彼女の限界
1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/07(木) 22:17

森板「彼女の誘惑」の続きです
性別をいじってます。嫌いな方はお読みにならない方が良いかと思います
いきなりエロです。15歳未満の方、心がピュアな方はお読みにならないでください

2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/07(木) 22:17
登場人物


(0´〜`) :吉澤さん(イケメン変態執事)
川*’ー’):愛ちゃん(大地主の娘)

从*^ー^) :絵里ちゃん(お嬢様)
( ・e・):ガキさん(童貞)

その他はだいたい架空です

3 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/07(木) 22:18


*****


4 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/07(木) 22:18
人間は、人生の3分の1を眠って過ごす。
そう思うとなんだか少し損をしたような気がしてしょうがない。
例えば60年生きれば20年、90年生きれば30年。
なんという膨大な時間を無駄にしているのだろう。
吉澤さんは、だから今夜も、寝る間も惜しんで愛ちゃんを抱いていた。
時間は有効に活用しないともったいない。
何でも、出来るときにしておくべきだ。後になって後悔してからじゃ遅すぎる。

愛ちゃんと、ひとつになって抱き合って、奥の奥を突きまくる。
うす暗くて静かな部屋は、彼女の淫らな声と、吉澤さんの荒い呼吸が響いている。
ベッドが軋む音。2人の身体がぶつかり合う音。エッチな音で、占められている。

もうすぐ、めでたく2人は付き合って1年を迎える。
あの衝撃のカーセックスから、もうそんなに経つのだ。
今思えば、あのころの自分は必死すぎた。吉澤さんは振り返る。
どんな手を使ってでも愛ちゃんを抱こうと、抱いてやろうと、
そんなことばかり考えていた。その結果が、アレだ。
しかしまあ、肉体関係から始まる恋だって、あってもいいじゃないか。
恋が始まるきっかけは、人の数だけあるのだから。
何が良いとか正しいとか、そんなことは誰にも決められない。
5 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/07(木) 22:19
すでにへろへろな愛ちゃんの身体を裏返し、吉澤さんは後ろから改めて挿入する。
腰の動きは止まらない。それどころか、さらに激しくなっている。
ぷりっとした愛ちゃんのお尻をつかんで、吉澤さんは狂ったように腰を振る。
いやらしくあんあん喘ぎながら、彼女も快楽の波に身を任せている。

強引に乱暴に、吉澤さんは愛ちゃんを突く。
彼女は、シーツを掴んでぎゅっと目を閉じている。
だらしなく開いた口からは、AV女優みたいなエッチな声。
それは、さらに吉澤さんの腰の動きを加速させるエネルギーだ。
もっと聞きたい。もっともっと聞かせて欲しい。吉澤さんは夢中で腰を振る。

無言でガンガン動いていたけれど、とつぜんピタッと止まる。
吉澤さんは、愛ちゃんを再び仰向けにした。
今夜はぴったりイこうじゃないか。ぴったりくっ付いて、どこまでもイこう。
愛ちゃんに覆いかぶさると、ごく自然に2人の唇が重なる。
彼女は大胆に舌を差し出してくる。吉澤さんのさらさらとした髪を撫でている。
情熱的に求めてくる。いよいよ、これからラストスパートだ。
抱き合って、身体を一緒に揺らしながら、この快感を分かち合う。
6 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/07(木) 22:19
お山の頂上が見えてきたとき、吉澤さんはやっぱり思う。
きっと、こんなことばかりするために2人は生まれてきた。
他の何をするよりも、こうやって、愛の営みをするために生きているのだ、と。

「もうヤバイ…」

愛ちゃんが吉澤さんの耳元で囁いた。
何がヤバイのか。吉澤さんは聞かなくてもわかっている。
さあ、一緒にイケるところまでイってみようヤッてみよう。
ひとつになったまま、揺れて揺れて揺れまくる。

「あぁ…」

動きが止まったのは、どちらが早かったのだろう。
気付けば2人ともイッていて、ぐったりしながらもお互いを強く抱きしめていた。
7 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/07(木) 22:20
「ねぇ、ひーたん」
吉澤さんがベッドの上に寝転ぶと、すぐに手を繋いでくる愛ちゃん。
ぴったりくっ付いて、大きな瞳をくりくりさせて、クスッと微笑む。
「なに?」
「ひーたん」
ふはっ。可愛い彼女に吉澤さんは噴き出した。
最中はめちゃくちゃ色っぽかったのに、終わった途端これかよ。
まあ、このギャップも嫌いじゃないけど。むしろきゅんとなるけど。

愛ちゃんは、全然色あせない。
どれだけ激しいセックスをしたり、どれだけ変態プレイをした後でも、
吉澤さんを見つめる眼差しは変わらない。真っ直ぐで、純粋で、たまらない。
こうやって長く付き合ってくれば、少しはマンネリもしてくるはずだけど、
愛ちゃんのおかげでいつも2人は新鮮だ。
そう思ってる吉澤さんも、愛ちゃんへの熱い気持ちは全く冷めない。
冷めないどころか、良い温度を保ち続けている。
要するに、相変わらず2人はラブラブだった。
8 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/07(木) 22:20


*****



9 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/07(木) 22:20
「あー、誕生日何買おう」

口をへの字にした愛ちゃん。そのお隣には、絵里ちゃん。
今日は2人で仲良くお買い物。

「誕生日って、吉澤さんの?」
「うん」
街を歩きながら、愛ちゃんは悩んでいた。
来月は吉澤さんのバースデイ。盛大に祝ってあげないといけない。
クリスマスに出来なかった、自分にリボンを巻く手でいくべきか、
それとも彼が本当に欲しいものをぽーんと買ってあげるべきか。
悩む。悩むけど、ちょっと楽しい。
10 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/07(木) 22:21
「車とかでいいんじゃない?」
適当な感じで、絵里ちゃんは言った。

「それよりもさ愛ちゃん。明日ホワイトデーだよ?」
「そうや。忘れとった」
「お返し何もらえるかなぁ…」
斜め上を見上げ、微笑む絵里ちゃん。恋する乙女。
「ガキさん童貞やからあんまり期待せんほうがええって」
「ちょっとぉ」
確かに、ガキさんはいまだに童貞だ。
でもそれは、ずっと絵里ちゃんのことを想っていたからである。
一途なガキさん。他の女に目もくれず、相武紗季似の可愛い秋吉さん
の告白をも断った、硬派なチェリーボーイ。
そんなガキさんに絵里ちゃんは今、恋をしていた。

「どうしよう愛ちゃん」
「え?」
「絵里、今すっごいガキさんに会いたいんだけど」
「……はぁ」
愛ちゃんは呆れた溜め息で応えた。
すたすたと早足で歩き、通りがかりの雑貨屋さんへ入る。
11 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/07(木) 22:21
「ちょっと待ってよぉ」
「絵里さ、前の彼氏のことはもうどうでもいいわけ?」
綺麗な色のグラスを手に取りながら、愛ちゃんが尋ねる。
絵里ちゃんは立ち止まって、少し暗い顔になった。
「…どうでもいい。嫌いになったんだもん」
「なんか無理してない?」
「してない」
「ガキさんはさ、本気で絵里のこと好きなんだからさ、
あんまり傷つけるようなことはしない方がいいと思うよ」

絵里ちゃんの、複雑な胸の内をわかっているのかいないのか。
愛ちゃんは真面目にそう忠告した。大事な幼なじみだから、
まるで妹のような存在だから、あえて厳しいことを言う。
相手のガキさんだって、愛ちゃんにとっては大切な人。
どっちも悲しい思いをして欲しくないし、幸せになって欲しい。

「あたしには、無理して前の彼氏のこと諦めようとしてるとしか思えない。
まだ好きならそうやって無理しないほうが自分のためだよ」
「…愛ちゃん」

ふと、絵里ちゃんが無表情になった。
愛ちゃんは、グラスを元の場所へ戻して、彼女と向かい合う。
12 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/07(木) 22:21
「確かに絵里は諦めたよ。でも、いい加減な気持ちでガキさんと
付き合おうって決めたわけじゃない。いい加減に見えるかもしれないけど、
絵里も、ちゃんと本気だから。大丈夫だよ」
「…絵里」

そういえば昔から、絵里ちゃんはなかなか本音を言わない子だった。
いつもふにゃふにゃ頼りなくて、そのときの気分によって言うことも変わったりする。
でも、今は、正直に自分の気持ちを言った。
彼女自身が決めたことなら、愛ちゃんはそれを信じるしかない。
だから、黙ってうなずいて彼女の頭を撫で、微笑みかける。

「ホワイトデー、ガキさんの童貞もらい」
「はっ?」
「冗談やって」

アッヒャー。顔をくしゃっとさせて愛ちゃんは笑い飛ばした。
13 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/07(木) 22:22


*****


14 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/07(木) 22:22
真っ白な日に、真っ赤なバラ。
吉澤さんは片手に四角い箱、片手にバラの大きな花束を持って、
愛ちゃんのマンションへとやって来た。
亀井家の花壇で、吉澤さんが丁寧に育ててきたこのバラ。
全て愛ちゃんに渡すため。愛ちゃんにこの情熱を伝えるためだ。
彼女は全く知らない。きっと、ビックリどっきりしちゃうのだろう。
ああ楽しみだ。にやにやしながら、吉澤さんはピンポンを押す。

ガチャ。ドアが勢い良く開く。
「吉澤さん」
「よっ」
バラの花束からひょっこり顔をのぞかせて、吉澤さんは微笑む。
愛ちゃんは笑顔を輝かせながら、彼の胸にダイブした。

「おいおい」
なんて言いながらも、吉澤さんはにやにやが止まらない。
「部屋入ろう?誰かに見られちゃうよ」
「見られてもいい」
こいつぁ大胆だぜ。ガバッと恋人を思い切り抱きしめたいところだが、
今は生憎両手が塞がっている。やっぱり、部屋に入るしかない。
愛ちゃんをなんとか引き剥がして、2人で中に入る。
15 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/07(木) 22:22
「今日はホワイトデーだから、ほい」
吉澤さんは、愛ちゃんに四角い箱を差し出した。
「チョコのお返し」
「なに?これ」
「まあ開けてみ」

何かな何かな。わくわくした表情の愛ちゃんが、箱を開ける。
「WAO」
目を丸くして、彼女は驚いた。吉澤さんはへへっと笑う。
「ケーキや」
「うん。がんばって作ってみた」
箱の中から出てきたのは、真っ白なケーキ。
今日の昼ごろ、コックの橘さんに頼んで厨房を貸してもらい、そこで作ったのだ。
ケーキなんて生まれて初めて作ったので、味は保証出来ないけれど、
愛ちゃんへの想いはたっぷり詰まっているから、きっと美味しいと思う。

「ありがとう」
「I'm glad you like it.」
吉澤さんの受け答えに、アッヒャー、と愛ちゃんは笑う。
「けっこう上達してきたやん」
「だろ?」
「うん。今、どこのディカプリオかと思った」
えへへ。愛ちゃんに褒められて、吉澤さんは後頭部をかく。
ベッドの上ではエロ大臣のくせに、照れ笑いはピュアボーイ。
そのくせロマンチストだし、まったくタチの悪い男だった。
16 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/07(木) 22:23
「愛」
囁いて、吉澤さんが愛ちゃんへ顔を寄せる。
あごを上げ、目を閉じた彼女と、触れるだけのキスをする。
離れた後の彼女の表情が少し物足りなさそうな気もするが、
「ほら」吉澤さんは花束を渡す。

「ひーたん。今日なんか変」
愛ちゃんは大きなバラの花束を抱えて、ぽつりと呟いた。
「変って。おれはいつも変じゃん」
「変っていうか、普通」
「どういう意味だよ」
「ケーキ作ってきてくれるし、こんな花束持ってくるし。
普通にホワイトデーのお返しした」

いったい、彼女はどういう期待の仕方をしていたのだろう。
すっごいチョコを作ってくれた恋人に対して、普通にお返しをして
何が悪い。何が不満なんだ。吉澤さんは唇を尖らせた。
17 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/07(木) 22:23
愛ちゃんは、花束をテーブルの上に置いてから、吉澤さんを見つめた。
「ん?」尋ねると、彼女はバッと両腕を広げる。
「なんだよ」
「おいで」
へ?ちょっとアホ面になる吉澤さん。
「おいでってば」
愛ちゃんは、腕を広げて待ち構えている。
断る理由も特にないので、吉澤さんはその腕の中へ。
と言っても身長差があるので、結局彼女を抱きしめる格好になる。

「大好き」

耳元で、愛ちゃんは囁いた。
それはまるで150`bのストレートを、ど真ん中にぶち込まれた感じ。
メジャー級な愛ちゃんのその言葉は、吉澤さんのキャッチャーミットにしっかり納まって、
ストライーク!!!と後の方で主審が叫んだような気がした。
吉澤さんは、こういう愛ちゃんの直球な愛情表現が大輔、いや、大好きだった。
飾らないその4文字は、いつどこで聞いても、身体の芯までしみ込んでいく。
そして、吉澤さんの奥の方に眠っている、純情なハートがきゅんとするのだ。
18 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/07(木) 22:24
「もっと言って」
愛ちゃんのほっぺたに、自分のほっぺたをピッタリくっつけて、吉澤さんは言った。
「大好き…」
ぎゅっと抱く腕に力を込めて、愛ちゃんが答える。
彼女は照れずにどこまでも真っ直ぐ吉澤さんに愛を伝える。
「ずっと一緒にいよ」
「ああ。ずっとな」
うん、と愛ちゃんがうなずく。
「天国に行っても、また生まれ変わっても一緒だからな」
「生まれ変わったらあたしたち何になっとるやろか」
「んーサルとゾウかな」
「どっちがサル?」
「もちろん…っておい!」
愛ちゃんは続きを聞かずに吉澤さんを突き飛ばした。

「どうせあたしがサルって言いたいんやろ!」

ムッとした感じで、愛ちゃんが怒鳴る。
その顔まさにサルそのもの。吉澤さんはつい笑ってしまう。
それが彼女の神経を逆撫でしたようで、彼女は、ぷいっと顔を背けた。
19 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/07(木) 22:24
「ちょっと、そんなぷりぷりすんなよ」
ぷりっとするのは、ケツだけでいいって。さすがにそこまでは言わない。
「サルはサルでも、チョー可愛いおサルさんじゃん」
吉澤さんは耳元で囁く。愛ちゃんの手を握って、指を絡める。

「ねぇ、可愛いおサルさん。こっち向いてよ」
「…やだ」
「そっかー残念だなー」
手を離し、吉澤さんはソファへ移動する。
愛ちゃんは突っ立ったまま、まだそっぽを向いている。
部屋にはちょっとの間、沈黙が流れる。

「愛」

やさしく呼びかけると、彼女はゆっくり振り向いた。
吉澤さんが微笑めばすぐに駆け寄ってくる。
膝の上に乗り、吉澤さんの首に腕をまわし、チュッとキスを。
20 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/07(木) 22:24
「ひーたんはおサルさん好き?」
「うん。チョー好き」
吉澤さんは答えてふたたび口づけた。
愛ちゃんは、吉澤さんの髪をくるくるしながら、にやにやしている。

「何にやにやしてんだよおまえ」
「おまえじゃない。ちゃんと名前呼んで」
ふはっ。なにこの甘えんぼ愛ちゃんモード。
吉澤さんは、彼女とおでこをくっつける。
「…サル」
「サルじゃない」
「ごめん。間違えた」
「もう」
至近距離で見つめ合って、くすくすと2人で笑い合う。
「さて。ケーキ食べよっか」
「うん」
21 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/07(木) 22:24

「ガキさん、今日ちゃんと絵里を抱いたかな」

ブハッ。唐突な愛ちゃんに、吉澤さんは飲んでいた牛乳を吐き出しそうになった。
慌てて口元を押さえ、鼻から出てこなかったことに安心する。
そして、フォーク片手に斜め上を見上げている愛ちゃんを見る。
「そういや今日ウチに来てたけども」
「どれくらいおったん」
「んー、2時間とちょっとくらいかな」
「2時間かぁ。微妙やな」
吉澤さん手作りのケーキを、愛ちゃんがパクッと食べた。
おいしー、と吉澤さんに微笑む。可愛い彼女に、吉澤さんも笑って、
ケーキを口へ運ぶ。もぐもぐしながら、「あ」と思い出す。
「なんか、雰囲気おかしかったような気がするんだよね。2人」
「おかしかった?」
「ああ。なーんかさ、おかしかった」
「やっぱヤッたかもね」
「んー、ヤッたのかな」
「ついにガキさんも高校卒業と同時にあっちも卒業しちゃったかぁ…」
感慨深げにうんうんうなずく愛ちゃん。
でもなぁ。吉澤さんは、つい先ほどのことを振り返って首をかしげる。
22 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/07(木) 22:25
「ひーたん」
「ん?」
「顔がこわいよ」
「ああ」
ふにゃりと笑ってみるけれど、愛ちゃんは納得していない様子。
吉澤さんは牛乳をまた一口飲んで、俯いた。
「…やっぱり、間違ってたのかな」
「なにが?」
「お嬢様とガキさんをくっつけようなんて……やっぱり、お嬢様は
あの男と付き合うほうが幸せだったのかな」
弱気なことを言う吉澤さん。さっき、絵里ちゃんと目も合わさずに、
亀井家を後にしたガキさんのことが気になって仕方ないのだ。

「間違ってないよ」
「そうかな」
「もし、絵里に同じこと言ったら、多分そう答えると思う」
「お嬢様が?」
「ひーたんの考えも、絵里が決めたことも、全部間違ってない。
絵里がガキさんを選んだんだよ?それが答えなんだと思う。
だから、ひーたんは何も間違ったことしてない」
「……」
愛ちゃんの言葉を、吉澤さんはぽかんと口を開けて聞く。
ちょっとアフォ面。でもそこが可愛いところ。
にやけた愛ちゃんをじいっと見つめ、吉澤さんはしみじみと呟く。
「おまえ、良い女だな」
「はぁ?」
「いやいや。マジで。今、惚れ直した」
23 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/07(木) 22:25
いつもは、吉澤さんが愛ちゃんを守ってやるぜって感じだけど、
たまーにこういうことがある。まだまだ子供みたいな愛ちゃんだって、
ちゃんと自分の考えを持っている。その考えは、ハッとするくらい
大人で、冷静で、吉澤さんは面食らってしまう。
これだから彼女から離れられない。離さないし、縛り続ける。

「はぁ〜」
両肘をテーブルについて、頭を抱える吉澤さん。
「どうしたの?」
「お嬢様がガキさんに抱かれてると思うとなんか凹むわ」
アッヒャー。愛ちゃんが笑った。

「でもさ、ガキさんって性欲あるのかな」
「確かに」
吉澤さんは腕を組んで、唇を尖らせる。
今まで一度も、ガキさんがそういう話をしているところを見たことがない。
年齢的にも今が一番お盛んな時期だというのに、ガキさんは全く。
絵里ちゃんという可愛い可愛い女の子とずっと一緒に過ごしてきたけど、
彼は一度も手を出さず、我慢し続けてきた。
24 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/07(木) 22:26
「よく耐えてこれたよなあ」

思わず、吉澤さんは呟いた。
抱きたい女がいたら即行動の吉澤さんには、本当に考えられないことだ。
人間は3大欲求のもとに生きていて、頭で我慢と思ってても本能が黙っちゃない。
吉澤さんは、良い意味で本能の人。理性のガキさんとは全く正反対だ。

「ひーたんも見習わないとね」

頬杖ついて、意地悪な顔で愛ちゃんが言った。
彼女の真正面に居る吉澤さんは、ぽかんと口を開けた。
その顔は、まさにアホ面で、愛ちゃんはやさしく微笑んだ。
25 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/07(木) 22:26

つづく


26 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/07(木) 22:26
(0;´〜`;)<喫煙デキ婚熱愛脱退…それでもおいらはくじけないYO
川*’ー’)<くじけたのはあたしの足首だけやよー
(0´〜`) <…


(0´∀`)
27 名前:アネゴ 投稿日:2007/06/08(金) 00:03
うあ…久々エロキタコレ。萌え萌え。ガキヲタ兼よしあいヲタのアネゴです。
ガキさん…よくわからないけどガンバ!リアルでもガンバ!
28 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2007/06/08(金) 02:11
ストライクのくだりいいっすわぁ。
すごい説得力がありますね。こりゃあ好きになるわと。
どストライクすぎてこっちが叫びたくなりましたw
本当にいいっすわぁ・・・(しみじみ
次回も楽しみにしとります。
29 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2007/06/09(土) 12:15
やっぱ吉愛いいですね楽しみにしてます
30 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/11(月) 11:00
>>27 アネゴ
新スレはエロ一直線で行こうと思いますのでよろしくおねがいします
ガキさんはホントに、リアルでもガンバですね…

>>28 名無し募集中。。。さん
なんか飼育じゃ見慣れない名前www
ありがとうございます。これからもどストライクを投げる愛ちゃんを書こうと思います

>>29 名無し募集中。。。さん
また同じ名前www
ありがとうございます。四試合はホントにいいですよね
31 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/11(月) 11:00


*****



32 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/11(月) 11:01
好きだよ。大好き。愛してる。
ただそれだけで上手くいくような、そんな簡単な恋じゃない。
最近、ガキさんは痛感していた。人生そんなに甘くない、と。
どっちかっていうと甘酸っぱい。そして、ちょっと辛い(からい)かもしれない。
両思いになってから、2人の甘い生活が始まるだなんて、大間違いだった。

「おーおー青春してるねぇ」

愛ちゃんがにやつきながら言う。
その笑顔は、なんとなく吉澤さんに似てきている気がする。
浮かない顔をしているガキさんだけど、ちょっと笑ってしまった。

「これって青春なのかな」
「青春青春。若者よ、大いに悩め!」
芝居がかった口調の愛ちゃん。まったく、くだらない。

ここはお洒落なカフェ。愛ちゃんのいきつけのお店だ。
今日はガキさんが彼女を誘ってやって来た。
なんとなく、彼女に話を聞いてもらいたかった。
絵里ちゃんとのことを、彼女に相談したかったのだ。
33 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/11(月) 11:01
「で、ヤッたの?」

ブハッ。思わず飲んだコーラを吐きそうになるガキさん。
「どしたどした」愛ちゃんはあっけらかんとしている。
「愛ちゃんストレートすぎ」
もっとさあ、オブラートに包むとか、もう少し配慮して欲しかったな。
ガキさんは苦笑しながら改めてコーラを飲む。

「で、どうなの」
「まだだよ。まだ」
「ひえーまだなの?それは驚きやよ」

実は、それが今ガキさんを悩ませている重大な事実だとは、愛ちゃんは知らない。
バレンタインデーから交際を始め、もうすぐ2ヶ月が経とうとしている。
けれど、2人はまだまだ幼なじみから抜け出せない。
付き合う前からなんとなく予想はしていたけれど、これほどまでとは思わない。

「なんかさ、いざっていう時に、照れちゃうっていうか…
カメもカメで恥ずかしがって、そういう雰囲気にならないっていうか…」

おでこをポリポリかきながら、ガキさんは苦笑い。
何度も何度も2人に訪れたそういうムードを思い返して、ふたたび照れる。
34 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/11(月) 11:01
「ほんっま、童貞丸出しやな」

呆れた口調で、愛ちゃんが言った。
なんかそのセリフ、彼女の相方からも言われた覚えがある。
「しょうがないじゃん。童貞なんだから」
いつまでも童貞童貞言われて凹んでばかりはいられない。
事実は事実として厳粛に受け止める。ガキさんは少し大人になった。

「やっぱり、カメってその、ぼくみたいに、初めてじゃ、ないんだよね」
「当たり前じゃん」
「そうだよね…」

悲しいことに、そこは田中っちに先を越されてしまった。
でも、それもしょうがない。ガキさんもいけないのだ。
まさか絵里ちゃんに彼氏が出来るとは思ってもみなかった。
よくよく考えてみれば、彼女はモテるし、出来ないはずがなかったのに。

「正直、どうすればいいか、わかんないんだよ」
「なにが」
「いや、その、そういうことのやり方、っていうかなんていうか」

ははーん。愛ちゃんがにやりとした。
ガキさんはそんな彼女を見て、嫌な予感を察知する。
35 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/11(月) 11:02
「もう、ガキさんはホントに手がかかる子なんやから」
「え?」
携帯電話を取り出して、愛ちゃんはメールを打ち始めた。
「メール?」
「うん。ダーリンに」
「ダーリン?」
「でも今お仕事中やろうなー」
「ねぇ、ダーリンって吉澤さんのこと?」
「当たり前やん」
愛ちゃんはぴこぴこメールを打ったあと、すぐに送信した。

「普段からそう呼んでるの?」
「うん」
「そ、そう…」
ダーリンって、すごいな。ははは。と思ったら、
「うっそー。呼ぶわけないじゃん」
「くっ!」
ふざけんな!!!つい拳を握り、腕を振り上げそうになるガキさん。
愛ちゃんはけたけたと笑いながらテーブルを叩いている。
36 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/11(月) 11:03
「ガキさん単純すぎやよ。まあ、そこが良いところなんだけどね」

なんとか笑いが落ち着いた様子の愛ちゃんは、そう言ってカフェオレを飲んだ。
「ずっとさ、ガキさん、絵里のことカメって呼んでるでしょ。
この際思い切ってさ、絵里ーって呼んでみればいいじゃん」
「え…」

田中っちは、何の躊躇いもなく彼女の名前を呼んでいた。
しかし、ガキさんはどうだ。いつもいつも「カメ」ではないか。
カノジョなのに恋人なのに、「亀井」だから「カメ」と呼んでいる。

振り返ればあれは、幼稚園の年少さん。確か、さくら組だった。
生まれた時からよく一緒に遊んでいたけれど、毎日会うようになってから、
2人はさらに仲良しになり、「カメちゃん」「ガキちゃん」と呼び合うようになった。
それから小学校に入り、他のお友達が「ガキさん」と呼ぶようになってから、
絵里ちゃんが先に「ガキちゃん」から「ガキさん」に変えた。
ガキさんはなぜか、気づけば彼女を「カメ」と呼ぶようになっていた。

「でもさあ、今さら変えるのもアレじゃない?」
「アレって?」
「だって、ずっとカメって呼んできたのに、今さら絵里とか呼べないよ」
「なんで?」
「いやだから…なんか恥ずかしいじゃん」

自分でも気持ち悪いと思いつつ、ガキさんはハニかんだ。
そんなガキさんを見て、愛ちゃんはあからさまに不満そうな顔。
37 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/11(月) 11:03
「いちいち恥ずかしいとか気にしてたら何にも出来ないよ。
男なら男らしく、絵里って呼びなよ。そっちのが絶対良いって」
「そうかなあ…」
「絵里って、ほら、呼んでみ」
「…絵里」
呟いて、ガキさんは真顔になる。「絵里、絵里」
何度も、口に出してみる。自分に言い聞かせるように、繰り返す。

「その調子その調子」
「うん。なんか言えそうな気がしてきた!」
一気にテンションが上がるガキさん。

♪〜♪〜

と、そこへ聞こえてくる軽快なメロディ。愛ちゃんのケータイだ。
カチッと開いて、彼女は画面を見つめている。

「…ガキさん。今夜ヒマ?」
「え?まあ、大丈夫だけど」
「じゃあ今日は、ウチで一緒にご飯食べよ」
また何かぴこぴこして、メールを送信した愛ちゃん。

「いいの?お邪魔して」
「うん」

うなずいた愛ちゃんは、明らかに何かを企んでいる顔をしていた。
いったい今夜、何が待っているのだろうか。
ガキさんはおでこをかきながら、ふぅと溜め息をついた。
38 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/11(月) 11:03


*****



39 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/11(月) 11:04
案外愛ちゃんは料理上手で、ガキさんは感心していた。
絵里ちゃんはきっと、こんな風に出来ないだろうな。
生まれてきてから今まで、包丁とかには一切触れたことがないだろうし、
キッチンにも足を踏み入れたことが無いだろう。
でもそれは、ガキさんも同じ。家庭科の授業以外で料理なんてしたことがない。

「お腹すいた?」
愛ちゃんが鍋をかき混ぜながら尋ねてきた。
なんだか、今だけは彼女が年上に見える。
エプロンをして、台所に立つ姿は、やっぱり大人っぽい。

「もう、ぺこぺこだよ」
お腹を擦りながら、ガキさんはキッチンへ。
味噌汁の良い匂いが食欲を刺激する。
「もうすぐ来ると思うから、来たら食べよ」
「うん」
40 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/11(月) 11:04
外はもう真っ暗で、19時をとっくに過ぎていた。
吉澤さんはだいたいこの時間にはお仕事が終わっているらしい。
亀井家からこのマンションまでは、車で15分くらい。
さっき、彼からメールが来たというので、本当にもうすぐ着くだろう。
今日のおかずは肉じゃがとほうれん草のおひたし。
これだけ良い匂いがしているのだから、きっと美味しいはずだ。
ガキさんはテーブルに戻って、ぺたんと椅子に腰かけた。

「そういや、吉澤さんもうすぐ誕生日なんだよね?」
「うん。4月12日」
「カメが、何をプレゼントしようか悩んでたよ」
「あたしも悩んでる」
「去年はまだ付き合ってなかったんだっけ」
「そう」

斜め上を見上げ、付き合う前の2人のことを思い出す。
全然話しているところを見たことが無かったような。
絵里ちゃんから「あの2人付き合い始めたらしいよ」と聞いて、
大変ビックリしたのを覚えている。
愛ちゃんは当時、村上さんという人と交際していたはずだった。
なんで?どうして吉澤さんなの?わけがわからなかった。
41 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/11(月) 11:04
でも、今はわかる。
吉澤さんは、とても魅力的な人だ。
見た目はすっごいクールで、身のこなしもスマートだけど、
中身はただのエロ親父。だけどロマンチストでピュアボーイ。面白い人だ。
それに、彼女が高橋家の長女で、自分が亀井家の執事だという、
そういう複雑な関係に、全く影響されていない。
愛ちゃんが好き。だから一緒に居る。吉澤さんはとても意志が強い。
彼がああだから、愛ちゃんも安心していられるのだろう。
立場がどうとか身分がどうとか、そういう細かいことを考えない吉澤さん。
いや、全然細かくなくて、むしろ重要なことなのだが、彼にとっては
とてもちっぽけなことらしい。そういう大胆さも、すごいと思う。

吉澤さんは強い。どんな激しい嵐でも、乗り越える。
それに比べ、田中っちは、弱かった。
強い向かい風に、ぽきっと折れてしまった。
絵里ちゃんのことが本当に好きなら、これからもずっと付き合いたいって
思っているのなら、折れずに耐えて欲しかった。
けれど、もう全て終わったのだ。ガキさんがあれこれ思っても、意味が無い。

田中っちが絵里ちゃんを諦めたから、ガキさんの今がある。
絵里ちゃんはガキさんを想い、もちろんガキさんも絵里ちゃんを想う。
そういう幸せな関係があるのだ。
もう彼女は誰にも渡せない。渡したくない。だから、ガキさんは強くなる。
どんな大風にも、激しい雨にも、怖い雷にも負けないくらいに。
42 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/11(月) 11:04
「時間が経つのって、ホント早いよね」
「早いよ。もう大学生になっちゃったし」
「あ。今度さ、進学祝いにどっか行こうよ」
「いいよ。どこ行く?」
「横浜にしようよ。絵里ん家の船借りてさ、優雅にディナーとかよくない?」
「おー」

これまで、何度もその船でパーティをしたことがある。
しかし今回は、3人で貸切にしようと。なんだかワクワクしてくる。

「絵里にメールしとこ」
「うん」
ぴこぴこと、愛ちゃんがケータイを操作していると、ピンポーンという音。

「吉澤さんや!」

愛ちゃんはそれを手放し、バッと立ち上がる。
メールはとりあえず後回しで、玄関へいざ出陣だ。
ていうか知らない人だったらどうするの。
相手の確認もしない彼女に呆れながら、ガキさんもその後を追う。

「……」

そして後悔する。なぜなら、2人が玄関で思いっきり抱き合っていたから。
43 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/11(月) 11:05
「HAHAHA。ガキさんどうしたんだい?」

ジャージ姿の吉澤さんは、愛ちゃんの肩を抱きながらさわやかに言った。
ガキさんはひきつった笑みを浮かべて、「どうしたもこうしたも……」
吉澤さんは愛ちゃんと顔を見合わせて唇をへの字にする。
「これだから童貞は困るんだよねー」「ねー」
何がねーだふざけんな!ガキさんは、拳を握り締める。
どうしようもないバカップルだ。もうこちらの手には負えません。

溜め息をついて、向こうへ戻って行ったガキさん。
そして、残されたのは愛ちゃんと吉澤さんの2人。
身体をすりすり寄せ合い、くすくす笑いながら、しばし玄関でいちゃつく。

「今日の献立は?」
「今日はねー、肉じゃが」
「おっ。いいねー」
「味噌汁は、かぼちゃだよ」
「マジで。最高」
むふふ。うれしそうな吉澤さんを見て、愛ちゃんが微笑む。
すると吉澤さんもにやにやしだして、「ひーたん、お腹ぺこぺこやねん」
「ひーたんお腹ぺこぺこなの?」
「うん。ぺこぺこやねん」
「じゃあ早くご飯にしましょーね」
「うん!」
44 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/11(月) 11:05
わーいわーい。愛ちゃんに手を引かれながら、吉澤さんが笑顔で現れた。
この2人はいつもこんなことしてるのか。ガキさんは心底呆れて、言葉が出ない。

「なにその、大の大人が馬鹿じゃねえの?って顔」
吉澤さんが、上のジャージを脱いで、愛ちゃんに渡した。
彼女はそれを向こうへ持っていって、ハンガーにかけている。
何気にしっかり奥様してる彼女を見て、ガキさんはまた、感心した。

「ガキさん。今日は良いモノを貸してやる」
椅子に座った吉澤さんは、言った。
ガキさんもその向かいに座り、「良いモノ?」と尋ねる。
「まあまあ。それは食べてからな」
と言った後、立ち上がり、吉澤さんはキッチンへ行った。
何をするかと思えば、食事の準備を手伝っている。
2人は笑顔で、楽しそう。もちろん、幸せそう。
ガキさんはぼーっと眺めながら、少しうらやましくなった。
いつか、絵里ちゃんとこういう関係を築けたらいいな。
いつか、結婚とかして、夫婦になっても、いつまでもラブラブで…

って、今、言うほどラブラブじゃないじゃん。
恋人というか、幼なじみで、兄妹みたいな。
理想はもっとこう、あの2人のように、抱き合ったり色々したいんだけど、
現実は厳しい。キスもエッチも、今は夢のまた夢だ。
45 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/11(月) 11:06
愛ちゃんたちに疑われていたけれど、ガキさんにだって性欲はある。
キスもしたいしエッチもしたい。健康的な人間なのだ。
あんなに可愛い絵里ちゃんといつも一緒に居ると、その欲求は膨らむばかり。
膨らみすぎて、針を当てるだけでパーン、と破裂してしまいそうだ。
だから、ガキさんは、その風船を慎重に丁寧に扱っている。
割れてしまったらどうなるか。自分でもさっぱりわからないから、本当に恐ろしい。

しかしながら、ガキさんは思う。何を躊躇しているのだろうと。
何がいったい邪魔をしているのか。心では、こんなに絵里ちゃんのことを
求めているというのに、脳みそがそれをちゃんと受け付けてくれなくて、
全然行動に結びつかない。本当は抱きたい。むちゃくちゃ抱きたいのだ。
彼女の全てを知りたいし、何よりもっと愛し合いたい。
愛ちゃんと吉澤さんみたいに超ラブラブになりたい。
こいつら馬鹿だなって思われるくらいの、恋人同士でありたい。

なんだか、理想ばかりが突っ走っている気がする。
こうしたいああしたい。そればっかりが、ガキさんの頭をぐるぐる回る。
結局自分は何も出来ないのだ。頭でっかちすぎて、嫌になる。
せっかく、絵里ちゃんの彼氏になったのに。長年の片思いが報われたというのに。
46 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/11(月) 11:06
「愛ちゃんの肉じゃがはホント美味しいなあ」

食事中も、吉澤さんは楽しそうだった。
愛ちゃんも彼の笑顔を見つめて、幸せそうに微笑んでいる。
ガキさんはと言えば、かなりブルーな顔をして、箸を動かしていた。
今は、ピンク色の空気を吸うだけで気分が沈んでくる。
自己嫌悪も、けっこうやばいところまできていた。

「横浜クルージングした後さ、ホテルとっとくから、絵里と2人で泊まりなよ」
「へっ?」
味噌汁のお椀片手に、ガキさんは間抜けな顔になった。

「どこのホテルが良い?」
「インターコンチネンタルでよくね?」
「吉澤さんが泊まるわけじゃないでしょ」
「…そうだけど」

気付けば、話はどんどん先へ進んでいた。
愛ちゃんは明日ホテルを予約するって言って聞かないし、当日連れてって
もらえないことが判明した吉澤さんはテンション下がってるし。
47 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/11(月) 11:07
「行きたいな…横浜」

食器を片付けている愛ちゃんの後姿を見て、吉澤さんが呟いた。
ガキさんは、何と言っていいかわからず、ソファの方へ移動する。
リモコンで、37型のプラズマテレビの電源をつけると、
なんとも知れないバラエティ番組が放送されていた。

『本当は何歳なの?』
『えー言えませんよー』
『こそっと、こそっと教えて』

吉澤さんが、ガタッと椅子から立ち上がる。

「道重さゆみじゃん!」
「え?」
勢い良くガキさんの隣へ滑り込んで来る吉澤さん。
「誰ですかそれ」
「まさかおまえ、知らないの?」
「知りませんけど」
「考えられへん!」
キム兄口調でそう言って、吉澤さんは別の部屋に行った。
ガキさんは首をかしげて、テレビへと視線を向ける。
48 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/11(月) 11:07
『それにしてもさゆみちゃん可愛いよねぇ』
『はい。よく言われます』
『今、日本中の男たちの、ある意味憧れですからね』
司会者らしき男がそう言うと、なぜか大爆笑が起こった。
日本中の男たちの憧れって、さゆみちゃんはどういう人物なのだろう。
全然知らないガキさんは、戻ってきた吉澤さんの手にしていたものを
見て、愕然とすることになる。

「こ、これは……」

表はただ、さゆみちゃんがセーラー服姿で微笑んでいる写真。
でも、裏を返してみれば、あばばばば。
真っ赤な顔で、ガキさんは吉澤さんへすぐにそのDVDを突き返す。

「なんだよ。おまえの為に持ってきたのにさ」
「…もしかして良いモノってそれだったんですか?」
まったく余計なお世話だ。ガキさんは慌ててリモコンでチャンネルを変えた。
にぎやかなバラエティ番組から、静かな報道番組になる。

吉澤さんが持ってきたのは、『エロハロ!道重さゆみin女子高』。
彼女の『エロハロ!』シリーズの中で、吉澤さんの最も気に入っているやつだ。
49 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/11(月) 11:07
「こういうのを見て、男は勉強するんだぞ?遠慮なく受け取ってくれ」
「結構です…」
「おまっ!セックスの仕方がわかんないんだろ?!だったらコレ見て学べ!」
「いいですってば!」
「じゃあわかんないままヤッて、ガキさんって下手くそなんだねって言われちゃうんだ」
「……」
「あーカワイソウ。ていうか情けないね」
「…」

ガキさんは、黙って右手を差し出した。
吉澤さんはにやりとして、DVD『エロハロ!道重さゆみin女子高』を渡す。

「言っとくけど、このDVD、すっげえタメになるから。そこはおれが保証する」
「…はい」
「ただし、これは参考程度だ。本番はDVDみたいに上手くはいかない」
「…そうですね」
「がんばれ若造!」
ばちこーん、と吉澤さんはガキさんの背中を思いきり叩いた。
50 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/11(月) 11:08

そんなこんなで、ガキさんの帰宅時間。
吉澤さんが責任を持って、家まで送る。

「今日はありがとう。ご飯、美味しかったよ」
「うん。ホテル、明日予約入れておくから」
「わかった」
じゃあね。ガキさんは愛ちゃんに手を振って、ドアを開けた。
しかし、「ちょ」吉澤さんから呼び止められて、振り返る。

「どうしたんですか?」
「先に車行ってて」
「あ、はい」車のキーが飛んできて、ガキさんはそれをキャッチする。
「じゃあ先に行ってますね」
ぱたん。玄関のドアが閉まった。
完全に2人きりになってから、吉澤さんは愛ちゃんと向かい合う。

「ん?」
不思議そうに、愛ちゃんが首をかしげた。
「ガキさん送ったらそのまま帰るよ」
「なんで」
「疲れたから」
「…やだ」
51 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/11(月) 11:08
やだ。愛ちゃんは子供みたいに呟いて、吉澤さんの胸に顔を埋める。
吉澤さんは、微妙な表情をしつつ、彼女の背中を撫でる。
「帰っちゃやだ」
「愛」
なだめるように名前を呼ぶと、彼女は腕を緩めた。

「ひーたん怒ってる?」
上目遣いの愛ちゃん。可愛い。可愛いけど。

「そんなに横浜行きたいの?」
吉澤さんは首を振って、彼女の髪を撫でた。
見つめ合う2人。一歩間違えば、何かが始まる予感。
しかし、ここはぐっとこらえて、吉澤さんは愛ちゃんのおでこにキスをした。

「おやすみ…」
52 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/11(月) 11:08
ガキさんを見習わないとね。
愛ちゃんのその一言は、ボディブロのようにじわじわと効いてきた。
だから、吉澤さんはある重大な決心をしたのだ。
誕生日である4月12日まで、彼女とベッドを共にすることは控えようと。

自分の部屋のエロ本もDVDも全部押し入れに仕舞った。
PCだって、電源さえ入れなければ動画を見ることもない。
これからしばらく、右手も休ませる。
そして、ガキさん以上にストイックな男になるのだ。
愛ちゃんから感動されるくらい、忍耐強くてカッチョイイ男に。

戸惑う彼女に微笑んでから、吉澤さんは部屋を出て行った。
こうして、彼の禁欲生活は地味にスタートしたのであった。
53 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/11(月) 11:09

つづく

54 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/11(月) 11:09

(0´〜`)<なんなら『エロハロ!』シリーズ全巻貸すYO
( ・e・)<全部持ってるんですか…

55 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/11(月) 23:13
ガキさんにまで嫉妬する吉澤さん、カワイイです。
禁欲生活・・終わった後がスゴイ事になりそう。。
56 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/12(火) 00:24
エロハロしゃゆぅぅぅぅぅ゚+。:.゚ヽ(0´∀`)ノ゚.:。+゚

愛ガキの絡みがずっと読みたいと思ってたのでサイクォーでした!!!
愛ちゃん童貞いいすぎだよ愛ちゃんwwwww
だがそれがいいぃぃぃ!!!!1
57 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/12(火) 00:39
この二人ならでわの応援GJ!ガキさんイジリに放置プレイ(*´∀`)
『エロハロ』シリーズレンタル希望!!もちろん愛ちゃん似も…自主規制します
58 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/12(火) 01:14
またまた楽しみな展開になってきましたね
よしざーさんが珍しくかっこいい!
59 名前:重ピンピン 投稿日:2007/06/12(火) 02:02
更新おつです
でた〜重ピンシリーズ!!
まさかこのタイミングでくるとは・・・・
まさに『考えられへん』ですなぁ〜

ガキさんのガンバリにも期待ですが
エロハロ重さんの内容にも期待大です♪
60 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/16(土) 23:57
>>55さん
このスレの吉澤さんって変態だけど意外と可愛いんですよ
そこをわかってもらえて私はうれしいです

>>56さん
ちょwww顔文字がよっちぃwww
そういや愛ガキの場面って書いてないなと思ったので今回書いたんです
そこに気付いてもらえて私はうれしいです

>>57さん
放置が物置に一瞬見えた_| ̄|○
『エロハロ!』シリーズは、こはっピンクのもありますよ

>>58さん
楽しみと言われると本当にうれしいです
珍しくかっこいいというそのイメージを崩さないようにしたいと思います

>>59 重ピン
『考えられへん!』は今回の話のキーワードかもしれないです
エロハロの中身はここだけの話、飼育には堂々と書けないくらい過激かもしれません
61 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/16(土) 23:57


*****



62 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/16(土) 23:58
人間何かに夢中になれば、そのことばっかりしてしまう。
限界を知らないなら、なおさらだ。ひたすらそればっかり、してしまう。


ガキさんは、大きな溜め息をついた。
その手には数枚のティッシュペーパーが握られている。
カギを閉めた部屋の中、パジャマのズボンをずり下げて、
下半身を出しているガキさん。要するに露出狂の変態状態。
今このまま外へ出れば、多分キャーっと叫ばれて、
警察呼ばれて留置所行きだ。それくらいやばい格好をしている。

手を伸ばしてリモコンを取り、DVDの停止ボタンを押す。
「はあ」ガキさんはもう一度大きな溜め息をついた。

それもこれも、道重さゆみが可愛すぎるからいけないのだ。
彼女が、ガキさんの心の奥底に眠っていた、性欲の導火線に火を点けた。
ダメだダメだと思いつつも、身体は素直で右手の動きは止まらない。
吉澤さんにそのDVDを借りたその晩から、ガキさんは底の見えない
ものすごい欲望と必死で戦って、負け続けてきた。
もう、全敗だ全敗。引き分けにすら持ち込めない。
こんなにも完全に封じられるなんて、考えられないことだった。
63 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/16(土) 23:58
我慢しているつもりなんて無かったけれど、やっぱり我慢していたのだろうか。
そりゃあ、出したくなったら出す、ということはこれまでも同じようにしていた。
でも、今は違う。女に対して興奮している。だから出したくなる。
頭のネジが、どっか1つ取れちゃったのかもしれない。それがほぼ毎日続いている。

確かに道重さゆみは可愛い。
でも、ガキさんは思う。絵里ちゃんのほうが絶対に可愛い、と。

実は、道重さゆみに興奮しているというのとは、少し違うかもしれない。
無意識に絵里ちゃんのことを思い浮かべてて、それでおかしくなっちゃってる可能性もある。
こうやって、冷静になった状態でそんなことを考えてしまうと、またやばい。
さっき見たDVD『エロハロ!道重さゆみin女子高』での、道重さゆみのエッチな姿と、
あの絵里ちゃんの顔が同時に攻撃してきて、ガキさんはまた打席に立たなきゃいけなくなる。
バットを握り、色々しなきゃいけなくなる。

「…やめ。もうやめっ」

ひとり呟き、腰を浮かせてズボンを引き上げる。
でも、パジャマの上からでも丸わかりなくらい、アソコは突き出ている。

「……」

あと1回。もう1回だけ。
ガキさんはそう自分に言い聞かせて、DVDをふたたび再生した。
64 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/16(土) 23:58


*****



65 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/16(土) 23:59
亀井家の桜もそろそろ咲き始めようかという、4月初めのある日の午後。
吉澤さんはジャージー姿で、のんびりと花壇の手入れをしていた。

「綺麗だなぁ…」

さまざまな種類のお花が、見事に咲いている。
吉澤さんは、しゃがみ込んで、それらをぼーっと眺める。
頭には白いタオルを巻いて、手には軍手をはめている吉澤さん。
亀井家の執事にはとても見えない。

愛ちゃんとのエッチを我慢し始めて、なんとか1週間が経った。
だが、無理しているせいで、異常にムラムラしてたまらない。
彼女からのメールを見るだけで、抱きたくなる。
抱きたくて抱きたくて、今すぐにでも仕事をほっぽりだしたくなる。

でも、耐えろ。耐えるのだイケメン執事。
おまえは簡単に欲望に負ける、そんなカッコ悪い男じゃないはずだ。そうだろ?
自分を奮い立たせて(アソコは立てないように)、吉澤さんは我慢する。
今夜も会いに行くけれど、絶対にしない。しないったらしないんだもんね!
ほっぺたを膨らませ、拳を握り締めて、すくっと立ち上がる。
と、同時にほっぺたに冷たい感覚。ビクッとして、振り返る。
66 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/16(土) 23:59
「さ、サル!」
「サルじゃない!」

オレンジ色と水色のアイスキャンデーを両手に持った愛ちゃんが、唇を尖らせていた。
吉澤さんは、濡れた頬を手で押さえながら、彼女と向き合った。
「今日はお義母さんと舞台観に行ったんじゃなかったの?」
「そうだったんだけどやめたの。はい」
「おお」
愛ちゃんが、口の前までオレンジ色のアイスを持ってきてくれた。
がぶっと豪快にかじる。ああ、冷たくて美味しい。

「なんでやめたの?」
「なんとなく」
「ふーん」
「なんか、急に会いたくなったから」
「…お嬢様に?」
「ひーたんにだよ」
そう言って舌を出し、水色のアイスを舐める愛ちゃん。
棒状のアイスキャンディーを堂々とぺろぺろしてやがる。
ちょい待てや。なにこのエロい女。
吉澤さんは軍手を外しながら彼女をガン見する。
サルのくせに生意気すぎる。だけど、チョー可愛い。

「はい」
愛ちゃんは、さっき自分が舐めたアイスを、吉澤さんに差し出した。
オレンジのほうじゃないのかよ。苦笑しつつも、素直に受け取る吉澤さん。
とりあえず、彼女が舐めた場所を、ぺろっと舐める。案の定ソーダ味。
67 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/17(日) 00:00
「青山さんがね、”花壇にいるからこれ持っていってやってよ”って」
「青山さんが?」
「そ。ちゃんとあたしの分まで用意してくれたの。優しいよねあの人」
「ああ。青山さんは確かに優しい」
「見た目からして優しそうだもんね」

にこにこしている愛ちゃんは、のん気にアイスをかじった。
吉澤さんは黙ってうなずいて、それを咥える。

「今日の夜ご飯、何食べたい?」
「んー。魚」
「じゃあお刺身にしよっかな」
「うん…」

やっぱり、だんだん後悔してきた。
もぐもぐ動く口元とか真っ白な首筋とかを見ていると、本当にやばい。
でも、絶対にしないんだもんね!もう一度心の中で叫んで、アイスをかじった。

「ん」
すると、なぜか近づいてくる愛ちゃんの顔。
あっという間に唇が重なって、吉澤さんは思わずアイスを落っことしそうになる。
離れたあと、にやりと微笑む愛ちゃん。それがまた小悪魔な顔で、セクシーだった。
68 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/17(日) 00:00
キスだけなら、キスだけならいいだろう。
吉澤さんは今度は自分から彼女へ唇を寄せる。
すっと出てきた冷たい舌と、絡ませる。
オレンジ味とソーダ味が混ざり合って口の中、変な味。

「ん…」
彼女の片手が、吉澤さんの首筋をゆっくり撫でている。
そんな風にされたら、吉澤さんの手も出てしまう。
濃厚な口づけを交わしながら、魅力的な身体の線をなぞる。
いやらしい手つきになるのはいたしかたない。
吉澤さんは溜まっているのだ。ストレスも、アレもコレも、いっぱい。

「んん…」
青空の下で、しばらく我を忘れて、愛ちゃんとキスをする。
でも、キスだけだ。それ以上はしない。しないったら、しないのだ。
69 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/17(日) 00:00
「口の中、すっごい微妙」
静かに微笑んで、愛ちゃんは融けかかったアイスを口の中に入れた。
彼女の言葉に笑いながら、吉澤さんも残りを一気に食べる。
「まあ、まずくはないっしょ」
「そうだね」
微笑み合う。
そしたら愛ちゃんがふと真顔になって、
「ねぇ、吉澤さん。今日は泊まってってくれる?」
なんだか寂しそうにお願いされる。
吉澤さんは、鼻の頭を指でかいて、困った顔をした。

「どうして最近泊まってってくれないの?」
「……」
黙った吉澤さんにムッとして、
「浮気なら、もっとバレんようにしねま!」
「ちょ!」
アイスの棒を彼氏に投げ付けて、愛ちゃんは走り出した。
慌てて彼女を追いかける吉澤さん。こう見えても、足は速い。
70 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/17(日) 00:00
「待ちやがれこのサル!」
「サルちゃうわこの変態!」
腕を掴まれても、じたばたするサル。いや、愛ちゃん。
「離して変態!」
「変態ちゃうわ!」
「浮気者!」
「浮気者ちゃうわ!」
「もうっ!離して!」
「…」
仕方なく、解放する。
愛ちゃんは吉澤さんをキッと睨みつけていて、ちょっぴり怖い。
吉澤さんは、眉毛を下げて、情けない顔になる。

「”変態”はいいけど、”浮気者”はやめて」
「やめない。だって浮気者だから」
「おれがいつ、どこで浮気したよ」
「そんなん知らん」
「なにキレてんの?」
「キレてません」
あちゃー。完全にキレてるよこの女。
71 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/17(日) 00:01
「ねぇ。ホントに浮気とかしてないんだけど」
「ホントに?」
「ホントに」
「じゃあ、ジーコに誓えるの?」
「誓えるよ」
青空を見上げ、「ジーコに誓って浮気はしてません」
吉澤さんは子供みたいに可愛い顔で誓った。

「あたしの目を見て言って」
「浮気なんかしてないよ」
「…」
じいっと見つめ合う2人。
愛ちゃんはまだ睨んでて、吉澤さんは真剣な顔。
もうひと押しだ。直感でそう思い、とどめの一言を。

「本当に浮気してたら、多分おまえ気付かないと思うよ。
絶対にわかんないように浮気する自信あるもん」
「…そうだよね」
彼女の表情が、一気に緩んだ。
「吉澤さん上手そうだもん。そういうの」
「ちょ」
72 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/17(日) 00:01
亀井家の広い庭で、痴話げんかして仲直り。
抱きついてきた愛ちゃんを両腕でがしっと受け止めて、
吉澤さんはその背中をなでなでした。
「明日は横浜だろ?今日は早く寝たほうが良いよ」
「うん」
「よし。中に入ろう。紅茶いれてあげるから」
愛ちゃんの身体を離して、微笑む。
うん、と可愛くうなずいた愛ちゃんは「あ」と何かを思い出した。

「どした?」
「アイスの棒」

てけてけと、さっきまで居た場所まで走っていく。
愛ちゃんは棒を拾って戻ってきた。なんと良い子なのだろう。
吉澤さんは彼女の頭を撫でて、褒めてあげた。
73 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/17(日) 00:01

絵里ちゃんは、今日もガキさんとデートしている。
だから、愛ちゃんは彼女に会いに来たというよりも、
吉澤さんに会いに来たと言うほうが正しいみたいだ。
母親との舞台鑑賞。けっこう楽しみにしていた様子だったのに。
それをキャンセルしてまで、今日来る必要があったのだろうか。

亀井家の広い応接間に2人きり。
紅茶を美味しそうに飲んでいる愛ちゃんと、
そんな彼女を眺めながら首をかしげている吉澤さん。
交際を始めて、もうじき1年になる2人の距離は、今は少し離れている。
吉澤さんがわざと離しているのだ。何かあったらいけないから。
もしかしたら、彼女のすぐ側に座っていたら、ムラムラするかもしれないから。

「ひーたん、誕生日なに食べたい?」
「寿司」
「いいよ。ごちそうしてあげる」

本当は、寿司よりもバースデイケーキよりも、愛ちゃんを食べたい。
12日になったら、ついに禁欲生活から解放される。
そのときはもう、思いっきり食べたい。食べつくしたい。
吉澤さんは頭の中でその日のことを思い浮かべて、ちょっとにやにやした。
74 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/17(日) 00:01
「回ってない寿司だかんな」
「わかってる」
笑いながら、愛ちゃんは吉澤さんのほうへ移動する。
吉澤さんは、思わず、彼女が近づいただけ離れてしまう。
「なんで離れるの」
「いやあ…」
じりじりと迫ってくる愛ちゃん。
気付けばソファの端っこに来てしまっていて、吉澤さんはバッと立ち上がった。

「あーなんかスポーツしたいなー」
わざとらしく身体をひねりながら、さわやかに言う。
愛ちゃんは、唇を尖らせて、吉澤さんの後ろにまわった。
そして、両腕でがばっと抱きしめて、彼の背中におでこをくっつける。
「ちょ…何してんの」
吉澤さんは、彼女の腕をほどこうとする。けれど、あまりにぎゅっと
抱きしめられてるもんだから、全然ほどけない。
「愛ちゃん。離して」
前にまわっている彼女の手をぽんぽんと叩く。
でも、彼女は黙ってずっと吉澤さんを抱きしめていた。
75 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/17(日) 00:02
「ひーたんの部屋に行きたい」

小さな声がして、吉澤さんは大きな目を、丸くする。
ここここれってもしかしてもしかすると誘われてるんですかねえ奥さん?!
いやいやいや。そんな、愛ちゃんが、真昼間からストレートに
ベッドに誘ってくるようなことをするわけがないじゃないか。
冷静になれイケメン執事。愛ちゃんはそんな子じゃ、ないだろう。

「どうしたの。お昼寝したいの?」
「…うん」
「じゃあ行こう」
そう言うと、愛ちゃんはようやく腕をほどいてくれた。
でもすぐに吉澤さんの小指を握って、見つめてくる。
くりくりした大きな瞳で、まっすぐと。
彼女はやはり、ストレートしか投げない女。
吉澤さんの胸のど真ん中を打ち抜いてしまう。

でもでもでも。吉澤さんは耐える。
すっごい辛い(つらい)けれども、必死でこらえるのだ。
76 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/17(日) 00:02

「何時ごろ起こしたらいい?」

吉澤さんは自分のベッドの布団をめくりながら言った。
何も返事が無いので振り返ると、俯いている愛ちゃん。
「ほら。ゆっくり寝ていいよ」
彼女をベッドの横まで引っ張ってきても、無言のまま。

「愛」
髪を撫でて、名前を呼ぶと、やっと愛ちゃんは顔を上げた。
吉澤さんがほっぺたに触れると、その上に手を重ねてくる。
見つめ合って、部屋の中、2人きり。
今日はちょうど大した仕事も無いし、するには絶好のチャンス。
だけどアンラッキー。吉澤さんは禁欲生活中だ。

「また起こしにくるから。ゆっくり寝な」
「ひーたん」
「……」
愛ちゃんはどう考えても、エッチしたがっている。
さっきといい、今といい。
また抱きつかれて、吉澤さんは、彼女の誘惑に流されそうになる。
だって、愛ちゃんが、こんなにサインを出しているのに、
見て見ぬふりをするのはおかしいじゃないか。
77 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/17(日) 00:02
「どうしたの。さっきから何か変だよ」
耳元で囁いて、愛ちゃんの髪を撫でる。
「あのね」
「ん?」
「あのね…」
愛ちゃんは、そこで言うのを止めて、腕をほどいた。
それから、吉澤さんの胸を撫で始める。
Tシャツの上から、手のひらで、ゆっくりと。
上目遣いで吉澤さんを見つめながら、愛ちゃんは誘っている。
今すぐここで抱かれたいと、そう言っているように見えた。

「ああ」
観念して、吉澤さんは愛ちゃんを抱き寄せた。
ぎゅっとして、彼女の首筋に顔を埋める。
背中に腕をまわしてきた彼女を、そのままベッドへ押し倒す。

真剣な顔で、吉澤さんが愛ちゃんを見つめた。
静かに重なる2人の唇。すぐに絡む、舌と舌。
決意してから今まで我慢してきたことが、とても馬鹿馬鹿しく思えてくる。
こんなにも、身体が愛ちゃんを求めているというのに、
ひたすら我慢し無視し続けるなんて、まったく無理な話だ。
78 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/17(日) 00:03
吐息や唾液とともに、彼女ことを想う気持ちが、どんどん溢れ出してくる。
やっぱり、好きだから、愛しているからこうなるわけで、
抱きたくなるのはごくごく自然で、当たり前の結果だ。
セックスばっかりしていると、その快感に気を取られてしまって、
彼女と居る理由だとか意味だとか、そういう根本的な部分を忘れがちに
なってしまうけれど、ちょっと立ち止まってみればすぐにわかる。
愛ちゃんが好きだ。好きだから性欲が湧いてくる。何度も激しく抱いてしまう。
つまりは、愛ちゃんのことを好きでいる限り、この欲求は抑えられない。
誰にも止められない。止まらない。それはもうどこにも行かない。

愛ちゃんは、口づけながら吉澤さんの髪をぐしゃぐしゃにかきまわしている。
脚も絡めているし、おっぱいを撫でられても抵抗などしない。
だいたい愛ちゃんから誘ってきたのだ。抵抗するわけがない。

「ああ…もうやばい」
ムラムラも限界に達した吉澤さんは、急いで愛ちゃんのベルトを外す。
いきなり入れるしかない。前置きなんて今日はいらないだろう。
彼女のぴったりしたジーンズとベージュのパンティを、勢い良くガッと下げる。
そして自分のジャージーも素早く下ろして、さあさあというときにハッとする。

「おっとっと。危ない危ない」
ちゃんとすることはしてから、再度愛ちゃんに覆いかぶさる。
79 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/17(日) 00:04
「はやく」
「うん…」
焦らさないし意地悪しない。
だって吉澤さんはもう、ビンビコビンなんだもの。
愛ちゃんと身体をぴたっと重ねて、吉澤さんは、一気に挿入…

ドンドンドン!
それは、本当にすっごいタイミングだった。

「吉澤さーん。居ますー?」

青山さんだった。驚いた顔で、2人は顔を見合わせる。
先っぽはすでにちょっと愛ちゃんの中に入っているこの状況。
このまま彼女を貫けば、青山さんに返事は出来ない。
とりあえず、吉澤さんはその体勢を維持して、
「どうしたんですか?」
と答えた。カギは閉めているから大丈夫だ。
でも、青山さんはガチャガチャしだして「あれ。開かない」とか言っている。
80 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/17(日) 00:04
マジかよ…考えられへん…
吉澤さんは、大きく溜め息をついた。
「しょうがないよ」
愛ちゃんは残念そうにそう言った。
ああ、本当になんてタイミングで入ってくるんだあの人は。

「吉澤さーん。橘さんのチーズケーキもらいに行きましょうよー」
「ああ。先に行っててもらってもいいですか?」
「わかりましたー。でも早く来ないとすぐなくなっちゃいますよー」
「はーい」

シーン、となる部屋。
青山さんが邪魔に入ったせいで、さすがの吉澤さんも、しょんぼりした。
ついでにアソコもふにゃふにゃしてしまって、もう使い物にならない。
無言で愛ちゃんから退いて、猫背になりながら、ベッドの端に座る。

「はあ」
「チーズケーキか」
苦笑いしながら、愛ちゃんは吉澤さんの隣に座った。
「美味しいんだよ。橘さんのチーズケーキ」
「食べたい」
「じゃあ、行く?」
うん、とうなずいた愛ちゃんは、こてんと吉澤さんの肩に頭を乗っけた。
81 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/17(日) 00:04
「でも、したかったな」
悔しそうな愛ちゃん。吉澤さんは何も答えられない。
情けない下半身が、その代わりになっている。

それから2人は、黙ったまま衣服の乱れを直して、チーズケーキを食べに行った。
そのケーキがあまりにも美味しすぎて、吉澤さんはちょっと、泣きそうになった。

82 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/17(日) 00:04

つづく


83 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/17(日) 00:06

川*’へ’)<青山の野郎こんど会ったら跳び蹴り食らわしてやる
(0´〜`) <…

(0´∀`)

84 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/17(日) 03:29
ぐハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
あなたは全国の吉愛ヲタをコロス気ですか!
死ぬほど萌えました。いや、萌え所がありすぎて死にそうになりました。
萌え所を箇条書きにして書き連ねたいくらいだ。
おサルさん可愛いよおサルさんw
85 名前:アネゴ 投稿日:2007/06/17(日) 09:55
うはーーーーー…
萌えた。なんかもう節操もなく萌えた。
86 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/18(月) 00:45
ああぁぁぁぁもうおサルさんかわいすぎ!!
最後の言葉にやられたぁー!!!
ひーたんはあれだけど、四試合ヲタは明日からこれで一週間がんばれる気がするYO
87 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/18(月) 01:47
吉澤さんと愛ちゃん、いいですね
88 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/18(月) 21:34
胸キュンだわー
しかし吉澤さんは乙女心(愛ごころ)を分かってないなーw
89 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/23(土) 22:25
>>84 名無しの吉愛ヲタさん
そんなに熱い感想をいただけて私はとてもうれしいです
狙いすぎたかなとちょっと反省していましたがそれも吹き飛びました

>>85 アネゴ
節操もなく萌えたっていいと思う!

