しあわせ急便。
1 名前:あすか 投稿日:2007/01/31(水) 22:43


はじめましての方も、そうではない方もこんにちは。
今回はいしよしみき+小春。
ゆるゆるで、楽しい日々。


2 名前:ぷプロローグ・ようこそ、吉澤幸福宅配便へ。 投稿日:2007/01/31(水) 22:43


とある街の、雑居ビルの片隅。
なんてことのない、小さな部屋。

そこが、その優しい事務所。


3 名前:プロローグ・ようこそ、吉澤幸福宅配便へ。 投稿日:2007/01/31(水) 22:43



++++++++++



4 名前:プロローグ・ようこそ、吉澤幸福宅配便へ。 投稿日:2007/01/31(水) 22:44

「おっはよー」
「…よっちゃん、おはようじゃないわよ」

その事務所の主である彼女が出勤してきた際、
すでに部屋にいた女性はひどくご機嫌斜めだった。

「あれー?梨華ちゃんどうしたの?」
「どうしたのって…よっちゃん、どうして、どうして…
あたしがいなかった三日でこんなに仕事が溜まるのよ!!」

そう言って、彼女−石川梨華が指した先には。
そこには、溜まりまくった領収書やらなんやらとか。
メモだけした依頼書(全て詳しい段取りは後日)とか。
やりっぱなしの帳簿とか。

まあ、とにかくデスクワークがいろいろと。

5 名前:プロローグ・ようこそ、吉澤幸福宅配便へ。 投稿日:2007/01/31(水) 22:44

「だってさー、そういった細かいのってあたし嫌い」
「嫌いとかそういう問題じゃないでしょ!!美貴ちゃんは!?」
「試験期間だって。今日終わるってさ」
「…つまり、よっちゃん一人だったと」
「一人じゃねーよ!小春もいたって!」
「小春ちゃんを数に入れないの!!!」

そう怒鳴られて、部屋の主−吉澤ひとみは縮こまってしまう。
どうも、ひとみは微妙に梨華に弱い。

6 名前:プロローグ・ようこそ、吉澤幸福宅配便へ。 投稿日:2007/01/31(水) 22:44

「おーおー、やってるねぇ…いやー三日ぶりに夫婦喧嘩見るのもいいもんだね」
「よーっすミキティ、三日ぶり」
「美貴ちゃん!夫婦喧嘩じゃないってば…」

そんな二人の空気をからかうようにやってきた女性−藤本美貴。
バイト所員の彼女は、この二人をからかうのが楽しくてしかたないようで。

「もう美貴ちゃぁん…試験なら前もって言ってよ…
そしたらあたし柴ちゃんに旅行の日程変えてもらったのに…」
「いやー、たまにはよっちゃんを放りだしてみるのもいいかなって」
「放りだしたらやらないの!この人は!!」
「何だよ、そんな言い方ねーだろうが」
「どうせほとんど小春ちゃんと遊んでたんでしょ?」
「うっ…」

言葉に詰まるひとみ。どうやら図星。

7 名前:プロローグ・ようこそ、吉澤幸福宅配便へ。 投稿日:2007/01/31(水) 22:44

「わっかりやすいね、よっちゃんさん」
「…うるせー」
「まったく…こんな人が所長でほんと大丈夫かしら…」
「だいじょーぶだいじょーぶ、今までだって何とかなっt」
「だからってデスクワークさぼっていい言い訳にはなりません!」
「ハイ…」

またも縮こまるひとみと、それを見て大爆笑する美貴。
そんな時、またもぱたぱたと駆け込んでくる足音がひとつ。

8 名前:プロローグ・ようこそ、吉澤幸福宅配便へ。 投稿日:2007/01/31(水) 22:45

「すーみませーん!誰かいますかー?」
「小春ぅ!いらっしゃいあたしのオアシス!!」
「えー?小春、もしかして待っててもらえてました?」
「待ってた待ってた、小春だけだよあたしの味方は」
「わーい、吉澤さんだいすきー!」
「ちょっと、小春ちゃんよっちゃんのこと甘やかさないの!」

飛び込んできた少女−久住小春に甘えるひとみと。
それを見て叱る梨華と。
正直、ひとみと小春のどちらが大人なのかわからない言い方。
それがツボにはまって、またも大爆笑する美貴。

9 名前:プロローグ・ようこそ、吉澤幸福宅配便へ。 投稿日:2007/01/31(水) 22:45

「石川さん、どうしたんですか?」
「よっちゃんがあまりにも仕事しないから怒ってるんだよ」
「そうなんですか藤本さん。吉澤さん、だめですよ!お仕事は大事です!」
「小春まで…」

見るからに年下の小春に叱られて、がっくりと肩を落とすひとみ。
逆に、よくやったとばかりに小春の頭を撫でる梨華と、なんだか知らないが褒められて喜ぶ小春。

「まぁ、諦めなよっちゃん」
「ミキティ…ミキティは…」
「味方する気はない」
「ミキティィィィィ!!!」

ひとみの叫びが狭い室内にこだまする。

10 名前:プロローグ・ようこそ、吉澤幸福宅配便へ。 投稿日:2007/01/31(水) 22:45

「さ、よっちゃんほっといてご飯でも行こうか。よっちゃんはその仕事終わるまでダメよ」
「梨華ちゃぁぁぁぁぁん!!」
「美貴は肉がいい」
「美貴ちゃんそればっかじゃない」
「小春は明太子スパゲッティ!」
「小春ちゃんもそればっかね…じゃあファミレスでもいい?」
「しょーがないなぁ」
「わーい、明太子スパゲッティ♪」
「ミキティィィィィ!小春ぅぅぅぅぅ!!」

叫び続けるひとみは無視。慣れた反応である。
そんな時、遠慮がちなノックの音が響く。

11 名前:プロローグ・ようこそ、吉澤幸福宅配便へ。 投稿日:2007/01/31(水) 22:46

「あ、あのー…盛り上がっている所よろしいでしょうか…」

ドアをゆっくり開けてくる、依頼人と思われる人物が一人。

「あらら、お客さんですか」
「すみません、お見苦しいところを…」
「こちらへどーぞー!」

そう言って、ひとみのデスク近くのソファーへ依頼人を誘導する小春。
二人も、ソファーの近くの椅子にかけ、表情が引き締まる。

そして、いままでデスクで情けない表情をしていたひとみは。
凛々しい笑顔を浮かべ、依頼人の前に向かう。
そして…

12 名前:プロローグ・ようこそ、吉澤幸福宅配便へ。 投稿日:2007/01/31(水) 22:46


「ようこそ、吉澤幸福宅配便へ」


13 名前:プロローグ・ようこそ、吉澤幸福宅配便へ。 投稿日:2007/01/31(水) 22:46



そしてまた、楽しい一日が始まる。


14 名前:プロローグ・ようこそ、吉澤幸福宅配便へ。 投稿日:2007/01/31(水) 22:46


15 名前:プロローグ・ようこそ、吉澤幸福宅配便へ。 投稿日:2007/01/31(水) 22:46


16 名前:プロローグ・ようこそ、吉澤幸福宅配便へ。 投稿日:2007/01/31(水) 22:46


プロローグ・おわり。
17 名前:あすか 投稿日:2007/01/31(水) 22:47
前作とはだいぶ作風が変わった気がしなくもないですが。
またお付き合い頂けると幸いです。
18 名前:moka 投稿日:2007/02/01(木) 01:30
4人の掛け合いとか面白い!
次回を楽しみにしてます。

前作読んでみたいのでタイトル教えて下さい。
19 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/01(木) 16:31
かなり期待できそう!
20 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/10(土) 23:40



