短編集2− love for love's sake −
- 1 名前:Z 投稿日:2007/09/17(月) 01:43
 
-  自分が読みたいCPを自己供給な短編集その2。 
 エロあり注意。 
 ベリキュー系・エロどーんとこいな方、暇つぶしにどうぞ。 
  
 前スレ 
 短編集−君が好き− 
 ttp://m-seek.on.arena.ne.jp/cgi-bin/test/read.cgi/dream/1181403510/l50 
   
- 2 名前:Z 投稿日:2007/09/17(月) 01:52
 
-  読みやすさを無視して、前スレの続編も挟まれる予定です。 
 というわけで。 
 前スレ内探すの面倒だよ!な人はサイトをご利用ください。 
  
 ttp://burningglow.web.fc2.com/ 
  
 そしてもう一つ。 
 エロ成分が多分に含まれるスレになる予定なので、 
 レスしてくださる方はsageでして頂けると助かります。 
   
- 3 名前:Z 投稿日:2007/09/17(月) 02:02
 
-   
   
- 4 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/17(月) 02:04
 
-  ぶつかったのはわざと。 
 転んだのもわざと。 
 心配することは初めからわかっている。 
 だから、要求を呑ませることなんて簡単だった。 
  
  
 雅が悪いと思わずにはいられないように転んでみせることなんてそう難しいことではない。 
 わざと大げさに転んで、その弱みにつけ込んで雅に要求を呑ませた。 
 桃子が突きつけた要求はとてもシンプルなもの。 
  
  
   
- 5 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/17(月) 02:06
 
-  一日。 
  
  
 雅の朝から夜までを自分の為にあけてもらうこと。 
 それだけだ。 
  
 桃子がその要求を口にした時、雅が渋々という単語がこれほど似合う顔はないといった表情をしたことを思い出す。 
 それほど嫌そうにして雅は桃子が突きつけたその要求を呑んだ。 
 経緯はどうであれ、とにかく桃子は要求を呑ませることに成功したのは間違いない。 
 だが、さすがに嫌々承諾しただけのことはあった。 
  
  
   
- 6 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/17(月) 02:08
 
-  約束の今日。 
 誰もいない桃子の家に二人。 
 雅は朝から不機嫌だった。 
  
 桃子も最初は機嫌を取ろうとした。 
 けれど、それは受け入れられなかった。 
 不機嫌な雅はどんどん不機嫌になっていくだけで、その機嫌が直ることはなかった。 
 そして今日会ってから一番不機嫌であろう今がある。 
  
  
 理由は簡単。 
 どんどん不機嫌になっていく雅は笑ってくれなくて。 
 だから、なんだか自分も不機嫌になって桃子は雅をベッドの上へと押し倒した。 
  
  
   
- 7 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/17(月) 02:09
 
-  「すぐももはこんなことしようとする。だから嫌だったんだ、こんな風に二人になるの」 
 「だってみーやんが好きなんだもん。したいって思って何が悪いの?」 
  
  
 日頃の行いが物を言う。 
 過去を振り返れば雅の言葉通りの出来事が何度もあった。 
 桃子は雅と二人きりになるとよくこうやって身体を求めていた。 
  
  
 雅に好きだと伝えた。 
 そして曖昧に笑われた。 
 何度も好きだと繰り返した。 
 そのたび困ったような顔で見つめられた。 
 だから、答えが欲しくて桃子は雅の身体を求めた。 
  
  
   
- 8 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/17(月) 02:11
 
-  半ば無理矢理身体を求めることに多少の罪悪感はある。 
 けれど、自分の欲求に正直になっているだけだ。 
 それに雅の承諾なくそのような行為をするつもりはないし、実際にそういう行為に及んだこともない。 
 ただの真似事だ。 
 そもそも雅も本気で嫌がっているわけでない。 
 そう桃子には見える。 
 本気で嫌がっていたらさすがにこんなことを何度も繰り返しはしない。 
  
  
 何度もこんなことをしているにも関わらず自分は雅に嫌われてはいない。 
  
  
 確信にも似た思い。 
 雅は何だかんだ言いながらも、桃子のすることに本気で怒ったことはなかった。 
 だが、好きだと思われているのか。 
 それがよくわからなかった。 
  
  
   
- 9 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/17(月) 02:13
 
-  今、桃子の身体の下には眉間に皺を寄せて不機嫌そうな顔をした雅がいる。 
 別に機嫌の悪い雅と時間を過ごしたいわけではない。 
 それなのにいつもこうだ。 
 気がつけば雅の機嫌は悪くなり、それにつられるように桃子も不機嫌な顔になる。 
 そしてそれ以上、お互いに気持ちを修正できずに大半の時間を不機嫌なまま過ごすのがいつものパターンだった。 
  
 せっかく朝から雅と一緒にいるというのにまたいつもと同じ展開に桃子は憂鬱になる。 
 その憂鬱な気分がまた自分のテンションを下げて、機嫌の悪そうな表情になってしまうこともいつもと変わらない悪循環だ。 
  
 押し倒した相手は不機嫌で押し倒した自分も不機嫌。 
 それで何をしようというのか。 
 自分でも理解出来ないまま桃子は雅に問いかける。 
  
  
   
- 10 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/17(月) 02:14
 
-  「みーやんは興味ない?」 
 「あるとかないとかそういう問題じゃないでしょ」 
 「そういう問題だよ。興味あるなら試してみたっていいじゃん。……結構いいかもよ?」 
 「そういうことは好きな人とするのっ」 
 「だから前から言ってるじゃん。ももはみーやんが好きだって」 
 「それは知ってる。でもうちの気持ちだって大事でしょーがっ」 
  
  
 桃子の提案は雅の低い声と強い語尾によって却下されていく。 
 もうこんなことぐらいで傷つくことはない。 
 桃子と雅の間で何度も繰り返されたやり取りだ。 
 予定調和。 
 言葉のやり取りは決められた結末へと向かう。 
  
  
   
- 11 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/17(月) 02:14
 
-  「嫌いなの?」 
  
  
 こうして拗ねた口調で尋ねれば雅から返ってくる言葉は決まっている。 
  
  
 「……嫌いじゃないけど」 
 「なら、いいじゃん」 
  
  
   
- 12 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/17(月) 02:16
 
-  曖昧な返事。 
 そらされる視線。 
 そんな雅にぶっきらぼうに答えて顔を近づければ必ず瞳が閉じられる。 
 あとはもう唇を寄せるだけ。 
  
 お互いの唇が触れる瞬間、桃子も目を閉じた。 
 唇が触れると、雅の手が桃子の服を握りしめてくる。 
 短いキスの後、その手を握りしめると雅の表情が少しだけ柔らかくなった。 
 触れるだけのキスを何度か繰り返してから桃子は雅から身体を離す。 
 桃子は雅の上になっていた身体を横へと移動させ、ベッドの上に座った。 
  
  
   
- 13 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/17(月) 02:17
 
-  「キスは嫌がらないくせに……」 
  
  
 雅の隣で桃子が小さく呟く。 
 その呟きが聞こえたらしい雅が、桃子から逃げるように顔を横へと向けるのが見えた。 
  
  
 身体の関係は一度もなかったが、桃子と雅はキスだけなら何度もした。 
 不思議なことに雅はキスを嫌がったことは一度もない。 
 だから、今まで何度も軽く触れるだけのキスを繰り返した。 
 ただそれ以上の事は許されない。 
 いや、雅に本気で拒否されるのが怖くてそれ以上の事をしたことがないだけだ。 
 欲求だけならある。 
 でもそれを雅に本気で否定されてしまったら、もうキスすら出来なくなるだろう。 
  
  
   
- 14 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/17(月) 02:18
 
-  唇だけを許す雅の気持ちを知る方法。 
 もう少し言葉を巧みに操ることが出来れば、その気持ちを聞き出すことが出来る気がする。 
 だが、そんな巧みな言葉を持ち合わせている自分ではないことぐらい知っている。 
 他に思い浮かぶことと言えばつまらないことだった。 
  
  
 ここからもう一歩進んでみること。 
  
  
 嫌われていないであろうことを利用して、雅が本気で怒らないことを利用して。 
 もう一歩進んでみる。 
 拒否される怖さを忘れて一歩踏み出す。 
  
  
   
- 15 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/17(月) 02:20
 
-  つまらない考えだ。 
 大体、今までもこの方法は何度も頭に浮かんだ。 
 けれど、この微妙な関係が崩れてなくなりそうで怖くて出来なかった。 
 雅に触れることすら出来なくなるのは避けたい出来事だ。 
 でも、このままいつまで雅を待っていればいいのかわからない。 
 待っていれば答えをもらえるとも思えなかった。 
  
  
 どうするべきなのか。 
 きっと多分、雅は嫌がらない。 
 だからと言って、嫌がらないことを良いことに先に進んでいいのだろうか。 
  
  
 もやもやと晴れない霧のような想いを抱えながら、桃子は雅にかける言葉を探す。 
 結局、思いついたのはいつもの言葉。 
  
  
   
- 16 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/17(月) 02:22
 
-  「みーやん、好き」 
  
  
 キスの後に囁く言葉はいつもこの言葉だ。 
 そしてその言葉に何も答えない雅に対して、つい傷ついたような表情をしてしまうのもいつものことで、桃子はそんな自分が嫌いだった。 
  
  
 「みーやん、好きだよ。……で、みーやんはもものことどう思ってる?」 
 「…………」 
  
  
 もう一度好きだと囁いてから、その後にいつもは聞かないことを聞いてみた。 
 答えは桃子の予想通り、沈黙。 
 雅の揺らぐ視線から何かを読み取ることも出来なかった。 
  
  
   
- 17 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/17(月) 02:23
 
-  雅が困ったように眉根を寄せてから、ベッドから身体を起こす。 
 桃子の隣に雅の手が置かれる。 
 その手の上に桃子は自分の手を乗せた。 
 そして約束を取り付ける時に告げた言葉をもう一度雅に伝えた。 
  
  
 「今日ね、家に誰もいないの」 
 「知ってるよ。ここに来る前にも聞いたし」 
  
  
 逃げない雅の手をぎゅっと握る。 
 つまらない考えが頭の中から離れない。 
 迷ったのは一瞬。 
 すぐに答えは決まった。 
  
  
   
- 18 名前:Z 投稿日:2007/09/17(月) 02:24
 
-   
   
- 19 名前:Z 投稿日:2007/09/17(月) 02:24
 
-   
   
- 20 名前:Z 投稿日:2007/09/17(月) 02:24
 
-  本日の更新終了です。  
   
- 21 名前:名無飼育さん  投稿日:2007/09/17(月) 21:34
 
-  新スレおめでとうございます! 
 作者さんの小説にまったく毒されました。 
 ベリも本当に好きになりましたw 
 今後とも良い小説よろしくお願いいたします。  
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/18(火) 00:22
 
-  作者様のももみやは萌えスポットにクリーンヒットします! 
 
- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/18(火) 00:41
 
-  新スレおめでとうございます 
 作者さんにベリ好きにされましたよw 
 長編共々楽しみにしています  
- 24 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/18(火) 01:05
 
-  「じゃあ……。家に誰もいなくて、こうやって二人でベッドの上にいるって意味わかる?」 
 「……本気で言ってる?」 
 「うん、本気」 
 「帰る」 
 「帰さない」 
 「ももっ」 
  
  
 雅に強く名前を呼ばれた。 
 桃子は制止するその声を聞かずに、雅の太ももの上に跨り肩に手をかける。 
 雅の不安そうな顔が目に入った。 
 それでもかまわず肩を掴んだ手に力を入れる。 
 押し倒そうとする桃子から雅の上半身が逃げる。 
 桃子の手から逃れようとした雅の腕が壁に当たって鈍い音を立てた。 
 その音に思わず桃子の手から力が抜ける。 
  
  
   
- 25 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/18(火) 01:07
 
-  「逃げないで」 
 「逃げなかったらどうするつもり?」 
 「……逃げても逃げなくても答えは一緒だよ」 
  
  
 壁にぶつかった腕をもう片方の手で雅が撫でていた。 
 痛みを和らげるように撫でている手を止めて、桃子は雅のぶつかった腕を取った。 
 雅が撫でていた辺りへキスをする。 
 そのままその腕を引き寄せて、小さく暴れる雅の身体を抱きとめた。 
  
 至近距離で絡み合う視線。 
 雅が目を閉じるその前に唇を奪う。 
 閉じられた唇を舌先でこじ開けると、雅の手が桃子の肩を掴んだ。 
 舌を絡め取ったら、雅が掴んだ肩を押して桃子の身体から離れようと暴れた。 
 その動きに桃子が唇を離すと、雅の呼吸が少しだけ乱れていた。 
  
  
   
- 26 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/18(火) 01:10
 
-  「何なのっ!」 
 「何が?」 
 「何がって……。聞きたいのはこっちだよ。何なのこれ」 
 「キス」 
 「そんなの聞かなくてもわかる」 
 「じゃあ、何が聞きたいの?」 
 「……何でこんなキスするの?」 
 「みーやんが好きだから」 
  
  
 息遣いを感じる距離で見つめて囁くと、桃子の腕の中で身をよじっていた雅の身体が大人しくなる。 
 もう一度キスをする。 
 雅は桃子の腕の中で静かにしたまま動かない。 
 先程とは違い、薄く開かれている唇から舌を差し入れて雅の舌を絡め取る。 
 今したばかりのキスより長いキスをする。 
 雅の逃げる舌を追いかけて、そして唇を軽く舐めた。 
 それでも桃子に身体を預けたままの雅に問いかける。 
  
  
   
- 27 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/18(火) 01:11
 
-  「逃げないの?」 
 「逃げても一緒なんでしょ?」 
 「うん、一緒」 
 「だったら、逃げる意味ない。だから逃げないだけ」 
 「随分、投げやりなんだね」 
 「無駄な努力してもしょうがないから」 
 「ふーん。じゃ、このまましてもいいってこと?」 
 「逃げたらやめてくれるの?」 
 「やめない」 
  
  
   
- 28 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/18(火) 01:13
 
-  雅の諦めたような醒めた口調。 
 本気で怒ることはないと思っていた。 
 そして嫌がることもないと思っていた。 
 その点は間違っていはいなかった。 
 だが、ここまで自分に対して無関心を装われるとは思わなかった。 
 だから、この先を本当にしていいのかためらう。 
  
  
 桃子は試すように雅のTシャツの裾に手をかける。 
 雅の身体がビクッと震えてから硬くなるのがわかった。 
 軽く裾をたくしあげると、雅の指先が肩に食い込んだ。 
 脇腹に直接触れると雅の瞳がきつく閉じられた。 
 けれど、抵抗はしない。 
  
 桃子は脇腹に触れた指先を上へと動かす。 
 そして雅に教え諭すように声をかける。 
  
  
   
- 29 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/18(火) 01:14
 
-  「ねえ、みーやん。多分、みーやんはもものこと好きなんだと思うよ」 
 「なにそれ」 
 「みーやんの気持ちをももが教えてあげてるの」 
 「…………」 
 「違うの?」 
  
  
 教えるというよりは自分の希望だ。 
 雅が自分を好きなのではないか、と今まで何度も考えた。 
 でも、雅の口からその言葉を聞いたことがないし、そんなことを言ってもらえそうな雰囲気になったこともなかった。 
 だから、希望。 
 桃子は希望を真実にするため言葉を口にする。 
 しかし、やはりそれが受け入れられることはなかった。 
  
  
 「もも、うるさい。黙ってよ」 
 「みーやん、好きだって言って」 
 「いやだ」 
  
  
   
- 30 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/18(火) 01:16
 
-  言葉で抵抗される。 
 好きだという言葉を拒絶される。 
 雅のその言葉に少しだけ桃子の胸が痛んだ。 
  
  
 指先が触れている身体は動かない。 
 桃子は胸の奥の痛みを誤魔化すように雅の身体をベッドへと押し倒す。 
  
 何の抵抗もなく倒れた雅の肩をベッドへ押しつける。 
 ベッドが小さく軋む音が聞こえた。 
 押し倒したはずの自分の呼吸が乱れるのがわかる。 
  
 桃子はもう一度雅のTシャツの裾に手をかけて、それを胸の上までたくし上げた。 
 一瞬、胸元を覆う下着が桃子の目に入ったが、しかしすぐにそれは雅の手で隠されてしまう。 
 桃子は反射的にその手を掴む。 
  
  
   
- 31 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/18(火) 01:17
 
-  「見せて」 
 「やだ」 
 「無駄な努力はやめたんじゃないの?」 
  
  
 にやりと笑って挑発するように言葉を投げかけると、負けず嫌いな雅の手が胸から退けられる。 
  
 わかりやすい性格だな、と思う。 
 気が強いくせに人見知り。 
 そして負けず嫌い。 
 ちょっと言葉をかけるだけで容易くその言動を操れる。 
 それなのにどうして好きだという言葉を引き出せないのか。 
  
  
   
- 32 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/18(火) 01:20
 
-  それはきっとこんな時まで、駆け引きめいたやり取りしか出来ない自分のせいなのかもしれない。 
  
  
 桃子は自分の厄介な性格に心の中でため息を一つつくと、雅の胸を覆う下着をずらした。 
 普段、誰かの下着を見ることはあっても、その中身を見る機会というのはそうない。 
 あったとしてもまさかじっと見つめるわけにもいかない。 
 そのせいか桃子は目は雅の胸元に釘付けになる。 
 悪気があったわけではないが、露わになった胸をまじまじと見つめていると急に視界が真っ暗になった。 
 視界を遮ったのは雅の手だった。 
 桃子の目を覆う雅の手のせいで視界が塞がれて前が見えない。 
  
  
   
- 33 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/18(火) 01:20
 
-  「みーやん、見えない」 
 「……もも、見過ぎなんだってば」 
  
  
 不機嫌そうな、というよりは恥ずかしそうな声で雅が言った。 
 目を覆う雅の手に力が入ってさらに暗闇が広がる。 
  
  
 「もう見ないから手どかして?」 
  
  
   
- 34 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/18(火) 01:21
 
-  指先で雅の手の甲をツンツンと突くと、その手が退けられる。 
 暗闇から解放されたばかりの目はぼやけて焦点がなかなか合わない。 
 ぼやっと霞んだ視界のまま、桃子は雅の胸の上に手を置いた。 
 そのまま胸の輪郭を辿るように手を動かすと、雅が驚いたような声をあげた。 
  
  
 「ちょっ」 
 「見てないもん。触ってるだけ」 
  
  
 桃子の視線は雅の顔にある。 
 だから嘘は言っていない。 
 嘘はないからなのか、雅から何の反論もない。 
  
  
   
- 35 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/18(火) 01:23
 
-  桃子は何か言いたげな顔をしている雅の頬を撫で、その首筋に唇を押しつけた。 
 首筋から耳元へキスを落としていく。 
 柔らかく耳たぶに歯を立てると、雅の喉が小さく鳴った。 
  
 唇で耳に触れながら、胸に置いた手を動かすと雅の身体がぴくりと小さく震える。 
 胸の中心に何度も軽く触れると、雅の呼吸が荒くなっていく。 
 硬くなったその部分に爪を立てたら、押し殺したような吐息が聞こえた。 
 桃子が身体に触れるたびに雅から声があがりそうになるのがわかる。 
 けれど、漏れそうになる声は噛んだ唇に押し留められている。 
  
  
   
- 36 名前:Z 投稿日:2007/09/18(火) 01:24
 
-   
   
- 37 名前:Z 投稿日:2007/09/18(火) 01:24
 
-  本日の更新終了です。 
   
- 38 名前:Z 投稿日:2007/09/18(火) 01:30
 
-  >>21 さん 
 ありがとうございます。 
 これからも死なない程度に毒を盛る気持ちでやっていきたいと思いますw 
  
 >>22 さん 
 クリーンヒット量産出来るようにがんばります(`・ω・´)  
  
 >>23 さん 
 ありがとうございます。 
 ベリ布教計画の餌食になって頂けたようでw 
 こちらも長編もがんばります! 
  
   
- 39 名前:名無飼育さん  投稿日:2007/09/18(火) 22:30
 
-  やっぱり作者さんのももみやが最高!  
 二名の交換がおもしろいですね。   
- 40 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/19(水) 00:51
 
-  ↑同意 
 もはやみやももの大家ですな  
- 41 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/20(木) 00:54
 
-  「声、出さないの?」 
 「出さない」 
 「なんで?出した方がきっと気持ちいいよ?」 
 「気持ち良くなくていい」 
 「あ、そう」 
  
  
 唇を噛んでまで声を殺す雅に少し苛立った気分になった。 
 素直になる気がないならそれでいい。 
 噛みしめる唇でさえ押さえきれない快感を与えればいいだけだ。 
  
 さっきまで指先で触れていた胸の中心に唇を寄せる。 
 硬くなったその部分を口に含んで、少し強めに歯を立てて舌先で舐めあげた。 
  
  
   
- 42 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/20(木) 00:57
 
-  「んっ、あっ」 
 「ほら、声出したほうがいいでしょ?」 
  
  
 色付いた声が雅から漏れる。 
 その甘い声に桃子がくすりと笑いながら声をかけると、雅が顔をそらそうとする。 
 雅の目を覗き込むようにして無理矢理視線をあわせてから唇へキスをする。 
 短いキスの後、首筋から胸元まで唇を這わせてその肌を味わう。 
 手の平を胸から腹へと滑らせる。 
 その合間に聞こえてくる短くて小さな喘ぎ声。 
 雅の声に桃子の体温が上がり頬が染まっていく。 
  
  
 今まで聞いたことのない雅の声に呼吸が乱れる。 
 見たこともない雅の姿に身体の奥が熱くなる。 
 思っていたよりもいやらしく動く自分の手に驚く。 
 そしてもっと雅の乱れた姿を見たいと思う自分がいる。 
  
  
   
- 43 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/20(木) 01:04
 
-  肋骨の隙間に指先を這わせ脇腹を撫でてから、桃子は手を雅の下半身へと滑らせていく。 
 固く閉じられた足を開く為に太ももへ手を這わせる。 
 太ももの裏を撫でると雅が身体をよじって逃げだそうとする。 
  
 桃子はベッドに小さく暴れる雅の身体を押しつける。 
 雅の身体がベッドに沈むと、スプリングが軋む音が聞こえた。 
 もう一度太ももを撫で上げる。 
 そして何度も胸にキスを落として舌を這わせると、腰が跳ねて固く閉じられた足が小さく開いた。 
 その空いた隙間に桃子は右足を滑り込ませて、ジーンズのボタンを外しジッパーを下げた。 
 軽く腰を撫でると、雅の身体がジーンズを脱がせやすい体勢へと変わる。 
 桃子は雅のジーンズを降ろし下着をずらすと、隙間から手を差し入れた。 
  
  
   
- 44 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/20(木) 01:08
 
-  「はあっ、んっ」 
  
  
 身体の中心に触れた瞬間、雅から掠れた高い声があがる。 
 そこにゆっくりと指を這わせると雅の身体から溢れ出した体液が指に絡みつく。 
 予想以上に湿っているそこに、桃子は軽く驚くと同時に嫌われていないことを再確認する。 
  
  
 「あのさ、みーやん」 
 「な…に?」 
 「すごく濡れてるんだけど」 
 「だか…ら…なに?」 
  
  
 乱れた呼吸を整えることもせずに雅が口を開く。 
 喘ぎ声を聞かせたくないのか、言葉の途中で雅が唇を噛むせいで声が途切れる。 
 桃子はそんな雅の態度を崩したくて甘えた声で囁いた。 
  
  
   
- 45 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/20(木) 01:09
 
-  「みーやん、教えてよ。好きじゃない相手としてもこんな風に濡れるの?」 
 「……もも、…う…るさいっ」 
  
  
 面白いぐらいに雅の頬の色が変わった。 
 行為のせいか、もともと赤かった頬がさらに赤くなる。 
 それを隠すように雅が右手の甲で顔を隠した。 
 その反応に雅から自分への想いを確信する。 
  
 言葉を聞いたわけではない。 
 けれどその反応が嬉しくて、桃子が上に向けられた手の平にキスをすると、雅にぐっと押し返された。 
 そして開かれていた足が桃子の右足ごとぴったりとまた閉じられる。 
  
  
   
- 46 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/20(木) 01:11
 
-  「足の力抜いて?」 
 「やだ」 
  
  
 手を動かせないことはない。 
 だが、動かしにくいのは確かで雅に力を抜くように催促するが断られる。 
  
  
 「もうちょっと素直になった方がいいと思うけど……。このままだとイケないよ?」 
  
  
 身体の反応と声を聞いているだけで雅が今どんな状態なのかわかる。 
 それなのに雅の身体から力が抜けない。 
  
  
   
- 47 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/20(木) 01:11
 
-  まったく。 
 どうしてこうも素直じゃないのか。 
 この状態をじっと見ているのも面白そうではあるけれど。 
 でも、そんなことをすれば雅が拗ねてしまうのは目に見えているし、それは避けたい出来事だ。 
 理性を手放せ、なんて言うつもりはない。 
 ほんの少し緊張を解いて、身体を預けてくれればいいだけなのに。 
 簡単なことなのにどうして出来ないんだろう。 
 そして、こんな簡単な事が出来ない雅を可愛いと思う自分にも困る。 
  
  
   
- 48 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/20(木) 01:12
 
-  「もものこと、好きでも好きじゃなくてもどっちでもいいからさ。だからもう少し身体、楽にして」 
  
  
 猫なで声で囁いて、額にキスを一つ落とす。 
 雅の顔を覆う手が退けられて赤い頬が見える。 
  
  
 「大丈夫だから。ちゃんと気持ち良くしてあげるから。……ね、みーやん?」 
  
  
   
- 49 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/20(木) 01:14
 
-  優しく。 
 出来うる限りの優しい声で囁く。 
 頬に唇で触れると、身体の力が抜けるのがわかった。 
  
 自由になった手をゆっくりと動かす。 
 指先が一番敏感なその部分に触れるたびに声があがり、身体が揺れる。 
 指の腹で硬くなったそこを撫でると、雅の手が桃子の胸元に伸びてきてブラウスを掴まれた。 
  
 喘ぎ声とブラウスをぎゅっと握る手、そして桃子の指先に絡みつく体液。 
 その反応に雅が感じていることがわかって安心する。 
  
  
 濡れたそこを何度も指の腹で撫でてから指先を雅の身体の中心に少しだけ押し込む。 
 雅が小さく息をのむ。 
 それと同時に身体が硬くなった。 
  
  
   
- 50 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/20(木) 01:14
 
-  「んんっ」 
  
  
 雅の口から漏れた苦しそうな声とぎゅっと閉じられた瞳。 
 ブラウスを握る手に力が入っていることがわかる。 
  
  
 「大丈夫?痛いならやめるよ?」 
 「へーき、だか…ら」 
  
  
 雅の閉じられていた瞳が開かれて、桃子を見つめてくる。 
 平気、という声は苦しげなものだったが雅の身体から少しだけ力が抜ける。 
  
  
 「痛かったら教えてね」 
 「……うん」 
  
  
   
- 51 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/20(木) 01:16
 
-  小さく雅がうなずいたのを確認してから、指をゆっくりと押し込んでいく。 
 時々漏れる吐息の色で痛みをこらえていることがわかるが、雅の口から痛いという単語が出てこないのでそのまま指を身体の奥へ押し進めた。 
 ゆっくりと雅の身体の奥まで指を差し入れ、辿り着いた先で指を止める。 
  
 桃子は指先が雅の身体に慣れるのを待ってから、痛みを与えないように少しずつ動かす。 
 雅の身体は桃子に預けられていて、それまでと違って素直な反応を返してくる。 
 柔らかく身体の中を撫でていくと、雅の苦しげな呼吸が次第に和らいでいく。 
 呼吸の変化にあわせて身体の中を指先で探るように動かしていると雅が甘い声をあげる。 
  
  
   
- 52 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/20(木) 01:18
 
-  「はっ、あっ…んっ」 
  
  
 声と同時に雅が桃子の首筋に顔を埋めてくる。 
 そのせいで耳元で雅の吐息が聞こえて、急に桃子の心臓がドクドクと激しく脈打ち始める。 
  
 一度、大きく息を吸う。 
 浅い呼吸に変わる前に暴れ始めた心臓を落ち着かせる。 
 そして緩やかに雅の中に入れた指を動かす。 
 指に絡みついてくる体液と締め付けてくる身体から逃れるように指先を遊ばせていると、耳元で聞こえる雅の声が少しずつ大きなものに変わっていく。 
  
 指を少しずつ引き抜いて、もう一度奥まで入れる。 
 何度もそれを繰り返していると、雅の足が桃子の足に絡みついてくる。 
 そして今まで以上に雅の身体の中が伸縮して指を締め付けてくる。 
  
  
   
- 53 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/20(木) 01:19
 
-  「みーやん、ももの指でイッていいよ」 
 「もも、うる…さいっ」 
 「ココ、こんなに濡らして、ももの指締め付けてるのに……。みーやんの意地っ張り」 
  
  
 素直になった雅の身体に安心して試すように言葉をかけた。 
  
 雅の身体を追いつめているのは桃子。 
 身体の中に入っているのは桃子の指。 
  
 そう認識させるように雅に囁いた。 
 けれど、思ったようにはいかない。 
 認識させたことによって、雅がまた頑なに桃子を拒む。 
 だが、それも言葉だけのものだとすぐわかる。 
 絡みつく雅の身体が桃子を受け入れていることを知らせてくる。 
 それなのに小さく抵抗を続ける雅が可愛くて、桃子はもう一度声をかけた。 
  
  
   
- 54 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/20(木) 01:22
 
-  「ももの指が気持ちいいくせに」 
 「ちがっ……」 
 「じゃあ、抜いてもいいの?」 
 「いい」 
 「はあ、もう。……みーやん、イキたいんじゃないの?」 
  
  
 雅から返事はない。 
 かわりに早くなっていく呼吸音と高く掠れた声が聞こえてくる。 
 桃子は思ったよりも手強い雅に思わずため息が出る。 
  
  
 こんな反応も可愛いと思う。。 
 そして、もう少しいじめてみたいとも思う。 
 でも、雅の身体が限界に近づいているのもわかる。 
  
 身体に回された雅の腕がぎゅっと桃子を掴んでいる。 
 いやらしく身体の中が蠢いてもっと刺激を求めている。 
 桃子の下で跳ねる身体が次の快感を待ち望んでいる。 
  
  
   
- 55 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/20(木) 01:22
 
-  「次はもうちょっと素直になってね?」 
  
  
 雅が頷いたような気がしたのは気のせいかもしれない。 
 指を強く動かしたらすぐにきつく抱きつかれて、雅からの返事はよくわからなかった。 
 それでも縋り付いてくる雅が愛おしくて、桃子はその身体を快感でいっぱいにするために指を動かす。 
 溢れ出る体液が指を伝い、手首に向かい流れていく。 
 桃子は雅の身体を最後の瞬間に導く為に指を奥へと押し込んだ。 
  
  
  
  
   
- 56 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/20(木) 01:22
 
-   
   
- 57 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/20(木) 01:24
 
-  乱れた衣服を直してベッドの上に二人。 
 くるりと背中を丸めてベッドに横たわった雅の横に桃子は膝を抱えて座る。 
 背中を桃子の方へ向けて横になっている雅が口を開く。 
  
  
 「気がつきたくなかったのに……」 
  
  
 ぶつぶつと呟くような低い小さな声。 
 桃子は膝の上に顎を乗せたまま雅に問い返す。 
  
  
 「何に?」 
 「……別に」 
 「別にって、それじゃわかんないよ」 
  
  
 答える気がないのか答えたくないのか。 
 雅の答えは答えにならない。 
 桃子が答えを促すように雅の肩に触れると、話し出した時よりももっと小さなぼそぼそとした声が聞こえてくる。 
  
  
   
- 58 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/20(木) 01:25
 
-  「……知りたくなかった。なのに、もものせいだ。ももがあんなことするから、そのせいで気づいちゃったじゃん」 
  
  
 桃子は、雅らしい反応だな、と思うと同時に、このままでは自分の欲しい言葉がもらえないだろうとも思う。 
 だから、もう少しだけ雅に言葉を投げかける。 
  
  
 「ほら、やっぱりももが好きなんだ?」 
 「……まだ全部言ってないんだけど?」 
 「嫌いなの?」 
 「……嫌いじゃないけど」 
 「好きなんでしょ?」 
 「……悪い?」 
 「素直じゃないね」 
 「…………好き。ほら、素直でしょ?」 
 「そういうのって素直っていうわけ?……まっ、そこがみーやんらしくていいけどさ」 
  
  
  
   
- 59 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/20(木) 01:26
 
-  本当はいいわけじゃないんだけれど。 
 でも、今日はそれでいいってことにしておいてあげようと思う。 
 あまりいじめるとすぐに拗ねてしまうことがわかっているから。 
  
  
 そのかわり一つだけお願いを聞いてもらおうと桃子は思う。 
  
  
 「あのさ、とりあえず。……みーやん、笑ってよ」 
  
  
 そう言って頬を軽く突くと、雅が驚いた顔をして身体をこちらに向けた。 
 その顔は笑顔とはまた違うもので、だから桃子はもう一度自分の願いを雅に伝える。 
  
  
   
- 60 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/20(木) 01:27
 
-  「ずっとさ……。もも、みーやんに笑って欲しかったの。ももの方を見て笑って欲しかったんだ。だからみーやん、笑ってよ」 
  
  
 二人きりになるといつも不機嫌そうな雅に笑って欲しかった。 
 素直になれないのは自分も同じで、好きだと言いながら雅と同じように不機嫌になっていく自分に呆れていた。 
 本当はそんな風に時間を過ごしたかったわけじゃない。 
  
  
 桃子の言葉を聞いた雅が困ったような表情をしたまま身体を起こした。 
 膝の上に顎を乗せている桃子の視線をあわせるようにペタンと雅が小さく座る。 
 雅の困ったような顔が少しずつ笑顔に変わる。 
  
  
   
- 61 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/20(木) 01:27
 
-  きっと多分。 
 それは桃子が今まで見た中で一番の笑顔。 
  
  
  
 その笑顔になんだか照れくさくなって、桃子は雅のおでこに自分のおでこをコツンとぶつけた。 
  
  
  
  
   
- 62 名前:『 恋する方法 』 投稿日:2007/09/20(木) 01:28
 
-   
  
  
 『 恋する方法 』 
  
  
  
 - END - 
   
- 63 名前:Z 投稿日:2007/09/20(木) 01:28
 
-   
   
- 64 名前:Z 投稿日:2007/09/20(木) 01:30
 
-  >>39 さん 
 ありがとうございます。 
 これからも喜んで頂けるようなものを書けるようにがんばります(*´▽`*) 
  
 >>40 さん 
 そ、そんな恐れ多いΣ( ̄□ ̄; 
 あまり褒めると調子に乗るので注意ですw 
   
- 65 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/20(木) 02:16
 
-  やばい、みやびちゃんが可愛すぎるw 
 GJ 最高です! 
 またお願いします!  
- 66 名前:名無飼育さん  投稿日:2007/09/20(木) 20:27
 
-  作者さんの小説に無我夢中!  
 率直ではない雅も優しい桃子も可愛らしい! 
 なんか雅の視点も見たいですね。    
- 67 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/21(金) 02:53
 
-  最後に通じて良かったねもも 
 
- 68 名前:『 キャッチボール 』 投稿日:2007/09/23(日) 01:16
 
-  別に野球が好きなわけじゃない。 
 まだ暑さが残るこんな日にキャッチボールなどする趣味はない。 
 けれど、撮影の合間にキャッチボールに誘ったのはえりかの方からだった。 
 はしゃぐ舞美が見たかった。 
 それだけだ。 
  
  
   
- 69 名前:『 キャッチボール 』 投稿日:2007/09/23(日) 01:18
 
-  「えりー、もっとびゅーんって投げてよー!」 
 「えー、もうやめようよー。あつーい」 
 「えりから誘ったんじゃん。もう少しやろー」 
 「あーもー。舞美、いくよー!!」 
  
  
 楽しそうにはしゃぐ舞美がえりかの目の前にいた。 
 それはえりかの望んだ光景。 
 そしてもう少し見ていたい光景だ。 
 だが、キャッチボールを切り上げて涼しい場所で身体を休めたいと思ったのも事実。 
 それでも舞美が両手をぶんぶんと振ってえりかからのボールを待っているところを見ると、もう少しだけキャッチボールを続けようかと思った。 
  
 舞美のリクエストに応えて、えりかは大きく振りかぶって力一杯ボールを投げる。 
 しかし、えいっ、と舞美の言葉通り力任せに投げたボールはコントロールを失い、狙った方向とはまったく別の方角へと飛んでいく。 
  
  
   
- 70 名前:『 キャッチボール 』 投稿日:2007/09/23(日) 01:19
 
-  「えり、すごーい!」 
  
  
 明らかな暴投。 
 けれど、あらぬ方向へと飛んでいったボールを見た舞美は、暴投を怒るわけでもなくえりかのことを褒め称える。 
 そしてコロコロと転がるボールを犬みたいにはしゃいで追いかけていった。 
  
  
   
- 71 名前:『 キャッチボール 』 投稿日:2007/09/23(日) 01:21
 
-  『舞美はばかだなあ』 
  
  
 えりかは口に出さずに頭の中でそんな言葉を思い浮かべた。 
 怒るどころか喜んでとんでもない方向へ投げられたボールを取りに行くなんて。 
 本当にばかなんだなあと思う。 
  
  
 慣れないことをしたせいで疲れて、その上暑くて。 
 走る気になんてなれなかったはずなのに。 
 気がつけばえりかはその背中を追っていた。 
  
 多分きっと。 
 自分が走り出したのはそんな舞美を見たからだ。 
  
  
   
- 72 名前:『 キャッチボール 』 投稿日:2007/09/23(日) 01:23
 
-  「舞美、ごめーん!」 
 「あー、えり、そこで待ってて。あたしがボール取ってくるから」 
  
  
 舞美に走り寄る前に制止される。 
 だがその声には従わず、えりかはそのまま舞美の背中を追いかけた。 
  
  
 別に野球が好きなわけじゃない。 
 キャッチボールがしたいわけじゃない。 
 舞美が楽しそうにしているところを見たいだけ。 
  
  
 その笑顔が自分だけに向けられているわけじゃなくても。 
 笑うきっかけを舞美に与えられるだけでよかった。 
 楽しそうに走り回る。 
 そのきっかけを作り出せればそれでよかった。 
  
  
   
- 73 名前:『 キャッチボール 』 投稿日:2007/09/23(日) 01:24
 
-  「ボールあった?」 
  
  
 足の速い舞美にかなり遅れてその場所に走り着いた。 
 走ったことによって乱れた呼吸を整えてから、えりかは草むらの中ボールを探す舞美に尋ねた。 
  
  
 「この辺りだと思うんだけど……」 
  
  
 力一杯投げたボールは草むらの中に落ちてどこにあるのかわからない。 
 えりかに対する返事と言うよりは独り言のように呟きながら、舞美が草むらの中にあるボールを探していた。 
  
  
   
- 74 名前:『 キャッチボール 』 投稿日:2007/09/23(日) 01:24
 
-  「あっ、あった!」 
  
  
 声と共にぱっと明るい顔をした舞美が草むらから視線をえりかへと向けた。 
 そしてそのまま舞美はにっこりとえりかに微笑みかけると、また犬のように走り出した。 
 少し長い距離を走って舞美が立ち止まる。 
  
  
 「えり、いくよっ!」 
  
  
 えりかは舞美の声に慌ててボールを受け止める体制を整えた。 
 少し遠目の位置から舞美がえりかめがけてボールを投げてくる。 
 舞美から投げられたボールはえりかが構えたグラブに綺麗に収まった。 
  
  
   
- 75 名前:『 キャッチボール 』 投稿日:2007/09/23(日) 01:25
 
-  「舞美、まだやるの?」 
 「えり、もう疲れた?」 
 「……ううん。もう少しやろ」 
  
  
 そう言ってから、えりかはボールを舞美に投げ返した。 
 グラブの向こうには嬉しそうに笑う舞美がいる。 
  
  
   
- 76 名前:『 キャッチボール 』 投稿日:2007/09/23(日) 01:26
 
-  キャッチボールを続ける。 
 それだけで笑顔がもらえる。 
  
  
  
 舞美が投げてくるボール。 
 それは今、あたしだけに届くように投げられている。 
  
  
  
 ただそれだけ。 
 それだけで幸せな気がした。 
  
  
  
  
   
- 77 名前:『 キャッチボール 』 投稿日:2007/09/23(日) 01:26
 
-   
  
  
 『 キャッチボール 』 
  
  
  
 - END - 
   
- 78 名前:Z 投稿日:2007/09/23(日) 01:27
 
-   
   
- 79 名前:Z 投稿日:2007/09/23(日) 01:33
 
-  >>65 さん 
 ありがとうございます。 
 これからもガンガンももみや行きますよ〜! 
 といいつつ、今回は℃だったりしますが(;´▽`) 
  
 >>66 さん 
 ありがとうございます。 
 素直な雅は雅じゃない!ってぐらいの勢いで素直じゃありません(;´▽`) 
 雅視点、この話絡みで書こうとは思ったんですが。 
 なんというか、ものすごい勢いで長くなりそうだったので放り出しましたorz 
  
 >>67 さん 
 桃子もハッピー!ヾ(*´∀`*)ノ 
   
- 80 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/23(日) 07:21
 
-  やっぱり雅視点も読んでみたいなぁ。 
 
- 81 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/23(日) 23:17
 
-  舞美はいつも天然ですねw 
 雅視点は作者さんが余裕がある時にいつでも〜 
 見られたら良いと思います。  
- 82 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/24(月) 00:49
 
-  舞美ちゃんは朗らかだねぇ 
 投球フォームは女の子とは思えないほどスゴイが  
- 83 名前:Z 投稿日:2007/09/25(火) 03:13
 
-   
  
  
 『 → Continue 』 
  
  
  
 前スレ「短編集−君が好き−」 
 307-324 
 『 H 』続編 
   
- 84 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/25(火) 03:15
 
-  千奈美はソファーの上にごろりと横になっていた。 
 そして、フローリングの床の上には友理奈がソファーに背中を預けて足を投げ出して座っている。 
  
  
 千奈美の家に二人きり。 
 家族は出かけていて今日は家に帰ってこない。 
 テレビのボリュームについて口うるさく注意する存在がいないから、千奈美は友理奈と二人で大きな音を鳴らして映画を見ていた。 
  
  
 「ねえ、ちぃ。この前の続き……」 
 「え?熊井ちゃん、なに?」 
 「えっとね。ちぃ……」 
  
  
   
- 85 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/25(火) 03:17
 
-  映画の途中、友理奈に声をかけられた。 
 けれど、テレビのボリュームが大きすぎるせいか声が聞こえにくく、千奈美は友理奈に言葉を聞き返した。 
 だが、友理奈の声はテレビの音に負けたままで大きくなる気配がない。 
 千奈美はリモコンに手を伸ばしテレビのボリュームを下げる。 
  
  
 「どうしたの?熊井ちゃん」 
 「いや、あの。そのさ……」 
 「なんなの?」 
 「この前の続きってどうなったの?」 
  
  
 言いにくそうに頬を染める友理奈と目が合った。 
 その表情とその言葉。 
 未遂に終わったあの時の記憶が蘇るが、友理奈があの日のことを言っているのか定かではない。 
  
  
   
- 86 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/25(火) 03:18
 
-  友理奈の言葉の意味を確かめるべきか少し迷ってから、千奈美は身体をソファーから軽く起こして友理奈にキスをする。 
 軽く触れあった唇に友理奈の身体がびくりと震えた。 
 その反応にもう一度キスをしようか迷って、千奈美は友理奈の名前を呼んでみた。 
 耳元で、熊井ちゃん、と呼んでみると友理奈が赤い顔で千奈美の目を見つめてくる。 
  
 千奈美の中で記憶の友理奈と今の友理奈が重なる。 
 あの日、自分の腕の中で恥ずかしそうにしていた友理奈が目の前にいる。 
 心臓が大きな音を立てたような気がした。 
 その音に気がつかれないように、千奈美が友理奈のブラウスのボタンにそっと手をかけると慌てた声がそれを制止した。 
  
  
   
- 87 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/25(火) 03:19
 
-  「ちぃ、待って。違うっ。そうじゃなくて」 
 「違うってなに?」 
 「そっちじゃなくて」 
 「そっちじゃないってどっち?」 
  
  
 友理奈が目の前で手をぶんぶんと横に振りながら言葉の軌道修正を試みる。 
 けれど、千奈美には友理奈が言いたい『続き』の意味がわからない。 
 千奈美の顔が疑問符を頭の上にいくつも並べたようなものになる。 
 そんな千奈美に友理奈が遠慮がちに口を開いた。 
  
  
 「この前のドラマの続き、あれどうなったの?」 
 「ドラマ〜!?」 
  
  
   
- 88 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/25(火) 03:21
 
-  友理奈にドラマと言われて千奈美は自分の記憶を探る。 
 何のことだったかと記憶を掘り起こしてみると、友理奈の言葉と繋がるドラマの存在が浮かび上がってくる。 
  
 そう、確かテレビを見ていた。 
 前回、友理奈が泊まりに来た際、一緒にドラマを見たはず。 
  
 二時間もののドラマを友理奈と二人で見ていた。 
 だが、友理奈はそのドラマを半分程見たところで居眠りをしてそのまま眠ってしまった。 
 見たい、見たいと騒いでいたドラマだったはずなのに、すぐに眠ってしまった友理奈を散々からかった記憶がある。 
  
  
   
- 89 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/25(火) 03:22
 
-  だが、何故あのドラマの続きについて尋ねることぐらいで恥ずかしそうな顔をしたのか。 
 それがよくわからない。 
 普通に、恥ずかしがることなくドラマの続きだと最初から言ってくれれば、他のものと取り違えたりしなかった。 
  
 まるで友理奈の身体をずっと求めていたみたいに、ブラウスへ手をかけた自分に恥ずかしくなる。 
 千奈美はその恥ずかしさを隠すように、少し乱暴な口調で友理奈に言葉を投げかけた。 
  
  
   
- 90 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/25(火) 03:23
 
-  「ドラマの続きって……。なら、なんであんな恥ずかしそうに言うのさ!」 
 「だって、あのドラマってちょっとえっちだったじゃん!」 
 「だからって、恥ずかしがらなくても」 
 「なんかえっちなドラマの続き知りたがるとか、まるであたしがえっちみたいじゃん!」 
 「えー、違うの?」 
 「違うよっ」 
  
  
 友理奈に即答される。 
 ソファーに手をかけ、身を乗り出してまで否定する友理奈に千奈美は思わず口元が緩む。 
 そんな風に否定する友理奈が可愛くて、「ほっぺが赤いよ」と友理奈の頬を突いたらもう一度大きな声で否定されて、千奈美はついに声を出して笑い出す。 
 けらけらと笑い続ける千奈美の前にはからかわれてふくれっ面の友理奈がいる。 
 千奈美は赤くなりながら頬をふくらませる友理奈にあの日と同じ気持ちを抱く。 
  
  
   
- 91 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/25(火) 03:24
 
-  あれから意識しないようにしていた。 
 友理奈の声や仕草。 
 それがあの日、未遂に終わった出来事に結びつくことを避けていた。 
 友理奈の身体が欲しいと思う自分がなんだか恥ずかしくて考えないようにしていた。 
 けれど、また意識してしまった今はもうその気持ちを抑えられない。 
  
  
 「せっかくだしさ……」 
  
  
 きっかけを作る。 
 千奈美は未遂に終わったあの日を今日に繋げるために友理奈へ声をかけた。 
  
  
   
- 92 名前:Z 投稿日:2007/09/25(火) 03:25
 
-   
   
- 93 名前:Z 投稿日:2007/09/25(火) 03:25
 
-  本日の更新終了です。 
   
- 94 名前:Z 投稿日:2007/09/25(火) 03:34
 
-  何かおかしいと思ったら、今まで最初にタイトル書いてなかったorz 
 微妙に読みにくい理由はこれだったのか(´・ω・`) 
  
 >>80 さん 
 雅視点(;´▽`)……。 
 もしも、まとめることが出来たらアップします。 
 自信がないのであまり期待せずに、ということでorz 
  
 >>81 さん 
 舞美は爽やかな天然バカという認識です←ヒドイw 
 まあ、そこが舞美の魅力だと思うんですがw 
 雅視点は進められたら(;´▽`)……。 
 というか、『 恋する方法 』がもう少し続く感じなので、そのあとがんばれたらがんばりますという感じで(;´▽`) 
  
 >>82 さん 
 舞美、キャッチボール上手かったですね。 
 やたら楽しそうでしたし。 
 私の中で今回はそのイメージです('▽') 
  
   
- 95 名前:名無飼育さん  投稿日:2007/09/25(火) 21:34
 
-  ちぃちゃん、頑張ってください。 
 今度は成功するようにw  
- 96 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/26(水) 02:39
 
-  熊井ちゃん天然すぎ〜w 
 次回はとっくまもほのぼの卒業か?  
- 97 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/27(木) 01:18
 
-  「この前の続き、しよ?」 
 「えっ?」 
 「だめ?」 
 「……この前の続きって、あの。えっと、あの続きだよね?」 
 「うん。そう」 
 「…………別にいいけど」 
  
  
   
- 98 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/27(木) 01:20
 
-  断られると思っていた。 
 それなのに思っていたよりも軽く承諾されて千奈美の方が驚く。 
 そのせいで友理奈に手を伸ばすタイミングがよくわからなくなった。 
  
 どうしようか少し考えてから、千奈美はソファーから降りようとする。 
 フローリングの床に座り込んでいる友理奈のもとへ近づこうとしたその時だった。 
 千奈美がソファーから完全に身体を起こす前に、急に立ち上がった友理奈がソファーに片膝をついて千奈美の身体の上へと覆い被さってくる。 
  
  
   
- 99 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/27(木) 01:22
 
-  「あ、あれ?ちょっと、熊井ちゃん!?」 
 「今日はあたしがしてあげるから」 
 「ええっ?」 
  
  
 この前の続き。 
 その言葉から想像したのは自分が友理奈にしてあげるということ。 
 だから友理奈が自分の上にいるというのは千奈美の想像とは違う。 
  
  
 想像と現実のギャップに千奈美があたふたとしている間にも、友理奈の行動が着々と先に進んでいく。 
 友理奈のぎこちないキスが千奈美の唇を塞ぎ、慣れない手がTシャツをたくし上げる。 
  
  
   
- 100 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/27(木) 01:24
 
-  「ちょっ、ストップ!ほら、この前の続きだし、あたしがするからさ。だから熊井ちゃん……」 
  
  
 クライマックスへと向かう映画の派手な効果音がテレビから聞こえてくる。 
 ムードのない蛍光灯が友理奈の身体をはっきりと映し出している。 
 日常のままの世界。 
 そこから急に予想外の世界へ連れ込まれて、千奈美は落ち着かない声で友理奈の手を止めようとした。 
 けれど、その手は止まることなくゆっくりと確実にTシャツを捲り上げ千奈美の身体からそれを脱がせる。 
 気がつけばジーンズに上半身は下着だけ。 
 千奈美は恥ずかしくなって友理奈にしがみつく。 
  
  
   
- 101 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/27(木) 01:26
 
-  「熊井ちゃんってばっ」 
  
  
 先を急ぐ手を言葉で制止する。 
 すると困ったような声で友理奈が答えた。 
  
  
 「えっと、あの、あのさ。……だって、なんか恥ずかしいから」 
 「いや、ちょっと待とうよ。恥ずかしいからって、ちょっと、ほら」 
 「声とか聞かれるのなんかほら、恥ずかしいし。だから、ちぃからね?」 
 「く、熊井ちゃんっ。あたしも恥ずかしいってばっ」 
 「……ちぃ、好き」 
 「もぉ……。熊井ちゃん、ずるい」 
  
  
   
- 102 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/27(木) 01:28
 
-  好きだという言葉で誤魔化す友理奈はずるい。 
 そしてそんな言葉で友理奈を許してしまう自分に呆れる。 
  
  
 たった一つの言葉でそれ以上抵抗できなくなって、千奈美は友理奈に身体を任せる。 
 下着を脱がされる前に、テレビのリモコンを手にとってスイッチを切った。 
 そして明かりを消すように友理奈に頼む。 
  
 薄暗い部屋の中、身体から下着やジーンズが脱がされていく音が小さく響く。 
 ソファーの上に裸になった自分と服を着た友理奈がいる。 
 自分だけ脱がされている事実に恥ずかしくなって、千奈美は友理奈の服に手をかけた。 
 ブラウスのボタンを一つずつ外す。 
 千奈美の身体の上にいる友理奈の身体がボタンを外すたびに硬くなる。 
 全部ボタンを外してブラウスとジーンズ、下着も脱がせた。 
 直接触れあう肌の部分が多くなって身体が熱くなる。 
  
 友理奈が千奈美の身体をぎゅっと抱きしめてくる。 
 唇が千奈美の頬に触れる。 
  
  
   
- 103 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/27(木) 01:28
 
-  「ちぃ、するよ?」 
 「あの、わざわざそういうこと言わないでよ。……聞かれると余計に恥ずかしくなるし」 
 「あ、ごめん」 
  
  
 小さな声で謝罪が一度。 
 少し間を置いてから、友理奈の手がおずおずと千奈美の身体に触れてくる。 
 友理奈の遠慮がちな手が胸の上に置かれた。 
 ゆっくりと胸を撫でるように触られて、なんだかくすぐったくなる。 
 そのくすぐったさから逃れようと身体を捻っても、友理奈の手が追いかけてきてすぐにその手に捕まってしまう。 
 何度もそんなことを繰り返しているうちに、友理奈の手から遠慮が消えていく。 
  
  
   
- 104 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/27(木) 01:29
 
-  「はっ、あっんっ」 
  
  
 気がつけば息が上がっていて、普段出す声とは違う声が千奈美の口から漏れていた。 
 その声に友理奈の手が止まる。 
  
  
 「ちぃ?」 
  
  
 不安そうに友理奈が千奈美の名前を口にする。 
 千奈美は呼ばれた自分の名前に無意識のうちに言葉を返す。 
  
  
 「んっ、な…に?」 
 「……なんでもない」 
  
  
   
- 105 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/27(木) 01:30
 
-  千奈美は友理奈の手が止まっている間に浅くなっていく呼吸を整えようとする。 
 けれど会話はすぐに終わり、友理奈の手が動き出す。 
  
 友理奈の長い指先が胸の輪郭を辿る。 
 胸の一番敏感な部分を友理奈の指先が弄ぶ。 
 その刺激に千奈美の顎が上がり、甘い声が上がる。 
  
  
 「やっ、ふぁっ」 
  
  
 やめて欲しいのかもっとして欲しいのかわからない。 
 友理奈の手が与えてくるくすぐったいような感覚がいつの間にか快感にすり変わって、喉の奥から甲高い声が漏れる。 
 そんな声を聞かれたくないはずなのに声を止める方法がわからない。 
 千奈美は止まらない友理奈の指先にあわせて、声を上げることしか出来ない。 
  
  
   
- 106 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/27(木) 01:31
 
-  身体の奥に留めておきたい声は友理奈の耳元へ。 
 友理奈の手から逃げ出したいと思いながらも逃げ出さない自分。 
  
  
 千奈美の声が少しずつ大きくなっていく。 
 それにあわせるように友理奈の手が自由に千奈美の身体を這い回る。 
 胸に触れていた手は腰を撫で、かわりに唇が胸を刺激する。 
 硬く立ち上がったそこを唇に含まれて舌に絡め取られると身体が跳ねて声が漏れる。 
  
  
   
- 107 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/27(木) 01:32
 
-  「んっ、ああっ」 
  
  
 自分で思っていたよりも大きな声に千奈美は慌てて口元を抑える。 
 けれど、漏れてしまった声がしっかりと友理奈の耳に届いているのは自分でもわかって、千奈美は恥ずかしくなって口元を抑えた手で顔を隠した。 
 その間に友理奈の手がまた止まる。 
 そして止まったまま動かない。 
 不審に思い千奈美が顔を隠した手を退かし、その手で友理奈の頬に触れると友理奈が口を開いた。 
  
  
 「どうしよう?ちぃの声聞いてると、なんか変な気持ちになってくる」 
 「……熊井ちゃん。……だから、そいういこと言わないでよぉ」 
  
  
   
- 108 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/27(木) 01:33
 
-  心なしか友理奈の息が荒くなっている気がする。 
 困ったような声で友理奈にそんなことを言われて、千奈美の身体がもっと熱くなる。 
 どうしていいかわからなくなって、千奈美は友理奈の肩を軽く叩いた。 
  
 肩を叩かれた友理奈が小さく「ごめん」と謝ってから、また千奈美の身体に手を伸ばしてくる。 
 今までよりも大胆になった手が千奈美の腰から下半身へと滑り落ちていく。 
  
 落ち着かない手が千奈美のお尻を撫でて、太ももへと移動する。 
 一瞬ためらってから、その手が足の間へと滑り込んだ。 
  
  
   
- 109 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/27(木) 01:34
 
-  「あっ、やぁっ。熊井ちゃん」 
  
  
 指先が千奈美の身体の中心に触れる。 
 思わず友理奈の名前を呼んだ。 
 けれどその手は止まらず、そこを確かめるように友理奈の指先が這い回る。 
 足の間から水音が聞こえてくる。 
  
  
 「ちぃ、濡れてる」 
 「報告…しなくて……いいから」 
  
  
   
- 110 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/27(木) 01:35
 
-  長い指が千奈美をゆっくり追いつめていく。 
 友理奈と触れている部分がどんどん熱くなっていく。 
 頭の芯がぼうっとして今、自分が何をしているのかよくわからない。 
  
 喉の奥から漏れる喘ぎ声が止まらない。 
 今、部屋に響いている声が自分のものだとわかってはいるが、それを恥ずかしいと思うことすら出来なくなっていく。 
  
 友理奈の指先が千奈美の硬くなった部分を捕らえて離さない。 
 指先が休むことなくそこに触れてくるせいで、千奈美の呼吸は荒くなり息苦しいぐらいになっていく。 
 何かに縋り付きたくなって、友理奈の身体に腕を回す。 
  
  
   
- 111 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/27(木) 01:37
 
-  「ふっ、やめ……。あっ、く…まい…ちゃん」 
  
  
 浅い呼吸を整えることも出来ず、千奈美は囈言のように友理奈の名前を呼ぶ。 
 友理奈の身体に回した腕に力が入る。 
 千奈美の苦しそうな声にまた手が止まり、友理奈が不安げな声を出した。 
  
  
 「ちぃ、大丈夫?」 
 「う…ん、へーき。だか…ら……」 
 「だから?」 
 「だから。……熊井ちゃん、わかっ…てよ」 
 「あ、うん。……ごめん」 
  
  
   
- 112 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/27(木) 01:40
 
-  少し大きな反応を返すだけで千奈美を心配して手が止まる友理奈が愛おしいと思う。 
 何かをするたびに尋ねられるのは恥ずかしいけれど、そうやって聞いてくれるのも友理奈の優しさだとわかる。 
 けれど今は尋ねられても困る。 
  
  
 最後の時に向けて駆け上がっていく身体。 
 早く達してしまいたいと思っていることを友理奈に伝えるなんて出来ない。 
  
  
 それなのに身体は勝手に友理奈を求めて動き出す。 
 そんな千奈美の身体に急かされるように、友理奈の止まっていた手が動き始める。 
  
 友理奈が千奈美の濡れて熱くなったそこを先程よりも強い力で擦る。 
 千奈美の吐息と、足の間から漏れる水音が部屋に響く。 
 その音に今、自分たちがしている行為を再認識させられて身体の芯が痺れる。 
 友理奈に「好きだよ」と耳元で囁かれて、千奈美はそれ以上何かを考えることが出来なくなった。 
  
  
  
  
   
- 113 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/27(木) 01:40
 
-   
   
- 114 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/27(木) 01:42
 
-  ゆっくりと息を吸い込んでは吐き出す。 
 何度も同じ行為を繰り返して千奈美は乱れた呼吸を整える。 
 ソファーに崩れ落ちた千奈美のことをぎゅっと抱きしめ続ける友理奈から身体を離す。 
 そしてくるりと身体の位置を入れ替えた。 
  
 先程までの体勢とは違い、友理奈の上に千奈美が覆い被さった。 
 これから起こることを予想したのか友理奈の頬が赤く染まる。 
  
  
 「じゃ、今度は熊井ちゃんの番ね」 
 「うっ。……いやだ、とかなしだよね?」 
  
  
 満面の笑みで言い切った千奈美に、友理奈が無駄な抵抗を試みる。 
 だが、千奈美はその意見をすっぱりと切って捨てた。 
  
  
   
- 115 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/27(木) 01:43
 
-  「当然なし!」 
 「……わかったけど。けどっ、恥ずかしいから、あんまり変なことしないでよ?絶対だよ?約束だよ?」 
 「わかった。わかったから。ね?」 
  
  
 何度も念を押してくる友理奈を軽くあしらって、千奈美は友理奈の身体に触れた。 
 胸に触れてみようかと思ったが、あることが気になってすぐに下半身へと手を伸ばす。 
  
 千奈美が足の間へと手を伸ばすと、友理奈が身を捩ってその手から逃れようとする。 
 そのせいで手は目的の場所へは辿り着けず、友理奈の太ももを撫でた。 
  
  
 「ちょっと、ちぃ。あっ…ね、そこ。…んっ。……だめだって」 
  
  
   
- 116 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/27(木) 01:45
 
-  友理奈が言葉で抵抗する。 
 けれどそれを無視して触れた太ももを撫で上げながら、千奈美は指先を友理奈の身体の中心へと移動させていく。 
 小さく暴れて千奈美の身体の下から逃げ出そうとする友理奈の首筋を甘噛みする。 
 そのまま噛んだ首筋を舌先で舐めると、友理奈が声をあげた。 
  
  
 「あっ、んっ」 
  
  
 声とともに友理奈の身体から力が抜けた。 
 その隙に千奈美は太ももから一気に身体の中心へと手を伸ばす。 
  
  
   
- 117 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/27(木) 01:46
 
-  「やっ、だめっ」 
  
  
 友理奈が千奈美の腕を止めようとする。 
 だが、友理奈に腕を掴まれる前に千奈美の指先は目的の場所に触れていた。 
  
 いきなり手を伸ばして触れたそこはもう十分に濡れていて。 
 ほとんど友理奈の身体に触れてもいないのに、濡れているそこが嬉しくて。 
 自分が思っていたように友理奈も自分を求めてくれている。 
  
 当たり前のことなのかもしれないけれど、そんなことが嬉しくてそれだけで幸せな気分になる。 
  
  
   
- 118 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/27(木) 01:47
 
-  「ねえ、熊井ちゃん。……あたしにして欲しかった?」 
 「……うん」 
  
  
 友理奈が千奈美をぎゅっと抱きしめた。 
 千奈美は照れたように答える友理奈が可愛いと思う。 
  
  
 『あんまり変なことしないでよ?』 
  
  
 友理奈の言葉を思い出す。 
 変なこと、というのがどういうものかはわからないけれど、友理奈を恥ずかしがらせないでおくことはきっと無理だ。 
 それが約束を破ることになるなら、さっき交わした約束は守れそうにない。 
  
  
 そんなことを思いながら、千奈美は友理奈に触れている指を動かした。 
  
  
  
  
   
- 119 名前:『 → Continue 』 投稿日:2007/09/27(木) 01:48
 
-   
  
  
 『 → Continue 』 
  
  
  
 - END -  
   
- 120 名前:Z 投稿日:2007/09/27(木) 01:48
 
-   
   
- 121 名前:Z 投稿日:2007/09/27(木) 01:50
 
-  >>95 さん 
 今回、がんばれたでしょうか?千奈美は(´▽`)w 
  
 >>96 さん 
 いついかなる時も熊井ちゃんは天然キャラで!w 
  
  
   
- 122 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/27(木) 03:14
 
-  くっ熊井ちゃんから攻めるとはっ! 
 