>>86 名無しの四試合ヲタさん
ありがとうございます。そう言ってもらえると四試合書いてる甲斐があります
もう1回くらい「やられたぁー」と言わせるようにがんばります

>>87さん
いいですよねいいですよね。そこに気付いてもらえて私は幸せです

>>88さん
>乙女心(愛ごころ)
素晴らしい。そのフレーズいただきます
90 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:25


*****


91 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:26
同じ日の午後5時ごろ。枝流田公園の噴水らへん。
ガキさんは、絵里ちゃんとベンチに座って、のんびりしていた。
今日は午前中から街へ出かけて、デートをした。
お昼は馴染みの中華料理屋さんで美味しいものを食べ、それから、
ちまたで噂の映画を観て、お買い物をした。
92 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:26
「春って感じだねぇ」
んーと伸びをして、絵里ちゃんが呟いた。
彼女の横顔を眺めながら、ガキさんは微笑む。
「このくらいの季節が1番過ごしやすくていいよね」
「そだね」
「でも、すぐに梅雨になって夏になるんだよね。あーやだなぁ」
少し渋い顔をして、青空を見上げる絵里ちゃん。
「雨は好きだけど、ジメジメするから梅雨は嫌だね」
「うーん。北海道にでも住めば、快適に過ごせそうだけど」
「そうだねぇ。北海道かぁ…行きたいなぁ」
「夏休み行こうよ」
愛ちゃんと3人で、とガキさんが言う前に、
「2人で?」
「へっ?」
うへへ。笑っている絵里ちゃんは、とてもうれしそうだった。

「2人で行こうよ。なんてったって…ねぇ?」
と見つめられて、ガキさんは黙ってしまう。
やっぱりまだ慣れない。絵里ちゃんとそういう関係だということに。
だって、彼女はつい最近まで田中っちと付き合っていたじゃないか。
こうやって、旅行に行こうと計画する相手は、自分ではなかったじゃないか。
信じられない。夢みたいだけど、これが現実なのだ。
93 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:26
「ガキさん」
「ん?」
「これさ、いま開けてもいいかな」

そう言って、絵里ちゃんが小さめの紙袋を掲げた。
それはさっきガキさんが彼女にプレゼントしたものだ。

「どうぞご自由に」
「わーい」
にこにこして、絵里ちゃんは紙袋から小さな箱を取り出した。
リボンをほどいて、箱を開けると、現れたのはシルバーの指輪。
そう。ガキさんは思い切ってそれを贈ったのだ。
自分自身、改めて気持ちを確認する意味も込めて、彼女へ。

「んー」
絵里ちゃんは、その指輪を青空にかざした。
眩しそうに見つめる間も笑顔は耐えない。
彼女の横顔は、本当にうれしそうで、幸せそうだった。
これは勘違いなんかじゃない。思い込みでもない。
ガキさんの胸は、なんとも言えない充実感と、安心感でいっぱいになる。

「ありがとね」
「うん。大事にしろよ」
「当たり前じゃん」
2人、見つめ合って微笑む。うん。良い雰囲気だ。
94 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:27
なぜか絵里ちゃんは、指輪を眺めているだけで、はめようとはしなかった。
はめたくないのかそれとも何かはめるのを迷う理由があるのか。
彼女をじっと見ていると、ふと目が合う。
「ん?」彼女は首をかしげる。ガキさんは困った顔でおでこをかいて、
「いやあ。それ、しないのかなーって」
「…」
なぜか一度俯く彼女。でも、すぐに顔を上げて、ガキさんを見つめる。
そして、黙ってその指輪を差し出してきた。

「え?」

そんな、無言で渡されましても。ちょっとテンパるガキさん。
これをいったいどうしろって…と考えてやっと気付く。
あぁ!なんて自分は女心が読めてない馬鹿野郎なのだろう。
もっとこう、スマートにカッコ良く、付き合えたらいいんだけど。
絵里ちゃんの指輪を手に、彼女へ尋ねる。
「どっちがいい?」
結婚指輪は左だ。ガキさんでもそれは知っている。
しかし、愛ちゃんが村上さんと付き合っていたときは右のほうにはめていた。
それをちゃんと覚えていたのだ。
どっちでもアリみたいだから、彼女の希望に応えよう。
そう思って、答えを待つ。「右手がいいな」彼女はすっと右手を出してきた。
95 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:27
「ちゃんとぴったりはまるかな…」
ガキさんは、彼女の手を取り、薬指に指輪をはめた。
「おお」さすがプロの仕事。まさにぴったりんこだ。
うわっと!つい、こりん星の言葉が出てしまった!申し訳ない!
って何このテンション!馬鹿な自分に心底呆れながら、ガキさんは絵里ちゃんを見た。

「どう?」
笑いながら、彼女は尋ねてきた。チョー可愛い。
「どど、どうって」
豪快にどもって、チョーかっこわるいガキさん。
ほら、ふざけてこりん星の言葉とか使うからだよ。
ガキさんは、絵里ちゃんのほうを向いていた身体を真っ直ぐにする。
俯いて、溜め息をつく。馬鹿でかっこわるい自分を責める。

こんなんじゃ、こんなかっこわるいままじゃ、田中っちと別れたことを後悔させてしまう。
そうさせないと心に決めて、付き合い始めたけれど、早速このザマだ。
まったく、情けないったらありゃしない。

「ガキさん」
ちょっぴり不機嫌な声が、横から聞こえる。
「どうって聞いてるの。何か言ってよ」
怒るよなあ。そりゃ怒るよ。ガキさんの頭はもう、しっちゃかめっちゃかだ。
なかなか返事をしないガキさんをどう思ったのか、小さな溜め息が聞こえた。
96 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:27
「もぉ…ガキさんったら」

指輪をはめた彼女の右手が伸びてきて、ガキさんの左手に重なる。
ハッとして顔を上げると、とてもやさしい顔の恋人が、そこにいた。
怒ってると思ってた。でも、そうじゃなかった。

「絵里たちってさ、もうけっこう長い付き合いだから、お互いのこと
よくわかってるかもしれないけどさ」
「…うん」
「ちゃんと言わなきゃわからないことって、たくさんあると思うの。
これからも、たくさんあると思う。だから、なるべく思ったことは、
ちゃんと口に出そうよ。口に出さないとやっぱり、わからないよ」

絵里ちゃんの言うことは、もっともなことだった。
2人はもちろん、言葉が足りなくてもわかり合える深い関係なんだけど、
全然わからないことだって時にはあるだろう。
だって、2人は全く別の人間であって、わからないのが当然なのだから。
気持ちが読める超能力でもあれば楽で良いんだけど、ガキさんは
そんな超能力者でもなんでもない。馬鹿でかっこわるいただの童貞だ。
絵里ちゃんだって違う。彼女も普通の女の子なのだ。
だから、ちゃんと言葉で気持ちを伝え合わなきゃいけないのだ。
照れるかもしれないけれど、きちんと、思ったことを率直に。

2人の手は繋がれたまま、離れない。
もし絵里ちゃんが離したとしても、ガキさんが離さない。
だって、離したくないから。この手だけは絶対に、離すわけにはいかないから。
言葉も、行動も、同等だ。思ったことはちゃんと口にして、行動で示す。
絵里ちゃんは、それを望んでいる。ガキさんだって、そうしたいと思っている。
今日で少し学んだガキさんは、繋いだ手にぎゅっと力を込めた。
97 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:28
「似合ってるよ」
「へ?」
「それ。指輪」

微妙にぶっきらぼうな言い方になってしまったが、ガキさんは言った。
すると絵里ちゃんは、うれしそうに笑って、
「なんか、恋人って感じしない?」
指輪のついた右手を見せながら、ガキさんに問いかける。
「この指輪、だいじにするからね」
「とか言ってすぐ失くさないでよ」
「もぉ」
ぺちん、と絵里ちゃんがガキさんの二の腕を叩く。
ガキさんはわざとそこを擦って顔をしかめた。
「あいたー古傷が痛むわー」
「ウソばっかり」
なんて言いながら、仲良く笑い合う2人。
ちょっとばかし、ラブラブな雰囲気が漂っている気がした。

「ねぇ。ガキさん」
いったん離れていた手をまた握ってくる絵里ちゃん。
ガキさんは、「ん?」と首をかしげる。

「明日、楽しみだね」

ああ。なんて穏やかな、彼女の微笑。
ガキさんは可愛い彼女に、ついつい見とれてしまいながら思い出す。
そうだ。明日は2人で横浜のホテルにお泊りなのだ、と。
98 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:28


*****



99 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:28
「2人とも大学進学おめでとう」

愛ちゃんが言ったあと、かちんとグラスを合わせて、3人で乾杯する。
いつもはたくさん人が居る中での食事だが、今夜は貸切。
亀井家の愛船、通称・『エリザベス号』は、湾田港から横浜まで、
ぐるっと1周しながらクルージングする。

「ガキさんはこれから勉強がんばらないとね」
愛ちゃんはそう言って、シャンパンのグラスを傾けた。
絵里ちゃんとガキさんは未成年なのでノンアルコールだけれど、
彼女はすでに成人しているから、ちゃんとアルコールが入っている。

「そうだよね。ガキさんはお父さんの跡を継ぐんだもんね」
「まあね」
絵里ちゃんの前だから、ガキさんは何でもないような顔で答える。
「彼氏が弁護士とか、カッコイイやん絵里」
「うへへぇ」
だらしなく笑う絵里ちゃんだけど、実は社長令嬢。
今3人が乗っている船は、彼女が15歳の誕生日を迎えたときに、
お父様がキャッシュでどーんと購入したものだったりする。
この通称・『エリザベス号』は、かの有名なタイタニック号ほど大きくはないけれど、
それなりに大きいと思えるくらいのサイズである。
普通のサラリーマンからしたら、こんな船を自家用で持とうだなんていう
絵里ちゃんのお父様の考えは到底理解しがたいものだろう。
だが、亀井家が所有する乗り物はこの船だけではないのだ。
たくさんの高級外車に、飛行機もある。旅行会社に頼まなくても、
簡単に海外へ行ける環境がすでに整っているのだ。すごいだろヘヘン。
と、そんな亀井家の自慢はさておき、愛ちゃんがあるモノに気付いた。
100 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:30
「ちょっと待って」
「へ?」
「なにその指輪」

おやおや。絵里ちゃんの手元をようく見てみれば、右手の薬指に光るモノ。
シルバーの指輪だ。彼女の笑顔とともに、きらきら光っている。

「昨日、お買い物に行ったときガキさんが買ってくれたの」
「は!?」
「愛ちゃん驚きすぎだって」
ていうか今日会ってすぐ気付けよサル。とは言わないガキさん。
絵里ちゃんと、ちらっと視線を合わせる。
やわらかく微笑んでくれた彼女に、少し照れる。ぽりぽりとおでこをかく。

「愛ちゃんは、吉澤さんからこういうの貰わないの?」
「貰うよ?コレもそうだもん」
そう答えて、首元のネックレスを指差す愛ちゃん。
「コレはペアで買ったし」
さらに、腕時計を見せて、にやっと笑う。
だからその笑顔が吉澤さんにそっくりなんだってば!
くくく。ガキさんはこっそり、ひとりでウケる。

「相変わらずラブラブだねぇ」
「そだよ。うらやましいやろ」
「絵里たちだってラブラブだもん」
「えっ?」
絵里ちゃんから、ねーと同意を求められて、ガキさんは間抜けな声を出した。
アッヒャー。愛ちゃんが笑う。
「絵里。ホントにガキさんでいいの?他にももっと良い男たくさんいるよ?」
「いやいやいや…」
呆れた顔して言われて、ツッコまずにはいられないガキさん。
勘弁してくれ。そんなこと聞くのは女2人だけのときにして欲しい。
101 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:30
「そうだよねぇ」

絵里ちゃんは何と答えるだろうと思っていたら、聞こえてきたそんな声。
ちょっと!同意すんなよ!ガキさんの眉間にシワが寄る。
絵里ちゃんは、そんな彼の気持ちを予測していたように、ふっと微笑む。

「確かに、ガキさんより良い男の人は、いっぱいいると思う。
でも絵里はガキさんのことが好きだから。ガキさんがいいの」
「…なんか、こっちのほうが恥ずかしくなってくるわ」

清々しいくらいに言い切った、絵里ちゃんはなんだかカッコイイ女。
あちーねあちー。手で顔をあおぎながら、愛ちゃんは笑った。

「絵里さぁ、ガキさんのどこがいいの?」
「そんなことわざわざ聞かなくていいから」
愛ちゃんより顔が熱くなっているのはガキさん。絵里ちゃんの恋人。
人前で堂々と「好きだ」と言われて、恥ずかしくならない、わけがない。
わかりやすいくらい照れている幼なじみを見て、愛ちゃんはけらけら笑う。
そしてシャンパンをぐいっと飲み、カァーッと、うなる。

絵里ちゃんは、指折り数えながら言う。
「ガキさんは、まずやさしいでしょ。しっかりしてるし、頼りになる」
「確かにね」
「それに、絵里のことをいちばんよくわかってるから、一緒に居ると
すっごい安心する」
「なるほどねぇ」
「愛ちゃん自分から聞いといて返事テキトー」
「あ?」
ガキさんのツッコミに、愛ちゃんが顔を上げる。
ほら。今も必死でステーキ切ってたし。本当にどーしようもない女だ。
ようく見ると、ほんのり頬が赤くなっている愛ちゃん。
もしかして酔ってきたりしたのかな。
102 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:31
「おい青山ぁ!」

とつぜん後ろを振り返り、愛ちゃんがそう叫ぶと、亀井家の執事・青山さんが
どたばた走ってやってきた。彼は、なぜだかちゃっかりこの船に同乗していた。
「なんでしょうか」
愛ちゃんは「ん」と空のグラスを彼に差し出す。
「はい?」
「はいじゃないやろ。ん」
「あぁ、おかわりですね。少々お待ちください」

ガキさんは、ぽかんとする。なんだこのタチの悪い酔っ払い。
青山さんがまたどたばたしながら戻ってきた。
そして、ボトルから愛ちゃんのグラスへ、シャンパンを注ぐ。
さすがというか何というか、青山さんは笑顔を絶やさない。

「愛ちゃん大丈夫?」
「だいじょーぶだいじょーぶ」
思いっきりロリ声で答えて、お酒をぐいっと飲む彼女。
ガキさんは苦笑する。絵里ちゃんも困った顔になっていた。

103 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:31

「あー気持ち良いー」

海をずんずん進むエリザベス号。
日はすっかり沈み、辺りを見渡すと横浜の夜景がもうすぐそこにあった。
大きなベイブリッジが光っている。とても綺麗だった。
絵里ちゃんは、風でおでこを全開にしながら、手すりにつかまっていた。
隣のガキさんは彼女の横顔を見る。すぐに目が合って2人で微笑む。
この船があの港に辿り着けば、あとはもうホテルへ行くだけ。
2人きりになれば、することはもう1つしかない。
今日で何もかも卒業してしまうのだ。ガキさんはそう心に決めていた。

「そういえば愛ちゃん大丈夫かな。トイレに行ったっきり戻ってこないけど」

ディナーのとき、驚くほどハイペースでお酒を飲んでいた愛ちゃん。
食事を終えてさあ夜景を見ようというとき、お手洗いに行くと言い出した。
それからもう、30分以上経っているような気がする。

心配そうに呟いたガキさんに、絵里ちゃんもうなずく。
「いちおう、吉澤さんに電話するようお願いしたほうがいいよね」
「そうだね」
「迎えに来れるなら来てもらうようにしてさ」
「うん。だいぶ酔ってたし、吉澤さんが来てくれたほうが安心だ」

まったくしょうがないお姉ちゃんだこと。
小さく溜め息をついて、ガキさんは手すりをつかんだ。
強い風の中、「あー!」と夜空に叫ぶ。「チョー気持ち良いー」
すると、「あー!」絵里ちゃんも真似して叫んだ。
104 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:31
「なんかチョー楽しいんだけどー」
「楽しいねー」
「あー!」
「あー!」
2人しておでこを全開にして、子供みたいに海へ向かって叫ぶ。

「ガキさーん!」
「なにー?」
「好きだー!」
「うえぇぇええ?」
隣で楽しそうな笑い声が聞こえて、ガキさんも思わず笑った。

「カメー!」
「なーにー?」
「大好きだー!!」
今度は、2人で大きな声で笑い合う。
どんなに騒いでも、今夜は許される。
だって、この風と、夜空が全部飲み込んでくれる。

ひとしきり笑い転げたあと、絵里ちゃんはバッと両腕を横に広げた。
なんだなんだとガキさんは横を見る。

「ほら、ジャック」
「は?」
「ジャック」

首をかしげ、5秒考えた後に気付く。
ガキさんは絵里ちゃんの後ろに立って、彼女の手を握った。

「タイタニックー」
うへへ。無邪気に笑う彼女。正直、可愛すぎる。
ぎゅっと手を握り、ガキさんは彼女の背中にそっと寄り添った。
絵里ちゃんが、指を絡めてくる。
まるで、あの映画の1シーンのように。
105 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:32
別にそのまま再現しようとか思ってないけれど、結局そんな雰囲気になってしまう。
ガキさんは、手を繋いだまま、絵里ちゃんを後ろから包み込むように抱きしめた。
彼女が首をひねってこちらを向いてくる。すっごい至近距離で、見つめ合う。

いつもいつも誤魔化してきたのが、今夜はウソみたいだ。
見つめれば見つめるだけ、彼女の瞳に吸い込まれていく。
心臓がばくばくする。ドキドキばくばくする。

「カメ」
「…」

そっと、顔を近づけていく。もちろん狙うは彼女の唇だ。
静かにまぶたを閉じた彼女。ガキさんはごくりとツバを飲む。
目を閉じて、唇を突き出して、少しずつ近づいていく。
ついに、とうとう2人の唇が重なろうとしたそのとき…

「絵里お嬢様!!!!!」

目を見開く2人。すぐに、パッと身体を離す。
振り返ると、青山さんが息を切らしてそこにいた。
おいおい空気読んでくれよ。内心舌打ちするガキさん。

「どうしたの?」
絵里ちゃんは、微笑みながら尋ねた。
その笑顔が微妙に怖いのは気のせいだろうか。

「高橋さまが大変なんです!」
「え?」

106 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:32

慌てて戻れば、愛ちゃんはソファにぐったり横たわっていた。
「あららら」ガキさんは絵里ちゃんと彼女へ駆け寄る。

「大丈夫?」
「…絵里ぃ」
「ちょっと愛ちゃん!しっかりして!」

今の愛ちゃんは、いわゆるべろんべろんの酔っ払い状態だった。
2人で顔を見合わせて、苦笑いをする。
「そうだ」思い出したように絵里ちゃんは言って、
「青山さん。吉澤さんに電話してもらえる?迎えに来てって」
車なら、1時間もしないうちに港まで来れるだろう。
愛ちゃんは1人暮らしだから、吉澤さんに連れて帰ってもらうしかない。
そう考えた絵里ちゃんのお願いを聞いて、青山さんはさらっと答える。
「もう電話しております。港に着くころには、そこに居るでしょう」
おお。ただの空気が読めないダメ執事かと思ってたら、
意外と出来る男じゃん青山さん。
さっきは舌打ちしてごめんよ。ガキさんはこっそり謝った。

「あれ、ひーたん?」
いきなり、むくっと起き上がった愛ちゃん。
「ひーたん?」思わず聞き返すガキさん。
「ひーたんはどこ?」
「ひーたんって誰」「吉澤さんじゃない?」

ガキさんはまるで彼女のおじいちゃんのように優しく話しかける。
「吉澤さん今から迎えに来てくれるんだって」
「今どこにいるの?」
「だから今はこっちに向かってる」
「なんで?」
「なんでって……」
はあ。とにかく、港に着くまでは、彼女を大人しくさせとかなきゃ。
ガキさんと絵里ちゃんで彼女を挟み込んで、相手をする。
いつもより、数倍子供っぽくて、うざい愛ちゃん。
まさかこれほど酔っ払うなんて。お酒は怖ろしい飲み物だ。
107 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:33

ほどなくして、エリザベス号は港にたどり着いた。
2人で愛ちゃんを支えて、船を出る。

「あ。吉澤さん」

姿を見つけるや否や、ダッシュで走ってくるイケメン執事。
まず絵里ちゃんに謝って、愛ちゃんを引き受ける。
「わー、ひーたんだぁ」
「はいはいわかったから」
吉澤さんは、抱きついてくる彼女の身体を支えながら、2人を見て苦笑いする。

「じゃあ、こいつはちゃんと家まで送りますんで」
「よろしくお願いします」

愛ちゃんを助手席に押し込んで、吉澤さんは去っていた。
まるで嵐が過ぎ去った後のようにその場が静まり返る。
ふと目が合うと、絵里ちゃんはやわらかく微笑んだ。
ガキさんは視線を逸らして、おでこをかく。

「とりあえず、ホテル行こうか」
108 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:33


*****



109 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:33
部屋に入るとそこは、本当に2人きりの空間。
目の前に広がる横浜の街。円い観覧車。美しい夜景。

「すっごい綺麗だよガキさん」

絵里ちゃんは、とことこ奥まで歩いて行った。
その後姿を、ガキさんは真剣な顔で見つめる。
いよいよだ。戦いのときは刻一刻と迫っている。
自然と胸が高鳴って、脚が震えてくる。

「ロマンチックだねぇ。明るいときはそんな風に思わないのに夜景って不思議」

ガキさんは黙って、彼女へ近づいていく。
のんびりと話す絵里ちゃんの声を聞きながら、ガキさんは両腕を伸ばした。
後ろから抱きしめて、彼女と同じ目線になる。
先手必勝。今夜は攻めると決めてるのだ。ぎゅっと力を込めるガキさん。

「どうしたのぉ?」
絵里ちゃんはふにゃふにゃ笑いながら尋ねてきた。
そっと彼女の手が重なってきて、カァッと顔が熱くなる。
「たまには…いいじゃん」
なんとか搾り出したセリフがそれ。自分でもおかしくなる。
甘えるように指を絡めてきた絵里ちゃんの、妙に落ち着いた態度。
ガキさんは、複雑な気持ちになる。
110 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:33
「ホント、たまには、だよね」
うへへ。彼女が静かに笑う。
「ガキさんって、ホント苦手なんだね。こういうの」
窓ガラスには、やさしい笑顔の彼女と、テンパってる自分の顔が映っている。
その向こうには横浜の綺麗な夜景。気分を落ち着かせるために、そっちに集中する。

「なんか、ドキドキする」

すぐ側で聞こえる絵里ちゃんの声。
繋いだ手に、ぎゅっと力を込められて、ガキさんは必然的に彼女に見とれてしまう。
ガラス越しに見える、彼女の微笑は、今までに見たことがないくらい大人っぽかった。
そして、色っぽかった。ガキさんの下半身が、どんどん熱くなってゆく。

「夜景が綺麗だから、こんなにドキドキするのかな」

そう呟いて、絵里ちゃんはふたたび笑った。
うれしそう。幸せそう。そう思っても、勘違いなんかじゃないよね。
ガキさんはほっぺたを彼女へすり寄せて、抱く腕に力を込めた。
目を閉じて、深く息を吸って、彼女の香りを堪能する。

「ガキさんは、ドキドキしてる?」

可愛い声で、絵里ちゃんが尋ねてくる。
「…してるよ」
そう短く答えると、うへへ、という笑い声。
ガキさんは、真面目な顔で、窓に映る絵里ちゃんを見つめた。
111 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:34
「絵里のことが好きだから、すっごい今、ドキドキしてる」

一瞬、絵里ちゃんの笑みが消えた。
かと思ったら、すぐに緩む表情。それはもう、でれーっと。

「もぉ。なんでいきなりそういうこと言うの?」
「いいじゃん…たまには」
「たまに、じゃなくて、いつも言って欲しいんだけど」
「それは…そうだね」
「ガキさん照れ屋だからさ、恥ずかしいのはわかるよ?
でも、ちゃんと言葉で言って欲しいの。
絵里もちゃんと言うから。ガキさんも言って欲しい」

うん。ガキさんはうなずいて、微笑む。
もう、夜景なんか目に入っていない。絵里ちゃんしか、目に映らない。

「好きだよ」

思いきって、ガキさんは囁いてみた。
こうやって、はっきり言うのは照れくさいったらありゃしない。
でも、言って欲しいと言われれば、言わないわけにはいかないじゃないか。

「絵里も、好き」

なんとなんと、今夜は一味も二味も違う!
ただ、素直に想いを伝え合う。
それだけのことなのに、泣きたいくらい、うれしくなってくる。
ガキさんは絵里ちゃんを腕に抱いたまま、俯いた。
112 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:34
「ガキさんとは、ずっと一緒だよね。幼稚園も、小学校も中学校も。
高校も一緒で、大学まで一緒」
「そうだね」
「これからもずっと一緒に居られるかなぁ。居られたらいいなぁ」
夜景をうっとり眺めて、のん気な絵里ちゃん。
ガキさんの下半身には我慢の限界が近づいている。
どうしようどうしよう。どうしようっていうか、どうしよう。

ガキさんがテンパってるとも知らず、絵里ちゃんは笑顔のまま、
両腕を横にまっすぐ伸ばす。
「え?」
「え、じゃないでしょ」
ガラスの窓に、両腕を広げた絵里ちゃんが映っている。
そのポーズってまさか…また?

「さっきの続き、しようよ」

絵里ちゃんの甘い声に、ガキさんはクラっとした。
今夜はすっごい夜になる。そんな予感が、した。
113 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:34

つづく

114 名前:彼女の限界 投稿日:2007/06/23(土) 22:35

从*^ー^) <ジャーック!
 (* ・e・)<ローズ!

115 名前:あねご 投稿日:2007/06/23(土) 23:14
ガキさんやればできるじゃないの!
そうだガキさんが変わればきっと今夜捨てられるはず例のソレを!
作者タンガキさんをよろしくお願いします
116 名前:重ピンピン 投稿日:2007/06/24(日) 02:45
更新おつかれっす
まずは前回分からで
ガキさんが『アロハロ』みて止まらなくなった気持ち
よくわかります♪
自分もそうなってしまう自信超ありです

そして今回
ガキさんの頑張りに乾杯です。
話の続きも気になるところですが、
そこはガキさんのさらなる頑張りに期待大です
あとは酔いどれ姫の愛ちゃんにもちょっぴり期待です


117 名前:!omikuji澤ひとみ 投稿日:2007/06/24(日) 14:00
ガキさん!ガキさん!ぼぼぼぼぼぼくの佐藤錦ッ!
種飛ばすのかああああああああああああああああ

ってコラー
118 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/28(木) 14:44
ガキさんきたぁぁぁぁぁ!!!
もう初々しすぎてギュッてしたいw
吉澤さん並の気合で男を上げるんだガキさん!!!

愛ガキの掛け合いもあいかわらずいい感じでツボw
てか、青山さん何気に二日連続でなんちゅうことしてはるんですか?
何気に愛ちゃん青山さんに逆襲してたんじゃw
次回まで正座して待ってます
119 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/02(月) 01:14
期待してます
120 名前:(0´∀`)人(’ー’*川 投稿日:2007/07/02(月) 23:00
>>115 アネゴ(*´Д`) ハァハァ
そうなんですやれば出来る子なんです
よろしくお願いされたから最後まで面倒見ちゃうYO

>>116 重ピン
毎回律儀に感想Thanks!
ガキさんはこはっピンクより重ピンク派かもしれないね
ちょっぴり期待されちゃったら酔いどれ姫もがんばるしかないYO!

>>117 おみくじさん
佐藤錦wwwwwwwwwwwwwwwwwwww
当然、かっ飛ばしますYO!

>>118さん
愛ちゃんが酔った勢いでマジで青山さんに跳び蹴りかましちゃったことはここだけの秘密です
ていうか正座よりも体育座りがいいYO

>>119さん
期待に応えてハッスルするYO!
121 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:00



122 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:01
ここは船じゃあないけれど、ガキさんは絵里ちゃんの手を握る。
指を絡めてきた彼女を、後ろからぎゅっと抱きしめる。
彼女の身体は、やわらかくて温かい。
首をひねって、絵里ちゃんがこっちを向いた。
ガキさんは、ギャグも言わないし、変な顔もしない。
ただ真剣な表情で彼女に見とれていた。

そっと、本当にやさしく、絵里ちゃんの唇を奪う。
とうとうキスをしてしまった。心臓がばくばくして止まらない。
まあ、止まったら止まったで大変だけど、異常なくらいドキドキしている。
これは当然、絵里ちゃんのせいであり、彼女のことが好きだから。

しばらく、そのまま唇を重ねる。ただ、重ねるだけ。
こんなので大丈夫なのだろうか。不安になりながらキスをする。
彼女はずっと手を握って、ガキさんに身を任せている。
まるで子供みたいなキスを、止めようとはしない。

唇を離す。絵里ちゃんがゆっくりと目を開ける。
視線が合って、ガキさんの照れくささも頂点に達した。
こんなに近くで、見ちゃいられない。本当に心臓が止まりそうだ。
ガキさんは腕をほどいて、彼女の隣に並ぶ。
これから、何度もこういうことをすれば、慣れてくるのだろうか。
慣れる気がしない。まったくしない。本当にかっこわるい。
彼女に気づかれないように小さくため息をついた。
123 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:01
「ねぇ。もしかして、ファーストキスだった?」
そんな質問。するだけ無駄だ。今度は大きくため息をつくガキさん。
「そうだよ」
「じゃあ絵里は、ガキさんのファーストキスの相手だ」
「まぁ、そういうことになるね」
「やったぁ」
うへへ。アホの子みたいに、絵里ちゃんは気の抜けた声で笑った。
ガキさんは、呆れた顔で笑いながら、おでこをかく。

「カメのファーストキスは…」
言いかけて、やめる。これも聞くだけ無駄だった。
ちらっと横を見ると、絵里ちゃんは微妙な表情で笑っていた。
「まあ、2人にとってのファーストキスってことで」
そうフォローすると、「そうだね」とうなずく彼女。
ガキさんの手を取って、恋人つなぎをする。

「ねぇ。ガキさんは、いつから好きだった?」
「え?」
「絵里のこと、いつから好きだったの?」
「……」
手を繋いだまま、絵里ちゃんが見つめてくる。
その瞳はとても純粋で、きれいだった。
生まれてから、気づけばいつも隣にいたはずの彼女なのに、
まるで昨日出会って恋に落ちたみたいに、ドキドキする。
おかしいな。彼女のことが好きすぎて、ちょっと頭がイカれちゃったみたい。

「田中っちと付き合ってるって、知ったころかな」
「えぇ?」
どういう答えを期待していたのか、絵里ちゃんはツッコんできた。
「それ、去年じゃん」
「そうだよ」
「なんだぁ。去年かぁ」
「でも、気づいたのが、去年だから」
「どういうこと?」
「カメがあいつと付き合ってなかったら、こんな気持ちには絶対なって
なかったと思う。ほら、”灯台下暗し”ってよく言うじゃん。ホントに、そんな感じだった」
124 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:02
絵里ちゃんは、いつでも側に居て当たり前の人だった。
これからも、ずっと一緒に居て当たり前だと思っていた。
だから、絵里ちゃんに彼氏が出来たと知ったとき、すごいショックだった。
そのときに気づいたのだ。ああ、好きだと。好きなんだなと。

「去年の文化祭の前さぁ、覚えてる?」
「ああ。覚えてるよ」
「ガキさん、いきなり真面目な顔でさぁ…『好きだ』って言ったよね」
なんであのタイミングだったのか、今でも疑問に思う。
おでこをかきながら、ガキさんは苦笑した。
絵里ちゃんも、当時のことを思い出しているのか、微笑んでいる。
「ビックリしたでしょ。あんなこと言われて」
「したよぉ。だってガキさんだよ?ガキさんが絵里のこと…ってねぇ?」
「そうだろうなあと思ってさ、すぐにギャグにしたの」
「全然ギャグになってませんでしたけど」
視線を合わせて、2人で噴き出す。やっぱり敵わない。
お互いのことわかりすぎてる。顔見てれば、全部わかる。

「カメだってさ、無理矢理流そうとしてたじゃん」
「そうだよ?だってさ、絵里、れいなと付き合ってたし」
「うん」
「そのころはまだ、あの人のこと、好きだったし」
俯いた絵里ちゃんは、繋いだ手を揺らした。
「ていうか、カメはいつぼくのこと好きになったの?」
そう尋ねると、彼女が顔を上げて、こちらを見る。

「絵里は、ずっと好きだったよ?」

えぇっ。ちょっと驚くガキさん。
絵里ちゃんは真剣な顔で見つめてくる。
「ずっと?」
「うん。ずっと。ずーっと好きだったんだよ?」
「……田中っちは?」
「こんなこと言うのホントおかしいんだけど、今考えると絵里さ、
れいなと付き合う前は、ガキさんのこと好きだったんじゃないかなって」
おかしいよね。小さく呟いて、絵里ちゃんは困った顔で、ふにゃりと笑った。
ガキさんは、眉間にシワを寄せて、黙り込む。
125 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:02
予想外の、絵里ちゃんの告白に、頭がごちゃごちゃしてくる。
もう、昔のことなんてどうこう言うつもりはないけれど、
好きだったのなら田中っちとなんか付き合ったりするなよ、と思った。

「なんで、あいつと付き合ったの?」
「うーん…ガキさんと居る時とは、また違う気持ちになったから?
あーもしかしたらこれ、好きなんじゃないのかなぁって思って。
れいなに『好きだから付き合って』って言われて、まいっか、って」
「まいっかって…チョー適当じゃん」
「違うの。付き合うときも、よく考えて決めたんだよ?
よく考えて、付き合ってみようかなぁって思ったの。結局別れちゃったけど」
絵里ちゃんがぎゅっと手に力を込める。

「なんとなくさ、勘で、ガキさんは絵里のこと本当に好きなんだろうなって
思ってた。冗談で誤魔化したりとかしてたけど、本気なんだろうなって。
その気持ち、本当にうれしかったの。れいなと付き合ってるのに、れいなの
ことが好きなはずなのに、絵里、ガキさんが『好き』って言ってくれて、
本当にうれしかった。れいながいるから、その気持ちに応えちゃいけない
ってわかっててもうれしくてさ。どうすればいいか、わからなかった。
だからさ、いっつもギャグにして、適当に流してた」

彼女はいま、とても素直だった。
あのころの複雑な気持ちを、思ったまま、語っている。
ガキさんは静かに黙って耳を傾けていた。

「いつだったかな。アキちゃんから『実は、ガキさんのこと好きなんだよね』って言われたとき、
絵里も思ったの。『あーガキさんのこととられたくない。誰にも渡したくない』ってさ。
ホント馬鹿だよね。違う人と付き合ってるくせに、そんな風に思うなんて。
それからずっと、無理してたのかな。無理してるつもりなんてなかったけど、
れいなと気まずくなったときとかケンカしたときに、ガキさんと居ると安心した。
やっぱり、絵里のこと1番わかってるのって、ガキさんなんだよねって。
れいなと別れたのは、絵里の中で、ガキさんの気持ちに応えたいっていうのが、
あの人を好きな気持ちよりも強くなったからじゃないかなって、今はそう思うの」
126 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:03
あの夜のことを、ガキさんはふいに思い出す。
パーティの帰りの車内、雨の中絵里ちゃんが窓を開けて、
田中っちとのプリクラを投げ捨てた、あの夜。

「でも、カメはあのとき、田中っちのことまだ好きだって言ったよね。今は、どうなの?」
「どうしてそんなこと聞くの?」
「いや…」
「教えて」
ゆらゆらと繋いだ手を揺らす絵里ちゃん。
ガキさんは難しい顔で、彼女を見つめた。
「やっぱり、まだ好きなら、まだあいつに未練があるんなら、ぼくと付き合わない
ほうがいいと思うんだ。あとで絶対に後悔するから。ぼくは、カメに後悔はさせたくない。
ぼくも、後悔したくない。だから、自分の気持ちには正直になって欲しい。ぼくのことなら
全然構わなくていいから、自分で納得いく道を選んで欲しい」
「じゃあガキさんは、絵里がれいなとヨリ戻してもいいの?」
「それがカメの出した答えなら、ぼくはそれを受け入れるよ」

ガキさんから視線を逸らす絵里ちゃん。
彼女は、強く握り締めていた手を離した。
ぼーっとしていて、何も考えてなさそうな顔をしながら、色々考えているだろう横顔を、
ガキさんはじっと見つめる。内心、なんであんなこと言っちゃったのだろうと、焦りながら。
いま、やっぱりまだあいつのことが好きだとか言われても自分が困るだけなのに。
別れてとか言われても、彼女と別れられるわけないっていうのに。
後悔したくないとか言いながら、思いっきり後悔している。チョーかっこわるい。
自分で自分が本当に情けなくなる。

「ガキさん」
「ん?」
「ガキさんは、絵里のこと本気じゃないの?」
127 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:03
顔を上げた絵里ちゃんの瞳には、涙が浮かんでいた。
えええ、とさらに焦った瞬間、ふわっと抱きつかれてしまう。
ぎこちなく、彼女の肩を抱いて受け止めて、ガキさんは答える。
「ぼくは…本気だよ」
「だったらヨリ戻してもいいとか言わないでよ。ガキさん本気なんでしょ?
絵里も本気だよ?もう絶対よそ見しないし、ガキさんとなら結婚してもいいと思ってる。
絵里に後悔させたくないんでしょ?後悔なんかしないよ。ちゃんと納得してるし、
納得してるからガキさんと付き合おうって決めたの。だからガキさんもちゃんと自分の意見を言ってよ。
ヨリ戻して欲しくないんなら、ちゃんとそう、言ってよ」

絵里ちゃんは鼻水をすすった。
彼女が泣いている。ガキさんの胸で、静かに泣いている。
ガキさんは何も言わずに、彼女をぎゅっと抱きしめた。

「カメ、ごめん」
「言ってよ…早く」
一息ついて、ガキさんは言う。
「あいつとヨリを戻さないで欲しい。もしカメにまだ未練があったとしても、
がんばって、ぼくがそれを全部忘れさせるから。だから、ずっと一緒に居て欲しい」
そうぶっちゃけると、絵里ちゃんが小さな声で笑った。
「それ、プロポーズじゃん」
「そうだよ?」
何か問題でも?開き直って尋ね返すガキさん。
だって好きなんだもん。ずっと一緒に居たいんだもん。
って、なんて自分は”ガキ”なのだろう。

「次、カメがいつよそ見するかわかんないから、今のうちに言ったの」
「はぁ?よそ見とかしないってさっき宣言したのに」
「わかんないよ?コロコロ変わるから」
「変わんないよ。これだけは絶対に、ぜーったいに変わんないから」

少し腕を緩めて、顔を見合わせる。
涙の跡が残る絵里ちゃんだけど、にこっと微笑んでくれた。
ガキさんも笑って、彼女の髪を撫でた。
128 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:03
そして、2人は同じようなタイミングで真顔になる。
顔を近づけて、ガキさんは絵里ちゃんにそっと口づけた。
くっ付いたり離れたりを繰り返して、何度も何度もキスをする。
なんかいっぱいいっぱいなんだけど、一生懸命キスをする。
触れるだけじゃ足りなくなって、なんとなく口が開いてくる。

絵里ちゃんの唇を、自分の唇で挟む。
すると、絵里ちゃんも少し口を開けて、ガキさんに応えた。
お互いに、はむはむしながら唇を合わせる。
なんだか不思議な感覚だったけど、とても気持ち良かった。
彼女も気持ち良いって思ってるのかな。思ってたらいいな。

しばらくそうやってキスをする。でも、やっぱりだんだんそれだけじゃ
我慢できなくなって、ガキさんは少しだけ舌を出した。絵里ちゃんの唇を
舐めて、はむはむして、また舐めて。その間隔は、どんどん狭くなってゆく。
人間の欲望というものはおそろしい。ガキさんはそう思いながらも止まらない。
今までぐっすり眠っていた本能がたった今、目を覚まして、暴れだした。
こうなったらもう手に負えない。だからしょうがない。好きなだけ、すればいい。

控えめな絵里ちゃんを、ガキさんは引っ張り出す。
本能が命令するまま、舌を入れて、彼女の中で動かす。
彼女は、苦しそうにしている。けど、ガキさんに合わせている。
2人の舌が生々しい音を立てながら、次第に激しく絡み合ってゆく。
気持ち良い。たかがキスだと思っていたけれど、気持ち良すぎる。

鼻息荒いガキさんに影響されて、彼女も気づけば大胆だ。
深く深く、まだまだ深く。2人は熱く情熱的な口づけを交わす。
いったいどこに限界があるというのだろう。ガキさんは思った。
もしかしたら、彼女とならこうやってずっと、キスしていられるかもしれない。
それくらい良い。もっともっとしたい。ずっとキスしていたい。
129 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:04
でも、始まりがあれば、終わりがある。2人はゆっくりと、唇を離した。
絵里ちゃんは俯き、一度深呼吸してから、顔を上げる。
愛しげにガキさんの頬を撫でて、くすっと笑う。

「なに」
「いやぁ、ガキさんもやっぱり男なんだなって思って」
「はい?」
「だからぁ、なんて言うか…何もしなくても大丈夫な人なのかなって思ってたの」
「何もしなくても?」
「うん」うなずいて、絵里ちゃんはそっと顔を近づけてくる。
ガキさんは寄り目になりつつ、彼女を見る。

「たとえばキスしたりとか。エッチしたり、とか」

彼女の発言に、思わず目を見開くガキさん。
今、こいつはなんて言った?ええええええええエッチって言ったぞ?
そんな童貞丸出しの反応に、彼女は微笑んだ。

「そういうこと、別にしなくてもいいのかなって思ってた」
「そんなわけ…」
「もしかして絵里に女としての魅力がないのかなぁとか、悩んだこともあったけど、
もともとガキさんがそういう人ならって考えると、それでもいいかなって」
「いやいやいや」
彼女が最初に言ったことも、次に言ったことも、全部否定する。

「カメは、とても魅力的だよ」
「ホントに?」
「ホントに」そう言い切って、ガキさんは絵里ちゃんをもう一度抱き寄せた。
「ぼくは、最高の女性(ひと)だと思ってる」
耳元で囁く。素直に率直に、今の気持ちを彼女へ伝える。
彼女は、うれしそうに笑った。
130 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:04
「てか、悩んでたの?」
「うん」
「全然気付かなかった」
「ガキさんは、鈍感王子だからね」
あはっ。王子か参ったなあ。って馬鹿野郎!!!!!
「ハンカチ王子のパクリじゃん」
「ばれた?」
「ばればれですー」
抱き合ったまま、2人で笑う。
すぐに雰囲気が変わる。こういうのが、2人らしい。

「それと、ぼくはそういう人じゃないよ」
一転して落ち着いた声で、ガキさんは言った。
「ぼくはいつも、いっつもいっつも、カメのことを求めてる。心も、身体も」
それから、絵里ちゃんをじっと見つめる。
彼女は頬を撫でてくる。自然と近づく、2人の唇。

今夜、何度目のキスか、もうわからない。
これから数え切れないほどするのだ。その数は無限大に等しい。
だから別に数えなくたっていい。数えたって、キリがない。

彼女の舌を吸うように、ガキさんは口づける。
そうすると、ちょっぴりいやらしい音と、彼女の切なげな声が聞こえる。
これだから止まらない。止めようだなんて考えも頭にない。
彼女とひたすらキスを交わす。
息が切れるくらい激しく。汗をかくくらい熱く。
この愛と同じくらい深く、長く。
131 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:04
ガキさんは絵里ちゃんの身体を触る。
背中から腰にかけて全体的に手のひらでなぞる。
だんだん、洋服に触れるだけじゃ物足りなくなる。

「ガキさん…」
そしたら、彼女はキスを止めて、身体を離した。
ガキさんは「ん?」とやさしく問いかける。

「シャワー、浴びよう?」
ね、と手を引っ張られて、思わず間抜けな顔になる。
「え?」
「え、じゃなくて」
そのまま、バスルームへ連れて行かれるガキさん。

「先に入って?絵里あとから入るから」
「あ、ああ」
バスルームの前の脱衣所に1人残されるガキさん。
やっぱり、いきなり2人で一緒にシャワーはないよな。
まだお互いの裸も見ていないんだし、あんなにキスしたのも、今夜が初めてだし。

それにしても、すっごいキスだった。今でも少し信じられない。
ガキさんは無言でスーツの懐に手を入れる。
そこから出てきたのは今夜の必須アイテム。
え?何それ?って、勘の鋭い読者諸君ならすぐにおわかりになるだろう。

「さて、と」

ソレを仕舞って、全裸になって、ガキさんはバスルームへと消えた。
132 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:05

*****


133 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:06
明日は横浜でデートでもしよう。そうしよう。
なんて思いながら、すっかり暗くなった窓の外を、ぼーっと眺める。
今は、絵里ちゃんがシャワーを浴びていて、ガキさんは1人だった。
白いバスローブを着て、窓際の椅子に座り、ミネラルウォーターの
ペットボトルを片手に、色々と考え事をしていた。

「やっぱり出しておいたほうがいいよね…」
なんてぶつぶつ言いながら、椅子から立ち上がる。
そして、クローゼットの中の上着から、アレを取り出す。
念のため3つ持ってきた。ほら、破れたりするとまずいじゃん?
別に、今夜3発かっ飛ばそうなんて、そんなことは思ってない。
とにかく不安だった。そのときに、何が起こるかわかんないから。
練習はしたけれど、本番に上手くいかないと意味が無い。

「遅いなぁ…いつまで入ってんだよ」
ぼそっと彼女に文句を言うガキさん。
アレをテーブルの上に置いて、ふたたび椅子に腰かける。
さっき、あれだけいっぱいキスをして、ぱんぱんに膨れ上がった気持ちも、
今はだいぶ収まってきた。これから彼女が戻ってきて、さあどうしようと
冷静に頭で考えたり出来る。
正直、今すぐ彼女とエッチなことをしたい。したいしたいしたい!

ガキさんは、気合を入れようと、ぐいっと水を飲む。
ペットボトルを傾けて、ぐびぐびと。
すると、いきなり両肩にふわりと手が乗ってきて「ブハッ!」
げほげほげほ!ものすごい勢いで咳き込むガキさん。
手の甲で口元を拭いながら、後ろを振り返ると、
「ガキさん大丈夫?」
そこには、同じバスローブ姿の絵里ちゃんがいた。
134 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:06
「なんとか、大丈夫」
「もぉ、ビックリしたぁ」
「それはこっちのセリフ」
言いながら立ち上がって、冷蔵庫まで歩く。
扉を開けて、ペットボトルを入れる。そしてくるっと、振り返る。

「……なに」

目の前に、にこにこ笑顔の絵里ちゃん。
ガキさんは思わず眉間にシワを寄せる。
彼女が一歩前に出た。すると2人はもっと近づいて、
ガキさんは、無意識のうちに彼女のことを抱き寄せていた。

うへへ。絵里ちゃんは、だらしない声で笑う。
きっと顔もかなりだらしないことになっていると思う。
だけど、それはお互い様だ。
ガキさんも、今の自分の顔を想像する。正直、キモイ。
彼女もキモイ。自分もキモイ。それでいいじゃないか。
2人は恋人同士なんだから。ラブラブの、バカップルなんだから。

「あったかいね」
「シャワー浴びてきたからでしょ」
「もぉ。ガキさんムードない」
「ごめん」
「許す」
「早っ」
抱き合ったまま、2人でくすくすと笑う。
バスローブの生地を隔てただけの、ガキさんと絵里ちゃん。
抱きしめ合えば、当然お互いの感触がわかる。
彼女のやわらかな身体も、おっぱいも、リアルにわかる。
ガキさんの大事な部分がどんどん熱くなってゆく。
135 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:07
少し離れて、見つめ合って、そっとキスをする。
ムラムラきてるガキさんは、すぐに口を開けて、舌を出す。
それを受け止め、絵里ちゃんも大胆に絡ませてくる。
2人はしばらく、大人の口づけを楽しむ。
キスに関しては余裕が出てきたガキさんは、絵里ちゃんの背中を
撫でていた手を、腰のほうまで持ってきた。
それから、意外と豊満なお尻にやさしく触れて、なでなでする。
絵里ちゃんはいったん唇を離して、ガキさんを上目遣いで軽くにらんだ。

「もぉ。どこ触ってんの」
「ごめん」
「許さない」
ふたたび口づけを再開する。ガキさんがツッコむ暇もなく、
噛み付くように激しくキスをしてくる絵里ちゃん。必死になって、彼女に応える。
すっごい音を立てながら、2人は夢中で、キスをしまくる。

言うまでもなく、ガキさんはもうビンビンだった。
我慢できないとばかりに、絵里ちゃんをベッドに押し倒す。
その上に覆いかぶさって、彼女と見つめ合う。
切なげな眼差しの絵里ちゃんは、ガキさんの首を引き寄せる。
まだまだキスが足りないらしい。その状態でまた、口づけ合う。
ガキさんもまだ足りなかった。全然、足りなかった。
ベッドの上にひじをついて、がむしゃらにキスを交わす。
もう、頭の中で何も考えられない。ただただ抱きたい。彼女が欲しい。

キスを止めて、ガキさんは絵里ちゃんを見つめる。
口を少し開けている彼女は、ありえないほど色っぽくて、やばかった。
吉澤さんの言ったとおりだ。DVDは参考程度。現実はそう、甘くない。
頭の中では、したいことがいっぱいあるけれど、どうすればいいかわからない。
想像以上な絵里ちゃんの色気に、ガキさんはしばし固まってしまう。
もちろん、アソコもかちんこちんに硬くなっている。
だけど、キスからその先、どうやって攻めていこうかと迷う。
136 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:07
とりあえず、だ。2人は裸にならなきゃいけない。
そう思ったガキさんは、絵里ちゃんから退いて、自分のバスローブを脱いだ。
地味なチェック柄のトランクス一丁になる。そして、絵里ちゃんのも脱がせようと
ひもに手を伸ばした。が、そっと手を重ねられて、拒まれる。

絵里ちゃんは無言でむくっと起き上がった。ベッドの上で、向かい合う2人。
じっと見つめてくる彼女に、ガキさんは首をかしげた。
「カメ?」
次の瞬間、ガキさんは目を見開く。
いきなり背を向けたかと思ったら、彼女自ら、バスローブを脱ぎだしたのだ。
彼女の背中が現れて、思わずつばを飲み込むガキさん。
初めて見る、彼女の裸に、心臓がまたばくばくし始めた。

でも、なかなかこっちを向かない絵里ちゃん。
ここまできて、今さら何を恥ずかしがっているのだろう。女の子の気持ちはよくわからない。
「どした?」ガキさんは、彼女の肩に手を置いた。
「…どうしようガキさん」
「なに」
「絵里、ありえないくらい恥ずかしくなってきたんだけど」
ぶはっ。すっごい切羽詰った声で言われて、ガキさんはつい噴き出してしまう。
「笑いごとじゃなくてさ…」
「じゃあ、電気消そうか」
「うん…」
蚊の鳴くような小さな声で、絵里ちゃんはうなずいた。
童貞のガキさんだが、ちょっと笑ってしまう。

「よいしょっと」
ベッドから降りて、壁にある照明のスイッチを見る。
今もけっこう薄暗くて、ムード満点だけど、えいっと全部オフにしてやる。
「うわ暗っ!」
見事に、何にも見えなくなる。ふらつきながら、ベッドへ戻る。
137 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:08
そうだ。ガキさんは、アレの存在を思い出す。テーブルの上、テーブルの上。
ちゃんと、3つ引っ掴んでベッドの上にのる。
「これなら大丈夫?」
「うん」
手探りで、絵里ちゃんの身体に触れる。
ちょうど二の腕の辺りだった。そのままぐっと引き寄せて、抱きしめる。

「なに恥ずかしがってんの?」からかうように囁く。
「恥ずかしがってませんー」
ムキになった彼女の声が聞こえて、ガキさんは微笑んだ。
暗くて全然見えなくても、どんな顔してるか手に取るようにわかる。
「なんかむかつくぅ」
「えぇ」
「だってだって…ガキさん童貞のくせに」
ぶはっ!童貞言うな!吉澤さんとか、愛ちゃんからならまだいいけど、
カノジョから言われると、なんだか微妙だ。

「でも、明日から童貞じゃないね」
「へ…」
ぎゅっと抱きしめ返されて、あ然とするガキさん。
肌と肌が合わさって、なんだかとても温かい。
無邪気な彼女がくすくす笑っている。その振動も心地よい。
おっぱいが当たっているのがわかる。彼女のおっぱいが。おっぱいが…

「カメ…」

ガキさんは堪らず絵里ちゃんにタックルをかました。
「きゃっ」という小さく悲鳴が聞こえたが、構わず彼女の頬を探して触れる。
138 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:08
はあはあ。ガキさんの呼吸は荒い。
それもそうだ。絵里ちゃんに欲情しているのだから。
彼女と過ごす初めての夜。自分自身も、初めての経験。
気持ちはどこまでもたかぶる。欲望はますます、大きく膨らむ。

「ガキさん」
絵里ちゃんから髪を撫でられる。きっと彼女は、やさしい顔をしているだろう。
ガキさんも、やさしい顔になって、絵里ちゃんの髪を撫でる。
ゆっくり彼女へ近づいて、やさしく口づける。
自然と絡むキスになる。濃厚で甘い、大人のキスに。
合間に漏れる彼女の吐息も、甘い。甘すぎて胸が苦しい。

ガキさんは、絵里ちゃんのほっぺた、鼻、おでこにあご、顔中に口づける。
耳たぶを唇で挟んでから、首筋に顔を埋める。そこに吸い付く。
すると彼女は色っぽく身体をくねらせて、ガキさんの髪を掴んだりする。
ああもう。どうしてこんなにエロくなっちゃうんだ。
女ってすごすぎる。普段の顔と、違いすぎる。

それから、絵里ちゃんのおっぱいまで移動する。
暗いからなのか、そこまで恥ずかしがらない彼女。
ガキさんが乳首を吸っても、拒んでこなかった。
彼女のおっぱいを、チュパチュパする。
硬くなった乳首を舐めたり弱く噛んだり、色々する。
あまり、深く考えずに、ひとしきり、気が済むまで愛撫する。
139 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:08
「はぁ」
おっぱいから顔を上げても、真っ暗だから彼女の表情は見えない。
今度は、自分の唾液でべたべたになったそこを揉む。
なんてやわらかいのだろう。ガキさんは両手でもみもみする。
まるでおっぱい星人になっちゃったみたいに、ずっとおっぱいを揉む。
クセになってきた。気持ち良すぎて。触れるだけでも満足してくる。
いやいや、ここで満足しちゃあいけない。ガキさんにはまだ、ヤルことがある。

さあ下半身へGO。ガキさんは彼女のお腹を少し撫でたあと、下の方へ手を滑らせた。
するとしっかり絵里ちゃんがガードしてくる。おっと、これじゃあ先へ進めない。
「カメ」
よく考えれば、その呼び名は全くムードなんてあったもんじゃない。
ガキさんの手を掴んで離さない絵里ちゃん。思いのほか、力が強い。
それでもこっちのほうが強いのはわかりきっている。
だから、ガキさんは彼女の耳元で囁く。
「絵里」
「やだ」
「真っ暗だから、何も見えないよ」
「そうだけど…」
唐突に、かつそっと唇を奪う。やっぱり絡み合う、2人の舌。
ガキさんが熱心に口づけていると、だんだん絵里ちゃんの手の力が弱くなってゆく。
指を絡めながら、長い長いキスをする。本当に2人は、キスしすぎだ。

「…いい?」
「いいよ」
息がかかる距離で、ガキさんが尋ねると、絵里ちゃんは囁いた。
ガキさんは、それを聞いて、にやっと笑う。
暗くて見えないけれど、とてもいやらしい顔だった。

手のひらをそーっと彼女の下半身へと滑らせてゆく。
パンティの生地の上から、彼女のアソコをなでなでする。
なんだか、触ってみると温かいというか、熱い感じがした。
ココが彼女の秘密な場所。この先にはいったい、どんな楽園(パラダイス)が
待っているのだろう。ドキドキばくばくから、ドキドキわくわくに変化する。
140 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:09
「ねぇ。ガキさん」

よく考えれば、その呼び名も全くムードなんてあったもんじゃない。
でも、絵里ちゃんからそれ以外の呼び方で呼ばれたことなんて、最近はない。
せっかく恋人同士になったのだから、下の名前で呼び合うのもいいとは思う。
だが、諸事情によりガキさんのファーストネームが不明なため、絵里ちゃんは
今後も「ガキさん」と呼ぶであろう。ここはひとつ、その点をご了承願いたい。

「なに」
「…脱がせて」
「へっ?」
「脱ぎたいの」
「なっ…」
何をってこのパンティのことかあああああああああああああ!
ますます、はあはあしてくるガキさん。ゆっくりと慎重に、絵里ちゃんのパンティを
引っ張ってずらし始める。太ももを通り抜けて、ひざの辺りに辿り着くと
彼女が脚を曲げた。そのまますっと、パンティを取る。

「……」
ごくり。つばを飲み込み、それを見つめるガキさん。
コレは1日中、絵里ちゃんのアソコに張り付いていた代物。
あああ。ダメじゃん。変態じゃん。下着泥棒の始まりじゃん。
ぶんぶん首を振って、ガキさんはそれを傍らに置いた。
そして、意を決して、彼女の股の間に手を入れた。

「あぁっ」
急に聞こえた絵里ちゃんの声に、ビクッとする。
「だめ…ガキさん…」
「あ、ごめん」
素直に、手を引っ込めるガキさん。うん。股の間に入れたはいいものの、
いきなり触っていいのかちょっと迷ったんだ。

それからまた、おっぱいとかわき腹とかを触る。
ときどきキスをして、またおっぱいを揉んで、しばらくその繰り返し。
そしたらなんだ。ぎゅっと絵里ちゃんが抱きついてきて、ガキさんは首をかしげる。
141 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:09
「どした?」
「ガキさん…」
「どしたのさ」
会話が始まると、またふざけたくなる。ついつい全部笑いに変えたくなる。
それをぐっとこらえて、様子がおかしな絵里ちゃんの髪を撫でた。

「絵里、もう…」
「あ。もしかして眠いとか?」
「違うよ…」
「違うのか」
「もぉ…ホントに鈍感王子なんだから」
あはっ。ごめんねー。ガキさんはからっとした声で笑った。
しかし、エッチなムードぶち壊しになりそうだったので、すぐに無言になる。

そう。冷静になってみれば、今はエッチの真っ最中。
しかも、初めてで慣れないガキさんは、まだ挿入までたどり着いていない。
最終目標は、2人でひとつになることだ。そうするために、裸になっている。

「カメ…」

ムラムラが舞い戻ってきたガキさんは、絵里ちゃんに覆いかぶさる。
そして、ぶちゅっとキスをしながら、おっぱいを強く揉みまくる。
途端にエッチな声を上げ始める絵里ちゃん。
さらに興奮して、さっきは断念した秘密の場所へ、手を伸ばす。
絵里ちゃんの股の間に手を入れて、アソコを触る。
もちろん、初めての感覚。ガキさんは確かめるように、愛撫する。

「あぁ…」

絵里ちゃんが、どんどん女になってゆく。
ガキさんがお豆ちゃんを指で突くたびに、みるみるエッチになってゆく。
うわあああ!まさか、あの絵里ちゃんが、こんなになっちゃうなんて!
半ば愕然としながらも、ガキさんの興奮は収まらない。
142 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:10
彼女の入り口を、ノックする。なんとも言えない、喩えようがないこの感触。
すっかり濡れているソコに触れ、ガキさんの衝撃はピークに達する。
お豆ちゃんも、楽園の入り口も、絵里ちゃんはわかりやすいくらい感じている。
男と違って、女は1度で2度美味しいのだ。それなら両方味わうしかない。
味わわないと損だ。せっかくフリーパス買ったのに全部制覇しないのと一緒だ。

「ガキさぁん…」
「どした」
甲高い絵里ちゃんの声がして、いったん手を止める。
すると、髪の毛をぎゅっとつかまれて、「やめないで」と囁かれた。
ガキさんは一瞬、呆気にとられるが、彼女の要望に応える。

お豆ちゃんを指でがんがん責める。小刻みに震える絵里ちゃんの腰。
どうやったら、彼女はイクのだろう。このまま指を動かしていればいいのだろうか。
それにしてもエッチな音だ。生々しくて、いやらしい。
こんな音を出しているのが絵里ちゃんのアソコって考えると、本当にやばい。

「あぁ…ガキさぁん…」
苦しそうな絵里ちゃん。ぎゅっと股を閉じながら、くねくね悶えている。
どこが終わりかわからない。でもなんとなく、終わって欲しそうだったから、
ガキさんは動かし続けていた手を止めて、彼女へ顔を近づける。
「ねぇ。イッた?」
そう聞くと、ばちこーんと頭を叩かれる。
「ちょ、痛いってば」
「そんなこと聞くから悪いんでしょ」
「…ごめん」
143 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:10
しょんぼりしたガキさんの首に伸びてくる、絵里ちゃんの腕。
2人はもっと近づいて、暗闇の中、見つめ合った。
「しょうがないから、許してあげる」
「ありがとう」
静かに笑う。そしてまた、長いキスをする。
しっかりと抱き合って、ガキさんは耳元で囁く。
「ねぇ。カメ」
「ん?」
「ひとつになりたいんだけど」
絵里ちゃんは、小さくうなずいた。「絵里も、ひとつになりたいよ?」
「カメ…」ガキさんは、彼女を強く抱きしめる。
彼女は、ガキさんの頭をやさしく撫でながら、うへへと笑った。
「なんか、信じられないね」
「え?」
「夢みたい。うれしすぎて、幸せすぎて」

うっかり穿いたままだったトランクスを、ガキさんは脱ぐ。
それから、3つのうちの1つを手にとって、枕もとの明かりを点ける。
「おっと!」
装着しながらイキそうになって、ひやひやしたりする。
だけど、なんとかして、女の子座りの絵里ちゃんと向かい合う。
ばっちり見える、彼女の裸。ばっちり見えてる、自分の裸。
もう、恥ずかしさもなくなったらしい彼女は、無邪気な笑顔でガキさんに
抱きつき、肌をすり寄せてきた。
「ねぇ。電気消さないの?」
「じゃあ、消そうか」
「んーどっちでもいいけどね」
甘えたような絵里ちゃんの声に、思わず頬が緩むガキさん。
見つめ合って、真顔になって、近づいて、キスをして。
そっと彼女の身体をシーツの上に倒す。全部、はっきり見える。
ガキさんは彼女の全身を眺めた。うん。もうやばい。

絵里ちゃんの両脚を、広げる。当然目に入ってくる、アソコ。
彼女がけたけた笑いながら、ソコを手で隠してきた。
「もぉ、真剣に見なくていいから」
「ごめん」
言いながら、ガキさんは彼女に覆いかぶさった。
つい1秒前まで笑っていた彼女は、見つめ合うと一瞬で真顔になる。
ガキさんの首を引き寄せて、唇を少し開けて、誘ってくる。
普段はまだまだ子供なのに、今だけは大人の女。
怖いくらい色っぽくて、ガキさんの欲望を刺激する。
144 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:11
ガキさんは、絵里ちゃんに口づける。
でも、すぐに離して、自分の下半身を確認する。
さあさあさあ!ついにきましたこの瞬間。
指で入り口を確かめて、先っちょをソコにあてがう。
ぐっと腰を突き出せば、ずんずん中へ、入ってゆく。
絵里ちゃんが、渋い顔をしている。
ちょっと不安になったガキさんだが、もうここで止めるわけにはいかない。
入るだけ挿入して、ふう、と深いため息をつく。
不思議なことに、自然と動き始める腰。
きっと誰でもそうなのだ。どんなに偉い人でも、どんなにガキでも。
中に入れば、それからはただ、腰を振るだけ。

なんなんだこれは。自分の右手と、全く違うじゃないか。
ガキさんは必死で動きながら、ショックを受ける。
こんなに気持ち良いこと、きっと世界中探したってどこにもない。
まだ眉間にシワを寄せている絵里ちゃんにも構ってられないほど、
初めての快感に打ちのめされる。ガキさんは、可能な限り激しく腰を振る。
まるで野生動物のように、本能のまま。

繋がっているところからは、考えられないくらいエッチな音がしている。
ガキさんの運動によりベッドは振動し、絵里ちゃんは喘いでいる。
そんな彼女の顔はなんだか苦しそうだった。それが気になるけれど、
ガキさんは止まらない。ゴールへ辿り着くまでは、止まれない。
145 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:11
しかし、限界は嫌でも訪れる。絵里ちゃんの中で、あっけなくイッてしまう。
はあはあ。荒い呼吸をしながら、ガキさんは彼女の隣に寝転がる。
まさに骨抜き状態。全部出してすっきりしたんだけど、後からどっと疲れが襲ってくる。

「…ガキさん」

やさしく髪を撫でられる感触がして、ガキさんは顔を上げた。
絵里ちゃんが、目の前で微笑んでいる。ガキさんも笑った。
「カメ。好きだよ」
「知ってる」
ぶはっ。憎たらしい絵里ちゃんを、がばっと抱き寄せる。
「絵里も、好きだよ」
「うん。知ってる」
くすくす笑い合う2人。バカップル以外の何者でもない。
チュッチュと軽くキスをしながら、初めての余韻をたっぷりと味わう。
そんな中、とてつもない睡魔に襲われたガキさんは、
絵里ちゃんの腕に包まれて、夢の中へと旅立っていった。

146 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:13

つづく


147 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/02(月) 23:14

(0´〜`)<ガキさんの下の名前が気になって夜も眠れないYO
川*’ー’)<じゃあ寝なきゃいいじゃん
(0´〜`) <…

(0´∀`)

148 名前:あねご 投稿日:2007/07/03(火) 00:31
…涙。

悔しいけど嬉しいよガキさん。
作者タンは官n…あわわ、感動小説の書き手だったのねっ
149 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/03(火) 22:15
二人の掛け合い(テンポ)がいいっすね
アレが2つでなくて3つなのがガキさんらしい 予備の予備
150 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/05(木) 03:25
ガキさんよかったねよかったね。・゜・(ノД`)・゜・。

>諸事情によりガキさんのファーストネームが不明
大事なシーンで吹き出ちゃったじゃないですか
151 名前:重ピンピン 投稿日:2007/07/05(木) 04:10

更新ご苦労様です
やった・・・やったりましたねガキさん
いろんな意味でとってもよかったッス

これからのガキさんの成長(夜の方)に期待しまくりです
ぜひぜひ吉澤師匠にレクチャーしてもらってください
152 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 16:15
ガキさん絵里ちゃんに捧げれてよかったね。・゚・(ノД`)・゚・。

絵里ちゃんの適当さの裏には深い愛がある
ガキさんには真面目な真剣な愛情が
今後の二人の愛の育て方もじっくり見届けたいなぁ
153 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/12(木) 20:02
よかったよかった
初めてが絵里でほんとよかった
154 名前:(0´∀`)人(’ー’*川 投稿日:2007/07/14(土) 22:41
>>148 アネゴ(*´Д`) ハァハァ
ちょw
悔しいってどういう意味www
これはエロコメなので涙は全くいりませんよ?

>>149さん
ありがとうございます
3つ用意した理由とか全然考えてなかったwww
でも、きっとそういう理由だと思います

>>150さん
ホントによかった。・゜・(ノД`)・゜・。
大事なシーンで噴き出しちゃったんですか。すみません
でもそれが私のポリシーなのでこれからも色々ネタ仕込んでいきます

>>151 重ピン
ありがとう!
期待しててください。どんどん成長していきますから
師匠なんてすぐに超えちゃうかもしれません

>>152さん
よかったよかった。・゜・(ノД`)・゜・。
なんか、そんな風に、ガキカメの関係ついてちゃんと文章にすると
2人がホントにうらやましくなってきますね
「二人の川*’ー’)の育て方」というフレーズ素敵すぎや

>>153さん
うんうんよかったよかった。・゜・(ノД`)・゜・。

155 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:43


*****


156 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:44
ガキさんは、絵里ちゃんの部屋の前のドアに立っていた。
あれ。どうしてここに。首をかしげながら、ドアを開ける。
「カメー」
ひょっこりと首を出して、部屋の中を見るけれど、誰も出てこない。
おかしいな。ガキさんは中へと入り、絵里ちゃんを探し始める。

いない。いない。ここにもいない。
部屋はまさにもぬけの殻だった。しかし、ハッとして振り返る。
シャワールームに、なにやら人の気配を感じたのだ。
ガキさんはそろりそろりとそこへ向かう。
そして、その途中で、ぴたっと足を止める。

これは空耳か?そこから、エッチな声が聞こえてくる。
しかもそれは、絵里ちゃんの声だ。ガキさんはツバを飲む。
一歩、二歩。静かに進む。それとともに、クリアになってくる、その声。
扉にそっと耳を当てる。やっぱり、絵里ちゃんだ。
あんあん言っている。なんていやらしい声。はあはあしてくる。
ドアを開けてぬっと顔を出す。するとガラス張りのシャワールームが見える。
ガキさんは、目を見開く。なぜなら絵里ちゃんが…

『れいなっ』

外から丸見えのシャワールームで、絵里ちゃんはあいつに抱かれていた。
しかも立ったまま交わっていた。あまりの衝撃シーンに、口がぽかんと開いてしまう。

『イクっ、れいなっ、絵里イッちゃうよっ!』

考えられへん!ガキさんは走り出す。
部屋を飛び出して、長い廊下でメイドさんたちにぶつかりそうになっても走る。

「うわあああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

叫びながらひた走るガキさん。いちおう、良いとこのお坊ちゃま。
恋人が他の女に抱かれているという衝撃事実を知り、錯乱状態に陥った。
きっと、今、この瞬間も抱かれている。抱かれてあんあん言っている。
なんてことだ!絵里ちゃんはもう、嫌いになったって言ったじゃないか!
なんであいつに抱かれてるんだ!なんであんなに、感じてるんだ!

亀井家の庭を、まっすぐ走る。いつの間にか彼女の愛犬が、併走している。
やがて、1人の少年と1匹の犬は、大きな桜の木の下にたどり着く。
肩で息をしながら、ふらふらして、ガキさんはその場に大の字になって倒れこむ。
犬が、寄り添うように彼へと近づく。ぺろぺろと、舐め始める。
「やめろよ…」ガキさんが一度手で追い払っても、まだ舐めてくる。
「もう、やめろってば…」犬にぺろぺろされている場合じゃないんだこっちは。
絵里ちゃんがあいつに色んな所をぺろぺろされちゃってるんだよ!
あんな場所でズコバコとヤッちゃってるんだよ!ふざけんな!

…泣きたい。そんなガキさんの心を読んだのか、犬はやさしい。
そうかそうか。悲しいこの気持ちを、おまえはわかってくれるのか。
良い子だな。ガキさんは、犬をがしっと抱きしめる。
すると、さらにべろんべろん舐めてくる犬。ディープなキッスだった。
おいおいおい。勘弁してくれよ。犬となんかキスしたくないって。
157 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:44

「やめろよ…おい…やめろってば…」
「ガキさん」
「もういいって…やめろって…」
「ガキさん」
「ホントにもう……って、えええええええ!」

まるで昭和のコントのように、ガキさんは勢い良く起き上がった。
なぜか、彼の上に乗っかっていた絵里ちゃんも、一緒に。
目をぱちくりさせて、目の前の彼女を見つめるガキさん。
部屋は明るいし、2人とも全裸だし、こんな体勢だし。

「夢かよ……」
あちゃー的なポーズをする。それもどこか古臭かった。
絵里ちゃんは、そんなガキさんを眺めながら、くすくす笑っている。
「おはよ」
「おはよう…」
そっか。そういえば、2人は昨夜…ガキさんは、思い出して照れくさくなる。

「どんな夢見てたの?」
「いやーカメがさー」
「絵里?絵里の夢だったの?」
「うん。でも、ちょっと嫌な夢だった」
「どんな?」
首を傾けられて、興味津々な顔で見つめられて、ガキさんは真顔になる。
絵里ちゃんを両手で抱き寄せて、その肩にあごをのせる。

「ねぇ。もったいぶらないで教えてよ」
「カメ」
「なに?」
「ぼくは、カメのこと、本当に信じてるから」
「へ?」
「いつでもどこでも、何があっても、信じてるから」
腕に力を込めて、ぎゅっと目を閉じるガキさん。
「どぉしたのガキさん。ちょっとサムいよ?」
「サムくたって構わない。ぼくは何が何でも、カメを信じてるから」
絵里ちゃんは、それを聞いて無言になった。
あらら。やっぱサムすぎたかな。反省しつつ、少し離して彼女の顔を見る。
158 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:45
すっぴんで、赤ちゃんみたいな絵里ちゃん。
でも、こうやって近づけば、静かに目を閉じてくれる。
ガキさんは、起きてすぐ、朝一番のキスをする。
なんて良い目覚めなのだろう。いっぺんに頭が冴えてくる。

「もぉ。わけわかんない」

離れたあと、唇を尖らせて絵里ちゃんが言った。
にらんでいるけど怖くない。むしろ可愛いし、抱きしめたい。
まあまあ、と宥めながら、ガキさんは彼女を抱き寄せる。
やわらかい。気持ち良い。彼女の香りに包まれて、しばし目を閉じる。

「ねぇ。ガキさん」
呼びかけられて腕を緩めると、絵里ちゃんが、上目遣いで見つめてくる。
人さし指の先っちょで、ガキさんの胸辺りを突っつきながら、はにかんでいる。
普段ならキモイとばっさり切り捨てる場面だが、ここはベッドの上。
しかも昨夜、男女の関係になったばかりで、今もお互い裸のまま。
逆に自分がキモイくらいでれでれしながら、ガキさんは首をかしげる。
「どしたの」
「あのね。絵里、お願いがあるの」
「お願い?」
うん。うなずいて、絵里ちゃんが微笑む。
「あのね」と言いながらガキさんに耳打ちしてくる。

「一緒にお風呂入りたいな」

本当に小さな声でそう囁かれて、ガキさんは頭がくらくらした。
脳天直撃。漫画だったらヒヨコがぴよぴよ飛んでいるかもしれない。

「しょーがないなあ」
とか何とか言うガキさん。もちろん、照れ隠しだ。
絵里ちゃんはとてもうれしそうに笑って、
「じゃあ絵里、お風呂入れてくる」
「あ。待って!」
バスルームへ行こうとした絵里ちゃんを、ガキさんは引きとめる。
159 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:45
「なに?」

微妙な体勢で、見つめ合う2人。

「…ぼくも、お願いがあるんだけどさ」

さっきから、絵里ちゃんの裸が嫌でも視界に入ってきて、我慢できなかった。
ガキさんはまだまだ若い。だから元気で、ギンギンだ。
幸いなことに、あと2つもある。時間もある。体力も当然、有り余っている。

「ガキさん?」ハテナ顔で、首をかしげる絵里ちゃん。
さすが鈍感王子のお相手。彼氏の様子がおかしいことに、気付いていない。
「お願いってなに?」
「いや…その…」
ガキさんは、掴んでいた腕を離した。
やばい。やっぱ止めなきゃ良かった。ガキさんは後悔してくる。

でも、絵里ちゃんが手を握ってきて、
「ガキさんのお願いなら絵里、なんでも聞くよ?」
とか言うもんだから、ガキさんはもう、やばかった。
ぶっちゃけ、今すぐ押し倒したかった。けど、そんな乱暴な真似はできない。

「あのさ…」
これは、なんて言ったらいいのかな。あなたと、ベッドの上で遊びたい。
いや、単刀直入に、ヤリたい。エッチしたい。セックスがしたい。
あああああ。ダメだ。そんなこと、口に出して言えないじゃないか。
どうしようどうしよう。どうしようっていうか、どうしよう。

「コレさ、あと2つあるんだよね」
どうしてもそこからしかきっかけが思い浮かばなかった。
ガキさんは、ソレを手にとって、絵里ちゃんに見せる。
「せっかく持ってきたからさ、全部使いたいかなって…」
そう言うと、繋いでいた手を離される。
そしておでこにばちこーんとビンタされてしまった。
160 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:46
「もぉ、ガキさんの馬鹿!むっつりスケベ!」
「ああカメ!」
おでこを押さえて、ガキさんは叫ぶ。
バスローブを羽織って、絵里ちゃんはベッドを降りた。
それから、振り返ってにらみつけてくる。こえー。ガキさんは肩をすくめる。

「ごめん」
とりあえず、謝るガキさん。絵里ちゃんはぷいっと顔を背ける。
無視してバスルームへ行ってしまう。
ガキさんはベッドに横になる。最低だ。最低の大馬鹿野郎だ。
シーツを引き寄せて、かたつむりのように丸まる。
これじゃ一緒にお風呂に入るのもナシかもしれない。最悪だ。
お風呂でイチャイチャしたかったのに。洗いっことか、したかったのに。
それに、むっつりスケベとか言われたし、凹む。
内緒でエロDVDも見てるのは事実だけど!
吉澤さんからまた違うやつ借りようとか思ってるのも事実だけど!