それは、ちょっとだけ前のおはなし。



21 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/10(土) 23:40
ある日の昼間、その少女はとあるビルの扉の前にいた。
偶然見つけた『何でも屋』というその部屋に。
大切な、親友を捜すために。

大人たちは、諦めなさいって言った。
あなたは、そんなことに一生懸命になる余裕なんてないでしょって。
でも、でもあの子は他の人には想像も付かないくらい大事な存在だから。

だから、少女はその扉を叩く。

「すみませーん…誰かいませんか?」

扉を叩く。返事はない。
少し扉を開けてみる。人の気配はない。
お休みかな?でもなんでドアが開いてるのかな?
そう考えながら、少女が振り返ったそのとき…
22 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/10(土) 23:41
「わっ」
「きゃぁっ」

思いっきり、誰かにぶつかった。
転んでしまったらしい相手を見てみると、少女よりもちょっと年上っぽいお姉さん。
サラサラの肩よりちょっと長い茶髪に切れ長の目の、綺麗な人だった。

「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか!?」
「あ、大丈夫よ、全然平気…あれ、お客さん?」
「ふえ?」
「ここの事務所、用があるんでしょ?」

少女に支えられて立ち上がったお姉さんが指さした扉。
そこは、確かに少女が向かおうとしていた先で。

「あのぅ…お姉さんが、所長さんなんですか?」

何でも屋の所長さんにしては、ずいぶん若く見えるお姉さん。
ぱっと見、大学生とかそのへんで。
こういうところは、おじさんとかがやってるイメージだった少女は、少し驚いてしまう。
23 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/10(土) 23:41
「え?あー、あたしは違う違う」

でも、返ってきたのはそんな返事。
こんな綺麗なお姉さんが所長さんなら素敵なのに…と思っていた少女はまたまたがっかり。

「うちの所長はねー…また遅刻かしら、あの人」
「またって…よく遅刻して来る人なんですか?」
「そうなのよ…ほんとどうしようもないんだから」
「どうしようもなくて悪かったね」

突然、後ろからかかった声。
少女が驚いて振り向くと、そこにいたのは、これまた綺麗なお姉さん。
さっきまで話していたお姉さんとは違って、こちらはどことなくボーイッシュでカッコイイ。
吸い込まれそうな大きな瞳を少女が見つめている間にも、目の前の二人は会話を続ける。
24 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/10(土) 23:41
「ホントのことじゃない。今何時ですかぁ?」
「12時だけど」
「うちの受付時間は10時からって決めたのはどこの誰よっ!!」
「まあまあ、細かいことは気にしない」
「よっちゃんはもうちょっと気にしなさーーーーーーーいっ!!!」

最初に会ったお姉さんが怒ってるけど、よっちゃんって呼ばれたカッコイイお姉さんは動じない。
綺麗な方のお姉さんは結局呆れて眉間に手を当てて「やれやれ…」なんて言っていて。
そして、少女はすっかり忘れ去られている自分に気付く。

「あ、あのぅ…」
「え…あっ!ご、ごめんね…こんなとこ見せちゃって…」
「んー?なーに梨華ちゃん、このカワイイ子は」
「こういうとこばっか反応早いわよねよっちゃんは」
「お褒めにあずかり光栄です」
「褒めてないわよ」

目の前で繰り広げられる、ケンカしているのか仲がいいのかよくわからない会話。
その会話に困惑している少女に、さらに困惑する言葉が投げかけられる。

「この子、うちに用があるみたいよ」
「そうかそうか、お客さんかぁ…そういうことなら」

そう言ってカッコイイお姉さんは、凛とした笑顔になって少女に向かい…
25 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/10(土) 23:42



「ようこそ、吉澤幸福宅配便へ…あたしが、所長の吉澤ひとみです」
「…一応、副所長の石川梨華よ。よろしくね」


26 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/10(土) 23:42
そう言って、差し出された二人の笑顔。
それは、すっっっっっっっっごく綺麗だったけれど…

「え、え…ええええええぇぇぇぇぇぇぇええ!?」

少女は、思いっきり叫んでしまって。
目を丸くして固まっている少女を見て、お姉さん二人はまた笑った。
27 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/10(土) 23:42


28 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/10(土) 23:42


29 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/10(土) 23:42

つづく。
30 名前:あすか 投稿日:2007/02/10(土) 23:45
>>18 mokaさん

今回は明るいノリで、4人のノリを楽しんで頂けたらと思いまして。
ご期待にそえられましたでしょうか。

前作は『夢見る少女と変なシニガミ。』というものを書いておりました。
草にまだ残っているはずです。

>>19 名無飼育さん

こちらも、ご期待にそえられましたでしょうか…
31 名前:moka 投稿日:2007/02/12(月) 23:28
前作の最後の「君とコーヒーとアンティークドール。」
2人の強い思いが起こした奇跡に胸が熱くなりました“いしよし”大好きなので
なのでこちらの二人の掛け合いもすごく楽しいです。
32 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/16(金) 23:25


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33 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/16(金) 23:25
少女が通されたオフィスは、小さいけれどなかなか綺麗なオフィスで。
そんなオフィスのソファーに座りながら、まだ少女は緊張気味だった。

「そんなに固まらないで、べつにあたし達はお客さんの見た目で選んだりする訳じゃないし」
「え、で、でも…」
「それとも何?こんな若いの二人じゃ不安?信用出来ない?」
「そ、そんなことないですっ!!!」

力一杯否定する少女。
少女としては、こんな人たちが所長さんなんて素敵だと思ったばかりであって。
その必死な少女の姿を見て、カッコイイお姉さん−吉澤ひとみは思わず吹き出してしまう。

「なんで笑うんですか…」
「いやー、カワイイと思ってね」
「依頼人さんからかって遊ぶんじゃないの…もう」

まだ笑うひとみをたしなめるように、綺麗なお姉さん−石川梨華が紅茶を持って現れた。
そんな二人の姿を見て、少女の顔にも自然に笑みが浮かんでくる。
34 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/16(金) 23:26
「お、笑ったね…リラックスしてきた?よし作戦通り」
「何も考えてないでしょよっちゃんは…じゃ、依頼の内容聞いていいかな?」
「はい!」
「えーと、まず名前聞いていいかな?」

ひとみがそう聞いた途端、少女の表情が変わる。
あーとかうーとか言いながら、視線が宙をさまよう。

「えっと…名前言ってもらえないと連絡とかし辛いし…」
「あ、そうですよね、えっと…その…こはるです…小さい春で小春」
「…ほんとに名前だけだね…苗字は?」
「え、えっと…」

さらになんだか言いづらそうになる小春という少女。
その態度に、二人はどうも疑いを持ってしまう。
35 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/16(金) 23:26
「どうしても言えない?まさか…家出とかじゃないよね?」
「ち、違います!そんなことしません!!」
「まあ…お客さんの事情とか、年齢とかにあたしらはこだわらないけど…」

それにしたって、この少女の慌てぶりは妙で。
ひとみも梨華もそれは感じていたが、それはそれ、とばかりに仕事用の顔に戻る。

「で、小春ちゃん…小春ちゃんの依頼って、何?」
「あ、そうですそうです…あの、なーさんを探して下さい!!」

前のめりになりそうな勢いで小春がひとみに訴えてくる。
その表情は真剣そのもので。

「なーさん?」
「あたしの親友です!」
「親友が、いなくなっちゃったの?」
「はい…」
36 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/16(金) 23:27
小春の話を聞いて、梨華の表情も心配そうに変わる。
親友が行方不明。
思いがけないハードな小春の事情に、二人の顔は真剣そのものになっていく。