- 123 名前:名無飼育さん  投稿日:2007/09/27(木) 20:02
 
-  こんな反転が!w  
 作者さんすごい〜  
- 124 名前:Z 投稿日:2007/09/30(日) 23:46
 
-   
  
  
 『 恋が止まらない 』 
  
  
  
 >>4-62 
 『 恋する方法 』続編 
   
- 125 名前:『 恋が止まらない 』 投稿日:2007/09/30(日) 23:48
 
-  今まで不機嫌に過ごしてきた時間を取り戻すように。 
 素直になれなかった時間を埋めるように。 
 二人だけの時間は甘く囁く。 
  
  
 二人並んで壁にもたれかかって座る。 
 隣にいる雅にだけ告げる言葉。 
  
 毎日、好きだと囁く。 
 昨日よりももっとたくさん好きだと伝える。 
 だから今日も桃子は隣に座っている雅に告げる。 
  
  
   
- 126 名前:『 恋が止まらない 』 投稿日:2007/09/30(日) 23:49
 
-  「みーやん、好き」 
 「うん」 
 「大好き」 
 「うん」 
  
  
 好きだと囁くと嬉しそうに笑う雅が好きだ。 
 照れたようにそらされる視線を追いかけてその瞳を捕まえる瞬間が好きだ。 
 「うん」と答える雅の低い声が心地良くて抱きしめたくなる。 
 そして「うん」だけじゃ足りなくなっていく。 
 もっと雅から言葉が欲しくて桃子は何度も囁きかける。 
  
  
   
- 127 名前:『 恋が止まらない 』 投稿日:2007/09/30(日) 23:51
 
-  「聞いてる?」 
 「うん」 
 「好き。……大好き」 
 「うん」 
 「みーやんは?」 
  
  
 雅が素直じゃないことは知っている。 
 でも、好きだと言って欲しい。 
  
  
 好きだと伝えた分だけ好きだと言って欲しいわけじゃないけれど。 
 自分と同じぐらい好きになってくれなんて言う気もない。 
 だけど、たまには好きだと言って欲しい。 
 その言葉だけでもっと好きになれるから。 
  
  
   
- 128 名前:『 恋が止まらない 』 投稿日:2007/09/30(日) 23:53
 
-  「……うん」 
  
  
 言葉と共にそらされた視線は下へ。 
 所在なさげな雅の手が前髪をかきあげたせいで、困ったように寄せられた眉毛が桃子からよく見える。 
 何度かくしゃくしゃと髪を触ってから、雅が赤く染まりかけた頬を隠すように手で口元を押さえた。 
  
  
 「みーやん、ももさ……。みーやんが思ってるよりももっとみーやんが好きなの。ほんと、大好きなの。だから、みーやんがももを好きだって言ってくれたら。……もも、すごく嬉しい」 
  
  
 桃子はもたれかかる相手を壁から雅の肩に変える。 
 肩に頭を乗せてもう一度好きだと囁いたら、雅が顔を膝に埋めて小さく呟く声が聞こえた。 
  
  
   
- 129 名前:『 恋が止まらない 』 投稿日:2007/09/30(日) 23:55
 
-  「……ばかももっ」 
  
  
 雅が桃子の方へともたれかかってくる。 
 身体が今までよりも密着する。 
  
  
 「好き好き好き好き言い過ぎなんだってばっ」 
  
  
 フローリングの床に向かって語りかけられた雅の言葉は怒ったような口調だった。 
 けれど、本当に怒っているわけじゃない。 
 顔は見えないけれど、桃子から見える雅の耳は真っ赤で怒っていないことはすぐにわかる。 
  
  
  
   
- 130 名前:『 恋が止まらない 』 投稿日:2007/09/30(日) 23:56
 
-   
 怒ったような口調も可愛いなぁ。 
 なんて思うももは、みーやんの言うように馬鹿なんだなぁって思う。 
 人を好きになるって馬鹿になることなのかなぁ。 
 ももはみーやんを好きになればなるほど、どんどん馬鹿になっていく気がする。 
 好きだって言葉でみーやんを捕まえていたいなんて考えてるももはほんとに馬鹿だ。 
  
  
  
   
- 131 名前:『 恋が止まらない 』 投稿日:2007/09/30(日) 23:57
 
-  「言い過ぎだっていいじゃん。好きなんだもん」 
 「よくないって」 
 「みーやんも言って?」 
 「無理だって」 
  
  
 あれから何度も身体を重ねているのに、好きだという言葉にはまだ慣れないらしい。 
 言葉を告げるよりももっと恥ずかしいことを何度もしているのに、と桃子は思う。 
 いつだって雅は好きだと口にすることをためらう。 
 でも、桃子には最近学んだことが一つある。 
  
  
 桃子は少しだけ拗ねたように雅に囁く。 
 甘えるように雅の身体に抱きついて言葉を催促する。 
  
  
   
- 132 名前:『 恋が止まらない 』 投稿日:2007/09/30(日) 23:57
 
-  「言ってくれないの?」 
 「……好き」 
  
  
 欲しかった言葉はいつも通りのとても小さな声。 
 けれど、桃子がその声を聞き逃すことはない。 
 そして雅のそのたった一言に舞い上がる 
  
  
   
- 133 名前:『 恋が止まらない 』 投稿日:2007/09/30(日) 23:59
 
-  本当に馬鹿だと思う。 
 そしてそんな馬鹿みたいな自分に呆れる。 
 雅の些細な一言に一喜一憂する。 
  
 付き合い始めてしまえば楽しいことばかりだと思っていた。 
 でも、実際はそんなこともなくて。 
 今まで以上に雅の言動一つ一つが気になってつまらないことで怒って泣いている。 
 好きだという言葉を交換出来ればそれで終わりだと思っていた。 
 けれどそれは違っていて、好きだと言葉にすることは一つのはじまりであって、終わりとはまた違うらしい。 
  
 このまま時が進んでいけば、きっと自分は今まで以上に馬鹿になるんだろうなあ、と桃子は思う。 
 そして、雅も自分と同じように好きだという言葉に喜んで、自分の半分ぐらい馬鹿になってくれればいいなと願わずにはいられない。 
  
  
  
   
- 134 名前:『 恋が止まらない 』 投稿日:2007/09/30(日) 23:59
 
-   
 だから毎日、忘れずに伝えたい。 
 笑った雅が好きだから。 
 そしてそんな雅が好きな馬鹿な自分が好きだから。 
  
  
  
  
   
- 135 名前:『 恋が止まらない 』 投稿日:2007/10/01(月) 00:00
 
-   
  
  
 『 恋が止まらない 』 
  
  
  
 - END -  
   
- 136 名前:Z 投稿日:2007/10/01(月) 00:00
 
-   
   
- 137 名前:Z 投稿日:2007/10/01(月) 00:03
 
-  >>122 さん 
 熊井ちゃんもやれば出来る子なのです(´▽`)w 
  
 >>123 さん 
 こんな感じもいいかなあ、とw 
 熊井ちゃん、がんばりました(*´▽`)w 
  
   
- 138 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/01(月) 00:50
 
-  最高のバカップルになって欲しい 
 
- 139 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/01(月) 01:47
 
-  昔の自分の恋愛を見ているような感じを受け、しみじみ読みました。 
 桃子に共感しながら。w 
 みやびちゃんもっと頑張ろうよ!w  
- 140 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/01(月) 07:21
 
-    
 
- 141 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/01(月) 16:29
 
-  良かった、もも。 
 ももが幸せしたようで私も幸せですねw  
- 142 名前:Z 投稿日:2007/10/04(木) 01:43
 
-  ……一度上げます(・ω・)  
  
 >>2でsage進行をお願いしておきながら、上げるのもどうかとは思ったんですが 
 ochiで一気に一番下まで下がってしまうのはちょっとしょぼーんな感じなので。 
  
 上げになってしまったところを気を遣ってochiにしてくださったのだとは思うのですが、 
 一回上げちゃいます。 
 私の我が儘で上げるだけですので、上げ・ochiレスどちらの方もお気になさらずに〜。 
  
   
- 143 名前:Z 投稿日:2007/10/04(木) 01:45
 
-   
  
  
 『 恋の法則 』 
  
  
  
 >>124-135 
 『 恋が止まらない 』続編 
   
- 144 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/04(木) 01:47
 
-  「みーやんっ」 
  
  
 こんな風に名前を呼ぶつもりじゃなかったはずなのに、気がつけば強い口調で名前を呼んでいた。 
 二人だけの空間に思いのほか声が響く。 
 静かな部屋には不釣り合いな桃子の声に、ベッドの上で荷物整理をしていた雅が振り返った。 
  
  
 名前を呼んでみたものの何か用件があるわけでもなく、なんとなく雅の名を口にしてみただけ。 
 こちらを見つめられても、何か言いたいことがあるわけでない。 
 結局、振り返った雅に何を言えばいいのかわからずに桃子が黙っていると雅が口を開いた。 
  
  
   
- 145 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/04(木) 01:49
 
-  「もも、どうしたの?」 
 「どうもしない」 
 「……怒ってるでしょ?」 
 「別に」 
  
  
 強い口調と不機嫌な声。 
 隠すことの出来ない態度に雅が怪訝そうな目で桃子を見つめてくる。 
  
  
 怒っているつもりはない。 
 ただどうしても感情を抑えられなかった。 
 抑えきれない気持ちが雅の名前を口にさせ、不機嫌な態度を取らせる。 
  
 桃子の感情を暴走させる原因。 
 それはとても些細なこと。 
 けれど桃子にとっては無視できないことだった。 
  
  
   
- 146 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/04(木) 01:49
 
-  自分以外の人間に言わせればきっと大したことではないと言うだろう。 
 少人数にわかれてする仕事で雅と組むことが出来ない。 
 仕事中、雅の隣にいるのが自分ではない。 
 雅の手に、肩に触れるのが自分ではない。 
 そんな些細な出来事が気になる。 
  
 自分以外の人間にとっては気にするほどのこともない出来事。 
 でも、そんなことが気になってしょうがなかった。 
  
  
   
- 147 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/04(木) 01:51
 
-  誰と組んでいたってそれは仕事だ。 
 プライベートとはまた別の話。 
 仕事なんだから雅が誰といたところで気にする事ではない。 
  
 頭ではわかっている。 
 けれど心が納得しない。 
 納得すべきことをうまく自分の中で処理することが出来ない。 
 仕事が終われば、雅はいつも自分の元へとやってくる。 
 プライベートな時間になればその身体に触れることは自由で、好きなだけキスをしたりそれ以上のことが出来る。 
 それなのに何故、仕事以外の時間を独占することだけで満足できないのか。 
  
  
  
   
- 148 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/04(木) 01:51
 
-   
 ぐるぐると渦巻くやり場のない想い。 
 これは何なんだろう。 
 どうしたら消すことが出来るんだろう。 
  
  
  
   
- 149 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/04(木) 01:56
 
-  桃子は納得できない想いを抱えたまま雅に語りかける。 
  
  
 「ここ、佐紀ちゃんが触ったよね」 
 「え?」 
  
  
 ベッドの上に座っている雅へそっと近づいて、雅の右腕を軽く撫でた。 
 桃子は雅の隣に座り込むと、雅が整理していた鞄を遠くへ押しやった。 
  
  
 「ここは梨沙子が触った」 
 「もも?」 
 「今日の撮影でみーやんに触ったでしょ?」 
 「そうだけど……」 
  
  
   
- 150 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/04(木) 01:57
 
-  投げかけられる言葉の意味がわからないままの雅を無視するように桃子は話を進める。 
  
 桃子は雅の正面に座り直して、雅の左肩に手を置いた。 
 向かい合わせになった雅はタンクトップにジーンズ姿というラフな格好。 
 左肩に置いた桃子の手は雅の素肌に触れている。 
  
 目の前には桃子の言葉を理解しきれない雅がいる。 
 これから何をされるのか考えているのかもしれない。 
 雅の目に不安そうな色が見える。 
 けれど今はそんなことを気にする気分になれない。 
  
  
   
- 151 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/04(木) 01:59
 
-  桃子は梨沙子が触れた部分、雅の肩にキスをする。 
 そしてそこに歯を立てた。 
  
  
 「んっ」 
  
  
 軽くではなく強く歯を立てた。 
 雅が痛みを感じる程に。 
 その痛みに雅が声をあげる。 
 桃子はその声に一度、雅の肩から唇を離す。 
 そして今度は、梨沙子が触れたその部分に跡が残るぐらい強く吸い付く。 
  
   
- 152 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/04(木) 01:59
 
-  桃子のその行動にもう一度雅が声をあげた。 
 だが、今度は唇を離さない。 
 そのまま強くその部分を吸ってから、ゆっくりと顔を上げる。 
 桃子が雅の肩を見ると、そこにははっきりと唇の跡がついていた。 
  
 雅の肩についたキスマークを桃子は指先でなぞる。 
 爪を立てるぐらい強く跡を辿ると、雅が不満げな声を出した。 
  
  
   
- 153 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/04(木) 02:00
 
-  「ちょっと、ももっ!」 
  
  
 その声は桃子の行動を咎めるようなものだった。 
 けれど桃子は雅の肩から手を離さない。 
 何度か自分が付けた赤い跡を撫でてから、雅の肩から手首へと一気に指先を走らせる。 
  
  
 「なんでだろうね?ももはあんまりみーやんと一緒に撮影することがない」 
  
  
 答えは期待していない。 
 ただ思ったことを雅に伝える。 
  
  
   
- 154 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/04(木) 02:02
 
-  桃子は雅の手首を掴むと、その指先を自分の口元へと持ってくる。 
 指先にキスを落とす。 
 そしてそのまま軽く手を引っ張り、雅の身体を引き寄せた。 
  
 左手を離して、今度は右手を握ってそのまま右の二の腕に唇を寄せる。 
 強く唇を押し当てて雅の二の腕に吸い付く。。 
 桃子は場所をずらしながらそこにいくつかのキスマークをつける。 
 唇を離すたびに赤い花が雅の腕に咲いていく。 
  
  
   
- 155 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/04(木) 02:03
 
-  「もも、だめだってばっ。ももっ」 
  
  
 何個目かの赤い跡を付けた後、雅が大きな声をあげて桃子を制止しようとした。 
 それでも腕にキスをし続けることを止めない桃子の頭を雅が押さえつけ、その行動を阻止する。 
  
 身体に付いたいくつかの赤い跡。 
 雅が腕についたその赤い跡を軽く撫で、大きく息を吐き出す。 
 桃子の行動を非難するようなため息の後、雅が困ったように言った。 
  
  
 「どーすんの、コレ。……明日も仕事なのに」 
 「みんなに見せる。みーやんがもものだってわかるように」 
 「そんなのだめに決まってるでしょーがっ」 
  
  
   
- 156 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/04(木) 02:04
 
-  まるで駄々っ子だ。 
 そんなことを出来るわけがないと知っていながら雅に無理を言う。 
 出来もしないことを望んで雅を困らせる。 
 そんな小さな子供のような自分に呆れる。 
 けれど一度口にした馬鹿げた願いを止めることが出来ない。 
  
  
 「やだ、見せる。みーやんはもものだもん」 
  
  
 そう言ってから、桃子は雅の肩に付けた赤い跡に唇を押しつける。 
 舌先で肩を軽く舐めると雅が桃子の頭の上に手を置いた。 
 その手に何度かくしゃくしゃと頭を撫でられる。 
  
  
   
- 157 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/04(木) 02:05
 
-  「……もも、もしかして妬いてるの?」 
 「そんなことないっ」 
  
  
 雅の何倍もの大きな声で桃子は即答した。 
 だが、その問いかけへの答えが今、自分が口にした言葉とは違うことにすぐ気がつく。 
  
  
 そうか。 
 これが妬いてるということなのか。 
  
  
 雅に言われて初めて自分の中にある気持ちの名称に気がつく。 
 消えないやり場のない想い。 
 不快なこの気持ちが嫉妬というものだと今さら気がついた。 
  
  
   
- 158 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/04(木) 02:06
 
-  桃子は雅に抱きつく。 
 間に何も入れない程きつく抱きしめる。 
  
 それでも胸の中にある気持ちは消えない。 
 触れあう部分から伝わってくる体温でさえ消すことの出来ない気持ち。 
 嫉妬というものが思っていたよりも厄介な感情だとわかる。 
  
  
 「わっ!ちょっと、ももっ。……んっ」 
  
  
 やりきれない想いを消す為に、雅をベッドへと押し倒す。 
 バランスを崩して倒れるようにベッドへ横になった雅が声をあげたが、その声にかまわずキスをした。 
  
  
   
- 159 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/04(木) 02:08
 
-  「みーやん、もも以外好きにならないで」 
 「……もも」 
 「もも以外の人のところにいっちゃやだ」 
  
  
 正直な気持ちを伝える。 
 くだらない独占欲。 
 人の気持ちを縛り付けておくことなんて不可能だ。 
 想いを口にしたところで、胸の中にあるこの感情を消すことが出来ないことはわかっている。 
  
 それでも少しでも多く自分を見て欲しくて。 
 雅の気持ちが欲しくて。 
 その想いを口にした。 
  
  
   
- 160 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/04(木) 02:09
 
-  「行かないから。……うちはもも以外好きにならないから」 
  
  
 普段、滅多に自分から好きだと言わない雅の言葉が桃子の耳に届く。 
 その言葉に胸の奥が少しだけ軽くなる。 
 もやもやとした霧のようなものが少しだけ晴れる。 
  
  
 「ほんとに?」 
 「うん」 
  
  
 雅が桃子の頬にキスをする。 
 唇が離れた後、優しい笑顔を向けられた。 
 その笑顔に桃子にまとわりついていた不快な感情が少しずつ溶けていく。 
  
  
   
- 161 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/04(木) 02:10
 
-  このどうしようもない感情は自分一人でどうにか出来るものではないらしい。 
  
  
 雅を元として自分が生み出したこの気持ちを無くすには雅が必要で。 
 雅の言葉だけが気持ちを溶かしていく。 
 そしてきっとこうやってこの気持ちを無くしても、またすぐにこの気持ちは生まれてきて何度もこんなことを繰り返す。 
 おそらく好きになればなるほどこんな感情が何度も生まれてくるのだろう。 
  
 少しずつ軽くなっていく気持ちときっとまたこの気持ちに囚われるという不安。 
 二つの気持ちが混じり合って落ち着かない気分のまま、桃子は雅の身体の上に自分の体重を乗せる。 
 雅の首筋に顔を埋める。 
 ぴたりとくっついた雅の身体が心地良い。 
 雅の甘い香りに不安の方が小さくなっていく。 
  
  
   
- 162 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/04(木) 02:11
 
-  「だから、これ以上つけたらだめだからね」 
 「わかった」 
  
  
 耳元で念を押すように囁かれた。 
 ほんの少し前。 
 数分前なら聞き入れることが出来なかったであろう言葉を、今はすんなり受け入れることが出来た。 
  
 背中に回されていた雅の腕が頭へと伸びてきて桃子の髪を撫でる。 
 さらさらと髪を梳くように撫でられて気持ちが良い。 
 鼻をくすぐるような雅の香りに誘われる。 
  
  
   
- 163 名前:Z 投稿日:2007/10/04(木) 02:12
 
-   
   
- 164 名前:Z 投稿日:2007/10/04(木) 02:12
 
-  本日の更新終了です。  
   
- 165 名前:Z 投稿日:2007/10/04(木) 02:16
 
-  >>138 さん 
 バカップルになれる!……のかは謎ですw 
  
 >>139 さん 
 今回、雅はがんばれているのでしょうか?w 
  
 >>141 さん 
 ぜひ桃子と一緒に幸せ気分になってください♪ 
  
   
- 166 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/04(木) 20:57
 
-  子供みたいな,余裕ないそんな桃子もいいですねw 
 二名の交換に心が暖かくなります。  
- 167 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/05(金) 00:44
 
-  かっかわいいぞ!もも 
 
- 168 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 01:32
 
-  「みーやん、いい?」 
  
  
 まるで味見をするように雅の首筋をぺろりと舐めてから問いかけた。 
 返事のかわりに雅から強く抱きしめられる。 
  
 桃子は身体を起こすと、雅が着ているタンクトップを脱がせた。 
 露わになった胸に手を置く。 
 胸に置いた手をゆっくりと動かしながら、桃子は雅の耳にキスをした。 
  
  
 「みーやん、大好き」 
  
  
   
- 169 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 01:34
 
-  繰り返すキスの合間に囁いて、耳たぶを甘噛みする。 
 耳を舌先で舐めると、雅の身体がびくりと震えた。 
 唇で雅の耳を弄びながら、胸に手を這わせる。 
 一番敏感な部分には触れないように緩やかに輪郭を辿る。 
  
 声は聞こえない。 
 かわりに少しずつ早くなっていく呼吸音が聞こえる。 
 荒くなっていく呼吸を静めようと、雅が何度も深く息を吸う音が桃子の耳に入ってくる。 
  
  
 声が聞きたくて桃子は雅の首筋を柔らかく噛む。 
 それでも雅から聞こえるの息を吸って吐く音だけ。 
 今度は強く噛む。 
 そしてそこを舌先で舐める。 
 同時に胸に置いた手を動かすと、雅から小さな声が聞こえた。 
  
  
   
- 170 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 01:34
 
-  「はっ、んっ」 
  
  
 もっと声が聞きたくて、脇腹を軽く撫でる。 
 その感触に雅の身体が桃子から逃げようとする。 
 桃子は雅の肩を掴んでその身体を捕まえた。 
  
  
 「もっと声、聞かせて」 
  
  
 こんなことを言えば雅は絶対に嫌だと答える。 
 そんなことはわかっている。 
 それでも言わずにはいられなかった。 
  
  
 「や…だっ」 
 「まだ声出すの恥ずかしいの?」 
  
  
   
- 171 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 01:36
 
-  雅からは予想通りの答えが返ってくる。 
 そしてこちらからの問いかけに対する返事はない。 
 けれど答えは聞くまでもない。 
 ただ雅の顔を見ればいいだけ。 
 赤くなった頬。 
 それを見るだけで答えがわかる。 
  
  
 苛めてみたくなる。 
 素直にならない雅に。 
 もっと意地悪をしたくなる。 
  
  
 雅の胸の中心へと指を走らせて、そこを指先で摘む。 
 軽く力を入れると雅の身体がびくりと跳ねる。 
  
  
   
- 172 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 01:37
 
-  「あ、んっ、も…もっ」 
  
  
 震えた高い声が雅の口から漏れる。 
 雅の手が胸の上にある桃子の手首を掴む。 
  
 桃子が肋骨の下辺りに唇を押しつけてそこを舐め上げると、雅の手から力が抜けた。 
 自由になった指先が敏感なその部分を指の腹で押さえつける。 
 何度もそこを擦るとそのたびに雅から湿った声があがる。 
 摘み上げるたびに桃子の下で身体が跳ねた。 
  
  
   
- 173 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 01:38
 
-  肋骨の下辺りを舐めていた舌先をゆっくりと脇腹へと移動させる。 
 くすぐるように唇で脇腹に触れて、脇にキスをした。 
 短い声をあげながら身体を捩る雅の腕を捕まえる。 
 右の二の腕に軽く歯を立て噛みつくと、雅が腕を引っ込めようとする。 
 雅の腕を掴んでいる手に力を入れ、引き寄せて腕にキスを落とす。 
 唇を腕から離すと桃子の目に赤い跡が映った。 
  
  
 少し前につけた赤い跡。 
 その跡に桃子の胸の奥がちくりと痛む。 
 忘れかけていた感情が蘇る。 
  
  
  
   
- 174 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 01:39
 
-   
 他の誰かがみーやんに触れるのが嫌だって思うぐらいももはみーやんが好きで。 
 みーやんも同じぐらいももを好きでいてくれたら嬉しいけど、きっとももの方がみーやんを好きだと思う。 
 同じぐらいに好きなんてありえない気がする。 
 より好きになった方が負けなんて思わない。 
 それでも同じぐらい好きになってもらいたいって思う。 
 自分で思っていたよりも、ももは我が儘なのかもしれない。 
  
  
  
   
- 175 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 01:40
 
-  腕にキスをした唇を雅の胸元へ持っていく。 
 付けてはいけないと頭ではわかっている。 
 けれど気がつけば、胸元に新しい赤い跡を付けていた。 
  
 何度も胸元へのキスを繰り返す。 
 雅に触れている手はもっと雅を感じたくてその身体を撫で回す。 
 誰にも渡さないように。 
 誰のものにもならないように。 
 確かめるように桃子は何度もその身体に触れる。 
  
  
   
- 176 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 01:40
 
-  唇から感じる柔らかい肌。 
 手の平から伝わる体温。 
 聞こえてくる甘い声。 
  
  
 全てが心地良くて、もっと雅が欲しくなる。 
 触れている部分が溶け合うぐらい強く胸元に吸い付く。 
 いっそ身体が溶けて一つになってしまえばいいのにと思う。 
  
  
  
   
- 177 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 01:41
 
-   
 もものものだって誰から見てもわかるように。 
 同じぐらい好きなんて無理だけど、こうやって他の誰かにみーやんがもものものだってわかるようにする。 
 こんなことしたらみーやんが困るってわかってるけど。 
 でも、約束を守れない。 
  
  
  
   
- 178 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 01:42
 
-  桃子は雅の胸元にいくつもの花を咲かせる。 
  
 破られた約束。 
 けれど快感に喘ぐ雅はそれに気がつかない。 
 雅の身体が桃子のものだと証明するように胸元が赤く染まっていく。 
  
  
 たくさんの跡。 
 桃子はその赤い跡を見つめてから、キスをする場所を変えていく。 
 胸に、脇腹に、腰に。 
 キスをする。 
 そしてゆっくりと雅のジーンズと下着を脱がせた。 
  
  
   
- 179 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 01:43
 
-  桃子は雅の膝を捕まえる。 
 左右の膝に手をかけて足を開かせる。 
 膝にキスをしてから太ももへ唇を滑らせてそのまま足の間へと向かう。 
 けれど、目的の場所へたどり着く前に身体を起こした雅に頭を抑えられた。 
  
  
 「そんなとこ、だめだよっ」 
  
  
 短く浅い呼吸を繰り返しながら雅が声をあげた。 
 桃子の頭を押さえつける手の力がいつになく強い。 
 雅からぐっと身体から離すように押されて桃子は顔を上げた。 
  
  
 「みーやん、気持ちいいの嫌い?」 
  
  
   
- 180 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 01:44
 
-  顔を真っ赤にして足を閉じようとする雅に問いかける。 
 返事のかわりに、眉根を寄せて困ったような顔をした雅に髪を引っ張られた。 
  
  
 否定ではないらしい。 
 ただ、今からしようとする行為を歓迎しているわけでもない。 
  
 そして問題が一つ。 
 そんな困った顔をされたらもっと意地悪をしたくなるということ。 
  
  
 桃子は雅の太ももの裏をするりと撫でる。 
 もう一度膝に置いた手に力を入れると雅にぐっと押し返された。 
  
  
   
- 181 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 01:45
 
-  「みーやん。足、開いて」 
  
  
 にっこりと微笑みながら雅に言葉をかける。 
 だが、桃子が口にした言葉とは反対に雅の足に力が入る。 
  
  
 「……いいけど、別に」 
  
  
 桃子は少し身体をずらして雅の足先にキスを落とす。 
 足先をぺろりと舐めて、足の指に舌を這わせる。 
 小指を口に含んで軽く噛むと、雅が声を上げて足を引っ込めようとした。 
  
  
 「やっ、ももっ」 
  
  
   
- 182 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 01:48
 
-  高く掠れた声が桃子の名前を呼ぶ。 
 桃子はそれには答えず、雅が引っ込めようとした足を自分の方へと引っ張る。 
 そのまま雅の脹ら脛を掴んで足を軽く持ち上げた。 
  
 足の甲から上へとゆっくりと唇を滑らせる。 
 時々歯を立てるとそのたびに雅が声をあげた。 
 脹ら脛を掴んだ手は足を撫でながら太ももの方へと動かしていく。 
 その手を追うように舌先で足を舐める。 
 手と唇が先へと進むたび雅が小さな抵抗をするが、その動きは弱々しく桃子の動きを止めることが出来ない。 
  
  
   
- 183 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 01:50
 
-  「な…んで。んっ、やっ。…そんなとこ」 
 「全部見たい。もも、みーやんを全部知りたい」 
 「……でも、はあっ、恥ず…かしい…よ」 
 「他の人が知らない、ももだけのみーやん見せて?」 
  
  
 いつだって。 
 どんな時だって。 
 結局、最後に桃子の希望は受け入れられる。 
 嫌だと繰り返す雅に何度もキスをすれば大抵の願いは叶う。 
 それが良いことなのか悪いことなのかはわからない。 
 困らせて、それを受け入れてもらって安心する。 
 自分のことを好きでいてくれるとわかって安心する。 
 だからいつも雅を困らせたくなるのだと桃子は思う。 
  
  
 太ももから腰にかけて何度も撫でる桃子の手に雅が手を重ねる。 
 太ももにキスを何度も繰り返す。 
 おずおずと開かれた足の間に向けてキスを繰り返す。 
 明かりを消さずにいる部屋。 
 雅の濡れたそこに唇を押しつけると雅が声をあげた。 
  
  
   
- 184 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 01:51
 
-  「やあ、ももっ」 
 「やじゃないよ。みーやん、もっとももにキスして欲しいでしょ?……もも、知ってる。それにココもそう言ってるもん」 
  
  
 触れた唇にまとわりつく体液で雅の身体が何を望んでいるかわかる。 
 溢れ出る雅の体液を舌ですくい取る。 
 硬くなったそこを唇で挟み込む。 
 音を立てて舌を何度もそこへ這わせると雅の身体が小刻みに震えた。 
  
  
 「あ、あっ。……ももっ。やだ、や…んっ」 
  
  
   
- 185 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 01:53
 
-  震える甘い声と部屋に響く水音。 
 雅が指先を桃子の髪に差し入れて行き場を探す。 
 繰り返される否定の言葉を裏切るように雅の声は色付いていて、そして身体から溢れる体液が止まることもなかった。 
  
 桃子はゆっくりだった舌の動きを少しずつ早めていく。 
 雅の声が短く途切れたものに変わる。 
 敏感なそこに舌を押しつけるようにして舐め上げる。 
 髪に差し入れられた雅の指先に力が入る。 
 硬くなったそこに吸い付くと、雅が今までよりも大きな声を上げた。 
  
  
  
  
   
- 186 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 01:53
 
-   
  
  
   
- 187 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 01:55
 
-  荒い呼吸を整えもしないで雅がベッドへと潜り込んだ。 
 先程までの行為がよほど恥ずかしかったのか、頭までシーツを被って桃子が何度名前を呼んでもそこから出てくる気配がない。 
  
  
 「みーやん。ねえ、みーやんってば」 
  
  
 何度呼んだかわからない程呼んだ名前をもう一度呼んだ。 
 すると、ガバッ、という擬音がぴったりな勢いで雅がベッドから起きあがった。 
  
  
 「ちょっと。……もも、コレどーすんの」 
  
  
 シーツで隠した胸の上を雅が指し示した。 
 雅の指の先、そこにはいくつあるのか数えることが面倒な程の赤い跡。 
 潜ったシーツの中でその存在に気がついたのか、雅が恨みがましい目で桃子を見つめていた。 
  
  
   
- 188 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 01:57
 
-  「あー、意外とコレ……。もしかしてやりすぎた?」 
 「もしかしなくてもつけすぎなんだって!ほんと、こんなの人に絶対見せられないしっ。大体、もし見られたらどーすんのさっ」 
 「ももは見せてくれた方がいいんだけど」 
 「ももはよくてもうちは絶対やだからねっ!こんなのみんなに見られたら……。っていうか、こんなの写真とかに残ったらどーすんのっ。もものばかっ!」 
  
  
 確かに。 
 雅が怒るのもわかる気がした。 
 桃子が付けた跡は衣装で隠せるような場所ではなく、どちらかといえば隠れない場所でそれも目立つ場所。 
 胸元から肩にかけていくつも散りばめられた赤い跡は、どんな行為によって付けられたものかすぐにわかる。 
  
  
 けれど目の前にいる不満げな雅には悪いが、桃子はそれがどことなく嬉しい。 
 自分のものだと一目でわかる跡が雅についている。 
 仕事のことを考えるとそれはとても邪魔なものだが、仕事がないならばずっとそこに残っていて欲しいと思う。 
 だが、さすがに恨みがましい目でこちらを見ている雅を前に嬉しそうな顔をするわけにもいかず、とりあえず桃子は一つの打開策を提案する。 
  
  
   
- 189 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 01:59
 
-  「ああ、写真?うん、困るね。……ファンデーションとかでなんとか?」 
 「なるのコレ?」 
 「……多分」 
 「ならなかったら、恨むからねっ」 
 「……みーやん、もしかしてすごく嫌だった?」 
 「え?」 
 「キスマーク」 
  
  
 桃子は自分が雅に付けた跡を指先で辿る。 
 不安げな目で胸元の赤い跡を見つめる雅を見ているとこちらも不安になる。 
 そんなにキスマークを付けられるのが嫌だったのかと気になる。 
 喜んで欲しいわけではないが、その跡をいらないものだと思われるのも嫌だった。 
  
  
 明日までには絶対に消えない跡に雅が不安になるのは当たり前だ。 
 実際、こんな状態で衣装を着るわけにもいかない。 
 でも、自分がつけた跡を嫌がられたくないとも思ってしまうのだから仕方がない。 
  
  
   
- 190 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 02:01
 
-  「あ、えっと、別に。嫌っていうか。跡がつくのはやじゃなくて。……やなのは仕事があるからで」 
  
  
 気がつかないうちに沈んだ顔をしていたらしい。 
 そのせいか雅が焦った声で慌てて桃子に話しかけてくる。 
  
  
 「ずっと仕事がなければいいのにね。そしたらみーやんにいっぱいキスマークつけるのに。みーやんがもものだってわかるようにいっぱい付けるのに」 
  
  
 桃子のその言葉に、シーツをぎゅっと握って困った顔をしていた雅がため息をついた。 
  
  
 「……うち、ももがこんなにヤキモチ焼きだって知らなかった」 
 「ももも、みーやんのことがこんなに好きだって知らなかった」 
  
  
 一瞬、真顔で見つめ合う。 
 だが、すぐにどちらからともなく笑い声が起こった。 
 ひとしきりくすくすと笑いあった後、雅がシーツで口元まで隠してから言った。 
  
  
   
- 191 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 02:03
 
-  「ね、もも。……うちも、すごくもものこと好きなんだよ?」 
  
  
 最後まで言い終わるか終わらないか。 
 照れた雅がシーツの中へとまた潜り込んだ。 
  
  
 「みーやん」 
  
  
 桃子は名前を呼んでから、シーツの塊に抱きつく。 
 背後から雅をきつく抱きしめて、シーツ越しに背中へとキスをする。 
 手は胸の上に置いて、そこを軽く触る。 
 桃子のその行為に雅が慌てた声をあげた。 
  
  
   
- 192 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 02:04
 
-  「ちょっと、ももっ。なにっ!?」 
 「……もう一回」 
 「え?」 
 「だめ?」 
  
  
 白いシーツの塊に問いかける。 
 返事が返ってくる前に、シーツの塊から雅の顔がひょこりと現れる。 
  
  
 「そういうのは聞かなくていいから……」 
  
  
 胸の上に置いた手を雅に握られて、指先にキスをされた。 
 桃子がキスに油断している間に、雅が身体を桃子の方へと向ける。 
 至近距離で見つめ合ってから、今度は桃子の方から雅の唇へとキスをした。 
  
  
  
 長いキスの後、部屋の中に聞こえるのはベッドが軋む音だけになった。 
  
  
  
  
   
- 193 名前:『 恋の法則 』 投稿日:2007/10/06(土) 02:05
 
-   
  
  
 『 恋の法則 』 
  
  
  
 - END - 
   
- 194 名前:Z 投稿日:2007/10/06(土) 02:05
 
-   
  
   
- 195 名前:Z 投稿日:2007/10/06(土) 02:08
 
-  >>166 さん 
 いつも余裕たっぷりな感じになってしまうので、たまには余裕のない桃子をw 
 そしていつもの可哀想な雅ということでw 
  
 >>167 さん 
 可愛い桃子に雅も満足なはず(´▽`)w 
   
- 196 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/06(土) 04:13
 
-  焦るみやびちゃん可愛いなぁw 
 こう、なんていうか一方的に見えて(思い込んでて) 
 相手にさらっと好きだよみたいなこと言われると、 
 胸にぐっと来ますよねぇ  
- 197 名前:名無飼育さん  投稿日:2007/10/06(土) 20:48
 
-  お互いの愛情を確認する二名に心温まりました。 
 やっぱり雅は桃子のだったですね!w  
- 198 名前:Z 投稿日:2007/10/10(水) 01:31
 
-   
  
  
 『 ライバルはアイドル 』 
  
  
  
   
- 199 名前:『 ライバルはアイドル 』  投稿日:2007/10/10(水) 01:32
 
-  舞美ちゃんはアイドルだ。 
 もちろんあたしもアイドルなんだけれど。 
 でも、舞美ちゃんはもっともっとアイドルなんだ。 
 メンバーの中でも人気者で。 
 だから愛理が舞美ちゃんを大好きでも仕方がないんだ。 
  
  
  
   
- 200 名前:『 ライバルはアイドル 』  投稿日:2007/10/10(水) 01:34
 
-  通い慣れた愛理の部屋。 
 栞菜は愛理と二人、クッションを抱えてお茶を飲む。 
 お菓子を食べながら仕事の話や学校の話、色々なことを二人で話していた。 
 そして、当然のように舞美の話も飛び出す。 
  
 それはいつもと何もかわらない過ごし方。 
 今日も体育の話で盛り上がっていたら、話題はいつしか舞美のことになっていた。 
  
  
 「……愛理」 
 「なに?」 
 「舞美ちゃんはスポーツ万能だし、格好良くて綺麗でいいよね」 
 「うん、うん。カッコイイよね、ほんと。憧れるなー」 
  
  
 皮肉も通じないとか。 
  
  
   
- 201 名前:『 ライバルはアイドル 』  投稿日:2007/10/10(水) 01:35
 
-  一体どれぐらい舞美の話をしていたのか。 
 時間はわからないがとにかく随分と長い間、舞美の話をしていたような気がした。 
  
 いつも愛理はとても嬉しそうに舞美の話をする。 
 その嬉しそうな顔はとても可愛くて、そんな風に笑う愛理のことが好きだと思う。 
 けれど、愛理にそんな顔をさせているのが自分ではないことを悲しく思う気持ちもある。 
 だから栞菜はつい拗ねたような口調になる。 
  
  
 「ふーん。へー。で、あたしは?」 
 「え?あ、ごめん」 
 「恋人に対してごめんだけですむのかなー」 
 「えっと、栞菜も綺麗で可愛いよ」 
 「……愛理、それで許されると思う?」 
 「あ、やっぱだめ?」 
  
  
   
- 202 名前:『 ライバルはアイドル 』  投稿日:2007/10/10(水) 01:37
 
-  愛理が悪戯っぽく微笑んだ。 
 その笑顔に「許そうかな」と思ったのも事実。 
 けれど、このまま許してしまってはつまらない。 
 栞菜は許してしまおうと思った気持ちをどこかに追いやって、愛理に一つの提案をした。 
  
  
 「許して欲しかったらお詫びは身体で。……ね?」 
 「えっえっ?ちょっと、ね?ってなに!ねっ?って」 
 「いいよね?」 
  
  
 愛理の返事を待つつもりはない。 
 栞菜は愛理ににっこりと笑いかけてから、膝を立てて座っている愛理に近づきブラウスのボタンに手をかける。 
  
  
 夕焼けの赤い光がレースのカーテンの隙間から差し込む部屋。 
 愛理の胸元にある自分の手も赤く染まる。 
 一つボタンを外して次のボタンに手をかけると、愛理に二つめのボタンに触れている指先を握られた。 
  
  
   
- 203 名前:『 ライバルはアイドル 』  投稿日:2007/10/10(水) 01:38
 
-  「ちょ、よくないってばっ!栞菜、待って」 
 「だめ。待たない」 
  
  
 愛理が栞菜を上目遣いで見つめながら制止を試みる。 
 だが、栞菜は愛理の言葉に従うつもりはない。 
  
  
 「本当に待ってくれないの?」 
 「待ったらどうなるの?」 
 「続きは夜、とか」 
 「夜も夕方もかわらないじゃん。だから待たないよ、愛理」 
 「えー、ちょっ、ねぇっ!……あっ」 
  
  
   
- 204 名前:『 ライバルはアイドル 』  投稿日:2007/10/10(水) 01:40
 
-  指先を握る愛理の手を左手で掴んで自分の方へと引き寄せてキスをした。 
 短いキスの後、唇を離すと目の前には眉根を寄せて困ったような顔をしている愛理の顔があった。 
 栞菜はその顔を見つめたままブラウスのボタンに手をかけ、二つめのボタンを外す。 
 愛理の手がまた栞菜の手に触れる。 
 けれど、それは先程とは違い栞菜の手を止めるものではない。 
  
 手の上に置かれた愛理の手をそのままに、栞菜はブラウスのボタンを全て外す。 
 ブラウスを脱がせてクッションの上へと放り投げる。 
 愛理の顎にキスを一つ落とすと、くすぐったそうに笑う声が聞こえた。 
  
 クスクスと笑う愛理の喉を指先で撫でると笑い声が止まる。 
 ゆっくりと指先を下へと降ろしていく。 
 細い肩を掴んで、唇を耳元へ寄せてキスをする。 
 そのまま耳を甘噛みすると、愛理が首をすくめて声をあげた。 
  
  
   
- 205 名前:『 ライバルはアイドル 』  投稿日:2007/10/10(水) 01:42
 
-  「んっ、はあっ」 
  
  
 その声は押し殺したような小さなものだったが、しっかりと栞菜の耳に聞こえてくる。 
 もう少し大きな声を聞きたくて、耳に舌を這わせると愛理の身体が震えた。 
 栞菜は肩を抱く手に力を込めて愛理の細い身体を支える。 
  
 喉元から背中へ回した手で胸を覆う下着を取り払う。 
 指先を胸の中心へと移動させ硬くなったその部分を軽く摘むと、愛理から押さえきれない甘い声が漏れた。 
  
  
 「あっん。だめ…だって。はぁっ…声、聞こえ…る」 
  
  
   
- 206 名前:『 ライバルはアイドル 』  投稿日:2007/10/10(水) 01:42
 
-  今、栞菜がいるのは愛理の部屋だ。 
 でも、この家の中にいるのは愛理だけではない。 
  
 途切れる声で懇願される。 
 崩れかけた愛理の身体が小さく抵抗をする。 
 だが、それは形だけの抵抗だとすぐにわかる。 
  
  
 栞菜を見つめる目は潤んでいて、やめて欲しいようには見えなかった。 
 胸を撫でる栞菜の手に添えられた愛理の手は、栞菜の手の上に置かれているだけ。 
 制止する役割を果たしていない。 
 指先を動かしたらすぐに掠れた高い声が聞こえてきて、その声が誘うようにしか聞こえない。 
  
  
   
- 207 名前:『 ライバルはアイドル 』  投稿日:2007/10/10(水) 01:44
 
-  「じゃあ、聞こえないようにして」 
 「……意地悪」 
  
  
 耳元で囁いたら、拗ねたような声で返事を返されて顎を掴まれた。 
 愛理にクイっと顎を持ち上げられる。 
 栞菜もそれと同じように愛理の顎を掴む。 
  
 顎を持ったまま。 
 視線が絡んで、次の瞬間二人で笑い出す。 
  
 ひとしきり笑った後、栞菜はゆっくりと愛理を床へ押し倒した。 
 差し込む夕日に愛理の頬が染まる。 
 ゆっくりと胸元に唇を寄せた。 
 栞菜が軽く胸の中心を唇で挟み込むと愛理の身体が強ばった。 
  
 唇と指先で胸に触れる。 
 指先で硬くなったそこ摘み、もう片方に歯を立てる。 
 刺激に耐えきれずにあがる色付いた声が心地良く頭に響く。 
  
  
   
- 208 名前:『 ライバルはアイドル 』  投稿日:2007/10/10(水) 01:46
 
-  何かを掴もうとする愛理の手が栞菜の手に触れた。 
 その手を掴んで指先を噛むと、栞菜の下で愛理の身体がびくりと震えた。 
 そのまま掴んだ指先から肩へ、肩から耳元へ唇を這わせると愛理の呼吸が早くなる。 
  
  
 「あっ、ふっ、はあ…あっ」 
 「愛理、聞こえるよ」 
  
  
 愛理の喉の奥から漏れる声が少しずつ大きくなっていく。 
 栞菜が耳元で声の大きさを注意をすると、愛理が顔を真っ赤にしてしがみついてきた。 
  
 抱きついてくる身体をそのままにして、栞菜は愛理の身体を探る。 
 ゆっくりと指先で愛理の身体に触れていく。 
 背骨にそって背中を撫で、脇腹に触れると愛理が声をあげた。 
  
  
   
- 209 名前:『 ライバルはアイドル 』  投稿日:2007/10/10(水) 01:47
 
-  「…そ…こ、だめっ」 
 「ここがいいんだ?」 
 「ちがっ…んっ」 
  
  
 否定は肯定にしかならない。 
 駄目だと言われたそこにもう一度触れると、栞菜に抱きついている愛理の身体が強ばった。 
  
 栞菜は身体に回された腕をほどいて、愛理から身体を離す。 
 愛理の腕が追いかけるようにして栞菜の肩を掴む。 
 脇腹にキスをすると、栞菜の肩を掴む愛理の手の力が強くなった。 
  
 舌を這わせて脇腹を軽く噛む。 
 舌先で舐め上げて、唇を這わすたびに愛理の身体がびくりと跳ねる。 
 甘噛みするたびに喘ぎ声があがる。 
  
  
   
- 210 名前:『 ライバルはアイドル 』  投稿日:2007/10/10(水) 01:48
 
-  「あぁっ。んっ…あっ、んっ」 
  
  
 抑えきれずに漏れる愛理の湿った声が栞菜の耳をくすぐる。 
 その声に自分がしていることがどんなことなのかよくわかる。 
 栞菜が触れるたびに身体の下にある愛理の身体が色付いていく。 
 愛理に聴覚と視覚を奪われる。 
 もっと愛理が欲しくなる。 
  
  
 愛理も自分と同じように思っているのだろうか。 
  
  
 ほんの少し前。 
 愛理と交わしていた会話が脳裏に浮かぶ。 
 ちょっとした意地悪のはずだった。 
  
  
   
- 211 名前:『 ライバルはアイドル 』  投稿日:2007/10/10(水) 01:49
 
-  「愛理がこんなことしてこんな声出してるなんて、みんなが知ったらどう思うだろうね?……舞美ちゃんとかさ」 
 「……なんで、舞美ちゃん?」 
  
  
 少し愛理をいじめてみたかっただけ。 
 それなのに自分で出した舞美の名前に胸が苦しくなる。 
 愛理に見つめられて栞菜は目をそらす。 
  
  
 「なんでって……」 
 「あっ、はあっっ」 
  
  
 スカートをたくし上げて太ももを撫で上げると、愛理の呼吸が荒くなった。 
 太ももから腰にかけてゆっくりと手を這わせながら、栞菜は愛理に問いかける。 
  
  
   
- 212 名前:『 ライバルはアイドル 』  投稿日:2007/10/10(水) 01:50
 
-  「愛理、あたしのことどう思ってるの?」 
 「はっ…んっ。……好き、だよ」 
 「舞美ちゃんより?」 
 「栞菜の…ばかっ。はぁっ…好きに…あっ…決まってる」 
  
  
 吐息と混じり合った言葉で囁かれた。 
 好きだと真っ直ぐな瞳で告げられる。 
 何度も聞いたはずのその言葉に栞菜の身体が熱くなる。 
  
 甘い吐息を奪い取るようにキスをした。 
 唇を割って舌を差し入れると、腰を撫でていた手を愛理に掴まれた。 
 愛理が小さく抵抗をして栞菜のキスから逃れる。 
 そして自由になった唇から嬉しそうな声がした。 
  
  
   
- 213 名前:『 ライバルはアイドル 』  投稿日:2007/10/10(水) 01:52
 
-  「栞菜。もしかして舞美ちゃんの話ばっかしたから……」 
 「妬くよ。……妬いたら悪い?」 
 「悪いっていうか。嬉し…んっっ」 
  
  
 続く言葉はキスで奪う。 
 唇を離すと「好き」ともう一度囁かれた。 
 部屋に入り込んでいた陽の光は力を失っていて、赤く照らされていたはずの愛理の顔がよく見えない。 
 薄暗くなった部屋に二人の乱れた息づかいが響く。 
  
  
 腰を撫でていた手をそっと下へと降ろして足の間へ潜り込ませる。 
 下着の上からそこに触れるとそこはもう湿っていた。 
 栞菜は下着に手をかけ、それを脱がせる。 
 濡れたそこに直接指を這わせると愛理の腰がびくりと跳ねた。 
  
  
   
- 214 名前:『 ライバルはアイドル 』  投稿日:2007/10/10(水) 01:53
 
-  「可愛い声、聞かせてね」 
  
  
 頬にキスをしてそう囁くと、愛理の荒い呼吸が一瞬止まった。 
 それにかまわず滑らせた指を動かすと、すぐにまた愛理から吐息が漏れ始める。 
  
 湿ったそこに這わせた指で硬くなった部分を擦り上げた。 
 弾くように何度もそこに触れると、愛理の腰が栞菜に絡みついてくる。 
  
  
 「はあっ、栞菜っ…んっ、だ…めっ」 
  
  
   
- 215 名前:『 ライバルはアイドル 』  投稿日:2007/10/10(水) 01:55
 
-  囈言のように何度も「だめ」だと呟く声。 
 けれど、その声に従うつもりはない。 
 身体の奥から溢れ出る体液を指に絡めてはその部分を撫で上げる。 
 指を何度も往復させると愛理の声が途切れて、吐き出される息と喘ぎ声だけになる。 
 強く押しつぶすように指を動かすと、栞菜の下で愛理の身体が小さく暴れ出した。 
 その身体を床へと押しつけ、逃げ出す腰を捕まえて指先でそこに触れ続ける。 
  
 ゆっくりと強く。 
 硬くなったそこに指を滑らせる。 
 愛理の腰が指の動きにあわせて揺れていくのがわかる。 
 栞菜はその動きに誘われるように指の動きを早めていく。 
  
  
   
- 216 名前:『 ライバルはアイドル 』  投稿日:2007/10/10(水) 01:56
 
-  「あっんっ。ふっ、あぁっ」 
  
  
 甲高い声。 
 押し留めようとする意志のせいか、喉の奥に引っかかるような甘い声が愛理から漏れる。 
 薄暗い部屋に聞こえる浅い呼吸音と足の間から聞こえる水音。 
 濡れたそこに強く小刻みに指を這わせると、小さな掠れた声とともに愛理の身体が強ばり、そして次の瞬間力が抜けるのがわかった。 
  
  
  
  
   
- 217 名前:『 ライバルはアイドル 』  投稿日:2007/10/10(水) 01:56
 
-   
   
- 218 名前:『 ライバルはアイドル 』  投稿日:2007/10/10(水) 01:57
 
-  すっかり暗くなってしまった部屋に明かりが灯る。 
 乱れた服を直して隣同士に並んで座った。 
 愛理の頭が栞菜の肩の上に置かれて、そこに程よい重みがかかる。 
 照れたような口調で愛理が言った。 
  
  
 「比べる必要なんてないから。……栞菜が一番だよ」 
 「ほんとに?」 
 「うん、ほんとに」 
  
  
 本当は疑っているわけじゃない。 
 自分への好きと舞美への好きが違うことぐらいわかる。 
 それでも、愛理の舞美への想いに心が乱れる時がある。 
 わかっていてもなお乱れる心に、どれだけ愛理が好きなのか気づかされる。 
  
  
   
- 219 名前:『 ライバルはアイドル 』  投稿日:2007/10/10(水) 01:58
 
-  「栞菜?ほんとに疑ってるわけじゃないよね?」 
  
  
 思考に気を取られて黙っていると、愛理が心配そうに栞菜を覗き込んでいた。 
 栞菜は愛理へ軽く笑いかけて、今、考えていたことを頭の隅へと追いやる。 
 そして愛理の手を握る。 
  
  
 「もう一度言ってくれたら信じる」 
 「もぉ……。栞菜が一番だってば」 
  
  
 ぎゅっと手を握りかえされた。 
 なんだか嬉しくなって栞菜は愛理に一つのお願いをする。 
  
  
   
- 220 名前:『 ライバルはアイドル 』  投稿日:2007/10/10(水) 02:00
 
-  「じゃあさ」 
 「うん?」 
 「夜もしていい?」 
 「えー!なんでっ」 
 「だめ?」 
 「いや、だめっていうか。ほら、今したじゃん!」 
 「それとこれとは別じゃない?」 
 「栞菜のえっち」 
 「えっちな人が好きなくせに」 
 「もうっ!!……ばかっ」 
  
  
 肩から重みが消える。 
 頬を膨らませた愛理がくるりと背中を向けた。 
 栞菜がその背中を抱きしめると、もう一度「えっち」と呟かれた。 
  
  
  
  
   
- 221 名前:『 ライバルはアイドル 』  投稿日:2007/10/10(水) 02:01
 
-   
  
  
 『 ライバルはアイドル 』  
  
  
  
 - END - 
   
- 222 名前:Z 投稿日:2007/10/10(水) 02:01
 
-   
   
- 223 名前:Z 投稿日:2007/10/10(水) 02:06
 
-  >>196 さん 
 雅には一生焦っていて欲しいですw←ヒドイ 
 普段、好きだと口にしない相手ならなおさらですね(*´▽`*) 
  
 >>197 さん 
 所有印をばっちり付けられてしまっているので、雅はもう逃れられませんw 
   
- 224 名前:名無飼育さん  投稿日:2007/10/10(水) 21:23
 
-  栞X愛もいいです。 
 でもやっぱり作者さんのももみやが見たいですねw  
   
- 225 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/11(木) 03:09
 
-  好きこそものの上手なれってまさに作者さんのことですね 
 本当にキッズが好きじゃなきゃここまで巧みに書けないですよ 
 次も待ってます  
- 226 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/11(木) 21:29
 
-  攻め栞菜サイコーです! 
 作者さんの栞×愛がまた読みたいです!!  
- 227 名前:名無飼育さん  投稿日:2007/10/12(金) 20:40
 
-  『 恋の法則 』の続編を期待しても良いですか? 
 その小説の桃子×雅は本当に可愛らしいです!  
- 228 名前:Z 投稿日:2007/10/14(日) 22:08
 
-   
  
  
 『 恋の答え 』 
  
  
  
   
- 229 名前:『 恋の答え 』  投稿日:2007/10/14(日) 22:11
 
-  初めて桃子に告白された日。 
 雅は答えに困って曖昧に笑った。 
 そしてはっきりとした答えを出さないままその日を終わらせた。 
  
 何故すぐに断らなかったのか。 
 もしくは承諾しなかったのか。 
 答えを出さなかった理由はわからなかった。 
 いや、わからないから答えを出さなかったのかもしれない。 
 とにかく。 
 出せなかった答えのせいなのか、あの日から雅にとっても桃子にとっても新しい毎日がはじまった。 
  
  
   
- 230 名前:『 恋の答え 』  投稿日:2007/10/14(日) 22:13
 
-  日常の一部となった言葉。 
 毎日のように告げられる好きだという言葉。 
  
 二人きりになると囁かれる。 
 それに答えを出さなければキスをされる。 
  
 その繰り返しが日常になった。 
 それがあまりも普通の出来事になっていて、その言葉の意味もキスの意味も深く考えたことがなかった。 
 雅にとって曖昧な返事を桃子へ返すこともまた日常生活の一部で、それ以外の返事を考えたこともない。 
 何度も繰り返される言葉とキスは心地良いもののはずなのに、どうしてか自分から桃子に同じ言葉を返せずにいた。 
 それどころか、実際に雅が桃子へ返す態度は不機嫌以外の何者でもない。 
 何故そうなってしまうのかは、告白された日と同じで雅にはわからなかった。 
  
  
   
- 231 名前:『 恋の答え 』  投稿日:2007/10/14(日) 22:14
 
-  桃子がこのはっきりとしない関係をどう思っていたかは知らない。 
 ただ雅にとってこんな毎日を過ごすことは悪いことではなかった。 
 そしてずっとこんな日々が続くと思っていた。 
  
  
 あの日までは。 
  
  
  
   
- 232 名前:『 恋の答え 』  投稿日:2007/10/14(日) 22:15
 
-  答えを出さずに。 
 曖昧なまま。 
 桃子に求められるだけで何も返さない日々。 
 そんなことを繰り返していたら、あの日、雅は桃子に押し倒された。 
  
  
   
- 233 名前:『 恋の答え 』  投稿日:2007/10/14(日) 22:17
 
-  いつもなら、それ以上の行為を桃子がしてくることはなかった。 
 ただの真似事。 
 それがわかっているから雅は、押し倒されたところで必要以上に嫌がったりすることはなかったし、抵抗することもしなかった。 
  
 押し倒されて、触れるだけのキスをされてそれで終わり。 
 遊びの延長線上にあるような行為。 
 だから雅はそれを本気で嫌がったことはなかった。 
 それに桃子がそれ以上の何かをするなんて思いもしなかった。 
 いつものようにキスをして終わり。 
 そう信じていた。 
  
  
 けれど。 
 あの日は違っていた。 
  
  
   
- 234 名前:『 恋の答え 』  投稿日:2007/10/14(日) 22:17
 
-   
  
   
- 235 名前:『 恋の答え 』  投稿日:2007/10/14(日) 22:19
 
-  「みーやん、好きだよ。……で、みーやんはもものことどう思ってる?」 
  
  
 どう答えればいいかわからない。 
 好きと嫌い。 
 そんなことを真剣に考えたことがなくて、雅は答えを返せずにいた。 
 雅は言葉を口にするかわりに横になっていた身体を起こす。 
 身体を起こしてベッドの上に座ると、雅の投げ出した手の上に桃子の手が置かれた。 
  
  
 「今日ね、家に誰もいないの」 
 「知ってるよ。ここに来る前にも聞いたし」 
  
  
 桃子に手を握られる。 
 雅はなんだか嫌な予感がして、この場から逃げ出したくなる。 
 けれど、雅が逃げ出す前に桃子が思い詰めたような表情で口を開いた。 
  
  
   
- 236 名前:『 恋の答え 』  投稿日:2007/10/14(日) 22:21
 
-  「じゃあ……。家に誰もいなくて、こうやって二人でベッドの上にいるって意味わかる?」 
 「……本気で言ってる?」 
 「うん、本気」 
 「帰る」 
 「帰さない」 
 「ももっ」 
  
  
 嫌な予感というものは当たるものだ。 
 だが、その兆候を感じ取るのが遅すぎた。 
 もっと早く桃子から離れておけばよかった、と思ったときには桃子が雅の身体を捕まえていた。 
  
 初めて本気で抵抗をする。 
 桃子から逃げだそうと暴れて腕が壁に当たった。 
 その音に雅を捕らえる桃子の腕から力が抜けて、身体が自由になる。 
  
 雅が自由になった手で痛みを持つ方の腕を撫でていると、壁にぶつかった方の腕に桃子が触れてきた。 
 痛みを持つ部分に唇を押しつけられて、そのまま抱き寄せられる。 
  
  
   
- 237 名前:『 恋の答え 』  投稿日:2007/10/14(日) 22:22
 
-  逃げ出すなら今。 
 けれど、逃げ出すことも出来ずに唇へキスをされた。 
  
  
 触れるだけのキスとは違うキス。 
 いつもよりも桃子を感じるようなキスをされた。 
 そのキスに驚いて、雅は桃子の肩を掴んで自分の身体から桃子を離す。 
 初めてされるキスに呼吸が乱れているのがわかる。 
  
 桃子に好きだと囁かれてもう一度キスをされた。 
 今度は動くことが出来ない。 
 今したばかりのキスより長いキスを雅は受け入れる。 
  
  
  
   
- 238 名前:『 恋の答え 』  投稿日:2007/10/14(日) 22:23
 
-  キスは嫌いじゃない。 
 でも、雅はその理由を考えたことはなかった。 
 もしかしたら考えることを避けていたのかもしれない。 
 何故、考えないのか。 
 今までそんなことすら考えたことがなかった。 
  
  
 今までされたことがなかったキスをされて。 
  
  
 初めてわかった。 
 答えを出さないのはきっと怖いからだ。 
 桃子の答えはもう知っている。 
 何度もその言葉を聞いた。 
 だが、雅はまだ答えを探すことすらしていなかった。 
  
  
   
- 239 名前:『 恋の答え 』  投稿日:2007/10/14(日) 22:24
 
-  結論を出す前からわかっていること。 
 答えを出してしまえば桃子とはもう友達ではいられない。 
  
 友達ならずっと一緒にいられる。 
 でも、それ以上の関係になったら? 
 いつか終わりがきてしまうのではないか。 
  
  
 終わりが来る。 
 きっと、それも怖いことの一つだ。 
 でも、何故終わりが来ることが怖いのだろう。 
  
  
  
   
- 240 名前:『 恋の答え 』  投稿日:2007/10/14(日) 22:26
 
-  頭に浮かんだことについて考えはじめて、雅は気がつく。 
 それについて考えていけばきっとすぐに答えに辿り着く。 
 そして答えを出してしまえばその答えから逃げられない。 
 理由がわかってしまったら桃子から逃げられない。 
  
  
 雅は慌てて、頭の中で形作られていく何を投げ出す。 
 知りたくないことを無理に知る必要などない。 
 けれど、投げ出したはずの思考の塊を桃子から突きつけられる。 
  
  
 「ねえ、みーやん。多分、みーやんはもものこと好きなんだと思うよ」 
 「なにそれ」 
 「みーやんの気持ちをももが教えてあげてるの」 
  
  
 耳を塞ぐ間もなく、桃子の声が雅の頭の中に響く。 
 Tシャツの中に入り込んだ桃子の手が脇腹を撫でていた。 
  
  
   
- 241 名前:『 恋の答え 』  投稿日:2007/10/14(日) 22:27
 
-  投げ出したはずの塊にとても近い言葉を言われた気がする。 
  
  
 一度途切れたはずの思考は桃子の言葉によって繋がりかけて、だがすぐに肌に触れてくる手によって分断される。 
 脇腹を這って上へと向かってくる桃子の手が何を求めているのか。 
 そちらの方が気になり出す。 
 しかし、それも一瞬のことだった。 
  
  
 「違うの?」 
  
  
 投げ出しても。 
 思考を断ち切っても。 
 桃子の声がそれを雅の前へと連れ戻してくる。 
  
  
   
- 242 名前:『 恋の答え 』  投稿日:2007/10/14(日) 22:28
 
-  「もも、うるさい。黙ってよ」 
 「みーやん、好きだって言って」 
 「いやだ」 
  
  
 雅は桃子の声から逃げる。 
 知る必要のない事柄から逃げ出す。 
 全てを投げ捨てる。 
 それなのに雅の身体はそこから動くことはなかった。 
  
  
 桃子の手が与えてくる快感から逃げることが出来ない。 
  
  
 触れてくる手が。 
 桃子の息づかいが。 
 心地良いと思ってしまう自分が嫌だ。 
  
  
   
- 243 名前:『 恋の答え 』  投稿日:2007/10/14(日) 22:30
 
-  だから、唇を噛んだ。 
 身体が桃子に応えていることを知られたくなくて声を殺す。 
 けれど、雅の小さな抵抗は桃子によって無意味なものにされてしまう。 
  
  
 桃子によって声を出さずにはいられない程の快感を与えられた。 
 その後はもう声を出さずにいることが出来なかった。 
  
  
 唇にキスをされて。 
 身体中にキスをされて。 
 全てに触れられた。 
  
  
 桃子の手が触れるたび、唇が触れるたびに雅の思考が途切れる。 
 それなのに千切れて消えてしまいそうな想いが、聞きたくないような色付いた自分の声の合間に一つにまとまっていく。 
 途切れたままでいて欲しいはずの想いが肌に感じる体温のせいで形作られていく。 
  
  
   
- 244 名前:『 恋の答え 』  投稿日:2007/10/14(日) 22:32
 
-  言葉の端々、桃子の行動でわかる自分に対しての気持ち。 
 考えてみれば、それを受け入れたいと思う自分がいつもそこにいた。 
  
 それに目をつぶって見ないことにしていただけ。 
 桃子の言葉やキスが心地良い理由を考えれば何故かなんてすぐわかる。 
 現に今も、桃子の手の中から逃げ出しもせずに快感に喘いでいる。 
 逃げたいと思うどころか、触れられることを望んでいる。 
  
  
 何故なのか考えること。 
  
  
 雅がそれをしなかったのは知りたくなかったからだ。 
 その気持ちを。 
  
  
 答えがすぐ近くまで来ていた。 
 そして身体の限界も。 
  
  
   
- 245 名前:『 恋の答え 』  投稿日:2007/10/14(日) 22:33
 
-  「ももの指が気持ちいいくせに」 
 「ちがっ……」 
 「じゃあ、抜いてもいいの?」 
 「いい」 
 「はあ、もう。……みーやん、イキたいんじゃないの?」 
  
  
 すぐに素直になんてなれるわけがない。 
 今まで散々、不機嫌な態度を取ってきたのに。 
  
  
 答えは近い。 
  
  
 だが、その答えを素直に出してしまうつもりにもなれなかった。 
 素直になることが出来ればきっととても簡単なこと。 
 でも、簡単なはずのそれが雅にとって一番難しいことでもあった。 
  
  
 そんな雅の心を読んだかのような言葉を桃子が口にした。 
  
  
   
- 246 名前:『 恋の答え 』  投稿日:2007/10/14(日) 22:34
 
-  「次はもうちょっと素直になってね?」 
  
  
 身体の中にある桃子の指先が強く動くのがわかった。 
 隣にあったはずの答えが快感の向こう側に消える。 
 感じるのは桃子の指先だけになった。 
  
  
  
  
   
- 247 名前:『 恋の答え 』  投稿日:2007/10/14(日) 22:35
 
-  身体の奥の痺れが取れないまま、雅は投げ出した思考の塊を拾い上げる。 
  
  
 好きだと認めたくなくないから。 
 だから不機嫌になる。 
 心地良いと思っていることを隠す為にますます不機嫌になる。 
  
  
  
 好きだと認めてしまったら、今まで通りの友達ではいられない。 
 友達というラインを越えた先。 
 そこにあるものが怖かったんだろう。 
  
  
  
   
- 248 名前:『 恋の答え 』  投稿日:2007/10/14(日) 22:36
 
-  友達の向こう側にあるもの。 
 恋とか愛とか。 
 そんなものがずっと得体の知れないもののような気がして怖かった。 
 けれど、こうして桃子を今までよりも近くに感じてみてわかった。 
  
  
 もっと先へ。 
 友達よりももっと。 
  
  
 雅自身もそれを求めている。 
 終わってしまうことに脅えるよりも、桃子とこうして二人でいたいと思う。 
 その想いにやっと気がつくことが出来た。 
  
  
  
  
   
- 249 名前:『 恋の答え 』  投稿日:2007/10/14(日) 22:36
 
-   
  
   
- 250 名前:『 恋の答え 』  投稿日:2007/10/14(日) 22:37
 
-  あの日から。 
 答えを導き出した日から。 
 雅は桃子と二人で過ごす時間が増えた。 
  
 あの日までのように考えることからすら逃げ出していたのはもう過去のことだ。 
 今は桃子に抱きしめられることも、ベッドの上で二人で過ごすことも。 
 それは雅にとっては何よりも楽しくてもっと長く続いて欲しいと思う時間になった。 
  
  
  
  
   
- 251 名前:『 恋の答え 』  投稿日:2007/10/14(日) 22:37
 
-   
  
  
 『 恋の答え 』 
  
  
  
 - END -  
   
- 252 名前:Z 投稿日:2007/10/14(日) 22:38
 
-   
   
- 253 名前:Z 投稿日:2007/10/14(日) 22:49
 
-  書き忘れました。『 恋の答え 』は  
  
 >>4-62 
 『 恋する方法 』 
  
 の雅視点ですorz 
  
  
 >>224 さん 
 今回はももみやですw 
  
 >>225 さん 
 いやー、まだまだ精進が足りません(;´▽`) 
 キッズ好きなのは間違いない事実ですけどw 
 これからもがんばります(`・ω・´)  
  
 >>226 さん 
 ありがとうございます。 
 栞×愛は最近のお気に入りです(*´▽`) 
 また何か書きたいなー、と思ってます(`・ω・´)  
  
 >>227 さん 
 ありがとうございます。 
 一応、今回の雅視点で終わり、のつもりだったのですが……。 
 何か良いストーリーが思い浮かべば書いてみたいなと思います! 
   
- 254 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/15(月) 19:42
 
-  雅視点ですね!  
 ありがとうございます。  
 雅は実は臆病だったですね。  
 また良いストーリーお願い致します。   
- 255 名前:Z 投稿日:2007/10/18(木) 01:40
 
-   
  
  
 『 甘い取引 』 
  
  
  
   
- 256 名前:『 甘い取引 』 投稿日:2007/10/18(木) 01:43
 
-  「ももが起きるって」 
 「キスだけだもん。起きないよ」 
 「んっ」 
  
  
 楽屋に二人きり、というわけではなかった。 
 楽屋には雅と梨沙子、そして眠っている桃子。 
  
 ソファーの上で桃子が小さくなって眠っていた。 
 そのソファーの後ろ。 
 鏡の前に雅が座り、梨沙子がその脇に立っている。 
  
  
 落ち着かない。 
 キスだけ、と言われてもすぐ近くに桃子がいる。 
 規則正しい寝息がいつまでも続くとは思えない。 
 だから、雅はキスの途中に梨沙子の身体を押し返した。 
  
  
   
- 257 名前:『 甘い取引 』 投稿日:2007/10/18(木) 01:45
 
-  「みや?」 
  
  
 身体を無理矢理離された梨沙子が不思議そうな顔で雅の方を見た。 
 キスの途中で身体を離されたことに納得出来ないのか、もう一度梨沙子が雅に顔を寄せてくる。 
  
 左頬に唇を押しつけられる。 
 右頬にそえてあった梨沙子の手が肩を撫でて下へと降りていく。 
 下へ降りた手が雅のブラウスの裾を掴む。 
 遠慮がちにブラウスの中へと入り込んだ梨沙子の手が雅の脇腹を撫でた。 
  
  
 「ちょっと、梨沙子。手、どけて」 
 「やだ」 
 「だめだって。……あっ、はあっ」 
  
  
   
- 258 名前:『 甘い取引 』 投稿日:2007/10/18(木) 01:47
 
-  ボタンを二つ外されて、そこから見えた部分に梨沙子が唇を這わせる。 
 思わず出た声に驚いて、雅は慌てて唇を噛んだ。 
  
 雅が梨沙子の手を掴む。 
 それでも唇が雅の身体から離れない。 
 鎖骨の上を軽く噛まれて、椅子の上で雅の身体がびくりと跳ねた。 
 椅子が立てた「ガタンッ」という音に心臓が止まりそうになる。 
  
  
 「ほんと…に、起き…ちゃう」 
  
  
 雅は身体にぴったりとくっついて離れない梨沙子の頭を押し返す。 
 不満げな梨沙子の顔が雅の目に映るのとほぼ同時。 
 眠っている人間しかいないはずのソファーから声が聞こえた。 
  
  
   
- 259 名前:『 甘い取引 』 投稿日:2007/10/18(木) 01:48
 
-  「あの、言いにくいんだけど。……もも、もう起きてるんだよね」 
  
  
 眠そうな声、とは違う。 
 聞こえてきたのははっきりとした桃子の声。 
  
  
 「!!!!!!」 
  
  
   
- 260 名前:『 甘い取引 』 投稿日:2007/10/18(木) 01:50
 
-  エクスクラメーションマーク。 
 その声に、日本語で言うところの感嘆符をいくつつけても足りないほど雅は驚く。 
 雅が隣にいる梨沙子をちらりと見ると、梨沙子の顔にもひどく驚いたような表情が浮かんでいた。 
 雅は慌てて外されたボタンを留めて、乱れた裾を直す。 
 だが、声の主はといえば特に驚いた風もなくいつもと変わらぬ口調と態度。 
 気がつけば、桃子がソファーの背から身を乗り出して雅と梨沙子の方を見ていた。 
 ソファーの向こうから桃子がこちらを見ているように、驚いた雅も桃子の方を見ていたせいで雅を見ている桃子とすぐに目が合う。 
  
  
 「みーやんってさ」 
 「……なに?」 
  
  
 にこにこと嬉しそうな顔。 
 その桃子の表情に嫌な予感が走る。 
 雅は出来れば言葉の続きを聞きたくない気がした。 
 けれど桃子の唇が動いて、続く言葉が雅の耳に聞こえてくる。 
  
  
   
- 261 名前:『 甘い取引 』 投稿日:2007/10/18(木) 01:51
 
-  「される方なんだね」 
  
  
 にやにやとした笑いを含んだ声で言われて、雅の顔が耳まで赤くなる。 
 そんな雅の顔を見る為なのか、桃子がソファーの背からさらに身を乗り出してくる。 
  
  
 「だ、だから、なにっ。わるいっ?」 
 「べっつにぃ〜」 
  
  
 そんなことを言われたぐらいで動じないところを見せたかった。 
 しかし実際、言葉を口にしてみると誰が聞いても動揺しているのは明らかな口調。 
 雅の赤い顔とたどたどしい口調に桃子の目が楽しそうに細められていて、なんだかやけに悔しい。 
  
 文句の一つでも言ってやろう。 
 そう思うが、桃子に言い返すような言葉が思い浮かばない。 
 やられっぱなしでいるのは面白くない。 
 雅は何か桃子をぎゃふんと言わせるような言葉を探し出さなければと頭を捻る。 
 それでも何も思い浮かばない自分にがっくりとしたところで、雅はふと大事なことを思い出す。 
  
  
   
- 262 名前:『 甘い取引 』 投稿日:2007/10/18(木) 01:52
 
-  そう。 
 それはとても大切なこと。 
 今、目撃された出来事。 
 桃子がそれを誰にも言わないように口止めしなければならない。 
  
  
 桃子の楽しげな表情。 
 これをそのまま放っておくわけにはいかない。 
 口止めしなければ誰かに話してしまいそうな気がする。 
  
 今度は文句ではなく、口止めする為の言葉を考えようと雅は頭を捻ってみる。 
 だが、押しても捻っても、ましてや頭を叩いても。 
 桃子に言うべき言葉が頭の中に浮かばない。 
 どうするべきか、桃子と見つめ合ったまま雅がため息をついたその時だった。 
  
  
   
- 263 名前:『 甘い取引 』 投稿日:2007/10/18(木) 01:53
 
-  「みんな何やってんのー?」 
  
  
 楽屋の扉が開くと同時に佐紀が中へと入ってくる。 
 桃子の顔が悪戯な笑顔に変わるのを雅は見逃さなかった。 
  
  
 まずい! 
  
