ほのかにいしよし…3章
- 1 名前:咲太 投稿日:2007/03/07(水) 14:44
- 咲太(しょうた)と申します。
いしよしオンリーで駄文を書かせていただいております。
更新速度はまちまちですが、
まったりとお付き合いいただけたら幸いです。
(とり急ぎスレだけ立てさせていただき、更新は後ほど…)
- 2 名前:咲太 投稿日:2007/03/07(水) 23:46
- 前々スレ
ほのかにいしよし・・・(赤板倉庫)
ttp://mseek.nendo.net/red/1105075507.html
前スレ
ほのかにいしよし・・・2章(花板)
ttp://m-seek.on.arena.ne.jp/cgi-bin/test/read.cgi/mirage/1112160067/
なお、これまでの駄文を整理致しました。
真新しいものはございませんが、時間潰しに・・・
ttp://www.geocities.jp/syota1444/syota/pass.html
(入室の際に簡単なパスを設定しております。お手数ですがよろしくお願い致します)
- 3 名前:咲太 投稿日:2007/03/07(水) 23:47
- 前スレからの続きとなります。
最終話が容量の関係で分断してしまって申し訳ございません。
- 4 名前:i've just moved 投稿日:2007/03/07(水) 23:48
-
- 5 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 23:48
-
- 6 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 23:51
-
「おはようございま〜す!!」
朝から超元気にドアの前に立っていた姿に。
ぴりりって緊張が走った。
ちゃんと会うのっていつぶりだっけ・・・?
あぁ、そうか。前に一緒にロールキャベツ作ったとき――――
「今日お休みですよね〜?」
「あ、う、うん。絵里ちゃんも?」
「はいっ!あの、よかったらちょっと買い物つきあってくれません?」
「え??あたし?」
「はいっ!ダメですか?」
「う、ううん!あ、ちょっと着替えてくるから・・・」
- 7 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 23:51
-
絵里ちゃんにつきあわされたのは二駅隣のショッピングセンター。
お世話になった看護士の先輩が仕事を辞めるってことで、
送別品を選ぶのを手伝って欲しかったらしい。
「これ、可愛くないですか?」
「うんっ、でもさっきの・・・」
「あ、あっちのほうがやっぱいいかなぁ?」
目移りしながら2時間近くさ迷ったあと。
結局決められずにまた来週来ますって笑って。
帰りの電車で二人並んでつり革につかまりながら、彼女は切り出した。
- 8 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 23:53
-
「まだひ〜ちゃんには話してないんですけど」
「ん・・?」
「もうすぐで寮の立替工事終わるんです」
「寮?」
「聞いてませんでした?」
「全然!!」
「すっごく年季が入ったとこだったから危ないってみんなから反対されて。
それでひ〜ちゃんと一緒に住む事になったんですけど、でも春には完成するんです」
「えっ?春?」
「はい、同期の看護士とかみんな入るっていうし、楽しそうなんでもう申し込んできちゃいました」
「ちょ、ちょっと急に―――」
「ひ〜ちゃんに言うとめんどくさいことになりそうだから。ああみえてけっこう口うるさいんですよ〜」
「あたりまえじゃんっ!誰だって心配――――」
「でもお話があるのはそれだけじゃなくって、あの、まだ私もはっきり聞いたわけじゃないんですけど」
「へっ?」
「ひ〜ちゃんに転勤の話があるの、知ってますか?」
「えっ??」
「ああ、やっぱり・・まだ可能性があるってだけなんですけど。
年末前に忙しくなったときに一度話が出たんです。でもそのときはひ〜ちゃん断って。
今も結構忙しいじゃないですかぁ。出張多いし。新しく立ち上げる支店の責任者になれって話だったみたいなんですけど」
「責任者?」
「うん。あ、でも断ったんですよ?ちゃんと。―――――ああ、そんな顔しないで下さいよぉ」
「へっ?」
「大丈夫ですって。ひ〜ちゃんかいしょ〜ないですけど、石川さんのことは第一に考えちゃってますからっ!」
「ぅ、うん・・・・」
「でも、まぁ長い目で見てやってくださいね」
「うん・・・」
「あと・・・」
「えっ・・?」
「・・・・・・・・なんでもないです。」
そう言って続きの言葉を飲み込んだ彼女は外の景色をしばらく見ていたあと。
何事もなかったようにあたしに向かって笑顔を見せた。
「まったく、あのヘタレっぷりったらないですよね〜」
八重歯を見せて笑うその瞳には、一点の曇りだってのぞかせなかった。
- 9 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 23:55
-
『いっそ思い切ってイチャついちゃえば?』って。
今さらながら、最近美貴ちゃんから届いてたメールが頭をよぎった。
てっきり美貴ちゃんのいつもの冷やかしなんだろうなって、軽くあしらってた。
たぶん絵里ちゃん、いろいろ相談してたんだ・・・
妙な気遣いや遠慮は。
彼女の優しさや強さを少しずつ傷つけてしまってる。
敏感なトコ、繊細なトコ。
ひとみちゃんにすごく似てる気がする・・・
- 10 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 23:55
- わたしたちに一番してほしくないこと・・・
絵里ちゃんが一番望んでること・・・
きゅっと目を瞑って。
あたしは答える。
「ほんと、ど〜にかならないもんかな?」
- 11 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 23:55
-
- 12 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 23:55
-
- 13 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 23:56
-
ピンポーン
そして月曜日の夜。
約束なんてしてない日なのに。
こんな時間にくる人なんて限られてるけど彼女だったら鍵もってるはずだし。
恐る恐るインターホンをのぞけば、
寒そうに肩をまるめながら、スウェットにジャンパーを羽織ったままの格好で立ちすくんでる彼女。
「ど、どうしたの?鍵は?」
「キーホルダーごと絵里に没収された」
お風呂に入りたての洗い髪のまま。
明日の荷物まで持たされて鍵を閉められ、元気に夜勤に向かってったらしい。
- 14 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 23:57
- 「きゃっ、まだ冷たいじゃん」
「ごめん、タオル借りてもいい?」
渡したバスタオルでかしゃかしゃ髪を拭きなおしてる。
「寒いでしょ?こっち座って」
取り急ぎファンヒーターの前に座らせて。
遠慮する彼女を振り払って後ろからドライヤーをあてた。
「ねえ」
「えっ?」
ターボの音で聞き取りづらいのか、声が大きい。
「私に隠してることない?」
「はぁっ?」
ガバって振り返る彼女の首をつかんで前を向かせて。
もう一度聞きなおす。
「転勤の話とかあるんでしょ?」
「な、なんでっ???」
懲りずに振り返る頭をくるりと回転させて正面へ。
「なんで内緒にしてるかなぁ?」
「なんでって・・・」
「あなたの口からちゃんと聞きたかったのにな」
「で、でもさ、も、もし断れなくてもちゃんと通うつもりでいたし」
「通うって?」
「片道二時間もあればなんとかなるっしょ」
「それじゃ体がもたないでしょう?」
「だってせっかく先輩と・・なのに離れるなんてぜってぇいやだもん」
「通用しないでしょ、そんなの」
「なんでそんなに冷静かなぁ」
「えっ?」
- 15 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 23:57
- ため息をこぼした背中に気付いて。
ドライヤーを止めた。
「れ〜せ〜すぎだし、平気すぎ・・・」
「別に冷静なわけじゃないって。どのくらいかかりそうなの?」
「わかんないけど・・・3年くらい、かな」
「そっか。まあいいじゃない。あったかいとこなんでしょ?」
「うわっ、まあいいって!3年だよ?ああ、そっちのほうがショック・・」
「だからぁ、ちゃんとこっち向いて」
「やだっ」
「やだじゃない」
「こらっ」
「へっ?」
正面に回り込んで。
不満げに唇をへの字に結んだ顔を見つめる。
「ついていってもいいって聞くつもりだったのに・・・」
「へっ?」
大きな瞳を固まらせたまま。
瞬きもせずにあたしのことを見つめて。
口開いてるし。
「なによぅ」
「へっ?」
「へっじゃなくて」
「先輩仕事は・・・」
「別にどういう仕事だって平気だし探そうと思ってる」
「ちょ、待って待って。ちょい待ってよ、それって・・・」
「なに?」
「あ、いやだから・・・え、ええっ???」
あああっ。もうっ。
すっと立ち上がるとびっくりしたように自分まで立ち上がって。
「ドライヤー片付けてくるだけだよ」
「あ、うん・・・」
- 16 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 23:59
-
ドライヤーのコードをくるくると巻いて。
棚を開いて定位置におく。
もぅ。その反応は一体何よっ。
少しくらい喜んでくれないの?
かなりすごいこと言ったつもりだったのにな、あたし・・
小さくため息をつきながら鏡の前で立ちすくんでいたら。
鏡越しにあたしの顔をうかがってる影がひとつ。
「なぁに?」
「んと・・・」
「どうしたの?」
「んとね・・・」
「ん?」
「今のってそ〜ゆ〜ことだよね?」
だからそ〜ゆ〜って。
改めて聞いてこなくたっていいじゃん。
鏡にうつってる視線がバッチリあったらそれにすら照れたようにしてる。
もう、イジワルしちゃおう・・
「そ〜ゆって。何?」
意図に気付いたのか彼女は唇をまたへの字に結んで。
そのまま前に進んで背中に一歩近づいた。
- 17 名前:i've 投稿日:2007/03/08(木) 00:00
- 「そ〜ゆ〜って・・・もう離せないよ?」
「・・・・・・わかってるよぉ」
唇をとがらしかけたあたしを。
彼女の腕が捉えた。
背中からぎゅーっと抱きしめられて。
まわされた腕がどんどん強くなってく。
「やっぱやぁめた、なんての、ナシだかんね?」
首元で囁くように響く甘い声。
「えっ・・?」
「・・・・・ヤダ、でも絶対つれてくから・・・」
視線を鏡越しにあわせたまま、耳朶をぱくっと咥えられた。
カーッって染まりそうになる頬が動かないように、白い手がそっと触れる。
耳朶から離れた唇が何度も頬に口付けられ、
もどかしくなって振り向き気味に傾けると
添えられた手が一層強くなってこれまで以上に熱いキスが降ってくる。
んっ・・・・
漏れかけた声に気付くと、唇から離れて。
再び耳朶を歯で甘噛みしてから、あたたかい舌でやわらかく舐めた。
彼女からも漏れた息が耳の奥に届いて、
支えるようにまわされていた手がパジャマの裾から入って上昇する。
- 18 名前:i've 投稿日:2007/03/08(木) 00:01
- 一番敏感な部分を覆う布を少しだけずらして、二本の指で摘ままれる。
指先に全神経を集中させて感触を楽しむかのように丁寧に転がされ、
思わず声を漏らしそうになってぐっとこらえた。
真っ白な頬が上気したように色づき、色っぽく緩んでいる瞳。
首筋からうなじにかけて何度も舌を這わせ始めた姿が鏡越しに見え
止まれないほど感じ始めている自分の表情が恥ずかしくて目を伏せた。
左手が上からボタンを器用に外していく。
「や、・・・だぁっ・・・・・」
「ヤダ」
一層強弱をつけて首筋を舐められ、膝が密かに震えはじめる。
「・・・待っ・・てぇ・・・」
立ってられなくなりそうで。
あたしのほうからくるりと回転をして、洗面台の淵に身を預けた。
正面を見上げるとわかったというように目を細めて。
両頬を優しくつつみこんでから、蕩けるようなキスを唇に絡ませ始めた。
- 19 名前:i've 投稿日:2007/03/08(木) 00:01
-
- 20 名前:i've 投稿日:2007/03/08(木) 00:01
-
- 21 名前:i've 投稿日:2007/03/08(木) 00:02
-
「おかえり〜」
って言うといまだに照れくさそうにただいまってつぶやく。
っていってもあたしんちなんだけど。
結局なんだかたんだ言ってあたしが今の時点でついていくのは反対されて、
なんとか1年で帰ってくるからって約束されていまだにあたしは一人でここに住んでしまってる。
駅まで徒歩5分、スーパーまで至近距離。
たしかに手放し固い物件ではあるんだけど。
案の定パパの猛反対にあって親子断絶状を叩きつけてやったあたしを必死に止めたのは
言わんこっちゃないって顔してお茶をすすりながらコトの顛末を見てたさゆでもママでもなく、
この人自身だった。
- 22 名前:i've 投稿日:2007/03/08(木) 00:03
-
「あああっもうやだっ!」
ぽっかぽかの陽射しが差し込む部屋。
ひとみちゃんもすっかりお気に入りになったピンク色のソファーにまったり二人でもたれかかって。
テレビもつけず、ゆっくりと、
こういうのも幸せな時間なのに?
だからこそ日頃いえないわがままだって出てきちゃうのは仕方ないよね?
「電話だって長い時間できないしさ・・・」
「毎日話してるじゃん」
「でもでももっと一緒にいたいのぉ〜!」
「ん〜」
「置いてけぼりだし・・・」
「ち、違うって!そりゃあ今に流されるっていうのでいいなら攫うってでも連れていったけど」
「けど?」
「どんなことがあってもちゃんとしたいって思ってるから・・・」
「一緒がいいんだもぉん〜!!」
「ウチだって・・ほんとは側にいて欲しいに決まってんじゃん」
「だったら!」
「だからぁ、一年で帰ってくるっていってんの。ウチの言う事信じらんない?」
「だって・・・・」
例のオーナーのおばあさまの息子さんは手広く事業をなさっていて。
不動産部門のかなりの地位に迎え入れる人材として、ひとみちゃんを含めて何人かの候補があがってたらしくって。
いまの仕事を放り投げること、新しい地位への自信もなくって断っていた彼女を決心させたのは
あたしだってひとみちゃんは言う。
一年間で今の仕事をちゃんと引き継いで、多くの事を吸収してから帰ってくるから、
それからそちらの会社でお世話になります、って。
そんな無茶な話をまとめあげたのは、彼女の強い力だった。
- 23 名前:i've 投稿日:2007/03/08(木) 00:03
- 「だって?」
「・・・信じてるけどぉ・・・」
パパとのことだって、仕事のことだって、
ちゃんとしてくれようって頑張ってくれてるひとみちゃんの気持ちもわかってる。
中途半端なこと、したくないって思ってくれてるのもありがたいって思う。
だから何にも言わずにぐっと見守ってるのがイイオンナなんだろうなって頭ではわかってるんだけど・・・
けどさ。
「けど?」
一緒にいたいんだも〜〜〜んっっっっ!!
口には出さずにぷーっと膨れたら。
ほっぺを人差し指でぶちゅっと潰されて。
ニコニコしながら頭をかくんって自分の肩にもたれかからせて。
いい子いい子って撫でられた。
ち、違うのぉっ!!
抵抗して睨み付けようとしたけど。
目の前の顔があんまり幸せそうにニコニコしてるから。
そのまま黙って頭を撫で続けられた。
- 24 名前:i've 投稿日:2007/03/08(木) 00:05
- 「離せない〜って言ったくせに〜」
「だから離さないじゃん〜」
「寂しいなぁとか会いたいなぁとか言ってくれないのぉ?」
「っつも思ってるってば」
「イジワルっ」
「へっ?」
「言わないじゃん、そういうの」
「だってうちの勝手でこうしてるし・・・」
「なんでそんな平気そうなの?」
覗き込むとひとみちゃんはニヤって笑って。
あたしの正面に向き直ってじっと瞳を見つめてる。
「しょ〜じきに答えてよ」
「な、なに・・・?」
「先輩さぁ、あの人と別れなかったのってウチが学生だし年下だったからってのもない?」
ギクッ
今までだったらこ〜ゆ〜こと聞いてくるような子じゃなかったのに。
慣れてきてくれたのはいいけど答えようが無い質問を切り返されて冷や汗をかく。
なんて答えようか迷ってるとひとみちゃんは鮮やかにくるりとあたしをソファーの上に押し倒して。
ニヤニヤしながら見下ろしてる。
だ、だってさ、そりゃ正直なとこあの頃のあたしって、
目先の幸せを優先したいなぁなんて思ってしまった現実だってあるわけで・・・
「な、なんで今そういうこと・・・」
「だってさぁ、そうだろうなって思ってたもん」
口元を緩めたままあたしの目をじ〜っと覗き込んでる。
「あ、あなたのほうがよっぽど根に持ってるじゃん」
「持ってるよ〜」
うぅっ、即答されちゃうと答えようがないじゃん・・・
- 25 名前:i've 投稿日:2007/03/08(木) 00:06
-
おっきな瞳が数10センチの距離であたしを包んでる。
濡れたように色づいている長い長い睫。
完璧なまでに整ってる鼻筋。
慣れてきたはずなのに抗えなくって。
目をそらすこともできずにカーッと頬を染めるとニコって笑って。
あたしの額を何度か撫でながら答える。
「だから決めてた。ちゃんとウチが幸せにするんだから」
さらっと囁かれて。
心臓がドクンと音をたてた。
「大丈夫だから・・」
「えっ・・・?」
「絶対いつか飽きるんだから〜って先輩言ってたっしょ?」
「うんっ」
「飽きれられるもんならって今だって思ってるし」
恥ずかしすぎて一言も答えられないあたしに。
追い討ちをかけるようにひとみちゃんは笑ってそっとこめかみを撫でた。
「腕んなか入れてぎゅっぎゅっぎゅーってしていつでも閉じ込めてたい」
ふ、ふぅん、そういうこと、言えちゃうんだぁ。
・・・・ちょっと今あたしの反応楽しみはじめてるでしょ?
- 26 名前:i've 投稿日:2007/03/08(木) 00:07
-
「じゃあ、閉じ込めててよぉ」
「へ?」
表情が崩れた隙を見計らって、すっと唇に指を伸ばす。
「・・見てるだけでしあわせなの・・・」
「へっ?」
「あなたのこの顔を見つめてるだけでもうどうだっていいやって思えちゃう・・・」
爪で傷つけないように、さらさらとした頬を撫でる。
体勢は圧倒的にひとみちゃんに有利なはずなのに。
彼女はまた真っ赤な顔をして、目をくりくりとさせていた。
すっかりイロンナコトにお馴染みになったソファーの上で。
- 27 名前:i've 投稿日:2007/03/08(木) 00:09
- 「やっぱりあなたのことに押しかけちゃおうかな〜」
「へっ?だ、だって仕事―――」
「今年いっぱいはあたしがそっちから通ったっていいわけだし」
「ああああ、そ、それにソファー」
「はあっ?」
こんな大事な話をしてるときになんでソファーの話題になるのか。
「これ入るとこじゃないとヤなんでしょ?」
「・・・・・・」
- 28 名前:i've 投稿日:2007/03/08(木) 00:10
-
「ねぇ、ひ〜ちゃん。ソファとあなたとどっちが大事って言ってほしい?」
「あわわ・・ぅんと・・・」
ぷにっとほっぺたを両側に引っ張ると。
真っ赤になりながらにこって笑った。
本当よ?
恥ずかしくって言わないけど。
こぼれおちそうなくらいに垂れさがった瞳も
しまりなく緩んだ唇も
包みこんだまま離してくれない指も
何を言い返そうかって眉をひそめて考えてる子供っぽい仕草も。
あなたのすべてが。
愛しくてたまらないなって思っちゃう。
- 29 名前:i've 投稿日:2007/03/08(木) 00:11
-
腰にそっと手を回すと
安心したように体を預けてくれる。
ぴたっと寄り添った温度を感じて。
溢れかえってくる想いにめまいがしそうになるほど。
これからさきどんなことがあったとしても。
たとえ一日だってあなたのことを思わない日はないって言えるの・・・
だからあたしはほんのちょっとイジワルをする。
キスをしてこようとする唇からわざと逃げる。
ふてくされたように口を尖らせたあなたに
イーって笑いながら見つめ上げるから。
困ったなぁって顔をして、ずっとずっとず〜っと甘やかせて?
おしまい
- 30 名前:i've just moved 投稿日:2007/03/08(木) 00:12
-
- 31 名前:i've just moved 投稿日:2007/03/08(木) 00:12
-
- 32 名前:咲太 投稿日:2007/03/08(木) 00:15
- 『i've just moved』
更新が長期間かかってしまったにも関わらず読んでいただき、
深く感謝しております。
どうもありがとうございました。
- 33 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/08(木) 00:41
- リアルタイム!
脱稿お疲れ様でした。
大好きなおはなしで、「最終話」と聞いて、
読み始めるのをためらってしまいました。
本当に素敵な小説を、ありがとう。
- 34 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/08(木) 01:40
- 完結お疲れ様です。
ネタバレしちゃうといけないので一言だけ
ココロがあったかくなりました。
素敵な物語をありがとう!
新作楽しみにしてます。
- 35 名前:吉澤梨華 投稿日:2007/03/08(木) 15:36
- 作者サマ完結お疲れ様です。
ひとみちゃんと二人でず〜っとROMってましたョ。
ホント癒されました。ありがとう。
- 36 名前:咲太 投稿日:2007/03/27(火) 23:50
-
- 37 名前:咲太 投稿日:2007/03/27(火) 23:55
- >>33 名無飼育さま
リアルタイムで読んでいただき本当にありがとうございます!!
大好きな話しと言っていただいて、書き手冥利に尽きます・・・。
長い期間になってしまいましたが読み続けてくださって、感謝の気持ちでいっぱいです。
>>34 名無飼育さま
本当にありがとうございます。
この二人を最後まで書ききることだけはしたいなと思ってましたので、
ほっとしています。
新作、いつか書けるといいのですがw・・頑張ります。
>>35 吉澤梨華さま
おおおお、上の文字を打つだけで緊張してきた・・ww
読んでいただいてありがとうございます。
今後もどうぞ末永く仲良く・・・!
ひとみちゃんにもよろしくお伝えくださいませw
- 38 名前:咲太 投稿日:2007/03/27(火) 23:56
-
数日前に書いていて、いろんなことが重なり・・・
ずっと更新を迷ってました。
でもやっぱりいしよしは変わらぬままであって欲しいとの思いを込めて。
前スレ、nextの続編、
梨華さん視点です。
(カレンダーを遡りますことをお許しください)
- 39 名前:咲太 投稿日:2007/03/27(火) 23:56
-
- 40 名前:next-side-R 投稿日:2007/03/27(火) 23:58
-
『next-side-R』
- 41 名前:next-side-R 投稿日:2007/03/27(火) 23:59
-
帰りの車の中で携帯を取り出してから状況を思い出した。
工事してるとこが多くってなかなか進まないトウキョウの街。
さっきからあんまりかわらないネオンを見上げてため息をひとつこぼす。
まだまだ時間かかりそうだなぁ・・・・
- 42 名前:next-side-R 投稿日:2007/03/28(水) 00:00
- 閉じられた携帯をもう一度片手で開いた。
「もしもし、梨華?どうだった?」
もしかして電話の前でずっと待ってたのってくらい。
びっくりするぐらいにすぐママの声が聞こえてきて。
報告したいって思ってたこと、すべてが頭の中に一気に溢れかえってくる。
とどまりそうにない思いを息つく間もなく語りながら。
でもやっぱり心はなんか違うなって思ってた。
聞いてもらいたいのはママじゃないんだもん・・・・
- 43 名前:next-side-R 投稿日:2007/03/28(水) 00:01
-
結局そうこうしてるうちにマンションの下まできてしまって。
まだまだ聞き足りない感じでしゃべり続けるママに、
「おうち着いちゃったからまた明日ね」って。
「もぅっ。でも疲れたんでしょ?早く寝なさいよ、おやすみ」
エレベーターに乗る前に携帯を畳んだ。
ギターケースを玄関において寝室までいくと。
昨日の朝届いてたメール。
そして打ち上げの最中に届いてたらしい出発間際のメール。
何文字か入力しかけたところでやっぱや〜めたって投げ出して。
シャワーを浴びパジャマに着替えてまたどすんとベットに飛び込んだ。
枕の上にはさっき投げ出されたままの携帯。
開いてみたけど予想通り新着なんてないし。
- 44 名前:next-side-R 投稿日:2007/03/28(水) 00:01
- 誰かに電話しよっかな。
この際しばっ・・・
なんて。
やっぱ失礼だよね・・
何人かの顔を思い浮かべては消し、
でも最初からいろいろ説明してくのが面倒になって。
髪の毛も乾かさないまんま、もぞもぞと布団の中にもぐりこんだ。
- 45 名前:next-side-R 投稿日:2007/03/28(水) 00:02
- 決まったときに一番に喜んでくれたのもよっちゃん。
あれもいいし、これもやりたいなあって収拾つかなくなったあたしに
笑いながら頷いてくれてたよっちゃん。
って、ああ、それもいいじゃん?としか言わなかったけど・・・
あのさぁ、けっこう評判よかったんだよ?
みんな上手だったって言ってくれたし。
ほんとに〜?なんて口の端を持ち上げて笑いそうだから。
今度ちゃんとギター持ってって聞かせてやるんだから。
- 46 名前:next-side-R 投稿日:2007/03/28(水) 00:04
-
落ち着かなくってぐるりって横向きになった。
電話できない夜なんて今日に始まったことじゃない。
そもそも自分が話したいときじゃないと電話さえかけないのがあたし。
すっごく失礼なんだけど。
今思えば。
たいていはさりげなくメールをくれて。
それであたしが電話を入れて。
どっちかっていうとクールなよっちゃんは
へぇ〜って言うだけで。
それが不満で、もういいやって柴っちゃんに相談したりしてたことだってあったけど。
答えが欲しいんじゃなくって。
ただ、よっちゃんに聞いて欲しいだけなんだなって途中から気づいた。
頷いてくれるだけでいいの。
心からの同意じゃなくったっていいの。
ただうんって言ってくれるだけで、
あたしはどこへでも全力で走ってけるって思えちゃうの・・・
- 47 名前:next-side-R 投稿日:2007/03/28(水) 00:04
- 忙しくってほんの何分かしかしゃべれないときでも。
一方的にガーってしゃべったのをふんふんって聞いて、
最後に、「じゃあおやすみ」って。
そういって電話を切ってくれるだけで、
それだけでいつも。
満たされたような気持ちになる。
あんまり話せなかった夜にはまた別に電話をくれて。
「で?」って聞かれるのをきっかけに
あたしの言葉は止まれなくなる。
いつかよっちゃんに話さなきゃ
これもよっちゃんにって、ちゃんとしまってられなくって、
もう頭の中がパンクしそうになる前に。
わかってるよっていうようなタイミングでとんってあたしの背中をなでてくれる。
- 48 名前:next-side-R 投稿日:2007/03/28(水) 00:05
-
よっちゃん・・・
今頃眠ってるのかな・・・
ゴーッっていうエンジンの音、気になってずっと音楽とか聴いてそうだな・・
映画、面白そうだったら教えてもらわなきゃ・・
もう一度寝返りを打って、目を閉じた。
- 49 名前:next-side-R 投稿日:2007/03/28(水) 00:05
- よっちゃんのコトが頭から離れない。
よっちゃんの隣で。
よっちゃんの眠そうな返事を聞きながら。
聞いてるぅ?なんて文句を言いながら。
ホントはね?
眺めてたいだけなの
息がかかりそうにすぐそばで
今にも眠りに落ちてしまいそうなよっちゃんの長い睫がゆらゆらするのを。
触れたいだけなの
普段は照れちゃってさせてなんてくれないから
さらさらの髪の毛がふわりとかかる頬を。
- 50 名前:next-side-R 投稿日:2007/03/28(水) 00:06
-
ねぇ、会いたいの、よっちゃん。
どうしたのって笑われそうだけど。
こんなにこんなに、眠れないくらい。あなたに会いたくて会いたくてしょうがない。
いつだって一番側にいれたらって・・・
こんな想いをするのは・・・初めて、じゃないなんて言ったら、
ねぇ、困ったような顔にさせちゃうのかな・・・?
どうしようもなくてたまらないとき。
「会いにきて・・・」って、もしワガママ言ってみたらって考えたり、してた。
きっとすぐにきてくれるんじゃないかなって、そんなの、根拠のない自信。
それが彼女の優しさなのか、
それとももしかして・・・って
尋ねてみたくなって、でもその言葉はいつもそっと喉の奥に飲み込んでしまってた。
だってその先にあるのはどうしても掴むことはできないもの。
伸ばそうとする指を必死で握り締めてきた。
器用にできない自分にイラつきそうになると
決まってあなたはやわらかく微笑んで、すっと手の甲を撫でてくれた。
- 51 名前:next-side-R 投稿日:2007/03/28(水) 00:07
-
だけど。
こういうときにダメなんだなって思う。
よっちゃんじゃなきゃダメなんだ、あたし。
いつか?
遠い未来?
それとも・・・
あと少し、なら頑張れる。
指をそっと開いて。
あと何日って考える。
その日が来たら・・・
潤んできそうになる瞼にぎゅっと力を入れた。
その日まで。
あなたはきっと一緒に走ってくれる、だから・・・
- 52 名前:next-side-R 投稿日:2007/03/28(水) 00:07
- 眠りに落ちてしまいそうになる体を奮い立たせて、
ベットから這い出る。
真っ暗な部屋の中を手探りで、クローゼットの中の小物入れまで。
最初は邪魔になってしょうがなかったコレも、
耳にかけ、やわらかいガーゼが唇の先にふれるとなんか落ち着いた気分になる。
まあいいやって眠っちゃえないところが私なんだろうな・・・
ったく、キマジメなんだからって
よっちゃんがふっと笑ったような気がして。
そんな彼女の笑顔だけを瞼に焼き付たら、眠れるかなって思った。
- 53 名前:next-side-R 投稿日:2007/03/28(水) 00:07
-
- 54 名前:next-side-R 投稿日:2007/03/28(水) 00:08
-
『もしも〜し』
「・・・・・・・・」
『もしも〜し、ねえ、起きてる?』
「よ、よっちゃん?」
『あのさあ、いきなりだけどあの店ってなんっつう通りだっけ?』
「えっ?」
『今タクシーにお店の名前は説明したんだけどさあ、イマイチ通じてるのかどうか不安で』
「へっ?」
『おおっ!!』
「えっ?な、何?」
『ああもういいから、着いちゃいそうだし』
「着いちゃうって・・・」
『さんきゅっ、じゃぁ』
「ちょ、ちょっと待ってよぉ!」
『あ、んでハートのほうでいいよね?』
「えっ?」
『今頃ぜってぇ後悔してそうだなって思って』
ああ、そっか。
電話を持ったまま、あたしは思わず笑顔になってしまった。
なんでわかっちゃうんだろ?
迷って迷って片方だけ買ってきてしまったペンダントトップ。
しまったぁ、なんて思ってるの、
全部お見通しなんだろうな。
- 55 名前:next-side-R 投稿日:2007/03/28(水) 00:09
- 『他には?』
「うんと・・」
『まあいいや、適当に見繕ってくるからさ、じゃあ』
「あ、待って待って」
『ん?』
「あ、あのね?」
『な〜に?』
「上手くできたよ、ちゃんと」
『ぅおっ?』
「ほんとだってぇ!」
『っかってるよぉ。まだ朝早いっしょ?また電話するから』
「うん、けど・・」
『なに?』
「ううん、なんでもない、楽しんできてね」
『ああ、とにかく夜ね、夜。ちょ、時間わかんないけど、絶対電話入れるからさ』
「うんっ!」
胸の上のペンダントトップの輪郭を指でなぞる。
これ、はずさないまんま昨夜眠っちゃったんだっけ・・・
こういうとこはモノグサなくせにって
また笑われちゃいそうかな。
ってかさあ、よっちゃん。
そういえばいつのまにDVDなんて見てたの?
ああ、もう悔しいくらいに。
口元が緩んできちゃう。
- 56 名前:next-side-R 投稿日:2007/03/28(水) 00:10
-
もういいかな・・?もういいよね・・・?
言葉にしては交わしていない約束。
その日が少しずつ近づいているのがわかるから。
あたしもよっちゃんも笑顔の数が増えていく。
続きはよっちゃんの胸の中がいいなあ、なんて。
言っちゃったときのよっちゃんの顔。
それ以上に真っ赤になってそうな自分に一人で照れながら、
満ちあふれそうな幸せを注ぐように、両手をRの文字に添えた。
了
- 57 名前:next-side-R 投稿日:2007/03/28(水) 00:10
-
- 58 名前:next-side-R 投稿日:2007/03/28(水) 00:10
-
- 59 名前:咲太 投稿日:2007/03/28(水) 00:11
- 以上です。
お目汚し、大変失礼致しました。
- 60 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/28(水) 17:30
- 更新お疲れ様です。
そして、ありがとうございました。
咲太さんにはまた背中を押して頂きましたね。
next
価値ある言葉ですね。今更ながらかみ締めています。
今後も楽しみにして待っていますね。でも、どうか無理なきように。
- 61 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/28(水) 22:51
- 更新お疲れ様です。素敵ですね・・
咲太さんのいしよし・大好きですよ〜
いつもいつも楽しみにしています。
- 62 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/29(木) 01:48
- 更新お疲れ様です。
やっぱりいしよしは最高ですねー
うん、いしよしは永遠に不滅ですね。
これからも楽しみにしています。
- 63 名前:吉澤梨華 投稿日:2007/04/19(木) 08:03
- 素敵なお話ほんとにありがとう。
「ハッピーエンドがいい〜の〜悲しい話はイヤなの〜」エヘッ!
作者様 また私をドキドキ、ワクワク、させてね。
首をなが〜くしてまってますよ。それでわ グッチャァ〜!
- 64 名前:咲太 投稿日:2007/06/09(土) 17:15
-
- 65 名前:咲太 投稿日:2007/06/09(土) 17:15
- >>60 名無飼育さま
こちらこそどうもありがとうございます。
背中を押していただいてるのは自分のほうです。
next
言葉通りに書けているといいんですが・・・(汗
たまには無理しろ、と叱り飛ばしてくださいw
>>61 名無飼育さま
どうもありがとうございます。
楽しみだと言ってくださるのが何よりの励みになります・・
これからも読んでいただけるように頑張ります。
>>62 名無飼育さま
どうもありがとうございます。
最近の怒涛のいしよしラッシュ、すごいですよね〜!!