「はあ…」
もう、ため息しか出てこない。いったい、今日1日どう過ごせばいいのだろう。
絵里ちゃんは、むっつりスケベの自分とデートなんかしてくれるのだろうか。
ああ。あんなことを口走ったばっかりに。ガキさんはぐだぐだと自己嫌悪。

絵里ちゃんが戻ってきた。無言だった。
彼女に背中を向け寝転んでいるガキさんは、振り返れない。
今どんな顔をしてるだろう。わからなくて、怖くなった。
何でも知ってるって、何でもわかってるって思ってたのに、全然わからない。
全然ダメじゃん。童貞を卒業しても、チョーかっこわるいままだ。

「ガキさん」
「…」返事が出来ないガキさん。
「こっち向いてよ」
そう言われると、向くしかない。身体を転がして、彼女を見る。

あれ。怒ってるかと思ってたけれど、絵里ちゃんは微笑んでいた。
母親のようなやさしい笑顔で、ガキさんを見つめていた。
161 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:46
「そんな顔しないの」
彼女はベッドに腰かけながら、シーツ越しに、ぺしっとガキさんの身体を叩いた。
そして、ガキさんの髪に指を通す。愛しげに、彼の頭を撫でる。
「カメ。さっきは本当にごめん」
情けない顔で、あらためてガキさんは謝った。絵里ちゃんがくすっと笑う。
シーツをめくって、彼女はガキさんの隣に寝転ぶ。そっと抱きついて、また笑う。
「むっつりスケベ」
楽しそうに言われて、ガキさんは思わず苦笑いする。
これからこのネタでからかわれるんだろうな。まあ、別にいいんだけど。

「でも、絵里はそんなガキさんが好き」
「……」
ベッドに2人寝そべって、真顔でそんなこと言われたらもう。
そのまま、吸い寄せられるように、口づける。
ガキさんの沈んでいた気持ちは、簡単に急浮上した。

絵里ちゃんに覆いかぶさって、ガキさんは夢中でキスをする。
さっき凹んだ反動だか何だか知らないけれど、めちゃくちゃにしたくなる。
好きで好きでしょうがない、大好きな絵里ちゃんを、自分のものにしたくなる。

絵里ちゃんもはげしく求めてくる。ガキさんがバスローブをはがしても、
まったく抵抗せずに、むしろ自分から脱いでいた。2人は肌をぴったりと
合わながら、本能のままに口づけ合う。もっと欲しい。もっともっと欲しい。
自分の気持ちに正直に、ガキさんは彼女のおっぱいに触れた。
キスに夢中な絵里ちゃんのおっぱいを、手のひら全体で揉む。
ガキさんの神経は今はそこに集中している。
何度かもみもみして、硬くなった乳首を指でつまむ。コリコリする。
すると、絵里ちゃんは明らかに反応を示して、キスの勢いが弱まる。
そこを無理矢理ガキさんは奪う。むちゃくちゃに彼女の唇を貪る。
おっぱいもいやらしい手つきで愛撫しながら、すっごいキスをする。

たとえるなら、今のガキさんは走り出したばかりの機関車。
だからもう止まらない。線路に沿ってまっすぐ進むしかない。

素早く絵里ちゃんの股間に手を忍ばせる。
2回目だ。あまり恐れることはない。幸いにも、気持ちはありえないほど昂っている。
まさか自分がこんな風に絵里ちゃんでエッチな気分になって、
彼女とエッチなことをする日が来るなんて。去年の今ごろじゃ、想像も出来ないことだ。
162 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:46
お豆ちゃんを突くと、絵里ちゃんがぎゅっと目を閉じた。
唇を離せばその口から出てくるとてもエッチな声。
「だめ…ガキさん…」
「いいじゃん」
「だめってば…」
なんて言いながらも、彼女はガキさんの愛撫にくねくねしている。
やっぱり、絵里ちゃんにとってソコは敏感な場所。
弄られれば自然と声が出る。嫌でも感じてしまう。

「気持ち良い?」
「……」
絵里ちゃんは、唇を尖らせてガキさんをにらんでくる。
ガキさんは彼女の首筋に顔を埋めて、そこにキスをした。
それから、鎖骨を経由しておっぱいまで移動する。
「もぉ…やだ…」
嫌ならもっと必死になって抵抗すればいいじゃない。
ただ、髪を弱く掴んでくるだけの絵里ちゃんに、ガキさんは不思議になる。
乳首を吸っても、チュパチュパしても、彼女はまったく抵抗してこない。
むしろ、その甘い吐息は、ガキさんを受け入れているように思える。
幼なじみの絵里ちゃんだけど、まだまだわからない部分が多すぎるな。
それだからこんなことしたくなるのかな。全部を知りたくなるのかな。

固く閉じられた彼女の脚を持つ。そしてガッと思い切り開いて、その間に入る。
首を振って、やだやだ言っている絵里ちゃんのアソコをガン見する。
朝だから、明るいから、とても鮮明に見える。
ただでさえガキさんは視力が良いのだから、ものすごいハッキリ見える。
正直、ソコはとてもロマンチックだとか、メルヘンだとか、そういう感じではない。
ガキさんは現実を知って、またひとつ大人になった。
そして、勇気を出して、彼女の秘密な場所に顔を埋めた。

尖ったお豆ちゃんを舐めて、吸う。
すると絵里ちゃんの身体がびくびくなって、びっくりする。
こりゃ、すげえや。おもちゃみたい。なんか楽しくなってくるガキさん。
彼女の香りがガキさんの鼻をくすぐる。んーこれもなんて言えばいいものか。
言葉では表現できないことが多すぎる。でも、この香りが彼女の香り。
これからずっと、ガキさんのもの。

その入り口は、すっかり湿っていた。
人差し指で触れて、親指と擦り合わせてみる。
ちょっとぬるぬるしていた。舐めたらしょっぱかった。
ソコにもやっぱりキスしたくなって、ガキさんはまた顔を埋めた。
163 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:47

朝っぱらから、なにヤッてんだろう。
冷静にそう思ったのは、アレをつけるときだった。
もう我慢できなくて袋を破って、つけて、そこに裸で横たわる絵里ちゃんを見て、
あらためて2人は一線を越えてしまったのだなと実感してしまった。
これで2回目だ。昨夜したばかりなのに、もう2回目だ。
なにをこんなに焦っているのだろう。別に焦らなくても、彼女は必ず側に居る。
どこにも行かない。ガキさんの隣で、いつも微笑んでくれるというのに。
こんなこと、しなくたって全然いいのだ。子供だってまだ早すぎるんだし。

でも、これからきっと2人はどんどん回数を重ねてゆく。
いつか、こういうことも、ごく当たり前なことになっているのかもしれない。
だけど今のこの気持ちは絶対に忘れたくないと思う。
1万回ヤッたあとじゃ、2回なんて”たった”2回だ。
”もう”2回目なんて思ってる自分を、1万回目の自分が笑ってるかもしれない。

慣れたくない。この行為はやっぱり、大切なことでなきゃいけないのだ。
好きだよ。大好き。愛してる。ただそれだけを伝えたくて、彼女から感じたくて、
その結果、こうやって身体を重ねることに繋がるのだ。
ただムラムラしたからじゃない。そこに大きな意味があるからなのだ。
ガキさんは、一瞬前者になりかけていた。でも、今ふと気付いた。気付けた。
絵里ちゃんのことが好きで好きで好きで好きで好きで、だから抱きたいのだ。
危うく欲望に支配されたまま、彼女とするところだった。
ちゃんと装着されたことを確認して、真面目な顔で、彼女の上になる。

「カメ…」
「ん?」
「ぼくのこと、好き?」
絵里ちゃんはふにゃっと笑って「好きだよ」と答えてくれた。
その言葉に、ガキさんもふにゃりと笑う。
「どしたの?」「いや…」
頬を撫でられたガキさんは、彼女をまっすぐ見つめる。
「たまに、心配になるからさ」
「なんで?」
「ぼくがカメのこと、好きすぎるからかな」
「絵里だって、ガキさんのこと好きすぎるよ?」
ガキさんのうなじの辺りを撫でながら、絵里ちゃんは微笑む。
「絵里もさ、信じてるから」
「え?」
「ガキさんのこと、本当に信じてるから」
「うん」

絵里ちゃんとひとつになる。テンパっていてわけがわからなかった昨夜とは違い、
ガキさんはじっくり、確かめるように動く。黙々と彼女の中を突く。
すると、「ガキさん」という彼女の声が聞こえた。「なに」動きを止める。
「絵里のこと、好き?」
「好きだよ」
「ホントに好き?」
「ウソだったらどうする?」
164 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:47
意地悪にそう問いかけると、絵里ちゃんが眉間にシワを寄せたまま、
「そんなこと言わないで…」
マジレスされた!いつもよく言う冗談のつもりだったのに!
ゆっくり動き始めながらも、ガキさんは少し笑ってしまった。

「ねぇ、ホントに、絵里のこと、好き?」
「好きだよ」
それから、うわ言のように絵里ちゃんは同じようなセリフを繰り返す。
ガキさんはその度に律儀に同じセリフで答えた。
これは、ベッドの上でしか見れない彼女の姿。そう思うとますます興奮してくる。
無意識にペースが上がる。エッチな音も、大きくなる。

「ガキさん…」
「ん?」
また同じこと聞いてくるのかと思いきや、絵里ちゃんはあんあん喘いでいる。
こんなに至近距離でそんな声を聞けば、そりゃあガキさんだって黙っちゃいない。
我慢せず声に出して、この快感を表現する。
2人してエッチな声を出しながら、ひたすらアソコをぶつけ合う。

絵里ちゃんも、気持ち良さそうな顔をしている気がする。
昨夜は彼女のことまで気にしてあげられる余裕が無かったけれど、今は違う。
彼女の表情は明らかに何も感じていないものでない。痛がっているものでもない。
声だってどんどんエッチになっている。もしかしたら、気持ち良いのかもしれない。
そう思うと、ガキさんはますますハッスルしたくなる。

しかし、残念なことにガキさんだけイッてしまう。
一気に力が抜けた彼の身体を、絵里ちゃんはやさしく撫でる。
「カメ…」
見つめ合って、そっとキスをする。

「はあ」
ガキさんは、絵里ちゃんの横に寄り添うように寝転んで、大きなため息をついた。
身体をすり寄せてくる彼女を腕枕する。意外とこれが憧れだったり。
彼女の髪を撫でたりなんかして、ガキさんはひとり満足げに微笑んだ。
165 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:47

「ねぇ。絵里のお願い覚えてる?」
上目遣いで甘えてくる絵里ちゃん。可愛すぎて、言葉にできない。
「あーそんな昔のこともう忘れちゃったなあ」
「どんだけぇ」
彼女は楽しそうにくすくす笑う。もう、いつもの彼女に戻っている。
だからつい調子に乗って、からかいたくなる。
「いやーさっきのカメすごかったなー」
「…ガキさんも、すごかったよ」
ぶはっ。しみじみと言われて、思わず噴き出すガキさん。
ちょちょちょ!すごかったとか言われたんですけども!

「ねぇ」
「なに?」
「カメのお願い、もうちょっと後からでもいい?」

それからすぐに、ガキさんは3つ目の袋を破った。
絵里ちゃんはバスタブにお湯をためていたことなどすっかり忘れて、
たっぷりガキさんに抱かれたとさ。


166 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:48


*****



167 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:48
と、話が終わりかけてしまったが、まだまだここじゃ終わらない。
同じころ、愛ちゃんのベッドの上で吉澤さんは目を覚ました。
彼の目の下には珍しくクマができていて、顔もなんだかやつれていた。

吉澤さんは、大きなあくびをしてから、ふと隣を見る。
愛ちゃんがこっちを向いてすやすや眠っている。
昨夜、酔っ払って大騒ぎした彼女の姿を思い出して、ため息をつく。
めくれたタオルケットを彼女の身体にかぶせて、ベッドから出る。

「頭いってぇ…」
顔をしかめながら、リビングへ行く。
もう9時を過ぎている。携帯電話を取り出して、青山さんへ電話する。
「青山さんおはようございます。吉澤です」
『おはようございますー吉澤さん』
「あの、今日、ちょっと体調が悪いので1日休みます」
『そうですか。絵里お嬢様も今日は横浜でゆっくりなさるでしょうし、
吉澤さんもゆっくり休んだらいいですよ』
「すいません」
『いえいえ。花壇の水やりは私がやっておきますからご安心ください』

電話を切る。やっぱ優しいなあの人。
ほっとしたけど、頭がガンガンする吉澤さん。
愛ちゃんの薬箱を漁って、二日酔い用の薬を見つける。
おそらく彼女も必要だろう。余分にテーブルの上に出しておく。
が、テーブルの上にはウオッカの空き瓶と、空の焼酎パック。
グラスが2つに、おつまみの残骸。それはもう、ひどい状態だった。
吉澤さんは薬を飲んでから、とりあえず片付ける。
ゴミは分別して、テーブルの上はふきんで拭いて、綺麗にする。

1人でシャワーを浴びてから、冷蔵庫にあったカルピスを飲む。
なんか、起きたすぐよりかは具合が良くなってきた。
168 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:48
「うわビックリしたー」

気配を感じて振り返れば、ボサボサ頭の愛ちゃんがそこに立っていた。
さっき吉澤さんがガサゴソしていたから、その音で起きたのだろう。
「起きたか?」
「…うん」
非常にローテンションな愛ちゃんは、すっかり綺麗になったテーブルを見て、
「ごめんね…」
「ホントだよ」冗談のつもりで吉澤さんは言った。
けれど、愛ちゃんは本気に受け取ったらしく、暗い顔で俯いた。

「ひーたん、お仕事は?」
「ああ。もう、今日は休む。キツイし」
「ホントごめん…」
あらららら。どんどんネガティブモードになってゆく彼女。
吉澤さんは、彼女の肩を抱いて、笑いかける。
「気にすんなよ」
「でも…」
「シャワー浴びてきたら?すっきりするよ」

黙ったまま、愛ちゃんはバスルームへ行った。
吉澤さんは、ダメだこりゃと肩をすくめる。
あんな調子の彼女には何言っても無駄かもしれない。


吉澤さんがぼけーっとテレビを見ていると、彼女が戻ってきた。
ボサボサだった髪は、ひとつにまとめられていた。
「何か食べる?」
「いい」
彼女は相変わらず沈んだ表情で、目を合わせようともしない。
「薬、飲むならテーブルの上に出してるぞ」
「うん」
愛ちゃんが隣に座ってきた。吉澤さんは、俯いたその横顔を見つめる。
こんなに凹んでる彼女、久しぶりに見たな。

「どーしたんだよ。大丈夫か?」
肩を抱き寄せながら、吉澤さんは言う。
「大丈夫じゃない」ぼそっと、小さな声で呟く愛ちゃん。
「あたし、最悪だよね」
「え?」
「だって、ひーたん今日お仕事あったのに…あたしのせいで…」
「だからもう気にすんなって言ってんじゃん」
明るい声でそう言っても、愛ちゃんは俯いたまま。
吉澤さんは、彼女の頭をぽんぽん、と叩いて笑った。

「うざいならうざいって言ってよ」
「は?」
「あたしのこと、うざいって思ってるでしょ?」
「なに言ってんの」
吉澤さんは、愛ちゃんをやさしく抱き寄せる。
背中を撫でていると、彼女は身体を離した。
169 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:49
「愛?」
「ごめん…」
立ち上がって、愛ちゃんは寝室へ向かった。
ぱたん、とそのドアが閉まり、吉澤さんはひとり残される。
「なんなんだよ…」
ソファにふんぞり返って、呟く。
しばらく放っておこうかと思ってテレビを見るが、どうも集中できない。
ため息をついて、立ち上がる。そして、寝室のドアを開ける。

「愛ちゃん?」

彼女はベッドの上に体育座りして、静かに泣いていた。
吉澤さんが部屋に入ってきた途端、座る方向を変えて、背を向けてしまう。

「そこまで落ち込むことないだろ」
ベッドの端に座って、吉澤さんは彼女の背中に言う。
「今日は、絵里お嬢様はガキさんと横浜デートで、夕方まで帰ってこないし、
別に休んだって良かったの。だからおまえは全然気にしなくていいんだよ?」
「…でも」
「いい加減にしないと、ひーちゃん怒っちゃうぞ」

愛ちゃんが顔を上げた。今日、初めて視線が合う。
吉澤さんは彼女に近づいて、そっと抱きしめてやる。
「機嫌直して。ね」
囁いて、微笑みかける。彼女は小さくうなずいた。

「よし。じゃあ、何か食べよう。ハラ減った」
「なに食べたい?」
「んー、ママのおっぱい」
「きゃっ」
吉澤さんは、ふざけて愛ちゃんを押し倒す。
さすがに、愛ちゃんも呆れた様子で笑っている。
見つめ合って、吉澤さんは彼女の頬を撫でた。
「うそ。フレンチトーストがいいな。あまーいやつ」
「…うん」
170 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:49
さあキッチンへ行こう。と思ったけど、動けない吉澤さん。
なぜなら愛ちゃんからぎゅっとシャツを掴まれていたからで。
「ママどうちたの?」
またふざけて言うけれど、愛ちゃんはなぜかずっと真顔で。
吉澤さんも、思わず真顔になって、見つめてしまう。
次の瞬間、愛ちゃんから引き寄せられて、キスをされる。
やわらかいその感触に、吉澤さんのスイッチがいきなりONになる。
舌をさし込んで、ディープな口づけを交わす。
でも、すぐに冷静になって、OFFにする。これ以上は、まだおあずけだ。

この数日間で、吉澤さんは成長した。
愛ちゃんが、欲しそうな眼差しで見つめていたのにも、気付かないくらいに。

171 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:49


*****



172 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:50
今日は4月11日。いよいよだ。やっとこさ、この日までたどり着いた。
吉澤さんは朝から元気いっぱい。朝ごはんだって、もりもり食べた。
なんせ、今夜は愛ちゃんとお寿司を食べに行って、いきつけのクラブで
思いきり踊ってお祝いするのだ。
去年は一緒に過ごせなかったバースデイ。今年はずっと一緒に。

「吉澤さん!手が休んでますよ!」
「あ、すいませーん」

お局メイドの山本さん(通称・モナ)から怒られても、笑顔笑顔。
重い壺を、せっせと美術品倉庫から運び出す。
なんでも、絵里ちゃんのお父様でもある亀井家のご主人様が、
朝とつぜん言い出したそうだ。「あの壺を、鶴の間に飾って欲しい」と。
大金持ちのおじさんの考えることはよくわからない。
色も派手で、形もおかしなこの壺。いったいいくらするのだろう。

「吉澤さん!その壺は1億円もするんだから絶対に落とさないでくださいよ!」
「ちょ、うぇぇぇえええ?!」


鶴の間の窓際にある小さなテーブルの上に、それを置く。
全然、部屋に合ってないような気がする。
ここは和風なのに、その壺は洋風。場違いにもほどがある。
「ホントにここに置いていいのかなあ」
腕を組み、首をかしげながら、吉澤さんは眺める。
すると後ろにいた山本さんはにやっと笑って、
「吉澤さん」
「はい?」
彼女が隣に並んで、見上げてくる。
「明日、お誕生日だそうですね」
「はい。そうですよ」
「なにか、欲しいものとか」
「ありません」
それじゃ。吉澤さんは片手を挙げて、走り去る。
「ちょっとぉ!」
山本さんがなにか叫んでいたが、無視無視。
あんなおばちゃんには、興味ない。
173 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:50

「あぶなかったー」

自室に入り、ドアにもたれる吉澤さん。ネクタイを緩めて、ふと机の上を見る。
ランプが点滅している、携帯電話。慌ててそれに駆け寄ってカチッと開く。
愛ちゃんからのメールだった。

「なになに…『今日は何時にお仕事終わりそうでちゅか?』…」

ムフーと一気に緩む表情。
吉澤さんは、背中からベッドに倒れこんで、メールを打つ。

「今日は17時15分にソッコーで上がりまちゅよー」
もう、今日は早く上がるって決めているのだ。あとで絵里ちゃんの部屋に行って、
明日からのスケジュール確認をして、橘さんが作った美味しいランチを食べて、
午後からは一緒に花壇の水やりをして、彼女のお散歩に付き添って、それでおしまい。
完璧な予定だ。完璧すぎて、笑いがこみ上げてくる。
HAHAHAと声は出さないが、にたにたしながら、送信する。

吉澤さんはベッドの上でごろごろしながら、返事を待つ。
やっと、本当にやっと、愛ちゃんを抱ける。
だから今夜は弾けまくる。彼女を縛って、めちゃくちゃにしてやる。
ぐへへへ。さっきから吉澤さんの顔は緩みっぱなし。
例のアルファベット3文字がしたくてしたくて、今から身体がうずいている。

メールはすぐに返ってきた。声に出して読む吉澤さん。
「『じゃあ終わったらすぐ来てね(ハート)』…」
うん行く!3秒で行くから!
吉澤さんはウンウンうなずきながら返事を打つ。「行きまちゅ行きまちゅ…」
はたから見たらキモイ男だ。でもしょうがない。2人はラブラブのバカップルだから。
メールはいつも赤ちゃん言葉。当たり前だ。ごくごく自然なやりとりだ。
174 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:51

「吉澤さん。そわそわしすぎですよ?」

愛犬に引っ張られながら振り返った絵里ちゃんが、穏やかな調子で言った。
吉澤さんははにかんで後頭部をかく。「すみません」
「あー明日はお誕生日かぁ。それじゃあ、今夜は2人で?」
「はい」
「どうぞごゆっくり、愛ちゃんと素敵な夜を過ごしてください」
くぅ!可憐な笑顔でそんなこと言われたら、お兄ちゃん胸がきゅんとしちゃう!
もう一度うなずいて、吉澤さんはジェントルマンみたいに微笑んだ。

「絵里もですね、先週横浜で、素敵な夜を過ごしたんですよ。
本当に、こんなに素晴らしい夜があっていいのかってくらい、幸せな夜を」
「そうですか」
「その日までの迷いや不安が、一瞬にして消えてなくなりました」
やんちゃな愛犬にぐいぐい引っ張られつつも、しっかりとした顔で彼女は言う。
「不思議ですよねぇ。彼と一晩過ごしたら、何もかもガラッと変わってしまいました。
こんなことなら、もっと早くそうするべきだったなって、そう思います。
あの夜は絵里にとって、一生忘れられない夜になりました」
「きっと、新垣様もそう思ってらっしゃいますよ」
吉澤さんがそう言うと、絵里ちゃんは照れた様子で微笑んだ。

「なんだか、吉澤さんにこういうこと話すのって初めてですね」
「そうですね」
「絵里にとって、愛ちゃんはとても大切な人です。愛ちゃんの大切な人であるあなたは、
絵里にとっても大切な人ですから、あなたには何でも、話すことができる」
「はい」

手綱を手放して、絵里ちゃんは吉澤さんのほうを向いた。
解放された途端に庭を駆け出す愛犬。名前はアル。
彼女が大好きな映画『アルマゲドン』のアルだ。

「そういえば、吉澤さんは、どうして愛ちゃんのことを好きになったんですか?」
「どうして、ですか」
うーん。斜め上を見上げ、腕を組む吉澤さん。
絵里ちゃんは彼の横顔を見ながら、
「ちょうど1年前くらいですよね。お付き合いを始めたのは」
「はい。来週で丸1年になります」
「実は絵里、愛ちゃんは村上さんと結婚するってずっと思ってたんですよね。
家族ぐるみで仲が良いって聞いてましたし、じきに結婚するんだろうなぁって。
でも、違った。いつの間にか、愛ちゃんはあなたと恋人同士になっていた」

ちょうちょを追いかけて、アルが広い芝生を駆け回っている。
それを遠くから眺めるお嬢様と執事。
175 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:51
「あ。いま、すごいこと思い出しちゃいました」
絵里ちゃんの表情がパッと明るくなった。吉澤さんは彼女を見る。
「なんです?」
「2人が付き合ってるって、知った日のことです」
気まずそうに、吉澤さんは視線を逸らした。
困ったような顔で笑いながら、鼻の頭を人差し指でかく。
「あれは本当に、謝っても謝りきれません」
「なんでですかぁ。別に謝ることじゃないですよ?」
「いえ、お嬢様にあんな場面を見せてしまうなんて…」

思い出す。愛ちゃんとのラブシーンを、運悪く絵里ちゃんに見られてしまったこと。
それで全部バレたのだ。あれほど恥ずかしい思いは、したことがない。
珍しく耳を赤くした吉澤さんに、絵里ちゃんは微笑んだ。
「可愛い。吉澤さん」
「からかわないでくださいよ。お嬢様も人が悪い」
吉澤さんは、はにかんで、後頭部をかく。
そこへ、愛犬が絵里ちゃんのもとへ戻ってきた。

「おぅおぅ。よく遊んだなぁアル。よしよしよし」

彼女はしゃがんで、彼の頭をわしゃわしゃ撫でる。
その可愛い横顔を、吉澤さんは穏やかな顔で見つめた。

「初めて見たときから、だんだん好きになっていったんです」
「へ?」
その体勢のまま、吉澤さんを見上げる絵里ちゃん。

「実は、あいつのことを好きになった理由は、自分でもよくわからないんです。
でも、なんか気になった。目が離せなくなった。もっと知りたいって、思った。
だから私は、彼女に告白しました」
「へぇ」絵里ちゃんがやわらかく微笑む。
「愛ちゃんもきっと、あなたのこと、気になってたんでしょうねぇ」
「え?」
「じゃなきゃ、告白されてすぐに村上さんと別れないでしょ?」
「そうなんですかね。私にはよく、わかりませんが」

吉澤さんは、絵里ちゃんの隣にしゃがみ込んだ。
そして、一緒になって愛犬を撫でて、微笑み合った。

176 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:51


*****


177 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:52
例えば、もしあの日、彼女が上着を脱がなかったら。
あるいはあの時、吉澤さんの誘いを彼女がバッサリ断っていたら。
そして、あの場所で、走り出した彼女を吉澤さんが追いかけなかったら。
きっといつまでも、高橋家のお嬢様と、絵里お嬢様の執事のまま。
もしそうだったら、今ごろ自分は、どうなっていただろう。
吉澤さんはそんなことを考えながら、愛ちゃんとお寿司を食べていた。
最高級の握り寿司、巻き寿司、茶碗蒸し。どれもほっぺたが落ちそうなくらい
美味しくて、自然と笑顔が出る。でも、心の中は少しセンチメンタルだった。

「見て。このイクラ。きらきらしてる」
「うまそー。いただきます」
大きく口を開けて、軍艦巻きを一気に食べる吉澤さん。
彼の横顔を、愛ちゃんはニコニコしながら見つめている。
その熱い眼差しは、まさに恋する乙女。本当に可愛い。
「おいしい?」
「うん」
「よーし…」
愛ちゃんが、真似して一口で軍艦巻きを食べた。
でも、のどに詰まったのかゲホゲホ咳き込みだす。
吉澤さんは慌てて彼女の背中を擦り、湯飲みを渡した。
涙目の愛ちゃんが、お茶を飲む。
そして吉澤さんを見て、眉毛を下げた。
「死ぬかと思った」
「HAHAHA」
さわやかに笑う吉澤さんは、愛ちゃんの背中にやった手で
彼女の長い髪を撫でている。涙目だけど、楽しそうな愛ちゃん。
2人の周りだけ、ピンク色のオーラに包まれていた。

今夜は特別な夜。だから何も気にせずいちゃつくのだ。
大将が苦笑いしてても、他の店員がコソコソこちらを見ていても、
吉澤さんは気にしない。きっと愛ちゃんも、気にしてない。

「そう。今日、絵里お嬢様からすごいこと言われたんだ」
「なに?」
「おれは愛にとって大切な人だから、絵里お嬢様にとっても大切なんだって」
「は?」
「いやいや。別に深い意味はないけど、うれしくてさ」
目尻を下げている吉澤さんに、愛ちゃんは唇を尖らせて不満そう。
「それとさ、お嬢様が、おれたちが付き合ってるって知った日のこと思い出しちゃって。
からかわれたよ。あの時、すっごいキスしてましたよねって」
すると、愛ちゃんは目を大きく開く。そのときのことを思い出したようだった。
178 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:52
「あれは、ホントにびっくりしたよね」
「ああ。どういうことなんですか!って詰め寄られたしね」

それは、2人が付き合い始めてまだ間もないころの話だ。
絵里ちゃんが、愛ちゃんとガキさんと別荘に遊びに行ったとき、吉澤さんもお供をした。
一足早くテニスをやめて戻ってきた愛ちゃんと、偶然ふたりきりになって。
そういう雰囲気になって、こっそり彼女の部屋でキスをした。
何もなければ、エッチもしていたかもしれない。でも、そこまではいかなかった。
なぜなら、絵里ちゃんが少し開いたドアの隙間から見ていたからで。

「あれこそマジ死ぬかと思ったよ。心臓が止まりそうだった」

絵里ちゃんのびっくりした顔は、今でも忘れられない。
愛ちゃんが元彼ボンボンと別れてから、誰と付き合ってるのかと思ったら
自分のいつも側にいる執事だったとは。そりゃあ、驚かないわけないだろう。
しかも、濃厚なラブシーンを目撃してしまって、彼女はそのときどう思っただろう。

「たぶん、絵里はあのときちょっと怒ってたと思うんだよね。
あたしたちが付き合ってること、黙ってたからさ」
そう言って、愛ちゃんがしょうがをパクッと食べる。
「なんとなく言えなかったんだよね。今考えるとすごい不思議だけど」
「村上の野郎と別れたあとすぐだったし、仕方ないよ。
別れた、って両親にも言いづらかったでしょ」
「うん。すっごい言いづらかった。っていうか申し訳なかった。最初はね」
「ふぇ?」
吉澤さんは湯飲みを持ったまま、間抜けな顔になる。

「あの男、サイテーなんだよ?あたしと付き合ったのって、お父さんの土地目当て
だったんだってさ。ひーちゃん知ってた?」
「んーまあ」
「あたしもサイテーだよね。そのこと聞いて、一瞬、ひーちゃんのことも疑っちゃったの。
疑うだけ時間の無駄なのに。まさかひーちゃんも、って思っちゃった」
明るい声で言っているが、愛ちゃんの顔は悲しい顔をしている。
吉澤さんは明るい顔で微笑んで、彼女の髪を撫でた。
「まさかひーちゃんも同じだったら、どうする?」
首をかしげて、可愛い顔で吉澤さんは尋ねた。
そしたら愛ちゃんが、肩に頭をのせてくる。
ここは、回らないお寿司屋さん。明るくて、ムードもへったくれもない。
それでも愛ちゃんは吉澤さんに寄り添った。吉澤さんも彼女の肩を抱いた。
179 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:53
「それでもいい」
「え」
「ずっと一緒に居てくれるなら、お父さんの土地でもマンションでも何でもあげる」

フッと微笑む吉澤さん。そんなことを言われたって、あわてて取り繕わない。
きっと愛ちゃんもわかってる。彼が欲しいのは、高橋家の莫大な財産ではない。
愛ちゃんだけだ。彼女さえ側に居てくれれば、じゅうぶん生きていけるのだ。


お寿司屋さんを出て、クラブまで歩く。それほど距離は無い。
愛ちゃんは、吉澤さんの右にぴたっとくっ付いて、腕を掴んでいる。
何のアピールか知らないが、おっぱいだって押し付けている。
そんな彼女に、吉澤さんはムラムラしまくりだが、よく考えればまだ11日。
せめて日付が変わるまでは、耐えてみせる。

「なんかさー」
「ん?」吉澤さんを見上げる愛ちゃん。
「最近、絵里お嬢様が本当に幸せそうで、チョーうれしいんだよねー」
「また絵里の話?」
「もちろん、お嬢様の執事だからってのもあるんだけどさー、
ガキさんはおれの弟みたいなもんだからさー」
呆れた顔をしていた愛ちゃんだが、やさしい表情になる。
「なんか、変な関係だよね。ひーちゃんと絵里ってさ」
「ああ。ホントに」
「このまま、上手くいけばいいね。あの2人」
「そうだな…上手くいって欲しいよ」

実はまだ、あのことが吉澤さんの頭に引っかかっていたりする。
絵里ちゃんと田中の野郎の仲を、引き裂くような真似をしたこと。
口も手も出さないって愛ちゃんと約束したのを、破るようなことをした。
彼女は何も知らない。だから、いまだに後ろめたかったりする。
でも、こうなってしまった今、本当のことを言うのはずるいと吉澤さんは思う。

急に、愛ちゃんから腕を引っ張られて、吉澤さんは歩道の端に連れてこられる。
なんだよ、って言う暇もなく首を引き寄せられて、キスをされる。
通行人の存在なんて、彼女には見えていないらしい。まったくバカな女だ。
でも、そんなバカほど愛しいもので、吉澤さんも熱い口づけに応える。

「どうしたんだよ」
離れたあと、吉澤さんは苦笑した。不意打ちをくらって、ちょっと悔しかったり。
愛ちゃんは微笑んで、吉澤さんの胸板にほっぺたをくっ付ける。
「これでよかったんだよ」
「え?」
「あたしも、絵里は、ガキさんと付き合うのがいちばん幸せだと思う」

参ったな。もしかして、全部お見通しだったりするのだろうか。
上目遣いで見上げてくる愛ちゃんを見て、吉澤さんは真顔になる。
まさか、こいつは超能力者か。んなわけないよな。
そっと顔を近づけて、キスをする。激しく彼女の唇を求める。
本当に今夜は、止まらない。止まれない。限界まで、突っ走るのみだ。

180 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:53

つづく


181 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/14(土) 22:53

(0´〜`) <君のためにつばさになるYO
川*’ー’)<けっこうです
(0´〜`) <…

(0´∀`)

182 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/15(日) 00:31
イイ!イイ!イイ!
どいつもこいつも萌えさせやがってぇぇぇぇぇぇぇ
183 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/15(日) 01:15
いや〜今夜の更新も素晴らしかったです。
キュンキュンしましたw

そして>>181に笑いました。
ひーちゃんwwww
184 名前:重ピンピン 投稿日:2007/07/15(日) 02:27

今回もお見事な更新でした。
そしてガキさんも3連戦ご苦労様です
でも吉澤師匠を越えるのはまだまだ先の日に
なりそうですね

そして、その師匠のこれから始まる闘い?も
ワクワクしながらお待ちしております

それと、ガキさんがまた師匠から密かに借りようとしている
例のブツも密かに期待してます

185 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/18(水) 21:59
毎回楽しく読ませてもらってます。
次回の更新が待ち遠しいです。
186 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/19(木) 13:22
やっぱり絵里ちゃんでよかったよかった

しかし吉澤さんは女心わかってないねぇ
あんなことになってるんだからしなくてもいいからそこは気づいてあげないと
が、読み手側には期待が膨らみまくりですがなにか?
187 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/20(金) 03:03
ラブストーリーは突然にキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
うまいなあ
188 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/20(金) 04:23
お預けされ続けたお嬢様の反撃がどう出るかもひっそり楽しみ
189 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/21(土) 22:52
アロハロ!2の吉澤さんとガキさんがまるでココでの二人のような関係性で笑った。
190 名前:(0´∀`)人(’ー’*川 投稿日:2007/07/26(木) 00:36
>>182さん
テンションうえうえっすね
よしっ、もっと萌えを狙ってこう

>>183さん
ありがとうございます
>>181はもう1つ違うやつも考えたのですが
今後の展開も考えてそちらを採用しました
どんなに話がくだらなくても最後にくすっと笑ってもらえたらうれしいです

>>184 重ピン
3連戦は意外と身体にこたえますから、あのあとガキさんがちゃんと
絵里ちゃんと横浜デートできたのか心配ですね
しっかし、あなたは最後どうしても道重さゆみに繋げたがるなあwwwwww
そんなに言われたら、ちょっと書きたくなってくるYO
どういう形になるかわからんけど、この次の次くらいの話に期待してて!

>>185さん
ありがたいです
このスレは妄想して楽しむためにあるので、
これからも楽しんでもらえたらうれしいです

>>186さん
よかったよかった。・゜・(ノД`)・゜・。
まあ、吉澤さんは禁欲生活中だったからしょうがないっすよ
膨らみまくったその期待、パーンと破裂させてやるYO!

>>187さん
歌ドキよっちぃにノックアウトされたので使わない手はないと思いました
なので、今回は途中からその曲を無理矢理テーマにしました

>>188さん
吉澤さんに反撃できるほどあの子は強くないですよ?
できることといったら、アレしかないんです
どうか温かい目で見守ってやってください

>>189さん
そういやアロハロまだ見てないことに気づいた_| ̄|○
買ったけどビニールすら開けてないし_| ̄|○
そのうち見てみますw
191 名前:(0´∀`)人(’ー’*川 投稿日:2007/07/26(木) 00:37

【訂正とお詫び】
>>156の上から26行目「恋人が他の女に抱かれているという衝撃事実」
は大きな間違いです。確かに絵里ちゃんが他の女に抱かれていても衝撃事実ですが、間違ってます。
正しくは「他の男」です。田中の野郎のことです。読み返して気付きました。本当に申し訳ありませんでした。
毎回、ところどころ誤字脱字等あるとは思いますが、どうか脳内変換をよろしくお願いいたします。
また、常にこのようなことがないように細心の注意を払って参りますので、これからもどうか読んでやってください。

192 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/26(木) 00:38


193 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/26(木) 00:38


*****


194 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/26(木) 00:39
いつもクラブに来た時は、フロアの真ん中で、はしゃいでいた。
ノリノリの曲に身体を揺らし、笑い合いながら踊っていた。
でも、今夜は違った。隅っこのほうの、薄暗い場所で、寄り添っていた。

「あと3時間だね」
腕時計をちらっと見た愛ちゃんが呟いた。吉澤さんは、静かにうなずいて、
「踊んなくていいの?」
「うん。なんか今日は、こうしてたい」
こてっと、愛ちゃんの頭が吉澤さんの肩に当たる。
吉澤さんは彼女の手をとって指を絡める。そして、ぎゅっと握る。
愛ちゃんも握り返してくる。向こうはにぎやかだけど、こっちはかなり良いムード。
ちょっとくらいキスしたって誰も気付きやしない。だから、そっと口づける。
離れて見つめ合って、笑ってまたキスをして、いちゃいちゃする。

「もう、1年なんだよね。ひーちゃんと付き合いだしてから。早いなぁ」
愛ちゃんは目を細めながら、フロアを眺める。
彼女の横顔を見つめて、吉澤さんは、なにを思い出してるのだろうと思う。
初めて、本当に初めて出会ったとき?最初に会話を交わしたとき?
走馬灯のように、吉澤さんの脳裏によぎる。
彼女にとって自分がまだ、ただの執事だったころの記憶。

「けっこうです」
ぼそっと呟いた吉澤さん。愛ちゃんはハッとして彼を見上げる。
「きみが、ぼくに初めて言ったセリフ。あ、初対面の挨拶とかは抜きにしてね」
彼女がくすっと笑う。吉澤さんも、唇の端を上げる。
「はじめさあ、なんでこの子、こんなに素っ気ないのって思ったよ」
「えぇ?そんなに素っ気なかった?」
「うん。あのときは、すっごい傷ついたなあ」
「ごめん」
「親父に言われて、絵里お嬢様の執事になってすぐの頃だったからなあ。
何もかも懐かしいよ。毎日、何をするにも緊張してた」
「あたしも、絵里の家に行くときとか、いつも緊張してたよ」
「なんで」
意地悪い顔をした吉澤さんに、愛ちゃんは微笑む。
「すっげーかっこいい、執事がいたから」
「青山さん?」
「そう…っておい」ぺしっと、愛ちゃんが空いたほうの手で、吉澤さんの胸を叩く。
「ひーちゃんのことだよ」それを聞いて、HAHAHAと彼はさわやかに笑う。

「あたし、本当にひーちゃんに感謝してるんだよ」
「いいよもう。そういう話は」
「いいじゃん。今日は特別」
そう言って、愛ちゃんは吉澤さんの腕を引っ張った。2人はクラブから外へ出る。
「歩いて帰れば、ちょうど12時くらいになるよ」手を繋いで、歩き出す。
195 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/26(木) 00:39

だいぶ寒さもやわらいだ春の夜。吉澤さんは、愛ちゃんと仲良くお家へ帰る。
彼女が、ゆらゆらと繋いだ手を揺らしながら、真面目に語る。

「いっつも、あたしは受け身だった。ジョージと付き合ったのだって、
向こうから告白してきたからだったし、なんとなく結婚を言い出したのもあっちでさ」
「うん」ちなみに、ジョージとは元彼ボンボン・村上の名前である。
「ひーたんからあの手紙をもらったとき、なんかね、こう、革命が起きるんじゃないか
みたいな、そんな予感がしたの」
「革命?」
「そう。レボリューション」
「英語に直しただけじゃん」苦笑する吉澤さんに、愛ちゃんがむくれる。
ちょうど、横断歩道の信号が赤になり、2人は立ち止まった。

「大富豪で革命が起きると全部ひっくり返るじゃん。そんな感じだよ」
「どんな感じだよ」笑いながら、吉澤さんは言う。
「なんかね、あたしの中で、何かがひっくり返ったんだよね。うん。何かが」
「曖昧だなあ」
「とにかく。あの、服のポケットに入ってた手紙、入れてくれてホントにありがとう」
丁寧に頭を下げた愛ちゃんに、吉澤さんはやさしい顔で微笑む。
色が変わる信号。2人はまた歩き出す。

「で、革命が起きる予感がして?」話の続きを促す吉澤さん。
「革命が、ホントに起きた」
「ちょちょちょ。話、飛びすぎ」
「ジョージと付き合ってたのにひーたんに電話するとか、今考えるとホントありえない。
無謀だったなって、思う」
「んー、手紙を入れたぼくのほうが無謀だったと思いますが」
「無謀なんかじゃないよ。うれしかった」
「うん」マイペースな彼女に、吉澤さんはただうなずく。

「ホントにうれしかったの。ひーたんが、あたしと仲良くなりたいって思ってくれて、
あんな手紙を書いてくれて、こっそりポケットの中に入れてくれて、ホントに、うれしかった。
映画観に行ったときも、何着ていこうかすっげー迷ったし、ジョージとデートするときより
迷ったし。たぶん、その日があたしの恋愛革命だったんだよ」
「ラブレボリューションか」
「英語に直しただけじゃん」
むふふ。2人は、手を繋いだまま、不気味な声で笑い合う。

「それに、ひーたんがあの日電話してくれなかったら、
今、こんな風になってないだろうなって思うの」
「あの日って?」
「初めてエッチした日」
それも車の助手席で。吉澤さんは、すぐに思い出す。あの日のことを。
196 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/26(木) 00:40
「人生には、いつも風が吹いてるんだよ」
「えっ、風?」なんかまた変なこと言い出したぞ。吉澤さんは内心にやにやする。
「それで、あたしは紙飛行機」
とつぜんバッと両腕を広げて、ぶーん、と言いながら小走りで駆け出す愛ちゃん。
そして、少し行ったところで立ち止まって、くるっと振り返る。
目が合って、吉澤さんも立ち止まる。真面目な顔で、見つめ合う。

「あの日、あたしには追い風が吹いた。だから、あたしは飛べた。
追い風に乗って、ぶーんって」
「んー。よくわかんないけど、おれと付き合ったのは勢いだったってこと?」
「そう」
「で、勢いに任せて飛んだ結果、どうだったの?」

愛ちゃんは、てけてけと駆け寄ってきて、吉澤さんを抱きしめた。
「思いきって、飛んで良かった」
「そっか」
ぎゅっと力を込められて、吉澤さんは微笑む。
彼女の感触を確かめるように、しっかりと腕で包み込む。

「あたしにとって、ひーたんは追い風なんだよ。だから、ひーたんがいなきゃダメなの。
ずっと側にいてくれないと意味がないの。あたしにとって、1番必要な存在なの」
「大げさだな」
「うざい?」
「うん」
「ひどい」
「でも、すっげーうれしい」

道の真ん中で、抱き合う2人。幸いなことに人通りは全くない。
しばらく、静かに愛ちゃんを抱きしめて、吉澤さんは今のこの幸せをかみ締めた。
そして、明日からも変わらずに、この女を愛していこうと誓った。
彼女が必要だと言うのなら、追い風にでもなんでもなってやろうじゃないか。
彼女のことをやわらかく包み込んであげられるような、そんな風に、なってやる。
197 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/26(木) 00:40


*****


198 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/26(木) 00:41
部屋に着いて、時計を見れば、23:58だった。
吉澤さんがどかっとソファに腰を下ろせば、その上に愛ちゃんが座ってくる。
その細い腰に腕をまわして、吉澤さんは後ろから彼女を抱きしめた。
すると時計の表示が、パッと変わる。

「あと1分」
「うん」
吉澤さんは、愛ちゃんの耳にキスをする。くすぐたっそうに、彼女が身をよじる。
唇を首筋へ移動させて、ドラキュラみたいにそこへ吸い付く。
色っぽい吐息で応える彼女は、薄目を開けてそこにある時計を見ている。
吉澤さんの手は彼女のおっぱいへ。洋服の上からもみもみする。

「ひーたん。なった。12時なった」
「うえっ」

愛ちゃんがくるっと回って、向かい合う格好になる。
良い具合に上昇していたエロメーターが一気に下降してしまう吉澤さん。
だけど、まるで自分のことのようにうれしそうな愛ちゃんを見ていると、
そんなことどうでもよくなってしまう。

「おめでとう」

ほっぺたを両手で挟まれて、やさしいキスをされる。
今日は吉澤さんの生まれた日。そして、禁欲生活から解放される日。
音を立てて口づけ合う。特別な日をこうして迎えられる喜びを、分かち合う。
さーてさてさて!吉澤さんは、いきなり愛ちゃんの短いスカートの中へと…

「プレゼント持ってくる」

ガクッ。そう言って、愛ちゃんは吉澤さんの上から降りようとした。
しかし、その腕をがしっと掴んで、「もうここにあんじゃん」
愛ちゃんが、一瞬ぽかんとする。
「あれ?違った?」にやりとして、彼女をぐいっと引き寄せる。
バランスを崩した彼女は、吉澤さんの上に、もう一度乗っかった。
「プレゼント、あっちにあるよ」
「ここにあるから」
「ない」
「ある」
「ない」
「あるある」
吉澤さんは、彼女のスカートの中に手を入れる。
彼女はいきなりのことに顔を真っ赤にして微妙な顔をした。
そこを弄る吉澤さん。一瞬目を大きく見開く。
そして、ニヒルな笑みを浮かべて、耳元で囁く。
「ここにある」

お尻を揉む。なんて張りのある桃だこと。はあはあしてくる。
ソファへ、力任せに愛ちゃんをうつ伏せに倒す吉澤さん。
彼女の腰を持って、自分のほうへ引く。お尻が目の前に突き出される。
当然、スカートは短いのでそこは無防備だ。
199 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/26(木) 00:41
「誕生日プレゼントはこれかな?」
ふざけて言いながら、スカートをめくる。
すると、見事なTバックが、現れる。吉澤さんは、はあはあする。
愛ちゃんが身体をひねって抵抗してきても、びくともしない。力では負けるわけがない。

「あいたんは、なあんでこんなにセクスィーなの穿いてるのかなあ」
子供っぽく言って、愛ちゃんの桃を両目で凝視する。
お尻の割れ目に、すっごい食い込んでいる。こりゃ、たまりませんな旦那。
「ねぇ。なんで今日こんなの穿いてるの?」
彼女は答えない。黙って、大人しくしている。
そんな対応じゃ納得しない吉澤さんは、さらにじっと凝視して、
「ねえ、あいたん。なんでこんなエッチなの穿いてるの?」
幼稚園児の素朴な疑問のように問いかけて、割れ目を指でなぞる。
ビクッとなる愛ちゃん。吉澤さんはぐいぐい引っ張ってやる。さらに食い込むパンティ。
「ちょっと…」
「どうちたのあいたん?」
ぐいぐい止まらない吉澤さんの手。
「やだ…」
「なんで?たのしいよ?」
「たのしくない」
「ちぇ」
ひーちゃんは仕方なく手を離して、ぷぅと頬を膨らませた。
その顔は、憎たらしいほど可愛い。

愛ちゃんは身体を反転させてから、ソファに座った。
いまだに微妙な顔をしている。とても心外だ。

「ひーたん」
「なあに?あいたん」
彼女は唇を尖らせて見つめてくる。可愛いんだけど、心外だ。
今夜は特別な夜。はしゃぎたいったらありゃしない。
でも、彼女の反応はなんだかイマイチで、吉澤さんの唇も尖る。

「どうちたの?」
吉澤さんは、顔をぐっと近づける。勢いでチュッとキスをする。
愛ちゃんは、吉澤さんの首に腕を巻きつけてくる。なんだよ。ヤル気じゃん。

「もっと、ちゃんとしようよ」
「はい?」
「今日は、ちゃんとしたい」
まっすぐな眼差しで、彼女が見つめている。
吉澤さんは目を細める。彼女は立ち上がり、プレゼントを取りに行った。
200 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/26(木) 00:42
綺麗にラッピングされている水色の袋を手に、愛ちゃんは戻ってきた。
両脚を広げて座り、ソファにふんぞり返っている吉澤さんの隣に、
彼女は寄り添うように腰を下ろして、それを差し出してくる。
「お誕生日おめでと」
「うん」吉澤さんはそれを受け取って「開けていい?」彼女がうなずく。

紐をほどいて、袋の中身を覗く。
ぱちぱち。大きな目でまばたきを数回。
ゆっくり顔を上げて、吉澤さんは愛ちゃんを見つめる。
彼女はにこにこしている。あはっ。吉澤さんも微笑み返す。
そして、もう一度袋の中身を確認する。
顔を上げて、彼女を見る。

「本気?」
「うん」

いやいやいや。吉澤さんはさらにもう一度確認する。
目をぱちくりする。何回見ても、袋の中身は同じだった。当たり前か。
愛ちゃんは無邪気な笑顔で、こちらを見つめている。
おそるおそる、吉澤さんは袋の中に手を入れる。
そこから、出てきたのは、四角い箱。【元気+】とラベルされている。
吉澤さんは手を挙げて、愛ちゃんに言う。
「あの、ひとつ、質問してもいいですか」
「どうぞ」
「本気?」

【元気+】それは、いわゆる”精力剤”。男のためのおくすりだ。
愛ちゃんは何を思って、こんなものをプレゼントに選んだのだろうか。

「ひーたんもちょっとアレなのかなって思ったの」
「ちょちょちょ。アレってなんだよ」
「ED」
ぶはっ。あっけらかんとした愛ちゃんの言葉に、吉澤さんは噴き出す。

「だってさ、4月になってから、まだ1回もエッチしてないしさ。
”しかけた”ことはあったけど、結局できなかったしさ」
彼女は吉澤さんの太ももの上を撫でながらうつむく。
そうか。だからこんなものを。吉澤さんは理解する。
「もう、前みたいにたたなくなっちゃったのかなって」
「いやいやいや。まだまだギンギンだよ」
「じゃあなんでエッチしないの?」
「それはまあ。そういう気分にならなかったというか」
太ももの上の彼女の手を取って、指を絡める。
「なに。エッチしたかったの?」
にやにやしながら尋ねると、愛ちゃんは真剣な顔で、
「したかったに決まってるじゃん」
即答。マジレス。この切れ味が、彼女の魅力。

「おれのことを考えて、これをプレゼントしてくれた気持ちはうれしいけど、
おれはまだ、こんなのに頼らなきゃいけないほどトシじゃない」
「ホントに?」
「ホントに」愛ちゃんの手を、自分の股間へ持っていく。
ズボンの上から、ちょっとたっているソレに触れさせて、彼女の反応を窺う。
「もっとたつよ」
「ホントに?」
愛ちゃんが、そこをなでなでし始める。
吉澤さんは思わず気持ち良くなってしまって、目を閉じた。
彼女はベルトを外し、チャックを下げて、中に手を突っ込んでくる。
「どんだけ疑ってんだよ」
「だって、こんなに長い間エッチしなかったの、初めてだったもん」
「それはそうだけど」
本当にたつのか、愛ちゃんは自分の手で確かめないと気が済まないみたい。
吉澤さんは彼女の好きなようにさせて、背もたれに寄りかかった。
201 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/26(木) 00:42

「ひーたん。かたくなってきたよ」
「言われなくてもわかってるって」
そう言って苦笑すると、愛ちゃんは手を速く動かしてくる。
「ちょちょちょ」
そんなにシコシコされたら、普通に出ちゃうってば。吉澤さんは少し焦る。
すると愛ちゃんはにやっとして、「ベッド行く?」
くっそー。愛ちゃんじゃなかったらソッコーで殴ってるぞこんな女。
吉澤さんは逆に「ベッドでいいの?」と尋ね返して、首をかしげる。
「おれは別に、どこでもいいよ。なんならベランダでも」
「いいよ」
「いいのかよ」
「今日は特別」
可愛い声で、耳元で囁かれて、吉澤さんはちょっとイキそうになる。
「さっきおまえ、ちゃんとしたいって言ってたじゃん」
「だって、ひーたんふざけてたから」
「ふざけてねえし」
「で?」
「でって」
「どこがいいの?場所」

改めて問いかけられて、吉澤さんは考える。
寄り添ってきた愛ちゃんの肩を抱いて、その髪を撫でたりしながら考える。
そして、思いつく。今夜愛し合うのに、絶好な場所を。
202 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/26(木) 00:43


*****



203 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/26(木) 00:43
深夜の臨海公園は、相変わらず人気が全く無い。
吉澤さんは車のエンジンを止め、助手席の愛ちゃんを見た。
目が合うと、彼女は脚を組み替えた。
そのとき浮かべた彼女の微笑は、明らかに吉澤さんを誘っていた。
「ここ、1年ぶりだね」
「うん」
「思い出すね。あの日のこと」
「ああ」
シートベルトを外して、吉澤さんは少しずつ顔を近づけていく。
目を閉じた彼女も、同じようにそれを外した。
抱き合う。何度も、何度も、ぶつけ合うように唇を重ねる。
2人はお互いの身体を弄りながら情熱的に求め合う。
そう。今夜は特別な日。そして久しぶりの、愛の営み。

吉澤さんは、自分のシートを下げられるところまで下げた。
愛ちゃんをくいっと引っ張って、膝の上にのせる。
彼女の腕が吉澤さんの首にまわる。さらに口づけは続く。
息が切れるほど激しく、猛烈な勢いで絡み合う。
吉澤さんの手は、いつの間にか愛ちゃんのおっぱいを揉んでいて、
愛ちゃんの指は吉澤さんのポロシャツのボタンにかかっている。
彼女が、そのシャツを引っ張ってくる。窮屈だけど、吉澤さんは脱いで、
自分でシートを倒す。愛ちゃんがそのまま上に覆いかぶさってくる。
彼女は、吉澤さんを見つめて、一度微笑んだ。
その表情はやっぱり小悪魔で、吉澤さんの胸はきゅんとなった。

愛ちゃんは、吉澤さんの首筋を、唇でなぞるようにする。
触れるか触れないか、絶妙な距離を保ちながら、そこらへんを移動する。
それから、耳たぶをやさしく噛んだり、舐めたりもする。
狭い車内で、上になっている彼女が今は有利だった。
吉澤さんも別に抵抗するつもりもなかったので、大人しく受け入れる。
ぺろぺろと、吉澤さんの乳首を丁寧に舐め始める愛ちゃん。
こんな風に上手くできる、彼女は経験豊富な女。
いったい、ジョージとはどんな行為をしていたのだろう。
しかし、今そんなことを考えてもしょうがない。嫉妬したって、キリがない。
彼女はもう自分のもの。吉澤さんは心の中で何度も唱える。
彼女はもう自分のもの。他の誰にも渡さない。
自分ももう彼女のもの。だから全てをさらけ出す。

ズボンを膝まで脱がされる。もちろん、その下のパンツも。
愛ちゃんは、迷わずぱくっとアレを咥えて、顔を上下させ始める。
上手に舌も指も使いながら、彼女はアレをアレしている。
吉澤さんはされるがまま、ゆるやかな快感に身を任せていた。
なんだか、この数週間、必死で耐えてきたことがとても馬鹿らしく思えてくる。
なんでこんなにイイことを、我慢しなくちゃいけなかったのだろう。
そもそも、なんで禁欲生活なんてスタートさせたのだろう。
自分で決めたことなのに、意味がわからなくて、吉澤さんは呆れてしまう。
ガキさんに対抗したかった?何が楽しくてあんな童貞野郎と張り合うのだ。
あ、いや。彼はもう童貞じゃない。それでも、吉澤さんにとっては雲の下の存在。
絵里ちゃんに充実したラブライフを送ってもらうためには、彼をさらに鍛えなきゃ。
204 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/26(木) 00:43

「ひーたん」
「ん?」
「どうする?」
「1回イキたい」
素直にそう言うと、愛ちゃんはまたソレを咥えた。
そして、吉澤さんが希望したとおりに、イカせてくれる。
勢い良く飛び出したモノも、しっかり受け止めてくれる。

「はあ。気持ち良かった」
脱力しながら、吉澤さんは呟く。
幸せそうな恋人に、愛ちゃんも満足そうに笑う。
「なんかいっぱい出たね」
「溜まってたんだよ」
「そっか」
彼女が、洋服を脱ぎだす。ブラジャーも自分で外した。
現れる彼女のおっぱいに、吉澤さんはすぐに手を伸ばす。
ああ。この感じヒサブリだな。うれしくて、両手でもみもみする。
たっている乳首を、指で挟んだり、指先で撫でたりする。
ベッドだったら、自由に動けるけれど、ここは車の中。
そこにキスをしたくても出来ない。届かない。
そのじれったい感じが、吉澤さんのエロメーターを順調に上昇させてゆく。
愛ちゃんもきっと、控えめな彼の愛撫に、悶々としているはずだ。
荒い呼吸が全てを物語っている。ゆっくりと、山を登り始めているのだ。

「脱げる?」
「うん」
愛ちゃんは、下半身に身につけていたものも全て取り去った。
起き上がった吉澤さんに抱きついて、肌と肌を合わせる。
なんとなく、お互い、しっとりとしていた。かたく抱き合って、吉澤さんは微笑む。
「こっちいこう」助手席のほうへ視線を向けて言う。
愛ちゃんが、そちらへ移動する。そして、吉澤さんも。
何も言わなくても股を開く彼女。気持ちはきちんと通じ合っている。

吉澤さんは、右手を彼女の秘密な場所へ伸ばして、楽園の入り口に指をあてる。
すでに、とてもやわらかくなっている。ソコを指でかきまわすと、エッチな音が出るくらい。
「すっげー濡れてる」
うれしそうに囁けば、愛ちゃんは微妙な顔をした。
「ひーたんのせいだもん」
そんな可愛い声で言われたら、全然説得力がない。
にやりとして、吉澤さんはソコに顔を埋める。
舌を出すけど、思いっきりは触れない。ちょこっとだけ、触れる。
尖った部分を舌の先っぽでつんつんと軽く突く。やさしく、舐める。
愛ちゃんの腰が何度も浮く。ソコからどんどん液体が溢れ出してくる。
今夜はちゃんとしたい。彼女のご希望に、きちんと沿うのだ。
べつに、焦らしてるわけじゃない。ちゃんと、してるだけだ。

しつこく舐めたり吸ったりする。けれど、抑え目に控えめに。
ご利用は計画的にってよく言うじゃないか。
これでも吉澤さんは、頭で色々と考えている。
どうすれば愛ちゃんが1番気持ち良いのか。完全燃焼してくれるのか。
考えた結果、今夜はじわじわと攻めている。
やっぱり久しぶりだから、たっぷりと味わいたい。
イカせるのは簡単だけども、すぐに終わらせるのはもったいない。
吉澤さんは、見てるほうがイライラしてくるくらい、ゆっくり舌を使う。
きっと、愛ちゃんの身体は痺れるほどの快感に包まれているはずだ。
なまめかしく動くウエストや、エッチな喘ぎ声で、なんとなくわかる。
彼女は感じている。吉澤さんの舌に、面白いほど翻弄されている。
205 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/26(木) 00:44

吉澤さんは、敏感なところだけ、徹底的に愛撫する。
愛ちゃんの腰がぴくぴくしては止め、ビクッとなっては止め。
こんなことを始めて、もう30分以上は経っているかもしれない。
彼女はだらしなく口を開けて、股を開いている。
意地悪だけど誠実な吉澤さんの舌と指に、かなり参っている様子だ。
まだまだ。今夜はこんな程度じゃ済まされないのだ。

唐突にスイッチが入ったように、吉澤さんは速く動く。
愛ちゃんが、あんあん言って悶えだす。エッチだ。とてもエッチだ。
なんとか絶頂を迎えることができた愛ちゃんだが、ぐったりしている。
対する吉澤さんは元気もりもりで、彼女の上になって、おっぱいにキスをする。
ちゅぱちゅぱと、赤ちゃんみたいに乳首を吸う。右も左も、吸いまくる。
おっぱいに、キスマークをたくさん付ける吉澤さん。亀井家の執事。
毎日綺麗なスーツに身を包み、常にクールでスマートで、
メイドさんたちからの人気も高いと評判のイケメン執事。
でも、今はただのおっぱい星人。ちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱ、吸いまくる。

「ひーたん」
「ん?」
「もっといっぱいアトつけて」
愛ちゃんからおねだりされて、吉澤さんは、彼女の耳の後ろに吸い付いた。
それから、身体中を唇でなぞりながら、ところどころに跡を付けてゆく。
いちおう吉澤さんも常識人だ。キスマークは、こっそりと。
愛ちゃんの身体を、よっこいしょと裏返す。背中にも、キスをする。
そして、ぷりっとしたお尻に顔を埋めて、大きく深呼吸をする。
「はあ。たまんね」

すっと、後ろから指を2本入れて、愛ちゃんの中で動かし始める。
また喘ぎ始める彼女。吉澤さんの動きに合わせて、自ら腰を振る。
いったい、何度イッたら気が済むのだろう。彼女の限界は、いつ訪れるのだろう。
無言で、いやらしい音だけ立てながら、吉澤さんは彼女を突く。
2本の指を出したり入れたり、中でぐちゃぐちゃにかき回したりする。
首をあっちこっちに向けて、髪を乱しながら、彼女は喘いでいる。
快楽に身を任せる彼女の後姿は、なんだかとても美しかった。
吉澤さんは、そろそろかなと思いながら、より一層速く彼女を突いた。
彼女は何度目なのかわからないけれど、大きな声を出してイッた。

愛ちゃんをまた裏返して仰向けにして、吉澤さんは覆いかぶさる。
ほとんど放心状態の彼女に、そっと口づける。
手のひらを合わせて、指と指を絡めながら、お互いの唇を貪る。
なぜか車の中で、全裸の2人。車内はすっかり、熱気でいっぱいだ。
1年ぶりのカーセックス。そして今日は、吉澤さんのバースデイ。
今夜は本当に特別な夜。だからめちゃくちゃに、弾けたくなる。

アレにゴム製のものを着けてから、吉澤さんは愛ちゃんの股を裂く。
そして、力を込めて、彼女を一気に貫く。すぐに激しく動き出す。
車がギシギシ揺れても構わずに、猛烈な勢いで腰を振る。
天井が低いから気をつけながら、愛ちゃんと微妙な正常位で交わる。
苦しい格好だけれども、全身に走る快感に比べたら、どうでもいい。
ED疑惑を吹き飛ばせ。吉澤さんは、ガンガン奥の奥を突く。
今日はすごい。身体の芯からエネルギーが満ち溢れてくる。
もう、高2くらいの、青春時代に戻ったかのような感覚だ。
どんだけ抱いても復活できる。なんだかそんな予感がした。
206 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/26(木) 00:44

もっと、もっともっと、と愛ちゃんはエッチな声で喘いでいる。
数週間ぶりの交わりに、彼女もかなり、キテるみたいだ。
もちろん、吉澤さんもかなりキテる。めちゃくちゃに、彼女を突いている。
ちょっと乱暴だけど、気持ち良いのだ。だから止まらない。
きっと、彼女だって止まって欲しくないと思ってる。
今夜は豪快にイこう。大胆に、素直にイこう。
「ああ…やべえ…イキそう」
「待って…ちょっと…まだ」
「あかん…もう…イク」
「だめ…まだ…イカんといて」
まるで何かの合言葉のように呟きながら、2人は腰をぶつけ合う。
吉澤さんはぎゅっと目を閉じる。繋がった部分から、すっごい音が聞こえる。
そして、愛ちゃんの、叫んでるような泣いてるような、すっごい声も聞こえる。

「ひとみ…イッたらあかんて…」
喘ぎつつ、愛ちゃんが囁く。吉澤さんは少しだけ、ペースを遅くする。
薄く目を開けている彼女を見つめながら、深く深く突く。
お互い、限界ぎりぎりの状態で、見つめ合って感じ合う。

「ひとみ…イッたらあかんて…ひとみ」
切ない声で名前を呼んで、吉澤さんの髪を撫でる愛ちゃん。
気持ちの良いところをじわじわ責められて、イキそうになっている。
「ひとみ…あかんって…」
愛ちゃんにそう言われたけど、もう、もうだめだと吉澤さんはラストスパートをかける。
本当に、もう、だめだった。すぐにお山の頂上が、見えてくる。

「あああ」
吉澤さんは、イク直前、もったいないとか思いつつ、彼女の中でぶちまける。
きちんとしていることはしているので安心だ。思いっきり、全部出す。
そうしているうちに彼女もビクビクする。2人して脱力して、緩く抱き合う。

「愛」
彼女の瞳を見つめながらかっこよく囁く吉澤さん。
あんなに激しく抱かれたあと、そんな風に名前を呼ばれたら、誰だってクラっとする。
もちろん、吉澤さんにフォーリンラブな愛ちゃんも、幸せそうに微笑んでいる。

吉澤さんは、静かに笑う。とりあえずソレを抜いて、運転席に移動し、お片付けを始める。
彼女もティッシュで綺麗にしたり、吉澤さんにもたれかかったりする。
こんなに甘い空間があるのかってくらい、見つめ合って微笑んで寄り添って
2人はいちゃいちゃする。キスだって、チュッチュチュッチュしまくる。


「でもなんか、よく考えたら間抜けじゃない?この図」

車の中で全裸の2人。
吉澤さんはちょっと面白くなって、無邪気に笑う。愛ちゃんもクスッと笑う。

「どうする?いま、ここに誰か通りかかったら」
「やべーよな。早く着よ」
「うん」

急いで、でも楽しそうに服を着る2人。
それはとても、妙な光景だった。
207 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/26(木) 00:45


*****


208 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/26(木) 00:45
愛ちゃんの部屋のバスルーム。2人は泡風呂でまた、いちゃいちゃする。
甘えんぼひーちゃんは、愛ちゃんに全部任せっきりで、髪も身体も全部
洗ってもらっていた。とても気持ち良さそうに。

「かゆいところはありまちゅか?」
「ないでちゅ」
「ないでちゅかー」
「ないでちゅー」
吉澤さんはゴキゲンだった。愛ちゃんからやさしく頭を洗ってもらって、
シャワーもやさしくかけられて、良い子良い子と誉められて、
まさにこれが幸せの絶頂だと、そんなことをぼんやりと考えていた。

「ひーたんは、何か観たい映画とかある?」
そう言って、首をかしげる愛ちゃん。
お肌にやさしい柔らかいスポンジで、吉澤さんの右腕をごしごし擦っている。
吉澤さんは斜め上を見上げて、考えるポーズ。
「観たい映画ねえ…あ、スバケン刑事っていつだっけあれ」
「たぶん再来週くらいからじゃなかった?」
「再来週かあ」
「観たい?」
「うん」うなずいた吉澤さんは、エロ親父のくせになぜか可愛い。
愛ちゃんはニコッと笑って、「じゃあ前売り券買う」