  
 雅は桃子が座るソファーへ向けて身体を動かす。 
 桃子の肩を掴む。 
 そしてその口を押さえようとするが、桃子の身体が雅の手からするりと抜け出してソファーから立ち上がる。 
 佐紀の方を向くと桃子が甲高い声を上げた。 
  
  
   
- 264 名前:『 甘い取引 』 投稿日:2007/10/18(木) 01:56
 
-  「あ、佐紀ちゃーん。あのね、みーや……」 
 「わーわーわー!!!」 
  
  
 桃子の弾んだ声を雅は大声を上げて阻止する。 
 雅はソファーの背から桃子が立っている場所まで回り込むと、桃子の手を取り「しーっ!」と小さな声で何度か繰り返した。 
  
  
 自分で考えてもあやしいと思う。 
 だから、佐紀の視線が背中に突き刺さってもしょうがないと思った。 
 急に桃子の前へと回り込み、なにやら話しかけている雅を見てあやしいと思わない人などいないだろう。 
  
  
   
- 265 名前:『 甘い取引 』 投稿日:2007/10/18(木) 01:58
 
-  「なに?どしたの?」 
  
  
 佐紀の不審そうな声が聞こえる。 
 その声は桃子の言葉の続きを促す響きも持っていた。 
 だから雅は桃子が口を開く前に、佐紀に向けて言葉を投げつける。 
  
  
 「え、いや。なんでもない!」 
 「何でもないことないじゃん。みや、すっごい慌ててるもん」 
 「絶対!ほんとに!なんでもないからっ!」 
  
  
 雅は有無を言わせぬ口調で佐紀に返事を返す。 
 きっと表情も口調にあわせてきついものになっていたのだろう。 
 佐紀はまだ何か言いたそうな顔をしていたが、それ以上雅と桃子に問いかけてくることはなかった。 
  
  
   
- 266 名前:『 甘い取引 』 投稿日:2007/10/18(木) 02:00
 
-  雅は佐紀に向けていた身体を桃子の方へと向ける。 
 それとほぼ同時に背後から千奈美の声が聞こえてきた。 
 佐紀と千奈美の声が重なって、雅は佐紀の興味が自分から千奈美へと移ったことを感じる。 
  
  
 「そんなに慌てることないって」 
 「だって、ももがっ!」 
  
  
 悪気の欠片もない表情で桃子が雅に無責任な言葉をかけてくる。 
  
  
 誰のせいで慌てることになったのか。 
 雅はその元凶の名前を呼ぶ。 
 だが、桃子の平然とした態度は変わらないまま。 
 それどころか、この状態を歓迎するように唇が緩やかなカーブを描いていた。 
  
  
 ろくなことを考えていない。 
 それだけは雅にもわかった。 
 それでもこのまま桃子の好きにさせてはおけない。 
 雅は隣にいる少し頼りない相棒の名前を呼ぶ。 
  
  
   
- 267 名前:『 甘い取引 』 投稿日:2007/10/18(木) 02:01
 
-  「ちょっと、梨沙子もなんとか言ってよ。もう!」 
 「……みやにまかせる」 
 「へっ?」 
 「みや、あとお願い。あたしこういうの苦手だもん」 
 「ちょ、梨沙子っ」 
  
  
 頼りない、と常々思っていた相棒はやはり役に立つこともなく。 
 ふにゃりと困ったような笑顔を雅に向けると、梨沙子はこの微妙な空間から立ち去ろうとする。 
  
  
 普段なら。 
 こんな顔で微笑まれたら、渋々でも梨沙子のやりたいようにさせていた。 
 しかし、今は違う。 
 どんなに頼りない相棒でも逃げ出されては困る。 
 一人で桃子の相手をするなんて冗談じゃないと思う。 
  
 雅は慌てて梨沙子の腕を掴む。 
 だが腕を掴まれた梨沙子は、もう一度頼りなげな笑顔で笑ってから雅の腕を振りほどいてこの場から逃げ出す。 
  
  
   
- 268 名前:『 甘い取引 』 投稿日:2007/10/18(木) 02:02
 
-  「で、みーやん。梨沙子、行っちゃったけどどーするの?」 
 「……お願いだから、言わないで」 
  
  
 結局、残された手段は懇願。 
 出来ることならしたくはなかったが、選べる程の手段は残ってはいなかった。 
  
 雅にはこんなことで桃子が黙っているとは思えない。 
 けれど、桃子から返された言葉は予想外のものだった。 
  
  
 「みーやんがそこまで言うなら、言わないこともないんだけど」 
 「ほんとに?」 
 「うん。……みーやんがももにケーキ奢ってくれたらね」 
 「なんでうちがももにケーキなんか!」 
  
  
   
- 269 名前:『 甘い取引 』 投稿日:2007/10/18(木) 02:04
 
-  反射的に桃子に反発してから雅は気がつく。 
 食べることが好きな桃子からの答えとしてこの提案は正しい。 
 そして想定しておくべきものだった。 
 何故、この交換条件を自分の方から言い出せなかったのかが不思議なぐらいだ。 
 最初から食べ物で釣れば、こんな面倒なことにはならなかったのにと思う。 
  
 しかし、だ。 
 甘ったるい取り合わせ。 
 ケーキを桃子に奢る為には桃子と一緒にケーキのある店まで行かなければならない。 
 一緒に店に入って、ケーキを食べる桃子を見続ける。 
 それは出来れば避けたいような気がする。 
  
 少しの間、雅は迷う。 
 その隙に桃子が大声である人物の名前を呼ぶ。 
  
  
   
- 270 名前:『 甘い取引 』 投稿日:2007/10/18(木) 02:06
 
-  「ねーねー、佐紀ちゃーん」 
 「うわっ、ちょっと!ももっ。奢る!奢るからっ!」 
  
  
 当然ながら、雅に選択権はないようだった。 
 立場上、雅は桃子からの要求を呑むことしか出来ない。 
 桃子から与えられた答えに頷く以外出来ないことは気分の良いものではないが、梨沙子としていた行為を誰彼かまわず話されるよりはマシだと思うしかない。 
  
  
 「あのさ、ケーキ食べ放題にしてくれたらいいこと教えてあげる」 
  
  
 雅が恨みがましい目で桃子を見ていると、また一つ雅にとって面白くない選択肢が現れた。 
 選ぶ権利などないが、雅は一応桃子に尋ね返してみる。 
  
  
   
- 271 名前:『 甘い取引 』 投稿日:2007/10/18(木) 02:07
 
-  「……それってなに?」 
 「知っておいたほうがいいと思うよ?」 
 「……食べ放題でいいよ。で、なにを知っておいたほうがいいわけ?」 
 「知らないのってみーやんと梨沙子だけだと思うんだけど」 
  
  
 勿体を付ける為か、そこで一度言葉が句切られた。 
 わざとらしく桃子が顎に人差し指を置く。 
 にっこりと微笑んでから桃子が雅の様子を窺うように切り出した。 
  
  
 「……みんな知ってるんだよね、みーやんが梨沙子と付き合ってるの」 
 「えっ!?」 
 「あと、二人で時々あーゆーことしてるの。たまーに、みーやんの声聞こえるし」 
 「ええええっ!?」 
 「もう少し、静かにしたほうがいいと思うよ?」 
 「静かに……。静かにってそんなの無理!……って、あああっ。そうじゃなくて。聞こえてるって、それほんと?っていうかっ!みんな知ってるなら、ケーキ奢るとか意味ないじゃん!」 
  
  
   
- 272 名前:『 甘い取引 』 投稿日:2007/10/18(木) 02:09
 
-  衝撃の事実、というのはこういうことを言うのだろうか。 
 雅の頭の中に今まで習ってきた言葉が飛び交う。 
 何を選び出して口にすればいいのかよくわからない。 
 口から飛び出るままに言葉を発していたら、よくわからない文章が出来上がった。 
  
 ひとしきり言葉を口にしてから、はっと気がついた。 
 みんなが知っているのならば、ケーキを奢る必要はないのではないかという当たり前の出来事に。 
 他に考えるべきことはたくさんあったが、とりあえずケーキを奢る必要はない。 
 桃子と二人でわざわざケーキを食べに行く必要がなくなる。 
 それがわかっただけで雅の心が少し軽くなる。 
 だが次の瞬間、心が軽くなったのは錯覚だと思い知らされた。 
  
  
   
- 273 名前:『 甘い取引 』 投稿日:2007/10/18(木) 02:10
 
-  「ああ、マネージャーさんは知らないよ?……言ってもいいのかなあ。ねえ、みーやん?」 
  
  
 雅の目の前には勝ち誇ったような顔をした桃子。 
  
  
 色々と言いたいことはある。 
 そして聞きたいこともある。 
  
  
 けれど今、雅に残された答えは一つだ。 
  
  
 「好きなだけケーキ奢るから。……だから、絶対言わないでよ!」 
  
  
   
- 274 名前:『 甘い取引 』 投稿日:2007/10/18(木) 02:10
 
-  今週末。 
 雅の予定が勝手に埋まった。 
 ケーキと桃子。 
 胸焼けのするような取り合わせ。 
 果たして、頼りない相棒は来てくれるのだろうか。 
  
  
 雅は楽屋に響き渡るような大きなため息を一つついた。 
  
  
  
  
   
- 275 名前:『 甘い取引 』 投稿日:2007/10/18(木) 02:11
 
-   
  
  
 『 甘い取引 』 
  
  
  
 - END - 
   
- 276 名前:Z 投稿日:2007/10/18(木) 02:11
 
-   
   
- 277 名前:Z 投稿日:2007/10/18(木) 02:13
 
-  >>254 さん 
 雅側の気持ちはこんな感じで(´▽`) 
 もう少しうまく書ければよかったんですがw 
 これからもがんばります(*゚∀゚)ゞ 
  
   
- 278 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/18(木) 02:38
 
-  これはいいwww 
 みやびちゃんよえーw  
- 279 名前:名無飼育 投稿日:2007/10/18(木) 21:16
 
-  3人の性格がそれっぽいのがイイね。 
 271の最後のセリフ、サイコーww 
 りしゃみや万歳!  
- 280 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/18(木) 21:42
 
-  そのまま行ってしまうなんて, 
 梨沙子、ひどい!w  
- 281 名前:Z 投稿日:2007/10/26(金) 01:45
 
-   
  
  
 『 非常識な日常 』 
  
  
  
   
- 282 名前:『 非常識な日常 』 投稿日:2007/10/26(金) 01:47
 
-  いつも通り。 
 何も変わらない日常が続いていくはずだった。 
  
 昨日も。 
 今日も。 
 明日も。 
  
 何も変わらない。 
 何の変化もない関係が続くと思っていた。 
 だが、それは雅が一方的に思っていただけで、桃子が思い描いているものとはまったく違っていたらしい。 
  
  
  
   
- 283 名前:『 非常識な日常 』 投稿日:2007/10/26(金) 01:48
 
-  雅はいつもと同じように楽屋の扉を開けた。 
 ただそれだけだった。 
 その扉の向こうには変わらない日常があるはず。 
 存在するべきだった。 
 けれど、実際目に飛び込んできたのは非日常的な光景。 
  
  
 ソファーに横たわる梨沙子。 
 その上には桃子。 
 そして梨沙子のブラウスのボタンには桃子の手がかけられていた。 
  
  
   
- 284 名前:『 非常識な日常 』 投稿日:2007/10/26(金) 01:49
 
-  ボタンが外されていたかどうかは覚えていない。 
 記憶にあるのは、慌ててソファーから起きあがる梨沙子と何事もなかったかのように雅を見つめる桃子の目。 
  
  
 何か声をかけるべきだったのか。 
 二人を前にどうするべきか迷っていると、桃子が今日のスケジュールを雅に確認してきた。 
 雅が戸惑いながらもそれに答えているうちに、数分前に見た光景について尋ねる機会は失われ、何も聞くことが出来ないまま時間が過ぎていった。 
  
  
  
  
   
- 285 名前:『 非常識な日常 』 投稿日:2007/10/26(金) 01:49
 
-   
  
 ***   ***   *** 
  
  
   
- 286 名前:『 非常識な日常 』 投稿日:2007/10/26(金) 01:51
 
-  「梨沙子に何するつもりだった?」 
  
  
 あれから数時間。 
 仕事は全て終わり、帰ろうとする桃子を捕まえて普段使われることのない部屋へと連れてきた。 
  
 雅と桃子以外誰もいない空間。 
 雅は朝からずっと尋ねたかったことを桃子に聞いてみた。 
 だが、その問いかけに対する返事は素っ気ないものだった。 
  
  
 「みーやんには関係ないと思うよ?」 
  
  
 この話には興味がない。 
 そんな風に取れるほど冷たく言葉を返された。 
 そしてもう雅には用事がないとばかりに、部屋から桃子が出て行こうとする。 
  
  
   
- 287 名前:『 非常識な日常 』 投稿日:2007/10/26(金) 01:51
 
-  「ちょっと、もも。話まだ終わってない!」 
 「だから、みーやんには関係ない。……もういいでしょ?」 
 「あるよ!もも、梨沙子にひどいことしようとしてる」 
 「なんでひどいことだって思うの?」 
 「うち、知ってるんだよ。ももが他の子に何してるか……」 
 「知ってるんだ?」 
  
  
 桃子の探るような瞳が雅を捕らえる。 
  
 確かに雅は知っていた。 
 桃子に言った言葉は嘘ではない。 
  
  
   
- 288 名前:『 非常識な日常 』 投稿日:2007/10/26(金) 01:56
 
-  たまたま。 
 偶然、今朝の桃子と梨沙子に重なるような行為をしている桃子と佐紀を見た。 
 いや、聞いたといった方が正しいかもしれない。 
  
 桃子が赤い顔をした佐紀を引っ張るようにして廊下を歩いていた。 
 佐紀に用事があってその姿を探していた雅は、佐紀に声をかけようとした。 
 だが、声をかける前に普段は使用されることのない会議室へと二人が消えた。 
 その部屋の前で扉を開けようか迷っていると、中から今まで聞いたことのないような佐紀の声が聞こえた気がした。 
 耳を澄ますとそれは確かに佐紀の声で、そして聞いてはいけない声だった。 
  
 その時に、佐紀が「他の誰にこんなことしてるの?」と桃子に尋ねる声を聞いた。 
 そこで雅は理解した。 
 桃子が佐紀とそういう関係で、そして他の誰かも同じような関係にあるのだと。 
  
  
   
- 289 名前:『 非常識な日常 』 投稿日:2007/10/26(金) 01:57
 
-  梨沙子が桃子とそういう関係なのかは知らない。 
 もしかしたら、もう何度も桃子とそういう行為をしていたのかもしれないし、今朝はじめてそういうことが起ころうとしたのかもしれない。 
 どっちにしろ。 
 梨沙子は雅にとって子供の頃から守るべき存在で、今もまだその関係は変わっていない。 
 本気ならまだいい。 
 だが、妹と同等の存在である梨沙子に面白半分な気持ちで手を出されるのは気に入らない。 
  
  
 無意識のうちに桃子を見る目が険しい物になる。 
 桃子に向けて返事を返したわけではない。 
 けれど、その目から雅が何を考えているのか悟ったらしい桃子が言葉を続けた。 
  
  
   
- 290 名前:『 非常識な日常 』 投稿日:2007/10/26(金) 02:00
 
-  「そっか。で、みーやんはももを止められると思ってるの?」 
 「止めるっていうか。……もも、だめだよ。梨沙子、まだ子供だよ?」 
 「そう?もう大人に見えるけど」 
  
  
 こともなげな様子で桃子が言葉を返す。 
 その態度を見れば、桃子が雅の言葉を受け入れるつもりがないのは明らかだった。 
 殺風景な部屋に置かれた机に寄りかかり、少し離れた場所にいる雅を桃子がつまらなそうな顔で見ている。 
  
  
 どうやって桃子に梨沙子を諦めさせるか。 
  
  
 初めから雅の言葉など関係ないと言わんばかりの桃子。 
 そんな桃子にどうすれば自分の言葉が届くか考えながら黙っていると、その沈黙を破るように桃子が机をコツンと叩いた。 
  
  
   
- 291 名前:『 非常識な日常 』 投稿日:2007/10/26(金) 02:01
 
-  「……梨沙子とそういう関係なの?」 
  
  
 乾いた音に現実へと引き戻される。 
 諦めさせる方法は思い浮かばない。 
 だから、かわりにもう一つ気になっていることを桃子に尋ねた。 
  
  
 「そういうってどういう?」 
 「どうって。その……」 
  
  
 はっきりとした言葉にすることがためらわれて雅は語尾を濁す。 
 梨沙子がそんなことをしていると思いたくなかったからかもしれない。 
  
  
 「もも、梨沙子にはまだ何もしてないよ」 
  
  
 その言葉に雅はほっと胸を撫で下ろす。 
 けれど、安心したのは一瞬。 
 次に桃子が発した言葉は雅の予想を超えたものだった。 
  
  
   
- 292 名前:『 非常識な日常 』 投稿日:2007/10/26(金) 02:04
 
-  「ねえ、みーやん。別にももはみーやんでもいいんだよ?」 
 「え?」 
 「選んでいいよ、みーやん」 
  
  
 この部屋に入ってから初めて桃子が楽しそうな顔をした。 
 満面の笑みで桃子が寄りかかっている机をまたコツンと叩く。 
  
  
 「ももに抱かれるか、抱かれないか。みーやんが選んでいいよ」 
 「なっ!?それって、どういう……」 
 「みーやんがももに抱かれてくれるなら、梨沙子には手を出さない」 
  
  
   
- 293 名前:『 非常識な日常 』 投稿日:2007/10/26(金) 02:05
 
-  雅には机からする乾いた音すら現実から離れたものに聞こえた。 
 それぐらい桃子から与えられた選択肢は信じられないものだった。 
 信じられないと言うよりは信じたくないという思いの方が強い。 
  
  
 雅が桃子に抱かれれば桃子は梨沙子に手を出さない。 
 雅が桃子に抱かれなければ梨沙子が桃子に抱かれる。 
  
  
 どちらも選べないし、選びたいと思えなかった。 
 ただ、どちらかを選ばなければ桃子が納得しないだろう。 
 それでも。 
 雅にはどちらかを今この場で選ぶなど無理な話に思える。 
  
  
   
- 294 名前:『 非常識な日常 』 投稿日:2007/10/26(金) 02:06
 
-  「別にももはどっちでもかまわない。……梨沙子でもみーやんでもね」 
  
  
 桃子の薄い唇は緩やかなカーブを描いていた。 
 軽く微笑んだまま見つめられて雅の思考が止まる。 
 それでも黙ったままでいるわけにはいかず、何とか桃子に投げかける言葉を探し出す。 
  
  
 「どっちでもって。……なんでうちでもいいの?」 
 「知らなかった?ももがみーやんのこと気に入ってるって」 
 「だからって、抱くとか。そんなの」 
  
  
 そんなことは知らなかったことだ。 
 そして知ったところで桃子の考えは理解不能だ。 
  
  
   
- 295 名前:『 非常識な日常 』 投稿日:2007/10/26(金) 02:08
 
-  気に入っているから。 
  
  
 ただそれだけの理由で桃子が自分を抱きたがる意味がわからない。 
 しかもどうしても自分が欲しいわけではない。 
 雅が駄目なら梨沙子でもかまわないのだ。 
 それは気に入っていると言えるのだろうか? 
  
  
 気に入らない。 
  
  
 桃子が自分を気に入っていたとしても、こんな風に自分を見られるのは嫌だ。 
 そもそも桃子から与えられた選択肢から選ばなければならないということ自体、気に入らない。 
 気に入らないことに従う必要もない。 
 雅は桃子に向けてその思いをぶつける。 
  
  
   
- 296 名前:『 非常識な日常 』 投稿日:2007/10/26(金) 02:09
 
-  「大体、こんなのおかしいよ。なんで?なんでその二つから選ばなきゃいけないの?どっちもやだって選択肢があったっていいじゃん」 
 「別にどっちも嫌っていう答えでもかまわないけど」 
 「じゃあ、どっちもやだ!」 
 「うん、いいよ。その答えなら、みーやんじゃなくて梨沙子にするだけのことだから」 
  
  
 ガタン。 
  
  
 桃子が寄りかかっていた机から勢いよく身体を離したせいで机が大きな音を立てた。 
 机があった場所から数歩歩いて、桃子が雅に手を伸ばせば触れる距離まで近づく。 
  
  
 「どうする?みーやん」 
  
  
   
- 297 名前:『 非常識な日常 』 投稿日:2007/10/26(金) 02:10
 
-  答えが浮かばない。 
 目の前にいる桃子の顔が頭の中でぐるぐると回る。 
  
 与えられた答えは二つ。 
 選べるものはそのうちの一つ。 
 出来ればどちらも選びたくない。 
 けれど、どちらも選ばなければ桃子は梨沙子を選ぶ。 
  
 梨沙子を桃子にくれてやるつもりはない。 
 そして自分が桃子に抱かれるのも御免だ。 
 じゃあ、どうしたらいいのか。 
 どれだけ考えたところで、雅には良い答えが思い浮かぶとは思えなかった。 
  
  
   
- 298 名前:『 非常識な日常 』 投稿日:2007/10/26(金) 02:12
 
-  「みーやんが選ばないなら、もも、梨沙子のところに行くよ?」 
  
  
 困っている雅を見るのが楽しいのか、桃子からくすくすと笑い声が聞こえた。 
 小さく笑いながら桃子が一歩踏み出して雅との距離を詰める。 
 桃子が雅を試すように言った。 
  
  
 「……みーやん。梨沙子、きっと嫌だって言わないよ?」 
 「そんなことない。嫌に決まってる」 
 「今日、見たでしょ?みーやんが入って来なかったら」 
 「ももっ!」 
  
  
 変えようと思っていなかった関係。 
 それが無理矢理変えられる。 
 それを受け入れるかどうか。 
 選択肢は自分にある。 
  
  
 選べない答えの中から一つ選ぶとしたら。 
 これ以外にはなかった。 
  
  
   
- 299 名前:『 非常識な日常 』 投稿日:2007/10/26(金) 02:13
 
-  「なに?答え決まったの?」 
 「だめだよ。梨沙子は……」 
  
  
 梨沙子を桃子に渡すわけにはいかない。 
 いつでも梨沙子は守るべき存在で。 
 それは今も昔もこれから先も変わらない。 
 だから、答えはこれしか思い浮かばない。 
  
  
 「じゃあ、みーやんを抱いてもいいんだ?」 
  
  
 さらに距離を縮めてきた桃子が小さく背伸びをして雅の耳元で囁いた。 
 その言葉を聞いて、どくんと心臓が鳴ったのは気のせいだったのだろうか。 
  
  
   
- 300 名前:『 非常識な日常 』 投稿日:2007/10/26(金) 02:15
 
-   
 まだ子供の梨沙子に桃子と関係を持たせるわけにはいかない。 
 だから。 
 だからだ。 
 それ以上の意味はない。 
 別に桃子に抱かれるぐらいどうということはない。 
 きっとすぐに終わるだろうし、一回きりだ。 
  
  
 それなのに。 
 どうして桃子の声がこんなに頭に響くのだろう。 
  
  
  
   
- 301 名前:『 非常識な日常 』 投稿日:2007/10/26(金) 02:16
 
-  「……約束、ちゃんと守ってよね」 
 「うん、ももちゃんと約束守るから。だから、ね?」 
  
  
 確認というよりは、耳の奥で響く桃子の声を振り払う為に雅は桃子に念を押した。 
 その言葉を聞いた桃子が雅の身体を柔らかく抱きしめてくる。 
  
 突然抱きしめられて雅の身体が硬くなる。 
 心臓が痛いぐらいどくどくと脈打つのがわかった。 
  
 そんな反応をする自分の身体に驚いて、雅は桃子の腕の中から逃げ出す。 
 桃子は雅が逃げ出したことを気にすることもなく言葉を続けた。 
  
  
   
- 302 名前:『 非常識な日常 』 投稿日:2007/10/26(金) 02:17
 
-  「みーやん、今日はもも用事があるから。……今度でいいよね?」 
 「……うん」 
 「じゃあ、もも行くね」 
 「うん」 
 「みーやん、約束だよ?」 
  
  
 部屋の出口に向かって桃子が歩いていく。 
 扉の前で一度振り返って、桃子が雅に「忘れないでね」と付け加えた。 
  
  
  
   
- 303 名前:『 非常識な日常 』 投稿日:2007/10/26(金) 02:19
 
-  これでよかったんだろうか。 
  
  
 桃子がいなくなった部屋で雅は自問自答する。 
 けれどやはり答えは出ない気がした。 
 導き出されない答えのかわりに、頭の中をぐるぐると駆けめぐる映像。 
  
  
 今朝の梨沙子。 
 桃子と会議室に消えていく佐紀。 
 そこから聞こえてきた声。 
  
  
 まるで何かを望んでいるかのような自分がいる。 
 約束から逃げ出したいはずなのに。 
 その気持ちが嘘みたいな今の自分から雅は逃げ出したくなった。 
  
  
  
  
   
- 304 名前:『 非常識な日常 』 投稿日:2007/10/26(金) 02:19
 
-   
  
  
 『 非常識な日常 』 
  
  
  
 - END -  
  
   
- 305 名前:Z 投稿日:2007/10/26(金) 02:19
 
-   
   
- 306 名前:Z 投稿日:2007/10/26(金) 02:24
 
-  >>278 さん 
 雅は最弱であってほしいですw 
  
 >>279 さん 
 それっぽい性格に見えたなら嬉しいです(*´▽`*) 
 雅はテンパってわけわからないこと言いそうなので、あんなセリフにw 
  
 >>280 さん 
 梨沙子、こういう時の逃げ足早そうですw 
  
   
- 307 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/26(金) 23:13
 
-  愛する二名が好きだが 
 黒いもももいいですねw  
- 308 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 00:51
 
-  うわああああーヤバいっすね! 
 ホント桃黒いなぁw  
- 309 名前:Z 投稿日:2007/11/05(月) 00:21
 
-   
  
  
 『 大人未満な選択 』 
  
  
  
 >>281-304 
 『 非常識な日常 』 続編 
   
- 310 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/05(月) 00:23
 
-  今朝。 
 ももは何をしようとしたんだろう。 
 誰もいない楽屋で。 
 気がつけばソファーに倒れ込んでいて。 
 あのままみやが入ってこなかったら、あたしはどうなってたんだろう。 
  
  
  
   
- 311 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/05(月) 00:25
 
-  桃子が何をしようとしたかなんて本当はわかっている。 
 まだ大人ではない 
 だが、子供でもない。 
 だから、桃子が何を望んでいたかぐらいわかる。 
 そして自分が何を望んだのかも。 
  
  
 いくつか並んだ鏡の一つに、不機嫌そうな顔をした梨沙子がいた。 
 梨沙子以外、誰もいないガランとした楽屋。 
 ゴミ箱を蹴飛ばしたら大きな音がしそうだと梨沙子は思った。 
  
 誰もいないからなのか、楽屋が静かすぎて気分が悪い。 
 周りの空間がやけに広く感じる。 
 朝、あの時一緒にいた桃子がいない。 
 そのせいなのかもしれない。 
 鏡に映る自分が小難しい顔をしているのは。 
  
  
   
- 312 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/05(月) 00:26
 
-  数十分前、雅と桃子が二人揃って慌ただしく楽屋を出て行くのを見た。 
 今頃、もしかしたら今朝の出来事について話をしているのかもしれない。 
 そうだとしたら何故、梨沙子を一緒に連れていかなかったのかよくわからないが、雅が今の自分と同じように不機嫌そうな顔をしていたことだけは確かだ。 
  
 あの時、間違いなく雅は見ていた。 
 二人が何をしようとしていたのかを。 
 梨沙子は咄嗟に、雅に何か言わなくては、と考えた。 
 けれど言葉は何も口から出てこなかった。 
  
 桃子は自分に任せておけと言っていたけれど。 
 本当に任せてよかったのだろうか。 
 頼りになるようで、案外いい加減なところがある。 
 今日、怪しむ雅の視線を数分で消してくれたのは事実だが、雅があの時見た光景を完全に頭から消し去っているわけがなかった。 
 きっと何度も思い出す。 
 そしてそれについて、いつか梨沙子に尋ねてくるかもしれない。 
 もし雅から尋ねられたら。 
 うまく答えられるとは思えなかった。 
  
  
   
- 313 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/05(月) 00:28
 
-  考えてもしかたがない。 
 桃子のこと。 
 雅のこと。 
 するすると答えが出てくるような自分ではないのだ。 
 どちらかといえば答えは出口を探しているうちに迷子になって、どこをどう辿っていたかもわからなくなる。 
 そんな自分が考え続けたところで疲れてしまうだけだ。 
 なるようになる。 
 梨沙子はそんな便利な言葉を思い浮かべる。 
  
 ふう。 
 梨沙子は口から大きく息を吐き出す。 
  
 雅がいないせいなのか、桃子がいないせいなのかはわからない。 
 ただ何となく二人が自分の前から消えたことが気に入らなくて、梨沙子は帰ることもせず楽屋に一人居座っていた。 
  
 普段人が多くいる場所に一人でいるとろくな考えが浮かばない。 
 なるようになる、何かが起こるまで行動を起こさない。 
 そう決めたはずなのに、楽屋から出ることが出来なかった。 
 いい加減帰らなければ、そう思いながらかなりの時間を梨沙子は楽屋で過ごしていた。 
 さすがに誰もいないこの部屋に一人でいることに飽きてきて、梨沙子がそろそろ家に帰ろうと立ち上がったその時だった。 
  
  
   
- 314 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/05(月) 00:29
 
-  バタンッ! 
  
  
 勢いよく楽屋の扉が開く。 
 次の瞬間、扉の向こうから現れたのは桃子だった。 
  
  
 「あ、よかった。まだいたんだ、梨沙子」 
 「あれ?もも、帰ったんじゃないの?」 
 「梨沙子の方こそもう帰ったのかと思ってた」 
  
  
 走って楽屋まで来たのか、桃子の息が荒かった。 
 肩が上下して、はあはあと何度も息を吸ったり吐いたりと繰り返している。 
 乱れた呼吸を整えながら、桃子が梨沙子の前まで歩いてくる。 
  
  
 「ねっ、今日さ、梨沙子の家に行ってもいい?」 
 「珍しいね、ももがそんなこと言うなんて」 
  
  
 にっこりと笑った桃子がねだるように言った。 
 いいよ、のかわりに別の言葉が梨沙子の口から思わず出た。 
 桃子に家へ来て欲しくないわけではない。 
 ただ桃子の言葉に驚いたのだ。 
  
  
   
- 315 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/05(月) 00:29
 
-  珍しい。 
  
  
 それは素直な感想だ。 
 桃子は梨沙子の家だけではなく、他の誰かの家に行きたいと口にすることはほとんどなかった。 
 だから梨沙子は桃子の言葉に驚いて、いいよと答えることが出来なかった。 
  
  
 「だって。……梨沙子、続きしたくない?」 
 「えっ?」 
 「今朝の続き」 
  
  
 さっきまで考えていた事が梨沙子の頭にもう一度浮かぶ。 
  
  
   
- 316 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/05(月) 00:30
 
-  桃子が望んでいたこと。 
 そして自分が望んだこと。 
  
  
 心臓がいつもより早く動いているのがわかる。 
 桃子が梨沙子を見ている。 
 急に喉が渇いた。 
  
  
 「家に行ってもいい?」 
 「……うん」 
  
  
 もう一度同じ事を桃子に言われる。 
 今度は驚くことなく答えることが出来た。 
  
  
  
   
- 317 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/05(月) 00:31
 
-  もう子供じゃない。 
 これが何を意味してるかぐらいわかる。 
 今朝の続き。 
 それをあたしが自分で選んだ。 
 後悔はしない。 
  
 ももが好きとか嫌いとか。 
 そんなことはわからないけど。 
 ただ、ももに触れられることは嫌じゃない。 
 だから。 
 きっと後悔はしない。 
  
  
  
  
   
- 318 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/05(月) 00:31
 
-   
 ***   ***   *** 
  
   
- 319 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/05(月) 00:34
 
-  部屋に入り、梨沙子がベッドへ腰掛けると桃子にキスをされた。 
 最初は触れるだけのキス。 
 次にしたキスは、初めてするキスだった。 
  
 唇を割って入った桃子の舌に歯列をなぞられ、舌を絡め取られた。 
 柔らかな感触に背中がぞくぞくとして思わず桃子の舌から逃げる。 
 けれどすぐに桃子の舌にまた絡め取られる。 
 梨沙子の口内を桃子の舌が自在に動く。 
 息苦しくなって桃子にしがみつくと、やっと長いキスが終わった。 
  
  
 「梨沙子、大丈夫?」 
  
  
 浅い呼吸を繰り返していると桃子が心配そうな目で梨沙子を覗き込んできた。 
 その目に軽く頷いて、呼吸を整える。 
 何度か深呼吸をすると、桃子の手が梨沙子の胸元に伸びてきた。 
 ブラウスのボタンを一つずつ外される。 
 梨沙子は思わず露わになる胸元を隠そうとした。 
 ボタンが半分まで外されたブラウスを手で押さえると、桃子が梨沙子の頬にキスを一つしてから言った。 
  
  
   
- 320 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/05(月) 00:35
 
-  「カーテン閉めようか」 
  
  
 薄いレースのカーテンだけしか閉めていない部屋は、外の光が差し込んでいた。 
 照明と外からの明かりで部屋の中はかなり明るい。 
 桃子がベッドから離れて厚手のカーテンを閉める。 
 そして部屋の明かりを消した。 
  
 急に部屋の中が薄暗くなる。 
 梨沙子は急に暗くなった部屋に目が慣れない。 
 それは桃子も同じようで、ゆっくりとベッドの方へと歩いてくるのが気配でわかる。 
  
  
 「これなら恥ずかしくないでしょ?」 
 「うん」 
  
  
   
- 321 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/05(月) 00:37
 
-  桃子の声が梨沙子のすぐ側で聞こえた。 
 じっと前を見ると桃子の姿がぼんやりと闇に浮かぶ。 
  
 もう一度、ブラウスのボタンに手をかけられる。 
 途中まで外されていたボタンが全て外され、ブラウスを脱がされた。 
 スカートに手をかけられてそれも脱がされる。 
 身体を覆う物を全て脱がされて、ゆっくりとベッドへと押し倒された。 
  
 梨沙子の腰の上に桃子が跨る。 
 二人分の体重にベッドがいつもより深く沈み込む。 
  
 いつもならこのベッドには眠るのは梨沙子一人。 
 けれど今日、このベッドの上にいるのは梨沙子と桃子の二人。 
 そのせいか普段と変わらないはずのベッドがまるで別の物のような気がする。 
  
  
   
- 322 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/05(月) 00:39
 
-  梨沙子が二人分の体重に軋むスプリングの音を聞いていると、桃子に首筋を撫でられた。 
 桃子の指先が触れた部分がくすぐったくて、その指から逃れようと身を捩ると耳を桃子に噛まれた。 
 柔らかく耳たぶを噛まれて舌先で舐められる。 
 首筋に触れる指のくすぐったさが何か別の物に変わっていく。 
  
  
 「はぁっ」 
  
  
 梨沙子の口から吐息にも似たくぐもった声が漏れる。 
 その声を自分が発したのだとわかるまでしばらく時間がかかった。 
 普段自分が出す声とは違う声に驚いて梨沙子は唇を噛む。 
  
  
   
- 323 名前:Z 投稿日:2007/11/05(月) 00:40
 
-   
   
- 324 名前:Z 投稿日:2007/11/05(月) 00:40
 
-  本日の更新終了です。 
   
- 325 名前:Z 投稿日:2007/11/05(月) 00:44
 
-  >>307 さん 
 今回は黒い感じで!(´▽`) 
  
 >>308 さん 
 黒桃好きです(´▽`)。 
 ヤバイ感じになる!……のかもしれませんw 
   
- 326 名前:名無飼育さん  投稿日:2007/11/05(月) 22:21
 
-  やばい!  
 本当にやばい!  
 桃子、何を思っている?  
- 327 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/06(火) 02:35
 
-  こっ今回は思いっきり悪だな! 
 
- 328 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/07(水) 00:57
 
-  「梨沙子、我慢しなくていいよ」 
  
  
 桃子が梨沙子の唇に触れた。 
 噛みしめた唇をそっと撫でられ思わず口を開くと、口内に桃子の指先が入り込んでくる。 
 その間も休むことなく桃子の唇が梨沙子の耳を弄ぶ。 
  
 自分が今まで出したことない声が出る。 
 それは聞きたくない声のはずなのにその声を止められない。 
 けれど、桃子の指を噛むことがためらわれて唇を閉じることが出来ない。 
 耳を噛まれるたび、舌が這うたびに呼吸が荒くなっていくのがわかる。 
 閉じることの出来ない唇から時々漏れる自分の声を聞きたくなくて頭を振ると、桃子が耳元で笑う声が聞こえた。 
  
  
   
- 329 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/07(水) 00:59
 
-  梨沙子の口の中にあった指が引き抜かれる。 
 もう声を殺そうとは思わなかった。 
 唇を噛むよりも声を出してしまった方が楽だ。 
 それに触れてくる桃子の手に身体をまかせていると、自分の出す声が気にならなくなっていく。 
  
 桃子の手が胸に触れる。 
 桃子の唇が耳元から首筋へと滑り落ちてくる。 
  
 直接、桃子の手が胸に触れた。 
 ゆっくりと指先で胸の輪郭を辿られる。 
  
  
   
- 330 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/07(水) 01:00
 
-  「……もも、んっ…なに、するの?」 
  
  
 馬鹿なことを聞いたと思う。 
 何をするかなんて聞くまでもないこと。 
 そのはずなのに梨沙子は聞かずにはいられなかった。 
 これから自分に起こること。 
 それが少しだけ怖くて、そしてそれよりももっとそれを期待していた。 
  
  
 「何って……。梨沙子がしたいと思ってること」 
 「あっ、ふっあっ」 
  
  
   
- 331 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/07(水) 01:01
 
-  急に胸の先端を舌先で舐められて甲高い声が出た。 
 何度もそこに舌先が触れてきて、そのたびに声が漏れる。 
 桃子の舌が触れる部分の感覚がどんどん鋭くなっていく。 
 指先が胸を撫でて下へと降りていく。 
 脇腹を撫でられて、身体が勝手に動くのがわかった。 
 桃子の手が脇腹から腰へと回る。 
 手の平が腰を撫で上げる。 
  
  
 今までも梨沙子の身体に桃子が触れてくることぐらい何度もあった。 
 自分から桃子に触れることだってあった。 
 それなのに。 
 今、感じる桃子の手はいつも触れてくる手とは違って、触れられるだけで身体の奥が熱くなる。 
 触れてくる手はいつもと変わらない手のはずなのに、触れられた時の感覚が違う。 
  
  
 どうして桃子がこうやって触れるだけで身体が勝手に動くのかわからない。 
 どうして桃子がこうやって自分に触れてくるのかわからない。 
 桃子の手や舌が、少し触れるだけで鋭くなっていく感覚に慣れない。 
  
  
   
- 332 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/07(水) 01:03
 
-  腰を撫でていた手がまた胸へと戻ってくる。 
 指先がゆっくりと胸をなぞった。 
 その感触に背中がびくんと反る。 
 梨沙子がその感覚に耐えられなくなって、桃子から逃げるように身体を動かすと肩を掴まれた。 
 逃げ出そうとする梨沙子の身体を桃子がベッドへと押しつける。 
  
 胸に触れていたはずの舌先で頬をぺろりと舐められた。 
 驚いて桃子を見つめると肩を掴む腕から力が抜けた。 
 そして梨沙子に触れる桃子の手や舌が止まる。 
 桃子から与えられる刺激が消えたおかげで呼吸が楽になる。 
  
  
 「もも、なんで。……なんで、あたしにこんなことするの?」 
 「梨沙子が可愛いから」 
 「なにそれ」 
 「可愛いから触れてみたいって思うの。それじゃだめ?」 
 「他にないの?」 
  
  
 桃子の止まっていた指先がゆっくりと動き出す。 
 梨沙子の落ち着いていた呼吸がまた少しずつ浅いものへ変わっていく。 
  
  
   
- 333 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/07(水) 01:05
 
-  欲しい答え。 
  
  
 桃子から貰いたい言葉があるような気がした。 
 それは今貰った言葉とは違う。 
 そして桃子が正しい答えを言っているとも思えなかった。 
 けれど、どんな言葉が欲しいのかは自分でもよくわからない。 
  
 どうして今、こうして二人で抱き合っているのか。 
 理由が欲しい。 
  
  
 梨沙子は答えを導き出そうと頭の中に言葉を思い浮かべようとした。 
 でも、その答えが出ることはない。 
 桃子の唇が梨沙子の身体の上を這い回る。 
  
  
   
- 334 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/07(水) 01:06
 
-  「今はそんなことよりさ。……もも、もっと梨沙子に触りたい」 
 「はあっ、んっ」 
  
  
 首筋に噛みつかれ、胸を撫でられて思わず声が漏れる。 
 思考する力は奪われ、身体に触れてくる桃子の手や唇の動きしか感じられなくなる。 
  
  
 この感覚が欲しいから。 
 だからこうしてベッドの上に二人でいる。 
 そう考えるのが一番楽だと思った。 
 そして梨沙子はそれ以上考えることが出来なくなる。 
  
  
   
- 335 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/07(水) 01:07
 
-  指先が身体の側面を這っていく。 
 桃子の頭がゆっくりと下へと降りて胸の下にキスをされた。 
 肋骨を舌が這う。 
 臍の辺りまで降りてきた唇が開いて噛みつかれる。 
  
 桃子が触れている部分だけいつもと違う感覚が支配する。 
 広がっていくその感覚が快感というものだと、梨沙子は今さら気がついた。 
 もっと桃子の手が欲しい。 
 身体の奥が痛い程に桃子を求めていた。 
  
  
 梨沙子は無意識のうちに桃子の右手を握りしめる 
 脇腹を撫でていた桃子の手が梨沙子に握りしめられて止まる。 
 それでも左手は滑るように太ももへと降りていく。 
 その手に太ももの裏を撫で上げられて、梨沙子は桃子の右手を握る力を強めた。 
  
  
   
- 336 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/07(水) 01:08
 
-  「梨沙子?」 
  
  
 桃子が顔を上げずに梨沙子の名前を呼んだ。 
 そして桃子の手を握りしめている梨沙子の手の甲を舐める。 
 舌が梨沙子の指先へ向かっていく。 
 梨沙子は力が抜けそうになる指先で桃子の手を握りしめる。 
  
  
 「もも、の手、はぁっ、きもち…いい」 
 「もっと気持ち良くしてあげる」 
  
  
 握りしめたはずの桃子の手がいとも簡単に梨沙子の手の中から逃げ出す。 
 逃げ出した手が膝を撫でる。 
 桃子の指先が緩やかに太ももを這う。 
 そのゆったりとした動きに背筋がぞくぞくして、梨沙子は思わず身を捩る。 
 桃子の手から逃れようとする腰を掴まれた。 
 太ももを這っていた指先が性急に足の間へと動く。 
 あっという間に辿り着いた桃子の指先が、自分でもわかる程に濡れているそこに触れた。 
 焦らすことなく桃子の指が梨沙子の一番敏感な部分を捕らえる。 
 強めに擦られて思わず大きな声が出た。 
  
  
   
- 337 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/07(水) 01:09
 
-  「んっ、あぁっ。……ももっ、ももっ」 
  
  
 身体のどこを触られた時よりも大きな快感に声が掠れる。 
 桃子の手が与えてくる快感が身体だけでなく、思考すら支配する。 
  
  
 欲しいと思うのは桃子の手。 
 その手が与えてくる快感。 
  
  
 硬くなったそこを桃子の手で押し潰されて身体が跳ねた。 
 自分の意志とは関係なく動く身体を桃子に抱きしめられる。 
 指先は硬くなったそこに触れ続けていた。 
  
  
 「梨沙子、ここ触られるの好きなんだ?」 
 「あ、やあっ。もも、やっ」 
  
  
 自分が言った言葉を確かめるように桃子がゆっくりと指先を動かす。 
 その問いに対して、梨沙子は囈言のように同じ言葉を繰り返すことしか出来ない。 
  
  
   
- 338 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/07(水) 01:10
 
-  触れて欲しいはずなのに口から出るのは否定の言葉。 
 熱くなっていく身体の奥から溢れ出る体液が、桃子の指を濡らしていく音が頭の中に響く。 
 もっとこの感覚が欲しいはずなのに、その音が邪魔をして本当に言いたい言葉が言えない。 
  
  
 「やだ、あっ」 
 「そんなに嫌ならやめようか?」 
  
  
 桃子の指が止まる。 
 同時に頭の中に響いていた音も止まる。 
 今まで苦しいぐらいに与えられていた快感が急になくなって、梨沙子の腰が勝手に動き出す。 
  
  
 「……だめ」 
  
  
 桃子に抱きついて、その指先をねだる。 
 けれど、まだ欲しいものは与えられない。 
  
  
   
- 339 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/07(水) 01:11
 
-  「何がだめなの?」 
 「やめちゃ、だめ」 
 「ほんと、素直で可愛いよね。梨沙子は。……いいよ、続けてあげる」 
  
  
 桃子が小さく笑う声が聞こえた。 
 その声に、梨沙子が腰を擦りつけて催促するとまた指先が動き出した。 
 途切れていた水音が響き出す。 
 桃子の指先がぬるぬるとしたそこを何度も擦り上げる。 
  
  
 甲高い声が出る。 
 身体に力が入っていくのがわかる。 
 桃子の名前を呼んでいるはずなのに声にならない。 
  
  
 ゆっくりと。 
 確実に。 
 今まで感じたことのない快感が梨沙子を支配していく。 
 息を吸っているのか吐いているのか。 
 わからないぐらい苦しくなって梨沙子は目をぎゅっと閉じる。 
 桃子の指先に硬くなったそこを今までで一番強く擦り上げられて、梨沙子の身体が跳ねた。 
  
  
  
  
   
- 340 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/07(水) 01:12
 
-   
 「もも、初めてじゃないよね?」 
 「初めてだと思う?」 
  
  
 ベッドの上、シーツにくるまっている梨沙子の髪を桃子が撫でていた。 
 やけにこういった行為に慣れている桃子が気になって梨沙子は問いかけた。 
 けれど、問いかけに対して答えは、梨沙子が問いかけたものと同じような問い。 
  
 桃子はこの質問に答えるつもりはないらしい。 
 それならばこれ以上聞いても無駄だ。 
 それに聞くまでもない。 
 今したばかりの行為を思い出せば桃子が初めてなのか、そうではないのかぐらい梨沙子にだってわかる。 
  
  
 「……どっちでもいい」 
 「ふーん。……で、梨沙子は?」 
 「どっちでもいいでしょ」 
  
  
 同じ答え。 
 梨沙子はどちらの質問に対しても同じ答えを返す。 
 そんな梨沙子の態度に桃子がくすりと笑った。 
  
  
   
- 341 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/07(水) 01:13
 
-  「どっちかぐらいなんとなくわかるけどね」 
  
  
 桃子に対して梨沙子が思ったことと。 
 それと同じ言葉を桃子に告げられる。 
  
 梨沙子の顔が赤くなる。 
 染まった頬を見られたくなくて、梨沙子がシーツで顔を隠そうとするとそれを桃子に止められた。 
 頬に唇を押しつけられる。 
 もっと顔が赤くなるのがわかった。 
  
  
   
- 342 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/07(水) 01:13
 
-  「ねえ、もも」 
 「なあに?」 
 「また、あたしの家に来る?」 
 「……梨沙子が望むならね」 
  
  
 唇に柔らかな感触を感じる。 
 何故か胸が痛かった。 
  
  
 自分が望んだことの続きは考えていなかった。 
 でも、考えなくても答えは一つ。 
 桃子もきっと同じことを思っている。 
  
 この先、後悔をしても。 
 望んだ先にあるものが何なのか、それを知る為に梨沙子は選び続ける。 
  
  
  
  
   
- 343 名前:『 大人未満な選択 』 投稿日:2007/11/07(水) 01:14
 
-   
  
  
 『 大人未満な選択 』 
  
  
  
 - END -  
   
- 344 名前:Z 投稿日:2007/11/07(水) 01:15
 
-   
   
- 345 名前:Z 投稿日:2007/11/07(水) 01:17
 
-  >>326 さん 
 桃子のせいで、こんなことになりました(;´▽`) 
  
 >>327 さん 
 ガーッと悪路線で! 
   
- 346 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/08(木) 01:36
 
-  やっぱり桃子は黒いのが似合いますねw 
 この関係の展開を楽しみにしてます。 
   
- 347 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/08(木) 02:24
 
-  事実を知ったみやがどう反応するか! 
 楽しみです  
- 348 名前:Z 投稿日:2007/11/16(金) 23:35
 
-   
  
  
 『 バッドチョイス 』 
  
  
  
 >>309-343 
 『 大人未満な選択 』続編 
   
- 349 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/16(金) 23:36
 
-  「ももっ!ちょっと、ももっ!約束破ったでしょっ!」 
 「んー?何のこと?」 
 「昨日の約束。もも、破ったでしょ」 
 「誤解だよ、みーやん。もも、梨沙子に何もしてないよ?」 
 「嘘ばっかり!今日の梨沙子、絶対おかしいっ!」 
 「……みーやん、ももが梨沙子に何したか知りたい?」 
 「えっ?」 
  
  
   
- 350 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/16(金) 23:39
 
-  朝から梨沙子の様子がおかしかった。 
 最初はどうしてなのかわからなかった。 
 けれど、すぐに雅は気がつく。 
  
 原因はきっと桃子だ。 
 梨沙子の桃子を見る目。 
 梨沙子が桃子に触れる手。 
 それがいつもとどことなく違って見えるのは気のせいだろうか。 
 何かあると思う自分の心がそう見せているのか、確かに違っているからこそそう思えるのかよくわからなかった。 
 だが、桃子の言葉に雅は自分の見たものが間違っていないと確信する。 
  
  
  
   
- 351 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/16(金) 23:40
 
-   
 「ね、みーやん。今日、ももの家においでよ」 
  
  
  
   
- 352 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/16(金) 23:40
 
-   
  
   
- 353 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/16(金) 23:42
 
-  約束はきっと破られている。 
 桃子の言葉からも、昨日までとは雰囲気の違う梨沙子からもそれがわかる。 
 きっと桃子には昨日交わした約束を守るつもりなど初めからなかった。 
  
 桃子の家に行く必要などない。 
 あの約束は梨沙子に手を出した瞬間に効力を失うものだ。 
 だから、雅の手を取る桃子に着いていく必要など欠片もなかったはずだ。 
 それなのにどうして桃子の手を振り切れなかったのか。 
 雅は自分の気持ちを理解することが出来なかった。 
  
  
   
- 354 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/16(金) 23:43
 
-  気がつけば、雅は桃子の部屋にいて。 
 小さなテーブルを挟んで桃子と向き合っていた。 
  
 カラフルな部屋に置かれたパステルカラーのテーブルの上にはジュースが二つ。 
 二人が言葉を交わすかわりに、カラカラと小さな音を鳴らしていた氷も今はグラスの中の液体へと変わっていた。 
 桃子の部屋に入ってから雅は氷が溶けていく音しか聞いていない。 
  
 長い沈黙に耐えられなくなって雅はグラスを手に取る。 
 手を付けられないまま置いておかれたグラスは水滴だらけで、グラスを手に取るとまとわりついていた水分が雅の手の平を濡らした。 
 雅が薄くなったジュースを一口飲むと、部屋に入ってからずっと黙ったままだった桃子が口を開いた。 
  
  
   
- 355 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/16(金) 23:45
 
-  「みーやん。……梨沙子に何したか教えてあげる」 
  
  
 テーブルの向かい側にいた桃子が立ち上がるのが見えた。 
 雅は慌てて手にしたグラスをテーブルへ戻す。 
 勢いがついた手がグラスをテーブルに置くとガンッと重たい音がした。 
 雅の頭の中にテーブルを叩く桃子が浮かぶ。 
  
 今聞いた音とは違うコツンという乾いた音。 
 テーブルを叩く桃子。 
 強引に結ばれた約束。 
  
 そんなことを考えたのはほんの数秒。 
 しかしそれだけの時間があれば小さな部屋にいる二人の距離は簡単に縮まる。 
 小さなテーブルは障害物になることもなく、桃子があっという間に座っている雅の前へとやってきた。 
 膝を抱えて座る雅の足下へ桃子が膝をつく。 
 桃子の手が雅の肩に触れる。 
  
  
   
- 356 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/16(金) 23:46
 
-  「ちょっ、ももっ」 
 「知りたいんでしょ?」 
  
  
 雅が肩に触れた手をはね除けると、桃子が口元だけで笑って言った。 
 知りたいと思うことが何を意味するかを考える前に、雅の頭の中に昨日見た光景が浮かんだ。 
  
  
 ソファーに横たわる梨沙子とその身体の上に覆い被さる桃子。 
 ブラウスのボタンにかけられた桃子の手。 
  
  
 破られた約束が意味するもの。 
 雅はそこから先の二人を想像しかけて、慌てて頭の中に描こうとしたその光景を振り払う。 
 だが、打ち消したはずのそれと、今から自分の身に起こるであろうことが雅の中で繋がる。 
  
  
 意識を外に向ける。 
 目の前には桃子がいる。 
 無意識のうちに雅の身体が動く。 
  
  
   
- 357 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/16(金) 23:48
 
-  「大人しくして」 
  
  
 桃子の声が聞こえた。 
 しかし、黙ってそれに従う謂われはない。 
 雅は床から立ち上がろうとする。 
 けれど、それは桃子の手によって簡単に阻止されてしまう。 
  
 立ち上がりかけた身体は桃子に腕を掴まれて床へと舞い戻る。 
 一度、バランスを崩した身体は思ったように動かない。 
 肩を桃子に押されて、雅は体勢を立て直すことも出来ずにひんやりとしたフローリングの上へ押し倒される。 
  
 桃子の向こう側に天井が見える。 
 天井と雅の距離は変わらない。 
 けれど、雅と桃子の距離が変わっていく。 
  
 近づいてくる桃子の顔から逃げる為に雅は顔を背けた。 
 この体勢を変えたくて桃子の腕を掴む。 
 起きあがろうと身体に力を入れる。 
  
  
   
- 358 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/16(金) 23:50
 
-  「そんなに暴れなくても。……みーやん、ももに抱かれてもいいって言ったじゃん」 
 「でも、約束!それ、約束守ったらって」 
 「梨沙子に何したか知りたくないの?」 
 「何したかって。……そんなの、ももに教えてもらわなくたってわかるっ」 
  
  
 この行為の延長線上。 
 それが桃子と梨沙子のしたこと。 
  
 わざわざ教えてもらう必要などない。 
 抱く、という行為がどういうものなのか。 
 こういったことに疎い自分でもそれぐらい知っている。 
 そして長い間見てきた梨沙子の変化。 
 それに気がつくことぐらい雅にも出来る。 
  
  
 「やなの?」 
  
  
 桃子の前髪が雅の額に触れる。 
 距離が近すぎて息が上手く出来ない。 
  
  
   
- 359 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/16(金) 23:51
 
-  「ももはみーやんとしたいけど、みーやんはしたくないの?」 
  
  
 何かをしたわけでもないのに呼吸が乱れる。 
 心臓の音がやけにうるさく感じられた。 
 桃子に答えを返せないのは、うまく息を吐き出せないせいだと思う。 
  
  
 グラスで濡れた手。 
 手首を桃子に握られる。 
 手の平に張り付いていた水分を桃子に舐め取られた。 
  
  
 雅の心臓が一瞬止まって、次に今までよりも大きな音でどくんと鳴った。 
  
  
   
- 360 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/16(金) 23:53
 
-  「ね、答えて?」 
  
  
 黙っていると桃子に答えを促された。 
 だが、雅は答える必要はないような気がした。 
 桃子の顔は雅がどう答えるかわかっている、そんな表情だ。 
  
 抱くとか抱かれるとか、そんなことを想像したことは一度もない。 
 桃子相手ではなくても、雅は他の誰に対してもそんなことを考えたことはなかった。 
  
 雅は大きく息を吸ってどくどくと脈打つ心臓を落ち着かせる。 
 たとえ桃子がこれから言う言葉を知っていても。 
 それでも雅ははっきりと桃子に答える。 
  
  
 「ももとしたい。……なんて思ったこと一度もないし、きっとこれからもそんなこと思わない」 
 「……そう。でも、みーやんがももとしたくないって言っても約束守ってもらうよ」 
 「約束?もも、うちとの約束破ったでしょ?だから、あんな約束守る必要なんかない」 
 「あのね、みーやん。もも、みーやんとの約束破ったなんて一言も言ってないし、それに梨沙子から聞いたわけでもないんでしょ?」 
 「それは……。そうだけど」 
 「ももが約束破った証拠、どこかにあるの?ないよね?」 
 「ないけど。ないけど、でもっ!梨沙子、変だし……」 
 「みーやん、ももは梨沙子に何もしてないよ?」 
 「嘘っ」 
 「たとえ嘘でもさ。みーやん、今は嘘って証明出来ないでしょ?」 
 「…………」 
 「約束、守ってもらうから」 
  
  
   
- 361 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/16(金) 23:54
 
-  桃子がにっこりと笑って言った言葉。 
 それを守る必要があるとはやはり思えなかった。 
  
 話の流れからして、明らかに桃子は雅との約束を破っていた。 
 証明などいらない。 
 梨沙子に何をしたのか、それを雅の身体を使って教えようとしていた。 
 それだけで十分だ。 
  
 それなのに。 
 どうして桃子の言葉に黙って頷いてしまったのか。 
 どれだけ考えても答えに辿り着けそうにない。 
 不可解な気持ちは不可解なまま。 
 雅に理解する時間はない。 
  
  
   
- 362 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/16(金) 23:56
 
-  桃子が身体を起こし、雅の手を取った。 
 桃子の腕に力が入って雅は身体を引き起こされる。 
 ベッドまで桃子に案内される。 
  
 雅がベッドの上に座ると、照明が落とされカラフルな部屋がモノトーンへと変わる。 
 薄闇に目が慣れる前に服を脱がされた。 
 雅の身体を覆っていた服は床の上へと放り投げられる。 
 ベッドの上に裸で座る雅の隣に桃子が腰を下ろす。 
 桃子の手が雅の腕に触れる。 
 ただ触られただけのはずなのに、雅の身体がびくりと震えた。 
  
  
   
- 363 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/16(金) 23:57
 
-  「緊張しなくていいよ」 
  
  
 腕に触れた桃子の手が雅の髪を撫でた。 
 聞こえてくる桃子の声がうまく頭の中に入らない。 
 そんなことを言われたからといって、すぐに自分の身体を覆う緊張感から逃れることが出来るほど雅は器用ではない。 
 緊張するな、と言われればかえって身体に力が入る。 
 これから自分の身に起こることを考えれば尚更だ。 
  
 それがわかっているのか、桃子はそれ以上雅に何かを言うことはなかった。 
 しかし、言葉のかわりになのか、桃子がくすりと小さく笑ったような気がした。 
 息を吐き出した音なのか、笑い声なのか。 
 そんなどうでもいいことが気になって雅が桃子の顔を見ると、急に桃子の顔が近づいてきて唇にキスをされた。 
  
   
- 364 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/16(金) 23:59
 
-  柔らかな感触が唇に触れて離れる。 
 もう一度互いの唇が触れる。 
 それは一度目とは違う感触で、反射的に雅は桃子から身体を離そうとする。 
 けれどすぐに腰を引き寄せられ、桃子から離れるどころかより近づく。 
 さっきよりも近い距離。 
 雅は桃子に抱きしめられる。 
  
 唇に感じた違和感の正体がわかる。 
 桃子の舌が雅の中へと入り込んでくる。 
 考えるよりも先に桃子の舌から逃げ出す。 
 それでも追いかけてくる舌にどうしていいかわからなくなって、雅は桃子の肩を叩いた。 
 桃子の身体が雅から離れる。 
 そして名残惜しそうに桃子の唇が雅から遠ざかっていく。 
  
 だが、離れた唇はすぐに雅のもとへと舞い戻ってくる。 
 今度は唇へのキスのかわりに耳を齧られた。 
  
  
   
- 365 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/16(金) 23:59
 
-  「……約束。今日、みーやんはもものものだからね。みーやんは今日、ももに抱かれるの。そういう約束だから。だから、もう逃げられないんだよ?」 
  
  
 確認するようにゆっくりと桃子が雅に囁いた。 
  
  
   
- 366 名前:Z 投稿日:2007/11/16(金) 23:59
 
-   
   
- 367 名前:Z 投稿日:2007/11/17(土) 00:00
 
-  本日の更新終了です。 
   
- 368 名前:Z 投稿日:2007/11/17(土) 00:02
 
-  >>346 さん 
 思ったよりも長い話になりそうなので、これから先の展開はまったりお待ちください(;´▽`) 
  
 >>347 さん 
 こんなことになっちゃいました! 
   
- 369 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/17(土) 00:14
 
-  なんだかなぁ・・・ 
 こういうのって、黒ってより犯罪じゃね?  
- 370 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/17(土) 00:59
 
-  確かに!でもフィクションだからね 
 
- 371 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/17(土) 23:51
 
-  桃子は嘘つき… 
 でも応援します!w  
- 372 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:19
 
-  桃子の言葉によって。 
 逃げられないことを認識させられる。 
 今からされることを意識させられる。 
  
  
   
- 373 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:20
 
-  腰を抱いていた桃子の腕が雅の肌の上を滑る。 
 背骨にそって撫で上げられて、その感覚に雅は思わず息が止まる。 
 硬くなった身体に桃子の唇が押しつけられた。 
 首筋から鎖骨へ。 
 柔らかな唇が何度も触れてくる。 
 鎖骨を辿るように唇が這って、骨の上を舐められた。 
  
 何も覆う物がない身体に人が触れる。 
 素肌に指先や唇を感じる。 
 今まで感じたことのない感触に身体と喉が震えるのがわかった。 
  
  
  
   
- 374 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:21
 
-   
 どうってことない。 
 これはただの約束で。 
 うちは約束を守る為にここにいて。 
 それ以上の意味なんてない。 
 こうやって触れてくるももの手も。 
 肌に感じる唇も。 
 全て約束を守るためだ。 
 他の意味なんてどこにもない。 
  
 だから何も感じない。 
 感じるわけがないんだ。 
  
 なのに。 
 どうして馬鹿みたいに心臓がドキドキして。 
 身体の奥が熱くなるんだろう 
 こんなの絶対におかしい。 
 間違ってる。 
  
  
  
   
- 375 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:22
 
-  背中を撫でていた手はいつの間にか雅の胸の上にあった。 
 唇が鎖骨からその下へと降りてくる。 
 胸に置かれていた手がゆっくりと動き出す。 
 胸の先端に桃子の指先が触れる。 
 その刺激に雅の背中が反る。 
 ベッドの上に座ったまま身体を反らしたせいでバランスが崩れて、雅は思わず桃子の腕を掴んだ。 
 後ろへ倒れてしまわないように桃子の腕にしがみついたせいで、必要以上に桃子に密着することになった。 
  
 まるで桃子に触れられることを望んでいるように思われるんじゃないか。 
 そんな事が頭に浮かんで雅は慌てて桃子から離れようとする。 
 だが、桃子の腕によって、逃げようとした雅の身体は引き戻される。 
 そして、胸を撫でる指先に硬く尖った部分を摘まれた。 
 鎖骨の下に歯を立てられて思わず声が出る。 
  
  
   
- 376 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:23
 
-  「んっ、はあっ」 
  
  
 頭の中ではこの行為を否定しているはずなのに。 
 身体の奥には今まで感じたことのない熱が広がっていく。 
 桃子の手が触れるたびに、喉の奥から出したことのないような声が出る。 
  
  
 望んでいないはずなのに。 
 まるでそうして欲しいみたいに見える。 
  
  
   
- 377 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:24
 
-  胸に触れる指先が動くたびに呼吸が荒くなるのがわかった。 
 唇が触れて肌を舐められるたびに心臓がどくどくと鳴って、身体の中に音が響く。 
 感じるはずのない身体が桃子の手によって変わっていく。 
  
 そんな自分から逃げ出したくなって、雅は桃子の腕の中で身を捩る。 
 けれど、桃子から逃げ出そうとすればするほど桃子の腕が雅をきつく抱きしめる。 
 身体に触れる桃子の手に力が入る。 
 指先や唇の動きが激しくなっていくせいで、雅の意志とは関係なく身体が勝手に桃子を求めていく。 
  
 この場から逃げ出したくて身体を動かしているのか。 
 それとも肌に感じる快感のせいで勝手に身体が動いているのか。 
 もう自分ではわからない気がした。 
 ただわけもわからずに雅は桃子の腕の中から逃げだそうと身体を動かす。 
  
  
   
- 378 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:26
 
-  「みーやんさ、それわざと?」 
 「なに、が?」 
 「そうやって逃げるの」 
  
  
 雅の身体にキスをする合間に桃子が話しかけてくる。 
 桃子が唇を雅の身体から離している間も、指先が肌の上を這い回るせいで、雅の言葉が途切れたものになる。 
  
  
 「人ってね、逃げられると追いかけたくなるの。……知ってた?」 
 「知ら…ないよ、そんな…の」 
 「みーやんがそうやって逃げれば逃げるほど……」 
  
  
 桃子が顔を上げた。 
 薄闇の中、桃子が雅の目を見つめてくる。 
  
 雅はすっと細められた桃子の目を見て、どこかで見たことのある目だと思う。 
 だが、それをどこで見たことがあるのか思い出せなかった。 
 桃子の次の言葉を待ちながら、雅は記憶を辿る。 
  
  
   
- 379 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:27
 
-  「もも、みーやんを離したくなくなる」 
  
  
 そうだ。 
 どこかで見たことのある桃子の目。 
 それはテレビで見た獲物を狙う動物の目だ。 
 けれど、雅がそれに気がついた時には遅かった。 
  
 細められた目が大きく開いて、じっと見つめられる。 
 身体を押されたわけじゃない。 
 それなのにいつの間にか、壁に雅の背中がぴたりとついていた。 
 追いつめられる。 
 逃げ場はない。 
  
  
   
- 380 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:31
 
-  閉じていた足を開かされた。 
 桃子が開いた足の間に身体を滑り込ませてくる。 
 雅は自分の身体に触れる桃子の身体に違和感を感じる。 
  
 裸の自分と服を着ている桃子。 
 素肌に服が擦れる。 
 その服の感触に、自分だけが脱がされているのだと強く感じさせられた。 
  
 非現実的な世界にいるような気がしてくる。 
 今、自分がしていることは全て夢なのではないか。 
 そんな風に疑いたくなる。 
 だが、肌に擦れる服にさえ反応する身体に、今、桃子としている行為が紛れもない現実だと気づかされる。 
  
 声、というよりは吐息が漏れる。 
 桃子が動くたび、そして自分が動くたびに軋むベッドの音が頭の奥に響く。 
  
  
   
- 381 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:32
 
-  桃子の唇が胸の先端に触れる。 
 雅の身体はその刺激から逃げようとするが、背中が壁についているせいで今以上に動くことが出来ない。 
 桃子の唇から逃げられないまま、硬くなったそこを挟み込まれて舌先で舐め上げられる。 
  
  
 「あっ、ふっ。……はあっ」 
  
  
 雅は自分が出した湿った声に思わず自分の手で口を塞ぐ。 
 しかし、それはほんの短い間。 
 声を消し去る為に口を塞いだ手は、すぐに桃子に捕まり払い除けられる。 
  
 自分の声を聞きたくない。 
 けれど口を塞ぐことは許されず、きっと耳を塞ぐことも出来ない。 
 だから音を遮断するかわりに雅は目を瞑った。 
  
  
   
- 382 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:33
 
-  今いる世界を消す。 
 桃子を目の前から排除する。 
 瞼の裏には何も映らない。 
 そのかわり。 
 桃子の行動が予測できなくなる。 
  
 目を瞑った先の時間も桃子の手の動きが変わることはなかった。 
 慣れた手つきで指先は腹を撫で、その下へと滑り落ちていく。 
 唇はゆるゆると胸を愛撫し続けている。 
  
  
   
- 383 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:36
 
-  「こういうことされるの、きらい?」 
 「や、だっ」 
 「なんで?」 
 「んっ、なんで…でも、やっ」 
 「……ね、ほんとにして欲しくないの?」 
  
  
 暗闇の中、桃子の声が耳をくすぐるように流れ込んでくるせいで、瞼の裏に桃子の顔が映し出された。 
 いつもよりも低く小さな声で囁かれるせいで、雅はやましいことをしている気分になる。 
 そして予想できない手や唇の動きに、身体の反応が大きくなった。 
  
 行き場を見つけた桃子の指先が腰を撫でそして太ももを何度も撫でる。 
 雅の意志に反して腰がびくんと跳ねた。 
 胸へ何度も落とされるキスに意識を乗っ取られる。 
 触れて欲しい部分に唇が触れたのは一度きりで、またその感覚が欲しくなってくる。 
  
  
   
- 384 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:38
 
-  「そこ、じゃ……」 
  
  
 そこまで言いかけて雅は慌てて口をつぐむ。 
 自分自身に驚いて瞑っていた目を開いた。 
  
  
 今、何を言おうとした? 
  
