コンラブ☆クエスト
- 1 名前:弦崎あるい 投稿日:2007/02/04(日) 17:15
- 前にちょこちょこスレを立ててました、弦崎あるいです
出てくるのは亀垣+れいなでCP色全開の話になります
それ以外のメンバーは出てくる予定はありません
イメージとしては少コミ系の恋愛物を目指してるので、暇潰しに
軽く読んでくれると嬉しいです
ただ更新はかなり遅いと思うので期待しないでください
- 2 名前:第一章 物語の始まり 投稿日:2007/02/04(日) 17:17
- 季節の変わり目といえば・・・・
風邪をひきやすくなったりお肌が荒れたりあとはたまに出会いと別れがあったりもするけど、
やっぱり定説なのがあれの増加だと思う。
- 3 名前:第一章 物語の始まり 投稿日:2007/02/04(日) 17:21
- ピンポーンと甲高い機械音がリビングに鳴り響き台所で夕飯の準備をしていた私は
その音を聞いて作業を中断した。
「えっ?もうっ誰?・・・・せっかくいいところだったのに!」
私は軽く溜め息を吐き出すと今から茹でようとしていたパスタをまな板の上に置くと、
軽く手を拭いてからちゃんと火を消して玄関に向かった。
ドアの外に立っているのはどうせ宅急便の類か運が悪ければ怪しい勧誘だと思う。
でもそうだと分かっていても私はチャイムを無視することができなかった。
そしてまだ大して時間は経っていないはずなのに痺れを切らしたのか催促するように
もう一度チャイムが鳴った。
「はいはい、今開けますから!」
短気な人だなと心の中で悪態をつきながら私は急いで玄関に向かうと
ドアノブ越しにとりあえず声を掛ける。
今思えばすぐ開けずにドア穴から姿を確認するとかチェーンでもしておくべきだった。
でもそのときの私は急かされていたのもあって何の警戒もせずにドアを開けた。
外に立っていたのは宅急便のお兄さんでも怪しいおばさんでもなくて全く見覚えがない
1人の女子高校生だった。
キャメル色のブレザーの中は白のワイシャツで赤と紺のストライプのネクタイをしている、
下は淡い灰色と檸檬色の組み合わせが上品な感じの目が大きいチェック柄のスカート。
そしてまず目につくのが胸に届きそうな艶のある綺麗な黒髪と袖口から覗く少しだけ褐色の肌。
制服はどこかで見たことがあるような気がするけど女の子には全く見覚えがない。
少し切れ長の瞳は気落ちしたように伏せられて顔もやや俯き気味のせいかどこか気弱で
大人しそうな印象を受ける。
でもちょっと薄幸そうな感じはするけれど美少女という言葉が当て嵌まるくらい
その顔立ちは結構整っていた。
こんな顔の子なら簡単に忘れないと思うけどやっぱり誰だか思い出せない。
- 4 名前:第一章 物語の始まり 投稿日:2007/02/04(日) 17:24
- 私は少し戸惑いながらもとりあえず当たり障りのない質問をして聞きだすことにした。
「あ、あの・・・・どちら様でしたっけ?」
これで名前でも言ってくれれば何か見当がつくかもしれないと思った。
すると女の子はまるでその言葉を待ってましたとばかりに勢い良く顔を上げると、
「あっ、どうも変態です。貴女の心を奪いにきました!」
と片手を軽く上げて意外に人懐っこい笑みを浮かべながら突拍子もないことを言ってくる。
私はそれに返す言葉を失いただその場に呆然と立ちつくすしかなかった。
それからしばらくしてようやく我に返ると季節の変わり目だから変質者が増えるよねと
納得しながら何度も頷いた。
そしてとりあえず警察に電話しようと思い玄関近くにある電話の受話器に手を伸ばす。
でもその様子を見た女の子は血相を変えて急に慌てだした。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ!冗談ですよ、イッツジョークってやつです!
それよりれいな来てませんか?」
と受話器を取って番号を押そうとする私の手を制してから女の子は安堵の溜め息を
漏らすと苦笑しながら言い訳めいたことを言ってくる。
正直信用できなかったけど幼馴染の名前が出たので受話器から手を離した。
- 5 名前:第一章 物語の始まり 投稿日:2007/02/04(日) 17:25
- 「本当にれいなのこと知ってるんですか?」
私はまだ警戒しているので少し距離を取って訝しみながら幼馴染との関係を問いただす。
「知ってますよぉ、れいなとは親友ですから。それで家に遊びに行ったらおばさんが
帰ってきてないからこっちじゃないかって言われたから来たんです。」
頭を掻きながら能天気に笑っている姿を見ていると第一印象に感じた薄幸さなんて
微塵も感じなかった。
とりあえず今分かったのは彼女は友達のれいな目当てでこの家に来たらしい
ということと、タチの悪すぎる冗談で人をからかう悪趣味な人ということだけだ。
私は事情が分かって安心したせいか気が抜けて少し脱力してしまう。
「れいななら来てないのでどうかお引取り・・・・・。」
そしてあまり関わっていたくない人種だったので丁重に追い返そうとしたときだった。
- 6 名前:第一章 物語の始まり 投稿日:2007/02/04(日) 17:26
- 「絵里?なんでこんなとこにおると?」
噂をすればってやつなのか偶然家の前を通りかかったれいなが突然声を掛けてきた。
「あっ、れいな!もうっ、家にいないから・・・・・えっと、お名前なんでしたっけ?」
「新垣です。新垣里沙。」
女の子がれいなに事情を説明しようとしたけれど私の名前を知らないので言葉に詰まり
気まずそうに笑いながらこちらに助けを求めてくる。
初めは無視しようかと思ったけどそれも大人気ないのでちゃんと教えてあげた。
「フルネームですいません。私は亀井絵里っていいます、学年はれいなより一つ上の
高校2年生です。よろしくお願いしますね、新垣さん。」
私に釣られたかのように女の子も自己紹介すると最後に軽く頭を下げてから柔らかく笑う。
第一印象は見当違いだったけど美少女というのは間違いなかった。
- 7 名前:第一章 物語の始まり 投稿日:2007/02/04(日) 17:28
- 「二人の世界に入られても困るっちゃけど?」
突然横から不満そうな声が聞こえてきたので顔を向けるとれいなが露骨に不機嫌そうな
顔をして腕組みをしながら私達を見つめている。
「あはっ、無視しちゃってごめんね。えっと、なんでここにいるかだっけ?
だかられいなの家に行ったらいないからおばさんに新垣さんの家を紹介されたんだよ。」
と亀井さんは笑いながら軽い調子で謝ると改めて簡単に事情を説明する。
するとれいなは顎を手で撫でながら目を細めるとなぜか意味深な視線で
亀井さんを眺める。
「ねぇ、ガキさん。今日はこっちで夕食食べてもよかと?」
でも急に私の傍に寄ってくると腕を掴んで無邪気に笑いながら夕飯をねだってきた。
それはたまにあることなので私は戸惑うことなく大きく頷いて快諾する。
「別にいいよ、ちょうど今から作ろうと思ってたところだし。」
でもそう言いながらサラダが一人前しかないので何か作らなきゃと考えていた。
「そんじゃお邪魔しまーす!」
れいなは高らかに宣言するようにそう言うと鼻歌を歌いながら家の中に入っていく。
私もその後に続いてドアノブを掴みながら中に戻った。
- 8 名前:第一章 物語の始まり 投稿日:2007/02/04(日) 17:29
- 「ねぇ、今日の夕飯は?」
れいなはリビングに着くなりいつもの定位置に座ってテーブルに突っ伏したまま
幼い子どものように今日の献立を聞いてくる。
それはいつものことだから別に大して気にしていない、問題なのは隣にいる人物だった。
「へぇー、間取りはれいなのところと大して変わらないんですね。」
となぜか亀井さんが抜け目なくれいなの横に座っていて物珍しそうに辺りを見回している。
「なんであなたまでいるんですか?っていうか招待した覚えはないんですけど。」
私は額に眉を寄せると呼んでもいない不法侵入者を軽く睨みながら少し強い言葉で抗議する。
「ヤダなぁ、私達はもう友達なんですからあなたなんて他人行儀な呼び方
しないでくださいよぉ。」
でも亀井さんは質問には答えず穏やかに笑いながら都合の良いことを言ってくる。
そういう軽い感じの言動がどうも好きになれなかった、というか初対面で変態うんぬん
って言葉を聞いたときから高感度は底辺をえぐってマイナスだった。
- 9 名前:第一章 物語の始まり 投稿日:2007/02/04(日) 17:31
- 「亀井さんと友達になったつもりないですから。」
「えー!そうなんですか?うーん・・・・それは残念ですねぇ。」
言葉とは裏腹に亀井さんは顔も声も明るくて私は呆れて言い返す気も失せたので
何も言わずに背を向けて夕飯の準備をする。
「嫌われちゃいましたかね?」
と少し経ってから寂しそうな亀井さんの声が後ろから聞こえてきた。
でも今振り返ったらその顔は絶対笑っていると思う。
そう分かっていたのに私はなぜか少しだけ後ろに振り向いてしまった、すると案の定
亀井さんは優しく目を細めて微笑みながらこちらを見つめていた。
私は慌てて顔を正面に戻してからこの亀井絵里という人とは絶対に関わりたくない
最悪の人種に認定した。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/04(日) 17:32
-
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/04(日) 17:32
-
- 12 名前:弦崎あるい 投稿日:2007/02/04(日) 17:33
-
まぁ初回はこんな感じ
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/05(月) 23:52
- 弦崎さんだ!
前の作品も読んでレスもしていました!
また書かれるんですねー。最初から気になります。
続きお待ちしております〜。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/06(火) 02:31
- いい!いいですね!
絵里変態でいいじゃないですか!!
ガキさんも素敵(笑)♪
れいなも可愛い〜^^
- 15 名前:弦崎あるい 投稿日:2007/02/20(火) 15:32
- レス返し
>13さん 早速レスありがとうございます
前の作品は結局放置してしまったので今回は完結できることが
自分の中では一つの目標です
更新は遅いと思いますが気長にお待ちください
>14さん 気に入ってくれたようで何よりです
亀井さんの変態ぶりはこんなものではないのでこれからもっと
エスカレートしていく予定です
あとれいなが可愛いと言って結構嬉しかったりします
- 16 名前:第一章 物語の始まり 投稿日:2007/02/20(火) 15:38
- 「あっ、すいません!ちょっと家に電話してきてもいいですか?少し遅くなるって
言わないと心配すると思うんですよぉ。」
「・・・・どうぞ、ご勝手に。」
亀井さんは突然言ってきたことは特に私の許可が必要なことじゃなから
無視しようかと思ったけれどさすがに失礼だなと思ったので、体を向けずに
軽く溜め息をついてから興味なさそうな口調で一応了承した。
「いやぁ、すいません。」
と亀井さんは申し訳なさそうな声で謝ったけどきっとその顔はまた笑っているような気がした。
顔を向けてないから本当はどうなのか分からないのけど、でも変な確信があって私は軽く頭を掻くと
小さく溜め息を吐き出した。
それから居間のドアが開閉する音が聞こえてきたのでどうやら携帯を持って廊下に
出て行ったらしい。
- 17 名前:第一章 物語の始まり 投稿日:2007/02/20(火) 15:43
- 私は小さく鼻を鳴らすと料理を作るのを一時中断させてゆっくりと体を反転させる。
「れいな・・・・もう少し友達はちゃんと選んだ方がいいよ?」
と額に眉を寄せると少し声を潜めながらテーブルに頭を伏せている幼馴染に忠告した。
「まぁ、そう思う気持ちは分からなくもないよ。」
れいなは顔を上げないまま微かに笑ったのか肩が少しだけ上下する、そして意外にも
あっさりと私の意見に同意してくれた。
でもそれから面倒くさそうに体を起こし伸びをしてから私をまっすぐ見つめると、
「でも・・・・絵里はそんな悪い奴じゃなかよ?」
何の根拠があるのか知らないがれいなは妙に自信ありげに言い切ると歯を見せて笑った。
私はどうしてそこまで言えるのか全く理解できなくて反論しようと口を開いたとき、
まるで見計らったかのように亀井さんが戻ってきた。
「お待たせしました。」
相変わらずその顔には笑みが浮んでいていやに弾んだ声でれいなの隣に座る。
「別に待ってません!」
私は本人を目の間にして聞く気もないので釈然としない気持ちを抱えたまま八つ当たりで
冷たい口調で言い返した。
そしてすぐに台所のほうに向き直ると止っていた夕飯の準備を再開させた。
- 18 名前:第一章 物語の始まり 投稿日:2007/02/20(火) 15:55
- それから少し経つとテーブルの上にはお湯を注いだだけのコンスープと白身魚を
軽くソテーして買ってあったサラダと絡めたおかず、そしてスパゲティーミートソースが
湯気を立てて3人前並んでいる。
「んじゃ、いただきまーす!」
とれいなは既にフォークを手に装備していて目を輝かしながら嬉しそうに叫ぶと
すぐさま料理に手をつける。
「それでは・・・・頂きます。」
一方亀井さんはというとちゃんと手を合わせて軽くお辞儀してからスープを口にする。
向かいに座っている正反対の二人を見て私は今更ながらあることに気がついた。
「ねぇ、もしかして2人って同じ学校だったりする?」
よく見るとワイシャツと上に着ているものは違うけどブレザーとスカートに関しては
色も全く同じものだった。
脱いで椅子に掛けられたブレザーは二人ともキャメル色でスカートは灰色と檸檬色のチェック柄。
でもれいなはネイビーのVベストなのに亀井さんは淡い水色のカーディガンを着ている。
そしてその下にれいなは水色のYシャツで亀井さんは普通によくある白シャツという
格好だった。
あと亀井さんは首に赤いネクタイをしているのにれいなは紫と白のストライプが目立つ
派手なリボンを緩めにつけている。
私はいつも着崩して着ているれいなの制服姿しか見たことなかったので、多分正装だと
思われる亀井さんの格好を見ても同じ学校だとすぐに気がつかなかった。
- 19 名前:第一章 物語の始まり 投稿日:2007/02/20(火) 15:58
- れいなは余程お腹が空いていたのかあらかた食べ終えて既に一息ついていた。
「今頃同じだって気づいたと?ガキさん遅っそー。」
そして顎を掻きながら呆れたように顔を顰めると溜め息混じりの口調で言った。
ちなみにこれも今更だけどれいなが訛っているのは9才まで福岡に住んでいたからで、
こっちに来てからもう7年が経つけど未だに抜けていない。
「そんなこと言ったって・・・・・2人ともブレザーとスカート以外
全く違うんだから分かるわけないでしょうが!」
私は事実を言われたので言葉に詰まったけど何も言えないのも癪なので何とか
上手い具合に言い返した。
「れいなの代で制服の様式が変わったんですよ、何種類かある中から自由に選んで
組み合わせて着れるようになったんです。だから私も含めて昔の制服のままの2、3年生は
みんな羨ましがってましたねぇ。」
と亀井さんが見兼ねたのか私達の会話に割って入ると詳しいことを説明してくれた。
- 20 名前:第一章 物語の始まり 投稿日:2007/02/20(火) 16:00
- その話を聞いて私は相変わらず噂に反さない羽振りの良さだなと思い苦笑いしてしまう。
「さすがはビーナス・・・・いや、神美女子(しんびじょし)だね。」
私は呆気に取られてつい言い慣れた愛称で呼びそうになったけれど失礼かなと思って
すぐに言い直した。
2人の通っている私立学校の正式名称は清・神美女子学院といって全国でも
屈指のお嬢様学校として知られている。
政治家や著名人の娘などが毎年多く入学することでも有名で入学式には毎年
多くの報道陣が詰め掛けるという学校だった。
私立なのでかなりやりたい放題だという話題はよく聞くし、顔で採ってるんじゃないか
と思われるくらい可愛い女の子が多いという話もよく聞く。
私も含めて周りにある普通の都立高校の生徒は憧れと畏怖の念と半分以上の皮肉を込めて
「ビーナス」と呼ぶのが定番だった。
ちなみにその名前の由来は神美=美の女神=ビーナスだと、本当かどうか分からないけど
学校の先輩がそう教えてくれた。
- 21 名前:弦崎あるい 投稿日:2007/02/20(火) 16:01
-
- 22 名前:弦崎あるい 投稿日:2007/02/20(火) 16:01
-
- 23 名前:弦崎あるい 投稿日:2007/02/20(火) 16:02
-
更新終了
- 24 名前:第一章 物語の始まり 投稿日:2007/03/22(木) 12:13
- れいなはとっくに食べ終えて居間にあるソファーに寝転がりながら1人でテレビを
見ながら時折大笑いしている。
私と亀井さんは普通のペースで食べていたのでようやく完食して一息ついていた。
「何か飲みます?といってもコーヒーしかないんですけど。」
と2人分作るのは大して手間かかることではないのでついでに亀井さんにも聞いてみた。
「えっ?えっ?絵里に聞いてるんですか?」
亀井さんは驚いた声を上げてから自分を指差すと戸惑った顔をして私を見つめる。
「他に誰かいます?」
「あはは、そうですよねぇ。いやぁ、何かもう2人は友達って感じですね。」
私は少し呆れたような口調で冷静に答えると亀井さんは勝手に1人で勘違いして
緩みきった笑みを浮かべている。
それがあまりにニヤついていて気持ち悪かったから正直少し引いた。
だから言葉を返す気にもなれなくて無視して台所の横にある食器棚からコーヒーの粉と
マグカップを3つ取り出す。
でも冷蔵庫から牛乳を取ってきてもまだ気持ち悪い笑顔のままだったので、
「亀井さんと友達になる気ないですから。」
と深い溜め息を吐き出してから変な勘違いをされ続けるのは迷惑なので一応釘を刺しておく。
すると亀井さんが急に瞳を潤ませてこちらを見てきたけど気にも止めずに平然とカップに
コーヒーの粉を適当に入れていく。
- 25 名前:第一章 物語の始まり 投稿日:2007/03/22(木) 12:19
- 「れいなは牛乳多めでいいんでしょ?」
「うん。」
いつものことだから分かっているけど念のため聞くとれいなは相変わらずテレビから目を離さないまま
適当に生返事で返す。
予想通りの答えだったので少なめにコーヒーを入れておいたカップの4分目くらいまでお湯を注ぎ
あとは牛乳を入れて軽くかき混ぜる。
まるでお母さんみたいだなと思って1人苦笑いを浮かべると自分のマイカップにも
牛乳を少しだけ入れてから手を止めた。
「亀井さんはどうします?」
無視しても良かったけど少し可哀想になってきたので頭を垂れて落ち込んでいる変態にも
一応聞いてあげた。
「聞いてくれたのは嬉しいんですけど・・・ブラックで飲むので大丈夫です。」
顔を上げるとその顔は嬉しそうに微笑んでいたけどすぐに気まずそうな表情に変わり
やんわりとした口調で断られた。
でもその格好つけたみたいな感じがまた少し癇に障ったけれど口から出そうになる
言葉を飲み込んで、何も言わずに少なめに入れてあったカップにコーヒーの粉を足した。
そしてお湯を8分目くらい入れてよくかき混ぜる。
「れいなのテーブルに置いておくからね!あとこれが亀井さんの分ですから。」
未だにテレビから目を離さない様子だからきっと私の言葉はれいなの耳に入っていないのは
予想できたけど、それでも一言告げてからようやく自分も椅子に座ってゆっくり寛ぐことができた。
- 26 名前:第一章 物語の始まり 投稿日:2007/03/22(木) 12:23
- そしてコーヒーを差し出すとそれを両手で受け取って亀井さんは穏やかに微笑む。
「ありがとうございます。」
それからお礼を言うと本当に砂糖もミルクも入れずにブラックのまま普通に口にする、
でも別に顔を顰めたりはせずに平然とそれを飲んでいた。
私も自分のものを飲んだけどいつも入れている砂糖を入れなかったのでいつもより苦く感じた。
それでも何も入れてない亀井さんの手前少し意地を張って無理してコーヒーを飲んだ。
それからふと気がつくと亀井さんはコーヒーを飲むのを止めて頬杖をつきながら
私のほうを見つめていたので声を掛けた。
「なっ、なんですか?何か顔についてます?」
「いやぁ〜、何かこういうのっていいなぁっと思って。」
「何かって何ですか?」
「えっ?いや具体的には言えないんですけど・・・・なんていうかこの生温くて
温かい感じの雰囲気ですかねぇ。」
亀井さんの言っていることは意味不明で私はそれ以上追及しても無駄だと悟ったので
何も言わなかった。
でもこの雰囲気が良いか悪いかは置いといて、れいな以外の人とこの家でこんな風に
向かい合ってしゃべるのは随分と久しぶりだということに気がついた。
- 27 名前:第一章 物語の始まり 投稿日:2007/03/22(木) 12:25
- 「それじゃそろそろ帰ります。いくら連絡したとはいってもあんまり遅くなると
余計な心配かけちゃいますから。」
亀井さんは部屋の壁掛け時計を横目で見て苦笑いするとコーヒーを一気に飲み干してから
立ち上がった。
「えっ?あぁ、そうですか。」
私はコーヒーなんて残せばいいのにと思いながら引き止める気は全くないので
適当に頷きながら答えた。
そして亀井さんはブレザーを着て鞄を持ち居間から出ようとドアノブに手をかけたところで、
何を思ったのか急に私の方に振り返る。
「見送りとかしてないんですかぁ?」
と気持ち悪いくらい弱々しい声でそう言うとなぜか瞳を潤ませて懇願してくる。
それを見て私は顔を露骨に顰めると素っ頓狂な声を上げた。
「はぁ?」
はっきり言ってそんな面倒なことを招いたわけでもない不法侵入者にしたくはなかった。
- 28 名前:第一章 物語の始まり 投稿日:2007/03/22(木) 12:31
- でもれいなの友達だから冷たくもできず腰を上げると私は居間の出入り口に向かって
渋々歩き出す。
「見送りくらいならしてもいいですよ、亀井さんも一応お客様ですから。」
「ありがとうございます!!」
すると亀井さんはさっきの表情とは打って変わって満面の笑みでお礼を言うと
飛んでいきそうなくらい軽い足取りで家の玄関へ向かって行く。
どうせ聞いてないだろうけどれいなに一声掛けてから後を追うように玄関を出ると、
すっかり辺りは暗くなっていた。
私の家は住宅街が密集するところから少し外れているため人気はまばらだった。
でもまだ夕飯時のためか時々どこからかテレビなのか家族の声なのか分からないけど
楽しげな談笑が風に流れて耳に入ってくる。
亀井さんは軽く背筋を正してから少し深く頭を下げて丁寧にお礼の言葉を言った。
「今日は夕飯まで頂いてしまって本当にありがとうございました。えっと、その・・・・
また来てもいいですか?」
そして頬を掻いて少し言い兼ねた様子でこちらの顔色を伺いながら聞いてくる。
「えっ・・・・まぁ、別にいいですけど。」
「そんな嫌な顔しないでくださいよぉ。う〜んと、じゃぁ・・・来るときは
絶対にれいなと一緒のときにします。」
正直もう来てほしくないと思ったのが余程顔に出ていたのか亀井さんは少し困った顔しながら
私に気を遣って条件を提案した。
そうやって一見物腰柔らかそうにしていながらどこか私を下に見ているような感じが
どうも気に食わなかった。
- 29 名前:第一章 物語の始まり 投稿日:2007/03/22(木) 12:33
- 「気を遣わなくても結構です!好きなときに勝手にくればいいじゃないですか!」
私はまたつまらない意地を張ってつい自分の気持ちと正反対のことを口走ってしまった。
でもその言葉を聞いた途端、亀井さんはとても自然に口元を緩めると今までで一番
嬉しそうに笑った。
「それじゃお言葉に甘えて近いうちにまた来ます。」
そう言って目を細めて柔らかい表情をすると軽く一礼してからゆっくりと私に背を向ける。
けれど不意に何か思い立ったようにすぐ体を反転させてこちらに向き直ると、
「あぁ〜、すっかり忘れてました。」
と呑気な口調でそう言うとわざとらしく手を叩きながら私の方に近づいてくる。
それから少し屈んで目の高さを合わせると人懐っこい笑みを浮かべてから
額に触れるだけのキスをした。
「なっ!」
私は全く予想していなかった事態にその場で硬直してしまった。
「おやすみなさいのキスです。」
と亀井さんは特に悪びれた様子もなく相変わらず笑みを浮かべたまま平然とそう言った。
- 30 名前:第一章 物語の始まり 投稿日:2007/03/22(木) 12:37
- 「えっ?ちょ、ちょっと!ウソ!ウソ!?な、何してるんですかあなたは!いや、えっと、
ここは日本ですから。寝る前にキスとかしないんですけど・・・って分かりますよね?」
あまりにも非常識なことをしてきたので私は混乱してしまいなぜか真面目な顔をして
説教をしてしまった。
「そんなの分かってますよぉ。それより今日初めて会ったとき玄関で私が言ったこと
覚えてないんですかぁ?」
と亀井さんは説教を軽く受け流してから不満そうに唇を尖らせて文句を言ってくる。
私はその言葉に少しの間考え込んでから思い出した印象深い言葉を口にした。
「えっ?まぁ、確かに変態だとは言ってましたけど・・・・。」
「違いますって!」
口元を手で覆ってから訝しげな顔で亀井さんを見つめると少し怒りを含んだ口調で
即行否定された。
というか私としてはその答えは十分正解のような気がする。
すると亀井さんは少し疲れたような溜め息を吐き出すと項垂れながら口を開く。
「だから言ったじゃないですかぁ。」
そして不貞腐れたような顔をしながら上目遣いで私を見つめたけれど、すぐに視線を
地面に向けて頭を掻きながらまた小さく息を吐く。
でも少しして亀井さんはゆっくりと顔を上げると予想していたあのアホみたいな
笑みはどこかに消え失せていた。
- 31 名前:第一章 物語の始まり 投稿日:2007/03/22(木) 12:38
- 「言いましたよね?貴女の心を奪いに来ましたって。」
亀井さんは急に真剣な顔になり凛とした瞳で私を見つめるとはっきりとした口調で言った。
その目と視線が合ったとき一瞬私の胸が大きく高鳴ったけれど、今のは絶対に間違いだって
自分に言い聞かせた。
そして言葉を失って唖然としていると亀井さんは見慣れた能天気な笑みを浮かべる。
「とりあえずまた近いうちに来ますから。」
と軽く手を上げて嬉しそうに言うと何事もなかったかのように背を向けて歩き出す。
私は少し経ってようやく我に返ると電灯に照らされたその後姿に向かって、
「もう二度と来るなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
と近所迷惑なのは分かっていたけど心の底から大きな声で叫んだ。
そして今までの平凡で平穏で平和な日常が音を立てて崩れていく予感がした。
- 32 名前:弦崎あるい 投稿日:2007/03/22(木) 12:39
-
- 33 名前:弦崎あるい 投稿日:2007/03/22(木) 12:39
-
- 34 名前:弦崎あるい 投稿日:2007/03/22(木) 12:40
-
ちょっと多めに更新しました
- 35 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/26(月) 17:05
- 絵里に振り回されてるガキさんがいいですね〜♪
甘え上手っぽいれいなもやっぱり可愛くてこの話大好きです^^
- 36 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/02(月) 05:51
- 笑いましたw
二人のコンビ芸とマイペースれいなが対照的で面白かったですw
- 37 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/10(火) 03:55
- 変態亀ちゃん カワイイ!