現実が妄想を越えて幸せムード真っ盛りw
>>63 吉澤梨華さま
梨華ちゃん本当にありがとうございます。
悲しい話は書きませんから、絶対w
喜んでもらえる話を書けるように頑張ります。
ええっとまたまた空いてしまいまして、
しかも性懲りもないお話なんですがこれでいいのかどうかはさておきまして・・
いまさらなんでコレ?という突っ込みはナシの方向でお願いいたしますw
- 66 名前:咲太 投稿日:2007/06/09(土) 17:16
-
- 67 名前:next -step- 投稿日:2007/06/09(土) 17:16
-
- 68 名前:next-step- 投稿日:2007/06/09(土) 17:17
-
- 69 名前:next-step- 投稿日:2007/06/09(土) 17:17
-
『 next -step- 』
- 70 名前:next-step- 投稿日:2007/06/09(土) 17:18
-
で、だ。
数歩先を歩く背中を追って足を速める。
間に数人の屈強なお方たち。
こんな夜中なのにまわりをとりまくようにして数人の顔見知りもみえる。
タタタと追っては軽く止まる。
どうすっかなぁ、でもなぁ。
まわりに不自然に見えないくらいの速度で近づいては戻して。
また歩みを遅めたとたん、くるんと目の前の顔がふりむいてしまった。
「・・っ」
「・・・・」
「なに?」
「・・ぅうん」
こちらを下からチラっと見上げて。
何も言わないままもう一度正面を向いた背中を、
今度は早足で追いかけた。
「あのさぁ」
「えっ?」
「来る?」
「へっ?」
「うち、来る?」
サングラス越しの表情はわからないけど。
梨華ちゃんは口元を緩めた、んだと、思う。
- 71 名前:next-step- 投稿日:2007/06/09(土) 17:19
- 用意してあった車を断って。
同じ車のドアをくぐると梨華ちゃんは大事そうに抱えた大きな荷物を奥につめて、
あたしの分のスペースを空けた。
「うちでもよかったんだけど・・・」
隣で小さく口ごもっている。
同じコト考えててくれたんだってちょっとホッとしつつ。
「あ、じゃあ梨華ちゃんちに――――」
運転席に向かって身を乗り出そうとしたあたしを慌てて止めた。
知ってるよ、バタバタして出てきたでしょ?
とんでもない状況はかんたんに思い浮かんじゃう。
- 72 名前:next-step- 投稿日:2007/06/09(土) 17:19
-
- 73 名前:next-step- 投稿日:2007/06/09(土) 17:20
-
ドサッと荷物をおいて。
いつもズカズカってあがってくるはずなのになんか後ろでモゾモゾしてる梨華ちゃんの荷物を受け取って。
「おなかは?」
「…すいてない」
「だよね」
新幹線の中でビールやらおつまみやら。
そんなので満たしたおなかはこれ以上の進入を拒んでいるらしい。
先にシャワーを浴びて手持ち無沙汰な梨華ちゃんのためにテレビをつけて。
お風呂からあがってきたときには、梨華ちゃんはソファーに反対向きに座って。
背もたれの上に両腕を置き、ちょこんと顔をのせて小さな寝息をたてていた。
気づかなかったけど首筋まで色づいてる。
すごいはしゃいでたもんな・・・
苦手な部類らしいビールを小さな手に握り締めてた梨華ちゃんの姿が眼に浮かぶ。
- 74 名前:next-step- 投稿日:2007/06/09(土) 17:21
- 「ねぇ、梨・・」
声をかけようとして。
とりあえずやめてみた。
まぁしばらくいいか。
周りの視線とか気にせずに見つめてられんのも久しぶりだし。
シャワーの湿り気の残るくるんとした巻き髪。
軽く開かれたぷっくりとした唇。
メイクを落とした睫はやわらかに瞼を包んでいて。
大きめのあたしのパジャマからのぞいてる首筋はピンク色に色づいている。
口元に添えられた小さな手。
この小さな体のどこにあんな力が篭っちゃってるのか。
いつのまにかソファーの上であたしももたれかかるようにして。
触れるか触れないかのところに手を置いて。
飽きることなく彼女の寝顔なんて眺めてしまってる。
かぁわいいなあ・・・・
すっげえ、かわいい・・・
ぎゅっと抱きしめてしまいたいような。
触れてしまうのが惜しくてただそっと見つめていたいような。
複雑に交じり合う気持ち。
- 75 名前:next-step- 投稿日:2007/06/09(土) 17:22
-
結果的にいえば。
つまりうちらの距離は変わってない。
なんかあわただしくいろんなことが起き過ぎて。
そのコトバを言うタイミングを完全に逃してしまってて。
あの日あたしは中澤さんとか保田さんとかに囲まれていて。
嬉しそうにちょっと離れた距離から見つめてくれてる視線には気づいてて。
ちらっと盗み見るように目を合わせるとふわりと微笑んで。
誰にもわからないくらい、小さく頷いてくれて。
ねぇ、あれはそういうことでいいのかな・・・
そこから急に一緒にいる時間が増えちゃって。
だけどそれどころではなくなって。
んで今日に至っちゃってるわけだけど。
ねぇ、もしかして、待ってくれてるのかな・・・?
- 76 名前:next-step- 投稿日:2007/06/09(土) 17:22
-
ぱちり。
思いもよらないところで目を開けてしまった彼女は、びっくりしたように目を見開いて。
きゃっと小さな声をあげて後ろにのけぞった。
「な、なにっ?」
「へっ、あ・・・」
いつのまにか超至近距離にいたらしい。
触れてしまいそうなほど。
恥ずかしい。
超超超超恥ずかしい。
梨華ちゃんなんてアルコールのせいとかじゃなくて明らかに真っ赤になって。
胸元とか押さえちゃって。
って、そんなとこ見てたわけじゃないから。
「あ、あがったんだね」
それがお風呂のことだとわかるのに数秒。
「・・・あ、う、うん」
あたふたとソファーの上にあった足を床に置いてぴんとした姿勢で座りなおした梨華ちゃん。
あたしだって人のこと言えないんだろうな。
カーッと血液が上昇してく感じ。
- 77 名前:next-step- 投稿日:2007/06/09(土) 17:23
- 期待されてる?
期待しちゃってる?
なんかこの空気ってどうよ。
ちらり。
思えばさっきホームでも。
梨華ちゃんはこういう顔であたしのこと見てたっけ。
わかってる、んだよね?きっと。
どうにかしなきゃ。
そう思ってるのはどうやらあたしだけではないらしい。
あ、あのさぁって言ったつもりで。
声が出てないのに気づく。
てかその次の言葉なんていまだに見つかってないわけで。
梨華ちゃんもぱくって口を開きかけて。
もう一度ぎゅって閉じてしまった。
- 78 名前:next-step- 投稿日:2007/06/09(土) 17:24
- 不自然な沈黙が続く。
途中で梨華ちゃんが足をソファーにもう一度置いて。
背中を丸めるようにして足を抱え込んだのが見えた。
伝えたいコトバはたくさんある。
だけどどれを選んでいいのか、この期に及んで迷ってる。
なんかどれも足りない気がして。
口に出してしまってもそんなんじゃ追いつかなくて。
それでたとえばうちらが何かという形にはまったとしても。
そんなん、もうすでにとっくに越えちゃってるんだなぁって不思議なんだけど今そう思っちゃってるんだよ、梨華ちゃん。
何も変わらないし、何も変えられない。
ここにあたしがいて、そこに梨華ちゃんがいて。
トクベツなこととか言わなくったって、
いちばん。だれより。なにより―――
- 79 名前:next-step- 投稿日:2007/06/09(土) 17:24
-
目の前の梨華ちゃんが。
優しく微笑んでいた。
いつのまにか呼吸もできそうにないくらい。
眉をひそめてたらしいあたしのカオを見て、笑ってくれた。
「なんだよ・・」
「なによぉっ」
思わずふてくされたような声を返したあたしを見て
愉快そうに笑って。
その笑顔がなんか幸せそうで。
わかんないけどたぶん梨華ちゃんはすごい幸せだって思ってくれてるんじゃないかって思えたから。
だからあたしは。
自然に口元が綻んでくる。
そんなあたしを見てますます楽しそうにクスクスって声をたてた梨華ちゃんに。
ああ、またやられちゃったってよなんて思いながら笑顔にさせられてく。
- 80 名前:next-step- 投稿日:2007/06/09(土) 17:25
-
「あっ、そうだ!!」
パチンって手を叩きながら。
もう余韻とかムードとかないんですかって。
そんな突っ込みが入りそうなことにもきっと全く気づかないまま。
ぴたっとくっつくようにしてちょんと並んで、梨華ちゃんは嬉しそうに携帯の画面を開いた。
「メール届いてたよ」
「誰から?」
「ケメちゃんから。次は東京でなんて言ってたし」
「もういいよっ、5年後くらいで」
「5年って!」
「それでもいいって待ってくれてそうだよね」
「じゃあひ〜ちゃんから返信してよおぅ」
「ええええっ、やだっ!」
「やだじゃないでしょう?」
はあって大げさにため息をつきながらそれでも観念したように返事を打ちはじめる梨華ちゃんが。
あたしのほうにかすかに首を傾けたのに気づいて、そっと頭に手を伸ばした。
もたれかかってくれた肩の重み。
こういう些細なことに気をよくして。
画面を覗き込むフリをして、右手を携帯を持つ梨華ちゃんの手に添え、
左手で体をぴたっと寄せてみた。
「こんなこと言ってないじゃんっ!」
「あぁ、もう!せっかく書いたのにぃ!!」
「だぁめっ!」
あぁ、こんな姿でメールしてるなんて保田さん思ってもみないんだろうな。
「もうっ!勝手に書かないでよぉっ!!」
ふくれっつらをしてあたしから携帯を奪い返した梨華ちゃんは
まったく、終らないじゃんってブツブツ言いながら、
それでももう一度あたしの胸の中に頬を寄せならがらストンと体をおさめた。
- 81 名前:next-step- 投稿日:2007/06/09(土) 17:26
-
「よしっ」
「さぁ、じゃああっちに布団敷くね?」
「えっ?」
戸惑い気味にかえされた表情にイタズラ心が満たされる。
困ったように眉をひそめたまま視線をはずした梨華ちゃんに。
「まあいっか。一緒でもいい?」
まるでどうでもいいことのようにさらりと言ってのけると。
うっ、うんなんてちょっと詰まりながら小さく頷いて。
いつのものようにうちの部屋についてきて、もぞもぞと横にもぐりこんできた。
- 82 名前:next-step- 投稿日:2007/06/09(土) 17:28
-
「そういえばさぁ、帰りの電車の中で・・・」
唐突に始まった梨華ちゃんのおしゃべり。
照れくさいのかなんなのか。
止まらない。
息してる?
でさぁ、袖んとこでね、って・・・
台詞あわせのときのことにまで遡っちゃって。
あたしはたま〜に横目でちらっと梨華ちゃんをみつめるようにしてふんふんって頷いてる。
宝物はいっぱいある。
もしうちが思い出話なんてスイッチに触れちゃったら
いよいよ梨華ちゃんが止まらなくなっちゃうほど。
相槌をうちながら。
ふと思い至る。
これってうちらだけしか知らないことじゃん?
あたしがめずらしく弱音を吐いちゃったってことも、
いつも頑張ってはいるんだけどそんなん見せたくないんだけど、
今回だけはさ、ほんと、かなり全力だったってことも。
きっと知っちゃってくれてる、この人だけは。
なんかこれが幸せっていうのかもなぁなんて。
にやけてきちゃう口元を隠すように布団を引き上げながら思う。
なんかさ、こーゆーうちらでいいな、もう少しだけ。
たぶんそうおもってくれてるんだよね?梨華ちゃんも。
そうだな、いずれ。
何も言わないのがかっけえなんて思ってない?って。
ぷくっとふくれたような顔で怒られる日がくるまで。
- 83 名前:next-step- 投稿日:2007/06/09(土) 17:29
- 「もうっ、聞いてるぅ?」
体を半分起して。
あたしの目を覗き込むようににらみあげてる梨華ちゃん。
「聞いてるってば」
「ほんとぅ?」
「ホントホント。で?その後どうなったの?」
なのに彼女は一瞬黙り込んで。
「・・・じゃ、なんでニヤニヤしてるの・・?」
突然潜むような声で。可愛く尋ねてきちゃうから。
もうなんというか。
照れくさくなって。
逃げるしかないじゃん。
- 84 名前:next-step- 投稿日:2007/06/09(土) 17:29
- 「ねぇ、なんでそっち向くの〜?」
「いいじゃん」
「いいじゃんって・・・もぅっっ!!」
どすんとベットに沈み込んだ彼女のほうも。
思いっきり反対側を向いちゃってるらしい。
まあいいかあなんて思って目を閉じてると。
もぞっと後ろで動く気配がして。
一瞬何かが触れたような気がした。
しばらくの時間の後でうしろ向きの姿勢のまんまゆっくりと寄り添ってきた背中。
肩から梨華ちゃんが呼吸をする間まで伝わってくる。
くるり。
揺れたベット。
ぴくん、
振り返りかけた顔はぴたりと止まって。
意地になったように目を硬く閉じちゃってる横顔が目に入った。
- 85 名前:next-step- 投稿日:2007/06/09(土) 17:30
-
ただひとつ残った問題を。
どうしようかなぁなんて今アタシは考えている。
考えるより先にもう振り返っちゃってるんだけれども。
そっと彼女の背中に寄って。
細い腰に手を伸ばした。
耳元でかすかに息が漏れ、まわした手の上に小さな手が重ねられる。
ねぇ、どうしようか梨華ちゃん。
鼓動が伝わってく。
小さな手がためらいつつもうちの指を握りしめる。
肩の上に顎を乗せ、唇を耳たぶにそっと近づけた。
ねぇ、どうする・・・?
了
- 86 名前:next-step- 投稿日:2007/06/09(土) 17:30
-
- 87 名前:next-step- 投稿日:2007/06/09(土) 17:30
-
- 88 名前:咲太 投稿日:2007/06/09(土) 17:31
- 本日の更新は以上です。
- 89 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/09(土) 22:23
- 待ってました!
更新お疲れ様です。
stepってことは・・・w
今後が楽しみでたまりません!!
- 90 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/10(日) 02:53
- 首をキリンにして待ってました!
咲太さんの梨華ちゃんがかわいすぎます。
続き楽しみに待ってます!
- 91 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/10(日) 22:46
- 更新お疲れ様です。
贅沢なる乾きの解消をありがとうございますw
触れるか触れないかの描写がゾクゾクきますね〜。
「本日の」ということは「次」を期待してもいいのでしょうか?w
楽しみにして待っていますね。
- 92 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/18(水) 14:51
- お待ちしています。
- 93 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/19(木) 07:09
- 咲太様。首をなが〜くして待って居ますよー。
- 94 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/11(土) 12:15
- 咲太様 もうこれ以上わたくしの首を長くさせないでぇ〜。
- 95 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/03(月) 04:15
- 咲太様
ろくろ首のようになっております地面に届きそうです〜
- 96 名前:咲太 投稿日:2007/09/11(火) 21:43
-
- 97 名前:咲太 投稿日:2007/09/11(火) 21:43
- 大変遅くなって申し訳ありませんでした(汗
現実のいしよしが妄想を越え
すっかり肝を抜かれてしまってました。
>>89 名無飼育さま
レスどうもありがとうございました。
ちゃんとstepのあとのjump、となりましたかどうか・・・w
>>90 名無飼育さま
お待ちいただいて本当にありがとうございました。
梨華ちゃんを気に入っていただいてホッとしています。
>>91 名無飼育さま
レスありがとうございます。
現実の二人に潤ませてもらって幸せな夏を過ごしました。
ご心配をおかけしましたが、次なんとか繋がりました?のでw
>>92 名無飼育さま
お待ちいただいて本当にありがとうございました。
遅くなってしまって申しわけありません・・・。
>>93 >>94 >>95 名無飼育さま
何度もレスをいただきありがとうございます。
レスに励まされ、書かなきゃって気持ちを奮いおこさせていただきました。
- 98 名前:咲太 投稿日:2007/09/11(火) 21:50
- 本当に間があいてしまって申し訳ありませんでした。
100人の人がいたら100人の人が思ういしよしがあって、
それぞれの梨華ちゃんの答えがあるだろうなって思ってます。
続きは読んでくださってる皆様にお任せするべきじゃないかと
ずっと続きを書くのを躊躇していました。
でも、書き始めたからにはちゃんと自分なりの答えは探ってみようと。
100通りあったら、97番目くらいにこういういしよしがあるかも、
くらいの軽い気持ちで読んでいただけたら幸いですw
- 99 名前:咲太 投稿日:2007/09/11(火) 21:51
-
- 100 名前:咲太 投稿日:2007/09/11(火) 21:51
-
- 101 名前:next -cross- 投稿日:2007/09/11(火) 21:52
-
『 next -cross-』
- 102 名前:nextーcross- 投稿日:2007/09/11(火) 21:54
-
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ねぇ、どうする・・・?
甘く掠れた声が耳の奥に響く。
吐息の混じった声は小さくでもたしかに私の心を揺さぶってる。
ずるい・・よっちゃん・・
あたしに委ねるの・・・・?
聞こえなかったふりなんてして。
下唇の内側を噛んで。
- 103 名前:nextーcross- 投稿日:2007/09/11(火) 21:55
- なのにいつもより確実に早く鳴ってるあたしの音。
そして同じペースで重なってる彼女の音。
「なにが・・・?」
わかってるくせに他に返す言葉が思いつかなくって。
背中を向けたまま問い掛けると。
「なにがって・・・・・」
よっちゃんは小さくつぶやきながら、あたしを抱きしめる腕に力を込めた。
- 104 名前:nextーcross- 投稿日:2007/09/11(火) 21:56
-
重ねられた指が爪の輪郭を追う。
答えを待つように。
やわらかな指の腹であたしの指をひとつひとつ辿っていく。
人差し指・・・中指・・・薬指・・・
そして小指まで。
「ねぇ・・・」
不意に熱い吐息が首元をさすらい。
触れるか触れないかの強さで、彼女の唇がうなじをそっと撫でた。
「やだ・・・?」
小さな声がまた耳元で響いて。
首を横に小さく振ると、さっきと反対側の首元に
今度は音をたてて唇が触れた。
「・・・ぁっ・・」
漏れてしまった吐息を隠すように。
さ迷い続けてる彼女の指をきゅっと握り締めた。
「やなの・・・?」
「やじゃない・・・けど・・」
「けど・・・?」
- 105 名前:nextーcross- 投稿日:2007/09/11(火) 21:59
-
そっとあたしの肩をシーツに押し付けて。
体の重みをかけないように肘で支えながら、
彼女があたしの上になる。
優しく体を包み込むように。
どんなに長く側にいたって慣れないそうもない。
こんなに近くで見つめられるとそらしたくなるほど。
魅きつけられないとこなんて探せないくらいきれいな顔立ちや。
さらさらの陶器のようにするりと滑る白い肌や。
残ってるアルコールのせいじゃなくって。
吐息も、声も。
あなたのすべてに酔っていく。
「どうしたい・・?」
ここまできて聞くの・・?
睨むように見上げたらちょっと微笑み返して。
剥き出しになった足を絡めぐっと両足を挟まれた。
吸い込まれそうに大きな瞳が
ゆっくりと近づく。
目を閉じたのに。
鼻の上をかすめて額へのキス。
目をあけぷっと膨れたら。
ニヤニヤ笑いながら今度はほっぺた。
- 106 名前:nextーcross- 投稿日:2007/09/11(火) 21:59
-
だからもう・・・いいよ?
抱え込まれた両腕を抜いて、彼女の頬を撫でた。
首の後ろにまわしそっと後ろから引き寄せたら。
艶やかな色を帯びた大きな瞳であたしを捕らえて
熱い唇が降り注ぐ。
「んっ・・・んぅ」
呼吸の隙も与えてくれないほど深く強いキス。
絡んだ水音だけが響く部屋。
さまように手を伸ばすとしっかりと握り返され、
あたしでさえ知らない表情をした彼女に
呑み込まれるように唇で応える。
たぶんずっと。
ずっとずっと待ってたの、今を。
- 107 名前:nextーcross- 投稿日:2007/09/11(火) 22:00
-
背中にまわされた手。
自然と体が浮いて。
知らず知らずのうちに彼女の動きを助けてる。
ホックが外された瞬間。
ふわりと心が解かれた気がして。
あたしを縛っていたすべてのものから。
ねぇ、もう離さないで・・
心が届いたかのように
あなたはもっと強く抱きしめてくれる。
あたしのシアワセのすべてはこの腕の中にあると。
言葉にできない想いがあたしたちのカラダを染めていく――――
- 108 名前:nextーcross- 投稿日:2007/09/11(火) 22:01
-
- 109 名前:nextーcross- 投稿日:2007/09/11(火) 22:01
-
- 110 名前:nextーcross- 投稿日:2007/09/11(火) 22:05
-
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
余韻を残すまどろんだ視線で。
あたしをとらえた梨華ちゃんは子供のように嬉しそうに口元を崩した。
おでこをくっつけたまま数センチの距離で見つめてくれる瞳。
繋いでいた手を離さないまま
梨華ちゃんの上になってぴたりと肌と肌を重ねあわせて。
見つめ返すと彼女もはにかんだように微笑む。
するするとおなかのほうに下がって
柔らかな膨らみの上に顔を乗せて覗き込むと
なぁにもぅ、よっちゃんはぁなんて、少し掠れた声で甘く囁きながら
くすくすって微笑んであたしの髪に触れた。
- 111 名前:nextーcross- 投稿日:2007/09/11(火) 22:06
- 「ねぇよっちゃん・・?」
「ん・・?」
初めて全身で感じた温度。
離さない様にぴったりと頬をくっつけたまま返事をすると。
「大好きだよ・・・?」
えっ?
ちょっ、ちょっと。
なんでよっ?
先にそっちからいとも簡単に。
びっくりして顔をあげると
彼女はにっこりと微笑んで。
「だって、大好きなんだもんっ」
そう言って真っ赤になってるはずのあたしの耳朶に優しく触れた。
- 112 名前:nextーcross- 投稿日:2007/09/11(火) 22:07
-
「ちょ、ずりぃよ」
「好きなものは好きぃ〜」
「ま、待って」
「やだぁ〜。大好きっ!」
「だからぁ」
「だって・・・いっぱい言いたいんだもんっ」
「あぁっ、もう」
「好きっ」
いたずらっぽく笑ってるし。
「こっちにも言わせてよ」
「どうぞ?」
「どうぞって・・・」
「ん?」
目をくりくりってさせて見つめられて。
いや、だからね、だから・・
真っ赤になってモゴモゴしてると。
ニコニコしながら触れていたあたしの頬を挟んで上に引きずりあげて。
「ひ〜ちゃんのこういうとこが大好きなのっ」って。
またまた追い討ちをかけるように囁いて、頬にキスされた。
- 113 名前:nextーcross- 投稿日:2007/09/11(火) 22:13
-
うわっ、まったくっぅぅ!
がくりと肩の横に顔を埋めて倒れた。
ああ、もうなんだかさぁ
「やばいかも、梨華ちゃん・・」
肩んとこでゴモゴモ篭ってる自分の声がちょー情けない。
「なにが?」
「一度知っちゃうとさ・・」
「ん?」
「どこにも出したくなくなりそう・・・」
ぎゅっと腕の中に小さくした梨華ちゃんを閉じ込めてたいとかって。
ああ、なんかこういうのを独占欲とかなんとかって言うんだろうな。
安心してみられるようになるんだろうなって思ったけど。
ステージとか正直ヤバイ。
- 114 名前:nextーcross- 投稿日:2007/09/11(火) 22:14
-
しばらくどういう意味なのか考えてた梨華ちゃんは
急にふふって笑うと。
「そんなの・・いいよ・・?」って
耳元に唇を寄せて甘く囁いた。
肩にうずくまったままのあたしを
柔らかい胸の上に落とし。
おお、これはおっ・・・なんて思ってた瞬間。
ぎゅーっと頭ごと抱きしめられた。
両腕でしっかりと。
柔らかさとその弾力に
呼吸もアタシも負けそうになっちゃうくらいに。
- 115 名前:nextーcross- 投稿日:2007/09/11(火) 22:15
- 「ねぇ、ひ〜ちゃん・・・」
なのに彼女はおかまいなしで。
ぐーっと押しつけたまま話し掛けてくるから
あたしはさらにくぐもった声で答えてる。
「ん?」
「会いに来てとかいっちゃってもいいのかな?」
「ん・・・やだ・・」
「ええええ〜?」
もぞもぞと抱きしめられた胸から抜け出すと
不満そうに唇を尖らせた彼女に。
「言わなくてすむくらい会いにくるから」
あたしらしくない素直な言葉。
- 116 名前:nextーcross- 投稿日:2007/09/11(火) 22:15
-
一瞬目をまんまるにして。
そのあとで花のように笑顔をほころばせた梨華ちゃんが
そっとあたしの背中に腕をまわしてきた。
「でもね、あたしね?ひーちゃん」
「ん?」
「やきもちやくよ?結構」
「・・・・・知ってる」
「許して上げらんないかもしれないよ?」
「今までもそうだったじゃん」
「もうっ!じゃなくて本気の本気で怒っちゃうってこと」
「それは困るなぁ」
ニヤニヤ笑いながら見つめると、とすんと胸を叩かれ。
ぷぅっと膨れてくるりとあたしをひっくり返して自分が上になった。
- 117 名前:nextーcross- 投稿日:2007/09/11(火) 22:16
- 「楽しいの?」
「なにが?」
「いっつもひ〜ちゃんのことばっかになっちゃうのに」
実はちょっと楽しい、なんていえなくって。
ふいに視線をずらしたら、豊かな胸がますます強調されてる姿勢で目の前にあって。
視線が釘付けになったあたしを
ぺしんと小さな手ではたいた。
「バカッ」
「んだよぉ」
「そんなに見なくたって」
「なに?」
梨華ちゃんはそこで一呼吸おいてニヤリ。
「ひ〜ちゃんのものなのに」
あ、遊んでるでしょ?
「でもなぁ、あんまりイジワルされちゃうと・・・」
そう続けてニヤリって笑って胸元を腕で隠した。
こうなったときには梨華ちゃんのほうが絶対根性すわってるに決まってる。
さっきの姿勢だって無意識にやっちゃってたでしょ?
- 118 名前:nextーcross- 投稿日:2007/09/11(火) 22:19
-
だいじょーぶだよ。
ヤキモチをやく梨華ちゃんを見てニヤニヤするのも好きだけど。
もうちょっとちゃんと気持ちを伝えて
梨華ちゃんを喜ばせてあげられることのほうが幸せだなって思ってきた。
ゆっくりだけど。
あたしも少しずつ成長してるのかも、なぁんて。
けどさ。
「それは困るし」
イジワルにそういうことを答えて起き上がると。
ベットの上に座って彼女の首の後ろに腕を回した。
伸ばしたあたしの腿の上に座りなおした梨華ちゃんに
浴びせるようにキスをする。
「・・・ねぇ・・」
まだ時間はあるし。
「んん・・・?」
合間に話し掛けると。
唇は離さないまま横目でちらっと時計を見てから彼女も微笑んだ。
くるりと体勢をかえてまた押し倒すと、
待って待って、なんていいながらはだけてたシーツをあたしの背中にかけてから
はにかみながら小さく腕に収まってくる。
- 119 名前:nextーcross- 投稿日:2007/09/11(火) 22:46
-
指を伸ばして梨華ちゃんの瞼をそっとなぞった。
くすぐったそうに身をすぼめながら、
あたしのするが侭に任せてくれる。
さっきより余裕ができた分ちょっとは落ち着いて。
愛することなんてできるかもって思ってた――――のに。
瞼に唇を触れたとたんに愛しい気持ちがこみ上げてきて。
押しつぶされそうになるくらい苦しくって。
息もできなくなって。
- 120 名前:nextーcross- 投稿日:2007/09/11(火) 22:47
-
ひ〜ちゃん・・?
目の前の彼女が不安げに問うから。
両腕の中に包み込んで。
そっとおでこをあて、目を閉じた。
恋人じゃなかった距離。
触れたくて触れられなかった瞼へのキス。
今になって痛いくらいに。
自分でも気付けないくらい押さえ込んでた想いが
ずんずん溢れ出してくる。
- 121 名前:nextーcross- 投稿日:2007/09/11(火) 22:49
-
目の奥がぐーっと熱くなって。
あぁ、なんかかっこわるいって。
気持ちを抑えようと額を重ねたまましばらく止まってたら。
自分のじゃない振動がわずかに伝わってきて。
静かに目をあけると。
きゅーっと眉を寄せて唇を結んでた彼女がいて。
あぁ、きっと梨華ちゃんも
同じコト考えてたんだ・・・
優しくおでこの生え際を撫でると
潤んでた睫の際から雫となって枕に零れ落ちた。
- 122 名前:nextーcross- 投稿日:2007/09/11(火) 22:49
-
「・・・いえなかった言葉がいっぱいあるの・・」
知ってる。
100の言葉よりも、100のキスよりも。
あたしを見つめる視線が伝えてくれてたから。
あたしの可能性とか、うちらの未来とか
そういうのを100%信頼しきってくれてる。
その視線が一番ウチの自信になってたから。
- 123 名前:nextーcross- 投稿日:2007/09/11(火) 22:51
-
「梨華ちゃんの目が好き・・」
「ん」
「柔らかい唇も好き・・・」
「ぅん」
目を閉じたままで返事をする彼女にひとつひとつキスを落としていく。
「困ったような眉も・・」
「ぅん」
「小さい手も・・・」
そして。
「ねぇ、うちのこと、見て・・」
真剣に見つめると恥ずかしそうに目をそらす。
いつもはどんな場所でだっておかまいなしに顔を寄せてくるくせに。
「梨華・・・」
耳元でその名を囁くと。
照れくさそうに口元を綻ばせてまた潤んだ瞳で見上げてくれる。
梨華ちゃんのそういうところがたまらなく好き――――
- 124 名前:nextーcross- 投稿日:2007/09/11(火) 22:52
-
了
- 125 名前:咲太 投稿日:2007/09/11(火) 22:52
-
- 126 名前:咲太 投稿日:2007/09/11(火) 22:52
-
- 127 名前:咲太 投稿日:2007/09/11(火) 22:53
- 更新は以上になります。
お目汚し、お許しください。
- 128 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/11(火) 22:55
- リアルタイム!
どきどきしました。
- 129 名前:孤独なカウボーイ 投稿日:2007/09/11(火) 22:59
- 咲太さん、更新ありがとうございます。
ひっそりと読ませて頂いております。
いしよしを通じて様々な感情を提供してくださる咲太さんに感謝です。
大人ないしよし、素敵ですね。
- 130 名前:にっき 投稿日:2007/09/12(水) 00:29
- 更新お疲れサマーです!
んにゃあ蕩けましたw
- 131 名前:名無しさん 投稿日:2007/09/12(水) 00:36
- あま〜い!!素敵な話で感動しました
- 132 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/12(水) 02:54
- 優しいレスをありがとう。
感激で読む前からうるうるとなってました(w
(おかげで首も元どうりになりましたよー)
本当に帰って来てくれて有難うございます。
- 133 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/12(水) 22:59
- 更新、本当にありがとうございました。
一時は一人で心配して一人で盛り上がっていました。
ホントすいません。
タイトルを見て close to you と懲りずに連想してしまいました。
リアルと小説のシナジーが想像以上です。また、やられましたねw
そういう訳で?これからの更新も楽しみにして待っています。
- 134 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/12(水) 23:00
- すいません。sage忘れました。
また盛り上がってしまいました。
- 135 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/13(木) 01:47
- 甘くて溶けました。
良いいしよしでした。
- 136 名前:saku 投稿日:2007/10/24(水) 20:47
- >>131 名無しさま
ありがとうございます。
甘いと言っていただけて光栄ですw
自分では足してるつもりでもいつも甘さ控えめでして・・・(苦笑
>>132 名無し飼育さま
こちらこそレスいただいて本当にありがとうございます。
待ってくださってるというのが何よりの励みになります。
次はお待たせしないように更新したいと思ってますので・・
>>133 >>134 名無し飼育さま
レスありがとうございます。
本当にいろいろご心配おかけしました・・。
励ましていただいたお言葉でようやく繋がりました。
いや、まさしく連想していただいたとおりですw
>>135 名無飼育さま
レスありがとうございます。
溶けていただいて恐縮ですw
これからもいしよししか書けませんがお付き合いいただければ幸いです。
- 137 名前:saku 投稿日:2007/10/24(水) 20:50
-
短編と中篇の間くらいになる予定です。
今回こそお待たせしないようさくさく更新できればと思っています(汗
現実が妄想をはるかに越え、どう書いたらいいのか迷いつつの更新ですが、
しばしお付き合いいただければ嬉しいです。
- 138 名前:saku 投稿日:2007/10/24(水) 20:53
-
- 139 名前:saku 投稿日:2007/10/24(水) 20:53
-
『キャラメルティー・オ・レ』
- 140 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/24(水) 20:54
-
<<side-Hitomi>>
忘れられない人がいる―――――
- 141 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/24(水) 20:55
-
目が覚めたらキャラメル色の腕が首に絡んでいて。
もちろんそれは憧れ続けたあの人のものではなく
もう少しふくよかで。
一瞬高鳴りかけた胸がズキズキと痛む頭と共に沈んでいく。
- 142 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/24(水) 20:56
-
昨夜、あたしはひとつの恋を終わらせた。
最後の最後まで気性が激しく
勝手に怒ったり勝手にくっついてきたり
元サヤに戻ったりいろいろあって
水をぶっかけられたことなんて何度かあったけど。
意外に最後は冷静におしまいだね、って席を立っていった。
なんとなくだけど、美貴のほうからは二度と連絡もないだろうなって思った。
修羅場みたいなのをくぐるのにも意外と慣れて
恋愛の最後んときの苦しさは齢を重ねるたびに薄まってきたような気がするけど、
こういうときに限ってあの人の顔がちらついて胸をぐいっと掴んでく。
あたしにしてはかなり長かったし、美貴も情深いやつだったし、
ちらつくその影も含めて平気でいれるわけじゃなくって。
彼女と別れたことが苦しかったのか、
それともまた思い出してしまった、今もあたしを覆うほろ苦い記憶から逃れたかったのか。
家に帰る気にもなれず、ひとりで飲みあかしていて、
たしかにこの子が隣に座っていたような気もする。
この肌の色にときめいてしまったのかな・・
- 143 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/24(水) 20:57
- 「シャワー浴びます・・?」
いつのまにか目覚めていたらしい彼女はその腕を恥ずかしそうに引いてあたしの顔を覗き込んでた。
「いや、先にいいよ」
「じゃぁ、先に・・ってぅわぁ!もうこんな時間っ??」
がばって布団から起き上がると。
褐色の肌を隠そうともせず、シャワールームへと駆けていった。
振動で頭がくらくら揺れる。
「吉澤さんは?時間大丈夫ですか?」
ドライヤーの音が途切れた。
あぁ、あたし、名前教えてるんだ・・・
「多分・・・てか今何時?」
「6時半です」
2時くらいまではお店で飲んでた記憶があるんだけど・・・
ほとんど寝てないってことじゃん。
- 144 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/24(水) 21:00
- どんどんお化粧が完成していく彼女を見て、
少しずつだけど昨日の記憶が繋がっていく。
遅れそうなんていいつつも。
アイラインはすごく濃い目に。
マスカラは丁寧に。
素顔と全然違ってくるなあ
けっこう可愛くて幼い感じなのに。
小さめの口元も垂れた目もどっちかっていうとこっちのほうが好みなのに。
「あぁん、遅れそうやわぁ・・」
「家に戻るの?」
「うん、同じ服だったりするとチェック入っちゃうんですよ〜。
けっこう口うるさくって」
「看護士・・・だったよね・・?」
たしか。
なんか先生がどうのって会話がちらほら出てたような。
「やんなりますわぁ。先輩、すっごい仕事に厳しいしぃんですぅ。
遅刻なんかしたらひねられますわ」
たしかにそんな格好して病院に行ってもいいもんかとも思うような格好だけど。
「また電話しますね」
「あぁ、うん」
あたし、電話も教えちぇってるし。
慌しく出てく彼女を見送ってから、頭の痛みに負けて
ベットの中にもぐりこんでもう一度目を閉じた。
- 145 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/24(水) 21:00
-
- 146 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/24(水) 21:03
- ホテルをチェックアウトしたころ、最初のメールが届いた。
名前なんだっけってどう考えたところで思い浮かばずに頭をひねってたら
一通目にフルネームがつけてあって無事に解決した。
それより名前以外んとこ意味わかんないんだけど。
読めないじゃんこれ。
いまどきの子って初めてかもしんない。
どっちかっていうと落ち着いた相手のほうが好みだったし。
元カノも、その前の子もメールは用件のみを伝えてくるタイプだったし。
――――あの人もそうだったけど。
お昼に食べたランチの何かがどうのとか書いてあるけど、
絵文字のほうが多くってそれが何を指すやらわかんない。
コマめにメールくるなんて初めての体験かも。
<来週の火曜だったら空いてるよ>
そう返事をすると、じゃあそのときに、なんて
それ以降はあまりしつこくしてなくってちょっとホッとしたりもした。
- 147 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/24(水) 21:04
- 「この前はホンマにありがとうございました。
なんかすっごいムシャクシャしてたんですよね〜。
目移りばっかする人なんてうんざりっ」
恋人ととうまくいってなかったってことなんだろうな。
寄寓にも同じ日に『別れた』らしいけど。
「でもぉ、吉澤さんにいろいろ聞いてもらったおかげで、
すっきりしましたぁ」
って笑ってるってことはたぶんよりを戻したってことなんだろう。
そういやぁ、そこらへんの話を延々と聞かされたようなんだけど
正直なところ全然覚えてないわけで。
てかさ、あたし、なんかしてるんだっけ・・・?
