び蹴りが入った。衝撃で、つんのめる。
「いっでぇ!!」
思わず、声が出た。ごっちんの追撃は、弁慶の泣き所。ピンポイントでつま先蹴り。
あたしすごくね?弁慶でも泣くのに、なんとか泣かずに頑張ってるよ。
「なんでこんな地味にいってぇとこばっかなんだよ!」
「はぁ!?」
「朝っぱらから来てさぁ、やるなら顔だろ!」
「梨華ちゃんが悲しむでしょ!」
出てきた名前に、あたしは沈黙した。
「顔面ぶん殴ってやろうと思ってたよ!あんたが逃げなきゃ殴ってたよ!」
逃げた。逃げたよ。梨華ちゃんからも、ごっちんからも逃げたよ。
だから、もう逃げる。まだ高校生だけど、国外逃亡する。
「あんなこと言われても梨華ちゃんはあんたが好きなのに!!」
「・・・は?」
梨華ちゃんが、あたしを好き?好きって、幼馴染だから?
そんなこと、今言わないよな。そうなのか?
何も知らずに、想ってくれてるのか。なのにあたしは、
「それでも行くって言うのか!!」
- 412 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:09
-
ごっちんのギャグじゃねーよな。テンションがマジ過ぎる。
「ぶん殴ってやるって言ったら、泣きながら止めてあげてって言われたの!」
結局、ぶん殴ってんじゃん。蹴りまでいれてさぁ。しかも地味にダメージでかいし。
「あんたが居なくなったら梨華ちゃんがどんだけ悲しむと思ってんだ!
あんなに想われてるのに・・・よしこはなにしてんだよ!!」
なにしてんだよって・・・、あたしなにしてんだろ。
なんで今なんだろう。アヤカが現れるのが、あと一ヶ月早かったら。
あたしは迷わずアヤカと歩いていけたのに。
なんで今なんだろう。この言葉を聞くのが、あと一ヶ月早かったら。
アヤカと付き合ったりしなかったのに。
全部、タイミングがズレてんだよ。
今、言うなよ。そんなこと聞いたら、梨華ちゃんから離れられなくなるのに。
もう、アヤカと付き合っちゃったのに。もう、梨華ちゃん好きになっちゃってたのに。
今から、逃げようとしてたのに。
「泣いてんじゃねぇ、アホよしこぉ!」
泣くしかないだろ。勘弁してくれよ。決めなきゃならないのか。
好きだよ、梨華ちゃん。でもあたしの恋人は、アヤカなんだよ。
嬉しいよ、梨華ちゃんがあたしのこと好きで居てくれたなんて。
あたし、こんなだけど、それを知っても、好きでいてくれるかな。
傍に、居たいよ。こんなバカだけど、ずっと、君の近くに居てもいいかな。
- 413 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:10
-
「はぁ・・・もういい」
「よくない!」
「いいよ、もう。行かない、アメリカ」
「・・・いいの?」
「いんじゃない?」
もともと迷ってたし。
居なくなった方がいいかなと思ってのことだし。
梨華ちゃんがこんなあたしを好きだというなら、外国になど行けるはずもない。
こんなだけど。こんなダメなヤツだけど、傍に居させて欲しい。
「アヤカさんは、どうすんの?」
「どーもしない」
「また逃げるの?」
「逃げねーよ。ちゃんと梨華ちゃんに・・・」
「そーじゃない!『ちゃんと』なんて言葉、二度と使うな!」
なにがだよ。決めたよ。ちゃんとだろ。あたし、決めれたじゃんか。
「アヤカさんから逃げるのかって聞いてんの!!」
・・・もう、止めてくれ。
せっかくアヤカが用意してくれた道なのに。
せっかく梨華ちゃんの傍に居ようと決めれたのに。
ごっちんは見たことないから。あの日のアヤカの顔を、目を、空気を。
思い出してしまう。それなのに、もう一度あの顔を見るためだけに行けなんて。
もう、止めてくれ。心が、砕けてしまいそうだ。
- 414 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:10
-
「ちゃんと会って、アヤカさんに行かないってちゃんと言え!」
「いいんだよ・・・もう」
連絡しなくても、行かなきゃそれが答えってことになるんだ。
また別れ際に、あんな顔見るのはごめんだ。
あぁ、あたしがこう思うのも想定して、アヤカはああ言ったんだろうな。
逃げていいよって、暗に言ってくれてたんだ。
「このヘタレバカ!」
いってぇ・・・またボディだよ。
なんだよ。そのテンションだったら普通顔だろ。
梨華ちゃんだって、ボディにしてくれてありがとう、とは言わないと思うぞ。
地味にダメージだけが蓄積されてくんだよ。マジいってぇ・・・。
「もー無理。寝てないし、くらくらする。運転できない」
「・・・鍵貸せ」
「は?」
「送ってやるからバイクの鍵貸せ」
またそんなムチャを。もともとバイクで行くつもりじゃなかったし。
冗談だよ。行くならタクシー乗るつもりだったよ。
「ごっちん、運転できるの?人乗せるのけっこー難しいよ?」
「3ケツでも余裕。」
お前何者だよ・・・。
- 415 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:11
-
ちょっと生きてること自体嫌になってきてたからごっちんに任せたのだが、
言うだけの事はある。逃げれるのに。せっかくアヤカは逃げ道用意してくれてたのに。
あたしは着実に運ばれてる。行きたくない場所に、どんどん近づいてる。
「免許持ってんのー?」
「持ってなーい!」
「なんで運転できるのー?」
「若気の至り!!」
ほんと何者なんだろう。
アヤカは、もうすぐそこに居る。空港に着き、バイクを降りた。
制服姿でごついバイクに跨るごっちんは、めちゃくちゃ目立ってた。
「早く行きなよ」
「ごっちんは?」
「ここに居る。待ってる。だから、絶対帰って来い」
確かに。荷物は何も持ってないけど、カードの入った財布は持ってる。
行き先は前人未到の秘境なんかじゃない。あたしは、まだ迷える。
でも、逃げ込みたいのはそこじゃない。
中に入り、一人座っているアヤカの元へたどり着いた。
なぜだろう。あたしを見たアヤカは、複雑な表情を浮かべているように見えた。
少なくとも、やっと現れたあたしに喜んでいるようには見えなかった。
「来ないと思ってた・・・」
そう言って立ち上がるアヤカの姿に、あたしはあの日のアヤカを重ねていた。
- 416 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:11
-
「よっちゃん?」
「・・・ごめん、行けない」
「え?」
心が痛い。内側から、削られてるみたいだ。きりきりと鋭い痛みが走る。
あんのバカ、顔でも殴ってくれてりゃこの痛みがアヤカにも伝わるのに。
地味にボディばっか抉りやがって。これじゃ痛そうな顔も出来ねーじゃんか。
どこにも逃げれない。辛いのを、アヤカのせいにも、ごっちんのせいにもできない。
「あたしの好きな人は、こっちにいるから」
「・・・」
「本当に、ごめん」
甘えてばっかで、ごめん。迷惑掛けてばっかで、ごめん。
弱くって、ごめん。こんなあたしに付き合ってくれたのに、こんなこと言ってごめん。
目を瞑り、アヤカの答えを待つ。顔を上げたら、見たくなかった顔を見てしまう。
「決めれたんだね」
「アヤカ・・・」
思いのほか穏やかで優しい声につられて、恐る恐る顔を上げた。
あたしの目に映るアヤカは、傷ついた顔などしていなかった。
「分かった。来てくれてありがとう」
アヤカは、微笑んでいた。初めから、これでよかったんだ。
あたしは何を悩んでたんだろう。本当に独りよがりでダメなやつだな。
- 417 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:11
-
「よかった。よっちゃん、きっと幸せになれるよ」
「アヤカも」
こんなダメなやつと離れられるんだ。それだけでも幸せだろ。
「きっとよっちゃんの好きな人も、よっちゃんのこと好きだよ」
「・・・勝手で、ごめんな」
本当に、どこまで見透かされてたんだろう。
「私こそ、ごめんね。悩んだでしょ?」
「いや、全部あたしが悪いんだ」
結局のところ、あたしは偉そうな決断など何もしていない。
でもあたしは、人を傷つけるばっかじゃないんだ。アヤカは、ちゃんと笑ってる。
本当に、ちゃんと向き合って言うより、逃げる方がよっぽど人傷つけるんだな。
「ほんとに、よかった」
やけに嬉しそうに言うアヤカに、理由を尋ねてみた。
「よっちゃんが決められるか見てたの。ちゃんと強くなれるかなって」
「え?」
「試すようなことして、ごめんね」
「・・・合格だった?」
「ギリギリね。飛行機乗ったら、一生逃がさなかった」
ごめん・・・カンニングで不合格かも。
- 418 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:12
-
「よっちゃん、大人になってるように見えたから」
見た目だけはね。
背もちょっと伸びたし。顔つきもちょっと変わったよ。
「すぐ、決めてくれると思ってた」
無理だよ、言えねーよ。丁度悩んでたんだ。
思い出してたんだよ。アヤカのこと。
梨華ちゃん好きだけど、あたしは触れることも出来ないって。
「でも、ずっと弱いまんまだったから」
そうだよ。つーか、中学生の頃より今の方が弱いよ。あの頃、怖いもんなんて何もなかった。
それと比べれば、怖いことめちゃめちゃ増えたよ。
「一生守ってあげようかなって思った」
思ったよ。あたしも。
ずっとアヤカといたら、すごく心地いいだろうなって。
すんげぇ、迷ってた。予想外の答え知っちゃって、ズルしちゃった感じだけど。
「梨華ちゃんの代わりでもよかったの。だから、気にしないでね」
代わり?そーかな。そうだったのかな。手に入らないから、アヤカに逃げてたのかな。
アヤカに触れて、梨華ちゃんに触れた気になってた時もあったな。
そんで梨華ちゃんがあたしの事好きだって聞いたから、ここに居るんだ。
ずりーよな。吐き気がしそうだ。あれ、誰が好きか、言ったっけ?
- 419 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:12
-
「好きな人が梨華ちゃんって分かってたの?」
「うん。っていうか、よっちゃん昔から梨華ちゃんが好きでしょ?」
「え、あ、いや、好きになったのは、最近なんだけど・・・」
「え?」
アヤカには、昔からあたしの愛情は伝わってなかった。
あの頃から、あたしの気持ちは梨華ちゃんに向いてたと思ってたらしい。
「ひっでーな。今はともかく、純粋な中学生が代わりになんてしねーよ」
「ふふ、よっちゃん純粋だったっけ?」
「え、純粋だったでしょ?」
「エロ親父みたいだったけど」
それは否定できない。でも、多分きっと、ちゃんと好きだったよ。
「もう、行くね」
微笑むアヤカを見送るあたしには、言わなきゃならない言葉があった。
「アヤカ!」
振り向いたアヤカに、あたしは多分、二度と言わないだろうことを口にした。
アヤカが帰ってからまたどこかで会ったら、その日の終わりに、またなと言うけど、
今日だけは―――――
「大好きだった。ありがとう、さよなら」
「・・・バイバイ」
- 420 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:12
-
***
- 421 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:13
-
バイクに戻ると、警察っぽい人に、ごっちんが捕まっていた。
「君、免許は?」
「これ、あたしのじゃないから」
「じゃあ、持ち主は?いや、学校はどうした?これどこの制服?」
「んあ〜、あ!あれ。あいつ!」
あたしを指差すごっちん。無免許だもんなぁ。ほんとムチャするやつだよ。
でも、こいつがムチャしてくれなかったら、あたしはきっとまだ逃げっぱなしだった。
アヤカの笑顔も見れなかったし、いろんな事、知らないままだった。
「すいません。そのバイク、あたしのです」
私服だったから、免許もしっかり見せて、なんとかやり過ごした。
開放されて伸びをするごっちんに、労いの言葉をかけた。
「お疲れ」
「んあー・・・おかえり。ほんっとに疲れた」
「・・・ただいま。帰りはあたしが運転するから」
「事故らない?」
誰のせいでくらくらしてたと思ってんだ。もうごっちんから受けたダメージは大分癒えたし。
あとはコーヒーでも飲めば。
「大丈夫だろ」
あたしたちは、空港を後にした。
- 422 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:13
-
帰り道で、ポケットの中の携帯が振動してるのが分かった。
このリズムは、メールかな。
「よしこー、携帯鳴ってなーい?」
腰に手を回したごっちんがそれに気付き、マズいこともないだろうと思って、
取り出して読み上げてくれと頼んだ。
ごっちんがポケットを探る。あ、ちょ、くすぐったいよ。
「んあ〜・・・アヤカさんからー」
アヤカからか。でも大丈夫だろ。
「かっこよかった、梨華ちゃんと相性悪かったらいつでも相手してあげるー・・・」
・・・相性って、やっぱあれだよな。
結構知り尽くしてるけど、まだ分からない相性って言ったら、あの相性しかないよな。
「よしこぉ?」
「・・・・」
「あ。顔が赤い!バカエロよしこ!!」
「おわ、ちょ、ダメだって!暴れんなよダメダメ、マジ死ぬ!!」
場所をわきまえて欲しい。走行中のバイクの上で運転者揺らすなんて。
正気の沙汰じゃない。もーちょいで帰れるのに、ここで死ぬ気か。
もう、余所見はしないのに。
- 423 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:13
-
「あー・・・死ぬかと思った」
三回ほどグラついて。つまりは三回ほど死にかけて。
やっとごっちんは暴れるのを止めてくれた。
「なーにー!?」
ボソッと吐いたから聞こえなかったらしい。
伝えても意味ないし、何でもないと言っても、聞き返されるだけだろうな。
「ごっちん学校行くのー?」
「行くよー」
そっか。めんどくせーな。ま、あたしのせいだし。
「つーかさー、あれ、マジー?」
「なにがぁー?」
「梨華ちゃんが、あたしのこと・・・その・・・」
「聞こえなーい!」
エンジンうるせぇからな。
大声で言うの、かなり恥ずかしいぞ。でも、今もう一回聞きたいな。
「梨華ちゃんは、あたしのこと好きなのー?」
すんげぇ楽な気分だから。今聞いたらマジ嬉しいしかないもん。
- 424 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:14
-
「知らなーい!自分で聞けばぁー?」
・・・・え゛?
「ちょ、待てよっ!」
「んあー?」
あたしは慌ててバイクを路肩に寄せて、ごっちんに詰め寄った。
「勘弁しろよ!お前が言うからアヤカと別れたのにっ!」
「はぁ?アヤカさんと行けばよかったって思ってんの!?」
いや、それは、ダメだったみたいだけど。
結果的にはこれが美貴の言ってた正解なんだろうけど。
そうだった。こいつはそういうヤツだった。適当の上に適当を被って生きてるんだった。
あたし、相当頭イカれてたな。いや、あのテンションじゃ信じるだろ。
大原則を忘れてた。ごっちんの何も信じてはならない。
「なんだよ、知らねーって・・・適当であたしの人生、決定しやがって」
「別に適当じゃないよ。よしこ、梨華ちゃんに嫌われてないよ」
「でも、好きって・・・」
「仲いいじゃん。嫌われてないじゃん。じゃあ、好かれてるよ。よかったねー」
「そういう意味じゃないと思ったのに」
「勘違い。いいじゃん。後悔してんの?」
「してねーけど」
「お、よかったねー。勘違いのおかげで人生間違わずに済んだじゃん」
- 425 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:14
-
「そういうことじゃなくてさぁ、嘘つくなって言いてーの!」
「嘘じゃないよ。嫌われてないよ」
「あの状況で好きって、絶対そういう意味だと思うじゃんか・・・」
「だって、あたし梨華ちゃんじゃないもん。意味なんて知らないよ」
あぁ、確かにこいつは梨華ちゃんじゃない。
梨華ちゃんがお前みたいなのだったら、ぜってー惚れねーよ。
「お前なんか信用したのが間違いだった・・・」
「あのさぁ、百歩譲って、トラウマで怖いから逃げるってのは認めるよ?」
トラウマ?あぁ、正月に話したやつか。そんな大げさなもんだったのかな。
そうだな。辛くて泣いてたもんな。トラウマか。
「でも好かれてるか分からないから逃げるなんて、許されると思ってんの?」
どっちにしろ大事な幼馴染が居なくなったら悲しむから、悲しませんなって。
騙したくせに、開き直りやがって。結果オーライじゃ済まされないぞ。くっそー・・・。
まぁ、おかげで間違えないで済んだみたいだけど。
こんなことでもなきゃ、あたしは未だにうだうだやってたんだろうけど。
「探り入れるぐらい、いいじゃんか」
「じゃ、自分で探りなよ・・・ってか、梨華ちゃんに振られればいいのに」
うあ。ひでー・・・。そんなこと思いながら騙したんだ。
真に受けて告って、あわよくば振られろ、って。
ショックを全部バイクのエンジンに送り込んで、また走り始めた。
- 426 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:15
-
「ごっちんさぁ、なんでそんなあたしのこと嫌うのー?」
「キライだったら今ここにいないーっての!」
まぁ。朝っぱらから来ないよな。寝坊がライフスタイルみたいなやつだもんな。
「つーか、梨華ちゃんとくっつけようとしてなかったー?」
「くっつけばいいじゃーん!」
あー・・・ホントに会話にならない。
振られればいいのに、で。くっつけばいいじゃん、か。
こいつを信じたときのあたしは、やっぱどうかしてたんだな。
バイクはどんどん進んでいく。見慣れた風景が目に飛び込んでくるようになってきた。
学校が近づいてくる。校門が見えてくる。いつもなら近くに止めるが。
「ちょ、」
「捕まってろよー!」
無免許なんかに負けてられない。ちょっと、魅せてやるよ。
坂道を利用して、生垣をバイクで飛び越える。着地地点、異常なし。
校舎中の視線が注がれ、あたしはそれを空中で受け止める。
ものすごい音がして、一瞬の静寂の後、職員室からの怒声と教室からの歓声に包まれた。
「さて、とうちゃーく」
「あー・・・死ぬかと思ったじゃん、バカよしこ」
うむ。さっきのお返しだ。
叩かれたが、メットのおかげで全然痛くない。
- 427 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:15
-
「どう?空飛んだ感想は?」
「はぁ、ホントにムチャするよね」
「お互い様だろ?ごっちんあれ出来る?」
ずっと目をつけてたんだ。校門の周りに、飛べそうな条件そろってたから。
「よゆう。」
「言ったな?今度見せろよ」
「いーよ。でも梨華ちゃん居ないときね」
梨華ちゃんは無免許運転なんか認めないだろーな。
降りてメットを脱いだら、ごっちんは顔をカバンで隠し始めた。
職員用の玄関からは、強面のうるささトップ5の先生方がそろってお出ましだ。
あたしは私服だし、ゴーグルとメットでこのまま帰れる。
あぁ、邪魔が入る前にこれだけは言っておかないと。
「ごっちん!」
今日は大サービスだ。そういう日でいい。
首を傾げて続きを待つごっちんに、一度きりしか言わないことを吐き出しておこう。
「お前と友達でよかった」
言わないよ、もう。だって恥ずかしいもん。
- 428 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:16
-
「ばぁ〜か」
「・・・おぅ。バカだよ」
「で?バカは今日サボるの?」
まぁ、これでのんびり授業受けてたら職員室の皆様の血管切れちゃいそうだし。
サボるよ、と言ってバイクを噴かすと、少し黙ってから、ごっちんが言った。
「あたしも」
「あん?」
「よしこと友達でよかったって、いつも思ってるよ」
「・・・さんきゅ」
ごっちんは笑顔で言う。
うわ、超グリーンデイズ。青ーい春とかいうヤツ堪能してんなぁ、恥ずかしい。
ほんと、あたしは大馬鹿だよ。全校生徒に見守られて何やってんだか。
そーいや美貴はあたしが頑張ってきたこと、分かってくれるかな。
美貴の姿を探して、見上げた窓際には、梨華ちゃんもいた。
胸を二回叩き、その拳を二人の方に掲げた。このメッセージは、届いたかな。
美貴。逃げなかったよ。戻ってきたよ。散々迷って、結局決めれなくて、流されそうになって、
ごっちんにおもっきりボコられて、最後は騙されて、けど結果、あたしはここにいるよ。
梨華ちゃん。好きだよ。君の前でだけは、強くあるから。
本当に君が想ってくれるような人になってみせるから。
そしたら、このハートを必ず贈るから。愛しているよ、心から。
振られても後悔しないくらい、頑張るよ。頑張るから。
- 429 名前:123 投稿日:2008/01/20(日) 04:16
-
そんなパフォーマンスが気に入らなかったのか、怒鳴りながら近づいてくる一団があった。
「やば、こっち来る!」
どうなんだろ。まだ微妙な距離だな。顔はまだ見えてないと思うけど。
っつーか時間がなぁ。この後すぐ教室入ったら一発でバレそう。
「ねぇ、どうしよ?」
「保健室行けよ。口裏合わせてもらえるから」
「あ、なるほど。じゃあよしこ、後頼む!」
「おう。任せとけ」
ごっちんが走り出したので、あたしは時間稼ぎを始めた。
爆音を響かせながら教師たちの進路を塞ぎ続ける。・・・こりゃ顔見られたら停学だな。
誰だーとか、うちの生徒になんの用だーとかいろいろ喚いてるけど、
答えるわけないだろ。バカだねー、あんたらも。あんまやりすぎて気付かれても困るので、
ごっちんの姿が見えなくなったのを確認するとすぐにあたしは学校を出た。
家に帰ってからアヤカのメールを見て、あたしは久しぶりに笑った。
ははっ、なんて事言うんだよ。ジョークだよな。しかも下ネタだよ。最低で、最高にクールだ。
メールには続きがあった。
“悩んだら、お姉さんがいつでも相談乗ってあげる”
・・・敵わねーな、ホント。ごっちんにも、ある意味敵わねーけど。
ありがとうと一人胸の中で呟き、あたしは眠りについた。
- 430 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/20(日) 04:17
-
- 431 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/21(月) 00:06
- よっちゃん、周りの友に感謝しろよ!