- 38 名前:37 投稿日:2007/04/15(日) 00:43
- ↑ゴメンナサイ
- 39 名前:弦崎あるい 投稿日:2007/04/22(日) 19:09
- 一応レスを立てる前は目標は月2回更新と思っていたのですが、思った以上に
毎日忙しくて全然できなくてごめんなさい
とりあえずまずはレス返し
>35さん これからもっとガキさんは亀井さんに振り回されていくと思うので
期待していてください。
>36さん 正解です。この話は笑える恋愛物なので大いに笑ってください
自分もこの亀ガキれいなの微妙なバランスが好きです
>37さん 変態なのは事実なので全然謝ることなんてないですよ
むしろ正しいと思います
- 40 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/04/22(日) 19:11
- あの悪夢のような出会いから3日後、またしても人が夕食の準備をしているときに
甲高いチャイムの音がダイニングに鳴り響いた。
れいなでも来たのかそれとも普通に新聞の集金の人が来たかは分からない。
でも誰が来たにしても無視できないので私は軽く溜め息を吐き出してから準備を中断し、
エプロンを外して椅子に掛けてから玄関へと向かった。
そしてドアを開けると本来の格好から随分と着崩した制服姿のれいなが立っていた。
「今日も夕食食べてってええやろ?」
「えっ?うん、別にいいけど。今準備してるところだから上がって待っててよ。」
開口一番夕飯をねだってくるれいなに苦笑しつつ私は断る理由もないので、いつものように
頷いて家に上がってもらうことにした。
でもれいなを中に入れる為に大きくドアを開けると物陰に身を隠していた人影が
勢い良く飛び出してきた。
「お邪魔しまーす」
と少し早口で挨拶すると素早く私の横を通り過ぎて家の中に進入しようとする。
「入っていいのはれいなだけですから。」
「えぇー、そんなのえこひいきですよぉ!」
慌てて手を伸ばし行く手を塞ぐと亀井さんは露骨に不満そうな顔をして抗議してくる。
- 41 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/04/22(日) 19:12
- その様子に私は深い溜め息を吐き出すと項垂れながら少し疲れた口調で言い返す。
「あのねぇ・・・・あんなことしといて普通また来ます?」
でもそう言い終えてから不意にあの夜のキスが頭を過って耳たぶが徐々に熱を
持つのを感じた。
「だって来てもいいって言ってくれたじゃないですかぁ。それにあれはちょっとした
ご挨拶ってやつですから。」
と大して気にもしてない様子で亀井さんは頭を掻きながら能天気な笑みを浮かべて言った。
私はその言い訳のような言葉よりも悪びれていない軽い態度に腹が立った。
「挨拶じゃないでしょうが!あのときも言いましたけどここは日本なんですけど?
それともご両親は外国の方なんですか?」
そして込み上げてくる怒りの勢いに任せて一気に捲くりたてるように反論する。
少しはたじろぐが驚くかと思っていたのに亀井さんは人の話を聞いてないのか
涼しい顔をして相変わらず笑っている。
「いや、日本人ですよ。それより立ち話もなんですから続きは中でしませんか?」
と軽く受け流すと私の肩を軽く叩いてから平然と家の中に入っていく。
しばらく呆然と亀井さんの後姿を見つめていたけれどようやく我に返ってから、
「ちょ、コラー!勝手に中に入るなぁぁぁぁぁぁ!!」
ある意味律儀にツッコミを入れてから後を追いかけるようにして私は急いで家に戻った。
- 42 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/04/22(日) 19:20
- 「少しは人の話聞いてもらえませんかねぇ!」
居間に入るなり文句を言ったけれど言いたい張本人の姿が見当たらなかった。
れいなはリビングのソファーに座って夕方やっているアニメを見ているし、ダイニングのほうを見ても
テーブルや台所に亀井さんの姿はない。
「あれ?亀井さんってこっち来てない?」
私は何だか拍子抜けしてしまって気の抜けた声でれいなに聞いてみた。
「ん?絵里はこっちには来とらんけど?」
とれいなはテレビを見つめていた視線をこちらに向けると不思議そうな顔して
質問に答える。
「どこ行ったかなんて・・・・知るはずないよね?」
「どうせトイレやろ?あっ、でももしかしたらガキさんの部屋かもしれんよ?」
れいなは完全に他人事なので人の気も知らずにこの状況を楽しんでいるらしく笑いながら
適当なことを言ってくる。
でもその言葉が妙に現実味を帯びていて私は段々不安になってきた。
そしてまさかとは思いつつも念のため2階にある自室に行ってみることにした。
「んー、何か心配だからちょっと部屋行ってくる。」
こんなことで慌て出すのは格好悪いので早まる気持ちを抑えつつ私は平静を装って
何気ない感じで言った。
「うん、がんばってねー。」
でもれいなの視線は既にテレビに向いていて大して興味がなさそうな返事が返ってきた。
私はその様子に軽く溜め息をついてから居間を後にするとすぐに廊下を磨くように早足で歩く、
それから階段の前に立つとなるべく足音を立てないように自分の部屋がある2階へと駆け上がった。
- 43 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/04/22(日) 19:21
-
かなり短いですが今回の更新はこれで終わり
- 44 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/25(水) 23:48
- ガキさんなにげにカワイイ!(e・ ;)
- 45 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/26(木) 00:21
- うわー次が楽しみだーww
- 46 名前:弦崎あるい 投稿日:2007/06/02(土) 20:59
- まずはレス返し
>44さん これからガキさんはもっと可愛く乙女(?)な感じになっていく予定なので
期待しててください
>45さん まぁ、弦崎あるい先生の話が読めるのはこのスレだけなので、
これからも楽しみに待っていてもらえれると嬉しいです
- 47 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/06/02(土) 21:01
- 勢い良く部屋のドアを開けるとれいなの勘に感謝すべきなのか亀井さんが
部屋の中に佇んでいた。
手を後ろで組んで笑っている亀井さんを横目で睨みつけながら軽く部屋の中を見回す。
「人の部屋で何やってるんですか?」
と私の口から出た声は自分でも驚くほど冷たくて抑揚のない声だった。
すると余程迫力があったのかいつも笑ってる亀井さんもさすがにたじろいで
視線をあてもなく彷徨わせる。
「えっと、いや・・・・お手洗いを探してたら何となくここに来てしまったというか
・・・それで素敵なお部屋だなぁっと思って見てたんですよ、あははっ。」
顔を引き攣らせながら言い訳にもなってない下手な答えを言うと誤魔化すように
乾いた笑い声を上げた。
私は何だかもう怒る気さえ失せてしまって軽く項垂れてから深い溜め息を吐くと、
「トイレは1階ですから。二度と間違えないでくださいね、亀井さん!」
それから絶対に聞き間違えようがないくらいゆっくりと大きな声ではっきり言ってあげた。
でも何も言わないのも癪なので最後に皮肉たっぷりに名前を付け加える。
- 48 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/06/02(土) 21:02
- 「はーい!以後気をつけます。」
すると亀井さんはまるで新一年生みたいに元気に手を上げて笑いながら宣言する。
その顔に反省のはの字もないことは明らかだったけれどこれ以上何かを言う気力がなくて
「それじゃとりあえず下に戻りませんか?夕飯の仕度もまだ終ってないですから。」
と私は居間に戻ることを軽く促してから背を向けて自分の部屋を出ようとする、でも突然
後ろから腕を掴まれたのですぐに動きを止めた。
「何するん・・・・・。」
「やっぱり敬語使うの止めましようよ。あと亀井さんって呼ぶのもナシですね、
そういうのも友達ぽっくないですから。」
私の言葉を遮って亀井さんは急に落ち着いた少し低い声で前に聞いた覚えのあるような
ことを言い出す。
少しだけ真面目な雰囲気になったことに戸惑いながらも引き止める行為に苛立って
私は手を振り払うといつになく強い口調で言葉を返した。
「だ・か・ら!あなたと友達になる気ないですから!」
しつこいくらい何度も同じことを言わせるのでいい加減呆れ返りながら後ろに振り向く。
すると亀井さんは能天気な笑みをすっかり隠してどこか怒っているような雰囲気さえ
漂わせていた。
- 49 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/06/02(土) 21:04
- とても真剣な眼差しで私を見つめてくるから3日前のあの夜の出来事が不意に蘇ってきた。
「えっ、いや、あの・・・・・。」
思わず言葉に詰まって茫然としているとまた腕を捕まれ今度は強く引っ張られた。
それがあまりに唐突なことだったので私は対応できなくて亀井さんの腕の中に飛び込む
形になってしまった。
そしてたまたま頭の位置が肩先だったため押し付けるように埋めてしまう、それからすぐに背中に両手が回ってきて軽く抱きしめられる。
「友達がダメなら恋人でもいいですよ?」
その言葉に勢い良く顔を上げると亀井さんの熱ぽっい視線と不敵な笑みが目に入ってきた。
その瞬間また胸が大きく脈打って心拍数が早まる、でもそんな自分にこんなの雰囲気に
呑まれただけだと必死に言い聞かせた。
そしていつまでも抱き合っていたくないのでとりあえず亀井さんを突き飛ばそうと思ったら
予想外に自分から離れたので私の手は宙を切ってしまう。
「とりあえず亀井さんと敬語はもうなしですから、ちゃんとあだ名で呼んでくださいね。」
とまるでさっきの出来事が夢だったかのようにいつもの笑みを浮かべて何事もなかったように平然と話してくる。
「じゃぁ・・・・・亀。亀井さんじゃなきゃいいんですよね?なら今度から亀って
呼びますから。」
私は次々と変化する状況についていけなくて混乱と苛立ちから投げやりに答えた。
全く可愛げもないし第一女の子につけるあだ名としては可哀想な気さえするけど
変える気はなかった。
- 50 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/06/02(土) 21:05
- でも文句を言われるかと思っていたのに亀井さんこと、亀は言い返す気は全くないようで
ただ嬉しそうに笑っていた。
「えへへ、ちょっとレベルアップしちゃった。」
それから込み上げてくる嬉しさを抑えられないといった感じで満面の笑みで噛み締める
ように独り言を呟いた。
それを見る限りではどうやら私のつけたあだ名に不満はないらしい。
「ほら下に行くよ、亀。」
あだ名をつけた相乗効果かなのか今まで使っていた敬語が嘘のように
とても自然にため口で話せるようになっていた。
というかこんな奴に敬う言葉なんて使う必要がなかったと改めて思う。
「はーい、今行きまーす!」
間延びした返事をするとまるで子分のように素直に私の後ろについてくる。
軽く首だけ振り向けて様子を見ると何が楽しいのか鼻歌を歌って少し浮かれている、
その姿を見てやっぱりこの人は変わってるなと思った。
- 51 名前:弦崎あるい 投稿日:2007/06/02(土) 21:07
-
- 52 名前:弦崎あるい 投稿日:2007/06/02(土) 21:07
-
- 53 名前:弦崎あるい 投稿日:2007/06/02(土) 21:07
-
この頃色々あったけどそれはそれとして更新してみました
- 54 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/03(日) 00:51
- あれはあれで置いといて…、
弦崎あるい先生!テンション下げずにお願いします。
- 55 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/03(日) 01:08
- ガキさんキャワです!
更新乙です
- 56 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/17(金) 20:10
- 先ほど見つけて一気に読みました。
ガキさん好きなのでガキさんのかわいさにやられました。
- 57 名前:弦崎あるい 投稿日:2007/09/02(日) 17:22
- >54さん 更新にかなり空きがでてしまいましたがただ忙しかったからで
別にテンションが下がっていたせいではありません
>55さん この話の半分くらいはガキさんの可愛さでできている予定です
>56さん 更新はかなり遅いですが最後まで付き合ってもらえると嬉しいです
- 58 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/09/02(日) 17:24
- 居間に戻るとれいなはさっきまで熱心に見ていたテレビを消してソファーに横たわっていた。
そして私達が降りてきたのを知るとゆっくりと上半身を起こしお腹を押さえながら
「腹減って死にそうちゃ・・・・。」
と本当に弱っているかのようにか細い声で呟いてからソファーに倒れ込む。
「はいはい、今すぐご飯にするから。亀もちょっと手伝って!」
私は椅子に掛けてあるエプロンを再びつけて台所の前に立つと突っ立っている亀に声を掛ける。
一応した下ごしらえは大体終っていたので時間はかからないと思うけど、手早く作らないと
れいなが死んでしまいそうなのですぐに作業に取り掛かった。
「ねぇねぇ、れいな聞いてよぉ!ガキさんがね、絵里って呼んでくれたの!!」
でも亀は相変わらず人の話を聞いていなくてれいなに完全な捏造話を弾んだ声で
自慢げに話してた。
無視しても良かったけど少しでも人手が欲しかったのでフライパンに油を引いてから
私は振り返って叫びながらツッコミを入れる。
「誰もそんなこと言ってないでしょうが!」
「ご、ご飯・・・・・。」
でもれいなの興味は夕飯だけらしくせっかく報告した話が聞いてもらえなかった亀は
少し不貞腐れた様子で台所のほうにやってきた。
- 59 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/09/02(日) 17:27
- そして普通は誰でもやることだと思うけど私が言う前に亀は自ら手を洗い出す。
やっぱりお嬢様学校のビーナスに通っているからきっと世間知らずなんだろうな、という印象を
勝手に持っていた自分としてはその行動が少し意外だった。
「それで絵里は何したらいいんですか?」
と手を拭きながら指示を聞いてくるその顔は何を期待しているのか嬉しそうだった。
「えっ?えっと、あぁ、じゃぁチャーハン作ってよ。溶き卵軽く炒めて後はご飯と素を
入れて混ぜるだけだし。」
「いや・・・・普通に無理なんですけど。」
「はぁ?料理したことないの?全然?全く?」
「はい。全然全く一度もとは言わないですけど、とりあえずチャーハンなんてできません。」
手を洗ってすぐに指示を聞いてくるから案外料理とか手馴れてるのかなと思ったけど
どうやら期待しすぎだったらしい。
というか出来ないのに自信満々で言える亀が私には理解できなかった。
「じゃぁ・・・冷凍の場所にある小籠包をチンしてくんない?冷凍庫は一番下だから
開ければすぐ分かるよ。」
私は呆れて疲れたような溜め息を吐き出してから誰でも出来るような指示を出した。
亀はすぐに冷蔵庫に向かい一番下のドアを引き出して冷凍の小籠包を取り出すと、
「これ全部やっちゃうんですか?」
「うん、全部やっていいよ。どうせれいながほとんど食べちゃうだろうし。」
私はエビチリ用の海老を炒めるのに忙しいので顔は向けずに聞こえてきた質問に答えた。
- 60 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/09/02(日) 17:29
- 「あっ、そうだ。温めるときちゃんとラップするんだよ?」
でもそれから不意に思うことがあって心配になったので少し間だけフライパンから
目を離して忠告する。
「それぐらい知ってます!」
それは余計な一言だったらしく不満そうに唇を尖らせて亀に言い返された。
それから電子レンジにかけて大体5分くらいしてまず小籠包が完成した、そして素を入れて
軽く絡めたエビチリもすぐにテーブルの横に並んだ。
「れいな!出来たから先に食べてていいよ。あと亀も一緒に食べちゃいな。」
私はチャーハンを作らないといけないので一度後ろに振り返ると2人に席に着くよう促す。
それからすぐに台所のほうに向き直り熱いうちにフライパンを洗い軽く水気を切ってから
再び火にかける。
そして水気を飛ばすのに少し時間がかかるのでちょっとだけ後ろに振り返るとれいなは既に
料理を半分くらい平らげていた。
でも亀は椅子の前に立ちつくしたまま座りもせず料理を摘んでいる感じでもない。
そして私の視線に気がつくと軽く微笑んでから呼んでもいないのに台所のほうにやってくる。
「何か手伝うことないですか?あればやりますよぉ。」
「えっ?もう手伝うことなんてないよ。っていうか正直言って邪魔だから。」
親切の押し売りのような気がして私は少し顔を顰めたけどとりあえずその気持ちだけ
受け取っておくことにした。
そして軽く頭を掻いてから本当の事を言って手で払いながら邪険に扱う。
「えー、ガキさんひどーい。」
と亀は文句を言いながらも言葉とは反対にその顔は嬉しそうに笑っていた。
- 61 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/09/02(日) 17:32
- 「じゃぁこれにお湯入れておいてよ、食器はどれでもいいから。」
私は軽く受け流そうかと思ったけどあることを思いつき台所の横にある細長いボックスから
わかめスープを取り出して投げ渡した。
「了解しました!」
すると亀は楽しそうに歯を見せて笑いながら敬礼すると元気良く頷いて返事をする。
「はいはい、そんじゃ頼んだよ。」
チャーハンを作らないといけないので私は顔を向けることなく適当に受け答える。
けれど元々ただ素とご飯を混ぜるだけなので先にれいなのを作ってからすぐに2人分を
作ったけれど大して時間はかからなかった。
今日の献立はチャーハンとエビチリ、冷凍の小籠包とお湯を入れただけのわかめスープ
という感じであまり意識してなかったけど中華風に仕上がった。
そしてようやく夕ご飯を作り終えて私が席に着くと亀も真似するように椅子に座る。
れいなは既にあらかた食べ終えていて腹がいっぱいになったためか幸せそうな顔をして
まどろんでいた。
それはまるで日向ぼっこして今にも寝てしまいそうな猫みたいで微笑ましかった。
それから私と亀は軽く一息つくと互いにお腹が空いていたようなのでとりあえず
夕飯を食べることにした。
- 62 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/09/02(日) 17:37
- 「あのさぁ・・・・今度から来るときは事前に教えてくれない?さすがに3人前だと
買っておいた食材が一気になくなるんだよねぇ。」
私はチャーハンを半分くらい食べ終えてから少し言い難い事だったけれど、言わないと
いけないことだったのでゆっくりと口を開いた。
元々一人前しか買っていないからやっぱり突然3人分作るとなると献立に困るし、
次の日絶対に買い出しに行くのが少し面倒だった。
すると亀が突然手を上げて口元を緩めながら高らかに宣言する。
「それじゃ明日来ます!」
「来なくていいから!」
無視しようと思ったのに反射的にというやつなのかついツッコミを入れてしまう。
それから亀は小声で何やら色々と呟いていたけどそれは完全無視した。
「んじゃ・・・・お金払うと。」
今まで黙っていたれいなが眠そうに目を擦りながら唐突に会話に参加してきた。
そして軽く頬をつねってからからしっかりと目を開けてこちらを見据えると再び口を開く。
「ちゃんと食費払う。前からタダ飯は悪いと思っとったし。」
その真面目な表情からその言葉が冗談ではなく本気で言っているのが分かった。
「別にそこまでしなくていいよ、お金に困ってるってわけじゃないし。」
「でもやっぱりガキさんに悪か。確かにあんまり持っとらんけど少しくらいは出すちゃ。」
「いや、本当にいいって。来る一日前か午前中にメールしてくれれば全然大丈夫だから。」
れいなの気遣ってくれる気持ちだけで私は十分だったから断ったのに一歩も引いてくれなかった。
- 63 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/09/02(日) 17:42
- 「えっと・・・・なら絵里が食材持って来ましょうか?」
と場の空気が恐ろしいくらい全く読めない亀が意味不明な発言をしてきたので、
「亀は黙ってて!」
「絵里は黙っとー!」
私とれいな声が見事なくらい綺麗に重なり同じような事を同時に言い放つ。
すると2人から冷たくあしらわれたので亀は部屋の隅に移動して何やら拗ねていたけど
それは放置しておくことにした。