絡まってたキャラメル色の腕を思い出して、話題にしていいもんかどうか頭をひねる。
「こっちこそ・・・ごめんね」
とりあえず一応謝ってみる。
彼女の反応待ち。
「何言うてるんですかぁ。うちのほうこそ、ほんとに失礼しましたぁ」
だから失礼って何よ?
- 148 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/24(水) 21:05
- 「ねぇ、あたしさ―――」
「ねぇねぇ今日の口紅の色、どう思います?」
切り込もうとしたあたしの話は一気に遮られ。
ぷくっと膨らんで濡れたように光る唇を突き出された。
「へっ?」
「これこれ、似合ってます?」
さらに唇を目の前に近づけられて。
背をそらしながら答えた。
「似合ってる、と思うよ」
「でしょう?別に全然変じゃないですよね?」
「うん」
「患者さんに媚びうるなって怒られるんですよ、トイレで落としてきなさいって」
「あれまぁ」
「病院の品格みたいのがあるんですって」
「なにそれ」
そこで彼女はひとつため息をついて。
目の前のビールをぷはっと気持ちよく飲み干した。
「やっと就職できた個人病院やし、辞めれないんですよね〜」
たしかに。いまどきなかなか再就職は難しいよな。
しかもこういうキャラじゃね。
- 149 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/24(水) 21:06
- 「もうねっ、すっごいんですよぉ。いちいち怒られるの」
「ああ、このまえ言ってた先輩?お局様ってやつ?」
「そうそう、いっちばん偉いんです。古株やし」
「けっこう齢いってる?三十路とか?」
「ううん、案外若いんです。あれ?吉澤さんいくつ?」
「24だけど」
「あ、年齢一緒なんだ〜」
「ふぅん」
「病院出来たときから入った人だから。思いいれも強いんですよね。
先生からの信頼も厚くって」
「そっかぁ」
ああ、あったあった
そう言って彼女はまばゆくコーティングされた携帯を取り出して、
ピピッっとボタンを押すとうちの前にぽんと差し出した。
「けっこう若いし顔もカワイイんですけどね、あれ、吉澤さんっ??」
「――――」
「知ってる人?石川さんって言うんですけど」
- 150 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/24(水) 21:07
-
- 151 名前:saku 投稿日:2007/10/24(水) 21:09
- すみません、短いのですが切りがいいのでここまで上げさせていただきます。
続きはすぐに上げられるようにしたいと思います。
- 152 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/24(水) 23:19
- 新作、待ってました。
おぉっめっちゃこの後の展開が気になります。
このいまどきっ子は唯ちゃんかな?
- 153 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/24(水) 23:57
- >>152
ちょっとネタバレっぽいかな?
はやる気持ちは同じだけどねw
>>咲太さま
新作! 続きをめっさ心待ちにしてますよ!
- 154 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/25(木) 03:20
- 咲太様
新作『いしよし物語』始まりましたね
24歳で大人ないしよし楽しみです頑張ってください。
- 155 名前:saku 投稿日:2007/10/25(木) 20:37
- >>152 名無飼育さま
待っていただいて本当にありがとうございます。
上げたあとになって名前入れてないことに気づき・・(汗
伝わってホッとしています。
>>153 名無飼育さま
レス本当にありがとうございます。
はやる気持ちなんていっていただくと続き頑張ろうって思えます。
とりあえず連続更新を目指して・・
>>154 名無飼育さま
レス本当にありがとうございます。
大人な二人が書けるのか・・
とにかく最後まで頑張ります。
お付き合いいただけたら幸いです。
- 156 名前:saku 投稿日:2007/10/25(木) 20:37
-
では本日の更新分参ります。
- 157 名前:saku 投稿日:2007/10/25(木) 20:37
-
- 158 名前:キャラメルティー・オ・レ 投稿日:2007/10/25(木) 20:40
-
- 159 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/25(木) 20:41
-
- 160 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/25(木) 20:42
- <ちょっと遅くなりそうなのでうちの病院の近くのとこでいいですかぁ?>
別に遠くもなかったからそのまま二駅通り過ぎて駅に到着した。
指定された居酒屋に座ってると
約束の時間より10分ほど遅れて彼女がやってきた。
今までこういうケースがなかったわけじゃない。
でも一度は会っても二度三度会うなんてことはありえない。
なのにこうやって言われるがままに待ち合わせ場所を変更してまで会いにくるのは
どういう状況だったのかを確かめたいって口実がひとつ。
そしてもうひとつは・・・
- 161 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/25(木) 20:43
- 「すみません、遅くなって」
「ううん、別にいいよ、なんにする?」
「じゃあまずビールで」
てか、その格好はまたやばいでしょ?
原色のカットソーで強調されちゃってるし。
懲りずにこの格好で行ったんだろうな。
彼女じゃなくっても怒ってる気がする。
「ええ〜?なんか変ですか?」
「いや、すごいなぁと思って」
「そうぉ?」
注目を浴びてるのが嬉しいのか
隠すこともなく自分の胸を見て嬉しそうにまた笑った。
「せっかくだから一緒にこようと思ったんですけど」
「へっ?」
「だから石川さんですよぉ。吉澤さんって人、知ってます?って聞いたらすごい表情変えたんで、
一緒に飲みに来ませんか?って誘ったんですけど」
「まじで?」
「仕事が残ってるしって逃げられちゃった・・」
- 162 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/25(木) 20:43
-
結局あたしも、ビールを飲み始めて1時間もしないうちに携帯で呼び出され
残ってたものをささっとつまんでもらってから伝票を取った。
「あ、私も払いますぅ」
「いいよいいよ、来たばっかなのにごめんね。今度ちゃんと時間とるからね」
ぺこりって頭を下げて、レジのところから少し離れて待ってくれてる。
こういう礼儀みたいなとこはちゃんとわきまえてるんだよなぁ。
格好はこうだけど、大切に育てられてる感じがする。
「すみません。ほんと吉澤さん、お仕事忙しいんですね〜」
「あ、まあ、上に言われるとね、なかなか・・・・」
「なんか大変そうやなぁ・・」
「まあね。まだ駆け出しだから」
「ねぇ、また会ってくれます?」
「もちろん」
「ああ、ここ、うちの病院なんです」
って駅の真裏の建物を指差された。
- 163 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/25(木) 20:44
- かなりモダンなデザインで。
ライトアップされた感じは一瞬スタジオかなんかかと見違えちゃう。
ここが彼女の仕事場ってこと・・?
黙って見上げてたあたしにニコニコしながら彼女が声をかけてきた。
「どっか悪いとこ、ないですかぁ?」
「ないよ、耳鼻科だっけ?耳とか喉とかでしょ?」
「風邪っぽいとかは〜?」
「え?風邪は内科じゃん」
「内科だと変な病気うつっちゃうこともあるからってうちのとこ来る人けっこう多いんですよ〜。
鼻水の色とか喉の奥とかも見れるから、けっこう早く治るみたい」
「ふぅん、ここ何年も風邪なんてひかないし。」
「そっか、ひいたときには是非きてくださいね〜。あそれと耳掃除もおすすめですよ?」
「なにそれ」
「自分じゃあんまりとれないでしょ〜?たまに来てごそってとってもらう人いるの。
すっきりしますよ〜」
そう言って嬉しそうに腕を絡めてきて。
促されるままに一緒に歩き始める。
- 164 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/25(木) 20:45
- 「で、吉澤さん、なんで石川さんのこと知ってはるの?」
「あ、高校時代の先輩だったから」
「ふぅんそうか」
それ以上は語らないあたしに彼女は何も聞いてはこなかった。
内面に入り込んでこられるとキツいんだけど。
ボーって天然なようでいて、つかず離れずの距離を保ってくれる、
そういうのはいいなって思う。
「この近くだっけ?送ってくよ」
「でもお仕事・・・」
「大丈夫だよ、もうちょっとだったら時間あるから」
言うとすっごく喜んで。
ぶら下がるようにあたしの腕にぎゅーって胸を押し付けてきた。
「先生ね、アパート経営とかもしてるやり手なんですぅ。だから安く借りれてるんですよ〜。よかったら今度遊びに来てくださいね」
「うん、ここ?」
「そう、けっこうきれいなとこでしょ?」
「そうだね〜」
「石川さんの部屋はね、あそこなんですぅ」
一瞬にして体が硬直したあたしからゆっくりと腕をはずすと。
いたずらっぽく笑ってエントランスへと駆けていった。
- 165 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/25(木) 20:45
-
- 166 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/25(木) 20:46
- 「早めにきてくださいっていったじゃないですかぁ」
「いや、だって・・」
「もう、熱どのくらいあります?」
「はかってない・・」
「おでこ、貸してください」
絶対風邪なんてひかないってタカをくくってたのに。
それから3日続いた深夜の収録で思いっきり風邪の菌をもらってしまった。
わざと風邪引いたなんて思われるのもしゃくだし、絶対連絡とりまいって思ってたのに。
約束をキャンセルするメールを送ったら、すぐにかかってきた電話の声でばれてしまった。
できればこういう状態で出没するのは避けたかったけど。
仕事柄絶対治さなきゃまずいとこでもあるわけで・・・
「かなり高いですよぉ。待ってて、下、車あるんです」
「車?」
「同じアパートの子が車持ってて。安全運転だから大丈夫」
マジかよ・・
立派に貼られてる若葉マーク。
かわりますって言いたいくらいの運転技術で。
背中とか座席からうかしちゃって、ハンドルに覆いかぶさるようにして交差点を見てる。
「あ、ねえ、かわろうか・・?」
「ダメですよ、安静にしててください」
ってねぇ、この運転で横に座れっていうほうがドキドッキもんなんだけど。
「あれ・・今日お休みの日だっけ・・」
「いろいろ用事があって午前中だけお休みもらってたんです。
午後からは出ますよ」
- 167 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/25(木) 20:46
- 彼女はあたしを車から支えるようにしておろして、
誰もいない待合室に座らせたあと、私も着替えてきますねって言って裏口に入っていった。
まだ休憩時間っぽい。
窓口のブラインドがおりてる。
ここって、アレ、なんだよね・・・
気持ちの整理とかできてないし。
てか、メイクだってしてないしこんな格好だし
たぶん顔なんてボーってしちゃってるし。
いつかはどっかで会えるかなぁなんて思わなかったこともないけど、
思い描いた中ではかなり低レベルのシチュエーションで。
願わくば、今でも素敵だわとか、ときめいてもらえるような、
そんな自分で会いたかったけど・・
- 168 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/25(木) 20:47
- 『順番にお呼びしますので、名前を書いて保険証を入れてください』
名前だけ書いて透明のプラケースに入れたら、
ブラインドの向こうから手が伸びてきて。
保険証を回収していった。
なんか、この小さな手って・・
「吉澤さん」
間違うことなんてあるはずない。
名前を呼ばれただけでドキドキしてたあの声。
心の準備とかできてなくって。
返事すら出てこなくて呆然としてたらブラインドがするすると上がって。
あたしに目を合わせるとちょっと困ったような顔をして、
小さく呼吸をしてから思い切るようにもう一度あたしの顔を見直した。
「初診の方はこれ、記入してくださいね。お熱はどのくらいですか?」
「あ、はかってなくって・・・」
「じゃあ、これで」
ピピって鳴った体温計を渡すとちょっと顔をしかめて。
「すぐに呼ぶから座っててね」
って小さい声が聞こえた。
- 169 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/25(木) 20:48
-
「いいってして」
「じゃあ次ああんね」
金髪な先生はあたしの口を覗き込んだり、喉のまわりを指でなでたりして。
診察の合間にばれないようにチラリと彼女の姿を追ってしまう。
先生から何も言われなくても梨華ちゃんは次から次に先生に器具を渡してく。
指示がなくってもお薬を脱脂綿に湿らせちゃって。
絶対的な信頼が厚いってことなんだろう。
「これ、消毒ちゃんとしといて」
先生の横でてきぱき働きつつ、ボーって立ってる岡田ちゃんに
奥の洗面台に積まれた使い終わった器具を指差したりして。
「はい〜」
のんびりした口調で受け取った岡田ちゃんは
梨華ちゃんに見えないようにあたしにウインクなんてしながら
胸をゆっさゆっさゆらして奥の部屋に入っていった。
そんなん見つかったら怒られるよ〜
- 170 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/25(木) 20:49
- 「扁桃腺かなり腫れてるなぁー。けっこう無理したでしょ?」
カルテを記入しながら先生は言った。
「喉の状態もひどいし、これ以上しゃべったりすると声出んくなるよ。
薬も出すけど、大変じゃなければ吸入にも来たほうがええよ」
さささって赤えんぴつでなにやら印をつけて、
奥にいた別の看護婦さんに渡した。
受付にいたちょっと気の強そうなショートカットの子といい、
ここの看護士さんってかなりレベル高いな。
「こちらに座ってください」
「はい」
梨華ちゃんはガラス製の器具をつけて。
うちの前に砂時計を置いた。
「吸入されたことありますか?」
「いえ」
「ここをつけて、口で息を吸って鼻から出してください。砂時計が終ったらおしまいです」
「あ、はい」
「終ったら入り口でお薬の紙もらってくださいね」
「はい」
診察室を出ようとしたときに今までのよそゆきの声色が変わって。
「ねぇっ」
へっ?
「また来れる・・?」
後ろ向きのままそっと声をかけられた。
「えっ?」
「通ったほうがいいよ。けっこう炎症ひどいもん」
「マジで?」
「タバコって吸ってたっけ?」
「あぁ、うん」
「しばらくやめたがいいと思うよ。咳もとまらないでしょ?」
- 171 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/25(木) 20:49
-
- 172 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/25(木) 20:49
-
夕方の一瞬の隙に時間をもらって病院へ通った。
終わってからまた戻ってそこから朝までなんてことも多かったし、とにかく時間の融通が効かない。
けど診療時間ギリギリに飛び込むと、ほっとした顔をして笑ってくれる。
そんな彼女を見たらきてよかった、なんて思ってしまった。
「ねぇ、今日はこのまま帰れるんですかぁ?」
「まぁ・・・」
「じゃあ一緒に行ってくださいよ〜、この前のお詫びしてくれるって言うたじゃないですかぁ」
「へっ?」
「石川さんもどうですか?」
「私はいいよ、まだ仕事残ってるし」
「朝手伝いますから〜」
「って唯ちゃんのはお手伝いにならないじゃんっ」
「朝早く行きますから!」
ぐいって梨華ちゃんの背中を押して。
嫌いあってんのかなって思ったけど、
案外そうでもないのかな。
- 173 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/25(木) 20:50
- 「ねえ、あんまり強いお酒はやめたほうがいいよ」
「なんで?」
「刺激しすぎるとまた喉痛くなっちゃうよ」
お姉さん口調でメニューの後ろのほうのページを開き始めたあたしに言った。
「はい、もしもし――――ああ、うんちょっと待ってて」
唯ちゃんは店の奥に携帯を持って出てった。
顔なじみらしい店員さんがやってきて、馴れた感じで梨華ちゃんに注文を聞くと、
梨華ちゃんはいくつかのおつまみとか生ビールなんかをてきぱきと頼んで。
ああなんかこういう姿も初めてみた気がする。
どっちかっていうと決められなくって、あたしもそれ〜って言ってたヒトだったから。
本日のオススメらしいのを頼んだのに
え〜っ?終っちゃったの?って唇を尖らせて困ったように別のメニューをお願いしてる。
髪をアップにしてたから気づかなかったけど。
あたしが知る限りはずっと長かった髪。
肩ギリギリのところで切られてて。
型のついてしまった髪形を気にするように両手で後ろにかき上げるような仕草が大人っぽくて。
気がつけばずっと見つめてしまってたあたしに気がつくと
一瞬照れくさそうに目を細めて。
「元気だった・・?」
あぁ、この表情にまたトクンと心臓が波打つ。
「うん、元気だったよ。よっすぃは?」
「うん、変わんない」
梨華ちゃんらしい、少し色づく程度の薄いピンクの唇。
お化粧してるとこなんて初めてみたから。
- 174 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/25(木) 20:51
- 「背、また伸びた?」
「んなことないよ。一緒だと思うけど」
「ほんと?」
「ほんと。あ〜、2センチくら伸びたっけ・・」
「そんなもんかぁ」
「柴ちゃんとか元気?」
「変わらないよ〜。あっちも忙しくってたま〜にお茶するくらいだけど」
「今何やってんの?」
「小さい会社の事務やってるよ〜。気楽なんだって。」
「よっすぃは?」
「え?」
「今なんのお仕事してるの?」
「あぁ、うん、まぁ、フリーターみたいな・・」
「そっか・・」
まだはっきり言いたくなかった。
夢だけは大きく語ったりしてた青い時があったから。
- 175 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/25(木) 20:51
- 「すみません。友達からの電話、全っ然切れなくて」
「いいよ、座って」
「ごめんね、私そろそろ・・」
えっ?
「石川さんもう帰りはるんですかぁ?」
「うん、ちょっと用事があるし・・」
さっきからチラチラと時計のほうを見てたのはそういうことだったのか。
まあたしかに。
そういう人がいてもおかしくはないんだよなあ。
ズキンと一気に苦い酒になる。
背中を見送ってから岡田ちゃんはひっそりと声を落とした。
「あのですね〜」
「何?」
「先生と石川さん怪しいんですよぉ」
「先生って?」
「だから、うちの院長」
「マジで?」
「奥さんもいるんですけどね〜。結婚したばっかなんだけど、それより前から続いてるとかなんとか」
なんかすごいノリの軽いやつだなって思ってた。
けど。
なんでよりによって妻のいるやつなんかと。
そういうの大っ嫌いなんじゃなかったっけ。
- 176 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/25(木) 20:52
-
そっからのお酒は味がしなくって。
止められてた強いやつもストレートで飲んで。
意識が飛びそうになりながらやっぱ送ってくのだけはしなきゃって
岡田ちゃんをおうちまで送り届けてからフラフラしながら駅のほうまで歩いた。
「よっすぃ?」
暗闇で後ろのほうから声をかけられて。
幻聴かと思って振り向いたらやっぱり彼女で。
さっきも持ってた小さいバックを腕にかけたままでパタパタと走ってくる。
と同時に駐車場から車高の低い車がブオンとエンジン音を唸らせて。
かなりのスピードで通りのほうに走り抜けていった。
なるほどね。
やっぱ先生と二人だったんだ・・
- 177 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/25(木) 20:52
- 「強いの飲んじゃったんでしょう?」
「いいじゃん」
「よくない。ね、あ〜んってして?」
「やだ」
「やだ、じゃなくて。」
梨華ちゃんはこっちに近づくと、腕をぐいって引っ張って。
そのままぐんぐん歩き出す。
公園の街頭の下までくるとくるりってこっちを向いて。
「あ〜ん」
「いいって」
「もうっ」
そういうとすっと冷たくなった指がほぺったに触れて。
「はい、お口、あけて・・?」
両手で優しく包み込まれるようにされると抗うこともできず。
無意識のうちに口をあけてしまってて。
梨華ちゃんはさらに近づいてくるとあたしの口の中を覗き込んできて。
「ぱっと見た感じは大丈夫だと思うけど・・・」
そういうとさらに近づいて。
襟元に顔を寄せてクンクンって息を吸って。
「タバコはやめてるみたいだね?」
そう言って小さく笑った。
酔いに任せて回そうとしてしまった手のひら。
ヤバイって思ったうちの顔を見た梨華ちゃんは困ったような顔をして。
「あ、ごめん・・」
ううん
小さく首を振ってからそっとうちの胸を手のひらで押し返すようにして
するりと温度が消えた。
- 178 名前:Hitomi 投稿日:2007/10/25(木) 20:52
-
- 179 名前:saku 投稿日:2007/10/25(木) 20:53
-
- 180 名前:saku 投稿日:2007/10/25(木) 20:53
- 本日の更新はここまでです。
- 181 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/25(木) 22:56
- 更新お疲れ様です。
思わず「うわぁー」と言う声を出してしまいました。
咲太さんの温かみのある文章が大好きです
今後も楽しみにしています。
- 182 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/26(金) 00:06
- 連続更新お疲れさまです。
早くも切なさの香りに包まれています。
今後も楽しみにしてます。が、どうぞ無理なきよう。
- 183 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/26(金) 03:47
- 咲太様
吉澤さんに感情移入してしまい今泣きそうになってます。
石川さんと先生のことも気になるしこれからの展開がどうなるのか期待大です。
- 184 名前:saku 投稿日:2007/10/26(金) 06:24
- >>181 名無飼育さま
どうもありがとうございます。
「うわぁー」と言っていただいたのはどこだったのか・・・w
温かみ・・そういうのが出てるかどうかわかりませんが
お言葉を励みにして頑張ります!
>>182 名無飼育さん
レスいただきありがとうございます。
ええ、大丈夫ですw
今回はブレずに最後まで走れると思います。
いつも気遣っていただけることを嬉しく思っています。
>>183 名無飼育さま
ありがとうございます。
感情移入していただけたら本当にありがたいです・・。
拙い文章では表せないところを補っていただければ嬉しい・・。
朝から何を、と思うのですが、
取り急ぎ一気に更新です。
- 185 名前:saku 投稿日:2007/10/26(金) 06:24
-
- 186 名前:キャラメルティー・オ・レ 投稿日:2007/10/26(金) 06:24
-
- 187 名前:Rika 投稿日:2007/10/26(金) 06:27
-
<<side-Rika>>
<<side-Rika>>
わたしたちはかなり人数の多いマンモス校に通ってた。
理系の2,3年生は校舎も離れた場所にあって。
同じ部活でもなければ1年生のことを知る機会はほとんどなくなってた。
学園祭の模擬店のおしるこ屋さんで、着付け部の練習用の和服を着て、ウエイトレスをしてて。
そこに、柴ちゃんとお付き合いしてた、マサオさんに連れられてやってきた1年生がよっすぃだった。
マサオさんはよっすぃの中学のころのバレー部の先輩で、
短大生になってから、よっすぃの中学にバレーを教えに行ったりしてて、
よっすぃのことを可愛がってくれてたみたい。
よっすぃは二日間で5回も食べにきてくれて。
よっぽどおしるこが好きなのかって思ってた。
マサオさんが恋人の柴ちゃんに会うために何度も来店するのにつき合わされてるのかなって思ったけど。
甘いもの嫌いのマサオさんはそのうちお茶だけ頼むようになって。
よっすぃがおしるこを何杯も食べるのをニヤニヤ笑って見てた。
わたしはすごくきれいな子だなって一目見てドキドキして。
こっそりよっすぃのためにおしるこを多めによそって、白玉もたっぷり入れて。
- 188 名前:Rika 投稿日:2007/10/26(金) 06:28
- 学園祭が終わってよっすぃの方も私のことを気に入ってるらしいって聞いたときには胸がはじけそうになった。
なんとか会わせて欲しいって柴ちゃん経由でメールがきて。
放課後によっすぃが美味しいケーキ屋さん見つけたから行きませんかっていろいろ探してくれて、
4人で何度かお茶をしに行ったり。
ほんとは甘いものそんなに好きじゃなくって、おしるこもケーキも喉の奥に押し込んでたって聞いたのは
付き合いだしてからずっと後だった。
あまりに幸せすぎてどうにかなっちゃうんじゃないかって思うの、なんて。
真剣に相談したら柴ちゃんに笑われたくらい。
わたしの高校時代はよっすぃ一色だった。
「よっすぃがね、今日――――」
口癖のように話すわたしに柴ちゃんは
まったく梨華ちゃんはぁ、なんてあきれながらも聞いてくれて。
こんなに幸せでいいのかな、と思いながら、この幸せはずっと続くはずだって。
あの頃のわたしはそんなふうに思ってた。
- 189 名前:Rika 投稿日:2007/10/26(金) 06:28
- 一年遅れで同じ短大に入ってくるって言ってたよっすぃが、
やりたいことができたって志望校を離れた専門学校に変えて。
よくわからないギョーカイ関係の集まりとかに出るようになってどんどん時間がなくなって。
わたしにはよっすぃといる時間だけがシアワセだったから。
会えない日には一日家に篭ったり、せっかくあえてもグチグチこぼし始めるようになって。
『もう別れよーよ』
そう言い出したのはわたしのほう。
よっすぃのことが嫌いとかそんなんじゃなくて。
一人じゃなにもできなくなってく自分が嫌いでたまらなくなってしまったから。
わたしがこぼし始めるたびに、曇らせてしまう表情を見るのが苦しくてたまらなくなってしまったから。
『どうして?』
みるみるうちに顔を歪ませた彼女。
『どうしても』
『梨華ちゃん・・・』
二人でよく通ってたお気に入りのカレー屋さんのすぐ裏で。
わたしのことを唇を噛み締めたまま見上げた彼女から、思い切るように目をそらして。
『じゃあね』
彼女に手を差し出すと、おそるおそるさ迷うようにして差し出された手のひら。
一度だけ握って振って。
駅までの長い道のりを走り抜けた。
振り返らなかったし。
彼女も追わなかった。
- 190 名前:Rika 投稿日:2007/10/26(金) 06:29
- それから。
短大を卒業した頃。
柴ちゃんからのメールで、よっすぃが色白の目がくりくりっとした女の子と歩いてるのを見たって教えてもらった。
それから一年くらいした頃には、色っぽいきれいな女の人から腕を組まれて歩いてるのを、反対の車線から見かけてしまって。
ああそういう人だったんだなって無理やり思い込ませようとした。
わたしだって、声をかけてくれる人たくさんいたんだよよっすぃ。
何年もたって、良い思い出の部分だけに塗り替えられるくらいに、思い出す時間だってほとんどなくなってた。
心配性の柴ちゃんもついてきてくれたりして何度かデートだってしたし。
―――なのにそういうときばっかいつのまにかよっすぃが出てきて。
無意識にどこかでよっすぃと比べてしまってる自分がいて。
比べちゃってるなんて言うと怒られそうだから話せなかったけど。
柴ちゃんはきっとそれにも気づいてて。
黙って間に入ってやんわり断ってくれたり。
バカだね梨華ちゃんは、なんていいながらお酒を付き合ってくれてた。
よっすぃだったらこんなこと言わなかったし、
よっすぃだったら―――――
「―――石川さんっ?」
「・・・・・・・」
「石川さぁん」
「へっ?」
「あの、先生呼んではりますよ」
「あ、ごめん、すぐ行く・・」
- 191 名前:Rika 投稿日:2007/10/26(金) 06:30
- 今日はめずらしく患者さんが少なくって。
診察時間終了間際になって、いつも来院する小さな男の子がお母さんと一緒に診察室に入っていた。
再会してからというもの、無意識のうちによっすぃとのことを思い出したりすることが増えてしまった。
よっすぃ、今日は来れないのかな・・
「ん、やっぱ切らんとあかんな。石川」
「はい」
「5分たったらまた中に入ってもらって」
「はい」
お薬だけじゃ効かないくらい中耳炎が悪化すると、
鼓膜の奥に薬のついた脱脂綿をつめて麻酔をかける。
5分たったらベットに寝てもらって鼓膜切開ってなるんだけど、
小さいころから繰り返してるこの子は脱脂綿を詰められた時点で様子を察して、
ベットにあがるのを頑なに拒み始めた。
「ごめんね、すぐ終わるから上がろう?」
「やだあああああ」
「大丈夫だよ、お薬塗ったから痛くないし。ゴーッと音がするだけ」
「でもやだあああ」
ごめんね、心の中で謝りながら抱え上げる。
- 192 名前:Rika 投稿日:2007/10/26(金) 06:31
- 「岡田ちゃん、しっかり足押さえててね」
「はい」
「岡田、動いてるで」
「あ、はい、でも・・」
「もぅ、変わるよっ。じゃあ先生のほうに行って」
小さいといっても全身で抵抗すると体が跳ねる。
細い針で鼓膜に穴を開けて浸出液を出すんだから、
先生も細心の注意を払ってるし、絶対暴れさせるわけにはいかない。
「じゃあ、こちらで座っててください」
「はいっ」
あっ・・・
ドアのほうから聞こえたよっすぃの声。
瞬間、膝を抑えてた手が緩み、男の子の体が半回転した。
「石川っ!!」
「すみませんっ」
全身の力を込めて体を押さえ込む。
しっとりと背中から汗が滲んでくる。
- 193 名前:Rika 投稿日:2007/10/26(金) 06:32
- 「岡田ぁ、ちゃうやろっ」
「岡田ちゃん、そっちじゃなくて茶色のほう」
「あ、すみません」
先生は拡大鏡の中を覗きながら手だけ岡田ちゃんに差し出す。
「ジーゲル」
「は、はい」
「おいおい」
「違うの、先生にちゃんと握らせてあげてっ」
いつも教えてることなのに。
「1.5」
「へっ?」
「岡田ちゃん、1.5ミリのやつ、先生に渡して」
「えっ?」
「ああ、もうそれじゃなくて、隣のもっと細いやつ」
切開した穴からどろりと流れる浸出液をできるだけちゃんと吸いだしてあげなきゃいけない。
「リンデロン」
「はい?」
「もぅ、しっかりして!」
よっすぃの前だっていうのに。
ついつい声を張り上げてしまう。
「もっかいジーゲル」
「は、はいっ」
あせらせたらできることもできなくなってしまう、
そんなことはわかってるはずなのに。
ようやく処置が終って、男の子を送り出したとこで、
心配そうにわたしと岡田ちゃんを交互に見てるよっすぃと目があった。
こういうとこ、あんまり見られたくなかったのに・・・
- 194 名前:Rika 投稿日:2007/10/26(金) 06:32
- 「さてとっ」
この場の空気を切るように、先生は手を洗ってゆっくりと椅子に座った。
「石川〜、ファイバースコープ切っといて〜」
「はい」
「どう?もう痛みはないでしょ?」
「はい」
先生は吉澤さんの喉のまわりを手でなでてから、口を大きく開けさせた。
「まぁ、ええかな。今あるお薬を飲みきっちゃって。もしまだイガイガする感じ残るようならまたおいで」
目の前のカルテをぽんって私に渡したあと、
ちらっと時計を見て患者さんが待合室にもういないのを確かめるとると、先生は大きく伸びをした。
「吉澤さんだっけ?」
「はいっ?」
「あんた、ええ顔してるわぁ」
「へっ?」
「岡田なんてゆるみっぱなしやもんなぁ」
ちょっと涙目になってた岡田ちゃんが、驚いたようにポカンと口をあけてから、
へへへっって照れくさそうに笑い出した。
患者さんにいつもそういう軽口ばっか叩くんだから。
ニヤニヤ笑いながら回転椅子にもたれかかって。
はだけた白衣に聴診器をかけたままよっすぃの全身を舐めるように見つめてる。
- 195 名前:Rika 投稿日:2007/10/26(金) 06:33
- 「かなりもてるでしょ?」
「はっ?」
「なあ、岡田、メロメロって感じやろ?」
「ええ、そんなことないですぅ」
「またまたぁ」
「なんや、石川もか?」
「ち、違いますっ」
「違うんか?」
「石川さんと吉澤さん、知り合いだったらしいですぅ」
「岡田ちゃんっ!?」
「ほぅ、知り合いかぁ・・」
頬に手をあててニタニタしながらよっすぃとわたしを交互に見比べてる。
「先生、早くチェックお願いしますっ」
ちょっと粗めに前の子のお薬の処方箋の確認の紙を渡すと、おうっていいながら素早く目を通して。
「これでええよ。――――で、わけありか?」
「ち、違いますっ!!」
先生の手から強引に紙を取り返すと受付へと向かった。
苦笑しながら立ち上がった先生は、わたしに聞こえないように手で隠すふりをしながらわざと大きな声で
「元カノってとこ?」
「えええ?やっぱそうなんですかぁ??」
わたしが口を出す前に、横からびっくりするような岡田ちゃんの声。
「なんや、気づいてなかったんか?」
「だってぇ、まさかって思うじゃないですかぁ、石川さん、固そうやしぃ」
「たしかに固いけどやなぁ」
「岡田ちゃん、消毒終ったのっ?」
「あ・・」
「吉澤さん、受付で処方箋用意できてますんで」
「あ、うん・・」
「お大事に」
何か言いたげだった背中に強引に機械的に声をかけて後ろ手でノブをおすと
思った以上に大きな音をたててバタンとドアがしまった。
- 196 名前:Rika 投稿日:2007/10/26(金) 06:33
-
- 197 名前:saku 投稿日:2007/10/26(金) 06:35
- 取り急ぎ以上です。
<<187の冒頭部分、2重になってしまって申し訳ありません・・
脳内削除いただけたらと思います。
続きは今夜にでも・・
- 198 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/26(金) 07:49
- 作者さまそんなに急がなくても…。大丈夫ですよのんびりと待てますからねー
- 199 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/26(金) 10:46
- さくさく更新していただいてとても嬉しいです。
今日の会議中はずっと回想していることでしょう。
咲太さんのお話が大好きです。日々の糧となっております。
くれぐれも無理せずに続けて下さいね。
- 200 名前:にっき 投稿日:2007/10/26(金) 21:05
- 出てくる人みんな愛しい。早速はまっちゃってますw
まったりと作者様のペースで……。だけどさくさく更新嬉しいです。
- 201 名前:にっき 投稿日:2007/10/26(金) 21:06
- すいませんあげてしまったorz
- 202 名前:saku 投稿日:2007/10/26(金) 22:00
-
- 203 名前:saku 投稿日:2007/10/26(金) 22:00
- >>198 名無飼育さま
お気遣いいただきまして、本当にありがとうございます。
温かいお言葉に涙が出そうになります・・
また甘えてペースダウンしてしまうこともあるかと思いますが、
そのときは長い目でお待ちいただければ嬉しいです。
>>199 名無飼育さま
レス本当にありがとうございます。
会議中回想・・・いや、ありがたいやら恥ずかしいやら・・
糧なんてとんでもないっす(汗
最後まで二人を見守っていただけるように頑張ります。
>>200 にっきさま
レスありがとうございます。
登場人物を愛して下さって本当に嬉しいです・・。
もっとはまっていただけるよう、
今回は勢いづいてさくさく行けたらいいなと思ってますのでw
ちょうどこれから更新してageようと思ってましたので
どうぞお気になさらぬよう・・・w
- 204 名前:キャラメルティー・オ・レ 投稿日:2007/10/26(金) 22:01
-
- 205 名前:Rika 投稿日:2007/10/26(金) 22:03
-
「ねぇねぇ、みんなでドライブとかってどうです?」
朝からの突然の来客は、くるんと巻いた髪の毛をふたつ束ねにして。
寒くなってきたというのに腕も胸もむき出しの格好で。
あんたねえ、その格好じゃって注意しようとして今日が休診日だったってことを思い出した。
「―――みんなでって誰?」
「誰って決まってるじゃないですかぁ。私と絵梨香ちゃんとぉ、石川さんと吉澤さんっ」
「へっ?」
「もう吉澤さん、いいって言うてはるんですよぉ。てか、下に来てはるし」
「で、でも今日はゆっくりビデオみようと思ってて」
「そんなの、返却までまだ時間あるんでしょ?ねぇ、行きましょうよ〜」
玄関のドアは半開きで。
パジャマ姿のままの腕をささっととられた。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
「なんですか?」
「―――――着替えてくるから」
- 206 名前:Rika 投稿日:2007/10/26(金) 22:05
-
ドライブっていっても急遽決まったらしく準備なんて皆無で。
とりあえず近くのコンビニに寄ってお菓子とお弁当を買って、
秋で人気の少なくなった海で並んで食べて。
海でデートなんての、昔憧れたんだっけ・・・
波打ち際で遊んで、波と戯れて、なんて・・
どんな水着だったらよっすぃ喜んでくれるかな、とか真剣に考えたりしてたな。
「ねえねえ、三好さん、飲んじゃっていいの?」
「もちろんいいですよ、運転は任せてください」
「梨華ちゃんは?飲めるでしょ?」
「うんっ・・」
「じゃあ、ちょっと買ってくるよ。一緒に行かない?」
えっ?