- 432 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/21(月) 04:42
- 顔はヤメな!ボディーにしな!ボディーに!
ごっちんがカッケーかったなー
よしこは本当に良い友達がいて幸せだね。
そして、この素晴らしい小説を読める私も幸せです♪
作者様ありがとう。次回更新も頑張ってくださいね。
- 433 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/24(木) 10:51
- 本当に素晴らしいです!
ごっちんが良い味出してますね。
でもここのキャラ全員大好きですよー!!
相性??やだ〜//
いしよしはどうなんだろう♪
作者さんありがとうございます。
更新楽しみにしてますね♪
- 434 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/25(金) 00:12
- すごく面白いです
何ていったらいいかわからないけど
言葉1つ1つに人物の特徴がでてるし
言葉1つ1つに実は意味や理由があったり
この作品がいつまでも続いてほしいと思いました
- 435 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/25(金) 14:10
- 梨華ちゃんが早く笑える日が来るように願っています。
- 436 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/28(月) 13:11
- よっしー視点、ごっちん視点、ミキティ視点。
個性が様々で、各々に共感が持て、素晴らしいです。
梨華ちゃん視点も。
ミキティ→ごっちんの語り口がすごく笑えましたww
作者様、楽しい時間をありがとうございます。
更新待ってます。
- 437 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:11
-
いつもどおりでいい
何の変哲もない、日常がいい
つまんないとか、面白くないとか
不満にばっかり目が行ってしまうけど
実際にいつもと違うことが起きたら
自分のペースを見失ってしまう
だから、いつもどおりの日常がいい
- 438 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:12
-
1.
よっちゃんの決断の日がやってきた。帰ってからは、一度も連絡を取っていない。
ミキは、迷わせただけだったのではないか。アヤカさんには、覚悟があった。
だから、付いて行ってもよっちゃんはそれなりに幸せなんじゃないかな。
でもいつか後悔するよなぁ。しょうがない、決めるのはよっちゃんだ。
「おはよう」
「おはよ、梨華ちゃん・・・一人?」
「うん」
校門近くで会った梨華ちゃんの傍によっちゃんの姿はなかった。
空港に行ったのだろうか。
「えっと、よっちゃんは?」
「う〜ん、よく分かんないんだけど」
「は?」
「ごっちんと出かけたみたい」
なんでよ。
梨華ちゃんが起こしに行く前に、バイクで出て行った。ごっちんと。
なんでよ。・・・ごっちん切れてたっけなぁ。海にでも沈められるのかな。
・・・ないな。いくらなんでも、殺すわけないな。
「そういやさ、大丈夫?」
「え?なにが?」
いや、だって。梨華ちゃん泣いてたじゃん。
ミキ実は起きてたんだよね。寝たフリ決め込んでたけど。
- 439 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:14
-
「あ〜、ほら。よっちゃんに触んなとか言われてさぁ。傷ついたんじゃない?」
「あぁ・・・でもよく言われてるし。寝起きとか大体あんな感じだよ?」
よっちゃんって寝起き悪かったっけ?
そんなイメージ全然ないけどな。梨華ちゃんの前じゃ常にふにゃふにゃしてるイメージ。
「多分ひーちゃんは覚えてないと思うけど」
「いや、意識あって言われるのはまた別じゃん」
「そーかなぁ?」
いや、絶対そうだよ。
そんなの梨華ちゃんだって認識してるかどうかも怪しいじゃん。
でもこないだのはさ、完全に起きてて言ってんだよ?だから泣いたんじゃないの?
っと。ミキ寝てたんだった。なんか最近言えないことが多すぎる。すっごいストレスだ。
「気にしてないの?」
「ちょっとは気になるけど・・・それよりひーちゃんが心配」
「は?」
「すっごい悩んでると思うから」
梨華ちゃんってエスパー?
いや、これが一緒に育ってきた効果か。
そういやよっちゃんも梨華ちゃんの行動とことん読んでる節があったな。
最近は全然分かってないけど。恋は盲目、目の前ピンク色で何も見えないのかな。
- 440 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:16
-
「ひーちゃんって、私に弱いとこ見せないのよね」
「へぇ、そうなんだ」
「うん。私ってそんなに頼りないかなぁ?」
ん〜・・・人それぞれだよね。ごっちんとか頼り切ってるように見えるし、
ミキ的には普通かな。真面目な意見聞きたいときは梨華ちゃんかなぁって。
そもそもミキあんま人に頼らないんだよね。頼れないというか。
なぁ〜んか信用できない。まぁ、梨華ちゃんは信用できる方だけど。
「そんなことないと思うよ?」
「う〜ん・・・ひーちゃん大丈夫かなぁ・・・」
うあ。この状況でよっちゃんを気遣うのか。
あんたすごいよ。新しい宗教興せそうなぐらい愛に満ちてるね。
「美貴ちゃんになら相談するんじゃないかなぁ」
お。ビンゴ。
いやいや、実はもう知ってます。
「その時は、聞いてあげてね?」
「・・・うん」
あのバカ、もし今空港に向かってるんなら、絶対間違ってるぞ。
こんな子残して行くなんて、大馬鹿だ。
- 441 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:17
-
マジでどこに居るんだろう。もう昼だ。
ごっちんと一緒にアヤカさんのとこ行ったのかな。
今度はごっちんがアヤカさんと対決させられてるんだろうか。
賭けてもいいな。ミキが勝てなかった相手にごっちんが勝てるわけがない。
よっちゃんが決めるしかないんだ。
アヤカさんは、よっちゃん自身に振られることを望んでるらしいから。
それもどうか知らないけど。あぁ、何で信用しちゃったんだろ。
いや、ミキはミキの勘を信じたんだけど。
勘って何だよ。外れるかもじゃん。ってか、外れたんじゃないの?
よっちゃんヘタレだからなぁ。いざとなったら泣き落としで人生捨てそう。
泣いて縋られて、分かったアヤカと行くよーとか言わされてんのかな。
よっちゃんならありえるんじゃないの?
ミキがごちゃごちゃ言うからって、アヤカさんに誤魔化されたんじゃないかな。
はぁ、騙されるやつが悪いんだ。もしそうなら、ミキもバカだったってだけだな。
そういうもんなんだ。信じちゃったミキが悪いんだ。
裏側まで知ってしまったミキはもう、このゲームに参加する資格がない。
そもそも断ったのかな?泣かれるまでもなく、行きますって言ったのかも。
ごっちんがそんなの見送りに行くかぁ?行かないだろうな。
じゃあ、一応断ってるのかなぁ。
一度信じちゃったからには、もう信じるしかないんだよね。
信じてるって言ったけど、ごめん。全然信じてなかったわ。
今から信じる。だから、帰って来いよ。頼むから。
- 442 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:17
-
考え事ばっかで授業を全然聞いてなかった。まぁ、要るか要らないかって言ったら、
もう要らないんだけど。とりあえずは、と思って一瞬教室を見渡したら、
珍しく授業に集中していない様子の梨華ちゃんが目に入った。
上の空で、なにを思ってるんだろう。
窓際の梨華ちゃんに目を留めて、ある異変に気付いた。
外からものすごい爆音が聞こえる。
近くをすごいバイクが通ったのかなと思ったら、音はどんどん大きくなっていく。
大きな道から外れて学校に近づいてきているのだと気付き、教室がざわめきだした。
以前、エンジン音が変わったのだとかよく分からない自慢をされたことがある。
聞かされたけど、うるさいとしか思わなかった。違いなんて分からなかったのに。
ずっとよっちゃんのことを考えていたせいか、その音がよっちゃんの音に感じられた。
記憶ではない場所が、おそらく全くの勘でしかない場所が、何故かはっきりと、
この音はよっちゃんの音だと叫んでいた。
いよいよ校門辺りまで迫ってきた音に、ミキは思わず席を立ち、他の子もそれに続いた。
窓から外を見る。その瞬間、大きな塊が校内に飛び込んできて、
それがアクロバティックな動きのバイクだと理解した瞬間、着地地点から鈍い音が響いた。
よく見れば後ろにはうちの制服を着た子が跨っており、
あの動きが二人乗りのままだったのだと知る。すごいな、誰だ?
そして、バイクから降りる制服姿に目を凝らし、ミキはその犯人を理解した。
同時に前に乗っているのが誰かも想像がつく。ミキの勘は、正しかった。
- 443 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:18
-
ど派手な登場は、この学校全体の空気を変えた。そこら中から歓声が上がっている。
マジやってくれるよ、あのバカコンビ。むちゃくちゃだ。
さっさと逃げるのかと思ったら、バカコンビはなにやら二人でじゃれ合っている。
さすがに何を話しているのかは全く分からない。
大きな声で話していそうな雰囲気だけど、
その声に耳を傾けるには、教室棟は盛り上がりすぎていた。
「あれ、ひーちゃんだよねぇ・・・」
ホントに困った子って、梨華ちゃんは眉根を寄せている。
やっぱ分かったんだ。さすがだね。困んないでよ。ミキは、嬉しいよ。
どこ行ってたのか知らないけど、よっちゃん決めたんだ。ここに、いるんだね。
・・・おかえり、待ってたよ。
そんな心の声が聞こえたかのように、よっちゃんはミキたちの教室を見上げた。
よっちゃんが胸を指した後、こちらに向けて拳を突き出したのが分かった。
あぁ、伝わったよ。自分で、決着つけてきたんだ。アヤカさんは、嘘吐いてなかったんだ。
よかった。疑って、悪かった。どっちも信じてよかったんだ。
・・・分かったからさ、早く逃げなよ。マジで捕まるよ。
そう思っていたら、やっとごっちんがカバンで顔を隠しながら走り去り、
追いかけようとした先生をよっちゃんがバイクで威嚇していた。
おいおい、バレたら停学じゃ済まないぞ。本気でバカだな、あいつら。面白すぎる。
もう先生まで授業そっちのけで窓から身を乗り出している。
- 444 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:18
-
一際大きな音を上げ、バイクは出て行った。
捕まえに出て行った中の一人が腰を抜かしているのが見えた。
あーぁ、あの人今日から威張りづらいだろうなぁ。底が見えてしまった。
情けない。校内でしか偉そうに出来ない根性なしですって言っちゃったようなもんだな。
よっちゃんが去っていっても、学校はしばらく余韻に包まれていた。
あの二人には、そういう力がある。学校中の、エンターテイメント。
やっぱ、あいつら最高。あいつらが居る空間って、最高。
ホントにいなくならなくて良かった。
「梨華ちゃん、ダーリンすごかったね」
「やりすぎだよねぇ」
「こぶし、突き出してるの見た?」
「見たよぉ、ほんとにかっこつけなんだから」
つけさせてやってよ。あれだけは。
きっと、すごい決意の表れだからさ。
「梨華ちゃんに、メッセージだね」
「なんだろね?」
「愛してるのサインとか」
「だといいけど」
全然本気にしてなさそうな笑いで流されてしまった。
マジで当たってると思うんだけどな。
- 445 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:19
-
「よっちゃん、元気そうだね」
「そだね。よかったぁ・・・」
よかったかぁ・・・ミキには言えないな。
心配させられて、知らないとこで勝手に元気になってたら、すんごい腹立つ。
ミキの心が狭すぎるのか、梨華ちゃんの心が広すぎるのか。
ごっちんが言ってたなぁ。
本気で人のためだけに頑張れる人って。
・・・やっぱ、バカ見てんじゃん。悪いけど、痛々しいよ。
可哀そうだもん。理解できない。なんでそんな風に生きれるんだろう。
もっとさぁ、あるじゃん。自分の好きなように生きる方法って絶対あるじゃん。
そうだよ。よっちゃんのことだってそうだよ。
ヘタレなんだから、無理やり言い寄れば絶対断りきれなくなるよ。
泣き落としもちょー有効だよ。
まぁ、フェアじゃないか。それでもさぁ、もっと、あるよね。
誕生日のことに限って言えばさ、絶対責める権利あるよね。
そんなに、自分を犠牲にしなくてもいいじゃん。
「あのさ――――」
「こらぁ、座れー!!」
先生が叫びだし、窓際から人の流れができていく。
梨華ちゃんも、流れに逆らわずミキに背を向け、席に着く。
- 446 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:20
-
「藤本ー、座れよー!」
最後の一人になってしまい、慌てて席に向かった。
ミキは、今何を言おうとしたんだろう。
よっちゃんが何をしてたか全部言ってしまおうとしたのか。
それでも、梨華ちゃんが愛想を尽かさないか、試そうとしたのか。
それでも、梨華ちゃんは自分を押し殺し続けるのかと、聞こうとしたのか。
なんのために。違う。違うだろ。ルール違反だし、
ミキのエゴだ。価値観の押し付けだ。何をしようとしてたんだ。
理解、したいのかもしれない。
よっちゃんはあんなに悩んでたけど、
結局のところ梨華ちゃんと付き合っているわけではない。
ミキなら、考え方を変える。自分を正当化する。
よっちゃんは、決してそうはしなかった。
そのために輝きを失い、頭抱えて、ぐちゃぐちゃになって。
暗く沈んでいたのに、この上なく澄んでいると感じたのは、多分気のせいじゃない。
梨華ちゃんは、何も知らされずに、ただ振り回され、傷つけられ、
それでもよっちゃんを思いやり、どこまでも広い心で、その全てを受け入れている。
ミキなら、キレる。
振り払われた時点で、終わりだ。
聞きたかったのか。それでも好きだと言って欲しかったのか。
純粋なものに、触れたかったのかもしれない。
- 447 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:21
-
放課後になり、ごっちんは職員室に呼び出された。重要参考人らしい。
大当たりなんだから笑うよ。ごっちん停学かなぁ。
残念。面白かったのに。
「梨華ちゃん、今日委員会だっけ?」
「うん。校則変えるって気合入ってるんだよねぇ」
うわ。よく出るよね、その話。
実現したことないのに、半年に一回はそんな話になる。
各委員会で真剣に話し合われるらしいから、どうでもいい人には大変だ。
もう卒業なのに、そんな記念残さなくていいよ。後輩が勝手に苦しめばいいじゃん。
「おつかれ。じゃ、ミキ帰るね」
「うん。じゃあね」
どうしようかな。
梨華ちゃんいないし、よっちゃん家寄ってからバイト行こうかな。
ぼんやりと校門を出たら、誰かに呼び止められた。
「みきたん!」
こう呼ぶ人間をミキは一人しか知らない。
よっちゃんはまた今度だな。
- 448 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:21
-
「あれぇ?ごっちんはぁ?」
「職員室。怒られてんじゃない?」
「なんで?」
「あやちゃんも見たでしょ?あのバイク」
「え、まだ怒られてるの!?」
そーだね。その反応の方が正しいよね。
よっちゃんは私服だったけど、あのジャケット見たことあるし。
ごっちんなんか制服なんだから丸分かりだったからね。
放課後まで呼び出されなかったことのほうが驚きだよね。
「バレたの、さっきみたいだよ」
「そんなもんかなぁ」
そんなもんです。年取ると鈍いんだよねぇ。
「ってか、どうしたの?」
「あ、みきたん今日バイトでしょ?私も行く」
「ん。じゃ、行こっか」
二人で歩いて、よっちゃん家の前を避けてたら突っ込まれて。
思い出して説教してやると息巻くあやちゃんをなだめて。
あやちゃんが帰った頃にやってきたごっちんから話を聞いて。
徐々に日常を取り戻していることを実感した。
- 449 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:21
-
- 450 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:22
-
2.
やっぱ、人の心って純粋なものにしか動かせないのかな。
昨日のバイトで、ごっちんからいろいろと聞かせてもらった。
事細かに聞き出して、ひとつ下って若いなぁと思った。
バイクの件については、シラを切りとおして次の日に持ち越しになったらしい。
あと、なんか青春してんなぁと思った。さっぶい。
でも結局ごっちんには、ミキが初めから知ってたことは言えなかった。
昨日はよっちゃんに会わなかった。久しぶりにバイト先に来るかと思ったが、
よっちゃんは来なかった。電話はしてみたが繋がらなかった。
「おはよう」
「おはよ。あれ、また一人?」
「ひーちゃん、起きなくて・・・」
「あー、お疲れ」
朝一番に会ったのは、梨華ちゃんだった。
起こしに行ってきたのかぁ。また暴言吐かれたのかな。
よっちゃんは眠り続けてるのか。無理もない。ムダに神経細いからな。
アヤカさんが現れてからまともに眠れなかったのかもしれない。
「よっちゃんと話した?」
「んーん。昨日もずっと寝てたみたい」
今日も休んで眠り続けるのかな。
電話も出ずに・・・出ろよな。
- 451 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:23
-
言えないことが多すぎて、ミキはもやもやしていた。
すごいストレスだ。梨華ちゃんに事の顛末を伝えるのは、ルール違反だ。
ミキはアヤカさんの言葉に乗ってしまったときから、このルールに縛られている。
一度従ってしまった以上、決着がつくまで傍観者で居続けなければならない。
代わりに、ずっと気になってたことを聞いてみることにした。
「ねぇ、梨華ちゃんの初恋って、よっちゃん?」
「・・・・うん」
梨華ちゃんは赤くなっている。何歳だよ。
「他には?ずっとよっちゃん一筋なの?」
「う〜ん。そうかも」
「イヤになったことないの?」
「ないと思う?」
「・・・・思わない」
ほかの事にはとことん器用に敏感に対応するくせに、
梨華ちゃんの気持ちにだけは気付かず、どこまでも鈍感。
本気で心配する梨華ちゃんを笑いながら馬鹿にしてからかう。
飄々と捉えどころがなく、笑顔を振りまくくせに気難しい。
バカで、見た目を除けばただのガキ。しかも悪ガキ。
「でも、やっぱ好きなんだ?」
梨華ちゃんは疲れたような笑顔で頷いた。一種の悟りを啓いているかのようだった。
- 452 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:23
-
「梨華ちゃんさぁ、よっちゃんのダメダメなとこ好きでしょ?」
「そう。私そういうの好きなの」
結構いるんだ。ダメな人を放っておけないどころか愛してしまう人が。
「梨華ちゃんって幸せになれないタイプだよねぇ」
「え?私、幸せだよ?」
「はぁ?」
「だって、何億人に会ってもこんなに愛せる人に出会えるかどうか分からないでしょ?