「それじゃ・・・・500円でいいよ。」
れいなとはもう7年の付き合いになる幼馴染だから頑固だということはもう既に知っている。
だからこのままではいつものように絶対に話が堂々巡りになるので、昔からしてるように
私のほうが折れることにした。
「それだけで足りると?れいなだってもう少しはお金あるっちゃよ?」
「全然平気だって。安いスーパーでまとめ買いするからお金はそんなにいらないし。」
まだ納得がいっていないような顔をしているれいなを私は苦笑しながら諭す。
今まではれいなも今ほど頻繁に家には来なかったから大体週2回くらい近くのスーパーへ
買い出しに出掛けていた。
でも人数が多いとあらかじめ分かっていれば少し遠いところにある激安スーパーに行って、
まとめ買いすればお得だからお金も大していらないし何の問題もない。
- 64 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/09/02(日) 17:45
- 「その代わりってわけじゃないけど・・・・・買い出しのときちょっと手伝ってくんない?」
私はちょっと図々しいお願いかなと思って少し悩んでから思い切って言ってみた。
買い物の量を考えると自分の言ったことを後悔してしまうくらい1人では厳しい感じがするから。
「えっ?ははっ、それぐらい全然良かよ!」
とれいなは少し間の抜けた声を出すとすぐに笑いながら当然とばかりに頷いてくれた。
そしていつの間にか立ち直った亀が手を上げながら走ってきて私の傍までやってくる。
「はいはいはーい!!ガキさんの為なら何でもやります!」
と息を荒くしながらうっとおしいくらいに自分の熱いやる気を訴えてきた。
私は亀を突き飛ばし軽くあしらってから壁に掛けてあるカレンダーを横目で見ながら
予定を決める。
「それじゃ今度の日曜日にでも行こうか?ちょうど月の終わりだしさ。」
私は頭の中で色々考えてから行くなら早いほうがいいという結論に達したので提案してみた。
ちょっと急すぎたかなと自分でも思うけどもう殆ど冷蔵庫に食材がないのでできれば
早く買出しに行きたかった。
「それってデートの約束ですか?」
「絶対にデートじゃありませんから!!」
勝手に勘違いして目を輝かせて聞いてくる馬鹿がいたのでとりあえず全否定する。
私は深い溜め息を吐き出してから本当にこの人といると疲れるなぁと心の底から思った。
- 65 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/09/02(日) 17:50
- そして馬鹿に構っても仕方ないので気を取り直してれいなの予定を聞いてみる。
「れいなは都合良い?」
「別に良かよ、何の予定も入っとらんから。」
「絵里も大丈夫ですよ!」
元から聞くつもりはなかったけど亀が勝手に言ってきたので軽く小耳に入れると、どうやら
何も問題ないようなので早速その日に行くことにした。
「うーんと、じゃぁねぇ・・・・10時にこの家に集合ってことでいい?」
あまり早く集まっても仕方がないので少し迷ってから妥当な時間を指定して二人に伝える。
「ええよ。」
「了解しましたぁ!」
と2人とも何の反論もなく普通に頷いてくれたのでその後少しだけ雑談してから
その日はそれでお開きになった。
- 66 名前:弦崎あるい 投稿日:2007/09/02(日) 17:50
-
- 67 名前:弦崎あるい 投稿日:2007/09/02(日) 17:50
-
- 68 名前:弦崎あるい 投稿日:2007/09/02(日) 17:52
-
気がついたらちょうど三ヶ月更新していないことに自分で驚きました
今度からもうちょっとまめにできたらいいなと思ってます
- 69 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/02(日) 21:21
- 更新乙です。
GAKIKAMEの関係がどうなっていくのか楽しみです。
- 70 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/03(月) 02:21
- 更新ありがとうございます。
いやいや亀ちゃんのがわいさもガキさんに負けてませんよ。
- 71 名前:弦崎あるい 投稿日:2007/10/15(月) 22:23
- >69さん 2人の関係は色んな意味でこれから大きく変わっていくので
末永く見守ってやってください
>70さん 可愛さは自分の中では2人とも同等だと思ってます
というか多分可愛さに関しては田中さんに一番力を注いでる気がします
- 72 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/10/15(月) 22:26
- そして約束の日曜日
携帯のアラームが鳴ったわけでも特に物音がしたというわけでもないのに自然と目が覚めた。
でも当然寝起きなので頭がまだ上手く働かなくてぼんやりとしていたけど、それでも目の前に
人がいるということくらいは理解できる。
黒い髪に袖の間から覗く少し褐色づいた肌、細められた半月型の瞳とやや尖り気味の上唇が
視界に入ってきた。
それなりに整った顔立ちをしたその女の子はベッドの端に頬杖をつきながら私を見つめていた。
「へっ?ウソ?ウソ!?ちょ、ちょっと!なんで人の部屋にいんのよ、亀!」
ようやく頭が回転し始めたけれどあまりの予想外な展開に現状が全く呑み込めなくて
私は見事なくらい動揺して混乱しながら叫んだ。
すると亀は少し呆れた顔をして深い溜め息を吐き出すとゆっくりと口を開いた。
「覚えてないんですか?昨日の夜に電話してきたじゃないですかぁ、寂しいから来てって
・・・・・痛っ!叩かないでくださいよぉ。」
絶対に嘘だとすぐに分かったのでとりあえず話を最後まで言わすことなく頭を叩いた。
「それで?なんであんたがこの部屋にいるわけ?」
「暴力反対!何も叩かなくたっていいじゃないですか。」
こっちはすぐにでも本題に入りたいのに亀は相変わらず人の話を聞いていなくて
一人で不満そうに頬を膨らませてぼやいている。
私は軽く頭を掻いてから全く質問に答えそうにないので両肩を強めに掴んで詰め寄った。
「な・ん・で・亀がこの部屋にいるの?」
そしてはっきりと大きな声で先程と同じ内容の言葉をもう一度繰り返す。
- 73 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/10/15(月) 22:27
- 「えっと・・・いや、その、玄関が開いてたからちょっと心配になって・・・・というか、
ラッキーとか思っちゃったりなんかしちゃって・・・・まぁ、そんな感じで中に入って
ずっとガキさんの寝顔鑑賞会をしてました。」
さすがの亀も私の迫力に負けてか所々言い兼ねている様子もあったけれどようやく
知りたかった事について口を開いた。
言いたいことは山のようにあったけれど私はとりあえず一番気になったことを聞く。
「ドアが開いてた?本当?」
嘘を言っているようには思えなかったけれどいまいち信用に欠けるので疑いの眼差しを向ける。
確かに亀は変態だけどさすがにピッキングしてまで家に入ったりはしないと思う。
というかできればそう思いたい。
でないと私は幼馴染の友達を警察に変質者として突き出さないといけなくなるから。
「ほ、本当ですって!ガキさんってしっかりしてるから玄関が開いてるなんて変だなぁって
思ったんです。もうっ!信じてくださいよぉ!!」
すると亀は両手を左右に振りながら珍しく慌てた様子で少し早口になりながら自分の
身の潔白を必死で訴える。
あまりに必死な顔して否定しているのがおかしくて私は吹き出しそうになるのを堪えながら
改めて昨夜の事を思い出してみる。
昨日は確か夜遅くまで一週間分の献立と買い出してくる材料を色々悩んだりしていた。
そして時計を見たらいつの間にか11時を回ろうとしてたからさすがにもう寝なきゃと
思い立って、それで急いで自分の部屋に向かったということは覚えている。
でも玄関の鍵を閉めたという記憶がないから本当に閉め忘れてしまったんだと思う。
- 74 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/10/15(月) 22:29
- 「あっ、ごめん。本当に閉めてなかったかも・・・・・。」
私は自分の昨夜の行動を振り返ると思い当たる点があったので素直に謝った。
「別にいいですよ、結果的にはラッキーでしたし。ガキさんの貴重な寝起きシーンも
バッチリこの目で見れましたから。」
「亀、キモいよ!そういう言い方がすっごくキモい。」
私が結構きついことを言ったにも関わらず亀は大して気にした様子もなく普通に笑っている。
でも亀の言葉を聞く限りではどうやら10分前に来たという感じではなかったので、
真実を知るのがちょっと怖かったけどそれについて聞いてみた。
「っていうか亀はいつからこの部屋にいるの?」
「えっ?えっと、今が9時半だから1時間前くらいからはいると思いますけど?」
すると亀は首を傾げて少しの間考え込むと部屋の壁掛け時計を見てから曖昧に答えた。
私は1時間近く他人の寝顔をニヤつきながら見ているその姿を想像して
思わず全身に鳥肌が立ってしまった。
でもそれから不意に今の言葉で何かが引っ掛かった。
「亀、ごめん。今言った言葉をもう一度言ってくんないかな?」
適当に聞いていたので何が気になったのか思い出せず私は繰り返し言うように頼んだ。
- 75 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/10/15(月) 22:31
- 「別にいいですよ。確か・・・・今が9時半だから多分1時間前くらいから・・・・。」
でも折角言い直してくれた亀の言葉を遮って私は詰め寄って聞きただした。
「ちょっと待って!今9時半って言った?」
「はい。だってこの部屋の時計だってちゃんとそうなってますよ?」
その亀の言葉を聞いて慌てて後ろを振り返って壁掛け時計を見ると確かに針は
9時半を少し過ぎようとしていた。
「えっ?えっ?ウソ!なんで?なんでこんな時間なの?携帯のアラームは確かに昨日
8時半にちゃんとセットしたのに!!」
私は今の時間が信じられなくて焦って何度も時計と携帯を見比べたけれど現実は残酷なもので
二つの時刻は全く同じだった。
それからすぐに昨夜の寝る前のこと振り返ったけれど携帯を手に取ったのは間違いなかった、
ということは眠くて携帯の操作を誤ったのかもしれない。
待ち合わせが10時だから余裕を持って起きようと思ったのに今は完全に遅刻しそうだった。
でも何だか自分の中では腑に落ちなくて納得がいかず考え込んでいると亀があっさりと
その答えを教えてくれた。
「そういえばぁ・・・・この部屋に入って来たときちょうど携帯が鳴ってたんですけど、
うるさかったんで止めちゃいました。」
手を叩いて思い出したようにそう言うとあははっと人の気も知らないで呑気に笑っている。
- 76 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/10/15(月) 22:34
- 「いや、笑い事じゃないから!っいうか鳴ってるを勝手に携帯止めるなぁぁぁぁぁぁ!」
「そんなに怒らないでくださいよぉ。いや逆に1時間もガキさんの寝顔を見てるのに
何もせずに耐えたんだから褒めてほしいくらいですね。」
「あのねぇ・・・・っていうか本当に何もしてないんでしょうね?」
色々言ってやりたかったのに亀のくだらない反論に呆れて一気に怒りが消え失せてしまった。
でもそれから急に不安になって少し距離を取ってから自分の体を抱きしめて聞き出す。
「そんな寝込みを襲うような卑怯なことはしませんよ。もし襲うならぁ・・・・
起きてる今みたいなときにしますから。」
そう言い終るのと同時ぐらいに亀は一気に私との間合いを詰めて覆い被さってくる。
私はあまりに唐突なこの出来事に対応できなくて簡単にベッドに押し倒されてしまった。
それからしばらく思考が止まっていたけれどようやく我に返って声を荒げる。
「ちょ、ちょっと!何してんの、亀!」
「えっ?ただガキさんを押し倒しただけですけど?」
けれど亀は何事もないかのように平然とした顔つきで冷静に答える。
でもこっちとしては冷静にいられるはずがなかった、だって下半身は馬乗りされているので
身動きが取れない状態だから。
ましてや両手もしっかりと押さえつけられて本当にお手上げだった。
突き飛ばすことも逃げることもできずただ亀を見上げることしかできない。
そして私はこういう系のことに全く免疫がないので先の見えない展開にただただ
狼狽えるしかなかった。
- 77 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/10/15(月) 22:37
- 「顔真っ赤ですけど大丈夫ですか?」
亀は目を細めると天然か計算なのか分からないけれど少し呆れた顔をして
挑発的なことを言ってくる。
「う、うっさい!もうっ、バカぁ!」
耳が異様に熱いし顔が火照っているのは事実だと思うけど何か言わずにはいられなかった。
でも鼓動は速さを増していく一方だし真っ赤な顔で何を言っても説得力がないというのは
自分でも分かっていた。
「これ以上のことやったらどうなっちゃうんですかねぇ・・・・。」
亀は軽く口端だけ吊り上げて笑いながらそう言うとゆっくりと顔を近づけてくる、
すると長い黒髪が微かに頬に触れてくすぐったかった。
私は何をされるのか予想できなかったけれどロクなことじゃないということだけは
直感的に分かったので抵抗を試みる。
「ちょ!待っ!ちょっと!本当にちょっと待ってよ、亀!」
私はかなり一杯一杯の状態で叫びながらどうにか身を捩るけれど下半身と両手をしっかりと
押さえられているので体を横にすることすらできない。
でも免疫のないことにただ焦っているだけって感じで不思議と嫌だとか怖いとか、
そういう感情はなぜか私の中には生まれなかった。
「正直待てる気がしません。」
「いや全然意味が分からないから、それ。」
私の抗議はするだけ無駄らしく亀は顔を近づけながら真顔で全く理解できない言葉を呟く。
そしてこんな状況にも関わらず冷静にツッコミをいれる自分に呆れた。
- 78 名前:弦崎あるい 投稿日:2007/10/15(月) 22:42
-
久しぶりの更新ですがちょっと長いんで一旦この辺りで切ります
続きは近いうちに載せるのであんまり過剰な期待しないで待っててください
ちなみにこの後エロには突入しません
- 79 名前:弦崎あるい 投稿日:2007/10/15(月) 22:43
-
- 80 名前:弦崎あるい 投稿日:2007/10/15(月) 22:43
-
- 81 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/16(火) 02:06
- 更新乙です
うぅ〜ココで切るとは…生殺しですな!
- 82 名前:弦崎あるい 投稿日:2007/11/08(木) 22:20
- >81さん キリが悪くてすいません
おまけに更新がすぐできなくてすいません
- 83 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/11/08(木) 22:21
- 本当にキスしてしまうくらいの距離まで近づくと私は覚悟を決めて首を竦めながら
強く目を瞑った。
でもいつまで経っても唇には何の感触もなくて私が恐る恐る目を開けると亀は顔を離していた。
そして息が止まりそうなくらい真っ直ぐな瞳でこちらを見つめていた。
その顔つきの意味に戸惑っているとその表情は一瞬で消え失せて、亀はいつもの八重歯を
覗かせる無邪気な笑みを浮かべる。
たまに見せるその屈託のない笑顔に馬鹿みたいにまた胸が大きく高鳴った。
「好きです。」
それから本当に何の前置きもなく亀がいきなり告白してきた。
私はそういう経験が全くなかったので見事なくらい動揺してすぐに返答ができなかった。
「えっと、いや、だから・・・ええっ!?正直そんなこといきなり言われても・・・・。」
「まっ、今のところは聞き流しちゃっていいですよ。」
不意の発言に完全に平静を失っている私に向かって亀は少し苦笑すると以外にもあっさりと
答えを聞くのを止めた。
それからどさくさに紛れてというやつなのか私のおでこに軽くキスをする。
- 84 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/11/08(木) 22:23
- 突然されたことに驚きながらもとりあえず亀を突き飛ばしてすぐさま上半身を起こした。
「ちょっと何してんの、あんたは!!全く本当に油断も隙もないんだから。」
唇が触れられた額を押さえると少し熱を持っているような気がした、でもそのことが
無性に恥ずかしくて私は誤魔化すように説教をする。
亀は軽く溜め息を吐き出してから体勢を立て直しベッドの縁に腰を下ろす。
「そんな人を獣みたいに言わないでくださいよぉ。それにいいじゃないですかぁ、
別に無理にヤったわけでもないですし。」
と唇を尖らせて不満そうな顔をしながらかなり過激なことを平然と言ってくる。
その言葉に私は思わず絶句して体を硬直させた。
「ちょ、何、そのヤったとか・・・そういうこと普通に言うな!」
そして小声でその恥ずかしい部分を適当に言葉を濁しながら亀を指さして注意する。
「じゃ言いません。でもまぁ無理矢理とかは絶対しないですから、絵里っておいしいものは
最後まで取っておくタイプなんで。」
亀はあっさりと頷いて約束するとなぜか横目で壁掛け時計のほうを軽く見てから、
再び視線を私の方に戻すと歯を見せて笑う。
でも言い終わると同時に突然私の手を掴むと少し強引に自分のほうへ引っ張る。
- 85 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/11/08(木) 22:23
- そして気がつくと背中に両手が回されて私は完全に亀の腕の中に閉じ込められてしまった。
「ちょ、ちょっと亀?!」
「無理矢理はする気ないですけどいきなりはするとは思いますよ?」
「いきなりもナシ!」
「それはちょっと約束できませんねぇ。」
「あのねぇ・・・・もうっ、バカ!」
私は呆れて深い溜め息を吐き出すと少し腹が立ってきたので強引に片腕だけ抜き出して
頭を叩こうとした、でもその手は亀に掴まれ触れる寸前ところで止められてしまう。
「意外にガキさんって手が早いですよねぇ。」
と呑気な口調で言いながら笑っているけれど細い体のどこにこんな力があるのか
私の手はどんなに力を込めても全く動かせなかった。
「うるさいよ、亀!」
私は何だか悔しくても痛いくらい手首に力を込めて意地でも頭を叩こうとしたけれど
無駄な力の浪費に終わった。
- 86 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/11/08(木) 22:26
- すると亀は微笑してから上唇を軽く舌でなぞるとタチの悪そうな笑みを浮かべる。
「そういうガキさんの気の強いところ好きですよ。えっと、なんでしたっけ?
今時で言うモエってやつなんですかねぇ。」
と言いながら目を細めて軽く首を傾けるとゆっくりと自分の顔を近づけてくる。
私は空いた手で守るように自分の唇を塞ぐと調子に乗りすぎている亀を鋭く睨んだ。
「もうっ!バカ、最低、変態!!」
「だから最初に言ったじゃないですかぁ、こんにちわ、変態ですって。」
「言えばいいって問題じゃないから!」
「それはそうですけどぉ・・・・でも言わないよりはよくないですか?」
「まぁね。って納得してる場合じゃない!とにかくこういうことは禁止だから!」
と言い争っているのか話し合っているのか分からないような状態で突然ドアノブを
回す音がして私は思わず勢いよく顔を向けた。
それから「ちょっとタンマ!」と言おうと思ったのに私の声が出るより先に部屋のドアが
開けられてしまった。
部屋の前に立っていた人物は声も出ないのかただ大きく目を見開いて私達を見つめていた。
「お、おはよう!れいな。」
私は平静を装っていつものように挨拶してみたけれど、亀に抱きしめられている状態で
何を言っても全く説得力がないなと言ってから気づいた。
れいなはしばらく呆然とその場に立ちつくしていたけれど少ししてから何かを悟ったように
1人で頷きながら黙って部屋のドアを静かに閉める。
「黙って行くなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
と少し昭和的な展開に私はドアに向かって手を伸ばしながらツッコミを入れながら叫んだ。
- 87 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/11/08(木) 22:28
- 「あぁ〜あ、見られちゃいましたねぇ。」
でも亀は緩まる口元を押さえられないのか微笑しながら全く残念じゃなさそうに呟く。
「亀、あんた知ってたでしょ?れいなが上がってくること。」
「さぁ?何のことだか分からないんですけど?」
私は軽く溜め息を吐き出してから睨んで問い詰めたけれどとぼけて答えてはくれなかった。
でもさっき亀が横目で時計を見てれいながそろそろ来る頃だと知った上で計ったと考えれば
物事の辻褄は合う。
私が気づかなかっただけでもしかしたら階段を上がってくる音が聞こえたのかもしれない。
「それより追いかけなくていいんですか?絶対にれいな誤解してますよ?