  
 望んでこんなことをされているわけではない。 
 それなのに今、言いかけた言葉は触れられることを望む言葉だ。 
  
 言ってはいけない。 
 これ以上、触れられてはいけない。 
  
 そう思っているはずなのに、雅の身体の奥はどんどん熱を持っていく。 
 この熱さが意味するものを雅は出来れば知りたくなかった。 
  
  
   
- 385 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:39
 
-  「みーやん、なあに?」 
 「…………」 
 「言えないぐらい恥ずかしいことなんだ?」 
 「ちがっ」 
  
  
 腰を撫でていた手に唇を撫でられた。 
 ゆっくりと桃子の人差し指が唇の上を這う。 
 くすりと笑った桃子に頬が赤くなるのが自分でもわかる。 
  
  
 「みーやんってさ、こういうこと興味なさそうだと思ってたけど」 
  
  
 赤くなった頬に桃子の柔らかな唇が押しつけられる。 
 桃子の指が耳に触れ、首筋をひっかくように降りていく。 
 肩を手の平で撫でられ手を握られた。 
  
  
   
- 386 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:40
 
-  「違うみたいだね」 
  
  
 頬に触れていた唇が首筋を噛み、胸を舐める。 
 握られた手を桃子に引っ張られて、雅の背中が壁から離れた。 
 背中に腕を回される。 
 触れて欲しかった部分に何の前触れもなく桃子の唇が触れた。 
  
  
 「興味…ふ、あっ、…なんて、ない」 
  
  
   
- 387 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:41
 
-  硬くなったそこを口に含まれて、雅の声が途切れた。 
 舌先で突かれて、身体が桃子に反応を返す。 
 喉が上がり、声が震えた。 
  
 舌と唇がそこに触れ続ける。 
 快感に身体が震えるのがわかる。 
 心と身体が伴わない。 
 正反対の方向へ向かおうとしいて息苦しい。 
  
  
 雅は、はあはあと浅い呼吸を誤魔化すように何度も息を吸い込んだ。 
 それでも桃子の唇も舌先も動きを止めない。 
 それどころか動きを止めていた手が膝から太ももをゆっくりと撫でてくる。 
 その刺激に雅の身体の奥に潜んでいた熱さが外へと這いだしてくる。 
  
  
   
- 388 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:42
 
-  「じゃあ、なんでこんなに熱くなってるんだろうね?」 
  
  
 まるで雅の身体の変化を全て知っているような言葉を桃子にかけられる。 
 桃子の指が太ももから足の間へ滑り込み、手慣れた指先が誰も触れたことのない雅のそこに触れた。 
 身体の中から何かが流れ出る。 
 それを確かめるように桃子の指が身体の中心を撫でた。 
  
  
 「ん、あっ、触ら…ない…で。はっ、あっ」 
  
  
 桃子に触れられて、初めて自分のそこが熱くなっていることがわかった。 
 そして、それを桃子に知られるのはとても恥ずかしいことのような気がした。 
 それなのに唇から漏れる声が大きくなっていく。 
 触れてくる指から逃げようと身体を動かしているはずなのに、その指を追いかけているような錯覚に陥る。 
  
  
  
   
- 389 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:43
 
-   
 約束は破られているはずなのに。 
 どうしてうちはここにいて。 
 ももにこんなことをされて。 
 聞かれたくもない声を上げてるんだろう。 
 こんな声、絶対に聞かれたくないのに声が止まらない。 
 触れられたくない。 
 そのはずなのに、もっと触れられることを望んでいる気がする。 
 逃げられないのはもものせいなのか。 
 それともうち自身のせいなのか。 
 わからない。 
 ただ感覚が尖っていく。 
 桃子だけを感じるようになっていく。 
  
 もしかしたら、その理由はわからないままの方がいいのかもしれない。 
  
  
  
   
- 390 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:44
 
-  湿ったそこを確かめるように桃子の指が這い回る。 
 桃子に何度も触れられたせいで硬くなったそこに指が押しつけられて、一瞬、呼吸をすることを忘れた。 
  
  
 「みーやん、もっと気持ち良くしてあげる」 
  
  
 自分の意志では身体をコントロール出来なくなっていた。 
 荒い息を何度も吐いていると、桃子の指が身体の中心に押し当てられる。 
 何が起こるのか考えるよりも先に、桃子の指が雅の身体の中へと入り込んできて、雅は思わず桃子にしがみついた。 
  
  
 痛いのか気持ちがいいのかわからない。 
 わからないまま、どんどん呼吸だけが荒くなっていく。 
  
  
   
- 391 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:46
 
-  ゆっくりと桃子の指先が、身体の中を押し開くようにして出し入れを繰り返す。 
 最初は鈍い痛みがあったような気がした。 
 けれど、時間をかけてゆっくりと動かされる指に身体が慣れてくる。 
 肺の中にある空気を吐き出していただけの唇から、色付いたような声が漏れ出す頃には痛みだと思っていた感覚が別のものに変わっていた。 
  
 足の間から濡れた音が雅の耳に聞こえてくる。 
 その音が桃子にも届いていると思うと、繰り返されるこの行為をやめて欲しいと思う。 
 それなのに、身体の奥から出てくる何かを自分で止めることは出来ない。 
 指が動くたびに身体が熱くなっていくことを雅は止められない。 
  
  
 呼吸音の間に喘ぎ声が交じる。 
 唇を噛んでも漏れる自分の声に絶えられなくなって、雅は首を小さく横に振った。 
 そんな雅の耳に喘ぎ声でも水音でもない桃子の声が聞こえてくる。 
  
  
   
- 392 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:47
 
-  「ね、増やしてあげようか?……指」 
 「いら、ないっ」 
 「そう?いらないならなんでももの手、こんなに汚してるのかなあ。見せてあげようか?みーやん」 
  
  
 雅は思わず目を閉じる。 
 耳元でくすくすと笑う声が聞こえた。 
 目を閉じたせいで桃子がどんな表情をしているかは見えない。 
 それでも雅には桃子が今どんな表情をしてるのか頭の中に浮かぶ。 
  
 きっと楽しそうに笑っている。 
 口元だけで笑って困っている自分を観察するように見ている。 
  
  
   
- 393 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:48
 
-  「やっ。もも、やだっ」 
  
  
 指がするすると抜かれる感触がした。 
 雅は反射的に嫌だと懇願した。 
 雅の声に桃子の手が止まり、もう一度桃子が囁いた。 
  
  
 「手だけじゃないよ。シーツも汚してる」 
  
  
   
- 394 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:49
 
-  抜かれかけた指が奥へと押し込まれる。 
 多分、わざと。 
 音がするように指を動かされた。 
  
 雅からシーツを見ようと思えば見えた。 
 だが、雅は目を開かない。 
 桃子の言葉が事実かどうかはどうでもよかった。 
 それを事実だと認識するようなことはしたくなかった。 
  
 目を閉じたままでいると、桃子の指が身体の中で動き出した。 
 一度指が引き抜かれて、すぐにまた身体の中に桃子の指が入ってくる。 
 嫌だと言ったはずなのに、入り込んできた指は増やされていた。 
 二本の指に雅は身体の中をゆっくりと開かされる。 
 強く中を擦られて思わず大きな声が出た。 
  
  
   
- 395 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:50
 
-  「あっ、ああっ。んっ」 
 「そんな声だして喜ぶぐらいなら、最初から欲しいって言えばいいのに」 
  
  
 喜んだつもりはなかった。 
 どちらかというと苦しい。 
 だが、それは苦痛に近い快感だ。 
 身体に感じる快感が大きすぎて苦しい。 
  
 身体の中で桃子の指が暴れるたびに、苦しいぐらいの快感を感じる。 
 身体の奥が熱くなって、桃子の指を締め付けているのが自分でもわかった。 
 溢れ出る体液がいやらしい音を立てているのが聞こえてくる。 
 その音が雅に桃子を求めていることを気づかせる。 
  
  
   
- 396 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:51
 
-  「あ、も、もっ。抜い、て…よっ」 
  
  
 呼吸の苦しさから逃げ出す為に出した桃子への要求。 
 だが、その要求は呑まれるどころか、桃子に指をさらに奥まで押し込まれた。 
  
  
 「いいよ、イっても」 
  
  
   
- 397 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:52
 
-  その言葉のおかげなのかはわからない。 
 雅は素直に桃子の与えてくる快感に身を任せることが出来た。 
  
 身体の奥まで入り込んだ指に中を掻き回される。 
 その刺激に声を抑えることが出来ない。 
 何度も桃子の指に中を擦られて身体が揺れる。 
 今までの刺激で硬くなっているそこにも指が這う。 
  
  
 雅は心が何を思ったのかは覚えていない。 
 ただ身体が耐えられない程の快感に包まれた。 
 それだけが記憶に残った。 
  
  
  
  
   
- 398 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:52
 
-   
   
- 399 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:53
 
-   
 結局。 
 うちは何がしたかったんだろう。 
 梨沙子を助けたい、なんてそんなものは嘘で。 
 本当はももに近づきたかっただけ。 
 好奇心なんてつまらないものに動かされただけ。 
 そんなことを考えたくなる。 
  
  
  
   
- 400 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:54
 
-  守られてもいない約束と、その破られた約束を守った自分。 
 まるで桃子に抱かれたかったみたいに約束を守った。 
 決して望んではいなかったはずなのに。 
  
  
 雅は考えることを放棄する。 
 答えが出そうになかった。 
 そしてそれ以上考えられなくなった。 
  
  
 「みーやん、まだだよ」 
  
  
 終わったはずの行為。 
 それが再開される。 
 一度達して敏感になった身体に桃子の手が触れる。 
 触られただけで身体がびくりと跳ねた。 
  
  
 ふいに梨沙子のことが頭をよぎる。 
 同時に桃子の声を思い出す。 
  
  
   
- 401 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:55
 
-  『梨沙子に何したか教えてあげる』 
  
  
 梨沙子のこともこんな風に抱いたのだろうか。 
 そんな疑問が唐突に浮かんだ。 
 だが、疑問と一緒に答えも導き出された。 
 きっと桃子に聞いても答えるわけがない。 
 それに梨沙子と桃子がどんなことをしたのか考えることは、ひどく悪いことをしているような気がして雅は頭に浮かんだ梨沙子を追い払った。 
  
  
 雅が何か他のことを考えていることが伝わったのか、桃子が雅を抱き寄せた。 
 そしてそのまま唇へキスをされる。 
 深いキスに桃子以外のことを考えられなくなる。 
  
  
 この先どうなってしまうのか。 
  
  
 雅にはそんなことを考える余裕はどこにもなかった。 
  
  
  
  
   
- 402 名前:『 バッドチョイス 』 投稿日:2007/11/19(月) 00:56
 
-   
  
  
 『 バッドチョイス 』 
  
  
  
 - END - 
   
- 403 名前:Z 投稿日:2007/11/19(月) 00:56
 
-   
   
- 404 名前:Z 投稿日:2007/11/19(月) 00:59
 
-  >>369さん 
 所詮妄想。所詮脳内。 
  
 >>370さん 
 ハイ、頭のてっぺんからつま先までフィクションです。 
  
 >>371さん 
 応援された桃子が暴走しないようにお祈りしたいと思いますw 
   
- 405 名前:名無飼育さん  投稿日:2007/11/19(月) 22:41
 
-  桃子は梨沙子には優しくて雅には意地悪ですね。 
 どっちも好きだが 
 もっと暴走すれば良いと思いますw  
- 406 名前:Z 投稿日:2007/11/23(金) 01:59
 
-   
  
  
 『 step 』 
  
  
  
 前スレ776-788 
 『 Start 』続編 
   
- 407 名前:『 step 』 投稿日:2007/11/23(金) 02:01
 
-  あの日から、特別に変わったことはなかった。 
 強いて上げるとすれば、桃子をよく見るようになったこと。 
 けれど、じっと見てもよくわからなかった。 
 いくら眺めても、好きになる理由が見つからない。 
  
  
 きっと。 
 絶対に。 
 あれは勘違いだったに違いない。 
 恋しそうになったなんて、何かの間違いだ。 
  
  
   
- 408 名前:『 step 』 投稿日:2007/11/23(金) 02:03
 
-  そんなことを考えていたら、自分でも気がつかないうちに友理奈は桃子を見つめていたらしい。 
 撮影をしていたはずの桃子がいつの間にか目の前にいた。 
  
  
 「くまいちょー、ちょっと目がこわい」 
 「え?」 
  
  
 スタジオの片隅。 
 遠くから聞こえてくるシャッター音を遮るように、桃子が拗ねたような口調で友理奈を責めた。 
 ぴっと伸ばされた桃子の人差し指が、友理奈の目を指し示している。 
 けれど友理奈には桃子に責められる理由がわからない。 
  
  
 「なんか、くまいちょー、もものこと睨んでた」 
 「えー、睨んでないよ」 
 「ほんと?なんか時々こわい目でもものこと見てる気がするんだけど」 
 「ほんとにっ。絶対に睨んでないって!」 
  
  
   
- 409 名前:『 step 』 投稿日:2007/11/23(金) 02:04
 
-  意識してやっているわけではない。 
 自分でも気がつかないうちに目つきが鋭くなっていることがある。 
 それは友理奈も前々から知っていた。 
 だが、それは無意識のうちにしている行動で、自分の意志でどうにか出来るものではなかった。 
 きっと今日も自分でもわからないうちにそんな目をして桃子を見ていたのだろう。 
 恨みがましい目を自分に向けている桃子を見れば、自分がどんな目で桃子を見ていたのかなんとなくわかる。 
  
 それを認めて謝るのは簡単なことだ。 
 しかし、意識してそうしているわけではないのだから、自分が悪いわけではないと友理奈は思う。 
 悪くもないのに謝る必要はないし、睨もうと思って睨んだわけではないのだから、これは睨んだうちに入らないのではないか。 
 そんな気がして、友理奈は思わず桃子に反論する。 
  
  
   
- 410 名前:『 step 』 投稿日:2007/11/23(金) 02:06
 
-  睨んだ。 
 睨んでない。 
  
  
 くだらない言い争い。 
 どちらも本気でそれを言っているわけではない。 
 少しばかりエキサイトはするが、遊びの延長線上。 
 友理奈と桃子は、笑ってお互いの腕を叩きながら決着が付くことのない争いを続ける。 
  
  
 一体どれぐらいの時間、そんなことをしていたのか。 
 じゃれあいのような言い争いに疲れた頃、シャッター音が消えていた。 
 今日の仕事はこれで終わりだと告げられ、友理奈と桃子は遠慮無くスタジオを後にする。 
  
  
   
- 411 名前:『 step 』 投稿日:2007/11/23(金) 02:10
 
-  友理奈は床を踏みならしながら、桃子と並んで歩く。 
 二人きりになると急に桃子の存在が気になった。 
 大勢の中の一人だった時には何も感じなかったはずなのに、二人になってみると途端に居心地が悪くなった。 
 隣にいる人間が桃子だということがやたらと気になる。 
 ほんの少し前まで桃子の隣にいることが平気だったのに、それが嘘のようだ。 
 今は桃子の隣にある右肩が熱い。 
  
  
 あれは勘違いだったんだ。 
 そう思いたかった。 
  
  
 だが、打ち消そうとすればするほどあの日感じた想いが蘇ってくる。 
 まるであの日の気持ちが本物だったような気がしてくる。 
 心の中に生まれた気持ちを否定しようと下を向くと、廊下と靴が擦れるたびに聞こえてくるキュッキュッという音がやけに耳に付いた。 
  
  
   
- 412 名前:『 step 』 投稿日:2007/11/23(金) 02:11
 
-  「恋なんて、きっと勘違いみたいなものだよ」 
 「えっ!?」 
  
  
 心の中を覗かれた。 
 そう思わずにはいられないような言葉を桃子が口にした。 
  
  
 「誰かを好きになるなんて、何かのはずみでドキドキしたのを勘違いしてるだけ。そんな気がする」 
  
  
 床を鳴らしながら歩く足音、それよりも少しだけ大きな声。 
 それは桃子の隣を歩く友理奈の耳に届くには十分な大きさを持った声だった。 
  
  
 「……そうなのかな」 
 「わかんなけど。でも、勘違いでもいいじゃん。……っていうかね、勘違いしたままでいて欲しいな」 
  
  
 そこまで言ってから、桃子が声のトーンを落とした。 
 右腕を桃子に引っ張られる。 
 傾いた友理奈の身体に寄り添うようにして、桃子が耳元で囁いた。 
  
  
   
- 413 名前:『 step 』 投稿日:2007/11/23(金) 02:12
 
-  「くまいちょーさ、もものこと好きかもって思ってるでしょ?」 
  
  
 友理奈は思わず立ち止まる。 
 桃子がそれにあわせて足を止めた。 
  
  
 「なっ!?……そんなの、思ってないしっ!」 
  
  
 思いのほか大きな声が出た。 
 一瞬、廊下を行き交う人の視線が友理奈に集まる。 
  
  
 思ってないんだ。 
 好きだなんて思ってないんだ。 
  
  
 何故頑なに思っていないと自分に言い聞かせたいのかはわからない。 
 ただそう思いこまないと、桃子の隣にいられないような気がする。 
 だから、友理奈は自分に言い聞かせるよう答えた。 
  
  
   
- 414 名前:『 step 』 投稿日:2007/11/23(金) 02:14
 
-  「ほんとに?」 
 「思ってないよ、絶対」 
 「でも、思ってるって顔に書いてある」 
 「思ってないよ。……思ってない。でも」 
 「でも?」 
  
  
 思ってる。 
 そう言われるとそれが正しい答えのような気がしてくるから困る。 
 けれど、それを認めてしまうわけにはいかないと友理奈は思う。 
  
 認めようとすると、すぐ側にいる桃子のことが必要以上に気になるのだ。 
 今までのように、会話をしたり、その身体に触れたりすることが上手くできなくなる。 
 この気持ちについてこれ以上考えることはよくないことのような気がする。 
 今まで打ち消そうとしてきたことが無になってしまう。 
  
 だが、そんなことをぐるぐると頭の中で考えていてもはっきりとした答えは出ない。 
 そして答えを導き出せるとも思えず、友理奈は自分で答えを出すことを投げ出して、小難しいことを全て桃子に押しつける。 
  
  
   
- 415 名前:『 step 』 投稿日:2007/11/23(金) 02:17
 
-  「あーもー、難しくてなんかよくわかんないよ。……大体、ももちはどう思ってんのさ?」 
 「んー。くまいちょーがもものこと好きだって言ってくれたら、ももも好きだって言うよ?」 
 「なにそれ。……じゃあ、もしあたしが嫌いって言ったら嫌いって言うの?」 
 「それは言わないよ。だって嫌いじゃないもん」 
 「……なんか、ももちの言ってることよくわかんないよ。好きとか嫌いとか、そんなのわかんない」 
 「そう?簡単だと思うけど。好きだって言うだけでいいんだよ?」 
 「言うだけって言われても。そんなの……、うわっ!」 
  
  
 言葉の途中で桃子が友理奈の腕を取って歩き出す。 
 急に腕を取られて引きずられ、思わず悲鳴に近い大声を友理奈は上げた。 
 しかし、桃子はそんなことを気にもせずに友理奈をに引きずったまま数メートル歩く。 
 ずかずかと廊下を早足で歩く桃子に引っ張られて、友理奈は非常階段へと連れ出される。 
  
 ギィッと音を鳴らして外と廊下を区切る扉が閉まる。 
 すっかり陽が落ちて薄暗くなった非常階段の踊り場に桃子と二人。 
 風が冷たくて肌寒い。 
 まるでその肌寒さを取り払うかのように、桃子が友理奈に近づく。 
 友理奈の右袖を掴むと桃子が言った。 
  
  
   
- 416 名前:『 step 』 投稿日:2007/11/23(金) 02:19
 
-  「くまいちょー。とりあえずさ、もものこと好きだって言ってみてよ」 
 「うーん、好き。……なのかなあ」 
 「……もものこと嫌いなの?」 
 「じゃあ、好き」 
  
  
 なんとなく。 
 薄い唇に笑みを浮かべてこちらを見ている桃子に誘われて、その言葉を口にしてみた。 
 最初はその言葉を実際に口にしても、どことなく現実から離れているような気がした。 
 けれど二度声にしてみたら、確かに勘違いのような想いが本物に近づいたような気分になった。 
 相変わらず認めたくないという気持ちも心のどこかにある。 
 だが、同時に認めてもいいかもしれないとも思う。 
 はっきりとしたことはわからないが、無理に答えを出す必要もないような気がしてくる。 
 友理奈がそんなことを心の中でぶつぶつと考えていると、桃子に右袖を二度引っ張られた。 
  
  
   
- 417 名前:『 step 』 投稿日:2007/11/23(金) 02:20
 
-  「ももも好き」 
  
  
 不意に聞こえてきた言葉にどくんと心臓が鳴った。 
 二人だけの非常階段に桃子の声が響く。 
 どういうわけか、血液が身体中を駆けめぐり頬が染まるのがわかった。 
 友理奈の心臓がいつもよりどくどくと速いペースで脈打ち始める。 
  
  
 好きとか嫌いとか。 
 恋とか。 
 桃子の言葉を聞いた今もやはりよくわからない。 
 それでも桃子の声が心地良く耳に残っている。 
 こうやってこの先何度もこの声を聞きたいと思う。 
  
  
 隣に桃子がいる居心地の悪さ。 
 あれは何だったのかと思う程、今はその存在がくすぐったくてそして心地良い。 
 それでもそれを上手く口にする方法がわからなくて、友理奈は手すりの根元を蹴った。 
  
  
   
- 418 名前:『 step 』 投稿日:2007/11/23(金) 02:23
 
-  「ねえ、ももち。あたし、やっぱりわかんないよ。……嫌いじゃないけど、でもわかんない」 
 「別にいいんじゃない?わかんなくても。くまいちょーがわかんなくても、ももがわかってるから」 
 「わかってるって、なにがどうわかってるの?」 
 「くまいちょーがももを好きだって」 
 「だから、わかんないって言ってるじゃん」 
 「嫌いじゃないなら、好きなんだよ」 
 「そりゃ、嫌いじゃないけどさあ。ちょっと強引すぎだよー」 
 「まあ、いいじゃん。細かいことは」 
 「いいのかなあ、それで。……大体、好きだとしてもさ、これからどうなるの?」 
 「これから?……どうしようかなあ」 
  
  
 好きだとはっきり言ったつもりはない。 
 桃子にそう決めつけられた。 
 そしてそれが嫌じゃない。 
 でも、好きだと言ったその後。 
  
  
 お互い言葉を交わしたその後、友理奈はどうすればいいのかわからない。 
 これが付き合うきっかけになるのかさえわからない。 
 ただこの先にあるものが何か。 
 きっと桃子なら知っているだろうと思って問いかけた。 
 だが、問いかけへの答えはわざとらしいものだった。 
 悩んでいるわけでもなさそうなのに、大げさに考えているような格好を桃子がしていた。 
 そして一呼吸置いてから、桃子が楽しげな表情で友理奈に答えを告げた。 
  
  
   
- 419 名前:『 step 』 投稿日:2007/11/23(金) 02:24
 
-  「そうだ。もっとくまいちょーをドキドキさせてあげる」 
 「ドキドキって……。なにするの?」 
 「それはね」 
  
  
 くすり、と唇だけで笑った桃子が友理奈の肩を掴んで背伸びをした。 
 友理奈の耳元、唇の熱が伝わるぐらい近く。 
 桃子が友理奈に囁いた。 
  
  
 『この先、ゆっくり教えてあげる』 
  
  
 言葉の意味はよくわからなかった。 
 でも、耳元でくすくすと笑う声が心地良くて。 
 吹きかかる息がくすぐったくて。 
 何かいけないことをしているような気がして友理奈は顔が熱くなった。 
 そして、意味もわからないこの先のことが気になって、心臓がドキドキと大きな音を立てていた。 
  
  
  
  
   
- 420 名前:『 step 』 投稿日:2007/11/23(金) 02:25
 
-   
  
  
 『 step 』 
  
  
  
 - END -  
   
- 421 名前:Z 投稿日:2007/11/23(金) 02:25
 
-   
   
- 422 名前:Z 投稿日:2007/11/23(金) 02:26
 
-  >>405さん 
 暴走したら大変なことにΣ(;´▽`) 
 でも、それも楽しそうですw 
   
- 423 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/24(土) 00:52
 
-  続編キターーー! 
 気になってたけどスレ変りしたからもう無いのかなって思ってた 
 作者さんアリガト、熊井ちゃん絡みはほのぼのして良いね 
 先が楽しみです  
- 424 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/11/24(土) 15:40
 
-  作者さんの書く作品はどうしてこんなに面白いのでしょうか… 
 
- 425 名前:名無飼育さん  投稿日:2007/11/27(火) 02:17
 
-  >>424にまったく同意!! 
 
- 426 名前:Z 投稿日:2007/12/01(土) 00:28
 
-   
  
  
 『 One-way 』 
  
  
  
   
- 427 名前:『 One-way 』 投稿日:2007/12/01(土) 00:29
 
-   
 手は繋がない。 
 だって、繋いだ手はいつか離さなければいけないから。 
  
  
  
  
   
- 428 名前:『 One-way 』 投稿日:2007/12/01(土) 00:30
 
-  仕事は別にして。 
 桃子は雅と一度も手を繋いだことがなかった。 
 何故、手なのか。 
 それは自分でもよくわからない。 
  
 肩も。 
 胸も。 
 唇も。 
 もっと他の部分も。 
 触れることに何のためらいもないのに。 
 それなのに何故手だけなのか。 
 自分でもわからなかった。 
  
 雅が手を繋いで欲しいと思っていることは知っている。 
 ためらいがちに何度も伸びかけてきた手。 
 桃子はいつもそれに気がつかない振りをして歩いていた。 
  
  
   
- 429 名前:『 One-way 』 投稿日:2007/12/01(土) 00:32
 
-  今日も。 
 二人並んで歩いていた。 
 夕闇の中、いつもの曲がり角まで雅と二人で歩いていく。 
 二人が家へ帰る為にはあの角で別れ、別々の方角へと向かわねばならない。 
 桃子と雅の歩く速度が落ちていく。 
  
  
 もっと一緒にいたい。 
  
  
 それを桃子も雅も口にしたことはない。 
 曲がり角が近づくにつれ、並んで歩く二人の速度が同じように落ちていく。 
 心の中にあるものを言葉にしたことはなかったが、歩く速度で二人の気持ちが同じだとわかる。 
  
   
- 430 名前:『 One-way 』 投稿日:2007/12/01(土) 00:35
 
-  お互いの肩が触れそうなぐらいの距離を保ったまま並んで歩く。 
 肩が触れそうで触れない距離というのは、手が触れそうな距離でもある。 
 雅の手が桃子の手に触れそうなぐらい近い場所にあった。 
 それでもその手には触れない。 
  
 ゆっくりと歩いていく。 
 交差点が見えた。 
 その先にはあの曲がり角がある。 
 信号が赤になる。 
 足を止めると、赤信号を急いで渡ってきた誰かの肩が桃子の肩にぶつかった。 
 桃子の目の中で、赤いランプがぐらつく。 
 赤い光が帯状に流れたように見えた。 
 バランスを失った桃子は雅の方へとよろける。 
 桃子の肩が雅の肩に当たる。 
 肘がぶつかり、指先が触れた。 
  
  
   
- 431 名前:『 One-way 』 投稿日:2007/12/01(土) 00:36
 
-  いつもならそれで終わりだ。 
 何事もなかったように手は離れ、一定の距離を保つ。 
 それなのに今日は触れた手が雅によって捕まえられた。 
 捕らえられた桃子の手は雅によって握りしめられる。 
  
 桃子のよろけた身体を引き寄せる。 
 ただそれだけのためだったのかもしれない。 
 それなのに、急に手を握られて桃子の心臓がどくんと鳴った。 
  
  
 無意識だった。 
 握られた手を桃子は振りほどく。 
 さして抵抗もなく手は離される。 
 桃子は自由になった自分の手をぎゅっと握りしめる。 
 一度振りほどかれた手が繋がれることはなかった。 
 捕らえられた手は雅から逃げ出したはずなのに心臓の音が鳴りやまない。 
  
  
   
- 432 名前:『 One-way 』 投稿日:2007/12/01(土) 00:38
 
-  車の流れが止まる。 
 信号が青に変わり、何事もなかったようにまた二人で歩き出す。 
 横断歩道を渡りきると曲がり角が近づいた。 
  
  
 「……もも。うちってもものなに?」 
  
  
 雅の小さな声が聞こえた。 
 隣を歩いていたはずの雅はいつの間にか立ち止まっていて、気がつけば桃子の後ろにいた。 
  
  
   
- 433 名前:『 One-way 』 投稿日:2007/12/01(土) 00:40
 
-  「恋人以外の何かってあるの?」 
  
  
 振り返った視線の先。 
 桃子の目に映っているのは不満げな顔の雅。 
 その表情に桃子のドキドキとうるさいぐらいに鳴っていた心臓がいつものリズムに戻っていく。 
 桃子はさも当然とばかりに言葉を返した。 
  
  
 雅が自分に求めている物。 
 それが何か気がつかないわけではない。 
 不信感をもたれていることぐらいわかっている。 
 雅の不機嫌そうな低い声が少し離れた場所から聞こえてくる。 
  
  
   
- 434 名前:『 One-way 』 投稿日:2007/12/01(土) 00:43
 
-  「……手」 
 「なに?」 
 「なんでもない」 
  
  
 雅が言いたいことを理解して、それでもわざと聞き返した。 
 小さく返された返事で雅の機嫌を損ねていることがわかる。 
  
 桃子は立ち止まったまま動かない雅に近づく。 
 そしてその耳元で囁いた。 
  
  
 「みーやん、好き」 
 「嘘ばっかり」 
  
  
   
- 435 名前:『 One-way 』 投稿日:2007/12/01(土) 00:44
 
-  誤魔化したわけではない。 
 だが、好きだと告げた相手には誤魔化したようにしか聞こえないこともわかっている。 
  
 雅の目が桃子の手を見ていることぐらい知っていた。 
 それでも桃子はそれに気がつかない振りをする。 
 ここでその手を握れば、きっと好きだという言葉はもっとすんなり受け入れられて、雅の不信感などすぐに吹き飛ばすことが出来る。 
  
  
 そんなことはずっと前から知っていた。 
  
  
 けれど。 
 手は繋がない。 
 きっとこの先も繋がない。 
 繋いだ手を離すときの事を考えたら繋げない。 
  
  
  
  
   
- 436 名前:『 One-way 』 投稿日:2007/12/01(土) 00:45
 
-   
 多分、ももは。 
 誰よりも臆病で。 
 誰よりもみーやんが大好きで。 
 誰よりもその手を握りたくて。 
  
  
   
- 437 名前:『 One-way 』 投稿日:2007/12/01(土) 00:45
 
-   
 でも、手なんか繋いだら。 
 曲がり角が来ても絶対に離せない。 
 だから、今日も手は繋がない。 
  
  
  
  
   
- 438 名前:Z 投稿日:2007/12/01(土) 00:46
 
-   
   
- 439 名前:『 One-way 』 投稿日:2007/12/01(土) 00:46
 
-   
  
  
 『 One-way 』 
  
  
  
 - END - 
   
- 440 名前:Z 投稿日:2007/12/01(土) 00:49
 
-  >>423さん 
 中の人が気まぐれなので、スレ変わっても続編書いたりします(;´▽`) 
 熊井ちゃん絡みはほのぼの出来るので、私もお気に入りです。 
  
 >>424さん 
 その言葉に近づけるようにがんばりたいです(`・ω・´)  
  
 >>425さん 
 近づけるように精進します(`・ω・´)  
  
   
- 441 名前:Z 投稿日:2007/12/01(土) 01:00
 
-  あばばばばっ。 
 今アップした分は『 非常識な日常 』 とは無関係なお話しです。 
 書くの忘れてましたorz 
   
- 442 名前:名無飼育さん  投稿日:2007/12/01(土) 22:26
 
-  好きすぎてバカみたい……ですね。 
 率直ではない点が桃子らしいです。 
 でも雅の気持ちも思ってくださいw  
- 443 名前:Z 投稿日:2007/12/07(金) 02:32
 
-   
  
  
 『 only one 』 
  
  
  
   
- 444 名前:『 only one 』 投稿日:2007/12/07(金) 02:33
 
-  「もも、そこはみ出しそう。っていうか、色違わない?」 
 「大丈夫、大丈夫」 
 「絶対、こっちの色だって」 
 「あーもー!佐紀ちゃんが横からごちゃごちゃ言うからはみ出したっ!」 
 「なに、これあたしのせい?」 
 「そうだよぉ」 
 「あたし何もしてないし」 
  
  
   
- 445 名前:『 only one 』 投稿日:2007/12/07(金) 02:35
 
-  夢と現実の境目から聞こえる声。 
 それはかなり大音量で。 
 一瞬夢の方へと戻りかけた雅の意識が、現実方向へ強引に引っ張られる。 
 閉じようとする目を惰性で開いて、声のする方へ視線をやると、桃子と佐紀がテーブルの上に何かを広げて大騒ぎしていた。 
 雅はまだ膜がかかっているような意識のまま考える。 
  
 リハーサルも一段落付いて楽屋に戻った。 
 疲れを取ろうとソファーへ横になった。 
  
 記憶はそこまで。 
 どうやら横になった時に、そのまま眠ってしまったようだった。 
 楽屋には雅を含めて三人しかいなかった。 
 他のメンバーがどこに行ったのかわからないが、常に全員が楽屋に揃っているわけではないから特別気にはならない。 
  
 雅は大きく伸びをして、ソファーの形に丸まった身体を伸ばす。 
 ぐっと両手を天井に向かって上げると、思わず「ふあぁ」と力の抜けた声が出た。 
  
  
   
- 446 名前:『 only one 』 投稿日:2007/12/07(金) 02:36
 
-  「あっ、みや起こしちゃった?」 
  
  
 雅の声に反応した佐紀の申し訳なさそうな声が聞こえた。 
 二人の声に叩き起こされたことは間違いないが、雅はソファーから立ち上がると首を横に振り、「気にしないで」と付け加えた。 
 雅はテーブルに近づき、二人に声をかける。 
  
  
 「二人でなにやってんの?」 
 「ももが塗り絵して、佐紀ちゃんが邪魔してる」 
 「邪魔じゃないっての。アドバイス!」 
 「違うよー!佐紀ちゃんが横から変なこと言うから、もも失敗したもん」 
 「それはももが下手だからでしょ」 
  
  
   
- 447 名前:『 only one 』 投稿日:2007/12/07(金) 02:38
 
-  テーブルを挟んで向かい合わせに桃子と佐紀が座っていた。 
 テーブルの上には塗り絵が置いてある。 
 それは最近、塗り絵にハマっているらしい桃子が持ち歩いているものだった。 
 雅がテーブルの上に広げてある塗り絵を見ると、塗り絵は線からいくつかの色がはみ出している。 
 その塗り絵を塗っているのは桃子で、向かい側から色々と注文を付けているのが佐紀だった。 
 どちらの言い分が正しいのかはわからないが、失敗していることは間違いない。 
 そして、どちらが正しいのかを二人に聞いても意味がない。 
 どちらも自分が正しいと主張することは目に見えていたので、雅はとりあえず自分のしたいことを二人に告げてみる。 
  
  
   
- 448 名前:『 only one 』 投稿日:2007/12/07(金) 02:39
 
-  「ねえ、もも。うちもやりたい」 
 「だめ!絶対だめ!みや、落書きしかしないじゃんっ。佐紀ちゃん、みや止めてよ」 
 「落書きでもいいんじゃない?みやの絵、面白いと思う」 
 「さすが佐紀ちゃん、わかってる!うちの絵はアートだよ、アート。もも、わかってないなあ」 
 「意味わかんないもん、みやの絵」 
  
  
 両手で塗り絵をガードしながら、桃子が言った。 
 気がつけば、色鉛筆も桃子の腕の中に隠されている。 
 雅は桃子の左隣に座ってから、桃子の腕をぽんっと軽く叩いた。 
  
  
 「いいから左半分貸してよ」 
 「……ちゃんと塗ってよ?」 
 「まかせて」 
  
  
   
- 449 名前:『 only one 』 投稿日:2007/12/07(金) 02:41
 
-  手で色鉛筆を催促しながらにっこりと笑顔を作る。 
 桃子が不審そうな目で見ているが気にしない。 
 指先を二、三度動かしてもう一度色鉛筆を催促すると、桃子が渋々といった感じで色鉛筆を雅の手の上に乗せ、塗り絵の左半分を解放した。 
  
  
 それまで騒がしかった楽屋に突然、沈黙が訪れる。 
 色鉛筆が紙の上を走るシャカシャカという音以外聞こえない。 
 雅が左半分を塗り、桃子が右半分を塗る。 
 そしてそんな二人を佐紀が腕を組んで見ていた。 
 だが、そんな静かな時間はそう長くは続かない。 
  
  
 「あ、やっぱり落書きしてるっ」 
  
  
 雅の隣から不満そうな声が聞こえた。 
 隣を見ると、雅の塗り絵をのぞき見したらしい桃子がぷうっと頬を膨らませていた。 
 その声に反応して、佐紀が向かい側から身を乗り出して雅の塗り絵を見る。 
  
  
   
- 450 名前:『 only one 』 投稿日:2007/12/07(金) 02:42
 
-  「うわっ、みや。これ、ひどいって」 
 「ももも佐紀ちゃんも、うっさい。こっち側、うちのものだからいいの」 
 「あーん、これももの塗り絵なのにぃ」 
  
  
 悲痛な叫び、というより大げさな桃子の声が楽屋に響く。 
 そしてその声を遮るように楽屋の扉が勢いよく開かれた。 
 ドタバタと楽屋に千奈美が飛び込んできて、入り口から桃子に負けないぐらい大きな声で佐紀を呼んだ。 
  
  
 「キャプテーン、ちょっとこっち来てよー」 
 「えー、なに?まだリハあんの?」 
 「わかんないけど、なんかスタッフさん呼んでる」 
  
  
 入り口から手招きされて、佐紀がのろのろと立ち上がる。 
 佐紀は、ふうっ、と息を吐き出すと雅と桃子に一言告げて楽屋から出て行く。 
  
  
   
- 451 名前:『 only one 』 投稿日:2007/12/07(金) 02:43
 
-  「じゃ、あたし行ってくるね」 
  
  
 扉がバタンと閉められて。 
 楽屋に雅と桃子が取り残される。 
  
 二人きりになるとすぐに桃子が色鉛筆を放り出して、机に突っ伏した。 
 だが、雅はそれに構わず色鉛筆を走らせていく。 
 桃子が「いってらっしゃーい」と佐紀に手を振っている間も休まずに落書きを続けたおかげで、雅の芸術作品は着々と完成に向かっていた。 
  
  
 「みや、いい加減にしてよぉ」 
  
  
 塗り絵が元の絵からかけ離れた物体になった頃。 
 机から顔を上げた桃子が呆れた声を上げた。 
  
  
   
- 452 名前:『 only one 』 投稿日:2007/12/07(金) 02:45
 
-  「これよく出来てると思うんだけど」 
 「出来てないってばっ。なんかこの絵、怖いし」 
 「これが怖いとかさー、芸術がわかってないね。ももは」 
 「こんな芸術なら、ももいらないよーだっ」 
  
  
 塗り絵の左半分を人差し指でつつくと、桃子が恨めしそうな目で雅を睨んでくる。 
 その目に雅は思わず自分の芸術作品を確かめてみるが、桃子が言うような怖いものには見えない。 
 特別上手いとは思わないが、下手というわけでもないと思う。 
 けれどそう桃子に告げてみても、お互いの意見は平行線を辿るばかりで一向に交わる様子がなかった。 
  
  
 「もぉー。それ、みやが好きに塗っていいよ。もも、ちょっと休む」 
  
  
 そう言うと桃子は立ち上がってソファーへと向かった。 
 雅は手元に残った塗り絵と桃子を見比べる。 
 ソファーに座っている桃子は目を閉じていた。 
 桃子は眠るのかもしれないと思い、雅は色鉛筆を手に取る。 
 塗り絵を続けようとして、自分が書いた芸術作品に目をやると、右上にいつの間にか『みや作』と桃子の字で付け足されていた。 
  
   
- 453 名前:『 only one 』 投稿日:2007/12/07(金) 02:47
 
-  そう言えばいつから『みや』って呼ばれるようになったんだろう。 
  
 桃子の字を見て雅はふとそんなことを考える。 
 桃子の人の呼び方というのは独特だ。 
 他の人とは違った呼び名を付ける。 
 例えば、友理奈のことは『くまいちょー』と呼んでいる。 
 桃子以外、誰もそう呼ばない。 
 そして桃子は今も友理奈のことを『くまいちょー』と呼ぶ。 
  
 何時の間に自分は『みーやん』ではなく『みや』と呼ばれるようになったのか。 
 桃子だけの呼び方が、他のメンバーと同じ呼び方になった日が思い出せない。 
 他の誰も呼ばない『みーやん』が、どうして他のメンバーと同じ『みや』という呼び方になったのか気になった。 
  
 呼び方なんてどうでもよくて。 
 でも、結構大切なものかもしれない。 
  
 そして。 
 気になり始めたら、それが頭から離れない。 
 だから雅は頭に浮かんだ疑問を口にしてみる。 
  
  
   
- 454 名前:『 only one 』 投稿日:2007/12/07(金) 02:48
 
-  「もも、起きてる?」 
 「起きてるよ」 
 「ちょっと聞きたいんだけどさ。もも、うちのことみーやんって呼ばなくなったでしょ?……なんで?」 
 「なんでって突然なに?」 
 「なんとなく。急に気になったから。だから、聞いてみただけなんだけど」 
  
  
 雅は塗り絵を手にとって、『みや作』と書かれた文字をじっと見た。 
 けれどいくら文字を眺めても、字が何かを語り出すというような都合の良いことは起こらない。 
 塗り絵の向こう側で、桃子が「うーん」と唸る声が聞こえた。 
  
  
 「なんでって言われても。みんな、みやって呼ぶし」 
 「じゃあ、熊井ちゃんは?熊井ちゃんのこと、みんな熊井ちゃんって呼ぶけど、ももはくまいちょーって呼ぶじゃん」 
 「あー、くまいちょーはなんだろ?呼びやすいから?……大体、みやだってもものこと嗣さんって呼んだりするし、呼び方なんて何でも良くない?」 
 「良くないよ。だって気になる」 
 「そんなこと言ったらももだって、嗣さんって気になる。なんなの、嗣さんって」 
 「なんなのって、嗣さんは嗣さんじゃん」 
 「なんかやだ」 
  
  
   
- 455 名前:『 only one 』 投稿日:2007/12/07(金) 02:49
 
-  雅はこの『嗣さん』という呼び方をわりと気に入っていた。 
 少しばかり他人行儀かもしれないが、他の誰も使わない呼び方だ。 
 どことなく特別な感じがして、そこが好きだった。 
 けれど、桃子には不評でこの呼び方はすぐに止めることになった。 
  
  
 「いいじゃん、嗣さんで。あー、うち、これからまた嗣さんって呼ぼっかな」 
 「えー、なんで。やだって言ってるのにー」 
  
  
 嫌だと拗ねたように言われてつい調子に乗る。 
 桃子が口をとがらせて不満げに雅の方を見るから、それが面白くて心にもないことを口にした。 
  
 雅は席を立って、桃子が座っているソファーへと歩く。 
 桃子の隣に腰を下ろして、その肩に手をかけた。 
  
  
   
- 456 名前:『 only one 』 投稿日:2007/12/07(金) 02:50
 
-  「ねっ、ねっ。ももって呼んで欲しい?」 
  
  
 桃子の身体に体重を預ける。 
 雅が耳元でそう囁くと、醒めた口調で桃子が言った。 
  
  
 「んー。どっちでもいい」 
 「えっ、なんで!?」 
  
  
 桃子が預けられた雅の体重を重そうに押し返す。 
 雅は予想外の返事に思わず大声を上げた。 
  
  
 「何がしたいのさ、みやは」 
 「いや何がってわけじゃ。ただちょっとお願いされてみたかったっていうか……」 
  
  
   
- 457 名前:『 only one 』 投稿日:2007/12/07(金) 02:51
 
-  語尾はもごもごと。 
 雅は自分でも何が言いたいのかわからないようになる。 
 頭の中にぽんっと浮かんだもの。 
  
 交換条件。 
  
 『嗣さん』と呼ばれることに不満そうな桃子なら。 
 上手く交渉できるかな、と思った。 
 だが、想像していない返事を返された。 
 雅はここからどうすればいいのか考えて、それを実行に移してみる。 
  
 まずは桃子をソファーに押し倒す。 
 抵抗することなく、すんなりと桃子はソファーに横になる。 
 雅の下にいる桃子は肘掛けに頭を乗せて、不思議そうな顔をしていた。 
  
  
 「へ?なに?」 
 「ももって呼ぶから、みーやんって呼んでよ」 
  
  
 上からこうして桃子を見ていると、桃子が何でも自分の言うことを聞いてくれるような気がした。 
 自然に笑みがこぼれる。 
 だが、雅のその笑顔は長くは続かない。 
  
  
   
- 458 名前:『 only one 』 投稿日:2007/12/07(金) 02:52
 
-  「なにそれ?みやの方がお願いしてるじゃん。ばかだよね、みやは」 
 「だー!うるさいっ」 
 「ふーんだっ。だまらないもーん」 
  
  
 交渉は簡単に決裂。 
 もとより交渉と言えるようなものでもなかったのだが。 
 そして確かにお願いしているのは自分の方で雅は思わず頭を抱える。 
 そんな雅の肩を桃子が押して、身体を起こそうとする。 
 雅は反射的に桃子の腕をソファーへ押さえつけた。 
  
  
 「みや、もうどいてよ。重い」 
 「やだ」 
  
  
   
- 459 名前:『 only one 』 投稿日:2007/12/07(金) 02:54
 
-  この体勢を崩すと、一生自分の願いが叶わないような気がした。 
 雅は掴んだ桃子の腕にぐっと力を入れる。 
 桃子が顔を顰めた。 
 眉間に皺を寄せ、桃子が目を細めて雅を見る。 
  
 なんとなく。 
 その顔を見ていたらなんとなく。 
 キスをしたくなった。 
  
 雅は桃子の唇に唇で触れる。 
  
 雅が唇を離すと桃子が目を見開いていた。 
 当たり前だ。 
 自分でも驚いている。 
  
 好きとか、そんなことを言ったこともなくて。 
  
 そして考えたこともなかった。 
 まさに勢いだけでキスをした。 
  
 お互いに驚いていたせいか、しばらく見つめ合って。 
 それから、桃子が雅の手を振り払おうと身体を捩った。 
 雅は上から桃子を押さえつける。 
 桃子は力がある方だったが、上から雅が全力で押さえつけると、さすがに容易には雅をはね除けることが出来ないようだった。 
  
  
   
- 460 名前:『 only one 』 投稿日:2007/12/07(金) 02:55
 
-  「ちょっ、みやっ」 
 「違う、みーやん」 
 「……みーやん、やめてよ」 
 「やめない」 
 「いい加減にしてって」 
 「お願いされても、やめないから」 
  
  
 たった一つだけの呼び方に。 
 愛着を感じていなかったわけじゃない。 
 いつの間にか誰もが呼ぶ呼び方に変わって。 
 今さらそれに気がついただけだ。 
 もう遅いのかもしれないが、他の誰とも違う呼び方に戻して欲しいと思った。 
  
  
 久々に聞いた呼び名は心地良く耳に響いた。 
 だから、桃子を押さえつけている手を離すべきだった。 
 とりあえずの願いは叶った。 
  
 それなのに。 
 雅は桃子を押さえつける手を離せなかった。 
  
  
   
- 461 名前:『 only one 』 投稿日:2007/12/07(金) 02:56
 
-  「へぇ。……じゃあ、みやの好きにすれば?」 
  
  
 変わらぬ体勢のまま、桃子が言った。 
 桃子の身体から力が抜ける。 
 雅は桃子を押さえつける力を弱めた。 
  
  
 「いいんだ?」 
 「いいよ」 
  
  
 挑戦的な目。 
 誘うように伸ばされる桃子の手。 
 雅の心臓が急にどくどくと大きな音を鳴らし始める。 
  
  
   
- 462 名前:『 only one 』 投稿日:2007/12/07(金) 02:56
 
-  「みやの好きにすればいいじゃん」 
  
  
 雅の頬に桃子の手が触れる。 
 優位に立っているのは雅の方だ。 
 そして桃子も抵抗する気はないようで。 
 でも、明らかに焦っているのは自分の方だった。 
  
 耳元に心臓があるような。 
 そんな感じがするほど、心臓が鳴らす音が耳に付いた。 
 手が震えて思わず握りしめる。 
 震えが止まるようにぐっと握ってから、その手を開く。 
 雅は桃子の胸元に手を伸ばそうとして、慌ててその手を引いた。 
  
  
   
- 463 名前:『 only one 』 投稿日:2007/12/07(金) 02:57
 
-  「どうしたの?なにもしないの?」 
 「こんなところでするわけないじゃん。ばかじゃない」 
  
  
 桃子が喉の奥で笑いながら言った。 
 雅は上擦りそうな声を押さえつけて桃子に言葉を返す。 
 それから身体を起こして、桃子を解放する。 
  
  
 付き合っているわけでもないのに。 
 何をすると言うのだ。 
  
 気の迷いだ。 
 そうに違いない。 
  
  
 雅は自分の行動になんとか理由をこじつける。 
 ソファーから立ち上がってテーブルへと向かう。 
 後ろから桃子がついてきていた。 
  
  
   
- 464 名前:『 only one 』 投稿日:2007/12/07(金) 02:59
 
-  「みーやん」 
 「へ?」 
  
  
 突然後ろから『みーやん』と呼ばれて、雅は無意識のうちに振り返る。 
 間の抜けた声が出た。 
 そして『みーやん』に反応して頬が緩む。 
 顔が赤くなるのがわかる。 
  
  
 「ほんと、みーやんは可愛いね」 
  
  
 そんなことを言われても何と答えていいのかわからなかった。 
 返事のかわりに雅が椅子をガタっと鳴らして乱暴に腰を下ろすと、桃子がくすくすと笑う声が聞こえてくる。 
  
  
 「ねえ、みーやんって呼んであげようか?」 
 「呼ばなくていいっ!」 
 「そういうところが可愛いんだよ。みーやんは」 
 「うっさい。みーやんって呼ばなくていいって言ってんの」 
 「照れ屋」 
  
  
 椅子に座った雅の後ろから桃子が話しかけてくる。 
 桃子はわざわざ雅が困るような言葉を選んでいるようだった。 
 それがわかっていても、雅の頬は赤くなりっぱなしで元に戻らない。 
 その反応が面白いのか、桃子が後ろから抱きついて雅の顔を覗き込んでくる。 
  
  
   
- 465 名前:『 only one 』 投稿日:2007/12/07(金) 03:00
 
-  「もう、ももっ!うるさーいっ!」 
  
  
 桃子から顔を隠すように雅は机に突っ伏した。 
 呼んで欲しいなんて思ったのは一時の気まぐれだと雅は思う。 
  
  
 やっぱりみんなと一緒でいい。 
 みーやんなんて呼ばれたら、頬が緩んで変な顔になる。 
  
  
 それでも久々に聞くその呼び方はなんだか嬉しくて、緩んだ頬はなかなか元に戻らなかった。 
 そんな雅に桃子がめざとく気がついて。 
 楽屋には長い間、桃子の笑い声が響いていた。 
  
  
  
  
  
   
- 466 名前:『 only one 』 投稿日:2007/12/07(金) 03:01
 
-   
  
  
 『 only one 』 
  
  
  
 - END -  
   
- 467 名前:Z 投稿日:2007/12/07(金) 03:01
 
-   
   
- 468 名前:Z 投稿日:2007/12/07(金) 03:04
 
-  >>442 さん 
 桃子も雅とは少し違った感じで意地っ張りだと思うのでこんな感じになりました。 
 ……素直じゃない者同士ということでw 
   
- 469 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/07(金) 05:47
 
-  みーやん、かわいい!! 
 
- 470 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/07(金) 19:58
 
-  ももちのこのあしらいかたがよいですねw 
 
- 471 名前:名無飼育さん  投稿日:2007/12/07(金) 22:41
 
-  ラジオから出た話ですね。 
 作者上の小説はリアルでいいです。  
- 472 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/08(土) 00:33
 
-  やっぱり最後は逆転してしまうんだなw 
 
- 473 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/08(土) 06:42
 
-  いいこのみやびちゃんいいw 
 
- 474 名前:Z 投稿日:2007/12/13(木) 02:14
 
-   
  
  
 『 甘受する肉体 』 
  
  
  
 >>349-402 
 『 バッドチョイス 』 続編 
   
- 475 名前:Z 投稿日:2007/12/13(木) 02:16
 
-  「佐紀ちゃん、暇?」 
  
  
 トーンを落とした声。 
 気がつけば佐紀の隣に桃子が立っていた。 
 何度聞いたかわからないいつもの誘い文句。 
 佐紀がそれを断ることはほとんどなかった。 
 というより、それを断ることは出来なかった。 
 佐紀が暇であろうとなかろうと、桃子にとって大した問題ではないようだった。 
 桃子がその言葉を口にした時、佐紀の返事など関係なく運命は決まっている。 
 それは今日も例外ではない。 
 佐紀は桃子に手を引かれ、いつもと同じように普段使われることのない部屋へと向かうことになった。 
  
  
   
- 476 名前:Z 投稿日:2007/12/13(木) 02:19
 
-  都合が良い。 
 桃子を呼び出す手間が省けた。 
  
  
 桃子が何を考えて自分の手を引いているのかはわかっている。 
 それに従うことは嫌なことではない。 
 だが、その前に。 
 佐紀には桃子に告げることがあった。 
  
  
 廊下の端。 
 人が使用する為の部屋というより、荷物置き場となっている部屋がある。 
 通い慣れたその部屋の中へ足を踏み入れると、桃子が扉に鍵をかけた。 
  
  
 カチャリ。 
  
  
 金属の擦れる音がして、部屋が密室に変わった。 
 部屋の中にはいくつかの机と、何が入っているのかわからない段ボールが積まれている。 
 少しかび臭い空気の中、佐紀は乱雑に置かれている机の品定めをする。 
 二つ三つ机を見比べて、比較的綺麗そうな机を見つけるとその上にひょいと身体を乗せた。 
 机の上に腰掛けると、扉を閉めた桃子がゆっくりと歩いてくる。 
  
   
- 477 名前:Z 投稿日:2007/12/13(木) 02:20
 
-  佐紀の肩に桃子の手が触れる。 
 二人の距離が限りなく近づく。 
 条件反射のように佐紀が目を閉じると、桃子の腕が首に回されて身体が桃子の方へ引き寄せられる。 
 そして、唇に柔らかなものが触れた。 
  
 最初は軽いキス。 
 だが、唇が離れて触れるたびにキスが深くなる。 
 押しつけられた桃子の唇が軽く開いて、佐紀の口端を舐めた。 
 そのまま桃子の舌が口内へ入り込んで、舌を絡め取られる。 
  
 息苦しいのは酸素が足りないという単純な理由なのか、それとももっと違う理由なのかはわからない。 
 ただ桃子とキスをするといつも頭の芯が痺れて、何も考えられなくなった。 
 長いキスが終わる頃には羽織っていたパーカーは脱がされ、下に着ていたシャツも胸の上まで捲り上げられていた。 
  
 桃子の唇が胸の下に押しつけられる。 
 肩胛骨から腰にかけて何度も指先で撫でられた。 
 小さな音を立てて桃子が肌に吸い付くたびに、頭がぼうっとしてくる。 
  
   
- 478 名前:Z 投稿日:2007/12/13(木) 02:22
 
-  「んっ」 
  
  
 湿った声が出る。 
 佐紀は思わず桃子の頭に腕を回して引き寄せた。 
 与えられる刺激に耐えるように抱きついていると、背中を撫でていた手が止まった。 
 背中を這っていた手はブラのホックを外すと、脇腹を撫で胸へと回される。 
  
  
 流されそうになる。 
 この心地良い行為に。 
  
  
 だが、言うべき事をまだ伝えていない。 
 このままこの行為を続けたいという気持ちもあるが、それは桃子に告げるべきことを告げてからだ。 
 佐紀は自分から引き寄せた桃子の身体を一度離す。 
 桃子の額を人差し指で押すと、不服そうな顔が見えた。 
  
  
   
- 479 名前:Z 投稿日:2007/12/13(木) 02:23
 
-  「佐紀ちゃん、なに?」 
  
  
 不満げな声と目。 
 それでも桃子の手は止まらない。 
 佐紀は胸に触れてくる桃子の手を掴んで強引にその動きを止めた。 
  
 動き回っていた手が大人しく止まる。 
 与えられていた刺激から解放されて、佐紀はふうっと息を吐く。 
 肺にあった空気をあらかた吐き出してから桃子を見ると、下から不機嫌そうな目で佐紀を見つめていた。 
 手の中にある桃子の指をぎゅっと握る。 
  
 これから、という所で手を止める。 
 それが面白くないのは佐紀も一緒だ。 
 それでも言っておかねばならない。 
 放っておけばこの小悪魔は何をするかわからない。 
 桃子がまたよからぬことをしたであろうことは、雅と梨沙子の様子を見れば明らかだった。 
  
  
   
- 480 名前:Z 投稿日:2007/12/13(木) 02:24
 
-  最近、二人とも桃子が近くにいると落ち着きがない。 
 それに、いつもふわふわと笑ってばかりいた梨沙子は考え込むことが多くなっていたし、常にハイテンションだった雅はよく沈んだ顔をしていた。 
 多分、自分以外の人間も二人の変化に気がついているはずだ。 
  
 立場上、これ以上桃子を野放しにしておくことは出来ない。 
 良好だったメンバーの仲。 
 それを桃子によって引っかき回され、ぎくしゃくとしていく様子を黙って見ているわけにはいかない。 
  
 佐紀は握っていた桃子の手を離すと、胸の上まで捲り上げられていた服を下ろす。 
 乱れた服を軽く整えてから、桃子に声をかけた。 
  
  
   
- 481 名前:Z 投稿日:2007/12/13(木) 02:25
 
-  「もも、いい加減にしたら?」 
 「何のこと?」 
  
  
 下から見つめてくる桃子の目を見つめ返す。 
 桃子は佐紀の言葉に動じる様子もなく、白々しい返事をにっこり笑って返してくる。 
 だが、目の奥が笑っていない。 
 きっと、何かあったことは間違いないだろう。 
  
  
 「梨沙子に手、出したでしょ」 
 「梨沙子に?……まだ子供だよ?」 
  
  
 梨沙子の名前を出しても、桃子は表情一つ変えない。 
 素知らぬ顔をしている桃子の頬をつねる。 
 佐紀がぎゅっと右頬をつねると、「いたーい」と桃子がわざとらしい声を上げた。 
  
  
   
- 482 名前:Z 投稿日:2007/12/13(木) 02:26
 
-  「みやだって様子おかしいし。……あたしや熊井ちゃんだけじゃなくて何人に手出すつもりなの?」 
 「佐紀ちゃん、ひどーい。もも、何もしてないよ?」 
 「ひどーいって、ひどいのはももでしょ。……ほんと、何考えてんの?」 
 「なにも」 
  
  
 抑揚のない声で桃子が答える。 
 そんな桃子を見ていると、本当に何も考えていなさそうで怖い。 
  
  
 「やめときなよ、これ以上誰かに手出すの」 
 「なに、妬いてるの?佐紀ちゃん」 
 「ばっかじゃない」 
  
  
 佐紀の首筋にキスを一つ落として、この場を誤魔化すように桃子が言った。 
 佐紀はぺしっと桃子の頭を軽く叩く。 
 そして桃子の顎に手を伸ばして掴むと、桃子の顔を自分の方へと向ける。 
  
  
   
- 483 名前:『 甘受する肉体 』  投稿日:2007/12/13(木) 02:28
 
-  「揉め事起こされても困るってこと。……これでも一応、キャプテンなんだから!」 
 「揉めないように手を出すから、安心して?」 
 「んっとに、最低だよね」 
 「ありがとう」 
 「褒めてないから、一言も」 
  
  
 あきれ果てた佐紀に向けられたのは最高の笑顔。 
 営業用スマイルもここまで来れば立派だと佐紀は思う。 
 驚く程にこやかな笑顔にこれ以上何かを言うことが馬鹿馬鹿しくなってくる。 
 文句を言う気が失せる。 
 佐紀は部屋中に響き渡るような大きなため息を一つついた。 
  
 空気が吐き出される音が途切れると、それが合図だったかのように大人しくしていた桃子が動き出した。 
 手の平が足の上におかれ、ジーンズの上から佐紀の太ももを撫でた。 
 空いている手が、服の中へと忍び込んでくる。 
  
  
   
- 484 名前:『 甘受する肉体 』  投稿日:2007/12/13(木) 02:29
 
-  「まだ!もも、ちょっと待ちなさい」 
 「えー!」 
  
  
 佐紀は投げ出しかけたキャプテンとしての努めを引き寄せる。 
 言うだけ無駄のような気もするが、このまま終わらせるわけにもいかない。 
 器用に服の中を這い回る桃子の手をぴしっと叩いてから、佐紀は続けた。 
  
  
 「えー、じゃない。……で、梨沙子とみやに手、出したの?」 
 「佐紀ちゃんが出したと思うなら、そういうことなんじゃない?」 
 「……罪悪感とか、そーゆーのないわけ?」 
 「罪悪感とか難しい言葉、ももわかんなーい」 
  
  
 甘えた声を上げて桃子が擦り寄ってくる。 
 一度動きを止めた手が再度動き出す。 
 シャツの中に入った手は胸に触れていた。 
 佐紀がその手を掴もうとすると、太ももの上にあったはずの桃子の手にいとも簡単に捕まった。 
  
  
   
- 485 名前:『 甘受する肉体 』  投稿日:2007/12/13(木) 02:31
 
-  「他の人のことより、今はさ……」 
 「ちょっ、……ん、んっ。あっ」 
  
  
 もう話を出来る状況ではなかった。 
 桃子の指先が胸の先端を摘み、舌が首筋を舐めている。 
 身を捩ると、桃子の手が首に回ってぐいっと引き寄せられた。 
  
  
 好きなわけじゃない。 
 そして、きっとこれから先も桃子を好きになることはないと思う。 
 他の誰かが桃子を好きかどうかなんて知らないし、さほど興味もなかった。 
 揉め事さえ起こさないでいてくれればそれでいい。 
  
 気持ちが良いから。 
 だから、こうやって桃子と一緒の時間を過ごすだけだ。 
 誰と関係を持っていてもいい。 
 こうして時々二人で過ごせればそれで満足だし、それ以上を望むつもりはない。 
  
   
- 486 名前:『 甘受する肉体 』  投稿日:2007/12/13(木) 02:32
 
-  こんな自分は桃子に偉そうなことを言える立場ではないと思う。 
 罪悪感などという言葉は自分だって忘れてしまっていた。 
  
 身体だけの関係に最初の頃感じていたはずの罪悪感。 
 それが今では、時折思い出すだけのものになってしまった。 
 罪の意識は徐々に薄れていく。 
 きっと罪悪感を感じる以上に、人肌が心地良いからだ。 
 一度、心地良い快感に身を任せること覚えてしまった身体がそれを忘れられない。 
  
  
 乱れていく服と呼吸。 
 佐紀が身体を動かすたびに机がガタリと音を立てる。 
 机に座っているせいで普段見えない桃子の旋毛がよく見えた。 
 視線を少し動かすと、視界の端でカーテンが揺らめいた。 
  
 佐紀はジーンズのボタンに手をかけている桃子の名前を呼ぶ。 
 顔を上げた桃子の頬に手を添えて、唇へキスをした。 
  
  
   
- 487 名前:『 甘受する肉体 』  投稿日:2007/12/13(木) 02:34
 
-  「もも、ほんとに頼んだよ?」 
  
  
 唇を離して。 
 浅い呼吸を整えてから、出来るだけ真剣な口調で桃子に告げた。 
 だが、桃子から返事はない。 
 笑うだけで返事を返さない桃子に少しだけ不安になる。 
 けれど、すぐにその不安も消えてなくなってしまう。 
 桃子の唇が胸に触れて、硬くなった先端を甘噛みする。 
 指先が肋骨に触れ、下へと降りていく。 
 桃子が触れている場所が熱くなって、不安が快感に取ってかわる。 
  
  
 そろそろ終わりにするべきかもしれない。 
 こんな関係を。 
 自分ではない誰かの心配をしている場合ではない。 
 桃子に引きずられるままこんなことを続けていては駄目だと佐紀は思う。 
 この心地良さに先などない。 
 あるのはきっといつか訪れるであろう後悔だけだ。 
  
 ただ、身体が覚えてしまった人肌の心地良さをどうすれば忘れることが出来るのか。 
 それがわからなかった。 
  
  
  
  
   
- 488 名前:『 甘受する肉体 』  投稿日:2007/12/13(木) 02:35
 
-   
  
  
 『 甘受する肉体 』 
  
  
  
 - END -  
   
- 489 名前:Z 投稿日:2007/12/13(木) 02:35
 
-   
   
- 490 名前:Z 投稿日:2007/12/13(木) 02:40
 
-  >>469さん 
 桃子にからかわれている雅は可愛いと思いますw 
  
 >>470さん 
 桃子は雅をあしらうエキスパート!……だといいな(´▽`) 
  
 >>471さん 
 ラジオネタも織り交ぜつつ。 
 リアルネタ好きです(´▽`) 
  
 >>472さん 
 どういうわけか逆転していまいましたw 
  
 >>473さん 
 ヘタレなみやびちゃんは素敵だと思いますw 
  
   
- 491 名前:名無飼育さん  投稿日:2007/12/13(木) 22:57
 
-  小悪魔もも(;´▽`)  
 ちょっとうらやましいかもw  
- 492 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/16(日) 00:08
 
-  桃子ジゴロかお前はw 
 
- 493 名前:Z 投稿日:2007/12/21(金) 01:03
 
-   
  
  
 『 寒空の迷宮 』 
  
  
  
 >>474-488 
 『 甘受する肉体 』続編 
   
- 494 名前:『 寒空の迷宮 』 投稿日:2007/12/21(金) 01:04
 
-  あれから何度か桃子に抱かれた。 
 どうしてそんなことになってしまったのかは考えたくなかった。 
 一度だけだと思っていた行為。 
 それを何度もすることになるなど、雅自身思いもしなかった。 
 もう二度とないと思っていたのに。 
 雅は桃子が身体に触れることを許した。 
  
 行き過ぎた興味。 
 雰囲気に流されて、断り切れなかっただけ。 
 雅は桃子との間にあった数回の行為を、そう片づけて心の平穏を保っていた。 
  
 次に誘われたらきちんと断るつもりだ。 
 数回あった行為の後、桃子から誘われることはなかったが、また誘われることがあったなら絶対に断ろうと心に決めていた。 
 それで桃子との関係は終わりだ。 
  
   
- 495 名前:『 寒空の迷宮 』 投稿日:2007/12/21(金) 01:05
 
-  雅はそう決めていた。 
 決めていたはずなのに。 
 どうして桃子の姿を目で追っているのか。 
 わからない。 
 雅から少し離れた場所、佐紀の耳元で桃子が何かを話している。 
 その内容が気になる。 
 どうしてこんなことになってしまったのか、自分自身説明を付けられない。 
  
 桃子と佐紀はそういう関係にある。 
 それは知っている。 
 だが、自分とは関係のないことのはずだ。 
  
 佐紀とのことは、梨沙子が桃子とそういった事があった、という事実とはまた少し違う気がした。 
 ああ見えても梨沙子はまだ子供だ。 
 そんな梨沙子を桃子が何を考えて抱いたのか、それは気にすべきことだ。 
 梨沙子が何を思って桃子とそういった行為をしたのか。 
 一度きちんと確認するべきだと思う。 
 桃子のいいようにさせておくわけにはいかない。 
  
   
- 496 名前:『 寒空の迷宮 』 投稿日:2007/12/21(金) 01:07
 
-  だから、桃子と梨沙子の関係が気になるということについては、雅の中で整理が付いていた。 
 理由があったし、それは正当なことに思えた。 
 しかし、桃子と佐紀の関係については自分の中で上手く処理できないままだ。 
 割り切った関係なのかもしれないし、恋人なのかもしれない。 
 何れにしろ、雅が気にすることではない。 
 雅と桃子はたまたま何度かそういった行為があっただけで、本来、桃子がどこで何をしていようが雅には関係のないことのはずなのだ。 
 実際、今まで桃子と佐紀の関係を気にしたことなどなかった。 
 知っていたが、それを意識したことなどなかったはずなのに、今、自分の目が桃子を追っているのはどういうことなのだろう。 
 コントロール出来ない感情が胸の中にあって、居心地が悪い。 
  
  
  
   
- 497 名前:『 寒空の迷宮 』 投稿日:2007/12/21(金) 01:12
 
-   
 待ち時間というものは色々なことを考えすぎる。 
 手持ちぶさたな時間は、頭の中で何かを考えることを推奨しているようで思い出したくないことまで思い出してしまう。 
 雅はこめかみを指先で何度か突いてから、葉が半分程落ちてしまっている木を眺めた。 
  
 今日は雑誌の撮影で公園へロケに来ていた。 
 寒い季節だが、野外で何人かにわかれて撮影をしている。 
 撮影待ちのメンバーが肩を寄せ合って話し込んでいても不思議はない。 
 寒いせいもあって、自然にメンバー間の距離が近くなる。 
 雅はそんなメンバー達とは少し距離を置いた場所にいた。 
  
  
 きっと桃子が佐紀の耳元で何かを話していたように見えたのは気のせいだ。 
 たまたまそんな風に見えただけだ。 
 寒いから近寄っていただけだ。 
 雅は先程見た光景に理由をこじつける。 
 そして、理由を考え出してから、どうして理由を考え出す必要があったのかと頭を抱えた。 
  
  
   
- 498 名前:『 寒空の迷宮 』 投稿日:2007/12/21(金) 01:13
 
-  「みーやん」 
  
  
 耳元で桃子の声が聞こえる。 
 声のする方へと雅が顔を向けると、至近距離に桃子の顔があった。 
 雅は間近にあった桃子の顔に驚いて少し後退る。 
 先程まで桃子がいた場所を見ると、佐紀が一人で立っていた。 
 佐紀の目は撮影をしているメンバーに向けられている。 
  
  
 「何考えてたの?」 
  
  
 よほど難しい顔をしていたのか。 
 桃子が怪訝そうな表情で尋ねてくる。 
  
  
 「なにも」 
 「なにも、かぁ。そのわりには、こーんな顔してもものこと見てたけど?」 
  
  
 桃子が眉間に皺を寄せて口をへの字に曲げた。 
 まさか桃子の事を考えていたとは言えない。 
 雅は桃子の肩を押して、その身体を自分から離す。 
 少しだけ強い風が吹いて、雅と桃子の髪が乱れる。 
  
  
   
- 499 名前:『 寒空の迷宮 』 投稿日:2007/12/21(金) 01:15
 
-  「そんな変な顔してない」 
 「してたよ、絶対」 
 「してない」 
 「じゃあ、してないことにしておいてもいいけど。でも、難しい顔してたよ。……何考えてたの?」 
  
  
 桃子の手が雅の上着の襟に触れた。 
 風によって捲れた雅の襟を桃子が直す。 
 石畳をじゃりっと踏みしめながら、桃子が雅に近づいた。 
  
  
 「なにも考えてない」 
 「言いたくないんだ?」 
 「言うようなことがないだけだよ」 
  
  
 吐き捨てるように言ってから雅が「はあっ」と息を吐き出すと、周りの空気が白く変わった。 
 桃子が吐き出す白い息と混じり合う。 
 空気の色が変わるぐらい寒いはずなのに、どうしてか胸の辺りが熱い。 
  
  
   
- 500 名前:『 寒空の迷宮 』 投稿日:2007/12/21(金) 01:16
 
-  「聞きたいなら聞けばいいのに」 
 「ももに聞きたいことなんかない」 
 「ふーん。みーやん、佐紀ちゃんのことについて聞きたいのかと思ってたのに」 
  
  
 くすっと桃子が笑った。 
 風が桃子の前髪を揺らす。 
  
 それは確かに聞きたいことで。 
 でも、聞きたくないことでもあった。 
  
 桃子にどう答えればいいのかわからない。 
 聞いてしまえば楽になれるのかもしれないが、素直に口にする気にもなれなかった。 
 風で舞ってきた塵が目に入ったわけでもないのに、雅は目の奥が痛む。 
 右手で目を押さえてから、雅は独り言のように呟いた。 
  