今度は交代して、吉澤さんが愛ちゃんを洗う。
同じスポンジでごしごしと、彼女の綺麗な身体を擦る。
「明日は仕事何時くらいに終わるの?」
「うーん。19時には終わると思う」
「じゃあ、ケーキ作って待ってる」
見つめ合って、微笑む。なんだかホントに、幸せだなあ。吉澤さんはしみじみする。

最後に、シャワーで泡を全部流して、2人はタオルでお互いの身体を拭く。
他愛のない、くっだらない話をしながら、またいちゃいちゃする。
なんだか今夜はいつまでもいちゃいちゃしていられそうだった。


「あー」

吉澤さんは、愛ちゃんのダブルベッドにパンツ1丁で倒れこんだ。
うつ伏せで大の字で、シーツに頬をすり寄せる。
滑らかな生地が、とても気持ち良い。愛ちゃんの香りもするし、なお良い。

「もー、そんなカッコで寝る気?お腹こわすよ」
209 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/26(木) 00:46
首を曲げて、声のしたほうを見れば、愛ちゃんが呆れた顔で立っていた。
吉澤さん用のパジャマを持って、ベッドの端にちょこんと座る。
彼女は、それと色違いでお揃いのパジャマを着ている。
「ガキじゃねえんだから」吉澤さんは苦笑しながら横になって、頭を手で支える。
「だめ。ぽんぽん冷えるでしょ」
お母さんみたいに言われて、渋々起き上がって「はーい」
愛ちゃんがパジャマを着せてくれる。だいぶ、甘やかされている吉澤さん。
人にはこんな姿見せられない。まあ、よっぽどのことがない限り見られることもない。
だから思いっきり、彼女に甘える。

「電気消すよ」

寝室の照明が落とされた。吉澤さんは寝転がって枕に頭をのせる。
愛ちゃんが隣にきたら、彼女の胸の谷間に顔を埋めて。

「おやすみ…」


気づいたら、朝の6時過ぎだった。
横には愛ちゃん。すやすや眠っている。
吉澤さんはもう一気に目が覚めて、ギンギンなソレを見つめる。
【元気+】なんてなくたって、彼は朝からこんなに元気いっぱいだ。

とりあえず、カルピスを飲もうと起き上がる。
寝室を出てキッチンへ。冷蔵庫を開け、そのボトルを取り出す。
食器棚からグラスを出して注ぎ、ぐびぐび飲む。
ぷはー。キッチンで、吉澤さんは大きなため息をついた。
今日は4月12日。吉澤さんのバースデイ。
きっと、絵里ちゃんからもプレゼントをもらえるだろう。
橘さんはお昼にベーグルを作ってくれるって言ってたし、青山さんはどうだろう。
もういい年になったけれど、やっぱり誕生日はうれしいものだ。

愛ちゃんの部屋で迎える誕生日の朝。
今日も明日も明後日も、彼女を愛して、愛されて。
吉澤さんはいつも幸せの絶頂にいる。たぶん、彼女も。

「おはよ」

急に後ろから声がして、吉澤さんはハッとした。
ボサボサ頭の愛ちゃんがそこにいたのだ。「おはよ」と返事して、微笑む。
愛ちゃんは吉澤さんの後ろに寄り添い、甘えるように腕をまわす。
「ねむい」
その言葉通り、本当に眠そうな声の愛ちゃんに、吉澤さんは笑った。
残りのカルピスを一気に飲んで、グラスをそこに置く。
「もうちょい寝るか」
吉澤さんが提案すると、愛ちゃんは抱きついたままコクリとうなずいた。
可愛い彼女に、吉澤さんはまた笑う。やさしく腕をほどいて、くるっと彼女のほうを向く。
両腕で包み込むように抱きしめて、彼女の髪を撫でる。
ふと、「あいしてるよ」なんて、言いたくなって、朝っぱらから真面目に囁いてみる。
どうせ、眠たいだろうから聞いちゃいないだろう。

「あたしも、ひーたんのことあいしてる」

うえっ。はっきりとした、彼女の言葉に、吉澤さんはちょっと驚く。
腕を緩めて、彼女の顔を覗き込めば、なんだかお目めがパッチリしてる。
210 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/26(木) 00:46
「目、覚めちゃった」
そう囁いて、ニコッと微笑む愛ちゃん。
寝起きですっぴんだから、眉毛がちょっと薄いんだけど、可愛い。
可愛すぎて抱きしめたくなる。吉澤さんはふたたび彼女を抱き寄せる。

「じゃあ、メシの用意するか」
「やだ」
「は?」
「ベッド行こ」


愛ちゃんに手を引かれて、吉澤さんは寝室へ。
ベッドに座らされて、その上に乗っかられて、キスされそうなほど顔を近づけられる。
まさかな。そう思いつつも、エロメーターのスイッチが入る。

「どしたの」微笑んで、髪を撫でながら尋ねる。
愛ちゃんは、はにかんだあと、目をすっと閉じた。
吉澤さんはついつい、その唇にキスをしてしまう。
舌を入れて、ディープなキッスをしてしまう。

ベッドに行こう。その心は、愛し合おう。
吉澤さんは、彼女を抱えたままベッドの上に倒れこむ。
パジャマを脱がす。自分も脱いで、全裸になる。
シーツだけ被って、愛ちゃんの身体を弄り始める。

愛ちゃんは、朝っぱらから色気ムンムン。吉澤さんは元気もりもり。
すでに、たくさんアトが付いているおっぱいにキスをする。
すぐに反応を示す愛ちゃん。エッチな吐息を漏らして、くねる。

シーツの中に潜って、吉澤さんは彼女の脚を開かせる。
M字にして、その中心に顔を寄せる。濡れ始めているソコに舌を入れる。
尖った敏感なところを舐める。吸う。彼女がいったんイクまで、繰り返す。
すっかり潤ったアソコに指を出し入れする。穴を広げて、遊んだりする。
愛ちゃんは、ただ快楽の波に乗って、喘ぎっぱなしだった。

準備万端の吉澤さんは、彼女を起こして、自分の上にのせた。
何も言わなくても、彼女は少し身体を浮かせてくれる。
吉澤さんは先っぽを彼女の秘密な場所にあてがう。
「いくよ」
耳元で囁く。吉澤さんはぐっと彼女の腰を引き寄せる。
一瞬にして、ソレは彼女の中に飲み込まれる。

「ああ」

不思議なもので、何度ヤッても気持ち良い。
なんでも飽きっぽいはずの吉澤さんだけど、愛ちゃんだけは違う。
なんでだろう。全然飽きないし、逆にもっと欲しくなる。

愛ちゃんも喘ぎながら自分で腰を振っている。
もっと自由にもっと激しく。上下に揺れて、2人でアソコをぶつけ合う。
【元気+】なんて必要ない。愛ちゃんがいればそれでいい。
吉澤さんは、頂上目指して腰を振る。ガンガンガンガン突き上げる。
211 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/26(木) 00:47

2人は、朝っぱらから限界までヤリまくった。
さすがの吉澤さんもヘトヘトだったが、そのあとちゃんと亀井家に戻り、
絵里ちゃんの部屋のドアを、いつもの笑顔で叩いたとさ。

212 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/26(木) 00:47

おわり


213 名前:彼女の限界 投稿日:2007/07/26(木) 00:47

(0´〜`)<無事に疑惑は消えたYO
川*’ー’)<アレは老後に使うやよー

214 名前:あねご 投稿日:2007/07/26(木) 03:06
愛さんが「ひとみ」って呼ぶのがすごくよかったです。
あ、あのよしあいが…微妙さにかけてはNo.1を誇るよしあいが!って感じですね。
今回も興奮しました。いつもありがとう作者タン。
215 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/28(土) 00:22
愛ちゃんにガキさんに嫉妬して我慢してたって言ったらきっと凄く喜ぶんだろーな。
あ、でも、愛ちゃんのことだから覚えてなくて「そんなこと言ったけ?」とかいいそう。w
216 名前:重ピンピン 投稿日:2007/07/28(土) 23:50

更新ありがとうございます
よかったよかったですよ〜いろんな意味で♪
とてもスバラシイ舞を見せてもらいました

今後の吉愛・亀ガキも楽しみにしてます
あとやっぱり重ピンクにも期待しときま〜す


217 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/29(日) 00:13
苗字の時点でまさかと思っていましたが・・・
元彼があの人でワロタw
218 名前:(0´∀`)人(’ー’*川 投稿日:2007/08/01(水) 02:15
>>214 アネゴ
こちらこそいつもいつもありがとう(*´Д`) ハァハァ
リアルでは微妙でもこのスレと私の脳内では「よしあいはガチ!」ですYO

>>215さん
言いそうwwwwwwwww
>でも、愛ちゃんのことだから
っていうフレーズいいですね。メモっときます

>>216 重ピン
いろんな意味ってw
今後のよしあいはまあ、そんなに変化ないと思いますので、
どうなるかわからないガキカメのほうに注目しといてください
あと、油断せずに、期待しとってください

>>217さん
元彼の名前は悩みに悩みましたw
そのままだとなんかちょっと嫌だったので1ヶ所濁点つけときました
細かいネタにツッコんでくれてありがとうございます
219 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/01(水) 02:16
登場人物

从*´ ヮ`):田中くん
ノノ*´ー`):絵里ちゃん
( ・e・):ガキさん
川=´┴`):愛佳ちゃん

(0`〜´):吉澤さん
川*’∀’):愛ちゃん


その他はだいたい架空です

220 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/01(水) 02:16


*****



221 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/01(水) 02:17
桜の季節もとうに過ぎた5月のある日。湾田高等学校の柔道場。
背は小さいが力は強い、柔道部主将の田中くんは、
今日も他の部員たちを投げて投げて投げまくっていた。
ここ数ヶ月、彼の気合いには、ものすごいものが感じられる。
部員の中で1番強く、練習に厳しく、態度も無愛想。
そういうこともあって、新入部員たちの間で田中くんは”鬼の九州男児”
と呼ばれ、恐れられていた。

「しっかりせんね!」
田中くんは怖い顔で、へっぴり腰の1年生を怒鳴る。
「そんなビクビクしよったら勝てる試合も勝てん!」
詰め寄って、そいつに凄む。「返事は!」「は、はいっ!」

練習が終わったあとは、柔道場を出たところにある水道で顔を洗う。
田中くんはバシャバシャ水を浴びて、手探りでタオルを取ろうとした。
が、そこにない。目を擦って、横を見ると、ひとりの女の子が立っていた。

「落ちてましたよ。主将」

愛佳ちゃんだった。はい、とタオルを渡されて、無言で受け取る田中くん。
がしがし顔を拭き、「ありがとう」とぼそっと言って、去ってゆく。
彼女は今年の新入生で柔道部のマネージャー。
男だらけのむさ苦しいこの部に、なぜか入ってきた珍しい子。
笑顔が明るくて、妙に気が利くので、部員たちの評判はすこぶる良い。
でも、田中くんは別に興味が無かった。相変わらず、後遺症を引きずっていた。

絵里ちゃんと別れてから、3ヶ月。
田中くんは、誰とも恋をする気になれなくて、柔道ばかりしている。
休みの日だって、斉藤くんと遊ぶか、地味に筋トレばかり。
毎日メールして電話して、週に何度もデートしていた時期なんて、
まるで夢みたいに思えてくるような生活を送っている。


柔道着を脱いで制服姿に戻る。
ボタンも上まできっちり留めず、ネクタイも適当に締める。
見た目は、不良そのものだとよく言われる。
ブスッとしてるつもりはないが、顔が怖いとよく言われる。
絵里ちゃんと初めて会ったときだって、そう言われた。

『田中くんって、意外と怖くないんだね』
『意外とってなんですか意外とって』
『うへへ』

ケータイの番号とアドレスを交換したあと、彼女は独特な声で微笑んだ。
田中くんは、そんな彼女に、一気に惹かれて恋に落ちたのだ。
それから、どうにかこうにかアプローチして、なんとか2人は始まった。
たった数ヶ月の短い恋だったけれど、とっても楽しくて、幸せな日々だった。

とぼとぼと、校門に向かって歩きながら、パカッと携帯電話を開く。
メールの受信ボックスを表示させて、下へ下へスクロールする。
絵里ちゃんからの最後のメールは、一言だった。
『バイバイ』 句読点も絵文字も何もなく、ただそれだけ。
田中くんは立ち止まって、その一言のメールを見つめた。
こんなものを保存していても、しょうがないと思う。
だけど、なんとなく消せなくて、これを見るたびに、あのときの自分を思い出す。
そして、後悔するのだ。なんであんな馬鹿なことをしちゃったんだろ、と。

アドレス帳。か行の2番目に、絵里ちゃんの名前がある。
11桁の番号も、彼女らしいアドレスも、今でもしっかり覚えてる。
別れて3ヶ月経ったのに、いまだ消せずにいる彼女のメモリー。
電池に貼ってあるプリクラだって、今もはがせずにいる。
222 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/01(水) 02:18


*****



223 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/01(水) 02:18
それから数日後の土曜日。カラオケボックス『ゴロー』。
田中くんはぼーっと画面を眺めて、レミオロメンを熱唱している
斉藤くんの歌を聴いていた。次は田中くんの入れた曲だ。

今日も2人。林くんは、女の家に遊びに行っているらしい。
この春から、女子大生と付き合い始めた彼は、友情より愛情。
フリーの田中くんたちをほったらかして、自分だけ良い思いをしている。

「あー、林のやつ今ごろヤリまくってんだろうなー!」
曲の間奏。マイク越しに、斉藤くんが愚痴る。完全にひがんでいるようだ。
田中くんは曲の停止ボタンを押して、マイクを握る。
「あ!まだ終わってねえっつうの!」
「もう『粉雪』聴き飽きたっつうの!」
しょんぼりして、斉藤くんがソファに倒れこむ。
次の曲のイントロが流れ始める。田中くんはマイクチェックして、歌う。
それは、人気グループの切ないバラード。

”きみ以外の他の誰かをまだ好きになれずにいる”
自分で歌って切なくなる。それでも歌う、この曲を。

”きみにはもうすてきな人がどこかにいたりするかな”
そんなの嫌だ。思いながら歌う。うざいくらい熱唱する。

この曲は、まさに今の田中くんの気持ちを代弁している。
叶わないと知っても、ぼくの気持ちはひとつだけ。
絵里ちゃんのことが好きだ。未練がましいけれど、大好きだ。
会えるなら会いたい。今すぐ会いたい。だけど、会えない。
だって、2人は別れた。3ヶ月前に、ケンカをして。
224 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/01(水) 02:18

「主将」

3時間歌ったあと、レジで会計しているとふとそんな声がした。
田中くんは斉藤くんと一緒に振り返る。
するとそこに、マネージャーの愛佳ちゃんが、お友達と2人で立っていた。
こんなところで会うなんて!彼女はそう言いたそうな顔をしていた。

「誰?誰?」肘でつんつんしてくる斉藤くん。
「うちの新しいマネージャー」
財布からお金を出しながら答える田中くん。

「へえー。どうもはじめまして。斉藤です」
「はじめまして。光井愛佳です」握手を交わす2人。
「おい。そんなのいいから金払え」
「あっ。ごめーんタナやん。払う払う」

田中くんはため息をついて、愛佳ちゃんの前に立つ。
愛佳ちゃんは、ニコッと微笑んで、
「主将もカラオケとか来るんですね」
ぶはっ。「なんそれ」苦笑しながら答える。
「だって、部活のときはいっつも怖いからそんなイメージなくて」
そう言われて、田中くんは後頭部をかく。

「こいつ、怖いのは見た目だけだから」
会計を終えた斉藤くんが、レシート片手に戻ってきた。
「そうなんですか?」
「ああ。だからそんなにビビんなくていいよ。
もう、タナやーんって呼んじゃっていいからさ。愛佳ちゃん」
「アホか」田中くんは、お調子者の頭を叩く。
愛佳ちゃんがクスッと笑う。田中くんも、微妙な顔で笑う。

普段はいつも制服だから、私服だとなんだか新鮮だ。
真面目そうな顔して、愛佳ちゃんの格好はギャルっぽい。
服装だけならモロ好みだなあ。田中くんはそんなことを思う。
でも、今はそんな気分になれない。そんな対象に、見れない。

「じゃあ」田中くんは片手を挙げて、愛佳ちゃんを見る。
彼女は丁寧に頭を下げて、「失礼します」と言った。
225 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/01(水) 02:19

「礼儀正しい子だなあ。さっきのマネージャー」
「ああ」

カラオケボックスを出たあとは、街を男2人でぶらぶらとする。
全然楽しくない。斉藤くんもつまんなそうに、ゆっくり歩いてる。

「林がうらやましいよ。次から次にカノジョ作ってさ、ヤリまくってさ。
一人暮らしの女子大生とか最高じゃん。あーいいなー」
「じゃあ早くカノジョ作ればいいやん」
「出来るもんなら作ってるって。あーモテてえなー」
青空に向かって愚痴る斉藤くんの横顔を、ちらっと見る田中くん。
「さっきのマネージャーはどうよ」
「え?」
「愛佳ちゃん。性格も良いしさ、おまえに合ってると思うよ」
「そうかなあ」
「今度、ケータイのアドレス聞いとくけん」
「タナやんってやさしいな!」
がっと肩を組まれて、田中くんはあわわっとよろける。
斉藤くんは陽気に笑いながら、肩をバンバン叩いてくる。
そして、ぐっと顔を近づけて、急に落ち着いた声で言う。
「おれは、タナやんに何が出来る?」
「へ?」
「カノジョ、欲しいんならおれ、必死で探すよ?」
「いいよおれは」
田中くんは、斉藤くんを引きはがして、そっぽを向く。
しかし、心優しい親友は、放っておいてくれない。

「亀井さんと別れてから、タナやん何かおかしいよ」
「おかしくないやろ別に」
「後悔してんだろ?まだ好きなんだろ?だったら」
「いいって」
「我慢すんなよ。我慢したってイイことないよ?自分が辛いだけだしさ。
好きなら好きでいいじゃん。おれ応援するよ。亀井さんと、もう1回うまくいくように」

強がってるのはバレバレだと、ずっと思ってた。
でも、改めてこうやってハッキリ言われると、なんだか泣きそうになってくる。
斉藤くんは、田中くんの1番の理解者だ。いつも寒くてくだらないことばっかり
言ってるお調子者なんだけど、優しくてかっこいい男。
純粋で真っ直ぐで、ちょっと曲がった田中くんの心を、正してくれる。

「亀井さんもきっと、タナやんみたいに後悔してると思うんだ。
だから、タナやんがもう1回やり直そうって言ったら、戻れるんじゃないかな」
「…無理やろ」
「うん。無理かもしれない。でも言ってみなきゃわかんねえだろ?
ダメもとでもいいから連絡取ってみろよ。もしかしたら、亀井さん、待ってるかもしれないぞ」

斉藤くんのポジティブな言葉に背中を押されて、そのとき田中くんは決意した。
どうなるか想像も出来ないけれど、絵里ちゃんに今夜メールでもしてみようかな、と。
226 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/01(水) 02:19


*****



227 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/01(水) 02:19
「カメ、中庭行かない?」

ダンスパーティの最中。ガキさんは、絵里ちゃんに耳打ちする。
彼女はやわらかく微笑んでうなずき、ガキさんの手を取る。

優雅な音楽が鳴り響く会場を抜け出して、中庭に出る。
空を見上げれば綺麗な夜空。小さな星たちがきらめいている。
2人きりになったので、手の繋ぎ方も変えて、ガキさんは彼女に寄り添う。

「明日も晴れかなぁ」
「そうだね。星が綺麗だ」
うん。絵里ちゃんが微笑む。
ガキさんは、彼女の横顔に思いっきり見とれながら言う。
「そのドレス、すっごい似合ってるよ」
「もぉ」
絵里ちゃんは、ガキさんを見てアヒル口になる。
「なにさ」
「ううん。うれしい」
ガキさんの肩に頭をのせて、絵里ちゃんがうへへと笑う。
ああ。なんて甘い時間なのだろう。ガキさんはでれでれする。

「カメはやっぱり、オレンジ色がいちばん似合うね」
「そう?絵里はピンクが好きなのに」
「なんか、太陽みたいな感じがするから、ぼくはオレンジのほうが好きだよ」
顔を近づけて、お互いの瞳を見つめながらおしゃべりする。
だいぶ、慣れてきた感のあるガキさん。童貞を卒業してから、ちょっと変わった。
彼女と触れ合ってもオドオドしなくなったし、照れ隠しもしなくなった。
そのぶん素直に率直に、思ったことを彼女に伝える。彼女も、正直に何でも話してくれる。

「ガキさんは、タキシード着ると七五三みたい」
「はぁ?似合ってるでしょうが」
ほら。胸を突き出してどーんと叩く。そんな彼氏に、ケタケタ笑う絵里ちゃん。
かと思ったらふと真顔になって、ガキさんの耳元に唇を寄せて、そっと囁く。
「ウソ。似合ってる。かっこいいよ」
ふはぁ。こりゃたまりませんね奥さん。頬が緩んでしょうがないガキさん。

「そろそろ、戻りますか」

あまり長い時間席を外すと、何か言われるかもしれないし。
ガキさんは、絵里ちゃんの立場も考えて、そう切り出した。
でも、彼女は黙って、身を寄せてくる。

「もうちょっと、2人でいたいな」
「カメ…」

もう少しだけ甘い時間は続く、と思いきや、絵里ちゃんが思い出す。
「あ。そうだ」
「なに」
「松浦さんの赤ちゃんの写真」
「ああ」
「今日愛ちゃんからね、メールで送ってもらったの」
「お。見たい見たい」
228 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/01(水) 02:20

2人で仲良く腕を組んで、会場へと戻る。
絵里ちゃんは、執事を探す。ガキさんが「あっ」と見つける。
吉澤さんは愛ちゃんと楽しそうに会話をしていた。
そこへ、とことこ駆け寄って近づく。

「吉澤さん」
「どうかされましたか」
「わたしの部屋から、携帯電話を持ってきてもらえませんか」
「かしこまりました」
丁寧に頭を下げて、吉澤さんは、さっそうと絵里ちゃんの部屋へと走り出す。

「ケータイくらい自分で取りに行け」

愛ちゃんが、絵里ちゃんのおでこを軽く指で弾く。
絵里ちゃんは笑いながらそこを押さえて「だってぇ」
「だってぇ、じゃないよ。せっかくイチャイチャしてたのに」
堂々とそんなことを言う愛ちゃん。ガキさんのほうが照れてしまう。
彼女は、そんな幼なじみに目ざとく気づく。
「さっき2人はどこに行ってたわけ?」
「中庭だけど」
「何しに?」
「何しにって別に。2人で話したかっただけだよ」
それを聞いて、愛ちゃんはニターっと笑う。
「へぇー2人きりでねぇー」
「な、なに」
「絵里、なんか変なことされなかった?」
「へ?」急に話を振られた絵里ちゃんはアホ面。
「変なこと?」
「だから…」愛ちゃんは、絵里ちゃんにコソっと耳打ちする。
気になるガキさん。だけど、おおよその見当はついている。

「もぉ〜」
とびきり甘い声で、絵里ちゃんがくねくねする。
愛ちゃんの腕を叩いて、唇を尖らせる。
「ガキさん聞いてよぉ。愛ちゃん今ね…」
「ん?」
ガキさんが、絵里ちゃんのほうへ耳を出したその瞬間、吉澤さんが戻ってくる。

「お待たせしました」
吉澤さんは、ピンク色の携帯電話を絵里ちゃんに渡す。
彼女はパカッと開けながら呟く。「あ。メールきてる」
表情が、微妙に変わる彼女。ガキさんは見逃さない。
「ありがとう吉澤さん。残りの時間、ゆっくり楽しんでください」
「ありがとうございます」
「ガキさん。行こ」
「う、うん」
腕を掴まれて、ガキさんは絵里ちゃんから引っ張られる。
愛ちゃんに手を振って、その場を去る。そして、もう一度中庭へ。


「カメ?」

絵里ちゃんの様子がおかしい。
ガキさんは、彼女の背中を見つめながら尋ねる。
彼女はケータイに視線を落としたまま、固まっている。
嫌な予感がする。とてつもなく、嫌な予感が。

「メール、誰からだったの?」

隣に並んで、彼女の顔を覗き込む。
彼女は、ガキさんを見て、少し表情を強ばらせる。
229 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/01(水) 02:20
「れいなから、だった」

あちゃー。顔をしかめて、おでこに手をあてるガキさん。

「田中っち、なんだって?」

明らかに動揺した感じの絵里ちゃん。
またケータイの画面を見つめて、小さくため息をついた。
不安そうな顔になっているガキさんへそれを差し出してくる。
目の前に明るい画面。表示されているのは、メールの文面。

「久しぶりやね。元気しとる?話したいことがあるけん、明日の夕方会えんかな」

ガキさんは、声に出して読んだあと、おでこをかいた。
「話したいことって、何」
そう呟いた彼氏に、絵里ちゃんは「わかんないよぉ」と弱々しく答える。

「会うの?」

最近は、あまりにも幸せすぎて、危機感なんて全く感じてなかった。
しかし今は、恐ろしくて仕方ない。冷や汗が止まらない。
ガキさんは「会わない」って言って欲しくて彼女をじっと見つめる。
そんな誘い断ってしまえ!とは言えない、ヘタレな自分に情けなくなりながら。

絵里ちゃんは、しばし黙って、考え込んでいた。
そんなに悩まず即答して欲しかった。あいつと会わないって。
でも、頭の良い彼女のことだ。色々と思うところがあるのだろう。
相手は、別れたとはいえ一度恋した男。何も感じないわけがない。

「ガキさん」

ふいに呼ばれて、ガキさんは絵里ちゃんを見る。
彼女は前を真っ直ぐ見つめていた。しっかりとした、表情で。

「絵里、会ってくる」
「ええ?」
その顔からなんとなくそうかなって思ってたけど。
ガキさんは彼女の横顔を見つめる。
「ぼくも行くよ」
思わずそんな言葉が口から出てしまうガキさん。

「あ、いや。カメのこと信用してないわけじゃないんだけどさ」
困った顔になった彼氏を見て、絵里ちゃんがやさしく微笑む。
「大丈夫だよガキさん」
そう、はっきりと言って、彼女はガキさんを横から抱きしめた。
ガキさんは、微妙な表情になりながら、
「カメと田中っちが2人きりになるなんて嫌なんだ。だからぼくも行く」
自分の意見をちゃんと言え、と絵里ちゃんは前にそう言った。
ガキさんは、思ったことをそのまま伝える。
それがいくら子供っぽいわがままでも、全部言う。

絵里ちゃんは、妙にうれしそうに笑って、身体を離した。
ガキさんと手のひらを合わせて、ぎゅっと繋ぐ。
「心配しないでガキさん」
「心配するよ」
「ねえ」
「ん?」
「なんかうれしい」
「は?」
「絵里って、ガキさんのものなんだなぁって思って」
そっと寄り添われて、ガキさんは眉間にシワを寄せる。
絵里ちゃんは手を強く握り締めて、ガキさんを見つめている。

「絵里、変かな」
「変」
「ちょっとぉ」
「カメはホントに変すぎるよ」
230 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/01(水) 02:20
ガキさんは、絵里ちゃんを抱きしめる。
両腕でしっかり包み込み、肩にあごをのっける。
「会わないで欲しい」耳元で、真剣に囁く。
「会ったら何か変わっちゃいそうな気がするんだ」
「そんなに心配することないってば」
「とにかく。ぼくは認めない。明日はカメのことずっと見張ってるから」
「やだぁ」
「やだって言っても、ぼくは行かせない」
「もぉ。ガキさんの馬鹿」
絵里ちゃんが、ガキさんの背中に腕をまわす。
なぜだか、うれしそうにくすくす笑っている。

「ぼくは本気だよ。明日は絶対に行かせないから」
「じゃあ、その本気がどれくらいか、絵里に教えてよ」
彼女が腕を緩める。ガキさんは、彼女を至近距離で見つめる。
「どうやって?」
そう囁けば、彼女はガキさんの髪を撫でてくる。
「それはガキさんが決めて」
「……」

キスできるくらい近くで、互いの瞳を覗き合う。
ガキさんは、絵里ちゃんに本気を教える方法を考える。
こんなに本気になるのも、彼女のことがめちゃくちゃ好きだから。
愛してるから。彼女の全てを、自分のものにしたいって思ってるからだ。
つまりは。彼女の頬を撫で、ガキさんは答える。

「カメの部屋に行こうか」


ダンスパーティなんてもうどうでもよかった。
手を繋いで、2人で静かな廊下を進む。
案外遠い絵里ちゃんの部屋。そこまで真っ直ぐ歩いてく。

ガキさんは、ドアを開けて、彼女を先に部屋へ通す。
そして、自分も入ってドアを閉める。
背中を向けている彼女を、後ろからそっと抱きしめる。

「カメ…」
今から、彼女にこの本気の思いを伝える。
田中っちになんか渡せない。絵里ちゃんは全部自分のもの。
そう、彼女に思い知らせてやるのだ。身体全体で。

オレンジ色の、豪華なドレスを脱がす。
鼻息荒く、絵里ちゃんを正面から抱きしめる。
そして口づける。ゆっくりじゃなくて、いきなり激しく絡めてゆく。

「ガキさん…」
彼の首に腕を巻きつけて、絵里ちゃんが呟く。
ブラジャーを指でなぞられて、彼女もだんだん、気分が盛り上がっている。

電気も点けずに唇を求め合う。
彼女のお化粧がついてしまうだなんて考えもせず、ガキさんは口づける。
気持ちの良い、深いキスをたっぷりと味わう。

「ベッド行こう」
「うん」
ガキさんは、絵里ちゃんの手を引いて、ベッドまで一直線。
さすがに暗すぎて、彼女が手探りでベッドサイドの明かりをひとつ点けた。
タキシードを脱ぐガキさん。絵里ちゃんが見てる前で、全裸になる。
「カメも」
そう言えば、彼女がブラジャーのホックを自分で外す。
おっぱいが現れた瞬間に、ガキさんはそこに突入する。
シーツの上に倒れる2人。両手でおっぱいを揉むガキさん。
絵里ちゃんがまた、手を伸ばして明かりを消す。
ガキさんは、絵里ちゃんの耳に唇をくっつけて、囁く。

「明日は絶対に行かせないから」
231 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/01(水) 02:21

真っ暗闇の中、2人はベッドの上で濃厚に絡み始める。
どれだけ本気で愛してるのか。ガキさんは身体全部を使って伝える。
田中っちのことなんて、考えさせる暇も与えないくらいに、熱く抱く。
彼女の中を、自分でいっぱいに満たしてやる。

切なげな声を上げている絵里ちゃんを、激しく突く。
彼女の声は、どんどん大きく、エッチになってゆく。
揺れる身体に、軋むベッド。肌とシーツが擦れる音に、生々しい音。
ガキさんの感情はどこまでも昂る。

「ガキさん…絵里…」
「ん…」
「絵里…もうだめかも…」

だめって何が!とは聞かないジェントルマン。
絵里ちゃんのために、もっと速く、深く突く。

横浜の夜から、1ヶ月くらいが経つ。
あれから何度も肌を重ね、お互いのことを知ってきた。
こうやって、ひとつになるたびに、彼女の頂点へと少しずつ近づいてきた。
交わるからには、やっぱり、気持ち良いって思って欲しい。
自分だけじゃなく、彼女にも気持ち良いって、そう感じて欲しい。
そんな、誠実なガキさんの願いは、今日彼女に届きそうだった。


「あれ。絵里お嬢様がいない」

吉澤さんがそのことに気づいたのは、パーティがお開きになったときだった。
今日は、愛ちゃんとのおしゃべりに夢中になりすぎていた。少し反省する。

「部屋に戻ってガキさんといいことしてたりしてね」
「おい」
とんでもないことを言い出す愛ちゃんを、吉澤さんはにらむ。
実際、彼女の予想は大当たり。2人は今、ベッドの上で愛し合っている。
そんなこと、夢にも思わない吉澤さん。絵里ちゃんを捜しに行くと言い出す。
愛ちゃんはもう帰りたかったので「行けば?」と素っ気なく答える。

「帰んの?」
「うん。明日も朝から授業だし」
「送ってくよ」
「いいよ。絵里さがせば?」
「いや。送ってく」


とりあえず、愛ちゃんをマンションまで送り届け、
亀井家に戻ってきた吉澤さんは、絵里ちゃんの部屋へ向かった。
トントン。ドアをノックしてみる。応答なし。
念のため部屋に入ってみる。あれ。電気が点いていた。

「お嬢様。いらっしゃいますか」

吉澤さんは、ベッドの上を見て衝撃を受ける。
乱れたシーツに、脱ぎ捨てられたガキさんのタキシード。
さっきまで、本当にいいことしてたんだ。
微かに水音が聞こえてくる。今はあそこか。
シャワールームに繋がる扉に視線を移す。

「マジかよ…」

別にショックを受けることでもないが、吉澤さんはなんか凹む。
ここで2人と遭遇する前に、部屋から去って行った。


それから30分後。
ガキさんが帰宅するから、と絵里ちゃんから連絡があった。
彼女の部屋へと駆けつけた吉澤さん。
2人に漂うピンク色のオーラに、思わず目を細めた。

玄関へ向かう。絵里ちゃんとガキさんの後ろに、ついてゆく。
吉澤さんの前だけど、絵里ちゃんはガキさんの手を握っている。
こんなに堂々とラブラブぶりを見せ付けられるなんて。お兄ちゃん切ない。
もう、彼女は、みんなの絵里ちゃんからガキさんだけのものになったのだ。
吉澤さんの胸は、うれしいような寂しいような、複雑な思いでいっぱいだった。
232 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/01(水) 02:21
新垣さん家の黒塗りの国産車が玄関に到着するまで、しばらく待つ。
でも、絵里ちゃんは執事の存在なんて気にせず、ガキさんを見つめ、
それも近くで見つめ、甘い声で話しかけていた。
ガキさんも、ちらちら吉澤さんを気にしていたが、デレデレモード。
やっぱあれか。エッチの後だからこんなにイチャイチャしてんのか。
絵里ちゃんの楽しそうな顔を見てると、ガキさんはしっかりヤッてるみたいだな。
アドバイスなんて、しなくても大丈夫かもしれないな。吉澤さんは微笑んだ。

車が来た。運転手の人が出てくる。
ガキさんは絵里ちゃんに言う。
「じゃあ、また明日」
絵里ちゃんはやわらかく微笑む。
「うん。また明日」

ガキさんは、繋いでいた彼女の手をとって、その甲にそっとキスをする。
おいおいおい。キザなことしてんじゃないよ馬鹿が。
吉澤さんは呆れてこっそり笑うが、絵里ちゃんは幸せそう。

「おやすみカメ」
「おやすみ」

後部座席へさっそうと乗り込み、窓を下ろすガキさん。
絵里ちゃんと手を振り合って、笑顔でお別れする。


黒い車が、走り去る。
完全に見えなくなってから、絵里ちゃんは手を下ろした。
小さく、ため息をつく彼女。吉澤さんは、その横顔を見て首をかしげる。

「さっき、田中くんからメールがきたんです」

え。思いもしない言葉に、ぽかんと口を開けてしまう吉澤さん。
絵里ちゃんはくるっと回って、屋敷の中へと戻ってゆく。
戸惑いながら、吉澤さんは彼女の後に続く。

「話したいことがあるから明日会いたい、っていうメールでした。
それをガキさんに見せたら、絶対に会うなって言われました」

振り返った絵里ちゃんが、吉澤さんをちらっと見る。
彼女は、感情が読めない顔をしていた。まさに大人の女だった。

「彼がどういう反応するのか知りたくて、わざと”田中くんに会いたい”と
言ったんです。そしたら、必死になって止めてくれました」
「それは止めますよ」
そう言った吉澤さんに、絵里ちゃんは静かに笑う。
しかし、すぐ真顔になって、ため息をつく。廊下の真ん中で立ち止まる。

「お嬢様?」
「田中くんのこと、全然気にならないって言ったら、ウソになるんです。
でも、絵里はもうガキさんと付き合ってるんだし、なんか、すごいフクザツです」
苦しそうな表情の絵里ちゃんに、吉澤さんは穏やかに微笑む。

「お嬢様。いま、幸せですか?」
「へ…」
絵里ちゃんは、吉澤さんから視線を逸らす。
少しの間があって、彼女はまっすぐ執事を見つめて言う。
「とっても幸せですよ」
233 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/01(水) 02:22
「お嬢様。こうお考えになってはいかがですか?
”過去”があるから”今”があって、これから先の”未来”がある。
逆に言えば、”過去”がなかったら、”今”も、そして”未来”もない。
いま、お嬢様は幸せなんですよね?」
吉澤さんは改めて問う。しっかりうなずく絵里ちゃん。
「そんなに、フクザツに考えないでください。いま、お嬢様が新垣様と
お付き合いされているのは、その前のことがあったからです。
お嬢様がいま幸せなのは全部、そういう、過去の経験があったからなんですよ」

だから、お願いだから田中の野郎のことは忘れてくれ。
もっともらしく力説した吉澤さんは、絵里ちゃんをじっと見つめた。

「そうですよね。うん」
彼女は納得した様子でウンウンうなずいている。
「なんか、吉澤さんのお話聞いてすっきりしました。
頭の中でぐちゃぐちゃになりそうだった糸が、ちゃんと元に戻りました」
「それはよかった」
もし、絵里ちゃんがこのことを話してくれなかったら、その糸はどうなっていたのだろう。
ぐちゃぐちゃに絡まって、ほどけなくなっちゃったりしたのだろうか。

「いつまでも前のことにこだわってても、しょうがないですよね」
彼女はそう呟いてふたたび歩き出した。
吉澤さんは「そうですよ」と答えて、彼女の後を追った。
234 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/01(水) 02:22


つづく



235 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/01(水) 02:22

从*` ロ´)<新キャラったい!
川=´┴`)<アウアウ

236 名前:あねご 投稿日:2007/08/01(水) 09:42
まさかみっつぃーがでばってくるとはwww
カメ頼むぞカメ…
ガキさんカッコヨス。何があったの。あ、ナニか。
237 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/01(水) 14:02
ガキカメ派だけど、あの曲を歌う田中くんを思うと切ない。
頑張ってもらいたい気もするが頑張らないでもらいたい気もする。
続きが気になる!
238 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/01(水) 22:43
どうしてももうれなえりに戻れないなら、斉藤くん×タナやんでいいとさえ思えてきた…w

239 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/02(木) 12:45
俺のガキさんは完全に絵里ちゃんのものになってしまったのか。。。
240 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/02(木) 20:06
ここまで来たらもう戻ってほしくないとこだなぁカメ・・・。
ガキさん成長したねガキさん。踏ん張り時だ。
241 名前:重ピンピン 投稿日:2007/08/03(金) 01:58
お疲れッス
ここでまさかのミッツィー登場じゃないですか!!!
こう来るとは、想定外です
これからも油断せずに読ませて頂きますです


242 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/03(金) 19:08
お疲れ様です。いつも楽しみに更新お待ちしてます
ガキカメのその後も読みたいですねw
243 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/04(土) 07:04
未だにれなえり派は俺だけか・・・orz
244 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/05(日) 00:55
||ω・*)ノ れなえり派

作者さん続き期待してます!
245 名前:何無飼育さん 投稿日:2007/08/06(月) 01:33
ガキさんカッコイイ!!w
このままガキカメで幸せに…!


まさかその人が出て来るとは思いませんでしたw
246 名前:(0´〜`)人(’ー’*川 投稿日:2007/08/07(火) 01:20
>>236 あねご(*´Д`) ハァハァ
誰が上手いこと言えとwwwwwwwww
ギャグが上手い人、私は好きです

>>237さん
この話を書こうと思ったときあの曲が真っ先に思い浮かびました
だから今回のテーマソングは「運命のヒト」です

>>238さん
新しいカプ誕生wwwwwwwwwwww

>>239さん
そんなこと言うとガキさんヲタからしばかれちゃいますYOwww

>>240
今回の話は登場人物みんな踏ん張りどきかもしれません

>>241 重ピン
ミッチー登場にそんなに驚かれるとはこっちも驚きだw
もっかい言うぞ、油断するな?

>>242さん
ありがとうございます
ガキカメのその後はマイホームページにのせれるよう努力します

>>243さん
m9(^Д^)<おまえだけだ
ウソですちょっと調子に乗りました
そんなに落ち込まないで続き読んでもらえたらうれしいです

>>244さん
そんな隠れてないで表に出てこいYO!w

>>245さん
( ・e・)<カッキーン!  从*^ー^) <ペケポン!

そんなにミッチーは予想外やったんかwwwww
そこに反応していただけて私はうれしいです
247 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/07(火) 01:21



248 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/07(火) 01:22

絵里ちゃんのお部屋の前で、彼女から、「見せたいものがあるんです」
と呼び止められた吉澤さんは、彼女の部屋にお邪魔して、大きなソファに座っていた。
彼女は、有名ブランド・エメルスのロゴが入った紙袋を手に、戻ってくる。

「それは」
隣に座った絵里ちゃんに、吉澤さんは尋ねる。
「マフラーです」
その袋の中から、真っ白なマフラーが出てきた。
絵里ちゃんは微笑みながら、その表面を撫でた。
「藤本さんとお買い物に行ったとき、田中くんにあげようって思って買ったんです。
結局、渡せないまま、お別れしちゃいましたけど」

『えー初対面でお嬢様と2人きりとかチョー微妙じゃない?』

吉澤さんは藤本美貴の言葉を思い出す。
そういえば、あの日は一緒に行く予定だった。
美貴が、梨華ちゃんにあげるバッグを買いたいって言い出して。
絵里ちゃんにも会いたいし、ついでに彼女についてきてもらおうって。
でも、吉澤さんは愛ちゃんに呼び出されて行けなかったのだ。

「あの日、藤本さんと一緒にいるところを彼に見られてたんですよね。
それで、絵里が浮気してるって勘違いして…」
「もしかして、それが原因で?」
「はい」
きっぱりと、絵里ちゃんは答えた。
「いま考えると、なんであんなことでケンカになったんだろうって思うんです。
絵里、彼を驚かせたくてこのマフラーのことずっと黙ってて、そのせいで
彼を怒らせたのに、なんか、本当のこと言えなかったんですよね」

そうだったんだ。吉澤さんは、静かに語る絵里ちゃんの横顔を見つめる。
彼女は、切ない表情でマフラーをじっと眺めている。
いったい何を思い出しているのだろう。どんなことを考えているのだろう。
毎日ずっと彼女の側にいる執事でさえも、想像することは難しかった。

「あのとき、絵里が変な意地を張らなかったら、藤本さんにはちゃんと恋人がいて、
もうすぐ結婚するんだって教えてたら、彼だって誤解しなくて済んだのに。
あんなに、お互い傷つかなくて済んだのに」
「お嬢様…」
「絵里、本当のこと何も言えなかった…言えば、良かった」
マフラーを抱きしめて、絵里ちゃんが泣きそうな顔で唇をかみ締める。
吉澤さんは、彼女のことをただ見つめることしかできない。

『今日はひとりにしておいてください』

あいつとケンカしていたとき、彼女はドアの向こうで吉澤さんにそう言った。
そのときも、こんな悲しい表情をしていたのだろうか。
わからない。吉澤さんは、黙ったまま俯く。

「ガキさんは、ちゃんと絵里に忠告してくれたんです。彼に本当のことを話して、
素直に謝れって。謝って仲直りしろって。絵里も最初はそうしようと思ったんです。
でも、何を言っても信じてもらえないんじゃないかって思うと何も言えなくて…
信じてくれない彼に腹が立って、勝手にもう無理って思って…最悪ですよね。絵里」
はあ。絵里ちゃんは、ため息をつく。
「ごめんなさい。こんな話聞いても楽しくないですよね」
「そんな」吉澤さんは首を横に振る。
「心の中に溜め込んだままじゃ苦しいでしょ?全部話してくださいよ。
ぼく、ずっと聞いてますから」
「ありがとう吉澤さん」
249 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/07(火) 01:23
彼女は、弱々しく笑って、マフラーを膝の上にのせた。
そして少し斜め上を見上げて、呟く。
「愛ちゃんはすごいなぁ」
「え?」
「だって、何を言われても気にせずにあなたと付き合ってるから」
「あれでも裏でけっこう凹んだりしてたんですよ。色んな人からネチネチ嫌味も
言われてましたし、お父さんやお母さんだって、最初は猛反対でしたし」
「村上さんの家とも、色々揉めていましたよね」
「そうですね。もし、あのころ愛が挫けてたら、たぶん今、ぼくらは別れてたと思います」
「すごいなぁ。挫けなかった愛ちゃんも、愛ちゃんを守ってあげた、吉澤さんも。
絵里たちは、そういうの、全然できなかったな…」


2人の間にしばらく沈黙が訪れる。
吉澤さんは、絵里ちゃんになんて声をかければいいか、迷っていた。
思っていた以上に、彼女はあいつと別れたことを後悔していた。
あれから、3ヶ月くらいが経ったというのに、そのマフラーを捨てずに持っていた。
今は、それを大事そうに握り締め、どこかを、何かを見つめている。
彼女の視線の先には、いったい何があるのだろう。誰が、いるのだろう。

「吉澤さんにしか、こんなこと言えないんだけどね」
「はい」
「絵里、ガキさんのこと、本当に好きなんだぁ」

ぶはっ。唐突な告白に、驚く吉澤さん。
絵里ちゃんはふにゃりと笑って、マフラーを撫でる。
「恥ずかしいから、ガキさんに面と向かってはあんまり言えないんだけどね。
絵里、いま、すーっごく幸せなの。ガキさんと付き合って、本当に良かったなって思うし、
これからもずっと、おじいちゃんとおばあちゃんになっても一緒に居たいなぁって
思ってるし。ガキさんが相手なら、想像できるんだよね。将来、どんな家に住んでとか、
どんな生活を送ってとか、どんな子供がいてとか、全部、はっきりイメージできる」

斜め上を見上げ、絵里ちゃんが穏やかに笑う。
それから、吉澤さんのほうを見て、しっかりとした顔で言う。

「だから、田中くんの話をするのは、これで最後にします」

白いマフラーをぎゅっと握り締める絵里ちゃん。
「ガキさんだけは傷つけたくないから」
彼女はそう呟いて、それを紙袋の中に戻し、吉澤さんに差し出す。
「明日でいいですから、処分しておいてください」
「いいんですか?」
「こんなの、とっておいたってしょうがないじゃないですか」

切ない彼女の微笑が、吉澤さんの胸を苦しくさせる。
彼女はきっと無理をしている。後悔してるし、未練もある。
右にはガキさん。左には田中の野郎。
どっちへ行くか。どっちを選ぶか。2つに1つ。
相当迷ったはずだ。悩んだはずだ。
でも、彼女は、ガキさんを選んだのだ。あいつでなく、ガキさんを。

このマフラーは、彼女の決意。
吉澤さんは、何も言わずに紙袋をしっかりと受け取った。

250 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/07(火) 01:23


*****


251 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/07(火) 01:24
閑静な住宅街にある、新垣家。
そのお家の前に静かに黒い車が停まる。
運転手が後部座席のドアを開け、出てきたのはその家の長男坊。
ダンスパーティ帰りの、ガキさんだ。

「坊ちゃん。お帰りなさいませ」
「ただいま」

今夜は、家政婦さんが待ち構えていた。
ぴくっと眉毛が上がるガキさん。

「旦那さまがお部屋でお待ちですよ」
「はい」

やっぱりそうか。家政婦さんに気づかれないように、少しだけ顔をしかめる。
ガキさんは、運転手さんに「ありがとう」と言って、お家の中へ入った。


「最近、帰りがいつも遅いんじゃないか」

息子が部屋に入ってくるなり、父親は読んでいた本を閉じ、言った。
ガキさんのパパは、毎日休みなく働く、有名弁護士。
家では良きパパ、良き夫。ガキさんも尊敬している、良い男。

「絵里ちゃんと”仲良く”するのはいいが、勉強もがんばって欲しいな」

パパは、ガキさんの目を、まっすぐ見つめた。
この眼差し。今まで何十人、何百人、何千人を相手にしてきたプロの瞳。
それが、ガキさんはちょっと苦手だったりする。
普段はやさしくて、寛大な父親なんだけど、たまーに厳しくなる。
たとえば学校の成績が下がったときとか、友達と遊んで夜遅くなったときとか。
口調はとても柔らかいが、この眼差しだけは違う。鋭さが、違う。
その目で見つめられたら何も言えなくなる。ただ、ハイとうなずくしかなくなる。

「きみはまだ、あと4年もあるって思っているかもしれない。
が、しかし、4年なんてあっという間だぞ。ぼーっとしてると、すぐに過ぎてしまう」
「ハイ」
「大学生になって遊びたいのもわかる。だが、やることはしっかりやって欲しい。
ぼくはきみに期待してるんだ。なんせ、うちの跡取りなんだからね」

跡取り。そうだ。ガキさんはこの新垣家の長男だ。
だから、パパの法律事務所を、ゆくゆくは継がなければならない。
パパは継がせる気マンマンだし、ガキさん自身もそのつもりだ。
でも、だけど…なんだか心はモヤモヤしている。

「がんばってくれ」
「ハイ…がんばります」

この複雑な思いは、きっと誰にもわからない。
絵里ちゃんにだって、きっと。
252 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/07(火) 01:24


*****


253 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/07(火) 01:25
メールの返事は、なし。
何度センターに問い合わせても、”新着メールはありません”。
ダメで元々だって思ってたけど、本当にダメだったらテンションが下がる。

「おりゃ!」

でもこうやって、柔道に夢中になっていれば、そんな気持ちも紛れる。
田中くんは今日もバリバリ、部員たちを投げて技をかけまくっていた。


「お疲れさまでした」

片づけを全て終えた愛佳ちゃんが、道場から出てきた。
ちょうど、水道のあるところにいた田中くんは、彼女を呼び止める。

「愛佳ちゃんって今、彼氏おると?」
「えっ?」
ビックリ顔になる愛佳ちゃん。「いませんけど」
田中くんは、タオルを首にかけながら、
「いや。昨日、ゴローで会ったときに一緒にいたやつがさ、
愛佳ちゃんのこと良いなーって言っとってさ」
「はあ」
「もし、嫌じゃなかったら、そいつのアドレス教えるから
メールしてやってくれん?」
答えに迷っている愛佳ちゃんに、田中くんは控えめに言う。
「嫌やったらいいんよ。良かったらで」
「主将は、カノジョとかいないんですか?」
「はい?」
「あ、いや…」
「おらんけど。なんで?」

俯いて、黙り込む愛佳ちゃん。
あわわ。なんかおかしな空気になってきたんやけど。
どうしようどうしよう。後輩の扱いに慣れてない田中くんはちょっと焦る。
そして、顔を上げた彼女が次に言ったセリフに、驚く。

「わたし、主将のアドレスが知りたいです」


きっかけなんて、どこに落ちてるかわからない。
それを拾うか拾わないかは全部、自分次第。

愛佳ちゃんと、ケータイの番号とアドレスを交換してしまった。
斉藤くんのために彼女へ話しかけたのに、なぜかこんなことに。
彼女から、あんな風にハキハキ言われたら、何も言い返せなかった。
眩しかった。彼女の若さが、明るい太陽みたいだった。

「でもなぁ…」

手を伸ばせば、きっとそれに届く。それを拾えば、空は晴れ渡ると思う。
頭ではわかってるけど、わかってるんだけど、田中くんは躊躇っている。
彼女と校門の前で別れたあと、ソッコーで送られてきたメールを
ぼーっと眺めながら、駅までとぼとぼ歩く。

こうやって、メールアドレスを聞いてきたんだから、愛佳ちゃんはやっぱり
田中くんに少なからず好意を持っているということだ。
それは、ただ、お友達になりたいというものではないだろう。
仲良くなったその先に、彼氏彼女の関係を期待してる。
田中くんだってわかってる。アドレスを交換したことが、どういうことなのか。
でも。田中くんは、いまだに元カノのことを忘れられない、女々しい男。
今でもメールは保護ってる。電話帳も消せない。プリクラもはがせない。
彼女の記憶が頭から離れてくれない。とても情けない男なのだ。
学校では怖がられてるけど、実際はこんなにダメなやつ。
愛佳ちゃんから好意を持たれるほど、良い男じゃない。

『今日の夜、メールするね』

初めて2人きりで出かけた日の、別れ際。
絵里ちゃんは微笑みながらそう言って、手を振ってきた。
なんだろう。あのときはものすごい、胸がきゅんとなった。
全然大したことないセリフなのに、本当にうれしかった。
まだ、出会ってちょっとのころだったけれど、
彼女のことが本気で好きかもしれない。そう思った。

田中くんは、愛佳ちゃんにメールを返さなかった。返せなかった。
こんなときでも、絵里ちゃんのことが頭に浮かんでしまう、
どうしようもない自分自身が、心底嫌になった。
254 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/07(火) 01:26

翌日。昼休みの屋上。
カノジョと電話をしている林くんを置いて、田中くんたちはやってきた。
2人並んで、湾田町の景色を眺めながら、パックのジュースを飲む。

「メールしてみればいいじゃん」

昨日の出来事を全部正直に話した田中くんに、斉藤くんは言った。
それでも田中くんは、曖昧に答えを濁す。

「亀井さんからの返事、こなかったんだろ?」
「ああ」
斉藤くんはえらく真面目な顔で、田中くんを見ている。
「おれだって何回も振られて落ち込んだけどさ、今じゃなんともないし。
いや、なんともなくはないけどさ、この通りちゃんと生きてるし」
後頭部をガシガシかきながら、カラッと笑う斉藤くん。
「雑草魂じゃないけど、踏まれて踏まれて強くなる、みたいな?」
明るくそう言う親友に、田中くんは微笑んだ。
「あの子、良い子そうだしおまえに合ってるって」
「なんか聞いたことあるセリフやな」
斉藤くんがイヒヒと笑う。田中くんも、同じように笑う。

「もう、吹っ切れた?」
田中くんは、そう尋ねられて首をひねる。
「わからん」
「まあ、無理して吹っ切る必要ないと思うよ。
おれだって、なかなか忘れられない人、いるしさ」
「あの、巨乳?」
「うん。もう1回でいいからあのおっぱい揉みたい…っておい!」
斉藤くんの大げさなリアクションに、大笑いの田中くん。

「いつか、亀井さんのこと、良い思い出だって笑える日がくるよ」
打って変わってしみじみと、斉藤くんは言う。
「おれらはまだまだ若いんだからさ、いっぱい恋しようよ」

大きく背伸びして、田中くんは空を見上げた。
見事な快晴。綺麗な青空がそこに広がっていた。
255 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/07(火) 01:26

その日の夜。
田中くんは、がんばって愛佳ちゃんにメールをした。
部活がない土曜日、一緒にカラオケ行こう、と。
返事はすぐに返ってくる。さすが女子高生だ。

「はあ」

ベッドに寝転んで、そのメールを見つめる。
でも、これで、本当にいいのだろうか。
うれしそうな愛佳ちゃんの様子に、胸が痛くなる。
田中くんの手は自然と動き、斉藤くんへ電話していた。

『どったの?』
「さっき、愛佳ちゃんをカラオケに誘った」
『マジで!やったな』
「でも、ホントにいいんかなーって思うんよ」
『なにが』
「こんな気持ちのまま、愛佳ちゃんと仲良くなってもいいんかな」
『おまえ、そんなに、亀井さんのことまだ好きなの?』
「…ああ。もう、嫌になるくらい」
やさしい親友は、黙り込む。
田中くんも何も言えずに、沈黙する。

『じゃあ、会いに行く?』
「え?」
『直接会ってさ、もう1回コクるんだよ。それで振られたら諦められるだろ?』
「……」
斉藤くんの言い方は、ものすごい軽いノリ。
でも、内容は相当ハードだ。田中くんは答えに迷った。
親友はそんな田中くんの気持ちを全部わかってて、少し厳しい口調で続ける。

『会いに行けないんだったら、もう、いま諦めたほうがいいと思うよ』

田中くんは、さらに何も言えなくなった。

256 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/07(火) 01:27


*****



257 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/07(火) 01:27
翌日。波浪学園大学(略してハロ大)の中にある喫茶店・Memory。
ガキさんがそのチケットを絵里ちゃんに見せると、彼女は首をかしげた。

「スバケン刑事?」
「うん。愛ちゃんがね、面白いって言ってたから」
それを彼女に渡して、ガキさんはストローでコーラを飲む。

「へぇ」
チケットを眺め、微笑みながら、彼女はレモンティに口をつける。
それは話題の映画の前売り券。
愛ちゃんから2人で観に行けとゴリ押しされたので、行かないわけにはいかない。

「いつ行こっか」
「んーどうしよっか」
「ガキさんが良い日でいいよ?」
「うん」

大学生になって、学生服から私服になった2人。
絵里ちゃんは気づけば髪が長くなっていて、見た目はすっごい大人っぽくなった。
ガキさんが言うのもなんだが、以前よりさらに綺麗になった。
中身はまあ、相変わらず子供っぽいんだけど、そのギャップがまた良いというか。
そんなことを思って、ひとりで照れるガキさん。おでこをかく。

「んー」
手帳を取り出し、ぺらぺらめくりながら、絵里ちゃんが可愛い声でうなる。
「今度の土曜は?」
「いいよ」
「じゃあ決まり」
彼女はうれしそうに、ピンク色のペンでなにやら書き込み始める。
なんでも、デートの予定は全部書くことにしたらしい。おとといそう言っていた。
日記ですら1週間続かない彼女だから、いつまで続くことやら。

2人はいつものようにのんびりと、穏やかな時間を過ごす。
それが、嵐の前の静けさだったなんて、今のガキさんは夢にも思っていなかった。
258 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/07(火) 01:27


*****



259 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/07(火) 01:28

同じ日。
斉藤くんは、楽しそうにキョロキョロしながら歩いていた。
その隣で田中くんはヒヤヒヤしている。だってここは、大学の構内。
現在、絵里ちゃんが通う、波浪学園大学なのだ。
そう。田中くんは意を決してやってきた。絵里ちゃんに会いに来たのだ。

親友から、あんな風に煽られて、何もしないではいられない。
でも、亀井家に行ったって、吉澤さんから何か言われるに決まってる。
ということで直接大学まで来たのだ。授業をサボって、私服で、斉藤くんと。

「すっげー広いなー」
「ああ」
彼は、今日の目的をちゃんと覚えてくれているだろうか。
田中くんには、笑顔で大学を見学する余裕なんてない。
どこにいるのだろう。いつ会えるのだろう。会ったら何を言おう。
そういうことで頭がいっぱいだ。さらに、ちょっと緊張していたりもする。

「亀井さんどこにいるのかなー」

5階の吹き抜けから下を見下ろしながら、斉藤くんは呟いた。
ハロ大は、まるで病院かホテルみたいに綺麗で、全部ピカピカだ。
下を見れば、学生たちが椅子に座っていたり、歩いていたりする。
田中くんはその人々を眺める。絵里ちゃんの姿はない。

「向こうの建物行こっか」
「ああ」
ここにはいないかもしれない、と斉藤くんが歩き出す。
田中くんはその後ろについて行く。
斉藤くんはエレベーターの前で立ち止まり、↓ボタンを押した。
エレベーターは、1階から上がってきている。表示を見上げる2人。
ぴたっとそれは5階で止まり、扉が左右に開く。
その中から出てきたのは、なんか、見たことある人だった。

「あっ」

田中くんは、ビックリして思わず声が出る。
その人とバッチリ目が合って「あ!!!」と指をさされる。

「絵里の元カレ!」

なんと、絵里ちゃんの幼なじみ・愛ちゃんだった。
彼女は大きな目をさらに大きくさせて叫ぶ。

「なんでぇ?なんでココにおるん?」
「…」
田中くんは愛ちゃんに対してまず、髪切ったなという感想を抱いた。
長かった髪が、肩までになっている。いやあ可愛いですな。じゃなくて。

「きみもココの学生やったんや」
「いえ、まだ高校生です」
「へ?じゃあなんで」

隣からツンツンされて、田中くんは横を見る。
斉藤くんがコソッと(知り合い?)と尋ねてくる。
うなずく田中くん。愛ちゃんは、こちらをまじまじと見つめている。

「絵里に、会って、話したいことがあって。それで」
「…WAO」
そう呟いて、愛ちゃんはまた目を丸くさせた。
欧米か。高校生2人は、同時にプッと噴き出した。


近くにあったベンチに3人で座り、田中くんは事情を愛ちゃんに話した。
もちろん、最近絵里ちゃんにメールしたことも、全部話した。

「そっか」彼女は困った顔で笑う。
「そんなにまだ、絵里のこと好きなんや」
田中くんは、俯き気味だけど、しっかりとうなずく。

「絵里からメールこなくて、それで諦めはつかなかったの?」
「諦めようと思いました。でも、やっぱ無理でした。どうしても会って、謝りたくて」
「謝る?」
「絵里のこと、ちゃんと信じてやれんかったことを、謝りたいんです。
これからはもう、絶対あんなことはせんって。だからもう1回やり直したいって」
愛ちゃんは、はぁ、とため息をついた。田中くんは顔を上げる。
260 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/07(火) 01:28
「もう遅いよ」

彼女は迷わずきっぱりとそう言った。
さすが、オトナのお姉さんの言うことは、一味違う。

「絵里はきみと別れたことずうっと後悔してたよ。未練も相当あったみたいだった。
でも、今は新しい彼氏とすっごい幸せそうだからさ…」
新しい彼氏。その単語を聞いて、田中くんは眉間にシワを寄せた。
愛ちゃんは真面目な顔で話を続ける。
「なんでもっと早く絵里に会いに行かなかったの?もっと早くそうしておけば、
もしかしたら絵里だって、やり直すって言ったかもしれないのに」

斉藤くんは苦しそうな表情で、何も言えない田中くんの横顔を見つめている。
真剣だった愛ちゃんは、少しだけやわらかくなって言う。

「吉澤さんって知ってるよね。絵里の執事」
「…はい」
「その人がね、こないだ言ってたの」
あれ。そういえば吉澤さんって愛ちゃんの恋人じゃなかったっけ。
しかし、彼女はそんな素振りをまったく見せず、ビックリするほど
ロリ声で田中くんに言う。
「マフラー捨てちゃったぁ!って」
「マフラー?」
「うん。何のマフラーかきみ、わかる?」
「全然」首をぶんぶん振る田中くん。愛ちゃんは、やさしく微笑む。

「きみのために、絵里が買ったマフラーだよ」

新事実発覚。田中くんは、あ然とした。
そんなマフラーの存在知らないぞ。
それになんでそれを吉澤さんが捨てちゃったんだ。

「それはエメルスのマフラーだったんだって。何もピンとこない?」
「…はい」

そう返事したあと、急に思い出す田中くん。
あの日、絵里ちゃんが、藤本とかいう男と2人で出てきたお店の名前を。

「エメルスって…もしかして」
彼女はあのとき、確か紙袋を持っていた。

「あ。ピンときちゃった?」ニコッと愛ちゃんが笑う。
「そのマフラー、きみにいきなりプレゼントして驚かせようとしたみたいだよ。
でも、そのとき、きみは絵里が浮気してんじゃないかーって疑っちゃったんでしょ?」
「はい…」
田中くんは、あのとき彼女が必死に何かを隠そうとしていたことも思い出す。
電話の向こうで『言えない』って言ってたことって、そんなことだったんだ。
くだらない。本当に、くだらない。

「それと、きみが浮気相手だって思った男の人、来月結婚するよ」
「え」
藤本とかいう男の顔が頭に浮かぶ。
驚きを隠せない田中くんを気にせずに、愛ちゃんは言う。

「もちろん、相手は絵里じゃない。
つまり、ぜーんぶ、きみの勘違いってことだ」
261 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/07(火) 01:29
なんか、初めて聞くことばっかやん。頭を抱えて、田中くんは俯く。
愛ちゃんは表情を引き締めて、
「ちゃんと説明しなかった絵里も悪いんだけどさ、ちゃんと信じてあげなかった
きみも悪いと思う。愛ってさ、信じることなんだよ。信じられるってことが、愛なんだよ」
「…」
「きみから信じてもらえなかったから、絵里は別れようって決めたんだと思うんだよね」
「…」
「ま、今さらあたしがこんなこと言ったって、もう遅いんだけど」

あのころの記憶が次々と襲いかかってくる。
痛い痛い痛い。田中くんは険しい顔になる。
今になってそんなこと聞かされたって、それこそ、もう遅い。

「絵里は、吉澤さんに、きみのマフラーを捨ててって頼んだんだよ。
それがどういう意味か、わかるでしょ?…もう、全部終わっちゃったんだよ」

愛ちゃんの言葉は、面白いくらい田中くんの身体にザクザク突き刺さる。
まったく容赦ない。ある意味吉澤さんより手ごわい相手だった。

「タナやん」斉藤くんから肩を叩かれる田中くん。
田中くんは辛いけど顔を上げて、愛ちゃんを見る。
彼女は、真剣な顔で、見つめ返してくる。

「たとえ、きみがどんなに絵里のことが好きでも、あたしは応援できない」
愛ちゃんがそう言って、ベンチからすくっと立ち上がった。
「きみには何もしてあげれないけど、最後に1個言っとくよ」
彼女は、絵里ちゃんの元カレをじっと見つめて、とどめの一発を。

「絵里のことは、もう諦めな」

試合なら、一本!それまでだ。
ヒールをかつかついわせて、愛ちゃんは歩き出した。

「あの!」

田中くんは、彼女を呼び止める。立ち止まり、彼女が振り返る。
最後の力を振り絞って、最後の質問をする。

「絵里の新しい彼氏って、ガキさんですか?」

愛ちゃんは微妙な表情をしたが、きっぱりと「そうだよ」と答えた。
ふたたび前を向いて歩き出す彼女。
そうか。ガキさんか。田中くんは、がっくりと、うな垂れた。
斉藤くんが何も声をかけてこなくて、余計に悲しくなる。
まあ、なんて励ませばいいかそりゃわからんわな。
自分自身をあざけるように、田中くんはちょっと笑って、ちょっと泣いた。

262 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/07(火) 01:29

女子トイレの壁にもたれて、愛ちゃんは胸に手を当てた。
異常にドキドキしている。背中に変な汗もかいている。
スーハーと大きく深呼吸して、目の前の鏡を見る。
なんやのこのひどい顔。サイアクやん。自分をにらむ。

でも、全部、言わなきゃいけないことだった。
絵里ちゃんが決めた今、自分が迷うわけにはいかない。
彼女の決意を、無駄にはできない。だから、ああするしかなかった。

バッグから携帯電話を取り出して、愛ちゃんは恋人にメールしようとする。
さっきの、偶然の出来事を、報告しようと。
だが、全然上手くまとまらなくて、めちゃくちゃな文章になってしまう。
「ああもう」イライラした彼女は左手で頭をかきむしる。

今夜会って、直接話そう。おおらかな彼は、きっと黙って聞いていてくれる。
愛ちゃんは、携帯電話をバッグに仕舞う。そして、もう一度鏡を見る。
田中くんの痛々しい表情が浮かぶ。本当に、かわいそう。
かわいそうだけど、どーしようもないよ。
絵里ちゃんが、ガキさんを選んだ時点で、全部終わってたんだよ。

腕時計を一瞥して、もう授業が始まっていることに気づいた彼女は、
小さくため息をついて、歩き出した。

263 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/07(火) 01:29

「ねえ。さっきの人って、誰なの?」
斉藤くんは、田中くんにそう尋ねて沈黙を破った。
「あの人は絵里の幼なじみ」
「すっげー可愛かったな」
「彼氏おるけん無理やぞ」
「えーやっぱいるのか。そうだよな。あんだけ可愛いんだし」
「しかも、彼氏は絵里の執事やぞ」
「マジかよ。なんだそれ」

大学の敷地を出て、2人並んでゆっくり歩く。
田中くんはもちろん、斉藤くんも、なんだか疲れていた。

「その執事がさぁ、またムカつくくらいイケメンなわけよ」
「亀井さん大丈夫なのかよ。食われてないのかよ」
「食われてないやろ。だって絵里」
処女やったもん、言いかけて口ごもる田中くん。
「なに?」
「いや。なんでもない」
「ま、いいけど。あー、あの人可愛かったけど怖かったなー。ありゃドSだ」
「だな。あんな人やったなんて思わんかった」
あの執事も、彼の恋人も、おそろしい。
田中くんの身体を容赦なく言葉のナイフで突き刺してきた。

「でも、ガキさんは、ええ人やった」
「亀井さんが今付き合ってるやつ?」
「うん。そいつも絵里の幼なじみでさ、ずっと絵里のことが好きやったらしくて」
「ありがちー」
「おれのこと無駄にライバル視しとってさ、色々邪魔してきて、
嫌なやつやなーって思っとった。最初は。でも、おれと絵里がケンカしたときも、
別れるってなったときも、絵里だけやなくておれの心配までしてくれて。
最後までどうにかしようとしてくれたんよね。あいつも、絵里のこと好きなんに」

憎たらしいキャラだったはずが、
いつの間にか、友情みたいなものを抱きかけていた。
彼は、絵里ちゃんに一途で、誠実で、とても熱い男だった。
あいつこそ、かっこいいという言葉がふさわしい。
それくらい田中くんは、ガキさんを評価していた。

「相手がガキさんなら、もう、いっかなって気になるわ」

青空を見上げて、田中くんはフッと微笑む。
その隣の斉藤くんは、彼の横顔を見つめて、切ない顔をする。

「諦め、ついたか?」

尋ねられた田中くんは、眩しい空に目を細めながら、うなずいた。

264 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/07(火) 01:30

まだ、つづく


265 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/07(火) 01:30

(0´〜`)<サイトーくん実はあの娘はドMなんだYO
( ・e・)<そんな訂正まったく必要ありませんから


266 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/07(火) 02:52

ちょっwww
>>265で爆笑したしw

267 名前:重ピンピン 投稿日:2007/08/07(火) 23:18
毎度おつかれッス
今回も油断しちゃいました・・・
S級愛ちゃんにちょっとツボでしたw
自分としてはタナ×ミッツィを見てみたいかもかも
あと、吉×愛や亀×ガキのラブラブっぷりも
楽しみにしてま〜す
あっ!でも自分はやっぱり重ピンクが1番ッス
こらからもなんとか油断しないように続きを待ってまぁ〜す

268 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/08(水) 00:07
愛ちゃんの「愛ってさ、信じることなんだよ。信じられるってことが、愛なんだよ」
この言葉に胸がジ〜ンとしました。

吉澤さんに言葉がこんがりながらも一生懸命説明する愛ちゃんが目に浮かびますw
269 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/08(水) 01:18
愛ちゃんカッケー!