まぁ絵里的には誤解されたほうが好都合ですけど。」
亀は背中に回していた手を離して私を解放すると楽しそうに含み笑いしながら言った。
私は山ほど言いたいことがあったけどそれを何とか堪えて今はれいなを追いかけることを
最優先した。
でも部屋を出る直前になってやっぱり何も言わないのは癪だと思い直し、勢いよく
振り返って亀をまっすぐ指差す、
「後で覚えときなさいよ。」
と強気な態度で言うと亀は顔を少し引き釣らしながら私を見送った。
- 88 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/11/08(木) 22:28
- 急いで出て行ったわけではないので私が駆け足で階段を下りると玄関で今にも靴を履いて
帰ろうとしているれいなに追いついた。
それから有無を言わさずその腕を掴んでとりあえず立ち止まらせる。
「ちょ・・・ちょっと・・・お願いだから・・・待って!」
と私は苦しかったけれど息が整うのを待っていられなくて途切れ途切れに言葉を吐き出す。
するとれいなは苦笑しながら大きく頷くと私の息が整うまで待ってくれた。
「あ、あのさ・・・・さっきのは誤解だから!別に亀とは何ともないし、あれは・・・
その、えっと・・・・そう!ただふざけ合ってただけだから!」
とりあえず変な誤解をされたままでは本当に困るので私は必死に身の潔白を訴えた。
でもれいなは焦る私とは正反対にあっけらかんとした顔つきで平然と答えた。
「いや、別にれなは誤解しとらんよ。」
それから小首を傾げて逆にこちらを不思議そうな顔をして見つめてくる。
どうやら事態は簡単に済みそうなので安堵の溜め息を漏らしてから胸を撫で下ろした。
「ただ2人がお楽しみのところ入っちゃって悪かったなぁと・・・・。」
「いや、めちゃめちゃ誤解してるから!」
気まずそうな顔をしているれいなの肩に手を置いてから私は即行でツッコミを入れる。
- 89 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/11/08(木) 22:30
- 「いやぁ、本当に今日はラッキーでした。まさか・・・まさか寝起きのガキさんが
見れるなんて!おまけに両思いだってことが発覚してつい抱き合っちゃいましたね。」
と亀は楽しげな口調で絶対にわざと誤解を招くような言い方をしながら階段を下りてきた。
「コラー!そこ勝手に妄想しない!」
「えー、半分くらいは事実じゃないですかぁ。あとは聞いた人の捕らえ方次第だと
思いますけど?」
「屁理屈言わない!っていうか言い方に問題があったら誤解するに決まってんでしょうが!!」
「でも実際に寝起きは見ましたし抱き合いましたよね?」
「今日ちょっと用事入っとるけん、また今度・・・・・。」
私はすぐさま亀に詰め寄って注意するけれど聞く耳がないらしく飄々とした様子で
受け流された。
そして2人の様子を見ていたれいなが気まずそうな顔をして会話に入ってくる。
「れいなは変な気を遣わなくていいから。あと亀!今度変な事したり言ったりしたら
この家出入り禁止にするからね!」
れいなに諭すように優しく言ってから低い声で睨みながら亀に厳しく注意した。
亀は一瞬絶句するとぎこちない足取りでれいなの横に並ぶとその手を取り笑顔を作る、
でもその笑みは誰が見ても分かるくらい引き攣っていた。
「さ、さてと・・・今日は一杯買い物しないといけないから大変だね?れいな!」
そう言って乾いた笑い声を上げながら二人は一緒に居間へ向かって歩いていく。
というかれいなはあからさまに戸惑いの表情で亀のことを見ていたけれど、一応親友だからか
何も言わずに手を引かれながらついて行った。
私はその姿を見ながら軽く溜め息を吐くととりあえず着替えるために2階の自室に
戻ることにした。
- 90 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/11/08(木) 22:30
-
- 91 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/11/08(木) 22:30
-
- 92 名前:第2章 2階の自室 投稿日:2007/11/08(木) 22:31
-
多分年内にはもう更新できない気がします・・・・
- 93 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/09(金) 00:35
- それは残念!気長に待ってます
- 94 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/09(金) 01:40
- 更新お疲れ様です。ガキ亀好きなので、続きが気になります。
待ってます。
- 95 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/14(水) 10:58
- れいなの反応がツボでしたw
ゆっくりお待ちしてます
- 96 名前:弦崎あるい 投稿日:2008/01/15(火) 12:41
- 年明けすぐに書こうと思ったんですけど、色々立て込んで遅くなってしまって
すいません
とりあえずレス返し
>93さん これからも気長に待っていただけると嬉しいです
>94さん ガキカメ好きの人が最後まで読んで良かったなと思える作品にしたいと
思ってます
更新は遅いと思いますがこれからも読んでいただけると嬉しいです
>95さん バカで無邪気なれいなを書いていると楽しいのですが、
多分後半になるにつれて出番が少な(ry
- 97 名前:第3章 悪魔襲来 投稿日:2008/01/15(火) 12:41
- 先週の日曜日は散々だったけどあのあと何とか当初の予定通りに買出しに行くことができた。
朝から起こった色々な出来事に関しては思い出すと頭が痛くなってくるので
忘れることにしている。
そしてどうにか買い出しが終わって家に戻るとその日の夕食はちょっと奮発して
焼肉をすることに既に決定していた。
テーブルの上に少し型の古いホットプレートを置いてちょっと高めの肉を焼きながら
3人で他愛もない話をして楽しんだ。
亀は『出入り禁止』という言葉が余程効いたのかあれから何もしてこなかった。
ただ話をしていただけなのにこの頃3人でいることにも慣れてきたせいか普通に楽しかった。
きっと亀は何もしなければ友達クラスにすぐ転職できるレベルだと思う。
それなのに不意に変なことをしてくるから未だに私の中では肩書きが変態のままだった。
- 98 名前:第3章 悪魔襲来 投稿日:2008/01/15(火) 12:43
- そしてそんな波乱の日曜日から4日経った木曜日。
私がまたまた夕食の用意をしていると携帯の着信音が鳴った、けれど曲がメール用の
ものだったので手には取らずに無視して準備を続ける。
すると今度はチャイムが鳴って忙しい日だなぁと思いながらも今度は無視するわけには
いかないので、一度作業を中断しエプロンを外してから玄関へと向かう。
でももう少しで玄関に着くというところで再びチャイムが廊下に鳴り響く。
全く亀じゃあるまいしせっかちな人だなぁと思いながら急いでドアを開けることにした。
そして玄関の前に立っている人物を見たとき今度から絶対にドア穴で事前確認しようと
固く心に誓った。
キャメル色のブレザーに白のYシャツと赤と紺のストライプのネクタイ、下は淡い灰色と
檸檬色の組み合わせが上品なチェック柄のスカート。
胸に届くくらいの長い黒髪と袖口から覗く少しだけ褐色の肌が印象的な正統派美少女。
そのお上品な感じの制服と女の子の両方に私は見覚えがあった。
「なんだ・・・亀か。」
「そんな露骨に嫌な顔しないでくださいよぉ。」
「だって嫌なんだから仕方ないでしょ。」
「ひどいなぁ、ガキさんは。」
ドアの外にいたのは亀で私は夕飯作りを中断してまで玄関に来たことを少し後悔しながら
溜め息混じりにぼやいた。
すると自分では自覚がなかったけど眉間に皺でも寄っていたのか亀は苦笑いをする。
「れいなは一緒じゃないの?」
私はふと思い出したようにそう言って目的の人を探したけれどその姿はどこにも
見当たらなかった。
その言葉に亀は予定通りといった感じで少し得意げに笑うと平然とした口調で
質問に答えてくれた。
「今日は絵里1人しか来る予定ないですけど?」
それからわざとらしく小首を傾げて不思議そうに私の方を見つめる。
事態をようやく理解した私は軽く溜め息を吐いたから有無を言わさずドアを閉める。
「・・・・・じゃ、さよなら。」
「ちょ!ちょっと待ってください!!いきなり閉めるってひどくないですか?」
と亀は狼狽えながらもすぐさまドアの隙間に足を入れて閉まらないようにしてから
少し不貞腐れた顔をして文句を言ってきた。
- 99 名前:第3章 悪魔襲来 投稿日:2008/01/15(火) 12:43
- 「れいなが一緒じゃないなら中には入れません。」
「ひょっとして・・・・絵里のこと疑ってます?っていうかそんな人を変態みたいな目で
見ないでくださいよぉ。」
「十分変態でしょうが、あんたは!」
「いや、この間の日曜は・・・・なんていうかちょっとしたノリですよ!」
「ノリですることじゃないから!」
とまるで漫才の掛け合いのような言葉のやり取りを私達はしばらくやっていた。
でも1人はドアの僅かな隙間から顔を覗かせて睨みを利かせ、もう1人は笑顔で普通に
話している姿は傍から見ると異様な光景だろうなとふと思った。
それから亀は足をドアにねじ込んだまま軽く手を叩くとまるで名案でも思いついたような
顔をして、
「まっ、とりあえず。今日は普通の友達として中に入れるってことで全ては
丸く納まるじゃないですかぁ。」
と自分で言ったことに頷きながら嬉しそうに笑うとこちらに同意を求めてくる。
「全然納まってないからぁぁぁぁぁぁ!!」
私はあまりにくだらないことを言ってきたのでドアを開けて亀にツッコミを入れた。
- 100 名前:第3章 悪魔襲来 投稿日:2008/01/15(火) 12:44
- でもドアを大きく開けてからすぐにしまったと心の中で思った時は遅かった。
亀は私の横を通り過ぎて素早く家の中へ入ると律儀に靴を揃えてから廊下に上がる、そして
ゆっくりとこちらに振り返るとどこか勝ち誇ったように笑っていた。
それは自分が仕掛けた悪戯に人が引っ掛かったのを見て喜ぶ子どもみたいな顔だった。
不意にそんな顔をするから私の胸が一瞬高鳴ったけど、すぐに大きく首を横に振って
一時の気の迷いをどうにか振り払う。
そして変態なのに急に子どもみたいな顔するから驚いただけだと自分に思い込ませる。
「ガキさん、なんか顔赤くないですか?」
突然言われたその言葉に我に返ると亀が小首を傾げながら目を細めてこっちを見ている。
「あ、赤くなんてなってないから!これは・・・・・えっと、そう!夕陽のせいだから。」
私はさっき胸が高鳴ったことを見透かされたような気がしてかなり動揺しながらも
咄嗟に言い訳を言って上手く誤魔化した。
でもさり気なく自分の頬を手のひらで撫でてみたらそこは微かに熱を持っていた。
「まぁ、別にいいですけどね。」
亀は一瞬不敵な笑みを見せたけどそれはすぐに普通の微笑み戻ると、私に背を向けて
リビングの方へ勝手に歩いて行ってしまう。
何だか釈然としない感じがしたけれどとりあえず勝手に入られて何かされると困るので
追いかけるように家の中に入った。
「ちょっと、亀!!家の中に入っていいとは言ってないでしようが!」
とツッコミなのか文句なのか分からないような言葉を言いながら少し乱雑に靴を脱ぎ捨てて駆け足でリビングへ向かった。
- 101 名前:弦崎あるい 投稿日:2008/01/15(火) 12:46
-
- 102 名前:弦崎あるい 投稿日:2008/01/15(火) 12:46
-
- 103 名前:弦崎あるい 投稿日:2008/01/15(火) 12:47
-
本当のこと言うと懲りずに企画に参加してたら更新する時間がなくなりました
- 104 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/16(水) 00:48
- 箱?どれだろ?
マッタリ待ってます
- 105 名前:弦崎あるい 投稿日:2008/06/18(水) 14:24
- とりあえずレス返し
>>104さん 無駄に長くてマイナーCPの話です
かなり間が空いてしまいましたが更新します
- 106 名前:悪魔襲来 投稿日:2008/06/18(水) 14:25
- リビングに入ると既に鞄を置きブレザーを脱いでソファーで寛いでいる亀がいた。
「へへっ、進入成功ですね!ガキさんなら絶対ツッコミを入れるために大きくドアを開けるって読みが当たりました。」
私と目が合うと八重歯を見せて無邪気に笑いながらも意外に計算高いような発言をする。
というか計算高いってところに思い当たるところがあるから多分さっきのも本当に
計算して動いたんだと思う。
「あんたねぇ・・・・。」
私はもう色んな事に疲れてきて何も言う気になれずただ呆れた顔をしながら軽く項垂れた。
亀は嬉しそうに八重歯を見せて笑いながら自分の隣に座るように私を手招きして誘ってくる。
「まぁまぁ、ガキさんも一緒にソファーに座って寛ぎましょうよ。」
「寛ぎません!」
「えぇー!!・・・・ならいいです、絵里も寛ぎません。」
そんな暇はないのではっきり断ると亀はつまらなそうな顔をしてすぐにソファーから
立ち上がると不貞腐れたような口調で呟いた。
「はぁ・・・って溜め息ついてる場合じゃない!夕飯の用意しなくっちゃ。」
私は溜め息をついていても仕方がないので途中だった夕食の準備に取り掛かることにした。
すると亀はまるでかまって欲しい子犬のように駆け足で私のところまでやってくると
目を輝かせて1人で妙に張り切っている。
「それなら手伝います!」
「結構です。1人で作ったほうが早いし・・・・っていうか家に来るときは事前連絡って
この前決めたよね?」
私は役に立たないと分かっているので亀の好意を即行で断ると2人分の献立を考える、
でもそのとき不意にあることを思い出したので注意した。
- 107 名前:悪魔襲来 投稿日:2008/06/18(水) 14:26
- 「事前連絡ならちゃんとしましたよ?まぁ、ちょっとギリギリになっちゃいましたけど。」
亀はあっけらかんとした口調で私の質問に答えると頬を軽く掻きながら苦笑いした。
私はその言葉に事前連絡なんてあったかなともう一度自分の記憶を思い返す。
「いつしたの?電話なんて鳴ってないよ?」
「メールですよ。10分くらい前にきませんでした?」
「そういえば確かにメールの着信が鳴ってたけど・・・・・って!あんたにまだ
メアド教えてないんですけど!?」
私は一瞬納得しそうになったけどすぐに大事なことを思い出して亀に詰め寄った。
けれど亀は顔色一つ変えずに何事もないような感じで普通に受け答えをする。
「あぁ、それなられいなに教えてもらいました。」
「本当?」
「本当ですよ、ヤダなぁガキさんは疑り深いんだから。」
「本当に?」
「本当ですって。別にやましい事なんて何もないですよ?」
「本当に。」
「だから本当に本当ですって!連絡するとき不便だからって教えてもらったんですよぉ。」
「ほ・ん・と・う・に!」
「いや、あの本当は、れいなから・・・・こっそり盗んじゃいました。」
私は絶対に何かあると思って問い質したけど亀はなかなか答えなかった、でも肩を思い切り
掴んで満面の笑みで問いかけると小さな声で本音を漏らした。
- 108 名前:悪魔襲来 投稿日:2008/06/18(水) 14:27
- 「それ普通に犯罪だから!」
「本当にすいません!聞こうとは前から思ったんですよ?でもなんていうかタイミングを
逃したっていうか・・・・後でれいなにはちゃんと言うつもりです。」
私が指差して常識的なツッコミを入れると亀は申し訳なさそうな顔で頭を下げて謝った、
それからちょっと早口になりながら必死な顔をして弁解する。
とりあえず反省しているようなのでこれ以上怒らなくてもいいかなと思い、私はこれで
この話題を終らすことにした。
「分かった。じゃこの話はこれでおしまい!私は夕飯作るからできるまで亀は適当に
ソファーでゆっくりしててよ。」
「怒って・・・・ないんですか?」
「ん?そりゃ怒ってなくはないけどさ、でも亀が反省してるならそれでいいかなって。」
「・・・・・やっぱり手伝います!夕飯作るの!」
「別に大丈夫だって、すぐに作っちゃうから待っててよ。あぁそうだ!それならお茶でも
用意しておいてよ。コップは食器棚でお茶は冷蔵庫にあるから。」
さっきまで項垂れて落ち込んでいた亀は気を遣ったのか再び手伝いを申し出たけど
私はやんわりと断った。
でも雨に濡れた子犬みたいに寂しそうな顔をしているから溜め息混じりに提案した。
それから亀はすぐテーブルにお茶を用意したけどそれでやることがなくなってしまい、
落ち着かない様子でテーブルの周りをうろうろしていた。
その行動を見て私が苦笑しながら「ゆっくりしてなよ」と言うと渋々といった感じで
椅子をひいて腰を下ろす。
私は軽く溜め息を吐き出すと亀に背を向けて密かに笑った、そして今まで中断していた
夕食の用意に取り掛かった。
- 109 名前:悪魔襲来 投稿日:2008/06/18(水) 14:29
- ちょうど鮭の切り身があったのでムニエルにしてほうれん草のバター炒めを付け合せにして、
おかずはベーコンとジャガイモでジャーマンポテト。
あとはちょっと手抜きして缶のコンポタージュスープがあったのでそれを使うことにする。
これならそんな時間がかからないし無難な選択かなと思った。
ただジャーマンポテトだけは少し手間がかかるので先にジャガイモにラップをして
レンジにかける。
私はちょっとだけ時間が空いたので後ろに振り返って亀の様子を窺うことにした。
すると意外にも教科書とノートをテーブルの上に広げて真面目に勉強をしていた。
「亀、勉強なんて偉いじゃん。」
「成績下げると色々と面倒なだけですよ、これでも学校では上位に入ってますから。」
私はちょっとからかい半分に茶化すと亀は軽く溜め息を吐き出してからどこか自虐的に
見える笑みを浮かべながら答えた。
その笑みに色々な感情が渦巻いているのが分かって言葉がすぐに出てこなかった。
「そう・・・・なんだ。頭の良い人ってのも大変なんだねぇ。」
と私は何を言っていいか分からなくなってとりあえず当たり障りのないことを言った。
「でも勉強自体は嫌いじゃないですから。」
亀は穏やかに微笑みながらそう答えると片手で器用にネクタイを外してそれを鞄に入れる。
でもその何気ない仕草がそのときはすごく格好良く見えた。
- 110 名前:悪魔襲来 投稿日:2008/06/18(水) 14:29
- 「ガキさん?何か固まっちゃってますけど大丈夫ですか?」
心配そうな声に私はようやく我に返ると亀が不思議そうな顔をしてこちらを見つめていた。
かなり認めたくない事実だけどどうやら私は一瞬だけ亀に見惚れていたらしい。
すると急にどうしようもないくらい恥ずかしくなって亀に視線を向けられなかった。
「べ、別になんでもないよ。ちょっとボーっとしてただけ。」
私は少し火照る顔を深く俯けるとぶっきらぼうにそう答えるのが精一杯だった。
「そうですか。てっきり絵里の格好良さに見惚れていたのかと思ってたんですけど?」
「なっ!・・・・そ、そんなのあるわけないでしょうが!!」
「えー、残念。」
調子に乗って亀が言った言葉はまさに図星だったけどそんなことを知られたら大変なことに
なりそうだったので、私は勢いよく顔を上げるときっぱりと反論した。
すると残念とか言いながら亀は八重歯を微かに覗かせて本当に嬉しそうに笑っていた。
その笑みに私の胸はまたやっぱり馬鹿みたいに高鳴って、計算高いくせにたまにこうやって
無垢な笑みを見せるから困るなと思った。
- 111 名前:弦崎あるい 投稿日:2008/06/18(水) 14:33
-
ガキカメ芸術劇場を見ているとこの話のワンシーンを見ている
ような気分になります
自分でちょっと重症だなと思いました
- 112 名前:弦崎あるい 投稿日:2008/06/18(水) 14:33
- レス流し忘れてた
- 113 名前:弦崎あるい 投稿日:2008/06/18(水) 14:34
-
- 114 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/21(土) 06:25
- やった、更新されてる!
……ガキさんかなり危険な状態ですねw
- 115 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/06/22(日) 02:16
- お待ちしておりました
- 116 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/15(金) 23:54
- ガキさんかわいい!!超萌えます!!
これからの2人の関係気になりますね・・。
更新楽しみです!!
- 117 名前:GAKILOVE 投稿日:2008/08/16(土) 22:29
- 早く更新して欲しいです!!
この物語ツボですね
続きが気になります!
- 118 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/20(水) 16:29
- 早く更新・・・・
バリ気になる・・・
- 119 名前:弦崎あるい 投稿日:2008/08/25(月) 18:41
- >>114さん これからもっとガキさんは危険な目に遭いますw
>>115さん お待たせしてしまってすいません
>>116さん ガキさんの可愛さがこの話の生命線だと思ってます
>>GAKILOVEさん ハマる人にはハマる設定だと思います。良かったら最後までお付き合いください
>>118さん これからも更新は遅いと思いますが気長にお付き合いください
- 120 名前:悪魔襲来 投稿日:2008/08/25(月) 18:43
- それからなんて話を切り出していいか悩んでいると助けるようにレンジがピー、ピーと
鳴って私のことを呼んだ。
「・・・・も、もうっ!亀と話してたら夕飯作るの遅くなっちゃったでしょうが!」
「えー、絵里のせいじゃないと思うんですけど。」
私は自分でも少し強引だとは思ったけど怒ることでどうにか誤魔化すと台所のほうに
体を向ける。
それから不満そうな亀の声が後ろから聞こえてきたけど無視した。
でもさすがにやりすぎたかなと思って一回深呼吸してからゆっくりと後ろに振り向くと、
なぜか目の前に亀が立っていた。
「あ、あのさ・・・・・。」
何か言おうと口を開いたけどあまりにも亀が寂しそうな目をしていたせいで、頭の中に
あった言葉が全部吹き飛んでしまった。
「好きです。ガキさんのことが好きです。」
抱きついたりせず亀はただ真っ直ぐ私を見つめるとはっきりと自分の気持ちを告げてくる。
- 121 名前:悪魔襲来 投稿日:2008/08/25(月) 18:45
- でも私はその言葉にすぐ答えを出すことが出来なくて誤魔化すように話題を逸らした。
「亀ってさ・・・・女の子が好きなの?」
「いや、別にそんなことないと思いますよ?初めて付き合った人も男の人ですから。」
「それじゃなんで私なの?」
「それは・・・・ガキさんだから。絵里はガキさんが好きなんですよ。」
せっかく話題を逸らしたのに辿り着くところは結局これだった。
でも今まで亀の告白なんて飽きるくらい何度も聞いているはずなのにどうにも慣れなくて、
私はやっぱり動揺している。
だけどそんな自分を見せたくなくて顔を少し俯けた。
そんな私の様子を見て答えをもらえないことを悟ったのか、亀は私に背を向けると近くの
椅子に腰を下ろした。
相変わらす亀は何を考えているのかさっぱり分からない。
それからテーブルの上で手を組むと深刻そうな顔をしながら話し出した。
「私はここから少し遠い場所に住んでいたんですけど、母親に連れられるままに何回か
こっちに来たことがあるんです。そう、あれは今から10年前・・・・・。」
「ちょ!いきなり回想とかありえないんですけど!」
何を言い出すのかと不安な気持ちでいた私は予想外の展開に驚いたのと呆れたので、
思わず普通にツッコミを入れてしまった。
- 122 名前:悪魔襲来 投稿日:2008/08/25(月) 18:45
-
回想
- 123 名前:悪魔襲来 投稿日:2008/08/25(月) 18:48
- まだ幼いけれど大きくなれば確実に正統派の美人になること間違いなしの女の子は
母親に連れられるままにある町にやって来ました。
何度か来たことがあるけれど友達も知り合いもいない見知らぬ町。
母親はいつも公園に女の子だけ残して「大事な人と会ってくるから絵里はここで待っててね」
と言っていつもいなくなってしまう。
女の子は我侭を言って親を困らせるようなことはしない良い子だったので、小さく頷くと
1人でいつものように遊ぶことにしました。
でもブランコも滑り台も1人では全く楽しくないのですぐに飽きてしまいました。
そして女の子は公園の薄汚いベンチに座って、母親が帰ってくるのを待つことにしました。
すると女の子の可愛さに目をつけたのか3人の男の子達がベンチまでやってきました。
「ここは俺らの陣地なんだぞ!」とバカ丸出しの台詞を誇らしげに言うと、リーダー格の男の子が
女の子の肩を軽く押してきます。
女の子はちょっと怖くなってベンチを退こうとすると足を引っ掛けられて転んでしまいました。
男の子達がその様子を見てゲラゲラと腹を抱えて笑っていることに女の子は
少し腹が立ちました。
けれど頭が良かったのでこの場は大人しく引くことを選ぶのでした。
すると女の子に気があるのか男の子の1人が「ちょっと待てよ」と引き止めてきました。
「俺達が遊んでやるよ。」
「あの、と、友達が待ってるからもう行かないといけないの。」
どう考えても悪い予感しかしなかったので女の子は上手く言い訳を言うと、その場から
すぐにでも逃げようと思いました。
けれどリーダー格の男の子に回り込まれて乱暴に羽交い絞めにされてしまいます。
女の子はどうにかして逃げようと暴れますが、男の子のほうが体格も大きいし力もあるので
押さえ込まれてしまいました。
- 124 名前:悪魔襲来 投稿日:2008/08/25(月) 18:49
- こんなことになってしまうのはきっと可愛すぎる自分がいけないのだと諦めていると、
「コラー!!」とどこからかともなく女の子の怒鳴る声が聞こえてきました。
何事かと思って男の子も含めて辺りを見回していると、公園の入り口付近に金属バットを手にした
女の子が立っていました。
「女の子をいじめたらダメだって何度言ったら分かるの、あんた達は!」
とバットを手にした女の子はまるで先生みたいに怒るとバットが引き摺りながら走って
こっちにやってきます。
そして自分の背と大して変わらない金属バットを両手で持って男の子達に向けると、
「あんまりバカなことしてるとこれで叩くよ?」と睨みつけながら言いました。
すると男の子達は「凶暴女」とか「バカ」とか「死ね」とか言いながら、見事なくらい
あっさりと逃げていきました。
バットを持った女の子は疲れたのかバットを地面に投げ捨てると深く溜め息を吐き出して、
「大丈夫?・・・・あいつら小さい子とか女の子とかよくいじめるんだ。だから何度も
注意してるんだけどなかなか止めなくて。」
それから頭を掻いて照れくさそうに笑いながら事情を話してくれました。
可愛い女の子は男の子達に1人で向かっていくなんて怖くないのかなと思って
聞いてみました。
「・・・・怖くないの?」
「んー、本当はちょっと怖いかな。でもいじめられてるところを見てるとさ、何かすごく
嫌な気持ちになるから。」
とはっきり言い切った女の子はとても格好良くて何だか輝いて見えました。
そして可愛い女の子はまるでこの前友達の家でやったゲームに出てくる「ゆうしゃ」
みたいだなと思うのでした。
- 125 名前:弦崎あるい 投稿日:2008/08/25(月) 18:50
-
- 126 名前:弦崎あるい 投稿日:2008/08/25(月) 18:50
-
- 127 名前:弦崎あるい 投稿日:2008/08/25(月) 18:50
-
- 128 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/08/28(木) 16:19
- ここで話をきるとは…。
続き気になるー
激しく待ってます!!