  
   
- 501 名前:『 寒空の迷宮 』 投稿日:2007/12/21(金) 01:17
 
-  「……佐紀ちゃん」 
 「そっ、佐紀ちゃん。みーやん、さっき、ももと佐紀ちゃんのことじっと見てたもん。だから、佐紀ちゃんとのこと知りたいのかと思ったんだけど、違う?」 
 「別に。……別に、ももと佐紀ちゃんのことなんか興味ない」 
 「みーやんの意地っ張り」 
 「そんなんじゃない。本当にもものことなんか興味ない」 
 「ほんと、みーやんってつまんないの」 
 「うちはももを楽しませる為にいるわけじゃない」 
 「そーゆーところがつまんないっていうの」 
  
  
 結局、雅が口にした言葉は素直とはほど遠いものだった。 
 桃子が大げさに息を吐き出した。 
 白い息が雅の鼻にかかる。 
 雅は別に桃子を楽しませる為に話をしているわけではなかった。 
 話しかけられたから相手をしていたのに、つまらないとは酷い言いぐさだと思う。 
 しかし、桃子を楽しませたいわけではないが、つまらないと言われるのも面白くない。 
 だから雅は「つまらない」という言葉に反論する為の言葉を考える。 
 だが、反論の言葉を探し出す前に桃子を呼ぶ佐紀の声が辺りに響いた。 
  
  
   
- 502 名前:『 寒空の迷宮 』 投稿日:2007/12/21(金) 01:18
 
-  「もも、なにやってんの?そろそろももの番だよ!」 
 「あ、ごめーん。佐紀ちゃん。今いくー!」 
  
  
 後ろを振り返って桃子が佐紀に返事を返す。 
 キンキンとした高い声が雅の耳に響いた。 
  
  
 「じゃあね、みーやん」 
  
  
 桃子が、雅に飽きた、とでもいうような表情で雅の方を向いた。 
 その表情のまま雅に手を振ると桃子が走り出す。 
 どうしてか走り去る桃子の背中を見ていられなくなって、雅は下を向いた。 
 下を見ると石畳の上に松ぼっくりが落ちていた。 
 雅はそれを手に取ると桃子に向かって投げつける。 
 松ぼっくりは緩やかな放物線を描いて桃子の頭に命中する。 
  
  
   
- 503 名前:『 寒空の迷宮 』 投稿日:2007/12/21(金) 01:19
 
-  「うわっ!みーやん、ひどーい。当たったじゃん!」 
 「ばーかっ!」 
  
  
 頭を押さえて、桃子が後ろを振り返った。 
 雅と桃子の目が合う。 
 少しばかり間を開けてから、桃子が佐紀に返した返事よりも大きく高い声を上げた。 
 そして不機嫌そうな顔で松ぼっくりが当たった頭を撫でる。 
 桃子の隣で佐紀が笑っていた。 
  
  
 雅は桃子の隣にいる佐紀へ何かを投げつけようとは思わない。 
 もとはと言えば桃子がいけないのだ。 
 全てはあんなことを雅にした桃子が悪い。 
 だから佐紀には罪はない。 
 そんな佐紀に松ぼっくりを投げつけても仕方がない。 
  
  
   
- 504 名前:『 寒空の迷宮 』 投稿日:2007/12/21(金) 01:20
 
-  あんなことがあったから。 
 雅と桃子の関係が微妙に変化したのだ。 
 あれから変に桃子が気になるようになった。 
 だが、ある程度桃子が気になること自体はそれが当たり前だとも思う。 
  
 初めてした行為。 
 その相手が桃子だ。 
 しかも、そうなった経緯が普通とは違う。 
 気にするなと言う方がおかしい。 
  
 けれど、今、自分が桃子に抱いている感情。 
 それはそういった相手に抱く感情とはまた違っているような気がする。 
 普通とは違う始まり方をした自分と桃子。 
 どちらかと言えば「気になって桃子を見たい」ではなく、「桃子を見たくない」になるはずのような気がする。 
 それなのに気がつけば桃子を目で追っている。 
 雅は自分自身に説明がつけられない。 
  
  
   
- 505 名前:『 寒空の迷宮 』 投稿日:2007/12/21(金) 01:21
 
-  どうしてこんなに桃子の事が気になるのかわからない。 
 あれは興味本位で。 
 流されただけで。 
 深い意味なんか欠片もなくて。 
  
 同じベッドに一緒に眠った。 
 ただそれだけのこと。 
 身体に心が引きずられているだけ。 
  
 あれからずっと。 
 そう思えるように努力してきた。 
 しかし、雅のその努力は報われそうになかった。 
  
  
   
- 506 名前:『 寒空の迷宮 』 投稿日:2007/12/21(金) 01:23
 
-  雅にはああいった行為をして、それを何事もなかったかのように割り切ってしまうことは出来なかった。 
 他の人はどうなんだろうかと考える。 
 例えば、梨沙子は何を考えているのだろう。 
 自分と同じように見つからない答えを探しているのだろうか。 
 そして佐紀は何を思って桃子と一緒にいるのだろう。 
  
 廊下で聞いた声。 
 佐紀と桃子が何らかの関係があることはわかっている。 
 もしも恋人だとしたら。 
 平気なのだろうか、自分が桃子と関係を持ってしまって。 
  
 佐紀と梨沙子。 
 二人は自分と桃子のことを知っているのだろうか。 
  
 考え出すときりがなかった。 
 数週間前が嘘のようだ。 
 何も知らずにはしゃいでいた頃が懐かしく感じる。 
 雅は出来ることならあの頃に戻りたいと思う。 
 桃子を見ても何も感じなかったあの頃に。 
  
  
   
- 507 名前:『 寒空の迷宮 』 投稿日:2007/12/21(金) 01:24
 
-  今まで桃子を見ていて感じたことと言えば。 
 うるさいとか、鬱陶しいとか。 
 時には頼りになる、話を聞いてもらおうと思うこともあった。 
 だが、そういう気持ちが長続きすることは稀で、大抵、一方的な桃子の話にうんざりすることになる。 
  
 相性が悪いと思ったことはない。 
 一緒にいて楽しいことも当然ある。 
 だが、特別相性が良いと思ったこともなかった。 
  
 そう思っていた頃に戻ることが出来れば。 
 この心の置き場がないような居心地の悪さから抜け出せる。 
 桃子の考えることなど気にせずにすむ。 
 大体、桃子がこうして色々な人間と関係を持って何をしたいのかがわらかない。 
  
 しかし、昔に戻ることなど出来ない。 
 一秒前にだって戻れないのだ。 
 数週間も時間を戻すことなど出来るわけがない。 
  
  
   
- 508 名前:『 寒空の迷宮 』 投稿日:2007/12/21(金) 01:25
 
-  指先が冷たい。 
 雅は手を口元にあて、息を吹きかける。 
 暖かい空気が指先をかすめて、逃げ出していく。 
 こんな時、誰かの手で温めてもらえればな、と考えて頭に桃子が浮かんだ。 
  
 雅は頭をぶんぶんと振って、頭の中に住み着こうとする桃子を追い払う。 
 胸の奥がちくちくする。 
 このささくれだったような気持ちを何と呼べばいいのだろう。 
  
 好きだ、という気持ちがこんな風にトゲトゲとした気持ちなわけがない。 
 好きになるにはスタートが悪すぎる。 
 むしろ嫌いになるほうがしっくりくる始まり方だ。 
 だが、嫌いだという感情とも違う気がするから納得がいかないのだ。 
  
  
   
- 509 名前:『 寒空の迷宮 』 投稿日:2007/12/21(金) 01:26
 
-  今までにあったことは全て間違いだ。 
 過去の過ちは忘れてしまえばいい。 
 納得できないものの事など考えていても仕方がない。 
  
 わからない感情ごと。 
 消しゴムで消すように。 
 少しばかり消し残しが出来てしまうだろうけれど、消さないよりはいい。 
 過去と一緒にわけのわからないものは忘れてしまえばいいのだ。 
  
  
 撮影はまだ終わらない。 
 桃子を写すカメラのシャッター音が聞こえてくる。 
 そして桃子の甲高い声も聞こえる。 
 胸がざわざわしてそちらを見たくなるけれど。 
 見なければいい。 
  
  
 寒空の下、雅はそっと目を閉じた。 
  
  
  
  
   
- 510 名前:『 寒空の迷宮 』 投稿日:2007/12/21(金) 01:27
 
-   
  
  
 『 寒空の迷宮 』 
  
  
  
 - END - 
   
- 511 名前:Z 投稿日:2007/12/21(金) 01:27
 
-   
   
- 512 名前:Z 投稿日:2007/12/21(金) 01:29
 
-  >>491さん 
 小悪魔どころか悪魔になる勢いで(;´▽`) 
  
 >>492さん 
 ジゴロというか。 
 ……フリーダム桃子?(;´▽`) 
   
- 513 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/22(土) 00:07
 
-  雅の心は……微妙ですね。 
 この先の展開を楽しみにしてます。  
- 514 名前:Z 投稿日:2007/12/29(土) 01:27
 
-   
  
  
 『 つまらない嘘 』 
  
  
  
 >>493-510 
 『 寒空の迷宮 』続編  
   
- 515 名前:『 つまらない嘘 』 投稿日:2007/12/29(土) 01:30
 
-  誘われたら断ろう。 
 そう決めてから、どういうわけか何事も起こらなかった。 
 何かが起こることを期待したわけではない。 
 何事も起こらない。 
 それこそが雅の望んでいたことだった。 
 平和で少しだけ退屈な日々。 
 そんな毎日が戻ってきて、雅はほっとしていたはずだ。 
  
 けれど、気がつけば。 
 桃子に誘われることを待っていた。 
 桃子が誰と一緒にいるのかを気にしていた。 
 桃子が誰と一緒に帰るのかを気にしていた。 
  
 時計の針が進むたび、雅の中で何かが狂っていく。 
 絶対にもう。 
 桃子とあんなことはしない。 
 そう決めていた。 
 なのに、桃子を見るたびに揺らいでいく気持ちが信じられなかった。 
  
  
   
- 516 名前:『 つまらない嘘 』 投稿日:2007/12/29(土) 01:31
 
-  部屋割りを決めるあみだくじ。 
 桃子と一緒の部屋になりたい気持ちとなりたくない気持ちが入り交じった。 
 一人部屋は梨沙子で、千奈美と佐紀が相部屋で。 
 線を辿って明らかになっていく部屋割り。 
 雅が辿った線の先は桃子と同じものだった。 
 それを見て自分がどう思ったのかはもう覚えていない。 
  
  
  
   
- 517 名前:『 つまらない嘘 』 投稿日:2007/12/29(土) 01:31
 
-   
 「みーやん。今日は大人しいね」 
 「悪い?」 
 「ちょっとつまんない」 
 「だから、うちはっ」 
 「ももを楽しませるためにいるわけじゃない、でしょ」 
  
  
 ベッドの中、触れあう肌が熱かった。 
 雅の髪を弄っていた桃子が、その髪を雅の耳にかけた。 
 耳を指先ですっと撫でられて、思わず身をすくめる。 
  
  
 「何度目だっけ?みーやんとこんなことするの」 
  
  
 柔らかい声で問いかけられる。 
 これが何度目の行為かを考える前に、桃子が指先を動かした。 
 耳に触れていた指先が首筋を辿り、鎖骨を撫でる。 
 その指のあとを追うように桃子の唇が耳に触れた。 
 舌先が耳の裏に触れて、雅の口から湿った声が漏れた。 
  
  
   
- 518 名前:『 つまらない嘘 』 投稿日:2007/12/29(土) 01:33
 
-  「ん、ふぁっ」 
  
  
 数十分前。 
 雅に尋ねられることもなく照明が落とされた。 
 首元に触れる桃子の指。 
 外されるボタン。 
 服を脱がされて、そして脱がせた。 
  
 触れあうことに抵抗はなかった。 
 雅は断ろうと思っていた自分の気持ちを簡単に裏切ることができた。 
 固い決心だと思っていたものが容易く崩れて。 
 こうして今、桃子の下で声を上げている。 
 雅はそんな自分に驚くと同時に当然の成り行きだとも思った。 
  
  
   
- 519 名前:『 つまらない嘘 』 投稿日:2007/12/29(土) 01:34
 
-  「ね、みーやん。覚えてないの?」 
  
  
 桃子の声に現実へ引き戻される。 
 覚えていないわけがない。 
 うやむやのままに何度も桃子に抱かれて。 
 意識せずにはいられなかった。 
 一回一回の行為が雅の記憶に刻まれた。 
 だが、桃子の問いに答えれば、雅が意識的にそれらの行為を記憶していると桃子に思われるような気がして、答えを教えてやろうという気にはなれない。 
  
 雅が黙ったままでいると、焦れたように桃子が首筋に歯を立てた。 
 鎖骨から降りていった手が脇腹を撫でる。 
  
  
 「ももこそ、覚えて…ない、くせに」 
 「みーやんって結構几帳面だし、こういうことちゃんと数えてるかと思った」 
 「数なんて、はあっ、関係…ない。んっ、こんな…ことに」 
 「そりゃそうだけど」 
  
  
   
- 520 名前:『 つまらない嘘 』 投稿日:2007/12/29(土) 01:37
 
-  絶え間なく動き回る手のせいで、言葉が吐息混じりのものになった。 
 桃子の唇が胸の横を通って降りていく。 
 指先が何度も胸の先端をかすめるように触れた。 
 桃子に触れられるたび、雅の口から漏れる声が大きくなっていく。 
 空気を吸ったり吐いたり。 
 そんな当たり前のことがとても難しいことに思えた。 
 雅は触れてくる手や唇に意識を奪われそうになりながら、桃子の言葉の意味を考える。 
  
  
 何回したかなんて関係ないし、桃子が本気で答えを知りたがっているようにも見えない。 
 大体、雅に興味があるようにも見えなかった。 
 優しくされるどころか意地悪なことばかりされる。 
 それなのに、雅がどれだけ桃子に興味があるのか。 
 それを桃子は知りたがっているように見える。 
 あの撮影の日もそうだ。 
 雅を観察するような目で見ながら、佐紀とのことを知りたいのかと聞いてきた。 
 そんなことを聞いてどうしようというのか。 
 いつだって雅には桃子が何を考えているのかわからなかった。 
  
  
   
- 521 名前:『 つまらない嘘 』 投稿日:2007/12/29(土) 01:39
 
-  「あっ、はぁんっ」 
  
  
 急に胸の先端を指先で摘まれて、雅は今までよりも大きな声を上げた。 
 頭の中にあったものが快感へすり替わる。 
  
 肋骨の下辺りを這っていた桃子の唇が胸にキスを落とす。 
 場所を変えて何度もキスを繰り返す唇が硬く立ち上がった部分に触れる。 
 舌先で弾くように触れられて、雅の身体がびくんと跳ねた。 
 雅の身体の上を走る桃子の手が徐々に下へ降りていく。 
 腰の上を通り、太ももを撫でる。 
 唇はまだ胸に触れていた。 
  
  
 「ちょっと質問してもいい?」 
  
  
 桃子の声がどこか遠くから聞こえたような気がした。 
 雅は返事を返そうにも、桃子の手や唇がその動きを止めないせいで答えられない。 
 呼吸は乱れ、喘ぎ声が止まらなかった。 
  
 はあはあと浅い呼吸を繰り返す雅を見て、桃子が手を止める。 
 雅はゆっくりと息を深く吸い込む。 
 雅の呼吸が落ち着くと、耳元で桃子がもう一度問いかけてきた。 
  
  
   
- 522 名前:『 つまらない嘘 』 投稿日:2007/12/29(土) 01:40
 
-  「質問、してもいいの?」 
 「やだって言っても聞くんでしょ」 
 「まあ、そうだけど。何で今日は大人しいの?」 
  
  
 何故、と聞きたいのは雅の方だった。 
 薄暗い部屋の中、桃子に触られただけで動けなくなって。 
 桃子を拒む言葉さえ思い浮かばなかった。 
 大人しくしていたいわけではない。 
  
  
 「もしかしてさ」 
  
  
 雅が黙っていると、桃子が言葉を続けた。 
 止まっていた手が動き出す。 
 太ももにあった桃子の手が足の間に入り込んでくる。 
  
  
 「んっ」 
  
  
 足の間から聞こえてくる濡れた音。 
 それと同時に雅の唇から吐息が漏れた。 
 桃子の指が硬くなった部分を探り出す。 
 指先でそこに触れながら、桃子が雅に囁きかけた。 
  
  
   
- 523 名前:『 つまらない嘘 』 投稿日:2007/12/29(土) 01:43
 
-  「みーやん、そんなにももとしたかった?」 
 「もも…こそ、うちと……したかった…んでしょ」 
 「別にももはみーやんじゃなくてもいいんだけど?」 
 「うちだって…あっ、ふっ…もも…じゃなくて」 
  
  
 桃子の指先が身体の中へ潜り込もうとしたせいで、雅は最後まで言葉を続けることが出来なかった。 
 反射的に足を閉じようとする。 
 けれど、桃子に閉じようとする太ももを押さえつけられて指を中に押し込まれた。 
  
  
 「あっ、んっっ。やっ…だ」 
  
  
 より鮮明になる快感。 
 身体の奥に向かって指がゆっくりと入り込んでいく感触。 
 身体の中が熱い。 
 息苦しくて、雅はまるで助けを求めるように桃子の背中に腕を回した。 
  
  
 「ももじゃなくてもいいんだ?」 
 「誰だって、いい」 
 「ほんとに?」 
  
  
 抑揚のない声で桃子に問いかけられ、雅は黙って頷く。 
 身体は密着していて、桃子の顔は見えなかった。 
 だが、見えない桃子の表情さえ想像させるような声が聞こえた。 
 桃子のつまらなそうな「ふーん」という声が耳に響いた後、指がこれ以上ない程に奥まで押し込まれた。 
  
  
   
- 524 名前:『 つまらない嘘 』 投稿日:2007/12/29(土) 01:45
 
-  「やっ、無理…だよっ」 
  
  
 雅の身体がびくりと震える。 
 それでも桃子の指は止まらない。 
 身体の中を開くように動く。 
  
  
 「嘘でもももとしたいって言えばいいのに」 
 「くる、し…だめっ」 
  
  
 捻り込まれた指がさらに奥に入り込もうとして息が詰まる。 
 身体を震わせるものが快感なのか苦痛なのかわからなかった。 
 雅は自分を追い込んでいるはずの桃子の背中に縋り付く。 
 耳元でくすくすと笑い声が聞こえたような気がした。 
  
  
 「そしたら、こんなことにならなくてすむのに」 
  
  
 楽しそうな声が聞こえてくる。 
 桃子の指先が小刻みに動き出す。 
 内壁を擦られ、その感触に雅が腰を引くと奥まで指を押し込まれる。 
 今までした何度かの行為よりも激しい動きに、雅は息が止まりそうになった。 
  
  
   
- 525 名前:『 つまらない嘘 』 投稿日:2007/12/29(土) 01:49
 
-  「嘘でも、言いたく…なんか」 
 「嘘ぐらい言えた方がいいよ。ももとしたいって言えば、可愛がってあげるのにさ」 
 「そんなこと、あっ、ああっ」 
  
  
 してくれなくていい。 
 とは言えなかった。 
 全てを言い終わる前に指先が大きく動き出し、同時に硬くなった部分を擦られた。 
 言葉は全て喘ぎ声に変わっていく。 
 口を開けば、甲高い掠れた声しか出なかった。 
  
  
 もう絶対にこんなことをしないと誓ったはずなのに。 
 当たり前のように桃子を受け入れている。 
  
  
 あんなことを何度もしておいて、何食わぬ顔をして過ごしている桃子が気に入らないだけだ。 
 桃子から誘われたいと思ったのは。 
 雅が欲しい、そう桃子の方から懇願してくることを待っていただけだ。 
 触れたいと桃子に言わせたかった。 
  
  
  
   
- 526 名前:『 つまらない嘘 』 投稿日:2007/12/29(土) 01:49
 
-   
 うちが願っているからじゃなくて。 
 ももがうちに頭を下げてしたいって。 
 そう言わせたかった。 
  
 ももから頼んできたら。 
 してもいい。 
 ももがうちの言いなりになるなら。 
 してもいい。 
  
  
  
   
- 527 名前:『 つまらない嘘 』 投稿日:2007/12/29(土) 01:50
 
-  そう思っただけだ。 
 桃子の好き勝手にはさせない。 
 主導権を握るのは自分だ。 
 少し仕返しをしてやろうと考えただけで。 
 でも今、実際に懇願しているのは。 
 誰なんだろう。 
  
  
 気がつけば、力強く動いていた桃子の指は緩やかな動きに変わっていた。 
 雅が声を上げると動きを止め、そして一呼吸置いてからゆっくりと奥へと進む。 
 緩慢な動きで出し入れを繰り返していた。 
 それは先程までの動きにくらべると物足りないぐらいのものだった。 
 濡れた声の合間、雅の唇が勝手に桃子の名前を呼んでいた。 
  
  
 「もも、ももっ」 
  
  
 その先は言葉に出来ない。 
 変わりに雅の身体が催促するように桃子の指を締め付けていた。 
 雅が喘ぎ声の変わりに何度も桃子の名前を呼んでいると桃子が雅から身体を離した。 
  
  
   
- 528 名前:『 つまらない嘘 』 投稿日:2007/12/29(土) 01:51
 
-  「そんな声でもものこと呼んでもだめ。って言いたいところだけど……」 
  
  
 桃子の指が速度を増していく。 
 身体の中が伸縮を繰り返す。 
 与えられる快感に身体が追いつかない。 
  
  
 どうしてこんなことになったのかわからない。 
 結局、懇願しているのは自分の方だ。 
 もっと欲しいと言っているのは桃子じゃない。 
  
 きっと、こんなことをする相手は桃子じゃなくてもいい。 
 誰だって同じだ。 
 何の変わりもない。 
 桃子以外の誰だって同じはずなのに。 
 他の誰かとこんなことをする。 
 雅にはそういったことを想像することが出来なかった。 
  
  
   
- 529 名前:『 つまらない嘘 』 投稿日:2007/12/29(土) 01:53
 
-  何もかもが矛盾していると思う。 
 こんなことはしたくないはずなのに断れない。 
 むしろ望んでいた。 
 相手は誰でもいいはずなのに、桃子以外考えられない。 
  
 矛盾した想いの行き場。 
 行き先なんてものはないのかもしれない。 
 自分自身ですら自分の気持ちを掴めないのに、そんな想いがどこへ行くかなど雅には見当もつかなかった。 
  
  
 聞こえてくる水音や喘ぎ声。 
 ベッドが軋む音。 
 身体の熱さ。 
 全てがまるで他人の物のように感じる。 
  
  
 でも、それは確かに自分の身に起こっていることで。 
 それから逃れたいくせに、もっと求めていた。 
  
 何かを考えることが無駄なことに思える。 
 面倒なことは朝になったら考えればいい。 
 雅はこれ以上考えることを放棄した。 
  
  
  
  
   
- 530 名前:『 つまらない嘘 』 投稿日:2007/12/29(土) 01:53
 
-   
  
  
 『 つまらない嘘 』 
  
  
  
 - END -  
   
- 531 名前:Z 投稿日:2007/12/29(土) 01:54
 
-   
   
- 532 名前:Z 投稿日:2007/12/29(土) 01:56
 
-  >>513さん 
 ありがとうございます。 
 少し長い話になるかと思いますので、まったりお待ちください('-';) 
   
- 533 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 22:08
 
-  やっぱり率直ではない二人ですねw 
 続編があるなんてずっと楽しみにしてます。  
- 534 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/30(日) 04:41
 
-  悪い子だなぁ 
 
- 535 名前:Z 投稿日:2007/12/31(月) 03:51
 
-   
  
  
 『 リード 』 
  
  
  
   
- 536 名前:『 リード 』 投稿日:2007/12/31(月) 03:52
 
-   
 歳にして一つ。 
 学年にすると二つ。 
 年上なのはあたしの方だ。 
 だからあたしがリードする。 
 良いところを見せたいわけじゃないけど、あたしがしっかりする。 
 そのつもりだったのに。 
  
  
  
   
- 537 名前:『 リード 』 投稿日:2007/12/31(月) 03:54
 
-  栞菜と付き合い始めて数ヶ月。 
 現実の舞美はと言えば、栞菜の一挙手一投足に赤くなったり青くなったり。 
 栞菜に振り回されているとしか言いようのない状態だった。 
  
  
 自分よりも先を栞菜が走っている。 
 その栞菜を必死で追いかけているのが自分。 
 舞美は小さくため息をついた。 
 どうしてこううまくいかないのか。 
  
 いつもより、誰といるときよりも、舞美は一生懸命走っているつもりだ。 
 けれど、追いついたと思っても、栞菜は涼しげな顔で舞美を追い越していく。 
 舞美が全力疾走して栞菜を抜き去ったと思っても、あっという間に追い抜かれるのだ。 
 現実の世界でかけっこをすれば栞菜に負けることはない。 
 けれど、見えない世界での競争はいつも栞菜に負けている。 
 そんな気がした。 
  
  
   
- 538 名前:『 リード 』 投稿日:2007/12/31(月) 03:57
 
-  「舞美ちゃん!」 
  
  
 舞美が一人、楽屋で考え事をしていると聞き慣れた声が聞こえた。 
 楽屋の扉が開いた、と思ったときには栞菜の声が耳に響いていた。 
 そして舞美がその声に返事を返す前に、栞菜の身体が椅子に座っている舞美の背中にぶつかった。 
 舞美はその声とぴったりとくっついてくる柔らかい身体に現実へと引き戻される。 
 元来、舞美は深く考え込むタイプではない。 
 だが、年下の恋人相手に上手く立ち回れない自分に呆れて、こうして考え込むことが多くなった。 
 素直で積極的すぎる栞菜にどう振る舞えばいいのか未だにわからない。 
  
 舞美は抱きしめるように回された腕へ手を重ねて栞菜のことを考える。 
 この数ヶ月の間に学んだことによって次の展開は予想出来た。 
 楽屋に栞菜の声が響く。 
  
  
   
- 539 名前:『 リード 』 投稿日:2007/12/31(月) 03:59
 
-  「大好きっ」 
 「はいはい。あたしも好きだよ」 
  
  
 予想通りの言葉。 
 さすがに栞菜のこういった言葉への対処には慣れた。 
 しかし、誰もいないからと言ってこういったことを大きな声で言うなと、何回栞菜に告げただろう。 
 言えばそのたび栞菜は「わかった」と答えるが、それを学習している様子はない。 
 だから最近は、わざわざ注意することが馬鹿らしくなって栞菜の好きなようにさせている。 
 おかげでこうして栞菜から好きだと言われることは日課になっていた。 
  
  
 舞美は重ねた手で栞菜の腕を撫でてみる。 
 すると身体に回された栞菜の腕に力が入った。 
 栞菜にぎゅっと抱きしめられる。 
 真後ろにいる栞菜の顔は舞美から見えない。 
 けれど、栞菜を見なくともわかる。 
 きっと栞菜は顔をくしゃくしゃにして嬉しそうな顔をしているに違いない。 
  
 いつも栞菜はそうやって笑顔で向かってくる。 
 もちろん舞美もそれは変わらない。 
 栞菜と同じように笑顔で接する。 
 今日も、栞菜からは見えていないかもしれないが、栞菜へ笑顔を返している。 
  
  
  
   
- 540 名前:『 リード 』 投稿日:2007/12/31(月) 03:59
 
-   
 今は同じ所を走っている。 
 栞菜の隣を並んで走っている。 
 多分、今はまだ同じ場所を走っている。 
  
  
  
   
- 541 名前:『 リード 』 投稿日:2007/12/31(月) 04:01
 
-  栞菜の細い手首を強く握ると、もう一度大好きだと言われた。 
 頬に栞菜の頬が押しつけられて心臓が小さく鳴った。 
 顔が赤くなっていないか気になる。 
 頬に手をあてて確かめてみると、手の平に感じる体温はいつもと変わらないような感じがした。 
  
  
 「あー、舞美ちゃん照れてるでしょ?」 
  
  
 背中から回された栞菜の腕に力が入って、後ろへと引き寄せられる。 
 押しつけられた頬が熱い。 
  
  
 「ちょ、えっ。照れたりしないしっ」 
 「うそうそ〜。ここ、赤くなってるよ」 
 「え?ほんとっ?」 
  
  
 栞菜の体温なのか、自分の体温なのかよくわからなくなっていた。 
 押しつけられた頬から伝わってくる温度で、体温が上がった気がする。 
 だから、人から赤くなっていると言われると自信がない。 
 舞美は赤くなっているとつつかれた右頬を慌てて抑えた。 
  
  
   
- 542 名前:『 リード 』 投稿日:2007/12/31(月) 04:02
 
-  「……うそだよ!」 
  
  
 舞美が頬を押さえた瞬間、耳元で笑いを含んだ栞菜の声が聞こえた。 
 慌てた自分が恥ずかしくなって、舞美は思わず「えー!」と声を上げる。 
 まだくすくすと笑い続けている栞菜に舞美は一言何か言ってやろうとしたが、言葉を発する前に栞菜が舞美の首筋に顔を埋めてやけに幸せそうに呟いた。 
  
  
 「あー、やっぱり舞美ちゃんは良い匂いするっ」 
  
  
 その言葉も聞き慣れた言葉だった。 
 だが、しみじみと言われるとやはり恥ずかしい。 
  
  
 「ちょっと、栞菜」 
  
  
 舞美は栞菜の頭を小突く。 
 それでも栞菜は離れない。 
 離れるどころか、隙間もない程に抱きついてくる。 
  
  
   
- 543 名前:『 リード 』 投稿日:2007/12/31(月) 04:04
 
-  「もうっ、やだってばー。恥ずかしいって」 
 「えー、いいじゃん。良い匂いなんだし」 
 「よくないって。ちょ、栞菜ってば」 
 「いいじゃん!」 
  
  
 からかわれたことに文句を言うことは舞美の記憶から綺麗に消え去った。 
 栞菜がくんくんと鼻を鳴らして犬のようにまとわりついてくるものだから、それから逃げだそうと躍起になる。 
  
 舞美は栞菜から逃げ出そうと身を捩るが、後ろから抱きしめられているせいで上手くいかない。 
 それに身体を動かすと、舞美を逃がすまいとした栞菜が首筋に顔を強く押しつけるせいでくすぐったくて身体から力が抜けていく。 
  
  
 「もー、よくないよー」 
  
  
 栞菜を背中に背負ったまま舞美は許してくれとばかりに声を上げた。 
 そして、首筋に埋められた栞菜の髪をぐしゃぐしゃと乱す。 
  
  
   
- 544 名前:『 リード 』 投稿日:2007/12/31(月) 04:05
 
-  「良い匂いなのにー」 
  
  
 栞菜の名残惜しそうな声が響いて、首筋に埋められていた顔が上げられる。 
 そのまま舞美の背中から栞菜が離れた。 
 背中から急に栞菜の体温が消えて、舞美は後ろを振り向こうとする。 
 しかし、それよりも先に舞美の正面へと回った栞菜にじゃれつくように腕を取られ、その手を握られた。 
  
  
 「ね、舞美ちゃん。あたし舞美ちゃんのこと大好き」 
  
  
 まるで子供がするように、栞菜が握った手をぶんぶんと勢いよく左右に振る。 
 そして昨日と変わらない笑顔で、でも昨日よりも楽しそうな声で栞菜が笑う。 
 その笑顔が、声があまりにも真っ直ぐで舞美は鼓動が早くなる。 
 舞美はそれに気がつかないふりをして素っ気なく言葉を返した。 
  
  
   
- 545 名前:『 リード 』 投稿日:2007/12/31(月) 04:06
 
-  「それもう何度も聞いた」 
 「だって何度も言ったもん。でも、何度でも言いたくなるの」 
 「あたしだって、そうだけど……」 
 「ほんとに?」 
 「うん」 
  
  
 舞美の言葉に、栞菜の頬が染まっていく。 
 繋がれた手をぎゅっと握り返すともっと赤くなった。 
  
  
 「あ、栞菜。赤くなってる!」 
  
  
 先回り出来たと思った。 
 でも、そんな風に思えたのは一瞬だけだった。 
  
  
   
- 546 名前:『 リード 』 投稿日:2007/12/31(月) 04:07
 
-  「だって、嬉しいんだもん」 
  
  
 照れた顔を隠さない栞菜に満面の笑みで見つめられた。 
  
 やっぱり先回りなんて無理だ。 
 気がつけば、舞美の目に映っているのは栞菜の背中。 
  
 でも、そう言って笑った顔は本当に嬉しそうで。 
 敵わなくてもいいかな、と舞美は初めて思った。 
  
  
  
  
   
- 547 名前:『 リード 』 投稿日:2007/12/31(月) 04:07
 
-   
  
  
 『 リード 』 
  
  
  
 - END -  
   
- 548 名前:Z 投稿日:2007/12/31(月) 04:08
 
-   
   
- 549 名前:Z 投稿日:2007/12/31(月) 04:09
 
-  >>533さん 
 あまり期間を空けずに続きを書ければ、と思っています(´▽`) 
  
 >>534さん 
 ル*’ー’リ<ウフフ…… 
   
- 550 名前:T 投稿日:2007/12/31(月) 05:59
 
-  思えばZさんの℃小説読んでから勝手ですが素直に栞菜¢を℃-uteの一推しにしようと思ったのかもしれません(笑) 
 読んでる最中恋空のがっきー?が着ている白い衣装姿の舞美さんが浮かんで一人萌キュンしてましたv 
 デビュー前は舞美さん推しだったので何ともウハウハな小説でした><*  
- 551 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/31(月) 20:20
 
-  今年本当にお疲れさまでしだ。 
 作者さんの小説を読んで楽しかったです。 
 来年にも可愛らしいももみやをお願いします。  
- 552 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/31(月) 21:42
 
-  積極的な栞菜チャンと、たじたじ舞美チャンがめちゃくちゃ可愛くてよかったです! 
 
- 553 名前:Z 投稿日:2008/01/04(金) 03:02
 
-   
  
  
 『 もっと愛して愛されて 』 
  
  
  
   
- 554 名前:『 もっと愛して愛されて 』 投稿日:2008/01/04(金) 03:04
 
-  明るい部屋の中でするようなことではない。 
 何も見えないぐらい暗い方がいい。 
 どんな暗闇にも目が慣れて、結局、相手の輪郭を捉えてしまうのだとしても。 
  
 ぼんやりと闇に浮かぶ桃子の姿を見ながら、雅は何度も触れられて、そして何度も達した。 
 それは心地良くて、雅は何度もしたはずなのにもっと欲しいと思わずにはいられなかった。 
 だが、今はそれ以上に桃子の声が聞きたいと思う。 
  
  
   
- 555 名前:『 もっと愛して愛されて 』 投稿日:2008/01/04(金) 03:06
 
-  「もも。今度はうちがする」 
 「大丈夫?」 
 「うん」 
  
  
 雅は先程までの行為で乱れた呼吸を整える。 
 何度かゆっくりと深呼吸をすると呼吸が落ち着いた。 
 雅は軽く身体を起こして、隣に寝ころんでいる桃子の肌に触れてみる。 
 頬を撫でてから、首筋に指先を這わせる。 
 唇に一度キスをして、桃子の身体の上へと自分の身体を動かす。 
  
 見慣れない。 
  
 雅の目の前にあるのは桃子の顔で、それは見慣れたものだ。 
 けれど、桃子の顔の向こうにあるもの。 
 それは見慣れた天井ではなく枕。 
 雅がベッドの上でこうして桃子を見下ろす機会は少ない。 
 そのせいか、こういう体勢になるといつも落ち着かない気分になる。 
  
  
   
- 556 名前:『 もっと愛して愛されて 』 投稿日:2008/01/04(金) 03:09
 
-  桃子の肩から腕にかけて指先で辿る。 
 手首に触れると、桃子の手が伸びてきて雅の頬に触れた。 
 雅の頬に触れた桃子の手に力が入って顔を動かされる。 
 閉じられているはずのカーテンの隙間、そこからわずかな光が部屋の中へ入り込んできている。 
 闇に慣れた目とその光のおかげで桃子の目がよく見えた。 
 心臓がぎゅっと掴まれたような、そんな気がして苦しくなる。 
 雅は桃子の瞳から逃れるように首筋にキスを落とした。 
  
 桃子の肌に何度も唇で触れては離す。 
 軽く、掠めるように触れていく。 
 どこへ置くべきか迷っていた手は桃子の腰へ。 
 雅がゆるゆると指の腹で腰から脇腹を撫でると、桃子が身を捩った。 
  
  
   
- 557 名前:『 もっと愛して愛されて 』 投稿日:2008/01/04(金) 03:10
 
-  「みーやん、くすぐったい」 
 「ごめん」 
  
  
 桃子の吐息混じりの声が聞こえた。 
 脇腹を撫でる手を桃子に止められる。 
 思わず謝ると、桃子の手が雅の背中に回された。 
  
  
 「こんな感じで触って」 
 「あ、はぁっ…んっ。……って。ちょっ、もも。んっっ」 
  
  
 肩胛骨に触れた桃子の指先がゆっくりと降りていく。 
 桃子の爪先が背骨の上を引っ掻き、手の平が腰を撫でる。 
 耐えきれず雅は掠れた高い声を上げた。 
  
  
   
- 558 名前:『 もっと愛して愛されて 』 投稿日:2008/01/04(金) 03:11
 
-  「やっぱりみーやんの声、気持ちいい」 
 「もも、やめっ。あっ」 
 「もっと聞かせてよ」 
 「やあっ、ね、もも……」 
  
  
 桃子にいつもよりも低めの声で囁かれて頭の奥が痺れた。 
 引き寄せられて、肩に歯を立てられる。 
 雅は思ったことの半分も口に出来なかった。 
  
 雅はゆっくりと与えられる快感に意識をさらわれないようにシーツを掴む。 
 桃子の手が胸に触れる。 
 身体が勝手にびくんと跳ねた。 
 桃子に触れようとしても触れることが出来ない。 
 雅が手を伸ばすと、桃子の手が胸の先端を撫で上げてくる。 
  
  
   
- 559 名前:『 もっと愛して愛されて 』 投稿日:2008/01/04(金) 03:13
 
-  「もも、や…だ。……そんなことされたら、出来ないよ」 
 「そんなことされたいんじゃないの?」 
 「違うから。……今は、うちがももにしたい」 
 「ももには違うようには見えないんだけど」 
 「ちょっ、はあっ、…あっんっ」 
  
  
 荒くなる息を整える。 
 雅は押し寄せてくる快感に支配されてしまう前に桃子の手を掴んで止めた。 
 下から見つめてくる目を見つめ返して雅は桃子に告げる。 
 だが、桃子は薄い唇に笑みを浮かべると雅の手を振りほどく。 
 自分でもわかる程に硬くなった先端を桃子に摘まれて、雅は押さえきれず大きな声が出た。 
 雅は桃子の腕を掴んで崩れ落ちそうになった身体を何とか支えるが、桃子の指先に胸を弄ばれ、身体を支えている腕が震える。 
  
  
 「だめっ、だって。もも、……やめ、て」 
 「もっと声、聞きたかったのに」 
  
  
 雅が掠れた声で桃子の行動を制止すると、拗ねたような声が返ってきた。 
 それでも胸に触れていた桃子の手は素直にそこから離れ、おかげで雅は呼吸を整えることが出来た。 
  
  
   
- 560 名前:『 もっと愛して愛されて 』 投稿日:2008/01/04(金) 03:15
 
-  「悪戯しちゃだめだからね?」 
 「……わかった」 
  
  
 シーツの上に投げ出された桃子の手を握って言葉をかける。 
 桃子の尖った唇が「物足りない」と言いたげだったが、雅はそれに気づかないふりをしてキスをした。 
 何度か軽くキスを交わしてから、桃子の唇を舌先でぺろりと舐める。 
 追いかけてくる桃子の唇にもう一度口づけてから、耳を噛んだ。 
 首筋を辿って、肩を舐める。 
 胸元にいくつもキスを落とす。 
 包み込むように胸を揉む。 
 胸に唇を寄せて、硬く尖った部分を口に含むと桃子の腰がぴくんと震えた。 
  
  
 「あっ…んっ」 
 「もも、いいの?」 
 「うん。……みーやん、もっと」 
 「ここ?」 
  
  
 雅が硬くなったそこに唇で触れると、桃子が頷いた。 
 中心に触れないように、その周りにキスを落とす。 
 手は胸の下を撫で、肋骨にそって指先を這わす。 
  
  
   
- 561 名前:『 もっと愛して愛されて 』 投稿日:2008/01/04(金) 03:17
 
-  「んっ、はあっあっ」 
  
  
 雅が舌先で胸の先端を突くと桃子が甲高い声を上げた。 
 桃子の身体が熱い。 
 肌も吐き出される息も熱を持っていた。 
 桃子が声を出すたびに胸が上下して、心臓の音が聞こえそうだ。 
 荒くなっていく息と一緒に聞こえてくる甘い声に、雅の意識が奪われそうになる。 
 もっと声が聞きたくて先を急ぎたくなる。 
  
  
 「あぁっ、そこ、あっ…ゆっく、り」 
  
  
 腰からお尻にかけて撫でると桃子が身を捩った。 
 シーツが擦れる小さな音が鮮明に聞こえる。 
 雅は桃子の太ももに指を滑らせた。 
  
  
   
- 562 名前:『 もっと愛して愛されて 』 投稿日:2008/01/04(金) 03:19
 
-  「ももの身体、熱くて気持ちいい。もっと触ってもいい?」 
 「うん。……さわっ、…て」 
  
  
 桃子の声が雅の耳をくすぐる。 
 熱を持った桃子の身体に触れていると、同じように自分の身体も熱くなっていく。 
 時々びくんと跳ねる身体を抱きしめると、桃子に抱きしめ返される。 
 身体に回された桃子の腕が心地良い。 
 桃子にもっと触れたいと思うと同時に、触れられたくなってくる。 
 そんな気持ちを誤魔化すように、雅は桃子の身体に舌を這わせた。 
 唇をゆっくりと胸から下へ。 
 指先も太ももから足の間へ。 
 桃子の身体がどうなっているのか確かめたくて心がはやる。 
 だが、指先は目的の場所へたどり着く前に桃子に捕らえられた。 
  
  
 「……みーやん」 
 「なに?」 
  
  
 荒くなった息を整えることもせずに、桃子が雅の名前を呼んだ。 
 雅の指先は桃子の手に握られていて動かせない。 
  
  
   
- 563 名前:『 もっと愛して愛されて 』 投稿日:2008/01/04(金) 03:22
 
-  「やっぱり、みーやんも感じて」 
 「えっ!?」 
  
  
 どういう意味かと問いかける前に桃子の手が雅の太ももに触れた。 
 指の腹で太ももの裏を撫でつけられて、膝が揺れる。 
 気がつけば足の間に桃子の指が入り込んでいて、自分でもわかる程に湿っているそこを撫で上げられた。 
  
  
 「あっ、んっ。ももっ、だっ…めっ」 
  
  
 ぬるりとした液体が桃子の指先を汚していることがわかる。 
 緩やかに指先で触れられて、雅の身体が崩れかける。 
 立場が逆転する。 
 濡れたそこに指を何度も這わされて、声を上げているのは桃子ではない。 
 そうしたいと思っていたはずの雅が声を上げていた。 
  
 雅は桃子の肩を押さえて悪戯な手の動きを止める。 
 桃子の首に顔を埋めて、雅は縋るように言った。 
  
  
   
- 564 名前:『 もっと愛して愛されて 』 投稿日:2008/01/04(金) 03:26
 
-  「ちょっと、もも。ほんとに出来ないから、やめてよ」 
 「だってもも、みーやんのえっちなところ見てると感じるから」 
 「なっ!?」 
 「……このまましてよ、みーやん」 
 「無理…んっ、あっ。…だって」 
  
  
 結局、雅の願いが聞き入れられることはなく、桃子の指先が動き出す。 
 硬くなっているそこを何度も擦り上げられる。 
 そのせいで、雅は桃子から言われたように桃子の身体に触れようとしたが上手くいかなかった。 
 崩れ落ちそうになる身体を支えるだけで、雅は他のことが何も出来ない。 
  
 身体の下から視線を感じる。 
 桃子に覆い被さったまま、身体に指を這わされて声を上げている。 
 桃子の身体を跨いでいるせいで足を閉じることすら出来ない。 
 雅はそんな姿を桃子に見られていると思うと、恥ずかしくて逃げ出したいような気分になった。 
 だが現実は逃げ出すどころか、抵抗すら出来ず声を上げ続けている。 
  
  
   
- 565 名前:『 もっと愛して愛されて 』 投稿日:2008/01/04(金) 03:28
 
-  「やっ、ももっ。はあっ」 
 「みーやんの声、好き」 
 「だめ、あっ…だって……」 
 「みーやんのえっちな声で名前呼ばれるとすごくいい」 
 「ももっ、やっ」 
  
  
 その言葉が受け入れられるはずがないと知っていて、雅は囈言のように嫌だと繰り返した。 
 首を横に振って桃子の言葉に答える。 
 しかし雅が思った通り、桃子は雅の言葉を受け入れない。 
 桃子の指先が身体の中に潜り込んでくる。 
 二本の指が雅の身体を開いていく。 
  
  
 「なん…で。はあっ、うちが…するって、言ったのに」 
  
  
 口を開くたび、耳を塞ぎたくなるような声が出る。 
 それでも雅は切れ切れの言葉をなんとか繋げ合わせていく。 
  
  
   
- 566 名前:『 もっと愛して愛されて 』 投稿日:2008/01/04(金) 03:30
 
-  「だって、みーやんまだ足りないって顔してた」 
 「して…ないっ」 
 「してたよ。だから、ほら。ももの指すごく締め付けてる」 
 「やっ、ももっ」 
  
  
 身体の奥まで到達した指がゆっくりと中を擦る。 
 雅はシーツをぎゅっと掴んだ。 
 きっと白くなっているであろう自分の指先が見える。 
 桃子の言う通り、確かに身体の中が伸縮を繰り返して指を締め付けていた。 
  
 抜かれそうになる指を。 
 奥まで押し込まれる指を。 
 身体が締め付けていく。 
  
 桃子の指が動くたびに身体が揺れる。 
 けれど、雅はそれを止めることが出来ない。 
  
  
 「んっ、あぁっ。ももっ、もうっ」 
  
  
 名前を呼ぶ声が掠れていた。 
 シーツを掴む指の感覚がない。 
 雅には桃子の指がどんな風に動いているのかよくわからなかった。 
  
  
   
- 567 名前:『 もっと愛して愛されて 』 投稿日:2008/01/04(金) 03:32
 
-  「ね、みーやん。ももにもあとからしてくれる?」 
 「う、んっ。だからっ」 
 「イッていいよ、みーやん」 
  
  
 雅は耳元で囁かれる声に頷く。 
 聞こえてくる桃子の声も自分と同じように掠れていたような気がした。 
  
 桃子の指に身体の中を掻き回される。 
 ぬるぬるとした液体を纏った指が何度も身体の奥まで押し込まれる。 
 硬くなった突起に指が触れた。 
  
 雅には掴んでいるものがシーツなのか、それとも桃子の身体なのかよくわからなかった。 
 指の動きにあわせるように身体が跳ねる。 
 力の抜けた雅の身体が桃子の上に崩れ落ちると、指が中から引き抜かれた。 
  
  
   
- 568 名前:『 もっと愛して愛されて 』 投稿日:2008/01/04(金) 03:35
 
-  「みーやん」 
 「うん」 
  
  
 雅の呼吸が整う前。 
 桃子が急かすように雅の名前を呼んだ。 
  
 雅は気だるい身体を起こして桃子に触れる。 
 達したばかりで身体が上手く動かない。 
 それでも雅は、動くことに慣らすようにゆっくりと桃子に触れていく。 
 足を開かせて、指先をそこへ滑り込ませる。 
 軽くそこを撫でるとぬるぬるとした液体が溢れていた。 
 指の腹で硬くなった突起を捕まえる。 
 強めに押さえるように撫でつけると、桃子が甲高い声を上げた。 
  
  
   
- 569 名前:『 もっと愛して愛されて 』 投稿日:2008/01/04(金) 03:37
 
-  「あっんっ。はあ、みーや…んっ」 
  
  
 指先に絡みつく液体。 
 擦りつけられる身体。 
 達したばかりの雅の身体がまた熱くなっていく。 
  
 求められるままに指を桃子の身体の中へ潜り込ませ、動かしていく。 
 桃子から貰った分と同じだけの快感を返せるように指先を、唇を動かす。 
  
  
   
- 570 名前:『 もっと愛して愛されて 』 投稿日:2008/01/04(金) 03:39
 
-  雅が思ったように桃子に触れることが出来ないのはいつものことだ。 
 声を聞こうとしていたはずが、気がつけば自分の方が声を上げている。 
 いつだって涼しい顔をしているのは桃子で、雅は桃子のなすがままになっていた。 
 こうして桃子に触れていられるのも桃子の方が求めているからだ。 
 なかなか思うように事が運ばない。 
 だが、こうして聞こえてくる桃子の声は気持ちが良い。 
  
 もっと声を聞けるように。 
 もっと名前を呼んでもらえるように。 
  
 雅は桃子の身体にキスを落としていく。 
 そして身体の奥に届くように指を動かした。 
  
  
  
  
   
- 571 名前:『 もっと愛して愛されて 』 投稿日:2008/01/04(金) 03:39
 
-   
  
  
 『 もっと愛して愛されて 』 
  
  
  
 - END -  
   
- 572 名前:Z 投稿日:2008/01/04(金) 03:39
 
-   
   
- 573 名前:Z 投稿日:2008/01/04(金) 03:48
 
-  明けましておめでとうございます。 
 新年早々エロいですが、今年もよろしくお願いいたしますm(__)m 
  
 >>550 T さん 
 お役に立てたようで光栄です(´▽`)w 
 やっぱり素直が一番です! 
 これからもウハウハをお届け出来たらな、と思いますw 
  
 >>551さん 
 ありがとうございます。 
 年明けはももみやからはじめてみました。 
 ……可愛らしいかは謎ですが(;´▽`) 
  
 >>552さん 
 ありがとうございます。 
 栞菜はいつでも無鉄砲なぐらい積極的であればいいと思っていますw 
   
- 574 名前:名無飼育さん  投稿日:2008/01/04(金) 23:28
 
-  年明けからエロいももみやキタ━━━ 
 いつもありがと  
- 575 名前:Z 投稿日:2008/01/13(日) 01:39
 
-   
  
  
 『 丸めて投げたメモ用紙の運命 』 
  
  
  
   
- 576 名前:『 丸めて投げたメモ用紙の運命 』 投稿日:2008/01/13(日) 01:41
 
-  生温い温度の室内にえりかの瞼が重くなる。 
 遠くからガサガサとした雑音が聞こえていたが、それは気にならなかった。 
 楽屋はウォームビズとはほど遠い温度に保たれている。 
  
  
 エコロジーがどうとか。 
 そんなイベントやったなあ。 
  
  
 地球に優しくないであろう室温に、えりかは何ヶ月か前に参加したイベントを思い出した。 
 だが、眠気を誘うような温度にそのイベントの内容までは思い出せない。 
 えりかは閉じようとする瞼をこじ開ける。 
 椅子の背もたれに思いっきり背中をつけ、身体を反らしてみる。 
 するとそのまま眠ってしまいそうになり、椅子がガタンと音を立てて、一緒に目の前にあった机が小さく揺れた。 
 危うく後ろに椅子ごと倒れそうになって、えりかの意識が一瞬はっきりする。 
 そのままうとうとと手放しかけた意識を一度手元にたぐり寄せてみる。 
 遠くから聞こえていた雑音が少しだけはっきりとした音になった。 
 何かの音楽と人の声が聞こえてくる。 
 しかし、すぐにその音達が雑音に戻ってしまう。 
  
  
   
- 577 名前:『 丸めて投げたメモ用紙の運命 』 投稿日:2008/01/13(日) 01:42
 
-  やっぱり眠い。 
  
  
 えりかは目の前にあるテーブルに突っ伏した。 
 机に頬をくっつけるとひんやりとした机の温度が心地良い。 
 この体勢なら安心して眠ることが出来る。 
 腕を枕にしてえりかは睡眠を取る体勢に入り、掴んでいた意識を手放そうとした。 
  
  
 「あはははっ」 
  
  
 雑音がはっきりとした音になる。 
 眠気が一気に吹き飛ぶ。 
 えりかの目を覚まさせたのは笑い声の大きさではない。 
 その笑い声の主が舞美だからだ。 
  
 楽屋にはえりかと舞美の二人しかいなかった。 
 けれど、二人しかいないから笑い声が舞美だとわかったわけではない。 
 えりかの耳が、舞美の声に反応するように出来ているからだ。 
 いつからそうなったのかはわからない。 
 気がつけば、えりかは舞美の声に反応するようになっていた。 
 耳はいつも舞美の声を探していたし、目は舞美の姿を追っていた。 
 だから、舞美の声に反応して目が覚めた。 
  
  
   
- 578 名前:『 丸めて投げたメモ用紙の運命 』 投稿日:2008/01/13(日) 01:46
 
-  どれぐらいの時間かは覚えていないが、散々二人で話した後、することがなくなってえりかは椅子の上で半分眠っていた。 
 そして舞美は一人、鏡の前に座っていた。 
 どうして一人で笑っているのだろうと気になってえりかが耳を澄ますと、ラジオの音らしきものが聞こえてきた。 
 えりかは舞美を視界にいれる。 
  
 あいかわらずだ。 
 舞美はえりかの気持ちも知らずに豪快に笑っている。 
 自分の気持ちに気がついてもらえるようにとあからさまに舞美を見ているわけではないから、舞美がえりかの気持ちを知らないことは仕方がない。 
 それにしても舞美は色々なことを感じ取らなすぎる。 
 ずっと見つめていることに少しも気がついて貰えないことが、えりかは何故だか納得出来なかった。 
 今だってえりかは舞美を見ているのに舞美はえりかの方を見ようともしない。 
  
 えりかは舞美の方に視線を固定したまま腕を伸ばす。 
 すると指先に何かが触れた。 
 中指に力を入れてそれを引き寄せると数枚の白いメモ用紙が手元に現れた。 
 そのメモ用紙があった場所を見るとボールペンもそこに置かれていた。 
 えりかはボールペンを手に取って指先でぐるぐると回してみる。 
  
  
   
- 579 名前:『 丸めて投げたメモ用紙の運命 』 投稿日:2008/01/13(日) 01:46
 
-   
 もしも運命というものがあるとしたら。 
 あたしと舞美にはどんな未来が待っているんだろう。 
  
  
   
- 580 名前:『 丸めて投げたメモ用紙の運命 』 投稿日:2008/01/13(日) 01:49
 
-  げらげらと笑い続ける舞美との未来を想像してみる。 
 けれど想像すら上手く出来なくて、えりかの手の中からボールペンが転げ落ちた。 
 机の上に落ちたボールペンがカタンと音を立てたが、ラジオに夢中になっている舞美には聞こえていないようだった。 
  
  
 運命なんて目に見えないもの。 
 一瞬先がどうなるかなど誰も知らないし、知りようがない。 
 もしかしたら一分先の世界では舞美がえりかに告白している、そんな運命もありえるなどと考えてみるが、それはやはりありえないだろうとえりかは思い直す。 
  
 舞美は物事を深く考えるタイプに見えない。 
 自分もそう考え込むタイプではないが、舞美は考えなしなところがある、というよりどこかが抜けている。 
 そんな舞美がえりかの気持ちに気がつくわけがないし、舞美がえりかのことを好きだとも思えなかった。 
 今だってラジオ相手に一人で、ああでもないこうでもないと呟いている。 
 そんな舞美を見ていると、えりかは舞美のことを考えていることが急に馬鹿馬鹿しくなってくる。 
 好きも嫌いも運命もどうでもよくなる。 
  
  
   
- 581 名前:『 丸めて投げたメモ用紙の運命 』 投稿日:2008/01/13(日) 01:49
 
-  えりかはメモ用紙を一枚手に取る。 
 思いついた言葉をメモ用紙に書き殴った。 
 平仮名だけで構成された文字の出来映えを見てから、えりかはそのメモ用紙をぐしゃぐしゃと軽く丸めた。 
 狙い澄まして、えりかは舞美に運命を投げつける。 
 力一杯投げつけた紙くずは放物線を描いて、舞美の頭にぽすっという音と共に命中した。 
  
  
 「えりー、ゴミ箱あっち!」 
  
  
 ラジオに夢中になっていた舞美がさすがにえりかの方を見た。 
 舞美の指先は右斜め下を指し示している。 
 だが、えりかが狙ったのはゴミ箱ではない。 
  
  
   
- 582 名前:『 丸めて投げたメモ用紙の運命 』 投稿日:2008/01/13(日) 01:51
 
-  「ゴミ箱はあっちだけど、舞美はこっちだからいいんだよ」 
 「あー、ひどい。人にゴミ投げたらいけないんだぞっ」 
 「そんなとこで大笑いしてる方が悪い」 
  
  
 むうっと唇を尖らせた舞美がえりかを見ていた。 
 えりかが「あっかんべー」と舌を出してみせると、舞美が椅子を少しずらして腰を屈めた。 
 落ちた紙くずを舞美が拾い上げる。 
 えりかが投げつけたくしゃくしゃに丸められた紙を伸ばそうとする舞美が見えた。 
  
  
 その紙を開いて欲しいのか、それともそのままゴミ箱に投げ入れて欲しいのか。 
 自分が望んでいるのはどちらなのだろう。 
  
  
 舞美の手の中にある紙くずはまだ完全には広げられていない。 
 手の中でそれを遊ばせてから、舞美がえりかに向けてその紙を投げる真似をした。 
  
  
  
   
- 583 名前:『 丸めて投げたメモ用紙の運命 』 投稿日:2008/01/13(日) 01:52
 
-   
 神様。 
 もしも、舞美があの紙を開いたら。 
 舞美はあたしに同じ言葉を返してくれますか? 
  
  
  
   
- 584 名前:『 丸めて投げたメモ用紙の運命 』 投稿日:2008/01/13(日) 01:53
 
-  すき、と書いて丸めたメモ用紙。 
 投げつけたえりかの運命は舞美が握っていた。 
  
 えりかの幸せも不幸も握っているのは舞美だ。 
 だから運命も舞美に。 
 委ねた運命の行方をえりかは静かに見守った。 
  
  
  
  
   
- 585 名前:『 丸めて投げたメモ用紙の運命 』 投稿日:2008/01/13(日) 01:53
 
-   
  
  
 『 丸めて投げたメモ用紙の運命 』 
  
  
  
 - END - 
   
- 586 名前:『 丸めて投げたメモ用紙の運命 』 投稿日:2008/01/13(日) 01:54
 
-   
   
- 587 名前:Z 投稿日:2008/01/13(日) 01:56
 
-  >>574さん 
 こちらこそありがとうございます(´▽`) 
 喜んで頂けたようで、私も嬉しいですヾ(*´∀`*)ノ 
   
- 588 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/14(月) 03:24
 
-  舞美のキャラとやじすず流行で 
 最近の梅さんは切ない話しが多いなぁつД`)  
- 589 名前:Z 投稿日:2008/02/02(土) 11:11
 
-   
  
  
 『 見えない気持ち 』 
  
  
  
 514-530 
 『 つまらない嘘 』続編  
- 590 名前:『 見えない気持ち 』 投稿日:2008/02/02(土) 11:12
 
-  願いに応えて繰り返される行為は考えていたよりもずっと気持ちが良かった。 
 だから、梨沙子は何度も桃子にねだった。 
 そしてねだった分だけ、与えられた。 
 けれど本当に望んでいる物が与えられているのかは、自分でもよくわからなかった。 
  
  
  
   
- 591 名前:『 見えない気持ち 』 投稿日:2008/02/02(土) 11:15
 
-  一緒の部屋ならいいのに。 
  
  
 桃子と同じ部屋なら余計なことを考えずに済む。 
 桃子が今、何をしているのか知りたいと思う必要がない。 
  
  
 地方での仕事。 
 ホテルの部屋割りはいつも通りくじによって決まっていた。 
  
 今日、梨沙子と同じ部屋にいるのは桃子ではなく茉麻だ。 
 少し前までなら、茉麻と一緒の部屋だということは喜ぶべきことだった。 
 母親といったら語弊があるかもしれないが、まるで家族のように自分を甘やかしてくれる存在。 
 それが茉麻だ。 
 だから、そんな茉麻と一緒の部屋なら気を遣う必要もないし、まるで自分の家にいるかのように寛げた。 
 それなのにどこで変わってしまったのか。 
 今、梨沙子が一緒にいたいと思っている相手は桃子だ。 
 そして考えているのも桃子のこと。 
  
  
   
- 592 名前:『 見えない気持ち 』 投稿日:2008/02/02(土) 11:17
 
-  「梨沙子、最近元気ないねえ」 
  
  
 ベッドの上に足を投げ出して座っていると茉麻の声が聞こえた。 
 窓の外を眺めていた梨沙子が視線を移して隣のベッドを見ると、茉麻も同じようにベッドに足を投げ出して座っていた。 
 梨沙子は背中をゆっくりと倒してベッドの上に寝転がる。 
 天井を見上げながら茉麻に言葉を返した。 
  
  
 「そうかな?」 
 「そうだよ」 
  
  
 茉麻が即答する。 
 そんなに元気がなかったのかと考えてみても、梨沙子には最近の自分がどうだったか思い出せない。 
  
  
   
- 593 名前:『 見えない気持ち 』 投稿日:2008/02/02(土) 11:19
 
-  「みやと何かあった?」 
 「なんでみや?」 
 「最近、みやも元気ないから」 
  
  
 茉麻が立ち上がって座る位置を変えた。 
 ベッドの端に腰掛けて、寝転がっている梨沙子を見る。 
 探るような目で見つめられて、梨沙子は両手で顔を隠した。 
 そのまま手で髪をぐしゃぐしゃと弄ってから、ついさっき口にした言葉と同じ言葉を返した。 
  
  
 「そうかな?」 
 「そうだよ」 
  
  
 返された言葉も同じものだった。 
 ベッドから伸ばした茉麻の足が、床に敷かれたカーペットを叩く音が聞こえる。 
 パタパタという音が途切れると茉麻の声が聞こえた。 
  
  
   
- 594 名前:『 見えない気持ち 』 投稿日:2008/02/02(土) 11:20
 
-  「違うの?」 
 「うん、みやじゃない」 
 「じゃあ、誰?」 
  
  
 優しい声音に安心する。 
 それと同時に、茉麻が答えを知りたがっている気持ちが伝わってくる。 
 だが、答えるわけにはいかなかった。 
 梨沙子は身体を起こしてベッドから抜け出す。 
  
  
 「部屋、暑くない?」 
 「ん?丁度良くない?」 
 「暑いよ。少し温度下げる」 
  
  
 梨沙子は話をそらすことが得意ではない。 
 唐突すぎたと思ったが、他の言葉も思い浮かばなかった。 
 エアコンの温度を調節してから、梨沙子はもう一度ベッドへ寝転んだ。 
  
  
   
- 595 名前:『 見えない気持ち 』 投稿日:2008/02/02(土) 11:23
 
-  雅の様子がおかしいことは梨沙子も気がついていた。 
 だが、雅とではない。 
 梨沙子が何かあった相手は桃子だ。 
  
 しかし、それを茉麻に告げることは躊躇われた。 
 どんなことがあったのか問われても、きっと上手く答えることが出来ない。 
 そもそも桃子と何があったかなど言えるわけがなかった。 
 桃子と何があったのかを茉麻が知れば、茉麻に嫌われるかもしれないと思う。 
 出来ることならば、茉麻に嫌われるような話はしたくなかった。 
  
  
 「なんかあるならさ、相談しなよ」 
 「うん」 
 「さすがにそんなに元気ないと心配だから。あたし、梨沙子のママだよ?いつでも相談乗るよ」 
 「うん、ありがと」 
  
  
 梨沙子自身はいつも通り、自分は何も変わっていないと感じる。 
 けれど、茉麻がそう言うのならばきっと元気がないのだろうし、茉麻以外の人間にもそう見えているのだと思う。 
  
  
   
- 596 名前:『 見えない気持ち 』 投稿日:2008/02/02(土) 11:25
 
-  自分のことがよくわからない。 
 そして自分で自分のことがわからないのだから、他人のことなどなおのことわからない。 
 桃子のことをいくら考えたところでわかるはずがなかった。 
 わからないことを相談するのは無理な話だし、話せる内容でもない。 
 そして言えるはずもない。 
  
  
 茉麻のかわりに桃子にいて欲しいだなんて。 
  
  
 元気、ということだけで言えば、桃子といればきっと元気が出るのだろう。 
 だからと言って、茉麻にそれをそのまま伝えるわけにはいかない。 
 だが、心の中で何かを望むことは自由だ。 
  
  
 望むこと。 
 それが何かの役に立つとは思えなかった。 
 それでも梨沙子は何度も望んだ。 
 桃子といることを。 
  
 今思えば、一番の位置を変えるべきではなかった。 
 梨沙子がずっと好きだった相手。 
 一番を雅のまま変えることなく過ごしていれば、もう少し幸せだったのではないか。 
 そんな気がする。 
  
  
   
- 597 名前:『 見えない気持ち 』 投稿日:2008/02/02(土) 11:27
 
-  雅から桃子へ。 
 一番がすり替わった瞬間。 
 記憶を辿っても思い出すことは出来ない。 
  
 雅がずっと大好きでそれなりのアピールはしていたつもりだ。 
 けれどそれが報われる気配はなかった。 
 そのくせ気まぐれに気を持たせるような行動を取る雅に、疲れていたのかもしれない。 
 近づけば離れていく雅にどう接するべきか迷っているうちに、桃子が雅のいた場所に入り込んできた。 
 最初は好きなだけ甘やかしてくれる桃子の側が心地良かっただけだ。 
 それが今では梨沙子の中で雅を越えた位置にいた。 
  
 相手にしてくれない雅よりも、桃子は自分を大切にしてくれると思った。 
 けれどそれは間違いだとすぐにわかった。 
 雅も厄介な相手だと思っていたが、桃子はそれ以上だ。 
  
   
- 598 名前:『 見えない気持ち 』 投稿日:2008/02/02(土) 11:29
 
-  桃子が自分だけを見ているわけではないことぐらい知っている。 
 それぐらい梨沙子でも気がつくことが出来た。 
 多分、他の誰かとも自分と同じようなことをしている。 
 そして、きっと。 
 そのうちの一人は雅だ。 
 梨沙子がずっと見てきた相手。 
 雅のことなら大抵のことはわかる。 
  
 この目で確かめたわけではない。 
 だが、気がつかずにいられるほど梨沙子は鈍いわけではない。 
  
  
 いっそ何も見えない程に愚鈍であれば。 
  
  
 知らない方が良いことなど沢山ある。 
 桃子のことだけを見ていることが出来れば幸せだと思う。 
  
   
- 599 名前:『 見えない気持ち 』 投稿日:2008/02/02(土) 11:30
 
-  自分以外の誰かのこと。 
  
 知らない方が幸せな気持ちでいられる。 
 見えなければ、桃子だけを見ていられる。 
 時々、これ以上桃子に近づかない方が良いのではないかと考える。 
 それなのに、部屋割りが桃子と一緒になれば嬉しい。 
 そして一人になった時は期待する。 
 ドアをノックされる音を待っている。 
 けれど、今日はドアが鳴る音が聞こえることはない。 
  
 茉麻と二人部屋ということもある。 
 だが、例え一人部屋だったとしても桃子が梨沙子の元に来ることはない。 
 今日、桃子は雅と同じ部屋にいる。 
  
  
 何時の間に眠ってしまったのか茉麻の寝息が聞こえてきた。 
 梨沙子の頭に雅と一緒にいる桃子の姿が浮かぶ。 
 頭を振ってその姿を追い払うと、梨沙子は窓の外を見た。 
  
  
  
  
   
- 600 名前:『 見えない気持ち 』 投稿日:2008/02/02(土) 11:31
 
-   
  
  
 『 見えない気持ち 』  
  
  
  
 - END -  
- 601 名前:Z 投稿日:2008/02/02(土) 11:32
 
-   
   
- 602 名前:Z 投稿日:2008/02/02(土) 11:39
 
-  こちらの方でも一応……。 
 戻ってきました、こんにちは(´▽`)ノ 
 帰還の挨拶とともにお願いを。 
 最近、上げレスが多いのでここら辺でもう一度お願いです。 
 エロ成分が多分に含まれるスレなので、 
 レスしてくださる方はsageでお願いします。 
 そんなわけで、sageよろしく&レスお待ちしておりますなんだよリl|*´∀`l| 
  
 >>588さん 
 梅さんの運命は588さんにも託されています!w 
 お話の先は想像次第なのです(´▽`)  
- 603 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/03(日) 01:16
 
-  お帰りなさい 
 どちらも楽しみにしていますよ  
- 604 名前:名無飼育さん  投稿日:2008/02/04(月) 23:19
 
-  梨沙子は本気だね 
 もも、本当に悪いw  
- 605 名前:『 不確かな答え 』 投稿日:2008/02/24(日) 04:02
 
-   
  
  
 『 不確かな答え 』 
  
  
  
 >>589-600 
 『 見えない気持ち 』続編 
   
- 606 名前:『 不確かな答え 』 投稿日:2008/02/24(日) 04:04
 
-  「みーやん、ももと部屋が一緒になると嬉しい?それともいや?」 
  
  
 雅はバスルームから出てくるなり、桃子から声をかけられた。 
 声のした方向へ顔を向けると、パジャマに上着を羽織った桃子がペットボトルを片手に窓際に立っている。 
 カーテンは半分開けられていて、街の光が部屋の中に入り込んでいた。 
  
  
 「なんで急にそんなこと聞くの?」 
  
  
   