やる時はやる女だね!!!!

ヤるときもヤれる女だし、素晴らしいね☆(コラコラ)
270 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/08(水) 02:46
がきさんがスゲエ男前になりましたな
元彼に認められるなんて大したもんすよ
愛ちゃん頑張ったね愛ちゃん
271 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/08(水) 08:49
おぉお愛ちゃんおつかれ!

逆に、吉澤さんの悪事(パーティーの時のこととか)も
絵里ちゃんに打ち明けるべきだと思うんですけどねw
一人だけいい人になろうとするな、吉澤!
272 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/08(水) 16:33
うおっ!PCが入院してた間にタナやんになってるYO
てか、ガキさんかっけー!
絵里ちゃんかっけー!
愛ちゃんすげー頑張った!ひーたんにいい子いい子してもらいなYO
サイトーくんいい奴だ。まるでケメコのような人だw
タナやんもひとつ大人の階段のぼったね
それぞれのバカップル(タナやん×サイトーくん含む)の今後も生暖かく見守ってるYO

前の四試合の愛ちゃんの誕プレがアレだけで他になかったのかが気になるw
273 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/10(金) 21:17
マイホームページどこ〜?
274 名前:!omikuji澤ひとみ 投稿日:2007/08/12(日) 12:23
ここまで読んで昼間から四試合目突入の俺が来ましたよ  
これがホントのnever ED story・・・誰がry
続き期待して掘ります
275 名前:(0´〜`)<イケメン執事がクールに全レスするYO 投稿日:2007/08/20(月) 01:45
>>266
全然笑うとこじゃないそれは事実だYO

>>267 
重ビンそろそろ一息つけYO

>>268
こっちの身にもなってくれYO

>>269
誰が上手いこと(ry

>>270
ぼくちんのが男前だZE

>>271
あの件はもう時効だYO

>>272
おいらにもかっけーって言ってくれYO

>>273
メール欄見ろYO

>>274
おみくじさん下ネタはやめてくださいYO
276 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 01:47



277 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 01:47


*****


278 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 01:48

翌日の放課後。湾田高校の屋上。

林くんは怖い顔をしていた。
もしかして、女子大生のカノジョとの大事な時間を邪魔されて、
気分を損ねたのかもしれない。
しかも、こんな、情けない男の情けない報告だ。
聞いているほうも、テンションが下がるだろう。
だけど、田中くんは親友として彼に全部話しておきたかった
これからどうしていけばいいか。意見を聞きたかった。

「タナやん」
「なに?」

まっすぐ前を見ている林くんの、端正な横顔を見る田中くん。
彼は、やっぱり怖い顔のままで、怒られるのではないか、と思う。

「こんど誰か紹介するよ」
ずこっ。全然怒ってないやん。田中くんは苦笑い。
林くんは表情を崩さずに、
「こういうときは、新しい彼女作って、忘れるのが1番だよ」
「そうやね」
「おれなんか、あんとき付き合ってたやつとはもう音信不通だし。
そんなに落ちることないって。元気出せ」

田中くんは「うん」とうなずいて、1年くらい前のことを思い出す。
あんとき、林くんがハロ高の女子と付き合ってたから、その繋がりで
合コンしようという流れになって、絵里ちゃんと出会ったのだ。
というか、いつも、女の子は林くんから。斉藤くんも同じ。林くんから。

「そういえば。斉藤は?」
「なんか用事があるんやってさ」
「まさか、タナやんに影響されて巨乳のとこ行ってたりしてな」
「ありえる。朝から異常にそわそわしよったもん」
ホント、わかりやすいやつだ。くくくと笑う田中くん。


「なあタナやん」
「ん?」
「運命、とか信じるほう?」

いきなり、そんな乙女ちっくなことを聞かれて、田中くんはぽかんとする。
でも、林くんはとても真剣だ。だから、答えをちゃんと考える。

「おれさ、ぶっちゃけミキと結婚したいなって思ってるんだ」

ぶはっ。予想もしない言葉に、思わず噴き出す田中くん。
でも、林くんは本気だ。本気と書いてマジだ。
そんなセリフ、彼から今まで一度も聞いたことがない。
だから、笑わず話を聞く。ちなみに、ミキ、とは林くんのカノジョである。

「地球上にいる人間の数から考えたらさ、人と人が出会う確率なんて
ハンパないわけじゃん?」
「確かに」
「おれ、ミキと出会ったのは運命なんじゃないかなって思うんだ。
なんつうか、奇跡だよな。奇跡」
「ああ。奇跡や」
「馬鹿にしてないか?」
「してないよ。そうやなーって思う。そんだけ好きって思える相手には
なかなか出会えんと思うし。奇跡やと思う。おれも、運命は信じとう」
感じたまま、田中くんは林くんに言った。
「よかった。こんなこと言ったら笑われるかと思ったよ」
「笑わんよ。ペーがマジなんやから、笑えるわけない」

林くんが、田中くんをちらっと見て、微笑む。
その流し目。まさにイケメン。ちょっとクラッと…しないしない!
田中くんはホモじゃない。健全な男子高校生である。

「あんさ、実は明後日、部活のマネージャーと映画に行くっちゃね」
「お。マジで?」
「うん」
「なんなの。良い感じになりそうなの?」
「まだわからん」
空を見上げる田中くん。今日も快晴だ。
自分の心の中も、これくらい綺麗に晴れてくれるといいんだけど、
今はまだ、少し雲が残っている。
でもいずれ晴れるだろう。近いうちに、必ず。
279 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 01:48

翌日。金曜日。
来月に湾田工業高等学校との練習試合が控えているからか、
田中くんたち湾田高柔道部は、一生懸命部活に励んでいた。
陰で”鬼の九州男児”と呼ばれている田中くんは、とくに力が入っている。
雑念なんか吹き飛ばし、今日も、投げて投げて投げまくる。

「甘い!」
後輩を一本背負いで畳の上に叩きつけ、怒鳴る田中くん。
「次!」
両腕を広げ、別の後輩を待ち構える。後輩は、明らかにびびってる。
しかし、田中くんは遠慮せず彼の柔道着を引っ張って、
「気合じゃ!気合!」
怖い顔で怒鳴り、足をかけて彼を倒す。
愛佳ちゃんは、そんなおそろしい主将の姿をじっと見つめている。
汗を光らせ、怖いくらい真剣に柔道に打ち込む先輩。
いったい、彼女の目にはどう映っているのだろうか。


「はい。主将」

部活が終わったあと、田中くんはいつものように水道でバシャバシャ顔を洗っていた。
蛇口をひねって水を止めると、横から聞こえてきたマネージャーの声。
薄目を開けて見てみれば、彼女はタオルを差し出してくる。
「ありがとう」
「どういたしまして」
がしがし顔を拭いて、田中くんは愛佳ちゃんを見る。
ん?じっと見ている彼女に首をかしげると、困った顔で笑われる。
「あのですね。明日のことなんですけど」
「おう」
明日。土曜日。2人でカラオケに行く約束をしている。
まあ、いわゆる愛佳ちゃんとの初デートってわけだ。
今は別に、気が重くないし、本当にいいのかななんて、思わない。

「カラオケの前に、映画観に行きません?」
「いいよ」
「あたし、観たい映画があって」
「なに?」
「スバケン刑事です」
おお。その映画は確か、いま話題のアクション映画じゃないか。
良いとこついてくるなこの子。田中くんは、喜んでOKする。

「時間を調べたら、14時半からのやつがちょうどいいかなって」
「うん。じゃあ明日は最初にどっかでお昼食べて、映画観て、カラオケ行こっか」
「はい」
笑顔でうなずく愛佳ちゃん。
そんなに楽しそうな顔されたら、なんか、こっちまで楽しくなってくる。

校門まで2人で歩く。これで、2回目だ。
きっと、これから、どんどんその回数は増えてゆく。
それにつれて、2人の仲も、良い感じに深まってゆく。
それでいいのだ。田中くんは決意する。それが、いい。

「それじゃあ、明日」

愛佳ちゃんは、校門のすぐ側にあるバス停からバスで帰るらしい。
田中くんは彼女を見送る。しかも、無邪気な笑顔で手を振った。
280 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 01:49


*****



281 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 01:49
同じ、金曜日の夜。絵里ちゃんの部屋。
りんごのマークがついている真っ白なノートPCに向かって、
ガキさんは難しい顔をしていた。
画面には明日観る、映画の上映スケジュール。

「そんなに悩むことじゃないでしょ」
ソファに座っている絵里ちゃんが、少し呆れながら言った。
下にあぐらをかいて座り、うーん、とうなっているガキさんは、
マウスのころころを右手で弄りつつ、左手でテーブルに頬杖をついている。
何時の映画を観ようか、かれこれ、5分か10分悩んでいた。

「よし。絵里が決める」

絵里ちゃんは、立ち上がった。
ガキさんの左隣にぴったり寄り添って座り、画面を覗き込む。
頬杖のまま、妙に近い彼女の顔をちらりと見るガキさん。
彼女は恋人の真似をして、わざとうーんとうなる。
「まず1番早いのは却下ね」
「カメが起きれないからね」
「うん。それと1番遅いのも却下」
「帰るの遅くなっちゃうからね」
「うん。だからぁ、候補は11時のと、14時のと、17時のあたりかな」
「そうだね。どれがいいの?」
左手を下ろして、身体を少し彼女のほうへ向けるガキさん。
彼女が首をかしげて見つめてくる。
あら可愛い。ガキさんはちょっとニヤけてしまったりする。

「この11時からの観て、お昼食べたらよくない?」
「うん」
「お昼はぁ、ハンバーガーがいいな」
「いいよ」

うへへ。絵里ちゃんが、だらしない声で笑った。
ガキさんも、彼女を見つめて、微笑む。
すると、彼女はガキさんの肩に頭をのせ、手を握ってくる。
「やさしいね。ガキさん」
「えぇ?なんで」
「絵里がなに食べたいって言っても、いいよって言ってくれるから」
素直に答えてくる絵里ちゃんに、照れるガキさん。
彼女は指を絡めてくる。甘えるように、寄り添ってくる。
そのせいでなんだか、変な気分になってくる。

「他の女の子にはやさしくしないでね」
至近距離で囁く絵里ちゃん。
「えーどうしよっかなー」
「もぉ」彼女が唇を尖らせた。笑うガキさん。
「意地悪なガキさんきらい」
「え?」
ニヤニヤしながら、ガキさんは絵里ちゃんの顔を覗きこむ。
でも、彼女はそっぽを向いてしまう。あらあら。怒っちゃった。
「カーメー。こっち向いてよ」
「やだ」
「えー」
「絵里はやさしいガキさんが好きなんだもん」
「やさしいじゃん」
絵里ちゃんはぶんぶん首を振って否定する。
参ったなあ。もう、彼女の後姿でさえ可愛く見える。
かなりキテるな。ガキさんは自分の頭を叩いて、顔をしかめる。
こっちを向くに向けないだろう彼女を後ろから抱きしめて、
その肩にあごをのせ、耳元で囁く。
「わかったよ。他の人にはやさしくしない。カメだけやさしくするから。ね?」
彼女はその言葉を聞いて、ガキさんの手に自分の手を重ね、くすっと笑う。
さっきまでプリプリしてたのに、すっかり機嫌は直った様子。
ガキさんは体勢を変えて、彼女の身体全体を包み込むようにする。

「ねぇ。絵里ってわがまま?」
「へ?」
絵里ちゃんはガキさんへと体重をかけてくる。
重い重い。とは言わないジェントルマン。ぎゅっと腕の力を強める。
「どこらへんが?」
ガキさんはとぼけて笑う。絵里ちゃんも、うへへと笑う。
なんかすっごい良い雰囲気だ。なになに。どうしたの何があったの?ってくらい。
282 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 01:49

でも、2人のラブラブタイムはそう長くは続かない。
なぜなら、部屋のドアを、誰かにコンコンとノックされたからで。

ガキさんは絵里ちゃんと顔を見合わせる。
「吉澤さんかな」
彼女は、ガキさんの腕をほどいて立ち上がった。
ドアを開けてみれば予想通り、吉澤さんがそこにいた。
2人は何かを話している。彼女が、ガキさんのほうを見る。
首をかしげてみれば、彼女はこちらへ戻ってくる。

「ガキさんガキさん。もうお迎えが来たんだって」
ガキさんは腕時計を見ながら、「ちょっと早くない?」
家政婦さんに言っておいた時間よりも1時間以上早い。
もしかして。ピン、ときたガキさんは、ため息をつく。
「今日は、帰るよ」
「えぇ」
不満そうな絵里ちゃんは、ガキさんの腕をつかんでくる。
「ホントに帰っちゃうの?」
「うん」
だって。それ以上は、今は言う気になれないガキさん。
彼女の頭を撫でる。吉澤さんも見てるのだ。変なことはできない。
帰るとは言ったものの、絵里ちゃんから腕をつかまれてて、動けない。
「カメ」
彼女は、唇を尖らせて、ガキさんを見つめている。
「しょーがないじゃん。もう迎え来ちゃったんだから」
「だってだって。絵里はまだガキさんと居たいもん」
ムハー。そんな可愛いこと言われちゃったらもうどうしましょう。
吉澤さんさえいなければ、今すぐここでガバッと抱き寄せてるのに。
ガキさんは、絵里ちゃんの髪を撫でて、微笑む。
「ぼくだってまだカメと居たいよ。でも、もう帰らなきゃ」
「やだ」
「明日も会えるじゃん。今日寝たら、すぐだよ。すぐ会える」
ね?とやさしく諭して、もう一度、髪を撫でる。
さらさら綺麗な彼女の細い髪に指を通す。
「わかった」
絵里ちゃんは、そう呟いて、ガキさんの手を握った。
「良い子だね。カメ」
「知ってる」
微笑み合う2人。執事の元へ向かう。


指を絡めて、寄り添いながら、玄関まで歩く。
絵里ちゃんは、最近、吉澤さんの前でも気にせず甘えてくる。
困ったものだ。でも、うれしくてしょうがない。ガキさんはニヤける。

吉澤さんが、玄関の扉を開けてくれる。
そこにはいつもの黒いレクサスが停まっていた。

「それじゃあ」

絵里ちゃんを見つめて、ガキさんは言った。
しかし手はまだ繋がれたまま。彼女が離してくれない。
「カメ」
「うん」
暗い顔で、うなずく彼女。
なんだかそんな表情をされたら、帰りづらいな。
そう思いつつ、ガキさんは手を離す。

後部座席のドアを吉澤さんが開ける。
一歩、進むガキさん。絵里ちゃんを見つめたまま。
もう一歩。車へと近づく。そして、「吉澤さん」ガキさんは言う。

「ちょっと、10秒だけ向こう向いててもらってもいいですか?」
「あぁ、はい」

執事が向こうを見た瞬間、ガキさんは絵里ちゃんにキスをする。
いきなりのことに彼女は目を丸くしたけれど、それに応えてくれる。
10秒だから、短い。すぐさま離れ、見つめ合って、微笑む。
これでよし。ガキさんは吉澤さんを見る。
空気が読める彼は、ずっと向こうを向いてくれていた。

「ありがとうございます。もう、いいです」

車に乗り込むガキさん。絵里ちゃんは、はにかんでいる。
クールな執事は顔色ひとつ変えず、ドアを閉めた。

窓を下げ、ガキさんは絵里ちゃんに手を振る。
絵里ちゃんも、笑顔で返す。
「また明日」
「うん。明日」
「寝坊すんなよー」
「しませんよーだ」
最後にまた笑い合って、2人はバイバイした。
283 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 01:50

「若いって、いいよなあ」

愛ちゃんに膝枕されながら、吉澤さんは呟く。
天井を見つめ、目を細める。

「まさかおれの前でキスするなんてなあ」
「は?!」
ビックリして大きな声を出す愛ちゃん。に顔をしかめる吉澤さん。
「いきなりでっけー声出すなってサル」
「サルじゃない」
むくれた愛ちゃんに、吉澤さんはニカッと笑って、
「わー可愛いおサルさんだー」
「だからぁ」
いひひ。吉澤さんは愛ちゃんの太ももを枕にしたまま、ひとりでウケる。
「むかつくー」
口ではそんな可愛くないことを言いつつ、顔は笑ってる愛ちゃん。
吉澤さんのさらさらヘアーをやさしく撫でて、幸せそう。
ガキさんたちがどれだけラブラブだろうが、吉澤さんたちは変わらない。
今も、明日からもずっと、一緒にいる。

「明日、あの2人映画行くんだってさ」
「スバケン?」
「うん。スバケン」
吉澤さんたちはその映画を公開と同時に観に行った。
予想外に大ヒットしたそれは、ロングラン上映になりそうだという。
「あのセリフ。なんだっけ」
ふにゃっと笑いながら吉澤さんが言う。

「てめえのぜんざいがうめえんだよ!」
愛ちゃんが、その映画の敵役の名セリフを感情を込めて叫ぶ。
「そうそうそう」おなかを抱えてウケる吉澤さん。
「いやースバケンは久しぶりにヒットだな。DVD出たら買おう」
「DVDといえば」
なにか思い出した様子の彼女。吉澤さんは首をかしげる。
「ガキさんに貸してるの?道重さゆみ」
「貸してるけど」
「役に立ってるのかな」
「立ってるだろ。そりゃ」
あんだけラブラブなんだから。言いかけて止める吉澤さん。
なんでかって?冷静になると、凹んでしまうからだ。
あの、大事な大事なお嬢様がガキさんに…考えるだけで鬱だ。
道重さゆみのように、あんなことやこんなことをされてるのかと
思うと胸がどんどん苦しくなって…

「恋か」
テレビでよく見かける、くりくり坊主のツッコミのように言って、
愛ちゃんが吉澤さんのおでこをぺちんと軽く叩いた。
吉澤さんはハッとして、心臓の辺りを手で押さえる。
「これってやっぱ、恋かな」
「乙女か」
もう一度、おでこを叩かれる。なにこの漫才。
ガバッと起き上がった吉澤さんは、愛ちゃんをいきなり抱き寄せる。
そして、彼女の耳元で囁く。
「I love you.」
「欧米か」
ちょっと笑いながらツッコんで、愛ちゃんは恋人の背中に腕をまわした。
へへへ、と吉澤さんも笑う。2人して、でれでれしながら抱き合う。

「でもさ。絵里って感動的な映画が好きだから、どうなのかな」
「スバケン?」
「うん。だって、いまだにタイタニック見て泣くからね」
スバケン刑事はどこをどう見てもアクション映画だ。
カーチェイスもあれば大爆発シーンもある。
しかし、主人公のお色気シーンもあったり、濃厚な濡れ場もあったりする。
絵里ちゃんが感動するかどうかは、映画を観たあとでないとわからない。
284 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 01:50


*****



285 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 01:51
その日は、気持ちが良いくらい晴れていた。
田中くんはただそれだけで、何かいいことが起きるような予感がしていた。
それに、今日は愛佳ちゃんとの初デート。今日からまた、スタートするのだ。

「先輩はいつから柔道やってるんですか?」
「高校から」
「へえ。高校からなのにあんなに強いなんてすごいですね」

さっき、愛佳ちゃんとお昼ご飯を食べて、次は映画だ。
映画館までおしゃべりをしながら歩く。14時半までは、まだ1時間くらいある。
彼女は話し上手で聞き上手。空気が読める、良い子だ。
服装だって可愛いし、顔もまあまあ、許容範囲内。
もしかしたら、案外イケるかもな。田中くんはそう思う。

「人多いね」
「そうですね」
映画館の入り口横にあるチケット売り場には、たくさん人が並んでいた。
その最後尾に2人は立つ。そして、スバケン刑事のチケットを買う。

「まだ時間あるね。飲み物でも買ってゆっくりするか」
「はい」

286 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 01:51

「ごめぇぇぇん」

絵里ちゃんはガキさんが恐れていた通り、見事に遅刻をした。
しかも、3時間の遅刻。午前中の映画を観る予定が、完全に狂ってしまった。
さすがに申し訳なく思っているのか、絵里ちゃんは両手を合わせて頭を下げている。
ガキさんは呆れてものも言えなくて、ただ「はあ」とため息をついた。

「なにそのため息ぃ」
顔を上げて、彼女が唇を尖らせる。
「別に?あーあ。映画は14時半か」
大して怒ることでもないと思いながら、いやらしい口調になってしまうガキさん。
絵里ちゃんの遅刻なんか日常破産事だ。違う。茶飯事だ。
彼女の遅刻のせいで予定が狂うなんて、よくあることなのに。
別に、イライラする理由にもならないはずなのに。
ガキさんは、3時間も遅れて来た彼女に、ちょっぴりイラっときた。
やはり、3時間という時間が効いたのかもしれない。3時間て。どんだけー。

でも、こんなところで、うだうだとやりあってるわけにはいかないので、
「行こう」
すたすたと、ガキさんは歩き出す。絵里ちゃんが慌てて追いかけて来る。
「待ってよぉ。そんなに怒んないで」
「怒ってないから」
納得してない顔の絵里ちゃん。ほら、と腕時計の時間を見せる。
「これじゃ14時半のにも間に合わなくなるよ?」
「まだ1時間以上あるじゃん」
「馬鹿。チケット買えなかったら意味ないじゃん」
「絵里は馬鹿じゃない」
「そんなのどーでもいいから。行こう」
ガキさんは、絵里ちゃんの腕をつかんで歩き出す。
片手を挙げてタクシーをつかまえる。いざ、映画館へGO。


「うわー人多いしー」

来てみてビックリ。映画館は、予想以上の大混雑。
14時半のチケットが売り切れてたらやだなと思いつつ、列に並ぶガキさん。
絵里ちゃんは、さっきからずっとブスッとしていて、無言だった。
遅刻しといてその態度。なんかむかつく。

「カメ。なんでそんな不機嫌なの?」
18年の付き合いだ。だから遠慮なんてない。
ガキさんは真正面からぶつかるように尋ねる。
絵里ちゃんがちらっとガキさんを見る。しかし、何も言わない。
ただ唇を尖らせて、憮然とした表情を浮かべている。
彼女がそうなら、ガキさんだって。眉間にシワを寄せ、険しい顔になる。
いつもの良い雰囲気とは正反対の、なんかイヤーな空気がその場に流れていた。

「なんで黙ってんの。言わなきゃわからないでしょ」
「ガキさん怒ってる」
ぼそっと呟く絵里ちゃん。それを聞いて、ため息をつくガキさん。
「しつこいよ?怒ってないから」
「怒ってるじゃん」
「どこが?」
両腕を広げて、怒ってないぞアピールをしてみるが、
絵里ちゃんはまだむすっとしたまま、こっちをにらんでる。
「機嫌直してよ。こんなんじゃ映画、楽しめないよ?」
「じゃあ映画観なくていい」
「はあ?何しにここまで来たのさ。馬鹿言わないでよ」
「馬鹿じゃない」
むむむ。ちょっと怖い顔で、にらみ合う2人。
周りの人たちが、この嫌な空気を察知してコソコソ何か言っている。

気づけば列の最前列。チケットは無事に買えたけど、2人は無事じゃない。
人ごみの中、少し距離を置いて、無言で歩く。
こっちを見ようとしない絵里ちゃんからは、不機嫌オーラ。
なんで逆ギレされるのかわからない。まったく、理不尽だ。
人も多いし、ガキさんはさらに、イライラする。

「お手洗い行ってきます」

絵里ちゃんは、棒読みでそう言って、女子トイレへ逃げた。
その後姿を見送って、ガキさんは深くため息をつく。
そして、彼女と同じように、男子トイレへ向かった。
287 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 01:51

用を足してから、とりあえず冷静になってみる。
せっかく愛ちゃんに、面白い映画だからと前売り券をもらって、今日はやって来たのだ。
観ないわけにはいかないし、観るからには楽しみたいのが本音だ。
さっきまでは、絵里ちゃんがああだったから、こっちまでなんかイラついてたけど、
今はもう大丈夫。じゃないけど。まだ心の奥のほうに小さな火が残っているけど。
でもまあ、ここは大人になって。落ち着こうじゃないか自分。
絵里ちゃんと、仲良く映画を観たいだろう?ああそりゃ観たいさ。
じゃあもうイライラしない。絵里ちゃんに冷たくしない。うん。そうだそうだ。
よし。ガキさんは手を洗いながら、ふと顔を上げた。

「あ」
「たた、たたたた、田中っち!!!!!!」

偶然横に居た知り合いに驚いて、ガキさんは声を張り上げた。
苦笑いした田中っちが、濡れた手をぶらぶらさせている。

「久しぶりやね」
「ああ。久しぶり」
「あのパーティ以来、かね」
「そうだね」
うおおおお。すぐさま蘇ってくる、あのときの記憶。
あまり思い出したくないことほど、鮮明に覚えてる。
あのときはどしゃ降りで、それはもう、ありとあらゆる意味でひどい夜だった。

「なんの映画、観に来たん?」
「スバケン刑事だよ」
「マジで。同じやん」
ニカッと笑う田中っち。元気そうで良かった。ガキさんは安心する。
いやいや。ちょっと待てよ。こいつはこないだ…
「そういえば、カメにメール送ってきたでしょ」
「あ。まあ。送ったんやけど、返事来んやったし」
「……」

いやはや、気まずい。超ウルトラハイパー気まずい。
おでこをかいて、誤魔化すガキさん。

「もしかして、今日、絵里と一緒なん?」

別れたとはいえ、田中っちにとって絵里ちゃんは絵里ちゃんだ。
”絵里”って呼ぶのも、変わらない。前までは、全然気にしなかったんだけど。
ガキさんは今、彼女のことを名前で呼ぶ彼に、なぜか嫉妬してしまった。
馴れ馴れしく”絵里”なんて呼ぶんじゃねえ。なんて思ってしまった。

「うん、一緒だよ」
でも、かっこわるいから、こんな気持ち知られたくない。
何でもない顔で、普通にガキさんは答えた。
288 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 01:52

いっぽう、女子トイレ。
愛佳ちゃんは、偶然出くわしたお知り合いに、目を丸くした。

「亀井さん!」

そう呼びかけると、絵里ちゃんが振り返った。
目が合うと、彼女も驚いていた。

「愛佳ちゃん。奇遇だねぇ」
「ですねぇ」
愛佳ちゃんは亀井家の馴染みの中華料理屋さんのオーナーの娘。
2人は何度か、そのお店や亀井家のパーティで会ったことがあった。
でもこうやって、街で偶然出くわすのは、初めてのことだった。

「今日はデートですか?」
ばっちりオシャレしているお嬢様に、愛佳ちゃんは笑顔で尋ねる。
すると、彼女は浮かない顔で微笑んだ。あれ。首をかしげる。
「実はいま、彼氏とすっごい気まずいんだよねぇ」
「え?」
彼氏、と聞いて、愛佳ちゃんは思い出す。
少し前の話だが、父親が興奮気味に語っていた。
亀井さんとこのお嬢様が恋人と店に来たぞ、って。

「ケンカされたんですか?」
「うーん。ケンカっていうかぁ…絵里が怒らせちゃってぇ」
「そうなんですか」
「あーどうしよ。チョー気まずいんだけど」
眉毛を下げて苦笑する絵里ちゃんに、愛佳ちゃんは微笑む。
「素直に謝ればきっと許してくれますよ」
「そうかなぁ」
「そうですよ」
言い切った愛佳ちゃんに、絵里ちゃんは微笑む。

「じゃあ、素直に謝ることにする」
289 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 01:52

ガキさんは近くで絵里ちゃんを待っていた。
いくら、嫌な雰囲気だっていっても、彼女を置いて先に行くわけにはいかない。
1回リセットだ。今からは普通にする。自分でそう決める。
彼女はまだ可愛くない顔をするかもしれないけれど、イライラしない。
映画を楽しむために、彼女のご機嫌をとるのだ。それも別に悪くない。
で、でも。

「田中っちも、誰か待ってるの?」

隣にはまだ、絵里ちゃんの元恋人がいた。
田中っちは「うん」とうなずいて、キョロキョロしている。
「もしかして、カノジョ、とか」
言ってみて、あちゃー言わなきゃ良かった、と思うガキさんだが、
田中っちは穏やかな微笑を浮かべて、
「んー、まあ。そうなればいいなーみたいな」
「そ、そうなんだ」
意外な答えに、ガキさんは妙に安心する。
絵里ちゃんが自分と新しい一歩を踏み出したのと同じように、田中っちも。
そうかそうか。そういうことか。腕を組み、ひとりうなずいて微笑む。

「あ」
女子トイレから、絵里ちゃんが知り合いっぽい女の子と出てきた。
あの子は、なんか、見たことがあるようなないような。
あ。あの美味しい中国料理のお店の娘さんだ。ガキさんは思い出す。
絵里ちゃんは、待ってくれていたガキさんをまず発見し、その隣の、元カレを見た。

「れいな…」

固まった。面白いくらい、一瞬で動揺したのがわかった。
おいおいおい。そんなに見つめんなって。見つめるのはこっちにして。
呆れながらガキさんは、彼女をじっと見ている田中っちの横顔を見る。
静かに、視線を交わしている、絵里ちゃんと田中っち。
そういえばこの2人。いったい、会うのはいつ以来?
パーティの日は会えなかった。その前、ハロ高でも会えなかった。
別れるってなったときも、2人は会ってない。とするともう、かなり前。
どんな気持ちになるのだろう。あんな別れ方をした、元恋人に対して。

ふと、ガキさんは愛佳ちゃんとが合った。
言葉にするとウフフ、みたいな顔になって、その子は笑った。

「いつもお世話になってます」
「きみはあの…来来幸福(ライライシンフー)の」

来来幸福。中国料理の来来幸福。
つい先月に絵里ちゃんと行ったばかりだし、亀井家でのパーティでも会った。

「なんなん。愛佳ちゃん、知り合いなん」
「はい。亀井さんはよく、うちの店にお食事に来てくれるんです」
「そうだよ?」
「そうなんや」
まるで、あの頃のように、2人は笑いながら見つめ合っている。
愛佳ちゃんだって笑ってる。しかし、ガキさんは笑えない。
どうしていいかわからずに、黙ったまま。見ているしか出来ない。
妙に心臓がドキドキする。変な汗も背中に。
気まずいっていうか、今この状況はなんと表現すれば良いのだろう。

「髪、伸びたね」
「そう?」
短い言葉を交わす、元恋人同士。
実は最近、2人ともきっぱりとその恋にケジメをつけたことなんて全然知らない
ガキさんは、ものすごいヒヤヒヤしながら彼女たちを眺めている。
「なんか、大学生っち感じやね」
「えぇ。なにそれ」
ぎこちないけど良い感じで、2人が微笑み合う。
田中っちを見る絵里ちゃんの横顔を見るガキさんは、やっぱり不安になる。
いくら、童貞を卒業してからバリバリにヤリまくって自信をつけたとは言え、
田中っちは絵里ちゃんが一度好きになった相手。
幼なじみのガキさんを差し置いて、絵里ちゃんの大切な人だったやつなのだ。
そんなやつのことを見つめる絵里ちゃんの視線には、懐かしさのほかに、
まだ、ほんの少しだけ残っている何かがあるような気がしてならない。
その”何か”が何かは言葉には出来ない。というか、したくない。
ガキさんは無言のままぐっと拳を握り締める。

「れいなは、全然変わらないね」
「そう?」
「うん。あ、いや。ちょっとやせた?」
「あー、やせたかも」

そんな風に、ゆっくりと会話を繋ぐ絵里ちゃんと田中っち。
空気が読める子らしい愛佳ちゃんは、黙って、笑顔で眺めていた。
この子は、なかなか度胸ありそうだ。こんな場面でもニコニコ出来るなんてすごいな。
それに比べて自分は。なにこのうろたえ具合。しっかりしろ馬鹿。
290 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 01:53
しかしこんな状況だからか。ガキさんの気持ちはどんどん沈んでく。
絵里ちゃんが、あいつと言葉を交わすたびに、嫌な感情がぐるぐる回る。
嫉妬やら不安やら何やらが、脳みその中で暴れまわっている。
我慢の限界は自分でも思っていた以上に早く訪れる。

「カメ。飲み物買いに行こう」
「え、ちょ、ガキさん?」

あああ。どうすればいいのだ。いったい、どうしろと。
絵里ちゃんといま付き合っているのは自分なのに、
彼女が好きなのも、大切なのも自分のはずなのに。
田中っちと話してる彼女を見てるとぐらぐら揺れてしまっている。


ガキさんは、絵里ちゃんの腕を無理矢理引っ張って、売店まで一直線。
その途中、彼女は何度も田中っちのほうを振り返っていた。
何が気になるってんだ。あいつのことはもうどうでもいいだろう。
なんて思って、さっき収まったはずのイライラが次第に復活してくる。

「ガキさん」
ちょっと強い口調で言われて、売店に並ぶ列の前で立ち止まる。
絵里ちゃんは、つかまれていた腕を離して、ガキさんをにらむ。
嫌な雰囲気リターンズ。ガキさんは俯いたまま、彼女を見ない。

「ガキさん」
「カメ、何飲む?」
「ガキさんってば」
「なに」
「なに、じゃないでしょ?まだ話の途中だったのに」
明らかにむかついている口調で絵里ちゃんが言う。
ガキさんは、顔を上げて彼女を見つめる。
彼女は怖い顔。珍しいけど全然可愛くない。ガキさんもにらみ返す。
「まだ、話あるんなら戻れば?」
「え?」
「そんなにあいつと話したいんなら、さっさと行けばいいじゃん」
「…信じらんない。なんでそんな言い方するの?」
今は何も言わないほうが良い。そう思っていても、口が開く。
「早く行けば?あいつ待ってるんじゃない?」

絵里ちゃんは、見たことがないくらいの鋭い眼差しでガキさんを見つめた。
これは完全に怒ってるはずだ。間違いない。彼女はいま、100%キレてる。
それは、ガキさんがそんな嫌な言い方をしたせいであって、
悪いのは絶対ガキさんなのだ。別に、堂々と胸張ってりゃいい話だったのに。
頭ではわかってた。だけど無理だった。限界だった。

「もういい」

ぼそっと言って、絵里ちゃんは映画館の入り口に向かって歩き出す。
もしかしたらそのまま帰っちゃうのかもしれない。
今日の大きな目的だった映画も観ずに、田中っちに、さよならも言わずに。
こんな風に、絵里ちゃんをキレるまで怒らせたことがなかったガキさんは、
自分のイライラもあって、離れて行く彼女を引きとめることをしなかった。
ただ、その場でじっと、立ち尽くしていた。


「…なんしよんあいつ」

田中くんは、ぽつんとひとり残されたガキさんを遠くから見つめて、呟いた。
映画館は映画を観る場所だ。ケンカをするところじゃない。
さっきのガキさんと絵里ちゃんのやり取りを一部始終見ていた田中くんは、
怒って帰ってく絵里ちゃんをただ眺めてただけのガキさんに対して、
なんだかイラついてくる。だけど、隣には愛佳ちゃんがいる。
映画ももうすぐ入場開始。だから、どうしようかと迷う。

「亀井さん、さっき、彼氏と気まずいって言ってたんです」
「え?」
「あ、いや。最初、トイレで会ったときに。それで、素直に謝ろうって
言ってたのに、なんか、仲直りできなかったみたいですね」

いったい何のせいだ。誰のせいなのだ!
っておれか?田中くんは冷静に考える。たぶん自分がここに居るせいだ。

「やっぱ、何か声かけたがええんかなあ」
ひとり言のつもりで田中くんは言ったが、愛佳ちゃんが、
「今は、ひとりで頭冷やしたほうがいいんじゃないんですか」
それは、えらく大人な意見。心配でたまらない田中くんは、まだガキなのか。

「ごめん。やっぱちょっと行ってくるわ」

ガキさんのことが心配なのも、彼女のことが気になるのも、
全部友達としての感情だ。それ以上でも、それ以下でもない。
絵里ちゃんのことはもう諦めたのだ。きっぱりと、男らしく。
だから、気まずい状況になってしまった2人の間に自分が入ることは、
邪魔することではなく、仲直りしてもらうため。そうだ。そうなのだ。
田中くんは、いまだにぼーっと突っ立っているガキさんのもとへ歩いてく。
291 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 01:53
「ガキさん」

そう呼びかけると、びくっとした坊ちゃんが、振り返る。
怖い顔したガキさんから、にらまれる田中くん。

「なに」
「絵里のこと、追いかけんでいいと?」
「いいよ。放っておけば」
「あんたが行かんならおれが追いかけるけど、それでもいいと?」
「馬鹿なこと言わないでくれ」
思いっきり不機嫌そうに返事をしたガキさんは田中くんを見つめて言う。
「カメを幸せにするのはこのぼくだ、って前にも言っただろう」
そんな元ライバルに、田中くんはニカッと笑いかける。

「絵里ってキレたら怖いと?」
「はっ?」
ちょっと離れながら、ガキさんは昭和のリアクション。
「実はさ、おれ、ぶっちゃけマジギレしたとこ見たことないっちゃね」
「ぼくもこれが初めてだよ」
「そうなん。ま、ガンバ大阪!」
ばちこーん、と田中くんはガキさんの背中を叩いた。
無駄に痛くてそこを擦りながら、ガキさんは苦笑い。
「そのギャグ寒いんだけど」
「絵里の持ちネタやし」
「うん。知ってる」
ふいに目と目が合って、同時に噴き出す少年2人。
愛佳ちゃんは少し離れた場所で、彼らを見つめて、微笑んでいた。

「それじゃあぼくは行くよ」
「ああ。早く仲直りしろよ」
「言われなくてもするよ。きみたちは、映画を楽しんで」
「うん」
田中くんがうなずくと、ガキさんは片手を挙げてから、去って行った。
すると、愛佳ちゃんがバタバタ走ってくる。

「田中さん!もう映画始まってます!」
「うえぇぇぇええええ?」

292 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 01:54


*****



293 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 01:55
吉澤さんはビックリした。
いきなり、絵里ちゃんから電話がかかってきて、何かと思えば「迎えに来て欲しい」と。
あれ?今日はガキさんとスバケン刑事鑑賞のはずじゃ?ちと帰り早くねえか?
疑問を抱きつつも、自らBMWのハンドルを握り、指定の場所へと向かう。

「どうぞ」
「…」
吉澤さんが後部座席のドアを開けると、何も言わずに絵里ちゃんが乗り込む。
おいおいおい。いつもは「ありがとう」って言うなり笑顔を見せるなりしてくれるのに。


「映画はいかがでしたか?」

バックミラーを見ながら、吉澤さんは尋ねる。
しかし、彼女は黙りこくったまま答えようともしない。
これっていわゆるシカトってやつですか。
ちょっと動揺しながらアクセルを踏む。静かに走り出す黒い車。

話しかけていいものか、悪いものか。吉澤さんは運転しながら迷う。
後ろのほうから不機嫌なオーラが漂っている。
そこには、絵里ちゃんが座っている。ということはつまり彼女はいま。
こんな雰囲気初めてだよ。参ったな。ちょっとビビりつつ、ハンドルを切る。


それからずっと、車内は沈黙が続いたまま、亀井家へ到着した。
絵里ちゃんはドアを開けてくれた吉澤さんを見向きもせず、屋敷の中へ入ってゆく。
急いで彼女の後を追う吉澤さん。しかし、彼女は立ち止まって、言う。

「ここでいいです」
「え…」

吉澤さんは、あ然として、去ってゆく絵里ちゃんの後姿を見つめた。
いったい何があったのだ。ガキさんと、何が。心配でたまらなくなってくる。
ソッコーで懐から携帯電話を取り出して、恋人にメールする。

 大事件だ。
 今夜はガキを部屋に呼べ。
 詳細は後ほど。

手短に打って、送信する。すると、ケータイはぶるぶる震えだす。
画面に、愛ちゃんが笑顔でピースしてる写真が表示される。

『ちょっと!大事件ってなに!』
「おまっ。詳細は後ほどって、最後までちゃんと読んだのかよ」
『読んだけど気になるじゃん。なに。何があったん』
周りをキョロキョロして、誰もいないことを確認して、
吉澤さんはふたたびケータイを耳にあてる。

「絵里の様子がおかしい」低い声で言うヨシザワ刑事。
『なるほど。それで』男っぽい声を作って言うタカハシ刑事。
「原因は絶対ヤツだ。ヤツに違いねえ」
『そうか。わかった。今日は、ご飯を2合炊いておこう』
「黒霧も頼むぞ」
『ラジャー』

ピッ、と電源ボタンを押して、吉澤さんはそれを懐に仕舞った。
「ふう」まるで柳葉敏郎のようにカッチョ良く顔を決め、ため息をつく。
うおっとっと!刑事ごっこが予想以上に楽しくて、今この重大な状況を忘れかけてた。
絵里ちゃん絵里ちゃん。吉澤さんは彼女の部屋へ向かって、走り出した。
294 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 01:55

「お嬢様」

扉をトントン叩くが、反応がない。
車の中でもシカトされて凹んだが、今も今で悲しくなってくる。
こうなったら正面突破だ。思い切って、吉澤さんはドアノブを回した。

「お嬢様?」

いつも窓際にある小さなテーブルに置いてあった花瓶が床に転がっていた。
しかも、粉々に砕けて。綺麗な花も、中の水も、散らばっている。
慌ててそれに駆け寄る吉澤さん。こりゃあ大変だ。顔をしかめる。

「お嬢様!!!」

あわわわわ。ふと勉強机のほうを見ると、
絵里ちゃんが、黙々と本棚から本を出しては放り投げていた。
どさっ、どさっ。床にそれがぶつかる鈍い音が、ここからでも聞こえている。

「何なさってるんですか!」

執事は、腕をつかんで彼女を止めようとするけれど、キッとにらまれて、
「何すんの!離して!」
と叫ばれて、思わず後ずさりしてしまう。
「早く出て行って」
無表情で言うお嬢様。こここ、こえー。ビビリまくりのイケメン執事。

絵里ちゃんは、床に一冊ずつ、本を投げている。
”自信がつく本”、”おいしいチーズケーキ”、”カブトムシの育て方”…
吉澤さんはしゃがんでテキパキと拾ってゆく。

棚がすっからかんになり、絵里ちゃんの動きが止まった。
本を5冊くらいまとめて床でddとしていた吉澤さんは、ハッとして顔を上げる。

「早く出て行ってって言ったでしょ」

棒読みでそう言われて、少し怯む。
普段ぽわんとした人ほどブチギレると厄介だ。
絵里ちゃんはまさにそのタイプ。
カッとなったら、何をしでかすかわからない。

「お嬢様。少し落ち着かれてはいかがですか」

しかし、吉澤さんはオトナだ。絵里ちゃんよりも、お兄ちゃんなのだ。
だから冷静に対処しようとする。立ち上がって、彼女を見つめる。
「出て行って」
「お嬢様」
「いいから。ひとりにしてよ」
「出来ません。今のお嬢様を放って、私は出て行けません」

唇を固く結んで、眉間にシワを寄せている絵里ちゃん。
やっぱり、彼女は笑っているほうが断然可愛い。
怒った顔なんて似合わない。吉澤さんは、彼女の頭をそっと撫でる。
でも、その手をすぐに払われる。ちょっと、いや、だいぶショック。

「もう、放っといてよ」
「ガキさんと、何かあったんですか」
「うるさいっ」
ちょうど手を伸ばせば届く場所にあった電気スタンドを、彼女は投げた。
それは床に叩きつけられて、電球がガシャーン!と大きな音を立てて割れてしまう。
物に当たる女って最悪だけど、意外と嫌いじゃない今はちょいMな吉澤さん。

「いいから出て行ってって言ってんでしょ!」
「あわわわ」
そのへんにあった細々としたものを、ポンポン投げられる吉澤さん。
ひいひい言いながら避ける。運動神経は無駄に良いので、なんとかまだ怪我はない。
その代わり部屋はもうめちゃくちゃだ。後でメイドさんを呼ばなきゃいけない。

「早く!出てって!」
「お嬢様やめてください!」
「やめない!」
「あっ」

とうとう絵里ちゃんは、昨年のバースデイに愛ちゃんがプレゼントした
ガラスの亀の置物をぽいっと投げた。落ちたら割れること間違いなし。
ちょちょちょちょ!吉澤さんは、それだけは助けないとと思って、必死で床へダイブする。
さすがイケメン。見事にキャッチする。が!
295 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 01:56
ゴツン。とおでこに違うものがヒットする。
絵里ちゃんは、亀を投げるとすぐさま写真立てを投げていた。
それが吉澤さんの綺麗なおでこにクリーンヒット。
しかも尖った金属が。スコーンと。

「い、いってぇぇぇぇええええええええええ!!!!!!!!!!!」

おでこを押さえて絶叫する吉澤さん。
それで我に返ったのか、絵里ちゃんが慌てて駆け寄って来た。
「吉澤さん!」
「あいたたたた…」
ちょっと血!血出てる!赤い手のひらを見て、イケメンは絶句する。

「ごめんなさい…ホントにごめんなさい」
「だ、大丈夫です」

吉澤さんを傷つけた写真立てが、床の上に転がっていた。
近くに絵里ちゃんとガキさんのラブラブ2ショット写真が落ちている。
笑顔で、2人とも可愛い。
それを見ていた執事に気づいて、絵里ちゃんも視線を落とす。

「サイテーですよね。絵里」
「本当に」
きっぱりと、叱るように吉澤さんは言う。
そして、大事に握り締めたガラスの亀に視線を移す。
「これは愛がお嬢様のために、悩んで悩んで、泣きながら悩みまくった結果
買ったものなんですよ」
「…」
「それをゴミみたいに投げ捨てるなんてぼくは許せません。それに」
その写真に手を伸ばす。それも大事に、拾い上げる。
「ガキさんとの、大切な写真も。投げちゃだめですよ」

2人の関係は、お嬢様と執事。なんだかんだで、長いお付き合い。
だから、吉澤さんはある程度絵里ちゃんの性格もわかっている。
逆に、絵里ちゃんは吉澤さんのことをあまり知らない。
それは吉澤さんが彼女の前ではジェントルマンを演じているからだ。
演じてると言うと、亀井家での姿がウソみたいに聞こえるが、
実際ウソなのだ。悪い冗談。笑わせんなって話だ。
絵里ちゃんは本当の吉澤さんをまだ知らない。
言うときは言う男なんだって、たとえこの家のお嬢様に対してでも
きちんとものが言えるんだって、きっと今、初めてわかったと思う。

「大切にしてください。これも、これも」

右手には血がついているので、左手で1つずつ、絵里ちゃんに渡す。
彼女は写真立てと亀を両手に持って、素直にうなずいた。
「ごめんなさい」
もう、いつもの絵里ちゃんだ。吉澤さんは微笑む。
「なんか絵里、イライラしてて、何もかも嫌になって…」
小さな声だけど話し始めた彼女に耳を傾ける。

「映画館で偶然田中くんに会ったんです」
「え?」
「本当に、偶然。あんな場所で会うなんて思ってもなかった。
最初、トイレで愛佳ちゃんと会って。田中くん、愛佳ちゃんと映画を
観に来てたんです。確かに、愛佳ちゃんは湾田高に通ってて、
2人が知り合いでもおかしくはないんですけど、とにかくビックリして。
でも、不思議と彼と普通に話せたんです。普通に笑えたし」
それはなぜか。吉澤さんにはなんとなくわかる。
あの白いマフラーを処分して、あいつへの想いを完全に断ち切ったからだ。
あいつはもう、絵里ちゃんの恋人でも何でもない。
ただの知り合い。たくさんの友人の中の一人になったからなのだ。

「その前に、今日、絵里待ち合わせに3時間遅刻したじゃないですか」
「あぁ。そうですね」
「ガキさん、口では怒ってないって言ってるのに怒ってるんですよ。
それに、絵里のこと馬鹿って言うし、なんか絵里もイライラしてきてぇ…」
「今日は服装で悩みすぎたのが失敗でしたね」
「そうっ。そうなのぉ。山本さんがあれもいいこれもいいって言うからぁ」
アヒル口になって、鳴きそうな、いや、泣きそうな絵里ちゃん。
諸悪の根源はモナだ。あの女豹なのだ。くっそー。
でもあの女には近づきたくない。とって食われそうだから。

「そんな気まずいときに、田中くんにバッタリでしょ?
ガキさんすっごい機嫌悪くなっちゃって。それで、なぜか言い合いになって。
あの人、田中くんのとこに行けばいいじゃんって言ったんですよ?
それにもう絵里カッチーンときちゃって、映画も観ないで帰ってきたんです」
「観なかったんですか?」
「はい。観なかったですよ?」
ということは絵里ちゃんは、ガキさんとケンカをするために映画館へ行った
ようなものじゃないか。吉澤さんは苦笑いしか出てこない。

「それで、こんなことを」
「ホントにごめんなさい」
申し訳なさそうに、絵里ちゃんが吉澤さんの前髪をかき分ける。
その痛々しい傷を見て眉毛を下げる。
「そうだ。救急箱」
「あぁいいですよ。自分でしますから」
「だめです。絵里が持ってきますから」
296 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 01:56

どこかから救急箱を借りてきた絵里ちゃんは、吉澤さんをソファへ座らせ、
その隣で、迷わず取り出したムヒのふたを開けた。

「ちょ、それ虫さされの薬なんですけど」
「ふぇ?」
ぶはっ。首をかしげた絵里ちゃんの顔があまりにアフォで可愛くて、
吉澤さんは言葉を失った。同時に胸の、このへんがきゅんって…
恋か。頭の中にいる小さな愛ちゃんから頭を叩かれる。
いかんいかん!吉澤さんは救急箱を覗き込んで、マキロンを取り出す。
「これでお願いします」
「わっかりましたぁ」

消毒液は傷にしみた。痛かったけど、一生懸命手当てしてくれている
お嬢様を見ていると心が和んだ。まあ、その怪我の原因は彼女なんだけど。

「あ。吉澤さん」
「なんです?」
「ばんそうこう、アンパンマンのものしかないんですけど」
「こ、これ誰の救急箱なんですか?」
「青山さんのです」
絵里ちゃんがばんそうこうの包みを破りながら答えた。
ちょ。青山おまえ。腹の底から笑いがこみ上げてくる吉澤さん。

「ちょっとぉ、動いちゃだめですよ」
「あ。すみません」
「よし。出来た」
やさしくそこを指で押さえられて、吉澤さんはより目になる。
絵里ちゃんは、うへへと目を細めて笑った。
そして、吉澤さんのおでこを見つめて言う。
「可愛い」
いやいやあんたのほうが可愛いぜ。とは言えるわけがないイケメン執事。
浮気か。頭の中の小さな愛ちゃんから、さっきよりも強く、叩かれた。
297 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 01:57


*****



298 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 01:58
カラオケボックス・ゴローから出てきたときにはもう、空はオレンジ色。
眩しい夕焼けに、田中くんは目を細めた。
隣の愛佳ちゃんはそんな先輩の横顔を笑顔で眺めている。

「さて。帰りますか」
「そうですね。帰りますか」

移動手段はバス、らしい愛佳ちゃんをバス停まで送る。
でも、まだバスがくるまで時間があるっぽいので、2人でベンチに座る。

「今日はありがとうございました。映画も観れたし、楽しかったです」
「うん。面白かったね、映画」
「はい」
視線を合わせて、田中くんは彼女と笑う。
「まあ、映画館でちょっと変なことがあったけど」
「仲直りしたんですかね」
「どうやろう。でも、あの2人、兄妹みたいなもんやけん。
どうせすぐに仲直りするやろ」
「そうですね」

愛佳ちゃんはなぜか、絵里ちゃんとのことを全く聞いてこない。
聞きたいけど聞けないのか、ハナから興味がないのかどうなのか。
わかりやすようでわかりにくい彼女の感情。
今日だって、1日一緒に居たけれど、進展したやらしてないやら。
上手だったら上手だったらでちょっと引くけどな。
田中くんは、試しに真面目な顔でじっと見つめてみる。

「どうしたんですか?」

笑顔で首をかしげてくる愛佳ちゃん。
上手くあしらわれてるのか。それともこういうのに慣れてないだけなのか。
微妙だ。簡単そうに見えていたこの関係。案外難しいかもしれない。

「あ、バス来ました」

彼女がそう言って立ち上がる。田中くんも、腰を上げてバス停に近づく。

「それじゃあ、月曜。また部活で」
「おう」
「今日はホントにありがとうございました」
「ばいばい」
「失礼します」
手を振って、愛佳ちゃんは笑顔でバスに乗り込んだ。
田中くんも手を振る。微妙な、笑顔で。

バスが走り出す。
田中くんはいちおう、見えなくなるまで見送って、歩き出す。

『もぉ、なに?』

とつぜん、照れてはにかむ絵里ちゃんが、脳裏に蘇ってくる。
さっきも、同じように真面目な顔で見つめたのにな。
相手が違うのだから、反応が違うのは当たり前。
だけど、何か違うんだよな。田中くんはそう思う。
愛佳ちゃんだと何か、はっきりとは言えないけれど、違う。
それは田中くん的に、ものすごい圧倒的なもので、
この恋を躊躇う理由にするには、十分なものだった。
299 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 01:58

つづく


300 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/08/20(月) 02:01

(0´〜`)<刑事1名負傷しました
川*’ー’)<わかったすぐ応援に行く


301 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/21(火) 00:33
ちょw絵里お嬢様こええええええええええええええ
でも俺もイヤじゃねええええええええええええええ
302 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/21(火) 00:44
ぜんざいwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
てか絵里ちゃんが!絵里ちゃんが!(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
ちっちゃな愛ちゃんハァ━━━━ ;´Д` ━━━━ン!
303 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/21(火) 01:57
刑事さん、バレて仲間に殉職させられないでねw
304 名前:重ピンピン 投稿日:2007/08/22(水) 01:01
更新オツッス
今回は油断せずに読ませていただきました

が!!
残念ながらブチ切れ亀ちゃんにしてやられました・・・・
さすがです。いつもながら感服させられました
では次回も楽しみにしています

あと、ガキさんが借りっぱになっている例のブツも♪
ガキさんVS重ピンクの熱い闘いも自分だけちょっぴり
楽しみにしてま〜す
305 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/29(水) 22:49
273さんじゃないけど、「お気に入り」に追加しました ノ
306 名前:(0´〜`) <イケメン執事がまた全レスするYO 投稿日:2007/09/02(日) 00:12
>>301
ドMさんいらっしゃい

>>302
おっきな愛ちゃんにもハァ━━━━;´Д`━━━━ン!!!!!!してくれYO

>>303
余計なお世話だYOwww

>>304
重ビン本当に一息ついていいんだYO

>>305
ノシ
307 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/09/02(日) 00:13




308 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/09/02(日) 00:14
田中くんは、携帯電話の電池のふたを開ける。
そこにはもうプリクラは無い。最近、やっとはがした。
これで、絵里ちゃんのことは終わりにしよう。そう思った。
だけどいざ彼女の顔を見てしまったら、ちょこっと後悔が襲ってくる。
本当に諦めてしまっていいのか。自分自身に問いかける。
男らしくケジメをつけたつもりだったのに、チョーかっこわるい。
かっこわるいけど、それが正直な自分の気持ち。決して誤魔化せない。
この気持ちを無視してテキトーなことをするなんて、出来ない。

とぼとぼ歩いていると、ケータイから着うたが鳴り出した。
愛佳ちゃんからのメールだった。
マメで真面目な彼女らしい、『ありがとうございました』メールだった。
初めてのデート。今朝はとても良い気分だったというのに、今は。

絵里ちゃんの声が、彼女の微笑が、頭から離れない。
炎は消えた。消したはずなのに!
ここで、大声で叫べない田中くんは、走り出した。
家までまっすぐ、歩道を駆け抜ける。

林くんは、運命の人と出会ったらしい。
斉藤くんも、巨乳とヨリを戻したらしい。
親友たちは2人とも本気の恋をしている。
田中くんは走る。何かを吹っ切るように、全速力で。
そんなことで吹っ切れるはずもないのに、夢中で。


家の近くにたどり着いた田中くんは、ぴたっとその場に立ち止まった。
ぜえぜえ息を切らしながら、自分の家の前を見る。
ちょうど、車が1台、走り出すところだった。両親が笑顔で見送っている。
その車はピンクの車。全然関係ないだろうが、思い出してしまう。
小さくなってゆくその車を見送って、田中くんは家に近づいていった。
ママが気付き、手を振ってくる。パパはさっさと家の中へ。

「おかえり」
「ただいま」
「どうしたんね。そんないっぱい汗かいてから」
「走って帰ってきたけん。誰か来とったと?」
「パパの知り合い」
「へえ」
会話をしながら家に入る。
「その人、奥さんと、わざわざウチまで結婚の報告しに来たんよ。
美男美女でね、お似合いのカップルやった」
田中くんはママの話を聞きながらスニーカーを脱ぐ。
そういえば、藤本美貴っていうやつももうすぐ結婚するらしいとか何とか。
いやいや。偶然にしては出来すぎてる。それにもう、今日は1回あった。
絵里ちゃんと映画館でバッタリ会ったのだ。これ以上何かあるわけない。
あんな車に乗ってる人はきっと他にもたくさんいる。だから、違う。

「れいなもお昼に家おったら特上の寿司食べられたのに、残念やったね」
「マジで?しくったー」
明るく笑うママに笑顔で応えて、田中くんは階段を上る。
自分の部屋に入って、ドアを閉める。
ため息をひとつついてベッドの上に倒れこむ。

さっきの、愛佳ちゃんのメールを見る。
まだ返事していない。する気分になれない。

ピンクの車。藤本美貴。嫌な記憶が、頭にちらついてしょうがない。
あいつを見つめる、絵里ちゃんの眼差し。今でもすぐに思い出せる。

でも、彼女はいまガキさんと付き合っている。
右手の薬指に指輪をつけていた。田中くんは見逃さなかった。
ただの幼なじみだって言い張っていた相手と、そんな。

ガキさんは、藤本美貴が結婚するってどうして教えてくれなかったのだろう。
きっと知っていただろう。だけど、一切そんなことは言わなかった。
絵里ちゃんと仲直りするために色々と助けてくれたけど、それは感謝してるけど、
やっぱり、あいつが彼女のことを好きなのは確かなこと。疑ってしまう。

藤本美貴と、何も関係が無いってわかれば、彼女のことを許してたはずだ。
だけど、田中くんは抑えられた。ナックルボールで三振してしまった。
勝利投手はガキさん。田中くんは、敗北したのだ。
再試合で勝利を掴もうとした。だけど、今度は愛ちゃんという強敵に負けた。
もう負けたくない。負けたくないからといって、テキトーなことはできない。
だったらいま、自分がすべきことは、何なのだろう。

運命の人と、気付いたときにはもう遅い。
この想いはいったい、どうすればいいのだろう。
309 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/09/02(日) 00:14


*****



310 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/09/02(日) 00:15
「カメ。さっきはあんなこと言って、ごめん」

眉間にシワを寄せ、真面目な顔を作っているガキさん。
愛ちゃんは箸を持っていないほうの手をブンブン振ってNGを出す。

「それじゃ全然謝罪の気持ちが伝わってこない」
「はあ?」
「カメ、じゃなくて、絵里でしょ。ここは」

愛ちゃんの部屋で、夕食を食べながら仲直りの練習。
でも、彼女はとても厳しくて、全然OKを出してくれない。
なぜか大人しい吉澤さんは黒霧島をお湯割りで飲んでいる。
この人が静かなんて珍しいな。首をかしげながら、ガキさんはもう一度言う。

「絵里、ごめん」
「なにが?」
「さ、さっきはあんなこと言って、ごめんなさい」

なんで、愛ちゃんにひたすら謝ってんだろう。
って思った瞬間、彼女がおでこを叩いてくる。
「あいたっ。何すんのさ!」
「おまえ本当に絵里と仲直りする気あんのかよ」
「あ、あるよ当たり前じゃん」
もしかして、乗り気じゃないことバレてる?
愛ちゃんから大きな瞳でじっと見つめられて、つい視線を逸らしてしまう。

「こういうのってね、先に延ばせば延ばすほどだめなんだよ。
自分が悪いと思ったらすぐ謝る。これ鉄則ね」
「はい」
素直に返事をするガキさん。彼女には逆らえない。

「………」

それにしても、吉澤さんが静かだ。
ガキさんはちらりと横目で隣の彼を窺う。
「え?」
「ん?」
「いえ…」
おかしいな。吉澤さんのおでこに何か可愛いキャラクターが見えたぞ。
見間違いかな。あはは。ガキさんは笑いながら、ご飯を口の中へかきこむ。

「ひーちゃんも何かアドバイスしてあげてよ」
「うん」
グラス片手に、少し斜め下を見つめる吉澤さん。
その横顔は文句なしでイケメンだ。かっこいい。
だけど、おかしいな。おでこに何か貼ってあんだよな。
ガキさんは、そこを凝視する。やっぱ、ばんそうこうだよな。
気になる。気になるけど話の流れを切ってしまうから聞けない。
KYだって言われてしまう。KYは、絵里ちゃんだけで十分だ。
311 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/09/02(日) 00:15

「ガキさんは、絵里お嬢様のこと、好きか?」
「はいっ?」
唐突な吉澤さんの質問に、変な声が出てしまう。

「そりゃあ、好きですけど」
他人にこういうこと言うの、けっこうハズいな。ガキさんはおでこをかく。
「その気持ちがあれば、ぜったい大丈夫だよ」
「そうですかね」
「お嬢様も、おまえのことが大好きなんだ」
「…」
「おまえが思ってる以上に、お嬢様はおまえのこと、愛してると思う」

お酒が入っているせいなのか何なのか。吉澤さんがいつもと違う。
もしかしてそのばんそうこうパワー?ガキさんはそんなKYなことを考える。
ふと愛ちゃんを見てみれば、ポワーっとした顔で吉澤さんを見つめてる。
はいはいごちそうさま。なんて、全然関係ないことで誤魔化そうとする。

「おまえがさ、お嬢様にあんなこと言っちゃった気持ちもわかるよ。
でも、もう1回、お嬢様の気持ちをよく考えて欲しい。
お嬢様が、どういう決意をもっておまえを選んだのか。
あいつじゃなくて、おまえを、どうして選んだのか」

落ち着いた声で吉澤さんは言い、立ち上がって向こうに行った。
愛ちゃんがハンガーにかけてくれたジャージのポケットから、
ピンク色の封筒を取り出して戻ってくる。そしてそれをガキさんに差し出す。

「これは…」
「元カレのことが気になるのもわかる。だけどおまえは、おまえには、
もっと気にしなくちゃいけない大切なことが、あるだろ?」

吉澤さんは微笑んだ。逆にガキさんは、その封筒を手に、表情を引き締める。
そこには絵里ちゃんの字で”ガキさんへ”とある。そっと開けて、中の手紙を取り出す。

それを見た瞬間、ガキさんの頬が緩む。
「なんて書いてあったの?」
「いや。これは見せれない」
「えー」
愛ちゃんは頬杖をついて、くすくす笑いながらガキさんを見ている。
「絵里ってさ、いつもくねくねしてて、テキトーで、おいおいって感じだけど、
ガキさんのことは本当の本当に、本気なんだよ。テキトーなんかじゃないの」
「うん。わかってる」
ガキさんは、横浜の夜を思い出す。
あのとき、絵里ちゃんが言っていたことが全てなのだ。
たとえ何があろうと。元カレと再会して、動揺しようと。
「本気」だと言っていた彼女のことを、信じてる。
信じてるから愛してるって思えるし、今すぐ会いたいって思ってる。
312 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/09/02(日) 00:16
「今からカメのとこ行きたいけど」
「行かんの?」
「最近、夜遅いと親がうるさいんだ。だから、何か書くもの貸してくれない?」

愛ちゃんからメモ帳とペンを借りて、ガキさんは彼女へ返事を書く。
恥ずかしいから、愛ちゃんたちには見えないように。
書き終えたら、厳重に折って、吉澤さんに渡す。

「吉澤さん、これをカメに渡してもらえませんか」
「明日の朝でもいい?」
「いいです」
「わかった。朝イチで渡しとく」
「ありがとうございます。それと、愛ちゃんも、ありがとう」
ガキさんは、間に入ってくれた2人にお礼を言う。
たぶん2人がいなけりゃ仲直りなんて出来なかったと思う。
まあ、まだしてないけど。

「なあなあ」
吉澤さんが急にニヤニヤしだして、肩を組んできた。
「このアンパンマン、誰に貼ってもらったと思う?」
「は?」
さっきまではクールな大人の男だったのに、今は馬鹿っぽい小学生みたい。
ガキさんの顔が、無意識に少し引きつる。

「誰なんですか」
「さぁ。お嬢様にでも聞いてみれば?」
313 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/09/02(日) 00:16


*****



314 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/09/02(日) 00:16
その答えは、絵里ちゃんに教えてもらうしかない。
田中くんのケータイには、彼女の番号が表示されている。
通話ボタンを、押す。深呼吸しながらケータイを耳にあてる。
プルルルル。繋がった。心臓がばくばくしてくる。
柔道の、大事な試合のときよりも、緊張してくる。

手に汗をかいていて、とても気持ち悪い。
だけど、我慢して待つ。そして、絵里ちゃんが出た。

『もしもし?』
「もしもし。いま、大丈夫?」
『だいじょうぶだけど…』
電話の声だけで、困ってる様子がわかる。
それでも田中くんは進む。進むしかないのだ。

「今日、ガキさんとケンカしたんやろ?」
『…うん』
「仲直り、したと?」
『まだしてない』
「そっか」なら都合が良い。今しかない。

「おれ、こないだ、絵里に会いにハロ大に行ったんよ」
『へ?』
「結局、会えんかったけど。愛ちゃんに、邪魔されて」
あの日のことを思い出して、ちょっと切なくなる。
「いま思えば、おれは色んな人に邪魔された。愛ちゃんに、吉澤さん。
それと、ガキさんにも」
『…何が言いたいの?』
「おれさ、まだ絵里のこと、好きなんよね」

今夜の田中投手は直球勝負。
きっぱりさっぱりはっきりと、絵里ちゃんに言った。

「あれからもう3ヶ月くらい経つけど、絵里のこと、全然忘れられんかった。
1回諦めたんやけど、今日会ったらなんか、やっぱり好きやなっち思ったんよ。
でも、この気持ちをどうしたらいいか、考えたけど全然わからん」
『…』
「やけん。正直な気持ちを絵里に聞いてもらおうと思って、電話した。
今さらやって思われてもしょうがないし、もっと早く言えっち感じなんやけど」

彼女は、すっかり黙り込んだ。
田中くんはどんどんストレートを投げる。

「好きやけん、付き合って欲しい」
このセリフは2人の始まりだった言葉。
絵里ちゃんは覚えてるだろうか。覚えてなかったらショックだけど。

「もう誰から何を邪魔されてもおれは負けん。
藤本美貴のことだって全然気にせんし、吉澤さんからどんだけにらまれたって
構わんし、愛ちゃんからまた”諦めろ”って言われたって絶対に諦めんし、
ガキさんよりも、おれのほうが絵里のことを幸せに出来る自信がある。やけん」
『ねぇ。れいな』
「なに」急にブレーキがかかったみたいに、少し前のめりになる田中くん。
絵里ちゃんは、ほんの少しだけ間を空けて言葉を続ける。
『れいなが、そんな風にまだ絵里のこと想っててくれたことは、すごいうれしいよ』
「うん」
『絵里も、別れてからずっと、れいなのこと引きずってた。いつも、ふとした瞬間に
れいなのこと考えてた。忘れようって思っても、頭から離れなかったの』

思い切って投げた甲斐はあったのか。田中くんは息をのむ。
彼女の記憶の中に、自分はまだちゃんと居た。なんだかホッと安心する。
だけど、次に彼女が言った言葉は、まるでゴジラの一振りのようだった。

『でもね、れいな。絵里はいま、ガキさんと付き合ってるんだよ?』

ファールファール。田中くんは、もう一度振りかぶる。

「おれは絵里と別れたことすっごい後悔しとる。やり直したいって、マジでそう思っとう。
なんであんとき絵里の話をちゃんと聞いてやらんかったんやろって、なんであのパーティ
に藤本美貴が来てたってだけで諦めて帰ったんやろって、今でもすっごい、後悔しとるんよ。
あんとき、帰らんで絵里のところに行くべきやった。絵里と話をしたらよかった。
そしたら絶対別れんですんだのに。なんで、何もせんで帰ったんやろっち思っとう」
『…あのパーティって、なに?』
「なんかよう知らんけど、ガキさん家のパーティやった」
『れいな、来てたんだ』
「ガキさんが、来て絵里と話したらいいって。結局、話さんまま帰ったんやけど」
『全然知らなかった』
「ガキさん、何も言っとらんかったんや。まあ普通言わんか」
『なんで?』
「だってガキさんは絵里のことが好きやったんやろ?」
『でも、ガキさん、絵里の相談にのってくれたよ。早く仲直りしろって、言われたし』
「本心は、早く別れろっち思いよったやろ」

なぜか、ガキさんのことを悪く言ってしまっている。
まずいと思いつつも、話の流れは止められない。
315 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/09/02(日) 00:17
彼女は、一息ついてから言う。
『悪いのは、全部絵里なんだよ』
「え?」
『正直に、素直に本当のことを言えなかった絵里が全部悪いの。
ガキさんは悪くない。愛ちゃんも吉澤さんも、藤本さんも悪くない』

気のせいか、絵里ちゃんは全く動揺していないし、むしろ落ち着いているようだった。
ひとりで焦っている田中くんは、余計にわからなくなる。

『絵里だって後悔してる。なんであんなことでれいなと別れちゃったんだろって、
今でもそう思ってる。だけどね、れいな…もう遅いよ。遅すぎるよ』

自信を持って投げたストレートをバックスクリーンに叩きつけられた気分とは、
まさに今この瞬間のことを言うのかもしれない。
田中くんは返す言葉が見当たらず、沈黙してしまう。

遅い。愛ちゃんから言われるよりも、絵里ちゃんから言われるほうがもっと重い。
重すぎて潰れてしまう。ぺらぺらの、紙みたいになってしまう。
そよ風でもどこか遠くへ飛んで行ってしまうくらいに、なってしまう。

『きっとれいなには、絵里なんかよりもっと良い相手がいると思う。
こんな、ひとりじゃ何も出来ないだめな絵里なんかより、もっと良い人が』
「おれは…おれは絵里じゃないと」
『…ごめんなさい。絵里、その気持ちには応えられない』

絵里ちゃんは、大きな岩。どんな強い風に対しても決して動かない。
対して田中くんはぺらぺらペーパー。彼女に潰された、かわいそうな。

『絵里のことはもう忘れて。幸せになってよ。れいな』

それが答えだった。なんて、悲しい答えなのだろう。
たぶん、電話の向こうで彼女は微笑んでいる。本当にそう思ってるのだろう。
田中くんにはわかる。だから、本当の本当に、いまケジメをつけるべきだと、そう思う。
言いたくない。こんなセリフを彼女に言いたくはない。だけど、言わなきゃ、いけない。

「絵里も、幸せになれよ」

ぎゅっと目を閉じて、苦い顔で、声だけ明るく、田中くんは言った。
316 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/09/02(日) 00:17


*****



317 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/09/02(日) 00:17
午前10時に行く。その宣言どおりに、ガキさんの乗っている黒い車は、
その5分前には亀井家の門をくぐっていた。

ポケットから、昨日もらった手紙を取り出す。
それを眺めてニヤけるガキさん。ちょっとキモイ。

ごめんね。ガキさん大好き。

言葉にすればただの二言。
だけどそれは魔法のような力を持っていた。


「カメ」

車が玄関の前に乗りつけて、ガキさんはすぐにドアを開けて飛び出した。
なんと、驚くことに彼女がそこで待っていたのだ。吉澤さんと、だけど。

「おはよ。ガキさん」

ふわりと微笑んで言う絵里ちゃん。
あまりに可愛くて、ガキさんの胸はズッキューンとなる。
視線が合ってもすぐ逸らす。まるで今、恋に落ちたみたいに。

「これ。さっきもらったよ」
ひらひらと振って、絵里ちゃんはその紙を見せる。

ぼくもごめん。明日10時に会いに行くよ。カメ大好き。

改めてそれを見つめて、彼女はこれでもかってくらいふにゃふにゃ笑った。
ガキさんはそんな彼女に頭を下げる。

「昨日はホントにごめんなさい」

潔く、謝る。
すると絵里ちゃんもぺこっと頭を下げた。

「わたしのほうこそ、ごめんなさい」
「カメは悪くないよ。悪いのはぼくなんだから」
「ううん。絵里も悪いの」
「いやいや。ぼくだけだよ」
「絵里も」
「ぼくだよ」
「絵里もだってばぁ」
吉澤さんはそんな2人の間に入って、
「まあまあ。今回はケンカ両成敗ということでいいじゃないですか」
ガキさんと絵里ちゃんは同時に噴き出す。
「そうだね。そういうことにしとこうよ、ガキさん」
「うん」
めでたく仲直りしたということで、ガキさんは腕時計を見る。
「やばっ」
「どうしたの?」
「映画の時間に遅れちゃう。カメ、今から出れる?」
「へ?」
「お嬢様のお荷物、ただいまお持ちいたしますので」

気を利かせた吉澤さんが、走り出す。
首をかしげてハテナ顔の絵里ちゃんにガキさんは言う。
「昨日観れなかったじゃん。だから」
「あ」
また、見つめ合って微笑む。
絵里ちゃんはくねくねしながら、ガキさんの腕を掴んだ。
ぶらぶら揺らして、上目遣い。
いやはや。照れるな。ガキさんはニヤけた顔でおでこをかく。

「ポップコーン食べてもいい?」
「いいよ」
「パンフレット買ってもいい?」
「いいよ」
「やさしいね。ガキさん」
するすると絵里ちゃんの手は移動して、ガキさんの手を握る。
甘えるように指を絡められて、キモイくらい頬が緩むガキさん。
「だって、カメのことが好きだから」
「きゃーもぉやだーガキさんってば」
反対側の手でバシバシ二の腕を叩かれる。
けっこう痛いけど、そんなの関係ねえ。
だって、ガキさんは絵里ちゃんのことが大好きだから。
318 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/09/02(日) 00:18

スバケン刑事は愛ちゃんが言った通り、面白い映画だった。
他のお客さんはみんな笑顔でぞろぞろ出口へ向かっている。
ガキさんも、大満足の表情で席から立ち上がる。
すると絵里ちゃんが「ん」と指輪のついた右手を伸ばしてくる。
「え?」
「ん」
「はいはい」
その手を引っ張ると、彼女はうへへと笑いながら腰を上げた。
「自分で立たないとかどんだけー?」
口ではそんなことを言いながら、ちゃっかり恋人繋ぎにするガキさん。
彼女といちゃいちゃしつつ、シアター1を出る。

それからパンフレットを買って、映画館を出る。
ミライ百貨店のキッチンズバーガーへ寄り、そこで昼食。
向かい合ってハンバーガーをはむはむする。

「面白かったねぇ」
そう言い、絵里ちゃんはバニラシェイクを飲んだ。
「うん。面白かった」ガキさんはポテトをつまむ。
「あれ最高じゃなかった?てめえのぜんざいがうめえんだよって」
「ぶはっ」
チョーうけるー。ガキさんは大爆笑。
楽しそうな恋人を見て、絵里ちゃんも笑った。
調子に乗って、怖い表情をつくるガキさん。
「てめえら全員ヤキソバにすんぞ!ってね」
「意味わかんないよねぇ」
「でも全員ヤキソバにされてたじゃん」
「そうだよねぇ」
こみ上げてくる笑いをこらえながら、2人は映画の感想を語り合う。
昨日ケンカしたことなんてもうすっかり忘れているみたいだった。

「そう」思い出したようにガキさんは顔を上げた。
首をかしげ、絵里ちゃんがガキさんを見つめる。
「昨日さ、吉澤さんがおでこにばんそうこう貼ってたんだけど」
「あぁ」
彼女は、気まずそうな顔になって、ストローを咥える。
その口元が相当色っぽいんだまた!っておいおい。ガキさんは続ける。
「それアンパンマンのばんそうこうでさ、さすがに愛ちゃんはそんなもの
使わないだろうし、誰が貼ったのかなって気になったんだけど」
「絵里だよ」
「マジ?」
「うん。マジでじま」
真顔でそんなギャグを言われて、ガキさんは失笑する。

「ちょっと色々あってね」
「なに」
「もういいじゃん。全部終わったことなんだからさ」
「そう?」
「そうだよ」
「まぁ、カメがそう言うのなら、別にいいんだけどさ」


新垣家の黒い車で、亀井家へ向かう。
キッチンズバーガーでおしゃべりしすぎて、気付けば夕方だ。
絵里ちゃんを家まで送って、今日は帰ろう。
ガキさんは、少なくとも、亀井家に到着して、待ち構えていた吉澤さんが
そのドアを開けるまでは、そう思っていた。

「ありがとう。吉澤さん」
微笑みながら、絵里ちゃんが車を降りる。
吉澤さんも笑顔で彼女を見た。今日、彼のおでこには肌色のばんそうこう。
もちろん、今朝お風呂上りに愛ちゃんから貼ってもらったものだ。

「じゃあ、カメ。また明日」
「え、帰っちゃうの?」
ここに寄ってくのが当たり前みたいな感じで、絵里ちゃんは言った。
ドアは開けっぱなし。彼女はガキさんを見つめっぱなし。
「だってもうこんな時間だし…」
帰りが遅いと色々うるさく言われるし。ガキさんは、まだ座ったまま。
だけど、絵里ちゃんが右手を差し出してくるもんだから。おでこをかく。
「じゃあちょっとだけ」
その手を取って、車を降りた。
319 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/09/02(日) 00:19

絵里ちゃんの部屋に2人きりになって、考えることといえば限られている。
そういや今週はまだ一度も、なんていう事実が頭を過ぎったりする。
彼女はガキさんの手を引っ張って、ソファのところに連れてくる。
ぱふっ、と音を立てて彼女がそこに腰を下ろす。ガキさんも、隣に座る。

「何か飲む?」
「いや…」
やっぱり1回そういうことを考えちゃったらだめだ。
ガキさんは、絵里ちゃんをじっと見つめて、手を強く握り締めた。

「ガキさん」

この、淫らな考えを見透かしたように、彼女は急に大人の女の顔になる。
不思議だ。ガキさんは磁石に引き寄せられるように、彼女の唇を奪う。
触れるだけで、すぐに離れる。彼女はぺろっとそこを舐める。そして微笑むのだ。
幸せそうだけどまるで挑発してくるような表情で。ああ。なんてふしだらな!