びっくりしてよっすぃの方を見ると、間違いなくわたしのほうを見て言ってくれてる。
「どこまで?」
「ちょっと歩くんだけど、来るときにみつけてたんだぁ」
ちょこちょこ追いかけると、振り返って嬉しそうに笑って。
わたしはサンダルが砂に食い込むのに足をとられないように注意しながら、よっすぃの背中を追った。
よっすぃのほうが少しわたしより歩幅が広いから。
自然とゆっくりとしたテンポで歩いてくれてる。
同じように保たれた、少し斜め前を行く背中。
たまに振り向いてわたしの距離を確認するとこもあのころと同じ・・・
- 207 名前:Rika 投稿日:2007/10/26(金) 22:06
-
そういえば、よっすぃ。
初めての二人きりのデートのとき、待ち合わせであなたが遅れてきたことがあって。
というより、わたしが約束の時間よりかなり早く来てしまっただけなんだけど。
ナンパしてきた男の子たちを追い払ってくれたよね?
だけど二人になっても機嫌が悪くて。
映画を観る予定だったのに『帰ろう』って言い出して。
いつもならあたしの歩幅に合わせて歩いてくれるのに、あの時だけは先をズンズン歩いちゃって。
追いかけたわたしが転んじゃって。
それ見て、びっくりするくらい慌ててくれて。
『梨華ちゃんが悪い訳じゃないのに怒ってごめん・・・』って。
膝を擦りむいただけだからいいよって言うわたしを、無理やり公園までおんぶすると
傷口を洗ったり、コンビニにカットバンを買いに走ってくれた。
『こんな短いスカート履いてるからいけないんだよ。ナンパだってされちゃうし・・・可愛いんだから気をつけてよ・・・』って。
めったにそんなこと言わないのにボソって言ったの。
『だって・・・よっすぃが喜ぶと思って・・・。柴ちゃん達とうちに来た時にそれいいね、って褒めてくれたスカートだったんだもん』
よっすぃはみるみるうちに真っ赤になって。
聞こえないくらい小さな声が届いた。
『―――――うちだけに見せてよ。他の人には・・ダメだから・・』
『うん・・・』
それから二回目以降のデートでは待ち合わせじゃなくて、必ずお家まで迎えに来てくれた。
わたしも短いスカート、履かなくなって。
別れてからもね、なんだかずっと履けなくなっちゃってるんだよ?
- 208 名前:Rika 投稿日:2007/10/26(金) 22:07
- あの後、結局映画も観ずに公園のベンチで座ったままお喋りした。
暗くなってそろそろ帰ろうって頃に立ち上がったよっすぃが、わたしに手を差し出してくれて。
立ち上がる時によろけちゃったわたしをふわって抱きしめて、キスしてくれて・・
唇が離れた瞬間『ごめん・・・』って。
『謝らないで・・・』
『うん・・・』
『足痛いから手繋いでくれる?』
『あ、うん。いいよ・・・』
――――黙ったままゆっくりと歩いてる目の前の背中。
時折見せてくれるやわらかい微笑みがあの頃と同じに思えてしまう。
最初のデートのときのこと思い出すなんていつぶりかな・・・
想いまで蘇ってくるようで。
照れくさくて呑み込まれそうになるのをこらえて、話題を探した。
- 209 名前:Rika 投稿日:2007/10/26(金) 22:07
- 「大丈夫?ちょっと遠いよね?」
突然声がして。
耳まで染まっちゃったかも、今。
「う、ううん。平気だよ。――――あの、よっすぃ、今日はお仕事お休みだったの?」
「うん、まぁ。またいつ呼び出されるかわかんないけど」
「大変なの?」
「まだ半人前だし。梨華ちゃんも大変そうじゃん」
「うん、まぁ・・」
「岡田ちゃん、天然そうだからなぁ」
返事に困ってるとくすって笑って。
「あの、あたしさ、専門的なことはよくわかんないんだけど」
やわらかな口調とおだやかな視線に包まれる。
「えっ?」
「梨華ちゃんのことだから間違ったこといってないでしょ?」
う、うん、たぶん。間違えてはいない、と思う。
周りとはぶつかっちゃうけど。
「まぁ、今まで通りにやればいいと思うよ。」
「えっ?」
「なんだかんだいいながらあの子もわかってると思うし」
「そうかなぁ」
「ああみえて、けっこう梨華ちゃんのこと好きなんだと思うよ。かなり話題にしてるし」
そうなのかなぁ。
口うるさいだけのお局様って言われてると思うけど。
でもよっすぃにそう言ってもらえると。
自分の中で感じてた心の棘の部分が少しずつ融けてくような気持ちになる。
- 210 名前:Rika 投稿日:2007/10/26(金) 22:08
- 「あのね?」
「ん?」
「わたし、何度か見かけたよ、よっすぃ」
機嫌がよさそうなよっすぃに、思い切って言ってみた。
「えっ?」
「きれいな彼女さんだね〜」
「ん?」
困らせるような質問だったかなって言ったあとになって気づいたけど。
やっぱりよっすぃは複雑そうな顔をして。
どの子のことだろって頭をめぐらせてる様子で。
やっと自然に言えたって気持ちと、聞かなきゃよかったって気持ちと半々・・
「梨華ちゃんは?どうなの?」
「どうって何が?」
「うん・・・幸せかなってこと」
「幸せだよ?」
よっすぃがいなくても
一人でショッピングにだって映画にだって行けるようになった。
思い出すことだって少しずつ減って。
今こうやって笑ってだっていられるよ。
「ならいいんだけど・・・まぁ、いい人なのかな・・」
「えっ?」
最後のほうが聞き取れなくって。
聞き返したけどよっすぃは答えずに黙って笑ってた。
- 211 名前:Rika 投稿日:2007/10/26(金) 22:09
- ビールを3人分と、さきいかを買って。
ジーンズのポケットに指をひっかけるようにしてよっすぃはたまに振り返りながら歩き続ける。
「梨華ちゃん、あのさ・・・」
「なに?」
「久しぶりに会えてうれしかった・・よ・・」
「わたしも。よっすぃどうしてるんだろって思ってたから」
「ほんとに?」
「うん、また・・・自然にどっかで偶然会えたらいいなってずっと思ってた」
「なんかすごいき・・れいになってて実はけっこう緊張してたんだけど」
「ウソぉ」
「ほんとだよ」
きれいなんて言ってもらったのってなかったよね?
ああ、はいはい、可愛い可愛いってからかうようにして言ってもらったくらい。
でもその口元がいつも緩んでたから。
言葉じゃなくっても信じられたんだと思う。
「よっすぃも・・痩せた?」
「ひどっ!!」
「だって・・腰とか折れそうなくらいじゃん。昔はすっごい食べてたし」
「違うでしょっ。梨華ちゃんが一口ずつ食べて、もう要らな〜いなんていうから全部あたしが・・」
「だって、よっすぃの顔見てるだけでおなかいっぱいになるんだもんっ」
目をまん丸にしてぷっと吹き出して。
よっすぃは愉快そうに笑ってる。
そういえば昔もよっすぃの目の前で頬杖をつきながら。
こんなこと言ってたなぁ、わたし。
- 212 名前:Rika 投稿日:2007/10/26(金) 22:10
- 「まさかこんな感じで会うとは思ってなかったけど」
「うん、そういえばなんで岡田ちゃんと知り合ったの?」
あ、うんっと・・・・
小さく唇を舐めてから、飲み屋で会ったって言った。
言いにくいことをいうときにするよっすぃのクセ。
「だから吉澤さんと寝たのっ!!」
えっ・・・・??
シートの上に立ち上がってでっかい声で叫んでる岡田ちゃんと。
ものすごいフキゲンな顔をして睨んでる絵梨香ちゃんと。
呆然とした顔で二人を見つめてるよっすぃ・・
ああ、そういうことなんだ・・・
少し浮かれてたような気持ちがすっと冷めてく。
はっとして振り返った岡田ちゃんはびっくりした顔をして。
「あ、違うんです、石川さん」
「違うって?」
自分でもはっきりわかる、凍てつくような笑顔。
「寝たっていってもそういうんじゃなくて、ただ、一緒に眠っただけですから」
ダメだ・・言葉が思いつかない。
- 213 名前:Rika 投稿日:2007/10/26(金) 22:10
- 「一緒にって、どういうことっ?」
わたしのかわりに絵梨香のほうが声を苛立たせて問い詰めてる。
「お互い人肌恋しかったんやもん。絵梨香ちゃん、あたしに文句言えるの?」
「文句って・・」
「他の子とも遊んでたでしょ?電話かけたって繋がらへんこと多いし」
不満げに顔をそらした絵梨香は唇を結んだまま。
「あんときだって今から会おうって言うてたのに、急に約束入ったって。」
「別にただの友達だし」
「彼女泣かしてまで優先するもん?」
興奮して怒鳴り続けてる岡田ちゃんと。
視線から逃れるように顔をそらしてる絵梨香と。
そして、黙ったまま息を潜めるようにして見つめてるよっすぃ。
「――――確かに絵梨香、ちょっと遊びすぎだよね、わたしも思ってた」
頭の隅々が冷えて凍ってく。
「だからって岡田ちゃんが何してもいいってことではないけど」
こんなときにまでちゃんとしてる模範的な回答。
「って別によっすぃと本気っていうんだったらそれもかまわないけど」
わたしの告げたその言葉に。少し傷つけられたような表情をしたよっすぃが思わず目をそらした。
置いてあったバックを拾って、元来た道を歩きはじめる。
気がついて追いかけてきたのは髪の短いほうの彼女。
「あの、石川さん、」
「ごめんね、わたし、帰るね。悪いけど駅まで送ってってもらえるかな?」
- 214 名前:Rika 投稿日:2007/10/26(金) 22:11
-
- 215 名前:saku 投稿日:2007/10/26(金) 22:11
-
- 216 名前:saku 投稿日:2007/10/26(金) 22:11
- 本日の更新は以上になります。
- 217 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/26(金) 23:16
- リアルタイム!
言葉にならないせつなさ。
楽しみにしています。
- 218 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/26(金) 23:36
- 追いかけろよ。よっすぃ〜まだ間に合うよ。
- 219 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/27(土) 09:28
- 咲太さんの作品はどれも惹き付けるものがあるなぁ。
続きも楽しみにしています。
- 220 名前:saku 投稿日:2007/10/27(土) 23:49
- >>217 名無飼育さま
リアルタイムで読んでいただいてありがとうございます。
いつかせつなさが幸せへと繋がっていけたら・・
楽しんでいただけるよう頑張ります。
>>218 名無飼育さま
レスありがとうございます。
そうですよね・・
よっすぃ、きっと石川さんは待ってるはずなんだけどな・・
>>219 名無飼育さま
どうもありがとうございます。
こんなお言葉をいただき、
細々とながらも書き続けてきてよかったなと
本当に嬉しくありがたく思います。
- 221 名前:saku 投稿日:2007/10/27(土) 23:50
-
- 222 名前:キャラメルティー・オ・レ 投稿日:2007/10/27(土) 23:50
-
- 223 名前:Yui 投稿日:2007/10/27(土) 23:52
-
<<side-Yui>>
普段通りの石川さんやった。
いつも通り患者さんにニコニコ笑って、おじいちゃんにもおばあちゃんにも子供たちにも愛想よくって。
けど。
失敗したことは注意されるけど、でもいつもみたいにネチネチ小言をいわれるふうでもなくって。
必要なことだけ話してさっと自分の仕事に戻る、そういう石川さんやった。
「あの・・」
「なに?」
「今日よかったら食事でも行きませんか?」
お昼の休憩のときに誘ったときにはうん、ちょっと・・・って明確な返事はこなかったけど。
診察室の戸締りを終えた石川さんが先に着替えてたあたしのほうにやってきて、
美味しいもつ鍋のお店を教えてもらったんだけど一緒に行ってみない?って。
好きなもの頼んでね、って、自分は梅酒を繰り返し飲んで、あたしにお鍋を勧めてくれてた。
いつもよりペースが速い。
しかも妙にテンション高くって弾丸のように話してくる。
まるで話の間隔をあけるのを避けるみたいに。
美味しいね〜って笑ってくれてるけど、
最初の一口だけしか食べてないやないですか・・
- 224 名前:Yui 投稿日:2007/10/27(土) 23:52
- 「あの・・」
「何?」
「ぶっちゃけぇ、聞いちゃってもええですか?」
「えっ・・?」
思わず顔を歪めた石川さんにも気づいてるけど
返事待ってる気はないんです
「石川さんて・・・・もしかして、したこと、ないですか?」
あまりに突拍子もない質問すぎて。
しばらくぽかんと口をあけたあと、カーッと首筋まで染めて慌てふためいた。
「あ、あ、あるよちゃんとっ!」
ちゃんとってなんですかちゃんとって。
はぁん、ないんですね・・・
「この前も言いましたけど、ほんっとに吉澤さんとは何もなかったんですからね?」
「別にあたし、そんなこと・・」
動揺を残したまま必死で笑顔をとりつくろうとしてる。
- 225 名前:Yui 投稿日:2007/10/27(土) 23:53
- 「石川さん、あのね・・?」
「えっ?」
言いながら立ち上がって反対側の石川さんの席に近づいて。
「むぎゅーっ」
照れくさを紛らわすため。
わざと大声で言いながら石川さんの顔を自分の胸に埋めさせた。
「な、何よ、急にぃ!」
びっくりした顔をして、顔を真っ赤にさせてうちのこと見てる。
「これだけです、したのは」
「へっ?」
「それもふざけてやっただけですから」
勢いづいてやったけど。
やったあとになってものすごく恥ずかしくなって。
自分の席に帰るまでに必死に呼吸を整え、
梅酒に手を伸ばして、ぐぐっと飲み干した。
- 226 名前:Yui 投稿日:2007/10/27(土) 23:54
- 「あの、ですから―――」
「・・・・・・・」
「あたしも聞いてほしかっただけなんです、絵梨香ちゃんとのこと。
吉澤さん、優しいからふんふんって聞いてくれてるんだけど、すっごい眠そうで・・」
ちゃんと最後まで話しとかんと。
石川さんはまだ真っ赤な顔をしながらちびりちびりグラスを唇につけ、上目遣いでうちを見てる。
「んで、明日朝も早いし、終電もなくなったし。もっと話聞いてくださいよおって、ホテル行って」
ホテルの一文字に瞼を震わせながらなおもこっちを見てる。
「途中で絵梨香ちゃんから電話があって、出てくればって言われて、お風呂場んとこで話してたらすごく長くなっちゃって。
ベットルームに帰ったらもう吉澤さん、寝てました」
「えっ・・・?」
「すっごい疲れてたみたい。彼女さんと別れたばっかだったみたいだし」
「彼女?」
それも聞いてなかったのかぁ・・
「あの、その日に別れちゃったんですって」
複雑そうな顔をして、石川さんはうつむいてしまった。
- 227 名前:Yui 投稿日:2007/10/27(土) 23:54
- 「だからって・・・」
「うん、だからって言い訳にもなんないですけど・・・」
「ち、違うのっ、別に岡田ちゃんとよっすぃが一緒に寝ても構わないんだけど、そんな別れたその日に出会ったばっかの人となんて・・」
「ごめんなさいっ」
「えっ?」
素直に謝ります。
絵梨香ちゃんにも。
そして吉澤さんにも。
「ごめんなさい。うちが悪いんです。」
そして。
もうひとつ隠したままでごめんなさい。
これ言うと石川さんすごい怒ると思うけど。
ほとんど素肌のままで
吉澤さんにくっついて眠りました
吉澤さん、ゆすってもゆすっても起きなくって。
まだ絵梨香ちゃんとは仲直りできてなくって、夜中に涙が出て止まらへんくなって。
あたしがベットの中に入って背中向けてたら
吉澤さん、たぶん、間違えられたんやろうけど。
―――今思えば石川さんに間違えたんやろうけど。
撫でてくれたんです、うちのこと。
すっごい優しく。
吉澤さんの肌に寄り添ったらすごい安心できて。
ミルク色の首筋にぎゅっと腕を回して眠らせてもらいました。
それに・・・
だってあたし、やっぱりあの日、吉澤さんのこと好きやなぁって思ったんやもん。
けど。
きっと今そんなこと石川さんに話したって聞いてくれへん。
あたし、お二人のこと、すごくいいなってって思うんです。
だからもう少しだけ・・・内緒にさせてもらうこと、許してください―――
- 228 名前:Yui 投稿日:2007/10/27(土) 23:54
- 「吉澤さんも謝ってました。」
「別に・・・わたしには関係ないことだし・・」
微妙な沈黙が流れる。
ここで話しを途切れさせたらあかん。
「あの、石川さん、吉澤さんってなんのお仕事されてるか知ってはりますか?」
「フリーターって言ってたけど・・」
「あのね、駆け出しの、がつくんだけど、DJやってはるらしいですわ」
その言葉に。
うつむいてた顔をぐいってあげて、あたしの顔を見た。
吉澤さんが語ってた夢。
石川さんとうまくいかなくなったのもそのせいだって吉澤さん、海でゆうてましたよ。
だから絶対やりとげなきゃいけないんだって。
今は付き人みたいにしながら、勉強してる最中だけど。
まぁ、梨華ちゃんのことは関係ないか。
あたしのユメだったし。
うん、関係ないって。
- 229 名前:Yui 投稿日:2007/10/27(土) 23:55
- 「まだうちも聞いたことないんですわぁ。深夜の放送枠で、どこに入るかわかんないらしくって。
一週間分貯め撮りしてあるらしいんですけど、番組と番組の隙間ができたときに3分くらい流れるみたいで。
起きて聞いてようって思うんですけど、放送の都合でカットされることも多いみたいで、
ついつい眠っちゃってるんですよね・・」
「だから喉・・・」
「うん、梨華ちゃんに会いたいってのもあったと思うけど、大事にしなきゃいけないみたいなんです」
「で、でもそれとこれとは・・」
「ですよね。吉澤さんがもてちゃうのは関係ないですもんね」
「それに・・・もう昔のコトだし。」
一言一言が頼りなくって。
心細そうにつぶやく石川さんみて、こっちまでちょっと切なくなった。
「吉澤さん、優しいしキレイやし。」
褒めれば褒めるほどうん、って頷きながらどんどん落ちてくのを見て。
「あ、ねぇ、石川さんも可愛いですよ、ホンマ」
「・・・・・・・」
「よい雰囲気だなぁって思って見てましたもん」
一瞬うちのこと見上げて、また静かに目を伏せた。
「もう、関係ないの」
「関係なくはないですよ。だって吉澤さん、意識してはるし」
「そんなことない・・」
「あります。気づいてないのは石川さんだけやって」
「も、もしもそうだったとしても・・・もうね、わたしの中では過去のことなの。
またやきもちやいちゃうのなんて、もうイヤだから・・・」
石川さんの声はどんどん小さくなって。
うつむいたままぽつりぽつりって言葉を探してくれてる。
「自信ないの・・最後はすごくイヤなあたしばっか見せちゃったし。
よっすぃはいっぱいいろんな経験積んで今のよっすぃがいるのに、
わたしは・・・何も変わってない気がする・・・」
「そんなことないですよっ」
「ううん、よっすぃは夢だってかなえてるのに、わたしは・・」
「そんなことないです。病院だって石川さんおらんとまわらへんじゃないですかっ」
石川さんはうちに向かって寂しそうに笑った。
- 230 名前:Yui 投稿日:2007/10/27(土) 23:56
- 「あの、吉澤さんから石川さんのメルアド教えて欲しいって頼まれてるんです。
送っちゃったらダメですか?」
しばらくの間石川さんは考えて。
ぽつりって言った。
よっすぃと一緒にいると気持ちがかき乱されちゃうんだよ。
メール待っちゃうようになるとつらいし。
だから・・教えないで。
明け方。
石川さんから短いメールが届いてた。
『放送聞いたよ、ありがとう』
- 231 名前:Yui 投稿日:2007/10/27(土) 23:56
-
- 232 名前:Yui 投稿日:2007/10/27(土) 23:57
-
教えないでって言われました、
正直にそう告げたら吉澤さんは少し傷ついた顔をして、
ニコッて笑った。
DJのことはナイショにしておいて欲しいって言われたから、
放送を石川さんが聞いてること伝えられなかった。
あれから休憩時間に眠たそうにあくびをかみ殺してる姿を何度か見かけたから、
きっと毎晩、吉澤さんの放送を聞いてはるんだと思う。
たった3分の、なんの面白みもない、今日一日の運勢とか、そういうのらしいのに。
- 233 名前:Yui 投稿日:2007/10/27(土) 23:59
- 「ねえ、あたしからは教えられへんけど、会って聞いたらどうですか?」
「うん・・・」
「きっと吉澤さんから直接言われたら、教えないようなヒトとは違うと思いますけど」
「ん、でもねぇ、まだそういう時じゃないから」
そういう時って。
お互い意固地で勝手にこうあらなきゃって決めてて。
そういうとこ、この二人すごい似てるんだって思う。
性格とか正反対みたいにみえるけど。
妥協したり、まあええかですませることだってあっていいと思うんやけど。
自分に厳しくって、他の人には優しくって。
- 234 名前:Yui 投稿日:2007/10/28(日) 00:05
- 「どう、最近先生も・・元気?」
「ええ、あいかわらずですよ。ああ、で、ね?」
「ん?」
「あの、石川さん、先生と付きおうてるって言ってたでしょ?」
「うん」
「あれ、たぶんデマなんやと思います。」
「へっ?」
「あたしも直接は聞いてへんのですけど、石川さん、まだそういうケイケンなさそうやし・・?」
吉澤さんはぽかんと口をあけて。
びっくりしたようにあたしを見てる。
ああ、こういう表情も石川さんに似てはるわ・・
「あれね、石川さんのこと、面白くなくって辞めてった先輩が流したんじゃないかって思ってます」
「マジで?」
「まあ、でもわからないですけどね。こっから先のこともあるし。
石川さん、先生のことものすごい信頼してはるし、先生のいうことに一度も逆らったことないし―――」
一瞬ホッとしたような顔をした吉澤さんがぴくりって眉を引きつらせた。
- 235 名前:Yui 投稿日:2007/10/28(日) 00:05
-
「それに、お金持ちやしね〜。お尻触らせろとか言われたら、はいって後ろ向きそうやもん、石川さん」
まさかそれはないと思いますけどね。
でもこのくらいは言っとかんと。
この二人、いつまでもどっちからもなんもせえへん気がするから。
どんどん口をへの字にさせてふてくされてく吉澤さん。
あぐら組んで。フキゲンそうにスピリットとか黙々と飲んで。
写メでもとって石川さんに送っちゃおうかと思うくらいに。
あたしはこういう表情をした吉澤さんを初めて見た。
それは今まで見た吉澤さんの中でもいっちばん可愛くって。
またムギューってしたくなるほどキュートだった。
- 236 名前:Yui 投稿日:2007/10/28(日) 00:06
-
- 237 名前:咲太 投稿日:2007/10/28(日) 00:07
-
- 238 名前:咲太 投稿日:2007/10/28(日) 00:07
- 本日の更新は以上になります。
- 239 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 01:30
- 唯ちゃん、がんばって!任せた!!w
- 240 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 04:34
- >230のところで涙腺が崩壊!!!
今の私にとっていしよし小説を書く作者様方は『 神 』です。
- 241 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 17:26
- こんな恋愛に不器用な二人が大好きだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!w
- 242 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 19:58
- 毎日、更新されてないかと覗いちゃう(^_^)
すごく面白いです。
- 243 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/28(日) 22:04
- すてきな物語をありがとうございます。
いつも楽しみにしています。
- 244 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/29(月) 05:00
- 私も242さんと同じで毎日きちゃいます!エヘヘ
でも咲太さまの御身体も心配なのでごゆるり
と休養もとって素敵な物語を進めてくださいませ。
- 245 名前:咲太 投稿日:2007/11/03(土) 20:52
- >>239 名無飼育さま
レスありがとうございます!
なかなか歯がゆい人たちですから・・
すべては唯ちゃんの頑張り次第ってことで?ww
>>240 名無飼育さま
涙腺崩壊していただいてありがとうございます。
自分にとってもいしよし小説を書いてくださる他の作者様が「神」です。
いしよしを読ませていただいてる時間が一番幸せなので。
>>241 名無飼育さま
大好きと言っていただけて本当に嬉しいです。
いつかこの二人に器用な恋愛ができる日がくるのかなぁ・・
>>242 名無飼育さま
毎日覗いていただいて本当にありがとうございます。
間があいてしまって申し訳ありません・・
これからも面白いと言っていただけるよう頑張ります。
>>243 名無飼育さま
レス本当にありがとうございます。
こちらこそ、読んでいただけているということだけで
感謝の気持ちでいっぱいになります。
>>244 名無飼育さま
毎日来ていただいて本当にありがとうございます。
体のこともお気遣いいただいてなんとお礼をいったらいいか・・
おかげさまで少し時間をあけてゆっくりさせていただくことができました。
更新に間があいてしまって申し訳ありませんでした。
終盤に向けてなんとか頑張ります。
更新の関係上あと2話になると思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
- 246 名前:咲太 投稿日:2007/11/03(土) 20:52
-
- 247 名前:キャラメルミルクティー・オ・レ 投稿日:2007/11/03(土) 20:53
-
- 248 名前:Yui 投稿日:2007/11/03(土) 20:54
- 「ちょっと校長室に挨拶行ってくるわ。長くなると思うし、そこらへんぷらぷらしといて。」
終わったら石川の携帯鳴らすから、って言われて、解放された。
「石川さんもここのガッコウだったんですよね?」
「うん、そう」
「吉澤さんも?」
「うん・・」
今年は創立100周年らしくって。
学園祭と創立記念日をあわせて、3日がかりで行うらしい。
一日目の今日は活躍中の卒業生を呼んでの講演会があって。
うちのセンセもゲストとして呼ばれて、どっかん生徒に受けまくりのスピーチしてはった。
お供でついてきてたうちらは、先生から解放されて、石川さんの後について学校を歩いた。
明日の学園祭本番に備えて生徒たちがお昼過ぎに完全下校してしまったあとで、すごく静かだった。
- 249 名前:Yui 投稿日:2007/11/03(土) 20:55
- 「あれ・・?よっすぃじゃない・・?」
言い出して固まったのは石川さんで。
職員専用玄関のところから何人かの男性たちに囲まれて、入ってくる中に
吉澤さんらしい人影があって。
直線距離の長い廊下を横にそれるわけにもいかず、ただそこに立ち尽くしていると
集団と一緒に吉澤さんが歩いてきて。
歩調をゆるめて、石川さんにむかってどうもって告げた。
「どうしたの・・?」
「うん、ちょっと・・まぁ、仕事で・・お手伝いっていうか・・・」
もしかしてラジオ関係のお仕事でもあるんかな?
さっきの男の人たち、機材を持ち込んではるみたいやし。
石川さんはあたしがナイショって言ってた約束を守って、
「ふぅん、そうなんだぁ」
って、それ以上のことを聞かずに、吉澤さんも何も語らなかった。
「明日も来るの?」
うちにむかって聞いてきた吉澤さん。
そんな、直接聞けばいいですやん。
「まだ決めてないです。明日も病院のほうはお休みやけど・・」
「そっかぁ」
石川さんは何も答えず、じゃあね、って吉澤さんに告げて。
反対方向へ向かって歩き出した。
- 250 名前:Yui 投稿日:2007/11/03(土) 20:55
-
明日に備えて展示物もそのまま貼ってあったりして。
マンガ研究会の発表が面白くって読み込んでたら、
「ちょっとそこの先の教室にいるね」って。
石川さんは一人で奥に向かって歩いて行った。
一通り展示物を読んでから、石川さんを探しにひとつひとつ教室を覗いてくと。
奥のほうに学園祭には使用されないらしい、普通に机の並んだ教室があって。
石川さんが窓際の後ろのほうの机に一人で立っていて。
席に座るでもなく、ただ、机に手を置いて、じっと佇んでるのを見てしまった。
今までに見たことのないくらい、静かで大人っぽい横顔。
ああ、やっぱきれいな人なんやなあ・・・
声をかけるのが躊躇われるような空間で。
もしかして・・・ここの教室って・・・・
- 251 名前:Yui 投稿日:2007/11/03(土) 20:56
- 「岡田ちゃん・・・?」
人影に気づいた石川さんから先に声をかけられて。
なんか盗み見してたところをみつかってしまったようで
どぎまぎしながら入り口に立つと。
石川さんも照れくさそうに笑って黙ってた。
「ここってもしかして吉澤さんの・・?」
石川さんは何も答えないまんまで。
でもふっともらした笑みだけですぐにそうやってわかった。
「座りませんか?」
その席のひとつ前に後ろ向きで座ると。
石川さんも観念したように椅子を引いて。
やっと席に座って。
そこから見えるグラウンドを眺めながらしばらく黙ったまま座ってた。
- 252 名前:Yui 投稿日:2007/11/03(土) 20:57
- 「あのね・・・?」
視線だけゆっくりと石川さんのほうへ向けると。
石川さんは変わらずグラウンドのほうを見ながら。
というより、その先にある遠いものを見るようにしながら。
続く言葉を探してる石川さんの様子を、あたしは何も答えないままただ待っていた。
「・・・あのね・・ここ、よっすぃの席だったの」
「はい・・」
「あたしたちの教室はあっちの・・」
そう言って、グラウンドの反対側に立っている白い建物を指差しながら続けた。
「あっちの建物のほうで。2年生になると文型と理系って別れて、わたしたちは向こうだったから、こっちにくることなんてほとんどなくて・・
一年生の教室の前を歩くなんてことしたら、何やってんだろうって注目の的にされちゃうし・・・」
「うん」
「1階のこの席だとグラウンドから少しなら見えるのね。
終わる時間だって違うし、門で待ち合わせっていうのもできないし、
よっすぃは本を読んだりして待っててくれて、わたしはグラウンドからこっそりこの教室を覗いて、
ああ、よっすぃ今日は先に終わったんだなとか確認するのが癖になってて・・」
「はい」
「一度どこ探してもよっすぃが見えなくって、特別教室のほうまで探しにいってもいなくて、
ドキドキしながら仕方なくこっちの校舎に入って。たぶん午前中授業のときだったのかな。
一年生は先に終わってたから誰も教室にいなくって。それで、この教室を覗いたら、よっすぃこうやってね―――」
そう言って石川さんはふふふって笑って机の上にうつ伏せになって。
「こんなふうにして寝てたの。すっごく気持ちよさそうに。ぽっかぽかの陽だまりの中スヤスヤ眠ってて。
うつ伏せになってたから外からは見えなかっただけなんだけど。
よっすぃ、って声をかけたけど全然起きなくって。しばらくこうやってね、よっすぃの寝顔を眺めてたんだけど・・」
一瞬照れくさそうにして口を閉じた石川さんの顔を一目みてなんか先がわかった気がした。
- 253 名前:Yui 投稿日:2007/11/03(土) 20:58
-
「眺めてて、キスしはったんでしょ?」
「へっ?」
明らかに動揺して目をまんまるにしてる。
ふふんって笑ってるあたしをみて、
「あ、で、でも軽く触れただけだよっ!」
「唇に?」
「うんっ、あっ・・・・・」
しまったって顔をして、唇をへの字に結んでる。
「よっすぃには今でも内緒なの。初めてよっすぃからしてくれたのはもっとずっと後だったし・・・」
小さな声で恥ずかしそうに言って。
もうやだぁ、なんてうつむいてる。
なんか、可愛い人だなぁって思う。
首元まで真っ赤にして。
頭をぎゅーってして、いい子いい子って、ナデナデしてあげたくなっちゃいますやん。
吉澤さんにばれたら超怒られそうやからせえへんけど。
- 254 名前:Yui 投稿日:2007/11/03(土) 20:58
- 「吉澤さん、吸い込まれそうになるくらい、きれいですもんね」
「うん」
石川さんは伏せてた目を上げて。
照れながらも花のような笑顔をこぼした。
吉澤さんのこと、褒められるだけで。
そんなに嬉しいんやなあ。
「もっとずっと後って、いつやったんですか?」
「うぅんと・・ファーストデートのときだったんだけど・・私たちって柴ちゃんたちと4人で遊ぶことが多くって。
なかなか誘ってくれたなかったの」
「あの吉澤さんが?」
「うんっ」
あのってちょい失礼だったのかな。
でも石川さんはふふって笑って続けた。
「二人で待ち合わせて帰るっていうのもわたしが決めたことで・・・それも駅まで歩くくらいだから長い時間じゃなかったんだよね。
ケーキ屋さんとか見つけてきてくれるんだけど、柴ちゃんの予定聞いといてってばっか言われるからそのうちわたしが怒っちゃって・・」
「えっ・・?」
「照れてるだけってのはわかってたんだけど。あんまり柴ちゃんのことばっか言ってくるから、
じゃあ柴ちゃんと二人で行けば?って言っちゃったの」
「そしたら?」
「そしたら顔真っ赤にして怒っちゃって。ようやくデートの日が決まったんだけど・・・」
石川さんはそこでまた思い出し笑いをした。
- 255 名前:Yui 投稿日:2007/11/03(土) 20:59
- 「よっすぃなりにすごく考えてくれたコースだったみたいなんだよね。それがちょっといろいろあって
台無しにされて・・結果的にキスしてくれたから、わたしにとってはすごく嬉しい思い出なんだけど。
じゃなきゃ、もしかしたらその先もずっとキスしてなかったかも・・」
「まさか〜!!」
「ほんとほんと。好きって言われたのも一回きりだもん。それもものすごい赤くなってて。
可愛いとかそういうのはたまぁに言ってくれたけど・・・」
「それで石川さんよかったんですかぁ?」
「うんっ、だってすっごい伝わってきたから。よっすぃの瞳ってすっごいきれいでしょ?」
「ええ」
「学生時代はね、お化粧とかしてなかったから、もっと垂れ瞳で、鼈甲みたいな色してて、
見つめられてるだけでわたし溶けちゃいそうだなって思ってたんだぁ」
だんだん調子に乗ってきたらしい石川さんは。
もううちのことそっちのけでそっちの世界に入っちゃってる。
「とろんとした目で見つめられるとさ、うわぁってこう、胸が痛くなるの。キューって。」
はいはい。
「自然な感じで抱きしめてくれるようになったのだって、付き合ってからものすごいかかったんだよ」
「ふぅん、それ以上の進展はなかったんですか?」
どさくさに紛れて言ってみると。
やだぁなんて真っ赤になりながらもすっごい小さな声で。
「あのね・・」
って話してくれるんですかっ!