- 129 名前:GAKILOVE 投稿日:2008/09/06(土) 10:30
- 弦崎さんの作品やっぱ好きです!
早く続き見たいです
気長に待ちつづけてますよ
- 130 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/09/19(金) 23:18
- 初めて拝見させて頂きましたが、
すごく自分が好きな雰囲気なので続きが楽しみです。
ここの亀ちゃんが好き
- 131 名前:GAKILOVE 投稿日:2008/10/05(日) 16:42
- また来ましたっ
まだ制作中に申し訳ないのですが・・・
モテがきさんに振り回され、ヤキモチをいつも妬いてるれいなってのを
やってほしいんです・・・。
時間があったらでかまいませんので、よろしくお願いします。
更新まってます★
- 132 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/11/28(金) 23:07
- モテがきさん!?
そういうのもいいかも。
ガキヲタとしては・・・
- 133 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/12/14(日) 12:10
- 初めて読みました!
すっごい好きな小説です!
もっかい読んでこよーっと
- 134 名前:弦崎あるい 投稿日:2008/12/29(月) 17:34
- >>128さん 変なところで切ってすみません。というかその先がただ単に
できてなかっただけなんですけどね
>>GAKILOVEさん お待たせしちゃってすみません。新年明けたらもう少し
更新スピードを上げられるように頑張ります
時間があればモテガキさんも書いてみようと思います
>>130さん 本当に更新が遅いので気長に待っていただけると助かります
>>132さん モテガキさんは嫌いじゃないので、いずれ書きたいと思います
>>133さん 更新がものすごく遅いですが、気長に付き合ってくれると嬉しいです
- 135 名前:悪魔襲来 投稿日:2008/12/29(月) 17:35
- 「感動しました?」
「とりあえずツッコミどころがありすぎだから。」
「えー、他に感想ないんですか?」
「なら自分のことを可愛いとか言わないでよ。それにあんたの初恋の話なんて
別に興味ないし。」
途中から真面目に聞くのを止めたので詳しく覚えていないけど、話の内容を総合するに
そういうことだと思った。
すると亀は急に切羽詰ったような様子で私に聞いてくる。
「えっ?覚えてないんですか?この話に出てきた勇者様はガキさんなんですけど。」
「はっ?」
でも心当たりが全くなくて、私はその言葉に眉間に皺を寄せると小首を傾げる。
「本当に覚えてないんですか?」
「いや、確かにバット持って男の子達を追い回してたけどさぁ・・・・何人も助けてるから
正直どれが亀だったかなんて覚えてないよ。」
「そう、ですか。ですよね?何人も助けてたら覚えてないですよね。」
「えっ、あぁ・・・・・ごめん。」
私が謝る必要はどこにもない気がするけど、露骨に落ち込んでいる亀の様子を見たら
ついそう言ってしまった。
それから何だか気まずくなって私は逃げるように料理作りを再開する。
- 136 名前:悪魔襲来 投稿日:2008/12/29(月) 17:36
- バターをひいたフライパンの上に小麦粉をまぶした鮭を静かに置く。
すぐにジューっという音と香ばしい匂いがしてきたけれど、今の状態では美味しそうだとか
考えられなかった。
部屋は相変わらず微妙な空気で冷たくしすぎたかなと内心少し反省していた。
そして何か言わなきゃと頭を働かせているといきなり腰に手が回ってきて、私はなぜか
亀に抱き締められている。
最初は驚いたけどもう何回もされているので免疫がついたのか、取り乱したりせず
いつもより心は冷静だった。
私は溜め息を吐き出すと注意しようと振り返ろうとした瞬間にいきなり告白された。
「好きです。」
後ろから聞こえてくる少し低い声に不覚ながら胸が大きく高鳴る。
その表情は見えないけれど冗談じゃなく真剣に言っているのが聞くだけで分かる。
でも私は答えられなかった。
気持ちに応えられないのではなくて答えが見つからない、といった感じだった。
自分のことなのにどうしていいか分からなかった。
でも何も答えない私に堪えられなくなったのか亀は肩を掴むと、強引に体を反転させて
自分の方に向かせる。
一瞬悲しそうな亀の顔が目に入ってきたけど、唇を塞がれたせいでその表情の意味を
考えることができなかった。
私は突き飛ばそうとしたけれど亀が強く肩を掴んでいるせいでできなかった。
そして口が塞がっているので息が出来ず苦しくなって口を開けると、亀は首を傾けて
より深く口付けてくる。
- 137 名前:悪魔襲来 投稿日:2008/12/29(月) 17:36
- 「んっ!?」
すると柔らかくて生温かい何かが舌が触れた。
私が驚いて体を引くと追いかけるように亀が顔を寄せてくる、そしてその得体の知れない柔らかなものが歯茎に触れた瞬間に正体が分かった。
それは亀の舌だった。
それが自分の物のように口内をなぞって遊んでいる。
そして蛇が絡みつくように私の舌にそれが触れると急に怖くなった。
私はこれぞ火事場の力ってやつなのか、肩に置かれている手を払って亀を突き飛ばした。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・」
私は胸と胸の中が両方締めつけられるように苦しくて荒い息を吐き出す。
あまりに勢いが付きすぎたのか亀はテーブルのところまで吹っ飛ばされていた。
背中でもぶつけたのか少し辛そうに顔を歪めていたけれど今は自業自得だと思うし、
正直なところもう一発くらい殴ってやりたかった。
それだけのことを亀はやったと思う。
- 138 名前:悪魔襲来 投稿日:2008/12/29(月) 17:37
- 「・・・・亀。」
「す、すみません!・・・・・ちょっとやり過ぎちゃいましたね。」
「今すぐ出て行って。」
「えっ?」
「殴られたくなかったらすぐに出て行ったほうがいいと思うよ。」
「ははっ、殴るだなんて随分と物騒なこと言いますねぇ。」
「いいから出て行け!もう二度と来るな!!」
相変わらず悪びれた様子もなく亀は笑っているから本当に殴りたくなってきて、
私はドアの方を指差さして大声で怒鳴った。
その只らぬ様子にさすがの亀も笑うのを止めてゆっくりと立ち上がると、最後に軽く
頭を下げるとリビングから出て行った。
一瞬だけ見えた亀の顔は今にも泣きそうだった。
でもなんであっちが泣きそうな顔をするのか、私には全くもって意味が分からない。
「泣きたいのはこっちのほうだよ・・・・・・亀のバカっ!」
と込み上げてくる苛々が抑えられなくて誰もいないリビングに向かって叫んだ。
でも殴りたいくらいムカつくのに亀のその泣きそうな顔が頭から離れない。
どうしていいか分からず呆然と立ち尽くしていると、後ろから焦げた匂いがしてきて
振り向くと鮭が真っ黒になっていた。
私は大きな溜め息を吐くともう何かもが嫌になって、その場にしゃがみ込むと
少しだけ泣いた。
- 139 名前:弦崎あるい 投稿日:2008/12/29(月) 17:37
-
- 140 名前:弦崎あるい 投稿日:2008/12/29(月) 17:37
-
- 141 名前:弦崎あるい 投稿日:2008/12/29(月) 17:39
-
話の区切りがいいので今回はこれで終わります
少なくて本当に申し訳ないです
- 142 名前:GAKILOVE 投稿日:2008/12/29(月) 19:39
- わがままな要求を受け入れてくださって
ありがとうございます!
楽しみにしてます!
亀の切ない思いと、ガキさんの複雑な感情に
ドキドキしました。
更新楽しみにしてますよ
- 143 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/01/11(日) 03:01
- ガキさん大人っぽくなったな〜
- 144 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/03/28(土) 23:17
- 更新楽しみに待ってます!!
- 145 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/04/27(月) 22:07
- 更新が待ち遠しいです。
- 146 名前:弦崎あるい 投稿日:2009/05/22(金) 22:28
- GAKILOVEさん これからまた色々とあって二人の感情は変化してきますが、
その辺を気長に気守って頂けると嬉しいです
>>143さん 近頃のガキさんは大人を通り越して、何かもうお母さんに見えます
>>144さん お待たせしてしまってすみません。
これからはもう少し早めに更新していけると思います
>>145さん 気がついたら前の更新から約半年くらい経ってますね・・・
お待たせしてしまって申し訳ないです
待っていた方がいたのなら本当に申し訳ないです
これからはもう少し更新頻度を増やすつもりですので、たまに思い出して
覗きにきてくれると嬉しいです
- 147 名前:4 悪魔、再び襲来 投稿日:2009/05/22(金) 22:30
- あれから亀は家に来なくなった。
出入り禁止したんだから当たり前なんだけど、もう二週間も経っているのに姿を見せない。
だから今日の夕食はれいなと二人きり。
この頃三人で食べることが多かったから一人いないだけで変な感じがする。
ちょっと前まではこれが普通だったのに、今は何だか物足りないような気分だった。
「ガキさん、絵里がいなくて寂しいって顔しちょるね。」
「ブゥゥゥ!・・・・・ごほっ・・・ごぼっ・・・そ、そんなことありません!」
「分かりやすいっちゃねぇ、ガキさん。」
「だからそんなじゃないって言ってるでしょ!べ、別に亀のことなんて気にしてないし。」
「絵里はしとーよ。」
「へっ?」
「絵里はガキさんのこと気にしとる。」
「・・・・・う、うん。」
れいなが心の中を呼んだような一言に私は思わずお茶を噴き出してむせた。
それからしばらくれいなは楽しそうに笑っていたけれど、突然真面目な顔になって
私をまっすぐ見つめる。
だから茶化すことも出来ず私は軽く溜め息を吐き出すと軽く頭を掻いた。
- 148 名前:4 悪魔、再び襲来 投稿日:2009/05/22(金) 22:32
- 「絵里が何かしたん?」
「えっ?・・・・・あぁ・・・うん、まぁね。」
「ん?どうしたと?」
「な、何でもないから気にしないで。」
れいなに言われて私はふとこの間亀にされたことを思い出した。
あのときは怒りだけだったけれど、冷静に思い返すとかなり恥ずかしいことをされたことに
気づいて自然と顔が火照りだす。
急に顔色を変えた私をれいなは怪しんだのか顔を覗き込まれる。
でも赤い顔を見られると何か言われそうで、私は不自然に顔を横に逸らして手で隠すと
適当に誤魔化した。
幼馴染の優しさなのかれいなはそれ以上聞かなかった。
その優しさに感謝しつつ私はさっきれいなが言っていた言葉が気になった。
「絵里は気にしてる」確かにそう言った、私に家から追い出されてから亀は
どんな気持ちでいるんだろうか。
そのとき不意にあの日の別れ際に見せた泣きそうな亀の顔が頭の中に浮かんだ。
そうしたら少しだけ胸が締めつけられた。
- 149 名前:4 悪魔、再び襲来 投稿日:2009/05/22(金) 22:33
- それから3日経った日の夕方、その日は朝から雨が降っていて私が学校から帰る頃には
もう土砂降りになっていた。
一応傘を差していたけどそれで雨脚が強すぎて足元は既にびしょ濡れ状態だった。
私はすぐにでもシャワーを浴びたいなと思いながら帰り道を走っている。
色が変わった制服のまま地面にしゃがみ込んでいる女の子。
俯けているのでその顔は見えなかったけれど私はすぐにそれが誰だか分かった。
「・・・・・亀。」
私が久しぶりにその名前を呼ぶと女の子はゆっくりと顔を上げた。
「あっ、ガキさん。」
「こんなところで何やってんの?」
「ガキさんに謝ろうと思って家に来たんですけど、いなかったのでずっと待ってました。」
「バカッ!電話とかしなよ。私がもっと帰るの遅かったらどうするつもりだったの?」
「・・・・・待ってます。多分、ガキさんが帰って来るまでずっと待ってたと思いますよ。」
亀は私の姿を見つけると相変わらずヘラヘラと笑って見せる。
傘を持ってないところから分かっていたけど、亀は全身ずぶ濡れで寒いのかさっきから
小刻みに体が震えている。
あまりに馬鹿で無茶な行為に私が怒っても亀は笑っていた。
優しく細められた瞳と穏やかな笑みを見て私の胸が自然と熱くなり、なぜだかそのとき
不意に泣きたくなった。
- 150 名前:4 投稿日:2009/05/22(金) 22:34
- 「・・・・ほら、立って!そこにいたら入れないでしょ?」
でもこんなところで泣くわけにも行かないので、目が潤んでいるのは雨のせいにして
私は亀の手を掴んで少し強引に立ち上がらせる。
「は、入っていいんですか?」
「いいとかいけないとか言ってる場合じゃないでしょ?早く服脱がないと風邪引くよ」
「・・・・・でも絵里はガキさんにひどいことしたし。」
「だから今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!早く中に入りなさい。」
私が家の鍵を開けて中に入ろうと言ってるのに亀はその場から動かない。
どうやらこの間のことをまだ気にしているらしい。
私だって全然気にしないわけじゃない、ただ今はそんなことで言い争っている場合じゃない。
っていうか雨の中玄関前で言い争っているのも恥ずかしいし。
亀は俯いてしばらく何やら考え込んでいる様子だった。
考えていてもしょうがないでしょ、と思って声を掛けようとしたその瞬間亀は
私の手をやんわりと振り払う。
「本当にすいませんでした!」
そして濡れている地面に普通に正座するとそのまま土下座した。
- 151 名前:4 悪魔、再び襲来 投稿日:2009/05/22(金) 22:36
- 私はその唐突な展開に呆気に取られてしまって、口を開けたまましばらく亀を見つめていた。
でもハッとすると慌てて亀に近寄るととにかく頭を上げさせる。
「ちょっと頭上げてよ。っていうかそんなことしたら余計濡れちゃうでしょうが!」
「そりゃそうですけど・・・・・一度ちゃんと謝りたかったんです。」
「まぁ気持ちは嬉しいけどとりあえず立って、それで家の中に入る、そしてシャワーを浴びる。」
「はーい。」
自分ではまだ納得がいってないのか亀は不満そうだったけれど、雨の中で押し問答を
続ける気はない。
とにかく家の中に入ってすぐにシャワーを浴びたかった。
私が順序立てて説明すると亀は小さな子どもみたいに手を上げて返事をする、そして素直に
後に続いて家の中に入った。
私達はとりあえず靴箱の上に鞄とびしょ濡れの上着と靴下を置いた。
亀はどれぐらい前から待っていたのか知らないけど、まるでバケツの水を頭から被った
かのように全身濡れている。
私も十分濡れているけれど亀のほうがひどいので先にお風呂場に行かせることにした。
「亀、先にシャワー浴びていいよ。」
「えっ?いやガキさんが先でいいですよ、全然。」
「そんな唇青くしてバカなこと言わない!体だってかなり冷たくなってるし」
「いや、まぁ、そうですけど・・・・。」
「ぐだくだ言ってないでさっと入ってきなさい!お風呂場は廊下の突き当たり左側、
分からなかったら適当にドア開けて。」
「は、はい・・・・・じゃお先に失礼します」
亀は変なところで遠慮してきたけど、そんなこと言ってる場合じゃないので強引に
お風呂場へ行かせた。
それでも最初はちょっと渋っていたけどとりあえず歩き出した。
でも突然廊下の真ん中辺りで立ち止まるとなぜか後ろに振り返る。
その顔は何やら楽しそうにニヤニヤ笑っていて、私は嫌な予感がして自然と口から
溜め息が漏れる。
「・・・・・ガキさん、一緒に入ります?」
「入りません!」
何となく言うことが想像できていたので、私は亀が言い終わると同時ぐらいに即答した。
- 152 名前:弦崎あるい 投稿日:2009/05/22(金) 22:36
-
- 153 名前:弦崎あるい 投稿日:2009/05/22(金) 22:36
-
- 154 名前:弦崎あるい 投稿日:2009/05/22(金) 22:37
- 短いですが今回はこれぐらいで
- 155 名前:GAKILAVE 投稿日:2009/05/23(土) 15:41
- 更新きたーー!!
気長に待ってた甲斐がありましたね。
前までは、ずっとあげてしまっていました。
謝ります、すいません。
二人に会話が戻ってよかったです。
次回も楽しみにしています。
- 156 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/05/24(日) 20:17
- 亀ちゃん良かったねと思う気持ちの一方で
ガキさんの将来を心配してしまう気持ちが拭えません……(w
- 157 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/08/20(木) 16:36
- 次回がものすごく気になります!!
更新よろしくお願いします。
- 158 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/09/13(日) 16:05
- 続き気になるな〜
更新待ってます
- 159 名前:弦崎あるい 投稿日:2009/11/25(水) 15:56
- お久しぶりです、弦崎あるいです
またもや半年振りの更新になってしまい申し訳ありません
>>:GAKILOVEさん 本当にお待たせしてばかりで申し訳ないです
アゲとかサゲとか自分は気にしない人なので全然大丈夫ですよ
これに懲りずまた暇なとき見に来てくれると嬉しいです
>>156さん ガキさんは生まれながらに苦労性を背負っている、とリアルな
ガキさんを見てもそう思います
>>157さん お待たせしました
今回は前回の続きではなくて、新しい区切りの話になります
>>158さん 同じくお待たせしました
本当に更新が遅いので少しでも早くしたいと思います
- 160 名前:第5章 すれ違いの夜 投稿日:2009/11/25(水) 15:58
- 亀の土下座事件の後、私達は一応元の友達の関係に戻った。
そして亀はケンカなんてまるでなかったかのように、前と変わらず私の家にちょくちょく遊びに来ている。
その日も私が学校から帰ると玄関前に見慣れた制服姿の女の子が立っていた。
「・・・亀、また来たの?」
「そんな嫌な顔しないでくださいよぉ。」
「だって嬉しくないし。」
「またまた、そんなこと言っちゃって。あっそうだ!れいなが後で行くって言ってました。」
「了解。じゃ先に上がって待っててれば?」
「はーい。それじゃお邪魔しまーす。」
私はとりあえずリビングに亀を通すと、制服を脱ぎたかったので二階の自分の部屋へ
向かった。
殆どの場合はれいなも一緒で3人なんだけど、たまにこういう2人きりというときがあって
最初は正直不安だった。
またあぁいうことされるんじゃないかって嫌でも考えてしまう。
でも不意にキスされてあの日以来、亀は私に変なことをしてきたことは一度もなかった。
というかその気配すら感じられない。
だから最近はあのときのことが嘘のような気さえしている。
「でも・・・・確かにキスしたんだよね、亀と。」
私は何気なく指で唇に触れると無意識のうちにそんなことを呟いていた。
それからすぐに自分の言った言葉を理解して顔が熱くなる、まるでキスされなくて寂しい
みたいな言い方だったから。
確かに今まで数えるのも面倒なくらい、キスされたり抱きつかれたり告白されてきた。
でもそういうことされて嬉しいと思ったことなんて一度もない。
だけど嫌だと思ったことも一度もないなぁと思った。
そんなこと考えていたらまるで亀のこと好きみたいじゃんと思って、私は亀のことを
頭の中から追い出すことにした。
「ないないない!そんなこと絶対ない!ありえないし!!」
と私は自分で言ったことをすぐに首を左右に振って全否定した。
だけど顔は未だに熱を持っていて、とりあえずすぐには下へ降りられそうになかった。
- 161 名前:第5章 すれ違いの夜 投稿日:2009/11/25(水) 15:59
- ようやく顔の熱が引いたのでリビングに行くと、いつの間にかれいながソファーの上で
横になって寛いでいた。
「あっ、れいな。来てたの?」
と声を掛けるとれいなは体を起こさず手だけ軽く上げて挨拶する。
本当に自分の家のように寛いでるなぁと思って苦笑した、でもそんなの今にも始まった
ことでもないので何も言わなかった。
「っていうか驚いたと!ピンポン押したら絵里が出よるから。」
「あのねぇ・・・・亀!れいなだったからいいけど勝手に人の家のドア開けないでくれる?」
「あはははっ、すいませーん。でも結果オーライじゃないですか。」
「ん?うーん、まぁそっか。っていうかあんたさっきから台所で何してんの?」
「見れば分かるじゃないですか。お料理ですよ、お料理。」
「ちょ、ちょっと!亀って確か料理できない人じゃないの?」
とりあえずはれいなに軽く声を掛けてから、人の家のドアを勝手に亀が開けたらしいので
注意した。
すると亀はまた上手いこと言って適当に誤魔化そうとする。
それについてツッコミを入れようかと思ったけれど、台所で何やら作業しているのが
気になったので私は話題を変えた。
返ってくる答えは大体予想していたけど、それでも本人の口から聞くと少し驚いた。
当然の質問に亀は得意顔で鳥のように舌を鳴らしながら指を左右に振る。
「いつの頃の話をしているんですか?人間は日々進化しているんですよ」
と腕を組むと余程自信があるらしく、偉そうな口調で私とれいなに向かって宣言する。
あまりにもバカらしいので反論は止めておいた。
というわけで私はもう亀の好きなようにやらせることにした。
亀は顔に似合わず意外と頑固だからきっと止めても無駄だろうし、もし失敗したとても
インスタントラーメンが確かあったはず。
できればそれを使わないで済めばいいんだけど、と私は台所で一人奮闘している姿を
見ながら思った。
- 162 名前:第5章 すれ違いの夜 投稿日:2009/11/25(水) 16:01
- 「・・・・・止めなくていいと?」
「いいよ、もう。亀の好きにやらせる。ダメな時はインスタントラーメンがあるしね。」
「じゃれいなはとんこつで。」
「私はやっぱり定番の醤油かな。あっ、でも味噌もいいかもねぇ。」
「そう言われると迷うんやけど・・・・れいなもたまには醤油にするかな。」
「ちょっとそこのお二人さん!失敗前提で話を進めない!」
私はれいなの隣に座ると二人で夕食の相談をしていたら当然だけど亀に怒られた。
「でも絵里やからなぁ」なんて不安そうな顔をしてれいなは呟くと、私にもたれ掛かってきて肩に頭を乗せる。
私は慰めるように苦笑しながら優しく頭を撫でてあげた。
それから十分くらいして亀が「できましたよー!」と叫ぶ声を聞いて、私達は少し重い気分で
ダイニングに向かった。
そしてテーブルに私とれいなは並んで座ると目の前にオムライスが置かれる。
亀がどれくらい練習したかは知らないけれど、当然形は綺麗なラクビーボール型ではなく
とりあえず卵を乗せましたって感じだった。
まぁ一応卵は半熟だけど柔らかい為に余計に見た目がグチャとしている。
おまけにお皿の余白にケチャップでハートとか無駄に書かれていて、私のやつには真ん中に
LOVEと書かれていた。
ちなみにれいなのやつは猫耳みたいなものがオムライスの上に書かれている。
『キモイ』
オムライスを見た瞬間、私とれいなの口から出た言葉は見事に重なり合って綺麗にハモった。
どうやら二人とも思ったことは一緒らしい。
「ひどーい!それが一生懸命作った人に大して言うこと言葉ですか?」
「だってキモイもんはキモイんやから仕方なかろうが。」
「っていうかこれ本当に食べられるの?」
想像していたものよりは食べられそうだけれど、それでも不安で私とれいなは
顔を見合わせると小さく溜め息をつく。
どうやら思っていることは同じようなことらしい。
- 163 名前:第5章 すれ違いの夜 投稿日:2009/11/25(水) 16:04
- 「食べれますよ!確かに見た目は綺麗とは言い難いですけど大事なのは味ですから。」
「まぁ確かに味は大事だよね・・・・れいな、先食べていいよ。お腹空いてるんでしょ?」
「ガキさん、ひどっ!絶対毒見役やん。」
「そうですよ!そんなに絵里が作ったの信用ないんですか?」
「分かった、分かりました!一緒に食べよう。それなら文句ないでしょ?」
一番初めに食べるのが少しだけ嫌だったので、さり気なくれいなに振ってみたら
気づかれてしまった。
でも別に毒見役とまでは思ってない、ただどんな感じなのか様子が見たかっただけで。
だけどれいなは嫌がるし亀も不満そうに文句を言ってきたので、結局2人で一緒に
食べることになった。
「・・・・いくよ、れいな」
「・・・・うん」
「ちょっと、なんで2人して深刻そうな顔してるんですか!もっと楽しくいきましょうよ。」
スプーンを手にしたもののいざ食べるとなると固まってしまう。
それでも意を決してれいなに声を掛けると真剣な表情のまま小さく頷いた。
そんな私達の様子に亀がツッコミを入れると軽く手を叩いて場を盛り上げる。
でも当然盛り上がるはずもなく代わりに溜め息が漏れる。
「美味しいか分からないものを食べる人の気持ちにもなってよ!」と、文句を言いたい
気分だったけど今更言っても仕方がないので堪える。
そして私とれいなはほぼ同時にオムライスを掬って口に運ぶ。
私はショックに備えて強く目を瞑ったけれど予想に反してまともな味だった。
していうなら少し味つけが濃いぐらいで不味いということはない、というか見た目は悪いけど
味は美味しいほうだと思う。
れいなは安堵したような柔らかい笑みを浮かべながらこちらを見る、きっと今の私も
同じような表情をしていると思う。
それかられいなは相当お腹が減っていたらしくがっつり食べた。
私は小食の方だから私の分をあげたけれどそれでもまだ足りないらしく、結局あとで
カップラーメンの醤油を食べていた。
亀は自分の作り忘れていた為、れいなと一緒にカップラーメンの醤油を食べた。
それから三人でまたくだらない話をして盛り上がって、気がつくと時計の針がもう
7時半を示していた。
- 164 名前:弦崎あるい 投稿日:2009/11/25(水) 16:04
-
- 165 名前:弦崎あるい 投稿日:2009/11/25(水) 16:04
-
- 166 名前:弦崎あるい 投稿日:2009/11/25(水) 16:05
- 相変わらず少しだけですが、今回はここまで
- 167 名前:GAKILOVE 投稿日:2009/11/28(土) 09:03
- 更新ありがとうございます!!