「小春にとって、こっちに引っ越してきてから、なーさんは本当の家族みたいに大切で。
東京に出て来た時、最初は小春、ひとりだったから。
周りの大人の人は、お前にはもっと大事なことがあるだろって…
でも、小春はあきらめられなくて…」
「…大丈夫。あたしたちが絶対見つけ出す…
だって、あたしたちの仕事は『幸福』を届けることなんだから」
「所長さん…」

小春の目に、涙が浮かぶ。

「で、その親友さんの写真とか、特徴とかってあるの?」
「あ、はい!いつも写真持ち歩いてますから!」
「ふーん…って、あれ…?」
37 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/16(金) 23:27


そう言って小春が取り出した写真。
そこには小春と…ネコが、一匹。


38 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/16(金) 23:27
「…もしもし、小春サン?」
「何ですか?」
「あのさ、小春の親友って…」
「はい!ネコの、なーさんです!」
「あ、そうなの、あはは…」
「が、頑張って探すからね、小春ちゃん…」

とても嬉しそうな、小春の純粋な笑顔。
人間だとばかり思っていた二人は、すっかり拍子抜けしてしまって。
しかし、この小春の笑顔の前では何も言えず…

結局、引き受けてしまうのがこの事務所。
39 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/16(金) 23:27
「私、これからし…用事があるので!」

そう言って小春が去って、一気に力が抜ける二人。

「はぁー、まさかネコが親友とはね。」
「でも、すっごく大切そうだったね…だからこそ、よっちゃんも引き受けたんでしょ」
「あんな顔されちゃね…」

そう言って、笑い合った。

「…でも、ちょっとひっかるのよねー」
「ん?梨華ちゃんどうした?」
「いやね、あの子、どっかで見たことあるような気がするのよ」
「小春が?中学生の妹いる知り合いなんていねーじゃん」
「そうなんだけど…どこだったかなー?」

どうにも引っかかるものを感じて悩む梨華。
ひとみはしばらくそんな梨華を見ていたが、しばらく梨華が動きそうにもないので
とりあえず仕事始め…とばかりに電話をかけ始める。

「…あ、もしもしミキティ?あーうんあたし…当たり。仕事の話…」
40 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/16(金) 23:28


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41 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/16(金) 23:28
「…で、ネコ探しのためにミキの休憩時間つぶそうとしてんのかあんたは」
『いーじゃん、普段は休みみたいなもんでしょ』
「うっさいアフォ。今日はゼミで忙しいんだ」
『アフォ言うな!』

ひとみの電話先の女性−藤本美貴は、不機嫌な様子でひとみをあしらっていく。
『吉澤幸福宅配便』バイト社員の美貴は、もともとひどく気まぐれで。
しかもひとみに半ば無理矢理付き合わされている感じなので、基本的にやる気がない。

『とーにーかーく!今写真送るから!見つけたらヨロシク!!』
「ちょ、お前ヨロシクってなんだコラ…切ったし」

電話の向こうから流れてくる無機質なトーン。
そして、その直後流れるメール着信音。
美貴は、うんざりしながらそのメールを開く。
42 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/16(金) 23:28
「なーに、アンタまた仕事押しつけられたわけ?」
「そうなんだよ亜弥ちゃん…しかもネコ探しとか…ミキの休憩時間が…」
「ったって美貴ちゃんずーっと休憩してるようなもんやん」
「うっさい、それ言うな愛ちゃん…」

ぐったりしている美貴にちょっかいを出してくるのは、ゼミの二年後輩、高橋愛と松浦亜弥。
美貴の幼なじみである亜弥と、その友人愛。
人付き合いが嫌いで引きこもり体質の美貴の数少ない友人達である。

「まあまあみきたん、アタシも手伝ってあげるから」
「あっしも、出来ることがあったら協力するで」
「ありがと…でもよっちゃんさんが言うには白地にブチのネコって…
そのへんにいっぱいいるじゃん!わっかんねーよ!!」
「美貴ちゃん、落ち着くがし…」

ついにキレかける美貴を困りながらもなだめる愛。
ちなみに亜弥は、その姿を見ながら笑っている。
これが、この三人のいつもの光景である。
43 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/16(金) 23:28
「まぁ、とりあえず写真あるんでしょ?見してよ」
「そうそう、見ないと始まらないやよ」
「んーまぁそうだけどさぁ…うっわほんとどこにでもいそうなネコだって」
「わー、かわいーねみきたん。ネコもこの女の子も」

メールの写真を見て、頭を抱えたくなった美貴と、どこかずれた喜び方の亜弥。
そして、一緒にのぞき込んでいた愛は…

「あ、このネコあっしの家の近所で見たやよ。リボンしとるネコなんておしゃれやと思っとった」
「何ぃぃぃぃぃ!?」

あっさり、手がかりを手にしていたのだった…
44 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/16(金) 23:28


45 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/16(金) 23:29


46 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/16(金) 23:29

つづく。
47 名前:あすか 投稿日:2007/02/16(金) 23:30
>>31 mokaさん

前作も読んで下さいましたか。ありがとうございます。
続きがありますのでそちらもよろしければよろしくお願いします。
こちらの二人は…よっちゃんがアフォになってますが引かないで下さいw
48 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/17(土) 17:24
この展開は…ひょっとすると…ひょっとする?
楽しみにしてます。
49 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/20(火) 21:34


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50 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/20(火) 21:35
「…で、見つけてたのはいいんだけどさぁ…」
「んー?何か問題でもあったワケ?」

ゼミが終わって、美貴も合流した吉澤幸福宅配便。
そこで、美貴が愛から聞いた話を伝えていた。

「愛ちゃんの近所の小学生の子が、連れてたらしいんだよね」
「それって、その子に拾われちゃったってこと?」
「でも、小春はリボンに連絡先書いてるって言ってるし…」
「そう、だから、別のネコか…わかってて返す気がないってことのどっちか」
「前者ならまだいいけど…後者なら問題だな」
「無理矢理連れて行くのは、うちの信念から外れちゃうものね」

そう言って、三人それぞれ頭を悩ませる。
この事務所の信念は、依頼者とそれに関わった人を幸福にすること。
しかし、その小学生からネコを奪うと、小学生は悲しむ。
でも、連れて行かないと小春が悲しむ。
そこをどうやって切り抜けるか、が今回の問題になりそうだった。
51 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/20(火) 21:35
「…よし、とりあえず明日見に行ってみるか」
「えー、ミキ行かないよ。明日も教授の研究室行かなきゃならないし」
「うん、あたしもいろいろあるから梨華ちゃん行って来て」
「ちょっとぉ!!どうしてそうなるわけ!?」
「まあまあ、これ住所だから。えーとね、菅谷さんって言うんだってさ」
「美貴ちゃんも!どうにかしてこのよっちゃん動かしなさいよ!」
「やだめんどい」
「もう…」

こう言いながらも、なんだかんだで断れない。
そういう梨華の性格を知っているからこそ、この二人はいつもこんな態度で。
そしてそれに気付ききっていない哀れな苦労人梨華。

結局、今回も梨華は流されてしまうのだった…
52 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/20(火) 21:35


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53 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/20(火) 21:35
平日の午後の閑静な住宅街。
そろそろ小学生が帰宅する時間となって、外は少しにぎやかで。

そんな中、ある一つの家の前に梨華はいた。
美貴から教えられたその住所。
そこに来たはいいものの。
知り合いがいるわけでも、自身が知り合いと言うわけでもないその家の前で困り果てる。

そうしてその家の前で固まること数十分。
端から見れば立派な不審者である。

「…んー、よしっ!」

そして、意を決して梨華は玄関のチャイムを押した…
54 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/20(火) 21:36