「なかった・・わけではないんだけど・・・」
「えっ?」
「そういう雰囲気になりかけたようなことはある・・よ。でもお互い実家だったし、そんな、そういうトコ
行くような勇気もなくって・・・」
そういうトコって、すみません、
ああいうトコですね・・
「キスとかしながら触られてたことはあるんだけど・・・」
おいおいおい!!!
ううむ、この人ってもしかしてもしかすると。
聞いちゃえばなんでも答えてくれるんかな?
- 256 名前:Yui 投稿日:2007/11/03(土) 21:00
- だけど。
「ねぇ、石川さん、今でも吉澤さんのこと・・・」
言ってしまった瞬間、曇らせてしまった表情。
困ったように眉を下げた。
「ないない、ちょっと思い出しちゃっただけ。もう昔のことだもん」
無理してうちに笑った顔が胸をぐっと押しつぶしそうになった。
「よしっ、そろそろ先生を迎えに行ってみようか!」
思い切るようにして立ち上がった石川さんに。
「あの、うち、さっき見た展示の教室で、気になってるとこがあって。
よかったら先に行っててもらえませんか?
終わったらすぐに行きますから」
「うん、じゃあ迷わないように来てね」
そう言って石川さんは教室を出て行った。
- 257 名前:Yui 投稿日:2007/11/03(土) 21:00
-
さてと・・・
さっき通った教室で、見かけたポスターと、設置された箱。
紐でくくりつけられた紙に手を伸ばした瞬間、
向かい側の校舎のほうに人影が見えたような気がして。
取り急ぎポケットにしまいながらグラウンドを抜けた。
ほんっと、似たもの同士なんやなぁ・・
- 258 名前:Yui 投稿日:2007/11/03(土) 21:01
- 「わっ!!!」
階段を昇りかけていた背中に突然抱きつくと。
「ちょっ・・!」
ああ、なんだってホッとした顔をして。
いたずらが見つかってしまった子供のように吉澤さんは笑った。
「打ち合わせ、もう終わったんですかぁ?」
「うん」
「学校に来るって教えてくれればよかったのにぃ・・」
「え、なんか恥ずかしいじゃんっ」
「ここ、石川さんの教室だったとこでしょ?」
上の教室を指差すと。
なんでわかった?みたいに目をくりくりってさせて。
それから真っ白な肌をみるみるピンク色にさせた。
「だって・・石川さんもおんなじことしてるんやもん」
「へっ?」
「吉澤さんの席に座ってました」
一瞬息をのんでから、あわててすました顔作ってはりますけど。
口元ニヤけちゃってますやん。
- 259 名前:Yui 投稿日:2007/11/03(土) 21:01
- 「上がりません?」
「上がるけど・・・・」
「行きましょうよ〜っ」
まだ恥ずかしそうな吉澤さんの腕に手を絡めて。
階段を引っ張るように一歩ずつ上る。
「ここ入るの初めてなんだよ・・・・」
ポツリって漏らした声がすごく可愛い。
「そうなんですか?」
「すっごい恐れ多くってさ。だいたい上級生の教室に入るなんてありえないじゃん?
それでなくてもあの人、すげえ注目されてたし」
「やっぱそうやったんですかぁ・・」
「本人気付いてなかったけどね」
「可愛かったですか?」
「へっ?」
みるみるうちに吉澤さんの表情が幼く崩れてく。
吉澤ファンとしてはこんなしまりのない顔、見たくなかったですけどっ。
「まぁ・・ね。つか、キレイだったかなぁ・・」
ボソって呟くようにこぼした声。
対照的にうっとりしたような瞳がもう・・・
「モテて心配でした・・?」
ちょうど一番上の段に着いた瞬間にそう尋ねると。
一瞬うちのことを見てそのあと恥ずかしそうに目をそらして。
「うんっ」
って。
やだぁっ!
もぅ、なんて可愛い人なんだろう・・
- 260 名前:Yui 投稿日:2007/11/03(土) 21:02
- 「入りましょうよ〜」
吉澤さんの背中をぐいっと一押しすると。
教室の中に一歩足を踏み入れた吉澤さんは
黒板とかロッカーとか教室の後ろに張り出された掲示板とかをゆっくりと見回して。
そして。
「よし、帰ろうっ!」
はっ?
「さっ、行くよー!」
そんな。
もうええですやん。今さら照れなくても。
思う存分、石川さんに浸ってたらええって思いますよ?
「まだ見るんですぅ!」
吉澤さんをくるりってまわして窓際のほうまで押していくと。
反対側の校舎が小さく見えた。
- 261 名前:Yui 投稿日:2007/11/03(土) 21:02
-
「おしるこ、5杯も食べたんですって?」
「7杯だよ・・」
「えっ?」
「おかげでそっから一年は見るのも辛かった」
なのに吉澤さんの表情はとっても愉快そうで。
誇らしげな感じなのがなぁ、ムカツク。
「手、握るのもなかなかせぇへんかったくせに。」
「ちょっ、誰に聞いたのっ?」
「誰って、決まってるやないですかぁ」
吉澤さんはぴくっと眉をあげて。
大げさにため息をついてみせた。
- 262 名前:Yui 投稿日:2007/11/03(土) 21:03
-
「情けないなぁ、よしざーさん」
「へっ?」
「なんで石川さんの前だと別人みたいになるんですかね〜」
「んん〜」
なってねぇよって否定してくださいよっ!
「じゃあなんで別れたんですかぁ?」
「なんでだろうねぇ・・・」
そんな返事ありえないですって。
「だってすっごい好きだったんでしょ?」
「うんっ」
即答ですかっ。
- 263 名前:Yui 投稿日:2007/11/03(土) 21:03
- 「石川さんは自分が悪いんだって言うてはりましたけど・・」
そういうと吉澤さんは小さく息を吐いて。
違うよって一言だけつぶやいて瞼を伏せた。
そんな吉澤さんにこれ以上何も言えなくなって。
ただ黙ったまま窓の外を見てた。
なんでかなぁ。
うちの胸はぐっと締め付けられる。
他人事やん。
なのに。
さっきの石川さんの表情が心を乱す。
- 264 名前:Yui 投稿日:2007/11/03(土) 21:04
- 「悪りぃ」
「えっ?」
「そんな顔すんな」
吉澤さんはうちにむかってやわらかく微笑んでみせて。
結んでた唇をふわりと開いた。
「ほんとに予定が合わなくなってたんだよ。・・・梨華ちゃん、いつも悲しそうな顔しちゃって。
それも自分のせいなんだってのもわかってて・・・」
言葉をひとつひとつ探すようにぽつりぽつりと。
「自分に対してイライラしててぶつけられずにガマンしてて」
「うん・・」
「でもさ、あっちもムリして笑ってんの、あたしといるときにさ。
そういうのが続いて、んで向こうから言われたときに、あぁやっぱりって。
ある意味予測通りになったんだよね・・。絶対悪いほうへいきそうって・・。」
「そうかなぁ・・・?」
「だからどうしてもまだ・・」
「わかりますけど」
「えっ?」
「石川さん、自然に笑ってたときのほうが絶対多かったと思いますよ?」
石川さん、すごい喜怒哀楽激しい人やけど。
吉澤さんだけやと思う。
石川さんを波立たせられるのも。穏やかな安らぎを与えられるのも。
- 265 名前:Yui 投稿日:2007/11/03(土) 21:05
- なのに。
吉澤さんはそうかなぁって顔をして。
ちょっと笑って肩をすくめた。
「あぁあ、もうなんか石川さん、かわいそう!!」
あんなに目が伝えてるのに。
本人、なんで気付かへんの?
ブーってほっぺたを膨らますと
吉澤さんは、だよね、って小さく笑って。
悲しそうな顔をした。
「違います、そういう意味じゃなくって。」
「えっ?」
「だって、ものすご不幸やと思う。吉澤さんが近くにいたこと」
「・・・・」
「こんな人が側にいたのに、他の人を好きになったりできるわけ、ないじゃないですかぁ」
- 266 名前:Yui 投稿日:2007/11/03(土) 21:05
-
きっと吉澤さんだっておんなじ。
もっと自分に甘くなっていいのに。
うちみたいにわがままで単純なほーがええやないですか。
お互いを思いやる気持ちが多すぎてぐるぐるするくらいやったら
そんなの全部捨てたっていいから。
大切なこと、たったひとつだけにしたらええと思うんです。
- 267 名前:Yui 投稿日:2007/11/03(土) 21:06
-
空気を切るように携帯が鳴った。
「あ、メールきたぁっ!!」
届いたメールはもちろんあの人からで。
「あぁ、先生と二人でお茶してたんやって、ずるい〜〜〜!」」
校長室でですけど。
とたんに唇をへの字に曲げて。
石川さんに負けず劣らず、正直な人やなあと思う。
「どうします?一緒に行く?行きませんよね〜?」
「・・・・・」
子供みたいに唇を尖らせた吉澤さんの頭を撫でると。
「さわるなぁ!」
「やですぅ」
「こらっ!」
「吉澤さんはもう少しここで感傷しててください」
「おいっ」
「ではね〜!」
うちはさっきの教室へ急いだ。
ポケットの中の紙を握り締めて。
- 268 名前:Yui 投稿日:2007/11/03(土) 21:06
-
- 269 名前:咲太 投稿日:2007/11/03(土) 21:07
-
- 270 名前:咲太 投稿日:2007/11/03(土) 21:07
- 本日の更新は以上です。
- 271 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/04(日) 01:02
- うわー。
どうなるんだろう。本当に楽しみ。
- 272 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/04(日) 03:24
- ゆいたん頑張れ!!!
- 273 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/05(月) 07:24
- 咲太様
更新お疲れさまです。
二人ともじれったくて遠慮しーですね
イライラ、ワクワク、ドキドキしてますよw
- 274 名前:咲太 投稿日:2007/11/09(金) 22:16
-
- 275 名前:咲太 投稿日:2007/11/09(金) 22:16
- >>271 名無飼育さま
レスいただいて本当にありがとうございます。
楽しみにしていただいてすごく嬉しく思っています。
ご期待に添えておりますかどうか・・(汗
>>272 名無飼育さま
レス本当にありがとうございます。
個人的に唯ちゃん、すごく可愛くなってきたなあと思います。
ここのキーマンは唯ちゃんですからw
>>273 名無飼育さま
本当にいつもありがとうございます。
じれったくてどうしようもない二人ですが
ドキドキしながら見守っていただいて嬉しかったです。
楽しみにしていると言っていただいて励まされましたし、
お時間を割いて読んでいただいたことを何よりありがたく思っています。
途中、更新に隙間ができてしまって申し訳ありませんでした・・。
それでは最終話、一気に更新させていただきます。
- 276 名前:キャラメルティー・オ・レ 投稿日:2007/11/09(金) 22:17
-
- 277 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:18
-
「ねぇ、学園祭、行きましょうよ〜!」
「えぇ、いいよ、わたしは」
「なんで〜?だって先生から模擬店の金券もらったやないですかぁ」
「絵梨香と一緒にいってくればいいじゃん」
「とにかくっ、行きましょうよ。絵梨香ちゃん、車で待ってくれてるし」
ぐずぐずと支度する石川さんをせかしながら。
学園祭についたときにはもう昼過ぎで。
「ねぇ、たこ焼きもう1パック買ってこようよ〜」
とか。
さっきまであんなにいやがってた人とは思えない様子で
あちこちと出店を歩き。
自主制作映画とかにケラケラ笑い転げながら満喫してて。
絵梨香ちゃんをわたあめの行列に並ばせて、
自分は抹茶ソフトをおいしそうに舐めている。
- 278 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:18
- 突然教室のスピーカーから1時の時報が鳴って。
軽快な音楽が流れ始めたあと、
『今日は創立100周年を迎える――――――』
「よっすぃ・・・?」
驚いた様子でスピーカーをまじまじと見つめてはる。
『―――から公開生放送。盛りだくさんの内容でお届けします。それではまず最初の―――』
「岡田ちゃん、もしかしてよっすぃ?」
「みたいですね〜」
- 279 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:19
-
―――生放送なんだよ。すっげえ緊張する。でもせっかくもらったチャンスだからさ、できる限りのことやってくるよ―――
ポスターに公録のこと、DJの名前に吉澤ひとみって書いてあったことに驚いて。
確かめたら、吉澤さんはそう答えてくれた。
今だから言える、先生や友達へのメッセージなど。
事前に受付箱が設置され、吉澤さんが読み上げるほか、
勇気のある生徒はぶっつけ本番で吉澤さんのところに並んで、
生でメッセージを伝えるコーナーもあるらしい。
―――ちらっと箱を覗いてきたんだけど、やっぱいじめについての内容とかもあってさ。
悩みに対する答えを出すみたいな立場でもあるわけで、すごく難しいよ―――
- 280 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:20
- 『では一番最初は、ペンネーム 白ひまわりさんからいただきました。
<音楽のT先生へ>あぁ、もしかして髭が特徴的なあの先生ですかね。まだいらっしゃるんだ。
ええっと、<T先生はいつも授業中に―――>』
「ねぇ、石川さん、聞きにいっちゃいません?」
騒がしい教室の中でじっとスピーカーを見上げて耳を澄ましてる石川さんに声をかけた。
石川さんははっとした表情をしてあたしを振りかえって。
ふるふると首を振った。
「じゃあ、どっか静かなとこ、教えてください」
しばらく迷ったような表情をしたあと、石川さんは小さく頷いて。
人ごみを抜けて、購買の隅にある自動販売機横のベンチのところに案内してくれた。
『おっ?次は飛び込みかぁ、こんにちはっ』
『こんにちは』
どうやら男の子が数人の友達に付き添われて好きな女の子に告白するためにやってきたらしい。
周りの子たちの冷やかしてる声のほうが大きかったりして、
『あぁ、もう静かにしようよっ!」
とかって一括してる吉澤さんが面白くって。
石川さんも横でくすくすって笑ってる。
「遅くなりましたぁ!」
って。
その頃になってようやくわたあめが買えた絵梨香ちゃんがやってきて。
石川さんとあたしに割り箸ごと手渡してくれたあと、
あたしの横に座って耳を澄ました。
- 281 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:21
- 『えっと、では次は・・ペンネーム パイアールジジョウさんから』
絵梨香ちゃんがすごいびっくりした顔であたしを覗き込んだ。
しかたないやん、時間なさすぎて他に思い浮かばへんかったんやもん。
『<学生時代に付き合ってた人と最近再会して、まだ好きな事に気付きました>
ん?ってことは現役の学生さんじゃないですよね?もしかしてここの先生とかかな・・?
<でももう昔のことだし、環境もお互い違うし、怖くて何も言えないでいます。
時がたつごとに彼女との良い思い出ばかりが残りすぎてて現実と向き合ってしまうのが怖いんです。
でも今のままだと他にお付き合いしようって思ってもいつも彼女と比べてしまいます。
思い切って正直に自分の気持ちを伝えたほうがいいんでしょうか?>
うーん・・・・・』
しばらくの間があいて。
吉澤さんは続けた。
- 282 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:22
- 『そう、ですね・・・思い切って伝えてみたほうが・・・ううん・・・
あの、あたし、アドバイスとか言える立場になくって・・・あの、でもひとつだけ・・ちょっと話しがずれちゃうかもしれないんですけど・・
この前本読んでまして。思い出の編集って一人一人違うんだよっていうのが載ってたんです。
例えば旅行に行ったりするじゃないですか。誰かにそのテープを預けて編集してもらったとして、
人によっては食べてるシーンばっかだったり、人によっては風景だったり、同じテープでもまったく違うものが出来上がってくる。
恋愛も同じで、たとえば自分とまったく同じ状況で付き合ってて、同じ体験を一緒にしてるんだけど、
きっと相手と自分とでは編集した場合にまったく違うものができあがってるはずだって・・。
自分の中では良い思い出であっても、相手にとってはすごくいやな消したい思い出であるかもしれない。
相手の中で自分がどんなカット割りになってるんだろうかって思うとすごく怖いけど――――
でも大事なのはそのまとめたテープじゃなくって、これから先、この人と一緒に映っていたいと思うかどうか、だと思う。
美しく編集されたテープを繰り返し眺めてるだけでいいのか、それともずっと隣にいてケンカしたりいやなことも良いことも一緒に体験しながら、
寄り添って映り続けていたいと思うか・・・』
石川さんは息を潜めてじっと続きを聞いている。
『あたしは・・ずっと隣で映り続けたいと思う人がいます。すごくすごく好きだったし、
絶対に、もうどうやっても忘れられない人なんだと思う・・・・。
その人と別れてから消してしまいたくなるようなこともいっぱいしてしまって、でもそれをしてしまったことも含めて自分だから。
そんな今のあたしを受け入れてもらえるかどうかはわからないけど、でもぶつかってみたい。
ごめんなさい、なんか答えにはなってないかもしれないけど・・・あたしは・・あたしは伝えたい、です』
- 283 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:22
- 「石川さん、ごめんなさい、これ、出したの、あたしなんです」
「えっ?」
「石川さんの今の心情を勝手に想像して書いちゃった」
「岡田ちゃん・・・」
「それでも、まだええって思いますか?自信ない・・?」
石川さんは唇を噛み締めてうつむいたまま、小さく首を横に振った。
「このまま、待ってます?それとも一緒についてきましょうか・・?」
石川さんはまた首を横に振って。
うちにむかって微笑んでからゆっくりと頷いた。
「―――行ってくるね」
送り出した背中はしゃんと背筋が伸びてて。
凛々しい石川さんの後姿がすごくすごく嬉しくなった。
- 284 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:23
- 『それでは最後のお便りを読ん――――』
おお、慌ててるし。
必死で立て直してる吉澤さんが遠目からでもよくわかった。
『ええっと―――さ、最後も飛び込みみたいです。こんにちは』
『こんにちは〜』
『あの、学園祭にいらしたお客さんですか?』
『はい、卒業生です』
石川さんのほうがめっちゃ落ち着いてますやん。
『それで、今日のテーマは今だから言えること、ですが、どなた宛てでしょう?』
『吉澤ひとみさん・・よっすぃに』
一瞬ぐぐっという声がマイクにも入って。
吉澤さんが息を飲むのがわかった。
うおおおおおおお!!!
様子を察した会場の声がマイクを通して聞こえて。
- 285 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:24
-
『し、静かに』
吉澤さんは握り締めたマイクを振り回しながら、会場をおさめようとしてるけど。
吉澤さんが止めれば止めるほど会場はどんどん盛り上がって。
ヒューって口笛が飛び交う。
『ちょっ・・・』
『貸してもらえる?』
吉澤さんからマイクを受け取って。
石川さんはステージの上でにっこりと笑った。
そのなんというかふてぶてしさというか、度胸。
すっごくかっこええなあってちょっと惚れちゃいそうですわ、石川さん。
『あのね、よっすぃ』
石川さんの甲高い声がマイクに通ると、
収集のつかない状態になってたステージの周りが急に静かになった。
『昔付き合ってた人と再会して、やっぱり今でもその人が好きだって気づきました。
これから先もずっと一緒に映り続けたいんだけど、隣にいても・・いい・・?』
- 286 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:25
-
キャーーーーーーッ!!!
うぉおおおおおおお!!!
男の子のうなり声やら女の子の黄色い声やら、
あちこちでものすごい声が上がって。
ステージまで遠いこの教室でも、廊下でも、
みんなが足を止めてスピーカーの音に注目してる。
『ああっ、ちょ、静かにして〜〜!!』
しばらくボーっとしてた吉澤さんは我にかえって石川さんからマイクを奪い返すと、
手のひらを下向きにして大きく広げ、会場を一瞬にして静かにさせた。
『隣に、いてください―――梨華ちゃん・・・あなたが、好きです』
- 287 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:25
-
しばらくの静寂の後に。
けたたましく上がる歓声とともに、
梨華ちゃん、よっすぃコールが起きはじめた。
ボルテージ最高潮のままエンディングの音楽が鳴り出して、
あたふたと最後を締めて放送が終わり、石川さんと吉澤さんがステージをおりても。
彼女たちの名前を呼ぶコールは鳴り止まなかった。
- 288 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:25
-
- 289 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:26
-
<囲まれちゃって校内を歩けないから先に外に出ててもいい?お店は・・>
石川さんからメールが届いて。
指定された喫茶店に入ると、
見たこともないように表情を崩した吉澤さんが石川さんの隣に座ってて。
あたしたちを見つけると二人でちょいちょいって指で招くように呼んだ。
来なきゃよかったって絵梨香ちゃんと顔を見合わせてしまうほど。
お互いをちらちらって見上げては照れくさそうにしてる二人は見てるこっちのほうが恥ずいんですけど。
- 290 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:27
- 「吉澤さん、打ち合わせとかないんですか?」
「あるけど・・少し時間もらえた」
粋なことをするスタッフさんもいるんですね。
まぁ、それもこれも吉澤さんがこれまで築いてきた人間関係のおかげなんやろうけど。
<なんや、えらいおもろいことがあったらしいな>って。
どこから耳にしたのか間髪を入れないメールが、ゴルフにいってるはずの先生からも届いたし。
「石川さん、先生が、携帯電源切ってるみたいやから、直接電話して報告せいって伝えろって言われましたよ」
「ええええ?どうしよう??」
あたふたしながらすぐさま携帯抱えて立ち上がって。
止めるのも聞かずに店の外へと出てった。
そんなすぐじゃなくてもええんじゃないかと思いますけどね
吉澤さんはそんな石川さんの後姿を嬉しそうに見送ってる。
- 291 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:27
- 「これでうち、石川さんに怒られることも少なくなりますかね〜」
笑顔の増えた石川さんの背中を見送りながら吉澤さんに尋ねると。
愛しそうに後姿をながめなら
「どうだろうね?」って言いながら笑ってる。
「そんなことじゃ変わんないんじゃない?」
横から絵梨香ちゃんの言葉。
「やっぱそうやろか・・・」
「逆にケンカしてフキゲンになっちゃうとか?」
「うわ、困ったなぁ」
あたしたちの会話のやり取りにひとしきり笑ったあとで。
「でも、満ち足りた時間、ってのはあげようと思ってるよ」
って。
言ったあとになってそんなに恥ずかしそうにするくらいやったら
言わなきゃええですやんっ。
一体何を想像してはるんですか?
ああ、もうええです。
怒られるのも慣れたし、そういう石川さんも嫌いじゃないし。
- 292 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:27
- もぅ、ほんとにっとかブツブツいいながら携帯を抱えて石川さんが帰ってきた。
「で、満ち足りたとかってなぁに?」
ほらほら、そういう余計なこと話してると大変なことになりますよ?
しどろもどろで助け船を求めてる吉澤さんににっこりと微笑み返すと。
じゃあ、ちょっとスタッフさんと打ち合わせがとかもごもごいいながら逃げるように店を後にした。
「あぁ〜〜!よっすぃにメルアド聞かれなかった・・・・・」
ってそんなとこでガックリ肩落とさなくても。
「じゃあ、吉澤さんのを教えますから、石川さんのほうからメール出してあげたら?」
「でも・・・」
ああ、もうわかりましたから。
吉澤さんが聞き出すまでいつまでも待っててくださいよ。
「満ち足りた時間ってのはぁ」
「うん?」
「吉澤さんがたーっぷり教えてくれますよ。」
心と体でね。
- 293 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:28
-
石川さんがおいしそうに目の前のキャラメルティ・オ・レを口元に運んだ。
ねえ、吉澤さん、
これって石川さんみたいやないですか・・・?
キャラメルティーって名前は甘そうなのに。
飲んでみると香りのわりに味はやっぱり紅茶で、期待するほど甘くなくって肩透かしにあってしまうんやけど。
そこに真っ白いミルクをまぜてあげるだけで、何倍にもまろやかで甘くなって。
ホッと幸せにさせてくれるんです―――。
「まあ、なんか聞きたいことあったらいつでも岡田に聞いてくださいっ」
「うんっ!」
だから。いつでも愛情をたっぷり注いで。
二人で溶け合っててほしいなぁって、岡田は思ってます―――
- 294 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:28
-
- 295 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:28
- 暗くなってしまった帰り道。
吉澤さんが帰ってくるのを待って。
4人で並んでアパートまでの道のりを歩いた。
「たまには歩いてみない?」
なんて嬉しそうに言い出したのは石川さん。
だってこっからかなり距離ありますやん。
言えないけど。
「ねぇ、よっすぃ?」
今まで聞いたことのないくらい甘い石川さんの声。
「ん?」
なんてそのくらいしか返事はしないけど。
吉澤さんの声だって似たり寄ったりやと思う。
- 296 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:29
-
あたしたちを気遣ってか手も繋がないで歩いてるから。
あたしは「なぁ、絵梨香ちゃんっ」って、前に聞こえるように大きな声で呼んで。
いつものようにぶら下がるようにして腕を組んだ。
ちらちらと後ろを振り向いてあたしたちを観察してる二人。
なんで絶妙なタイミングでずれてるんですか。
吉澤さんはあっちの方向を向いたままようやく石川さんに向かって手を差し出し、
石川さんは指の先っぽをそっと握った。
「うはぁ、じれったいなあ、吉澤さんっていつもあんな人?」
「ちゃうちゃう。ぜんっぜん別人」
「行け〜!って叫びたくなるよね」
「絵梨香ちゃんやったらどうする?」
「どうするも何も・・・」
そうだよね。
絵梨香ちゃんやったら既に抱きしめてチューしてどっかに消えてそうやね。
でもまあ、それでも石川さんアレはアレで幸せそうやし。
似たもの同士っていうけど、それぞれに合ったペースがあるんやろうし。
- 297 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:29
- けどさぁ、それだけじゃつまらないでしょ?
ニヤって笑った絵梨香ちゃんの顔を見てわかったうちらも似たもの同士やと思う。
タタタといっせいに歩測を速めて、二人を追い越した。
わざと目の前でベッタベタ触りまくってると。
少しずつ後ろの二人の距離が離れてきて。
「いったよ、後ろ」
へっ?
そっと気づかれないように振り向くと。
今まさに石川さんが照れくさそうに吉澤さんの手をほどいて。
自分の腕を吉澤さんの腕と体の隙間にそっと入れようとした瞬間やった。
「なんかドキドキせえへんっ?」
「するする」
たったこれだけのことやのに。
うちらは心臓がバクバクするほど興奮してる。
- 298 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:30
-
「これでさぁ、うちらがキスでもしたらどうするんやろ?」
「いや、さすがに人前ではあの人たちはしないんじゃないっ?」
「やってみる〜?」
じゃあとりあえずって、
絵梨香ちゃんは肩をぎゅっと寄せて、ささっと唇を盗むふりをした。
「どう?」
「固まってるよ、石川さん」
足止まりかけてるし。
「ああ、二人がなんかするとこ、見たい〜〜〜!」
「絵梨香ちゃん、それじゃ変態だよ・・」
そういいつつ、うちだってすごい興味あるんやけどね。
- 299 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:30
-
アパートが近づいてくるとますます私たちから遅れるようにしてついてくる二人。
すごい冷えたから早く部屋帰ろうって急ぎ足のうちらとどんどん差が開いてきてるし。
「あれ?吉澤さん、帰っちゃうんですか?」
「あ・・うん・・」
アパートの下まで来てじゃあって駅に向かおうとした吉澤さんを。
石川さんは何もいえずに見送ろうとしてる。
こんな寂しそうにしてはるのに。
- 300 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:31
- 「そういえばうち、吉澤さんにすっごい背中スリスリ撫でられたんですぅ」
「「「へっ?」」」
「夢にまで見た石川さんと間違えはったらしいですわぁ」
「・・・・・・・・」
「背中からゆ〜っくり胸のほうまでまわってきたんですけど」
「――――」
「胸まで触ったら違うってわかったんかなぁ、急に手離したんですよ、無意識のくせに。
やっぱうちのほうが明らかに胸大きいですよね?吉澤さんっ♪」
もうっ、絵梨香ちゃんまで固まらんでも。
「すっごくいい香りがして、吉澤さんの首筋にチューして眠りました」
以上、ご報告も終わりっ!
脚色つきやけど。
- 301 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:31
- ほーら、石川さんアパートの手すりに手をかけた姿勢ですごい表情してうちらのこと見下ろしてる。
吉澤さんたら固まりまくってて。
まぁ、たしかにこの顔で睨まれたら石になりますよね。
一気にいきましょ〜よ、吉澤さん♪
絶対石川さん待ってはるから。
石川さんは口元を尖らせて。
「おやすみっ!!」
そう言い捨てて階段を駆け上ってった。
慌てんでええよ、絵梨香ちゃん。
心配して損した、ってくらい。
明日には石川さんの最高の笑顔で病院の朝が始まるはずやし。
- 302 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:31
-
吉澤さんは二段飛びで石川さんの背中を追いかける。
石川さんはきっとカギをあけるかどうかさえ迷って、
部屋の外でうろうろしてはると思う。
大丈夫、絵梨香ちゃんでさえ、あんなに優しく触れてはくれへんもん。
怒ったり泣いたりはしゃいだり忙しいひとやけど。
どんな石川さんだって瞬時に溶かすことができるのは、
世界中どこ探したって吉澤さんしかおらへんのやから。
- 303 名前:Yui 投稿日:2007/11/09(金) 22:32
-
了
- 304 名前:咲太 投稿日:2007/11/09(金) 22:32
-
- 305 名前:咲太 投稿日:2007/11/09(金) 22:32
-
- 306 名前:咲太 投稿日:2007/11/09(金) 22:33
- 更新は以上になります。
- 307 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/09(金) 23:14
- 完結おめでとうございます。更新お疲れさまでした。
今回のような視点は個人的に非常に好みです。
タイトルとの掛け合わせも、ほほーんと唸ってしました。描写がいいですね。
今後も期待して待っています。でも、どうか無理なきように。
- 308 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/10(土) 00:12
- 完結お疲れ様です。咲太さん、そして唯ちゃんw
大人なんだけど、とても可愛らしい二人が大好きでした。
- 309 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/10(土) 09:07
- 咲太様
完結しちゃいましたねお疲れ様。
いしよしの台詞が少なくて少し物足りないような気もしたのですが
YUI視点もなかなか良かったです。新作も楽しみです頑張ってくださいねー。
- 310 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/23(金) 06:25
- 唯やんがええ性格すぎてすごく面白かったです
外野から振り回されるいしよしが新鮮でしたw
- 311 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/25(日) 01:57
- 完結お疲れさまでした。
一気に読ませていただきましたが
泣いたり笑ったり…どっぷり作品に浸らせていただきました。
また新しい作品を読ませていただけるのを楽しみにしています。
- 312 名前:咲太 投稿日:2008/04/12(土) 23:11
-
- 313 名前:咲太 投稿日:2008/04/12(土) 23:11
- あたたかいレス本当にありがとうございました。
お返事遅くなってしまって申し訳ありません。
>>307 名無飼育さま
見守っていただいて本当にありがとうございました。
視点を気に入っていただいて嬉しいです。
タイトル、二転三転したのですが、結果的にこれで落ち着いて良かったのかもw
>>308 名無し飼育さま
本当にありがとうございます。
可愛いといっていただけて書き手冥利に尽きます。
唯ちゃん本当にお疲れさまってことでw
>>309 名無飼育さま
いつも本当にありがとうございます。
いしよしの台詞たしかに少なかったですよね・・(汗
番外も考えていたのですがなかなか形にならず・・・
大好きな二人だったのでいつかどこかでなにか考えます。たぶん・・
>>310 名無飼育さま
本当にありがとうございます。
唯やん、天然であったかくて好きです。
外野から振り回されるいしよし、新鮮と言っていただけて、肩の荷がおりました。
>>311 名無飼育さま
一気に読んでいただいて本当にありがとうございます。
泣いたり笑ったりしていただけるような作品を作り上げることができるんだったら
これ以上に嬉しいことはありません。
- 314 名前:咲太 投稿日:2008/04/12(土) 23:13
- スレを使わせていただきますと戻していただいたのに
ずっと更新できなくて申し訳ありませんでした。
よっすぃ、おめでとうございます!!