ひーちゃんがこんなに愛おしいって思えるだけで、私はきっと幸せだよ」
「あ・・・」
人を、愛せる幸せ。愛する人に出会えた幸せ。幼馴染なんだから、
誰よりも早く出会えたってことか。じゃあ、梨華ちゃんは誰より幸せなのか。
人それぞれ、見る角度が違うんだなぁ。
「なんて。ちょっと負け惜しみかもしれないけど」
舌を少し出して、いたずらっぽく笑う梨華ちゃん。
負け惜しみなんかじゃない。そんな考え方が出来るのは、幸せな証だ。
「ごめん、ミキお腹痛いから帰ったって言っといて」
「え?サボるの?」
「いや・・・・お腹痛いみたい」
しばし呆然とした後、梨華ちゃんが苦笑しながら、分かったと言ってくれたので、
ミキは来たばかりの学校を後にした。
- 453 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:24
-
ミキはずっと電話を掛けていた。かれこれ一時間以上はこうしている。
寒い。携帯からは呼び出し音だけが鳴り続けている。
その時、やっと反応があった。ピーという高い電子音。
・・・ミキの携帯の電池が切れた音だった。
しぶしぶコンビニに向かい、充電して、また電話を掛け始めた。
『・・・ぁぃ』
掠れた声が受話器から聞こえた。やっと、繋がった。
「よっちゃん、開けて」
『・・・ぁ?』
「玄関。今、家の前に居るから」
それだけ言って切った。
しかし目の前の扉はなかなか開かれない。
痺れを切らしてまたリダイヤルを押しかけたときに、よっちゃんが顔を出した。
あまり開いてないような目でミキを一瞥し、何も言わずに引っ込んでいった。
入れってことだろうと解釈して、ミキもついて行った。
リビングに通され、シャワーを浴びてくるから待っていろと、また掠れた声で言われた。
ソファに一人で座って、ふと気付くと、何をしに来たのか分からなくなった。
- 454 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:25
-
梨華ちゃんと話してて、思い出したんだ。
最近よっちゃんの話ばっか聞いてて忘れてたけど、
この二人に積極的に関わろうと思ったのは、梨華ちゃんの想いに胸を打たれた。
だから、無性になにかしてやりたくなって飛び出したんだけど、
あのバカ起こすのに一時間もかかってしまったから、熱が冷めてしまった。
ミキは、熱くなるのに向いてない。
梨華ちゃんの気持ちを代弁するわけにはいかないし、
よっちゃんの気持ちを代弁するわけにもいかない。それがルールだ。
ならいったい何をしに来たんだろう。授業ももう数えるほどしかないのに。
投げ出してここに来て、ミキはなにをするつもりだったんだろう。
聞いてみたいのか。よっちゃんからも同じ言葉を聞きたいのか。
聞けるのか。よっちゃんは、そんな運命めいたものは感じていないかもしれない。
好きだよ、だって可愛いじゃん、くらいの。もしそうなら、ミキはどうするんだ。
人の気持ちなんて変わらない。少なくとも、第三者になんて変えられない。
どちらも、好きという気持ちに変わりはない。言葉の上では同じだ。
その背景の違いを責める権利など、ミキにはない。
冷静になってみればどちらにしろ、ミキに言えることなど何もないのだ。
勢いに乗せてなら言えたかもしれないけど、勢いはどこかへ行ってしまった。
つくづくミキは、熱くなるのに向いてない。
- 455 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:25
-
考えがまとまる前に、よっちゃんがシャワーを終えて出てきてしまった。
「これあげる」
「お、さんきゅ」
充電のついでに買っておいたサンドイッチを差し出した。
お礼を言うよっちゃんの声はもう掠れていなかった。
よっちゃんがサンドイッチを頬張っている間、ミキは考え続けていた。
「よっちゃんさぁ」
「ん?」
やっと言葉を発したのは、よっちゃんが最後の一片を口にしたときだった。
別によっちゃんの食事が終わるのを待っていたわけではないのだが。
「初恋とか、覚えてる?」
「覚えてない」
うん。なんとなくそんな気はしてたけど。
よっちゃんは手元にあったジュースを口に含み、首をこきこきと鳴らしていた。
「美貴は?初恋のこと覚えてる?」
「覚えてるよ」
幼稚園ぐらいのとき。同じクラスの子で、その頃はかっこよく見えたんだ。
まぁ、子供のことだから、他に語れるようなエピソードもないんだけど。
- 456 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:26
-
「それって、今でも特別な思い出?」
「いやぁ、そうでもないかな」
「ふーん」
あれ、こいつ・・・。ミキの初恋なんか気にするやつじゃないだろ。
「よっちゃん、覚えてるでしょ?」
「・・・・」
無駄に正直。いや、空気に敏感なんだろうな。
もうバレてるの分かったから、次はどう逃げるかってことに考えが移行してんだろうな。
何を照れてんだか。言いたくないなら、もういいよ。
梨華ちゃんなのか、別の人なのか知りたかったのはそれだけだし。
「ってか美貴は何しに来たの?」
「・・・授業受ける気分じゃなかったからかな」
「ふーん」
オマエほんとにミキに興味ないよな。
別にいいけど。興味持って欲しいとも思ってないけど。
そのままテレビに突っ込みいれたり、ごろごろしてたら昼が過ぎ、
制服を掛けて、ジャージを借りて、コンビニに行った。
昼食つまみながらだらだら過ごして、梨華ちゃんの話はもうしなかった。
- 457 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:26
-
「・・・ミキ、寝るわ」
「おぅ、おやすみ」
だるい。気力が失せた。一瞬でも燃えちゃったせいだな。ご飯食べたし、眠い。
よっちゃんの部屋に行って、一人で無駄に広いベッドに入った。
***
起きたらよっちゃんが横に居た。こいつどんだけ寝る気だよ。
「あ!!」
ふと携帯を開いて、思わず叫んでしまった。
着信履歴・店長、ごっちん、店長、ごっちん、ごっちん、ごっちん、ごっちん、ごっちん。
ごっちん率たっけーな・・・。いや、バイトだった。ミキもどんだけ寝てんだよ。
軽く5、6時間は寝ている。あぁ、もう。バカやってしまった。
急いでごっちんに掛けなおす。こんだけ掛けてきてんだから出るだろう。
「あ、ごっちん?ごめん、今日、ミキさぁ―――」
『んぁ?梨華ちゃんに聞いたよ。おなか痛くて学校休んでたんでしょ?』
「あ。」
そういやそんな設定にしてたな。忘れてたけど。
「え、っと。バイトさ、無断欠勤・・・だよね」
『んあ?言っといたよ?」』
「は?早く来いって電話してきてたんじゃないの?」
『優しさだよ、優しさ。大丈夫?って聞こうとしたの』
- 458 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:27
-
いや、オマエ掛けすぎ。
病人だと思ってんなら、出なかったらそっとしとくのも優しさだろ。
「あぁ・・・っと、ミキ今日休んでいいの?」
『いいんじゃない?ちょっと待ってね・・・てーんちょー!!!』
叫ぶな。病人だと思ってんだろ。病人じゃないけど叫ぶな。うるさい。
叫ぶ声がでかすぎて、よっちゃんが飛び起きた。口を開きかけたので、急いで制した。
さっきミキが真横で叫んでも起きなかったのに。ごっちん、すげー・・・。
『んぁ、はーい。・・・いいって』
「・・・そう、ありがと」
電話を切ったミキは、よっちゃんに何事かと問われた。
ざっと説明したら、寝起きの不機嫌な顔をして部屋を出て行った。
「美貴ー、散歩付き合わねえ?」
下からよっちゃんが叫んでいる。見ると脇にはヘルメット。
散歩って、絶対徒歩じゃないだろ。それ被って歩くの?なにやらかしたの?
「散歩だよ。いいから来いよ。帰ったらママにサボったのかって言われるぞ」
学校もバイトもサボってこんな時間に家に帰れない。
もうちょっとしてから帰ればバイト行ってたことに出来るな。
暇つぶしと割り切って、よっちゃんと外に出て、バイクの後ろに乗って走り出した。
- 459 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:27
-
「どこ行くのー!?」
よっちゃんは答えない。
ちょー寒い。服貸してもらったけど、それでも寒い。
なんでこいつこんなの好きなんだろ。どこに行きたくてこんなのの免許取ったんだろ。
喋るだけで体温が逃げて行く気がして、ミキも黙っていることにした。
しばらく走って、着いたのはこないだの公園だった。
街灯が切れていて、真っ暗だった。・・・怖ぇーよ。
公園の自販機であったかい飲み物を買って、暗がりのベンチに座るよう促された。
「よっちゃん、何しに来たの?」
「うん?ここで話したくて」
「なにをよ?」
「続きだよ。アヤカとのことは分かったんだけどさ・・・」
先日、よっちゃんに言った話の中で、どうしても分からなかったことがあったらしい。
部屋で聞いてくれればいいじゃん。寒いよ。
別に場所変わってもミキの言うことは変わんないよ。
「こないだの話の続きねぇ・・・」
よっちゃんは、神妙な顔をして、ミキの話に耳を傾けていた。
「世界はさ、よっちゃんが思ってるより汚れてんだよ」
何も言わないよっちゃんに、ミキは続けた。
「みんな、よっちゃんが思うよりズルイし、みんなそんなの分かってんだよ」
- 460 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:27
-
「小狡くさ、みんな上手く立ち回ってるだけなんだよ。
だから、ミキが好きにしろって言ったのは、上手くやれってことだったの」
よっちゃんはまだ黙って聞いている。自分がずるいからって悩む必要なんかない。
「でもよっちゃん、すっごい辛そうだったから言ったの。そんだけ」
真っ直ぐに前を向くよっちゃんに、思わず言ってしまった。
「・・・なんか言えよ」
「何言ってもダメじゃね?」
確かに。ミキは自分で言いながら嫌気が差していた。
どんなキレイごとを並べられても、納得できない。ミキも本気だ。
吐き気がするほどに汚れてると、本気で思ってる。なのに、聞きたいんだ。
梨華ちゃんからも、よっちゃんからも、きれいな言葉を聞かせて欲しいんだ。
汚れているのはこの世界そのものではなく、ミキなんだと思いたいんだ。
じゃなきゃ、悲しすぎる。全てがあまりに、悲しすぎる。
「ごっちんがさぁ、アヤカにちゃんと会って断れって言ったんだよ」
「は?なに、急に」
「あたしさ、すっぽかす気だったの。それで行かないってことで済ますはずだったの」
「あぁ・・・ごっちんに大体聞いたよ」
「あ、マジで?」
ニヤニヤと、何か企んでいるようで、何も考えていないような笑顔で言う。
- 461 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:28
-
「有り得ねーよな。梨華ちゃんはあたしのこと好きなのにとか言ってさ」
「はぁ!?」
「あれ、聞かなかった?あいつ、あたしのこと騙したんだよ?」
聞いたけど。誤魔化したって言ってたけど、絶対誤魔化せてないと思ってた。
え、騙したって。いや、オマエ今現在騙されてるんじゃない?
・・・ごっちんに騙されるようじゃ、ダメだと思う。
「・・・騙されたってわりには、嬉しそうじゃん」
「はは、だってこれが正解だったんだろ?」
「そだね、ホントに正解か決まるのはまだ先だけど、ミキが言ったのは、これだね」
未来が未来のままじゃ分からない。梨華ちゃんとよっちゃんが付き合って、その時初めて、
あの時行かなくて良かったねってなるかもしれないし、ならないかもしれない。
「梨華ちゃんも、同じように想ってくれたら、あたしはこんなに幸せなんだなって思って」
想像させられたわけか。あやちゃんに頼んだときと同じだな。
「マジで想ってもらえるような奴になることにした」
自分のことに鈍感なのかな。想われてんだよ、同じようにどころか、多分それ以上に。
運命の相手だと思われてんだよ。伝えれないけど、ダメなままでもいいらしいよ。
やっぱこの顔が、この輝くような笑顔が『吉澤ひとみ』なんだろうな。
ホントにごっちん、誤魔化したんだ。そんな話術があるとは思わなかった。
それとも、梨華ちゃんに愛されてるっていうのは、そんなに有り得ないことなのか。
- 462 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:28
-
「美貴」
よっちゃんは上を指差し、微笑んでいた。キレイな笑顔だった。
「空。見てみ」
言われて見上げたそこには、息を呑むほどに美しい星空が広がっていた。
「この世界は、キレイだよ」
言ってくれたんだろうか。ミキの望む言葉を。
それとも単に、この景色のことを言っているのだろうか。
夜空にくっきりと浮かぶ星々を、汚れているとは思わないが。
「あたしは好きだよ。この世界。梨華ちゃんいるし」
オマエの世界の中心は梨華ちゃんか。簡単に言ってくれる。
「行かなくて良かったと思うよ」
梨華ちゃんが、こいつを愛する理由が分かった気がする。ダメなとこだけじゃないな。
きっとこんなの、ほんの一部なんだろうけど。梨華ちゃんはこいつのことを、
もっともっと知ってて、そういうの全部含めて愛してるんだろうけど。
「・・・そだね。キレイだね」
よっちゃんの横で見る世界は、本当にキレイだ。
こいつは世界を愛し、世界に愛されてるような気がする。
- 463 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:29
-
人のために動くような奴、いないんだ。
胸張って、汚いのを自覚して生きた方がよっぽど潔いじゃないか。
したたかに生きないと。この世界は、したたかに生きるものしか受け入れない。
したたかでないと、受け入れられない。自己犠牲なんて、偽善だ。偽善者なんて大嫌いだ。
この世界には色んな思惑があって、それが複雑に絡み合ってんだ。
気付いてるのに、気にしない。それがみんなの世界なんだ。
それが耐え難いものだと、そう感じられるだけでよっちゃんは、
キレイすぎるほど、キレイなんだ。
これはミキの本当に勝手な意見だから、伝えることはないと思うけど、
ミキは、よっちゃんにこのままでいて欲しい。
どこまでも真っ直ぐで、純粋で、この世界を愛していて欲しい。
ミキは多分、これから変わっていく。梨華ちゃんやごっちんが泣いていても、
心の底から平然と振舞えてしまうようになるだろう。ならなきゃ、生きていけないと思う。
でもこいつが変わらないでいてくれたら、またこいつを見たときに、
愚直だと笑ってしまうような自分を見つけてしまったときに、
振り返って、自分を見つめなおせるような気がするから。
「さて、帰るかぁ」
「・・・よっちゃん、待って。もーちょい見てたい」
「お、いーよ。じゃあ、星座教えてやろーか?あの星が―――――」
卒業までもう少しだけでも、こいつの世界を見ていたい。
- 464 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:29
-
- 465 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:29
-
3.
今朝は久しぶりに梨華ちゃんとよっちゃんが並んで登校してきていた。
ミキが帰ったときにはもうかなり遅い時間だったし、多分二人はまだ話してないだろう。
梨華ちゃんは、知らない。そんでいつもどおりに振舞って、
よっちゃんはそれに助けられてる。そんなとこだろう。
「よっちゃん、また起こしてもらったの?」
「そーだよ。なに?」
「学校ぐらいちゃんと起きて来ないと梨華ちゃんが心配で卒業できないよ?」
「美貴ちゃん、大丈夫だよ。ね?ひーちゃん、ちゃんと行くよね?」
「うん」
幼稚園児か。当たり前のことなのに偉そうに言い切りやがって。
「ってかさ、おじさんとおばさんは?」
「あ、パソコン開いたらメール来てた。今週帰るってさ」
「へぇ、長かったねぇ」
「まだ甘いよ。えーっと・・・梨華ちゃん、一昨年の夏どれぐらいだっけ?」
「んーっと、三ヶ月と十日だったかな」
うあ、絶句。そんだけあったら子供の顔変わりそう。
「んあ、よしこだ!」
「おぅ、寂しかった?」
「調子乗んな」
「え、言い方冷たすぎじゃね!?」
ごっちんにも会って、よっちゃんとごっちんがじゃれ合ってて。
梨華ちゃんがそれを微笑みながら見てて、うん。日常だ。
- 466 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:30
-
今日は妙な噂を耳にした。
よっちゃんは、ごっちんと付き合ってるそうだ。
へぇ、初耳。みんな暇だねぇ。ミキも人のこと言えないけど。
タイミングよく昼休みにごっちんがやってきた。
「あれ、よっちゃんはぁ?」
「んあ?寝てるよ」
「また?どんだけ寝るんだよ」
「ずっとまともに寝てなかったんだってさ」
ホントに神経細いな。これなら梨華ちゃん安心だ。
この先もきっと浮気したらすぐ分かるよ。
「次の授業も寝てたら顔に落書きしといて」
「いーよ。何描こう?」
「ヒゲとか?」
「うわ、フツー。面白くない」
コロスぞ。じゃあ、面白いの描けよ。つまんなかったら罵り倒してやるからな。
「あ、よっちゃんと付き合ってるんだって?」
「・・・それ、めちゃめちゃ言われるんだけど、出所はミキティ?」
「だったらどうする?」
「・・・・」
沈黙ってムダに語るより迫力あるな。
- 467 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:31
-
「違うから安心して」
「誰が言い出したんだろ・・・?」
まぁ順当なところでよっちゃんに興味津々な後輩の誰か、かな。
「あやちゃんにでも聞いてみる?」
「んあ、あややにはもう聞いてきた」
「なに、ごっちん犯人探ししてるの?」
「うん」
後輩だけじゃなく三年にもファンはいるしな。二年にもいるだろうな。容疑者多すぎだな。
でもごっちんとよっちゃんのこと知ってたら絶対そんな発想でてこない。
だから多分一年生・・・ってか、見つけてどうする気なんだろ。
「勘違いなら否定するし、イタズラだったら後悔させる」
また漠然とした表現だな。沈黙に迫力がある理由が分かった。
いろいろ想像させるからだ。
そこへトイレにでも行ってたのか、梨華ちゃんが教室に戻ってきた。
「あ、ごっちん。どうしたの?」
「よしこ寝てるから暇なの」
あ、こいつ梨華ちゃんに嘘ついた。
バカなこと言ってる犯人捜してるくせに。黙ってるってことは、
なんかやらかす気なんだろうな。知りたくないからミキにも隠してくれないかな。
- 468 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:31
-
「そういえば、こないだひーちゃんとバイクでどこ行ってたの?」
「んあ、よしこ殴ってた」
「ごっちん、やめてって言ったでしょ!?」
そこでこそ嘘つけよ。微妙なんだよ。空港とかは隠しつつ、殴ったことだけ言うなよ。
なんだよ。基準が分かんねーよ。全部黙っとけや。
「でも、やるって言ったことはやるよ?」
やるなって言われたことは、やんなよ。
なんかポリシーみたいに言ってるけど、ただのワガママにしかなってないよ。
めんどくさいから言わないけど。ごっちんに突っ込むときりがないし。
「それより梨華ちゃん、よしこと話した?」
「え、なにを?」
梨華ちゃんも諦めるの早いな。
あ、ちょっとは殴って欲しかったのかな。
「誕生日にさぁ、怒鳴ったの謝ってもらわないとダメでしょ?」
「別にダメじゃないけど・・・」
「いや、ミキもそれは謝ってもらわないとダメだと思う」
こっからは参加させてもらう。ってか、多分よっちゃんも謝りたいと思うし。
言い出しづらいだけだろう。アヤカさんの話は勝手にすればいいけど、
あれは謝るの見届けてやる。
- 469 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:32
-
「いいよぉ、私気にしてないし」
「ダメ」
「うん。絶対ダメ。ってことでよっちゃん起こしに行こうか」
「賛成。梨華ちゃんも行こ」
基本ごっちんたちが訪ねてくるから、あんまり二年の教室って行くことがない。
去年まで自分たちの教室だったんだから、なんとなく懐かしい。
階が違うだけで造りはほぼ同じなんだけど。
だからたまに教室間違えて入ってくる愉快なやつもいるわけだ。
「あれ、あんなとこに穴空いてたっけ?」
「夏ぐらいによしこと走ってたらバケツ蹴飛ばして穴空いた」
オマエらホントに厄介だな。
しかもなんだよ、その事件。小学生か。高校生にもなって廊下を走るな。
壁に穴空くほど蹴飛ばすって、どんだけ本気で走ってたんだよ。
穴を見てため息を吐いていたら、教室を覗き込んだごっちんの動きが止まった。
「どしたの?」
「んあ?よしこいないよ?」
ミキの顔見ながら言うのやめろ。聞くな。絶対知らないよ。分かるだろ。
むしろオマエに聞きたいぐらいだ。
まぁ寝てないなら電話出るだろと思って、携帯を取り出した。
すぐに繋がって、屋上にいると言うので、階段へ向かった。
寒いのになにしてんだよ。
- 470 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:32
-
なんかいじめてるみたい。
寝転んでるよっちゃんを上から覗き込んでると、そんな風に思えてきた。
顔の上に本を乗せてて、片手で少しずらしてミキを確認して、また顔の上に戻した。
「よっちゃん、何してんの?」
「・・・クロ」
よっちゃんが呟いた。
クロ?くろ・・・黒。あぁ、踏んで欲しいって?