なんか・・自分、平和が好きみたいです。
次の展開に期待!!
- 168 名前:弦崎あるい 投稿日:2009/12/04(金) 17:13
- >> GAKILOVEさん いつもレスありがとうございます
まぁ実は次回くらいから段々と平和じゃなくなっていきそうなんですが、
詳しいことは今度の更新を見てください
- 169 名前:弦崎あるい 投稿日:2009/12/04(金) 17:20
- 今回はいきなりですが、長編を一旦切ってこはみつの短編を載せたいと
思います
ちなみにガキカメの長編とは一切関係がないお話です
あと初めは明るいノリですが、後半からダーク路線に入ってきます
ちなみに死ネタありです
小春が卒業するのにどうよ、って感じの話だとは思いますがもしよかったら
見てやってください
あと蛇足ですが、個人的にお勧めBGMは「しょうがない夢追い人」です
もし暇だったら聞きながら読むと、より雰囲気が出るような気がします
- 170 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:21
- 在校生の歌が終わり私達卒業生はようやく硬いパイプ椅子に座ることができた。
若干騒がしくなったけれどそれもすぐに治まり体育館に静寂が戻ると、時を見計らって
体格の良い体育教師が立ち上がる。
そして野太い声で「卒業証書授与」と言うと、校長先生が来賓の方に挨拶をしながら
ゆっくりと舞台上へ向かう。
それから色々と準備があって整うと男子から1人ずつ名前を呼ばれた。
私はこの頃忙しくて予行練習に全く参加できなかった、だからとりあえず段取りは
簡単に教えてもらった。
でもこの程度ならずっと見ていれば普通にできそうだった。
私のところは二組なので名前を呼ばれるまで少しだけ時間がある。
あまりに単調な流れなので見るのに飽きてしまい隣の子と話でもしたかったけど、
それは多分無理な事だと知っているのでやらなかった。
現に他のクラスの子達は話している姿が見られるけれど、うちは誰一人として
喋っていない。
それは真面目だからとか空気を読んでいるからとかそんなことじゃない。
今日の卒業式でクラスメートと離れ離れになるというのも理由の一つかもしれない、
でも一番の理由は一ヶ月前にあの子の告別式に出たからだと思う。
あの子はクラスの中心的人物で男女問わず好かれていた。
そういう事情があってこの二組だけ暗い、というか周りの空気より少し重く淀んでいる。
- 171 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:23
- そんなことを考えると一組が終わりうちの男子の名前が呼ばれた。
一人呼ばれると早いものですぐに私の名前が呼ばれる、椅子から立ち上がり舞台脇にある
階段の手前で立ち止まる。
前の子が反対側の階段を下りると同時ぐらいに私は舞台へと上がると、校長先生の前に
立って卒業証書を両手で受け取った。
そして深く頭を下げてからゆっくり戻すと、顔を上げた瞬間校長先生とちょうど目が合った。
「芸能生活と学業の両立は大変だったと思うけどよく頑張りましたね、おめでとう!」
気を利かせてくれたのか余計な一言だなと内心思いながら、顔は雑誌用の満面の笑みで
「ありがとうございます!」と元気な明るい声で答えた。
それから舞台を去ると自分の席まで戻っていく、でも途中歩きながらやっぱり練習する
必要も無い簡単な作業だったなと思った。
私の後も何ら問題はなく流れるように事は進んだけれど、あと数人で終わるというところで
担任が少し涙声であの子の名前を呼んだ。
それは死んでしまった女の子の名前で、一緒に卒業式をやりたいというクラスメートの要望で
呼ぶことになったらしい。
HRの話し合いで決まったらしいけど私はその場にいなかったので詳しくは知らない。
当然のように返事はなく静まり返った体育館に重苦しい沈黙だけが流れる、そして不意に
それを破って女子のすすり泣く声が聞こえてきた。
一人が泣くとこういうのは広まるもので気がつくとクラスの大半が泣いていた。
私は悲しいなとか思わなかったから涙なんて出なかったけど、ここで泣かないと後で色々と
言われそうだなと思ったので嘘泣きした。
別に悲しくも寂しくもない、なのに胸の辺りが妙にざわついていて変な気分だった。
でも一瞬あの子の笑顔が頭を過ると同時くらいに生温かいものが頬を伝った、するとそれは
次々と溢れてきて止まらなくなる。
どんなに手で目元を擦っても押さえても止められなくて私は嗚咽を漏らした。
泣く理由が無いから泣かないと思っていた、というか泣いたらいけないと思っていた。
未だに何が何だか分からない状態で私は頭が混乱していた、でもとりあえず軽く深呼吸して
自分を落ち着かせる。
「な、なんで・・・・・今更。」
と目を強く瞑り震えた息を大きく吐き出すと無意識のうちにそう呟いていた。
その後の「光井愛佳の為に泣くんだろ」という言葉は聞かれると誤解されそうなので
口を押さえて堪える。
それから何回か強引に深呼吸を繰り返しようやく頭も心も冷静になってきた頃、
なぜかあの子と初めて会ったときの事を思い出した。
- 172 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:25
- 中学三年生になり新しいクラスになったけれど私には全く不安がなかった。
明るく元気で話好きで人懐っこい、おまけに芸能界に関わっているせいか一年の頃から
いつもクラスの中では中心的存在だった。
ちなみに芸能界と言ってもティーン雑誌のモデルをたまにしたり、子ども向けの番組に
出演しているというだけだった。
それでも皆が私のことを見てくれて輪の中心には当然のように自分がいる。
それは三年になっても変わらず、新しいクラスの子達も興味と感心で私に群がってくると
確信していた。
あの子が転校してくるまでは。
確か五月ぐらいだったと思う、中三で転校生というのも珍しさも相俟ってその日はその話題で
持ちきりだった。
そしてチャイムが鳴ると同時に担任連れられたキャメル色のブレザー姿の女の子が
教室に入ってきた。
想像していたより可愛いけど抜群の美少女ってわけじゃない、正直顔立ちだけなら余裕で
自分のほうが上だという自信はある。
第一印象は男子とかとも普通に遊んでいそうな感じのする子だった。
「滋賀県から来ました光井愛佳です、みっつぃーって呼んでくれると嬉しいです!
分からない事だらけなのでみなさんよろしゅうお願いします」
関西系の人という感じの明るくノリが良い挨拶は、その活発そうな見た目と相まって全く
違和感がなかった。
それに人当たりの良さそうな笑みも加わって、話しやすそうな印象を私に限らずクラスの
みんなに与えたと思う。
その笑みを見たときから何だか嫌な予感がしていた。
この子に私のいる場所が奪われる、そんな何の確証もない思いが私の胸を掠めた。
「それじゃ・・・・・とりあえず光井は空いている久住のところに行ってくれ。」
そして何の嫌がらせか知らないけれど担任は私の横の空席を指差して言った。
内心は勘弁してよと思いながらもそんなことは微塵も見せず、私は勢いよく立ち上がると
明るく弾んだ声で手を振りながら言った。
「みっつぃー、ここ!ここ!」
すると教室が一瞬にして笑い声に包まれる、転校生は最初驚いた顔をしていたけれど
すぐに嬉しそうに笑った。
手を振りながら愛想よく転校生は机の間を歩いてくると私の横に座った。
「よろしゅうお願いします・・・・えっと・・。」
手を差し出して挨拶したものの自己紹介もしていないので、当然私の名前が分からず
転校生は眉を顰めて困っていた。
「小春だよ。久住小春!よろしくね、みっつぃー!」
と一瞬偽名でも使おうかと思ったけどすぐにバレることなので、本名を教えてあげると
私達は握手しながら笑い合った。
- 173 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:26
- 光井愛佳は私が思ったよりもずっと早くクラスに馴染んでいった。
でも彼女は自分から積極的にクラスの子達と関わりを持とうとしていたので、ある程度は
予想の範疇だった。
ただ私が予想していたより時間がかからなかったことに少し驚いていた。
多分元から話し好きなのか光井愛佳はこちら側が話し掛ける前に、自分のほうから
近くにいる人を捕まえては話し相手にしていた。
それにその裏表が無く人懐っこい性格から男女問わず彼女は好かれていた。
無論私も普通に好かれている、相変わらずクラスの中心にいて話題を作るのも話すのも
大体自分だった。
ただ最近まだ少ないけど光井愛佳も話題を作ってクラスの皆と話したりしている。
私はそれが気に食わなかった。
顔なんてこっちの方が圧倒的に可愛いし愛嬌だってある、背なんて10cmくらい高いし、
スタイルだって私のほうが良い。
運動神経は互いに大して変わらない感じで、勉強に関してはちょっと勝てそうになかった。
でも私は何にしても光井愛佳に負けたくなかった。
負ける気は全くないけど気を抜いたら抜かれてしまいそうで、彼女の何が私にここまでの
危機感を煽らせるのかは分からない。
それでも勝たなきゃという思いだけが強くて、私は光井愛佳と日々張り合っていた。
- 174 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:27
- 「あー、みっつぃーの飲んでるのおいしそう!」
「この梅ソーダのこと?学校行く途中の自販機でたまたま見つけたんよ」
例えばとある日の昼食中に光井愛佳の持っているジュースがおいしそうと言われれば、
私はすぐさま次の日に一?のペットボトルを持ってきた。
登校中に重くてかなり邪魔だったけど、それを光井愛佳の机に勢い良く置くとクラスの誰もが
私に注目し期待の眼差しを向ける。
「小春のすこいでしょ!これだよ、これ」
と鼻を鳴らして自慢気に言うと一?用のペットボトルを光井愛佳に突きつける。
「こ、これは!!最高級紀州産の南高梅を使用し、さらに日本名水100選にも選ばれた
神の水とも言われている天の川を使い、風味を壊さないよう微炭酸で仕上げられたという
幻の梅ソーダ!定価1800円はするあの『天下梅』じゃないですか!!」
光井愛佳はしばらく声が出なかったようだけど、しばらくしてから恐る恐るといった手つきで
ペットボトルに触れると驚嘆の声を上げた。
「そう、これ超限定品なんだからね」
「もう飲みました?聞いた話だと微炭酸の後にくるほのかな酸味が絶品らしいですよ」
「本当に?やっぱり紀州の南高梅が高ポイントだよね!」
「ですねー。これに勝る梅はないですって、ホンマに。」
というような感じで結局盛り上がったのは二人だけで、何の張り合いにもならなかった。
- 175 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:28
- 「すごい!このお弁当ってみっつぃー自分で作ったの?」
「うん、作るの大変やけど料理は好きやから」
またとある日に光井愛佳が自作のお弁当を褒められたときは、ロケ弁で美味しいと評判の
お店に行って一番高いお弁当を買ってきた。
「ふっふっふっ・・・・ジャジャーン!!今日の小春のお昼はこれだから。」
と勿体振りながらゆっくりと鞄の中から取り出したお弁当を光井愛佳の前に突きつけた。
「お弁当ですね」
「只のお弁当じゃないんだよ、これ!これは芸能人が選んだ食べたいロケ弁NO1の女々園の
焼肉弁当なんだからね」
私は勝利を確信して今にもこぼれそうな笑みを隠すとわざわざ説明までしてあげる。
「すごいですねぇ、久住さんは」
「当たり前じゃん!小春はすごいんだって!」
「でもいつもロケ弁なんですか?」
「なわけないじゃん。っていうか普通学校までロケ弁持って来ないし」
「ですよね。でもそれならいつもどうしてはるんですか?」
「いつもは大体コンビニかな?うちの親は忙しいから作れないし・・・あぁ、たまに学校の購買で
パン買うけどまずいから嫌いだし。」
自分にとっては普通のことなのでありのままに答えると、それを聞いた光井愛佳は少しだけ
悲しそうに笑った。
- 176 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:29
- それからこっちが全く予想もしていなかったことを言われた。
「お弁当作ってきてあげますよ、今度」
「はぁ?別にいいよ、みっつぃーのお弁当なんていらないし」
突然のことに思わずあっけらかんとした口調で答えてしまったけれど、それは素直な
心の声だった。
そんな私の言葉に光井愛佳は含みのある笑みを浮かべるといきなり顔を寄せてきた。
「ホンマですかぁ?ウチの作るお弁当は自分で言うのも何だと思いますけど、結構おいしい
って評判なんですよ?甘い卵焼きにタコさんウインナー、唐揚げに口直しで海老とアボカドの
和風サラダ、あとはあんまりお弁当では見かけない焼きおにぎり、って感じで今度は
いこうと思っとるんですけど食べたくありませんか?」
初めは本当に興味なかったのに、光井愛佳があまりにもおいしそうに料理の説明をするから
段々食べたくなってきた。
「・・・・・てもいいけど」
「えー?聞えへんなぁ。久住さん、今なんて言いはりました?」
「そ、そんなに言うなら食べてあげるよ!おいしくないみっつぃーのお弁当!!」
「だからおいしいですって」
そんな感じで上手く言い包められた気もするけど、その日から時々お弁当を作ってもらって
それを摘むようになった。
- 177 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:30
- またあるときは授業中に無謀にも頭で張り合おうとして、答えが分からなかったけど
勢いで手を上げてみた。
「この問題は・・・・光井、できるか?」
「はいはいはいはい!」
「今光井と言っただろうが」
「いいじゃん先生、小春分かるから!小春当ててよ!!」
「お前絶対分からないだろ」
「分かる、絶対分かるから当ててください!」
「・・・・・それじゃ久住。」
先生は渋々といった感じで当ててくれたので、私は席を立つとクラス中の視線を一身に浴びて
黒板の前へと躍り出る。
けれど黒板に書かれた『x−3y+5y−4x』という式を見て体が硬直する、
そして固まったまま全く動けなかった。
「はい、案の定分からなかったので交代な。」
という先生の見事なくらいあっさりとした言葉にクラス中が一斉に笑いに包まれる。
私は正直恥ずかしかったけれど、自分でやったことなのでその場に立ったまま黙って
顔を俯けていた。
「もう光井でいいや、このバカにお手本を見せてやってやれ」
「へっ?私ですか?えっと・・・・分かりません」
先生も当然答えられると思って当てた光井愛佳の返答は、多分この場にいる全員の予想を
裏切るものだった。
- 178 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:31
- 「お前なら分かるだろ?これぐらい。」
「いやぁ、今日はどうも頭の働きが悪いみたいですわ。すんませんねぇ、先生」
「はぁ・・・・全く、バカが多いなぁ。このクラスは」
「本当に久住共々ご迷惑をおかけしております」
「お前時々ババアくさいこと言うよな。まぁいい、もう時間だしこの問題は来週までの
宿題にしておくからやっとけよ?あと光井と久住は席に戻れ」
先生は訝しげな表情で光井愛佳を見つめていたけど、当の本人は冗談を言って平然と
受け流していた。
その様子に諦めたか呆れたのかは知らないけれど、先生も大して追及せずに話を終わらした。
私は今の一連の流れに納得がいかなかったもののとりあえず席に戻ることにした。
すると突然先生に引き止められて小声で言われた。
「・・・・・あとで光井にお礼言っとけ」
「へっ?」
そのときの私は意味が分からなくて、多分間の抜けた顔して先生のほうを見ていたと思う。
「いいから言っとけ、バカ」
と先生は溜め息混じりの口調でそう言うと、最後に私の頭を拳骨で軽く叩いてから教材を
持って教室から出て行った。
その姿を呆然としばらく眺めていたけど、休み時間が時間を無駄にしたことに気がついて
すぐ自分の席に戻った。
「もうー、小春って本当にバカじゃないの?」
「そうだよ。分かる問題で手を上げればいいのにさ」
「でもみっつぃーのことになるとすぐに小春は張り合っちゃうからね」
と数人の友達が近寄ってきてそれぞれ勝手なことを言ってくる、私は言い返そうと思ったけど
さっき先生に言われたことを思い出してそちらを優先した。
- 179 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:32
- 「みっつぃー!ちょっとこっち来て!!」
周りにいる友達を無視して椅子の上に立ち上がると、大きく手を振りながらその名を呼んだ。
「は、はーい!今行きます!!」
まるで名前を呼ばれて嬉しそうに走ってくる子犬のように、光井愛佳は小走りで私の元に
やってきた
全く訳が分からなかったけど先生が言えと言っていたのでとりあえずお礼を言った。
「さっきはありがとう!」
私はどんな顔をして言えばいいのか分からなかったので適当に笑いながら言ってみた。
「えっ?あっ、はい!どういたしまして。」
すると光井愛佳は今まで見てきた表情の中で、一番嬉しそうにはにかみながら笑って答えた。
見た目はいつも笑っている時と変わらないけどなぜかそう思った。
- 180 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:33
- それからあっという間に夏休みに突入した。
学校が休みなのを良いことに馬鹿な事務所は仕事を無茶なくらい入れてきて、こっちの
宿題や遊びの予定なんて絶対考えてないことはすぐに分かった。
そのお陰かどうか知らないけど、今まで端役ばかりだったのにいきなり準主役に抜擢された。
とは言っても月9とか夜にやっている普通のドラマではなくて、昼の一時ぐらいから
奥様向けにやっている所謂昼ドラというやつだった。
役どころは最初の方は主人公の親友で仲が良くしていたのに中盤からいきなり裏切り、
実は今までいじめを仕組んでいた張本人。
という何だか微妙な役だけど台詞が一杯あるしやりがいがありそうだなと思った。
無能な事務所の割には結構大きい仕事だし頑張るように念を押されている、でもそんなこと
言われなくても分かっている。
ドラマは学園物ということで共演者は殆ど同年代の子ばかりだった。
主役の矢島舞美って子は私より多少知名度がある子で確かに綺麗だけど、話すと馬鹿だし
見た目によらず天然で周囲が予想もつかないNGをよく出していた。
彼女の事務所は全方位美少女なんて銘打っているけれどかなり盲点が多いと思う。
でも話すと楽しいし他の女の子達も皆可愛くて面白かった、男の子も今流行のイケメン系が
何人かいるけど私はあまり近づかないようにしている。
うちの事務所は色々あって恋愛事には厳しいので、常にマネージャーの目が光っている。
そんなわけで無駄に小言を言われたくないので、不自然ではない程度に男の子達とは
距離を置いている。
そんな感じでドラマの収録が始まってしまい、私が学校に登校したのはもう九月も半ばに
差し掛かる頃だった。
- 181 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:34
- 「みんな、久しぶり〜!!」
と教室のドアを開けるなり私は元気良く大きな声でクラス中に挨拶した。
収録中は学校へ来たいとはそんなに思わなかったけれど、実際教室に入ると気分が
高揚してつい叫んでしまった。
「小春!?久しぶりじゃん!」
「ドラマで準主役なんだって?もう学校中で噂だよ」
「ねぇ、共演してる子で格好良い男の子いない?写メ取ってきてよ!」
と女子が数人すぐに私の元にやってくると少し興奮気味に色んなことを言ってくる。
「久住さん!」
私が言葉を返そうとしたと同時ぐらいに後ろのほうから名前を呼ばれた。
特徴的な声だったのでそれがすぐに誰だか分かった、だから無視しようかと思ったけど
とりあえず首だけ後ろに振り向ける。
すると嬉しそうに目を細めて笑っている光井愛佳が私の後ろに立っていた。
もっとクラスの子達に自慢話をしてあげたかったけど、無下にするわけにもいかないので
一応話し掛ける。
「久しぶりだね、みっつぃー」
「はい。久住さんのほうは何か色々忙しいみたいですねぇ」
「まぁね!なんてたって小春は今人気急上昇中のU15アイドルだから」
「あははっ、普通自分で人気急上昇って言わなくないですか?」
「いいのいいの!だって事実だもん」
そんな感じでくだらない話をしながら二人で笑っていた。
- 182 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:35
- そんなとき突然クラスメートの女子が私達の間に割り込んでくると、顔の前で両手を
合わせて申し訳なさそうに言ってきた。
「話してるところごめん!愛佳、この間の国語のノート見せてくれない?」
「ええよ、机の中に入ってるから勝手に取ってき」
「サンキュー!本当に助かるよ」
とその女子は光井愛佳の握って弾んだ声でお礼を言うと、軽やかな足並みでその場から
去っていった。
すると間髪入れずに今度は少し遠くのほうから男子が叫んで聞いてきた。
「なぁ、光井!今度の理科ってどこでやんの?」
「はぁ・・・・今度からちゃんと聞いときや。今週は実験するから理科室!」
「おぉ、あんがと。」
負けずに光井愛佳も大声で叫び返すと男子は少し驚きながらも笑っていた。
「そういえば愛佳さー、今週の日曜日どうする?来れそう?」
「十時に渋谷だっけ?行く行く、詳しいこと決まったらメールちょうだい」
「うん、分かった」
教室のあちらこちらから光井愛佳が話しかけられていることに私は驚いた。
それと同時に激しい嫉妬で胸が一杯になった。
- 183 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:36
- ちょっと前までただの転校生だったのに、私がいない間にクラスの中心的人物になっていた。
誰もが光井愛佳を何かと頼りにして純粋に好いている。
その後私も色んな人に話し掛けられたけど、殆どが芸能界の裏情報を知りたい好奇心だけで
私自身については殆ど聞かれなかった。
それに一瞬騒がれただけで光井愛佳が話し掛けられた回数のほうが圧倒的に多い。
ちょっと学校に通っていなかっただけで、私を取り巻く環境は驚くほど大きく変わっていた。
私は芸能人で前に比べてだいぶ知名度が上がってきたし人気も出てきた、なのに一般人である
光井愛佳に勝てない。
何が彼女より劣っているのか分からなかった。
普通に考えれば私のほうがクラスメートを惹きつけそうなのに、みんなして光井愛佳を選ぶ。
顔は笑っていたけれど内心は嫉妬と悔しさで一杯だった。
こんなことは今までなかった、芸能界に入りだした小2のときからクラスメートの視線は
常に私に向いていた。
みんなが私を見てくれるのが普通だったし、学校に通っている限りはそれが続くと当然のように思っていた。
でも光井愛佳が現れたことによりその座は奪われてしまった、今このクラスの中心は
完全に彼女だった。
『消えてなくなればいいのに』
一瞬真っ黒な感情が胸の中に過ったけれどそれは間違いなく私の本音だと思う。
結構前から自分の黒い部分は自覚しているので今更驚くことは無かった。
本当に自分は黒い人間なんだなぁと改めて思っていると、不意に光井愛佳が話し掛けてきた。
「何か考え事ですか?」
「別に大した事じゃないよ、ちょっとみっつぃーのこと考えてただけ」
「えー!そんなこと言われたら気になるやないですか?!教えてくださいよぉ」