お誕生日に寄せて勢いで一遍・・。
お付き合いいただけたら幸いです。
- 315 名前:咲太 投稿日:2008/04/12(土) 23:13
-
- 316 名前:咲太 投稿日:2008/04/12(土) 23:14
-
『よっちゃんのペット』
- 317 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:14
-
- 318 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:15
-
よっちゃんがペットを飼うらしい。
- 319 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:16
-
「あのぉ・・・」
可愛いらしい。
とびっきりのコ。
「あのぉ・・・石川さん・・・?」
あたしには何の相談もなく。
「せえのっ」
「「石川さんっ!!!!」」
「へっ?????」
- 320 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:16
- 目の前の二人が情けなさそうにこちらを覗き込んでた。
「・・・あの・・・・なんかありましたぁ・・?」
慣れてきてるはずなのに、久々に見た二人の怯えてる顔。
そんなに怖い顔してたんだ・・
「ううん、なんにもないよ。さっ、で次の曲は・・・」
三好ちゃんが心配そうに横目でちらっと確認した。
笑顔を作ってみせると唯ちゃんが息を飲むのがわかった。
もぅ、そんなにヤバい顔してるのかなぁ。
- 321 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:17
-
ある日それは何気ない後輩の雑談から耳に入った。
しかも。よっちゃんが飼うのは黒い猫。
あたしはどっちかって犬派なのに・・・・ってそんなんじゃなくって。
わかってる?よっちゃん。
あたしがいっちばん許せないのは。
そのコのために、あなたが一人暮らしをするってこと。
- 322 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:17
-
- 323 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:19
- 「絶対ひどいでしょっ?」
「ひどいって何が?」
「今まで何度も何度も頼んできたんだよ。一人暮らししたらぁ?って」
そのたびに家族と離れるのがどうのって言い続けてきてさ、なのに」
「そんな家族思いのよしこが好きだったんでしょ?」
「そうだけど・・・」
「なのに急にペット飼うからなんて!」
「まぁまぁ」
「それも後輩たちに聞かされたんだよっ。あたしには相談もなくっ。まいちゃんは聞いてた?」
「えっ?ど、どうだっけ・・・」
「聞いてたんだねっ」
まいちゃんはあたしの雲行きが怪しくなってきたのに逃げ腰になって
仕事だからって席を立った。
- 324 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:20
-
あたしがこんなにイライラしてるのは。
もうすぐくるよっちゃんの大切な日。
今までだってちゃんと御祝いした。
けど、今年は違うでしょ?
堂々と二人でいれるようになって。
カモフラージュなんてしなくてもよっちゃんのために支度して。
だからお姉ちゃんにも頼んでその日は実家に帰ってもらうようにして。
この一ヶ月くらい何のお料理にしようかっていろいろ考えて。
夜中におうちに帰ってぱらぱらと雑誌のレシピなんてめくったりして。
あら、私ってこんなに家庭的だったんだなって一人でふっと笑ったり。
イタリアンもいいなあだとか。
でもせっかくジャーだって買ったし。
よっちゃんの大好きな和食がいいかな?
たけのこご飯にトライしちゃう?
煮物は絶対つけなきゃだよね。
こっちはママに教えてもらうとして。
あとなんだろう。
あ、若竹汁ってのもどっかにのってたっけ?
お魚も欲しいよね〜。
このまえよっちゃんが作ってくれたお豆腐のサラダも美味しかったしなぁ。
- 325 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:21
- だから。
ちょっと前のあたしは絶好調だった。
二人に最近のいしかーさん、気持ち悪いって言われるくらい。
- 326 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:21
-
それを打ち崩されたのが、1週間前。
差し入れなんて持って練習に行ったときに。
無邪気な後輩たちに尋ねられた。
「吉澤さんのネコ、なんて種類なんですかぁ?」
「はっ?ネコ?」
「やっぱバーミーズかなぁ?」
で。よっちゃんにあわててコトの真相を尋ねにいくと。
目をまんまるにして。
誰に聞いた?って。
なんでナイショにしてたの?って聞いたら一瞬黙って。
・・・・・だって梨華ちゃん、ネコ好きじゃなさそうだもん、って!!
- 327 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:22
- そんなあたしにさらに追い討ちをかけるように。
保田さんからよっちゃんが一人暮らしをするってこと。
しかもあらかたの道具類は運び終えて。
いつでも住める状態にまでなってるんだってこと。
豹変してくあたしの顔色を見てた保田さんが
「まあまあ、これでうちになんてこなくても二人で会えるようになるんだから、いいじゃん」
って何時間もかけていさめてくれて。
- 328 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:23
- なのに。
誕生日まであと二日に迫った日の楽屋で。
「じゃぁいつ遊びにいってもいい?」
「もうちょっと・・片付くまで待ってて」
追い討ちをかけるように。
よっちゃんはさりげなく目をそらそうとした。
「あと、ごめん・・・ちょっと今日買い物あるから」
「何の?」
「あの・・猫の道具とか」
まるで助け舟のように
テーブルの上で震えた携帯。
「あ、ごめん、電話・・・」
「・・・・・・でれば・・?」
「・・・・・・ぅん・・」
よっちゃんは申し訳なそうな顔をしつつ、
逃げるように楽屋のドアから外に出てった。
悪いななんて思いながらも止められなくって。
自販機にジュースを買いにいくふりをして内緒でよっちゃんのほうへ近づいた。
- 329 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:24
-
――あぁ・・うん、そう・・・・えっ?そうかなぁ?あっちのほうが可愛かったっけ?――
――うぅん・・もうちょっと大き目の皿のほうがいいなぁ――
――あのネットでみたやつ?他に色違いは?――
――あっちは割れやすくね?ケガでもしたらかわいそうだし――
たかが猫相手に
どこまで過保護なのよっ!
――あぁ、えっ?ベッドはいらないっしょ〜。一緒に寝るし―
――ん・・・そっか。ん、たしかに。一応用意したほうがいいのかぁ――
――うん、あ、じゃあこれからそっち行くわ。じゃっ――
- 330 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:25
- 「・・・・・・大変そーだね、いろいろ」
「へっ???」
帰ってきたときに楽屋の前で腕組して立ち尽くしてた私に。
よっちゃんはものすごいびっくりした顔をして。
「アヤカちゃんに見てもらうんだぁ」
そりゃあアヤカちゃんのほうがセンスがいいし頼りがいだってあるだろうけど。
「あぁ・・・うん・・」
「いつ来るの?」
「何が?」
「ネコちゃん」
「あ・・誕生日の日。」
「・・・・・・・・・」
「だから、急がないと。フードとか・・・」
ふぅん。
あたしの全身の怒りを察してか、
よっちゃんは決まり悪そうに目を泳がせた。
「あの・・じゃあ行くね」
「・・・・・」
「帰ったら電話するからさ」
「・・・・・・・・・・・」
「じゃぁ・・」
「よっちゃん、誕生日の日はうちでいいんだよね?」
「へっ?いやぁ、うちにしよーよ」
「なんで?」
「だって・・・梨華ちゃんも見たくない?ネコ」
ぜったい行かないっっっ!!!
楽屋のドアをバタンと締めた。
- 331 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:25
-
- 332 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:26
- そして今日。
夜までかかった仕事を終えても、あたしは街の中にいた。
途中何度かよっちゃんからの履歴が残ってたけど。
折り返し電話だってしなかった。
家に帰ったってお姉ちゃんもいなくて真っ暗だし。
なんとなく罪悪感みたいなのだって残ってて。
かといってよっちゃんちに会いにいくっていう選択肢もなくて。
保田さん・・・ちなんかに行ったらきっとなんであんたこんなとこにいんのよとか
説教されちゃいそうだし。
バックの中でぶるぶる震え出した携帯をそっと開くと、
彼女のものではなくって。
ほっとして。
・・・でも少し寂しくて。
- 333 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:27
-
『もしもしっ!』
「・・・・まいちゃん・・・・」
『今どこ・・・?』
「・・・・・ちょっとお買い物してる・・・・」
『よしこから電話入ってるでしょ?』
「うん・・・」
『仕事終わってからも連絡ないってすごい心配してたんだから』
『今からでもいいからよしこんちに寄ってやってよ』
「でも・・・」
『いい?すぐに新しい住所メールで送るから』
「だって・・」
『何よっ?』
「プレゼントだっておうちに置いてきたまんまだし」
『そんなのあとで渡せばいいじゃんっ。』
「だって・・・」
『・・・・大事な日なんでしょ?』
そう、大切な日。
ホントは自分のお誕生日なんかよりずっと。
よっちゃんはいつでも。
あたしがどんなときでもしょーがないなって笑って受け止めてくれる。
せっかく思い出になるお誕生日にしてあげたかったのに。
よっちゃんが喜んでくれる顔が見たかったのに。
・・・・・二人きりで一緒に過ごしたかったのに――――。
- 334 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:27
-
もうこんな遅く。
街のネオンもまばらになってる。
せめて何かよっちゃんが喜んでくれること。
ありがとうって笑ってくれること。
ドラッグストアに寄って。
初めて見るペットのためのコーナー。
どんな種類がいいのかわからないけど、
小さな缶詰に無理言ってリボンをかけてもらって。
タクシーに向かって手を上げた。
- 335 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:28
-
教えられたマンションに行くと、エントランスの外によっちゃんが腕組して立ってて。
「遅い〜〜!」
「だって・・運転手さんだって住所だけじゃ迷っちゃって・・」
「いいから中きて」
「あ、よっちゃん」
「何?」
「おめでとう」
「それはいいから早く中きて」
よっちゃんはあたしの手をぐいぐい引っ張って。
エレベーターを降りても無言のままずんずん歩いて。
お邪魔します、って言うことばを飲み込んでるうちにリビングさえ通り過ぎちゃって。
一番奥の部屋を開けてぐいっと押し込んだ。
- 336 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:29
- 「どう?」
「どうって何が・・・?」
「気にいんない?」
えっ・・?
目の前にあるのはベッドで。
きょろきょろ見回しても小さな影はなかった。
「どうってどこにいるの?」
「気に入った?」
「だからどこ?」
「この部屋。どうよ?」
「私に聞かれたってしらないもん!」
黒猫のための部屋なんでしょ?
- 337 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:32
- 「梨華ちゃんが気に入ってくれないと話になんないんだけど」
「だからなんで私なのよ!」
よっちゃんはちょっと口をへの字にして。
もぅ、まだわかんねぇかなぁって小さくため息をついて。
あたしのほうに向き直って、額に向かって人差し指を近づけた。
「黒猫」
「え?」
「黒猫って梨華ちゃん」
「はっ?」
「さすがに公に二人で住むっていえないじゃん。だからペットって事にしといた」
「ペットにしといた、って・・・」
「少しでも一緒にいたいじゃん?」
「へっ?」
黙って準備すんのも大変だったのになぁ。
よっちゃんはボソッとため息をついてどすんとベットに座った。
「え?なにここって・・・」
「うちの部屋は向こう。大きいベッドもあるけどアヤカが梨華ちゃんたまにはゆっくり眠れるように
用意だけしといてあげれば?って」
「ネコは・・・?」
「・・・まだわかんない・・・?」
- 338 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:33
- よっちゃんはちょいちょいって手招きした。
近づいた私の腰をぐいっと抱きしめて、膝の上に座らせて。
「ペットなのっ」
「なにが?」
「ニャーッて言って」
「ニャー」
って何言わせるのよっ!
思わず勢いでやっちゃった自分が恥ずかしい。
けど。
ほぉらっ、って、よっちゃんはすっごく満足そうににっこり笑って。
「可愛い!」
「ね、よっちゃ――――」
ぐぐーってあたしを自分の胸元に閉じ込めた。
「だからぁ・・ウチのこと癒せるのは梨華ちゃんしかいないじゃん・・・」
胸の奥がキュンっと鳴り始める。
よっちゃん、ごめんね、あたし―――――
伝えようとした唇を。
よっちゃんが優しく塞いでから微笑んでくれた。
「・・・・・・・もう一回ニャー言って」
「・・・・・・ニャー」
よっちゃんは嬉しそうに頭を撫でてから。
「恥ずかしいから見るな」
ってあたしの目を片手で塞いで。
そっと耳元で告げた。
- 339 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:33
-
―――いつでも好きなときに抱きしめられるといいなってずっと思ってたんだ・・
食事も身の回りのことも全部ウチがやったげるから
だからいつだってずっと側にいてよ―――
- 340 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:34
-
- 341 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:35
- 「で、どっちの部屋がいい?」
なし崩しでコトに及んで。
肌布団にくるまったままよっちゃんは言う。
「まだよっちゃんの部屋見てないし」
「あ、そっかぁ」
ふにゃりって笑うよっちゃん、可愛すぎるから。
「せっかくならピンクの部屋にしてくれればよかったのにぃ」
「アヤカが梨華ちゃんだからピンクって安直な選び方すんなって。
センスのいい部屋にしてあげればいいじゃんって言うから」
「ひどいっ!私の部屋なんでしょっ?絶対模様替えしちゃうからっ!」
「だーめっ!」
「なんで?」
「いつかお客さん呼ぶでしょ?家主はウチだもんら」
「えーっ?呼ぶのぉ・・?」
「呼ぶの。まだまだ先だけどいつかね」
「ふぅん」
いつかそういう日が来るのかなぁ。
ちょっと照れくさくなって口元まで布団を押し上げる。
- 342 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:37
- 「それはそうとさ」
「なぁに?」
「次はあっちのベッドで試してみる?」
「バカっ!まだお祝いだってしてないのに」
「いいって言うんだからさ、ウチが」
「ええ?でも・・・」
「やだ?」
「やじゃないけど・・・・」
「じゃあ、このまま運ぼうか・・・?」
「あ、待って・・ううん、今日はこっち・・・」
「なんで・・?」
「あっちのベッドって大きいんでしょ?」
「うん」
「ちょっとでも今夜はよっちゃんと近いほうがいい・・」
そう言うと。
よっちゃんは目をくりくりさせて。
腰に手を伸ばして嬉しそうに抱きしめてくれた。
- 343 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:37
- 「ねぇ、そういえば・・・」
「何・・?」
よっちゃんはじわじわとやわらかい膨らみに片手を近づけ。
もう片方の敏感になってる部分を口に含みながら、くぐもった声で答える。
「黒猫ってひどくない?」
「黒猫じゃね?」
「ひっどーい!」
「だって・・ベッドの上では。ウチしか知らない黒猫だけど」
そういって軽く歯をたて、ニヤって笑ったりする。
「じゃあね、よっちゃん」
よっちゃんの首筋に舌を這わせ。
胸の頂きまでを丁寧に舐めあげた。
「り・・かちゃん・・・?」
「――――あたしも身づくろいしてあげる・・・」
- 344 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:37
-
- 345 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:37
-
- 346 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:38
- 「ああ、吉澤さん、猫ちゃん、どうです〜?」
「すっげえ可愛いよ。連れて歩きたいくらい。いつも一緒に寝てるし」
よ、よっちゃんっ???
唯ちゃんにさらりと答える白い顔を睨みつけた。
「昨日、風呂も一緒に入ったんだ〜!」
バ、バカッ!!
何言って――――
「へ〜っ!おとなしくしてました?猫ってお風呂嫌いでしょ?引っかかれたりしませんでした?』
「う〜ん、うちの猫は風呂好きだね。引っかかれたのは風呂じゃなくてベッドでかな」
「えーっ??」
「背中の痕が消えなくってさぁ、ほらココ―――」
「ちょっ!!」
な、なんで脱ごうとしてんのよっ!
首元にはあたしがつけた・・・・
「ゆ、唯ちゃんっ!」
「はいっ?」
「そろそろエリカ呼んできてっ!」
「はぁい!!」
唯ちゃんは楽屋から消えてった。
にや〜り含み笑いを残して。
「もぅ!なんてことすんのよぉ!」
「へっ?」
「バレちゃうでしょっ??それにココにはあたしがつけた―――」
- 347 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:40
- ガチャッ
「あぁ、そうだ、今度吉澤さんちに今度行ってもいいですかぁ〜?猫ちゃん見たいし。」
「えっ、あ・・・うん・・その・・」
「よっちゃんっ???」
「じゃあ、エリカちゃんと一緒に行かせてもらいます〜。ちゃーんと猫ちゃんにプレゼント、持ってきますから」
「あ、あのね、唯ちゃん―――」
「じゃあエリカちゃん呼んできま〜す!あ、餌は唐揚げでいいですよね?」
- 348 名前:よっちゃんのペット 投稿日:2008/04/12(土) 23:40
-
おしまい
- 349 名前:咲太 投稿日:2008/04/12(土) 23:40
-
- 350 名前:咲太 投稿日:2008/04/12(土) 23:41
- なんとかお誕生日中に間に合いました(汗
よっすぃ、本当におめでとうごさいます!
素晴らしい23歳になりますよう・・
- 351 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/04/13(日) 09:12
- よっちゃんおめでと〜!(色んな意味でw)
餌はキノコでも良いよ?唯ちゃん。w
- 352 名前:ピーチ 投稿日:2008/04/13(日) 11:54
- 吉澤さん、おめでとう。(色んな意味で石川さんもw)
この作品は可愛らしくて好きです。(咲太さんの書くお話はなんでもw好きですが!)
お忙しいとは思いますが、またの更新お待ちしてます。
- 353 名前:咲太 投稿日:2010/04/02(金) 22:29
- いつの間にやらこのスレでは2年もたちそうな勢いで・・・
>>351 名無し飼育様
読んでいただいてありがとうございます。
キノコww
いつかバーベキューできる日を楽しみにしています。
最近幸せに慣れすぎてる自分が怖いです・・ww
>>352 ピーチ様
毎年吉澤さんの誕生日近くになると書きたくなるのは
なんででしょうね?w
思いつきで書いてしまって申し訳ありません。
勢いで更新
- 354 名前:咲太 投稿日:2010/04/02(金) 22:29
-
- 355 名前:April 投稿日:2010/04/02(金) 22:34
-
『April』
「10分でもいいから会おうぜ」
そんなふうに言い出したのはよっすぃだった。
とにかくその日だけはあけておいてね、っていっちぃにも念を押して。
撮影が押して約束の時間よりはちょっと遅れちゃったけど。
「いってらっしゃい」って言葉とともにタクシーからおろされて。
ああ、このホテルの和食っておいしいんだよな、っていつかきたことのあるフロントを横切った。
最後に出てきたアイスクリームの天ぷらの味を思い出しながら地下へ続く階段を降りながら携帯をとると。
「ごめんね〜、遅くなって。もう少しでお店に入るよ」
「あ、違うって。上、上!」
「うえ?」
「上がってきて。24階だよ」
- 356 名前:April 投稿日:2010/04/02(金) 22:40
- 並木通りの桜の花がライトアップされてるのがエレベーターの大きな窓から見える。
だんだん小さくなっていく木々を見送りながら指定された階に着くと
よっすぃが立ってて。
「なに?お部屋とったの?」
「うん、まぁ」
照れくさそうに言いながら、あたしのバックを受け取った。
「言ってくれたら着替え持ってきたのに〜!」
よっすぃはニヤニヤしたままドアをあけ、
「なにこれ!!」
背中でよっすぃがライトをすべて落とした。
日本庭園として造られたホテルの庭に咲く7分咲きの桜の花。
池にもライトアップされた光が映し出されて、
白く浮かび上がっている。
「お花見?」
「すごいっしょ」
って嬉しそうなよっすぃ。
すごいなんてもんじゃないよ。
それにこの部屋。
庭園とは対照的な異国風でゴージャスな家具たち。
- 357 名前:April 投稿日:2010/04/02(金) 22:42
- 昔、ラジオの放送の前のほんのわずかな時間に、
よっすぃと一緒に見た桜を思い出していた。
まだ素直に気持ちを伝えられてなかったあのとき。
あれから毎年この季節を迎えるたびに、ぐんと想像してた以上のスピードでわたしたちの距離は近づいている。
私が思いのほか喜んでいたことをよっすぃはわかっていて。
毎年、花見しようぜ仕事の合間を縫って誘い出してくれたりするけど。
「ったくキザなんだから、よっすぃは」
エイプリルフール、嬉しい嘘。
最近お互いのスケジュールがなかなかあわずに会うことも出来なくって。
実家も大切にしてよ、なんて説教がましいおじさんみたいなところもあるよっすぃだから。
こういうところうちのパパやママとかに気に入られてる理由なんだけどさ。
- 358 名前:April 投稿日:2010/04/02(金) 22:43
- 「どうすんのよっ。こんな贅沢して。私、朝一番でお仕事入っちゃったんだよ?」
「うそっ??」
「ほんとだよ。取り直しの部分があって、5時にロケバス出るって」
「だっていっちぃが・・・」
「仕方ないでしょっ?お仕事なんだからっ」
そういうとちょっと面白くなさそうによっすぃは顔をしかめた。
きれいに整った眉が寄せられて、口をとがらかして斜めを向く。
ちょっと幼くなった表情。
うん、ホント、こういうとこ可愛いんだから。
よっすぃの目を見つめながらそっと首の後ろに腕を回す。
「10時には眠っちゃうんだからね?」
かすれるような声で耳元で囁き。
耳たぶの横の頬の部分にそっとキスを落とした。
「なぁんてね、ウッ―――」
「何やってんねん!」
「この人エローい!!」
思いっきり電気がつけられて眩しさに目がくらむ。
仁王立ちになった二人がケラッケラ笑い出して。
ちょっ、何、なんであんたたちが―――
「どーせ仕事なんて嘘やろ?」
「よっすぃ、騙されんなや〜!」
エセ関西弁になってる懐かしい声。
「どーしてっ??」
「どーしてって、なぁ?」
「ねぇっ」
ニヤニヤ笑ってる二人をみて振り返ると、
満足そうな表情をして立ってるよっすぃ。
- 359 名前:April 投稿日:2010/04/02(金) 22:44
-
「もう梨華ちゃん遅いよ〜〜!絶対何も食べるなってよっすぃうるさいし。」
さらに奥に二部屋進んだところにおいてあったシャンパンとお料理の数々。
場違いのようにおいてある、コンビニの袋の山もりのお菓子。
「こんな高い料理たのまなくても、言ってくれれば作ってきたのに〜!」
「ほんと、いったいいくらすんねんっ」
そういいながら嬉しそうに二人掛けのソファーを占領する二人。
よっすぃはびっくりして訳のわからないままのあたしの背中を押して、
向かいにある一人掛けの椅子に腰かけさせると、
シャンパングラスを手に持たせて黄金色の泡を注いだ。
「あんたたちも騙されたのっ?」
「うん、飲みにでもいこうぜ、出てこれる?って前に言われてさ。
遅くなるけど帰るね、って言ってあったのにこれだもんっ!さっきあわててお母さんに電話したよ。」
のんはぶつくさいいながらもすごく嬉しそうに足をぶらぶらさせながら、口元にグラスをつけた。
- 360 名前:April 投稿日:2010/04/02(金) 22:45
- 「あたしね、お昼に銀座に来いって言われたの」
「銀座?」
「お茶でもしようってよっすぃに言われて待ってたのね、そしたら・・・」
「まぁいいじゃん」
止めようとしたよっすぃを振り切って、話を続けた。
「よっすぃが、買い物があるって言い出してさ。
おそろいでなんか欲しいんだけど、選んでくれる?」って。
10周年のイベントの日に、たくさんのケーキと一緒におそろいのマグカップを送ってくれた。
遠慮がちに添えられたカード。
いろんな気遣いをする子だから、きっとすっごく迷いながら送ってくれたんだろうって。
大事そうにバックにしまったあのときのよっすぃの顔がふっとよぎった。
こうやっていつも。
よっすぃのさりげない優しさがあたしたちの心をほどいていってくれてるんだ―――
「気に入ってもらえるかどうかわからんけどなぁ・・・」
そういいながらよっすぃに確認をするように目配せして、ソファーから立ちあがった。
紙袋から4つの箱を取り出したときに、嬉しそうに笑った無邪気なこの子の横顔を見た瞬間、
胸の奥がキューンと熱くなって―――
よっすぃ・・・?
思わず見上げた先に、優しく私を見つめていてくれたよっすぃがいて。
こぼれそうになる涙をこらえながら私はよっすぃに微笑み返す。
- 361 名前:April 投稿日:2010/04/02(金) 22:47
- 少しずつ色の違うブレスレット。
ピンクゴールド、イエローゴールド、ホワイトゴールド、そしてプラチナ。
「あたしから、ってまとめて買おうとしたんだけどよっすぃに止められてさ」
「いいよ、全員にそれぞれ払わせるから!」
白い小さな手が4つの箱を次々に並べてあけていく。
絆が切れちゃうわけにはいかないからさ、って一番にプラチナを選んだ父ちゃん。
キラリって目が光って二人ともピンクのところで一致した。
「どうぞ」って譲ってあげたいって思ったけれど、それより先に
「ジャンケンジャンケン!!」って嬉しそうに挑戦を挑まれたら
おりるわけにはいかない。
せえのっ
「「じゃんけんポン!」」
ああああああ、負けたぁって残念がってるのんの顔を尻目に
ピンクを手にとった。
って、ほんとは別に絶対ピンクってこだわりはなかったんだけどな・・・
「いいじゃん、こっちで。譲ってあげなよ」
って笑ったよっすぃにホワイトゴールドを手渡されて。
あ、いいんだぁ?
おそろいにみえちゃうと困るなんていつも言うくせに。
こういうとこ、かなり神経使うんだぁ、この人。
絶対一緒の写真をブログに上げさせてもくれないし。
最近の唯一の不満。
もっともっと自慢したいのにな、って思っちゃう。
- 362 名前:April 投稿日:2010/04/02(金) 22:49
- 嬉しくなって腕に通すとキラリって光る。
パシャリッ
さっそく携帯で自分の手をうつした私は
正面から「ダメだよ」って釘をさされた。
「え〜っ、ダメ?」
「ダメ」
「はぁっ・・・」
口をとがらせた私に二人はゲラゲラ笑って。
「ほんっと、自慢したがり〜だよね、梨華ちゃんは」
「それにしてもうざいよ、あの日記」
「エヘッ」
「「キショッ!」」
「え〜〜っ??」
「ブログ読んで改めてこんなにひどかったんだなって気付いたよ、梨華ちゃん」
「クラスにいたら絶対友達にはなりたくないタイプやな」
「てか今でも友達やめようと思っちゃうレベルだって」
「あの梨華ちゃんにずーっと付き合ってるなんてよっちゃん相当」
「「ソウトウ!!」」
二人で顔見合わせて声をそろえるところを
すごく満足げに見てるよっすぃ。
- 363 名前:April 投稿日:2010/04/02(金) 22:50
- 酔った二人の勢いはそんなよっすぃにまで飛び火しだして。
「最近、ポスト吉澤〜なんて書かれてる記事みると頭にきてさぁ」
「わかるわかる〜!とうちゃん、しっかりしいや」
「もっとがつがついっちゃえばいいのにさぁ!」
「ワイルドさがなくなったんかなぁ」
「がっつり稼いでくれないと困るじゃん!」
「なんでうちだけ・・・」
圧倒されるように助けを求めたよっすぃの顔。
そりゃああたしだってさ、よっすぃのほうが負けないよって思っちゃうけど。
昔のよっすぃのぎらぎらしたところもかっこよかったけどさ、
「ハンターになってよ」
って、それはそれで困っちゃうし。
よっすぃのほうが男前でよっすぃのほうが美しくてよっすぃのほうが品があって、
よっすぃのほうが優しくてよっすぃのほうが―――
って、数え上げたらキリがなくなっちゃう。
「ね?梨華ちゃんだって父ちゃんが稼いでくれなきゃ困るでしょ?」
「そうそう、父ちゃんは万人のよっすぃでいてくれなきゃ」
それは―――やっぱ困る・・・
- 364 名前:April 投稿日:2010/04/02(金) 22:50
-
「どうやって寝る〜?」
「川の字」「川の字!」
「あっちにもベットルームあるじゃん」
「こんなでっかいベットに寝ることなんてめったにないんやからええやん」
「そうそう!父ちゃん太っ腹〜〜!」
「いつも一緒に眠ってるんでしょ?」
「今日はかわい〜〜い子供たちを挟んで眠りなさい!」
って。
いくらスィートルームのキングサイズだってさ、4人で寝るにはちょっと苦しいんだよ?
「あなたたち、いつも大の字になって眠ってたじゃん!」
端っこのよっすぃなんて落とされちゃいそうなんだから。
「ちっちっ。そんなわけないでしょ〜?人は成長すんだから」
- 365 名前:April 投稿日:2010/04/02(金) 22:51
-
夜中に目が覚めた。
いつもよりペースの速かったよっすぃが多分一番に夢の中で。
私はくだらないことで騒ぎ続けてる二人のおしゃべりを聞きながら
もぅ、いい加減に寝なさいよ〜なんて言いつついつのまにか眠ってしまっていて。
予想に反して、二人は寄り添うようにして小さくなって眠ってた。
以前だったらどっちかの足がどっちかのおなかにがんがん乗ったりして、
暴れまくってたのにね。
確かに、あの寝像のままじゃとっくにのあちゃんつぶされてるよね?
でも、寝顔ってあんまりかわらない。
二人ともあの幼い時のまま。
時間がとまったような不思議な感覚がする。
満足そうな寝顔。
眠る前に繋ごうって照れくさそうに言ってた手は今もしっかり握られてる。
ちょっと嬉しくなって、そっと布団をかけた。
- 366 名前:April 投稿日:2010/04/02(金) 22:54
-
お父ちゃんはっていうと口をきれいに結んで、静かに眠ってる。
ちょっとの間だったらいいよね?
そっとあの子たちを乗り越えて横に移動した。
あぁ、ほんとにきれいな寝顔だなぁ。
シャンパンの残りとか垂らしてみようかな?
起きないんだよね?
見事なまでに整った凛々しい眉。
今にもまばたきしだしそうなほどばっさりとした睫毛。
なんて上品なやさしい顔立ちなんだろう・・・
見慣れてるはずなのに、ほんとに思う。
10年かあ。
大人びた顔立ちだったけど、あの頃よりもほっぺたもすっかりシャープになってさ。
黙ってればホントきれーなお姉さんなんだよね。
あのときのドキドキもプレッシャーも
怒りも悲しみも喜びもすべて。
あたしはこのコと一緒に乗り越えてきたんだなって思う。
よっすぃ。
よっちゃん。
ひーちゃん。
ひっぴー。
ひとみちゃん。
私が階段を上ってこれたのはいつも。
この人が傍にいてくれたから。
時には手をとりあい
時には静かに並んで。
ダッシュしていく背中を追ったこともある。
猛進してく私が落ちないように、背中から支えてくれたこともある。
ここから先の春だって夏だって夏だって冬だって。
世界のすべてはこの人と共に有る。
きっとそうだって思う。
これからもずっと―――
- 367 名前:April 投稿日:2010/04/02(金) 22:55
- そっとおでこの生え際のところを撫でてみた。
鼻筋を指でなぞる。
唇をつんつん。
誰にも見せられないけどさ、
一枚だけ、この前のお返しだよ?
充電中の携帯をとってきて、パシャリ。
ほっぺたをうっすら赤くして爆睡中。
ふぅん、こんな近くで音してもほんとに眠ってるんだぁ。
ちょっと面白くない。
唇をとがらかして、軽く触れてみた。
起きない。
唇を少しあけてハムって挟んでみた。
うぅむ、まだ?
- 368 名前:April 投稿日:2010/04/02(金) 22:58
- カサカサの唇を自分でうるおしてから、
よっすぃの唇をつつんでみる。
眠ったまんまのくせに、唇だけは器用に応えてきた。
ほのかに残るアルコールの味。
目は閉じたまま。
まだ夢なんて思ってるのかな?
そしたら。
ガシッ
腰の後ろに突然腕がまわされてきて。
すごい力で離してくれない。
あわてて顔をみると、にやりと笑ってるよっすぃが、
片目だけをうっすらとあけて、
「何やってんの?」
って、嬉しそうに微笑んでる。
「したくなっちゃった?」
かすれた声でそんなことを囁くから、
どすんっておなかのとこをぐーで叩いて。
「痛っ」
なんて言いながらまだニヤニヤしてる。
- 369 名前:April 投稿日:2010/04/02(金) 22:59
- 「よっすぃ?」
「なに?」
「しよっか?」
「へっ???」
「ウッソー!!」
「ばぁか、もうエイプリルフールは終わってるし」
「へっ?やだぁ、ちょっ、ダメだって」
ジタバタと反対側を向いて逃げようとする手をぐいっと捕まえられた。
「冗談だよ。でも、もうちょっといいっしょ?」
そういってするりと腕をほどくと。
眠るときにここにいないと落ち着かないんだって小さな声で言って、
定番の斜め下の位置に私を置いてもう一度ぎゅっと手をまわした。
とろんとした目で私のことを嬉しそうに見てくれてる。
この目をされると離れられなくなっちゃうの、知ってて。
あぁ、もうなんでこの人ったらこんなに可愛いんだろう。
出会っちゃったのが運のつきかもって思っちゃう。
ワタシノモノだよって世界中に自慢してしまいたいのに―――
- 370 名前:April 投稿日:2010/04/02(金) 23:00
- 「何よ?」
「またよからぬこと考えてるしょ〜?」
「ちょっとは?」
「ちょっともダメ!」
「なんで?」
「梨華ちゃん止まらなくなっちゃうもん」
「ほんのちょっとだけ・・・」
ほら、幸せのおすそわけ程度にはさ、
「だーめ。思ってるより梨華ちゃんって素直なんだよ?
うちのこと好きすぎてばれちゃうでしょ?」
そんなことっ!!
って否定しようとして否めずにぶーってふくれるだけの私。
なんか・・・ちょっと悔しい。
あなたは溢れてくるよーなことはないんだ。
「自慢したくなんないの?」
「何を?」
「何をって、私!」
「してんじゃん」
「どこで?」
「ステージで」
って、ニヤリ、よっすぃは笑った。
「‘秘すれば花‘って梨華ちゃん聞いたことある?」
そんな難しい言葉がまさかこの人の口から出てこようなんて。
「ときどき思い返してニヤニヤすんの、それも楽しくない?」
とかって。
- 371 名前:April 投稿日:2010/04/02(金) 23:06
- 「5年後は海外にするからさ、そんときのあが・・・」
って指を折りながら数えはじめたよっすぃ。
「でも下の子とか生まれてるとますます預けらんないし、
うぅむ・・ひと段落つくまでは母ちゃんと二人かぁ」
なんてじーじみたいなことまで言っちゃってさ。
「ううむ・・・二人ねぇ・・・」
ってそんなに私と二人じゃやだって?