「死ね」
「うぎゃっ」
「よしこ、どんなのだった?紐?」
「いや、意外にフツーのやつ」
「二人とも踏んだげようか?」
「「ごめんなさい」」
息ピッタリだな。腹立つだけだけど。このバカ、なに確認してたんだよ。金払え。
よっちゃんを起き上がらせて、座らせた。とりあえず角度変えないと落ち着かない。
「寒いのに何でこんなとこにいるわけ?」
「教室で寝てたんだよ。でも起きたらさ、ごっちんいなくて」
「探しに来たの?」
「ちげーよ。知らない人に囲まれてたから逃げてきた」
うあ。きつい。寝顔見に来てたのかな。
ごっちんいなくてもさぁ、他の子も止めてあげなよ。
- 471 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:33
-
「ごっちんいないからチャンスだとか思ってんじゃない?」
「あ?なんで?」
「だってよっちゃん、ごっちんと付き合ってると思われてるよ?」
「ハッ!ありえねーな」
「んあ?こっちのセリフだよ」
「二人乗りで登校なんかするからだろ・・・」
「「あれはこいつが―――」」
「あーもう、一緒に喋んな」
仲いいよなぁ、こいつら。ケンカするほど仲がいいっていうか。
空気が合うんだろうな。小学生みたいな感じだけど。
息ピッタリなんだよな。やってることは小学生よりかなり性質悪いけど。
まぁ、こいつらのイタズラって面白いから結構好きなんだよな。
こんなこと言ってエスカレートしたら困るから言わないけど。
「あれ、梨華ちゃんどうしたの?」
「え、べつに・・・」
ふと気付くと梨華ちゃんは少し離れたところに立っていた。
さっきから全然話に入ってこない。まぁ、ミキのパンツの話には食いつかれても困るけど。
「あ、そうだ。よしこ、梨華ちゃんに謝れ」
「なんだよ、急に・・・」
「触るなっつったの誰よ?」
「あぁ・・・」
- 472 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:33
-
「ほら、梨華ちゃんこっち来て」
「よしこ、土下座」
「えぇ〜?」
梨華ちゃんとよっちゃんの距離が縮まった。
ミキとごっちんは少し離れて、両サイドから見守っている。
「梨華ちゃん・・・こないだは、ごめん」
よっちゃんは本当に土下座した。
深く反省してんのかなぁ・・・あ、よく見れば手も頭も地面には着けていない。
ちっちゃい抵抗しやがって。
「い、いいよ。気にしてないから、あ、頭上げて」
梨華ちゃんは困っているようだった。
手をパタパタと振りながら、あたふたと。
ゆっくりと頭を上げたよっちゃんは驚くほど真面目な顔をしていた。
それを見た梨華ちゃんは、少し顔を赤らめていた。
「うん。よしとするか」
「んぁ、そだね」
納得できてなかったのはミキたちのほうだし。これでいいか。
ホッと一息ついた頃、真剣な顔は崩さぬままに、よっちゃんが言った。
「・・・水色」
「「死ね」」
- 473 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:34
-
ごっちんが即座に蹴りこんだが、よっちゃんは鮮やかにかわした。
相変わらず有り得ない反射神経してやがる。
ごっちんもかなりのもんだけどなぁ。二階から飛び降りたり、今の蹴りもキレイだし。
昔はいろいろやったんだろうなというのは、ミキの考えすぎだろうか。
「よっちゃんさぁ、ケンカ弱いの?」
「はー?」
「いや、ごっちんとよくやりあってるけど、避けてばっかじゃん?」
「んー、避けてんだからっ、そりゃやり返さないよ」
ごっちんの追撃を避けつつのんびりとした答えが返ってきた。
まぁ、当たってもないのにやり返すのもおかしな話だけど。
つーか、こんな私立の女子校でケンカ強いだの弱いだのって、何の話してんだろ。
「まぁ、勝手にやってて。梨華ちゃん、次体育だよ」
「あ、そだね。二人とも風邪引かないようにねー」
「あんだけ動いてりゃ風邪なんか引かないよ」
バタバタと走り回る二人を残して、ミキと梨華ちゃんは屋上を出た。
「ひーちゃんはケンカ強いよ」
「え?そーなの?」
う〜ん。梨華ちゃんからケンカの話されるなんて、なんか違和感が。
よっちゃんって、腕力あるし、運動神経ハンパじゃないし、まぁ納得。
- 474 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:34
-
「でもケンカにはならないよねぇ」
「勝つの分かってるから、やらないんじゃないかな」
「はぁ?」
「ひーちゃん、優しいから」
やり返したら可哀そうだと思ってるってこと?
それはどうだろ。優しいんじゃなくて、面白くないと思ってるだけじゃないかな。
勝つって分かってる勝負には燃えられないとか。
「昔はよく叩かれたりしたんだけどね」
「あぁ、悪ガキだっただろうねぇ」
想像できる。個人的には今でもそんなイメージだけど。
「梨華ちゃんも昔はケンカとかしたの?」
「すっごい小さい頃はね」
「負けた?」
「負けたよ」
これは想像できない。梨華ちゃんがよっちゃんと取っ組み合いか。
負けるのは想像できるけど、どうしてもケンカの真っ最中が。
「想像できないわ」
「子供のころだよ?」
ミキもともと附属じゃないから子供の頃知らないもん。
- 475 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:35
-
あぁ、そもそもよっちゃんが人に手を出すところも想像できないんだ。
違う意味で手を出すなら簡単に想像できるんだけどな。
優しいか。そーだな、優しいんだろうな。
「梨華ちゃん、水色?」
「・・・美貴ちゃん黒でしょ」
うん。まぁ。意味はないんだけど。
ケンカの話なんかいつまでもしててもしょうがないし。
だからってこの話題も広がりそうにないけど。
「あ、校則変わった?」
「まだ。今日も話し合いだって」
「なに変えようとしてるわけ?」
「・・・私服オッケーに」
「うわ。絶対無理じゃん」
「でしょ!?もう、言ってあげてよー!」
無駄な話し合いしてるんだなぁ。
ミキ委員会なんて入ってなくてよかった。
「誰が言い出したの?あ、あの三組の子でしょ?」
「そう。一人で張り切ってるの」
「ウザいねー」
「ねー」
- 476 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:35
-
体育のために着替えて外に出たら、屋上から上履きが降ってきた。
“ごとうまき”・・・うん。そんな気はしてたけどね。
「あ、みきたんだー」
上から叫ぶ声がした。丁度いい。
「あやちゃーん、これ返しといてー!」
あんまりコントロールには自信がないのだが、こんなの回収されたら大変だ。
放り投げたら、なんとかあやちゃんがキャッチしてくれた。
「返したら何してくれるー?」
「ごっちんがジュースおごってくれるよー」
「みきたんはー?」
「何もしなーい」
「じゃあ、やだー」
上履きはまたミキの前に落ちてきた。おいおい。また投げたが、また投げ返された。
何往復かした後に、結局ミキが折れてしまった。分かってたけど。
「じゃあ、帰り待っててねー!」
「はいよー」
って、まさか部活終わるの待ってろってことだろうか。無理無理。バイトだもん。
・・・まぁ、いいや。メール送って帰ろ。
- 477 名前:123 投稿日:2008/01/29(火) 03:35
-
とは思いつつも、ギリギリまで待ってしまうミキって優しいと思う。
「あやちゃーん、ミキもう出ないと間に合わないよ」
「えぇ〜?」
部活動見学中。こんなのなにが面白いんだろ。
台本見ながら声張り上げてさぁ。芝居は観るものでいいと思う。
「はぁ〜やぁ〜くぅ〜!」
必死の訴えが届き、なんとか間に合いそうな時間に出ることができた。
「あれ?ごっちんじゃん」
「んあ、ミキティ。あややも。なにしてんの?」
「部活だよ。ごっちんどうしたの?」
「バイクに乗ってたのお前だろって」
「「まだやってたの!?」」
「今日って保健室の先生、出張なんだよね」
あぁ、アリバイ証言してくれる人がいないから絞られてたんだ。
「で、認めたの?」
「認めるわけないじゃん」
「・・・だろーね」
ごっちんとあやちゃんとバイトに行った。
本当に久しぶりによっちゃんと梨華ちゃんが食べにきて、
ミキの日常が、また返ってきた。
- 478 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/29(火) 03:36
-
- 479 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/29(火) 18:04
- >>467
( ^▽^)<4714!!!!!
- 480 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/31(木) 09:54
- さくしゃsまは歌ドキになんか権力とかあったりしますか!!?
- 481 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:29
-
愛ってなんだ
付き合うってなんだ
結婚ってなんだ
愛に決まった形はないはずなのに
その周りはがちがちにその形を決められてしまっている
- 482 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:30
-
1.
よしこが一年で一番モテる日が近い。
いつもモテてるけど、これだけ集中してアタックされるのはこの日だけだろう。
バレンタインデー。イベントごとの熱が加わって、勢いがつくのだろう。
去年のバレンタインにはあたしもいくつか頂いた。
普段はそんなでもないこのあたしが標的にされるぐらいだ。
よしこに集まるチョコの量は凄まじいものがあるだろう。
「今年は何個集まるかなぁ?」
「あ?なにが?」
「バレンタインのチョコ」
「・・・どこに集まるの?」
「よしこんとこに決まってんじゃん」
「今年はないんじゃない?」
「なんで?」
そんなバカな。よしこは年明けから腑抜けてて、ラブレターの呼び出しも断ってた。
いわば、おあずけ状態だったはずだ。彼女たちはこのチャンスを活かすに違いない。
去年以上の収穫が期待できる。
「いや、お前と付き合ってるから」
「なんであたしがよしこと付き合わなきゃなんないの」
「噂だよ。一年生の間じゃそーいうことになってるらしいじゃん」
あたしは即座に席を立った。一年生ってあややくらいしか知らないから、忘れてた。
二年生はもうそんなの言う子いなくなってたし。
- 483 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:30
-
「ちょ、どこ行くの?」
「否定してくる」
「放っときゃいーじゃん」
「ダメだよ。チョコ減っちゃう」
「なんでそんなにあたしにチョコ集めたいの?」
「あたし、今年は100個オーバーに賭けてるんだよね」
去年もやった、よしこのチョコゲット数予想。
クラスの友達と集計とって、十個単位で賭けていく。一口500円。
去年は68個だった。公平を期すため、よしこは参加不可だ。
「またかよ・・・いくら?」
「千円」
「オッズは?」
「13倍」
「・・・頑張れ」
「おう」
さて、どう否定するかな。まさか一人ずつに言って回るわけにもいかないし。
とりあえずあややだな。あややにも広めてもらおう。
- 484 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:30
-
「あーやーやー」
「あ、ごっちん。あれ?吉澤さんは?」
「よしこ?教室にいるよ?」
「一緒じゃないんだぁ、珍しい」
誤解を招くような発言はやめてほしい。
「あややさぁ、あたしとよしこが付き合ってるって言ってたの誰か知らないよね?」
「前も言ったでしょ。知らないよ」
「あれさぁ、違うって広めてくれない?」
「え、いいけどさぁ、もう信じてる人のほうが少ないんじゃないかな」
「いいから。一人でも居てもらっちゃ困るの」
切実なのだ。すべては一つ一つの積み重ね。少ないからって甘く見てはいけない。
これでチョコの総数が90個台後半だったら、悔やんでも悔やみきれない。
たとえ数人でも、贈ろうという気になってもらわないと。
「あややはよしこにチョコあげるの?」
「吉澤さんチョコ好きなの?」
「よしこの半分はチョコで出来てるんだよ。あ。これも広めといて」
「え、うん。分かった」
「よろしくぅ。じゃーねぇ」
これでちょっとでもよしこを好きな子なら、大好物をあげるつもりで贈るだろう。
ホントに好きかどうかは知らないが、とにかく数を稼ぎたい。
- 485 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:30
-
「二年三組組後藤真希ぃ!」
「んあ!?」
突然呼び止められて振り向くとミキティだった。驚いて損した。ニヤけた顔で近づいてくる。
三年生はもう休みなのに、制服姿で職員室前に居るなんて。
「どしたの?お礼参りにはまだ早いよ?」
「馬鹿」
違うのか。せっかく休みなのに、ミキティが学校来るなんて。
受験の補習授業はやってるみたいだけど、ミキティは受験生じゃない。
なら何をしにきたのかと聞こうとしたら、職員室の扉が開いて梨華ちゃんが出てきた。
「あ、ごっちん」
「梨華ちゃん、このバカ、お礼参りに来たのかって言うんだけど」
「えぇ?」
「ミキティに聞いただけだよ」
そんな。梨華ちゃんがお礼参りだなんて。言うわけないじゃん。
「資料取りに来なさいって言われててね、一緒に来たの」
「そ。ごっちんこそ何してんの?」
何って聞かれても。まっとうな高校生だもん。
授業受けて、休み時間にフラフラしてるんじゃないか。
- 486 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:31
-
「バレンタインの準備だよ」
「は?ごっちん誰かにチョコあげるの?」
「んあ〜、店長とか。ミキティもでしょ?」
「あげるけど、学校でどう準備するわけ?」
ん〜、いろいろとマネーの問題がありまして。そこは適当に濁しておく。
「梨華ちゃん、よしこにチョコあげるの?」
「あげるよ。毎年あげてるもん。ごっちんにもあげようか?」
「ホントに?じゃ、欲しい。あ。梨華ちゃんにもあげるね」
まず一つ確実にゲットが期待出来そうだ。
楽しみにしてるねって笑う梨華ちゃん。これは後で材料買いに行かないとだな。
「ごっちん、よっちゃんと一緒には見ない方がいいよ」
「んあ?なんで?」
「大きさか質かで差をつけられてるはずだから」
「そ、そんなことしないよ」
「「梨華ちゃん動揺しすぎ」」
慌てなくてもいいのに。そんなの気にしないから。
愛を伝える日だからね。よしこに渡されたチョコの方が大きかったら、
よしこが梨華ちゃんの気持ちに気付くいいきっかけになるかもしれないし。
ってかよしこは本当に梨華ちゃんの気持ちに気付いてないんだろうか。
ミキティもちょっと前まで分かってなかったみたいだし、
梨華ちゃんってよしこほど分かりやすくないのかも。
- 487 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:31
-
「よしこに好きって言うの?」
「言わないよ、ひーちゃんビックリするでしょ」
「え〜?大丈夫だよ。ねぇミキティ?」
「ミキ、イベントに乗っかる人嫌い」
「ひがみ?」
「・・・コロスぞ」
前の彼氏と別れてから約三ヶ月。いつものミキティならそろそろ次だけど。
最近はどうやら誰も居ない様子。休日はあややとフラフラしてるみたいだし。
あげる相手が居ないから僻んでるのかと思った
「じゃあ、ミキティは誰かにチョコあげるの?」
「考え中」
「よしこには?」
「必要ないでしょ。どうせ今年もバカみたいに貰うだろうし」
「100個超えたらいいことあるの。だからミキティもあげてね」
「は?意味分かんない」
「いいからいいから」
心のこもったチョコしかカウントしないって決まりはなかったはず。
ミキティからでも一個は一個。
「なぁ〜んか怪しい」
ミキティって疑り深い。慎重なのかな。
- 488 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:31
-
「ってか梨華ちゃんは、よっちゃんがいっぱい貰ったらイヤじゃない?」
「んあ?」
「え?」
「だってさぁ、去年自慢してたでしょ?好きな人にそんなんされたらウザくない?」
こんなのちょっとしたお遊びなんだけどな。よしこが貰って、みんなで楽しむゲームだ。
ミキティが言いたいのは、梨華ちゃんはよしこがモテるのをどう思ってるのかってことか。
「慣れてるから大丈夫だよ」
「んあ、梨華ちゃん。慣れは敵だよ」
慣れちゃったらおしまいだ。何も感じなくなったら終わりだ。
怒りでも、悲しみでも、喜びでも、なんか感じないとダメだと思う。
「ごっちんってたまぁにまともなこと言うよね」
「ミキティはいっつも失礼なことばっか言うよね」
「あ?」
「あ、あの、私がそんなの気にしても、みんな関係ないでしょ?」
「まぁそーだね。彼女として睨み効かせなきゃダメだよね」
「梨華ちゃんよりミキティが睨む方が迫力ありそう・・・」
「あ?」
ほら睨まれた。怖い怖い、ちびっちゃうよって言ったら頭をはたかれた。
人に手を出すのに躊躇がない。ミキティも昔いろりろやらかしてんじゃないの?
まぁ、冗談半分でからかっただけだからどうでもいいけど。
- 489 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:32
-
「梨華ちゃん、よしこは梨華ちゃんのこと好きだと思う?」
「えぇ〜?急にどうしたの?」
「ごっちんが急なのは今に始まったことじゃないよ」
あんまり急じゃないつもりだけど。さっき彼女がどうこうってミキティも言ったし。
「どうだろ。分かんないな」
「よしこはねぇ―――」
「おい、バカ」
「おわ、よっちゃん。急に現れるの止めてよ」
「美貴こそ授業ないくせに学校来るなよ。んでごっちんは何言おうとしてたんだよ」
よしこは少し上からミキティとあたしを睨んでいた。
梨華ちゃんとミキティは資料取りにきてて、
あたしは梨華ちゃんによしこの気持ちを教えてやろうかと。
「よしこ趣味悪い。盗み聞きしないでよ」
「してねーよ」
「よっちゃんいつから聞いてたの?」
「聞いてねーって。今来たとこだよ」
ミキティがホッとした顔をしている。何か聞かれたらまずい話してたっけ。
あ、梨華ちゃんの好きな人って話してたっけ。
どうやらその辺の話は本当に聞いてなかったみたいだ。
- 490 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:32
-
「ミキティもよしこにチョコくれるってさ」
「へぇ、美貴ってあたしのこと好きだったの?」
「バカじゃねーの」
「そんで梨華ちゃんもくれるんだって」
「あぁ・・・そう」
「ひーちゃん反応うすーい」
そうだそうだ。梨華ちゃんにも聞けよ。あたしのこと好き?って。
そんで好きだよって言われて付き合え。
「だって、毎年じゃん」
「じゃあ、あげなーい」
「え・・・・」
・・・・・マジでへこむなよ。
梨華ちゃんはめちゃめちゃ驚いてる。
「ちょ、ひーちゃんどうしたの!?」
「・・・・」
「あ、あげるよ。ひーちゃん、ちゃんとあげるからね」
「いや、うん・・・ごめん、もう戻るわ」
「え、ちょ。何しに来たのー?」
よしこは振り向かずに手を軽く振って、気にするなという風に去っていった。
後姿に哀愁が漂っている。似合わないなぁ。
- 491 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:32
-
「どうしたのかな?」
「「・・・さぁ?」」
よしこは梨華ちゃんのこと好きなんだよって勝手に教えようとしてたあたしだけど、
あんな背中を見せられてはそんなこと言えない。
ミキティもよく分かってるはずだ。よしこは、本気で悲しかったんだ。
でも幼馴染からのチョコぐらいでそんなにへこむわけにはいかないから、
梨華ちゃんには何も言えなくて去っていったんだ。
なのにミキティが黙ってるってことは、ミキティもあの背中に呑まれたんだろうな。
気持ちよりプライドが勝つなんて、哀れなやつ。
「・・・さ、帰ろっか」
「え、うん。ねぇ、ひーちゃんどうしたのかな?」
「気にしないほうがいいよ。じゃあね、ごっちん」
「んあ、玄関までついて行くよ」
下に降りたら保健室の先生が何故か花壇に水を撒いていて、
梨華ちゃんが駆け寄っていき、ミキティとあたしが二人で残された。
「ねぇ、よしこってさ、意外と可哀そうだよね」
「う〜ん、長年のツケを払わされてるんじゃない?」
あぁ、ずっと逆だったんだ。梨華ちゃんが一方的に好きで、
よしこはそれに気付かず、梨華ちゃんをガッカリさせてばっかだったんだ。
- 492 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:33
-
「はやく告ればいいのに」
「よっちゃんからの方がいいね」
「んあ?なんで?」
そりゃ、よしこが告白した方がいろんなけじめになると思うけど。
別にどっちでもいいんじゃないかな。どっちからでも答えは同じだろうし。
「プライド高いやつは、苦労せずに手に入ったものは大事にしない」
「なにそれ?」
「ミキの人間哲学」
「うわぁ、アテにならなそう・・・」
ミキティは無言で拾った石を投げつけてきた。しかしコースが甘い。
残念ながら一つも当たらなかったが、その様子に気付いた梨華ちゃんが戻ってきた。
「なんですぐケンカになるのぉ?」
「ミキティが暴力的だからだよ」
あたしは一切悪くない。よしこには自分から仕掛けることのほうが多いけど、
ミキティには仕掛けてない。あたしミキティに手を出したことなんてないもん。
「いや、ミキ当てる気ないから」
「んあ?そうなの?殺意こもってるのかと思ってた」
「・・・今なら殺してやりたいけどね」
「美貴ちゃーん、か、帰ろっ!じゃーね!」
- 493 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:33
-
ミキティを引っ張って梨華ちゃんは帰っていった。
二人を見送って教室に戻ると、よしこのテンションは少し普通に戻っていた。
「今年は豊作になるよぉ」
「え?あぁ、ごっちんそのために出て行ったんだっけ」
そう。もともと誤解を解きにいったんだ。梨華ちゃんに会ったのはただの偶然だ。
とにかく、これで後輩からのチョコは確実に増えるだろう。
「別にいらねーよぉ」
「なんでよ」
「一個でいい」
「は?」
「梨華ちゃんがくれたらそれでいい。もういらない」
そっかぁ・・・・。いいこと言うじゃないか。よしこのくせに。
よしこがこういうこと言うの珍しいな。数じゃないんだ。
たった一つ、気持ちのこもったチョコが欲しいって。
「梨華ちゃん、ちゃんとくれるかなぁ?」
「くれるって言ってたじゃん」
「言い出したら一直線なんだよ。くれなかったらどうしよう」
「大好きだから下さいって言えば?」
「うぇ〜?かっこわるぅ〜」
最近よしこが変わってきたように感じる。
これはよしこを見るあたしの目が変わったのか、本当によしこが変わったのか。
でもとにかく、いい方に変わったんだ。梨華ちゃんの幸せに繋がる変化だと思ってる。
- 494 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:33
-
- 495 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:34
-
2.