しかし。

「あれっ?」

反応がない。
もう一度押してみる。反応無し。

「なんだぁ、誰もいないのかぁ…」

まあ、よく考えたら家の前に見知らぬ人間が数十分固まっていたのに
反応無しな時点で無人とわかりそうなものであるが…

梨華ががっくりと肩を落とした、その時だった。
55 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/20(火) 21:36
「なー」
「ん…あれ、このネコ…」
「なーなー」

その家のベランダから、ふと顔を出したネコ。
そのまま、庭の木を伝って、梨華の側に降りてくる。

「なー」
「あ、ちょっと待って!」
「な?」

梨華の声に反応するように、歩みを止めるそのネコ。

「お前頭いいね…ちょっとごめんね」

そう言って、梨華はそのネコを抱き上げる。
人になれているのかたいした抵抗もしないそのネコの、首のリボンをそっと見てみると…
56 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/20(火) 21:37



『…すみ なーさん 090−××××−○○○○』



57 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/20(火) 21:37
苗字の部分は少しかすれているが、電話番号ははっきり見える。
少し見える苗字は、明らかに『菅谷』ではなくて。
そして、小春から聞いた『なーさん』という名前。
これが、小春のネコだというのはあきらかだった。

「やっぱり、後者だったか…うーんどうしよっかなぁ…」
「なー?」

問題の大きそうな可能性が当たってしまって悩みこむ梨華と、
その梨華を不思議そうにのぞき込むなーさん。

そうして梨華が悩んでいた時…
58 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/20(火) 21:38



「おねーさん、りしゃこのなーさん返して!」
「え?」



59 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/20(火) 21:38
大きな声が響き渡った。
声のした方に振り向くと、そこに立っていたのは一人の女の子。
大人っぽい顔立ちで、背も結構高いが、背中に背負っているのはランドセル。
先程の言葉から、この少女が愛が言っていた小学生の子だと気付く。

「あ、ごめんね」
「なーさん!りしゃこ寂しかったゆー…学校つまんない…」

梨華から取り上げるようになーさんを奪い取って、抱きしめるりしゃこという少女。
その一瞬陰った表情と、発した言葉。
それが、梨華の心にひっかかって。
60 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/20(火) 21:38
「あ、あの…」
「あ、おねーさん、なーさんが逃げちゃいそうなの捕まえてくれたんですか?」
「え?いや、あのあたしは…」
「ありがとうございます。りしゃこは、菅谷梨沙子って言います」
「あ、どういたしまして…逃げる?」
「なーさん、いっつもいなくなろうとしちゃうの。りしゃこ寂しいの。行って欲しくないのに…」

そう言って、また陰る表情。
その表情が、梨華の心に突き刺さる。

「ねえ、梨沙子ちゃん、そのネコって…」
「…ありがとうございました。行こうなーさん!」
「なー!ななー!!」

そう言って、なーさんを掴んで家の中へと駆け込む梨沙子。
梨華が言いたいことを、聞きたくないかのようで。
梨華は、またしばらくその場に立ちつくすのだった…
61 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/20(火) 21:38


62 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/20(火) 21:39


63 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/20(火) 21:39

つづく。
64 名前:あすか 投稿日:2007/02/20(火) 21:40
>>48 名無飼育さん

ひょうっとして…どうなのでしょう。
…きらりじゃありませんよ、きらりじゃ、ね。
65 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/20(火) 21:51
おやおや、どうしたものやら…。(苦笑
66 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/27(火) 22:28


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67 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/27(火) 22:28
「…で、どうにもできなかったのよね…」
「うーん、そりゃその梨沙子って子にもなんかありそうだね」

結局、途方に暮れた梨華が帰り着いた事務所。
そこでまた開かれる対策会議。

「なんて言うのかなぁ、大人っぽい感じなんだけど、話し方とかすっごい子どもっていうか…
話し方とかも、舌っ足らずな感じでね」
「うーん…その子についてはなんか知らないの?」
「ご近所さんの愛ちゃんが知らないのに、ぱっと行ったあたしがわかるわけないじゃない」
「そっか…そういうことならあたしの出番かな」

そう言うと、ひとみがようやく重い腰を上げる。
68 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/27(火) 22:28
「何よ、得意分野なら動く気なの?」
「ふふん、まーね」
「楽しそうねぇ」
「んー、綺麗なレディと話せそうなのは楽しみだからね」
「ふざけてるんじゃないの、もう!」

不敵に笑うひとみと、呆れている梨華。
にやにや笑いのまま、ひとみはスーツに着替えていく。
そして、出来上がったのは某宝塚風美女。もしくは怪しいホスト。

「じゃ、梨華ちゃん行ってくるねー」
「…まったく、知らないわよもう…」

ひらひらと手を振って出かけていくひとみと、頭を抱える梨華。
ひとみの情報収集能力は高いので、文句も言うに言えず。
69 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/27(火) 22:29



数時間後、きっちり欲しい情報をゲットしてくるひとみである。
ちなみにどんな方法かは割愛させて頂く。



70 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/27(火) 22:29
「ただいまー」
「おかえり…サイテーに見えるわよ、それ」
「いいじゃん、誰も騙してるワケじゃないし…それより梨沙子ちゃんの事でしょ」
「ごまかすんじゃないのもう!わかったわよ」

しぶしぶひとみと向き合った状態で座る梨華。
結局、こうやって流されてしまう性質なのだ。

「まず梨沙子ちゃん自身なんだけど…率直に言うと、クラスで孤立してるみたい」
「ホントに率直ね…いじめられてるとか?」
「んー、ちょっと違うかな?自分から他人を遠ざけてる感じ」

『学校つまんない』
そう言った梨沙子の暗い目が、梨華の脳裏に甦る。
71 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/27(火) 22:29
「もともと彼女の両親は再婚みたいでさ…そのせいで人間不信気味だったわけ。
それでも、去年まではマシだったんだ」
「なんで?」
「近所に住んでた三つ上の幼なじみ…夏焼雅ちゃんっていうんだけど、
その子とその友達には懐いてた。だから、まだクラスでもそんなに暗くなかった。
まぁ、雅ちゃんが中学いっちゃってちょっと危ない傾向はあったんだけどさぁ…」
「けど…どうしたの?」
「今年の春に雅ちゃんが引っ越しちゃってね…
それからは、話さない他人と関わらない親すらまともに話せない、で今に至ると」

二人の間に沈黙が走る。

「…つまり、梨沙子ちゃんは雅ちゃんの代わりに、なーさんをほしがってるって事?」
「そ。たまたま迷い込んできたなーさんがちょうど良かっただけで、何でもよかった…多分」
「それって、梨沙子ちゃんも小春ちゃんも可哀想よね…」

子どもじみたわがままでも、実際子どもな梨沙子にとってはとても大事なことで。
自分と一緒にいてくれる存在が欲しくて。
でも、それはどう見つけていいかわからなくて。
72 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/27(火) 22:30
「…でも、原因がわかったならなんとかもできる」
「どうする気よ」
「ショック療法?」
「あたしに聞かれても困るわよ!」
「ま、とりあえず必要な人員を用意しないとね…」

そう言って、ひとみはおもむろに美貴に電話をかけはじめた。
73 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/27(火) 22:30


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74 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/27(火) 22:30
「はぁ!?ちょっともう一回言って見ろ」
『だーかーら、今度の金曜あたりにちょっとこの学校行ってって』
「断る。なんでミキがわざわざ静岡の中学校まで行かなきゃならないのさ」
『今回の依頼を成功させるため』
「お前が行けお前が!!」
『免許持ってるのミキティだけだし』
「だからってミキを使うなぁ!!」