「ヤダ。死んでも教えてあげない」
そう言うと頬を膨らませて光井愛佳はしばらく不貞腐れていた、でももしもこの本音を
本人に言ったらどんな顔をするのかなと思ったら少し笑えた。
- 184 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:37
- そして昼ドラがキッカケになり私の人気は本当に急上昇した。
新しく決まったドラマはまた脇役だけど夜の九時からやるし、ドラマ主題歌を歌うことが
決まりCDデビューも同時に決まった。
雑誌やテレビの出演も以前に比べて格段に多くなり、私はますます学校に通えなくなった。
実際あの日を最後に学校には一度も行っていない。
クラスメートは前までメールをくれたのに、最近忙しくて返信しないことが多かったせいか
殆ど送られてこない。
たまに来るのは皮肉なことに光井愛佳からだけだった。
教えてほしいと言われて当然断るわけにもいかず、私は内心嫌だったけど携帯の番号と
メールアドレスを教えた。
するとたまにどうでもいいような内容のメールが送られてくるので、軽く目を通した後で
気が向いたら適当に返信していた。
送られてきた数より明らかに返信が少ないのによく今も送ってくるなぁと思う。
律儀なのか単に鈍感なのかは知らないけれど、撮影の合間とかの暇潰しになるから
別に嫌ではない。
今回は「今度いつ学校来れますか?」という内容のメールで私は思わず顔を顰めた。
季節は気がつくともう十月下旬、最後に言ったのが九月の半ばだったから約一ヶ月は
学校へ行ってないことになる。
たまには行ってみようかなと思って私は鞄から手帳を取り出すと、自分のスケジュールを
確認してオフの日を探す。
わざわざ学校へ行く為に仕事を休むわけにもいかないし、オフの日だったら私が何しても
事務所がともかく言うことはない。
「もしかしたら10月28日に行ける☆カナ」と送ると、五分もしないうちに携帯の着メロが
楽屋に鳴り響いた。
「早っ!」
いくら学校が終わった夕方とはいってもあまりに早い返信に少し驚いた。
返ってきたメールは長々書いてあって読むのが面倒だったので軽く目を通すと、つまりは
来てくれると嬉しいですってことだった。
別に私が学校へ行ったからって光井愛佳が何を得するわけでもないし、逆にこっちが
また妬みや嫌悪感などの黒い感情を抱くだけ。
そうと知りながら学校へ行くなんて馬鹿だなと自分でも思う。
でも結構有名になった今ならかなり注目度は高いだろうし、クラスメートやその他の生徒も
教室まで見に来るかもしれない。
たまにはそういう芸能人らしい優越感に浸るのも悪くはないかなと思った。
- 185 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:39
- そしていよいよ学校へ行く日が来た。
校門に着いたときからたくさんの視線が遠巻きに私を見つめているのが分かった。
あちらこちらから囁くような声が聞こえてくる、そしてそれらが全て自分のことを
言っていると思うと何だか面白かった。
教室に入ると想定はしていたけどかなりの女子に囲まれて質問攻撃に遭う。
内心面倒臭いと思ったけれどそんなことは全く表には出さず、満面の笑顔で聞かれた質問に
当たり障りのない答えを返す。
そうしている間に担任の先生が来て朝のHRが始まった。
担任に軽くからかわれてHRが終わるとちょうど学活の時間だったので、そのまま
私の話になり今の近況や芸能界のちょっとした裏話なんかを教えてあげた。
そして残り時間が三十分くらいになったところで、担任が慌てて今度ある修学旅行について
話すようにと言った。
すると光井愛佳が立ち上がって教卓の前まで行くと旅行の説明を始める。
当然私は蚊帳の外なので話は聞き流して久しぶりに来た教室を軽く見回す。
このクラスの中心には当り前のように光井愛佳がいる。
知らない話題で盛り上がる知らない子達、四月の当初を思い出すとまるで違うクラスに
いるような気分になる。
あの頃あったはず私の居場所はいつの間にかなくなっていた。
- 186 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:39
- 光井愛佳や周りの生徒の話からどうやら十一月にある修学旅行の話をしているらしい。
でもそれは私には全く関係ない話だった。
仕事を休んで行けるはずもないし参加する気もなかった。
今が大事な時期なのは馬鹿事務所でもさえ分かっていることだし、私だって自分の将来を
考えたら当然仕事を優先する。
学校なんて来なきゃ良かったと今更遅いけれど後悔した。
修学旅行なんてどうでもいい話に付き合っているだけ無駄な時間だし、仮に授業しても
全然勉強していないからついていけないと思う。
自分の居場所の有無に関わらず、多分私はもうここにいるべきじゃない人間じゃなかった。
「・・・・久住さん?」
「ごめん。ちょっとボーっとしてた」
不意に肩を叩かれて我に返ると、少し心配そうな顔で光井愛佳が私の顔を覗き込んでくる。
今一番話したくない人間に話し掛けられていつもならにこやかに話すのに、突然のことで
口調が素っ気なくなってしまった。
「疲れてるんじゃないですか?最近結構テレビで久住さん見ますから」
「まぁ今が頑張りどころだからね」
「ですよね、今頑張れば将来は一流芸能人ですもんね!」
「別に芸能界は頑張れば報われるっていう単純な世界じゃないよ」
「えっと、あの・・・・久住さんは修学旅行来れるんですか?」
「無理じゃないかな。それよりみっつぃーこそ他の子と修学旅行の話でもすれば?」
「ウチの班はもう大体話まとまってますから。」
いい加減話しているが鬱陶しくなって少し低い声で冷たく答えると、光井愛佳は少しだけ
驚いた顔をしてから寂しそうに笑った。
- 187 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:40
- 「・・・・学校辞めちゃおうかなぁ。」
私は特に深い考えもなく何気なく思ったことをそのまま言葉にして呟いた。
それを聞いた光井愛佳は突然机を強く叩くと、顔を近づけてまっすぐこちらを見つめる。
「ダメや!それだけは絶対アカン!」
と今まで聞いたことがなかった完全な関西訛りで叫んだ。
結構大きな声だったので何事かとクラスメートが私達二人の方を見てくる。
すると光井愛佳は一瞬気まずそうな顔をしてから、すぐに笑顔になると両手を擦り合わせて
軽く頭を下げた。
「急に大きな声出してごめん!いやぁ、久住さんが梅干好きを卒業するって言うから
つい熱が入ってしもうて」
光井愛佳は笑いながら意味が分からない言い訳を言うと、クラスメート達はなぜか
納得したのか教室が笑い声に包まれた。
- 188 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:41
- それから少しして周りの子達がまた自分達の話に戻ると、光井愛佳は軽く溜め息を吐いてから
私の前の空いている椅子に腰を下ろす。
そして先程のことを反省してか少し声の大きさを控え目にして話し出した。
「・・・・話戻しますけど学校辞めるって本当ですか?」
「っていうか別に関係ないじゃん、私が学校辞めるのにみっつぃーの許可がいるの?」
「いや、そりゃいらないですけど・・・・でも辞めてほしくありませんから」
「まぁ中学校だから辞めないと思うけどね。ってかなんで辞めたらいけないの?」
「そりゃ学校を辞める自体元々良いことじゃないってのもありますけど、一番の理由は
私が久住さんと一緒に卒業したいからです」
「何それ?っていうかそれってさぁ、ただのみっつぃーのワガママじゃん。」
「ワガママ言ったらいけませんか?だって久住さんは・・・・・。」
照れくさそうに笑いながら言った光井愛佳のその言葉は、授業終了のチャイムが鳴り響いた
せいで最後のほうが遮られて聞こえなかった。
普通に話していたら聞こえたのかもしれないけど、小さな声で話していたので見事に
掻き消されてしまった。
私は声を潜める必要がないことにようやく気がついていつも通りに話すことにした。
「チャイムでよく聞こえなかったんだけど最後なんて言ったの?」
「聞こえてなかったんですか?良かったぁ・・・・自分で言いながら恥ずかしいなぁって
思っとったんですよ」
私に聞こえなかったことが分かると、光井愛佳は胸を撫で下ろし安堵の表情を浮かべていた。
でも本人が言っていた通りに耳が赤くなっているところを見ると、多分かなり臭い感じの
言葉を言ったらしい。
- 189 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:42
- 「ねぇ、さっきの聞こえなかったやつ教えてよー。何か気になってきた」
私は光井愛佳の制服の袖が伸びるようにわざと強く引っ張ると、まるで駄々を捏ねる
子どものように強請った。
すると光井愛佳は腰に手を当てて、勝ち誇ったような笑みを浮かべてくるからちょっと
苛ついた。
「嫌ですよ。死んでも教えません」
「ケチ」
私が鼻を鳴らして拗ねると光井愛佳は口元に人差し指を当てながら、本当に楽しそうに
しばらく笑っていた。
「なら小春のとっておきの情報教えてあげないよ?」
「いや興味ないんで結構です」
「もうっ!みっつぃーのバカ!」
「あははっ、少なくとも久住さんよりは頭良いと思いますけどねぇ」
まともに相手にされないのが癪に障って手加減して光井愛佳の肩を何回か軽く叩くと、
苦笑しながら子どもにするみたいに頭を撫でられた。
改めて思うのも変だけど光井愛佳は不思議な子だなと思う。
どんなに嫉妬しても癪に障って嫌悪しても、本人と話すとそのペースに丸め込まれてしまい
いつの間にか黒い感情が消えるときがある。
もっと互いに違う環境で出会えたのなら、こんな思いなんかせずに普通に友達として
やっていけたのかもしれない。
- 190 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:43
- 「それで良い情報って何ですか?」
唐突に光井愛佳が話を戻してきて適当に言った私は正直戸惑った。
期待した瞳で見つめられても言う程大した事ではないので言葉に詰まる。
「・・・・今度久しぶりに3日くらいオフがあるからさ、また学校に来ようかなって」
自分で言い出したことなのに私は少し不貞腐れてぶっきらぼうな口調で答えた。
「ホンマですか?また近いうちに会えるんですね!」
光井愛佳は椅子から身を乗り出すと、胸の辺りで手を叩いてから噛み締めるように言った。
そして満面を笑みで私のことを見つめる。
その真っ直ぐで純粋で無垢な笑みは彼女そのものに思えた、昔ならともかく今の自分には
そんな風には笑えない。
白くて穢れを知らないように思えるのは見た目だけで本当は全部真っ黒だから。
私達は一見似ている人のように思えるけれど、その根本にあるものは正反対で全く違う。
まるで二人の間に鏡があるみたいだなと思った。
だから惹かれている多少部分があっても私は光井愛佳を受け入れられない、鏡に映るものを
触ることができないように。
- 191 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:44
- あの日以来学校にはできるだけ出るようにしている、別に光井愛佳が喜ぶからなんていう
くだらない理由ではない。
単に出席日数が足りないと学校側から言われたからだった。
中学校だから卒業はできるけどもう少しは出席してほしいとの事で、事務所側も色々と
考量してくれて仕事を調節してくれた。
勉強には相変わらず全然ついていけないけれど学校へ行くと良い気分転換になるので、
私も積極的に行くようにしている。
そして季節は冬になりもうすぐ十二月も終わろうとしていた。
世間はクリスマスで浮かれているのに芸能人だけの性ってわけでもないだろうけど、
私はその日普通に仕事だった。
そして今は空き時間なので一人楽屋で携帯ゲームと格闘していた。
マネージャーはちょっとデートしてくると言って、楽屋を出て行ったきりもう既に三時間は経過している。
理不尽だなと思いつつ次の収録までに戻らなかったら、ドニーズのチョコバナナパンケーキを
奢らせようかなと暢気に考えていた。
そんなとき突然久しぶりに聞く着メロが楽屋に鳴り響き、私は心臓が大きく脈打って
思わず携帯を落としそうになった。
鳴ったのは自分がいつも使っている携帯ではなく仕事用の携帯だった。
仕事といっても芸能界のことではなくて、誰にも知られてはいけないもう一つの仕事の
ほうだった。
- 192 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:44
- 「・・・・・いつも思うだけどさ、着メロが泳げたい焼き君って絶対おかしいよ。」
私は軽く溜め息を吐き出すと、ぼやきながら鞄の側面に入れてある赤いプリペイド携帯を
取り出した。
ちなみになんで着メロがその曲なのか本人に聞いたところ、ただ単に好きだからという
安直な答えが返ってきて少し呆れたのを覚えている。
でもあの人らしい答えだなとそのときの事を思い出しながら、私は苦笑しながら電話に出た。
「メリークリスマス!」
「嫌がらせですか?用がないなら切りますけど」
「切られたら困っちゃうなぁ、だって用があるからこうして掛けたわけだしさ」
「なら早く用件言ってくださいよ」
久しぶりに聞いたあの人の声は少し低くて重みがあった、でも相変わらず飄々としていて
物言いはいつもどこか軽い感じがする。
電話だからこっちからあの人の姿は見えないけれど、きっと薄笑いを浮かべている
気がした。
「本当はもう少し話たかったんだけど、小春っちが本気で怒り出しそうだからそろそろ
本題に入ろうかな。といっても用件はいつもと同じで・・・・・人を一人殺してほしい」
最後の言葉はもう何回も聞いているはずなのにいつだって私の手は小さく震える。
- 193 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:46
-
請け負って人を殺す、それが私のもう一つの仕事だった
芸能界は入りたてでほぼ無名に近かったある日、街を歩いていて偶然貰ったティッシュに
「見込みがあれば即採用、月給百万円から三百万。人生に刺激を求める貴方、お金を今すぐに
稼ぎたい貴方、今の生活に不満がある貴方は必見です。お気軽にお電話下さい」
よく書いてあるような文句を並べた白黒の紙が一枚入っていた。
普通なら無視するはずなのに私はなぜかチラシに書かれていた番号に電話した。
すると一度面接に来てほしいということなり、事務所だという裏通りにある古臭い雑居ビルで
私はあの人に出会った。
私は採用試験に合格しそれと同時に人殺しになった。
仕事は向こうが勝手に決めるので、前まで月一だったのに半年振りにこうやって電話が
掛かってきたりもする。
使い捨てのプリペイド携帯から依頼を委託されて人を殺す、報酬は本当に大体百万から
三百万円で多いときはもっとくれるときもある。
あとは自分が使う道具の種類で差し引かれる金額が違うので定額ではない。
それからこの仕事にはルールが二つだけある。
依頼は絶対で対象者を殺すことに失敗したら自分が殺される、そして回された仕事は
決して拒否することはできない。
だから死にたくなければ例え恋人や親兄弟でも殺さなければいけなかった。
- 194 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:48
- 「それでどこの誰ですか?この頃仕事が忙しいから近場だと嬉しいんですけど」
「近いは近いよ。光井愛佳って同じクラスにいるでしょ?その子を殺してほしいんだけど」
「・・・・ミツイ・・・アイカ」
私は殺す相手の名に聞き覚えがありすぎて一瞬息が止まった。
一気に色んな感情が入り混じって胸を掻き乱すから少しの間話せなかった。
でもずっと黙っていて変な勘繰りをされても困るので、私は携帯を強く握り締めると
深く息を吐き出してからゆっくりと口を開く。
「・・・・了解です」
「それで何使う?今あるのは青酸カリか砒素かな?あとトリカブトなら手に入ると思うけど」
「ならシアン化カリウムでお願いします」
「マイナーな言い方するねぇ。その年で小春っちぐらいだよ、青酸カリをその別名で呼ぶの」
「毒物には詳しくなりましたから、この仕事のお陰で」
「嫌味はいいよ。それでどうする?瓶ごとそっちに送ってもいいし、何かこっちで加工する?」
「じゃぁ八つのジュースの缶のうち七つに死なない程度の量を入れて、残り一つにギリギリ致死量分入れたものを作ってもらえますか?」
「無差別殺人に見せかけるってわけか、小春っちもなかなか考えるねぇ」
自分で思っていた以上に平静を装いながら会話することができた、でもこれも色々と演技して得た賜物なのかと思うと複雑な心境だった。
「今回は相手がクラスメートだし特別に教えてあげようか」
「何をですか?」
「光井愛佳の殺してくれと言った依頼人について。まぁ別に興味がないならいいけど?」
「・・・・教えてください。」
本当は「興味ありません」と言うつもりだった、でもそう言うより早く口が知りたいと
言っていた。
「じゃ今回特別に教えてあげるよ。依頼主は彼女の母親、といっても父親の再婚相手だから
義理らしいけどね。それで理由は気が合わないから、怒っても叩いても笑ってるから
何考えてるのか分からなくて怖いんだってさ」
とまるで他愛のない世間話でもするかのようにあの人は軽い口調で言った。
意外に苦労してるんだなというのが素直な感想だった。
普通に美味しいお弁当を作ってきて、普通に友達と話して、いつも普通に笑っていたのに
その内情がどんなものだったのか想像もできない。
予想もしていなかった事実に私の胸はまた掻き乱されて、気がついたらあの人の名を呼んでいた。
「後藤さん!あ、あの!・・・・いや、えっと、何でもないです」
本当は「わざとですか?」と聞きたかった、でも例え聞いても答えてくれないと思うし、
「そうだよ」と言われても返答に困るので飲み込んだ。
- 195 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:49
- 「・・・・・そう。じゃ健闘を祈るよ。向こうはいつでもいいみたいだからさ、暇なときに
やってくれればいいよ。物は早めに送っておくから」
「はい、物がこっちに着き次第やりますよ」
「それじゃ今回もいい仕事期待してるよ、小春っち」
「了解です」
明るいあの人の声に私もなるべく明るく返そうと思ったけど上手くいかなかった。
多分不自然だったと思うけど同じクラスメートだから動揺している、そう思ってくれれば
いいなと期待も込めて思う。
躊躇されていると思われたくなかった、光井愛佳を殺せなければ自分が殺されてしまう。
だから下手に同情したり迷いを見せるわけにはいかなかった。
私はこんなところで死ぬわけにはいかない。
電話を切ると何だか力が抜けてソファーの背もたれに寄りかかる。
そして天井を見つめながら光井愛佳を殺す方法を練る。
私は毒薬を得意としていているので、殺すときはいつも薬をあの人から買ってターゲットに
どうにかして飲ませていた。
今回は都内の自販機に致死量未満の毒薬を入れた缶を放置しておき、無差別な毒薬テロに
見せかけて光井愛佳を殺す計画だった。
でも不意にそんな考えている自分が馬鹿らしくなって自虐気味に笑うと、自分の携帯を
取り出してマネージャーに電話をかける。
「あぁーあ・・・・・クリスマスなのに最悪だなぁ」
と低い声で独り言を呟いているとすぐにマネージャーが出た、機嫌が悪いことを知りながら
「暇なんでかけてみました!」と明るい声で言ったら怒鳴られた。
- 196 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:50
- 冬休みが終わるといよいよ計画を実行する日がきた。
都内各地に日を置いて毒薬の入った缶はばら撒いてある、この間テレビのニュースで
やっていたから多少話題にもなっている。
だから今回光井愛佳が死んでもたまたま致死量を超えていたと思われるはず、何にしても
この毒薬テロと私を結びつける人はいないと思う。
私はその日何とか仕事の都合をつけて学校に行くと光井愛佳に声を掛けた。
「ねぇ、今日の夜会えないかな?みっつぃーの家の近くでさ」
「えっ?な、なんですか急に?何かあったんですか?」
「いや最近会ってなかったじゃん。だから何か色々話したいなぁって思って」
「ホンマですか?あっ、でもわざわざこっちのほうに来なくてもそっちに行きますよ」
「いいよ。小春のワガママだし、しょうがないから家まで行ってあげる」
「はいはい、分かりました」
私はどうにか光井愛佳を捕まえると普通に遊ぶ感じで呼び出した。
手紙や携帯じゃどうしても痕跡が残るので、こうして直接誘えば物に頼った方法よりも
確実で安心だった。
「それにしても・・・・さっきからどうして小声なんですか?」
「芸能人が密会するんだよ、プライベートで。そんなの秘密に決まってるじゃん」
「プッ!アホらし!」
「ちょっと!馬鹿にしすぎだから!」
小声な本当の理由は誰かに極力この会話を聞かれたくないから、さすがに事件当日に会った
となると警察に疑われてしまう可能性がある。
芸能人はイメージ勝負だからできれば悪い印象を持たれたくなかった。
- 197 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:51
- そして夜十時、教えてもらった家まで行くと光井愛佳は既に玄関前で待機していた。
予想していたこととはいってもその姿を見たとき、相変わらずの律儀さに思わず本人の前で
苦笑してしまった。
「待ってると思った」
「ウチも久住さんがそう言うと思いましたよ」
私の姿を見つけるなり小走りで駆け寄ってくる光井愛佳に対して素直な感想を告げる。
すると本人も自分の性格を分かっているのか笑いながら答える。
それから私達は夜道を適当に歩きながら話すことにした。
仕事があると言って集合時間は夜十時にしてもらった。
勿論仕事があるというのは嘘でただ人目につきたくなかったから遅い時間にした。
中学生が出歩く時間ではないと思うけど家の近くだからとを言って家を出たか、それとも
黙って出てきたのかもしれない。
父親はどうだか知らないけれど彼女を憎んでいる母親は何しても咎めないと思う。
寧ろそのまま家に帰ってこないことを望んでいるはずだ。
家族のことについて聞くのは少し気が引けたので、やっぱり話題は学校関係になってしまう。
「そういえば修学旅行ってどこ行ってきたんだっけ?」
「京都ですよ」
「ふーん、京都か・・・・」
「行きたかったですか?」
「うん、少しだけ。まぁでも今度写真集でグアム行くからいいや」
「海外ですか?!やっぱり芸能人ってすごいんですねぇ」
私はこんなくだらない会話なのに何だか少し疲れてきた、きっと光井愛佳と会話をするのは
今日で最後だと分かっているからだと思う。
でももし帰って家族と話さなかったら、最期に話したのは自分ということになる。
- 198 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:53
- そう思ったら急に何かもっと内容がある会話をしたいという思いに駆られた。
「ねぇ・・・みっつぃーは将来何になりたいとかある?」
「将来ですか?えらく唐突ですねぇ」
突然の質問に小首をかしげる光井愛佳の顔を見て、私はすぐに自分のした質問の悪さに
顔を露骨に顰めた。
未来のない彼女に聞くべきではなかったし、未来を奪ってしまう私が聞くものでもない。
光井愛佳に未来なんて存在しないのだ。
「そうですねぇ・・・・・特にないですかね。」
「へっ?」