「絵里たちってさ、今までケンカとかあんまりしたことなかったよね」
彼女は静かに顔を寄せてきて、ガキさんの目の前で囁くように言う。
「そうだね」短く応えるガキさん。近い。お互いの吐息が、肌を撫でている。
「これからも、昨日みたいにちょっとしたことでケンカしちゃうときも、あると思う」
「うん」
「その時は、絵里、あの手紙を思い出すから。ガキさんがくれたあの手紙を。
だからガキさんも、絵里の手紙を思い出してね」
微笑んでガキさんはうなずく。
目を閉じた彼女に、やさしく口づける。ゆっくりと、ゆっくりとキスをする。
ごめんね。ガキさん大好き。そう口では言われていないけど、言われている気持ちになる。
だからガキさんも、大好きだよ、と何度も心の中で言いながら、キスをする。
両腕でぎゅっと抱きしめて、我に返ったときにはなんと、彼女をソファに押し倒していた。

「ガキさん。シャワー浴びよ」
なだめるように囁く絵里ちゃんの首筋にガキさんは鼻先を埋める。
「シャワーなんかいいよ」
「よくないよぉ」
「いいから」
よいではないかよいではないか。悪代官は、彼女の洋服の中へ、手を入れる。
そしてまた、ねっとりと大人の口づけを。彼女も自ら舌を絡めてくる。
いつもいつもベッドだから、ソファだとなんだか新鮮。
ぐへへへ。ガキさんはいやらしい微笑みを浮かべながら、彼女のブラジャーをずらす。
おっぱいをもみもみする。その途端聞こえてくる、エッチな声。可愛い彼女の声。
たまりませんな。心身共にビンビンなガキさんだが、重要なことを、思い出す。

「……」
絵里ちゃんは、いきなり手が止まった恋人を見る。
至近距離で見つめ合って、ガキさんは、苦い顔をした。
「どうしたの?」
い、言えない。いま、ゴム状のものが無いだなんて言えない。
すでにこんなに盛り上がっているのに(ガキさんのアソコも)、
絵里ちゃんに、はいこれでおしまいですよなんて言えるわけがない。
自分的にも言いたくない。したい。絵里ちゃんとチョメチョメしたい。
だけどやっぱり生はまずい。
ほら、最近だんだん暖かくなってきて腐りやすい時期だからさ、って違う。

「ガキさん」
黙り込んだガキさんの頬を、絵里ちゃんが両手で挟みこむ。
微笑んだ彼女は、ぐいっと引き寄せて、キスをしてくる。
いつからこいつはこんな大胆な女になったのだ!
誰がこんな、淫らに舌を入れてくる女にしたのだ!
甘くて、とても濃厚な口づけは、ガキさんの迷いをどろどろに溶かしてゆく。
彼女にまるで誘われてるようで、止まった手も、再び動き始める。

「ねぇ。好きって言って」
ガキさんの耳元で、絵里ちゃんがねだる。柔らかいおっぱいを揉んだり、
硬くなったその先っぽを指で弄ったりしていたガキさんは、彼女の瞳をまっすぐに
見つめて、「好きだよ」と言う。「好きすぎてやばいから」間を空けずにそう付け加える。

ガキさんは、絵里ちゃんの洋服をたくし上げ、直接そこへ口づける。
しつこいくらい、おっぱいを愛撫する。赤ちゃんみたいに、ちゅぱちゅぱする。
彼女は高い声を上げ、与えられる快楽に身を委ねている。
ガキさんは彼女のこの、エッチな声が好きだ。エッチな顔も好きだ。
実はエッチなことが好きなところも好きだ。要するに全部好きなのだ。
好きすぎてバカみたいだ。絵里ちゃんバカだ。絵里バカだ。
あははは。絵里バカっておいおい。絵里ちゃんがバカな子みたいじゃないか。
まあ実際バカだけどね!ガキさんは本物のおバカさんみたいに心の中で笑う。
心の中で止めておくつもりが、ついつい外に出てしまう。
乳首を咥えながらくくくと笑っているガキさん。はっきり言って、キモすぎる。
320 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/09/02(日) 00:19
「ねぇ。カメ」
ガキさんは、ニヤけたまま、おっぱいから離れて彼女に顔を近づける。
様子のおかしな恋人を、絵里ちゃんはぽけーっと見つめている。
そんな表情もまためちゃめちゃ可愛くて、思わず手でほっぺたをすりすりしてしまう。
「なに?」
「もー、なんでそんなに可愛いの?」
両手で絵里ちゃんの頬を挟んで、ガキさんは至近距離で尋ねる。
いきなりそんな答えにくい質問されて、答えられるわけがない絵里ちゃん。
「カメはなんでそんなに可愛いの?」
楽しそうな笑顔で、ガキさんはもう一度問いかける。
別に正しい答えなんて求めてない。ただそう言いたいだけだ。
言葉にして、自分が落ち着きたいだけなのだ。そこに意味はまったく無い。

絵里ちゃんは、目を細めて、ガキさんのことをじっと見つめた。
急に真顔になった彼女は、右手をガキさんの頬に添える。
「絵里が可愛いのは多分、ガキさんのことが好きだからだよ」
「うえっ」
「それと…」
心底愛しそうに、ガキさんを見つめている絵里ちゃんは、
「ガキさんから愛されてるからだよ?」
そう言って目を伏せ、照れくさそうに微笑む。
あわわわ。口をもごもごさせて、ガキさんはテンパる。
やばいやばいやばい。身体中の血が沸騰しそうに熱い。
恥ずかしいのに逸らせない。可愛すぎる絵里ちゃんから、目が離せない。
ガキさんはちょっと怖いくらいの表情で、彼女を見る。
いっぽう、彼女は、やわらかく微笑んでいる。

「だから、絵里も、いーっぱいガキさんのこと愛したいな」

ガキさんは、絵里ちゃんから抱き寄せられて、大人しく腕の中に納まった。
やさしく背中を撫でられて、耳元で幸せそうに笑われて、なんかもうお腹いっぱいだった。
321 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/09/02(日) 00:20
さて、無事に食欲が満たされたところで。むくっと起き上がって、彼女も起こす。
彼女はまだ楽しそうに笑っている。それにつられて笑ってしまうガキさん。
起きた拍子で下がった洋服のせいで、彼女のおっぱいは見えなくなったし、
まだその下半身には指一本も触れていない。こんな、のん気に笑ってる場合じゃない!
ガキさんは、絵里ちゃんの洋服の中を弄ると同時に、唇を寄せる。
首を少し傾けてキスに応える彼女は、おっぱいを揉まれ身体をくねらせる。
大胆に舌を伸ばすガキさん。彼女も舌を出して、それに合わせる。
まるでアダルトビデオのような、とてもエッチなキスをする。
鼻でしている呼吸は相当荒いし、時折漏れる声はかなりいやらしい。
実はエッチな絵里ちゃんも、もうその気持ちを隠さずに夢中で唇を貪っている。
ガキさんだって無我夢中。キスだけでもう、セックスしているみたいな快感を得ていた。

でもやっぱり本物の行為をしなきゃ気が済まない。
アソコだって納得しない。納得してくれない。
ガキさんは絵里ちゃんを押し倒して、清楚なスカートの中に手を入れる。
彼女の秘密な場所を、そっと指で確かめる。
「やっばいねカメ」
唇を離してそう言えば、彼女は泣きそうな顔になる。
そんな顔になっちゃうのは、こんなに濡れてるのがバレて恥ずかしいからなのか、
それとももっと触って欲しくてたまらないからなのか。ガキさんにはわからない。

するすると彼女のスカートとパンティを脱がせて、床に落とす。
ガキさんはまたその楽園(パラダイス)に手を伸ばし、彼女のアソコを弄る。
「もうちょっと脚開いてくれないかな」
絵里ちゃんは、素直に少し、股を開く。ガキさんの手は素早くその間へ入る。
敏感なところを、指でぐいぐい押す。すると悶える、可愛い彼女。
腰をびくびくさせて、エッチな声で、色っぽい顔で喘ぐ。
イケよほら。イッてしまえ!ガキさんは強気でその部分を責める。
速めに擦ったり、かと思ったらゆっくり撫でてあげたりして、もてあそぶ。
面白いな。すっごい面白い。淫らに乱れる絵里ちゃんを見てると、
なんかこう、身体の芯からうずうずしてくるガキさん。
すっかり柔らかくなっている、彼女の入り口をかき回す。
ぐいっと指を挿入してぐちゃぐちゃに動かす。
ここは、彼女がいちばんエッチになる場所だ。ガキさんは丁寧に愛撫する。
彼女の中は温かい。指で突くたびに、エッチな液体が溢れ出してくる。
一定の速さで、彼女の秘密な場所を刺激する。
ときにはその上にあるお豆ちゃんを、そっと撫でる。
そしてまた中に入れて、彼女に聞こえるように大きく音を立てながら指を動かす。
だいぶ学習してきたガキさんは、彼女の限界が近いと悟り、さらにスピードを上げる。

ひときわ大きく身体を震わせ、あられもなく絶頂に達する絵里ちゃん。
ガキさんはその姿を目に焼き付けるように凝視する。
彼女がぐったりなったので、ソコから手を離す。濡れた指を見る。
ぺろっと舐めて、にやりとする。やっぱり、どうしてもキモくなるガキさん。
ベルトを外してズボンを下ろす。チェック柄の地味なトランクスも、自分で脱ぐ。
その一部始終を黙って見ていた絵里ちゃんは、ガキさんの下半身にちらりと
視線を落とし、さらに沈黙する。彼女の荒い呼吸だけが聞こえている。

ソファでセックス。ガキさんの脳裏には、道重さゆみの姿が過ぎる。
洋服を着たままここで交わる。向かい合って、彼女が上になって。
いやいや。絵里ちゃんとそんなこと出来るはずがないじゃないか。
出来るならしたいけど無理でしょ。やっぱり普通の格好で、しよう。
彼女の股を裂いて、ガキさんはちょっとだけ、自分をしごく。
それからその、彼女のど真ん中に自分の先っちょを押し付ける。
さあさあさあ!やってきましたこの瞬間!
最初はこれだけでもビビッていたけれど、今ではすんなり挿入できる。
一気に彼女を貫いて、ガキさんはハッとする。あ。なんか、違う。
何が違うのかと考えてすぐに理解する。
絵里ちゃんがガキさんのモノをしっかり包み込んでいる。
遮るものは何も無い。直接、じかに触れ合っている。
ガキさんは、焦るよりもこのはじめての感覚に酔いしれる。
彼女の中は温かいというより熱い。熱くてなんかどろどろしている。
その熱にガキさんはもう溶かされそうで流されそうで何か出そうになる。
出そうになるけど、出ない。出さない。まだ早い。
322 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/09/02(日) 00:21

要は中で飛ばさなきゃいい。外で、フィニッシュすればいいってことなのだ。
天才。ガキさんは動き始める。パンパンと彼女の腰にぶつけるように突く。
すると彼女が一瞬にして女になる。ガキさんだけの、ものになる。
良いところを刺激されて快感を抑えきれない。あんあん喘いで、背を反らす。
彼女は全てをさらけ出しガキさんの前で淫らになる。
2人の身体を結ぶ場所からはとんでもない音。相当リアルで、生々しい。

彼女の中からどんどん何かが溢れてくる。
この手で確かめられるものも、そうでないものも全てガキさんのもとへ届く。
目に見えるもの、見えないけど感じるもの、さまざまなものを、受け止める。
キャッチしてリリースする。本能が命令するまま、夢中で彼女の中を突く。
えっ、絵里ちゃんってこんな声出すの?ってちょっと驚くくらい、彼女は喘ぐ。
道重さゆみよりエロい。エロすぎてバカみたいだ。そう。エロバカだエロバカ。
ガキさんは絵里バカで、絵里ちゃんはエロバカだ。
2人ともバカみたいに真剣に交わっている。そこには笑いなんて一切存在しない。
あるのはお互いを愛する心と、気持ち良いことをしたいという簡単な欲望だけ。
いつもはくだらないギャグばかり口にする絵里ちゃんも、エッチなことなんてまるで
興味が無さそうなガキさんも、今はただの女と男。
無言でひたすら快楽を求め、高い高い山の頂上まで上りつめてゆく。

「ガキさん」

絵里ちゃんがガキさんの両腕に手を伸ばす。
弱く、そこを掴まれる。かと思ったら少し強く握られる。
彼女は必死に歯を食いしばって快感に耐えている。
それほどまでに切羽詰っている彼女を、こんなに明るい場所では
見たことが無かったガキさんは、上半身を前に傾ける。

「カメ、大丈夫?」

彼女は首を横に振る。ガキさんに掴まって、泣いてるような顔になっている。
いよいよヤバイらしい。どうしようどうしょう。どうしようっていうか、どうしよう。
ガキさんもヤバイ。フィニッシュは外で。それを合言葉に、ガンガン動く。
彼女が1回イこうが、2回目イキそうになっていようが、そんなの関係ねえ。
ソファが濡れてしまおうが、洋服が汚れてしまおうが、そんなの全く関係ねえ。

「ああああ」

突然訪れた衝撃に、ガキさんは素早く対処する。
バッと起き上がりガッと抜いてパッと目に入ってきた絵里ちゃんのお腹にピョッと出す。
「ふぁぁぁ…」
息を吐き出すように声を出したガキさん。
肩で呼吸をしながら、絵里ちゃんを見る。
まだ、余韻に浸っている様子の彼女は、虚ろな瞳でこちらを見つめている。
今日はちょっと、最高だった。ケンカをしたおかげで、それぞれの想いを改めて
確認しあったばかりだったし、アレが無いおかげで最も気持ち良い思いができた。
行為自体も最高だったけどやっぱりいちばん最高なのは…

「カメ」
「んー」
間抜けな声で返事されて、ガキさんはつい噴き出して笑う。
ソファに寝そべったままの彼女の腕を引っ張って起こす。
彼女は深く座り、背もたれに完全に背中を預けた。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないよぉ。もー」
こてっと、ガキさんのほうへ倒れこむ絵里ちゃん。
その肩に頭をのせて、上目遣いでにらむ。
「なんでしなかったのよぉ」
「え?」
「え?じゃないでしょ。絵里出来ちゃった結婚とか絶対嫌だからね」
「…ごめんなさい。反省してます」
「許す」
「早っ」
ガキさんのツッコミに、けたけたと絵里ちゃんは笑う。
「でもお洋服よごれちゃったね」
「ぼくのはギリギリ大丈夫だよ」
「絵里のは全然大丈夫じゃないよ」
「…すいません」
そんなやりとりをしつつも、2人を包む空気は甘い。
ガキさんは絵里ちゃんの髪を撫で、絵里ちゃんはうっとりとガキさんに見とれてる。
「ねぇ、ガキさん」
「なに?」
「絵里のお願い聞いてくれる?」
「いいよ?」
彼女はうれしそうにクスッと笑って、耳元で囁く。
「一緒にお風呂入ろうよ」
323 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/09/02(日) 00:21

ガラス張りのシャワールームには、お洒落なバスタブもあった。
どぼどぼとお湯をはっている間、ガキさんは絵里ちゃんと立ったまま戯れる。
洋服は全て脱ぎ、裸の格好で抱き合ったりキスをしたりする。
そして、バカはバカらしくバカなことをする。

「じゃあ絵里は消防士で、ガキさんはファイヤーね」

シャワー片手に絵里ちゃんが微笑む。
蛇口をひねると、そこから雨のようなお水が出てくる。
無邪気な表情で彼女はそれをガキさんに向ける。
「火事だ火事だー」
「ちょ!冷たいってカメ!」
「火事だ早く消せー」
「だから冷たいって!」
冷たい水をかけられて、ガキさんはシャワールームを逃げ回る。
絵里ちゃんはしつこく追いかけて、容赦なくシャワーを向けてくる。

「風邪ひくから!やめなさい!」
大きな声でそう叫んだら、彼女はやっと水を止めた。
ガキさんはホッと一息ついて、バスタブの縁に腰かける。
「ガキさんが風邪ひいたら絵里が看病するから大丈夫だよ」
そう言いながら、ガキさんの前に立つ絵里ちゃん。
彼の肩に手を置き、穏やかな表情で微笑む。
「ホントに看病できるの?」
「出来るよぉ。おかゆ作ってあげる」
「おかゆって…作れんの?」
「作れるよ。絵里これでもクッキングの才能あるんだから」
”クッキング・絵里”か。参ったなあ可愛いじゃん。バカなガキさんはついにやける。
そんな恋人の髪や頬を撫で、くねくねしている絵里ちゃんは言う。
「ずっとベッドの側で看病するからね」
「だめだよ。風邪うつったらどうすんのさ」
「ガキさんの風邪ならうつってもいい」
「なんだそれ」
呆れながらもうれしいガキさん。ちょうど頬にあった彼女の手を取る。
「カメが風邪ひいたらぼくにすぐうつせばいいよ」
「どうやって?」
2人は微笑み合う。きっと、考えてることは同じだ。
ガキさんはバスタブの縁から腰を上げ、絵里ちゃんと向かい合う。
そして、顔を近づけて、口づける。いきなりディープなキッスをする。
まるで映画の1シーンのように、濃厚に2人は絡み合う。

キスをしながらガキさんは絵里ちゃんをバスルームの壁まで追いつめる。
そこに背中がついた彼女は、唇を離してガキさんの首に腕をまわす。
「こんだけキスすれば、本当にうつりそうだね」
彼女の言葉にくすっと笑って、ガキさんはもう一度キスを求める。
白い湯けむりに包まれて、さらに甘い口づけを交わす。
さっき全部彼女に向けて出したものが、ふたたびガキさんの中に、溜まってゆく。
彼女の指はガキさんの肌の上を妖しく這う。
その危ない感触は、消えたはずの欲望の炎に、また火をつける。

絵里ちゃんは、色っぽく微笑んで、その場にしゃがんだ。
そして、何をするかと思いきや、ガキさんの棒をそっと握る。
いつの間にかカチカチになってしまっていたソレを、手のひらで大事に包み込む。
「カカカカ、カメ」
焦ったガキさんは絵里ちゃんを見下ろす。すると彼女は、静かに唇の端を上げる。
セクシーすぎて、言葉も出ない彼女の微笑。
その先っちょにキスをされ、ガキさんは大炎上。
火をつけたのは絵里ちゃん。だから、彼女に消してもらうしかない。
324 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/09/02(日) 00:22
どうして、こんなことが出来るのだろう。
吉澤さんから借りたDVDでお勉強して、すでに知っていたガキさんは考える。
もしかして、絵里ちゃんも同じようにこっそりお勉強を?いやいや。
「ヤバイってカメ…それはヤバイよ」
飴でも舐めてるように、舌を出してガキさんのガキさんを愛撫している絵里ちゃん。
やっぱり、こういうことはあの、田中っちに教わったりとかしたのだろうか。
そんな場面を妄想してさらに興奮してくるガキさん。
あの絵里ちゃんが。あの、いつもうへへって笑ってるだけのキモイ絵里ちゃんが!
女っておそろしい。でも、そんな彼女も、嫌いじゃない。

「ねぇ、ガキさん、気持ち良い?」
手でシコシコされながら尋ねられ、ガキさんはうなずく。
「気持ち良い。ヤバイよカメ」
「ガキさん、可愛い」
「可愛くなんかないから…可愛いのはカメだから」
無意識にそう呟けば、彼女はうへへとだらしなく笑う。
手を止めて立ち上がる。ガキさんと同じ目線になって、言う。
「ねぇ、ガキさん」
「なに」
「お湯、止めなきゃ」
至近距離で見つめ合う。お湯はまだ音を立てて流れている。
そうだ。そろそろ止めないといけない。バスタブから溢れ出してしまう。
しかし、ガキさんは動けない。お湯がもったいない。だけど。
彼女をそっと抱き寄せる。密着する、汗ばんだ肌。やわらかいおっぱい。
ガキさんはもうビンビンどころかギンギンで、我慢できない。
「ガキさん、お湯がもういっぱいだから」
するりと彼女はガキさんの腕から抜け出して、バスタブまで歩いてく。
本当にお湯が溢れ出している。蛇口をひねって彼女がそれを止める。
ガキさんは、ゆっくり彼女に近づいて、後ろからガバッと抱きしめる。

「カメ、ひとつになりたい」
耳元で囁いて、ガキさんは彼女のおっぱいを揉み始める。
「だからぁ、絵里は何もしないでするのは…」
乳首を指でつままれて、彼女がぴくっと反応する。
「カメはしたくないの?」
右手を、絵里ちゃんの股間まで滑らせるガキさん。
彼女は身体をくの字に曲げて抵抗してくる。
だけど大したことじゃない。尖った敏感なものを、指で挟みこむ。
ぐりぐり動かす。途端に彼女はエッチな声で、乱れ始める。
「ぼくはしたいよ。カメとなら何回でもしたい」
支えが欲しくなったのか、彼女はバスタブの縁を掴む。
すると、ガキさんに向かってお尻を出す格好になって、もう大変だ。

絵里ちゃんの豊かなヒップを、両手で撫でる。
お尻の割れ目に沿って手をさし込んで、彼女の入り口まで進む。
後ろから、こんな風にしたことがなかったから、ドキドキわくわくする。
大胆に指を2本挿入したガキさんは、必死に耐えている彼女の背中を見つめる。
バスルームは声が響くから、エッチな声を出したくない気持ちはわかる。
でも、もうそんなこと言ってられないんじゃないの?にやりとして、指を曲げる。
何かをかき出すように、彼女の中でガンガン動かす。
「カメ、気持ち良い?」彼女は答えない。
「何か言ってよ」
背中に口づける。しっとりと汗ばんだ肌がまたガキさんの興奮を煽る。
ここも、ソコも、こんなに熱くなっているのに、何も感じてないなんてウソだ。
何か言うのを待っていたら、絵里ちゃんが小さな声で「もっと」と言った。
「え?」
「やめないで、もっとして」
ぶはっ。こいつぁなんてふしだらな娘なのだ!
ガキさんの指にもより一層力が入った。
325 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/09/02(日) 00:22

せっかくバスタブにお湯が入ったのに、その外でエッチなことをしている。
ガキさんの激しい愛撫に、絵里ちゃんはとうとうイッちゃって、バスルームには
2人の荒い呼吸が綺麗に響いていた。もう、ギンギンなガキさんは、立て続けで
悪いなとか思いながら、彼女の腰をぐっと引き寄せる。

絵里ちゃんはお尻をガキさんに向かってさらに突き出すような感じになる。
今から、することは1つ。ガキさんは狙いを定めて、思い切り腰を突き出す。
DVDの中だけの話だと思っていた格好で、2人はひとつになる。
彼女の可愛い顔が見えないのはちょっと残念だけど、新鮮な感覚に胸が躍る。
ゆっくりと、ガキさんはソレを出し入れし始める。彼女も淫らに喘ぎだす。
また何も着けてないから、フィニッシュは外で。それを合言葉に、腰を振る。

なまめしくくねる絵里ちゃんの上半身が、全てを物語っている。
バスタブの縁を握る手には力が入り、反対に下半身は今にも床に崩れ落ちそう。
ガキさんは、彼女の腰を支えながら中を突く。奥の奥まで突き進む。
ガラス張りのバスルームで、後ろから。こんな夢みたいな状況、考えられない。
考えられないけど、夢じゃない。田中っちのは夢。これは現実。これが真実。
絵里ちゃんはもう自分のもの。絶対にあいつには渡さない。
何があったって離さない。もう絶対に揺れない。強い風にも耐えるのだ。
どんなにひどい嵐の中でも、彼女だけは絶対に。
こんなに愛してるのに、愛し合ってるのに、他のやつなんかに渡さない。


「今日、チョー激しかったねガキさん」

お風呂から上がって、くたくたになった2人はベッドの上に寝転がっていた。
時計を見ればいつもの夕食の時間はとうに過ぎている。
でもなぜか妙にのんびりとしている絵里ちゃん。
ガキさんは、内心ヤバイと焦ってるけれど、ぴったり寄り添われれば何も言えない。

「カメだって激しかったよ」
「そうだねぇ。何回もイッちゃった」
ぶはっ。あっけらかんとした絵里ちゃんはけたけた笑ってる。
そんなこと言ってからかってるだけなのだ。そうに違いない。
「絵里とガキさんって、何気に相性バッチリなんじゃないのかな」
「えー」
「だってだって、チョー気持ち良いもん」
「はいはい」
「つーめーたーいー」
こう、落ち着いてから改めて振り返られると、実は恥ずかしいガキさん。
まだまだ純情真っ盛り。そっぽを向いて、熱くなった顔を冷ます。

「ねぇ、ガキさん」

また何かくだらないことでも言うのか、とガキさんは彼女をちらっと見る。
しかし、彼女は真面目な表情。ドキッとする。
「なに」
「アイラブユー」
「欧米か」
ぺしっと軽く彼女の頭を叩くガキさん。やっぱりくだらないことだった。
ガキさんは、呆れ顔で笑った。それはくだらないことを言う彼女になのか、
そんな彼女のことを大好きな自分自身になのか、さっぱりわからない。
だけど、そんなこと、考えることこそくだらない。どっちだっていいのだ。
いま、自分の横には彼女が居て、幸せそうに笑ってる。ただそれだけでいいのだ。

目が合って、微笑むだけでいい。そう思っていたのは昔の話。
手を繋いだり、寄り添うだけでいい。そう思っていたのもまた、昔の話。
それだけじゃ物足りない。ひとつになって愛し合わなきゃ、満足できない。
そう思っている今だって、見つめ合うだけで満たされる。
根本的に、絵里ちゃんが側に居るだけで、それでいいのだと思う。

毎日一緒に笑って、たまにはケンカをしたりして、強い絆をつくってゆく。
楽しい思い出や、ときには辛い思い出を残しながら、だんだん大人になってゆく。
彼女の記憶の中に、自分をたくさん詰め込むように、ガキさんは彼女を本気で愛してゆく。
326 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/09/02(日) 00:23


*****



327 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/09/02(日) 00:23
湾田高校の校舎の屋上に3人の男子生徒。
田中くんを真ん中に挟んで、その両隣には斉藤くんと林くん。

田中くんは、絵里ちゃんに電話をして砕け散ったことを、報告する。
諦めようとして諦めて、それでもまだ諦めきれなかったこの想い。
それも昨夜で完全に終わった。終わらざるを得なくなった。
彼女本人から、もう遅いと言われた。それが全てだ。
悪いのは彼女でも、ガキさんでも吉澤さんでもない。自分自身だ。
しかし、この恋を後悔したってしょうがない。
完全に終わったのだ。もう、どうしようもないのだ。

「どんまい。タナやん」
林くんが、田中くんの肩をそっと抱き寄せる。うなずく田中くん。
「ま、新しい彼氏が良い奴なら安心じゃん?」
斉藤くんがニカッと笑う。「あ。そうだ」何かを思いついた感じで言う。
「愛佳ちゃんと付き合えばいいじゃん」
田中くんは、運動場に視線を向けたまま、首を横に振る。
「あの子とは付き合えん」
「なんで」
「最初はいいかもっち思ったんやけど、やっぱ、年下は無理や」
「そういうことか」
林くんが納得したように笑う。でも斉藤くんは不満そう。
「あの子、すっげー良い子そうだし、付き合ってみればいいじゃん」
「うーん」
「タナやんは同い年か年上が好みなんだよ。な?」
「うん」
「えー、せっかくこないだデートしたのにーもったいないよこのチャンス逃すの」
駄々をこねる子供みたいな斉藤くんに、2人は笑う。

「ねぇ。ペー、誰か可愛い子紹介してよ」
「いいよ。探しとく」
「なんでおれには頼まないんだよ!」

屋上で、ぎゃあぎゃあ言いながらじゃれあう男子3人。
はたから見れば、ただいま青春真っ只中な、素敵な光景。

田中くんはそっと、彼女の記憶を心の中に仕舞いこむ。
きっと、これからもっと良い相手に出会えると、そう信じて。
328 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/09/02(日) 00:24


おわり


329 名前:彼女の記憶 投稿日:2007/09/02(日) 00:25

从*` ロ´)<ファイッ!


330 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/02(日) 02:42
今回の更新もお腹いっぱいです。

田中っち、ファイッ!
331 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/02(日) 12:12
タナやんもう俺と付き合おう!
それしかないって!!な!?
332 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/02(日) 13:59
川=´┴`)<アウアウ
333 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/02(日) 19:29
絵里ちゃんも言ってたことだし、
どうか田中くんを幸せにしてあげて下さい作者たまorz
334 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/02(日) 22:26
出来ちゃわない、よね…
335 名前:重ピンピン 投稿日:2007/09/03(月) 00:09
おっつ〜ッス
カメプレイ見事です
あんなことされてはガキさんじゃなくてもイチコロかも・・・

いやいや、きっと重ピンの方がもっと上のハズと
自分の中だけで思っておきます

あと田中くんには、もっともっといろいろ楽しんで
遊んでほしいです。
よければ別ルートで重ピンDVDをまわして上げてクダサイ
きっと彼女が幸せにしてくれます
もしくはミッツィーに頑張って頂きたいです

ではでは、次回も楽しみにしてマース
336 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/03(月) 00:35
田中くんはまあしゃーないわな
イケメン執事のアンパンマンにワロスwまた全レスしてくれよーノシ
337 名前:アネゴ 投稿日:2007/09/04(火) 22:50
しゃあないなぁそんな傷心たなやんは私が引き取ってあ・げ・る☆
あんだけガキさんガキさん言ってたけど実は私は吉ヲタだけど

でもそんなの関係ねえ!!!
338 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/18(火) 22:08
作者さんのホームページに行けないorz
339 名前:riru 投稿日:2007/09/22(土) 22:50
>>338
漏れも
340 名前:(0´∀`)人(’ー’*川 投稿日:2007/09/27(木) 01:50
>>330さん
よかったです
またお腹いっぱいになるようにがんばって書きます

>>331さん
从*` ロ´)<おとこわりだ!

>>332さん
ミッチー本当にごめんねミッチー
まだ良く知らないから上手く書けなかったんだYO

>>333さん
ぞろ目おめ!!!!!
田中くんに幸あれってわけですね
ちゃんとわかってますYO

>>334さん
それは神のみぞ知る、みたいな

>>335 重ビン
ごめんねミッチーのこと上手に書けないっていう事実に気付いたんだYO
だからあんまりミッチーに期待されると困るんだYO
そのぶん、ガキカメに力入れてくから許して欲しいです
あと、重ピンSP目指して努力します

>>336さん
また全レスするYO!しまくるYO!

>>337 アネゴ(*´Д`) ハァハァ
あなたは本当にオッパッピーな人ですね
タナやんのことよろしくお願いします

>>338の名無飼育さんと>>339のriruさん
まだただのまとめホームページだからあんまり大っぴらにお知らせするのは
恥ずかしいですけど>>275のメール欄のochi以降がそのアドレスなんで
お手数ですが直打ちしてください。それできっと、見れるはずです
341 名前:  投稿日:2007/09/27(木) 01:51
登場人物

( ・e・):ガキさん
ノノ*´ー`):絵里ちゃん

(0´∀`) :吉澤さん
川*’ー’):愛ちゃん

从 ‘ 。‘):松浦亜弥
( *´ Д `):後藤さん

その他はだいたい架空です
342 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/09/27(木) 01:52


*****



343 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/09/27(木) 01:52
梅雨も半ばにさしかかった、蒸し暑いある日の夜。
ガキさんはきっちりとした黒のタキシードに身を包み、
前髪は全てオールバックでガチガチに固め、
少しぎこちない足取りで、松浦邸の玄関の扉をくぐった。
まるでお城のような空間が目の前に広がって、思わず圧倒される。
すでに、たくさんの人々が本日の招待客としてうじゃうじゃいて、
気を抜いていればすぐに迷子になりそうだった。

「うわぁ、シャンデリアが眩しいねぇ」

挙動不審なガキさんの腕にさっきから絡んでいるのは、絵里ちゃんの腕。
彼女は今日もバッチリおめかしをして、露出多めのセクシーなドレスを着て、
長い髪もオールアップでガチガチに固めている。
しかし、彼女は対照的にのんびりとしていて、
人が多いせいで緊張している恋人を落ち着かせるようだった。

本日は、この松浦家の長女である亜弥のバースデイパーティ。
でっかい松浦邸で、ものすっごい規模で盛大に開催されている。
彼女が昨年結婚をしたときも、おととしに婚約発表をしたときもこんな感じだった。

「松浦さんの赤ちゃんいるかなぁ」
「どうだろうねー」
松浦さん家の人に案内されて、2人はパーティ会場へと入る。
「見て見て。あのケーキすっごい大きいよ」
「うえっ?」
絵里ちゃんが指差した先を見ると、ウエディングケーキも真っ青の大きなケーキ。
天井にまで届きそうなくらい背の高い、真っ白なケーキだった。
あれがバースデイケーキとはさすが、松浦家の長女・松浦亜弥。

「絵里お嬢様!」

突然聞こえたそんな声に、ガキさんは絵里ちゃんと後ろを振り返る。
まあ、誰だか最初から検討はついていたけど。
いつもよりちょっとお洒落なスーツを着ている吉澤さんがニコニコしながら
駆け寄ってくる。絵里ちゃんは、組んでいる腕を離そうとしない。

「お待ちしてましたよ」
「遅れてすみません。愛ちゃんは?」
彼女が尋ねると、吉澤さんは大げさに泣く真似をしながら、
「ぼく、浮気されちゃったんですよ」
およよおよよ。わざとらしく目元に手をあてる執事。
絵里ちゃんは目を細めて微笑み、ガキさんから腕を離す。
「かわいそうに。よしよし」
そして、吉澤さんの頭のてっぺんをなでなでする。
さっきまで泣いていたはずなのに、吉澤さんはデレデレしまくりんぐ。
ちょ!彼氏の前で他の男とイチャつくんじゃねえ!失笑のガキさん。
吉澤さんが、そんなガキさんをちらりと見て、ニヤリとする。

「でも、浮気って誰に?」
首をかしげた絵里ちゃん。わからずに、ガキさんも首を傾ける。
2人にやさしく微笑んだ吉澤さんは、「2階へご案内しますよ」と言った。
344 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/09/27(木) 01:52

賑やかな、会場のある1階ではなく、静かな2階の一室。
絵里ちゃんに負けないくらい、刺激的なドレスを着ている愛ちゃんが、
小さな赤ん坊を抱いて待っていた。

「わぁ、文麿(ふみまろ)くんだ」

パッと目を輝かせて、絵里ちゃんがとことこ駆け出した。
ガキさんは、赤ん坊を抱っこしている愛ちゃんを見て、こっそり顔をしかめる。
今日はまた、えらく身体にピッタリとしたドレスだ。
目のやり場に困るんだよなこれ。まったく、こっちの身にもなってくれ。

「浮気ってこういうことだったんですね」
振り返った絵里ちゃんが、吉澤さんに言う。
お嬢様の可憐な笑顔に吉澤さんはまたデレデレする。

「かわいいなぁ。文麿くん」

甘い声で言いながら、絵里ちゃんが文麿のほっぺを指で突く。
やわらかくてすべすべしている彼の肌に、彼女はうれしそう。
ガキさんは、赤ん坊の愛らしさにももちろん頬は緩んだが、
やさしく話しかける彼女の横顔にも、ニヤニヤしてしまう。

「こうやって実際赤ちゃん見ちゃうと、欲しくなるよね」
愛ちゃんが言う。吉澤さんは笑顔でうなずく。良い雰囲気だ。
ずっと文麿を抱いていた愛ちゃんに、吉澤さんは両腕を伸ばして、
「代わるよ」
「なんか吉澤さん慣れてますね」
よっこいしょ、と文麿を受け取った吉澤さんにガキさんは言う。
「坊ちゃんも抱きますか?来るべき将来に備えて」
ぶはっ。噴き出すガキさん。まあ、そりゃそうだけど。
「絵里、抱きたい」
「誰を?ガキさん?」
「ちょ!愛ちゃんそんなふざけたこと言わないでよ」
アッヒャー。無駄に焦るガキさんを見て、愛ちゃんが顔をくしゃっとする。

「うわぁ、どうしよう」
絵里ちゃんがきゃあきゃあ言いながら文麿を抱っこした。
大人しい彼は、さっきからずっと眠っている。

「本当に可愛いね。赤ちゃんって。ほら見て。このちっちゃい足」
ガキさんに見せるように、絵里ちゃんが身体の方向を少し変えた。
文麿の足を触るガキさん。そして、まじまじと見つめて、感心する。
「すっごいね。手も、ちゃんと爪はえてるし」
そう言って、彼女と見つめ合い微笑む。
良いムードが漂う若いカップルの様子を、これまた若いカップルである
吉澤さんと愛ちゃんが微笑ましそうに見つめていた。

「ういーっす!」

345 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/09/27(木) 01:53
そこへ聞こえてきた威勢の良い女性の声。4人が振り返ると、
真っ赤なドレス姿の松浦亜弥が両手を腰にあてて、笑顔で立っていた。
その横にはなぜか袴姿で和風な出で立ちの旦那さま・後藤さんがいた。

「松浦さん。お誕生日おめでとうございます」
文麿を抱いたまま、絵里ちゃんが言った。
「おめでとうございます」ガキさんも笑顔で言う。
「ありがとう2人とも」
亜弥は楽しそうに笑いながら、4人に近づいてくる。

「あんた初めてだっけ?絵里ちゃんとガキさん」
「どうだっけ」
首をひねった後藤さん。吉澤さんに負けないくらいのイケメンだ。
どっちかっていうと三枚目のガキさんは、
「確か、結婚式の時に一度お話したと思うんですけど」
「そうかもね。うん。きっとそうだ」
のんびりとした口調で後藤さんは言って、微笑んだ。
この人もけっこう独特な人だ。見た目はクールで、俳優さんみたいなのに。

「文麿。あたしに似てカワイイでしょ」
「はい。とっても可愛いですね」
「出産祝いありがとね。大事に使います」
「いえいえ」
絵里ちゃんは、お祝いに親子でペアルックの可愛い洋服をプレゼントした。
そのお買い物にガキさんは付き合ったりしたのだ。
346 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/09/27(木) 01:53
「どうなの2人は。順調なの?」

亜弥は、とても1児の母とは思えないくらいだった。
体型は出産する前と何も変わらない。
胸の谷間に、綺麗な脚。白い肌に、整った顔。
まさにセクシーダイナマイトだ。
だけど子供がいる。信じられないな。
ガキさんは亜弥の美しさについ見とれてしまう。

「順調ですよ?ね。ガキさん?」
「ま、まあ」
うへへ。絵里ちゃんが笑いかけてくる。
参ったな。可愛いな。ガキさんはおでこをかく。
「ラブラブだねー」
「はい。ラブラブでーす」絵里ちゃんが無邪気に笑う。
ヒューヒュー。亜弥が笑顔で茶化す。

「結婚とか考えてんの?」
「うえっ?けけけけ、結婚ですか?」
うろたえたガキさんを無視して絵里ちゃんが「考えてますよぉ」
語尾にハートマークがついてるんじゃないかってくらいのテンション。
吉澤さんと愛ちゃんは、テンパりだしたガキさんをニヤニヤしながら眺めている。

「絵里ちゃんの結婚式も大変なことになりそうだねぇ」
そう言って、亜弥が明るく笑う。絵里ちゃんも負けずにうへへと。
「でも、その前に愛ちゃんか」
突然話を振られて、愛ちゃんはビックリする。

「よっすぃはどうすんの?結婚したら」
「どうするって?」首をかしげる吉澤さん。
「婿入りしちゃうの?愛ちゃんのお家に」
お嬢様と、恋人の視線を同時に感じて、吉澤さんはなぜか微妙な顔をした。

これはもしかしてタブーな質問だったのだろうか。
はたから見ているだけのガキさんは思う。
自分にとっては、吉澤さんが結婚して高橋家に婿入りしようと、
そのために亀井家の執事を辞めようと、まったく関係ないこと。
しかし、愛ちゃんと絵里ちゃんにとってはそうでない。重大な問題みたいだ。
さらには吉澤さん自身にとっても。こりゃ、とてもフクザツだ。
問いかけた張本人の亜弥も、この微妙な空気を察して話題を変えた。

「それとも愛ちゃん、文麿のお嫁さんになる?」
ぶはっ。亜弥の愉快な冗談に、ガキさんは噴き出す。

「絵里ちゃん。ずっと抱っこしてると腕疲れるでしょ」
「あ。いえ」
絵里ちゃんが亜弥に文麿を渡す。彼に顔を近づけて、ママは笑う。

「あたし文麿連れてちょっと散歩してくるわ」
347 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/09/27(木) 01:53

亜弥は息子と噴水の近くのベンチで休んでいた。
彼女を追いかけてきた吉澤さんは、そのまま彼女に近づいてゆく。
外の空気は湿っていて、とても不快だった。
それでも夜空は雲ひとつ無く、月が綺麗に光っていた。

「よっすぃ。どうしたの」

笑顔になった亜弥に、吉澤さんも微笑む。
彼女の隣に腰かけて脚を組む。
「いや。なんつーか」
「ごめんね。あんな答えにくいことみんなの前で聞いちゃって」
文麿はママの腕の中ですやすや眠っている。
彼の寝顔を眺めながら、亜弥は微笑んでいる。
そんな中、吉澤さんはガバッと大きく脚を開き、夜空を見上げる。

「ぶっちゃけ、迷ってるんだ」

その言葉に亜弥が顔を上げ、吉澤さんの横顔を見る。
「こんなに自分が優柔不断だったなんてさ」
自分を馬鹿にするように笑って、吉澤さんは背伸びをする。
「あーめんどくせー。相手があいつじゃなかったらこんなに悩まなくて済むのにな。
全然迷わないで、ズバッと答えが出せるのに」
「なに迷ってんだよ。迷う意味がわかんないよ」亜弥はぶっきらぼうに言う。
「だよな」
吉澤さんは月を見つめて顔をしかめる。
「あー。マジめんどくせー」
「そういうときは、子供作っちゃえばいいんだよ」
「え?」
「そしたらもう、迷う時間なんて無いでしょ?」
にゃはは。清々しく亜弥が笑い飛ばす。
彼女の横顔をちらっと見て、吉澤さんは再び上を向く。

「そういやさ、美貴、入籍したんだ。ちょうど先々週くらいに」
「誰と?」
「同じ会社の、同期のヤツと」
「ふーん」
興味無さそうに返事して、亜弥は文麿のほっぺを突く。
その横顔を見つめて、吉澤さんはふにゃっと笑う。
「ま、出来ちゃった結婚だけどね」
「バッカだねー」
彼女は楽しそうに笑った。吉澤さんも微笑む。

「8月に産まれるんだ」
「もうすぐじゃん。マジでおバカさんだね」
微妙に暗くなった亜弥の顔に、吉澤さんは笑顔を引っ込める。

「あいつもついに、あたしだけのものじゃ、なくなっちゃったってことか」
小さく呟いた彼女は、ため息をついた。

それはもう、色々とフクザツだった亜弥と美貴の関係。
過去のことを今さらどうこう言ったってどうにもならない話だが、
きっと彼女は、いまだにあいつに未練があって、気になっている。
そんな彼女の切ない気持ちを感じた吉澤さんは、思わず尋ねてしまう。
348 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/09/27(木) 01:54
「会いたいか?美貴に」

吉澤さんは、彼女の横顔をじっと見つめる。
彼女は少し考え込んだあとぽつりと言う。
「会いたいよ。すっごい会いたい」
でも、と続ける。「あの人も大切だから、会えない」
「それでいいの?」
「うん。いいの。ごっちんはね、あたしのことをすごく一生懸命に愛そうとしてくれる。
お互い、全然望んだ相手じゃなかったんだけどさ、文麿が産まれてわかったの。
最初は絶対こんな現実受け入れてやるもんかって思ってたのが、不思議と素直になれた。
いま、あたし幸せだな、って胸張って言える。そう言えるのも、全部あの人のおかげだから。
あたしは絶対に大切にしなきゃいけない。あの人と文麿を、何よりも」

吉澤さんは、何も言わず、言えずに亜弥の横顔に見とれた。
なんて強くて美しいのだろう。感動すら覚えていた。

「きっと、美貴たんだっていま幸せなんじゃないの?知らないけど」
「今はなんか、奥さんが出産に備えて実家に帰っちゃったみたいで、
ひとりで寂しそうだけどな」
「じゃあ、エッチできなくて欲求不満でムラムラしてるかもね」
ぶはっ。はっきり言った亜弥に、吉澤さんは噴き出した。
彼女は、にゃははと明るい声で笑い飛ばした。
349 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/09/27(木) 01:54

ガキさんは自分の家の黒い車より、絵里ちゃんの家の高級外車より、
この豪華で広い彼女のリムジンが好きだった。
運転手を気にしなくていいし、少しの間だけど、完全に2人きりになれるし。

「文麿くん。本当に可愛かったねぇ」

絵里ちゃんはガキさんのほうに、すっかりもたれかかっている。
腕も絡めて、何気におっぱいも押し付けられている。
きっと彼女は無意識だと思うけど、ガキさんを誘惑している。

「将来、ぜったいイケメンになるよ」
「そうだね」
なんて生返事。ガキさんの神経はいま、肩の重みと、彼女の香りと、
腕に当たるやわらかい感触に集中している。
「どっちかっていうとやっぱり、後藤さんに似てたよね」
「うん」
「あぁ。絵里も赤ちゃん欲しいな」
彼女の言い方は、新しい洋服が欲しいなっていうのと一緒だった。
しかし、その内容をよく考えてみると。ガキさんはおでこをかく。
「カメ。そういう発言はちょっと」
「困る?」
うん、と正直にガキさんがうなずくと、絵里ちゃんは笑った。
「やっぱさ、ぼくとしては、ちゃんと働き出してからかなって思ってるし」
「わかってるよ。言ってみただけ」
「そう」
「ガキさんが、そうやって、ちゃんと考えてくれてるってだけで絵里は十分」

リムジンは、新垣家を目指して走っている。
今夜は松浦亜弥のバースデイパーティが終わったら真っ直ぐ帰る。
両親にもそう言っているから、ガキさんはもう、お家へ帰らなきゃいけない。
だけど、まだまだ絵里ちゃんと一緒に居たい。離れたくない。
車が家まで近づけば近づくほど、彼女のことを求めてしまう。

「でも、赤ちゃんが出来ちゃったら、今みたいに2人きりで居られなくなるんだよね。
そしたらこうやって、ずっとぴったりくっ付いて、イチャイチャもできなくなるね」
呟いて、さらにガキさんのほうへ身を寄せてくる絵里ちゃん。
ガキさんの太ももの上にそっと手を置いて、ひとりで微笑む。
「じゃあ、まだ赤ちゃんはいいんじゃん」
「そうだね」
うへへ。彼女がとろけそうなくらい甘い声で笑う。
ガキさんは、彼女の手を握って、ぐっと顔を近づける。
彼女が静かにまぶたを閉じる。2人の唇は、自然と重なる。
やわらかいその感触を何度か確かめてから、深く口づける。

こうなったら止まらない。淫らにキスをするまでだ。
音を立てながら、ガキさんは絵里ちゃんの唇を貪る。
繋いでいた手を離して、彼女の肩に置く。
二の腕をやさしくなぞったあと、どさくさに紛れて胸の膨らみを弄る。
彼女は少し身を引くが、エッチなキスは止めようとしない。
積極的に舌を絡めてくる。だからガキさんはますますテンションが上がってくる。
350 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/09/27(木) 01:55
「ちょっと」

さすがに、ガキさんが股の間に手を忍ばせてくると、絵里ちゃんは拒んだ。
両脚をぎゅっと閉じて、ガキさんの手のひらを挟む。
彼女のこの太ももの感触だけで、もうなんていうか、うえうえなガキさん。
「こんなに短いスカートはいてるからじゃん」
耳元で意地悪に囁いて、無理やり前進してゆく。
むきだしのうなじや、頬に口づけながら、彼女のウイークポイントを目指す。
案外すぐに行き止まりに辿り着く。上るべき壁に、ぶち当たる。
しかし、もう若葉マークは外れた経験者・ガキさんはずんずん突き進む。
躊躇わずに彼女の下着の中に手を入れる。もそもそ動かし始める。

絵里ちゃんだってわかってる。いつも空気が読めない女じゃないのだ。
こんな口づけを交わして、エッチな気持ちに火が点いたのは、彼女も同じだ。
力を込めて閉じていた脚が緩む。ガキさんの頬も、少し緩む。
敏感な部分を指でぐいぐい押せば、彼女がくねくねし始める。

「もう、こんなになってる」
彼女の秘密な場所の入り口をノックする。
すでにそこは体温以上に熱くなっていて、とてもやわらかくなっていた。
彼女は、ガキさんが思っているよりももっとエッチで、感じやすい。
浅いところで指を出し入れすると、彼女はますます身をよじる。
さーて、お楽しみはこれからだ。そう思っていた矢先、車が完全に止まった。

「着いた?」
「みたい」
渋々、ソコから手を離すガキさん。なんという不完全燃焼だ。
こんなことになるなら何もするんじゃなかった。後悔が襲ってくる。
それは、絵里ちゃんも同じようで。

「どうしよう。絵里、このまま放置?」

ドアが開く。ガキさんは力なく笑って、ハンカチで濡れた指を拭う。
切なげな眼差しで見つめてくる絵里ちゃんの頬を撫でて、彼女を見つめる。

「また、明日」

なんとか微笑むガキさん。全然笑えない状況なんだけど。
彼女は、不満そうな寂しそうなフクザツな顔で、恋人をじっと見つめていた。


ガキさんはその夜、道重さゆみでとことん抜いた。
絵里ちゃんが、くすぶった欲求をどうやって処理したのか。それはわからない。

351 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/09/27(木) 01:55

つづくぽ


352 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/09/27(木) 01:55

( ´ Д `)<ぼくにはわかるぽ
从 ‘ 。‘) <冗談はその語尾だけにして

353 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/27(木) 02:33
この二人の登場をずっと待ってました!!
続き期待してます。
354 名前:重ピンピン 投稿日:2007/10/01(月) 00:32

更新お疲れ様です
ガキさんよくガマンした。
感動した!!