ゼミもなく平和に引きこもりライフをエンジョイしていた美貴。
…まぁ、亜弥や愛がいつの間にか入り込んで美貴のゲームなんかやってるのはこの際無視。
せっかくのんびり惰眠をむさぼっていた時に、ひとみからの電話で起こされ。
まさに、ロマンティックイライラモードである。

『まあとにかくさぁ…頼むよミキティ』
「…特上焼肉五人前、それ以下は譲らん」
『え、ちょっとミキティ?』
「あー、梨華ちゃんと亜弥ちゃんと愛ちゃん入れて最低八人前だな。おごるように」
『いやちょっと待ってそれはちょっときつ』

ひとみがなにやら電話口で言っているが無視。
せっかくのんびりしている時間を潰すのだ、当然だと美貴は考える。
75 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/27(火) 22:30
「なーに?たん、またよっすぃーから?」
「美貴ちゃんも大変やね」
「哀れんでくれる気あるならせめてゲームやめろお前ら」

ゲームの画面から目を離さずに棒読みで言う二人と、高速でツッコむ美貴。
しかし慣れている二人は、なおもゲームから目を離さず続ける。

「まぁ、あーしはよーわからんけど、おごってくれるのは大歓迎やざ」
「あたしもー」
「そう思うなら手伝ってよ」
「何でアタシ達も行くのさ」
「ミキが中学校の校門の前に立ってたら思いっきり不審者じゃん」
「「あー確かに」」
「ちったぁ否定しろ!」

思いっきり息のあった二人の返事に、軽く落ち込みかける美貴。
76 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/27(火) 22:31
「冗談やよ、まぁ、ちょっとした日帰り旅行と思えばいいもんやし」
「そうそう、どーしよーもないたんにつきあってあげるとしますか」
「亜弥ちゃん一言多い…ま、ありがとね」

これはひとみに亜弥と愛におごるデザート代まで請求せねば、と考える美貴。
そして、着実に、ひとみの考える駒は揃っていくのだった…
77 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/27(火) 22:31


78 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/27(火) 22:31


79 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/02/27(火) 22:31

つづく。
80 名前:あすか 投稿日:2007/02/27(火) 22:32
レス返し。

>>65名無飼育さん

さて、どうなるでしょう。
81 名前:あすか 投稿日:2007/03/10(土) 23:33


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82 名前:あすか 投稿日:2007/03/10(土) 23:33
「もしもーし…あー、ミキティ?あー、ターゲット確保した?
え?不審者扱いで叫ばれそうになった?あっははははミキティ怖いしね
…え、ちょっとデザート代?愛ちゃんとあややの分?え聞いてないってちょっとミキティ…」

電話をしながら一喜一憂するひとみと、それを眺めている梨華。
その口調でだいたい流れは読める梨華だが、念のためひとみにきちんと話しかける。

「美貴ちゃんなんだって?」
「あーちくしょー切られたよ…愛ちゃんとあややにはデザート食べ放題でおごれって…」
「そうじゃないでしょ?」
「わーかってるよ…ターゲット確保。事情話したらちゃんと明日来てくれるって」
「そう、よかった…で、小春ちゃんに連絡は?」
「あ」

本気で忘れていた、という表情のひとみと、呆れてため息をこぼす梨華。
ひとみは、慌てて教わっていた小春の携帯に電話をかける。
83 名前:あすか 投稿日:2007/03/10(土) 23:33
「あー、もしもし小春?なーさんのことなんだけど…
あー、うん。何とかなりそうなんだ。うん。
だからさ、明日の午後2時に○○区の△△公園に…え?忙しい?
…あー、うん、それだけありゃ片づくから。だからちょっとだけ抜けてきてよ!
…よかったー、じゃあ明日ね」
「小春ちゃんは?」
「うん、一時間くらいしか時間取れないけど大丈夫だって…
よし、これで準備は完了。あとは実行するだけだ」

満足げに笑うひとみと、まだ不安そうな梨華。

「ねぇ…もしこれでうまくいかなかったらどうするの?」
「あー…まぁ、何とかなるだろ」
「何でそんな投げやりなのよ…」

ひとみの言葉にため息をつく梨華。
しかし、彼女は知っているのだ。
ひとみの根拠のない自信。それは今まで外れたことはなくて。
この人が自信満々な時はきっとなんとかなる。
何せ、強引にも駒を揃えてしまった人なんだから。
だめでも、この人が無理矢理何とかする。

そのくらいは、考えるようになってしまった。
だてに、つきあいは長くない。
…まぁ、その自信と思いつきに振り回されるのは自分たちなんだけれど。

何はともあれ、自分はひとみの考えについていく。
ただし、素直になんてついて行かずに、小言の一つでも言ってやらなきゃ。

そう考えながら、梨華はまたひとみが放りだした書類に向かうのだった。
84 名前:あすか 投稿日:2007/03/10(土) 23:34


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85 名前:あすか 投稿日:2007/03/10(土) 23:34
次の日、梨華はひとみに言われるまま、この間の住宅街に赴いていた。
目的はひとつ。梨沙子を目的地まで連れて行くこと。

「まったくもう…簡単に言ってくれちゃって…素直についてくるわけないじゃないの…」

ぶつぶつ言いながらも来てしまうのが、なんだかんだ言って人がいい梨華である。

「…でも、まあやるしかないか…よしっ!」
「…おねーさん?」
「へ?あ、あああああ梨沙子ちゃん!?」

思いっきり気合いを入れて声を出したところ、目的の本人に声をかけられ。
恥ずかしさやらなんやらで、思わず慌ててしまう梨華。
そんな梨華を、梨沙子は不思議そうに見つめている。

「どうしたんですか?おねーさん?」
「あ、あー…そうだ、そのね…今日は、梨沙子ちゃんに用事があってきたの」
「りしゃこに?」

またも首をかしげる梨沙子。
都合のいいことに、今日もなーさんを抱いていて。
意を決して、梨華は梨沙子に話を切り出す。
86 名前:あすか 投稿日:2007/03/10(土) 23:34
「あのね、そのまま、なーさんを連れて…ある所へ、来てほしいの」

そう言うと、梨沙子の表情が変わる。
怯えているような表情をして、その後、にらみつけるような目つきへ。

「…やだ、おねーさんも、りしゃこからなーさん取ろうとするんだ」
「ち、違うの梨沙子ちゃん、話を聞いて!」
「やだやだやだっ!!」

そう叫ぶと梨沙子は駆け出す。
実際、梨沙子の言っていることは間違っているわけでもないのだが。
一瞬ぼーっと立ちすくんでいた梨華も、我に返って駆け出す。

「梨沙子ちゃん!ちょ、待って…」
「やだもん!待たないもん!!」

そのまま走り続ける梨沙子と梨華。
しかしふと、梨華が気付く。
このまま梨沙子が向かう方に真っ直ぐ走れば、向かうのは目的地であって。
そう考え、追いつくか追いつかないかの速さで走る。
87 名前:あすか 投稿日:2007/03/10(土) 23:34
「ほんと、話だけでも聞いてよ…」
「やだっ!そう言って、りしゃこからなーさん取るんでしょ!!」
「そんなこと、しないからっ…」

そういう会話を続けながら、走り続けること数分。
ようやく見えてきたその場所と、そして見慣れた人影。
それを見て、梨華の頬はゆるむ。

さて、これからは、この人の出番だ。
そう考え、梨華は走る速度を落とした。
88 名前:あすか 投稿日:2007/03/10(土) 23:35
「ストップだよ、梨沙子ちゃん」
「!?」