「まぁ色々あるんですけど、どれもミーハーな感じでこれってもんはまだないですねぇ」
「へぇー、何か意外だなぁ。みっつぃーならもう決めてるとかと思った」
「こう見てもまだお子ちゃまなんですよ、将来のことなんてまだ全然です」
「・・・そうなんだ」
「はい。とりあえず生きてれば十分です、それだけで人間何にでもなれるじゃないですか」
光井愛佳は私を見つめながら穏やかに笑って話す。
その笑みは街灯に照らされて輝いて見えた、でもあまりにも眩しくて直視することができず
私は顔を横に逸らした。
これ以上見ていたら心が揺らいでしまう気がして怖くなった。
光井愛佳を殺さなければいけない、回された依頼はこなさなければ自分が殺される。
死にたくなければターゲットを殺すしかない。
示めされた道がどんなに厳しく険しくても、私はもうその道を歩いていくしかなかった。
例えそれが修羅の道だったとしても
- 199 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:54
- 「ちょうどあそこに自販機あるからさ、ジュース奢ってあげるよ」
「えっ?久住さん?」
私は事前に確認しておいた自動販売機をさも初めて見つけたように言うと、光井愛佳の答えも
聞かずそこに向かって走り出した。
そしてたまたま売っていたので梅ソーダを買うと、もう一つ買うふりをして毒が入っている
缶をコートのポットから取り出す。
ちなみに手には指紋をつけない為に事前にちゃんと手袋をしている。
でも毒入りの缶は直前まで冷やしてあったので手袋をしていても少しひんやりとした。
そして私が梅ソーダを取り出す頃にちょうど光井愛佳がこちらにやってきた。
「どっちがいい?」
と今買った梅ソーダと毒入りのオレンジジュースの缶を二つ差し出す。
「えっ?いや悪いですよ。お金ちゃんと後で払いますね」
「いいからいいから。小春は芸能人なんだよ?お金はみっつぃーより全然持ってるんだから」
「それって密かに嫌味ですか?」
「ん?違うよ、事実。それでどっちにすんの?ジュース」
「えっ、あぁ・・・・じゃオレンジで」
「梅ソーダじゃないんだ。まぁいいけどさ、じゃこれね」
「はい、ありがとうございます」
光井愛佳は私の予想していた通りに毒入りのオレンジジュースを選んだ。
他にも色々な種類があった中で梅ソーダを買ったのは私の最後の賭けだった、もしもこっちを
選んだら殺さなくてもいいかなと思っていた。
そして私は賭けに勝った、でも光井愛佳の性格を考えればあまりにも簡単な賭けだった。
それに勝って嬉しいはずなのに全然嬉しくない賭けだった。
- 200 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:55
- 「ホンマにええんですか?」
「別にいいよ、ジュースくらい。あっ、そうだ。じゃ一つだけ約束してよ」
「えっ?は、はい」
「家に帰ったら必ずそのジュースを飲むこと。乾いた喉をそれで潤してよ」
「分かりました、必ず飲みます」
「それじゃもう遅いしこの辺で別れよっか?なんかあんまり話せなかったけどね」
「だったら今度遊びましょうよ!」
「うん、じゃオフが決まったらまたメールするね」
楽しい会話のはずなのに私の心が痛んだ、でもそれは笑っているのは見せ掛けだけで
心は真逆の感情で一杯だからだと思う。
私は心が流されないように後ろに手を組んで痛いくらい自分の手首を強く握った。
律儀な光井愛佳のことだから帰ったら絶対にジュースを飲むと思う。
致死量は超えているから確実に死が齎されるはずだ。
だから私達に今度はない、もう永遠に生きて会うことはできない。
何か言おうと思ったけれど余計なことを言ってしまいそうな自分が怖くて、私は顔を俯けると
しばらく黙り込んでいた。
でも不意に名前を呼ばれて顔を上げると、少し心配そうな表情の光井愛佳がこちらの顔を
覗き込んでくる。
「久住さん?」
「ん?あぁ、ごめんごめん」
「疲れてるんですよ、帰ってゆっくり休んでください。それじゃまた学校で会いましょう!」
「・・・・・うん、じゃぁまたね!」
私は振り絞るように明るい声を出してなるべく普段通りに振舞った、そして家の方に
向かって走っていく光井愛佳を見送る。
私は大げさに手を左右に振りながらその姿が見えなくなるまで止めなかった。
光井愛佳は時々こちらを振り返りながら手を振り返してくれた、その顔は初めて会ったときと
変わらない人懐っこい笑みを浮かべている。
私も笑っていたけど無論感情などない完全な作り笑顔だった。
- 201 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:56
- 光井愛佳の姿が見えなくなると私は深い溜め息を吐き出した。
そして何気なく頭上で輝いている街灯を見つめる、思わず手を伸ばしたけれど当然のように
触れられるはずもなく手は宙を彷徨う。
そのときふとまるで光井愛佳みたいだなと思った。
目が痛い程に眩しいからまるで虫達が群がるように人は彼女のところに寄っていく、だけど
私は月のように誰かの光を浴びて輝いているだけから人がこない。
だから嫌悪しながらも自然と輝く光に惹かれてしまったんだと思う。
でも光に触れると私はその身を焦がしてしまう、音楽の授業で習ったイカロスのように
その翼を焼かれて地面に落ちて醜く内臓を撒き散らして死ぬのだ。
私は道端に落ちている小さな石をいくつか拾うと、それを街灯目掛けて思い切り投げつける。
「クソっ!当たれ!当たれよ!」
十回近く投げてようやく街灯ガラスが割れて欠片が雪のように舞い落ちる。
光を反射しながら地面に落ちていくその光景は見惚れるくらい美しくて、まるで星が空から
降ってきたみたいだった。
でも手に取って触れると怪我してしまうので見つめることしかできない。
それから街灯が点滅しだしたかと思うとすぐに消えてしまい辺りは闇に包まれた。
等間隔に置いてあるので近くにまだ街灯があるといっても、急に灯りが消えてしまったので
一気に暗くなってしまった。
でも闇に包まれているほうが自分らしいなと思った。
光に触れてはいけない、どんなに手を伸ばしても決して触れてはいけない
- 202 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 17:58
- 次の日私は普通に仕事があったので一人で身支度をして家を出た。
そして玄関前に止まっているマネージャーが運転する迎えの車に乗り込むと、機嫌が悪そうな
顔と目が合った。
「あー、面倒くさ」
「って自分で取ってきた仕事じゃないですか」
「お前が18歳以上ならいいんだよ。そうしたら夜遅くの仕事ができるのに」
「無茶言わないでくださいよぉ、藤本さん」
マネージャーの藤本さんは私がデビューしたときから一緒にいる人で、業界ではやり手って
噂だけどあんまり実感する機会がない。
愛想なしやる気なし無駄に態度がでかい、というような人だから不安になることのほうが多い。
車がスタジオに向かって走っていると、適当につけていた車内のラジオは近頃流行りの
ヒットチャートを流していた。
私は渡された台本を見ながら頭の中で想像して大まかに段取りを確認する。
でも不意に今まで陽気な女の人のラジオからニュースの時間になり、急に固いおじさんの声に
変わると集中力が途切れた。
政治とか株の話なんかは聞き流していると、ある事件の話になったので私は思わず聞き耳を立てる。
「本日一月十五日午前、東京都内で今朝八時頃高校生の長女が自宅のベッドで死亡をしているのを父親が発見し警察に連絡しました。学校に行く時間になっても起きてこないので部屋に
行ってみると、胸を押さえながら絶命している長女を発見。すぐさま警察に連絡し殺人事件と断定されました。警視庁によると近くにあった缶ジュースから青酸カリが摂取できたことと
手口が似ていることから、最近頻繁に起きている毒物事件と関連があると見て捜査を進めて
いるとのことです」
名前は公表していなかったけれど明らかに光井愛佳のことだった。
私は殺してしまった、自分の命と引き換えに彼女が全うするはずの未来を奪ってしまった。
何だか台本を読む気が失せて膝の上に置くとカバンの中から携帯を取り出す。
どうにかしてこの暗い気持ちを切り替えたかった、でなければきっと今日の収録で私は上手く
笑えそうにない。
携帯を開くとメールがきていた、誰だろうと思って開くと宛名を見て思わず目を見開いた。
メールは光井愛佳からきていた。
- 203 名前:2LD 投稿日:2009/12/04(金) 18:01
- 多分ジュースを飲む前に送ったのだろう、送られてきたメールには
件名 今日はありがとうございました!
本文 今日は仕事終わった後にわざわざありがとうごさいました(o^∇^o)ノ
今度遊びに行くときはどこにしましょうか? (-_-)ウーム
といつも光井愛佳が送ってくるメールと変わらない調子で書かれていた。
よくありそうな軽い文章なのに、私は意味が分からないくらい胸が熱くなって思わず
携帯を強く握り締めた。
胸が熱いのは光井愛佳が未来のことを話しているからだと思う、叶うはずのない話を
しているからこんなのにも胸が熱くてひどく痛いのだと思う。
「何泣きそうな顔をしてんの?」
「へっ?」
「自分の顔見てみなよ?今すんごい泣きそうな顔してるじゃん」
「あぁ、そうですね・・・・」
マネージャーに言われてバックミラーで確認すると確かに泣きそうな顔をしている。
なんて顔をしているんだろうと思った、全部自分で決めて自分がやったことなのに
馬鹿みたいに瞳が潤んでいる。
でも達観したのか不意に何だか笑えてきて私は携帯をしっかりと持ち直すと、
「小春はTDLがいい☆カナ」と光井愛佳に返信した。
返事は多分、返ってこない
- 204 名前:弦崎あるい 投稿日:2009/12/04(金) 18:01
-
- 205 名前:弦崎あるい 投稿日:2009/12/04(金) 18:01
-
- 206 名前:弦崎あるい 投稿日:2009/12/04(金) 18:02
-
- 207 名前:GAKILOVE 投稿日:2009/12/04(金) 19:05
- 更新乙です!
ガキカメ以外のCPもいいですね。
見いっちゃいました。
次回も更新よろしくお願いします。
- 208 名前:名無飼育さん 投稿日:2009/12/12(土) 18:29
-
切ないです。
- 209 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/04/09(金) 02:14
- 今でも待ってます
- 210 名前:弦崎あるい 投稿日:2010/07/12(月) 16:07
- 随分と前回から間が空いてしまいましたが、一応生きてます
本当に更新を止めすぎて申し訳ないです
多分これからもそんなに頻繁には更新できないと思いますが、お付き合いして
頂けると嬉しいです
>>GAKILOVEさん
ガキカメも好きですが、こはみつも好きなので書いてみました
元々は短編コンペ用の話だったんですけどね
更新お待たせして本当に申し訳ないです
>>208さん
若さ故の衝動やどうしょもできないもどかしさとか切なさとか、そういうのを
全部詰め込んでみました
個人的にこういう話の路線の方が好きだったりします
>>209さん
お待たせしてしまって申し訳ないです
放置はしたくないので時間がかかってもいいから、ちゃんと書き上げたいと
思ってます
- 211 名前:すれ違いの一夜 投稿日:2010/07/12(月) 16:08
- いつもなら亀が帰り支度を始める時間なのに、今日に限ってはなぜかその様子はない。
それに今更だけど亀は週の半分くらいは私の家で夕飯を食べている。
ちゃんと連絡はしているんだろうけど、でもだからといって家で食べないことをご両親は
何も言わないんだろうか。
本当に今更だけど私は亀の家庭環境がちょっと気になった。
でも人の家庭のことに部外者が口を挟むのも何なので、とりあえずは時間に気づいていない
だけかもと思って声を掛けることにした。
「亀、もう7時半だけど帰らなくていいの?」
「あー、まぁ・・・・・・きっと大丈夫じゃないんですかね」
「ちょっと!そんな適当でいいの?とりあえず連絡だけでもしてきたら?」
「一応さっきメールしましたよ。でも本当はしてもしなくても同じなんですけどね」
「えっ?」
「あの人達は私のことなんて心配しないですから」
亀はまるで他人事のような口ぶりでいつも以上に飄々とした態度だった。
そして鼻で笑いながら言った『あの人達』、というのは多分ご両親のことだと思う。
亀と両親の仲がどういう状況かは分からないけど、良い関係ではないというのは
その言い回しを聞いただけで想像はつく。
でもそんな家庭の事情はさて置いて、私は両親をそういう言い方で呼ぶのが許せなかった。
確かに今は仲が悪いのかもしれない、だから憎くて嫌悪感からそう呼んでいるのかもしれない。
でも時が経ったらきっと後悔すると思う、それにいつまでも両親がいると思っているから甘えて
そんなことが言えるのだと思った。
- 212 名前:すれ違いの一夜 投稿日:2010/07/12(月) 16:08
- 「人様の家のことだから口出すのも悪いと思うけどさ、あの人達って言い方は良くないよ。」
「すいません、本当に何とも思ってないものでつい。」
「・・・・・・亀、それ本気で言ってるの?」
「本当ですよ。あの人達のことを親だと思ったことは一度もありません」
「亀!そんなこと言ったらダメでしょ!」
「ガキさん、落ち着くと。絵里も今のはちょっと言い過ぎやと思う」
「ははっ・・・・確かに今のはちょっと口が悪すぎましたね。すいませんでした」
私は怒りから我を忘れて立ち上がり亀を責めようとした瞬間、れいなが冷静な声で私の
名前を呼んだ。
そして私に座るように目で促すとれいなは亀を軽く睨みながら注意する。
すると亀はバツが悪そうな顔をしながら素直に謝った。
それから気まずい空気が部屋の中に流れ始める。
この間ケンカしたばっかりだったから、またこんな風に言い争うとは思いもしなかった。
ちょっと自分も言いすぎたかなと思っていると亀は立ち上がって帰る支度を始める。
「今日のところはこれで失礼します。このまま居ても気まずくなるだけだと思うんで」
「絵里、れなもそこまで行くけんね」
「えっ?・・・・・・うん、ありがとう。れいな。」
「今日は本当にすいませんでした。今度また来たときゆっくり話しましょう。」
「じゃちょっと行ってくる」
亀が立ち上がるとれいながなぜか突然自分も一緒に行くと言い出した。
見送ってもいつもは玄関までくらいなのに今日はどうしたんだろう、と思っていると
仕度を終えた亀はリビングのドアに向かって歩いていく。
そして亀は最後に深く頭を下げて私に謝ると、穏やかな笑みを浮かべて挨拶してリビングから
出て行った。
そしてれいなも一緒になって出て行き私一人だけが取り残される。
やっぱり言い過ぎたかな、一人になって感情が落ち着くと私は少し後悔した。
人の家庭のことを他人が口を出すべきではなかった。
でもあのときは言わずにいられなくて、それに亀に後で後悔してほしくないという気持ちも
嘘じゃない。
いつか親と離れるか別れる日がくれば、絶対あのときの自分は馬鹿だったと思うはずだ。
だから亀にご両親をそんな他人行儀な呼び方で呼んでほしくなかった。
- 213 名前:すれ違いの一夜 投稿日:2010/07/12(月) 16:08
- 多分2人で何か話をしていたのだろう、れいなが家に帰って来る頃には8時を少し過ぎていた。
「ただいま。遅くなってごめんね、ガキさん」
とリビングに入ってくるなり仕事終えて帰宅した亭主のように、股を開いたままソファーに座り背もたれに寄り掛かる。
私は麦茶を入れたコップを2つ持って、ソファーの前にあるテーブルの上に置く。
それから床に腰を下ろしてれいなに声を掛けた。
「亀と話してたの?」
「うん」
「・・・・・・亀、何か言ってた?」
「ごめんなさいやって。今度っていうか、明日来て土下座するって言っとったよ」
「ははっ、それじゃ楽しみに待ってようかな」
いつもなら笑って話せるはずなのに、まださっきのことが胸の中で解決されていなくて
私は上手く笑えていなかったと思う。
それでもれいなは何も気づいていないかのように振舞ってくれた。
私はそんな幼馴染みに感謝すると、テーブルの上のコップを手に取って少しだけ麦茶を
飲んだ。
「ガキさん」
でも不意にれいながいつになく真剣な声で私の名前を呼ぶ。
その声に顔を上げると真顔のれいなと目が合って、久しぶりに見る顔だなぁなんて
どうでもいいことを思ってしまった。
れいなは顔に出やすい子だからつまらない時は無表情だし、楽しければ笑顔だし、本気のときは真剣な顔をする。
私は軽く溜め息を吐き出してかられいなの方にちゃんと体を向ける。
するとれいなは軽く目を伏せてから頭を乱暴に掻く、それから何か悩んでいるのか顔を
俯けて考え込んでいた。
私は何か声を掛けようかと思ったが、れいなはちゃんと言ってくれる子だと思って
何も言わずに黙っていた。
それから少し経ってようやく話す決心がついたのか、れいなはゆっくりと口を開いた。
- 214 名前:すれ違いの一夜 投稿日:2010/07/12(月) 16:08
- 「・・・・・・絵里のことなんやけど、少し話していいと?」
「亀の話?」
「うん。絵里が両親に対して冷めとるのは・・・・・・・本当の両親やないからっちゃ」
「えっ?それってどういうこと?」
「絵里は父親と愛人との間にできた子やから」
「ほ、本当なの?それ」
「うん。父親はちょっと有名な政治家やから、絵里の本当の母親が死んだときに好感度の
為とかで引き取ったんやけど、家族の誰も絵里のことを認めんというか、何か空気みたい
な存在で全く相手にしてくれんらしい。だから絵里は今の両親に対してさっきみたいな
態度とると」
れいなの教えてくれた亀の家庭の事情はただただ衝撃的だった。
私は単に仲が悪いとか反抗期だとか、そんなことぐらいしか考えていなかった。
愛人の子で家族から除け者にされているなんて想像もしなかった。
私はふとさっき亀に言った自分の言葉を思い出し、激しく後悔すると共に今度会ったとき
どうしていいか分からず動揺してしまう。
「えっ、いや、だってそんなこと全然知らなくて・・・・・・どうしよう!亀にひどいこと
言っちゃった!」
「うーん、多分心配いらんと思うよ?」
「本当?本当に大丈夫なの?絶対ダメでしょ」
「ふふっ、何かガキさんが動揺してるとこってあんま見んからちょっと楽しいかも」
「もうっ!こっちは本気で悩んでるのに!」
「大丈夫、絵里は分かっとるから。ガキさんのこと・・・・・ちゃんと分かっとうよ」
れいなは何の根拠があるのか知らないけど軽い調子で私を慰める。
それかただ他人事だから楽しんでいるだけかもしれない。
私は深い溜め息を吐き出すと、今度会ったらちゃんと亀に謝らなきゃなぁと思った。
それかられいなが「アイスちょうだい」って言ってきたけど、内心ちょっとムカついていた
ので「そんなものはありません」と拒否した。
- 215 名前:すれ違いの一夜 投稿日:2010/07/12(月) 16:09
- それから次の日、亀は本当に家にやってきた。
家のピンポンが鳴って私はいつものように少し駆け足で玄関に向かう、そしてすぐに
ドアを開けると予想はしていたけど亀だった。
もう見慣れた制服姿でいつもみたく呑気に笑っていた、その顔を見たら胸が締め付けられた
けど私はそれを罪悪感のせいにした。
他の理由があったにしても今はちょっと考えたくない。
「・・・・・・れいなから聞いてますよね?」
「うん」
「いやぁ、重い話ですいません。でもあんまり気にしないでくださいね、もう慣れましたから」
亀は笑っていた、でも本当に心から笑っているようには思えなかった。
だってその目が悲しそうに細まっているから。
亀が時々こうやって悲しそうに笑う度に私の胸が痛む、でも多分今日が一番胸の痛みが
ひどい気がする。
私はもうどんな言葉を掛けていいか分からなかった、でも何もしないのも嫌でとりあえず
今自分にできることをした。
「ごめんなさい!」
私は突然その場に座り込むと額が床につくくらい下げる、俗に言う土下座というやつをした。
「ちょ!ちょっと何してるんですか、ガキさん!?」
「本当にごめんなさい!全然亀の家の事情知らないのに勝手なこと言っちゃって」
「いや、そんなこと全然しなくていいですから!それにやられても逆に迷惑、というか
困るのでやめてください」
「でも今の私にはこれくらいしかできないから」
それから5分くらい揉めて、私はようやく頭を上げると亀はひどく疲れた顔をしていた。
こんなことで許してもらえるとは思っていないし、私の気もあまり晴れていない。
それでも亀が止めてくれと連呼するので仕方なく頭を上げた。
- 216 名前:すれ違いの一夜 投稿日:2010/07/12(月) 16:09
- 「そういえば・・・・・・これってこの前と逆ですね」
「えっ?」
「もう忘れちゃったんですか?この間玄関前で土下座したじゃないですか」
「あっ!そういえばそんなこともあったねぇ、っていうか本当に逆だし」
「はははっ、そうですね」
私達は顔を見合わせるとほぼ同時に笑い出した。
特に亀は余程ツボに入ったのか腹を抱えてしばらく笑っていた。
そのときの亀はもういつもの亀で、その顔にというかその笑みに悲しみは全く感じられ
なかった。
だから私はやっぱりバカみたいに亀は笑っている方がいいなと思った。
だってもう慣れたと亀は言ってたけど、でもいくら本当の家族じゃなくても毎日無視される
のは相当辛いことだと思う。
それでも普通に笑っている亀は本当に凄いと思うし、そこの部分に関しては少し尊敬する。
でも不意に亀は私のところへ逃げてきたんじゃないかと思った。
れいなと私と3人でくだらない話をしながら食べる夕食、でももしそれだけで亀の心を
少しでも軽くしているならムダじゃないなと思った。
そろそろれいなも来る頃だと思うので私はゆっくりと立ち上がると、夕飯の準備をしよう
と思いリビングへと向かう。
それからふと後ろに振り返ると、靴を脱いで揃えようとしている後姿の亀に声を掛ける。
「亀、今日も夕飯食べていくでしょ?」
「・・・・・・はい、頂きます!」
亀は満面の笑みで頷くと小走りで私のところへやってきて、甘えるように腕を絡めてくる。
とりあえず調子に乗りすぎなのでその頭を軽く叩いた。
- 217 名前:すれ違いの一夜 投稿日:2010/07/12(月) 16:11
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- 218 名前:弦崎あるい 投稿日:2010/07/12(月) 16:11
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- 219 名前:弦崎あるい 投稿日:2010/07/12(月) 16:11
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- 220 名前:名無飼育さん 投稿日:2010/08/06(金) 23:55
- なるほど…
そんな亀にとってガキさんってどういうふうに見えてるのかなあ、と思ったり
れいなもいい味出してますね
- 221 名前:GAKILOVE 投稿日:2010/10/31(日) 15:13
- お久しぶりです!
いやあ 生きててよかった!!w
弦崎さんの書き物は本当に好物でして…
今回も楽しませていただきました
ガキカメももちろんだけど
れいなもなくてはならない存在ですね!
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