よしこが一年で一番モテる日は、バイト先でもいろんな愛が育まれる日だ。
バレンタイン前後は予約でいっぱい。今日の店内はゆっくりとしたカップルで溢れている。
しかしそんな中でもいつもどおりな一角が。
「よしこぉ、いつになったら告るの?」
「・・・そのうちね」
その内ってどれくらいだろう。今日はよしこが一人でバイト先に来ている。
せっかく親が帰ってきてるのに、なんで家で食べないんだろう。
なんとなくお客さんの途切れている時間帯で、あたしはよしこの近くで話し込んでいた。
「バレンタインに告ったりしないの?」
「ん〜・・・まぁ、そう急くなよ」
「アヤカさんのこと話したの?」
「何て話せばいいの?」
「浮気してました、ごめんなさいって」
「付き合ってないのに浮気とか言うの?超ウザくね?」
「ウザくないよ」
「勘違いも甚だしいよね。梨華ちゃん驚いちゃうじゃん」
「驚くかなぁ?そんなに信用されてもないんじゃない」
雰囲気チャラいし。ヘタレだし・・・あ、やっぱ驚くかも。
そんな度胸なさそうだもん。
- 496 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:34
-
「いや、そーじゃなくて」
「んあ?」
「付き合ってないでしょ?なのに浮気しちゃったって言ったら、
いや、あんたと付き合ってないしって話になるでしょ?」
あぁ、そういう話か。
アヤカさんって浮気相手じゃないんだ。よしこの恋人だったんだ。
「分かった?」
「分かったけど、黙ってるのもムカつく」
「まぁ、そのうちにね」
あ。そのうちってまた言った。
そのうちってどんくらいだよ。あたしそういう曖昧な言葉は好きじゃないかも。
「じゃ、さっさと告れ。そんでアヤカさんとのことも告れ」
「・・・懺悔のほうの告白はそんな言い方しないほうがいいんじゃない」
「なんで?告白する、略して告るでしょ」
「なんか軽りぃじゃん。」
「よしこが重いんだよ」
「・・・チャラいよりマシ」
どうだろ。重苦しいのもめんどくさいと思う。
中間がいいよ、中間が。重くもなく軽くもなく。普通が一番。
- 497 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:34
-
よしこはジュースに手を伸ばした。
一呼吸置いて、遠くを見ている。その後、あたしの方に顔を向けて、口を開いた。
「ってかさ、別に付き合わなくてもいいかなって思うわけよ」
「なんでよ」
「だって、いつも居るじゃん」
居るねぇ。確かに。すぐそこに居るよ。
よしこが産まれたときから、梨華ちゃんはそこに居たんだ。
でも梨華ちゃんは、よしこが好きなんだよ。ずっと前からよしこを見続けてるんだよ。
梨華ちゃんにとってはよしこが運命の人なんだよ。ダメなとこも、いいとこも全部含めて、
梨華ちゃんにぴったり当てはまるパズルのピースなんだよ。よしこじゃなきゃダメなんだよ。
「付き合ってないからって、また浮気したいの?」
「いや、もうしないって。あれはちげーの。いろいろあんだって」
「なにがいろいろなの?」
「ほら・・・、あたし梨華ちゃんと居るの怖いって言ってたの覚えてる?」
「覚えてるよ」
バカにすんなよ。記憶力ぐらいあるよ。よしこの目が少し細められていた。
いつか見た顔。アヤカさんを愛していたと言ったときの、
梨華ちゃん以外に向けられたのを見たことがない、優しい眼差し。
「アヤカと別れてからさ、怖くないんだ」
よしこなりにトラウマを乗り越えたってことなのかな。
少しだけ伏せられたその目には、よしこの心が映っているのだろうか。
- 498 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:34
-
「もう触れても平気なんだ」
「スケベ」
「・・・お前、それしか言うことないのか」
「ない」
この会話もなんだかデジャヴ。
よしこも同じことを思ったらしく、嫌そうな顔をあたしに向けた。
「ほんっとにお前と喋ってるとホントに繰り返しばっかだな」
「今よしこホントって二回言ったぁ」
「うるせーよ」
まとめるとよしこはこの状況で満足してるってことかな。
でも気持ちが通じ合ってない。お互いに、どっか勘違いしてるもん。
「よしこ、もしアヤカさんのこと言いづらいからって逃げてるんなら・・・・」
「な、なんだよ」
「沈めるよ?」
沈黙が流れた。よしこは薄っすらと額に汗を浮かべていた。
「べ、別にそんなんじゃな、い、よ?」
「目を見て言ってみろ」
よしこの目は完全に泳いでいた。くだらないやつ。なにがいいんだよ。ヘタレめ。
さっさと梨華ちゃんの心に嵌め込まないと、このピースは曲がってしまうぞ。
- 499 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:35
-
「じゃあさぁ、もし梨華ちゃんが誰かと付き合いだしたらどうすんの?」
「えぇ〜?そこはごっちんと協力してさぁ」
「邪魔すんの?」
「邪魔というか・・・そんときゃそんとき系の対応でさぁ」
「そんなの協力しないよ」
するわけがない。梨華ちゃんが幸せであればそれでいい。
相手がよしこでなくても、梨華ちゃんがそれで幸せに笑っていればあたし的には問題ない。
でも残念ながら梨華ちゃんの相手はよしこなんだよなぁ。
本当に残念だ。ぴったり当てはまるのはよしこだけなんだ。
だから本当に仮定だけの話なんだよなぁ。
「ちょ、そこのバカ二人。働けって」
「んあ〜」
「あたしは客だっつーの!」
話し込んでたら、いつの間にか随分お客さんが増えていた。
慌しくなってきた店内を駆け回る。
よしこは相変わらず。店長やミキティにも声をかけて、邪魔して笑ってる。
よく見るとさりげなく影からよしこを見てるお客さんもいたりして。
店長がよしこに優しいのって、客寄せになってるからかな。
- 500 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:35
-
バイトが終わって、閉店まで居座ってたよしこと一緒に店を出た。
「ねぇ、梨華ちゃんは?」
「なんか忙しいんだって」
「お、よっちゃん一応誘ったんだ?」
「なんだよ」
「いやぁ、へこんでたからさぁ、また逃げ回ってんのかと思って」
「別に。いつもどおりだよ。チョコ作ってくれてんじゃない?」
「いったい誰に贈るんだろうね?」
「美貴はあたしをへこましたいの?」
別にって笑ってるミキティの目の奥が、輝いてるように見えた。
絶対からかって楽しんでる。
「さっさと付き合えっちゃえよ」
「そーだ、そーだ、バカよしこ」
もっと言ってやってくれ。
「結局よしこは梨華ちゃんと付き合いたくないんでしょ?」
「んなこと言ってないじゃん」
「じゃ、付き合いたいの?」
「いや、付き合えって言われても、振られるかもしんないし」
「よっちゃん百戦錬磨でしょ?」
「いや、あのね。すっげぇチャラいみたいな言い方されてるけど、
あたしアヤカとしか付き合ってないんだよ」
- 501 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:35
-
「だから付き合わないの?」
「なんか最近さぁ、焦らないんだよね。前はなんとなくアヤカ思い出してたんだけど、
もう形にこだわる気になれなくて。したらさ、付き合うってなんだろって思って」
付き合うってなんだ。言葉だ。形でしかない。
愛し合う二人が一緒にいれば、言葉なんて必要ないかもしれない。
でも中には、そういう言葉が必要なこともあるんだ。
「よしこさぁ、パズル好き?」
「ん?ジグソーパズル?キライじゃないけど」
「あと一個で完成なの」
「は?早く仕上げれば?」
「ピースがどっか行っちゃうの」
「なに言ってんの?」
「嵌めても嵌めても、どっか行っちゃうの」
「・・・のりでくっつけろよ」
「だよね」
そうするべきだと思うんだ。
付き合うとか、形の上でのことだけかもしれないけど、いろんな制約があると思う。
よしこはそういう制約に縛られるべきだと思う。そういう形が、のりになると思う。
二人をちゃんとくっつけてくれるものがあった方がいいんだ。
「絶対付き合ったほうがいいよ」
「パズルと関係ないだろ」
「あるよ。付き合ったほうがいい」
- 502 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:36
-
よしこは真剣に考え始めて、ミキティはパズルの意味を考えているようだ。
結構真面目に言ったからこれぐらい真剣に考えてもらえると嬉しい。
先に口を開いたのはよしこだった。
「でもさぁ」
「んぁ、なに?」
「仮にね、上手くいったとするじゃん」
「うん」
仮にって言うか、梨華ちゃんは断らないと思うけど。
「幸せにするよ?人並み以上のドキドキや、ワクワクを約束する。でもね、
人並みの幸せってやつは、あげれない。家庭とかいうやつ。この先には何もない」
「まぁ、ね」
「なのに付き合って、限界が見えたらそっちのがあたしは寂しい。
それよりは、このままずっと一緒に居たい」
「だから付き合いたくないの?」
「付き合いたいよ?でも、付き合わないほうが長く居られるかもしれない」
はぁ・・・。よしこって、考えすぎなんだよ。
前にも言ったけど、もう一回言ってあげよう。
「バカになって突っ走れよ」
「・・・あたし、時々ごっちんが羨ましいよ」
「・・・ミキも」
- 503 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:36
-
ミキティもよしこも呆れたようにしてる。でもさ、違うよ。
分かるよ。今日は真面目に聞いてたから、よしこが何を言いたいか分かるよ。
「梨華ちゃんに決めさせてあげてよ。全部よしこが決め付けないでよ」
二人とも軽く俯いている。なんだよ。言いたいことがあるなら言え。
「梨華ちゃんにチョコあげなよ。バレンタインは、チョコに気持ちを乗せる日だよ」
「日本のローカルルールじゃん」
「なにそれ?」
バレンタインって、チョコの日でしょ。
世界中で愛の込められたチョコが消費されてんでしょ。
「いや、バレンタイン司教が処刑された日だよ」
「んあ?チョコは?」
「製菓会社が言い出したんだろ」
「でも、なんかあるでしょ?なんで告る日なの?」
「ん〜・・・バレンタインって、愛の人だったんだよ」
どっかの偉い人が、結婚を禁止していた時代があったらしい。
でもバレンタインさんが、そんなの無視して二人を祝福して結婚式を行った。
それで怒った偉い人はバレンタインさんを処刑した。
二人の愛のために死んだんだ。愛だ。すごい愛の人だ。
- 504 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:37
-
「よし。じゃ、あたしバレンタインになる」
「「はぁ?」」
「だからぁ法律が許してくれないなら、あたしが許す。愛をあたしに誓え」
「いや、教会で誓ってる愛は、神に誓ってんだよ?」
「そうそう。ごっちんに誓ったってしょうがないでしょ」
「なんでもいいよ。結婚させてあげよう」
結婚だって言葉だ。ただ付き合うより、ちょっと作らなきゃならない形が多いだけだ。
あたしが、その形の一つを作ってあげよう。
これでよしこの好きな未来のビジョンが出来たじゃないか。
あたしがゴール地点に立っててやる。だからダッシュで向かって来い。
「ねぇ、ごっちんさぁ・・・なんか忘れてるよね」
「ミキもそう思う」
「んあ?」
「あたし、梨華ちゃんと付き合ってもないからね」
「うん。まだ告白もしてないよね」
「細かいなぁ。愛の前にはそんなのどうでもいいじゃん」
まだそんなこと言ってんのか。
そこに愛があって、その先にゴールがあって、どこに問題があるというのだ。
乗って来い。二人ともテンションあげて来い。
「ってかまだ高校生なんだけど」
「だねぇ。未来が決まり過ぎてるのもプレッシャーじゃない?」
- 505 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:37
-
ミキティまで文句を言い続ける。らしくないなぁ。
よしこが乗り気じゃないときこそ目を爛々とさせる人なのに。
「そんなにプレッシャー?」
「まぁ、それなりにビビっちゃうかな」
「じゃあ、何年後でもいいよ。とにかく、思い立った年のバレンタインデーにね」
「・・・はいはい」
「これで未来も安泰だね。さっさと告れよ」
「はいはい」
さぁ、結婚式の日取りだけは決まった。
「よしこぉ、幸せにしてあげてよ」
「お前は花嫁の父親か」
「違うよ。神父さん」
「はいはい。ありがと、そこ目指して頑張るよ」
「うん。チョコあげなね」
「もう店開いてないよ」
じゃあ、コンビニにって言おうとしたけど、あたしは自らその言葉を飲み込んだ。
コンビニのチョコなんかで伝えられる愛は、なんかヤダ。
- 506 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:38
-
でもなぁ・・・あたしはその式で終わりだな。
「残念だなぁ」
「ん?なにが?」
「どしたの?」
「梨華ちゃんの幸せな顔もう見れないなぁって」
「「は?」」
よしこもミキティも鈍いなぁ。
「だってあたし、処刑されるんでしょ?」
「「いや、誰にだよ」」
現代日本には、結婚式の真似事をしたからといって処刑される制度はないそうだ。
じゃあずっと見てられるじゃん。うわ、すごい。楽しみになってきた。
「ね、ミキティも楽しみだよね?」
「そだねぇ。いいんじゃない?」
「いいのかなぁ?」
「上手くいったらさ、梨華ちゃんにも言うからね」
「・・・上手くいったらね」
あたしは梨華ちゃんに従うよ。
梨華ちゃんが望まないならやめるし、喜んでくれるなら何があってもやり遂げる。
きっと梨華ちゃんの花嫁姿はきれいだと思うんだ。最高の笑顔をそこに当てはめて、
あたしの想像の中で梨華ちゃんは輝いていた。
- 507 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:38
-
- 508 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:38
-
3.
よしこが一年で一番モテる日がやってきた。
来年の卒業式とかは記録更新してくれるかもしれないけど。
上履きからチョコレート臭が漂っている。漫画とかだと開けたらドサって感じだけど、
ここはもう扉が開きっぱなしで、立体パズルのように組み上げられた箱が丸見えだった。
はみ出した箱の上にまた積み上げられて、下にもいくつか落ちている。
「あまーい匂いがする」
「・・・むせ返るようだ」
「いーじゃん。甘いもの平気でしょ」
「こんなに食わなねーよ。特に手作りは無理」
「粗末にすんな、バカ。カカオに謝れ」
「じゃ、お前食えよ。下駄箱に入ってたんだぞ」
「・・・・」
よしこのファンって、イっちゃってる子多いから、手作りは何が入ってるか分からない。
明らかにお店の未開封って分かるものなら食べれるけど、
手作り感溢れるものほど手を出しづらい。
真心と努力がよしこの食欲を奪うのだから皮肉なものだと思う。
「ロシアンルーレット的な気分で食べてあげたら?」
「拾い食いはするなって育てられたから」
「そんな言い方失礼だよ」
「だから、お前が食ってみろって」
「・・・・」
やっぱ、ねぇ。よしこへの気持ちだから。あたしが食べたらもっと失礼だよね。
・・・正直、いびつな形が恐怖を誘う。
- 509 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:38
-
よしこがカバンから折りたたまれたショップ袋を取り出した。
下駄箱の中身を次々に放り込んでいく。
「そんなの用意してさぁ、なんだかんだで期待してたんじゃないの?」
「あたしが持ってきたんじゃねーよ。袋も貰ったの」
去年は購買部のビニール袋を貰ってきていた。
うちのクラスの賭けでは、全て大事な証拠になる。
だから、食べる気のない手作りチョコも一旦は持ち帰られる。
「それで一個も貰えなかったら恥ずかしいよね」
「役に立ってんだからいいだろ」
100個オーバーの大穴に賭けてるあたしとしては、是非とも新記録を狙って欲しい。
でも貰えない方がもっと面白かったな。あれ?その袋なに?みたいな。
本当にゼロだったら賭けはノーゲームで全額返金になっちゃうけど。
「うわ、これ高いのに・・・」
「んあ?なにそれ?見たことない」
「そう?有名だよ?これで5000円ぐらいかな」
あんま高いものって、受け取るのにも勇気いるよね。
高校生のバレンタインチョコ5000円って、怖くない?