立ちふさがった人に腕をつかまれ、梨沙子は驚き足が止まる。
その人の顔を見てみると、とっても瞳が大きな美人さんで。
思わず見とれてしまって、はっと気付く。

「な、なになにっ!?」
「キミを待ってたんだ、梨沙子ちゃん」
「…なんでりしゃこを…」

そう問われ、立ちふさがっていた人物は微笑んで…
89 名前:あすか 投稿日:2007/03/10(土) 23:35



「はじめまして、吉澤幸福宅配便です…キミに、お届け物だよ」



90 名前:あすか 投稿日:2007/03/10(土) 23:35
そう、優しく告げた。

「おとどけもの…?」
「そう…キミが、本当に欲しかったものだと思う」
「りしゃこが、欲しいもの…?」

そう、梨沙子が言うと。
ひとみは、笑顔で後ろを振り返り。

そして、美貴に手を引かれ連れられてきたのは…

91 名前:あすか 投稿日:2007/03/10(土) 23:35


「梨沙子…」
「…みや!!」


92 名前:あすか 投稿日:2007/03/10(土) 23:36
梨沙子が、会いたいと思っていた人物。
夏焼雅、その人だった。

「え、なんで、なんでなんでみやがここに…?」

うろたえる梨沙子、笑顔で微笑むひとみ。
息も絶え絶えな梨華と近寄ってその梨華の肩を叩く美貴。
そして、雅は梨沙子のもとへと近寄って…
93 名前:あすか 投稿日:2007/03/10(土) 23:36


思い切り、頭を殴った。


94 名前:あすか 投稿日:2007/03/10(土) 23:36
「な、なにすんのさみやー!!」
「こぉんの、バカ梨沙子!!なにあんた人様に迷惑かけてるの!!」
「めーわくかけてないもーん!」
「じゃああんたの抱えてるネコは何っ!!」

そう叫ばれ、梨沙子は口ごもる。

「な、なーさんは、なーさんは…」
「…あのねぇ梨沙子、あたしはこの人達から全部聞いてるの」
「…なにを?」
「その子を探してる子がいることも、梨沙子があたし以外の人と話そうとしないことも」

そして、また起こる沈黙。
じっと見つめるひとみ達。
そして、梨沙子の目からこぼれたのは…涙。
95 名前:あすか 投稿日:2007/03/10(土) 23:36
「だって、みやがいなくてさみしかったんだもん!つまんなかったんだもん!
学校の子とかはみやみたいに大人じゃないからつまんない!!」
「あのねぇ梨沙子…あたしだって大して変わらないわよ?」
「違うもん!みやとか、みやのお友達は違うもん!!」

泣きながら叫び続ける梨沙子。
その梨沙子を、呆れながら見つめる雅。
そして、雅が口を開く。

「梨沙子…あんたがどれだけあたしを大人だと思って、頼ってるのかは知らない
でもただ一つ言えるのは…あたしがいないからって、こんな困ったことする梨沙子は嫌い」

その言葉を聞いた途端、梨沙子の目からはさらに涙が溢れ出す。

「やだぁ!みや、りしゃこのこときらいにならないでぇ!!」
「冗談よ。でも、本当にこんな梨沙子はあたし嫌だよ…」
「ううっ…ぐすっ…」

完全に雅に抱きついて泣きじゃくる梨沙子。
そして、梨沙子の手から離れたなーさんを、今度はひとみが抱きかかえる。
96 名前:あすか 投稿日:2007/03/10(土) 23:37
「あたしはいないけど、佐紀とか茉麻とか千奈美とか熊井ちゃんとか…
ついでに桃子とかがいるから。みんな、梨沙子のこと心配してるみたいだし
どうせ、あたしがいなくなってから遊んでないんでしょ?」
「う…ごめんなさい…」
「あやまんないの。それは謝る所じゃないから。それよりも…ね」
「うー…」

すっかりぐずってしまった梨沙子だが、痛い所を突かれると思わず口ごもる。
そんな梨沙子の頭をなでながら、雅は続ける。

「梨沙子…あたしがいなくても、我慢出来る?」
「う…うんっ、がんばるもん」
「引っ越しの時にも約束したけど…こんどこそ、がんばれる?」
「わかんないけど、わかんないけどがんばる…」
「よしっ、じゃあ、この人達に謝るんだよ」

そう言って、梨沙子の体をひとみ達の方へ向ける。
梨沙子は一瞬戸惑ってうつむいて、でも決意したような顔で…

「なーさん返さなくて、ごめんなさい、おねーさんたち…」

そう、頭を下げた。
97 名前:あすか 投稿日:2007/03/10(土) 23:37
「ま、雅ちゃんの渇で返す気になったならいーんじゃん?」
「もう逃げないでね梨沙子ちゃん、それに、お友達ともちゃんと遊ぶんだよ?」
「それに、本当に謝るべき相手はこれから来るしね」

ひとみ達が笑って答える。
事情が読めない梨沙子達が首をかしげると…

「ご、ごめんなさーい!!遅くなりましたぁ!!!」

梨沙子達の後ろから、元気な声が聞こえてきた。

「よっ、小春…ちょうど今話がついた所だから」
「あの、あのー…なーさんのことって…って、あー!なーさん!!」

ひとみの腕に抱かれていたなーさんを渡され、ほおずりする小春。
なーさんも、心なしか幸せそうで。
98 名前:あすか 投稿日:2007/03/10(土) 23:37
「吉澤さん!ありがとうございました!石川さんに…えーとそちらの方は…」
「藤本美貴。ヨロシク」
「藤本さんも、ありがとうございます!」
「まぁ、いいってことよ!」

豪快に笑うひとみと、そのひとみを見て苦笑する梨華と美貴。
そして、梨沙子と雅の方を見ると…

「…あれ?何固まってるの梨沙子ちゃん、雅ちゃん?」
「…あ…ああ、ああああああ!!!!」
「き、きききききらりちゃん!?」
「へ?きらり?」
「あちゃー…知ってる人が…あはは…」

小春の方を指さし、驚く梨沙子と雅。
そして、梨華が思い出したように手を叩く。
99 名前:あすか 投稿日:2007/03/10(土) 23:37
「あー!思い出した!久住小春!!」
「は?何?」
「あの、TVドラマの『きらりん☆レボリューション』の主演して中高生に大人気のアイドル女優!!」
「ふーん…って、、ええ!?」
「小春、お前そんな有名人だったのか!?」
「いや、まぁ、えーと…ハイ、まあ…」

苦笑いする小春と、感激して小春に飛びつく梨沙子と雅と。
その二人と一緒になって小春を囲むひとみと。
それを呆れながら見る梨華と美貴。

そんなわけで、軽く収拾のつかない事態になりつつも。
撮影が残っていた小春が現場に戻っていく(休憩時間に抜け出しただけらしい)
ことでなんとかおさまって。
帰って行く小春の晴れやかな笑顔と、最後に頭を下げた梨沙子と雅の穏やかな顔。
それを見て、今回は一件落着…かと、思いきや…

数日後、事件はまたやってくる。
100 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/03/10(土) 23:38


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101 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/03/10(土) 23:38
「あー…ヒマ」
「ヒマならこの書類手伝ってよ」
「やだ、そういうのは梨華ちゃんやってよ」
「もう!」

いつも通りの、平和な事務所。
そこに、どたばたと元気な足とが聞こえてくる。

「あれ?美貴ちゃんもう来たのかな?」
「にしては勢い良すぎねぇ?」
「何かあったのかもよ…」

そんな会話を、二人が繰り広げているところに。
102 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/03/10(土) 23:38


「おっはよーございまーす!!」
「「こ、小春(ちゃん)!?」」


103 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/03/10(土) 23:39
元気な声が、響き渡った。

「な、お前どうしてこんな…忙しいんじゃないのかよゲーノー人って!」
「こ、このあたりうろうろしてて大丈夫なの?」
「今日はオフです!それに堂々としてると意外と気付かれません!」