- 607 名前:『 不確かな答え 』 投稿日:2008/02/24(日) 04:06
 
-  雅はタオルで髪をごしごしと拭きながら答える。 
 細かな水滴がタオルを濡らしていく。 
  
 良いも悪いもない。 
 くじで決まったのだから、それに従うしかないのだ。 
 部屋割りは桃子と一緒。 
 決まったことには黙って従う。 
 嬉しいとか悲しいとかそういった感情は関係ない。 
 そもそも自分の中にある感情が何なのか雅自身よくわからないし、コントロールすることも出来ない。 
 結局、どんなことが起こっても目の前にある現実を受け入れていくしかなかった。 
  
 雅は枕の上にタオルを投げるとベッドの上に腰を下ろした。 
 窓際から桃子の喉がごくんと鳴る音が聞こえて、足音が近づいてくる。 
  
  
 「こういうことしたくないのかと思って」 
  
  
 桃子の手が雅のパジャマに触れた。 
 ボタンは雅によって一番上が外されている。 
 パジャマの襟を掴んだ桃子が軽くそれを引っ張って、雅の鎖骨の上にキスを落とした。 
  
  
   
- 608 名前:『 不確かな答え 』 投稿日:2008/02/24(日) 04:08
 
-  「うちがしたくないって言ったらやめるの?」 
 「みーやんがやめてって頼んだらね」 
 「ほんとに?」 
 「本当に。……みーやん、どうする?」 
  
  
 桃子の口から淡々と言葉が紡がれる。 
 一応、雅に選ぶ権利というものがあるらしかった。 
 目の前に立っている桃子の表情からは何も読み取れそうにない。 
 だが雅が「やめて」と言えば本当にやめてくれそうな雰囲気がある。 
 この関係を終わらせるチャンスが転がり込んできたのかもしれないと思う。 
 たった一言でいい。 
 「やめて」と言うことが出来れば、桃子との面倒な関係を終わらせることが出来るような気がした。 
  
 雅は右手を握りしめた。 
 簡単な一言が喉の奥で詰まる。 
 雅のパジャマの襟を掴んでいた桃子の手が離された。 
  
  
   
- 609 名前:『 不確かな答え 』 投稿日:2008/02/24(日) 04:09
 
-  「ももは出来れば、みーやんにももが欲しいって言って欲しいけど」 
  
  
 口を開こうとしない雅に焦れたのか、にやりと笑って桃子が言った。 
 桃子の唇は緩いカーブを描いている。 
 だが、本当は何を考えているのか桃子の目は笑っていない。 
  
 誰にでもこんな風に接しているのだろうか。 
 佐紀や梨沙子に対しても口先だけで人を弄ぶような、そんな付き合い方をしているのか気になった。 
  
  
 「……梨沙子にもそんなこと言わせてるの?」 
 「言わせるわけないじゃん。大体、梨沙子はそんなこと言わせなくても大丈夫だもん」 
 「どういうこと?」 
 「梨沙子は可愛いってこと」 
 「なにそれ」 
 「さあ?梨沙子に聞いてみれば」 
 「そんなこと聞けるわけないじゃん」 
  
  
   
- 610 名前:『 不確かな答え 』 投稿日:2008/02/24(日) 04:11
 
-  桃子との仲に踏む込むような。 
 雅がそんなことを梨沙子に聞けるわけがない。 
 桃子とどういった関係であるのかを聞かなければと思ってはいるが、二人のやり取りまで知る必要はない。 
 どれだけ気になっても聞いてはいけないと思う。 
  
 雅の頭に梨沙子の姿が浮かぶ。 
 梨沙子は今日、茉麻と一緒の部屋のはずだ。 
 何を思って茉麻と二人でいるのだろうかと気になった。 
  
 梨沙子が何をしているのかを考えながら雅は足下を見る。 
 肌色のルームシューズが視界に映る。 
 俯いたままでいると、桃子がまだ濡れている雅の髪を一房掴んで軽く引っ張った。 
  
  
   
- 611 名前:『 不確かな答え 』 投稿日:2008/02/24(日) 04:13
 
-  「飲む?」 
 「え?」 
 「これ飲む?」 
  
  
 目の前でペットボトルがちゃぷちゃぷと音を立てて振られる。 
 雅が首を縦に振って答えると、桃子の唇がペットボトルの飲み口に触れた。 
 傾けられたペットボトルから中の液体が桃子の口の中へ流れ込む。 
 桃子の手が雅の頬に触れる。 
 雅は思わず身構えた。 
  
 ゴクン。 
  
 桃子の喉が動いて、雅の手にはペットボトルが押しつけられた。 
 くすくすと桃子が笑っている声が聞こえる。 
 雅は押しつけられたペットボトルをひったくるようにして受け取ると、中身をごくごくと喉に流し込む。 
 ついでに軽く桃子を睨んでやると、桃子にペットボトルを奪い取られた。 
  
  
 「で、どーするの?みーやん」 
  
  
 桃子が雅から奪い取ったばかりのペットボトルをベッドの上に放り投げた。 
 わざとらしく桃子が唇を人差し指で撫でる。 
  
  
   
- 612 名前:『 不確かな答え 』 投稿日:2008/02/24(日) 04:15
 
-  「やめて欲しい?」 
  
  
 桃子が唇の上に人差し指を置いたまま言った。 
 たった一言だ。 
 「やめて」といえばそれで終わる。 
 だが、一秒もかからずに口に出来るような言葉が上手く出てこない。 
 雅はベッドの上に手を伸ばす。 
 髪を拭いたタオルが手に触れた。 
 それを掴んで引き寄せると、手が少しだけ湿った。 
  
 雅は口を開く。 
 だが、何かを桃子に伝えることは出来ない。 
 変わりに手を伸ばして桃子の襟首を掴んだ。 
 自分の方へ桃子を引き寄せる。 
 唇を寄せようとしてやめた。 
 桃子の目は開いたままだ。 
 雅は唇をきつく噛む。 
 襟首を掴んだ手を離そうとすると、反対に手を掴まれた。 
  
  
   
- 613 名前:『 不確かな答え 』 投稿日:2008/02/24(日) 04:16
 
-  「みーやん、いいんだ?」 
 「いいなんて言ってない」 
 「じゃあ、この手はなに?」 
 「いいんじゃなくて。……嫌じゃないだけ」 
 「わかりにくいね、みーやんは」 
  
  
 言ってみれば大したことはない。 
 何か理由を見つけ出そうとするからおかしくなるのだ。 
  
 桃子のしたいようにさせる。 
 それが嫌じゃないから受け入れる。 
 それだけでいい。 
 理由をこじつける必要はない。 
  
  
 桃子の手が肩に伸びてきて、雅はベッドへ押し倒される。 
 唇が頬に触れる。 
 桃子の手がパジャマの裾を捲り上げた。 
 脇腹の上を指先が這う。 
 首筋を舐めていた唇が止まって、桃子が顔を上げた。 
  
  
   
- 614 名前:『 不確かな答え 』 投稿日:2008/02/24(日) 04:17
 
-  「ねえ、みーやん。こういうの嬉しい?」 
 「嬉しいわけない」 
  
  
 愛想の欠片もない声で雅は答えた。 
 桃子に鼻を親指と人差し指で摘まれる。 
 雅は眉間に皺を寄せて桃子を睨んだ。 
  
  
 「ほんと、面白いこと言わないよね」 
  
  
 ぼそっと呟いた桃子の手を雅は片手で払い除ける。 
 不機嫌そうにしている雅を見ていることが楽しいのか、言葉とは裏腹に桃子の顔には楽しげな表情が浮かんでいた。 
  
  
   
- 615 名前:『 不確かな答え 』 投稿日:2008/02/24(日) 04:19
 
-  「もも、面白そうな顔してるじゃん」 
 「そう見える?」 
 「見えるよ。だから、うちはもものことやなんだ」 
 「そんなにやなの?」 
 「……うちが嬉しいとか嫌とか。何考えてるか気になる?」 
 「別に。ただ聞いてみただけ。ももは面白ければそれでいいから」 
  
  
 桃子の顔が真顔に戻る。 
 唇の上にキスが落とされて、ボタンが外される。 
 雅がふと窓を見ると、暗い空に光るネオンが見えた。 
 カーテンが半分開いたままだった。 
  
  
 「カーテン、ちゃんと閉めてよ」 
  
  
 低い声でそう言ってから、雅は桃子の腕を押した。 
 桃子が雅の上から身体を起こす。 
 面倒臭そうに前髪をかき上げてから、桃子がルームシューズを履く。 
 そしてカーテンを閉めると、照明を落とした。 
  
  
  
  
   
- 616 名前:『 不確かな答え 』 投稿日:2008/02/24(日) 04:19
 
-   
  
  
 『 不確かな答え 』 
  
  
  
 - END -  
- 617 名前:Z 投稿日:2008/02/24(日) 04:19
 
-   
   
- 618 名前:Z 投稿日:2008/02/24(日) 04:23
 
-  森のスレにかかりきりになっていたせいで、こちらの更新が止まってました(´ω`) 
  
 >>603さん 
 ただいまです! 
 ありがとうございます。どちらもがんばります(`・ω・´) 
  
 >>604さん 
 ……桃子がどんどん悪い人に(;´▽`)  
- 619 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/25(月) 01:20
 
-  ももはどんなキャラでも嵌るスゴイ人ですw 
 Buono! になるとももに優しい雅ちゃんに興味深々なこの頃… 
   
- 620 名前:Z 投稿日:2008/02/27(水) 01:44
 
-   
  
  
 『 シングルルーム 』 
  
  
  
 >>605-616 
 『 不確かな答え 』続編  
- 621 名前:『 シングルルーム 』 投稿日:2008/02/27(水) 01:46
 
-  代わり映えのしない日常。 
 毎日はだらだらと続いて、二ヶ月ぐらいあっという間に過ぎてしまう。 
 雅が桃子を受け入れた日から何かが変わったわけでもなく、日々は過ぎ去っていった。 
  
 今まで通り何も変わらない毎日。 
 桃子と同じ部屋になれば一緒のベッドで眠ったし、部屋が違えば一人で眠った。 
 お互いの家を訪ねるようなこともしなかった。 
 雅が桃子と過ごすかどうかは、全てあみだくじの結果次第だ。 
 雅にとってはそれぐらいが丁度良かった。 
 桃子の方へと気持ちが向かっていくことが良いことだと思えない。 
 一定の距離を保っていればおかしなことにはならないだろうという安心感があった。 
  
   
- 622 名前:『 シングルルーム 』 投稿日:2008/02/27(水) 01:49
 
-  桃子が何を考えているのか知らないが、雅に必要以上に近づいてくることはなかったし、雅のほうから近づくこともなかった。 
 当然、桃子の考えを知りたいと思うことはあったが、考えすぎると余計なことばかり気になってしまうから、雅は深くは考えないようにしていた。 
 考えないように、ということは桃子と関係のある二人のことについても当てはまった。 
 もちろん、梨沙子や佐紀のことをまったく考えないと言えば嘘になる。 
 桃子がそのどちらかといる姿を見ると気にはなったが、意識的に思考を遮断した。 
  
 ちょっとした刺激的な遊び。 
 どうせ桃子も好きにやっているのだ。 
 こちらも退屈な毎日を少しばかり変える為に桃子を利用しているだけ。 
  
 そう思うと雅の心が軽くなる。 
 心の底に溜まっていく得体の知れない何かを見ずにすむ。 
 だから雅は、桃子のことが気になって仕方がなくなったときはそう考えるようにしていた。 
  
  
   
- 623 名前:『 シングルルーム 』 投稿日:2008/02/27(水) 01:52
 
-  今日もそうだ。 
 ホテルの部屋に一人でいると普段は思わないようなことまで考えてしまう。 
  
 真夜中過ぎ。 
 照明は付けっぱなし。 
 雅はベッドへ横になり、手足を伸ばして大きめのシングルベッドをいっぱいに使う。 
 桃子がいたらこんな風に広々とベッドを使うことなど出来ない。 
 しかし、ゆったりと空間を使うこと自体は気持ちが良いが、どこか物足りないのも事実だった。 
  
 くじ運が良いのか悪いのか。 
 ここ何回か桃子と同じ部屋にはならなかった。 
 地方での仕事自体も少なかったせいもあって、随分長い間桃子とそういったことをしていない。 
 今日も雅は桃子と違う部屋だ。 
 誰かと相部屋というわけでもなく、シングルルームに一人。 
 気楽と言えば気楽だった。 
 時間が早いうちは他のメンバーの部屋に行ったり、誰かが雅の部屋に来ることもある。 
 だが、眠るような時間になれば各人与えられた部屋に帰り、それ以後はよっぽどのことがない限り訪ねてくることはない。 
 それは桃子も例外ではない。 
 雅が一人部屋になったからといって、桃子が部屋に来たことは今まで一度もない。 
  
  
   
- 624 名前:『 シングルルーム 』 投稿日:2008/02/27(水) 01:55
 
-  ごろごろと身体を転がして移動すると、雅はベッドの上から身体を伸ばして照明のスイッチを押した。 
 部屋の明かりが消えて暗闇に包まれる。 
 身体を起こしてシーツを捲る。 
 作り出した空間に身体を滑り込ませて、雅はシーツにくるまった。 
 頭までシーツの中に潜り込ませると、意図的に忘れようとしていたことが思い出された。 
  
  
 今日、桃子は佐紀と同じ部屋にいる。 
  
  
 何をしているかは考えるまでもない。 
 こんなとき、雅は知らないままならよかったと思う。 
 桃子に余計なことを教えられたせいで、おかしなことを考えるようになった。 
 このところ桃子と同じ部屋にならなかったことも、おかしな思考になる原因の一つだろう。 
 雅はシーツの中でぎゅっと目を瞑る。 
  
  
   
- 625 名前:『 シングルルーム 』 投稿日:2008/02/27(水) 01:57
 
-  佐紀は桃子にどんな風に触れられているのだろう。 
 自分と同じようにか。 
 それともまったく違うのか。 
  
  
 空っぽにしたいと願えば願う程、頭の中に考えたくないようなことが浮かぶ。 
 いつものように思考を遮断してしまうことが出来ない。 
 佐紀のことを頭の中から追い払うと、今度は桃子がその場所を占領した。 
 頭の中で雅に触れてくる桃子の手の動きが再生される。 
 いないはずの桃子の声が聞こえる。 
 閉じた瞼の裏がスクリーンになり、いくつかの記憶がそこへ映し出されていく。 
  
 雅は身体に巻き付いているシーツを払い除ける。 
 身体が熱い。 
 足にまとわりついているシーツが熱をそこに留めようとしているようで気持ちが悪い。 
 雅はシーツ蹴り飛ばしてベッドの端へと追いやった。 
 それでも身体に籠もっている熱は引かず、雅は身体を熱くしている原因を探る。 
  
 ベッドサイドの照明を付けてみる。 
 部屋が少しだけ明るくなった。 
 耳を澄ますとエアコンが空気を吐き出す音が聞こえた。 
  
  
   
- 626 名前:『 シングルルーム 』 投稿日:2008/02/27(水) 01:58
 
-  すっかりその存在を忘れていた。 
 消し忘れたまま眠っていたら喉を壊すところだ。 
  
  
 身体が熱い原因はあれだろう、そう雅は考えてエアコンのスイッチを消す為に立ち上がった。 
 ルームシューズを足に引っかけて、エアコンを消してくる。 
 そして照明をもう一度落とす。 
 雅はベッドの端に腰掛けると、何度か息を吸ったり吐いたりしてみる。 
 だが、どうにも落ち着かない。 
 結局、雅はぐしゃぐしゃになったシーツを引き寄せてもう一度それにくるまってみることにした。 
  
 雅が身体の上にシーツを引き寄せると、はね除けていたせいか少しシーツが冷たくなっていた。 
 火照った身体に心地良い。 
 だが、熱は引きそうになかった。 
 風邪でもないのに身体が熱い理由。 
 それは雅がついさっき頭の中で考えていたこと以外にない 
  
  
  
   
- 627 名前:『 シングルルーム 』 投稿日:2008/02/27(水) 01:58
 
-   
 これはもものせいだ。 
  
  
  
   
- 628 名前:『 シングルルーム 』 投稿日:2008/02/27(水) 01:59
 
-  言い訳のように考えてから、雅は自分の身体に手を這わせる。 
 パジャマのボタンをいくつか外してから桃子がいつもするように、その手の動きを思い出してトレースしていく。 
 肌に触れているのは自分の手のはずなのに、何だか変な気分になる。 
  
 やけにスムーズに動く手に雅の呼吸が荒くなっていく。 
 誰かが聞いているわけでもないのに思わず唇を噛む。 
 胸に手を置いて、いつも桃子がどうやって触っているかを考えた。 
 指が自然に動く。 
 声が出そうになって、雅は慌てて手を離した。 
  
   
- 629 名前:『 シングルルーム 』 投稿日:2008/02/27(水) 02:01
 
-  肋骨の下辺りに手を置くと、腹筋が上下しているのがわかった。 
 呼吸の早さを手で感じ取りながら雅は指先を進めていく。 
 パジャマのズボンの中に手を入れる。 
 足の間に手を滑らせて下着の上からそっと触れてみると、そこは布の上からでもわかる程に濡れていた。 
 指に力を入れて軽く押してみると腰がびくんと跳ねて、そんな反応をした自分の身体に雅は驚く。 
 触れているのは自分の手で桃子の手ではない。 
 それなのにまるで桃子に触られた時のように身体が動く。 
  
 身体に張り付いている布を剥がすように、雅はゆっくりと指先を下着の中に入れてみる。 
 布の上から触った部分に今度は直接触れた。 
  
  
   
- 630 名前:『 シングルルーム 』 投稿日:2008/02/27(水) 02:03
 
-  「はあっ、んっ」 
  
  
 声を噛み殺す間もなく、触れただけで声が出た。 
 ゆるゆると指を這わせていると、浅くなっていく呼吸音が耳について気になった。 
 指先で硬くなったそこに触れ続けていると、湿った音が足の間から聞こえてくる。 
 その音を聞いていると、雅は酷くやましいことをしている気がして仕方がない。 
 だが、もうやめよう、そう思っているのに手の動きは止まらなかった。 
  
 聞こえてくる音と頭の中にいる桃子。 
 その両方が雅の身体を浸食していく。 
 ぬるぬるとした液体が指を汚し、無意識のうちに指先が身体の奥を求めて動き出す。 
 手の動きに任せ、逆らうことなく雅は身体の中へ指先を潜らせようとする。 
 だがその時、部屋に雅が発する音以外の音が響いた。 
 聞こえてくる音に雅の身体が硬くなる。 
  
  
   
- 631 名前:『 シングルルーム 』 投稿日:2008/02/27(水) 02:05
 
-  コンッコンッ。 
  
  
 乾いた音が何度も聞こえてくる。 
 落ち着いて聞くと、それはノックの音で部屋の外に誰かがいるのだとわかった。 
 雅は今まで触れていた場所から手を離して飛び起きる。 
  
  
 こんな真夜中に誰だ。 
  
  
 非常識な訪問者の為にドアを開ける義務はない。 
 ドアの前にいる人物はどうせ大した用事でもないだろうと考えて、雅はこのままやり過ごそうと思った。 
 だが、ノックの音は止まない。 
 ノックの音自体は小さな音だが、鳴り続ければ隣の部屋にも迷惑がかかる気がする。 
 そう思うと無視し続けるわけにはいかなかった。 
 それに今さら、先程の続きをする気にもなれない。 
  
   
- 632 名前:『 シングルルーム 』 投稿日:2008/02/27(水) 02:06
 
-  雅は指の汚れを拭き取るとルームシューズを履いた。 
 ベッドサイドの明かりを付け、ドアまで歩く。 
 その間も断続的にノックの音が部屋に響いていた。 
 真夜中の訪問者が誰なのかを確かめる為に、ドアスコープから外の様子を窺う。 
 顔を近づけてドアにある穴を覗くと、雅の目にドアスコープ特有の歪んだ風景が映る。 
  
 歪んだ廊下。 
 そしてそこに立っている歪んで見える真夜中の訪問者。 
  
 それは雅が今、一番会いたくない人物だった。 
  
  
  
  
   
- 633 名前:『 シングルルーム 』 投稿日:2008/02/27(水) 02:06
 
-   
  
  
 『 シングルルーム 』 
  
  
  
 - END -  
- 634 名前:Z 投稿日:2008/02/27(水) 02:07
 
-   
   
- 635 名前:Z 投稿日:2008/02/27(水) 02:09
 
-  >>619さん 
 書いていても桃子は動かしやすいですw 
 Buono!の雅は、今までと違った対応を桃子にするので面白いですねw  
- 636 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/28(木) 00:40
 
-  執着しているのはどっちか? 
 ももに恋愛感情があるのか? 
 先が楽しみです  
- 637 名前:Z 投稿日:2008/03/02(日) 02:28
 
-   
  
  
 『 スイーツな関係 』 
  
 Act1 − 愛理 − 
  
  
  
   
- 638 名前:Act1 − 愛理 − 投稿日:2008/03/02(日) 02:34
 
-  楽屋が広いと思ったことは数えるほどしかなかった。 
 愛理が所属するグループの人数は七人。 
 七人もの人間が同じ室内にいれば、楽屋という限られたスペースは広いというより狭いという言葉のほうがしっくりとくる。 
 けれど、今日はいつもとは違う。 
 楽屋が広く感じる。 
 何故なら、楽屋に入るメンバーの数は多くて三人。 
 それは愛理が所属する新しいユニットの人数だった。 
 そして今、楽屋の中にいる人間は二人。 
 愛理と、もう一人は同じユニットで活動をしている雅だ。 
 もう一人のメンバーである桃子は撮影中で楽屋にはいないかった。 
  
 少人数のユニットということもあって、誰かと二人きりになることは珍しいことではない。 
 だが、二人きりというそう珍しくもない状況に愛理の胸が高鳴る。 
 雅と二人。 
 それは愛理の心臓の動きを早めるには十分な理由だった。 
  
  
   
- 639 名前:Act1 − 愛理 − 投稿日:2008/03/02(日) 02:36
 
-  「みやってさ、ももと仲良いよね」 
  
  
 愛理は鏡の前に座って髪を触っている雅に話しかけた。 
 いや、話しかけたというよりは、ずっと心の中にあったが口に出来なかった言葉が飛び出した。 
 桃子が不在だからそんなことを口にしてしまったのかもしれない。 
  
 鏡から少し離れた場所に座っていた愛理は、座っている椅子の向きを変えて鏡の中の雅を見る。 
 髪型が決まらないのか、鏡に映っている雅は難しい顔をしていた。 
  
  
 「同じグループだし」 
 「でも、ここまで仲が良いって知らなかった」 
 「そんなに仲良さそうに見える?」 
  
  
 雅が手を止め、鏡越しに愛理を見た。 
 愛理は座っている椅子の背に体重をかけて椅子の脚を浮かせる。 
 そしてゆらゆらと椅子を動かしながら、ゆっくりと勿体を付けて言った。 
  
  
   
- 640 名前:Act1 − 愛理 − 投稿日:2008/03/02(日) 02:40
 
-  「見える」 
  
  
 椅子の脚が床についてガタンと音を鳴らす。 
 その音に驚いたのか、雅の肩がびくりと震えた。 
  
  
 幼い頃。 
 まだ右も左もわからないような子供時代、雅と一緒のユニットになったことがあった。 
 あの頃はまだ愛理の方が雅に近かったはずだ。 
 それなのに、今は自分よりも桃子の方が雅の近くにいるような気がする。 
  
 同じユニットで活動するまで気がつかなかった事実。 
 桃子と一緒にいる雅を見続けて愛理が知ったことは、誰よりも雅の近くにいたい、という我が儘に近い気持ちだった。 
 雅と一緒のユニットにならなければ。 
 桃子がいなければ。 
 きっと自分の気持ちに気がつくこともなかった。 
  
 おかげで厄介なことになったと愛理は思う。 
 気づかされた気持ちは無視することも出来ず、日増しに大きくなっていく。 
 それと同時に見えなくても良いものが見えてくる。 
 それらをどうすればいいのか考えるのも面倒だった。 
  
  
   
- 641 名前:Act1 − 愛理 − 投稿日:2008/03/02(日) 02:44
 
-  「もも、いいなあ。あたしもみやと同じグループがよかった」 
  
  
 違う場所に雅がいることに不満はない。 
 桃子が羨ましくてそう言ってみただけだ。 
  
 今、所属しているグループは居心地が良いし、その仲間達とずっと一緒にいたいと思える。 
 だが、雅に対する想いはそれとはまた違う。 
 だから愛理はこのユニットが好きで、同時に嫌いでもあるのだ。 
 二人きりになったぐらいで落ち着かなくなる心臓。 
 それに気がつかない雅。 
 その全てが好きで嫌いだ。 
 今も雅は言葉に込められた意味に気づこうとしない。 
 愛理はそんな雅に対してどう接すればいいのかわからない。 
 気がつかせるつもりはないが、気づいて欲しいなどという矛盾した思いを持て余すことしか出来なかった。 
  
  
 「今、一緒だしいいじゃん」 
 「そうだけど、同じグループならもっと一緒にいられるし」 
 「一緒にいても面白いことないよ」 
  
  
   
- 642 名前:Act1 − 愛理 − 投稿日:2008/03/02(日) 02:45
 
-  鏡の中の雅が下を向く。 
 雅の指先が髪先を触る。 
 鏡に映る雅は何故か自信がなさそうに見えた。 
  
  
 珍しい。 
  
  
 それは雅が桃子と一緒にいるときに時々見せる顔で、愛理と二人きりの時にこういった表情をすることは少ない。 
 何が雅からこの表情を引き出したのかはわからない。 
 だが、理由はどうあれ桃子にではなく、自分にこうした顔を見せてくれることが嬉しかった。 
  
  
 「面白そうだと思うよ。いつももも、楽しそうだし」 
 「ももは愛理といるときだって楽しそうじゃん」 
 「そう見える?」 
 「見えるよ」 
  
  
   
- 643 名前:Act1 − 愛理 − 投稿日:2008/03/02(日) 02:47
 
-  今度は自信満々といった表情で雅が答えた。 
 その様子に愛理は小さくため息をつく。 
  
 桃子は確かに雅といるときだけでなく、誰と一緒にいても楽しそうだ。 
 だが、雅と一緒にいるときは特別楽しそうに見える。 
 それは見間違いではない。 
 愛理が雅を見ている間に目に入ってきたもの。 
 それが普段とは違う桃子だ。 
  
 雅は気づいていない。 
 桃子が雅をどう想っているか。 
 知ろうともしていない。 
  
 そんな雅の姿を見ていると、自分が雅にどう思われているのかわかる。 
 桃子の名前を自分の名前に変えてもまったく変わらない。 
 雅は何も知らないし、知ろうとしない。 
  
  
   
- 644 名前:Act1 − 愛理 − 投稿日:2008/03/02(日) 02:48
 
-  「あー。もも、可哀想」 
 「え?」 
  
  
 本心ではないが、口から出任せを言っているわけでもなかった。 
 桃子のことは可哀想だと思う。 
 だが、愛理には他の人間に構っている余裕はない。 
 自分の中にある雅への気持ちをどうすればよいのか、それを考えるだけで手一杯だ。 
 だから、今の言葉はどちらかと言えば愛理自身に向けた言葉だった。 
  
 愛理は二度目のため息をつきそうになって、息を吸い込んだ。 
 そして椅子ごと雅に近づく。 
 椅子が耳障りな音を立てた。 
  
  
 「あたし、もっとずっと一緒がいいなあ」 
  
  
 近づいてきた愛理に雅がくるっと振り返った。 
 雅の手が愛理に向かって伸びてくる。 
 聞き分けのない子供をあやすように頭を軽く撫でられた。 
  
  
   
- 645 名前:Act1 − 愛理 − 投稿日:2008/03/02(日) 02:49
 
-  雅の中にいる自分はまだ子供のままなのだろうか。 
 あの頃のまま、成長していないのだろうか。 
  
  
 撫でてくる雅の手は温かいが、優しさ以外のものは感じ取れない。 
 そしてそれ以上のものを込めるつもりもないようだった。 
  
  
 「みや、あたしのこと子供だと思ってるでしょ?」 
  
  
 愛理は頭を撫でる雅の手を払い除ける。 
 雅が驚いた顔をして、それから笑いながら言った。 
  
  
 「大きくなったねえ、愛理」 
 「成長したの、身長だけじゃないんだよ」 
 「他にはどこが成長したの?」 
 「いろいろ」 
  
  
   
- 646 名前:Act1 − 愛理 − 投稿日:2008/03/02(日) 02:51
 
-  愛理をじっと見つめてから、雅が「へー」と答えた。 
 何かわかったのか、結局わからなかったのか。 
 雅はそれ以上何も言わなかった。 
  
 愛理は椅子から立ち上がり、雅が座っている椅子の後ろに立つ。 
 雅の肩に手を置いて、愛理の方を向いている身体を鏡の方へと戻す。 
 だが、それが不満なのか雅が身体の向きを変えようとする。 
 愛理は振り向こうとする雅の身体を押さえると、鏡の中の雅に向かって話しかけた。 
  
  
 「あたしと一緒にいるのやだ?」 
 「やじゃないよ」 
 「ほんと?」 
 「うん」 
 「もっともっと一緒がいいって思ってくれる?」 
 「なんで?」 
 「何ででも。……一緒にいたらさ、こんなこといっぱい出来るじゃん」 
  
  
 背中から雅を抱きしめる。 
 愛理の心臓の動きが速くなる。 
 けれど、雅は何も変わらない。 
  
 抱きつくぐらいのことはよくあるスキンシップの一環で、それは驚くようなことではない。 
 当然、雅も抱きつかれたぐらいでは驚かない。 
 雅が振り向くことを諦めて、愛理の腕の中でくすくすと笑い始める。 
  
  
   
- 647 名前:Act1 − 愛理 − 投稿日:2008/03/02(日) 02:53
 
-  「もっと抱きつきたいってこと?」 
 「うん。もっと」 
  
  
 鏡の中の雅は笑顔のままだ。 
 平然と愛理を見ている。 
  
  
 「もっとって?」 
  
  
 愛理の言葉の意味を確かめるように雅が言った。 
 腕の中で雅が上を向く。 
 至近距離で目があった。 
 愛理と目があっても雅の表情は変わらず、いつもと同じだった。 
  
  
 何かをするつもりがあったわけではない。 
 どうにか出来るとも思っていない。 
 雅が何も知らないことは知っている。 
 そして知ったところでどうにかしてくれるとも思えない。 
 雅を変えるつもりはなかった。 
 だから愛理自身、その唐突な欲求に戸惑った。 
  
  
   
- 648 名前:Act1 − 愛理 − 投稿日:2008/03/02(日) 02:54
 
-  雅の澄ました顔を崩してみたい。 
  
  
 その欲求に逆らえない。 
 雅の首にかかっている髪を手に取る。 
 隠れていた首筋が鏡に映った。 
 愛理は雅の首にそっと顔を埋めて唇を押しつける。 
 そして唇を軽く開いて、雅の肌に吸い付いた。 
  
  
 「なっ!?なにすんのっ」 
  
  
 愛理の耳元で雅の声が聞こえた。 
 雅が愛理の腕の中で身体を強ばらせる。 
 慌てたような声で雅がもう笑ってはいないことがわかった。 
  
  
   
- 649 名前:Act1 − 愛理 − 投稿日:2008/03/02(日) 02:56
 
-  きっといつもとは違う顔をしている。 
  
  
 首筋に顔を埋めている愛理からは雅の顔が見えない。 
 それを見ることが出来ないことを残念だと愛理は思う。 
 腕に力を込めると、雅が愛理から離れようと身体を捩った。 
 愛理は唇を一度離して、今度は音を立てて同じ場所へキスをした。 
  
 雅の首筋から顔を上げる。 
 唇を押し当てた場所を見ると、そこだけ不自然に赤く染まっていた。 
 愛理が手にしていた雅の髪をあるべき場所に戻すと、その跡は髪に隠れて見えなくなった。 
  
  
 「どういうつもり?」 
  
  
 雅が愛理の唇が触れた部分を手で押さえながら言った。 
 雅の低い声が楽屋に響く。 
 鏡の中の不機嫌そうな雅と目があった。 
  
  
   
- 650 名前:Act1 − 愛理 − 投稿日:2008/03/02(日) 02:58
 
-  「ももにわかるように、かな」 
  
  
 今考えた理由を雅に告げる。 
 だが、間違った答えでもなかった。 
  
 唐突な欲求はきっと三人の関係を変えるきっかけが欲しかったから。 
 桃子の方へ行こうとする雅を自分の方へと引き寄せる。 
 雅を誰かに持って行かれたくない。 
  
  
 「なにそれ」 
 「みやは知らないんだよね?」 
 「なにを?」 
 「やっぱり知らないんだ。なら、教えない」 
 「教えてよ」 
 「あたし、自分に不利になるようなこと言うほど馬鹿じゃないから」 
  
  
 抱きしめていた雅を解放する。 
 雅が待っていたとばかりに愛理の方を振り返った。 
 雅の手は愛理の唇が触れた場所を押さえたままだった。 
  
  
   
- 651 名前:Act1 − 愛理 − 投稿日:2008/03/02(日) 03:01
 
-  「……あたしが誰を好きか知ってる?」 
 「知らないよ、そんなの」 
 「そんなだから、こういうことされるんだよ」 
  
  
 愛理は指先で雅の額をつついた。 
 雅は相変わらず不機嫌そうな表情だった。 
  
  
 今みたいなことをされて、本当に気がついていないのなら鈍感などというレベルではない。 
 知らないふりをしているようには見えない。 
 そして知らないふりが出来るほど器用ではないと知っていた。 
 雅のそんなところが愛理は嫌なのだ。 
 その不器用さが人を傷つけると知らない。 
 だが、そんな雅だからこそ好きになったのだろう。 
  
  
 言葉にすることは簡単だ。 
 けれど、好きだと気がつかせたところで良い返事がもらえるとは思えない。 
 自分が大人だとは思わないが、雅よりも物事がわかっているつもりだ。 
  
  
   
- 652 名前:Act1 − 愛理 − 投稿日:2008/03/02(日) 03:03
 
-  駆け引きが大事。 
  
  
 雅を好きなのは自分だけではない。 
 ライバルは面倒な相手で、大人しく引き下がってくれるとは思えなかった。 
 それどころか、すぐに愛理が何をしたか気づいて邪魔をしにくるはずだ。 
 どうすべきか迷う自分がまだいる。 
 だが、賽は投げられた。 
 投げたのは自分だ。 
  
 子供の頃とは違う。 
 穏やかな関係を変えるきっかけを作ったのは自分なのだ。 
 相手が誰であれ諦めるつもりもない。 
  
 未来はわからない。 
 決まっていない未来には誰にも平等にチャンスがあるはずだ。 
 スタートラインを蹴って愛理は駆けだす。 
 誰にも負けるつもりはなかった。 
  
  
  
  
   
- 653 名前:Z 投稿日:2008/03/02(日) 03:04
 
-   
   
- 654 名前:Z 投稿日:2008/03/02(日) 03:04
 
-  本日の更新終了です。  
   
- 655 名前:Z 投稿日:2008/03/02(日) 03:12
 
-  突然、新シリーズが始まりました(;´▽`) 
 しばらくお付き合い頂ければ、と思います。 
  
 >>636さん 
 これからどうなるどうする雅ちゃん!みたいなところなんですが。 
 ……急に新シリーズが始まりました('-';) 
 もちろん『 非常識な日常 』シリーズの続きも書いていますので、しばらくお待ち頂ければと思います。 
   
- 656 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/03(月) 00:01
 
-  うわーどうしよう 
 どっちも賢いから面白そうですね  
- 657 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/03(月) 00:47
 
-  こっこれは面白そう! 
   
- 658 名前:名無し 投稿日:2008/03/03(月) 00:56
 
-  がんばれ愛理!ヤツに負けるな!w 
 
- 659 名前:名無飼育さん  投稿日:2008/03/03(月) 01:47
 
-  桃子の対応が気になる。 
 雅は罪な女だな。鈍感も罪...(笑)  
- 660 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/03(月) 23:29
 
-  普段見れないような大胆な愛理にドキドキしました 
 
- 661 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/04(火) 00:30
 
-  いいよーいいよー! 
 雅総モテ構図も、本人気付かずとかもったいなさすぎるよ!びちゃん! 
  
 いやはや。鈴木さんも嗣永さんも可哀想な気がします^^;  
- 662 名前:『 スイーツな関係 』 投稿日:2008/03/11(火) 00:07
 
-   
  
  
 Act2 − 桃子 − 
  
  
  
   
- 663 名前:Act2 − 桃子 − 投稿日:2008/03/11(火) 00:11
 
-  「次、愛理だよ」 
  
  
 桃子は楽屋の扉を開けると、愛理に声をかけた。 
 すると一瞬の間があってから、返事ではなく意味ありげな笑みが愛理から返ってきた。 
 桃子には笑いかけられる意味がわからない。 
 だが、どうしたの、と桃子が尋ねる前に「行ってくる」という声とともに愛理が楽屋を飛び出した。 
 撮影をしている間に楽屋で何かあったのだろうかと考えてみるが、さすがに愛理の様子からだけでは何が起こったのか予想することが出来ない。 
 雅に聞けばわかるだろうかと、鏡の前に座っている雅を見るとこちらは随分と不機嫌そうだった。 
  
  
 「みや、何かあったの?」 
 「何もない」 
  
  
 雅に声をかけると、見た目と同じ不機嫌な声が返ってきた。 
 桃子は鏡の中の雅を見るが、雅は鏡の中からも視線をあわせようとしない。 
  
  
   
- 664 名前:Act2 − 桃子 − 投稿日:2008/03/11(火) 00:13
 
-  愛理にとっては桃子に笑いかけたくなるようなこと。 
 そして、雅にとっては無関係であろう桃子に不機嫌な顔を見せるほど楽しくないこと。 
  
  
 桃子がいない間にそんな何かが起こった。 
 それは間違いない。 
 だが、手掛かりが少なすぎてそれ以上のことはわかりそうになかった。 
  
 不機嫌な雅へさらに声をかけることは躊躇われて、桃子の中にある疑問は疑問のまま解決しそうにない。 
 桃子は鏡の中の雅から、本物の雅へと視線を移す。 
 雅の背中をじっと見る。 
 けれど、どれだけ見ても不機嫌だということ以外はわからなかった。 
  
 背中を見ていても状況は変わらず、桃子は雅の隣へと移動する。 
 雅の隣へ腰掛けると名前を呼ばれた。 
  
  
   
- 665 名前:Act2 − 桃子 − 投稿日:2008/03/11(火) 00:16
 
-  「もも」 
 「なに?」 
 「なんでもない」 
  
  
 雅の声は、先程よりは少し柔らかなものに聞こえた。 
 桃子は身体ごと雅の方を向いて答えるが、雅はすぐに桃子を呼んだことをなかったことにしてしまう。 
 だが、雅の顔は何か言いたげで次の言葉を探しているようだった。 
  
  
 「何なの?」 
 「わかんない」 
 「へ?」 
 「何を聞きたいのかわかんない」 
  
  
 桃子は雅から新しい言葉を引き出そうとしてみる。 
 しかし、雅から返ってきた言葉は尋ねた桃子にもわからない、そして口にした雅本人にもわからないであろうものだった。 
  
  
   
- 666 名前:Act2 − 桃子 − 投稿日:2008/03/11(火) 00:18
 
-  「なにそれ?」 
 「わかんないからわかんないって言ってるんじゃんっ」 
  
  
 雅から半ば八つ当たり気味の言葉が返ってくる。 
 桃子はそれを受け流すと、小さくため息をついた。 
  
  
 雅は何かを考えていて。 
 でも、それが何かわからないから不機嫌になっている。 
  
  
   
- 667 名前:Act2 − 桃子 − 投稿日:2008/03/11(火) 00:22
 
-  不機嫌な雅と意味ありげな笑みを残した愛理。 
 楽屋の中で何が起こったのか何となくだが想像がつくような気がした。 
 そしてそれは愛理が告白をした、というものではないだろうとも思った。 
  
 愛理が雅を好きだということはとっくに気がついていた。 
 だが、桃子がいない間に愛理が雅に告白をしたのだとしても、好きだと言われた雅が不機嫌になる理由がわからないし、愛理を受け入れたのならなおのこと雅のこの機嫌の悪さはおかしい。 
 そして断られたのなら、愛理があんな風に笑う説明が付かない。 
 そこからわかること。 
 それは雅が嫌がるような、それでいて愛理にとっては楽しいことを愛理がしたということだ。 
  
 桃子は雅を観察する。 
 愛理が何をしたのかを見極める為に、雅の身体を頭の上から確かめていく。 
 髪は雅が整えていたせいか、乱れてはいなかった。 
 顔は不満げに眉が寄せられている以外はいつもと何も変わらない。 
 視線を下へと移動させる。 
 口元を見て、顎から首筋へ。 
 雅の首筋は長い髪で隠れていた。 
 特に何かを感じたわけではない。 
 桃子は何とは無しに雅へ少し近寄って首元を覗き込んでみる。 
 するとそこには見慣れない赤い何かがついていた。 
  
  
   
- 668 名前:Act2 − 桃子 − 投稿日:2008/03/11(火) 00:23
 
-  「みや、そこ」 
 「ん?」 
 「なんでもない」 
  
  
 首筋。 
 小さな赤い跡。 
 桃子はそれが何なのか尋ねようとして止めた。 
  
  
 愛理が楽しそうな理由。 
 そして雅が不機嫌な理由。 
  
  
 それが何なのか、その赤い跡からはっきりとわかった。 
 桃子がいない間に愛理は雅に手を出したのだ。 
  
  
   
- 669 名前:Act2 − 桃子 − 投稿日:2008/03/11(火) 00:24
 
-  自分の方に分があると思っている。 
 自分の方がリードしていると思っている。 
  
 口に出したことはないが、桃子は雅のことが好きだった。 
 いつかそれを雅に告げようと思っていた。 
 見た目とは違い恋愛ごとに疎い雅に合わせて、いつか雅がもう少し大人になったら伝えるつもりだった。 
 だから、桃子には今すぐに想いを伝えるつもりなど欠片もなかった。 
  
 だが、愛理が行動に出た。 
 それを放っておけばこの先どうなるかわからない。 
 リードしていると言っても、それはきっとほんの少しの距離だ。 
 愛理がいない間に進むことが出来た距離はそう多くはない。 
  
  
   
- 670 名前:Act2 − 桃子 − 投稿日:2008/03/11(火) 00:28
 
-  同じユニットで活動するようになって、雅は桃子を頼ってくるようになった。 
 それは今までの雅からは考えられないことで、桃子はそんなことが単純に嬉しかった。 
 このユニットが組まれる前までは、頼ってくるどころか下に見られていたような気さえしていたから尚更だ。 
 実際はそうではないのかもしれないが、そんな風に思えるような態度を雅はよくとっていた。 
 それがどういう心境の変化か、雅がやけに懐いてくるようになった。 
  
 急速に近づいた距離。 
 それは同じ速度で愛理が雅へ近づくことが出来ると言っているように思える。 
 子供の頃、仲が良かった二人だ。 
 愛理がその気になれば、桃子を追い越すことなど簡単に出来そうな気がした。 
  
  
   
- 671 名前:Act2 − 桃子 − 投稿日:2008/03/11(火) 00:31
 
-  「愛理さ、みやに何か言ってた?」 
 「何かって?」 
 「何かって、何かだよ」 
 「意味わかんない」 
 「なら、別にいい」 
  
  
 黙って見ているのは性に合わない。 
 もう少し縋ってくる雅を見ていたかったが仕方がない。 
  
 不機嫌な顔から不思議そうな顔に変わった雅が桃子を見ていた。 
 桃子は雅の手を取る。 
 感触を確かめるように手の中で雅の手を遊ばせる。 
 大人びた顔つきからは想像出来ないぷにっとした手が心地良い。 
  
  
 「みやの手ってふにふにしてるよね」 
  
  
 手の平を上へ向けて雅の手首を掴む。 
 桃子はその手に顔を寄せた。 
 そして雅の手の平にキスをした。 
  
  
   
- 672 名前:Act2 − 桃子 − 投稿日:2008/03/11(火) 00:33
 
-  「うわっ」 
  
  
 雅が椅子をガタンと鳴らした。 
 身体ごと桃子から逃げようとするが、桃子は雅の手を離すつもりはない。 
  
  
 「何もそんなに慌てなくても」 
 「ももが変なことするからっ」 
  
  
 愛理がしたことよりは常識の範囲内だと桃子は思った。 
 だが、雅はそうは考えなかったようで不思議そうな顔から不機嫌な顔に戻っていた。 
  
 どうせ不機嫌になるのだったら、手の平などではなくもっと別の場所にキスするべきだった。 
 そんなことを桃子は考えたが、今さらどうしようもなかった。 
 雅は警戒して、桃子が少し動くだけで過剰といえるほどの反応をする。 
 これ以上何か出来る雰囲気ではなかった。 
  
  
   
- 673 名前:Act2 − 桃子 − 投稿日:2008/03/11(火) 00:34
 
-  「もも、愛理と何かあった?」 
  
  
 低い声で雅が言った。 
 身体は桃子から逃げたままだ。 
  
  
 「愛理と何かあったのみやのほうでしょ」 
  
  
 桃子の言葉に反応して雅の頬が染まる。 
 わかりやすい雅の表情に桃子は笑い出しそうになる。 
 こういう反応を返すところが雅の面白いところで、桃子は雅を見ていると飽きない。 
 見た目と中身のギャップが激しくて、そんなところが雅の魅力の一つだと思う。 
  
  
 「愛理と何があったのか大体わかるけど。もも、譲るつもりないからね」 
 「譲るってなに?」 
 「みやはわかんなくていいよ」 
  
  
   
- 674 名前:Act2 − 桃子 − 投稿日:2008/03/11(火) 00:35
 
-  愛理よりも先に雅を好きになった。 
 同じグループで活動をして、雅をずっと見てきた。 
 先に好きになった方が勝ちだと言うつもりはないが、愛理に負けるつもりはない。 
  
  
 今はわからなくていい。 
 雅が知るのはもう少し先でいい。 
  
  
 それよりも先にわからせなければならない相手がいる。 
 今、楽屋にいないその相手。 
 桃子は愛理に何を言おうかと考えた。 
  
  
  
  
   
- 675 名前:Z 投稿日:2008/03/11(火) 00:35
 
-   
   
- 676 名前:Z 投稿日:2008/03/11(火) 00:36
 
-  本日の更新終了です。 
 
- 677 名前:Z 投稿日:2008/03/11(火) 00:43
 
-  >>656さん 
 どっちも賢そうですよね! 
 問題は書いている人が賢くないことですw 
  
 >>657さん 
 面白くなるようにがんばります(`・ω・´) 
  
 >>658 名無しさん 
 ヤツが登場しましたw 
  
 >>659さん 
 鈍すぎるのは罪ですよねw 
  
 >>660さん 
 たまには大胆愛理で! 
  
 >>661さん 
 みやびちゃんのところにはもったいないオバケが出そうですね!w 
 可哀想な二人にはがんばって頂きたいと思います(´▽`) 
   
- 678 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/11(火) 23:50
 
-  ももの対抗が軽い感じで、桃子らしいなぁと思いました。 
 次は愛理ともものバトルですかね。w  
 雅は誰に気があるかも気になります。  
- 679 名前:スイーツな関係 投稿日:2008/03/17(月) 02:45
 
-   
  
  
 Act3 − トランプ − 
  
  
  
   
- 680 名前:Act3 − トランプ − 投稿日:2008/03/17(月) 02:48
 
-  テーブルを挟んで愛理の向かい側。 
 そこには難しい顔をした桃子がいた。 
 雅はついさっき愛理と入れ替わるようにして撮影現場へと向かったから、しばらくは戻ってこない。 
 愛理は楽屋の入り口ですれ違った不機嫌そうな雅の顔を思い出した。 
  
 もしも桃子といる間も雅があの表情でいたのだとしたら。 
 不機嫌な雅に気づいた桃子がその理由を詮索したとしたら。 
  
 桃子は愛理と雅の間に何かあったことに気がついたかもしれない 
 いや、気がついたからこそこんな小難しい顔をして座っているのだと愛理は思う。 
  
  
   
- 681 名前:Act3 − トランプ − 投稿日:2008/03/17(月) 02:50
 
-  「愛理」 
  
  
 低い声で桃子に名前を呼ばれる。 
 その声はいつも聞く特徴的な高い声とは違って、威圧感のあるものだった。 
 やっぱり気がついていた、と思った。 
 だが、桃子はそれ以上何も言わない。 
 かわりに鞄の中をがさごそと漁るとトランプを取り出した。 
 そしてケースからカードを取り出し、ジョーカーを愛理に見せる。 
  
  
 「ババ抜きしよう」 
  
  
 先程とは打って変わって脳天気な声で桃子が言った。 
 ジョーカーが桃子の手によってカードの束に戻される。 
  
  
   
- 682 名前:Act3 − トランプ − 投稿日:2008/03/17(月) 02:52
 
-  「二人で?」 
 「うん」 
 「どっちがババ持ってるかすぐわかるじゃん」 
 「じゃあ、じじ抜き」 
 「じじ抜きって、最初にカードを一枚引いて、それがジョーカーのかわりみたいになるんだよね?」 
 「そそ。最初にカード抜く以外はババ抜きと一緒」 
 「って、結局ババ抜きじゃん!」 
 「いーから、いーから」 
  
  
 ジョーカーを抜いたカードをシャッフルしてから、桃子がカードを愛理に差し出す。 
 愛理が渋々その中から一枚のカードを抜き取ると、桃子がもう一度シャッフルをしてカードを配り始めた。 
  
  
 「どれがジョーカーかわからないから、ババ抜きよりは面白いって」 
  
  
   
- 683 名前:Act3 − トランプ − 投稿日:2008/03/17(月) 02:54
 
-  テーブルの隅に隔離された一枚を残し、カードが全て配られる。 
 隔離されたカードとペアになるカードがジョーカーのかわりとして、愛理か桃子の手札の中にあるはずだ。 
  
 じゃんけんをしてからじじ抜きが始まった。 
 さすがに二人しかいないだけあって、カードを引けばそれに対応するカードが手元にある。 
 何度かお互いの手札からカードを引き抜く作業を繰り返していると、手札と揃わないカードが愛理の元にやってきた。 
  
 ハートのエース。 
  
 それがジョーカーのかわりだった。 
 愛理はペアになることのないカードを手札にくわえる。 
 その様子を見て桃子が器用に片方の眉を上げた。 
  
  
   
- 684 名前:Act3 − トランプ − 投稿日:2008/03/17(月) 02:56
 
-  「愛理、みやになにした?」 
  
  
 桃子が愛理の手元からカードを一枚引く。 
 そして手札の中から一枚と愛理から引いたカードを場に捨てた。 
 愛理の手元にはハートのエースがまだ残っている。 
  
 愛理はテーブルの片隅に目をやる。 
 手元にあるハートのエースがジョーカーのかわりだとすると、隔離されているカードはダイヤのエースだ。 
 ハートのエースとしかペアになれない一枚。 
  
 愛理は手札の中に紛れているハートのエースを指で弾く。 
 それはまるで雅のようだと思った。 
 愛理の手札とも、桃子の手札ともペアになることはない。 
 じじ抜きと違い愛理と桃子にとって雅は必要だが、きっと今のままでは雅が二人のうちどちらかの恋人になるということはないだろう。 
  
 愛理は桃子からカードを引いて、ペアになったカードを場に捨てる。 
 そして桃子へ返事を返した。 
  
  
   
- 685 名前:Act3 − トランプ − 投稿日:2008/03/17(月) 02:58
 
-  「なにもしてない」 
 「ふーん。じゃあ、みやのココについてた跡はなんだろ。愛理、何だと思う?」 
  
  
 桃子が首筋に人差し指を押しつけてから、わざとらしく首を傾げた。 
 声は柔らかなものだったが、目は笑っていない。 
  
  
 「……早い者勝ち」 
  
  
 愛理は手札から一枚引き抜き、桃子に手渡した。 
 カードを押しつけられた桃子は躊躇うことなくそのカードを受け取る。 
 手札と受け取ったカードを見比べてから、桃子が顔を顰めながら言った。 
  
  
 「なるほどね」 
  
  
 桃子が愛理から受け取ったカードを人差し指と親指で摘んでぴらぴらと扇ぐ。 
 そして愛理に見せるように桃子が手にしたカードを表にした。 
  
  
   
- 686 名前:Act3 − トランプ − 投稿日:2008/03/17(月) 03:02
 
-  「これ、みやみたいだと思わない?」 
  
  
 そう言って桃子が笑った。 
 同じ事を考えているのだと思った。 
 桃子がカードを一つの束にして、一番上にハートのエースを乗せてシャッフルする。 
  
  
 「もも達、今やってるじじ抜きみたいにみやがどこにいるのかっていつも探してるのにさ。……まあ、これはみやと違っていらないカードだけどね」 
 「本人、自分がジョーカーだって気づいてないけど」 
 「で、そんな鈍感なジョーカーに気づかせる為の行動の結果は?」 
  
  
 結果がどうなったのかなどわかって聞いているのは明白だった。 
 桃子が笑いを噛み殺している。 
 愛理は桃子の手札から一枚カードを抜き取ると、桃子を軽く睨んだ。 
  
  
 「あれぐらいのことでみやが愛理のものになったりしないよ」 
 「あたしもあれぐらいで、みやがあたしのものになるなんて思ってない」 
  
  
   
- 687 名前:Act3 − トランプ − 投稿日:2008/03/17(月) 03:05
 
-  愛理はペアになったカードを場に捨てる。 
 桃子が愛理の手元からカードを引き抜く。 
 愛理と桃子の手札が減っていく。 
  
  
 「抜け駆け禁止」 
 「そんなこと言いながらもも、抜け駆けするでしょ」 
 「しないよ」 
  
  
 気がつけば愛理の残りカードは一枚になっていた。 
 桃子のカードは二枚。 
 どちらかがハートのエースで、どちらかが愛理の手元のカードとペアになるカードだ。 
  
 愛理は目を細めてカードを見る。 
 細めたところで透視出来るわけでもないが自然にそうなってしまう。 
 カードを睨み付けて数十秒間。 
 たっぷり悩んでから愛理はカードを引いた。 
  
  
   
- 688 名前:Act3 − トランプ − 投稿日:2008/03/17(月) 03:06
 
-  「あ、あたしの勝ち」 
 「えー!?」 
  
  
 愛理の手元からカードが無くなる。 
 愛理は桃子の手元からハートのエースを奪い取ると、テーブルの片隅に置いてあったカードを手に取った。 
 ハートのエースがダイヤのエースとペアになる。 
 このダイヤのエースが自分だったらいいのに、と愛理は思った。 
  
  
 「勝負にも勝ったし、みやはあたしのものってことで」 
 「トランプとみやは別問題」 
  
  
 ハートとダイヤのエースを桃子に見せると、その二枚のカードは桃子に奪い取られた。 
 かき集められたカードの中に二枚のエースが戻される。 
 カードは桃子の手によってまたシャッフルされ、最後はテーブルの上で、とん、と音を立てて揃えられた。 
  
  
   
- 689 名前:Act3 − トランプ − 投稿日:2008/03/17(月) 03:08
 
-  「今からさ、みやを賭けてやらない?」 
 「え?」 
 「今度はみやを最後まで持ってた人が勝ち。で、勝った方がみやを好きに出来るの」 
  
  
 桃子がにやりと笑って、愛理に向かってカードを差し出す。 
 愛理はその中から一枚抜き取ろうとして、手を引っ込めた。 
  
 雅がいない間に雅を賭の対象としてゲームをする。 
  
 それは褒められたことではない。 
 人を賭の対象にするなど間違っている。 
 だが、桃子の提案は魅力的だ。 
 どうせ雅は賭の対象にされても気がつかないだろう。 
 それに愛理と桃子が何をしているかなど、雅が気にするとも思えなかった。 
  
  
   
- 690 名前:Act3 − トランプ − 投稿日:2008/03/17(月) 03:10
 
-  「いいよ。でも、今度はじじ抜きじゃなくて違うのにしない?」 
  
  
 正しいことを選べば雅が手にはいるわけでもない。 
 ならば、面白そうな話に乗るのも悪くない気がした。 
 勝負の結果、雅が愛理や桃子の好きにされてくれるとは思えないが、勝ってしまえば桃子に抜け駆けだの何だの言われることなく雅に近づける。 
 雅の反応はともかく、桃子に邪魔されることがないのはありがたい。 
 きっと桃子も同じ事を考えてのことだろう。 
  
  
 「じゃあ、スピードしよう」 
 「それでいいけど。でも、スピードってどうやるの?」 
  
  
 利害が一致しているだけあって、勝負をすることに決まれば話は早い。 
 スピードの説明は一度聞けばすぐにわかった。 
 手早くカードが分けられて、勝負が始まる。 
 ババ抜きよりも速い速度で手札が減っていく。 
 お互いの手札が残り数枚となり、楽屋が緊迫した空気に包まれる。 
 愛理がカードをテーブルに叩きつけるようにして並べていると、スピードというゲームには似つかわしくないのんびりとした声が背後から聞こえた。 
  
  
   
- 691 名前:Act3 − トランプ − 投稿日:2008/03/17(月) 03:12
 
-  「二人でなにやってんの?」 
  
  
 振り返る必要はなかった。 
 その声は確かめるまでもなく雅の声で、愛理は思わず手を止めてしまう。 
 しまった、と思い振り向くより先に桃子を見ると、愛理と同じように桃子も手を止めていた。 
 一瞬、愛理と桃子の時間が止まる。 
  
  
 「あーあっ!」 
  
  
 少しの沈黙があって、その後に出てきた言葉は同じものだった。 
 そしてその声の種類も同じで、雅を非難するようなものになった。 
  
  
 「あ、あれ?うち、なんかまずいことした?」 
  
  
 愛理の背後から、雅がテーブルの前へと移動する。 
 そして愛理と桃子の間に置かれたテーブルに手を付き、二人の顔とテーブルの上に並べてあるカードを見比べる。 
 愛理が雅を見ると、雅は意味がわからないといった表情をしていた。 
  
  
   
- 692 名前:Act3 − トランプ − 投稿日:2008/03/17(月) 03:13
 
-  「勝負は引き分けね」 
  
  
 桃子が手札をテーブルの上へ投げ出して言った。 
 愛理も同じように手札を投げ出す。 
  
  
 「まあ、そういうことで」 
  
  
 勝負に勝てそうだったのかと言えば微妙なところだった。 
 雅が楽屋に入ってきてくれてよかったと言える。 
 絶対の効力を持つ約束ではないが、負ければ面倒なことになっていた。 
  
 ふう、と愛理は息を吐き出す。 
 肺の中の空気をあらかた吐き出してしまうと、桃子がテーブルの向こうで愛理に向かって手招きをしていた。 
 身を乗り出すと、桃子が愛理の耳元に口を寄せてくる。 
  
  
   
- 693 名前:Act3 − トランプ − 投稿日:2008/03/17(月) 03:14
 
-  「とりあえず抜け駆け禁止ね」 
 「ももこそ、絶対抜け駆けしないでよ」 
 「愛理に言われたくない」 
 「あれはそんな約束してなかったし」 
  
  
 ぼそぼそと雅に聞こえないような音量で会話をする。 
 聞かれたところで雅には何の話かわからないだろうが、何とはなしに小さな声になってしまう。 
 そのまま二人で話し込んでいると、雅が不満げな声で言った。 
  
  
 「うちも仲間に入れてよ!」 
  
  
 雅に肩を掴まれる。 
 左手は愛理、右手は桃子の肩に置かれていた。 
 小声で会話をする二人の間に、中腰になってまで雅が顔を突っ込んでくる。 
 そんな雅に桃子が声をかけた。 
  
  
   
- 694 名前:Act3 − トランプ − 投稿日:2008/03/17(月) 03:16
 
-  「ジョーカーは仲間に入れないんだよ」 
 「えー!?なにそれ」 
  
  
 桃子の言葉に雅が大きな声を上げる。 
 その声があまりに情けなくて、愛理は桃子と一緒に吹き出した。 
 そんな二人を前に、何故笑われるのか理由がわからない雅が憮然とした表情で立っていた。 
  
  
 仲間になりたいわけではない。 
 愛理と桃子がなりたいもの。 
 それは雅の恋人という存在だ。 
  
  
   
- 695 名前:Act3 − トランプ − 投稿日:2008/03/17(月) 03:18
 
-  トランプは引き分けだったが、勝負は始まったばかり。 
 鈍感なジョーカーを手に入れる方法。 
 それは少々強引な方法しか思い浮かばないが仕方がない。 
 抜け駆けだとわからなければ、それは抜け駆けとは言えないはずだ。 
  
 愛理はテーブルの上に重ねられたトランプの中からハートのエースを抜き出す。 
 カードを手に立ち上がると、それを雅の額に押しつけた。 
  
  
 「うわ、なに。愛理」 
 「バキューン!……なんてね」 
 「へ?」 
  
  
 人差し指でカードを押さえて、ハートのエースを撃ち抜く真似をしてみる。 
 愛理が雅の額から指を離すとひらりとカードが床へ落ちて、ハートのエースの下からは顔にいくつものクエスチョンマークを浮かべた雅が現れた。 
  
  
  
  
   
- 696 名前:Z 投稿日:2008/03/17(月) 03:18
 
-   
   
- 697 名前:Z 投稿日:2008/03/17(月) 03:18
 
-  本日の更新終了です。 
 
- 698 名前:Z 投稿日:2008/03/17(月) 03:21
 
-  >>678さん 
 雅はこんな感じでw 
 そして愛理と桃子もがんばってます(´▽`)  
- 699 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/18(火) 20:55
 
-  おお〜DVDのあのシーンはこういうことだったんですか…! 
 