よしこは躊躇わず他の箱と一緒に袋の中に投げ込んだ。
- 510 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:39
-
「よしこ、お返しするの?」
「まぁ、誰からか分かればするよ」
「どんなの?」
「いちごみるくの飴玉配る」
あたし、5000円がいちごみるくに変わったら泣くかもしれない。
何時間もバイトして、最後にお疲れって飴玉渡されたら、
リアルに店長殺しちゃうかもしれない。ってか、あたしらの賭けって可愛いもんだよね。
よしこの経済効果って計算してみたら面白いかもしれない。
「みんな、よしこの何がいいんだろうね?」
「ん〜見た目?」
「自分で言う?」
「違う?」
多分そうだと思う。でも、認めるのもムカつく。
そりゃキレイな顔してるよ。かっこつけて決まってるよ。でも自分で言うなよ。
「ナルシストめ。まぁ他には何もないしね」
「お前・・・その言い方はないだろ」
「え、よしこ顔以外にいいとこあると思ってんの?」
「思ってるよ!ってかフツーにあるよ!結構いいやつだろーが!」
「あ、あの犬の顔面白い」
「聞けよっ!」
- 511 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:39
-
よしこが一つずつ取り出して袋に入れているのを見ていたのだが、
飽きてきたのでさっさと履き替えることにした。
あたしの下駄箱は、開けると中に5個のチョコレート。
「あ、ごっちんも手作りあんじゃん」
「・・・・・」
「食えよ」
「・・・・後でね」
「あれ?朝飯食う暇なかったって言ってなかった?」
よしこはニヤニヤしながら手を止めてあたしを見ている。
調子に乗ってるな。なめんなよ。
「あ、よしこに渡したいものあったんだ」
「は?なに?」
「はい、あたしの気持ち。受け取って!」
有無を言わせずあたし宛のチョコを全てよしこの袋に詰め込んだ。
「あ、こら、待てよっ!」
あたしは即座に走って階段でちらりと振り返った。
上履きがチョコに埋もれて出てこないよしこはまだまだあるチョコを袋に入れている。
これでよしこのゲット数に+5だな。よぉし、まずは一歩前進。
- 512 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:40
-
よしこの記録は順調に伸びている。昼休みには行列が出来ていて、途切れる気配はない。
呼び出されてはどこかに連れて行かれ、戻ってはまた連れ出される。
中間集計では、昼休みの時点で61個。100個超えが現実味を帯びてくる。
心の中で笑いが止まらない気分だったのだが、ミキティからの電話で台無しにされた。
『ごっちん、よっちゃんのチョコで賭けしてるんだって?』
「んあ?なんで分かったの?」
『んふふ、リサーチしたの。賭けなんて梨華ちゃん悲しむんじゃない?』
「んあ!?」
『んふふ。黙っててあげるから勝ったら分け前もらうね』
「んあぁぁ!?」
『じゃ、頑張ってね』
切られた電話を手にしたまま呆然としていたら、賭けの仲間が近づいてきた。
「今年は真希ちゃんの一人勝ちかなぁ?」
「・・・ミキティが分け前寄越せって」
「え、藤本先輩!?あーぁ・・・大変だねぇ」
ミキティは結構ビビられている。特に何をしたと言うわけでもないのだが、
その目つきだけで恐れられている。あたしに寄せられる同情は誤解なのだが、
気分はいじめられっこだ。くっそぉ、当たっても外れたで通してやる。
- 513 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:40
-
放課後もよしこはフル回転だ。
あたしを初め、クラスの仲間は固唾を呑んでそれを見守るはずなのだが、
正直少しだれてきた。教室で雑談しながら結果を待つ。
「今何個?」
「えーっと、78個」
「げ、そんなにあるの?」
「よっしーってすごいんだねぇ」
「あと誰が残った?」
「70個台四人、80個台四人に90個台が二人、あと真希の100個オーバー」
「うわ、行きそうだねぇ」
「80はもう行くでしょ。ってか、これ何時までやる?」
「ん〜、途切れてから校門出て終わりにしよっか」
よしこの放課後を狙う人がめちゃめちゃ多くて、待ってるのもめんどくさいぐらいだ。
賭けがなかったら絶対こんなに待てないな。
「うあ〜!!もうチョコなんか見たくない!!!」
扉がものすごい音を立てて、勢いよく開けられた。
同時によしこが叫びながら入ってきて、あたしたちの集まってる机の上にチョコが落とされた。
「・・・10、11、12個!78個と足して、90個!」
「「おぉぉ〜!」」
すかさず集計に入る。もうみんなさっさと帰りたいんだ。
賭けが外れた子はお金を置いて帰ってしまった。残るは90個台の二人と、あたしのみ。
- 514 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:40
-
教室の周りを見ても、もう次の行列はない。
残るは下駄箱。よしこの朝の回収より後に入れられた分でラストだろう。
下に降りたが、しっかりと閉まっている。朝ほどは入っていないのが予想できる。
あと10個。10個ぐらいなら入るだろう。包みが小さければ。
「開けるよ」
よしこの声とともに開かれたそこには、しっかりとチョコが。
「何個!?」
「ちょ、待って!5・・・6・・・7・・・8!8個!!」
「んあぁぁ!!あと二個ぉ!!」
「あっはっは!もうダメでしょ!真希、お金」
「まだ!まだ校門出てないもん!!」
「お前らうるせーよ・・・」
一人全くエキサイトしていないよしこを一人で校門まで歩かせる。
あたしらが固まってるせいで渡せない子もいるかもしれない。
しかしよしこは順調に校門に近づいていく。
「んあっ!」
「「げっ!」」
校門ギリギリで一人の生徒が近づく。あたしにとっては希望の星だ。
- 515 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:41
-
「よっちゃん、はいこれ」
「お前、これ板チョコじゃん・・・」
「いいから受け取れ。これで何個?」
希望の星は、ミキティだった。板チョコって・・・未加工か。ひどいな。乙女失格だ。
よしこは歩みを止めない。校門を出た瞬間、ゲームセット。
「99個」
「え!?」
「・・・残念でしたっ!」
賭けは終わり。あたしはお金を払って、友達二人はそれを持って帰っていく。
残るは疲れきったよしこと、呆然とあと一個の壁を見上げるあたしとミキティ。
「あと・・・一個?」
「嘘ぉ・・・」
「すんげぇ疲れてるからさ、とりあえず帰ろうよ」
よしこに促されて、ゆっくりと歩き出した。
「はぁ、よっちゃんチョコ代100円ね」
「なんでバレンタインにチョコ買い取らされなきゃならないんだよ」
「ミキのはそういうのじゃないもん」
「いらねーよ!売るほど持ってるっつーの!」
「だって儲け出なかったんだから、よっちゃんにチョコあげたらミキ赤字じゃん」
「知るかっ」
- 516 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:41
-
文字通り溢れんばかりのチョコレートをよしこの家に運び入れた。
結局ミキティは荷物運びのために100円払って学校に来たことになる。
欲をかくと碌なことがないという見本のようだ。
「あ、あたし梨華ちゃんにチョコあげるんだ」
「早くしろよ・・・」
ミキティはさっさとバイトに行きたいみたいだけど、あんまり元気でもないみたいだ。
梨華ちゃんの家のインターホンを押して、梨華ちゃんが出てくるのを待つ。
「梨華ちゃん、チョコ持ってきたよぉ」
「ありがとー。じゃあこれ、私からね」
「ありがとっ」
可愛くラッピングされた包みを受け取る。手作りだけど、誰からか分かってれば問題ない。
梨華ちゃんの手にはもう一つ包みがあった。
「はい、ひーちゃん。ハッピーバレンタイン」
「お。ありがと梨華ちゃん」
「え」
「んあ」
「「ああぁぁぁ〜!!」」
- 517 名前:123 投稿日:2008/02/05(火) 09:42
-
「よしこ、梨華ちゃんからまだ貰ってなかったのぉ!?」
「え、うん。今貰ったじゃん」
「なんで梨華ちゃん学校で渡さなかったの!?」
「え、お休みじゃない。美貴ちゃんこそなんで制服着てるの?」
100個目。あたしの賭けは、当たってたのだ。
もう掛け金は支払われてしまった。終わったのだ。もう、遅いのだ。
よしこは完全に呆れた顔をしている。
梨華ちゃんはわけが分からないという顔でおろおろしている。
あたしとミキティは、頭を抱えてへたり込んでいる。
「あ、お返しっていうか、飯食いに行かない?おごるよ」
「えぇ?美味しくないかもしれないのにお返し貰っていいの?」
「じゃ、ただの食事でいいよ」
「ちょっと食べてみてよぉ」
「えぇ〜おなか壊したらどうしよう?」
「もうっ、ひーちゃん!」
「あはは、ごめんごめん」
なんだかほんわかした空気だけど。いつもならこういう会話は微笑ましいんだけど。
今日は、なんだろう。どす黒いものがこみ上げてくる。
ミキティと目が合うと、よく分からないけどなにかを共有した気分になった。
お金って人を変えてしまうと思う。
「何してんだよ、さっさとバイト行けよ」
よしこに追い払われて、ミキティと一緒にあたしは涙を飲んでバイトに向かった。
- 518 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/05(火) 09:42
-
- 519 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:21
-
誰にでも優しく、誰よりも美しく、誰からも愛され、
何でも出来て当たり前、それでいて気取らない
そんな人が、世の中にはいるのだ
それも、ごく身近に
素敵な人に出会えた
素敵な人が優しかった
素敵な人は幼馴染だった
素敵な幼馴染を愛してしまった
素敵な幼馴染は私を愛していなかった
片想いは甘いけれど、痛く、切ない
- 520 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:22
-
1.
最高の人。愛おしい人。
この人の存在は私にとって幸福だったのか、不幸だったのか。
諦めることも、手に入れることもできない私に、その答えは、まだ出せない。
「卒業式ねぇ〜、あたしまだ卒業しないんだけど」
「もう、まだ言ってるの?」
「言うよ。当然の権利だ。今日は休みじゃないとおかしい」
昨日、卒業式のリハーサルが行われて、私は久しぶりに登校した。
ずっと授業があるひーちゃんは、久しぶりに三年生を見て変なことを言い出した。
『こんなにいるの?二年生は行かない方がエコじゃない?』
要するに休んで寝たいって言いたいんだろう。
屁理屈こねさせたら天下一品。論点はずれてずれて、果ては宇宙の話だった。
何がどうなってそんな話に繋がったのか思い出せない。卒業式には全く関係ない。
口が上手いんだよね。口だけじゃなくて、なんでもすごいんだけど。
気付かないうちにどんどん乗せられてしまう。
美貴ちゃんなんかに言わせれば、私が弱いだけらしいんだけど。
「私が卒業するんだから、お祝いぐらいしてよ」
「家でならいくらでも祝うよ」
この言葉から二人きりで祝ってくれるのかと想像してしまう私は、病気だろうか。
- 521 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:22
-
ひーちゃんは、優しい。無愛想に見えて、誰よりも周りを気遣える。
ただそれを決してひけらかさないのだ。私はこの人の優しさに包まれながら育ち、
年下ながら憧れすら抱き、それはやがて恋慕に変わった。
どんなことがあってもひーちゃんがフォローしてくれるからか、
私は昔から思うままに振る舞ってきた。曲がったことは大嫌いで、暴力なんて認めない。
それでもどこにもぶつからなかったのは、ひーちゃんがフォローしてくれるから。
感謝してるし、面倒をかけているのも分かってはいるのだけれど、もう性格になってしまった。
私の代わりに、ひーちゃんは面倒ごとを解決してくれる。そうして守られてる安心感が、
私を支えてくれる。でも甘えきってしまうのがイヤで自分でも何とかしようとするのだけれど、
基本的な能力の差か、ひーちゃんのほうがなんでも上手くやってしまう。
負けず嫌いな私だけど、これだけは全然悔しくない。すごく、嬉しい。
ひーちゃんには、ダメなところもいっぱいある。
いいかげんで、不真面目。学校サボるのなんてしょっちゅうだし、お酒も煙草も気にしない。
校則なんてあってもなくても同じで、思うが侭に自分の気分で何でも決めてしまう。
私を守ってくれるときはどこまでも強いけれど、普段は近所の犬より弱い。
急に吠えられて、大声を上げてこけたこともある。次の日にはその犬に向かって、
こっそりドッグフードを投げつけていた。ぶつけてるけど、餌をあげてることにもなる。
そんな小さな報復で大きな満足感をその顔に浮かべたひーちゃんは、どこまでも情けなかった。
好きだからなのか、そういうところが好きなのかは自分でも分からないけど、
可愛く思えてしまう。なんて愛おしいんだろうと。ダメなひーちゃんも大好きだ。
- 522 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:22
-
必ず私を守ってくれるひーちゃんだけど、それはあくまで幼馴染としてだった。
私はひーちゃんが恋をする対象ではない。長い片想いをしている。
「ふあーぁ、ねっむい・・・」
「もう、体育館で寝ないでよ」
「ん〜、寝るならちゃんと保健室で寝る」
本当に不真面目というか、自分勝手というか。ちゃんと見送って欲しいのにな。
三年生はいつもより少し遅い時間に来ればいいのだけど、
ひーちゃんと歩く最後の通学路だから、いつも通りの時間に来てしまった。
三年生の登校時間をひーちゃんは知っているのだろうか。
もし知ってたら、ちょっと恥ずかしいな。
教室に入ると部活動の関係でか、早めに来ている子が多くて、
私はそんなに退屈な思いをせずに済んだ。
「あ、梨華ちゃん早いねー」
「うん、ちょっとね。美貴ちゃんも結構早くない?」
確か美貴ちゃんは部活動はなにもしてなかったはずだけど、少し早めの時間に現れた。
「ミキもちょっとね。あ、ごっちんが探してたよ」
「え?私を?」
「うん。行ってあげてよ」
当てもなく探すより連絡してくれた方が早いと思うんだけど、
携帯を見ても連絡は入っていなかった。
- 523 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:23
-
探されてる私が探すのもどうかと思ったのだが、ごっちんに電話してどこに居るのかと聞いた。
屋上で待っていて欲しいといわれたので、私は階段に向かった。
鍵が掛かっているかとも思ったのだが、幸いそんなことはなく、スムーズに入ることが出来た。
「あれ?ごっちん、待っててって言ってたよね?」
「んぁ?そうだっけ?」
後から来るのかと思っていたのだが、そこにはすでにごっちんが居た。
「ごめんね。朝早くから」
「ううん。いいんだけど、二年生はやることあるんじゃないの?」
「ジャンケン負けてさぁ・・・式の後の時間は取られちゃったから」
「ジャンケン?」
「うん。梨華ちゃん、卒業だね」
ジャンケンはそんなに大事なポイントじゃないみたいだ。
とりあえず、ごっちんはお祝いに来てくれたんだ。
「ありがとう」
「んーん、あたしがお礼言いに来たの」
「お礼?」
「うん。あたし梨華ちゃんのおかげでこの高校に来れたの」
「えぇ?そんなことないよぉ」
「そうなの。あたし自分が高校行くと思ってなかったもん」
- 524 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:23
-
ごっちんに初めて会ったのは、駅の近くだった。
少しの間、眺めていたんだ。腕から血を流し、微動だにしないごっちんを。
ムチャしてもいいけど、あたしが居るときにしてくれって、ひーちゃんによく言われてた。
その時、傍にはひーちゃんがいなくて、声を掛けるのを躊躇っていた。
何か事情があるのは間違いなくて、それはきっとひーちゃんの言う、
めんどくさいことの部類に入ることも分かってた。
でも周りの大人が嘲るような視線を遣っているのを見て、我慢できなくなった。
「よかったら家に来ないって聞いてくれたよね」
「うん」
ちゃんと覚えてるよ。ごっちんのきょとんとしたあどけない目が忘れられない。
化粧もすごくて、今より年上に見えるくらいだったけど、その目は確かに澄んでいた。
「手当てしてくれてさ、残ってた破片も抜いてくれて」
「うん」
「よしこのこと話してくれてたんだよね」
「その前にごっちんが自分のこと話してくれたんだよ」
包み隠さず、普段どんなことをしてるか。どんな風に感じてるか。
そういう子にありがちな武勇伝のように語るのではなく、
ただ零すように、話してくれた。すごく純粋で、どこかで偏見を持っていた自分を恥じた。
- 525 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:24
-
「梨華ちゃんがさ、やり直せるって言ってくれたんだよね」
「やり直せたでしょ?」
「うん。あの一言がなかったら、あたしはこんなじゃなかったと思う」
震える声で涙を流し、変わりたいと叫んだごっちんを包み込めた自信はなかった。
でも、ごっちんはその後また私の前に現れた。驚くほどの変貌を遂げており、
一瞬誰だか分からなくて、頭の中で結びついたとき、すごく嬉しかった。
無駄じゃなかったんだと思えた。
私が変えたのだとは思わなかったけど、会いに来てくれたことが嬉しかったのだ。
誰も、自分の両親すらも信用していない子が、私を信用してくれたことが嬉しかったのだ。
「私も、ごっちんが会いに来てくれて嬉しかったよ」
「ホントに?」
ごっちんは、ふにゃりとした笑顔を浮かべた。
本当に喜んでいるのがよく分かる笑顔で、私も思わず頬が緩んだ。
「この高校に来てよかった」
「楽しい?」
「うん。すっごい楽しい。よしこにも会えたし」
ごっちんは、もともと自由な人だから。
周りに居るのが良くも悪くも真面目なだけの私だったら、きっと息が詰まってた。
ひーちゃんは、ギリギリのラインを見極めて遊びつくすから。
知能犯でタチが悪いかもしれないけど、ごっちんとはすごく気が合うみたいだった。
- 526 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:24
-
「勉強教えてくれてありがとう」
「頑張ったのはごっちんだよ」
私たちが二年かけて学んだことを、ごっちんは半年ちょっとで学んだ。
その努力は称えられるべきもので、教えたところで並みの覚悟では出来なかっただろう。
「初めて会った日、梨華ちゃんが天使に見えた」
「あは、ごめんね、変な天使で」
「ううん!最高の天使だったよ」
その笑顔のごっちんの方が天使みたいだよ。ふんわりと明るい。
「あたしの世界は、あの日確かに変わったの」
戻ってきただけだよ。ごっちんはもともとこういう人間だったんだよ。
あの目には、輝きがあったもん。ちゃんと愛されて育ってたんだよ。
「光が差し込んできた。その光は、梨華ちゃん。
梨華ちゃんはあたしの天使で、あたしの太陽。声を掛けてくれて本当にありがとう」
ひーちゃんに頼らなかったのは、あの時だけかもしれない。
こんなに言われたら、照れてしまう。きっと私は当たり前のことをしただけだから。
「そんな風に思ってくれて、ありがとう」
「んあ〜、梨華ちゃんがお礼言わなくてもいいの!」
- 527 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:24
-
「言うよ。私もごっちんがこの学校に入ってよかった」
「なんでぇ〜?」
「だって、誕生日のケーキもおいしかったし、バレンタインのチョコもおいしかったし」
こんなのばっかりじゃないんだけど。
本当はもっといろいろあって、いろんな時間を一緒に過ごして、
いろんな楽しいことがあったんだけど、それを言葉にするのはとても難しい。
形のない、楽しかったっていう思い出だから。
「そんなに美味しかった?」
「うん。プロみたいだったよ」
装飾もかなり凝ってたし。ごっちんってすっごい器用だから。
とても伝えることはできないけど、美貴ちゃんなんか箱を調べてた。
どこかで買って来たんじゃないかって、お店の刻印を探してたぐらい。
ごっちんは何かを考えている。最近は随分余裕があるみたいで、
考えるということを放棄しているかのようだったけど、今日のごっちんは真剣だ。
「んあ、決めた!あたし、専門行く。製菓系でプロになる!」
「え、それ進路でいいの!?」
「うん。梨華ちゃんを喜ばせたい。きっとあの日梨華ちゃんに会わなかったら、
今頃ニートだよ。だから、もっともっとスゴイの作れるようになる」
そう言うごっちんの顔は輝いてる。そんなに、私のおかげって思ってくれなくていいのに。
本気になれる人だったから、立ち直れたわけだし。この高校に入ってからは、
私もごっちんと普通に友達として笑いあってきたし、夢に向かっていくのはごっちんだし。
こんな決め方で、ホントにいいのかな?
- 528 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:25
-
あの時もそうだった。私が勧めたわけではなく、ごっちんは自ら立ち直りたいと言った。
きっと、こうやってごっちんは自分の道切り開いていくんだろうな。
これでいいんだ。きっとこれがごっちんの望む道なんだ。私はそれを応援してあげたい。
「うん。頑張ってね。きっと、なれるよ」
「頑張るよぉ!梨華ちゃんはどうするの?」
私の進路だろうか。ごっちんとそういう話をしたことはなかった。
「学校の先生になろうかなって思ってるの」
「そぉなの!?」
「・・・向いてないかな?」
「ううん、そんなことない。ピッタリだと思うよ!あたしも応援してるからさ、」
ごっちん。すごく、思い出深い。
ひーちゃんを筆頭に、昔から余計なことばかりすると言われ続けてきた私だが、
あの日、ごっちんに声を掛けれたことは、誇りに思える。
私の進路決定に、ごっちんは無関係ではない。
あんな風に悩んでいる子を、救ってあげたい。
ちゃんと愛されてるんだよって、伝えてあげたい。
それでごっちんみたいにやり直して、笑えるようにしてあげたい。
「これからもいっぱい、いっぱい笑っててね。卒業、おめでとう」
「・・・ありがとう」
手渡された花束からは、甘い、いい匂いがした。
- 529 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:25
-
- 530 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:25
-
2.