「よっすぃ?」
眉間に皺をよせながらまだ指を折ってるよっすぃ。
ありがとうって伝えようかって思ったけど、
今日はまだ悔しいから言ってあげない。
- 372 名前:April 投稿日:2010/04/02(金) 23:07
- 「ん?」
「寝るね、おやすみ」
するりって腕からぬけると途端に情けなさそうな声をだして、
梨華ちゃぁんなんて後ろから甘えた声を出す。
「しぃっ、起きちゃうでしょ?」
遠くの空はまだ藍色で、あと一眠りはできそう。
朝一で帰らなきゃなんないのんのために携帯をセットして――
「ねぇ、明日仕事ってホントに嘘だよね?」
小さい声で背中から尋ねてきたよっすぃ。
まだ信じてたの???
びっくりして振り返った私をみてホッとするように笑った。
「このまんまじゃ梨華ちゃんモノタリナイでしょ?」
「へっ?」
「ウソウソ。じゃなくってさ、朝、送り出したらさ」
「ん?」
「桜咲いてるし。散歩しよーよ。二人で」
幸せがこぼれてきそうな笑顔でそんなふうに言ったよっすぃを
心の底から愛しいって思った。
了
- 373 名前:April 投稿日:2010/04/02(金) 23:08
-
- 374 名前:April 投稿日:2010/04/02(金) 23:08
-
- 375 名前:咲太 投稿日:2010/04/02(金) 23:08
- 以上です。
お目汚し大変失礼致しました…。
- 376 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/03(土) 00:03
- 更新ありがとうございます。
なんていうかうまく言葉に出来ないけれどとにかくよかったです。
- 377 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/05(月) 17:57
-
やっぱいいですね〜
作者さまのこの温かい雰囲気がたまらんです。
羨ましい限り・・・
- 378 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/07(水) 16:42
- 更新ありがとうございました
いつまでたっても4人の絆には夢があり温かい気持ちにさせてくれますね
それと作品にリアルさがあって現実じゃないかと錯覚していまいそうです
これをきっかけにまたいろいろ読み返してしまいましたよ
今回の作品含めとてもハッピーな気持ちになれました
ありがとうございました
- 379 名前:咲太 投稿日:2011/01/20(木) 01:25
-
- 380 名前:咲太 投稿日:2011/01/20(木) 01:25
-
>>376名無飼育さま
読んでいただいて本当にありがとうございます。
なにか細々とでも書き続けられればと・・・
いしよしが好きな思いは同じです。
>>377名無飼育さま
本当にありがとうございます。
温かいと言っていただいて、とても励まされました。
>>378名無飼育さま
こちらこそ読んでいただいて本当にありがとうございました。
勝手な妄想でしたが、どこかでつながっていればと思って書きました。
読み返していただいて本当にありがとうございます。
- 381 名前:咲太 投稿日:2011/01/20(木) 01:27
- 石川さん、お誕生日おめでとうございます。
当日中に間に合わせたかったのですが、
放送を聴きたいという思いに勝てませんでした―――
どうかすばらしい一年となりますように。
生存報告がわりにの短編ですが
お付き合いいただけたら幸いです。
- 382 名前:咲太 投稿日:2011/01/20(木) 01:27
-
- 383 名前:咲太 投稿日:2011/01/20(木) 01:28
-
- 384 名前:咲太 投稿日:2011/01/20(木) 01:28
-
『恋をしたいの、よっすぃ』
- 385 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:28
-
- 386 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:28
-
- 387 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:29
-
「恋をしたいの、よっすぃ!」
あたしがぴくりと眉をあげると。
「もうっ、またって思ったでしょ?」って。
梨華ちゃんはかるく唇をとがらかす。
- 388 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:30
-
八の字に眉をさげてため息をついて。
昨日の晩にろうそくをたてた残りの生クリームたっぷりのケーキを
がっつりスプーンでほおばって。
「今年は絶対恋をするの!」
「ふぅん。誰と?」
うふっなんて笑って。
待ってたましたとばかりに梨華ちゃんは体を前にのめりこませた。
- 389 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:31
-
「このまえさ、まいちゃんから教えてもらったイタリアンいったじゃん?
あのマネージャーさんがあたしのこと、気に入ってくれてるみたいで。
けっこうかっこいい人だったからさぁ、
もし梨華ちゃんがいいと思ってるんだったら携帯教えてって言われてるんだけど」
舞がらみ。
どーにかしてくれようって思ってる舞の心境はわかるんだけど、
こうやって煽ろうとするのはやめてほしい。
慣れてきたとはいえちくりと胸にさす。
- 390 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:32
-
「どんな人?」
「んーとねえ、ちょっとスポーツマンタイプで〜、
学生時代はスキーやってたんだって。
あれ、スキーだったっけな・・・いや、バスケだったかな・・」
って、間違いようがないじゃんww
いつものことながら相手にあんまり興味がなさそーだ。
「ふーん。もうデートとかしたの?」
「まさか〜!だって見つかるとさ、アレだし」
つまりやっぱりいつものレベルってこと。
この人はしょっちゅう飲みにいったり、
んでそれをこまめに報告してくれたりはすんだけど、
実際の行動にはうつすことができないお嬢さんで。
「もぅ、またいつものやつって思ってるでしょ、よっすぃ」
あたしがニヤリって苦笑したのを見て、
梨華ちゃんはちょっと頬をふくらました。
「ホントに結構カッコイイんだからね?」
「はいはい」
「だって恋をしないと若さホルモンでなくて老けちゃうんだって!」
どっかの誰かに言われたんだか。
そういうプチ情報をくっつけて。
梨華ちゃんの恋人探し話は始まる。
「王子様で中性的でスポーツ万能、いるはずなんだけどな・・・」
- 391 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:32
-
- 392 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:32
-
梨華ちゃんの好みのタイプは狭いようでいて広い。
え?こいつでいいわけ?と思うような守備範囲をみせてあたしを驚かせたりする。
よくいえばバリエーションにとんでいて、
はっきりいってあんまり趣味は良くない。
よく男の趣味と服の趣味は似るっていうけど。
今までろくな男にお目にかかったことはない。
梨華ちゃんにしてはめずらしく実際つきあうことになった場合でも
まるで生菓子のように日持ちがしない。
- 393 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:33
-
梨華ちゃんの理想は高いというのを越して天井を知らない。
本人は低いと思ってるようだけど迷惑すぎる勘違いだ。
好みのタイプってことだけじゃなくて、
恋愛に大して求めるものが大きすぎる。
特にここ数年それが酷い。
それは間違いなくアヤカの影響で。
結婚生活って毎年テーマがあるのかなぁ?これからの一年は何になるのかなぁ…楽しみっ
なんてどっかに書いちゃってたけど。
アメリカ育ちの彼女にとって、
結婚当時よりもっともっと好きになってるなんて言える、
そんな恋愛ゴトが理想。
始まってもいない恋愛で、
アヤカみたいなことを求められる相手も相手でかわいそうだけど。
当の梨華ちゃんがそーゆーことにまったく気づいてないみたいだから、
あたしも昔のように胃をキリキリ痛ませたり、
お酒をあおっちゃうようなことはないんだけど。
- 394 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:34
-
「んで、ホルモンって?」
きっとどっかの雑誌の受け売りだと思いつつたずねると。
案の定嬉々として梨華ちゃんは続けた。
「あのねあのね、若さの秘訣ってさ、言葉なんだって〜。
どっこいしょ、とかさ、わたしももう年だし、とかっていうじゃん?
あれすると、ドバって老化ホルモン出るらしいの」
「それって梨華ちゃん口癖じゃん」
「そうなの・・・はー、わたしの若いころはとか、
今のコたちって・・、とか」
「うん・・・よく言ってるね・・」
「あれやるからわたし老けてたんだよ」
ん?過去形?
眉を動かしつつ黙ってる。
最近の梨華ちゃんは若干調子がよかったりもするから。
いや、そんなときもあるから。
髪型を変え、ちょっとダイエットにも成功して、
ブログのコメントもまわりからの言葉も褒め言葉に包まれてるから。
それもこれもただ、いっちぃの涙ぐましい努力の賜物なんだけど。
- 395 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:34
-
いっちぃには酒を飲むとすごい怒られる。
たまに絡まれる。
梨華ちゃんをこーゆーふうにしたのは吉澤さんのせいですからねって。
だって、どんな梨華ちゃんでも可愛いって思っちゃってるでしょ?
それがこうさせたんですよって。
でもしょーがないじゃん、実際そうじゃんか。
いっちぃだってそう思ってるくせに。
不満そうに口をとがらかすと。
いっちぃの目はますます燃え上がり、
でもね、って力説がはじまるんだ。
- 396 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:35
- 10年も甘やかしてるからこんなことになったんですだの。
だから努力をしなくなったんだの。
あなたの梨華ちゃんの前に、世間の梨華ちゃんなんですよ、だの。
ちっとはやせたほうがいんじゃない?とか
メイク考えたほーがいいとか、
写真うつるときには角度工夫しろとか
肌あれするからお酒はほどほどにとか、
だから走れとか?
そういうことをあなたが言うべきなのに言わないから
私がすっごいオブラートに包みながら遠まわしに伝えてきてるんです、って。
そんなのケメちゃんからもさんざん言われたりもするけど。
だって、可愛くなってるじゃん、いまの梨華ちゃん、いっちぃの献身的な愛だよさすがって褒めたら。
あなたの影響力のほうがぜんぜん大きいんだから、
もっとちゃんとしてくださいよって声を荒げて。
いやいや、ちゃんと伝わってると思うよ〜、梨華ちゃんにいっちぃの言葉。
それにいっちぃだって盲目じゃん。
あのうざさ全開のブログ言葉止めないのは
いっちぃがとめないからだと思うよ?
- 397 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:36
-
「よっすぃってさぁ―――」
なあんて思いをめぐらしてたら、
横からすっごい甘い声になって。
近づいてきた梨華ちゃんは、いつもの上目づかい。
「ん〜?」
「あたしのことずっと見てきてくれたでしょ・・・?」
でさぁ?」
「ん」
「あたしには〜、ほんとはどーゆーひとが似合うんだと思う?
もしもぉ、よっすぃ以外だったら」
軽く頭を傾けて。
- 398 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:36
-
「そんなのわかんないよ」
「え〜、わかるでしょ?よっすぃだもん」
「好きになった人が好きになった人なんじゃね?」
「もぅ、ふざけないで」
「ふざけてねぇから」
「あたしってさぁ、理想が高い・・・?」
「ん〜、高いんじゃない?」
「もぅ他人事ごとみたいに・・・」
「他人事だし」
「もぅっ!ねぇ、どんな人があうと思うの?よっすぃからみて」
ちょっとだけ意地悪しちゃおうって気になって。
あたしは咳払いしてわりと冷静な声を出してみる。
「なかなかいないんじゃないの?」
「どーゆーこと?」
「けっこう条件きついと思わない?」
「条件って?」
「だからぁ・・・」
「あ、中性的とか王子様とか優しいとかそーゆーの?」
「それもだけど」
「まさか26にもなってキツイなんて思ってる??」
むせそうになるのをかろうじてあたしは続けた。
- 399 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:37
- 「いや、だけじゃなくってさ、いつも可愛いっていってもらえないとダメでしょ?」
「うんっ!もちろんっ♪」
「ちゃんとマメに口に出してないとダメでしょ?」
「うんっ♪」
「あとさ、だらしない人はイヤでしょ?
そのくせ自分がだらしないことについては細かく指摘するなんてもってのほかでしょ?」
「うんうん」
「話を一日中でも聞いてくれて
面倒がらずに相槌をうってくれなきゃ無理じゃん?」
「あぁ、そうだねぇ」
「お休みの日は適度に引きこもるのをゆるしてくれて、
でもたまには外に誘い出してくれて」
「うん・・・」
「髪型が変わったときには一番に気づかないとむくれちゃうじゃん?」
ネイルが変わったときにも気づかないとすねちゃうじゃん?
ってここまでは突っ込まないけど。
似合わない髪形だろうがとんでもない冒険だろうが
認めて褒めてしかも自然じゃなきゃダメで。
「あまりに崇拝されるとイヤがるじゃん?」
愛されすぎるとちょっと気持ち悪いのってひいちゃうし、
愛されてないとあの人私のことどう思ってるんだろうって満たされないし、
間合いのとりかたが絶妙に難しくて。
「だからけっこう難しいんじゃない?」
そういうと。
梨華ちゃんは鼻筋を少し寄せて、不満そうに唇をとがらせた。
- 400 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:37
-
梨華ちゃんの基準を満たすくらいにはカッコよくて、
でもぼさぼさの髪も五本指ソックスも平気でみせられる相手。
精神的にはかなり大人で、
梨華ちゃんのことをすんごい大きい愛で包める人。
そういう人がもしこの世に存在するんだったら、
その人が世界一梨華ちゃんを幸せにするって約束するなら、
あたしは喜んで梨華ちゃんを差し出すと思う。
たぶん、
きっと、、
んーーーーー、
わかんないけど。
- 401 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:38
-
意外と母性本能も大きい人だから。
わがままを受け入れられるくらい大人なんだけど
しっかりしすぎててもいけなくてたまに隙をみせて
子供のようなかわいい部分があって梨華ちゃんの母性本能をくすぐらなきゃいけないいし。
そんでもって何より石川梨華という人を一番輝かせてみせられて
あきっぽい梨華ちゃんをながーい目で見守れるほど気が長くて、
メールは自分はまめにするけど、返信こなくても催促したりはしなくて、
ほれっぽくてすぐ冷めるとこにも慣れてる―――
ほんとにいるのかな、そんなやつ。
- 402 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:39
-
「やっぱ無理かなぁ」
「ん〜」
「じゃあさぁ、やっぱり結論はさ」
「ん?」
「若さホルモンってね、恋をしたり、ドキドキしたり、
そーゆーことをしてると出るらしいし」
「うん」
「だからぁ、大事なのはドキドキする言葉とかで〜」
上目づかいで。
ちょっと唇を尖らせながら。
期待を込めた目でうるうる見つめられて。
ん?なに?
それをあたしに言えと?
「いや、なんであたしが」
「だって仕方ないじゃん・・・」
「何が?」
「だって・・・よっすぃに言ってもらうしかないじゃん?」
「はぁっ?」
「・・・・一番トキメクのはよっすぃだけなんだもん」
梨華ちゃんはそう言い終わると。
してやったりって顔をして、あたしの赤くなってるはずの頬をうれしそうに触れた。
「あたしに綺麗になってほしーでしょ?
いつも言ってくれるじゃん、やっぱ梨華ちゃん可愛いなって」
「ん・・・・」
「だからぁ、もっとときめかせて。これからもずっと」
こーゆーことを面と向かって言うヒト。
- 403 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:40
-
まったく。
言われるこっちの身にもなってよ。
あたしは照れ隠しに足を組み直す。
「言ってる気がするんだけど」
そう言うとニコニコしながらさらに近づいて。
腿の上に手をおいたりなんかしちゃったりして。
「ん〜、そうだけど、もっとぉ」
「もっと?」
「いっちぃからも言われるよ?
よっすぃにいっぱい甘やかしてもらいなさい〜って」
十分甘いと思ってるんだけど、これじゃあ足りないって?
厳しくしろといってみたり、甘やかせといってみたり、
どっちなんだよ一体。
「それで・・・わかるでしょ・・??よっすぃだもん・・・」
またそんなことを繰り返して。
あたしの目を甘く見つめながら。
声に潤いをはらんで。
- 404 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:41
- 仕方ねぇなぁ、
そんな言葉で心をごまかしながら。
うっすらと開かれたキラキラの唇にすいよせられるよーに。
あたしは軽く唇を寄せた。
「ん〜、じゃなくって・・・」
不満そうにたてた声はいつもより掠れて。
離れるようとするあたしを惜しむかのように、もう一度近づけて、
自分からあたたかい感触を割り込ませてきた。
「・・・んぅ・・」
声をたてながらますます激しさをましてくる梨華ちゃんに。
腰に手のひらをすべらせて
カットソーの下からくぐらせて膨らみにふれると。
ん〜なんてさっきより可愛くない声をあげて、
小さい手であたしの手を止めて。
ほらっ、
ちぇっ、
今日はお預けにするくせに。
- 405 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:42
- そーじゃないときはその先もあったりなかったりするんだけど、
とにかくだいたいが梨華ちゃん主導で決まることになってる、いつも。
ん〜、もうちょっと先に飲ませてからにすればよかったかなぁなんて。
反省。
不満そうに唇を結ぶと。
「やだぁ、よっすぃ、可愛い♪」
って。
「んだよ・・」
「なんて顔してるのぉ?」
梨華ちゃんはものすごく色っぽ〜い顔をしながら
あたしの頬を耳たぶをなでる。
- 406 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:42
-
「あぁ、もうひとつ、あったぁ」
「なに?」
「あのね、あたしワガママだから、可愛いって思えちゃう人じゃなきゃキスできないの・・・」
よっすぃみたいに。
私の耳元にだけ届くくらいの小さい声で。
「だから恋は誰とでも始められるかもしんないけど―――」
「ん?」
パートナーはよっすぃしかいないんだから。
この先ずっと。
- 407 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:44
-
「ねぇ、よっすぃ・・・」
こういう声であたしの名前を呼ぶときは。
愛されてるって自信にみちあふれているようでいて、
でもほんとはすっごい繊細に伝えられることを待っているとき。
粉砂糖のようにさらさらで
ほんの少しの強い言葉で湿ってしまう、
ちょっとの温度の変化にだって
さらしたくないって思うあたしって情けなくなるほど過保護なんだ。
絡みとられてますねっていっちぃに断言されてても。
世界中のどんなやつが梨華ちゃんのこと愛しちゃってても。
甘いっていわれよーが
情けないっていわれよーが
あたしの前でだけ梨華ちゃんの表情がとろけるとかいわれよーが
優しいんじゃなくって王子様だったんじゃなくって。
ただ大事で。
ずっと大事で。
だから。負けれるよーな気がしないんだ、誰にも。
「このまんまの梨華ちゃんが、いいよ」
了
- 408 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:44
-
- 409 名前:恋をしたいの、よっすぃ 投稿日:2011/01/20(木) 01:44
-
- 410 名前:咲太 投稿日:2011/01/20(木) 01:44
- お目汚し、大変失礼いたしました。
- 411 名前:ボウラー 投稿日:2011/01/20(木) 23:02
- 更新お疲れ様です。m(__)m
久しぶりに新作を読む事が出来て嬉しかったです。
お忙しいとは思いますが、またの更新をお待ちしてます。(出来れば連載w)
- 412 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/10/13(木) 00:18
- 咲太さんの作品ずっと好きです
- 413 名前:咲太 投稿日:2011/11/06(日) 00:54
-
- 414 名前:咲太 投稿日:2011/11/06(日) 00:58
- >>411 ボウラーさま
どうもありがとうございます。
大変ご無沙汰しております。
気長に細々と地道をモットーにやっていきますw
>>411 名無し飼育さま
本当にありがとうございます。
読んでいてくださる方がいるということが
何よりの励みになります。
ありがとうございます。
- 415 名前:咲太 投稿日:2011/11/06(日) 01:00
-
「ワタシの長い夜」vol.2
- 416 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:00
-
- 417 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:02
-
ハンカチで手を拭きながらのこのこと戻ってくると
異常な盛り上がりの声が聞こえて。
ちょっと、まわりにばれちゃいますよ、と思いながら
言えない言葉を飲み込んで襖をあけた。
けたたましい、っていうのはこういうことだ。
室内の平均年齢が30近くなっても
このかしましさは変わらない。
- 418 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:04
- 何盛り上がってるんですかぁと聞くまでもなく
私の姿を認めたが早いか、一番奥にいた中澤さんがちょいちょいって私を手招きした。
「なあ、どっちやと思う?」
だから何が?
「みんなで賭けしとんのよ」
賭け?
「ちょっと待って、小川には前情報なしの状態で聞かせたほうがいいと思うの」
長い手がひゅるりとのびてくる。
飯田さんがこういう席で声を大にするなんて珍しい。
「いいじゃん、レートもっとあげよーぜ」
というのは矢口さん。
「じゃあ割り箸をおくってのは?」
安倍さんは目の前に並んでいるボトルの数々やら、
グラスをてきぱきとわけて隙間をつくると
こっちからこっち、こっちからこっちと、
自分の腕を線代わりにして机をわけた。
- 419 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:06
- 「だから小川に説明してないってば」
って保田さんが隣の中澤さんにあわてて進言すると。
中澤さんの目の奥がキラリと光って。
「あの二人がいきつくとこまでいってるかどうかって話し」
あの二人???
ぽかんと口をあけたままの私に向かって矢口さんが。
「ほら、あいつらだよ」って。
それって今日は撮影があってきてないあの?
「よっちゃんと梨華ちゃん」
安倍さんが嬉しそうに私に説明してくださった。
って、何をみんなで話してたんですかっ!!
- 420 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:09
- 「よーし、じゃあ割り箸もって」
中澤さんの一言でみんな一斉に箸をもってる。
えっ?えっ?えっ??
「こっちがいってる、こっちがいってない」
再び中澤さんの仕切り。
ええええええっ?
「せーの!」で
ほいっっっっっ!!
気がつくと目の前には片方だけに箸の束が集まっていて。
箸をはなせないでぼーっとしてる私に視線がそろった。
「あぁあ、やっぱ成立しないじゃん」
不服そうな矢口さん。
「なんや、結局同じこと考えとんのかい」
「よし、ここは大穴狙いで、こっち置いたら?」
勧められたって、おけるわけない。
「ええええええ、無理ですよおそんなの」
「いいじゃんいいじゃん、遊び遊び」
「小川はこっちってことでいいな、じゃあ成立」
ええええええええええっ???
「で、小川、よろしくな」
「へ?」
「どっちか調べるという大事な任務だよ」
「はっ?」
「ええっ?だってこんなことは保田さんの得意分野じゃないですかぁ」
すがるように保田さんの手を握ると。
「無理無理。あたしが聞いたって圭ちゃんやらし〜とかって言われて
それで終わりなのよっ」
「じゃあ中澤さんが聞いてくれればそれで万事解決じゃないですかぁ」
「あんたなあ、この歳でそんなこと聞けるわけないやろ?
人様のプライバシーに首つっこまれへんもん」
「安倍サーン」
「やだよ〜、よっちゃんに変態って思われたくないし」
「飯田さん、、、」
「カオリは〜、どっちかっていうとどっちでもいいのね。
大事なのは、今の二人がすごーく幸せそうっていうことで〜」
語りだしそうになった飯田さんを中澤さんがぴしゃりと止める。
- 421 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:10
- 「あんた、二人んちに泊まりにいったこともあるやろ?」
「ありますけど」
「そんときにどんな感じやった?」
「あのときは、、、別に私も泊まってたわけだし、何かをしてたような気配は。。。」
「まあ、そりゃあそうやなぁ」
「二年前だっけ?」
「はい」
「あれから相当パワーアップしてるでしょ?」
保田さんはかなりマジな顔になって。
だからドアップはやめてくださいって。
「パワーアップ?」
「バカ夫婦ぶり」
ああ、なるほど。
確かに。
もうあきれるくらいに。
見境がないくらいに。
「だから、どっちかなって思ってさ」
「付き合ってるのはもう間違いないと思うんだよなあ。
二人ともなんも否定しないし」
「でも付き合うっていうこと自体にソレが含まれるかどうかは別問題やろ」
そういいながら、中澤さんは美味しそうに日本酒を口に含めた。
まあ、いいツマミなんだろう
「とかいいつつみんなやってないって思ってるわけじゃん?」
やってるとか。
全国のなっちファンのイメージぶち壊しですよ、安倍さん
「一応セクシー担当だからなぁ」
「我慢できてるとしたら相当よっちゃんも自制心高いと思うんだけど」
「けど、二人で腿にすりすりしあってんで」
「あああ、このまえでしょ?」
ってかしましさがエスカレートしてく
止められない。。。
結局、私はタクシーの乗り込むみなさんをお見送りしながら。
とんでもないことを仰せつかったとため息をついた。
- 422 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:10
-
- 423 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:11
-
「さっきからどうした?」
あれから2週間がたって。
みんなそろって飲んでる席。
今日は小春もいる。
地方だからって羽目をはずして、
既に石川さんはいつもより半オクターブくらい声が高い。
みんなあのときあんな話したとは思えないくらい、
全然違う感じの話で盛り上がってて。
もういいのかなぁなんて思ってたら
中澤さんがにやりとこちらを見て笑って、
石川さんにがんがんお酒をすすめてる。
私の横にはよしざーさん。
酔えない、ん?酔ったふりして聞いちゃったほーがいんだろうか?
でも尊敬する先輩だし、
大好きな二人だし。
逆に聞けないんだなあ、やっぱり。
店を出たら梨本さんとかいてさ、
お二人の関係は?とか
そのものズバリ、聞いてくれたらいいのに。
- 424 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:12
- 手回しのいい先輩たちに囲まれて、
マネージャーたちはすべて丸め込まれて、手はず通りの部屋割り
とりあえず私は石川さんと同じ部屋。
吉澤さんは保田さんと同じ部屋。
最初から仕組んだと思わせないように、
階までわけて。
安倍さんの作戦はこうだ。
まず石川さんを酔っぱらわせる。
↑今ココ
石川さんは吉澤さんに運ばれて部屋に寝かせられる。
吉澤さん戻ってきてさらに合流。
保田さんが吉澤さんになんで二人で食事行けないの?と絡み酒をはじめる
→吉澤さん逃げ腰
小川、保田さんに悩み事をうちあける
「悪いんだけど、今日小川こっちの部屋で寝せるから」
内心逃げ腰だった吉澤さんは喜んで私の部屋に向かう。
ほどよい時間にあくまでさりげなく、
鍵を持ったまま(ここ重要)偶然を装って部屋にカエル
- 425 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:13
- 覗くのもましてや盗聴なんてもっての他だし。
別にソノモノを見ちゃわなくていいと。
私だって尊敬する先輩たちのあられもない姿はみたくない、
といったら嘘になるか。
でもさ、聞いちゃまずいことは聞けないわけで。
お取り込み中だったらどうしよう///
そんな不安もよぎりながら私は思い切ってそーっとドアをひらいた。
自分の部屋に入るのだから、悪いことしてるわけじゃないじゃん
ドアのノブを握ってまた躊躇する。
音たてたがいいの?
いや、たてないほうがいいのか。
幸い、先輩たちの入れ知恵で、
あたしたちの部屋よりここは広いらしい。
最初に長めの廊下があって、簡単なリビングのようなものがあるから
すぐに見つかる心配ないよ、って。
まさか安倍さんが部屋の間取りまで把握してるとは思わなかった。
- 426 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:15
- 「ただいまぁ」
申し訳程度に、小さな声を出して、
そっとドアをあける。
とりあえず廊下の部分は暗い。
ん?
シャワーの音??
起きてるまさか???
シャワーって、
シャワーって、
まさかあれかな。
終わったあとのアレかな。
まさかのまさか
二人で出てきたりなんてことはないよね?
顔が熱いっ
やばい、
うっはぁっっ、どおしようっ、
まずい。
やっぱできませんでしたって、正直に言おう。
そうしよう。
くるっ
「なに?忘れ物?」
いきなり後ろから、肩を叩かれて。
「ひゃっっっっ!!!」
吉澤さんはTシャツにパーカーを羽織って、眼鏡をかけてて。
真っ暗な中、後ろに立ってた。
- 427 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:17
-
「いや、あの、あの」
慌てふためきように吉澤さんはにっこりと笑って。
奥?って指差して私を寝室にいざなった。
「荷物は全部持っていかなかったっけ?」
「は、はい、あの、携帯の充電器をさしたままだったかなぁなんて思って。
起こすつもりはなかったんですけど」
「ここ?」
なんていいながら吉澤さんはベットのまわりのコンセントをみてくれている。
とっさにしては我ながらいいことを言った、自分。
てか。。。
ベット乱れてるし。
しかも一台だけだし。
ベットサイドには飲みかけのお水。
シーツはだけてるし。
明かりはムーディーだし。
妙に生々しい現場に、顔の火照りが最高潮〜〜〜
やばっ。
カチャリ。
背後でドアが開く音がして。
バスタオルを羽織っただけの石川さんが、バスルームからいきなり出てきて。
まだ濡れている足。
上気して淡く色づいた肌。
洗い髪からしたたりおちそうな水滴。
いや、これまでも石川さんと一緒にお風呂はいらせてもらったことあるけど。
なんか全然そんなのと違って。
色っぽい……………
- 428 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:18
-
「麻琴?どしたぁ?」
心なしかかすれた声で。
石川さんは私に話しかけてくる。
「へっ?」
「携帯の充電器、忘れたんだって。
梨華ちゃん見なかった?」
「ん〜、気がつかなかったけどぉ」
てか、その格好のまんまうろうろすんの、やめましょーよ。
普通さ、友達だったらやっぱ下着とかパジャマは持って入るよね、普通。
あ、そっか、別にこの二人は友達じゃあないし(たぶん)。
バスタオルがほんとにギリギリのラインで、見えそうで見えないやばい感じで。
きっとそういうのがいつもなんだろう、
だから石川さんはそんなことまったく気づいてなくて。
たぶん吉澤さんも全然気づいてなくて。
二人でリビングのほうのコンセントを見に行ってくれてる。
だから、石川さん、かがまないで下さいって!!
- 429 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:19
- 「あ、あの、たぶん荷物の中かも。酔ってたから探せなかっただけで。
ちゃんと調べてみるから大丈夫です」
「そう?」
石川さんはそう言うと。
ふうっ、あっついっていいながら、
リビングのソファーに腰掛けた。
だから、その格好でやめましょーよ。。。。。
吉澤さんは着てたパーカーを脱ぎながら、
握ってたコンビニの袋から、アイスティーを取り出した。
これ、飲む?って渡されたポカリ。
あれ?これ吉澤さんの分じゃ?と思ってると、
いいからいいから、って勧められた。
ほいって石川さんにアイスティーを投げ渡すと。
ありがとっていいながら軽く受け取って。
すぐにふたをあけて何口か飲むと、
何も言わずに吉澤さんに手を伸ばす。
吉澤さんはそのアイスティーを受け取ると、
飲みながらごくごく自然に石川さんからふたを受け取って、
閉めてからさらりと石川さんに渡す。
その暗黙の動作があまりにさりげなくって。
流れるようにきれいで。
すげえこの二人って。
なんてことのないやりとりなのに、
なんかすごいって思ってしまう。
- 430 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:20
- 「みんなまだ飲んでる?」
「いえ、もうお部屋に入っていらっしゃいます」
きっとまだ全員起きてるけど。
私の報告を待ちこがれてると思うけど。
「そっかぁ、明日もあるのにみんな元気だね〜」
吉澤さんは履いてたジーンズを奥の部屋でジャージに着替えてこちらにきて。
石川さんの隣に座った。
ん〜、
お風呂は吉澤さんのほうが先だったってことか。
「石川さん、泥酔してたんじゃないですかぁ?」
「いや、けっこう戻りは早いんだよ」
かわりに吉澤さんが答えて。
「うぅ〜、今日は飲んだなぁ」
「よっすぃ、圭ちゃんに絡まれたんでしょ?」
「そう、助かったよ〜。麻琴が部屋変わってくれて」
「あのままじゃ危険だったかもね」
ふと窓を見ると石川さんのバスタオルで寄せられた胸が反射して。
どこを見てよいのやら、さまよってる私の表情を見て、
吉澤さんの片眉がゆるりと下がった。
ほら、って軽く石川さんの肩を押すと、
そのときになってはじめて気づいたように、石川さんは奥の部屋に向かって立ち上がらせる。
よかった、一安心。
てかなんの心配してるんだ、自分。
- 431 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:21
- てか、奥の部屋、やっぱあれだよね?
あれから一時間半くらいはたってるし、
ここのソファーだって今以外に使ったって形跡ないし、
やっぱあの一台のベットで何かしてたとしか思えないんだけど。
ちらちらと奥の部屋を見る私に気づいたかのように吉澤さんが振り返ったので。
「あ、あの、吉澤さんのねんねは?」
って、また自分ナイス!!
「ああ、ねんね?」
って着替えを終えた石川さんが含み笑いを浮かべながらやってきて。
「もぅ、梨華ちゃんが余計なことしゃべるからっ!」
「だってぇ」
「持ってきてないしっ!」
「ええ〜?ほんとですかぁ?」
「本当だって」
「こういうときは持ってこないのよねぇ、この人」
っていいながら、石川さんはくすくすって笑った。
「ばらすなよぉ、いったじゃん」
吉澤さんのこういう口調を聞くのは珍しい。
甘えたような。
すねたような。
そんな吉澤さんが可愛くてしょうがないというふうに石川さんは目を細めて。
「まぁ、なくても寝れるんだよね〜、よっすぃ」
そういってふふふって口元で笑った。
どーせ隣に石川さんがいれば、でしょ?
「海外ツアーになると、ねんねに顔すっぽりうずめて潜ってるんだよ〜」
とかって。
- 432 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:23
-
[ああバカ夫婦バカ夫婦]
最近お姉様方の口癖になってる、川柳のような言葉が思わずリピートされた。
くそぉ、この際、突っ込んでみるか。
いちかばちかだ。
「いつも一緒のベットで寝てるんですか?」
「「へっ?」」
同時にそう言ってから、意味深に二人で顔を見合わせて。
「そんなわけないじゃん、疲れて眠れないよ」
って、吉澤さんが言う。
「伸び伸び寝たいし〜」
「疲れるよねえ、こんな狭いベットで」
「私、寝返りされちゃうと起きちゃうもん」
って石川さん。
嘘だ嘘だ。
だって一個しか部屋使ってないって聞いたよ。
スタッフさんから。
せっかく別々の部屋とっても意味ないって言ってたよ。
「途中まではいてくれたほうがいいんだけどぉ」
そう言って石川さんが吉澤さんを見上げると。
「もういいかなってときになるとなんとなくわかるし。基本わがままだからこの人。」
「いや、別に邪魔ってわけじゃないんだけど」
「邪魔でしょ、だいたい背中向けはじめるからわかるし。
そしたら移動する」
夜中にもそもそとベットを移っている吉澤さんが簡単に想像できて
おかしくなってしまった。
「よっすぃだって朝方は爆睡しててこっちむいてくれないじゃん」
「へっ?」
「だいたいあたしのほうが先に目が覚めるから、そっちいこうとしても
まるで邪魔っていってるみたいに」
「別に邪魔にしてるわけじゃぁ」
「ええ?邪魔みたいだよぉ。全然起きてくれないし」
「だって梨華ちゃん朝早いんだもん」
おいおいおい。
なんだなんだこの二人。
でもなんかこれだったら自然だ。
自然な流れだ。
言うなら今だよ今。
- 433 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:24
- 「これ、私が聞きたいんじゃないですよ、私じゃないんですけど」
「なに?」
「先輩たちなんですよ、無理矢理聞いてこいって」
「だからなによ」
「あの、石川さんたちはその、そういう関係なんですかっ?」
「そういう?」
「あの、だからいきつくとこまで…..」
さすがにそれ以上の言葉を面と向かって言うのは
はばかられて。
もごもごと口ごもった私に。
はぁん、そうかぁ、納得って顔をして吉澤さんがこっちを向いた。
「麻琴〜」
「な、なに?」
「エロ」
「なっ、エロって!!」
「信じられない、圭ちゃんたち。
今日なんか様子おかしいって思ってたんだぁ」
「え?気づいてたんですか?」
「なんかおかしいね、ってよっすぃと。」
「ふうん、で何を聞きたいの?」
「何をって。。。。だから。。。」
「やだもぅよっすぃ、変な事言わないで〜」
「別にアタシ何も言ってないし」
「だからっ!石川さんのナイスバディー、誰が作ったんですかって」
また吉澤さんの腕をとってイチャイチャしはじめた二人を遮るように叫んでしまった。
一応、中澤さんが、とつけたして。
石川さんはちょっと首をひねってちらっと吉澤さんを見て。
吉澤さんはさもおかしそうにふふって笑って。
そのまま二人から返事はない。
- 434 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:26
-
この間はどうしたらいい?