- 700 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/19(水) 00:48
 
-  愛理ってあのぽけぽけキャラをわざとらしく感じさせない所がももより上手っぽく見えるw 
 頑張れよもも!応援してるぞ!  
- 701 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/19(水) 23:57
 
-  やべーみやあいり最高。・゚・(ノД`)・゚・。 
   
- 702 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/21(金) 20:38
 
-  やばっ!!最高です。あいり〜がんばれ!! 
 みやあいりは珍しいんでこの話たまりません。  
- 703 名前:名無飼育さん  投稿日:2008/03/22(土) 11:21
 
-  ももみやの方を応援します。  
 シングルルームの続編も見たいですが。   
- 704 名前:スイーツな関係 投稿日:2008/03/23(日) 01:33
 
-   
  
  
 Act4 − Buon appetito − 
  
  
  
   
- 705 名前:Act4 − Buon appetito − 投稿日:2008/03/23(日) 01:36
 
-  雅。 
 雑誌。 
 ゲーム。 
 チョコレート。 
  
  
 今、楽屋にあって愛理の目に付くものはその四つ。 
 この楽屋にいるべきであるもう一人のメンバー、桃子はスタッフに呼ばれて席を外していた。 
 愛理は何をしようかと考えてから、チョコレートに手を伸ばす。 
 一つずつ包装されている一口大のチョコレートの中から、愛理は二種類のチョコレートを手に取った。 
  
  
 「みや。今、暇?」 
 「暇かなあ」 
  
  
 ソファーにだらしなく座っている雅が気の抜けた返事を愛理へ返した。 
 誰かにメールでも送っているのか、雅は手にした携帯電話を見たまま顔を上げない。 
  
  
   
- 706 名前:Act4 − Buon appetito − 投稿日:2008/03/23(日) 01:39
 
-  「どっちがいい?」 
  
  
 愛理は雅の前に立つと、携帯電話のディスプレイを遮るようにしてチョコレートを差し出した。 
 雅が怪訝そうな顔をして愛理の手の平を見る。 
  
  
 「んー、こっち」 
  
  
 愛理の手の平に乗っている赤と緑、二種類のチョコレートを見比べてから雅が赤を選び取った。 
 そして雅の視線はすぐにチョコレートから携帯電話へ戻る。 
 赤のチョコレートは左手の中でころころと転がされているだけで、雅はチョコレートを口にしようとしない。 
 愛理はそんな雅を見ながら、手の平に残ったチョコレートから緑色の包み紙を剥ぎ取った。 
  
  
   
- 707 名前:Act4 − Buon appetito − 投稿日:2008/03/23(日) 01:44
 
-  「あーん」 
  
  
 ソファーの肘掛けに腰掛けてから、愛理はチョコレートを雅の口に押しつけた。 
 雅の視線が携帯電話から愛理の顔へ移る。 
 何度か愛理の顔とチョコレートを見比べてから雅が口を開いた。 
 愛理は雅の口の中にチョコレートを放り込む。 
 雅がそれを胃の中に収めたことを確認すると、愛理は雅が持っている赤のチョコレートを指差した。 
  
  
 「それ、食べさせて」 
 「はい」 
  
  
 素っ気ない答えとともに赤のチョコレートが愛理の手の平に戻ってくる。 
 雅はすでに愛理を見ていなかった。 
  
  
 「みやに食べさせて欲しいな」 
  
  
 愛理はチョコレートを雅の手の中に戻す。 
 右手に携帯電話、左手にチョコレート。 
 左右を見比べてから、雅が携帯電話をテーブルの上に置いた。 
 雅が「しょうがないなあ」と言って、笑いながらチョコレートの赤い包み紙を剥がす。 
  
  
   
- 708 名前:Act4 − Buon appetito − 投稿日:2008/03/23(日) 01:46
 
-  「愛理、あーん」 
  
  
 言われるままに口を開くと、雅の手がチョコレートを愛理の口元に運んでくる。 
 愛理は雅の指先ごとチョコレートを口にした。 
 指先を柔らかく噛むと雅が手を引こうとしたが、愛理は雅の手首を掴んでそれを阻止する。 
 そして、雅の指先を舐めた。 
  
  
 「みやの手、甘い」 
 「甘いのは手じゃなくて、チョコ。……って、ちょっと愛理っ」 
  
  
 愛理が指先から唇を離すと雅がほっとしたような顔をした。 
 それが気に入らなくて、愛理はもう一度雅の指を口に含む。 
 口の中に広がるチョコレートの甘さと雅の指の感触。 
 舌先で雅の指を確かめるように何度か辿ってから軽く歯を立てると、雅が愛理の額を押した。 
 手の平で押されるままに愛理は雅から離れる。 
 身体を離して雅を見ると、いつか見た不機嫌そうな表情をしていた。 
 愛理は口の中にあるチョコレートを噛んだ。 
  
  
   
- 709 名前:Act4 − Buon appetito − 投稿日:2008/03/23(日) 01:50
 
-  愛理が雅の首筋に跡を付けた日。 
 あれから数週間、表面上は何事もなく過ぎていった。 
 雅も桃子も変わらない。 
 いつもと同じように仕事をこなして、言葉を交わす。 
 それの繰り返しだ。 
  
 最近は週末になると各地でイベントがあり、今日も先週と同じようにイベントで東京から離れていた。 
 もちろんイベントに行ったからといって何も変わらない。 
 だが、何も変わることがないとはいえ、必ず雅に会えるその週末のイベントは愛理にとって楽しい仕事の一つだった。 
 けれど、桃子はもっと雅に会っている。 
 所属するグループが違うのだから仕方がない。 
 焦ったところでどうにもならない、そう思うのだがどうしても気持ちは落ち着かなかった。 
  
 愛理が雅を見ることが出来ない時間、二人で何をしているのか気になる。 
 雅と桃子、二人の間に入ることの出来ない何かを感じることが最近多い。 
 だから、二人のことが気になるのかもしれなかった。 
 実際、三人での仕事中、雅と桃子は愛理が入っていけないような、そんな空気を作り出していることがあった。 
  
   
- 710 名前:Act4 − Buon appetito − 投稿日:2008/03/23(日) 01:51
 
-  気持ちのままに動いても良いことは起こらない。 
 冷静になる必要がある。 
 それがわかっていても、愛理には心を上手くコントロールすることは難しかった。 
 慌てて行動を起こして失敗しても困る。 
 しかし、この状況を放っておくのも不味いような気がした。 
 桃子は一体何をするのか予想がつかない。 
 愛理には一緒にいることの出来ない時間に何が起こっているのか知りようがないのだ。 
 大体、グループが違うというところで愛理は損をしている。 
 愛理が雅と会えない時間に、桃子は容易に雅との距離を詰めることが出来る。 
  
 行動を起こすにしても、もう少し雅の様子を見てからにしたかったが待てそうになかった。 
 強引な手段に出るのは好みではないが仕方がない。 
  
  
   
- 711 名前:Act4 − Buon appetito − 投稿日:2008/03/23(日) 01:54
 
-  愛理は肘掛けから降りてソファーに腰を下ろす。 
 ソファーのクッションが沈むと同時に、雅が何かを察知したのか愛理と距離を取った。 
 イベント用の衣装である丈の短いTシャツは雅が少し動くだけで素肌が見えた。 
 愛理は雅に笑いかけてから、逃げようとする雅の肩を掴む。 
 不機嫌そうだった雅の表情は不審そうなものに変わっていた。 
 その表情に愛理は罪悪感のようなものを覚えて一瞬迷う。 
 しかし、それはほんの短い時間で、愛理は雅の肩を掴み直す。 
 好きだと言わなければ抜け駆けじゃないよね、と言い訳のように心の中で呟いてから雅のTシャツの裾に手をかけた。 
 そして、Tシャツの裾を捲って手を中へと滑り込ませる。 
  
  
 「わっ、ちょっと。変なとこに手を……。愛理っ!」 
 「なに?」 
  
  
 腹から胸の下まで手を滑らせると、雅が大声を上げて愛理の手を服の上から掴もうとした。 
 愛理は雅の手に捕まる前に脇腹を指先で撫で上げる。 
 すると雅は愛理の手を捕まえることを諦めたのか、動き回る手を服の上から叩いた。 
  
  
   
- 712 名前:Act4 − Buon appetito − 投稿日:2008/03/23(日) 01:57
 
-  「なに、じゃないよ!衣装、皺になるじゃん。それに、くすぐったいし」 
 「衣装じゃないときならいいの?」 
 「よくないって。近いから、愛理。もう少し離れてってば」 
  
  
 離れて、と言われて愛理はさらに雅に近づく。 
 顔を雅に近づけるとチョコレートの甘い匂いがした。 
 首筋に顔を埋めて体重をかけると、雅がバランスを崩してソファーに倒れ込む。 
 愛理は雅と一緒に身体を倒す。 
 そのまま雅に覆い被さって脇腹を撫で続けていると、くすぐったいのか雅が身を捩った。 
  
  
 「愛理、もうやめてよ」 
  
  
 雅が愛理の胸元を押す。 
 両手で力一杯押されて、愛理の身体が雅から離れた。 
 愛理は上着を掴む雅の指先に手をかける。 
  
  
   
- 713 名前:Act4 − Buon appetito − 投稿日:2008/03/23(日) 01:59
 
-  「愛理、なにやってんの?」 
  
  
 愛理が雅の手を剥がそうと指先を掴むと同時に聞こえたのは、いないはずの桃子の声だった。 
 不自然なまでににこやかな桃子の声が楽屋に響いた後、ぱたん、と扉の閉まる音が聞こえた。 
  
  
 「もも、助けて!」 
  
  
 愛理が答える前に雅が桃子に助けを求める。 
 相変わらず雅の手は愛理の上着を掴んでいた。 
 桃子は楽屋の入り口から動いてはないが、桃子の視線が雅のTシャツの中に入り込んだ愛理の手を捕らえていた。 
  
 愛理はTシャツの中から手を抜き取ると、雅に覆い被さったままだった身体を起こす。 
 ついでに雅に手を貸して身体を起こしてやると、雅の手が愛理の上着から離れた。 
  
  
   
- 714 名前:Act4 − Buon appetito − 投稿日:2008/03/23(日) 02:03
 
-  「なにやってんの、って見たまんまだよ。みやに甘えてるの」 
 「そうは見えないけど」 
  
  
 ソファーの端に逃げようとする雅を捕まえて、愛理は雅の肩に頭を乗せた。 
 首に腕を回して、雅をぎゅっと抱きしめる。 
  
  
 「みや。今、助けてあげるね」 
  
  
 ずかずかという擬音が聞こえてきそうな勢いで桃子が愛理の前へとやってきて、愛理の肩を軽く叩いた。 
 それはどう考えても雅から離れることを催促をするもので、愛理は渋々と雅の肩から頭を退ける。 
 けれど、まだ納得がいかないのか桃子がもう一度愛理の肩を叩く。 
 愛理が仕方なく抱きしめていた雅の身体を離すと、桃子が満足そうに笑った。 
 そして雅に顔を近づけた。 
  
  
   
- 715 名前:Act4 − Buon appetito − 投稿日:2008/03/23(日) 02:04
 
-  「ももっ!」 
  
  
 雅が桃子の名前を呼ぶ。 
 だが、声を上げたのは雅だけではなかった。 
 同じように愛理も桃子の名前を口にしていた。 
  
  
 「どうしたの?」 
  
  
 声を上げた二人に動じることなく、桃子が平然と言った。 
 慌てた様子の雅に構わず、桃子が雅の乱れた髪を直し始める。 
  
  
 「愛理、見てるっ!じゃなくてっ!なに!?今のなにっ!」 
 「なにって、助けてあげたんだけど?」 
 「どこがっ!」 
 「キスしたら悪かった?」 
 「悪いよ!どうしてキスなんかするのっ」 
  
  
 一瞬だったが、雅の唇に桃子の唇が触れた。 
 愛理はそれを目の前で見た。 
 驚いた雅が桃子に食ってかかるが、予想外の出来事に愛理は何と言っていいのかわからない。 
  
  
   
- 716 名前:Act4 − Buon appetito − 投稿日:2008/03/23(日) 02:06
 
-  「だって、早い者勝ちみたいだから」 
 「なにがっ」 
 「みやの所有権」 
 「はあ!?」 
  
  
 雅の髪を直し終えた桃子が愛理を見た。 
 雅は納得がいかないのか桃子を睨み付けている。 
  
 確かに愛理は早い者勝ちだと言った。 
 そういった行動をしたのも自分の方が先だ。 
 そして今日も桃子から責められても仕方がない行動をしたのだから、愛理が桃子に文句を言う権利はないのかもしれない。 
 だが、目の前で堂々とキスをされて黙っているわけにもいかなかった。 
  
  
 「もも、今のずるいよ。抜け駆け禁止って言ったじゃん!」 
 「抜け駆けしてたの愛理だよ」 
 「してない」 
 「愛理、こういうの抜け駆けって言わないの?なんかみや、すごいことになってるけど」 
  
  
   
- 717 名前:Act4 − Buon appetito − 投稿日:2008/03/23(日) 02:09
 
-  桃子が雅を指差す。 
 愛理は桃子に指差された雅の姿を見て、すごいという言葉は大げさだと思った。 
 だが、雅の格好は普通とも言えなかった。 
 丈の短いスカートはスカートとしての役割を果たしておらず、Tシャツも捲れて素肌が見えていた。 
 スカートは飾りみたいなものだから良いとしても、Tシャツの裾が捲れているのは普通ではない。 
  
  
 「みや、服直しなよ。いつまでもそんな格好してると、ももも我慢出来なくなるよ?」 
  
  
 そう言って桃子が雅のスカートの裾を引っ張ると、雅がスイッチを入れられた人形のようにソファーからぴょんと立ち上がった。 
 愛理と桃子から逃げるようにして雅がソファーから離れ、乱れた衣服を直し始める。 
 それを見ながら桃子が雅の座っていた場所に腰掛けた。 
  
  
 「で、愛理は何してたのかな?」 
 「二人で遊んでただけだよ。大体、みやに好きだって言ったわけじゃないし、ももに文句言われる筋合いない」 
 「言わなきゃいいってもんでもないでしょ。ていうか、みやが驚いてるよ。愛理」 
  
  
 しまった、と思ったときには遅かった。 
 隣から桃子の押し殺したような笑い声が聞こえる。 
 そっと雅の方を見ると、服の乱れを直した雅が愛理を見ていた。 
 Tシャツの裾を押さえながら、雅が口を大きく開けている。 
  
  
   
- 718 名前:Act4 − Buon appetito − 投稿日:2008/03/23(日) 02:10
 
-  「みやってさ、ほんと鈍感だよね。ももと愛理がみやのこと好きだって気がつかないんだもん」 
 「え?ええ?……愛理?」 
  
  
 呆れたように桃子が言った。 
 桃子が寄りかかったのか、ソファーの背もたれが沈む。 
 愛理が桃子を見ると、はあ、と桃子がため息をついた。 
  
 桃子も愛理と同じように雅に気持ちを伝えるつもりはなかったはずだ。 
 これだけのことをされても気がつかない雅もどうかと思うが、愛理と桃子、二人が雅にしたことも褒められるようなことではない。 
 大体、黙っていたとしてもこんなことを繰り返していれば雅もいつかは気がつくはずだ。 
 それにこんなことをしておいて、今さら黙っていることに意味はないだろう。 
 だから、桃子も雅が好きだと口にしたのだと愛理は思った。 
  
  
 「どうしたら気がつかないでいられるのか……。その方が気になるよ」 
  
  
   
- 719 名前:Act4 − Buon appetito − 投稿日:2008/03/23(日) 02:12
 
-  そう言ってから、愛理も桃子と同じようにため息をつく。 
 雅は目をぱちくりさせて愛理と桃子を見ていた。 
  
 照れる、というよりは驚いているという表現の方がしっくりくる。 
 信じられないといった雅のその様子を見ていると、本当に自分と桃子の気持ちに気づいていなかったのだとわかった。 
 そして、どちらかのことを好きだということもなさそうだと気づかされる。 
 それは桃子にも伝わっていたようで、隣から二度目のため息が聞こえた。 
  
  
 「ね、みや。ももと愛理、どっちと付き合う?」 
  
  
 桃子の声は真剣なものではなかった。 
 どちらかというと、面白がっているようなものだ。 
 雅が選べるわけがないとわかって言っている。 
 愛理にもそれはわかった。 
 だが、雅には伝わっていないらしく、真面目な顔で雅が声を上げた。 
  
  
   
- 720 名前:Act4 − Buon appetito − 投稿日:2008/03/23(日) 02:14
 
-  「えっ!?」 
 「みやがもも達のこと好きじゃなくても、ももも愛理も諦めるつもりないから。ね、愛理?」 
 「うん、諦めたりしない」 
 「だから、みやは二人以外選んじゃだめ」 
  
  
 雅に無理難題とも言える言葉を押しつけて桃子がにっこりと微笑んだ。 
 桃子が愛理の肩に手を乗せる。 
 愛理も桃子の腰に腕を回すと、雅に笑いかける。 
 けれど、微笑みかけられた雅は困ったように眉根を寄せ、何を考えているのか黙ったままだった。 
  
  
 「じゃあ、こうしようか」 
  
  
 なかなか答えない雅に桃子が声をかけ、ソファーから立ち上がる。 
 雅に近づくと、桃子が愛理の名前を呼んだ。 
  
  
   
- 721 名前:Act4 − Buon appetito − 投稿日:2008/03/23(日) 02:16
 
-  「愛理。みやがももか愛理、どっちかを選ぶまでさ……」 
 「みやは二人のものってことでどう?」 
  
  
 愛理は桃子の言葉を奪い取ると雅の隣に立つ。 
 口にした言葉は少々不本意なものだったが仕様がない。 
 雅はきっとどちらも選ばないだろうし、それでも愛理も桃子も雅を諦めるつもりはなかった。 
 そして諦めるつもりもなく、雅を誰にも渡したくないのならどこかで妥協するしかなさそうに思える。 
 もちろん愛理は桃子に負けるつもりはない。 
 だが、自分と桃子以外の誰かのもとに雅が行ってしまうのなら、桃子に負ける方が良い。 
 いつか雅が誰かを選ぶのなら、二人のうちどちらかから選んで欲しかった。 
 ならば今、目の前にある問題はこういう形で解決するほかない。 
  
  
 「そういうこと」 
  
  
 桃子が笑って、愛理の背中を軽く叩いた。 
 愛理が「いたっ」と声を上げて大げさに痛がっていると、雅が不満げな声で言った。 
  
  
   
- 722 名前:Act4 − Buon appetito − 投稿日:2008/03/23(日) 02:17
 
-  「ちょっと待って!おかしいから、それ!」 
 「なんで?」 
  
  
 雅が後退って愛理と桃子から距離を取ろうとする。 
 愛理はそんな雅の腕を掴むと、そのまま腕を絡ませて雅に問いかけた。 
  
  
 「こういうのってうちに選ぶ権利あるでしょ、普通」 
 「選んでいいってさっき言ったんだけど。……みや、選んでくれるの?」 
 「え?えっと」 
 「選んでくれるなら、もももその方がいいし。みや、どっちにする?」 
 「んっと。あっ、うーん」 
 「ほら、選べないじゃん」 
  
  
 言葉を濁す雅に桃子が詰め寄る。 
 雅がこれ以上逃げないようにするためか、桃子の手はしっかりと雅の手を握っていた。 
  
  
   
- 723 名前:Act4 − Buon appetito − 投稿日:2008/03/23(日) 02:21
 
-  「ということは……。ねえ、愛理」 
 「やっぱり二人のものってことだね」 
 「だね、じゃないからっ!」 
  
  
 情けない顔で雅が叫ぶ。 
 その様子があまりにも可愛くて、愛理は雅を抱きしめたくなる。 
 ちらっと桃子の方を見ると同じ事を考えているのか、にやりと笑った桃子と目があった。 
 考えることは同じなんだなあ、と思いながら愛理は桃子に笑い返して、一呼吸置いてから雅に抱きついた。 
 同時に桃子も抱きついたらしく雅が声を上げる。 
  
  
 「二人とも、やめてよぉー」 
  
  
 雅の声の後、愛理と桃子の笑い声が楽屋に響いた。 
 くすくすと笑い続ける二人に挟まれて、雅はふくれっ面だ。 
  
  
   
- 724 名前:Act4 − Buon appetito − 投稿日:2008/03/23(日) 02:23
 
-  雅が誰を好きになるのかはわからない。 
 けれど、いつか雅がどちらかを選ぶ日まで、こうして三人で過ごすのも面白いかもしれないと思える。 
  
 何も知らなかった雅が二人の気持ちを知ったからといって、すぐに三人の関係が変わったりすることはないだろう。 
 愛理と桃子が雅を好きだと知ったところで、どれだけ思われているかなど雅が気にするわけがない。 
 どこまでいっても雅は雅のままで、今までと変わらないと愛理には思えた。 
 だが、雅が知らなかった間に大きくなった気持ちのぶんだけ雅を困らせてみたい。 
 そんなことを考えながら、愛理は雅の頬にキスをした。 
  
  
  
  
   
- 725 名前:Act4 − Buon appetito − 投稿日:2008/03/23(日) 02:24
 
-   
  
  
 『 スイーツな関係 』 
  
  
  
 - END - 
   
- 726 名前:Z 投稿日:2008/03/23(日) 02:24
 
-   
   
- 727 名前:Z 投稿日:2008/03/23(日) 02:30
 
-  とりあえずこの三人のお話はこれで終わりです(´▽`) 
  
 >>699さん 
 DVDのトランプのシーンにはこういう秘密が隠されていたのです!w 
  
 >>700さん 
 ぽけぽけ愛理も桃子も暴走気味にがんばりました!(;´▽`) 
  
 >>701さん 
 Buono!最高ヾ(*´∀`*)ノ 
  
 >>702さん 
 愛理、がんばりました! 
  
 >>703さん 
 がんばった結果、こうなりました(;´▽`) 
 シングルルームの続きは近々アップ予定です(`・ω・´) 
   
- 728 名前:Z 投稿日:2008/03/30(日) 04:34
 
-   
  
  
 『 雪夜の花火 』 
  
  
  
   
- 729 名前:Z 投稿日:2008/03/30(日) 04:36
 
-  真冬の真夜中。 
 桃子は雪のちらつく公園に雅を呼び出した。 
 さすがに雪が降るような寒い夜に公園を歩く物好きはいないようで、園内は桃子と雅以外誰もいなかった。 
  
  
 「……何で花火。何で冬に花火」 
  
  
 震えながら雅が言った。 
 街灯の下、雅が桃子を恨めしそうな目で見ていた。 
  
 桃子が雅を呼び出した理由。 
 それは雅が口にしたように花火をする為だ。 
 桃子の手には花火の袋とライターが握られている。 
  
  
 「やりたくない?」 
 「夏になら」 
 「冬にやるからいいんじゃん」 
 「この寒い中、花火とか」 
  
  
   
- 730 名前:『 雪夜の花火 』 投稿日:2008/03/30(日) 04:38
 
-  雅はぶつぶつと文句を言い続け、最後に「帰ろうよ」と桃子に言った。 
 だが、桃子はその意見に賛成するつもりはない。 
 桃子が雅を公園に呼び出す為にかけた電話でも何だかんだと文句を付けていたが、結局桃子の頼みを聞いて公園までやってきた。 
 ということは、花火をやりたいという気持ち少なからずあるのではないかと桃子は考えた。 
  
  
 雪の夜、きっと花火は夏よりも綺麗だろう。 
  
  
 雅もそれを見たいに違いない。 
 桃子は雅が公園にやってきたことを都合の良いように解釈して、花火の袋を破った。 
 中から手持ち花火を二本取り出して、一本を雅に押しつけた。 
 もう一本は自分で持つ。 
 桃子はライターをカチリと鳴らして花火に火を付けようとした。 
 花火の先にある捻られた紙が燃える。 
 だが、花火は焦げるだけで火がつきそうになかった。 
  
  
   
- 731 名前:『 雪夜の花火 』 投稿日:2008/03/30(日) 04:39
 
-  「あれ?火、つかないや」 
  
  
 静かな公園に桃子の声が響く。 
 雅がライターに灯る炎を黙って見ていた。 
  
 桃子は諦めきれず何度も花火に火をつけようとした。 
 だが、桃子の耳に聞こえてくる音は花火に火がつく音ではなく、ライターが鳴らすカチカチという硬い音だけだった。 
 何度ライターの炎を花火に近づけても火がつかない。 
  
  
 「しけってるんだよ」 
 「やっぱ一昨年の花火はだめか」 
 「……それ、古すぎ」 
  
  
 雅が呆れたように言った。 
 桃子は火のつかない花火を空にかざしてみる。 
 街灯の明かりが花火を照らす。 
 穴が空きそうなほど花火を見つめても、しけっているのかどうかは見た目からは判断出来そうになかった。 
  
  
   
- 732 名前:『 雪夜の花火 』 投稿日:2008/03/30(日) 04:41
 
-  本当は花火が出来ようが出来まいが関係ない。 
 花火は雅を呼び出す為の口実だ。 
 真夜中、突然雅に会いたくなった。 
 けれど、友達と言うよりは仕事仲間という間柄の雅を真夜中に呼び出すことは躊躇われた。 
  
  
 今まで何度我慢してきただろう。 
  
  
 桃子は雅に会いたいと思っても、それを口にしたことはなかった。 
 たとえそれを雅に告げたところで、会いに来てくれるとも思えなかった。 
 理由もなく呼び出す。 
 そんなことが許されるわけがない。 
 そもそも何の為に真夜中に会いたいのかと問われたら、何と答えていいのかわからない。 
  
 だから、呼び出すならば何か理由が必要だった。 
 真夜中に雅を呼び出す理由。 
 桃子は雅に会いたくなるたびに理由をいくつも考えた。 
 そしていくつもの考えをなかったことにしてきた。 
  
   
- 733 名前:『 雪夜の花火 』 投稿日:2008/03/30(日) 04:43
 
-  呼び出す上手い理由が見つからない。 
 会いたいと思う気持ちばかりが大きくなっていく。 
 こちらから会いに行ったらどうかと考えてもみた。 
 けれど、雅の家の扉が桃子の為に開かれるところを想像出来なかった。 
  
  
 何十回、何百回と考えても理由は見つからず、今夜もこのまま眠るしかないと思った。 
 寝転がったベッドの上、桃子は身体を起こす。 
 電気を消そうと立ち上がって、ふと窓を見た。 
 窓際に近寄るといつもよりも肌寒く感じて、カーテンを少し捲ってみる。 
 外には雪が降っていた。 
 頭の中に浮かんだのは白い雪を溶かす花火だった。 
  
 それからどこかに花火があることを思い出して、いつ買ったのか定かではないような花火の袋を引っ張り出してきた。 
 ひしゃげた花火の袋を片手に桃子は雅へ電話をかけた。 
 電話に出た雅は眠ってはいなかったが不機嫌そうだった。 
  
  
   
- 734 名前:『 雪夜の花火 』 投稿日:2008/03/30(日) 04:44
 
-  カチリとライターが音を鳴らす。 
 身体を温める為か雅が足踏みを繰り返している。 
 ライターは炎を灯し続け、雅がパタパタという音を鳴らし続けていた。 
 ライター自体が熱を持ち、指先が熱い。 
 花火にはまだ火がつかない。 
 そろそろ諦めた方がいい、そう思う。 
  
  
 「もも、もうやめなよ」 
  
  
 桃子がどうしようかと迷っていると雅が一つの答えを提示した。 
 それを聞くとどうしてか諦めようとは思えない。 
  
  
 「がんばったらつきそうな気がする」 
 「危ないって。無理につけると、爆発するかも」 
  
  
 止めろと言われるとやりたくなる。 
 自分でも厄介な性格だと思う。 
  
  
   
- 735 名前:『 雪夜の花火 』 投稿日:2008/03/30(日) 04:45
 
-  「絶対、火つかないよ」 
  
  
 雅が雪よりも冷たい声で言った。 
  
 夏よりも静かな夜。 
 雪が音を吸収するのか、雪がうっすらと積もりかけた真冬の夜はいつもより雑音が少なかった。 
 冷たい空気の中、聞こえてくるのはライターが鳴らす音と桃子と雅の呼吸音。 
 そして雅が足を鳴らす音。 
 周りの音が少ないせいか、少し離れた場所にいる雅の声がとても近く感じた。 
  
 雅が足踏みを止めた。 
 下を向いている桃子の視界から雅の靴が消えた。 
 火はつきそうになかった。 
  
 桃子は諦めて顔を上げる。 
 雅の姿を探して横を向いた瞬間、肩をどんっと叩かれた。 
  
  
   
- 736 名前:『 雪夜の花火 』 投稿日:2008/03/30(日) 04:46
 
-  「バーーーーーン!」 
  
  
 ほぼ同時に聞こえた大きな破裂音。 
 心臓が跳ね上がった。 
  
  
 「わああああっ」 
  
  
 桃子は思わず聞こえた音よりも大きな声を出した。 
 花火が爆発するわけがない。 
 そう思うが、手にした花火を見ずにはいられなかった。 
 手元を確認する。 
 確かに持っていた花火は手元にはなかった。 
 焦げ跡がついた花火は地面に転がっていた。 
  
  
 「驚いた?」 
 「みーやん、最低!ほんと、びっくりしたんだからねっ!」 
  
  
   
- 737 名前:『 雪夜の花火 』 投稿日:2008/03/30(日) 04:47
 
-  背後から笑い声が混じった雅の声が聞こえた。 
 桃子が振り返ると、雅が身体をくの字に折って笑っていた。 
 その姿は本当に楽しそうでそれ以上文句を言う気は失せた。 
  
 桃子は落ちた花火を拾う。 
 そして雅の手から花火を奪い取った。 
  
  
 「なにすんの?」 
 「片づける」 
  
  
 雅が持っていた花火を桃子は袋に戻す。 
 地面から拾い上げた花火を袋に戻そうとして桃子は考える。 
 花火についた焦げ目を見てから、黒く変色した部分を地面にこすりつけた。 
 そして花火を袋に突っ込む。 
  
   
- 738 名前:『 雪夜の花火 』 投稿日:2008/03/30(日) 04:49
 
-  桃子は花火が入った袋をぶんっと振り回してから、雅の手を見た。 
 指先が赤くなっていた。 
 桃子は上着のポケットに手を入れる。 
 ポケットの中で手を開いたり閉じたりして自分の手を温めようとしてみる。 
 外気に曝されて冷たくなっているであろう雅の手を握ろうかどうかと考えて結局、桃子は雅の手を握らなかった。 
 桃子はポケットから手を出す。 
 たいして手は温まっていなかった。 
  
  
 「もも、手冷たそう」 
  
  
 雅が声とともに、桃子の手を掴んだ。 
 急に手を掴まれて桃子は思わず手を引こうとしたが、雅に強引に握り込まれる。 
 桃子の冷えた手を温めるように包み込む雅の手もやはり冷たかった。 
  
 桃子は雅の素直な行動に後ろめたいものを感じる。 
 思ったままに行動する雅を羨ましいと思うと同時に、手に触れることすら躊躇う自分が酷くやましい気持ちを持っているようで胸が痛かった。 
  
 桃子の指先に熱が戻ってくる。 
 雅の手も同じように熱を取り戻そうとしていた。 
  
  
   
- 739 名前:『 雪夜の花火 』 投稿日:2008/03/30(日) 04:50
 
-  「帰ろう」 
  
  
 雅が言った。 
 桃子の手を引いて雅が歩き出す。 
 まだ帰りたくない、そう思った。 
  
  
 「好き」 
  
  
 雅を引き留めるように口から出た言葉は自分でも予想外のものだった。 
 雅が振り返る。 
 繋いでいた手は離された。 
  
   
- 740 名前:『 雪夜の花火 』 投稿日:2008/03/30(日) 04:51
 
-  雪の夜。 
 誰もいない公園。 
 シチュエーションはロマンチックと言えるもののはずなのに、告白は思っていたよりもあっけなくてロマンチックと言えるようなものではなかった。 
  
 振り返った雅は何も言わない。 
 告白したものの、桃子もこれからどうすればいいのかよくわからなかった。 
 空から落ちてくる雪がまつげを濡らす。 
 雅を見ると頭や肩が雪で白くなっていた。 
 これ以上ここにいても寒くなるばかりでどうしようもない気がして、桃子は足を進める。 
 雅の横を通り過ぎようとすると雅が小さな声で言った。 
  
  
 「……うちも」 
  
  
 驚いて桃子が雅を見ると、雅が目を伏せた。 
 頬が赤くなっているのは、寒さのせいなのかそれとも別の理由なのかわからなかった。 
  
   
- 741 名前:『 雪夜の花火 』 投稿日:2008/03/30(日) 04:53
 
-  雅に近寄る。 
 桃子は少し背伸びをして唇を雅の唇にくっつけた。 
 雅の唇は冷たかった。 
 それなのにとても熱いような気がした。 
 急に身体中に血が巡って指先がしもやけになったように痛い。 
 唇を離しても、指先がじんじんと痺れていた。 
  
 桃子が雅を見ると、雅は唇を押さえていた。 
 唇を押さえている雅の手から目が離せない。 
 雅の赤い手は冷たそうだった。 
 だが、桃子には触れることが出来ない。 
 舞い散る雪の量は公園に来たばかりのときよりも多くなっていた。 
  
  
 雪が積もるのかもしれない。 
  
  
 もしも、雪が積もったら雅と一緒に雪だるまを作ろう。 
 明日ならきっと雅の手を取ることが出来るような気がした。 
  
  
  
  
   
- 742 名前:『 雪夜の花火 』 投稿日:2008/03/30(日) 04:54
 
-   
  
  
 『 雪夜の花火 』 
  
  
  
 - END -  
   
- 743 名前:Z 投稿日:2008/03/30(日) 04:54
 
-   
   
- 744 名前:Z 投稿日:2008/03/30(日) 04:57
 
-  季節外れの話ですみません(´ω`) 
 春が来る前に、と思っていたのですが遅くなりましたorz 
  
 そしてちょっとお知らせです。 
 夢に新スレ立てました。 
 「おしゃべりうさぎにご用心 〜 ありがちな話 〜」 
 こちらのスレとはかなり雰囲気が違う話となっていますが、暇つぶしにでもどうぞ。 
   
- 745 名前:名無飼育さん  投稿日:2008/03/30(日) 21:07
 
-  やっぱりいいですね。 
 ももみや最高! 
 こちらのスレも新スレも楽しみにしています。  
- 746 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/03/31(月) 00:52
 
-  コレは良いもも!可愛いみやももですね 
  
 新スレも勿論拝読しています 
 凄く楽しいお話になりそうなですね  
- 747 名前:Z 投稿日:2008/04/06(日) 04:12
 
-   
  
  
 『 偽りの夜 』 
  
  
  
 >>620-633 
 『 シングルルーム 』続編  
- 748 名前:『 偽りの夜 』 投稿日:2008/04/06(日) 04:17
 
-  桃子は相変わらず適当で強引だった。 
 決まった部屋割りは桃子と一緒。 
 佐紀は誰かに部屋を変わってもらおうかと思ったが、他のメンバーとそういった交渉をする前に桃子に腕を掴まれた。 
 結果、佐紀は手に持っていた荷物ごと桃子に捕まって、定められた部屋へと連れ込まれることになった。 
  
 部屋に入るなり、桃子がベッドのシーツを捲って中に潜り込む。 
 佐紀は思わず身構えた。 
 隣に来いと言われるのではないかと思ったのだ。 
 だが、そんなことを考えていたのは佐紀の方だけで、桃子はベッドの中に入るとすぐに眠ってしまったようだった。 
  
   
- 749 名前:『 偽りの夜 』 投稿日:2008/04/06(日) 04:21
 
-  それから数時間寝て、起きたと思ったらお風呂に入って。 
 バスルームから出てくると、今度は断りもなくテレビをぱちんと付けた。 
 佐紀がベッドの上から桃子を眺めていると、桃子が言葉もなく佐紀の隣に座る。 
 桃子が佐紀のベッドの上でリモコンのボタンをいくつか押してチャンネルを選ぶ。 
 そんな桃子を見ていると何故だか苛々としてきて、佐紀は桃子からリモコンを奪うとテレビを消した。 
 桃子が不満げな顔で佐紀の手の中にあるリモコンを操作してテレビを付ける。 
 佐紀はそれをもう一度消す。 
 するとリモコンを握っていた手を引っ張られてキスをされた。 
  
 やりたい放題にも程がある。 
 佐紀はリモコンを桃子が寝ていたベッドへ放り投げる。 
 桃子が目でリモコンの行方を追いかけてから、もう一度キスをしよう唇を寄せてきた。 
 佐紀は桃子の肩を押してキスを避けると、桃子に言った。 
  
  
   
- 750 名前:『 偽りの夜 』 投稿日:2008/04/06(日) 04:23
 
-  「待ってるんじゃないの?」 
  
  
 桃子の肩を掴んだまま、佐紀は桃子の顔を見る。 
 だが、顔色が変わるどころか表情には何も変化がない。 
  
  
 「誰が?」 
 「あたし以外の誰か」 
  
  
 出来るだけ皮肉を込めて言ってやる。 
 肩を掴んでいた手に桃子の手が重なった。 
 肩から手を剥ぎ取られる。 
 きつく握られたと思ったらキスをされた。 
 桃子の舌が入り込んできて、佐紀の舌を絡め取ろうとする。 
 桃子の舌から逃げ回っていると下唇を強く噛まれた。 
 佐紀は桃子から逃げようとするがパジャマの襟を掴まれていて逃げられない。 
 桃子が飽きるまでキスをされて、唇を離されたときには息が乱れていた。 
 手の甲で唇を拭う。 
  
  
   
- 751 名前:『 偽りの夜 』 投稿日:2008/04/06(日) 04:25
 
-  「いい加減にしなよ、もも。適当にこんなことしてて」 
 「適当じゃなくて、真面目だよ」 
 「だったら、余計に悪い」 
 「真面目のどこが悪いの?」 
 「好きでもない人にすることじゃない、こんなこと」 
 「ももは佐紀ちゃん好きだよ?」 
 「とにかく。あたし、やだからね」 
 「どうして?」 
 「いい加減やめようよ。こんな関係」 
  
  
 長い間こんなことを続けていたことが不思議なのだ。 
 身体を重ねる心地良さに流されて、惰性で続けていた。 
 いつか終わりにしなければと思っていながらこの関係を切ることが出来ずにいた。 
 だが、そろそろ終わりにするべきだと佐紀は思う。 
  
   
- 752 名前:『 偽りの夜 』 投稿日:2008/04/06(日) 04:27
 
-  雅が。 
 梨沙子が。 
 変わっていく。 
 それを見ているだけで何も出来ない。 
 どうにかしてやりたいとは思う。 
 幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた二人を助けてやりたい。 
 けれど、佐紀にはどうすれば良いのかわからなかった。 
 どうにかしようとしても何かしてやることは無理だとも思った。 
 だが、桃子を自分から切り離す。 
 それぐらいなら自分にも出来る。 
  
  
 「佐紀ちゃん、しようよ」 
 「絶対やだ」 
 「ほんとはやじゃないんでしょ?」 
  
  
 桃子の指先が首筋に触れた。 
 ゆっくりと首筋から下へと降りていく。 
 パジャマの上から胸を触られて身体が反応しそうになった。 
 佐紀は桃子の手を払い除ける。 
  
  
   
- 753 名前:『 偽りの夜 』 投稿日:2008/04/06(日) 04:28
 
-  「やだって言ってるじゃん」 
 「なんで?」 
 「もう、こんなのやなの。みやか梨沙子のところにいきなよ」 
 「梨沙子、徳さんと一緒だもん」 
 「じゃあ、みやのところに行けばいい」 
 「やだ」 
 「なんでさ!」 
  
  
 聞こえていないわけがない。 
 けれど、佐紀の言葉を気にもせずに桃子が腰へ手を回す。 
 抱き寄せられて耳元で囁かれる。 
  
  
 「佐紀ちゃんがいい」 
 「あたしはよくない」 
  
  
   
- 754 名前:『 偽りの夜 』 投稿日:2008/04/06(日) 04:30
 
-  佐紀がきつい口調でそう言うと桃子がふうっとため息をついた。 
 それでも諦めるつもりがないのか、首筋にいくつもキスをしてくる。 
 どうして今日に限ってこんなにも執着してくるのかわからない。 
  
 今日だけでなく、桃子はいつも強引だ。 
 だから、佐紀の言うことを聞くつもりがないのも普段通りといえば普段通りに思える。 
 だが、今日はいつもの強引さとは少し違う気がした。 
 どこが違うのかと聞かれても困るが、いつもとは違っているように感じる。 
 まるで欲しい物を買って貰えず駄々をこねている子供のようだ。 
  
 桃子の手が佐紀の肩を掴む。 
 そのままベッドに押し倒された。 
 桃子の顔を見ると明らかに不機嫌そうな顔をしていた。 
 何が不満なのかは知らないが、それに付き合ってやる義務はない。 
 つま先で桃子の足を軽く蹴る。 
 桃子がわざとらしく顔を顰めた。 
  
  
   
- 755 名前:『 偽りの夜 』 投稿日:2008/04/06(日) 04:31
 
-  「もものこと待ってる人がいるのに、ももとする気になんてなれない」 
 「誰も待ってなんかないよ」 
 「本気でそう思ってるの?」 
  
  
 佐紀が尋ねても、笑っているだけで桃子は何も答えない。 
  
  
 「もも、どいてよ」 
 「やだ」 
 「あたし、ももと一緒にいたくない。出てって」 
  
  
 桃子の足に膝をぶつける。 
 バランスを崩して桃子がふらつく。 
 その隙に佐紀が桃子の身体の下から逃げ出すと、桃子が身体を起こした。 
  
  
   
- 756 名前:『 偽りの夜 』 投稿日:2008/04/06(日) 04:33
 
-  「とにかく出てってよ」 
  
  
 強く、大きな声で言う。 
 隣に座った桃子が下を向いた。 
 どんな表情をしているのかは見えない。 
 けれど、すぐに桃子が佐紀の方を向いた。 
 その顔からは不満げな表情が消えていた。 
  
  
 「そこまで言うなら出てくけど。……もも、佐紀ちゃんのことも好きだよ」 
  
  
 ゆっくりと笑いながら桃子が言った。 
 平気で嘘をつく。 
 きっと他の誰かにもこうやって嘘の言葉を告げているのだろう。 
 もしかすると嘘ではないのかもしれない。 
 だが、きっと好きの意味合いが違う。 
  
 佐紀は桃子から言葉が欲しいわけではない。 
 だから、嘘の一つや二つつかれても平気だ。 
  
   
- 757 名前:『 偽りの夜 』 投稿日:2008/04/06(日) 04:34
 
-  でも、あの二人は。 
  
 そこまで考えて、頭に浮かんだものを無かったことにした。 
 二人のことをどれだけ心配しても、佐紀にはどうしてやることも出来ない。 
 そして桃子をこの部屋から追い出したところで、事態が好転するとも思えなかった。 
 もしかすると好転するどころか悪化するかもしれない。 
 だからといって他の方法も思いつかなかった。 
 それでも何もしないよりはいい、そう信じて桃子との関係を断ち切るしかない。 
  
  
 「そういうところが最低なんだよ」 
  
  
 桃子がパジャマの上に上着を羽織って部屋から出て行こうとしていた。 
 佐紀は桃子の背中に向かってもう一度「最低」という言葉を投げつけた。 
 だが、それに答えはない。 
 パタンという軽い音とともに扉が閉じられ、桃子が荷物を置いたまま部屋から出て行った。 
  
  
  
  
   
- 758 名前:『 偽りの夜 』 投稿日:2008/04/06(日) 04:35
 
-   
  
  
 『 偽りの夜 』 
  
  
  
 - END -  
- 759 名前:Z 投稿日:2008/04/06(日) 04:35
 
-   
   
- 760 名前:Z 投稿日:2008/04/06(日) 04:38
 
-  >>745さん 
 ありがとうございます! 
 こちらと新スレ、両方頑張ります(`・ω・´) 
  
 >>746さん 
 たまには可愛いももみやも(*´▽`) 
 新スレは明るく楽しい雰囲気でいきます(`・ω・´)  
- 761 名前:Z 投稿日:2008/04/13(日) 03:59
 
-   
  
  
 『 真夜中の訪問者 』 
  
  
  
 >>747-758 
 『 偽りの夜 』続編  
- 762 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/13(日) 04:03
 
-  真夜中のホテル。 
 ドアスコープから覗いた歪んだ風景の中に立っていたのは、雅が一番会いたくなかった人物だった。 
  
 出来ればこのドアを開けたくない。 
 部屋の中に入れたくないと思う。 
 ノックの音は止んでいた。 
 だが、扉の前にいる人物は動かない。 
 雅がドアノブに手をかけて開けるべきか迷っていると、止まっていたノックの音がまた鳴り始めた。 
 今度は先程よりも大きな音でドアが叩かれた。 
 その音は周囲の人間を不快にさせるには十分な音量で、さすがにドアの前に立つ人物を放っておくわけにはいかなくなる。 
 雅は仕方なくドアを開けると、廊下に立っていた人物を部屋へ招き入れた。 
  
  
   
- 763 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/13(日) 04:06
 
-  「……開けるの遅い。寝てた?」 
  
  
 部屋に入るなり、うるさいぐらいにノックを繰り返していた桃子が言った。 
 雅がなかなかドアを開けなかったせいか、桃子は随分と不機嫌そうに見える。 
 そして雅も桃子と同じように不機嫌だった。 
 だが、それは当然のことだと言えた。 
 真夜中に迷惑なほどノックを繰り返すような人間を機嫌良く部屋の中へ迎え入れる必要はない。 
  
  
 「当たり前でしょ。今、何時だと思ってんの?」 
  
  
 責めるような口調になったがそれを改めるつもりはない。 
 迷惑な訪問者に優しく接するつもりはなかった。 
  
 桃子が断りもなくベッドへ腰をかけた。 
 雅は桃子の正面にある壁に背をつけて、ベッドに座っている桃子を見下ろす。 
  
  
 「1時」 
 「非常識じゃない?こんな時間に」 
 「起きてたんだからいいじゃん」 
 「寝てたよ」 
 「うそだ。寝てたにしては声はっきりしてるもん」 
  
  
   
- 764 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/13(日) 04:08
 
-  こんなところばかり鋭くて嫌になる。 
 いつも桃子は雅が気づいて欲しくないところばかり指摘してくる。 
 そういうものを感知するセンサーでもついているのではないかと疑いたくなるほど気がつくのだ。 
  
 別に起きていたことは気づかれても問題ない。 
 けれど、何の為に起きていたのかは知られたくなかった。 
 桃子のセンサーが気づいて欲しくないことを感知する前に、雅は話を別の方向へと持っていく。 
  
  
 「今日、佐紀ちゃんと部屋一緒でしょ」 
 「だから?」 
 「何でうちの部屋来るの?」 
 「なんだっていいじゃん。今日、みーやんの部屋に泊めてよ」 
 「けんかでもした?」 
 「違うよ。みーやんに会いに来た」 
 「今まで一度も会いに来たことなんかないくせに。そんなのうそでしょ」 
  
  
 雅が桃子を睨むと、桃子は軽く肩をすくめて「うそじゃないよ」と怠そうに言った。 
 それは「うそだよ」と言っているように聞こえて、とても信じられる言葉ではなかった。 
  
 桃子がパジャマの上に羽織っていた上着を脱ぐとベッドの端に丸めて置いた。 
 桃子のその様子を見て、雅はあることに気がつく。 
 そしてその疑問を口にしてみる。 
  
  
   
- 765 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/13(日) 04:11
 
-  「荷物は?」 
 「佐紀ちゃんのところに置いてきた」 
  
  
 パジャマにルームシューズ。 
 それはホテルの廊下を歩くに適した格好とは言えない。 
 そして荷物は置き去り。 
 明日の朝どうするつもりなのかと尋ねたかったが止めておく。 
 聞くまでもなく、雅には桃子が何をするか予想出来た。 
 雅の服を着て佐紀の部屋に向かうに決まっているのだ。 
  
 明日の朝のことを考えると思わずため息が出そうになって雅は別のことを考えた。 
 桃子が雅の部屋に来た理由。 
 それを考えてみるとすぐに答えは出た。 
 荷物を置いてパジャマ姿でふらふらと雅の部屋まで来たところをみれば、桃子が何故雅の部屋にやってきたのかわかる。 
 桃子は否定したが、佐紀との喧嘩以外に理由は思い浮かばなかった。 
 しかし、喧嘩の理由までは想像出来ない。 
 雅が喧嘩の理由を聞こうとすると、桃子の方が先に口を開いた。 
  
  
   
- 766 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/13(日) 04:12
 
-  「みーやん、一人で何してたの?」 
  
  
 突然、桃子の声が近くで聞こえて身体がびくっと震えた。 
 雅が考え事をしている間に、桃子が手を伸ばせば触れることが出来るほど近い場所にきていた。 
 桃子が足を一歩踏み出して雅の腰の横辺りに左手をつく。 
  
  
 「だから、寝てたって」 
 「それにしてはずっと起きてたみたいな声だし。……ボタン、開けすぎじゃない?」 
  
  
 桃子が笑いながら言った。 
 その声に雅が自分の胸元を見ると、パジャマのボタンが二つ外されたままになっていた。 
 雅は慌てて外したままになっているボタンを留めようとする。 
 けれど、桃子の指先が邪魔をしてボタンを留めることが出来ない。 
 くすくすと笑い続ける桃子に居心地が悪くなって、雅はベッドへ逃げようとした。 
 だが、桃子の右手に腕を掴まれ壁に押さえつけられる。 
  
  
   
- 767 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/13(日) 04:15
 
-  「何してたの?……ももに教えて」 
 「何もしてない」 
 「ふーん」 
  
  
 壁に押さえつけた雅の腕を桃子が引き寄せる。 
 胸元まで持ってくると、雅の手の甲にキスをした。 
 そのキスは手の甲から指先へと向かっていく。 
 何度目かのキスの後、桃子に指先を舐められそうになって雅は慌てて手を引いた。 
  
  
 「ちょっと、やだ。やめてよ!」 
  
  
 勢いよく手を引いたせいで壁に手がぶつかったが痛みはなかった。 
 それよりも雅が何をしていたのかを知っているような桃子の態度が気になった。 
  
  
 「なに慌ててるの?」 
  
  
 慌てていないとは言えず雅は黙り込む。 
 雅は近すぎる位置にある桃子の肩に手をかける。 
 力を入れてぐっと押すと桃子は押し返してくることもなく素直に後ろへ下がった。 
 それによって、壁に背をつけている雅とベッドの方へと下がった桃子の間に空間が生まれた。 
  
  
   
- 768 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/13(日) 04:16
 
-  「……寝る」 
  
  
 桃子に告げるというよりは自分に向けて呟いてから、雅はベッドへと足を進めようとした。 
 だが、桃子がそれを阻むように雅の進路を塞ぐ。 
  
  
 「後ろ向いて」 
  
  
 桃子が口にしたのは脈絡のない言葉だった。 
 雅は意味がわからず、その言葉に従わずにいると今度は強い口調で名前を呼ばれた。 
  
  
 「みーやん」 
  
  
 桃子が一歩前に出る。 
 雅と桃子の間にあった空間が狭まる。 
 桃子の手が腰に触れた。 
 そのまま腰を掴まれる。 
 桃子は何も言わなかった。 
  
   
- 769 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/13(日) 04:19
 
-  桃子の腰を掴む手が無言で後ろを向けと雅に催促してくる。 
 抱き寄せられて雅がそれから逃れるように後ろを向くと桃子の手が腰を撫でた。 
 その手が前に回り、肋骨の下辺りに触れてからゆっくりと下へ向かっていく。 
  
 桃子が触れようとしている場所。 
 それに気がついて雅は身を捩るが、桃子の左腕が腰に絡みついていて思うように動けない。 
 パジャマの中に桃子の手が入り込んだと思うと、すぐに下着に触れて指先が中へ侵入してくる。 
 そして、探るように身体の中心に触れた。 
  
 そこがどうなっているのかは雅が一番よく知っていた。 
 桃子に知られる前に逃げ出したかったが、相変わらず雅の身体を捕まえている腕が邪魔で桃子の手から逃れることが出来ない。 
 雅が暴れたせいか桃子の指先が少しばかり強引な動きに変わる。 
 桃子の指先が掬うように動いて、足の間から小さな水音が聞こえた。 
 その音に雅の身体が強ばる。 
  
 桃子が触れる前から濡れていた。 
  
 それを知った桃子がこれからどんなことをするのかと考えて、雅は頭を抱えたくなる。 
 どうせろくなことにならない。 
 どうして桃子を部屋に入れてしまったのかと後悔したが、そんなことは何の役にも立ちそうになかった。 
 雅には早く眠らなかった自分を責めることぐらいしか出来ることがない。 
  
   
- 770 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/13(日) 04:21
 
-  桃子の指が動く。 
 この指先がこれからどう動くのか。 
 そんなことを考えかけて、雅は桃子が部屋に来る前のことを思い出した。 
 あの時も桃子の指がどう動くのか考えていた。 
 そして、今も同じ事を考えた。 
  
 桃子が触れている部分が熱くなる。 
 考えてはいけない。 
 そう思うのに思考は止まらなかった。 
 桃子の指先が濡れているそこを何度も撫でる。 
 指の動きと連動するように自分でそこに触れた時のことが頭の中に浮かぶ。 
  
 雅の息が荒くなっていく。 
 声が出そうになって唇を噛むと、桃子の指の動きが止まった。 
  
  
   
- 771 名前:Z 投稿日:2008/04/13(日) 04:21
 
-   
   
- 772 名前:Z 投稿日:2008/04/13(日) 04:21
 
-  本日の更新終了です。 
 
- 773 名前:Z 投稿日:2008/04/13(日) 04:21
 
-   
   
- 774 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/13(日) 05:46
 
-  い、いいところで… 
 
- 775 名前:名無し飼育さん。。。 投稿日:2008/04/13(日) 09:19
 
-  ここで切りますかそうですか 
 
- 776 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/13(日) 23:06
 
-  いやあああああ 
 早く続き読みたいです  
- 777 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/14(月) 19:54
 
-  にゃ〜最高です! 
 元々℃ヲタだったんですが先生の小説でベリにハマりました 
 続きめっちゃ期待してます!  
- 778 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/16(水) 01:27
 
-  「これ何かももに説明して」 
  
  
 侵入してきた時よりも早く手が引き抜かれ、雅の前にその手が差し出された。 
 照明が桃子の濡れた指を照らし出す。 
  
  
 「知らない」 
  
  
 目の前にある指から雅は目だけでなく顔ごとそらす。 
 桃子が耳元で囁いた。 
  
  
 「ももが触る前から濡れてた」 
 「そんなことないっ」 
 「みーやん。そんなことないかどうか見てよ、ももの指」 
 「見たくない」 
  
  
 雅が言い終わると同時に顔をそらしたままの唇にぬるりとした何かが触れた。 
 桃子の指がそのまま口の中に入り込もうとして、雅はきつく唇を噛む。 
  
  
 「口、開けて」 
  
  
 雅は首を横に振って答えた。 
 しかし、唇に触れている桃子の指に力が入って、無理矢理中に入り込もうとしてくる。 
  
  
   
- 779 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/16(水) 01:31
 
-  「ももの指、綺麗にしてよ」 
  
  
 強い口調で桃子が言った。 
 雅はもう一度首を振って答えた。 
 濡れた指が唇を何度も撫でる。 
 雅が口を開かずにいると、諦めたのか桃子の指先が離れた。 
  
 腰を抱いている桃子の腕が緩む。 
 雅は唇から離れた指の行方が気になった。 
  
  
 「みーやんの味がする」 
  
  
 笑いを含んだ声が後ろから聞こえてくる。 
 雅は思わず後ろを振り向く。 
 目に映ったのは、指についた液体を舌先で舐め取る桃子だった。 
 雅は桃子の手首を捕まえようとして、その手を反対に掴まれる。 
 桃子が掴んだ雅の手を壁へ押しつけた。 
 振り返ったまま、雅は桃子を睨み付ける。 
  
  
 「そんな怖い顔しなくても、してあげるから安心して」 
  
  
 腰に絡みついていた腕が解かれ、パジャマの中に桃子の手が入り込む。 
 反論する間もなく、桃子の手が脇腹を撫でる。 
 無意識のうちに身体がびくりと震えた。 
 腹筋に触れて、ゆっくり上へと手が這い上がってくる。 
  
  
   
- 780 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/16(水) 01:33
 
-  「やだ、こんなとこじゃ。それに明るいし」 
 「恥ずかしいの?」 
  
  
 雅は頷くことも、首を横に振ることもしなかった。 
 何と答えても結果は同じ事のような気がした。 
  
  
 「恥ずかしいこと、されたいんでしょ?」 
 「されたくない。……こんなの、やだよ」 
  
  
 桃子の手が胸の下で止まって、また下へと降りていく。 
 指先で引っ掻くように触れられて、背筋に何かが走る。 
 壁に映る影が桃子の手の動きにあわせて妖しく動く。 
 桃子の指先がまた脇腹を撫でていた。 
  
  
 「されたいくせに。一人でしたりして。そういう恥ずかしいことを自分でするくせに、ももに恥ずかしいことされたくないなんておかしいよ」 
 「してないっ」 
 「何もしてないのに、あんなに濡れたりしないと思うけど。……ね、みーやん、自分でしてどうだった?」 
 「だから、してないってば」 
  
  
   
- 781 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/16(水) 01:35
 
-  声が上擦る。 
 否定する言葉が否定にならなかった。 
 自分で聞いても、桃子の言葉を肯定している声色としか思えない。 
  
 何をしていたのか桃子が知っている。 
 低い声で事実を囁かれて、雅は腰の辺りが疼いた。 
 脇腹から胸の横まで撫で上げられて声が出る。 
 大したことをされているわけではないのに必要以上に反応する身体を持て余す。 
  
  
 「じゃあ、想像だけで濡れちゃった?」 
  
  
 言葉さえも身体を撫でているように感じられて、囁かれることに耐えられない。 
 聞きたくもないことを桃子が言っているはずなのに、耳がその声を捕らえようとする。 
 逃げ出したい。 
 そう思っているはずなのに桃子の言葉と手の動きを受けいれている自分がいる。 
 そんな自分をどうしていいかわからず、雅が壁と桃子の間で小さく暴れると壁に押さえつけられていた手が解放された。 
  
  
 「どっちにしろ、恥ずかしいと思うけど」 
  
  
 笑い声とともにパジャマの上から背中へキスをされた。 
 布越しに柔らかな感触が伝わってくる。 
  
  
   
- 782 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/16(水) 01:37
 
-  「違う。うちはべつに……」 
 「違うってどっちが?」 
 「どっちも」 
 「どっちも、ね。……一人でしてもいないし、何も考えてなかった。でも、濡れちゃったんだ?」 
  
  
 どう答えればいいのかわからなかった。 
 桃子が返事を待っているのはわかったが、雅は黙っていることしか出来ない。 
 雅が何も言わずにいると、後ろからくすくすと笑い声が聞こえた。 
  
  
 「それって、ももの顔見ただけでしたくなっちゃったってことかな。ねえ、みーやん?」 
  
  
 胸の下にあった手がその上へと移動する。 
 桃子の指先が胸の中心を摘んだ。 
 指に力が入って、雅は思わず桃子の手をパジャマの上から掴んだ。 
 それでも手の動きは止まらなかった。 
  
  
 「硬くなってるね」 
  
  
 指先で転がすように触られる。 
 その刺激に雅が高い声を上げると、桃子が指を離した。 
  
  
   
- 783 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/16(水) 01:39
 
-  「言えばいいのに。したかったって」 
 「したくない」 
  
  
 即答する。 
 だが、声が掠れてまるでその先を期待しているように聞こえた。 
 桃子が指先で硬くなったそこに触れる。 
 それだけで腰が跳ねた。 
 出そうになった声は唇を噛んで殺した。 
  
  
 「ねえ、みーやん。ももがしてあげるって言ってるのわかる?」 
 「わかんない」 
 「そんなこと言うんだ?ももとできないからって、一人でしちゃうみーやんのためにしてあげるって言ってるのに」 
  
  
 首筋に唇を押しつけられ、噛みつかれた。 
 背中に桃子の手が這う。 
 布越しに何度もキスをされて、雅は桃子から逃れようとして身を捩った。 
  
  
 「大人しくしないとしてあげないよ」 
  
  
 吐き出す息が熱かった。 
 逆らえない。 
 頭の中では逆らおうとしているのに、桃子の声に身体が反応する。 
 桃子の腕の中で暴れていた身体が雅の意志とは関係なく動きを止める。 
 残っている理性が桃子に訴える。 
  
  
   
- 784 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/16(水) 01:41
 
-  「電気」 
 「消さない」 
 「消してよ」 
 「ももからは顔見えないし、明るくても平気だよ」 
  
  
 桃子には雅の言葉を受け入れるつもりはないようだった。 
 雅の身体を抱いたまま離そうとしない。 
 肩に歯を立てられる。 
 パジャマの裾が捲られて、背中が露わになった。 
  
  
 「みーやんの背中、綺麗」 
  
  
 背骨の上を桃子の指先が這う。 
 ゆっくりと下へ降りて、また上へ戻る。 
 その間にも唇が何度も背中に押し当てられ、時々、ちゅっという音が聞こえてきた。 
 強く吸われて、そこが跡になっているのではないかと気になった。 
 そのことについて何か言おうとしても、桃子の手が胸に触れているせいで思考が分散される。 
 雅の口から出るのは桃子を止める為の言葉ではなく喘ぎ声だけだった。 
  
 胸の硬くなった部分を桃子の指先が捕らえる。 
 擦るように強く触れられてその刺激に耐えられない。 
  
  
   
- 785 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/16(水) 01:43
 
-  「やっ、ももっ。やめ…て」 
  
  
 雅は声を上げたが、その言葉に桃子の動きが止まることはなかった。 
 それどころか、余計に強い力で触られた。 
  
  
 「自分でしてたみたいだしいいよね。……早く気持ち良くしてあげる」 
  
  
 胸から腹を撫で、桃子の手が雅の下半身へと向かう。 
 下着の中に桃子の手が滑り込んでくる。 
 身体の中心に指が触れた。 
 既に硬くなっているそこを指先が押さえつける。 
 まるで触れられることを待っていたかのように雅の腰が跳ねた。 
 ゆるゆると指の腹で撫でられ、雅の呼吸が短く浅いものに変わっていく。 
  
 雅が勝手に動こうとする身体を意志の力でなんとか押さえつけていると、桃子の手が止まった。 
 指先が入り口に押し当てられる。 
 焦らすことなく、指が身体の中に侵入してくる。 
  
  
   
- 786 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/16(水) 01:44
 
-  「あっ。ああっ」 
  
  
 指が身体の中に入ってくる感触に声を出さずにはいられない。 
 浅く入った桃子の指先が何度も同じ所を擦ってくるせいで、声が止まらなくなる。 
 立っていることが辛くなって、雅は壁に縋るように爪を立てた。 
 それが見えたのか雅を支えるように桃子の腕が腰に回される。 
 そのおかげで立っていることが幾分楽になったが、桃子の指から逃れることが出来なくなった。 
  
 ゆっくりだった指の動きが速くなっていく。 
 息苦しい。 
 息を吸い込もうとしても喘ぎ声が邪魔をして上手くいかない。 
 苦しくなって、身体を支える桃子の腕を掴んだ。 
 雅は逃げだそうとするが、身体に力が入らないせいか桃子に縋っているようにしか見えない。 
 それでもなんとか桃子の腕の中で身体を動かしていると耳元で声が聞こえた。 
  
  
 「みーやん、あんまり動くとももに顔見えちゃうよ」 
  
  
   
- 787 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/16(水) 01:46
 
-  一瞬、雅の動きが止まる。 
 壁へ体重をかけて桃子の方を向かないようにすると、後ろから押し殺したような笑い声が聞こえてきた。 
 誰のせいでこんなの事になっているのか。 
 雅は文句の一つでも言ってやりたかったが、桃子に何か言いたくても口にする余裕もなければ、立っていることすら危うかった。 
 気を抜くと足がぐらつく。 
 雅が辛うじて身体を支えていると、桃子の指の動きが激しくなった。 
  
  
 「ちゃんと立ってて」 
 「む…りっ」 
  
  
 雅の声が聞こえているはずなのに、桃子から与えられる刺激は変わらなかった。 
 桃子の指を締め付ける力が強くなる。 
 それが自分でもわかった。 
 締め付ける雅の身体を開くようにして指が出し入れされる。 
 水音が大きくなっていく。 
  
  
   
- 788 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/16(水) 01:48
 
-  「はっ、あんっ」 
  
  
 次第に大きくなっていく声を抑えることが出来ない。 
 腰に回された桃子の腕に力が入る。 
  
  
 「ももが支えてるから、イッてもいいよ」 
  
  
 雅が首を横に振ると、桃子が背中にキスをした。 
 そして耳元で囁いた。 
  
  
 「大丈夫だから」 
  
  
 その言葉がきっかけだった。 
 雅は掴んでいた理性を手放す。 
 桃子の指が身体の奥を突いた。 
 身体から力が抜けて、雅は桃子に寄りかかった。 
  
  
  
   
- 789 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/16(水) 01:48
 
-   
 ***   ***   *** 
  
   
- 790 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/16(水) 01:50
 
-  「はい、水」 
  
  
 雅がベッドの上に横になっていると、桃子が水の入ったグラスを差し出した。 
 雅は身体を起こしてグラスを受け取ると、水を一気に飲み干してサイドテーブルへグラスを置く。 
 普段使わないような筋肉に力が入ったのか、身体が痛かった。 
  
  
 「みーやん、大丈夫?」 
 「大丈夫なわけない」 
 「ごめんね」 
  
  
 思ったよりも真剣な桃子の声に雅は驚く。 
 珍しいこともあるものだと考えてから、それをすぐに打ち消した。 
 あんなことをしたからと言って素直に謝るようなタイプだとは思えない。 
 何か裏があるに違いなかった。 
  
  
 「何であやまんの?」 
 「もうさせてもらえなくなったら困るから」 
 「……一回死んだら?」 
  
  
 やっぱりだ。 
 こんなとき、桃子の答えがまともだった試しがない。 
 雅は桃子に返す自分の声が冷たいものになるのも仕方がないと思った。 
  
  
   
- 791 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/16(水) 01:52
 
-  「みーやんが生き返らせてくれるならそれでもいいけど」 
 「うちが魔法を使えたとしても、ももなんか生き返らせたりしないから」 
 「じゃあ、死なない」 
 「生きててもいいけど、今日はもうあんなことしないでよ」 
 「今日じゃなかったらしてもいいの?」 
 「よくない」 
 「つまんない」 
 「面白いとかつまんないとか関係ないから。とにかく、今日はもう寝るから変なことしないでよね」 
  
  
 雅は照明を落とすとシーツを捲って中に潜り込んだ。 
 くるんとシーツにくるまって目を閉じると、桃子から背中を叩かれた。 
 また何かされるのではないかと思い、桃子の方を振り返るとシーツの端を掴んで引っ張られる。 
 それに逆らわず雅が身体を動かしてスペースを空けると、桃子が空いた空間に滑り込んできた。 
  
 雅の背中に桃子の背中がくっつく。 
 伝わってくる体温が気になって眠れない。 
 桃子から身体を離すべきかと迷っていると、背後から規則正しい呼吸音が聞こえてきた。 
  
   
- 792 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/16(水) 01:53
 
-  雅は身体を起こして、桃子の背中に触れてみる。 
 肩から腰にかけて何度か手先で撫でてみたが桃子は目を覚まさなかった。 
  
 そういえば背中に桃子がしたキスは跡になるようなキスの仕方だった。 
 先程の行為でされたキスが雅の頭の中に蘇る。 
 キスをされた場所がどうなっているのか確かめたかったが、桃子の唇が触れた部分を考えると確かめようがなかった。 
 だが、きっと跡になっていると雅は思う。 
  
  
 この辺だったかもしれない。 
  
  
 雅は桃子の背中にもう一度触れた。 
 桃子の唇が触れたであろう部分。 
 同じ場所に手を這わせる。 
  
 いくつキスをされたかは覚えてない。 
 そのうちのいくつが跡になっているかは知りようがない。 
  
 雅は桃子のパジャマの裾を捲ってみる。 
 闇に慣れた目に桃子の肌が映る。 
 自分の背中と同じようにそこへ跡をつけたいと思った。 
  
   
- 793 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/16(水) 01:55
 
-  雅はその欲求に逆らうことなく桃子の背中に唇を押しつけるとそこを吸った。 
 場所を変えて同じ事をする。 
 暗くてよくわからないが、きっと桃子の白い肌には赤い色が映えるに違いないと思った。 
 いくつか跡を付けてからそこを指先で辿ると、桃子が小さな声を上げた。 
  
 雅の身体が強ばる。 
 だが、起きたわけではないらしく桃子からそれ以上声は聞こえなかった。 
 雅は桃子のパジャマを元へと戻す。 
  
  
 桃子の背中に跡を付けた。 
 自分の存在を他人に知らせるかのような行為。 
 そんなことをして何をしようというのだろう。 
 自分がしたことは桃子を独占しようとする、そんな行為に思える。 
  
   
- 794 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/16(水) 01:56
 
-  そうじゃない。 
 もしかするとただの仕返しのようなもので、大した意味をもたないのかもしれない。 
 そもそも跡を付けることに何らかの意味があるのならば、今まで一度も跡を付けたことがない桃子が何故今日に限って雅の背中に跡を付たのかわからなかった。 
  
 理由なんてない方がいい。 
 真面目に桃子の気まぐれに付き合っていたら身が持たない。 
 それに朝までもう時間がなかった。 
 眠るには短すぎるが、考えるには長すぎる。 
  
 雅はベッドへ倒れ込む。 
 桃子の身体からシーツを奪い取るようにして布にくるまると、シーツに移った桃子の体温が雅の身体にまとわりついた。 
  
  
  
  
   
- 795 名前:『 真夜中の訪問者 』 投稿日:2008/04/16(水) 01:57
 
-   
  
  
 『 真夜中の訪問者 』 
  
  
  
 - END - 
   
- 796 名前:Z 投稿日:2008/04/16(水) 01:57
 
-   
   
- 797 名前:Z 投稿日:2008/04/16(水) 02:05
 
-  更新分がエロなのでとりあえず底へ。 
 エロ成分が多分に含まれるスレですので、レスはsageでして頂けるとありがたいですm(__)m 
  
 >>774さん 
 いいところの続きです!w 
  
 >>775さん 
 お待たせしました! 
  
 >>776さん 
 長かったので二回に分けちゃいました(;´▽`) 
 続きをお楽しみ下さい! 
  