教室に戻ると、美貴ちゃんが花束を見ながら呆れた顔をしていた。
「なぁんで式の前に渡すかなぁ?」
「美貴ちゃんも貰ったの?」
「まぁ梨華ちゃんのに比べればショボイけどね」
言われて見れば、私がごっちんから貰った花束より少し小さな花束が、
美貴ちゃんの近くに置かれていた。ラッピングが同じだ。扱いが雑で可哀そう。
「どうしよっか?」
「ミキは机の上に放置して行くよ」
卒業証書授与される前から、もう花束を持って入場するわけにも行かない。
でも、二年生の席からごっちん見てるかも。持ってなかったら悲しむかもしれない。
「大丈夫じゃない?あいつどうせ寝てるだろうし」
「え、でも最初ぐらい起きてるよ」
「バカなんだから気を遣わなくていいよ」
「そんなぁ・・・」
美貴ちゃんはそれでいいかもしれないけど。
こんな大きな花束渡されて、教室に置きっぱなしなんて申し訳ないな。
ちょっとぐらい怒られても、ずっと持っておいてあげたいな。
- 531 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:25
-
「梨華ちゃん、悪いこと言わないから置いていきな」
「でも・・・」
「そんなん持って入れるわけないじゃん。没収されるよりは絶対いいから」
う〜ん。確かに、取り上げられたら大変。
美貴ちゃんに説得されて、私は花束を教室に置いたまま体育館に向かった。
「はぁ、始まっちゃうねぇ」
「あれ、美貴ちゃん感傷的になってるの?」
「いやぁ、鼻がねぇ、あんま音立てれないでしょ」
「あ、鼻炎かぁ」
「そうそう。こんな安っぽい式で泣いてるとか思われたくないし」
「いいじゃない。私泣くと思うよ?」
「梨華ちゃんはいいと思うけど、ミキはイヤ。」
美貴ちゃんは意地っ張りだよね。
整列の前に小声で話していたら入場の時間が近づいてきた。
いろんな演出の説明を聞き、整列して、私たちのクラスの入場が始まった。
二年生の方を見ると、ごっちんの後姿が見えた。もう、舟こいでるみたい。
本当にもう寝るんだ。美貴ちゃんって人のことよく分かってるよね。
無意識のうちに一人の姿を探していたのだが、ひーちゃんはいなかった。
出席順に並んだ一番後ろの席が、空いていた。
この学校で会えるのは今日が最後なのに。ホントにサボって寝てるのかな。
- 532 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:26
-
ひーちゃんが同じように思ってくれなかったことが少し寂しかった。
いつものことなのに。ひーちゃんは、そういう人なのに。
自分でも幸薄いなぁって思うけど、そういうとこも、好きなんだ。
『卒業生代表、石川梨華』
「はい」
別に優等生でもなんでもないんだけど、一組で、名前が“い”だから。
時間の都合で、壇上にあがって卒業証書を受け取るのは私だけ。
あとはみんな名前を呼ばれて返事をするだけ。
あんまり目立ったことをしない私の唯一の晴れ舞台。
恥ずかしいからって、そんな風に開き直ったら、
ひーちゃんがその姿を見てくれていないのがすごく残念に思えた。
証書を受け取り、振り返って、お辞儀をした。
顔を上げると、体育館全体が見渡せて、満員の会場で、
ひーちゃんが居ないせいで空いている席に、胸を締め付けられた。
私、悲しんでばっかだな。
ここにひーちゃんがいないからかな。
サボってばっかでもいいけど、そんなとこも好きだけど、
この場所に、居て欲しかったな。
私を見て、笑ってて欲しかった。
- 533 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:26
-
自分の席に戻りながら美貴ちゃんに目をやると、鼻をすすっていた。
いつもと全く変わらない目で、真正面を向いているのは意地なんだろうな。
周りの子みたいに泣いてるわけじゃないですよって主張してるんだと思った。
送辞、答辞と順調に式は進んでいく。
こういう振り返る瞬間って、わりと好き。
あぁ、あんなことあったなって。もちろん用意された言葉はありきたりすぎるけれど、
球技大会とか、文化祭とか、体育大会とか。
その一つ一つにまつわる私たちの思い出もあるわけで。
二年生のとき、文化祭で劇をした。演目はロミオとジュリエット。
ジュリエット役に決まったのは美貴ちゃんだった。とことん嫌がってたから、
面白がってみんなで決めたら、美貴ちゃんが急に私を指名して。
あわや直前での主役交代かって大揉めして。結局美貴ちゃんがやったんだけど、
すこし練習してくることになったとき。ひーちゃんが練習に付き合ってくれた。
お芝居のセリフだって分かってたけど、甘いセリフの中で、蕩けてしまいたかった。
恥ずかしい。きっと誰にも言えない思い出だと思う。
ひーちゃんは大笑いしていた。セリフがバカバカしいって。
そのセリフに胸を焦がしてる人が横にいるっていうのに。
そんなデリカシーに欠けるところも大好き。
- 534 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:26
-
体を動かす行事では、なんと言ってもひーちゃんを見るのが楽しかった。
なにをしてても必ず輝いていた。
途中で疲れたみたいで、やる気をなくしてしまったひーちゃんのところに行って、
頑張れって言ったら、勝ったらチューしてねって、体育館に向かっていた。
知らないんだろうな。あのとき、私がどれだけ必死で応援したか。
試合が終わったら、チューしてとはもう言われなかった。
言われたらどうしてただろ。冗談らしく頬にしたかも。
あるいは、その場を濁して逃げてたかも。
勝ったぁって喜ぶひーちゃんの顔があまりにも子供っぽかったから言えなかったけど。
冗談のままで終わってしまったけど。
これも、誰にも言えない思い出。
帰ってから、本当に動き回って疲れて眠るひーちゃんの頬に、そっと唇を落とした。
バレンタインには、両手に抱えきれないほどのチョコレートを持ち帰ってくる。
こないだはもう紙袋持参だったし。でも毎年必ず、真っ先に私のチョコを口にしてくれた。
今年は丁度100個あるんだって、ごっちんと美貴ちゃんが騒いでたっけ。
美貴ちゃんに貰ったという板チョコは、近所の子供にあげていた。
あとはカードを確認して、おじさんに渡していた。会社の人に食べてもらうらしい。
甘いものは苦手じゃなかったと思うけど、
結果的に今年のバレンタインにひーちゃんが口にしたのは私の贈ったものだけだった。
- 535 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:26
-
甘いだけの思い出ばかりではない。
ひーちゃんが中学三年生のバレンタインには、胸を締め付けられた。
アヤカと別れて傷心だったひーちゃんは、引きこもり状態だった。
ひーちゃんは、私に弱みを見せない。どう見てもへこんでいるのに、
私が行くとなんでもないような顔をして笑う。
私は誰よりもひーちゃんのこと分かってると思うけど、
ひーちゃんは、分からせないように振る舞う。
知ってるのにな。犬に吠えられたら報復に行くような人だって知ってるんだけどな。
ひーちゃんは、強く振る舞うんだ。
部屋まで行って、チョコレートを差し出した。
ずっとサボってるのは、体調が悪いからって言い張ってた。
絶対に心の問題だって分かってたけど、私は何も言えなかった。
アヤカとひーちゃんが付き合ってたのは、仕方ないと割り切っていた。
私がひーちゃんにとってそういう対象ではないことは、中学生の頃から分かっていた。
いつも、何をしててもひーちゃんが包み込んでくれるから、
せめてその心だけでも包み込んであげようとチョコとコーヒーを持って行ったら、
ひーちゃんは泣いていた。
ひーちゃんが泣くのを見たのは、子供の頃以来だった。
泣きたいんだろうなっていう気持ちは伝わってきたことがあるけど、
本当に涙が溢れる姿は、久しく見ていなかった。
- 536 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:27
-
辛そうに、見ないでくれと呟いたひーちゃんの傍に座り、
ひーちゃんの頭を撫でていた。
ひーちゃんの内面に踏み込んだのは、あの時だけだった。
怖くて堪らなかった。拒絶されて、嫌われて、避けられるんじゃないかって、びくびくしてた。
でもひーちゃんは私がウザくて踏み込んで欲しくないと思ってるんじゃないことが分かった。
甘えたりするのが、苦手なのかもしれない。
大人しく頭を撫でられていたひーちゃんは、泣きやむと恥ずかしそうに笑っていた。
あの人が甘えられなくなったのは、私のせいかもしれない。
ずっと私が守られてたから、強くならなきゃって思ってたのかもしれない。
そう思うのは、私の自惚れだろうか。
弱いところを見られたくないと思ってるみたいだから、
私はあまり踏み込まないようにしている。
強くあろうとする、その決意を踏みにじることになるから。
きっとプライドを傷つけてしまうから。傷つき、その傷を隠すひーちゃんに踏み込めない。
新たな傷を作ってしまいそうで、踏み込めない。甘えることで、甘やかす。
美貴ちゃんもごっちんも、ひーちゃんをヘタレだと言うけれど、
私だってそう変わらない。嫌われちゃうのが怖くて堪らない。
ひーちゃんが傍で笑ってくれなくなるのが、怖くて堪らない。
- 537 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:27
-
式は終わりを迎えようとしていた。
誰とも話さずに長時間座っていたせいか、卒業式という雰囲気のせいか、
私はずっと考え事ばかりしていたようだ。気持ちを切り替えないと。
全員が起立する瞬間に、そっと振り向いてひーちゃんの姿をまた探した。
相変わらずの空席にガッカリさせられたまま、私たちの卒業式はその幕を下ろした。
体育館から一応退場して、形の上ではこれで私たちはこの学校とお別れした。
でも実際はとりあえず花道を通って外には出るけど、ぐるっと回って戻ってくる。
そのまま帰ってもいいんだけど、最後の日にそんな過ごし方する人はそうそういない。
「あれ?」
「どうしたの?」
携帯を開いた美貴ちゃんが呟いた。
「梨華ちゃん、携帯持ってる?」
「ううん。なぁに?」
美貴ちゃんがなにかが腑に落ちないという顔をして尋ねてきた。どうしたんだろう。
美貴ちゃんも私も、みんなと同じく教室に戻っている。どうせ戻るつもりだったし、
式の途中に鳴ってしまったら怖いから、教室に置いてきた。
電源切るなりマナーモードにするなりすればいいんだけど、なんとなく安心できない。
実際に父兄席からはロックな曲が鳴り響いて、微妙な空気になる場面もあったし。
- 538 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:27
-
「今見たらさぁ、ごっちんがメール送ってきてんのね」
「うん・・・・え?」
ごっちん式の間ずっと寝てたのに。
さっきも横目で確認したから間違いない。みんな拍手で卒業生を送ってるのに、
ごっちんはピクリともしていなかった。
「ごっちん起きてたのかな?」
「いや、寝てたって。ミキ見たもん」
私も見たんだけど。でもずっと見てたわけじゃないし、
ちょっと起きてメール送ってまた寝たんじゃないのかな。
別に問題ないと思うけど。いや、その態度は褒められたものではないけど、
美貴ちゃんが不思議がるほどのことでもないと思う。
「うん。ミキもそれはいいんだけど、内容がね」
「どうしたの?」
「今日ミキ、バイト休みのはずなのにね、お呼び出しなのね」
「あ〜、人手足りないんじゃないの?」
「いや、梨華ちゃんにもメールでお誘い来てるかなって思ってさ」
私がバイトに誘われる?何が言いたいのかよく分からないけど、
残念ながら今は手元に携帯がない。
- 539 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:28
-
「ごっちん、なんて?」
「サプライズパーティーするから来いって」
「じゃ、お祝いしてくれんじゃないの?」
「梨華ちゃん、surprise、意味は?」
意味は・・・驚かせる。日本語的に使われてるなら、ドッキリパーティー。
こんな風に呼び出すのは?
「サプライズじゃないねぇ」
「でしょ。だから、働かされるのかなって」
「確かにそっちのほうがサプライズあるよね」
パーティーするからって呼んどいて、さぁ、働いてねって。
すごいサプライズだよね。
「ごっちんだもん。ちゃんとお祝いしてくれるよ」
「ごっちんだから怖いんだけどねぇ。ま、戻りますか」
「うん」
花束も取りに行かないと。
「あ、梨華ちゃん。来年度もよろしくねぇ」
「ふふ、それここで言う?」
「いいじゃん、そうなんだから」
同じ大学で、美貴ちゃんと。また一緒なんだけど、今日はお別れの日なのに。
なんだか可笑しくて、美貴ちゃんと笑いながら教室に向かった。
- 540 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:28
-
- 541 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:28
-
3.
私の携帯にもサプライズパーティーのお誘いは来ていた。
式の後の時間は友達のところを回って、寄せ書きとか、一緒に写真撮ったり。
思い出を形に残していく。急に教室の入り口が騒がしくなって、飛び込んできた人がいた。
「みきたん!!私と写真撮らせてあげる!」
「あやちゃん、今日一年生休みだよ・・・」
「みきたんの卒業を私が祝わないわけにはいかないでしょ!」
「別にいいよ、わざわざ学校来なくてもいいし」
あやちゃんは、素直な人。美貴ちゃんのお祝いに駆けつけてくれたんだ。
心なしか美貴ちゃんも嬉しそう。美貴ちゃんは、素直じゃない人。
「石川さんも、卒業おめでとうございます。あ、私の写真撮りますか!?」
「ありがとう。そうだね。じゃぁ、撮らせてもらおうかな」
「梨華ちゃん、メモリーの無駄遣いだよ」
「みきたん!」
「あ〜はいはい」
近くにいた友達にデジカメを渡し、美貴ちゃんも引っ張って一緒に撮ってもらった。
「キレイだったら私にもくださいね」
「うん。美貴ちゃんに渡すね」
「あやちゃんがキレイに映ってないことってあんの?」
「あ、そだね。石川さん、絶対ください」
本当に、羨ましいくらい素直な人。
- 542 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:28
-
今度は廊下全体が騒がしくなって、一気に人だかりが出来るのが見えた。
「あれ、どうしたのかな?」
「キャーキャー言ってんね」
美貴ちゃんはこういうお祭り騒ぎに乗っかるの嫌いだから、
周りのテンションが高ければ高いほど冷静になっていく。
「私、見てこようかな」
「いってらっしゃい」
「みきたんも!」
「後で誰かに聞けば分かるって・・・」
二人がそう言っているのを横目に、私は廊下に出た。
本当にものすごい人だかりで、階段からずっと列が出来ている。
これは中心近くの人は動けないんだろうな。
「ちょ、ごめん。通してくれる?」
聞こえてきた声で、囲まれた中心に誰がいるのか分かった。よく通る、耳に馴染んだ声。
人だかりが割れていく。出来上がった道を歩いてくる人が、私の前で立ち止まった。
「卒業、おめでとう」
後ろから今日の主役たちの熱視線を一身に受け、私に花束を差し出すのは、
私の最愛の幼馴染だった。
- 543 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:29
-
「ありがとう、ひーちゃん」
こういうところが、本当に好き。決めるときは、とことん決められるところ。
後ろに従えた卒業生たちと、花束を手にしたひーちゃん。
主役は完全に逆転していた。
「あ、なんだ。よっちゃんじゃん」
あやちゃんに耳を引っ張られながら出てきた美貴ちゃん。
こちらも逆転してしまっているみたいだ。
「よ。ミキもおめでと。花はやらねーけど」
「オマエからなんていらねーよ」
差し出された花束は私の手に渡ってきた。
今日は、空っぽじゃない。もう、やっぱり何があってもこの人が好き。
あぁ、私幸せになれないかも。
ひーちゃん以外の人に目を向けれるようになんて、なれないかも。
ずっと前から分かってたんだけどな。ひーちゃんはそんな風に思ってはくれないって。
「あ、美貴にも外の枝とか折って持ってきてやろうか?」
「いらないって言ってんでしょ。ってかなんでオマエのボタンがなくなってんだよ」
言われて見れば、ひーちゃんの制服には、ボタンが一つも残ってない。
卒業生から何かもらうなら分かるけど。ひーちゃんまだ卒業しないのに。
- 544 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:29
-
「階段登りきる前に卒業の記念にって、全部むしりとられた」
なるべく平静を装っているみたいだけど、イラついてるのが分かった。
飄々としてて、何を考えてるのか分からないってよく言われてる人だけど、
私から見ると、これほど分かりやすい人もいないと思う。
「ミキが取り返してきたげようか?」
「いーよ。餞別にやる。それに・・・」
ひーちゃんはポケットを探り出して、中身をどんどん私の手に乗せていく。
大量の小銭、家の鍵、バイクの鍵、よく分からない鍵、リップ、コンビニのレシート数枚、
目薬、香水、腕時計、携帯電話、音楽プレーヤー、栞を挟んだ文庫本、マッチにライター、
・・・それに煙草と携帯灰皿。
「あ、あった」
最後に取り出されたのは、大量の制服のボタンだった。
というか、これはなにかのマジックだろうか。収納量がおかしい。四次元ポケット?
「なにそれ?」
「ん。次のボタン。去年もむしりとられたから、押し付けられたやつと付け替えてんの。
美貴にもあげようか?」
「いらない」
非道いこと考えるなぁ・・・。
誰か一人ぐらい一巡して自分のボタン取り返してそう。
帰ったら、自分が押し付けたボタンをひーちゃんのボタンだと信じて眺めるんだろうな。
- 545 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:29
-
知らないでいたら、それはそれで幸せなのかも。
「自分のボタンは?」
「ごっちんが持ってる。自分で持ってると混ざっちゃいそうだから」
知らない人のボタンとか気持ち悪いし、と言いながらポケットに物を戻している。
なんで入るの?普通、パンパンになって目立つよね?ものすごく自然に見えるのは何故?
収納の神様なの?おかしくない?やっぱり四次元空間に繋がってるの?