自信満々に答える小春と、まだ驚いているひとみと梨華。
更に、小春は口を開く。

「あのー、小春この前吉澤さん達がどうやってなーさん見つけてくれたか知らないでしょう?
だから、すっごく興味がわいちゃって…だから、オフの時は遊びに来ようかと思います!」
「遊びにって…小春ちゃん、ここは一応仕事であって…」
「まぁいいじゃん、いざとなったら小春に手伝ってもらおうよ」
「よっちゃん!!」
「わーい吉澤さんだいすきー!!」
「よしよーし、おいで小春―」
「もう!ちょっとあなた達話を聞きなさーい!!」
104 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/03/10(土) 23:39


こうして、丸く収まった事件だったが、思わぬ常連を生み出すことになり。
そしてこれが、久住小春が加わった吉澤幸福宅配便の、はじまりのはなし。


105 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/03/10(土) 23:39


106 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/03/10(土) 23:39


107 名前:少女と迷子と優しい事務所。 投稿日:2007/03/10(土) 23:39


おわり。
108 名前:次回予告。 投稿日:2007/03/10(土) 23:40
人のキモチは、いくら依頼でもどうにもできないでしょう?


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「ちょっと美貴ちゃん!さゆに何したのよ!」
「何もしてねーって!」

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「いい加減仲直りしてくれないと巻き込まれる絵里が迷惑なんですけど」
「お前の都合かよ…」

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「でも、小春だったらちゃんと謝るけどなぁ」
「だよなぁ小春。ミキティは大人げないな」
「小春はともかく、そこのアフォは黙れ」

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「どーも、藤本幸福宅配便です」

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次回。
『ウサギとケンカと王子様』
109 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/11(日) 22:58
かっ、可愛い…癒されるわー
なんか幸せになれました ありがとうしあわせ急便
「ついでに」呼ばわりとはさすが嗣永プロですねw
次回も期待してます
110 名前:44 投稿日:2007/05/20(日) 02:15
Dream Forestから飛んで来ました。
こちらもほんわか良いですねぇ。
桃子プロ・・・
111 名前:ウサギとケンカと王子様 投稿日:2007/09/15(土) 22:23



人のキモチは、いくら依頼でもどうにもならないことでしょう?



112 名前:ウサギとケンカと王子様。 投稿日:2007/09/15(土) 22:24
とある日の吉澤幸福宅配便の事務所。
本日平日、現在午後。依頼人はなし。
本日は事務仕事担当(というか、実際の業務をほぼ担当)の石川梨華が休みで、
うるさいのがいないからとばかりにだらけている所長吉澤ひとみと。
バイト所員藤本美貴は、梨華の代わりに押しつけられた書類の山を見つめながら、
携帯を開けたり閉めたり気にしていて。
まあ、一応は静かな事務所だった。

…怒り心頭の梨華が、事務所にやってくるまでは。

「おー梨華ちゃん、どうしたの休みなのに」
「…ちょっと美貴ちゃんに話があるんだけどいい?」
「ん?何さ」
「…美貴ちゃん、さゆに何したのよ!」
「はぁ!?」

いきなり梨華に怒鳴られ、美貴は不機嫌になる。
梨華が発した『さゆ』とは、梨華の従姉妹の道重さゆみのことで。
梨華はこの自分に懐いている似た趣味の従姉妹を溺愛気味で。
それをわかっていても、やはり怒鳴られるのは気分が悪い美貴は梨華に食ってかかる。
113 名前:ウサギとケンカと王子様。 投稿日:2007/09/15(土) 22:24
「何もしてねーよ!」
「じゃあなんでさゆが昨日一晩中私の家に来て美貴ちゃんのこと愚痴り続けるのよ!」
「うっ…そりゃ、まあちょっとした喧嘩はしたけど…」
「ほらぁ!」

珍しく、口喧嘩で梨華優勢。
思い当たるふしがないわけでもない美貴がひるんでいるところを、冷たい目線で見下ろす梨華。
完全に普段とペースが逆転気味である。

「つーか梨華ちゃんは重さんが悪いとは思ってくれないわけ?」
「さゆから話を聞く限り美貴ちゃんが悪いじゃない!」
「えー、そんなこと…」
「ありますっ!」
「ちょっと二人ともストップ!話が読めないんだけど」

このままどこまでもヒートアップしていきそうな二人(特に梨華)を見兼ねたひとみが止めに入る。
114 名前:ウサギとケンカと王子様。 投稿日:2007/09/15(土) 22:24
「重さんとミキティ、どうしたのさ」
「どうもこうも…」
「美貴ちゃんがさゆのこと怒らせたのよ」
「ミキのせいかよ!」
「だからそうだって言ってるじゃない!おかげでこっちはせっかくの休みをひたすら
さゆの愚痴に付き合わされて寝不足なんだから!」
「だったらミキを怒りにこないで寝ればいいじゃん…」
「何か言った?」
「イエナニモ…」

完全に美貴が押し負けている。
寝不足で機嫌も悪いせいで、梨華の表情ははっきり言って怖い。
それはもう、ひとみが軽く引くくらいには怖い。
115 名前:ウサギとケンカと王子様。 投稿日:2007/09/15(土) 22:24
「…ミキティ、何したの」
「だから何も…いや、その…」
「言ったら楽になるぞー、梨華ちゃんあんなんだし」
「あーもう、付き合い始めた日を忘れてたの!でもそこまで怒ることじゃ…」

思わず叫んだ美貴を見て、ひとみと梨華は同時にため息をつく。

「…何さ」
「ほんと、ミキティってさあ…」
「女の子のくせに、乙女心ってものをわかってないわよね…」

同時に哀れむような目で見られて、今度は美貴がイライラしてくる。
特に梨華、さっきの般若のような形相は何処へ行ったんだと。

「別にいいでしょうが!ミキと重さんの勝手でしょ!」
「そのさゆが怒ってるから問題なのよっ!」

そう言い返されると美貴も何も言えず、仕方なくまた押し黙る。
116 名前:ウサギとケンカと王子様。 投稿日:2007/09/15(土) 22:24
「ミキティ…そりゃ謝ったほうがいいって。ほら梨華ちゃんもこんなんだし」
「は?何でよ」
「乙女心は複雑なのよ!…あーでも、昨日の怒りようなら
もしかしたら美貴ちゃん許してもらえないかもね…」
「…それは、やだなあ」
「じゃあ謝ってきなってば…」
「なんかそれもシャクというか…うーん…」

はっきりしない美貴の態度と、その態度にまたため息をつく二人。

「だいたいさあ、さっきから携帯見てソワソワしてたのって、
重さんから連絡待ってたんじゃないの?」
「………その通りだよ」
「そんなうじうじしてるくらいなら、パーッと連絡しちゃってさあ…」
「できたらしてるっつの!あーもう今日はミキ帰るから!」

ついにキレたらしい美貴、置いてあった鞄と携帯を引っ掴んで事務所を飛び出してしまった。
117 名前:ウサギとケンカと王子様。 投稿日:2007/09/15(土) 22:24
残されたひとみと梨華は一瞬唖然としていたが、一足先に我に反った梨華がぼそりと呟く。

「よっちゃんもさあ…」
「何?」
「微妙によく地雷踏むわよね…」
「ほっとけ…」

一応は地雷を踏んだ自覚もあるひとみは正直肩身が狭く。
しかも梨華も美貴も放り出した事務仕事を全てこなすはめになり。
ひとみは大きくため息をついた。
118 名前:ウサギとケンカと王子様。 投稿日:2007/09/15(土) 22:25