この二人にはもしかしたら伝わってないのかなぁと思いながら言葉を選んでいると。
「まったくもぅ。みんなそんなこと思ってたんだぁ」
「アタシ、って答えて欲しいのかな?」
「へぇ、そんなもんなんだぁ」
って二人で納得しあってるし。
「まあ、目とか口とかねぇ」
「口っ????」
口ってあんなことや、やっぱり……
思わず叫んだ私に、吉澤さんはあわてて手を振って。
「言葉言葉!!」
ああそっか。
びっくりしたああ。
え。言葉?
「褒めたら伸びる子だから、私。」
って石川さん。
ん??
「最近褒められて当たり前だって思ってない〜?」
なになに?
「だって〜」
くねくね。
って、どんな言葉プレイしてるんだ、この二人は。
- 435 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:26
- 「だって、いい体してるなあって思うでしょ?麻琴だって」
「そりゃあ」
吉澤さんみたいに骨格もかわいい、とまでは思わないけど。
女性の、男性の憧れる体、ではある。
よしざーさんはどうだと言わんばかりに満足げで。
「ええ、でも私はよっすぃの体、憧れるなあ。筋肉質で締まってて。
それでさらさらで真っ白いの〜」
「触るなっつうの」
「もう、くすぐったりなんだからぁ」
[ああバカ夫婦バカ夫婦]
もう一度頭の中でぐるぐるした。
- 436 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:27
- 「じゃあ、なんで今日起こしたの?」
「だって明日そのままじゃ寝癖大変だろうし、先にシャワー浴びたほうがいいかなって」
「とかいって〜。ただ単に私と話たかったんでしょ?ほんとに寂しがりなんだからあ」
「んなわけないじゃん」
「だって、起きてよ〜梨華ちゃんって」
「言うなっつうの」
おいおいまたか。
自覚はあるらしい。
ちょっとちょっと。石川さん。
「アイスでも買ってくる?」
「へっ?」
「まこと、暑そうだし」
えっ?
顔が火照ってるだけなんだろうけど、
優しい吉澤さんはいつものようにやっぱり誰にでも優しくて。
上着をとると素早くさりげない動作で出ていった。
「あ、よっすぃ、私ー」
「わかってるよ」
って、きっと石川さんが頼みそうなものくらい
いつだってあの人は把握してて。
ううん、なんかいいなあ、やっぱうらやましいぞ。
- 437 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:29
- 「いしかーさんずるい」
「なにが〜」
「だって」
こんなに大切にしてくれる人いないよね
実際。
しかもこういうことを言われて嬉しそうなんだ、いしかーさんは。
自慢げなんだいつも。
「愛だなぁ」
ぽつりと漏らすと。
「やだもぅ」
とかって、嬉しそうに。
「愛してるでしょ?」
「えぇえ、なにそれぇ」
って、くねくねするのはやめてくださいよ。
「好きだというのは認めるし〜」
きっとよっすぃ以上の人は現れないのはもうあきらめてるし〜」
って小さく残念そうなふりをして。
「付き合ってるように見えるのももういいかなあと思ってるし〜」
いや、世間ではこういうのを付き合ってるって言うんだよ。
てかこれ以外に恋人、って定義ないし。
きっといしかーさんにそんな自覚を持たせるのは
まだまだまだまだ時間がかかりそーだ。
石川さん真面目だし。
クソ真面目だし。
石川さんを長い目と海のような広い心で楽しめる人って
吉澤さんくらいだよ、ね、よしざーさん。
- 438 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:30
-
「あれ?もういいの?一緒にこの部屋で寝ないの?」
帰ってきた吉澤さんと入れ違いに立ち上がった。
ぶるぶるぶるぶるぶる
あわてて首を振った。
だって眠れるわけないし。
お姉様方に報告しなきゃだし。
もうこんな時間だから酔いつぶれて寝ちゃってるだろうけど。
そっかぁ、っていって吉澤さんは私をドアまで送ってくれる。
結局のところ、なんなんだ。
どういうことなんだ。
そういう結論でいいのか?
なんて報告すればいいんだ?
すがるように吉澤さんを見あげると、
吉澤さんはしょうがないなぁって表情をして。
「なんだよ〜」
聞きたい?
とでもいいうように。
思わず頷いた私に。
「ん〜、そこまでなってたとしたらもう今頃飽きちゃってるかもじゃん?
あたしみててさ、飽きてると思う?」
そう最後に吉澤さんは告げた。
そうなんだよ。
飽きてない。
きっとそれが答えなんだ。
ううむ。。。
深い。
深すぎて底が見えない。
なんだなんだ、この大事で大事で大事で大事でしょうがない、みたいな目は。
危ういのがドキドキする秘訣なのかな。
10年もたってるし。
けど、この人たちの中ではまだ10年しかたってないのかな。
- 439 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:32
- みんなによろしくね、ってひらひら手を振って
吉澤さんに見送られた。
ったく、この二人の歩みはきっと亀より遅いのだ。
いつか、そうか、いつかそーいう日がくるんだろうなぁ。
1年後、2年後、3年後??
その日がいつになるのかって賭けなら盛り上がるかな?
お姉様方にそんな提案してみようかなんて本気で考えてみる。
でも確実に進化してる。
10年前より。
5年前より。
半年前より。
二人はそーいう人たちなんだ。
ずっと歩く事をやめない、
そーいう先輩たちなんだ。
だからみんなこの二人がすっごく可愛くてたまらないんだ。
いつになっても笑いあって私たちは集っている。
何年後も何十年先もきっとこーやって楽しい飲み会が続いていく。
わたしもそんな仲間の一員なんだ、って考えるとなんだか誇らしい。
よしざーさんに持たされた、たくさんのアイスの入った白いコンビニの袋を抱えながら、
やっぱり笑顔があふれてくる。
了
- 440 名前:ワタシの長い夜 vol.2 投稿日:2011/11/06(日) 01:32
-
- 441 名前:咲太 投稿日:2011/11/06(日) 01:33
-
- 442 名前:咲太 投稿日:2011/11/06(日) 01:33
- 以上です。
お目汚し、大変失礼致しました。
- 443 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/06(日) 07:53
- ぁあ鼻血が鼻血が・・・と思ってたら最後ちょっと泣いてしましました
咲太さまはきっと現場を見てる、
いや咲太さまは中の人に違いない
- 444 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/06(日) 13:48
- すごく面白かったです
自分も最後ちょっとジーンとしました
二人の距離感のあらわし方とか他のメンバーの雰囲気とかすごく好きです
くだらない感想ですいません
素敵な小説をどうもありがとうございました
- 445 名前:名無飼育さん 投稿日:2011/11/07(月) 02:01
- そうですこんな感じです
素晴らしいいしよしをありがとうございました
- 446 名前:咲太 投稿日:2012/05/31(木) 00:54
- >>443 名無し飼育さま
ありがとうございます!
中で、覗いてみたいですよねw
泣いていただいて、こちらこそ泣きそうです。
>>444 名無し飼育さま
ありがとうございます。
距離感とかメンバーの雰囲気とか
とても大好きな部分なので、褒めていただいてすごくうれしいです。
>>445 名無し飼育さま
ありがとうございます。
こんな感じと背中を押していただけると、
次に書こうという何よりの励みになります。
- 447 名前:咲太 投稿日:2012/05/31(木) 00:58
- 現実が妄想をはるかに越えて
毎日どれをチェックしようか迷ってしまいます。
空想ディスコティークをエンドレスで聞いていて、
お二人のかけあいのメロディーからこぼれおちてきた駄文です
短編ですが、前編と後編にわけて。
お目汚しをお許しください。
- 448 名前:After Hours 投稿日:2012/05/31(木) 00:59
-
『After Hours』
- 449 名前:After Hours 投稿日:2012/05/31(木) 01:01
-
え?マジっすか?
見てたんですか?圭ちゃん?
すぐに姐さんとこに報告きたんだあ
わざわざ?
スマホでも見れるのに?
パソコンまで仕事先に持ち込んだって、圭ちゃんったら……
……いえいえ、先輩にヒマとかいえませんよ、あたしの口からは。
心配してくれてるのわかるし、ありがたいですけど。
はい、じゃあいただきます。
なかざーさんは?
ダイエット中なんですか?
じゃあ乾杯だけ。
あとは手酌で。
適当に頼んじゃっていいですか?
今夜大丈夫なんですか?
あっそっか、福岡かぁ
じゃあ寂しいですね。
- 450 名前:After 投稿日:2012/05/31(木) 01:02
- もうあれから毎回全部のインタビューで聞かれますよ、
姐さんのこと。
そのあとはお約束通りに圭ちゃんに。
じゃないとうちらが餌食になる?
ははっ、実はそーなんですけどね。
かわしますよ〜、うまく。
ありがとうございます
パソコンにダイレクトでみんなのコメントうつってたので、
ちょっとあせったりもしたんですけどね
そっか、顔に出てなかったならよかった。
けっこうどきっとするような発言多かったんですよ
プロって褒めてた?安倍さんも?
てか、安倍さんも見たの?
イエーイ!
へへっ、でしょ?
ちょっと最近可愛いでしょ?梨華ちゃん♪
機嫌いいかぁ奥さん孝行してるんでしょって?
まあねえ
まあ、わかりやすい人ですからねぇ
へっ?ルンバですか?
そうなんですよぉ、梨華ちゃん、
出すの面倒って。
あれフィルター吸い取らなきゃいけないじゃないですかあ、毎回。
だったら普通の掃除機とかわんないって全然使わなくって。
あたしがいるときだけですね、出動するの
- 451 名前:After 投稿日:2012/05/31(木) 01:04
- ああ、舞台のときはほんとにありがとうございます。
なんかやたらみんなから誘われることが多くって。
せっかく声かけていただいたのに行けなくてすみません。
メール多かったですよ、めっちゃ。
特に圭ちゃんなんかしつこいくらいに
ありがたいですね、みんな
心配してくれてたんだろーって。
決意と覚悟、っていうのかなぁ
梨華ちゃんの中にそーゆーのがみえて。
だから来ないでって言われる前から
行かないつもりでしたから。
見られたくない感覚、すっごくわかって。
普段の仕事とかは全然いいんですけど
いや、別に手を抜いてるとかそーゆーのじゃないですけど。
命張ってるみたいな覚悟まで持ってたから
これって決めたこの仕事に臨んで
すべてを賭けてる、みたいな。
だからすべての感覚をひとつに繋げて没頭したい
そんな感じだと思ったんです
「たぶんよっすぃ来たら甘くなっちゃうから」
梨華ちゃん、言葉足らずなんですけど
そんなことをね、ぽつってね、言ってたし
研ぎすました感覚が鈍るの、わかるよーな気がしたんです
- 452 名前:After 投稿日:2012/05/31(木) 01:06
-
ぱらぱら台本めくってたから
あらかたの内容は掴んでたし。
梨華ちゃんは恋をしてないといけないわけで
それも複数に時間をわけて。
それをあたしにみられるのがどーのとかいう焼きもちみたいな次元ではなくって。
隙もないくらいに、向き合わせなくちゃいけなくって
そういうのができるような器用なヒトではないからね、あのヒト。
集中力が甘くなっちゃう私がまだ未熟なのよね〜とかって
ボヤいてたけど。
ええ、そういう潔さは、うん。
あ〜たとえばなんですけどそんとき思ったんすけど
出産のときとかも。
私の戦場だからとかって梨華ちゃんは中には誰もいれなそーな気がしません?
わかります?
手を握ってて、とか中に入ってとかそういうのは一切なしみたいな。
え?飛躍しすぎ?
あ、すんません。
なんかねえ、甘そうでいて鉄人みたいな。
もっとねえ、頼って甘えてくれてもいいんですけどねえ?
え?甘えてる?十分?
そうかなぁ、もっとキャパありますけどね、
どんとこい、みたいな。
すみません、同じのもう一杯いいですか?
姐さんは?野菜系もうひとつ頼みましょうか?
- 453 名前:After 投稿日:2012/05/31(木) 01:07
- 自信と信頼?安心と実績?
ははっ、そうかも
長いですからね〜
もともと自由であんまり頓着ない性格だったんですけどね
梨華ちゃんのおかげでなんつうのかな
自分の中でここ狭いなぁって思ってたキャパが
ぐいぐい広まってったよーな気がするかも
受け入れるため?
そうなんですかね
だからどんとこい―――
そう、まあね
育ててもらってますよ、梨華ちゃんに
どや顔されちゃうから言わないけどね
おかげでガンガン成長しちゃってます!
- 454 名前:After 投稿日:2012/05/31(木) 01:08
- もし一生相手が見つからなかったら?
ほんとに紹介してくれます?
ありがとーごさいます。
梨華ちゃんにも伝えますよ。
見つからない可能性のほうが高そうですよね〜
え?あたしのせい、ですか?
甘過ぎ?過保護過ぎ?
だって可愛くないっすか?
あの目でねえ〜見られるとねえ〜
あ、そうだ!目はねえ大事ですよ
姐さん研究したほうがいいですよ!
目は口ほどにモノを言う、だっけ?
いやその目は怖いですって……威嚇しちゃだめですよ
もっと甘えるよーな?
そうそう見上げて
いや威嚇ですってそれじゃ……
- 455 名前:After 投稿日:2012/05/31(木) 01:09
- で、結婚生活はどうなんですかぁ♪
なんか変わったこととかあります?
ラブラブななかざーさんなんてちょっと想像もつかないですけど
旦那さんになら甘えられるんですかぁ
あんたらのほうが熟年夫婦みたいやなって?
そーですねえ。
そりゃあ会いたいし会えるのにこしたことはないけど、
別に一本電話くりゃあそれでぜんっぜん平気ですよ
ノープロブレム!
今日遅いよ〜、あっそう、みたいな。
え?電話は一応ね。
なんか毎日ね。
帰る場所っつうか、
物理的なものというより一仕事終えて帰ってくるとこが
ココロの家みたいなのがお互い、みたいなとこあって。
- 456 名前:After 投稿日:2012/05/31(木) 01:09
- え?夫婦円満の秘訣?
なんでそれをあたしに聞くんですか?
夫がО型で妻がA型がベスト?
って夫じゃないし!
まぁ、お互いの自由を許し合ってるってとこですかねぇ
そりゃあ一緒にやりたいことだってありますけど
基本相手に任せてるし。
一時はねぇ、むしょーになんか会いたいっつうか
夜中でも顔みたいとか
なんかどうしようもない、みたいな、ね
スケジュール全然別だし
そーゆー時期もあったんですけど。
え?あったんですよ、ナイショですけど。
梨華ちゃんなしでは生きられないかもとか思ったりしたような時期も。
よかったあ、ばれてなくって。
絶対隠さなきゃってヒヤヒヤしてたんですよ。
でもいまはどーでもいいとまではいかないけど、
梨華ちゃんなしでは生きていけないとゆーより、
梨華ちゃんのない人生のほうがまったく想像つかないから
想定自体がもうありえないというかあって当たり前みたいな?
空気?
ああ、うん、そうですね。
普段空気ってあること意識してないけど
ないと猛烈に困る、ってか
生きられない訳でそーゆーレベルかな。
姐さんにとっての旦那さんもそーでしょ?
え?まだそこまでは?
はいはい、ラブラブなんですね、
実は姐さん、一人で帰るの、寂しいんでしょ〜?
今日連絡つかないんですか?
そっかぁ……ハハッ
いや、笑ってないですって。
かわいいなって思って。
別に聞きたいことある?なんだろ……
わかりました、もっと飲みますって。
ん?遅いですよね、梨華ちゃん。
- 457 名前:After 投稿日:2012/05/31(木) 01:11
-
小姑だから基本いろんなとこ目についてイライラしてるとこあるけど
まぁそういうときにほとぼりがさめるまでほどよい距離んとこで見守ってるっていうか
まあ簡単にいえば離れてるっていうか。
今は離れてて欲しいんだろうなってのもわかるし、
そのうちよっすぃって声のトーンとか、
あと目かなぁ
そういうので今来てほしいんだなとか、そーゆーのはね
わかります。
だから円満の秘訣は距離かなぁとかいって。
いや、夫婦じゃないですけどね。
近づきたいときと離れてよーってときの
タイミングが絶妙に一緒なんですよ〜
夫婦だからっていっつも一緒にいたいわけじゃないじゃないですか?
あ、そうなの?
まだ一緒にいたい時期ですよね
うんうん、そーゆーのありましたよね
いや、偉そうじゃないですって!
それに夫婦じゃないし!
- 458 名前:After 投稿日:2012/05/31(木) 01:12
- 普段はもーね、四六時中プレゼント攻撃みたいなのは卒業してるんだけど
ちーっちゃいものとかでさ、目についたものとかでさ、
差し入れでもらったお菓子とかさ、
これ持って帰ったら梨華ちゃん喜ぶだろーなというのは
おさえてますしね
案の定喜んでしあわせそーにほおばってくれるんです
それ見てるのがなんか一番幸せかな〜って
めっちゃめちゃ可愛いじゃないですかぁ
あ、ひめちゃんね
犬なんて飼いだすと、行き遅れるから
姐さんみた…ってもういいですよね
そんなことで怒るような姐さんじゃないですよね
だから行く気なんてさらさらないと思いますよ〜
かまってもらえない?
まあねぇ、もうちょっと一段落したら、また、ね
焼きもちはねえ〜焼いてたり焼いてなかったりーーーまあいいんじゃないですか?
でも、見てみてこの手の傷!とかって
怒ったり笑ったり目尻を下げてる梨華ちゃんのほうが
よっぽど犬みたいっていうか。
なにがあってもキャンキャンっていってあたしのとこに戻ってきてくれますから
一定の距離を走りまわってはぁはぁいいながら
撫でて撫でてっみたいな?
本人には言えないけどねぇ
ペットがペット飼ってるみたいな。
え?向こうも思ってるって?
まあそうでしょうけどね
大型犬でしょうねあたしは。
- 459 名前:After Hours 投稿日:2012/05/31(木) 01:17
- ほんっとに可愛いですよね〜
思いません?
もうねぇ。見ててねえ、見飽きなくって
どうしてあんなに可愛いのかなって思っちゃいますよね〜
生まれ変わったら梨華ちゃんみたいな顔に生まれたいなあ
でもな、梨華ちゃんに生まれたら眺められなんないしな
やっぱ一番近くで見られるよーに生まれさせてくださいって
お願いしちゃおうかな
よくわからないけどたぶん前のときに
そう祈って生まれてきたよーな気がするんです
だから感性とかそーゆーのが真逆でも
魂の部分で同じというか
深いところで一緒だったりする――――
みたいないいこといってると ほら、やっぱり……
- 460 名前:After Hours 投稿日:2012/05/31(木) 01:18
-
『なぁに?ひーちゃんまた語ってるの〜?』
続く
- 461 名前:After Hours 投稿日:2012/05/31(木) 01:18
-
- 462 名前:After Hours 投稿日:2012/05/31(木) 01:18
-
- 463 名前:After Hours 投稿日:2012/05/31(木) 01:18
-
- 464 名前:咲太 投稿日:2012/05/31(木) 01:19
- 本日はここまでです。
お目汚し、大変失礼致しました。
- 465 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/05/31(木) 23:30
- 咲太さんだー!久々のご登場でテンション上がります!
姐さんとのこういうやり取りって最近ではすごく想像しやすいシチュエーションなのでめちゃリアルに感じます。
ここからどう展開していくのか…更新待ってます。
進むに連れて吉澤さんが饒舌になってく感じがいいですね。
- 466 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/01(金) 01:30
- ほのかにいしよし...やっぱり面白すぎる!何度読み返したことか...
次の更新楽しみに待ってます!
- 467 名前:咲太 投稿日:2012/06/01(金) 22:41
- >>465 名無し飼育様
うれしいお言葉、本当にありがとうございます。
最近のお二人の環境はものすごいですね!
妄想の余地がなくなってしまうという嬉しい悲鳴です
ご期待に沿える後半だとよいのですが……
>>466
本当にありがとうございます。
念に1〜2度しか更新できないスレなのに
読んでいただいていることに本当に感謝しています。
相変わらずの不定期更新ですが、
細く長く書いていけたらと思っております。
それでは後半を更新させていただきます。
- 468 名前:咲太 投稿日:2012/06/01(金) 22:41
-
- 469 名前:After Hours 〜Mashup〜 投稿日:2012/06/01(金) 22:43
-
『After Hours 〜Mashup〜』
- 470 名前:After Hours 〜Mashup〜 投稿日:2012/06/01(金) 22:46
-
「なぁに?ひーちゃんまた語ってるの〜?」
「遅いよ〜」
「ごめんごめん、長引いちゃって」
「座って座って!さ、飲もうよ」
「キャッ!?」
「何やってるんすか!?」
「脈!?」
「へっ?」
「あぁ、ヴィクトリアシークレットっていうんです」
「ああ……!」
「…………そうかなぁ、エロいですか?」
「もぅいいでしょ?手、放してくださいよー」
「もう少しねえ、つけたては苺みたいな香りなんですけど。
ありますよ、バックにいれてるから。つけます?」
「ダメダメ、これは姐さんには可愛すぎますから、ってイテっ」
「大丈夫?」
「ほら梨華ちゃんももう座って!こっちこっち、横」
「あ、でも香水……」
「いいのいいの!これは梨華ちゃんだけの香りだし」
「でもなんで急に姉さんが香水?」
「なんかねぇ、今日の姐さん、いいんだよ、かわいい」
「かわいい?」
「研究中なんですよね〜」
- 471 名前:After Hours 〜Mashup〜 投稿日:2012/06/01(金) 22:47
- 「あれ姉さん?何飲んでるんです?」
「ダイエット中なんだって」
「またぁ?」
「イテッ!なんでうちを……」
「……じゃあ私も、白ワインで」
「すいません〜!グラスもうひとつ〜」
「ひーちゃんは?まだこれでいいの?」
「ん〜とねぇ、どっしよっかなぁ、どれがいいと思う?」
「ん〜これあの店にあったじゃん、こっちは?」
「うん、じゃあこれで」
「酔ってないの?」
「まだまだ」
「ホント?ふふっ、いいよ、じゃぁ」
「よっしゃっ!じゃあ飲むぞ〜〜」
「今日は旦那さんいいんですか?」
「福岡なんだって」
「やっぱり〜!絶対暇つぶしに呼ばれてるだけだって―――」
「イテッ!だからなんでうちが!」
- 472 名前:After Hours 〜Mashup〜 投稿日:2012/06/01(金) 22:48
- 「秘訣?」
「そう、夫婦円満の。さっきから聞かれてたの」
「えええええええっ」
「そんな姐さん、恥ずかしがらなくっても」
「キャラじゃないとか思ってないですから」
「まさかこんな日がくるとはね?」
「いやいや、そんな低姿勢になられても困るし」
「で、なんかある?」
「ん〜、口に出して褒めること、かな。嬉しいですね」
「ああ、可愛いとかね」
「うんっ!!」
「梨華ちゃんはあんまり言ってくれないけどね」
「なんか恥ずかしいんだもん。姉さんも同じでしょ?」
「まぁ、言わないでしょうね。言ってたら気持ち悪っイテっ!」
「でもねえ〜言われていやな気持ちはしないからね〜」
「だよね?」
「うん、小さいことでもありがとーとか可愛いとか言われるとうれしーし」
「まぁ梨華ちゃんの場合は目とか表情で
簡単に読み取れますからねえ〜」
「簡単じゃないよお」
「簡単だよ、でも言ってくれたほうが嬉しいし」
「わかってるってばぁ」
「あと、ちょっとはかかあ天下のほうがいいかも」
「ええ〜それどーゆー意味?」
「中澤さんはちょっとじゃすまないかもしれないけイテッ」
- 473 名前:After Hours 〜Mashup〜 投稿日:2012/06/01(金) 22:49
- 「もぅ叩きすぎですよ〜、これ以上バカになったら――」
「梨華ちゃん!?」
「――みたいな?ね。なんかね〜、あたしのほーがわがままで
ぼうじんむじゃく?にふるまってたほうがいいよーな気がします」
「ぼうじんむじゃくだっけ?じゅうおうむじん?」
「もういいから。でも肝心のとこはねえ〜、ビシッと決めてくれるから〜」
「れいほうらいらく……」
「もういいってば!」
「まぁ、手綱はゆーるいほうがいいってことですよね」
「手綱?」
「乗りこなせるのはあたししかいない〜みたいな?」
「じゃじゃ馬ってことっ!?」
「ロデオダンシーング♪♪」
「――――これ以上は言わない方がいいって察する力とかね」
「ああそれあるある」
「私の場合後輩にでも言わなきゃよかったって思うとこいっぱいあるんだけど、
よっすぃにはなんとなく言わないですね〜」
「気を遣ってるわけではなくてね」
「うん、特に意識してるわけではないけど出てこないね」
「リスペクト?」
「まさかぁ」
「え゛?」
「うそうそ。尊敬はね」
「まぁね、あるね」
「うん。仕事に対する絶対的な姿勢とかぁ
そういうのはピタって一致してるからね?」
「真面目さとか相方としての信頼はなにがあっても崩れようがないので」
「私に足りないとこは絶対補ってくれるし〜」
「お互いにね」
「次にどうもっていきたいのか、わかってくれてるしわかるし」
「言わなくてもね」
「どうしたのぉ真面目に答えて」
「そっちこそ」
「なんかアンケートみたい……」
「ね」
- 474 名前:After Hours 〜Mashup〜 投稿日:2012/06/01(金) 22:50
- 「イライラすること……?」
「梨華ちゃんに?」
「イラッは……」
「ないですねぇ」
「いやテレビ用とかじゃなくて」
「本当に別にないんですよね。梨華ちゃんは?」
「ん?ないねぇ」
「やりそうなことは想像つくし、
実際やられるとほら来たみたいな感じで可愛いなって」
「よっすぃは許容範囲を超えちゃうというか想定外のことも
やってくれちゃったりもしますけど、そーゆーやんちゃなとこも」
「可愛い?」
「うんっ」
「やーりっ!!」
「ええっ?はいはい、飲みますよ?いただきます」
「じゃああたしも。え?飲まなくていい?」
「でも夫婦円満の秘訣とかカオリンとか聞ける人いっぱいいるでしょ〜?」
「みんなが?うちらに聞けって?」
「ふふっ、まぁねえ〜」
「参考になるかなあ」
「どうかなぁ」
「なんで手をあわされてんの?」
「やだぁ、キャハッ!」
「ご利益とかないし」
- 475 名前:After Hours 〜Mashup〜 投稿日:2012/06/01(金) 22:50
- 「ん?願望ねぇ……」
「願望……」
「……」
「梨華ちゃんなんかある?」
「長生きしてね、くらい?」
「それじゃ老夫婦だって!」
「圭ちゃんに、世界中の夫婦があんたたちみたいだったら
喧嘩とか離婚とかないのにねえ?って言われました」
「恋とか愛とかを超えた夫婦愛の域とかなんとか」
「圭ちゃんが愛を語るとかねっ」
「悔しいけど理想の夫婦だわって」
「足組みながら言われたよね」
「いや夫婦じゃないんだけどね」
「ワイドショー見て対策練らなきゃって思ったんですか?姐さんが?」
「なんかかわいいよね?こういう姐さん」
「あんまり酔ってないのにねえ」
「嬉しいね、見れるのってね」
「まぁ、批評する側でしたもんね?あの二人はすぐ別れそーやとか。
あ、でも大丈夫ですよ?不安にならなくても」
「姐さんを嫁にした時点で相当の覚悟ある―――――ハイ、いただきます。」
「定められた人ってきっといつかどんな形ででも
引き寄せされるんだと思いますよ?」
「うん、出会っちゃうんですよ」
「だから出会ったって時点で大丈夫!」
「そうあとは本人の努力しだい」
「はい、今の偉そうだったね。ひーちゃんもう一杯」
「はい……」
- 476 名前:After Hours 〜Mashup〜 投稿日:2012/06/01(金) 22:51
- 「あれ?姉さん新婚旅行まだでしたよね〜?」
「ああ、まだなんだぁ。あれはちょっと危険、だね」
「うん、だね」
「初海外でしょ?」
「せっかく旅行に来てるんだからって出かけようとしてるのに
時差ボケだからって寝てられるとね」
「ん、イライラしたりね」
「せっかくの休みだからゆっくり寝てようとかって言われるとね」
「ゴロゴロは家でもできるやろ!ってキレたりね」
「買い物の途中でせかされたりつまんなそーな顔されてると」
「やっぱ一緒に来なきゃよかったと思ったり」
「寒いのに冷房つけられたりとかね」
「だったら脱げやって思ったりね」
「観光の趣味も全然あわなかったり」
「食べたいものがあわなかったり」
「そのうち来なきゃよかったってなって」
「早く帰りたいなとか、一瞬も同じ空気吸いたくないとか」
「「ね〜!!」」
「「イタいっ」」
「もぅ、殴るならひーちゃんだけにしてくださいよ〜」
「梨華ちゃん!?」
「はぁいっ!じゃあ飲みますっ!」
「へっ?」
「いくよっ?」
「えっ?」
「遅いよひーちゃん」
「たく……」
「もう、こんな人ですみません」
「梨華ちゃんもじゃん。姐さんからかおうなんて100年早いですよね」
「いや、でも先にわかっとけば絶対大丈夫だよ〜」
「うん、そうだね。先にね」
「え?私たち?」
「うちらは……ないよね。なかったよね」
「うん」
「だからそういう稀な例もあることだし」
「いや別にのろけてるわけじゃ」
「……あたし飲んどきます?」
「じゃあひーちゃんが代表して」
「――――ふぅっ」
- 477 名前:After Hours 〜Mashup〜 投稿日:2012/06/01(金) 22:52
- 「気をつけてればいいんですよ。大事なのは距離で」
「あっ」
「何?」
「さっき同じこといった」
「距離?」
「そう」
「うふっ、そうなんだぁ」
「あ、物理的な距離もありますけどね」
「ああ、こういう?」
「梨華ちゃん近いってぇ」
「えへっ」
「まあひとついえることは」
「何?」
「あたしの前にいるときの梨華ちゃんが一番可愛――――」
「エエっ?今ので私飲むんですか?
………ひーちゃん飲んで」
「ほいっ」
「やっぱ私も〜」
「ちょ、ねえペース早くない?」
「どーして〜?」
「いつもあたしが酔ってからなのに……」
「ん?連れて帰ってくれないの?」
「そりゃあ帰るけど」
- 478 名前:After Hours 〜Mashup〜 投稿日:2012/06/01(金) 22:55
-
「やだぁ理想の夫婦だなんて」
「って姐さんっ!!」
「だよねえ、私たちねえ〜」
「夫婦じゃないし」
「まぁいつかはね〜考えなくもないけど」
「あ、紹介してくれるって、姐さんが」
「ほんと?そのときはお願いしま〜す♪」
「どっちだよ……」
「相手に過度な期待とかしませんから〜」
「まぁ梨華ちゃんの場合けっこう難しーーーー」
「もぅひーちゃんは黙ってて!」
「ったくもぅっ」
「でも一度くらいはね〜、ドレス着たいし」
「一度くらいとか思ってる間はできないだろーけど」
「着せてよっ」
「うちが?」
「ダメなの?」
「……着せるけど」
- 479 名前:After Hours 〜Mashup〜 投稿日:2012/06/01(金) 22:56
-
「まぁ、今の私はひーちゃんが隣にいてくれてそれで培われたもので」
「えっ?」
「でしょ?」
「あ、体?」
「もうっ!まじめに話してるのに茶化さないでぇっ」
「―――なんか恥ずかしー」
「もしひーちゃんがいなかったら〜」
「語りだしてるし……」
「今の私とは全然違う人間になったんだろうなぁって。
それで〜、私は今の私が大好きだから、だから隣にいるのはひーちゃんじゃなきゃダメなのぉ」
「ちょ、腕からめ――――」
「やなの?」
「やじゃないけど……」
「なによ〜」
「……酔ってる?」
「だってもっと甘えてほしいんでしょ?どんとこいっ♪」
「え?ちょっと姐さ―――」
「メールもらったし〜♪」
「中澤さんっ!!!」
「だからぁ、どんな相手でもね〜こんなふうにはねぇ………んふっ」
「うぉ、近いって」
「見つめられないし〜」
「ちょっ」
「だってぇ…恋人のようにドキドキさせてもらえるし
夫婦のような信頼もあるし〜」
「……」
「両方一緒にくれる人なんてそーはいないからぁ……」
「梨華ちゃん……」
「もぅ……」
- 480 名前:After Hours 〜Mashup〜 投稿日:2012/06/01(金) 22:57
-
『っるっさいわ!!はよ飲み干して帰れっ!バカ夫婦!』
了
- 481 名前:After Hours 〜Mashup〜 投稿日:2012/06/01(金) 22:57
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- 482 名前:咲太 投稿日:2012/06/01(金) 22:58
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- 483 名前:咲太 投稿日:2012/06/01(金) 22:58
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- 484 名前:咲太 投稿日:2012/06/01(金) 22:58
- お目汚し、大変失礼致しました。
- 485 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/02(土) 00:25
- 面白い!最高!なぜかこっちまで酔っぱらってきました。いしよしに乾杯!
- 486 名前:名無飼育さん 投稿日:2012/06/03(日) 22:42
- ああ、暑苦しいw
ああ、甘くて胸焼けがするw
これほどまでのバカップルの描写にはあまりお目にかかれませんw
姐さんじゃないけどはよ帰れって言いたくなるわなw
ほんと、実際のいしよしにもアルコール多めに注入して観察してみたいもんですw
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