あぁ、ダメだ、末期症状。こんな気持ち悪いとこまで、可愛くて仕方ない。
ひーちゃん、大好き。
「よし、第二弾」
「むしられるために付け替えるくらいなら、いっそ配っちゃえば?」
「いっぱいあるのバレちゃうじゃん」
「・・・・最後なんだからからかってやるなよなぁ」
付け替えが終わって満足げなひーちゃんに美貴ちゃんが言った。
ちょっと面白がってるんだ。もらったボタンを必死で取り合う様子を笑ってるんだ。
群がられるのが鬱陶しいからって仕返しのつもりなんだろうけど。
本当に困った子。
「梨華ちゃん、ちょっと時間ある?」
「あるよ。どうしたの?」
「じゃ、その時間あたしにちょーだい。後で迎えに来るから」
「え、今からじゃないの?」
「ゆっくりしてなよ。最後じゃん。もーちょいからかってくるから」
これぞいたずらっ子って笑顔を浮かべて、人込みの中にまた飲まれていった。
- 546 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:29
-
そろそろ人も少なくなってきた。
ひーちゃんもボタンを配り終える頃だろうと思うと、そわそわしてきた。
「メイク直ししていく?」
「もぉ、美貴ちゃんからかうのやめてよぉ」
何の話かは知らないけれど、期待は禁物。
ひーちゃんと接する上での忘れてはならないルールだ。
ひーちゃんはずるい。すっごく思わせぶりで、ドキドキしてしまう。
これが計算じゃないから余計にずるい。
いつしか私は期待しないことを学んだ。
それでもたまには期待してしまうけど、今のところ裏切られる確率が100%。
だから私は期待しない。今日も私は期待しない。真面目な話なんてしないに決まってる。
「あ、ひーちゃんからメール。今から来るって」
「あっそ。じゃ、ミキ帰るから。また後でね」
「えぇ?美貴ちゃん一緒に待っててくれないの?」
「ミキいても、よっちゃんに邪魔そうに睨まれるだけだし」
「そうですよ。だからみきたんは私と二人で帰るんです」
「え゛?あやちゃん、ミキそれ初めて聞いたんだけど」
「帰るの!」
「・・・はいはい」
二人を見てるとすごく可笑しくて、笑ってしまった。
- 547 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:30
-
美貴ちゃんたちが出て行き、他の友達も出て行き、教室には誰もいなくなった。
私は一人で窓際に佇む。窓の外の見慣れた景色を目に焼き付けたい。
この景色をこの場所から見ることはもうないんだ。
なんでもない景色の中にも、それなりの思い入れがあったことに気づく。
白い屋根の家に居る大きな犬。高等部に上がるとみんなが勝手に名前を付けていた。
夏の頃には本当の名前が分かったりして、それでも最初に付けた名前を呼び続けたり。
変な思い出を頭に浮かべることがやけに楽しかった。
「梨華ちゃん」
聞きなれた声で名前を呼ばれた。
振り返ると、入り口にもたれかかるようにひーちゃんが立っていた。
ひーちゃんは私と目が合うと、中に入ってきて私の横で立ち止まった。
「なに見てたの?」
「ここから見える景色、ぜーんぶ見てたの」
「はは、待たせちゃったからかな」
「そうだよぉ、ひーちゃん遅ぉい」
まったく苦にならない時間だったけど、わざと怒ってる風に言ってみた。
ひーちゃんは苦笑いを浮かべている。並んで外を眺める横顔を盗み見ると本当にキレイで、
二人っきりでこうして景色を眺めるためならば、いくらでも待てるような気がした。
- 548 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:30
-
「写真撮ろっか」
「うん」
二人で寄り添って、ひーちゃんが手を思いっきり伸ばしてこの景色を、この一瞬を閉じ込めた。
デジカメを確認して、少しだけ斜めになっているのを笑って、行こうか、と言われ教室を出た。
「ひーちゃん、パーティーするんだよね?行かなくていいの?」
「あれ?何で知ってるの?」
「ごっちんからメール来てたよ」
「あいつ・・・・サプライズでって言ってたのに」
あのメールは予定外だったんだ。じゃあ、ひーちゃんはそのために迎えに来たのかな。
ほらやっぱり、真面目な話があるわけじゃないんだよね。
あーあ、決めてたのに。分かってたのに。どこかで期待しちゃってたみたい。
「準備しなくていいの?」
「大丈夫、ごっちんがもうやってるはずだから」
「任せっきりなのぉ?」
「だって、ジャンケン勝ったもん」
あぁ、朝のごっちんのジャンケンはここに繋がるんだ。
ひーちゃんとパーティーの準備役を押し付けあってたんだ。
なんか、こういう関係がうらやましい。遠慮のない、べたべたじゃない仲の良さとか。
少年のような、あっさりしてるけど、大事にしてる関係。
- 549 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:30
-
のんびり歩いて帰るだけだろうと思ってたら、ひーちゃんが公園に寄って行こうと言い出した。
学校のすぐ近くで、気の早い桜が少しだけその花を咲かせていた。
家からも近いので、子供の頃は何度も遊びに来たことがある。
「滑り台、登ってみない?」
「えぇ?」
「いーじゃん」
ひーちゃんはニヤニヤしながら、私を引っ張っていく。
戸惑う私を押しやって、登りかけたら下から嬉しそうな声が。
「あはは、ピンクだぁ」
「ちょ、ひーちゃん!」
慌ててスカートを押さえると、バランスを崩してしまって転倒しかけた。
すっと後ろから差し出された手が私を支えてくれて、バランスを取り戻したのだが、
その瞬間のひーちゃんの鋭い顔が、整いすぎていて息を呑んだ。
でもいつからこんな親父くさくなったんだろう。子供の頃は、天使のようだったのに。
子供の頃は滑り台の上がお城のバルコニーみたいだったのに、
この歳になって登ると、そこはあまりに狭すぎた。手すりも低くて怖い。
何をさせたかったのだろうかと思い下を見たら、ひーちゃんはいなくて。
しゃがんで身を乗り出し、真下を覗き込むと、上から降ってきた手に引き上げられた。
- 550 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:30
-
「そんな乗り出したら危ないよ」
後ろから回された手に引っ張られるままに、しゃがみ込んだひーちゃんの前へ、
私も座り込んだ。高校生二人が座ってしまえば、もう動く場所はない。
「ねぇ、そのままで、あたしの話を聞いてくれる?」
包み込むように座ってるから、きっと顔は見えない。見えなくてよかった。たぶん、真っ赤だ。
こんなに密着して、こんなに近くから、こんなに好きな人の声を聞いたら、
勘違いして期待してしまうのは私だけじゃないと思う。
「誕生日、行けなくてごめんね」
「ううん。いいの。前にも謝ってくれたじゃない」
ひーちゃんが、息を深く吸う音が聞こえた。
この距離は、顔が見えなくても伝わってくるものが多い。
「あの時ね、アヤカとまた付き合ってたんだ」
「・・・・そうなんだ」
一拍置いて吐き出されたその言葉は、私の心の中心に深く突き刺さった。
期待はしないほうがいい。必ず裏切られるから。
ショックを受けないためにも、期待はしないほうがいい。
それでも平然と答えるのは、私の義務だ。
幼馴染として、話したいことがあるなら黙って聞いてあげる。
そのためには、私の片想いなどどこか遠くへ置いておかなければならない。
恋心は、邪魔になってしまう。
- 551 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:31
-
「別れたんだけどね、あたし他に好きな人がいたんだ」
付き合ってたことより、よっぽどショックだよ。
好きな人が恋をしている話ほど、聞いていて辛いものはない。
知らない誰かに恋をするひーちゃんは、想像するだけでも辛いのに。
その人への辛い想いを聞かされるなんて、抉られているみたいな痛みが走った。
顔が見えなくてよかった。
私は必死で涙を堪えて、ひーちゃんの話の続きを聞いていた。
「どっちにも、いけないことしたんだ」
好きな人にも、アヤカにも。
ひーちゃんは、人を傷つけることをすごく嫌う。
「こんなあたしは、幻滅されちゃうかな?」
力のこもっていない声が、私の耳に届いた。
あぁ、今は自分のことよりも、深く傷ついたであろうひーちゃんの方が気になる。
そんなに弱い声を出さないで。片想いは、今は関係ない。
ただこの優しい人の傷を癒してあげたい。
「しないよ」
もたれかかって、ひーちゃんの肩に頭を乗せた。
ひーちゃんは、誰かのために強くなる人だから、私の役割はこれでいいんだと思った。
- 552 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:31
-
ひーちゃんの肩がかすかに震えた。きっと涙を堪えたんだ。
「・・・ありがと。嘘でも嬉しい」
「嘘なんか吐かないよ」
その声には、まだ少しだけ震えの余韻が残されていた。
夕暮れに赤く染まった空の下で、寄り添ったまま時間だけが過ぎていった。
ひーちゃんが落ち着いてくるにつれて、私の中に恋心が戻ってくる。
愛おしい。ひーちゃんの全てが愛おしい。
何年黙ってたんだろう。何があっても、キライになんかなれない。
「ねぇ、ひーちゃん」
「うん?」
「ひーちゃんの好きな人って誰?」
「知りたい?」
「知りたくない」
「・・・・なんだよそれ」
本当に知りたくない。名前を聞いてしまっただけでも、
きっと私の中でそれは鋭いナイフに変わる。
でもこのまま聞かなかったら、私の想いが溢れてしまう。
一度くらい伝えさせて欲しい。重荷になれば、冗談だよって笑ってみせるから。
また何年も、気持ち溢れるまで黙ってるから。涙も、堪えてみせるから。
諦めるという選択肢はなかった。
- 553 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:32
-
私の気持ちが溢れ出てしまう前に、ひーちゃんが口を開いた。
「梨華ちゃん、あたしのこと好き?」
心臓が止まってしまいそうだったけど、その言葉はもう学習済みだ。
嫌われてるかどうか、確認してるだけなんだ。他意はない。だから冷静に。
「好きだよ」
「そっか・・・・。あたしも好き」
「うん」
幼馴染としてでしょ。私の期待にひーちゃんは応えてくれないけど、私は応えるよ。
面倒なことは言わないよ。この言葉だけで、溢れそうな想いには蓋をしておくから。
しかし続く言葉に、私の心臓は本当に止まってしまいそうだった。
「・・・・愛してる。あたしと、付き合ってください」
私の耳の中で、何か別の生き物が幻聴を囁いているかのようだった。
聞き間違いではない。確かに、耳元でひーちゃんが“愛してる”と言ったのだ。
熱いものがこみ上げてくる。私の目から溢れ出てしまう。
「ちょ、梨華ちゃん!?」
ひーちゃんは、顔を伏せて腕の中で肩を震わす私を慌てて覗き込む。
泣けてきた。こんな日が来るとは思わなかった。
「ごめん、そういうんじゃなかった?」
- 554 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:32
-
「そーだよね、ごめんっ、忘れて」
ひーちゃんは、私が泣いているのに動揺してしまっている。
違うの、イヤで泣いてるんじゃないの。早く言わないと、自己完結されてしまう。
でも口が上手く開かない。自由がきかない。
「ヤダよね、そんなの。幼馴染だもんね、そんなんじゃないよね」
必死で首を横に振るが、ひーちゃんは気付かない。
「ほんと、ごめん。あたし、なんて言うか―――」
「ひーちゃん!違うの。私ね・・・笑わないでね?」
「え・・・・・うん」
「今すっごくうれしいの。神様に、感謝したいの」
出会えたことを。あなたと共に育てたことを。
今日という日を。この世界があることを。感謝したい。
「・・・・神様なんて信じてないよ」
「ひーちゃぁ〜ん・・・」
クールに切り捨てる、そういうとこも大好きだけど。
笑わないでと言いながら、今日は笑って欲しかったな。いいの。大好きだからいいの。
ひーちゃんが信じないというなら、私も神様に感謝するのはやめよう。
あぁ、なんて単純なんだろう。イヤになっちゃう。
好きすぎて、イヤになっちゃう。嬉しすぎて、おかしくなっちゃう。
- 555 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:33
-
「あたしの女神は、梨華ちゃんただ一人」
ひーちゃんの静かな声が、私の中に沁みこんで来る。
これ以上の幸せはないと思ったのに、この人はたやすく私を持ち上げてくれる。
「だから、誓う。愛してる」
そう言って、ひーちゃんはゆっくりと私の顔を自分の方に向けた。
近づいてくる顔が、本当に整っていて、美しいという言葉すらも霞んでしまう。
作り物のような、温度を感じさせない薄い唇が、私の唇に重ねられた。
氷の彫刻のように溶けてしまいそうなイメージが頭に浮かんで、
思いのほか暖かいひーちゃんの温度を感じると、溶けてしまったのは私の方だった。
「君に、誓うよ」
この笑顔は、世界で一番美しいと胸を張って言える。
私は完全に固まって、世界一の笑顔に見入ってしまった。
「・・・あのさ、お返事は?」
「ふぇ?」
「『ふぇ』って・・・・」
あ、その顔はどうせ色気ないとか思ってるな。
しょうがないじゃない。心の準備が出来てたら、精一杯可愛く振る舞うけど。
こんな不意打ちでキスまでされたら、動揺して変な声もでるわよ。
- 556 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:33
-
「も、もちろん、いいよ」
慌てて言ったけど、ひーちゃんは相変わらず微妙な表情を浮かべている。
ドキドキしてきた。緊張する。私の顔、なにか付いてるのかな。
「あのさ、もう一つ。真面目に聞いてね」
「うん」
私はいつだって真面目。
ふざけたり、からかったりするのはひーちゃんの方でしょ。
「結婚とか、出来ないじゃん」
「ふぁ?」
「・・・・・いや、だからさ、一生とか、言えないなって」
結婚できない。家庭を築けない。だから、一生愛し続けるとは言えない。
これがひーちゃんの言いたいことみたい。家庭を築きたければ身を引くと。
初めて想いを告げてくれた日に、別れのときの話なんて持ち出されても困る!
「ひーちゃんが子供欲しいなら産むよ?人工授精する。」
「うぇっ!?」
今度はひーちゃんが固まる番だった。
科学の恩恵を享受すればいいじゃない。
結婚?日本では出来ないけど、外国でならできるよ。
子供?産んであげるよ。ひーちゃんが産んでもいいよ。育てる。協力しよ。
幸せな家庭?あなたがいれば、私は幸せ。そこに何もなくても、それは幸せな家庭。
- 557 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:33
-
私が熱弁を奮い終えても、ひーちゃんはまだ固まっていた。
でもだんだん肩が揺れだして、最後には大声を上げて笑い出した。
「あはっ、あはははっ、梨華ちゃん!」
「は、はい!」
「忘れてた!実は梨華ちゃんの方がぶっ飛んでんだよね」
そうだよ。子供の頃からそうだったよ。
やんちゃばっかりで目立つのはひーちゃんだけど、
私がたまに何かしたら、ひーちゃんいっつも固まってたんだよ。
自分ではなんとも思ってないけど、ひーちゃんはよくそう言ってたよ。
「いい!最高!」
褒められてるみたい。ひーちゃんが笑ってるから私も嬉しい。
「すっげーよ。そんな軽く言われるとは思ってなかった」
「簡単だよ。何にも不可能じゃないよ。ひーちゃんそう思わないの?」
「・・・思うよ。ありがとう」
穏やかな、優しい笑みだった。いろんな顔を見てきたけど、この顔は見たことがない。
どんな顔より、私はこの顔が好きかもしれない。もちろん他の顔も大好きだけど。
ひーちゃんは教室で探っていたのとは別のポケットを探り出した。
何が出てくるんだろう。今ならもう鳩とか出てきても驚かない自信がある。
「これ、遅れてごめん。クリスマスとバースデーと卒業と」
ひーちゃんは、小さな包みを取り出した。
- 558 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:34
-
「ありがとう、開けていい?」
「うん」
口調こそ違うものの、これは誕生日の夜の再現だった。
思い出して、すこし緊張した。
「わぁ、可愛い・・・」
しかし今度は、ちゃんと中身が入っていた。ピンク色のハートがついたピアス。
クリスマスと、誕生日。受け取るチャンスは二回あったらしい。
「ずっと付けててよ。指輪よりは気楽でしょ?」
「指輪でもいいよ」
「ははっ、じゃあ次は指輪にしようかな」
私の髪を優しく掻き分けて耳にピアスを付けてくれているひーちゃんにリクエストした。
重いなんて思わない。きっとひーちゃんは私の運命の人だから。
「よく似合ってるよ」
「ありがとう」
自然と笑みがこぼれる。
自分で確認するよりも、ひーちゃんが褒めてくれる方が確実だ。
- 559 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:34
-
「あたしね、時間が止まればいいのにって思ってた」
突然の言葉は抽象的過ぎて、私には何が言いたいのかよく分からなかった。
ひーちゃんはさらに続けた。
「幸せって、時が止まればいいのにって思えることだと思ってた」
幸せとはなにかっていう話なんだろうか。テーマ自体が抽象的なんだ。
私は静かに耳を傾ける。
「でもさ、違ったんだ。ただ逃げてるだけだった」
何から逃げるというんだろう。
「なにもかもから逃げ出して、閉じ篭ろうとしてただけだった」
「じゃあ、ひーちゃんの幸せってどんなの?」
尋ねる私に、ひーちゃんは優しい声で答えた。
「今もすっげー幸せだけどね、時間はさ、止まらなくていいんだ」
「うん」
「今日が終わったら、また次の日のことにワクワクしながら眠るんだ」
今も、次も、その次も、全部楽しみにしていられたら。
あぁ、それって幸せだよね。
- 560 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:34
-
「いつまでも終わらない、ずっとずうっと、楽しみな時間で埋めていくんだ」
「そうだね。それって幸せだよね」
「いーや、まだ足りないよ」
「えぇ?」
「一番大事なのが抜けてるよ」
なんだろう。いつまでも楽しみな時間に、まだ足りないものがあるなんて。
「その傍に、梨華ちゃんが居てくれたら、それが幸せ」
あぁ、私がひーちゃんの幸せの、一番大事な要素なんだ。
そんなの、同じだよ。どんなに楽しいことでも、傍にひーちゃんが居ないと。
同じだよ。私の幸せに一番必要なのは、ひーちゃんだよ。でもね、ちょっとだけ違うの。
「私はひーちゃんが存在するだけで幸せ。それ以上なにも望まないよ」
「・・・ありがとう」
回された腕に力が込められた。その腕は私を強く、しかし優しく包み込む。
ひーちゃんの体温を全身で感じる。その温度は暖かく、心地良い。
でも、私の内側は熱い。今、おそらく私は顔だけでなく体中真っ赤になっている。
「・・・梨華ちゃん、熱ある?風邪?」
ひーちゃんは、私から体を少し離し、心配そうな顔で私を覗き込んでいる。
バレた。どうしよう。照れている状態を極めると、全身が熱くなるのだ。
言えない。さすがにこれは、恥ずかしすぎる。
- 561 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:34
-
頭が真っ白になりそうだった私をひーちゃんの追及から救ったのは、
軽快な携帯の着信音だった。
「あ、メールだ」
「あ、私にも」
どちらも美貴ちゃんからで、文章は同じ。一緒に居るのは分かってるんだ。
“おっせーよ、バカども。早く来い”
「・・・・忘れてたね」
「うん」
私たちの今日のスケジュールは埋まっていたのだった。
もうこのままずっとここに居てもよかったぐらいなんだけど、待たせてるから行かないと。
ゆっくりと立ち上がり、滑り台から降りることにした。
「ちょ、ひーちゃん!」
私は滑って降りようとしたのだけど、ひーちゃんはそのまま飛び降りた。
ひーちゃんは当然のように軽やかな着地を決め、私を見上げている。
あたりはもう薄暗い。足元がはっきり見えていないのに、危ないじゃない。
「え、見えるじゃん」
「・・・・そうなの?」
本当に、基本的な能力がどうかしている。
運動神経は知ってたけど、視力まで並外れているとは知らなかった。
- 562 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:35
-
私は大人しく滑り台という遊具を堪能する降り方で地面に降りた。
砂場についてへたり込む私を見下ろして、ひーちゃんが手を差し出した。
その手をとって、立ち上がる。
「いったい何歳児なんだよ」
「ひーちゃんが登ろうって言ったんじゃない」
「滑ろうとは言ってないよ」
「私にも飛び降りろって言うの?」
「そうは言わないけどさぁ・・・・」
鼻の頭をかきながら言葉を詰まらせたひーちゃんは、繋いだ手を見ていた。
もう立ち上がったけど、どちらからもその手が解かれることはない。
握りなおして横に並ぶと、ひーちゃんは照れくさそうに笑った。
「よぉし、子供欲しいかはまだ分かんないけど、行くかぁ!」
「うんっ」
照れ隠しにハイテンションになるひーちゃんと、手を繋いだまま、歩き出した。
待ちくたびれている友のもとへ。行ったら報告しないと。
あの二人、とくにごっちんはずっと応援してくれてたから。
「あ・・・やっぱ行くのやめない?」
「え?なんで?」
「あいつら絶対からかうよ」
「ひーちゃん私と居るのが恥ずかしいのぉ?」
「え、あ、いやっ・・・・」
- 563 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:35
-
私の機嫌を損ねないようにと必死になるひーちゃんは可愛かった。
すごく新鮮。こんなひーちゃんが見れるなんて。
「どーなのぉ?」
「そんなことないよっ、んなわけないじゃん!」
「ホントにぃ?」
「ホントだよ!自慢してやりたいぐらいっ」
ついついイジワルになってしまう。
でもそのおかげでこんなに嬉しいことを言ってくれてるんだから、
言ってみる価値あるよね。
「じゃあ、着いたらなんて言うの?」
「う〜ん、あたしの自慢の彼女ですって」
「それだけ?」
「えぇっ?あ〜っと・・・・」
「ふふっ、冗談だよ。ありがとう」
「なんだ・・・あ、いやっ、あたしは本気だよっ」
「じゃあ、行かずにどこ行きたかったの?」
「どこでもいいよ。梨華ちゃんと二人なら、そこがあたしの最高の場所」
「・・・・ひーちゃん大好き」
「あたしも、大好き」
笑いあうこの時間がずっと続いたら、幸せだよ。
あなたとなら永遠に居られる。傍にあなたがいるならば、何もなくても構わない。
この人と歩む時間は、全部輝いてる。この手がずっと繋がってれば、他には何もいらない。
- 564 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:35
-
答えはたった決まった。
この人と誰より早く出会えたことは、私の最大の幸福。
ひーちゃんが居てよかった。ひーちゃんを好きになれて、よかった。
ひーちゃん、私はすごく、幸せだよ。この手を離さないでね。
ひーちゃんは誰かのために強くなる人だから、出来れば私のために強くいて。
私はそれ以上に、強くあるから。守られることで、守るから。
愛してるよ、心から。これからも、一生一緒にいてほしい。
私はこの手を離さない
- 565 名前:123-(4) 投稿日:2008/02/07(木) 01:36
-
≪おわり≫
- 566 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/07(木) 01:36
-
- 567 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2008/02/07(木) 08:13
- 最高の作品をありがとう!
ただただそれだけです。
- 568 名前:t-born 投稿日:2008/02/07(木) 09:14
- ああ〜!梨華ちゃん良かったですね!!
私も幸せな気分になりました!
作者さん、ありがとうございます!
そしてお疲れ様でした。
- 569 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/07(木) 09:31
- お疲れさまです
素晴らしい作品に出会えてよかったです
次は
ぜひとも、あやみき編とか読みたいです
- 570 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/07(木) 13:29
- 本当に最高の作品です!!
梨華ちゃんの長年の想いが通じてよかった。
よっちゃんが最愛の人に想いを告げられてよかった。
よっちゃんカッケーっす!!
作者様ありがとうございました。
- 571 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/07(木) 21:22
- 最高の作品ありがとうございました!
更新の度にドキドキするし次の更新が楽しみで超ワクワクしてました!
最後の一文の締め方にんおー!と思ってしまいました。
- 572 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/07(木) 23:19
- 最後に梨華ちゃん視点でくるとは・・・
予想していませんでした!そして最高でした!!
とても良い作品に出会うことができ、幸せです。
ありがとうございました!!!
- 573 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/08(金) 00:10
- 更新お疲れさまでした。完結おめでとうございます。
今回更新のキャスティングや容量も含め鮮やかなラストでした。
全編を通してとても面白かったです。
できれば作者さんの作品をもう少し読ませていただきたいなあ
と思わず贅沢な気持ちが湧いてくるぐらい、正直少し寂しいです。
素敵な作品を本当にありがとうございました。
- 574 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/08(金) 01:36
- はい。終わりました。
読み手あっての文章ですから、
こちらこそありがとうございます。
というか、ずっと返事してなかったのに毎回感想書いてくださって、
本当にありがとうございます。
容量が余ればAさんにフォロー入れたかったんですが、
最後の分すら入るかどうか不安でしたので。
追伸 名無しガッタス様方へ
誰だろうというお話ですが答えは、これしか書いてない。です。
- 575 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/08(金) 10:20
- 作者さん
あんた最高!よって貴方にいしよし賞を贈ります。w
また最高ないしよし小説お願いしたいですお疲れ様。そしてありがとう!
- 576 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/09(土) 05:12
- 完結おめでとうございます、そしてお疲れ様でした。
笑いも、ドキドキも、涙も、感動も、幸せも、ありがとうございました!
素敵な作品に出会えて良かったです!
- 577 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/09(土) 15:37
- 完結おめでとうございます。
それぞれのキャラを生かした様々な視点で楽しませていただきました。
処女作とは思えない完成度にただただ驚きです。
次回作(もちろんいしよし♪)を期待させて下さい。
素晴らしい作品をありがとう。
- 578 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/07/14(月) 14:43
- 新作の予定などないんでしょうか?
また作者さんの作品が読みたいです。
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