そして数日後、また吉澤幸福宅配便に面倒が飛び込んでくることになるのだった。



119 名前:ウサギとケンカと王子様。 投稿日:2007/09/15(土) 22:25



120 名前:ウサギとケンカと王子様。 投稿日:2007/09/15(土) 22:25



121 名前:ウサギとケンカと王子様。 投稿日:2007/09/15(土) 22:25


つづく。
122 名前:あすか 投稿日:2007/09/15(土) 22:28
長らくの放置申し訳ございません。
短いですが更新致しました。

…正直自分の文章軽く忘れました。

>>109 名無飼育さん

可愛らしいと思って頂けると嬉しいです。
嗣永プロはネタのつもりでしたが反応して頂けろと有り難いですねw
かなり遅くなりましたが、どうでしょうか…

>>110 44さん

こちらも読んで頂きありがとうございます。
癒されていただけると幸いです。
やっぱり嗣永プロに反応して頂いて…w
123 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/16(日) 16:59
ミキティはわかりやすくて可愛いなぁ〜
吉澤さんはフォローしようとすると傷口を広げますよねw
124 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/20(土) 23:31
のんびり続きまってまーす
125 名前:ウサギとケンカと王子様。 投稿日:2007/11/08(木) 23:12



吉澤幸福宅配便にその大きな声が響いたのは、
梨華が美貴を問い詰めてから一週間後のことだった。



126 名前:ウサギとケンカと王子様。 投稿日:2007/11/08(木) 23:12
「たぁのもー!!!」

いきなり響き渡る声。
事務仕事をしていた梨華はその声に一瞬呆気にとられたが、声の主を見て笑顔に変わる。

「あら、絵里じゃない。どうしたの?」

絵里、と呼ばれたその少女。
さゆみの友人である亀井絵里は、笑顔で梨華に話し掛ける。

「しっつれいしまーす。藤本さんいますか?」
「美貴ちゃん?ちょっと待っててね。美貴ちゃーん!絵里来てるー!」
「キャメイ?何の用さ」

奥で何やら物を探していたらしい美貴は、梨華の声に面倒そうにやって来た。
そんな美貴の前に寄って行った絵里。
その顔が、美貴に向かい合った途端厳しくなる。
127 名前:ウサギとケンカと王子様。 投稿日:2007/11/08(木) 23:12
「藤本さん…いつまでさゆと喧嘩してるんですか。いい加減にしてください」
「…余計なお世話だって」
「何よ美貴ちゃん、まだ喧嘩してたの!?」

梨華がさゆみの愚痴に付き合わされたのが一週間前。
そして、それから二、三日でさゆみは梨華には愚痴らなくなって。
美貴も別にいつもどおりで。
だから、梨華は仲直りしたものだと思っていたのだ。

「石川さん聞いてくださいよほんと。まだ一切連絡すら取ってないらしいんですよ」
「何してるのよ美貴ちゃん!っていうか、さゆからも何もしてないの!?」
「シゲさんからも何も来ないんだよ…別に何も言いたくないならそれで…」

美貴が拗ねたように顔をそらす。
そんな様子を見て、絵里はため息をついた。
128 名前:ウサギとケンカと王子様。 投稿日:2007/11/08(木) 23:12
「はあ…ほんっと似た物ですねあなたがた」
「…なんだよ」
「さゆも似たようなこと言ってました。連絡もないのは話もしたくないからだって」
「うっ…」

絵里の発言に、美貴が言葉につまる。
そんな美貴に畳み掛けるように絵里が話し続けた。

「全く、ほんと二人とも意地張り続けてないでさっさと謝ったらいいじゃないですか」
「あたしもそう思うなあ、美貴ちゃん…ちょっと大人になって謝っちゃえば?」
「な、なんで…だいたいそんなに怒ることじゃ…」
「ないって思ってるなら軽く謝って終わりじゃない。一週間も長引く必要はないわよ」
「そうですよねぇ石川さん。謝ってプレゼントでもして仕切り直せば終わりですよね」
「「ねー!」」

妙に息が合っている二人。
その様子を見ている美貴にはイライラが募って仕方がない。
129 名前:ウサギとケンカと王子様。 投稿日:2007/11/08(木) 23:13
「うるっさいなあ!だから美貴たちの勝手だって…」
「そろそろ勝手でもないんですよ。
毎日毎日絵里がさゆの愚痴に遅くまで付き合わされてほんと寝不足で」
「だからあたしのとこには来なくなったのね…」

梨華が納得したようにうなずく。
その様子を見ていた美貴は、ますます肩身が狭くなっていた。

「とにかく、いい加減仲直りしてくれないと巻き込まれる絵里が迷惑なんですけど」
「お前の都合かよ…」
「当たり前じゃないですか。絵里にここまで被害が出てなければわざわざ来ません」
「いや、威張って言うことじゃないって」

なぜか胸を張る絵里と、そろそろ疲れてきた様子の美貴。
梨華はそれを見て苦笑していた。
130 名前:ウサギとケンカと王子様。 投稿日:2007/11/08(木) 23:13
「でもほんと、そろそろ仲直りしないと、美貴ちゃんも寂しくないの?」
「うっ…そりゃ、ちょっとは、寂しい…かな」
「それを素直にさゆに言えばいいのに。さゆ喜びますよ」
「今さら言えないって…」

そんな美貴の様子を見て、今度は絵里と梨華が揃って苦笑する。

「ほんと、素直じゃないわよねぇ」
「本当ですねぇ…いつまでも喧嘩してたら絵里がさゆ貰っちゃいますよ?」
「なっ、キャメイそれは許さないからね」
「…だから、絵里じゃなくてさゆと話してくださいってば」

呆れたような顔で、絵里は事務所のドアに向かう。
131 名前:ウサギとケンカと王子様。 投稿日:2007/11/08(木) 23:13
「あれ?絵里もう帰っちゃうの?ゆっくりしてけばいいのに」
「あはは、そうもいかないんですよ。今日はさゆの部活の間にこっそり来ただけで
これからお泊まりと愚痴コースですから」
「帰れ帰れ。ほんとうるっさい」
「美貴ちゃん!」
「藤本さんにもウザがられてますし帰りますね…
でも、このまま仲直りしなかったらまた突撃しに来ますから」

そう言って、絵里はいそいそと帰っていった。
残されたのは、イライラを隠さない美貴と困ったように笑う梨華。

「…だってさ、美貴ちゃん」
「ああもう…何なのさ」
「あれでも絵里も心配してるんだよ」
「どうだか」

そう言いながら頭をかく美貴。
その様子を見ながら、梨華はまたため息をついた。
132 名前:ウサギとケンカと王子様。 投稿日:2007/11/08(木) 23:13


133 名前:ウサギとケンカと王子様。 投稿日:2007/11/08(木) 23:14


134 名前:ウサギとケンカと王子様。 投稿日:2007/11/08(木) 23:14


つづく。
135 名前:あすか 投稿日:2007/11/08(木) 23:17
…なんかもう、サボリ癖出ててすみませんorz
完結させる気はありますよ?

>>123 名無飼育さん

美貴さまはわかりやすいツンデレですw
よっちゃんさんは核心をつく故に地雷も踏むのですw

>>124 名無飼育さん

ほんとお待たせ致しましたorz
期待していたほどの出来になっているでしょうか…


さて先日リアル美貴さまとよっちゃんを見れる機会を仕事で潰しましたorz
行ける距離だっただけに悔しい…
136 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/14(月) 17:27
ミキティのツンデレが最強に可愛いっす
リアルな美貴様もさゆに対してツンデレっぽくて特にさゆには甘甘でしたからね
美貴さゆは大好きなのでどんどんお願いします

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