前菜カメちゃんメインディッシュは重ピンクと
見事なフルコース?でした。

うらやましぃ〜なぁ〜♪

あと、ミッツィーに関しましては作者さんの自由に
扱っていいと思いますので、できればタナやんとの
件も考えてみてクダサイませ。

それでは、また次回に現れます。
355 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/05(金) 20:45
それぞれすげー気になる展開だYO
おちょきんしてまってるYO

356 名前:(0´∀`)人(’ー’*川 投稿日:2007/10/09(火) 22:29
>>353さん
私もずっと登場させたかったんだYO!!
期待外れにならんようにがんばります先輩

>>354 重ビン
小泉首相wwwwwwwwwwwwwwww
どっちかって言うと重ピンクはデザート
お腹いっぱいでも別腹、みたいなみたいな

>>355さん
おちょきんハァ━━━━*´Д`━━━━ン!!!!!!
357 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/10/09(火) 22:30


*****



358 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/10/09(火) 22:30
さて、時間を少し戻すとしよう。
場所はまだ松浦家の、2階の一室。
松浦亜弥を追いかけて吉澤さんが部屋を出て行ったあと。
気まずくなった雰囲気を察した絵里ちゃんとガキさんが1階に下り、
愛ちゃんと後藤さんの2人きりになった部屋。

『よっすぃはどうすんの?結婚したら』

亜弥のそんな質問に吉澤さんが上手く答えられなかったせいで、
この場が微妙な空気になってしまった。今だって、愛ちゃんは黙ったまま。
とぼとぼとソファまで行き、彼女はそこへ腰を下ろす。
後藤さんは扇子をパチパチと手のひらに当てながら、どうしたもんかと首をひねる。
ここからでは愛ちゃんの後頭部しか見えず、様子がいまいちわからない。
とりあえず、愛ちゃんの向かいのソファにと座り、ふにゃっと笑う。

「もうすぐ、あのでっかいケーキ切るんだってさ」
彼女が顔を上げた。目と目が合う。
後藤さんはつとめて穏やかな微笑みをキープする。
「ごめんね。さっき、亜弥が変なこと聞いちゃって」
「いえ」
視線を逸らす彼女。うーん、なんだか暗い。

「愛ちゃんは、どうしたいとかあるの?」
「何がですか?」
ふたたび、愛ちゃんが後藤さんのほうを見る。
「よっすぃとの結婚だよ」
あくまで笑顔で、彼女に尋ねる。
すると、彼女は俯いて「よく、わかりません」と言った。

そこへ、吉澤さんが文麿を抱いて帰ってきた。静かに部屋に入ってきたので、
入り口に背を向けて座っている愛ちゃんはまったく気付いていない。
どうしようかなあ。5秒ほど考えたあと、後藤さんはわざと吉澤さんに
聞こえるくらいの声で、愛ちゃんに言う。
「もしかして、よっすぃと結婚したくないとか」
「そんなわけないじゃないですか!」
愛ちゃんの大きな声に、吉澤さんが目を見開いて立ち止まった。
彼女はまだ恋人に気付かない。

「したいですよ。結婚したいです。でも、よくわかんないんです」
「よっすぃとそういう話はしてるの?」
「はい。ウチ、女きょうだいだから、親が婿を欲しがってるってことは知ってます。
吉澤さん優しいから、出来ればウチに来たいって言ってくれてるんですけど、
あたしはそれがイヤで」
「どうして?」
「吉澤さんにはやりたいことをやって欲しいし、あたしと結婚するせいで、
そんな、大好きな仕事を辞めるなんて、間違ってるって思うんです」
「でもよっすぃは辞めてもいいって言ってるんでしょ?」
「そうなんですけど…本心じゃないと思う。もともと吉澤さんのお家は、
亀井家の執事をやってきたんだし、吉澤さんは、お義父さんの跡を継ぐべきなんです」
359 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/10/09(火) 22:31
どちらも優しいから、譲り合っている。それは素敵な思いやり。
はて。何てアドバイスしてあげればいいものか。
考えながら腕を組んで、後藤さんは愛ちゃんを見つめる。
彼女はどこか一点に集中している。全然気付いてない。
吉澤さんを一瞥すると、珍しく真面目な顔をしている。
いつもは馬鹿っぽくてヘラヘラしてるくせに。

本気で付き合ってる2人だからこそ、応援したくなる。
後藤さんは、愛ちゃんを見つめる。

「あたしは、これからもずっと吉澤さんと笑って生きていきたいんです。
だからあたしは納得できるまで結婚しないと思います」
「そっか」
「本当は今すぐにでも結婚したいんですけどね。そしたら一緒に住めるし、
今よりももっとたくさんの時間、側に居られるだろうし」

後藤さんは立ち上がって扇子を握り直した。
見上げてくる愛ちゃんを優しい顔で見つめて言う。

「愛ちゃんも知ってる通り、亜弥とぼくは親同士が決めた結婚だった。
最初は、なんで好きでもないのに結婚しなきゃいけないんだって思ってたよ。
だけど不思議なことに、今は、それなりに楽しくやってるんだよね。
多分、文麿のおかげかな。そういうことで、ぼくはケーキ食べに行くよ」
首をかしげる愛ちゃん。

素晴らしいタイミングで、文麿がビエーンと泣き出した。
驚いた彼女は後ろを振り返り、初めて恋人の存在に気が付いた。
後藤さんは上品な微笑みを浮かべたまま、吉澤さんに文麿をもらう。
「おーい、泣くな男だろ」
文麿をあやしながら、彼は部屋を出て行った。
360 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/10/09(火) 22:31
今度は、愛ちゃんと吉澤さんがふたりになる。
立ち上がった彼女は、「いつから居たんですか?」と尋ねる。
「結婚の話、してるときから」
吉澤さんがそう答えると、彼女は背中を向け、ソファに再び腰を下ろした。
シーンとなる部屋。吉澤さんは鼻の先っちょを人差し指でかく。

「ごめん。立ち聞きして」
吉澤さんが謝るが、愛ちゃんは聞こえてないフリをしている。
だったらもっと近づいて、彼女のすぐ後ろに立つ。
「ごめん」
「何が?」
「ごめん」
両腕を伸ばして、愛ちゃんをあすなろ抱きする吉澤さん。
「べつに、謝ることじゃないよ」
そう言う彼女をぎゅっと抱きしめ、ほっぺをすり寄せる。
彼女の香りに包まれて、吉澤さんは目を閉じる。
「おれは、おまえと結婚できるなら、婿でも嫁でも何でも、喜んでなるよ」
愛ちゃんは吉澤さんの手に自分の手を重ねて、クスッと笑う。
「嫁にはなれないと思うよ」
「冗談だよ」

吉澤さんは、愛ちゃんを大切に大切に抱きしめる。
そろそろ結婚なんていうことを意識するようになった2人。
お互いを思いやるあまり、なかなか前には進まない。
今のところは、そうやって冗談を交わすことしか出来なかった。

361 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/10/09(火) 22:31


*****



362 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/10/09(火) 22:32
「キャナダぁ?」

ハンバーグを口に入れようとしたガキさんは、
絵里ちゃんの発言に驚いて手を止めた。
彼女は何も気にせずに、ティーカップの中のミルクティを
スプーンでくるくるかき混ぜている。

「キャナダって、カナダでしょ?あのアメリカの上にある、首都はオタワの」
「そうそう。お兄ちゃんがね、連れて行ってくれるの」
「へえ。お兄さんがねえ」

今はちょうどお昼時。大学の中にある喫茶店・Memoryも満席だ。
すっかり常連さんになった2人は、いつものテーブルに向かい合って座り、
いつもの日替わりランチを食べている。今日は、ハンバーグだった。
ガキさんは、さっき食べ損ねた一切れを口に入れる。あーおいしいな。
じゃなくって。絵里ちゃんを真正面から見る。

「ホント、来週からって急だね」
「うん。でも、キャナダって初めてだから楽しみ」
ナイフとフォークでハンバーグをお上品に切りながら絵里ちゃんは言う。
ガキさんも、コーラを一口飲んでから、お行儀良くランチを食べる。

お兄ちゃんとカナダ旅行か。まあ、兄妹が仲良しだっていうことは良いことだ。
その点はガキさんがブーブー言うことじゃない。

「旅行は2泊3日くらい?」
「ううん。2週間」
「え?」
聞き返すと、絵里ちゃんは「2週間」とハッキリ言った。

「2週間?」
マジで?わかりやすいくらい動揺してしまうガキさん。
間違って、ナイフでハンバーグを刺そうとしてハッとする。
「そんなに?」
「うん」
何か問題でも?的な顔で、絵里ちゃんは微笑んでいる。

「ちゃんとお土産買ってくるから。そんな顔しないの」

そう、やさしく言われて、ガキさんは視線を逸らす。
バレてる。絶対バレてる。しかし、旅行の相手はお兄ちゃん。
全然心配することなんて皆無で、むしろ笑顔で送り出すところなのに、
ガキさんはなぜか気分が沈んでしまっている。
絵里ちゃんはその理由にきっと気付いてる。全部、お見通しなのだ。

「2週間かあ」
ガキさんが呟くと、絵里ちゃんはうれしそうに笑った。
「寂しい?寂しい?」
くっそー。そのニヤついた顔が、なんとも憎たらしい。
だからガキさんは完全にシカトして、
「ごちそうさまでした。あ、コーラおかわりくださーい」

やってきた店員さんが、空のグラスを持って行く。
絵里ちゃんは唇を尖らせムッとしている。
「寂しくないの?2週間も会えないのに」
「別に?」ガキさんは答えて、新しいコーラを受け取る。
「ふーん。ま、絵里も別に寂しくないけどー」
「はあ?」
「どうしよう。キャナダで運命的な出逢いがあったら」
あはは。バカっぽく笑って、絵里ちゃんが窓の外を見る。
「あ」
「え?」
目を丸くした彼女につられて、ガキさんも外を見たら、
なんと愛ちゃんがそこに張り付いていた。
363 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/10/09(火) 22:32

「フットサル大会?」

絵里ちゃんの隣の席に座った愛ちゃんは、ストローでバナナジュースを
飲みながらうなずいた。彼女は、さっき友達と食堂でランチを食べ終えて、
もう授業が無いからと帰っていた途中、2人を見かけたそうだ。
でも、窓に張り付いて、ガキさんたちが気づくのを待つなんて。
いちおう2歳も年上のお姉さんなのにな。ガキさんは呆れてしまう。

「美貴ちゃんがね、明日と明後日、出張で名古屋に行くから出られなくて、
人手が足りないから吉澤さんが出るんだってさ」
「そうなんだぁ」
今日、今からの予定の話になって、愛ちゃんはスーパーに買い物に行くと言った。
理由を聞けば、土曜日の明日、フットサル大会があって、
そのためにお弁当を作るからだと。

「吉澤さん、フットサルできるの?」
「失礼な。吉澤さんの運動神経を侮っちゃいけません」
自信満々な愛ちゃんに、ガキさんは「すいません」と謝る。
確かによく考えればあの男は、見た目からしてスポーツ万能そうだ。

「絵里も見に行きたいな。そのフットサル大会」
「ホント?一緒行く?ガキさんも?」
「えー。どこであるの?」
「九戸(きゅうと)総合体育館」
「案外近いじゃん」
「ガキさんも行こうよぉ。一緒に応援しようよ」
彼女からそう可愛くおねだりされちゃあ、断れない。
ガキさんは「うん」とうなずいて、コーラを飲んだ。
364 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/10/09(火) 22:33

その日の夜。愛ちゃんのマンション。
吉澤さんはソファに座ってスポーツ新聞を広げていた。
芸能面には、大好きなAV女優、道重さゆみと久住小春の大きな記事。
なんと、2人はDVDの発売記念に握手会をすることが決定したらしい。
その記事は、AV女優では珍しい大規模なイベントとなりそうだと
締めくくられていた。

握手かあ。手を握るのかあ。
ついつい吉澤さんは、自分の手を見つめて妄想にふけってしまう。
あの手とこの手が、直接、触れ合うのだ。興奮しないわけがない。
しかし、その握手会の日時を確かめて、吉澤さんはガッカリする。
来週の日曜日は、きっとカナダのモントリオールらへんにいるだろう。
ああ。悔しい。ガキさんを誘って行こうと思ったのに。

「ねぇ。ひーちゃん。明日は何時に出るの?」
愛ちゃんが隣に座ってきた。
何事もなかったように、吉澤さんは新聞の社会面を開きながら、
「7時半」
「開会式って9時からだったよね」
「うん」つまらない記事ばっかりだったので、新聞を折りたたむ吉澤さん。
それをテーブルに置いてから、愛ちゃんに膝枕してもらう。
髪を撫でられながら、気持ち良さそうにあくびをする。

「だから、7時半にここ出て、絵里お嬢様とガキさん拾って行こう」
「そうだね。あー、明日寝坊しそう」
「じゃあ、さっさと風呂入って寝るとしますかね」

365 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/10/09(火) 22:33


*****



366 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/10/09(火) 22:33
翌日の早朝。頭に白いタオルを巻いて気合の入った吉澤さんは、
フライパンを握り、黙々と卵焼きを作っていた。
その近くでは愛ちゃんがせっせとと三角のおにぎりを握っている。
ちょっとふざけて、でっかいやつも作ってみたり、それを吉澤さんに見せたりしたり。

「そんなでっけーの、誰が食べるんだよ」
「ガキさん」
「罰ゲームかよ」
くくく。笑いながら、完成した卵焼きをまな板の上に置く吉澤さん。
今日は、絵里ちゃんも来るのだ。そんな、マズイ卵焼きを出すわけにはいかない。
包丁で切って、そのうちの1つをつまみ、はふはふしながら食べる。
「WAO」
目を丸くして、愛ちゃんを見る。
「なになに」
ニヤっとした彼女が、吉澤さんの隣に来る。
吉澤さんは、その卵焼きを1つ、彼女に差し出す。
あーん、と食べさせる。途端に目を大きく見開く彼女。
「WAO!」
「やばくない?やばくない?」
「天才やん!」
大絶賛の愛ちゃんが、ガバッと抱きついてくる。
おいおいおい、と思いながらも、吉澤さんは彼女の肩を抱く。

「こりゃ、お嬢様の星5ついただきだな!」
力強くガッツポーズをして、凛々しい顔で言う。
愛ちゃんは、そんな恋人にうっとりと見とれている。
早朝からなんと美しい光景なのだろう。

「って、こんなことしてる場合じゃないんだよ。
早くおにぎり作っちゃえよ。まだやることあんだからよ」

実は出かけるまでに時間があまりなかったので、
2人は急いでお弁当作りを再開した。


朝8時ごろ、吉澤さんの愛車はようやく新垣家へと到着した。
助手席には愛ちゃん。後ろの席には絵里ちゃん。
ガキさんはとても眠そうに乗り込んできた。

「おはようガキさん」
「おあよう」
「チョー眠そうなんだけどーウケるー」
絵里ちゃんから楽しそうにケタケタ笑われて、
ふんっ、とガキさんは鼻の穴を広げながら思いっきり目を見開く。
その顔がまた面白かったようで、笑いが止まらないお嬢様。
朝っぱらからいきなりイチャイチャしだした2人を、
吉澤さんは鏡越しに眺めていた。
1ヶ月くらい前、2人がケンカをして、それで絵里ちゃんが
豹変したこともあったけど、順調そうで何よりだ。
静かに微笑んで、出発する。目指すは九戸総合体育館だ。
367 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/10/09(火) 22:34

「フットサルって、サッカーとどう違うの?」

興味深々の様子でスタンド席から身を乗り出し、
下のフットサルコートを見渡す絵里ちゃんが尋ねてきた。
「ぼくもよくわかんない」
その隣のガキさんは、正直に答えて同じように身を乗り出した。

藤本美貴が所属しているチームは社会人チームらしく、
選手たちはみな大人で、家族連れだったりするが、
他の参加チームは学生だったりもするらしい。
にぎやかに、和気あいあいと輪になって、楽しそうだ。

「あれ」

その学生さんグループの中に、知り合いらしき姿を見つけたガキさんは呟く。
なになに。絵里ちゃんが身を寄せてくる。
「アキちゃんだ」
そう。彼女は高3のときのクラスメイト・秋吉さん。相武紗季似のさわやか少女。
相変わらず、華やかな雰囲気で、新しい仲間と笑い合っている。

「変わってないねぇ」
「そうだね」
なんだか微妙な空気が2人の間をすり抜ける。
読者の皆様が覚えておられるかわからないが、秋吉さんといえば
やっぱりそういうことで、ガキさんも絵里ちゃんもちょっとばかし気まずいのだ。

「吉澤さんのチーム、第4試合なんだって」

ビクッ。とつぜん後ろから愛ちゃんの声がした。
そのカップルは同じようなびっくり顔で振り返る。
愛ちゃんは、特に気にせず絵里ちゃんの隣に並んで微笑む。
彼女の視線の先には愛しいあの人。
今日のお昼ご飯は、一緒に作ったお弁当だ。

「第4試合かぁ。じゃあ、まだまだだね」
「うん」
「ガキさん。ジュース買いに行こうよ」


絵里ちゃんは、緑茶のボタンを押した。
ガタン。大きな音とともに、ペットボトルが落ちてくる。
彼女は少しかがんでそれを取り、ガキさんを見た。

「コーラでいい?」
「うん」
今度はコーラのボタンを押す。また、ペットボトルが落ちてくる。
はい、と手渡されたガキさんは「ありがとう」とお礼を言った。

2人で静かな廊下を歩く。
秋吉さんを見かけてから、わかりやすいくらい会話が少なくなった。
お互い、何をけん制し合っているのだろう。ガキさんはなぜかおかしくなる。

「カメ。今なに考えてるの?」
「え?」
「もしかして、アキちゃんのこと?」

直球を投げてみると、絵里ちゃんは素直にうなずいた。
「ぜんぶ昔の話だよ。気にすることないって」
「別に、気にしてないけど?」
「またまたー」
茶化すような口調でガキさんが言うと、
彼女は肩から身体をコツンとぶつけてくる。

「イテッ。また古傷やられたー」
とか冗談を言うガキさんの腕に自分の腕を絡ませて、
絵里ちゃんは幼い声で呟く。
「絵里さぁ、アキちゃんにすっごい悪いことしたんだよ」
「悪いこと?なに」
「まぁ、それもぜーんぶ昔の話だけど?」
2人は、同時に笑い始めた。
スタンド席に戻っても、絵里ちゃんの腕は離れなかった。
368 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/10/09(火) 22:34

フットサル大会はとても盛り上がっていた。
吉澤さんが助っ人に入った湾田フルハーツ(Wanda Full Hearts:WFH)は、
すごいことに決勝戦まで勝ちあがり、あと1回勝てば優勝という状況になった。
さすがスポーツ万能吉澤さん。本日出場した全試合でゴールを決めていた。
それは、愛するお嬢様の応援のおかげであるところが大きいようで。

「吉澤さん。絶対優勝してくださいね」
決勝戦の前。絵里ちゃんからそうエールを送られて、吉澤さんは力強くうなずく。
「お嬢様のために絶対優勝しますよ」
「え、あたしは?」
お嬢様と執事の間に割って入った愛ちゃんが自分を指さす。
2人はただ笑うだけで、何もフォローなし。プッ、と噴き出すガキさん。
「なに笑ってんだよ童貞!」
バチン!と思いっきり強く愛ちゃんからおでこを叩かれる。
「ちょ!痛いし童貞って!」
「うっさい童貞!家に帰ってエロビデオ見てろ!」
バチバチと何度も肩を叩かれる。あいたた。ガキさんはやられっぱなし。
その間、吉澤さんと絵里ちゃんは何か楽しそうに囁き合っていた。

「ていうか童貞ってもうやめてくれる?」
叩かれた場所を手で擦りながら、ガキさんは愛ちゃんに言う。
「じゃあなんて呼べばいいの?ん?」
こいつは本当にもう、どーしようもないな。ため息しか出ない。
まだ、あの2人はイチャついてるし、とガキさんは歩き出す。
「どこ行くん童貞」という幼なじみの問いかけに、「トイレ」と答えた。


お手洗いから戻る途中。
ガキさんは廊下の角で誰かとぶつかりそうになる。
「ガキさん!」
その相手はなんと、秋吉さんだった。

「なんでここに?」
驚いた表情のまま、秋吉さんが尋ねてくる。
「知り合いの、応援で」ガキさんは言う。
「そうなんだ。あたしは、大学の先輩の応援で」
「そう」なんとか笑って見せるガキさん。
こうやって話すのは卒業式以来。
自然とその日のことを思い出す。

『ガキさんのこと、多分これからもずっと好きだと思う』

絵里ちゃんが居ないところで2人きりになって、
そう清々しく宣言されて、何も言葉を返せずにお別れした。
彼女の気持ちには応えられない。それは100%確かな事実だった。
だけど、結局最後までハッキリと彼女を拒絶できなかった。
仲の良いクラスメイトだったから。大切な、友達だったから。

「ねぇ、ガキさん」
「ん?」
「今度、ガキさんに相談したいことがあるの」
少し暗い顔で、秋吉さんはそう言った。
何だろう。ガキさんは首をかしげる。
「メールしようって思ってたけど、来週くらい、どっかで会えないかな」
「うん、いいけど」
「水曜とか大丈夫?」
「夕方なら大丈夫」
369 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/10/09(火) 22:35
秋吉さんは笑顔でじゃあねと手を振り、去って行った。
ガキさんが元の場所へ戻ると、愛ちゃんが不機嫌そうに椅子に座っていた。
なぜなのか。理由は簡単だ。吉澤さんが絵里ちゃんに構いっぱなし。
何も知らないお嬢様のために、フットサルについて色々と教えてあげているようだった。

決勝戦が始まる10分前になって、吉澤さんがそろそろ行くよと言った。
「がんばってくださいね。吉澤さん」
「はい」
笑顔で見つめ合う絵里ちゃんと吉澤さん。
愛ちゃんは、相変わらず面白くなさそうに2人を眺めている。
「おい」
すると、吉澤さんが愛ちゃんを呼んだ。
アゴでくいっと出口のほうを示す。
愛ちゃんは黙って立ち上がり、吉澤さんの後ろについて行った。

「いよいよ決勝だね」
ガキさんの隣の椅子に、絵里ちゃんが腰かける。
「吉澤さんのチーム強いし、優勝するかもね」
そう言った彼氏に彼女は微笑んでうなずいた。


「なに?」

なぜか湾田フルハーツの控え室まで連れてこられた愛ちゃんは、
ふてくされた感じで吉澤さんに言った。
吉澤さんはやさしく微笑み、彼女の背中を押して部屋に入る。

「やっと来た」

チームメイトの中でひときわ背の高い、小麦色の肌をした人が、
2人に近づいてきて、笑顔で言った。
「サトダ。美貴の同僚」
吉澤さんは愛ちゃんに耳打ちする。
「はじめまして。愛ちゃん」
「はじめまして」
サトダさんと握手を交わすも、愛ちゃんはまだちょっと不機嫌そう。

「話に聞いたとおり可愛いねー。オジサンひと目惚れしちゃったよ」

美貴と同じピースカンパニーに勤めるサトダさんは、
見た目はとても若くて、モデルみたいにカッコイイ人。
だけど、口を開くとそれが一気に崩れる、不思議な人。
そういうところは、ある意味吉澤さんと共通する部分がある。
2人はまだ知り合って間もないが、昔からの親友みたいだった。

「こいつが、おまえと話したいってうるさいから」
「ごめんね。よっちゃんのカノジョってどんな人なのか気になっちゃって」

吉澤さんは愛ちゃんの顔を窺う。
彼女は吉澤さんを見て、やっと笑顔になった。
良かった。彼女の肩を抱き、試合の時間までサトダさんとおしゃべりした。
370 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/10/09(火) 22:35

湾田フルハーツの決勝戦の相手は、枝流田クラブというチーム。
決勝だけあって、どちらも譲らない緊迫した試合展開となった。
前半はお互い1点ずつ奪い奪われ、後半戦。

攻めるポジションの吉澤さんは、なんとか点を取ろうとがんばっている。
美貴はこのチームの得点王なのだ。その代理が点取れないなんて恥ずかしい。
だから、攻めて攻めて、相手をにらみ付けて脅して、シュートを打ちまくっている。

「吉澤さーん!あと1分ですよ!がんばれ!」

可愛らしい声援が聞こえて、スタンド席を振り返る。
絵里ちゃんと愛ちゃんが身を乗り出し、拳を突き上げている。
ガキさんはぼけーっと見てるだけ。あのクソガキめ。

吉澤さんはレディたちに手を振ってから、猛烈な勢いで走り出す。
ボールを奪って、相手ゴールへ向かって、弾丸シュートをぶっ放す。
白いボールは一直線。まるで光の速さ。ゴレイロは反応できない。
豪快にゴールネットにボールが突き刺さった瞬間、一気に沸く会場。
きゃあきゃあ飛び上がって大喜びの絵里ちゃんと愛ちゃん。
ガッツポーズをした吉澤さんは、両腕を広げブーンとコート内を走り回った。

結局、それが決勝点となって、湾田フルハーツは優勝した。
賞金は30万円。もちろん、全部打ち上げで消えてなくなった。

371 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/10/09(火) 22:35


*****



372 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/10/09(火) 22:36
「こりゃまた、荷物多いね」

翌日。亀井家の長女の部屋。
ガキさんは、洋服やら何やらがパンパンに詰まった
3つのスーツケースを眺めながら呟いた。
これにさらにプラス、大きなサイズのボストンバッグが2つ。
どんだけー。とツッコミたかったけど、絵里ちゃんは元々そういう人だった。

「あ。抱き枕も持って行かなきゃ」

思い出したように言った絵里ちゃんが、パタパタ走りだす。
ベッドの上の抱き枕を持って、ガキさんのところへ戻ってくる。

「これ入るかなぁ」
細長い枕を抱えた彼女に、ガキさんは「無理じゃない?」と言う。
ピンク色のそれは、確か2代目。
ガキさんも色違いのものをもらって毎日愛用している。

「吉澤さんの鞄に入れてもらう、とかどう」
いくらなんでも旅行鞄にそんな大きな枕が入るわけないけれど、
絵里ちゃんが困っていたのでガキさんはそう助け舟を出す。
「そうだね。ちょっとお願いしてみる」
「うえっ」
そしたら、真に受けて吉澤さんに電話をし始めた。
あわわ。ガキさんはちょっと焦るが、とりあえず見守ることにする。


「これを?」

吉澤さんは半笑いでお嬢様を見た。
やっぱりそういう反応になるよな。こっそり笑うガキさん。
でも、絵里ちゃんはあくまでも本気で、抱き枕を彼に差し出した。

「いやー、これはちょっと、ぼくの鞄にも…」
「そっかぁ。残念です」
しょんぼりしたお嬢様。吉澤さんは斜め上を見上げて、ピコーンと。
「もう1つ鞄を増やしましょう。今から持ってきますから」
「でも、絵里の荷物、もうこんなにあるんですよ?」
「ぼくが持つんですから、お嬢様はお気になさらずに」
そう紳士的に言って、吉澤さんは部屋から飛び出して行った。

「ホントやさしいよね。吉澤さんって」
しみじみと呟いた絵里ちゃんが、ガキさんの隣に並ぶ。
ガキさんはうなずいて、「とくにカメにね」と付け加える。
その言葉に、クネクネしながら彼女がうへへと笑う。
「やきもち焼かないの」
人差し指でほっぺたを突かれて、険しい顔になるガキさん。
「べつに、焼いてませんけど」
「またまたー」
彼女からしつこく頬をつんつんされる。
「ああもうっ」ガキさんは、耐え切れなくなってその手を掴む。
何気に近い距離で見つめ合う2人。手と手は触れ合っている。

「ねぇ。明日から2週間会えないんだよ」
指を絡ませながら、絵里ちゃんが囁く。
「わかってるよ」ぶっきらぼうに答えて、ガキさんは視線を逸らす。
すると彼女は無理やり視界に入ってきて、じっと見つめてくる。
そのまっすぐな眼差しに、身体がざわざわし始める。

「ガキさんは、寂しくないの?」
上目遣いで絵里ちゃんは言った。
「カメは、寂しいの?」
素直に答えるのがなんだか嫌だったガキさんは逆に尋ね返す。
吉澤さんはまだ戻ってこない。
絵里ちゃんの頬を撫でて、ガキさんは答えを待つ。

「絵里、2週間も会えなかったら死んじゃうかも」
「じゃあ旅行やめる?」
「ううん。旅行は行く。行きたいから。キャナダに」
「じゃあ、カメ、死んじゃうの?」
「死なない。生きる」
彼女は、頬に添えられたガキさんの手に自分の手を重ねる。
そして、そっと顔を近づけ、クスッと微笑む。
ガキさんも微笑み、彼女の瞳を見つめた。
373 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/10/09(火) 22:37
「お待たせいたしました」

なぜかとても良い雰囲気になってしまったから、キスのひとつでも
しようかと思っていたら、吉澤さんが大きなバッグを持って帰ってきた。
パッと離れてガキさんはそっぽを向く。
絵里ちゃんは、そんな恋人の後姿をちらっと見たあと、微笑みながら、
「ありがとう吉澤さん。これなら入りそうですね」
「はい」
「ではまた、何かあったら言いますので。下がっていいですよ」

失礼します、と吉澤さんはお辞儀をして部屋から出て行った。
ガキさんは振り返り、絵里ちゃんを見る。

「良かったね。これで抱き枕も持って行ける」
「うん」

彼女が近づいてくる。そして、案の定、抱きしめられる。
ガキさんも彼女の身体に腕をまわして、やさしく包み込んだ。
「ねぇ。ガキさん」
「なに」
「お土産、なにがいい?」
「カメが選んでくれたものならなんでも」
耳元でそう囁くと、絵里ちゃんはうれしそうに笑った。
ガキさんの頬もつられて緩む。
「夏休みは、北海道に3週間行こう」
「2人で?」
「うん。2人で」

身体を離した絵里ちゃんが小指を出してくる。
ガキさんは、それに自分の小指を絡めて、揺らす。
見つめ合ったまま、指きりげんまんをする。

「そうだ。花火大会も行こうよ」
「いつだっけ」
「7月の28日」
もうそんな季節か、と思いながら、ガキさんはうなずく。
そう言えば昨年の夏は、絵里ちゃんと一緒に行けなかった。
だって、田中っちと付き合い始めたばかりだったから。
毎年仲良しグループで行ってたし、彼女ひとり居ないくらい
どうってことないって最初は思ってたのに、全然違った。
楽しくなかった。どうってことありすぎた。
あのときから、ガキさんは彼女への気持ちをさらに自覚するようになったのだ。

「いちばん、良い場所で見ようね」
「うん」

ガキさんが髪を撫でると、絵里ちゃんははにかんで、目を閉じた。
そっと抱き寄せて、そのやわらかい唇を奪う。
離れると彼女はぐっと引き寄せて「もういっかい」と囁く。
ぶつかるように2人の唇が重なる。
ガキさんが少し口を開ければ、彼女も同じようにして、
舌を出して、濃厚な口づけが始まってしまう。

明日から2週間会えないと考えると、ガキさんは急に寂しくなった。
こうやって、ずっとキスもできないし、抱き合うこともできない。
彼女のくだらないギャグも聞けないし、古傷を痛められることもない。
なんて、寂しいのだろう。

それはまるで川の流れのように、りんごが地面に落ちるように、
ガキさんは絵里ちゃんをベッドに押し倒した。
こうすることしか、寂しさを埋める方法が思いつかなかった。

374 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/10/09(火) 22:37

つづく


375 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/10/09(火) 22:37

从*^ー^) <カナダじゃないよキャナダだよ
(0´∀`)<キャナディアンロッキーかっけー!


376 名前:重ピンピン 投稿日:2007/10/11(木) 00:53

更新おつおつです

吉澤さんには悪いですけど・・・
例の握手会には必ず参加させて頂きます
ガキさんはど〜すんのかなぁ〜?

キャメちゃんはキャナディアンマンですかぁ〜
こりゃ、次回も楽しみですな♪

ほな、また後日


377 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/13(土) 17:04
ガキさんにやつあたりなどーしようもないお嬢様キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
378 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/14(日) 20:25
『MAPLE』を、はあはあ見るガキさんと執事 を想像してしまいました=3

さてさて今後の展開がちょいと気になるやよ
379 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/07(水) 23:07
待ってるのだ
380 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/10(土) 07:57
待っている
381 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/15(木) 17:20
おちょきんしてる足がしびれてきたYO
382 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/16(金) 19:47
更新しねま
383 名前:(0´〜`)人(’ー’*川 投稿日:2007/11/21(水) 23:55
>>376-378 レスしてくれたみなさん
1ヶ月以上も更新しなくてごめんなさい
次回はなるたけ早めに更新できるようガムばります

384 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/11/21(水) 23:56


*****



385 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/11/21(水) 23:56
初心者ドライバーは、車を運転しながら、1分に1度の間隔でため息をついていた。
その隣、助手席に座っているガキさんは、いい加減その辛気臭い音に
耐え切れなくなって、ウィーンと窓を全開にした。

「なに窓開けてんの」
ローテンションな愛ちゃんの声がして、ガキさんは渋い顔でおでこをかく。
窓を開けたせいで、外から、不快指数高めの蒸し暑い空気が流れ込んでくるが、
実際車内のこの雰囲気のほうが不快だったりする。
「愛ちゃんさぁ、吉澤さんがキャナダに行っちゃって、寂しいのはわかるけど、
ぼくにまでそれを移さないでくれる?」
「はあ」
「また!もう、ため息やめてよ」

ため息つけば幸せが逃げる、なんてよく言うがまさにそう。
愛ちゃんが、はあ、と言う度に、どんよりとした重たい空気がガキさんのほうへやってくる。
それはガキさんを包み込み、ガキさんまでそういう気分にしてしまう。
ただでさえ彼女は最近車の運転を始めたばかりで、助手席に乗るたびに
ヒヤヒヤしてしょうがないというのに、ダブルパンチだ。不快指数は、外より高い。

「あーあ。今ごろダーリンは絵里と楽しくイチャイチャしてるんだろうなー」
「イチャイチャはしてないでしょ」
「あーあ。あたしがいないのをいいことに、あんなことやこんなこと、するんだろうなー」
「いやいや。考えすぎだってば愛ちゃん」
「考えすぎなことあるかい」酔っ払いの親父口調で、彼女が反論してくる。

今は大学からの帰り。用事があったガキさんを、愛ちゃんが待ち合わせ場所まで
送ってくれている。目的地は、夢が丘南駅だ。

「ガキさんは、ダーリンがどれだけ絵里のこと好きかわかってないから
そんな余裕でいられるんだよ」
「は?」
「ダーリンは、執事じゃなかったら絵里と付き合いたいって絶対思ってる」
「え、その根拠は?」
「勘だよ、勘」「勘かよ」ガキさんは呆れた声を出す。

386 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/11/21(水) 23:56
「確かに、吉澤さんはカメを特別扱いしてるように見えるけど、
それは執事だからでしょ?カメにそんな気持ち、持たないと思うけどな」
「ガキさんは童貞だからわかんないよ」
童貞ちゃうわ。日曜日、絵里ちゃんとエッチしたばっかりやわ。
でもガキさんは、乗ったら負けかなと思い、黙ったまま小さくため息をついた。
「ガキさんもため息ついとるやん」
「これは、愛ちゃんに対してのため息」
「寂しくないの?あと2週間も会えないんだよ」
「そりゃ寂しくないわけないけど、2週間したら帰ってくるじゃん」
そう言うと、愛ちゃんはまた大きくため息をついた。
「その2週間が長いんだよ」
「毎日会ってるから、余計長く感じるのかもね」
「ガキさんたちだってそうやん」
「そうだけど」
「着いた」
彼女がブレーキを踏む。左手には、大きな夢が丘南駅。
ガキさんは、ありがとうとお礼を言って、シートベルトを外した。

「今日、夜ご飯一緒食べようよ」

なんて誘ってくる幼なじみに、ガキさんはやさしく微笑む。
「いいよ。用事終わったら電話するから」
なんだかんだで、彼女のことはほっとけない。
もしかしたら、これから2週間ずっと呼び出されるかもな。
そんなことを思いながら、ガキさんは車から降りて、愛ちゃんに手を振った。

387 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/11/21(水) 23:57

「ガキさん」

待ち合わせ場所の、夢が丘南駅前のキッチンズバーガーに行けば、
秋吉さんがすでに席に座って待っていた。
ガキさんは、手を振ってきた秋吉さんに、おお、と眉毛を上げ、
トコトコその席へと近づいていく。

「ごめん。ちょっと遅くなっちゃって」
「ううん。何か食べる?」
「あ。コーラ飲もうかな。買ってくる」

大好きなコーラを右手に持ち、ガキさんは戻ってきた。
反対の手に持っていた四角い鞄を床に置き、秋吉さんの隣の席に座る。

「絵里は?」
「今、キャナダ」
「キャナダ?ってカナダ?」
「うん。月曜から、お兄ちゃんと旅行に行ってる」
「そうなんだ」
「しかも2週間」
「さすが社長令嬢だね」
微笑む秋吉さん。ガキさんも、うなずく。

2人は、高校のときのクラスメイト。
男女のグループで、よく遊んでいたりしていた。
でも、卒業してから、あのフットサル大会の日まで会わずにいた。
その期間は、約3ヶ月。短いようで長い時間だった。
微妙な雰囲気に、どうしてもなってしまう。
それはやっぱり秋吉さんがガキさんのことを好きだったという
ことが関係していて、ガキさんは、黙ってコーラを飲む。
横目でちらりと秋吉さんの様子を窺ってみれば、彼女は窓の外を
ぼんやりと見つめていて、その切なげな眼差しに、ふと思い出す。

「そういやアキちゃん。相談って」

うん、と秋吉さんはうなずいた。何が入っているのかわからない
ドリンクに口をつけたあと、一息ついて話し始める。

「あたしね、大学でフットサルのサークルに入ったんだけど、
そのサークルの先輩から、最近、付き合って欲しいって言われてさ」
「へえ」
「どうしたらいいかわかんなくて、周りの人に相談したら、
みんな、付き合ってみれば?って言うんだよね」
ガキさんは、彼女が結局何を言いたいのかわからなくて、首をかしげる。
ただのモテモテ自慢か?それとも、何だろう。
「それで、アキちゃんはどうするの?」
「どうすると思う?」
うえっ。逆に聞き返されて、ガキさんは間抜けな顔になった。
アキちゃんがカラっとした明るい声で笑って、ドリンクを飲む。

「わかんないよ。どうするの?」
「あたしね、1番じゃなくてもいいって思ってるんだ」
「へ」「2番でもいい」
そう言う彼女から、まっすぐと見つめられる。
意味がわからないガキさんは、困った顔で苦笑するしかない。

「アキちゃんは、その先輩のこと好きなんだよね」
確認してみれば首を横に振る秋吉さん。
うえっ。ガキさんはまたアホな顔になる。

「あたしの気持ちは、卒業式のときからずっと変わってない」

秋吉さんは、きっぱりとガキさんに宣言した。
彼女が大事に胸に抱いてる、変わらない気持ちとは、つまり。
いやいやいや。ガキさんはコーラを飲みながら、動揺を抑えようとする。
そんなにハッキリ言われると、逆に困る。無言でおでこをかく。

「…相談、じゃないじゃん」
ボソッと呟いたガキさんの言葉に、秋吉さんがクスッと笑った。
なんか、知らないうちに危険な場所へ足を踏み入れてしまったようだ。
ガキさんの心は、嫌な予感でいっぱいになった。

388 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/11/21(水) 23:57


*****



389 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/11/21(水) 23:58
「浮気や!浮気者や!」
「ちーがーうって」

すっかりできあがった酔っ払いは、うざいくらい言うことを聞かなかった。
こんなことなら、今日約束なんてするんじゃなかった。ガキさんは少し後悔する。
シラフでも扱いにくいのに、酒が入ったらもう手のつけようがない。
ガキさんは愛ちゃんの彼氏じゃないので、相手をするのが面倒くさくてしょうがない。

「サイテーやな。絵里に隠れてコソコソと、他の女と密会か!ランデブーか!」
「あーもう。うっさいうっさい」

ガキさんは逃げるようにソファのほうへ移動する。
でも、ほっぺたを真っ赤にした愛ちゃんが、缶ビール片手についてくる。
テレビをつけて、無視しようと思ったけど、うざい酔っ払いは容赦ない。

「逃げるな。サイテー童貞」
「ちょっと、飲みすぎだって。愛ちゃん」
ビールを奪おうとしたけれど、無駄にすばしっこいこの女は、
ガキさんの攻撃を華麗にかわしてテレビを消す。

「あのさあ、いい加減、童貞ってやめよう?」
「なんで?事実やろうが」
「ぼくもう童貞じゃないんだけど」
「ウッソ。いつ童貞卒業したん?」
わざとらしく目を丸くした愛ちゃん。これでも二十歳は過ぎている。
ガキさんは、小さくため息ついて、ぼそっと言う。
「知ってるくせに」
「え?聞こえない。なに?」
「ていうかその話、散々したじゃん!」
オーバーに肩をすくめ、愛ちゃんがぐいっとビールを煽った。

「ほんっまに、毎日毎日サルみたいにヤリまくって、サルか!おまえはサルか!」
「ちょっ!サルはそっちでしょうが!」
「サルちゃうわ!れっきとした人間や!」
「どこが!」

吉澤さんは、愛ちゃんが酔っ払ったとき、いったいどうやって対処してるのだろう。
まったく、サルまわしじゃないんだからわかんないや。ガキさんはおでこをかく。

390 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/11/21(水) 23:58
「ほんっまに、絵里はこんな童貞のどこがいいんだか」
「はっ?」
「絵里におまえはもったいない!今すぐ別れてまえ!」

こいつは!1回シメたろか!
愛ちゃんをものすごい顔で睨んだガキさん。
騒々しい彼女の「別れろ!」コールを、頭突きで制する。

「イタッ!なにすんや童貞!」
「童貞ちゃうわサル!」
「サルちゃうわ童貞!」
「童貞ちゃうわサル!」
「サルちゃうわ童貞!」
「童貞ちゃうわ……」
「……」
2人は真顔になって、黙って見つめ合う。お酒で真っ赤になった愛ちゃんは、
怒りで真っ赤になったガキさんに近づき、その頬を撫でる。

「ウソ。別れんといてや。絵里と、ずぅーっと一緒に居てあげて。
絵里には、ガキさんしかいないんだから」
「ぼくだって、カメしかいないよ」
「アッヒャー。照ーれーるー」愛ちゃんは自分の両頬を手で押さえて言う。
「わけわかんない」
お互いお腹を抱えて笑い合う。
さっきまでくだらない口論をしていたけど、すっかりいつもの空気に戻った。

「じゃあ、今からガキさんには童貞を捨てたときの感想を語ってもらおうかな」
「語りません!」
「夜は長いんやから。まあ、座って座って」

そんな感じで、水曜日の夜は更けていった。
秋吉さんからのメールを受信していたことも知らずに、
ガキさんは愛ちゃんと眠くなるまでおしゃべりをした。

391 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/11/21(水) 23:59


*****



392 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/11/22(木) 00:00
カナダは、湿度の高い日本とは違い、とてもさわやかな気候だった。
吉澤さんは、日傘も差さず、両腕をぷらぷらさせて歩く絵里ちゃんの3歩後ろを
ゆっくりと進んでいた。自然の多いこの場所は、つい大きく深呼吸したくなるほどで、
見上げれば、綺麗に青く澄み渡った空が一面に広がっていた。

「こんなことなら、最初から言って欲しかったよね」
絵里ちゃんが振り返りながら呟いた。
そう言いたくなるのも無理はない。吉澤さんはうなずく。
「絵里たち、まったく誘われた意味なくない?」
「本当ですね」

彼女の不満は、このカナダ旅行の言いだしっぺであるお兄ちゃんへと向けられている。
そんなお兄ちゃんは、今この場にはいない。
どこにいるかというと、トロントにいるのだ。それも、恋人と一緒に。
絵里ちゃんたちは、まんまとカモフラージュに使われたってわけだ。

お兄ちゃんが、観光ガイドさんだけは手配してくれていたので、
2週間もじっとしているのもどうかと思った2人は、こうして歩き回っている。
絵里ちゃんは、口ではブーブー言っているが、美しいオタワの街並みを
眺めながら微笑んでいて、吉澤さんも思いきり満喫していた。
日本から離れ、こうやってのんびり過ごすなんて、滅多にないことだ。
口うるさいメイドもいない。ちょっとウザイ、青山さんもいない。
そんでもって、愛ちゃんもいない。開放的な気分だった。

「キャナダも、あと1週間ですね」

急に立ち止まり、くるっと振り返った絵里ちゃん。
吉澤さんは、その彼女の微笑に、ちょこっと動揺した。
ふわふわとした長い髪は、思わず手を伸ばしたくなるくらい。
奥様ゆずりの美しさは、日ごとに増すばかり。
毎日一緒に居るお嬢様だけど、こんな何でもないときにドキッとしてしまう。
恋人がいる吉澤さんでさえ、少し心が傾きそうだった。

「今夜は、さっき話してたレストランに行きましょうね」
「はい」

393 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/11/22(木) 00:00

絵里ちゃんは、まず可愛い。それに性格も穏やかで、文句なしで良い子だ。
まあ、キレたら怖かったりするけれど、それもそれで吉澤さんは嫌いじゃない。
産まれてからずっと、大金持ちの亀井家で育っただけあって、
仕草は上品で女性らしい。どこからどう見ても、魅力的な人だ。
彼女の隣に並んで歩くなんて、平凡な男からしたら夢のようなこと。
そして、彼女と向かい合ってディナーをするなんて、夢のまた夢のような。

「おいしー」

目の前で幸せそうに微笑む絵里ちゃんに見とれていて、吉澤さんは手が止まっていた。
なんだか、カナダに来てから、妙に彼女に惹かれてる自分がいる。
愛ちゃんが隣にいないからだろうか。それとも、自分の心が少し変わってしまったのだろうか。
どっちにしろ、絵里ちゃんの一挙一動にドキドキしっぱなしで、吉澤さんは戸惑っていた。
しかもそのドキドキは、嫌なドキドキじゃなくて良いドキドキ。
心が自然とウキウキしてくるような、ざわざわしてくるようなそんな気持ち。

なんとなく喉が渇いてグラスに手を伸ばす。ぐいっと一口飲む。白ワインだ。
すると、同じように絵里ちゃんもグラスを傾けた。彼女の喉元が、艶かしく動く。
そのグラスに入っているものは、よく見なくても吉澤さんと同じものだった。
となるとそれはアルコール。絵里ちゃんはまだ未成年だ。

「お嬢様。それ、ワインですよ」
「そうみたいですね」
のん気な絵里ちゃんは、ふにゃふにゃ笑って、もう一度それに口をつけた。
「ダメですよお嬢様。警察に捕まりますよ」
「ここは日本じゃありませんよ?だから大丈夫」
どういう理屈だ。吉澤さんはとりあえずそのグラスを取り上げようとする。
しかし、彼女はそれを離さずずっと持ったままで、ゴクゴク飲んでいる。

「…全部飲んじゃったし」

ぼけっとしてたら、絵里ちゃんのグラスが空になっていた。
彼女はご機嫌な様子で笑っている。吉澤さんを見つめて。
ほら、そんな風に見られるとさ、絵里ちゃんは可愛いからさ、
特に今夜は一段と綺麗だからさ、さすがの執事も参っちゃうわけだ。
人差し指で、鼻のてっぺんをかいて、吉澤さんは苦笑する。
彼女の言う通りここは日本じゃないんだし、まいっか。
「このワイン、美味しいですね」と言う彼女に、
「お嬢様、ワインの味わかるんですか?」と尋ねる。

「わかりませんよぉ。絵里バカだもん」
「ふはっ」
可愛い!可愛すぎてバカみたい!吉澤さんは噴き出して笑う。
「ただちょっとかっこよく言ってみたかっただけですよ。
ていうか、絵里まだ未成年だし。お酒を飲んだのも、初めてだし。
そういう吉澤さんは、わかるんですか?ワインの味」
とても滑らかに喋る彼女。
吉澤さんは首を横に振りながら、
「いいえ、全然。どこが美味しいのかわかりませんね。ワインは」
「じゃあ、好きなお酒頼めばいいじゃないですか」
すっと右手を挙げて、絵里ちゃんがウエイターを呼ぶ。
吉澤さんのグラスを指差して、次にお酒を注ぐジェスチャーをする。
背の高い、カナダ人のその男は、うんうん頷いて一旦下がろうとした。
そんな彼を絵里ちゃんが「Stop、Stop、Wait」ぶつ切りの単語で呼び止める。
そして、その場に留まったウエイターに、「He、ワイン、No、Other、アルコール」
一生懸命言いたいことを伝えようとしている。
でも、伝わったんだか伝わってないんだかって感じだったので、
吉澤さんは英会話教室での勉強の成果をウエイター相手に披露した。
すぐに理解した彼が、お酒の名前がたくさん書いてあるメニューを持ってくる。

394 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/11/22(木) 00:01
「すごいですね。吉澤さん」
「へへ」
お嬢様に誉められた執事は、はにかんで一度彼女を見てから、
ウエイターにメニューを見せ、その中にあるよくわからないお酒を指で示した。

「何を頼んだんですか?」
彼が去ったあと、絵里ちゃんが少し前のめりになって尋ねてくる。
吉澤さんは微笑んで、「来てからのお楽しみですよ」と言った。
もぉ、と彼女が笑う。吉澤さんも笑った。

「吉澤さんがいれば、海外旅行も楽チンですね」

頬杖ついて、流し目で、絵里ちゃんは吉澤さんを見つめる。
さらに、酔っ払っているからか、いつもより3割り増しでふにゃふにゃした微笑み。
文字通りドキッとしたイケメン執事は視線を逸らす。
マズイ。あの熱っぽい眼差しはヤバイ。とてつもなく、今夜は危険な予感がした。


どうしてワインを飲む彼女をすぐに止めなかったのだろう。
そう後悔してきたのは、ウエイターが新しいお酒を持ってきてからだった。
さっきからずっと頬杖ついてる絵里ちゃんは、何が面白いのか、ニヤニヤしながら
そのお酒に口をつけた吉澤さんを眺めている。

「すごい色のお酒ですねぇ」

静かにグラスを置き、吉澤さんが視線を上げると、彼女は唇の端を上げた。
ちょっとショックなくらい色っぽくて、吉澤さんは複雑な気持ちになる。
彼女にガキさんという恋人がいなかったら、今夜、1度くらい間違いを起こしても…
なんてことを考えてしまったりする。吉澤さんは、ざわつく胸を、必死で鎮める。
自分には愛ちゃんがいる。そして彼女には、ガキさんが。

でも今は、お嬢様と執事、という関係も忘れて、彼女をひとりの女性として見てしまっている。
ダメだダメだと思っても抑え切れない。目の前の女に、心惹かれてしょうがない。

「おいしいですか?それ」
「いえ、微妙です」
「絵里も飲みたい」彼女が右手を伸ばしてくる。
吉澤さんは、握っていたグラスを見つめ、どうしようか迷う。
これはかなり強いお酒だ。一口飲んだだけで、喉がカァッと熱くなる。
慣れない彼女がこれを飲めばどうなるか。想像するのは簡単だ。
そうなった後、どうなるか。それは想像したくない。吉澤さんは躊躇う。

「一口ちょうだい」

しかし、彼女には逆らえない。仕方ない。だって自分はただの執事。
お嬢様の望みを叶えることが仕事なのだから、断れない。
吉澤さんはグラスを彼女に渡す。彼女はうれしそうに一口飲んだ。

「まずっ」
「微妙でしょ」
「うん」顔をしかめた絵里ちゃんが吉澤さんにグラスを返す。

「あぁ、なんか頭がくらくらしてきた」
こめかみの辺りを指で押さえて、絵里ちゃんが呟く。
そんな彼女が、ホテルへ帰りたいと言い出すのには、それほど時間はかからなかった。

395 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/11/22(木) 00:01

プーケット旅行と同じように、吉澤さんはギターを持ってきていた。
ホテルに到着した未成年の酔っ払い娘は、彼に何か歌を歌え、となぜか強要した。
その男は彼女の執事だったので、言われるままにギターケースを抱え、
彼女の部屋までやってきた。

「イエーイ。待ってましたぁ」
パチパチと、拍手をしながら絵里ちゃんが笑っている。
ギターケースを開けた吉澤さんは、苦笑しつつギターを取り出した。
彼女が座っているソファの近くまで椅子を引っ張ってきて、そこに腰を下ろす。

「なにかリクエストは」
「うーんとね、キャナダっぽい歌」
なんだそれ。内心ツッコむが、口には出さず、
「キャナダっぽい歌ですかー」考えながら、何度か弦を弾く。
絵里ちゃんはニコニコ、というかニヤニヤしながら脚をぶらぶらさせて待っている。

「じゃあ、キャナダっぽい歌、歌います」
吉澤さんはタイトルにその国名が入っている有名なデュエット曲を、ひとりで歌う。

”もしもあなたが一緒にいたら、どんなに楽しい旅でしょう”。
愛ちゃんの笑顔が、頭にぼんやり浮かんでくる。
やっぱり、愛ちゃんがいたら、もっと楽しい旅行だったはずだ。
曲中の主人公を自分自身に重ねて歌う。
ちょっと感情を込めすぎて、自分の世界に入ってしまう。

カナダっぽい歌を歌ったせいで、なんだか切なくなってきた。
フルコーラス全て歌い終え、ふとお嬢様のほうを見ると、
なんと、彼女はグースカ寝息を立てていた。
正直ガックシとなる吉澤さん。
ギターを置いて、立ち上がって、彼女の寝顔をじっと見つめる。

「…チョー可愛いんですけど」

しばらく眺めていたけれど、彼女をこのままソファで眠らせておくわけにはいかない。
彼女の肩を揺らして、「お嬢様、お嬢様、寝るならベッドで寝ましょう」
やさしく声をかけたが反応がない。マジかよ。ちょっと辺りをきょろきょろ見渡す吉澤さん。
もちろん誰もいないし、いるわけがない。この部屋にはあなたと私の二人だけ。
そう意識するとまた落ち着かない気分になってくる。吉澤さんは一旦彼女に背を向けて、
頭の中の天使と悪魔と、三者で作戦会議する。

396 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/11/22(木) 00:01

(吉澤さん、早くお嬢様をベッドに運んであげなさい)
(おい吉澤てめえ。さっさとヤリやがれ)
(いけませんいけません。さっさとヤッてはいけません)
(それならじっくり攻めていこうか吉澤。ぐへへ、ぐへへへへ)
(いけません。じっくり攻めてもいけません)
(じゃあどうしろっつんだよ)
(とりあえず早くベッドに運びなさい。話はそれからです)
(ちっ、早く運びやがれ吉澤)

そうだよね。このままソファに寝かせておくなんてできないんだし。
吉澤さんは、絵里ちゃんをお姫様抱っこして運ぼうとした。
しかし、彼女の予想以上のウエイトに、思わず「うっ」という声が出てしまう。
なんてかっこわるいんだ!おいらは男だ!ドラマーだ!
スタイルは石原裕次郎並み、イケメン執事吉澤さんは気合を入れ、
彼女を抱えて歩き出す。愛ちゃんが軽すぎるだけ。絵里ちゃんは全然重くない。
自分に言い聞かせながら、大きなベッドの上に彼女をそっと置く。

「ふう」
一仕事終えた吉澤さん。仁王立ちで、横たわるお嬢様を眺める。
すると、彼女が少し眉をしかめて、ううん、とうなった。
起きたか?執事は一瞬身構えるが、まぶたまでは開かない。
ていうか何で焦ってんだ。私は何にも悪くない。
ただ、絵里ちゃんがソファで寝てしまったから、ここに運んであげただけなんだよ。
この隙に彼女に対して破廉恥行為をしようだとか、そんなこと別に。か、考えてないし。
べべ、別にラッキーとか、おおお、思ってないし。本当だし!ジーコに誓うし!

(吉澤おめえよ。もっと自分に正直になれよ)
うわっ。突然、頭の中の悪魔がそんなことを言い出して、吉澤さんは天使に助けを求める。
(吉澤さん。自分の立場をわきまえてください)
そうだそうだ。そうなのだ。自分は執事。彼女は亀井家の大事な大事なお嬢様。
そんな、ここで手を出すなんてこと、できっこないのだ。
うんうんうなずきながら天使の隣に並んで、悪魔をキッとにらむ。
(おいおい吉澤。そんな怖い顔でにらむなよ。本当のことじゃねえか)
(本当のこと?)
(おめえは絵里お嬢様に対して、「恋心なんてない、100%ない」と言い切れるのか?)
100%か。100%は言い切れないな。そう思うと、天使が動揺する。
(ちょっと!吉澤さん!あなたは絵里お嬢様に対してそんなふしだらな感情を抱いてたの?)
(抱いてたさ。ずっと前からな。あっはっはっは)

天使と悪魔が何か言い争っている。
そんな中、吉澤さんは自分自身の奥底に潜む、とてもおそろしい気持ちに気づいてしまった。
恋心なんてない、100%ない。そう言い切れるなら、今すぐここから立ち去ればいい。
そして明日の朝、普通の顔で彼女をまた迎えに来ればいい。
でも、この身体が部屋の出口へ向かわないということは、むしろ彼女に近づいていってるということは、
つまりは100%言い切れないということで、恋心なんてある、ということの証拠でもあった。
そのパーセンテージはいったいどれくらいだ。自分でもさっぱりわからない。
まだ引き返せる。引き返せるんだけど、吉澤さんの歩みは止まらない。

397 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/11/22(木) 00:02
目の前には無防備に寝そべるお嬢様。
対して自分は、彼女に仕える立場の平凡な男。
吉澤さんはわかっている。わかりすぎているくらい、わかっている。
身分の違いすぎる相手に恋をすることが、どんなに無謀なことか。
さらに、彼女には現在恋人がいる。
彼氏は吉澤さんにとって弟のように可愛い存在だ。絶対に裏切れない。
だけど、そうなんだけど、彼女に近づきたくて堪らない自分が今ここにいる。
彼女の寝顔をもっと近くで見たい。そのやわらかそうな長い髪に触れたい。

吉澤さんはベッドの側までやってきて、眠っている絵里ちゃんをじっと見つめた。
これは、愛ちゃんに抱く感情と、何が違うというのだろう。
胸のときめき?心臓の鼓動の速さ?わからない。この気持ちがわからない。
彼女に対してこんな気持ちを抱くなんて意味がわからない。


頭の中の、悪魔がうるさい。このまま襲っちゃえよという、その囁きがうるさい。
たとえば今から、この本能の赴くままに、彼女を抱いてしまうとする。
翌朝はちょっと気まずいかもしれないけれど、全部、強いお酒のせいにして、
なかったことにできるかもしれない。
幸いにも、お互いの恋人は遠い遠い日本にいる。
カナダでの一晩の過ちを、2人だけの秘密にできるかもしれない。

天使がうるさい。何を迷っているんだよという、そいつの言うことは正論だ。
だけど、これまで知らんぷりしてきた自分の気持ちを、なんとなく自覚してしまって、
吉澤さんは、過去に例がないくらい必死で迷っていた。

「んー」

うおっ!
いきなり聞こえた絵里ちゃんの声に、吉澤さんは驚いて仰け反った。
彼女はなぜか腕を天井に向かって伸ばし、んー、とうなっている。

「お嬢様?」

もしかして起きたのかな、と彼女の顔を覗きこんでみたら、
思いっきり、バチッと目が合って、フリーズしてしまう吉澤さん。
彼女は、今度は吉澤さんに向かって腕を突き出してくる。

「なんでそんなところに突っ立ってんのよぉ」
とろけそうな甘い声。吉澤さんは、えええええ、という顔をする。
「お嬢様…」
「はやく、おいでよ」
誘われた!絵里ちゃんからベッドに誘われた!
ただそれだけでみるみるうちに下半身が熱くなってきた吉澤さんは、
おそるおそるベッドの端に腰かけて、彼女を見つめた。

「もっと、こっちきて」
絵里ちゃんは微笑みながら、ぽんぽん、と自分の横を叩いて示した。
言われたとおり、吉澤さんは四つんばいで彼女の隣へ移動する。
その体勢のまま「あの」と言いかけた瞬間、「キスして」と言われる。
「えっ、ちょ…それは」
「いいじゃぁん、へるもんじゃないんだし」
確かにそうですけど…マジかよ。妙な格好のまま、吉澤さんは絶句する。

「ねぇ、キス」
色っぽく、絵里ちゃんがおねだりしてくる。
きっと彼女は酔っている。だから、ちょっとおかしくなっている。
吉澤さんは真剣な表情になって、もっと彼女へ近づく。

「キスしよ」
絵里ちゃんが、手の届く場所にきた吉澤さんの肩に触れた。
より近づいた2人の距離。吉澤さんは、息をのむ。
彼女に覆いかぶさるような体勢になって、もう、覚悟を決める。
全部あの何とも知れないお酒のせい。明日になったら忘れてる。
帰国してもしゃべらない。愛ちゃんにもガキさんにも、絶対に言わない。

398 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/11/22(木) 00:02
彼女は吉澤さんの首に自分の腕を巻きつけて、うれしそうに声を出して笑った。
ぼーっとしている吉澤さんをぐいっと引き寄せ、至近距離でまた笑う。

「ちゅー」

あっさりと重なる2人の唇。吉澤さんは目を開けたまま、固まってしまう。
温かくてやわらかい彼女の唇。お酒の匂いが残っている。

ここまできたら、やったろうぜ!
離れて、まだふにゃふにゃ笑ってる絵里ちゃんを、真顔で見つめる。
大きな瞳で、強い眼差しで、彼女だけを。

2回目のキスは大人の口づけをしよう。ていうかしたい。
と、無言で唇を寄せた吉澤さんの耳に、甘ったるい彼女の声。

「ガキさん、大好きだよぉ」

ぶはっ!目を丸くする吉澤さん。
もう一度、彼女にキスをされるが、すっかり冷静になっていた。
舌を入れられそうになったところで無理やり離れる。

「ガキさん…もっと」

吉澤さんは、心底ガキさんのことがうらやましくなった。
こんなに可愛くて、セクシーな絵里ちゃんからこんな風に甘えられるとか。
ていうか、なんて自分は馬鹿なんだ。情けなくなってくる。
膨らんだ股間を見て、反省する。カナダまで来ておまえはいったい何やってんだ、と。

頭の中の天使と悪魔がケンカをやめたかと思ったら、
ちっちゃな愛ちゃんが間に入って2人に説教をしていた。
吉澤さんも並んで正座(おちょきん)して、恋人に深く頭を下げた。

399 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/11/22(木) 00:03

絵里ちゃんはきっと、キスをしたことなんか覚えちゃない。
だから、吉澤さんはそ知らぬ顔で、彼女を起こしに行かなきゃいけない。

「お嬢様、おはようございます。吉澤です」

部屋のドアを開けた彼女に言って、吉澤さんは丁寧にお辞儀をする。
朝からきっちりスーツを着込んだ執事。髪型だって、ちゃんとセットしてある。
いつも通りの笑顔で、彼女へ微笑みかける。

「おはよう」
あくびが出てくる口元を押さえながら、絵里ちゃんが言った。
寝起きのせいか彼女は無造作ヘアーで、バスローブ姿だった。
それがなんだかとてつもなく色っぽく見える吉澤さんは、彼女から視線を逸らす。
必死に抵抗する。忘れろ。忘れるんだイケメン執事。
「朝食はあと30分後となっておりますので」
「はい」
「それでは」
「あっ、待って」
呼び止められて、吉澤さんはドアノブを掴んだまま、彼女を見る。
2人の視線が交わる。そして、彼女は静かに微笑む。

「吉澤さん、昨夜のこと、覚えてます?」
「へっ、昨夜のことって」
吉澤さんがすっとぼけると、絵里ちゃんは斜め下を見て、
「やっぱり、覚えてないですよね」と寂しそうに呟いた。沈黙になる。

「覚えてますよ」

はっきりと。吉澤さんは彼女を見つめたまま言った。
ドアを閉めて、完全に部屋の中へと入る。

「全部、ですか?」
「ええ。全部」

絵里ちゃんがじわじわ吉澤さんの目の前に迫ってくる。
朝っぱらから、2人を包む異様な雰囲気に、吉澤さんは唾を飲み込んだ。

「絵里も覚えてますよ。全部」
「全部?」
吉澤さんは尋ねる。絵里ちゃんはうなずいて、背伸びをした。
音も無く、2人の唇が重なる。彼女は吉澤さんの瞳をじっと見つめている。

「こうやって吉澤さんとキスしたことも、全部覚えてますよ?」

400 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/11/22(木) 00:04
じゃあ、と吉澤さんはゆっくり顔を近づける。
絵里ちゃんを見つめたまま、やさしく囁く。

「キス、2回したことも覚えてますか?」

その問いに彼女がくすっと笑う。それからすぐに、口づけてくる。
吉澤さんは彼女の腰を抱き、忍び込んできた舌を受け入れる。
あああ!テンションが上がってきたぜ!
彼女の背中を何度も撫でる。べろべろな、激しいキスをする。

愛ちゃんごめん。そしてガキさん申し訳ない。
おいらは、男だ。愛ちゃんの恋人である前に、亀井家の執事である前に、おいらは男なのだ。
吉澤さんは心の中で謝りながら、唇を離し、絵里ちゃんを見つめた。
「お嬢様、ぼく、もう」
彼女はとびきり小悪魔な微笑みを浮かべて、吉澤さんのあごを指でなぞる。
「どうしたんですか?吉澤さん」
「もう、我慢できません」
「まだまだ、修行が足りませんな」
ニヤッと笑うカメ仙人。吉澤さんは、思いっきり彼女を抱きしめる。
そしてもう一度唇を求める。さっきよりも、さらに激しいキスをする。

はあはあと、息を切らしながら顔を離して見つめ合う。
吉澤さんは昨夜のように、ひょいっと彼女をお姫様抱っこする。
今度は「うっ」とかかっこわるい声は出さない。かっこよく、ベッドまで移動する。

「絵里よりせっかちな人ですね。吉澤さん」
絵里ちゃんが吉澤さんのネクタイをほどきながら囁いた。
苦笑した吉澤さんは、絵里ちゃんのバスローブのひもに手をかける。
ちょうちょ結びのそれを、パッとほどこうとする。
しかし、どんだけ引っ張ってもほどけない。あれっ、あれっ。ビクともしない。

「本当にせっかちですねぇ」
からかうような絵里ちゃんの声が聞こえる。
「いやいや、ほどけないんですってコレ」
「ウッソ」自分で確かめてみる絵里ちゃん。やっぱりほどけない。
「どうしよう吉澤さん。ほどけないよ」
「ちょっと待ってください…」必死でほどこうとする吉澤さん。しかしマジでほどけない。

「もしかして呪いがかかってるのかも」
「の、呪い?」んなアホな。吉澤さんは半笑いになる。
「何の呪いです」「愛ちゃんのですよ」
ぶはっ!噴き出す吉澤さん。ついでに咳き込みそうになる。

「絵里のバスローブを吉澤さんが脱がさないように、
きっと愛ちゃんが呪いをかけたんですよ!」
まるで大事件の謎が解けたかのように、絵里ちゃんが大げさに言う。
吉澤さんは後頭部をぽりぽりかいて、そりゃねえだろう、と思う。

401 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/11/22(木) 00:04
「どうやったらその呪い、とけるんでしょうね」
でも、とりあえず彼女の言うことに乗っかる。
すると絵里ちゃんは、急にシリアスな表情を作って言う。
「それなら、吉澤さんにはガキさんの呪いがかかって…」
「ちょ、お嬢様」
彼女は吉澤さんのベルトを掴み、それを外そうとした。
バスローブのひもと同じように全然外れない…わけなくって、
いとも簡単にするすると抜き取られ、吉澤さんはパンツ一丁になってしまう。

「あれれ」

お嬢様に下半身を凝視され、吉澤さんは思わず両手で股間を隠した。
彼女は、なぜか妙に楽しそうに笑いながら執事を見つめた。

「可愛いパンツ、穿いてるんですね」

今日は失敗したことに、リラックマというキャラクターのトランクスを穿いていた。
これは愛ちゃんが買ってきたものだ。彼女はキャラものの下着しか買ってこない。
大の大人がこんなパンツ。ああ恥ずかしい。穴があったら入りたい(いや、入れたい)。
ハッ。もしかして、これが愛ちゃんの呪い?それじゃあバスローブのひものほうが――

「吉澤さん。早く絵里の呪いをといてくださいよ」
「え」
「は、や、く」
そう至近距離で囁かれた吉澤さんは、ドキマギしながら、
「ど、どうすればいいんでしょうね」と言ってベッドの上であぐらをかいた。
「やっぱ、ガキさんじゃないと、そのひもはほどけないんじゃ」
「どうして?」
「だって、お嬢様の恋人は、ガキさんなんだし…」
シーツを指でなぞり、俯きながら吉澤さんは言う。
「吉澤さんの恋人だって、愛ちゃんじゃないですか」
「そうですけど。そうなんですけど」
「吉澤さんならできますって。ね」
「うーん」首をひねりながら、再度、そのひもをほどこうとする。

ああもう!イライラしてくるくらい、うんともすんとも、手ごたえが無い。
絵里ちゃんはのんびりと「がんばれーがんばれー」、笑っている。

ほどけない。全然ほどけない。固くて固くて、ほどけない。
これじゃあ絵里ちゃんを抱けない。すでに自分はギンギンなのに抱けない。
ここまできて、抱けないなんて情けない。抱けないなんて運が無い。
性欲あるのに運が無い。呪いをとける力が無い。

まったく、役立たずのヒーローだ。
もしこれが絶体絶命の場面だったらどうしよう。
この部屋に時限爆弾が仕掛けられてて、犯人はもうどこかへ逃げている。
ヒーローひーちゃんは、ヒロインの絵里お嬢様を助けにやってきた。
お嬢様は、ロープでぐるぐる巻きにされて、身動きがとれないかわいそうな人質。
ひーちゃんはそのロープをほどこうとするがどうやってもほどけない。
ピッ、ピッ、ピッ。時間は1秒ずつ確実に刻まれている。タイムリミットまであと10秒。
なんとしてでもほどかないと!焦りで手が震えてくるひーちゃん。
あああ、ほどけない!ほどかないと!がんばれ!がんばるんだヒーローひーちゃん!
しかし、爆発まであとたった5秒。5、4、3、2、1―――

402 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/11/22(木) 00:05

「逃げろおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

吉澤さんは、ものすごい勢いで起き上がり、ベッドから降りて床に伏せた。
大きな爆発音など、聞こえてくるわけもなく、部屋はシーンと静まり返っている。
「…あれ」
自分の今の格好を見た後、ベッドのほうを振り返ってみて、全てを悟る吉澤さん。

「夢かよ」

あちゃー。吉澤さんは両手で顔を覆う。
ここは、どこからどう見ても自分の部屋だし、絵里ちゃんの部屋じゃないし。

「サイアク…」
最低の目覚めだ。ひどい自己嫌悪で、その場から動けない吉澤さん。
とうとう、絵里ちゃんを性の対象にしてしまった。
決してやってはならないことを、(夢の中でだが)してしまいそうになった。
いかん。これはいかん。頭をかきむしって、あああああと唸る。

土下座じゃすまない。打ち首だ。打ち首の刑だ。
床におちょきんして、吉澤さんは、背筋を伸ばして目を閉じる。
愛ちゃんの、とても冷めた顔が頭に浮かぶ。
浮気者!アホかボケナス!1回死んでこい!罵られる。
それくらいのことをしたのだ。吉澤さんは黙って反省する。

「もうしません…もうしません…」

もうしません、絶対にしません、許してください。
浮気者ヒーローひーちゃんは、目をつぶったままそう何度も唱えていた。


403 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/11/22(木) 00:05

つづく



404 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/11/22(木) 00:06

(0´〜`)<もう主役はガキさんに譲るYO
( ・e・)<さあ来たね時代が!

405 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/22(木) 00:22
愛ちゃんというものがありながら…
こんのエロ執事がぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!
川*'皿')<切り取ってまぇぇぇぇっっっ!!!!

でも楽しかったよ、ありがとう。
406 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/22(木) 01:46
更新お待ちしてました。

愛ガキが微笑ましかったです。
407 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/22(木) 04:45
執事・・・orz
408 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/22(木) 19:15
夢かよ!
夢なのかよ!
409 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/25(日) 04:02
予想外の展開に驚いてます。
絶対に踏み込まない領域だと思っていました。
一体どうなるのか続きが楽しみです。
410 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/26(月) 19:57
キスするのか(゜д゜)
いい展開書くなぁ、おい
411 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/28(水) 01:07
川*’−’)<キャナダから一生帰ってこれんように鎖国やよ
412 名前:重ピンピン 投稿日:2007/11/29(木) 01:47
お疲れっす
まさかまさかの内容でしたな〜
でもこれはこれでアリかなって・・・
思っちゃったりしちゃったりして
キャナダ編続き楽しみしてま〜す

413 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/01(土) 18:17
あかんよ・・・
414 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/06(木) 20:22
エロ執事のエロはどこまで底なしなんだYO
しかしガキさんは大丈夫なんだろうか…
415 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/15(土) 09:50
続きが待ち遠しい!!
416 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/26(水) 01:06
更新待ってます。
417 名前:ガキさんが男にしか見えなくなってきた 投稿日:2007/12/29(土) 16:57
ついに追い付いてしまった(/_;),
面白すぎるL(・o・)
418 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 18:23
(・e・)<コラー
419 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/29(土) 22:39
更新されたかと思った
あげないで
420 名前:(0´〜`)人(’ー’*川 投稿日:2007/12/29(土) 23:30
>>383でミステイクしました
正しくは>>376-382です
どうしてこんなミスを犯したのか自分でも信じられません
申し訳ないです今さら訂正します


>>405さん
愛たんこええええええええwwwwwwwwwwwww
楽しかったって言われると本当にうれしいです
こちらこそありがとう

>>406さん
愛ガキはほんっとにポワワですよね
あの二人ゴト見てから大好きです愛ガキ
ttp://www.youtube.com/watch?v=NGJEOPn84Lw

>>407さん
失望させてしまったみたいで申し訳ないです
これから名誉挽回します

>>408さん
そうです!ちなみに>>399-401が夢です!

>>409さん
絶対に踏み込まない領域、ってかなりそそる単語ですね
メモしときます

>>410さん
これからもっといい展開が続くYO!
なんていう宣言はしません
だけど最後まで読んで欲しいです

>>411さん
将軍タカハシハァ━━━━;´Д`━━━━ン!!!!!!
ガキさんは家老ですか(*´Д`) ハァハァ

>>412 重ピン
ありがとう!
重ピンにこれはこれでアリとか言われると安心するYO!

>>413さん
申し訳なかとです

>>414さん
そうですね執事は底なしエロですね
脳内メーカーだとたぶんほとんどHですね
ガキさんが大丈夫なのかは今はまだ誰にもわかりません

>>415さん
ありがとう!続き書いたよ!

>>416さん
ごめんね!お待たせ!