 >>777さん 
 先生というほど大それたものではありませんw 
 先生というより、まだまだ勉強することがある生徒です!w 
 一緒に℃とベリ、両方応援しましょー!(・∀・) 
   
- 798 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/17(木) 20:09
 
-  ももみや最高っす。・゚・(ノД`)・゚・。  
 雅ちゃんの心理描写がまた秀逸ですね 
 次も期待してます!  
- 799 名前:Z 投稿日:2008/05/08(木) 02:31
 
-   
  
  
 『 痕跡 』 
  
  
  
 >>761-795 
 『 真夜中の訪問者 』続編 
   
- 800 名前:『 痕跡 』 投稿日:2008/05/08(木) 02:35
 
-  「もも、しないの?」 
 「ん、しよっか」 
  
  
 梨沙子が桃子に問いかけると、まるでゲームでもするような軽い口調で桃子が言った。 
 背後から桃子に近寄ると、桃子が手にしていた漫画を床に置いた。 
 背中から腕を回し、梨沙子は抱きしめるようにして桃子のブラウスのボタンを外す。 
  
 桃子が梨沙子の部屋へ来たのは久しぶりのことだ。 
 春休みと言っても、仕事ばかりで忙しくなかなか桃子と二人で会う機会がなかった。 
 おかげで最後に桃子が梨沙子の部屋に来てから、すでに一ヶ月程の時間が経っていた。 
 数日前も仕事で地方へ行ったばかりだ。 
 その時、梨沙子は千奈美とホテルの部屋が一緒だった。 
 桃子は確か佐紀と同じ部屋だったはずなのだが、梨沙子が朝、廊下で桃子とすれ違った時には雅と一緒にいた。 
 別に雅と一緒にいることは不思議ではない。 
 最近、桃子は雅と同じユニットを組んだことによって一緒に行動していることが多かった。 
 だが、その日は佐紀と同じ部屋だったはずなのに、どういうわけか桃子は雅の服を着ていたのだ。 
  
  
   
- 801 名前:『 痕跡 』 投稿日:2008/05/08(木) 02:37
 
-  聞けば良かった。 
  
  
 今さらながら梨沙子はそう思う。 
 あの朝、何故雅の服を桃子が着ていたのか聞こうとしたが、口から出た言葉は「おはよう」という当たり障りのないものだった。 
 物事を尋ねるタイミングというものがあるのなら、明らかに梨沙子はタイミングを逃していた。 
 あれから数日間、桃子がどうして雅の服を着ていたのか気になっていたが、今さら聞くのもおかしなことのような感じがして聞けずにいた。 
  
 せっかくのオフだというのに、梨沙子はそのことばかりが気になって素直に桃子といることを楽しめない。 
 今も聞こうかどうしようかと考えている。 
 そんな上の空の状態でも手は器用に動いてボタンを外していく。 
 一つまた一つと外し、全てのボタンを外してしうまうと、梨沙子は桃子のブラウスをぱさりと床へ落とした。 
 下着も外してブラウスの上に置く。 
  
 照明は付けていない。 
 けれど太陽は傾きかけたばかりで、レースのカーテンの隙間から光が差し込んでいた。 
 その光は桃子の身体を照らし出すには十分すぎるほどのものだった。 
  
  
   
- 802 名前:『 痕跡 』 投稿日:2008/05/08(木) 02:39
 
-  「ねえ、もも」 
 「なに?」 
 「他の人ともこういうことしてるんでしょ?」 
 「どうして?」 
  
  
 確実にいる自分以外の存在。 
 今まで梨沙子はそれを桃子に尋ねたことはなかった。 
 だが、もう黙っていることは出来ない。 
 淡い光の中で見える桃子の背中。 
 そこには誰かの存在がくっきりと残っていた。 
  
  
 「だってももの背中、跡がある」 
  
  
 桃子が振り向く。 
 跡がついていることを知らなかったのか、桃子は少し驚いた顔をしていた。 
 梨沙子を見てから自分の背中を見ようとして、桃子はすぐに諦めて前を向く。 
  
 梨沙子は桃子の背中にいくつかある赤い跡のうちの一つを指で押さえた。 
 それが何なのかは桃子に聞かなくてもわかる。 
 そしてそれを付けた人物が誰なのかも想像することが出来た。 
 数日前にあった地方での仕事。 
 それを考えれば跡を付けることが出来る人物は限定される。 
  
  
   
- 803 名前:『 痕跡 』 投稿日:2008/05/08(木) 02:40
 
-  「これつけたのって、キャプテン?それともみや?」 
 「知りたい?」 
 「うん」 
 「誰だって同じだよ。梨沙子以外の誰かがつけた、そういうこと」 
 「同じじゃないよ。キャプテンとみやは別人だし、他の人だって同じじゃない。あたし、誰がももにこの跡を付けたのか知りたい。教えてよ」 
  
  
 梨沙子にとって雅がずっと一番だった。 
 その位置は変わらないと思っていた。 
 雅が走るその後を追っていくつもりだった。 
 けれど、雅は気がつかなかった。 
  
 気持ちをはっきりと口にしたわけではなかったが、梨沙子が雅を好きだと気づいていた人もいただろう。 
 それぐらいあからさまな態度を取っていたと自分でも思う。 
 だが、一番気がついて欲しかった雅は梨沙子の想いに気づかなかった。 
 だから、側にいた桃子に縋ったのかもしれない。 
 雅を追っていたはずなのに、気がつけば梨沙子が追っているのは桃子の背中になっていた。 
  
  
 「同じだと思うけど」 
 「ももには同じでも、あたしには違う」 
  
  
   
- 804 名前:『 痕跡 』 投稿日:2008/05/08(木) 02:42
 
-  桃子にとっては同じなのかもしれない。 
 相手が変わるだけですることは同じ。 
 雅も佐紀も、そして梨沙子も。 
 桃子の中では、そういったことをする相手という括りの中で一緒くたになっていて、区別することに意味はないのかもしれなかった。 
  
 だが、梨沙子には全てを同じにすることは出来ない。 
 目の前に示されている誰かの存在を無視することは不可能だ。 
  
 目にすることがなければいないものとして扱うことが出来た。 
 しかし、こうしてはっきりと存在を示されてしまうと気にせずにはいられない。 
 きっと桃子の背中に跡をつけた人物は、自分の存在というものを桃子と関係を持っている人間に示したかったのだろう。 
 気にしろと、そう言っているに違いないのだ。 
  
 無視してきたことを無視出来なくなった。 
 今までも梨沙子は、桃子が誰と何をしていても良いと思っていたわけではない。 
 見え隠れする存在を見ないようにする努力をしてきただけだ。 
 本当は桃子がどこにいて誰と何をしているのか知りたいと思っていた。 
 自分だけを見て欲しいと願っていた。 
 しかし、そんなことは願うだけ無駄だということも知っている。 
 桃子を自分の元に縛り付けようとしたら、きっと逃げ出して行くだろう。 
 ならば、せめて桃子にこんな跡をつけることが出来る相手が誰なのかぐらい知っておきたい。 
 それぐらいの権利はあるに違いない。 
  
  
   
- 805 名前:『 痕跡 』 投稿日:2008/05/08(木) 02:45
 
-  梨沙子は立ち上がってカーテンを開け放つ。 
 桃子は梨沙子に背中を向けたままだった。 
 窓から差し込む光によって、桃子の背中が先程よりもよく見える。 
 白い背中に点在する赤い跡が目に痛い。 
 赤い鋲のようにも見える跡に独占欲を刺激される。 
 窓際から元いた場所へと戻って、桃子に付いている赤い跡を指先で辿る。 
  
  
 「知ってどうするの?」 
  
  
 桃子が身体ごと梨沙子の方を向いた。 
 露わになった胸を隠しもせずに桃子が梨沙子を見る。 
  
  
 「……どうかしたいわけじゃない」 
 「じゃあ、知らなくても同じだよ」 
  
  
 そう言って桃子が梨沙子の服に手をかけた。 
 上着とスカートを脱がされる。 
 そして梨沙子の下着を脱がすと、桃子がスカートを脱いだ。 
  
 桃子がベッドではなく今居る場所へ梨沙子を押し倒そうとする。 
 床へ手をついて身体を支え、梨沙子が桃子を押し返すと桃子がその場に座り込んだ。 
 向かいあわせの状態で梨沙子は桃子の鎖骨の上をなぞる。 
  
  
   
- 806 名前:『 痕跡 』 投稿日:2008/05/08(木) 02:46
 
-  「あたしも、ももに跡付けていい?」 
 「いいよ」 
  
  
 迷うことなく桃子が答えた。 
 即答されて梨沙子の方が慌てることになった。 
  
  
 「怒らない?」 
 「誰が?」 
 「……ももの背中に跡付けた人」 
  
  
 梨沙子が心配するのもおかしな話だが、桃子が後から困るのではないかと気になった。 
 そして桃子の背中に跡を付けた誰かは、今の梨沙子と同じような気持ちになるのだろうかと頭の片隅で考えた。 
  
  
 「知ってるから」 
  
  
 少し考えてから桃子が言った。 
 桃子の言葉は予想外のもので、梨沙子はその言葉の持つ意味を理解しきれない。 
  
  
   
- 807 名前:『 痕跡 』 投稿日:2008/05/08(木) 02:48
 
-  「梨沙子のこと知ってるし、ももに跡が付いてるからって何か言えるような人じゃない」 
  
  
 身体に触れている梨沙子の手を取り、桃子が指先にキスをした。 
 梨沙子の指先にキスをする為に桃子が俯いてしまい、梨沙子からは桃子の表情は見えない。 
 けれど、桃子が背中に跡を付けた人物のことを考えていることはわかった。 
  
 梨沙子は桃子の言葉を頭の中で反芻してみる。 
 脳裏に梨沙子がよく知っている人物の名前が浮かぶ。 
 答えは梨沙子の近くにあるようだった。 
  
  
 「それにさ。……ももに跡付けた人が怒ったほうが梨沙子、嬉しいでしょ」 
 「そんなことない」 
 「そう?その人が怒ったらさ、ももとその人、こういうことしなくなるって思ってるんじゃないの?」 
 「あたし、気にしてないもん。ももが誰と何してるかなんて」 
  
  
   
- 808 名前:『 痕跡 』 投稿日:2008/05/08(木) 02:50
 
-  自分以外とこういったことをしないでおいてくれるならそれに越したことはないが、桃子についた跡を見ても何も言わないでいるような人物が相手なのだからそれは無理な話だろう。 
 怒って関係を切るようなことが出来る人間ならば、梨沙子の存在に気がついた時点でそうしているはずだ。 
  
 梨沙子が桃子に跡をつけた相手だろうと予想している人物。 
 雅が本当に桃子の相手だとしたらなおのことだ。 
 桃子が大人しく雅に従うわけがないし、雅が桃子をしかりつけている場面も想像出来ない。 
 雅は気が強そうに見えるが、人の言葉を気にしすぎるところがある。 
 強気に出ることも多いが、それと同じぐらい気弱なところも多かった。 
  
  
 「誰と何してたっていいけど、ちゃんとあたしのところにも来てよ」 
  
  
 桃子の胸元に顔を埋める。 
 柔らかな肌に跡が残るようにきつく吸う。 
 梨沙子が唇を離すと桃子の胸元に赤い跡がはっきりと残っていた。 
  
  
   
- 809 名前:『 痕跡 』 投稿日:2008/05/08(木) 02:51
 
-   
  
 誰のところにも行かないで。 
 あたしのところにだけ。 
  
  
   
- 810 名前:『 痕跡 』 投稿日:2008/05/08(木) 02:53
 
-  本当に言いたかった言葉は飲み込んだ。 
 口にした言葉は桃子を自分の元に留めておくために必要なものだった。 
  
  
 「ずっと来なかったじゃん」 
  
  
 言いたかった言葉を飲み込んだかわりに感情は隠さなかった。 
 不機嫌な声色のまま言葉を投げつけて、桃子にもう一つ跡を付ける。 
 そんな苛立ちを含んだ声と梨沙子の行動に桃子が軽く笑った。 
  
 桃子があやすように梨沙子の髪を撫でる。 
 梨沙子はその手を振り払うと立ち上がった。 
 ベッドの端に座って窓の外を見る。 
 太陽は雲に隠れて、部屋の中が少し暗い。 
 晴れ渡っていたはずの空は、いつの間にか青い部分よりも灰色に覆われている場所の方が多くなっていた 
 明日は晴れるのだろうかと、梨沙子は場違いなことを考えた。 
  
 桃子が梨沙子の足下にやってくる。 
 桃子が床に膝をつく。 
 次の瞬間、梨沙子の足先に生暖かいものが触れた。 
 桃子の唇が足先から少しずつ上へと向かってくる。 
  
 梨沙子からは桃子の髪や背中しか見えない。 
 こうしている今、桃子が誰のことを考えているのか。 
 知りたいと思うが、言葉にして聞いてみる勇気はなかった。 
  
  
  
  
   
- 811 名前:『 痕跡 』 投稿日:2008/05/08(木) 02:54
 
-   
  
  
 『 痕跡 』 
  
  
  
 - END -  
- 812 名前:Z 投稿日:2008/05/08(木) 02:54
 
-   
   
- 813 名前:Z 投稿日:2008/05/08(木) 02:55
 
-  >>798さん 
 お待たせしました! 
 今回は梨沙子です(´▽`)  
- 814 名前:名無飼育さん  投稿日:2008/05/09(金) 23:57
 
-  りしゃもも! 
 梨沙子を応援したいです。  
- 815 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/11(日) 01:46
 
-  じゃー俺はみやももを 
 
- 816 名前:Z 投稿日:2008/05/14(水) 00:58
 
-   
  
  
 『 意地悪な一日 』 
  
  
  
   
- 817 名前:『 意地悪な一日 』 投稿日:2008/05/14(水) 01:00
 
-  「ぎゃーーー!」 
  
 廊下に響いたのは大げさなぐらいの悲鳴。 
 幽霊でも目にしたのかと思うほどの驚きっぷりだった。 
 やりすぎた、と愛理は思ったがもう遅い。 
  
 数分前、廊下の曲がり角に愛理は身を潜めていた。 
 それは後からくるであろう栞菜を待ってのことだ。 
 ちょっとした悪戯心。 
 廊下の角から「わっ」と飛び出て栞菜を驚かせてやろう。 
 そう思った愛理はそれを実行し、栞菜は見事に愛理の思惑通り悲鳴を上げた。 
  
 しかし、こんなに驚くとは想定外だった。 
 栞菜が恐がりなのは知っていたが、ここまで驚くとは思っていなかった。 
 大声で悲鳴を上げた今も、栞菜は涙で目をうるうるとさせながら恨めしそうに愛理を見ている。 
  
   
- 818 名前:『 意地悪な一日 』 投稿日:2008/05/14(水) 01:01
 
-  「ごめん。こんなに驚くとは思わなくて……」 
 「驚くよ!急にそんなところから出てきたらめちゃくちゃ怖いじゃん!」 
 「ほら、少し驚かせたいなー、なんていう可愛い気持ちでついつい」 
 「可愛くない!怖い!」 
 「だから、ごめんってば」 
 「あたしが怖がりなの知ってるくせに!」 
 「謝る!謝るから許してよ、栞菜」 
  
 愛理は両手をあわせて栞菜を拝む。 
 ごしごしと目を擦る栞菜はふくれっ面で少し機嫌が悪そうだった。 
  
 「……じゃあ。許してあげるから、あたしの言うこと何でも聞いてね」 
  
 拝むだけでなく頭を下げた愛理に栞菜が急に明るい声を出した。 
 「何でも」という言葉に嫌な予感がする。 
 何を言われるのかと愛理は身構えた。 
  
   
- 819 名前:『 意地悪な一日 』 投稿日:2008/05/14(水) 01:02
 
-  「何でもってなに?」 
 「今日、仕事終わったら愛理の家行っていい?」 
 「あたしの家?いいけど、それで許してくれるの?」 
 「うん、許す。だから、愛理の家に行ってもいい?」 
  
 無理難題をふっかけられるに違いないという愛理の予想は裏切られた。 
 栞菜の要求は簡単に叶えられるもので愛理は拍子抜けする。 
 今更願うほどのことでもない。 
 お互いの家など何度も行き来している。 
 こんなことで栞菜の機嫌が直るならお安いご用だ。 
 愛理は栞菜以上に明るい声で答えた。 
  
 「いいよ」 
  
  
  
   
- 820 名前:『 意地悪な一日 』 投稿日:2008/05/14(水) 01:03
 
-   
 ***   ***   *** 
  
   
- 821 名前:『 意地悪な一日 』 投稿日:2008/05/14(水) 01:05
 
-  見つめ合ってから何分ほど経ったのか。 
 栞菜がにやりと笑いながら愛理に言った。 
  
 「愛理、キスして」 
  
 何度目かの栞菜の台詞に愛理は下を向く。 
 一度目は部屋に入った直後。 
 二度目は鞄をおいてすぐ。 
 そして三度目が今。 
  
 いつもなら愛理がするなと言っても栞菜からキスをしてくる。 
 こうしてキスをしてくれとせがまれたことなど一度もない。 
 暗黙の了解でキスは栞菜の方からと決まっていた。 
 付き合い始めてから長いが、愛理からキスをするということは稀なことだった。 
  
 レースのカーテンを背にした栞菜の後ろから赤く染まった光が見える。 
 その光は愛理も照らす。 
 夕日の赤さに恥ずかしさに染まった頬が隠れたらいいなと愛理は思う。 
 愛理が栞菜を見るといつも通りの表情で、何も変わったところはなかった。 
 こうして向かい合って立っていると栞菜との身長差を感じる。 
 愛理の方が栞菜よりも見るからに身長が高かった。 
 テレビや漫画で見るキスは背が高い方からだった。 
 その法則からすると、自分の方からキスをするのはそう間違ってもいないことだと愛理には思えた。 
 躊躇うから妙に恥ずかしくなる。 
 そんなことはわかっていたが、いざしてくれと言われると愛理はなかなか行動に移せない。 
  
   
- 822 名前:『 意地悪な一日 』 投稿日:2008/05/14(水) 01:06
 
-  「キスしたくないの?」 
  
 今までとは違った台詞を栞菜が口にする。 
 したくないわけではなかった。 
  
 「……したい」 
  
 少し考えてから、愛理は素直な気持ちを栞菜に伝える。 
 頬が今まで以上に赤くなるのがわかった。 
 栞菜が満足げに微笑む。 
  
 「じゃあ、して」 
 「栞菜からしてよ」 
 「やだ。約束」 
 「え?」 
 「あたしの言うこと聞くって約束したでしょ」 
 「もう聞いたじゃん。家に遊びに来て終わりでしょ?」 
 「一つだなんて言ってないよ、あたし」 
 「ええっ!?」 
 「愛理、キス」 
  
   
- 823 名前:『 意地悪な一日 』 投稿日:2008/05/14(水) 01:08
 
-  栞菜の右手が愛理の頬を包み込む。 
 このままいつものように栞菜がキスをしてくれるのではないかと思った。 
 けれど、栞菜は愛理を見つめたまま動かない。 
 見上げてくる目は誘っているようだった。 
 薄く開いた赤い唇に見とれていると、小さく唇が動いて「早く」と愛理を急かす。 
 愛理の頬に触れている栞菜の手に力がこもる。 
 誘われるままに愛理はゆっくりと顔を近づけた。 
  
 心臓が強い力で掴まれたかのように縮こまる。 
 キリキリと締め付けられた心臓が悲鳴を上げそうだった。 
 栞菜はなかなか目を閉じない。 
 せめて目を閉じてくれたらキスをしやすいのに、と思うが栞菜の目は愛理を捕らえたまま放さない。 
 キスをしないという選択肢を選ぶことは許されそうになかった。 
 愛理はどうしようかと迷ってから、栞菜よりも先に目を閉じた。 
 唇が栞菜の唇に触れる。 
 触れあった唇から、柔らかな感触と栞菜の温度が伝わってくる。 
 愛理の方からするキスは、栞菜からされるキスとは違っているような気がした。 
 どこがどう違うのかと問われても上手く説明出来ないが、昨日したキスとは違うと心臓が刻むリズムが伝えてきていた。 
 明らかに鼓動がいつもより早かった。 
  
   
- 824 名前:『 意地悪な一日 』 投稿日:2008/05/14(水) 01:09
 
-  「顔、赤い」 
  
 愛理が唇を離すとすぐに栞菜が笑いながら言った。 
 その言葉に、愛理は夕日では誤魔化せないほどに頬が赤くなっているのだとわかった。 
  
 「だって」 
 「恥ずかしい?」 
 「うん」 
 「愛理、いつもあたしにそういう恥ずかしいことさせてるんだよ」 
 「栞菜は恥ずかしくなんてないんでしょ」 
 「恥ずかしいよ。ドキドキするし。でも、愛理にキスしたいから」 
  
 栞菜がそこで一旦言葉を区切った。 
 栞菜が愛理の腰に腕を回す。 
  
 「そんなこと気にならなくなる」 
  
 言い終わると栞菜は愛理の胸に顔を埋め、ぐりぐりと額を押しつけてきた。 
 腰を抱く腕に力が入って、「愛理は違うの?」と栞菜が問いかけてくる。 
  
   
- 825 名前:『 意地悪な一日 』 投稿日:2008/05/14(水) 01:11
 
-  気にならなくなるにはほど遠いと愛理は思う。 
 栞菜からされるキスでさえ、心臓がうるさいぐらいにドキドキと鳴るのだ。 
 自分の方からするキスは、心臓が過労死するかと思うほど激しく動いてその存在を主張する。 
 キスをしたいという気持ちは一緒なのに、自分と栞菜との差はどこから生まれるのだろう。 
 持って生まれたものなのかな、と何の解決にもならない答えが愛理の頭に浮かぶ。 
 結局、どうしていいかわからず、愛理は胸元にある栞菜の髪に指を通した。 
 さらさらとした栞菜の髪が指に絡むことなく滑り落ちる。 
 黒い髪が指先から離れていく様子を見ていると、速いテンポで動いていた心臓が落ち着きを取り戻していく。 
 愛理が触り心地を楽しむように髪に触れていると、栞菜が急に顔を上げた。 
  
 「もう一回して」 
 「無理」 
 「じゃあ、もうキスいらない?」 
 「……栞菜からしてよ」 
 「そんなにあたしにキスしたくないの?」 
 「そんなんじゃなくて。……栞菜の意地悪」 
  
 愛理は腰に回されている栞菜の腕を無理矢理剥がす。 
 不満げに栞菜が眉を寄せたが見ないふりをした。 
  
 「愛理。しようよ、キス」 
  
   
- 826 名前:『 意地悪な一日 』 投稿日:2008/05/14(水) 01:13
 
-  腰から剥がした栞菜の腕が愛理の首の後ろを掴んだ。 
 栞菜の唇が愛理に触れる直前で止まる。 
 唇のかわりに栞菜の吐息が愛理の唇を撫でた。 
 愛理の心音が乱れていく。 
 恥ずかしさや心臓の音、栞菜が何を思っているのか。 
 そんなことが気になったが、愛理は目を閉じてほんの数センチの距離を詰める。 
 唇が触れあった瞬間、愛理は自分からするキスに小さな違和感を覚えたがすぐにそれは消えた。 
 愛理はお互いの唇が触れあっている心地良さだけを感じ取る。 
 数秒間。 
 それぐらいの短いキスをしてから、愛理は唇を離した。 
  
 目を開けると陽の力が弱まっていて、赤く染まっていた空も徐々に色を失いつつあった。 
 愛理は照明のスイッチを入れる。 
 そして栞菜の背後にある薄緑色のカーテンを締めようとすると、栞菜から突然問いかけられた。 
  
 「これから、どうする?」 
  
 意味がわからず愛理は栞菜に背を向けたまま問い返す。 
  
 「どうするって?」 
 「何して欲しいか、って聞いてるの」 
  
 栞菜の声が愛理の耳元で聞こえた。 
 愛理の背後から手が伸びて、カーテンが閉められる。 
  
   
- 827 名前:『 意地悪な一日 』 投稿日:2008/05/14(水) 01:17
 
-  「……キスして」 
  
 望んでいるものはきっと同じだ。 
 その証拠に愛理が振り返ると同時に栞菜がキスをしてくる。 
  
 栞菜の唇が愛理の唇に触れた。 
 愛理の唇の上を舌が催促するように撫でる。 
 逆らわずに唇を薄く開くと、中へ入り込んでくる。 
 舌先が寄り道をせずに愛理の舌を捕らえた。 
 栞菜の舌に突かれ、絡め取られていく。 
 静かな部屋に湿った小さな音だけが鳴り続けていた。 
  
 栞菜の指先が耳に触れ顎のラインを辿る。 
 くすぐったさよりも先にぞくぞくとした何かが背筋を駆け抜ける。 
 目を閉じているはずなのに、鮮明に栞菜の表情を感じ取ることが出来た。 
 キスは徐々に深くなっていく。 
 愛理にその先を期待させるかのように栞菜の舌が巧みに動いていた。 
  
 「愛理。あたしの服、脱がせて」 
  
 呼吸の仕方を忘れてしまったのではないかと思う程に愛理が息苦しくなった頃、栞菜が唇を離して言った。 
 付けたばかりの照明を栞菜が消す。 
 栞菜に手を引かれ手探りでベッドまで歩くと、栞菜が愛理の手を胸元へと引き寄せた。 
  
   
- 828 名前:『 意地悪な一日 』 投稿日:2008/05/14(水) 01:18
 
-  いつもとは違っていた。 
 普段の栞菜ならば、優しさと同時に強引さも発揮して最初に愛理の服を脱がせる。 
 そして自ら服を脱ぐと、ベッドの中へ潜り込んでくる。 
 栞菜から服を脱がせてくれと頼まれたことなどなかった。 
 愛理には栞菜が何を考えているのかわからない。 
 けれど、栞菜の言葉には抗えないものが含まれていた。 
  
 栞菜の言うことを聞くという約束。 
  
 それに縛られるつもりはなかったが、愛理は黙って栞菜の言葉を受け入れる。 
 カーテンの隙間から入る光だけを頼りに愛理は栞菜の服を脱がせていく。 
 慣れない作業に少しばかり時間がかかったが、下着も全て脱がせてしまうと栞菜から頭を撫でられた。 
  
 「愛理も脱がせてあげる」 
  
 愛理とは違い慣れた手つきで栞菜が愛理の服を脱がせ、下着を脱がせる。 
 お互い裸になってしまうとベッドへ押し倒された。 
 二人分の体重にスプリングが軋んで小さな音を立てる。 
 その音はいつもと何ら変わりがないのに栞菜は愛理に触れようとしなかった。 
  
   
- 829 名前:『 意地悪な一日 』 投稿日:2008/05/14(水) 01:20
 
-  「これからどうしたらいい?」 
  
 愛理の上で栞菜がまるで数式の解き方でも聞くかのように言った。 
 それはあまりにも自然で、愛理は思わずこの先の手順を詳しく述べそうになったが思い留まる。 
 今しようとしていることは数学ではない。 
 ああしてこうしてと事細かに教えるようなものとは違うのだ。 
  
 「言わなきゃだめなの?」 
 「愛理の口から聞きたい」 
  
 耳元で囁かれただけで頬が熱くなる。 
 栞菜は何を言えば愛理が困るのか知っているに違いないと思う。 
  
 「お願い、教えて」 
  
 そしてどうすれば愛理が言うことを聞くのか知っている。 
 静かにそっと、でも愛理が逆らえないような強さを込めて栞菜が言葉を口にした。 
  
 それだけで愛理の頭の中が栞菜の声だけになる。 
 それは幸せで、少し胸が苦しい。 
 愛理の中から逃げ場が消えて、栞菜の側から離れられなくなる。 
  
   
- 830 名前:『 意地悪な一日 』 投稿日:2008/05/14(水) 01:21
 
-  「……ここにキスして」 
  
 愛理は栞菜の首に腕を回して、首筋に触れた。 
 指先でキスして欲しい場所を撫でる。 
 栞菜が愛理が示した場所にキスを落として、ペロリとそこを舐め上げた。 
 そして、そこで栞菜の動きが止まった。 
  
 「それから?」 
  
 栞菜の手が愛理の首筋に触れる。 
 手の平を押しつけられたが、それ以上栞菜の手は動かなかった。 
  
 「触って、栞菜」 
 「触ってるよ」 
 「そうだけど」 
  
 手を押しつける力が強くなる。 
 栞菜の持つ体温が触れている部分から流れ込み、愛理の身体の中を走り抜ける。 
 息苦しいのは首筋が圧迫されているからなのか、これから言わなければならない言葉のせいなのかわからない。 
 心臓がうるさいぐらいに鳴っていた。 
  
   
- 831 名前:『 意地悪な一日 』 投稿日:2008/05/14(水) 01:22
 
-  「……もっと、下の方まで」 
  
 小さな声で栞菜に告げる。 
 言葉が足りないのか、栞菜の手は動かない。 
 だが、愛理にはこれ以上何かを言うことは出来そうになかった。 
 愛理は言葉の変わりに栞菜を引き寄せた。 
  
 「触って欲しいのってここかな」 
  
 栞菜の手の平が首筋から一直線に下へ降りて、愛理の胸に触れる。 
 手の平が硬くなった突起ごと胸を押し潰した。 
  
 「ここでいいの?」 
  
 声に出して返事をすることは出来ず、愛理は何度も頷く。 
 その返事に満足したのか栞菜の手が愛理の胸の上で動き出す。 
  
 硬く尖ったそこを爪で弾かれ、指の腹で擦り上げられる。 
 愛理が触ってくれと頼んだわけでもない脇腹に指先が這う。 
  
   
- 832 名前:『 意地悪な一日 』 投稿日:2008/05/14(水) 01:24
 
-  「んっ、あ、あぁっ…かん、なっ」 
  
 いつもより早く息が上がる。 
 少し触れられただけで身体が飛び上がりそうなのに、乱暴だと思える程の力で胸を触られて大きな声が出た。 
 愛理が声を上げるたびに、栞菜の指先にこもる力が強くなっていくような気がした。 
 そして、その力に耐えきれずにまた掠れた声を上げることになる。 
  
 「いつもよりやらしい声」 
 「だっ…て、栞菜が……」 
 「あたしのせいじゃない。愛理がやらしいことして欲しいって思ってるからそんな声が出るんだよ」 
 「そんな…こと、ない」 
 「ないなら、触らない」 
  
 胸に触れていた手の感触が消える。 
 近くにあった栞菜の身体が愛理から離れていく。 
 ベッドを軋ませ、栞菜が身体を起こそうとしていた。 
  
 「や…だ、栞菜っ」 
  
 思わず栞菜の腕を掴んで引き寄せた。 
  
   
- 833 名前:『 意地悪な一日 』 投稿日:2008/05/14(水) 01:25
 
-  「愛理、教えて」 
  
 優しい声音が降ってくる。 
 愛理の唇に栞菜の唇が押しつけられる。 
 軽くキスをした後、誘うように唇を舐められた。 
 栞菜にして欲しいことは一つだけだった。 
  
 「触って。……栞菜に、触って…欲しい」 
 「いいよ。愛理がして欲しいようにしてあげる」 
  
 愛理の胸に栞菜の指先が舞い戻ってくる。 
 今度は優しく、緩やかに胸を揉まれた。 
  
 「ふぁっ、あっ…ん」 
  
 栞菜の指先が胸の先端を掠め、ゆっくりと下へ降りていく。 
 肌の表面を撫でる手から逃れようと愛理が身を捩ると、栞菜が耳元で囁いた。 
  
 「全部、愛理が望んだことなんだよ」 
  
   
- 834 名前:『 意地悪な一日 』 投稿日:2008/05/14(水) 01:26
 
-  頭の中に栞菜の声が響く。 
 身体を滑り落ちる指先に自分が何を望んでいるのかを思い知らされ、愛理の中で栞菜の手の感触がより鮮明になっていく。 
 自分が望んだ通りに栞菜が触れていると思うと、身体がもっと敏感になっていくようだった。 
  
 この先に触れて欲しい場所。 
 そこに栞菜の指先が向かっていく。 
 腰から太ももにかけて撫でられて、身体がびくんと跳ねる。 
  
 「ここも触ろうか?」 
  
 内腿を撫で上げた栞菜の指先が愛理の足の間に置かれた。 
 声に出す前に腰が揺れて、身体の方が先に催促してしまう。 
  
 「声に出して」 
 「触っ…て、栞菜。おね…がい、だからっ」 
  
 軽く置かれていただけの指先が潜り込む。 
 愛理が口にする前に、一番触れて欲しい部分に栞菜の指先が当たる。 
 水音を立てながら指先が何度もそこを撫で上げた。 
  
   
- 835 名前:『 意地悪な一日 』 投稿日:2008/05/14(水) 01:28
 
-  「どうなってるかわかる?」 
  
 聞こえてくる音だけでどうなっているかなどわかる。 
 けれど、答えたくない。 
 愛理が黙っていると、足の間で栞菜の指がわざと大きな音を立てるように動いた。 
  
 「言ってよ、愛理」 
 「言えな…い、よ」 
 「すごく濡れてる。自分でもわかるでしょ?」 
  
 愛理の頬を栞菜の手が包み込む。 
 横を向いていた顔は栞菜の手によって正面へと向けられる。 
 目を覗き込むように尋ねられて、愛理は頷いた。 
 答えたことによって、身体の中から体液が溢れ出す。 
 栞菜の問いかけに答えているだけで、酷くいやらしいことをしている気分になる。 
 指が動くたびに聞こえてくる湿り気を帯びた音がそう思わせているのかもしれない。 
  
 硬くなった突起を転がすように動いていた栞菜の指先が滑らかに動いて、愛理の身体の中に入り込もうとする。 
 入り口に押し当てられた二本の指は、何の抵抗もなく身体の奥深くまで到達した。 
  
   
- 836 名前:『 意地悪な一日 』 投稿日:2008/05/14(水) 01:29
 
-  「嫌いに、なら…ない…で」 
  
 栞菜が口にした「いつもよりやらしい声」というのは間違っていないと思う。 
 喘ぎ声はいつもより深い色をしていた。 
 身体は必要以上に反応して躊躇いもなく栞菜を欲しがる。 
 こんな風に抱かれることを求める自分が恥ずかしかった。 
  
 「なんで?」 
 「だって……」 
 「やらしい愛理も好きだよ」 
  
 身体の中にある栞菜の指が動く。 
 内壁を擦りながら、何度も出し入れを繰り返される。 
 愛理の意志とは関係なく、身体の中が伸縮して栞菜の指を締め付ける。 
  
 「指、気持ちいい?」 
 「んっ。栞菜の、指…気持ち、…いい」 
 「もっとしてあげるね」 
 「し…てっ」 
  
   
- 837 名前:『 意地悪な一日 』 投稿日:2008/05/14(水) 01:30
 
-  いつだって栞菜に逆らえない。 
 栞菜が望むことをしたいと思う。 
 こうして栞菜に応えることが栞菜の望みなら、恥ずかしくても望み通りの言葉を口にして、そして受け入れたい。 
 そうすることによって栞菜が喜んでくれるならそれでいい。 
  
  
 栞菜も同じだろうか。 
 あたしが喜んだら、それを嬉しいと思ってくれたらいいと思う。 
  
  
 身体中が痺れるような快感に耐えきれず、愛理は栞菜に抱きつく。 
 それに応えるように、栞菜の指が最後の時に向かって力強く動き出した。 
  
  
  
  
   
- 838 名前:『 意地悪な一日 』 投稿日:2008/05/14(水) 01:31
 
-   
  
  
 『 意地悪な一日 』  
  
  
  
 - END - 
   
- 839 名前:Z 投稿日:2008/05/14(水) 01:31
 
-   
   
- 840 名前:Z 投稿日:2008/05/14(水) 01:33
 
-  シリーズは一旦お休みしてちょっと違ったお話を(;´▽`) 
  
 >>814さん 
 梨沙子は雅よりもがんばってくれそうなんですが……。 
 どうなるんでしょう(;´▽`) 
  
 >>815さん 
 雅もがんばってくれるはず、だと思いたいですw 
   
- 841 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/15(木) 01:12
 
-  あいかん!! 
 ちょっと違ったお話…よかったです!!  
- 842 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/15(木) 01:19
 
-  うわあああああああ愛栞+エロは最強ですよ!! 
 興奮して寝れん…乙です!  
- 843 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/15(木) 16:01
 
-  あいかんはリアルでラブラブすぎて 
 最近やばいですなー  
- 844 名前:名無飼育さん  投稿日:2008/05/15(木) 17:18
 
-  うわあああああ!!! あいかん!!  
 最強です興奮しすぎてやばいです!! 乙  
- 845 名前:名無飼育さん  投稿日:2008/05/15(木) 22:51
 
-  あいかんいいね! 
 でもももみやで見たかった…w  
- 846 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/18(日) 11:20
 
-  栞菜にはもっと愛理に意地悪してほしいなぁ〜か言ってw 
 
- 847 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/05/19(月) 00:13
 
-  凄いレス付いてるぅ!あいかん人気なのね 
 Zさんももみやも忘れないでぇ〜  
- 848 名前:Z 投稿日:2008/06/03(火) 01:19
 
-   
  
  
 『 許してあげる 』 
  
  
  
   
- 849 名前:『 許してあげる 』 投稿日:2008/06/03(火) 01:22
 
-  「怒ってるの?」 
 「怒ってない」 
 「怒ってるじゃん」 
 「怒ってないもんっ」 
  
  
 怒っていないなんて桃子が言っているように嘘だ。 
 最近、桃子がまったく遊んでくれなくなった。 
 少し前までは梨沙子の学校へ迎えに来てくれたり、休みの日を一緒に過ごしたりしていた。 
 けれど、最近は会えない日が続いていた。 
 だから、梨沙子は桃子を放課後の学校に呼び出したのだ。 
  
  
 「最近、全然遊んでくれない」 
 「だって忙しい」 
 「何が忙しいの?」 
 「塾、行き始めたから」 
 「毎日じゃないでしょ?」 
 「高校生は他の日も忙しいんだよ」 
  
  
   
- 850 名前:『 許してあげる 』 投稿日:2008/06/03(火) 01:25
 
-  梨沙子の学校を出て家へと向かう帰り道。 
 もう怒ることをやめようと思っていたはずが、梨沙子の口から出てくる言葉は桃子に対する文句ばかりだった。 
 薄曇りの空と同じように、梨沙子の気持ちはすっきりとしない。 
 湿度の高い空気がブラウスに染みこみ、ぺたりと腕に張り付く。 
 それが梨沙子の苛々とした気分をさらに大きくさせた。 
 桃子はと言えば、まるでどこかの大人のように梨沙子をあやす言葉を返すばかりで、それがまた梨沙子の神経を逆なでする。 
 だから、梨沙子はどうしても桃子の言葉に納得できない。 
  
  
 「忙しいのはわかるけどさ。でも、もっと会ってくれたっていいじゃん」 
 「会いたいの?」 
 「ももは会いたくないの?」 
 「会いたいよ。だから、毎日電話してるでしょ?」 
  
  
   
- 851 名前:『 許してあげる 』 投稿日:2008/06/03(火) 01:28
 
-  何が忙しいのかはよくわからないが、とにかく桃子が忙しいということは梨沙子にもわかる。 
 塾や他の何かで疲れているのか、電話の最中に桃子がうとうととすることも多かった。 
 それに今日も無理矢理時間を作って梨沙子のもとへやってきたらしく、待ち合わせの時間に少し遅れてやってきた。 
 けれど、桃子は過ぎ去った時間を取り戻すかのように凄い勢いで走ってやってきてくれた。 
 そうやって時間を作ってくれるのは素直に嬉しいと梨沙子は思う。 
 毎日の電話も、眠たい目を擦りながらも梨沙子がいいと言うまで話してくれる。 
 桃子が精一杯梨沙子の為に時間を作ってくれているのはよくわかるのだ。 
 けれど、それでも会いたいものは会いたいのだから仕方がない。 
  
  
 「電話は嬉しいけど会いたい」 
 「それはわかるけど。……もう、梨沙子の我が儘」 
 「違う」 
 「じゃあ、子供」 
 「違うもんっ」 
 「なら何なの?」 
  
  
 ゆっくりと歩いていた桃子の足が止まる。 
 歩道の端。 
 桃子が呆れ顔で自分を見ているのがわかる。 
 自分でも我が儘だとは思うが、桃子に会いたいという気持ちは止められなかった。 
 そして他に桃子からして欲しいことがあった。 
 だから梨沙子は桃子に言った。 
  
  
   
- 852 名前:『 許してあげる 』 投稿日:2008/06/03(火) 01:34
 
-  「キス」 
 「え?」 
 「キスしてくれたら、もものこと許してあげる」 
 「こんなところで?みんな見てるよ?」 
 「いいじゃん、見られたって」 
 「梨沙子がよくてもこんな場所、ももが困る」 
  
  
 人通りが少ない道とはいえ、まったく人が通らないわけではなかった。 
 今も梨沙子の横を誰かが通り過ぎていく。 
 みんなが見るかどうかはわからないが、こんな場所でキスをすれば誰かの目にとまるであろう事は確かだ。 
 けれど、梨沙子はこの場所でも構わなかったし、見られてもいいというのは嘘ではなかった。 
  
 梨沙子は立ち止まっている桃子に身体を寄せて、その目を見つめた。 
 しかし、桃子が当然のように梨沙子の身体を引きはがし、すたすたと歩き出す。 
 梨沙子も桃子にこんな場所でキスをしろと言っても断られるということはわかっていた。 
 それでも自分を置いて歩いていく桃子に一言言わないと梨沙子は気が済まない。 
  
  
 「もものけちっ」 
  
  
 その声に桃子の足が止まる。 
 そしてくるりと振り向き、梨沙子に向かって手を差し出した。 
  
  
   
- 853 名前:『 許してあげる 』 投稿日:2008/06/03(火) 01:37
 
-  「梨沙子、手」 
  
  
 伸ばされたその手は梨沙子の方を向いている。 
 要求されているのは手を繋ぐこと。 
 キスよりも簡単なそれは、ほんの数歩歩いて伸ばされているその手を取ればいいだけだった。 
 だが、梨沙子にはそれが出来ない。 
 梨沙子が伸ばされた手を取ることを躊躇っていると、桃子が梨沙子のもとまで戻ってくる。 
 そして強引に手を握られた。 
  
 雨でも降り出しそうな湿った空気ごと手を握りしめられる。 
 ささくれ立っていた気持ちがやんわりとした空気に包まれて落ち着いていく。 
 繋いだ手はぎゅっと握られて痛いぐらいなのに、梨沙子にはそれが心地良かった。 
 繋がった手から伝わってくる桃子の体温に今まで拗ねていたことがどうでもよくなる。 
  
 お互いの体温を感じている間の短い沈黙。 
 その沈黙を桃子が破る。 
  
  
   
- 854 名前:『 許してあげる 』 投稿日:2008/06/03(火) 01:40
 
-  「今週末、梨沙子の家に泊まりに行っていい?」 
 「え?」 
 「もも、勉強苦手でさ。高校の勉強難しくてなかなか出来なくて。二年生になったら、もっと難しくなったし。……でもね、今度の補習休めるぐらい勉強したから、梨沙子の家に泊まりに行ける」 
 「そんなに勉強、してたの?」 
 「うん。だって、難しいんだもん。勉強」 
 「早く言ってくれたらよかったのに」 
 「……格好悪いじゃん」 
  
  
 そういえば勉強が出来ないと少し前に桃子が嘆いていた。 
 考えてみれば、あれから桃子の時間がなくなった。 
 梨沙子は桃子が忙しかった理由を今やっと理解する。 
  
 他にも色々理由があるのだろうが、一番の理由はきっと勉強なのだろう。 
 そしてそれを年下の自分に言いにくかったこともなんとなくわかった。 
  
  
 でも、言ってくれたらこんな我が儘言わなかったのに。 
  
  
   
- 855 名前:『 許してあげる 』 投稿日:2008/06/03(火) 01:42
 
-  そこまで考えて梨沙子は気がつく。 
 言ってくれたとしても結局、我が儘を言うであろう自分に。 
 そして桃子が我が儘を言ってばかりの自分をこうやって喜ばせてくれるだろうことに。 
 今もそうだ。 
 桃子は梨沙子をいとも簡単に喜ばせる。 
 そんな梨沙子の考えに気がついているのかはわからないが、桃子が梨沙子の耳元で囁いた。 
  
  
 「泊まりに行くからさ、いっぱい一緒にあそぼ?それで、いっぱいキスしよう」 
 「……うん」 
  
  
 週末は晴れたらいい。 
 梅雨がきたって晴れたらいい。 
 そうしたら今までのこと全てを許してあげるから、手を繋いでどこかへ遊びに行こう。 
  
  
  
  
   
- 856 名前:『 許してあげる 』 投稿日:2008/06/03(火) 01:43
 
-   
  
  
 『 許してあげる 』 
  
  
  
 - END -  
- 857 名前:Z 投稿日:2008/06/03(火) 01:43
 
-   
   
- 858 名前:Z 投稿日:2008/06/03(火) 01:49
 
-  >>841さん 
 ありがとうございますヾ(*´∀`*)ノ 
 たまにはこんなあいかんも(´▽`) 
  
 >>842さん 
 最強認定嬉しいですw 
  
 >>843さん 
 最近はリアルが妄想を越えていますねw 
  
 >>844さん 
 興奮したときは鼻血注意です!w 
  
 >>845さん 
 ももみやだと、また違った感じになりそうですw 
  
 >>846さん 
 もっと意地悪でも良かったんですね! 
 ……次回、がんばりたいです!w 
  
 >>847さん 
 ももみやも忘れていません!(`・ω・´) 
   
- 859 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/04(水) 00:28
 
-  みやも許してあげてぇ〜(´;ω;`) 
 
- 860 名前:Z 投稿日:2008/06/11(水) 03:56
 
-   
  
  
 『 恋は偉大 』 
  
  
  
 >>4-62 
 『 恋する方法 』シリーズ番外編 
   
- 861 名前:『 恋は偉大 』 投稿日:2008/06/11(水) 04:01
 
-  素っ気ない。 
  
 桃子が話しかければ答えてくれる。 
 だが、雅に触れようとするとひらりとかわされた。 
  
  
 雅が素っ気ないのはいつものことだと言ってしまえばそんなものなのかもしれない。 
 二人きりでいる時はともかく、雅が桃子に外で甘えてくることはない。 
 それにしても、だ。 
 最近、仕事で会う雅は素っ気ないどころか桃子を避けている気がする。 
 桃子が雅と二人きりで会える時間はそう多くなかった。 
 だからこそ仕事で会うぐらいは雅の側にいたいと思う。 
 しかし、どういうわけか雅はそう思ってくれてはいないようだった。 
  
 今日も楽屋で「おはよう」と挨拶を交わしたきり、雅は桃子に近寄っても来ない。 
 昼になって桃子が一緒に昼食を食べようと誘ったときも、「ちぃと食べるから」などと言ってどこか離れた場所に消えていった。 
 おかげで昼食を食べ終わった今、桃子は次の仕事までの空き時間をどう過ごせばいいのかわからない。 
  
   
- 862 名前:『 恋は偉大 』 投稿日:2008/06/11(水) 04:03
 
-  次の収録まで間がある。 
 だが、どこか外へ出かける程の時間はない。 
 この半端な時間をどう過ごすべきか。 
  
 いつもなら話すことが別段なくとも雅と一緒にいた。 
 雅と過ごすことが出来ないのなら、他のメンバーと話して時間を潰していた。 
 しかし、今日は雅と過ごしたかった。 
 どうして避けられているのかそれを知りたい。 
  
  
 桃子は楽屋を出て雅を探す。 
 廊下を歩いていくつかの楽屋を覗く。 
 階段を降りるとどこからか雅の声が聞こえてきた。 
 自動販売機の前まで歩くと、雅と千奈美の姿が見えた。 
  
  
 「みーやん」 
  
  
 自動販売機の前に設置されている長椅子に座っていた雅に声をかける。 
 だが、桃子の声に反応したのは雅ではなく千奈美だった。 
  
  
   
- 863 名前:『 恋は偉大 』 投稿日:2008/06/11(水) 04:05
 
-  「あ、もも。どうしたの?」 
 「ちょっとみーやんに話があって」 
 「えー!あたしが今、みやと話してるのにー」 
 「うん、見たらわかるんだけど。……徳さん、みーやん借りたらだめ?」 
 「どうしよっかなー」 
  
  
 わざとらしく腕を組み、千奈美が考える振りをした。 
 そして首を傾げて千奈美が雅の方を見たが、雅は黙ったまま動かない。 
 千奈美はそんな雅にどうしたものか、という表情を浮かべた。 
  
  
 「みや、どうすんの?」 
 「ん?もも、ここ座れば?」 
  
  
 千奈美が雅に尋ねるとようやく雅が重い口を開いた。 
 言葉の終わりには、雅が自分の隣を叩くぽんぽんという音が付け加えられた。 
 とりあえず雅には長椅子の上に落ち着けた腰を動かすつもりはないらしい。 
  
   
- 864 名前:『 恋は偉大 』 投稿日:2008/06/11(水) 04:07
 
-  出来ることならば桃子は雅と二人で話をしたかったが、雅を強引に千奈美の前から連れ去るわけにもいかない。 
 桃子はふうっと息を吐き出して雅の隣に腰をかける。 
 しかし雅の隣に座ったものの、千奈美がいる前でどう話を切り出していいものかわからない。 
 口にする言葉が思い浮かばない桃子の耳に自動販売機が立てる低い音が響く。 
  
  
 「で、なに?」 
  
  
 黙っている桃子に雅が問いかける。 
 桃子が千奈美の方を見ると、これから何が起こるのか興味津々といった顔をしていた。 
  
  
 「なにって言われても」 
  
  
 桃子は目の前にある自動販売機を見る。 
 自動販売機の光が少し弱まってからまたもとの光量へと戻る。 
 切れかけの蛍光灯が自動販売機のなかでチカチカと瞬いていた。 
 桃子がチカチカと点滅する光に目の奥が痛くなって下を向くと、雅の手が視界に入った。 
 無意識のうちにその手を握る。 
 ぎゅっと握りしめると雅の身体がびくっと震えた。 
  
  
   
- 865 名前:『 恋は偉大 』 投稿日:2008/06/11(水) 04:09
 
-  「どうしたの?」 
 「何でもない」 
  
  
 その震えが千奈美に伝わったのか、千奈美が雅に問いかけた。 
 雅が不自然に笑いながら千奈美に言葉を返し、桃子の手を振りほどこうとする。 
 桃子が指先の力を抜くと、桃子の手から抜け出せると安心したのか雅の手からも力が抜けた。 
 桃子は完全に雅の手を離す。 
 そしてもう一度その手を取ると、今度は指を絡ませて握った。 
 俗に言う恋人繋ぎ。 
 指を絡ませて、その手を勢いよく雅の太ももの上に置くとぽすんという音が鳴った。 
 千奈美がその音に気づいて雅の方を見る。 
 するといきなり雅が立ち上がった。 
 ぶんっと手を振って雅は握られた手を振りほどくと、不機嫌そうな顔で桃子を睨み付けた。 
  
  
 「ちょっと、みーやん」 
 「みや、なにっ!?」 
  
  
 桃子と千奈美の声が重なる。 
 けれど、その声には答えずに雅が長椅子の前から歩き出す。 
  
  
   
- 866 名前:『 恋は偉大 』 投稿日:2008/06/11(水) 04:11
 
-  「徳さん、ごめん。もも、みーやんと話してくる」 
 「もも、みやに何したの?」 
 「わかんないけど。とにかく話してくるから」 
  
  
 追いかけてこないで、と千奈美に目で訴えてから、桃子は雅の背中目指して走り出した。 
 廊下を歩く人々の注目を集めながら桃子は雅の背中を追いかける。 
 長椅子の前から立ち去った速度で歩く雅の姿はすぐに桃子の目の前に現れた。 
 雅の横に並ぶと桃子はその腕を引っ張った。 
  
  
 「みーやんってばっ」 
  
  
 返事はない。 
 歩く速度を緩めずに雅が足を進める。 
 桃子はそれに合わせるように早足で雅の隣を歩く。 
 エレベーターに乗る雅にあわせて桃子も一緒に中へ乗り込む。 
 雅が最上階を示すボタンを押した。 
  
  
   
- 867 名前:『 恋は偉大 』 投稿日:2008/06/11(水) 04:12
 
-  「ねえ、みーやん。どこ行くの?」 
 「屋上」 
  
  
 面倒臭そうにそう言うと雅がまた口を閉じた。 
 エレベーターが目的の階へと到着し、電子レンジが立てるような軽い音とともに停止する。 
 桃子は雅と一緒にエレベーターを降り、屋上の扉を目指す。 
 階段を上って扉の前に立つ。 
 雅が扉を開けると、冷たい風が吹き込んできて桃子の頬を撫でた。 
 扉はすぐに軋んだ音を立てて閉じられた。 
  
  
 「寒い」 
 「そりゃ、冬だし」 
  
  
 外に出ることなく、扉を閉めた雅がぼそりと呟く。 
 呆れたように桃子が答えると、暖かい室内に合わせて薄着の雅が寒そうに肩を震わせていた。 
  
  
   
- 868 名前:『 恋は偉大 』 投稿日:2008/06/11(水) 04:15
 
-  また嫌がられるのかなあ。 
  
  
 そんなことを考えながら雅の手を取り、桃子はその手を両手で握った。 
 自動販売機の前で触れたときよりも、雅の手が冷たい。 
 冷たくなった手を暖めるように桃子が両手で擦ると、手が握りかえされた。 
  
 振りほどかれた数分前と今の違いがわからない。 
  
 雅の手を握ったまま桃子が不思議そうな顔をしていると、雅が不機嫌そうな声で言った。 
  
  
 「ももがいけない」 
 「えっ!?なに?もも、なにか悪いことした?」 
 「した。だってもも、ちぃの前で手繋いだ。しかもあんな繋ぎ方……」 
 「ああ、さっきの。……手繋ぐと、困ることでもあるの?」 
  
  
 手を繋ぐなど珍しい行為ではない。 
 仕事で手を繋ぐこともあるし、それ以外でもメンバー同士で手ぐらい繋ぐことがある。 
 桃子もそうだし雅もメンバーの誰かとよく手を繋いでいた。 
 だから、手を繋ぐという行為は困る程のものではないと桃子は思う。 
 恋人繋ぎも同じ事だ。 
 桃子と雅だけしかしない行為、というものでもない。 
  
  
   
- 869 名前:『 恋は偉大 』 投稿日:2008/06/11(水) 04:16
 
-  「手ぐらいみんな繋ぐよ?」 
  
  
 何が悪いのかわからない。 
 桃子が問いかけると、雅が困ったように視線を彷徨わせてから下を向いた。 
 そして「うー」と低い声で唸ると、早口で言った。 
  
  
 「でも、恥ずかしいじゃん!」 
  
  
 桃子は下を向いたままの雅の顔を覗き込む。 
 赤い頬が見えた。 
 きっと頬が染まっているのは寒いからではないと思う。 
  
 要するに。 
 人前でベタベタすることが恥ずかしい。 
 そういうことなのだ。 
  
  
   
- 870 名前:『 恋は偉大 』 投稿日:2008/06/11(水) 04:18
 
-  「ね、みーやん。もも、今までみーやんに避けられてると思ってたんだけど」 
 「避ける?」 
 「うん。最近、仕事で会ってもさ、ももの側に来てくれないから」 
  
  
 桃子から旋毛が見えるぐらいまで頭を下げている雅に話しかける。 
 雅の手から片手を離して、目の前にある髪を撫でるとシャンプーの匂いがした。 
  
  
 「ももの側に来なかったのって、ももがみーやんにいっぱい触るから?」 
 「別にそういうわけじゃ」 
 「みんなの前でベタベタするからでしょ?」 
 「それが悪いわけじゃ……」 
  
  
 雅が小さな声でむにゃむにゃと何かを言っていたが、桃子には聞き取れなかった。 
 けれど否定の言葉を口にしているとは思えなかったから、きっと桃子が言ったことに間違いはないのだろう。 
  
   
- 871 名前:『 恋は偉大 』 投稿日:2008/06/11(水) 04:20
 
-  繋いだままの手に力を入れる。 
 両手でぎゅっと握っても雅が顔を上げる気配はない。 
 桃子からはずっと雅の旋毛が見えたままだった。 
 くるくると渦巻いている旋毛を見ているとなんだか吸い込まれそうになる。 
 桃子が誘われるようにちゅっと音を立てて旋毛にキスを落とすと、雅が突然頭を上げた。 
 顎に直撃しそうになった雅の頭を何とか避けて、桃子は声を上げる。 
  
  
 「わっ、みーやん。危ない」 
 「ももが変なことするからっ」 
  
  
 予告もなしに頭を上げた雅は、赤い顔をして桃子がキスをした場所を押さえていた。 
 握っていた手はいつの間にか離されている。 
  
 両手で旋毛を押さえる雅を見ていると桃子は笑いがこみ上げてくる。 
 照れ屋な恋人は人前で手を繋ぐことすら恥ずかしくて、不意打ちでキスをすれば真っ赤になる。 
 手を繋いだりキスをしたりするよりも、もっとすごいことを二人きりの時はしているのに。 
 桃子は雅を見ていると、自分がそんなことを雅にしているとは思えなかった。 
  
  
   
- 872 名前:『 恋は偉大 』 投稿日:2008/06/11(水) 04:22
 
-  「みーやんって可愛いよね」 
  
  
 他に雅を表す言葉が思い浮かばない。 
 些細なことで赤くなったり怒ったり。 
 反応を見ているだけで楽しめる。 
  
 言葉を口にしながら考えていたことが顔に出たのか、桃子の肩を雅がぽかっと殴った。 
 桃子はそんな雅を見ながら、叩かれることすら楽しいと感じる。 
  
 恋は偉大だ。 
 自分を殴る雅の手の角度すら愛おしいと思う。 
 可愛い、という言葉に反応して、頬を染めて拗ねた目でこちらを見ている姿がまた可愛いと思う。 
 自分でも気がつかないうちについ頬が緩む。 
 くるくると表情を変える雅がもっと見たくて、桃子が笑いながら雅を見ていると手の平で目を覆い隠された。 
  
  
   
- 873 名前:『 恋は偉大 』 投稿日:2008/06/11(水) 04:23
 
-  「うるさいっ!見ないのっ」 
  
  
 照れた声が雅に作り出された薄闇の中、聞こえてきた。 
 桃子が目を覆い隠す雅の手に触れると、目の上にある手がぐっと顔に押さえつけられた。 
 暗かった視界がもっと暗くなる。 
 押さえつけられているせいか、目の周りがぼうっとする。 
  
  
 「えー。みーやん見たい」 
 「やだっ」 
 「なんで?照れてるとこ、可愛いのに」 
 「そういうことばっか言うから絶対やだっ」 
 「見えなくても言うから同じなのに」 
  
  
 雅の手首に手をかけて、見たいと駄々をこねる。 
 けれど、桃子の目の上にある手は退けられなかった。 
 桃子の額の辺りに暖かい空気があたる。 
 暗くても、雅が近くにいることがわかった。 
 すぐ近くに雅がいることが嬉しくて、桃子は甘えた声でねだってみる。 
  
  
   
- 874 名前:『 恋は偉大 』 投稿日:2008/06/11(水) 04:26
 
-  「みーやん。手、離してよぉ」 
 「一生この手離さないからっ!」 
  
  
 いつもより少しだけ高い声で雅が言った。 
 桃子が手を伸ばすと、指先が雅の身体に触れた。 
  
  
 一生側にいてくれるならそれもいいかな。 
  
  
 見えなくても雅がどんな表情をしているのかぐらいは想像出来る。 
 だから、ずっと側にいられるならこのままでもいいかな、などと馬鹿なことを考えた。 
 暗闇の中で手を伸ばしたせいで雅のどこに触れているのかわからなかったが、桃子はとりあえず指先に触れている服を掴む。 
 すると掴んだ布越しに雅の存在が伝わってきて、桃子は昨日よりも幸せな気分になった。 
  
  
  
  
   
- 875 名前:『 恋は偉大 』 投稿日:2008/06/11(水) 04:27
 
-   
  
  
 『 恋は偉大 』 
  
  
  
 - END - 
   
- 876 名前:Z 投稿日:2008/06/11(水) 04:27
 
-   
   
- 877 名前:Z 投稿日:2008/06/11(水) 04:34
 
-  おそろしく季節外れな話ですみません_| ̄|○  
  
 最近、みやびちゃん周りが騒がしかったですが、変わらずももみやを書いていくつもりですのでよろしくお願いしますm(__)m 
 書きかけになっているものを放置するつもりはありません。 
 というわけで、今回の騒動についての私のスタンスはブログの方に書いてありますので、気になる方はそちらをどうぞ(´▽`)ノ 
  
  
 >>859さん 
 ル*’ー’リノナデナデノノl∂_∂'ル 
  
   
- 878 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/12(木) 00:30
 
-  やっぱりももみやが好き! 
 
- 879 名前:名無飼育さん  投稿日:2008/06/12(木) 01:38
 
-  このシリーズが好きで嬉しかったです 
 ずっと作者さんのももみや小説を見たいです  
- 880 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/13(金) 21:35
 
-  やはり、みやももは良いのぉ〜。 
 作者さんにどこまでもついて行きますわ  
- 881 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/14(土) 00:24
 
-  みやもも!みやもも(^ω^) 
 良ければブログの行き方教えてください 
   
- 882 名前:Z 投稿日:2008/06/24(火) 01:59
 
-   
  
  
 『 君に会う日 』 
  
  
  
   
- 883 名前:『 君に会う日 』 投稿日:2008/06/24(火) 02:01
 
-  数えてみると、会える日が多くて会えない日は滅多にない。 
 出会ったばかりの頃に比べると仕事が増えて、今では一緒に過ごす時間が家族よりも長くなった。 
 仕事に来ればいつだって会うことは出来る。 
 だからと言って、一緒にいることが出来ればいいというわけでもなかった。 
  
  
  
   
- 884 名前:『 君に会う日 』 投稿日:2008/06/24(火) 02:02
 
-   
 あたしが初めて愛理と会った時より、もっと前からみんなは愛理と一緒にいる。 
 あたしが愛理と一緒にいる時間が増えると、他のみんなも愛理と一緒にいる時間が増える。 
 それはみんなが愛理と過ごした時間に、あたしは永遠に追いつけないってことなんだ。 
  
  
  
   
- 885 名前:『 君に会う日 』 投稿日:2008/06/24(火) 02:04
 
-  鏡の前には愛理が座っていた。 
 栞菜は少し離れた場所から鏡に映った愛理を眺める。 
  
 最近、急に大人っぽくなったような気がする。 
 数ヶ月前と比べると身体つきが随分と変化していた。 
 今は椅子に座っているせいか身体のラインがよくわからないが、 
 ずっと愛理を見てきた自分がそう感じるのだから間違いないと栞菜は思う。 
  
 だが、鏡に映っている顔はそう変わっていない。 
 いつも通りの幼さを感じる顔だ。 
  
 「どうしたの?」 
  
 栞菜が鏡の中の愛理を見つめていたことに気がついたのか、鏡に映っている愛理が怪訝そうな顔で栞菜を見ていた。 
  
 「んー。愛理、顔は変わらないけど大人になったなーと思って」 
 「顔が変わらないのに大人って、どこが?」 
 「ほら、ここらへん」 
  
 栞菜は椅子から起ち上がると、愛理の腰を撫でる。 
 すると鏡の中の愛理が栞菜を睨んだ。 
  
   
- 886 名前:『 君に会う日 』 投稿日:2008/06/24(火) 02:06
 
-  「ちょっと栞菜、目がえっち」 
 「愛理の身体のほうがえっちだから大丈夫」 
 「栞菜、さいてー!」 
  
 愛理の腰から太ももへと手を移動させ、スカートから伸びた太ももをぺちんと叩くと愛理が非難の声を上げた。 
  
 「うんうん。わかるよ、愛理。ほんと、栞菜は最低だなあ」 
  
 栞菜が視線を愛理の太ももから声のした方へと動かすと、そこには千聖がいた。 
 いつの間にやってきたのか、栞菜の隣でうんうんと頷いている。 
  
 「突然出てきて何を言うかな。最低なのは千聖の方じゃない?」 
 「栞菜には負けるって」 
  
 楽屋にはメンバー全員が揃っている。 
 おかげで楽屋はいつも通りの騒がしさだ。 
 その騒がしさの主な原因となっていた千聖は、栞菜が数分前に見た時には舞と一緒にじゃれ合っていた。 
 千聖がここにいるということは舞もこの近くにいるだろう。 
 そう思って栞菜は舞を探す。 
 だが、楽屋の中を見回すまでもなく、千聖の背後から舞がぴょこりと顔を出した。 
  
   
- 887 名前:『 君に会う日 』 投稿日:2008/06/24(火) 02:12
 
-  「じゃあさ、最低王決定戦やろうよ!」 
  
 舞が栞菜の腕と千聖の腕を取り、にっこりと微笑んだ。 
 どう答えるべきかと栞菜が舞を見ると、手を開くようにと目で促される。 
 栞菜がしぶしぶ右手を開くと強引に千聖と握手をさせられた。 
  
 「それでは、今から最低王決定戦を始めます!」 
 「いやいや、舞ちゃん。始まらないから!」 
  
 戦闘開始の合図とも思える握手に栞菜は眉をひそめた。 
 最近、栞菜は千聖と舞のプロレスごっこの仲間に入っていない。 
 二人とじゃれ合うことよりも、愛理のことが気になっていた。 
 何かが変わったわけではない。 
 ただ気がついたのだ。 
 愛理と過ごす時間は誰と一緒にいる時間よりも楽しい。 
 そんなことに今さら気がついた。 
  
 「ほら、栞菜。愛理のことはあたしにまかせて最低王決定戦開始!」 
 「えりかちゃんまで」 
  
 騒ぎを聞きつけたのか、舞美と話していたはずのえりかまで栞菜の側に来ていた。 
 愛理の肩に腕を回してえりかが笑っている。 
  
   
- 888 名前:『 君に会う日 』 投稿日:2008/06/24(火) 02:14
 
-  いつもなら、そろそろ誰かがプロレスごっこ開始の合図をするころだ。 
 千聖と舞が打ち合わせをするようにこそこそとお互いの耳元で何かを話していた。 
 しばらくすると舞がカウントダウンを始めて、あとは最後の合図を待つだけになった。 
  
 「ファイッ!」 
  
 狭い楽屋にえりかの声が響き、それと同時に千聖が栞菜に飛びかかってくる。 
 栞菜は赤い物を見せられた牛のように突撃してくる千聖をひらりと交わすと、舞に向かって声をかけた。 
  
 「ちょっとタイム!」 
 「えー、早いよ!」 
 「っていうかさ、今日はパス」 
  
 腕を交差させバツ印を舞に見せる。 
 それを見た千聖が栞菜の腰に抱きつきながら言った。 
  
 「最近、パスばっかじゃん!」 
 「だって、気分じゃないんだもん。ごめんね」 
  
 いつもなら楽しいプロレスごっこも気分が乗らない。 
 楽しいことばかりの毎日が楽しいことばかりではなくなったのはいつからなのか。 
 考えてみても思い出せそうにない。 
  
   
- 889 名前:『 君に会う日 』 投稿日:2008/06/24(火) 02:15
 
-  肩に回された腕。 
 笑う愛理。 
 隣にいるのはえりか。 
  
 こんな些細なことが気になる。 
 楽しかったはずのことが楽しくなくなる。 
 会えることが何よりも楽しいことだったはずなのに、今では会っていることが時々苦痛に感じる。 
 愛理に限定される感情の動きに栞菜自身がついて行けない。 
  
 「栞菜、やんないの?」 
  
 不満そうな千聖に「また今度」とおざなりに返して栞菜は愛理の隣へ腰を下ろす。 
  
 「えりかちゃん、審判!」 
 「はいはい」 
  
 戦線離脱した栞菜の変わりとばかりにえりかが舞に招集される。 
 実際のところ審判などいてもいなくても構わないのだが、気分を盛り上げる為にかこうして誰かが審判として招集されることがあった。 
 小さな二人が言うことだからか、メンバー中誰が審判を頼まれてもそれを断ることは滅多にない。 
 今日も当然のようにえりかが審判を引き受けると千聖と舞のプロレスごっこが始まり、停滞していた楽屋の空気がいつも通りのぎやかなものに変わる。 
  
   
- 890 名前:『 君に会う日 』 投稿日:2008/06/24(火) 02:17
 
-  「最近、元気ないねえ」 
  
 騒がしい楽屋とは対照的な間延びした静かな声が隣から聞こえる。 
 愛理を見ると、心配そうな目が栞菜を見つめていた。 
  
 「そっかな?」 
 「うん、元気ない。なんか変だもん」 
  
 元気がない、というのは少し違うと栞菜は思う。 
 元気はあるのだが、それが表へ出ないのだ。 
 胸の奥で元気の塊が外へ行こうかどうしようかぐずぐずと迷っている、そんな感じがする。 
 身体の中に入り込んだままの元気を外へ出す方法が見つからない。 
 どうしてそうなるのか。 
 理由は愛理以外にありえなかった。 
  
 誰彼構わず嫉妬する。 
 愛理の側にいる人間に。 
 愛理との時間を邪魔する全ての人間に。 
  
 嬉しくて楽しくて、それと同じぐらいに苦しい。 
 昔のようにいつも笑っているのは無理そうだった。 
  
   
- 891 名前:『 君に会う日 』 投稿日:2008/06/24(火) 02:20
 
-  「自分でも変だと思う」 
  
 おかしくなってしまうのは全部、愛理のせいに違いない。 
 そして、そう思う自分が好きになれない。 
  
 「変な理由は?」 
 「色々と」 
 「色々って?」 
 「仕事が忙しかったり、とか」 
 「でも、それは良いことじゃん」 
 「うん、良いことだと思う。楽しいとも思う」 
 「じゃあ、仕事が忙しいのは理由にならないんじゃないの?」 
 「うん、そうだけど。毎日みんなに会えるのはさ、楽しいよ。……でも、やっぱり楽しくないんだもん」 
 「それ変じゃない?」 
 「うん」 
  
 仕事が忙しければ忙しい程、愛理にたくさん会える。 
 そして栞菜と同じようにみんなも愛理に会う。 
 それは面白くない。 
 我が儘だということはわかっている。 
 しかし、たとえ変だと言われても楽しくないのだから仕方がないのだ。 
  
   
- 892 名前:『 君に会う日 』 投稿日:2008/06/24(火) 02:22
 
-  「栞菜、うんって言ってばっかり」 
 「うん」 
 「ほら、またあ」 
  
 気の抜けた栞菜の返事に呆れたように愛理が笑った。 
 栞菜の目の前では千聖と舞が熱戦を繰り広げていた。 
 気の抜けた自分とは大違いだ、と他人事のように栞菜は思った。 
  
 「あたしは楽しいけどなあ。毎日、栞菜にも会えるしさー。栞菜は?」 
 「……嬉しいし、楽しいよ」 
  
 愛理の不用意な言葉に栞菜の心臓が跳ね上がる。 
 その言葉にどんな気持ちが込められているのかわからないのに脳が嬉しいと感じた。 
 些細なことに傷ついて、些細なことに喜ぶ。 
 恋の病。 
 そんな馬鹿馬鹿しい言葉が浮かんだ。 
  
 時間ごとの気持ちの移り変わりが激しくて、感情の整理が上手くできない。 
 嬉しいと思う気持ちと同じぐらい苛立たしい気分になる。 
 栞菜は苛々とした気持ちのまま髪をぐしゃぐしゃとかき上げた。 
  
   
- 893 名前:『 君に会う日 』 投稿日:2008/06/24(火) 02:24
 
-  「あー、栞菜」 
 「なに?」 
 「前髪が」 
  
 愛理の手が髪に触れる。 
 苛立たしかった気分が、そわそわとした落ち着かないものへと変わった。 
 栞菜は椅子から起ち上がる。 
 そして手を伸ばして愛理の髪に触れると、乱暴にかき乱した。 
  
 「あー!栞菜が変なことするから、髪型おかしくなった!」 
 「おかしくないよ。ふわっとして可愛くなった」 
  
 誤魔化すように愛理に笑いかける。 
  
 「あたしじゃないし。栞菜の前髪が……。急に起ち上がるから、手元狂った」 
  
 どう考えても乱れているのは愛理の髪だった。 
 けれど、愛理はぼさぼさになった自分の髪に構わず栞菜の前髪を整え始める。 
  
 「ほら、座って。せっかく直してあげようと思ったのにもっと変になったじゃん」 
 「……ごめん」 
  
   
- 894 名前:『 君に会う日 』 投稿日:2008/06/24(火) 02:26
 
-  鏡の前にあった櫛を手に取って髪を梳かそうとする愛理に椅子を指さされ、栞菜は大人しく愛理の指示に従う。 
 椅子へ腰掛けると向きをくるりと変えられて栞菜は愛理と向き合う形になる。 
 真剣に髪を梳かす愛理の目は普段より大人びて見えた。 
  
 「鏡、持って歩きなよ」 
  
 ぼそりと愛理が言った。 
  
 「やだ」 
 「身だしなみには気をつけないと」 
  
 いつの頃からか愛理が栞菜の前髪を直すようになった。 
 それから栞菜は鏡を持っていないということにした。 
  
 栞菜は楽屋の片隅に置いた鞄を見る。 
 愛理には言っていないが、鞄の中には大抵鏡が入っている。 
 持っていると言ってしまえば、もう前髪を直してもらえないような気がして言えないだけだ。 
  
 こうして前髪を直してもらっている間は愛理を独占出来る。 
 どれだけ愛理を見ていても誰からも咎められることはない。 
 短い時間だが誰にも渡したくない時間だ。 
  
   
- 895 名前:『 君に会う日 』 投稿日:2008/06/24(火) 02:27
 
-  「持ってきたら、愛理にセットしてもらえないじゃん」 
 「……持ってきたって同じだよ」 
 「持ってきてもしてくれるの?」 
 「だって、栞菜のヘアメイク担当はあたしだもん」 
  
 当たり前だという口調で愛理が言った。 
 愛理が何を考えて今の言葉を言ったのか知りたいと栞菜は思う。 
 けれど、愛理に尋ねることが出来ない。 
 変わりに栞菜が口にすることが出来たのはありきたりの言葉だった。 
  
 「いつまで?」 
 「ずっとだよ。栞菜がやだって言うまで。……嬉しい?」 
 「秘密」 
 「えー、なんで!」 
 「言わない方が面白いから」 
 「栞菜、ひどーい!」 
  
   
- 896 名前:『 君に会う日 』 投稿日:2008/06/24(火) 02:29
 
-  愛理が大げさに驚いてから、くすくすと笑い出した。 
 いつも通りのふわふわとした笑顔につられて栞菜も笑い出す。 
  
 毎日、髪を梳かしてもらう。 
 少しずつ二人の時間が増えて、いつか愛理がみんなと過ごした時間を追い抜く。 
  
 そんなことを考えてすぐにやめた。 
 愛理と向き合って話をするのは楽しいけれど、それを計算して何かを追い抜くなどと考え始めると憂鬱になってくる。 
 どれだけ計算しても、知らなかった愛理の時間を自分のものには出来ない。 
 それに、栞菜は誰かと比べる為に愛理と一緒にいるわけではないはずだ。 
  
  
   
- 897 名前:『 君に会う日 』 投稿日:2008/06/24(火) 02:30
 
-   
 あたしが初めて愛理と会った時より、もっと前からみんなは愛理と一緒にいる。 
 その差を埋めることなんか出来やしない。 
 でも、愛理が笑っている姿はあたしが一番見ていると思う。 
 それが一番大事なことなのかもしれない。 
  
  
  
   
- 898 名前:『 君に会う日 』 投稿日:2008/06/24(火) 02:31
 
-  今度の休みに二人で会いたい。 
 今日、仕事が終わったらそう言ってみよう。 
 もしも、願いが叶えば今よりももっと愛理が笑っている姿を見られるだろう。 
 そうなればきっと昨日よりも今日よりも、ずっと楽しいに違いない。 
  
  
  
  
   
- 899 名前:『 君に会う日 』 投稿日:2008/06/24(火) 02:32
 
-   
  
  
 『 君に会う日 』 
  
  
  
 - END -  
   
- 900 名前:Z 投稿日:2008/06/24(火) 02:32
 
-   
   
- 901 名前:Z 投稿日:2008/06/24(火) 02:39
 
-  >>878さん 
 ももみやLOVE! 
  
 >>879さん 
 このシリーズ、前回書いてから間が空いていたので、書こうかどうしようか迷ったのですが書いて良かったですヾ(*´∀`*)ノ 
 これからも、ももみやをガンガン書いていきたいと思います。 
  
 >>880さん 
 ももみやは良いものなのです。……とか言って从・ゥ・从 
 というわけで、一緒に迷走しましょうw 
  
 >>881さん 
 もしかしたらもう見つけられたかもしれませんが……。 
 ブログは>>2に書いてあるサイトから行けますので、よろしければどうぞ(・∀・)  
- 902 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/26(木) 00:06
 
-  乙です!やっばいわ… 
 あいかん最高っすなぁ!!  
- 903 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/26(木) 02:41
 
-  あいかんはホントいいですねぇー 
 作者さまのあいかんが1番好きです!  
- 904 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/28(土) 09:44
 
-  プラトニックな感じで 
 2人とも可愛いなぁ  
- 905 名前:Z 投稿日:2008/07/04(金) 02:37
 
-  >>902さん 
 あいかんLOVE!ヾ(*´∀`*)ノ 
  
 >>903さん 
 ありがとうございますヾ(*´∀`*)ノ 
 あいかんを見ていると和みます(´▽`) 
  
 >>904さん 
 プラトニックもいいですよね(・∀・)  
- 906 名前:Z 投稿日:2008/07/04(金) 02:40
 
-  さてさて。 
 スレの容量と更新分のサイズが微妙な感じになってきたので、サックリと新スレに移動したいと思います。 
 次スレも同じ夢板になります。 
  
 短編集3− sweet voice − 
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