>>417 「ガキさんが男にしか見えなくなってきた」さん
ありがとうございます!
でもこのスレはochiスレなのでよろしくお願いします

>>418さん
ガキさん助かりました
ありがとうございます

>>419さん
更新しました
でもあげません

421 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/12/29(土) 23:31



422 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/12/29(土) 23:31

昨夜のことは忘れよう。というか忘れろ変態執事。
神妙な表情でひとつうなずいた吉澤さんは、絵里ちゃんの部屋のチャイムを鳴らす。
しばし待つと、ガチャリとドアが開いた。ひょこっと彼女が顔を出す。
すでに準備はバッチリだったようで、朝からとても美人だった。

「おはようございます」
視線を合わさず頭を下げると、同じ挨拶が返ってきた。
でも、吉澤さんは彼女の顔を見れない。見るのが恥ずかしいのだ。
全部あんな変な夢を見たせいだ。チョメチョメの対象にしてしまったせいだ。
それに、もうひとつ理由がある。だから顔だけはまともに見れる気がしない。
吉澤さんは、俯いたまま腕時計を一瞥する。

「ねぇ。吉澤さん」

絵里ちゃんから呼びかけられて、ドキッとする。
あああ。昨夜のことには触れないで欲しい。
できれば、できれば覚えてないでいて欲しい。吉澤さんは祈る。
たとえ覚えていたとしても、忘れたフリをして欲しい。
なんて自分勝手!ふざけんな馬鹿野郎!自身に怒りがわいてくる。

「昨夜、絵里、どうやって部屋まで帰ってきたのかな。ぜんぜん覚えがないんだけど、
もしかして、吉澤さんに迷惑をかけちゃったりしてたら、謝らなきゃなと思って」

迷惑とか。吉澤さんは、いえ、と反射的に首を横に振るけれど、何も言えない。
彼女の記憶が曖昧だったことに少しホッとしながら、彼女のほうをちらっと見る。
するとバチっと目が合って、吉澤さんはすぐに視線を逸らした。

「でも、気づいたらベッドの上で。吉澤さんが運んでくれたんですよね?」
「はい」
「すいません。今後気をつけます」
微笑みながら、ちょこんと頭を下げる未成年。
吉澤さんは微妙な顔で応えて、もう一度腕時計を見た。
その様子に絵里ちゃんが、ぽん、と手を叩く。
「あ。そろそろ、朝ごはん食べに行きましょうか。
ちょっと待ってください。準備しますから」


吉澤さんは部屋の外で彼女を待つ。中にどうぞと誘われたけれど断った。
本当に反省しているのだ。昨夜のことは。無かったことにしたいくらい。
彼女との関係を改めて確認して、自分の立場を弁える。
そう。彼女は亀井家のお嬢様。
自分は執事で、彼女の身の回りの安全を守るだけ。脇役もいいとこだ。

彼女の胸をときめかす、憧れのヒーローは、あの坊ちゃんだ。
見た目はちょっと童貞臭いけれど、しっかり者のガキさんなのだ。
現実を見ろ変態執事。日本に帰れば、可愛い愛ちゃんが待っている。
自分は彼女の英雄(ヒーロー)で、彼女を一途に愛するべきなのだ。
そんな、浮ついた気持ちを抱くなんて馬鹿なこと、しちゃいけないのだ。

昨夜の口づけや悪夢をきっかけにして、
吉澤さんは、絵里ちゃんとの間にぶっとい線を引っ張った。
もうあんなことは起こさない。変な妄想もしない。彼女にお酒も飲まさない。
頭の中の小さな愛ちゃんにそう誓って、吉澤さんはまたひとつ大人になった。


423 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/12/29(土) 23:32

*****


424 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/12/29(土) 23:32
カナダからの手紙は、日曜日にやってきた。
家政婦さんからそれを渡されたガキさんは、
さっさと自室へ引っ込んで、ソファに座って封を開ける。

”愛しのガキさんへ”から始まる絵里ちゃんからのラブレターには、
カナダでの楽しい毎日について、それはもう適当に記されてあった。
吉澤さんに撮ってもらったのか、写真も何枚か同封されていた。
そこらのグラビアアイドルのよりも可愛い彼女の微笑を見て、
ガキさんは、心の底から恋しくなったりする。

吉澤さんの写真もあった。愛ちゃんに渡してあげてね、と書かれてあった。
その手紙は、たくさんお土産を買って帰るから乞うご期待!と締めくくられている。
お土産か。彼女のことだから、どうせくっだらないものばかり買ってくるのだろう。
過去の例を思い出しながら、ガキさんは手紙片手にニヤける。
恋人の写真を眺めて、さらにニヤニヤする。気持ち悪い坊ちゃんだ。

しかし、携帯電話の着信音4が聞こえ始めて我に返る。
絵里ちゃんとおそろいのストラップがついたケータイを手にとって、
微妙な表情になりつつも、ガキさんは受信したメールを開く。
秋吉さんだ。実はまた、今日会う約束をしている。
デジタルカメラを買いたいからと電器屋さん誘われたのだ。
それ以上でもそれ以下でもない。

ガキさんは自分の想いを、カナダからの写真を見つめながら再確認する。
今日こそは、と心に決める。
こないだの水曜日。秋吉さんから告白っぽいことをされた。
そのときもハッキリと彼女をふることができなかった。
だからガキさんは、心を鬼にしてでも、今度こそ言わなきゃいけないのだ。

絵里ちゃんへの愛は一生変わらない。
変わるわけがないのだ。ガキさんは、とても自信満々だった。

425 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/12/29(土) 23:33

「なーんでこんなに人が多いんだろうね」

夢が丘南駅の2番ホームで、ガキさんは呟いた。
辺りは人でごった返している。しかも今日は蒸し暑いし、最悪だ。
おでこの汗を、鮮やかな黄緑色のハンカチで拭う。

「今日、木々代第一体育館でなんかあんじゃない?」
隣でキョロキョロしながら秋吉さんが答えた。
なるほど、だからか。
この駅の3つ先、湾田駅の近くに木々代第一体育館がある。
今日は日曜日だから、有名な歌手のコンサートとかあるだろう。
ガキさんは、混雑の理由に納得して、秋吉さんをちらりと見た。

いやはや。わかりやすいというか、何というか。
彼女の今日の服装を改めて観察して、少しだけ顔をしかめるガキさん。
ミニスカートが嫌いな男なんていない。
胸の谷間が目に入らない男なんているわけがない。
だから、これは不可抗力で、ある意味ひとつの自然現象。
彼女の全身をついつい見てしまうのは、しょうがないことなのだ。
自分は何も悪くない。悪くないの!大声で叫びたい気分だった。


だだっ広い、家電量販店。
日曜日だけあって家族連れも多ければカップルも多い。

デジカメ売り場へ進む秋吉さんの後ろにガキさんはついていく。
液晶テレビにプラズマテレビ、デスクトップのPCに、最新レーザープリンター。
色んな電化製品に目を奪われ、ガキさんが辺りをキョロキョロしていると、
ぐいっと腕を引っ張られる。
「ちょっとガキさん。はぐれちゃうよ」
「あっ、ごめん」
「行こ」
秋吉さんはパッと手を離し、また歩き出す。
ガキさんも、小走りで彼女の背中を追いかける。
さっき腕をぎゅっと掴まれた感覚に、少し胸を痛めながら。

「ねぇねぇガキさん。ガキさんってどれ持ってんの?」
「ぼく?ぼくはこの…」
ガキさんはたくさんある種類のうち1つを指差して言う。
「これ良いの?」
「まあ。1000万画素だしね」
「ふーん」
それを手にして、あらゆる角度から観察する秋吉さんだが、
「よくわかんないや」と笑いながら元の場所に戻す。
「アキちゃんはどんなのがいいの?」
「どんなのって」
「手ブレ補正とか、ほら、こういうのだと顔認識がすごいみたいだし」
「顔認識ねえ」
「それか、デザインが気に入ったやつとか」
「そうだね。機能とかよくわかんないし」

その後、秋吉さんは、ちょうどいいタイミングで声をかけてきた
店員さんのアドバイスのまま、その日の目玉商品になっていた
デジカメを購入することに決めた。

426 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/12/29(土) 23:33

「良かったね。安く買えて」
「うん」
袋を抱えて、満足そうな秋吉さん。
ガキさんが微笑みかけると、さらにうれしそうになった。
普通に可愛いなあ…って。おっととっと。冷静になって視線を逸らす。

「歩き回って疲れたね。そうだ。コーヒーでもおごるよ」
「えっ、いいよ」
「今日付き合ってくれたお礼。行こっ」
「おぉっ」
ガキさんは秋吉さんから腕を引っ張られ、近くのお店に連れ込まれる。

どうもペースを握れない。ダメな男だ。自分が嫌になってくる。
秋吉さんからごちそうになったコーヒーを飲みながら、
ガキさんは本当に今日言えるのかと疑問になった。
でも、言うしかないのだ。絵里ちゃんが帰ってくる前に、ケリをつけないといけない。
じゃないとこのままずるずるしてしまう。それは、いけない。

「絵里、まだカナダにいるの?」
「うん。ちょうど今日手紙がきてさ。いま首都にいるんだって」
「カナダの首都ってどこだっけ」
「オタワだよ」
「聞いたことない」苦笑して、秋吉さんがコーヒーに口をつける。
「涼しいらしいよキャナダは」
「いいね。日本は蒸し暑いもんね…」

遠い目をした秋吉さんの横顔を、じっと見つめるガキさん。
彼女はとてもオシャレだし、性格も良い。
それに、絵里ちゃんよりもハキハキしていて、お姉さんぽいというか。
サークルの先輩から告白されたって言ってたし、モテないわけないはずだ。
そんな彼女が、どうして自分なんかをずっと想っているのだろう。
こんな、いつまでも童貞臭さが抜けない、かっこわるい男なんかを。
男としての自信が持てないガキさんは、秋吉さんの一途な気持ちを、
どう受け止めようか戸惑っている。


バレンタインのチョコを返したときに、諦めてくれるもんだと思ってた。
絵里ちゃんと付き合い始めたこともそう。それで諦めるだろうと思ってた。
でも、秋吉さんはずっと好きだと、気持ちは変わってないと言う。

諦めてくれ、とガキさんが一言言えば済む話なのだろうか。
例えばそう言ったとして、彼女は素直に諦めてくれるのだろうか。

427 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/12/29(土) 23:34
ボーッとしているうちに、お別れの時間がやってきた。
大きな湾田駅が見えてくる。今しかない。
ガキさんは立ち止まり、真面目な顔で、彼女の背中に話しかける。

「ねぇ、アキちゃん」
振り向き、首をかしげた彼女に、できる限り控えめなトーンで言う。
「どうして、ぼくなのかな」
ガキさんを見て、秋吉さんは微笑む。
「何?いきなり」
小さくため息をついたガキさんは、眉間にシワを寄せる。

「…ぼくは、カメと付き合ってる」
「それが?」
「だから、アキちゃんとは付き合えないんだよ」
「はっきり言うね。ガキさん」
「はっきり言わなきゃって、思ったから」
沈黙になる。重たい空気が2人を包んでいた。

「あたしはね、ガキさんが、絵里と付き合っててもいいの」

うえっ。思ってもみなかったセリフに、ガキさんは目を丸くする。
どどどど、どういう意味なんだそれは。なんだか危険な香りがしてくる。

「あたしは、ガキさんが絵里のこと好きだって知ってて、好きになった。
だから絵里と付き合ってても、いいの。ホントはよくないけど」
「……」
マズった。なんて返せばいいかわからない。
困って、ただ俯いて、黙り込むガキさん。
ああ、かっこわるい。なんで秋吉さんはこんな男のことを。

「アキちゃんにはもっと、ぼくなんかよりかっこよくて良い人、
いると思うけどな」
「うん」
「えっ」
「そりゃあ、世の中にはイケメンなんていっぱいいるよ。
でも、あたしはガキさんのこと、一番かっこいいって思ってる」
「………」
さらにマズった。思いっきり、口説かれてる。
ガキさんはおでこをかいて、微妙な顔のまま秋吉さんを見た。

「ごめん。そんなに困った顔しないで」
いったい、どっちが謝る立場なのだろう。
全然わからないガキさんは、彼女から視線を逸らす。
「なんでぼくなの。アキちゃんにはもったいないよ」
「もったいなくないよ」
「…もったいないよ」
「ねぇ、ガキさん」
呼びかけられて、彼女を見る。
「なに」
「あたし、口だけは堅いんだ」
「はっ?」
「2番目だって、全然いいし」
「こないだもそう言ってたけどさ、1番とか2番とか、どういう意味なの?」
ガキさんが尋ねると、秋吉さんは急に真顔になった。
そして、ガキさんの腕をぐいっと引っ張り、ずんずん歩き出した。
「ちょっ、アキちゃん」
止めようとしても彼女は止まらない。
人気の無い通路に辿り着くまで、彼女は無言だった。

どうしよう。どうしようっていうか、どうしよう。
腕はまだ掴まれたままで、すぐ目の前に秋吉さんがいる。
いつも朗らかに笑ってる彼女が、真剣な表情でガキさんを見つめている。
いったいなんなの。なんなのこの空気。ガキさんの額に汗がにじむ。

428 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/12/29(土) 23:34
「あたしを2番にして」
「えっ?」
「2番でいいから」
「うおっ」
こちらへいきなり倒れこんできた秋吉さんを両手で受け止めるガキさん。
「ちょ、ちょっとアキちゃん」
「ガキさんのこと、本当に、大好きなの」
あばばばばばば。ぎゅっと抱きしめられて、ガキさんはあたふたし始める。
目は泳ぎまくりで汗はだくだく。こんなこと、全く想定外だ。

本当なら、ズバッと言って諦めてもらうはずだったのに!なんなのこの展開!
「ちょっと!」
力任せに秋吉さんの身体を引き剥がし、少し距離を置く。

「ごめん」しょんぼりして、謝る秋吉さん。
「あ、いや。その…」ハンカチを取り出して、ガキさんは汗を拭う。
「アキちゃんの気持ちはうれしいよ?うれしいけどさ…」
「やっぱり、無理だよね」
「あぁ…ごめん」ガキさんは深く頭を下げる。
「そうだよね」
「ごめん」

慣れないことをしているから、ガキさんの心臓は嫌な感じにバクバクしている。
でも、いつかはこうしなきゃいけなかったのだ。
どうしても彼女を傷つけたくなかったけれど、こうするしかなかったのだ。
何度もごめんと謝って、ガキさんは頭を下げ続ける。
それで秋吉さんに納得してもらうしかない。

上手くできない不器用なガキさん。絵里ちゃんという、可愛い恋人がいる。
長い間貫いてきたこの恋を、一生かけて守ろうと思っている。
大事にしたいと思ってる。絵里ちゃんのことを、何よりも、誰よりも。
だから、こんなことでグラグラ揺れてる場合じゃない。
いくら秋吉さんが魅力的な女性でも、彼女から情熱的にアプローチされたとしても、
ガキさんは命がけで拒まなきゃいけない。絵里ちゃんがいるから。いるんだから!

429 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/12/29(土) 23:34

「どーしたの、そんな暗い顔して」

愛ちゃんは、部屋の玄関でガキさんを迎えるなり苦笑した。
なんだかガキさんの周りにだけ、どよーんとしたオーラが見えたようだ。
汗だくガキさんは「ああ、涼しい」と言いながら、シャツをぱたぱたさせながら呟く。
今日はいつにも増して湿度が高く、蒸し暑い日だった。
いったい、夏になったらどんだけ熱くなるのだろう。恐ろしくなる。
そういやカナダは涼しいって言ってたな。絵里ちゃんの手紙を思い出す。
同時に写真の中の彼女の微笑も。ガキさんは急に彼女が恋しくなって、
ちょっと泣きたくなった。早く会いたい。会ってイチャイチャしたい。

「はぁ」
「何かあったの?」
元気の無い幼なじみを心配して、愛ちゃんが言った。
ガキさんは浮かない顔のまま答える。
「秋吉さんから、また、好きだって言われた」
「はぁ?!浮気か!」
大きな声を出した彼女に、ガキさんは顔をしかめる。
「浮気じゃない。今日はちゃんと言った」
「そう。ならいいけど」


リビングのテーブルに向かい合って座って、ガキさんは冷たいカルピスを飲む。
愛ちゃんはアイスコーヒーをストローでちゅーちゅー吸っている。
冷房の効いた彼女の部屋は快適だ。もう、外に出たくないくらい。

「秋吉さんに悪いとか思っちゃダメやよ」
「へっ?」
ガキさんが顔を上げると、愛ちゃんはストローでコーヒーをくるくると
かき混ぜ、氷をカランカランいわせながら、
「他の女には絶対にやさしくするな」
「…はい」
「ガキさんは、絵里のことだけ考えてたらいい」
「はい」
「よろしい」

くしゃっと笑った愛ちゃんは、身を乗り出してガキさんの頭を撫でる。
というか髪の毛をぐしゃぐしゃにするようにかき回す。
ちょっと!セットが乱れる!って、元々セットとか今日はしてなかった。
めちゃくちゃになった髪形を元に戻しながら、ガキさんは明るく笑った。


430 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/12/29(土) 23:35


*****


431 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/12/29(土) 23:35
「うーん、うーん」

右に、左に首を傾けながら悩んでいる様子の絵里ちゃん。
彼女の視線の先には、有名なブランド製品。
バッグやら財布、腕時計にアクセサリーもある。見るからに高そうだ。
吉澤さんは側に立ち、何を買うか選んでる彼女を眺めている。
この中のどれかを今日ぽーんと買おうとしてるんだもんな。
やっぱりこの子はお嬢様だ。しかも大金持ちの。
愛ちゃんも良いとこの娘さんだが、絵里ちゃんほどではない。
気まぐれにこんなお店に立ち寄って、ウン十万、ウン百万のものを
買おうとするなんて普通はありえない。ありえるとしたら、こち亀の世界だ。
中川か。いや、麗子か。吉澤さんは少しニヤっとした。


「何を迷ってらっしゃるんですか?」

そのままの状態で、30分くらい過ぎたころ、吉澤さんは尋ねた。
絵里ちゃんが顔を上げて、また「うーん」とうなる。
「ガキさんにね、何かプレゼントしたいんだけどぉ」
「ガキさんに」
うひょっ。吉澤さんは内心飛び上がって、絵里ちゃんを見る。
「でもぉ何がいいかなぁ、って悩んでるんです」
唇を尖らせて、難しい顔で色々眺める彼女。
その横顔を眺める吉澤さんはやさしい微笑みを浮かべている。
可愛いけれど、胸はときめかない。当たり前だ。誓ったのだから。

「吉澤さんだったら、何もらったらうれしいですか?」
「ぼくですか?いやー、何でもうれしいですよ」
「もぉ、そういうのはいいんです。ぶっちゃけ、何がいいです?」
「うーん。そうですねえ、やっぱり普段使うものがいいですよね」
「普段使うものかぁ…」
「でもアクセサリーとかでもいいんじゃないですか?」
「アクセサリー…」

店内をブラブラうろうろしていると、背の高いブロンド美女店員がやってきた。
英語のわからない絵里ちゃんは、対応を全て吉澤さんに任せて、
アクセサリー類が入っているガラスのケースの中を眺め始める。
店員さんから、「恋人への贈り物ですか?」とか聞かれて、吉澤さんは慌てて首を振る。
2人が恋人同士だと思われてる。冗談じゃない。
手もぶんぶん振って必死で否定しながら、HAHAHAと笑う。

「これ、どうですか?」
「はいっ?」
動揺が声に出てしまい、絵里ちゃんに間抜けな返事をしてしまう吉澤さん。
彼女が指で示したのはペンダント。もちろん値段はそこそこ高い。

「あ、あんまり派手じゃないので、ガキさんにも似合うんじゃないですか」
「うん。よし。これにする」

恋人へのプレゼントを選び終わり、安心したように微笑んだ彼女を、
吉澤さんも笑顔で見つめる。可愛いな。可愛いけどかなり浪費家だな。
自分用に指輪まで買おうとしているお嬢様の後ろをついて行きながら、
少し呆れたように肩をすくめた。

432 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/12/29(土) 23:35

「ガキさん喜んでくれるかなぁ」

お店を出て、オタワの街中を歩く。
絵里ちゃんは手に持った小さ目の紙袋を揺らしながら呟いた。

「大丈夫ですよ。お嬢様からのプレゼントなんですから」
「そうだよね」
「そうですよ」
「吉澤さんも愛ちゃんに何か買わないんですか?」
「あいつには、メイプルシロップでも買って帰ります」
「あ。あの雑貨屋さん可愛い」
すぐそこのお店に向かって、とことこ駆け出すお嬢様。
やれやれ。吉澤さんは苦笑しながらついて行く。

絵里ちゃんはそのお店に入って、雑貨を眺め始めた。
別に可愛らしいモノに興味なんてない吉澤さんは、適当に店内をうろつく。
しかし、急に立ち止まって、ある場所を食い入るように見つめる。
そこには手作りっぽいアクセサリーがずらりと並んでいた。
吉澤さんが次にとった行動は、今はまだ秘密にしておこう。


あっという間に、日本へ帰国するときがやってきた。
吉澤さんは絵里ちゃんの荷物が積まれた台車を押しながら、空港内を移動していた。
たくさん買ったお土産などは、一足先に向こうへ送っている。
欲しいと思ったものをポンポン買っちゃう絵里ちゃんの荷物は、ハンパないのだ。
旅行に行く前と行った後では、良いときで3倍、酷いときで5倍に膨れ上がる。
今回のカナダ旅行でも、お金をいったいいくら使ったのだろう。
そういうことを、お嬢様は全然気にしない。逆に吉澤さんが心配になる。
将来、結婚してからもこんなんじゃ、旦那さんが大変だろうな。

「吉澤さーん」

荷物を預け終えて、来た道を戻っていたら、手を振る絵里ちゃんの姿が見えた。
吉澤さんは小走りで駆け寄る。「お待たせしました」と言って頭を少し下げる。
「それでは、行きましょうか」
「はい」

入国したときは3人だったけど、帰るときは2人。
絵里ちゃんのお兄ちゃんは結局ずっと別行動のまま。
こんなことならホントに1人で行けばよかったのに。
そしたらあんな夜を過ごさなくてよかったのに。
彼には直接言えないけれど、思うだけならいいだろう。

「あ、お嬢様」
吉澤さんはチケットを懐から取り出して、彼女へ渡す。
「ありがとう」とお礼を言って微笑んだ彼女を見て、微妙な顔になる。

もう決めた。あの朝に決心した。
これから、彼女に対する浮ついた気持ちは全て排除する、と。
身体検査の列に並んだ吉澤さんは、そっとポケットに触れた。
その中にあるモノをぽんぽんと叩いて確かめる。
決めたことは、実はもうひとつある。
それが何かを一番に教える相手は、絵里ちゃんではない。

433 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/12/29(土) 23:36


*****



434 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/12/29(土) 23:36
初心者ドライバーは、車を運転しながら、ノリノリでビートを刻んでいた。
車内に流れているのは激しいロックンロール。正直、うるさいったらありゃしない。
しかめっ面のガキさんは、たまらず音のヴォリュームを下げた。

「あ!何やってんの!」
また音を大きくされる。すぐにまた小さくするガキさん。
愛ちゃんはブーブー言いながらまた大きくする。ガキさんは小さくする。
そんなやりとりを続けていると、「前っ!愛ちゃん前っ!」
危うく赤信号で交差点を突っ走りそうになる。キレる愛ちゃん。

「音がうるさいんだってば」
「うるさいことあるかい」
ロックは大音量で聴くもんや!
そんな勝手なポリシーを語られ、ため息だらけのガキさん。

「あらあら。2週間ぶりに絵里と会うのにため息ついちゃって」
「これはあなたに対するため息ですから」
「もしかして、秋吉さんと何かあったりして」
「ないない。あれから全然連絡ないし」
「そっか」やっぱり話しづらくなったのか、音量を下げる愛ちゃん。
ホッとしてガキさんは窓の外の風景を眺める。

「迎えに行って、どうすんの?」
「どうするって」
「絵里ん家行くの?」
「どうしようかな」
「行きなよ」「なんで」
ガキさんは愛ちゃんのほうを見る。
愛ちゃんは、ニヤニヤ笑いながらハンドルを握っている。
絶対にいやらしいこと考えている。間違いない。

「だって2週間ぶりだよ?」
「そうだけど。旅行で疲れてるかもしんないじゃん」
「疲れててもエッチくらいできるわ」
ブハッ。噴き出すガキさん。
少し窓を汚してしまい、慌ててハンカチで綺麗にする。
「ちょっと新車汚さんといてー」「ごめんって」
心の中では、おまえがそんな馬鹿なこと言うからだろ、と毒づくガキさん。

「そういう愛ちゃんはどうするの?」
「あたしは、ダーリンとフランス料理」
「え?」
「1年2ヶ月記念日だから」
「ああ、そう」
カナダから帰って早々、こんなやかましい女とデートか。
吉澤さんも大変だな。ガキさんは、あのイケメンにちょこっと同情する。
でもまあ、この楽しそうな幼なじみの笑顔を見ていると、うれしくもあったりする。

「1年2ヶ月かあ。早いね」
「うん。ホントあっという間」
ガキさんは指折り数えながら、「ぼくらはまだ半年も経ってないよ」
「あー初々しいねー」「うるさいよ」

435 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/12/29(土) 23:37
「ねぇ、ガキさん」真面目なトーンで言う愛ちゃん。
「ん?」
「吉澤さんってさ、絵里のこと本当にどう思ってるんだろうね」
「どど、どうって。どしたの急に」
「この2週間、2人のことが気になって、心配で全然寝れなくてさ」
「…」
「ガキさんは心配じゃない?絵里が、吉澤さんのことどう思ってるか」
「ぼくは、なんていうか、信じてるからさ。カメのこと。何があっても信じるって」
「はぁ。ガキさんはえらいわ」
「大丈夫だよ。そんな心配することないって」
ガキさんは愛ちゃんを安心させるように笑った。
前を向いた彼女は、浮かない顔でフロントガラスの向こうを見つめた。


空港に到着した2人は、仲良く恋人の帰りを待つ。
まだかなまだかな。ガキさんがそわそわしていると、
ぞろぞろと乗客たちが出口から出てきた。

「ガキさーん。愛ちゃーん」

ハンドバッグを持っていないほうの手を振りながら、絵里ちゃんは笑顔で現れた。
ガキさんも、明るい笑顔で彼女を迎える。わー、と言いながら、両腕を広げ、
とことこ走ってきた彼女は、勢い良くガキさんに飛びついた。
「うおっ、ちょっ、カメっ」
「会いたかったよぉ。ガキさん」
口では言わないが、参ったなあという顔をしているガキさん。

吉澤さんは絵里ちゃんの後ろからゆっくりと現れた。
愛ちゃんは、それなりの笑顔で恋人のもとへ歩み寄る。
「おかえり」
「ただいま」
静かに微笑む吉澤さん。2週間ぶりの恋人の姿にホッとする。
なんとなく、上着のポケットに触れる。

「どうしたの?」愛ちゃんが首をかしげた。
吉澤さんは小さく首を振って、
「いや。今からお嬢様を家まで送ってかなきゃいけないんだ」
「うん」
「だから、愛ちゃんは家で待っててよ」
「わかった」
あれ。もっとうるさく言ってくるかと思ってたら、えらく素直だ。
拍子抜けした吉澤さんは、妙に大人しい彼女を不思議に思う。
あっちのバカップルは抱き合って再会を喜んでいるというのに。
なにこの温度差。ちょっと嫌な予感もしたりする。
だけど、吉澤さんの心の中にはダイヤモンドより硬いものがある。
たとえ何があっても、それは揺るがないのだ。

436 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/12/29(土) 23:37


*****



437 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/12/29(土) 23:37

2週間ぶりのキスは、カナダのメイプルシロップよりも甘かった。
甘くて甘くて、涙が出てきそうなくらい甘かった。

絵里ちゃんの部屋にお邪魔して、ガキさんは彼女と一緒の時間を過ごす。
なんつったって久しぶりの再会なんだし、盛り上がらないはずがない。
2人で飽きるほど口づけて抱き合ってイチャイチャする。
おでこをくっ付けて、間近で見つめ合う。
うへへ、と笑った絵里ちゃんの吐息が、ガキさんの鼻にかかる。
ガキさんも微笑んで、彼女の髪を撫でる。とても愛しそうに見つめる。

「どうだった?絵里のいない2週間は」
「やばかった」
「やばかった?」
「うん。やっぱりぼくは、カメがいないとダメだよ」
「知ってる」
「コラ」
ソファに座って、見つめ合ったまま、2人でくすくす笑う。

「そうだ。ガキさんのお土産」

唐突に思い出した様子の絵里ちゃんが、バッグの中を漁りだす。
ガキさんは彼女の横顔を眺めながら待つ。

「これだこれだ」
「ありがとう」
四角い箱を渡されて、ガキさんはお礼を言う。
中身はなんだろう。ちょっと軽いけど。重さを確かめて首をかしげる。
「開けてみて」
囁かれて、ガキさんはその箱を開ける。
まさか、何かがビヨーンと飛び出してくるわけでもなく、普通に中身は取り出せる。
あらまあ。それは、ペンダントだった。
彼女が自分にアクセサリーを買ってくるなんて、ちょっと意外だった。

438 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/12/29(土) 23:38
「いいでしょ」
「うん。ありがとう」
「つけてあげる」
そう言った絵里ちゃんはガキさんの手からそれを奪った。
彼女が、ガキさんの首につける。そして、満足そうに笑う。
「良い感じ」
「そう?」
あんまりこういうものは身につけないので、慣れないガキさん。
でも絵里ちゃんからのプレゼントならもちろん喜んで受け取るのだ。
たとえそれが時限爆弾であっても、喜んで。

「絵里は自分にコレ買ったの」
「おお」

絵里ちゃんが、右手を広げて見せてきた。
薬指にはめられているのは、ガキさんからの贈り物じゃない。
初めて見るゴールドのリングだった。

「ガキさんのは、ここにあるんだよ」
無邪気な声で彼女は言って、自分のペンダントのチェーンを引っ張った。
すると現れるシルバーリング。ガキさんがあげたやつだ。
「いいでしょ」
「うん」
「ホントに思ってる?」
「思ってるよ。いいじゃん。似合ってるよ」
お世辞でもそう言われて絵里ちゃんはうれしそうに笑った。
ガキさんも、つられて笑って彼女をぎゅっと抱き寄せる。

「ねぇ、ガキさん」
「なに」
「絵里も、ガキさんがいないとダメなんだよ?」
「知ってる」
「相思相愛だね、相思相愛」
二人の関係を四文字熟語で表した絵里ちゃん。
賢いなあ賢いなあ。ガキさんはニヤニヤしながら、彼女の背中を撫でる。
季節はもう初夏だから、薄着でちょっと困っちゃう。
彼女の身体はやわらかい。気持ち良くって、ずっと触っていたくなる。

四文字熟語でいうと、まさに絶体絶命な状態だ。
彼女が仕掛けた時限爆弾は、あと3秒でタイムリミット。
少し離れて、見つめ合っているうちに、ドカンと爆発してしまう。

439 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/12/29(土) 23:38
ソファから立ち上がって、ガキさんは絵里ちゃんのぐっと手を引く。
彼女も立ち上がる。フッと微笑んで、誘惑するようにその指を絡めてくる。

このまま、2人でベッドへ行ってチョメチョメするつもりだった。
しかしそんなガキさんの企みは、突然鳴り出した黒電話風の着信音によって
中断せざるを得なくなる。

「ごめん」
絵里ちゃんが手を離して、バッグの中からケータイを取り出す。
それをパカッと開き、液晶画面を見つめて、意外そうに呟く。
「アキちゃんだ」
「うえっ?」
アキちゃんって、秋吉さんのことだ。ガキさんもそう呼んでいる。

「もしもしカメよカメさんよー」
そう言いながらケータイを耳にあてた彼女に、ガキさんはずっこける。
でも、内心気が気じゃない。耳をすまして彼女たちの会話を聞く。

「どうしたの?いきなり…うん、うん、うん…
そうそうキャナダ行ってた…ていうかアキちゃんなんで知ってるの?
絵里がキャナダ行ってたこと…」

チラリ、と彼女が視線を向けてきて、ガキさんはドッキーン!とする。
嘘がつけないバカ正直者は、すぐにそっぽを向いてしまう。
なんだか嫌な予感がムンムンしてきて、今すぐお家に帰りたくなった。



440 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/12/29(土) 23:38

2008年につづく


441 名前:彼女の英雄 投稿日:2007/12/29(土) 23:39

(0´〜`)<色気がムンムンの方がありがたいんだけどYO
( ・e・)<激しく同意なのだ


442 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/30(日) 00:19
今年もお世話になりました…
とっても楽しかったです……
続きが気になる、このフラストレーションを抱えながら2008年の更新をお待ちしております。
443 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/30(日) 00:49
りかみきのホテルでの出来事から追い続けています。

すごーく続きが気になる毎日を送りながら、
2008年の更新をお待ちしてます。
444 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/30(日) 02:17
ずっと楽しみにしてました。
続きを楽しみにしながら、年を越したいと思います。
445 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/30(日) 03:54
続きが楽しみです
446 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/30(日) 23:08
吉愛も楽しみにしてます。
2008年もよろしくお願いします。
447 名前:sage 投稿日:2008/01/10(木) 18:36
執事&お嬢様のある意味、禁断の関係が進むのを期待し…orz アワワ

で、帰国後は、垣さんピーンチ?!
続き待ってます!



448 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/10(木) 19:40
(0´〜`)<このスレはochiスレだってなんべん言わせんだYO
449 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/28(月) 19:10
読ましてもらいました\(≧▽≦)丿

吉愛はサイコーですね(^O^)
続き楽しみにしてますo(^-^)o
450 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/28(月) 19:24
( ・e・)
451 名前:(0´∀`)人(’ー’*川 投稿日:2008/02/01(金) 01:07

>>442さん
こちらこそお世話になりました
今年もどうぞよろしくお願いします
あと、続きというか今回の更新でこのスレは最終回です
楽しんでもらえたら幸いです

>>443さん
>りかみきのホテルでの出来事
けっこう前ですねwwwwww私忘れかけてましたwwwwwwwwww
わざと続きが気になるようにしてすいません
2008年ももう1ヶ月経っちゃいましたが、更新します

>>444さん
待たせてしまって申し訳ないです
これで終わりなのでどうか最後まで読んでやってください

>>445さん
ありがとう!続き書いたよ!

>>446さん
こちらこそよろしくお願いします
お楽しみの吉愛タイムの始まりです

>>447さん
うんうん。禁断の関係ってそそられますよね
ていうか、sageはメール欄に入れるものですよ?

>>448さん
ってこれ私だったwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
危うく自分にレス返するところでした。うっかりうっかり

>>449さん
どうもありがとうございます\(≧▽≦)丿
吉愛サイコーですよね!
次からはメール欄にsageを入力してから書き込んでくださいね

>>450 ガキさん
グッジョブ!!!!!!!
助かりました。ほんまに

452 名前:& ◆r6fSLGrGOU 投稿日:2008/02/01(金) 01:07



453 名前:彼女の英雄 投稿日:2008/02/01(金) 01:09



454 名前:彼女の英雄 投稿日:2008/02/01(金) 01:11



455 名前:彼女の英雄 投稿日:2008/02/01(金) 01:11

電話を切った絵里ちゃんは、携帯電話を握り締め、ガキさんのほうを振り返った。
いやはや気まずいガキさんは、ずっと背中を向けている。

「ガキさん」

呼びかけられて、ビクっとする。わかりやすいな。自分で呆れる。
こっち向きなさい。母親のように言われて、観念する。

「絵里に何か隠してることあるでしょ」
「…」
その冷たい声は、機嫌が悪いときの声だった。
彼女の顔を見て、ガキさんは素直に認める。首を縦に振る。

「実は、カメがキャナダに行ってる間、アキちゃんと会ったんだ」
「…」
今度は彼女が沈黙する。視線はガキさんに固定されている。
嘘か嘘じゃないか、この瞳で判断している。

「最初は相談があるって呼び出されてさ」
「最初は?」
「あ、いや。先週の日曜は、デジカメ買うのについてきてって誘われて、
ヤスダ電機に行ったんだけど…」
「絵里がいない間に2回もアキちゃんとデートしたんだ」
「いやいやいや!デートじゃないから!」
ついつい大きな声が出てしまう。逆にわざとらしいかもしれない。
必死に誤魔化している感じがする。本当のことを言ってるのに。

はあ。絵里ちゃんが、わざとらしくため息をついた。
悩ましげに右手で髪を撫でてから、ガキさんに流し目を送る。

「油断してた」

独り言のように呟いた彼女は、ガキさんを抱きしめる。
意表をつかれたガキさん。目を丸くして、全身が1本の棒になる。

「お、怒ってないの?」
「怒ってないよ?なんで?」
「だって、アキちゃんの気持ち知ってるのに、会ったりしたから」
「ううん。絵里が油断してたからいけないの」
「油断?」
うなずいて、さらにぎゅっと抱きしめてくる絵里ちゃん。
ガキさんはまだ突っ立ったまま、動かない。

「こんなことなら、キャナダに行ったりしなきゃよかった」
「えっ」
「絵里が、ガキさんの側から離れるからこんなことが起こるんだよ。きっと」
「そうかな」
「そうだよ。やっぱり、”絶対”なんてないんだね。この世には」
「うーん」その言葉の意味を掴みかねて、ガキさんは変な声が出る。

456 名前:彼女の英雄 投稿日:2008/02/01(金) 01:12
「ガキさん」
「なに」
「絵里は、ちゃんとわかってるから」
「え」
「ガキさんが、とってもやさしい人だって。世界で1番わかってるつもりだから」
さっきの冷たい口調が嘘のような、やわらかい声が耳元で聞こえた。
ガキさんは微妙な表情のまま、絵里ちゃんの背中に腕をまわす。

「この世で、”絶対”なのは絵里たちの愛だね。愛」

そんなクサイことを言った彼女に、ガキさんはついぽろっと「高橋?」とか
ふざけて返しそうになる。でもきっと、怒られるだろうからやめておく。
ガキさんは「そうだね」と言って、身体を離す。
絵里ちゃんを真正面からじっと見つめると、ふにゃっと笑われる。

「ガキさん。浮気しないでね」

ブハッ。ガキさんは思いきり噴き出した。ストレートすぎる。
「するわけないじゃん」
「ホントに?」
「ぼくは、カメだけには嘘つかないから。絶対」
「”絶対”は絵里たちの愛だけだってば」
「じゃあ、ぼくが嘘ついてもいいの?」
「いいよ。その代わり、絶対バレない嘘にしてね」
「無理だ」
あはは、と絵里ちゃんが軽やかに笑う。ガキさんも笑う。

「ねぇ、ケータイ貸して?」
「え」
彼女が、ぽんぽん、とガキさんのズボンのポケットに触れる。
ガキさんはその中に入っていた携帯電話を取り出して、彼女に渡す。
「何すんの?」
顔を近づけながら尋ねる。

絵里ちゃんは、迷わず電話帳を表示させ、秋吉さんの名前を押した。
そして、あっという間に彼女の項目そのものを削除してしまう。
ビックリたまげたガキさん。無言で絵里ちゃんを見つめてしまう。

「…マジ?」
「あちゃー。間違って消しちゃったね」
ね。強く念を押される。ガキさんは戸惑いつつもうなずく。

「困った困った。ガキさんもうアキちゃんと連絡とれないよ?大丈夫?」
彼女の目の奥になんだか鋭いモノが見えて、ガキさんの少し背筋が寒くなる。
女の嫉妬はおそろしい。そんなことを悟ったりする。

「大丈夫だよね。だって、ガキさんとアキちゃんは別に恋人同士じゃないんだし」
とか言いながら、絵里ちゃんはガキさんの携帯電話を操作している。
目の前で、第1回・抜き打ち発着信履歴&メールチェック大会が行われている。
秋吉さんらしき形跡は、絵里ちゃんの手によって、次々と消されてゆく。
457 名前:彼女の英雄 投稿日:2008/02/01(金) 01:13

「あ。ついでにアドレスも変えようよ。ガキさん」
「えぇ?なんのついで?」
ぴこぴこボタンを操作して、絵里ちゃんがガキさんのアドレスを変更している。
「新しいアドレスは、gakikameね。gakikame」
loveloveも入れちゃお、なんて彼女はとても楽しそうだ。
うえええ。ガキさんは参ってしまうけれど、何も言えない。
「ケンちゃんと、愛ちゃんと吉澤さんにメール送っとくね。えいっ」
「…」
「よし、オッケイ。ありがと」
「ど、どういたしまして」
気が済んだ彼女は、笑顔でケータイを持ち主に返した。
ガキさんはちょっと引いた感じで笑いながら、それをポッケに戻す。

「これでもう、アキちゃんが絵里たちの間に入り込む余地はないね」

うれしそうに呟いて、絵里ちゃんはガキさんにふわっと抱きつく。
左右にゆらゆら揺れながら楽しそうに笑っている。
ガキさんは、さっきの、油断してたという彼女の言葉をふと思い出す。

「ねぇ、カメ」
「なーに?」
「もしカメが油断してても、大丈夫だから」

ガキさんはしっかりと断言する。
絵里ちゃんが、その腕に力を込める。

「心配しないで。ぼくは何があっても変わらないから」
「うん」
「”絶対”なんだから。ぼくたちの愛は」
「え、高橋?」
「……それも愛だけど」
呆れた声でガキさんがツッコむと、絵里ちゃんがうへへと笑った。

458 名前:彼女の英雄 投稿日:2008/02/01(金) 01:14


*****


459 名前:彼女の英雄 投稿日:2008/02/01(金) 01:14
ヘックション!
愛ちゃんは、歩道橋の上で大きなくしゃみをした。

「誰か噂してる」
「ははっ。誰だよ。ガキさんか」
「くっそー」
HAHAHA。彼女の隣で、さわやかに笑う吉澤さん。ご機嫌だ。
くしゃみのせいで立ち止まった彼女の手をとって、引っ張る。

「早く行こう」


2人の入ったお店は、ちょっと良いフランス料理のお店だった。
いちおう記念日だからと気合を入れて、愛ちゃんが選んだのだ。
吉澤さんたちは、人のよさそうなウエイターに案内されて、窓際の夜景が見える席につく。

「すごい綺麗だね」
「うん」

窓の外の、美しい景色に愛ちゃんがうっとりしている。
吉澤さんは彼女の横顔を見つめて、うっとりしている。
可愛いなあ、と当たり前だけど思ったりする。
綺麗なものを素直に綺麗だと口にできる、とても心の美しい人。
そういう彼女が、とても愛しく見えた。

「でも、愛ちゃんのほうが綺麗だよ」
こんなロマンティックな場所なら、いくらでもそんなセリフが口から出てきてしまう。
吉澤さんは真剣な表情で愛ちゃんを見つめる。
すると彼女は大人しく、「ありがとう」と言ってまた窓の外を見た。
あれ。照れて真っ赤になると思ってたのに。また拍子抜けしてしまう。
さっきからなんだか様子がおかしいような、そんな気がする。
せっかくの記念日で、2週間ぶりの再会だというのに。

「カナダ、すっごい楽しかったよ。自然も多くて、空気も良くてさ」
「どこが一番楽しかった?」
「ナイアガラの滝。あ、そうだ」
吉澤さんはデジカメを取り出す。
カナダで撮ってきた写真を、愛ちゃんに見せる。
「なんちゃらタワーっていう、たかーい展望台みたいなのから
見たんだけどマジすごかったよ」

料理が運ばれてきても、吉澤さんはカナダ旅行の話をたくさんした。
なんだかんだで楽しかったから、愛ちゃんに話したくてたまらないのだ。
まるで、今日学校であったできごとをお母さんに話したがる子供のようだった。

「それでさ、お嬢様、ガキさんに10万くらいするペンダント買ったんだよ。
自分でも同じくらいの値段の指輪買ってたし。考えられへん考えられへん」

笑いながら吉澤さんは似非関西弁で言った。
愛ちゃんは、ナイフとフォークで本日のメインディッシュのお肉を切っている。

「ていうかさ、お兄様から言い出した旅行なのに、おれたち完全放置でさ、
お嬢様と2人で、最初はどうしようって感じだったけど、色々観光して楽しかったよ。
お嬢様も楽しそうだったし、最終的には行って良かったと思えた」

それに、さっきから一方的にしゃべってる感じがする。
あんまり良いリアクションが返ってこないので、ちょっと寂しくなる。
彼女に気づかれないように、吉澤さんはスーツのポケットに触れた。
460 名前:彼女の英雄 投稿日:2008/02/01(金) 01:15
それからなぜか、2人は無言で静かに食事をした。
目が合ってもすぐに逸らす愛ちゃんは、やっぱり様子がおかしかった。
でも、吉澤さんには迷いがない。躊躇もないし、怖くない。

「ちょっとお手洗い行ってくる」
「おう」

席を立ち、向こうへ歩いて行く彼女の後姿を、吉澤さんは目線で追う。
彼女が戻ってきたら言おう。そう決心する。
ふう、と大きく深呼吸をして、ぴんと背筋を正す。
スーツの襟も、ネクタイも整える。そわそわしながら、彼女を待つ。


しかし、愛ちゃんはなかなか帰ってこなかった。
何度も後ろを振り返ってみるが、お手洗いから出てくるのは違う人ばかり。
おかしい。絶対おかしい。吉澤さんはガッと椅子から立ち上がる。
でも、女子トイレには入れない。どうしようもないじゃん。ぺたん、と座る。
彼女とおそろいの腕時計をちらりと見る。時間はどんどん過ぎてゆく。

こちらを見て、あのウエイターさんが何か言いたげな顔をしていた。
吉澤さんはなんでもないよという顔で、ニコッと笑って頭を下げる。
心の中は、笑っていない。
もう10分以上も戻ってこない、彼女のことが気になってしょうがない。
体調でも悪かったのだろうか。それならそう言ってくれればいいのに。

愛ちゃんのことが心配で心配で、女子トイレに突撃したくなる。
でもダメだ。そんなことできない。女子じゃないんだから。
待とう。とにかく待とう。信じているから。吉澤さんは彼女のことを。

「ひーちゃん」

後ろから声がして、ハッとして、振り返りながら立ち上がる。
愛ちゃんは俯いたまま、「ごめん」といきなり謝ってきた。
「どうしたの。どっか、具合悪いの?」
首を振って彼女は否定する。
「ごめん。帰る」
「はっ?」

すたすたと、お店の出口へ向かってしまう愛ちゃん。
吉澤さんは慌てて追いかける。
カードで素早くお会計をしている彼女の肩を、掴んで引きとめる。
「ごめん」
愛ちゃんが、その手を払うように身をひねり、早足で歩き出す。
わけがわからず、呆然と立ち尽くしてしまう吉澤さん。
その傍らで、ウエイターさんが心配そうに見つめていた。

「お手洗いの個室でずっと泣いてらっしゃったそうです」
「え?」
「実は私も気になって、女性の店員に見に行かせたんです」

泣いてたなんて。なんでどうして。
吉澤さんは、ウエイターさんに深く頭を下げて、お店を飛び出した。

461 名前:彼女の英雄 投稿日:2008/02/01(金) 01:15

あれから彼女は走ったのか、すぐにその姿を見つけることができなかった。
吉澤さんも走って走って、来るときに通った歩道橋の階段も、3段飛ばしで
一気に駆け上がった。あっという間に、汗をたくさんかいていた。

「愛!!!」

車の音に負けないくらい、吉澤さんは大きな声で叫ぶ。
向こうの階段を降りようとしていた愛ちゃんが、立ち止まる。
その隙に、ダッシュで駆け寄る。彼女はずっと俯いたまま。

「どうしたんだよ」
「ごめん」
「ごめんじゃないだろ。何なんだよ」

今夜は素敵な記念日の夜になるはずだった。
付き合い始めて1年と2ヶ月ってだけじゃなく、もっと特別な夜に。
吉澤さんは愛ちゃんの手を握って、彼女の顔を覗きこんだ。
辺りはすっかり暗いけれど、やさしい表情で見つめる。

「おれ、今日おまえにどうしても言いたいことあるんだよ」

本当はこんなとこじゃなくて、もっとムードのあるとこで言いたかった。
だけど、今言うしかない。直感でそう思って、吉澤さんはポケットに手を入れる。

「聞きたくない」
「へ」
「もうひーちゃんの話聞きたくない!」

うえええええええ。吉澤さんは、あ然とした。
ものすごい勢いで彼女が階段を降りてゆく。
ここまで拒絶される理由がわからなくて、ショックで動けなくなってしまう。
話を聞きたくない。そんなこと、初めて言われた。
心当たりが全く無い。どうして彼女は、行ってしまったのだろう。

ポケットから出した吉澤さんの手には、小さな紙袋が握り締められていた。
それは、彼女に今夜渡すはずだった、大切な大切な物だった。

別に、絶対に今夜じゃなくたっていい。明日でも、明後日でもいいんだけど、
吉澤さんはふたたび走り出した。それを強く握り締めて、がむしゃらに。

やっぱり、彼女をあんな状態のまま放っておけない。
もう夜も遅いんだし、ひとりで帰すわけにはいかない。
ただでさえ膨らんでいる不安を、さらに大きくしたくない。
流れる汗など気にしない。
吉澤さんはまっすぐ走る。彼女目指して、突っ走る。

「ああもう。どこいったんだよ」

しかし、見失ってしまった。タクシーでも拾ったのだろうか。
だったら彼女のマンションへ。吉澤さんはめげずに走り出す。
この手に大事な決意を握り締め、愛する人の元へ。

462 名前:彼女の英雄 投稿日:2008/02/01(金) 01:16

さっきまでレストランにいたから、携帯電話はずっとマナーモードだった。
愛ちゃんの部屋まで来て、彼女が居ないことに落胆した吉澤さんは、
ふとそれを取り出して驚いた。電話の着信が1件あったのだ。

「松浦亜弥」

その、意外な女の名前を見て、ちょっと嫌な予感がする。
素早く電話をかける。3秒もせずに繋がった。

『もしもし?』
「どうしたの」
『ちょっと待って』
なぜか、亜弥は小声で話していた。どこかへ移動しているようだった。

『さっき、愛ちゃんがウチに来たよ』
「えっ」
そっか。亜弥の住む家は、あのレストランの近くだったっけ。
でもまさか、愛ちゃんがそこに逃げ込むなんて。よっぽどだな。
吉澤さんは苦笑して、背中をドアに預ける。
そして、左手に握っている小さな紙袋を、ぼんやりと眺める。

『なんかあの子、文麿よりもビービー泣いてるんだけど』
呆れた様子で亜弥が笑っている。
『浮気はバレないようにしなきゃさ』
「いやいや。そんなんじゃないんだ」
『え、違うの?』
「違うよ」
『じゃあケンカの理由はなんなの』
「うーん。ケンカ、じゃないと思うんだけどなあ」
くしゃくしゃと頭をかいて、吉澤さんはその場に座り込む。

「わっかんね。なんか元気ないなーって思ってたら、急に帰るってさ。
おれが何言っても、ごめん、しか言わないし」
『じゃあ、今日あたしがしっかり話聞いとくわ』
「悪いな」
『いえいえ』
「気のせいかもしんないけど、なんか楽しそうだな」
『気のせい気のせい。じゃあね』

電話を切って、吉澤さんは大きくため息をつく。
今夜はきっと帰ってこないだろう。もう一度、頭をがしがしかく。

どうしてこんなことになったのだろう。わからなすぎて、イライラする。
話を聞きたくない。その言葉の裏に隠された意味は、いったい何なのだろう。
汗はだくだく、脳内ごちゃごちゃ。気持ち悪いったらありゃしない。

とりあえずシャワーを浴びようと、合鍵で愛ちゃんの部屋に入る。
誰もいない、シーンとした部屋がとても寂しく思えた。

テーブルの上に、ずっと持っていた紙袋を置く。
いくらこの決意が固いとはいえ、ちょっと衝撃が強すぎた。
少しだけ、ヒビが入ってしまった。

463 名前:彼女の英雄 投稿日:2008/02/01(金) 01:16


*****


464 名前:彼女の英雄 投稿日:2008/02/01(金) 01:17
「おろろろ」

バスローブ姿の後藤さんは驚いた。
お風呂から上がってなんか騒がしいなと思ったら、
愛ちゃんが、リビングの床にしゃがみ込んで泣いていたのだ。

「いらっしゃい、って言う雰囲気じゃあ、なさそうだね」
困ったように微笑んだ彼は、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。
愛ちゃんと一緒に座り込んでいた亜弥が、すっと立ち上がる。
「この子、さっきいきなり来たんだよ」
「そうだろうね」
「まったくの想定外。どうしよう」
「とりあえず、きみも風呂入ってきなよ」

うなずいた亜弥は、俯いてヒックヒックいっている愛ちゃんの頭をわしゃわしゃ撫でる。
そして、「あたしちょっとお風呂行ってくるから」と言ってバスルームへ消えた。


リビングには、後藤さんと愛ちゃんの2人きり。
文麿くんはもうすでにベビーベッドで夢の中だ。

「ちょっとは落ち着いたかい?」

鼻水をすするくらいになっていた愛ちゃんの背中に、後藤さんは声をかける。
「すいません」と謝った彼女の目の前に、ちょこんとしゃがむ。
「謝ることないさ。泣きたいときは、思いっきり泣けばいい」
ニカッと笑うと、愛ちゃんがまた涙目になった。
綺麗だっただろうメイクは、すっかり乱れていてちょっとひどかった。
笑っちゃいけない状況だけど、おかしくてついこっそり笑ってしまう。

「あたし、最低なんです」
「え?」後藤さんは首をかしげる。
「さっき、吉澤さんに、ひどいこと言ってしまって」
「うん」
「それで、走って逃げて、ここに押しかけて」
「逃げたの?」
「はい。あたし、逃げたんです」
「鬼ごっこみたいだね」

そんな後藤さんの冗談に、愛ちゃんが笑う。
指で涙を拭いながら、後藤さんを見る。
「鬼ごっこで、かくれんぼです」
あはっ。愉快だね。無邪気に笑う後藤さん。
「よっすぃは知らないの?ここにいること」
「知ってると思います。亜弥ちゃんが、さっき電話してたし」
「そっか」

465 名前:彼女の英雄 投稿日:2008/02/01(金) 01:17
噂をすれば何とやら、バスローブ姿の亜弥がやってきた。
少し元気になっている愛ちゃんを見て、やさしく微笑む。

「何か飲む?」

亜弥は、うなずいた彼女に瓶ビール(小)を差し出す。
「飲むって、酒なの」
それを渡されて、後藤さん苦笑い。
とりあえずプシューと開けて、愛ちゃんと乾杯する。

「あたしらは、全てを聞く権利があると思うんだ」

へ?亜弥の言葉に、愛ちゃんが間抜けな顔をする。
彼女の涙はさっきよりも大分消えている。

「何があったの?よっすぃと」

ストレートに亜弥は尋ねた。目にもとまらぬ、
あまりの豪速球に、後藤さんのほうがなぜか面食らってしまう。
あえて何も聞かなかった、ジェントルマンの立場がない。


愛ちゃんは一瞬沈黙したものの、ぐいっとビールを煽り、話し始めた。
カナダから帰国した吉澤さんと、2週間ぶりに会ったこと。
今日が、付き合って1年と2ヶ月の記念日で、レストランに食事に行ったこと。
そこで彼がずっと、ひたすら絵里ちゃんに関する話をしていたこと。
最終的には腹が立って、お手洗いに逃げ込んだこと。
ひとりになって、冷静になったら、悔しくて涙が出てきたこと。
どうしてこんな醜い嫉妬をしているのかと、自分自身に怒りがわいたこと。

「なるほど」
腕組みをした亜弥が言った。後藤さんは静かにビールを飲んでいる。
愛ちゃんは、厳しい表情で小瓶を握り締めている。

「もう限界。ひーちゃんから絵里の話なんて聞きたくない」
「なら、直接そう言えばよかったじゃん。なんですぐ言わないの?
不満があるなら、そう口に出して言わないとわっかんないよ」
「そりゃ、そうだけど」
「愛ちゃん。ちりも積もれば山となるんだよ。嫌なことは嫌ってはっきり
伝えないと、どんどん心の中に溜まってくだけじゃん」
「うん」
もっともすぎる亜弥の言葉に、後藤さんは苦笑する。
愛ちゃんが、お説教されてしょんぼり小さくなっている。

「今すぐ帰りなさい」
「へ」
「今すぐ、お家に帰りなさい」

亜弥は本気だった。愛ちゃんをまっすぐ見つめて、真剣だった。
今すぐ帰って、吉澤さんに全部伝えなさい。
その強い眼差しを受けて、愛ちゃんが俯く。少しだけ、考え込む。

466 名前:彼女の英雄 投稿日:2008/02/01(金) 01:17
「帰りたくない」
「どうして?」
「会いたくないから」
まあまあ、彼女がそう言うなら泊めてあげようじゃないか。
と後藤さんが丸く収めようとした瞬間、亜弥が大きな声を出す。

「いいから帰ってよっすぃに謝りなさい!」

文麿!文麿が起きちゃうから!
焦った後藤さんがベビーベッドを振り返るが、すうすうと規則正しい寝息。
はあ。ホッとして愛ちゃんを見ると、彼女はまた泣いていた。
怖いよね。この人、鬼だよね。すまんね。心の中で手を合わせる。

「やだ。帰らない」
「帰れっつってんの」
「やだ」
「帰ってよっすぃにごめんなさいしなさい!」
「いやや!絶対に帰らん!」

だから文麿!後藤さんはもう一度振り返る。
すると、ビエーンという赤ん坊の泣き声が聞こえてきてしまう。
あばばばば。慌てて息子に駆け寄って、後藤さんは抱きかかえる。
ごめんねーうるさいよねー。申し訳なさそうな顔。

「帰れって何回言わせたら気が済むの!」
「何回言われたって帰らんったら帰らん!」
「このわからずや!」
「わからずやで結構!」
イーッ、といがみ合っている女たち。
どちらも頑固な性格だから、まとまる話もまとまらない。

後藤さんは小さくため息ついて、「うるさいでちゅよね」と、
すっかり目が覚めてしまった文麿に話しかけた。
「ママたちうるさいでちゅよー静かにしないと寝れないでちゅよー」
なんて、文麿の顔を亜弥たちのほうへ向けて、言ってみる。
すると妻はすくっと立ち上がり、手短に言う。

「愛ちゃん。帰ろう」

467 名前:彼女の英雄 投稿日:2008/02/01(金) 01:18

亜弥は、とても慣れた手つきで、外国産の大きなSUVを運転していた。
助手席には愛ちゃん。ずっと窓の外を見て、黙っている。
彼女のブスッとした横顔をちらりと見て、亜弥が肩をすくめる。

「よっすぃに、ちゃんと謝りなさいよ」
愛ちゃんはまったく応えない。シカトかよ。亜弥は舌打ちする。
その小さな音に反応した愛ちゃんは、運転席を見る。

「たぶんもう寝てると思うよ」
車のデジタル時計は、深夜の1時過ぎを表示している。
「叩き起こして謝ればいいじゃん」
「そんなのできないよ」
無茶苦茶言う亜弥に、愛ちゃんが苦笑した。

「愛ちゃん」少し真面目なトーンで亜弥が言う。
「よっすぃは、愛ちゃんを放ったらかして浮気するような人じゃないし、
愛ちゃんのこと、誰よりもいちばん大切にしてると思うんだ」
「うん」
愛ちゃんは、ハンドルを握っている亜弥の横顔を見つめる。

「なんていうかあたしも上手く言えないんだけどさ、愛ちゃんは、
よっすぃを選んで大正解だったと思うよ。あんな良い男、滅多に
いないもん。ジョージなんかより、全然良いよ」
「うん。あたしもそう思う」
「よっすいなら、あたしも安心して愛ちゃんを任せられる」
「ええ?」
「なんかさ、よっすぃって包容力あるよね。包容力」
「包容力?」
「そう。なんか、心が広いっていうか、器がでかいというか。
とにかく、何でも受け止めてやる、みたいな感じ」
「来るもの拒まず、去るもの追わず、だからね」
「そうそう。そんな感じ」
「あたし、逃げらんないじゃん」
ポツリと愛ちゃんが呟いた。


深夜は道が空いていたので、10分もすれば、
亜弥の車は愛ちゃんのマンションの前に到着していた。

「ありがと。帰り気をつけてね」
「愛ちゃん、がんばってね」

うん。微笑んでうなずいた愛ちゃんが、車から降りる。
亜弥も笑顔で手を振って、ふたたびアクセルを踏んだ。

468 名前:彼女の英雄 投稿日:2008/02/01(金) 01:19

逃げられない。吉澤さんからはもう、逃げられない。
だって逃げても彼は追ってこない。逃げてたって、何も変わらない。
鬼ごっこは、もうやめだ。かくれんぼだって、馬鹿らしい。

玄関に入ると、バラバラになっている吉澤さんの靴があった。
愛ちゃんはそれを綺麗にそろえる。
スリッパを履いて前を向けば、電気の点いていないリビング。
やっぱり、寝てるよね。ため息ついて、歩き出す。

案の定、寝室のドアが閉まっていた。
リビングの照明を点けて、愛ちゃんはバッグをテーブルの上に置く。
さっきよりも大きくて深いため息をつきながら、椅子に座る。

あれ。なんだこれ。
テーブルの上に無造作に置かれてあった小さな紙袋。
愛ちゃんはそれを手にとって、袋の上から中身を確かめてみる。
形からいって、これはもしかして。

それから、愛ちゃんは、ふと思い出す。
歩道橋で、「言いたいことあるんだ」って、言っていた恋人のことを。

愛ちゃんは寝室に向かう。
静かにドアを開けると、スーツ姿のまま眠っている吉澤さんの姿が見えた。
あらあら。シワになっちゃうよ。そんなことを思いながら、彼に近づく。

吉澤さんは、死んでるかと思うほど静かに眠っていた。
無防備な寝顔に、思わず愛ちゃんの頬も緩む。
なんでこんなに可愛いんだろう。そっと、彼の髪に触れる。

「さっき、あんなこと言ってごめんね」

愛ちゃんは、小さな声で、素直に謝った。
吉澤さんの高い鼻の先っちょにキスをして、また寝顔を眺める。

「おかえり」

いきなりそんな言葉が返ってきて、目を皿のようにする愛ちゃん。
ようく見れば、吉澤さんが微笑んでいる。ビックリして心臓が止まりそうだった。

パッと目を開けて、吉澤さんは起き上がる。
そして、驚いて仰け反っている彼女の腕を強く引っ張る。
体勢を崩した彼女が、吉澤さんの膝の上に乗っかる格好になる。

「今日、帰ってこないかと思った」
すがるように、吉澤さんは彼女をぎゅっと抱きしめる。
「ひーたん」
「よかった。帰ってきてくれて」
愛ちゃんは、吉澤さんの背中に腕をまわして、力を込める。

469 名前:彼女の英雄 投稿日:2008/02/01(金) 01:19
「ホントに、ごめんなさい」
「いいんだよ」
「大好き」
むはははは。吉澤さんは、寝起きなのにご機嫌な声で笑う。
全てを許してくれる彼のやさしさに、涙が溢れてきそうな愛ちゃん。

「マジで、安心した」
「ごめん」
「でも、なんで」

亜弥たちに全部話したんだから、吉澤さんに話さないわけにはいかない。
愛ちゃんは、どう言おうか一瞬考える。そして、思いつくまま、語りかける。

「もし、もしだよ。絵里とあたしが海で溺れてたら、どっちを先に助ける?」
「は?」
「どっちも、とかなしで、絵里とあたし、どっち助ける?」
「そんなのわざわざ聞かなくてもわかるだろ」
「どっち?」
「おまえに決まってるじゃん」
腕を緩めて、吉澤さんは愛ちゃんを見つめる。
「どうして?」
「どうしてって、おれは、おまえのヒーローだからさ」
なんてクサイ台詞!
自分で言っておきながら、吉澤さんは照れくさそうな表情をする。

「お嬢様にはガキさんがいる。お嬢様は、ガキさんが絶対助けてくれる。
おれは、おまえを絶対助ける。そうだろ?違うか?」

愛ちゃんは、瞳をうるうるさせながら、首を横に振った。
彼女を見つめて吉澤さんはニカッと笑う。そして、断言する。

「一生、ヒーローだから。おまえの」

まったく、寒いったらありゃしないぜ。
もう季節はすっかり夏なのに、鳥肌が立っちゃうよ。
でも、なぜか愛ちゃんは涙を流し始めてしまう。

「泣くなよ」

赤ん坊のようにビービー泣いている、彼女の背中を撫でる。
すると彼女はガバッと抱きついてきて、さらに大きな声で泣き出した。
吉澤さんは、子供をあやすパパさながらに、愛ちゃんの身体を揺らす。

「泣くなってば。ん?」
「だいずぎ」
「なんつってっかわかんねえよ」

まったく、いつまでも手がかかる子だこと。吉澤さんは呆れてしまう。
だけどそういう子ほど可愛いのもまた事実で、胸がきゅんとしてしまう。
やっぱり愛しい。愛ちゃんのことが愛しすぎて、参ってしまう。
泣き虫で、うるさくて、不器用で危なっかしくて、
でも純粋で綺麗な心を持っていて、ずっと好きだと想っていてくれる。
そんな彼女が大好きすぎて、吉澤さんはポロッと呟く。

「結婚しよう」

ぴたっと、愛ちゃんが泣くのを止める。
あばっ。しくった。吉澤さんはクールな顔で、焦る。
順番間違った。ちくしょうめ。心の中で、自分に舌打ちする。

「結婚?」
「あ、いや、その。ちょっと待ってて。3秒で戻ってくるから」

470 名前:彼女の英雄 投稿日:2008/02/01(金) 01:20
ぽかんとしている愛ちゃんをやさしく抱き上げ、ベッドに寝かせた吉澤さんは、
急いでリビングへと駆け出して、本当に3秒で戻ってくる。
その手に握られているのは例の小さな紙袋。

吉澤さんは彼女の隣に腰を下ろす。
「そういえば、ひーたん今日あたしに言いたいことあるって言ってたよね」
「うん。そうなんだ」
「それが、結婚?」
「違うんだ。本当は先に、これ渡したかったんだよ」
少し凹み気味で、吉澤さんが愛ちゃんにそれを渡す。
「開けていい?」「うん」

愛ちゃんは、その中に入っていた、銀色の指輪を取り出して微笑む。
「給料3ヶ月分じゃ全然ないし、値段にしたら、安いのかもしれないけど」
「値段なんて関係ないよ。うれしい。ありがと」
もたれかかってくる愛ちゃんの肩をそっと抱いて、吉澤さんは言う。
「カナダにいるとき、おれ、思ったんだよ」
「結婚したいって?」
「うん。たまたま入った雑貨屋でこの指輪見かけてさ。
これをおまえにあげようって。で、今日絶対言おうってさ」
「言いたいことって、それだったんだ」
「ビックリした?」
「ビックリした」
2人の笑い声が重なる。

「でも、今日おまえ何かおかしいし、話聞きたくないとか言われるし」
「ごめん」
「いや、こっちこそ、ごめん」
「なんでひーたんが謝るの?」
「それはまあ、色々と心配かけたかなって思って」
「ホントだよ。心配かけないで」
「おまえが言うな」

吉澤さんは、愛ちゃんからその指輪を奪った。
そして、黙って、彼女の左手の薬指にはめる。

「おれも、おまえと、ずうっと笑って生きていきたい。
だから、お互い笑顔で結婚できるように、今からちゃんと考えようよ」

愛ちゃんが、指輪を大切そうに撫でながら、笑ってうなずいた。
吉澤さんは彼女をやさしく抱き寄せて、大切そうに包み込んだ。
2人は笑顔で抱き合って、その一晩を過ごした。

471 名前:彼女の英雄 投稿日:2008/02/01(金) 01:20


*****


472 名前:彼女の英雄 投稿日:2008/02/01(金) 01:21
「たーまやー」

浴衣姿の絵里ちゃんが、無邪気な声で言った。
まだひとつも花火が上がっていないのに、夜空に向かって。
同じく浴衣を着ているガキさんは、他人のフリしてうちわをあおぐ。

花火会場近くは、たくさんの出店がずらりと並んでいる。
暑いし、人も多いし最悪の環境だ。ガキさんはこっそり顔をしかめる。
彼女は花火をいちばん良い場所で見ようって言ってたけど、
行動開始が遅いせいで、良い場所はすでに他の人々にとられている。

このぽけぽけぷぅは、いったいどこで花火を見ようとしているのだ。
手を引かれるまま歩いているガキさんは、疑問で疑問で仕方なかった。

「確かねぇ、この先にあるんだよねぇ」
「なにが」
「リンゴ飴」
「まだ食べんの?」
「まだってガキさんやだなぁ。リンゴ飴はマストでしょ、マスト」
「カキ氷もマストで、やきそばもマスト。たこ焼きもマスト。
冷やしパインもとうもろこしもマスト。マストマストマスト」
「あー聞ーこーえーなーいー」

ガキさんと手を繋いでいないほうの彼女の手には、これまたマストアイテム。
大きな袋に入ったわたあめだ。はあ。ガキさんはため息をつく。
こんなんだから、いつまで経っても来年二十歳(はたち)のレディに見えないんだよ。
おっとっと。絵里ちゃんに引っ張られて、ガキさんはよろける。

「ちょっと、ちょっとちょっと」
「どしたの」
「あれ、梨沙子ちゃんじゃない?」

絵里ちゃんは、前に向かってまっすぐ指差した。
彼女が示す先には、知り合いというか、幼なじみの女の子がいた。
しかも、見知らぬ男の子と一緒にいた。

「これは大スクープですなぁ」
「ですなぁ」
向こうは、こっちにまったく気づいていなかった。
わざわざ話しかけるのもどうかと思ったガキさんは、
リンゴ飴の出店を見つけて、絵里ちゃんを喜ばせた。

473 名前:彼女の英雄 投稿日:2008/02/01(金) 01:21

彼女が言ってた良い場所は、一流ホテルのスイートルームだった。
確かに、花火を見るのに、これ以上良い場所は思いつかない。
部屋に入るなり窓側に駆け出す彼女の後姿を見つめ、ガキさんは微笑む。

「でも、こんな良い部屋よく取れたね」
絵里ちゃんの隣に並んで、ガキさんは尋ねる。
「あ。惚れ直した?」
「コラ」
彼女は、ふにゃりと笑って、ガキさんの手を握る。
「吉澤さんに聞いたらね、このホテルが良いんじゃないかって教えてくれたの」
「へえ。そういえば吉澤さんたち今日花火見ないのかな」
「見るって言ってたよ。屋形船から」
「なるほど」
「吉澤さんったら、絵里の知らないところで愛ちゃんにプロポーズしてるんだから
クマっちゃうよね」
「クマッちゃう?」
「もぉ、クマッたクマッた」
「サームーイー」
「ごーめーんーねー」
あははは。馬鹿みたいに笑い合う。

「そろそろかな」ガキさんが呟いた瞬間、夜空に大きな花が咲いた。
次々と上がる綺麗な花火に、絵里ちゃんがワァとかキャアとか声を上げる。


1時間ほどで花火大会は終了した。そのあと、ガキさんが愛の花火を
絵里ちゃんにドカンと打ち上げたことは、言うまでもないことだったとさ。


474 名前:彼女の英雄 投稿日:2008/02/01(金) 01:21

おわり


475 名前:彼女の英雄 投稿日:2008/02/01(金) 01:23


(0´∀`)<ハッピーエンドストーリーだYO!
川*’ー’)<心配ないさぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!

从*^ー^) <新郎新婦は正真正銘、順風満帆ですよ?
 ( ・e・)<馬鹿の一つ覚えなのだ


476 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/01(金) 01:51
後藤君萌え…
そして次章の布石キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!!
477 名前:重ピンピン 投稿日:2008/02/01(金) 03:22

更新おつですデス
キャメちゃん愛きゅん2人ともいい感じに進んできましたね〜
ガキさんの大花火も見たかったかも・・・

この二組の先も気になるけど
個人的にはやっぱり重ピンクの出現も密かに期待してますv(・・)v

ではまた次回に出現します
(前回は出現できなくて申し訳m(_)m)


478 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/01(金) 07:05
電車の中でニヤニヤしちゃいました…
479 名前:名無しさん 投稿日:2008/02/01(金) 12:28
またまたケンカするのかと思いきや "愛は絶対" とかどんだけーww
カメちゃんから女の嫉妬を垣間見てすごいと思いました。
ガキさん何気に逆らえず(笑

次回、すごーく期待してます。
480 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/01(金) 22:19
吉澤さんかっこいい\(≧▽≦)丿
愛ちゃんをすごい好きなんですね(*^_^*)
今後の吉愛、ガキカメの展開楽しみにまってます(^O^)
481 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/02(土) 00:20
チョトーエロかと思えば泣かされたよー
緩急自在だね、作者さま

次スレでもお世話になりまぁす
482 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/02(土) 07:39
後藤さんが可愛くてつい笑ってしまいましたw
でも本当に愛ちゃんと亜弥ちゃんが言い争いしてたらあんな感じかもw
483 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/02/02(土) 07:39
ヤスダ電気ワロタ
484 名前:(0´∀`)人(’ー’*川 投稿日:2008/02/13(水) 22:56
>>476さん
後藤さんはちょこっと地味なキャラですがよろしくお願いします
次章スタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!!ト

>>477 重ピン
このスレでもお世話になりました
あなたがいてくれて本当に良かった
次のスレッドもよろしくお願いします
重ピンクが不意に出てくるかもしれません

>>478さん
キーモーイー
嘘ですニヤニヤさせるために書いたのでうれしいです
次もニヤニヤさせられるようにがんばります

>>479 名無しさん
女の勘は鋭いし、女は嫉妬深い生き物だと思います
ガキさんは一生そんな絵里ちゃんの尻に敷かれて――なんてね
すごーく期待だなんて恐縮ですがんばります

>>480さん
ストレートな感想ありがとう\(≧▽≦)丿
次スレはほとんどベリキューかもしれませんが
時々よしあい&ガキカメが出てくるのでよろしくお願いします

>>481さん
こちらこそお世話になりまーす
エロだと思わせてエロじゃないっていう汚い手を
またいつか使うかもしれませんがよろしくです

>>482さん
2人とも激しそうですよね愛亜弥コンビは(*´Д`) ハァハァ
ていうか何気に後藤さん人気ですね
またいつか出します

>>483さん
そこっ!そこを一番ツッコんで欲しかったの!www
気づいてくれて本当にありがとうございます


次スレを幻板に立てちゃいました。タイトルは「彼女の魔法」です
お暇があればぜひお読みになってください



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